約 1,530,434 件
https://w.atwiki.jp/dngjuvenile/pages/115.html
藍園愛華プロローグSS ■藍園愛華プロローグSS 「ごきげんよう皆様、今日もいい朝ですね」 丁寧なお辞儀とともに教室へ入る黒髪の少女、藍園愛華。 普段は非常に大人しく、物腰や口調も丁寧。本を読むのが好きな、静かで落ち着いているお嬢様タイプだ。 しかし、それは彼女の一側面にしか過ぎない。 ……時は放課後、周りは部活動をしている生徒が多く、その場で愛華は少々浮いていた。それは、彼女の線が細めでいかにも大人しそうだからというだけではない。 今の彼女は学生帽に、黒いズボン、そして学ランという姿であった為だ。 特筆すべきはそのデザインで、帽子の紋章には「正義」。学ランの背中には大きな文字で「友情」と描かれている。 その姿はまるで一昔前の番長である。生徒会所属なのに。 次いで愛華は荷物の中から大きな組み立て式の旗を取り出し、その場で組み立てる。 旗には「努力」の文字、そして大太鼓(やや小さめである)まで持ち出した。 これらは全て自前で用意されたものであり、ほとんどが手作りの品である。 旗を持ち、太鼓を脇に置き、しっかりとその足で姿勢よく立つと、彼女はその輝く目をかっと見開いて叫ぶ。 「押忍!でございます!皆様の愛!努力!友情!それらの象徴である部活動!本日もこの藍園愛華!全力で応援させていただきます!!」 彼女は大きく旗を振りまわしながらさらに叫ぶ! 「フレーッ!!フレーッ!!希望崎ッ!!」 そう言い終わると彼女は今まで振っていた旗を上空に放る!旗は空中で分離し四本のスティックと一本の大きな旗となる! それらを器用に受け止め、旗部分の持ち手をまるでトウモロコシを咥えるかの如く口で咥える! そのまま四本のスティックで華麗にチアリーダーのバトン演技! 次にその二本を宙に放って、残りの二本を手に持ちながら太鼓へと向き直る! 「さぁんさぁんななびょぉーしッ!!」 旗を口に咥えているせいでややくぐもっているが、十分すぎるほどの声量! ドン!ドン!ドン!手にしていたスティックを放り、落ちてきたスティックを受け止める! ドン!ドン!ドン!手にしていたスティックを放り、落ちてきたスティックを受け止める! ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!くるりと一回転した後再びスティックを放り、落ちてきたスティックを受け止める!その動きによって自然と旗がはためく! ドン!ドン!ドン!手にしていたスティックを放り、落ちてきたスティックを受け止める! ドン!ドン!ドン!手にしていたスティックを放り、落ちてきたスティックを受け止める! ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!スティックを受け止め四本のスティックを使用した華麗なバトン捌き! 頬、いや、体全体を伝う汗!しかしその応援の動きは決して衰えない!何故か!そう、これこそが彼女の魔人能力、愛と正義の熱血大応援団! 彼女の熱い心がこの無茶とも言える応援を可能としているのだ! 「フレーッ!!フレーッ!!希望崎ッ!!」 誤解のないように記しておくが、彼女は応援団やチアリーダー部などに属する者ではない。 この応援は完全に彼女が一人で勝手にやっている事である。 何故こんなことが出来るのか、それは藍園愛華が誰よりも人を応援したいと思っているからに他ならない! 「フレーッ!!フレーッ!!希望崎ッ!!」 その後もしばらくの間続いた応援であったが、やがてドドンッ!と太鼓を打ち鳴らし、愛華は礼をする。 本日の応援プログラムが全て終了したのだ。 「皆様、今日もお疲れ様です!!」 愛華は旗や太鼓を片付けると、キリッとした姿勢のまま校庭を後にする。 「……ふう……わたくしの応援は、誰かの力になっているでしょうか……」 汗をぬぐいながら愛華は再び校庭を見た。今日も自分の大好きな、部活に一生懸命な人たちの姿がそこにあった。
https://w.atwiki.jp/rene_r/pages/48.html
SS撮影会【アルマンシア】 エンチャントクイーンスパイダーはちょっと無謀だったかもな。。。 一応討伐はしたものの、到着したのは数名・・・ 倒したのはさらに一握りの強者ACでした^^ ってことでせっかくアルマンシアにきたので撮影会を開きました。 もう一枚☆
https://w.atwiki.jp/bokurobo/pages/339.html
あるロボットと男の話・SS 単発 最終話 DBへ SS保管庫へ
https://w.atwiki.jp/negiko/pages/38.html
ザジ♂×千雨 「・・・・・・よし、更新完了、っと」 転送ボタンをクリックし、んーっと伸びをする千雨。 今日の更新内容は、「ちうの新コスチュームお披露目するよん♪」だそうで。 パソコンの画面には、なにやら様々なコスチュームでポーズを決めた千雨の画像が並んでいる。 ちなみに千雨がサイトを更新するときに必ず起こす高笑いの発作はもちろん起こっている。 いい加減どうにかしたほうがいいと思うが。 しかしもちろんそんな余計なお世話を千雨が知ろうはずもない。 せっせと更新作業を進め、ようやっと終了して一息つくところだ。 どうやら撮影してそのまま更新作業に取り掛かったようで、千雨の服装はまだその「新コスチューム」とやらのまま。 うむ、まぁ、なんというか・・・筆舌には尽くしがたい格好ではある、ある意味で。 このあたりは読者の想像に任せたい、とりあえず結構過激なことは確かだ。 「はぁやれやれ、久々の撮影だったから疲れたぜ・・・そろそろ着替えるか」 とか言いつつもどこか満足げな表情で椅子から立ち上がり、衣装に手をかける。 しかもご丁寧にトリップ状態で鼻歌まで歌ってらっしゃる。 ううむ、まるで目の前に突然UFOが降りてきて中からツチノコを持った美少女宇宙人が救いを求めてくるくらいレアな光景ですね。 ・・・そこまで言うほどでもない? ああそうですか、すいません。 無論そんなことは千雨が気にする理由もなく、ぱっぱと衣装を脱ぎ捨て、おっと着替え出し忘れてた、と下着姿のまま千雨がクローゼットに近づいたあたりで。 がちゃっ ドアが開く音。 続いて、顔をのぞかせる同居人。 「・・・・・・ちさ・・・・・・め?」 そして、下着姿で呆然と立ち尽くす千雨と眼があったザジは、これまた呆然と立ち尽くした。 おそらく、鼻歌をからかってやろうとか、着替えを覗こうとかしたわけでないことだけは確かだ。 他の誰か――――いたずらの度が過ぎた空とか、そのつもりはなくてもそういう事象を引き寄せてしまう明日太とか――――ならばいざ知らず、このザジに限って覗きなんてことはしない。 だが、事故であろうが何だろうが、ザジが千雨のあられもない姿を目撃してしまったのは事実である。 そして、ザジも千雨も最初こそあまりの衝撃に茫然自失の態だったが、時間と共に段々思考が正常に戻ってくる。 ザジのほうは、非常に珍しい、ぽかーんとした顔が普段の無表情に戻っていき、だが頬を明らかに紅潮させて、何気に千雨の下着姿を眼に焼き付けようとしっかり見つめている。 うん、ザジ君もやっぱり男の子だったんだね、お兄さん安心した。 対する千雨はといえば、まずギギギギギ・・・という効果音がまさにふさわしい動きで自分の姿――――もちろん下着しか着ていない――――を確認し。 さらに同じような動きでザジに視線を向け――――ここで思いっきり凝視されていることに気付いた――――再び自分の下着姿を確認して。 「・・・・・・・う」 一気に顔をトマトみたいに真っ赤に爆発させて。 「うわあああああああああああああああああああああああああああ?!?!?!」 絶叫した。 その叫び声は、絹を裂くような、とか、耳をつんざくような、などという言葉では表せない。 羞恥と怒りと驚愕と困惑と悲しみと八つ当たりと怨念とその他諸々がすべてないまぜになった、とにかく凄い叫び声だった。 そしてもちろん、そんな叫び声を聞いても千雨を凝視し続けるようなことはザジにはできない、というか出来る奴がいたら見てみたい。 大慌てで部屋の外に身体を翻してドアを閉める。 次の瞬間、ドアに何か――――千雨が投げた小道具のステッキ――――が、千雨の全力と明確な殺意をもって投げられたことがわかる勢いでぶつかった。 あと一瞬、あと一瞬ドアを閉めるのが遅かったら・・・・・・直撃だったろう、間違いなく。 「ここっ、このバカヤロウ! 部屋入るときはノックしろっつったろっつうかお前最後落ち着いて眺めてただろ絶対ッ!!!」 「・・・・・ノックはしたけど、返事なかったし・・・それに眺めてない・・・・・・」 「嘘つけぇぇぇっ! どう見てもじっくり眺めてたよこのスケベェっ!」 罵声と、弁解と、罵声。 明らかに怒り狂っている千雨と、表情そのものは普段と変わらないが青ざめているのがよーくわかるザジ。 一応、ザジがノックしたのは事実だ、ザジの名誉のために宣言しておく。 それなのに、中にいるはずの千雨からの返事がなければ――――まだ寝るには早い時間だ――――、さすがに心配して様子を見ようとするだろう。 うむ、間違ってない、ザジの行動は間違ってはいない。 間違ってはいないが、事態がこうなってしまった場合、どんなに正当な理由があろうと悪いのは男の側になってしまう。 なぜ、どうしてということは問題ではない、太古の昔からそう決まっているのだよレイニーディ君。 それを悟ったのか、それとも何も言わないほうが今は賢い選択だと気付いたのか。 ザジは抗弁することなく、ドアの前からこっそり離れて――――誰だって生きる核弾頭となった人間のそばにいるのは避けたい――――リビングで神妙に待機。 千雨のほうも、それ以上何も言ってこない。 おそらく服を着ているのだろう。 ――――ドア越しからでもひしひしと分かる殺気を飛ばしながら。 ――――しばらくして。 「・・・つまり、お前はドアをノックしたけど返事がなかったから心配して部屋に入った、と」 「・・・・・・(こくこく」 「覗くつもりなんか最初からなかった、と」 「・・・・・・(こくこくこく!」 重い静寂が包むリビングで、仁王立ちして尋問する千雨と、正座で引き据えられ尋問されるザジ。 普段着に着替えた千雨は、まるでさっきのことなど露ほども気にしていないような、しかしどう見ても怒っているのがよくわかる、凄みのある笑みを浮かべている。 怖い、正直滅茶苦茶怖い。 今の千雨を見て逃げ出さずにいられる人間がいたら心の底から尊敬する、心の底からそう思うザジであった。 「ふむ・・・まぁ、ノックされたのに気付かなかったのは私が悪いよな。 うん、悪かった、謝る」 しばし笑みを引っ込めて思案顔をしていた千雨が、ぽつりとつぶやく。 わかってくれた――――そう思ったザジが、無表情に明らかな希望の光をともして顔をあげた。 「でも、なぁ・・・・・・?」 だがしかし、その希望の光は、千雨が浮かべた綺麗な笑顔――――そう、まるで天使のような――――に、一瞬にしてかき消された。 「・・・だからってあからさまに人の下着姿見つめてた言い訳にはなんねぇんだよわかってんのかこのスケベピエロッ! もしも次にあんなまねしやがったら二度と表出歩けねぇようなカッコさせてネットにばら撒いてやるからそう思え!」 「・・・・・・・・・・!!!(ぶんぶんぶんっ!」 夜叉の形相で詰め寄り、リアルに恐ろしい脅迫文句をのたまう千雨に襟首を引っつかまれ、あまりの恐ろしさに全力で承諾の意思を表すザジ。 ていうか、この脅し文句でビビらない人間っているんだろうか、いや多分いはしない、反語。 そして、もはや怯えの域に入ったザジに「二度とこんなまねはしない」という念押しをし、はぁーっと大きな息をついたかと思うと、千雨はザジに背を向けて座り込んだ。 