約 1,861,610 件
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1946.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の帰還記念祭 第1話『目覚め』 雪の降るような寒い朝、御坂美琴はベッドの上で目を覚ました。 今は12月、あまりの寒さにぬいぐるみを抱きしめ毛布を頭からかぶって寝ていたようだ。 今日もいつもの変わらない1日が始まる―――はずだった。 (ん~………あれ?なんだかぬいぐるみの感触が違う……?) いつも抱いて寝ているむいぐるみの感触が明らかにおかしい。 なんだか大きいし人肌のようだし良い匂いがする。 (……ふにゅ……何これすっごい心地いい……) いつもは得られない幸福感と満足感を感じ思わずギュッと抱きしめてほおずりを始める。 と――― 「へ?」 何かに頭をなでられた。いやなでられている。 ありえない出来事に美琴はそろりと毛布から顔を出した。 すると――― 「あ、起きちゃった?」 「…………え?」 なんとすぐ目の前には上条の顔があった。 そしてぬいぐるみだと思いがっちり抱きしめていたのも上条だった。 「…………………………あ、なんだ夢か。」 「いや違うから。」 意味のわからない状況を夢と決めつけたが速攻で否定された。 否定はされたがこんな状況夢以外ありえない、とりあえず夢であることは間違いないと美琴は決定づけた。 そしてボーっと目の前の上条の顔を見続けているとあることに気がついた。 上条の顔が赤い。それに目を合わせてくれないしなぜか恥ずかしそうにしている。 (何よ……目くらい合わせなさいよね。夢でも私のことはスルーしようってわけ?) 上条の態度に不満を持った美琴は抱きつく力を強める。夢の中でくらい想い人に振り向いてほしい、自分の思う通りになってほしい。 「ほらさっきみたいに頭なでなさいよ~。早く早く~!」 「あの~……御坂さん?その、上条さんとしてはその格好で抱きしめられるといろいろとまずいのですが……」 その格好……?そういえばなんだがスースーする。 毛布の中の自分の格好を見てみると…… 「……え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!?な、なんで私パジャマ着てないの!?このワイシャツは何!!?へ?え?ていうかここどこ!!?」 「うおっ!」 美琴は上条を突き飛ばし1人毛布にくるまった。 ようやくこの状況が夢でないことを理解し美琴はパニックに陥った。 「お、おちつけ御坂!大丈夫だほとんど見てないから!!」 上条は美琴が下着を見られたことでパニックになったと勘違いしていた。 美琴の格好は下着はつけているようだがワイシャツの前はとまっておらず肌が丸見えだ。 (ちょ、ちょっと待って何この状況!?え、え!?昨日は何があったっけ?ってその前に今この状況を整理したほうがいい!?) ここで美琴はパニック状態ながら頭の中でこの状況を整理する。 まずどこかわからない部屋のダブルベッドで上条と2人で寝ていた。 何やらベッドは湿っている。 そして自分の格好は下着と恐らくは上条のものであるだろうワイシャツを羽織っているだけ。 上条の格好は上は何も着ておらず下は制服のズボン。 さらに夢ではないらしい。 以上のことから考えられることは1つ。 (つ、つ、つ、つまり………………………………………やっちゃった?) その考えにたどり着いた美琴はボンッという音とともに顔をこれまでにないほど赤くした。 すると突き飛ばされた上条はベッドに座り直し気まずそうに 「あ~……御坂、ひょっとしてお前昨日のこと覚えてない?」 昨日のこと、そう言われても美琴は何も思い出せない。 「う、え、お、覚えてない……」 美琴は毛布にくるまりながら少しでも思い出そうとはしているもののパニック状態のためまともに考えられない。 「御坂……わけがわからないとは思うがとりあえず昨日のことを少しでも思い出せ。まずはそこからだ。」 「あ、う、うん……」 上条の言葉に少し落ち着きを取り戻す。 「じゃあさ……まずパーティのことは思い出せるか?」 「ッ!パーティ……そうだ……」 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 時はまず1週間さかのぼる。 美琴「ど、どうしよう…いったいどうすれば……」 この日御坂美琴は悩んでいた。 いや、この日だけではない、ここ最近ずっと悩みっぱなしだ。 その悩み事の原因はもちろんのごとく想い人、上条当麻にあった。 と、いっても前みたいにロシアから帰ってこないことに悩んでいるのではない。 帰ってきたからこそ悩んでいるのだ。 まだ上条が学園都市に帰ってきていなかったころ、美琴の調子は最悪だった。 ロシアから上条を連れ戻せなかったことを悔やみ、また上条が帰ってこないことに絶望しまともに学校生活をおくれていなかった。 本当は学校になど行きたくなかったが寮にこもっていても寮監や黒子に心配をかけてしまうのでしかたがなく学校へは行っていたが気が気ではなかった。 そしてある日美琴が学校から寮に帰ってくると何やら入り口が騒がしい。 だが一刻も早く自分の部屋に戻りたかったので気にすることなく通り過ぎようとすると目に映る1つの人影。 それがツンツン頭の少年であると認識した瞬間、何も考えず美琴は抱きついていた。 言いたいことはたくさんあったが頭の整理が追いつかずただただ泣くことしかできなかった。 そして今現在、抱きつき泣いてしまったことで大いに悩んでいるのである。 寮の玄関で起こったことだったのでもちろん寮監や多くの常盤台生に見られていた。 そのため様々な誤解を招くこととなったのも悩みの1つだが最大の悩みといえば 美琴「……今度会うときどんな顔して会えばいいのよ……」 冷静になってからとんでもないことをしたと理解し、それから1週間ずっと同じことで悩んでいた。 そのため上条に抱きついてしまってからはは上条に会わないようにするため学校が終わると一切寄り道をせず寮に直行するという生活が続いている。 そしてこの日も同じような1日を送るはずだった。が、後数歩で寮に到着するというところで ???「「見つけましたよ御坂さん!!」」 美琴「ッ!?」 誰かに呼び止められ美琴の足は停止した。この声はあの2人組に間違いない。 美琴「さ、佐天さん…初春さん……なんでここに……?」 美琴を笑顔で呼び止めたのは美琴の親友、初春飾利と佐天涙子。 『なんでここに?』と、聞きはしたが美琴には2人がここにいる理由が容易に想像できた。 初春「そんなの例の話を聞くために決まってるじゃないですか!それで御坂さんが抱きついた人はやっぱり彼氏なんですか!?」 佐天「ちょっと初春!そんな当たり前のこと聞かないでよ!それよりどこまで関係は進んでるんですか!?」 美琴「え!?ち、違うから!アイツとはそんな関係じゃないから!」 初春「いやいや嘘はいいですから!ていうかなんでいきなり抱きついたんですか?大泣きしたとかも聞きましたけど?」 必死に否定する美琴だがそんなことは関係ないとばかりに質問を続ける2人。 後少しで常盤台の寮に着く、どうやって逃げようか美琴が考えていると ???「おーみさかー久しぶりだなー。」 ふいに後ろから声をかけられた。 美琴は救世主かと思ったが現実はそう甘くない。 美琴「舞夏……確かに久しぶりね……」 声をかけてきた人物とはメイド服を着た少女土御門舞夏、この日ももちろん清掃用ロボットに乗っての登場だ。 ただ普通に話しかけてきただけなら救世主だが普通ではなかった。明らか何か企んでいるようでにやにやと笑っている。 嫌な予感しかしない。 美琴「……で、何か用があったの?」 舞夏「そうだぞーこれを渡そうと思ってなー。」 美琴「これは…?」 そう言って渡されたのは1枚の紙切れ。 なんでもない紙切れのようだが書いてあることがとんでもない。 美琴「なになに……え!?つ、土御門!?これ……マジ?」 舞夏「ああ大マジだぞー!」 美琴は驚きを隠せない。 そこに書いてある内容とは 初春「『上条当麻帰還記念!大パーティー開催!!』?……これ何なんですか?」 佐天「上条当麻って誰?」 佐天と初春も舞夏から紙をもらって興味津々に見ている。 そんな2人に舞夏は 舞夏「上条当麻ってのはみさかの大好きなやつだぞー。」 美琴「ッッッッッ!!??!?」 まさかの爆弾発言、美琴が止める間もなかった。 美琴「ちょ、土御門っ!アンタ何言ってんの!?そんなことあるわけないじゃない!」 舞夏「そんなわけあるじゃないかー。あんな人前で抱きついて、泣いて、まるで映画のようだったぞー。」 美琴が初春と佐天に隠そうと思っていたことを舞夏はいとも簡単にすべて話してしまった。 美琴はおそるおそる初春と佐天のほうを見ると2人のにやにやはMAXに達していた。これはまずいと美琴は全力で感じた。 話題をそらそうと1つ思いついたのが 美琴「いや、そんなことよりなんでアンタがこんな企画を!?」 舞夏「主催者が私の兄貴なんだー。それでできるだけ多くの人を誘ってくれって頼まれてなー。」 美琴「そ、そういやアンタの兄貴ってアイツと同じクラスだったっけ……」 美琴は冷や汗が流れるのを感じた。 普段の美琴なら“しょうがないから行く”ふりをして内心大喜びで参加するだろう。 しかし1週間前の件があるため実に行きづらい上、行けば確実に横で目を光らせている2人組にいじられまくることは間違いない。 美琴「あー…行きたいのは山々なんだけどさ…その日は用事「御坂さん!!」が……」 美琴はやっぱりきたか、と思った。 佐天と初春は尋常じゃないくらい目を輝かせている。 佐天「もちろん行きますよね!?この紙には関係ない人でも参加OKって書いてありますし私も行きますよ!」 美琴「ええ!?佐天さん行くの!!?」 佐天「え?そんなの当たり前じゃないですか。」 これは予想外、美琴の予想を遥かに上回った答えが返って来た。 すると初春がふいに思いついたようで 初春「そうだ佐天さん!白井さんや春上さんに固法先輩、それから婚后さん達も誘ってみんなで行きましょうよ!」 美琴「いや、あの……」 断ろうかとしたがもはや参加しなくてはならない雰囲気になりつつある。 それでもなんとか断れないかと頭をフル回転させる。 目の前で舞夏と佐天が何か話していることなど気にもせずに何か断る理由を作ろうと必死だ。 舞夏「詳しいことはその紙に書いてあるから読んでおいてくれー。じゃあ私は他の人にも配ってくるからまたなー。」 佐天と会話を終えた舞夏はそう言い残して清掃用ロボットに乗ったまま去っていった。 舞夏が去ったあと3人で渡された紙の内容を詳しく読んでみると…… ・日にちは12月○○日午後5時から ・上条当麻に関係ある人ない人歓迎!特に女子は大歓迎!! ・場所は第○学区の『とあるパーティー会場』にて! ・参加費無料!美味しい料理多数用意してあります! ・いろんな出し物やゲームもあります!! ・とにかく誰でもいいから誘って参加しよう! などと書かれていた。 これを見た初春と佐天はヒートアップ。 初春「参加費無料!?これは行くしかないですよ!」 佐天「それに『とあるパーティー会場』っていえば結構大きなとこだよ初春!確か1000人くらい入る会場があるって聞いたけど。」 初春「いやあるにはありますけど小さいほうの会場でやるんじゃないですか?個人のパーティーですしね。」 佐天「そう言われるとそうかー…そうだ!どうやって白井さんを説得させる?」 2人はもはや行く気満々だ。 しかし美琴も超必死である。 美琴「あ、あのさー…盛り上がってるとこ悪いんだけどやっぱり知らない人のパーティーって行きづらくない?」 初春「何言ってるんですか!上条さんにも話を聞きたいですし絶対行きますよ!」 佐天「それにさっき舞夏さんに聞いたら私達以外にも関係のない人が参加するらしいですし大丈夫ですよ。」 美琴は私が大丈夫じゃないと思った。 それからもあれこれ言い合いをしていると聞きなれた声がした。 ???「あらお姉様?今日はまだ寮に帰ってなかったのですわね。」 美琴「!!黒子!」 その声を聞き3人は舞夏の去っていった方向を見るとそこには美琴のルームメイト、白井黒子の姿があった。 美琴は今度こそ救世主が現れたと思った。 今ほど黒子が自分の元に現れて嬉しいと思ったことはないかもしれないくらい美琴は嬉しかった。 と、ふと黒子の手に目をやると何やら紙切れを持っている。 3人はすぐにそれがあの紙だとわかった。 黒子「お姉さまもこのパーティーについて聞いたのですね……」 黒子も美琴たちが舞夏からパーティーの話を聞いたのだとわかったようだ。 美琴は期待した、黒子は絶対ダメだと言ってくれると。 初春は悩んだ、どうやって黒子を説得しようかと。 佐天は考えた、最悪黒子が行かないと言い張っても美琴を連れて行く方法を。 そんな3人を前に黒子は軽く微笑んで 黒子「……この日は必ず予定を空けておいてくださいねお姉様。初春と佐天さんもですわよ。」 3人「「「……………………………………え?」」」 美琴達は自分の耳を疑った。 今黒子はなんといったのだろうか。あり得ない言葉が聞こえてきたような…… 初春「え……っと白井さん、それはどういう意味なんですか?」 黒子「もうわかっているでしょう。このパーティーに参加するという意味ですわ。」 そう言って黒子は手に持っていた紙をきれいに折りたたみ鞄にしまい込んだ。 そんな黒子に対し美琴は信じられないといった表情で 美琴「な、なんで?アンタのことだから絶対ダメって言うと思ったのになんでなの!?」 黒子「そんなの大勢の人の前でお姉様とあの殿方の関係がなんでもないということを証明し誤解を解くためですわ。」 これで希望はすべて消え去った。もう美琴になす術は残されていない。 さらに初春が追い討ちをかける。 誰かと電話したかと思うと笑顔で美琴のほうを見て 初春「御坂さん!春上さんもすごく楽しみだって言ってますよ!その期待を裏切るようなまねはしませんよね?」 美琴「………………はい……」 美琴はあきらめた。もう断ることは不可能だと。 こうして美琴達のパーティー行きは決定した。 さらにその後いつも何かとお世話になっているアンチスキルの黄泉川や鉄装も参加するということがわかり、渋っていた固法の参加も決定。 誘った時から行く気満々だった婚后と婚后が行くなら行くということで湾内、泡浮も加え結局みんなで参加することとなった。 美琴「はぁ……どうなることやら……不幸ね…」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の帰還記念祭
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1925.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/未来からの来訪者 ~4th day まこてんしょ~ チケット売り場に並んで十数分、ようやく麻琴たちはチケットを入手することが出来た。 さすが休日の遊園地、なかなかの混雑具合である。 上条と美琴はフリーパスでさっさと中に入って行ってしまったようで、周囲には見当たらない。 だが、つい先ほどゲートの付近のインフォメーションセンターに向かうのを見たのでまだそこにいるはずだ。すぐにそこに向かえば見失ってしまうことはないだろう。 しかし、麻琴はそれとは別の懸念事項を抱えていた。 「チケット代で早くも上条さんのお財布が若干ピンチに……」 自分とインデックスの分の代金を支払ったおかげで、心細くなった財布の中身。 自分の時代にいた頃は奨学金やらでお金に困るようなことは特になかったのだが、ここ数日は美琴から支給されるお小遣いのみなのだ。 まぁ、今日の分はインデックスの食費等も含め多目にもらってはいるのだが、やはり彼女の食費を考えると心もとない。 「まこと、そんな細かいこと気にしてちゃいけないんだよ」 「いや、細かくないわよ!? 結構重要なことよ!?」 「麻琴ちゃん。そろそろ行かないと本格的に上条さんたち追えなくなるんじゃない?」 コントのようなことをし始めた麻琴とインデックスに佐天が釘をさす。 佐天としても、このチケット代は予想外の出費なのだ。無駄に終わらせるわけにはいかない。 「そうだね。さっきとうまたちがあの建物に入っていくのを見たんだよ。出入りを見てた限りまだ中にいるはずなんだよ」 それに答えたのはなぜだかインデックス。私の完全記憶能力に間違いはないんだよ、と胸を張っている。 「あ、あれー? 今あたしが聞かれてたよね? 何でインデックスさんが答えてるの!?」 「早い者勝ちなんだよ」 「えぇ~……」 果たしてそういう問題なのだろうか。インデックスの答えになんだか納得のいかない麻琴である。 「よ~し、じゃあ、見つからないように建物のそばに隠れよっか」 「それがいいかも」 早速移動を始める佐天とインデックス。 「ちょっと、置いてかないでよー!」 麻琴もその後を駆け足で追いかけていった。 その頃、インフォメーションセンターに立ち寄った上条と美琴はあるサービスの説明を受けているところだった。 「と、いうわけでして、カップルの方は優遇されるサービスとなっております」 ニコニコと営業スマイルで説明をする係員の女性。 「どうする?」 「う、う~ん……」 上条に尋ねられ、ちらりと視線を部屋の一角に置いてあるストラップに向ける。 そのストラップはこの遊園地のこのサービス限定の代物のペアストラップ。それもラヴリーミトンとのコラボ品のゲコ太ストラップだった。 限定ゲコ太ストラップ。美琴からすれば喉から手が出るほどにほしい。ちょうど上条と美琴は、正真正銘のカップルでもある。それなのになぜ美琴が即決できずにいるかといえば…… 「あ、あの。本当にキ、キスしてる写真撮らないとダメなんですか?」 「はい。あくまでカップル限定ですので、ご兄妹などの関係じゃない証拠としてお願いしています」 「うぅ……」 そう、これなのだ。カップルである証拠としてキスシーンの写真を撮られる。これが美琴を悩ませていた。 美琴だって上条とキスがしたくないわけではない。むしろ、キスをしたいくらいだ。 何せ告白された日以来、一度も上条と美琴はキスをしていない。いい雰囲気になりかけてもそれは人前だったりでできなかった。 でも、だからといってそういう雰囲気になってるわけでもないのに第三者の前でキスをする、というのは美琴にはいささかハードルが高すぎた。 目の前のハードルを飛び越えないと気がすまない美琴といえども、さすがに恥ずかしすぎるのだ。 ならば、限定ゲコ太ストラップが諦められるのかといえばそうでもないし、そもそもキスをするいいチャンスなのでは? という思いもあって決断できない。 でも、だけど……美琴の中で思考が堂々巡りを繰り返す。やがて迷いに迷った思考は迷路の出口にたどり着く。それは彼女の中にあった最も大きい欲求に沿うこと。 カップルとして上条と行動したい、上条とキスをしたい、ということだった。 「する」 ぼそりと美琴がつぶやく。 「え?」 「と、当麻とキス…する。当麻は……イヤ?」 「イヤ…じゃない」 潤んだ瞳で上目遣いで見つめてくる美琴に、上条が逆らえるわけもなかった。 「は~い。じゃあ、準備は出来てますので、彼女さんから彼氏さんのほっぺにチュってしちゃってくださいねー」 「わ、私からするんですか!?」 頬にするというのは、他人の前でやるには幾分かハードルが下げられた美琴ではあるが、自分から上条にキスをしなければならない、という新たな壁が立ちはだかった。 普段なら、美琴からキスを、しかも人前でやるなんてことは不可能だっただろう。 しかし、美琴の頭はすでに上条とキスをしたいという欲求に染められていた。 「それではいつでもどうぞ~」 「と、当麻……」 どこか熱にうなされたような表情を浮かべる。 上条の方が背が高いので必然的に爪先立ちで、そして体重を預けるように上条の肩に手を置き、頬に自分の唇を軽く押し付けた。 頬に伝わる感触に上条の顔も一瞬で真っ赤に染め上がる。これは、思っていた以上に恥ずかしいのかもしれない。 「はい、OKです。じゃあ次は彼氏さん。彼女さんのおでこにチュッとやっちゃってください」 頬とは言えど、美琴からキスされたためか、上条の思考もすっかりとろけてしまっていたようで、言われるがまま、美琴に向き合い、前髪をかきあげる。 「いくぞ……」 「ん……」 上条がゴクリとつばを飲み込む。なんだかその音がやけに響いた気がした。 美琴は顔を上げ、ぎゅっと目をつぶっている。その顔は真っ赤で目じりに涙がわずかに滲んでいた。美琴も恥ずかしいのだろう。 しかし、その顔がまた可愛くて、上条の心臓がバクバクとやかましく鼓動する。 「ひぅ……」 額に感じる上条の温もりに、くすぐったいような心地よいような感覚が全身を駆け巡り、変な声が出てしまった。 「は~い、OKです。では、プリントアウトしますので少しお待ちくださいねー」 恥ずかしさで固まっている二人をよそに、係員はテキパキと進めていく。顔がにやけ気味なのはこの二人を見ていれば仕方ないのかもしれない。 そんな様子を入り口付近からこっそり覗いていた3人は…… 「うわぁ~。なに、なんなのこれ? なんか凄くキュンキュンするんだけど。あぁ、もう! 御坂さんホント可愛いなぁ」 「甘い、甘すぎるんだよ。うぅ、なんか胸焼けしてきたかも」 「慣れてると思ってたんだけど……、こういう初々しい反応見せられると、なんかこう!」 三者三様にすっかり上条と美琴のぽわぽわオーラにあてられてしまっていたようだった。 係員からカップル優待パスを受け取り、ついでにプリントアウトされたキスシーンの写真も渡された。 さらには携帯に画像データまで送信してくれるというおまけつきだった。上条には美琴から頬にキスされている画像を、美琴には上条から額にキスされている画像を送信してもらった。 美琴は恥ずかしがりながらも早速待ち受け画像にし、何度もその画像を見ては嬉しそうに微笑んでいた。 そして実は上条もこっそり待ち受け画像にしていたりする。恥ずかしいのでそんなことを口には出せないが。 「さて、優待パスももらったし、美琴はどこか行きたいとこあるか?」 「ふぇ!? そ、そうね。あそこはどう?」 あわてた様子で美琴がとある施設を指差す。 また、先ほどの上条におでこではあるがキスされた画像を見てにやけていたので、ろくすっぽ確認もせず適当に指差したのだが、それがいけなかった……。 美琴が指差した先にあったのは、学園都市の技術の粋を集めて作られた『お化け屋敷』であった。 「へぇ~。お化け屋敷か」 「お、お化け屋敷……」 美琴の顔がサーっと青ざめる。 「あれ? もしかして苦手なのか? だったら別の……」 「だ、だだだ大丈夫よ!! 別に苦手じゃないわよ! こ、怖がってなんかないんだからねっ! 早く行きましょ!」 上条に弱いところを見られたくないと思ったのか、美琴は上条の腕を引っ張ってずんずんと進んでいく。建物が近づくに連れ歩幅が少し狭くなり、怖くない、怖くない、などと小さくつぶやいている。 「とうまとみこと、あそこに行くみたいなんだよ」 「え~とあれは……お化け屋敷みたいだね」 インデックスが指し示す施設を佐天がパンフレットで調べる。 「お、お化け屋敷……」 じりじりと麻琴が後ずさる。 「どうしたの、まこと?」 「い、いやあのね、別にね、その……」 視線を泳がせ、おどおどと挙動不審な麻琴の様子にインデックスが首を傾げる。 「はっは~ん。麻琴ちゃん。お化け屋敷、苦手なんでしょ」 「なななな、なんのことでせうか!? 上条さんがお化け屋敷を苦手だなんてそんな子供みたいなことあるわけがないじゃないですか!!」 「まこと。なんだかとうまみたいな口調になってるんだよ」 じとーっと麻琴にいぶかしげな視線を向ける。 