約 4,110,177 件
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/155.html
祷子の駆る10号騎が、突然の移動命令を受けたのは、美奈代達がワイヤー攻撃を開始した直後。 祷子には、それに従った。 指定されたのは、3キロほど先の山の中。 警戒態勢のまま、山中を移動しろ。 命令はそれだけ。 後衛になったから、教官達が別任務でメサイアに慣れさせようとしているんだ。 祷子はそう思っていた。 だから、祷子はブースト移動で山中に分け入った。 祷子を待っていたのは、葉を落とした木々を、まだ分厚い雪が覆う世界。 その自然美に祷子が見とれ、この世界にふさわしい曲名を考えていた時のことだ。 警告と共に、水城中尉が放った怒鳴り声が、祷子を幻想から現実に引き戻した。 「レーダー使用不能!各センサーオールダウン!」 「えっ?」 「警戒してください!」 「何の演習ですか?」 「実戦です!」 祷子は目の前の計器類を見た。 確かに、それまで機能していたはずのレーダーや、外部状況を知らせるセンサー情報を表示するディスプレーが軒並みブラックアウトしていた。 それさえ、祷子は演習だと思っていた。 実戦。 そう言われても、何の実感もわかない。 「“弥生”!オール・センサー、コンバットモード!全武装安全装置解除(オールウェポンズフリー)!」 「はいっ!」 「RT-01よりHQ、状況レッド。繰り返します!状況レッド!」 緊迫した水城中尉の声。 それまで会話していた時ののんびりした感じはない。 “弥生”も同様だ。 何かが起きた。 祷子が、ようやくそう認識出来たのは、“弥生”の目を見たからだ。 “弥生”の、エモノに襲いかかる猟犬のような目。 その眼差しが、無意識に祷子をそうさせたのかもしれない。 「HQ、応答を!こちら―――」 グンッ! 騎体が動いた。 システムが処理しきれなかったGにより、水城中尉は危うく舌を噛みそうになった。 「なっ!?」 呆然とする彼女に、祷子が怒鳴った。 「中尉!あれは何ですか!?」 モニターの向こうに、“それ”は存在していた。 白い毛並みを持つ四つ足の獣。 狼だと、祷子は思った。 一方、中尉が問題としたのは、そのサイズ。 メサイアよりやや小柄。 子供とセントバーナードくらいの違いしかない。 つまり――― 普通ならあり得ないサイズなのだ。 「妖魔です」 水城中尉は“妖魔”という“あり得ない存在”を前に、祷子に告げた。 「あれが、あなたのエモノです」 「あれを―――倒せと?」 「そうです」 「……」 「怖いのはわかりますが」 「いえ。そうじゃなくて」 恐る恐る、祷子は言った。 「それって、動物虐待では?」 「……」 「?」 突然、中尉が黙ったので、祷子は彼女の機嫌を損ねたかと心配した。 「ち、中尉?」 「し、心配いりません」 MCLで中尉が精神安定剤をがぶ飲みしていたことを、祷子は知らない。 「あれは地球上では“動物”ではありませんから」 「はい?」 「詳しい説明は、“あれ”を倒してくれたらしてあげます」 「事前ではダメですか?」 「その前に―――死にますよ?」 祷子は周囲を見回して青くなった。 モニターの向こう。 “妖魔”は、すでに祷子達を囲んでいた。 ピーッ! 「ちっ!」 舌打ち一つ。 祷子は騎体を急速後退した。 ガァァァッ! それまで祷子のいた場所を、得体の知れないバケモノの顎が襲う。 顎の力がどの程度かはわからない。 ただ、さすがに囓られたい顎ではなかった。 「最近の映画は出来がいいですね」 額を汗が流れるのを感じながら、祷子は呟いた。 「本当、スゴい」 「いえ。コレ絶対、映画じゃないですから」 そう突っ込むのは、MCの水城中尉だ。 「じゃ、ゲーム?」 「―――現実よ。げ・ん・じ・つ」 背後からの“妖魔”の一撃を、騎体を急旋回(スピン)させて祷子は凌いだ。 「とにかく、撃破して下さい」 「で、ですけど」 祷子はメサイアを回避させはする。 だが、未だに剣に手をかけようとさせない。 「か、かわいそうじゃないですか」 その弱々しい声に、中尉は怒鳴った。 「何がですかっ!」 「だって!」 祷子は必死に反論した。 「ただ、ここにいるだけなんでしょう!?実害があったわけじゃ!」 「あってからじゃ遅いんです!」 祷子はメサイアを微妙に後退させて、前後からの攻撃をかわした。 「あんなのが町に出たらどれほど死人が出るか!」 「やってみなきゃ!」 「知りたいのは犠牲者の数っ!?」 「あの子達が町に出るかどうかですっ!」 「4年前に出てる!」 中尉は言った。 「4年前のグリーンランド戦線で―――」 苦虫を噛み潰したような声で、中尉は続けた。 「私の兄の仇よ……」 「お兄さまの?」 「グリーランド戦線に派遣されていた兄は、あの妖魔の奇襲を受けて、メサイアごと挽肉にされた」 「……」 「私は、今回の敵が“あれ”だと聞かされたから、こうして志願して来たの」 「で、でも」 「そうね」 中尉のため息が、祷子の耳にも届いた。 「……風間候補生。この質問に答えられる?こいつらは、わかってる限り、生肉が主食」 「……」 モニターの向こうで、“妖魔”がこちらを睨んでいる。 グウァァァァッ! その咆哮が祷子の耳に心理的な恐怖心を植え付ける。 「この周辺で、こいつらの胃袋を満足させられる数を誇る生物は―――人間だけよ」 「!!」 「近くの集落まで約2キロ。あいつらは、そこの住民をご飯にしたくて、ここまで移動してきたとしたら?それを阻止出来るのが、あなただけだとしたら?」 祷子はコントロールユニットを握りしめた。 それが、祷子の答えだ。 「“弥生”ちゃん」 「はい」 心配そうに祷子を見つめるのは、“さくら”同様、年端もいかない女の子だ。 「―――いけますか?」 「はいっ!」 ギインッ! ついに祷子騎が剣を抜いた。 放たれる剣という殺意。 妖魔も、それで祷子騎が敵と認識したのだろう。 ギァォォォォォォッ グォゥゥゥゥゥッ 咆哮を上げながら祷子騎に襲いかかってきた。 ズンッ! 祷子が狙いを定めたのは、正面から飛びかかってきた一匹。 体を滑らせるように移動した祷子騎は、すれ違い様の一撃で、その首を切断してのけた。 首を失った妖魔がもんどり打って地面に叩き付けられた。 「やるぅっ!」 それを感知した“弥生”が歓声を上げた。 「お姉ちゃん、スゴい!」 「……戦車並の装甲を誇る相手を一撃で?」 「“弥生”ちゃん!」 祷子が怒鳴った。 「敵の数は!?」 「約10!―――違っ!雪の中に伏せてる!数、現状15!」 「報告より多い!」 中尉が焦った声を上げた。 「HQ!敵は増大している!増援を!」 「10時と4時から来るよっ!」 “弥生”の警告に、祷子は敏感に応じた。 ザンッ! 一匹の胴を、すれ違い様、シールドで切断し、 ズシャッ! もう一匹の脳天に剣の切っ先を突き立てる。 ―――ズズンッ 祷子の前で、二匹が力無く地面に落ちた。 「やれるっ!」 兄のあだを討てる中尉は興奮気味だ。 「すごいわっ!」 本当にそう思う。 妖魔――― 時にメサイアでさえ一撃で粉砕する文字通りのモンスターを、この騎は苦もなく粉砕していく。 本来の性能もあるだろうが、それを引き出しているのは、間違いなく――― 「こ―――」 中尉は、レシーバーに、何かが入ってることに気づいた。 「?」 ブツブツブツ…… 何を言っているのか、最初わからなかった。 それが言葉だと、 祷子の声だと、ようやくわかる始末だった。 「候補生?」 「……」 中尉の言葉に、祷子は応えない。 ただ――― “弥生”の声にのみ、祷子は鋭敏に答えた。 「7時から1匹!」 ブンッ! 逆手に持った剣が妖魔の喉を貫いた。 「11時、2時―――6時からも!」 剣を手にしたメサイアが急旋回。 一気に3匹を血祭りにあげた。 「……心は則ち、神明(かみとかみと)の本主(もとのあるじ)たり」 それが、祝詞だと、中尉にはわからない。 「心神(わがたましい)を傷(いた)ましむること莫(なか)れ」 ただ、祷子はメサイアを駆り、目の前の敵を殺し尽くそうとした。 間近に接近し、隙を狙う一匹に襲いかかり、その頭を粉砕した。 間合いをとろうという二匹を短刀を投げつけて仕留めた。 「……諸(もろもろ)の法(のり)は影(かげ)と像(かたち)の如し」 一瞬、背後に潜んでいた妖魔の目が光った。 次の瞬間――― ビンッ! 弦を弾いたような音と共に光が放たれ、雪山の一角が吹き飛んだ。 「“マスター”!」 “弥生”が怒鳴った。 「敵はマジックレーザーを使いますっ!他にも反応多数!」 「候補生!増援が来るっ!」 祷子は回答の代わりに動いた。 敵のマジックレーザー発射の直前、騎体を跳躍させ、同士討ちさせたのだ。 雪に覆われた世界を吹き飛ばす災禍の中、地面に降り立った祷子騎は、狼狽する敵に襲いかかった。 「……清(きよ)く潔(いさぎよ)ければ仮(かり)にも穢(けが)るること無(な)し」 ついに数匹が逃亡にかかった。 祷子騎は、瞬間移動に近い動きで、その前に回りこむ。 「説(こと)を取(と)らば得(う)べからず 皆(みな)花(はな)よりぞ木実(このみ)とは生(な)る」 妖魔達の死骸が最後の光芒と共に消え去る中。 祷子騎は何事もなかったかのように立ちつくしていた。 「無上(むじょう)霊宝(れいほう) 神道(しんとう)加持」 祷子の言葉が、静かにコクピットに流れた。 「いーち!にーぃ!」 候補生達が並んで腕立て伏せにいそしむ中、長野教官が怒鳴り声を上げた。 「このバカ共っ!誰がここまでやれと言った!」 その背後では、擱座した騎がベルゲ・メサイア(メサイア回収騎)による回収作業を受けている。 雛鎧の被害は惨憺たるものだった。 両足切断の騎に始まり、大規模修理を意味するC整備どころか、完全分解整備を意味するD整備が必要な騎が約半数。 おかげで、整備部隊が候補生達に憎悪どころか殺意に近い視線を送ってくる。 「柏っ!」 「はいっ!」 「突撃の呼吸が滅茶苦茶だからああなるんだ!」 ゲンッ! 教官の竹刀が美晴の背中に叩き付けられた。 「作戦を立案しながら、一番の所でコケおって!貴様、●●ついてんのか!?ああっ!?」「もっていませんっ!教官!」 竹刀の痛みは戦闘服がカバーしてくれる。 美晴は腕立てを続行した。 「同じ事ぁ!誰に言えるかわかってんな!?―――宗像っ!」 「はい」 「返事が小さいっ!貴様も!」 「私もついてませんっ!」 「やかましいっ!」 「―――まぁ。対メサイアに限定して、何人かは、戦力になるでしょう」 二宮の横で候補生達を眺める騎士が言った。 よく通る声が耳に心地よい。 「さすが、隊長の子供達です」 「よせ」 二宮は苦笑しながら言った。 「私は既に、ここの教官に過ぎない」 「もったいない」 「護衛隊(ガーズ)の後釜はお前だ」 その言葉に、騎士は複雑に口元を歪めた。 整った顔立ちとアップにまとめたレタスグリーンの髪。 高い背もあって、知的な美人と言って差し支えない。 「何しろ」 二宮は、視線を教え子からメサイアへと向けた。 「私の子供はヤンチャだからな」 「はっ?」 「セオリーなんて関係ない。おかげでこの騒ぎだ―――それより」 二宮の前で、祷子の騎が止まった。 祷子が、ようやく帰投を許可されたのだ。 野戦整備用のハンガーキャリアが騎に横付けされ、整備兵や一目で開発局スタッフとわかる連中が騎体のあちこちを調べ始めている。 「月城。この騎については、何か聞かされているのか?」 「RT-01について、ですか?」 「RT-01?」 「機密騎です。詳しくは自分も知らされていませんが」 月城と呼ばれた騎士は、少し考えてから、 「水龍後継騎の一派生騎と、整備兵の噂は耳にしています」 「……βタイプだそうだな」 「はい」 対メサイア戦用、つまり、普通の目的で開発されたのがαタイプ。 対するβタイプとは――― 「実験用騎を、何のために?そんなに雛鎧が不足しているとは聞いていない」 そう。 メサイアの開発・研究用に特別開発されたのが、βタイプ。 決して、実戦に用いられない。 騎士達は、そう説明されているし、世論もそれを疑っていない。 訝しげな視線をメサイアに送る二宮の前で、後藤達が、ハンガーキャリアに乗って、コクピットから出てきた祷子達の前に降り立った。 会話はここでは聞こえないが、気になる。 「あれは、完全な意味では実験騎ではありません」 ちょっと意外。 そんな顔で、月城が答えた。 「実験騎では、ない?」 「……定義が難しいのですが」 「わかるように説明してくれ」 「はっ……」 月城は、困った顔で言った。 「先程申し上げた通り、あれは総隊旗騎にして天皇騎たる水龍後継騎として開発されました。そして」 「……」 「水龍は……対メサイア戦用に開発されたものではありません」 「ん?」 二宮は眉をひそめた。 「総隊旗騎が実験騎だと?」 「違います。あれは、完成したβタイプ。