約 2,184,050 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7353.html
ルイズは困惑していた 春の進級試験、使い魔召喚の儀式にて 周囲や彼女自身の予想を裏切って、彼女は意外なほどあっさりと召喚を成功させた そしてルイズは困惑していた 目の前の召喚された使い魔となる生物を見て ソレに不満があったわけではない、目の前に居るそれは召喚の成功の証 自分の魔法の初めての成功の証であり、ルイズの心は未だ踊りだしたいくらいの歓喜に震えている しかし・・・ルイズは不満こそ無いものの、不安に支配されかけていた それは小さかった 自分の膝の高さくらいの小さな人型、そしてとても華奢に思える細さだった そしてその顔は一言で言うならば・・・そう、『虚無』だ その眼は空洞だった、覗くと吸い込まれてしまいそうな暗闇を秘めた空洞 一切の光も意思も見られない空洞・・・まさしく『虚無』と言い表すに相応しい眼だった だが何より不安を感じていたのは『コントラクトサーヴァント』の成否だった 契約を成功させる自信はある 自分は召喚を成功させたのだ、今の自分に契約を失敗することなどありえない そう・・・口付けを交わせればの話だが 使い魔候補の生物は小さくて華奢な人型で、虚無と呼ぶ他無い暗闇そのものの眼をして 全身から縦横無尽に針が生えていたのである それから暫くして、教え子の初めての成功に喜び、彼女を賞賛しようか これから待ち受ける試練に向けて激励しようか、悩んで複雑な表情を浮かべた引率教師コルベールに促され ルイズは目を閉じ、ひょっとこのように口を限界まで前に押し出し、意を決して契約に挑んだ 「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」 青空の下、少女の悲鳴が木霊した 見た目貧弱な使い魔といえ、”ゼロのルイズ”とバカにされ続けた少女が初めて成功させた魔法 陰ながら誰より彼女を認めていたキュルケやコルベールは言うに及ばず 日頃から彼女をバカにしていた級友たちですら、この勇気ある行為に踏み切ったルイズを心の底から賞賛したという その使い魔は小柄な身体から察せられる通り、機敏に動いた 主であるルイズの目を放した隙に、あちこちに出歩いて学院のあちこちで目撃情報が寄せられる 慣れれば可愛らしくもあり、妙に愛嬌のあるそれは密かに学院中で人気を集めていた 「・・・あんた何やってんの」 食堂で足元に現れた食後のデザートを乗せたトレイに向かって話しかける その姿はトレイに隠れてまるで見えないが、ルイズにはすぐ分かった これが自分の使い魔だと 指も無い手だったが、意外と器用だった 針が指代わりになっているのだろうか、などと考えたりするが、観察してもよく分からないので深く考えないことにした 「申し訳ありません、ミス・ヴァリエール、私も止めたのですが・・・」 メイドのシエスタだ、この使い魔に時々水を与えてくれる姿を目にする 使い魔も随分と懐いてるようだし、この使い魔の身体じゃ迂闊に触れて止めようともできなかったろうことを考えると 使い魔がデザートの配膳してるくらい別に構わないと思った、自発的に行っているのも本当だろうし 「いいわよ、別に。 好きにやらせてあげて、でも呼んだらすぐに来なさいよ?」 使い魔はクルリとその場で一回転して返事をして、そのままデザート配膳に戻った それから程なくして、モンモランシーともう一人の少女の怒号と酒瓶の割れるような音が二発響き 何事かと思って見に行けば 逆ギレしたギーシュが使い魔にイチャモン付けていた 要約すると ギーシュがモンモランシーから貰った香水の瓶を落とした→使い魔がそれを拾ってギーシュに返そうとしたがシカトされた →それを見たケティ(下級生)がギーシュの浮気を知りギーシュをワイン瓶で殴打→モンモランシーもまた同じく →「君が香水の瓶なんて拾うからこうなったんだよ」と使い魔に責任転嫁するギーシュ →すっとぼけた様な表情を浮かべ沈黙したままの使い魔になんかムカムカしてきてついに決闘騒ぎに どうやら先に受けたケティとモンモランシーの酒瓶攻撃で酔ったらしい、大人気なくも使い魔相手に決闘を申し込んだギーシュは既に半分正気では無かった そんな奴の相手をすることは無いと思い主として当然使い魔を連れ帰ろうとした 「ほら行くわよ、あんな奴の戯言に付き合うことなんてないわ・・・ってちょっとアンタ」 使い魔はヴェストリの広場に向かうギーシュ(と彼に肩を貸す友人たち)の後を追おうとしていた 「アンタご主人様の言うこと聞いてないの!? あんな酔いどれに一々付き合うことなんて無いんだからとっとと帰るわよ!!」 しかし使い魔は首を縦に振らなかった(見た目からして首が回ったりするようには見えなかったが) 『売られた喧嘩は買うもんだ』と言わんばかりに何やら好戦的なオーラを漂わせていた 本来なら腕ずくでも止めるべきだったが、それは出来なかった、何せ針だらけだったから・・・・・・ 後でシエスタから聞かされたことだが、ギーシュは使い魔に対する八つ当たりの中で”ゼロのルイズ”と何度と無く私を中傷していたらしい (ひょっとして使い魔のあのオーラは、私の為に怒ってくれてたのかな・・・?)と思うと少し嬉しくもあった ヴェストリの広場はギーシュに対するブーイングで割れんばかりだった 二股がバレて逆ギレしたギーシュがルイズの愛くるしい使い魔を虐待して鬱憤晴らしをしようとしていると聞いた女子生徒が押し寄せたのだった そんな中でギーシュはすっかり酔いも覚めて正気に戻り見え張ってポーズ決めているものの 内心では数分前の自分をワルキューレでボコボコにしたい気分だった しかし一度宣言した手前、もう後には退けない、泣き出したいのを堪えてワルキューレを一体呼び出す (少し軽く小突いて適当に切り上げよう、ごめんね使い魔君・・・) 明らかに非力な目の前のルイズの使い魔にギーシュは心の中で懺悔する しかしもう遅い、彼はこの後更に激しく懺悔を繰り返すことになる ギーシュはドットクラスといえゴーレムを作り操る手腕はそれなりにあった 対する相手は”ゼロのルイズ”の使い魔、勝敗は誰の目にも見えて明らかかと思われていたが・・・ ギーシュのワルキューレはルイズの使い魔に全く有効な一撃を与えるに至らなかった ルイズの使い魔は機敏に動き回り、ワルキューレの攻撃をかわしていた そのスピードはあまりに速く、逆に緩慢に動くような残像を見せてギーシュを翻弄した ワルキューレを体当たりさせようとすれば避けられて、徐々にだが精神力を消耗するギーシュは次第にまた苛立ちを募らせていった しかも集まったギャラリー(女子生徒)はルイズの使い魔の思わぬ活躍(避けてるだけだが)に歓声を上げている それが更にギーシュの苛立ちを増してゆき、冷静さを失わせていた (くそっ・・・こうなったら複数のワルキューレで取り囲んでボコボコにしてやる!!) さっきまで懺悔してたものがいつの間にかこうである しかしギーシュを責められたものでもない、確かに散々翻弄されまくって目の前の使い魔のとぼけたような顔はなんかムカつく ギーシュの手にした薔薇の造花・・・彼の杖の花びらが舞い散り、地面に落ちて更に6体のワルキューレが錬製されてルイズの使い魔を取り囲んだ しかしルイズの使い魔は7体のワルキューレの包囲網を小さな身体で掻い潜り、回避し続けていた 一見すると防戦一方のこの戦いだったが、駆けつけた彼の主であるルイズ、屋根の上から観戦していたキュルケとタバサを初めギャラリーの中の何人かも気付いていた 回避行動ばかり続けるルイズの使い魔が、その合間合間に【何かを束ねている】ことに・・・ 「ハァ・・・ハァ・・・くそッ!!」 息切れし、悪態をつくギーシュが攻撃の手を休めた時、ルイズの使い魔の虚無の闇を秘めた様な眼が光ったように錯覚した 次の瞬間、ワルキューレの一体がヒビ割れて崩れ落ちる 誰もが呆然とした、ほとんど何の前触れも無く、否、無数の風を切る音が聞こえた次の瞬間ワルキューレがバラバラに砕け散ったのだ 「え、何?