約 1,861,617 件
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1157.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こいぬのおくりもの 十月のある穏やかな日曜日。残暑が終わりを告げ、ようやく秋の足音が聞こえてくる季節。 上条当麻は昼寝にちょうど良い季節だと言わんばかりに、貴重な高校一年生の日曜日を惰眠をむさぼることで過ごしていた。 以前なら同居人である暴食シスターが夕食の用意をせかすためここまでぐうたらなことはできなかったのだが、今ではそんな彼女も故郷であるイギリスに帰ってしまっている。 結果として上条の怠惰な昼寝を妨げる者は誰もいない。 とはいえ時刻はもう夕方、日も落ちかけなので昼寝というよりそのまま夜寝になりそうではあるのだが。 そんなとき上条の携帯が激しく鳴り響いた。 やたらと大きい音。普通の携帯の着信音の何倍もするほど、むしろベル式の目覚まし時計並の大きな音だ。 「……ん? むにゃ」 さすがの上条もこれには起きざるをえない。寝ぼけまなこでのろのろと携帯電話に手を伸ばし、発信者も確認せず着信ボタンを押した。 「もしもーし。上条さんの意識はただいま留守にしておりまーす。ご用の方はピーとわたくしが言ったら――」 そのままふざけたセリフを口にした上条だったが、電話口から聞こえてくる聞き覚えのある声、しかもそのただならぬ様子に一気に上条の頭は覚醒した。 「……御坂、どうした! 何があった!」 『と、当麻、助けて、助けて……』 電話口から聞こえる御坂美琴の声。その声は明らかに泣いていた。 「落ち着け御坂。落ち着いて何があったか話してくれ」 『死んじゃう。血が……いっぱい……で……ハァハァ言ってて……大変で……』 「血? いっぱい? くそ……なんかよくわかんねえけど、場所はどこなんだ! 今すぐ行ってやるから待ってろ! 絶対諦めるんじゃねえぞ!」 何が起こっているかはわからないが悠長に話している暇はない、そう判断した上条は急いで着替えを済ませて家を飛び出した。 絶対能力進化の実験が中止になった今、一方通行が美琴や妹達に危害を加えるはずはない。だが美琴は明らかに「死」や「血」などといった尋常でない言葉を口にしていた。 ではいったい美琴の身に何があったのだろうか、死に瀕しているのは誰なのだろうか。 間に合ってくれ、上条は必死にそう願いながら美琴の待つ場所へ走り続けた。 「御坂! 無事か!」 上条は美琴から連絡を受けた場所、大通りから少し外れた路地裏にあるビルの影にやってきた。 そこには通りに背を向ける格好で地面に座り込み、肩を震わせる美琴の姿があった。 その様子に言い知れぬ不安を覚えた上条は美琴を強引に振り向かせた。 「御坂、何があったか知らないがもう大丈夫だぞ、さあ、何が……あ」 上条は言葉を失った。こちらを向いた美琴の顔は涙で汚れており、彼女が着る常盤台の制服のブレザーは血だらけだったからだ。 「当麻、助けて、どうしたらいいの、私、私……」 美琴は虚ろな目でこちらを見ていた。 美琴の身に何かが起こった? そう思った瞬間、上条はカッと頭に血が登った自分がいるのを理解した。しかしまずは状況判断だ、冷静にならなければいけない。 上条はブンブンと頭を横に振ると、一度深呼吸をした。そして暗がりの中の美琴をもう一度よく見てみた。 すると美琴自身の体にはなんら乱暴されたような跡などはなく、ただ血で汚れているだけだと気づいた。 上条は期待通りの返事を美琴が返すことを願いながら、美琴に声をかけた。 「御坂、お前、なんともないのか? そ、その、乱暴とか、されてないか?」 こくりとうなずく美琴。 「そうか」 美琴自身が無事なことにひとまず安堵のため息をついた上条だったが、今度は美琴が何か小さなモノを抱きかかえていることに気づいた。 「御坂、それは?」 上条に抱きかかえてるモノを指さされた美琴ははっと息を呑むと、縋り付くように上条に近づいた。 「そ、そう、これ、こののこの、この子! この子大変なの、なんとか、なんとかして当麻!!」 「お、おい。落ち着け、とりあえず落ち着け御坂、な?」 鬼気迫る美琴の様子に上条は圧倒され、なんとか彼女を落ち着かせようとした。だが美琴はそんな上条を気遣う様子もなく、必死に言葉を繋げながら上条に迫り続けた。 「だって、だだだって、この子、このままだと、し、死んじゃう、だから……だから……」 「死ぬって……この子……?」 上条は美琴が抱きかかえているモノをよく見た。 それは怪我をして血だらけの子犬だった。美琴のブレザーが血で汚れた理由はこれだろう。 上条の表情がさっとこわばった。 「御坂、どうしたんだよコイツって、そんなこと聞いてる場合じゃないな。とにかくなんとかしないと。けど、学園都市に獣医なんてもんが……」 病院にやっかいになることが多い上条は、自然と学園都市にある病院の位置に詳しくなっている。しかしそんな上条の脳内地図にも獣医の場所までは記録されていなかった。そもそも学園都市に獣医がいるのかさえ疑わしい。 「人間も動物も命を助けることには変わりないよな。背に腹は代えられないし……よし」 上条は美琴の頭に手を置くと、すっと立ち上がった。 「御坂、行くぞ」 きょとんとした美琴は首を傾げた。 「え? ど、どこに?」 「話は後だ、とにかくソイツを助けたいんだろ? だから病院行くんだよ」 「病院って?」 「リアルゲコ太先生のとこだ。さあ行くぞ。しっかりソイツ抱いてろよ、落とすんじゃねえぞ」 「う、うん」 二人は冥土帰しが勤務する病院へ向かった。 「うーん、確かに変わった治療もよく行うけど、ここは一応人間の病院なんだよ?」 「そこをなんとか、お願いします! コイツを助けて下さい!」 十分後、上条は病院前に呼び出した冥土帰しに頭を下げていた。 「うーん」 冥土帰しはチラと、美琴と彼女の抱いている犬を見た。 美琴は顔を伏せたままだったが震えている肩からその表情は容易に想像できた。 また抱いている犬があまり楽観視できない状態だというのもわかった。すぐに治療しなければならないだろう。 冥土帰しは再度上条を見た。 上条は必死な形相で自分に頭を下げ続けている。 「わかったよ」 冥土帰しは頭をかきながら呟いた。 その声に上条と美琴はばっと顔を上げた。 「本当ですか!?」 「ああ、動物も人間も、命は一つだろ? それに君はお得意様だし、君の彼女をこれ以上泣かせるのも気が引ける」 「え、いや、その、俺と御坂は別に――」 「さ、おしゃべりはここまでだ。そこの裏口から入って奥のエレベーターを使って上に上がってくれ。さすがに病院だから普通に子犬を入れるわけにはいかないからね。けどあのエレベーターなら誰にも文句は言われない。さあ、急ぐんだ」 冥土帰しはあわてた上条の抗議をさらっと流すと病院内に入っていった。 冥土返しの言葉に頬を染めていた美琴と顔を見合わせうなずいた上条は、彼女を伴い指示された裏口に向かった。 冥土帰しに指定された階にあった手術室の扉が閉められた。 ここから先は冥土帰しの戦いだ、自分たちはただ彼を信じて待つだけ。 そう思いながら、上条はうつむいたまま待合い者用の長椅子に座る美琴の手をそっと握った。その手は小さく震えている。 上条は大きくはないが努めて明るい声を出した。 「心配するな、カエル、いやゲコ太先生を信用しろよ。知ってるだろ、あの先生は本当にすごいんだ。俺がこうして五体満足で生きてられるのもあの先生のおかげだ、アイツだってきっと治してくれる」 「うん」 だがうつむいたままの美琴の手は相変わらず震えたままだ。 上条は心持ちその手を握る力を強くした。 「それにさ、犬って人間が思ってるよりも結構生命力あるんだ。だから大丈夫、もう泣くな、な」 上条はハンカチを取り出すと、そっと美琴の涙を拭った。 「……ありがとう」 美琴は絞り出すような声を出した。 当然とはいえ、いつにもなく殊勝な態度の美琴を見ながら上条は小さくため息をついた。 しばらくして美琴が泣きやんだのを確認した上条は彼女に話しかけた。 「なあ、少しは落ち着いたか? だったらそろそろ何があったのか教えてほしいんだけど。いけるか?」 こくりとうなずいた美琴は上条を見つめた。 「うん。アンタさ、最近爆弾魔がこの学園都市で騒ぎ起こしてるの知ってるわよね?」 「ああ、結構な騒ぎになってるからな。直接事件現場に居合わせたことがないから詳しいことまでは知らないけど、確か爆弾を作る能力者が無差別に爆発事件を起こしてるってんだろ? で、犯人のレベルが低いから死者が出てないのが不幸中の幸いだって話だったよな」 「うん、正解。もうちょっと詳しく言えば犯人の能力はレベル2の『化学実験』(エクスペリメント)。材料さえあれば活性化エネルギーをいじってそこから自由に化学物質を合成できるっていう、地味だけど結構汎用性の高い能力なの。言うなれば超能力による錬金術ってところかしら。で、高レベル能力者になるほど合成できる物質の種類に制限がなくなったり、生成物の純度が高くなる。ただ、今回の事件の犯人は低レベルってことで単一物質しか合成はできなかったのよ。けれど今回はその生成物がまずかった。知ってるわよね、TATP(過酸化アセトン)って?」 「ああ結構有名だしな。でもマジかよ、それって……」 「そう、よく知られた爆薬の原料。で、ソイツは材料となる過酸化水素とアセトンを常に持ち歩いてて気が向くままにあちこちでTATPを作って爆発させていたってわけ。不純物が多いから威力は低くなってたんだけど。これが事件の概要」 上条は面倒くさそうに頭をかいた。 「……くだらねえ奴だな。もしかしてソイツ、そんな馬鹿なことやってれば自分のレベルが上がるとか勘違いしてたんじゃねえだろうな」 「動機なんか知らないわよ。行動だけ見てると愉快犯みたいだけどね。とにかくソイツはあっちこっちで騒ぎを起こしまくっていた。それで、悪さが過ぎるってことで警備員に捕まったのよ。ついさっきね」 「なるほどな」 上条は路地裏に行く途中、多数の警備員がいたことを思い出した。 物々しい装甲車があったことからも爆弾犯人に対する装備だったことは間違いない。彼らの慌てた様子からすると本当に犯人を逮捕した直後だったのだろう。 「話の流れからすると、もしかしてあの子犬はその捕り物のときに巻き添えを食ったってことなのか?」 美琴はこくりとうなずいた。 「察しが良いわね。そう、危険だからって捕縛活動が始まる前に人間は基本的に避難してたんだけど、さすがに野良犬までは手が回らなかった、当然だけど」 「それで、そこを通りかかったお前が被害にあった子犬を偶然助けた、ということか?」 「うん」 「念のために聞くがお前があそこにいたのはただの偶然か? 捕り物に参加したなんて馬鹿なこと言わないよな?」 「言わないわよ、本当にあそこにいたのは偶然。暇だったから、ぶらぶらとショッピングしてた帰り」 上条は疑わしそうに美琴を見た。 「本当か?」 「信じなさいよ。あれだけ警備員がいるのに私が何かしたら邪魔になるでしょ。私一人だったら犯人なんてぶっ倒してやるけど」 「あのな、それを俺は心配してるんだ。普通の能力者相手ならともかく、TATPなんて爆発物相手ならお前の能力なら大怪我するだけだろ。異能の力なら無条件に無力化する俺とは違うんだぞ、そういう無茶は止めてくれ」 上条の言葉に反応した美琴は、ずいと上条に詰め寄った。 「何よ、アンタ私を馬鹿にしてるわけ? そんな奴を相手にしたときの応用力が私にないって言うつもり、仮にもレベル5の私に向かって? 対処法ぐらいいくらでもあるわよ」 「落ち着けよ。応用力とかそういう問題じゃなくて、危ないことに首突っ込むなって言ってるんだ」 「いっつも危ないことにしか首突っ込まないアンタに言われたくないわよ。偉そうに人のこと心配する前に自分、の……心配? アンタ、私の心配、して、くれたの?」 美琴は自分の言葉にはっとして声を詰まらせた。 その様子に上条はつまらなそうに口を尖らせた。 「当たり前だろ。俺がお前の心配するのが、そんな悪いのかよ」 「そ、そんなこと、ない。ありがとう……」 「お、おう……」 急にしおらしくなった美琴の態度に、辺りは妙な空気に包まれた。 空気を変えるため、美琴はこほんと咳払いをした。 「え、えと、とにかく、その犯人を捕まえるときの騒ぎで大怪我してたあの子を見つけたんだけど、そこで私の思考が完全にストップしちゃったのよ。自分のことならともかくあんな大怪我した犬を見たこともないし、助けたいけどどうしたらいいのかもわからないし。それで、気がついたらアンタに電話してた。でも良かった、アンタがすぐに出てくれて」 「出るに決まってるだろ。あんなバカでかい音がするんだ、昼寝してたのに一発で目が覚めた」 「へえ。じゃあアンタの携帯、あの着信音に設定してあげて正解だったわけね」 美琴は楽しそうに言ったが、一方の上条は面白くなさそうな顔になった。 「まったく、なんなんだよあの着信音は。勝手に人の携帯いじってお前からの着信音だけあんな傍迷惑な音に変えやがって。いったい何考えてんだ」 「アンタが私からの連絡をいっつも無視してるからでしょ。ああでもすればさすがに気づくと思ってね。実際今日だって気づいたでしょ?」 「そりゃそうだが。ならなんでお前からの着信だけあれなんだよ、しかもメールまでお前からのだけバカでかい音」 「他の人のまで変えたらアンタの感覚も逆に麻痺するでしょ。アンタは私からの連絡にだけ気づけばそれでいいからよ」 「……自己中」 「何よ」 「いーえ、なんでも」 とぼける上条にそれをにらみつける美琴。 だが美琴はすぐに上条をにらみつけるのを止めた。 「……まあいいわ。えっと、どこまで話したんだっけ? そうそう、アンタが電話に出てくれたってとこね。とにかくわけがわからなくて気がついたらアンタに電話して、アンタは来てくれた。それから後はアンタも知っての通りよ」 「なるほどな。怪我した子犬、か。まあなんにせよ良かったぜ、な」 「何が?」 「もちろんあの子犬が助かって、だよ。そんな下らない奴のせいで子犬の、小さな命がなくなるなんて絶対に許せねえ」 上条の言葉に美琴は表情を暗くした。 「で、でも本当に助かるかはまだ……」 「大丈夫だって、何度も言うけどあの先生は本当にすごいんだ。絶対助けてくれる!」 「う、うん」 「それからさ、ちょっと話はずれるけど、お前が電話をかけてきてくれたことも結構嬉しかったんだ」 「どうして?」 「お前が俺を頼ってくれたってことがな。なんでも一人で抱え込むお前が俺を頼ってくれたってことと、後、白井とかを頼ったっていいのに俺を頼ったってことも、良かったことの一つだな。上条さんも男だし、女の子に頼られて悪い気はいたしません」 そう言うと上条は照れくさそうに頬をかいた。 一瞬きょとんとした顔をした美琴だったが、何かに気づいたかのようにぽんと手を叩いた。 「そっか、黒子に頼めば良かったんだ。そうすれば一瞬で病院にも来られたし。なーんだ、わざわざアンタ呼んで損した」 「お、おい。それはいくらなんでも上条さんのガラスのハートを傷つける発言ですよ!」 憮然とした表情になった上条を見て、美琴はちろりとかわいらしく舌を出した。 「なーんて嘘」 「へ?」 「アンタが言ったんでしょ、何かあれば自分を頼れって。だから、その、私は何かあったときはその、あ、アンタに頼ろうって、その、決めてるから。それで、あのとき、アンタのこと以外頭に浮かばなかったのよ。うん、私が頼るのは、アンタだ、けだから……」 「そ、そうか、そりゃ光栄だな、うん……」 「そ、そうよ、光栄に思いなさい、光栄に……」 美琴が呟くように漏らした言葉に、再び待合いは妙な空気に包まれた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こいぬのおくりもの
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1796.html
17スレ目ログ ____ ________________ 17-10 ソーサ(14-457) スタートライン 17-21 17-019 ローンソ×ラヴリーミトンフェア 1 17-32 つばさ(4-151) 素敵な恋のかなえかた 11 小さな恋が終わるとき 17-47 ベイオウーフ(16-228) 二人の朝 17-53 蒼(4-816) My... 6 My saturday 17-64 17-063 とある少年の猛烈恋慕 1 17-81 夢旅人(15-189) とある男女の恋愛生活 4 木漏れ日 17-89 夢旅人(15-189) とある男女の恋愛生活 4 木漏れ日 17-104 つばさ(4-151) 素敵な恋のかなえかた 12 小さな恋が終わるとき 17-133 い~む(16-135) 未来からの来訪者 8 ~3rd day かみまこまい~ 17-152 Mattari(14-367) とある異世界の上琴事情 新約編 5 EPISODE 3 17-164 saku(17-163) 小ネタ ●Rec 17-181 ベイオウーフ(16-228) 『好き』だから…… 7 第五話『落涙』 下 17-193 ソーサ(14-457) とある少女の悪巧み 17-209 catal(13-887) 小ネタ おんぶお化け 17-213 夢旅人(15-189) とある男女の恋愛生活 5 Always_On_My_Mind 17-224 蒼(4-816) Presented to you 4 ―amnesia― 17-237 夢旅人(15-189) 小ネタ June bride ~いつまでも愛してる 17-243 Mattari(14-367) とある異世界の上琴事情 新約編 6 EPISODE 3 17-255 17-254 小ネタ 白い友人達の優しさ 17-267 い~む(16-135) 未来からの来訪者 9 ~4th day まこてんしょ~ 17-283 蒼(4-816) おすそ分け 17-290 17-063 とある少年の猛烈恋慕 2 ~君の瞳に痺れてる~ 17-305 Mattari(14-367) とある異世界の上琴事情 新約編 7 EPISODE 3 17-312 Mattari(14-367) とある異世界の上琴事情 新約編 7 EPISODE 3 17-320 ぐちゅ玉(1-337) Wheel of Fortune ~運命の輪に導かれ 17-336 ソーサ(14-457) とある少女の悪巧み―シリアスver― 1 17-343 ソーサ(14-457) とある少女の悪巧み―シリアスver― 2 17-354 い~む(16-135) 未来からの来訪者 10 ~外伝 とある夫婦の育児記録~ 17-381 ソーサ(14-457) 上琴の戦い 19 上琴VS絹旗 17-382 ソーサ(14-457) 上琴の戦い 20 上琴VS麦野沈利 17-389 ウルルフ(17-388) 天体観測 Northern_CROSS. 17-402 蒼(4-816) Presented to you 5 ―amnesia― 17-412 夢旅人(15-189) P.S._I_LOVE_YOU 17-428 Mattari(14-367) とある異世界の上琴事情 新約編 8 EXTRA EDITION_1 17-440 月見里(12-676) いちゃいちゃ……? 17-449 17-063 とある少年の猛烈恋慕 3 ~今すぐキス・ミー~ 17-471 い~む(16-135) 未来からの来訪者 11 ~外伝 とある夫婦の育児記録2~ 17-480 小ネタ たいとるがないんだよ 17-483 ベイオウーフ(16-228) ポニーテール 17-492 17-491 上条さんを悩ませたかったんです 1 17-518 17-491 上条さんを悩ませたかったんです 2 17-521 蒼(4-816) Presented to you 6 ―amnesia― 17-535 17-063 とある少年の猛烈恋慕 4 ~エイント・ノー・リバー・ワイド・イナフ①~ 17-552 ソーサ(14-457) 御坂美琴の幸せ生活 17-565 夢旅人(15-189) とある二人の七夕物語 17-578 ソーサ(14-457) 上条当麻の幸せ生活 17-591 Mattari(14-367) とある異世界の上琴事情 新約編 9 EXTRA EDITION_2 17-599 くまのこ(17-598) とある不幸な都市伝説 1 1日目 前編 17-610 い~む(16-135) 未来からの来訪者 12 ~4th day まこてんしょ~ 17-621 くまのこ(17-598) とある不幸な都市伝説 2 番外編 上琴裁判~蘇る上琴~ 17-624 くまのこ(17-598) とある不幸な都市伝説 3 1日目 後編 17-628 くまのこ(17-598) とある不幸な都市伝説 3 1日目 後編 おまけ 17-656 17-063 とある少年の猛烈恋慕 5 ~エイント・ノー・リバー・ワイド・イナフ②~ 17-672 17-019 ローンソ×ラヴリーミトンフェア 2 17-685 蒼(4-816) Presented to you 7 ―amnesia― 17-698 夢旅人(15-189) 運命の先にあるもの ~Let_Love_be_Your_Destiny 17-718 ソーサ(14-457) 上琴の戦い 21 上琴VS固法 黒妻 17-723 蒼(4-816) Presented to you 8 ―beginning・一二月三日①― 17-735 ソーサ(14-457) 上琴の戦い 22 上琴VS小萌先生 17-736 ソーサ(14-457) 上琴の戦い 22 上琴VS吹寄 17-741 ソーサ(14-457) 上琴の戦い 23 上琴VS半蔵 17-742 ソーサ(14-457) 上琴の戦い 23 上琴VS黄泉川 17-747 くまのこ(17-598) とある不幸な都市伝説 4 2日目 前編 17-756 ソーサ(14-457) 上琴の戦い 24 上琴VS通行止めVS浜滝 17-759 ソーサ(14-457) 上琴の戦い 24 上琴VS削板軍覇 17-764 くまのこ(17-598) とある不幸な都市伝説 5 2日目 後編 17-783 ソーサ(14-457) End of lover relation 17-802 夢旅人(15-189) だから……だから…… 17-820 ソーサ(14-457) とある少年の帰還記念祭 1 第1話『目覚め』 17-834 くまのこ(17-598) とある不幸な都市伝説 6 3日目 前編 17-844 ソーサ(14-457) とある少年の帰還記念祭 2 第2話『いざパーティ会場へ!』 17-862 ソーサ(14-457) とある少年の帰還記念祭 3 第3話『パーティ開始!』 17-881 ソーサ(14-457) とある少年の帰還記念祭 4 第4話『不幸な上条と幸せな美琴』 17-897 い~む(16-135) みこにゃんとみにゃかVer.2 17-912 びぃ ◆K7dCoes7VE 上条くんと美琴たん 17-922 ツキサカ(15-321) 切れた糸を繋いで 3 番外編 17-939 くまのこ(17-598) もし常盤台のお嬢様が初めからデレていたら 17-968 Mattari(14-367) うちあけ花火 17-984 くまのこ(17-598) もしレベル5の第3位が初めからデレていたら 17-988 くまのこ(17-598) 小ネタ 上と琴で上条さんあるある ▲
