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「ちょっと待てよー。いや、やっぱりって言うべきなのかな」 自問自答しながら、へなへなと佐助は崩れ落ちた。軒の柱に身を預け、佐助は上目遣いでかすがを窺った。 「かすが、本当に覚えてないの」 「何度も同じことを言わせるな」 「冗談きついよ。慶二と飲んだ時に話したろ」 「私がそんな下種な約束をするわけがないだろう。覚えていないものは覚えていない」 「け、慶次に確認してみてたりしない?」 「確認してもいいが、私が覚えていない約束は果たして有効なのか?」 佐助は口をつぐんだ。やがて天を仰ぐ。声にならない溜息が雨空に洩れた。 「用は済んだようだな。これは受け取っておこう」 かすがは紅い唇を歪め、佐助の手から小さな紙切れを奪い取った。 「おい、ちょっと。ただで持っていく気か」 紙切れを握ったかすがの左手を佐助がつかんだ。佐助が身を伸ばす。互いの視線が絡んだ。 佐助が目を細め、距離を縮めた。顔が見上げる距離にある。身の丈が追いつかなくなってから、どれほどの時が経ったのだろう。かすがは臍をかんだ。 「離せ!」 かすがの金色の髪が揺れた。黒い手甲がはめられた手はかすがの手首を掴んで離さない。 触れそうなほどに、抱きとめられそうなほどに近づいた若草色の衣の肩を意識して、なぜかかすがは顔をそらした。 「俺様がどういうつもりでいつもあんたを手助けしてきたと思ってる」 「そんなこと知るか」 「かすが、少しでも考えてみたことある」 「……ない」 「ないの? 相変わらずひどいなー」 「勝手にしろ。離せ。気は済んだろう」 痣3
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「ふえーん…」 止まったはずの涙が再び頬を伝い始める。 頬を伝う涙は顎に流れ、汚れた着物をポタポタと小さく濡らした。 「まずいなぁ…」と佐助は一人心の中で呟くと、何かかすがの気をそらすものはないかと辺りを見回す。 「あ、かすが!見てみろよ、あれ!」 そう指差す先にあるのは、寄り集まるように咲く幾つもの黄色く小さな花。 かすがの好きそうな可愛らしい花だ。 しかしかすがは花には見向きもせず泣き続ける。 「な、なら…ほら、あそこに鳥がいるぜ!」 続いて指差す先には木の枝に止まり、小さく囀る小鳥。 だがかすがはそれすら見ようとしない。 いよいよ打つ手がなくなった。 どうすればかすがに笑ってもらえるかと悩み抜いた末、佐助は小さく「よし」と決心する。 「かーっすが!」 「…?」 明るく声をかければ、漸くかすがが顔を上げた。 何事か、と涙で潤んだ瞳が語っている。見れば、佐助が顔を両手で覆っている。 と、 「いないいない…ばぁー!」 泣く赤ん坊をあやす際によく使われるその言葉と共に顔を覆っていた手がどけられ、 変な表情に歪められた佐助の顔が現れる。 いきなりのことにかすがは思わず面食らってしまった。 ぽかんとした表情で見つめてくるかすがに、佐助は気まずそうに顔を元に戻した。 気まずい空気が流れかけたその時、 「…変な顔。ふふっ」 噴き出しながらかすがが小さく笑った。 漸く見せてくれた笑顔に、佐助の顔もパッと明るくなる。 ―そう、そんな笑顔が見たかったんだ。 まるで花が綻ぶような綺麗な笑顔に、思わず「へへっ…」とつられて笑う。 なんだか少し照れくさい気もするが、かすがが笑ってくれたので良しとしよう。 佐助は立ち上がると座り込んだままのかすがに手を差し伸べる。 儚く消える背中4
