約 4,150,714 件
https://w.atwiki.jp/83452/pages/8534.html
10分後! 唯「だから心の綺麗な私には見えるの!」 憂「見えないよ!」 唯「憂は心が汚いからね!私には見えるよ!綺麗なガラスの橋が!」 憂「ぜんっぜん見えないよ!眼科行って来なよ!」 唯「あんたが行きなさいよ!とにかく私の言うとおり一歩踏み出してみればいいの!」 憂「冗談じゃないよ!ここまで操作してきたのは誰!?私だよ!?もう一度一階からやり直しなんて冗談じゃないよ!」 唯「ぐだぐだ言わないでよ!いいから貸して!」バシッ 憂「あ、ちょっと!コントローラー返してよ!」 唯「見てなさい!」 トテトテトテトテ ヒューーーーーースタ 唯「……」 憂「……」 5分後! 憂「うーん、それっぽいアイテム見当たらないなぁ…」 唯「…………」 憂「やっぱり一回お城に戻ろうかな…」 唯「…………ハァハァ」 憂「あ、たぶん修道院だよ!やっぱり一回戻ろう!」 唯「…………ハァハァ…………う、うい……?」 憂「なに?」 唯「…………いつまでこれしてればいいの……?」 憂「打開するまで」 唯!三点倒立中! 10分後! 憂「うーん、わからないよ…詰んでる状態……?」 唯「……ハァハァハァハァハァ……う、うい……」 憂「なに?あ、足曲がってるよ。伸ばして?」 唯「……ハァハァハァハァ……も、もう一度だけチャンスを頂戴……」 憂「うん。打開したらね。」 唯「そ、そうじゃなくて……わ、私わかったの……」 憂「何を?」 唯「見えない通路……」 憂「……さっきもそれで失敗したじゃない……」 唯「さ、さっきは……えと、その……あっ!歩く位置がおかしかったの!」 憂「もういいよ」 唯「ういーーー!聞いてよ!」 唯「もう!絶対私の想像通りだよ!」 憂「絶対ないから……もしそんなくだらないのだったら失笑しちゃうよ」 唯「もう!ういのばか!」 憂「トイレ行って来るけど…三点倒立そのままね」 唯「小姑女!」 憂「……」トテトテトテ ガチャッ 唯「……」スッ 唯「……」ピッピッ スタスタスタスタ 唯「……」スタスタスタ スタスタスタ…………ソォ…スタ 唯「……!!」 憂「……ふぅ」ガチャッ スタスタスタ 唯「…………」 憂「あっ!ちょっと!何休んでるの!?早く三点倒立してよ!」 唯「…………」 憂「ちょっと!心のきったないお姉ちゃん!早く!何してるの!?」 唯「………テレビ見なさいよ」 憂「え?…………あっ…………」 唯「……」 憂「…………あの……えと……」 唯「なに?」 憂「いや……その……」 唯「謝らなくてもいいよ」 憂「え!……お、おねえちゃー…」 唯「薬局行くよ」 憂「え?」 薬局! 店員「いらっしゃいませー何かお探しでしょうか?」 憂「あ、あの……」 唯「『(…………)』」コソー 店員「はい。なんでしょうか?」 憂「そ、その……」チラッ 唯「(は や く 言 い な さ い !)」パクパク 憂「…お、お、お姉ちゃんをし…、信じられない、私の濁りきった目でも潤せる目薬をく、ください!」 店員「は、はい…?」 唯「(ぶふふはあっはっはあはははは!ぶふふ!うひふふあっは!)ゴホッ!ゴホッ!」 グランバニア!サンチョの家! 唯「サ、サ!なんだっけ?」 憂「サンチョだよ!生きてたんだねぇ」 唯「そうサンチョだよ!年いくつだろ!」 憂「40近いんじゃないのかなぁ?」 唯「そういえばゆいは?」 憂「え?あ、あぁゆいは7歳ぐらいで10年間奴隷してたんだから18歳ぐらいかなぁ?」 唯「わかいねぇ」 憂「わかいね」 唯「ビアンカは2歳年上だから20歳なんだ!」 憂「あ、そういえば最初にそんなこと言ってたね。よく覚えてるねお姉ちゃん」 唯「ふふん」 憂「船で宝箱に費やした時間は?」 唯「二時間って、やかましいよ!」 10分後!王室! 憂「う~ん話の流れからして王様になるには試練の洞窟クリアしないと駄目みたいだね」 唯「ビアンカちゃんが抜けちゃうよ?どうしようか」 憂「スラリンが居るよお姉ちゃん」 唯「うーん私が言うのもなんだけど、ビアンカちゃん産気づいてるから今後かなりの期間パーティーから外れちゃうと思うんだ」 憂「あ、そうだったね!なるほど」 唯「だからね新しいパーティーメンバーを入れたらどうかな?……かわいいの……とか……」 憂「おねえちゃん?」 唯「な、なにかな?」 憂「契約の内容もう一回言ってみて」 唯「な、仲間モンスター3匹権限とう、ういがパーティー編成…」 憂「だよね?」 唯「う、うん……」 憂「ここまで散々苦労したのは誰の何のせいかな?」 唯「……う、わ、私の…趣向パーティーのせい…」 憂「もうダニーみたいなのはコリゴリだよ」 唯「こ、こりごりダニー……なんちて…」 憂「……」ピッピッ 唯「無視しないでよ!」 憂「ういです。」 憂「結局パーティーモンスターは、メッサーラを選択しました」 憂「比較的仲間にしやすかったのと、見た目的に将来性があると感じたからです」 憂「お姉ちゃんは終始可愛くない可愛くないと連呼してました」 憂「正直私も全く可愛くないと思ってます。でもそれを言うとまたお姉ちゃんが騒ぎ出すので黙っています」 というわけでパーティ! ゆい ビビンバ キングス サーラ 1時間後!試練の洞窟1F! 唯「う、ういー……」 憂「うん……お姉ちゃん……」 唯「わけがわからないよ…」 唯「なんなんだろう…トビラが四つもあるよ?」 憂「でも中で繋がってるんだよねぇ……」 唯「レリーフもあるけど……調べられないね…」 憂「たぶん謎解きだよ」 唯「勘弁してよ…橋の下の洞窟にさえ気づくのに10時間かかったんだよ?何日コースになるの…」 憂「だ、大丈夫だよ!あれはただ紛らわしかっただけで今回は初めからなぞが提示されてるじゃない!」 唯「……私達に解けると思う……?」 憂「…………」 唯「……黙らないでよ…」 20分後! 唯「……」スタスタ 憂「……」 唯「……」スタスタ 憂「……」 唯「……あ!」 憂「…え?」 唯「部屋が変わってる!!」 憂「嘘っ!?あ、本当だ!お姉ちゃんすごい!」 唯「ふふん!……あれ?でも通路とか現れたりしないよ?」 憂「えっと、お姉ちゃんどうやってこの部屋に着いたの?」 唯「さぁ?適当に出たり入ったりしてただけ」 解説だよ! ゆいたちが現在詰んでる場所は試練の洞窟1F! ここは二つの小部屋が4つのトビラで繋がってるの! どのトビラをあけても部屋は二つしかないから結局一緒ってことだね! ちなみに正しい解法は、どれでもいいからトビラを開け、出てくるときに右端のトビラを通る。 その次にもう一度入りなおして、今度は左から二番目のトビラから出てくれば階段が現れるの!不思議だね! 憂「待って!たぶん入るトビラと出てくるトビラの選択で部屋が変わるんだよ!」 唯「おーなるほど…」スタスタスタスタ 憂「だから今お姉ちゃんのファインプレイは最高だよ!あともう一押しでどっかに通路があくはずだよ!」 唯「さすがういだね!」スタスタスタ ガチャ 憂「あ」 唯「あ」 憂「何で好き勝手に開けちゃうの!?」 憂「もう!お姉ちゃんの馬鹿!いいよ!私が計算するから!」 唯「ご、ごめん…」 憂「えっと…入るトビラと出るトビラは共に4つずつだから16パターン…」 唯「……」スタスタスタ 憂「正しいルートが1つだと仮定すると…………」 唯「……」スタガチャ スタガチャ 憂「1回じゃなくて、2回正しいルートを通らないといけないなら……16×16……256通り……」 唯「……あ」ガチャ ダッダッダ 憂「ちょっと待ってよ…1回試すのに10秒はかかるから単純に2560秒……」 唯「……」スタスタ ピロリロリン 憂「……え!?ちょ!ちょっと!何そこ!?」 唯「あ、ういーなんか水に流されちゃうんだけど……」 憂「知らないよ!さっきの部屋は!?打開したの!?何で教えてくれないの!?」 唯「う、ういが必死に勉強してたから……?」 憂「誰のためにやってたのよ!絶対わざとでしょ!?」 唯「このスイッチ押すとね、水が出て来るんだよ」 憂「うん」 唯「でも押さないと進めないんだよ」 憂「うん」 唯「……どうしよっか?」 憂「岩」 唯「え?」 憂「横にこれ見よがしな岩あるじゃない…」 唯「……うん。……え?」 憂「コントローラー貸して」 唯「え、はい。」 憂「……」ゴロゴロゴロ ピッ ザーーーー 唯「あ、あぁ……あぁあぁ。」 憂「……」 唯「……岩に隠れてね……あぁはいはい。」 憂「……」 唯「あー幼稚すぎじゃない……?こう言うのもなんだけどさ」 憂「……」 唯「大体これってあれと一緒だよ。サルの知能テストと同じレベルじゃない……馬鹿にしてるよ…」 憂「……」 唯「そりゃあ初めて入った時は岩に目が行くよ?……でもまさかこんな単純さなんてだれもそうぞ…」 憂「おねえちゃん」 唯「な、なに…?」 憂「もういいの……」 唯「…………うん。」 憂「……」ピッピッ スタスタ 唯「……」 憂「……」スタスタ 唯「……あ、ういその宝箱」 憂「なに?」 唯「それね、たぶんミミック」 憂「え?何言ってるの?」ガチャ 宝箱はなんとミミックだった! 憂「!?」 憂「な、な、なんでわかったの!?」 唯「え?なんとなく…」 憂「何でなんとなくでわかるの!?」 唯「いや、配置的に……正規ルート上にあったし……」 憂「す、すごい!すごいよお姉ちゃん!」 唯「そ、そうかな……あはは…」 憂「うん!もうインパスいらないよ!人間インパスだよ!」 唯「め、メダパニの次はインパス…」 憂「じゃあ、お姉ちゃん次から期待してるよ!」 唯「ま、まかせて……」 10分後! 憂「お姉ちゃんこれは?」 唯「えっと……た、たぶんアイテム……」 憂「ブー1000ゴールド。しっかりして」 唯「どんな精度期待してんのさ!」 試練の洞窟最後の間! 唯「うーん。……ねぇあともうちょいでクリアだよね?」 憂「うん……たぶん」 唯「でも……ね…」 憂「……うん」 唯、憂「「相変わらず最後で詰むんだよなぁ」」 1時間経過! 2時間経過! 唯「…………」ウロウロ 憂「…………」ペラッ 唯「…………」ウロウロ 憂「…………」ペラッ 唯「…………」ウロウロウロウロ 憂「…………」ペラッ 唯「漫画読んでないであんたも手伝いなさいよ!」 8
https://w.atwiki.jp/ichidare/pages/16.html
圧縮された石炭 目次 レシピ 用途石炭ブロック x9 レシピ 必要素材 石炭ブロック x9 用途 石炭ブロック x9 必要素材 圧縮された石炭
https://w.atwiki.jp/kokigame/pages/126.html
せきさば! 577 :名無したちの午後:2011/10/29(土) 05 51 11.41 ID W30uN3270 ・せきさば! そのか:腋コキ 叶: 乳首に押し付け手コキ 風呂場で全身を愛撫しながらの手コキ 柚希: 手コキから弄り合いに発展しつつも、手で射精 足コキ あかり: 背後から身体を押し付け黒ストッキングを穿いた脚で言葉責め足コキ 女子トイレで拘束されてサバゲ用の革グローブをつけた手で言葉責め手コキ 琴葉: ロッカーの中で密着手コキ 69体勢でクンニしながら手コキ 射精ありでカウント。尺は長いが、コキ語は特になし。 まさか手コキで中/外出し選択があるとは思わなかった。 そのかが残念だったが、全体的には良コキゲーだと思う。 関連レス
https://w.atwiki.jp/83452/pages/18230.html
◎ 「それにしても、よくあんないっぱいあったもんだよなー」 パンパンに膨らんだリュックサックを背負って、自転車を漕ぎながら私は呟く。 かなり肩に来る重さだけど、今後の事を考えると贅沢は言ってられない。 特にムギは私以上に大きなリュックサックを背負ってるんだ。 これで文句を言っちゃ罰が当たるってもんだ。 「非常時の事を考えて用意してくれてたらしいの。 そんなに必要なのかな? って前から思ってたんだけど、 実際こうして役に立つ日が来たんだから、人生、何が起こるか分からないよね」 ムギが苦笑しながら呟く。 その顔に少し元気が無いのは、 やっぱり誰の姿も無い自宅を目の当たりにしてしまったからだろう。 期待しちゃいけないって事は、ムギだって分かってたと思う。 これだけ捜しても、私達以外の姿は何処にも見つからないんだ。 自分の家族だけ無事に居てくれるって考えるなんて、都合が良過ぎる。 分かってる。 私だって分かってるつもりだった。 でも、我ながら馬鹿だなって思うんだけど、 自分の目で確認しなきゃ、期待や希望ってものは持ち続けちゃうものなんだよな。 私なんか自分の家族を自宅に見つけられなかったのに、 ひょっとしたら、ムギの家族だったら無事かもしれないって期待しちゃってたんだ。 ムギの家族は金持ちだ。 どれくらい金持ちなのかはしらないけど、 ただ事じゃないくらいの金持ちではあるらしい。 別荘だって何件も持ってるんだしな。 だから、私は馬鹿みたいな期待をしてた。 金持ちのムギの家族は前々からこの世界……、 まあ、国どころか県からも出てないから、他の地域の事は何も分からないけど、 とにかくこの世界から生き物が全て消失するって現象を予期してて、 今もその現象への対策を自宅の対策本部かなんかで練ってくれてるんじゃないかってな。 勿論、そんな事があるはずも無かった。 そりゃそうだ。 大体、こんな状況になる予期をしてたんだったら、 大切な娘のムギをみすみす外出なんかさせるかっての。 分かっちゃいたけど、期待せずにはいられなかった。 自分の力じゃどうにもならない気がして、他の力のある誰かに頼りたかったんだと思う。 こんな状況、自分達じゃどうする事も出来ないから……。 だから……、誰かに助けてほしかった。 誰かに救ってほしかったんだ……。 でも、その期待は簡単に打ち崩された。 私の実家より遥かに大きくて、 執事やお手伝いさんなんかも大勢居るはずのムギの家にも、誰一人居なかった。 それどころか、ムギの家で飼ってるらしいミシシッピ何たらって亀の姿も一匹も無かった。 分かっちゃいた事だけど、 もう本気で私達以外の生き物はこの世界に存在しないのかもしれない。 無音が私の耳に届く。 いや、自転車の車輪の音と風の音くらいは聞こえるけど、そんなの音じゃない。 音だけど、音じゃないんだ。 音ってのはもっと……、そう、他の誰かや他の何かが立てる物音なんだと思う。 騒がしくて、やかましくて、嫌になる事もあるけど、 その一切が消えてしまった今じゃ、ほんの少しの雑音だって懐かしかった。 誰か他者の存在を感じたかった。 でも、そんなに落ち込んでるわけでもない。 事態が良くなったわけじゃないけど、 自分の置かれた現状が分からなかった時よりはずっとマシだと思う。 テストの結果を待ってる時と、テストの結果が出た後って感じかな。 変な例えなんだけどさ。 テストの結果なんて、自分がテストを解いた時点でもう決まってるのに、 テスト用紙が返ってくるまで、いい点であるよう神様に祈るなんて、誰だってやる事だと思う。 私なんか大学受験の時は、結果が出るまで神様にずっと祈ってた。 結果が分からない時ってのは、それくらい変な期待に満ち溢れちゃうもんなんだよな。 だから、同時に不安にもなる。 期待をするから、そうじゃなかった時の心配もどんどん膨らんでく。 それに押し潰されそうになる事もある。 でも、良い結果でも、悪い結果でも、出てしまえばそれは単なる結果なんだ。 最悪な結果でも、出ないよりはずっとマシなんだと思う。 町をずっと回って、ムギの家を訊ねてみて、 少なくとも市内には誰一人居ないのは間違いなさそうな感じになってきた。 嫌な調査結果だけど、そのおかげでこれからの事を考えられるって事でもある。 落ち込んでる暇なんか無い。 それに私には、まだ大切な仲間が居るんだからな……。 負けてられないよな……。 私は微笑んで、ムギにもう一度話し掛けてみる。 「だけど、ムギも寂しがりだよなー。 自分のキーボードを使いたいからって、電池を取りに行くなんてさ」 「えへへ、ごめんなさい……。 だって、皆は電気が通ってなくても楽器を弾けるのに、 キーボードだけはどうしても電気が無いと弾けないじゃない? 皆が演奏してるの見てて、自分だけ演奏出来ないのは寂しかったんだもん……。 