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2204.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の告白成就 <新訳・第1章 上条当麻の決意> (こんどは…なんだ……) 気が付くとまた、俺以外何もない空間へと辿り着いていた。 変わったことといえば、今度の夢は世界そのものがひどく漠然としていた。 そして、どこか懐かしく、優しく、暖かな光が俺を包み込んでいた。 (――どうやらここが終着点のようだな…、俺が、アイツと一緒に夢見てた幻想の…) 上条はインデックスの言葉を聞いて何もかも思い出したのだ。 美琴との思い出、上条からの告白、常磐台に行った理由、風紀委員の支部に行った理由 ――そして、美琴に完全に拒絶されてしまったことも。 (…もう、何もかもどうでもいい) そういう後ろ向きな思考だけが俺を支配していた。 ・ ・ ・ ・‥…ーー━━☆ そんな俺の目の前に、突如として『星』が出現した。 (なっ、何だ!コレは) 『星』はお先真っ暗な上条という一隻の舟が、彼の悲願(彼岸)たる一つの港に到着したときの印、 俗に言う『澪標(みをつくし)』に到達したことを想起させるように、小さいながらも身を尽くして懸命に輝いていた…。 ―――― ――― ―― その光の元を辿っていく。 そこに現れたのは、可愛らしい少女であった。 彼女の姿形が分かる距離まで歩み、見てみると、どこか見覚えのある幼い娘であった。 そして、今度ははっきりと聞いてみた。 「…こんな何もないところで、何してるんだ?」 「…お星様を描いてるのよ」 そんな返事が聞こえてきた。 彼女は先程の『星』をなぞるようにこの空間に同じものを何百個も描いていた。 「…さっき泣いていたのは、ひょっとして君だったの?」 「私は泣いてなんかいないよ、泣き虫なんて大っ嫌いよ! …でもこれから、一杯嫌なことがあるけど…決して泣いたりなんかしないもん」 …どうも要領を得ない。そして次の質問が頭に浮かばない。 そんな上条は、本当に楽しそうに描いている彼女の横顔をただ見つめることしかできずにいた。 ◇ 「よ~し、終わったよー。最後まで付き合ってくれてどうもありがとう! お礼に素敵なプレゼントを送りたいな♪受け取ってくれるよね?」 「…ああいいぜ、受け取ってやろうじゃねえか」 「良かった…。それじゃいくよ、それっ!」 彼女の合図から始まり、奇妙な姿勢で軽やかに歌って踊り出した彼女に同調するかのように、 辺り一面へと彼女の描いた星の光が、上条にとっての「常世の闇」を照らし、満ち溢れていく。 その光景はあたかも宇宙が誕生して間もないころの原始の光であった。 (これは、スゲェな!…ファンシー系が好きだったあの御坂は、きっと大喜びだろうな) ・ ・ ・ …やがて光は消えていき、また闇が戻ってくる。 「ん、もうおしまいか?素敵なプレゼントってのは?」 ――― もう隠す必要も無いでしょう。あなたは知っているのでしょう?…私が誰なのか? 気が付けば、少女は俺の隣から消えて辺りを埋め尽くす闇に溶け込んでいる。 少女の声もいきなりどこか無機質なものに変わった。 その声にも聞き覚えがあるような気がしたが、どこで聞いたのかまではやはり分からない。 …でも、彼女はどうやら俺の心の奥深く、『絶対的意識』の中に常に存在するようだった。 だからその声を聞いてようやく答えが出た。 「俺がさっきまで見てた夢の、そのまえ――最初に何度も夢の中に出てきた奴だろ?」 ――― はい。あなたならば、その答えが返って来ると思っていました。 もうじき『私』は、「この場所」から一歩も動けなくなるでしょう。 だから私はある者の『影』として、こうして時代という境界を超えて現出しています。 「…さっきの話もそうだが、いまいち要領を得ないんだけど…」 ――― 説明している時間がありませんので、次へと進ませていただきます。 ――あなたが先ほどまで忘れていて、今も後悔している『あの少女』のことについてです。 俺はその言葉に反応する。 「…御坂のことか?一体何を話そうっていうんだよ…俺はもうアイツに嫌われちまったんだぞ? 確かに後悔してもしきれないが……運命がそう決めちまったんだ」 ――― …そんなことを他でもないあなたが言わないでください。 あなたは一度、偽りの幻想から私を救ってくれたではありませんか?彼女のことは諦めてしまうのですか? 「私を救ったって、…俺は夢の中でしかオマエに会ってないんだぞ?」 と、自分で言ってハッと気付いてしまう。 夢の中で彼女が身近にいる誰かのように思っているのは、他でもないこの俺だが……記憶は別なのだ。 今の上条はどういうわけなのか、前世である『記憶をなくしたはずの少年』の記憶を受け継いでいる。 もしかしたら、彼の記憶の根幹に関わる身近な人なのかもしれない。 そして俺はある一つの結論を出した。 「ひょっとして…インデックスなのか?」 ――― はい。…ですが、正確には違います。『禁書目録』は謂わば、わたしの生き写しです。 本当の私はとうの昔に、彼女を産み落として亡くなっています。 どうやら目の前にいる彼女は、自らの過去について語るらしい。 ◇ ◇ 彼女…名前がないので適当に付けた「エル」は、まるで神話の世界にいたかのように、こう語っていた。 「エル」は文学や天体の知識に詳しく、魔術の才能に満ち溢れた少女であった。 そして若いころの彼女には生まれも育ちも同じ、愛しい少年がいた。 その少年は卑しい身分の者であったが、大きな夢を持ち、そのためには如何なる苦労をも惜しまなかった。 やがて多くの者が彼の熱意に触れて、彼を中心として神々に対抗し、ついに彼等は勝利を収めた。 ――だがそれは本来、存在し得ない歴史の流れだった。 躍起になった『神』は彼の拠り所であった少女「エル」を、自分の物にしようとして彼にとある試練を与えた。 彼には神様に対抗できるだけの力がなかったが…それでも、「エル」を神々からの呪縛から解き放とうとした。 しかし、あと一歩まで迫った彼が記憶を消されてしまったことで、「エル」は神様の子を産む結果となったと言う。 「その子供が…インデックスってことなのか?」 あまりにも馬鹿げている話である。神様は二人の強い結びつきを、記憶を消す形で踏みにじったのである。 そしてインデックスが産まれてきて間もなく、彼女は不治の病にかかってしまう。 元から無理な出産だったのだ。「エル」自身も彼女と同様に自らの死を覚悟していた。 だが「エル」は、産まれてきた『自分』の子供の輝かしい未来を、いつまでも見ていたいという強い気持ちがあったらしい。 そこで、その時代・その分野において最も秀でた才能を持つ魔術師に頼み、困惑した魔術師も承諾する。 そして彼女の病を治す形で、「エル」はインデックスに乗り移った。 ――『自動書記(ヨハネのペン)』である。 また、その魔術師は交換条件として『天上の意志に辿り着く』インデックスを自分の養女として迎え、 自身が研究を進めてきた能力開発の第一号にすることを要求し、苦悩の末に「エル」はその条件を飲んだ。 …結果は怖ろしいものであり、魔術を自由自在に使いこなす才能にも恵まれた「エル」が乗り移ったためなのか、 インデックスは古今東西の魔道書を記憶し、その魔術師の力をも上回る正真正銘の『神』の領域に達した。 だから「エル」を封印する形で、インデックスの本来の記憶が消されていたのだ。 ――― しかし、あなたが彼女と私を救ってくれたおかげで、私はこうしてあなたの前に現れることができました。 それに過程はどうであれ…『神の如き者』のおかげで再び現出することができた私は、 このことを彼女に教えてあげることもできました。 「えっ…それじゃ、」 ――― はい、彼女の記憶は戻っていますよ。記憶を消される前の私たちの記憶や 仲睦ましい二人の魔術師、彼等以外の彼女を見初めていた人たちとの大切な思い出も…。 良かった。本当に良かった…。 そう思っているのは俺ではない、記憶を失った少年だったのかもしれない。 知らぬ間に目からは一筋の涙が流れていた。 ◇ ◇ ◇ ――― 『禁書目録』は、立派なシスターです。彼女は神の子でありますが、同時にこの時代における平和の象徴でもあります。 もしあなたが彼女を助けていなかったら、あなたは今頃彼と同じ運命を辿っていたのかもしれません。 「…どういう意味だ?」 ――― あなたが最初に彼女を助けていなかったならば、私もこうして過去の記憶を取り戻すことはありませんでしたし、 何より私が、これからあなたに『正解の道』を示すことができるのですから。 あなたを愛し、あなたが愛する少女と私は、同じ運命にあるのですから…。 「…ようやく本題ってことか。でも御坂も神様に愛されているってどうして言えるんだ? 確かにここんところのアイツのツキは異常だが…それだけじゃないんだろ?」 ――― 確かに、私も神に愛されてからというもの、強運に恵まれました。 ですが、私の言う問題は他にあります。あなたは神に対抗し得る力を、ついに手に入れてしまいました。 ―――それは私の愛した人が望んだ力でもあるのです。 「つまり、ソイツと同じように記憶を消されかけた俺は、今神様の試練の前にいるっつうことか? …んでもって俺の右手にある『幻想殺し』も、その神に対抗するだけの力を持っているのか?」 上条はここまで話の筋が合っている、彼女の言うことならば嘘はないと信じる。 ――― 察しが良くて助かります。少し違いますが、そう思っていてくれて構いません。 ――『現世(うつしよ)は夢、夜の夢こそ真実(まこと)』 あなたが見た夢は現実のものとなりますが、悲観することはありません。私の彼も通った『正解の道』です。 しかし、あなたが彼女のことを強く思っていなければ、より強い結びつきがなければ、 今度こそ記憶を失うことになります。あなたにそれだけのモノや覚悟がありますか? 「…ああ、俺にはある」 上条の携帯には、美琴からもらったゲコ太ストラップがある。 かつて一度だけ自分の手から離れてしまったその装飾品は、 北極海を彷徨って、もう一度奇妙な偶然で美琴の手から俺の手に戻ってきたのだ。 これ以上の結びつきがあるはずがない。 ――― そうですか。…もしそれですら駄目なときでも、その右手のおかげで、あなたは正解にたどり着けるでしょう。 上条はその言葉に小さく頷く。自分の右手を強く握り締めて。 そして、上条の前に一本の道が現れた。 ――― …この道を辿っていけば、もう帰ってこれないかもしれません。 でもそれは、さっきのあなたのように過去に囚われることの無い、とても幸せな未来。 ――私たちのずっと思い描いてきた未来、『誰一人悲しむことのない世界』が実現する未来につながっています。 「…そんな大切なものを、俺にくれるっていうのか?」 彼女は小さく首を横に振った。 ――― いいえ、この道の先にあるのは、あなた方が創る、最も輝かしい未来でもあります。 あなたが自らの意志で歩んでいく道なのです。…夢の叶わなかった私がその未来の顛末を決めることはできません。 「…そうか」 歩み出そうとした足を一端止めて、上条は改めて彼女に聞く。 「でも、…オマエはそれでいいのか?」 ――― ……いいのかもしれません。 「…どうして、運命の赤い糸で結ばれていたオマエ達が、こんな不幸を背負わなきゃいけないんだろうな」 上条はしばらく上を向き、彼女の苦労を嘆くよう天に睨みつけていた。 そして、おそらく自分の右手が『運命の赤い糸』を打ち消すということも神の仕業のように思えてきた。 ――― でも、いいのです。こうして何千分…いえ、何十億分の一の確率で再び巡り合うことができたのですから。 「……へっ?…ひょっとして俺なの?」 ――― ふふっ、いいえ違います。彼は生まれ変わっても私と、私の生き写しである禁書目録と、今は一緒にいてくれています。 …それだけで、私はとても幸せです。 「…」 上条はしばらく黙り込み、後で大きく頷いた。 「――じゃあ、俺行くわ」 上条が一歩ずつ前に進んでゆき、後ろを振り返らずに手を振った。 振り返らずとも分かる。 彼女は嘘をついていた。――さっきまで泣いていたこと、…今も泣いていること でも本当は、彼女は嘘をついていない。――もうあの夢で見た少女は『死んだ』のだ、 …それでも今は、笑顔を浮かべて『嬉しい』から泣いているのだ だから上条は振り向かない。立ち止まれない。 彼女の見たかった世界をこの手で掴もうという決意を抱き、上条はまた歩み出す。 ― ―― ――― 夢から覚めた俺に先程の症状はなく、起き上がった俺にインデックスが抱きついてきた。 どうやらずっと魔術を行使して看病していたらしい。 「…ただいま」 「ヒグッ…エグッ…うん、おかえり…とうま」 汗が滲み出る程にまで詠唱を繰り返していたインデックスの瞳に大粒の涙が浮かんでいる。 「それから、インデックス。ごめんな、ずっと気付いてあげられなくて」 「…うん、でもとうまは悪くないよ。わたしもやっぱりとうまと同じで、本質は何も変わらなかった。 多分『前のとうま』でもね、ちっとも分からないんだと思うよ。だから、そんなこと言わないで。 私はいっぱい泣いたから…、夢の中でいっぱい泣いたから…」 「…」 「さっきも言ったけど、…わたしはもうここから一歩も動けない。 魔術もね、さっきので限界まで使い切っちゃった。」 「…」 「ほんとはね、わたしもみことを救いたいんだよ! みことはわたしが泣いてたとき、わたしを、優しく抱きしめてくれた…。ほんとのお母さんのように…。 あのとき、どんなに救われたか。 …今度はみことが泣いている。 だからお願い…とうま、わたしの思いも持っていって!みことを救ってあげて!!」 先程のエルの話から推測して、正義感の強い美琴は 俺に辛い目を合わせないために、俺から距離を置くなんていう『絶対にできない』嘘をついたのだ。 そして知った。今は助けを求めている。頼ってくれている。 だから何としてでも救い出す…今なら間に合うのだ。 いや、間に合わせる! 「…分かった、インデックス。お前の分も、俺は諦めない。忘れてやるもんか! 絶対にアイツが囚われている幻想は、この俺が跡形も残さずぶち殺してやる!!!」 ――そして、俺と神様との壮絶な戦いの火蓋が切って落とされる! 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の告白成就
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1645.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/恋する美琴の恋愛事情 恋する美琴の最終決戦 風が吹いていた―― 川面に吹く風が鉄橋の上の二人にも容赦なく吹き付ける。 既に日も沈み、町を夜の闇が覆っていた。住人のほとんどが学生であるこの街ではこの時間ともなると人の気配は少なくなる。特に商店街や学生寮から離れたこの鉄橋の上では人の姿を見かけるほうが稀である。 それでも、この時間、この場所に二つの人影があった。 「……よく逃げないで現れたわね」 一人は少女。投げかけた言葉の先にいる者に対して視線を外そうとはしない。 「……ああ」 一人は少年。しかし、その言葉に一言そう答えただけだった。 「こうしてこの場所でアンタと対峙するなんて、何日ぶりかしらね」 「………」 「あの時、アンタはいつもの力で私の電撃を打ち消す事も、避ける事もせず、ずっと受け続けた。ボロボロになってまで、もしかしたら死んでたかもしれないのに。アンタは私の荒れ狂った心をずっと受け止め続けてくれた。そして、私に代わって『一方通行(アクセラレーター)』と戦って、あの子達を解放してくれた」 「なあ、御坂――」 「ううん。その事には感謝してるし、恐らくどうあっても私にはあの借りを返す事なんてできないと思ってる」 少女は少年の言葉を遮り、さらに言葉を重ねる。 「今日の事は本当に私の我が儘。アンタが付き合う義理は無いんだけど、でもね、やっぱりこれはアンタでないと駄目な事だから」 「御坂……」 「だから、お願い。私と本気で戦って。アンタの全力で私と戦ってほしいの」 少女――御坂美琴はニコリと微笑んだ後、全身から電撃を発生させる。そこに悲壮感はない。そこに哀愁は無い。ただ、決意に満ちたその瞳と闇の中で光るその姿はヴィーナスを想わせる輝きを放っていた。 「……あー」 少年――上条当麻は特徴的なそのヘアスタイルの髪を掻き上げると、今度こそ美琴に視線を向ける。 「御坂。手加減できないぞ?それでいいか?」 当麻の瞳に揺らぎはなかった。その瞳からは決して嘘や誤魔化しの無い強い意思を感じられた。 「ええ、お願い。恐らくこれがアンタと最後の勝負になると思うから。上条当麻」 「そっか。結構楽しかったんだけどな、お前との追いかけっこは……わかった、やってやるよ」 そして、少年と少女、二人の想いを懸けた戦いの幕が今切って落とされた。 ******** さて、二人の戦いの前にほんの少しだけ時計の針を戻そう。 今度こそ告白を決意した翌日、美琴は当麻に会うべく、久しぶりにいつもの公園に来ていた。本当は彼の学校や寮を知っていたなら直接そこに出向きたかったのだが、残念ながら美琴はその情報を知らなかった。(もちろんデーターバンクにハッキングすればその程度の情報はすぐにわかるのだが、何故か美琴はそれを躊躇った) そして、どれくらい時間が経っただろうか、普段なら姿を現す時間になっても当麻は現れず、さらに時間が経ち、空は真っ赤な夕焼色に染まり始めていた。既に公園内だけでなくその周りの歩道からも人の気配は少なくなっている。 「………」 やはり、しばらく顔を出さなかったのがまずかったのだろうか。もう彼はこの道を通らなくなったのではないか。美琴の心に不安が渦巻く。 「……ばぁか……」 誰に向かってか小さく呟いた美琴は、普段蹴り上げることしかしなかった自動販売機の側面に身体を預け、膝を抱えて俯く。 もしこれで会えなかったら、彼との縁はここまでと言う事なのだろうか。そう思うと身体中が引き裂かれたような気持ちになる。 ――まだ始まってもないのに終わってたまるか! 崩れ落ちそうになる気持ちをその一心で奮い立たせる。まだ終わりと決まったわけではない。 「ビリビリ、何やってんだこんなところで?」 だからその言葉を聞いた時、待ち望んだその声を聞いた時、不覚にも涙がこぼれ落ちそうになってしまった。 「私の名前は御坂美琴っていちゅも言ってりゅでしょ!ヴィリビリいうな!」 その場で立ち上がり、なんとか体裁を整えるため、普段と同じ言葉使いをしたが、熱くなった眼頭と緩みきった頬でうまく言えたかどうかの自信は無い。 「今日は電撃を飛ばさないんだな?」 普段と違う態度に当麻は違和感を感じていたようだが、どうやら気付かれなかった様子に美琴は安堵と共に不快感を感じてしまう。まあ、これが上条当麻の上条当麻たる所以なのだが…… 「で、その御坂美琴様は上条さんに何かご用でも?」 と、当麻は相変わらずの態度を貫いている。腹は立ったが、話がこじれても困るのでさっさと用件を伝える事にする。 「今晩7時、あの鉄橋の上で待ってるから。決着をつけましょう」 まっすぐに当麻を見つめる美琴。これをいつものようにのらりくらりとかわされたら困る。だから、逃げられないよう、視線に強い意思を込める。 「決着って御坂……」 当麻はいつものように誤魔化そうとしたが、そのまっすぐな瞳に圧倒されたかのように続きを言えなくなってしまった。 「……本気なんだな?」 「ええ、そう。言ったでしょ、決着をつけるって。それはそのままの意味」 だから当麻もまっすぐに美琴を見つめ返す。そして二人の視線が交差し、先に目をそらしたのは当麻だった。 「わかった。今夜7時だな」 「ええ、必ず来てよね」 当麻はそのまま踵を返し、公園を出て行く。そして、完全に姿が見えなくなるまで美琴は当麻に視線を向けたままでいた。 「……うっ……ひぐっ……ばかぁ……ふぐっ……上条当麻のばか……」 当麻の姿が見えなくなり、周りに誰も居ない事が判ると、美琴はほんの少しだけ泣いた。もう、後には引けないんだと、自分の心に納得させるためにも。 ******** そして、時計の針は再び戻り、決戦の時となる。 「このぉ!!」 美琴の放った電撃は、当麻の右手によって払われ、誘導されたかのように全く別な場所へと落とされる。今まで右手で打ち消すしかしてこなかった当麻しか知らない美琴にとってそれは驚愕の事実だった。 『打ち消すだけならそのタイムラグをつけると思ったのに、いつの間にこんな戦い方を覚えたのよ!?』 美琴も上条当麻がいつも誰かを助けるために戦いに身を投じていることは感じていたし、この間の病院逃走劇からも判っていた事ではあったが、それにしてもここまで戦い慣れしているとは思いもよらなかった。 「それならっ!」 今度は電撃を分散し、三方向から狙う。能力を打ち消す力は右手にしか宿っていない事は知っている。だから、多方向からの同時攻撃には対処しようがない。 「甘いっ!」 当麻は落ちていたスチール片を電撃に向け投げる。その瞬間、スチール片が避雷針となり、電撃が1箇所にまとまる。そして、それを右手で払うと、当麻は美琴に接近すべく、一歩前に踏み出した。 ――ジャキン! その瞬間、黒い影が当麻を狙い迫ってくる。当麻はそれをギリギリで躱す。 「ちっ!」 勢いを殺し、その場で立ち止まる当麻。電撃を躱した先に見た美琴の手にはいつか見た砂鉄の剣が握られていた。 「アレすらもフェイクかよ」 「言ったでしょ。全力をだすって」 不敵に笑う美琴。もちろんさっきの電撃が効果ないことなどわかっていた。だから、当麻の接近は予測できていたし、接近のために右手を使うその瞬間を狙ったわけだが、そう簡単には行かなかった。 