「さっ、御坂さんたち見失わないうちにあたしたちも行こっか」 しかし、そんな空気もなんのその、佐天は麻琴を腕を引っ張るとそのままずるずると上条たちの向かったお化け屋敷に引っ張っていった。 「るるる、涙子さん。別に入らなくてもいいんじゃない!? 外で待ってれば!!」 「インデックスちゃんはこういう所は初めてなんだから、楽しんでもらわないとね~。待ってるだけじゃつまらないよ」 麻琴の必死の説得も佐天に一蹴されるのあった。 佐天の顔が楽しそうな笑みを浮かべていたのは見間違いではないだろう。 「そうだけど、そうだけども、そうですけれどもの三段活よ…あぁぁ、待って待って待ってぇ~。そ、そうだ、インデックスさん。あたし困ってる、今凄く困ってるわよ。インデックスさんシスターでしょ。す、救いの手を……」 うるうると涙目でインデックスに助けを求めるあたり、相当追い詰められているらしい。 「そ、そうだね。るいこ、まことが嫌がってるんだよ。無理強いは……」 「インデックスちゃん。もう一度よく麻琴ちゃんを見て?」 佐天に言われたとおり、もう一度麻琴の様子を観察する。 お化け屋敷に行くのが本当に嫌なようで、溢れんばかりに涙をためて、両足を突っ張って精一杯抵抗しているようだ。すがるように潤んだ瞳でこちらを見つめている。 その視線を捉えた瞬間、インデックスをなんともいえないような感覚が襲った。ゾクゾクと何かが背筋を這い上がるような感覚。もっとその表情を見たいという嗜虐的な思い。 (な、何を考えているのかな私は! だ、ダメなんだよ。迷える子羊を救うのがシスターとしての役目なんだよ! こんな感情に流されちゃダメ。まことを救わなきゃ) 思いに飲み込まれないよう、気を引き締める。 さぁ、やめるように言わないと。 「まこと。おばけやしきがどんなものかは知らないけど、苦手だからって逃げてちゃダメなんだよ。きっとこれはまことに与えられた神の試練なんだよ」 まるで聖母のように、慈愛に満ち溢れた笑顔でインデックスはそう言ってのけた。 慈愛の慈の字もないようなことを。 「そ、そんな。待って待ってよぉ~。あぅぅうう」 普段はお転婆な麻琴のすっかり弱気な様子に、インデックスは何かに目覚めてしまったようだった。 涙目の麻琴をそのまま佐天とインデックスが引きずっていったのは言うまでもない。 「ひぅ!?」 「ふにゃ!!??」 お化け屋敷に入ってから、美琴は上条にぎゅっと抱きつき、ずっとこんな調子だった。 ほんのちょっとした仕掛けでも、びくっと身体をこわばらせているのが上条にも伝わってくる。 そんなに怖かったら無理しなければよかったのに、と思う上条ではあるが、強がってても怖がりな美琴がまた可愛くて、これはこれで捨てがたい、なんて思ってたりもする。 「美琴。大丈夫か?」 「だだだ大丈夫よ。こここ、怖くなんてないわよ、こんな子供だまsふにゃっ!?」 ぷるぷると震えながら上条の胸に顔をうずめて抱きついてくる美琴。 怖くない、怖くない、怖くない、と自分に言い聞かせるようにつぶやいているのが保護欲をかきたててたまらない。 (あぁ、やばいやばいやばい。これは違う意味で上条さんピンチですのことよ。なんだよ、この可愛い生き物は。正直もうたまりません) 「と、当麻。離しちゃヤだよ……。そばに…いて……」 今にも泣きそうな顔で、上目遣い。震える声でそばにいてほしい。 (あぁぁぁぁ、俺は、俺はぁぁぁぁっ!!) 上条の本能と理性の世紀の大戦は、お化け屋敷から出るまで続いたのだった。 結局、勝敗はかろうじて、タッチの差で理性が勝ったようだ。後数メートルお化け屋敷が長ければどうなっていたかわからないレベルの僅差の勝利だったらしいが。 佐天、インデックス、麻琴の3人は…… 「はぁ。まさか最初の仕掛けに驚いて気を失っちゃうなんてね~」 と、意識をはるか彼方に飛ばしてぐったりしている麻琴をおぶる佐天がため息をつく。 少しからかってやろうと思ってたのだが、まさかここまで苦手だったとは予想外だった。 どうやら、麻琴は美琴以上の怖がりだったらしい。 「それに、インデックスちゃんはなんか変な方に興味持っちゃってるし、お化け屋敷は失敗だったかなー」 元々魔術の世界で生きていたインデックスにとっては、幽霊の類などのオカルトはむしろ馴染み深い。それを偽者だとしても科学で再現されていたりするのが面白いのだろう。よく分からない用語を言いながら興味深そうに眺めている。 「まー。楽しんでるみたいだしいっか」 持ち前の前向きさで佐天も佐天なりにお化け屋敷を楽しむことにしたのだった。 お化け屋敷から出た上条と美琴が続いてやってきたのは、遊園地の花ともいえるジェットコースター。 なんでも学園都市の技術をこれでもかとつぎ込んだ、外の世界とはかけ離れた代物だ。 「なんだか上条さんは嫌な予感がするのですが……」 なぜか途中で途切れているレールに視線を向け上条が顔を引きつらせる。 上条の視線の先にちょうどジェットコースターが向かってきた。コースターはそのまま速度を緩めることなく途切れるレールに向けて突っ込んでいく。 当然、レールがなければそのまま慣性に従いぶっ飛んでいくわけで…… ギュオォォォと激しい音を立てて錐もみ状態で空を飛んでいくコースター。数十メートルほど空を飛び、その先のレールに再び着地し、何事もなかったかのようにそのまま走っていく。 これはすでにジェットコースターと呼べるものなのだろうか。 「大丈夫? 顔色悪いわよ?」 「なんというか、途中でいきなり止まって落下したり、レールを支える支柱がはずれたりする不幸が来るんじゃないかとな……俺だけならまだいいが、他の人を、美琴を巻き込んじまったら……」 誰かを巻き込みたくない、と口では言ってはいるが、実は単に怖いのを誤魔化しているだけなのには気付かれてはいけない。 「あぁ、大丈夫よ。いざとなったらアタシが磁力で無理矢理レールに本体くっつけるから」 事も無げに言う美琴。 さすがレベル5。これなら万が一があっても安心だね! なんて思ったりする上条ではあるが、それはイコール逃げられないということ。 「まさかアンタ怖いの?」 「ま、まさか何を言ってるんでせうか、このお嬢様は。上条さんが怖い? そんな幻想はぶち殺してやりますよ!」 「じゃあ、問題ないわね。さっさと行きましょ」 先ほどのお化け屋敷での怖がりようはどこへやら、うきうきと上条の手を引いて入り口に向かっていった。 なお、佐天とインデックスは気を失った麻琴を介抱するため、コースターの出口が見える場所で休んでいたらしい。 いくつかの遊具を堪能した上条と美琴は、園内のレストランに移動していた。 時間もちょうど昼時で、いったん昼食兼休憩をすることになったからだ。 食事はなかなかにおいしかった。色々とおしゃべりもできたし満足のいく昼食だった。 しかし、二人の表情は晴れやかなものではない。 その理由は、店員が食器をさげるときに持ってきたカップル優待サービスの特典らしい目の前のコレ。 大き目のグラスに注がれた飲み物、ただし2本のストローが刺さっているアレである。 戸惑いと恥ずかしさで上条も美琴も固まってしまっている。 「ど、どうする?」 緊張した面持ちで上条が口を開く。 「どうするって……その、せっかくのサービスだしさ、あの……」 顔を真っ赤にして答える美琴。 それでも決定的な言葉は口に出来ない。それは上条も同じこと。 互いに答えは決まっている。そもそも飲まないなんて選択肢は存在しない。行動に移せないのは恥ずかしいだけなのだ。 先ほどのキスも大概だが、まだ見ていたのは係員の女性一人だけだった。しかし、今度は公衆の面前である。そこでこんなものを二人で飲んでたら、俺たちバカップルですと宣伝しているようなものだ。 どうしたものかと悩む二人だったが、やがて意を決した美琴がパクリとストローをくわえた。 「ん!」 上条に早くと目で訴える。 恥ずかしさで顔はこれでもかというほど真っ赤だ。 (よ、よし。男、上条当麻、いきます) 大きく深呼吸して、上条もストローをくわえる。 すぐ近くに感じる互いの顔。 (近い近い近い~!) ドキドキバクバクと暴れまわる心臓の鼓動に周囲の音さえ聞こえなくなるほどであった。 そんなバカップルな出来事をよそに、こっちはこっちで違う意味で盛り上がっていた。 場所は上条たちがいる所の近くにある別のレストラン。 窓越しに上条たちを見れるので見失うことがない絶好のポジション。 「おかわりなんだよ!」 顔を上げたインデックスが皿を隣の塔の上に乗せる。 その高さはすでにインデックスの身長を超え積まれている。 「大食いチャレンジやっててくれて助かったわ……」 「あは……は、なんかあたし見ちゃいけないものを見てるんじゃないかな……」 慣れもあり、黙々と自分の分を食べる麻琴と、インデックスの食いっぷりに圧倒される佐天。 他の客や店員も茫然自失といった風体だ。 すでにチャレンジ達成の目標数はとっくの昔に超えている。それでもインデックスは止まらない。 むしろ一般的な程度の大食いチャレンジなど、インデックスにとってはまさに言葉どおりの意味で朝飯前のことだ。この程度では止まりはしない。 「おかわりなんだよ! 早くしてほしいかも!」 また皿の塔が少し高くなる。 もはやその場にいたものは笑うしか出来なかっただろう。 結局、店長が泣いて許しを請うまでインデックスは食べ続けた。 この日、この店は開店以来最高額の赤字を計上したらしい。 時間は流れ、空が茜色に染まり始めた頃、上条と美琴は大観覧車に来ていた。 昼食後も色々と遊具を回りデートを楽しんだ二人が最後の締めとして選んだのがここなのだ。 ゆっくりと高度を上げていくゴンドラ。すでに地上を歩く人々はまるで蟻のように小さく見えてしまう高さだ。 「きれい……」 徐々に夕陽に染められていく学園都市の町並みに魅入られる。 自分たちの住んでいる場所なのに、なんだかまるで別の世界のようだ。 「そうだな……」 そう返す上条が見ているものは風景ではなく、外を眺める美琴の横顔。 なんとなく美琴の顔を見たら視線がはずせなくなった。はずしたくなくなった。ずっと見ていたい、独占したい。 「……本当に、綺麗だ」 「当麻?」 いつもと違う雰囲気の上条の言葉に違和感を感じて視線を移す。 そこにいたのはとても優しげな瞳で自分を見つめる上条。 「美琴……」 上条が自然な動きで美琴の隣に移動する。 美琴はそんな上条の様子を少し不思議そうな表情で見つめている。なんだろう、と小首を傾げてるその仕草が、その表情が、愛しくてたまらなかった。 「美琴……」 もう一度優しく彼女の名を呼ぶ。 綺麗な夕焼けがそうさせたのか、二人きりという現状がそうさせたのか、それともそれらを含め全てが要因か。 「どうかし―――」 暖かい感触に口をふさがれ、美琴はそれ以上言葉を紡ぐことは出来なかった。 夕陽に照らされるゴンドラの中で二つの影は…… 「あぁ~! 前のが邪魔なんだよ!! いいとこなのに!!!」 「キスですか、キスなんですか御坂さん!! あぁもうなんで、こんないいときに前のゴンドラが邪魔するのー!」 上条たちと1つ挟んだゴンドラに乗るインデックスと佐天が、恨めしげに視線を隠すような角度に来た前のゴンドラを睨みつける。 べたーっと窓に張り付かんばかりの二人の剣幕に、前のゴンドラに乗るカップルが引きつった表情を浮かべているのがこちらからもはっきりと見える。 「ちょ、ちょっと、インデックスさん涙子さん落ち着いて! 前の人なんか変な目でこっち見てるから!!」 前の見知らぬカップルの視線にいたたまれなくなった麻琴が二人の暴走を止めようと声をかける。しかし、興奮状態にあるのか全く聞いてないようだった。 「早くどくんだよ! とうまとみことのキスシーンが!!」 「誰なの、隣だとバレるから1つ離そうって言ったのはー!!」 「インデックスさん、だから落ち着いて、暴れないで! それに涙子さんです。離そうって言ったのは!」 今にも暴れだしそうなインデックスを後ろから羽交い絞めにして拘束する。 影からこっそり両親の初デートを見守ろうと思ってただけだったはずなのに、何故こうなってしまったのか。何がいけなかったのか。どうしてこの二人に振り回されているのか。 分からないことだらけの麻琴であるが、1つだけ分かっていることがあった。それは…… 「とりあえずこの状況は、不幸……よね」 己の不幸体質は健在だということだった。 観覧車から降りた上条と美琴。 二人の顔が赤く染まっているのは、夕焼けに照らされているという理由だけではないだろう。 その少し後ろに、肝心のシーンが見れなかった苛立ちから地団太を踏む佐天とインデックス、そしてどこかげんなりした様子の麻琴がいたのだが、バレなかったのは上条たちがどこか上の空だったからに違いない。 なお、帰宅後、上条は散々インデックスにからかわれ、美琴も後日佐天に細かく追及されるはめになるのだが、幸せで胸がいっぱいな二人は、そのような少し不幸な目にあうとは思いもしていなかった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/未来からの来訪者
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1298.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある記憶の消失問題 -③上条の御見舞い- 「ちくしょう…なんでこんなことに……」 上条は現在の時刻を携帯で確認しつつ病院に走る 時刻は夕刻を過ぎ、月が昇ってしまった 「それもこれも筋肉猛獣の所為だー!!」 と叫び、今日を振り返る上条 朝、上条は昨晩の美琴の電話で一睡も出来なかった 「悪夢で眠れねーよりましか…」 そう呟き上条は起き上がり布団を干す 朝食は作る気にも食う気にならず、早々に学校に向け出発する上条 「学校行けば放課後は小萌先生が補習組んでんだろうな……」 出発していつもの公園あたりで上条は肩をがっくりと落としながらそう呟く その後も平穏に歩いて学校に向かった 学校に着き上条は眠い目を擦りながらも授業を全うした 「やっと終った…ってか一時限目でこれってやばくないか……」 しかし、上条の不安はこれ一つではなかった…クラスの女子数名からは正体不明(期待)の眼差しを そして男子からはからかう様な眼差しを向けられている 「多分あれだ…昨日の土御門のチェーンメールの所為だ……絶対そうだ」 本日その土御門と青髪ピアス、吹寄、姫神は何故か揃って風邪でお休みだ そしてもう一つの不安、それは… 「おいっ! そこ上条!! ボーっとすんな!!!」 小萌先生も休みというか俺が休んだ辺りから風邪が流行だしていたらしく、今日一日の授業担当の先生がフルで休み そして……あの筋肉猛獣こと災誤先生が今日一日自習監督を務めることになったのだ…不幸だ 上条はその後、居眠りなどをに犯して放課後に校庭整備を命じられる羽目になったのだ そして月が昇るまで筋肉猛獣の監修の元、校庭整備をさせられていた上条だった 意識を今に戻す上条は一つ心配していることを呟く 「あー、美琴泣いてねえよな…いや、いくらなんでも泣きはしない……よな?」 不安だが昨日の約束を早々に破りかけている上条は今の予測が当たっている気がしてならない それでも上条は駆ける、どんなに遅くなっても会いに行く…そう約束したから 上条はその想いだけで今は全速力で前に進んでいる気がした □ □ □ 病室の室内を照らす夕焼けの日差しが月光の光に変わっても想い人は来ない 「わかってはいるんです、当麻さんにも事情があって来れない日があることくらい… それでも、約束した日が会えないって…少し悲しいな」 病室で美琴はそう呟き、窓の外を見る…街の建物には明かりが灯り、空は黒く月と一部の星だけが光を放つ そんな少し寂しい夜空を見ていたがコツコツという何かが叩かれる音が聞こえ、そちらを見る そこには窓を叩く上条の姿、美琴は心臓が跳ねるような喜びを感じ目に涙が溜まってくる 嬉し泣き…と言えばいいのか 上条はそれを見て慌てている様子だが美琴自身は気付かない、美琴は窓を開ける 「当麻さん、ここ何階だと思ってるんですかっ!」 開口一番、最大の疑問をぶつける美琴 「ん? 3階だろ…あと木登ればここの部屋は届くし問題ないだろ」 と上条はさして気にすることなく木から開けた窓に足をかけ、入ってくる 「で…だ、美琴…遅れて本当に申し訳ない…」 美琴がベッドに腰掛、上条はそれに対峙し謝る…暗い顔をしているのは先程の涙が原因だろう 「いいですよ当麻さん、こうして会いに来てくれましたし…うれしいです」 そう言って美琴は上条に微笑み、頬を赤くし続けてこう言った 「当麻さん…無理なお願いがあるんですけど我が侭を一つ聞いてくれませんか?」 なんだろう? と上条は思ったが 「ああ、いいぞ…遅れたお詫びに何でも聞いてやる」 といかにも上条らしい答えを返す 「私の……恋人…になってもらえませんか?」 上条は硬直し、美琴は真赤になる 「えっと、美琴…さん? そのお誘いは大変嬉しいのですが、それはフリでしょうかそれとも本気なのでしょうか…」 以前に恋人ごっこをしたので念のための確認なのかもしれないと意外と美琴は冷静に判断する 「だ、ダメですか? …私じゃ当麻さんの恋人にはしてもらえませんか?」 しかし口に出して言えたのは冷静とは反対の焦りの入り混じった言葉 「いや、ダメじゃないです…むしろ上条さんとしては万々歳なのですが… 記憶喪失の内から恋人になるのは…と上条さんは少し思うわけで…」 と上条は了承してくれる反応を示すがどうやら今はダメとも言いたいようだ 「当麻さん…あのですね、私は当麻さんのことが好きになりました 出会って数日しか経っていないのにこの気持ちになるのは変だと思いますか?」 美琴は上条にそう問う 「私は今の気持ちに気づいてからなんだかとても落ち着けなくて、心地良いんです… もしかしたら記憶喪失以前もこういう気持ちだったのかな…なんて思えたんです」 そう言って美琴は一息つき 「と言っても…事実として本当にそうだったかはわからないんですけど……でも、でもですね… 本気で私と付き合ってくれませんか? 記憶が戻るまで仮の恋人でもいいです、ですからお願いします!」 と続けた…必死に、そして泣きそうな顔で 「なんて…顔してんだよ、そんな顔されたら断れねーじゃねーか」 その様な顔の美琴を見て上条は優しくそう言った、そして嬉しそうに…そして恥ずかしそうにこう続けた 「俺でいいなら…こちらこそよろしくおねがいします」 こうして夜、病院に不法侵入をした上条当麻に御坂美琴という彼女が出来た その後、実は無音で作動していた防犯システムにより上条が警備員に連れて行かれそうになるのはもう少し後の話 □ □ □ 翌日、上条は美琴の病室で目が覚めた…時刻は7時ちょっと前 「俺、なんでここに…ってそうか昨日の夜…」 上条は思い出す、警備員に必死に美琴が説明してくれたため連行は避けられた上条であったが帰ろうとした時に 「今晩は私の近くにいてくれませんか?」 と少し震えて美琴が言うので上条はずっとベッドの横にパイプ椅子を持って頭を撫でてやっていたのだ 回想が終わり顔を上げるとまだぐっすりと眠っている美琴の顔が目に映る 「やっぱり…可愛いよな、美琴は……」 と上条は言って美琴の頭を優しく撫でる そうすると美琴は気持ち良さそうな顔をして「う、ん…むにゃむにゃ」と猫の様に身をよじる 「そういえば…俺達恋人同士になったんだっけ…」 上条は恥ずかしそうにそう呟き 「実感わかねー」と小さく笑う そうしてしばらく美琴の寝顔を優しく見ているのであった それから時間が経ち7時半前に美琴が目を覚ました 「あれ、当麻さん…ふぁ……おはようございまふ」 まだ眠そうでトロンとした目をしている美琴 「よっ、やっと起きたか」 そう言って上条はニカッと美琴に笑いかける 「あ、お待たせしました…」 上条の笑顔を見て照れたかのように顔を赤くする美琴 「うんうん、やっぱり…」 「やっぱり…なんですか?」 「あー…いや、なんでもない」 「変な当麻さん、ふふっ」 少し赤くなって「なんでもない」そういった上条を見て美琴も笑みを浮かべる □ □ □ 「でさ…記憶喪失の美琴に聞くのもなんだが……恋人ってなにするんだ?」 「うーん、知識としては食事やデートだと思うんですけど…」 上条はあの後、学校に向かい夕方に改めて病室を訪れて話をしていたのだがこういう話になり 「でも、今の私は外にあまり出ないほうが良いですよね……」 そう言った時の美琴の少し残念そうな顔を見てこれはなんとかならないか…と思った そして、面会時間終了という時間まで話をしていたので美琴には先程「また明日な」と言って病室を出た だが上条は玄関ホールに向わずに病院内を歩いている…ある人物を探しているのだ、が 「あれ? 上条さん、面会時間はもうすぐ終わりですけどどうしたんですか?」 と急に声をかけられ上条は振り返る 「あ、ども…ってそうだ、あの先生ってどこにいますか?」 そこには上条と美琴の担当であった看護婦、丁度良いと思い上条はカエル顔の医者の居場所を聞く 「ああ、あの先生ですか…確か今、あそこの休憩室でコーヒーを買ってたと思いますよ」 そう言って看護婦は少し先の休憩室のところを指差し「それじゃあね上条さん」と言って行ってしまった 「ふぅ…で何か用かな?」 上条が休憩室に顔を出すと「わかってるよ」とでも言うかのような言葉をいきなりかけられる 「なんでわかるんですか…、まあいいですけど…美琴に外出許可を貰えませんか?」 「いいよ」 と上条の質問に即答のカエル顔の医者 「はやっ! ってかいいんですか!? そんな簡単に出して!」 「君はどっちがいいんだい…」 上条はツッコミを速攻で入れたが結果、カエル顔の医者に半眼でおいおいと見られることになる 「いや、外出できるのは嬉しいんですけど……なんというかあっさりしてて」 そうだ、今までの経験上何かしらありすぎてこうあっさりいくと不気味でしょうがない 「まあ、君が言うのはわかるよ、それに条件があるからね……条件は君が一緒にいることだ、いいね?」 「あ、は…はい、それはいいですけど…外出の理由はないんですか? それに…回復しますよね…美琴の記憶…」 と歯切れが悪い上条にカエル顔の医者は 「言っておくけど、記憶喪失が治るには時間がかかるものだからね、あまり気にしない事だよ」 そう言ってカエル顔の医者は持っていたコーヒーを一気に飲み干し上条の肩を軽く叩く 「あと、理由だけど病院内にずっといて回復を待つよりも外に出て色々体験した方が戻り易いかもしれないからね」 そしてカエル顔の医者は休憩室から出て行った 上条はカエル顔の医者が出て行ったのを見て自分は玄関ホールへと向って行く…すると 「ちょっといい加減にして下さいませんの! いるんですの? いないんですの! はっきりして下さいまし!!」 と聞き覚えのある声が聞こえてきたのでそちらを向く そこには面倒くさそうに受付を閉めようとしている看護婦とその看護婦にギャーギャーと言っている白井の姿 「………何してんだ? アイツ…」 上条はそう呟いていた 「ん? ってあなたは!」 その呟きが聞こえていたらしい白井は看護婦に向けていたであろう鬼のような形相を上条に向ける そして、これはチャンスと思ったのか看護婦は受付を閉めて猛ダッシュで立ち去った 「………はやっ、ってこっちもそれどころじゃねえ!」 上条は看護婦さんのスピードを見て唖然としていたが白井が迫ってきている事に気付き叫び、逃げる 「逃げるんじゃないっですの!」 「だったらせめてその顔をやめろ! それに金属矢もしまえー!!」 と叫び病院から離れて行く二人を見つめる二人の少女が居た事を上条は知る由もないし、白井はすっかり忘れていた 恐怖の空間移動追いかけっこに突入した結果……上条はもちろん逃げ切った、が この時ある人物が上条を追跡していた事を上条はまだ知らないのであった □ □ □ 「あー、やっと自宅に帰って来れましたか…」 上条は自分の家に着き玄関にへたり込む…、するとコンコンと控えめなノック音が聞こえた …だれだろ?