対妖魔戦用メサイアです」 「……妖魔」 後藤の言葉が、二宮の脳裏をよぎった。 「つまり、βタイプメサイアの真実とは、対妖魔戦用メサイアのことで」 「……月城」 「はっ」 「そこまで知っているということは、だ」 じろっ。 二宮の眼光が、月城を射抜いた。 「貴様……全て知っていて、ここに来たな?」 「命令です」 月城は負けじと二宮に視線を送った。 「我が内親王護衛隊―――“レイナ・ガーズ”は、本演習にサポートとして参加。訓練機の実戦演習指導に当たること。ただし、演習指導は表面的なものであり、本来任務は、索敵機器を搭載した訓練機を攪乱。演習区域を広範囲に移動させ、“目標”を索敵・殲滅することでした」 「目標?―――それが妖魔か?」 「はい。ここ一帯での活動が確認されていました」 「それを探し出すにしろ、演習なら問題はない。公式に作戦行動としては、事態まで公にせざるを得ない」 「その通りです。大尉」 「面白くないな。一歩間違えれば候補生達は妖魔とやらのエジキになるところだ」 「任務です」 「それだけか?」 「それだけです」 「―――月城」 「はっ」 「貴様……最も大切なことを、隠していないか?」 「はっ?」 二宮は、指を二つ、月城の前に出した。 「一つ―――貴様等、“レイナ・ガーズ”は麗菜殿下護衛が任務であり、妖魔相手の作戦に出る部隊ではない―――何があった?どこから命令を受けた? 二つ―――その妖魔とやらがそこらに簡単に出るとは思えない。この一帯―――今回の、この急な演習にも関わらず、何も騒ぎになっていない。何故だ?ここに、何があるんだ?」 「……」 月城は、ぐっ。と黙ってしまった。 それは、月城が真相を知っている証明。 「月城」 「……一教官に、告げて良い内容ではありません」 月城は、敬礼すると、部下と共に踵を返し、二宮の前から姿を消した。 「……成る程?」 苦笑する二宮は、その態度で、全てを覚った。 「ったく……とんだ騒ぎになったわね」 雛鎧のコクピットに戻った美奈代は、騎体をブースト移動させながらぼやいた。 「12時間のご飯抜きは解除されないし」 「仕方ないです」 牧野中尉が気の毒そうに言った。 「みんな、そうやって一人前になるんですよ?」 「中尉も経験が?」 「私は最高72時間です……最後は医務室に担ぎ込まれましたけど」 「それって虐待」 騎体が地面に着地。再びブースターを吹かし、雛鎧は跳んだ。 「でも」 クスクス。 牧野中尉は、吹き出した。 「騎体大破の責任で、教官達も今回はいろいろ大変みたいです」 「大変?」 「とりあえず、今夜のおでん屋はなしとか」 美奈代は、吐き捨てるように言った。 「―――いい気味です」 モニター越しに映し出される景色が変わった。 美しい雪景色が、黒く焦げた一帯へと。 「ここで―――風間が?」 「はい」 ピッ 牧野中尉によって、美奈代の前のモニターに情報が映し出された。 「“戦狼(せんろう)”級妖魔。サイズはM。主要な武器は牙と爪―――そしてML(マジック・レーザー)」 「それが、15体」 なぎ倒された木々。 えぐれた大地。 死骸こそないが、ここで何があったかは子供でもわかる。 「そうです。風間候補生は15体1の勝負に完全勝利されたのです」 「……信じられない。というか、そんなに弱いのですか?そいつら。20メートルの体格で」 「南米戦線ではかなりの犠牲を強いられています」 「……」 雛鎧が着地。 ブースト移動をかけた。 「それにしても」 美奈代は周囲を見回した。 「その戦域を飛び越えてシールドが飛んでいったなんて―――“さくら”の馬鹿力」 「ちがうもんっ!」 “さくら”が怒鳴る。 「マスターがバカなんだもんっ!」 「こらっ!」 美奈代が怒鳴ろうとした時、 ピーッ! 警告音が鳴り響いた。 「候補生っ!」 「しまっ!」 グンッと来る落下の感覚。 ドンッ! 満足な準備もなく地面に落下したせいで、システムが処理しきれなかった衝撃が、美奈代の尾てい骨をモロに直撃した。 「……い……っ!」 尾てい骨から走った痛みが脳天を貫き、美奈代が固まった。 「あーあ。マスターのバカ」 その顔の前で、“さくら”が呆れた顔を見せる。 「……」 美奈代は口をパクパクさせるのが精一杯だ。 「痔になった?お尻割れた?」 「か……こ……」 「染谷さんとのこと思い出して感じちゃった?」 パカンッ! 美奈代のゲンコツが“さくら”の頭を直撃した。 「痛いっ!」 「誰があんなオトコと!」 「したんでしょ?お尻で」 「してないっ!」 「えーっ!?染谷さん奥手!」 “さくら”がびっくりした顔になった。 「まだ手を出してもらってないの!?」 「あ、あんなオトコに興味はないっ!」 美奈代が怒鳴った瞬間。 『HQより1号騎』 司令部から通信が入った。 二宮だった。 「こちら1号騎、泉候補生!」 『痴話喧嘩を回線開放のままやるな!筒抜けだ!』 「―――!!」 美奈代の顔が爆発したように赤くなった。 「も、申し訳」 うつむく美奈代の横で、“さくら”がやーいやーいとはやし立てる。 『それより、シールドは発見出来たのか?』 「す、すぐ近くだと」 美奈代は慌てて周囲を見回した。 シールドの落下予測地点のすぐ間近を目指してジャンプしたのだ。 視界に入るはずだが――― 「マスター、あったよ?」 “さくら”が指をさした先。 木々をなぎ倒し、地面に突き刺さっている白い金属物。 それは確かに、シールドだった。 「ホッ。……こちら1号騎。HQ、シールドを発見。現在位置、日村―――」 「マスターぁ」 “さくら”がそっと美奈代に抱きついた。 「ん?」 抱きつく“さくら”の体が小刻みに震えている。 怯えているのだ。 「どうした?“さくら”」 「は、早く帰ろう?シールドなんて放っておいて」 「そうもいかん」 美奈代はシールドに近づき、無造作に地面に突き刺さるそれを引き抜いた。 「っ!!」 “さくら”が息を飲んだのを、美奈代は確かに見た。 「何がそんなに怖いんだ?“さくら”」 「だ、だって―――」 ガタガタ震える“さくら”は答えた。 「地面から―――何かが出てる」 「HQより1号騎MC、牧野中尉」 『こちらHQ』 「シールド落下地点。センサー異常。測定限界越えました―――データ転送します」 『HQより1号騎。現状のまま待機せよ』 「?」 「グスッ……マスターぁ」 どういうことだ? 美奈代は首を傾げた。 妖魔。 センサーの異常。 “さくら”の怯え。 ここに、何があるというのだ? 美奈代は、シールドがめり込んで陥没しただけの、何の変哲もない穴を、じっと見つめた。 長野県大字日村。 美奈代には、その地名だけしか理解できるものがなかった。
https://w.atwiki.jp/magichappy/pages/1972.html
Civil Registrar(パイオニア・ワークス) Civil Registrar(ピースキーパー・ワークス) Civil Registrar(クーリエ・ワークス) Civil Registrar(スカウト・ワークス) Civil Registrar(インベンター・ワークス) Civil Registrar(マッマーズ・ワークス)
https://w.atwiki.jp/sinkaimk/pages/39.html
名前 イメージ 攻撃力(最大) 防御力(最大) 兵士数(最大) 進化段階 コスト スキル スキル強制発動 春節 6805~(10888) 6805~(10888) 6805~(10888) ☆ 66 --果報招来--大きな幸福が舞い降りる。全体のスキルを発動状態にする/5% フェアリープリンセス 6500~(10400) 6550~(10480) ?~(11050) ☆ 65 --フェアリーサークル--数多の妖精の加護を授ける。全体のスキルを発動状態にする/5% 夢枕 6500~(10400) 6550~(10480) ?~(11220) ☆ 66 --一富士二鷹三茄子--縁起の良い枕が幸運を呼び込む。全体のスキルを発動状態にする/5%
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/14659.html
代々剣龍・ヴァルキリア・四代目 SR 火 (14) 進化クリーチャー:フォース・コマンド・ドラゴン 17000 進化―サード・コマンド・ドラゴン1体の上に置く。 ■このクリーチャーが攻撃するとき、次のうちいずれかひとつ選ぶ。または両方を選んでもよい。 ►コスト9以下の進化ではないクリーチャーを1体自分のマナゾーンからバトルゾーンに出す。 ►バトルゾーンにあるコスト10以下のカードを1枚選び墓地に置く。 ■T・ブレイカー ■このクリーチャーを相手が選ぶとき、自分の山札を見てもよい。その中から名前に《ケンゲキオージャ》または《超剣龍》、《神剣龍》とあるクリーチャーを1体選び、このクリーチャーの上に置いてもよい。その後、山札をシャッフルする。《ケンゲキオージャ》を選んだ場合、このクリーチャーは名前に《ゴウケンオー》を追加する。 作者:viblord フレーバーテキスト 評価 汚いデザイン。《ケンゲキオージャ》絡みの効果のせいで。 -- 名無しさん (2015-09-10 01 22 18) ↑1まぁ分からなくもない。けど、いきなり「汚いデザイン。」はどうかと思うよ。 -- 808 (2015-09-11 00 21 17) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/127.html
この世の地獄。 美奈代達は、それがここだとことあるごとに思い知らされた。 入営してからの毎日。 一言、地獄で全てが語りきれる日々。 訓練訓練訓練ついでに座学座学座学。 敬礼の仕方から銃火器の取り扱い、そして難解を極めるメサイアの理論まで、詰め込みすぎのカリキュラムに追われる日々は、他の言葉では表現できるはずはない。 その中で、候補生達は自然と3つのタイプに分類出来るようになっていった。 肉体派 頭脳派 ハイブリット派 前者は、座学より肉体を使う訓練が得意で、理屈より直感がモノを言うタイプ。 都築真、早瀬さつき、神城三姉妹がこのタイプ。 教官達に言わせると、脳みそ筋肉の「バカ共」だ。 中者は肉体派の正反対。 柏美晴や、意外だが山崎大輔がこのタイプだ。 そして、ハイブリット派。 ……これはさらに二つに分かれる。 肉体と頭脳の程度がバランスよく配分された優等生タイプ。 宗像と泉の二人は、この典型例だ。 そして――― 生きてることそのものが、何かの冗談。 そこまでこき下ろされるほど、肉体・頭脳共に徹底したレベルで欠落しているとレッテルを貼られるタイプ。 役立たずともいう。 本気なのか、それとも単に手抜きしているのか? それは本人のみが知る所だが、それでも、周囲はそう見なす存在。 それが、風間祷子だ。 「も……もう、ダメ」 そう言ってその場にひっくり返ったのは、頭脳派の柏美晴だった。 肉体訓練の昇華を示すべく行われた行軍訓練。 30キロの戦闘装備を着用して武装し、50キロ先の目的地までひたすら歩き続ける訓練は、18歳の女の子に、それが、超人的肉体と反射能力を誇る騎士とはいえ、かなりの負担を強いている。 柏美晴は、理系高校に在学中、ずっとマンガに入れ込んでいたという、自他共に認めるインドア派。 自宅の薙刀道場の鍛錬で鍛えてはいたが、その子に、大の男でさえへたばるとされる行軍訓練はキツすぎる。 無理もない。 誰もがそう思いつつ、それでも言わざるを得ない。 「しっかりしてよ!」 「そうだ!みんな頑張ってるんだぞ!?」 肉体派からは叱責が飛ぶが、 「そ……そうは……言われても」 美晴は絶え絶えの息の下で苦しげに文句を言った。 「わ、私……こんなに歩いたこと自体が初めてだよ……」 そう言って、美晴は手にした自動小銃を何とか体の上からどかそうともがいた。 鉄板すら撃ち抜く腕力を誇る騎士が、わずか5キロにも満たない鉄のカタマリを動かすことすら出来ない。 それが、美晴の体力の消耗度を如実に示していた。 「泉」 水筒のキャップを外しながら、宗像が美奈代に言った。 「美晴は限界だ。これ以上の行軍の継続は」 「……」 美奈代は全員を見回した。 若干18歳の女の子が30キロ近い装備を身につけて50キロの行軍。 入営以来、シゴキそのものの肉体的訓練を受けているとはいえ、騎士の体を持つとはいえ、その過酷さは一々口にする必要すらない。 「やむを得ない」 美奈代は言った。 「ここで15分の小休止をとる」 ズシャッ! 途端に全員がその場にへたり込む。 そんな仲間達に、美奈代は容赦なく言った。 「早瀬、私と共に警戒に立て」 「えーっ!?」 さつきが悲鳴に近い声を上げたのも無理はない。 さつきも脚が立たないのだ。 そんなさつきに美奈代は容赦がなかった。 「体育系だったんだろう?それくらいやれ。それとも、柏にかわってもらうか?」 