約 1,861,610 件
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2226.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Love is blind 第8話 夢のような 「はっ、はっ……もうすぐ、もうすぐだ!」 上条当麻は、街中を無我夢中で走っていた。 足が地に着いていない気がする、まるで夢の中にいるような感覚だ。 上条が言う“もうすぐ”、この台詞は“もうすぐ告白できる”、ということだ。 「御坂に渡された解毒薬は飲んだ!後は、御坂に会って告白するだけだ!!」 周りの人なんて気にならない。 一刻も早く美琴に会いたい、ただそれだけの理由で、上条は街中を駆けて行く。 その後どれだけ走ったのだろうか。 はっきりとした距離はわからないが、相当な距離を走ったはずだ。 それでも疲れないのは、美琴への想いが強いからかもしれない。 そして、ついに――― 「!!御坂!」 直線の向こうに立っているのは、この世で最も愛しい人、御坂美琴だ。 背を向けた状態で歩いていた彼女だったが、上条の声に気づいたのか、美琴はこちらを振り向いた。 (ッッ!!!!や、やべぇ、緊張してきた…) 胸が高鳴る。 上条は自分が歩いているのか走っているのかわからなくなるほど緊張していたが、なんとか美琴の元へ辿り着いた。 目の前の彼女の顔がまともに見れない。 視線をやや横にずらし、 「あ、あのさ、さっきは解毒薬持ってきてくれてありがとな。」 「……」 「そ、それで、だな、えーと、言いたいことがあって。」 「……」 「ずばり言うぞ?俺は、お前が好きだ。だから、付き合ってくれ!」 緊張しているためか、手には汗が握られている。 告白を受け止めてくれるだろうか、それとも断られるだろう。 正直怖かったが、上条は美琴がどんな反応をしようとも、全てを受け入れるつもりだった。 「え!!?お、おい、御坂、あの、」 「私も、当麻のことが大好きだよ?」 「!!ほんとか!?」 「うん!だから、キスしてほしいな?」 「あ、え、お、おう。」 美琴の意外な積極性に驚きながらも、 上条は美琴の肩に手をかけ、距離を縮める――――― ♢ ♢ ♢ 暴走した黒子によって引き起こされた、『カラオケ店連続テレポート事件』から1時間後。 気絶から復活した上条は、落ち込んだ様子で街中の路地裏に潜伏していた。 「はぁ……あの夢が現実だったらよかったのに…」 夢。 『俺、この騒動が終わったら御坂に告白して付き合うことが夢なんだ。』の、夢ではなく、寝ている最中に無意識に見る夢の方だ。 つまり、解毒剤を飲んだことも、美琴に告白したことも、キスをしてことも、全てカラオケ店で気絶している間に上条が見た夢だった。 目が覚めた後、全てが夢だとわかり軽く鬱になったし、解毒薬すら手元になかったことに絶望を覚えた。 「まあ展開が早かったし、背景もずっと同じだったし、走っても疲れなかったし……今思い出せば明らかに夢なのになんで夢の中で“あ!これ夢だ!”って気づかないんだろ…」 よくあることである。 夢の中では『自分は今夢の中にいる』、と中々認識できないものだ。 で、上条が路地裏に潜伏するはめになった経緯だが、いい夢を見ていた後のことだ。 黒子とは別に駆けつけた風紀委員の人によって幸せの夢の国から引っぱり戻されたのだが、不幸体質だからだろうか、その風紀委員は女子生徒だった。 しかも、無意識に会話をしてしまったので、条件を満たすこととなり、その女の子にまで追いかけられるはめとなった。 そんなわけで、路地裏に潜伏しているわけである。 散々追いかけられたせいか、制服には汚れが目立ち、今日1日彼がどれだけ苦労しているのかを現していた。 「風呂に入りたいな………そういえば、カラオケでの御坂ってなんかいつも通りだったような…あれ?増強剤の影響を受けてるなら初春さんとかみたいになるはずなのに……」 改めて思い出してみるものの、美琴と他の女の子の上条への接し方の違いは明白だ。 また、公園であったときの美琴とカラオケでの美琴でも、上条への接し方が違っている。 「……やっぱりよくわからん。とりあえず御坂を探しに行くか。」 美琴を探す、というのは、単純に会いたいという理由だけではなく、彼女がまだ解毒薬を持っている可能性が高いからだ。 カラオケ店になかったのだから、美琴が持っているという考えに辿り着くのは必然のこと。 上条は美琴に会いに行くため颯爽と路地裏から飛び出し………はせず、路地から顔を出し、身長に周りの様子を伺う。 もうこれ以上女の子に出会って追いかけられるわけにはいかない、そのためにもより一層慎重に行動する必要があるのだ。 しかし、目の前の道は大通りで人が多いため、知り合いの女子がいるかどうかはよくわらない。 「結局は誰にも会わないことを祈るしかないか…よし!」 上条は路地からの出発を決意。 美琴を目指し、路地から一歩目を踏み出したときだった。 「んん?なんだお前、そんなとこで何してるの?」 右側の人ごみから突然声をかけられた。 しかもその声は女性のもの。 振り向かずこの場から走り出すのか正解なのだが、上条は反射的に声のした方向を見てしまった。 「げっ!」 上条は驚愕した。 そこに立っていたのは、顔にかなりの量のピアスをつけ、黄色の服を着た女性。 その女性の名は 「ヴェ、ヴェント…なんで学園都市に…?」 上条にとっては最悪の展開。 なんたってヴェントは『神の右席』1人、全世界でもトップクラスに位置する魔術師だ。 その彼女がなんで学園都市にいるのか、上条にわかるわけもなく、ただただ唖然とするばかりだった。 また事件か、それとも学園都市を侵略にでもきたのか、上条がガクブルっていると 「なんでって……連れてこられたのよ。」 「連れてこられた?」 「ああ。どこぞのバカ王女が急に“学園都市に観光に行くし”とか言い出してね。」 ヴェントの言う『どこぞのバカ王女』。 その言葉から上条が想像したのは、以前イギリスで思い切り殴り飛ばした王女だった。 その人物が学園都市に来るわけが無い、来る理由も無い、そう思うも『バカ王女』に当てはまる人物は他に考えつかない。 「…一応聞くけどさ、それってキャーリサ?」 「アイツ以外誰がいるのよ。」 ヴェントの答えに“ですよねー”、と上条は呟いた。 これでキャーリサが学園都市にいることが確定、どうやら本日の不幸はまだまだ続きそうだ。 「でもそのバカ王女が勝手に国外に、ましてや科学サイドの学園都市に来るなんて公にできないのよ。だから誰にも内緒で来たんだけど…」 「だけど?」 「護衛がいるってことで強引に連れてこられたのよ……でも着いたら着いたで一人でどこかへ勝手に行っちまうし……」 はぁー、とヴェントは深いため息をついた。 かなり苛ついているように見えるのは、多分気のせいではない。 だが、本当の問題はキャーリサが来ていることでも、ヴェントがいらついていることでもなく、ヴェントが薬の効果を受けるのかどうか、ということだ。 (ヴェントに好きなやつがいるなんて考えにくいし……逃げるべきか…?いや逃げられる相手じゃないよな…) つーかヴェントって科学の町嫌いだからキレたらヤバいんじゃね?とか考えていると、 「ちょっと、聞いてるの?で、アンタはこんな路地裏から出て来て何してたのよ。」 「あ、ああ悪い。ここから出て来たのは追いかけられ………あれ?お前…なんともないのか?」 「なんともない?何が?」 「え?…あれ?」 驚いたことに、ヴェントは上条に惚れた様子を一切見せない。 上条は睨んでくるヴェントから目を離し、なぜ変化がないのか考え始める。 (まさか好きなやつがいる……いやそもそもあんな薬の影響なんかヴェントは受けないんじゃないか?最高峰の魔術師だし、効かなくてもおかしくないよな。) そう考えた上条は確認のために、もう1度ヴェントに視線を移す。 そして、端から見ると少し変に思われるかもしれないが、まじまじと全身をくまなく見回す。 「………?」 ………やはり変わった様子はない。 見てんじゃねーよ、と言わんばかりにギロリと睨んできているし、いつも通りだ。 睨まれるということは普通なら怖いことなのだが、上条にとってはありがたかった。 「いやなんともないなら別にいい。じゃ、俺はもう行くからな。」 ヴェントを町に放っておくことは若干危ないかもしれない。 学園都市を壊滅に追い込んだことのある前科があり、危険人物であることは否めない。 が、ロシアでほんの少しだけ共闘っぽいこともしたし、今回は護衛的なことで来ているし、大丈夫だろう。 上条がヴェントに背を向け、人ごみの中を歩き始めようとしたとき 「あ、ちょっと待って。付き合ってほしいんだけど。」 上条はヴェントに背を向けた状態で停止した。 そして数秒かけ、ロボットのような動きでヴェントのほうに振り返る。 「な、なんで?」 「いいから付き合いなさい。」 睨むヴェント。 そして睨まれた上条は考える。 (この場合どうする…?買い物に付き合うくらいなら…でも時間かかりそうだな。それの御坂以外の女の子と2人っきりっていうのは嫌なんだよなー……) かといって断ったらぶっ殺されそうだ。 (買い物に付き合うふりをして、こっそり逃げるのが得策か。) 増強剤の影響を受けていないのだから、他の女子のようにやっかいなことにはならないだろう。 考えがまとまった上条は 「OKわかった。付き合うよ。それでどこに行くんだ?」 「そうね…まずはすぐそこのホテルにでも行きましょうか。」 「了解、じゃあ早速……え?ホテル?」 上条の額に冷や汗が吹き出た。 「え…っと、それは…なんで?体調でも悪いのか…?」 「はぁ?何言ってるのよ。私たちは“男と女”として付き合ってるんだから、ホテルに行くのは当然でしょ?」 「オーマイゴッ!!!」 上条は空に向かって、力の限り叫んだ。 そして周りの通行人からかなり注目を浴びてしまったのは、言うまでもないのだが、今はそれどころではない。 (ヴェントも思いっきり増強剤の影響受けてるじゃねーか!!誰だよヴェントには効かないって言ったやつ!!!) 現在、上条の頭の中はパニック状態。 なんたってヴェントは今までの女の子たちとは別格の強さを誇る。 ということは、上条に振られて凶暴化した際に、より一層上条の命が危険にさらされるというこだ。 この状況をどう切り抜けるべきか、考えようとするも、そんなすぐには良い案など思い浮かばない。 「さあ…ホテルに行k」 「じゃあなヴェント!また会う日まで!!!」 上条はヴェントの話も聞かずに逃走を開始。 絶対に追いつかれてはいけないので、背後に細心の注意を払いながら全力で走る。 しかしそう簡単に思い通り物事が進まないのが、上条クオリティ。 「いてっ!」 走り出してわずか10秒。 背後を気にし過ぎ、前方不注意のため通行人にぶつかってしまった。 上条はなんともなかったため謝ってすぐさま逃走を再開したかったが、相手が転倒してしまっていた。 「す、すいません!大丈夫ですか!?」 急いではいるものの、自分が転ばしてしまった相手を放っておくわけにはいかない。 慌てて相手を起こそうと思い手を差し伸べたのだが、上条の右手は途中で停止した。 相手がひどい怪我を負っているからではない。 その転んだ相手に問題があるのだ。 「いったーい!もう何するの……あ。」 「うっそーん…今度は番外個体かよ……」 ぶつかった相手は、美琴の妹である番外個体(ミサカワースト)。 末妹ではあるが『妹達』の中では1番外見年齢が高く、美琴よりありとあらゆる部分が一回り大きい彼女は、停止していた上条の右手を掴んだ。 掴まれた上条は、冷や汗が止まらない。 (番外個体はどっちだ…?一方通行と一緒に住んでいることは知ってるけど…打ち止めと同じく一方通行のことを好きだったりするのか?) 正直かなり気になる。 果たして好きなのか、そうでもないのか、立ち上がった番外個体の反応は 「……ねえ当麻?今からミサカといいことしない?ほらそこにホテルもあることだし☆」 上条は心の中で『番外個体、お前もか』と叫んだ。 もう言葉にして叫ぶ気にもならない。 目の前で上条の手を握っている番外個体の目は輝いており、上条は自分の貞操が危ないと全力で感じた。 また上条は美琴のことは愛して止まないのだが、『妹達(シスターズ)』に恋愛感情は一切持ち合わせていない。 あくまで“御坂美琴”という1人の女の子が大好きなのだ。 そんなわけで美琴に一途な上条は、なんとか手を離してもらおうと思い 「いや、あのな番外個体。今はそんなことしてる場合じゃないんだよ。悪いけど手を離してくれないか?」 番外個体のお誘いを丁重にお断りし、背後からヴェントに襲われないか後ろを振り返ってみると 「んん?上条じゃない。」 「……麦野さん…」 後ろにいたのはヴェントではなく、学園都市に7人しかいないレベル5の1人、麦野沈利だ。 おしゃれな服を着て、手にカバンを持っているところを見ると、今からどこかへ出かけるのだろう。 まあもう予想はつくと思うが… 「………」 「えーと、麦野さん?どうかしましたか…?」 「あのさ、なんで手つないでるわけ?なんか腹立つんだけど。」 「やっぱり麦野さんも…浜面のこと好きなのかと思ったのに…」 状況は一向に好転しない、むしろどんどん悪い方向へ向かっていってしまっている。 (もうこれ以上の不幸が起きない、ってくらい不幸な出来事が続いたんじゃね?ていうかこの局面をどうやって切り抜ければ…) バタンッ!という車のドアが閉まる音がした。 「おー!いたいた、かなり探したし。ヴェント、私に勝手に行動するな……ん?上条か?」 上条の首はぐるん、と声の聞こえた道路の方向へ回る。 この声、この話し方、聞き覚えがある。ありすぎて困る。 できれば気のせいであってほしい、そう願うものの…… 「おい、何をボーッとしてる。この私が声をかけたのだぞ。反応しないとか 「……な、何か御用でございましょうか、キャーリサ様…」 やはり間違いではなかった。 タクシーから降りてきたのは、真っ赤なドレスを着こなし、頭には王冠をのせた1人の女性。 まさに『王女』と言うにふさわしいほど、凛とした態度で上条達の方向へ歩み寄って来るのは。イギリス国第二王女、キャーリサだ。 「ん?お前が私のことを『様』をつけて呼ぶなんて珍しいな。ま、そんなことはどうでもいいの。」 「あの、ヴェントを迎えにきたなら早くお引き取りを…」 「いや、予定が変わった。お前を迎えにきたのだし。」 「む、迎え?」 「うむ。私直々来たのだからありがたく思え。さ、早くイギリスへ飛ぶぞ。一刻も早く挙式の準備に取りかからねばならんからな。」 話が唐突にもほどがある。 いきなりイギリスとか、挙式とか言われても、普通なら話を理解できるわけが無い。 しかし、理解できないのは『普通』の場合。 現在普通ではない上条には、キャーリサが何を言いたいのかもうわかっていた。 (ですよね!!キャーリサは条件満たしてるわけだから、俺のこと好きになるよね!!もうこれ不幸とかレベルじゃないんですけど!!!) どうしてこうなったのか。 やはり、薬の力で美琴といちゃいちゃしようと考えたのが間違いだったのか。 半分泣いているところへ、 「ちょっと、なんで逃げ出してんのよ。」 ヴェントも合流。 もはや状況がカオスカオスアンドカオス。 そんな最悪とも言える状況の中、さらに状況を悪化させる台詞を言い放ったのは 「ちょーっと待ってもらおうかしら?最後に出て来て何勝手に挙式とかわけのわからねーことほざいてんだ?」 「え?あの麦野様?」 超絶腰の低い上条。 キャーリサのみならず、麦野にまで『様』をつけ始めるとか、もうなにかしらが末期である。 そんな上条の言葉など聞こえていないかのように、麦野は続ける。 「上条はね、私のモノなのよ?それをわかって言ってるの?」 「いや、俺は御坂のモn」 「ちょっと、勝手なこと言わないでほしいんだけど。ミサカを差し置いてその発言はないんじゃない?」 「え?番外個体?あの話がややこしくなるから少し黙っt」 「あのね。一番に上条に声をかけたのは私よ?後からきたのは黙っときな。」 「ヴェントさーん…これ以上上条さんを困らs」 「おい…貴様ら王女である私に逆らうというのか?……よかろう、死刑を執行するし。」 「…もうやだ……」 まさに修羅場である。 ヴェント、番外個体、麦野、キャーリサ、と普段ではありえない一癖も二癖もあるメンバーが上条を取り合っているのだ。 ヴェントはハンマーを出現させ、番外個体はポケットから釘を取り出し、麦野はいつでも『原子崩し』を発射できるよう体勢を整え、キャーリサは今にもカーテナの欠片を振り回そうとしている。 (……これ学園都市消滅するんじゃないだろうか…) 十中八九する。 というか、周りに大勢の人がいるのだから、なんとしてでも4人の暴走を止めなければならない。 しかし、正しい止め方があるわけでもなく、か弱い男子高校生である上条にできることは限られている。 (ハンマーとカーテナは右手で触ればなんとかなる、けど、『原子崩し』は撃ってきたとこを触れなきゃダメだよな。後、番外固体のは…) それぞれ技をどう対処するか、上条が対策を立てていると、言い争っていた番外固体が 「そうだ。当麻はどう思ってるの?」 「え?」 「だから、私たち4人の誰を選ぶの?」 「あ、と……えー…?」 これは予想していなかった。 まさか向こうから尋ねられるとは、上条は戸惑いを隠せない。 (これは……なんて返事をすれば…) 選べ、と言われて誰も選ばなければ、4人は間違いなくブチ切れる。 かといって4人のうち誰か1人を選べば、残る3人がキレる。 まさに手詰まり。 「不幸だ…」 そう呟いたかと思うと、上条は4人に背を向け猛スピードでその場から逃げ出した。 誰も選ばないのなら、キレられる前に逃げるしかない、それが上条の辿り着いた考えだった。 (とにかく、今は人気の無いところへ…) 全速力で歩道を走り、人の間をすり抜けていく。 このままこの方向へ走れば、都合良く廃ビルの集合地域があったはずだ。 そこへ4人を連れて行き、その後は… (…………その後どうすりゃいいんだ?) 肝心の対策を考えていなかった。 よくよく考えてみれば、人気のないところへ連れて行ったところで、状況が好転するわけではない。 周りの人に迷惑がかからなくなるだけで、上条本人にとって良いことがあるわけではないのだ。 むしろ、街中を走り回っていたほうが、彼女たちに見つからなくて済む。 だが、人がよい上条が他人に迷惑がかかる『街中を走り回る』なんて選択をするわけがなかった。 行けば何かが起こるだろうと、後先のことを考えず廃ビルが建っている地点を目指す。 しかし、そう一筋縄に行くわけがなかった。 (う、後ろから足音が聞こえるんですけどー!!) ダダダダッッ!と、聞こえる4人分の走る足音。 それは明らかに上条を追いかけるものであり、徐々に距離が縮まってきている気がした。 上条にとっては恐怖の音、もう背筋に寒気がしてならない。 (ヤッバいぞこれ、下手しなくても殺られる、ていうかいきなりハンマーで殴ってきたり、カーテナで次元ごと切り取られかねないんじゃ!?ていうかレベル5とか王女とかに追いかけ回されるって夢のような展開だよホント!!) 夢は夢でも悪夢だ。 後ろを振り向きたいが、振り向いてしまうとまた人にぶつかりそうなので向くに向けない。 上条は“何もしてきませんように”と祈り、加速した時だった。 「わ~い!アイスだアイスだ~!ってミサカはミサカは―――」 「ッッ!!??」 左の店の自動ドアが開いたかと思うと、そこから美琴によく似た一人の女の子がアイスを持った状態で元気よく飛び出してきた。 飛び出してきてしまった。 (ラ、打ち止めァ!!?なんでこのタイミングで!?) 悪過ぎるタイミング。 こんな近距離でいきなり出てこられては、避けようがなかった。 (ダメだ、ぶつか―――――) ぶつかるはずだった。 打ち止めは上条を見て固まってしまいるし、ぶつからなければ物理的におかしいのだ。 しかし、打ち止めに衝突する直前、上条の視界から打ち止めの姿が消え、体に痛みが走った。 「い、いってぇ…何が起こったんでせうか…?」 結論から言うと、上条はぶつからなかった。 だが、自分から回避したわけでも、その女の子が避けたわけでもない。 その代わりなのか、目に映る景色が混雑していた歩道から雲一つない青空へと、一変していた。 どうやら『何か』により吹っ飛ばされ、回転した挙げ句電柱に激突し仰向けに倒れているらしい。 その『何か』を確認するために、ひっくりかえったまま、打ち止めとぶつかりそうになったところを見てみると 「だからさっきから言ってンだろうが!飛び出すと危ないってなァ!!」 「だ、だってアイスが…ってミサカはミサカは苦し紛れの言い訳してみたり…」 「…ア、一方通行さん…」 上条の目に映った人物、それは学園都市最強の能力者にして、目下デート中の一方通行だった。 どうやら、打ち止めとぶつかる直前に一方通行が瞬時にチョーカーのスイッチを入れ、能力で上条を吹っ飛ばしたらしい。 と、一方通行はようやく上条を見て 「あァ?…って三下かよ。ならもっと強く吹っ飛ばしてもよかったか。」 「あのな…お前は謝るってことができねーのかよ…」 上条は愚痴をこぼしながら痛む体を強引に起こした。 まあ“痛む”と、言っても一方通行が本気ではなかったため、軽度の打撲で済んだようだ。 とはいえ打撲は打撲。 上条は一喝するため一方通行に近づいた……かと思えばそうではなく 「まあいいや。そんなことより…」 「なンだ?やっぱなンか事件に巻き込まれてンのか?」 「その通りです。で、是非とも助けてほしいんだけど。」 ♢ ♢ ♢ 一方その頃、上条が会いたがっている美琴は… 「短髪~っ!!とうまと付き合ってるってどういうことなんだよ!!」 「そうですよ!何があったのか説明してください!!」 「これだけは。絶対に説明してくれないと。」 美琴がカラオケ店で“彼女”発言をしてしまったせいで、インデックス、五和、姫神に追いかけられていた。 ちなみにオルソラは脱落した。 「なんでこんなことに……ていうか以外とみんな早いんだけど!?」 恋の力なのだろう、美琴は全力で走っているはずなのに、追いかけてくる3人と距離が広がらない。 それどころか追いつかれかねない勢いだ。 (絶対に追いつかれるわけには……なんとしてでも逃げ切らないと!!) 美琴は右手に例の解毒薬を握りしめ、必死に街中を駆け回るのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Love is blind
