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100%中学生 ◆j1I31zelYA ――ちょっと寂しくっても、ちょっとカチンってきても ――ちょっとスベっちゃっても、ドンマイドンマイドンマイドンマイ! ☆ ☆ ☆ 学校でも見かけるような、折り畳み式の白い長テーブル。 それを二つくっつける形で、植木耕助と菊地善人は向かい合わせに座っている。 そして杉浦綾乃の席は、菊地の左隣に。 三人が、図書館の別室で情報交換の続きをしていた。 机と椅子、そしてキャスター付きのホワイトボード以外に何も無いコンファレンスルームは、ひどく殺風景でもあり、平和でもある。 ひとたび室外に踏み出せば、壁も半壊され本棚もぐちゃぐちゃになった図書閲覧室があるなど予想もできないだろう。 仲間がひとり欠けた。殺された。 それでも彼ら彼女らは、それまでと同じように机を囲んでいた。 それは『何も変わらない』という意味では冷たいし、『日常』があるという意味では優しい。 会話をして、休息をして、そして食べるための時間だった。 「つまり日野さんとやらの関わってた殺し合いにも『神様』が出て来たってことか」 「ああ。でも日向も、今回その『神様』が関係してるかまでは分かんねぇって言ってた」 主な話題は、植木耕助と碇シンジのこれまでについて、『補修授業』の一件で中断されていた続きだった。 失った仲間について語らせる過酷な行為でもあったが、しかし少しでも多くの情報を集めるために、ひいては皆が生き延びるために共有しておかければいけない。 植木もそれが分かっているから、学校に行きたい気持ちのはやりを堪えて真剣に話し合う。 菊地や綾乃も、碇シンジが綾波レイのことを気にかけていた以上、情報交換が終わったら合流に向かおうという案に依存はない。 「『神様』については、聞いた話だけじゃ判断しようがないな。 その『天野雪輝』と『我妻由乃』はまだ生きてるようだし、今はまだ保留にしとこう」 「二人をぶん殴ってバカな考えを止めさせてから、詳しく聞くってことだな」 「そうしたいところだな。まったく、事情を知ってそうなヤツが乗ってる可能性大ってのは困った話だぜ」 言葉を交わす合い間を利用して、少年たちはぱくりぱくりと支給食料をほおばっている。 菊地善人は、給食に出るようなコッペパンに直接かぶりつく。 植木耕輔は、一口サイズの乾パンをひとつずつ口に放り込む。 食欲旺盛な中学生にとっては粗食だったけれど、戦闘がもたらした心身の疲労を少しでも補おうとするようにもりもりと摂取する。 綾乃はファミレスで間食していたこともあってさほど空腹ではなかったけれど、食欲旺盛にしている少年たちを感心したように見ていた。 こんなことなら、もっと料理を覚えておくのだったかもしれないと思う。 事務室には冷蔵庫があったから、食材でもあれば調理できたかもしれないのに。 そこまで発想したところで、気づく。 突撃銃の他にもランダム支給品として、ちょっとした食べ物がディパックに入っていたことを。 あれを食べるとしたら、今のうちしかないだろう。 膝を打ち、明るい声で言った。 「そうだ、スイカがあったんだったわ。ちょっと切ってきますね」 ◆ 乾燥したパンの後にスイカというのもおかしな食べ合わせだったけれど、植木たちは十分にうれしそうな(そしてクーラーボックスごと支給されていたことに驚いたような)反応を見せた。 最初にスイカを見つけたときは困惑したけれど、あんな反応をされると心なしかいそいそとする。 「ん、しょ……っと」 バレーボールほどのそれを給湯室に運び込み、まな板の上にのせる。 料理はお母さんの手伝い程度にしか経験していないけれど、スイカを切り分けるくらいはできるはず。 包丁をあてがい、刃を差し込んで真下に押しこむよう思いっきり力をこめる。 『すだん!』と豪快な音を立てて、スイカを両断した包丁がまな板に激突した。 「で、できたっ……」 反動でしりもちをつきかけながらも、ぱっくりと二つに割れたスイカをほっとして落ちないよう支える。 スイカの赤い断面が、切り口を晒していた。 「あ……」 とても濃く赤かった。 黒い種が飛び散った、赤くて紅いスイカの果肉。 切断された衝撃で、まな板の各所に赤い果汁を飛び散らせている。 赤い色。 あんなものを見せられた後では、連想するのは、人間の血でしかなくて―― 違う。 しかしその連想は、すぐに塗り換えられた。 本物の血とは、ほど遠い。 碇シンジから流された血は、もっと赤黒くて、粘性があった。 こんな水彩絵の具みたいな色じゃなくて、もっとどろりとしていた。 そういえば内臓から吐き出された血は黒っぽい色をしているのだとか、家庭の医学に関する番組で見た覚えがある。 そして色々と気の付く菊地も、その違いは一目瞭然だったからこそスイカを食べることに賛成したのだろう。 「もう、びっくりさせないでよっ」 ひやりとしたことの責任をスイカに押し付けて、ほっと胸をなでおろす。 その『胸をなでおろす』という行為をする自分が、不思議だった。 そうか、私はもう血が流れるとか死ぬとかに立ち会ってしまったんだと、改めて自覚する。 知り合いが殺されるところを、見た。 だけでなく、その遺体を埋葬するところにさえ立ち会ったのだ。 さっきまで生きていた人間を地面の中に埋めてしまうなんて、そんな経験など日本に住んでいれば中学生どころか大人にだってほとんどありえない。 内臓をひどく損傷させたまま地面に埋もれていく碇シンジを見て、もっとどうにかしてあげられなかったのかと思った。 殺し合いの真っ最中でなければ、遺体をきれいにしてくれる大人だっていただろうに。 盛り土が完成したときは、こんなにあっさりしたものなのかと思った。 死んだ人を埋めるというのは、うまく表現できないけれど、もっと気が狂いそうになるような作業じゃないかという想像があったから。 もっとも、そのすぐ後には号泣することになったのだけれど。 友達が死んだときに泣かないでどうするんだ、と菊地は言った。 半分になったスイカを、まる一個は食べられないかとひとつ脇にどけ、ひとつをまな板の中央に戻した。 包丁をあてがって、悲しかったことを綾乃は反芻する。 友達が死んだ。 友達、でいいのだろうか。 どうしても、綾乃は首をかしげてしまう。 過ごした時間は、短かった。 しかし植木にも菊地にも、泣く理由はあった。 たとえば、植木が泣かないのは嘘だと思う。 植木は人の善意を強く信じているし、誰とでも仲良くなろうとする。 綾乃のことも、大切な仲間として認めてくれている。 出会ったばかりなのに、バロウという襲撃者から守ろうとしてくれた。 同行することになったから。碇シンジとの口論をとりなしてくれたから。 たったそれだけのことでも、菊地と綾乃をも『仲間』として守るには充分な理由となるようだった。 そんな情のあつい植木が、最も長くともに過ごし、果てには互いの信念をぶつけ合った友達の死に涙を流さないはずがない。 菊地にとっても、植木との交流はあった。 中学生としては抜きんでて聡明な菊地にとって、教師はともかく同年代の男子に、それも技能ではなく精神に、『敵わない』と思わされたことなどあまりなかったのだろう。 碇シンジは『植木を置いて逃げる』という合理的な判断に一石を投じ、どこかお気楽だった菊地の根っこを叩き直していった。 きっとその印象は強烈だった。 植木や菊地と碇の間には、時間では測れない絆が育つに足るものがあった。 半分になったスイカをさらに半分に切り分ける。 四分の一になったスイカを真横に90度回して、右から左へと包丁をいれていった。 種を取りやすく切る方法もあるらしいけれど、料理に詳しくない綾乃はそこまでは知らない。 そんな2人に比べて、綾乃とシンジの関係はあまりにも薄い。 たった数十分ばかり、情報交換をしただけの関係である。 もし綾波レイに会って、あなたと碇くんはどんな友達だったのかと聞かれたりしたら、答えられないだろう。 よくも悪くも馴れ馴れしい歳納京子と違って、一度や二度の会話を交わした段階で友情を抱けるほど綾乃の『友達』の基準は軽くない。 と言うかたいていの中学生の基準はそうだろう。 穏便に出会った。自己紹介をした。 綾波レイについて(主に菊地が)説明した。これまでの経緯を少し聞いた。 シンジと綾乃の交流は、ほぼこれだけに終始してしまう。 彼と植木との間にうまれた剣呑さを見てつい口をはさんだりもしたけれど、そのきっかけも注目も、植木の歪みに向いていた。 もちろん、殺し合いに巻き込まれた同士の連帯感とか、アスカ・ラングレーが殺し合いに乗ったことを心配する気持ちはあったけれど。 例えば、シンジと植木が本当にこじれそうになった時も、植木に対して複雑な感情を抱くだけで、仲裁はすっかり菊地を頼みにしていた。 例えば、菊地とシンジの間で植木を助けに戻るかどうか議論になった時も、黙ってことのなりゆきを見ていただけだった。 例えばシンジたちが心配で戻った時も銃は構えていたけれど、それを撃って救援ができたかは怪しく、場に流されていただけだった。 これだけ傍観者に徹していたような薄さで『共にいた時間は短かったけれど、固い友情がありました』などと言えば、シンジの元からの友達に怒りを買ってもおかしくない。 でも、綾乃は悲しいと思った。 その気持ちに嘘はない。 それは、植木から最後に交わしたシンジとのやり取りについて聞いたから。 シンジが植木に教えたことについて、知ったからだった。 何も、植木とシンジの友情にもらい泣きをしたわけじゃない。 ただ、そんなことを人に教えられる碇シンジという少年が、永久に失われたことが悲しかった。 そんな少年に対して綾乃は傍観者の立場しか果たせず、そしてもっと彼のことを知ろうとしても、死んでしまってはそれがかなわないことが悲しかった。 もうその距離を埋めようとしても埋められない、そんなありえた『これから』が失われたことが悲しかった。 シンジにとってはただの知り合いでしかなかっただろう自分がこうなのだから、元からのシンジの友達とか、家族とか、綾波レイという少女はもっと辛い想いをするのだろう。 だから、だれかが死ぬことは悲しい。 だから、人を殺さないですむ方法がほしい。 大きな深皿を探し出し、ひんやりと冷たそうな果肉をみせるスイカをすとんと並べる。 きれいに並べられてこれから胃袋の中に入るスイカは、さっきとは真逆に、生きているという実感を与えた。 ◆ 『だーかーらっ!! 未来日記とゲームのルールに関する質問以外は受け付けんと、何度も言っておるじゃろうがっ!』 「いや、こいつは未来日記に関する質問だぜ? だってそうだろ? 具体的にどうすれば首輪が爆発するか知ってなきゃ、前触れも無しに『DEAD END』が出たりして日記の信頼性を損なうかもしれないんだから――」 『こ、じ、つ、け、る、なっ!』 激しい苛立ちのこもった電話越しの少女の声が、拡声ボタンでも押したかのように閲覧室に響いた。 『契約するつもりのない冷やかし電話はお断りじゃっっ!! お主はしばらく電話をかけてくるなぁっ!』 「おいおい誰も契約しないとは言ってな――」 ――ブツン。 質問責めにあって我慢の限界に達したムルムルが、とうとう通話を切る。 ためしに再び電話をかけてみたが、ワン切りで済まされる。 別の携帯電話からかけてみても、菊地が「もしもし」と一声しゃべるだけで、通話主は警戒したようにブチっと切ってきた。 どうやら『しばらくかけてくるな』という罰則はただの脅しではなかったらしい。この『しばらく』がいつまでを指すかは不明瞭だが。 「ちっ、我慢の短いヤツだなぁ。こちとら勝手に殺し合いに呼ばれてるんだから、クレームつけられるぐらい予想しとけってんだ」 愚痴をこぼして携帯電話をテーブルに置くと、向かいの席には目を点にした植木耕助がいる。 「すごいな菊地。しつこいクレーマーのおばちゃんみたいだった」 「……褒め言葉だと受け取るよ」 「それで、色々聞いてたけど、なんか分かったのか?」 「ゲームの裏側に関することは口が固かったよ。でも、この『日記』に関することは色々と分かったぜ」 ちら、と目を落としたテーブルにあるのは、碇シンジの残した探偵日記(が登録された携帯電話)と植木の契約した友情日記、そして菊地自身の携帯電話だった。 「おお! たとえばどんなだ?」 「そうだな、まず、俺の携帯にも『友情日記』を同時契約できるか聞いてみたんだが……これはアウトだった。 ゲーム中に動かしていい未来日記は、一種類につき一台のみ。特殊な例外をのぞいて、複数の携帯電話で同じ日記を動かすことはできないんだとさ」 「そういやシンジが、契約できる日記は一つの携帯に一種類までだって言ってたな。その逆もそうってことなのか」 「ああ。『特殊な例外』ってのは今のところ不明だが、もしかしたら予知するために二台以上の携帯が必要な日記があるのかもしれないな」 「あれ? でも待てよ。そうなると『友情日記』の番号を知ってるヤツが、俺の知らないところで電話して契約したらどうなるんだ。 契約は上書きされるんだから、携帯がいつの間にか契約切れてるってこともあるのか?」 「それについても聞いてみた。上書きの契約が可能な条件は、ふたつあるんだそうだ。 ひとつは前の所有者が亡くなってしまった場合。 もう一つは『その時点で契約している携帯電話』から電話をかけて契約した場合」 「……ってことは。所有者から携帯を奪い取って、契約するのはアリ。 でも、番号を知ってるだけじゃ、すでに所有者がいると契約できないってことか。 あ、そういえば! 俺とシンジが友情日記を交代で契約してた時も、携帯を交換してから電話してたな。だから上書きで契約できたのか」 「そういうことだな。なかなか頭の回転が早いじゃないか。 実際問題、そういう制限をつけたのは懸命だと思うぜ? 電話番号を教えるだけで契約できたり、同じ日記を複数の携帯で動かせるなら所有者が増やし放題だからな。 みんながバンバン日記を増やしてるようじゃ、ゲームを管理運営してる側だって把握が面倒になるだろうさ」 「じゃあ、これから日記で知り合いを探すときも、携帯を交換してから予知し合ったほうがいいんだな」 「そういうことだな。俺はしばらく電話禁止みたいだから、お前と杉浦に交代で使ってもらおう。あと、その予知できる知り合いについても詳しく聞いたよ」 「?」 「この『友情日記』の『友情』の定義についてだが。 まず、『お互いに協力できると信頼し合ってる関係』ぐらいになれば、予知ができるってことだ。 つまり、厳密な意味での『友情』じゃなくてもいいってことだな。 ただし、それでもある程度の深い関係は必要らしい。ちょっと会話をした程度じゃアウトなんだと。 ある程度は関係を深めた参加者でないと予知できないそうだ。 こんなことなら、綾波さんたちとはもっとじっくり時間を取って付き合っておくんだったよ」 「気にすんなって。合流場所が決まってるってだけでも安心してるんだからさ」 「ありがとよ、植木……それで、もうひとつの前提だが。 