何が起きたの・・・?」 「ギーシュのワルキューレがいきなり砕けたぞ!?」 「ルイズの使い魔がなんかしたのか?」 「まさか・・・」 突然のことにギャラリーも驚きを隠せない 対峙するギーシュは自分の精神力が尽きたのかとさえ思ったが、他の6体は正常 ルイズの使い魔に何が出来るとも思えない、周囲の女子生徒の放った風魔法かと思ったが 風を切る音は確かに目の前で発生したもの、となると信じられないがルイズの使い魔が何かしたものと思っていい ここにきてギーシュは”ゼロのルイズ”の使い魔と侮ることをやめ慎重に距離を取り、周囲に4体のワルキューレで壁を作り 残る2体で攻撃を再開した しかし相変わらずワルキューレによる体当たりは回避されるばかり それでもギーシュは目を凝らしてルイズの使い魔が回避の合間に何をしているのかを見極めようとした そして気付いたのだ (あいつ・・・【何かを束ねている】・・・? 抜いてる・・・? 自分の針を・・・・・・???束ねて・・・・・・!?) ルイズの使い魔は束ねた千本の針を飛ばし、ワルキューレの全身に突き立て粉砕した その恐るべき破壊力の正体を知りながら、妙にギーシュは冷静に疑問を浮かべていた (あんなに抜いて束ねてるのに見た目は変わらないなんて・・・凄いスピードで生えてるのか?) そんなことを考えてるうちに攻撃にまわしたもう1体も破壊された またも自分の身体から針を抜き束ね始めたルイズの使い魔の姿に正気に戻されたギーシュは慌てて命令する 「ワ、ワルキューレッ!奴を止めろッ!!」 2体を再び攻撃に転じさせ、残る一体を自分の護衛に残す しかし相変わらずの回避、回避、回避、回避、回避・・・・・・・・・・・・? (・・・長過ぎるんじゃね?) いくらなんでも長過ぎる、さっきまでのことを考えればもう10回分は撃たれていそうなもの・・・ そう考えた瞬間、攻撃に回したワルキューレが砕け散った、間を置かずにもう一体も砕け散る 残像を残しながらルイズの使い魔が近づいてきて最後のワルキューレの目前に迫った 風を切る音と共に最後のワルキューレが砕け散る 今までと違う攻撃発動のタイミングと回数にギーシュは気付いた (こ、こいつ・・・) ルイズの使い魔が束ねたモノをギーシュに向ける (【仕事量を10倍に】・・・・・・ッ!?) 風を切る音が聞こえる (つまり僕には7回分の・・・・・・ッ?!) 小さくて細い合計七千本の針がギーシュの年若い柔肌に突き立てられる 「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」 ヴェストリの広場にギーシュの悲鳴が響いた 仰向けに倒れたギーシュの断末魔の表情の判別は困難を極めた 何せルイズの使い魔以上の密度で縦横無尽に針が突き立っていたからだ(それでも眼球など急所は外されていた) ざわざわとどよめきが巻き起こる 「うわ・・・悲惨だ・・・」 「おーい!道を空けろーー!!水の秘薬の準備だーーー!!」 「この決闘はルイズの使い魔の勝ちーーー!!」 誰かのこの叫びにルイズの使い魔のファンになった女子生徒の歓声が巻き起こり ルイズもまた心配をかけた自分の使い魔を叱りつけようと思いながらも 使い魔の無事に安堵し、我を忘れて駆け寄った ルイズの使い魔もまた、本来ひ弱な自分が振り絞った勇気で得た勝利に喜び 愛しいご主人様の姿を見つけて【抱きついた】 「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!!!!!!!!!」 ヴェストリの広場にルイズの悲鳴も轟いた 『使い魔のハリセンボン』 ファイナルファンタジーⅥよりサボテンダー召喚
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/944.html
