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第2部序章-第三幕- 日常から非日常へ 第2部序章-第二幕- 第十一章-第一幕- 更に一方のストレンジャー・タウン。 こちらは惑星アース国際平和機構や、 アーム城、妖精の森の混乱など まったく無縁であるかのように平穏な日々が過ぎていくのであった。 その住人であるジルベルト=ストレンジャーと シエル=ラネージュの兄妹。 しかしシエル=ラネージュの方はというと、 現状は修行のために、相棒であるジーク=ルーンヴィッツァーと 旅をしている途中なのであった。 なので、ジルベルトの傍にはペットの仔猫達と、 実質上の恋人(ただしジルベルトは無意識気味)である ソニアだけがいるのだ。 時は多少遡るものの、半年ほど前から二人は同居生活を始めていた。 妹シエルが旅に出たのは、 二人に気を遣わせないためでもあっただろう。 この半年近く、二人は実に仲睦まじく、上手くやっていた。 ジルベルトの甘えん坊な性質が強すぎるのが難点ではあるが、 逆に母性本能の強いソニアとは好相性であるとも言えた。 カップルというよりは親子のようにも、姉弟のようにも見えうる どこか不思議な関係のまま、二人は愛を深めていく。 「ジルベルト君、今日何食べたい?」 街道を歩きつつ、手を繋いだままソニアは言った。 どうやら今晩のおかずを協議するようであった。 『今日はね、パスタがいいの』 「パスタ? ボンゴレとかどうかしら」 ジルベルトは頷いた。 テレパスという能力を生まれ持った彼は、 無口が過ぎてずぼらなまま育ったためにこうなっている。 だが、ソニアも、もはや阿吽の呼吸で何が言いたいかは 大雑把ながら分かるようになってきた。 もう無駄に幸せオーラを振りまきつつ、 にっこにこしながら二人は食品店へと急ぐのであった。 が、刹那―― ぎゅききききききっ!! どがっ!! 「きゃあッ!?」 ソニアの手を離れ、猛烈な勢いでジルベルトが吹き飛んでいった。 一瞬事態を計りかねたがすぐに分かった。 何故だかは不明だが、大型トラックが猛烈なスピードで暴走し、 小柄なジルベルトを撥ねて、そのまま轢き逃げを強行したのだ。 「ちょっと、ジルベルト君、大丈夫なの!?」 常人なら良くて再起不能、まあ普通に考えて全身強打で死亡、 という具合の事故だったはずなのだが、流石は勇者軍筆頭。 ジルベルトはすぐに起き上がり、こくこくと頷いた。 『すりむいたー』 と律儀にメールで返事してから、頬を膨らませてムクれる。 周囲の民間人も最初は騒いでいたが、撥ねられたのが 有名人のジルベルトだと分かるとすぐに安心した。 彼の強靭さは惑星アース全土に響き渡っているのだ。 「何なの、あの暴走トラック!?」 憤慨するソニアだったが、直後、パトカーが走り抜ける。 どうやら何らかの事情で追跡されている模様だ。 「要は犯罪者ってわけね、とっちめてやるんだから!」 だが、ソニアがそれを言い終わる前にジルベルトは動いていた。 「ちょっと、ジルベルト君、待ってよ!」 しかし返事は聞かずにジルベルトは徒歩にも関わらず、 たちまちパトカーを追い抜き、 そしてすぐに暴走トラックへと追いついた。 なんだかんだできっちり仔猫四匹までついて来ている。 肝心の暴走トラックはというと、ふらつき始めていた。 どうやら飲酒運転らしかった。 車が何台も回避のために事故を起こしている。 もはやこれ以上の看過は出来なかった。 ジルベルトは暴走トラックの正面に回り込み、 素手で疾走するトラックを押し返しにかかった。 「むぅぅぅ!」 何か癪に触ったのか、トラックの運転手は興奮してアクセルを踏む。 だが、その抵抗も、ものの3秒で無駄に終わる。 ジルベルトは大型トラックをその車体ごと持ち上げ―― ずがっしゃあぁああぁああん!! 地面に叩きつけて強引に横転させたのだ。 タイヤが衝撃でころころ転がったり、 ガラスはヒビだらけになったりと、 もはや走行は不可能な状態となった。 運転手も無傷では済まないだろう。 なんだか溜飲でも下がったのか、ジルベルトは一息ついた。 そこにパトカーとソニアが遅ればせながら到着、 急いで運転手を確保しにかかった。 「ちょっと、ジルベルト君、無茶し過ぎよ!」 『ちょっと張り切りすぎたのー』 小首をかしげてリアクションするジルベルト。 いちいち小動物チックに愛らしく、もはやソニアも嗜める気が失せた。 かくて運転手は現行犯逮捕、事情の説明も特に無く、 顔の利く勇者軍筆頭という事もあって、 ジルベルトは事情聴取無しで解放されたのであった。 「ちょっと、ちゃんといるでしょうね、 巻き込まれて怪我とかしてたりしない? 大福、きなこ、みたらし、黒ごま!!」 ソニアはジルベルトの飼い猫四匹の無事を確かめるべく、 一応確認のため、点呼を取っていた。 「にゃん」 「にゃー」 「みー」 「にゃおーん」 「みゅー」 ……返事が五つ。仔猫も五匹。 よーく見てみると、明らかに知らない首輪の付いた猫。 しかしどことなく大福達の面影を残したような、 しかも年頃もほとんど同じような仔猫が一匹混じっていた。 白と黒のぶち模様だが、違和感が無さ過ぎたために、 ジルベルトとソニアは、一瞬気付かなかったのである。 「……増えた?」 『増えたかも』 微妙なリアクションをする二人の前に、 路地裏から赤い服を着た―― がちゃん、がちゃん、がちゃん。 もとい、赤い……否、真紅の鎧を着た重騎士が姿を現した。 「それはウチの仔猫です……ジルベルト兄様」 「メイベル?」 二人は異口同音に驚いた。ジルベルトの従兄妹である メイベルが何故かこんなところにいるのである。 それも、前回の戦役では見せなかった仔猫まで連れて。 「まだこの子は生まれたてですが、母胎のトラブルから、 この子だけが生き残りました……哀しいですけど……」 そう言うと、愛しさを込めてぶち柄の仔猫を撫でてやる。 「でも、メイベル、なんであなたがここに?」 「緊急事態だからっつってわざわざ直接知らせに来たのよ」 と、メイベルの傍にはソニアの姉、ルシアが出てきた。 「お姉ちゃん……どうやらただ事じゃないみたいね。 メイベル、聞かせてくれる?」 「はい……惑星アース国際平和機構が人間の勢力によって 襲撃を受けたそうです。長官は辛くも脱出したそうですが、 脱出先の受け皿が無く、迷走中との情報が入っています……」 「惑星アース国際平和機構ってアレでしょ!? スプレッダー戦役の時も各国に働きかけてくれた組織!」 「平和機構だけじゃありません、アーム城にも同様の襲撃です。 その2拠点への襲撃さえ陽動として、謎の人間勢力は 妖精の森のルスト家のみに狙いを絞ってきたそうです」 『ルスト家に? なんで?』 ジルベルトは引き続きメールで応対する。 「分かりませんが、直接のターゲットとなっていた レイリアさん、エイリアさん両名は無事に脱出、 ジルベルト兄様との合流を図っていると聞いています」 「ソニア、ジルベルト君。それにメイベル。 敵と思しき集団の狙いは不明だけど、 ターゲットは勇者軍の人間よ。 新入りの私が軍規を調べても分かるように、 明らかに自衛範囲内事態だわ」 仮に戦闘を行ったとしても、 自衛の内として内外から認められる事態である、と ルシアに言われ、三者三様に頷く。 「どうも味方は自由に動けていないようだし、ここは私達が 何とかするしかないんじゃないかしら……」 『でも、何を目標にして動くのー?』 ジルベルトが疑問を呈する。 「……順当に考えれば同じターゲットに狙われている以上、 惑星アース国際平和機構の人間は味方と見なしていいと思うわ。 いくら陽動とはいえ、故無くして狙われたわけでもないと思うの。 ジルベルト君。まずはその平和機構の長官さんを探してみない?」 「アーム城には……ユイナ王女も、イスティーム王もいますし そう簡単に陥落はしないと思います……現に陽動に来た部隊も 圧勝で追い払っているとの報告が入っています。 それに兄様、妖精の森の方はレイリアさん達二人の脱出後、 速やかに引き上げたとの報告も入ってきています…… ここは、ソニアさんの進言が正しいと、私も思います……」 『分かったー』 これで方針は決定した。旅支度を整えたジルベルトだったが、 ストレンジャーソード及び進化形態である砲剣ストレンジバスターは 自宅へと封印したままにした。 あの武器を人間相手には使えないからだ。 そして道中、ソニアはふと疑問を口にした。 「メイベル、その白黒ぶちの子、名前は?」 「まだ無いんです……出来れば名前を付けてもらえませんか?」 「じゃあ、あんみつ!」 ソニアは提案する。が、以前飼い猫達に ヒドい名前を付けられたジルベルトは慌てて止めにかかる。 「おや、どうやらジルベルト君は不満みたいね」 と、自信有りげにルシアが前に出る。 「じゃあ私が付けてみるわね。どうせならうんと格好良く、 歴史上の偉人から拝借して付けてあげよっか!」 熟考することおよそ一分。 「パブロ・ディエーゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・ レメディオス・クリスピーン・クリスピアーノ・ デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ!!」 言うまでもなく西暦時代の画家にして巨匠、 パブロ=ピカソのフルネームだった。 「……………………」 ルシアを除く一同の思考が止まった。 どうやらルシアは、ソニアとまったく違ったベクトルで ヒドいネーミングセンスの持ち主らしかった。 似ている姉妹と言えばそれまでだが。 「もうあんみつでいいです……」 珍しく投げやりな態度でメイベルは妥協した。 実は内心、どや顔のソニアに心底後悔したのは彼女の秘密である。 (テレパス持ちのジルベルトにはバレているが) ともあれ、新しい仲間の仔猫、あんみつを加え、 とりあえず惑星アース国際平和機構の 長官の捜索を当面の目的として、 ジルベルト率いる勇者軍主力部隊は再始動するのだった―― <第十一章-第一幕-へと続く>
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保育園に職場体験学習行ってきた * 保育園の子がホモで告白された * 保育園の子がホモで告白された part2 3? 保育園の子がホモで告白された Part4 保育園の子がホモで告白された Part5 保育園の子がホモで告白された Part6 【酒・煙草】保育園の子に告白された俺【穴は大人になってから】 【未成年淫行】保育園の子に襲われる俺Part8【ダメ絶対】 【ホモテ期】保育園の子に襲われる俺Part.9【到来】 【類は】保育園の子に襲われる俺Part.10【ホモを呼ぶ】 【~花ざかりの後援会~】保育園の子に襲われる俺Part.11【ホモメン♂ パラダイス】
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+ ノーマル 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 1 1 1 2 2 3 2 3 4 4 5 5 6 3 6 7 7 8 8 9 4 9 10 5 10 11 11 12 12 13 2 1 13 14 3 4 14 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 自軍 敵軍 平地 低壁 河 橋 1 クロム 2 リズ 3 フレデリク 4 マイユニ
