約 4,151,069 件
https://w.atwiki.jp/also_little/pages/739.html
アイスペ祭り~芸術の秋~の予選にて将が発した言葉。 テーマは流星のロックマンだった。
https://w.atwiki.jp/english_anime/pages/345.html
左のメニューにある新まとめwikiのリンクをクリックしてください
https://w.atwiki.jp/mangaroyale/pages/311.html
神に愛された男◆WXWUmT8KJE 砂で出来た山がいくつも存在し、風が吹くたびに砂が舞い、さらさらと流れ落ちていく。 ただただ広大な砂漠が広がる中、対峙する男が二人。 片方は黄金の身体に隻腕、カミキリムシに似た仮面と触角を持ち、黒いマントをはためかせていた。 もう片方は銀髪の痩身の男。鋭い顎と鼻、猛禽類を思わせるような視線で黄金の怪人を射抜いている。 銀の髪を持つ者の名は、赤木。 殺し合いに参加して、プログラムを潰すことにたった一つしかない命を投げだす、酔狂な男である。 黄金の怪人の名はJUDO。 仮面ライダーたちに大首領と呼ばれた男であった。 その外見は参加者の一人、村雨良が変身したZXに酷似していた。赤木はZXの存在を知らないため、その事実に気づくことはないが。 彼が今しがたコンビを組んでいた相手、パピヨンなら気づいたであろうが、赤木はパピヨンからZXの情報を得ていない。 そこまで、信頼されていないということだろう。 もっとも、その情報を得ても赤木は気にも止めなかっただろう。 主催者と似た姿の男がいる。ただ、それだけの情報が手に入った、そうとしか思わない。 それよりも、現在の状況が赤木にとっては興味深かった。 膝をついて、お椀を振り下ろしたままの体勢で大首領を睨みつけているだけの赤木。 赤木はゆっくりと口を開いた。 「半か…………丁か…………」 □ 赤木が歩くたびに、木製の床がギシギシ不快な悲鳴をあげてくる。 視界に入るのはおおよそ、薄汚れたコンクリートの壁。赤錆が浮かぶ古い蛇口。風でガタガタうるさい窓。降りしきる雨。 かなり年季が入った校舎を見回しながら、赤木はタバコを吸おうとして、自分がタバコを手に入れていなかったことを思い出し、僅かに眉を曇らせる。 まあ、別に問題ないとパピヨンがいる方向へと視線を向ける。 特に感情はこもっていない。せいぜい、パピヨンがここに来る。その事実を認識しているだけだ。 赤木はパピヨンをどう見ているのか? 覚悟と同じくこの殺し合いを壊す手札となりえるか? それとも、殺し合いを加速させかねない危険人物とみなすか? (いや……どちらでもないな…………) 赤木が周囲を見回すと、狙撃により焦げた廊下が眼に入る。 川田という殺し合いに乗った男の狙撃でこなたはあっさりと死んだ。 さっきまで運がよかった人間が、運に見放されてあっさりと逝く。 これがあるから勝負場とは面白い。自分の値踏みさえ、上回る結果の到来。こなたのような少女でさえ、命を賭ける賭博場。 ここには偽の勝負などありはしない。たった一つの命のやり取りする場。 まさに狂気の沙汰だ。 それこそ、赤木の望んだもの。赤木が求め続けたもの。 もっとも、パピヨンの認識は違う。 こなたの死に明らかに動揺を見せている。人間らしい感情を浮かばせている。 おそらく、パピヨン自身もこなたに何らかの好意を持っていたのだろう。 そして、見たところパピヨンは好意を持つことも、持たれることにも慣れていない。 好意を持っていたこなたが、逝ってしまったのだ。 パピヨンは奇しくも、放送直後のこなたと似た精神状態に陥ったのだ。 とはいえ、あの時とは違い赤木としては馴れ合う気はないうえ、修羅場を潜っているパピヨン相手なら言葉をかける必要ないと放っている。 同時に、赤木はパピヨンがその感情をどう処理するのか楽しみにしている。 初めて遭遇するおおきな感情のうねりにどう対応するか。 対応しだいによって、パピヨンがブタにも最強の手札にもなる。 人の変わり節、誰にも訪れるそれが、今パピヨンに訪れていたのだ。 ナギやこなたはそこを乗り切れなかった。なら、パピヨンは? クックック……と赤木は口角を上げ、そろそろパピヨンと合流しようかとその場を離れようとする。 ふと、赤木は振り返った。 彼の後ろには何もない。赤木は無言で、再びパピヨンの元へと向かう。 □ ぴっちりと全身を包む黒い全身スーツに蝶の仮面をかぶる男。 言われずとも、蝶人パピヨン、その人である。 爆発の跡を色濃く残す校舎にて、その背中にどこか力がない。 ここに来てすぐ、月の光に身を晒したときのような、覇気がないのだ。 普段は目立つ、寝そべれば小山を築く彼の一物も、今は黒いスーツの背景と化している。 握る黒い核鉄を手に、パピヨンはこなただった物に背を向けて、赤木の元に戻るために道を歩く。 雨が降りしきる音と、ギシギシと木製の床が鳴り、パピヨンの耳に不快ながらも、気分を紛らわせるのに役に立った。 パピヨンは苛立つ。蝶人たる自分が、まるで人間みたいな、まるで昔の自分が持っていた感情に振り回されることに。 彼は全てを捨てたはずだった。 己の名も、己の家も、己のつながりも、己の家族も。 全てを捧げて、人型ホムンクルスの力を手に入れた。 その過程で犠牲になる人間など知ったことではない。なかには泉こなたのような善良な少女もいたのだろう。 事実を取り繕うつもりなどない。罪だと糾弾したければ、すればいいとも思う。 幾多の屍を犠牲にしても、死ぬのはごめんだったし、芋虫のように他人に軽んじられる日々など、地獄でしかなかった。 自分はあの黒色火薬の色をした夜に生まれ変わったのだ。 自分の人間の名など、捨て去ったはずだった。 なのに、今のパピヨンはこなたの死に揺れている。 教室で同級生が恋の話に浮かれているのを内心馬鹿にしていた。 しょせんは雄と雌の生殖活動。そこにロマンを求めるなど、くだらない。 そう思っていた。それが彼の感想であるはずだった。 こなたの死に崩れた今のパピヨンにはそれを否定できるのか、自信はない。 こなたがいないことが無性に寂しい。 そんな自分自身が許せず、パピヨンは苛立ちを募らせていった。 赤木との合流までの時間が、やけに長く感じる。 「ふん。待ちきれずお前からきたか」 「…………クク。お前もまた……随分長い用足しだな……」 パピヨンは赤木の見透かしたような視線を避け、苛立ちを示す。 その様子に赤木は、見定めるように泰然と構えている。 相手に見透かされるのは好きではない。人食い動物のような視線をもってねめつけるが、赤木はそれを面白い、という表情を返した。 相手にするのも無駄だと判断し、パピヨンは覚悟と赤木よりもたらされた情報を統合し始める。 パソコンを立ち上げても、『Dr伊藤』からの反応はなかった、ということもある。 赤木の情報で抜けているところがないか、確認するのも悪くはない。 いけ好かないが、謎の多い主催者側の情報を持つ貴重な相手。 覚悟からの情報と合わせて、すべて自らの思い通りになると思い込んでいる主催者たちを叩きのめさねばならない。 己の苛立ちを敵にぶつける。いささか乱暴だが、今までと変わらない。 それに、自分ではそう思いたくないが、カズキやこなたなら、パピヨンが主催者を潰すのに賛同しただろう。 その己の思考に、パピヨンは反吐が出そうになる。死者は喋らない。考えない。 なのに、自分に都合のいい言葉を死者に求める。これでは津村斗貴子を笑えない。 パピヨンは幻想を強く頭を振って振り払い、思考をまとめる。 ツカツカとパピヨンは黒板に向かい、チョークを手にとって赤木に示した。 赤木は静かに紙と鉛筆を取り出し、パピヨンの行動を待つ。 『お前が得た情報によれば、首輪は外見をステルスされている、ということだったな?』 『ああ。泉との外部の接触により判明したことだ』 『そして、敵の本拠地に迎撃装置の存在。監視体制が万全でない。首輪の構造は単純。赤木、お前は馬鹿か?』 『馬鹿……とは?』 『罠以外なんでもない。しかも、子供でも引っかかるか怪しいほど単純なもの。 こちらに有利な情報が多すぎる。敵に裏切り者が出ない限り、この情報を得ることは不可能だ』 『俺はこの情報、真実だと思う』 『根拠は?』 『一致している……いや、型にはまりすぎている、といった方がいいか』 『どういう意味だ?』 パピヨンは不快感を示しながら、赤木の顔をうかがう。彼の表情は変わらない。 『俺が遭遇した参加者に、面白い制限を受けた男がいる』 『ほう? どんな制限だ?』 『その男は『人間ワープ』というアルター能力持ちだ。奴の意思一つで自在に移動が出来る。 しかし、奴の能力は制限を受けた。疲労の少ない能力に多大な負担を課し、距離をたった二メートルまでに縮める。 まるで、奴の能力に恐れるように』 『…………なるほど。お前はこの迎撃装置のことを言いたいのか』 『理解が早くて助かる』 パピヨンは舌打ちをし、赤木から聞いた迎撃装置のことを頭から引き出す。 時速六百㎞以上の速度でないと避けることのできない雷。 その攻撃を避けるのなら、何らかの乗り物で乗り越えるか、はたまた『人間ワープ』によって雷を避けながら敵の本拠地へと接近していけばいい。 つまり、主催者側にとって『人間ワープ』を重く制限するのは必須だといえる。 ここまで推理できれば、後は子供でも簡単に答えを導けれる。 赤木は本拠地の情報が信実である根拠をもっている。 ゆえに、この情報の信憑性が高い。そういいたいのだ。 『しかし、罠を仕掛けるなら美味しい餌を入れておくのが常套手段だろう。 本拠地の話が真実だとして、なぜそこまで信頼する?』 『そうだな。首輪の情報に嘘が仕掛けられていれば、俺たちは終わりだ。慎重になるのも無理はない。 むしろ、状況に流されないその姿勢、評価に値する』 『黙れ。俺はお前の評価など、興味はない』 『知っている。だからこそ、そこを認識しているからこそ、俺はこの情報が信憑性が高いと考えている』 『なんだと?』 パピヨンは露骨に疑問を浮かべて、赤木を見る。 赤木は、むしろパピヨンが信じないことが、おかしいという表情をしている。 パピヨンはさらに苛立ち、チョークがあっさりと折れた。 『この話に虚偽が混ざるなら、首輪の情報だろう。しかし、与えられた情報はどうだ?』 赤木は少し鉛筆を持ち上げ、やがて箇条書きに首輪の情報を書いていく。 『首輪の機能で、語られたことは、 1.霊的保護で外見をステルスされていること。 2.構造は単純。 3.監視は盗聴に頼りきり。その上、監視体制も万全でない。 俺たちにとって有利すぎる情報だ。警戒心を抱かないほうがどうかしている』 パピヨンはもったいぶるなと告げようとするが、赤木が右手を差し出して制される。 相手の思うように動かされるのは不快極まりなかったが、何とか耐えて続きを促す。 『そうだ、一つでも虚偽が混ざれば、俺たちは詰む。なおかつ、どれも俺たちに確証が持てない。 なにせ、俺と泉にこの話が真実だと確信できる情報が何一つないのだからな。なのに、俺たちにこの情報が届いた。 それこそが、この首輪の情報を真実だと告げている』 確信を秘めた赤木の目がパピヨンを射抜く。絶対を信じるその強さに、パピヨンは不快な表情をさらに深める。 『俺と泉は、この学校に来て間がない頃にこの情報を送られてきた。 つまり、安全圏に逃げ出した俺たちを移動させるために虚偽の情報が送られてきた線は潰れる。 