烈火! 気高く咲け薔薇の戦士よ その② 「ああ、ギーシュ様……」 森に隠れながら、シエスタはギーシュとフーケの戦いを見守っていた。 自分は無力な小娘。メイジの戦いに手を出せるような力は無い。 そして天高く飛翔して戦う竜の羽衣とシルフィードの力にもなれない。 無力。どこまでも無力な平民の少女だった。 けれど。 「負けないでください、ジョータローさん……ギーシュ様……」 勝利を祈る。それくらいの事は、彼女にもできた。 そしてシエスタの家族も、数日前ヨシェナヴェをご馳走した貴族一行の勝利を祈った。 空を駆ける竜の羽衣に乗る承太郎とルイズの勝利を。 空を駆けるシルフィードに乗るタバサとキュルケの勝利を。 草原でたった独り敵と対峙するギーシュの勝利を。 祈った。 ひたすらに、ひた向きに。 焼け焦げた草が舞う中、紅い炎が周囲に広がる中、二人は対峙していた。 「ようやく……僕の名前を呼んだな……」 「それしきの事で……対等になったなどと……思い上がりをッ」 真っ直ぐに伸ばした腕の先で、杖と杖の先端が触れそうな至近距離。 お互い『間合い』ではない。二人とも接近戦は得意分野ではない。 だが……後ろには引けない。 距離を取るという戦略的後退すら、今の二人は『惰弱』と断じる。 「決闘だフーケ。今ここに『青銅のギーシュ』が決闘を申し込む!」 「受けて立つわ。……すぎた冥土の土産に感謝して、死んでこうべを垂れなさい。 この『土くれのフーケ』が相手になって上げるのだから!」 かつてラ・ロシェールでゴーレムを燃やされた時、フーケの魔力は尽きた。 岩を使ったゴーレムさえあれば勝てると思って全魔力を込めていたからだ。 だが今は違う。万が一に備えて精神力は残してある。 消耗はあるが、ドットメイジの一人や二人、始末する程度の魔力は。 ギーシュも消耗していた。大量の花びらを操り、その花びらからワルキューレを精製。 さらに基礎とはいえ錬金を遠距離で連発。 ドットメイジでしかないギーシュはそもそも魔力の量が少ない。 今ワルキューレを出したとして、いったい何体まで生み出せるか解らない。 せいぜい一体か二体が限度だろうか……。 その二人が同時に魔法を唱える! 「錬金!」 「ファイヤーボール!」 フーケの足元が油の沼に変わり、ドプンと膝下まで沈む。 その拍子で手元が狂い、相手の顔目掛けて放たれたファイヤーボールは、 ギーシュの頭の横をかすめて髪の先っぽを焦がす程度に終わった。 「くっ……貴様ッ! 私を油まみれにして……引火させる気か!」 「結局クイーン・ワルキューレは失敗作だった。新しい魔法は何も無い。 僕の武器はゴーレムと錬金だ! 炎の中に叩き込んでやる!」 ギーシュが薔薇の杖を振り、花びらが二人の間に落ちる。 「出ろォォォッ! ワルキュゥゥゥレェェェッ!!」 真っ先に現れたのは青銅のスピア。そしてそれを握る拳。 青銅の戦乙女がスピアをフーケに振り下ろしながら地面から現れる。 「ハンッ……後方不注意よ!」 突如背後から物凄い衝撃を受けたギーシュは、 目の前のワルキューレに突っ込んでもろともに倒れる。 しかも、それを予想したフーケが即座に油の沼から横に這い出していたため、 ワルキューレともども油の沼に倒れこんでしまうギーシュ。 「ぐはっ!」 「もうゴーレムを作る魔力は無い……しかし、片腕程度ならどうにかなるわ」 見ればギーシュが立っていたすぐ後ろから、小さなゴーレムの片腕が生えていた。 といっても腕だけで長さ二メイルはある。 「ちょうど油もある事だし、自滅なさい。ファイヤーボール!」 自分が巻き添えにならないようフーケは後ろに下がりながら火球を放った。 背後から迫る熱気を感じて、ギーシュはワルキューレに命じる。 「僕を跳ね飛ばせ!」 ワルキューレはグンッと逆立ちをしてギーシュを前方に放り出す。 と同時に、盾となってフーケのファイヤーボールを受け油の中に炎とともに沈んだ。 地面を転がりながら炎を回避し、自分の身体についた油を確認するギーシュ。 不幸中の幸いというべきか、ワルキューレが下になってくれたおかげで、 油はマントの端っこにかかった程度ですんだ。 