「そういえば、初めてだな」 当麻は何か感慨深げに言葉を漏らす。その瞳にはどこか嬉しそうな優しい光が浮かんでいた。 「何が?」 「俺と御坂がこうやって誰かのためじゃなく自分の為に真正面からぶつかるのって」 その言葉に御坂もようやく笑みを零す。 「そうね。……ね、だったらこれもいい機会だし、賭けない?」 「何を?」 「この勝負、勝った方が負けた方に何でもひとつだけ言うことを聞かせられるって」 「はは、どこかで聞いたことある賭けだな」 「そうね。あの時のは有耶無耶になっちゃったから、今度こそきちんとするってことで」 美琴は片目をつむり、当麻に不器用なウィンクを投げる。それを見た当麻は苦笑を浮かべ―― 「いいぜ、御坂がこの勝負に勝てるって言うのなら、俺の全力でおまえのその勝利の幻想をぶち壊す!」 美琴へ勝利の宣言する。 「言ってなさい!」 再び、美琴は当麻の周りに電撃を放つ。もちろん効果は期待しないが、目隠し代わりにはなる。 「このぉっ!!」 当麻が右手で電撃を打ち消した瞬間、今度は全方位からの砂鉄攻撃。もちろんこれも囮、目的は美琴が狙う距離まで当麻を誘導すること。 「同じ手は通用しないぞ、御坂!」 やはり、前方の砂鉄を打ち消し真正面からの攻撃を仕掛ける当麻、しかし、それこそが美琴の狙い。 「これで!」 美琴は更に今度は砂鉄の弾丸を当麻に向け打ち出し、そして、それと同時に砂鉄の剣を一気に伸ばす。これだけの近距離ならば、弾丸を打ち消したとしても砂鉄の剣は当麻に命中する。 「ふっ」 しかし、当麻はそれを読んでいたかのように、弾丸を打ち消した後、砂鉄の剣を軽く握り、自分の方に引き寄せた。 「え!?」 驚いたのは美琴の方だった。先程の電撃を逸らしただけでも初めて見た戦法なのに、まさか掴むことが出来るなんて。そして、剣を掴んでいた右手ごと当麻の方に引っ張られてしまう。 「きゃっ!」 体ごと当麻に引っ張られる美琴。当麻は既に左手を振りかぶり、美琴へと打ち下ろす準備をしている。そして――美琴の驚愕の表情は"勝利の笑み"に変化する。 「これを待ってたのよ!」 美琴は引っ張られた瞬間、自らの脚力で当麻の方へ飛び込む。そう、これこそが美琴の考えた勝利の距離。本当の意味での美琴の全身全霊をかけた一撃。既に当麻の左手が打ち下ろすには遅い距離。 「とうまぁ!!」 「えっ!?」 だから、当麻も驚きのまま何も出来なかった。 そして、美琴は作戦通りにそれを実行する。 その瞬間、時が止まったように静寂があたりを包んだ。 「「!!」」 それは美琴の気持ちを、当麻に対する想いを込めた最強の一撃。 美琴の唇が当麻の唇があわさり、美琴の柔らかい唇の感触が当麻の唇を包みこんでいた。 ドサッ! そして、その勢いを殺せぬまま、二人は縺れるように倒れこむ。もちろん、当麻はその行為に驚きながらも、美琴が怪我しないように両手でかばうことを忘れない。 「「……」」 しばらく無言の状態が続く。当麻は美琴をその胸に抱きながら、美琴は大人しく抱かれ続けながら 「あ、あのな、御坂」 それでも先に声を出したのは当麻だった。 「なんで、あんな事を?……」 そのセリフに反応したかのように美琴は顔を上げる。自分のやったことの大胆さに恥ずかしいのか、顔中真っ赤にしている。 「わからないの?」 「え、いや……その……」 当麻も顔を真赤にしながら、美琴の視線から逃れるように顔をそらす。 「ね、当麻。私言ったよね。全力で戦うって。これが私の全て。私の気持ちの全部だよ。それでもわからないなら、私は何度だって言うよ、私は当麻が――きゃっ!」 しかし、その先は言葉にできなかった。当麻は美琴ごと身体を起こすと、更に力強く抱きしめる。 「そこから先は俺に言わせろよ」 当麻は抱きしめる力を緩めると、美琴の顔をまっすぐに見つめる。 「……御坂、お前のことが好きだ……俺の彼女になってほしい……ダメか?」 しかし、美琴は 「駄目じゃない!駄目じゃないよ!!ヴァカァ!!」 涙を流し、顔をくしゃくしゃにしながらも受け入れた。 「バカはどっちだよ。あの時の話、やっぱ嘘じゃなかったんじゃねぇか。誤魔化すのが下手すぎるぞ」 「ヴァカッ!ヴァッカ!どうまのヴァカッ!」 そう言って泣きじゃくる美琴を当麻は再び美琴を優しく抱きしめた。 「そうだな、馬鹿だよな、俺」 「そうだよ、当麻のせいなんだからね!ヴァカッ!!」 そして、美琴が泣き止むまでそのばで二人はずっと抱き合ったままだった。 「ね、当麻……」 「ん?なんだ、御坂?」 「私まだ肝心の言葉を聞いてないよ」 ようやく泣き止んだ美琴のその台詞に当麻は苦笑する。やっぱり、美琴は美琴なのだと。 「そうだな。わかったよ」 それでも、確かにこれはケジメだから、決着をつけないといけないだろう。当麻は嬉しそうな美琴の視線を受けながら、ゆっくりと口を開く。 「参りました。俺の負けですよ、美琴」 そして、その言葉と同時に美琴に口付けする当麻。それこそが、当麻の敗北の証として。そして―― ――美琴の本当の意味での勝利の味だった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/恋する美琴の恋愛事情
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/738.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/上条さんが…ちっちゃくなりました。 1日目 「不幸だぁぁぁぁぁぁぁ!」 いつもの口癖を第一声にして私、上条当麻の最低最悪な春休みが始まった。この部屋には自分以外誰もいない。隣にいる土御門も兄妹でどこかに旅行中なのだとか。ちなみにいつもいる暴食シスターは、神裂やステイルとともにロンドンに帰っている。 朝起きるときになんとなくは気づいてはいたんだが、いつの間にか視点が低くなっていた。 顔を洗いに洗面所に行ったときに自分の身に起こったことが分かった。 「あれ?上条さんは今、いくつなんでせうか。」 子供の声がする。というより、自分の発する声が妙に高いことに気づく。もう一度鏡で確かめてみると、そこには見慣れたツンツン頭をしている小学1年生くらいの男の子が立っている。何分かはそこで突っ立っている。 幸い、この日は補習というものがない。というより、今年度は学校の補修工事が入っているためそれができないらしい。そのため、あの幼児体型の先生から大量の宿題をもらった。 とりあえず、このままでは何もできなかった。キッチンには手を伸ばしてやっとであるのでご飯の支度が全くできないのである。そこで、知り合いに電話をかけることにした。充電している電話に手を伸ばし、その知り合いに電話をかけることにした。 ――ゲコゲコッゲコゲコッ! ――「お姉さま?電話が鳴っているようですが。」 ――「分かった。今行くわよ。」…携帯の画面のCall下には「上条当麻」と書かれている。美琴は、少しずつ心臓の波打つスピードが速くなっていることに気づかない。そして、電話に出る。 「ハイ?もしもし、あんたはさぁ、今何時だと思ってるのよ。ったく。」 『あ。ごめんなさい。上条さんは、非常に困っておりましてですね…』 「んで?どうしたの?」 『ですから、あの…なんて言ったらいいんでせうか…今日、暇か?』 ここで、花も恥じらう14歳はかなりテンションが上がり、舞い上がってしまう。 (あいつから電話が来て、それでいきなり「暇か?」ですって? 用事ってもしかして…で、で、ででででででデートですかぁ?)ひとりで顔が真っ赤になり、口が小さくもごもご動いている様子は外から見ればとても奇妙な光景でかなりのスクープものである。 『どうしたんだ? 今日暇か?としか聞いてないのによぉ。』 「いいの、いいの、気にしないで。美琴せんせーは今日はフリーですのよ。しょうがないわね。付き合ってやるわよ。ずーーっと。」 『それは、上条さん的にとてもうれしいことです。というわけで、うちに来てくれないか。』 「いいわよ。何持っていけばいい?」 『そうだなぁ…。特にいらんのですよ。というわけで、早く来いよ!じゃな。』 (なんとか、ばれなくてよかったな。それじゃあ、あのビリビリ中学生でも待っていようかな。) 上条は、自分の家に美琴を呼ぶことにした。そして、この現状を見てもらおうということだ。若干、いやな予感はするもののそれ以上に嬉しい気持ちが大半を占めているのに自覚がない。 しばらくすると、電話の相手がやってきた。 コンコン!『来てやったわよ。早く開けなさいよ。』 「待ってろ。今開けてやっから。」ガチャッ!ドアを開けた先には誰もいない。幽霊の仕業かとも思ったが今は朝の9:00すぎである。もともともじもじしながら外にいた美琴は、いつものツンツン頭が下に見えることに驚く。 「あれ?ここって上条さんのお宅ですよね? お兄さんはいるの?」 「おれだよ、おれ!」と後頭部をポリポリ掻きながら言う。 「おれだよって…まさかねぇ…ハハ…ハハハハハハハ…」しばらく頭の整理がつかないまま笑っている美琴。それを困った表情でみている小学生、自称高校生という滑稽なシーンがしばらく続いた。とりあえず、この状態を打破すべく上条は部屋に入るよう促した。 上条は落ち着いて聞いてくれと美琴に真剣な顔でいう。 今日の起きた時からの事をずっと話して、本人も楽になった。 途中、美琴は信じられない顔でけなしたり、バカにしてきたりとやっていたが、 状況をつかんだのか、なんとなくだけれども自分がやることがしっかり見えたようにも見えた。 美琴は、とりあえず目の前に座っている小学生にお姉さん顔でいう。 「あんたは、私の事を美琴お姉ちゃんって呼びなさい! じゃないとどうなるか知らないわよ…わかった? ちなみに、私はあんたの事をとうまって呼んであげるから。」 へいへい。といわんばかりの上条であったが状況が状況であるために仕方がないと腹をくくった。 とうとう、上条は空腹に耐えきれなくなって腹の虫が騒ぎ出した。 「あら?当麻君はおなかが減ったのかしら?お姉ちゃんが何か作ってあげようか?」 「わりいな。びr…美琴お姉ちゃん!」 「あんた、今ビリビリとか言おうとしてなかった?」バチバチッ! 「なんでもありませんよ。上条さんは、なにかしましたか? ハハ…」 あわてて美琴の手に右手を添えながら言う。 「お嬢様だからってなめんじゃないわよ。 勝手に冷蔵庫の中覗いておいしいもの作ってやるからね。まってなさい!」 なんだか、ツンツンしているようでなんだか嬉しそうな後ろ姿。 いつも自分が付けているエプロンをつけて、鼻歌を歌いながら料理をしている女の子。 (あいつの小学生の頃ってあんなにかわいかったんだ。 しぐさとかは高校生の時と同じだし、何かとガキ扱いされてるのもむかつくんだけど、 なんかあの顔を見るとほっとしちゃうのよね。なんというか…) (レベル5とか言われてるけど、やっぱり女の子なんだよな。 なんつうか、正直じゃないところがかわいいというか、 でも、本当の御坂が素直ならいつでも好きになっちゃいそうなのにな。) 目線がいつの間にか交差していることに気づく二人。 (*1) 二人は、別なベクトルに顔を向けた。二人の顔は林檎よりも赤い。 しばらくして、料理が運ばれてきた。 「う~ん。あんたは何を食べて生きてんのよ。」 「何だっていいだろ?ったく。でも、これうまいな。」 「…ありがと。お姉さんとてもうれしい!」 おもむろに立ち上がる美琴。それも笑顔で。目の前からいなくなった。 …バサッ! 後ろからいいにおいとやわらかい感触が襲ってきた。 「…おい。離せよ。」目線が落ち着かない。 そして、その様子を美琴が面白そうにのぞく。 そして、抱きつきながら笑顔で話す。 「いつものあんたもこんな風にしてくれればいいのに。 私が仕返しできないじゃない。」 そう言うと、美琴は上条が持っていた箸を取り上げ、 おかずに箸をつけて自分のほうに寄せてきた。 「あ~~ん。…ほぉらぁ!あ~~んしなさいよぉ。 この御坂美琴様が特別にあんたにしかやらないんだから。ほ~~ら!」 上条は少し照れながら美琴の言うとおりにした。 そんなこんなで朝ごはんが終わる。 そして、二人はテレビをつけて隣り合うように並んで見ている。 「あんたさぁ?」ん?と言いながら上条は美琴の言葉にふりむく。 「これから、どうしようっての? 子供用の服とか持ってるわけじゃあるまいし、 元に戻らなかったらどうするのさ。」 「さあな。上条さんも困っているのですよ。」 「ふ~~ん。」といいつつ、美琴はひらめく。 (こいつを弟として振り回してやろうかな。 いつもガキ扱いされてるんだから今日ぐらいは…) 「お前…なんか企んでるだろ…上条さんにはわかりますの事よ。」 「え?てか、おまえじゃないでしょ?美琴お姉ちゃんでしょ?」 「わかってはいるんだけどさ。やっぱりな… でも、今日はおれが頼んだんだし文句ばっかりも言ってられないな。」 ということで、今日の上条は美琴のおもちゃになると腹を決めた。 「なんかさ、うちにいてもつまらないからどこか行かない? 私の友達に弟いる子がいてさ、その子にあんたの服一緒に選んでもらわない?」 「それは、それは、ありがたいことですよ。 上条さん的にも大助かりというか。」 「それじゃあ、行きましょ?とうまくん?」 上条はいつものTシャツを着て、 ズボンをはこうとしたがダボダボだったので、そこで戸惑った。 その困り果てた顔をした上条に美琴が微笑みながら いつも下にはいている短パンを貸してあげた。 カギは美琴が持っている。そして、佐天と待ち合わせの電話をした。 しばらく歩くと、声がきこえてきた。待ち合わせ場所はいつもの自販機前だった。 「あ!御坂さん!右の子ですか?かわいい!なんていうか、あの人みたいですよね。」 「え?まぁ、私のいとこが急に来るって言ってたし、たま~に…ね。」 「それで、要件なんですけど、この子の服見に行こうかなって思っててさ。付き合ってくれない?」 「いいですよ?そしたら、私の知ってるとこに行きましょう?」と佐天は言って、モノレールの駅まで行き、第6学区に行く。 モノレールの中ではサイドシートに上条を挟んで二人が座る形になっている。上条は身体が小学生であるといっても頭は高校生であるので、この雰囲気にドキマギしている。 右には御坂が手を握って座っている。左には佐天がかわいいと何連発もいいながら美琴に話しかけている。 ――上条は二人のお姉さん(?)たちに振り回される一日が始まるのをまだ知らなかった。 「ここですよ。ここ!SEVENTH MISTの姉妹店のVIER ROSSAですよ。」 佐天が新築の建物を指さして言った。 「へえ、私も知らなかったな。ここにあったんだ。 黒子と行ってみようかな。 それとも、あいつと行ってみようかな。あいつがよかったらなんだけど…」 「あいつって誰ですか? 御坂さぁ~~ん?」 横にいた佐天ににやにやされながら質問された。 「え?…えへへ……えへへへへへへへへ」(笑ってごまかそう。) あいつこと上条はとても白い目で、お前何がしたいんだ? と言わんばかりである。 この変な空気をぶち殺すために美琴の脇腹を右手で叩いた。 美琴は、極限までゆるんだ顔を急激に戻して、上条に顔を向けて…左手を掴んで… 「お姉ちゃんにパンチしたのはこの手かなぁ? このおててにびりびりしちゃおうかな?」 なんだか、笑顔なんだが目には光がなく、 背中から暗黒物質(ダークマター)が噴き出ている感じである。 それを見た佐天は、半分呆れ果てた顔でその場を取り繕う。 「さぁさぁさぁ!御坂さん!行きましょうよ!この子のためにも!」 「そうね。」 そして、店の中に入りお勧めの服屋を見つけて入っていく。 (最近の服は大人顔負けだな。これもいいな、あれもいいな。 今日はあいつに甘えてみようかな。 おれも、ひとりの男だけど今日はひとりのガキだ。いいよな。) 「美琴お姉ちゃん!おれ、あれがいいな。」 (いま、みことおねえちゃん!って言ったわよね。 佐天さんも聞いてるはず!というより、 今の顔めっちゃかわいいじゃん! とうまぁって抱きついてやりたい!えへっえへへへへへ…)ニタァーーーーー。 (御坂さんってこんなキャラだったかな。 でも、こんな所もあったんだって思うと、なんだか可愛いな。ほんとに。) 「ふにゃぁ///」美琴は、気が抜けてしまう。それを支える佐天。 しかし、美琴のお姉ちゃんという使命感によって数秒で復活した。 「なあに?当麻ぁ。これがほしいの?」 「うん。」ここでは、小学生然たる言い方で話すように努力している。 「へえ、当麻君はこういうの好きなんだぁ。好みが渋いんだね。」 佐天が上条のほうを向いてというより、同じ目線になって話してくれている。 上条はドキドキしてしまった。 そんなことも知らずに、 二人のお姉さんたちは上条のファッションショーを展開しようと企んでいた。 「ねえ、あんた。これ着てみない?」 わかった、と言ってものを受け取ると着ぐるみのようなゲコ太のパーカーだった。 なんとも美琴らしいものだった。 それを着てみせると佐天は、こんなの着てみない?と言ってこっちに寄こす。 佐天は弟がいるだけあって、自分のセンスに沿うようなものを選んでくれた。 美琴から借りた短パンに似合うようなカジュアルなYシャツとジャケットだった。 「これはいいな、佐天さんありがとう。」 「いいってこと。 でも、御坂さんだけお姉さんって呼ばれててお姉さん悲しいな。 私の事も遠慮なくルイねえって呼んで!」 「ありがとう!ルイねえ。」 「どういたしまして!ルイねぇ、本気になるぞぉ!」と言って、また服を選びに行った。 「当麻ぁ。これ着てみなさいよぉ。お姉ちゃんの選んだ服がきれないのぉ? 無理だったら、私が着せちゃうぞぉ。キャハッ!」 どうみてもこれははしゃぎすぎだろうと無能力者(レベル0)2人は思った。 このやりとりは30分以上続いた。 しばらくして、2つのセットを選び、美琴に勘定をしてもらい、外にでた。 いまの状態を説明すると、 上条を中心に右に御坂、左に佐天というハーレムな状態である。 服は佐天が持ってくれている。 上条にとってはとても申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 ちょうど、お昼くらいだったのでファミレスを探し、 モノレール駅近くのところに入った。 時は過ぎ、日がそろそろ落ちるところ。 第7学区のモノレール駅の前で佐天と別れた。 美琴とはずっと手をつないだままだった。 (こいつの手って、不幸ばっかりもたらすのかと思ったらそうでもないじゃない。 今日だって、何もなく終わったし、何気にこいつのかわいいところとか見れちゃったしな…) 横で、顔の全体の筋肉を自由活発に動かしている美琴をちらちらと見て、 怪しいと思いながら上条は歩いているのだった。 上条宅に到着。しかし、美琴は隣にいて、今日は泊まると言った。 今日は…ではなく、しばらくの間面倒を見てくれるらしい。 その証拠に、家に着くまでの行動はというと、 佐天と別れた後、美琴は「うちの寮によってもいいかしら。 あんたの世話するんだから、寮監にもちゃんと言っておかないとね。」といい、常盤台の寮に行く。 寮に行くと、目の前に寮監がいて、 美琴と二人で口実を言って外泊を特別に許可してもらった。 その帰りに美琴の部屋によって、ある程度の私服と私物を持っていった。 このとき、黒子は風紀委員(ジャッジメント)の見回りがあるため部屋にはいなかった。 黒子には、メールと書置きをしておいた。 という感じであった。と言っているうちに美琴が笑顔でいう。 「これから、買い物に行かない?今日は何食べようっか?」 「上条さんは、人が食えるものなら何でもいいですの事よ。」 「あんたってさ、ほんとにわたしの事馬鹿にしてるわよね。 でも、今日は許す!この寛大な心を持った美琴お姉さまが許しますよ。」 ありがたき幸せぇ~と棒読みでふざける当麻に、 天使の微笑100%で返す美琴。 幻想殺しでは壊せないものである。 この幸せはどこまで続いているのだろうかと。 「行こうよ、みことおねえちゃん!」と、 上条は笑顔で美琴の制服のスカートのすそを引っ張りながら言う。 「はいはい。当麻君は、せっかちなんだからぁ~~。」 と日々の仕返しをするかのように上条を子供扱いしている。 それにむすっとふてくされる上条を見て、美琴はいとおしく感じた。 家を出て、近所のスーパーに出向く。 「今日の晩御飯は何がいい?」 「そうだな、こないだのハンバーグとか。」 「それでいいの?なら、前回を越すやつ作っちゃうから。期待してなさいよ。」 「分かった。期待してる。」 1時間後、家について二人同時にため息をつく。 そのあとに、二人同時に見合う。そして、笑う。 なんだか、上条は朝のショックを埋められるような勇気がわいてきた。 今晩のご飯はハンバーグとコンソメスープだ。 「「ごちそうさまでした!」」 美琴に全て任せてしまっては悪いと思い、食器を運ぶことにした上条。美琴は、その様子をわが子のように見てしまい、最後にご褒美として、頭をなでるというところまで言った。 美琴が食器を洗い終えてエプロンを取ると、ベッドによりかかって座りテレビを見ている。このとき、上条は風呂に入っていた。 美琴がひとりでテレビを見ていると、風呂場のほうから走る音が聞こえる。とその時、美琴の前にツンツン頭が座ってきた。ちょうど、上条のお尻と美琴の太ももがくっついている状態である。この状態に気を良くした美琴は上条に抱きついて耳元でささやく。 「お姉ちゃんは、まだシャワー入ってきてないんだから、まだお預けね。フフッ」 そう言い残して、美琴は風呂場に向かった。 そして、上条はひとり部屋に取り残された状態になっている。そこに、静かに近寄る影が。上条はその存在に気付かないでテレビに夢中だ。 次の瞬間、なにがあったかわからないまま上条は驚く。 「つかまえた!さっきのお返し! どぉ?お姉さまのハグはどうなの? と~ま!」 「…」 「どうなのよ。うりぃ!うりうりぃ。」頬をすりよせてきた。 やわらかい肌といいにおいがする髪。少し、甘い香りがする唇…。 …チュッ! 上条は顔を真っ赤にした。 「おやすみ!寝るからな。」と上条は目線を合わさずに言う。 「電気消すからね。」と言いつつ、上条の寝るベッドの上に横になり後ろから抱きつくように美琴は寝る。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/上条さんが…ちっちゃくなりました。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1947.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸な都市伝説 3日目 新しい朝が来た。希望の朝である。 