むしろ、禁止エリアで移動させるほうが確実だ。 次に可能性があるのは、俺たちの始末。しかし、先ほどの津村の様子を伺うに、奴らは任意で爆破できる。 そんな回りくどいことをする必要はない。俺たちを始末するための情報でないのは確実だ。この線もなし』 赤木は次々と可能性を潰していき、鉛筆を一旦止めてパピヨンに向きなおる。 不敵な笑みは変わらない。やがて、赤木が一文を紙に追加した。 『一番ありえる可能性は……パピヨン、主催者は俺たちに来て欲しがっている』 その文を見て、パピヨンは眉を顰めた。 赤木を見つめる視線には、正気を疑う色が混じっていた。 「信じられない……という顔だな……」 「当たり前だ」 「ククク……パピヨン。どう考えても……おかしいだろ? この参加者……多種多様といえば聞こえはいいが……まるで子供が遊びで選んだように……適当だ……」 いきなり声に出す赤木に、パピヨンが憤る。 当然の反応だ。しかし、赤木はやめない。 「パピヨン……お前はこの集められている人間に……何の疑問も持たないのか?」 『疑問などとっくに持っている。ここに集められた連中は規則性がない』 「そうだ……葉隠からの説明から察すれば……目的が二つある。 英霊を集めること。強者を選定すること。しかし……それは正しいのか?」 『今のお前の妄言よりはよっぽど説得力がある』 「クク……考えても見ろ。この弱者が優勝しやすい状況……強者が協力しやすい状況……どう考えても強者を選定するのに向かない……」 強者が優勝する。そのためだけなら、トーナメントや勝ち抜き戦を行った方がいい。 騙まし討ち、強者同士の相打ち、協力、明らかな共通の敵『主催者BADAN』。 この殺し合いには、なんでもあり、そして殺し合いを妨げる要素に満ちている。 ここに集められた強者は、潰し合いをしやすい者が多い。 最初の広間での勇次郎の行動をみれば、好戦的でないと感じない奴はいない。 勇次郎は、強者を、弱者を喰うために動く。強者との戦いは起こしやすい人物だ。 そして、ラオウ。赤木が見る限り、ラオウもまた強者と戦うことを優先していた。 この殺し合いは、弱者が強者に殺されるのと、強者が強者と潰しあう確率がほぼ同等である。 また、恐怖に押し潰れた弱者がいたとしたら、と赤木は思考する。 ケンシロウの話からすれば、エレオノールは騙まし討ちをした。 覚悟やケンシロウ、鳴海のような強者は比較的、引っかかりやすいだろう。 必ずしも強者が戦って死ぬような状況を作れるわけではない。 それに弱者でも、強者にする手段はある。 スタンドディスクやパピヨンが言う『本来とは違う形で発動する核鉄』など、弱者を強者にする手段などありふれている。 どんな弱者でも勝ち抜ける可能性を持たすアイテム、この支給は強者を選定する、という目的とはずれている。 強者だけにこれらのアイテムが支給される、というなら分かる。 だが、実際はどうだろうか。御前、とかいう核鉄は三千院ナギに支給された。 猫草はこなたに支給されていた。僅かとはいえ、彼女たちが優勝する可能性を上げている。 また覚悟やケンシロウといった同じ志を持つものが戦うような状況を作りにくい。 そして、『主催』の存在は、ケンシロウや覚悟といった正義感を結ばせるのに、一役買っている。 この殺し合いは、明らかに強者の選定は不向きだ。 覚悟の言っていた強者の選定が主催者の目的と外れる、という結論になる。 パピヨンが黒板に文字を書こうとして、諦め、赤木に向き直って口を開く。 「待て、ならなぜ優勝者を選定するということだ?」 「クク……正しくは強者を選定したかったのだろう……主催者以外のBADAN勢がな……。 実際そうなのだろ? 名も知らない……主催者さん」 赤木が告げると同時に、教室の端に揺らぎが生じる。 金のカミキリムシのマスク。黒いマントで黄金のボディをおおう、仮面ライダーZXに似た黄金の怪人が現れた。 いきなりの登場にパピヨンは警戒心を露にするが、赤木は右手で制する。 「はじめまして…………とでも言うべきか……?」 『構わん。我が名はJUDO。ワームよ、キサマはなぜその考えに至った?』 「……簡単なことさ。こんな酔狂なゲーム……キサマのような奴しか開催しないと思ったからさ……」 『ほう』 「俺はここで……鳴海やパピヨン、葉隠……おおよそ、ありえないような世界の人間とであった…………。 お前は……そいつらを連れ出せる力がある……。ここに俺たちがいる理由……それはお前の力だろ……? おまけに、主催者連中……BADANだっけか? そいつらを自由にできる力がある……」 『だとしたら、どうだ?』 赤木の問いにあっさりと答えるJUDO。その答えに、パピヨンが僅かに口角を下げるが、それだけだ。 「それだけの力……組織……権力……お前はこの世で必要なものを持ちすぎている……。 断崖絶壁……誰も立ち寄れない孤高の位置…………終わることなく続く成功の道…………。 お前の異能……どれほどの時を生きていたか……想像もつかない……。 だからこそ……分かる……。お前は……」 赤木は静かにJUDO……大首領に歩み寄る。 威圧を……常人なら動けなくなるほどの圧力を、そよ風のように受け流して眼前に赤木は立つ。 「お前は……飽いている…………!!」 断言する赤木。とたん、風が吹き、窓がガタガタうるさくなる。 パピヨンはただ傍観する。己の出番はまだだと告げるように。 「ぶっちぎりだと思っているんだろ……? 己の先頭を走るものが……誰もいないと。 誰もいない場所で……誰も届かない場所にいるんだろ……? だからこそ、満たされない。お前が抱えているのは……大きな絶望だ……! そういう奴こそが、この殺し合いを開催する……!」 もはやそれは理論ではない。ただの決め付け、ただの妄想。 なのに、それこそが真実であるように、それこそが世界の答えであるように、大首領を評していく。 「誰がこようが……誰が優勝しようが……いや、脱出しようが……お前は構いやしない。 ただその渇きが……飢えが満たせれば……それでいい……。 だが、それは無駄だ……JUDO…………!!」 JUDOが赤木を興味深そうに見つめる。 「お前は俺と同類だ……。ただ、己の持つ力に……発散するものなしに……飽いていく…………燃え尽きていく……!」 とたん、赤木の首輪が甲高い電子音を発する。 BADANにとっては敬愛する大首領に向かって、同類だと言い切った赤木が許せないのだろう。 しかし、赤木は一切首輪の音を、死が近付くのを意に介さない。ただ、大首領のみを視線を入れる。 「俺はここで……充実したぞ……。本物の勝負……いつ命を失うか分からない状況……まさに、命を賭けるのに相応しい。 JUDO、お前も来い……。お前もここに来て……俺たちのように勝負をすれば……その渇きは癒える……!! 成功し続ける生など……死が訪れない生など……何の「酔い」ももたらさない……!! JUDO……お前こそ……この殺し合いに参加すべきだ……。 こい! 異能者よ、ここには……キサマすら殺せる…………濃厚な「死」がある!!」 言い終えてただ大首領を赤木は見据える。ピッピッピッピ、と首輪の音は間隔を早くしていく。爆破はもうすぐだ。 大首領がはじめて動き、顔を赤木へと向けた。 『黙れ』 大首領の瞳が、輝いた。 □ ヘルダイバーのアクセルグリップを握り締め、市街地をかけていく男が一人。 民家を何軒も通り抜け、無機質に青から赤へと変わる信号のある交差点を疾風のごとく駆け抜けた。 降りしきる豪雨に全身ぬれねずみだが、構わず進む。 目指すのは学校。復讐の邪魔をしたと思わしき赤木、もしくはパピヨンの始末。 今の自分はライダーマンヘルメット、ハルコンネン、ライドル。 支給品をかき集め、全力で復讐を果たす。たとえ、憧れた正義の象徴、仮面ライダーを汚しても。 川田にとって柊つかさとは、そういう存在だ。己の全てを賭けて、生かしてやりたかった少女だ。 (思い出すな……最初にプログラムに巻き込まれたときを……) あの時、慶子を川田は守れなかった。その苦味を糧に、二回目のプログラムはくそったれな政府にカウンターパンチを食らわせることを誓った。 まさか、ここで同じ気持ちを味わい、殺し合いに乗って生き返らせるなどという願いを持つとは思わなかった。 自分が死んでいなければ、きっと二度目の消失の重さに耐え切れず自らの命を絶ったのかもしれない。 たった一日の付き合いなのに、たった一日傍にいただけなのに、こんなにも想ってしまう。 坊主頭に無精ひげの自分じゃ似合わないな……と自嘲しながら、身体を傾け交差点を右折した。 ヘルダイバーの後輪が火花を散らしてすべり、排気音が甲高く無人の市街地に響いた。 (本郷さん……俺は殺す。仮面ライダーの力を使って。 いや、今の俺に『仮面ライダー』の力なんて相応しくない。この力は、この能力は……) バイクのスピードを加速させ、川田は進む。まるで、罪悪感から逃げるように。 そうでなければ、崩れ落ちそうだったのだ。 「俺は……復讐の鬼だ!」 かつて、ライダーマンヘルメットを装着した男と、同じ宣言をする。 そうとは知らずに、そうとは気づかずに。 後に、その男が仮面ライダーと名乗ったことも知らずに。 ヘルダイバーを停車して、ライダーマンヘルメットによるカメラアイで校舎を探る。 窓際に移ったのは……パピヨン、そして赤木。 好都合だ……川田は呟いて、両腕でハルコンネンを持ち上げた。 ライダーマンの強化服からもたらせる、身体能力はハルコンネンの反動に耐えられる怪力をもたらせてくれた。 もはや身体とハルコンネンを固定する必要などなくなった。 銃口を赤木とパピヨンの間を彷徨わせる。 どちらを殺すか、一瞬だけ迷うが、構わず銃口を固定した。 川田は照準がぶれないようにハルコンネンのストックを肩に乗せ、ハルコンネンの砲身を左腕で持ち上げる。 右頬をハルコンネンのストックにつけ、一定箇所に密着させた。膝をついて、銃口を徐々に持ち上げていく。 かすかなぶれもなく、ハルコンネンが固定された。 ライダーマンヘルメットと、強化服がなければこうはいかなかっただろう。 引き金に触れて、目を瞑る。瞼の裏に撃ち抜かれる覚悟の姿が再生された。 ゆっくりと目を開いていくと、静かな炎が川田の目に表れる。 急に、ピタリと雨が止んだ。 ありえないことだったが、川田は構わなかった。いまさら、どんな奇跡が起ころうとも構いやしない。 川田の右手の人差し指がゆっくりと引き金を押し込んでいく。 まるで時の流れがゆっくりになったような状況だが、川田には馴染み深い感覚だ。 凄まじく集中したときに起こる、周囲の認識感覚の異常な発達。 砲身に火薬が広がる様子が見え、砲弾が放たれていく。反動が川田の肩を駆け抜け、身体が僅かに揺れる。 砲弾は神速の勢いで飛び出し、校舎の壁に炸裂する。 再び、花火のような爆発が校舎に轟いた。 川田はライダーマンヘルメットを取り、タバコを吹かす。じっと、校舎から誰か飛び出てくるのを待ち続けた。 □ カラン……と乾いた音と共に金属の塊が零れ落ちる。 甲高い電子音を首輪は告げない。赤木の首には、一日中拘束していた枷が外れている。 同時に、雨が降りしきる音が止み、あたりに静寂が訪れた。 パピヨンは呆気に取られ、大首領を睨んでいる。 大首領の念動力により首輪の外れた赤木は何事もなかったかのように大首領に試すような視線を送っていた。 『これでうるさい物はなくなった。