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1616.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/恋する美琴の恋愛事情 修羅場美琴の告白事情 「不幸だ……」 いつものようにお決まりの台詞を呟きながら、上条当麻は己が立場を呪うしかなかった。 「トウマ、トウマ。色んなオカズが沢山あるんだよ!これほど豪華なお弁当は初めてなんだよ!!」 隣に座るインデックスはそんな当麻の心情に気付くことなく目の前のお弁当に心奪われはしゃいでいる。 そう、目の前には和洋中幾種もの色とりどりのオカズが入ったお弁当が拡げられていた。 「日本人なら和の心。誰かの為にお弁当を作ったのは初めて。上条君、食べてくれる?」 「医食同源。中華には食事にも健康に気を配るという非常にありがたい心構えがある。上条当麻、心して食べるように」 「べ、別にアンタの為に作ったわけじゃないけど、せっかく作ったのに食べないともったいないでしょ。アンタもボーっとしてないで食べなさいよ」 そして、上条当麻の目の前にはまるで『私の弁当を食べないとわかってるわよね?』とでも言いたげな視線で睨みつけてくる3人の美少女がいた。 一人一人がそれぞれの美しさを持つ美少女であり、それぞれが確固たる意志を持った瞳で当麻を睨みつける。 「おかしい」と、当麻は首を傾げるしかなかった。昨日まで3人が3人とも嬉しそうにしていたはずだ。それなのに、どうして自分はまるで釜茹でされる直前の石川五右衛門のような気持ちにならなければいけないのか、当麻には全くもって理解不能だった。 「どうしてこうなった……」 白洲に座る罪人の如くその身体を委縮させながら、当麻はここに至る過程を思い出していた。 ******** 「……遊園地?」 御坂美琴は上条当麻の台詞に意外そうな表情で聞き直した。 「そ、今度新しく出来た室内型遊園設備への招待状ですよ」 そう言って自慢気に2枚のチケットを見せつける。確かにチケットには今度新しく開園する室内型遊園地の招待券と書いてあった。 いつものように学校の帰りに本来の通学路からは遠回りして、いつもの公園で上条当麻と会っていた美琴だったが、「そういえば」と当麻が取りだしてきたのがこのチケットだった。 「で、それを誰と行くのよ?」 自慢気に見せつけるそれを見ながらなんとなく不機嫌になる美琴。2枚のチケットのうち1枚は当麻が使用するとしてもう一枚の行方が気になる。まあどうせあのちびっこシスターなんだろうと予想が付いてしまうだけにどす黒い感情が表面化しそうになってしまう。 「ん、そんなの御坂に決まってるだろ」 しかし、予想外の台詞に美琴の心拍数が跳ね上がる。 「いやあ、小萌先生からこのチケットを貰った時はどうしようかと思いましたが、普段お世話になっている人へのお返しをしなさいと言われて、やっぱ御坂にも渡さないとなと思ったわけですよ」 「へ、へえ……」 なにか重要な事を言ったような気がしたが、すでに美琴の心拍数は跳ね上がり、血圧は上昇、まともな思考は働いていない。 「御坂を誘うなら白井とかも誘うべきなんだろうが、枚数的に御坂一人になっちまうのは申し訳なかったけどな」 「う、ううん!大丈夫よ!黒子の事なら問題ないから!!あの子はうん。全然まったく関係ないから!!」 もし白井黒子が聞いていたらショックのあまり卒倒するような台詞を吐くあたり美琴のテンパリ具合が尋常ではないのが見て取れる。当麻は当麻でいつもの如く超鈍感ぶりを発揮し、美琴が喜んでくれていると思い込み話を続ける。(まあ、実際、大喜びはしているのだが) 「それなら良いんだけどな。そういうわけで、次の日曜に行くからあけておいてくれよ」 「う、うん!絶対にあけるから!!予定なんか入れない!!」 折角の初デートなのだから、例え予定があってもキャンセルする。完全に美琴の心は舞い上がっていた。 「ふう、これで上条さんも一安心ですよ。皆楽しんでくれれば本当にチケットを配った甲斐があるというものですよ」 と、これまた意味深な発言を繰り返すのだが、やはり舞い上がった美琴の心はもう何も聞いていなかった。 そして、寮に帰っても喜びを隠せない美琴は黒子の前で当麻とのデート予定を激白(もちろん黒子用のチケットなどなく、二人っきりのデートである事も全て)。黒子がその場で真っ白に燃え尽きていたが、それさえも気にならない程に美琴は舞い上がりっぱなしだった。 「ふふん~♪何を着て行こうかな~」 などと制服着用義務さえ忘れている美琴の姿を見て、燃え尽きた黒子の灰はさらに風に吹き飛ばされていくのであった。可哀想に…… しかし、当日になって浮かれた美琴の心は急転直下し、地獄の底へと叩きつけられる事になる。何故なら…… 「トウマ、秋沙は判るとしても、なんで短髪がここにいるのかな?それにまた別の女性も……」 「上条君、どういうことなの?」 「上条当麻、どういうことか説明してもらえるか?」 待ち合わせした遊園地の入り口前で美琴が見たのは、上条当麻の姿だけでなく、白い修道服を着た少女、前に公園で見掛けた日本人形のような黒髪の少女、さらに大覇星祭で当麻の前で倒れた巨乳の少女達の姿だった。 「え?いや、だから、普段からお世話になっている人たちへの感謝の気持ちだって言ったじゃないですか」 自分のやった事の重大さが全く理解できていない当麻はあっさりとそう答えたが、その瞬間、吹寄のヘッドバッドが当麻の脳天へと、姫神のアッパーがみぞおちへと突き刺さり、とどめに美琴の電撃が全身に落ちる。 「な、なんで……不幸だ……」 パタリと崩れ落ちる当麻。もちろん、いつもの口癖は忘れなかった。 「自業自得なんだよ、トウマ。そして、まだ私の罰が残っている事を忘れないでよね」 そして、その言葉通り、数秒後意識を取り戻した上条はインデックスに頭から噛みつかれることとなった。まさに自業自得…… ******** 「ところでその制服、常盤台中学のものよね?なんで貴方みたいなお嬢様学校の子があんなバカと知り合いなの?」 前を歩く巨乳の少女が美琴に話しかけてきた。 『確か、吹寄制理さんだったっけ?』 見た目からかなり気の強そうな顔をし、当麻が好みそうなほど巨大な胸をした少女を見ながら、それはズルイな……などと美琴は心の中で溜息をつく。 結局、あれから解散するわけにもいかず、お互い自己紹介の後、5人で遊園地に入ったものの、気まずい空気は払拭されず沈黙がその場を支配していた。しかし、もともと吹寄制理と姫神秋沙の二人は同級生、しかも友達同士という事もあり、すぐに二人は会話を始めるのだが、どうしても年下であり、学校すら違う美琴にとってとても居づらいものであった。 「大丈夫よ。別に貴方が悪いわけではないから。どちらかと言えば乙女心を理解せずにこういう事をするあのバカに責任があるんだから、気にしないで」 「は、はあ……」 とはいえ、気易く当麻の事を「あのバカ」と呼んでいることが美琴にはなんとなく気に入らなかったりもする。 「彼は私と私の妹の命を救ってくれた命の恩人だから。全身全霊を賭けて私たちを守ってくれた人だから」 と、特別な関係である事を示すような言い方をしてしまう。 「ふうん」 しかし、吹寄はさほど気にする様子もない。まるで「そんなことは判っている」とでも言っているように美琴には感じてしまう。 「やっぱ、あのバカ無茶やってたのか」と悔しがるような呟きが吹寄の口から聞こえた。 「確か、御坂美琴さんよね」 今度はもう一人の黒髪の少女から話しかけられる。 「え、ええ」 一応返事はしたが、その少女-姫神秋沙は何かを考えるかのようにしばらく無言が続く。そして、数秒の後、彼女の口からは核心をつく台詞が美琴に向けて放たれる。 「上条君は目の前に苦しんでいる人がいたら助けずにはいられない人。私だってその一人。だから、それが特別にならない事は知っている」 そう、上条当麻と言う人間はそういう人間だ。それは美琴も理解している。 だからと言って、それを認めてしまえば、自分の存在さえも消えてしまうような不安感を感じてしまうのも事実だ。だから、いままで見て見ぬふりをしてきたのだ。彼の傍にいるインデックスという少女も同じく救われた側であろうという事実ですらも。 「まあ待て姫神。彼女はまだ中学生だ。自分の感情に戸惑いを覚えても仕方のない年齢だ。そう責めるものではない」 恐らく吹寄も悪気があったわけではない。そんなことは美琴も理解している。しかし、美琴にはどうにも我慢できなかった。当麻が高校生で自分が中学生であるという現実。この年の差のせいで美琴が当麻にまともに相手してもらえてないことを理解しているから、第三者にその現実を突きつけられた事に無性に腹が立った。 「そんな事!わかってるわよ!!でも、自分の気持ちに嘘なんかない!!私は本当に!!」 しかし、美琴はそこで言葉を止めてしまう。ここから先はこの場で言うべきではないのだと、判ってるから。 そして、それは他の二人にも理解できてしまったのだろう。最初に謝ってきたのは吹寄だった。 「すまない。その事を責めたつもりではなかったのだ。君に不快な思いをさせたのであったならば謝ろう。申し訳なかった」 そして、姫神もそれに続く。 「ごめんなさい。私も焦ってしまって、貴方を傷つけてしまった。本当にごめんなさい」 そんな二人の態度に美琴は自分を恥じることになってしまう。これが中学生の自分との違い。学園都市最強の7人のレベル5の第3位と言われても、結局自分は単なる子供なんだと痛感させられてしまう。 「おいおい、何があった?」 そして、このタイミングで当麻が割り込んでくる。 「吹寄、姫神、何があったんだ?御坂もなんでそんな表情してるんだ?」 そう、こいつはこういう奴だ。普段は全く自分たちの事を気にも留めないのに、苦しんだり、悲しんだりすると直ぐに来てくれる。それが有難くもあり、辛くもあった。 「上条、申し訳ないが、そこのシスターとちょっと先に行ってお弁当を食べれるような場所を確保しててくれないか。私達はちょっと話し合う必要があるようなのでな」 「ゴメン、上条君。私も吹寄さんと同じ。先に行っててくれないかな。すぐに追いつくから」 二人の真剣な表情に当麻は困ったような顔をしたが、「御坂もそれでいいのか?」と尋ね、頷くのを確認すると「わかった」と言って、その場を離れて行った。 インデックスだけは「なんで私を入れてくれないかは聞かないけど、シスターは迷える子羊には優しいんだよ」と、わかったようなわからないような言葉を残して去って行った。 「さて、では少しばかり本音で話をしようか」 吹寄のその台詞に美琴は力強く頷いた。 ******** そして、20分後、3人はお互いにすっきりした表情で当麻達のもとにやってきた。 心配していたようなことにはなっておらず一安心した当麻だったが、しかし、お弁当を広げた瞬間今度は当麻が困ることになった。 「ええと、どれから食べればいいでしょうか。上条さんは非常に迷います」 と、嫌な汗を大量に掻きながら、当麻は箸を持ったまま固まってしまう。 美琴の作った洋食も、姫神の作った和食も、吹寄の作った中華も、どれもが非常に美味しそうでどれから食べようか迷ってしまうのも事実なのだが、それ以上に”誰の”お弁当から手をつけるのか、それが問題になってしまっていた。 「上条当麻。まさか私の作ったものが食べられないというのではないだろうな?」 と吹寄が氷の瞳で睨みつけているかと思えば、 「上条君は和食が似合うと思う。是非食べるべき」 と姫神が真剣な瞳で見つめてくるし、 「ど、どれから食べても構わないけど、折角私が作ったんだから、ちゃんと食べなさいよ」 と真っ赤な顔で上目遣いに睨んでくる。 『3人とももしかして上条さんを苛める相談でもしてたんでしょうか?なんでこんなに心臓に悪いんでしょう?』 当麻はまるで蛇に睨まれた蛙の如く動けずにいた。 「トウマは、やっぱりトウマなんだよ。というか、トウマが食べないんだったら私が全部食べちゃって良いのかな」 などと相変わらず食欲魔人の如くな台詞を口にする。KYって言葉知ってますか? 「ええい!悩んでいても仕方ない!ここはこうすればいいんだ!!」 もう形振り構っていられないと判断し、完全に吹っ切れた当麻はあろうことかそれぞれの弁当から一品ずつを抜き取り一度に口の中に放り込んだ。 「バカなのか上条当麻!そんな事をすれば味も何も分からなくなるだろ!!」 「やりやがった、この野郎」 「あ、アンタってば本気でバカなの!?」 と、三者三様の反応を示すが、「美味い!美味いぞ、これ!!今まで食べた事の無い美味さだ!!」と当麻が涙を流して喜ぶと、3人とも顔を真っ赤にして、 「あ、当たり前だ。そのために作ったのだから」 「喜んでもらえたなら、嬉しい」 「ば、バカ。そんなに大喜びすんな」 恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうな顔をする。 逆にそれに対し機嫌が悪くなったのが一人。インデックスである。 インデックスは自分で調理などしないから同じ土俵には立てないが、蚊帳の外にいる現状に納得がいかなかった。だから、インデックスが取る手は一つしかなかった。 「トウマばっかりずるいんだよ!私も食べるんだよ!!」 と、当麻の先手を取りお弁当を食べつくす蹂躙作戦に打って出たのだった。 そして、自分たちの食べる分が無くなる事に慌てた、美琴、吹寄、姫神もお弁当争奪戦に参加。こうして賑やかな昼食は瞬く間に過ぎて行った。 ******** 「ねぇ、楽しかった?」 夕陽の差しこむゴンドラの中で、美琴は目の前に座る当麻に楽しそうに話しかける。 「そうだな。たまにはこういうのも悪くないよな」 当麻はそんな美琴を見て、やはり嬉しそうに答えた。 昼食の後、それぞれの希望するアトラクションを巡る事になり、吹寄の希望するジェットコースター、姫神の希望するお化け屋敷、インデックスの希望する屋台めぐりをそれぞれの希望者と当麻のツーショットで回る事になった。そして、最後が美琴の希望した観覧者だった。 これも希望者と当麻のツーショットで乗る事になり、今ゴンドラの中は美琴と当麻の二人しかいない。残りの3人は気を利かせて別のゴンドラに乗っている。 「なあ、3人で何を話してたんだ?」 当麻は気になっていた事を美琴に尋ねた。 実は他の二人にも同じことを尋ねようと思ったのだが、何故か口にする事が出来なかった。だから、美琴に聞くことにしたのだが、何故美琴には聞く事が出来たのか、当麻自身気が付いていない。 「大したことじゃないよ。ただ、自分たちの気持ちに向き合えてるかどうかの確認」 そう言って、それ以上の事は話そうとはしなかった。 そして、沈黙に支配されたゴンドラが丁度頂上に差し掛かった時、再び美琴は口を開く。 「ねえ」 ゴンドラに差し込む夕日が背後から美琴を光輝かせる。 それはまるで妖精のような美しさだと当麻は素直に感じる事が出来た。 「私がアンタの事好きだって言ったら信じる?」 そして、その言葉は魔法のように二人だけの時間を示す時計を止めることになった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/恋する美琴の恋愛事情
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2592.html
小ネタ 予告 予告 とある乙女の小さな願い佐天「ネットで有名な都市伝説ですよ!」都市伝説の謎!?美琴「どーいうことよコレ・・・・・」黒子「おおおっお姉様!?」美琴の身に一体何が!?美琴「アイツならきっと・・・・・・」上条「俺の幻想殺しの出番って訳か」上条さんの活躍!?????『後悔するわよ? 死にたいとさえ思うかも』謎の声の正体は!?美琴(どうしたらいいの?)美琴に襲い掛かる試練!?インデックス「短髪のことは任せるんだよ!」ついに和解!?美琴「ごめんねインデックス」インデックス「行っちゃだめだよ・・・・・・」二人の間に何が!?そして鉄橋で―――上条「何やってんだよ、お前」美琴「私、アンタのことなんて・・・・・・だいっきらい!!」何かが起こる―――☆同時上映『学園都市のバカップル 特別編』☆上条「・・・・・・なんだよこの予告?」美琴「私が聞きたいわよ!」上条「これは俺らがいちゃいちゃ出来る内容なのか?」美琴「シリアスっぽい展開だけどね・・・・・・」上条「とりあえず今はいちゃいちゃしとくか」美琴「そうね、今はいちゃいちゃするしか無いわね・・・・・・」上条「美琴、愛してるぞ」美琴「ちょっと無理やり過ぎない?」
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1925.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/未来からの来訪者 ~4th day まこてんしょ~ チケット売り場に並んで十数分、ようやく麻琴たちはチケットを入手することが出来た。 さすが休日の遊園地、なかなかの混雑具合である。 上条と美琴はフリーパスでさっさと中に入って行ってしまったようで、周囲には見当たらない。 だが、つい先ほどゲートの付近のインフォメーションセンターに向かうのを見たのでまだそこにいるはずだ。すぐにそこに向かえば見失ってしまうことはないだろう。 しかし、麻琴はそれとは別の懸念事項を抱えていた。 「チケット代で早くも上条さんのお財布が若干ピンチに……」 自分とインデックスの分の代金を支払ったおかげで、心細くなった財布の中身。 自分の時代にいた頃は奨学金やらでお金に困るようなことは特になかったのだが、ここ数日は美琴から支給されるお小遣いのみなのだ。 まぁ、今日の分はインデックスの食費等も含め多目にもらってはいるのだが、やはり彼女の食費を考えると心もとない。 「まこと、そんな細かいこと気にしてちゃいけないんだよ」 「いや、細かくないわよ!? 結構重要なことよ!?」 「麻琴ちゃん。そろそろ行かないと本格的に上条さんたち追えなくなるんじゃない?」 コントのようなことをし始めた麻琴とインデックスに佐天が釘をさす。 佐天としても、このチケット代は予想外の出費なのだ。無駄に終わらせるわけにはいかない。 「そうだね。さっきとうまたちがあの建物に入っていくのを見たんだよ。出入りを見てた限りまだ中にいるはずなんだよ」 それに答えたのはなぜだかインデックス。私の完全記憶能力に間違いはないんだよ、と胸を張っている。 「あ、あれー? 今あたしが聞かれてたよね? 何でインデックスさんが答えてるの!?」 「早い者勝ちなんだよ」 「えぇ~……」 果たしてそういう問題なのだろうか。インデックスの答えになんだか納得のいかない麻琴である。 「よ~し、じゃあ、見つからないように建物のそばに隠れよっか」 「それがいいかも」 早速移動を始める佐天とインデックス。 「ちょっと、置いてかないでよー!」 麻琴もその後を駆け足で追いかけていった。 その頃、インフォメーションセンターに立ち寄った上条と美琴はあるサービスの説明を受けているところだった。 「と、いうわけでして、カップルの方は優遇されるサービスとなっております」 ニコニコと営業スマイルで説明をする係員の女性。 「どうする?」 「う、う~ん……」 上条に尋ねられ、ちらりと視線を部屋の一角に置いてあるストラップに向ける。 そのストラップはこの遊園地のこのサービス限定の代物のペアストラップ。それもラヴリーミトンとのコラボ品のゲコ太ストラップだった。 限定ゲコ太ストラップ。美琴からすれば喉から手が出るほどにほしい。ちょうど上条と美琴は、正真正銘のカップルでもある。それなのになぜ美琴が即決できずにいるかといえば…… 「あ、あの。本当にキ、キスしてる写真撮らないとダメなんですか?」 「はい。あくまでカップル限定ですので、ご兄妹などの関係じゃない証拠としてお願いしています」 「うぅ……」 そう、これなのだ。カップルである証拠としてキスシーンの写真を撮られる。これが美琴を悩ませていた。 美琴だって上条とキスがしたくないわけではない。むしろ、キスをしたいくらいだ。 何せ告白された日以来、一度も上条と美琴はキスをしていない。いい雰囲気になりかけてもそれは人前だったりでできなかった。 でも、だからといってそういう雰囲気になってるわけでもないのに第三者の前でキスをする、というのは美琴にはいささかハードルが高すぎた。 目の前のハードルを飛び越えないと気がすまない美琴といえども、さすがに恥ずかしすぎるのだ。 ならば、限定ゲコ太ストラップが諦められるのかといえばそうでもないし、そもそもキスをするいいチャンスなのでは? という思いもあって決断できない。 でも、だけど……美琴の中で思考が堂々巡りを繰り返す。やがて迷いに迷った思考は迷路の出口にたどり着く。それは彼女の中にあった最も大きい欲求に沿うこと。 カップルとして上条と行動したい、上条とキスをしたい、ということだった。 「する」 ぼそりと美琴がつぶやく。 「え?」 「と、当麻とキス…する。当麻は……イヤ?」 「イヤ…じゃない」 潤んだ瞳で上目遣いで見つめてくる美琴に、上条が逆らえるわけもなかった。 「は~い。じゃあ、準備は出来てますので、彼女さんから彼氏さんのほっぺにチュってしちゃってくださいねー」 「わ、私からするんですか!?」 頬にするというのは、他人の前でやるには幾分かハードルが下げられた美琴ではあるが、自分から上条にキスをしなければならない、という新たな壁が立ちはだかった。 普段なら、美琴からキスを、しかも人前でやるなんてことは不可能だっただろう。 しかし、美琴の頭はすでに上条とキスをしたいという欲求に染められていた。 「それではいつでもどうぞ~」 「と、当麻……」 どこか熱にうなされたような表情を浮かべる。 上条の方が背が高いので必然的に爪先立ちで、そして体重を預けるように上条の肩に手を置き、頬に自分の唇を軽く押し付けた。 頬に伝わる感触に上条の顔も一瞬で真っ赤に染め上がる。これは、思っていた以上に恥ずかしいのかもしれない。 「はい、OKです。じゃあ次は彼氏さん。彼女さんのおでこにチュッとやっちゃってください」 頬とは言えど、美琴からキスされたためか、上条の思考もすっかりとろけてしまっていたようで、言われるがまま、美琴に向き合い、前髪をかきあげる。 「いくぞ……」 「ん……」 上条がゴクリとつばを飲み込む。なんだかその音がやけに響いた気がした。 美琴は顔を上げ、ぎゅっと目をつぶっている。その顔は真っ赤で目じりに涙がわずかに滲んでいた。美琴も恥ずかしいのだろう。 しかし、その顔がまた可愛くて、上条の心臓がバクバクとやかましく鼓動する。 「ひぅ……」 額に感じる上条の温もりに、くすぐったいような心地よいような感覚が全身を駆け巡り、変な声が出てしまった。 「は~い、OKです。では、プリントアウトしますので少しお待ちくださいねー」 恥ずかしさで固まっている二人をよそに、係員はテキパキと進めていく。顔がにやけ気味なのはこの二人を見ていれば仕方ないのかもしれない。 