本日は土曜日。全国的に2連休だ。上条には大量の宿題があるが、それでも土曜の朝はワクワクするものである。 玉子を焼く音とともに、上条の鼻歌が聞こえてくる。 「ま~ず~しさに~負けた~~♪ いえ~世間に~負けた~~♪」 選曲がシブすぎる。鼻歌くらいは不幸じゃなくてもよかろうに。 本日の朝食は、ご飯とモヤシの味噌汁。メインディッシュは目玉焼きだ。 「ごっはん!ごっはん!」 「もうちょい待ってろインデックス。今できるから。」 「にーくだー にーくだー やーきにーくだー♪」 「そんな豪華なものウチにはありません!」 インデックスは箸で茶碗をチンチンと叩きながら、メシはまだかと囃し立てる。 ただいつもより機嫌が良さそうだ。 「ホレできたぞ~。」 「うわーい!いただきますなんだよ!」 いつも思うが、この小さな体のどこにこんなに入るのだろう。 ガツガツという効果音が似合う程よく食べる。グルメ細胞でも持っているのだろうか。 「そういえば今日、出掛けるんだよな。」 「うん!今日はひょうかと遊ぶんだよ!」 上条は味噌汁をすすりながらインデックスを見る。 よほど楽しみだったのだろう。ウキウキオーラ全開の笑顔だ。 その様子に上条はある決断をする。 上条は冷蔵庫の裏から封筒を取り出した。中から一葉さんが顔を出す。 「ど、どうしたのかなとうま!もしかして『ひじょうじたい』なのかな!」 実は以前、ここ上条家では未曾有の経済危機が訪れたことがある。 そのため奨学金が下りるまでの三日間、毎日3食、米と海苔とマヨネーズのみで乗り切ったという悲しい過去があるのだ。 これは「ベルムス巻きの悪夢」として語り継がれ、上条家では非常事態専用五千円貯金法が制定されたのである。 そのお金【へそくり】に手を出すということは、今月はかなりのピンチということだ。 だが上条は、 「いや、今日は楽しみにしてたんだろ?だったらこれでパーっと遊んで来い!」 上条の座右の句は「カルピスを 薄めて薄めて ほーぼ水」である。 だがあくまで倹約家であってケチではない。 大盤振る舞いする時もあるのだ。 インデックスは一葉さんを大切に受け取り、満面の笑みでお礼を言う。 「ありがととうま!大好きなんだよ!」 おっと、ついでに本音も出たようだ。 インデックスは真っ赤になりながら、慌てて訂正する。 「あ、ち、違うんだよ!今の大好きはそーゆー大好きじゃなくてその…」 「あーハイハイ。わかってるって。ったくこんなときだけ現金な奴だなお前は。」 「あ…うん…わかってくれたならそれでいいんだよ…」 それはそれで複雑なインデックス。 冥土返しでもブラックジャックでも、この男のニブさは治せないだろう。 「それよりどうだインデックス!うまい棒なら500本買えるぞ!」 「…あのねとうま…日本には消費税と言う制度があってね…」 「ふっふっふ…甘いぞインデックス!消費税は1円未満は切り捨て、 20円の商品には1円付くけど、10円の商品には付かない。 つまり!500回レジに並んで、1本ずつ買えば消費税は1円もかからないのだ!」 「…!!すごいんだよとうま!!大発見かも!!」 何だこの悲しい会話。やっぱりただのケチかもしれない。 インデックスを送り出し、上条は宿題に手をかける。 量は多いが、インデックスが居ない分作業がはかどるはずだ。 うまくいけば今日中に終わるかもしれない。 と、上条は予定を立てる。まずは数学のプリントからだ。 よしやるか!とシャーペンを握った瞬間、 プルルルルルと電話が鳴る。 折角やる気になったのに誰だよと思いながら、ガチャリと受話器を取る上条。 本日の予定は大幅に変更することとなる。 現在AM8:13。 御坂と佐天は通話中である。 『じゃあ10時にセブンスミスト前ですよ!忘れないでくださいね!』 「わかってるって。あたしも楽しみだもん。」 『ホント楽しみですよね!いろんな意味で。』 「??どういうこと?」 『いえいえこっちの話です!じゃあ御坂さん、がんばってください!』 最後の一言には違和感を感じるが、佐天のことだ、 何かサプライズでも用意してくれているのだろうと、逆に楽しみになってくる。 だが忘れてはいけない。佐天は予想の右ナナメ上を行く行動力を持っているのだ。 たしかにサプライズには違いないが… 実は例のチケットは御坂の手元にある。 昨日気絶から目を覚ました御坂は、佐天から遊びに誘われた。 特に予定も無かったため了承しかが、そのとき佐天から渡されたのである。 佐天曰く、「あたしが持ってると無くしそうだから、御坂さんが持ってください!」とのことだった。 御坂としても断る理由はない。何の気もなしにそのまま預かった。 佐天的にはミッション1クリアである。 ウキウキウォッチングな御坂とは対照的に、白井はどんよりとしている。 「お姉様…本当に行かれますの…?本日のお天気はすぐれないとの予報でしたのに…」 「天気予報なんてアテになんないでしょ。それに地下街なんだから関係ないわよ。」 そう。今の樹形図の設計者の天気予報などアテにならない。 雨といったら晴れたり、晴れといったらやっぱり晴れだったりする。 鳥取県の忍者がゲタ占いでもしているのだろうか。 「しかしお姉様、やはり今日はお止めになった方が…」 「なんでよ!あたしと佐天さんが遊ぶと何か黒子に不都合があるわけ!?」 (本当に佐天さんとなら何の問題もありませんのに…) 昨日の佐天の様子から、白井はこれから何が起きるか想像が付いている。 できれば行かせたくない白井だが、止める理由も思いつかない。 どうすればいいかと11次元の演算を駆使する白井。 だが解決策が見つからないまま固法から連絡が入る。白井はしぶしぶ風紀委員第177支部へと向かった。 御坂は独りになった部屋で、どうやって時間をつぶそうかとベッドに横になる。 だがあることを思い出し、すぐにガバッと起き上がる。 忘れていた。いつも立ち読んでいる漫画雑誌、普段は月曜発売なのだが、今週号はたしか土曜発売だ。 しかもずっと休載していたマンガが今週号から連載再開される。 御坂だって人の子だ。ゴンさんがどうなったのか気にならないわけではない。 御坂は慌ててコンビニへと駆け込んだ。 「はぁ~おもしろかった~。」 御坂は漫画雑誌をパタンと閉じた。どうやら内容にご満悦頂いたようだ。 まだ時間まで少しある。 とりあえず何か買うものは無いかとジュースコーナーを見る。 ここのコンビ二は、必ず1種類の缶コーヒーが売り切れている。 実は、夜な夜な同じ種類の缶コーヒーを買い漁る男が居るのだ。 ちなみにこの男も『不幸な王子様』と肩を並べる、3種類の都市伝説の一つ『子連れアルビノ男』と呼ばれているのだが、 それはまた別のお話。 御坂はいつもの自動販売機でお馴染みの、ヤシの実サイダーをレジに置きお金を払う。 お釣りの小銭を文鎮代わりにレシートを置かれたが、 財布に入れにくいからといって仕返しをする御坂ではない。 コンビニを出ようとすると、自分にそっくりな少女が入店してきた。 「おはようございますお姉様、とミサカは朝らしくさわやかに挨拶します。」 首にはアイツからもらったネックレス。 ミサカ10032号。通称御坂妹だ。 「アンタ何やってんの?」 「徳川家康のご飯を買いに来ました、とミサカは2種類の猫缶を手に取りどちらが良いのか悩みます。」 「とく…それってあの猫の名前!?」 「はい。イヌか徳川家康かゲレゲレかで悩みましたが、最終的には威厳ある徳川家康を選びました、 とミサカは溢れ出るネーミングセンスに自画自賛します。」 この娘は本当に自分と同じDNAなのだろうか、と御坂は自分のネーミングセンスに疑いを持ちます。 アンタのその少女趣味だって、他人にセンスどうこう言えるものじゃ無いだろうに。 そのときネックレスがキラリと光り、御坂は一瞬目を奪われる。 「羨ましいですか、とミサカはあの人との愛の結晶を見せびらかします。」 「べ、別に!?そんなモノ欲しくなんかないわよ!」 「うそつけコノヤロー、とミサカはお姉様の意地の張りっぷりに呆れながら溜息をつきます。」 「ホ、ホントよ!あたしはアイツのことなんて…別に…なんとも…」 「本当ですか。」 「え…?」 「本当に何とも想っていないのですか、とミサカは再度確認を取ります。」 「!!…それは…」 「いつまでもお姉様が勇気を出されないのなら…」 妹は一呼吸ついて、凛として宣言した。 「ミサカが本当にあの人を奪ってしまいますよ、 とミサカは脅迫めいた宣戦布告をします。」 御坂は空になったサイダーの缶をゴミ箱へ捨てて、トボトボとセブンスミストへ歩いていた。 先程の妹の言葉が脳内再生される。 上条のことを想っているのは御坂だけではない。 あの白くてちっこいシスター。二重まぶたが印象的なショートカットの少女。 そしてもちろん妹達。 いや、知らないだけできっともっといるのだろう。 御坂は溜息をつき、時間を見るためケータイを開く。 だが目に入ってきたのは待ち受け画面だった。 ぎこちない笑顔と微妙な距離のカップルが写っている。 (アンタも少しは気が付きなさいよ…このバカ…) 御坂は上条の顔をカツンと指で弾く。 その瞬間に佐天から着信が入る。 慌てて御坂は通話ボタンを押す。 「も、もしもし!?佐天さん!?」 『あ!御坂さんですか!?もうすぐ着くと思いますんで!』 「そう、あたしは今着いたとこ。」 『それは知って…いや!すみません!待たせちゃって!』 「?ううん、そんなの気にしなくていいから。」 『そうですか!それじゃあ今日は楽しんでくださいね!』 そう言い残し通話を切る佐天。 今朝も思ったが、やはり違和感がある。 そんなことを思っていると、佐天が遅れてやって来た。 「悪いな御坂。待たせたか?」 アレ?佐天さんてこんな声だっけ? アレ?佐天さんてこんな体つきだっけ? アレ?佐天さんてこんなツンツン頭だっけ? 御坂は今日、佐天と遊ぶ約束をしたはずである。 だが待ち合わせ場所に来たのは佐天ではなかった。 「な、な、な、何でアンタがココにいるのよ!!」 「何でと申されましても佐天に呼ばれたからとしか…」 二人は昨日と全く同じ会話をした。 時を遡ること10分前。 初春は物陰から様子を見ていた。ここからはセブンスミストの入り口が見える。 御坂はまだ来ていない。 とそこへ、 「う~い~は~る~~!」 という掛け声とともに、初春のスカートは重力に逆らい舞い上がる。 ほほう、今日はいちご柄か。100%けしからんな。 「何するんですか佐天さん!!毎回毎回!!」 「ヨホホホホ!パンツ見せてもらってもよろしいですか?」 「もう見たじゃないですか!!」 いつものやりとりだ。これが彼女達流のあいさつの魔法なのだろう。 おはよウイハルとおやすみなサテンである。 「いやー昨日はだめ元で電話したんだけど、本当に初春が来られるとは思わなかったよ。 休みの日って風紀委員は忙しくなるんでしょ?」 「大丈夫ですよ。白井さんも固法先輩も優秀な方達ですから、 私の分の仕事くらい押し付けら…カバーしてくれますよ。なにより御坂さんがおもしろ…心配ですから。」 そう言ってニコッと笑う初春。今日の初春は黒春モードだ。 だが面白そうという意見には佐天も賛成だ。だってこの場にいるのだから。 その後二人は御坂たちが来るまで雑談した。 そんなこんなで待ち合わせ3分前。 まずは御坂がやって来た。だがどうにも元気がなさそうだ。 「あれ?何か御坂さんテンションが低いなぁ…どうしたんだろ?」 「う~ん…何かあったんですかね…って佐天さん!逆!逆!」 「逆って?…あ!」 初春に急かされ逆方向を見る佐天。少し遅れて上条がやって来たのだ。 佐天は御坂に電話をした。御坂はなにやら慌てている。 『も、もしもし!?佐天さん!?』 「あ!御坂さんですか!?もうすぐ着くと思いますんで!(上条さんが。)」 『そう、あたしは今着いたとこ。』 「それは知って…いや!すみません!待たせちゃって!(あっぶな~…知ってるとか言いそうになっちゃった。)」 『?ううん、そんなの気にしなくていいから。』 「そうですか!それじゃあ今日は楽しんでくださいね!(こちらはこちらで楽しませてもらいます。)…ヨシ!」 「タイミングギリギリでしたね。」 「でもここからじゃ二人の会話きけないね。」 「大丈夫です。先に来て、お店の正面入り口に盗聴器を仕込んでましたから。」 「すごいな初春!ジェバンニだね!…っていうかあたしより楽しんでない?」 「フッフッフ…昨日の内に色々仕掛けさせてもらいましたよ。…っとイヤホンしないと聞こえませんね。」 「そうだね。買ったものは装備しないと意味が無いって、町の人に最初に言われる事だからね。」 「じゃあ佐天さんも装備しますか?」 「一番いいのをたのむ!」 二人は仲良く片耳ずつイヤホンを付ける。 御坂たちの会話が聞こえてきた。 『…でと申されましても佐天に呼ばれたからとしか…』 『佐天さん!?何で!?』 『それがさ、俺もよく知らないんだけど、「ゾナハ病っていう病気にかかった」ってうちに連絡がきたんだよ。 …アレ?そういや何でうちの番号知ってたんだろ…まいっか。』 「私にかかれば何てこと無いです。」 「初春屋…お主もワルよのぉ~。」 『で、お見舞いに行こうかって言ったら、ウイハルって子が看病してくれるからいいってさ。 けどその代わりに御坂の相手をしてくれって頼まれた。』 御坂はパニクって鈍る頭を何とか動かし、とりあえず佐天へ連絡を取る。 「お!御坂さんからだ。…はい、もしもし?」 『佐天さん!?もしもしじゃないわよ!! ナニコレどーゆーこと!?なんでコイツがここにいるわけ!?』 「あれ?上条さんから聞いてませんか? あたし人を笑わせないと呼吸困難になる奇病に罹っちゃいまして。ゼヒィ!ゼヒィ!」 『な…だってさっきまで…』 「そんな訳でしてあたしの分まで楽しんでください。それじゃ!』 御坂は佐天涙子と言う人物を侮っていた。 彼女は面白いことの為なら手段を選ばないのだ。 御坂はこの後どうするべきかを必死で考える。 すると上条が、 『なぁ御坂…そんなにイヤなら俺とじゃなくていいんだぞ? 他の友達誘ってもいいし…あ、そうだ!打ち止めなんか喜ぶんじゃないか?』 「??打ち止めってだれですかね?」 「さぁ…御坂さんの知り合いじゃない?でも本名じゃないよね…能力名かな。」 このままでは上条は帰ってしまうかもしれない。 御坂としてもこんなチャンスは滅多に無い。 再び妹の言葉が蘇る。 (いつまでもお姉様が勇気を出されないのなら…ミサカが本当にあの人を奪ってしまいますよ。) 『…わよ…』 『?どうした御坂。』 『アンタでいいって言ったのよ!!どうせ今からじゃみんな予定が埋まってるでしょ!! だからあんたと一緒でいいの!!わかった!?』 『は…はい…わかりました…』 「やりましたね!お二人とも地下街の方に向かいましたよ! 私達も後を追いましょう佐天さん!…佐天さん?」 「あ…あ!うん!そうだね!あたし達も行こっか!」 あの時と同じだ。御坂の一言に佐天は胸の痛みを感じていた。 この感情がなんなのか、佐天本人はわからない。 少しだけ勇気を振り絞り何かふっきれた者。逆にモヤモヤがかかる者。 いつも通り不幸に巻き込まれたと諦める者。単純に面白がっている者。 四者四様の思いを胸に、4人はフレンドパークへ足を踏み入れる。 ニセモノでも罰ゲームでもない。 上条当麻と御坂美琴の正真正銘本当の初デートが始まろうとしていた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸な都市伝説
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2701.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある二人は反逆者 第2章 ②科学と魔術 「最優先ターゲットの幻想殺しをこんなに早く発見できるなんてついてるわ」 それは女の声だった。 しかし声の出所が分からない。 上条と美琴が訳が分からず辺りを警戒するように見渡していると、二人の前に突然一人の少女が現れた。 上条は少女に対して警戒するように身構えるが、よく見ると以前会ったことがある少女だった。 「お姉さまー!!」 少女は上条と美琴の間に割り込むように美琴の腕に抱きつく。 「黒子!?」 「お姉さま、ここのところ黒子に全然構ってくれなくて寂しかったですの。 黒子のことを放っておいて、この殿方もとい類人猿と逢瀬を重ねてたなんて… ハッ、まさか寮をお出になったのもこの類人猿が原因なんじゃ!?」 突如現れた少女…白井黒子は甘ったれるような声で美琴の肩に頬ずりしながら言った。 「ちょっ黒子、今はそれどころじゃ…」 美琴は直感からこの場を何か得体のしれない空気が包み込んでることを感じる。 そして次の瞬間… 「何だか余計な者までいるみたいだけど――ま、全部ぶっ殺しちまえば手っ取り早えか!!」 謎の女の声と共に突如として巨大な腕が現われ美琴と黒子を叩き付けるように腕を振るった。 「危ない!!」 上条は咄嗟に二人のことを突き飛ばし代わりに巨大な腕に叩き付けられ、その体は大きく吹き飛ぶ。 体を庇うように腕を交差して直接体に加わる衝撃を和らげたものの、 上条の両腕は折れるのではないかというくらい軋み、その一撃の重さは通常の人間と比較にならなかった。 飛びそうになる意識を押し止めて上条は謎の腕と対峙する。 美琴と黒子も黒子のテレポートにより謎の腕との距離を取っていた。 そしてまるで床から這い出るように謎の敵の正体が徐々に露になる。 それは石像だった。 しかし只の人形ではない。 身の丈4mを越す巨大な人の形を模した化け物だった。 「な、何なんですの!?」 突如として現われた巨人に美琴も黒子も驚きを隠しきれない。 念動能力か何かで人形を組み立て操っている可能性も視野に入れたが、 少なくてもこれだけ大質量の物質をここまで精密に組み立て操る能力者の話など聞いたことがなかった。 そして一方の上条は敵の素性とまではいかないが、敵の使っている力が恐らく学園都市のものでないことには気付いていた。 魔術師…超能力とは違う異能を操る者達。 しかしその魔術師が自分を狙ってくるのかは理解できない。 アミューズメント施設内が突然現われた巨大な人形によってパニックに陥る中、上条は石像との距離を測りながら対処法を思案する。 敵が上条を狙っていると宣言した以上、下手に逃げると逃げた先が戦場になってしまう可能性がある。 客の避難が進んで一般人が殆どいなくなった今、ここから戦場を移すことは得策ではなかった。 「白井、美琴を連れて今すぐここから離脱しろ!! コイツは俺のことを最優先ターゲットと言った。 俺がここにいる限りは、美琴が狙われる可能性は低い」 上条は黒子に向かって思い切り叫ぶ。 黒子は上条の言うことに従おうとするが、美琴がそれを拒絶した。 美琴は黒子に頼んで、上条の隣にテレポートする。 「ちょっと、勝手なこと言わないでよ!! 私が当麻一人を残して逃げるなんて本気で思ってるの!?」 「でも美琴を危険な目に遭わせるわけには…」 「危険なんてこれからやろうとしていることを考えれば避けて通れないはずでしょ!! それに当麻は前にちゃんと自分が一人じゃないことが分かったって言ったはずよ。 私と当麻は一心同体、何があっても私は当麻一人を危険の渦中に置き去りにするつもりはないわ!!」 「美琴…」 「それに冷静に考えてよ。 敵がコイツだけとは限らない、私が逃げた先にも刺客が現われるかもしれない。 何処にいたって危険なことに変わりはないわよ」 美琴の言う通りだった。 美琴を危険から遠ざけることばかりを考えて、状況を冷静に判断出来ていなかった。 「…何があっても美琴のことは守ってみせる」 「うん、当麻はさっきも私のことを助けてくれた。 ありがとう」// 互いに見つめ合い無限で頷く上条と美琴。 そんな上条と美琴を見て黒子は… (何なんですの、その絶対の信頼関係は!? キィー、後で絶対に懲らしめてやりますわ!!) と一人、場にそぐわない考えを張り巡らせているのだった。 「それじゃあ、さっさと終わらせちゃいましょうか!!」 そう言うと、美琴はポケットの中から一枚のコインを取り出す。 黒子は美琴の勇姿が見れると顔を輝かせるが、上条はコインを使って何をしようとしているか見当がつかない。 実は記憶を失ってから美琴の放つレールガンを上条は見たことがなかった。 ただ話から美琴の必殺技が上条に効かなかったことだけは聞いている。 「いっけぇーー!!」 美琴がコインを親指ではじき回転するコインが再び美琴の親指に乗った瞬間…オレンジの閃光が石像に向かって突き抜けた。 そしてワンテンポ遅れて凄まじい轟音が響き渡る。 石像の胴体には大きな穴が穿っており、石像の動きは止まっていた。 「…思ったよりも大したことなかったわね」 美琴は褒めてもらえると思い上条のほうを振り向くが、上条の顔はひどく青褪めたものだった。 「どうしたの?」 「いや、昔の上条さんはよく無事だったもんだと…」 上条の言葉を聞いた瞬間、美琴の全身から冷や汗が噴出す。 (そうだ、当麻にレールガンが効かなかったことを話してたんだった!?) 絶対能力進化の実験が終了したあの日…美琴が立ち塞がった上条に電撃を放って以来、美琴は上条に電撃を向けたことはなかった。 そしてもちろんこれからも大好きな上条に電撃を放つつもりは毛頭ない。 しかし昔の美琴は上条に対して一方的な暴力を振るっただけでなく、他者を見下すような酷い発言を平然と吐いていた。 今となっては理由もなしに誰かに向かって能力を使う気もないし、 大事な友達に教わった能力が優劣を決める材料でないという考えもしっかりと美琴の中に根付いている。 だが昔の自分のことを思い出すと、自分の性根の汚さが垣間見えた気がして美琴は自己嫌悪に陥る。 自分の本質を上条に見られた気がして、美琴は何よりも上条に嫌われることを恐れていた。 「あの、私…」 「大丈夫、正直昔の俺が美琴のことをどう思ってたかは分からないけど、 少なくても今の俺は美琴の優しさに惹かれて美琴のことが好きになったんだ。 だからそんな顔するな、せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」 今にも泣き出しそうな顔をしている美琴の頭を撫でながら上条は言う。 しかしそう言った上条の顔色が今度は違った意味で豹変する。 美琴が何事かと思って上条の視線の先に目を向けると… 「私を放ってほいてラブコメを繰り広げるのは構わないですけど、あんまり人を舐めてんじゃねえぞ!!」 女の声が響き渡ると石像に穿った穴はまるで最初から存在しなかったようにみるみる塞がっていく。 そして上条たちに向かって再び進撃を始めた。 美琴が自分のレールガンが何も効果を為さなかったことにショックを受けている中、上条は敢えて石像に向かって突撃する。 