『友情』については『双方向』じゃなきゃいけない。そうでなきゃ『信頼関係』とは呼べないから当然だな。 一方が、『アイツなら大丈夫だ』と思ってるだけの片思いじゃ足りないってことだ。 ムルムルは『参戦時期による』のがどーたらとぼやいてたけど、この言葉の意味はよく分からない。 ただ、この条件だと、俺の知り合いでは『渋谷翔』はアウト。『相沢雅』と『常盤愛』は微妙になっちまうな。 相沢は付き合い長いけど、最近は向こうから距離を取ってるところがあるし。 常盤とは和解したけど、『仲良くなった』かって言うと……あんなことやらされちまったしなぁ」 「どうした菊地、顔が赤いぞ?」 「なんでもない。とにかく常盤との関係は、ちょっと特殊なんだ」 「ふーん? でもその条件だと、俺のチームの仲間は、まず大丈夫だな」 「元からのチームメイトって意味じゃ植木たちは盤石だろうな。 そうだ、ここまでは『友情』の定義の最低ラインについてだけど、上限についても確認しておいた」 「上限?」 「関係がさらに発展しちまった場合、たとえば男女で恋愛関係に突入した場合だな。 これも普通は『友情』と言いにくいだろうけど、こっちも問題なく予知されるそうだ」 「恋愛感情になったらって。菊地、もしかしてお前、綾乃のことが……」 「い、一般論としてだっつーの。『吊り橋効果』って言葉もあるぐらいだし、こんな状況じゃそういう関係の連中が生まれてもおかしくないだろ? ……って、そう言えば杉浦のやつ、遅いな」 ◆ スイカだけじゃ物足りないかと、飲み物を探そうとしたのがよくなかった。 冷蔵庫を開けたところで、見つけてしまったのだ。 それが、綾乃を猛烈に悩ませていた。 「うぅ~…………」 杉浦綾乃は、プリンが好物だった。 人からはツンデレと言われる綾乃でも、プリンに対する好意だけは隠そうとしないぐらい好きだった。 しかもフルーツプリンだった。 ちょっと高そうなケーキ屋さんの、おしゃれなデザインのカップに入っていた。 普段食べているプリンの、倍の値段はする高級プリンだった。 一個しかなかった。 これがもし三個あれば『せっかく見つけたからついでに持ってきました。ついでですから』とよそおい、スイカに添えて三人一緒に食べただろうに。 しかし、一個しかないのである。 これを綾乃だけが食べるということは『一人じめしちゃうぐらい、私はプリンが食べたいんですよー』とアピールすることであって。 これがいつもの生徒会の冷蔵庫ならば、ラッキーとばかりに素直に誰の目もはばからず食べていただろうに。 しかしここにいるのは、仲間とはいえ知り合ったばかりの男の子二人なのだ。 しかもうち一人は、年上なのだ。 なんだ、杉浦ってそんなにプリンが好きなんだな。子どもっぽいところもあるじゃないか。 呆れたような、もしかすると微笑ましいものを見るような目でそう言われることを予想して、ぐっと気恥かしさがこみ上げてきた。 女子校に通う綾乃にとって、『男子中学生』とは事前データのない種族である。 歳納京子に馴れ馴れしくされるのとは、また別種の緊張感がある。 こんなこと、気にするのもいちいち大げさなのかもしれない。 別にプリンが好きだなんて恥ずかしいことじゃないんだし、好きなんですとひとつことわっていただいてしまえばいいだけのこと。 そうは言い聞かせてみたけれど、いざ『実はプリン大好きなんですよー、えへ』とか言ってみて、 『実はオレも好きだったんだー』『なに、植木もなのか。よし、じゃんけんだな』なんて展開が起こってしまったらどうしよう。 ほかの2人にこのプリンを取られてしまったら、ちょっと泣ける。 意地汚い。こんな時に。さっきまで死を悼んでいたのに。 そうは思ってみても、美味しそうなものは美味しそうに見えてしまう。 ……ちょっと考えすぎだろうか。 世の中には『ドーナツが大好き』という一点だけでキャラ立てをしているアイドルもいるらしいけれど、さすがに綾乃はそこまで極端な方向性を進みたくはない。 そう言えば。 最近もこんな風に、冷蔵庫の中をずっと覗き込んで、悩んでいたことがあった。 もっともあのときは、食べたいんじゃなくて、食べられなくて悩んでいた。 歳納京子からプレゼントされた、アイスクリーム。 冷凍庫を開けて、そこにあるのを見つめるだけで頬が『にへら』と緩んで顔が紅潮して。 けれど、食べることは絶対にできなかった。食べてしまったら、なくなっちゃうから。 歳納京子。 自称『杉浦綾乃のライバル』。 あいつは今頃、どうしているだろうか。 痛い目にあってないだろうか。人に迷惑をかけてないだろうか。 最初は後者の心配ばかりしていたけれど、今では前者のほうが気がかりだった。 さっきの綾乃たちみたいに殺し合いに乗った人に襲われたらひとたまりもないし……それに今となっては、後者はあまり心配いらないとも思える。 確かに歳納京子にはお調子者で空気を読まないところがあったけれど、たとえば生徒会の大室櫻子のように真の意味で空気が読めないわけじゃなかった。 決してバカではなかったし、不思議な安定感みたいなものがあった。 ライバルと呼んでくれたことは嬉しかったけれど……いや、変な意味じゃなくて。 実のところ綾乃は、ずっと負け越しのままだった。(一度だけ同人活動の締め切りのせいでおじゃんになったけれど) それは、数値化される成績だけに限らない、あえて言葉にすれば強烈な『個性』のようなものだった。 歳納京子にも杉浦綾乃にも、植木のような戦闘力や菊地のような考察力はない。 戦いとは縁のない日常を過ごしているという点ではいずれも等しく『一般人』に過ぎない。 それでも、歳納京子は『一般人』ではあっても『普通』ではなかった。 歳納京子ほど強烈な女子中学生は、(綾乃の贔屓目を差し引いても)日本中探したところでそうそう見つからないだろう。 ひとたび口を開けばぶっとんだ発想を次々と思いつき、自由奔放かつ意味不明な言動で、絶えず周囲をツッコミに忙しくさせるようなトラブルメーカーかつ企画立案者。 『恋人ごっこやろーぜ!』とか、そんな突飛なことを次々に言って、みんなを引っ張る。 でもそれだけ騒がしいのをなぜか許してしまうというか、かく言う綾乃もそういう騒がしいところを見ているのが何だか安心するというか、ときめくところもあって……違う、今のは無し。 とにかく、ごらく部でもクラスの友人同士の交流でも、常に輪の中心にいるような少女だった。 そしてほとんど勉強しないのに成績学年トップを維持するような不可思議なおつむの持ち主であり。 趣味として打ちこんでいる同人誌の方面ではイベントの完売必須な売れっ子作家だと聞く。 そんな女の子が、杉浦綾乃のライバルだった。 とても尖っている。際立っている。 その一方で、杉浦綾乃は『普通』なのだと気付く。 周囲からは、ツンデレだと言われる。 親友からは、純情で一途で可愛いと言われることがある。 生徒会の後輩からは、しっかりした人だと言ってもらえる。 ツンデレや純情呼ばわりには言い返したいこともあるけれど、その『ツンデレ』も『純情』もつまるところ、特定の人物に対する反応でしかないものであって。 『そいつ』がいなければ成り立たない。 それに、『しっかり』しているのだって別に綾乃に限ったことじゃない。 中学生にして1人暮らしなんかしていて、お泊まり会にごらく部や綾乃たちをしょっちゅう自宅に招いて面倒をみてくれて、 家事全般も余裕でこなしてしまう船見結衣なんかの方が、ずっとしっかりしているし中学生離れしている。 よく影が薄いとか普通のいい子という扱いを受けている赤座あかりにしても、実は普通じゃない。 あれだけ『特徴を言ってみて』と言われても『いい子』と『普通』しか浮かんでこない女の子なんて、逆にぜんぜん普通じゃない。 それを長所と解釈するかは人によるだろうけど、とにかく彼女も別の方向に尖っている。 ごらく部の彼女らだけじゃない。 池田千歳の想像している独特の発想(エッチなこと含む)と鼻血も。そしていつも綾乃を助けてくれるという絶妙なフォローの神がかりも。 大室櫻子の突拍子もないおバカさも、古谷向日葵が持つ13歳とは思えないほどの母性も。 松本生徒会長のミステリアスな存在感も、西垣先生のマッドサイエンティストっぷりも。 みんな『普通』ばなれしたところを持っていた。 みんなが、そういうのが無い杉浦綾乃を友人として認めてくれていることは知っている。 菊地や植木だって、綾乃のことを仲間として認めてくれている。 おかげでちょっとぐらいは自信も持てるようになったし、『宿題』を成し遂げるという決意だって揺るがない。 だから、この悩みは、ぜいたくな無いものねだり。 心配はノンノンノートルダムと言ってばっさり切り落とせるような、ちょっとしたトゲでしかない。 それでも、とびっきり感傷的な言い方をするなら、こういうことだ。 綾乃ができることは、他の人にだってできる。 綾乃にしかできないことは、何もない。 そして綾乃に提示された『宿題』は、はっきりした模範解答の無い、たくさんの人が確たる答えを持てないような考えごとだ。 それはつまり、皆が考えてもわからないことなら、綾乃にもわからないということにならないか。 「……って、たかがプリンひとつで、私はなんでそこまで考えてるのよ!」 深く考えたところで自分を客観視して、ついセルフ突っ込みをいれた。 いや、そもそも、こんな冷蔵庫の前でプリンを凝視して考え込むことなんてなかったんだ。 二人の前で食べるのが恥ずかしいなら、給湯室でこっそり食べてさっさと戻ればよかったんだから。 「ちょ、ちょっと食べて戻るだけ……ばれなきゃいいのよ。ばれなきゃ……」 我に返り、いそいそとフルーツプリンを手に取る。 さて、スプーンはどこだったかしらと給湯室を見回し、 給湯室の入り口で、菊地と植木がじっと見つめているのと目があった。 !? 杉浦綾乃。 生徒会副会長なのに、人から注目されるのには弱い。 ずっと見られていた。もしかすると、独り言をつぶやいたところまで見られていた。 そんなシチュエーションに遭遇すれば、言葉を返すこともできずに固まるしかない。 菊地と植木は、形容しがたい表情をしていた。 しかしやがて、植木耕助がその状況を理解する。 納得したという顔をして、手をぽんと叩き、言った。 「なんだ、綾乃はプリンが食べたかったのか」 悪意のない、しかし『かいしんのいちげき』に匹敵する攻撃。 ぼっと、首から上で火事が起こったように顔が熱く紅潮した。 菊地が『あちゃー』と声には出さずに、心中でつぶやく。 「……っ!」 プリンを持ったまま、窓の方へと、走った。 カーテンを体にぐるぐると巻きつけて、隠れる。 「綾乃?」 「おい、杉浦、大丈夫だ、大丈夫だって!」 「……………さがさないでください」 逃避に走った綾乃をカーテンのうらから呼び戻すのに、菊地たちはずいぶんと労力を要した。 ◆ どうにか三人仲良くスイカを(そして綾乃はプリンを)食べて。 情報の共有もすべて終わって、植木は『探偵日記』の契約を、綾乃は『友情日記』の契約を済ませる。 そして、図書館を出発するときがやってきた。 色々な出来事が起こった建物を、がれきを踏み越えて抜け出していく。 桜の木を一度だけ振り返る、三人の表情は静かだった。 「さて、これから仕事は山積みだな」 「ああ、殺し合いに乗ったヤツから、オレも含めてみんなを守る。 それにシンジから頼まれた、二人の女の子も護る」 「はい、海洋研究所に行って、その前に学校で綾波さんたちと合流して、碇くんのことを教えてあげなきゃ。 そして、私は宿題の答えを見つけるんです、絶対に」 綾乃はもう一度「絶対に」と繰り返した。 そんな綾乃を見て、菊地がふっと真剣な表情を崩す。 「なぁ杉浦。真剣なのはいいけど、あんまり難しく考えることないんだぞ? ここに来てからお前だってずいぶん特殊な経験をしてるんだから、そのうち自然と答えが出ることだってあるさ」 「え……?」 どきりと、綾乃の心臓が不穏な音をたてる。 まさに不安に思っていたことを、見抜かれたような気がしたからだ。 「な、なんで分かったんですか…?」 「いや、さっきから宿題宿題って繰り返してたから、気負ってるのかと思ってさ」 菊地は表情をくずして、にやりと笑ってみせた。 その気遣いに感嘆していた綾乃も、あれ、と首をかしげた。 それは、いつものニヒルな笑い方ではなかった。 どちらかと言えば――そう、魔女っ子ミラクるんのコスプレを人に勧めたりする歳納京子の、いたずらっぽい笑みに似ていた。 「例えばいっそのこと、『戦いをやめてくれるたびに一枚脱ぎます』ってのはどうだ? 男子連中は全員、それで止まるかもしれないぜ?」 !? 綾乃の表情が凍りつき――赤面に転じる。 菊地善人にとっては、『いつもの悪ふざけ』の延長線上だった。 言っていいことと悪いこともわきまえているし、杉浦綾乃が初心なことも把握している。 しかし彼もまた健全な男子中学生であり、『あの3年4組』の一員だったのだ。 純粋無垢な野村朋子に『鬼塚先生にサービスしたいなら下着を脱げ』と提案する(そして実行までさせてしまう)ぐらいには悪ノリするし、クラスの女子もそんな男子たちにけっこう寛容だったりする。 例えば文化祭で『きわどい服』を着たコスプレ喫茶が出し物に提案されるぐらいにはフランクである。 しかし、ゆる(い)ゆり時空の住人に、GTO(グレートティーチャー鬼塚)時空のジョークは刺激が強すぎた。 「へ……へっ……へんたあああああぁぁぁぁぁぁぁいぃっっっ!!」 『コスプレしろ』ならばまだともかく、『脱げ』は完全にアウト。 悲鳴をあげて全力でダッシュし、図書館の建物の陰に隠れる綾乃。 さっきと既視感のある反応だった 前回と違うのは、前回は味方だったもう一人が、そうじゃないということだった。 「菊地……お前、それは無いんじゃ……」 植木耕助も好意を持つ女の子だっている(らしい)健全な男子中学生とはいえ、数か月前までは小学生だった身分である。 この年代で二歳の違いは大きいし、しかも植木自身もそうとうに品行方正な学生だった。 よって菊地に対しても、例えば道で会った男から『どうかぼくを眼鏡好きにしてください』と泣いて頼まれたような、そんな性癖の相手を見るような目になっている。 「いや、その…………謝ってくるよ」 植木のフォローは期待できないぞと、観念して建物の裏手へと向かった。 どうなだめたものかと考えあぐねて、足が重たくなる己に気づく。 (もしかしてオレ、この手の反応をする女子には慣れてないのか? 相沢や飯島は、もっとキャンキャン噛みついてくるタイプだったし) 鬼塚や村井国男たちクラスの三バカともよくつるんでいるのだから、女子からバカだスケベだと言われることに耐性はあった。 しかしギャーギャー騒ぐのではなく、いちいち初心な反応で恥じらうような女子は新鮮だった。 ……もし己が自室ではエロ本を片手に女体の合成写真を作っているとばれたら、もう口をきいてもらえないかもしれない。 そんなことを想像して苦笑すると、建物の角を曲がる。 「えいっ!」 すぱん、と警戒な音がして、菊地の頭頂部が叩かれた。 