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「ちょっと、こたろっ……駄目って、言って、……ぁっ」 文句を言い終えることすら許されなかった。 小太郎の握る鋭いクナイは、一瞬で晒しを切り裂いた。 無論、佐助の肌を傷つけることはなく。 瞬間、晒しによって押さえつけられていた、はち切れんばかりに膨らんだ乳房が、ぷるんと弾けた。 佐助は羞恥と戸惑いに、かあっと頬を赤らめる。 「なっ、ちょっ、何してんのさ! 晒しの替えなんて持ってきてな」 やっぱり最後まで文句は言わせてもらえず、佐助は小太郎に唇を塞がれた。 それだけではない、口付けの合間に両手で体を支えられて、体勢を徐々に崩され、やがて草むらの上に押し倒された。 あくまで優しく、ゆっくりと。 再び、両の胸の膨らみをやわやわと揉まれ、時折薄く色づいた乳首も捻られ潰されいいように弄られて、佐助は、小太郎からのやまぬ口づけの合間にか細く声を漏らした。 止めようと肩を押す手に力は入らず、それに。 長い前髪の合間からふと見えた眼が、何か愛しげなものを見るかのように細められていたものだから。 抵抗する気も失せてしまった、佐助は諦めて、手をそのまま小太郎の首筋へと回した。 あとはもう、なし崩し的だった。 猿飛佐助は、女だった。 女でありながら、女を捨てて、戦忍として生きる忍。 豊満に育ってしまった己の体を隠し、元々中世的だった顔に化粧をして男の形をして。 身体能力は、甲賀の里にいる他の忍よりも頭一つ分飛び出ていたし、諜報・暗殺その他の技術も覚えが早かったから、里では、佐助は将来、優秀なくの一になるだろうと少なからぬ期待を寄せられていた。 佐助自身もまた、自分はくの一となってどこぞの武家に仕えるものだとばかり思っていた。 しかし、それはある日唐突に、叶わぬものとなる。 佐助には、くの一たりえぬ大きな欠陥があったのだ。 逢引6
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「立てる…って無理か」 言うが否や佐助はかすがに背を向けるように膝を突いた。 「ほら、おぶってやるから乗りなよ」 かすがは戸惑うように佐助の背中を見つめていたが、そっとその肩に手を伸ばし首に手を回すように抱きつく。 佐助はかすがの膝の間に手を入れると「よっと」と軽い声と共に立ち上がった。 「んじゃ、川に行くとしますか」 「うん…」 キラキラと木漏れ日が二人を照らす。佐助はかすがを背負うと歩き出した。 目の前で微かに揺れる少し長めの橙色の髪。かすがはその髪に鼻先を埋める。 柔らかな髪からは、暖かい陽だまりの匂いがした。 「…ねぇ、佐助」 「んー?」 髪に鼻先を埋めたまま小さく尋ねれば、どこか間の抜けた声が返ってくる。 「佐助は…将来忍になるの?」 唐突な問いだったが、実はずっと聞きたかった問い。 佐助は暫く考え込むように沈黙したあと、静かな声で逆に問い返した。 「…かすがは、忍になりたくないのか?」 その言葉に、今度はかすがが黙り込んだ。 暫くの沈黙後、ポツリと小さな唇から言葉が零れた。 「本当は、忍にはなりたくない…。忍になったら、たくさん人を殺さないといけなくなる…。 この着物だって、父さんと母さんがたくさん人を殺したお金で買ってくれた」 かすがは、血が嫌いだった。 つい数秒前まで生きていたものを、残酷に彩る紅。 冷たい身体を染める紅は死の色。 血は全てを死に染める。 だから、人を殺し多くの血を流す忍が嫌いだった。 忍だけじゃない。 武士も、この戦国という世も、流血に流血を重ねるだけの世界が大嫌いだった。 「忍になったらたくさんの人を殺さないといけなくなる。私は、人を殺したくない…」 人殺しをするくらいなら、忍なんかにはなりたくない。 ずっと胸に秘め続けていた、かすがの本音だった。 「かすがは優しいから、忍には向かないな」 ハッと幼馴染の顔を見ると、肩越しに垣間見えた幼馴染は優しげな笑顔を浮かべていた。 まるでかすがの答えが嬉しいとでも言うかのように。 ガサリと茂みを掻き分けると、目の前には小川が流れていた。 いつも遊び場にしている小川だ。 佐助は川から突き出ている岩にかすがを下ろすと、服の裾を破り水に浸した。 儚く消える背中5