そのまま沈黙。 なんとなく気まずい空気が漂うが、ザジのほうから声をかけられるような状況ではない、というかかけたくない。 しかしどうしようか、とザジが思案し始めたとき、千雨がぼそぼそっ、とつぶやいた。 「・・・べ、別に撮影だと思えば、ちょっとアレなカッコくらい、いくらでもしてやれるから・・・だから、その、あんなのはもう勘弁、な」 ザジに背を向けて座ったまま、そこまで言って押し黙る千雨。 言われた内容が一瞬理解できず、ぽかんとしていたザジの表情がふと緩む。 ――――ああ、千雨は何も怒ってるんじゃなくて・・・・・・照れくさかったんだ、むしろ。 よくよく考えてみれば、同室で生活している以上、下着なんて否応なく目に入ってくる。 ぶっちゃけ、そんなに目くじらを立てるほどのことではないのだ、普段のふたりの間では。 それでも、あんなに怒ったのは――――怒ったように見えたのは、まったく無防備な自分を見られるのが恥ずかしかったんだ、と。 そう結論付けると、無意識のうちにザジは千雨の背に手を伸ばし、あぐらをかいたうえに千雨を乗せるようにして抱きかかえた。 「――――うひゃあっ?! ななな、何なんだよ一体!」 顔を真っ赤にしてまた怒鳴る千雨。 しかしそんな抗議も聞き流して、ザジは千雨の頭を優しくなでる。 「な、なんだよ、ご機嫌取りのつもりか? こ、こんなもん全然嬉しくなんか・・・」 なでなで 「お、おいコラ聞いてんのか!? こんなまねされたって嬉しくもなんともねえんだから、早く離し・・・・・・」 なでなで 「だ、だから、やめ・・・・・・・・」 なでなで。 「う・・・・・・・・・・」 さすがの千雨も、ザジの執拗ななでなで攻撃に沈黙した模様。 顔を赤らめてうつむいてしまった。 だがそれでも、穏やかな微笑みを――――千雨にしか見せない笑顔を浮かべながら、愛しい相手の頭を優しく撫で続けるザジ。 「・・・・・・ったく・・・バカヤロー」 まんざらでもなさそうに微笑みつつ、千雨は悪態をついた。 刹那♂×ハルナ 平和である。 平穏である。 何の変哲もない日常である。 そんな同じような意味の形容を重ねたくなるほど、最近の刹那の日常は平穏無事であった。 学園内に魔物が入り込んでくることもなく。 わけのわからん騒動に巻き込まれることもなく。 せいぜい龍宮&楓コンビからのセクハラといったドタバタがあるくらいの、刹那にとってはこの上なく貴重な『平凡な』日々を送っている。 ありがたい、まったくもってありがたい。 戦いの中でばかり生きてきた刹那にとって、なんでもない日常ほど得がたいものはないのだから。 だが、しかし。 「なんというか・・・暇だよなぁ」 学園内の食堂棟近辺をあてもなくうろつきながら、ぷはぁーっという溜息とともにそんなことを漏らす刹那。 罰当たりなことだ、とは思う。 平和であることを『暇』だなどといえるような立場でないのもよくわかっている。 わかってはいるのだが、暇と感じるもんは暇なのだ。 「まぁ、こんなに長い間何もなくてすむことなんて、なかったからな・・・」 そうひとりごちる。 そのとおり、刹那にとってここまで平和な日々が続いたことなどなかった。 ネギ子達と親しくなり、毎日が楽しく感じられるようになってからも、ときたま舞い込む仕事の依頼なんかで気を引き締めねばならない日々が断続的に続いたりしていたのだ。 だが、最近はそんな仕事の依頼すらまったく全然皆無なわけで。 刹那からすればむしろ不気味なくらい、何事もない。 いや何もないならこの機会にやりたいことを何でもやればいい。 むしろ刹那自身も「じゃあただぼーっとしてるのもなんだし何かするか」と思っていたのだ。 だが。 「はぁ~・・・何すればいいのやら・・・・・・」 この有様だ。 皆さんは経験がないだろうか。 突然自由な時間を手に入れて「何かやるぞ!」と意気込んでみたはいいものの、いざ何かしようとすれば何をすればいいかわからなくなったことが。 今の刹那はまさにその状態である。 明日太さんとの剣の稽古は済ませてしまったし。 お嬢様のそばにずっといるなんてのはできるわけないし。 ちび(今は人間大か)の相手をするなんてのは真っ平御免だし。 部屋にいたら楓と龍宮にセクハラされるし。 かといって、何かやりたいことがあるわけでなし。 ああホントどうするかな、と途方に暮れていた刹那の視界にふと入り込んできた、見覚えのある影。 「ふんっふふんふんふ~ん・・・・・・♪」 鼻歌まじりで、学内に植えられた木々が育ちも育って形成した林のほうを向きながら、なにやらスケッチをしている人物。 細長い長方形のレンズが入った下ぶち眼鏡。 意思の強そうな太い眉。 いたずらっ子のような輝きを爛々と放つ眼。 そして、何かの昆虫の触覚のようにぴょこんと立ったアホ毛。 刹那のクラスメイトにして図書館探検部の特攻隊長、そして刹那に絶賛片思い中――――もちろん刹那が知るはずもない――――の人物、早乙女ハルナがいた。 「あれ? 桜咲さんじゃない、珍しいねーこんなとこで」 「そ、そうですね」 『珍しい』、といわれて思わず苦笑する。 確かに刹那が食堂棟近辺をうろついていることはあまりない。 そして外でハルナと出くわすこともあまりない。 あまりない+あまりない=滅多にないつまり珍しいわけだ、納得。 もう少し外出するようにしよう、と心に思いつつ、ふとハルナの手元を覗く。 ハルナのスケッチブックには、本物をそのまま紙の中に取り込んだような見事な林の絵が描かれていた。 「うわ・・・すごいですね」 自分にはとてもできない芸当に、思わず心の底から賞賛する。 「いやいや~、すごくなんかないよ、これくらい基本中の基本だし」 なははっ、と照れ笑いをしながら謙遜するハルナ。 十分に凄いと思いますけど、という言葉が喉まで出かかった刹那だったが、ふとあることを思い出した。 別にそれほどたいしたことではないのだが、気になったので聞いてみる。 「あれ、でも早乙女さんって美術部とかじゃなくて、漫研でしたよね・・・?」 「あー、これは今度描いてる漫画の背景の資料兼練習。 写真でもいいんだけど、今回は余裕あるし、ちょこっと予行練習しとくかなー、みたいな?」 いや疑問形で答えられても反応に困りますが、事情はわかりましたハルナさん。 つまり今描いてる漫画のどこかで林(森かもしれない)が出てくるシーンがあって、その練習もかねてここでスケッチをしていると、そういうわけですね。 まぁちょっと間違ってるかもしれないがそんなに問題はないだろう、と自己納得しつつ、刹那がハルナの再開したスケッチと林を見比べていると。 「あ、ヤマカガシだ」 茂みの中からごそごそと、小さな蛇が顔を出した。 それほど大きくない奴で、小さい身体の半分ほどだけを林の茂みからにょっきりと伸ばしあたりを窺っている。 マムシとか青大将とかそんなのなら大事だが、こいつは毒もないし可愛いもんだ。 などとのんきに思っていると。 「え? 桜咲さん何だって?」 「ああ、ヤマカガシですよ、ほらアレです」 刹那に言われ、興味津々と言った様子でスケッチブックから顔をあげるハルナ。 ではあったのだが。 「・・・・・・・・・・・・」 その顔がみるみるうちに引きつり青ざめていく。 「・・・ね、ねぇ、桜咲サン? あ、あれって、もしかして・・・・・・ヘビ?」 そう尋ねる声が震えている。 だがしかしこの鈍さ無限大を地でいく男は、そんな様子にまったく気付くことなく、 「ええ、小さいけどヘビですね。 大丈夫ですよ、毒があったりするわけじゃ――――」 刹那がそこまで言った、次の瞬間。 「――――いいいいやぁぁぁぁぁぁぁヘビヘビヘビぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! ああああっち行ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 大・絶・叫。 さらにパニくった勢いでそのまま刹那におもいっきり抱きつくハルナ。 普段の刹那であればうまいこと身をかわせただろうが、あいにくハルナの絶叫でピヨピヨ状態になっておりとっさに動けなかった。 だがそんなピヨピヨ状態が続いたのもハルナに抱きつかれるまで。 ハルナに抱きつかれた瞬間、刹那の意識は――――良くも悪くも――――ハルナに押し当てられたある一部分に集中する。 勘のいい読者であればもうお気づきであろう。 なかなか注目を浴びないが(実にもったいない)、ハルナ自慢の一品であり、何気にトップ四天王に次ぐサイズを誇る――――ハルナのやわらかい胸が、思いっきり、刹那の腕に押し当てられていた。 「ちょちょちょ、さ、早乙女さん落ち着いて・・・・・・っ!」 「だだだ、駄目なのヘビとか爬虫類はっ! ははは早くどっかやっちゃって桜咲さぁぁぁぁぁぁぁん!!!」 刹那の静止もむなしく、さらにきつくきつくきつく抱きついてくるハルナ。 もちろんそれに伴い胸のほうもさらにぎゅぎゅーっと押し付けられるわけでありまして。 いやはやただでさえ純情というかウブというかヘタレな刹那君はもう大変でござーますよ。 (う、ううう腕に滅茶苦茶やわらかいものがこれってどう考えてもさささ早乙女さんのいや待て落ち着け意識するな俺意識したら負けだ負けだ負けだやわらか負けやわら負けやわ負けやわ負けやわ) とまぁ、こんな感じのテンパりっぷり。 頭に血が上りきってしまってもう何がなんだか。 その影響で眼までグルグル回しながらもなんとか茂みのほうに目をやり、ヘビがいなくなっていることに気付いた刹那が最後の理性を総動員してハルナに呼びかける。 「ほ、ほほほほら早乙女さんもうヘビはどっか行っちゃいましたから大丈夫ですよ!」 「ふぇっ・・・? ほ、ホントだ・・・・・・ってごごごごめんね桜咲さん!」 そのまま飛びのくように刹那から離れるハルナ。 理性が崩壊する一歩手前だった刹那は、心の中で大きな安堵の溜息をつきつつ、乾いた笑いを浮かべる。 そして何度も頭を下げるハルナをなだめながら、心の底からこう思った。 ――――暇だっていい、退屈だっていい。 こんな心臓に悪いアクシデントが起きるくらいなら。 明日太×あやか 夫婦 「ただいまー!」 「お帰りなさい。アスタさん。」 この幸せそうな夫婦、神楽坂明日太と雪広あやか。今この二人の間には新しい生命が芽生えていた。 「大分大きくなったな!」 「そうですわね。あ!今蹴りましたわ!」 まさに幸せの絶頂といった感じである。しかし、あやかには一つの不安があった…。 「ん?どうした?暗い顔して。」 「え!?あ、いや。何でもありませんわ。」 「嘘付くなよ。何かあんなら相談しろよ。俺たち夫婦だろ。…な?」 明日太は真っ直ぐとあやかの目を見る。その瞳から何か温かいものが伝わってきた。 それを見たあやかは今現在自分が抱えている不安について話し始めた。 「……私は、本当に子供を産めるのでしょうか?」 「はあ?」 「私の…弟になる生命は産まれる前に……。」 あやかには弟ができる予定だった。しかし結果は流産という非情な結果となってしまった。 それは当時幼かったあやかでもかなりのショックだった。そしてその頃の記憶がどうしても忘れられないでいた。 「もしかしたら…、今回も…わ、私の子供が…。」 体が震える。涙が溢れる。怖い…。また小さな命が消えてしまうのでは。そう思うと怖くなる。 「……ャ……ゥ」 「え?」 いきなり明日太が抱き締めてきた。彼の体温が、鼓動があやかの体に広がっていく。体の震えが止まった。 「ア、アスタさ…」 「バカヤロウ。誰の子供だと思ってんだ?俺の子供がそんな簡単にくたばる訳ねぇーだろ?」 「で、でも…!イタッ!」 あやかが言いかけた瞬間、明日太のデコピンが炸裂した。 「な、何をするんですの!?」 「ハハハ!母体もそんだけ元気なら大丈夫だろ!それにいいんちょに暗い顔は似合わねーよ。」 「まったく…。もっと…他の…元気の…つけ方が……」 また涙が溢れ出した。