「ううっ……男子がいるでしょう!?男子が!」 「あれはもう斥候に出てもらっている。山崎は使えるが―――都築は使えん」 「あらあら?あのフランケンがお好みでしたか?」 「私は外見に惑わされたりはしない―――柏」 「……」 美晴は弱々しい顔で眼だけを美奈代に向けた。 そんな美晴の前で膝を折った美奈代が、タオルで汗に濡れた美晴の顔をぬぐった。 「もう少しだ。病院送りはそれまで待て―――みんなのために」 美晴は黙って頷いた。 「宗像、水を」 「ああ」 そういうと、宗像は水筒の水をあおった。 「ち……ちょっと理沙ちん?」 一葉が恐る恐る訊ねた。 「まさか……口移し?」 コクン。 宗像は口に水を含んだまま、頷いた。 「ま、待って!」 美晴が慌てて体を起こしたものだから―――。 「宗像ぁ……覚えてなさいよぉ?」 恨めしそうに宗像を睨む美晴のヘルメットの下の髪はびしょぬれだ。 「動けそうになかったから、やってあげようと思っただけだ」 宗像は、しれっと言い放った。 「大体、なんだ?歩けるじゃないか」 「ふ……ふざけないでよ」 美晴は銃を杖代わりにしてよろめきながら歩いている。 「これ、歩いているって言わない」 「祷子を見ろ。ああやって先方に立って歩いているじゃないか」 美佐子は部隊の前方を歩く祷子の姿を見ながら言った。 「不平不満も言わずに頑張っている。あいつも肉体訓練の最終過程だということはわかっているんだな」 「……あのボンクラちゃんがねぇ」 ボンクラちゃん。 何かある度に、教官が罵声として「このボンクラぁ!」と祷子を呼ぶので、周囲も祷子のことをそう呼ぶようになっていた。 「なかなか、根性はあるようだな」 祷子の失態の度、部隊として責任をとらされ、その隊長として辛い思いをしてきただけに、危険が潜む前衛として自ら進んで立つ祷子の姿に、美奈代も感慨深げに見入っていたのだが――― パタッ 突然、祷子が倒れた。 「!?」 後方にいた美奈代達は、一斉に伏せる。 「か、風間?」 返事はない。 もし、模擬弾が発射され、祷子がそれに当たったなら、いくらなんでもそろそろ銃声が聞こえてもいいはずだ。 それが、聞こえない。 「手裏剣、投擲ナイフの類かもしれない」 宗像の言葉に、美奈代は黙って頷くが、 「まさか!行軍演習でしょ?いくらなんでもそこまでは」 さつきが否定を口にした。 「私達を殺す気?」 「ここまで歩かされること自体……私達を殺すつもりだよ」 美晴はそう言うしかない。 「演習用麻酔弾の可能性が高い」 宗像は、さつきの意見にそう答えた。 演習用麻酔弾――― この世界の軍隊や警察では広く用いられる特殊な魔法処理がされた弾丸。 命中すると麻酔をかがされたように気絶するため、そう麻酔弾と呼ばれている。 隊長として、美奈代はその可能性を否定するわけにはいかない。 だから、皆に命じた。 「各員、戦闘態勢」 美奈代は、20メートルほど先にある大岩を指さした。 「―――風間を救出後、そこの岩の影に隠れる」 「了解」 「かかれっ!」 美奈代達は一斉に駆け出した。 「あんた、いい加減にしなさいよ!」 数分後、祷子は全員の前で正座させられていた。 「疲れていたにしても、眠りながら行軍して、コケてもなお眠り続けるって、あんたどういう神経してるのよ!」 美晴が怒るのも無理はない。 余計な体力を使ってまで助けに言ったのに、祷子はその場でグーグー眠っていたのだから、怒るなというほうが無理だ。 「……返す言葉もございません」 うなだれる祷子は、未だにどこか眠そうだ。 「はぁっ……祷子!?帰ったら、全員に酒保でおごりだからね!」 「あっ!私サイダーがいい!」 「アイス!」 「あんパン!」 「私は風間と一晩でいいぞ?」 「宗像……ホント、あんたと同室だけはしたくないわ」 「ん?私は気持ちいいのが好きなだけだが?」 「もういい」 美奈代は渋い顔で言った。 「風間、懲罰として柏の装備を持て。準備が終わったら斥候へ伝令に走れ」 「は……はぃぃ」 「声が小さいっ!」 「はいっ!」 「早瀬、宗像。柏のバックパックを風間のバックパックの上にくくりつけろ」 「ほ、本気?―――ボンクラちゃんが死ぬわよ?」 驚くさつきに、美奈代は冷たく言い放った。 「風間はバテてはいない」 驚く美晴に美奈代は言った。 「単に寝不足なだけだ―――違うか?」 ばつが悪そうに頷く祷子は、バックパックのハーネスを締め直した。 眠いのは本当だけど――― 祷子は肩に食い込むバックパックの重さに耐えながら走った。 パイロット用の戦闘装備といえば、要するには甲冑のことだ。 祷子の全身には、すでに100キロ近い、つまり、祷子に言わせれば祷子二人分の体重+十数キロ(?)の重さがかかっている。 それでも祷子は歩き続けられる。 それは騎士としての肉体の産物以外の何者でもない。 美奈代さんはスゴイ。 祷子はそう思う。 美奈代は気丈に振る舞ってはいるが、もう脚が限界に来ているのは、その引きずり方からして明らかだ。 祷子が見る限り、美奈代は最も体力がない。 あるのは根性だけだ。 だから、真っ先に脱落するのは美奈代だと、祷子はそう思っていた。 ところが美奈代は持ち前の根性だけで歩き続け、周囲への配慮も欠かさない。 祷子に美晴のバックパックを持たせたのも、最も体力が残っていることを、美奈代が見抜いていたからだと、祷子は理解していた。 祷子のこの体力は、幼い頃から続けさせられた剣術修行の賜だ。 祖父に育てられた祷子は、可愛がられると同時に、厳しく育てられた。 神社の巫女の修行の一環としてあったのが剣術修行。 巫女として、山頂にある神社へ朝夕のお務めに行かされていたのも、足腰の訓練になっていたと、今では実感としてわかる。 吹奏楽部に入り、ヴァイオリン奏者として名を馳せた後も続けた日課。 それが祷子の体力につながっていた。 あっ。いた。 森の出口付近。 倒木の影に隠れるようにして向こうを見る二人の兵士が、こちらを見ると手を挙げてくれた。 「お疲れさまです」 「風間さん、どうしたんですか?その荷物」 驚いたという顔で祷子を見る巨人―――山崎が言った。 「この行軍です。足腰、大丈夫ですか?」 「ええ。平気です。ありがとう」 「どっちにしても、疲れたでしょう?懲罰でなければ代わりますよ……はいこれ」 美晴の装備を受け取った山崎がそっと取り出したのは、野苺(のいちご)だ。 「さっき、そこで見つけたんです。酸味が体力回復につながりますよ?」 「ありがとうございます」 にこりと笑って野苺を受け取る祷子に、山崎は照れた笑顔を浮かべる。 「おーお。アツイねぇ。大輔ちゃん」 「つ、都築さん!」 「くすっ。後続がもう体力的に限界です。これがあれば」 「はい。全員一個ずつなら、間に合いますね」 「あっ、それで伝令です。前方に障害はないか」 「ありません。ただし、無線で警告が入っています」 「警告?」 「前方でメサイアの運用訓練中。模擬戦闘も組み込まれているため、事故発生防止に留意せよ。とのことです」 山崎は、そう言って背中の無線機を、その太い指でつついた。 「了解……後方の部隊は無線機を持っていません。伝令、走ります」 「いや……それは必要ないでしょう」 山崎はそう言って、祷子が走ってきた先を見た。 つられて見た祷子の眼に、こちらに向かってくる一団の姿が見えた。 「このバケモノ」 ポツリとそう言ったのは美晴だ。 「あんた、この装備で走れるって、どういう存在よ」 「ははっ……小さい頃から重い物担いで山道歩いていたから、慣れちゃっているんですよね」 「へぇ?所で美奈代。いつまでここに?」 「喜べ」 無線機と地図を相手にする美奈代が言った。 「ここで待機の命令が出た。前方でメサイアの訓練が始まっている」 「へぇ!?」 そう言って身を乗り出したのは光葉だ。 「見たい!」 「見ることは出来なくても、音は聞こえているだろう?」 「へっ?」 両耳に手をやる光葉だけでなく、居合わせた全員が耳を澄ませた。 ズーン ズーン ガーン 鉄を叩く機械が遠くで動いているような音が、森の小鳥たちの声に紛れてその耳に届く。 「あれが、そうなの?」 「そうだ」 一葉に美奈代は言った。 「二宮教官によると、MDIJα-015「幻龍(げんりゅう)」だ」 「幻龍?えっと……あの近衛の標準メサイア?」 「そうだ。いずれ我々が乗る騎体でもある」 美奈代は、眩しそうな眼で、見えないメサイアに思いを馳せた。 「不敗のメサイア。かつて父が駆り、命がけでその名誉を守り抜いた、誇るべき騎だ」 「私達が、それに乗る」 「そのために、私達はここにいるんだ」 美奈代の言葉に、皆が頷いた、次の瞬間だ。 ガギィィン 遠くで鈍い、奇妙な音がした。 いままでとは全く違う音。 それを、祷子は聞き逃さなかった。 「伏せてぇっ!」 祷子がとっさに叫ぶ。 “誰かに伏せろと言われれば伏せろ”と教えられている美奈代達は、その場に伏せた。 ドンッ! 凄まじい音 振動 そして、凄まじいまでの土砂と衝撃が、祷子達を襲った。 「な、何だっ!?」 それまで見えていたのは、広大な演習地ののどかなまでの光景。 それが、何か白い物体で隠されていた。 「……メサイアのシールド?」 あちこち傷だらけになった白い金属物。 それは、間違いなくメサイアのシールドそのものだ。 「ケガはないか!?総員番号!」 一瞬、シールドの制式番号、重量等のデータを思い浮かべていた美奈代は、慌てて全員の安否に動く。 全員いる。 被害はない。 「山崎、待機地点約50メートル地点にS45シールドが落下したと教官に報告!」 「はいっ!」 「宗像、スモークを!こちらの存在を知らせる!」 「了解!」 ピンッ 宗像は、歯で安全ピンを抜いた発煙手榴弾を前方へ向けて投げつけたが……。 「だめっ!―――来るっ」 そう叫んだ祷子の声に、 「何が来る」 というんだ? その美奈代の声は誰の耳にも聞こえなかった。 激震 鼓膜がどうにかなったんじゃないかと疑いたくなるような音。 それらが空気の壁となって全員をはじき飛ばしたからだ。 「……」 「……」 誰も、誰の安全も確かめない。 ただ、目の前の光景に呆然と見入るだけだ。 彼女達の目の前に現れたモノ。 それは、純白の甲冑を身に纏った巨大すぎる騎士。 メサイア。 その重厚にして華美な装甲のライン 気高いまでの雰囲気 単なる兵器と呼ぶには、あまりに美しすぎる存在が、目の前で戦いを繰り広げる。 「これが……メサイア」 誰かが呆けたような声で言った。 「スゴイ……」 全長25メートル以上。 魔法により稼働する世界最強の兵器。 自分達の目標。 それを間近で見つめること自体が、全身の震えにも似た興奮と感動を引き起こす。 「泉っ!」 宗像が叫ばなければ、美奈代はいつまでもメサイアに見入っていたろう。 力任せに肩を掴まれ、揺すられることで、美奈代は現実に引き戻された。 「危険だ!一端、ここを離れるんだ!」 「えっ?」 「相手はこっちに気づいていない!」 「そ、そうね―――全員傾聴!これから500メートル、一気に下がるぞ!」 「了解!」 美奈代の号令は、一瞬だけ遅かった。 対峙するメサイアの一撃を剣で止めたメサイア。 自重100トンを軽く越える重量物同士の激突は、新たな衝撃となって、美奈代達を襲った。 「きゃあっ!?」 「走れぇっ!」 その衝撃を受け、まともにはじき飛ばされた面々は、それでもなお、走り出す。 転んだ双葉と光葉を山崎が両脇に抱きかかえて進むのを前に見ながら、美奈代は走る。 だが――― 「ぐっ!?」 突然、足を取られて、美奈代は転んだ。 木の根に足を取られたのだ。 派手に転び、それでもなお立ち上がろうとしたが、足が言うことを聞かない。 ひねったか!? くそっ! こんなところで! 痛む足をかばうように立ち上がろうとした、次の瞬間。 世界が暗くなった。 「えっ?」 上を向いた美奈代の目に映し出されたのは、自分めがけて振り下ろされるメサイアの足の裏。 滑り止めに走るスリットや、ボルトの穴まで綺麗に見えるほどの近さで―――。 美奈代は声が出なかった。 悲鳴すら口から出ては来ない。 ただ、呆然と、自分に襲い来るモノを見つめること。 それが、美奈代に出来る全てだった。 グンッ! 死ぬ時は、横から衝撃が来る。 美奈代はそう思った。 そう思って、自分の死を覚悟した。 「大丈夫か!?」 張りのある男の声がして、激しく揺すぶられた美奈代は、自分がまだ生きていることを知った。 「……」 あまりのことに呆然とする美奈代の頬を、誰かが叩いた。 「しっかりしろよ!」 それは、美奈代の父の顔だった。 「おとう……さん?」 「はぁっ!?誰がだ!」 さらに一撃。 我に返った美奈代は、自分を叩いたのが、都築だと知った。 「都築?」 「やっと正気になったか」 都築はほっとした顔で言った。 「頼むぜ隊長さんよぉ。あんなところでコケるなよなぁ」 「都築っち。カッコよかったぁ!」 一葉が興奮気味にわめく。 美奈代が見ると、自分の周囲には訓練生全員がいた。 