そんな様子を入り口付近からこっそり覗いていた3人は…… 「うわぁ~。なに、なんなのこれ? なんか凄くキュンキュンするんだけど。あぁ、もう! 御坂さんホント可愛いなぁ」 「甘い、甘すぎるんだよ。うぅ、なんか胸焼けしてきたかも」 「慣れてると思ってたんだけど……、こういう初々しい反応見せられると、なんかこう!」 三者三様にすっかり上条と美琴のぽわぽわオーラにあてられてしまっていたようだった。 係員からカップル優待パスを受け取り、ついでにプリントアウトされたキスシーンの写真も渡された。 さらには携帯に画像データまで送信してくれるというおまけつきだった。上条には美琴から頬にキスされている画像を、美琴には上条から額にキスされている画像を送信してもらった。 美琴は恥ずかしがりながらも早速待ち受け画像にし、何度もその画像を見ては嬉しそうに微笑んでいた。 そして実は上条もこっそり待ち受け画像にしていたりする。恥ずかしいのでそんなことを口には出せないが。 「さて、優待パスももらったし、美琴はどこか行きたいとこあるか?」 「ふぇ!? そ、そうね。あそこはどう?」 あわてた様子で美琴がとある施設を指差す。 また、先ほどの上条におでこではあるがキスされた画像を見てにやけていたので、ろくすっぽ確認もせず適当に指差したのだが、それがいけなかった……。 美琴が指差した先にあったのは、学園都市の技術の粋を集めて作られた『お化け屋敷』であった。 「へぇ~。お化け屋敷か」 「お、お化け屋敷……」 美琴の顔がサーっと青ざめる。 「あれ? もしかして苦手なのか? だったら別の……」 「だ、だだだ大丈夫よ!! 別に苦手じゃないわよ! こ、怖がってなんかないんだからねっ! 早く行きましょ!」 上条に弱いところを見られたくないと思ったのか、美琴は上条の腕を引っ張ってずんずんと進んでいく。建物が近づくに連れ歩幅が少し狭くなり、怖くない、怖くない、などと小さくつぶやいている。 「とうまとみこと、あそこに行くみたいなんだよ」 「え~とあれは……お化け屋敷みたいだね」 インデックスが指し示す施設を佐天がパンフレットで調べる。 「お、お化け屋敷……」 じりじりと麻琴が後ずさる。 「どうしたの、まこと?」 「い、いやあのね、別にね、その……」 視線を泳がせ、おどおどと挙動不審な麻琴の様子にインデックスが首を傾げる。 「はっは~ん。麻琴ちゃん。お化け屋敷、苦手なんでしょ」 「なななな、なんのことでせうか!? 上条さんがお化け屋敷を苦手だなんてそんな子供みたいなことあるわけがないじゃないですか!!」 「まこと。なんだかとうまみたいな口調になってるんだよ」 じとーっと麻琴にいぶかしげな視線を向ける。 「さっ、御坂さんたち見失わないうちにあたしたちも行こっか」 しかし、そんな空気もなんのその、佐天は麻琴を腕を引っ張るとそのままずるずると上条たちの向かったお化け屋敷に引っ張っていった。 「るるる、涙子さん。別に入らなくてもいいんじゃない!? 外で待ってれば!!」 「インデックスちゃんはこういう所は初めてなんだから、楽しんでもらわないとね~。待ってるだけじゃつまらないよ」 麻琴の必死の説得も佐天に一蹴されるのあった。 佐天の顔が楽しそうな笑みを浮かべていたのは見間違いではないだろう。 「そうだけど、そうだけども、そうですけれどもの三段活よ…あぁぁ、待って待って待ってぇ~。そ、そうだ、インデックスさん。あたし困ってる、今凄く困ってるわよ。インデックスさんシスターでしょ。す、救いの手を……」 うるうると涙目でインデックスに助けを求めるあたり、相当追い詰められているらしい。 「そ、そうだね。るいこ、まことが嫌がってるんだよ。無理強いは……」 「インデックスちゃん。もう一度よく麻琴ちゃんを見て?」 佐天に言われたとおり、もう一度麻琴の様子を観察する。 お化け屋敷に行くのが本当に嫌なようで、溢れんばかりに涙をためて、両足を突っ張って精一杯抵抗しているようだ。すがるように潤んだ瞳でこちらを見つめている。 その視線を捉えた瞬間、インデックスをなんともいえないような感覚が襲った。ゾクゾクと何かが背筋を這い上がるような感覚。もっとその表情を見たいという嗜虐的な思い。 (な、何を考えているのかな私は! だ、ダメなんだよ。迷える子羊を救うのがシスターとしての役目なんだよ! こんな感情に流されちゃダメ。まことを救わなきゃ) 思いに飲み込まれないよう、気を引き締める。 さぁ、やめるように言わないと。 「まこと。おばけやしきがどんなものかは知らないけど、苦手だからって逃げてちゃダメなんだよ。きっとこれはまことに与えられた神の試練なんだよ」 まるで聖母のように、慈愛に満ち溢れた笑顔でインデックスはそう言ってのけた。 慈愛の慈の字もないようなことを。 「そ、そんな。待って待ってよぉ~。あぅぅうう」 普段はお転婆な麻琴のすっかり弱気な様子に、インデックスは何かに目覚めてしまったようだった。 涙目の麻琴をそのまま佐天とインデックスが引きずっていったのは言うまでもない。 「ひぅ!?」 「ふにゃ!!??」 お化け屋敷に入ってから、美琴は上条にぎゅっと抱きつき、ずっとこんな調子だった。 ほんのちょっとした仕掛けでも、びくっと身体をこわばらせているのが上条にも伝わってくる。 そんなに怖かったら無理しなければよかったのに、と思う上条ではあるが、強がってても怖がりな美琴がまた可愛くて、これはこれで捨てがたい、なんて思ってたりもする。 「美琴。大丈夫か?」 「だだだ大丈夫よ。こここ、怖くなんてないわよ、こんな子供だまsふにゃっ!?」 ぷるぷると震えながら上条の胸に顔をうずめて抱きついてくる美琴。 怖くない、怖くない、怖くない、と自分に言い聞かせるようにつぶやいているのが保護欲をかきたててたまらない。 (あぁ、やばいやばいやばい。これは違う意味で上条さんピンチですのことよ。なんだよ、この可愛い生き物は。正直もうたまりません) 「と、当麻。離しちゃヤだよ……。そばに…いて……」 今にも泣きそうな顔で、上目遣い。震える声でそばにいてほしい。 (あぁぁぁぁ、俺は、俺はぁぁぁぁっ!!) 上条の本能と理性の世紀の大戦は、お化け屋敷から出るまで続いたのだった。 結局、勝敗はかろうじて、タッチの差で理性が勝ったようだ。後数メートルお化け屋敷が長ければどうなっていたかわからないレベルの僅差の勝利だったらしいが。 佐天、インデックス、麻琴の3人は…… 「はぁ。まさか最初の仕掛けに驚いて気を失っちゃうなんてね~」 と、意識をはるか彼方に飛ばしてぐったりしている麻琴をおぶる佐天がため息をつく。 少しからかってやろうと思ってたのだが、まさかここまで苦手だったとは予想外だった。 どうやら、麻琴は美琴以上の怖がりだったらしい。 「それに、インデックスちゃんはなんか変な方に興味持っちゃってるし、お化け屋敷は失敗だったかなー」 元々魔術の世界で生きていたインデックスにとっては、幽霊の類などのオカルトはむしろ馴染み深い。それを偽者だとしても科学で再現されていたりするのが面白いのだろう。よく分からない用語を言いながら興味深そうに眺めている。 「まー。楽しんでるみたいだしいっか」 持ち前の前向きさで佐天も佐天なりにお化け屋敷を楽しむことにしたのだった。 お化け屋敷から出た上条と美琴が続いてやってきたのは、遊園地の花ともいえるジェットコースター。 なんでも学園都市の技術をこれでもかとつぎ込んだ、外の世界とはかけ離れた代物だ。 「なんだか上条さんは嫌な予感がするのですが……」 なぜか途中で途切れているレールに視線を向け上条が顔を引きつらせる。 上条の視線の先にちょうどジェットコースターが向かってきた。コースターはそのまま速度を緩めることなく途切れるレールに向けて突っ込んでいく。 当然、レールがなければそのまま慣性に従いぶっ飛んでいくわけで…… ギュオォォォと激しい音を立てて錐もみ状態で空を飛んでいくコースター。数十メートルほど空を飛び、その先のレールに再び着地し、何事もなかったかのようにそのまま走っていく。 これはすでにジェットコースターと呼べるものなのだろうか。 「大丈夫? 顔色悪いわよ?」 「なんというか、途中でいきなり止まって落下したり、レールを支える支柱がはずれたりする不幸が来るんじゃないかとな……俺だけならまだいいが、他の人を、美琴を巻き込んじまったら……」 誰かを巻き込みたくない、と口では言ってはいるが、実は単に怖いのを誤魔化しているだけなのには気付かれてはいけない。 「あぁ、大丈夫よ。いざとなったらアタシが磁力で無理矢理レールに本体くっつけるから」 事も無げに言う美琴。 さすがレベル5。これなら万が一があっても安心だね! なんて思ったりする上条ではあるが、それはイコール逃げられないということ。 「まさかアンタ怖いの?」 「ま、まさか何を言ってるんでせうか、このお嬢様は。上条さんが怖い? そんな幻想はぶち殺してやりますよ!」 「じゃあ、問題ないわね。さっさと行きましょ」 先ほどのお化け屋敷での怖がりようはどこへやら、うきうきと上条の手を引いて入り口に向かっていった。 なお、佐天とインデックスは気を失った麻琴を介抱するため、コースターの出口が見える場所で休んでいたらしい。 いくつかの遊具を堪能した上条と美琴は、園内のレストランに移動していた。 時間もちょうど昼時で、いったん昼食兼休憩をすることになったからだ。 食事はなかなかにおいしかった。色々とおしゃべりもできたし満足のいく昼食だった。 しかし、二人の表情は晴れやかなものではない。 その理由は、店員が食器をさげるときに持ってきたカップル優待サービスの特典らしい目の前のコレ。 大き目のグラスに注がれた飲み物、ただし2本のストローが刺さっているアレである。 戸惑いと恥ずかしさで上条も美琴も固まってしまっている。 「ど、どうする?」 緊張した面持ちで上条が口を開く。 「どうするって……その、せっかくのサービスだしさ、あの……」 顔を真っ赤にして答える美琴。 それでも決定的な言葉は口に出来ない。それは上条も同じこと。 互いに答えは決まっている。そもそも飲まないなんて選択肢は存在しない。行動に移せないのは恥ずかしいだけなのだ。 先ほどのキスも大概だが、まだ見ていたのは係員の女性一人だけだった。しかし、今度は公衆の面前である。そこでこんなものを二人で飲んでたら、俺たちバカップルですと宣伝しているようなものだ。 どうしたものかと悩む二人だったが、やがて意を決した美琴がパクリとストローをくわえた。 「ん!」 上条に早くと目で訴える。 恥ずかしさで顔はこれでもかというほど真っ赤だ。 (よ、よし。男、上条当麻、いきます) 大きく深呼吸して、上条もストローをくわえる。 すぐ近くに感じる互いの顔。 (近い近い近い~!) ドキドキバクバクと暴れまわる心臓の鼓動に周囲の音さえ聞こえなくなるほどであった。 そんなバカップルな出来事をよそに、こっちはこっちで違う意味で盛り上がっていた。 場所は上条たちがいる所の近くにある別のレストラン。 窓越しに上条たちを見れるので見失うことがない絶好のポジション。 「おかわりなんだよ!」 顔を上げたインデックスが皿を隣の塔の上に乗せる。 その高さはすでにインデックスの身長を超え積まれている。 「大食いチャレンジやっててくれて助かったわ……」 「あは……は、なんかあたし見ちゃいけないものを見てるんじゃないかな……」 慣れもあり、黙々と自分の分を食べる麻琴と、インデックスの食いっぷりに圧倒される佐天。 他の客や店員も茫然自失といった風体だ。 すでにチャレンジ達成の目標数はとっくの昔に超えている。それでもインデックスは止まらない。 むしろ一般的な程度の大食いチャレンジなど、インデックスにとってはまさに言葉どおりの意味で朝飯前のことだ。この程度では止まりはしない。 「おかわりなんだよ! 早くしてほしいかも!」 また皿の塔が少し高くなる。 もはやその場にいたものは笑うしか出来なかっただろう。 結局、店長が泣いて許しを請うまでインデックスは食べ続けた。 この日、この店は開店以来最高額の赤字を計上したらしい。 時間は流れ、空が茜色に染まり始めた頃、上条と美琴は大観覧車に来ていた。 昼食後も色々と遊具を回りデートを楽しんだ二人が最後の締めとして選んだのがここなのだ。 ゆっくりと高度を上げていくゴンドラ。すでに地上を歩く人々はまるで蟻のように小さく見えてしまう高さだ。 「きれい……」 徐々に夕陽に染められていく学園都市の町並みに魅入られる。 自分たちの住んでいる場所なのに、なんだかまるで別の世界のようだ。 「そうだな……」 そう返す上条が見ているものは風景ではなく、外を眺める美琴の横顔。 なんとなく美琴の顔を見たら視線がはずせなくなった。はずしたくなくなった。ずっと見ていたい、独占したい。 「……本当に、綺麗だ」 「当麻?」 いつもと違う雰囲気の上条の言葉に違和感を感じて視線を移す。 そこにいたのはとても優しげな瞳で自分を見つめる上条。 「美琴……」 上条が自然な動きで美琴の隣に移動する。 美琴はそんな上条の様子を少し不思議そうな表情で見つめている。なんだろう、と小首を傾げてるその仕草が、その表情が、愛しくてたまらなかった。 「美琴……」 もう一度優しく彼女の名を呼ぶ。 綺麗な夕焼けがそうさせたのか、二人きりという現状がそうさせたのか、それともそれらを含め全てが要因か。 「どうかし―――」 暖かい感触に口をふさがれ、美琴はそれ以上言葉を紡ぐことは出来なかった。 夕陽に照らされるゴンドラの中で二つの影は…… 「あぁ~! 前のが邪魔なんだよ!! いいとこなのに!!!」 「キスですか、キスなんですか御坂さん!! あぁもうなんで、こんないいときに前のゴンドラが邪魔するのー!」 上条たちと1つ挟んだゴンドラに乗るインデックスと佐天が、恨めしげに視線を隠すような角度に来た前のゴンドラを睨みつける。 べたーっと窓に張り付かんばかりの二人の剣幕に、前のゴンドラに乗るカップルが引きつった表情を浮かべているのがこちらからもはっきりと見える。 「ちょ、ちょっと、インデックスさん涙子さん落ち着いて! 前の人なんか変な目でこっち見てるから!!」 前の見知らぬカップルの視線にいたたまれなくなった麻琴が二人の暴走を止めようと声をかける。しかし、興奮状態にあるのか全く聞いてないようだった。 「早くどくんだよ! とうまとみことのキスシーンが!!」 「誰なの、隣だとバレるから1つ離そうって言ったのはー!!」 「インデックスさん、だから落ち着いて、暴れないで! それに涙子さんです。離そうって言ったのは!」 今にも暴れだしそうなインデックスを後ろから羽交い絞めにして拘束する。 影からこっそり両親の初デートを見守ろうと思ってただけだったはずなのに、何故こうなってしまったのか。何がいけなかったのか。どうしてこの二人に振り回されているのか。 分からないことだらけの麻琴であるが、1つだけ分かっていることがあった。それは…… 「とりあえずこの状況は、不幸……よね」 己の不幸体質は健在だということだった。 観覧車から降りた上条と美琴。 二人の顔が赤く染まっているのは、夕焼けに照らされているという理由だけではないだろう。 その少し後ろに、肝心のシーンが見れなかった苛立ちから地団太を踏む佐天とインデックス、そしてどこかげんなりした様子の麻琴がいたのだが、バレなかったのは上条たちがどこか上の空だったからに違いない。 なお、帰宅後、上条は散々インデックスにからかわれ、美琴も後日佐天に細かく追及されるはめになるのだが、幸せで胸がいっぱいな二人は、そのような少し不幸な目にあうとは思いもしていなかった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/未来からの来訪者
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3531.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある科学の超荷電粒子砲(プラズマ・キャノン) 第12話 一方通行(4) <絶対能力者進化実験 後日談> 所長:御坂君、お疲れさま。まずは、ミッション・ コンプリートおめでとう。 美琴:デモよりマスコミの報道が多くなりましたが、おおむね想定内でしょう。 所長:まあ、研究所の基金も1兆円単位で増えたし、まずは天井君 以外はめでたしめでたしだな。 で久しぶりに一方通行でも会うかい? 美琴:しばらく冷却期間をおいたほうがいいと思っています。 で実験はどうなります? 所長:妹達の管理は我々が引き継ぐこととなった。 もちろん御坂君にはその必要がないから妹達は殺さない。 あ・・御坂君は知っているかな? 布束君だ。今日からここで働いてもらう。学習記憶装置いわゆる テスタメントの開発責任者で言語学・大脳生理学のプロだ。 妹達の管理をしてもらう。 それと、妹達は調整後全世界の協力機関へ散らばってもらう。 すべて理事長の許可は得ている。安心してくれ。 あそれと、これ辞令ね。 御坂美琴殿、貴殿をプラズマ・応用電磁力研究所 副所長兼主任研究員に 任命する。 所長木原 ** それから常盤台だけど9月末で、卒業していいよ。 もういいだろう。もちろん卒業試験は8月中に受けてね。 常盤台校長には昨日私から連絡しているから。 美琴:では10月以降は、9時から18時勤務 週休2日ですね。 所長:ああ、正式に職員だから。それと、学籍だが、長点上機大学院ということにしてお くから。1月に試験だけ受ければいいから。こっちに専念して。 じゃ。。まずは副所長就任おめでしょう。「御坂美琴」さん 美琴:あ・・「御坂君」でいいですよ。所長 所長:そーかい。いや・・親しきなかにも礼儀ありだ。御坂さんに変えるよ。 美琴:わかりました。所長明日、上条当麻の退院日なので、家まで送ります。 所長:そう明日は1日休みでいいよ。 美琴:いいんですか?研究が? 所長:超能力者だって風邪くらいひくだろう。欠勤届出しときゃいいよ。 美琴:所長ありがとうございます。 美琴は、辞令を鞄に入れ、所長へ深々と90度の最敬礼をした。 そして、所長室の右手でドアハンドルを握り退室した・ そして明日の会う人物の顔を思い描いた。 上条当麻か・・・、 私が介入しなければアンタはどうするつもりだったの? なにもNo Idea で、関係者を「そんな幻想はブチ壊す」て言って ただ右手で壊すつもりだった? でもさ、アンタに救出された妹達の世話なんてできる?猫じゃないのよ? 一万人の人なのよ? 食わせるだけで年間約100億円 衣食住を提供し、居場所を与え、それだけでも、最低年間500億の生計費がいるわ? アンタにそれができる? できないわよね。 仕方ないわね。 あんたはその力に見合う、教育を受けていない。 あんたは、その力に見合う、収入を得ていない。 あんたは、その力に伴う、責任をだれにも追っていない。 つまりね所詮アンタは偽善使いにしかすぎないのよ。それが現実。 アンタの努力は、結局目の前の誰かしか救えない。 アンタはまだ、神様になるには修行が、経験値が決定的に足りないのよ。 上条当麻、私がアンタを変える。 私がアンタを真人間に変えて上げる。 アンタに約束する。 アンタにその圧倒的な力に見合う教養を身に着けさせる。 アンタにその圧倒的な力に見合う収入を与えてあげる。 だから アンタはその圧倒的な力に見合う責任を負わなきゃいけないのよ。 翌日7月25日 午前9時 冥土帰しの医師の病院 美琴:上条さん先日は大変ご迷惑おかけしました。 当麻:あ・御坂さんか・・いや驚いたよ。あんなに簡単に両手切断されてさ・・ 御坂さんて本当強いね。さすが・・1位様だな。俺さ幻想殺しに結構 自信あるんだけど、はあ・・俺の幻想がぶち殺されたな。 なさけねな。 手の事ならいいぞ、いや実験で模擬戦なんだからさ・・ 御坂さんの綺麗な顔に傷をつける可能性もあったわけだし。 それに契約金500万、慰謝料500万もらってんし、まあ手も しっかり治ったのでいいさ。それに正直家計が苦しいので 助かります。 美琴:そうですか・・でも後遺症もなく治って本当よかったです。 当麻:御坂さん、もしよければ、・・また模擬戦に呼んでくれません? なんかあんな惨敗じゃ・・上条さんの小さなプライドはボロボロ なんです。 美琴:そうですか、所長に話はしましょ。ですが。。その前に 上条さんには、片付ける課題があるのでは? 当麻:課題? 美琴:実は私の寮監と上条さんの御担任の月詠先生が知り合いだそうで、 それで、先日月詠先生に今回の実験の件でお詫びに伺いましたところ 開口一番「上条ちゃんには困ったもんなんです」成績は下から数えたほう がいい惨状・出席不足、正直レベル0なんですから、せめてまじめに勉学 だけでもしないと言い訳できません」とおしゃっていました。 それで、「レベル5の御坂ちゃんに、ぜひ上条ちゃんの家庭教師をお願いします」なん て言われてしまいました。 つまり・・来週から上条さんの課題を教えてあげます。 当麻:へ?中学生が高校生の課題? 美琴:・・これは私が先日受けた学園都市大学入試総合模擬試験の結果です。 当麻:えーと御坂美琴、・・604371人中総合1位? 1000点満点で評点999点、平均点495点 偏差値90.3 はあ・・?つまり全部の中・高校生の中で1位て事? は・・容姿端麗・才色兼備・文武両道か ・・でそんな完璧お嬢様が勉強を見てくれる。と。 美琴:そうゆうことです。楽しみにしていただけますか? 当麻:宜しくお願いします。「御坂先生」 美琴:ふふ上条さん「御坂先生」なんて照れますね。 いっそ 「美琴」なんて呼んでいただけません? 当麻:いいんですか?超のつくエリートの御坂先生を美琴なんて呼んで? 美琴:これから夏休みの午前中は一緒なんだから堅苦しいのはなし。美琴と呼んで いただけます?私は「当麻君」と呼びたいので。 当麻:へ・・当麻君、御坂先生 ご冗談を・・ 美琴:当麻君 御坂先生はなしよ ・み・こ・と 美琴と呼んで ・・ダメ? 当麻:ダメ?・・ダメじゃないです。むしろいいです。 美琴:じゃ・・タクシーまたせているから いきましょ。 「当麻君」 当麻:じゃ・・みさ いや美琴いこう。 ふふ・・第一歩を踏み出したわ。 上条当麻・・アンタは私のものになるのよ。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある科学の超荷電粒子砲(プラズマ・キャノン)