「はーい、ちょっとまってください」カチャ ドアを開けるとそこには長髪の髪に白い花の髪飾りをつけた少女が立っていた 「………えっと、どちらさまですか?」 「私、佐天涙子っていいます、御坂さんの事についてお聞きしに来ました」 上条は観念した…自宅にまで来られた以上、逃げる事は無理に等しい 「はぁ…仕方ない、説明するから中へどうぞ…」 上条は仕方なしにそのまま部屋の中へ佐天を招く 「……………と言う訳だ、俺は…後悔してる、一緒にいた俺の方が美琴を守らなきゃいけなかったのに…」 上条はお茶を出し佐天に事故とその後をすべて話した 「…………わかりました、これは白井さんには内緒にしておきます…で、上条さんもう一人呼んでもいいですか?」 「は?」と上条が首を傾げているとコンコンと再びノック音が聞こえた 上条が動く前に佐天が玄関に走りドアを開け招き入れたのは遠くから見れば頭が花瓶のようになっている少女だ 「私も御坂さんの友人の初春飾利です、上条さん私も一緒にお話に加わってもよろしいですか?」 と聞いてきたがここまでくれば加わらない方がおかしいだろう 「ああ」 上条はそう言って立ち上がり、初春の分のお茶を淹れて再び座る 「で…上条さん、一つ確認しておきたいんですけど」 「なんだ?」 佐天の真剣な顔と言葉に首を傾げる上条 「上条さんって御坂さんのことが好きなんですか?」 「なんだ、そんなことかそりゃ好きだぞ……あ」 あまりの真剣な表情になにか重大なことを聞かれると思っていたのであった上条だが… 予想外に別角度の話にポロっと本音がこぼれ、二人の少女を見ると顔を赤くしてしてやったりの笑みを浮べている 「なるほど、なるほど、上条さんは御坂さんが好きなんですね…で恋人なんですか?」 「いや…これ以上は言えないと言うか…」 「白井さんにばらしますよ」 佐天の質問に顔を背け解答拒否をする上条に初春が脅しをかける 「ちょ、初春黒っ!」 「拒否権無しかよっ!」 各々の反応を返す二人に初春は 「利用できるものは利用するんですよ、佐天さん」 と変なスイッチが入った初春を見て佐天は 「あー、上条さん…私、初春止められないんで覚悟決めてください…」 「はぁ……不幸だ」 それから上条は初春に聞きだせる情報をすべて引き出されるのであった… □ □ □ その後、夜道を歩く三人 「それにしても記憶喪失なのに御坂さんから告白してくるなんてなんかすごいですよね」 佐天が上条にそう言ってくる 「俺としてはそれを受けちまって本当に良かったのかどうかまだわからないんだがな… でも、俺も嬉しかったな…告白されて前も同じ気持ちだったかもなんて言われたからな」 上条は照れ隠しのように天を仰ぎ、頬を掻く 「でも、記憶喪失が早く治ってほしいですよね…」 「ああ…」 初春の心配に上条は短くそう答えた 「上条さんも身体に気をつけてくださいよ、今御坂さんを支えられるのは上条さんだけなんですから」 「わかってる…ありがとな、二人とも…美琴もこんな友人を持ってすげー幸せ者だな」 上条は初春と佐天に美琴の代わりに感謝の言葉を告げる 「それじゃ、上条さんはもっと幸せなんじゃないですか~?」 「そうですよね~、御坂さんに告白されるくらいですし」 と初春と佐天にからかわれるのであった 「あ、それじゃここまででいいですよ私達すぐそこですから」 と、佐天が言い、上条は 「そうか? それじゃ気をつけて帰れよ」 「「はーい」」 二人は元気にそう言うと上条に振り返り手を振って去っていった 二人が見えなくなるまで上条は見送るとある場所に向けて歩を進める □ □ □ とある公園 上条はベンチに腰掛てヤシの実サイダーを一口飲む 「美琴にこれ買ってってやるかな…」 そう言ってさらに一口飲む 「やっぱり、出かけるなら早いうちがいいよな…今日は金曜だし明日行くか…」 携帯を取り出し、上条は美琴にかける ピリリリ、ピリリリリ…カチャ 「もしもし、美琴?」 「どうしたの、当麻」 ほぼワンコールで出てくれた美琴 「先生には許可貰ってあるからさ…明日一緒にデートしないか?」 「え、いいの? 行く行く! 絶対行くよ、当麻」 美琴はすごく嬉しそうな声で答えてくれた 「そうか、それなら明日朝迎えに行くから今日は早めに寝るんだぞ」 と上条はそう言ってまた一口喉を潤すためにサイダーを飲む 「はーい、それじゃ当麻おやすみ」 「ぶふっ! ごほごほっ…いや、もう寝るのかよ…」 まさかこんなに早く寝ようとするとは思わなかった上条は吹いた 「うん♪ だって明日寝坊したくないんだもん」 「そ、そうか…それじゃあな」 携帯を切り、残りのサイダーを一気に飲み干す 「さて、俺も明日の準備をしねーとな…」 上条はベンチから立ち上がり、缶を自動販売機横のゴミ箱に投げ捨てる… カンッと音が鳴って投げた缶はゴミ箱のふちに当たって地面に落ち、転がって行く 「はぁ…直に捨てた方がよかったか…」 上条は素直に缶を拾いに歩き出し…ある人物がそこにいることに気付く 「あれ? 青髪ピアス…か?」 そう、本日も学校を熱で休んでいたはずの青髪ピアスがそこにいた 「カ、カミやんが…女の子とデートの約束をしとったなんて…まさか、あのチェーンメールはほんまやったんか…」 そう呟いてフラフラとどこかへ歩いて行ってしまった 「おーい…って行っちまったか、大丈夫かアイツ…」 と上条は頭を傾げたが「まあいいか」とスッパリと忘れる事にし、缶をゴミ箱に捨て帰路につく 上条は知らない、この時の青髪ピアスが何をするのか… そして上条と美琴のデートがどのようになってしまうのか…… だが、デートがどうなるかは本日上条がどれだけ頑張って調べて計画を練るかにかかっているのだ 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある記憶の消失問題
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/262.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/only my 美琴 夕日が輝く中、上条当麻はとあるスーパーの来ていた―――特売日 そう本日は週イチの特売日―肉.魚.野菜.卵―が激安で売り出される 店の規模は決して大きい方ではない、特売日ともなれば客で店の中は一杯になってしまうほど 店内がザワつく中、彼は静かに特売開始の合図を待っていた―店の入口に出てくる卵を取り、店内左手の精肉スペースへ向かう―この2つは何としてもゲットする構えでプラン立ても完璧 「カンカン♪カンカン♪カンカン♪」特売開始の合図のベルが鳴り響く、彼は目の前に出てきた卵をゲットする為に手を伸ばした……「ちょっとアンタ!」――この声? ビリビリ!? 「(……残念だったな、今は構ってる場合じゃないんですよっと)」彼は最初のターゲット「卵」をゲットし次のターゲットを捕らえに行く。 「ちょっと無視してんじゃないわよ! って……行っちゃった」彼女は御坂美琴、常盤台のエースと呼ばれレベル5のエレクトロマスター(電撃使い) 「(こうなったらアイツが出てくるまでここで待っててやるんだからっ……)」 「(……っていつ出てくんのよ!! もう40分くらい待ってるのに、ちょっと様子を確認する必要がありそうね)」 若干グッタリした様子で店内から上条が出てくる――「ふぅ……卵、豚肉、その他野菜類も大丈夫だな。ビリビリは……帰ったか?」 「(な、何よこれ……入れたと思ったら抜け出せないじゃないっ!)」常盤台のお嬢様が特売の殺伐とした空気に縁がある訳がなく……。 「待ち伏せでもされてる思って覚悟して店から出たけど、本当にいねぇ……って何で俺がビリビリを探してるんだ? 帰るか……?」 ―――20分後 「(あのバカの気持ちが少しわかったわ……しかし中に居なかったとなると…入れ違った!? 不幸だわ……)」 いつもの自販機近く、辺りが暗くなって照明に火が灯る。上条は結局美琴を探してしまっていた――家には帰らずに―― 「結局探しちまったなぁ……普段なら向こうから現れて言いたい放題言われて、そして追い掛け回され……」 そんな生活も――なんだかんだ言って嫌じゃなかった 「こういう時に限って会えないんもんだな、食料が痛む前に今度こそ帰るか!」上条は腰を上げて、家路に付くハズだったが――「やっと見つけたわよ……!」と後ろから声が聞こえる 「……逢いたかったぜビリビリ~!」荷物を置いて美琴へ向かいダッシュする 「な゛っ! (ど、どういう反応!? なんか変な感じがするわ……)」 「気がついたらオマエを探してたんだよな…俺は何をしてるんだか……」彼は笑っていた。 「ちょ、調子狂うわね……でもアンタ買い物の後でしょ? 早く持って帰らないと痛んじゃうんじゃない?」 「まあ、そうなんだけど……ビリビリの顔見れたし、今日の所は帰るとしますか…!」 「私には御坂美琴っていう名前があるんだから、いい加減覚えなさいよっ!」 ――今日は追いかける気になれないわね 「(って……あのバカ、袋置きっ放しじゃない! 不幸というよりドジなんじゃないの!? そうそう追っかけないと、まだそこまで遠くには行ってないはずよね。アイツの行った方向を追っかければ……」 ―――上条当麻、自宅に到着 「とうま!ご飯ご飯!」 「わっーてるから、とりあえず本を片付けとけ」――!?やけに手が軽い――恐る恐る手元を見ると……無論手ぶらである 「……不幸だ―!!! ちょっと待ってろ! 忘れた買い物を回収してくる!」ガタン!とドアを締め家から飛び出して行く」 「と、とうま……? おなかへった…」 「(方向はこっちで合ってるわよね……何で走ってるアイツを見つけられて歩いてるアイツを見つけらんないのよっ!)」 「ビリビリを探すなんて慣れない事をしたからこうなったんだな……」と一人呟き帰ってきた道を走る 「あ……ちょっとアンタ! 待ち……って通り過ぎちゃったじゃない、こうなったら…っ!」美琴は電撃を空に向かって飛ばす、辺りは暗いので目立つだろう。 「おっ…花火……じゃないな、あれには見覚えがある! 間違いないビリビリだ」電撃の見えた方へダッシュする 「やっと見つけた……買い物忘れるなんてアンタはどういう神経してるのよ……」 「サンキュ~ビリビリ、それが無かったら今夜の夕飯はパンくずだったから助かったぜ……」 「どうあれ見つかって良かったわ、もし見つかんなかったら一晩中さまよってるところよ」 「わりぃわりぃ、じゃ荷物は引き取らせて頂きますっ!」 「ここまで来ちゃったんだから、家まで付き合うわよ。ここからそんなに遠くないんでしょ?」 「そこまでしてもらうのはアレだけど、ここまで来てくれちゃったんだしお願いする。家は歩いて3.4分の位置にあるから少し話ながら歩けばすぐ着くと思うぜ」 二人は袋を一つづつ持って上条の自宅へ向かっている、辺りはすっかり暗くなって人通りも少なくなっている 「(な、何話そうかしら……)」 「(……こういう時はどういう会話をしたら良いのかサッパリだ……)」二人ともトホホと言った感じで足を進める 「ホ、ホラ! 見えてきたぜ」 「あ、あれがアンタの家…(結局何も話せないまま着いちゃったわね……) ―――エレベーター前に到着 「ここまでで良いぜ。 今日は振り回して悪かった! 埋め合わせはまたいつかするからさ」ササッと荷物を受け取り――待たな!――「ま、待ち……」 「(結局最後まで言えなかった……埋め合わせとやらを口実に使って次は私が振り回してあげるんだからっ!)」 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 快晴と言っても良いだろう、それくらい綺麗な青空が広がっている。 「ちょっと待ってろ……今取ってやるからな……」 「申し訳ありません……」 「(ん~~~~~よし!)……ほらよっと、もう落とすんじゃねぇぞ」 「ありがとうございます!」 「じゃ、俺は行くから」 「ちょっと待ってください! 是非お礼をさせてください」 「お礼? そんなのいいって、それに誰が見ていてもああしてたぜ。たまたま俺だったってだけの話、それに常盤台のお嬢様がこんな冴えない奴と一緒に居たら逆に迷惑かけちまうんじゃねぇか?」 「そうですか……ではお名前だけでも!」――上条当麻――「じゃあな!」 「上条当麻様……か」 上条当麻は人助けをした、でも彼にとっては側溝に挟まった財布を取る事くらいなんてことはない、それは――いつもの日常――だけどちょっと狂ってしまう 翌日、本日も快晴なり――― 「こんな所まで来てしまった……昨日一日顔見なかっただけなのになぁ」上条は常盤台中学の寮の近くにまで来ていた―目の前に顔を出すのはマズイんじゃないか―と判断し近くまで 上条は家で必死に考えた―有意義な休日の過ごし方―について、とりあえず飯だけ用意しておけば家からは出れる……そして考えた結果が―御坂美琴に逢いに行く― どうしても彼女の事が頭から離れない……―おととい別れ際に何か言いたそうにしていたし、埋め合わせもすると言った―もちろんこれは「御坂美琴に逢いに行く」理由、口実の一つでしかない 彼は自分の気持ちをコントロールするという観点なら普通の人間を超えてるであろう。我を保てなくなれば「負け」を意味するからだ、彼はどんな時でも自分を強く持っている でも彼女の事を考えると少し乱れてしまう……そう上条は―御坂美琴に負けてしまっていた―そして一歩を踏み出す、少しでも早く彼女に逢うために……。 「お姉様! どこへ行きますの?」 「ちょっと…ね、私だって色々忙しいのよ」と言い部屋を出て行く 「(また争いごとですの…? 昨日わたくしと買い物に行った時もなんかうわの空と言った感じでしたし……ま、深くは考えないようにしましょう)」 「よぉ! ビリビリ!」 「ア、アンタこんなところで何してんのよ! ちょっと来なさい!」ちょっと離れたコンビニの前まで美琴は上条を無言で引っ張って行った 「で、どうしたんだ……俺とウワサされたくないとかそっちのお話?」 「と、とんでもな…じゃなくて! 今アンタのウワサで持ち切りなのよ……」 「えっと…どういう事でしょうか? 悪いウワサ立てられる事はしてませんよ……?」 「逆よ逆! アンタこの前うちの子を助けなかった? その子ったら私に……」 「素敵な殿方に出会えました、困っていた所突然現れて助けて下さったんです。お礼をさせてくださいと申し出ても「お礼なんか要らない、誰が見ててもああしてたぜ」と言い去っていかれました…… でもお名前だけは聞けました……」私は言ったわ―まさか……上条当麻じゃないわよね…?―そしたら「御坂様お知り合いなのですか!? そうなら是非連絡を取って頂きたいのですが…」 「うちの学校でも物凄く大人しい子が、アンタの話をする時だけ物凄く嬉しそうに話してたわ……で? アンタはどうする気なのよ、会うなら寮の目の前に呼び出すけど」 「そこまでされて、会わないってのは男としてどうなの…? っていう話になりそうだけど、俺は遠慮させてもらうぜ……今日はオマエに逢いにこんな所まで来たんだからな」 「えっ…? わ、私? (コ、コイツ……私と同じ事考えてたって言うの?)」 「御坂! 暇なら付き合え、埋め合わせしてやるから!!」今度は上条が美琴の手を掴み走り出す……。「(こ、これって手をつないでるって事…よね)」美琴は別の気持ちを働かせていた。 駅前の喫茶店にて――― 「今日は俺のおごりだ、遠慮せずに好きなだけ飲んだり食ったりしていいぞ! まあ二千円札のホットドッグのようなものは食べさせられませんが……」 「ううん、気持ちだけでありがたいわよ。(休日の喫茶店に二人……こ、これってデートなんじゃ……いやそんな事ないわよね、絶対にないわ)」 「どうした? 元気ないのか? 体調が悪いなら言えよ。寮まで送っていってやるから」 「そ、そんなんじゃないから安心して! ホラ……元気でしょ?」と指から電撃を出して上条にアピールする 「なら良いんだ……沈んだ顔をしてるオマエは二度と見たくない、それだけだから」 「(コ、コイツったらやっぱり無自覚でこういう事を言うのね……バカ……)」美琴は赤くなる 「御坂、顔赤いぞ……やっぱり熱でもあるんじゃねぇか?」上条は右手を伸ばし、美琴のおデコに手をあてる……「ん~ちょっと熱いかもな……」 「(さ、触られてる……)ア、アンタのせいでしょうが……バカ……」 「(やっぱり分からないなぁ……)」 そんなやり取りをしていた二人だが、窓の外から声が聞こえる。二人とも聞き覚えがあるので窓の方を向くと…… 「御坂様と上条様ではありませんか!」美琴のとっては後輩、上条にとっては助けた人……二人とも「「(*1)」」と心で思っていたのは言うまでもない。 店員にイスを一つもらい、丸いテーブルを3人で囲む 「あ、貴方はどうしてここに……?」 「本日は友人達とショッピングの予定です、待ち合わせまで20分くらいあるので散策してたら御坂様と上条様がお茶をしてらして……もしかしてお邪魔でしたか?」 「そ、そんな事ないわよ! こ、コイツとはそういう関係じゃ全然ないから!!」 「あの…御坂さん? そう全力で否定されると上条さんもショックという物を隠せなくなりますよ……?」 「(仕方ないでしょうが! これが黒子の耳にでも届いたらどうなるか分かったもんじゃないんだから……わ、私だって否定したくてしたわけじゃないんだからっ)」心の中で否定した自分を全力で否定する少女の姿がここにはあった。 「お二人の出会いを聞いてもよろしいでしょうか……?」 「わ、私がコイツに助けられたのよ……」 「御坂様も助けられたのですか!? でも御坂様は常盤台のエース……上条様は一体どのような能力をお持ちなんでしょう……?」 「能力? そんなものねぇよ……目の前に困ってる人が居たら手を貸す、もしくは助けてやる。放置なんざ絶対に出来ねぇ。でも御坂は特別だ、俺はコイツの沈んでる顔を見て本当に苦しかった…… もう二度とあの顔は見たくねぇ、だから俺は御坂を守ってやる事に決めたんだ。何があっても……」 女性二人は赤くなる……その様子を見た上条も赤くなる…… 「そ、そろそろ待ち合わせの時間なので失礼します! お邪魔しました、あっこれ料金です。お釣りはこの前のお礼だと思ってください」上条が呼び止める暇もなくササッと去っていく…… 「えっ~と、常盤台のお嬢様というのは紅茶一杯飲んだだけで一万円札を置いて行かれるんですか……?」 「五千円ならわかるけどさすがに一万円は多すぎるわね……」 「それでもわかんねぇよ……とりあえずこれは返しといてくれ、どうせ寮なら会うんだろ?」 「で、でもお礼って言ってたんだからこういう時は素直に貰っておきなさいよ」 「お礼ならもう貰ってるよ、あの子のお陰で言いたい事が御坂の前で言えた……なんていうか、もしかしたら俺はオマエの事を……」ピシャっと上条の顔に水がかかる 「で、出直して来なさい! 私はいつでもアンタを待ってるから……」と言ってその場を去る美琴、その後ろ姿は心なしかとても嬉しそうだった……。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ あれから数日――― 「―――出直してきなさい…か」 帰宅途中、上条は夕焼けに染まったソラを見上げながら一人呟いていた。 実を言うとあれから美琴には会っていない…機会が無かったといえばそれまでだが、自分から動いてもいない。 本日はスーパーの特売日、開始時刻に間に合わなかった上条はダメ元で野菜だけでも… という気持ちでスーパーへ向かう。 「お、遅いじゃない! 何時間待たせるつもり?」 そこに御坂美琴が居た、両手に買い物袋を抱えて。 「お嬢様がスーパーで買い物ですか~?」 「ま、まあ…そういうこと」 「じゃ、ちょっと残り物の野菜でも買ってくるぜ!」 「ちょっと待ちなさいよ!」 今回はしっかりと上条の耳に届いたようだ、上条は振り向く。 「な、なんだ?」 「今日はアンタの家まで行ってご飯を作ってあげようと思って、材料を仕入れたのよ」 「へ…?家に来る?俺の?」 「ダ、ダメとは言わないせないわよ」 「ちょっと待っててくだせい…」 上条は一旦美琴の視界から消えるように走り出す。 「ア、アイツ電話出るかなぁ?」 「えーっと…(ガチャガチャ…)これかな?」 「もう繋がってますよ~!!!」 「そ、その声はとうま! 帰りでも遅くなるの?」 「い、いや~違うんだ、今日は小萌先生の家で焼肉をやるってウワサを聞いたので教えてやろ~かな~って」 「焼肉!?」 「そ、そう! だからあっちに行った方がお得だぞ~分かった?」 「うん!わかった! そういえば…でんわって一分話すと寿命が一年…!?(ガチャン!)」 「そういえばそんな事吹き込んだ記憶が…まあ、いっか! でも明日小萌先生に何言われるか分かったもんじゃない…」 美琴の元に戻る上条、辺りは徐々に暗くなって来た。 「じゃ、ゆっくり歩いて行くか」 「今誰かと話してなかった…?」 「(ギクッ!)え、ええまあ…色々と複雑な事情が…」 「今更何があっても驚かないわよ、それにアンタと居ると人生が退屈じゃなくなるわ~」 「どういう意味で言われてるのか分かりかねますが…そうだ袋一つ持ってやるよ、この前のお返しだ」 「じゃ、お願いしますっ! で、でもアンタに持たせた途端袋が破けたりしないわよね…?」 「さ、さあ…どうでしょうか?」 上条は実際に破けた経験があるので強気には言えない。 「や…破けなかったな!」 「何袋一つ持つのにそんな慎重になってるのよ…ひょっとして、破けた経験お有りで?」 「あったらどうする…?」 「アンタが自販機に二千円呑まれたことに比べればなんてこと…って!なんで泣いてるのよ」 「なんで思い出させるんですか! あの飲み物を処理するのにどれだけかかった事か…」 「ハイハイ、ごめんごめん。今度は私が飲み物おごるから…ねっ?」 今回は会話が弾んでアッと言う間に上条が住んでいる寮が見えてきた。 「御坂…聞いてくれ!!」 「な、何よ! いきなり声張り上げて」 「俺は…オマエの事が、何と言うか…」 「あ~あ~あ~その話しはまた後! 今はアンタの家に行く方がさ~き。分かった?」 「は、はい…」 上条当麻、自宅前――― 「御坂、ちょっと待っててくれ! あんまりにもひどい状態の家にあげる訳には行かないから…な?」 「わ、分かったわよ、それじゃ袋…痛んじゃうから先に冷蔵庫に入れておいてちょうだい」 「お、おう! わりぃな」 「(よし! インデックスは出発してる…んだけど、この食い散らかした後のような…これは外で待ってて貰って正解だな)」 上条は散らかってる本、食器を手際よく片付ける。周りは汚くとも食器そのものは洗ってもないのに何故かピカピカしている。 「(これだけ片付ければ良いだろう、食器の方が洗い残しで説明が付くだろうし)」 「わりぃ、待たせたな。あがってくれ」 「謝られる程待ってないわよ、5分かそこらじゃなかった?」 「時間はどうあれ女の子を外で待たせたんだから、謝るのは当然ってもんだ」 「で、ここがアンタの部屋…?」 「食器洗っちまうから、ベッドの上でも座って待っててくれ」 「べ、べ、ベッドの上!? ア、アンタ何考えてんのよ!」 「ちょ!家の中でビリビリはマズい! 座る場所は何処でも良いですからっ!」 結局ベッドの上に美琴は座ったわけだが、自分で意識してしまってそういう事を考えずにはいられない状態になっている。 「(そ、そんな事なんかあるワケないじゃない…何意識してるのよ、バッカみたい)」 「御坂? 食器が洗い終わったのでよろしくお願いしたいのですが?」 無反応である、上条は手を拭き美琴の元へ向かう 「お~い! ビリビリ~?」 上条は揺すってみる事にしたが、これが仇となり押し倒す形になってしまった。 横に倒れたので上に乗っかってるというわけじゃない、ただ年頃の男女だと嫌でも意識してしまうシチュエーションなのは間違いない。 