全員無事。 それが例えようもない安心感となって美奈代を包んだ。 「逃げてる最中に、コケた美奈代っち助けに危険省みないで飛び込んでいくんだもん!」 つまり、自分を助けたのは都築ということになる。 「そうか……済まなかったな。都築」 「何」 都築は立ち上がって美奈代から離れようとした。 「おーお!赤くなって」 宗像のからかいに都築がムキになって答えた。 「ち、違うわ!」 「じゃあ」 美奈代の足の応急処置をしていた祷子が言った。 「もう隊長、歩けないのですから、都築さんに負ぶってもらいましょう」 「なっ!?」 「なにっ!?」 都築と美奈代双方が驚いた。 「ほら。もう、私達の中で隊長かついで歩ける人、いませんし、都築さん、元気いっぱいみたいですから」 「おお。それなら」 宗像は、美奈代のバックパックどころか、上半身のパイロットスーツを手早く脱がしてしまった。 ちなみにスーツの下はTシャツ一枚だ。 「装備を軽くしてやろう。山崎、都築の方もな」 「了解です」 「や、やめろ山崎!」 「ったく」 ぶつくさ言いながら美奈代を担ぐのは都築だ。 「隊長ぉ。とんだ災難だぜ?こりゃ」 「すまん」 「ホントだ」 情けない。と思いながら、美奈代は都築にもたれかかった。 不意に、都築の汗の匂いを感じる。 「重く……ないか?」 「重い」 「き、貴様っ!女めがけて!」 「いててっ!隊長、歩けるんじゃないか!?」 「うるさいっ!背負っていけっ!」 「そうですよぉ」 横を歩く祷子が言った。 「隊長、足をくじいてるんですから」 「そうそう。それにノーブラだ」 「なっ!?」 「へぇ?隊長、そうなんだぁ」 「都築君?私の計略に感謝したまえ?」 宗像が意地悪い口調で言った。 「バスト85センチはなかなかだろう?クックックッ」 「これから、お前のことを悪魔と呼んでやる」 「褒め言葉だな」 「あーっ。都築っち。思いっきり前屈みだぁ」 「うるさいっ!」 美奈代は赤面しつつも、都築の背中に不思議な安堵感を感じていた。
https://w.atwiki.jp/shion-atori/pages/656.html
#blognavi 閃一と流々が来たが聞き分けのない子供に構っている場合ではない。 悟と譲の諍いだとか、決斗と楯がとかそんないつものことで いつもいつも俺が仲介する理由などないからだ。 アースガルドでヴァルキリー同士が殺しあおうとしていると連絡があった。 そちらのほうがはるかに重要で緊急性が高い。ノルンも困っていたようだしな。 現場に着くとテレサ、シィルを中心としたグループとファーガ、マリアを中心としたグループで 本当に相手を殺す気で争っていた。一番生き生きと殴って回っていたのは止めるべき立場の流馬だったが。 いつもは争うことのないだろうシェルとシィルが別陣営だった。 ディーンがガングリルに味方し、ルーシィがそれに敵対するという事態も起こっていた。 俺が着いたことを察知すると双方一旦戦闘を中止し会話のテーブルについてくれたが、 どうにも問題の根源はアースガルドにおける自分達の就労形態にあるようだった。 テレサ達は出来る限り就労時間を長くし、一人一人の負担を軽減するべきだと主張し、 マリア達は効率のいい就労形態で個人が自由に動ける時間を増やすべきだという考えだった。 俺はどちらかと言えば四角四面に囚われない柔軟な対応ができるマリア達の主張に近い考えだ。 固すぎる考えの組織はこの思考を崩されれば脆い。そう意見を述べておいた。 しかし結局意見は纏まらなかった。再度の戦闘は起こっていないが一瞬即発の事態は残った。 不毛な言い争いだ。もっと誰もが自由に生きればいいのに。 中州に戻るとルセリアに睨まれた。俺が何かしたのかと尋ねると子供の話を聞かなかったのが どうにも許せないらしかった。そんなことは時間のある時だけにしてくれ。 甘やかし過ぎたか。少しきつく言っておいたほうがいいかもしれん。 カテゴリ [普通] - trackback- 2010年10月02日 00 09 52 #blognavi
https://w.atwiki.jp/projecter/pages/118.html
メディアワークス2.0 2008年1月26日発売。 参戦作品いぬかみっ! 学園キノ イリヤの空、UFOの夏 護くんに女神の祝福を アスラクライン カードリスト (詳細な能力等は個別に参照してください) ユニット ナンバー 色 カード名 スター レベル 夢 希望 幸運 BP SP MW06001 赤 ともはね 2 ○ 2000 1000 MW06002 赤 いぐさ 3 ○ 4000 1000 MW06003 赤 いまり&さよか 3 ○ 3500 1000 MW06004 赤 フラノ 4 ○ 4000 1500 MW06005 赤 てんそう 4 ○ ○ 1000 1500 MW06006 赤 ごきょうや 4 5000 1500 MW06007 赤 川平薫 4 5000 1000 MW06008 赤 川平啓太 4 ○ 5000 500 MW06009 赤 せんだん 5 ○ ○ 4500 1000 MW06010 赤 ようこ ★ 5 ○ 5500 1500 MW06011 赤 たゆね 5 4000 1000 MW06012 赤 はけ 5 ○ 4500 500 MW06013 赤 なでしこ ★ 6 ○ 6500 1500 MW06014 赤 大妖狐 7 ○ 4000 2500 MW06021 黒 エルメス 2 ○ 2000 1000 MW06022 黒 木乃 3 2500 1000 MW06023 黒 黒島茶子 3 ○ 4500 1000 MW06024 黒 謎の美少女ガンファイターライダー・キノ ★ 4 ○ 4000 1500 MW06025 黒 体操着の木乃 4 ○ 5000 1000 MW06026 黒 水着の木乃 ★ 4 ○ 4000 1000 MW06027 黒 犬山・ワンワン・陸太郎 4 ○ ○ 2000 1500 MW06028 黒 ティー 4 ○ 500 0 MW06029 黒 ワンワン刑事 5 ○ 6500 1500 MW06030 黒 サモエド仮面 ★ 5 ○ 7500 1000 MW06031 黒 静 5 ○ 5000 1500 MW06032 黒 茶子&犬山 5 6000 1500 MW06033 黒 静&犬山 6 ○ 1500 1500 MW06034 黒 美老婆銃士・ヴァヴァア・ザ・スーパー 7 ○ 5500 2000 MW06041 青 校長 2 ○ 3000 1000 MW06042 青 浅羽夕子 3 ○ 2000 1000 MW06043 青 須藤晶穂 3 ○ 3500 1000 MW06044 青 水着の夕子 4 ○ 1000 1000 MW06045 青 水着の晶穂 4 ○ 3500 1000 MW06046 青 浅羽直之 4 ○ 2500 1000 MW06047 青 伊里野加奈 4 ○ 3000 1500 MW06048 青 須藤晶穂(★) ★ 4 ○ 4500 1000 MW06049 青 水前寺邦博 5 ○ 2000 1000 MW06050 青 水着の伊里野 5 5000 1000 MW06051 青 榎本 5 3000 1500 MW06052 青 椎名真由美 5 6000 1500 MW06053 青 伊里野加奈(★) ★ 6 ○ 4000 1000 MW06054 青 ブラックマンタ 7 ○ ○ 7000 500 MW06061 白 吉村逸美 2 4500 1000 MW06062 白 樫本希実子 3 4500 1000 MW06063 白 藤田美月 3 ○ ○ 4000 0 MW06064 白 吉村護 4 ○ ○ 1000 1000 MW06065 白 周藤摩耶 4 ○ 500 1000 MW06066 白 柿崎由良理 4 ○ 5500 500 MW06067 白 周藤汐音 4 ○ 3500 1000 MW06068 白 海狼&氷雪 4 5500 1000 MW06069 白 鷹栖絢子 ★ 5 7500 1000 MW06070 白 エメレンツィア=ベアトリクス・リューディガー ★ 5 ○ 6000 1000 MW06071 白 アド・アストラ 5 ○ ○ 3500 1000 MW06072 白 鷹栖正樹 5 6000 1500 MW06073 白 ガートルード・マクヴリーズ 6 ○ 6500 1000 MW06074 白 ヨハン=ディーター・リューディガー 7 ○ 4500 2500 MW06081 緑 樋口琢磨 2 ○ 2500 1000 MW06082 緑 大原杏 3 ○ 3500 1000 MW06083 緑 佐伯玲子 3 ○ 2000 1000 MW06084 緑 嵩月奏 ★ 4 6000 1500 MW06085 緑 夏目智春&水無神操緒 ★ 4 ○ 5000 1000 MW06086 緑 アニア・フォルチュナ・ソメシュル・ミク・クラウゼンブルヒ 4 ○ 1500 1500 MW06087 緑 沙原ひかり 4 5000 1500 MW06088 緑 華島由璃子 4 ○ ○ 4500 1000 MW06089 緑 佐伯玲士郎&志津間哀音 5 ○ 4500 1000 MW06090 緑 黒崎朱浬 5 4000 1000 MW06091 緑 鳳島蹴策 5 ○ 4000 1500 MW06092 緑 倉澤六夏 5 ○ 5000 1500 MW06093 緑 橘高冬琉 6 6000 1500 MW06094 緑 加賀篝降也 7 ○ ○ 5000 1500 ストラテジー ナンバー 色 カード名 スター レベル 夢 希望 幸運 MW06015 赤 白骨遊戯 4 ○ MW06016 赤 天才児 5 ○ MW06017 赤 川平の宗家 4 MW06018 赤 願望充足汁 ★ 4 ○ MW06035 黒 どけ! 4 MW06036 黒 けん銃のない安全な社会を目指して 4 ○ MW06037 黒 単車のない安全な社会を目指して 6 ○ MW06038 黒 変身 6 ○ MW06055 青 ほのぼのスパイ大作戦!! 6 ○ MW06056 青 ESPの冬 3 ○ MW06057 青 ブラックマンタのパイロット 4 MW06058 青 夏休みふたたび 6 ○ MW06075 白 東京ビアトリス総合大学附属高等学校演劇部 4 MW06076 白 恋するビアトリス 4 ○ MW06077 白 十数年の思い出 6 ○ MW06078 白 世界一えくせれんとな髪型 ★ 6 ○ MW06095 緑 座天使級護法榴弾砲 6 ○ MW06096 緑 二人三脚 3 ○ MW06097 緑 機巧魔神 4 MW06098 緑 ・・・・・・何があったんです? ★ 4 トラップ ナンバー 色 カード名 スター レベル 夢 希望 幸運 MW06019 赤 バナナDEワニワニ 4 MW06020 赤 じゃえん 4 ○ MW06039 黒 あとがき 7 MW06040 黒 往復びんた 5 ○ MW06059 青 UFOの夏 4 MW06060 青 伊里野の髪を切ったのだ ★ 7 ○ MW06079 白 《魔女ベアトリーチェ》が消えた日 3 ○ MW06080 白 ジョシコウセイ・クエスト 3 ○ MW06099 緑 王様遊戯 4 ○ MW06100 緑 土琵湖怪生物 4 ○
https://w.atwiki.jp/ayano01/pages/163.html