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2217.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Love is blind 第6話 不幸と幸福と漏電 「ど、どうしよう…」 フランクフルト屋の側のベンチで、上条は困っていた。 別に魔術師や科学者からの襲撃を受けたわけではない。 美琴と抱き合っていたせいで、周囲に大勢のギャラリーが集まって来てしまったことでもない。 彼が困っているのは、目の前で突然倒れた御坂美琴が原因だった。 (な、なんで倒れたんだ?俺は何もしてないし…まさか魔術師の攻撃か!?……でも御坂を狙う理由なんてないよな……) なぜ美琴は突然倒れたのか。 魔術か、それとも科学の能力か、はたまた何かの病気なのか。 気絶した美琴を抱え、必死に考えるも答えはでなかった。 ……本当のところ、上条に抱きしめられられ付き合えたと勘違いし、嬉しさのあまり気絶したのだが、上条にわかるわけがなかった。 焦る上条が次にとった行動は (えーと、こういう場合は……そうだ救急車!!) たとえ魔術の特殊攻撃であろうと、たとえ敵の攻撃ではなかったとしても、美琴に何かが起こっていることだけは確かなのだ。 ということは病院に運んだ方が、診察もしてもらえるし安心できる。 それに、こんなところで大好きな彼女を失うわけにはいかない。 上条は手に持っていた携帯を開き、電話をかけようとしたのだが (………救急車って…何番だ?ていうか漏電してるっぽいから車に乗せられないんじゃないか?い、一体どうすれば…) 今は右手で触れているため、美琴は普通に眠っているように見えるが、先ほど一瞬手を離したらかなり強い電気が漏れていた。 これではとてもじゃないが、車に乗せることなんてできるわけがない。 そんなわけで上条がオロオロしていると、 「むにゃ……えへへ…」 頬をリンゴ色に染めた美琴が、呟いた。 いや、正確には『寝言』と言った方が正しい。 表情は緩みきっており、なんだかものすごく幸せそうな美琴は、ギュッと上条にしがみついてきた。 とりあえず言えることは“可愛い”。 そんな美琴を見た上条は、ある考えに辿り着いた。 「………ん?ひょっとして…寝てるだけ…?」 しがみついてきている美琴に、苦しんでいる様子は全く見られない。 それどころか、スースーと寝息をたてている。 (なんだ寝てるだけかよ……てことはそんな深刻な状態じゃないってことか。……よ、よかった…) これで一安心。 美琴に異常なことが起こっていないとわかり、上条は安堵の表情を見せた。 しかし、安心したのも束の間。 「ちょっと御坂さんじゃない!?」 「え?」 人だかりの後ろから女の人の声がした。 聞いたことがある…ような気がしたり、しなかったりする。 (この声……誰だ?それに御坂を知ってるんだよな。俺と話したことがない人じゃないとまずいんだけど…) もし話したことがある人であれば、こんな状況でにもかかわらず好きだと言われることは間違いなく、面倒なことになるだろう。 そして人だかりの向こうから現れたのは、腕に風紀委員の腕章をつけた女性。 残念なことに、上条はその人と話したことがあった。 「あ…こ、固法さん…」 「上条さん!御坂さん気を失ってるみたいだけどどうしたの?まさか事件に巻き込まれたの?」 現れた女性とは風紀委員第177支部に所属する女子高校生、固法美偉だ。 上条は以前美琴つながりで固法と会い、話したことが何度かある。 それはつまり、増強剤の影響を受ける条件を満たしているということ。 (ヤバい、またしてもヤバいぞ…今にも好きだとか言われるんじゃ……) 固法は普段なら、かなり頼りになるが今は話が違う。 この場で告白なんてされれば、美琴を抱えて逃げることなどできないので、ジ・エンド。 上条は美琴を抱えたまま、固法からジリジリと後ずさる。 そんな上条に固法が 「?どうしたの上条さん……まさか御坂さんを気絶させたのって、上条さんなの…?」 「……あれ?」 固法は上条に惚れる様子を見せるどころか、上条に敵意さえ見せ始めた。 それを見た上条は少し考える。 (…どうみても俺に惚れてないよな。てことは……まさか固法さんって好きな人いるのか?だとしたらこれはチャンス!!) 固法に好きな人がいる、というのは少し予想外であったが、何にせよ助かった。 なんたってやっかいな増強剤の影響を受けないのだから。 こうして固法が正常だと確信した上条は、 「いや違いますよ? 俺が何かしたんじゃなくて急に倒れたんですよ。それになぜか漏電してるから右手を離せなくて…だから救急車も呼んでも乗せられないから困ってたんです。」 そう固法に説明した。 実際は抱きしめていたのだが、それを言うと話がややこしくなるので省くことにしたのだが、特に問題はないだろう。 上条の説明を聞いた固法は、 「あ…そうだったの。変な態度するから、てっきり上条さんが何かしたのかと思ったちゃったわ…」 「いや気にしないでください。それより御坂を運んだ方がいいと思うんですけど…どこに運べば………」 「あ、そ、そうね。えーと……177支部に行きましょうか。」 「はい、じゃあ運び……………!!」 上条は気づいた。 177支部へ行く、ということは車無しで気絶した美琴を運ぶということ。 それはつまり…… (……御坂をおんぶするってことなんじゃ!?) なんという素敵イベント。 固法に運ばせるわけにはいかないし、どう考えても他の方法もないので、必然的に上条が美琴をおぶることになるのだ。 上条は固法に見えないよう、ガッツポーズをした。 「えーと…御坂さんをどうやって…あ、タクシーでも…」 「あ!いや!!お、俺が!俺がおんぶします!しますから大丈夫です!!マジで!!」 上条は必死だった。 「そ、そう。じゃあお願いしようかしら?」 「よし!!さて……よっと。」 「大丈夫?じゃあ行きましょうか。」 上条は気絶している美琴をおんぶし、固法と並んで風紀委員の支部へ向け歩き始めた。 振動で起きないかが心配だったが、美琴は上条の背中で気持ちよよさそうに眠っており、今のところ起きる気配はない。 (ああ…御坂をおんぶできるなんて……幸せだ…) 背中の美琴の感触や体温、匂いなど、美琴好きの上条にとってはたまらなく、ついつい顔が緩んでしまう。 今日はなんといい日なのだろうか。 美琴を抱きしめることはできしたし、おんぶもできたし、女の子に追いかけられた出来事が霞むくらいいいことが起こった。 おんぶもいいけどもう一回抱きしめたいなー、とか上条が考えていると 「上条さん?」 「は、はい!なんでせう?」 「改めて言わせてもらうけど…さっきはごめんさないね…疑っちゃって…」 隣を歩く固法は視線を下に落とし、申し訳なさそうな表情を浮かべている。 そうやらさっきのことをかなり気にしているようだ。 「そんなの気にしなくていいですよ。全く気にしてませんから。」 「でも…」 「いいですって。それより今日も風紀委員の仕事ですか?」 「え、ええ、そうなのよ。今第7学区に妙な男子学生が出没していて、多くの風紀委員が駆り出されてるのよ。」 「…男子学生…?まさかとは思いますが、その学生って髪の毛が青くて耳にピアスしてるとか…?」 非常に嫌な予感がした上条はおそるおそる尋ねてみた。 上条の言う、“髪の毛が青くて耳にピアスしてる学生”とは、もちろん青髪ピアスのことだ。 できれば違ってほしいと思っていたが、固法は驚いた表情を見せ 「なんで知ってるの?まだ言ってないのに…」 「え…ま、まさか本当に?」 「ええ。私たち風紀委員は青い髪の高校生を捜しているのよ。ひょっとして、上条さん何か知ってるの?」 「い、いや別に…」 間違いない、風紀委員が探しているというのは、増強剤で暴走した青髪ピアスだ。 上条の顔はサーッ青くなり、心拍数が跳ね上がった。 ぶっちゃけ上条も、いくら青髪ピアスが増強剤の効果により変態が強化されたといっても、そこまで問題はないと思っていた。 だから特に青ピを探さずに美琴をメインに探していたのだ。 「そ、それで…被害は…?」 上条は再びおそるおそる固法に被害状況を尋ねた。 もし青髪ピアスが女の子たちに危害を加えていた場合、停学はもちろん、最悪退学になりかねない。 頼むから何もしていないでくれと、願っていると 「被害?女の子達は被害になんて遭ってないわよ?」 「へ?」 固法の口から出たのは予想外の答えだった。 「被害に遭っていない…?」 「ええ、むしろ逆よ。青い髪の学生は第7学区内の女の子たちを助けて回ってるの。だから是非ともお礼を言いたくて探してるわけなの。」 「えー…そ、そうなんですか……」 上条は青髪ピアスの予想外過ぎる行動に驚きを隠せない。 (青ピが人助け……変態が増強されたんじゃないのか?…いや、あれは土御門の予想だから別の何かが増強されたのか。) だとすれば何が増強されたのか、上条が考えていると 「んん…」 「!?」 背中の美琴が小さく声を出した。 さらにちょっと動いた気がする。 (ま、まさかもう起きたのか!?頼むって、おい…もう少し眠ったままでいてくれよ…) 美琴が起きれば、当然自分の足で歩くことになり、おんぶできなくなる。 しかし… 「えへー……むにゃ…とーまぁ…」 「な…ッ!」 どうやらまだ眠っているらしい。 耳元で聞こえる美琴の可愛らしい寝言、美琴大好きの上条にとってはたまらない。 (何この可愛い御坂、結婚したい。ていうか夢に俺が出てきてるのか……どんな夢なんだろ…) 青ピのことなど頭の中から消え去り、できれば2人でいちゃいちゃしてる夢がいいなー、と考える上条だった。 そんなかんじで歩くこと約10分、風紀委員第177支部に到着。 ちゃんと室内に女の子がいないと確認をとってから中へと入り、美琴をそっとソファへと寝かせた。 背中から降ろすとき名残惜しいと思ったのは内緒だ。 「もう漏電してないみたいね。それに病院へ運ぶほどひどい症状じゃないみたいだから、しばらくここに寝かせておこうかしら。」 「そうですね。御坂もそのほうがいいと思います。」 「じゃあ私飲み物入れてくるから、ちょっと待っててね。」 「あ、どうもすみません。……さて、御坂の寝顔を堪能しますか…ん?電話か?」 唐突に鳴った着信音、上条はポケットから携帯を取り出してみると 「土御門か……まさか元に戻す方法がわかったのか!?」 だとすればありがたい。 もう女の子に追いかけ回されるのは勘弁してもらいたいし、体力と気力がもつかどうかが怪しい。 上条はすぐに通話ボタンを押し、携帯を耳に当てた。 「土御門?何かわk」 『おーう上やん!元気にモテてるか!』 「なんか腹立つ。で、何のようだ?嫌み言うために電話かけてきたわけじゃないだろうな。」 『ああ、もちろん違うぜい。治し方がわかったんだにゃー。』 「ッ!!マジか!」 上条は歓喜した。 これで全てが元に戻る。 女の子達はみんな今日あったことを忘れ、改めて美琴に告白することができる。 それで振られても、上条は悔いないだろう。 まあ絶対振られないけど。 「で、どうやったら治るんだ?」 『ああ。解毒剤ってのを作ったんだにゃー。だから上やん、俺の寮に取りにこい。』 「解毒薬……“毒”っていうことにちょっと引っかかるな…」 それにそんなもんで治るもんなのか、少し疑いはあるものの、今は土御門を信じるしかない。 早速取りに行こうと思ったのだが、立ち上がろうとしたところで1つ考えが浮かんだ。 「……あのさ、こっちに持って来るのって、無理?」 『え?いやーそれは…』 「頼むって!俺がそっちに移動すると絶対ヤバいことがおきるからさ!」 と、言うのは立て前で、本音はこの場で美琴と一緒にいたいからである。 しかし、土御門の声がなかなか返ってこない。 電話の向こうでどうするべきか考えているのだろうか。 そして沈黙が続くこと約20秒。 『よし!わかったぜよ。今回は俺にも非があるからな、持って行ってやるんだにゃー。』 「おお!助かる!じゃ、そっちの携帯に俺の居場所を送っておくから、頼んだぞ!!」 『了解だにゃー。』 そして土御門との通話は終了、想像以上に自分の思い通りの展開となった。 「いやー、土御門のやつ聞き分けよかったな。……何か企んでるんじゃ………ってそれはないよな。よし、アイツが来るまで御坂の寝顔を…」 上条は携帯をポケットにしまい、ソファで眠る美琴に視線を移す。 やはり可愛い、その一言に尽きる。 (………あ!写真とって待ち受けにしよう!!) 名案だと上条は思った。 ここで写真を撮っておけば、携帯でいつでも美琴を鑑賞できる。 固法がまだ戻ってこないことを確認してから、上条は携帯をかまえた。 が、ここで上条に不幸が襲いかかる。 「固法先ぱーい!例の青髪の学生発見しました!ていうか佐天さんが…」 「こんにちはー!!あの、あたし学校の友達と遊んでたら不良にからまれて、そこを偶然青髪の人に助けてもらっちゃった……って、上条さん!?」 「…マジかよ……」 上条に安息が訪れる時はないのだろうか。 勢いよくドアが開くと共に、美琴の友人である初春飾利と佐天涙子が入って来た。 いや、“入って来てしまった”と、言った方が正しいかもしれない。 2人と目が合った上条はその場で停止。 上条はこの2人とも知り合いになり、話したことがあるため、増強剤の影響を受ける可能性がある。 が、しかし、それはあくまで“可能性”だ。 (まだだ。まだこの2人に好きな子がいるって可能性が残されてる。頼むからいつも通りであってくれよ…) 上条は2人に好きな人がいるという可能性に賭け、イスに座ったまま2人の反応を待った。 小学生なら話は別だが、2人は中学生なのだから好きな男の子がいてもおかしくない。 その結果は… 「上条さん…あのー、今暇ですか?もしよければパフェ食べに行きませんか?私美味しいお店知ってるんですよ!」 「あ、ちょっと初春!抜け駆けはずるいって!上条さん私と買い物行きましょうよ!」 「ははっ……そうだよな…人生そう上手くいくわけないよな…」 上条へ詰め寄る2人の女子中学生。 完全に『増強剤』の影響を受け、上条に惚れ込んでいる。 「あの、上条s」 「逃げるが勝ち!!」 上条は半分泣きながら逃げるように、というか逃げるために第177支部から飛び出した。 「もっと御坂と一緒にいたかったのに…不幸だぁー!!!!!」 ♢ ♢ ♢ 「いやーお腹いっぱい!後はとうまを探すだけかも!」 お腹をさすりながら、そんなことをいうのは、大食いシスターインデックス。 食料確保と上条を探すため、上条の部屋を出て町に来ていた彼女は よく飲食店でやっている『餃子100個食べたら1万円!ただし食べられなかったら5000円お支払い』というやつである。 おかげで元からあった千円を使うどころか、今インデックスの手元には5万円という大金があった。 「お金ってこうやって手に入れるものだったんだ……ん?あれは…とうま?」 インデックスが見たもの。 それはものすごい勢いで走る上条と、追いかける2人の女の子だった。 「……ちょっと待つんだよ!とうまー!!」 ♢ ♢ ♢ 「はぁー…全然見つからない…」 と、ため息まじりに独り言を言うのは、天草式十字凄教の五和だ。 名も知らない青い髪の少年(青髪ピアス)に助けられてから約1時間、上条のこと探し続けるも、見つけることはできていなかった。 「もー…これじゃ抜け出して来た意味が…ん?」 「かっみじょーさーん!私とデートしましょーよー!」 「待つんだよー!とうまー!」 上条を追いかけているのは3人の少女。 そのうちの1人は知っている。 イギリス清教のインデックス、上条との同居人である。 しかし、他の2人は見たことが無い。 ということは… 「あ、新しいライバルが……ちょっと待ってくださーい!!」 ♢ ♢ ♢ 一方、こちらは上条のクラスメイトである姫神愛沙。 「おかしい。絶対おかしい。」 第7学区の路上に設置されているベンチに座り、姫神は意味ありげに呟く。 彼女は教室内で担任の小萌と、クラスメイトの吹寄が相次いで上条に告白するという異常事態を目の当たりにしていた。 それだけにとどまらず、小萌も吹寄も上条を追って学校を飛び出して行ってしまったのだから、何かが起こっていることは間違いない。 そう考えた姫神は、恐らくこの事件に絡んでいるであろう上条に会うため、放課後町を散策していたのだが、五和やインデックスと同様に上条に出会うことができず、今は休憩の最中だった。 「絶対に何か起こっている。だから上条君に会いたいのだけど……なぜだろう。会える気がしない。」 何かと上条と縁の薄い姫神、諦めモードになりかけていた時だった。 「上条さーん!待ってくださーい!」 「とうまー!話があるんだよー!」 姫神のすぐ後ろから聞こえてきたのは、聞き覚えのある声、そして名前。 「え?上条。当麻?」 姫神が振り返ると、そこには逃げる上条と追いかける4人の女の子の姿があった。 そんな光景を目にしたら、することは一つ。 「……追いかけよう。」 ♢ ♢ ♢ 場面は戻って、ここは風紀委員第177支部。 上条が逃げ出してから30分近くが経っており、今室内には3つの人影があった。 一人は風紀委員177支部支部所属の固法。まあここにいて当たり前である。 もう一人は上条の呼び出されわざわざやってきた土御門。 そしてもう一人は、晴れて上条の彼女になることができたと思い込んでいる美琴なのだが、他の2人に対して深々を頭を下げている。 なぜ美琴が頭を下げているのかというと 「本当にすみませんでした!!」 2人に謝罪をするためだった。 美琴は本当に申し訳なさそうに、固法と土御門にただひたすら謝り続ける。 もちろんのことだが、美琴が固法と土御門に謝るのには、ちゃんとした理由がある。 その理由とは 「いやそんな謝らなくても別にいいぜよ。…まあ目を覚ましていきなり漏電したのはびっくりしたけど……」 「す、すみません!ほんとにすみません!!」 美琴の口から出てくるのは、謝罪の言葉のみ。 自分が漏電してしまったため、固法と舞夏のお義兄さんを危険な目に遭わせてしまった。 そのことが申し訳なくて仕方が無かったのだ。 謝ることを止めない美琴に、漏電が怖いためか少し距離をおいている固法が 「土御門さんも言ってるけどそんな謝らなくていいわよ。それより、なんで起きていきなり漏電なんてしたの?」 「そ、それは…まあいろいろあったんです……」 言えない。 本当のことなど、絶対に他人に言うわけにいかない。 (アイツと付き合えたことが嬉し過ぎたからなんて…言えないわよ!) 美琴の勘違いは続く。 本当のところ、上条は美琴が増強剤の影響を受け、告白してきたと思っているのだが、美琴は上条が告白を受け止めてくれた、と思い込んでいるのだ。 まあ実際のところ両想いなので、問題はないと言えば問題ない。多分。 それにしても、今改めて思い出してみても、あの時の幸福感はヤバい。 名前で呼ばれ、抱きしめられ、“好きだ”と言われる。 それを上条にしてもらえたのだから、美琴には『今世界で1番幸せな女の子』だという自身があった。 で、いつの間にか反省モードから妄想モードに切り替わっていた美琴は (えへへへ……私がアイツの彼女……って、や、やば…顔に出てるかな。ていうかまだ抱きしめられてる感触が残って……あれ?そういえば…アイツは…?) 今になってようやく気づいた。 上条は一体どこに行ったのだろうか? 改めて室内をきょろきょろと見回すが、彼の姿は無い。 (……あれ?目が覚めてからずっと漏電してたからわかんなかったけど……そういえばここにいないんじゃない?) もう一度見回してみる。が、やはりいない。 じゃあどこに行ったんだ、と思っていると 「どうしたの御坂さん。急にきょろきょろしだして。」 「あ、あの…アイツ知りませんか?私気を失う前にアイツと会ってたんですけど…」 「“アイツ”って上条さんのこと?上条さんなら御坂さんをここまで運んでくれたんだけど、その後すぐに出て行ったわよ?」 と、固法の答えを聞いた美琴が一番に考えたことは (あ、アイツが運んでくれたんだ……なんか嬉しいな…) ささいなことでも、幸せな気分になる美琴だった。 しかし、今大切なことは上条に運んでもらったことではない。 「あの、出て行ったって…なんでですか?」 「えーと…そうだ。初春さんと佐天さんが入ってきたんだけど、なぜか上条さんは2人に追いかけられて出て行ったのよ。」 「「あ…」」 美琴と土御門は同時に声を出した。 2人は固法の話を聞いて瞬時に理解していた。 上条は薬の影響を受けた初春と佐天に言いよられ、ここから逃げ出したのだと。 (てことは、今にも初春さんと佐天さんがアイツに……は、早く探さなきゃ!!) 予想外の事態に、美琴は慌てて支部から飛び出そうとしたのだが、 「ちょっと待つぜよ!」 「わっ!」 急に土御門に腕を掴まれた。 急いでいるのに一体なんだ、と美琴は不機嫌そうに振り返り 「なんですか?あの、私急用を思い出したんですけど…」 急用=上条を探しに行くこと。 とにかく、美琴は一刻も早く上条を探しに行きたかった。 しかしそんなことはバレバレなわけで… 「いや急用って、どうせ上やんを探しに行くだけだろ?」 「な…!!そ、そんなわけないじゃないですか!私は別にアイツのことなんて…ただちょっと用事があるだけで……」 ここできても美琴は素直ではなかった。 土御門と目を合わせないようにして、バレバレのいいわけをする。 そんな美琴を見た土御門はうんざりとした様子でため息をつき、 「…まあその話は置いておいて…上やんにこれを届けてほしいんだにゃー。ほい。」 「これ……なんですか?」 美琴が土御門より手渡された物。 それは液体の入った小さなビンだった。 その高さ5センチ、直径2センチほどの小ビンには手書きの読みづらい文字が書かれたラベルが張られている。 その文字を美琴は読んでみると 「『ANTIDOTE-解毒剤-』…?何の?」 「だから上やんが飲んだ増強剤の解毒剤ぜよ。それを上やんに飲ませれば、すぐに元通りになるんだにゃー。」 「え!?ほんとですか!?」 「もちろんだにゃー。俺はウソは言わないぜい。」 「これが……アイツが元に戻る薬…」 土御門の台詞に美琴は目を輝かせた。 彼の言葉が本当なら、これを上条に飲ますだけで全てが解決し、正式に上条との交際がスタートする。 なんて素敵なアイテムを持って来てくれたんだ、と美琴は土御門に心底感謝した。 「て、ことで、俺はもう上やんを探すのは嫌だし、代わりに頼むぜよ。」 「あ、はい!任せてください!!」 「よし。じゃあよろしく。あ、それからこれ。解毒剤の説明書だにゃー。今急いでるなら、上やんに飲ませる直前にでも読んでくれ。」 「わかりました!」 美琴は元気よく返事をした。 そして絶対になくさないよう、解毒薬と取扱説明書をカバンの中にしまい、ドアノブに手をかける。 「じゃあ失礼します!固法先輩もありがとうございました!!」 「お礼なんていいわよ。それより頑張ってね?」 「はい!!」 美琴は元気よく、支部から飛び出していった。もう2人に上条を探しに行くことを隠してすらいない。 もうすぐ全てが解決する、そう思うと足取りは軽かった。 ♢ ♢ ♢ そして美琴の後に177支部を後にした土御門は、 「舞夏ー!おまたせだにゃー。」 「おー、やっと出て来たかー!で、どうだったんだー?」 「いやー……これはもっと面白そうなことになるぜよ。あ、超電磁砲にはバレてないか?」 「それなら大丈夫だぞー。見えないところに隠れてたからなー。」 「よし、なら大丈夫だな。さて……上やんと超電磁砲を追うぜよ。」 やっぱり土御門は土御門。 支部の外で待機していた義理の妹である舞夏と共に、今日も元気に悪巧みをするのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Love is blind