「!?……ア、アンタねぇ、順番ってものがあるでしょうが!順番ってものが!」 「へ?順番…?」 「んっ…(や、ヤダ! 私ったら何を言ってんのよ…これってOK出しちゃったようなもんじゃない!) と、とりあえず!ご飯を作るから、そこどいて!」 「は、はい!」 御坂美琴、上条宅のキッチンにて――― 「(とりあえず、一通りの調味料と食器、調理器具は揃ってるわね…。 でもあのバカはあんな事があった後だってのに、漫画なんか読んじゃって…)」 買ってきた物を見ると、どうやら煮物と魚系の食事を作る事は読み取れた 美琴は材料を切り、魚に至ってはしっかりと内臓も取り出し。非常に慣れた手付きである。 その頃上条はというと――― 「(大体ああいう性格の奴は張り切ったら張り切っただけ失敗に向かっていくんだよな… ここは運に全て任せて、出来上がりを楽しみに…待ってる間は暇だから漫画でも読むか)」 と電撃○王と書かれた本に手を付ける。 それから数十分後――― 「(味はヨシっと! これならアイツも喜んで…くれるわよね) 出来上がったから、テーブルまで運ぶのを手伝ってくれないかしら」 「やっと完成か! 腹へってたから待ち遠しかったぜ!」 上条は美琴が作った料理を見て……。 「え~っと…こんな家庭的スキルを何処に隠し持っていたんですか…?」 「これが筑前煮、それでこっちが秋刀魚の塩焼き、でこれがお味噌汁、こっちがミョウガとキャベツの浅漬」 「これ全部食べてよろしいんでしょうか?と上条さんは確認を取ります」 「あ、あと多めに作っておいたから、後で保存容器にでも入れて冷蔵庫の中にしまっておきなさい。煮物は二日目が美味しいんだから」 「で、では…いただきますッ!」 あんまりガッツくのはみっともないと思っている上条は少しづつ箸を進める 「ど、どう? なかなかイケてると思うんだけど…って何でここでも泣いてんの!?」 「何が不幸だ…俺ってば物凄く幸運(ラッキー)じゃねぇか…」 「ちょっとアンタ!聞いてるの!?」 「ええ、もちろんですとも! これ食べて本当に御坂を嫁に欲しいと思いました、ハイ」 「よ、よ、よ、嫁!? は、は、いちいち話が超展開すぎるのよ、アンタは!」 上条当麻、自宅にて――― 「ふぅ~。お腹一杯!人生に希望の光が差し込みました!」 「んな大袈裟な…で、でもこんなに綺麗に平らげるとは思ってもいなかったわ…」 「今までの不幸はこの素敵イベントの伏線でしたか~納得、納得!」 「何一回キリ見たいな言い方してるの?アンタは」 「え…また作りに来て下さるんですか!?」 「ア、アンタがどうしてもって言うんなら作りに来てあげない事もないけど…ってそんな目で見つめないでよ!」 「ぜ、是非よろしくお願いします! でも作りに来て頂くだけではなく、美琴先生の指導も受けたいと思っているのですが…」 「(い、いまさり気なく美琴って言ったわよね…)しょ、食器片付けて来ちゃうから!つ、ついでに飲み物も持ってくる!」 「洗い物は後でやるから、そのまま放っておいて良いぞ!」 美琴はササッと食器を台所に運び、コップを取り出すために棚を開けるとそこには… ――カエルのキッチンタイマーとカエルのフライ返しが未開封の状態で置いてあった―― 「ちょ、ちょっとアンタ来なさい!」 「……、声が裏返ってるぞ…?大丈夫か?」 「こ、このカエルグッズは何処で手に入れたのか吐きなさい」 「えーっと、確か大分前にあった商店街の福引で俺がティッシュ以外の物を初めて当てた記念に取ってある奴」 「これ物凄く持ち帰りたいんだけど……ダメかな?」 「(そ、そんな目で見つめられたら、俺がお持ち帰りしたくなっちゃう。あ…ここ家なんだけどさ) どうぞどうぞどうぞ! そんな物で良ければ全部持ち帰っちゃってください!」 何かに火が付いた美琴は――― 「ちょっとアンタの家捜索させてもらうわよ!」 「……えっ、ちょっとお待ちを!怪しい本とかないですから!ってカエル…?」 「(コ、コイツの家…宝の山じゃない! ゲコ太の紙袋にボールペン…。でもなんでこんなに?) アンタ、どこでこんなに仕入れてくるのよ? 限定品も混ざってるわよ」 「そ、それはアイスクリーム屋のポイントを溜めて貰った奴とか、助けたお礼にって渡された奴とか…まぁ色々」 「不幸体質ってのも悪くないわね…ってアンタってそんな目立たない所でもかなりの人助けをしてるの?」 「目の前で起こるもんだから、放って置けなくてな…この前の常盤台の子だってそうだぜ?」 「でもアンタはそして駆けつけてもくれる…それで受け止めてもくれる…」 「ん?なんか言ったか?」 「ううん! 何でもない、とりあえずこれは貰っていくわよ?」 「おう、持っていってくれ。今日の礼って言ったら安すぎるかもしれねぇけどな」 美琴はようやく落ち着き、二人で向かい合うように再びテーブルの前に座る 「なにわともあれ、今日はサンキューな御坂」 「感謝されるような事はしてないわよ、それにグッズもこんなに貰えるんだもん」 「それを探してる時のオマエは物凄く楽しそうで輝いてたぞ」 ―と言って上条は笑う 美琴は一瞬黙った後に―― 「この前から何か言いたそうにしてたわよね? 今なら聞いてあげても良いわよ」 上条の顔付きがグッと引き締まる―― 「―――やっと言えるのか、俺はこの時を待ってた」 「今までは言う勇気がなかっただけで、心の何処かでオマエの事をずっと想っていた。 俺は御坂美琴を守ってやる――それは決めていた、いや誓っていた。でも本当にそれだけなのかってな。 いくら悩んでも結論が出て来なかった…でも気付かされたんだ。笑ってるオマエの顔を見る度に俺は幸せになれる。 ならその笑顔を守り通して、一緒に幸せになりたい…そう思った。でも見ての通り俺は不幸に見舞われてる…」 美琴は吹っ切れたような顔で―― 「そんなのどうでも良い事じゃない」 「え…?それはどういう?」 「アンタが不幸なら私が幸せになる手助けをしてあげるって言ってんのよ!」 「それってつまり…」 「その代わり条件があるわ、アンタは一生賭けて私の全て守る事…少しでも離れたりしたら絶対に許さないんだからっ!」 「ああ、一生賭けて守ってやる。何があろうと絶対に…。その代わり俺の隣から離れるなよ…美琴―――」 「うん、絶対に離さない…当麻―――」 二人はいつの間にか寄り添い、待ち望んでいたひと時を過ごすハズだった――― ガチャン!「とうま! 小萌の所で焼肉なんてやってなかったんだよ!」 「へ…? な、不幸だろ…?俺って」 「って短髪!とうまと何してるの!そこを離れなさい!」 「まあまあ、インデックス…ちょっとそのままキッチンへ行って、ほら~そこのお鍋の中見てごら~ん」 「む!これは…美味しい!美味しいよ、とうま!」 「アンタらねぇ……色々と突っ込みたい所があるけど、とりあえずぶっ放さないと気が済まないわ…」 キュイ―――ンという音が上条の耳へ届く 「ちょ、ちょっと美琴さん…? さすがにここはマズイのではないでしょうか、なんかいつもに比べてヤバそうだし… い、インデックスはお外に出てなさい…」 インデックスもさすがにマズイと思ったのか、鍋を持ち外へ避難する―― 次の瞬間、一直線に綺麗な電撃がキッチンの上条へ超至近距離で放たれた。 無論上条は突き出していた右手で反射的に防いだのだが、家はどうなったのかはご想像にお任せする。 ~完~ 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/only my 美琴
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1428.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side ―あれから一週間― 同日17時 「も、もうよくない…?っていうか、勘弁して…」 「だって、初春。御坂さんが今にもダウンしそう…」 美琴の今の状態を見て、佐天が思わず苦笑い。 「ん~、正直聞き足りない気がしないでもないですけど、まぁ御坂さんの知らないとことか色々聞けたので、よしとしますか?」 「う、うだ~」 美琴と同様、上条もまた二人の質問攻めに多少なりともうんざりしていた。 あの直後の二、三の質問は大したことのない、誰にでも普通に話せるレベルのもの。 なので上条も最初が最初なだけに警戒していたが、それらを聞いてその程度ならと、気を緩めていた。 だが、やはりその程度ではこの状態の二人は留まらない。 その後は、初対面の人にはまず言わないであろうことを容赦なく二人へと投げかけていた。 それが一時間近く続けば、ただでさえこういった経験の乏しい上条がうんざりしてくるのも頷ける。 「じゃあ、今日はこれでお開きでいいかな?ってか、いいよね?」 「そうなりますねぇ」 「了解。じゃあ私は今から代金払ってくるからみんな外出て待ってて」 「「ごちそうさまでしたー」」 座っていた席を皆が立ち上がり、ファミレスの出口へと歩を進め、レジにまでくると、美琴は代金を支払うために立ち止まり、彼女を除く三人が外へと出ていく。 「えっと、上条さん。御坂さんから聞いたんですけど、上条さんは御坂さんより二つ上ですよね?」 「ん?まぁそうだけど……それがどうしたの?」 そこで、初春が立ち止まり、外にでた上条を呼び止める。 少し、申し訳なさそうな顔をして。 「それなら上条さんは今高三ですよね?それなのにこちらの勝手で受験の年の大事な時間をとらせてしまって、すいませんでした」 大きな花飾りを頭にのせた少女、初春がそう言うと、深々と頭を下げる。 そしてそれに呼応するように、彼女の隣に立っていた佐天は慌てて頭を下げた。 「…………」 だが、謝罪する彼女達に対する上条がした返事は、沈黙。 沈黙の理由は、確かに初春が言ったことはほとんど間違ってはいない。 間違っていないのだが、ただ一つ、誤りが存在した。 それは上条が今は高三ではなく、留年したためまだ高一であるということ。 なので上条は今年に受験があるわけではなく、今は高校生活において割と自由な時間が多い時と言え、別段忙しいわけでは全くない。 「え、えっと…その……」 「……?」 それは違う、自分は留年したため今は高一であって、受験もないしそんなに忙しくもない。 ……その一言が、喉元まででかかったが、出てこない。 そうなってしまった理由や過程がどうであれ、彼の自分自身の、男としての、年上としてのプライドが、そうすることを決してよしとはしていなかった。 その理由が世界にとって、世の中の人々のために行動をした結果であっても。 冗談っぽく、それこそネタのように留年したと言えれば、上条は嘘は言っておらず、しかも彼女達も恐らく半信半疑で、笑ってこの場を過ごせるかもしれない。 だが、上条の今の心情的にそれはできなかった。 それは昼の時から気にしていたことであり、悩んでいたこと。 簡単に冗談っぽく軽く受け流せるわけもなく、さらに真面目な顔で彼女の質問を聞いてしまっては、騙せるものも騙せるわけがない。 そんな戸惑う上条をよそに、今も彼の目の前の、二人の少女達は若干不思議そうな顔をしている。 彼の言わんとしようとしていることの続きが、なかなか彼の口から出てこないからだ。 「ごめん、遅くなった。お待たせー」 「ッ!?」 「あ、御坂さん。どうもありがとうございましたー」 店の勘定を済ませ、やや慌てた様子で店から姿を現した美琴に、上条はビクッと肩を揺らす。 彼女に聞かれて特にまずいような会話はしていないにしろ、ただ何故だか本能的なところでまずいと思ったからかもしれない。 「…?ちょっと、何かあったの?」 「へ?…いやいや!何もねぇよ…」 「ふーん…?ま、いいけど……それで、この後に何するか決めてたっけ?」 美琴は、集まっている場所に着いた時、少なからずの場の空気に違和感を感じた。 それが何故なのか、その場にいなかった彼女には知る由がないのだが、どこか気になった。 「いや、私達はここでお別れします。せっかくのお二人の時間でしたのに、邪魔してしまったわけですし…」 「邪魔だなんて、そんな…」 「いいですから、あたし達のことは気にせず、後はお二人でゆっくり過ごしてください」 佐天は少し戸惑う美琴を、背中を押して上条の隣まで移動させ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、 「ではあたし達はこれで、今日は色々と話を聞けて楽しかったです!」 「またお暇があればまた~」 それだけ言い残し、二人は駆け足で立ち去っていった。 駆けてゆく彼女達の背中は、美琴の目にはどこか楽しげに映った。 「またねー!……で、結局何があったの?」 「は…?いや、だから何も…」 「何があったの?」 「だから…」 「………」 美琴の言葉による追求の後は、沈黙による追求。 何か、ではなく何がと聞くあたり、美琴はほぼ確信をもって上条にものを尋ねている。 さらに言うと、美琴は先ほど感じた違和感は、上条から発せられているということも気づいていた。 あの場所に駆け寄った際の彼の微妙な反応を、見逃してはいなかった。 「……ちょっと、痛いとこをつかれただけだよ」 「痛いとこ?」 「……学年の話」 「あぁ、なるほどね…」 美琴にはそれだけで、何となく事の成り行きがわかった気がした。 今の上条にとって、学年の話は最早禁句と言えるからだ。 学校が始まる寸前で留年だと知らされて、その場では何とか説得したものの、未だに彼は留年だとということを気にしている。 大学ならいざ知らず、普通に考えれば高校で留年などほぼ有り得ない。 この一般論が、上条の心に拍車をかけているのかもしれない。 「まぁどういう流れで学年の何を聞かれたか知らないけどさ、アンタは何て答えたの?」 「……何も、答えなかった。いや、答えられなかった、かな。情けないよなぁ、俺」 どこか哀しそうな顔をして、上条は空を見上げた。 今彼は何を考えているのだろうか。 その表情が意味するところは、何なのか。 美琴は読心能力者ではない、だから彼の考えていることはわからない。 しかし、推測することはできる。 上条の性格、今までの上条の行動を顧みて、経験から何を考えているか推測することはできる。 「何考えてるか知らないけどさ、もし今の自分を卑下するようなこと考えてるんだったら、それは違うと思う。アンタには……当麻には、やるべきこと、やらないといけないと思ってたことがあったから、それをやっていた。そうでしょ?」 「あ、あぁ…」 「だから、気にするなとは言えないけど、せめてもう少し考え方を変えていった方がいいんじゃない?去年の当麻がそうだったように、今やるべきことをやればいい」 いくら上条が自分自身のことを頭が悪いからと思っているとは言え、上条は決して根っからの不真面目な性格ではない。 留年ともなれば思うところはあるだろう。 実際留年という事実を知った時は、それを明らかに気にしていたし、堪えると思う。 だから留年を気にするなとは美琴は言えない。 しかし、もう少し違う考え方があるということを提示することはできる。 だからこそ上条に、これから進むべき道を示した。 「やるべきこと……まぁ確かに、このままじゃあダメだよな…」 「そうよ、何を今更なこと言ってんのよ。大体、何もせずに何かを変えよう、変わってほしいと願うこと自体が間違ってる。それくらいわからないアンタも馬鹿じゃないでしょ?」 「……あぁ」 今まで、彼には何度となく助けられてきた。 自分自身の命さえ救われたことだってある。 きっとこれからの人生でも、何度も彼に助けられることだと思う。 だからこそ彼が道に迷った時、立ち止まってしまいそうな時は自分も彼を助けていきたい。 今の彼がそうであるように、自分が彼のためにできることだってあるのだから。 それが、自分の目指すこれからの理想の姿だから。 4月8日の朝に言ったことは、今こうして実践されている。 「わかったなら、行こっか」 「あぁ、そうだな……って待てよ?行くってどこにだ?」 「えっ?えっと……さぁ?」 「さぁ?ってお前…」 せっかく良い話をした後なのにもかかわらず、これからのスタートを切ろうという時にこれでは、美琴はちょっと先が思いやられる気がした。 ……いや、言い方はあれかもしれないが、そもそも生涯のパートナーとなりうる相手を、彼に選んだ時点でそれは見えていたことだろう。 今に始まったことではない。 「じゃ、じゃあさ!買い物!今日の夕飯の買い物行きましょ!」 「買い物?……あぁ、確かにもうそんな時間か」 上条はポケットにいれていた携帯を取り出し、時間を確認する。 携帯の時刻は17時30分を指し示していた。 「時間って、気付かない内にあっという間に経つもんだよなぁ…」 「何年寄りくさいこと言ってんのよ。それじゃ行き先も決まったし、行こ」 「お、おい!そんな引っ張るなって!」 美琴は上条の手を握りしめ、目的地であるスーパーへ向かって少し早足で歩き出す。 その彼女の少々強引とも言える行動に対して上条は、少し驚いたような表情を見せ、その後けだるそうな表情も見せたが、手を引っ張って先を行く美琴を見る目はどこか穏やか。 男として頼りないところが多々あると自覚すらしている上条にとって、彼女の存在はとても大きい。 今回がそうだったように、それがさも当然のように進むべき道に迷った時には正しい道をしっかりと指し示してくれる。 他にも、彼女には他人を思いやれる優しさ、一人でちゃんと立つことができる強さ、そして時折見せる愛らしさ。 そんな彼女にも短所はもちろんある。 しかし、短所と思っていたところの一部が愛情の裏返しとわかれば、その短所全てさえも可愛らしく思えてきた。 結局のところ、先ほど美琴の後輩達に言った通り、美琴の全てが好きなのだ。 彼女となら、どれだけ険しい道も乗り越えられる。 だから上条は、彼女に対してはどんなことがあっても揺ぎ得ない信頼と、彼女の居場所が自分の帰ってくる場所であるという安心と、今、そしてこれからも変わらないであろう愛情を抱いている。 だから上条は、彼女には自分にはない部分を補ってくれる頼もしさや感謝すら感じている。 だから、 「なぁ、美琴…」 「ん?何…?」 「――― ?」 「………え?ちょ、ちょっと、よく聞こえなかったんだけど」 前をズカズカと行く美琴に対して、上条は俯きながら呟いたのだ。 不意をつかれたような状態では、聞き取るのは恐らく困難を極めるだろう。 「…………別に、大したことねぇことだよ。あまり気にしなくていいぞ」 「はぁ?大したことないかどうかってのは私が決めることでしょう?勝手に自己完結してんじゃないわよ!」 美琴は鬼気迫るような怒気を放ち、後ろを行く上条に対して、そう怒鳴りつけた。 本当に、この短気さと怒りっぽささえなくなれば、心の底からいい女の子なのだが、と上条は内心思う。 しかし同時に、こうして怒る時に電撃を辺りにまき散らさなくなったというところを見ると、やはり彼女も変わってきたなとも思う。 さらに、彼女のその怒る調子が少し可愛く見えてくるようになったあたり、自分も変わったなと思う。 そんな可愛く見えてさえいる彼女を、まだ見ていたくて、少しいたずらっぽく、 「うるせえ!どうしても聞き出したかったら力づくでやってみやがれー!スーパーに着くまでに捕まえられたら教えてやるよ!」 そして上条は繋いでいた手を離し、ダッと一目散に走りだす。 無論、その走り去る方向は先ほど決めた目的地へ。 「な゛っ…!……オーケー、アンタがそこまで私をおちょくるというのなら、アンタを捕まえた後、お望み通りけちょんけちょんに叩きのめして、力づくで意地でも聞き出してやるわよ!!」 「ん…?どわっ!!ばっ、お前っ!能力を使うのはずるいんじゃねえの!?」 上条が走るそのすぐ横を、普通の人間ならばそれでイチコロであろう雷撃の槍が飛来した。 それは遠慮も躊躇いもほとんど感じられない、無慈悲なる一撃。 「うるさい!!全ての元凶はアンタでしょうが!!自分の言ったことくらいは責任とりなさい!!」 「だからって、限度があるだろうが!!」 目的地に向かいつつ、二人は追いかけあう。 こうして美琴が上条を追いかけまわすのはいつぶりだろうか。 少なくとも付き合うようになってからはしていないだろう。 こういうことは、今という日々が平和だからこそできる。 これといった事件もなく、二人が自然な自分でいられる時。 一昔前のように、互いが互いを追いかけて、笑いあえる。 多少上条の身に危険が訪れるが、それはご愛嬌。 「待てやこのヤロー!!」 「お前!女の子なんだからもっとお淑やかなことを言えな……どわっ!!」 「うるさいって言ってるでしょうがぁ!!!」 日も沈みかけ、今日という一日が終わろうという時、二人の追いかけっこ(バトルロワイヤル)が始まる。 同日19時、帰り道 「……本当に、逃げ足だけは一級品よね、アンタは」 「そいつはどうも。お前も、よくあんな攻撃を人に対して、それも愛しい愛しい恋人の俺に向かってげふっ!」 上条の下顎から上向きに、美琴きれいなアッパーカットが炸裂。 やはり、その一撃にも容赦はない。 「やっぱり力づくでってのは今も継続でいいかしら?いいわよね?よしわかった」 「お、おまっ、舌噛んだらどうすんだよ!」 「カエル先生に差し出す」 「……迅速かつ適切な処置をありがとうございます。……はぁ、不幸だ…」 美琴のお世辞にも優しいとは言えない返答を即答で聞いて、上条はため息と決まり文句を吐き出した。 もう少し、そうならないような危険な攻撃をしないなどの慈愛に溢れた選択肢は存在しないのか、などと上条は内心呟くが、残念ながら怒った彼女にそんなことは期待できない。 「それで結局、アンタがあの時言ったことって一体何だったのよ?」 「……お前、さっきの勝負負けたじゃねぇか」 「うっ…」 結果だけを言うと、先の追いかけっこは上条が辛くも勝利し、美琴からの仕打ちを受けることはなかった。 いくら美琴が人並み以上の身体能力の持ち主でもやはり女の子。 腐っても男、それも体力と耐久力には自信を持っている上条には、少々分が悪かった。 そして二人の追いかけっこはつつがなく終幕を迎え、今は買い物も終えた二人は上条の学生寮へと向かっている最中である。 なので、上条の薄っぺらい学生鞄を持つ右手とは逆の方の手には、スーパーで買った食材が入っているビニール袋が握られている。 「そ、それでも、気になるもんは気になるだもん…」 「はいはい、そういうことはちゃんと勝負に勝ってから言いましょうね」 「うぅっ……当麻のばか…」 言い返しようもない上条の返答に、美琴はぐぅの音もでない。 その反論もできない状況が嫌で、美琴は頬を膨らませ、あからさまな怒りを装うが、上条はそれに対しては特にこれといったアクションは示さない。 上条当麻のスルースキルはこんな時にも役だったりするのだ。 「はぁ……じゃあもういいわよ。そのことは今はもう聞かない!すごく、すっごく、すっっっっごく聞きたいけど、今はもう聞かない!」 「…………」 暗に、というよりむしろあからさまにまだまだ興味は尽きないということを示す美琴を、上条は若干白い目で見やる。 もちろん彼女は言葉通り、このことに関して諦めたわけではない。 それはあくまでも今は、であり、また後日に聞き出してやるという固い決心の表れでもあった。 「そうだな……いつか、またいつか、その時になったら言ってやるよ」 「えっ?じゃあ今がその時だから教えなさいよ」 「お前な……ついほんの数秒前に今はもう聞かないって言ったばっかりじゃねぇか!?お前の頭は鶏以下か!」 「乙女は時としてきまぐれなのよ~」 乙女、つくづくよくわからない生き物だと上条は心から思う。 今まで何度その言葉に振り回されてきたか。 字にするとたった二文字にしかならないその生き物は、自分と同じ人間という生き物のはずなのに、それよりも不可思議で、計り知れないほどの秘密が隠されているように思えた。 「……そうですか…はぁ……それと、いつかはいつかだ。