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素っ気無い答えを聞いて再び佐助は目を閉じた。 どのくらい経っただろうか。 何かが膝の上に乗り、新しい音が加わった。 人の寝息だ。 目を開けると佐助の膝に頭を乗せ横たわった肩が呼吸に合わせ動いている。 琥珀は閉じられ珍しく熟睡していた。その剥き出しの背が如何にも寒々しい。 「あ、おい――」 起きなよ風邪引くぞ、と言うつもりだったが懐から長手拭を取り出して掛けやった。 相手は身を丸めて手拭に包まる。 (こいつ疲れてるのに何でこんな所まで……) スダジイの幹に頭を預けると、鉢金が硬い音を立てた。 ――落ち込む時なんてあるの? 琥珀色の瞳を瞬かせた娘に訊かれた。 「そりゃ俺にも色々あるよ。で、ここに来て息抜きすんの」 静かで良い場所だろ、と言うと娘は頷いた。 「さて、そろそろ帰るか」 身体を起し大きく伸びをする。 先に立ち上がった佐助が手を差し出すと娘は素直に握り返して立ち上がった。 ――帰ってどうする 佐助の裡で声がした。 この娘は薄暗い閨に帰って行くしかない。 また涙で琥珀を曇らせ庭の片隅で塞ぎ込むだろう。 嘆き、苛まれ、傷付く。今のままでは死ぬまでその繰返しだ。 だったら、だったらいっそ―― 「このまま――」 突然強い風が二人に吹き付けて思わず娘は目を閉じ、佐助の声は掻き消された。 「何?」 風に乱された髪に手をやりながら問うと佐助は笑った。 「何でも無い。行くぞ、日が暮れちまう」 通草7
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ストーリー攻略/伊達政宗の章/特別編 竜と魔王 軍団編成あり(知行20) スタート地点:黒川城(マップ中央東寄り) 勝利条件 徳川家康軍の撃破 織田信長軍の撃破 同盟国 北条家 相手国 徳川家 (織田家と同盟) (甲府城[合計戦力 31]) 織田家 (徳川家と同盟) (太田城[合計戦力 58]) 攻略方法 同盟軍の北条家はすぐに滅んでしまうので、援護しても無駄である。 とりあえず敵主力との戦闘を避けながら、敵の居ないエリアの《城》を奪いつつ、[戦力増強]を行いましょう。 『本多忠勝・服部半蔵』などの強力な【特技】を持つ武将を排除するため、先に徳川家を滅ぼしましょう。 ヒント どうしても勝てない人は。。。。『正宗』+【騎馬】で戦力を11くらいに調整して、左→左下の城と目指す。 ここで左のマスに徳川の大部隊(30ちょい)がいるが、[ど根性]+正宗の【特技】で行動順で上回れ、尚且つ倒せる。 【切り札】で回復し、残った徳川の城を即効で落とし、滅ぼす。織田との戦いに専念できる。 欠点は、正宗の特技発動が運任せなのと、序盤で切り札を2枚使うこと。成功率は半分弱くらい。 北条家を生存させてみる[牛頭の息吹]を持つ武将を最低一人入れておく 第一ターンに全員入場([雷切]があれば使う) 第二ターンに[牛頭の息吹] 第三ターンに小田原城から全員出場+[牛頭の息吹]or[竜の毒]を使用。自軍に戦力4以下の武将が多くいるなら[魂冷え]を使うのも良い。 第二ターンの北条家の行動にもよるが、この第三ターンで織田家を撃退できる。あとは北条家に太田城あたりを取ってもらえば、ほぼ滅亡することはないだろう。ただし、織田・徳川を攻めるという点ではまったく当てにならない。北条家を滅亡させずにクリアしてもエピローグでは普通に滅亡したことになっている。哀れ氏政。 イベント 竜と魔王(第1ターン開始時)『政宗』が『信長』との対決する覚悟を決める。 小田原城落城(北条氏政家滅亡時)《小田原城》が陥落し、北条一族が滅び、残る対抗勢力は{伊達家}のみとなる。 コメント 本編とは異なり、『信長』が《本能寺の変》で死ななかった場合のストーリーです。 最終章とは異なり、織田&徳川連合軍を相手にしなければならないので注意が必要です。 名前 コメント
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「きゃあー!!」 どん、と突き飛ばされ布団の上に倒れこんだ。 「小娘みたいな声出してんじゃねぇ」 後退りする佐助を冷ややかに見下ろした小十郎は何のためらいもなく着物の帯を解き、脱ぎ捨てた。 引き締まった、日に焼けた裸身は見事の一言に尽きる。 あちこちに走る傷跡すら美しいと思えるのは、それが小十郎が主を守った誇りだからだろう。 こんな状況じゃなかったら喜んで観賞しるのに。 すでに上半身裸に剥かれている佐助は、腕を交差させて己の裸体を隠した。 身体の下の布団は普段佐助が使っているのとは雲泥の差の上等な品だった。「だから何生娘みたいな真似してやがる。