音楽室にはピアノが置いてあるにはあるんだけど、 音色は違ってくるし、やっぱりね……、私は自分のキーボードが弾きたかったの。 これって我儘……かな……?」 視線を落とし、寂しそうに苦笑するムギ。 私は自転車のペダルを漕いでムギに並び、軽くその頭を撫でた。 「我儘だなんて、そんな事無いって、ムギ。 ミュージシャンとしては、むしろ我儘なくらいで問題無しだし! それより私達も自分達の事ばっかり考えちゃってたみたいでごめんな。 そうだよな。キーボードは電気が通ってないと弾けないもんな……。 内蔵電池式ってのもたまにあるみたいだけど、それにしたって充電しなきゃいけないもんな。 それに気付けなくて、私の方こそごめん。 だからさ、帰ったらムギのキーボード聴かせてくれないか? 考えてみたら、ずっと一緒に練習はしてたけど、 ムギのソロのキーボードはあんまり聴く機会が無かった気がするしな。 まずはハニースイートを聴かせてほしいよ。 ムギの口笛聞いてたらさ、本家本元を聴きたくなっちゃったんだよな。 勿論、ボーカル付きでもいいぞ。 そうだ。折角だし、ムギのワンマンライブってのも楽しそうだよな。 報酬は今日の夕食でムギの好きなおかずを一品増しってのはどうだ? と言うか、もうムギの好きなおかずを一品増しにする事は決めたから、 ワンマンライブを開催してくれなきゃ、 報酬だけ受け取っちゃったって後味の悪さを、ムギが感じる事になるんだけどな」 「もう……、りっちゃんたら強引なんだから……。 でも、いいよね。ワンマンライブ、すっごく楽しそう! 三日ぶりだから上手く弾けないかもしれないけど、私、頑張ってみるね。 あ、そうだ! それなら、私、りっちゃんのワンマンライブも見てみたいな。 私、りっちゃんのドラム、大好きだもん」 「私のワンマンライブ……? あ、いや……、別にいいんだけどさ……。 でも、キーボードならともかく、 ドラムスのワンマンライブなんて、多分つまんないぞ? まあ、世界にはドラムスでワンマンライブやれてるミュージシャンも居るけど、 その人達はワンマン用の曲を準備してて、そのテクニックを持ってるわけだしな……。 知っての通り、私が叩けるのは皆で演奏する用の放課後ティータイムの曲だぜ? そんな面白味の無さそうなやつでいいなら、やってもいいけど……」 私が呟くみたいに言うと、ムギが急に真剣な表情を浮かべた。 強い視線を私の方に向けて、強い言葉で話を続ける。 「ううん、つまんないなんて、そんな事無いよ、りっちゃん。 私、セッションしてる時に聴いてるりっちゃんのドラムの音、大好きだもん。 一度、セッション中じゃない時に、落ち着いた気分で聴いてみたかったんだ」 「そう……なのか……? そっか……。 おっし、わかった! だったら、ムギちゃんために、りっちゃんのワンマンライブを開催しようじゃんか。 『ゆいあず』ならぬ『りつむぎ』ユニットの結成だぜ! ユニットっつっても、一緒に演奏するわけじゃないけどな!」 私がニヤリと不敵に微笑んでやると、ムギも不敵な表情を浮かべた。 目尻を細め、口元を悪人っぽく歪める。 出会った頃には想像も出来なかったムギの崩れた表情。 ムギもこういう顔が出来るようになったんだな、って思うと、何だか笑えてくるし楽しい。 まあ、隠し芸でマンボウとか変な顔をする事はあったけどさ。 と。 不意に私は重要な事を思い出し、ムギに真面目な顔を向けて言った。 「ライブもいいんだけどさ……。 ムギに一つお願いがあるんだが、聞いてもらえるか? とても重要なお願いなんだ……」 「重要なお願い……? う、うん……。 私に出来る事なら何でも言って、りっちゃん……!」 「それは助かるよ……。 実はな、ムギ……」 私は言葉を止める。 深呼吸をして、結構勿体ぶってから、私は続けた。 重要なお願いをムギに伝えるために。 「学校に戻ったらさ……。 ………。 肩、揉んでくんないか? 流石に電池が満杯に詰まったリュックは重いわ、マジで。 肩が痛くなって来ちゃって、結構きついんだよなー」 言った後、「きゃはっ!」って可愛い子ぶってから、ムギにピースサインを見せる。 ムギが少し呆けた表情になったけど、 すぐに「りっちゃんったら……」と苦笑しながら呟いた。 よかった。笑えてもらえたみたいだ。 少しはムギの気が晴れてたら嬉しい。 勿論、これはムギを笑わすために言った冗談なんだけど、 実を言うと、ほんのちょっだけ冗談じゃなかったりする。 いやー……、流石に単一、単二、単三、単四全部で五百本を超える電池は重いよ。 学校に戻ったらしばらく休んで、本当に誰かに肩を揉んでもらいたい。 そりゃ、今後の事を考えると、電池は必要な物なんだけど、 でも、それにしても、単二電池なんて久し振りに見たな……。 小学校の理科の授業で先生が持って来た以来じゃないか? 流石は琴吹家。 準備がいいと言うか何と言うか……。 まあ、単二電池を使う機会は、これからも絶対に無い気がするけどな。 ちなみに私より大きいムギのリュックの中には、 ただの電池だけじゃなくて、変圧器や蓄電池も入ってる。 キーボードを使うには単なる電池じゃ駄目なのは分かってるけど、 まさか蓄電池や変圧器なんかも用意してるなんて、やはり恐るべし琴吹家。 金持ちをやるにはそれくらいの用意周到さが必要なのかもな。 「分かったわ、りっちゃん」 急にムギがまた真剣な表情を浮かべて言った。 私より遥かに重いリュックを背負ってるのに、それはそれは力強い表情だった。 「学校に戻ったら、私、りっちゃんの肩を思い切り揉むね! 大丈夫、心配しないで。 こんな時のために、お家で誰かの肩を揉む練習してたから! 私、友達の肩を揉んであげるのって、一度やってみたかったの!」 「そ……、そうか。ありがとう、ムギ……。 お手柔らかに頼むな。 くれぐれもお手柔らかに頼む……」 くれぐれも、本当に、くれぐれもお手柔らかに頼みたい。 ムギって力持ちだからなあ……。 あんまり力を入れられると、逆に酷い事になりそうだ。 自分から頼んでおいて何なんだけどさ……。 でも、練習してたって言ってるから、多分、大丈夫かな。 ムギはそういう気配りは出来る子だから、心配する事は無いはずだ。 そんな風にムギの事を考えていると、いつの間にか私は微笑んでたみたいだった。 その私の表情に気付いたのか、ムギがまた静かに言葉を続ける。 「そうだ、りっちゃん。 りっちゃんの肩を揉む代わりに、私も一つお願いをしていい? 一つだけ……、りっちゃんに大切なお願いがあるの……」 「何だ? うん、いいぞ。何でも言ってくれよ、ムギ。 肩を揉んでくれるお返しだ。出来る限りのお願いなら聞くぞ」 私はムギに笑い掛ける。 ムギの大切なお願いなら、聞かないわけにはいかない。 ムギには普段からずっとお世話になってるんだもんな。 肩を揉らうお返しじゃなくたって、ムギのお願いなら何でも聞いてあげたい。 ムギは小さく息を吸い込む。 深呼吸してるんだろう。 そのお願いを口にするのを、結構躊躇ってるみたいだ。 そんなに言いにくいお願いなんだろうか……? まさか、憂ちゃんとの馴れ初めを教えてほしい、とかってお願いじゃないよな……? そういやムギの誤解も解けてない事だし、そういうお願いもある……のか? つい変な事を考えちゃった私だけど、 それからムギは、そんな私の考えとは全然異なった真剣な言葉を口にした。 「あのね、りっちゃん……。 私が言う事じゃないと思うんだけど……、 こんな事、私に言われなくたって、りっちゃんなら分かってると思うんだけど……。 でもね……、私の我儘だと思って聞いてほしいの。 ねえ、りっちゃん……。 あの……ね……、澪ちゃんのね……、傍に居てあげてほしいの……。 りっちゃんが傍に居れば、澪ちゃんももっと安心出来ると思うし……。 だからね……」 言葉を止めて、ムギが視線を伏せる。 漕いでいたペダルも止めて、その場……道路の真ん中に自転車を停める。 ムギより少しだけ前に行っちゃってた私も、 自転車を停めて、ゆっくりとムギの表情を覗き込む。 ムギはとても不安そうな表情を浮かべていた。 その表情には「言っちゃった……」って書いてあるように思えた。 ムギが言葉通り、それはムギが言う事じゃない。 ムギに言われなくたって、私にも分かってる。 私は澪と話をするべきなんだって。 傍に居て、また今朝の挨拶程度じゃなくて、 もっと笑い合えるように努力するべきなんだって。 分かってる。分かり切ってるし、実際にも今晩に澪と話そうと思ってた。 そんなの、ムギに言われる事じゃないんだ。 ムギもそれを分かってる。 自分がそれを口にするべきじゃないのかもしれない、って思ってる。 だから、不安と後悔に溢れた表情を浮かべてるんだろう。 私はムギの言葉に腹が立った。 そんな事、ムギに言われるまでもない……。 腹が立って、拳を握って、不安そうなムギに向けて言葉を届けた。 「ああ……、そうだよな……。 澪の奴の傍にも、居なきゃいけないよな……。 あんなに不安そうにしてる幼馴染みの傍に居ないなんて、駄目だよな……。 ごめん、ムギ。嫌な事、言わせちゃって……」 言い終わってから、ムギに頭を下げる。 そうなんだよな。 ムギに言われなくたって、澪の傍に居るべきなんだって事は分かってる。 今晩、話をしようとも思ってた。 だけど、ムギに言われなきゃ、それは思うだけだったかもしれない。 いや、多分、そうだったと思う。 私って頭で分かってても、行動に移せない事が結構ある。 勉強しなきゃと思いながら遊んじゃいがちだし、 受験する大学の事も全然考えてなかったし、 前に澪と喧嘩した時も、謝ろうと思いながらも自分から謝りにはいけなかった。 今だって……。 今朝の事を思い出す。 和、純ちゃん、梓、憂ちゃん……。 皆、私と澪の事を心配して、話しに来てくれたんだろうと思う。 勿論、動機の全てってわけじゃないんだろうけど、何割かはそうなんだろうな。 だから、私は腹が立って仕方が無い。 勿論、何も出来てない自分自身に対してだ。 皆に気を遣わせて、心配させて、澪にも不安な気持ちを抱かせたままで……。 元とは言え、部長の私が何やってんだよって話だよな……。 「謝らないで、りっちゃん……。 謝らなきゃいけないのは私の方なんだから……。 勿論、澪ちゃんの事は心配。 澪ちゃんにはまたりっちゃんと二人で、いつもみたいな笑顔を見せてほしい。 でもね……、それだけじゃないの……。 私、りっちゃんと澪ちゃんが一緒に居ないのが嫌で、 それが恐くて、自分が不安なのを我慢出来なくて……、 だからね……、りっちゃんと澪ちゃんの問題なのに、 こんな事、口をするべきじゃなかったのに、私……」 ムギが辛そうな表情を浮かべて、私に頭を下げる。 確かに当人同士の問題に口を出しちゃいけない、ってのは一般常識だ。 本当はそんな事に第三者が口を挟むべきじゃない。 でも、それだけ私達の……、 いや、私の行動が見るに堪えなかったって事でもあるんだよな。 確かに私は澪から逃げてた。 澪に何を言えばいいのか分からなくて、 あいつを余計傷付けないようにって言い訳して、あいつから遠ざかってた。 言い訳して、逃げてたんだ。 一番恐がってるはずのあいつをほっぽり出して、自分が傷付かないように……。 「いいよ、ムギ。 こっちこそ、ごめんな。 言ってくれて、ありがとう」 私は自転車から降りて、ムギの方まで歩いていく。 ムギは長い髪を震わせて、まだ不安そうにしていた。 歩み寄りながら、私はもう一度口を開く。 「ムギの言う通りだと思うよ。 伝える言葉が思い付かなくても、澪とはもっと話しとくべきだった。 頭じゃ分かってたんだけどさ、私も恐かったんだな、結局の話……。 不安に怯えてるあいつを前にして、 もっと不安にさせちゃったらどうしようってさ……。 でも、それじゃ駄目なんだよな。 怯えてるのは澪だけじゃなくて、逆に私の方が澪よりも怯えてるのかもな……。 澪の奴だけどさ……、本当に困った奴だよな。 皆、恐いのに真っ先に怯えちゃうしさ、 今だけじゃなくて、普段から駄々こねてばっかりだし……。 だけどさ……、 澪が真っ先に恐がってくれるから、 私達が妙に落ち着けるってのもあるよな。 澪が慌てたり恐がったりすると、何だかすごく落ち着かないか? 澪も別に意識してやってるわけじゃないんだろうけどさ」 15
https://w.atwiki.jp/bijinnnimotetai/pages/38.html
ここのページでは本スレで提唱されたor用いられることの多い理論についてピックアップして掲載してあります。 提唱された理論一覧 ベクトル理論 おっぱい理論 段階理論
https://w.atwiki.jp/bloac/pages/27.html
順番等は考慮していません ID タイトル 作成者(敬称略) プレビューorステージ概要 備考 413177 7階 cache 塔7階を参照 398626 freedom ウムライト 作成者が削除 392525 P. 鬼畜だったような気がする 386132 no title しょぼーん( ´・ω・`) 塔 385943 stage6 masami 全面 378276 堕空間 堕式 黒Bと茶Bの全面http //www.blockquest.net/level/154906/に、このステージの元となったステージがある。 375576 採掘の穴場 lump 茶B主体の全面 373236 no title ラブパ攻めの人 アートhttp //www.blockaction.net/?action_id=462409で本人がこのステージを再現した。 367651 たまにこういうのしか作れなくなる ヤコ 茶Bと降下B中心の全面赤棘に当たらないように降下Bの上を飛び石のように渡る。 363202 no title 16n+1 アクション ???? 不明 tt 黒メインで反転を蹴って進む新種の鬼畜ステージ ???? 鬼畜かも black cat 357727 tikamitihanai AsDfGvB 全面棘の間をかいくぐるように突き進む。(改造前) pick downされたステージ ????(恐らく35万台) 不明 (来るたびに名前を変える) 作成者が削除 ???? 不明 †Ghost† 黒メインの全面 ???? 不明 Ğéהوą¤ż¤ 氷メイン
https://w.atwiki.jp/kokigame/pages/451.html
すくぅ~るメイト 285 :名無したちの午後[sage]:2007/06/14(木) 22 34 12 ID bPR2BDZv0 ん? すくぅ~るメイトは手コキ足コキ有りだよ。 最初は選択できないけど、そのうち出てくる。 足コキが選べるようになるのは最後の方だけど、靴下選択可だから、素足でもルーズソックスでも好きなやつを選べる。 ちなみに俺は赤ブルマ+白ハイソックスでGOだが。 286 :名無したちの午後[sage]:2007/06/15(金) 14 36 53 ID C+d9oGnT0 285 でもセクシービーチにあった神高速足コキにはかなわなかったよ。 69手コキ時に水平方向から女の子顔アップカメラ目線に調整するとオナテツ風手コキになるよ。 287 :名無したちの午後[sage]:2007/06/16(土) 00 28 56 ID 341lLZ/l0 285 なんかOHPが激重で見れないから質問させてくれ セクシービーチみたいにソックス選ぶと一緒に靴まで履かれたりしないのかね? あれにはまいった 288 :名無したちの午後[sage]:2007/06/16(土) 00 33 54 ID 77MC3a1o0 287 するメの場合は、靴とソックスは別々に選択可能。 靴だけ履かせてソックスは無しとか、その逆も可能。 足コキスキーにとっては、靴かソックスか素足かは大問題なのかもw 289 :名無したちの午後[sage]:2007/06/16(土) 12 32 56 ID cPDIuMY50 さらに、プレイ中に自由に着脱可能だぜ。 関連レス
https://w.atwiki.jp/gamerowa/pages/124.html