しかし今度の涙は違う。不安や恐怖からくる涙ではない。 「お、おいどうした!?そんなに俺のデコピンが痛かったのか!?」 「ち、違い…ますわ…。これだから…おサルさんは…」 嬉し涙だった。この人と結婚してよかった。自分は幸せだ。そう思うと涙が止まらない。 「はいはい、どうせ俺はお猿さんですよ。」 明日太は先程よりも強く抱きしめた。少しでも彼女の不安を消し去るために。 あやかも強く抱きしめ返した。少しでも彼の優しさと温もりを感じるために。 チャチャゼロ♂×カモ姉 遠くで打撃音と爆音が響いている。 「いや~・・・・・・さすがだねエヴァンジェルくんは。 とんでもないスパルタっぷりだよ」 「ケケケ、ゴ主人ニシテミリャマダマダ序ノ口ダケドナ」 「・・・勘弁してよ、ゼロくん」 冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべるカモ。 対するチャチャゼロは、普段より多少残酷さが増したような笑みのまま、ネギ子の修行の様子を見つめている。 いつもならゼロも茶々丸と一緒に修行に参加するのだが、今日は茶々丸がドロップアウトしたためにエヴァから『休んでていいぞ』と言われ、こうしてカモと酒を飲みながら気楽なギャラリーになっているわけである。 ・・・カモからすれば『気楽』というより『気が気でない』だが。 ちなみになぜ茶々丸がドロップアウトしたのかと言うと、その原因は思いっきりエヴァにある。 修行が終わるたびにネギ子から吸血しているエヴァだが、その度にネギ子のあられもない声を聞かされる茶々丸にとっては生き地獄というか耳に毒というか。 とにかくいたたまれない思いで顔を真っ赤にしている茶々丸の様子を、よせばいいのにエヴァがめざとく見つけ、 「なんだ? お前もお嬢ちゃんに気があるのか、まったくこのろ」 とまで言ったところで、エヴァは理性回路の吹っ飛んだ茶々丸にぶっ飛ばされた。 まぁ、自業自得だな、うん。 だが茶々丸はそれくらいでは止まらず、「チチチチガ違ウンデス――――――――ッ!!!」と叫びながらさらに大暴れ。 それを吸血されてふらふらになったネギがなんとか取り押さえたのだ。 で、それでも感情プログラムが少々暴走気味な茶々丸は、葉加瀬と超のところでアフターケアを受けている。 「いや~、それにしてもまさか茶々丸君があそこまで暴れるとは・・・お姉さんビックリだよ」 「ケケケ、アイツモオ年頃ッテ奴ナンダロ」 「アハハ、上手いこと言うねゼロくん! いやぁ~若いっていいわ」 てなことを言いながらくーっと酒を呑むふたり。 それにしても言ってる事がいちいち親父臭い。 そしてふたりが酒を飲み干すと同時、鳴り響いていた爆音が止んだ。 「お、終わったかな?」 「ミテェダナ」 見ればエヴァがへたりこんだネギ子になにやら説教している。 ネギ子はと見てみれば、立ち上がる元気もないほどボロボロではあるが、必死でエヴァの言うことを聞き漏らすまいとしているようだ。 その様子を、遠くから苦笑いと共に眺めるカモ。 「やれやれ、姉御も大変ねぇ・・・」 「マ、アイツガ言イ出シタコトダシナ。 ソレニゴ主人モ思イッキリ暴レラレテイイ気晴ラシダトカ言ッテタゼ」 「あはは・・・」 と、カモは乾いた笑いでごまかすしかない。 ぶっちゃけ、家族みたいな存在である人間を目の前であんだけタコ殴りにされては、いくら修行とわかっていても落ち着けるはずがない。 だが、そんなことをわずかでもエヴァの前で口に出せば間違いなく食われる。 いろんな意味で。 「ナァ、今妙ナコト考エナカッタカ?」 「ハイ?! ななななんのことかなぁゼロくん、おねーさんわかんないやーハハハ」 「・・・マ、イインダケドヨ」 自分の不埒な考えを見抜かれたか、とびくつくあまりどう見ても不自然な応対をずるカモ。 しかしゼロは特に気に留めるでもなく、独酌で杯を重ねる。 カモのほうも、すぐにまるで何もなかったのように次の酒を口に含み、ほろ酔い加減で誰にともなくつぶやく。 「あーあー、姉御がもうちょっとしっかりしてくれたらなぁー」 「ケケケ、アノゴ主人ガ師匠ナンダゾ? 当分無理ニ決マッテンダロ」 「・・・やっぱり? ったはー、お姉さん困っちゃうなー」 「オ互イ様ダナ」 何気にゼロがエヴァを思いっきり小馬鹿にしているが、カモはまったく意に介していない。 このふたりの間に、気がねという言葉は存在しない。 ふたりとも似たような立場だから。 ――――たとえるなら、『手間のかかる子供を抱えた親』といったところの立場か。 ネギ子は大人びて見えてもまだまだ子供で、何でもかんでも自分で抱え込もうとしたり、突発的なアクシデントでとっさの対応ができずにアワアワしてたりするし。 エヴァンジェルはエヴァンジェルで、本当に数百年生きてる吸血鬼かアンタはと言いたくなるようなわがままやら大ボケやらをかましまくってくれるし。 いやはや、フォローに回る側からしてみれば、ホント気の休まることがない。 「えー? でもゼロくんは茶々丸君がいるからまだ気楽でいいんじゃない?」 「何言ッテヤガル、チョットカラカワレタダケデ大暴レスルヨウナ奴ダゾ? ソウアテニデキヤシネェヨ」 「あー、なるほどね・・・確かにそうかも」 君も大変だねぇ、と言いつつゼロに酒を注ぐカモ。 アリガトヨ、と答えて酒が注がれるのを見ているゼロ。 そしてカモが自分の杯に酒を注ぎ終えたのにあわせ、一気に酒をあおる。 カモがぷはーっ、と虹色の息を吐き。 ゼロがマァマァダナ、つぶやいたところで。 「カモちゃ~~~ん、そろそろ帰るよー」 「ゼロ、いつまで飲んだくれてるつもりだ? とっとと戻るぞ!」 ・・・『親の心子知らず』を地で行ってくれる二人からのお呼びが。 「はいはい、今行くよー」 「ヤレヤレ、面倒ダナ」 コラコラ、そういわないの、といいつつゼロを抱え上げ、カモはふたりのほうへと向かう。 そして、ふたりの間では、ネギ子とエヴァに聞こえないぎりぎりの距離で、声を潜めてこんな会話が交わされた。 「マ、ガキノ尻拭イクライハヤッテヤルカ」 「・・・そうそう、それが大人の役目ってもんよ」 ――――どうやら、ふたりの苦労はまだまだ続くようだった。 美砂雄×円 昼休みの屋上に一人の生徒が携帯電話越しに怒鳴っていた。 「は?別れるってなんだよっ!?おい、ちょ…」 話す間もなく一方的に切られた。携帯を持つ手が力なく落ちる。 「はぁ…、またかよ…。」 彼の名前は“柿崎美砂雄”。2-Aで数少ない彼女持ちなのだがよくフラれるらしい。 美砂雄は屋上の手すりに掴まり何となく景色を眺めた。あちこちでカップルが楽しそうにお喋りしているのを見てまた溜息をつく。 「な~に溜息なんかついてんのよ。」 声がしたと同時に首筋に冷たい物が当たった。 「うわっひゃ!」 余りにも冷たくて変な声を上げたしまう美砂雄。後ろを向くと少女が立っていた。 「なんだ、円かよ…。」 彼女は“釘宮円”。同じクラスで同じチア部(と言っても美砂雄は男なので応援団)で、彼女とは親友である。 「なんだはないでしょ。はい、これ。」 そう言うと円は美砂雄の目の前に缶ジュースを差し出した。先程の冷たい感触はこれだったらしい。 美砂雄は一言お礼を言うとジュースを受け取り蓋を開けた。 「怒鳴り声がすると思って来てみれば…、なに暗い顔してんのよ?」 円の問いには答えず美砂雄は黙ってジュースを一口飲む。 「どーせまたフラれたんでしょ?」 美砂雄が一瞬ピクッと反応する。 「あ、図星だったんだ…。」 その場に気まずい空気が流れる。耐えられなくなった円は必死で励ます。 「ほ、ほら。そんなくよくよしてないで。…ね?」 「………」 「そ、それに女の子なんか沢山いるんだし…。」 「彼女…、好きな人が出来たんだって。」 「え…?」 今までずっと黙っていた美砂雄の口が開く。 「その前の彼女も浮気、その更に前の彼女も元彼とヨリを戻して。今まで付き合った奴は皆ほかの奴に取られた…。」 弱々しく語る美砂雄。その表情は俯いてるため見えないが今の表情は容易に想像できる。 「…俺、何が悪いのかなぁ?そんなに魅力ないのか?ああ、もう嫌になるよ。いっそここから飛び…」 言い終わらないうちに美砂雄の頬に痛みが走り、辺りに鈍い音が響いた。気がつけば円の右拳が突き出ている。 「…痛ってえな。」 「いつまでもウジウジしてなんじゃないわよ!男だったらシャキッとしなさいよ!」 「……せぇ」 「はぁ?」 「うるせぇんだよ!お前に何がわかんだ!?好きな人を取られる気持ちがよぉ!」 美砂雄は今まで以上に声を張り上げて怒鳴った。 「…わかるよ。」 「え?」 「好きな人が取られる気持ち。どんなに仲良くしても他の人に取られて…、その度に胸が苦しくて…。」 さっき美砂雄を殴った時の威勢はなく静かに語り始めた。少し声が震えている。 「だから…、だから今度は私が…!」 円はいきなり美砂雄の唇を奪った。時間にして数秒間だが恐ろしく長く感じた。そしてゆっくりと唇を離す。 「今度は私があなたを取る番だからね。」 そう言い残し屋上を出て行く。後に残された美砂雄は未だ状況を理解できないといった感じである。 美砂雄は先程の出来事を思い出す。柔らかい唇、甘い香り、潤んだ瞳。思い出して胸が熱くてドキドキしてくる。 「どーすりゃいいんだよ…。」 彼の呟きはセミの鳴き声にによって掻き消された。 刹那♂×コタ美 「なあ、刹那」 呼び止められた少年、桜咲刹那。 体の向きはそのままに、声がした方へ顔を向ける。 一方それを呼び止めた少女は、ぼうと空を見上げたまま。 珍しいな、と一人ごちて。 刹那は、空を仰ぐコタ美に一歩歩み寄った。 「どうしたんです、コタ美さん」 本当なら頭一つ半、いや二つ分は下にある頭も。 コタ美が木の枝に座り込んでいるため、見上げる形となっている。 いつもははつらつとしたコタ美も、今日はどこか沈み気味だ。 「なあ刹那、どうすればすぐ強うなれる?」 さあと吹いた風を合図にしたのかは分からないが、声を発するコタ美。 その質問に多少面食らってしまう刹那だが、すぐに普通の顔へ戻る。 いや、普通の顔というには少し優しすぎる顔だろうか。 「すぐ、は無理でしょうね。貴女の求めている『強さ』なら」 「…せやな。無理やな」 コタ美の放つ雰囲気に『魔法などの術なら可能でしょうが』という言葉は飲み込んで。 当のコタ美はといえば呆けた表情と空を仰ぐのはそのままに、こくこくと頭を二回振り。 刹那は釈然としない様子で、そのままじっとコタ美を見つめた。 晴れとも曇りともつかない空と、緩やかな風が真帆良の森を流れてゆく。 「なぜ、分かりきったことを聞いたんですか?」 切り開かれる、風の音。 訝しげでも、蔑みでもなく。 本当に純粋な気持ちで、刹那は疑問を放った。 「強うなりたいからや、誰よりも」 「そう、ですか」 木の上で放り出していた両足を、たたんで腕に納める。 その膝のところに顎を乗せ、コタ美は縮こまった。 寒いのかなと思った刹那だが、コタ美の顔が少し赤いことに全てを察した。 若いっていうのは本当にいいことだな、と自分の年を置いて感慨に耽りそうになる。 この子はいつでも、前にいるネギ先生を見つめているんだ。 そしてときには横へと並び、お互いに競う合うことだけを目的に生きているんだろう。 いつかその先生の、前に立つことだけを考えて。 それに比べて自分はどうか、と溜息を付きそうになる。 だがそこは悲しくなっちゃうので、考えるのはやめた。 それに今は、コタ美のことが優先だ。 「昨日なあ」 「はい」 何処を見つめているのだろうか。 膝を抱えたままのコタ美が、口を開いた。 「夢、見たんよ」 「はい」 ゆっくりと話すコタ美の髪を、ゆっくりとした風がはらりと靡かせる。 そのなかなかに綺麗な艶を持った黒髪に少し引かれながら、刹那も相槌を打つ。 「関西に拾われる前の思い出やった」 「…はい」 淡々と語るコタ美とは対照的に、刹那の心臓は一度だけ高鳴った。 