今日じゃないいつかだよ」 「そんなこと言ってたらなかったことにされそうで怖いんだけど」 「ん……まぁそれもまた一興だな」 「はぁ?ふざけんじゃないわよ!」 美琴の周りにバチバチと不穏な音をたてはじめるが、それは即座に上条によって打ち消される。 幻想殺し、彼の右腕に宿る能力で、先ほどの追いかけっこで無事に生きていられたのはこの能力のおかげだ。 「はははっ、冗談だって。それに、それは多分ないから心配すんなって」 「えっ?ちょっとそれどういう…?」 「ちゃんとその時になったらわかるよ」 上条は美琴がいる方とはまた違う方へ視線を向け、その表情からは少し真剣さ、しかしどこか優しささえ感じとれる。 これは何かある。 今彼が隠していることを上条は大したことないなどとのたまうが、きっと重要な何かを秘めている。 美琴は上条の横顔を見て、ある種の確信を得た。 だからはっきり言ってとても気になった。 彼の言うところの“いつか”を待たずして、自分が先ほど口走ったことを撤回して、小一時間彼を問いただしてやろうかと思った。 それをしてもいいと思えるほど、彼が隠していることは自分にとっても重要なことなのだと、彼が喋ったわけでもないのに、何故だか断言できる。 しかし… 「……ちゃんと言いなさいよね、約束よ」 そこで、一歩踏みとどまった。 よほど重要なことなのだ、それに彼も忘れないと言っている。 その彼を信じて、理性は彼が話してくれるのを待つという決断を下した。 それだけ言うと、美琴は女の子らしい小さい右手の中で、さらに小さい小指を上条に差し出した。 それでも、やはり万が一のことがある。 だから、かつてのペンダントの一生の誓いとはまた違う、形には残らないが、一つの形にした“いつか”までの一時的な誓いを、今一度今ここで彼と契る。 言わずもがな、美琴がやろうとしているのは約束をするときの定番となっている指切りである。 それを見て、上条は呆れたように小さくため息をつくが、やがて向き直り、 「あぁ…」 少し無愛想、だけどその素っ気ない返答の中にも感じられる彼の優しさを美琴は感じながら、上条もまた差し出された右手に応じて、一度右手で持っていた学生鞄を地面に置き、右手の人差し指を彼女に差し出した。 今ここで、二人の小指は交差し、固く結ばれる。 形には残らないけども、保険として一つの形で表したある種の誓い。 結ばれるのを確認すると、美琴は指切りの時によく歌われる歌を口ずさむ。 無論、それはもし嘘をついたら針千本飲ますという歌。 「……よし、嘘だったら本当に針千本飲ますからね」 「お前、針千本も持ってるかよ?」 「もちろんそんなの今は無いけど、必要な時になれば買うわよ?」 半ば冗談にも聞こえる内容だが、美琴の目は笑ってない。 普段の振る舞いからして忘れさられがちではあるが、彼女は正真正銘のお嬢様。 それも超能力者として、学園都市からかなりの額の報酬金を受け取っている。 そんな彼女だからこそ、虚勢やはったりなどではなく、本気でやりかねない。 そう思うと、言い終えてからずっと何故だかずっと笑顔でいる彼女に、戦慄を覚えた。 針千本を飲む、いくら数多の死線をくぐり抜け、今でも奇跡的に生きていると言っても過言ではない上条とて、そんなことをすれば確実に死ぬだろう。 「…………不幸だ」 「嫌ならちゃんと約束を守ればいいのよ」 小さくため息をつき、がっくりとうなだれる上条に、美琴は一言声をかける。 そう、約束を守ればそんなことをしなくても済む。 そして上条もまた約束はちゃんと守るつもりではいる。 しかしこういうことは、そういう約束を取り付けられただけでも怖いものなのだ。 さらに彼が歩んできた不幸な人生の経験上、わかってはいても最悪の場合ばかりを考えてしまう。 本当に針千本飲まされる気がしてならない。 もう一度、小さくため息。 「……まぁいいや、時間も時間だしもう早く帰ろうぜ。上条さん腹減っちまったよ…」 それを示すかのように、上条は買い物袋を持ってない右手で自分の腹をさする。 「ああはいはいじゃあ早く帰りましょ。……と言うか、話をこじらせて帰りを遅くさせたのはアンタじゃない」 「……それなら無理に追求してきたお前にも……っと、まぁ一応悪かったよ。ほれ、もう行くぞ」 「……?ってちょ、ちょっと!」 上条は少しバツが悪そうな表情を見せると、スーパーの袋を持っていた左手で地面に置いた学生鞄を拾い、空いた右手で美琴の手を掴み、歩く速さを少し速めた。 突然のことで手を掴まれた瞬間は少し驚き、ドキッとした美琴だったが、それも束の間。 手を繋ぐのは最早日常茶飯事と言ってもいいほどに繋いできた。 それほど適応力がない彼女ではない。 手を握られ、先導される嬉しさこそまだ残るものの、早くなった鼓動は少しずつ落ち着いていった。 しかしいつもよりもどこか頼もしく大きく感じられる彼の背中には、何とも言えない安心感を覚えた。 嘗てから頼れるところはあったが、それ以外のことは不器用で、まだまだ頼りないところも多々あったいつしかの彼の面影は、今の背中からはあまり感じられない。 今日という一日で彼の中で何かあったのかもしれない。 少なくとも昨日の内には今みたいな感想は持ってなかったと思われる。 美琴は試しに先を歩く彼に駆け寄り、隣にまで行くと上条の目をちらりと覗き見る。 (……?) 人の目をよく観察してみれば、その人についてよくわかるとは言うが、彼の目には少なからずの決意らしきものを感じた。 やはり、恐らく何かあったのだろう。 確実に昨日までにはなかった光が彼の目には映っている。 今日という一日に彼を変える転機となるほどの出来事があっただろうか。 美琴は頭の中で今日という一日をざっと振り返るが、それほど大きいことはなかったように思える。 では一体何が彼に少なからずの変化を与えたのか。 それを探そうと、美琴は自慢の頭脳を駆使して、必死に今日の記憶遡ってゆく。 様々なことが起きた今日という一日を。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3147.html
小ネタ げんてんかいき 美琴「いちゃいちゃするわよ!!」上条「いきなりどうしたんだよ」美琴「最近私達、いちゃいちゃしてないじゃない。というか殺伐としてるわよ」上条「うーん、そうか?」美琴「そうよ!!私と当麻が命を懸けてバトったり悪の研究員を消し炭にしたり首から下が潰されたり!!」上条「いやそんな事一度もないからな?!てか何かエグいよ!?」美琴「それもこれもはりねずみの奴が鬱展開しか考えて無いのが悪い!どういうことよ夢に私が出てきて当麻が居ないって、昔見た上琴の夢の続きはどこ行ったー!!」上条「ストップ美琴さん!これ以上メタ発言しないで!!」美琴「たとえ夢でももっと遊園地でデートしたいし二人でラジオ出演したい!というかもっといちゃつきたい!!」上条「わかった。わかったから落ち着いて!!」美琴「……じゃあ、いちゃいちゃしてくれる?」上条「ああ、美琴の気が済むまでしてやるよ」美琴「具体的にどうすればいいかわかってる?」上条「えーっと、こうか?」ギュッ美琴「……よろしい」美琴「じゃあ今度は撫でてほしいなー、なんて」上条「まったく、我儘な姫だことで」ナデナデ美琴「エヘヘー」ニパー美琴「ねぇ当麻」上条「ん?」美琴「ん」chu*上条「ーーーーえ、あ、あわわわわ」////美琴「大好き」上条「お、俺もだ、大す、好きだ、ぞ----ふにゃー」プシュー美琴「と、当麻が壊れたー!!」
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1431.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/恋と嘘と信頼と 「アンタみたいな役立たず要らないの。もう私に近寄らないで。」 一体何度この嘘を使って自分の周りの人間を偽り、拒絶し、失望させただろう? 常盤台中学3年生、Lv.5のエレクトロマスター、超電磁砲の御坂美琴は長い欠席のため学校から進級試験を言い渡されたが、 先月丸一日掛かるはずの試験を難なく午前中に終わらせ、今日始業式を迎えた。 始業式の後、数人の教師から「よく頑張った」と褒められたが、一人として生徒が声を掛けることは無かった。 しかしそれは今に始まった事ではない。実はここ3ヶ月ほど教師や親、妹達以外で美琴に声を掛ける者など居なかった。 半年前、世界を巻き込んだ戦争はとある少年の活躍により事実上終結したものの、美琴は行方をくらませたその少年のためにミサカ10777号とロシアに残り捜索を続けた。 途中、打ち止めや番外固体と合流し捜索を続け2ヶ月が経った頃、学園都市で捜索の協力をしていた妹達から「ハッキングによりある情報を見つけました」と報告が入る。 そしてその情報を見た美琴はある決意を胸に秘め一度学園都市に戻る事になった。 始業式の後、美琴は一人で学校を後にし今はビルの屋上の手すりに寄りかかりながら茜色に染まり始めた第7学区の町並みを眺めている。 そしてそのままポケットに片手を入れ小さなプラスチックの塊を握り締めた。それはもう長い事会っていないとある少年との唯一形のある思い出だった。 これを凍り付いた海から拾い上げて半年間、肌身離さず持っていたが未だに拾った時の様に冷たく感じて、それがあの時から何も変わっていないかの様に思わせる。 だがそれも今夜で終わらせる。美琴は足元に置いた薄っぺらい学生鞄とスポーツバッグを取り空を見上げた。 「まったく、まだやる事ってどんだけ時間が掛かってるのよ。・・・・・いいかげん声ぐらい聞かせてもらうからね・・・・」 そう呟き、手すりに手を掛けて飛び越えようとする。美琴は磁力を操る事が出来るので20階建てのビルからでも階段を使わず楽々降りることが出来る。 足に力を入れ一気に手すりを飛び越えようとした時、後ろから「カツッ」っと靴が地面を叩く音がした。 美琴はそのまま振り返らずに動きを止める。 「ジャッジメントですの!ここに不法侵入者がいると通報を受け・・て・・・・・・・・御坂さん?」 ズキンと美琴は痛みを感じた。振り向かなくても声ですぐ解る。かつてのルームメイトで元パートナー、誰よりも美琴を慕っていた後輩、白井黒子だ。 自分でそうさせたにもかかわらず、未だに苗字で呼ばれると距離を感じてしまう。 美琴が無言で唇を噛み締めているとガバッっと急に黒子がしがみ付いて来た。 「な!何をしようとしていますの?!ダメです!死ぬなんて!約束したでしょう!?グズッ わだぐじも強くなるって!!あなだの力になれるように強くなるって!!ウエッ だからそんな事はじないで下さいでずの!ヒック お姉さま!!」 黒子のしゃくり上げる声を聞いて美琴は心の中で温かい物を感じた。 まったくこの子は何を勘違いしてるんだか・・・・でも・・・・・「お姉さま」か・・・まだそう思ってくれているのね。 こぼれそうになる涙を必死に堪え美琴は振り向かずに声を掛けた。 「大丈夫よ 黒子」 「え?」 フッと黒子の力が抜けたその隙に美琴はスっと黒子の腕からすり抜け手すりを乗り越えビルから飛び降りた。 番外固体に教えてもらったように、着地地点近くにあった風力発電機に磁力で自分を引き寄せ軽やかに着地するとそのまま振り向かず夕日を背に走り去った。 「あっ!!」 黒子が急いで手すりから下を見下ろすと美琴が走り去って行くのが見えて軽く溜息を吐く。 それは美琴が無事だった安堵と美琴の発言による困惑が入り混じった溜息だった。 黒子はポケットから携帯を取り出すと電話を掛ける。 『あ!白井さんですか?!丁度良かったです。やっと監視カメラのノイズが取れたところだったんで』 「初春。監視カメラで何か見えましたか?」 『いえ。ノイズが酷くて、やっと映るようになったと思ったら白井さんしか居ませんでした。そっちは誰か見ましたか?』 「いいえ。誰も居ませんでしたの。多分電波障害か何かでしょう。アンチスキルに連絡するほどでもないでしょうけど、一応周辺を見回りしておきますわ」 『解りました。では気を付けて帰って来てください』 「ええ」 黒子は電話を切ってポケットに仕舞って先ほど美琴が居た手すりに寄りかかりながらまた溜息をついた。 「お姉さま・・・・・」 さっきの声はなんだったのか?黒子は考える。あの声は久し振りに聞いた声だった。そう美琴が2ヶ月半ほど失踪する前、まだ拒絶される前の声だった。 美琴が学園都市に帰って来てから、最初に聞いたのは自分が彼女に必要とされて無く、ただの足手まといだと言う拒絶の言葉だった。 その時初めて彼女から逃げ出した。一晩中誰も居ない公園で泣いたのを覚えている。それからというもの、美琴はずっと自分に冷たかった。 最初は嘘だと思い、何か秘密があるのではないかと聞いてみたが「アンタに何がわかるの?」「話しかけないでよ」「うるさい」などと拒絶される一方で、本当に自分が足手まといだったんじゃないかと思って自ら身を引いた。 しかしさっき聞いた声は今までとは違った。思いやりのあるやさしい声だった。どうして今更そんな声で話しかけてくれたのか。 黒子にはわからなかった。 ピロリロリン 黒子が思いふけっていると携帯からメールの着信音が聞こえたのでポケットから携帯を取り出しメールを開く。 _________From 御坂美琴Re お願いします大丈夫。 必ず帰ってくるからそのときは話させて_________ 「え?」 黒子は驚いた。なぜならそのメールはもう返信される事は無いと思っていたからだ。 今年に入って1ヶ月が経った頃、急に美琴が「勉強に集中したい」という理由で寮監に一人部屋にしたいと言い始めた。 学校側も美琴の勉強のためになら、と一人部屋を承諾した。 黒子は部屋が別々になってしまったらもう和解する事は出来なくなってしまうと思ったが直接話しても相手にしてくれないと思い、意を決して「本当の理由を聞かせて下さい」とメールで聞いた。 翌日美琴にメールを読んでくれましたか?と聞いてみたが「え?メール?見てない、てか着拒してるし」と返事をされ、それ以降美琴を「お姉さま」と呼んだり必要な時以外話しかけるのを止めた。 やっぱり何か違う理由があったんですね・・・お姉さま! パタタッと涙が手すりに落ちる。そして気が付いた。手すりには白くて丸い、まるで塩水を乾かした様な跡が無数にある事を。 「まったくバカですわね。パートナーを信用出来ないなんて」 黒子は思った、どうして信用出来なかったのか?と、どうして勝手に決め付けたのか?と、どうして「自分は役立たずだ」と諦めてしまったのか?と。 「後悔なんて後でいくらでも出来ますわよね・・・お姉さま」 そう言うと黒子は携帯を取り出しリダイアルボタンを押して電話を掛けた。 『はい。どうしました?白井さん』 「初春!!先ほどの監視カメラを中心に半径5km以内のカメラの5分以前からの映像にサーチを掛けて!!今すぐですわ!!」 『ひゃい!?急にどうしたんですか?ていうか誰をサーチするんですか?』 「きまっていますわ!お姉さまですの!」 『お姉さま・・・って御坂さんですか!!仲直りできたんですか!?』 「いいえ!これからしますの!!だから急いで!」 『わかりました!5分ほどで出来るので見つけたら連絡します!』 ピッ 黒子は電話を切り群青色になった東の空を見る。 「お姉さま、もうわたくしはもう逃げません!」 そして美琴が走り去った方向へ瞬間移動した。 「意外と遅かったですね。なにか問題でも?、とミサカは少々溜息交じりで呟きます」 「ごめん。ちょっと色々あってね。虫の方は大丈夫?」 美琴は第16学区にあるホテルの一室に入りミサカ10032号と合流していた。 「既にジャミング電波を発信していますので盗聴の心配はありません。まずはこの間渡した服に着替えて下さい。しかし、お姉様は最近ルーズすぎます、とミサカはやれやれという感じで愚痴ります」 「愚痴こぼせるならそろそろ社会勉強は必要なさそうね。こっちは大丈夫、問題ないわ」 美琴はスポーツバッグから黒い服を取り出しながら話す。 「そうですか」 そう言いながら御坂妹はテーブルに大きな紙を広げた。 美琴は御坂妹から貰った黒いジャージの上下に着替え終え、ニット帽を被りながらその紙に目を落とすと御坂妹は口を開いた。 「ではブリーフィングを始めます。これが地下施設の見取り図です。ここが港でこのA地点深度約15mから巨大な地下水道が続いています。長さはおよそ800m。そして地下水道の突き当たりの真上に巨大冷凍倉庫がありますがこれ は倉庫ではなく潜水艦用のドッグ兼研究施設への昇降機だと思われます。この倉庫をB地点としそこから北西へさらに530mほど地下施設が続いている事がわかりました。さらに張り込みの結果、作業員に偽装した研究員が数人 出入りしている事がわかりましたので研究施設と見て間違いないでしょう。そしてこのC地点から奥に10mほどの所に目標があると思われます。」 御坂妹は淡々と説明しながら紙に赤いマジックで書かれたアルファベットを指差していく。 「よくこんなに詳しく調べられたわね」 美琴は関心しながら声を漏らす。 「ソナーの原理を利用して大体の構図を解析し、その後工作員として忍び込みました、とミサカは説明します」 「え?侵入出来たのにどうしてアイツを助け出さなかったのよ!!」 美琴は声を張り上げた。 「私たちはチームワークがあっても個々の戦闘力はそれほどありません。なので彼を発見出来たとしても彼を連れて施設外に脱出するにはリスクが高すぎたのです、とミサカは自分の非力さを悔やみます」 「なるほど。じゃあ今回は私がいるから救出できるってわけね。」 「はい。今回は偵察ではないので人員を増やせます。ルートは3つ用意しました。侵入はB地点から10人。青、緑、橙のルートでC地点に向かいます。 このライン上のセキュリティだけを解除しますのでこれ以外のルートは使わないで下さい。基本はスリーマンセル、お姉様だけフォーマンセルで行動してください。 最短ルートの青と最長ルートの橙を私たち、お姉様は中間距離の緑のルートを使って下さい。作戦開始は21:45。開始と同時に先ずA地点の水道を爆破して封鎖します。 その後お姉様と私たちは昇降機より施設内に侵入。残りは施設外からの監視とセキュリティの解除、通信妨害、破壊工作、増援の阻止などをします。」 「随分と忙しそうね。大丈夫?」 「問題ありません。施設外は36名で担当するので人手は足ります。とにかくお姉様はC地点に行く事だけに専念してください。そこで一番最初に付いたチームが10分だけ待ちます。 他のチームと合流したらそのまま目標を救出した後脱出して下さい。」 「わかったわ」 「では。派手に行きましょう、とミサカは興奮を抑えられずにニンマリします」 「ええ。ここまで来るのに半年も掛かったけど、これで終わらせるわよ」 そして二人は部屋を後にした。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/恋と嘘と信頼と
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1352.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox 九月の狂想曲 常盤台中学の待機所に戻った御坂美琴は上条当麻と仲良く厳重注意を受けた。 美琴達に厳重注意をしたのは美琴の担当教諭で、厳重注意を受けた理由は『男性の腕に抱き上げられてその姿が世界中継されるなど常盤台の学生としてあるまじき行為』で、厳重注意の内容は『他の生徒の父兄が動揺するので以後こういった行動は慎むように』だった。 常盤台中学は世界有数のお嬢様学校として各地より優秀な子女を預かる立場であり、お嬢様学校であるが故に品性、品格にいたくこだわるのが校風なのだから美琴達が叱られても仕方のないことだった。 何一つ言い逃れのできない状況で上条が『大覇星祭ということで浮かれていた、美琴が「借り物」であったため調子に乗りすぎた』とひたすら頭を下げたため、お説教は『気をつけるように』との定型句で打ち切られた。 だが美琴としては、先ほどまでの甘い気分も上条からのサプライズも粉々に吹っ飛ばされてげんなり、という気分だ。 担当教諭の言い分は正しいし、美琴も肯定する部分はある。 それでも叱るなら自分一人にして欲しかったと美琴は思う。 調子に乗ったのは美琴で、上条は美琴のわがままを聞いただけなのだ。 そして何より気に食わなかったのは、上条の去り際に担当教諭がぽつりと『ふん、無能力者(レベル0)が』と呟いた事だ。 常盤台中学の入学条件は最低でも強能力者(レベル3)と決められている。 つまりそれ以下の能力者はどれだけ人格的に素晴らしかろうが相手にしない。 無能力者など、常盤台の教師からすれば超能力開発という時間割り(カリキュラム)から外れた落ちこぼれに過ぎないのだ。 美琴もかつては無能力者(というよりはスキルアウト)をそう見ていたところもあり、あまり強く言えた義理はないが、 それでも。 その小さな事が、頭にきた。 心の底から。 そのたった一言で上条を切り捨てる教師の態度が許せなかった。 教師も、常盤台中学も、あるいは統括理事会でさえも『知らない』妹達と美琴の問題を、ただ一人命をかけて救ってくれたのはほかならぬ上条なのだ。 無能力者だから切り捨てても良いのではない。無能力者は無能力なんかではない。 無能力者が蔑まされるようなスキルアウトに走るのは個々の事情であり、無能力者だからと十把一絡げに扱わないで欲しい。 相手が自分の学校の教師でなかったら、上条の何を知っているといるんだと美琴は即座に雷撃の槍を叩き込んでいたかもしれない。 そんな事をすればもっと大事になるし、何より必死に頭を下げてくれた上条の顔に泥を塗る。 常盤台中学の模範生としても、学園都市第三位の超電磁砲としても、それ以前に上条当麻の彼女として絶対に取ってはならない行動だった。 もしも自分が常盤台中学の生徒でなかったら、と美琴は思う。 これが例えば初春飾利や佐天涙子の通う柵川中学校だったらここまで騒ぎにはならなかったかもしれない。 あるいは、美琴がとある高校の一生徒だったなら。 こんなところで上条が日頃口にする『中学生と高校生』の歪んだ例を目の当たりにして、美琴はほんの少し唇を噛んだ。 とにかく、後で上条に謝ろう。 美琴はそう思って、そこで不意に視線の束を背中に感じた。 恐る恐る背後を振り返ると、 「……へ?」 常盤台中学の生徒達―――早い話が美琴のクラスメートや下級生が熱い視線で美琴を見つめ、ぐるりと取り囲んでいる。 彼女達は常盤台中学『学内』学生寮の生徒だった。 つまり、美琴を取り囲む少女達は正真正銘箱入り娘達であり、美琴とは違う方向性で筋金入りのお嬢様達だった。 「あ、あれ? みんな何か私に用? ああ、えっと見苦しいとこ見せちゃってごめんね? ……あれ? 違った?」 お嬢様集団が醸し出す異様な雰囲気にたじろいだ美琴がひとまずの謝罪を口にすると、 「御坂様!!」 「私、感動しました!」 「素敵ですわ御坂様!!」 少女達は一様に感動や興奮を口にする。 美琴は訳が分からず首を傾げて、 「……はい?」 「御坂様と殿方がお互いを想い合いかばい合うお姿に私達とても感激いたしました! これがアガペーなのですね!! 愛って素晴らしいですわ!!」 「あの。アガペーって……」 肉体的な愛を『エロス』と名付けるのに対し、精神的な愛は『アガペー』と呼ばれる。アガペーとは見返りを求めぬ無償の愛であり、もっとも尊ばれる愛の形とされる。 ようするに、美琴を取り囲む少女達にとって教師に叱られながらも互いをかばう美琴と上条の恋愛が『崇高(プラトニック)』なものと映り、そこがどうやら箱入りお嬢様のツボに入ったらしい。 「いや私達は別にエロスとかアガペーとかそう言った高尚なもんじゃなくて……」 包囲の輪を狭め詰め寄る少女達に両手をわたわたと振って否定する美琴。 「さすがは御坂様。恋愛一つを取っても私達の良きお手本ですわ!!」 