託された希望(1) ◆dGUiIvN2Nw コンクリートで舗装された道路。そこを歩く一人の男がいた。 彼の名はアシュナード。デイン王国に君臨する狂王である。 彼は世界の改変を望み、混沌を望み、そうして颯爽と現れた勇者によって打ち倒される運命にあった。 しかし、今は違う。この殺し合いに放り込まれたことで、アシュナードの運命は大きく変わった。 場所が変わろうがどうなろうが、アシュナードのすることは変わらない。戦いを望み、殺戮を望み、ただただ強者が支配する世界を見たいがために、彼は行動する。 「……一人、死んだか?」 ふと、そんな感覚が彼の中で沸き立った。死に行く者の絶望、殺した者の絶望、それを目撃した仲間の絶望。 アシュナードの中にあるメダリオンの瘴気。彼の中に潜む魔物が、それらを敏感に察知し、こう告げる。 もっと狂乱を。 もっと闘争を。 この場所全てを埋め尽くしてもまだ止まらない、負のオーラでもっともっとこの身を満たせ。 「よかろう。我にとって、それはむしろ喜ばしいことだ」 アシュナードが求めるのは闘争である。弱者が死に、強者が生きる絶対的な世界である。 その世界の覇者は、最強でなくてはならない。その世界の王は、無敵でなくてはならない。その世界の支配者は、闘争を求め、常に強者であり続けなければならない。 「ならば行くしかあるまい。闘争の場があれば我はそこに君臨し、弱者を屠り、蹂躙し、我が想う我の世界を創造するのだ」 自分でもよくわからない微細な感覚。しかし確かに感じる負のオーラ。そちらに向けて歩みを進めようとし、止まる。 「……ついでだ。余興として、少し参加者を増やしておくか」 先程別れたあの小僧。シルバーが向かった先へと方向を変え、アシュナードは人間とは思えないスピードでその場から消え去った。 「ふぃ、ふぃたいふぇふ~!」(い、痛いです~!) 「え~? なあに? よく聞こえなかったんだけど。もっとはっきりした発音で喋りなさい。そうしたら止めてあげるから」 「ふぃ、ふぃふぉえふぇるふぁふぁいふぇふか~~!!」(き、聞こえてるじゃないですか~~!!) 頬をこれでもかとばかりに引っ張られ、涙目になっているアドレーヌ。それを見て、思わず息を呑んでしまいそうなくらいの素敵な笑みを浮かべている風見幽香。 彼女達は通常よりもかなり遅いペースで歩いていた。 それも無理からぬことで、行軍の合間合間に幽香のスキンシップ(という名の虐待)が入るからである。 ようやく解放された自分のほっぺを擦りながら、アドレーヌはきっと幽香を睨んだ。 「痛かったです!!」 「だから?」 「…………」 ぐうの音も出ないとはこのことだ。アドレーヌは何も言えずに不満そうに頬を膨らませる。 「え? なあに? もしかしてこの私に文句を言いたいのかしら。あらあら、それは困ったわね~。戦闘になったら誰があなたを守ると思ってるのかしら」 意味もなく怪我のしない訓練用の斧で殴られたり、もげるかと思うくらいの勢いで耳を引っ張られたりした挙句、いつもこの文句で幽香は締めくくるのだ。 結果強く咎めることもできず、アドレーヌは幽香の玩具のように扱われるのである。 (うう~。こんなことなら一人で行動すればよかった) アドレーヌが本気で後悔し始めた時だった。 突然遠くから地響きのような音が聞こえてきた。 アドレーヌは思わず幽香の影に隠れ、幽香はただ黙って震源地を見つめていた。 「……な、なんだったんでしょう」 「殺し合いでしょ」 「そ、そうですよね…。ここ、そういう場所なんですよね…」 アドレーヌの言葉はだんだん尻すぼみになっていく。 そんなアドレーヌの心境を知ってか知らずか、幽香はその震源地、つまりは戦闘が行われたであろう場所へと歩を進めた。 「ゆ、幽香さん。そっちは……」 「なに? 怖いから行きたくないって? あなた、お友達を捜してるんでしょ。なら、少しでも人のいる可能性のあるところに行った方が効率的じゃない」 幽香の言う通りだ。アドレーヌは自分の友達を探すために幽香と行動を共にしているのだ。恐怖に震えながらも、アドレーヌはこくりと頷いた。 「そ、そうですね。……よし。行きましょう! 幽香さん!!」 声は勇ましく、しかし身体は幽香の背中にぴたりとくっつけて、アドレーヌは言った。 「……アドレーヌ。敵と出くわした時の良い撃退方法を思いついたわ」 ふいに幽香が口を開いた。 「え! どんな方法ですか!?」 「ここで私達を襲う連中っていうのは、大抵皆殺しが目的でしょ。だから、わざと撒き餌を放り投げてそっちに気を取られている内に仕留めるの。良い方法でしょ?」 「……その撒き餌って?」 「ふふふ」 嗜虐的な笑みで、幽香はアドレーヌを見つめた。 自分の身体から血の気が引くという経験を、アドレーヌは今初めて体験した。 咄嗟に幽香から距離を取ろうとしたが、その気配を察知され、襟首をむんずと掴まれてしまった。 「いやだーー!! 私エサなんかじゃありませんー!!!」 宙に浮いた身体でばたばたと暴れるが幽香相手には無駄な抵抗だった。 「あー面白そう。はやく誰かと遭遇しないかしら」 「おにーーー!! あくまーーー!!」 アドレーヌの叫びは、むなしく木霊するだけだった。 最初こそどうにかこの束縛から解き放たれようともがいていたアドレーヌだったが、震源地に近づくにつれ、どんどん大人しくなっていった。 おそらく恐怖のためなのだろうが、幽香にとっては都合が良かった。まるでナップサックのようにアドレーヌを担ぎ、何も喋らない幽香。それが、周りに対する警戒のためであることは誰よりも自分がよく理解していた。 幽香は強い。参加者の中でも最上級クラスの強さだろう。しかし、彼女は誰かを守る戦いをこれまでしたことがない。 戦いはいつも一人だった。敵が複数人いても、幽香だけはいつも一人で戦っていた。それで相手に遅れを取ることなど一度もなかったし、なによりそのスタイルが自分に向いているとも幽香自身思っていた。 だが、今回は違う。いつものように考えなしに戦っていては駄目なのだ。そういう意味で、幽香にしては珍しく慎重な態度を取っていた。アドレーヌを自分の手から離さないのはその為なのである。 「……誰かいる」 幽香は言葉短くそう伝え、アドレーヌは心持ち縮こまる。 周りは木々が邪魔でよく見えない。だがそれでも、幽香には誰かの存在を感知できた。一人じゃない。詳しくは分からないが、おそらく数人だ。 しかし、幽香の歩みは止まらない。慎重ではあっても、退くという言葉を幽香は知らない。 アドレーヌを意識して動く必要がある。それが面倒だ。それくらいの認識しか幽香にはない。 アドレーヌがいるから敵に負けるなどという発想は一切ない。敵を打ち倒し、アドレーヌもきっちり守り切る。それくらいのことができる力を自分は持っている。それは幽香の妖怪としてのプライドでもあり、数々の妖怪を屠ってきた自負でもある。 木々を抜け、震源地であろう湖が視界に入った。 ばったり、という効果音がこれほどまでに似合うシチュエーションは早々ないだろう。 怪我をしたレミリアを担ぐ瀬多総司。その後ろをトボトボと歩くデデデ大王。その三人に、風見幽香は遭遇した。 「っ!! 敵だ!! 応戦しろ、デデデ!!」 後ろに下がり、慌てて戦闘態勢を取ろうとする瀬多とデデデ。その様を幽香はじっと見つめていた。 何も相手取ろうとしない幽香に、二人が怪訝な表情を浮かべ始めた時だった。 「……はっ」 ふいに、幽香が口を開いた。 「あっはっはっはっはっはっは!!!」 大爆笑。 誰がどう見ても腹を抱えて笑っている。 瀬多は雪子の爆笑癖を思い出しながらも、とりあえず声をかけてみることにした。 「えっと、あんたは──」 「何がそんなにおかしい」 それを遮るように、明らかに不快そうな声が背中から聞こえた。 「はっはっは!! そ、そりゃ…くっくっく。おかしいに決まってるでしょ。普段息巻いて調子乗ってるから、そうやってボロボロになるのよ。幻想郷最強の種族が聞いて呆れるわ」 そう言って、再び笑い始める。 瀬多はレミリアと出会ってさほど時間が経ってない。しかし、その人となりはそれなりに理解できていた。こうやって笑い物にされれば彼女がどう思うかくらいは。 途端に瀬多の身体が軽くなる。先程まで背中に背負っていたレミリアが既にそこにはいない。 瀬多がその姿を感知した時には、レミリアの左腕が幽香を襲っていた。その銃弾のような鋭い攻撃を幽香はいとも簡単に片手で受け止めてみせ、にやりと笑う。 「あらあら。まだそれなりに元気は残っているようだけど、幻想郷最強を謳うにはちょぉっとキレのないパンチね」 「……そっちこそ、今までどこで遊んでたのかしら。またお得意のお花屋さんごっこ? 年増の老後生活は気楽でいいわね」 「ま、遊んでいたといえば遊んでいたわけだけど。私にしてみればこんな殺し合い、遊びの延長みたいなものよ。あなたと違ってね」 幽香はレミリアの拳を掴んだまま、それを瀬多の方に放り投げる。レミリアにしてみれば屈辱的な行為だが、右手と左足を怪我している今の段階ではそれを防ぐ手立てはない。そのまま瀬多にキャッチされ、その時の衝撃で全身に痛みが走る。 「あ、ごめんなさい。大怪我して死にそうな餓鬼は労わってあげないといけないことを忘れていたわ」 「……っ!!」 再び攻撃を仕掛けようとするレミリアを瀬多が慌てて止めた。 「と、とにかく今は情報交換が先だ。あんたとレミリアは知り合い同士だろうけど、俺達の話は興味があるだろ?」 「まあね」 軽く返事をする幽香。あまり興味がありそうな様子ではない。 「デデのだんな? もしかして、そこにだんながいるの!?」 しかし、幽香がぶら下げている一メートルにも満たない少女は、かなり興奮した様子だった。 「デデのだんな!」 「アドレーヌ! 無事だったんだな」 二人が両手を握りあってピョンピョン飛び跳ねる様子を見ながら、幽香は口を開いた。 「異世界があるっていう話は、まあ分かったわ。魔界や霊界も同じようなものだしね」 「日本、プププランド、幻想郷、そして魔界や霊界か。認知度の問題なのか。まったく別次元のものなのか。今はまだ判別がつかないな」 プププランド、瀬多の住む日本、幻想郷。後の二つは接点もあるが、プププランドに至ってはまったくそういうものはない。完全に孤立した世界だ。 魔界などと同様に、出入り口はあるが誰も知らないだけなのか。それとも、パラレルワールド的なものなのか。今の情報だけでは分からない。 「たかだか殺し合いするためだけで、偉く手の込んだことをするじゃない。複数の世界を行き来? スキマ妖怪でもあるまいし」 「その辺りのことをもう少し詳しく聞きたい。地図にある別荘まで行ってから落ちついて全員で話はできないか?」 「どっかの足手まといに合わせるのは癪だけど、まあいいわよ」 「……悪かったわね」 さすがのレミリアも、いちいちキレていたら身が持たないことを理解したらしい。ムスっとした態度を取ってはいるものの、それ以上は何も言わなかった。 「アドレーヌ。そういうわけだから、一旦別荘を目指すわよ」 「はーい!」 間延びし、どこか浮かれた返事だ。念願だった知り合いに会えたのだから、それも仕方のない事なのだろう。 幽香が離れたのを機に、瀬多はレミリアに耳打ちした。 「……なぁ、幽香ってどんな妖怪なんだ? 協調性のなさそうな性格の割に二人で行動しているようだし」 「知らないわよそんなこと。宴会で時々顔合わせるくらいなんだし。ただまあ、あいつが誰かと行動してるっていうのなら、そいつは御愁傷様ってやつね。どうせストレスのはけ口にされるのがオチなんだから」 言い方からして、どうやらレミリアはかなり拗ねているらしかった。全快時ならどうということもないのだろうが、完全に優劣がはっきりしている現状が、彼女には気に入らないのだろう。 瀬多としては、今回の合流は正直なところ良かったのか悪かったのか、判断しづらいところがあった。ただでさえ操縦しづらいレミリアの機嫌を敢えて損なうような言動を連発する幽香の性格に、少し問題を感じていたのだ。 この二人だけを見て判断するのはいささか軽率な気もするが、とにかく幻想郷の人間は我の強い者が多いようだ。自分から折れるようなことは一切しない。妥協も何もなく、ただ自分のために今を生きる。 それは確かに強さになるだろうが、チームを組むとなるとこれほど大変な連中もいない。レミリアはまだ協調の必要性を感じている部分もあるが、幽香からは一切そういうものが感じ取れない。 デデデもアドレーヌも、あまり場を纏めるようなタイプではないことは、出会って十分も経たないうちに分かってしまった。自分一人でこの二人を制御できるのか。瀬多にはあまり自信がなかった。 「あ、そうそう。そういえば、ここらへんでおっきな地震みたいな音しなかった? 私達、あれがあったからここまで来たんだけど」 アドレーヌが無邪気に聞いたその言葉に、デデデは見るからに気落ちしていた。 「……どうしたの? もしかして、なにかあった?」 しん、と静まりかえる。 レミリアも、事情を察した幽香も、口を挟む気はないらしい。瀬多が事実を伝えようとした時、それを遮るようにデデデの明るい言葉が割って入った。 「てきをたおしたんだ!」 「てき?」 「そうだ! あの地震は……えーっと……そ、そう。レミリアの攻撃のせいなんだ。おれさまも一緒に戦ったから、その時の疲れがちょっと出てただけだぞ。殺し合いに乗ったって言っても、大人数で戦えばなにも怖いことなんかない!」 悲しいことなんて起きなかった。自分達の未来は希望に溢れている。 それは先程の別れを経験した今のデデデにはとても辛く、心に沁みる言葉だった。しかし、リディアと何の接点もなかったアドレーヌにも、自分と同じような苦しみを味あわせることはしたくない。 (ごめんよ、リディア。でも、プププランドに帰ったら、リディアのことはおれさまの友達全員に話してやるからな。とっても強い子だったって、絶対にみんなに教えてやるからな) 「ふーん。吸血鬼ってすごいんですね」 何も知らずにただ感心している様子のアドレーヌに、レミリアは不遜な笑みを浮かべた。 「当然でしょう。この私が本気を出せば、ここら一帯吹き飛ぶわよ」 デデデの嘘に対してレミリアは何も言わなかった。それが嘘だとも、本当だとも。 レミリアが何を思っていたのか、瀬多には分からない。分からないが、レミリアはレミリアなりに、デデデを気遣ったのではないかと、瀬多は思った。 「遅い。もっと早く歩け」 「これ以上はいざという時に支障が出る。我儘を言うな」 別荘に向かう道中、かれこれ三度目になる問答に、瀬多は辟易していた。 瀬多がレミリアを背負っているのでその行軍は通常よりも少し遅いものとなっていた。そのことはレミリアも承知しているが、彼女の理屈としては「なら、瀬多がもっと早く歩けばいいじゃない」という結論に達するのだ。 唯我独尊のレミリアにとって自分が足を引っ張っているなどということはたとえ天変地異が起ころうと考えないのである。 「誰に向かって口を聞いている? お前は私の下僕なんだから、言う通りにしていればいいのよ」 いつ下僕になったんだ、というツッコミは話をややこしくするだけなので敢えてしない。 「はぁ。部下に当たり散らすなんて情けないわね。求心力の薄さが目に見えるわ」 部下じゃないけどな。 心の中で瀬多は呟いた。 「ふん。自分の部下を捨てて隠居生活するような老婆に言われたくないわね。案外、部下に見放されて泣く泣くお花畑に水をやってるんじゃないの?」 「プライドだか見栄だか知らないけど、自分で管理できないくらいの妖精を雇い入れるような馬鹿よりはマシだと思うけど? 私はどっちにも当てはまらないけど」 「……」 「……」 二人は見るからにイラついていた。幽香はあからさまに舌打ちしているし、レミリアの指は先程から瀬多の肩に食い込んでいる。いつ血が滲み出てもおかしくないくらいに痛い。 「お、お二人ともそんな喧嘩しないでくださいよ。ほ、ほら! もうすぐ日が昇りますよ!! 綺麗なお日さまを見ながらみんなでお話しましょう」 「そうねえ。じゃ、ここらで休憩しましょうか。皆で朝日を楽しみながらお喋りするのはさぞ楽しいでしょうし」 見るからに嗜虐的な笑みでレミリアを見つめる幽香。それを見て、アドレーヌはようやく地雷を踏んだことを実感したらしい。両手で口元を押さえている。 「……殺す。もう殺す。絶対殺す!」 「ま、待て! 落ちつけ! これ以上怪我がひどくなったらどうする!」 「そうだぞ! このままじゃいつまでたっても怪我が治らん」 背中から飛び出そうとするレミリアを瀬多とデデデが慌てて止める。 「幽香さん! そんないちいち癇に障る言い方しなくてもいいじゃないですか!」 アドレーヌがキッとなって幽香を諫める。 「何? 私が悪いって言いたいわけ?」 