それこそ、飛び出しそうになるくらいに。 それに驚き相槌に空白の時間が入ったことを、コタ美は気付いているのだろうか。 拾われる前、という単語。 これには全くと言っていいほど良い響きを覚えない。 里の者の小言や、攻撃。 それから自分を護ってくれていた母親。 たまに帰ってきては、色々な話や功績を話してくれた父親。 その父親が死に、母親も病を患って。 母親が死んだ夜、里を追われたこと。 逃げ惑う日々に、迫り来る死。 傷付いた、という言葉だけでは表せないほどボロボロになった幼い心。 よくここまで立ち直ったものだと人事のように感心する一方で。 袴に隠れた足は、心に植え付けられた恐怖に震えていた。 自分の場合、拾われてから戦いを知った。 しかしコタ美はいつか、昔から戦って育ったと言っていた。 もしそうだとしたら、自分以上に辛い思いをしてきたに違いない。 強さだけが全ての世界に、放り出された異形の少女。 人々の攻撃の対象になるための不足は、なにもない。 それでもこのように壊れてしまわずに育ったこの子は、どれだけ強いのだろうか。 或いは壊れる暇も与えなかった世界が、どれだけ非情なのか。 どちらが正しいのか、どちらも正しいのか。 それすらも分からない。 「あの頃は、ずっとずっと戦っとった」 哀しそうに目を細めて呟くコタ美を、刹那はじっと見据えた。 幾分小さくなった声を、風の音で逃してしまわぬよう集中する。 「殴られたら殴り返して、嫌なこと言われても言い返せへんからまた殴って」 いつの間にか相槌を打つことすら忘れた刹那に、それに気付いてか返事を待たないコタ美。 風の音や、木の葉のざわめきすら煩い。 「あの頃から、ウチは全然強くなれてない」 「…」 焦りと悔しさを表すかのように、眉間に皺がよる。 手で隠れている口元は、ぎりと音がするくらい噛み締められているのだろうか。 刹那は話の変わり目と共に、表情を変えた。 「周りの皆が暖かくて、うまいもの毎日食べれて、性格もちょっと丸くなった気がする」 二人の頭の中に、皆の笑顔が映し出される。 護るべき人、いや護りたい人が、ここに来てとても増えたと気付く。 「幸せやと、どんどん弱くなってまう」 「…それは、違います」 ふうと一息吐いてから反論する刹那、それを少し鋭い目つきで見据えるコタ美。 その態度が気に食わなかったのか、反論が気に食わなかったのかは分からない。 「幸せだからこそ、人は強くなれる」 「…そんなん嘘や、ウチはあの頃の方が強かった」 「そんなもの、偽物です」 きっぱりと芯を据えた発言に、眉間の皺を深めてコタ美は反論する。 それをばっさりと切り捨てる刹那の目は、正に剣士のそれだった。 「…幸せな者が弱い?ネギ先生は、強いじゃないですか」 「ネギ…」 現に僕は、ここに来て強くなった。 大らかな人々に囲まれ、荒れていた心が安らいで。 心の中でそう呟いて、それがコタ美に伝わるよう願った。 「幸せな人は、心が強い。…まあ、弱い人も居ますが、それは例外です」 「…」 「幸せだからこそ、支えている人が居るからこそ…無茶が出来るんです」 手に入れたそれを失うことを恐れた者は、とても弱い。 失わないよう動く者こそが、高みへとのし上がることの出来る者。 「現に僕達だって、ネギ先生を支えて…」 「…ネギネギ言うなや、アホ刹那ッ!」 静かに、淡々と話す刹那の声を、コタ美の怒声が遮った。 場の空気が一気に変わってゆく。 「コタ美さん!」 枝を降りて駆け出そうとするコタ美の腕を、瞬動を使い掴む。 その瞬間ものすごい力で手を引かれるが、そこはどうにか持ち堪える。 すぐに二回目の抵抗が来るのは目に見えていたので、あらかじめ手に力を入れておく。 その際にコタ美の腕を締め付けてしまわないように注意をしながら。 「放せ、アホッ!!」 「得たものを失うのを恐れていたら、何も出来ない!…それこそ弱くなっていく」 抵抗と共に放たれる怒声。 そんなものは聞こえないフリをして、刹那は話を進める。 途中少しだけ荒くなってしまい、まずいと思いながら声を落とす。 「本当に大切なものは、失おうとしない限り無くなることはありません」 空気が変わってから初めて吹く風が、二人を包んだ。 ふわと舞ったコタ美の髪の香りが、程よく鼻腔をくすぐる。 それは大人の持つ濃い香りではなく、少女特有の爽やかな香りでとても心地の良いものだった。 「本当に大切に思っている人達は、皆貴女を信じています」 抵抗の無くなった手を、優しく握る。 それで少しでも暖かさが伝わればいい。 皆の思いも、僕の思いも。 全て、全て伝わればいい。 「周りの皆さんだって、僕だって。ネギ先生だって貴女を信じています」 こちらを向かないコタ美に向かって、普段の自分からはちょっと想像できないような優しい笑顔を向けてみる。 多分今こちらを向かれたら、恥ずかしくて仕方ない。 このように表情がころころ変わるようになったのも、ここに来てからか。 「それを信じずに動かなかったら、弱くなるのは当たり前じゃないですか!」 これで持論は語り終わった。 正直通じてるかどうかも分からない。 余計こじらせてしまったらどうしよう。 ああ、なんかもうすげー不安になってきたぞ。 すう、という音が耳をつく。 目の前で背を向ける、コタ美の肩が浮いた。 「…アホ!」 三度目の怒声。 刹那の脳裏に「失敗」の二文字が浮かぶ。 そうか、駄目だったか…。 …心なしか、声が震えていたような。 「そんなこと分かってる、分かってるわ…!」 体の向きを変え、こちらを見るコタ美。 その行動の驚きと、その目ににじむ大粒の涙に二度驚く。 な、泣かせてしまった! ええと、こういうときはどうすれば…! 「分かってる…分かってるからネギネギ言うなや…アホぉ…」 「あ、れ?…え…?」 かっくりと項垂れて、ぐしぐしと涙を拭くコタ美。 もしかしたら、一人で熱くなっていたのだろうか。 だとしたらとんだ赤恥だ。 未熟者のくせして、いっちょまえに説教垂れて。 あー、消えちまいたい。 空を仰いでみると、胸の辺りにとんと何かがぶつかった。 下を向くと、コタ美の頭。 「あ!?う、わ、ちょっ」 「顔見んな!アホ、動くな!」 胴着を掴まれて剥がすことも出来ない。 赤くなった顔を見られるのが恥ずかしいらしい。 刹那としては、くっつかれる方が恥ずかしい。 「なあ、刹那」 「…はい?」 ちょっと声が上ずる。 ああ、格好悪いなあ。 「バケモノ、って言われたこと、ある?」 「…。ありますよ、沢山」 幼少の頃の記憶を漁ると、どれほど出てくるだろうか。 「ウチら、バケモノなんかなあ…」 「…そう、かも知れません」 刹那の肯定に、コタ美の肩が跳ね上がる。 胴着を握る力が強まり、背中に皺の部分が食い込む。 また涙がにじんだのか頭を押し当てられ、バランスを崩しそうになりつつも何とか耐え切って。 刹那は次の言葉の言い方を探した。 「でも、ここの皆さんは、僕らのことを『バケモノ』だなんて思っちゃいませんよ」 「…あ…」 他の奴らにどう思われようが知ったことか。 僕らにはもう、とても優しい人達がついている。 「それじゃあ、満足できませんか?」 「…!」 頭を押し付けたまま、ぶんぶんと首を振られる。 正直くすぐったいけど、ここで笑ったらまた機嫌を損ねそうだ。 「刹那って、色々考えてるんやな…」 「いや、貴女よりちょっと多めに生きてるだけですよ」 すっと、胴着の食い込みが引く。 鼻の辺りはまだまだ赤いが、しっかりと笑顔になったコタ美の顔。 そう、僕はすごくなんかない。 『手に入れたそれを失うことを恐れた』、とても弱い奴なんだ。 目の前で、貴女の笑顔が見ることの出来る、この日々を。 失うことが、怖いのだ。 「なあ、刹那…お願い、あるんやけど」 「お願い?」 好きだなんて、告白して。 断られちゃったその日には。 なんかもう、二度と会えない気さえして。 「暇なとき、稽古つけてくれへんか?」 「…いいですよ、勿論」 そのくせずっと傍に居たいって思ってて。 無駄に空回りしてみたり。 「ウチな、アイツより強くなったるで。…ネギより」 「応援、しますよ」 いつか、何も恐れずに。 ずっと傍に居ることの出来る日を夢見るよ。 今は夢見ることしか出来ない僕だけど。 覚悟の出来る、立派なニンゲンになったそのときは。 どうか、僕を受け入れて。 ずっと、傍に居てくれないか。 届くことはない気持ちを心にしまって。 今僕は、貴女に微笑んだ。 小夜×朝倉 人のうわさに戸は立てられぬ、と昔の人はよく言った。 いつの時代でも人は他人の噂話に眼がないわけで。 ゆえにその手の話題を取り扱う新聞やら雑誌は引っ張りだこになる。 が、しかし。 うわさを広められる側からすれば、そういったことをする連中は厄介このうえないわけで。 自然、そういうことを仕事にする人々は、知らず知らずのうちに誰かの恨みを買ってしまうことも多いのである。 ――――たとえ、いわれのない逆恨みであっても。 「――――にししっ、見つけた見つけた・・・ついに抑えたよ~」 「あううっ、朝倉さん、危ないですよぉ~」 「何言ってんの小夜君! 恐喝なんて卑怯な真似してる連中をのさばらせないためにも、ここは意地の見せ所だよ!」 麻帆良学園内の、とある人気のない一角。 その物陰に身を潜める和美と、その横でおろおろしながら浮遊する小夜。 和美の構えたカメラの先には、数人の男子生徒。 しかも、真ん中で他の生徒に囲まれている生徒は涙目になりながら、サイフから取り出した現金を、おそらくは元締めであろう生徒に渡している。 どこから誰がどう見ても、恐喝の現行犯である。 その様子を、和美は次々とカメラに収めていく。 小夜はといえば、相手にバレやしないかとハラハラしながら様子を見守っているだけ、と少々頼りない有様だ。 そして、恐喝をした男子グループと被害にあった生徒が立ち去っていくのを見送り、どっと息をつく小夜。 「はぁぁ~~~~っ・・・・・・怖かった・・・・・・」 「あはは、ごめんね小夜君、大丈夫?」 「は、はい~・・・・・・。 で、でも今度からはこんな危ないことしないでくださいね?!」 「はいはい、りょーかいりょーかい」 「ぜ、絶対聞いてないでしょ朝倉さぁんっ!」 目的を達成した充実感に浸りながらひらひらと手を振る和美と、心臓が止まりそうになった思いからの忠告を聞いてもらえずに涙眼になる小夜。 なんか普通逆のパターンな気がするが、このふたりはこれがデフォルトであるので問題ない。 しかし今回は、おそらくアンケートをとれば圧倒的多数が小夜のほうを支持するであろう状況ではある。 いくらなんでも、恐喝の現場に乗り込んで、あまつさえそれを写真に収めるなどというのは危険極まりない。 万が一バレてしまったらただでは済まされなかったはずだ。 しかも相手は男子、こっちは女子一人(小夜は幽霊なのでカウントされない)。 もし捕まったら何をされるか――――小夜からすればひやひやするどころではなかっただろう。 だが和美はそんな小夜の心配もどこ吹く風といった様子で、自分のスクープを眺めてご満悦の様子だ。 「ふふふ・・・あいつらがやってきた悪行もこれまで! この『麻帆良パパラッチ』朝倉様をなめんなよ!」 そういって高笑いしつつ帰還する朝倉。 やってることはどちらかといえば正しいことなのだが、なんだか悪の秘密結社のダメ幹部のように見えてしまうのはなぜだろう。 しかし、そんな意気揚々とした和美とはうらはらに、小夜の表情は暗い。 確かにこの取材で抑えた証拠を公表すれば、あの生徒達ももうあんな恐喝行為はできないだろう。 だがしかし、恐喝を行うような生徒達がそう簡単に引き下がるだろうか? 逆恨みするくらいならまだいい、もし朝倉さんに直接手を出してきたりしたら―――――――― 「・・・・・・くん? 小夜君!」 「うひゃぁっ?! ななな、なんですかっ、朝倉さんっ!?」 「いや、なんかぼーっとしてたからってだけなんだけど・・・大丈夫?」 