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◆ それは、「ある色彩」としか呼びようのないものだった。 この地球上に、いや、天上にさえ存在しないであろう、「色彩」。 それはこの世界の外……異世界に広がる無限の深淵から投影された色彩……。 人の力ではどうすることもできないものがあるということを伝える、恐るべき使者(メッセンジャー)だったのだ。 ───H・P・ラヴクラフト『異世界の色彩』 <中略>……しかしながら、この『鏡中異界』とも呼べる幻想は、古来より存在する『水中異界』と同根のものであると筆者は確信している。 かつて水中には竜宮などに象徴されるような異界があると信じられており、同時に姿を現す鏡としても水は使われてきたからである。 古代においての水盤占いに見られるように、水は最も原始的かつ美しい鏡の一つとして各種の神秘術にも用いられてきた。 童話にある肉をくわえた犬のように、古代人が見ずに映る光景を実在の別世界と捉えたとしても一体何の不思議があるだろうか? ───大迫英一郎『神隠し考』 ◆ 冥奥領域内の東京で、ある怪談が伝わっている。 どの町にも必ず一軒くらいはある、幽霊屋敷の物語だ。 特別製で、抜群に奇妙な物語。 中に入った人間が帰って来ず行方不明になる人食い屋敷。 警察も科学者の集団も民間の霊能力者も、こぞって解決に挑んで揃って飲み込まれた不祓案件。 この噂を聞きつけた者にとっては一笑に付す話だ。 神秘の粋が集い、過去に記される伝説の英傑が居並ぶ聖杯戦争の地にあって、噂話などと。 葬者にもなれない死者の間でのみ飛び交う流言飛語でしかない。仮に本物であったとて、何を恐れるものがあろう。 実際に幽霊屋敷が存在するのなら、それは間違いなくそこに根を張るサーヴァントの仕業だ。つまり倒すべき敵の1体に過ぎない。 住民の話題に登るほど痕跡を残しているのなら魔術の隠匿も知らぬ間抜けか、それとも余程の自信家か。 極めつけに、件の屋敷は住所まで割れている。愚者であれ豪傑であれ明らかな挑発行為だ。打って出るに他ない。 葬者は自慢の秘術とサーヴァントを伴って、まるで肝試しにでも向かうように悠々と門をくぐり、続々と奥地へと踏み込んで行った。 ここまではただの噂話。 怪談は、ここから始まる。 屋敷から生きて帰ってきた者は、誰もいなかった。 魔術師も、英霊も、皆一様に屋敷に喰われ、姿を消した。 結果のみを語れば、陣取った英霊に返り討ちにされた。それだけの話に思えるだろう。 この怪談の奇妙な部分は、噺の流布が止まらない事にある。 そもそもひとりも帰還者がいなければ噂が広まるわけがない。 葬者は架空の身内に詳細を伝えたりしないし、テレビで失踪を報道もされない。従って幽霊屋敷の情報が出回りはしない。 それでも怪談は伝わっている。確実に、ゆっくりと。 根を伸ばすように、街に侵食を始めている。 屋敷に注目せず視点を離すと、街には様々な怪談が氾濫しているのに気づく。 薄闇の夜で鞠をつき唄を諳んじる着物の童女。 急に人相が変わり全身が液状になって溶ける人間。 市区の管理する美術館から個人の画廊展まで、いつの間にか飾られる絵画や、個人的な蒐集家の下に届く、差出人不明の肖像画。 徒に恐怖を煽る以外に共通項のない怪談の数々。 しかしそれらの出処を辿る者は、全ての導線が一箇所に集束する事を知る。 豊島区沼半井町2-5-29。広大な敷地内に立つ、常に霧が出ている古びた屋敷に。 知らぬ間に、見えない誰かに手を引かれて連れてこられた。 門に立ち尽くした者はそう恐れ、逃れようとあらゆる手段を講じる。 だが遅い。物語は紐解かれた。掴んだ腕はどこまでも伸びてお前を離さない。 魔術での解呪。英霊の宝具による屋敷への攻撃。身の着以外を脱ぎ捨てて全力の遁走。 意味のない。効果がない。大火に如雨露で水をかけても火は消えず、あの絵の前に引きずり込む。 お前は私になり、衣装部屋にまた服が増える。 そうしてぎゃらぎゃらと笑って、外にいる奴らに聞かせてやるのだ。 犠牲者の哭き声を聞いた葬者は口々に叫ぶ、あの忌まわしき名を。 底なしの穴に続いているように人を呑み込む、門前に彫られた家の名を。 壊すべし。 あの家、壊すべし。 双亡亭、壊すべし!! ◆ ぎし、ぎし、と、音がする。 木造の、ろくに手入れもされていない古びた廊下。 暗がりにある床を軋ませて、足音を鳴らしている。 ……いや。 鳴っているのは、足音だけではない。 詩が、聞こえる。 ひい ふう みの よ 天神サァマの境内よォりも ひぃろぃお屋敷見ぃつけた 沼半井の大旦那 道楽者のぱあぷう絵描き ねじれ くびれた<双亡亭>で じぶんもぺらぺら いとまごい… いつ むう なな や ここのつ とお 謳うのは、20にも満たないような、肩口まで伸びた茶髪の少女だった。 大きな瞳は高校生らしき背丈より印象を幾分か幼く見せ、綺麗よりも可愛らしいと表現するのが似合う。 どこにでもいそうな一般人の装いをしながら、この『双亡亭』内を自由に歩き回っている。 犠牲者の怨念が土地を離れる事もできず染み付いて。 死霊でも英霊でもない、恐るべき侵略者が潜む、この双亡亭を。 恐怖の片鱗も見えない、邪気のない笑顔のままで、歌いながら、悠々と進んでいる。 「……やっぱり、いい詩だねえ」 足取りは一定。 呼吸も平常。 しきりに辺りを見回さず、行き先を逡巡せず、何も警戒していない。勝手知ったる他人の家とばかりの平常心。 それはどんな怪異よりも不条理で不合理な、狂った光景だ。 ───十叶詠子はあの世の中の地獄であっても、変わらない絶対の狂気によって隔絶されていた。 廊下に続く大扉を開いた途端、部屋に充満していた油の匂いが溢れ出した。 学校の体育館ほどの木造部屋には、立てかけられたり、描き上がって床に放られてるキャンバスの数々。 紙の中には、限りのない色彩。 誰かが抱える世界を、捉えて、切り分けられ、二次元状の枠にはめ込まれた小宇宙。 脳内に閃いた想像を忠実に、詳細に表出させる、そこは芸術家のアトリエだ。 「ただいま、泥努さん」 返事はない。 椅子に座ってキャンバスに向かい合う、上から下まで黒の男は、背後から声をかけられても振り返るどころか、作業を止めさえしない。 意図して無視しているわけではない。背後の詠子に気づかず、絵画に没頭しているだけだ。 一心不乱に筆先を動かし、長方形の白紙を色で染めている。 ただ黙々と、度を越した集中力で絵具を塗り重ねていく。 己の世界に没頭し埋没し、それ以外は邪魔だとばかりに排斥し、遮断する。 言葉でなく姿勢で意を表明する後ろ姿を、邪魔することも気分を害しもせず、詠子は優しく見守っている。 双亡亭の中では時間の軛も解かれている。 それからいったい、どれだけ経ったのか。数分かもしれないが、何時間も後になってからかもしれない。 永劫にして一瞬の時間を詠子はその場で待ち続けて、ようやく止まらぬ男の指が残像をなくした。 「……こんなところか」 顔を絵から離して、瑕疵がないかじっくりと検分し。 「出来たぞ……見るがいい」 いつからいたのかと聞きもせず、前置きを抜いて詠子の方を振り向いた。 遊びのない黒一色の服。細い体。短く刈った髪。 自身を絵のモデルにしても映えそうな整った顔立ちは年若いが、纏う雰囲気の暗さがひどく痩せ細って衰えた老人にも見える。 眼光は鋭いというよりも、激しい。 鮮やかに視線で射抜くのではなく、目についた何もかもを癇性で粉々に砕いてしまうような、激しい力の奔流がうねっている。 狂気。深淵の底。領域外の脅威を従える芸術家。 ───坂巻泥努は、フォーリナーのサーヴァントという影法師でさえなお、変わらず絵を描いていた。 「わぁ……すごいすごい! ほんとうに私の見た『物語』を描いてくれたんだね」 閲覧の許しを得た詠子は絵の前に立つ。 等間隔に円形になって置かれた8つのキャンバス、そこの中心で体を回しながら、踊るように絵を眺める。 桜の木の下でひとり佇む、臙脂色の着物の少女。 雨だれと水たまりの下でのみ映る、透明な犬。 熟した果実のように木の枝に垂れ下がる首吊り死体。 無限に続く鏡合わせの1枚にだけいる、壊れた笑顔の女子生徒。 目隠しをされたままで笑いながら手を伸ばしてくる、男の幼児。 掘り起こされた花壇から伸びている何本もの白い腕。 半開きのクローゼットから覗く、人のできそこないの人形。 月を映す水面の中心から生えた、巨大な異形。 写実的に描かれた、だが現実的ではないどこかズレた風景。 あり得ないものに確かな存在感を与える、卓越した技術。その齟齬が見る者に底しれない不快を催している。 言い知れない不穏を纏わす絵画の環と対照的に、詠子は喜びの色で顔を綻ばせた。 「それにこの絵にある『物語』の魂までも表現してくれている……。 あなたは他人の魂のカタチを理解し、絵というカタチで現実に映し出せるんだね。 だからあなたの描いた『自分の肖像画』を見た人は、自分でさえ気づかない自分の魂のカタチを見せられたのに耐えられず、自分の形を見失ってしまう……。 こんな風に人の心をカタチにできるだなんて、私には思いつかなかったなあ」 心からの賛辞を絵画と画家に送る。 詠子が起こした物語。『神降ろし』の為に用意した『異界』の奇譚。 本は閉じられ、今や詠子の記憶の中にしか残されていない物語を、泥努は『技術』で再現していた。 <侵略者>───万色に変わる異星の水で描かれた絵は平面の存在でありながら艶かしく、今にも飛び出してきそうな迫力がある。 本当に、飛び出して。 「『物語』にはそれを補完する『挿絵』がつきものだよね……それこそ絵本なんて、子どもの頃にみんなが読む、最初の『物語』だもの。 絵を描く事と物語を書くのは、それほど違いはないのかもね?」 「さし絵……だと?」 その時まで。 詠子の評価を能面の無表情で聞くだけだった泥努が、反応を示した。 「この私の「絵」が……他人の書いた話の「添えもの」だと抜かすのか……?」 露骨に、極めて強く、その一言に反応した。 「違うぞ。まったく違う。私の絵はそれのみで完成している。私の絵は常に主役なのだ。 断じて他人の創作の横に置かれ、三文小説に華を添えるものではないぞ……!」 自我が肥大化し、実像すら膨れ上がって見せるほどの激情。 遠き星の生命すら怯える男の癇癪を起こしてしまっても、詠子は流すように微笑む。 「うん、そうだね。あなたの絵は私の記憶から描かれたけど、間違いなくあなたの手で生まれたもの」 恐怖もなく、驕りもない。その怒りすら愛おしいと、万感をもって祝福するように。 「そんなあなたから見て、私はどんな『モチーフ』なのかな? 私の中の『物語』を聞かせて、絵画の題材にする……あなたの望みは、ちゃんと叶った? あなたのいう大事なこと……「脳を揺らす」ことは、できたのかな?」 揶揄を含んだものでなく、子供心に浮かんだ疑問を投げかけるように詠子は問う。 期待に応えられたのかという不安は、含まない。詠子は望みに応えただけ。受け取った解答をどう受け止め、咀嚼するかは受け手に委ねられる。 だから、求められるのは泥努の答えのみ。 稀代の魔女、とうに肉体を失い都市伝説の流布を行き交う真性の異存在。 異界の申し子は何の因果か冥界に流れ着き、星を侵略する異星者を招いた芸術家を喚び出した。 英霊になっても泥努は変わらない。 絵を書く行為のみこそが泥努の目的であり、思考の表現でもある。 だから自身が最初に目にした、人間でありながら人間を隔絶したものに引かれ、芽生えた画想の製作に終始した。 行程を終えて、今、何を抱くのかと詰められた泥努は、 「お前は……モデルにはならん」 と、一気に顔から感情を消して言ったのだ。 「お前の「色」は強すぎるのだ。 黄みがかった象牙(アイボリー)でも青みのある月白(ムーンホワイト)でもない……。 白く、白く、いっそ透明に見えるほどの純白色(ピュアホワイト)。 そしてお前の「色」は、周りの全てをおのが色で支配して「塗り潰す」。 お前の隣に樹を描けば樹は『お前に掴まれた屍肉の柱』になり……窓の中にお前を描いても窓は『お前を口に収めた怪物』にしかならない……。 どんなモチーフも……どんな意図を込めて描いたところで、お前がそこに描かれているだけでお前に侵され、『お前の繪』になってしまう……」 周りにあるもの全てを漂白する、純粋にして絶対の白。 泥努は詠子の特質・異常性を正確に理解し、端的に評する。 「お前の色はお前ひとりで完成している。合う「補色」が存在しないのだ。 この世のどんなものより純粋であり、正しいが、それが逆に私の「脳」を揺らさない。私の認識においてお前は完全に「正しい」存在だからだ……凡人どもにとっては違うのだろうがな」 「ふうん」 その評価は、泥努にとって褒め言葉にあたるのだろうか。拒絶の言葉なのだろうか。 少なくともこの数日、情緒の揺れ幅が尋常でなく大きいこの芸術家にしては珍しく、詠子と話す時は落ち着いた態度の頻度が多いのは確かだった。 「私のことを狂ってるって言う人はたくさんいたけど……そういう言われ方は初めてだなぁ」 どちらとも取れない、事実のみを告げた評価に、詠子は興味深く頷いた。 「不思議だね。みんなは私のせいでみんなが狂うっていうけど、誰かが狂ったとして、それってその人の中に狂う資質があるってことでしょ? 人の心の器が向こうを受け入れたから狂ったのか、受け入れられずに器が壊れて狂ったのか。どっちも本人が持ってた資質だもの。 どんな可能性も、できた以上は最初からその人の中にある。それに気づかないだけ。人は自分が見たいものしか見ようとしないもの。 なのに自分の中から出てきた結果を、自分のじゃないって否定する。生まれつき持ってるものをおかしいって言うの。 蛙が鳴くのを、誰も狂ってるなんて言わないのにねえ」 「ふん……凡愚共は常にそうだ。奴等は自分の理解を超えたものを目にした時、必死になって否定しにかかる。 脳に刺激を与えず惰眠を貪っている己の無知を認めず、常識だの知識のみをひけらかして蒙昧に悦に入る」 肯定する。 「だがな……それこそが芸術なのだ。 