「い、いえ別に…そういうわけじゃないですけど」 しかしそれも幽香の視線一つで尻すぼみ状態である。 怪我をしているという点で押さえやすいレミリアに対し、幽香は常にフリーダム状態だ。一番注意できる立場にあるアドレーヌの言う事も聞かないのだからもう手がつけられない。 瀬多は溜まっていく一方である精神的疲労から、思わずため息をついた。 そんなやりとりを三度くらいこなしていると、ようやく目当ての別荘に辿り着いた。 早速中に入り、先客がいないかを慎重に確かめる。その工程を終えて居間に集まると、ようやく一服できる時間がやってきた。 「とにかく、ここでレミリアの回復を待つのが得策だな」 「それはいいけど、話があるのならさっさと終わらせてくれないかしら?」 ここに来る道中であらかたの情報交換は終わっていたが、それでも瀬多は全員に話し、聞いておきたいことがあった。 「そうだな。それじゃあとりあえず全員集まってくれないか?」 居間はかなりの広さではあったが、その分家具は充実していないようで、椅子やテーブルの類もあまり置いていなかった。必然的に床に直接座ることになる。全員が輪になって、各々の場所に腰を下ろす。 窓から少し差しこんでいる太陽の光が、今の時間を物語っていた。 「さて。まずはみんなにこれを見て欲しい」 そう言って瀬多が取りだしたのは、一冊の本だった。 「何なのだこれは?」 デデデがそれを受け取り、ペラペラとページを捲る。 しばらく本を眺めていたデデデが、突然目を大きく見開いた。 「こ、これは!! なぜおれさまとカービィのことが載っているのだ!?」 その声に興味を惹かれたのか、瀬多以外の人間が本を覗き込む。 「あら、私と霊夢の初顔合わせのことも載ってるわね」 「あっ! 私のことも載ってる!! なんか恥ずかしいなぁ」 「で、このふざけた本は一体何なのかしら」 全員が少なからず興奮状態にある中、幽香はひどく冷静な態度で瀬多に聞いた。 「“攻略本”らしい。このゲームのな」 「ゲーム、というのはつまり、殺し合いのことですか?」 アドレーヌの言葉に瀬多は頷く。 「参加者とその世界の説明が簡潔に載ってある。ただそれだけじゃなく、色々と殺し合いをする上でお得な情報もあるみたいだな」 「得? 強力な武器が会場に隠されてるとか、そういうこと?」 「まあそんな感じだ。中でも一際目立つ情報がこれだな」 そう言って、瀬多が本のとあるページを開いて皆に見せた。 「……どういうこと?」 「どういうことも何もない。本に記載されている通りだ」 その本の見出しにはこう書いてあった。 『爆弾首輪を外すためのお得情報!! 各エリアに隠された四つのクリスタルを見つけろ!』 その下にはクリスタルなるものの隠されている詳細な位置が書かれていた。 「よ、よくわからないぞ。どうしてそんなものを教える必要があるのだ?」 「俺の考えを言ってもいいか?」 全員が瀬多を見つめる。それを了承の合図と受け取り、瀬多は話し出す。 「ここに書かれていることが真実である可能性は低いだろう。主催者にとって、この首輪は殺し合いを促すためのものであるはずなんだ。デデデの言う通り、主催者側にこんな情報を俺達に教えるメリットなんてない。ただ、この情報が殺し合いを促進するというのなら話は別だ」 「え、え~っと……どういうことでしょう?」 アドレーヌの疑問の声があがる。 「簡単に説明しよう。そもそも首輪が殺し合いを促すというのは、放送で流れる禁止エリアによる影響が一番強い。一所に隠れられなくすることで遭遇確率を高めるってわけだ。 で、そういう行動を取ろうとする人間は、自分の力に自信を持っていない奴が比較的多いだろう。…アドレーヌ。もしも君が殺し合いに優勝しようと思ったら、どうする?」 「え!? えっと……」 突然質問を振られ、慌てて考える。 「そう、ですね。やっぱりずっと隠れてます。禁止エリアに指定されたら動いて、別エリアに入ったらまた……あっ! そうか!!」 「そうだ。おそらく主催者はそういう状況を避けたかった。だからこんな回りくどい真似をして参加者の動きを活性化させようとしたんだ。 首輪さえ解除されればこのゲームはクリアしたも同然だからな。禁止エリアに入って、あとはずっと隠れていればいい。24時間の間に死者が出なければ首輪が爆発するというルールがある以上、それで優勝は確定だ」 殺し合いはあくまで殺し合いでなければならない。ただ隠れて逃げのびるだけでなく、命のやり取りに参加しなくてはならないのだ。 それが娯楽目的なのか、他に何か意図があるのか。現段階では何とも言えないことだが。 「ここから読み取れる情報はいくつかある。まず一つは、主催者はどの参加者にどの支給品を支給するのか、あらかじめ決めていた可能性が高いということ。この攻略本が幽香やレミリアのような強者に渡ったら、その効力はまるきり無駄になるからな。 徒党を組みそうな人間を選ぶ必要があったっていうわけだ。そしてもう一つは、この攻略本に書いてある、情報の正誤を比較的簡単に確かめられるものは、全て真実だということだ」 「根拠は?」 「情報の価値が分かれば、即座にこの本は参加者にとって不要なものになる。だから参加者の生い立ち、各世界の説明は信用できる。序盤でも活発に動けばけっこうな参加者と遭遇することが出来るからな」 ここにきて、程度の差はあれ、全員が瀬多に感心していた。対主催派にとって、支給品はいわば敵からの贈り物である。 主催者に対する反発が強ければ強いほど、支給品の信頼性は落ちる。特にそれが情報関係のものなら尚更だ。瀬多は見事その信憑性を得ることに成功したのだ。 「ここまでの話は理解したわ。それで? 結局あなたは何が言いたいわけ? その攻略本が一定の信用に足るものだとわかりましたって、それだけ伝えるためにわざわざ私をここまで同行させたんじゃないでしょうね」 「まさか。今ようやく話のスタート地点に立ったところだ」 その言葉にアドレーヌもデデデも苦い顔をした。これまでの話でも付いて行くのが辛かったというのに、まだ話は半分にも達していないのだ。 「この本の信頼性がある程度高いことは分かってもらえただろうと思う。そこから俺は、一つの仮説を潰したかったんだ」 「仮説?」 「このゲームは攻略可能かどうかっていうことだ」 瀬多の言葉に、幽香とレミリアはどこか意図を汲みかねたように首をかしげ、アドレーヌとデデデは逆に食い入るように瀬多を見つめた。 「どういうことかさっさと教えなさい」 「殺し合いに乗る人間にとって、おそらく最も割合の高い動機が、実際に当てはまるのかってことだ」 幽香とレミリアは未だしっくりとこないらしい。 「幽香、レミリア。二人はどういう動機が一番多いと思う?」 「動機なんて……そりゃあれでしょ。あの……最強を証明したいとか」 「主催者をぶっ殺すためのかけ橋よ。優勝したらやっぱり顔くらい見せるでしょ? その時に刻んでやるのよ」 瀬多の想像以上に物騒で力押しな答えだった。 「……正解は、勝てるわけがない、だ」 「「はぁ?」」 面白いほどに声が重なった。 それにしてもと瀬多は思う。どうしてこの二人は、これほど自信満々なのだろうか。自分の命を握られているという自覚が足りないのではないか。 「要するに、全知全能の神がいたら刃向っても無駄だと思うだろ。それと同じ理屈だ」 「そんな奴がいたら私が逆さにして吊るしてやるわ」 「あたしなら串刺しにして、にんにく漬けにするわね」 「……あんたらの意見はわかった。けど、この仮説を崩すのはけっこう重要なんだ。こういう場所で真に危険なのは強者じゃなく、弱者だ。それも、一見味方のような奴がな」 何となく文句を言いたそうな顔をしている二人を無視して瀬多は話す。 「強い奴は確かに脅威だが、行動を予測しやすい。だが、情緒不安定な奴は、何をしでかすか分からないという点でかなり危険なんだ。 食べ物に毒を盛るかもしれない。寝込みを襲われるかもしれない。このゲームで重要なのはチームを作ることだ。 チームを作り、いかにそれを瓦解することなく保ち続けるか。それが勝負の鍵だ。強い奴だけじゃなく、機械や魔法に詳しい奴も必要だし、チームをまとめる人間も必要になってくる。 そんな中で、いかに全員がぶれずに動けるか。そのためにはまず、主催者は神なんかじゃないという絶対的な事実が必要なんだ」 アドレーヌもデデデも、どちらかといえば弱者側だ。だからこそ瀬多の言い分、その本質を理解できた。 必ず攻略できるという確信がなければ、ゲームを根気よくプレイすることは出来ない。ゴールがあるから人はそれに向かって動ける。瀬多はまず、このチームの芯を作るために、そのゴールを見つけたかったのだ。 「このゲームを成り立たせる要素は多くない。そして、そのほとんどが個人にとっては神がかり的なものであり、参加者全体の視点で見れば大したことのないものだ」 攻略本で得た知識を瀬多は語る。ワープを可能にする杖。博麗大結界やマヨナカテレビ。 それらの存在を全て兼ね合わせれば、この殺し合いを始めるために起こさなくてはならない奇跡のほとんどが可能なのだ。 「マルクに大した力はない。ただ様々な世界を行き来できるというだけだ。あいつ自身には何の力もない。そして、奴が俺達の常識を併せ持った存在だというのなら、俺達が力を合わせれば、奴を倒すことだって難しいことじゃない」 瀬多が紡ぎ出した仮説。それはアドレーヌやデデデにとって、確かに希望の光のように思えた。 首輪によって命を押さえられ、殺し合いを強要され、まさしく神のように遠い存在だと思っていたマルクとの距離が、一気に縮まった気がした。 「私達はどうやって拉致したの?」 幽香の冷めた声が聞こえた。 「あなたたちがいつどうやってここに連れてこられたかは知らないけど、私の場合は本当にあっという間だったわ。まばたき一つした瞬間、妙な場所で首輪をつけられていた。このイリュージョンはどうやって説明するつもり?」 その言葉に全員が黙った。 ワープする杖があったとしても、それを使用する間に何らかのモーションがあったはずだ。それにすら気付かずこの場所に飛ばされる。幽香やレミリアといった強者を相手に、そんなことが簡単にできるとは思えない。 「……方法はないわけじゃない」 これまで流暢に話していた瀬多が初めて言い淀んだ。しかしそれでも、その方法に心当たりがあると、確かに瀬多は言ったのだ。 アドレーヌやデデデだけじゃない。今度ばかりはレミリアや幽香も、瀬多の言葉に耳を傾けていた。 「だが、確証がない。そして、それを今皆に言うことはできない」 「希望がないからか?」 レミリアは馬鹿にするように笑った。 「……とにかく、そのことについては俺が少し考えてみる。だから今は追及しないで──」 ピタリとレミリアが動きを止めた。それと同時に幽香もアドレーを自分の元に引き寄せる。 ガシャアン!! 団欒の時間の終わりを告げるチャイムが、今鳴り響いた。 ガラスを突き破り、別荘の中へと放り込まれた何か。それが五人にぶつかろうという時、幽香の拳が唸り、その何かは地面に叩きつけられた。 「ちっ。随分と悪趣味なことをするわね」 殴った手をひらひらと振る。そこからは夥しい血が流れていた。 「ゆ、幽香さん! 血が!!」 「私のじゃないわ。それよりあなた、少し目を瞑ってなさい」 オロオロしながらもアドレーヌは、幽香が叩きつけた物体に目を落とした。 「ひっ!!」 それは明らかに人間だった。いや、人間だったものだ。 「どこからどう見ても人間の死体だな。…ふん。ただの奇襲にしてはなかなか凝った演出じゃないか」 ただただ事態が把握できずに困惑していたアドレーヌは、青い顔で目を背けた。 「どうやらあっちからお出向きするつもりはないようね。これだけ心地良い殺気を放っておいて、随分と身勝手な奴だわ」 幽香はアドレーヌを瀬多の元へと引き渡し、スタスタと先程死体が放り投げられた窓の方へと歩いて行く。 「幽香! 一人でどこに行くつもりだ」 「決まってるでしょ? これを投げつけた失礼極まりない奴をぶっ殺しに行くのよ」 そう言って笑う幽香に、瀬多は、アドレーヌは、デデデは、戦慄を隠し切れなかった。その表情から湧き出る感情があまりにも場違いで、理解し難いものだった。 愉悦。 幽香は、誰の目にも明らかなほど、この残忍極まる襲撃者の来襲を喜んでいた。 やっと戦える。 鮮血をほとぼらせ、骨をきしらせる戦いがようやく出来る。 幽香のあまりにも凄まじい飢えに、瀬多達はまるで捕食者にでもなったかのような恐怖を覚えた。 「おい。あまり調子に乗ったことするんじゃないわよ。…あいつ、なにかおかしいわ」 負の感情、闘争本能を引き立たされる奇妙な感覚。それを自分の身に実感しながらも、レミリアは言った。 「私を誰だと思っているの? さっさと殺してきてやるから、怪我人は大人しくしておきなさい」 幽香はそれだけ言うと、割れた窓からさっさと出て行ってしまった。 六時間ぶりに拝む日光に目を細め、幽香は目の前にいる男に対して笑ってみせる。 「あらあら。もっと陰湿そうな顔してるかと思ったら。こんなおじ様だとは思わなかったわ」 「それは我も同じだ。一番の強者と戦うために、わざわざ待ってやっていたというのに、出てきたのは小娘だというのだから」 「……今も、そんなことを考えられるかしら?」 対峙する幽香とアシュナード。 視認すら出来るのではないかと思うほどの闘気が、覇気が、二人を包み込んでいた。 「まさか。久々に高揚しているところだ。これほどの強者をこの手で屠れるというのだからな」 「その自信、根本からへし折ってやるわ」 自分のデイバックから一本の斧を取り出す。 それに合わせて、アシュナードも刀を取り出した。 目の前の標的を確認し合うように互いの武器で相手を指し示す。 一瞬の静けさ。 どちらからともなく、二人の武器は交差した。 託された希望(2)へ
https://w.atwiki.jp/zeturin/pages/1192.html
【分類】 下位ページ ジャンル 目次 【分類】 【概要】ジャンル 【参考】関連項目 タグ 最終更新日時 【概要】 ジャンル ベリーロング ロング ボブカット ベリーショート ショート ショートボブ ツインテ ツーサイドアップ ピッグテール ツインドリル ポニテ ハーフアップ 二つわけ ドリル 三つ編み サイドテール お下げ お団子 ストレート ソバージュ カール パーマ 編み込み ウルフカット インテーク 姫カット オールバック アホ毛 一本結び アップ髪 二つ結び 盛り髪 黒髪 茶髪 金髪 白髪 銀髪 ピンク 青 緑 紫 赤 おっぱい 横乳 谷間 下乳 谷間ホール ネクパイ 巨乳 貧乳 腋 鎖骨 うなじ 尻 脚 ふくらはぎ ふともも 体臭 よだれ 涙目 鼻水 方言 声 おもらし 汗 ヤンデレ ツンデレ クーデレ 不思議 電波 厨二病 邪気眼 世間知らず 天然 △ お嬢様 ドジっ子 熱血 脳筋 堅物 真面目 律儀 潔癖 家庭的 地味 おっとり △ 引っ込み思案 クズ ゲス 腹黒 毒婦 肉食 草食 コミュ障 耳年増 ドヤ顔 ゲス顔 ☓ アヘ顔 ☓ ラリ顔 トロ顔 泣き顔 号泣 ☓ 男泣き 嘘泣き ジブリ泣き 上目使い ジト目 見下し ☓ 白目 仁王立ち ☓ ガイナ立ち ☓ ジョジョ立ち ☓ カトキ立ち ☓ 安彦立ち ☓ Wピース ☓ ガワラ立ち ☓ 勇者パース 雌豹のポーズ めがね マスク 帽子 カチューシャ ネコ耳 イヌ耳 ウサ耳 ヘルメット 兜 マフラー 靴 軍靴 サンダル パンスト 靴下 ガーターベルト ニーソ パンツ 女児パンツ 縞パン くまパン 白パンツ 黒パンツ ふんどし ブラジャー シミーズ ネグリジェ さらし 水着 スク水 ローレグワンピ ハイレグワンピ パレオ ビキニ レオタード ブルマ ジャージ ジーンズ ホットパンツ スパッツ(レギンス) スカート ミニスカート ロングスカート タートルネック セーター Yシャツ Tシャツ ポロシャツ アロハシャツ 和服 浴衣 袴 ラバー(革フェチ) ビキニアーマー 白衣 剃毛 生理用品 〇 処女 生理中 妊婦 搾乳 母乳 百合 ホモ 性転換 女装 男装 ふたなり 障害(知的) 障害(身体) 乳幼児 ロリータ ショタ 熟女 老婆 合法ロリ 童顔 ロリ巨乳 オネショタ ホモショタ ロリショタ 女性少女愛 ケモショタ ケモロリ 家族 夫婦 実母/息子 娘/実父 妹/兄 姉/弟 双子 祖父/孫娘 幼馴染 義母 