そういって苦笑いする和美。 小夜が大丈夫です、と答えると、そっか、といってまたにこやかに笑いながら歩み始めた。 その様子からして、和美は小夜の思うような心配はまったく皆無のようだ。 それもそうだろう、彼女は自分が『正しい』と思うことを迷いなくやっているのだから。 ――――でも、だから僕は、朝倉さんが心配なんです。 声には出せないけれど、心の中で、小夜は思う。 いつもアワアワ言っているせいで忘れられがちだが、伊達に60年も幽霊としていたわけではない。 本来なら正しいことをしているはずの人間が、間違っている人間に敗れる様子だって、何度も見てきた。 自分にまったく気付いてくれなかった人間達のときでさえ、自分の無力さに心が痛んだ。 ましてや、自分の存在に気付いて、友達になってくれた和美がそんな境遇に立たされたとき、自分は助けられるのだろうか。 小夜の胸に渦巻く不安に気付くことなく、和美はあくまで揚々と、これから書くすっぱ抜き記事の構成を考えていた。 数日後、和美のすっぱ抜き記事はめでたく麻帆スポの一面を飾り、それが動かぬ証拠となって恐喝グループは一網打尽にお縄となった。 和美自身もこの恐喝グループに手を焼いていた教師達や新聞部部長からお褒めの言葉を頂いたのみならず、なんと被害にあっていた生徒達からも感謝されるという栄誉に預かった。 世の中の悪をすっぱ抜く、という夢を持つ和美にとってこれ以上の喜びはなかったろう。 にこにこしながら廊下を歩く和美、その隣で不安げに漂う小夜。 「くぅ~~~っ、やっぱ気分いいね、誰かから感謝されるとさ」 「そ、そうですね・・・」 「・・・? どしたのさ、小夜君。 なんか暗いけど・・・」 「えっ・・・、いえ、そんなことないですよ?」 「そう? ならいいんだけどさ」 怪訝な表情を残しながらも廊下を進む和美。 しかし、『大丈夫』とは答えたものの、小夜の表情は暗いまま。 確かに和美の活躍で恐喝グループは摘発され、和美が恐喝グループから被害を被っていた生徒達から感謝されるのは当然だろう。 だが、恐喝グループの側からすればどうか? あの、和美が恐喝現場を押さえた日に感じた不安が、雲がわくように小夜の胸の中で広がっていく。 ――――大丈夫、大丈夫・・・だって、朝倉さんは正しいことをしたんだから、悪いことがおきるようなことは、何も・・・・・・ 自分に言い聞かせるように、心の中でつぶやく小夜。 しかし、その願いはむなしくも踏みにじられることとなる。 「――――随分ご機嫌じゃねえか、卑怯者」 「・・・・・・! 何よ、あんた達」 曲がり角からぬっと現れた、数人の男子生徒。 うち何人かは、紛れもなく、数日前の恐喝現場にいた生徒だった。 どう考えても危険な状況に身構えつつ、抜かりのない眼で相手を睨む和美。 だが、男子生徒達は下卑た笑いを浮かべたまま、互いに目配せをしている。 「だから、何って聞いてんのよ! 用がないならどいてくれる!?」 痺れを切らした和美が、男子生徒達を怒鳴りつけた。 すると、男子生徒達は一斉に笑い声をあげ、もっとも和美の近くにいた生徒がにやつきながら和美に罵声を浴びせ始めた。 「ハァ? 用がないならどけ、だ? 冗談もほどほどにしろよ、この卑怯者!」 「だから、誰が卑怯者なのよ! 恐喝なんかやってたあんた達こそよっぽど卑怯者でしょうが!」 和美から発せられる正論、だがその正論を嘲笑い、男子生徒は罵倒をまくし立てる。 「うるせぇ! てめぇみてえな嫌われ者がコソコソかぎまわるほうがよっぽどうっとうしいんだよ! そのくせちょっとおだてられていい気になりやがって、お前、自分がなんて言われてんのか知らねえんだろ?」 「なっ――――――――!?」 「やっぱ知らねえのか、教えてやるよ――――“ストーカー”、“お節介”、あああと“覗き魔”だったか? 誰もテメェのやったことを喜んだりしてねぇんだよ。 それがたまたま俺らのときだけうまくいったからって喜んでんじゃ――――」 そこまで言った瞬間、どこからともなく飛来した椅子が、猛スピードで男子生徒の顔面に直撃した。 「え・・・・・・?」 何が起こったのか理解できず、呆気に取られる和美。 同じように立ち尽くしていた他の男子生徒達を、さらに異常が襲う。 「なっ・・・・・・う、うわっ、なんだコレ!?」 突如、男子生徒達の真横に位置する窓ガラスが何の前触れもなく砕け散り、その破片が地に落ちることなく男子生徒達に襲い掛かる。 さらに、最初に男子生徒を襲った椅子のみならず、さらに多くの椅子が宙に浮き、今にも男子生徒達を襲おうというそぶりを見せた。 「ひっ・・・・・・に、逃げろぉぉぉ!!」 そう叫んだ一人が走り出すが早いか、われ先に逃げ出す男子生徒達。 ひとり取り残された和美は、ただ呆然と立ち尽くしていた。 「な、何だったの・・・・・・アレ」 和美がポツリとつぶやいた、そのとき。 「――――大丈夫ですか? 朝倉さん」 「あ――――小夜、くん・・・・・・?」 今まで消えていた気配が戻ったことに気付き、振り返った和美が見たもの。 それは、薄青く輝く燐光を身にまとい、普段の様子からは想像もできないような、凛とした表情で厳然と存在する小夜の姿だった。 そして、小夜が静かに息を吐くと、宙を待っていたガラス片や椅子が、静かに地に下りた。 「すいません、ちょっと手ごろな椅子を見つけるのに手間取っちゃいました――――怪我とかしてないですか?」 そういって、和美に微笑みかける小夜。 その笑顔を見た瞬間、和美の顔が一気にゆがみ、和美は大声で泣き出した。 「うぅっ・・・ふぐっ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 「あ、朝倉さん、泣かないで・・・どこか痛いんですか?!」 慌てて和美をなだめる小夜、しかし和美の泣き声はやまない。 「わっ、私、間違ったことっ、してるつもり、ないの、にっ・・・私っ、嫌われ者だって、ストーカーだ、って、あぐっ、うああぁぁぁぁ・・・・・・・っ!」 そこまでしか言うことができずに、泣きじゃくる和美。 もう誰も信じない、誰も信じられない――――そんな気持ちさえ浮かんできた和美を、突然、温かい光が取り囲んだ。 まるでその光が和美の涙を吸い取っていくかのように、傷ついた和美の心が癒されていく。 「え・・・・・・こ、これって――――――――?」 思わず涙に濡れた顔をあげ、周囲を見渡す和美。 すると―――― 「・・・大丈夫ですよ、朝倉さん」 「さ、小夜、君・・・・・・?」 和美の目の前にいるのは、穏やかに微笑む小夜。 涙の跡が残る和美の顔の高さまで降り、和美の眼をまっすぐに見つめる。 「もしさっきみたいに、間違ったことで朝倉さんを傷つける奴がいたら――――僕が、貴方を守ります。 もし世界中の人が敵になったとしても、僕は貴方のそばにいます。 だから――――だから、泣かないでください、朝倉さんは、一人じゃありません」 そう言って、もう一度、静かに微笑む小夜。 その笑顔に満たされたのか、涙の残る顔で微笑み、和美はぽつりとつぶやいた。 「ありがとう・・・あったかいよ、小夜君――――」 その澄んだ笑みに、微笑を返しながら、小夜は思う。 ――――僕は、もう死んでしまっているから、貴方を幸せにはできません。 だけど、僕は貴方を傷つける人から、必ず貴方を守ります。 どんなことがあっても、誰が貴方を裏切っても、僕はずっと貴方のそばにいます。 だから――――――――だから、泣かないで。 僕の、誰よりも大切で、誰よりも愛しい、僕の――――僕の、大好きな人。 リレー ザジの休日の話 ザジの日曜の朝は早い。空が明るくなった頃に起き出す。 まず起きてからする事は、隣のベッドで寝ている千雨の寝顔を見る事から始まる。 千雨は夜の仕事で帰りが遅く、ちょうどぐっすりと深い眠りに入っている時間だ。 千雨のベッドに両肘をつき、じっくりと千雨の顔を見る。 その日によって時間は違うが、大体1時間程度はそのまま眺めているだけだ。 ↓ 太陽も顔を出し切り、窓越しに朝錬へ向かう少女たちの声が聞こえ始めてくる。 後ろ髪を引かれつつも、朝食の用意をするために千雨のベッドを離れて台所へ。 千雨は休日になると早くても昼前まで起きてこないので、作るのは自分の分だけだ。 入り口にかけてあるエプロンをつける。 丈も長く何の飾り気もない無地のエプロンだが、千雨と兼用であるため彼女は非常に満足している。 エプロンをつけた彼女は冷蔵庫を覗いて今朝の献立を思索。 昼食は千雨が好きなオムあんこにしようと決めているので、簡単にサラダとハムエッグあたりとしておこう。 ↓ ザジは自分の朝食を作りながら、小鳥達の朝食も用意する。 なるべく物音を立てずに。 静かな朝食を終えた後、また千雨の寝顔を眺める。 そして1時間くらい経った後、左手の人差し指で千雨の頬をそっと触れる。 あくまで静かに、千雨を起こさぬ様に。 そして今度はその指をじっと見つめる。 そのまま更に1時間経過。 そしてまた千雨の顔を眺める。 ↓ ザジにとって、いつまでも続いて欲しかったこの時間。 無情にもこの幸せな時間は終わりを告げる。 「…う…ん。もう昼か。」 千雨が目覚めてしまった。 仕方が無い。これも時間の流れだ。 そしてまた次の、別の幸せな時間が訪れる。 「おいザジ!またこれ(オムあんこ)か!!」 「………」(目に涙を浮かべるザジ) 「いっ…いや…その…俺はオムあんこ大好きです!毎日でも食べます!!」 (…ニコッ) 朝起きてから6時間以上が経過しているザジ。まだ一言も話していない
https://w.atwiki.jp/tesu002/pages/2202.html
そんな充実した日々。 もちろん、標的と仲良くする事も忘れない。 唯「あずにゃん、ぷにぷに♪」 梓「う~~……」 普通は相手のことをよく知るほど、相手と仲良くなればなるほど、殺しにくくなると言われる。 唯「物じゃなく一人の人間として認識されて、情がわくから。」 唯「でも、私は人間を殺したい。」 より人間として認識したい。 だから標的のことをよく知らなくちゃいけない。 唯「一個の個人を殺したいんだよね。」 好きなもの、好きなこと、将来の夢。 生活時間。何気ないクセ。家族。 色々なことを調べた。 中野梓の家にちょくちょく遊びに行き、家族とも仲良くなった。 唯「これで私が中野梓を殺せば、みんなこう思うよね。」 唯「なんで?どうして?あんなに仲が良かったのにって。」 唯「そして、その理由は私にしか分からない……。こんな感じでOKかな。」 律「なんか唯、だいぶ変わったよなー。」 唯「そう?」 律「なんかこう、もっとほわほわしてたっていうか、ちょっと抜けてたっていうか。」 唯「そんなだったっけ?」 律「うん。もっとアホな感じだったのに。」 唯「律ちゃん、それはひどいよ!!」 唯「でも多分そうだったんだね。」 唯「人からそう見えるのなら、自分で違うって言い張っても。」 律「ほらその余裕。一体どうしたんだよ!?」 唯「んー、ここのところでだいぶ変わったかも。」 唯「でも気にしない、気にしない♪私は私だから!!」 律「……まっ、そうだよな。唯は唯だもんな。」 律「それじゃあ部活に行くぞーー!!!」 唯「了解しました、律ちゃん隊長!!」 紬「(私、この二人を見てるだけで幸せ……!!)」ボタボタ 憂「お姉ちゃん、最近変わったよねー。」 唯「そう?それより、このオムライス、すごく美味しいよ!!憂はいいお嫁さんになるね!!」 憂「えへへ~、ありがとうお姉ちゃん。そんな事言われると照れちゃうよ。」 憂「そういえば、梓ちゃんもすっごく変わったんだよ。」 憂「前より雰囲気が全然違うくなって、とても可愛くなったの!それに頭もすっごく良くなったみたい。」 唯「ふ~ん、そうなんだ。」 憂「それに、律さんや澪さん、紬さんも前より生き生きしてて楽しそうに見えるよ。軽音部、なんかいい感じだね!