続きをいってみろ』 大首領は首輪だけでなく、雨に対してもうるさいと感じたのだろう。 あっさりと、天候を操作して見せた。 あまりの非常識な出来事。もっとも、ここにいる二人は気にしなかったが。 「ああ……お前はこの殺し合いに来るべき存在だ……。事実……お前は俺たちに来て欲しがっている……。 でなければ……俺たちに情報が渡るような状況なんてありえないはずだ……。 こうして……この場に現れるのがいい証拠……。お前は……一部始終……全てを知ることができる……。 霊的処置……そんなことができるのに……余りにも情報を得る手段が稚拙……。 つまり……BADANには霊的処置を施せない……。施せるのは……キサマのみ……! キサマは俺たちの干渉が皆無……つまり、俺たちにキサマの元に来て欲しがっている……。 この殺し合いに……混ざりたがっている……! 首輪の霊的処置……つまり、英霊はキサマ自身……強化外骨格はこの殺し合いに混ざるための、身体……。 優勝者に……強者にBADANは強化外骨格を着せたがっていたが……お前は別。誰が着ようが、関係ない。 ただ、この殺し合いに混ざればいい……その、飢えを満たすために……」 『ただの戯れのつもりだったが……』 大首領がゆっくりと動く。まるで山が動くような錯覚を感じたが、このにいる二人は揃って狂人。 その程度で動揺はしない。 『なかなかどうして、面白い。 我にとって、虫けら(ワーム)の動向でここまで心を動かしたのは、キサマが初めてだ。 クク……たしかにどいつが優勝しようが、我は構わぬ』 「どういうつもりだ?」 『お前は虫けらの強弱を気にかけるのか? アリが最強のアリを名乗ったところで、いったい我に何の価値がある?』 要するに、人間とは違う生物だといいたいのだろう。 軽んじられることを嫌うパピヨンが不快な顔をする。 「だろうな。それに、たとえ三千院ナギが優勝しようと……そこにいるパピヨンのように……身体を強化できる手段はある……。 肉体の優劣など……何の意味ももたらさない」 ホムンクルスのことをいわれたパピヨンが不快の表情を深めるが、赤木の意識は大首領に向いていた。 自分に似ている、異端に。自分と同じく、自らを持て余す存在に。 「JUDO……キサマの目的は……肉体を得ること。そのためにBADANを使っている。 だが……この殺し合いはただの遊び……。肉体を得る手段はすでにある……」 『後は……神降ろしの儀式を待つだけだ。それにしても、ここには邪魔者が多いようだな』 大首領が呟いた瞬間、教室の壁が爆発をする。 とっさに赤木とパピヨンは飛び退くが、爆風により壁に叩きつけられる。 いや、赤木に限っては、叩きつけられるはずだった。 赤木は宙に浮かぶ自分の身体を見つめ、大首領に視線を動かす。 『少し……移動する。続きはそこでだ』 魔法陣らしき物体が宙に浮き、赤木がその魔法陣に吸い込まれていく。 視界に光が広がり、やがて赤木の意識が拡散した。 瓦礫に埋もれながら、パピヨンは静かに天井を見つめる。 先ほどの襲撃者……川田とおよぼしき人物が再度襲ってきた。 一度逃がした獲物を、今度こそはということか。 パピヨンは笑う。 先ほどはこなたの死が影響したのか、赤木と大首領の会話に圧倒されるだけだった。 なんと言う、蝶人パピヨンらしくない反応だと、自嘲する。 これでは斗貴子を笑えないではないか。パピヨンは瓦礫を跳ね除ける。 よく考えれば、赤木の言うとおりこの殺し合いには不審な点が多かった。 弱者の強化、強化外骨格の存在、第ニ回放送で死者の復活を告げるほど、殺し合いに乗る人間の不足。 一つの目的をかなえるにしては、余りにも不確定の要素しかない。 だからこそ、赤木の推理は正しかったのだ。今の頭の冷えたパピヨンにも理解できるほど。 敵は一枚岩ではない。あのJUDOという主催者、少なくともBADANという部下とJUDOは連携が取れていない。 いや、連携を必要としていない。こちらの協力者の存在もそうだ。 BADAN側の連中は驚くほど足並みが揃っていない。 あの様子を見るに、JUDOのワンマン組織だったのかもしれない。なら、あの情報は十中八九正しい。 首輪の手がかりは得た。JUDOとかいう奴も、こちらの行動を制限する気はないと知った。 気をつけるのは、不揃いなBADANの連中。 (武藤……俺はやるぞ。やつらを、BADANを、あのJUDOを、そして……俺を翻弄したと勘違いしている赤木を、すべてねじ伏せる! ああ……俺も甘くなった。泉があんな目に遭ったのが原因だ。もう、それは認める。逃げはしない。 だからだ、武藤、いず……こなた。俺は全てを賭ける。この殺し合いを潰すことに、蝶人パピヨンの全てを!) パピヨンは全身に力を込めて、地面を蹴る。 まさに蝶人に相応しい跳躍。三階から一気に躍り出る。 外に軽やかに着地して、川田を前にする。心なしか、パピヨンの股間は勢いを取り戻し、隆々とそそり立って存在を主張していた。 「いよ、一つ聞かせろ。お前が津村を殺したか?」 「そうだな。正確には違うが、殺すところまで追い詰めた」 「そうか、ならいい。ちょうどお前に用があるからな」 川田は右前方にヘルダイバーを止め、ライダーマンヘルメットを両手で掲げた。 大首領が退いたからだろう。雨がまた、降り始める。 大雨のなか対峙する二人。それぞれ、抱えるものは闇。 別に、斗貴子が死んでも川田は心を痛めない。むしろ、自分の手で殺したかったのだ。 斗貴子を殺せず、川田の心に不完全燃焼する恨みの心が残っている。 だから、合理的でない、ただの八つ当たりのような感情をぶつけることを平気でする。 随分道に外れたもんだと、川田は自分に嫌悪を持つ。しかし、ヘルメットを振り下ろす勢いは止まらない。 そのまま無言で、ライダーマンメットを頭に被る。 光が包まれ、川田の身体が強化スーツに包まれた。 青い頭部。Ⅴ字のラインに二つの触角が生える。剥き出しの口元は真一文字に結ばれた。 赤いプロテクターが鈍く光り、黒いスーツが川田の鍛え抜かれた身体を包んだ。 「奇遇だな。俺もお前に用があった」 「泉さんのことか。皮肉だな」 たしかに皮肉だ。あのこなたが、楽しそうに語っていた友達と繋がりの深い男なのだから。 覚悟なら苦悩しただろう。こなたを殺し、友であった川田を殺すことに。 そんな偽善、パピヨンにはない。 あるのは罪を贖わせることのみ。斗貴子と共に、パピヨンの中にある確固としたつながりを断った罪は軽くはない。 パピヨンが全身に力を込めて、筋肉が隆起して両腕を蝶が羽を広げるように、上に持ち上げる。 どぶ川のように濁った瞳は川田へと向き、左足は膝を曲げて持ち上がる。 芋虫から蝶への変身。それを果たしたのは自分。 赤木であろうと、JUDOであろうと、自分を軽んじたことを後悔させる。 この殺し合いを終らせるのは、蝶人たる自分だ。 パピヨンは再び羽ばたくためにその構えをとる。 左手に黒い核鉄を握って。 二人は無言でにらみ合う。 川田はライドルとハネルコンを手に。 パピヨンは黒い核鉄を握り締めて。 お互いの復讐の心が、黒く燃え上がる。 【C-4 学校・グラウンド 二日目 早朝】 【川田章吾@BATTLE ROYALE】 [状態] 健康 、小程度の疲労、ライダーマンに変身中(ライダーマンのヘルメット@仮面ライダーSPIRITSを装着中) [装備] マイクロウージー(9ミリパラベラム弾32/32)、予備マガジン4、ジッポーライター、 ライドル@仮面ライダーSPIRITS バードコール@BATTLE ROYALE アラミド繊維内蔵ライター@グラップラー刃牙、激戦(核鉄状態)@武装錬金 ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾、残弾2発、劣化ウラン弾、残弾0発)@HELLSING、ヘルダイバー@仮面ライダーSPIRITS [道具] 支給品一式×3、チョココロネ(残り5つ)@らき☆すた、ターボエンジン付きスケボー@名探偵コナン 、 文化包丁、救急箱、裁縫道具(針や糸など)、ツールセット、ステンレス製の鍋、ガスコンロ、 缶詰やレトルトといった食料品、薬局で手に入れた薬(救急箱に入っていない物を補充&予備) マイルドセブン(5本消費)、ツールナイフ、つかさのリボン 首輪探知機@BATTLE ROYALE、不明支給品1(未確認)、 [思考・状況] 基本行動方針:最後の1人になってつかさを生き返らせ、彼女を元の世界に戻す。 1:パピヨンを殺す。 2:こなたを殺したことによる罪悪感。 参戦時期:原作で死亡した直後 [備考] ※桐山や杉村たちも自分と同じく原作世界死後からの参戦だと思っています ※首輪は川田が以前解除したものとは別のものです ※津村斗貴子と、他の参加者の動向に関する情報交換をしました。 ※つかさの遺体を、駅近くの肉屋の冷凍庫に保管しました。 ※神社、寺のどちらかに強化外骨格があるかもしれないと考えています。 ※主催者の目的は、①殺し合いで何らかの「経験」をした魂の収集、②最強の人間の選発、の両方。 強化外骨格は魂を一時的に保管しておくためのもの。 零や霞と同じ作りならば、魂を込めても機能しない。 ※覚悟、斗貴子は死んだと思っています ※ライダーマンに変身中のため身体能力が向上しています。勿論、カセットアームなどの機能はありません。 ※ライドルの扱い方を一通り理解しました。 ※エレオノール、エンゼル御前と情報交換をしました 【パピヨン@武装錬金】 [状態]:疲労。全身に打撲。 核鉄の治癒力によって回復中。深い悲しみ(?) [装備]:猫草inランドセル@ジョジョの奇妙な冒険、デルフリンガー@ゼロの使い魔(紐で縛って抜けないようにしてます) サンライトハート(核鉄状態)@武装錬金 [道具]:地下鉄管理センターの位置がわかる地図、地下鉄システム仕様書 ルイズの杖、参加者顔写真&詳細プロフィール付き名簿、 支給品一式、小さな懐中電灯 、首輪(鳴海) [思考・状況] 基本:首輪を外し『元の世界の武藤カズキ』と決着をつける。 1:こなたを殺した男、川田を必ず殺す。 2:エレオノールに警戒。 3:核鉄の謎を解く。 4:二アデスハピネスを手に入れる。 5:首輪の解体にマジックハンドを使用出来る工場等の施設を探す。 6:覚悟に斗貴子を死に追いやった事を隠し、欺く。 7:赤木、大首領に自分を舐めたことを後悔させる。 [備考] ※参戦時期はヴィクター戦、カズキに白い核鉄を渡した直後です ※スタンド、矢の存在に興味を持っています。 ※猫草の『ストレイ・キャット』は、他の参加者のスタンドと同様に制限を受けているものと思われます ※独歩・シェリス・覚悟と情報交換をしました。川田が殺し合いに乗った経緯、つかさやヒナギクの存在も知っています。 ※逃げられてしまったゼクロスにさほど執着はないようです ※詳細名簿を入手しました。DIOの能力については「時を止める能力」と一言記載があるだけのようです。 ※三村の話を聞きましたが、ほとんど信用していません。クレイジー・ダイヤモンドの存在を知りました。 ※こなたの死に動揺しつつ、それに耐えようと必死です ※覚悟は少し快く思っていません。また、アカギは覚悟以上に快く思っていません。 ※大首領の目的を確認。また、BADANと大首領では目的にずれがあることを認識。 【その他共通事項】 ※大首領の念動力により、一時的に雨が晴れましたが、また降り始めました。 □ (後編)
https://w.atwiki.jp/55syota/pages/280.html