「何をしてるんですの!? 自殺行為ですわ!!」 「…確かめなきゃならないことがある!!」 もし自分の勘…過去の経験による記憶のない知識がもたらす直感が正しければ上条たちに勝ち目はない。 それを確かめるためにも上条は石像に向かって接近していく。 飛んで火に入る夏の虫のように近付いてきた上条に向かって石像は巨大な右腕を振るった。 それを上条は自分から見て左手の方角に地面を蹴って大きく避ける。 そして地面叩きつけられた石像の右手に上条は自分の右手を触れるように添えた。 「なっ、あの殿方は何をしたんですの!?」 上条が右手を添えただけで石像の全体に亀裂が走り、やがて石像は崩れ去ってしまった。 「…幻想殺し」 「幻想殺し!?」 「当麻の右手にはあらゆる能力を無効化する能力が備わってるの」 「では以前、私の能力が効かなかったのも?」 「うん、当麻の右手のせいだと思う」 しかし上条の右手が効いたとすると、あれは何らかの能力で作られたものということになる。 だが美琴はあのような能力を見たことも聞いたことすらない。 にも拘らず上条は初めから自分の右手が有効だと言うことを知っているようだった。 上条は何か美琴が知らない世界のことを知っている… この事件を無事に乗り越えたら上条に聞かなければならないことが出来たようだ。 (ここまでは予想通り、問題は…) 上条の悪い予感を裏付けるように女の声が再び響き渡る。 「聞いてはいたけど本当に厄介な右手のようね、何かムカつくからひき肉になるまでぐちゃぐちゃに潰してやるか!!」 女の声がそう入った瞬間、再び地面から這い出るように石像が形を成していく。 「やっぱり、いくら倒しても再生するタイプか!?」 今の上条には赤髪の神父と共闘した記憶はあっても、対峙して戦った記憶はない。 しかしながら上条の知識の片隅に赤髪の神父が使った元を断たない限り無限に回復する火の巨人のことが残っていた。 知識というよりは記憶の残り香に近いものだったが、それが敵の魔術の特性を見極めるべく進んだ上条の行動指針になった。 そして結果として上条の予感が当たった今、上条たちの取るべき行動は限られていた。 (くそっ、敵の魔術師の正体が分からない以上いくら戦ってもジリ貧になるだけだ。 何か打開策は!?) その時、上条の携帯の着信音が突然鳴った。 今は携帯に出るどころではないのだが、何故かこの着信がこの状況を打破する足がかりになるような気がした。 上条は石像から距離を取り携帯を開くとメールが一通届いていた。 メールの発信主はインデックスだった。 メールには長い本文と写真が一枚添えられていた。 とうまへ イギリス清教から学園都市に一人の魔術師が向かった。 彼女の名前はシェリー=クロムウェル。 詳しい動機は分からないがどうやら君のことを殺害する目的で動いているらしい。 僕は君が死のうがどうなろうが構わないのだけれど、君が死ぬとあの子が悲しむからね。 詳しい話は理解出来ないだろうから省略するけど、 彼女が使役するのはゴーレム…いわゆる土人形という奴だ。 人間ではなく天使を模すことで通常よりも強力な力を得ているらしい。 基本的にいくら打ち倒しても復活するのは僕の魔女狩りの王と同様だ。 ただし魔女狩りの王がルーン文字の書かれた触媒が弱点になるのに対し、 彼女のゴーレムが彼女の意識がある限りいくらでも復活する。 だから彼女のゴーレムを止めるには彼女の意識そのものを刈り取らなければならない。 君が現在どういう状況にいるかは分からないけど取り合えず彼女の写真を添付しておいた。 彼女を悲しませないためにも役に立てたまえ。 添付された写真には痛んだ金髪の髪に褐色の肌をした女性が写っていた。 上条はインデックスとステイルに心の中で感謝の言葉を述べ、美琴たちの場所へとゴーレムから距離を取る。 美琴は石像に向かって雷の槍を放ち続けているが、ゴーレムの体を少し削るだけですぐに修復されてしまう。 「敵の正体が分かった、この写真の女だ」 上条は携帯の画面が二人に見えるように差し出す。 「恐らくこの女は学園都市の何処かに潜伏している。 コイツを見つけて叩けば、この石像も動きを…」 上条がそう言い掛けた時、違和感を感じる。 上条がふと向けた視線の先に一人の女が立っていた。 遠目からではその顔を判別することは出来ない。 初めは逃げ遅れたアミューズメント施設の客の一人かと思ったが纏っている気配が何処か異質であった。 上条は無意識に美琴と黒子を庇うように二人の前に立つ。 「Intimus115」 女が一言そう言うと共に辺りに乾いた音が響き渡った。 (熱い…) 上条は脇腹に燃えるような熱を感じる。 その熱はやがて痛みとなり、上条の全身を今まで感じたことがない激痛が襲った。 その場に崩れ落ちる上条に向かって再び乾いた音を発する無機物が向けられる。 「え?」 美琴は口でそう発しながらも、その対応は至って冷静だった。 再び上条に向けて発射された銃弾を磁力の壁を展開することによって防ぎきり、銃弾は上条に届くことなく地面へと転がる。 しかし冷静に対処しながらも心の中は何も考えられないほど空白で埋め尽くされていた。 「うーん、幻想殺しには下手に異能で責めるよりもこの手の武器のほうが有効って効いてたんだけど本当だったわね。 だが忌々しい超能力者が邪魔をしやがって、さっさと殺されやがれ糞野郎が!!」 女は先ほど上条の携帯に写っていたシェリー=クロムウェルだった。 (まさか俺を確実に殺せるタイミングを見計らって潜伏してたのか? どうしてそこまでして俺を…) 上条が美琴の顔を見ると戦える精神状態ではないことが見て取れた。 自惚れでは無く自分が美琴の心の中の大部分を占めていることを上条は自覚している。 そしてこのままでは自分も含め全滅してしまう。 恐らく自分はもうまともに戦うことは出来ないだろう。 しかし美琴のためにもここで死ぬわけにはいかない。 この場を切り抜けるためにも美琴に立ち上がってもらう他なかった。 上条は言うことを利かない体に鞭を打ち、ヨロヨロとその場から立ち上がる。 しかし立ち上がったものの、そのまま地面に再び崩れ落ちそうになる上条の体を美琴が間一髪のところで支えた。 蒼白な顔をしている美琴に上条は残酷だと思いながらも、美琴を奮い立たせるために厳しい言葉を掛ける。 「気持ちは分かるけど、この程度で参ってどうする? 一緒に戦うって決めた時から、もしかしたらこうなるかもしれないことは覚悟してただろ? それに俺は簡単に死なない、でもいつまでもこの状態じゃ流石に拙い。 こういう言い方はなんだが、俺のためにもこの戦いを早く片付けてくれないか?」 今の美琴にとって上条は弱点であると同時に大きな起爆剤にも成り得る。 そして今の上条の言葉は美琴にとって大きな起爆剤となった。 美琴の顔にはみるみる闘気が漲っていき、美琴の表情は上条をこんな目に遭わせたシェリーへの敵意で溢れていた。 何となく先ほどのレールガンを見た後だと怒らせてはならないものを怒らせてしまった気分に上条は陥る。 「アイツが俺を一発で仕留められなかったのは大きなミスだ。 アイツがのこのこ出てきた今なら…」 それ以上は言われずとも美琴に伝わっていた。 現在、上条たちとシェリーは石像を挟むような形で対峙している。 しかしシェリーは知らなかった。 この場にはレベル5の電撃使いとレベル4の空間転移がいて、この二人の組み合わせがいかに強力かということを… 結果として戦いの決着は一瞬でついた。 黒子の能力でシェリーの死角に移動した美琴がしばらく動けなくなるよう気絶する程度の電撃を放った、それだけのことだった。 気絶する前に最後の命令でゴーレムの動きを自動制御に移したものの、 それも上条の最後の力を振り絞った決死の突撃で無事に撃破することに成功するのだった。 しかし上条も美琴もシェリーが気絶する前に残した一言が耳に纏わりつくように残っていた。 「幻想殺し、貴様さえいなければ世界は…」 彼女は何を言いたかったのだろう? 怪我の状態から上条を下手に動かすわけにいかない美琴は上条を太腿に乗せて膝枕している。 黒子はその様子を見てぶつくさと何かを呟いているが、上条と美琴の耳には入っていなかった。 ただ敵を撃破したもののシェリーの言葉が気になり、その顔には笑顔が戻っていなかった。 いつ目覚めるか分からないシェリーに警戒しつつ上条たちは騒ぎを聞きつけた警備員がやって来るの待っていた。 しかしいくら経っても警備員がやって来る気配はない。 このままでは上条の容態が悪化してしまうと、移動することを考えたその時… 「ご苦労だったな」 気絶しているシェリーの横に突然二人の人影が現われる。 「悪いがこの女は色々と知りすぎた、こちらの方で処置させてもらう」 突然現われた人影が何を言いたいのか上条たちは理解出来ない。 「それとすぐに警備員が来る。 医療班も手配してあるから、今はその少年を動かさないほうがいい」 手配したと言っている事から学園都市の人間…しかも警備員に命令できる立場にある人間であることが窺い知れるが、 気を緩めるわけにはいかない。 そもそも上条と美琴が学園都市の上層部を相手取って戦おうとしているのだ。 しかし次に人影が放った言葉は上条と美琴に大きな衝撃を与える。 「君達の計画が上手くいくことを祈っているよ」 黒子には男が何を言いたいのか理解出来ない。 しかしながら上条と美琴は戸惑いを隠しきれなかった。 目の前の人物は自分達の計画を知っている? 学園都市の上の人間に現段階で計画を知られている段階で上条たちの置かれている状況は絶望的だ。 美琴は咄嗟に人影に向かって電撃を放つ構えを取る。 「…私達は君達の味方ではないが敵でもない。 強いて言うなら限りなく協力者に近い立場にある」 「そんな言葉信じられると思ってるの!?」 「信じてくれるよう頼むしかない。 しかし君が実力行使に出るというのならこちらにも考えがある」 美琴と人影の間に緊張した空気が張り詰める中、上条が美琴を制するように言った。 「落ち着け、美琴。 …分かった、そっちの言い分を信じる。 それよりも、ソイツはどうなるんだ?」 上条はシェリーを指差して言った。 「然るべき処置をして、元いた組織に返す。 この返答じゃ不服かな?」 「…」 「ではこの女は預からせてもらう」 そう言って一人の人影がシェリーのことを抱きかかえると、一瞬にして二人の人影はシェリーと共にその場から消えるのだった。 やがて救助に訪れた警備員によって上条は応急処置を施されいつもの病院へと運ばれる。 そこで緊急手術を受け三日間の入院を余儀なくされた。 しかしながら銃撃を受けていたにも拘らず、警備員から職務質問などを受けるということは無かった。 それもあの謎の人影が何かしらの圧力を掛けているに違いない。 言い切れぬ不安に襲われる中、退院した上条を待っていたのは普段と変わらぬ日常だった。 そして上条にはある決断が迫られているのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある二人は反逆者
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1655.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一端覧祭大騒動 東京西部を開発して作られた街、学園都市。 人口のおよそ八割を学生で占め、外とは20年以上差があると言われる科学技術を用いて、超能力開発などというものも行っている極めて変わった街だ。 外ではバケツのような清掃ロボットが徘徊し、風力発電のための風車がやたら多くあり、さらに自販機はゲテモノだらけと色々と外とは違っている。 しかしそんな街でも高い壁で区切られた外と同じく、少しずつ昇り始めた太陽の恩恵を受け、穏やかな朝の時間が過ぎていた。 「…………はぁ」 ここはそんな朝日が差し込む常盤台寮の208号室。 その住人のうちの一人、御坂美琴はカエルのパジャマを着たまま枕を抱き締め、重い溜め息をついていた。 「お姉様……こんな良い朝ですのに、そんな溜め息はやめてくださいまし」 「だ、だって……」 そんな美琴をやれやれといった感じで注意するのは同居人の白井黒子。 まだ朝早い時間という事もあってか、髪型はいつものツインテールではなく全て下ろしている。 いつもと違って少し大人っぽく見えるというのは美琴も気付いていたが、何か癪なので口には出さないようにしている。 「大方、例の殿方……上条さんと一端覧祭をまわりたい、という事でしょう?」 「う、うん……」 「それなら電話かメールで約束を取り付ければ良いだけでしょう。 そんなモジモジ悩んでいなくても……お姉様らしくないですわ」 美琴はまだパジャマのままだが、白井は朝の準備を整えながら会話をしている。 今日は土日でもなければ祝日でもない。学校もあるいたって普通の平日だった。 「そんな簡単にはいかないわよ! それに私ほら……フラれちゃったし」 「お姉様……」 急に少し暗くなった美琴の声に、白井は一旦朝の準備を中断し美琴の方を見る。 美琴は少し俯いて、枕を抱き締める力を強くしていた。 その様子はどこか父親が帰ってこなくて寂しがっている子供のようだ。 そう、御坂美琴はつい最近上条当麻に告白し、そしてフラれていた。 数日前、上条の事で脱け殻のようになってしまった美琴は学校帰りにフラフラと学園都市をさ迷うのが日課になっていた。 そしていつも辿り着くのはあの鉄橋。 自分はこんなにも上条に依存していたのかと我ながら呆れる美琴だったが、それを自嘲できる気力も起きない。 その日はいつも通り鉄橋から川の先……夕焼けに染まる海の方をしばらく眺めていた。そしてもう少ししたら寮へ戻ろう、そう思っていた。 周りの人間はそんな美琴の変化に皆心配していたが、それが上条のいない世界の美琴の『日常』だった。 そしてそれは美琴の『日常』を壊すようにやってきた。 美琴の後ろから聞こえてきた足音……誰のものかなんとなく分かった。 いや、というよりはそうあって欲しいという美琴の願望だったのかもしれない。 だがその後すぐ聞こえてきた声……それは聞き間違えようのないずっと想っていた者のものだった。 「何やってんだよ、お前」 上条当麻だった。 以前に自分を絶望の中から救いだしてくれた時と同じ台詞で現れ、また自分を救ってくれる。 美琴はそれがあまりに嬉しく、思わず泣き出しそうになってしまうのを懸命にこらえる。 しかし対する上条はというと、あの時と比べて心底驚いているようだった。 おそらくこんないつもの美琴を知っているからだろう。 上条はあたふたと「あの時はホントゴメン!」やら「わざわざロシアまで来てくれたっていうのに……」やら謝罪の言葉を並べ始めたが、美琴にはあまり聞こえていなかった。 美琴にはずっと言いたかった言葉があった。 それは「べ、別にたまたまアンタを見つけただけで……」などといういつもの素直になれない言葉ではなく……。 「このバカ!!」などという自分をここまで心配させた事に対する怒りでもない。 上条がいつもトラブルに巻き込まれるのは知っていたが、心のどこかでは最後には帰ってくる、そう思っていた。 しかしそれは間違っていた。上条は本当にギリギリの世界で生きていて、一歩間違えばいなくなってしまう。そう思い知らされた。 だから美琴は絶対に後悔しないように少しだけ自分に素直になることにした。 こうやって学園都市で上条と話す、そんな日常がかけがえのないものなんだと気付いたのだから。 美琴はうっすらと涙を浮かべながら上条を見つめた。 夕日に照らされたその顔は困惑の表情を受けべていたが、目の前にいるのは幻想でも何でもない上条当麻だった。 その事を再認識し、以前までの自分の『日常』が戻ってきた事を感じ、さらに涙が溢れだした。 美琴は止めようのない涙を隠すように少し俯き、そして……。 上条の胸に飛び込み、「愛してる」と一言告げた。 上条は抱きつかれた瞬間は「ぜ、零距離ビリビリだけはご勘弁を!!」などと見当外れなことを言っていたが、その後に続いた美琴の言葉に「……はい??」と固まった。 美琴は上条の胸に顔を埋めたまま状態のまま返事を待っていた。 というのも今の美琴は涙を浮かべている上に顔も真っ赤でとても上条に見せられるものではなかったからだ。 しかし上条が「え~と、ドッキリ成功!の看板はどこかな~」やら「ま、まさか精神系の能力者の仕業か!? そういえば常盤台には心を操るレベル5が……」などと言い始めたのを聞き、そうも言ってられなくなった。 美琴は恥ずかしさをこらえ顔を上げると、上条をじっと見つめて自分は本気だと怒った。 それを聞いた上条はここで一番の驚きの表情を浮かべたが、やがて目を閉じると「う~ん、う~ん」と唸り始め、なにやら必死に考え始めた。 そして返ってきた答えは……。 「えーと、悪い俺お前の事そういう風に考えた事なかったから……」 あぁ、やっぱり。それが美琴の心の反応。美琴はある程度その答えは予想していた。 今までの上条の行動を見れば、こんな言葉が返ってくるのはごく自然なことだろう。 後悔はしていない、してはいないのだが……。 やはりそれを直接言われると、やはりなにか苦いものが心に広がるのを感じた。 それでもそんな上条の申し訳なさそうな顔を見ていると、どこか暖かい気持ちにもなるのが不思議だった。 美琴は上条から離れ、涙をぬぐい 「じゃあこれからアンタを振り向かせていくからヨロシク!!」 と力強く宣言すると、一番の笑顔を見せつけた。 美琴としては諦めるなんて選択肢はまったくない。 それこそレベル1からここまで上り詰めたときのように、目の前に壁があるなら乗り越えればいいのだ。 上条はそんな美琴に圧されながらも「お、おう……」とだけ答えた。 美琴は上条のその中途半端な反応に不満を見せる様子もなく満足げにしていた。 その日の夕焼けに負けないくらい美琴の心は明るく、その表情は綺麗なものだった。 (そうは言ったものの……) 時は戻って朝の常盤台寮。 美琴は朝食のために白井が出ていった後も、部屋でうじうじとしていた。 そろそろ準備を始めなければ遅刻してしまうのだが……。 (冷静なってみると、『そういう風に見た事ない』ってのは大問題よね……。 振り向かせるとか言っておいて、どんな顔して会えばいいのか分からないってどうなのよ) 美琴はあの告白以来、上条に会っていなかった。 というより美琴が上条の通りそうな道を避けていた。以前までとはまったく逆の行動だ。 しかしこのままではいけない、それは美琴自身が良く分かっていた。 (だ~やっぱりこんなの黒子の言う通り私らしくないわ! とにかく今日アイツを誘う、それでいいわ!!) 美琴はバチン!と一発両頬を叩くと、勢い良く立ち上がり学校の支度を始めた。 良く晴れた穏やかな朝。美琴の勝負の日が始まる。 「またモヤシ!? そうめんといいモヤシといい、やっぱりなんかの魔術の一種!?」 「うるさいうるさい! 上条家の家計簿は火の車なんです!!」 とある学生寮の一室。 そこでは朝っぱらから食卓を巡ってちょっとした騒ぎが起こっていた。 主に文句を言っているのは、白いティーカップのような修道服(安全ピン付き)を着た銀髪碧眼の外国人シスター。 イギリス清教の誇る魔道書図書館、禁書目録(インデックス)だ。 しかし一般的には『美少女』というカテゴリに入るであろう、その良く整った顔立ちは今は不満げにむくれている。 そしてそのシスター相手に軽く涙目になりながら反論しているのがこの部屋の主であるいたって普通のレベル0の高校生上条当麻。 今まさに美琴を悩ませている張本人なのだが、本人もまた悩み多き学生のようだ。 「まったく、インデックスといい御坂といいどうしてこうも上条さんを困らせるんですか!」 「むっ、短髪が何!? ちょっと詳しく聞きたいかも!!」 「だ~なんか変なとこに飛び火したああああ!!」 思わず美琴の名前を出してしまい、さらにややこしい事にしてしまった上条。 もちろんあの事をインデックスに言うつもりはない。 告白なんか他の人に言うべきものではないだろうし、何よりそれでインデックスに丸かじりにされるのは目に見えている。 (そういやあれ以来御坂と会ってねーな……) 実は顔を合わせにくいのは美琴だけではなく、上条も同じだった。 いくら超鈍感男であってもあれだけ真正面から告白されれば意識せざるを得ない。 学校の帰り道もバッタリ出会せたりしたらどうする、今まで通り普通に話せるのか、などと少しそわそわしていたり。 そんな自分に「中学生かよ……」と呆れたりもするが、今までこんなことがなかったのだから仕方ないなどと勝手に結論付けたりもしていた。 「ちょっととうま! 聞いてるの!?」 「えっ、あぁ聞いてるぞ!! いいか、だからモヤシはだな……」 「今はモヤシじゃなくて短髪についてなんだけど!?」 「えぇ……まだ続いてたんですかそれ……」 「だいたいとうまはいつもいつも……」 なおも追及するインデックスに曖昧にはぐらかす上条。 徐々にインデックスの怒りのボルテージが上がっていくのは目に見えていたが、上条としてもあの事を言うつもりはない。 さてこれはどうしたものか、食べ物で釣ろうにも金が……などと困っていると、 ピンポーン!と突然上条家にチャイムの音が鳴り響いた。 「おぉ! 誰か来たみたいだぞインデックス! じゃあこの話はまた今度な!」 「あっ、ちょっととうま!?」 助かったとばかりに上条は学生鞄を掴み、慌てて玄関先まで走っていく。 後ろで「帰ったらじっくり話してもらうんだよ!」などと聞こえてきたような気がしたが、空耳だということで処理した。 (しっかしこんな朝っぱらから誰だ?) このナイスタイミングにチャイムの主には感謝している上条だが、ふとそんな事を疑問に思った。 こんな朝っぱらからうさんくさい訪問販売なんてものもないだろうし、いつも一人で登校しているので、「一緒に学校いこ!」などと女の子が訪ねてくるなどというステキイベントもない。 そんな事を考えた上条は扉の向こうの未知の存在に多少ワクワクしてきたのだが、 「おーす、カミやん。ちょっと話いいかにゃー?」 そこにいたのは隣人の土御門元春という、なんともひねりのない結果だった。 「なんだ土御門か」 「親友に対して何だとは酷いぜい」 上条はなんだか拍子抜けして溜め息をつくが、土御門はいつも通りヘラヘラしている。 上条と同じく土御門の方も既に制服姿で、アロハシャツの上に直接学ランを着ているのだが、さすがにそろそろ寒いんじゃないかと上条は思っていた。 「それで、一緒に学校いこうってか? どうせもう舞夏の手料理を分けてくれるなんてビッグイベントもないだろうし」 「ははは、前にあんな事になってさすがに俺も同じ過ちは犯さないぜよ。 