「―――成る程?」 夜。 美奈代は二宮の私室へ呼び出された。 否。 正確には、部屋から拉致られた挙げ句、ここに連行されてきたのだ。 パイプ椅子に座らされ、テーブルに置かれたライトを浴びる美奈代は、何故か女性教官達に取り囲まれていた。 教官達の殺気だった視線を一身に浴びる美奈代は生きた心地がしない。 警察の取調室の方が、まだ心地いいだろうな。と、美奈代は心底そう思いつつ、浴びせられる質問に答えるしかなかった。 「了解した」 そう答えたのは、座学担当の牧野中尉だ。 先に搭乗した“雛鎧(すうがい)”のMC(メサイアコントローラー)を担当してもらった人物だ。 「尋問は終わりました」 椅子から立ち上がった牧野中尉が振り返った先には、机に両肘を乗せ、手を組んで顔の前に置くという、某国連特務機関の最高司令官の如き姿勢をとる二宮がいた。 「―――調書を読み上げなさい」 「はっ。二宮閣下(ヘル・ニノミヤ)。」 牧野中尉は恭しく頭を下げた。 「―――被告は我が訓練校第七分隊所属候補生であります。 この者は、我が訓練校に属する女性として背いてはならない教義に反した容疑がかけられています。 曰く、被害者、第一分隊染谷隊長に対する売春行為未遂及び訓練校への背信行為。 この裏付けは、すでに容疑者の自白で十分と判断しています。 この事態に際し、わが独身女性保護同盟最高評議会は、いかにして容疑者が被害者をたぶらかしたかを徹底的に調べ上げた後、然るべき処置を」 「回りくどい」 二宮は姿勢を崩すことなく言った。 「結論を述べなさい」 「このガキ!候補生の分際でオトコたぶらかしやがって、羨ましいんですっ!」 「実にわかりやすい。報告は簡潔にして要領を得ていないとな」 「……あのぉ」 「泉」 「……はい」 「で?どうやって、染谷をたぶらかした?」 「べ、別にたぶらかしてなんて!」 「―――質問を変えよう」 二宮はどこからかハンマーを取り出し、美奈代の脳天めがけて振りかぶった牧野達を手で制しながら言った。 「染谷と初めて会話したのはいつだ?」 「え?えっと……?」 美奈代は、四方で振り上げられたハンマーにおびえつつ、ようやく思い出した。 「あの……5月の強歩訓練の時、水を配っていた時だと」 「ああ。図々しく生理中を理由にさぼった時だな」 「さぼってませんっ!」 「なら、5月に2回も生理が来たのは何故だ?」 「……うっ」 「それで?」 「お疲れさまです……って、確かその程度」 「それ以降は?」 「時々、すれ違い様に敬礼する程度で」 「……むぅ」 「二宮閣下(ヘル・ニノミヤ)」 二宮の斜め後ろに立つ女性士官が書類を挟んだバインダーを手渡しつつ、 「ILOからの情報です。容疑者が自白しました」 「あ、ILO?あの……二宮教官は、パレスチナに何か?」 「パレスチナは既に人の住めるところではあるまい」 二宮は書類に目を通しながら言った。 「“いたたまれないほど、ロンリーな、男達”の略でILOだ」 「いっそ合コンとか……どうです?」 皆さん、そのILOの女版でしょう?という言葉だけはかろうじて飲み込んだ。 「私達は高い理想に生きることを誓った女達だ。妥協はしない―――どれ」 「……」 いろいろ言いたいことはあるが、生きてここを出たければ、下手なことは言うべきではないだろう。 美奈代はそう思ったので黙った。 「……成る程?」 二宮は書類から視線を外し、言った。 「染谷はILO候補生実働隊により袋だたき、つるし上げを受けた後、医療隊の適切な処置により投与されたクスリにより自白した。それによると」 ゴクッ。 女性士官達が固唾を呑んで二宮の言葉を待つ。 「染谷は入営の際、泉を見初めた。つまり―――」 ジロッ! 刺す様な視線が恐ろしく痛い。 「一目惚れしたんだ」 なっ!? が、外見が全てなの!? 私の方が美人なのにっ! こんな小便臭いガキのくせに!? 「わ、私が悪いんですか!?」 まるで一方的に美奈代が悪い!と言わんばかりの声に、美奈代はそう抗議するのが精一杯だ。 「泉は、亡くなった染谷の母親の、若い頃にそっくりなんだそうだ。 そんなこともあって、その後も、気になって事あるごとに見ていたら、自然と異性として意識するようになった。つまり、好きになったと自覚した」 染谷候補生はマザコンだったのか!? なら、母性の魅力でたぶらかせば! 「……」 一体、何なんだ? 美奈代は泣きたくなった。 自分はまだ、デートもしていない。 告白なんてされてもいない。 ただ、自分を好きになってくれた人がいてくれた事を知っただけだ。 た、確かに、フェアレディと聞いてすぐに車しか思いつかなかったのは、よく考えれば、女の子としてどうかとは思う。 それでも、デートの誘いらしいものは受けたんだ。 それは、一人の女の子として、喜ぶべきことのはずなのに、こんな風に吊し上げられるなんて、あんまりだ。 外見に自信は全くない。 ここに来るまで、男子生徒は皆、騎士だという理由だけで近づくことさえなかった。 早瀬じゃないけど、これはもしかしたら、千載一遇のチャンスなのかもしれない。 実際、美奈代は少しそう思う。 ただ、そう思った直後にこれだ。 私は―――まともな恋愛が出来ないのか? 「二宮閣下(ヘル・ニノミヤ)」 美奈代の瞳から涙がこぼれそうになった時、部屋のインターフォンが鳴り響いた。 「校長からです」 「貸せ―――閣下?染谷が死にましたか?―――はっ!?」 二宮があきれ顔になった。 「今、この時間にですか?……はい。わかりました」 受話器を戻すと、二宮は立ち上がった。 「泉」 「……ぐすっ。はい?」 「もういいぞ」 「へ?」 「閣下!?」 「すぐに部屋に戻って、神城三姉妹をたたき起こして教官室へつれてこい」 「神城達を?」 「―――連中の玩具がきた」 ●数日後の朝 食堂 演習が終わったら、候補生達にも、そろそろと進路に関する内示が出はじめる時期だ。 壁には内定が出た者が張り出されている。 染谷はメサイア第一中隊の配属が内定。壁に張り紙が出ている。 美奈代は、デートで何とお祝いを言うべきか悩みながら、沢庵をかじっていた。 その目の前で、 「眠い……」 茶碗を持ちながらうつらうつらするのは双葉だ。 一葉と光葉はご飯を食べながら器用に船をこいでいる。 「最近、夜になると別行動だけど、どうしたんだ?」 美奈代は訊ねた。 「うん……明日から私達三人、本格的にカリキュラムが別になるって」 「……へ?」 「昨晩ね?」 双葉は言った。 「新型のシミュレーターが入ったんだよ。それの本格訓練」 「新型のシミュレーター?」 「うん。何だか、戦闘機みたいなヤツ。普通のSTRシステムじゃないの」 「私達、何も聞いていないぞ?」 美奈代は横にいたさつきの顔を見た。 さつきは無言で首を横に振った。 「私達三人専用だって」 「すごいじゃん!」 びっくりした様子でさつきは言った。 「カスタムモデルが与えられるってことは、双葉達、特務部隊(スペシャルフォース)配属でしょ!?」 「シミュレーターはゲームみたいで楽しいけど、それより眠いよぉ……」 「戦闘機といっていたな」 「うん……あんまりしゃべるなって言われているけど、普通のメサイアじゃないよ。手足ないし……大型の戦闘機みたいなヤツ。私達はみんな、大好きになったけどね」 ふわぁぁっ……と、生あくびをした双葉を前に、美奈代は少し複雑な顔になった。 「神城達も内定……か」 「私達は、後方勤務かな」さつきは、どこかほっとした顔でお茶をすすった。 「宗像も、二宮教官と一緒に中央に面接に行って、今朝帰ってくるけど」 「あいつも、どうなるんだろうなぁ」 「普通の部隊に行っても、あの素行だからねぇ」 おおっ! 不意に、食堂にいた生徒達から、そんな歓声が上がった。 見ると、脚立に登った長野が、壁に八切サイズの半紙を貼り付けていた。 祝内定 内親王護衛隊 第七分隊 宗像理沙候補生 「内親王護衛隊(レイナガーズ)!?」 美晴が目を見張ったのも無理はない。 内親王にして近衛最高司令官である麗菜内親王の親衛部隊、それが内親王護衛隊。近衛最強部隊たる天皇護衛隊(オールドガーズ)と肩を並べるエリート部隊だ。 しかも、女性のみで編成された珍しい部隊でもある。 とにかく、普通ならば、候補生から直接入れる部隊ではない。 「さっすが宗像!」 思わずさつきは言った。 「レズが身を助けた!」 「おい。二宮教官の古巣でしょ?それなら教官も」 言いかけて、美奈代の思考は止まった。 「つまり……二宮教官って実は」 「あれ?泉知らないの?」さつきは、おや?という顔になった。 「二宮教官の別名」 「?」 「……白百合の守護者。つまり」 きょろきょろと辺りを見回した後、テーブルに身を乗り出して小声で言った。 「教官は両刀なんだよ」 「うぞっ!?」 「本当だって……一時は麗菜殿下のお手つきだったって聞いたこともあるし」 「……」 宮内省近衛府 富士学校校舎 「……さて、今日の授業に入る前に、お前達の罰ゲームの件だが」 二宮はわざとらしい咳払いをした。 「よくやった……とでも言っておく」 美奈代達の罰ゲーム―――コスプレ接待の件だ。 「第一分隊撃破によって、全てはお流れだ」 「それにしても教官」 山崎が挙手の後、訊ねた。 「連中はどうして定数で参加しなかったのですか?」 「“幻龍(げんりゅう)”を使いこなせたのがあの三人だけだった。それだけだ」 二宮はにべもない。 「それであの」という美奈代の声に、 「そうか!」 二宮はうれしそうに頷いた。 「そんなに行きたかったのか!」 「へ?」 美奈代達は思わず、皆で顔を見合わせた。 「……いえ、私達が」 「志願します!?教官としてうれしいぞ!」 「き、聞いてないし」 「アフリカ行き。予定では1週間後だ」 二宮は早口で言った。 「第一分隊とお前達、それと動ける連中かき集めたら丁度、定数がそろった」 「……へ?」 「後で正式に伝えるが、お前達の任務は、中央アフリカに巣くう中型妖魔達の掃討になる」 ポカン。とする美奈代達に、二宮は事務的に伝えた。 「今日の座学では、向こうで恥を掻かないよう、妖魔共の呼称について学習する。今後、授業以外の発言は認めない。まず、敵全体の呼称は魔族軍―――“悪魔”の“魔”に“暴走族”の“族”だ」 ―――せめて“家族”の“族”と呼びましょうよ……教官。 さつきは口の中でそう呟く程度に抑えた。 「人型を魔族とし、それ以外は“妖魔”とする。分類に困ったらとりあえず妖魔としておけ」 「でも、悪魔なんでしょう?」 美晴が聞いた。 「いっそ、お祓いとかききませんか?悪魔なんて、エクソシストにでもお祓いしてもらえば一発で」 「柏―――どうして“あいつ等”を、一々、魔族だの妖魔と呼ぶかよく考えろ」 「えっ?」 「今、暴れているのは、宗教上の存在じゃないからだ」 「ど、どういうことです?」 美晴には意味がわからない。 「だって、突然現れた怪物ですよ?」 「それが悪魔だと呼ぶ連中は、世界中のあちこちにいる。だが違う。あれは異世界の生命体であることが、すでに判明している」 「―――悪魔と、どう違うんですか?」 「あっちは神様の対、魔族は異世界である魔界の住人に過ぎない。我々人類が戦っているのは、そういう連中だ。この魔族と魔族に率いられた敵勢力の呼称は、魔族軍となる。覚えておけ」 「妖魔……魔族……魔族軍」 「そうだ。その魔族軍を構成するのは、体長30メートル以上の大型妖魔、10メートル級の中型妖魔、そして3メートル以下の小型妖魔、別には身長170センチ程度の人類サイズが確認されており―――」 二宮が黒板に大判の写真を貼り付ける。 「見ていて、あまり気分のいいものではないが―――慣れるだろう」 一体、二宮はファンタジー映画の販促でも始めたのか? そう、聞きたくなる写真達が貼り付けられていく。 西洋の甲冑をまとった犬面のバケモノや、表現出来ない異形の怪物達の写真。 無論、もしこれが出来の悪いファンタジー映画の敵なら、ポップコーンとコーラでも片手に楽しむことも出来るだろう。 だが、これは現実なのだ。 こんな化け物が、遠いアフリカの地とはいえ、現実世界でうごめいていること自体が信じられない。 「種類は様々だ」 写真を貼り終えた二宮は、教え子達に向き直った。 「この授業では、国連において名称の統一が終わった種類だけを紹介する」 教え子達は無言で頷く。 「まず、この犬面豚鼻の人型は、“オーク”の呼称で統一された。 移動力は低いが、腕力は騎士並。 ダメージに強く。腕の一本切り落とした程度では暴れるのを止めようとはしない。 甲冑を貫通したければ、近距離でのフルメタルジャケット弾使用は必須。 故に、こいつらとまともに戦いたければ、12.7ミリの対戦車銃が望ましい。 覚えておけ? メサイアに搭載される白兵戦闘用小銃では連中に対抗出来ない。 早めにアンチマテリアルライフルの搭載を申請しろ。使い方は覚えているな?―――泉っ!」 「はっ!はいっ!?」 完全に眠る一歩手前だった美奈代は反射的に飛び起き、立ち上がった。 ショックで膝を机にイヤという程ぶつけた痛みに顔を歪める。 「覚えているな!?」 「はいっ!」 美奈代は顔をしかめながら怒鳴った。 「たった今、忘れましたっ!」 「教官、それじゃ、どうしろというんですか?あんなデカブツ担いで逃げ回れと?」 「宗像。食べられる前に、口に銃口くわえて引き金を引け。それさえ恐ければ、手榴弾の安全ピンを引っこ抜いて、目をつむれ。お祈りしている間に―――楽になれる」 「……」 要するに、そんな事態に陥らないようにしろ。 そういうことだと、美奈代達は判断した。 メサイアが擱座(かくざ)して、敵に取り囲まれるなんて、普通の戦争でも勘弁してほしい。 そういうものだ。 「我々は、あくまでメサイアで戦うのが任務ではあるが、しかし、知識として知っておくことは大切だ。 オーク共の主な武器は刀剣類と弓。 弓は長弓とクロスボウ。 クロスボウは、各種サイズがあり、我々の使用する自動小銃と同程度からそれ以上の破壊力を持つことは判明している。 長弓は魔力付与した矢を毎分10発程度発射可能。 連射性は低いが、射程はかなり長い上に、破壊力も高い。 現在確認されている限りでは、砲撃に使用した場合、有効射程距離3万メートル、対空兵器として用いた場合、高度1万メートルを飛行中の航空機を撃墜するほどだ。 ……まぁ、対空・対地双方において厄介な代物だ」 「教官、剣や槍は?」 「騎士が用いるそれとほぼ同程度。 蛇足だが、こいつらオークを、魔族軍は槍兵、剣兵、クロスボウを装備する弩兵(どへい)、長弓兵という感じで、装備によって兵種を分けているらしいことも判明している」 「……本当に軍隊なんですね」 感心したような美晴の声に、二宮は頷いた。 「顔が顔だからといって、なめると痛い目にあうぞ?―――次」 二宮は次に、オークの横に並ぶ写真を突いた。 「スライム。 毒性の強い溶解液の動く塊だ。 廃墟になった都市部にて多数確認されている。 こいつに触れられるだけで助からないと思え。 万一、肌に触れた場合、触れたカ所をすみやかに切断しないと、数時間で全身に毒が回り、発狂して死ぬ。小銃弾は効かない。テルミット弾か火炎放射器で焼き殺すしかない 「……」 「他にもいろいろと確認されているが、とりあえず、次は、我々が危惧すべきサイズの中型以上の妖魔達の説明に移る」 二宮は、写真を眺めた後、続けた。 「中型妖魔の定義は、全長10メートルサイズを指す。 たとえば、コイツは6本脚のサソリ型“トゥース”。 コイツの脚の一撃は、主力戦車の正面装甲すらブチ抜く。メサイアでさえ、下手に接近されたらアウトだ」 銀色に輝く装甲の如き外骨格に鋭い爪を持つ巨大なサソリの写真を、二宮は指示棒で突いた。 「退治するなら、12.7ミリ以上。可能なら20ミリ以上の大口径機関砲が望ましい。こいつの機動性は自動車並み。脚が多い分、かなり複雑にして高いレベルの機動が可能だ」 「……質問」 手を挙げたのは、何と祷子だった。 「風間。珍しく居眠りしていないのは感心だ」 「……」 「質問だろう?どうした?眉間にしわをよせて」 「あの……騎士はいないんですか?」 「純粋な騎士の存在は確認されていないが、魔族は騎士と同等、もしくはそれ以上の戦闘能力を持つことが確認されている。しかも」 不意の二宮の沈黙。 それが、美奈代達の不安をかき立てた。 「……あの、まさかとは思いますが」 美晴は恐る恐る手を挙げた。 「魔法騎士とか?」 「……そうだ。そして」 「敵にメサイアが存在する可能性があるなんて……?」 二宮は、じっ。と美晴を見た後、頷いた。 「ありうる話になるだろうな」 「だったら」 そんな二宮に、さつきは口元を歪めながら言った。 「今頃、世界のどこかで、魔族のメサイアがご登場してるかもしれませんね」 「そんな立場に立ちたいのか?早瀬」 「絶対、イヤです」 「―――同感だ」 「つまり、我々のアフリカでの相手はこいつら?」 「そうだ」 「……質問があります」 美奈代は、棒読み同然の口調で右手を挙げた。 「生理その他、いかなる理由があろうとも、訓練課程の総仕上げである最終演習は参加が義務づけられている。日本に残る連中も実戦部隊相手に演習だ」 二宮はきっぱりと、反論を許さない厳しい口調で言った。 「退学という選択肢は、死亡以外では認めない。逃亡は問答無用で銃殺だ」 「……どうして」 美奈代は泣きそうな顔になった。 「戦闘経験豊富な実戦部隊ではなく、我々が?」 「その問題に対する答えを出せ」 「……対メサイア戦ではなく」 美奈代は本当に涙声で言った。 「単なる妖魔掃討作戦である以上、ベテランが参加するより、新兵の経験値確保の格好の機会だと上層部が見なしている」 「私の説明が必要か?」 「……当たっているなら結構です」 「ただし」 二宮は言った。 「―――風間」 「は……はい?」 ぼんやりした顔で話を聞いていた祷子は、思わず自分を指さした。 「私ですか?」 「神代達も別カリキュラムに回るが、お前もそうなることが決定した。お前は今回の演習には参加しない。内地で別なカリキュラムに入ってもらう」 「え?」 「ちょっ!?」 さつきが真っ青になって立ち上がった。 「き、教官!?それってまさか!」 「落ち着け早瀬―――別に風間がクビとか、そういうわけじゃない。風間は他の候補生とは違う所に送る」 「精神病院?」 「聞こえているぞ泉。これは軍機に抵触するため、本人のみに内容は告げることになる。風間、あとで残れ」 「……はぁ」 祷子は、どうにも理解できない。という顔で小首を傾げた。 「―――まぁ、風間も苦労するだろうが頑張ってもらうとして、問題は他の全員の演習だ」 「あ……あの?」 ようやく話が見えたらしい。さつきが恐る恐るという顔で手を挙げた。 「つまり、私達?」 「メサイアの操縦は戦闘機動訓練も終わっている」 二宮は言った。 「広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)の使い方は明日から始める」 「……妖魔焼却のためですか?」 「宗像、その通りだ」 「我々だけ?」 「第二中隊より護衛が6騎、それから我々教官騎も出る。基本的には“征龍(せいりゅう)”及び“雛鎧(すうがい)”。一部生徒には“幻龍(げんりゅう)”が与えられる」 「“幻龍(げんりゅう)”は第一分隊?」 「そうだ」二宮は頷いた。 「欲しかったら、もう少し我々教官達の受けを良くしておくべきだったな。該当地域制圧完了までが期間だ。1日で終わるか100年かかるかは神様仏様司令部様次第だ」 「……」 「富士学校は、もし、何かの間違いで貴様等が生き延びた場合のみ、卒業を認める方針だ。アフリカまで一月ほどの船旅の間、みっちり実騎訓練してやるから楽しみにしていろ」 「……で」 それまで、腕組みをして話を聞いていた宗像が、まるで念を押すような口調で訊ねた。 「我々はメサイアに乗って、広域火焔掃射装置(スイーパーズフレイム)で敵を焼き殺すだけ。対メサイア戦はないということですね?」 「ああ」 二宮は頷いた。 「演習としては簡単な方だ。私の場合はホンモノの対メサイア戦だった。各分隊までは、回された可動騎をローテーションを組んで使用した出撃となる」 「第一と、我々は?」 「第一分隊はともかく、お前等女性騎士と他の分隊の男性騎士がコクピットを共用で使い回すことは問題がある。富士学校所属騎を動かすから感謝するように」 「まさか」 「そうだ♪」 二宮は楽しげに言った。 「お前達の棺桶は、“雛鎧(すうがい)”だ」
https://w.atwiki.jp/yugio/pages/1433.html
マジシャンズ・ヴァルキリア(OCG) 効果モンスター 星4/光属性/魔法使い族/攻1600/守1800 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、 相手は他の魔法使い族モンスターを攻撃対象に選択できない。 マジシャン 下級モンスター 光属性 行動制限 魔法使い族 魔法使い族補助
https://w.atwiki.jp/openoreguild/pages/95.html
※あてんしょん※ ノリと勢いで書き上げたシロモノです 拙いです 一部改変が有ったり、設定をよく知らずに使ってます キャラ崩壊が著しい気がします ダークというかグロテスクな表現が含まれます 等など、あくまでパラレルな話としてお楽しみください 初めて書いたSSだからね、期待しても損するからね 1話「在りし日の思い出」 大陸の西側に位置する工業大国【マキナポルタ】の辺境には尖った耳とふさふさの尻尾を持った獣人族、狼族の里のひとつがある。 この里で生まれ育った者は密偵として国に雇われ、【プロメテンの火】という技術に関して争っている魔導大国【スピノー】へのスパイ活動を行う。 里の西端に位置する木造の小さな家には腕利きの密偵として里の住民から慕われるひとりの男とその家族が住んでいた。 男の妻とその息子と思しき年端もいかない少年、そしてその少年より何歳か年上に見える猫獣人が丸いテーブルを囲んでいる。 弟「ねえお兄ちゃん、この世界はいつ生まれたの?」 母「あなたもそういう事に関心を持つようになったのね、兄さんにそっくり」 弟「えへへ、それで、いつなの?」 兄「難しい質問だね…研究所の学者さん達も答えには辿り着いてないみたいだよ」 弟「えーっ、それじゃあ分からないの?」ショボン 父「でも、文明が生まれた時を世界の誕生とするならそれは間違いなく【フルゴル神】が降臨した時だろう」 弟「フルゴル……ああ! 毎日朝のお祈りを捧げる神様だよね!」 兄「よく知ってるな、えらいえらい」ナデナデ 弟「えへへー、僕だって里長さんから色々教わってるんだよ」 兄「へえ、どんな事を習ってるんだ?」 弟「色んなご本読んでもらったり、掟のこととか教えてもらうんだ!」 それを聞くと、父親は意外そうな顔をする。 父「お前、もう掟について教わったのか?」 弟「そうだよ! まだちっちゃいけどお父さんの息子だから特別だって教えてくれたんだ、【人知れず、静かに依頼を遂行する】でしょ!」 父「そうだ、偉いな……お前は俺以上の密偵になるよ」 そう言って頭を撫でる偉大な父を、少年は尊敬の思いで見上げていた――― 数年後 12歳となった兄は里で成人の儀を行い、正式に国雇の密偵として里を出て行った。 父も息子に修行を付けるために休んでいた密偵稼業を再開した。 弟「ねえお母さん、お兄ちゃんとお父さんはいつ帰ってくるの?」 母「今は二人共スピノーに潜入して情報を集めている筈だからしばらくは会えないって、知ってるでしょ?」 弟「うん……でも、寂しいよ。 このテーブルも、二人で使うには広すぎるよ……」 母「そうね、もうすぐお父さんの仕事が一段落つくから、久し振りに帰ってくるって役人さんが言ってたわよ」 弟「ほんとう!? もうすぐお父さんに会えるの!?」パアァ 母「だからもう寝なさい、お父さんに眠そうな顔で会いたくないでしょ?」 弟「うん! おやすみなさい!」 母「おやすみなさい……本当に良いの? あなた」 視線の先の箪笥から出てきたのは、毅然とした顔をした夫だった。 寝室に戻り布団に潜り込んだものの、久し振りにお父さんと会えるという興奮で、少年は中々寝付けずにいた。 弟「早く会いたいなぁ、お父さん! 早く帰って来ないかなぁ……」 ようやくうとうととしてきた頃、寝室の扉が開いた。 弟「ん……もしかしてお父さ……」 そこに居たのは全身を灰色のローブで覆い隠し、右手に大振りなナイフを持った人影。 弟「誰……?」 ??「…………」 恐怖で顔を歪ませる少年に無言で襲いかかる男。 少年は殆ど無意識に修行用の短剣でナイフを弾いていた。 弟「うわぁぁぁ! 助けて、お母さん! お父さん!」 絶叫しながら振るった短剣が男のローブのフードを掠め、一瞬男の顔が顕になる。 弟「お父さん……? 嘘だ、嘘だぁぁぁ!!」 状況を飲み込めないまま、少年は無我夢中で逃げた。 里を飛び出し、意識のある限り走り続けた。 東の空が僅かに白み始めた頃、少年は意識を失った。 =========== ==== == 次に少年が目覚めた時、目に映ったのは教会の天井だった。 シスターからの説明で昨日の夜中にうちがマキナポルタの役人によって燃やされた事を知った。 それから少年は教会で密偵の修行を積み、12歳で成人の儀を終えて国雇の密偵となった。 少年が密偵になって3年 少年は密偵の中にスピノー側の二重スパイが居るという情報を秘密裏に貰い調査をしていた。 そして、遂に二重スパイを捕らえることに成功した。 弟「これから貴方を尋問する…………兄さん」 兄「……麻痺毒の使い方が上達したな」 弟「何で……なんで兄さんが二重スパイなんか」 兄「答えるよ……そうだな、まずは俺がギルさん…父さんに拾われた時の話しをしようか」 弟「……聞くよ、早く」 兄「俺は今から15年前、スピノーの路上で父さんに拾われた」 弟「知ってる、それがどうかした?」 兄「それが、俺が密偵として最初に遂行した任務だ」 弟「えっ……そんな事って」 目を見開き後ずさりする弟に、麻痺で身体も動かせない状態の兄は静かに語り始める。 兄「俺は元々スピノーの教会に捨てられた孤児だ。 そこで催眠暗示を掛けられた」 兄「それは起爆スイッチを入れると『スピノーに雇われてマキナポルタの密偵の家に潜入したスパイだ』という記憶が蘇る暗示だ」 兄「暗示を掛けられた記憶を消されて俺はマキナポルタの密偵が潜入していると思われていたポイントに置き去りにされた」 兄「父さんはただの捨て子じゃないってことには気付いていただろう。それでも本当の息子のように育ててくれて、本当に感謝している」 兄「そしておれはスピノーの連中の思惑通り、密偵の手解きを受けてスピノーに潜入した」 兄「潜入先の高官に催眠暗示のキーワードを囁かれ、俺はマキナポルタの密偵に偽の情報を掴ませた」 兄「つまり俺は最初からスピノー側の人間だったのさ」 兄の独白を聞いて尚、少年はそれを受け入れられずにいた。 弟「そんな……嘘だ、だって兄さんはずっと優しかった!」 