196 :TT:2010/09/03(金) 02 44 19 ID 1p3uJyiX 「ねえ、お兄さん。どこに・・向かってるの?」 あいつは至って落ちついた声で、俺に向かって尋ねた。 もしかして状況がきちんと分かってないのかもしれない。 「静かにしてろ。どうせ家には帰れないんだからな。」 それを聞いた他の子供たちが堰を切ったようにわんわん泣きだした。 狭いバンの中に押し込められた十数人の子供たち。 こいつらにもう昨日までの自由な振る舞いが許された毎日は帰ってこない。 「うるっせえ! 黙りやがれ!!」 運転をしていた仲間の一人が子供たちに怒声を浴びせる。 まだ中身が残っているビールの缶を投げつけられ、苦い泡を被った子供たちは一斉に竦んだ。 「おいおい、大事な商品サマを傷つけるんじゃねえよっと。」 商品。別の仲間が放ったその一言は落ちついていたあいつの顔も僅かに歪ませた。 女の子は一人50万、男の子は35万。今回は大体合計して500万くらいの儲けだろうか。 しかしながらそれは、これからの経費を差し引いていない額だった。 品物をお客様に渡す前に、色々とやることは多い。 検品、調整、躾、格付け・・不良品の処理など、だ。 船に乗り換え、日本海にある殆ど誰にも知られていない島に到着した俺たちは子供たちを降ろし、 昔の奴隷がつけるような縄に結ばれた一繋ぎの首輪を男女別に嵌めこんだ。 子供の力どころか、鍛えられた大の男ですら外すことは敵わない。 「おら、とっとと歩け。」 仲間がぐいっと縄を引っ張ると、女の子たちは嗚咽を漏らしながら島に隠れるように作られた施設の一つに引き込まれていく。 俺は男の子ばかりを繋いだ縄を持ち、同じように引っ張ってもう一つある同じような施設へ向かった。 ふと、あいつに目をやった。 あいつは周りが泣き叫びながら両親を呼んでいる中、平然と虚空を見つめていた。 見知らぬ男どもに誘かされこんな寂しい孤島に連れてこられた事に対して、全く恐がっていない。 通路の窓からひらひらと飛んできたアゲハ蝶に目を移し、あいつは楽しむようにそれを視線で追った。 197 :TT:2010/09/03(金) 02 46 23 ID 1p3uJyiX 思えばあいつは、俺が捕まえてきた糞ガキの中でも、とびっきり変わったやつだった。 あいつはぼろぼろにほつれた、季節外れのセーターを来て公園のベンチに座っていた。 窮屈そうな運動靴は擦り切れていて、履いていると言えるのか微妙なくらい無数の穴が開いている。 「やあ、きみ、一人かい?」 優しそうなスマイルを作って声をかけて見ると、髪はぼさぼさながらも少年らしい無邪気そうな瞳が俺の方を見た。 これは当たりだな、そう感じた。 「おじさん、どうしたの?」 「お兄さんって呼んでほしいな、流石に。これでもまだ20代前半なんだぜ。」 思わず苦笑してしまった。これでも身なりには気を使っているのだが。 「お兄さん、ちょっと君みたいな歳の子供にアンケートを取っているんだ。喫茶店でお菓子とか食べながらでいいから答えてくれないかな? もちろんお金もお兄さんが出すよ。」 「・・・へえ、今日はまた変わってるなぁ・・。」 そう言うや否や、あいつは俺の手を自分から握った。 予想外の出来事に俺は作っていた笑顔を解きかけた。 今まで警戒されることはあってもこんな風に向こうから詰め寄られる事は無かったからだ。 どれだけ警戒心が緩いのだろうか。 その後、俺はもちろん喫茶店になど向かわず、仲間が道に停めていたバンの横を通りかかった瞬間、 誰にも気がつかれることなくあいつを中に放り込んで、バンと共にその場を去った。 198 :TT:2010/09/03(金) 02 49 19 ID 1p3uJyiX 6畳もないだろうその部屋に、男の子が5人、次々と追い込まれた。 俺は拳銃が入った腰のホルスターに手を添えながら、一人を除いて怯えきっているガキ共を見下ろした。 「ここは絶海の孤島だ。どうやっても脱走できないから無駄なことはやめろ。もし俺たちに逆らったり、逃げようとしたりしたら、 その時どうなるか後で見せてやる。」 殆ど誰にも知られていない島、と言ったが、正確にはこの島はどこにも存在しないことになっていると言ったほうが正しい。 俺たちは数多くある末端組織の一つでしかないが、その大元は日本政府すら手が出せない強大な権力を所有している大組織だ。 要するに、世間で言うフィクサーの部類に入るらしい。 そこらのチンケなやくざやマフィアとは市場、構成員、資金、各界への繋がりその全てのレベルが違う。 俺たちがこんなにも多くの子供を売りさばいて利益を得ることができるのも、その界隈に潜んでいる変態権力者たちの おかげというわけだ。 「後で飯を運んでやる。その後、じっくりとここの事を教えてやるから楽しみにしとけ。」 「出してぇ! 家に帰してよお!」 「うわあぁあん!ママァ・・。」 見張りに引き継いだ俺は扉に鍵をかけ、じめじめした階段を上って談話室に入った。 「よお雄飛、ガキ共の様子はどうなんだ?」 「ああ、問題ない。少しいつもより静かだけどな。」 バンを運転していた男はもうだいぶ出来上がっているみたいで、ウィスキーの空瓶をぶんぶん振りまわして 今にも何処かに投げてしまいそうだった。 「はあぁ、何が楽しくて男のガキの監禁場所で仕事しなきゃなんねえんだ。」 鼻息荒く、男は俺に泡を飛ばしながらわめき散らす。 「見ただろ? 一人だけ堪んねえくらいに胸の実ったべっぴんの小学生。ありゃあロリコンのお偉い方は大喜びするぜ。 高い値がつくだろうこった。」 ぎゃぎゃぎゃっ、と下卑た笑い声が妙に勘に触る。 俺が蔑んだ目で見ている事も、男は気が付いていなかった。 「あぁあ、俺も女のガキを調教してえなぁ。そんでうっかり孕ましてぇ。」 「・・煙草吸ってくるわ。じゃあ。」 吐き気を催したので、俺は屋上へ逃げた。 199 :TT:2010/09/03(金) 02 52 33 ID 1p3uJyiX 海は穏やかで波一つなく、ウミネコの群れが徐々に沈んでいく夕陽の中をくぐるように羽ばたいて行った。 毎日毎日、見ている景色だったのに何故か飽きない。 煙草に火を点け、海を眺めていると、携帯が鳴りだした。 「おい、ゴミ部屋のガキが一人死んだぞ。お前当番だったろ、早く片付けてくれ。」 「・・了解。」 ゴミ部屋か、俺にとって、あそこはいつになっても慣れない場所だ。 施設の奥、乱暴に掘り加えた為か土肌が剥きだしのまま続いている地下通路の奥に、俺たちがゴミ部屋と呼ぶ 頑丈な鉄牢のついた部屋がある。 そこは要するに不良品置き場だった。 『検品』作業で、身体に病気や欠陥などの不備が見つかった子供は出荷できないと決められている。 そいつらの行き先がここだ。 子供の泣き声が中から聞こえてくる、汚い部屋の扉を開けた。 ゴミ部屋は一面血まみれだった。 おそらく首を刃物で掻き切られたと見てとれる、裸の男の子がぐったりと横たわり、 ぴゅっ、ぷっ、と傷口から鮮血を噴射していた。 その傍らに血を全身に浴びながら鼻歌交じりにそれを身体に擦り込む小太りの男。 淫具のしまわれた棚の上にカメラが置かれていた。 どうやらスナッフムービーの撮影途中だったようだ。 隅に集まってお互いに抱き合う子供たち。 その目は惨劇をまの当たりにして見開かれ、恐怖で彼らは皆、過呼吸を起こしていた。 「おう、悪いな。取りあえずそれ片しておくんな。」 なるだけ血溜まりを避けて部屋に入り、男の子の冷たくなっていく身体を掬いあげた。 茶色い汚物が開け放された肛門から白いものと一緒にぼとぼと落ちた。 床の血を掃除して廊下を戻る途中、ひゅー、ひゅー、と僅かに呼吸をしている 腕の中の男の子と目があった。 血まみれで良く分からなかったがよく見ると、そいつはそこそこ面識のあったガキだった。 潰れたような声が聞こえる。 「たじゅ・・・けで・・。」 俺はそっと男の子の目を閉じ、『廃品』用の焼却炉に繋がるダストシュートへ小さな身体を放り込んだ。 200 :TT:2010/09/03(金) 02 54 52 ID 1p3uJyiX 俺たちが扱う商品は、性質上『返品』できない。 ごみ部屋に行ったガキ共は、皆あそこで『廃品』になるまで仲間たちに慰み者にされ、そして焼却処理される決まりだった。 ふと俺は、ゴミ部屋から只一人生環できたあの日々の事を思い出した。 「いぎゃあぁあっ! おしりっ、いだいよぉ・・・っ!!」 「はっはっは、二本も這入ってまだユルユルの癖に何言ってやがんだ。」 「んぎぃ! ぎゅあっ! だっ、だれがだじっげでぇえっ!」 10年も前の事だろうか、俺もかつてはこの島に拉致されてきた可哀そうなガキの一人だった。 奴らから見て俺はけっこう容姿が良かったらしく、高値がつくだろうと誰もが口々に俺を評価していた。 だが、俺は『検品』で引っかかり、恐怖のゴミ部屋行きになってしまった。 理由は虐待痕だった。 俺には両親がいない。生まれてしばらくたった後に、交通事故で二人とも俺を庇って死んでしまった。 その後あまり素行の良くない兄夫婦に引き取られた俺は、ある日は風呂桶に逆さに沈められ、ある時はゴルフバットで血を吐くまで殴られ続けたり、 とにかく毎日暴力を振るわれては押し入れの中に閉じ込められるという毎日を送っていた。 たまらなく惨めな日々だった。 虐待の傷跡は自分がいらない人間なのだと刻みつけられているように感じた。 早く死んで、優しい父さん母さん達のいるところに行きたかった。 だけれど彼らは巧妙に傷が見えないような場所ばかり選んで殴ったし、死なないようなギリギリの虐待しかしてくれなかった。 201 :TT:2010/09/03(金) 02 58 08 ID 1p3uJyiX だからその時は屈強な男たちに体中を犯されているにも関わらず、ああやっとこの世とおさらばできる、 という安堵感も多少はあった。 でもやっぱり、死ぬのがこんなに痛いとは思っていなかったし、こんな汚い死に方をするのもどこか嫌だった。 「いぎぃいぃいいっ! うえぇえっ、えっ、はやぐ、死なぜでっ、ぶっ、ふぎゃあぁあっ!!」 「おいおい三本も入ったぞ、どうなってやがる!」 「俺のも暇だから入れてやるぜっ! はっ! とんだ名器だなこいつはっ!」 「ほんと、もったいねえなあ。『廃品』にしちまうにはよっ!」 醜悪なものを口に3本、後ろには4本もいれながら、ガタイのいい男たちは狭い場所で器用に身を寄せ合って俺の身体をぶち抜いていた。 何人もの堅い手が俺の手足を掴んで大の字に広げ、バラバラにしようと手繰り寄せている。 大量に出された何人分もの精液で蛙のように膨れた腹が圧迫されると、破れた肛門と喉から一斉に溢れだした白い液によって、 男たちの巨大なペニスの群れがぬめりを得て更に激しく動きを増した。 その衝撃で俺の性器からは血の混じったものが噴出する。 両手の指がまたそれぞれ別の誰かのペニスを掴まされた。 ふたつの堅くて大きい大人の男性器を、精一杯、復讐のつもりで爪をたてて扱いてやったが、むしろ手の中で それらはより太く熱くなっただけだった。 あまりにも小さな身体、弱い力が悔しくてまた涙が溢れた。 その涙もすぐに臭くて火傷しそうな温度の噴射を顔に受けて上塗りされる。 何回も何回も上書きされる。 だんだん意識も遠くなり、あんなに痛かった凌辱の数々も逆に気持ち良くなってきた。 そろそろ終わりが近いのだろうかと思った。 