「ほらほら、早く逃げないと……大怪我するわよ!」 フーケが笑い、ゴーレムの腕が地面に引っ込んだと思うと、 今度はギーシュの足を掴みながら現れた。 「しまった!」 「炎に焼かれ灰と散れ!」 ゴーレムの腕は絶大なパワーでギーシュをぶん投げた。 未だ燃え盛るゴーレムの残骸の方向へと。 「くっ!」 レビテーションやフライをかけても、ブレーキがかかる前に炎に突っ込む! ならば直接的な方法でブレーキをかけるしかない! 「残りの精神力を考えればこれが限界……最後のワルキューレだ!」 杖を振り、花びらが地面に落ち、即座にワルキューレが現れる。ギーシュの前方に。 「受け止めろ!」 ガッシィーンとギーシュを抱きしめるようにして受け止めたワルキューレは、 その場に尻餅をつき、ギーシュ自身は青銅にぶつかった衝撃で肩に激痛が走る。 「グゥッ!? 左腕が……上がらないッ!」 痛みをこらえつつ、よろよろと立ち上がるギーシュ目掛けて、 さらにファイヤーボールの追撃。その速度回避不能。ならば。 「ワルキューレ!」 最後のワルキューレはスピアを地面に突き刺すと、 盾となってファイヤーボールを受け止め、ボロボロと崩れ落ちる。 その間にギーシュは杖をしまい、ワルキューレの残したスピアを引き抜いていた。 もう精神力はほんのわずか。錬金はフーケに警戒されて通用しないだろう。 肉弾戦しかない! だがフーケが接近を許してくれるだろうか? そう疑問に思った瞬間、ギーシュは信じられないものを見た。 ファイヤーボールで崩れ去ったワルキューレをフライで飛び越えたフーケが、 飛び蹴りをギーシュの顔面に叩き込んできたのだ。 靴裏に鼻と唇を蹴り飛ばされ、ギーシュは思いっきり後ろにすっ転んだ。 蹴られた唇に鋭い痛みが走り、血がしたたり落ちる。どうやら切れたらしい。 よろめきながらもスピアを手放さず、ギーシュは踏ん張ってスピアを構えた。 「素人が……そんな長い得物を振り回したところで、ダンスにもなりゃしないわよ」 「そっちこそ……どうして飛び蹴りなんかしたんだい? まさかとは思うが……もう魔法を使う精神力が残っていないのか? 土くれ」 血で濡れた唇でニイッと笑って見せるギーシュ。 ご名答とばかりに杖をしまい拳を握るフーケ。 「そうね、後はレキシントン号に『フライ』で帰る程度の精神力しか残ってない。 でもね、私は魔法だけで盗賊稼業をやってきた訳じゃないのよ……お坊ちゃん」 「僕は貴族だ。貴族の誇りを失った盗賊などに、負ける訳にはいかない……!」 右手一本で重いスピアを突き出すギーシュだが、 軽々と回避したフーケは踊るような仕草で一回転し、左の裏拳をギーシュの頬に叩き込む。 「ガハッ……!」 さらに右の手刀で脇腹に突き、肉をえぐるように捻り上げる。 「グアアァァァッ……」 しぼり出すような悲鳴を上げて、ギーシュはスピアを地面に落とす。 だがスピアが地面に触れる事はなかった。 その前にフーケが空中で拾い上げたからだ。 「槍は強い。剣の間合いに入らず攻撃ができるし、懐に入られても棒として利用できる」 軽やかな指さばきでスピアを回転させたフーケは、 遠心力の乗った一撃をギーシュのすねに打ち込む。 「グッ!」 「さらに駄目押しッ!」 その場に崩れ落ちようとしたギーシュのあごをスピアの柄で殴り上げる。 ギーシュは仰向けになってその場に倒れ、上下反転した視界の中、紅い揺らめきを見た。 「あら……思ったより火の回りが早いわね。 危ない危ない……もう少し近づいていたら火達磨になるところだったわ。 私がじゃなく、あなたがね。別にあなたが焼け死んでも構わないけど、 私にまで飛び火したら困るでしょう? 焼け死ぬなら私から離れて焼け死になさい。 でもまあ焼死ってつらいだろうし……自分の武器で死ぬのも無様でいいわ」 スピアの刃の部分をギーシュに向けたフーケは、 残忍な笑みを浮かべてギーシュの心臓に狙いをつける。 「まだだ! まだ僕は負けちゃあいないッ!」 