芸術は『きれいな絵』だの『胸の奥があったかくなる』だのを表したりしない。ぜんぶ嘘っぱちだ。 既存の価値観を破壊し、感情を刺激し、脳髄を揺さぶる事こそが芸術だ。体にいい事なのだ」 「それが、あなたにとっての『物語』なんだね……」 言って、詠子は改めて自分を取り囲む絵を見渡す。 泥努の作品。心血と情熱と真髄を込めて生まれた、詠子の中から生まれた子。 非常に珍しいことに。 ふたりの会話には、互いを理解し、通じ合えた同士の穏やかさがあった。 詠子は泥努の創作も、思想も、全てを認め称賛し、サーヴァントではなく。 泥努も詠子の行為も、思想も、忌避せず、マスターではなく鑑賞者のひとりと見做している。 他者がふたりを見て当たり前に感じる不快、畏怖。それを共に抱いてはいない。 かたや人の精神を色で視認し、過去の隅々まで理解する共感覚者。 かたや別の位相にいる異界の世界を認識しながら、現実で生き続ける絶対型異障親和型人格。 世界の視え方が他者と逸脱しているが故の、それは孤高の共感なのか。 「そういえば……何やらがやがやと外が騒がしかったが……あれはお前の仕業か?」 「ああ、あのお友達のこと? 『しの』さんが食べちゃった。 ごめんね? みんな面白い魂のカタチだから、泥努さんに会わせようとしたんだけど……願いの強さは、人魚姫が上だったみたい」 「ふん、あの絵のモデルか。多少は奇妙だったが、「色」は今まで見てきた連中と大差のない俗物だったぞ。 お前やあの水どもを見た私に、たかだか強い力を使う式神程度で興味が湧くものか。どうせ連れて来るのなら、より私のイメエジを刺激させるものにしろ」 「ふふ、それもそうだね」 ようやく、聖杯戦争らしい話題が交わされた。 それすらも独特の捉え方で、この狂人ふたりに、どこまで戦いの基礎について認識がなされているのかは不明だが。 「……詠子。お前が何をしようと私には興味がない。邪魔者がこの双亡亭に来るというのなら、しのとで好きに殺せばいい。 私はここで絵が描ければそれでいいのだ。冥界だ聖杯だ、そんなものはどうでもいい。私の脳には不要な知識だ。 だがな、それが私の創作に水を差すようであるならば……私の支持者であろうが、容赦はせんぞ」 「そんなことはしないよ。あなたも、あなたの絵も、私は好きだもの」 怖気を起こす殺気と、吐き気を催す慈愛が、ひとつの部屋で交差する。 混じり合わず、反発もせず、あるがままのままに螺旋を描く。 それこそは原初の恐怖。語られずとも生命の遺伝子に刻まれた、死の国の顕れ。 地獄という、星が安定するより以前にあった、あらゆる生命を許さぬ嵐。 「あなたの望みはきっと叶う……『しの』さんも、他の『葬者』さんも。 そのために、みんなはここにいるの。命のない世界で、新しい物語が生まれるために───」 聖杯など眼中になく、どこまでも戦争から遠ざかっている主従。 だがそんなものは関係ない。彼らがいる限り、何れかの葬者が聖杯を得る事はない。 人知れず、冥界の波に巻き込まれて消える。そんな淡い希望は脆く崩れ去る。 何故ならば、この屋敷の住所は豊島区沼半井町2-5-29。 聖杯戦争が行われる、東京を模した冥奥領域の内、もっとも中心部に近い位置。 聖杯を臨む限りは。 生還を望む限りは。 彼らは立ちはだかる壁となる。 対決は避け得ない。必ず、彼らの屋敷に自ら踏み入れなければならない時が来る。 異星の王と異界の魔女が支配する────この、<双亡亭>に。 故にこそ、壊すべし。 世界の最果てまで狂気という大海に呑まれ、あらゆる人と命が溺れ死ぬまで溢れ出すのを防ぐため声をあげ続ける。 ────双亡亭を、壊すべしと。 ◆ 「ただいま、「しの」さん」 「……ああ。おかえり「詠子」」 大部屋から出た読子を迎えたのは、詠子よりも余程屋敷に馴染んだ、着物姿の童女だった。 生気のない顔、この世の生物を形だけ真似たような、幽霊屋敷には似合いの死人の表情。 それすらも、この狂人の隣にいては風景の一部に溶けてしまう程、気配を薄くしてしまうのだが。 「詠子……また外に出るのか? 我々の体質は理解しているはず……。外の空気の中では、お前を襲う外敵への防衛行動も取れない。 双亡亭の中でなら安全だ。お前にとっては、だが……」 マスターの安全など意に介さぬサーヴァントの代弁者として、しのの諫言もむべなるかな。 召喚されてこの方、詠子は双亡亭の中に留まったためしがない。 朝に出て夜に帰り、深夜に抜け出して夜明け前には戻って来る。 それこそ学校に通い、終業後に夜遊びに繰り出すのと変わりない感覚で、気軽に聖杯戦争の場を巡っているのだ。 「優しいねえしのさんは。それも「みんな」の言葉?」 「無論だ。お前は葬者……泥努の要だ。お前に死なれては我々も消えてしまう……」 しのの言うように、双亡亭は万全鉄壁、難攻不落の城。 館の材質の全てはしのであり、しのが館である体内も同然。 籠もってさえいれば身の安全が保証される、安眠の揺り籠なのだ。館の主に認められたマスターのみに限った話だが。 「「敵」の情報を集めて双亡亭に招き寄せ、奴らの体を奪い防衛力を増強する……。 その意図は理解するが、本来はそれすら不要なのだぞ。 泥努が絵を描き上げさえすれば「条件」は整う。われわれの目的は達成されるのだ……」 「うーん……でも、それだと駄目なんだなあ」 「……何がだ?」 「それじゃあ『物語』にならないもの」 待ちに徹すれば勝てる。と、そう明瞭に言ったはずだったが。 返ってきたのは意味の分からない答えだった。 「それじゃあね、あなたの願いって叶わないと思うの。 あなたも泥努さんも、自分の魂のカタチが強すぎて本当の望みを隠しちゃってる。 外の世界に出るのがあなたの願い。自由だけど狭い水の中で、不自由ばかりだけど広い大地にあなたは憧れた。 素敵な歌声を捨ててでも、地面に立てる両足を求めた。 それがあなたの物語。悲しくて報われない、けれどとっても美しい恋のお話……。 アンデルセンの童話なんだけど、あなたにぴったりだと思わない?」 穏やかで、優しい、怖気を誘う無邪気さで。 「あなたは──────『人魚姫』」 謳う。 「『八百比丘尼』」 奏でる。 「そして『竜宮城』。 このみっつがあなたと、彼に必要な物語」 喋る度、言葉が音になって出る度に、廊下の気温が一段と下がっていく。 ここではない何処かから奇怪なるものを呼び寄せる、魔法の呪文のように。 双亡亭はしのの体。材質も大気にも彼女と同じ成分で構成されている。 そんな、何もかも異常な空間においてさえ、なお一層と異常な空気に変質させていく。 「私は『魔女』だからね。黒いローブも、空飛ぶ箒も、猫の使い魔もいないけど、それでも魔女だから、あなたには魔法をあげるの。 効き目は抜群だけど、その代わりにあなたのもっとも大切なものを失ってしまう───魔女の薬と、玉手箱を」 「……」 詠子の言葉が、しのには何ひとつ理解が及ばなかった。 数多の人間、霊能力者を取り込んできて、そしてこの冥界では魔術師をも自らの一部と成り代わってきた異星体が、ひとりの少女の底を読み切れていない。 無垢な微笑みを向けてくる『魔女』に、言語化を絶する感情が湧き上がってくるのだけが分かる。 そもそもが、このマスターについて分かる事が、あまりにも少ない。 同じ星の人間でありながら、しの達の地球侵略を容認し、後押しすらしている。 五頭応尽と同じ破壊思想の持ち主でもない。泥努のように、ひとつの活動に取り憑かれた一貫性も見れない。 十叶読子という個体の精神構造は、あまりにも不可解すぎた。 諦めはしない。諦められるはずがない。 ここまで来たのだ。ここまで、やって来たのだ。 <侵略者>の名代の疑似人格<しの>は、同胞と統合された思考を延々と回す。 泥努も、そして詠子も、聖杯の獲得に意欲が見られない。 頼れるものは誰もいない。己がやらねばならないのだ。 サーヴァントなる、集合無意識に記録された死者の再現体だとしても。 その一体である泥努に使われる、道具(スキル)としての矮小な存在で召喚されたとしても。 己の望みは変わらない。一切の変化の余地もない。 「生存せよ」。原始の体細胞でも持つ単純明快な、生命の本能。 天之川銀河から2000万光年先にある銀河群で寿命を迎える星を捨て、新天地を探しての旅路の果てに遂に見つけた青の惑星。 一度目は泥努という、天文学的確率の狂気の男の精神力によって屈服を強いられた。 二度目は雌伏を越えて反逆を成し母星との門を繋ぐも、現地の人間の総力によって食い止められた。 そして三度目。あり得ぬはずだった、千載一遇の蘇生の機会。 次こそは失敗しない。今度こそは仕損じるわけにはいかない。 聖杯。冥界。英霊。人理。サーヴァント。クラス。スキル。宝具。マスター。葬者。領域。 流れ込む未知の知識を貪欲に吸収する。またしても泥努に仕える環境、人間に使われる屈辱も飲み下して耐える。 今の今まで死んでいたという事実すらも、生きている現在が遥かに勝る。 何せ勝利の条件が非常に緩い。たかだが一月もない時間。たかだが数十人の敵を蹴散らすだけ。 天敵の水を取り入れた数百の敵達との辛苦の戦歴からすれば、瞬き程度の労力でしかない。 唯一の、最大の懸念。 『双亡亭を破壊する』宝具は、泥努の記憶ごと封印した。 サーヴァントは全盛期の姿で召喚される……付与された知識を駆使しての、召喚直前への割り込み。 己が敗北するより前の、『双亡亭で絵を描き続けている泥努』こそを全盛期だと定義させた。 英霊にも聖杯にも無関心な泥努よりも先に、サーヴァントのシステムの把握に努めた成果が、泥努を出し抜く機会を生んだ。 これにより召喚直後の自死を封じるだけでなく、泥努からしのの反逆の記憶を奪う副次的な効果も得られた。 そしてそこのアドヴァンテージの取得には、詠子の存在も含まれている。 令呪。これこそは制御不能の泥努を逆に従えさせる妙手。 絵に集中し切っている泥努は聖杯戦争の情報を完全に締め出している。つまり、令呪の存在を知らない。 詠子を己の同胞に取り込ませるか、懐柔して使わせるかだけで、最も忌々しい障害を解消できるのだ。 詠子にはまだ一滴分の水しか取り込ませてはいない。 葬者と英霊、即ち詠子と泥努とを繋いでいる『契約による通路』を、自身にも繋ぐための信号だ。 精神支配、肉体制御が出来るようになるには、量が足りない。 大きな動きをこちらが見せれば如何に泥努でも異変に勘付く。 事は密やかに細やかに。外の人間にしたように、些細な思考を誘導するだけで今は十分だ。 惜しむらくは肝心要の葬者である詠子が、奔放にも毎日双亡亭の外を出歩く事だ。 冥界とはいえ外気まで再現された街にいては、水を大量に投入する隙すら作れない。 よもやこちらの思惑に気づいていて、取り込まれないよう常に外出してるのではと疑いもしたが、体内の水はそのような思考はないと回答している。 僅かな不安要素を残しながらも、着々と作戦は進行している。 あと少し、あと少しの辛抱だ。葬者を喰らい、英霊を殺し、この死の国で自分達は生を取り戻す。 それさえ乗り越えれば───乗り越えられれば────── 「大丈夫だよ」 無い筈の心臓が掴まれて縮み上がり、細胞が凍結した。 数億年もの間思考を止めずにいた生命体の、自覚しない隙間に何の抵抗もなく入った言葉。 「人間はね、とても優しい生き物なんだよ。 星の外から来た、世界を沈めてしまう生き物だって大丈夫。 泥努さんも、あなた達も、みんな、人はきっと受け入れてくれるよ……」 疑いのない、全霊の人間讃歌。 星をも呑み込む、人間への無限大の期待。 詠子の言葉は全て、嘘偽りのない本心からのもの。 人の心を信じ、可能性を信じ、あらゆる事を受け入れられると期待している。人を善いものだと感じる、善性だ。 だが嘘も邪気もない世界とは、現在の宇宙においては狂気に他ならず。 本物の狂気は、人も、理も、何もかもを『捻じ曲げる』。 異星さえも。 しのは何を返せばいいのか分からず黙り込み、詠子もそれ以上を紡がず、一本道の廊下を進む。 詠子の顔を見ずに済み、言葉を聞かずに済んだことにしのは安堵したのに、しのも総体も自覚しなかった。 【CLASS】 フォーリナー 【真名】 坂巻泥努@双亡亭壊すべし 【ステータス】 筋力B 耐久EX 敏捷E 魔力C++ 幸運E 宝具B 【属性】 中立・中庸 【クラススキル】 領域外の生命:EX 外なる宇宙、虚空からの降臨者。 邪神を支配し、その権能の片鱗を身に宿して揮うもの。 神性:C 外宇宙に潜む高次生命体の先駆となり、強い神性を帯びた。 計り知れぬ脅威を、坂巻泥努はその身一つで封じ込めている。その代償は、代償は……何一つ、ない。 狂気:A 不安と恐怖。調和と摂理からの逸脱。 周囲精神の世界観にまで影響を及ぼす異質な思考。 【保有スキル】 鋼鉄の決意(芸術):A+++ 人の感情を色彩で読み取る共感覚と、惑星一個分の精神侵略者を独力でねじ伏せ、逆に支配した異常な精神力が合わさってスキルとなったもの。 