天国で両親が手を振っている幻覚が見えた。 男たちが、外に中に、一斉に打ち込んだ瞬間、俺は意識を奪われた。 202 :TT:2010/09/03(金) 03 00 27 ID 1p3uJyiX 「おいっ! 大丈夫か・・。全然大丈夫そうじゃないよな。」 俺は死ねなかった。 死ぬほど辛い思いをしただけで、あの世は俺の魂を非情にも門前払いしたのだ。 俺は犯された時のままの姿で横たわっていた。 体中がずきずきと痛み、高熱を持っている。 自分のものか奴らのものかも分からない精液がかぴかぴに乾いて、全身をカビのように覆っていた。 「あ・・う、うう・・。」 「喋るな、もう心配いらない。ここから逃げよう。」 誰かも分からない男に背負われて、俺は島をこっそりと抜け出すことに成功した。 男は組織の一員だった。 気が抜けていて危なっかしく、どこにでもいる貧相な青年だったが、人一倍の優しさを持っていた。 「何で、助けたのさ。」 「・・何でだろう。君を見ていたら、何だか急に身体がそうしろって言ったんだ。」 「何だよ、それ。説明になってないじゃない。」 「でも、君はずっと叫んでいたよ。」 ――死にたくないって。そう奴は言いながら俺を抱きしめた。 生まれて初めて俺は、生きているのが嬉しかった。生きている実感というものをその抱擁の中で確かに感じた。 心の中の何かが溢れて涙が止まらなかった。 組織から逃げて一ヶ月後、俺たちはあっさりと捕まった。 普通はそのまま殺される筈だったのだが、俺たちは何故か目隠しをされたまま連行され、目隠しを外されたときには 何処かの社長室のようなところにいた。 本棚や調度品に囲まれたレッドカーペットの上にデスクがあり、そこには老いた人当たりがよさそうな男が にやにやしながら俺たちを見ていた。 顔こそ柔和な出で立ちだが、明らかに彼は裏社会の、しかも相当地位の高い人間だと当時の俺でも分かった。 203 :TT:2010/09/03(金) 03 05 50 ID 1p3uJyiX 「さて、決まりは分かるな。逃げた者には、死だ。」 男は葉巻をカッターで切って火を付けた後、それをこちらに突き付けてそっと言い放った。 「待ってくれ!」 俺を庇うように青年が前に出た。 「俺はどうなってもいい。だから、だからこの子だけは・・・。」 「儂に命令するとはなかなか肝がすわっとるのお。」 その眼光に俺たちは怯んだ。笑顔ではあったが、その目は邪悪な蛇そのものだった。 「ふうむ、どうも情が移ったのかな? それともどうせ『廃品』だから妾にしても構いやしないだろうと 思っておったのか?」 「い、いえ・・。」 「まあよかろう。お前の望み通り、そのガキの命は取りはせん。」 青年がほっと息をついたその瞬間、間髪いれずに老人は続けた。 「そ奴は今から儂の妾じゃ。」 谷底に落ちた気分だった。 この、自分の年より7倍は生きていそうな老人のおもちゃになる。 何人もの男どもに昼夜問わず引き回されることのほうがまだ優しく扱われているように感じられるくらい、 それはおぞましい宣告だった。 「それはっ! ・・そんな、酷過ぎる! お願いだ、この子を自由にしてやってください。」 「自由? それは死なせてやれということでいいのか?」 かちり、と耳元で金具の擦れる音がした。 老人は机から拳銃を取り出し、俺の頭の上に銃口をとん、と載せた。 青年が慌てふためく。 「お前もかっては儂の妾の一人だったと言うのに、誰よりもこの世界のことを教えてやったというのに、 こんな子供一人にうつつを抜かすようになるとはな。」 そして、老人はそっと俺の傍に近寄り、青年にもよく聞こえるように耳打ちした。 「ほら、お前さん、このままだとあいつのせいで死んでしまうぞ。嫌ならお前さんがあいつを殺すんじゃ。 せっかく脱走してまで掴んだ命、妾と言っても儂はそんなに交尾は好まんしのう。 あいつを殺してしまえば、お前さんは何もかも自由になれるんじゃぞ。」 頭に乗っていた拳銃が俺の手に手渡された。 見た目より重たいそれを上から手を重ねて老人が青年の方に向けた。 青年は信じられない、という顔をしていた。 「だめだ・・雄飛、撃ったら、もう・・・。」 拳銃の重みは命の重さだった。心臓がどんどん酸素を欲しがって息が荒くなる。 撃たなきゃ、死ぬ。撃ったら、生きられる。生きている実感。 死ぬか生きるかの瀬戸際、俺の本能は生きたい、とはっきり言った。 「ごめん、・・・陣さん。」 引き金を引いた。 頭に真っ赤な風穴があいた陣さんは、紐が切れたように倒れた。 俺は、愉快そうに手を叩く老人を後ろにして、初めて撃ったばかりの拳銃の重さと、 硝煙の匂いだけをずっと感じていた。 204 :TT:2010/09/03(金) 03 08 57 ID 1p3uJyiX 「『検品』は全員クリアしたか。次は『調整』と『躾』だな。」 「ふふふ・・待ってましたぜっ!」 検品を終えて出てきた男の子たちが仲間に一人ずつ首根っこを掴まれながら部屋から引きずられていく。 俺も誰を連れて行こうかとあたりを見回した。 くいくい、と服の裾が引っ張られた。ぼろぼろのセーター、そして穴の空いた靴。あいつだった。 『検品』作業を体験してもこいつは以前と変わらず平然とした態度で、しかも自分から俺を選んだのだった。 「・・おまえ、名前は?」 「勇三だよ。みんなはゆーゆーって言ってたけど、そっちでもいいよ。」 「まあ名前なんて聞いたって関係ないな。お前はこれから救いのない地獄に行くんだぞ。」 『調整』と『躾』工程のおぞましさは、『検品』の差ではない。 身体を変態好みに調教され、言葉使いも奴隷のそれに変えられる。 何をされても感じるし、どんなプレイも嫌がらない、従順で素直な駄犬に仕上げるのだ。 既存の性格や個性は無くなり、人格が崩壊してゴミ部屋送りになる奴もたまにいる程過酷な加工をする。 「お前もすぐに、尻振ってチンポをねだるようになるから、安心しろ。」 しかし、またしても勇三は俺を驚かせる一面を見せた。 「ひゃあぁああっ! きんもちいいよっ! もっとやって! もっともっとぉ!」 「・・ウソだろおい、どうなってる!?」 まず手始めに、俺は勇三を裸に剥いて、俺のペニスを咥えさせた。 テクニックうんぬんを教えたり鍛えるというよりは、まず男の肉棒に無理やり奉仕させることで、 自尊心やら反抗心やらを破壊する為だ。 なのに奴ときたら、むしろ自分から近づいてきて、嫌がることも吐くこともなく俺のペニスを咥えるや否や 巧みに舌を使って攻めに入った。 てっきり抵抗するだろうと高をくくっていた俺はいきなりの猛攻に思わず腰を引いてしまった。 子供の奉仕から逃げたのは初めてだった。 次に浣腸を行った。 これまたガキ共を辱める為の基本過程だったのだが、それも勇三は、顔こそ苦痛で歪めていたがどこか嬉しそうにして、 ペニスを堅くしながら便意に耐えていた。 羞恥心すら逆に楽しむように、勇三は桶の中に大腸の中身を出し切った。 205 :TT:2010/09/03(金) 03 11 50 ID 1p3uJyiX 乳首をいじってやるととても喜んでよがり、おねだりの仕方を教える前から盛んに自分をもっと めちゃくちゃにしてほしいと懇願する勇三は既に奴隷だった。 やり慣れ過ぎている。 こいつの身体はもう全身余すところなく性感帯のようだ。 勇三は教えることがひとつもない、完璧な優等生だった。 「ひああぁあっ! きゃっあっ! おっきなディルドに変えてっくだしゃああぃいっ! これじゃ、まんぞくでぎないですぅ! がんがんっ、おかしてっ! いじめてくだしゃあい・・。」 「・・もうこれ以上太いのは無いよ。残念だったな。」 俺は子供の腕ほどの太さがある張り型を華奢な勇三の尻から抜いた。 名残惜しそうにそれを見つめる勇三にもはや『調整』と『躾』の意味はない。 「お前、一体今までどんな生活を送ってきたんだ。」 「皆ね、エッチしてる時は優しいの。」 くちゅくちゅと自分の出したものを四つん這いで床から舐め取りながら、勇三は答えた。 「おとーさんもおかーさんも、僕のことは全然ほったらかしだったよ。時々ご飯はくれたけど、そのほかは全然見向きもしないの。 だから本当にひもじかった時僕が何をしてたのかも知らなかったとおもう。」 にこやかに笑顔を浮かべながらハードな昔話をしている勇三は、自ら自分の穴に指を入れてまた股間から露を垂らしていた。 「初めてお尻にいれられたのは2年前だったかなあ。初めてせいえき飲んだのが2年と5カ月前。30人は常連さんがいたよ。皆やった後にご飯くれるの。何人もいっぺんに相手したときなんか、 ご褒美がステーキだったんだよ。ちょうど僕の誕生日だったんだ。」 「な・・・なんだ、そりゃ・・・?」 絶句した。少なくともこいつは十代に入る前から、いろんな奴とセックスに明け暮れていたわけだ。 俺と会った時もあいつは客を待っていたのだった。 実の親にすら忘れられている子供。 腹が減っている勇三に優しそうに手を差し伸べる男たちの姿が目に浮かぶ。 そいつらは勇三を人気のないところに連れて行き、散々穢した後、聖人のような面をして高くもない飯をおごったに違いない。 勇三はそれを自分が愛されているからだと勘違いしているのだ。 「お前、学校はどうしてたんだ。いくらなんでも学校で給食ぐらい出るだろ。」 「僕、がっこうってどんなのかよく知らないんだ。」 尻に入れた指だけを使って勢いよく果てた勇三はへらっと舌を出した。 「僕、戸籍もないんだよ。学校も行かせてもらってないし、 だから、誰も僕のことをしらない。」 もう、俺は言葉が出なかった。 206 :TT:2010/09/03(金) 03 14 56 ID 1p3uJyiX 勇三から逃げてきた俺は、仮眠室で横たわって天井の暗闇をずっと見ていた。 ずっと見ている間、勇三との会話が頭の中でこだました。 「僕、誰かに買われるんでしょ。誰かのものになるんだ。うん、すごくうれしいよ。」 ―だってそれは愛されてるってことだもん。 馬鹿が、人を金で買ったり脅迫して従わせる人間に愛などあるものか。 お前はただおもちゃになるだけだと言っても、勇三は全く聞く耳を持たなかった。 暗闇の中に、ぼうっと人の顔に似た輪郭が浮かび上がった。 あの頃の記憶そのままの陣さんが、俺を憐れむように見おろす幻だった。 「やめろ・・陣さん、俺は・・あいつのことなんて何とも思っちゃいない。あんたを殺した日から俺はもう人でなしさ。 いつも通り、『商品』は出荷するだけだ。」 寝がえりを打って天井から目を逸らしても、俺は勇三のことが気になって眠れなかった。 あの頃の俺よりも、あいつは確かに最底辺の人間だった。 実の親にすら相手にされず、社会の枠組みの外をさ迷う亡霊のようなもの。 どのみちあいつはここに来てよかったのかもしれないとすら思えた。 たとえ社会に認知されていない存在だろうと、性奴隷にされるのには支障なんてない。 もしかしたら飼い主が比較的いい奴で、あいつにも人生を取り戻すチャンスが訪れるかもしれない。 違ったとしても、俺にはそもそも何もしてやれないのだ。 そう自分の気持ちを納得させた矢先、マナーモードの携帯が震えた。 「おい、お前も検査室に来い! 今すぐだ。」 「何だ? 何か起こったのか?」 「とにかく早く! まったくあのガキ、とんでもねえもの持ってきやがった!」 ぷつっと通話が切られた。 勇三の、男と何度も交わってきた淫らな身体が頭をよぎった。 嫌な予感がした。 