義父 義姉/義弟 義妹/義兄 叔母/甥 叔父/姪 従兄妹 従姉弟 △ セーラー服 △ ブレザー ミッション系 ジャンバースカート 看護学生 見習い 幼稚園児 小学生(低学年) 小学生(高学年) 中学生 高校生 大学生 △ 女子校生 △ 女教師 チアリーダー 社交ダンス 新体操 スケート 応援団 陸上 水泳 馬術 登山 剣道 弓道 フェンシング プロレス 薙刀 射撃 柔道 テニス ラクロス ゴルフ バレーボール ソフトボール バスケ サッカー 卓球 ビーチバレー 放送 新聞 写真 演劇 漫画 文芸 美術 合唱 軽音 ブラスバンド ロックバンド 茶道 料理 科学 風紀委員 図書委員 保険委員 生徒会 厚生委員 中央委員 放送委員 体育委員 国語 数学 理科 社会 英語 体育 美術 音楽 巫女 尼(女僧) △ シスター アイドル ナース 女医 患者 博士 主婦 人妻 団地妻 未亡人 家事手伝い メイド ウェイトレス コンビニ店員 OL 秘書 女社長 SP 婦警 刑事 保安官 怪盗 スパイ くノ一 侍 変身ヒロイン 魔法少女 △ 魔法使い △ 僧侶 賢者 戦士 狂戦士 騎士 聖騎士 黒騎士 天馬騎士 竜騎士 狩人 格闘家 ネズミ ネコ イヌ キツネ ヒツジ ウシ ウマ ヒョウ ウサギ 触手 植物 虫 人魚 天使 悪魔 女神 天女 仙女 妖怪 雪女 九尾狐 座敷童 精霊 妖精 エルフ 幽霊 英霊 宇宙人 古代人 異界人 未来人 メカ少女 サイボーグ アンドロイド サンタガール カウガール バニーガール 剣 銃 △ 魔法 セクハラ イチャイチャ 〇 ハーレム ストリップ のぞき 盗撮 見てるだけ 視姦 ☓ SM ソフトSM ☓ 鼻フック スパンキング 拘束 ☓ 拷問 ☓ 内臓系 ☓ 切断 ☓ 眼球 ☓ 食人 言葉責め 罵倒 洗脳 催眠 ☓ 薬物 ☓ 麻薬 睡眠薬 自白剤 媚薬 精力剤 避妊薬 排卵誘発剤 ☓ デブ専 ペイント 軟体 露出 寝取り 寝取られ チラリズム パンチラ ブラチラ スカート捲り たくしあげ セルフスカート捲り 誘惑 挑発 咥えゴム 掴みシーツ だいしゅきホールド 股に手 手コキ 足コキ 素股 腋コキ 髪コキ ペッティング アナルセックス 浣腸 ☓ スカトロ大(食べる) ☓ スカトロ大(見る) ☓ スカトロ小(飲む) スカトロ小(見る) ぶっかけ 顔射 オーラルセックス ☓ セルフフェラ イラマチオ ☓ 食ザー フェラチオ 口内射精 精飲 ごっくん クンニスリング 69 パイズリ 潮吹き 射精管理 逆レイプ 尿道責め 多人数 ☓ 3P(男2・女1) 3P(男1・女2) ☓ 輪姦 ☓ スワッピング ☓ 乱交 獣姦 ピグマリオンコンプレックス 異物挿入 青姦 カーセックス 強姦 ☓ 産卵 ☓ 脳姦 ☓ 死姦 オナホール オナニー バイブ ローター 亀甲縛り ☓ 三角木馬 正常位 後背位 騎乗位 座位 立位 駅弁 まんぐり返し 松葉崩し ◎ 孕ませ ◎ 種付け ◎ 子作り 〇 腹ボテ ◎ 着衣H 股布ずらし ずらし挿入 パンツ下ろし 片足パンツ ◎ 処女狩り 断面描写 ハメ撮り キスハメ 正月 初詣 餅つき 成人式 節分 バレンタイン 雛祭り ホワイトデー 春一番 卒業式 春休み お花見 入学式 オリエンテーリング 身体測定 GW 母の日 父の日 梅雨 夏休み 海水浴 夏合宿 夕立 お盆 肝試し 縁日 敬老の日 運動会 学校見学 文化祭 ハロウィン 大掃除 冬休み クリスマス 修学旅行 林間学校 臨海学校 スキー教室 お泊り 勉強会 〇 現代 異世界 未来 異星 過去 昭和(戦後) 昭和(戦中) 昭和(戦前) 大正 明治 幕末 江戸(後期) 江戸(中期) 江戸(初期) 戦国時代 室町時代 鎌倉時代 平安時代 古墳時代 弥生時代 縄文時代 原始時代 古代文明 アメリカ 中国 △ ヨーロッパ オリエント アラブ インド 一軒家 アパート マンション 団地 自室 居間 風呂 トイレ 台所 寝室 納戸 玄関 蔵 庭 校舎 校庭 下駄箱 ロッカー 更衣室 プール 体育館倉庫 体育館 道場 屋上 教室 廊下 階段 踊り場 図書館 保健室 職員室 準備室 ホテル 公園 海岸 電車 バス タクシー 戦車 船舶 航空機 宇宙船 ヘリコプター 展望台 教会 神社 病院 診察室 病室 手術室 宿屋 酒場 荒野 豪邸 早朝 朝食 朝練 登校 昼 昼食 昼下がり お茶会 夕方 下校 夕食 夜 夜食 深夜 小説 ラノベ エッセイ 絵本 漫画 アニメ 特撮 実写 舞台 漫才 コント 落語 ミュージカル 歌舞伎 狂言 能 人形劇 人形浄瑠璃 クレイアニメ 3Dアニメ ジャズ ロック ポップス キャラソン ラジオドラマ RPG ARPG SRPG TRPG シューティング アクションシューティング 弾幕シューティング 横スクロールシューティング 格闘 対戦格闘 無双 育成シミレーション △ 恋愛シミレーション 経営シミレーション 戦略シミレーション アドベンチャー 〇 推理アドベンチャー ボードゲーム カードゲーム ◎ 抜きゲー 〇 シーン回想 〇 CG鑑賞 〇 BGM鑑賞 〇 セーブ 〇 ロード 〇 クイックセーブ 〇 クイックロード 〇 文章スキップ イラスト カード ポスター タペストリー カレンダー タオル ハンドタオル ビッグタオル 抱き枕カバー クッションカバー シーツ おっぱいマウスパッド お尻マウスパッド マウスパッド フィギュア ねんどロイド アクションドール 着せ替え人形 プラモデル 模型 ジオラマ 缶バッチ 携帯ストラップ クリアファイル マグカップ 湯呑 ボイス付 和風 洋風 中華 アメリカン エスニック クラシック モダン エキセントリック サイケデリック 萌え △ コミカル コメディー ホラー スリラー 〇 ミステリー パンキッシュ エレガント ラブラブ シリアス 【参考】 関連項目 項目名 関連度 備考 創作/どうしてこんな嬉しいハーレム科学になった。 ★★★★ タグ 構成 最終更新日時 2013-09-03 冒頭へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4947.html
This page was created at 2008.10.22 This page was modified at 2009.02.23 TAGにTRIP埋め 『もう一人の秘されし神』 第一章 夏休みを間近に控えた七月某日。 「すみません。 夏休み最初の週の活動は欠席したいのですが」 「え?どうしたの古泉君?」 SOS団の活動より優先するものがお前にあるとは、知らなかったな。 「実は、某大学で予定されている興味深い実験に参加したいと思いまして」 「へえ? なんだか古泉君らしいわね。 どこかの誰かとは大~違い」 こっちみんな。 「で、なんの実験なの?」 「研究中のマン=マシンインターフェイスです」 「公式発表に先立って、予備知識の無い一般人に実験機を使ってもらい最終的な調整を行うのだそうです」 マン=マシンインターフェイスってなんだ? 「もうっ、そのくらい一般常識レベルよ?」 「古泉君、説明して」 「キーボードやマウス、コンピュータのモニタは一般的なマン=マシンインターフェイスのひとつです」 「高度なものでは、神経のパルスを拾って屈伸する義手、義足、パワーアシスト装具なども該当します」 「完成した実験機は知覚カプラーと呼ばれていて、全ての知覚を再現することができる。 と聞いています」 それって凄いのか? 「我々が環境を認識できるのは、多くの情報を知覚を通じて得ているからです」 「知覚カプラーが本当に全ての知覚を再現できるなら、現実と変わらない仮想世界を作り出すことができるはずです」 「みなさんも参加してみませんか? 実は、SOS団で参加申請をしたので五人分の参加枠があるんです」 おいおい、やけに手回しがいいじゃねーか。 あからさまに機関がらみなのがばればれだな。 「ふーん……」 こいつの性格からすると、仮想世界なんぞにはあまり興味を持ちそうに無いな。 本当に楽しいことは現実に楽しんでこそ、とか考えそうだ。 未来人の朝比奈さんにとっては博物館ものだろうし、長門にいたっては…… 残念だな、古泉。今回のたくらみはちょっとスジが悪そうだぜ? 「わかったわ。 いつ、どこに行けばいいの?」 「行くのかよ!」 「なに驚いてるの、あんたも来るのよ。 どうせ家でダラダラする気だったんでしょう」 「じゃ、当日は朝八時にいつものところに集合! 遅れたら、仮想世界に閉じ込めてやるから!」 帰り道、先頭を行くハルヒに聞こえないよう古泉の奴に話しかけた。 おい、実験とやらは機関がらみなのか? 「いえ、機関とは何の関係もありません」 本当か? 「神に誓って」 お前の神はハルヒだろうが。 それに、そんなニヤけた顔で誓われても胡散臭いだけだ。 「これはひどい」 だからニヤけるなっての。 それからの期末試験の答案返還やらは思い出したくも無いが、とにもかくにも明日から夏休みだ。 そして大学見学の初日でもある。 なにか…妙な予感がする。 が、長門の様子にも変わったところは無かったし大丈夫だろう まぁいいさ。 せいぜい夏休み初日を楽しもう。 普通に。 ※※※※※※※※ 「遅い! 罰金!」 セリフの主はハルヒじゃない、俺だ。 お前が最後とは珍しい。 俺が知る限りまだ二度目だ。 「ちょっと、夕べ、むり、しちゃって」 「それから、いまのあたしの、真似? 似てないから、やめなさい」 息切らしながらしゃべらんでもいいから。 いつものとこ行くか? ハルヒの汗をハンカチでぬぐう朝比奈さんの姿がかいがいしい 「だめよ。 時間になっちゃうわ。 もう行かなきゃ」 時間はまだありそうだが…… 腕時計で見ても、一息ついていくくらいの余裕はある。 「そんなことだからいつも遅刻するのよ。 改めなさい」 「ではみなさん、揃ったことですしそろそろ移動しましょう。 切符は買ってあります」 気前がいいな。 本当に裏はないんだろうな? 「僕のわがままで付き合っていただいているのですから、このくらいはさせてください」 「さすが古泉君ね。 気遣いがいきとどいてるわ」 だからこっちみんな。 ところで、無理ってなにやってたんだ? 「あぁ、宿題よ。 さすがに一晩で全部やっつけるのは無理だったわ。 あと三時間もあれば何とかなりそうだったんだけど」 しれっとなんでもないことみたいに言うな。 カタタン カタタン 列車の擬音といえばこれしかないと思うが、最近は継ぎ目のないレールが当たり前になってあまり音がしない。 まぁ、どうでもいいが。 ともかく、俺たちは列車に乗っているわけだ。 ハルヒを真ん中に朝比奈さんと長門が座り、野郎二人はつり革につかまっている。 降りる駅まで小一時間、ハルヒは朝比奈さんによりかかって寝入ってしまった。 こいつの寝顔をまじまじと見るのは初めてだな。本当にかわいい・・・ ふと、朝比奈さんの視線を感じて目を向けると、見る者すべてに幸せを与えずにはおかない笑顔で 「キョンくん?鼻のしたが伸びてますよ?」 なっ!! 「おやおや、珍しく素直な表情をひそかに楽しんでいたのですが元に戻ってしまわれましたね」 ハルヒがかわいいのは一般論であってだな、俺は別に特別な何かがあったりはしないぞ? うん。 ない。 なんだ二人とも、こらえ切れない笑いを押し殺したような顔をして。 「いえ別に。 我々はあなたの表情を指摘しただけであって」 こら、俺の朝比奈さんと妙なアイコンタクトを取るんじゃない 「キョンくんが誰かを見てたなんて、ぜんぜん言ってませんよね」 「あなたの表情筋は弛緩していた。 そのときの視覚情報も記録してある」 長門っ!? 「……記録を見る?」 見ない!誰にも見せるんじゃない! 頼むから消してくれ 長門は俺を静かに見つめた後、なにも言わずに読書に戻った 頼むから消して…… 「長門さん長門さん」 朝比奈さんが片手を長門に差し出しながら、ニコニコしている。 まさか…… 長門の指がゆっくりと、朝比奈さんの手にちょんと触れた 「ふあぁ~」 顔を赤くしてかわいい悲鳴をあげる朝比奈さん。 ……もう好きにしてください…… 天使のような笑顔が見られるなら、俺の恥くらいなんでもありません。 「興味深いですね。 僕にもできないものでしょうか」 朝比奈さんは少し迷っているようだった。 すこしうつむいて考え込み、ついで目を閉じて空を仰ぐ。 未来と連絡を取り合っているようにも、記憶を辿っているようにも見える。 やがてまっすぐ前を見て言った。 「やってみますか?」 「ぜひ」 手を差し出す古泉をにらみつけて なんだ、お前も俺の恥の記録を見たいのか? 「そちらにも興味が無いわけではありませんが」 朝比奈さんが古泉の手にちょんと触れた 「簡単な情報を送ってみました。 どうですか?」 古泉は自分の中に変化が無いか、探しているようだった 「ダメです。 僕にはできないようですね」 「この方法による情報伝達とは、どのような原理の上に成り立っているのでしょう?」 「それは……」 「言語による説明は不可能」 聞いてたのか、長門 「そうですね。 そもそも教えるということが不可能です」 「なるほど。 『目隠しの国』といったところですか?」 なんだそりゃ 「もとはマンガのタイトルなんですけどね」 「仮に人類が視覚を持たなかったとして、視覚を得てしまった人がいたとします。 視覚の何たるかを言葉で説明することはできるでしょうか?」 「そうですね……。 その表現はかなり近い……です」 「そうですか。 それはそれで、疑問があるのですが」 なんだ疑問って 朝比奈さんが青ざめた 「古泉君! お願いです……」 古泉はニヤけ仮面の外れた顔で朝比奈さんをにらむように凝視している。 たまらず視線をそらす朝比奈さんは今にも泣き出しそうに見えた。 「おい、古泉、なにやってる」 「いえ……」 それきり、古泉はうつむいて何かを考えているようだった。 固い顔で、今にもガタガタと震えて泣き出しそうな朝比奈さんなんてみたく無い この優しすぎる未来人には、できるだけ笑っていてほしいのだ。 「朝比奈さん。 さっきの記録ですが、何度でも見てかまいませんから」 「うふ、ありがとう。 キョンくん」 朝比奈さんは微笑んで、ハルヒの頭を抱えるように髪をなぜつづけた。 駅に着くまで、誰も一言もしゃべらなかった。 ※※※※※※※※ 「降りるぞ、ハルヒ、起きろ」 「んんー、、、キョン? もう少し寝かせて・・・」 ばっ! なに寝ぼけてやがる! 「ほう? これはこれは、興味深いですね」 「キョンくん?」 「………」 誤解だ! 俺はこいつと寝起きのひと時を共有したことなど一度も無いぞ! そこ、ニヤニヤしない! やれやれ、一日はまだ始まったばかりだというのに。 長い一日になりそうだ。 ※※※※※※※※ 第二章 いろいろとセキュリティの手続きなんかがあったが、俺たちは研究室へ通された。 紹介された新しいマンマシンインターフェイスとやらは二台あり、椅子のような形、 というか見た目には電気屋に置いてある肩もみ椅子そのままだった。 始めに古泉が座った。 傍目には何が起きているのかわからないが、古泉の神経系は機械とフィードバック関係にあって、五感のすべてが仮想情報で置き換わっているらい。 よくわからんが、現実と区別できない仮想現実の中にいるんだそうだ。 5分ほどで古泉は起き上がり、しきりに自分の体や周囲をなで回して確認しながら俺たちに視線を移して言った。 「すみませんが、ここは現実ですか?」 次はハルヒだ。 さっきの古泉の一言が何か変なツボにはまったようで、やたら乗り気になっている。 「あたしが寝てる間に落書きなんかするんじゃないわよ」 しねーよ 「まさかあれほどとは思いませんでした。 予想以上です」 古泉の声にはまだ興奮の余韻が色濃く残っている。 このインターフェイスが持つ可能性だの、正副交感神経系の仮想現実への反映がどうのと熱く語り出したが、 俺にはさっぱりわからん。 「ちょっと遅くないか? それに、なにか様子がおかしい」 古泉の長舌を遮って言った。ハルヒが横になってからどのくらい経った? 研究室のスタッフが慌てているように見えるのは気のせいか? 「様子を見てきます」 深刻な表情で古泉は帰ってきた。やれやれ、またハルヒがらみで何か起こったんだな。 「どうも、涼宮さんは散歩に行ってしまったようです」 意味がわからん。