兄「そうあることが俺への命令だった、それだけのことだよ」 弟「それじゃあ、うちが焼かれた理由って……」 兄「ああ、俺に掴まされた虚偽の情報を伝えたことと、裏切り者を育てた罪だ」 兄「お前はとうとう親の仇をとっ捕まえたんだよ、やったじゃないか」 弟「こんなの、全然嬉しくないよ……あの優しくて、何でも知ってて、色んな事を教えてくれた兄さんがスパイなんて……信じたくない!」 兄「そうか……なら、もうお前に会うのも最後になるだろうから、ひとつ教えを授けてやるよ」 弟「教え……?」 兄「自分が本当に信じたいと思うものを信じろ……それだけだ」 少年はそれを聞いて、躊躇いがちに宣言する。 弟「なら僕は、僕は優しかった兄さんを信じるよ!」 兄「優しかった俺、か……良い台詞だ、感動的だな」 兄「……だが無意味だ。 お前はまだ甘い」 弟「僕は……」 兄「ゆっくり答えを探すがいいさ、お前にはまだ先がある」 少年は拷問の末に兄を殺害した。 =========================================== ================================ 弟「僕は、もう家族が死ぬのも、家族を殺すのもうんざりだ……」 そして少年は里を抜け、放浪を始める。 ====================== ================ マキナポルタを出て、何処までも歩いて行く。 ========== ====== フルゴル神信仰派の本拠地ともいわれる【スペロ】という国に入り、しばらく 遂に少年は力尽き、倒れた。 === == 少年が目覚めた時、そこは建物の中で、目の前には仮面を付けた青年が立っていた。 ??「俺はイグニス、ギルド【ファイアワークス】のマスターをやってる。 どうだ、行き場がないなら俺達の仲間にならないか?」 こうして少年は生産ギルドファイアワークスの一員として、新たな日々に身を投じていく事となる。 2話「イネルヴァの涙」 夕刻 ファイアワークスの本部にある個室で、狼族の少年「ペガ」は戸棚から分厚い紙束を取り出す。 紙束を机に乗せると、顕微鏡の様な道具を覗き込む。 ペガ「これがイネルヴァの涙か……流石に水の神様がくれたものだけあって、見たことも無い様な魔導構造をしてる」 イネルヴァの涙、それは若返りの効果を持つ秘薬である。 飲めばたちまちの内に身体が若返る、まさしく魔法の薬だ。 ペガ「これの構造を解明すれば延命の薬が作れるかもと思ったけど、中々難しいな……そっちはどうだい、鼠くん」 鼠「チュー…」 籠の中の鼠は弱々しい鳴き声を上げる。 ペガ「昨日2回目の経口摂取実験してからずっとこの調子だね、1年毎じゃあスパンが早すぎたかな?」 鼠「……」 応える声はない。 すでに鼠は息絶えていた。 ペガ「……っ!」 ペガ「やっぱり駄目か、所詮は若返りの薬、不死には程遠いって事かよ……」 少年は悔しそうに歯を噛みしめる。 そもそもの始まりは、少年がこのギルドに加入して間もない頃の事だ。 ギルドに居た不死鳥の末裔ともいわれる鳳凰族の男と長寿で知られるエルフの女が結婚し、ペガを養子に招き入れたのだ。 身寄りのなかったペガはとても幸せだったがある日気付いてしまった、長命種でない自分だけが先に老いて死んでしまう事に。 そしてペガは長い寿命を手に入れる術を探し始めた。 若返りの薬は上手く使えば不老の薬にならないかと思ったのだが、どうやら空振りの様だ。 ペガ「くそっ……こんなんじゃあ僕の寿命の方が先に尽きちゃうよ……親父にも、おかーさんにも、悲しい顔なんてさせたくないのに……!」 悲痛な声に返事はない。 と思っていたのだが、答える声があった。 ?? 「そんなことしたって、朱雀もフォートレスも喜ばないんじゃないかな……?」 ペガ「……蓬さん?」 そこに立っていたのは希少種族で心ない人達に狩られることもあるという、半蛇の少女……と言っても、両性具有だが。 蓬 「やめた方が良いよ、こんなことをしたって誰も救われやしない」 ペガ「そんな事っ! 蓬さんに何がっ」 そう言いかけて思い出す。 まだペガがファイアワークスに加入する前の話だが、かつて蓬の住む里が滅んでいる事を。 ペガ「……ごめんなさい、不謹慎でした」 蓬 「別に良いよ、大切な人達と死に別れる気持ちはよく分かる」 あくまで蓬は静かに諭す様な口調で喋る。 蓬 「でも、こんなことをして、何の意味があるの?」 ペガ「だって、僕はもう……家族と死に別れるのは御免なんだ!」 子供が我儘を言うように、少年は反論した。 蓬 「このことは誰にも話さない……もう一度考えて、それで本当に良いか」 そう言って蓬は部屋を出て行った。 少年はぽつんとひとり、部屋に取り残された。 ペガ「くそっ! どうしろって言うんだよ……」 ペガ「僕が親父やおかーさんよりも先に死ぬのはどうしようもない事じゃないか……」 ペガ「それをどうにかしたいって思うのが、そんなに悪い事かよッ!」 ペガは誰にぶつけることも出来ない思いを噛みしめる。 未だ成果は上がらず、どうすれば良いのか分からない状態だった。 果たして長命の術を手に入れるのが先か、 はたまた自分の寿命が尽きるのが先か、 焦りは増すばかりである。 ペガ「イネルヴァの涙も駄目……なら一体どうすれば……!」 【最後のアムリタ】をはじめとした『不死』に関する記述はこの世界にも多々ある。 しかしその殆どが架空の存在で、現存するものは何ひとつとして無かった。 ならば仕方ないとそれらの文献を調べて自作してやろうと思ったのだが、これが上手くいかない。 当然といえば当然なのだが、何度試作を繰り返しても実験用の鼠の死骸が量産されるだけだ。 もう駄目か、と思うたびに両親を悲しませる訳にはいかないと自分を奮い立たせる日々だ。 ペガ「いや待てよ、そういえばずっと昔に里長さんに読んでもらった本に確か……」 ペガ「駄目だ、思い出せない」 少年が望んでいることは果たして両親のためか自分のためか、もう分からなくなっていた。 ?? 「おい、小僧」 ペガ「……誰?」 知らない声だ。 ?? 「ここだここ、見えないのか?」 目線の先に居たのはひょろりとした立ち姿の男だ。 ペガ「誰だよ、あんた」 ?? 「あんたとは失礼な、俺はしがない外神だよ。 お前、不死になりたいんだろう?」 3話「銀狼の森の伝説」 狼族の青年は、実に10年程振りに故郷へと足を踏み入れた。 狼族の里は今も変わらずその営みを続けている。 門番「何者だ……」 ペガはローブのフードを脱いでみせた。 門番「お前まさか……ギルダーさんのところの坊主か? 10年振りくらいになるか」 ペガ「ええ、長い間留守にして申し訳ありません」 門番「良いんだ、お前の親父も災難だったな」 門番の男は笑顔で通してくれた。 里の中は以前と変わらない。 少年「兄ちゃん、見ない顔だな! 狼族だろ?」 ペガ「うん、ここの出身なんだ。 戻ってくるのは10年振りくらいだけどね」 少年「へぇー、それじゃあ会ったことない訳だ! 特に変わり映えしないだろうけどゆっくりしてけよ!」 ペガ「そうするよ、ありがとう」 見たこともない少年だが、昔よく通った雑貨屋のリンドさんの面影が有ったから、きっとその息子だろう。 ペガは少年を見送ると、里長が住む石造りの建物へと向かった。 ペガがここに来たのには理由があった。 昔里長に読んでもらった本、それが何か思い出したのだ。 本の名は【銀狼の森の伝説】確か狼族の青年が不死の力を授かる……そんな内容だったはずだ。 ペガはこの里で唯一の石造りの建物へと足を踏み入れた。 ペガ「久し振りですね、里長さん」 里長「……ペガ、か?」 ペガ「はい、里長さんはお変わり無い様で」 里長「大きくなったのう……何歳になった?」 ペガ「……25、です」 里長「そうか……お主が戻ってきてくれて嬉しいよ」 ペガ「ありがとうございます……今日は、訊きたいことがあって来たんです」 里長「ほう、それは何だい?」 ペガ「昔読んでもらった、銀狼の森の伝説って本のことなんですけど」 里長「懐かしいのう、今でも里の子供達に読み聞かせておるよ。 それがどうかしたか?」 ペガ「この本に書いてあることって、実話なんですか……?」 里長は目をぱちくりさせたが、ゆっくりと答えた。 里長「所詮は伝説、本気にすることではないよ」 ペガ「そう……ですか」 肩を落とすペガに向かって里長は続ける。 里長「しかし、お主が本当に真実を知りたいのなら……【リロリ村】に行ってみると良いかもしれんな」 ペガ「リロリ村? 聞いたことないですね」 里長「そこに地図がある、持って行くと良い」 ペガ「ありがとうございます」 地図を手に建物を出ようとするペガに向かって、里長は無邪気な笑みを浮かべた。 里長「ところで、儂がいつから里長をしているか知っているか?」 ペガ「何ですか、いきなり。 知りませんけど、いつからなんです?」 里長「秘密じゃよ」 そう言って里長は再び無邪気に笑った。 ペガ「リロリ村、行ってみないとな……」 ペガは地図を頼りに件の村を目指して歩みを進めた。 とうとう辿り着いたリロリ村。 長期休暇を取っていたとはいえ、相当な日数を費やしてしまった。 門を潜ったペガの目には、異様としか言えない光景が飛び込んできた。 男性が居ないのだ。 ひとりとして。 更に不思議な事に、村にいる女性は高く見積もってもても10歳程にしか見えなかった。 不思議そうに周囲を見渡していると、ひとりの年端もいかない少女がこちらに歩いてきた。 少女「ようこそリロリ村へ、儂がこの村の村長じゃ」 子供が村長の真似事をしていると思うだろう。 しかしその少女には外見には不釣り合いな凄みがあった。 少女「不思議か? しかしこの姿こそが、かつてこの地に【不死身の魔女】が居たことの傍証なのじゃ」 ペガ「それじゃあ、ここの人達は本当に……?」 少女「ああ、年を取らない。 それも何故かおなごだけ、な」 ペガ「その不死身の魔女さんは今何処にいるんですか!?」 少女「そうカッカするでない……そうじゃな、儂にも分からん」 ペガ「そんな……あ、そういえばここで年を取らない仕組みってどうなってるんですか?」 少女「儂も詳しくは知らん、じゃが不死身の魔女が不死の薬を零したらしい……そう伝わっておる」 ペガ「その薬はここにあるんですか?」 少女「見つかってはおらん。 じゃが、昔魔女が使っていたといわれる小屋が残っておる。 行ってみるか?」 ペガは一も二も無く頷いた。 魔女の書斎は混沌としていた。 大量の実験道具に試験管、膨大な資料が散乱している。 ペガ「この中から探せってことですか?」 少女「それも構わんが、もう調べた後じゃ」 ペガ「えっ……それじゃあ」 少女「不死に関係する資料は残っていなかった。 あったのはこれだけじゃ」 少女の手にあったのは、見る角度によって様々に色彩を変化させる美しい宝石だった。 ペガ「何ですか? それ」 少女「【心写しの石】というんじゃが、簡単にいえば持ち主の記憶を石の中に封じ込めるマジックアイテムじゃな」 ペガ「なんでそんな物がここに?」 少女「研究成果を記録しようとしたんじゃろう、中身の入った石はひとつも残ってなかったがな」 ペガは肩を落とす。 少女「そう気落ちするでない、永遠の命など詰まらないものよ」 ペガ「でも……どうしても、欲しいんです」 少女「強情な奴じゃのう……後悔するぞ」 ペガ「でもっ! ……それでも、僕は……!」 少女「まあよい、自分の生き方を決めるのは自分なのじゃからな。 ……これも何かの縁じゃ、持っていけ」 少女はそう言って宝石を差し出してくる。 ペガ「でもこれ、貴重なものじゃ……」 少女「良いんじゃ、これに大切な記憶を封じておけば、何時でも思い出せるんじゃから」 そういう少女の左手の薬指には、心写しの石が埋め込まれた指輪が嵌められていた。 ペガ「……分かりました、ありがとうございます」 ペガは石を受け取ると村を後にした。 そんな時、脳内に直接話しかけてくる声がある。 ?? 「おい小僧、収穫は有ったか?」 ペガ「なんだよ、外神」 外神「フーゼントーチ様と呼べ! ……そろそろ俺の力を借りたくなったんじゃないか?」 ペガ「……お断りだね」 外神「チッ ……釣れねぇ奴」 4話「花火の証」 初老の狼族は頭を抱えた。 時は流れ、ファイアワークスとして共に数多の冒険を繰り広げた仲間達はその多くが天寿を全うした。 ウォークさんはシャルちゃんに婿入りしてからたまにしか帰ってこなくなり、 ギリギリまで現役を続けていたイグニスさんもつい去年病に倒れ、逝った。 若い世代も力を付けてきているものの、今や古参組と呼ばれる猛者達は朱雀家の3人だけになってしまった。 次は自分だ。 そう思うたびに焦りに駆られる。 しかし、それは抗いようのない事実だ。 本当にそうだろうか? ずっと昔、少年の頃から考えていた方法。 だが、ずっと考えないようにしてきた方法でもある。 それはつまり、長命種の両親の身体を分析して長命の術を見つけようというものだ。 そもそもの目的に反すると、ずっと避けてきた方法だ。 