ギーシュが吼える。 左腕。ワルキューレにぶつかった時に肩を痛め、指を動かすのがやっとだ。 右足。スピアですねを殴られて痺れてしまっている。骨に異常があるかもしれない。 無事なのは右腕と左足。 だがどう戦う? どう戦えばいい? ――熱い。炎が近い。 瞬間、ギーシュの思考が爆発したかのような勢いでほとばしった。 それと同時に右腕で再び薔薇の杖を抜く。 もうワルキューレを生み出す精神力も残っていないのに? ああ、そうだとも。ワルキューレを生み出せないのに……だ。 ギーシュは自分とフーケがイーブンである事を理解した。 フーケはもうゴーレムを作る精神力が無く、帰りにフライを使う程度が精々だ。 だから槍を奪って肉弾戦を仕掛けてきた。 ならば自分は? ギーシュはもうゴーレムを作る魔力が無く、基礎的な魔法しか使えない。 だから――どうする? 肉弾戦で対抗する? 上回る力に、下回る力で対抗しても勝ち目は無い。 ならば魔法だ。 ワルキューレは使えない。 錬金は使えたとしてもフーケがかかってくれるだろうか。 他にできる事は? 薔薇ッ! フーケが槍を振り下ろすと同時に、ギーシュは身をよじりながら杖を振るった。 直後、無数の花びらがフーケ目掛けて舞う。 「くっ! 目くらましなんか!」 紅く染まる視界の中、花びらを貫いて槍を繰り出す。 地面に突き刺さる感触がして、フーケは狙いが外れた事を理解した。 花吹雪の中、ギーシュは最後の精神力を振り絞って花びらを操る。 タバサのように風の魔法で勢いよく飛ばすなんてできない。 だがこの距離ならば何とかなる。 フーケは槍を振り上げ花びらのカーテンを引き裂いた。 その向こうに、半身を起こして杖を向けるギーシュの姿があった。 「紅い薔薇よ! 紅く燃えろ! 烈 火 の 如 く ッ !!」 無数の花びらのが空中を蛇のように宙を舞い、ギーシュの背後で燃える炎に飛び込む。 油に錬金せずとも花びらは燃える。そして無数の燃える花びらがフーケの方へと舞う。 「悪あがきを!」 思ったより火の回りが早い。フーケは後ろに下がりつつ槍を振り上げた。 この槍をぶん投げてギーシュの胴体にぶち込んでやる。 致命傷を負えばこいつはもう草原を焼く炎から逃れられず焼け死ぬ。 だが、ギーシュは闘志の炎を瞳に映し、最後の精神力を振り絞った。 引火した一枚の花びらが、地面スレスレをフワリと舞い、フーケの足をかすめる。 たった一枚の小さな花びらが。 直後、フーケの足が炎上した。 「貴様の足は……油でびしょ濡れだ。引火させるには、花びら一枚の火で十分!」 「ひ……火がッ!? 燃え……熱ッ……!」 その場を転げ回って火を消そうとするフーケだが、 油に引火しているためなかなか消えない。 「くっ……この土くれのフーケが、こんな……半人前に……! 逃げなくては……一刻も早く、水のある場所に! このままでは、やっ、焼け死んで……しまうゥッ……!」 フーケは杖を抜き、炎の熱さをこらえつつ『フライ』を詠唱。 足が燃えたまま飛翔し、いずこかへ飛んで逃げていった。 勝敗を分けたのは、帰る事を念頭に戦っていた余裕と、 すべての精神力を使い果たしてまで戦おうとする闘志との差にあったのかもしれない。 泥とススにまみれた勝利を掴み取ったギーシュは、 仰向けに倒れたまま、燃える花びらが降ってくる空を見た。 竜の羽衣が、シルフィードが、日食の真っ只中の空を飛んでいる。 そして戦っている。敵の風竜と、旗艦レキシントン号と。 「ああ……早く決着をつけたまえよ、日食が終わってしまう前に」 無数の紅く燃える花びらがギーシュの周囲に落ちる。 そして燃える。草原が燃える。ギーシュの周りを囲むように。 「……熱いなぁ、ここは。僕は死ぬのかな……?」 身体に力が入らない。精も根も尽き果てたらしい。 そんな自分を、なぜかギーシュは酷く客観的に見つめていた。 「……モンモランシー。もう一度、君……と…………」 そう呟いて、ギーシュは静かにまぶたを下ろす。 言葉の続きは出なかった。何と口にしようとしたのかも思い出せなかった。 もう指一本動かせない。 ――熱い。苦しい。のどが渇く。 草が燃える音が聞こえる。草が燃える熱さを感じる。 このまま死ぬのだろうか? 死ぬのは嫌だ。でも、不思議と悔いはない。 けれど、ひとつだけ願えるとしたら。 それはとてもささやかな願いだった。 ――せめて、最後に、水を……一滴でいいから……水…………。 その願いが天に通じたのか。 ポツリ、と、唇にしずくが落ちたような気がした。 それが夢であれ、幻であれ、ギーシュは最後の最後に訪れた癒しに感謝した。