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/113.html
いちゃいちゃの究極っつとABCとかになるんかね? 上条「何か日が当たるようなったなここ?」美琴「え? ええ、そ、そうね、来た時より明るくなったわね」上条「んー。つう事はあれか? 何か期待されてるって事なのか? 俺たち」美琴「え? さ、さあどうかしらね」美琴(期待って……。一体何期待されてるっての!? 大体、いちゃいちゃって、やっぱ手ぇ繋いで公園歩いちゃったとかそー言う事なのかしら……)『ジ……(上条の右手をガン見)』上条「何見てんだ御坂?」美琴「は……? え、えええ、えーと……。あは、あははははは……、取り合えず、えいっ!」『バチッ』上条「うおっ!? 危ねぇ! 何しやがんだ急に、このビリビリ娘はっ!」美琴「ビリビリって言うなってんでしょうが、このバカァァァアアア!!」上条「おまっ! 電撃飛ばしといて今度は逆ギレですか!?」美琴「何よ、ちょっと電撃飛ばしたくらいで一々ギャーギャー騒ぐんじゃないわよ、小さい男ね! どぉーせその右手のおかげで効きゃしないんだからどぉでもいいでしょうが!!」『ダンダンッ!(足踏み)』上条「被害を受けた上に非難まで受けるとは……。ふ、不幸だぁ……」『ガク……』美琴「フンッ。(ど、どうやら誤魔化せたみたいね……)」上条「あー……、カミジョーさんは今ので非常にショックを受けました。ですので、今日はこのまま帰ってよろしいでしょうか? ええ、いいですよ。はいそうですか、では皆さんさやうなら……」美琴「コラコラ。アンタは何勝手に締めくくって帰ろうとしてんのよ? 私はどーすんのよ? わ、た、し、は」上条「お前も帰ればぁ? ハァ……」美琴「あ、ちょ、もうっ! ちょ……とぉ、ま、ち、な、さ、い、よぉ……」『ぐぐぐ……(上条の腕を掴んで踏ん張る)』上条「何だよ御坂……。今日のカミジョーさんは傷心旅行に出たいくらいブルーなんですのよ? ただ傷心旅行に行く金なんかこれっぽっちも無いから、取り合えずスーパーの特売にでも行ってこようと思ってるんですがね?」美琴「そ、それって私より大事なの!? (い、言っちゃった!?)」『カァ……ッ』上条「はあ? あの……、仰っている意味が良く判り兼ねるのですが?」美琴「…………」上条「あの……、御坂?」美琴(これ以上言っちゃダメ! 私が期待しちゃう! 私がコイツに期待しちゃうからっ!! と、とにかく、とにかく何か言わないと……)上条「もしもーし」美琴「え、あ、え、えーと……ね。その、あの、何て言うか……」『モジモジ……』上条「ああーっ!!」美琴「ふえっ?」『ビクッ』上条「御坂!!」『ガシィィッ!!(美琴の両肩をホールド)』美琴「ハイッ!!」『ビクッ』上条「また『ゲコ太』か? そうなのか? そうなんだな?」美琴「え! えぇ!?」上条「やっぱりそーなんだなー。おかしいと思ったんだ。お前がこんな変な企画にホイホイ乗ってくるなんて。考えてみたら前回の罰ゲームん時もそうだった。その前は、海ば……ま、あれはいいな。あれはノーカンだな。ノーカンノーカン」美琴「あ、あの…」上条「お前ホントゲコ太好きなんだなー。よし判った! 他ならぬ御坂の頼みなら聞いてやらない事も無い事も無いの反対だからアリだ!!」美琴「え……、ちょ、ちょっと……」上条「インデックスの事では、随分と借りがあるからな。あん時は罰ゲームやら、その後のごたごたやらですっかりうやむやになっちまったけど、俺は忘れてたわけじゃ無いんですよ?」美琴「そ、そんな……私は別に貸したなんて……」上条「じゃ、要らないとか? 流石見た目通り太っぱ――」美琴「それ以上言ったら許さないわよ」『ゴゴゴゴ……』上条「ひゃい!?」美琴「フン」上条「ハァ……、で、どうすっかねこれから」美琴「え?」上条「やっぱあれかね? いちゃいちゃの究極っつとABCとかになるんかね?」美琴「ハイ! 先生!」『ビッ』上条「はい、御坂君」美琴「AとかBとかCって、何?」上条「あ、あ……」美琴「何でそこで遠い目すんのよアンタは?」上条「ぅぅぅ……。ごめん、別の事考えっから許してくれ!」美琴「ほほ……う……」上条「な、何っ?」『ビクッ』美琴「私に言えない事、な訳ね?」上条「あ、あ……、え、え……」『タラ……(冷や汗)』美琴「ゆったんさい。先生怒らないから」上条「とか言って怒るじゃん。俺の経験則から言って、それ言って怒らなかった人皆無――」美琴「じゃ、判るわよねぇ? 言わなくても怒るって……」『ギロッ』上条「ひっ!? ふ、ふこ、不幸だッ」美琴「男なら覚悟を決める。ほら、さっさと全部吐いて楽になったらどうだ?」上条「何? その電気スタンド俺に向ける様なポーズ? べ、弁護士呼んでくれよ刑事サン!? こ、この人暴力振るう気だよ! 自白強要だよ!!」美琴「は、や、く、い、えっ、て、の!」上条「痛ッ!? 痛い痛い!! 暴力反対!! つねるの禁止!! 人類みな兄弟ッ!! 痛ッ!! 喋る、喋るからつねるの止めて!!」美琴「最初っから素直にしてりゃ痛い目見ないで済んだものを……」上条「(こえーよ御坂、きっとコイツの前世ってナチスのSSか何かだよ……)」美琴「誰が第三帝国の手先ですって? 馬鹿言ってないでさっさと白状する」上条「ぅ。じゃ、怒ったり驚いたりすんなよ。暴力も禁止だからな!」美琴「アンタに隠し子がいるって聞いても取りみだしません」上条「いや、それは驚こうぜ――じゃ、話すけど、ABCってのは恋愛の順序を顕わしたものなんだけど……」美琴「うんうん」上条「ABCは3段階の順序を表してるんだ」美琴「それでそれで」上条「え……。まず、A。これがキス」美琴「うん。Aがキス。……、…………」『ボンッ』上条「ほらぁ。またふにゃぁか? いいぞ、大丈夫だ、問題無い。(その方が俺も助かる)」美琴「たひっ、たひじょぶだから、つづけへ」上条「うっ。じゃ、気をしっかり持てよ」美琴「ふ、ふひゅん」上条「(大丈夫かコイツ)じゃ、Bな。ペッティング。Hの前戯とか――」美琴「あう゛」『ブシュー』上条「み、御坂っ!!」美琴「らいじょーぶ、らいじょーぶよー」上条「はぁ、これじゃ何時ゲコ太ゲット(いちゃいちゃ)出来るか判んねーなー。ってか出来るのか?」結局Bまで聞いた所でダウンした美琴は、上条さんの膝枕で、上条の上着を掛け布団代わりにお休み中。一方、上条は、そんな美琴の寝顔を時折覗き込みながら、色々と思案中です。上条(何か妙に熱い視線を感じるなー。つーか、いい加減起きねーかな御坂? こんなトコでいつまでも寝てっと背中イテーだろうし……)上条「おーい、御坂? もしもーし。早く起きねーと、風邪引きますよー」『チョイチョイ(頬をつつく)』美琴「うーん……。むにゃむにゃ」上条「なんつー幸せそうな寝顔です事……」上条(んー、起きねえなー、やっぱり。どーすっかなーこれ?)上条「いっそ抱き抱えてコイツの寮まで……。いやいや待てよ?」上条(そんな姿を土御門やら青髪やらに見つかったら? いや、ぜってー見つかるに決まってる。んでアイツら俺の事目ぇ血走らせて追いかけ回すに決まってんだ。それで逃げ切ったとしても、後である事無い事言いふらさまくってみろ……!?)上条「カミジョーさんのバラ色――予定――の恋愛模様が!? 神聖な花園が土足で踏みにじられてっ!! うっがー! 不幸だぁ――――――――――!!」上条『ゼエ、ゼエ』「こ、こうなったらヤルしかねえ。鬼になれ――。血に飢えた獣になれ、上条当麻ッ!! そして奴らの喉笛をガブーッと……」美琴「…………」上条(あれ? いつの間に目を覚ましたんだコイツ?)上条「みさ――」美琴「イヤッ!!」『ゴンッ!(垂直アッパー)』上条「はぐっ!?」美琴「ぁ……」上条「な、ないひゅあぱぁ……、ふこ……」『ドサッ(親指を立てながらゆっくりと崩れ落ちる)』美琴「あれ? あ、あれぇ?」美琴(私一体どうしたんだっけ? 落ち着いて思い出せー……。確か、コイツがAとかBとかおかしな事言いだしたんだったわ。それで……)『もそもそ』美琴「これ……。ぇ?」美琴(学、ラン……?)『ギュ―――――ッ(思わず学ランを引き寄せて丸まる美琴)』美琴(はぁ、こんなモノからもでもアイツの無駄な包容力を感じるのねぇー……)美琴「って!? な、何考えてんの私!? ち、違うのっ!! こ、これは寒いから!! そう!! 寒いから思わずあったかいなぁー、なんてっ!! はは、あはは、あはははは……、はは、は、は……」『スリスリ(空笑いしながら上条の膝をなでる)』美琴「!!!」『ガバッ!! ズサササササササッ!!』美琴(な、何でわ、わた、わた、わた……)美琴「ふにゃあ」『ゴンッ!』美琴「あだっ!? ぅ……、頭が割れる……。不幸だわこれ……」『すりすり(自分の頭をなでる)』美琴「!!」『ババッ! バババッ!!(高速で自身の身だしなみチェック)』美琴「ふー……、おかしな所は無いみたいね……」『ガックリ』上条「う、う……」美琴「あはははは。ま、まあ、アレね。は、初めてが気付かないうちに終わっちゃいましたじゃ、ああ、あんまりにも情けないもん……ブッ!?」『カァァァァァァアアアアア……(ゆでダコの様に真っ赤)』上条「不幸だ……。まだ顎がガクガクする」『コキコキ』美琴「ふぁ、ふぁたひは何期待してんのひょ? あ、あんにゃヤツ……、あんにゃヤツゥにはひ……」上条「あの右は絶対世界に通用するよ。日本初のヘヴィ級王者誕生ってか?」美琴「誰がヘヴィ級じゃゴラァ――――――――――ッ!!」『ガシッ!!(タックル&馬乗り)』上条「うわっ!? み、御坂!!」美琴「アンタはこんな時まで私の事スルーなんかっ!! ス、ル、ウ、な、ん、かァァァァァァアアアアアア!!」『ガクガク(マウントから胸倉を掴んでゆする)』上条「な、ん、の、は、な、し、だ、や、め、ろ、お、お、お、お……」美琴「ざけんじゃないわよこのっ!! パンチは褒めて、体は放置ですって!? こんな目の前に美味しいそうな女の子が転がってたら、唇の一つや二つや三つ奪うのが漢(おとこ)の筋ってもんでしょうが!!」上条「ま、待て御坂、お、お前言ってる事がおかしいって」美琴「何がよっ!? AとかBとかCとか!! とにかくアンタが先に言いだしたんだから、さっさと責任とって私に実践してみろってのよ!! この据え膳食わずの甲斐性な――」上条「落ち着け美琴ッ!!」『ギュ(持ちつかせようと抱きしめる)』美琴「ッ!?」『ビクッ』上条「美琴、ちょっと落ち着こうな。ほら、女の子のマウントポジションはカミジョーさん的には嬉し恥ずかしシチュエーションながら、取り合えず上から降りて」美琴「う、うん……」『ボボボボボ……』上条「よし美琴。で、何だって? 俺と、その、AとかBとかどうしたって?」美琴「え? そ、それは、えーとぉ……」『ザァ―――――(一気に血の気が引く)』上条「はぁ……、いいよ。言わなくて」美琴「へ?」上条「あのさー。お前、もう少し自分を大事にしろよな。ゲコ太ゲコ太ってそんなにお前にとって大事なのか?」美琴「え? え?」上条「まー、ふった俺が悪いんだけどさ。よく無いだろ? そう言う事は、好き同士がしなくちゃな」美琴「ちょ、ちょっと待って! 何か話がおかしな方向に行って――」上条「とにかく今回の目標は何だ! ヨシ! 美琴クン言ってみたまえ!」美琴「へ? あ? い、いま、美琴って呼ん――」上条「それはいいから答えたまえ!」美琴「あ、はい……。い、いちゃいちゃ……、する?」上条「そう! 正解ッ!」『ビシッ』美琴「ふえ?」上条「では第二問! 我々がいちゃいちゃするための障害を述べよ!」美琴「え……、ア、アンタの女性遍歴?」上条「ぐはっ!? そ、それは誤解が六回ですのよ御坂さん。ぼ、僕は決して優柔不断なハーレムキャラではございませんし、そもフラグ男などと良く言われますが、けっしてそれが良いのかと言えば、たまに発生する桃色イベントぐらいで、その後は、もう、もう……。あ、心の汗……」美琴「(ウ、ウザい)」上条「ぐぞ……。俺だってなぁ。俺だって、ホントは恋愛したいんだぜ。誰はばかる事無くキャッキャウフフしてえんでございますよ!!」美琴「え!? そ、それならわたし――」☆「それには及ばん」『グゴゴゴゴゴゴ……(床からせり上がる水槽。そこには逆さに浮かんだ、男にも女にも以下省略)』上条&美琴『ビクッ』「「ア、アンタだれ?」」☆「気にする事は無い。そうだな。上条当麻君。君の先輩、とだけ言っておこう」上条(先輩……? 学校にいたかこんな変な奴……?)☆「特に意味は無い。一つ付け加えるなら、学校ばかりとは限らん、と言う事だ」上条「は、はあ……」美琴「あの……」☆「何かね?」美琴「さっきの言葉の意味って?」☆「言葉どおりだ。君たちは君たちの思うままに青春を謳歌したまえ、と言う事だ」美琴「え、それってどう言う意味……?」☆「学園都市第3位の割には飲みこみが悪いな。それとも聞き返す事に何か意味があると取るべきかな?」『ニヤリ』美琴「んなっ!? ちょ、ちょっと、今の言葉取り消しなさふががっ!?」上条「わ、判りましたっ! 自由にしていいって事ですよね!」美琴「むがあ―――――!!」☆「君は物わかりがいいな」上条「ハハハハ。よ、良く言われますぅ」☆「(これで、後回しに考えていたプランが大幅に短縮される)」上条「え?」☆「若者が細かい事を気にするな。では、存分に励みたまえ。成功を期待している」『グゴゴゴゴゴゴ……(水槽が床に沈んで行く)』上条「はぁ……、何だったんだ一た痛ッ!!」美琴「ぷぇ。口離せこの馬鹿ぁ!!」上条「だからって噛む事ねえだろ?」美琴「ざけんじゃないわよ!! アノ金魚ヤロー、私の事見て笑ったのよ!? タダじゃおかない!! 今すぐ床ぶち抜いてあのクソ水槽から引きずり出して3枚にオロシテやるんだからっ!!」上条「物騒な事言ってないで外行くぞ、外」美琴「は、な、せっ、て、の、が、わ、か、ん、ねーのか、アン、きゃ!?」『ガバッ(上条にお姫様だっこされる)』上条「ああ、判りませんねー。猛獣ビリビリ中学生のたわ言など」美琴「ま、またビリビリって!? アンタまで私の事馬鹿に、きゃああ――――!?」『グワッ(上条がぐるぐる回りだしたので思わず首にしがみつく)』上条「大人しくしないと、ぐったりするまでメリーゴーランドの刑にしますよぉ――――?」美琴「わ、判った、判ったから、回るの、きゃああああ!?」『グルン(今度は逆回転)』上条「判ってくれた?」美琴「判ったって言ったでしょぉぉおぉおおお!? だ、だから、だから早く止め、きゃああああああああああああ!!」美琴(ふふ。ホントは全然平気なんだけど、面白いからもう少しこのまま)『ギュ』美琴「(べ、別に気分転換に抱きついてる訳じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!)」『ギュ――――ッ』上条「どうだ御坂ぁ!! こ、これが上条ハリケーンだぁ―――――――――――――!!」美琴「やめてとめて、きゃああああああああああああ―――――!!」『ギュギュッ』謎の部屋を抜け出した2人は、☆の言った通り好き勝手する事にしたのだが。美琴「どこ向かってんのよ?」上条「取り合えずスーパー」美琴「スーパー?」上条「そう、スーパー」美琴「先生質もーん!」『バッ』上条「はい、美琴君!」美琴「美こっ!? み、みみ、美ここ……」上条「巫女? 姫神の事か?」美琴「違ッ!? って姫神って誰?」上条「うちのクラスメイトの巫女さん。これがまた格好とは正反対の何と言うか何と言うか、色々残念な感じなんだよ」美琴「いつの女?」上条「は?」美琴「いつ助けた女なの?」『パリパリ……』上条「ぇ……」(何怒ってんだコイツ?)『ジリジリ……』美琴「私より先? 後?」『ギロッ』上条『ゴクッ』「さ、先」美琴「どっちのが大変だった?」上条「へ?」美琴「どっちのが手間かかる女だったのか聞いてるのよ?」『ピシッ』上条「ひぇええ!? ひ、姫神っかな? そん時俺、右腕もげて死にかけたし。あ、でも、お前ん時も、全身打撲で毛細血管バンバン弾けてやっぱ死にかけだったしな」美琴「…………」上条「え? 何? 良く聞こえな――」美琴「馬鹿っつたのよ、このトウヘンボクッ!!」『バリバリバリッ』上条「ぬおぅわっ!! 御坂お前、急な電撃は止めろって――」美琴「死ぬわよ」上条「は?」美琴「アンタなんかホントはぜんっぜん弱いんだから、いつか死んじゃうわよ!!」上条「あの……、急にシリアス?」美琴「茶化すんじゃないわよこの馬鹿ぁ――――――――――!!」『ドスッ(頭から鳩尾に体当たり)』上条「おふっ!!」美琴「勝ち逃げなんかしたら許さないんだから、ぐすっ、ぐすっ」上条「不幸だぁ……。って、あれ?」美琴「ぐすっ、ぐすっ……」上条「あの……」美琴『キッ』「ぐすっ、ぐすっ……。何よぉ、すんっ、ぐすっ」上条(何ですかこの修羅場……?)『ポリポリ(上条困った顔で頬をかく)』「ふぅ。あのな、美琴」『パシッ(美琴のの頬を両手で挟んで)』美琴「ふきゅい!?」上条「俺を勝手に殺すな」美琴『コクコクコク……(目だけでうなずく)』上条「まあ確かにお前が言う通り、俺も毎回生き残る度に、は、まぁ本当によくもって思うのは確かだよ。だけどな、『死ぬ気で頑張る』とか、『死んでも頑張る』とか、そー言う言葉は、俺の辞書にはねーんだわ」美琴「…………」上条「それでもお前が不安に思うなら約束してやる。勝ち逃げはしない」美琴「で、出来ると、思ってんの?」上条「ああ出来る。信じてるからな――仲間を」美琴「ッ!? そこ……ぁ……」(聞けないっ! 仲間(そこ)に私はいるのかなんて……)上条「頼むぜ美琴」美琴『ぽわぁぁぁぁぁ……(星と花を散らせた蕩ける様な満面の笑み)』上条「それにはまず泣き虫治してくれよな」美琴「ハッ!? うっさいうっさいうっさーい!! も、当麻のくせに生意気なのよっ!!」上条「ハハッ、その調子で頼むぜ御坂。天下の学園第3位様には、涙より元気いっぱいのが似合ってるぜ!!」(あれ? 今名前で呼ばれた様な気がすっけど……)取り合えず仲直り(?)した2人は、当座の目的地、『スーパー』に向かっていたのだが……。美琴「ねえ」上条「…………」美琴「ねえっ!」上条「…………」美琴「この状況ですら無視すんのかコラァ!!」『バシバシ』上条「って!? 何なんですかお前は? 反抗期ですか?」美琴「呼んでんだから返事くらいしろっ!!」上条「ああ……、わりぃわりぃ。で、何んだ?」美琴「えっ、あ、あのぅ……」『モジモジ』上条「どうした御坂? 顔なんか真っ赤にして」美琴「え……あ、えっ、あぁ……」(「何で私の手を握って歩くの?」って聞きたいのに言葉が出ないっ!?)『チラ、チラ(目線が手と、顔と、何も無い空間を順番に追う)』上条「ああっ!!」美琴「!!」『ビクゥ』上条(トイレ、だろ? この様子、きっとそうだ。そうに違いありませんぜ、とカミジョーさんの中の紳士な部分が申しております)上条「わりぃわりぃ。え、えーとー」『キョロキョロ』(ここは自然に俺がトイレに行くふりをして……。お! おあつらえ向きの店があるじゃんよ)「美琴わりぃ。ちょっと寄り道いいか?」美琴「え? あ、ちょ、ちょっとぉ」『タタッ、トタタ、トタッ……(上条に手を引かれてよろける様に後について行く)』 そうして2人が入ったのは、とある大型ショッピングセンターの1階。しかも入った場所が悪かったのか、上条の運(ふこう)のなせる技か、この日の1階はフロア全てで女性用インナーを扱っていたのだ!!上条(うわっ!? 何でこんなッ!! ク、クソッ、き、気にするんじゃ無い上条当麻。無心!! 無心になるんだ)『スタスタスタ……(斜め下を向いて視野を極力狭くして足早に歩く)』美琴(やっ、ちょっ、あのニーハイかわいい……。このショーツのひらひらもステキね……。でもどうしてこんな所……? ハッ!? も、もしや……)『カァァァアアアアア……』美琴「ねぇ……」『モジモジッ』上条(見るな感じるな考えるな。アレには中身は入って無い。ただの布切れ、ただの布切れなんだ!)『スタスタスタ』美琴「あの、さ……。私も最近黒子の奴に毒されて来たのかな? その……、たまには大人の下着なんてもの、その、いいかなあ、なんて……」『モジモジッ』上条(あの黒いガーターベルトも、スケスケのキャミソールも俺には見えない! 見えないんだぁぁぁああああああああああ!!)『スタスタスタ』美琴「それでね、もし、やっぱさ、そう言うの買うならさ、い、異性って言うの? ほら、黒子とかじゃ色々と危険だし? と、年、う、上の意見なんかも参考にし、しし、したいし?」『モジモジッ』上条『ビクッ』(くあっ!! ば、馬鹿なっ!? 何ですか? 何で下着姿のオネーサンが頬笑みながら目の前を横切るんでせうか!? ここは桃源郷? いや馬鹿止めろ俺の心!? 無心だと言うのが判らんのかっ!!)『タタタタタ(上条、小走りになる)』美琴「でさ、か、かかか、勘違い、し、しな、しな、しないで聞いて欲しいんだけど。さ、参考に、ア、アアア、アンタの意見聞かせ……て……ほしい、かな? なんて……」『モジモジッ』上条(ヒッ!!)『ビクッ』「ノーパン……」美琴「ノ、ノーパンッ!?」『ビクッ』上条『ガクガク(目の前を通った超シースルーショーツ『羽衣』を着た女性を指さして震える)』美琴(そ、そんな高いハードル、き、急に飛び越えろって言われ……ハッ!? これは試練? 私は今パートナーとして試されてるの……?)上条『ギギギギ……(上条の首がぎこちなく回る)』「みさか……(棒読み)」美琴『ビクッ』「え! あ!? あの、わ、私頑張るからっ!!」『グッ(拳を握る)』上条「むりはするな。せかいがちがうんだ。わすれろ。おれもわすれるから(棒読み)」美琴「だ、な、何言ってんのよ? だ、大丈夫だから。ほら、今証明して見せるからっ!」『パッ(上条の手を解く)』上条「?」美琴「み、見ないでよねこっち……っと、よっ、と……」『モソモソ、ゴソゴソ(上条から見えない角度で、何やらスカートに手を突っ込んでくねくねしている)』上条「お、おい?」美琴「お手」上条「お手」美琴「はい」『パサ』上条「何これ?」美琴「証明」上条「何だよ証め……(手にしたものを広げると、見た事のある短パン)ぶっ!? こ、こりゅえ!!」『ボフン(真っ赤)』美琴「今はこれが精一杯――無くさないでよね。い、ち、お、う、返してもらう予定だから」『カァ――――ッ(上条以上に真っ赤)』上条『コクコク(短パンを握りしめてうなずく)』美琴「オッケ。じゃ、そ、その、恥ずかしいから、もうしまってくれる?」『モジッ』上条「お、おう、わりぃ……」『ゴソゴソ』美琴(ポケットに仕舞った……)『ボフッ』上条(何やってんだ俺? 御坂の短パン、ポケットにねじ込んで……。しかも、この状況になんかドキドキしてないかぁぁぁあああああああ?)美琴「ねえ」上条「ひゃい!?」『ビクッ(右腕に美琴がしなだれかかって来たので)』美琴「折角だから、ここ、回ってもいい?」『ギュ』上条「お、おう」(む、胸ッ!? 胸ェッ!?)美琴(おかしいわね? こう言う時は必ず邪魔が入るモンなんだけど? ま、いいわ。今はこの時間を楽しみましょ)白井「今日は一体全体何なんですの!? つまんない事件ばっかりあちこちあちこちあちこちと――」初春『白井さん、そんな事言ってないでさっさとお財布探して下さい! 中に入ってる映画チケットで入館出来る時間は、あと30分切ってきゃ!?』白井「初春?」××『その映画は超レアなんです。これを逃すと次はいつか分からないんですよ! 本当に超よろしくお願いします!!』初春『だ、か、勝手に通信しないで下さい! 白井さん、そう言う事らしいんでよろしくお願いしますね!』『ブツッ』白井「ホント何なんですのよ今日は?」