「うおっ――」 角を曲がったとたんの不意打ちだった。 菊地は驚き、鈍痛に額を抑える。 その右手にハリセンを高々と掲げた綾乃が、くすりと笑う。 「杉浦……もしかして、わざとか?」 「わ、私だって十二時間も一緒にいれば、ちょっとは慣れますよ! でも、次からはほどほどにしてくださいね!」 どこか勝ち誇ったような顔でびしっとハリセンを向ける綾乃に、菊地も『いっぱい食わされた』と嬉しいくやしさがこみ上げる。 「あーあ。一本取られたな」 「綾乃……なんか、たくましくなったなぁ」 二人のやり取りを感心したようにつぶやく植木に、綾乃も得意げに言い放った。 「もちろん! もう心配ないないナイアガラの、余裕ありまくり有馬温泉だから!」 ひくっと。 菊地の頬が、反応にこまって引きつる。 (だ、ダジャレか? でも『ないないナイアガラ』って、洒落って言うよりただ韻を踏んでるだけなんじゃ……) 「ぶっ……!」 しかし、もう一人の聞き手である植木は噴出した。 綾乃にとっては幸運なことに、ツボにはまってしまったらしい。 両こぶしをぐっと握って、綾乃流の景気づけに同調するように言う。 「その意気だぞ綾乃! ファイトファイト、ファイファイビーチだ!」 「ぶっ……!」 返されたダジャレはこれまた綾乃のツボを刺激したらしい。 顔を横に向けて、笑いをこらえるように口元を抑える。 (え、ちょっと待て。これってダジャレネタの流れか……?) とっさに上手い返しの出ない菊地だったが、ほかの2人が元気を出したというのに1人で白けているわけにもいかない。 あわてて『それっぽいセンス』のダジャレをひねり出す。 「ダ、ダジャレかー。そう言えば、授業でもよく暗記に使ってたよなー。メソメソメソポタミア、とか……」 しかし2人は、これに青い顔をした。 「メソメソ……?」 「それはちょっと……」 「待て! お前らがその反応は理不尽じゃないか?」 ショックを受けた菊地に、綾乃と植木がはっとする。 「な、なかなかいいセンスだったぞ。どんどんぼけロンドンだ!」 「そ、そう、もっと聞きたいですよ! お笑い推奨、水晶浜海水浴場です!」 (き、気を使われたのか……?) 相変わらずよく分からないセンスのダジャレによる畳みかけだったけれど、必死そうにフォローしようとする2人はおかしかった。 気づけば「ぷっ」と小さな笑いが漏れる。 まだ、目に涙の跡を残しながらも。 三人ともが笑っていた。 【G-7/図書館付近/一日目 昼】 【杉浦綾乃@ゆるゆり】 [状態] 健康 [装備] ハリセン@ゆるゆり、友情日記@未来日記 [道具] 基本支給品一式、AK-47@現実、図書館の書籍数冊、加地リョウジのスイカ(残り半玉)@エヴァンゲリオン新劇場版 基本行動方針 みんなと協力して生きて帰る 1:誰も殺さずにみんなで生き残る方法を見つけたい。 2:学校を経由して、海洋研究所へ向かう。 3:と、歳納京子のことなんて全然気になってなんかないんだからねっ! [備考] ※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。 ※『友情日記』の予知の範囲は自身がいるエリアと周囲8エリア内にいる計9エリア内に限定されています。 【菊地善人@GTO】 [状態] 健康 [装備] デリンジャー@バトルロワイアル [道具] 基本支給品一式、ヴァージニア・スリム・メンソール@バトルロワイアル 、図書館の書籍数冊 基本行動方針 生きて帰る 1:学校を経由して、海洋研究所へ向かう。 [備考] ※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。 ※ムルムルの怒りを買ったために、しばらく未来日記の契約ができなくなりました。(いつまで続くかは任せます) 【植木耕助@うえきの法則】 [状態]:全身打撲 [装備]:探偵日記@未来日記 [道具]:基本支給品一式×3、遠山金太郎のラケット@テニスの王子様、よっちゃんが入っていた着ぐるみ@うえきの法則、目印留@幽☆遊☆白書 ニューナンブM60@GTO、乾汁セットB@テニスの王子様 基本行動方針:絶対に殺し合いをやめさせる 1:自分自身を含めて、全員を救ってみせる。 2:学校へ向かい、綾波レイを保護する。 3:皆と協力して殺し合いを止める。 4:日記を使って佐野とヒデヨシとテンコも探す。 [備考] ※参戦時期は、第三次選考最終日の、バロウVS佐野戦の直前。 ※日野日向から、7月21日(参戦時期)時点で彼女の知っていた情報を、かなり詳しく教わりました。 ※碇シンジから、エヴァンゲリオンや使徒について大まかに教わりました。 ※レベル2の能力に目覚めました。 【加持リョウジのスイカ@エヴァンゲリオン新劇場版】 杉浦綾乃に支給。 特務機関NERV所属の加持リョウジが、任務の片手間にジオフロント内の畑で栽培していたスイカ。ほどよく冷やされた状態で支給。 碇シンジも収穫を手伝わされている。 【ハリセン@ゆるゆり】 杉浦綾乃に支給。 歳納京子の人格転換をもとに戻すために、『頭部に衝撃をあたえるもの』として用意したうちの道具のひとつ。 Back 探偵と探偵のパラドックス 投下順 救われぬものに救いの手を Back 探偵と探偵のパラドックス 時系列順 救われぬものに救いの手を 1st Priority 植木耕助 ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- 1st Priority 菊地善人 ルートカドラプル -Before Crysis After Crime- 1st Priority 杉浦綾乃 ルートカドラプル -Before Crysis After Crime-
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読み ちゅうがくせい 正式名称 別名 和了り飜 1飜 牌例 解説 中+1~3の順子 成分分析 中学生の61%は心の壁で出来ています。中学生の19%は歌で出来ています。中学生の11%はアルコールで出来ています。中学生の3%は宇宙の意思で出来ています。中学生の3%は果物で出来ています。中学生の2%は時間で出来ています。中学生の1%は鉛で出来ています。 下位役 上位役 複合の制限 採用状況
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中学生日記 ~未完成ストライド~ ◆j1I31zelYA ◆ そんな、わけの分からない理由で。 天野雪輝は走っていた。 幾つかのトレーニング器具が設置された、リノリウム張りの理学療法室を。 入り口の靴置場にあったシューズと、更衣室にあった体操服に着替えて。 ダッダッと床に音を刻みながら、壁まわりをグルグルと回っている。 ちょっとうんざりが入ってきた顔で、しかしムキになったように。 最初は軽いジョギング程度の走り方だったけれど、十週目を越えたあたりからしだいに息が上がり始め、今や首から上は汗でべっとりと湿っていた。 「アンタ、結局止めなかったんだね」 室内の入り口、シューズの履き替え場所近くの壁ぎわで。 綾波レイは休憩用のベンチに座り、越前たちとともに経過を見守っていた。 一周を走るごとに、越前がその左手にある数取器のボタンをカチリと押しこみ、周回を計測していく。 車いすをベンチ横につけたまま、秋瀬へと話を振る。 ちなみに、向かって左から越前、綾波、秋瀬の順に座っている並びだった。 「殴られるよりは、見ていて辛くないと思ったからね。 僕も一緒に走りたかったところだけれど、ちょっと血を流し過ぎたし」 「そうじゃなくて、天野さんが別れようって言い出しても止めなかったこと。 アンタのその怪我じゃ、人手は欲しかったはずだし」 秋瀬は残っている方の手を使って、越前から手渡されたスポーツ飲料にしきりと口をつける。 血量を失った分を、少しでも補おうというつもりらしい。 車を持って来たりと精力的に動いていたけれど、明かりのついた部屋にいれば、顔色がだいぶ悪いと分かった。 「確かに、彼のやり方はとても不器用なものだった。 我妻さんのことで雪輝君を信用できない人はいるだろうけど、それならそれで誠意を見せるべきだったね。 少なくとも、『いざとなったら対主催よりも由乃を優先するけど受け入れるのか』なんて聞くのは悪手でしかない」 「だったら」 「でも、雪輝君に釘を刺されたんだよ。『遠山の友達には全部をぶちまけてみたい』って。どう転んだとしても」 「…………」 「さすがに、あの時の君の答えしだいでは割って入るつもりだったけどね」 どう答えていいものか分からない風に、越前はふいと顔をそらした。 そんな彼らのいる前を、雪輝が恨めしそうな顔で見やりながら通過しようとする。 綾波はすかさず、用意していた清涼飲料水入りの紙コップを手渡した。 給水を怠らせるのだけはまずいと、越前に言われている。 ……何も知らない第三者が見れば、この四人はいったい何をしているのかと困惑するだろうが。 「弁護しておくなら、彼があんな言い方をしたのは、君たちへの負い目があったからだよ。 我妻さんが『雪輝日記』を持っている限り、雪輝君と一緒に行動するだけで危険が伴うからね」 なるほど、と綾波は頷く。 つまり、敢えて不穏当な言い方をして、見捨てることを示唆したらしい。 もっともな話で、『一緒にいるだけで、常に殺人鬼に命を狙われる。しかも居場所や動向がばれている』というハンディキャップは大きすぎる。 脱出派がひとまとまりに集合したりすれば、奇襲されて一網打尽にされるのが見えている。 かといって、あのまま気まずく別れてしまっても、秋瀬としてはまずかったはずだ。 越前が言ったように怪我のこともあるし、仲間を作ろうとしなければ、逆に『泳がせておく意味がない』と判断されて、すぐに襲撃されるかもしれない。 秋瀬が『グラウンド100周』を容認したのも、あのタイミングでの喧嘩別れはマズイという兼ね合いからだろう。 「それより。皆に会ったって話……聞きたいんスけど」 ぼそりと呟くように、越前が話題を変えた。 天野雪輝のこれまでの経緯を聞く過程で、秋瀬が越前たちの知り合いに会ってきたことはそれとなく伝わっている。 綾波としても、越前が知り合いのことを聞ける機会は欲しい。 碇シンジが放送で呼ばれて色々とあった時も、越前の知り合いの名前は呼ばれていた。 越前だって痛みはあったはずなのに、綾波を支えるために、知り合いのことを思う時間を奪ってしまった。 話が長くなるからと、秋瀬は越前から数取器を受け取る。 数える役割を交代して、切り出した。 「真田君に会ったのは、ゲーム開始から5時間ぐらい経過した頃だよ」 語られるのは、真田弦一郎という古風な中学生との出会い。 そして、月岡彰という、『手塚国光と出会った』少年――のような少女のような、との出会い。 最初に、月岡が手塚との間にあったことを語り始めたこと。 バロウ・エシャロットとの戦いで、命を救われたという告白のこと。 最後までバロウを救おうと諦めず、出会ったばかりの月岡に託して『柱』を示した姿は、月岡の価値観を揺り動かしていたこと。 月岡彰の経験した殺し合いの話を聞き、真田弦一郎から『反逆する』という意思を聞き。 そして、月岡は『新しい自分』になると宣言した。 「『過去に行った攻撃を、再び発生させる能力』のこと。 その情報をもって、彼に対抗する戦力をつくって欲しいこと。 そして、『お前たちが柱になれ』。 確かに、伝えたよ」 カチリと周回をまたひとつ記録して、秋瀬は息を吐く。 綾波からすれば、ただ言葉もない。 綾波レイから碇シンジを奪った少年は、越前リョーマからも大事な人を奪っていた。 越前にとっては既知だったのかもしれないが、閉じこめられていた綾波には初耳だ。 血のにじみそうなほど唇を噛んだまま聞いていた越前は、やっとというように声を出す。 「月岡ってひと、もう放送で呼ばれんだっけ」 「第二放送で呼ばれたね……真田君と一緒に」 それは、手塚国光が助けた命が、もう潰されたということ。 二人の宣言がどうであれ、夢破れたという敗北の証明。 「秋瀬さんから見て、その二人、どうでした?」 「どう、とは?」 「負けるはずなさそうだった、とか。逆に、危なっかしかった、とか」 「そうだね……」 カチリとボタンを押し、思い出すように目を細める。 「できれば後ろも見て欲しいな、とは思ったよ」 「後ろ?」 「新しい道を見つけたばかりで、前だけ見ていたという印象を受けたね。 もちろんそれは良いことだし、最後までそれを貫けそうに見えた。 危うさを感じたとしたら、それが正道だからこそだろうね」 正道に目が眩んでいるからこそ、詭道への備えは怠りがちに見えたということか。 月岡彰は、本来ならばそういう詭道こそに精通していたはずの少年だったという。 もし彼らにもっと時間が与えられていれば、正々堂々と戦わずに背中を狙う者の存在を考慮におけるような余裕が生まれ、その時こそ死角無しの布陣として成立していただろう。 「もちろん、勝手な印象だけどね」 「どうも…………続けて」 印象論で知り合いのことをとやかく言われた割には素直に頷いて、越前は促した。 「遠山君のことは、さっき聞いていたね。 跡部君とは、直接に出会っていないよ。 ただ、いちど遠山君たちと別れて間もないころに、彼の話を聞いた」 神崎麗美と、出会った。 その名前を出されて、越前の肩がぴくりと上下する。 カチリ、と周回を刻む音。 「時間から言って、君たちと神崎さんが別れた後、そして学校で雪輝君たちと接触する間のことだね」 秋瀬或に対して神崎麗美が言ったことはは簡略に説明されたけれど、およそ天野雪輝や越前らに話したことと同じベクトルの言葉だった。 ただ、新しく分かったのは、跡部景吾が首輪のことを調べて、それを手がかりとして残していたということ。 「腑に落ちないと言えば、首輪を透視して内部構造を調べたとか言っていたことだけれど……」 「跡部さんなら、できるから」 「君や遠山君を見た後では、『そういう世界なんだ』と思うしかないようだね」 左手親指でカチリと数取器をカウントして、人差し指と薬指で、補修されたメモ書きを持ち上げる。 そこには、診察室で待機する間に書き残したらしい秋瀬の手によるメモ書きも数枚加えられていた。 メモ用紙の下には、ツインタワービルから高坂が持ち出して、綾波が手渡した『未来日記計画』の書類も置かれている。 「彼女は少なくとも、跡部君たちと仲良くやっていたようだね。 メモを完全には処分しきれなかったのも、だからこそだと思う」 雪輝君まで煽ったことに腹が立たないでもないけれど、元をたどれば我妻さんのせいでもあると、走る少年を見て言った。 「でも、最後に菊地君といた時は、安らかだった……」 秋瀬にもすでに伝えたことを、綾波は口にする。 「そうらしいね。僕たちには伸ばせなかった手を、その少年は伸ばしたんだとか」 「あの時……」 言いかけて、越前は言葉を止める。 