207 :TT:2010/09/03(金) 03 17 29 ID 1p3uJyiX 「ふむ、良かったな。陰性だ。」 「ありがとうございます。」 当然の結果だろう。予防処置も受けていたから問題ない筈だ。 検査室でひと通りの検査を受けた俺の横で、一人の仲間がベンチを蹴りながら憤りを隠せない様子で歩き回っていた。 「あのガキ、まさかあんな腐った身体だったとはな! 畜生、他の連中に移ったら大損じゃねえか!」 「まさか、十代になりたての子供が性病患者とは誰も思わんよ。様子がおかしいと知らせてきた看守の話が耳に届いていなかったら、私とて見落としてたわい。」 「あいつは、もうゴミ部屋に行ったのか?」 当然、というように仲間の男が鼻を鳴らした。 「舐めた真似しやがって。あいつ、念入りに責めて殺してやる。自覚症状もあったんだ。 絶対自分でも知ってやがった!」 俺はゴミ部屋に向かった。 前に来た時とほとんど変わっていない、汚い部屋の中には、手の形に引かれた血痕がいくつも残っていた。 責め具が其処ら中に散らかっていて、そのどれもが粘液に包まれ妖しく光っている。 散らばった淫具の真ん中で、勇三は横たわって諦めきったような薄笑いを浮かべていた。 「・・・おまえ、全部知ってたのか。自分の身体の事も、俺が何者なのかも初めっから。」 「僕ね、ちゃんと知ってるの。あの人たちは、僕のことなんてどうでもよかったんだ。」 勇三は初めて悲しそうな顔を見せた。 「あいつらもおとーさんやおかーさんと同じだったんだ。好きなのは僕のお尻、おちんちん、おっぱい、おくち、 あと顔くらいで、誰も僕の本当の名前すら覚えてくれなかったよ。ゆーゆーってあだ名でしか、僕を呼んでくれなかった。」 げぼっと、勇三は血の塊を吐いた。中にねじや釘が混ざっていた。 体中切り傷と打撲だらけで、髪は半分ねじり取られていた。 秘部には一升瓶が突き刺さって、腸壁が僅かにガラス越しから見える。 誰がどう見ても発狂していそうな有様の勇三は、それでも幼いペニスを腹に付くくらい固く勃てていた。 208 :TT:2010/09/03(金) 03 20 25 ID 1p3uJyiX 「誰かから移されたのかは知らないよ。皆、生でいれてたから。すごく痛かった。でも我慢した。お腹空いてたから、いっぱい痛いの 我慢して中に出してもらってた。 そのうち気持ちよく感じるようになって、本当にうれしいと思った。だって、痛くなくなったんだもの。 でもここが痛いんだ、今でも。」 心臓のあるところを指で差した勇三は、ぼろぼろと涙を流していた。 「僕、復讐してやろうって思ったんだ。何で僕はいないことになってるんだろう。こんなに苦しいのに、こんなに痛いのに、 誰も僕を想ってくれないんだもの。 それなら、僕とセックスする人間は皆僕と同じ病気になって苦しんでもらうんだ。 そうしたら少しは僕を愛してくれるかもしれないじゃないか。」 「・・勇三。」 俺は勇三を抱きしめた。そうせずにはいられなかった。 かって陣さんがそうしてくれたように、俺は勇三を精一杯抱きしめてやった。 「うぐっ・・。」 肩に鋭い痛みが走った。勇三が物凄い力で俺の肩を噛んでいる。 雨の中怯える、捨て犬のような低い唸り声が耳に響く。 それでも俺は勇三を離さなかった。 「・・お前は、誰よりも必死に生きたいんだよな。あの時の俺みたいに、どんなことをしても生きた爪痕を残したかったんだよな。」 肩から流血しているのが分かった。 次第に勇三の、俺の腕を解こうとする動きが緩くなっていく。 「お前はちゃんとここにいるぞ。いるんだ。だからもう、苦しむな。」 「・・うっ、うっ、うぅうああぁっ! うあぁあぁあぁっーー!!」 勇三はずっと溜めこんでいた分をやっと解放できたかのように、嗚咽をあげながら次から次へとばらばら 涙をあふれさせ、俺の肩を濡らした。 209 :TT:2010/09/03(金) 03 26 29 ID 1p3uJyiX 「あっ、あひっ、ゆぅひさぁんっ、すごく当たってるっ! そこっ、そこすごく、いいよっ!」 「ほんとに、こんなことしていいのか?お前、こんなことされるのは嫌じゃないのか?」 「いやじゃないよっ! だっだって、雄飛、さんの、おちんちん、すごくやさしいからっ! ひああぁあああぁあぁあっ!」 汚い床にそっと寝転がって、勇三が俺の下で身をよじらせてその傷だらけのアナルに コンドームを付けた俺の肉棒を受け入れている。 こんな状態なのに感じているこいつは果たして人間なのだろうか。 「ぼ、僕のこと、ちゃんと見ててぐだじぁいっ! ひんんんっ! ぼ、ぼく、それだけで、うれしいからっ! じゅうぶんっだからっ! は、はああぁあっ! おしりのおく、たっぷりこりこりじてぇっ!!」 「なーにが見てるだけで十分、だ。お前絶対セックスなしじゃ生きていけないだろうが。」 そう言うも、少し躊躇いながら、赤く腫れた乳首を潰すように摘まんでやると、 勇三は嬌声を上げて、一気に肉壁が俺のものを締め付ける。 「ひゃああぁあぁ! でる、みるくでるっ! おっぱい、ぼにゅうでるっ!あっ、あっ、 あっあっ! 下からもでるぅ! おちんちんみるくでるっ!」 俺の身体に熱い精液が当たる。 勇三のペニスはのたくりまわり、あちらこちらに幸福な射精をまき散らす。 「あ・・あ、あっ! あひ・・ぃいぃっ! ゆうひぃさん、びょーきのぼくをきれいに、ぶっとい おちんちんでごちごちこすり洗いしてえっ!!」 勇三は腸壁をぐっと締め上げ、割り入ってくる俺のペニスを楽しむかのように手まで使って、 腹の上から俺の硬い強張りを押さえ、一心に快楽を貪っている。 「いっいくぞゆうぞ、うっ・・つうっ・・!」 奥まで差し込んだペニスを一気に抜き出し、腸液でべとべとになった コンドームを引っぺがす。 その前には勇三の涙で濡れた顔が待ち構えている。 勇三はよだれをだらだら垂らしながら、噴きあげる白い濁流を自ら咥内に招き入れた。 勇三の顔中に俺の、溜まりにたまった数週間分の精液が弾けて垂れる。流れ落ちる。 実に嬉しそうな顔を見せながら、勇三は俺のペニスに汚されていく。 「はぁああぁ・・あつい、せいえき・・ゆうひさんの、おいしい・・ んくっ、んっ、ん・・・あはぁ・・。」 年端もいかない子供が、不釣り合いな色香を放ちながら一心に自分の汚濁を啜っている。 その卑猥な姿に俺の仏搭がまた、血液を集めだした。 「もっとぉ・・たりない、こんなんじゃ、ぜんぜん物足りないよ・・ゆうひさぁん・・。」 じれったくて堪らないといった表情はすぐに、俺が再び勇三の中に侵入を試みた時に消え失せた。 「ぁああぁああーーっ! あ・・もお、いっぐぅうぅううぅーー!!」 今度はすぐに二人とも果てた。お互い、とても身体の相性が良いみたいだ。 勇三と俺の、二度目になる射精の瞬間、俺は血の滲む勇三の身体をもう一度しっかり抱きしめてやった。 勇三は俺に貫かれながら、俺の腹にもう一度、たくさんの幸せの証を迸らせた。 210 :TT:2010/09/03(金) 03 28 17 ID 1p3uJyiX 「お、何だ。お前もなんだかんだ避けてたみたいだが遂に目覚めた訳か。」 事を終えてしばらくした後、ゴミ部屋に仲間の三人が戻ってきた。 勇三から一旦離れると、あいつは心配そうな目をして俺を見た。 「こいつ、よくもやってくれたな! ガキの癖によ、大人騙して只で済むと思ってんじゃねえぞ!!」 勇三が髪を引っ張られる。俺はその手を制した。 「やめろ。お前ら、これ以上こいつを痛めつけちまったら、楽しむものも楽しめなくなる。」 「まあ、そうだな。簡単には殺さねえよ。」 「おい、ちょっと俺にやらせてくれよ!」 バンを運転していた男が酒気混じりで勇三に寄って行った。 男はまだ相当酔っ払っているらしく、焦点の定まらない目で勇三を見た。 「ふーん、可愛いじゃねえか。まあ、男でも女でも、ガキならそんなに変わんねえよな。」 おもむろにズボンを降ろし、男の黄色いブリーフから出てきたものは、アルコールで委縮し、干物みたいになった小さな男性器だった。 「今日びのコンドームは便利よ。こんな奴とでもやるときには完璧に安全なんだからよぉ。はあ、ほんと、俺こっち側に目覚めるつもりなんて ねえはずだったのになあ。」 「ああ、全く。俺もこんなことになるなんて、思いもしなかったよ。」 既に事切れた元仲間の二人を壁に寄りかからせた俺は、今だそのことに気が付いてない酔っ払いが 勇三の肌に触れようとした瞬間、その小さな脳みそしか入ってなさそうな頭をサイレンサー付きの拳銃で撃ちぬいた。 211 :TT:2010/09/03(金) 03 31 14 ID 1p3uJyiX 勇三はまたどこからか飛んできた蝶を見つけ、どこまでも目で追っていた。 俺はそんな様子に可愛らしさなど感じる余裕もなく、ただ二人分の偽造パスポートがばれないかどうか ひやひやしながら入国管理官の審査結果を待った。 「どうぞ、お通りください。次の方どうぞ。」 「やったね、大成功。」 まだゲートを抜けきらないうちに勇三が口走ったものだから、俺は気が気ではなかった。 母国語が日本語で良かった。 「おい、勇三いいか。お前ももうちょっと言動に気をつけてだな・・・。」 「うんうん、雄飛さん。」 分かってる分かってる、と言いながら勇三は俺の股間をジーンズの上からまさぐっている。 絶対にまた同じようなことがおきるだろう。俺は頭を抱えた。 これではわざわざ施設を自爆させ、自分たちも諸共死んだことに偽装した意味が無くなってしまう。 跡形もなく痕跡は消したし、誰がどう見ても生存者がいるようには見えないはずだ。 子供たちの捕えられていた区画以外は。 「ねえ、今度はどこに逃げるの?」 「静かに暮らせるところさ。それと、お前を治せる医者も探さないとな。」 「えへへ、じゃないといつまでたっても生で入れてもらえないし!」 俺は勇三の首を締め上げた。このガキの淫乱っぷりにはどうやらつける薬がないみたいだ。 勇三は首を絞められてますます喜んでいる。 「雄飛さんのおちんちん、いつも、どんどん僕の中で大きくなってるし・・・ 雄飛さんもエッチ大好きなくせにぃ。」 ――いっそのことコンドーム全部捨ててしまおうか・・。 ふと考えてみたが、俺もどうやら勇三のことを淫乱と罵るにはまだまだ煩悩が 断ち切れていないようだった。 「・・僕たち、これからも大丈夫だよね。雄飛さん。」 「ん、ああ、心配すんなよ。勇三。」 いつか勇三も、陣さんと俺みたいに組織に捕まるかもしれない。 あの老人は執念深い男だった。俺が妾だったころの奴は、まさに大蛇と言うのが 相応しい手腕を見せていた。 だけどまあ、なんとかあの腐れフィクサーじじいが俺たちに興味を無くしてくれるか、それとも老衰でくたばるか、 望みの薄い期待をしてみるのも悪くない。 それまで俺たちはどこまでも、逃げ切ってやろう。 細い勇三の手を引いて、俺はタクシーを呼んだ。
https://w.atwiki.jp/83452/pages/18261.html