羨ましいな~」 唯「だったら憂も軽音部に入らない?お姉ちゃんはいつでも大歓迎だよ!!」 憂「う~ん、考えとくね。」 そして一年が経った。 決行の日だ。 充実した素晴らしい1年だった。 なんらの不満もない満ち足りた日々。 これを棒にふって行われる殺人。 唯「フツーじゃありえないだろうけど。」 唯「でも、だからこそ意味があるってものだよね。」 カバンの中に包丁を入れて学校に向かう。 私のやる気に触発されてか両親の仕事も順風満帆。 今度、重要なポストにつくんだとか。 唯「お父さん、お母さん、ごめんね。」 そして軽音部のメンバーも、どんどん演奏が上手になっていった。 唯「私とあずにゃんがいなくなると軽音部は三人になっちゃうのかー。」 唯「律ちゃん、ごめんね。」 唯「いい天気だなぁ……」 唯「なんか私ってめちゃくちゃ幸せなんじゃ……」 学校に着いて、授業を受ける。 あっという間に放課後になった。 律「ゆいー、部活行こうぜーー」 唯「ごめん、律ちゃん、ムギちゃん。私、ちょっと職員室に用事があるから。」 紬「それじゃあ、先に行ってるわね。」 律「早く来ないと、唯の分のお菓子も食べちゃうからなー♪」 唯「むっ!!律ちゃんそれは許されない事だよ!!」 音楽室に行くのを遅くする。 そうすれば、中野梓は先に音楽室にいるだろう。 ある程度の時間が経ってから音楽室に行った。 ドアの前でカバンから包丁を出し、体の後ろに隠す。 そして、左手でドアを開ける。 中野梓は既に音楽室にいた。 梓「唯先輩、今日は遅かったですね。」 唯「ごめんねー、職員室に行ってたんだ。」 そしてだんだんと標的に近づく。 大丈夫、いつも中野梓にはスキンシップといって抱きついている。 梓「ゆ…い…先……輩…、何で……?」 紬「キャアアアアア!!!」 澪「唯、お前何やって……。血、血がたくさん……」バタンッ 律「唯っ!!お前何やってんだよ!!!梓っ!!いっ、今救急車呼んでやるからな!!!」 多分、みんなはこんな感じの反応をするだろう。 標的まであと少し。 紬「唯ちゃん、今お茶入れるわね。」 唯「ありがとう、ムギちゃん。」 包丁を持つ手に力が入る。 唯「あずにゃ~ん」 抱きつく振りをして、包丁を中野梓の体に刺す。 どこがいいかな。やっぱり心臓かな。 あと30cm。 ――――今だ。 ――――グサッ 包丁が心臓に突き刺さった。 ――――ブシュッ!! 血が吹き出る。 え……? 唯「あ……ず…にゃん、何で……?」 紬「キャアアアアア!!!」 澪「梓、お前何やって……。血、血がたくさん……」バタンッ ―――ドサッ 私はたまらず、床に倒れた。私の胸になんで包丁が……? 律「梓っ!!お前何やってんだよ!!!唯っ!!いっ、今救急車呼んでやるからな!!!」 梓「唯先輩……、あなたは理想的なターゲットでしたよ。」 唯「(ああ、そうか……)」 薄れていく意識の中で、私は不思議に充足感を味わっていた。 あとは彼女が語ってくれるだろう。 これで終わりです。読んでくれた皆様、ありがとうございました。 戻る
https://w.atwiki.jp/konpic/
けいおん!画像検索サイトまとめ このサイトはけいおん!画像検索サイトをまとめたものです。 けいおん!画像検索 けいおん画像 けいおん!画像 けいおん!!画像 けいおんデコメ けいおん!デコメ 平沢唯画像検索 平沢唯画像 唯画像 ゆい画像 平沢唯デコメ 唯デコメ 豊崎愛生画像 秋山澪画像検索 秋山澪画像 澪画像 みお 秋山澪デコメ 澪デコメ 田井中律画像検索 田井中律画像 律画像 りつ画像 りっちゃん画像 琴吹紬画像検索 琴吹紬画像 紬画像 むぎ画像 むぎちゃん画像 寿美菜子画像 中野梓画像検索 中野梓画像 梓画像 あずさ画像 あずにゃん画像 あずにゃんデコメ 竹達彩奈画像 山中さわ子画像検索 山中さわ子 さわちゃん画像 さわ子画像 平沢憂画像検索 平沢憂画像 憂画像 うい画像 真鍋和画像検索 真鍋和画像 和画像 鈴木純画像検索 鈴木純画像 純画像 純ちゃん 合計: - 今日: - 昨日: - トップページの合計: - 出会いを応援!ワクワクメール女子会 ~ワクワクメール攻略サイト~ ワクワクメール女子会は女性向けワクワクメール出会い攻略サイトです。
https://w.atwiki.jp/minasava/pages/895.html
「よし、終わったぞ」 衛宮士郎は、“サーヴァント”の分解掃除を終えた。 目の前にはカラシニコフと呼ばれるアサルトライフルが存在する。本物ではあるものの、別にヤバイルートで手に入れた物では無い。彼(あるいは彼女)も冬木の地に召喚されたサーヴァントの一柱、機械も英霊になる事はあるらしいとは魔術の師匠であるあかいあくまの弁だ。 「士郎さん、ここの掃除は終わりましたか?」 振り向くと土蔵の入口には、女性が立っていた。 絶妙な形で作られた顔の造形。 衣服の上からでも分かる豊かな双丘とくびれた腰。 うなじ付近でまとめられた緑がかった美しい髪。 間違いなく美女と呼べる外見を持っているが、全身から発せられる慈母のように温和な雰囲気のおかげで、すこしもとっつきにくくない、共にいるだけで安心させてくれるような女性だ。ただ、何故か固く目を閉じている。 「ラミア、庭の掃除は終わったのか」 「ええ、大勢手伝ってくれましたから、もうすぐ終わります」 ラミア―――かつてリビアの王女だった女性は、「当然」とも言うように笑顔を見せた。 ある忍者は、植木を整える。 ある忍者は、掃き掃除をする。 ある忍者は、ごみを出しに行く。 「よう。衛宮の、庭の掃除はもうすぐ終わるぞ」 縁側に座って、乱破衆の指示をしている黒衣の暗殺者が呑気そうに言った。 「ありがとうな、小太郎、茶でも出すからゆっくりしていってくれ」 「そりゃ、ありがとさん」 アサシン―――風魔小太郎は、頭巾を脱がないように、器用に口に茶を注いだ。 「美味い」 「悪いな、宝具まで使って大掃除手伝ってくれて」 「構わんさ、俺達もこの屋敷にはだいぶ世話になっている」 そこで小太郎は明後日の方向をあごでしゃくる。 エウロペが修理を終えた家電をアステリオスが運び出す。 巴御前が畳の埃を叩いている。 トム・サムが排水溝に潜り込んで掃除をしている。 ラシードは天井裏に上がって本格的に掃除をしている。 皆、世話になっている衛宮の屋敷の大掃除に来てくれた英霊達だ。 「本当に、みんな頑張ってくれているよ。お礼の夕飯は奮発しないとな」 「料理を頑張るのはいいですが……あまり、無茶はしないようにしてくださいね?」 「わかってる、わかってる。自分の身体は大事にするからさ」 ラミアが心配そうに注意するが、士郎のさほど気にしていない様子に、ラミアと小太郎はそろってため息をついた。 元々この地にあった聖杯を大勢のキャスター達が改造した『大聖杯・マークⅡ』のおかげで、この地に集う英霊達に本来食事は必要無いのだが、それでも食べたいというのが人情だ。 快く食事を作ってくれる衛宮士郎の人柄に甘えて、衛宮邸は多くのサーヴァントが集まっている。 当初は大挙して押し寄せてくるサーヴァント達(と、虎)の胃袋を満たすための材料費を稼ぐために士郎がバイトで働き続け、過労死しかけたことさえある。 その後は、熊太郎が魚を捕ってきたり、ハーロットが資金援助をしたり、行基の温泉で身体を療養したおかげで持ち直したが、もしあのまま突っ走っていたら、食事を作り続けるために世界と契約しようとしていたかもしれない。 絶対そうなっていただろうというのが、少年を知る者達全員の総意だ。 「しーろうー、お姉ちゃんお腹すいちゃったよぅー!!」 「ああ、わかった。今作る」 大河のご飯をねだる声に、士郎が立ち上がる。ラミアと小太郎も席を立った。 台所に行く士郎を見て、小太郎がラミアに耳打ちする。 「ありゃ、また無理するかも知れねえからな。俺達がまだ見てやらんといかんなあ」 「ええ、そうですね」 ラミアが苦笑する。手のかかる息子を見るような目で、二人の英霊は少年を見ていた。 「いただきまーす!」 掃除を一段落させた衛宮邸の住人達は、今のテーブルを囲んで昼の食事をとっていた。 最も、あまり手のかかった料理では無く、おにぎりやパンなどの簡単な食事になった。 「形が不揃いですけど、誰が作ったんですか?私は玄関の掃除していたし、姉さんは自分の部屋の掃除だし……」 不格好なおにぎりをほおばりながら、士郎の後輩である間桐桜が聞く。 「私と、メリーさんとイヴさんですよ」 「そうそう、イヴさんてば凄いのよ!腕のパーツを増やして中身が違うおにぎりを一秒に十個作っちゃうの!」 壱与の言葉に続く形でメリーが興奮した様子で話す。 皿の上に山盛りになっているおにぎりをよく見ると、半分は桜が食べているような形だが、もう半分は規格生産されたみたいに決まった形をしている。 「そういえば、形・量とともに一定だな」 「コンビニエンスストアで販売されているおにぎりを参考にしました」 抑揚の無い声で話すのはメイド服の女性。 その正体はキャスターの一人、ソロモン・イブン・ガビーロールが作り出した機構侍女・ 『機械仕掛けの生命(イヴ・エクス・マキナ)』だ。本来なら主であるガビーロールの元で研究の補佐に当たっている彼女だが、大掃除に人手が必要という事で、凜がガビーロールに預けてある借金のカタに無理矢理引っ張ってきたのだ。 「ところで衛宮様、この家屋における清掃達成率は現在目標の85%を超えましたが、未だに手をつけていない場所があります」 「えっ、そうだったか?どことどこだったかな」 「パラケルスス様のラボです」 その言葉に、多くの英霊達の食事が止まる(虎と金時は構わず喰っていたが)。 パラケルススという名をこの冬木に住む英霊やその関係者の中で知らない者はまずいない。いたとしてもアホの子ローランくらいのものだろう。 何せ、彼は汚染されていた大聖杯を、他者の宝具まで使用して汚染を除去し、サーヴァント達が現界に支障が無い程度の魔力供給装置に改造してくれたのだ。 士郎にとっても時に魔術を見てくれたりしてくれるありがたい相手だ。 だが、パラケルススにも欠点はあった。 というより疑問だが、いついかなる時でも帽子を取ろうとしない事(行基の温泉にもかぶって入っていた)と、どうやらそれに関連する問題らしいのだが、変な薬をサーヴァントや魔術師に飲ませようとするという悪癖があった。 士郎自身紫色の液体を飲まされて毛髪が七色の極彩色に染まったことがある。 色々な意味で恐れられているパラケルススの工房、自然と身体が硬くなる。 「その……当のパラケルススはどうしているんだ?」 「「魔術師に年末年始もクソもあるか」と言い残され、中国の秘境に薬草を探しに行っております」 「……そうか、あそこを掃除しないと正月が来ない」 魔術師の工房に、基本他人は入れない。故に、魔術師は様々な防衛手段をこらす。 特にこの衛宮邸は様々なキャスターがむちゃくちゃな改造を施したために、地下室や隠し部屋、罠の類まで設置され、もはや冬木の謎の異空間と化しているのだ。 その中でも、パラケルススの部屋は同業のキャスター達でも入った事が無いらしい。 「パラケルスス様が中国に行く前に事前確認を行ったところ「危険な物は無いので勝手に片付けといていい」とのことでございます」 相変わらず抑揚の無い声で良い仕事をしたイヴに、心の中で喝采を送りながら衛宮邸大掃除実行委員会責任者の肩書きを持つ士郎は、指示を飛ばす。 「よし、藤ねえと桜を除いて、みんな後でパラケルスス・ラボの前に集合だ」 「せ、先輩。いくらなんでも危険すぎます。パラケルススさんの帰国を待った方が……」 「大丈夫だ。桜。危険な研究はしないように約束してるんだから……多分」 ガチャリ。金属が離れ合うような音が響いた。 「よし、終わったぜ。ヤローかなり複雑な術式を組んでやがった」 赤髪に赤い目をしたガラの悪そうな男、魔術王ソロモンの手によって、禁断の扉は開かれた。 