信じてもらえるか自信がないように躊躇い、顔を伏せて。 「あの人の声で、『救けて』って言われた気がした……」 「私にも、聞こえた。たぶん高坂君にも」 「なら、君たちは間に合ったということだよ」 「そうかな……」 越前の声は、彼らしくもなく自信がなさそうだった。 あったかもしれない和解が目の前で消えたことに、まだ思うことを残しているのかもしれない。 話を締めくくるように、秋瀬が続く経緯を話した。 「その後、僕は浦飯君たちと再合流して、レーダーから我妻さんを感知する。 常盤さんが『白井黒子』とか名乗っていたらしいことは引っかかるけど、また会ってみないことになどうにもならないだろう。 そして、学校方面へと進路を変えて今に至るというわけだね」 カチリ、とまた一周。 神崎麗美と同じ制服を着ていたことから、『白井黒子』が菊地たちのクラスメイトの『相沢雅』か『常盤愛』である可能性は高い。 『相沢雅』は第二放送で呼ばれたこともあるし、十中八九で『常盤愛』だろうと落ち着いた。 「僕が直接間接に動向を聞いたのは、その4人だね。 切原君という知り合いのことも、真田君から聞いてはいたけれど」 「あの人はあの人で不安かも。真田さんの名前が呼ばれたし」 話に区切りがつき、全員がそれぞれに分かったことを噛みしめる。 「どうもっス。皆のこと、話してくれて」 「僕としても、義理は果たしたかったからね。 それに、こちらこそツインタワービルのことや、会場の端に関する手がかりも得られたし」 車椅子の手すりに左手で頬杖をついて、越前はぼんやりとしていた。 綾波には疲れているようにも、思慮にふけっているようにも見える。 そんな顔のまま、吐きだすように言った。 「残していったものを貰うのは別にいいんだけど。できる範囲で、貰うけど。 それでも皆、死にたくなんてなかったと思う」 締め切られたカーテンの隙間から西日が差し、細い朱色の光線を室内に走らせていた。 陽が、まもなく沈もうとしている。 「部長は、後悔とかしてないだろうけど。 でも、生きて、プロになるって夢を叶えて、大人になりたかったと思う」 生きている越前が、そう言った。 生きている秋瀬が、答える。 「そうだね。色んな中学生に会ったけれど、皆が生きたいと思っていたよ」 中学生しか、ここにはいない。 出会った人物の話をするうちに、そのことは自然と分かってきていた。 東京の進学校に通っていたという、菊地とそのクラスメイト。 富山県の、ごくごく緩やかな校風の中学校に通っていたという杉浦綾乃。 使徒によって滅ぼされかねない都市で、それでも学校に通っていた碇シンジたち。 常識的に呑み込めない部分はあるけれど、それでも彼らなりの部活動に青春をかけていた越前たち。 平凡な生活をしていたはずが、突然に『神様』の主催する殺し合いに巻き込まれたという高坂たち。 高坂が出会ったマリリンや、何人も殺したというバロウのような、『能力』を持った少年少女たちにも、学校でクラスメイトと笑い合ったりしていたのかもしれない。 「何人かに、動く動機を聞いて回った。 答えられない人。ヒーローになりたい人。反逆者。意思を継ごうとうする者。 みんな、それぞれの世界を持っていたよ。好きな人と星を見に行くことも、その一つだね」 眼前を息を切らした少年が通過するのに合わせて、カチリとボタンを押す。 “願い”を認めてもらうための、変わった儀式だった。 「でも、いたんだ」 それだけの短い言葉に、綾波は右隣の少年を見る。 「みんな……ちゃんとここにいたんだ」 それだけ。 声が、感情の発露を堪えるように震えている。 みんな、いた。 その事実が、噛みしめるほど重要なことであるかのように、越前はもう一度繰り返した。 そんなに動揺すべきことだろうかと首をかしげて、そして思い出す。 綾波は、最初の放送よりもずっと前から二号機パイロットと遭遇していた。 しかし彼の場合は、遠山金太郎の遺体に出会ったのが最初だった。 次々に名前を呼ばれていった人々は、ちゃんとここにいた。生きていた。 それが、どれほどの重みを持つのか。 「越前君。私や、天野君に遠慮することは無いと思う」 彼が『それ』を堪えるのは、自分や天野雪輝が『それ』を持てずにいるからではないか。 そんな可能性に思い至り、綾波はあてずっぽうに言っていた。 言葉にしてから、不思議なことだと思う。 少なくとも出会った頃の彼は、自分のやりたいことをするのに、他人に遠慮を働かせただろうか。 「……俺、最初の放送の時に、もう済ませてきたから」 「理由になってない」 恥ずかしげに、しかし明確にうろたえつつ言い訳するのを見て、やはりと綾波は反論をふさぎにかかる。 カチリと、またボタンが押されるのを横目にして。 「碇君の名前が放送で呼ばれて、高坂君がいなくなって、分かったことがある」 「…………」 「『悲しい』って、とても辛いものだった」 それまで、誰かの生き死にの話で、壊れそうな思いをすることなんて無かった。 いざという時は、ほかならぬ自分自身が真っ先にそうなるものだったから。 「だから、それを表せない私の代わりに、それが出来るあなたにはそうしてほしい」 ……っ、と。 のどを鳴らすような音が、彼の口元から聞こえた。 数呼吸を挟んで、口が開く。 「高坂さん……いい人だったよね」 「うん」 ぽつりと、ぼそりと。 「アイツ……暑苦しいくらいに騒々しくて。 顔を合わせたら、いっつも『勝負だ』ばっかり言ってた」 いきなり、別人のことへと話題が飛ぶ。 しかし、誰のことを話しているかは理解できる。 碇シンジの時、高坂の時に、自分は彼からどうしてもらったのか。 それを思い出した綾波は、車椅子の手すりにおかれた左手に、自身の手を重ねて握った。 「うっとうしかったし……楽しそうに乗っかるのも何か気に食わなかったから。 いっつも……適当にいなしてきたんだけど……」 まるで、感情を呼び起こすための契機とするかのように。 声はどんどん、先細りするように小さくなる。 聞いて欲しくないのか、それとも、誰かに告げてしまいたいのか。 息のかかる距離で、綾波は、その懺悔を聞きとった。 「もっと……いっぱい、試合してやればよかった」 言い切るやいなや、越前の左手が右手をつよくかたく握り返してきた。 頭にある帽子は斜め前に深く被られて、綾波たちから表情の上半分を隠している。 かすれるような嗚咽の音が、帽子のツバの向こうから聞きとれた。 もしかすると、人前で落涙させるという行為は、いたたまれないことだったのかもしれない。 それでも越前は、よく表情の変化をごまかす時にするように、顔をふせて深くうつむくことはしなかった。 カチリと。 眼前を通り過ぎる、天野雪輝の『本気』を見届けるために。 頬をつたいきった涙をユニフォームに雫として落とし、それでも、走る少年に視線を向け続ける。 天野雪輝が顔を真っ赤にして、歯を食いしばるように、ただ走って行く。 綾波レイは、こんな時にどんなことを言えばいいのか知らない。 だから。 せめて、涙が止まるまで。 右手が痛いぐらい、我慢することにした。 泣き顔で顔を赤くする少年と、顔を真っ赤にして走る足を止めない少年。 ――がんばれ。 そんな言葉を、送りたくなった。 【回帰】 息が苦しい。 足が重たい。 心臓が爆発しそう。 顔が酸欠で発熱している。 全身がもう勘弁してくれと叫んでいる。 なんで、こんな思いをしてまで走ってるんだっけ。 今が何十周目なのか、もう雪輝はさっぱり覚えていやしない。 数えられなくなったというより、『あと78周……』など意識すれば絶望的な気持ちになってしまうので、 そのうち数えるのをやめたという方が当てはまる。 周回のカウントは、先ほど越前と交代した秋瀬がボタンを押しているので、まず不正はないはずだが、 その三人がふらふらの体で走っている雪輝をさしおいて、別の話題らしき情報交換で盛り上がっているのも恨めしい。 いや、理屈で考えればじっと100周分を待つよりもこの時間を有意義に使った方が今後の為になることは理解できるのだが、 人が未だかつてないほど走らされている時に……という感情論は止められない。 しかも命令した当人である越前は、なんか泣いてるし。本気を見せろと言ったのはお前のくせに。 しかも、女の子と手とか繋いでいるし。 嫌味か。元恋人から命を狙われている独り身への嫌味か! それでも、なぜか走っていた。 (まさか、『グラウンド100周』なんて答えるなんて……) 気持に収まりをつける手段として、危害を加えられることは覚悟していた。 しかし、まさか走らされるとは。 断りきれなかったのは、好きな人のために何でもできるなら、それぐらいできるはずだという安易な挑発に乗っかってしまったから。 そして、『本気を見せて』と言った声と顔に、こちらを侮ったり見くだしたりする感情が無かったからか。 走る雪輝を見定めることで、何かを変えようとするかのように。 (そっちに歩み寄ってやるから、僕もこっちに来い……って、ことなのかな……) 疲れた。しんどい。息が切れるなんて感覚ですら、長いこと忘れていた。 体を動かすなんて、まさしく一万年ぶりだ。 殺し合いが始まってからも何回か走ったけれど、逃げるためだったり、助けを呼ぶためだったりで、意識する余裕なんてなかった。 いや、一万年前の殺し合いでも、たぶんそんな風だった。生き残るために、殺すために、必死だった。 いつ以来だろう。 ただ駆けるために、走っているのは。 ――ちっぽけでも抗ってみるがいいさ。その想いが親父さんに届くように。 (そうか……病院とか、リハビリ室とか、懐かしく思ったわけだ) 父親が、見舞いに来た。 両親が離婚してから会いづらくなっていたから、親子で一緒に何かをするのは楽しかった。 体力測定の種目で勝ったら、願いを叶えてくれると言われたから。 母さんと再婚してほしい、と言った。 一万年経ってから思い返せば、じつに子どもじみた訴えだと分かる。 両親が離婚した原因も知らないのに再婚を要求するなんて、それこそ両親にのっぴきならない事情があったらどうするつもりだったのやら。 (実際、事情はあったしそのせいで後に父が死んだのだが) 雪輝自身も、最後に高台へと競争する頃にはそういったことを自覚していて、諦めかけていた。 ――抗い続けることで届く奇跡というのもある。 そうやってすぐに諦めるのがお前の悪いところだと、ある女性から指摘された。 しんどかった。苦しかった。もう無理だと思った。 でも、もしかしたらと、期待した。 今と同じように、赤く染まる夕陽を感じながら、走った。 ――ちょっとくらい辛いことがあったって、諦めるにはまだ早いねん。だいたい、そんな簡単に諦めるからジジくさく見えるんやで。 ――何が、『もう手遅れ』だよ。なんで、そこで諦めてんのさ。 精いっぱい頑張っても積んでいたのに。 どいつもこいつも、同じことを言う。 ――たいがいは届かないんだ。 嘘つき。 後に、同じ女性からそう言われた。 カチリ、という音で、また一周を重ねたのだと知る。 ゼェハァと、荒い呼吸がのどに痛かった。 顎をつたう汗が、体を流れきってリノリウムの床へと落ちる。 なんで、こんな汗を流してるんだろう。 走り切ったからといって、何かが変わるとは限らないのに。 由乃を迎えに行くための方策を考えるとか、すべきことはいくらでもあるのに。 あの時も、届かなかったのに。 再婚を考えると言ってくれた父親は、その為の資金を援助すると唆した11thに殺された。 喪ったものを取り戻したくて、生き返らせるために神様を目指そうとしたら、ワガママだと非難されて、由乃以外の味方がいなくなった。 誰も殺したくなんかないのを我慢して人を殺したのに、生き返るなんて嘘だった。 最後にただ1人だけ、失うまいとした最愛の人は、追いかけたら追いかけないでと拒絶した。 流れたものは戻らない。 一度流れた物はどんなに手を伸ばしても掴むことは出来ない。 部活動の練習で流した汗も時間が経てば消えてしまう。 流れた物は形を変えて残ることも在る。 流した汗は努力の結晶となり自分を成長させてくれる結果に変わる。 しかし、それでも、届かない。 目指した頂点を、輝く栄光を掴みとれるのは、ごく限られた人間たち。 努力すれば結果が帰ってくるなんて、夢見る子どもを励ますための方便だ。 流した汗は、報われない。 抗っても、奇跡には届かない。 それが世界だ。それが『願い』に狂った人間たちの作る世の中だ。 『願い』に狂った、大人が嫌いだった。 『願い』を勝ち取る力のない、子どもでしかない自分が嫌いだった。 頭がふらふらする。 苦い記憶ばかりを思い出す。 (なんだ……僕は、けっこう覚えてるんじゃないか) そんなことを自覚して、苦笑する。 まさしく、走馬灯と言うべきか。 滝のようにどころか、洪水のように汗が噴き出す。 誇張でも何でもなく『死ぬ』と思った。 さっきも水分補給をしたはずなのに、のどが渇いてヒリヒリする。 倒れる。倒れてしまおう。 だいたい100周って、1周が80m足らずだとしても8kmあるじゃないか。 いくら神様でも体はただの中学生なのに、はじめからそんなの無理だって。 カチリ、と音がした。 「あと5周!!」 耳朶をうつ越前の声に、え、と顔をあげる。 振り返れば、越前がいつの間にやら秋瀬から数取器を受け取り、手のひらをパーにして『5』という数字を示していた。 いつの間に。 『5』という数字に、頭が空白になる。 しかし、言われてみれば。 時間の感覚がなかった。 一時間なのか二時間なのか、放送はまだだから三時間はないはずだけれど。 越前たちがあれだけ話し込んだり泣いたり泣きやんだりしていたんだから、 それだけの距離を走っていてもおかしくない。 倒れこもうとしていた足が、次の一歩を踏みしめていることに気づく。 もう、走れない。そのはずだった。 でも、あと少しだけ。 100周のうちのたった5周ぐらいなら? いや、せめて1周でも、100周に近いところで。 乳酸のたまりきって鉛のようだった足も少しだけ軽くなったように感じられ、 そんな自分の現金さがおかしかった。 汗を流して、必死になっている。 生きている、そんなことを思う。 願ってもかなわないと、嫌と言うほど思い知らされた。 ならばなぜ、天野雪輝はまだ“願い”を持っている? なぜ、彼女のことを諦めない? 『……僕は――――"神様"なんだ』 『……あまのがかみさま?』 『うん、一応神様って事になってるんだ』 神様だと、自認することから始まった。 一万年ぶりに出会う、他者という存在。 誰かに見つけられて、嬉しくなかったと言えば嘘で。 そして、一万年ぶりに彼女を見つけた。 ユッキーと、彼女だけの名前で呼ばれる。 その次に待っていたのが、大好きな少女からの殺意を持った攻撃だった。 二度目のサバイバルゲームは、その手をつかみ損ねるところから始まった。 『大事なのは、天野がどうしたいのかってことやとワイは思うけどなぁ』 新たな友達は、最初からそう言っていた。 『何もやりたいことがないっちゅーんなら、ワイを手伝ってくれんか?』 その言葉に頷いた時、どこまでいっても甘さを捨てられない『天野雪輝』を自覚した。 