お前がそんな可愛い玉か」 「や、ね、ていうかさ、そのなんでこんなこと…」 「お前が望んだんだろうが。何カマトトぶってやがんだ」 ずいっと迫る小十郎にのし掛かられ、佐助は呻いた。 微妙にうれしいからまた困るのだ。 それでも残る忍びの理性で小十郎を押し退けようとしたのだが。 「う、うそ!?」 びくともしない。 佐助は確かに細身だし、小十郎より背も低い。 だが、忍びとして鍛え上げているのだ。 なのに小十郎の身体はびくともせず、反対に佐助はより拘束を強められ、下衣まで脱がせられている。 「や、やだって…ちょっ…は、放して…!」 「くくく…そんな可愛い反応して…誘ってんのか」 「ちがいます!」 闇に生きる忍びの肌はほの白く、畑仕事に励む小十郎の肌は健康的に焼けていた。 普段さらしを巻いている胸の辺りだけが柔らかい白さを保っている。 「ひっ…!?」 がぶりと首をやられた。 裏返った悲鳴に目を細めた小十郎の手が、最後に残った下帯を解いた。 「なんだ、お前も満更じゃねえんだろうが」 いやだ嫌だと言う割に佐助の下肢は熱を帯びて、仄かに濡れていた。 すでに隠すもののない小十郎の下肢もまた同様に。 秘め事2
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「頼む。只でさえ母ちゃんの言付け破って忍術教えちまったんだからさ。 この上がさつな所が直らなかったら父ちゃんあの世で苦無の乱れ打ちだ」 つい懇願する口調になる。 佐助は気付かないが、それは女房を拝み倒した時と全く同じ口調だ。 そんな父親に冷たい一瞥くれただけで再び翠は外方を向いた。 「また女達を城から逃がすって。親父も警備に当たれって幸村様が言ってた」 「そうか。多分これで逃げる者は最後だろうな」 大坂城には二百人以上の娘が養女の名目で囚われていた。 彼女達は皆良家の子女ばかりで十二になると秀吉の閨に上がり妾となる。 その世話をする侍女達や下働きの者まで含めると女の数は相当なものだった。 「お前も行け。こんな負け戦に付き合う義理は無いぞ」 何度も佐助は促すが娘は頑として受け付けない。言外に父娘でと言っている。 佐助にとってそれは出来ない相談だった。 この戦は言わば天下獲りと言う国を挙げての乱痴気騒ぎの終点だ。 今までその祭の輪の中で踊り続けて来た大人が幕引をするべきで、 若い世代に背負わせる事は無い。 (やれやれ、本当に困った撥ねっ返りだ。頑固な所は一体誰に似たんだか……) 警備の合間、佐助は懐から取り出した玉簪を見詰めながら考えた。 娘の一度決めたら梃子でも動かない頑固さは父親譲りなのだが、 当の本人はてんで気付いていない。 その玉簪はどこにでもありふれた様な品だが、とても大切に佐助は扱う。 石に瑕は無いか暇さえあればしょっちゅう確かめた。 それほど大事な物なのに佐助は何処へでも玉簪を携えていく。 かつてこれを身に着けていた者の姿を重ねているかの様に、片時も離そうとしない。 (なぁ、お前はどう思う?) 朝日に照らされ玉簪の石が光った。 深い翠色を湛えた翡翠の玉を覗き込む佐助の目は、戦場に不釣合いな程穏やかだった。 うたかた5
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「道具…だと?」 「そう。」 佐助の唇が少しだけ歪む。 「あんたもなの?あんたも俺を道具じゃないって言う訳?」 確かに忍は皆主の命に従い、主の手足となって働く。 恐らくそういう事を言っているのだろう。だが―― 「……違うだろう。」 それは俺も変わらない。 仕事や立場がそうであっても本人の心や信条には関係無いはずだ。 そう言うと佐助は鼻で笑った。 「お武家さんの馬鹿な所はね。自分が持っているものを誰もが持ってると思い込んでるとこさ。」 「…どういう意味だ。」 「俺達はね、居ても居なくても問題無い存在なんだ。本当に草なんだよ。守るべき家も継ぐべき血も無い。」 鋭く射抜くような瞳で見つめられ背中がざわついた。 「心なんて無い。唯主の命に従うだけの操り人形さ。その主が居ないんだから推して知るべしってやつさ。こんな玩具で遊んで罰するなんて下らないにも程があるよ。」 