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1656.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一端覧祭大騒動 「うだー。ジャンケンなんてこの世から滅びちまえばいいんだー」 同じ頃の第七学区。 どよーんとした目をしながら、そんな事を天に向かって呟くのは超絶不幸少年上条当麻だった。 その手には大量の袋がぶら下がっており、歩く度にガチャガチャという、いかにも重いですよとアピールしているような音が鳴っている。 そう、上条のクラスではあくまで『公平』にジャンケンで買い出し役を決めた結果、『偶然』にもこの少年が当選したのだった。 そして朝からいつも以上の不幸の連続で半ばヤケクソ気味になっている上条の目にふと飛び込んできたのは、足元に転がった一つのスチール缶。 上条は立ち止まると、まるで魚の死んだような目をしてその缶をじっと見つめ、終いには「ふふふふふふふふふ」と怪しく笑い始める。 周りを歩く学生達はそんな上条にドン引き状態だったが、そんなものは今の上条の目には入らない。 (オーケー、オーケー。大量の荷物にスチール缶、このシチュエーションは経験済みだ。 つまりアレだろ、前みたいに缶を避けようとすればまた風で転がって……って事だろ? まったく、あまく見られたもんだ……俺が同じ過ちを犯すと思うかぁぁぁあああああああ!!!) すると上条は完全勝利の表情を浮かべると、足を大きく上げて力強くそのスチール缶目掛けて踏み出した。 …………当然と言うべきか、缶は動かなかった。その結果、上条は本当にキレイに缶に足を取られていた。 「ですよねええええええ!!!!!」 なんとも間抜けな断末魔と共に後ろへ倒れ込んでいく上条。 もう既に頭の中では袋の中身が盛大に散らばるところまで想像できており、袋の口を縛っておかなかった自分を恨んでいたのだが……。 「……ってあれ?」 背中が地面にぶつかる痛みもなければ、ガッチャーン!という物が散乱する音も聞こえない。 気付けば上条はごく普通の木製のベンチに座っていた。 「へっ、ベンチ?? こんなとこに?? なんで??」 倒れる瞬間に都合良くベンチが現れるなんてそうそうある事ではない。特に上条の場合は。 しかし現実にベンチはあった。 上条の危機を救って、どうだと言わんばかりに堂々と存在していた。 「まったく……あなたは何をやっていますの?」 その時、すぐ隣から聞こえた声に上条は思わずビクッと肩を震わせる。 そしてバッと勢い良くそちらを向いた時、全ての謎は解けた。 そこにいたのは大能力者(レベル4)の空間移動能力者(テレポーター)、白井黒子だった。 「いやーそれにしても助かったぜ、サンキューな」 「構いませんわ。それにあんな所で荷物をばらまくのも周りの迷惑になりますので」 数分後、ベンチは元の場所に戻され、上条と白井はそこに並んで座っていた。 ちなみに二人の間にはお互いの荷物が置いてあり、どこか距離感がある。 しかしそれでも美琴やインデックスがこんな光景を見たら、たちまち不機嫌にもなりそうだが。 「それにしてもそんな大量の買い出し、なぜ念動力者ではなくあなたがやっていますの? 無能力者では効率が悪いでしょう」 「あのな、どの学校も常盤台みてーにレベル3以上ばっかってわけじゃねーの。 こんな大荷物をどうにか出来る念動力者なんてのはウチの学校じゃ珍しいし、そういう奴は学校でもっと重要な仕事やってんだよ」 「あぁ、そういうことですの」 上条の高校は常盤台なんていう有名校とは違い、いたって平凡な学校だ。 そんな普通の学校にはレベル3なんていう優等生は少なく、学校トップである事も多い。 それだけレベル4、レベル5なんていうものは別次元の存在なのだ。 「あ~ところで……さ。えっと、御坂はやっぱまだ一端覧祭の準備か?」 「えぇ、おそらくそうでしょう。 二年生の方々も確かまだ準備に追われていたと思いますわ」 「そ、そっかそっか。ならいいんだ、うん」 「?? 何をそんなに挙動不審になっていますの? お姉様にどういったご用件で?」 上条の態度に白井は不審そうに眉をひそめて尋ねる。 対する上条はどう答えようか悩んでいた。 今までの白井の行動から考えても、真正直に御坂を誘うなどと言えば鉄矢が飛んできてもおかしくない。 かといって細かい事情を説明しようにも、魔術なんてものの事を話すわけにはいかないし、事を大きくもしたくない。 (適当な事言って誤魔化そうにも相手は白井。たぶん上手くいかないだろうな……。あーもうしょうがねえ!) 「え~とだな、一端覧祭を一緒にまわって欲しいんです、はい」 「…………それでフった手前、なかなか話し出しづらいと」 「あ~やっぱりあれってフった事になるのか……そうだよな……。 ……って、え!? 白井お前何故それを!?」 申し訳なさそうにガシガシと頭をかいていた上条だったが、白井の思わぬ言葉に硬直する。 白井の方はなんともいえない表情……いやどちらかというと呆れているような表情を浮かべていた。 そして白井は小さく溜め息をつき、口を開く。 「もう既にお姉様から聞いていますわ。 ですが今はその話よりも……って何をやっていますの?」 今度こそ呆れ果てた声をだす白井。 そんな白井の目の前には両腕で頭をかばって縮こまっている上条の姿があった。 「い、いやきっと鉄矢やらドロップキックやらが飛んでくるかと……」 「……はぁ。そんな事しませんわ。 むしろあなたが中途半端な気持ちで告白を受けたりなんかしてたらやっていましたの」 白井はかなり大袈裟に溜め息をつくと、やれやれと頭を小さく振る。 そして上条はそんな白井に驚き、目を見開いて顔を上げる。 今までの白井の行動から見ても、上条の返事云々以前に、美琴が上条に告白した。その事実だけで嫉妬による怒りに身をまかせて襲いかかってくると思っていたからだ。 「えーと、御坂が俺に告白したって事に対しては何もなし……?」 「まぁ妬いていないと言えば嘘になりますわね。でもお姉様の笑顔のためならばそれくらい我慢する事に決めましたの。 それにお姉様が誰を想っていようとも、黒子がお姉様を想い続ける事は変わりませんので」 「そ、そうか……」 上条はこの目の前の中学一年生の大人ぶりに内心舌を巻いていた。 自分がこのくらいの時は絶対にこんな考え方はできないし、それは他の大多数と比べてもそうだろう。 そして目の前の少女にここまで言わせるのは、やはりそれだけ美琴の人格にそれだけ惹かれるものがあるということだ。 (そんなやつが何で俺なんか選ぶのかねえ……) 途端に美琴を尊敬する者達に申し訳なく思ってしまう上条。 相手はレベル5のお嬢様で、後輩にここまで尊敬されているほどの人望もある凄いヤツ。 一方こちらは万年レベル0の上に勉強までダメで補習常習者の典型的落ちこぼれ。クラスの奴等とは上手くいっているが、それもただバカやって騒いでいるだけだ。 そんな二人が仮にいくとこまでいったとしても、その一生を出来る女に支えられていく惨めな光景が浮かび上がる。 「それで……なぜ急にお姉様をお誘いすることにしましたの?」 「え、あ~それはだな……」 突然の白井の声に現実に引き戻された上条は、こんどこそ言いづらいところを突かれ言葉を濁す。 考えてみれば『そういう風に見た事ない』とまで言った相手をわざわざ期待させるてからかっているようにも思える。 上条はそんな誤解だけは避けたい、と口を開き始めるが……。 「べ、別に御坂をからかっている訳じゃねえんだ! ただそのなんつーか、色々と複雑な事情がありまして……」 「………………」 やはりどうしても曖昧な言い方をしてしまう上条。 対する白井はまさに無表情といった感じでじっと相手の顔を見つめていた。 そんな白井に恐怖を覚えた上条は、こんどこそ鉄矢が飛んでくると思っていたが、 「……まぁいいですの。言いづらいようですし深くは聞きませんわ」 「え、それでいいの??」 「なんですの? ここから根掘り葉掘り追求されて答えなければ攻撃開始。そんなものをお望みですの?」 「い、いやいやいや! 上条さん決してそのようなドM人間ではありませんのことよ!?」 案外あっさりと引いてくれたことにまたもや驚く上条。 ここまで前の印象と違うと、もはや別人のようにも思えてくる。 「これでも少しは信用していますのよ。 仮にもお姉様のお選びになられた男性なのですから、わざわざお姉様を悲しませるような事をしようとはしないだろうと」 「あぁ、そんな事は絶対にしない。それは約束する」 そこはハッキリと力強く宣言する上条。 何か買い被られ過ぎている感じもしたが、美琴を悲しませるようなことはしない。それだけは堂々と言うことが出来る。 そしてそれを聞いた白井は口元を緩め、小さく頷く。 「あなたからのお誘いならばお姉様は必ずお喜びになりますわ。 早くお誘いになってくださいな」 「そっか、それならいいんだけどな」 「……ではわたくしはそろそろ失礼しますわ」 一通り話したいことは話したのか、白井は再び荷物を持ってベンチから腰を上げる。 一瞬再び両腕にかかったその重さに少し顔をしかめる白井だったが、気を取り直して常盤台の方向へ体を向ける。 だがそこでふと何かを思い出したように動きを止めると、クルリと振り返って再び上条の方を向いた。 上条の方はまだベンチに座っている状態のままだったので、白井が見下ろす形になる。 「そうそう、言い忘れていましたが、あなたももう『御坂美琴の周りの世界』の一員なのですよ? ですからそれを守ると言うならば少しはご自分の事も大事になさってくださいな。 まぁ人の為に後先考えずに突っ込むあなたですし、きっとお姉様もあなたのそういった所もお好きなんでしょうから強くは言えませんが」 「あ~善処します……」 「それに一応わたくしもあなたには命を救われた身。 お姉様を抜きにしてもほんの少しは心配しているかもしれませんわよ?」 「ははは、そりゃどうも」 白井は最後に不敵に笑ってそんな事を言うと、今度こそヒュンという音と共にお得意のテレポートで上条の前から姿を消してしまった。 残された上条はしばらくぼーっと白井がいた所を眺めていたが、「よしっ」と小さく呟くとポケットから携帯電話を取り出した。 そのまま開いてカチカチと手早く操作する上条。 画面にはアドレス帳から呼び出した御坂美琴の連絡先が浮かび上がっていた。 大分日も落ちてきた第七学区。 昼間は多くの学生で賑わっていたが、完全下校時刻も近くなった今では道行く人達も少なくなっている。 そんな中、とある自販機前で一人の女子生徒が特に何も買うこともせずに、ただ立ち止まっているのはそれなりに変わった光景だった。 しかもその服装はベージュのブレザーに紺系のチェック柄スカート。どこにいても気品爆発な常盤台中学の制服なのだからなおさらである。 しかし当の本人はそんな事に気を止めている余裕はないらしく、なにやら真っ赤な顔をしてブツブツと延々と独り言を呟いていた。 「どどどうしよう、そろそろ来るわよね……! ま、まったくこんな時間に何の話かしら!! ま、まぁ私にも話はあるんだけども!!」 そわそわと時計を見ながら手をモジモジと絡ませる常盤台のエース、御坂美琴。 時計を見るのもこれで何度目かもわからない程だった。確か最初見たときは長針は今と同じぐらいの位置だったが、短針が一つ前の数字を指していた気がする。 昼間に突然の上条からのメールが来た時、美琴はその他大勢の生徒と一緒に学校で一端覧祭の準備中だった。 やはりというべきか、上条の着信音は特別なものにしてあるのだが、作業中はマナーモードに設定していた。 その結果、「黒子あたりからかな~」などと開いた美琴はその送り主を見て思わず「ふにゃ!?」などと可愛らしい声をあげ、周りの生徒に驚かれたのだがこれはまだいい方だった。 次に震える指先でそのメールの中身を開いたとき、ついに美琴はプルプル震えて真っ赤になった上に漏電し、割と大騒ぎになってしまったのだった。 「そそそれにしても急にあんなメール……私にもこ、心の準備ってもんが……!!」 上条が送ったメールは『話があるから会いたい。放課後に例の自販機前とか大丈夫か?』といったものだった。 これは上条の書き方にも問題があったのかもしれないが、それにしても美琴には効果抜群だった。 ちなみに上条にはそのままメールで誘うという方法もあったはずだが、それは土御門の「そういう事は直接言わないとダメにゃー」という言葉により選択肢から消えていた。 「え、えっと……アイツが来たらなんて話だそう……。 私のキャラ的には『遅い! どんだけ待たせんのよ!!』……とか? ダ、ダメよ! そんなんじゃいつまで経っても今までの関係のままじゃない!」 なおも真っ赤な顔のままブツブツとそんな事を呟き続ける美琴。 幸い人通りは少ないのだが、こんな姿を知り合いに……特に佐天あたりにでも見られでもしたら、そのネタで一月はからかわれることだろう。 だが今の美琴にそんな事を考えられる余裕なんてなかった。 レベル5のハイスペックな頭脳は既に稼働率100%で、その全てを上条の事に使っていた。 「じゃあ普通に『話って何かな……当麻』で!! ……む、無理!! 私アイツを直接名前で呼んだ事ないじゃない!!!」 上条を名前で呼んだ事がない事に気付いたのは少し前の事だった。 美琴はそれからどうするかはずいぶん悩んだ。 呼び方はより距離を縮めるためにも下の名前にするとすぐ決めたのだが、問題はシチュエーションだった。 出会ってまもないのならまだしも、なんだかんだ半年近い付き合いになる。 それまでずっと『アンタ』やら『この馬鹿』などと呼んできたので、いきなり下の名前で呼び捨てにするのはなんだが気まずいのだった。 「れ、練習よ練習! えーと、アイツが目の前にいると想像して……」 そう言って目を閉じる美琴。 そしてレベル5の強力な自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を構築しているその想像力で、鮮明な上条の像を浮かび上がらせる。 だがその鮮明さが美琴を追い詰める。 「え、えっと! と、とととと……とう……」 「何やってんだお前?」 「みゃあ!!!!!!」 想像ではない、現実での突然の上条の声に奇妙な声を上げる美琴。 真っ赤な顔をして振り返れば、やはりそこにいたのはさっきまで頭の中に作り上げていた上条当麻、その人だった。 どうやら美琴の反応に相当驚いたらしく目を丸くして固まっている。 「わ、悪い。そんな驚かせるつもりはなかったんだけどよ……」 「べ、別にいいわよ! 私が勝手に驚いただけだし!! それより話って何よ!! …………あ」 今や恥ずかしさのあまりリンゴのように真っ赤になっている美琴だが、勢いで言った自分の言葉に固まる。 さんざんシミュレーションしたのにも関わらず、結局今まで通りの言い方になってしまったからだ。 「あ、あぁ。話ってのはな……」 「ちょ、ちょっと待って!! 今のナシ!!」 「はい??」 慌てて遮る美琴にキョトンとする上条。 しかし美琴はそんな上条などお構いなしに何度も深呼吸すると、キッと何故かキツい目付きで上条を見つめる。 そんな目付きに思わず上条は一歩後ろに下がってしまうのだが、美琴にそんな事を気にする余裕はない。 「え、えっと、話って何かな……と、ととととう……と、とう……まぁ」 「…………えーとそんなに呼びづらいなら別に無理して名前で呼ばなくても……」 「そ、そんな事ないわよ!! とうまとうま当麻当麻!!!」 「分かった分かった! だからあんまり人の名前連呼すんなって!!」 もはや勢いだけで名前を呼びまくる美琴に慌て始める上条。 実は本人が意識しているわけではないのだが、今の美琴は涙目に上目使いという、男なら誰しもが思わず怯んでしまう状態だった。 そんな状態で名前を連呼され、さすがの上条もたじろぐしかなかったのだ。 「それで話っていうのは何……? あ、私にもと、当麻に話したい事あるから、なんなら私からでも……」 「あ~いやいや今言うって。 えっとだな……その一緒に一端覧祭まわらないかっていう話なんだけど……」 「…………え?」 美琴は上条のその言葉を聞いた瞬間、周りの全てが停止したような感覚を覚えた。 これは夢、もしくは自分の妄想だとも思った。それだけ上条の言葉は現実味がないものだった。 「…………えっと、もう一回言って?」 「あ~一端覧祭を一緒にまわらねえか? まぁもう他に友達とかと約束があるならそれでも……ってうおっ!?」 頭をかきながら上条は歯切れの悪い言葉を並べていたが、急に中断された。 美琴が自分の胸に飛び込んできたからだ。 「え~と、御坂さん?」 「誘ってくれてありがと。凄く嬉しい」 「う、嬉しい?」 「好きな人が相手なんだから当たり前でしょ」 そう言って美琴はギュッと抱き締める力を強める。 その顔はやはり真っ赤だったが、嬉しさのあまり緩みきっている。 一方上条はあたふたしながら、周りに誰もいないかを確認していた。 「な、なんか、キャラ変わってねーか?」 「前のままじゃいつまでも私の事、女の子として見てくれないじゃない。 それより……さ。当麻にもその……ギュッってしてもらいたいな……」 「いっ!?」 美琴は上条の胸から頭を離し、じっと見つめる。その体勢の関係でやはり上目使いだ。 それにより上条は思わず少しのけ反ってしまうのだが、美琴はそんなのはお構いなしである。 少しの間、二人の間にはなんとも言えない微妙な雰囲気が漂っていたが、やがて上条はその空いた両腕を微かに動かし始めた。 「…………み、御坂!!」 「ふぇ!?」 しかし上条のその両腕は、美琴を抱き締める事なく両肩を掴んでいた。 それにビックリした美琴は思わず声をあげ、目を丸くして上条の顔を見つめる。 「た、たぶんお前何か勘違いしてんだよ!ほら御坂ってまだ中学生だし、まだ恋愛とかよく分かんねーだろ? お前ってやたら貸し借りとか気にするやつだし、今までの事もあってそういうのを恋かなんかと思い込んでるんだって!」 「………………」 「それにさ! お前もお嬢様だし、まだ男をそんなに見てきてないだろ! ちゃんと探せば俺なんかより良い男なんていくらでもいるし、わざわざこんなレベル0の馬鹿高校生選ばなくても……って何かバチバチいってますよ!?」 「もういいわ」 上条の言葉を聞いた美琴はそれだけ言うと、静かに上条から離れた。 もう辺りは大分暗くなっているので、美琴が纏っている青白い電気が良く見える。 上条はそんな美琴の様子にビクビクしていたが、そんな事は気にならないほど美琴は怒っていた。 その怒りはいつもの無視された時以上のもので、漂う電気量もかなり多い。上条の前でここまで強烈な電気を纏ったのは、おそらくあの鉄橋の一件以来だろう。 そしてそんな絶賛大激怒中の美琴がバチバチと電気を帯びる腕をゆっくりと上げると、上条はその防衛反応ですぐさま右手を構える。 「それなら私がどんだけアンタの事が好きなのか分からせてやるわ!!」 「…………は、はい!?」 強烈な電撃が飛んでくると思っていた上条だったが、変わりに飛んできた美琴の言葉に思わず間抜けな声を上げる。 一方美琴は怒りの表情のままその腕でビシッと上条を指し示していた。 いつの間にか口調もいつも通りに戻っており、呼び方も『当麻』から『アンタ』に戻っていた。 「そうね、そうよね! 私が甘かったわ!! アンタ相手だとまずそこから始めないといけなかったのね!!」 「ま、待て待て! お前何でそんなに怒って……」 「じゃあとりあえず一端覧祭中はアンタの腕から離れないから! それに事あるごとに抱きつくし、隙あらばキスして舌も入れるけどいいわよね!?」 「おい!!!! お前は俺を社会的に抹殺する気ですか!?」 「うっさいわよ!! アンタが悪いんだから、覚悟しておきなさい!!」 そこまで言った美琴はフン!と背を向けると、肩を怒らせてそのまま歩き去っていく。 一方上条はというと、あまりにも強烈すぎる美琴の宣言に口をパクパクさせて呆然としており、いつもの「不幸だああああ」という台詞も出てこないでいた。 だが少し歩いた後、美琴は急に足を止めて再び上条の方を向いた。 「あ、そうそう、言い忘れてたけど」 「まだ何か!?」 もはや美琴の一言一言に恐怖を覚えていた上条は、軽く涙目になりながら尋ねる。 しかしそんな上条と対照的に、振り返った美琴は怒りの表情から満面の笑みに変わっていた。 「一端覧祭デート、楽しみにしてるから!」 一方同じ頃、第七学区のとあるビルにおいて男にも女にも、子供にも老人にも、囚人にも聖人にも見える者はいつも通り静かに弱アルカリ性培養液の中に逆さまになって浮かんでいた。 学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリー。 しかしその者は一つ、普段とは違ったものを見せていた。口元が小さく緩んでいたのだ。 「………………」 その逆さまの視界にあるのは一つのモニター。 学園都市に5000万機ほどばらまかれているナノデバイス、滞空回線(アンダーライン)から得た映像だ。 そしてそこに写っているものは、一方通行や浜面仕上などという『プラン』に影響を与えるものの情報でもなければ、先程の上条と美琴の微笑ましい光景でもない。 それは様々な最先端科学が集まる学園都市において、一際目立つ奇妙なものだった。 「なるほど、なるほど。『Mixcoatl』……か」 ピッ、ピッという電子音とコポコポという培養液が循環する音だけが支配する奇妙な世界に、どこか楽しげな声が響き渡った。 そういった様々な想いが交差する一端覧祭。 そんな学園都市でもいくつもない大イベントは数日後にまで迫っていた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一端覧祭大騒動