そう、見捨てられないのが、天野雪輝だった。その相手を、一度でも近しい存在だと意識してしまったら。 9thには、最後までそのせいで怒らせた。 『すべてを救うのは無理だ』と分かっていても、『見捨てられない』と答えてしまう。 「あと4周!」 5周から、4周になった。 のどが痛い。汗でベトついた体が気持ち悪い。 それでも、また1周ゴールに近づいた。 『名前は我妻由乃。できれば止めたいんだけど……』 忘却したつもりだったのに、本当は少しずつ思い出していた。 前原圭一に話していた時には、もうすでに『殺したくない』と意識していて。 彼女のことを想うにつれて。 思い出を、人に語るにつれて。 そして、傍観者の神様ではない、ただの無力な中学生でしかない挫折を知って。 『せやけど、天野の友達は天野を探してたかもしれん。ワイはそのことを考えてへんかった』 日野日向に謝る機会を失ったことで、取りこぼしたものの重さを知った。 雪輝にも、助けてくれたかもしれない人がいたことを、思い出した。 『我妻さんの言葉だけじゃなく、僕たちの言葉にも耳を貸してほしかった。 ご両親が死んだ時だって、暴走する前に僕たちに相談してほしかった。』 過去に喪われた友達から、叱られた。 苦しかったけど、嬉しかった。 取りこぼしてばかりの子ども時代だったけれど。 裏切りと嘘に満ちあふれた世界だったけれど。 かけがえのないものも、たくさんあった。 『由乃の分まで背負えるなら、どんな罰も受けるって思ってたんだ。』 だから。 いちばん『大事なもの』を、選んだ時の気持ちを思い出せた。 「3周!」 足は、止めない。 ノタノタと間抜けにふらつきながら、息を荒くして進む。 きっと、傍目にもみっともないほどにボロボロだ。 それでもいい。みっともなくても、足掻かないよりはいい。 『一兆を超えて、那由多の選択肢があったとしても。 僕は彼女を愛してる。誰に文句も言わせないぐらいに、愛している』 やっと、戻って来れた。 時間がかかって、遠回りして。 記憶を風化させた“時空王”は、“天野雪輝”を、取り戻した。 「2週!」 越前が指をブイサインにして、ぐっと前に突き出した。 泣きはらした目が、それでも強い眼光を宿らせて、推し量るように見ている。 視線と視線が、すれ違う瞬間に交錯した。 走り切ったら山ほど文句を言ってやると、心に決める。 (本当に、しんどい……遠山も高坂も、こんなふうに走ってたのかな) そう言えば高坂も陸上部だったっけ、と余計なことまで思い出す。 『もっと、泣きそうな顔、しろよ……』 一万年前と、同じ痛みを味わった。 友達を殺した時に、泣いていたことを思い出した。 昔の友達から『泣け』と言われて、今の友達からは『笑え』と言われた。 『生きたかった、くせに!』 遠山金太郎にも夢があったように。 その中学生にも、『将来の夢』があった。 ――大きくなったら、私がお嫁さんになってあげる。 ――大人になったらね。 それだけの『夢』から、全てが始まった。 今になって思えば、お互いに『誰でもよかった』だけ。 お互いが、依存できる相手を探していたら、ぴったりはまった。 いびつな関係だったかもしれない。でも、ずっとそばにいてくれた。ずっと守ってくれた。 ずっとそばにいた。守るために、なけなしの勇気を振り絞ったこともあった。 守るために、死なせないために、必死だった。二人とも、ただの中学生でしかなかった。 あれが、彼と彼女の精いっぱいだった。 『誰でもよかった』は、いつしか『彼女でなければならない』になった。 『私ならそう言われただけで満足するかもしれない。 好きな人を殺さずに済んで、居場所をもらったまま終われるなら』 『好き』に自信のない少女と会話して、理解する。最後まで理解できなかった、最期の彼女のことを。 どうして、居場所をつくると言ったのに、死を選んだのか。 好きだから、殺せなかった。ただそれだけ。 言われてみれば、簡単なことだ。 三週目の世界に舞台をうつして殺し合いを始めてから、由乃はどんどん切羽詰まったようになっていった。 「あなたが好き。でも二週目には戻れない」と言い出した由乃は、雪輝を幻覚空間に閉じこめて隔離した。 きっと、あの時点ではもう殺せなくなっていた。 愛しているから、殺そうとした。愛しているから、殺せなかった。 愛しているから、愛すればこそ。 「ラスト1周!」 Question、あなたは、殺したくなるほど、誰かを愛したことがある? Answer、あの時の、あの子と、同じぐらいには。 理解できたからといって、どうにもならない。 どちらかが死んで神の座を譲らなければ、どうあがいても詰みだった。 ただ、ちょっとだけ後悔した。 (好きな女の子の気持ちが分からない、なんてのは……やっぱり、駄目だよなぁ……) たったそれだけの後悔が、違う選択肢を選ばせる。 (僕は、由乃に殺されない。もう、僕を犠牲にすることで解決したりしない) 抗いつづけることで届く奇跡もある。 走り続けるための言葉を思い出して、最後のピースがはまった。 また、抗おう。ただし、昔と今では違うところがある。 今度は、幸せにする名前に『天野雪輝』を加えたい。 由乃と『二人』で、星を見に行こう。 (涙も、笑顔も、由乃も、ぜんぶ取り戻す!) 天野雪輝は。 (僕は――!) 前のめりに、倒れた。 ◆ 【対話】 天野雪輝は、倒れた。 越前リョーマたちの、目の前で。 完走と同時に倒れた。 「よく頑張ったね」 秋瀬或が雪輝のそばにしゃがみこみ、危険な症状はないかどうかを確かめる。 あいにくと片腕だったので、ベンチへと寝かせるのは綾波が手伝った。 二人してどうにか、汗だくの体を綾波たちのいた場所へと横にさせる。 リョーマはその様子を車椅子から見つめ、さすがに申し訳なさを顔に出した。 「……怒らないんスか?」 「もし走る途中で倒れたら怒っていたけれど……その結果を見ればね」 秋瀬が見下ろすのは、越前の左手。 手のうちにある計測器の数字は、ぴったりと『90』をカウントしていた。 「ありがとう。雪輝君に歩み寄ってくれて」 「……あんまり足を酷使して、動けなくなっても困るから」 じっさい、ギリギリの見極めではあった。 ランニングでのへばり方を見ながら「この分では持たないな」と判断するのと、 「でも、走り切ったと思わせたい」との境界線を兼ね合わせるのは。 「でも、彼のことを認めてくれたんだね」 「『本気』は、見せてくれたから」 『本気』の何が見たかったんだと、言われたら困るけれど。 けれど、もう駄目だ限界だ助けてくれとボロボロの顔で、 それでも走るのをやめない姿を見た時だった。 高坂が、あれほどぼろくそに言っていたはずの雪輝を放っておけなかった心境が、分かった気がしたのは。 冷やしてある濡れタオルを取ってくると、秋瀬は運動室を出て行った。 「綾波さん……なんか、成り行きで協力を決めたみたいになったんスけど」 「構わないわ」 「一緒にいるとヤバい人に狙われるっぽいけど、それでもいい?」 「…………私、嘘をついた」 「嘘?」 「『碇君が死んだから、もう全部いい』って言ったこと。ごめんなさい」 「謝らなくても……」 「高坂君が死んだ時、悲しかった。だから、嘘」 「…………」 「でも、ちょっとだけ安心した。あなたたちを、碇君の代わりにはしていないって分かったから」 「そんなこと、気にしてたんスか」 「高坂君がいなくなるまで、分からなかった。だから、分からないのは、嫌」 「うん」 「理由は説明できない。でも、自然に『構わない』と思ってたから。 意味はあるかもしれない。自分で分かってないだけで」 「回りくどい言い方だけど、『Yes』ってことっスか」 「越前君こそ、どうして?」 「何が?」 「高坂君のこと、私を責めなかったから」 「神崎さんの時に、オレだけのせいじゃないって言われたし。だったらその逆もそうだから」 そう言えば、と気づく。 「勘違いされてたら困るから言っとくけど……バロウ・エシャロットのことは許してないから」 「そうなの?」 天野と我妻のことを容認したことで、バロウも似たような認識だと誤解してほしくはない。 「当然。部長を殺されて、神崎さん殺されて、高坂さんも殺されてんだから」 「でも、その部長さんが助けようとしてた……」 「だから困ってるんじゃないスか。綾波さんだって、碇さんのことがあるし」 「私も、許せない。まだ、菊地君から話を聞けてないけど」 「俺も、知りたい。アイツとは決着つけたいから」 「碇君がどう殺されたのか聞いたら、また殺したくなるかも……」 「その時は一緒に考えればいいし」 「うん、高坂君も、『仲良くやれ』って言ってた」 そう言われて、すごく気恥ずかしいことを言い残されたんじゃないかと気づく。 どう返せばいいんだろうと、完全に言葉に詰まった。 しかし、綾波が先回りして言った。 「じゃあ、今後とも『よろしく』」 ――よろしく。 確かに、自分がそう言った。 覚えていてくれたんだ、という感想が生まれる。 なら、返事をしなければいけない。 「……今後とも、『よろしく』」 こつんと、二人は握った拳をぶつけて重ねた。 ◆ 「あ、起きたんすか?」 「ん……おはよう、コシマエ」 「寝ぼけてるんスか? ってゆーか、その呼び方……」 「だって、遠山がずっとこの呼び方だったから……水、のみたい」 「はい、最後のペットボトル」 「どうだった?」 「殴られた方が、万倍マシだった」 「『もう駄目だ死ぬ』って気分になるでしょ?」 「なったよ。もう一生分ぐらい……で、すっきりした」 「したんだ」 「色んなことを、思い出したよ……」 「ふーん」 「ぜんぶ、思い出したんだ。神様になる前の、ただの中学生だった時のこと」 「バカだったこと。子どもだったこと。取りこぼしたこと。 でも、必死だったこと。がんばったこと。嬉しかったこと。辛かったこと。 友達のこと。父さん母さんのこと。敵のこと。恋人のこと。 初めて、人を愛したこと。ぜんぶ」 「やっぱり、記憶喪失を治すには体を動かすのが一番っスね」 「なんだよそれ……で、僕に何か言うことがあるんじゃないの?」 「我妻って人のことは許せない。けど、生きて帰りたいなら協力する。 こっちはこっちで菊地さんたちと合流するから、いつまで一緒にいるかは分からないけど」 「8キロかそこら走らせただけで、凶暴な女の子に狙われてもいいんだ。 僕が言うのもなんだけど、お人好し過ぎじゃない?」 「さぁね。危なくなったら、綾波さんと二人で逃げるかも。 ……天野さんは、これからどうするんスか?」 「やり直しが、したい」 「0から?」 「もう、0(チャラ)にはしない。 1から、やり直す。続きから始める」 「…………」 「何もできない“神様”じゃない。 ただの“中学生”だったけど、頑張ってた頃の僕を思い出したんだ。 なかったことにしない。全部、抱えて進む。もう絶対に忘れない」 「我妻さんが一番だけど、他の人たちも忘れない……なんか、矛盾してないっスか?」 「中途半端でいいよ。“抗って届く奇跡があるなら信じたい”。 これを否定したら、僕がしてきたことの全面否定になる」 「一万歳の“中学デビュー”ってこと?」 「学年は君より先輩だけどね」 ほとんど同時。 挑みあうように睨み合っていた両者の顔から、乾いた笑いが漏れた。 ◆ 独りぼっちだった“時空王”は、もういない。 ただの好きな人がいる“中学生”になった。 【G-4病院/一日目・夕方】 【天野雪輝@未来日記】 [状態]:発汗、疲労、中学デビュー [装備]:体操服@現地調達、スぺツナズナイフ@現実 、シグザウエルP226(残弾4)、 天野雪輝のダーツ(残り7本)@未来日記 [道具]:携帯電話、学校で調達したもの(詳しくは不明) 基本:由乃と星を観に行く 1:やりなおす。0(チャラ)からではなく、1から。 ※神になってから1万年後("三週目の世界"の由乃に次元の壁を破壊される前)からの参戦 ※神の力、神になってから1万年間の記憶は封印されています ※神になるまでの記憶を、全て思い出しました。 ※秋瀬或が契約した『The rader』の内容を確認しました。 【秋瀬或@未来日記】 [状態]:右手首から先、喪失(止血)、貧血(大) [装備]:The rader@未来日記、携帯電話(レーダー機能付き、電池切れ)@現実、セグウェイ@テニスの王子様、マクアフティル@とある科学の超電磁砲、リアルテニスボール@現実 [道具]:基本支給品一式、インサイトによる首輪内部の見取り図(秋瀬或の考察を記した紙も追加)@現地調達、火炎放射器(燃料残り7回分)@現実、クレスタ@GTO 壊れたNeo高坂KING日記@未来日記、『未来日記計画』に関する資料@現地調達 基本行動方針:この世界の謎を解く。天野雪輝を幸福にする。 1:天野雪輝の『我妻由乃と星を見に行く』という願いをかなえる [備考] 参戦時期は『本人の認識している限りでは』47話でデウスに謁見し、死人が生き返るかを尋ねた直後です。 『The rader』の予知は、よほどのことがない限り他者に明かすつもりはありません 『The rader』の予知が放送後に当たっていたかどうか、内容が変動するかどうかは、次以降の書き手さんに任せます。 【越前リョーマ@テニスの王子様】 [状態]:疲労(大)、全身打撲 、右腕に亀裂骨折(手当済み)、“雷”の反動による炎症(数時間で回復) [装備]:青学ジャージ(半袖)、テニスラケット@現地調達 リアルテニスボール(ポケットに2個)@現実、車椅子@現地調達 [道具]:基本支給品一式(携帯電話に撮影画像)×2、不明支給品0~1、リアルテニスボール(残り3個)@現実 S-DAT@ヱヴァンゲリオン新劇場版、、太い木の棒@現地調達、ひしゃげた金属バット@現実 基本行動方針:神サマに勝ってみせる。殺し合いに乗る人間には絶対に負けない。 1:休んだら、菊地と合流。天野たちにはできる範囲で協力 2:バロウ・エシャロットには次こそ勝つ。 3:切原は探す。 【綾波レイ@エヴァンゲリオン新劇場版】 [状態]:疲労(小) 、傷心 [装備]:白いブラウス@現地調達、 第壱中学校の制服(スカートのみ) 由乃の日本刀@未来日記、ベレッタM92(残弾13) [道具]:基本支給品一式、第壱中学校の制服(びしょ濡れ)、心音爆弾@未来日記 、隠魔鬼のマント@幽遊白書 基本行動方針:知りたい 1:休んだら、菊地と合流。天野たちにはできる範囲で協力 2:落ち着いたら、碇君の話を聞きたい。色々と考えたい 3:いざという時は、躊躇わない…? [備考] ※参戦時期は、少なくとも碇親子との「食事会」を計画している間。 ※碇シンジの最後の言葉を知りました。 Back 錯綜する思春期のパラベラム(前編) 投下順 Next それでも、しあわせギフトは届く Back 錯綜する思春期のパラベラム(前編) 時系列順 Next 最良の選択肢 君に届け(I for you) 天野雪輝 ぼくらのメジャースプーン 君に届け(I for you) 綾波レイ ぼくらのメジャースプーン 君に届け(I for you) 越前リョーマ ぼくらのメジャースプーン 君に届け(I for you) 秋瀬或 ぼくらのメジャースプーン