梓がそれ以上の言葉を躊躇う。 この世界が唯の夢だとしても、その責任を唯一人に押し付ける形にはしたくないんだろう。 でも、梓の言う事ももっともだった。 この閉ざされた世界を想像して創造してるのは、間違いなく唯だ。唯にしか出来ない。 それをどうやってるのか……。 それが分かればこの事態を変える事が出来るかもしれない。 心当たりと言えば、やっぱり唯の頭の怪我の事だ。 唯は目を覚まさないほどの大怪我を頭に負った。 それが唯に何らかの変化を与えたって事は無いだろうか? でないと、こんな事が起こるはずもない。 私がそれを口にすると、澪が口元に手を当てて小さく独り言みたいに呟いた。 「サヴァン……?」 「……何だ、それ?」 そう私が訊ねても、澪はそれ以上何も答えてくれなかった。 いや、独り言みたいだったんじゃなくて、本当に独り言だったって事なんだろう。 私は口を噤み、澪も気付けば口を閉じていた。 また部屋を沈黙が包むかと思った瞬間、ムギの心配そうな声が部屋の中に響いた。 「ねえ、皆……、私、思ったんだけど……。 この世界が唯ちゃんの夢だとしたら、どうして唯ちゃんはこんなに苦しんでるのかな……? 今の私達の身体は、現実にある身体とは違うんだよね……? だったら、体調が崩れるなんて、そんな事は……」 「確かにムギの言う通りだ」 応じたのは澪だ。 とても凛々しい表情で、何かを考え始めたみたいだった。 瞬間、私の胸が激しく鼓動し始めた。 澪の凛々しい顔に見惚れたわけじゃない。 いや、多少は見惚れてたかもしれないけど、それだけじゃなかった。 澪が考えている。 真剣に、凛々しい表情で、真相に近付こうとしている。 もうすぐ答えを出すんだな、って思った。 きっと私が辿り着いたのと同じ答えを。 私はその答えを澪が出すのが怖かった。 その答えを出してしまったら、きっと澪は私を嫌いになる。 ムギも梓も私を嫌いになるだろう。 それはとても辛かったけど、自業自得でもあった。 逃げ続けた結果がこの有様だったってだけだ。 悪かったのは……、逃げ続けた私なんだ……。 私は二度深呼吸をする。 拳を握り締め、鼓動する胸を気力で抑える。 澪が何かの答えを出すより先に、私は一番言いにくかった事を言葉にした。 「なあ、皆、聞いてくれ……。 唯はさ、自分が死ねばこの夢は覚めるって、 さっきそういう感じの事を言ってたんだよ……」 「唯先輩がっ? そんな……、唯先輩が死ぬだなんてそんなの……」 梓が辛そうな声を上げる。 唯の事を心から心配してるんだろう。 それこそ、自分の事よりも……。 でも、それに対して構ってやる事は出来なかった。 私は言葉を続ける。 私にはまだまだ伝えなきゃいけない事がある。 「考えてみりゃ、その通りだよな……。 この世界は唯の夢で、唯が死ねば私達はこの世界から解放される……。 単純過ぎて笑っちゃうくらいだよ……。 簡単な……答えだよな……、馬鹿みたいに……」 「おい、律……?」 私の様子がおかしい事に気付いたのか、澪が心配そうに私に訊ねる。 私も自分自身の様子や感情がおかしい事は自分で気付いてた。 だけど、止められなかった。 止められなかったんだ、どうしても……。 自分への嫌悪感から、吐き捨てるような言葉をまた言ってしまう。 「馬鹿だよ、唯は……。 この世界が自分の夢じゃないかって気付いてさ……、 自分が私達に迷惑掛けてるんじゃないかって考えてさ……、 それで……、きっと唯は自分で自分を追い詰めたんだ。 この世界は唯の夢で、この世界の唯の身体も唯の夢だ。 そうだよ……。 唯の体調を崩せるのは唯だけなんだ。 現実の方の唯に何かあったとは考えにくい。 目こそ覚まさなかったけど、それ以外の唯の身体は健康だったはずだしな。 だから……、だから、唯は自分自身で自分の身体を追い詰めたんだよ! この……馬鹿野郎……っ……」 「馬鹿野郎……って、律先輩、それは……」 梓が悲しそうな表情で私を見つめる。 唯の事を責められたと思って悲しく思ったんだろう。 でも、違うんだよ、梓……。 私が責めたいのは唯じゃない。私自身なんだ。 唯なんかよりずっとずっと馬鹿な私の方なんだよ……。 私は続ける。 ひょっとすると、これを言うと皆に軽蔑されて、 もう顔も合わせられなくなるかもしれないけど、言わないわけにもいかなかった。 言いたかったんだ、どんなに軽蔑されたって。 皆に……、嫌われたって……。 「分かってるよ、梓。 唯は馬鹿だけど、馬鹿な奴だけど、まっすぐな奴だ。 まっすぐに私達を考えてくれる馬鹿で、いい奴だ。大好きな仲間だ。 失いたくない仲間だよ……。 馬鹿なのは……、もっと馬鹿なのは私だ……。 私なんだよ……」 「律……先輩……?」 梓が私を気遣って手を伸ばそうとする。 私はムギの肩から手を離して、梓のその手を避けた。 梓は傷付いた表情を見せたけど、でも、今の私には触れてほしくなかった。 こんな最低な奴を気遣う必要なんてないんだ……。 梓は私なんかより、皆を支えててあげてほしいんだ……。 私は壁際に寄って、背中を壁にくっ付けながらその場に座り込んだ。 もう立っていられる気力も無かった。 だけど、それでも、言葉だけはどうにか皆に届ける。 「皆、聞いてくれ……。 唯を追い詰めたのは唯自身だけど、そのきっかけを作ったのは私なんだ……。 私なんだよ……。 唯が体調を崩す前、このホテルの周辺を一人で探ってただろ? あれは私のせいなんだ……。 私のために、唯は一生懸命になってくれたんだよ……。 私なんかのために……。 逃げてばかりの私なんかのために……。 唯の奴……、きっと考えたんだ。捜しながら考えてたんだ。 自分が誰かの迷惑になってるんじゃないかって。 このままでいいのかって。 それで少しずつ自分を追い詰めて体調を崩して、 ベッドで看病されるうちに自分が頭を大怪我をした事にも、 この世界が自分の夢だって事にも気付いて、それで……。 それで……!」 叫びながら、唯の方に視線を向ける。 唯は……、赤い顔をして、低い唸り声を上げ続けている。 自分で自分を追い詰めて、自分から死に至ろうとしている。 私達のために……、死のうとしている……。 これは……、何なんだ……? 私は唯と傍に居たいと願っただけなのに、どうしてこんな事になっちゃうんだ……? 私は唯を失いたくなかった。大切な仲間を失いたくなかった。 唯達とずっと一緒で演奏して、笑っていたかった。 ずっと……、一緒に……。 その願いが間違ってたと言うんだろうか? 願っちゃ……いけなかったんだろうか……? それは分からないけど、一つだけ分かってる事がある。 私が唯を追い詰めてしまったって事だ。 私がピックを捨てたせいで、過去を捨てようとしたせいで、 私は私よりも唯を傷付けてしまったんだ。 そうして、私はまた唯を失いそうになってしまっている。 それも一度目とは違って、他の誰でもなく私のせいで……。 私の……せいで……。 嫌だ……! そんな嫌だよ……! 私が皆から嫌われるのは自業自得だけど、唯には死んでほしくない! 生きててほしい! 元の世界の事は関係無い! もう唯を失いたくないんだ! そのためには何だってしてやる! 何だって……! だけど……、私に何が出来る……? 今度こそ唯のために何かをしたいのに、それを思い付けない。 何も思い付けない。 肝心な時に……、何も出来ない……。 ちっく……しょー……。 「律……」 澪が呟きながら歩き寄って来る。 私は唯の顔から視線を逸らさなかったけど、それはよく分かった。 澪の足音が響いてるんだ。それくらいは分かる。 澪が近付いて来る。 でも、私は澪の表情を知る事は出来ない。 澪の顔に視線を向ける事が出来ない。 私は嫌われてしまっただろう。 軽蔑されてしまっただろう。 これ以上はもう皆の傍に居られないだろう。 思わず逃げ出したくなる。 でも、逃げられない。逃げたくない。 最終的には皆の傍に居られなくなってしまうとしても、 今は皆の考えや想いを私にぶつけられるべき時なんだ。 皆は私にぶつけるべきなんだ、怒りや、悲しみや、苦しみを……。 どんなに辛くたって、私はそれを受け止めなきゃいけないんだ……。 私はそれだけの事をしてしまったんだから……。 「ごめん……、皆……」 喉の奥から声をどうにか絞り出す。 私は謝らなきゃいけない。 謝りたい。 何も出来てない私。 足手纏いにしかなっていない私。 和達を見捨ててしまった私。 唯を追い詰めてしまった私。 こんな私なんだ。 謝らなきゃ……、謝る事しか……、私には……出来ない……。 「ごめん……、本当にごめん……。 足手纏いにしかなってなくて、何も出来なくて……、悪かった……。 何を言ってくれたって構わない。 どんなに責めてくれたっていい。 皆の前から居なくなれって言うなら、居なくなる。 消えるよ……。 でも、せめて唯の体調がもう少しよくなるまでは、居させてほしい……。 唯のために何でもする……。 何か……させてほしい……。 だから……っ!」 謝りながら、いつの間にか私の目の前に来ていた澪の顔に視線を向ける。 怖かったけど、視線を逸らし続けているわけにもいかなかった。 本気で謝るには、真正面から相手を見つめるしかない。 まっすぐに見つめて、謝り続けるしかないんだ。 それが私に出来る事なんだと思う。 「律……」 また澪が呟く。 私はそう呟く澪の表情を見つめて、初めて気が付いた。 澪が顔しそうな顔をしている事に。 凄く悲しそうな顔をしている事に。 私は……、また澪を傷付けてしまったのか……? 傷付けるつもりは無かった。もう傷付けたくなかった。 ただ謝りたかった。 皆に謝りたかっただけなのに……。 なのに、私はまた……? 心臓が強く鼓動し始めた事に気付く。 また……、私は間違えちゃったのか……? 瞬間、悲しそうな顔のままで澪が腕を振り上げた。 勢いよく振り上げて、拳を握り締めて……、 その拳が勢いよく私の脳天に振り下ろされる。 「……っ!」 脳天に鈍い痛みを感じて、思わず小さく呻いてしまう。 かなりの痛みを感じながら、 そういえば澪に殴られるのも久し振りだ、って、 何故かそんな間抜けな事を考えてしまっていた。 本当に久し振りに殴られた気がする。 でも、殴ってくれて構わなかった。 何度でも殴ってくれていい。 私はそれだけの事をしてしまったんだから。 皆には私を殴る権利があるんだ。 だけど……、澪がそれ以上拳骨を落とす事は無かった。 ただ悲しそうな表情で私を見つめるだけで、続く拳骨は来なかった。 澪の表情を見て、不意に気付いた。 そうだった……。 澪とは何度も喧嘩したけど、何度も殴られたけど……、 澪は本気で怒った時だけには、私を殴らないんだ。 殴らずに、怒るんだ、澪は。 私を殴るのは恥ずかしがってる時や突っ込みの時……、 そして……、私に何かを気付かせる時に殴るんだよ、澪は……。 「み……お……」 私は呆気に取られながら呟く。 澪は私に何かを気付かせようとしている。 何かを……。 それが何なのかはまだ分からない。 ただ、澪が私に大切な何かを気付かせようとしてるって事だけは分かった。 数秒くらい、沈黙が流れる。 それからやっと、澪が小さく口を開いた。 「……もういいよな?」 それだけ呟く。 澪が何を言ってるのか、 ムギも梓も分かってなかったみたいだったけど、私には分かった。 私だけには分かった。 もういい、って澪は言ったんだ。 十分苦しんだんだから、律はもう苦しまなくてもいい。 ……なんて甘っちょろい事を言ったわけじゃない。 澪はそんなに甘い奴じゃない。 『もういいよな?』ってのは、『もう甘えなくてもいいよな?』って意味なんだ。 そうだな……。 私は……、甘えていた……。 甘えていたんだ、皆に……。 私は皆に謝りたかった。皆に責められたかった。 あらゆる事に役立たずの自分を自分自身が許せなくて、 辛くて……、一人で抱えてるのが怖くて……、謝りたかったんだ。 和達を見捨ててしまった事も、唯を追い詰めてしまった事も、謝りたかった。 