しかし、それを選択せざるを得ない程に、彼は追い詰められていた。 ペガ「親父、おかーさん…………ごめん」 ペガは長年に渡って愛用してきたショートソードの刀身に麻痺毒を念入りに塗る。 そして、親父こと朱雀の寝室へと向かった。 音を立てない様に扉を開けたつもりだったが、朱雀はある程度見越していたかの様に言った。 朱雀「……ペガか」 ペガ「よく分かったね、親父」 朱雀「足音で分かるよ。 ……俺を殺しに来たか?」 冗談とも本気とも取れない口調に、ペガは狼狽える。 朱雀「お前に殺されるなら本望さ……息子の死ぬ姿は見たくない」 あくまで穏やかな調子を崩さない。 ペガ「…………ごめん」 そしてペガは足を踏み出し……いや、踏み出せなかった。 かつて自らの死を受け入れ、息子を逃がした父親と、 今ここで自らの死を受け入れ、息子を待つ父親。 ふたりの偉大な男を前に、足が動かない。 それどころか、ペガの頬には涙が止めどなく流れている。 ペガ「僕には……出来ないよ……」 弱音を吐いたのはいつ以来だろうか。 朱雀「そうか、俺もお前やフォートレスが悲しむのは嫌だよ」 ペガはそれ以上は何も言えずに朱雀の寝室を立ち去った。 ペガは懐からひとつの石を取り出した。 見る角度によって様々に色を変える不思議な宝石だ。 ペガ「まさかこれを使う日が来るとは思わなかった……」 ペガは宝石をじっと見つめる。 ペガ「本当に……これで良いんでしょうか」 応える声はない。 ペガ「大丈夫、きっと思い出せる……きっと」 自分に言い聞かせる様に呟く。 ペガ「心写しの石よ、その瞳を開き給え」 かつて教わった起動ワードによって、宝石が輝きを帯びる。 宝石に映り込むのは、4人の人影が仲良く食卓についている様子。 それが消えると同時に現れるのは、2人の人影が、1人の人影をもふもふしてる様子。 ペガ「ありがとう……父さん、母さん、兄さん、親父、おかーさん」 その呟きを聞き入れたかの様に、表面に文字が彫られる。 『愛おしい、大切な思い出』 ペガ「…………さよなら」 翌日は快晴 目を覚まし廊下に出たペガと鉢合わせたのはフォートレスだった。 フォートレス「あらペガちゃん、今日は早いね!」 これ程の時が過ぎても出会った時から全く変わらない美貌は、いつもペガにちくりとした痛みをもたらしていた。 しかし今日は不思議と何も感じなかった。 フォートレス「どうしたの? ペガちゃ……」 最後まで言い終わらない内にフォートレスは崩れ落ちる。 麻痺毒を塗った刃が腹部に突き刺さっていた。 別の部屋の扉が開く。 出てきたのは朱雀だ。 朱雀 「お前、なんて事を!!」 しかし朱雀は構えた剣を振り抜けない。 ペガ 「俺はもうあんたの知っているペガじゃない」 フォートレスに刺さっていたショートソードで抜き様に逆袈裟斬り。 朱雀も麻痺して倒れこむ。 そして、異常を察したファイアワークスの若い団員が廊下に出てきた。 団員 「ペガさん? ……あんた、何やって」 団員はおでこから血しぶきを上げて仰向けに倒れた。 魔導銃の弾丸が頭を撃ち抜いたのだ。 銃声を聞きつけて、多くの団員が駆けつけてくる。 しかしその多くがこの異常な状況を理解できていない様だった。 ペガは彼等に向かって無言で魔導銃を突き付けた。 最後に残ったものは、麻痺したまま倒れ伏す朱雀とフォートレス、 折り重なって倒れる死体の山、 そして、独りの殺人鬼だった。 これが絶望か。 自業自得、自分が招いた結果だ。 しかしそれを受け入れがたいと思う自分がいる。 足元で悲痛な表情を浮かべるふたりを見ても、最早何の感情も湧いては来なかった。 「こんなことをしたって誰も救われやしない」 ずっと昔に蓬にいわれた言葉が重くのしかかる。 でも、もう後戻りはできない。 する訳にはいかなかった。 トーチ「ったく派手にやったなあ、小僧」 ペガ 「……ああ」 トーチ「そろそろ俺の力を借りたくなったか?」 ペガ 「……何故」 トーチ「どっちみちここの設備じゃ研究は進まねぇし、もう少ししたら建物自体封鎖されるだろ」 ペガ 「……それで」 トーチ「お前の故郷にでも行って俺達の楽園でも作ってノンビリ暮らそうぜ?」 ペガ 「……楽園?」 トーチ「お前、こいつらの記憶封印したんだろ? だったらそれを元にクローンでも作りゃあ良い」 ペガ 「……そんなこと」 トーチ「出来るんだよ、俺ならな」 ペガ 「……そうか、それも面白いかもな」 最終話「置き土産-time-」 痩せこけた頬の狼族の青年は、ファイアワークスの本部で家族に囲まれて幸せに暮らしていた。 ペガ 「ねえおかーさん、この世界はいつ生まれたの?」 フォートレス「あなたもそういう事に関心を持つようになったのね」 ペガ 「えへへ、それで、いつなの?」 フォートレス「難しい質問ね…研究所の学者さん達も答えには辿り着いてないみたいだよ」 ペガ 「えーっ、それじゃあ分からないの?」ショボン 朱雀 「でも、文明が生まれた時を世界の誕生とするならそれは間違いなく【フルゴル神】が降臨した時だと思うよ」 ペガ 「フルゴル……ああ! 毎日朝のお祈りを捧げる神様だよね!」 朱雀 「よく知ってるね、えらいえらい」ナデナデ そう言って頭を撫でる偉大な父を、少年は尊敬の思いで見上げていた――― ?? 「ねえ」 ペガ 「親父ー! 今日も剣術教えてよ!」 ?? 「ねえってば」 朱雀 「良いぞ、今日は【エクスカリバー・モルガン】を教えてあげよう!」 ?? 「聞こえてないの?」 ペガ 「うるさいなあ、邪魔しないでよ。 折角楽しい夢を見てるところなのに」 マキナポルタの辺境にある狼族の里。 その西端にある焼け落ちた民家のすぐ側に、今は砦が建っていた。 砦には夜になると青い篝火が灯り、怪しく輝くという。 砦の中では独りの狼族が鳳凰族の男とエルフの女を使って不死の実験をしているらしい。 聞いた話では実は不死になることには成功していて、里の住民を攫って作り変えたクローンを相手に家族ごっこをしているらしい。 そんな噂がまことしやかに囁かれるようになったのは何時頃だっただろうか。 元々は狼族の里から逃げてきた少年が、老いて亡くなる間際に語り始めた話だっていわれている。 なんでも調べに行った連中はひとり残らず【オルフェ】とかいう化物に変えられちまうんだとよ。 そりゃあ実際に調べに行かれたら嘘がバレるからじゃあないのか? いやいや、実際に調査隊が組織されたことがあるらしいんだよ。 それでどうなったんだ? 誰一人帰って来なかったってさ。 まあ本当かどうかなんて分かんないけどさ。 ははは、そんなのただの作り話に決まってるさ。 いっそ俺たちで嘘を暴いてやろうぜ。 何言ってんだ、本当に化物にされちまったらどうすんだよ。 そんな訳ないだろ。 その里ってこの近くだろ、行ってみようぜ。 ったく、死んでも知らねぇぞ。 おいあれ……なんだ? 黒い……鳥人? おいおい、嘘だろ…… ほら、言わんこっちゃない! 神様ぁ……居るんなら助けてくれぇ! ?? 「やっと返事してくれたね」 ペガ「君が邪魔するからだよ。 また説教でもしに来たの? 蓬さん」 蓬 「違うよ、結局ペガくんが幸せになれたのか聞きたくて」 ペガ「同じじゃないか、でも残念だったね。 これ以上ないくらい幸せだよ」 蓬 「本当に?」 ペガ「決まってるだろう!? 親父やおかーさんとずっと一緒に居られるんだよ、こんなに幸せなことはない」 蓬 「……そっか、ならもう何も言わない」 ペガ「早くそうしてくれれば良かったのに」 蓬 「でも最後にもうひとつだけ言わせて欲しいんだ」 ペガ「何だよ、早く言えよ」 蓬 「あの外神に心を許したりしてないよね……」 ペガ「……解ってる。 あいつのことも、なんで蓬さんがそれを訊いたのかも」 蓬 「そっか。 なら安心だ、もう私が言うことはないよ」 ペガ「大丈夫だよ、向こうにはまだ【ファイアワークス】が居るんだから。 ……僕は皆を“信じたい”」 蓬 「そうだね、じゃあ、さよなら」 ペガ「さよなら」 そう言葉を交わすと、あの頃と寸分違わぬ姿の“少女”はペガの前から姿を消した。 トーチ「そろそろ虚しくなってきたんじゃねぇか? 首領サン」 ペガ 「何の用だよ、フーゼントーチ」 トーチ「おおっと、初めて俺の名前呼んでくれたか!? 俺ぁ嬉しいぞ!」 ペガ 「そんなことはどうでも良い、要件を言え」 トーチ「相変わらず冷たいねぇ……首領、お前は【あらゆる奇跡が収束した世界】が有ったら、行ってみたいと思うかい?」 ペガ 「なんだよ、それ」 トーチ「そのままさ。 あらゆる可能性が存在する世界さ」 ペガ 「……で、それがどうしたって言うんだ?」 トーチ「そこには手術台で寝転んでるお前の両親も居るはずだぜ、クローンなんかじゃない、な」 ペガ 「そうか……それは興味深いな」 トーチ「そこで、だ。 この【異世界渡航装置】を使ってそこに行かねぇか?」 ペガ 「そんなもんがあるなら早く言え……さっさと行こう」 トーチ「それじゃあ早速スイッチを入れるぜぇ!」 トーチ(馬鹿め! これで邪魔なファイアワークスの“最後のひとり”を異世界に送っちまえばこの世界は俺のモンよ!) トーチ(お前のお陰で量産出来たこの大量のオルフェを使って世界征服してやるぜ! ザマーミロ!) グサッ トーチ「…………グサ?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!! トーチ「何故……っ! 何故だ! 何故“砦ごと”ワープしてやがる! ま、まさか……お前! 裏切ったなぁ!!」 フーゼントーチの鳩尾には、かつてペガの父親が振るった剣【置き土産】が突き刺さっていた。 ペガ 「折角ここまで一緒に来たんだ。 楽園に辿り着く時も一緒が良いだろ? 相棒」 トーチ「ち、ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 フーゼントーチはペガに取り込まれ、その瞬間を以ってこの世界から砦は消滅した。 =============================================================================================================== ============================================================================================================ 蓬「ゆーきやこんこ、あられやこんこ」 ===================================================================================================== ================================================================================================== 砦が消えると、その残骸が青い火の粉と灰の雪となって降り注いだ。 ========================================================================================= ===================================================================================== 蓬「ふってはふってはずんずんつもる」 =========================================================================== ====================================================================== マキナポルタに降った【灰の雪】は、一大ニュースとして大陸中に広がった。 ========================================================= =================================================== 蓬「やーまものはらもわたぼーしかぶり」 ======================================== ================================= しかし、灰の雪に纏わる悲しいエピソードを知るのはただひとりだけ。 ======================= ================= 蓬「かーれきのこさずはながさく」 ========= ====== 雪が止んだ後に残ったのは、清々しい程の青空だった。 === == 蓬「さて、この空を守ったのはいったい誰なんでしょうか? ……ねぇ、ペガ」 -Fin-