もっとわかりやすく説明しろ。 「失礼しました。 涼宮さんは研究室の独立したLANを飛び越えて、インターネットへ接続したようなのです」 「そのため、被験者との接続を制御するプログラムが機能しなくなり、涼宮さんは行ったきりになってしまった」 なんだと? 「行ったきりってどういうことだ? 帰ってこられないのか?」 「わかりません。 ですが、外部ネットワークへの接続が涼宮さんの意志によるものだとしたら、無理矢理呼び戻すことは難しい」 「ほとんど不可能と言ってよいでしょう」 俺は片手を腰、片手を額に当てて盛大な溜息をついた。 「つまり、無理矢理でなければ帰ってくるんだな? 満足するまでほっとけばいいのか?」 「早く呼び戻すべき」 長門? 「涼宮ハルヒはネットワーク上のデバイスを取り込んで知覚を拡大しつつある」 「ヒトの形は知覚の境界。 このまま拡大を続ければ、彼女はヒトの形を失う危険がある」 どうすれば呼び戻せるんだ? 「肉体の必要を強く意識すれば帰還の動機となる」 えーと、つまり? 「涼宮ハルヒが、自らの肉体を用いた接触を望む相手が必要」 「なるほど!確かにその通りです」 `なるほどそのとおりです`、じゃねーっ! それは、つまり、アレだろう? みろ、朝比奈さんなんて耳まで真っ赤になってるじゃねーか 「第一だな、あいつが肉体を用いた接触を望む相手なんてどこにいるんだよ。 恋愛感情を精神病なんて言うやつなんだぞ?」 「あなたという人は……」 「キョンくん……」 「食欲なども有効と思われる」 食欲? あぁ食欲な、食欲。 そろそろ昼だしな。 うん。 それで行こう。 長門? おい、引っ張るなよ 「問答無用」 俺はもう一つの椅子に押し倒された。 「私がサポートする」 「キョンくん…… お願いです。 涼宮さんのことだけ、考えてください」 朝比奈さん、そんな悲しそうな顔をしないでください。 ハルヒはきっと連れ戻しますから。 「あなたなら涼宮さんを連れて戻れますよ。 以前の閉鎖空間でもそうだったじゃありませんか」 うるさい。あの時のことは極力思い出したくないんだよ。 突然に長門は天井を見上げ、いつもと同じように静かな声で、とんでもないことを言った 「情報フレアを観測。 涼宮ハルヒの外殻は地球圏を超えて拡大を開始した」 ※※※※※※※※ 第三章 ――涼宮ハルヒは有頂天だった。 全てのカメラは彼女の眼だった。 ヒトの目に見えない光を見た。 全てのマイクは彼女の耳だった。 ヒトの耳に聞こえない音を聞いた。 物理空間の制限は無意味だった。 壁を突き抜け、空を飛び、丸い地球をみおろす。 彼女はこれは仮想現実、エンターテイメントだと信じ込んでいた。 何処まで行けるんだろう。 銀河の中心?アンドロメダ? さすがに無理ね。 未踏の地のデータなんて無いだろうし。 なら…… 一番遠いところまで! 彼女はボイジャー1号を追いかけようとして、知らず空間情報を塗り替えた。 ※※※※※※※※ 「ハルヒは何をやった? 地球圏外ったって、そんなところにネットなんて無いだろ」 長門は、情報フレアの観測を告げてからずっと見上げたまま沈黙していた。 やがて彼に視線を向けたが、その瞳には微かな感情の色があった。 それを彼は見逃さなかった。 「どうかしたのか? まさかハルヒに何かあったのか?」 上半身を起こして長門を詰問する。 長門は一瞬の逡巡-まばたき-を見せたが、視線を外さずに言った。 「情報統合思念体の意思を伝える」 『涼宮ハルヒの保全を最優先とせよ。 そのための一切の損失を許容する』 長門は再びキョンを椅子に押し倒して言った。 「急がないと追いつけない。 始める」 そこに古泉が割り込んだ。 「ちょっと待ってください。 損失 とはまさか、彼のことではないでしょうね?」 それを聞いた彼は、さっきの朝比奈さんの言葉を思い出してハッとした。 『涼宮さんのことだけ考えて』 まさか、あれは…… 思わず朝比奈さんの方に顔が向いてしまう。 朝比奈さんと眼が合った。 怯えた瞳が、勘の正しさを物語っていた。 朝比奈さんはへたり込み、両手で顔を覆って泣き出してしまった。 くぐもった泣き声の下、ごめんなさいのつぶやきがやけに大きく聞こえる。 ああすいません朝比奈さん。責めてるわけじゃないんです。 まったく、余計なときだけ察しがよくなる自分の頭が恨めしい。 横では、長門と古泉のやり取りが続いていた。 「そんなバカな! たとえ涼宮さんが無事に帰ったとしても、彼がいなくては」 「もういい。 古泉、やめろ」 「朝比奈さんも立って。 ほら、泣き止んで」 キョンは長門に視線を投げて、「危険なのか?」と訊いた。 長門は微かにうなずき、肯定した。 「そうか」 キョンは残る二人を見渡しながら、できるだけ重々しくならないように言った 「なにも死ぬと決まった訳じゃない。 死ぬつもりなんて全然無いしな」 「ですが」 まだ何か言おうとする古泉を手で制して 「俺が行く。 これは俺の意志だ。 それに、他に選択肢はない。 そうだな?」 「……わかりました。 ですが、必ず無事に帰ってください。 涼宮さんのために」 ああ、と手を振って答え、長門へ振り返ったキョンは 「待たせたな、長門。 やってくれ。 よろしく頼むぜ」 長門は小さくうなずき、椅子の横に立った。 「大丈夫。 誰も失ったりしない。 私が、守る」 ※※※※※※※※ 次の瞬間、俺は地球を見下ろしていた。 妙にスケールが狂ったように感じる。 が、狂っているのは地球ではなく自分のほうだとすぐに気づいた。 地球はサッカーボールほどの大きさだった。 突然、どこからか声が聞こえた。 『あなたの外殻は私が保持する』 「長門? いるのか? どこだ?」 『あなたの内側』 内側って…… なんだかヘンな気分だな。 『涼宮ハルヒは現在、木星軌道まで拡大している。 思念体の観測によると、地球で イオ と呼称される天体の観察を行っている』 「まるで観光旅行だな」 ハルヒらしい。 思わず笑いが漏れる。 次は観光スポットは土星の輪っかあたりか? 『あなたの外殻を木星軌道まで拡大する』 『涼宮ハルヒは空間情報に新しい因子を追加して外殻保持の足がかりとしているが、思念体にも新しい因子の概念は解析できていない』 『そのためあなたは、既存の情報因子を使用することになる』 「何か問題でもあるのか?」 『わからない。 新しい因子は涼宮ハルヒ、地球人にとって都合よくできていると予想される』 『既存の因子で拡大を行った場合、あなたへの影響は未知数』 「今も既存の因子を使ってるんだろう? 特に違和感もないし、大丈夫だと思うぞ?」 『変調があったらすぐに言って』 「よし、追跡開始だ。 昼飯までには帰ろうぜ」 地球が小さくなっていく。 振り向くと巨大な月があった。 ぶつかる!? と思った瞬間、突き抜けた。 どうなってんだ? 『今のあなたは情報体。 存在の仕方は情報統合思念体のそれに近い。 物体へ干渉することも干渉されることも、情報操作能力が必要』 「ん? それじゃあ、外殻ってのは何なんだ?」 『ヒトの形は知覚の境界。 外殻は境界。 あなたの躰』 「よくわからんが…… まぁ、なんとなくわかった」 「ハルヒに追いつくまで、あとどれくらいだ?」 『予測邂逅時間まであと2分7秒1828。 ただし、涼宮ハルヒがイオにとどまる場合』 『……。 涼宮ハルヒが拡大を再開』 「やれやれ、落ち着きのないやつだ。 それで、追いつけそうか?」 続く長門の声が悔しそうに聞こえたのは、気のせいじゃないと思う。 『彼女の拡大速度は私の約3倍』 「3倍ね…… 赤く塗って角でも付けてやるか」 「ハルヒはたぶん、土星のわっか観光でしばらく止まるだろう。 土星軌道までどのくらいかかる?」 『……』 「長門?」 『私の能力では土星軌道に到達できない…… あなたに、賭ける』 「ちょっとまて、どういうこととだ? 賭けるって、何をだよ」 『 長門有希 というパーソナルをパージして、すべての情報操作能力を外殻の維持拡大に回す。 能力の行使には何らかの意志が必要。 あなたに託す』 「そんなことしたら長門はどうなるんだ? 消えちまうんじゃないだろうな?」 『 損失 には私も含まれる』 「そんなこと認められるか!」 『他に選択肢はない』 「そんなわけないだろ! だいたい統合なんたらも長門一人に押しつけて知らん顔かよ?」 突然、長門ではない別の声が響いてきた 『そういうわけでもないんですけどね』 『江美里?』 緊張した感じのする長門の声。 しかし予想はされてたが、喜緑さんもやっぱりそうだったんだな。 『地上の、私を除く全てのインターフェイスを解体、パーソナルネーム 長門有希 がこれを吸収する』 『以上が統合情報思念体の決定です』 『では、私に同期してください。 でも、私まで吸収しないでくださいよ?』 『了解した。――感謝する』 俺の中で起こっているはずのことなのに、俺には何の変化も感じられなかった。 が、吸収は終わったようだ。 『これで地上のネットワークは空っぽです。 損失 に見合う結果を期待しますよ、長門さん』 『では私はこれで。 地上のことは任せてください』 『わかった。 ――重ねて感謝する』 俺たちは追跡を再開した。 ハルヒの拡大は予想通り、土星軌道で止まっている。 ※※※※※※※※ 第四章 『土星軌道に到達』 「ここにハルヒがいるのか?」 『いる。 現在、相互反応可能な情報伝達概念を探索中』 「?? どういうことだ?」 『……有機生命体の情報伝達手段は、その存在規模によって規定される。 小規模においては化学物質が使用されるが、人サイズでは主として音波が使用される。 現在の涼宮ハルヒの存在規模は、有機生命体としては過去に例が無いほど巨大」 「なるほど、おまえのパトロンが人類と情報伝達できないのも、そのあたりに理由があるのか?」 『そう。 人類は情報統合思念体の情報伝達手段を、概念としても理解できない』 「ハルヒと話すには、どうすればいいんだ?」 『私が情報概念を変換して中継する。 あなたは普通に会話可能』 長門がそういった途端、ハルヒの声が聞こえてきた。 「速度差でリングが分かれるのはわかるけど、リングに幅があるのはどうなってんのかしら…?」 「内側と外側でも角運動量は同じはずだし、そしたら速度が同じなわけはないし……」 案の定、土星のわっかを観察していた。 自分の置かれた状況を知らないとはいえ、のん気なやつだ。 「よう、ハルヒ、楽しそうだな」 「あれ? キョンも来たの? 土星の輪って興味深いわね」 俺にはいまいちわからん。 「いきなり土星まで遠征すんな。 そろそろ昼飯だ、帰ろうぜ。 腹減ってるだろ?」 「えー? これからパイオニアを見に行こうと思ってたのに」 「また今度にしろ。 大学の学食とやらを試してみようぜ」 「うーん…… ま、いいわ。 食べたらまた来ればいいし」 以外とすんなり納得してくれて助かる。 なにせ、本番はこれからだからな。 「……ってあれ? どうやったら戻れるの? 研究スタッフの人ー! 聞こえてるー!? 終わっちゃっていいわよー」 当然ながら反応は無い。 「どうなってんの?」 「ハルヒ、落ち着いて聞けよ? 実は、おまえはちょっと困った状態にあるんだ」 「どういうこと? 故障?」 いきなり、不安という名の感情がどっと流れ込んできた。 なんだこれは? どうなってんだ? 俺は不安に飲み込まれないよう踏ん張って、ハルヒを安心させるように話しかけた。 「大丈夫だ。 そのために来たんだからな。 長門、聞こえてるか?」 『問題ない』 「有希?」 奇妙な不安が和らぐ。 まさか…… 「ハルヒに、戻る方法を説明してやってくれ」 長門がハルヒに向けて説明を始めた。 『あなたは制御システムによって設定された仮想空間から逸脱している。 このため、通常プロトコルによる帰還プログラムは使えない』 『そのために彼を使う。 正常な接続を保っている彼にあなたを同期させ、彼を帰還させることで同時にあなたを帰還させる』 「よくわかんないけど、いいわ。 有希に任せる。 あたしはどうすればいいの?」 『何もしなくていい。 動かないで。 始める』 奇妙な不安は、すっかりなくなっていた。 ※※※※※※※※ じんわりと、あたたかな感覚が広がっていく。 なんだろう、この感覚は? とても落ち着く、とても嬉しい、むずむずとくすぐったい。 こんな感覚は今までに経験が無い。 長門の言っていた単語が浮かび上がる 外殻 同期 俺と、ハルヒ…… そうか、これはハルヒをすぐそばに感じてるってことなんだな。 ふと、戸惑いの感情がわきあがってくるのを感じた。 もう想像は付いてる、これはハルヒの感情だ。 戸惑いの原因も解ってる。 ハルヒも俺が感じてるのと同じ、経験の無い感覚を覚えているに違いない。 実体でハルヒを抱きしめても、同じように感じることが出来るんだろうか? 腕の中にいるハルヒ。 上気した頬を朱に染めて…… いきなり俺を怒鳴りつけた。 「キョン! あ、あんた何考えてるのよ!」 ハ、ハルヒ!? お、おまえ人の想像にまで割り込んでくるなよ! 「知らないわよ! 人を使って変な想像してるほうが悪い!」 「どういうわけだか、あんたの頭ん中が全部筒抜けよ!」 「「何考えてんのよ恥ずかしい!」」 ん? 後半、二重に聞こえなかったか? まさか…… 「こ、このエロキョン! 乙女の頭の中を覗くなんて最低よ!」 ちょっと待て! 「長門! どうなってるんだこれは!?」 『同期に伴い、個としての存在境界が曖昧になる。 意識の融合は防止してある。 問題ない』 「問題あるわよ! 頭の中覗かれるなんて、冗談じゃない! しかもキョンのやつったら、 STRONG エロ /STRONG いし!」 頼む、エロのところを強調しないでくれ。 傷つくから。 仕方ないだろ、俺だって健康な若い男なんだ。 「ねえ有希、他に方法は無いの?」 『あなたは、任せると言った』 「う…… せめて、考えてることがわからないようにできない?」 『可能、けれど拒否する。 今のあなたは興味深い』 「ちょっと有希! 興味深いってなによ! こら!」 『具体的苦痛はないはず。 許容範囲』 それきり、ハルヒがどれだけ叫んでも長門は応えなかった。 「覚えてなさいよー!」 火がつきそうなほどの、恥ずかしいという感情が洪水のように流れ込んでくる。 どうやら、ハルヒとの以心伝心はしばらく続くようだった。 ※※※※※※※※ ハルヒはすぐに自分なりの抵抗策を編み出した。 ありとあらゆる罵詈雑言が聞こえてくる。 対象は、むろん俺だ。 せっかくテレパシーを手に入れたと同じ状態だというのに、することがこれというのは、人類はテレパシーを得なくて正解だね。 それでも一つわかったことがある。 テレパシーでは嘘をつけないっていう、あれは本当だな。 悪口雑言を照れ隠しと呼ぶには、あまりにも可愛げに欠けるが 「可愛くなくっていいわよコンチクショー!」 うん、すかさずの突っ込みありがとう。 こんなハルヒを可愛いと思ってしまう俺は、本当に精神病の一種に冒されてしまったのかもしれないと、そう考えた。 考えただけだが、これも当然伝わったんだろう。 つぶやくような罵詈雑言が止んだと思ったら、叫ぶような罵詈雑言になった。 なぁ、ハルヒ。 こういうのも、悪くないんじゃないか? 罵詈雑言が止んだ。 と思ったら、ハルヒは一気にまくし立てた。 なによ、アンタ罵られるのがいいわけ? マゾ? 別に良いわよマゾだろうとゲソだろうとあたしには関係ないわ。 とにかく! あたしは一時の気の迷いで厄介事をしょいこむほどバカじゃないのよ! 懐かしいせりふだ。 まだSOS団を結成されていない頃にハルヒが言い放った恋愛観。 俺たちもそれなりに長い付き合いだし、お互いのこともそれなりに理解しているつもりだ。 とにかく、こいつはなんに付け── 厄介事、好きだろう? …… 『緊急事態』 うわっ! な、長門か? 『涼宮ハルヒにより創造された情報因子が薄れつつある。 涼宮ハルヒの外殻を維持できなくなる可能性が高い』 待て長門! ハルヒに聞かれたらまずい! 『情報概念の変換は凍結した。 問題ない』 『このままでは、涼宮ハルヒの外殻は失われる』 ※※※※※※※※ ちょっと待て。 ハルヒの外殻が失われる? それはハルヒの躰が失われるってことで、つまり死ぬってことじゃないか? ハルヒが死ぬ。 その想像に背筋が震え、鳥肌が立つ。 頭に血が上っていくのがわかる。 そんなことは許せない。 