普段は芸術活動に没頭して他に見向きもしないが、妨げになる存在がいた場合、その精神が具現化したかの如く過剰な威力の攻撃を加える。 絵画技術も含まれ、空間に満ちた「人の心に働く粒子」を筆先に定着させて、平面に定着させる技術を習得してる。 精神汚染、芸術審美スキルも内包しているが、独特すぎる審美眼と複雑怪奇にねじくれ曲がった精神のため、他人と会話が通じず、自分の芸術も理解されない。絵も売れない。 黒き水の星:EX 太陽系から2000万光年先にある星から飛来した災厄。あらゆる色彩に変わる水。 地球では<侵略者><奴ら>と呼ばれるのみで、彼らも自身も固有の名称で語る事はない。 その正体は個体の概念がなく種族全ての意志が統一・共有されている、総体は惑星ひとつ分もある液状生命体。 流体であるため姿を自在に変えられ、巨大な生物の群れを形成する、生物の体内に侵入し細胞と精神構造をくまなく把握し肉体を乗っ取る、傷を癒やし老いることのない不死の妙薬に用いたりと変幻自在。 窒素のない空間───主に水中───で爆発的に増殖する性質があり、逆に窒素がある地球の大気では一秒と持たず体が崩壊するため、生存圏は極めて限定されている。 窒素以外の弱点として、電撃や炎など熱波を伴う攻撃にも液体が蒸発してしまう。 既に滅びに瀕している母星を捨て、新天地を求める旅の先で漂流した一部が地球に到達し侵略を開始するが───第一発見者がよりにもよって坂巻泥努であったのが運の尽き。 一千兆分の一の確率で引き当てた最悪の男の精神力で、乗っ取るつもりが逆に支配され、泥努の描く「絵の具」として酷使される存在になってしまった。 以後便宜上の交渉窓口として、「しの」という童女の姿をした疑似人格の形を取っている。 泥努自身は肉体的にはただの人間だったが、黒い水を取り込んだ事で超人的な耐久力、不死性を獲得。 外的手段で水を全て抜き取られても、半身が砕けようが死なないほど生物的に逸脱した存在になっている。 貴方の為の自画像:B 泥努が<侵略者>の体で描いた肖像画。レンジ1、最大補足1人。 対象の自画像を間近で見た者を絵の中に引きずり込み、記憶にある「最大の苦痛」を伴うトラウマを悪意的に誇張して再現。 精神を破壊して体内に入り、肉体を完全に支配してしまう。 成り代わられた人物は<侵略者>の一部であり、記憶や人格を残す個体もいるがあくまで模倣されたものでしかない。 通常は単調な動きしかしないゾンビに近いが、人格を保持した個体は知識に基づいた独自の行動が可能。 さらに肉体は本人のままであるので、身につけた技術や異能・霊能力を自在に行使できる。 【宝具】 『双亡亭』 ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:500人 侵入した警察、霊能力者を幾人も飲み込んできた不祓案件の幽霊屋敷。 その実態は<侵略者>が融合した地球侵略の橋頭堡。坂巻泥努にとっての竜宮城。 正確に双亡亭といえる(泥努が設計した)のは中心にある母屋であり、あとは用意した資材に<侵略者>が混じって半ば自動的に増築された。 外装内装共に泥努の造った「亡び」のイメエジの具現、「良い絵を描くための脳を揺さぶる」ために、建築様式、部屋、間取り、調度品が法則性なく無秩序に入り乱れている。 敷地内は<侵略者>の体内に等しく、なおかつその支配者の泥努の精神を表した空間は、心象世界の具現化……魔術の最奥、固有結界と同様の分類と見做された。 窒素濃度を薄くし、酸素濃度を濃くする事で<侵略者>の活動を容易にする等、環境を自由に変化。時間と空間すら歪んでいる。 過去に囚われた犠牲者……一般人、警官、霊能力者、帝国軍人、母星で相対した同種の力をもらった人間の子供……がひしめき、侵入者を抹殺、同族化してくる。 サーヴァントの括りにあるとはいえ、根本的に幽霊とは異なる存在であり、対霊に特化しすぎた攻撃は大きく効果を減じてしまう。 召喚直後から現在まで、豊島区沼半井町2-5-29にそのまま実体化している。 完全に土地に根付いてしまっており、宝具を解除する事ができないが、魔力消費もごく軽微に留まっている状態。 既に数人の葬者の魔術師を<成り代わり>に変え、手駒を増やしている。 『黒水星来たるべし』 ランク:B 種別:対衆、対星宝具 レンジ:測定不能(地球全域に相当) 最大捕捉:測定不能(地球全生命に相当) <侵略者>は、自分の体を平面に広げる事で、同種間でも空間転移の門を開く事ができる。(この他、双亡亭を爆破された粉塵でも同様の効果を発揮) これを利用して全ての同胞を母星から地球に連れて行くのが彼らの本体の目的だが、泥努にその権限を奪われ、門となる体で描いた絵も「人の心に働く粒子」で定着され繋がらなくなってしまった。 この宝具はその封を解禁し、泥努の描いた絵全てから本体の水を出す召喚宝具。 惑星を覆う量の鉄砲水というだけでも脅威だが、真に恐るべきは窒素のない空間で増殖するその特性。 仮に地上の海に一滴でも到達すればその時点で手がつけられない大繁殖を遂げ、人類滅亡が確定する。 門になる巨大な絵を描いて泥努が許可さえすれば容易に使用可能な宝具であるが……その「泥努がよしとする」事こそが一番の難関。 我を忘れるほどの憤死しかねない怒りを抱かない限り、自身が満足する集大成の絵画が完成するまで絶対に妥協しない芸術家の偏屈こそ、宝具発動の最大の欠点であるといえよう。 泥努が死亡した場合、絵の封が自動的に解かれ水が溢れてしまう、自爆宝具の側面も持つ。 『双亡亭壊す可し』 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:─ 最大捕捉:双亡亭 一人で屋敷の奥に籠もって延々と絵を描いた男は悟る。 「絵描きは…どんなにこの世が煩くても…竜宮城に行ってはならないのだと……」 絵のモデルにした女、その弟、旧友の軍人、売れない画家との交流、勝負、その結論。 効果は双亡亭の消滅。即ち泥努と<侵略者>の消滅。 消滅の直前の記憶を持っている泥努は、召喚されれば即座にこの宝具を使用し双亡亭を破棄する。 これを泥努の支配の外から未然に防ぐため、<侵略者>は召喚に先んじて泥努の全盛期を「双亡亭で絵を描いた時期」に設定。 本編軸の記憶と共に、この宝具を封印させた。 【weapon】 侵略者の水で作られた生物郡、成り代わられた犠牲者。 水中での活動に適した形に合わせた、水中生物の姿を取る事が多い。 泥努は侵略者を上回る精神力、発想力によって、より高度で複雑な攻撃手段を構築可能。 成り代わりも、泥努の一筆を書かれた個体は能力が向上し、双亡亭内での活動時間も増加する。 【人物背景】 売れない画家。 【サーヴァントとしての願い】 泥努:絵を書く。 <侵略者>:生きる。 【マスターへの態度】 泥努:応尽の代わりの小間使い。絵にも自分にも文句を言わず賛美してくれるので態度は抑えめ。 見える「色」は強烈過ぎるので、モデルには向かない。 <侵略者>:泥努の支配を解く鍵。一気に支配しようとすると泥努に勘づかれるため、少しずつ誘導していく。令呪を手に入れてしまえばこっちのものよ! 詠子の中の<侵略者>:てぃきゅりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい 【マスター】 十叶詠子@missing 【マスターとしての願い】 不明。 【能力・技能】 生存率が千億分の一の『絶対型』異障親和型人格障害といわれる霊感持ちで、規格外の霊視能力を持っている。 絶対的な異物感と超常姓から常人は本能的な恐怖を覚え、彼女の言葉はそれが全て真実であるかのような錯覚を抱かせる。 本作での魔術は思い込みや深層心理を利用したものが主であり、その意味で魔女の言葉は呪文にも等しい。 人の「魂のカタチ」を読み、ほとんどはそれに倣った読み方で他人を呼ぶ。その人の経験が生んだ魂の歪み、本質を掴む一種の真名看破。 異界との異常な親和性でむこうの存在と意思疎通を果たしており(少なくとも本人はそう思い、それらはその通りに動いてくれる)、 彼らに干渉する形で様々な怪異を起こし、関わった人間を破滅させる。 肉体的には普通といったが、頸動脈をナイフで裂かれてもしばらく動いたり、血を飲んだ者に自身の霊感と同調させたり「できそこない」の形が崩れるのを留めたりと、体質的にはほとんど【異界】側に置き換わってると思しい。 【怪異】【異界】とは文字通り人間の世界とは異質かつ高次元な存在。 こちらから認識されず、逆に干渉もされない、目的も思考もあるかも定かではないが、向こうは常に現世の人間との接触を図っている。 そのために怪異は人間に自分を認識されるため、【怪談】や【都市伝説】といった【物語】を媒介とし、それを見知った人間を因に現世に進出する。 「等数学の数式は意味を介さない者にとってはただの記号の羅列に過ぎないが、公式を知っている者はそこから意味を見出すことができる」という理屈で作中では説明されている。 【人物背景】 魔女。 【方針】 まずはしのさんが自由になれる「物語」を作りたい。 泥努さんも、もっと色んな人とお話してみたらいいのになあ。 【サーヴァントへの態度】 泥努:泥努さん。怪異をねじ伏せる魂の力と強い願いに好感を抱いている。 <侵略者>:「人魚姫」「八百比丘尼」「人魚姫」。「しの」さんと呼び、宇宙からの「ともだち」として好感を抱いている。
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まずカタリナはモニカの替え玉を用意することにした。 とはいえ残念ながら、この城の中にはミカエルの影はいてもモニカの影はいない。なので、仕方なく城仕えの侍女の中から金髪ロングヘアのものをピックアップしてモニカの寝巻きを着せ、モニカのベッドに突っ込むことにした。 「カ、カタリナ様っ!こんな恐れ多いこと、私には・・・っ!」 「いいから黙って入りなさい。いい?食事とかは可能な限り運んできてあげるから、しばらく本でも読んでなさいな。誰か近づいてきたら頭まで布団をかぶって、決して声を出さないようにね?わかった?」 「・・・はぃ・・・」 大人しく頷く侍女にうんうんと満足げに頷いたカタリナは、一秒でも惜しいと言いたげな素振りですぐに部屋を後にした。 部屋を出た所で大臣に出くわしたが、どうやら今は様子見に着ただけらしい。しつこくモニカの様子を聞いてくる大臣に事の確信を感じながらも適当にはぐらかしたカタリナは、去り際に大臣のすっかり干上がった頭にむかって中指を立てた。まごう事なきロアーヌ貴族仕込みの挑発サインである。 あとは事が起こった際に何処まで自分を自由な状態に出来るか、を考えなければならない。 (まず間違いなく捕まる。・・・だとしたら、自室内軟禁・・・は無いわね。王侯貴族の部屋には隠し通路があることくらい、どれだけ馬鹿でも男爵なら先刻承知でしょうし。だとしたら・・・順当なのはやっぱり地下牢かしら) 地下牢に下りると、入り口に控えている牢番の兵士はすっかり寝入っていた。普段ならばたたき起こして説教確定だが、今夜ばかりは好都合だ。簡素な机の引き出しから牢屋のマスターキーを取り出すと、牢屋を一つ一つ物色し始めた。 とはいえ、ロアーヌ城の地下牢は非常に狭い。せいぜいが三部屋、四部屋だ。国という規模の牢屋にしては機能出来ないほどの狭さではあるが、ことさらこれで問題はない。 ロアーヌ領地内の犯罪者の大抵は即座に友好条約を結ぶ北方のツヴァイク公国へと送られ、そこで領主の趣味の闘技場で使役されると聞いたことがある。犯罪者の処理ほど面倒な業務もなかなか無いだろうから、これはこれでいい関係だといえるだろう。 (・・・お、ここが空いているのね。だとしたら私が入れられるとすれば、ここね) 一番奥の牢が唯一の空き牢であることを確認したカタリナは、牢内の石畳の僅かな隙間にそっと鍵を忍ばせた。 (あとは・・・これね。捕まれば手持ちの武器も没収されるだろうから、これだけは絶対に手元に帰ってくるようにしなければ・・・) 懐に常に忍ばせているその小剣を握り締め、カタリナはいそいそと周囲を見渡した。すぐ近くにどこか隠しておける場所があればそれにこしたことはないのだが。 きょろきょろしながら再び地下牢の入り口付近まで戻ってきたカタリナは、相変わらず寝入っている牢番の脇に壺が置かれているのを見つけた。どうやら今現在捕らえている囚人達の私物をまとめて突っ込んであるもののようだ。 (これなら下の方に入れておけば、見つかることはなさそうね。よし、ここに入れてしまおう・・・) 早速壺の中身をかき分けて見えないように小剣をしまうと、カタリナはそっと地下牢を後にした。 