今日はちょっとした『お仕事』の話だ」 「………………」 「いや~そんなあからさまに嫌な顔をしても向こうは待ってくれないぜい?」 土御門が言う『お仕事』。 わざわざ上条に言ってくるという事はそれはほぼ確実に魔術関連であり、さらに危険な可能性も高い。 大覇星祭の件やフランスの件など、上条は今までの経験からその事を良く分かっていた。 「……で? 今度はどんな魔術師が攻め込んできて世界の危機なんだ?」 「分からない」 「は?」 それでも放っておけないのが上条であったが、土御門のなんとも間抜けな返答に目を丸くして固まる。 二重スパイの情報通である男がこんなにあっさり分からないなどと言うのは珍しかった。 「今回は情報が少なすぎて、向こうの素性も目的もさっぱりなんだにゃー。 ただ何らかの方法で学園都市に侵入したっぽい……てとこだ」 「おいおいおい! アバウトすぎ!! てかいい加減ここも魔術師侵入しすぎだろ! セキュリティはどうなってんだよ!」 インデックスから始まり神の右席まで多種多様な魔術師の侵入を受けてきた学園都市を本気で心配してみる上条。 確かにどの魔術師も一癖も二癖もある者ばかりだったが、インデックスは意図せずに入ってしまった事や、テルノアが「甘い」などと言っていた事からどうしてもここの安全面を疑ってしまう。 「まぁまぁ、なんだかんだこの街とオカルトは対極の位置にあるにゃー。 だから対策もしにくい……てのがあちらさんの言い分みたいだが、うさんくさいもんだ」 土御門は首を少し動かし、何やら遠くの方を見るようにするが上条には何をしているのか良く分からないようだ。 実は土御門の見ているのは「窓のないビル」なのだが、一般人にはあまり理解することもできないだろう。 「……? まぁとにかくそのお仕事ってのは侵入者の魔術師を探すのを手伝ってくれって事か? けどこの右手は人探しにはなんにも役に立たねえだろ」 「いやいや、そうでもないぜい。カミやんはそれの価値を軽く見てるにゃー。 つまりそれがここに存在している、それだけで十分役に立つって事だ」 「はい? どゆこと?」 「カミやん、あの戦争の裏話ってのはこっちの世界じゃ意外と広まってるんだぜい? つまり神の右席のトップがあんな事をしてまで手に入れたかったモノがここにあるって事は……」 「……狙いは俺。つまりエサになれってか」 土御門の言葉を引き継ぎ溜め息混じりに答える上条。 確かに今までの侵入者達を思い出してみても、狙いは俺もしくは禁書目録(インデックス)というのが多かった。 つまりわざわざこちらから探さなくても向こうから勝手に現れる。そこを狙うということだろう。 「……ん、まてまて。それってインデックスのやつも危ないんじゃないか? 俺アイツ置いて普通に学校なんて行っちゃっていいのかよ?」 「禁書目録はイギリス清教の人間だ。そっちの方で護衛がつきますたい。 心配すべきはむしろ科学サイドの人間の方ぜよ」 「なっ、そっちの人間にも手を出すつもりかよ!!」 戦争というものは起きてしまったが、これまではそれを回避するために科学と魔術の交戦は避けられていた。 それが今ではこうも変わってしまったのか、と上条は焦りを隠せなかった。 「向こうの狙いはいわゆる『上条サイド』全体にあると見ていいと思うぜい。 こっちの世界でも今まで以上に危険な存在として警戒さているからな。 それで、カミやんの周りの科学サイドで力を持っているのは誰かにゃー? 一番に狙われるとしたらそこぜよ」 「そりゃこっちで力を持った知り合いっていったら、レベル5の一方通行や御坂……っておいまさか」 ここで上条は土御門の言わんとする事が予想でき、固まる。 考えてみればそれは十分あり得ることだ。何より『前例』がある。 そしてそんな上条の様子を見て、土御門は珍しく真剣な表情になる。 「一方通行は問題ないだろう。バードウェイから話を聞き、今や魔術にも理解がある。実際に魔術師と戦った経験もあるしな。 しかし超電磁砲の方はどうだ? 確かに魔術との接触がなかった訳ではないが、本人はその存在をまるで知らない」 「つまり……危ねえのは御坂」 「そうだ。だが彼女に魔術の話をしてこちらの世界に引き込むのは、カミやんとしても避けたいだろう? だからカミやん…………一端覧祭は彼女と一緒にいろ」 「…………は??」 土御門の最後の言葉に上条は思わず真剣な顔を崩し、なんとも間抜けな声をあげてしまった。 しかし今まで魔術やら侵入者やらの話をしていて、結論が「女の子と一緒に一端覧祭を回れ」だったらそんな反応も仕方ないのかもしれない。 その一方、相変わらず土御門は真剣な表情なのでなんとも奇妙な空気が漂っているような気がした。 「え、いや、なんでそうなる??」 「恐らく向こうが狙ってくるのは、警戒が一番薄くなる一端覧祭中だ。大覇星祭の時のようにな。 そしてそんな中彼女と一緒にいて一番違和感がないのはカミやんだ」 「そ、そうかもしれないけどよ……」 「ん? 何か問題でも……ハハーン」 すると上条の動揺に土御門は何かに気付いたらしく、真剣な表情を崩してニヤニヤし始める。 上条はそんな土御門を見てかなり嫌な予感がした。 土御門はプロのスパイで、禁書目録争奪戦、三沢塾、絶対能力進化実験など様々な事件を知る人物だ。 それならばひょっとしたら先日の御坂との一件も既に知っているのではないか……と思ったのだ。 「あれか、常盤台のお嬢様と一端覧祭デートなんてクラスの奴らに知られたら……なんて考えてるのかにゃー? まぁそこは諦めるしかないぜよ。大人しく制裁と『中学生に手を出したスゴい人』の称号を受ける事だぜい」 「え、あぁ……ってその心配もあるのかぁぁぁあああああ!!!」 一瞬あの事までは知られていない事にほっと安堵する上条だったが、新たに判明した障害に頭を抱え込む。 そして瞬間的に上条は、一端覧祭後の上条裁判における裁判長の吹寄制理の冷ややかな表情に男共の恨みの視線、姫神の魔法のステッキまで鮮明に想像する。 「……不幸だ」 「まぁまぁ、女の子のために体張るのは男の役目だぜい? わざわざ遠回りして説明したんだから、『嫌です』は通用しないのは分かってるだろ?」 「はいはい……この上条、姫を守るためにその身も削る覚悟ですよっと……」 「その息だにゃー!」 上手く話をつけられた土御門に、問題山積み状態な上条。 学校へ行こうとエレベーターに向かうその足取りは対照的なものだった。 太陽も高く昇ったお昼頃。 学園都市にしては珍しく既に多くの学生が街に繰り出している。そして木材などを持っている者が多い。 今は戦争関係で延期になった一端覧祭の準備期間だった。 「はぁ……やはりこれは念動力者(テレキネシスト)の方が適任でしょう……」 そんな昼間から学生で賑わう大通りで大能力者(レベル4)の空間移動能力者(テレポーター)、白井黒子は一人ぼやいた。 その両手は様々な木材やら工具やら入った大きめの袋で塞がれており、疲労によりその端正な顔立ちも歪んでいる。 学園都市の有名校、通称「五本指」の内の一角である常盤台中学もまた、これから始まる一端覧祭の準備に追われていた。 (さすがに疲れましたわ……ちょっと休憩しましょう) 白井は近場にあったベンチに腰かけると、袋を脇に置く。 そして高級そうなハンカチを取り出すと、額の汗を拭い始めた。 こんな普通の動作でもどこか上品に見える所はやはり常盤台生といった感じか。 常盤台は強能力者(レベル3)以上から成る高位能力者達の集まりだ。 買い出し一つにしても、いくらでも効率良く済ませる事ができる能力者はいるのだが、任されたのはテレポーターの白井だった。 その理由としてはやはり、重いものを持っていても高速で移動できる事にあった。 白井の連続テレポートはタイムラグ込みにしても、時速200kmを超える……だが。 (さすがにこんなに何度も連続テレポートしていると堪えますわ……) 買い出しも一回では済まなく、白井はもう何回も第七学区中の店と学校を往復していた。 そして疲れというのも、走った後に直接肉体にくるものではなく、頭からくるものだ。 11次元を扱うテレポートは、普通の能力よりも演算付加が大きく、外部からのちょっとした衝撃により演算不能にもなってしまうデリケートなものである。 試験勉強などで長時間集中した後の疲れ……そんなものに似ていた。 (というか仮にもそこそこ名の知れた学校のはずですのに、何でテレポーターがわたくししかいないんですの) 他に同じテレポーターがいれば白井の負担も減るだろう。 しかし超能力者(レベル5)を二人も抱える常盤台であっても、テレポーターは白井黒子ただ一人。 まぁ学園都市に58人しかいない珍しい能力なので、どちらかというとポピュラーな能力を伸ばす常盤台タイプではないのだが……。 白井本人は別にそれを誇りとも思っていなく、むしろ能力について話す相手がいないと不便に思っていた。 9月には珍しく同系統の能力者とも会う機会があったのだが、危うく殺されかけた事からあまり良い相談相手にはならなそうだ。 (それにしてもさすが第七学区。人の数が凄いですの) ふと顔を上げて道行く人々の顔を眺め始める白井。 去年までは第十三学区の小学校に通っていたので、ここまで多くの学生が街に出ている光景はまだ珍しいものがあった。 制服もそれぞれ違ったものばかりで、存在する学校の数も相当のものだという事が分かる。 そして白井本人はあまり気付いていないようだが、その中でも常盤台の制服というものは目立つらしく、チラチラと白井を見ている者も多かった。 (お姉様……ちゃんと上条さんをお誘いになれたのでしょうか) 道行く人の中に学生カップルらしき者達が目につき、ふとそんな事を考える白井。 朝の美琴の様子はまさに乙女といった感じで、そこらの男なら即落ちてしまう、そう思うほどだった。 以前までの白井ならそんな美琴のそんな様子を見ようものなら、ハンカチを噛みちぎり、上条への恨み辛みを延々と口にしていただろう。 しかし今はそんな事もない。 あの戦争が終結してから美琴は目に見えて生気を失っていた。 白井がどうしたのかと尋ねても、ただ首を振るだけ。 それでもしつこく問い質した結果、原因は上条の不在である事。そして美琴が心に秘めた想い。それを知る事ができた。 美琴の上条に対する想いは以前からうっすらとだが気付いていた。 しかしいつかそれを美琴本人の口から告げられた時、自分はどんな行動をとってしまうのか白井は少し不安にも思っていた。 だが実際は、意外にも冷静に相槌を打っている自分がいた。 いや実は心の内では上条に対する怒りが渦巻いていた。 しかしそれは美琴を取られたという嫉妬からくるものではなく、こんなにまで美琴を悲しませた事に対するものだった。 白井は改めてハッキリと、自分は御坂美琴の事が大好きなんだと知る事ができた。 だからこそ美琴が想いを寄せる上条にはその隣に立っていて欲しい……つまりはそういう事だった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/一端覧祭大騒動
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2382.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/クリスマス狂想曲 12月24日 ――― 朝 とある友人たちとのメール ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 彼氏さん 本文:ゴメン。さっき読んだ。えっと、なんていうか、その、お付き合いしています(照) ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re すみません 本文:初春さんが佐天さんを連れて行ってくれて、正直助かった。ありがとう。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 明日のご予定は? 本文:ごめんなさい。さっきメールを読みました。折角のお誘いですが、今日は予定が入っちゃってます。本当にごめんなさい。湾内さんと泡浮さんによろしく。 ――――――――― From 佐天涙子 Subject:Re Re 彼氏さん 本文:お付き合いしてるんですね!優しそうな彼氏さんで羨ましいです!あー。でも、彼氏さんの名前聞きそびれちゃったなあ。じー。(期待の眼差し) ――――――――― From 初春飾利 Subject:Re Re すみません 本文:佐天さん暴走してましたからね(笑)そういえば御坂さんの彼氏さんのカミジョートウマさんってどう書くのですか? ――――――――― From 婚后光子 Subject:残念ですわ 本文:正直言いますとわたくしの連絡ミスですの。御坂さんには連絡したつもりでいましたのよ。お友達たちだけで過ごす初めてのクリスマスパーティーですもの。御坂さんはわたくしにとって真っ先にお誘いするに値する方ですから。来年は予約しておいてもよろしいかしら? ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re Re Re 彼氏さん 本文:上条当麻 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re Re Re すみません 本文:上条当麻 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 残念ですわ 本文:あー、ゴメン。来年も無理だと思う(汗) ――――――――― From 佐天涙子 Subject:昨日は 本文:上条さんに何か買ってもらったりなんかしちゃったのですか?お会いしたのアクセサリーショップでしたし。 ――――――――― From 初春飾利 Subject:もしよろしければ 本文:おふたりの馴れ初めなんて聞いちゃってもいいでしょうか? ――――――――― From 婚后光子 Subject:もしかして 本文:ご迷惑でした? ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 昨日は 本文:ペアリングを買ってもらった(照) ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re もしよろしければ 本文:えっと、わたしがスキルアウトを更正させようとしていたとき、わたしが絡まれてると思って勝手に助け出そうとしたのが彼。まあそれから色々あって、告白されました。(照) ――――――――― From 御坂美琴 Subject:そんなことない! 本文:婚后さんはわたしにとっても良いお友達です。でもね、あの、特別なイベントの日は、(他の人には内緒にして!)許婚と過ごしたいので(照) ――――――――― From 佐天涙子 Subject:Re Re Re 昨日は 本文:ラブラブですね御坂さん。いいなあ。うらやましいなあ。 ――――――――― From 初春飾利 Subject:Re Re Re もしよろしければ 本文:御坂さん。危ないことはしないでくださいって言ってるじゃないですか!そんな御坂さんを止めてくれた上条さんに感謝ですね。告白ですか?ど、どんな風に!?(ワクワク) ――――――――― From 婚后光子 Subject:許婚!? 本文:もしかしてお相手は海原さんですか? ――――――――― From 御坂美琴 Subject:恥ずかしいなあ 本文:スキルアウトの件はゴメン。えーっと、普通に『好きです、つきあってください』的な(照) ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 許婚!? 本文:何でそこで海原さんが出てくるの!?違うから!!わたしの許婚の名前は、上条当麻です(照) ――――――――― From 初春飾利 Subject:Re 恥ずかしいなあ 本文:わあ。情熱的ですね。うらやましいなあ。ところで、白井さんは上条さんのことをご存知でしょうか?今日、風紀委員で一緒になるんですが、もし内緒にしているのでしたら協力します。 ――――――――― From 婚后光子 Subject:失礼いたしました 本文:機会がありましたらご紹介いただけますか?御坂さんが選んだ殿方に興味がありますわ。きっと素敵な方なのでしょうね。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re Re 恥ずかしいなあ 本文:黒子にも言ってあります。えーっと、しばらく黒子が迷惑かけるかもしれないけど、よろしく。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 失礼いたしました 本文:えーっと、普通の高校生です。まあ、機会があったら紹介します。(照) ――――――――― From 初春飾利 Subject:お任せください! 本文:御坂さんと上条さんのデートの邪魔をしないように努力します! ――――――――― From 婚后光子 Subject:それでは 本文:近いうちに学舎の園の甘味処へ参りませんか?御坂さんの都合の良い日をご連絡ください。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re お任せください! 本文:ありがとう(照) ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re それでは 本文:了解。また連絡するね。 ――― 10:00 セブンスミスト前 青髪の少年と巫女装束が似合いそうな黒髪の少女は、ショッピングモール前のバス亭からショッピングビルへ向かって歩いていた。 青ピ「今日もええ天気やなー。ホワイトクリスマスは望めなさそうやけど、出かけるにはちょうどええなー」 姫神「でも空気が冷たいから。雪が降っていなくても長時間外にいるのは辛い」 青ピ「じゃ、とりあえず、中に入ろか」 姫神「うん」 ビルの中に入り、あてもなくぶらぶらとファンシーショップやアクセサリーショップの店先を冷やかす。 青ピ「姫神ちゃん。今日も付き合うてくれてありがとな」 姫神「別に。暇だったから」 青ピ「せや、姫神ちゃん。何か欲しいものある?」 姫神「んー。服とかはこの前吹寄さんと見にきたし」 青ピ「ひ、姫神ちゃん。男が服を贈る意味、知ってるやろ?」アセアセ 姫神「ん?服は見に来たばかりだからいらないってことなんだけど」 青ピ「どわぁ!今言ったこと忘れてや!」(何やってんのや!)/// 姫神「?」 青ピ「じゃ、じゃあ、アクセサリーとかは?」 姫神「んー。あんまりちゃらちゃらした物は着けたくないなあ」 青ピ「そ、そっか」 姫神「ピアスって。痛くない?」 青ピ「ボクはそんなに痛くなかったけど。姫神ちゃん、興味あるん?」 少女は自分の耳たぶを弄りながら首を傾げる。 姫神「やっぱりいいや」 青ピ「着けピアスってのもあるんやで?」 姫神「着けピアス?」 青ピ「粘着テープみたいので貼るやつ」 姫神「なんか。痒くなりそう」 青ピ「姫神ちゃん、肌弱いん?」 姫神「んー。どうだろ?」 青ピ「もし何か着けるとしても、無理にピアスやなくて、イヤリングで全然問題ないと思うで」 姫神「まあ。そうなんだけど」 青ピ「実はボクを見て、ピアスしてみたいとか思ってくれたとか?」 姫神「ピアス着けてるの。クラスじゃ青ピ君だけだしね。それから考えると。ちょっとは影響してるかもしれない」 青ピ「嬉しいわあ、ボク。…少しは期待してもええ?」 姫神「え?何を?」 青ピ「姫神ちゃんともっと仲良うなれるって思ってもええ?」 少年はまっすぐに少女を見る。心なしか頬が少し赤くなっているようにも見えた。 姫神「…少なくとも昨日よりは。仲良くなってると思うけど」 青ピ「え?」 姫神「そうじゃなければ。わざわざ待ち合わせまでして一緒に買い物なんて来ないし」 早口でそう言うと、少女はくるりと身を翻らせて歩き出した。 姫神「…減点かな」ボソ 青ピ「ちょ、待ってや。姫神ちゃん!?」 姫神「待たない」 青ピ「堪忍してや!姫神ちゃん!」(姫神ちゃんがボクに『減点』て、『待たない』って、なんやこれ!?) 少年が慌てて駆け寄ると、少女は口元を小さく綻ばせながら言った。 姫神「次はどのお店を見ようか?」ニコ ――― 10:45 第七学区 ゲームセンター ラヴリーミトンプリクラ内 美琴「じゃ、じゃあ、後ろから抱き着いてくれるかな?」/// 上条「こうか?」 少女の肩に顎を乗せ、腋の下に腕を通して少女のお腹の辺りに左手を置き、右手で自分の肘を掴む。 美琴「えへ。後ろから抱きしめられちゃった」/// 言いながら少女は少年の左手を自分の右手で押さえ、嬉しそうに微笑む。 上条「…ええと、美琴さん?」/// 美琴「どうしたの?」 上条「なんと言いましょうか、この格好はですね、いろいろマズイと上条さんは思うのですが」/// 美琴「少しの間だからいいじゃない。…イヤなの?」 上条「イヤじゃないけど…その」/// 美琴「なによ?はっきりしてよ」 上条「ええと…怒らない?」(後ろから抱きついてる俺の手を、自分で胸に押し付けてるのが判らないのかあああああ!!)/// 美琴「なんか変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」 上条「上条さん的には大変嬉しいことなんですけど、…お前が右手で押さえてるもの」/// 美琴「ん?アンタの手よね?」 上条「うん。で、俺の手は何を押さえてる?」/// 美琴「え?」 少女の右手は、後ろから回された少年の手の甲を上から押さえていて、少年の左手は、少女の右胸を包み込むような形になっていた。 美琴「あ、あぅ…」/// 上条「ほら、右手を離せ、離そう、離しましょう美琴センセー」/// 美琴「…このままでいい。後ろからぎゅってされてる写真欲しいんだもん」/// 上条「上条さんの理性が臨界点を超えそうですよ!美琴センセー」/// 美琴「ほ、ほら、カメラ見て、笑って」 ぎゅっと少女の右手が少年の左手を握る。 上条「お、おう…」(て、掌に柔らかな感触があああああ!!)/// フラッシュが光って撮影の終わりを告げる。だが、ふたりはそのまま動かない。 上条「ほ、ほら、終わったぞ?」 美琴「うん」/// 上条「離さないと、上条さん左手をにぎにぎしちゃいますよ?」 美琴「ふぇ!?」(に、にぎにぎって!?)/// 上条「だあああ!!右手を離しなさい美琴センセー!ホントににぎにぎするぞ!」/// 少女は慌てて手を離し、少年も速やかに戒めを解く。少女は自分を抱くように胸を隠しながら、キッと少年を睨んだ。 美琴「な、何言ってるのよアンタ!馬鹿!スケベ!」