https://w.atwiki.jp/kokohaza/pages/153.html
中学生 【名前】倉岡 利樹(くらおか としき) 【性別】男 【年齢】15 【職業】中学生 【口癖】「何みてんだよ?」 【好きなもの】ない 【嫌いなもの】アンブレラ、両親、この世の中 【信念】こんな世界どうでもいい 【性格】冷静沈着で残酷。大人っぽくて、基本無口。 【服装】 制服を着ている。 【備考】 両親がアンブレラ研究者で、アンブレラやウイルス等の事について教わっている。両親からは道具として扱われており、実験体になってもらったりウイルスの回収をさせられたりしている。その為、両親の事を異常に憎んでいる。学校では周りから「クール」だと思われていて、そこそこ人気がある。 【ステータス】 学力 ■■■■□□ そこそこ 魅力 ■■■■□□ オーラが出ている 勇気 ■■■■■■ パーフェクト 体力 ■■■□□□ 普通 攻撃 ■■■□□□ 普通 防御 ■■■□□□ 普通
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【登録タグ 曖昧さ回避】 曖昧さ回避のためのページ フナコシPの曲中学生/フナコシP 亀次郎の曲中学生/亀次郎 曖昧さ回避について 曖昧さ回避は、同名のページが複数存在してしまう場合にのみ行います。同名のページは同時に存在できないため、当該名は「曖昧さ回避」という入口にして個々のページはページ名を少し変えて両立させることになります。 【既存のページ】は「ページ名の変更」で移動してください。曖昧さ回避を【既存のページ】に上書きするのはやめてください。「〇〇」という曲のページを「〇〇/作り手」等に移動する場合にコピペはしないでください。 曖昧さ回避作成時は「曖昧さ回避の追加の仕方」を参照してください。 曖昧さ回避依頼はこちら→修正依頼/曖昧さ回避追加依頼
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更新日:2012-12-08 中学生 国語 古文 漢文 算数・数学 英語 理科 地理 歴史 社会 政治 経済 家庭科 技術 美術 体育 スポーツ
https://w.atwiki.jp/musuhi_flower/pages/42.html
中学生 名前 魂華 昇華 学名 所属 身長 覆地 育 ヤブガラシ ロープ Cayratia japonica 中2 150 月庭 千歳 ダイコン アンクレット Raphanus sativus var. hortensis 中2 152 灯生 天叶 ヒイラギ 鳴子 Osmanthus heterophyllus 中3 168 安朝 野土叶 ヒイラギモクセイ 神楽鈴 Osmanthus × fortunei 中3 157
https://w.atwiki.jp/mhp3yumi_senmin/pages/177.html
肉質 部位 射撃 火 水 雷 氷 龍 頭 100 50 25 40 50 0 上半身 60 50 0 25 40 0 弱点 100 80 10 80 80 0 アナル 35 35 100 30 20 0 足 40 28 0 35 28 0 ※射撃45以上の欄は赤字で表示 cv 船越英一郎 特徴 突如本スレに降臨した中学生。 弓ではなく鉄砲を扱い、渾身の射撃を放つ。 大爆裂曲射は広範囲を巻き込むガード殺しの大技。 気づいたらランスがその辺に転がっていることもしばしば。 攻略 弱点の部位を破壊するには神属性によるダメージの蓄積が必要。 部位破壊に成功すると部位破壊・捕獲報酬欄に俺様の大宝玉が100%の確率で2つ発生。 ここにきていうのもなんだけど微妙に不謹慎じゃね いや微妙だけど -- (名無しさん) 2011-03-19 17 16 12 でた、不謹慎厨! -- (名無しさん) 2011-03-19 20 11 06 名前 コメント すべてのコメントを見る
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選手紹介 中学生(福岡GJは、ヒリューズと福岡スターズの合同チームです。) 3年 Photo Name Num Pos Comment(出身チーム) Yuudai.M 3年 #1 GK スターズ Kai.W 3年 #5 DF スターズ Souichirou.F 3年 #18 FW ヒリューズ Reo.S 3年 #7 FW スターズ Sou.T 3年 #17 FW スターズ 2年 Photo Name Num Pos Comment(出身チーム) Ryouichirou.y 2年 #19 FW ヒリューズ Keito.Y 2年 #22 FW ヒリューズ Yuuta.F 2年 #8 FW ヒリューズ Yuuya.F 2年 #23 FW ヒリューズ Haruto.H 2年 #4 FW スターズ Yuuki.T 2年 #11 FW スターズ Kazuhiki.O 2年 #24 FW スターズ Kanata.M 2年 #9 FW スターズ Satuki.S 2年 #16 FW シャークス 1年 Photo Name Num Pos Comment(出身チーム) Rei.W 1年 #2 GK スターズ Mai.H 1年 #12 FW ヒリューズ Yousuke.K 1年 #21 FW スターズ
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中学生日記 ~遠回りする雛~ ◆j1I31zelYA 青春は、やさしいだけじゃない。 痛い、だけでもない。 【再会】 四人の少年少女が白日の下で座り、影を長くのばしていた。 「病院、行かなくていいの?」 綾波レイが、秋瀬或へと問いかける。 その手は救急箱の中身を探っているけれど、視線は彼の右手首へ。 右手のあった場所がすっぱりと割断され、切断面と止血点の位置とが包帯で縛られていた。 「確かに……」 秋瀬から話を切り出されかけた越前リョーマも、そちらへの注目を優先する。 秋瀬があまりにも平然としているので釣られかけたけれど、腕がなくなるなんて、普通は命の心配をする事態だ。 テニスの試合でも、体が欠如するほどの怪我を負うことは(今のところはまだ)有り得ない。 秋瀬は「そうだね…」と携帯電話を左手で取り出した。 「問題は我妻さんが先回りしていないかどうかだけれど、こればっかりは近づいてレーダーで索敵するしかないな。 ……もっとも、そう長く電池が持ちそうにないけれどね」 警戒すべき我妻由乃が雪輝日記を持っている以上は、待ち伏せされるリスクが常にある。 しかし我妻は『次に会ったら殺す』ということを言い残して退いた。 最大の障害である秋瀬或には重傷を負わせたことだし、『ここにいるユッキーには執着していない』と言い張る今の彼女ならば、こちらから出向かない限りはそこまで執拗さを発揮しないだろう。 電池の持ちを気にした秋瀬に対して、綾波は小首をかしげてみせた。 「私たちの電話には、まだ電池の持ちがあるけれど……」 「ところが、浦飯君は携帯電話を使ったことが無かったんだ。 バッテリーの持続時間をよく知らずに、電池を消耗させてしまったらしい」 秋瀬がそのことに気づいたのは、レーダーを借りうけた時だった。 浦飯は主催者から携帯電話の使い方をインプットされただけで、携帯電話の扱いそのものには不慣れでしかない。 常に画面を開きっぱなしにしてGPS機能をオンにしていたり、好奇心がてら暇があればいじくり回したり……そんな扱いを半日以上も続けていれば、『充電してください』という警告表示も出るだろう。 「デパートに寄って、充電器を探す?」 合流したい人物や避けたい人物を抱えていて、探知機能が使えなくなったのは痛い。 休息後の安全を確保するためにもと、綾波が代案を出した。 「いや、それがデパートに行くのもリスクが大きい。 ちょうど浦飯君が、その近辺で危険人物を見かけていてね」 御手洗清志という、“水”の化け物を操るらしい危険人物のことがあった。 浦飯は必ず仕留められると息巻いていたようだったが、遠隔操作で化け物を操れるということは、御手洗本人が捕まっていても化け物が野放しになったままということも有り得る。 人質になりやすい一般人を含んだ集団でどかどかと踏み込んだとしても、浦飯の邪魔になるだろう。 「……それ、近くを通ってる菊地さんも危ないっすよね」 そこまで聞き終えた越前が立ち上がり、すぐさま来た道を走り出そうとして、 「ダメ」 素早くシャツの裾をつかんで引き止める手があった。 綾波だった。 「その怪我で、戦うのは無謀だから。 右腕もそうだけど、その両脚ではさっきみたいに走れないはず」 指摘されて、越前は足元を見下ろす。 綾波が応急処置をした結果として、膝まわりが冷却スプレーと湿布でがっちりとおおわれていた。 処置の下では、両足が青紫色のペンキでも塗ったような、痛々しい炎症を起こしている。 バロウ・エシャロットとの激戦で乱発された光速移動の“雷”は、本来の使い手である真田弦一郎でさえ負担が大きすぎて滅多に使わないような諸刃の剣だった。 バロウの放つ鉄球から菊地たちを守るために濫用し、さらにその足で我妻由乃の急襲する現場に駆け付けたとあっては、足が根をあげてもおかしくない。 「それに、拳銃が通用しない相手なら、私たちも戦力になれそうにない。 そもそも、大けがしたこの人を病院に連れていく話だったはず。 この人たちを戦場に連れていくのも、ここに放置するのも良くないわ」 「でも……」 思い出した痛みで脚を震わせながら、それでも越前は意固地そうに立った。 駄々をこねる子どものような声で、反発する。 「高坂さんが、もういないのに……また誰か死ぬのは、やだ」 死んでしまった少年の名前が出たことに、綾波もまた肩を震わせた。 それでも、静かに言った。 「高坂君は……もういないから。 あなたまで喪いたくないし、あなたがいなくなったら、きっと色々なことが終わってしまう」 ちらりと座りこんだ秋瀬たちに視線をうつして、続ける。 「……それに、高坂君は、この人たちが死ぬのも、この人たちを放っておくのも望まないと思う。 戦線復帰したいなら、今のうちに休むべき」 淡々とした、しかし刻み込むようにゆっくりとした言葉を聞いて、 越前は叱責された子どものように唇を噛んだ。 焦りをすっと引かせて、素直に頷きを返していた。 「……はい」 「それに菊地くんの近くにいる植木くんは、さっきの人も倒せるぐらい強いらしいから。 合流できていればきっと大丈夫」 「うぃっす」 頷いて、ぺたんと腰をおろす。 足を崩して座りなおすのを待って、秋瀬が尋ねた。 「菊地くんというのは、別行動中の仲間のことだね。合流する当ては?」 これまでの話からすると、菊地という少年は植木という増援を連れて戻る予定だったらしい。 しかし、場所を特定する手段もないのに別行動をとったとすれば引っかかった。 越前たちが我妻由乃から逃れるために、この場を移動していた可能性もあったのだから。 「最初は、学校で合流する予定だったんスけど……」 「菊地くんの仲間も、『未来日記』を持っているらしいから。 地図で言う周囲1エリア以内なら、予知が届くって言ってた」 菊地と別れた時のことを、綾波は補足説明していく。 バロウを相手に共闘までしたからには、今の菊地が『友情日記』と契約すれば綾波たちは『友達』として申し分なく予知ができる。 菊地自身はムルムルから契約禁止の叱責を受けているが、そこから既に6時間近くも経過しているし、いざとなったら植木の声真似でも何でもして契約すると、別れる直前に言い切っていた。 「それなら、多少は移動しても差支えないようだね。 見たところ学校からの火の手は鎮火に向かっているようだけれど、危険なことに変わりはないし……」 思案するように、秋瀬は北の方角に目を走らせる。 雪輝たちの走って来た方向から炎上した火災は、学校のある一帯とその南方の雑木林を焦がしただけにとどまっていた。 周囲にある建造物が、公営体育館とその駐車場などなど、耐火造の建物だったり延焼物の無い土地だったりしたことが幸いしたらしい。 「火災から避難するのも兼ねて、ここは素直に病院に移動しようか。雪輝君もそれでいいね?」 「うん……」 雪輝としても、いてもたってもいられない心境ではあるにせよ、腰を落ち着けて方針練り直しをする時間は欲しい。 貴重な味方である秋瀬が重傷を負ったともなれば、休息に反対しない理由はなかった。 話がまとまったのを見て、越前が再び立ちあがる。 「じゃ、出発しようか。秋瀬さんだっけ。歩ける?」 「止血はしたし体力的にも支障はないけれど……むしろ君の方が大丈夫かい?」 「あ、だったら僕が、背負っていこうか?」 遠慮がちに、雪輝が声をかける。 越前が首をかしげ、雪輝の肩あたりを見下ろした。 「いや、そこまではいいって言うか、肩を貸してもらえたら充分なんスけど……」 注視するのは、雪輝の衣服。 肩から背中の部分を湿らせている、まだ乾いていない血の染みだった。 「その血、大丈夫っスか?」 その血が誰のものかを知らずに、聞いた。 ◆ 彼とは、十二時間余りもの時を共に過ごした。 それだけの時間があれば、それだけの会話は交わすことになる。 とはいえ、一万年間も何もせずぼーっとしていた天野雪輝に、話題のバリエーションなどあるはずもなく。 自然と話題は、その少年――遠山金太郎に関することが多くなった。 そうすると、その少年が熱中している『テニス』のことが頻出するのは、必然であって。 その中で、『彼』の名前は、よく登場した。 越前(コシマエ)、と呼ばれていた少年。 とにかく強いのだとか。 何度も勝負を挑んでいるのに、よくつれない態度を取られて逃げられてしまうとか。 しかし、とても楽しそうにテニスをするのだとか。 指から毒素を放ち帽子の下に第三の眼をうんたらかんたらとか。 はっきり真偽の怪しい話も交じっていたし、遠山は『そいつと合流できれば何とかなる』という楽観よりの思想だったから、かなり話半分として聞いていたけれど。 後になって、奇縁だと知った。 同行者である、遠山金太郎の友人だったそいつ。 友人である、高坂王子の同行者だったそいつ。 今の天野雪輝とは、出会わない方が良かったのかもしれない。 元恋人との殺し合いに巻き込んで遠山を死なせたあげくに、 瀕死の遠山を見捨てて、囮として戦わせることで自分だけ逃げ出し、 仇であるところの元恋人は、跡部という他の仲間も殺していて、 二人の戦友を殺した仇であるその我妻由乃と、よりを戻してふたり幸せに星を見に行こうとしている。 誰から非難されても、それが誰かの犠牲の上に成り立つことでも、そうする。 それが、今の雪輝だった。 秋瀬或は、『移動時間を短縮するアテがある』とか言って、重傷人とも思えない軽快さで先行した。 