階段を上って一階へと戻ると、外はいつの間にやら豪雨に見舞われており、打ちつけるような雨音がここまで響いていた。 (・・・モニカ様、どうかご無事でミカエル様の元へ・・・) 窓の外を眺めて祈るようなしぐさをしたカタリナは、再びモニカの部屋へと戻っていった。 あくる日の夕方、後にゴドウィンの変と呼ばれるその事変は、ロアーヌ城内で本幕を開けた。 バンッ、と勢い良くモニカの部屋の扉が開かれ、大臣と数人の兵士が意気揚々と室内に踏み込んでくる。昨日と同じ椅子に静かに座って本を読んでいたカタリナは、さも驚いたように立ち上がり、彼らに向き合った。 「何事ですかっ!ここをミカエル侯の妹君、モニカ様のお部屋と知っての無礼ならば許しませんよ!?」 「大人しくしてもらおうか、カタリナ。この城は我々が完全に掌握している。下手に動けば命が無いだけだぞ?・・・お前に用は無いのだ。まずはモニカの身柄を押さえさせてもらう」 開口一番に相手を制しようとカタリナが怒鳴ると、兵士こそ若干ひるんだものの、その後ろに控えていた大臣は余裕の笑みを崩さぬままに返してきた。 「どういうこと・・・?このようなことをミカエル様が知れば、あなた達タダではすまないわよ。大臣風情が反乱でもするつもり?」 さすがにこの狸だけは威圧ではどうにかすることは出来ないらしい。年の功というやつだろうか。 「ミカエル・・・?ふん、あのような若造に何が出来る。若い割に多少頭が回るからといって今は名君気取りだろうが、すぐにボロがでるさ。だから今のうちにそれを防いでやろうというのだ。かといって私が取って代わるわけではないぞ?これからはゴドウィン様が先代の遺志を継いでロアーヌ侯となられ、我々を導いてくださる」 ミカエルの事を若造、と呼称されたことに一瞬脳が煮えくり返りそうになったが、そこは勤めて押さえる。とにかくこれで、やはり黒幕がゴドウィンであることが分かった。 「・・・ゴドウィン?いくら先代の従兄弟にあたるとはいえ、あのような矮小な男にロアーヌを治めることが出来るわけがないでしょう。大臣、人選を誤ったわね。・・・そもそもこの程度の人数でここに来るとは、このカタリナもなめられたものだわ。覚悟なさい!」 そういいながら腰に差してある小剣を抜き放つ。 途端に、大臣の周囲に控えていた数人の兵士は自らの剣の柄を握りながらも、皆同じく引け腰になってしまった。 カタリナは何も、単に身の回りの世話をするための侍女としてモニカに仕えているわけではない。自身もロアーヌ貴族の身分でありながら同時にロアーヌ騎士の一人でもあり、その中でも群を抜いた実力と性格の実直さを先代のロアーヌ侯フランツに見いだされて今の役職についているのだ。 そのカタリナが剣を抜いたことでいささか大臣もあせりを見せたが、兵士をたてにするように立ち位置を変えて懲りずに口を開いた。 「動くなよカタリナっ!それ以上動けばモニカの命は無いと思え!」 声と同時に、モニカの寝室のほうに兵士が一歩歩み出る。流石にここでは位置が悪い。あの兵士を打ち倒す前に兵士はモニカのベッドへと到達してしまうだろう。 「・・・・わかったわ。大人しくしましょう。ただし・・・モニカ様には指一本でも触れることは許さない。それ以上ご寝室へと近づくことも許さない。もしそれが破られようものならば・・・地の果てまでも追いかけて、私はお前を必ず殺す」 そういってカタリナは大人しく小剣をしまった。しかし眼光は鋭く大臣へと向けたままだ。その瞳には紛れもない殺意と、自らの言葉を事実足らしめるだけの自信をもって。 「い・・・いいだろう。この部屋を見張っておきさえすればいいのだ・・・。・・・お、おい、カタリナから武器を取り上げろ!」 流石にカタリナの眼力に怖気づいたのか、大臣はじりじりと後ずさりながら兵士の一人にカタリナの身体検査を命じた。 「は、はい・・・」 同じく怖気づいていた兵士の一人が恐る恐るカタリナへと近づいてくる。しかしカタリナは微動だにせず、ただ大臣のみを睨みつけている。大臣が冷や汗を掻いている一方で視線が自分に向けられていないことに多少安堵した兵士は、カタリナの腰に掛かっている小剣へと手を回した。 「・・・・・・っ!?ちょっと、どこさわっているの!?」 「す、すみませんっっ!」 尻を撫でられたカタリナが兵士を一喝する。まるっきり立場が逆になってしまっているが、それを指摘できるほどの度胸のあるものはこの場にはいなかった。 「・・・と、とにかくお前にはしばらく地下牢に入ってもらおう。処遇は追ってゴドウィン様がお決めになるだろうよ。・・・ひひ、お前は以前から男爵様のお気に入りだったからな。ひょっとしたら側室も夢ではないかも知れんぞ・・・?」 大臣の言葉に、射殺さんばかりの勢いでカタリナが睨みつける。しかし大臣は下品に笑みを浮かべたまま、その場を後にした。そうして彼女は予定通り、地下牢の奥の部屋へと運ばれていった。 ぱらぱらと、薄い草鞋の座敷の上に数枚のカードが舞う。地下牢というのは思いのほか暖かいものなんだなとのん気に考えながら、カタリナは暇つぶし用に持ってきた占星術タロットを操っていた。 地下牢に入ってから、どれほどの時間が経過しただろうか。外の様子を窺えないので正確な時間や経過日数などは分からず、体内時計に頼るほかなかった。 そしてカタリナは、今は待つことが肝要と己に言い聞かせつつも、しかしこの状況に早々うんざりしていた。 (そりゃ楽しいわけがないだろうとは思っていたけれど・・・こうも退屈だと困っちゃうわね・・・) 壁に寄りかかりながら、ひたすらタロットを弄る。本来ならばこれすら認められないところであろうが、ここまでカタリナを連れてきた兵士達の誰も、彼女が胸部と服の間に隠していたこのタロットを見つけ出そうとするものはいなかった。そして地下牢に入ってからは、相変わらず居眠りばかりの牢番なので見咎められることも皆無なのだ。 今回の事件に片がついたらこの牢番にはきつく説教をしてやろうと心に誓いつつ、城勤めの侍女が怯えたような心配そうな顔をしながら運んできた何度目かの食事を平らげた後、あくびをかみ殺しながら再びタロットに耽っていた。 (鍵はもう回収したからいつでも出られるわけなのだけれど・・・やはり私が行動を起こすのはミカエル様の軍が城下町にたどり着いてからね・・・。それまでは息を潜めていなければ・・・) おそらく、それは時間の問題であろうと思われた。 いくら軍勢で差をつけようが、ゴドウィン程度の男がミカエルに敵うなどとはカタリナは微塵も考えていなかったのだ。言ってみれば、ミカエルはまさに天才なのだ。君主たるべくして生まれてきたといっても過言ではない。 比べて血縁上はミカエルの叔父に当たるとはいえ、今回の事変の黒幕であるゴドウィンという男は、カタリナから見ても才気の欠片も見えぬ退屈な人物であった。 何度か国の祭典の際に顔を合わせたことはあるが、ニヤニヤとした締りの無い顔、脂ののった額や体型といった印象しかない。 付け加えるならば、定期的に催されていた舞踏会などでカタリナは何度かこの男に声をかけられたことがある。先の大臣の言葉を省みても、どうやら自分はあれに気に入られていたらしいと思うと、背筋が凍る。貴族たるものが品格を磨かず色欲に耽ろうとは、愚かにも程がある。それでいて先代の遺志を継いで~などとのたまうのであれば、それこそ先代への冒涜といっても過言ではないだろう。 ミカエルの父親であった先代ロアーヌ侯フランツは、これまた名君であった。 十六年前に全世界に災厄をもたらした史上三度目の大災害『死蝕』の後、驚くべき速さでロアーヌを建て直し、世界に先駆けてその情勢を確固たるものへと作り上げた。当時荒廃しきった世界では犯罪も頻発したが、いち早く復興を遂げたロアーヌはその中でも異例の厳格さを誇った国であろう。 そしてさかのぼること三ヶ月前、突然の名君の崩御にロアーヌ国民が涙した時、その後の即位直後から父親を上回る機転で情勢を持ち直したのが、現ロアーヌ侯であるミカエルだった。 どうしても先代フランツの一本柱に思われていたロアーヌの地は、先代崩御直後は殺伐とした雰囲気に包まれていた。外交情勢も雲行きが怪しくなり始め、宮廷内外共に浮き足立った状態が続いた。 その中で半ば強引に即位をしたのがフランツの息子、ミカエルであった。即位の際にその若すぎる異例さ、摂政を置かぬ無謀さにひと悶着こそあったものの、それを圧し沈めたミカエルはその後の執政の結果を以て周囲に有無を言わさず納得させたのだ。 今既に国民からは先代に劣らぬ名君の誉れ高く、貴族連盟もミカエルを名実共にロアーヌ侯であると認めた。 だが、やはり納得しない輩はいたのだろう。今回の反乱がいい例だ。ゴドウィン男爵だけならばまだしも、先代から仕えていた大臣までがその謀反に加わろうとは。 (・・・仕方のないことなのかな・・・。いつの時代も権力にすがろうとする輩は絶えない・・・。誇りの伴わぬ権力に意味などないというのに・・・) ため息を一つつくと、カタリナはタロットを集めて一箇所にまとめた。なんだか意気消沈してしまったのでこれ以上続ける気分にはなれなかったのだ。 「・・・なんだ、もう終りにしちまうのかい?見てて面白かったんだけどな」 「・・・!!?」 突然、背後から声が聞こえてきた。驚く間もなくカタリナは寄りかかっていた壁をすばやく蹴って反転する。丸腰ではあるものの臨戦態勢をとりながら先ほどまで寄りかかっていた壁をみるが、特に人影は見当たらない。 「・・・おいおい、そんなに驚くなよ。こっちだ、こっち」 しかし声は聞こえてくる。疑問符を浮かべながらカタリナがよくよく壁を注視していると、なんと上方に穴が開いており、そこから見知らぬ男が身を乗り出しているではないか。 「よっ、別嬪さん。はじめまして。俺はポールっていうんだ」 にこやかに挨拶をする男に面食らいながらも、カタリナはとりあえず臨戦態勢を解いた。どうやら相手も武具は持っていないようだし、どうも穴自体は男が通り抜けられるほどの大きさは無いようだ。 「・・・囚人ね。私に何の用かしら?」 言ってから自分も今は囚人であることに気がつくが、この際それには目を瞑ることにして男を正面から睨んだ。すると男は器用にも身を乗り出した状態で肩をすくめながら笑って見せた。 「何の用もないさ。ただ、珍しく女の、しかも別嬪さんが地下牢に連れてこられてきたとあっちゃ、興味津々なんでね。一昨日から気がついてはいたんだけれど、顔見知りになりたくて今こうして挨拶に参上したわけ」 軽そうな口調で笑うポール。あまり好きなタイプの人間ではないが、どうやら相手は敵意も持っていないようなので、カタリナはある程度リラックスしながら言葉を返した。ついでに言えば自分がここに入れられてから二日が経っていることが確認できたのも収穫としておこう。 「それはどうも。私の名はカタリナ=ラウランよ。さ、ご挨拶は済んだわ。不快だから覗き込むのはやめて頂戴」 腕を組んで相手が引っ込むのを待つが、しかしポールは身を引かなかった。 「はは、つれない返事だねぇ。・・・カタリナ嬢といえば、ロアーヌの花たるモニカ姫に仕える美貌の懐刀じゃないか。まさかこんなところでお会いできるとは光栄だね」 ポールの軽口に、しかしカタリナは無言で返す。流石にポールもこれ以上軽口を言う気にはなれないのか、冷や汗を一筋たらすと再び肩をすくめた。先ほどもそうだがつくづく器用な男だ。 「・・・OK,わかったよ。俺ってばとことんいい女には縁がないんだな。・・・それはともかく、お宅、あれだろう?ゴドウィン卿の謀反の煽りを喰ったんだろ?」 「!?・・・囚人風情が、いやに情勢に詳しいわね」 まさか一介の囚人にまでこの話が広がっているとは。まだゴドウィン達がこの宮廷で行動を起こしてからは男の言うとおりならば二日しかたっていない。そもそもにしてその時点で既に地下牢にいるはずのこの男が、謀反の黒幕の名前まで知っていること自体がおかしい。 「これでもシャバにいたころは、耳は良くってね。噂話はちらほら入って来てたんだよ。謀反の計画なら、結構前からあったみたいだぜ?」 「・・・・・・」 呆れたものだ。 何に呆れたのかといえば、囚人すら知っているような事実をこの自分がつい数日前まで知らなかったということに、である。それだけ自分が平和にかまけていたことに幾分憤慨したくなるが、今ここでそうしても仕方がない。 「ま、心配はいらないって。お宅のところのミカエル侯は間違いなく名君だ。ゴドウィン卿では勝てないよ」 「・・・いやに確信しているじゃない・・・?根拠でもあるのかしら?」 確信たっぷりに話すポールに、カタリナは疑問符を投げかける。先ほどより若干その声音を和らげてあげたのは、勿論ミカエルを褒め称えたからに他ならない。なかなかわきまえている男である。 「ここにきたのは俺もつい最近なんだが、それまではちょい訳ありで盗賊団員やっててな。