おかしな方向に気炎を上げたお嬢様軍団は美琴の言葉に耳を貸さず闇雲に美琴を褒め称える。 暴走した少女達をを止める術などもはや存在しない。 心の中で『処置なし』のハンコを押すと、美琴は小さく口の中でため息をついてからつまんなさそうに、 「……くろこー?」 「はいはい、ごめんあそばせ。失礼いたしますの」 美琴の合図を待っていたらしい白井黒子が女の子達の間に割り込み、美琴の腕を掴んで空間移動(テレポート)を実行する。 美琴が輪の中心からブン!! という音と共に姿を消すと、 「……あ、あら? 御坂様はどちらに?」 「また白井さんですの? どうしてあの方はいつもいつも……」 「御坂様ったら謙遜されていらっしゃるのでしょう。その奥ゆかしさも素敵ですわ」 少女達は口々に感想や文句を述べて、三々五々に散っていく。 美琴は白井に腕を掴まれて、少女の集団からほんの少しだけ離れた場所へ空間移動した。 少女達も慎重に辺りを見回せば美琴がそれほど遠くに移動した訳ではないことに気づけたのだが、常盤台中学にただ一人しかいない空間移動能力者(テレポーター)の判断力を高く見積もりすぎていたのだった。 美琴は隣に立つ白井に向かって、 「いつもいつも悪いわね。でも、私が困ってるって分かってるならもう少し早くに助けてくれても良かったんじゃない?」 「あれもたまには良い薬になるんじゃないかと思いましたの」 白井は後ろ手に何かを持ったまましれっと嘯く。 言葉の意味が理解できない美琴は首を傾げて、 「薬? それってどういう意味よ?」 「お姉様はご自身が超能力者である事を意に介さず、いえ、軽んじられていらっしゃるのは以前からですけれども、今回のはいささか度が過ぎていらっしゃいません? るいじ……もとい、公衆の面前で殿方に抱きついたままテレビ中継など破廉恥極まりないですわよ? 他の生徒ならいざ知らず、お姉様があのようなことをされたら先生方だってさすがに黙っていませんし、お姉様のファンを自称する生徒達があっという間に感化されることは火を見るより明らかですの」 そこで白井は一度言葉を切って涼しい顔で、 「と、わたくしがお姉様に一言申し上げる前にすでに囲まれていらっしゃいましたし、自身の行いがどれほど周囲に影響を及ぼすかは身をもって実感されたことでしょうから、これ以上についてはわたくしも口を噤みますの」 「はいはーい、毎度毎度のお説教ありがとうございます。ご心配をおかけしましたわねー」 美琴は再びげっそりした表情を作る。 さっきは先生で今度は白井か。 常盤台の模範生と呼ばれる少女は一日に二度もガミガミ言われて少々辟易していた。 超能力者の称号は美琴が目指したハードルの先でも、そのおまけでついてきた賛辞など美琴の知るところではない。 自分はただの女の子だ。恋だってするし、彼氏と一緒にはしゃぎたい。 美琴はそこで『うーん』と両手を挙げて大きく伸びをする。 ここでぶつぶつ言っても仕方がない。 美琴は気持ちを切り替えるべく自分の顔を両手でペチペチ、と軽くはたく。 白井は表情を和らげた美琴に向かって、 「お姉様。そろそろお召し替えをお願いいたしますの」 「ああ、もうそんな時間なのね。にしてもさ、これって本当に常盤台(うち)の伝統なの?」 「さぁ? わたくしは存じませんけれども」 手にした学ランを美琴にうやうやしく差し出す。 超能力開発の名門・常盤台中学では生徒の間で奇妙な伝統が存在する、らしい。 誰が言いだしたものなのかは全く見当がつかないが、曰く、 『大覇星祭では「彼氏持ち」の三年生が監督を務めるものとする』 とされている。 監督、と言ってもメガホン片手に常盤台中学が参加する全競技に張り付くわけではない。 監督が必要とされる競技にのみ、選手ではない立場で参加するだけの事だ。 「おそらくは『女子校育ちなのに彼氏がいるだなんて許せない』と僻んだどこかの誰かが始めた風習ではないかと思いますの。大方『彼氏から学ラン借りてこい』などと挑発して晒し者にするつもりだったのでしょう」 「その発想はさすがに考え過ぎってもんじゃない?」 白井の推測にいちおうツッコむ美琴。 白井は空間移動で美琴の背後に回り込むと美琴の肩に学ランをかけながら、 「お姉様もお姉様ですの。わかぞ……もとい、衣替え前の殿方さんに頼まなくても、黒子に一言言ってくださればお姉様を美しく彩る衣装をご用意しましたのに」 「試しにアンタに頼んだら、紫の生地にラメ入りでしかも背中に『愛裸舞優』とか変な刺繍が入った長ラン持ってきたじゃない。それに、アンタの学ラン受け取ったらアンタが私の彼氏って事になるじゃないのよ」 「ぐへへへ、それはそれで好都合ですの」 「……、」 美琴は妄想を滾らせる白井を無視して羽織った学ランに袖を通す。 借りてきた学ランを着てみて改めて美琴は思う。 上条は極端にがっちりとした体型ではないが、やっぱり男だ。 美琴より肩幅が広く、リーチも長い。 美琴は袖をまくって丈を調節しながら、 「うわー、分かっていたけどぶかぶかだわこれ」 背後では白井が白いたすきを美琴の肩から背中に向かって通し、交差させてちょうちょ結びに整え、 次に美琴の腰に軽く手を添えて、細かいプリーツの入った白いスコートを瞬時に履かせ、 そこから白井が前に回って美琴の胸元を軽く上から下になぞると学ランのボタンが次々と留められて、 最後に美琴の両手を取って、瞬きする間に白い手袋をはめさせる。 「お姉様、準備整いましたの」 「ん。ありがと黒子」 美琴はその場でくるりと一回転して全体を確認する。 スコートのプリーツが美琴の動きに追随して軽く舞い上がり、ふわりと落ちた。 まぁこんなものかな、と納得して、 「でさ、悪いんだけどちょっと連れてって欲しいとこがあんのよ。空間移動頼むわね」 「……嫌な予感が。いえ、むしろ嫌な予感しかしないのですけれども念のためにお聞きしますの。……どちらまで?」 「確か、うちらの競技が始まる少し前に二人三脚をやるでしょ? そこの競技場に行って欲しいの」 白井は軽くため息をついてからジャージのポケットから自分の携帯電話を取りだす。 細いスリットから飛び出した『本体』の液晶画面に競技案内のパンフレットを表示させて競技場の場所を確認し、 「……確かそれは『高校二年生』が出場する『二人三脚』であって、わたくし達常盤台中学は誰一人出場しませんけれども?」 一応の嫌味を言ってみるが美琴はそれを聞き流し、 「だから『悪いわね』って言ってるでしょ?」 「……短い時間ではありますけれどもお姉様とデートができると思うことにしておきますの」 白井は不平たらたらの表情で携帯電話をポケットに押し込み、美琴の手を握って空間移動で人混みをすり抜けてゆく。 とある高校の二年生が出場する、二人三脚の会場へ向かって。 一方その頃、とある競技場にて。 もうすぐ『二人三脚』が始まるとあって、出場する生徒達は肩を組んで走り出す練習や足を出すタイミングを話し合ったりしている。 出番待ちの生徒達に囲まれて、上条はしゃがみ込むと二つの足首を縛り付ける紐を調節しながら、 「あのさ。何で俺と吹寄が組むことになってんの? 確か俺は土御門と組むはずじゃなかったっけ」 隣で両腕を組んだまま仏頂面の吹寄制理に向かって話しかける。 吹寄は足元の上条をジロリと睨み付け、 「仕方ないでしょう。土御門がいきなり捻挫したんだから」 「だったら俺は出場しなくても良かったのでは? 吹寄だって運営委員で忙しいのに何も嫌々俺と組まなくたって」 「あたしは楽しい大覇星祭を成功させたいだけよ。それに上条、貴様は自分が去年の大覇星祭における白組のA級戦犯だと言うことを忘れたの? 貴様が去年の分まで白組に貢献できるようこうして時間を割いてペアに名乗り出てあげたんだから、むしろあたしの優しさに感謝して欲しいわね」 「そんな優しさいらねーって……」 去年はとある事件の結果初日からボロボロになるわ不幸の連発で心身共にズタズタになるわで、両親が見に来ているにも関わらず上条には全く良いところがなかった。 それら一連の出来事は全て上条の予定を無視して始まったことであり、そこでA級戦犯と呼ばれることは甚だ心外なのだが、 「土御門は今日一日使い物にならないから、土御門が出るはずだった種目は全部貴様の名前で再エントリーしておいたわ。せいぜい頑張ることね」 想定外の宣告にうげっ!! と驚愕の呟きを漏らす上条。 もはや立ち上がる気になれず膝を抱えて、 「……不幸だ」 「何をもたもたしているの? そろそろ待機列に並ぶわよ」 「ちょ、ちょっと待て吹寄。二人三脚ってのは二人の息を合わせて同時に歩くから二人三脚なんであって痛い痛い痛いまだ立ち上がってない俺を引きずるなって!!」 吹寄は上条を顧みることなく、自らの左足に上条をくくりつけたままずんずんと歩きだす。 美琴は白井と共にとある競技場に到着した。 目的はもちろん、二人三脚に出場する前の上条を一目見て、できれば激励するためだ。 白井は能力者達の二人三脚を見物しようと詰めかけた大勢の観光客達に混じって、 「『恋は盲目』と申しますけれども……」 人混みと美琴の態度、両方に対してうんざりめいた呟きを漏らす。 学生用応援席に向かうにはこの人混みを抜けなければならないので少々やっかいだ。 美琴は白井の嘆きも意に介さず、 「良いでしょ別に。あ、いたいた! ……って、何よあれ」 美琴の視線のはるか先で、上条は髪の長い巨乳の女生徒と肩を組んで出番を待っていた。 「アイツ……二人三脚の相手は男だって言ってたくせに……」 「あらあらまぁまぁ、わたくしのような恋愛初心者の目から見てもあの二人なかなかお似合いですわね。お姉様には劣りますけれどもスタイルもなかなか……って、ひぃ!? お、お姉様、群衆の只中でバッチンバッチン言わせないで欲しいですの! 漏れてます、電撃が漏れてますわよ!! どうか周囲の皆様避難を、避難を!!」 「ううう……あの馬鹿、私というものがありながら……またしても巨乳……」 「おおお、お姉様しっかりしてくださいまし!! よ、良く見れば女の方は大したことないですし嫌々組んでいるようですから大方パートナーの方にアクシデントでもあったのでしょう。ですからどうかお姉様、気をお鎮めになってくださいまし!!」 「うううう……」 美琴はガルルルと凶暴な唸りを上げんばかりに上条をひたと見据え、微動だにしない。 その時、上条は首筋に冷ややかな視線を感じた。 何だかチリチリと焼け付くような痛みさえ覚える。 上条は右手で首をさすりながらキョロキョロと辺りを見回し、 「……ん? 何だ? 誰かが俺を睨んでるような……げえっ!? み、御坂?」 突き刺さるような視線の持ち主は美琴だった。 遠くにいてもはっきりと分かる、鬼気迫る形相。 しかも全身に青い火花をまとわりつかせている。 美琴の周囲の人々が美琴を遠巻きにしているのも見て取れる。 上条は嫌な脂汗をダラダラと背中にかきながら、 「な、何で? 何でアイツはあんなに怒ってんの???」 「ほら上条、列が動くわよ。貴様もとっとと歩きなさい」 吹寄は自分の左足で上条の右足を引きずり、上条の左肩に自分の左手を回す。 その瞬間。 ギィン!! と音が聞こえるくらい美琴の表情が険しくなる。 上条は血相を変えて、 「ぎぇ!! ま、まさかアイツ、二人三脚で俺が吹寄と組んだのが気に食わないのか?」 「さっきからゴチャゴチャうるさいわね。さっさと歩きなさい!!」 「ま、待って吹寄! お、俺は今二人三脚どころじゃなく命の危機が痛い痛い痛い二人三脚なんだから歩く足を合わせる努力を、努力を!!」 上条が何故慌てたり顔色を青くするのか理解できない吹寄は、屠殺場へ家畜を連れ出すように上条の肩に手を回し、 それに比例して美琴の体を包む火花が放電レベルへと変わっていく。 上条は吹寄の動作に合わせつつ後ろを振り返って、 「こ、これは浮気じゃない! 誤解だ!! 浮気じゃないからそんなバチバチ言わせるなお願い頼む怒らないでああもう不幸だ――――――――――――ッ!!」 上条の叫びは群衆のざわめきにかき消されて美琴の元には届かない。 御坂美琴は綱引きが行われるとある大学のグラウンドに移動した。 というより、感電を覚悟の上で白井が空間移動でここまで引っ張ってきたのだった。 「お、お姉様……殿方のことは脇に置いて気持ちを切り替えてくださいまし……わたくし達の綱引きも始まることですから」 美琴の足元でうずくまる白井の体操服はところどころがうっすらと焦げている。 「わ、わかってるわよ。こっちはこっちの競技に集中しないとね」 美琴は両腕を組んで肩を聳やかす。 そう言ってみたものの、上条が髪の長い(しかも巨乳の)女生徒と肩を組んで鼻の下を伸ばしていた(ように見える)のだから、美琴の心は落ち着かない。 (あの馬鹿、こっちの競技が終わったら絶対とっちめてやるんだから。さっきの件で謝るのもナシ!!) 鼻息も荒く、頭に巻いたハチマキを締め直す。 細い指先が刺繍の部分に触れて、 (私の名前が入ったハチマキ締めてんのに、何で他の女といちゃつけんのよ……) 唇を噛みもう一度ぎゅっ、とハチマキを固く締め、正面を見据える。 その視界の隅を見覚えのある人影が横切って行く。 (あれ? 土御門さん……と、もう一人は……) 海原光貴だった。 体操服の上から背中に『大覇星祭運営委員』のロゴが入った薄いパーカーを羽織っている。 海原は常盤台中学理事長の孫で、念動力(テレキネシス)の大能力者(レベル4)でもある。美琴はとある事情により海原が少々(というよりかなり)苦手なのだが、 (……めずらしい組み合わせよね。つか、あの二人に接点あったっけ?) 美琴は海原と何回か喋ったこともあるので、どこの学校に通っているかくらいは知っている。しかしその学校名は、上条や土御門と同じとある高校ではない。 土御門の妹、舞夏から聞いた話によると土御門は無能力者であり、そして上条の高校に大能力者はいない。 ほんの少し考え込んだくらいでは少年達の接点が思いつかない。 能力(レベル)の違う二人は親友、と言うよりも今から大仕事を控えた男の表情で何事か会話を交わし、肩を並べて人混みの中に消えてゆく。 (……ま、いっか。こっちもこれから大勝負だし) 美琴は遠くなる二人の後ろ姿を見送って、 「ほら黒子。いつまでそうしてるつもり? そろそろ行かないとホントに―――」 「げっへっへっへっ、ローアングルから見上げるお姉様の脚線美に黒子は夢中ですの。引き締まった足首、無駄な肉のついていないふくらはぎ、かわいらしい膝頭、そして白くとろけそうなほどに柔らかい太股。いっそこのまま頬擦りしてしまいたいくらい……。ああもう黒子のこの身は愛に焦がれ、そして心は千々に乱れてぇ―――ッ!」 「乱れてんのはアンタのトチ狂った脳波でしょ!!」 足元でトリップを始めた白井の脳天に力一杯グーをお見舞いする。 上条当麻は人混みをかき分けていた。 二人三脚が終わってからすぐ美琴の元に行こうと思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかったのだ。 あの後何故か吹寄に用具の片付けを手伝うよう命令され、その次は転んでいる老婆を助けた。競技場へ向かう途中小さな女の子が泣いているのを見かけたので木の枝に引っかかっている風船を取りに行った。それを見ていたボーイズラブをたしなむらしいお兄さん方にナンパ(?)されたのだが、そちらは全力でお断りしておいた。 上条は近くの電光掲示板に表示された時間を見ながら、 「……この時間だとそろそろ三回戦に入ってる頃かな。綱引きって言っても常盤台中学は五本指の一角とか呼ばれてるらしいし、一回戦負けはさすがにありえねーだろ」 とあるグラウンドの入場門をくぐり、キョロキョロと辺りを見回す。 グラウンドでは無駄に広い面積を使い切ってコートが二〇面作られ、綱引きが行われている。 綱引きの正式なルールによると、一チームは八名構成でチームの総重量によって階級も決められるのだが、能力者達の運動会ではそんな階級制など用意されていない。 だが全くの無差別では能力差で勝敗が簡単に決してしまう。 ということで、学園都市の大覇星祭においては『一チーム最大二〇人構成』『センターラインを超えた一切の能力干渉を禁ずる』と言う特別ルールが用意されている。 つまり握ったロープ越しに相手をビリビリさせる、あるいは空間移動でロープを味方陣地に引き込んでしまうのは反則なのだ。 「しかし、アイツが出ないのに競技の応援って何すりゃいいんだ? 『頑張れ頑張れ常盤台』とか叫ぶのか? ……うわっ、想像しただけでも寒いぞ」 上条はほんの少しだけ身震いする。 「ともかく、常盤台中学がどこで対戦してるのか探しに行かねーとな。……あれ?」 少し離れた人混みの中で懐かしい人物を見つけた。 海原光貴。 美琴のことを臆面もなく『好き』と言ってのけたさわやか少年だった。 彼は馬鹿デカいレンズを取り付けた高価なデジタル一眼レフカメラを三脚に取り付け、競技場の方に向けている。 腕に『記録係』という腕章が巻かれているのが見えるので、卒業アルバムに載せるための写真を撮っているのかも知れない。 (でも待てよ。確か海原は二人いるんだったよな。アイツはどっちだ?) 美琴の事を『好き』と言った海原は『ニセモノ』の方で、本物は念動力の大能力者だ。 だが偽海原は少なくとも外見は本物海原にそっくりなので、アステカ魔術を使う少年が尻尾を掴ませない限り上条には見分けがつかないのだ。 (うーん……どっちでも良いか) などと上条が考えていると、人混みをかき分けて褐色の肌の少女が海原に近づき、背後から海原の耳を思い切り引っ張った。 洒落にならない痛みで耳を押さえ悲鳴を上げている海原と怒り顔で今度は頬をつねり上げる少女の雰囲気から、彼女と海原がごく親しい間柄というのは離れた位置でも見て取れる。 少女がいつか見たことのある偽海原と同じ肌の色を隠そうともしないところから、おそらく少女は偽海原の知り合いで、つまり殴られた方は偽海原らしい。 (アイツ、御坂の事が好きとか言っておいてちゃっかり可愛い女の子をキープしてんのかよ。……うらやましいぞ) 上条が見当違いの感想を胸の中で綴っていると、コートに少女達の一群が現れた。 襟刳りと胸元のV字、そして袖口が臙脂に彩られた競技用ユニフォームに身を包んだ『五本指の一角』常盤台中学の生徒達だった。 少女達を率いるのは、白いハチマキをきりりと巻いて、サイズの合わない学ランに白たすきを掛け、ひらひらな白いスコート姿に白手袋で固めた、一言でまとめると『旧世紀の応援団コスチュームを纏った』御坂美琴だ。 『外』とは科学技術で二、三〇年は先を行くと言われる学園都市で『中』にいる学生が前時代的な服装をしているという事は、いわゆる対抗文化(カウンターカルチャー)の模索であり発露であり、見方を変えて露骨な表現をすれば一種の晒し者(きゃくよせぱんだ)である。 だがそんな事には関係なく、観客達は可愛い女の子がコスプレして出てきたという事実にのみ盛り上がり、もはや勝敗の行方など誰一人気に掛けていないように見える。 美琴の登場で口々に騒ぎ立て手元の携帯電話のカメラを使って美琴を撮影する学生達に混じって、 「うわぁ……。俺の学ラン貸せって言うから何すんのかと思ったらこういう事だったのか」 美琴(アイツ)なら何を着ても似合うけどそれって若干時代錯誤気味じゃねえか? と上条は正直かつ場違いな感想を胸の奥にしまい込む。 そこで目の前の人混みが動き、中から頭に花飾りを乗せた小柄な女の子がはじき出された。 (まずい、このままだと転ぶぞ!!) 上条は咄嗟に両掌を前に突き出し、仰向けにひっくり返りそうになった女の子を支える。 初春飾利は今にも溺死しそうな思いで人混みをかき分けていた。 とあるグラウンドに用意された学生用応援席は何故か大賑わいで、試合が始まるのを今か今かと待ち構える人々でごった返していたからだ。 周りの人々の雰囲気で、試合がまだ始まってないというのは分かる。 しかし、悲しい事に初春の身長は一六〇センチに届かず、この押し合いへし合いの中では前の様子が全くもって見えない。体力もないので押しても押しても後ろへ押し返されてしまう。 右を見ても左を見ても人、人、人で埋め尽くされて、グラウンドの土さえ視界に入らない。 この時の初春は知らなかった。 たかが綱引きでこれだけ混雑する理由が御坂美琴のコスプレ紛いの衣装にあることを。 初春は友人である白井と、そして美琴の応援のため風紀委員の仕事を抜け出してここへやってきたのだが、 「こ……困りました……まさかこんなに混んでるなんて大誤算ですよ……。御坂さんに、白井さん……はあぁ……み……見えませぇん……」 後ろの方に向かってどんどん人波に押し流される。 人の流れに抵抗して前に進もうと努力するが、人数差はどうにもならない。 相撲の突っ張りを食らったみたいに体が仰向けに傾き、転びそうになったところで、 「よっ……と」 とん、と。誰かに押しとどめられた。 「大丈夫?」 「は、はい……すみま……えええええええ!?」 初春の両肩を掴んで支えてくれたのは、どこかで見た事のあるツンツン頭の少年だった。 少年は初春の悲鳴がかった奇声に慌てて、 「ちょ、ちょっとストップ! 叫ぶのストップ!! 俺は痴漢じゃねーから!! お願いだから風紀委員呼ばないで!!」 「あ、あわわわ、すみませんっ! そんなつもりじゃないんです!!」 風紀委員の仕事サボり真っ最中の初春は押しくらまんじゅう状態の真っ直中で頭をペコペコ下げる。 頭を上げて相手の顔を改めて確認すると、 (ど、どうしよう! この人、御坂さんのでこちゅー彼氏さんじゃないですか!!) 「? あの。俺の顔に何かついてます?」 「いいいいいいいえ! 目と鼻と口くらいしかついてません!!」 咄嗟に意味がよく分からない切り返しをしてしまう初春。 少年はポリポリと頭をかいて、 「君も綱引き見に来たの?」 「えーと、友達が出場してるんでその応援に」 「そっか。でもこれじゃ全然見えねーよな」 人でぎっしり埋まった学生用応援席を見回す。 「よし。前の方まで行くから俺についてきて」 ツンツン頭の少年は初春の手を掴み、 「はいごめんなさいよ、ちょっくらごめんなさいよ」 とか何とか言いながら人混みを無理矢理かき分け始めた。 初春は想定外の事態にやや呆然としながら、少年に手を引かれ先ほどよりはスムーズに前の方に向かって進んで行く。 (……彼氏さん、私達とプールで出会った事は覚えていないみたいですね) 初春からすれば少年は監視カメラに映っていたり美琴へのでこちゅー現場を生で見てしまったりの『知っている』状態だが、少年からすると『この子どこかで会ったっけ?』くらいの認識しかない。 初春はツンツン頭に巻かれた白いハチマキを何となしに見ながら、 (私が御坂さんの友達って言うのは知られない方が良いかも知れませんね……ぶほわっ!) 「ん? どうかしたのか?」 うっかり吹き出してしまった初春をツンツン頭の少年が振り返る。 「い、いえっ! 何でもありません!」 初春は空いてる手をわたわたと振って否定する。 初春飾利は見てしまった。 白い糸で施されているので良く見なければ気がつかないが、少年の頭に巻かれたハチマキには針裁きも鮮やかに『御坂美琴』と刺繍されている。 (こ、これって絶対御坂さんが刺繍して渡した奴ですよね! ぷぷぷ、御坂さんがこんなに独占欲の強い人だなんて初めて知りました!! こ、これは写真メール撮って佐天さんにも見せてあげないと!!) 初春はジャージのポケットから二つ折りの赤い携帯電話を取り出し、カメラモードに切り替える。 ハチマキの裾はゆらゆら揺れて焦点(フォーカス)がなかなか合わないが、ツンツン頭の少年が立ち止まった一瞬に初春はぐっとボタンを押し込んだ。 盗撮防止のシャッター音がやけに大きく感じられたが、少年は気づくことなく初春の手を掴んだまま前へ前へと進んでゆく。 初春は携帯の液晶画面をメール作成に切り替え、ポチポチと文字を打つと今撮ったばかりの証拠写真を添付し、友人である佐天涙子に送信した。 (こ、これは面白いものが撮れてしまいました!! あとで佐天さんと合流して、御坂さんを呼び出す算段を整えなくては!!) 初春の頭上で花飾りが揺れる。 溢れかえるほどの人混みの中で、花だけが初春の企みを見抜くようにゆらゆらと揺れる。 常盤台中学と対戦するのはどこかの高校らしく、美琴達より二回り以上の体格差を誇る男子生徒の集団だった。 不敵な笑みを浮かべる少年達に少女達は余裕の表情で対峙する。 学生達が持つ能力にも相性の善し悪しというものがある。そこをついてしまえば五本指の一角だろうが二本目だろうが恐れる必要はない。 おそらく少年達は相手校の能力者を統計立てて計算し、最適の反撃(カウンター)を放って勝ち上がったのだろう。 超能力開発の名門・常盤台中学と言えど所詮中身はただの女子中学生だ。 おそらく彼らはそう値踏みしているが、才媛軍団常盤台中学は『エース』と呼ばれる美琴をあえて監督に据えている。 つまり、美琴がいなくても勝てる布陣を敷いたと暗にアピールしているのだ。 本当は美琴の能力がこの競技に限りあまり役に立たないからなのだが、何故か相手が勝手に誤解して、前二つの試合は不戦勝となった。 美琴は少女達を集めて円陣を組むと、 「一回戦、二回戦は相手が棄権したからここが事実上の『お披露目』ってことになるけど、気を抜かずに全員の呼吸を合わせて決めるわよ。いい?」 「おーっほっほっほ。御坂さん、そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。この婚后光子が一瞬で片をつけて差し上げましてよ」 「相変わらず空気を読まない方ですの……」 婚后の隣で肩を組んだ白井が眉をひそめる。 美琴はあはは、と苦笑いして、 「こ、婚后さんは私達の秘密兵器だから今回は温存ね」 作戦を確認すると少女達は一〇人二列に分かれ、自分の持ち場につく。 美琴は並んだ少女達からやや離れた場所に位置取り、右手を空に向かって伸ばす。対戦校の監督も自軍の近くに陣取って開始の合図を待つ。 白いラインを挟んで左右に散った少女達と少年達が向かい合い、一本のロープに手を掛けた。 その瞬間競技場がしん、と静まりかえる。 『Pick up the Rope』の合図で互いにロープを強く握りしめ、 『Take the Strain』の掛け声で全員が綱引きの体勢に入り、 『Steady』の声で静止し、 『Pull』の合図と同時に美琴が右手を振り下ろすと、 常盤台中学側の陣地がボゴン!! と何かを踏みつぶしたような音を立てて一〇センチほど陥没した。 砂煙がもうもうと舞い上がる中で、相手より『低い』位置に陣取った少女達は苦もなくロープを引っ張り、体格も体重もはるかに上の少年達は悲鳴を上げながら引かれるまま全員前方につんのめって倒れる。 大能力者でも集中力を乱されたら即座に対応できない。まさしく電撃作戦(ブリッツクリーク)だ。 判定係は二〇人の少年達が全員無残に地面に突っ伏したのを見届けて、 「勝者、常盤台中学!!」 判定の声に少女達は飛び上がって喜ぶわけでもなく、転んだ少年達に手を差し伸べて立たせ、淡々と能力で地面を元に戻す。 一撃必殺(ワンターン・キル)。 相手の出方も、能力の相性も一切関係なく、 それでいて能力を相手に直接使うことなく、 物理法則を逆手に取って常盤台中学は勝利した。 「身体能力強化を使うんじゃなく、重力操作系か念動力で足元えぐり取って人為的に高低差を作り出し、文字通り相手を『引きずり下ろした』のか。にしても複数の能力者がピタリと息を合わせて発動させるなんてさすが常盤台だな」 上条が感心していると、コートの中でキョロキョロと辺りを見回していた美琴と目が合う。観客達の中にいるであろう上条の姿を探していたらしい。 上条がおーい、と呼びかけながら手を振ると美琴の表情がぱっと明るくなり、それから何を思い出したのか不機嫌そうに目を細め、ぷいと横を向いた。 上条は振っていた手を引っ込めて、 「うげ……アイツまだ怒ってんのかよ」 何も悪い事はしていないのに、何でこうなるんだろう。 熱狂する観光客と応援の人々に混じってただ一人、 きっとこれから、 何も悪い事はしていないのに土下座しなくちゃいけないんだろうなぁ、と上条はぼんやり思うのだった。 綱引きの第四回戦以降は二日目に行われる。 と言う訳で、上条は手空きになった美琴をとある校庭の隅へ連れてきた。 人気のあまりない校庭にはフェンスに沿うように常緑樹が一定の間隔を開けて植えられている。 無造作に伸びた木の枝は盗撮対策の目隠し代わりだ。 そんな名目で手入れされたとある木の根元で上条は土下座の準備をしながら、 「……あの。これって冤罪だと思うんだけど」 「そうね。冤罪かも知れないけど、『彼女』の目の前でアンタが他の女の子にうつつを抜かしてたのは揺るがない事実でしょ」 学ランを着た美琴は腕組みをしたまま足元の上条を冷たく見つめる。 二人の姿はまるでどこかの女番長が気弱な男子高校生を揺すっている構図に見えなくもない。 上条は傲然と顔を上げて、 「どこをどう見ればそうなるんだよ!! 俺は二人三脚の準備をしてただけだろ!!」 「じゃあ何で二人三脚の相手が男だなんて嘘つく訳?」 「嘘なんかついてねーよ! 土御門が足を捻挫して今日一日動けないからって、運営委員やっててたまたま競技の割り当てがなかった吹寄がヘルプで入っただけだ!!」 「何言ってんのよ」 はぁ、と美琴はため息をつき、 「土御門さんなら元気よ? 綱引きの前に見かけたけど」 「はぁ?」 今度は上条が素っ頓狂な声を上げる番だった。 どういう事だ? 怪我したはずの土御門がピンピンして歩き回ってる? つまり土御門は嘘をついてでも自由を確保しなければならないという事だったのか? 土御門は自分自身を『嘘つき村の村民』と称して憚らない男だ。 だがその嘘はいつだって『使う必要があるから』ついている。 上条は地面に向かって顔を伏せたまま、 「考えろ。考えろ上条当麻。土御門が嘘をつくのはどんな時だ? 去年の大覇星祭で何があった? 今年はあんな事が起きないだなんて誰も保証してくれねえんだぞ?」 「こら、何をぶつぶつ言ってんの?」 美琴は去年、大覇星祭の裏で起きたとある事件の顛末を知らない。 だけど上条は知っている。 土御門がどんな気持ちで世界の裏を駆け抜け、小さな思いが積み重なって築かれた社会同士の摩擦を防ぐために日夜暗躍している事を知っている。 (きっと土御門は何かを抱えている。それなのに俺はこんなところでこんな事をしていて良いのか? 俺にだって何かできる事があるんじゃねえのか?) 「何を一人で考えこんでんのよ」 頭をコン、と小突かれた。 顔を上げると、その場にしゃがみ込んだ美琴が上条の顔をのぞき込んでいる。 美琴はやれやれ、と言いたげな表情を隠しもせずに、 「さっきから人がさんざんお説教してるって言うのに、アンタと来たら右から左に聞き流して、あまつさえ難しい顔して別の事考えてんだもの。怒鳴るだけ馬鹿みたいじゃない。ほら立って」 美琴は上条の手を引っ張って立たせると、 「その様子じゃあの巨乳女の事もきれいさっぱり頭の中から消えてるみたいだし、二人三脚の事はもう良いわ」 「え? 巨乳が何だって?」 「なっ、何でもないわよ!! つかそんなとこだけ反応すんなっ!! ……それより、さっき何を考えてたの?」 上条の前に立ち、小首を傾げてみせる。 ぐい、と顔を近づけて声をひそめ、 「……もしかして、何かまずい事態でも起きてるとか?」 「いや……そうじゃねえ」 上条は首を横に振る。 懸念を美琴の前で隠し通すのは得策ではない。 むしろ話しておけば少なくとも美琴は納得するし、そこから先は自分の意志で考えるだろう。 「単なる俺の思い過ごしかもしんねーし、本当に何かが起きてるなら否応なしに巻き込まれてると思うんだ」 俺って不幸体質だし、と上条が付け加えた言葉に重なってプツン、と言う奇妙な音が響き、続けてパサリ、と何かが滑り落ちる音がした。 どうも腰の辺りがスースーするような気がして上条は音のする方向、つまり自分の足元を見て、 美琴が上条の動きにつられて下を向く。 上条の足首付近に青色の短パンが引っかかっている。 「……ん? これ誰の……?」 「……、」 上条の足元に落ちた短パンから視線をやや上にずらした美琴の動きがビキン!! と凍り付く。 ガバッ、と自分の顔を両手で覆う美琴の視線の先を目で追った上条は、 「……げっ!? これ俺の……って事は御坂! 馬鹿こっち見んな!!」 咄嗟に両手を使って下着を美琴の視界から覆い隠す。 そこへ、 「今わたくしのお姉様レーダーは感度最大! 地球の裏側でもお姉様を捜し出せますの!! 感じる、感じますわ!! こちらにお姉様がいらっしゃるのですわね!! 待っててくださいお姉様今すぐ黒子がお迎えに―――ッ?」 空間移動を駆使して美琴を探していた白井が下着丸出しの少年と何とも説明しにくいポーズで固まっている少女を見つけ、 その場に着地すると羽織っていた常盤台中学指定ジャージから空間移動で金属矢を取り出し、 「風紀委員(ジャッジメント)ですの! そこの類人猿、婦女暴行並びに猥褻物陳列罪その他諸々の罪で即刻死刑ですの!! 粗末な物体ごとその体をぶつ切りにして差し上げますからそこから一歩も動くなァああああああああっ!!」 「ちょっと待て白井! お前風紀委員だろうが!! いきなり俺を殺しにかかるんじゃねえ!! そもそも粗末な物体って何の事だ!!」 理不尽な要求に向かって叫ぶ事で抵抗する上条。 しかし足元には脱げた短パン、両手は下着を隠しているのでカッコつかない事この上ない。 「問答無用ですの! お姉様の貞操を奪った罪は万死を持ってしても償いきれませんの!!」 「ちょ、黒子!! いくら人通りがないからって貞操とか大きな声で言うな!!」 美琴は顔を真っ赤にして怒鳴り返すが彼女も彼女で両手で顔を覆いながら指の隙間からチラチラ見ているので説得力は皆無である。 次の瞬間、白井黒子と言う少女を構成する顔のパーツが劇画っぽい表情に変わる。 「はっ!? まさかこの状況はお姉様自ら招いた事だとおっしゃいますの? ……よもやお姉様が殿方と屋外で致してしまうほど飢えていらっしゃっただなんて!! 一言黒子に相談してくださればお姉様の欲求不満などこのゴッドハンドでペギュ」 「それ以上喋るんじゃないわよ!!」 美琴が白井の脳天に向かって垂直にずびし、とチョップを浴びせる。 上条は両手で脱げた短パンを腰まで引き上げながらがっくりと肩を落とし、 「……不幸だ。夕べ洗濯した時にゴム紐が切れかけてたのかな」 シリアスな雰囲気が台無しである。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1051.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox 彼女が水着に着替えたら たらふく水を飲まされた。 「うがぁ……」 げっそりとした表情と共に重い足を引きずって階段を登る上条。 「あー面白かった」 思い出し笑いを続けながら階段を登る美琴。 流水プールでマグロ並の周遊と溺死体ごっこを(主に上条が)一通り楽しんで、二人は名物のウォータースライダーにやってきた。 ここはラージヒルのスキージャンプ台かと思いたくなるほど長い階段を登っていくと、その前方では上条と美琴のように順番待ちのカップル達がずらっと並んでいる。中には一人で挑戦しようとしている者も何人かいるが、周囲のカップルの熱々ぶりがうらやましいのかそれともいたたまれないのか、小さく縮こまっている。 延々と階段を登らされるならスタート地点までエレベーターでも設置すりゃ良いのにと上条は思うのだが、スタート地点で客を捌く都合かはたまた景観を損ねないためなのか、そんな便利な乗り物は用意されてないらしい。 「あー、何で水が落ちてこねえんだろうと思ったら、コースがパイプみたくなってんのか」 ウォータースライダーのコースは底面こそ青く塗られているが、その他の部分は透明度の高いポリカーボネートで筒状に形成されている。だから下から見ててもコースレーンしかないように見えたのか、と上条は納得した。底面が塗装されているのは、スライダー利用客とその下で泳ぐ客、双方のための配慮だろう。 苛烈な趣味を持つ一部諸氏をのぞき、誰だって人の臀部を眺めて泳ぎたくなどないし見せたくもない。 それはともかく。 このスタート地点でさえ地上から三〇メートル弱の高さ。対してウォータースライダーのコース長は約一キロ。と言う事は、上条のあやふやな数学の知識を総動員して計算するとコース全体で平均して約二度前後しか傾斜角が用意されていないと言う事になる。たったの二度ではコースパイプの底面にビー玉を置いて、それが転がり始める程度の運動エネルギーしか得られない。 ウォータースライダーは滑走と速度によるスリルを楽しむための施設だ。ビー玉でもなければこの緩やかな傾斜を滑る事は難しそうに思える。ビー玉のように丸くない人間はどうやってここを滑り落ちるのか。 こう言う難しい話は美琴に聞いてみるのが一番だろうと上条は考える。 『なあ、これってどうなってんだ?』と声をかけようとしたところで、 「はい、次の方こちらへどうぞ」 コースパイプの手前に用意された、赤く正方形に塗装されている地点を係員が指差す。 どうやらここに座れ、と言う事らしい。 先に腰を落とした美琴に続いて上条も同じように腰を下ろすと、 「……で、なんでアンタはそんなにすき間を空けてんのよ。もっとくっつきなさいってば」 「……、んな事言われても……」 上条は美琴の後ろで拳一つ分のすき間を空け、美琴の体を脚の間において、自分の脚を前方に投げ出す姿勢で赤い部分に座った。いわゆる恋人座りだが、今の二人の場合は譬えるなら木から落ちそうになっているナマケモノの親子に似た状態だ。 「すみませんが、もう少し女性に抱きつくようにくっついてもらえませんか? 離れて座られるとセンサーがうまく働かないんですよ」 「センサー? んなもんどこに……って、これか」 上条が首を巡らせると、係員が済まなさそうに指し示す部分に客の体重を測定するらしき小型の赤外線センサーのようなものが設置されていた。センサーは人間一人分、ではなく二人でも三人でもまとめて『一個体』で換算し、何らかの演算を行うらしい。 上条達の背後には、ぽっかりと開いた用途不明の空間がある。まるで排出口のように見えるがあれは一体何のためにあるのだろう。 仕方ないので上条はしぶしぶと座る位置を前に詰め、美琴の背中に自分の胸板をぴたっと当てる。何やら説明のできない感触にうわあ俺どうすりゃいいんだと上条が心の中で葛藤していると、 「ほら、アンタの手は私の肩じゃなくて私の体に回して。体重はこっちに預けるつもりで寄りかかんなさい」 美琴に腕を引っ張られ、仕方なく上条は美琴の肩から手を離した。 どこかでぶぃいいいいいんと響く少し間抜けな機械音と『準備完了(レディ)』という合成音声が聞こえて ドカッ!! 「うおっ!?」 「きゃっ!?」 突然上条の背中が形のないハンマーのような何かにものすごい勢いで叩かれ、上条を通じて美琴の体に衝撃が伝わり、二人まとめてウォータースライダーのコースパイプ内に放り出された。 二人が座った部分に設置されたセンサーは、緩く傾斜したコースパイプの中でもそれなりの加速が付くように、客の総合体重を測定した後最適な出力で客の背中に向かって圧縮空気を『叩きつける』ためのものだったらしい。 さしずめ人間用カタパルト、といったところか。 たった二度の傾斜角しかないはずのコースパイプの中でどんどん加速が付いていく。 圧縮空気によるコースパイプ内への射出だけではなく、パイプの滑走面に流される水と空気が絶妙のバランスで摩擦係数を減らし、速度向上に一役買っている。しかも、一キロという距離を滑っていても水着が脱げることもなければお尻が痛くなることもないのだから、このウォータースライダーを設計した人間はよっぽどのマニアなんじゃないかと上条は推測する。 「どこ触ってんのよ馬鹿!! ちゃんと腰に手を回しなさいってば!!」 「どこ触ってるって言われても分かるかっ!」 二人は加速を続けながらパイプの中で叫び合う。 ここで変態扱いされるのは不本意なので、上条は後ろから抱きしめるように美琴の腰らしき辺りに手を回した。 しかしこの速度はただ事ではない。体感速度と実際の速度は異なるという話を良く聞くが、いったい時速何キロくらい出ているのだろう。 ウォータースライダーと言うよりもこれはボブスレーじゃないのかと思えるほどの速度で二人は着水プールに向かって突き進む。とても悠長に景色を楽しむ余裕などない。 コースパイプがカーブを描き、二人がコーナーを通過する度に視界がぐいんと捻るように九〇度回転し、また元に戻る。 うぉああああああーと言う上条の絶叫。 きゃあああああーっと言う美琴の悲鳴。 二つが不協和音を奏でてポリカーボネイト製のパイプの中に響き渡る。 あ、パイプで仕切られてない空がやっと見えた、と上条が斜め上の空間を見てそんな事を思った瞬間、ザッブーン!! と二人まとめて着水プールの中に放り出された。 深く広く作られ水をなみなみと湛えた着水プールは、まるでスポンジのように着水の衝撃を殺し、加速が付いた二人の体を受け止める。 青い水中で上条と美琴の体が離れ、無重力状態にある宇宙船内部で漂うみたいにくるん、と回った。 上条はぶはぁ、と着水プールの水面に顔を出した。 後ろを振り向くと、同じように美琴も水面に顔を出しているが、 おかしい。 美琴はそこから動こうとしない。 「どうした? いつまでもそこにいると次の客が滑り落ちてきてぶつかるんじゃねーのか?」 「あ、うん……そうなんだけどね」 美琴の歯切れは悪い。曖昧に頷くもののやはり移動しようとせず、その場でちゃぷちゃぷと浮いている。 「どっか怪我でもしたのか?」 上条が泳いで近づくと美琴はザブン、と水音を立てて潜ってしまった。 「……へ?」 そろそろ次のお客達がスライダーから落ちてくる。着水プールの監視員も上条達に向かって『じゃれ合いたいのは分かるがとっとと上がれ』と言う趣旨の警告を発している。 ひとまず上条は美琴を追って水の中へ。 水中の美琴は両手を自分の背中に回しながらぶくぶくと無数の気泡をまとわりつかせて沈んでいく。 (アイツ、何やってんだ?) 泳いで美琴のそばに近づき、人差し指を上に向けて『上がらないのか?』と言うジェスチャーをすると、美琴は両手で自分の胸元を上条から隠して、また沈んでいく。 このまま沈んでいく趣味があるならそれはそれでかまわないが、たとえ美琴が肺活量に絶大な自信があったとしても長々と潜水できる訳ではない。 上条は意味不明の行動を取る美琴の手を引っ張ると、上方向に向かって泳ぎだした。 上条は水面から顔を出すと肺いっぱいに酸素を吸い込んで、 「御坂? お前一体どうしたんだ?」 「……れたの」 か細い美琴の声が続く。 それにしても変な単語だ。 「れた? れたって何だ?」 「……ずれたの」 「ずれた? 何が? 顎の骨か?」 「外れたの! 水着の紐!!」 真っ赤な顔で『これ以上言わせるな!』と美琴が叫ぶ。 美琴の水着から首に回る紐はそのままなので、どうやらトップから背中に回る紐がスライダーから着水プールに落ちた時の衝撃でほどけてしまったらしい。美琴は水中でそれを直そうとしたが紐が水に漂ってうまく掴めず、結果美琴はそのままぶくぶくと沈んでいたようだ。 「……直してやるから後ろ向け」 とは言うものの、着水プールの水深は五メートル。 これはウォータースライダーから着水する際の衝撃緩和と事故防止のために用意されたもので、五メートルもあったら上条も美琴も底に足がつかない。足がつくほど浅いなら最初から美琴も苦労せずに背中の紐を直せるのだが、五メートルの深さでは泳ぐ、もしくは何らかの手段で体を支えなければ背中に手が回せない。 美琴は電撃使いなのでプールの壁に電磁力で張り付いて姿勢を固定するという手段が使えるが、それをここで使ったら不特定の誰かを巻き込んでしまう。 どうするか。 手っ取り早い方法は、二人ともプールの外へ出て背中の紐を直すことだ。だが、問題はそこではない。 水に上がったが最後、美琴の言葉にしてはいけない部分がうっかり見えてしまうかもしれない。 と言う訳で、上条はいったんプールから上がり、プールサイドから着水プールに向かって目をつぶったまま『ほらよ』と首を伸ばす。 美琴は両手を伸ばし、上条の体で自分の胸元を隠すようにしてプールから上がり、美琴がプールから完全に上がった時点で上条が美琴の背中に手を回して紐を直す、という方法で 「……こっち見るんじゃないわよ」 「……分かってるよ」 上条は目を閉じたまま両手両膝をプールの縁につけ、畑からサツマイモを引っこ抜くかのごとく首にぶら下がった美琴を水中から引き上げる。美琴はプールの縁に足をかけて水中から上がり、そのまま上条の体を目隠しに使う。 美琴が完全に水から上がったのを確認すると、上条は美琴の体にへばりついた紐を一本ずつ手で持って、背中の真ん中でちょうちょ結びに直し 「……、ほれ、できたぞ」 「……ありがと」 プールサイドで正座した上条と美琴が向かい合うという変な構図で、 「……見てないわよね?」 「……見てねえよ」 そりゃちっとは興味があったけど、と言う言葉を飲み込むと上条は神妙に頷いた。 上条当麻の半分は正直でできているのだ。 お腹が空いたのでお昼ご飯を食べようと言う事になった。 美琴の支度が遅れた分プールに入るのも遅れて、その分上条達の昼食の時間も後ろにずれたので、ここにしようかと選んで入ったカフェテリアのレジカウンターも店内の四人掛けテーブルにも空きが目立つ。 店内の通路も防水処理加工を施された椅子もゆったりとした欧米サイズで作られていた。カフェテリア全面に取り付けられた大きなガラス窓から自然光を取り込んで、店内にいながらオープンカフェのような開放的な雰囲気でくつろいで食事が摂れる。いかにもセレブ御用達のリゾート地でお目にかかれそうなカフェテリアだった。 座席確保を気にする心配もなさそうなので、上条は食べるもの、美琴は飲むものと手分けして調達する事にした。混雑対策のため複数用意されたレジカウンターでは、暇そうな男性店員があくびを噛み殺している。 この後もいくつかプールを回ろうと話しているので、食事は胃にもたれないものをという美琴の希望によりサンドイッチと、もう少し何か欲しいなという上条の選択でソーセージの盛り合わせを購入した。笑顔がチャーミングな店員のお姉さんからお皿を受け取ると上条は手首のICバンドで精算を済ませる。 さてアイツはどこへ行ったかなと上条が店内をキョロキョロ見回していると、窓際のテーブル席で美琴が『こっちこっち』と上条に向かって手を振っている。 大きなガラス窓の向こうには、まるでファッションモデルのようなカップルや上条達のように初々しく腕を組んで歩く男女、そして『ひんにゅーばんざーい』や『ロリは正義やでー』というどこかで聞いた事のある台詞も耳に入ったが、そっちはもう聞き違いの一手であって欲しい。 美琴と差し向かいで食事を摂ると上条はどうしても美琴のとある部分に視線が集中しそうなので、 『一ヶ所にじっとしてっと日焼け止め塗っても焼けるかも知んねーから念のためにパーカー着ておけよ。ここってやたら陽射しが入るみたいだし』 という上条のそれらしい説得により、美琴はライムイエローのゲコ太パーカーをクロークから取り戻して羽織っている。当然ファスナーは上まで引き上げ済みだ。 その後で美琴は 『もちろんあとでアンタが脱がせてくれんのよね?』 『……なあ、それだとまるでバカップルっぽくねえか?』 バカップルには二通りある。 周囲に見せつけることを目的とした狭義の意味での『能動的な』バカップルと、 自分たちのことに精一杯で周囲にまで気を配れない、いわゆる初心者カップルがやらかしてしまう『受動的な』バカップルが存在する。 