病院へと向けて、進路を西寄りにして。 残った三人で、越前に肩などを貸しながら追っていて。 間もなく、一行はその『彼ら』と再会した。 倒れている人影が離れた場所に小さく見えて、越前が目を見開いた。 一歩を近づくごとに、人影の小柄な輪郭だとか、微風にパタパタと揺れるヒョウ柄のタンクトップだとかが鮮明に見えてくる。 傷ついた両脚に鞭を打つようにして、越前は雪輝たちの手を振り払い、早足で近づいていった。 どんどん近づき、その人影の『切断』があらわになった距離で。 我慢できなくなったように、走り出した。 綾波レイが、そんな彼のそばへと駆け寄ろうと急ぎ足になり、雪輝もそれにつられる。 立ち止まり、じっと見下ろす。 そこにいた。 彼らと言ったのは、ようするに、つい複数形で表現してしまうような状態だったということで。 遠山金太郎が、上半身と下半身とで真っ二つに斬殺されて仰向けに転がっていた。 (分かってた、ことだったけどね……) 日本刀を持った我妻由乃の手で絶命させられた。 ならば、その死に様など分かり切っている。 赤く染まりはじめた陽の下に、ふたつ血だまりが広がっていた。 ひとつは、一メートルくらい離れた地面に転がっている下半身から噴き出したもので、 もうひとつは越前の真下に転がる、上半身の腹部より下から流れたものだった。 そちら側の血液は、地面と接する背面からもじわじわと染み出した跡があり、 それは天野雪輝を手榴弾からかばった際に受けた傷口が、開いたものだと分かる。 雪輝は中学校で流れた血の量を知っていただけに、まだこれだけの血が残っていたのかと驚いた。 それだけの血を流した証明として、遺体は凄まじい色合いになっていた。 土気色というよりは、青っぽい粘土で作り上げた人体のような、生前の面影をなくしたそれ。 小柄なりにがっしりとしていた体つきが、血を吐きだしつくした分だけ『しぼんでいる』ことがはっきりと認識できる。 体のそこかしこが、手榴弾の熱風を浴びた火傷で煤けていて。 右手には、テニスラケットを強く握りしめたままで。 左手は、やや不自然な内向きの角度で、腹部にもたれかかるように乗っている。 それは不幸なことに『斬られて』からもしばらく命があって、動いていた証左だろう。 霞んでいく最後の意識で、『何か』に向かって手をのばそうとして、持ち上げて。 そこで命が喪われて、ぱたり。 何を見つめていて何に向かって手をのばそうとしたのか、見開かれたまま絶命した両の瞳からは語られなかった。 そんな変り果てた姿を、越前リョーマが眼球に映していた。 目をそむけることさえできないまま、呼吸すら止める。 足をがくがくと震わせて、無言で。 ただ、己の時間を止めることしかできないでいる。 (きつい、かな……うん) これは、無理だろう。駄目だろう。 心ある人間ならば、あっちゃいけないと否定したがる。 綾波が、そんな越前に対して、かける言葉を決めかねたように手をのばそうとして。 かくんと、越前の背たけが地面へと低くなる。 足から立っている力がぬけて、膝をついた。 ぴちゃんと、遠山の血液だったものが跳ねる。両膝の湿布が、赤黒い血だまりで汚れる。 綾波が名前を呼んでも、返事を返さない。 膝をついているところなんて想像もできない唯我独尊野郎だと聞いていた少年が、そうなっている。 (意外……でもないよね。こんな友達を、見たら) 雪輝は、そう思う。 だから、こうも思う。 ――やっぱり、違う。僕は、“こう”はならない。 越前は、見るからに悲しんでいる。 涙こそ見せていないけれど、それはただ現実に打ちのめされるばかりで、悲しみが追いついていないだけなのは明らかだ。 対して、天野雪輝はどうか。 こうなってしまったことを、悔しいと思う。こうするしかできなかったことを、悲しく思う。 ――犠牲とか、殺された人とかそんなのを度外視してでも――僕は由乃に手を伸ばす。 じゃあ、こうなった遠山を度外視して、我妻由乃を迎えに行きたい天野雪輝とは、何者だ? 悲しいはずなのに、泣けない。冷静に死体を観察して、見捨てたことを自嘲している。 (昔のことを思い出してきて……僕も学習したってことなのか?) 由乃のように、他の人間を駒だと割り切ることなんてできない。 けれど、三週目世界の由乃も、異世界の両親も、手の届く皆を救おうとした結果が、あの結末だった。 三週目の世界はそれなりに救済されたらしいけれど、いちばんに助けたかった我妻由乃は喪われた。 (だったら、割り切るしかないのか? これも、由乃と星を見に行くための犠牲だって) 神崎麗美と対峙する前から、分かっていたはずだった。 天野雪輝は神さまのくせに弱くてちっぽけで、遠山金太郎のような理想論者ははいずれ遠からず死んでしまうこと。 無力感が、黒い感情へと反転していく。 泣けなかった罪悪感が、由乃を迎えに行きたいという欲望が、悪魔のささやきを運んでくる。 後ろめたく思うことなんか、何もない。 会いに行きたい由乃は『雪輝日記』を持っている。 迎えに行こうとしても、確実に先手を取られて殺される。 だったら、これからも遠山の代わりに『盾』が必要だ。 ここに、二人いる。 こいつらも、利用すればいい。 皆を救うことなんてどうでもいい。 遠山金太郎に励まされ、神崎麗美と対峙して、気がついてしまったはずだ。 神さまなんだからみんながハッピーになれるように願いを叶える? そんな願いよりも大切なモノ。 我妻由乃との幸せを掴むことこそが、一番の願いごとであったことに。 遠山も、それを応援してくれた。 『やりたいことも貫けんよっぽどマシやと思うけどな』と、笑って背中を押してくれた。 一万年ぶりにできた大切な友達が、命を捧げてまで願ってくれた。 高坂は、『泣きそうな顔をしろ』と言っただけで、それ以上のことは要求しなかった。 やりたいこと。分かり切っている。 我妻由乃と、星を見に行く。 もっと彼女の声を聞いていたい、彼女の笑顔を見ていたい、彼女の華奢な体を抱きしめたい。 それが、天野雪輝だったはず。 『恋人』のためならば、『友達』だって踏み躙れ。 お前はしょせん、お姫様の為だけの、王子様だ。 そこで膝をついている、弱い雪輝を助けてくれた、やさしい王子様とは違うんだ。 形容しがたい感情から歯を食いしばり、越前リョーマの背中を観察する。 この少年が、早く泣き叫んでくれればいいのに。 まっすぐに悲しんで、その正しさを、王道を、普通の青春を、見せつけてくれたら。 泣きたくても泣けない雪輝は、羨ましいと逆恨みできるのに。 どうしてこんなに差があるんだろうと妬んで、夢を叶えるための犠牲として利用することが―― 「――馬鹿じゃないの?」 押し殺したような声が、耳朶をうった。 己のことを指摘されたような錯覚で、雪輝はどきりとする。 越前は怒りに満ちた声で、見下ろす少年に向かって話す。 ひと言ひと言を、喋るたびに歯を食いしばるように。 「べつに、誰か庇ったりするのは、そっちの勝手だから。 自己犠牲とか、……うちの先輩も、よく、やるし。 オレも、死にかけたり、無茶したから、命賭けるなとか、人のこと、言えないし。 でも……」 越前リョーマは、まだ殺害者である我妻由乃のことを知らない。 『雪輝を逃がすために囮になった』という略された説明でしか理解していない。 だから、怒りを向けられるとしたら、雪輝が見捨てて逃げたことについてだろうと、そう予想したのだが―― 「何が、『もう手遅れ』だよ。なんで、そこで諦めてんだよ」 びしゃん、と地団太を踏むように、立ち上がって血だまりを踏みつける。 震える足で、強く。 絞り出すような声で、その声を出すためにありったけの意思で涙をこらえて。 「生きること、諦めるなよ。 いつも、あんなに負けず嫌いだったくせに。 もうすぐ死ぬからって、生きるの止めるなよ。 囮になるのは勝手だけど、『手遅れ』とか『優先順位』とか言うなんて、そんなの。 本気で、やってないっ。そんなんだから、死んだんじゃないの?」 見苦しいまでに、必死に煽っていた。 見ようによってはスポーツマンらしかぬ、鬼か畜生かの振る舞いだ。 絶対に助からない怪我を負って、精いっぱい痛みに耐えて戦った少年に対して、 『そんな無様な戦いをするもんじゃない』と罵っている。 しかも、罵倒していることは理不尽な言いがかり。 仮に遠山金太郎が諦めなかったとして、手榴弾による致命傷はどうにもならない。 さながら、どうしようもなく強い対戦相手に追い詰められても精いっぱいに頑張っている仲間に、『本気でやれ』と冷たく鞭を打つようなものだ。 「そんなの、最後の一球がまだ決まってないのに、諦めるのと同じじゃん。 まだまだだよ。……ぜんっぜん、まだまだだね」 『あの』遠山の友人だったほどの人物なら、 雪輝にも、わだかまりなく手を差し伸べるのではないかと思っていた。 遠山が救おうとした人間だから守ってみせるとか、友達のことを誇りに思うとか、そんな理由をつけて。 それができないならば、怒りにつき動かされて、見捨てた自分を責めるはずだと思っていた。 なんでアイツは死んで、お前が生きているんだと、そんな主張をして。 どちらの立場を取ったとしても、越前の言い分は正しい。 でも、違った。そんな二元論では解決できない。 「一球勝負……引き分けだったのに……」 誰かを責めても解決できないと分かっている。しかし笑って許せるほど立派にもなれない。 それでも、心を殺さないために叫んでいる。 よりによっていちばん悪くないはずの遠山を、怒りをぶつける対象に選んだ。 でも、それが死者の冒涜には見えなかった。 なぜなら。 「……オレに引き分けといて、負けんなっ!」 この二人は本当に友達で、好敵手(ライバル)だったから。 だから、こいつは遠山に怒ってもいいんだ。 そんな納得が生まれ落ちた。 のどではなく魂から絞り出すように、越前の呼びかけは続く。 「死にたくなんて、なかったくせに」 綾波が、遠慮したように雪輝の方を振り向く。 その言葉は、ともすれば死ぬ原因を作った雪輝への非難ともなる。 しかし雪輝は首を横に振り、「言わせてあげて」と小さくつぶやく。 不思議と、今はその言葉を聞きたいという心境になっていた。 「生きたかった、くせに!」 心臓がはねる。 ――ワイは死にたくないけど、人を殺すのもイヤや。 橋の上で。神様なら手伝ってほしいと懇願された時。 死にたくないと言っていた。 雪輝も、彼のことを死なせたくはなかった。 ほとんど喚くように、乱れた声がなじった。 「『日本一のテニスプレイヤーになる』って、夢があったくせに!」 知らなかった。 冷えていた胸のうちが、熱を注がれたように熱く痛んだ。 ◆ 【推測】 秋瀬或がディパックに納めて持ち帰ってきたのは、なんと自家用車だった。 トヨタ・クレスタの後期モデル。X100系。 例の浦飯という男から、車を放置してきたというようなことを聞いていたらしい。 片手の秋瀬或に運転をさせるわけにもいかないので、天野雪輝が車のハンドルを握った。 無免許運転にあたるはずだけれど、運転するのは初めてでもないと天野は言った。 秋瀬或が助手席へ。 綾波レイ自身と、越前は後部座席へ。 あれほど体も口も動かしていた越前は、座席につくや否や、糸が切れたように眠りはじめてしまった。 疲れたとか言っていたのは、確かにその通りだったらしい。 その両腕には、遠山少年の持っていたラケットを抱きかかえるように持ちこんでいる。その遺品を持っていくことと、遺体の目を閉じてやること。 それだけしかできなかったことは、越前にとっても辛かったらしい。 車に乗りこむ寸前まで後ろを振り向き、置きざりにするしかない遺体を気にしていた。 そんな姿を見た綾波レイは、胸がチクチクと刺さるような痛覚を覚えた。 だから、というわけではないのだが。 一連の出来事に関わった、運転席の天野雪輝に向かって問いかけてみる。 「さっきの『由乃』って、我妻由乃のこと?」 天野が驚いたように身をすくめて、アクセルをベタ踏みしかけた。 「……知ってたんだ」 「高坂君が、言ってた。『私が守る』って連呼したり、好きなひとを閉じ込めたりする怖いひとのこと」 バックミラーから見える雪輝の目つきが、形容しがたい風になった。 「間違ってないのが……」とかなんとか、ぼやく。 「そんな人と、どうして敵対しているの?」 尋ねると、見るからに天野の口が重たそうになった。 しかし、答えを渋っているというよりは、答えを練っているという風な沈黙だ。 ややあって、淡々とした説明が聞こえてくる。 「ざっくり言うと、前の殺し合いの最後の最後で、どちらが優勝するかで喧嘩になったんだよ。 彼女は僕を生き残らせたいと言って、僕は、由乃を殺すぐらいなら死ぬって言った。 そしたら彼女は、僕を捨ててパラレルワールドの僕と結ばれるって言い出した。 その為には優勝しなきゃいけないから、僕のことも殺すんだって」 「…………」 予想以上に、難解かつぶっそうな内容だった。 考える時間がほしいからちょっと待ってと言うべきか、綾波は悩む。 すると、助手席の少年が口を開いた。 「正確に言えば、彼女の“願い”は、優勝した報酬によって雪輝君を手に入れることだね。 全てを0(チャラ)にすることも視野に入れると、さっきそう言っていたよ」 「そんなこと、できるの?」 「させてもらえると思えないから、僕らは彼女を止めようとしているんだ。 優勝者が褒美をもらえるかどうかについて、ある『予知』を得ていてね」 ちらりと運転席へ、変に熱っぽい視線を送る。 「それに、たとえ生き返るのだとしても『友人』に死んで欲しくないのは当然のことだ。 雪輝君が我妻さんを殺せないように、僕も雪輝君が殺されるのは見過ごせない」 「秋瀬くん……」 ずいぶんと友人おもいの人物であるようだが……実はこちらの少年は、少し苦手だ。 どこがどう、とは言えないのだが、声とか、印象とかに奇妙な既視感がある。 まるで少年にそっくりな人から大事なものをかっさらわれたことがあるみたいな、そんな『気に食わない』みたいな感じだった。 そんな秋瀬或に、雪輝が問いかける。 「でも、それなら由乃が僕のことを捨てる必要は無いはずだよ? 三週目に行く必要が無くなったんだからさ。 なのに、由乃は僕のことを『愛してなんかいない』って言ってた……」 助手席から、微苦笑を含んだため息が聞こえた。 「雪輝君。我妻さんからすれば、君をつい一日前まで殺そうとしていたんだよ? 別れたばかりの恋人に『振ったけど、生き返ると聞いたから愛します』なんて、言えると思うかい?」 「う……」 人間として男性として気づかないようでは駄目なことを指摘されたように、運転席の少年は肩を落とした。 どんどん、綾波には難しい話になってくる。 けれど、遅れて理解が追いついたこともあった。 「それは、喧嘩になっても仕方がないと思う」 それは、天野と我妻由乃が、殺し合いの中で、お互いを生かそうと動いたらしいこと。 「どうして、そう思うんだよ」 いきなり断定されて、雪輝はやや不機嫌そうになった。 「私は、“好き”が私にもあるのか、自信がない。 