「よし、行くぞ。みんな、準備はいいか?」 士郎は投影した剣を握りしめ、共に突入する仲間達を見つめた。 「おう」 風魔小太郎は手裏剣を投げられる体勢のまま、片手には雑巾とバケツを持っている。 「大丈夫よ」 メリーの右手には出刃包丁、左手にはハタキが握られている。 「いざという時はすぐに逃げましょう。メリーさんと一緒なら大丈夫です」 ラミアは、少し緊張した様子で箒を握りしめた。 人選には理由がある。 掃除が得意であり、周囲の状況が視覚以外の情報で理解できるラミア。 瞬間移動ができるメリー。 敏捷性に優れ、また忍者であるために罠にたいして鼻がきく小太郎の三人だ。 他のメンバーには、いざという時に備えて待機して貰っている。 「じゃあ……いざ突撃!」 結論から言えば、何もおこらなかった。 ただ、部屋には机と、荷造りされた荷物が少しあっただけだった。 「生前は協会だかに追われてた御仁だ。いついかなる時でも移動できるように癖がついちまったんだろ」 とは、小太郎の弁だ。兎にも角にも四人は掃除を始める事にした。 「士郎、この荷物はどうすんの?」 「あまり、触らないように、あとでパラケルススに聞いて、いらないものなら捨てるんだ」 「なんだよ。こりゃ、漫画じゃねえか。あの人本当に大昔の魔術師か?」 「必要な物かどうか分からないから、隅にまとめておきましょう」 順調に進む片付けに、ラミアも安堵しながら物を運ぶ。 「ええと、これは」 ―――もしゃり。 「ん?」 何か奇妙な音が聞こえた。音がした方向を見てみると、そこには押し入れの扉があった。 「あの、士郎さん。ここはまだ片付けていませんよね?」 「あ、うん。そういえばその押し入れの中には何が入っているんだ?」 「ええと、それが……」 「何々?この押し入れ掃除すれば良いの?」 ラミアが止める暇も無く、メリーが取っ手に手をかけ、思い切り横に引いた。 「帰ったぞー」 「あ、パラさん。お帰りなさーい」 扉を開ける中国帰りのパラケルススに、かたづけをしていた壱与が声をかける。 「衛宮のぼうやはいるかい、壱与ちゃん?薬草酒でも作って貰おうと思ったんだがよ」 「ああ、士郎さんなら今パラケルススさんの部屋を片付けていますよ」 「へー、そりゃ悪いな……あ、そういえば押し入れは開けてないよな?」 「え?押し入れが何かまずいんですか?」 「ああ、言い忘れたんだが……」 「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」 「こ……これは一体」 「何コレ何コレ何コレ!!!!」 パニックになったメリーとラミアの指さす先にいるモノに、士郎も呆然となっている。 それは毛だった。毛の塊だった。最初はモップか何かだと思ったが、それが素早い動きで壁や天井を這い回る姿は、生き物でしかあり得ない。 「け……毛羽毛現?」 毛羽毛現、あるいは希有希現とも称される。毛むくじゃらの妖怪であるそれを、士郎は連想していた。 「妖怪変化の類かよ!?」 流石に小太郎は日本の英霊だけあって、その手の話にも強い。故に行動も素早かった。 「衛宮の、嬢ちゃんがた、当たるなよ!」 手首のスナップを最大限に生かし、天井に垂れ下がっている毛玉へ向かって手裏剣を投擲する。 空気を切り裂くそれは標的に殺到した。並の英霊では回避すら難しいそれをしかし―――。 「何!?」 手裏剣の全てを毛玉は回避した。それは避けたと言うよりむしろ―――。 「飛んだ!?」 鳥のようにというよりも、昆虫のように部屋中を飛び回るそれはもはや尋常な生き物ではないだろう。女性軍も戦闘態勢を整えた。 「私メリーさん、今あなたの横にいるの!」 瞬間、メリーの姿がかき消える。そして毛玉の至近に出現したメリーは力一杯出刃包丁を振り下ろす。 「やったか……いや、浅すぎる」 斬撃は、妖怪の毛を僅かに切り落とす程度の戦果しかもたらさなかった。 更に―――。 「士郎さん、避けてください!」 「しまったあ……ムググ!」 一瞬の隙を狙い、毛玉は狙いを士郎に定めたらしい。毛の塊は士郎の顔に着地し、そのまま離れようとしない。 「なろお!」 「士郎から離れなさい!」 メリーと小太郎が引っぺがそうとするが、下手に手をつけると士郎に何をするか分からない。結果的に見ているしかできない。 「ムググムグムググググ」 士郎の身体が痙攣を始める。口と鼻がふさがれて呼吸困難に陥っているのだろう。必死に毛玉を剥がそうとするが、それでも離れようとしない。 「キャスター連中呼んでこい、メリーの嬢ちゃん!こいつの正体調べん事にはどうにもならん」 「分かった!私メリーさん、今あなたの後ろにいるの!」 そうしてメリーの姿がかき消える。残された小太郎はともかく毛玉をどうにかしようと小刀を取り出した。 「どけよ毛玉―――」 「くふ、くふふふふふふふくふふふふふふふふふふふふふふふふふふくふふ」 奇妙な笑い声に言葉が遮られる。 含み笑い。それを発していたのは、先ほどまで呆然としていたラミアだった。 見ると、表情は陰になってよく分からない。 だが、口角だけがつり上がっていた。 ぺろ。 妙に長い舌が形の良い唇を舐める。傍目から見れば妖美な仕草だが、小太郎にとっては肉食獣がうなっているようにしか見えない。 「悪い子ねぇ……悪戯しちゃダメっていつも言ってるでしょ……」 ようやく台詞を発したラミアは、そのまま床で呻いている士郎に馬乗りになる。 そのまま毛玉を鷲掴みにした。 むんずと掴まれた毛玉は、じたばたと動き続けるが、ラミアは決して離そうとしない。 「くふふ、柔らかな毛並みねぇ……」 すると、おもむろにブチリと毛を毟り始めた。 毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。毟る。 解放された士郎を診ながら、小太郎はラミアを止めようとする。 「なあ、そいつの正体が分からない以上、下手に手を出すのは」 ラミアは小太郎の言葉を全く意に介さず毛を毟り続けている。 「なあ、そろそろ……」 そこでぴたりと毛を毟る手が止まる。そして、顔を向けずにラミアが一言。 「嫌です」 そして毛を毟る行為が再開された。 小太郎はあくまで正体不明な生物に対し、不用意な行為はやめておいた方が良いと思うから忠告したのだが、ここまで拒絶されては立つ瀬が無い。 おまけに、本気で怒っているラミアに無理矢理止めさせるということもできそうにない。宝具を使われれば自分は粉々にされるだろう。 「……仕方ねえか、危なくなったら助けりゃいい」 ラミアが無言で毛を毟っていく内に、毛玉の体積が小さくなっていく。 そしてその姿が現れる。 小太郎は驚愕したが、ラミアに告げるのはあまりにも危険だと判断し、無言を貫く。 「あら、これ何かしら……」 目の見えないラミアが感触で『それ』の正体を理解した瞬間――――――時が止まった。 「ぎ……」 「■■■■ッ!?あれは■■■■だったっての?」 廊下を走るのは帰国したパラケルススと、助けを呼びに来たメリーだ。メリーは初めに待機していた英霊に助けを求めようとしたが、パラケルススが帰ってきた事を聞き、急遽部屋の主に助けを求めた。 その時に、毛玉の正体について聞き出した結果、恐怖の正体が明らかになった。 「そういえば、最近見なかったけど……」 「寒いと動きがにぶるとか相談されてな、試薬を試したらもっさり毛が生えてきてよ。そのまま繁殖しない事を条件に俺の部屋に住まわせてたんだ」 「住ませるな!!あいつは黒い悪魔よ!!医者が■■■■保護してどーすんの!!」 「実験台を志願してくれる結構いい奴なんだよ。しかし、暫く見なかったもんだから、忘れてたぜ。突然掃除されて、パニックになってなけりゃいいが」 「パニックになってるからこんなことに……」 轟音。 屋根瓦が梁ごと飛び、ついでに天井裏を掃除していたラシードがべちゃりと庭に叩き付けられる。 ペンテシレイアを口説こうとしていたパリスが瓦礫に頭をぶつけ、倒れたところをヘクトルとカサンドラにフルボッコにされていた。 ブーディカは二人の娘が瓦礫に押しつぶされそうになった事に激怒し、戦車を走らせ暴れまくっている。 「ぎゃああああああああああああがあああああああああああああああああ!!!!!!」 獣の唸り声に似ているが妙にリズムが良く、聞きようによってはオペラ歌手のように美しい声が周囲に響き渡る。 それを発しているのは蛇の下半身を持ち、紅玉のように美しい瞳に狂気の色を浮かべた女性の姿。彼女は現在進行形で衛宮邸を破壊していた。 ぶーん。 メリーとパラケルススの元に、毛を中途半端に抜かれた■■■■が飛んでくる。その姿に生理的な嫌悪を覚えるメリーだが、それ以上の根源的恐怖が■■■■を狙っていた。 「ぎいいいいいいいいいいいいいいぐああああああああああああああああああ!!!!!」 「い!?」 「ちょっと、タイム!私、メリーさん今あなたの後ろにいるの!」 メリーが消える。何処か安全地帯に逃げた事は明白だ。 残るのはパラケルススと■■■■、そして宝具全開で暴れるラミア。太い蛇の下半身が、怨敵を押し潰そうと持ち上がる。 「な……おい、ちょっと待て。おい、たんま、タイム、ストップ!ヘルプー!!!」 ずん、という重い音と共に周囲が沈黙する。が、 ぶーん。 敏捷A+は伊達じゃ無い。■■■■はそのまま逃げ続けようとする。 当然、ラミアがそれを逃すはずも無く、彼女が正気に戻るまで被害は拡大し続けた。 ごお~ん。 「鐘の音は、心が洗われますね……」 「和の心ってやつかね」 しみじみした様子で聞き入るラミア、包帯でグルグル巻きにされたパラケルススもそれに続く。 「ああ、除夜の鐘は煩悩を打ち払うっていうもんな」 年越しそばを持ってきた士郎は、英霊達に配っていく。 メリーはそばを口に含むと、顔をほころばせた。 「あら、美味しい。鶏肉入りね」 「お代わりはまだあるぞ」 「……なあ、現実を見ろよ」 「ああ、風通し良さそうだな」 小太郎の冷静な突っ込みに、士郎は衛宮邸だった物体を見た。 真っ二つ。 ちょうど母屋の中心部からラミアの尾が直撃した衛宮邸は包丁で切られたスイカ宜しく二世帯住宅になっていた。 ラミアは蒼白になりながら、謝罪の言葉を口にする。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 小動物のように身体を震わせるラミア。その彼女に、士郎は優しく声をかける。 「大丈夫だ。俺正義の味方だから」 「し、士郎さん……」 「例え聖杯戦争のたびに何度も何度も何度も家がぶっ壊されて、保険会社に説明もできないから保険金がさっぱり下りずに、 修理費が自腹を切る羽目になってバイト先を増やしたり、黄金律持ってる連中に頭下げて金を借りたりしないといけなくて、 近所の人達の噂になって肩身の狭い思いをして、修理が終わるまで寒風が吹き込む家の中で暮らさないといけなくても、 大丈夫だぁ……ははははははははははははははははははははははははははは」 「し、士郎さぁん!」 「今は泣いててもいいぞ。衛宮の……とりあえずあけましておめでとうございます」 除夜の鐘が響く夜空に、一台のソリが飛んでいく。 聖ニコラウスが乗り込む『聖夜の架け橋(シュティレ・ナハト)』だ。 ソリの上から何かをまくとそれは爆発し、色とりどりの花火となった。 火花が夜空に文字を描く。 HAPPY NEW YEAR!! 新年おめでとうございます。 初めてSSを投稿する者です。 思えば去年だけでも多くの英霊達が召喚されました。今年もまた、皆鯖の発展を祈って、このSSを贈りたいと思います。それでは皆様お元気で。
https://w.atwiki.jp/itmsanime/pages/1225.html