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2865.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/御坂美琴の消失 第7章(前編) 少女は走っていた。 夜の学園都市を駆け抜けていた。 向かう場所は第一〇〇三二次実験に割り当てられた操車場。 (…………ここには何でも解決してくれるママはいない) 前日、公園で子猫を愛でていた自分のクローンに出会ってしまった。 彼女は無情にも悪夢のような実験が継続中であることを少女に告げた。 少女の胸の内に絶望の二文字が広がった。自分のしてきたことが徒労に終わり慟哭した。 その場にいたクローンに八つ当たりしてしまうほど気が狂いそうになった。 だからと言って諦めるわけにはいかなかった。 夕方、最後の手段として考えていた『樹形図の設計者』を狂わす、という作戦は頓挫した。三週間ほど前に何者かに破壊されたことを知ってどうにもならなくなった。 (…………神頼みしたって都合よく奇跡なんて起こらない) その足で、放心状態で近くにある研究施設をぶっ潰した。 しかし、その場で内なる声が『無駄』であることを残酷にも告げてくれた。 どうすればいいか分からなくなった。 時間が来るまで鉄橋で泣いた。たった一人で泣いた。 誰にも見られることも聞かれることもなくたった一人で弱音を吐いて涙を落した。 どうにもならない無限地獄の中、たった一人で思い悩んだ少女は一つ結論を出した。 (…………泣き叫んだら来てくれるヒーローなんていない) 少女は心中でずっと叫んでいた。 誰かに縋りたかった。 助けてと願っていた。 しかし、それは叶わない願い。 一万人以上も見殺しにした自分に救いの手が差し伸べられることはないことを突き付けられた現実。 だったら、自分も命を賭けて。 自分の手で実験を中止に追い込むしかない。 そう考えて少女は走り出した。 (……………………、) 本当はたった一人。 自分の味方をしてくれそうな少年が現れてくれることを心のどこかで期待していた。 しかし、その少年は現れなかった。 幾度となく勝負を挑んで、それでも勝てなかった少年。 レベル5の自分を凌駕するその少年ならば。 いつもなんだかんだ言いながら付き合ってくれる優しい少年ならば。 全てを打ち明ければ助けてくれるような気がしていたのだ。 しかし、少年は現れなかった。 一万人以上も見殺しにした自分を構ってくれる存在がいることを期待するなんて虫が良い話だ。 少女はそう考えて苦笑を浮かべた。 そして、到着した。 思った以上に時間を食っていた。 第一〇〇三二次実験場。 命を賭ける、と思っていながら、体は恐怖に竦んでいたのかもしれない。 そう思った。 しかし、目の前の現実を見せられて全ての思考は吹っ飛んだ。 居ても立っても居られなくなった。 即座に現場に飛びこむ。 「その子から離れなさい!」 まっすぐ、相手を見据えて叫んだ。 「あン?」 対して、相手は肩越しにこちらに視線を向けてきただけだ。 もっとも、それだけで少女の中に再び絶望的な恐怖が渦巻いてくる。 だからと言って逃げ出すわけにはいかない。 ここまで来てしまった以上、やるしかない。 「その子から離れなさいって言ってんのよ!」 少女=御坂美琴は吼えた。自らを奮い立たせるためにありたっけの声を出して叫んだ。 自分のクローン=妹達の無残な姿を見せられて。 でもまだ、生きている姿を確認できて。 今度は、殺される前に飛び出せた。 あの日は、『車両』だったが、今回は妹達に『コンテナ』が落ちてくる前に飛び出せた。 もう逃げることはできない。 もうやるしかない。 「何だ、またテメエか……あ~あ、参ったねこりゃ。前にコイツらにはテメエには手を出すな、って言われてンだが、ソイツをぶっ殺すにやテメエを排除するしかねエしなァ。オイ、先に言ってやる。死にたくなかったら消えろ格下」 相手=一方通行は御坂美琴を見据えてぶっきらぼうに、面倒臭そうに呟いた。 「馬鹿言わないでよ。だったら、この場に飛び出してこないわよ」 が、美琴は、頬に恐怖の汗を浮かばせながらも一方通行を睨みつけて言い返す。 全身が恐怖で委縮しているのは分かっている。 それでも御坂美琴は一方通行の前に立ちはだかる。 「じゃあ何? 殺されても文句は言えねェってことになるンだが構わねェか? 俺自身はソイツを殺さねェと今日の実験が終わらねェ。前回は『終わった後』だったから、アイツらは止めに来たけど、今回は止めに来ねェぜ?」 「承知のうえよ!」 「ほぉ…………そンじゃま、始めっとすっか……?」 呟き、一方通行はすっと両手を柔らかく握って軽く開き、 同時に、美琴はポケットからコインを取り出して構えた。 「あン? またそのシケた『切り札』なの?」 「うるさい! 今度こそアンタに当ててやる!」 言い募る美琴だが、それは建前でしかない。 当然だ。 美琴はこの実験を終わらせるために『自らの死』を選んだ。しかも、それは『樹形図の設計者』が導き出した一八五手の決着ではなく、最初の一手という『実験の根本』を覆そうという手段で。 つまり、反射される『超電磁砲』をその身に受けて全てを終わらせるつもりなのである。 「いっけえええええええええええええええええええええええええええええ!!」 咆哮一閃! 美琴は勢いよくコインを弾いた! 音速の三倍で解き放たれたクリムゾンのエネルギー破。 通常の相手、一方通行と『あの馬鹿』以外の相手であれば一撃必殺の美琴の切り札。 おそらく、第二位の垣根提督や第四位の麦野沈利でさえも、自らの能力と相殺はできても弾き返すことはできないであろう光の弾丸。 その身に受ければ、御坂美琴自身も粉々になるであろう閃光を一方通行めがけて解き放ったのだ! 「けっ、無駄だ無駄だ」 嘲笑を浮かべて一方通行が『反射』! 光の弾丸は、今度は美琴へと狙いを変える! 美琴はその身に受ける覚悟を固めていた。 いや、固めていたはずだったのだ。 しかし―――― 「なっ!?」 美琴は解らなかった。 気がつけば、回転レシーブの要領でかわしてしまっていた。 「どうして…………」 美琴は愕然とした。己の行動が信じられなかった。 「くっくっくっくっく……なるほどな。テメエ、さては今の反射された一撃を受けるつもりで撃ちやがったな?」 一方通行のセリフにギクッとする美琴。 「ヒャーヒャッヒャッヒャッヒャ! 無駄無駄無駄なンだよォ! 『樹形図の設計者』の予測シミュレート一八五手前にテメエが死んて終わらせようってか? 悪ィが、そいつは無理だ!!」 「…………アンタも知ってたのね? けど、実験の根幹は『私がアンタに一八五手で負ける実力』よ! それが覆れば実験は続けられないわ!」 「じゃ、何でテメエは今避けた?」 「――――!!」 「クックックック、『樹形図の設計者』を舐めてねェか? アレがただ単に『一八五手』を導き出すわけねェだろうが」 「どういうことよ?」 「オイオイ、今、身をもって知ったじゃねェか。人に限らず『生き物』ってのはな、『命に関わる危険』が迫ると、己の意思がどうあれ『本能的に回避』しちまうンだぜ。それも計算に入れての『一八五手』なンだよ」 一方通行の衝撃の発言に御坂美琴は頭の中がショックの鐘が鳴り響いた。 背景が自分も含めて協調反転されたような気がした。 「つまりだ。実験を終わらせるにゃ、『俺がレベル6になる』か、『俺が最強でなくなる』か、の二択しかねえってわけなンだが、そこんトコ、楽しく理解してくれてンのかァ?」 「くっ!」 美琴は立ち上がった。 実験を終わらせる方法が自らの死ではなかったことを思い知らされてしまった以上、やることは一つしかない。 万が一の確率でしかないことをやるしかないのだ。 しかも、それが『樹形図の設計者』の思うツボだと解っていながら、だ。 「なら! アンタを『最強の座』から引きずり下ろす!」 レベル5同士の戦いである以上、何かの間違いで美琴が勝ったとしても、それは誤差の範囲内で済まされるかもしれない。 だから『何かの間違い』で『勝利する』ことは許されない。 明らかに『誰の目から見ても』美琴が『勝利した』でなければならない。 そんなことができるのか? 美琴は心の内で悲観的になる。 が、そんなことを言っても始まらない。妹達を救うために、自らの罪を償うために、今まで動いてきたのに諦めることなど許されない。それなら最初から見て見ないふりをすれば良かっただけだ。 「そンじゃま、今度こそ、本当にゲーム開始だ!」 言って、一方通行は地を蹴った! 当然、結果は見えていた。 美琴の繰り出す攻撃は何一つ通じない。 電撃だろうと、砂鉄の嵐だろうと、砂鉄の剣だろうと、空気を電気分解して一方通行の周りにオゾンを創り出そうと、全てが弾き飛ばされ、逆に一方通行の攻撃はすべてが当たる。 しかし、美琴の『本能』がどうしても『死』という最後の一線を越えさせない。 「かはっ!」 美琴は肩を押さえて、座り込み、背を周りに突き刺さった鉄骨に預けていた。 制服の裾はところどころ破れ、露わになっている手足、顔、髪は痣と埃まみれになっていた。 もちろん、一方通行は無傷だ。 「あ~あ。つまンねェなぁ……レベル5同士なンで、もうちっと楽しめるかと思ってたンだが……」 拍子抜けした表情で頭を掻く一方通行。 「こりゃ視力検査と同じだな。アレは二.〇までしか計れねエわけだが、テメエは二.〇でも、俺は一〇.〇くらいありながら『二.〇』って判断されてるってコトなンだろうぜ…………」 やる気が失せた声で呟いてから、一方通行が美琴へと、無造作に手を伸ばす。 しかし、美琴に蓄積されたダメージは小さくない。一方通行のゆっくり伸ばされる手でさえもかわすことが困難なほどに。 「そろそろ、終わりにすっか?」 好事家のような笑いで一方通行は御坂美琴へと手を伸ばす。 その手が美琴に触れれば、美琴は体中の血管が爆発する。 逃げ場はない。 しかし、運命がここで分岐する。 「ンな!?」 一方通行が思わず戸惑った声を漏らした。 己の目に留まることなく、その場にいたはずの美琴が、文字通り掻き消えたからだ。 「どういうことだ!?」 一方通行が辺りを見回す。 そして見つけた。 自分と距離を置いて立っている御坂美琴の姿を。 ただし、その肩を誰かに預けて立っている姿で。 美琴に肩を貸す実験場に現れた新たな乱入者が一方通行に鋭い視線を向けている。 美琴と同じく常盤台の制服に身を包んだツインテールの少女。 白井黒子がそこにいた。 「黒子? アンタ!?」 美琴は思わず声を上げた。 絶体絶命のピンチに颯爽と登場したのが、想像の範疇にすらなかった後輩だったからだ。 対する白井は、一方通行から距離を、言い換えれば間合いを置いて、視線は一方通行から外さない。 「水くさいですわ、お姉さま」 「え?」 「黒子ではお姉さまのお力になれないと、支えになれないと、そう考えておられたのでしょう。確かにこの当時のわたくしではそう思われても仕方がありませんが」 「な、何を言ってるの? 私はただ、私のことで黒子や初春さんや佐天さんに迷惑をかけるわけにはいかないって…………」 「分かっています。お姉さまの優しさは誰よりも、このわたくしが分かっています。しかし、優しさは残酷さと表裏一体であることをご理解くださいませ」 「――――――っ!!」 「ですが、黒子は馬鹿な後輩なのです。お姉さまの苦しんでおられる姿を見せられて、黙ったままでいるとでも思いましたの?」 「う…………」 「妹達、レベル6シフト計画、DNAマップ、一方通行、電撃使いによる施設破壊」 「なっ!?」 「だからこそ、わたくしはここに来たのですわ」 白井はとびっきりの笑顔を見せた。 美琴は驚嘆した。 今、上げた単語を知っているということは、白井は全てを知っていることになるからだ。 それでなお、美琴の味方でいることを宣言したも同然なのだ。 「それに」 言って、白井は今度は片目をつぶった少し呆れた笑顔になって視線を別の方向へと向ける。 「そう言ったお馬鹿さんはわたくしだけではありませんけど」 つられて美琴は視線を白井が見ている方向へと移して、 「あ…………!」 そこに佇んでいた存在に思わず声を漏らしていた。 ここには何でも解決してくれるママはいない。 困った時だけ神頼みしたって奇跡なんて起こるわけがない。 そう思っていた。 一万人以上を見殺しにした自分に救いの手が差し伸べられる資格なんてないと思っていた。 「うあ…………」 思わず声が漏れた。 目頭が熱くなった。 威風堂々佇むその姿に涙を堪えられなかった。 お節介焼きの年上の少年。 自分を一人の少女として見てくれる少年。 レベル5の自分を凌駕する少年。 それに何より、誰よりも自分を助けてくれるかもしれないと、心のどこかで期待していた少年。 泣き叫んでいたら、それを聞いて駆けつけてくれるヒーローなんて居ないと思っていたのに。 上条当麻が妹達を守るように、彼女の前に立って一方通行を睨みつけていた。 「あなた、は……とミサカは愕然とします………」 妹達は突然、自分の目の前に現れた、このツンツン頭の少年に見覚えがった。 今日の夕方、一緒に猫の餌をやって、猫の育て方の本を買ってくれた少年。 そして、第一〇〇三一次実験の現場を目撃されてしまった少年。 どうやって、ここに辿り着いたのだか。 どうやって、この実験のことを知ったのか。 妹達はどう考えても分からなかった。 この少年がここに来ることなどあり得ないはずだったのだ。 夕方の一件だけでここを知ることなどできないはずだったのだ。 茫然と少年を見ていた妹達の傍に、これまたいきなり二人の少女が現れた。 一人は、自分たちの素体。妹達を守るために一方通行に戦いを挑んだ偉大な姉。 もう一人は、妹達は初めて見る顔だった。 ツインテールのあどけない少女だった。 「白井、二人を頼むぜ」 「ええ、任せてくださいませ」 ツンツン頭の少年とツインテールの少女が、どこか不敵な笑顔でそんな会話を交わしていることが不思議でならなかった。 そして、少年が右こぶしを力強く握りしめて、力強く一歩を踏み出す。 妹達はぎょっとした。 妹達の素体、御坂美琴はゾッとした。 なぜなら彼が一歩を踏み出した方向は紛れもなく、一方通行に向かって、だったからだ。 「ちょっとアンタ……まさか…………」 美琴は冷たい汗が頬を伝っていくのを感じた。 「何をする気ですか?、とミサカはあなたに問いかけます」 目を見開き、妹達も美琴と同じことを考えた。 あの少年の表情はどう見ても話し合いをしよう、なんて顔じゃない。 一方通行に戦いを挑む、そんな顔でしかない。 少年はそんな声を背に受けて、しかし力強く歩みを進める。 対して一方通行は足をとめた。 「何だァ? 今日はやけに闖入者が多いじゃねェか。ったく、この実験、ひょっとして外部に駄々漏れなんじゃねェだろうなァ?」 一方通行はどこか面倒臭そうに言った。 上条当麻は一方通行まで五メートルのところで足をとめた。 「で、お前とあのツインテールの女は何な訳?」 本当に世間話をするような軽い口調で問いかける一方通行。 「ここで、お前と相対するってことは意味することは一つだと思うが?」 上条当麻はわざと質問に対して質問で答えた。 それも、誰しもが答えが分かっている質問だった。 「ほォ? それはつまり、この俺が学園都市最強の超能力者と知っていてケンカを売りにきた、って解釈していいわけなンか?」 一方通行の笑みが深くなった。獰猛に深くなった。 「ケンカを売りに来たんじゃねえ。この実験を止めに来たんだ」 上条当麻は一方通行を真っ直ぐ見据えて宣言した。 「は?」 「この実験を止める方法は簡単だ。お前が『最強』じゃなくなった時点で終わりだ」 「え? 何? お前が俺を止めンの? はぁ……テメエがどんな能力者か知らねェけど、俺に勝てるとでも思ってンの? 俺、さっき言ったよな? 俺が学園都市最強のレベル5だって、そこんトコ、ちゃんと理解して喋ってンのか?」 一方通行の笑いは止まらない。 「無茶よ! アンタがどんな能力を持っているかはだいたい分かってるけど、それでもそいつに勝とうなんて無理よ!」 美琴は悲痛の叫びを上げた。 「というか、アンタは何のために戦うつもりでここに来たのよ!? どうして、アンタが一方通行に挑む理由があんのよ!?」 確かに御坂美琴は上条当麻が助けに来てくれることを望んでいた。 本当は望んではいけないのに望んでいた。 しかし、実際に助けに来てくれてしまうと、今度は上条の命の心配をしてしまう。 助けに来てくれた、それだけで美琴はすべてが救われた気がしたのだ。 だから、上条には戦ってほしくない。傷付いてほしくない、という気持ちが爆発する。 いったい、どんな事情があってこの少年がここに来たのかはまったく分からないが、それでも一方通行に挑むということは、傷付くどころか命の心配さえ、しなければならなくなるのだ。 上条は答えた。 「決まってんだろ。この実験はすべて間違っている。そんなもん認めるわけにはいかねえ」 美琴は愕然とした。 この実験は確かに異常だ。そして、この実験のことを知っているということは、この少年は一方通行の『力』も知っているはずなのだ。 しかしだからと言って『認めたくない』だけで、自分の命を賭けられるはずがない。そんな馬鹿がこの世にいるとは思えない。 一体、どんな大義名分で自分の命を賭けているのだ? 美琴のようにDNAマップを提供したならまだ分かる。 罪悪感と責任感で止めようとするならまだ分かる。 もちろん、上条にそんなものはない。 だから、美琴には分からない。 何のために上条当麻が戦おうとしているのかが分からない。 それは妹達も同じだった。 確かに妹達と上条は夕方に出会っている。また、実験現場を目撃されてしまっている。 だが、それだけだ。 それだけでどうして、この場に現れて、一方通行に挑むのかまでは分からない。 妹達は自分の命に価値を見いだせない。 それゆえ、自分のために上条当麻が来た、などとは微塵も考えていない。 「未来のためですわ」 「「は?」」、とミサカは疑問の声を漏らします」 二人の問いに答えてくれたのは白井黒子だった。 その視線は上条と一方通行に向いたままだ。 「上条さんはお姉さまとお姉さまの周りの世界の未来のために戦いに来たのです。もちろん、その世界にはお姉さまの妹さんも含まれますわ」 白井のセリフは奇しくも上条当麻がアステカの魔術師に誓った言葉とほぼ同じだった。 白井黒子は、上条当麻が『御坂美琴とその周りの世界を守る』と言った約束のことなど知らないにも拘らず。 この時はまだ、御坂美琴もまた、上条当麻のその宣誓を知らないにも拘らず。 上条当麻には今の白井黒子の言葉は聞こえなかったにも拘らず。 上条当麻は、意識的にしろ無意識的にしろ、『その誓い』を貫き通すためにここに来たのかもしれない。 「私の……未来……って、そう言えば黒子。あいつもそうだけど、アンタ、何で冬服着てるの? 今はまだ八月よ?」 「…………」 「黒子?」 「…………信じてもらえないかもしれませんが、信じていただけますか?」 「意味分かんない」 「でしたら、お話できませんわ」 「分かった。信じるわよ。少なくとも私を一方通行の毒手から救い出してくれたのはアンタなんだから命の恩人を信じないなんて真似は出来ないわ」 「ありがとうございます」 白井は一礼してから、真っ直ぐ美琴の瞳を見た。 「わたくしと上条さんは今から約四ヶ月後の世界からお姉さまをお助けに参上いたしましたの」 その一言が、きっかけになったわけでもないのだが。 白井がそう言って、美琴と妹達が絶句した瞬間、 上条当麻と一方通行の戦いの火ぶたが切って落とされた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/御坂美琴の消失