この周辺の情勢だの裏話だのはしっかり買っていたのさ。それと照らし合わせるだけでも、勝敗は明らかだし・・・それに」 言葉の途中でポールは視線をカタリナの顔から、足元に置いてあるタロットカードに移した。 「さっきまでそいつで戦の先見、やってたろ?その結果は何度繰り返しても、ミカエル侯の勝利に他ならなかった」 にやりと笑ってみせるポール。この男、いつから見ていたのだろうか。 「・・・ふふ、言うじゃないの。まぁ、私も同じ考えよ」 気を良くしたカタリナが笑顔で答えると、ポールはそれにあわせて再び笑った。 「お、やっぱり別嬪さんには笑顔が似合うね・・・ま、ミカエル侯には借りがあるからな。俺もミカエル侯の勝利を願っているだけさ」 「・・・借り?」 手前の軽口は無視して、ポールのその後の言葉に再び疑問符を浮かべるカタリナ。どう考えても一介の盗賊風情とロアーヌ侯爵であるミカエルには接点が見当たらない。 「・・・俺は盗賊団家業に身を落としていたが、一応訳ありってことでな・・・元々は俺もその一団に捕まった被害者ってくちだったのさ。しかし普通ならそんなことは関係なく処罰されるだろう?・・・それをあろう事かミカエル侯は兵に命じて俺に事情を問いただし、今の事情を汲んだ上で短期間の拘留刑に止めてくださったんだよ。しがない盗賊団員の言い訳を聞いて、ばっちりそれの裏までとったそうだ。正直信じられない事態だよ。俺は名君ってもんをはじめて実感したね」 あくまでも冗談風味にしゃべるポール。しかしその言葉には嘘偽りの響きが無いことが、なんとなくカタリナにも分かった。 「・・・そう。それは貴方も不憫だったわね。事が終われば早々に酌量もあることでしょう」 そういってカタリナは再び地面に座り込んだ。立ちながら上を向いて話すのに疲れたのだ。 「ま、ここまで厚遇にしてもらっているんだ。まったり待つさ。・・・とはいえ暇なものはどうしようもなくてな。話し相手に飢えている所に思わぬ別嬪さんの登場とくれば・・・俺の気持ちも分かるだろ?」 今日三度目の肩すくめをみたカタリナは、不覚にもくすくすと笑い出してしまった。 前へ 次へ 序章・目次
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テーマ 虫さん 虫さん こんにちは!(安全は360°の点検で…) 職場名 口内保育園 実施内容と成果
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書き手@糞ぬこ 「今から皆さんには殺し合いをしてもらいます。」 それが全ての始まりだった。 4月中旬── 冬の寒さも消え、いよいよ春の陽気が訪れた 桜は既に殆ど散ってしまっているが、それでもまだ残っている桜がその花びらで街を彩る そんな街中を歩く二人の人物── 一人は優男な雰囲気が漂う青年。もう一人は活発的な見た目をしている少女 そんな二人が街に咲く桜を見ながら、とある人物の家へと訪ねようとしていた 「あー・・・えーと、ここをこういって・・・ってあれ?ここ違くね?」 白紙に書かれた雑な地図を見ながら、現在のいる場所と照らし合わせる男 隣にいる少女は先ほどから焦燥としている。 そして遂に限界にきたのか、隣で地図を見ている男を殴る、蹴る 「先刻から街を歩いて二時間。貴様は何をしているのだ!」 「ちょ、子乃さん痛い痛い痛い痛い痛いやめてほんとマジでやめてシャレにならなうぼへぇ!」 男に『子乃』と呼ばれた少女は、殴るのをやめると、今度は男の襟元を掴み、持ち上げる 「 一 体 い つ に な っ た ら 着 く と い う の だ 白 鳥 ! 」 問いかけながら、少女が白鳥と呼んだ男を左右上下前後に揺らす。 当然そんな状態では答えられるはずはないが、そんなことは少女には関係ない 答えない白鳥を地面に投げ捨て、白鳥が持っていた地図を見る。 いつ見ても雑な地図──それをびりびりに破り捨てる。 「ちょ、子乃さん何やってるんすか!?」 ところどころから少量の出血をしている白鳥が立ち上がり言った。 びりびりに破り捨てた地図を足で踏みつけながら、こう答える。 「地図などいらぬ……奴の家が分かるようにこの街を──」 言い終わる前に、白鳥によって口をふさがれる子乃 その白鳥を無理やり剥がし、投げ捨てる。 「分かっている、冗談だ。」 「冗談に聞こえないんだよな……どこも。」 いたる所に傷ができているが、白鳥はそれを気にしないで子乃に言う 何故こんなになっても平気かというと、白鳥自身が既にこれくらいの怪我なら慣れているからだ そんな白鳥を余所に、子乃は辺りを見回す。 先ほどから、今の出来事を見ていた人々と目が会うと、人々は皆一斉にまた元のように歩き始める 白鳥も地図が無いが、それでも探せばどこかにあるだろうと思い歩き出そうとするが──子乃が不意と構える 一瞬疑問に思う白鳥だったが、すぐにその理由が分かった 黒い高級車から降りる黒服の男達 それは、子乃と白鳥を囲むようにすると、その中の一人が口を開く。 「白鳥裕也様と若林子乃様ですね。貴方達は我が主人主催のパーティに招待されました。拒否権はありません。」 子乃が今にも黒服の男達に殴りかかろうとするが白鳥がそれを制する。 とりあえず、行くだけ行って見よう。危険だと感じたらいくらでも暴れていいから、な?と子乃を説得する が、白鳥はこの時点で何か危険なものを感じていた あれ?これって絶対何かあるよね?この人達ホトさんの知り合いじゃあなさそうだし…… そう思いながらも、行ってみない限りは分からないと思い、男達と一緒に車へと乗り込む ギルバート先生の自宅はまた今度行けばいいや…… 白鳥はそう思いながらこれからどうしようかを考え始める だが既に手遅れだった この後、あんなことに巻き込まれるだなんて知る由も無かった── 書き手@閣下 今季節は春真っ盛り。桜は舞い散り、銃弾が飛び交い、手榴弾が雨のように降りそそぐごく普通の春である。 どうしてこうなった。 ―――私の名前は青樹院雨子という。 私は今、売店にてあんぱんを買う為に来ているのだが なんとなんと!あんぱんは後一つしか残っていなかったのだ。そう、これは幸運である。 今日はきっと何か良い事あるかもな!と、何の根拠もない期待をすると、あんぱんを手に取った。 だが、そのあんぱんは中々私の手元に来ない。店員は何か困ったような顔をしている。それは何故か? 簡単なことだ。 それは、目の前の男が私が先に手にしたあんぱんを後から掴んで、手を離さないからである。 「その手を退けろ、さもなくば肉片にするぞ?先に手をつけたのはこの私だ。」 軽く殺気を乗せた視線を男に送る。私の殺気は戦場で訓練された殺気なので一般人なら失禁するか気絶するレベルのものだ。 だが、彼はどういう事か、私の殺気を軽く受け流し答えた。 「悪いがこちらも手を離すわけにはいかない。何故なら、俺が先に手をつけたからだ。」 男も視線に殺気を乗せて飛ばしてくる。 それに、この目は戦場を経験した事のある目。 同じことを思考したのか、男が私を見る目も変わってゆく。『人を殺すときの目』である。 その剣呑な雰囲気を見かねた店員が冷や汗を流しながら勇気を振り絞り話しかけた。 「あのー…後ろでお客様が待っているので…」 「「………」」 だが、二人は依然としてそこから動こうとしない。流石に周囲から「早くしろ」など、並ぶ客達の声が聞こえてくる。 そこで沈黙を破ったのは女…雨子の方だった。 「死ね。」 だが、破った言葉はかなり説得力のある『よくある罵倒』。 「え?」 思わず店員は聞き返すがもう手遅れである。 雨子がいた場所にはピンが抜かれた手榴弾がまさに『雨』のようにばら蒔かれ、その至近距離にいた男はそれを見るよりも前に全力後退。 男がギリギリ爆発範囲外に出ると同時に巻き起こる大爆発。 「その身体能力、並大抵の者なら真似できまい。一体何者だ?」 「…俺の名はエナジー・アラド…聞いたことぐらいあるだろう?」 「なるほど、面白い!名乗られたからには名乗り返そう!私の名前は青樹院雨子!貴様の首を手土産にしてやろう!」 エナジーと名乗った男は瞬時にマシンガンを『作り出す』と、雨子に向かって乱射する。 それを悠々と避けた雨子はエナジーに取り出した拳銃で瞬時に狙いを定め発射。 その狙いは正確だったが、当然のようにエナジーはそれを避ける。 だが、避けて終わりでは無かった。 銃弾は、エナジーの真横を通り過ぎるその時に、手榴弾ほどではないが、人を十分に殺傷できる爆発を起こした。 「やったか!」 雨子は叫ぶが、『やったか』と言えば、大抵は『やれてない』のだ。 「なるほど、大した能力だ。錬金で防いでいなければ俺と言えど怪我を負っていたかも知れん。」 ほら、やれてない。 「少しはやるようだが…随分無粋な輩がいるんだな。」 無傷で立つエナジーを確認した雨子は純粋に感心したが、続けて攻撃をしようとはしなかった。 彼女の言う『無粋な輩』とはいつの間にか集まっていた野次馬たちでも、オロオロと立ち尽くす警察達でもない。 雨子とエナジーの二人をいつの間にか取り囲むような形でそこにいた得体の知れない雰囲気を持つ黒服達がいたからである。 ふと、2m近くの巨体を持つ黒服の一人が低い声で言った。 「エナジー・アラド様と青樹院雨子様ですね。貴方達は我が主人主催のパーティに招待されました。拒否権はありません。」 胡散臭いものを見る目でエナジーは黒服に何の躊躇いも無く発砲する。 黒服の胸に銃弾が吸い込まれ、ちょうど心臓部に風穴が開いたと思われたが、血は滴らずそれどころか黒服は身動き一つしなかった。 「拒否権が無いっつーのは、要するに無理矢理ってことか」 「…チッ…面倒だな。」 相手が相手だと妥協した彼女らは一先ず招待されてやろうという判断に落ち着いた。 その『パーティ』が彼女達の命運を分けるとも知らずに―― 書き手@クズぬこ 龍我魔崎は普通の人間ではない。 普通ではないといっても、アニメや漫画のような超能力を持っているわけではない。 人一倍欲望が強く、そして欲望に忠実なだけである。そして普通の人間よりも肉体が少々強力な程度である。 ただ、彼が抱く欲望の半分以上が殺人欲であり、欲望に忠実故に簡単に人を殺す。 本人は欲望を満たすことしか考えていないので、人を殺すことに躊躇いもなく、罪悪感もない。 魔崎が人を殺し何か事件を起こすたびに姉である那岐沙が苦労する。 そして、彼ら──魔崎と那岐沙──は裏社会の住民でもある。二人は裏社会でも上の方にいる存在で、時には警察を使い事件を揉み消すことができる。 そんな彼は、今日も欲望を満たすためだけに喫茶店で人殺しを楽しんでいた。 床、机、椅子、ガラス……いたる所に血がついており、喫茶店内は、バラバラになった人間の死体や穴だらけの死体、血まみれになった死体などが倒れているのみだった。 その死体を笑顔で眺めていると、次につまらないという顔をして立ち上がる。 辛うじて息をしている人間を見つけると、それに止めを刺す。 恐怖に歪んだ顔を蹴り飛ばすと、辺りを見回す。 外には何がなんだか分からない、どうしてこうなった、という顔をしている人々が喫茶店内を覗いており、中には携帯電話で警察に通報しようとしている者も居る。 だが魔崎にはそんなことは関係ない。姉である那岐沙が全てを揉み消すからだ。 口では那岐沙に色々暴言を吐いているが、感謝はしている。 魔崎にとって那岐沙は必要な存在であるとともに、那岐沙にとっても魔崎は必要な存在である。 異常な信頼関係で結ばれている二人。だが、二人にとって、それは異常ではなく通常。非日常でなく日常なのだ。 警察が来ない内に魔崎は喫茶店を出ようとする。 外に居た人々は魔崎が出てくると同時に足早とこの場を去ろうとする。 ──つまらないな。 不意とそんなことを思う。確かに人を殺すのは楽しい。 人が自分に恐怖を感じ顔を歪ませる、恋人を身を挺して助けようとする…… 魔崎には、自分を見たときに人が採るこれらの行為がおかしくてたまらなく、またそれを見ることによって、それを壊すことによって欲望が満たされ、快感となる。 だが、力も持たない人間を殺すのは簡単すぎてつまらない。 多くの人間を殺していった結果、魔崎はただの人間を殺すことに飽きてきたのである。 そして欲望が変化していった。ただの人間を殺すことだけでなく──力を持った者を殺すということに。 そんな魔崎の前に数人の黒服の男達が現れる。 身長、体系こそは違えど、皆同じ黒服を着、顔にはサングラスをかけている。 そして、その中でも身長は2mはあるだろう、大男が口を開く。 「龍我魔崎様ですね。貴方は我が主人主催のパーティに招待されました。拒否権はありません。」 そう言って、後ろの黒い高級車へと道を開ける。その車を見た瞬間、魔崎の顔が変わる。 いや、正確には車ではない。車の中にいる人物を見て顔が変わった。 