/// 上条「お、俺の手を胸に持っていったのはお前だぞ!」/// 美琴「だ、だって、…ぎゅってして欲しかったんだもん」ショボン 上条(そんな風に言われたら怒れないじゃないか)「…あー、ゴメン。俺が引っ張られるまま手を動かしちまったから触っちゃう形になったんだな」 美琴「え?」 上条「美琴も良く考えて行動するようにすれば、こういうことも減るだろ?」 美琴「う、うん」 上条「ってことで、この話題はこれまで。な?」 美琴「…なんか強引に纏められた気がする」 上条「あのな。折角のデートなのに喧嘩するのは嫌だろ」 美琴「まあ、そうだけど」 不満そうな少女の肩に手を置いて前に向かせると、少年は画面を指差して言った。 上条「ほら、じゃあ次のフレーム選ぼうぜ?」 美琴「…じゃあ、一番上のゲコ太とピョン子のやつ」 上条「俺が右、お前が左でいいのか?」 美琴「うん」 上条「これはどんな格好で?」 美琴「…また、ぎゅってしてくれる?」 上条「手、気をつけてな」 美琴「…別に当麻になら触られてもいいんだけど」/// 上条「いきなりそういうこと言わないの!」/// 美琴「なんでよ?」 上条「抑えがきかなくなるだろうが。美琴さんは自分の魅力についてもっと真剣に考えるべきだと思います!」 美琴「み、魅力?」 少女の後ろから抱きつき、手で自分の肘を押さえるようにして事故を防ぎながら、少年は囁いた。 上条「あんなこと言われたら止まれなくなるぞ。上条さん、健全な男子高校生ですから」 美琴「!?」/// 上条「こんなところでなんて、美琴も嫌だろ?誰が見てるかもわからないし」 美琴「うぅ…」 上条「まー、くっつきたいのは上条さんも同じだから、お互い注意しような」 美琴「うん。注意する」 上条「素直な美琴、可愛いな」ギュッ 美琴「ふにゃ!?」/// 抱きついたまま、少女の肩に顎を乗せて目を閉じる。 上条「あー、なんか安心する。ちょっとだけ、こうしててもいいか?」ギュッ 美琴「う、うん」(と、当麻がわたしに甘えてる!?)/// 上条(いい匂いだなー)ポー 美琴「ね、ねえ?そのままでいいから、一枚撮っちゃっていい?」 上条「別にいいけど、いい写真にはならないんじゃないか?」 美琴「わたしから見るとすっごくいい感じなのよ」(当麻が甘えてくれるなんてこの先あるかわからないし)/// 上条「じゃ、撮り終わるまでこのままにしてる」ギュッ 美琴「うん。ありがと」/// それから少なくとも五分もの間、ラヴリーミトンプリクラで撮影が行われることは無かったのであった。 ――― 11 30 セブンスミスト アクセサリーショップ 店先のショーウィンドウを覗き込み、青髪の少年は言った。 青ピ「お、この店、値段も手頃やし、デザインもええわあ」 姫神「ピアス?」 青ピ「うん。あの青い石が入ってるのなんて、いいと思わん?」 少年が銀色の台座に青いガラス球が埋め込まれているピアスを指して言う。 姫神「ピアス。髪に合わせてるの?」 青ピ「いや、別にそういうわけやないけど。シンプルでええなあと思って」 姫神「そっか。今。着けているのも青い石だから。髪に合わせているのかと思った」 青ピ「たまたまやで。まあ、確かに青は好きな色やけど」 姫神「私は。赤の方が好きかなあ」 青ピ「姫神ちゃん、赤、好きなん?」 姫神「んー。好きって言うかアクセントとしてはいいかなって」 青ピ「そっか。そっちにイヤリングあるで?」 姫神「どれどれ」 イヤリングに視線を移し、ピアスで見ていたのと同じようなシンプルなデザイン-クリップの前面が台座になっていて、そこにガラス球が埋め込まれている-のものを探す。 姫神「あ。これ良いかも」 そう言って少女が指したのは、クリップの前面に赤いガラス球が埋め込まれた金色のイヤリングだった。 青ピ「それ、気にいったん?」 姫神「うん」 青髪の少年は少女が指したイヤリングを見つめながら口を開く。 青ピ「…姫神ちゃんがよければ、それ、ボクにプレゼントさせてや」 姫神「え?」 青ピ「姫神ちゃんにクリスマスプレゼントを買うってのが、今日の目的やねん」 姫神「そうだったんだ」 青ピ「うん。その、迷惑やったらやめるさかい」 視線をイヤリングに落としたまま、少女は思案する。 今いるアクセサリーショップは学生をメインターゲットにした店のようで、値段的にも貰うのに抵抗があるというほど高価なものではない。 友達同士でアクセサリーをプレゼントし合えるような店だった。 姫神(…友達としてなら。貰ってもいいかな)「じゃあ。お言葉に甘えて」 青ピ「え?」 姫神「ありがとう」 青ピ「ホンマ!?すんませーん。このイヤリングください。あ、プレゼント包装で頼んます」 少年が店員を呼んだ後、少女は少し躊躇いがちに声をかけてくる。 姫神「青ピ君。ちょっと。席はすずね」 青ピ「あ、うん。ほな、ボク、一階の階段の前で待っとるから」 姫神「うん。じゃあ。後で」 青ピ「うん」 少女の背中を見送って、少年はひとつ大きな溜息をついた。 青ピ(とりあえず、受け取ってもらえるんやし、少しは期待してもええんかなあ?) ――――――――― 13 30 第七学区 スーパーマーケット内 ツンツン頭の少年の押すショッピングカートの籠の中に、茶髪の少女が食材を入れていく。 上条「あの、美琴センセー?」 美琴「ん。なーに?」 上条「なんか量が凄いんですけども」 美琴「シチューみたいな煮込み料理ってさ、たくさん作った方が美味しいのよ。それに、インデックスもたくさん食べるでしょ?」 上条「いやー、何か悪い気がして」 美琴「わたしが好きでやってるんだから気にしないの。それに、か、彼氏と過ごす初めてのクリスマスだし、気合入っちゃうんだから」/// 上条「上条さんは幸せ者です」/// 美琴「えへへ。他に何か食べたいものある?」 上条「ビーフシチューにポテトサラダにローストチキンがあれば十分だと思います。ケーキは店先で売ってたのでいいよな?」 美琴「さすがにケーキまで焼く時間ないしね」 上条「飲み物は…と、アレでいいか?ゲコ太のクリスマスオーナメント付いてるぞ」 そう言って少年が指差した場所に、サンタのコスチュームを着たゲコ太の絵が描かれたポスターが貼られているクリスマスカクテル(ノンアルコール)が置いてあった。 缶の上にプラスチックの蓋のようなものが被されていて、その中に入っているキャラクターのラベルが貼られている。 美琴「全六種か。買いね」 上条「味は三種類だから、それぞれ二本ずつ買おうぜ」 美琴「うん。…えへ。サンタピョン子可愛いなあ」 上条「…可愛いな」ボソ 美琴「ア、アンタもそう思う!?可愛いわよね!」(ついに当麻もゲコ太の良さに気付いてくれた!?) 上条「ああ。可愛いぞ。美琴」 美琴「ふにゃっ!?」/// 上条「思わず笑顔に見惚れてしまいました」/// 美琴「えへへ…」(可愛いって言われちゃった)/// 上条「美琴…」 美琴「当麻…」 見つめ合うふたりには、周囲など見えていないのであった。 ――― 14 00 第七学区 ファミリーレストラン内 青ピ「ボク飲み物入れてくるけど、姫神ちゃん、何にする?」 姫神「んー。ティーポットとダージリン。お願いしてもいい?」 青ピ「ええよ。ついでやし。砂糖とかはいる?」 姫神「いらない」 青ピ「ほな、ちょっと行ってくるわ」 姫神「うん」 青髪の少年はドリンクバーへと歩いていく。その背中に視線を送りながら黒髪の少女は小さく微笑んだ。 姫神(加点1かな) トレイの上にソーサーとティーカップ、ダージリンのティーパックを置き、ティーポットにお湯を注ぐ。 青ピ(これって、デートと思ってもええんかな?) ティーポットをトレイに載せ、コーヒーカップをドリップマシンに置き、ブレンドコーヒーのボタンを押しながら、青髪の少年は昨日の友人の姿を思い出していた。 青ピ(いやいや、カミやんみたいにラブラブなのがデートなんやろうな。ボクと姫神ちゃんはまだ、友達同士のショッピングってとこやね) 砂糖とミルク、ソーサーとスプーンをトレイに載せるのとほぼ同時に、ブレンドコーヒーが出来上がった。 青ピ(ま、カミやんは元から好かれてたっぽいしなあ)ハァ コーヒーカップをトレイに載せ、少女のいる席へと戻るために歩き出す。 青ピ(ちょっとは、仲良うなれたと思うんやけど) 席に戻りテーブルの上にトレイを置く。 青ピ「お待たせ。…ホンマに砂糖とか要らんかった?」 姫神「うん。ありがとう」 少女がティーパックの袋を取り出して、ティーポットの中に入れると、透明のお湯がたちまち琥珀色に染まっていく。 青ピ「なんか、一瞬で色が変わると感動するわあ」 姫神「ふふ。私もそう思う」 コーヒーに砂糖とミルクを落としてかき混ぜながら、少年はティーポット越しに少女を見る。 青ピ「…綺麗やな」ボソ 姫神「青ピ君。意外と詩人?」 青ピ「そうやなあ。ボク、ロマンチストやもん」 姫神「確かに。クリスタル細工を見て綺麗って言える男子って珍しいけど」 青ピ「綺麗なもんは綺麗って言っても、別に悪くないやろ?」 姫神「うん」 少女がティーポットを持ち上げ、ティーカップに紅茶を注ぐ。少年はそんな少女の顔に視線を向けて呟いた。 青ピ「…綺麗や」 姫神「ふふ。青ピ君も紅茶にすればよかったのに」 青ピ「…姫神ちゃんが、やで」 姫神「え?」 まっすぐに少女を見て、少年は言う。 青ピ「姫神ちゃんが綺麗やって、言ったんや」/// 姫神「私?」 青ピ「うん」 姫神「もしかして。からかってる?」 青ピ「ボク、本気やで」 姫神「…」 少女は胸元に右手を置き、服越しに十字架に触れる。 姫神「私は。別に綺麗じゃないと思うけど」 青ピ「それは謙遜やで。姫神ちゃん」 姫神「そうかな?」 青ピ「うん。姫神ちゃんは美人やし、魅力的な女の子や」 姫神「いきなりそんなこと言われても。困る」 視線をティーカップに落としながら、少女は言った。 青ピ「ゴメン。でも言いたかったんや」 姫神「どうして?」 青ピ「昨日と今日で姫神ちゃんとボク、少しは仲良うなれたと思ったんや。一緒にクリスマスオーナメント選んでもろうたり、プレゼント受け取ってもらえたり、食事したりして、姫神ちゃんと仲良うなれたと思ったんや」 姫神「…」 青ピ「そしたらな、ボク、馬鹿やさかい。舞い上がってしもうて、姫神ちゃんも同じ気持ちかと思うてしもうて」 姫神「…」 青ピ「今なら姫神ちゃんが綺麗やって、ずっと思ってたこと。伝えられるかなって」 姫神「青ピ君…」 青ピ「はは。なんかカッコ悪いなあボク」 姫神「…そんなこと。ないよ」 そう言うと少女は横に置いてあるバッグから何かを取り出し、掌に載せて少年へと差し出す。 姫神「これ。クリスマスプレゼント」 青ピ「…ボクに?」 姫神「うん」 青ピ「開けてもええ?」 姫神「うん」 袋を開けて小箱を取り出し、小箱の中身を見て少年は目を見開いた。 青ピ「え!?これ…」 小箱の中にあったのは赤いガラス球が嵌め込まれた金色のピアスだった。少年が少女に贈ったイヤリングと同じデザインである。 姫神「…一応。お揃い」 青ピ「そ、そやな」 姫神「それだけ?」 青ピ「いや、いきなりやったから、なんて言ってええか判らなくて」 姫神「困るでしょ?さっきの私と同じ」 そう言って少女は小さく微笑む。 青ピ「姫神ちゃん…。ボク」 少年が何か言おうとするのを、少女は自分の唇に人差し指を縦に当てる仕草で止めた。 姫神「今はまだ。友達でいた方がいいと思う」 青ピ「姫神ちゃん…」 姫神「雰囲気に流されているだけかもしれないし。お互いをもう少し知ってからの方がいいと思う」 青ピ「ボクはクリスマス前から…」 姫神「見た目だけじゃわからないし。私のこと知って欲しいし。…青ピ君のこと知りたいし」 少年が何か言おうとするのを少女は言葉で遮った。最後の方はほとんど聞こえないほど小さな声で。 姫神(そんな急になんて。切り替えられないし) ――ただのクラスメイトからいきなり恋人というのは無理がありすぎる。順番的にもまずは友達から。うん。別に変じゃない。はず。 姫神「とりあえず。連絡先交換しよう」 青ピ「ええの?」 姫神「うん」 少女はバッグから携帯を取り出し、赤外線データ受信モードに切り替える。 青ピ「ほな、送るで?」 姫神「…受信完了。じゃあ次は私が」 青ピ「っと、準備OK」 姫神「じゃあ送信」 青ピ「…姫神ちゃんのアドレスゲット。ボク、感激やわ」 姫神「それは。大げさ」 青ピ「大げさやないんやけどなあ」 姫神「そう言ってまた困らせる。…減点1」 青ピ「また減点!?てかそれって何の点数なん?」 少女は少年を見ると、自分の顎に人差し指の先を当てて小さく微笑んだ。 姫神「青ピ君の点数。かな」 ――― 14:30 風紀委員第一七七支部 固法「ねえ初春さん。白井さん、どうしちゃったの?」 初春「し、白井さんがどうかしましたか?固法先輩」 固法「何か元気が無いのよね。上の空って言うかなんて言うか…」 初春「あー。たぶん御坂さんが原因です」 固法「御坂さんが?どういうことかしら?」 初春「固法先輩、白井さんが御坂さんを慕っているって知っていますよね?」 固法「ええ、まあ」 ツインテールの少女がルームメイトで同じ学校の先輩である御坂美琴のことを、様々な意味で慕っているのは知っている。 初春「昨日、私は非番だったので、佐天さんと一緒にセブンスミストへ行ったんですけど、御坂さんとお会いしたんですよ」(本当は佐天さんの案で御坂さんを探しに行ったんですけど) 固法「あなたたち、本当に仲がいいわね」 初春「あはは。まあ、そのときですね、御坂さんは一人じゃなかったんです」 固法「白井さんはそのとき巡回中だったから、白井さんじゃないわよね?」 初春「ええ。御坂さん、彼氏さんと一緒だったんですよ」 固法「え?」 初春「御坂さんは彼氏さんと一緒にセブンスミストに来ていたんです」 固法「か、彼氏?御坂さんに?」 初春「はい。手を繋いで名前で呼び合ってました」(ホントは佐天さんが呼ばせたんだけど)「御坂さんも彼氏って紹介してくれましたし」 固法「へえ。御坂さんやるわね。じゃあ白井さんの様子がおかしいのは、御坂さんに彼氏ができたからなのかしら?」 初春「おそらくは。と言うかそれしか考えられないですね」 固法「最近の中学生は進んでるわね」 初春「あ、御坂さんの彼氏さんは高校生ですよ」 固法「いったい、どういった経緯で知り合ったのかしらね?ちょっと興味あるわ」 初春「御坂さんがスキルアウトを更正させようとしていたときに、スキルアウトに絡まれていると思って助けに出そうとしたのが彼氏さんで、それからみたいですけど…」 固法「まったく、御坂さんてば。危険だって言ってるのに。今度会ったら釘を刺しておかないと」 初春「私も注意したんですけどねー。あ、彼氏さんから言ってもらえば良いのか。御坂さん、彼氏さんの前だとすごく可愛かったし」 固法「機会があったら御坂さんの彼氏に注意してもらいましょう。…それで、御坂さん、どんな風に可愛かったの??」 初春「もじもじして上目遣いで彼氏さんのことを呼んだりとか、嬉しそうに寄り添ってたりとか」 固法「み、見てみたい気がするわ。そんな御坂さん」 初春「あはは。そのうち街で見ることができますよ。きっと。ラブラブでしたから」 風紀委員といえども年頃の女の子。まして知人の恋愛事情となると、知らず知らずのうちに話が盛り上がってしまうのであった。 ――― 15:00 とある高校男子学生寮の一室 美琴「当麻。意外と器用ね」 上条「ふっ。上条さんの料理スキルを侮ってもらっては困ります」 美琴「普通に包丁で皮を剥けるのには驚いたわ。授業でも普通はピーラー使うし」 上条「何かあれ苦手なんだよな」 美琴「慣れればピーラーも具合いいわよ」 上条「まあそうなんだろうけど」 美琴「ふふ。でもこうやって一緒に料理するなんて、考えたことなかったわ」 上条「そういえば、夕飯作ってくれた時って、台所に入れてくれなかったよな?どうしてだ?」 美琴「あ、あの時は付き合ってなかったから、一緒に料理なんてできるわけないじゃないの馬鹿!」 上条「なんでだよ?」 美琴「ここ狭いじゃない。…アンタと肩とか手なんか触れちゃったら料理なんてできないって思っちゃって…」/// 真っ赤になって視線を逸らすと、少女は恥ずかしそうに身を捩った。 上条「そ、そっか。いや、なんていうか、ゴメン」 美琴「…何で謝るのよ」 上条「いや、そこまで惚れられてたのに、全然気づいてやれなくてさ」 美琴「本当よ。苦労したんだから」 上条「悪い」 美琴「…でも、今こうして当麻と一緒に居られるから、いいんだ」 上条「俺も、今こうして美琴と一緒に居られるのは嬉しい」 美琴「ホント?」 上条「ああ」 美琴「ねえ、当麻。ちょっと困ったことになっちゃったんだけど」ウワメヅカイ 上条「どうした?」 美琴「料理中なんだけどさ、ぎゅってして欲しくなっちゃった」エヘ 上条「そ、そっか。…じゃあ、とりあえず鍋に水を入れて、切った野菜をその中に入れて…と」 美琴「ちょっと、何スルーしてるのよ」 上条「…こいつをコンロにかけて…と」 美琴「…馬鹿」シュン 上条「…よし、お次は、ぎゅー…と」ウシロカラ ダキツキ 美琴「ふぇ!?」/// 上条「お求めはこちらでよろしかったでしょうか?姫」ギュッ 美琴「うん。…ありがと」 上条「どういたしまして」 美琴「ね?お鍋が煮えるまで、このまま?」 上条「お望みのままに」 美琴「じゃあ、このままで」 上条「ああ。わかった」 ――― 19 30 とある高校男子学生寮の一室 上条「片付け終わったぞー」 美琴「お疲れ様」 台所からリビングへと戻ると、少年はテーブルの上で何かを弄っている少女の前に座る。 上条「何してるんだ?」 美琴「ふふ。ゲコ太もピョン子もケロヨンも可愛いわ」ニヤニヤ 上条「ホント好きだな」 美琴「当麻もこの良さが判ってくれると嬉しいんだけどなー」 上条「いや、男子高校生がそういうのを前にしてニヤニヤしてたらやばいだろ。常盤台のお嬢様がニヤニヤしてるのもアレかもしれないけどな」 美琴「べ、別にいいじゃない!誰かに迷惑かけているわけじゃないんだし!」 上条「まあ、俺の部屋とか自分の部屋ならいいけど」 美琴「じゃあ問題なし」 上条「ま、そうだな」 少女は六種類のクリスマスオーナメントを弄びながら、そのうちのひとつ、クリスマスツリーの下にゲコ太とピョン子が立っているものを手に取った。 美琴(…そうだ。これをあの紐に掛ければ) 立ち上がると、頭の上にあった部屋の蛍光灯の紐に手に持っていたクリスマスオーナメントを結んで再び腰を下ろす。 美琴「えへ。一応、クリスマスツリー。机の上に立たなから結んじゃった」 上条「お。いいんじゃないか」 美琴「食べる前に気付けば良かったんだけどねー」 上条「いやいや、充分すぎるほどクリスマスしてました。ホント、美味しかった」 美琴「良かった」 そう言って小さく微笑むと、少女は真っ直ぐに少年を見て、先ほど結んだクリスマスオーナメントを指差した。 美琴「あのさ。これ、クリスマスツリーってことでいい?」 上条「ん?いいと思うぞ」 美琴「じゃあさ、ツリーの下に女の子がいるんだけど、当麻は何もしないの?」 上条「どういうこと?」 美琴「…ヤドリギなんだけど」 上条「ヤドリギ?」 美琴「もしかして知らない?」 上条「…悪い」 美琴「別に謝らなくていいんだけど。えっとね、クリスマスの日、ツリーに飾られたヤドリギの下に居る女の子には、キスをしていいことになってるのよ」/// 上条「え?」 美琴「もちろん、女の子に断られたらしちゃ駄目だけどね。はい。説明終わり」 上条「ええと、…つまり、美琴さんはその…?」(キスしてもいい…のか?) 顔を赤くする少年を上目遣いで見ながら、少女は小さく言った。 美琴「…当麻なら、その、断らないわよ」/// 上条「そ、そうか」 ごくりと唾を飲み込んで少年は立ち上がると、少女の前へと歩いて行き、その肩に手を置く。 上条「いいんだな?美琴」 美琴「…」 返事の代わりに少女はゆっくりと瞼を閉じた。 上条「…」 美琴「…」 柔らかな感触がお互いの唇を刺激する。軽く触れるだけの優しいくちづけ。 美琴「…えへ。ファーストキス」(夢、じゃないよね?当麻、キスしてくれたんだよね?) 上条「上条さんもファーストキスですよ」(夢、じゃないよな?美琴とキスしたんだよな?) 美琴「そっか。嬉しいな」(もう一回、したいな) 上条「美琴…」(可愛いな。美琴) 美琴「お返し、するね」(いいや、わたしからしちゃえ) 上条「…んぅ!?」/// 美琴「ん…」チュッ 先ほどの触れただけのものとは違い、少し唇を吸ってみる。言葉に言い表せない気持ちが少女の中を走った。 美琴(ちょっとだけ、当麻を奪ったような気がする)/// 上条「…美琴」(俺も…) 美琴「んっ!?」 上条「…」チュッ 少女がしたのと同じように、軽く唇を吸う。蕩けそうな感覚が少年を襲う。 美琴(こ、これって、奪われてる感じがする)/// 上条「…ヤバイな、コレ。止まらなくなりそうだ」/// 美琴「…もう一回だけ」チュッ 上条「…ん」チュッ しばらくの間、お互いに唇を吸い合う。しばらくしてから名残惜しそうに唇を離すと、少年は少女を抱きしめた。 上条「好きだ。美琴」 美琴「わたしも好き。当麻」 上条「キスでこんな気持ちになれるって、凄いよな」 美琴「うん。キスって凄いね」 上条「こんな気持ちになれるのは、美琴とだから。…美琴とだけだから」ギュッ 美琴「わたしも、当麻とだけだから。当麻じゃなきゃこんな気持ちにならないんだから」ギュッ 上条「ありがとう。美琴」 美琴「ありがとう。当麻」 お互いに素直な感謝の気持ちを伝えると、なんだか可笑しくなってきて、気が付くとふたりで顔を見合わせて笑った。 上条「なにやってんだろうな、俺達」 美琴「ホント。でも、素直に言いたいこと言いあえるのって、嬉しい」 上条「ん。そうだな」 美琴「だから…、ねえ?…もう一回、しよ?」 上条「み、み、み、美琴センセー!!その言い方はエッチすぎます」/// 美琴「エ、エ、エ、エッチってどういうことよ!?」/// 上条「アレのおねだりにしか聞こえません…ハイ」/// 美琴「ア、ア、ア、ア、アレって何よ!?」/// 上条「えーっと…、エッチの最終段階?」/// 美琴「ど、ど、ど馬鹿ああああああっっ!!」/// 上条「あーもー!!男子高校生の性欲舐めるなって言ってるだろうが!」/// 美琴「あ…う…。と、当麻は、その、わたしのこと、そういう目で見てくれてるんだ?」/// 上目遣いの少女の言葉に、少年はビクッと身体を震わせた。 上条「お前…それ、反則」(可愛すぎるんだよお前) 美琴「え?何か言っちゃいけないこと、言った?」 上条「…もう喋らないようにその口を塞ぐことにする」 美琴「え!?…んむっ!?」/// 唇を重ね、舌先で相手の唇を軽く舐めながら少しづつ差し込んでいき、湿った場所に触れる。 上条(これって美琴の…) 御坂(し、し、舌!?いわゆるこれって大人のキスってやつ!?てかわたしもしないと!?)/// ぬるっとした感触がお互いの舌先に触れた瞬間、ふたりはほぼ同時に唇を離した。 上条「わ、悪い」 美琴「わ、わたし、舌出しちゃ駄目だった!?」 上条「え!?いや、その、イヤじゃなかったか?」 美琴「こ、こ、恋人のキス…でしょ?イヤじゃない、わよ?」 上条「いや、もう、でも、その…」/// 美琴「今度は、わたしが塞いじゃおっと♪」 上条「んんっ!?」/// 美琴(い、入れちゃっていいのかな?いいよね?)/// 上条(なにこれ!?なにこれ!?舌、シタ、したぁぁぁ!?)/// 美琴(あ、歯だ。この下が…舌よね?)/// 上条(舐めていい、のか?やべ、ディープキスってやつかこれ?) 美琴(やだ、唾が垂れそう。…ええい吸っちゃえ)チュル 上条(やべ、吸いたい。いいか。吸っちまえ)ジュル 最初はぎこちなく、徐々に大胆にお互いの舌を絡ませながら、ふたりはその行為に没頭するのであった。 ――――――――― 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/クリスマス狂想曲