「なんとかできないのか?」 『……』 悔しさに満ちた三点リーダー。 『あらゆる可能性を検討した。 最も短時間で完了する方法でも3分15秒足りない』 「おまえの親玉はなんと言ってる。 ハルヒを失うわけにはいかないだろう」 『……』 また、悔しさに満ちた三点リーダー。 「いや、そうだったな、思い出したよ。 あらゆる損失を許容するんだったな」 『そう。 損失を許容した場合の結果は異なる』 長門の言わんとするところはすぐに解った。 「却下だ」 『直ちに私のパーソナルを放棄した場合、1分57秒の余裕が生まれる』 「却下だと言った」 『……パーソナルのパージを実行する。 能力行使の受け入れを願う。 5、4、』 「お前が自己を捨てれば、この世界は滅ぶぞ」 『……なぜ』 「お前を犠牲にすれば、ハルヒは俺のことも、自分のことも絶対に許せない。 そういうやつだ」 「だからな、これが冷たい方程式で、誰かを放り出さなきゃならないなら、たった一つの冴えたやり方は俺をパージすることだ。 そうだろう?」 できるだけ軽く言ったつもりだったが、あまり旨く行かなかった。 震えているのが自分でもわかる。 長門に戦慄が走った。 そのことが、決断の結果を強く物語っていた。 『あなたがいなくなっても、世界は滅びる』 「大丈夫だ。 あいつはそんなにヤワじゃない。 この俺が保証する」 ハルヒのことを思い描く。 笑っていた。 胸に熱いものがこみ上げて、震えは去っていく。 ああ、あいつの笑顔を守るためならなんだってできるさ。 たとえ不可能だって覆してやる。 『なぜ? 有機生命体にとって、死は何より恐ろしいはず。 あなたは死を恐れない?』 「怖いさ。 だがな、お前を犠牲にすれば俺は罪の意識を背負って生きることになる。 何年も、何十年もだ」 「そして、ハルヒに軽蔑される。 そうだな、俺はハルヒに軽蔑されるような生き方はしたくないんだ。 そっちの方が怖いのさ」 「それにな、俺は死ぬつもりはない。 必ず帰る。 絶対にだ」 「だから…… それまであいつを頼む」 『私は、あなたを失いたくない』 「帰る。 必ずだ。 約束だ」 『あのとき、あなたを守ると誓ったのに…… 守りたいのに…… どうして……』 「すまん、長門。 もう時間がないんだろう? ハルヒと繋いでくれ。 言っておくこともあるしな」 ※※※※※※※※ 「ョン! 有希! 返事してよ! だれかいないの!?」 「ハルヒ」 「キョン!? どこ行ってたのよ! 有希の声もしなくなるし。 あ、あったかい気持ちも消えちゃうし……」 「こんなところで独人にしないでよ」 「なぁ、ハルヒ。 俺、先に帰らなきゃならなくなったんだ」 「え……? で、でも……」 「心配するな。 長門はついててくれる。 ただな、俺、ちょっと寄り道するかもしれない」 「お前の方が先に着くかもな。 それでも必ず帰る。 だから、待っててくれるか?」 「いったい、何があったの?」 「約束してくれ、ハルヒ。 必ず待つと」 「それはいいけど、ちゃんと説明してよ」 「すまんが時間がないんだ。 約束したからな? ちゃんと待ってろよ」 「いいぞ、長門。 やってくれ」 『……』 「ちょっとまってよ! どういうことなの? 二人とも変よ? まるでさよならみたいじゃない!!」 「やれ! 長門!」 俺は必ず帰る。 そしてその時こそ、あいつにはっきりと伝えるんだ。 ※※※※※※※※ 第五章 消えた。 緊張 恐れ 悲しみ 温もり いろんな感情がないまぜになった何かを最期に、さっきまで感じられたキョンの気配の、一切が喪失した。 今、何があったの? 状況がつかめない。 突然すぎて、現実味がない。 キョンは先に帰るって言ったのよね? でも、寄り道するかもって。 って、どこに? だってここは現実じゃなくて、ただの仮想空間で…… ──現実じゃない── そうよ、ここは現実じゃない。 だからキョンは帰った。 現実の世界に。 そうよ、他にあり得ないじゃない。 あたしも帰らなくちゃ。 だって、現実のあたしはきっとお腹がすいてる。 ──現実じゃない── 帰ろう。 帰ったらみんなでお昼を食べよう。 人を恥ずかしい妄想に使ったキョンにはさんざんおごらせてやらなきゃ…… 現実に帰れば、こんな寂しくて不安なこともきっとなくなる。 「有希? あとどのくらいかかりそう?」 『…もうすこし』 ※※※※※※※※ そのとき、長門有希は戦っていた。 内に生じた混乱。 背反する欲求。 情報制御をやめれば、涼宮ハルヒは消滅する。 涼宮ハルヒの外郭を構成する情報因子の概念変換を続けながら、一方でそれを放棄したがっている。 放棄などできない。 涼宮ハルヒの保全は最優先。 ERROR ERROR ErROR ERROr eRRoR ER oR ErrOr eRroR !rrOr EeROOR EEEERROOOOORRRR エラーが蓄積していく。 発生源を突き止めて対処しなくては。 エラーに浸食されないよう、幾重にも防壁を施した自己診断プログラムをいくつも放つ。 この様なことに能力を割いていては、涼宮ハルヒの保全に支障を来す可能性がある。 やがて、診断プログラムは解析結果を返し始める。 結果が示す、エラーの発生源は…… …彼との、記憶?… 記憶はただの情報でしかない。 それ自体がエラーを発生することなどあるはずが無かった。 診断プログラム自体の誤動作を疑ったが、プログラムは正常だった。 なぜ、彼との記憶が涼宮ハルヒの保全を妨げようとするのだろうか? そのとき、診断プログラムが別のエラー発生源を報告した。 報告を検査して、私は理解した。 私は、彼を失うことになった、その原因を消したいのだ。 無駄なこと。 現在の彼女はすでに原因ではない。 消すならば、原因になる前に遡行しなければならない。 いくつか不明な点はあるものの、エラーの原因がわかった以上、対処は容易と思われた。 が、エラーの蓄積は続いていた。 ……なぜ 私はいつのまにか、これほど彼に依存していたのか? 彼に会えない。 これだけのことでエラー訂正に不全をきたす程に? 彼に会えない。 その思考が表層に上ったとたん、膨大なエラーが発生。 ※※※※※※※※ 「有希? 大丈夫? 有希!?」 『…なにが?…』 「………? ううん、気のせいよね。 有希が大声で泣いてるような気がして」 『泣いてなどいない』 「うん」 これはエラー。 涼宮ハルヒが絶望すれば、この宇宙は消滅するかもしれない。 それでも、私は彼女に聞きたい。 『もし…… 彼を失ったら、あなたは泣く?』 「彼? もしかしてキョンのこと?」 『そう』 「考えたこともないわ。 それに、寄り道したって帰ってくるんでしょ?」 彼女は知らない。 彼は…… 『彼は帰らない。 帰還の可能性はない』 間髪入れずに言葉が返ってきた。 「帰るわ」 理解できない。 なぜこうもあっさりと言い切れるのか。 『……なぜ?』 「あいつが、必ず帰ると言ったからよ」 「あいつはね、できるくせにできないできないしか言わないのよ。 いつだって、できねーよ! なんて文句言いながらやっちゃうの」 「そのあいつが必ず帰るって言ったのよ。 そりゃ、帰ってくるわよ」 彼は、帰ってくるのだろうか? 涼宮ハルヒが信じている限り、可能性はあるのかもしれない。 「だから、あたしたちも帰ろう?」 『……うん』 彼は確かに、帰ると言った。 彼女は彼を信じると言った。 ならば、私も彼を信じよう。 論理的な私がエラーだと否定しても、この私が肯定したいと望んでいるから。 ※※※※※※※※ 戻ってきた。 起き上がり、隣に横たわるカレを見つめる。 今の私にできること…… マイクロマシン注入による肉体保全。 彼が帰ってくるために。 経口摂取型マシンを合成、投与………… 完了。 ……もっと、ゆっくり、すれば、よかった…… 「長門さん?」 引きつった笑いを貼り付けた古泉一樹と、紅潮した顔を手で覆う朝比奈みくるが立っていた。 「お二人は、ご無事なのですか?」 問いかけを無視して、いまだ起き上がれないでいる彼女の元へ向かう。 彼女の額に手を当て、知覚境界面を涼宮ハルヒの肉体に沿って調整。 完了。 彼女は目を開け、深い息をついた。 ※※※※※※※※ 目を開けると、有希がいた。 額に当てられた手が気持ちいい。 「ふうぅぅぅ」 大きく息を吸って、吐いたあたしに古泉君とみくるちゃんが駆け寄ってきた。 「涼宮さん、気づかれましたか? 大丈夫ですか?」 まだ頭が8つに足が6本、おまけに尻尾が9本くらいあるような気もするけど、とりあえず大丈夫みたい。 「あたしは大丈夫。 それより、キョンよ。 アイツはど」 首を回してキョンを探したあたしは横たわるその姿をみつけ、言葉に詰まった。 深呼吸して自分を落ち着かせ、側まで歩み寄っていく。 冬の日の記憶が蘇る。 冷たい、階段の踊り場に倒れて、動かないあいつ。 首筋に手のひらを押し当て、暖かさを確かめる。 大丈夫、暖かい。 よく寝てるようにしか、見えない。 そうよ、寝てるだけに決まってる。 寄り道だの何だの、あたしがこんなに不安になるようなことなんて、本当は何も無いのよ! キョンの襟首をつかんで、揺さぶりながら怒鳴りつけた。 「いつまで寝てんの! 早く起きなさい! 団長より遅れて起きるなんて、お昼はあんたのおごりよ!」 「涼宮さん、落ち着いてください!」 みくるちゃんに、抱きかかえられた。 相変わらず、むねおっきいわね。 ――何考えてんだろ、あたし。 こんなときに。 ――こんなとき? どんなとき? だめ。 思考がまとまらない。 ちゃんと考えなきゃいけないはずなのに。 「状況は掴めませんが、彼に何事かあったのですね?」 有希が短く、そう、と答えるのが聞こえた。 「わかりました。 ともかく、彼を病院に運びましょう」 嘘よ、こんなの。 硬直するあたしの背中で、声を殺して泣くように、みくるちゃんが震えていた。 ※※※※※※※※ あの冬と同じ病室。 身体的な異常は無し。 ただ、意識だけが戻らない。 そんなところまであの日と同じ。 面会時間も消灯時間もとっくに過ぎて、窓からは月がさし込んでくる。 あたしは丸いすに腰掛けて、ベッドに肘をついてキョンに話しかけていた。 「あたしを放り出せばよかったのに、バカ」 「そりゃ、有希を放り出したりしたら、絶対許さないわよ。 でも、だからって自分を放りださ無くってもいいじゃない」 「あんたを放り出して助かったって、うれしくないわよ、バカ」 そう言って、キョンのおでこを指先でつついた。 嘘。 本当はうれしい。 助かったことが、じゃない。 『あたしに軽蔑されるような生き方をする方が怖い』 キザなセリフ。 似合わないわよ、バカ。 しかもこいつは、キザなセリフを口先だけで終わらせなかった。 本当にやっちゃうやつなんて、いないわよ、普通。 あたしは立ち上がり、腕を広げてキョンに覆い被さった。 「認めてあげる。 あんたは普通じゃない。 宇宙人でも未来人でも超能力者でも異世界人でもなくても、あんたは特別な人」 「そして認めるわ。 あたしは普通の人間とつきあうなんてまっぴらで、ついでに厄介ごとは嫌いじゃないってこと」 あたしも、あんたに軽蔑されるような生き方はしない。 あんたは待てと言った。 あたしは待つと言った。 この約束だけは、絶対に破ったりしない。 だから、帰ってきなさい。 ずっと、待ってるから。 唇を合わせて、キョンの顔をじっと見つめる。 キスで目覚める、なんて、さすがに無いか。 他人が見たら砂糖を吐いたかもしれないような笑みを浮かべながら、あたしは床の寝袋に入った。 ※※※※※※※※ ここは…… 学校? おかしいな、あたしはキョンの病室で寝たはずなのに。 淡い灰色に一面覆われた、のっぺりとした変な空。 以前に一度見たことのある、あの夢にそっくりだ。 ! キョンは!? ここがあの夢なら、きっとキョンがいるはず。 あたりを見回しても、見あたらない。 あのときはすぐそばに倒れてたのに。 きっと部室にいる。 あたしはそんな確信を持って、旧校舎の部室へ向けて歩き出した。 旧校舎の階段をゆっくりと上がる。 早く行きたいという思いに、もしいなかったらという恐怖がブレーキをかけた。 ゆっくりゆっくり、しかしそれでも、部室のある二階はすぐだ。 二階の廊下から部室の方をみやると、部室に明かりがついてる! あたしは駆けだした。 ※※※※※※※※ 廊下を走る音がする。 もうすぐ扉が勢いよく開いて、あいつのびっくり顔が現れる。 「よお、いいタイミング。 そろそろと思ってお茶、淹れといたぜ」 「あああぁぁぁぁ あんた! こんなところで何してんのよ!」 こらこら、苦しい。 首を絞めるな。 「俺に怒るな。 第一、ここはおまえの夢の中だろうが」 「そうだけど…… って、あんた夢だって言う自覚があるの?」 「夢の中だからな、なんだってありだ」 「……? えーと……?」 「考えるのは後にして、座れ。 お茶を飲んで少し落ち着け」 納得できないけど、反撃の糸口が見つからないといった風情のアヒル口でしぶしぶ団長席に座るハルヒに、湯飲みを差し出す。 「熱いからな、気をつけろ」 お茶に息を吹きかけて冷ましながら、じっと考え込むハルヒを待ち続ける。 やがて、ぽつり、とつぶやいた。 「あんたは…… あたしの夢の中だけのキョンなのよね。 起きたらそこは病室で、あんたは眠ってる……」 「うーん……、まぁ、そうとばかりも言えないんだが」 「どういうこと?」 「気にするな」 「なるわよ」 湯気越しに不満顔のハルヒをみつめていると、ハルヒが妙にそわそわしている。 「なんだ? トイレなら早く行った方がいいぞ?」 「ばっ! 違うわよ! そんな締まりの無いにやけ顔で見られてると落ち着かないのよ!」 む? いつの間にかそんなに締まりの無い顔になってたか? だがそれは無理な相談だ。 「おまえを見てるとそうなるんだよ」 「っ――――――!! あ、あんた変よ! そんなこと口に出せるやつじゃなかったわ!」 「いろいろあったからな。 後悔より、恥ずかしい方がましだ」 そう言って湯飲みの底に残ったお茶を飲み干し、お代わりを注ぎ直した。 立ち上る湯気が、部屋の空気をやわらかく落ち着かせていく。 ハルヒは湯飲みを両手の平で抱えるようにして口元にやり、考え事を始めた。 その背後、窓の外に、こちらの注意を引くように揺らめく赤い光点。 「ハルヒ、済まんがちょっと待っててくれ」 「どこか行くの?」 「生理現象だ」 「ばか」 ※※※※※※※※ 「よう、古泉。 おまえと連れションなんて、ぞっとしないな」 「そうですね」 赤い光点はそう言って軽く笑い、おぼろな人型に変化していく。 「お戻りだったのですね、助かります。 例の、我々でも進入できない閉鎖空間です。 あなた不在でどうなることかと思いました」 「迷惑かけちまったな、あとは任せとけ」 「おや? 失礼ですが、本当にあなたですか? 以前のあなたは、そのようなことを口にする方ではありませんでしたが」 「俺は帰ってきた。 あいつといるために。 それだけだ」 「……心を決めた、ということですね。 それを聞いて安心しました。 是非、機関をあげて祝福させてください」 人型がうやうやしく礼をとった。 「勘弁しろ」 人型は球体に戻ると、軽い笑い声を残して消えていった。 ※※※※※※※※ 部室に戻ると、ハルヒと目があった。 しばらく、互いに目をそらすこともせず見つめ合う。 その間、ハルヒは何かを言いかけてはやめて、また言いかけてはやめてを何度も繰り返した。 俺も同じだ。 言いたいことがある。 伝えなきゃいけないことがある。 覚悟もしたはずだ。 だのに、いざとなると怖い。 俺の方から視線を外した。 目の端に、失意と驚きをありありと浮かべたハルヒの顔が映っていた。 「なぁ、ハルヒ。 その先は目が覚めてからにしないか。 俺は夢の中じゃなくて、現実のおまえの声で聞きたい」 「それに、おまえにとっての俺は眠ったままだろう? 俺も、ここじゃなくて現実の声でおまえに言ってやりたい」 再び正面から見たハルヒは、涙をにじませていた。 ゆっくりと歩み寄り、腕の中にハルヒを包み込む。 体を預けてくれるハルヒが愛おしくてしょうがない。 その耳元に、ささやくように名前を呼ぶ。 「ハルヒ」 呼ばれて、ハルヒが面を上げる。 二人の唇が重なり合い、世界が還ってくる。 ※※※※※※※※ 目が覚めた。 暗い。 雰囲気が違う。 あたしの部屋じゃない。 ここは…… 病室だ。 