それで、皆に責められて罪悪感を抱く事で、逆に楽になりたかったんだよな……。 誰かに罰される事で、抱えていた物を軽く出来るって勘違いしてたんだ……。 分かるよ……。 今なら、分かる。 だから、澪は殴ってくれたんだ。 甘えていた私の甘えを果たさせてくれるために。 一発だけ……、殴ってくれたんだ……。 でも、もう甘えは許されない。 「ありがとう、澪……」 『ごめん』じゃなくて、『ありがとう』と私は口にしていた。 口に出来た。 澪に『ありがとう』なんて、どれくらいぶりに言うんだろう……。 でも、本当にありがとう、澪。 最後の最後で、本当にギリギリの崖っぷちで、私は間違えずに済んだんだ……。 私の想いを分かってくれたのか、澪は少しだけ微笑んでくれた。 「これで最後だからな? これ以上妙な事ばかり言ってると、もう二度と殴ってやらないからな? 覚悟しとけよ?」 「ああ……、十分甘えさせてもらったよ、澪……。 ありがと……な」 私が言うと、澪が私に方に手を差し出してくれた。 その手を握って、私は立ち上がる。 何とか、立ち上がる。 今度こそ。 ムギと梓の顔に視線を向けてみたけど、二人とも私と澪の間に、 どんな想いのやりとりがあったのか分かってないみたいで、 不思議そうな表情で私達の事を見つめているみたいだった。 そりゃ……、そうかもな……。 こんな短い会話で想いが分かり合えるなんて、 長い付き合いの幼馴染みにしか出来ない事だと我ながら思う。 その善し悪しは別として、今は純粋に大切な幼馴染みの澪が傍に居る事を感謝したい。 「あの……ね……?」 不思議そうな表情をしながらも、ムギが私に向けて話し始める。 私はムギにまっすぐ視線を向けて、続きの言葉を待つ。 「私……、りっちゃんの事、責めないよ……。 りっちゃんは何も出来てないって言ってたけど、そんな事無いと思うし……。 それにね……、謝るのは私の方だと思う……。 謝らないで、りっちゃん……。 前に変な事訊いちゃって、りっちゃんを迷わせちゃったのは私だから……。 だから……、ごめんね、りっ……」 「ストップ」 私はムギの言葉を止める。 前に変な事訊いたっていうのは、ムギが寂しがっていた時の事だろう。 自分がただ一人残されちゃうんじゃないかって、ムギが不安に思ってた時の事だ。 あの時、私はムギにはっきりした言葉を届けられなかった。 はっきりと伝えてあげるべきだった。 それを後悔する事は出来たけど、今は後悔よりもするべき事がある。 だから、私はムギに伝えるんだ、自分の正直な想いを。 「そこからは私に先に言わせてくれないか? 私……、甘えてたんだと思う……。 私を責めてたのは……、私自身だったんだよ……。 澪に殴られてから気付くなんて間抜け過ぎるけどさ……。 まったく……、責められて楽になりたいなんて、甘え過ぎだよなー……。 本当の意味で馬鹿だよ、本当に……。 だからさ……、今度こそ後悔しないように言うよ。 ムギは私の大切な仲間なんだ。 大切な仲間だから、居なくなった和達よりも優先して守りたかったんだ。 それを口に出せなかったのは、私が弱かったからだよ。 自分の決心を信じられる意志の強さが私には足りなかったんだ……。 だから、言い出すと切りは無いけど、一度だけ謝らせてほしい。 思っていた事をちゃんと伝えられなくて……、ごめんな……」 「ううん……、私の方こそ……。 私の方こそもっと自分の気持ちを伝えればよかったよね……。 りっちゃんに何もかも抱えてもらう事になっちゃってて、ごめんね……」 46
https://w.atwiki.jp/tartaros-wiki/pages/91.html
Last up date 2010-01-14 18 32 35 (Thu) 毒された森林 マップ 隣接マップ 施設 NPC データの直接編集をされる方はコチラより編集してください。 番号 NPC名 座標 種族 備考 編集 編集 編集 編集 編集 編集 編集 編集 編集 編集 編集 MOB コメント 名前
https://w.atwiki.jp/seisarann918/pages/56.html
『植物に侵された学園』 ☆開催日時:2012年7月14日 ☆イベント説明 『学園に謎の自然現象が発生。 植物が異常成長し、四季に関係なく花が咲き乱れた。 建物には蔦などが絡まり、進入困難に。 しかも、一部の生徒は体から植物が生え、まるでゾンビのような状態 になってしまった。 この現象を止める方法は、この現象を起こした者を発見し、倒すか止 めるよう説得するかの二つだ。 それでは、諸君の健闘を祈る。』 ということで、一応初イベントです。 日時:7月14日午後8時頃(なるべく早く始められたらなと思います。) 目的:謎の自然現象を止める となっております。 参加者が一人でも多く来られることを願います。
https://w.atwiki.jp/happysunday/pages/27.html
<<エルガイルの丘Ⅴ / エルガイル / 汚染された森Ⅱ>> モンスター
https://w.atwiki.jp/aurcusonline2/pages/160.html
入場場所 ・ガレリア王都 小隊長ティナの選択肢ミッションより入場可能。 入場条件 ・Lv24より ・ガレリア王都 小隊長ティナのクエスト「合成生物のねぐら」を受注後入場可能。 ・適正レベルはLv24であるが入場制限レベル無し 「隠された洞窟」の選択肢が既に出ているプレイヤーをリーダーにしパーティーを組めば、Lv8からでも入場可能。 その他 ・Lv25バドラス装備の素材が入手可能。 隠された洞窟ボス attachref 情報提供 ボスを倒す時のアドバイスをお願いします。 打ち上げスキルで転倒。起き上がり時に広範囲の吹き飛ばし攻撃有り。 -- 転倒モーション中は無敵状態な為、Pt時は迷惑になる。スタン中なら、転倒しないので使うなこの時に。 -- 打ち上げスキルが多いため、実はウォリアーはやりづらいかも。洞窟用にスロットの見直しが必要。ベルセルクが一番早く倒せる。旋風蹴り+スラッシュビートで、吹っ飛ばし、突っ込みに耐えることができる。 -- 名前
https://w.atwiki.jp/mwlnbl/pages/66.html
「ふむ……その反応からして貴様に姉はいなさそうだな」 ウルキアガは決意した。この島で必ずや理想の姉を見つけてみせようと。 無論、殺し合いについても脳の片隅に少しだけ置いているが、一番は姉だ。 一に姉、二に姉、三にも姉で、四に殺し合いが入る程度だ。 「では、拙僧はこれにて失敬。良い姉と出会えたらすぐに教えに来るのだぞ」 「えっ、えっ」 折り曲げていた翼を広げ、ウルキアガは大地から離陸しようとするが。 「ちょっと待ちなさいよ! あなた一体何者なのよ!? な、何なの、その体!?」 「何と言われても困るのだがな。拙僧、如何にも常識溢れる半竜であるだけだ」 「は、半竜ぅ!? だから、それって」 返答を返さずに、ウルキアガは空へと飛翔していった。 巻き上がる風が亜梨子の髪を強く撫でる。 あっという間に夜の彼方へと消えたウルキアガを、亜梨子は呆然と見送るしかなかった。 「もう、何なのよっ! 意味わかんないわ! “虫”でもない半竜……あ~、考えるだけでも頭が痛くなる!」 ウルキアガが消えていった空を軽く睨んで、亜梨子は改めて自分が置かれている状況を確認する。 第一の目標は他の参加者との協力である。正直、“虫”が取り憑いていない今の自分は無力だ。 果たして、無力なこの身体で誰かを護れるのだろうか。 「やるやらないじゃない……やらなきゃ、だよね」 それでも、亜梨子は止まっていられない。 殺し合いになんて負けたくないという感情もあるが、困っている誰かを助けたい。 力がなくとも、自分にもできることはきっとあるはずだ。 殺し合いに巻き込まれる前に虫憑き達の仲立ちをした時のように、何かを繋げることであったり、悲しむ人を励ますことで少しでも気持ちを前に向けることだったり。 「行こう」 夜闇に包まれた世界でも、想い続ければきっと。 強い決意を胸に抱いて、亜梨子はゆっくりと走り出した。 ### 「…………ッ」 走りだしてから数分後、亜梨子の視界に入ってきたのは既に終わってしまった光景だった。 首が切り落とされた少女の遺体。燃え尽きた木々に倒木。 眼の前に映る世界が、戦いが始まっていると嫌でも想起させられる。 「ごめん、助けてあげられなくて」 亜梨子は事切れている少女の遺体に両手を合わせ、軽く黙祷する。 本当ならばしかるべく所に埋めてやりたいが、今の自分には余裕も道具もない。 ……力があれば。 誰にも負けない力が、困っている人達の元へと駆けつけられる力があれば。 結末は変わっていたのかもしれない。そう、思わずにはいられないのだ。 今はいない銀色のモルフォチョウ。いつも横にいてくれる最強の虫憑き。 普段は何気なく接していたものが横にいないだけで自分はこんなにも弱くなってしまうのか。 助けることができなかった自分と助けられなかった少女。 もうどうにもならないことなのに、亜梨子は考えてしまう。 「こんな、ことってないわよ……っ」 これでは救いがないではないか。何の救いもなく死んでいった少女が悲しすぎる。 ……何か遺っているものを探そう。 事切れた少女が生き残っている人達に託しているがあったら、自分が受け取ろう。 無論、何も遺されていない可能性もあるが、亜梨子は少女が何かを遺したことにかけたかった。 大助が聞いたら鼻で笑いそうだが、関係ない。 自分がやりたいことをやり通してこそ、一之黒亜梨子なのだから。 「うしっ! 負けてたまるかっ」 失意のままに死んでいった少女に対して、自分ができることといえばそれぐらいなのだから。 亜梨子は少女の遺体に背を向けて、辺りの森を探索し始めた。 草の根を掻き分け、木の上を見上げ、くまなく探し続ける。 「……? 誰か、いる?」 そして、数十分後。探索を続けていた亜梨子の視界に入ってきたのは、ピンク色の丸だった。 近づくにつれて、暗闇で見えなかった全貌が徐々に顕になる。 木の窪みにすっぽりと隠れ、体を丸くしていた少女だった。 見た所、泣き疲れて寝ているのだろう。目尻からは溜まっていた涙が零れ、頬には痕が付いている。 ……さっきの娘が、護っていたものかしら。 死んだ少女が遺したものか、それとも全く関係のないものか。 どちらにせよ、亜梨子には関係なかった。 護りたいものは意地でも護り抜く。困っている人なら手を差し伸べる。 「とりあえずは、この娘が起きるまでは待機かな」 亜梨子は、見失うことなく前に進み続ける意志を持っているのだから。 故に、彼女は知らない。 差し伸べた手が必ずしも相手に届く訳ではなく、護れるものなんて数少ないことを。 未だ、危難に遭遇しない亜梨子は、どうしようもない悲劇を知らない。 【時間:1日目 深夜】 【場所:H-03】 【一之黒亜梨子@ムシウタ】 【持ち物: 不明支給品2つ 水・食料一日分】 【状況:健康】 【湊智花@ロウきゅーぶ!】 【持ち物: 不明支給品2つ 水・食料一日分】 【状況:睡眠】 【時間:1日目 深夜】 【場所:I-04】 【キヨナリ・ウルキアガ@境界線上のホライゾン】 【持ち物:不明支給品2つ、水・食料一日分】 【状況:平常運転】 ヒキコモリを外に出すための百の方法 投下順 もう一度君に会いたい ヒキコモリを外に出すための百の方法 時系列順 殺人島の不可能男