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1017.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side ― 制約と誓約 ― 「本当に死ぬかと思いましたよ……今まで受けた中で一番キツい攻撃だったかもしれねぇ…」 「いちいち大袈裟なのよ。……って言うか、本当言うとああいう場合は医者に行くべきだったんだけど、別に大丈夫よね?」 「あのな、本当に痛かったんだぞ!?なんならお前もくらってみるか!?ってか最善策がちゃんとあったんじゃねえか!」 「はいはい、それにちゃんと反省してんの?」 「……まぁ反省って点ならしてるよ、今まで本当に悪かったと思ってる」 「そう、ならいいわ」 今二人の状況は、とりあえず上条は上半身裸で美琴に背を向けてベッドの前で座っている。 そして美琴は彼の背中を後ろからタオルで拭いているという図だ。 消毒などをしようにも、まず背中の血をなんとかしなければならないためだ。 だが上条の背にこびりついた血は存外とれにくく、今も拭き取るのに悪戦苦闘していた。 美琴はお湯にタオルをつけて拭いているのだが、今やそのタオルは赤く染まり、お湯も赤黒く濁っている。 それでも、完全にはまだとれない。 「しつこいわね……もういっそお風呂でシャワーかけながらやった方がずっと早いような気がしてきた」 「……お前さらっとすごいこと言ってんじゃねえよ。別にここまでやってくれれば俺一人で…」 「ダメ、私がやる。アンタが自分でやってたらどの程度拭けたかとかわからないでしょう?」 「それでも一緒に風呂に入るのは色々まずい気がするのですが!?」 「べ、別に一緒に入るわけじゃないわよ!あくまで入るのはアンタだけだけど、拭くのは私ってこと!」 結果として結局上条が裸を晒すことになるので、彼にとっては大して差はない。 確かにどれだけとれたか、どれだけ拭けばいいのかは上条一人ではわからないが、ある程度とれて消毒ができればそれでいい。 だから彼としてはできたらそのイベントはごめん被りたい。 彼女の前で裸になったとしたら、彼としては色々とまずいことになる。 「あの…やっぱり俺一人だけでも…」 「ダメ。というかアンタはずっと背中向いてればいいんだけなんだから別にいいじゃない。……じゃあ早く準備してきて。準備できたら呼んでよ。もし呼ばなかったら…」 美琴はニッコリといかにも裏がある笑顔を目の前の上条に見せながら、彼女のまわりにビリビリと放電させて威嚇する。 ここがもし外なら上条はこの命令を無視できたかもしれない。 どれだけ放電されても、死ぬほど怖い思いをするが、自分は彼女の攻撃は打ち消せるから。 だがここは自分の家であって、彼女がむやみやたらと放電されると自分自身は無事でも、彼としては絶叫ものの二次災害が起こる。 一年間"外"で仕事をしてきたわけだが、それは基本的には無報酬で、上条が貧乏学生であることには以前と何ら変わりない。 だから家電の破壊という二次災害だけは避けたい。 美琴は恐らくそれをわかってやっているのだろう。 上条にとって自分の電撃は全くもって意味がなく、ここぞという時の脅しとしてはあまり効果をなさないということはよく知ってるはずだから。 上条は無言で頷き、嫌々ながらも渋々といったような表情でゆっくりと動き、新しいタオルを一枚手にとって風呂のある洗面所へと素直に向かった。 「準備ができたらちゃんと言いなさいよー」 彼女の言葉を背に聞きながら、上条はゆっくり洗面所のドアを閉めた。 洗面所に入った上条は、少し戸惑いながらも残された下半身の服を脱ぎ捨て、それを小さな洗濯物のカゴにいれる。 そして手に持っていたタオルを一枚腰に巻いて準備完了。 久々となる我が家の風呂場へと赴き、仕方ないので待たせている彼女を呼ぶ。 するとドアの前で待機していたのか、もの数秒で洗面所のドアが開く。 そこで何やらごそごそとしているかと思えば、少し経つと風呂場へと顔を出す。 しかし流石に恥じらいの念があったのか、堂々とというわけにはいかず、始めはドアの隙間からひょこっと顔を出すだけにとどまっていた。 「お前な、自分から言っといてそれはないだろ。……やっぱり一人でやってってオチか?まぁ上条さんとしてはそれでも全然構わないのですが」 「わ、わかってるわよ!入ればいいんでしょ!入れば!」 「なんで俺が強制させてるみたいになってんだよ…」 少し自暴自棄気味な言動でズカズカと入ってくる美琴に対して、上条はやや呆れ顔でため息をつく。 この時期は世間的には春ということになっているものの、夜はまだ昼のように暖かいわけではない。 逆に夜は少し肌寒いくらいの気温だ。 だから上条としては今この状況はあまり好ましくない。 彼の今の着衣は腰に巻いたタオル一枚だけで、他は何も着ていない。 なので今は寒くて仕方ない。 やらないならさっさと一人で温かいシャワー、やるならさっさとことを終えたかった。 もちろん年頃の健全な男子である上条にとって、この自分が裸で自分の恋人が同じ風呂場にいるという状況も、あまり好ましくないのは言うまでもない。 いつ自分が暴走してしまわないか冷や汗ものだ。 しかしそんな彼の心情を知ってか知らずか、美琴は入ってからもすぐには作業には移らない。 「おーい、早くしてくれないと上条さんは寒くて仕方ないのですが」 「ぅ、うん…」 美琴の調子が少しおかしい。 先ほどまでの彼女らしい威勢はなく、どこか大人しい。 「…?どうした?」 「っ!?わ、わわっ!こっち向くな!!」 美琴の調子がおかしいことに疑問を持った上条は後ろを向いて確認しようとする。 それを美琴が直前で止めようとするが、人間、言われた瞬間そんな早くに行動には移せるわけがない。 止まれという信号が発せられてから、動作に移るまでは若干のタイムラグがある。 結果的に、上条の顔は美琴をはっきり見れる範囲まで後ろにまわり、その状態でようやく止まる。 「…………」 しかし彼が止まったのは美琴からの注意もあったが、それ以外にも要因はあった。 それは今上条の後ろにいる美琴の姿。 彼は今の彼女の姿をさっきまでと同じく、どこかで見たことのあるセーラー服かと思っていた。 だが彼女の姿を視界にいれた直後、上条はその考えは当然のようであって間違っていることに気づく。 冷静に考えてみれば、これからすることは水を盛大に使う作業。 そのままの格好では水は飛び跳ね、服は濡れてしまう。 だからあの格好のままでできるわけがなかった。 少なからず服を脱いでいるという可能性の方が確実に高い。 どうしてそれが思いつかなかったのだと上条は後悔する。 今の美琴の格好は、上はセーラー服の下に恐らく着ていたのだろう彼女らしいカワイイ系のキャラがプリントされたピンク色のシャツ。 そして下は彼女の最後の砦たる短パンは履いておらず、下着だけ。 シャツによってチラリと見えるか見えないかくらいに下着が隠れ、そこからスラリとモデル並みのキレイな太ももを露わにしている。 その姿は健全な男子にとっては下手に脱いだ姿よりも断然破壊力がある。 無論それは上条にとっても例外ではない。 上条はその彼女の姿を目にして固まり、美琴は顔がリンゴのように赤く染まっていった。 「……はっ!!わ、悪い!服を脱いでるとは思ってませんでした!」 はっと、意識を取り戻した上条はぐりんと顔を急回転させる。 そのあまりの早さに少し首筋を痛めたが、今彼が置かれている状況を考えればそんなことは些細なこと。 今は命さえも危うい。 「…………」 沈黙。 美琴は何も言わず、場を沈黙が支配していた。 こういう黙っている時からくる怒りは、変にギャーギャー言いながら怒る時よりも逆に怖い。 黙ってるくらいなら罵声でもいいから何かしゃべってほしいというのが上条の本音。 (あぁ…死んだな、俺。……でもこいつに殺されるなら本望だ) 冥土の土産に良いもの見れたし、などと彼の思考は完全に違う方向へと向かっている。 他にも色々とパターンを考えるが、やはり美琴は黙ったまま。 流石におかしいと感じた上条は、美琴には背を向けまま、 「あの……美琴サン?一体、どうしたのでせうか?」 「な、何でもない…じゃあさっさとやっちゃうわよ」 「…………あれ?」 美琴はそう言って、何もなかったかのようにホースをとって上条の背中にお湯をかけ始める。 それはまた自然のように見えてどこか自然ではない。 以前の彼女なら自分の今の姿を見られた場合、すぐに上条に雷撃を放つことうけあい。 いつも短気で勝ち気で活発な彼女がこんなに大人しいと逆に気持ち悪い。 だが当の彼女は依然として、それが当然のように背中をこすっている。 時々その力が強くなって痛くなるが、それは怒りがこもっているようなものではなく、許容範囲内の痛み。 それよりも今の美琴の方が理解の許容範囲を超えている。 「……あのさ、怒らないで聞いてくれるか?」 「なによ?やっぱりやめて、なんてのは受け付けないから」 「違う違う。……えっとだな、美琴サンは、どうして私めがその姿を見たことを怒ってないのかなと思いまして…」 「何?怒ってほしいの?」 「んなわけあるか!…ただ、前のお前なら当然怒ると思ったからだよ」 「別に、大した理由はないわよ。……さっきのは早くやらなかった私が悪いと思ったし」 「本当に、それだけか?」 「……なんで?」 なんで、と問われて上条は返答に困った。 しかも、自分から本当にそれだけかと聞いておきながら、なんでこんなことを聞いたのか自分でもよくわからなかった。 なんとなく、と答えればそれまでだろう。 だが上条はそう答えるのを躊躇い、口にしようとはしない。 自分の理性による問いではないにしろ、本能的にでもこんなことを聞いたのは何かしらの理由があるはず。 その理由がなんなのかは、今の段階では何とも言えない。 それでも敢えて言うのであれば、それは違和感。 思えば再会したときから、彼女に少なからず違和感はもっていた。 その再会時の違和感は、さっきのやりとりのようなあからさまな違いや違和感ではなく、もっと微妙感覚での違和感。 彼女の言動、挙動、仕草、態度。 何か、何かが違う。 きっと何かが彼女の身にあった。 それは自分がいなかったということ以外の何か。 自分のことなのではあるが、恐らく自分はその違和感から彼女に先ほどの問いをしたのだろう。 ほんの少しの沈黙の後、上条は美琴の問いに対して、 「上手くは言えないけどよ、なんか、違うと思ったから?」 「……何かが、違う?」 「あぁ、色々考えたけど、やっぱり何かが違う気がするんだ。俺のいない間に、何かあったのか?多分、俺いなかったってだけでそこまでは変わらないと思うんだ。そりゃあ俺がいないことで寂しい思いはさせたろうけどさ……でも、それ以外にも何かある気がする」 「…………」 美琴はまた黙る。 先ほどと違うことと言えば、彼女の背中をこする手は止まっておらず、ピチャピチャと水の跳ねる音がして完全な沈黙ではないこと。。 そして、彼女を取り巻く雰囲気が少し変わったこと。 さっきまでの美琴はいつも通りとは言わずとも、明るさがあった。 でも今は、それがない。 ただ明るさがないだけで、暗いというわけでも、思い詰めているという風でもないのだが、それでも、少し違う。 それでも、背中越しで、顔を見ていなくてもわかる違い。 「……普段は鈍感なくせに、こういうことだけは敏感なのね。とは言っても、これも元はと言えば、アンタがいなかったからなんだけどさ」 雰囲気はそのままで、上条の背中越しに美琴はしゃべりだす。 「アンタがいない一年間は、それはもう耐え難いものだったわよ。できたらもう二度とあんな思いはしたくない」 「……それは悪かったと思う」 「ううん、とりあえずはちゃんと帰ってきてくれたからいいの。……それでもね、離れてても電話声とか聞いてたり、去年誓ってくれたことを思い出せばどれも堪えられた」 「……そっか」 「そして、その私にとって重要な生命線の一つの連絡が途絶えて、私は落ち込んでた。それを黒子達は慰めてくれたけど、立ち直れなかった。立ち直れるわけなかった」 彼らを今取り巻く環境は、美琴がまだ手を止めないため水が跳ねる音がするだけ。 それ以外には二人がしゃべるくらいしか音はない。 しかし上条には妙に静かに感じられた。 彼女のこれまでの話を聞いているとどうしようもない闇が自分を覆ってくる。 「そんな落ち込んだ状態で受験して……まぁもちろん余裕で通ったけど、気が気じゃなかった。そんな中で、一番きつかったことは、今日のあのよくわからない男の話」 「あいつが、美琴に何か言ってきたのか?」 「……あいつが、上条当麻の話をしたいって私に近づいてきて、それで……アンタは、当麻はもう、死んだって言ってきて…」 「なっ!」 「もちろん言い返したわよ?嘘だって、そんなわけないって。…でも連絡がないこととか、あっちでの私の知らないこととか言われて、言い返せなくなって…」 「それで、あいつはお前が話を信じてへたれこんだところを狙ってきて、そこに俺が飛び込んできたってわけか?」 「…………ぅん」 「そっか……お前があいつの攻撃を避ける素振りを見せてなかったからおかしいと思ってたら、そんなことがあったのか…」 「……ぅん」 とうとう美琴はシャワーを止め、動かしていた手を止めてしまった。 作業が終わったからなのか、辛いからなのかはわからないが、恐らく話す、思い出すだけでも十分キツいだろう。 まだ言ってはないが、上条の連絡が途絶えてしまったことには理由はちゃんとある。 だがそんなことを抜きにしても、何か自分にやれることはなかったのか。 不安で、不安定だった彼女を救う手立てが何か。 その何かが結局何も思いつかなかった自分が腹立たしい。 自責と自虐の念が絡み合った闇が上条をひたすらに覆っている。 「はい、終わり。血はきれいにとれたと思うけど、一応拭いとこっか?」 「ん?あ、あぁ頼む」 美琴が聞いてきたので上条は返答したものの、それはちゃんとした思考の元での返答ではなかった。 別のことに思考を向け、聞いてきたことに思考は向けなかった、向けられなかった。 美琴は今まで寂しい思いをしてたと言った。 それは自分にも言えることだが、彼女に比べれば、やるべきこと、しなければならないことがあった分、自分は軽いのかもしれない。 彼女は耐え難い一年間だったと言った、連絡がとれない期間はひたすらに落ち込んでたと言った。 自分も向こうでは数多の死線をくぐり抜け、何度も何度も死にそうな目にあった。 そういう意味でとても自分も耐え難い一年間だったと思う。 しかし、自分の耐え難い一年間とは言うなれば身体的なもの、一方彼女のものは精神的なもの。 身体的な傷や疲労などは一定のラインさえ越えなければ、時が全て解決してくれる。 自分のものはそのラインを越えていないものと言えるだろう。 それは今自分がこうして元気にしていることからも明らか。 だが、精神的な傷や疲労というのは必ずしも時が全て解決してくれるとは限らない。 精神的に追い詰められることで、どうにかなってしまうことなんてザラだ。 こうして見れば、上条のダメージと美琴のダメージ、どちらが重いかは明白。 そんな美琴に追い討ちをかけるかのような一報。 確かに、それまでに蓄積されたものを考えれば、彼女を精神的にどん底に突き落とすことなど容易い。 そこをついてきたのは相手だったが、その状況にまで彼女を追いやったのは自分。 自分が、原因… 「っ!?」 そんな重く、暗い思考に陥っていた上条を現実に拾い上げるかのように、背中が何かに覆われる。 何かとは言ったが、そんなものは一人しかいない。 今まで背中を拭いていた美琴だ。 「あったかい……人肌って、こんなにあったかくて、心地良いのね。今までは服越しだったから知らなかった…」 「なっ…!!」 美琴は彼の背中を拭き終えた後何を思ったのか、水分はとれたものの、裸のままの上条に背中から抱きついている。 そして抱きついている美琴は一応服は着ているものの、上はシャツ一枚に下は下着だけ。 そんな状況が状況なだけに、上条は布越しでも後ろにいる存在の体温を感じられ、同時に女性特有の体の柔らかさもまた、感じられる。 普段の状態なら変な方向に調子が向かっていってしまいそうだが、今の上条の状態は普段のそれとは言い難い。 それでもこの状況は、上条にとっては非常によろしくないのは言うまでもない。 ただ今まで考えていたことが暗い分、こんなことをされるのは予想外にも程があった。 「アンタの…当麻の、心臓の鼓動も聞こえる。これはちゃんと生きてる証拠よね。うん、当麻は……ちゃんと生きてる、ここにいる」 「……!」 心なしか、美琴の腕の力が強まる。 美琴の呟きは上条に言ってるものではなく、自分自身に言い聞かせてるように感じられた。 今日は今までも彼と接してきたのに、彼の存在を感じていたはずなのに、それをさらに確たるものにために。 「美琴、おまえ…」 「私、やっぱり無理してたって言うか、まだ不安だったみたい」 「……?」 「当麻と再会した時あれだけ抱きついて、今の今まで会話したり手をつないだり触れたりしてたのに、それでもまだ不安だったのかもしれない。当麻はいないんじゃないかって」 「……そんなこと、あるわけないだろ」 「そう、そんなことはない。それでも少し不安だったのよ、なんか今日起きたことは全部夢みたいでさ。何かの拍子に夢から覚めてしまうことを」 上条は黙って話を聞いていた。 今までこういう不安を吐き出す場は美琴にはなかったはず。 恐らくこれ以外にも言いたいことは他にもたくさんあるのだろう。 だから、今まで吐き出さず、中に溜め込んでいたのなら、今それを吐き出せばいい。 ならば自分から何かをとやかく言うより、今は黙って彼女が吐き出すのを待っていた方がいい。 「でも、これは夢じゃない。現実で、本物の生きてる上条当麻はここにいる。今確認した」 「あぁ…」 「ちゃんとここに当麻がいるから、もう失いたくないの。一度、擬似的にでも当麻を失った悲しみ、痛みを知ったから余計に。……だから万が一の確率でも、冗談で放った電撃で失ってしまったら元子もない。だからさっきのはそういうこと。前よりも、もっともっと当麻を大切にしたかったから」 風呂場は今、さっきまでお湯を出していたからか、はじめよりは寒くない。 そして背中には美琴が抱きついているためか、そこから伝わる様々な感触のためか、体は火照っている。 今は上条は裸でも、そこまでこの状態でいるのは苦じゃない。 それに、先ほどまで彼女が真剣な話をしていた分不謹慎かもしれないが、背中に感じる彼女の存在は様々な意味で気持ちがいい。 そこから美琴は黙ってしまった。 どうやらとりあえず今彼女が言いたいことは言い終えたらしい。 美琴は上条の背中で何も言わずに、何やらもぞもぞ動いている。 少しでも内に溜め込んでいたものを吐き出すことで、彼女が楽になれればそれでいい。 美琴のために今自分がしてやれることは、そばにいてやることと話を聞くこと。 それが彼女の笑顔に繋がるのなら、いくらでもそうしてやりたい。 「…………なぁ美琴、言い足りないことがあるなら、もっと話してっっ!!」 突然、上条の肩の後ろ辺りに痛みが走る。 彼女に何かをされた。 始めはわからなかったが、時間が経つにつれ、その何かとは後ろを向かずとも、感触で大体はわかった。 痛みが走った肩の辺りに何やら生暖かいものがあたっており、そこに硬いものが突き立てられている。 恐らく自分は美琴に肩を噛まれている。 でもそれは銀髪シスターがしてきたような、ただ怒りに身を任せた噛みつきとはまた異なっているように思えた。 それが証拠に、その間の時々に彼女の熱っぽい吐息が漏れている。 そして彼女のそれは上条の肩を甘噛みするだけにとどまらず、最後にその小さい口でちゅっと吸い上げられた。 一体彼女が何をしたかったのか、それを敢えて言うまでもないだろう。 「んんっ……ふぅ」 「お、お、おおお前!何してんだよ!!」 立て続けに起こる予想外の出来事に、上条は戸惑いを隠せない。 上条は背を向けているため見ることはできないが、今美琴はこの一年間の中では最高と言えるかもしれないほどの笑顔を見せている。 始めは彼を抱きしめたい衝動に駆られ、彼の温かさを知り、それを独り占めしたいと思った。 そんな唐突で、突然湧いた感情で起こした行動ではあったが、後悔などは一切ない。 もっと言えば、この感情を抑えつけたくなかった、抑える必要もなかったとまで思っている。 自分は彼の恋人であり、甘えられるのは当然。 それに、 (今まで、一年間我慢してたのだから、これくらい、いいよね?) こんなことをしても彼は自分のものにはならないのはわかっているのに、彼が自分のものになったように感じられて、満足感でいっぱいだった。 「何って…痕をつけてた?私のしるし…」 「痕って、痕って……お前、俺が今ここで理性を崩壊させてたらどうするつもりだったんですか!?」 「その時はその時よ。それに、私はもう高校生なんだから手を出しても別に大丈夫なんじゃないの?」 「それもそうか……じゃなくてだな!」 「はいはい、アンタの言いたいことはわかってるわよ。……それじゃ私はもうでるから、アンタはまたシャワー浴びるなり好きにしなさい。出てきたら包帯巻くから」 「はっ?えっ、ちょっとまっ!」 美琴はそれだけ言って、上条を無視して風呂場からでていった。 色々と美琴にもて遊ばれ、とり残された上条は、何故だかもの悲しい気分になった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side