【作品名】けいおん! 第二期 けいおん!! 前期OP 【曲名】GO! GO! MANIAC 【歌手】放課後ティータイム(平沢唯・秋山澪・田井中律・琴吹紬・中野梓(cv 豊崎愛生、日笠陽子、佐藤聡美、寿美菜子、竹達彩奈)) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【補足】リードボーカルは平沢唯(豊崎愛生) 【作品名】けいおん! 第二期 けいおん!! 前期ED 【曲名】Listen!! 【歌手】放課後ティータイム(平沢唯・秋山澪・田井中律・琴吹紬・中野梓(cv 豊崎愛生、日笠陽子、佐藤聡美、寿美菜子、竹達彩奈)) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【補足】リードボーカルは秋山澪(日笠陽子) 【作品名】けいおん! 第二期 けいおん!! 後期OP 【曲名】Utauyo!!MIRACLE 【歌手】放課後ティータイム(平沢唯・秋山澪・田井中律・琴吹紬・中野梓(cv 豊崎愛生、日笠陽子、佐藤聡美、寿美菜子、竹達彩奈)) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【作品名】けいおん! 第二期 けいおん!! 後期ED 【曲名】NO, Thank You! 【歌手】放課後ティータイム(平沢唯・秋山澪・田井中律・琴吹紬・中野梓(cv 豊崎愛生、日笠陽子、佐藤聡美、寿美菜子、竹達彩奈)) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【作品名】けいおん! 第二期 けいおん!! (第7話)挿入歌 【曲名】ぴゅあぴゅあはーと 【歌手】放課後ティータイム(平沢唯・秋山澪・田井中律・琴吹紬・中野梓(cv 豊崎愛生、日笠陽子、佐藤聡美、寿美菜子、竹達彩奈)) 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【作品名】けいおん! 第二期 けいおん!! (第10話)挿入歌 【曲名】ラヴ 【歌手】DEATH DEVIL 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【作品名】けいおん! 第二期 けいおん!! 【アルバム名】K-ON!! ORIGINAL SOUND TRACK Vol.1 【カテゴリ】アニメ 【曲数】18曲 【価格】¥200均一(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【作品名】けいおん! 第二期 けいおん!! (第20話)挿入歌アルバム 【アルバム名】ごはんはおかず/U I 【カテゴリ】アニメ 【曲数】14曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥1,200) □■iTMS■□ 【アルバム名】「けいおん!!」イメージソング 平沢唯 【カテゴリ】アニメ 【曲数】6曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥1,200) □■iTMS■□ 【アルバム名】「けいおん!!」イメージソング 秋山澪 【カテゴリ】アニメ 【曲数】6曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥1,200) □■iTMS■□ 【アルバム名】K-ON!! ORIGINAL SOUND TRACK Vol.2 【カテゴリ】アニメ 【曲数】18曲 【価格】¥200均一(*パーシャルアルバム) □■iTMS■□ 【アルバム名】放課後ティータイム Ⅱ 【カテゴリ】アニメ 【曲数】24曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥3,200) □■iTMS■□ 【補足】上記の挿入歌を集めたアルバム。 【アルバム名】「けいおん!!」イメージソング 田井中律 【カテゴリ】アニメ 【曲数】6曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥1,200) □■iTMS■□ 【アルバム名】「けいおん!!」イメージソング 琴吹紬 【カテゴリ】アニメ 【曲数】6曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥1,200) □■iTMS■□ 【アルバム名】「けいおん!!」イメージソング 中野梓 【カテゴリ】アニメ 【曲数】6曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥1,200) □■iTMS■□ 【アルバム名】「けいおん!!」イメージソング 平沢憂 【カテゴリ】アニメ 【曲数】6曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥1,200) □■iTMS■□ 【アルバム名】「けいおん!!」イメージソング 真鍋和 【カテゴリ】アニメ 【曲数】6曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥1,200) □■iTMS■□ 【アルバム名】「けいおん!!」イメージソング 鈴木純 【カテゴリ】アニメ 【曲数】6曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥1,200) □■iTMS■□ 【アルバム名】『けいおん!! ライブイベント ~Come with Me!!~』LIVE!(通常盤) 【カテゴリ】アニメ 【曲数】37曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥4,000) □■iTMS■□ 【アルバム名】『けいおん! ライブイベント ~レッツゴー!~』LIVE!(通常盤) 【カテゴリ】アニメ 【曲数】24曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥3,200) □■iTMS■□ 【作品名】劇場用アニメ 映画けいおん! OP 【曲名】いちばんいっぱい 【歌手】放課後ティータイム 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【作品名】劇場用アニメ 映画けいおん! ED 【曲名】Singing! 【歌手】放課後ティータイム 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【作品名】劇場用アニメ 映画けいおん! テーマソング 【曲名】Unmei♪wa♪Endless! 【歌手】放課後ティータイム 【ジャンル】アニメ 【価格】¥200 □■iTMS■□ 【アルバム名】K-ON! MOVIE ORIGINAL SOUND TRACK 【カテゴリ】アニメ 【曲数】40曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥2,400) □■iTMS■□ 【アルバム名】放課後ティータイム in MOVIE 【カテゴリ】アニメ 【曲数】8曲 【価格】¥200均一(アルバム価格¥1,600) □■iTMS■□
https://w.atwiki.jp/tururi-na3sei/pages/107.html
ヒヨコ軍団~ 多かったのでとりました~ このときはもっとおおかったな 一樹さんとはなしたことなかったときだな・・・・・・おれちびちゃとはじめたばかりのときのです↑ -- キングツルリーナ3世 (2011-03-12 09 05 51) おれくろいとりです -- キングツルリーナ3世 (2011-03-12 09 06 13) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/83452/pages/10450.html
――――――――――― その日の夜 「もしも梓ちゃんになれたら・・・」 願いながら 睡魔に身を任せる 意識は段々と遠のいていく 段々と 段々と 「他人になる」という夢は 叶えた時点で 他人の物になる 教室 休み時間 平沢憂と鈴木純は 何時の間にやら親友だ クラスが同じなだけで部活はバラバラだけれど 同級生の中では最も気が合う 「どう、最近の部活は?」 「変わらない 全然練習しないよ」 憂が尋ねたいつも通りの質問に いつも通りの返答 もはや お互い解っている 軽音部は文化系特権の緩い空気を堪能し 長い練習とは無縁なのだ そういう部活は少なくない 「でも梓 なんだかんだで馴染んでるよね」 「ど、どこが・・」 「練習してー って叫ぶ割には いつも唯先輩達にべったりじゃん」 純は冗談交じりに言うが 中々的を射ている 中野梓は 甘えん坊 彼女は幼く 未熟で矮小だ 勿論面と向かって言われるのはあまり気分の良いものではないし 小学生 などと言われるのは恥ずかしい でも 誰かに包まれているのは気持ちいいし 幸せだ 特に先輩の平沢唯は そんな気持ちを刺激する 人間 赤ん坊のように 甘える時間が幸福だ 恥や強がりも程々に 所詮 人は1人では生きていけない それが中野梓の精神である 彼女はそうして生きてきた 彼女はそう考えて生きてきた でも 足りない物もある 欲しい物もある 平沢唯 彼女のような 優しさ純粋さ 中野梓は羨ましかった 平沢唯になってみたい そんなの無茶だ だから梓は あくまで夢とした 空を飛べたらいいなぁ 程度の夢だ 冬の夕暮れ 部活帰りに遭遇した老紳士に枕を貰った ――――――――――― その日の夜 「もしも唯先輩になれたら・・・」 願いながら 睡魔に身を任せる 意識は段々と遠のいていく 段々と 段々と 「他人になる」という夢は 叶えた時点で 他人の物になる 放課後 テーブルを囲む軽音部員は 「なりたい人」について語っていた 「律のように活発に・・・」 「ムギみたく優雅に・・」 唯は不思議でたまらない そんな必要が何処にある 夢を見る必要が 何処にある 澪は謙虚だから良い 律は元気だから良い 紬は御淑やかだから良い 梓は幼いから良い そんな夢 見るな 「だから 今のままが一番良いんだよ!」 屈託の無い笑顔で 大声で叫んだ 実に気分が良い 満足だ 夢が覚めた … 中野梓はベッドで眼を覚ます 嗚呼 そうか こんな夢 全く持って必要無い 唯に憧れていてもしょうがない 自分は自分で良いんだ 実に気分が良い 満足だ 夢が覚めた … 琴吹紬はベッドで眼を覚ます 嗚呼 そうか こんな夢 全くもって必要無い 自分は自分で良いんだ 実に気分が良い 満足だ 夢が覚めた … 田井中律はベッドで眼を覚ます 嗚呼 そうか こんな夢 全くもって必要無い 実に気分が良い 満足だ 夢が覚めた … 秋山澪はベッドで眼を覚ました しばらくぼぉっとして 重なった紙コップのような 奇妙な夢を思い返す 嗚呼 そうか どうやら この夢のようなアイテムは些か性能が良過ぎるようだ 自分が「律」になったら 「澪」という自我が消える 文字通りのことを実行してくれたが これでは「澪」の好きな時に起きれない 虫にでもなったら最悪だ この短所の存在を 老紳士はわかっていたのかいないのか それでもしかし 得るものはあった 皆の心が感じ取れた 律は律 自分は自分だ 秋山澪だ 秋山澪と一生付き合っていけばいい こんなに清々しい気分は初めてかもしれない 明日 唯にお礼の一言でも言っておくか おやすみなさい 夢が覚めた …… 男は眼を覚ます 最初に見えたのは くたびれたコンクリート 寒い 身を裂くような寒さだ 背中が痛い 砂利だ 外か 橋 橋だ 橋の下で寝ているんだ 身体が硬い 鈍い 痛い ボロ布をどけて腕を見ると しわくちゃの枯れ木のようだった 嗚呼 そうか 薄汚い乞食の老人は 悟った 夢は覚めない 終わり 戻る