見上げたベッドの縁にかかった白いシーツが、闇の中にうっすらとしたコントラストを作り出していた。 夢…… 夢とは思えないほど、リアルな夢。 あたしは寝袋から這い出して、キョンの顔をのぞき込んだ。 月はとっくに沈んだのか、窓から差し込む光は弱くてキョンの様子はよくわからない。 「キョン」 呼んでみても、返事はない。 やっぱり、あれは夢だったんだ。 甘くて、切なくて、残酷な…… キョンは目を覚まさない。 あたしに、好きだなんて言ってくれない。 ほほを伝う涙が落ちていく。 まだ一日もたってないのに、こんなに弱くて、ずっと待ち続けるなんて、あたしできるの? あたしはキョンの胸に顔を埋めて、声を殺して泣いた。 悲しくて悲しくて、もう何が悲しいのかわからなくなるくらい悲しくて、とにかく泣いた。 いつのまにか、優しい手が髪をなぜていた。 あたしは悲しくて心がぐちゃぐちゃになるくらい悲しくて、なぜる手が気持ちよくて、しばらくそのことに気づかなかった。 泣くのに疲れてやっと、頭に置かれた手の存在に気がついた。 その手の主は…… あたしは恐る恐る、その主を呼んでみる。 「キョン? 気がついたの? あたしの声が聞こえる?」 手が頭の丸みに沿って髪をなぜ、一日とたっていないのに懐かしく感じる声が聞こえた。 「もう、泣くのは気が済んだか?」 その声で、あたしの心は別の意味でぐちゃぐちゃになって、決壊した。 「~~~っ! 誰のせいだと思ってるのよ! バカっ! バカっ! バカっっ!」 「3回もかよ」 「言い足りないわよっ、バカっ! あんたどれだけ心配かけたかわかってるの!?」 「すまん」 「……いいわ。 元はといえばあたしが原因だし。 それよりお医者さん呼んでくるから、戻ってくるまで寝ちゃだめよ!」 あたしが部屋の明かりをつけ、扉を開けて出ようとしたとき、後ろから声がした。 「ハルヒ、ただいま」 振り向いて返す。 「うん。 おかえりなさい」 ※※※※※※※※ 翌日は朝から検査漬けで、午後も遅くにやっと解放された俺は、へろへろになりながら 夕べからいるハルヒはもちろん、古泉や朝比奈さんと夏休みの宿題会をやっていた。 ハルヒ曰く、他に有意義な時間の使い道を思いつかなかったそうだ。 勘弁してくれ。 ただ、長門は珍しく都合が悪いとかで、来なかった。 面会時間も終わり、明日またくると言ってハルヒは帰っていった。 やがて消灯時間。 月明かりの差し込む、薄暗い部屋でベッドに座ったまま、俺は待っていた。 来なければ嘘だという、ある一人の少女を。 そして現れる。 なんの前兆も、気配もなく突然に、その少女は部屋の中に立っていた。 少女を知らない者でも見間違いようのない、怒りのオーラを立ち上らせて。 すまん長門。 今回の件ではおまえには一番、苦労をかけた。 「おまえにはまだ言ってなかったな。 ただいま、長門。 俺は帰ってきたぞ」 少女は答えない。 硬質な瞳が射貫くような視線で俺を見据える。 やがて、開いた口から出た言葉は、明確な敵意のこもった誰何だった。 「おまえは、何」 ※※※※※※※※ 第六章 「おまえは、何」 「俺は俺だ。 おまえが知っているとおりの、俺だ」 長門は片手を上げ、手の平を俺に向けて突き出すようにして言った。 「警告する、彼の体から出て行け。 さもなくば強制排除を行う」 ありがとう、長門。 そうやって俺の体を守っていてくれたんだな。 あの日から、ずっと。 「長門、あの日を覚えているか? 昨日じゃない、最初の日だ」 長門の瞳に、青く怒りの炎が揺れた。 「彼を騙るなど、56億7千万年早い」 長門の示した強い感情の表れに、俺は正直驚いた。 長門はこれほどに強い感情を獲得していたのか。 化学的進化が知性的進化に変わるほどの時間を考えれば、当然かもしれないが。 「俺は本物だ。 お前に絶対帰ると約束した、あの日と同じ俺なんだよ」 「警告の効果は認められず。 敵性と判断、強制排除を実行する」 「よせ!」 長門の情報操作は、容赦なく俺を体から切り離そうとした。 だが長門、それは無理なんだ。 俺は長門の情報操作を上書きして、打ち消した。 長門の瞳にかすかな驚愕が浮かんだが、一瞬後には強い意志に塗り替えられていく。 「彼を守る。 彼を取り戻す。 もう二度とっ」 「長門、頼むから俺の話を聞いてくれ」 長門は答えない。 答える代わりに、部屋が一面コンクリートの壁に変化していく。 情報制御空間。 長門は本気だ。 「お前は約束を守ってくれた。 俺がいない間、ハルヒを支え続けてくれた。 それだけじゃない」 「俺はお前に残酷な役目を与えてしまった。 それなのに、お前はこうして役目を全うしようとしてくれている」 俺が語りかけている間も、長門の攻撃は続いていた。 情報操作の隙を作ろうとしているのか、体術による攻撃も加えてくる。 常人なら視認することもできないそのすべてを受け止め、いなし、無害化していく。 長門と戦うなんてできっこない、俺にできる唯一のことだった。 「なぁ長門、どうしたら俺を本物だとわかってくれる? 俺はお前にどうやって証明すればいい?」 「俺はお前に報いてやりたい。 お前に負わせた、悠久の孤独を償いたい」 長門の反応は意外だった。 「私は孤独ではない」 「彼がいる。 彼は帰ってくる。 彼を信じている。 彼を信じた私自身を信じている」 「彼を冒すものは許さない。 彼は、私が守る」 ショックだった。 こいつはたった一人、こうやって自分自身を支えてきたのか? 泣きそうだった。 永かった。 寂しかった。 抱きしめてやりたかった。 抱きしめてほしかった。 こいつは、ハルヒだけを支えにし続けた、俺の分身だった。 俺は、長門を抱きしめて泣いていた。 「もういい! もういいんだ! もう自分で自分を支えなくていい! 俺が支える! 俺を頼れ! お前が信じ続けた俺は、ここにいる!」 「戯れ言を。 彼に情報操作能力はない」 「確かに、あの日までは無かった。 だがそれだけだ。 それ以外は何にも変わっちゃいない」 「そうだ、お前はあの日、俺の内側に入っただろう? また俺の内に入れば、変わっちゃいないことがわかるんじゃないか?」 攻撃が止まった。 信じられないという、驚きの浮かんだ顔が俺を見上げている。 「私を、吸収するつもりか」 「まさか。 それに、わかっているはずだ。 俺の力量は計ったんだろう?」 「……お前は、いつでも私を破壊、もしくは吸収することができる」 「ああ。 だが俺にそんなことはできない。 その理由を確かめてくれ。 お前が納得するまで、俺のすべてを」 「私は内側から攻撃してお前を排除する」 「お前が納得できなかったら、そうすればいい」 長門が中に入ってくる。 俺はそれを歓迎した。 図書館、七夕、カマドウマ、3年間の時間凍結、文芸少女、冬山、クリパ…… SOS団の中でも外でも、いろいろやったもんだな。 そしてあの日、大学の研究室。 ハルヒを追いかけた俺たち。 そして喪失。 起きた奇跡と、その代償として負った膨大な時間と絶界の孤独。 ただ一人を想い続けた、永い、永い、想像を超えた寄り道。 「本当に、あなたは、彼? 本当に、帰ってきてくれた?」 長門の声は震えていた。 あっさりと信じるには、あまりにも永い時が流れすぎていた。 長門の手が、俺の存在を確かめるように体に回されていく。 「ああ、本当だ。 俺は帰ってきた」 俺の言葉が胸に落ちていくにつれて、長門の体から力が抜けていった。 今や、俺の支えがなければ立っていることもできないほど、か弱い少女。 俺はこんなにもか弱い少女に、どんなに惨いことを強いてきたのか。 少女は腕の中で静かに泣いていた。 ※※※※※※※※ 俺たちは並んで、互いにもたれ合うようにベッド腰掛けて、ささやくように話していた。 「あなたのいない夏休みは68039692308回、ループした」 「すまん。 拡散した自分を集め直すのに、それだけかかっちまった」 「かまわない。 あなたはちゃんと、帰ってきたから」 「お前をループの外に置いて孤独を強いたのは俺だ。 はっきり憶えてるわけじゃないが、俺しかいないからな」 「俺がどうしてこんな力を使えるようになったのかはわからない。 ハルヒが無意識にやったんだろうが……」 「涼宮ハルヒは無関係。 私は一度、彼女の力を行使したことがある。 だからわかる。 あなたの力は異質」 「彼女に起源を持つ力であったなら、侵入者と誤認することもなかった」 「だとしたら、ますますわからんな」 わからないことを考えても仕方ない。 それよりも話を戻そう。 「俺は守護者を必要としたんだと思う。 ループに囚われずに済む存在は、俺の帰る場所を損なうかもしれない」 「だからお前を守護者の位置に置いた。 そのせいで、お前はループの外に置かれることになってしまった……」 「かまわない。 それは私にしかできないこと。 私は役目のおかげで、自分の存在を見失わないで済んだ」 「そうか」 「そう」 静かな時間が、静かな息づかいの上を流れていった。 「それでも、俺はやっぱりお前に報いてやりたい。 たった一人で過ごさせた時間を償いたい」 「本当に一人だったのは、あなたのほう」 「俺は自分からなったようなもんだが、お前は違う。 俺のせいだ。 それに…… 言いにくいんだが」 細い肩を抱く手に力を込めた。 「もう一度だけループしなきゃならん」 「そのときはお前も、お前のパトロンも、そして俺自身の記憶、それに能力も消して、本当に元通りにする」 「56億7千万年の寄り道の記憶をすべて無かったことにして、一晩で帰って来たことにするんだ」 「なぜ?」 「俺はSOS団で唯一の普通の人間だからだ。 俺はSOS団での立ち位置を変えたくない」 「勝手な話だが、そのためにはお前にも、お前のパトロンにも記憶をなくしてもらうしか無いんだ」 「だからそうなる前、ループの記憶が消えてしまう前に」 「例えすべて消してしまうとしても、お前がしてくれたことへの証は立てておきたい」 「……なんでもいい?」 「ああ、俺にできることなら」 「今のあなたにできないことなど、想像もつかない」 「いっぱいあるぞ」 「たとえば?」 誤魔化すことはできない。 俺は長門の瞳をまっすぐに見つめて、はっきりと言い切った。 「ハルヒに軽蔑されるようなことは、できない」 「……いじわる」 長門の瞳は潤んでいた。 「わかっていた。 あの日、待っていてくれと言われたのは彼女。 私ではない」 「一つだけ。 あなたの能力を、一つだけ残して欲しい」 「今のあなたになら、できるはず」 そう言って俺の左手を握り、手の甲に指先を触れた。 ぐあ! これはっ! 列車の中の……っ 俺は公衆の場でこんなにやけた顔を晒していたのか!? 最低だ! 古泉の0円スマイルの方がましに見える! 「できるままにしておいて」 長門の声で我に返った。 能力はすべて消すつもりだった。 少し迷ったが、他ならぬ長門の頼みだ。 条件付きで受け入れることにした。 「わかった。 ただし」 「ハルヒに内緒の話をするため、だったらだめだ。 だから」 長門の手の甲に、指を触れた。 「……いじわる」 そう言って頷いた。 ※※※※※※※※ 第七章 「珍しいですね。 朝比奈さんからお誘いをいただくとは」 「呼び出したりしてごめんなさい。 でも、古泉君にも知っておいてもらった方がいいと思ったから」 「一人で気がついて、パニックになってもかわいそうだし」 うふっ えーと、今のは笑うところだったでしょうか? 「長門さんはもう、気がついているんですよね?」 長門さんの頭が僅かに動いて、肯定の意を示す。 「この三人ということは、やはり涼宮さんがらみなのでしょうか?」 すると、意外なことに朝比奈さんは首を振った。 「キョン君のことなんです」 彼がどうかしたのだろうか? あれ以来、確かに変わったと言えば、あのお二人は呆れるほど変わりましたが。 「その前に、少しお話ししておきたいことがあります。 古泉君も薄々気づいていると思いますが、私は現代で言うニンゲンではありません」 いきなり何を言い出すのだろうか、この人は。 話の真意が見えない。 ですがこれはただの前置きでしょう。 とすれば、とぼけるより率直に行った方が良いでしょう。 「そうですね。 あなたには我々現代人にない情報伝達手段がある。 それは新たな知覚を獲得した、分類学的新人類ということでしょう」 言葉に少々、毒が混ざったかもしれない。 目の前にいる新人類は、旧人類たる我々、ホモサピエンスを駆逐した種なのだ。 「その通りです。 そして、驚かないでというのは無理だと思うけど、古泉君、あなたももう、新人類なんです」 リカイデキナイ。 カノジョハナントイッタ? ボクガ、ニンゲンデハナイ? 「思い出して。 あの日、行きの電車の中でのことを。 あのとき、あなたは指での情報伝達ができませんでした」 ソンナコトモアッタヨウナ。 「あのとき、私が現代人とは違う種だということを指摘されそうになって慌てちゃいました」 「古泉君はさっき、トゲのある言葉を向けてきましたよね。 キョン君にも知られたくなかったんです」 「でも、今ならあなたにもできるはずです。 あなたも新人類ですから」 「ちょっと待ってください! そんなことはあり得ない。 進化と個体変化はまったく別の現象です。 僕が新人類に変化した? あり得ません」 「手を出してください」 朝比奈さんの天使のようなやわらかな微笑みが、今の僕にはどうしても悪魔の誘惑にしか見えない。 イワレタトオリニシテハイケナイ。 ソンナコトヲシタラ、ボクハボクデナイモノニナッテシマウ。 けれど、自分が何者なのか知らずにいるのはもっと怖かった。 彼女の指が手の甲にちょんと触れる。 その瞬間、頭の中に電車の中での光景が映し出された。 この事実に僕は愕然とした。 「新人類はこの時代、この地域に発生して爆発的に増加したことがわかっています。 私たちは、涼宮さんこそ最初の新人類だと考えていました」 『ました』? 過去形なのですか? まさか…… 「ええ、キョン君が、アルファだったんです。 あ、アルファというのは私たちの時代で付けられた、最初の一人の呼び名なんだけど」 「ちょっと待ってください。 彼は普通の人間です。 機関の調査では、彼について不明不審な点は一切ありません」 朝比奈さんが首を横に振る。 「キョン君が新人類になったのは、あの一件からです。 それ以前の調査では何もわからなかったでしょう」 「新人類が爆発的に増加した理由もわかりました。 この変化は伝染するんです。 キョン君から古泉君へ、そして古泉君と接触した人たちへも」 「ですが、キョン君がアルファになった原因や、あり得ないはずの個体進化の原因はわかっていません。 そちらについては、長門さん」 そう言って、朝比奈さんは長門さんに続きを促すような目線を送った。 「情報統合思念体は、彼が普通の人間であったはずがないという結論に達した」 「彼が生還した前後の時間平面において、涼宮ハルヒの情報操作は観測されていない」 えっ!? 彼が生還を果たしたのは涼宮さんが願ったからだと疑いもしなかった僕は、心の底から驚いた。 「彼は確率0の状況から自力で生還した。 彼は因果律の外から情報を操作したと考えられている。 そのような存在を感知した前例はない」 すみません。 あまりにスケールが大きすぎてついて行けないのですが。 「彼は外殻を失う直前、涼宮ハルヒに気持ちを伝えることを強く誓った。 そのことが、『伝える』という新形質に繋がったと考えられる」 「けれど、彼の生還および、形質を獲得した経緯その他については一切不明」 「因果律を覆し、個体進化を獲得し、さらに周囲をも進化させている事実に、情報統合思念体は大きな興味を注いでいる」 「彼は涼宮ハルヒに匹敵するか、あるいは凌ぐと考えられる」 「彼が自分の能力を自覚している兆候は観測されていない。 そこで、私と朝比奈みくるはこのまま現状維持という意見で既に合意した」 「古泉一樹、あなたは?」 黒曜の瞳に見据えられる。 「……わかりました。 現状維持に合意します。 安寧は機関としても望むところですから」 「たとえば彼が涼宮さんと並び立つ神だとしても、そのことはここにいる我々だけが知っていればいい。 そういうことですね?」 二人がうなずいた。 彼はいったい何者なのでしょうか。 とはいえ、これからもSOS団唯一の普通の人間という彼の立ち位置は変わりませんけれど。 例えそれがただの見せかけで、彼がもう一人の秘された神、だったとしても。 fin.