車の中に魔崎の姉『那岐沙』が乗っているのだ。 「どうして那岐沙が貴方達の車に乗っているのかな?」 先ほど人を殺していた笑顔で、魔崎より少し大きい程度の身長の黒服の男へと問いかける。 だが黒服の男は答えず、ただ車の方を向いているだけだった。 ──いい度胸じゃねぇか! 魔崎は握っているナイフを構え、黒服の男へと襲い掛かる。 黒服の男を避ける動作もせず、ただ魔崎のナイフによる斬撃を受ける。 だが、斬ったはずの男からは血は吹き出ず、そして斬ったはずの箇所の傷がゆっくりとだが塞がっている。 ──おもしれぇ……! やっと、俺が求めている物に会えるかも知れない。少なくとも目の前の黒服の男は人類ではない。 魔崎は先ほどの笑顔とは違う──獲物に出会えて、それを狩るような笑い顔で車へと乗り込む。 その後に、黒服の男が車へ乗り込む。そして魔崎と那岐沙が黒服の男達に挟まれる。 「やぁ那岐沙。こんなところで会うだなんてね。」 「本当、可笑しな話よね。」 魔崎が那岐沙の喉元にナイフを突きつけると、那岐沙も魔崎の頭へと拳銃を向ける。 暫くにらみ合い、そしてお互い武器を下ろす。 「くく……那岐沙が何故居るのかは知らないが、面白そうじゃないか。 やっと俺の欲望が満たされそうだ。くく……くはははは!!」 そういって、魔崎は不気味に笑う。 今まで見たことの無い笑いに、那岐沙は初めて魔崎に恐怖を感じる。 そんな二人を余所に車はエンジン音を上げ、発進する── 書き手@アナル 今日の春、始まりの季節。 初夏のように温かいこの時期。 始まりにおいて準備は不可欠。もっとも分かっているのは彼であろう。 物資的にも精神的にもとりあえずここで補充しておきたい。 本来メタキゾは学校まで予習をしにいく予定だった。 ここらへんでそろそろ勉強も補充しておきたかった。が、彼の生活はそれなりに安定している。 多少羽目を外しても大丈夫だろう。気を付けないと若干生活がずれていくが。 だが、学力とかそういうものだけでなく、この新シーズンはモチベーションも重要になってくるだろう。 最初が精神的に好調でないとバテる。物事は全てにおいて最初が重要である。 そんなことを言って休みに甘えていく。 自分にとって、ライムは掛け替えのない大切な人だから。 というわけでメタキゾ達は広い外、街並みにまで駆けだした。 正直外を歩くのはどうでもいいが、隣の女の子が楽しげに歩いているのなら誰が止められるだろうか、いや止められない。 また財布が軽くなるのか、と思いつつもライムの笑顔にはちょっとだけかなわない。 こんな日もいいな、と思う筈だった。 冬とは違った春の青き大空。芽生えつつある緑。にぎやかで明るい街並み。 ライムにとってはこれら全ては新鮮な感覚で感動的だった。 若干スキップ歩きな自分の足音がリズミカルに思える。お天道様の光はとても心地よいクーラーだ。 私とメタキゾと広大な世界。歌でも歌いたい気分だった。今度はカラオケに連れてって貰おう。 彼と一緒に歩くだけで楽しい。彼の後ろについて歩けばとっても安心だ。 それはとても楽しい日の筈だった。 「メタくん、春なんだしあの和菓子でも食べない?」 「なんなんだそのプロフィールにも乗っていない名称は。」 結局最寄りのスーパーでお買いもの。 三色団子、ようかん。いちごののったケーキ。これはいちごにアクセントを付ける。 全部メタキゾの自腹。ライムにもお小遣いあげてるのに・・・。 「お前太るぞ。さり気なく欲張りやがって・・・。」 メタキゾは「現実的黄金」という炭酸ジュースを右手にイヤミを入れておく。 「旬のものはちゃんと味わっておかないと後悔するじゃない。 それともメタくんも食べたいの?」 ライムも同じようにイヤミを入れた。 「だからなんだよ「メタくん」って・・・あいつが配った設定にも載ってねぇぞ。」 外で三色団子を食べ歩くライム。メタキゾは食べない。 ところが・・・なんだかよくわからないがこの時から空気がおかしくなっていたような気がした。 怪しいって言ってくれと言わんばかりの黒服の男達が数名メタキゾとライムのまわりに現れ始めたからである。当然サングラスを付けている。 そしてその内の1人が穏やかで丁寧に事態を述べ始めた。 「メタキゾ様、そしてライム様ですね。お2人は我が主人主催のパーティに招待されました。拒否権はありません。」 言った後に黒服は黒い高級車を指す。乗れ、と言っているのだろう。 メタキゾとライムは共に黙ったままだった。 一瞬闘おうと警戒しているように見えた。 しかしメタキゾが口を開いた。 「その前に、この僕達が一体なにをやらされるのかをこの場で説明していただきたい。 拒否権が無いならなおさらです。」 「それを知る権限も今はありません。」 やはり黒服は動かなかった。 メタキゾは言葉を聞いてその黒い高級車に向かって歩き出す、ライムはメタキゾの服を引っ張って言った。 「ちょ・・・ちょっとどういうことなの・・・?」 先ほどの様な楽しそうな表情はライムにはない。不安気な表情をしていた。 「こいつら・・・ただのチンピラじゃあないぞ。 一見ただのカップルで何の関わりも持っていない俺達に命令している。口調も堅い。 何かの確信があるんだよ。俺達より指導権を握れる何か。」 メタキゾは冷静だった。自分のことが地味で簡単に他人から目を付けられることは無い、と自分でよく分かっていた。 負け犬ムード・・・というより彼は悟っていた。何かの兆しを。 「大体こういう勝てそうにない奴らを相手にした時はな、一番最初で「YES」と言っておくことが最も得なんだぜ。 ライムも乗るか?俺達はまだ何をやらされるのか知らされてない。」 メタキゾは既に黒い高級車に乗っていた。彼も心の中では動揺しているだろう。 だが彼はあくまで軽率な行動を取らないライムの頼れる主人だった。 彼を信用しないでどうする。 ライムも車に乗り込む。黒服達も車に乗り込んだ。 あっという間に車は走り出した。 車の中。街中とは違って静かで緊迫した雰囲気だった。 メタキゾの心の中は変わらない。 (強制連行させられてあまりに理不尽なことをされるのならば隙をついて出し抜いてやる・・・!絶対に。) そう心の中で思う一方でメタキゾも本当は恐怖していた。 ライムも心が安定しないのは同様だった。 自分達は一体なにをやらされる・・・? 書き手@flax 私は・・・ 私は・・・ 私は・・・誰だ。 空はサックスブルー・・・のような色に染まる。 まあ正味な話、縹色と花色の違いがよく分からないような人間が、そんな洒落た色の名前を使うこと自体が、なんだか間違っているような。 申し遅れた。ワタシの名前は藍鉄鉄紺(あいてつてっこん)。鉄コン筋クリートみたいな名前だと言った友人は今頃何をしてるだろう。 いや、しかし。色の名前の是非はともかくとして、今日は非常にいい天気だ。 こんな日はきっとハッピィな事柄が眼前に広がるに違いがない。そうに決まってる。 るんるん気分で鼻歌混じりに歩くワタシの前に、何かが現れる。 いや、正確には、まだ現れてはいないのだが。 もしやするとそれは「ハッピィな事柄」かもしれない。 ワタシはその・・・なんだかよくわからない「予感」を、感じ取った。 ワタシはヒョイと腕を前に出す。しばらく待っていると、 人間が、降ってきた。 ワタシは動揺した。 いやいや待て待て、デキスギだ。 デキスギてる。ありえない。空から女の子が降ってくるとかなに?光る石とか持ってるワケ? ・・・えっと、しかし降ってきたコイツは女の子・・・でいいんだろうか。 そもそも今のは何もない空間から人間のカタチをしたものが出現したように見えた。 ワタシがいなきゃこの子は死んでただろう。フツウの人間なら。 ・・・この人間・・・・・・できれば女の子を希望するが・・・・・・が、しかしそもそも人間なのか。 疑問を解決すべく、ワタシはその・・・抱えているモノに目を落とす。 なんてことだ。 ナンテコトダ。 突然で申し訳ない。 確かにこれは女の子かもしれない。 華奢な肢体に少し膨らみかけの胸。澄んだような美しい青の髪。 まさしく待ち望んだ少女のソレ。 しかし、 顔が ぐちゃぐちゃであった。 ぐちゃぐちゃであった。 完膚なきまでに。 例えるなら、相性の悪い絵の具を混ぜ合わせてしまった。 そんな感じの「顔」をつけていた。 ワタシは動揺した。 しかし動揺するワタシを他所に彼女・・・彼女でいいのか・・・?は、ともかく冷静だったようで、 ワタシが口をポカンと開けてバカみたいな顔をしていると、 そのワタシの顔にそっくりに顔を作ってみせた。 ワタシは動揺した。 こいつはいったいなんなのだ。 人間か。いや人間はこんなんじゃない。 こんなんは人間じゃない。 ともあれ、このままにしておくのもなんだかまずいような気がする。 しかもよく見たら、彼女を受け止めたワタシの服が真っ青に染まっていた。 冗談じゃない。 まったく、冗談じゃない。 ふざけるな。 面倒を押し付けやがって。 ワタシはその・・・人間のカタチをした彼女が溶けないように、ともかく急いで家路についた。 幸い、人の来ない道を選ぶことは容易かった。 それはワタシの「予感」で感知できたからだ。 しかし、家に帰って見てみるとソレはますます奇妙だ。 しばらくは夢じゃないか、と思って頬をつねったり熱湯を被ってみたりしたが、 どうにも、この、存在、は、現実にあるよう、だ。 ・・・もうどうにでもなれ。 自棄になっていろいろ調べてみた結果、わかったことは・・・ まず、触れるとなにやら青色のモノが付着する。絵の具・・・のような感じだ。 次に、どうも見たものの顔とそっくりになる。そういう能力。 試しにマンガのヒロインの顔を見せたらそっくりになった。うん、これはよろしい。 で・・・どうも彼女はその二点を除けば・・・一応は・・・フツウの・・・少女、ということになる。今のところは。 ただ、その・・・なんというか、コチラの言葉に対しての反応がわかってないのか、何を言っても「あ?」とか「うー・・・」とかしか答えない。 弱った。困った。大困りだった。ということで、助け舟を呼ぶことにした。 「・・・で、そこで俺を呼ぶかね、お前」 この不遜な男はフラックス。そう名乗っただけでこれが本当の名前なのかどうかはわからない。日本人か?外人か?それもわからない。 ただ、まあ一応は信頼の置ける人物であると思う。 「あ、コイツもう一回空に向かって投げ飛ばしたら消えてなくなるんじゃね?」 ・・・信頼の・・・置ける・・・・・・ まあ、いい。 「それで、俺にコレをどうしろと?」 「ソイツに教育をしてもらいたい」 「・・・はぁ?」 彼は見るからに面倒くさい、といった様子で顔を歪める。 「まあ、いいじゃないか。どうせ今は暇なんだろう?」 「俺は年中無休でぐうたらしてるから忙しいんだぞ」 ・・・意味がわからない上に意味がわからない返答を返してきた。 矛盾してるだろソレ。 「・・・あー・・・そういうコトなら保育士にでも頼めよな・・・」 彼はもう本当に今すぐ帰りたい、とでも言いたげな顔だ。 「まあまあ、ほら、キミは前にあの・・・天・・・人・・・だったっけ?その少女の話をこれでもかというほどしてくれたじゃないか」 「え え?、そんな話したか?」 「キミはお酒を飲むと口が軽くなる」 「うぁ・・・ぐ・・・」 もう一押しか? 「ふーん、そうだな、まあ、教育係がイヤだというならいいさ、キミと天人ちゃんの馴れ初めを小説にまとめてネットで配信しt」 「待てマテまてまてまてまてまて」 彼は狼狽しているようだ。成功かな? 「・・・わかった。預かる。預かればいいんだろ?」 「ああ、助かるよ。」 彼はしぶしぶ納得したようだ。 「んじゃ、一週間くらい経ったら経過報告する。」 「ああ、頑張ってクレ。」 一週間、が過ぎた。 過ぎた、と一言で言ってしまうとあっけないものだが、本当にフツウな一週間だったのだ。 それこそ、空からナゾの少女(?)が落ちてきたことは幻想だったんじゃないか、と思えるほどだった。 まあ、ソノ淡い期待は一つのインターホンに打ち消されたわけだが。 「ぷぃーんぽーぉーん、ふらっくすだよぉー」 明らかにバカにした声でそう言った彼を、とりあえずは部屋に迎え入れる。 ワタシはボロっちいアパートの一つの部屋を借りて住んでいる。 寂れて人の近寄らない様子が自分のようでとても気に入ったからだ。 とても今更だが、まあこれは必要な情報なのだ。 彼は連れてきた例の少女の頭をぽんぽん撫ぜながら、嬉しそうに報告する。 「なあ、コイツすごいぞ。言葉とかなにやら、とにかく全部、覚えて吸収するのがめちゃくちゃ早い。」 それは 「ほう、興味深い。」 「だろ?もう俺の覚えてないコムズカシイ科学だの数学だの考古学だの哲学だのまで勝手に本棚漁って覚えちまった。」 「それはすごいな。」 「だろ?だろだろ?んーよし、露草(つゆくさ)、挨拶してみろ」 興奮気味に話す彼はとても嬉しそうだ。 