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1476.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一本の白き道 とある右手の名誉挽回(キューピッド) 後日談 いつもと少しだけ違ったあの日以来、上条当麻と御坂美琴の生活は一変してしまった。 あの日の翌日には退院できた上条であったが、その横には“恋人”である御坂美琴が居て、しっかりと【赤い糸】という手綱を握られてしまっていた。(『恋人じゃないもん。奧さんだもん』とは美琴の弁……である) 特に変わったのが上条の生活であった。変わったと言うべきか、美琴に変えられてしまったと言うべきかは、敢えて言わない。 ただ、ちょっとした不幸(?)が原因であった。 病院を出て、途中スーパーで食料品やら何やら(上条の部屋で使う美琴用の色々な小物)をイチャイチャ(本人達にはその自覚0)しながら買い物をしていたところを、とある人物に見られてしまったのだ。 その人物とは、二人にとって決して見られたくない上条と美琴の双方を知る人物だった。彼女は早速その情報を兄である人物へと伝えた。色々と尾ヒレが付いていたことは言うまでもない。愛しの妹からの情報を鵜呑みにした彼は『デルタフォースの友情を裏切った奴には制裁が必要だにゃー』と、どす黒い声で言い放ち、すぐさま行動を開始した。 “神より貸し与えられし浄化の力”を宿すその右手は、上条を『不幸にしたことなど無い』と言ったが、それは多分、『右手が“不幸”の原因ではない』ということなのだろう。どうやら“右手”とは全く別のところで、上条当麻は【不幸体質】を持ち合わせてしまっているらしい。 そんな裏事情など全く知らない二人は、病院からスーパー、そして上条の寮までの間、初々しくもしっかりと手を繋いで仲良く歩いて帰って来た。 「ふ、不幸だ……」 寮に戻ってきて、自分の部屋の入り口を見た上条の第一声である。 入り口の前にはミカン箱大の段ボールが3箱『でで~ん』と置いてあった。箱の横には風で飛んでしまわないように、ガムテープでしっかりと貼り紙がしてある。 『先週休んだ分+土曜日の補習用の問題集やテスト等 ・ 提出期限:月曜日 ・ 担任:月詠小萌』 と、ワープロででかでかと書かれた貼り紙を見て、上条はいつもの口癖を呟くしかなかった。 実は、小萌先生が出した補習やら追試用のテスト等は確かにそれなりの量ではあった。だが、段ボール3箱分もあるはずがなかった。それを段ボール3箱分にまで増幅させたのは(お気付きの方も多いと思うが)この部屋の隣に住む人物であった。 彼は妹からの電話を切ると部屋を飛び出し、もう一人のデルタフォースに連絡を入れ、自分たちに出された分+クラスメイトらの分などの補習資料をかき集め、段ボール箱に詰め込み、貼り紙をして上条の部屋の前に置いたのである。そして、自分たちは部屋で待機し、隣室の様子を伺いながら、事ある毎にジャマをしてやろうという魂胆であった。 ところが……彼らの演算(企みとも言う)には大きな誤算があった。 そう、御坂美琴の存在を計算に入れていなかったという点である。彼女はレベル1から努力のみでレベル5になった稀有な例として知られており、その功績は教育指導の模範とされている程の存在だ。 美琴も上条と同じく、部屋の前に置かれている段ボールとその横に貼られた貼り紙を見て、最初は唖然としていた。 しかし、この状況を見ただけで唖然としたまま、上条のように『不幸だ……』と呟いて事態を打開しようとしない。などという行動を彼女が取るはずがなかった。美琴は“目の前にハードルがあれば、飛び越えなければ気が済まない”性格なのだ。 しかも、今日は上条と一緒に病院から帰ってきて、この後色々とやりたいことがあった。 二人で一緒に部屋を片付け、二人で一緒に食事を作って、それを食べたかった。そして何より、二人一緒に他愛ない時間を過ごし、時には甘え、通じ合った気持ちを育みたかったのだ。 その想いを踏みにじるように置かれた段ボール3箱を見て、彼女は自分の中のスイッチが次々と“ON”になっていくのを止めようとは思わなかった。 部屋の前でorzの姿勢を取っている上条の後ろで、スイッチが既に入ってしまった美琴は『ゴゴゴゴゴゴゴ……』と彼女をレベル1からレベル5にまで押し上げた“努力”という名のオーラを身に纏い、上条の背中越しに段ボール箱3箱を見つめていた。 この時、段ボール箱に押し込められた補習資料や追試テスト達は、箱の外から押し寄せてくる超強烈なプレッシャーにその身を縮こまらせていた。そして、自分たちをこんな状況に追い込んだ隣室に息を潜めて隠れているデルタフォースの残り2名を間違いなく恨んだのだった。 「……当麻……、やるわよ!」 「ヘッ!?……あ、あの……み、美琴……」 「いいから!!……やるわよ!!!」 「(ビクゥッ!!!!!)……な…ななななななななな何をそんなにやる気になっておられるんでせうか?」 「この課題、サッサと片付けちゃいましょ?……イイわね。やるわよ!!!」 「お、お前なぁ……そんなコト言うけど……この量だぞ。そう簡単に終わる訳が……」 「ああ~もうッ!!ゴチャゴチャうるさいっ!!!!!ウダウダ言ってるヒマがあったら、まず動く!!!」 「ヒッ!!!」 「サッサとカギを開けて!段ボールを玄関の横に置いて!!カゼひいてんだたから、部屋の中散らかしっぱなしでしょ?ゴミ拾って、要るモノと捨てるモノに分けて!!!その間に私は買い物の片付けとか洗濯をするから!!!!ちょっと寒いけど、窓開け放って部屋の掃除もやっちゃいましょ?イイわね!!!!!!」 「は、はひぃぃぃいいいいい~」 美琴の勢いに気圧された上条は、彼女の言う通りにするしかなかった。 スイッチが入ってしまった美琴の行動力は、上条の想像を遥かに超えるモノだった。 食料品や小物などをテキパキと冷蔵庫や食器棚に収めていく速度が尋常ではない。まるで、もう既にそこが居場所であったのではないかと錯覚するほど適切で、しかもキチンと収まってゆくのである。 掃除する段になって、上条は信じられないモノを見ることになる。 美琴がいきなりベッドをフワリと持ち上げたのである。美琴曰く、床の鉄骨とベッドのスプリングに磁気を帯びさせ、互いに反発させているから重さはほとんど消えているのだという。リニアモーターカーの原理だが、上条はそれを自分の部屋の中で見ることになるとは思わなかった。 部屋のスミに溜まったホコリを集めるのも、静電気を自在に操って掃除機を使うよりも短時間で、しかもより綺麗にしてしまった。 美琴はある程度の掃除が終わった時点で、拭き掃除などの仕上げを上条に任せると、食事の支度に取りかかる。正に八面六臂の大活躍だった。 昼食は宿題をやりながら食べられるもの。ということでサンドウィッチに眠気覚まし用のコーヒーに決定。美琴の作ったそれは見た目はありふれたモノだったが、味の方は何処に出しても恥ずかしくない。と思える程のモノだった。 だが、その至福のサンドウィッチを食べながらも、上条は地獄に突き落とされた気分だった。段ボール3箱分の課題の山を今日中に片付けてしまわねばならないからだ。 一方美琴は食事もソコソコに、その段ボール3箱に収められた中味を調べ始めていた。そして、その中味がおかしいことに気付いていた。同じものが2~3冊入っていたり、どう見ても上条レベルでは解けない内容の問題集が入っていたりするからだ。 (ウーン…どう考えてもヘンよね、コレ。でも、貼り紙には先生の名前があったし……何かの意図があるんだろうし……) この件を仕組んだデルタフォースの二人は、この宿題の山を見たら彼女は上条のレベルの低さに愛想を尽かすだろうと踏んでいた。 つまり、彼らが描いたシナリオはこうだ。 彼女と一緒に上条が帰ってくる。⇒ 部屋の前に置かれている宿題の山を彼女が見る。⇒ 上条のレベルの低さに彼女がショックを受ける。⇒ 彼女に捨てられる“不幸”な上条。⇒ 一人取り残され、宿題をやる上条。⇒ 中味を調べることなく、全ての宿題を明日の朝まで徹夜して仕上げる。⇒ 自分たちは宿題をせずに済む。 というモノだった。 ところが、美琴は上条を見捨てなかった。いや、見捨てる以前にこの宿題の山を見た途端、自身のスイッチが入ってしまい、この宿題というハードルを飛び越えることしか考えなかったと言って良い。 しかも、上条ならば宿題の中味を調べることもせずに、ただ淡々とそれと向き合っていただろうが、美琴はまずその内容を調べることから始めた。そして幾つモノ資料が重複していることを発見し、それを出した担任の意図を推察しようとしている。 コトの一部始終を隣室で探っているデルタフォースの二人は、全く思い通りに進まない展開にヤキモキしていた。このままではヘタをすれば、自分たちの身が危うくなる。担任の小萌先生に電話でもされたら、全てが終わってしまう。上条一人が相手なら、絶対にそんなところにまで気が回らないだろう。だが、今の相手はこの学園都市に7人しか居ないレベル5の第3位なのだ。学園都市が世界の誇る、超お嬢様学校【常盤台中学校のエース】なのである。デルタフォースレベルの悪巧みが通用する相手ではない。 美琴は自身のセンサーのレベルを上げてみた。すると隣室に息を潜めている二人が居ることを感知した。こちらの部屋の壁に耳を当ててこちらを探っているのが美琴には“見えた”。そして『ピンッ!』と来たのである。 (何らかの意図がある)その答えが出たのだ。 状況を理解した美琴の行動は早かった。 まず隣室の潜伏者(バカ)達に気付かれぬように筆談で上条に状況を伝え、担任の先生に連絡を取らせた。 そして、自分に出された分の課題の内容を確認させ、その上で現在の状況を説明するように伝えた。もちろん隣室の二人には気取られぬように、上条をバスルームに移動させた上でだ。 連絡を受けた小萌先生は大凡の状況を理解した。そして、デルタフォースの残り二人の悪巧みを瞬時に見抜いた。小萌先生は【出来ない子】の面倒をみるのは大好きだが、【ズルをする子】は大嫌いなのだ。 上条からの電話を受けた小萌先生は、すぐに上条達が居る寮に向かい、上条の隣の部屋に突入した。突入時に結標淡希の能力【ムーブポイント】が役立ったのは言うまでもない。蛇足だが、小萌先生はいきなり天井近くに出現し、二人の後頭部を踏みつけて仁王立ちしたという。大人の小萌先生を怒らせると怖いのだ。 そして上条の部屋を訪れ、デルタフォースの二人がかき集めた分の宿題を持って隣室へと再突入していった。その後、隣室から小萌先生にしごかれながらかき集めた宿題をやらされる二人。明日から1週間『すけすけ見る見る』を補習として受けることを約束させられた二人は、小萌先生が帰る頃には真っ白に燃え尽きていたという。 一騒動遭ったモノの、今は落ち着いて美琴に教えて貰いながら、上条は出された課題に取り組んでいる。 美琴からすればイライラしてしまうほどの速度なのだろうが、上条からしてみれば信じられない速度で宿題をやっつけていることになる。 第一、段ボール箱3箱分などという量ではなくなったことが何よりも、気分を楽にしてくれていた。とは言え出されている宿題の量は確かに多い。が、美琴の支援もあって今のペースでやっていければ夕食までには片が付きそうだった。 一方美琴にとっても、ドタバタはあったモノの上条との時間を確保出来たことに満足していた。 実は美琴は、どうしても上条に聴いておきたいことがあったのだ。 それを夕食時に勇気を出して聴いてみようと思っていた。 だが、あの量の宿題があったなら、それも聴けないところだった。 その壁が取り払われたのだ。もう彼女を止めるモノは存在しなかった。 今夜のメインメニューは、この季節には有り難い温か~いシチューである。もちろん師匠である舞夏直伝の味付けが施されている美琴自慢の逸品である。 大量の宿題を終えた上条は今、風呂に入っている。美琴は付け合わせのサラダを盛り合わせているところだ。 「あ゛~……イイ風呂でした~。オッ、美味そうな臭いだ」 「もう出来るから、座って待ってて」 「ありがとうな、美琴。しかし、こうしてると新婚さんみたいだな~」 「(し、しししししししし新婚~ッ!!!!????)……ふ、ふ……」 「ン?……どうした?美琴?」 その時、上条の不幸センサーがアラームを鳴らした。 『ヤバイッ!!!』 そう思った上条は、神速モードで美琴に駆け寄り、右手で頭を撫でる。 「……ふ……ふにゃぁあ~……(バチッ!…バキィンッ!!)」 上条の放った“新婚”の一言に過剰反応してしまった美琴は、漏電しそうになった。 それを上条が【幻想殺し(イマジンブレーカー)】で止める。 後一瞬遅かったら、上条宅の家電製品のほとんどはその役目を終え、成仏していたところだった。 「お、オイ、美琴。大丈夫か?」 「あ、当麻ァ~……ふにゃぁあ~……」 「あ、あの、いきなり漏電モードになられても……困るんですけど……」 「ヘッ!?……あ、アレ?……わ、私、どうしたの?」 「それはコッチが聴きたい……」 「あ、ご、ゴメン。……でも、何でだろ?」 「さあ……?」 (さあ……?じゃねぇだろが……ったく) とツッコミを入れたくなるのは我慢しても、二人のデレイチャモードを止める者は居ない。止められない。 正直、筆者としてもこれ以上は書く気が失せるほどのデレイチャぶりである。 【閑話休題(それはさておき)】 「「いただきます」」 初めての二人だけの二人揃っての夕食。美琴にとってはそれだけで幸せだった。 今までも食事を一緒にしたことはあったが、二人だけの空間で……というのは初体験だった。 帰る前に挨拶に来られた小萌先生には、ちゃんとお裾分けのシチューを渡してある。 こういう気配りが出来るのも、美琴だからだろう。 但し、渡したのは上条で、美琴はその時姿を隠していたのは言うまでもない。 ということで、二人揃っての楽しい時間が始まった。 「ん!美味い!!……けど……」 「えっ!?……け、けど……何?」 「ウーン、どっかで食ったような……味だぞ……」 「えっ!?うそっ!!」 「いや、確かに食った味だ。……何処でだったっけ?」 (そ、そんな……この味は舞夏直伝の味よ。こ、コイツまさか……舞夏とまで関わりが……) 「そうだ!!隣の土御門んトコだ!!!」 「ええっ!?な、何で当麻の隣に舞夏が住んでるのよ!?」 「ヘッ!?……ああ、違う、違う。隣に住んでるのは舞夏のアニキだよ。オレのクラスメイトなんだよ、ソイツ」 「えっ、そうなの?」 「そうだぞ。それより美琴こそ、舞夏と知り合いなのか?」 「う、うん。舞夏は繚乱家政でしょ?で、常盤台の寮に修行によく手伝いに来てるから、顔見知りなの」 「そっか、しかし、世の中って広いようで狭いよな」 「そう言われるとそうね。でも、隣の人って……」 「あ、アハハ……今日のドタバタの首謀者……だったらしい」 「……(ピンッ!!)……」 「ん?どした、美琴?」 「何でもないわ……ただ……」 「ただ……?」 「今度一度、舞夏をとっちめなきゃって思っただけ」 「(う、うゎわぁぁ……こ、怖えぇぇぇ……)」 「あ、と、とととととところでさ……ちょっと聴きたいことがあるんだけど……イイかな?」 「ん……ングッ……な、何だ?」 「あ、ああああ、ああああああああああのね・・」 「美琴、落ち着け……」 「う、うん……スーハー、スーハー……あのね……」 「ああ」 「き、昨日、私のこと“好きだ”って言ってくれたじゃない?」 「(ボンッ!!)グッ!?ブホッ、ゲホッゲホッ!!……い、いきなり……何を!?」 「す、スゴく嬉しくって、私も泣いちゃって……聴けなかったから……今日、聴こうと思ってたんだけど……」 「う……ンンッ…ゴホッゴホッ…ハァ……あ~、ビックリした……それで?」 「い、いつから……私のこと……“好きだ”って思って……くれてたのかな……って……」 「……」 「ねぇ……教えて……(じぃ~~~~~~~~~~~)」 「(出たね。出たよね。出ましたね。の3段活用。……じゃなくって、出たな、美琴の必殺技【上目遣い攻撃】……コレで堕ちない男は……いない)……ハァ」 「ねぇ……(じぃ~~~~~~~~~~~)」 「……あ、あのさ、美琴」 「え?……何?」 「オレはお前みたいに頭も良くないし、自分の気持ちもあんまり掴みきれてないから……、ちゃんと説明出来ないと思う。それに、もしかするとお前を傷つけることになるかも知れない……それでもイイのか?」 「あ……うん……でも、やっぱり聴きたい……」 「分かった……」 上条は暫し天井を見上げながら、ゆっくりと思い出すように語り出した。 「オレ、あの夏休み最後の日に、ある奴と約束したことがあるんだよな。ソイツは海原に化けていた奴なんだけど……『御坂美琴とその周りの世界を守る』って約束をしたんだよ」 「えっ!?(ボンッ)~~~~~~~~~~~~~~~」 「本当はそんなヤツと約束するなんておかしな話だよな。そういう約束するんなら、ちゃんとお前にも伝えなきゃいけない。でも、その場はそれで良いかなって、終わらしてたんだけど……」 「……(い、言えない。ま、まさか、聴いてたなんて……絶対に言えない)……」 「あの戦争の時にさ、美琴が最後の最後に助けに来てくれただろ?オレは自分の意志でそれを断ち切ったけど……。まだやらなきゃならないこともあったし……さ。あの時、ホントに嬉しかったんだ……。でも、同時にメチャクチャ腹が立ったんだ……」 「えっ!?」 「だって、オレにとっては守るべき存在である美琴が、わざわざ俺を追いかけて戦争のまっただ中に来てるんだぜ。そんなの許せる訳無いよ。『オレは何て莫迦なんだろう』って自分にメチャクチャ腹が立ったんだ……」 「あ……」 「その後色々あって、なんとか学園都市に戻って来れて……でも、色んなモンを失ってて……美琴を一杯泣かせて……でも、なんとか日常を取り戻せて……」 「……うっ……ひっ……ひくっ……グスッ……うっ……ううっ……」 「そんな時に昨日の一件が起こってさ……」 「(ビクッ!!)」 「昨日、記憶が全部戻ってるのが分かったけど……それって、昨日見た“夢”が原因だと思うんだよな」 「夢?」 「うん……それまでは確かに断片的なモノ、記憶みたいなのはあったと思う。ただ、それが全部バラバラでさ、繋がらなかったんだよな」 「それって、風邪で寝込んでた時に見たって言う……」 「そう、それ。……でもさ、その後美琴と追いかけっこしただろ?あの時もそれはまだゴチャゴチャしてて、記憶だなんて気付けなかったんだよ。そうまるで、ジグソーパズルを始める前みたいにピースが全部バラバラでさ、それも袋か何かに入ったままのような、何の絵なのかも全然分からない状態だったんだ」 「……そう、だったんだ……」 「ところが、昨日はさ……結構ハッキリ覚えてるんだけど……もの凄く綺麗なところに居てさ……何かこの世じゃないような感じだったな。“特別な場所”っていうか、何て言うか……上手く言えないけど……」 「……うん……何となくだけど、分かるよ……」 「そこで、その場所以上にもっと綺麗な……何か“繭”みたいなモノの中にオレは寝かされてたんだ。で、そこで誰かがオレに聞いて来たんだよ」 「……何を聞いて来たの?」 「色んなコトを聴かれたと思うんだけど、全然覚えてないんだ……。でもこれだけは覚えてるんだよな。『お前は目の前にある者を沢山救ってきた。だがもし、たった一人しか救えないとしたら、お前は一体誰を救うのだろうな?』って聴かれたんだよ……」 「で、……どう答えたの?」 「……答え……られなかった……」 「えっ!?」 「オレは、目の前で誰かが泣いていたら、誰かが救いを求めていたら、そいつを助けたいと思う。オレってそういう奴だからさ……。だけど、たった一人しか選べないとしたら……何て状況を考えたことがなかったんだよ。だから……選べない……と思ったんだよな……。……でも……」 「でも……?」 「悩んでる最中にフッと目を開けたらさ……美琴の顔が見えたんだよ。目に涙を一杯に溜めて、ホントに心配そうにオレを覗き込んでる美琴の顔がさ……」 「(……あ、あの時……の……)」 「その瞬間に分かったんだ。オレはお前を選ぶんだって。上条当麻は御坂美琴を最後の最後に選ぶんだって。その瞬間に分かったんだ。そうか、そうだったんだ。って……もの凄く納得出来たんだ。……そうしたら、全部のピースがその瞬間に並び変わったような気がして……」 「ピースが並び変わったって?」 「で、気がついたら……美琴に告白してて、記憶も戻ってたってコトに気が付いた……」 「……」 「だから……美琴を“好きだ”って分かったのは……ホントに昨日って言うか……ついさっきみたいなモンなんだよ」 「そう……なんだ……」 「……ゴメン……」 「な、何で謝るのよ!?……だって、だって当麻は……その気持ちに気付いた時に、ちゃんと私に告白してくれたんでしょ?」 「……ああ、それは間違いないよ……。でも、それは……美琴が素直だったから、オレも自分の気持ちに素直になれたからだ……。全部お前の、美琴のお陰なんだよ」 「ううん、そんなこと無いよ。私なんて、ホントに何度素直になろうって思っても……全然出来なかったんだよ?当麻の方がキチンと自分の気持ちに気がついて、その時に正直に伝えてくれたんだもん。本当に嬉しかったんだよ。ワンワン泣いちゃうぐらいに、ホントに嬉しかった……」 「……でも……ホントは、もっと早くに気付いていなきゃいけない気持ちだったんだって……今になると思うんだよな、ただ……」 「ただ……?」 「コレはコレで良かったのかも?……とも思うんだよな。美琴には悪いと思うけど……」 「そ、それは……そうかも……知れない……(カナ……ゴニョゴニョ……)~~~~~~~~~~~~~~~」 「美琴に『プロポーズでしょ?』って迫られた時に、少しずつで良いから一緒に前に進んで行きたいって言っただろ?アレは、このことを経験したから言えたことだったんだよ」 「……そ、そうなんだ……」 「美琴に告白して、美琴がオレの恋人になってくれて、オレにとっては美琴は何物にも代え難い存在になった。オレは美琴が居るから、今度もし何処かに誰かを救いに行くことがあっても、絶対にここに帰ってくる。どんなことをしてでも絶対に生き延びて、そしてここで『美琴と美琴の周りの世界を守り続ける』って言う約束を絶対に果たすんだって、今は思えるんだ」 「(ボンッ!!!!!)~~~~~~~~~~~~」 「だからさ、美琴。今度は本当にお前に誓わせて欲しいんだ。何処の誰かも分からない奴じゃなくて、オレが世界で一番大切な美琴に誓わせて欲しい」 「そ、それって……あ、あの……」 「オレは、上条当麻は、御坂美琴と御坂美琴の周りの世界を必ず守り続ける。そして御坂美琴を絶対に幸せにしてみせる。その為にはオレは絶対に死んじゃいけないんだ。生きて、生き抜いて、御坂美琴と美琴の周りの世界を守り続けると誓う。だから、美琴もオレと一緒にその世界を守って欲しい」 「……ホンットに……ホンットに、アンタって奴は……」 「エッ!?」 「……ホンットに、……ホンットに……アンタって奴は……どうしてそんな気障なセリフを……」 「……あ、あの……み、美琴……?」 「そんなコト言われたら……、そんなコト言われたら……」 「え?」 「絶対、一生、当麻と一緒に守るって言うしかないじゃない!!!!!!!!!!!!!!!!」 「……美琴……」 「バカ、馬鹿、莫迦、バカ、馬鹿、莫迦、ホンットにバカなんだからッ!!!!!!!!!!!!!!」 「……お、オイ……」 「私が一体どれ程、当麻に惚れ込んでると思ってるのよ!?私にとって、当麻は必要不可欠な存在なの!!!絶対に居なきゃいけない存在なの!!!当麻が居ない世界なんて私にとっては地獄そのものなのよ!!!だから、当麻は絶対に私の許に帰って来なきゃダメなの!!!!!だから……だから……」 「……美琴……」 「私も当麻に誓う。絶対に当麻と一緒に幸せになるって。当麻と一緒に私も幸せになって、私の周りの世界を守ってみせるって。だから…だから…絶対に私を離さないで!!!!!!!」 「ありがとう……美琴」 「絶対に離しちゃダメなんだからね!!!」 「分かってる!」 「ずっと、ずっと、一緒なんだからね!!!!」 「ああ、ずっと、ずっと一緒だ!!」 「私を幸せにするのは当麻の義務なんだからね!!!!!」 「分かった。必ず幸せにしてみせる!!!」 「私だけ置いてけぼりにしたら、今度こそ許さないんだからね!!!!!」 「ああ、今度は絶対に一緒だ!!!!!」 「……ああ、当麻、当麻、当麻ァ……」 「美琴……愛してるぞ」 「私も……当麻のこと……世界で一番愛してる」 「……」 「……」 互いに見つめ合い、何も言わずに目を閉じて唇を重ねる二人。 言葉はもう要らない。 互いの気持ちを確かめ合った二人は、永遠の絆を手にした。 その絆は【幻想殺し(イマジンブレーカー)】であっても絶対に壊せない【幻想】ではなく【確固】たる現実のモノとしてこの世界に現れた。 例え神の力であっても、この絆を壊すことは出来ないだろう。 いや、この絆こそ、愛こそが神の力の源なのかも知れない。否、そう信じることが大切だ。 神がこの世界を人に託し、人が神に応えようとする限り、世界は必ず良き方向に向かうだろう。 当麻と美琴の二人には、これからも様々な試練(不幸)が襲いかかるだろう。 でも、心配は要らない。この二人ならきっと切り拓いていけるだろうから。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一本の白き道