ああ、これがこいつの本性だと思う。 恐らく武田の中で甲斐の虎と一二を争う計算高さを内に秘めている。 だらしなく緩んだ態度の裏に潜むこの鋭い視線をいつもねじ伏せてやりたかった。 「客と言っても何の理由で、どういうつもりで俺を此処に置いているのかあんたは伝えなかった筈だ。」 確かにそうだ。 この件については向こうときちんと話がつくまで他言無用、そう言う命令だった。 「あいつらにしてみりゃ戦場で自分達を翻弄して仲間を手にかけた俺に仕返する絶好の機会だったんでしょ?」 「ああそうかもな。だが例えお前が忍であったとしてもだ。客だと言いつけた相手にこんな薄汚え真似をして只で済ますわけには行かねえ。分かるな。これはケジメだ。」 ふぅと佐助は小さく溜め息をついた。 「まあ俺様だって部下が、んなことしたら殺るけどさ。あんま事を荒だてないでね。っちょっと!」 抱き上げ湯につからせる。 自分も着物を脱ぎ脱衣所に投げると湯船につかった。 「何?」 向かい側で佐助が居心地が悪そうに身を縮こまらせている。 「痛むか?」 「別に……。」 手を伸ばし肩にある傷口を撫でてやると、佐助はとても嫌そうな顔をした。 こんな状況だと言うのに、それがとても面白いと思う。 「……ちょっと。止めろって言われてんじゃなかったっけ?」 「まあな。だが、こうしとけば馬鹿な事を考えるヤツも減るだろう?」 壁に押し付けるように唇を重ねる。 悪態をつきながら佐助は抵抗はしなかった。 「まあ、あんたがしたいなら好きにすりゃ良いけどさ。」 細い両腕がするりと首に巻き付く。 それが自分に対する佐助の評価なのだろう。 求めれば受け入れる程度には許されているのだと分かる。 「どんなのが好み?」 体を捻り、受け入れやすい体制になりながら佐助は言った。 「あんた好みの女を演じてあげるよ。」 「……どういう意味だ。」 首筋に口付けながら問掛ける。 「そのまんまの意味。初なのとか、馴れたのが良いとか色々あるでしょ?」 「別に普通にしてりゃあいいだろうが。」 「ん、ふふ。ま、そうなんだけどさ。演技しないでした事無くて。っぁ!」 下の茂みを掻き分けて襞をついと撫でてやる。 ちゃぷんと湯を波立たせて佐助は声を上げた。 「んぁ、はあ、あん。や……そこ……。」 「これも演技か?」 「んふ…ぁん。まぁ……ね。」 愛撫する度に佐助は身を捻りちゃぷちゃぷと湯を波立たせ、甘い声をあげる。 演技と言わなければ気付かない。 いや、もしかしたらこいつには演技のつもりなのか。 どちらにせよ、この状況で演技と言い切る佐助に小十郎は思わず吹き出した。 Black Sheep5
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娘は佐助が種を飛ばした方を見た。 何故草ばかりで折角芽吹いても蔓を絡ませるものが無い所に飛ばしたのか。 「お前って何処の生まれ?」 何気ない問いに琥珀色の瞳が伏せられ金の髪に埋もれた。 「分りません。拾われたのは戸隠でしたけど」 親を亡くしたのか逸れたのか、或いは捨てられたのか――雨の中泣いて居た幼い娘は拾われた。 あの庭に連れて行かれるくらいなら野垂れ死んだ方がマシだったかもしれないと思う。 「戸隠の事は何も知りません。庭の外の事は私には分らないんです」 「ふぅん……」 二人の間をスダジイの葉を戦がせながら風が通り抜ける。 短い沈黙の後、突然佐助が「良し!」と言って起き上がったので何事かと娘は顔を上げた。 その頭に佐助はポンと掌を乗せる。 「お前も俺も同郷出身って事にしておこう。――な?」 娘は二三度目を瞬かせると真顔で尋ねた。 「それに何の意味が有るんですか?」 「別に意味なんて良いじゃない。敬語も止してよ。お互い、名前も呼捨てにしてさ」 「何故です?」 娘が首を傾げる。 「だって馴染みにそんな事しないだろ?なぁ、『佐助』って呼んでみて」 「でも…」 「良いから良いから」 「……佐助」 ためらいながら小声で言うと佐助は鼻の下を伸ばした。 「やっぱりこっちの方がしっくり来るな。様だの殿だの背中がむず痒くて俺の柄に合わねぇや」 格好崩して喜ぶ佐助を見て初めて娘は笑った。 「変な方」 通草4