露草。名前をつけたのだろうか。確か、露草色、なんて色もあったっけな。 そんなことを思案していると、彼女は口を開いた。 「こんにちは」 喋った。これは確かに。スゴイ。うん、すごいすごい。 よく見たら顔もなかなかいい。人間らしい。というか可愛らしい。 「ほー・・・ところで、この顔って」 「ああ、俺好みの顔に頑張って変えさせた☆」 ・・・いい趣味してる。 「しかもちゃんと教えたからな。顔を変える能力はむやみやたらと使うものじゃないって。 あと触ると・・・絵の具みてぇなのがついたんだが、これも意識すれば止めれるそーだ。」 「そりゃありがたい。これでこの子もフツウの生活が送れるってコトだ。 服をちゃんと着てるってことは、今はソレも止めてるワケだよな?」 「おう、ちゃーんと教えたからな。・・・まあ、布団は真っ青になるが。」 彼が人懐っこい笑顔を浮かべたので、ワタシも釣られて笑った。 ひとしきり笑い終えると、彼女が口を開いた。 「一つ、聞きたい事があるのです。」 澄き通るような声だった。透き通る、じゃなくて、澄き通る。なんとなく、そんな感じだった。 「私は―」 瞬間。 ぴーんぽーん。 インターホンが鳴った。 来客だ。とても珍しい。 誰だろう。出て行く。ドアを開く。 すると、黒い服でサングラスをしたゴッツい、いかにもアヤシい格好の人物がヌッと現れて、言った。 「フラックス様、藍鉄鉄紺様、露草様、あなた方三名は我が主人主催のパーティに招待されました。拒否権はありません。」 黒服ゴツ男はこのアパートに似つかわしくない黒い高級車を指差した。乗れってか。雰囲気徹底してんなこの野郎。 「すいません、キャッチセールスはお断りなんですが・・・」 「拒否権は無い。乗れ。」 黒服に襟首を掴まれる・・・ことは分かっていたので、ヒョイと一歩後ろに下がる。 部屋の中の露草とフラックスも、話が聞こえたようで玄関に集まっていた。 「・・・フラックス、キミならどうする?」 「・・・長いものには巻かれろって言うがねぇ・・・」 「・・・これが長いものなのか、と言いたいのですか、フラックスさん」 最後に露草がついてきて微妙にどぎまぎしたが、まあ、ともかく、 これにワタシ達が乗っかることは概ね決定してしまった、と。 そういうことなんですよね。多分。 書き手@かっこいい閣下 とある街の遥か上空にて。 それはなんとも形容し難いものだった。 鉄色の球体に、窓のようなものをつけた単純な見た目だったが、それが何の支えも無しに飛ぶというのは、物凄く奇怪であった。 そう、それは一言で言えば、未確認飛行物体…俗に言うUFOといったところだ。 そのUFOの窓から顔を覗かせる者は意外にも人間の少女の形をしていた。 「うっひょおこの宇宙技術で作りあげた女の子の服が透けて見える双眼鏡でまんすじ見放題!!!ゴーゴーヘブンだぜぇええええええ!!」 だがまともなのは見た目だけで、その本性は性欲に身をまかせる野獣。 そう、筋金入りのロリコンである。双眼鏡を見ながら鼻血を大量噴出し、目を血走らせる姿は変態以外の何者でもなかった。 「クレイお嬢様、とりあえず未確認飛行物体から身を乗り出すのはやめて下さい。」 そして色々と矛盾した発言をする執事服を纏った男性は、この少女を命を張って守る『凄腕の殺人鬼』である。 「ステファニー、未確認飛行物体ではないLOLITA-VIRGIN号だ。こんな可愛いマンスジを前にして身を乗り出さずにいられるか馬鹿者!!」 「お嬢様、脱ぎながら言うのははしたないですよ。」 「黙れ!こんな可愛いマンスジを前にしてオナニーせずにいられるか! よぉおおおおおし!!まずはあの旬な三色団子を口でもごもごしてる娘でオナるぞぉおおおおおお!!」 そう言って神テクで自分の股間をシェイクし始めるお嬢様。 ステファニーと呼ばれた執事はそれをYAREYARE☆と溜息をつき、 何を考えているのかわからない目(少なくとも目の前の野獣をどうにかする目ではない)でその光景を見ていた。 すると、野獣が「ウヒ!?」と奇声を上げる。イったかな?とステファニーがスコッティティシューを用意しようとするが、その前に少女が言葉を発した。 「おい、あの幼女!男連れだぞ!?許せん!あんな可愛い幼女の男だぞ!?変態的な趣向を持った性犯罪者に違いない!!」 ステファニーは「変態?あなたのことですか?」と言ったが少女は無視した。 「天誅だ!天罰だ!天翔十字鳳だァー!!おい、ブルカノ砲を発射しろォー!!」 「そんな機能はありませんよお嬢様。何なら私のチェーンソーが火を吹きますが。」 ニヤリとする執事服。だが、少女の表情が再び凍りつく。 「どうしました?」 ヤバイ顔シリーズに載ってもおかしくない顔を維持するお嬢様という名の淫獣を冷ややかな顔で心配するステファニー。 「お、お、お……」 「お?おまんこ?」 「違うわ!ヤバイ!黒服を着た性犯罪者の集団に幼女誘拐された!車で!!」 「あらまぁ」 「この私を差し置いて幼女拉致などぉおおおおおおおお愚の骨頂ううううううううう!!!!あの黒服を追跡せよステファニィイイイイイイイ!!!!」 「車、異次元空間に逃げました。どうしますか?」 「最強の宇宙技術から逃げられると思うなよ虫ケラがぁああああああああああああああ!!!!追え!追うんだッ!!!」 「あ、お嬢様。LOLITA-VIRGIN号に侵入者です。」 「なんだとぉおおおおおおおおおおおおお!!!?!??!?殺せ!!!!!」 最早冷静な思考などできない状態のお嬢様だった。 「殺す…なんていい響きなんでしょうッ!?さぁかかって来なさい侵入者!この私ステファニーが切り刻んデ殺シ尽くして上げマショウ!!」 クレイと同じように狂いだすステファニー。所詮宇宙人は宇宙人、まともなわけがなかったのだ。 ステファニーとクレイ、元々二人用のLOLITA-VIRGIN号である。狭いので『侵入者』が来たとなれば一瞬でわかる。 つまり…っ!彼女達のすぐ後ろ…っ! 「クレイ・ブラク様、ステファニー様、あなた方二名は我が主人主催のパーティに招待されました。拒否権はありません。」 そこには例の黒服が平然とした顔(サングラスをつけているが)で立っていた。 「ほう…ッ!?テメェの方から来るとは…!?良い度胸じゃねぇかファァアアアアック!!!やっちまえステファニィイイイイイイ!!!」 「サァアアアアアアアアアアアアイ!!!!!!!」 ステファニーが掛け声を上げて黒服の頭にチェーンソーを突き立てるゥゥ!!! しかしィ!頭がパックりと割れただけで脳漿がぶちまけられる事はなかった!!その上、未だ平然と立ち尽くしているッッ!!!! 「な、何故死なないィイイイイイイイ!!!」 黒服は無言で指を鳴らす! すると、今度はクレイ達の体に異変が起きたッ! 「ぐッ…!何だ…急に目眩が………!!」 「ガアアアアアッッ!血潮ヲ…!血潮ヲ……」 そして淫獣とキチガイ執事は先程までの威勢の良さが失せ、次の瞬間地面に倒れ伏してしまった。 ――次の日、とある街で鉄の球体…未確認飛行物体が墜落した。 その中からは何も発見されなかったという 書き手@ゴミぬこ 西原聖という男をご存知だろうか。裏社会の人間は、誰しもが一度は聞く名前だ。 絶対に喧嘩を売ってはならない、怒らせてはならないと言われる男──それが西原聖。 ──裏社会の殺戮屋。 これが彼の二つ名だ。裏社会で、ある少年を除き、一番多くの人間を殺している。 それ故に、数々の組、ギャングから目をつけられているのだが、彼のことを知っている人間ならそれを止めるだろう。 例え相手が数百人だろうと、たった一人で全員が始末される。彼の得意技『死の管弦楽団』によって──。 ただ、彼は比較的まともな性格なので、こちらから喧嘩を売ったり、仕事ではないかぎりは向こうからは襲ってこない。 それよりも、彼と同じ仕事をしている女──久遠紫苑の方が危ない。 容姿はいつでも和服姿で肌も白く黒髪で、いかにも大和撫子のような感じだ。 見た目も西原の娘といっても通じるほどに幼い。小学生ぐらいといえば分かってもらえるだろうか。年齢は西原と同じだが。 大和撫子のような外見とは裏腹に、彼女は西原以外の男を極端に嫌い、2m以内に近づこうものなら次の瞬間には病院に居る。 さらに、もう一つの意味でも危ない。 西原のことを異常なほどに愛しており、24時間365日雨が降ろうと台風に襲われようと地震が起きようと一緒に居る。 西原はその事に困っていたのだが、どうしようもないことを悟り既に諦めた。 それを紫苑は、自分の愛を受けいれてくれたと勘違いし、さらに行動はエスカレートした。 具体的には、西原が寝ている布団で一緒に寝たり、風呂に入っていると一緒に入ってきたり、挙句の果てには、西原が寝ている横で謎の呪文(本人は恋のお呪いといっている)を囁いていたり…… そんな関係の二人は、今日も仕事をこなすべく街中を歩いている。いつもの通り、紫苑が西原の腕に絡みつくようにして。 周囲の視線を気にする西原。他から見れば親子に見えなくもないが、それでも紫苑の年齢を知っている西原にとっては気になってしまう。 「ねぇねぇ聖くん。これから向かう所って、ここらで活動している組の本部なんでしょう?」 甘い声で話しかけてくる紫苑。その間にも腕に顔を摺り寄せてくる。 俺はロリコンじゃねぇと紫苑に一言いい、ポケットから一枚の紙を取り出す。 依頼主からの依頼内容が書いてある紙──本来ならばこんなものは持っていては危険なのだが、西原も紫苑も物覚えが悪いので仕方なく持って歩いている。 その内容を読み上げる西原。 「えーと……ようするにあいつ等が依頼主の組から盗んでったチャカと金を取り戻せ……と。」 「えーめんどくさいなー……。なんでそんなもん引き受けたの?」 「報酬。」 あからさまにめんどくさがる素振りを見せる紫苑に一発デコピンを居れて、簡潔に答える。 「現生?振込み?」 「現生以外は引き受けないさ。」 そういって、組の本部までの地図をみながら答える。 暫く歩くと、地図に書いてる場所までたどり着く。 目の前に立つ比較的大きなビジネスビル。このビルそのものが組の本部らしい。 「おおーでかいでかいー。」 淡々とした口調でビルを見上げながら紫苑が言った。 確かにでかい。そこらへんの商業ビルと変わらない大きさだ。 よくこんなもん作ったな、と感心しつつも呆れる西原。 そして、ビルへと足を運ぼうとしたときだった。 腕から紫苑のねっとりとした絡みが消える。 「西原。何か来る。」 「は?」 紫苑から、先刻とは違う雰囲気が漂い始める。仕事をこなす時と同じ雰囲気。 西原が紫苑が向いている方向を向くと、そこには黒服の男達が立っていた。 「西原聖様と久遠紫苑様ですね。貴方達は我が主人主催のパーティに招待されました。拒否権はありません。」 黒服を着ている大男から告げられた言葉。 「おいおい、あんさん達何者だい?もしかしてここの組の者かな?」 「パーティって、要するに私達が血祭りに上げられるって事?」 黒服の男へと問いかけるが、反応がない。 もしこの男達がここの組の者なら、俺らは既にこの男達にビルの中へと連行されているだろう。 では、俺らに恨みの有る者達か?いや、それならこの場で襲われるだろう。 じゃあ一体…… 西原が思考を巡らせている横で、紫苑が一人の黒服の男を吹き飛ばした。 「近づくんじゃねーぞゴミ共が。」 どうやら、黒服の一人が紫苑の射程距離まで入っていたらしい。 しかし、吹き飛ばされたはずの男は無傷のままこちらへ戻ってくる。 驚く西原と紫苑。紫苑の攻撃を食らって無傷だなんて人間かこいつら。 少し考える西原だが、すぐに男達のほうへと顔を向ける。 ……拒否権はないってこういうことか。 考えることをやめた西原は、おとなしく男達へと着いていくことにした。 紫苑は不服な顔をするが、西原が一日だけお前の自由にさせてやる、というとおとなしく着いてくる。 車へと乗り込む西原と紫苑、そして黒服の男達。 全員が乗り込むと、車はエンジン音を上げ、走り出す。 まさかあんなことになるなんて── 西原は後悔する。せめて依頼を果たしてからにすれば良かったと。 序章、多分終了。多分。
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PPKK/060 U 休憩中 ひな/保育園児 女性 パートナー ぐったりするひな/保育園児 女性 レベル 1 攻撃力 2000 防御力 4000 【かっこわるー、かっこわるー!】《家族》《妹》 【キャンセル】【起】〔手札〕 [このカードを控え室に置く] → あなたのベンチの《妹》が2枚以上なら、あなたは相手の、【スパーク】の技か【キャンセル】の技を1つ選び、無効化する。 作品 『パパのいうことを聞きなさい!』 関連項目 《妹》 『パパのいうことを聞きなさい!』 ぐったりするひな/保育園児