でも、私の守ろうとした人が、生きてほしいから止めてって言ったら、きっと困るわ」 菊地善人から聞いた、碇シンジの最後の言葉。 綾波レイも含めた二人の人間を、守ってほしいと言ったこと。 困る。 最初は殺し合いに乗ってまで守ろうとしたのに。 そんなことを言ってもらえるなんて、ぜんぜん思ってもみなかったから。 受け止め方が分からない。 「それは……僕も同じだよ。 僕も、由乃に生きてほしかった。由乃の居場所をつくりたかった。 それがあれば、由乃は僕を追いかけなくても、生きていけると思った」 居場所。 その言葉を、綾波は自分の場合と照らし合わせる。 それは、綾波の言葉で言うところの“絆”のある場所ということかもしれない。 だとすれば。 「そう言ってくれる人がいるだけで、もう居場所はあったと思う」 それは、誰かと繋がったまま終われるということだから。 そんな人を、殺すことなんて綾波にはできそうにない。 「だから、私ならそう言われただけで満足するかもしれない。 好きな人を殺さずに済んで、居場所をもらったまま終われるなら」 今度は、急ブレーキがきた。 反動で四人が前に投げだされかけ、越前が眠ったまま倒れかかってくる。 その頭が綾波の肩にいったん引っかかり、そのままずるずると膝の上にシフト。 つまり、膝を枕にした格好に。 起きないかどうか目を配っていると、運転席の主が「ごめん」と謝った。 「君の言ったことが、昔の由乃と重なったんだ。 あの時は、どうしてそんなことを言ったのか分からなかったから、びっくりして」 曖昧な言葉を使ってぼかしている風な雪輝は、あまり良い思い出でないことを匂わせていた。 無遠慮に知ったようなことを言って踏みこみすぎたと、反省する。 いや、そもそも詳しい話を聞くための会話だったのに、『人を好きになる』という話題が出たせいで脱線した。 脱線ついでだと、話題をもどす前にひとつだけ聞いてみたくなる。 「聞いてもいい? 天野くんは、どうしてその人を好きになったの?」 好きになる条件を満たすものは何か、誰かを好きだと言える少年から知りたい。 ハンドルを握る少年は、長くも短くもないだけの間をおいて、答えた。 いつくしみのこもった声で、しっかりと。 「ずっとそばにいてくれたから、かな」 「そう……」 答えを聞いて、思い出す。 学校の教室で、話しかけてくれた少年のこと。 この場所に来てから、ずっと一緒にいた少年のこと。 人を支えようとしたことと、人から支えてもらったこと。 「私と、同じね」 少年の重みを膝に感じながら、言葉はそんな感想になった。 天野がルームミラーごしに、形容しがたい感情のこもった目でこっちを見ていた。 その目には、見覚えがあった。 時おり碇ゲンドウが自分を見て、誰かを重ねるような目をする時と、似ていた。 だから天野も、自分たちの姿から過去の誰かと誰かを重ねているのかもしれない。 「そこの彼とは、ずっと一緒にいるのかい?」 秋瀬或が問い返してきた。 越前を見下ろして物思いにふけるのを見て、綾波にとっての『そばにいた』を、その少年だと解釈したらしい。 「うん。今までずっと」 「良ければ、君たちのことも聞かせてほしいな。今まで見てきたことを」 「……構わないわ」 話題の転換と、情報提供を求める会話の導入。 逆らう理由もなく、避けられることでもないので頷いた。 ぽつりぽつりと、順番通りにたどたどしく話を始める。 時をおかずして、白亜の大きな病院が見えてきた。 ◆ 手塚部長が、死んだ。 跡部景吾が、死んだ。 ペンペンが、死んだ。 碇シンジが、死んだ。 真田弦一郎が、死んだ。 神崎麗美が、死んだ。 高坂王子が、死んだ。 そして遠山金太郎が、死んでいた。 嫌だった。 一人前になりたくても、一人になりたかったはずがない。 『死んだ』と言われるたびに胸が穿たれて、うんざりだと叫びたくなる。 だって、『死んだ』ってことは、もう終わったってことで。 ぶつかって勝ち負けを競ったり、遊んだり、新しいことを知ったりすることが二度となくなったってことで。 神崎麗美が、跡部景吾を殺したと言った。 神崎麗美が、ペンペンを殺した。 バロウと呼ばれていた少年が、神崎麗美を殺した。 バロウが、手塚部長を殺したと言った。 バロウが、高坂王子を殺した。 ごちゃごちゃだ。 泣いたり、怒ったり、悩んだり、疲れたり。 背負うべきものがあって、手が届かなかったものもある。 青学の柱だって、べつに聖人じゃない。 仲間を傷つけた相手には痛い目を見せてやりたいし、 部長や副部長のように誰が相手でも公平にするような自制心にはまだまだ及ばないし、 たまには疲れたと根をあげたくなることだってある。 だから、困る。 天野雪輝の大事な人である我妻由乃が、遠山金太郎を殺した。 「何か僕に言いたいことはある? コシ……じゃない、越前くん」 高坂王子の言っていた『救われてもいい天野雪輝』の。 「いや……っていうか」 外科病棟の待合室で。 自嘲じみた笑みをうっすら浮かべて、対面に座る天野雪輝。 一万歳の神様は、自分に起こったことを全て打ち明けて、そして感想を求めた。 だから、答える。 「世界が二週したとか三週したとか、そんなややこしい話をよく遠山が理解できたなぁと思って」 「最初の感想が、それ?」 綾波に横から突っ込まれた。 リョーマは綾波が見つけてきた車椅子の上に座らされ、綾波はその隣にある座席に座っているので、目線はほぼ同じ高さにある。 休めばちゃんと動けるようになる怪我だからとリョーマ自身は車椅子に反対したのだが、 (根拠として同じ症状を出した真田は数時間かからずに動けるようになっていたので) 綾波は少しでも動かさないようにすべきだと譲らなかった。 ちなみに、骨折した右腕も綾波の手によってがっちりと固定されている。 綾波自身、この手の怪我を見慣れているというか、主に手当される側であり、やり方には心得があったらしい。 呆れとも困惑ともつかない風に顔をひきつらせて、天野は答える。 「知ってる漫画の内容とかに当てはめて考えたみたいだったよ」 「……あ、納得」 それなら分かると、疑問が解決した。 話のスケールはとんでもない。 すべてを0(チャラ)にするために神様になろうとしたとか。好きな女を追いかけて時空を超えたとか。 それなのに、天野雪輝は頼りない笑みを口の端に浮かべて目の前にいる。 だがしかし、遠山金太郎があっさり受け入れたという話を、自分が飲みこめないというのは癪だった。 だから、理解がおよぶ部分から言葉にしていく。 「高坂さんが、アンタのこと色々言ってたよ」 「どうせ弱虫とかヘタレだとか、そんなことだよね?」 「うん、あと、バカだとか甘ったれだとか」 「あ、そう……」 「うん、そのイメージ通りの人だった」 「君……その話し方でよく高坂と喧嘩にならなかったね」 「でも、最後に言ってた。『別にアイツを救いたいとか思わないけど、救われてもいいぐらいには思ってた』って」 「高坂、が?」 淡々と話を続けていた顔が、そこではじめて揺れた。 その動揺を見て、ほっとしていることに気づく。 高坂が天野と張り合おうとしていたように、天野も高坂に対して思うところはあると分かったからか。 「じゃあ、君はどうなんだ? 遠山を見殺しにして涙ひとつ見せない神様を、どう思う」 ぜんぜん『神様』っぽくは見えない、と揚げ足を取る。 少なくとも、『神様に勝ちたい』と公言していたリョーマの前に、『僕がラスボスです』と言って現れたのがこいつだったら…………なんか、嫌だ。 「泣きたくても泣けないことがあるのは知ってるし、別にそれはいい」 隣にいる綾波が、右手を自身の胸にあてた。 どう考えたらいいんだろうねと、内心で呼びかける。 遠山が死んだのに、天野が生きていると恨めたら簡単なのかもしれない。 神崎麗美に指摘されたように、そう考えたいことだってある。 でもそれは簡単なだけで、ぜんぜん楽にはなれそうになかった。 だいいち、天野雪輝に向かって責任追及する権利があるのかどうか。 そこを槍玉にあげるなら、あの神崎麗美が中学校でやらかしたという話には、リョーマ自身の責任も絡んでくるだろうし。 ただでさえ色々とすごく痛いのに、無駄に傷つけあうことになるだけだ。 「高坂さんが殴ったのもあるし。アンタが昔に色々やって、さっきまでグダグダだったってことは別にいいよ。 お年寄りはいたわるものだし」 「お、お年寄り……」 天野雪輝をどうこうしてやりたいというのは無い。 文句を言うべきはそういう選択をした遠山自身であって、それは死体の前で洗いざらいぶちまけた。 「ただ、話を聞いてて気になったんだけど」 でも。 あの死体は、我慢できない。 あの血だまりは。二つに切り裂かれてしまった体は。空っぽになってしまった瞳は。 因縁浅からぬ知り合いをあんな死体に変えたヤツは、許せそうにない。 「もし、その我妻って人が皆を殺したことを悪いと思ってなくても、気にしないの? 一緒に星が見れたら、それでいいの?」 「ああ、それでいいよ」 自信ありげに、うっすらと笑みを口の端にのせて。 即答だった。 「――っ!」 今だけは、足を怪我していることに感謝した。 すぐに立ち上がることができたら、たぶん天野の胸ぐらをつかんでいた。 その代わり、本気なのかと抉るように眼力をこめて天野を睨み据える。 天野は動じない。 仮面をかぶったように冷たく、揺るぐものがないように堂々としている。 高坂王子に殴られて、泣きそうな顔をしていた頼りない少年とは別人のようだった。 「遠山は、僕にとっても友達だった。友達だって言ってくれた。 だから僕は、遠山を殺したことについては、由乃に怒ってる。 でも、だからって由乃を諦める選択肢は無い。 皆と一緒に脱出することも考えるし、助けられた借りだって返したい。 協力できることがあれば何でもする。 ただし、由乃のことだけは譲れない」 でも、そんな僕と相容れないならここでお別れだと、天野は言った。 試されるような視線を、向けられる。 勝手だ。 勝手なことを言ったくせに。 見捨てたらこっちの器が小さいかのような態度を取るなんて、勝手だ。 しかも。 きっと、ここで怒りに任せて突き放しても天野は恨まない。そういうものだから仕方ないと、割り切って別れを選ぶ。 でも、きっと誰も助けてくれないだろうと独りになる。 味方は秋瀬或ぐらいだと、勝手に諦めるのだろう。 それはきっと、遠山も高坂も望んでいない。 誰だって、自分だって、後味の悪い思いをするために、戦ってきたんじゃないはずだから。 じゃあ、どんな言葉をかけたらいい。 気に入らないこともあるけど我慢して一緒にいよう、では足りないと思う。 これから似たような想いをする人と会っても、『俺だって我慢してる。だからお前も我慢しろ』とでも言うのか。 そういう『柱』を、人は信用するのか。きっと信用しない。 考える。難しい。難しい。難しい。 「――大丈夫」 ぽつりと。 リョーマの顔をのぞきこむようにして、綾波が言った。 「越前君が無理なら、私が間に立つから」 念を押すようにひとつ頷くと、雪輝に向かい合って、話す。 「本当に好きな人のこと以外どうでもいいなら、ありのままを話したりしない。 私たちを利用するためにごまかして印象操作をするはず。でもあなたはそうしなかった」 「分かったように話すんだね」 「私のいた場所にも、そういう仕事を専門にした人たちがいたから」 リョーマが感情として我慢できないなら、その間は綾波が代わりに話すということなのか。 さっき寝ている間も、天野たちにこれまでのことを説明していたようだった。 その詳細までは知らないけれど、しっかり天野と言葉を交わして、その上で『言葉が通じないわけじゃない』と判断した。 だったらと、気持ちが少しだけ甘くなる。 綾波を信頼している分ぐらいは、彼女に免じたい。 それに、天野の背中は、遠山金太郎の血で汚れていた。 つまり彼は、ギリギリまで遠山を見捨てずに背負って走ったのだろう。 だから、友達だったというのは本当だ。 生前の記憶からヒョウ柄シャツの少年を呼び出し、その屈託のない笑顔に向かって、ややこしくなったのはお前のせいだと毒づく。 遠山は、跡部景吾が殺されたことも気にしないと言ったらしい。 一発ぶっとばさなければ気が済まないけれど、それで終わり。 そうするのも、分からないわけじゃない。 自分だってバロウが許せないけれど、だから殺そうとはならなかった。 でも、好きなだけ殴れば気が済むかと言われたら違う。 殴ったぐらいでおさまるのか。 あの血だまりを、乗り越えていけるのか。 だいいち、殴るのはすでに高坂が天野にやっている。 我妻に同じことをしても、きっと天野に対しての『あれ』以上の効果は出せない。 じゃあ、部長だったら? 厳しいあの人あったら、こういう時どうす―― ……………………あ。 閃く。 冷めた声で、問いかけていた。 「悪いとは思ってるんだよね? だったら、代わりに責任取ってって言ったら、取ってくれるの?」 そんな風に切り出すと、天野たちの表情が険しくなった。 天野のたつての願いで口を挟まないと診察室に待機していた秋瀬或が、警戒して顔をのぞかせる。 「アイツは一発ぶっ飛ばせば終わりって言ったみたいだけど。 オレ、その時まで我慢できそうにないから。 だから、好きな人のけじめぐらい、ちゃんと自分でつけてよ」 そこまで大事な人のためなら、逃げないよねと。 念を押すように、視線でがっちりと捕える。 覚悟したような顔で、雪輝が頷く。 「いいよ。それで由乃が、少しでも安全になるなら。 もっとも、迎えに行けなくなると困るから、動くには問題ない程度にしてほしい」 場の規律を乱すような者は、どうなるのか。 悪いことをしたら、どんな罰を受けるのか。 最初に会った時から、身をもって体験させられてきた。 絶対に、間違いなく、『100パーセント(CV青学テニス部3年乾貞治)』で、こう言う。 子どもじみた意趣返しもあり、たーっぷりと間を置いてから言った。 「じゃあ、グラウンド100周走ろう」 「「「は?」」」 まず反応を示したのは、綾波だった。 「グラウンドが、どこに?」 「こんだけ広い病院なら、運動用の部屋ぐらいあるでしょ。 リハビリに使うようなの。そこの中を100周で」 「越前君? いくらなんでもそれは、雪輝君は足を撃たれているし――」 秋瀬或も、冷静さをやや崩した声で反対する。 「カスリ傷だって言ってたし、さっきまで歩きまわってたじゃないっスか。 それに室内なら学校のグラウンドより距離短いし、筋肉痛とかも心配ないっスよ、たぶん」 「な、なんで急にそんな体育会系の発想が出るの?」 天野雪輝が、見るからにうろたえた。 「これから彼女さんと一万年間の距離を縮めに行くんでしょ? それに比べたら100周くらい準備運動みたいなもんじゃないっスか」 「上手いこと言ってるつもりっぽいけど、それ全然関係ないよね」 「これが一番すっきりするから」 たぶん口を笑みの形にしながら、リョーマは言った。 「絶対に諦めたくないって、初めて本気になったんでしょ? その本気、見せてよ」 中学生日記 ~未完成ストライド~