上条達の場合はどちらかというと後者だが、美琴の行動が若干前者に近いので、上条としては遠慮被りたいのだ。 美琴が確保した席に上条が戻ると、カフェテリアで使うには少々値の張りそうな黒くどっしりしたテーブルの上に、ドリンクの入ったグラスが一つ。 グラスの中には細かく砕かれた氷と、パイナップルをベースにしたと思われるいかにもトロピカルなジュースと、一口大にカットされた色とりどりの果物が放り込まれている。 でも、グラスは一つしかない。 上条はジュースの入ったグラスを見ると首を傾げて、 「……、あれ? 俺の分はねえのか?」 「あるじゃない、アンタの目の前に」 そんなことを言われても納得できない。 上条は黒いテーブルの上にサンドイッチとソーセージの盛り合わせが乗った皿を置いて、両手で目元をゴシゴシとしつこくこする。 手品でも何でもなく、ジュースの入ったグラスは一つしかない。 上条と美琴の目の前にあるテーブルに置かれているのは、 細かく砕かれた氷とパイナップルをベースにしたと思われるいかにもトロピカルなジュースと一口大にカットされた色とりどりの果物が放り込まれて、途中がハート型に曲げられたストローが二本刺さったハンドボールくらいの大きさのグラスが一つ。 上条はやだなあ何の冗談だよと思いつつ、 「……、御坂たん。聞きたくないけどこれってもしかして」 「見ての通りこれで二人分よ。それから何気なく御坂たんて言うな」 「はぁ? 何で別々のグラスにしてもらわねえんだよ?」 「何でって言われても、ここのは最初からこうなんだから仕方ないじゃん。それとも何? この二人分のジュースを一人で飲めと言うのかアンタは」 上条は近くのレジカウンターまで走って壁に貼り付けられたドリンクメニューを読んで絶句する。 お客がお一人様でウォーター・パークを訪れる事は想定されていないのか、このカフェテリアではコーヒー以外の飲み物は全て、基本的に二人前の分量でオーダーする事になっているのだ。もちろんストローを二本添付、というのも店員が給仕する際の基本設定(デフォルト)。 つまり、上条は飲みたくもないコーヒーを別口に注文するか、新たに飲み物を購入して一人で二人分に挑戦するか、何も飲まずにサンドイッチとしょっぱいソーセージをやり過ごすか、美琴と一緒に目の前のトロピカルジュースを飲むしかない。 ストローが二本刺さっているからと言って、美琴と同時にジュースを飲まなければどうと言う事はない。美琴が飲んでいない時を見計らって飲めばいいかと思い直し、上条は椅子を引いて腰を下ろした。 「はい」 ドスン!! と。 リゾートには不似合いな威勢のいい音が聞こえたと思ったら、幸運を呼ぶ壺かダンクシュートのように、上条の向かい側で大きなグラスを両手で支えて台座をテーブルのど真ん中ヘ叩きつけるゲコ太パーカーを着た少女が。 「……つべこべ言わないでアンタは私とこれを飲むの。いい?」 こんなコテコテのカップルみたいな真似事をするのは嫌だと思っていた考えを見透かされ、据わった目で美琴に睨まれて、逃げ場を失った上条は震える唇で小さく一言だけ『……はい』と告げる。 ところで、このウォーター・パークは周囲の施設を含み、リゾートを主題にした研究エリアだ。 その研究施設で最大規模を誇るウォーター・パークのテーマは『夏』。 ようするに、このエリアで一番大きな施設が夏以外は研究に使えない。 「んなわけないでしょ」 上条が『なぁ、ここって冬になったらどうなるんだ? 全面スケートリンクにでも変わんのか?』と質問したところ、美琴が苦笑混じりで答えを告げる。 「天気が悪い日や冬場は屋根がかかるの。ドーム式のヤツがね。だからここは冬でも泳ぎに来れんのよ。水はそのままじゃ冷たいから温水に切り替わるけど」 「へぇ、そうなのか。こんな広いパーク全面に屋根がかけられるなんてすげーな学園都市」 「その屋根も研究対象ってんだから大したもんよね。次世代の太陽光発電システムを開発中とやらで、無駄に広い表面積を利用して施設で使用する電気をまかなえるらしいわよ。……本当は冬のうちにアンタと一回ここへ来たかったんだけどさ」 「何で冬だとダメだったんだ?」 上条の素の疑問に美琴がはぁ、と小さくため息をついて、 「……アンタがそれを分かってないからでしょうが。鈍いアンタに何度も気持ちを伝えて、ご飯作りにアンタの部屋に通って、いろんな事教えてようやく恋人らしくなったから二人でここに行こうって気になったんじゃない。冬の頃のやたら反応が薄いアンタだったら、誘ってもアンタが即座に『嫌』って言うか、来てもスタスタ一人で泳ぎに行っちゃうのが見え見えだもの」 上条と美琴の恋は、美琴視点でシナリオを起こせば美琴好みの心情描写に焦点を当てた主観的な恋愛映画が一、二本は楽に撮れるくらい激動に満ちている。美琴本人はもっとゆったりした静かな恋愛物が好みであるが、ゆったりや静かを通り越して反応がないに等しかったかつての上条が相手では、それは望むべくもない事だ。 動物園の飼育係が野生動物を手なずけるのと同じくらい、聞いているだけで美琴の涙ぐましい努力の跡が垣間見える話でも上条にとっては『そうだっけ?』くらいの感慨しかない。 その上条にしても、いい加減な気持ちで交際を始めてから本当に美琴が好きだと思えるようになるまで紆余曲折があった。美琴が上条の手を引いてものすごい勢いで走っているジェットコースター感覚が強かったため、付き合い始めてから半年以上経つのに『いくら何でも急ぎすぎじゃねえの? もっとゆっくり行こうぜ』という気分なのだ。 こんな感じで二人はとりとめもない会話を楽しんでいたのだが。 上条がいざジュースのストローをくわえようとすると、美琴がグラスに顔を近づける。 上条がグラスから顎を引いても、美琴は片肘をついて悠然とストローをくわえたまま、上条の目を見つめながらジュースをちゅーっと飲んでいる。 最初に食べたソーセージがやたらとしょっぱかったので、ジュースを飲もうと上条がストローに指をかける度に、美琴は思わせぶりに美琴の分のストローをつまむのだ。 これではいつまでたっても上条は喉を潤せないし、ジュースを飲めないから次のサンドイッチに手が出せず、お腹も膨らまない。 美琴がはい、とサンドイッチを一切れつまんで上条に差し出しながら 「……アンタ全然食が進んでないみたいだけど、どうしたの?」 サンドイッチを食べるにしても、先にジュースを飲みたい。水分の少ないパンを食べたら口の中がカラカラになりそうだ。 ひとまず上条は美琴の手からサンドイッチを受け取る事にして、 「……何やってんのよ、口開けなさいって。ほら、あーんして」 上条が美琴の持つサンドイッチに伸ばした指をかわして、美琴がサンドイッチをつまんだ手ごと上条の口元に差し出す。 「……、普通に食わせてくれねーか? あとサンドイッチを皿ごと持ってくなよ」 「だから普通に食べさせてあげてるでしょ? 犬やオットセイみたいに投げたものを空中でキャッチして食べろとは言ってないんだから」 「ここはウォーター・パークじゃなくて動物と触れあえるレジャーセンターだったのかよ!? 俺で遊ぶな!!」 「遊んでない遊んでない。だからほら、口開けて」 バレンタインデーの時に上条はこのパターンで美琴にチョコを奪われているので、遊んでないと言われてもつい疑り深くなってしまう。 「……ぎりぎりで手前に引っ張って『残念でした』とかやらねえだろうな?」 「こんなところでそんな幼稚な事しないわよ。周りの方がもっとすごいもん」 ほら……と小声で呟く美琴がこっそり指差した方を上条が振り返ると、 「な……ちょ……げ……」 そこには抱き合いながら一切れのサンドイッチを一本のプレッツェルよろしく両端からかじっていくカップルの姿が。 サンドイッチはプレッツェルほど長さがないので、あっという間にカップルの顔の間で原型を失っていく。 そして 「…………ぎゃあああああああああああーっ!!」 離れているのに生々しい音が聞こえてきそうな決定的瞬間を脳内に収めてしまい、一声叫んでもうダメだと両手で頭を抱えてテーブルの下に潜り込む上条。 「……おーい、出てこーい。もう終わったから大丈夫よ。あのカップル、店の外に出て行ったから」 凶暴な大型犬に見つかるまいと隠れた子犬を呼び出すようにテーブルの下をのぞき込む美琴。 頬を染めつつもカップルの一部始終を最後まで見届ける辺り、美琴には何か思うところがあるのかも知れないが、くっきりと脳裏に刻まれてしまった映像を消去するのに必死な上条はそれどころではない。 上条はテーブルの下から涙目になった顔だけを出して、 「まさか……御坂たんは俺にあれをやれと?」 「アンタがやりたいって言うなら挑戦してあげても良いわよ? あと、さりげなく御坂たんて言うな」 何故だろう、哀しくないのに溢れる涙を止められない。 「……、やっぱり普通で良いです俺」 上条はテーブルの下からもぞもぞと這い出ると、美琴の向かいの席にぐったりしながら座り直し、美琴が差し出したサンドイッチにかじりついてもぐもぐと咀嚼する。 人間とは大きな不幸を目の当たりにすると小さな不幸などどうでも良くなる生き物なのだ。 「おいしい?」 おいしいかと問われればおいしいのだが、おしなべてこう言ったテーマパークの食事は外で食べるものより値段が割高だ。費用対効果(コストパフォーマンス)は望むべくもない。 だから上条は思った通りのことを口にした。 「……お前が作った方が美味いんじゃねえの?」 その方が金もかからねえし、と上条が告げる前に、上条の前に食べかけのサンドイッチを差し出していた美琴の動きがビクッ! と固まった。 上条の何でもない言葉に何故か美琴は狼狽して、 「……ななな、何馬鹿な事言ってんのよ。こう言うところってプロが作ってんのよ? 私が比べものになる訳ないでしょ」 はたして上条の言葉通りなのか味を確かめるべく、美琴は手にしていた食べかけのサンドイッチを口の中に放り込むと、 「―――――――――――――――――――――!!!」 そのサンドイッチは直前に誰が食べていたのかを思い出したらしく、美琴は顔どころか耳まで真っ赤になった。 「御坂? これってそこまでマスタード効いてなかったと思うんだが……辛いのか? お前もしかして超甘党で辛いのはちょっとでもダメ、とか言う奴だったっけ?」 「……………………………………」 美琴は硬直したまま何も言わない。 「とりあえず、ジュースでも飲んだらどうだ?」 上条が向かい側にグラスを押しやると、美琴は自分のストローをつまんで真っ赤な顔のままトロピカルジュースを飲み、直後に何か取り返しの付かない失敗をした時に浮かべる表情を両手で覆い隠してテーブルに突っ伏した。 何だかよく分からないが美琴がジュースを飲む事を断念したらしいので、上条はグラスを手元に引き寄せて久しぶりの水分補給を行う。 しょっぱいのとパサパサなのを相殺してお釣りが来るほど、初めて飲むトロピカルジュースは甘かった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3066.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/消えゆくあいつの背中を追って 美琴は病院へと戻り、上条を治す準備が出来たとカエル顔の医者に報告した。 カエル顔の医者は突然の美琴の報告に驚いたが、美琴から事情を聞くと納得し(テスタメントという単語を出たときは渋面を浮かべていたが)、 念のために美琴が知識を得られているかのいくつかのテストを行った後、上条を治すための手術を開始した。 手術中、美琴は能力を使って上条の神経を隅々まで調べ、異常になっている部分を修復していった。 少しでも加減を誤ると致命的な事態になってしまうのだが、美琴は十分すぎるほどの集中力を発揮し、問題なく手術は進んでいった。 治療が後半に差し掛かったとき、カエル顔の医者が美琴を制止した。 「今日はここまでだね」 「えっ? でも、まだ終わって……」 「今の状態でも当分は安全だよ。それより、君は自分の状態を把握できているのかい?」 「状態……?」 美琴は一瞬カエル顔の医者が言っていることの意味がわからなかった。 しかし、一度手をとめて気を緩めた瞬間、強烈なめまいに襲われる。 「あれ……?」 「神経を使う作業だからね。君が思っている以上に疲労が溜まっているようだ。 このままでは治療にも影響が出そうな雰囲気だったね?」 「そんな……。すいません、気が付かなくて……」 「いいや、君は本当によくやっている。気にする事はないよ。 とにかく、今日はここまでだ。続きは明日にしよう。 それまで君は体を休めているといい」 「はい……」 手術が中断された後、上条は病室へ移された。 上条はしばらくの間眠っていたが、その間に、その部屋には彼を心配する人々が集まっていた。 見事なまでに女性だらけであり、美琴はやや離れた部屋の入り口付近で、若干引き気味でその光景を見ていた。 「う、う~ん」 上条が目を覚す。 美琴は上条に声をかけようとしたが、それより前に、白い修道服を来た少女が上条に飛びついた。 「とうま!」 上条は突然の事に驚き、その少女、インデックスを落ち着かせようとしていたが、 インデックスは上条に抱きついたまま動こうとはしなかった。 美琴はその光景をしばし呆然と眺めていたが、様子はそのまま変わらなさそうだったためか、 ふらりと部屋の外へと姿を消した。 その後、上条はインデックスと後続で飛びついてきた女性達をなんとか引き離し、自分の体を状態を調べていった。 以前の症状が嘘のように、自由に体を動かすことができる。 「……俺は、治ったのか?」 上条の問いにカエル顔の医者が答える。 「これで、半分といったところだね」 「半分? ……ってことは、まだ」 「そうだね。一応、君の体は以前のように動かせるようになっているはずだよ。 ただ、このままだといずれ、症状が再び進行してしまうね」 「そうですか……」 「心配しなくていいよ。半分と言っただろう? 明日の残り半分で、君を完治させてあげられるね」 その言葉を聞き、安堵する上条。 そこへインデックスが割り込んだ。 「どうしてとうまは半分しか治ってないの?」 「彼の治療はなかなかに気の長い作業になってしまっていてね。 御坂君の負担を考えると1回でというわけにはいかなかったんだ」 「御坂……あれ、そういえば、御坂は? さっきまでいたよな?」 上条は目を覚ました時、部屋の中に美琴がいたことを確認していた。 治してもらったお礼を言おうとして、再度部屋の中から美琴の姿を探したが、そこに彼女の姿は無かった。 「先生、御坂がどこいるかわかりませんか?」 「いつの間にか部屋から出て行ったようだね。今彼女がどこにいるかはわからないが、 明日に備えて彼女もここに泊まることになっている。彼女が泊まる部屋に行けば会えるんじゃないかね」 それなら後で礼を言いに行こうと思い、上条はカエル顔の医者から、美琴が泊まっている部屋の場所を聞いた。 ----- 美琴は自分の寝室として貸し出された病室で、ベッドに腰掛けていた。 「はぁ……どうしちゃったのよ、私」 美琴の脳内に先ほどの光景が蘇る。 白い服を着たシスターが上条に抱きついている、その光景を見たとき、美琴は胸に鈍い痛みが走った。 そして気がついたら、いつの間にかここに逃げ込んでいた。 「なんでこんなにモヤモヤした気分になってんのよ……」 そのときからずっと、胸騒ぎのような、不思議な感情が収まらない。 ただ、美琴にはその感情がどういうものなのか、理解ができなかった。 美琴はふと、とあるメモを持ち出し、その中身を確認する。 それは、 学習装置《テスタメント》で知識を得る前に作成した、記憶を失っていないかどうかのチェックリストだった。 その中の一つに目が留まる。 『上条当麻を助けなければいけない理由は何?』 「私がアイツを助けなきゃいけないのは、妹達を助けてもらったから。 ううん、それ以前に、目の前で死にそうになってる人を放っておけないし……」 一度目を通した時は、それが正解だと思っていた。 しかし、改めて考え直してみると、何か間違っているような気がする。 ひょっとしたら、何か重要な事を忘れてしまったのではないか。そんな不安がよぎる。 美琴の胸の中のモヤモヤは、次第に大きくなっていった。 突然、美琴のいる部屋のドアが開く。 「よっ、今いいか?」 入ってきたのは上条だった。 「アンタ……ノックくらいしなさいよね」 上条の突然の訪問に、美琴は呆れたように返事を返した。 「お見舞いに来てくれてる人たちの相手しなくていいの?」 悪意を込めたつもりは全く無かったはずなのだが、どこかトゲトゲしい口調になってしまう。 「今日のところは、もう帰ってもらったよ」 「……そう」 「御坂、お前にはほんとに世話になった。感謝してるよ」 「……アンタには、でっかい借りがあったから。それを返しただけよ」 「んなことはねえよ……って、何か怒ってらっしゃる?」 「……別に、怒ってなんかないわよ。ってかアンタ、いきなり部屋出て動き回ったりして平気なの?」 「おかげさまで、このとーりピンピンしてますよっと」 そう言って、上条は突然スクワットを開始した。 そして何回目かのときに、バランスを崩して派手に転倒した。 「ってー」 「……アンタ、馬鹿じゃないの? ちょっとの間とはいえ寝たきりだったんだから、そんなすぐに動けるようになるわけ無いでしょ」 美琴は冷ややかな目で上条をみつめる。 「はは、そういやそうか……」 「もういいから、部屋でおとなしくしてなさい」 なんなら連れて行こうか、と美琴は提案するが、上条はそれを辞退し、そのまま部屋に帰った。 再び部屋に一人になった美琴は、あることに気づく。 「あれ、治ってる?」 美琴の胸の中のモヤモヤしたものが、いつの間にか消え去っていた。 不思議に思う美琴だったが 「ま、治ったんならいっか」 特にこだわることはなく、そのまま気にしないことにした。 しかし、美琴も気が付かないレベルの、小さなチクリとした痛みだけは残っていた。 ----- 翌日、美琴は再度上条の治療のための手術を行っていた。 しかし、昨日とはうってかわって、作業は難航していた。 難易度としては昨日と変わらないはずだったが、美琴自身の能力の制御が甘くなっているのか、何度かヒヤリとするような事も起こっていた。 フォローに徹しているカエル顔の医者がいなければ、何が起こっていたかわからない。そのような状態だった。 (なんで、集中できないのよ……) 美琴の胸の中のモヤモヤが、いつの間にか復活していた。 「コイツは治ったあと、どうするんだろう」ふとそう思ったとたん、昨日見たある光景が頭から離れなくなった。 雑念混じりの状態ではあるが、美琴は頭をフル回転させて上条の治療を進めていく。 しかし、無理がかかっているのか、少しずつ、頭痛が美琴を襲うようになった。 余計なことを考えず、集中しろ。 そう自分に言い聞かせる美琴だったが、一向に効果は出ない。 そして、またも危うくミスをしてしまいそうになる。 カエル顔の医者は、何かを迷っているようだった。 おそらくは、治療を中断させるかどうかだろう。 この段階で中断してしまうと、今日の分の治療は意味をなさなくなる。 そして、美琴にもできないと判断されてしまうと、この方法で上条の病気を完治させることは不可能となるだろう。 すぐにどうこうという状態は脱してはいるものの、上条はこのままでは爆弾を抱えたまま生活を送ることになる。 しかし、そんなことよりも (コイツは絶対、「私が」助けるんだから!) 美琴には治療を中断するという気はさらさらなかった。 カエル顔の医者も、そんな美琴の表情から察して、制止しようとはしなかった。 治療は少しずつ進んでいくが、美琴の頭痛は激しさを増し、頭の神経が焼き切れてしまうのではないかと思えるくらいだった。 しかし、美琴はすべての気力を振り絞って能力の演算を続けた。 突然、美琴の頭の中に、上条と初めて出合った頃の情景が浮かんできた。 当時は子ども扱いされたことに腹を立てていたが、今では笑い飛ばせそうだ。 妹達を救ってもらった。偽デートをした。罰ゲームをした。外国まで追いかけていった。 次々へと、上条との思い出と、その当時の美琴の感情が蘇っていく。 (ああ、そっか。あのことを忘れてたんだ) 美琴は、自分が「ある感情」を忘れていた事に気付いた。 それはとても重要なもので、美琴は思い出せたことにホッとする。 いつの間にか胸の中のモヤモヤが消えていた。集中力も戻ってきた。 頭痛だけが消えずに痛みを増してきていたが、美琴は治療の成功を確信していた。 なんのために上条を助けるのか、それに対する明確な回答を見つけられたから。 ほどなくして、手術のすべての工程を終え、上条の治療は完了した。 同時に、美琴は意識を失い、その場に倒れこんだ。 ----- 上条は目を覚ました後、完治祝いということで大勢の友人達から手荒な歓迎を受けた。 そんな中美琴の姿を探してみたが、今回も美琴の姿が部屋の中に無かった。 前回は疲れて休んでいたというのが理由だったが、今回もそうなのだろうか。 上条は友人達と話している間も、ずっとそのことが気がかりになっていた。 友人たちが帰った後、上条は昨日美琴が泊まっていた部屋を訪ねた。 しかし、その部屋は誰にも使われていない状態になっていた。 「御坂君を探しているのかい?」 突然後ろから声がかかる。 上条が振り返ると、そこにはカエル顔の医者がいた。 ちょうどいいと、上条はカエル顔の医者に問いかける。 「先生、御坂はもう帰ったんですか?」 カエル顔の医者はその質問にはすぐ答えず、少し間をおいた後 「ちょっといいかな?」 場所を変えることを提案してきた。 ----- 「面会謝絶!?」 カエル顔の医者が言うには、美琴はまだ病院にいるらしい。 しかしどういうわけか、面会謝絶という不穏な状態になっているようだった。 「本人の希望でね。1日だけ、誰にも会いたくないらしい」 「先生! 御坂に何かあったんですか!?」 カエル顔の医者は答えない。 上条がそれでも問いただそうとすると、カエル顔の医者はため息をつき 「……そうだね。患者に必要なものを用意するのが僕の役目だからね」 と独り言のように呟いた。 そして、上条に向かって、美琴の所在を伝えた。 「彼女は……○○号室にいるよ」 上条はその言葉を聞くと、即座にその部屋まで走っていった。 ----- 美琴のいるはずの病室のドアが、勢いよく開かれる。 「御坂!」 中に飛び込んだ上条が辺りを見回すと、ベッドの上に座っている美琴の姿を発見した。 美琴は突然の上条の訪問に驚いているようだった。 「な、何?」 美琴の姿からを一見して、特に別状が無いように思えた上条は、安堵のため息をついた。 「無事、なんだよな……? よかった、一時は俺のせいでお前がどうにかなっちまったのかと思ったよ」 一方、美琴は上条の姿を見て、少し焦っていた。 「え、ええと……そうですね。特になんともないですよ?」 その美琴の言葉は、上条に頭を殴られたかのような衝撃を与えた。 固まってしまった上条を見て、美琴はいかにも「まずい」という表情を一瞬だけ作り、あわてて表情を戻した。 どうして敬語を使ったのか。不思議に思った上条が美琴に問いかける。 「なんで、敬語……」 「え、ええと……その」 美琴は何かを迷っているようだった。 上条は美琴の返事を待った。 「ちょっと驚かせようと思っただけよ」 美琴はそう言って目をそらした。 上条には、美琴のその反応が、何かをごまかそうとしたように見えた。 突然面会謝絶にして他人との接触をさけたこと、突然ぎこちない話し方になった理由。 上条の頭には、ある可能性についてが浮かんだ。そしてその可能性について、上条は聞かずにはいられなかった。 「なあ御坂」 「な、何よ……」 「もしかして……俺の事、覚えてないのか……?」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/消えゆくあいつの背中を追って