https://w.atwiki.jp/anime_wiki/pages/20854.html
ワルキューレ FINAL LIVE TOUR 2023 ~Last Mission~ ミッション・コンプリート盤 ライブベストアルバム「Absolute LIVE!!!!!」 [初回限定盤] [4CD + Blu-ray] 発売日:12月20日・5月17日 ワルキューレ、最終章。2023年5月20日~6月4日にかけて行われ、 約74,000人を動員した「マクロス」史上初の全6公演アリーナツアーのうち、 初日と千秋楽を完全収録。更に、Day2とDay5のアンコール部分、 全6公演のバックステージに密着したドキュメンタリー映像を収録。 総収録時間約10時間超。豪華68Pフォトブック 愛蔵版ケース仕様。 ここを編集 2016年4月放送開始。マクロスFシリーズの8年後の世界。2021年9月、Blu-rayBOXが発売。劇場版に劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレがある。 http //macross.jp/ 総監督 河森正治 監督 安田賢司 原作 河森正治、スタジオぬえ シリーズ構成 根元歳三 キャラクター原案 実田千聖 キャラクターデザイン・総作画監督 まじろ、進藤優 メインアニメーター 中山竜 バルキリーデザイン 河森正治 メカニックデザイン ブリュネ・スタニスラス 世界観デザイン ロマン・トマ デザインワークス 大橋幸子、吉川美貴、宮崎真一 衣装デザイン 江端里沙 マクロスビジュアルアーティスト 天神英貴 サブキャラクターデザイン 清水貴子 シグルヴァレンスデザイン 宮武一貴 美術設定 ニエム・ヴィンセント、ンゴ・ロング 美術監督 池田繁美、丸山由紀子 色彩設計 林可奈子 撮影監督 岩崎敦 撮影監督補佐 長谷川大介 CGディレクター 森野浩典 CGスーパーバイザー 加島裕幸 CGアニメーションディレクター 崎山敦嗣 CGプロデューサー 青谷崇司 メインバルキリーモデリング 池田幸雄、坂本圭司 モニターグラフィックス HIBIKI、鈴木陽太、加藤千恵 特殊効果 飯田彩佳 編集 坪根健太郎 編集助手 松本秀治 音響監督 三間雅文 音響効果 倉橋静男 録音 田上祐二 音響効果助手 山谷尚人 録音助手 野田稔晃 音楽 鈴木さえ子、TOMISIRO、窪田ミナ 文芸 小太刀右京 文芸補佐 三輪清宗 原作・アニメーション制作 サテライト 脚本 根元歳三 樋口達人 小太刀右京 待田堂子 絵コンテ 河森正治 安田賢司 島津裕行 岩崎光洋 松林唯人 西澤晋 大脊戸聡 大和直道 佐藤英一 黒河影次 ヤマトナオミチ 成田巧 和田純一 金子伸吾 平池芳正 演出 安田賢司 松林唯人 嶌田惣一 大脊戸聡 矢吹勉 成田巧 玉田博 ヤマトナオミチ いとがしんたろー 筑紫大介 大和直道 宮澤良太 佐藤英一 近藤一英 古賀一臣 名取孝浩 作画監督 まじろ 進藤優 長田好弘 清水裕輔 土屋浩章 皆川一徳 酒井智史 田中克憲 吉田巧介 丸岡功治 植竹康彦 畑智司 井上英紀 長坂寛治 高田和典 杉本里菜 山村俊了 仁井宏隆 竹本美希 関口雅浩 シノミン 横山紗弓 西川真人 永川桃子 福島勇 牛屋琴乃 伊藤亜矢子 日高真由美 山中正博 福士真由美 吉川美貴 中山竜 大橋幸子 小田真弓 吉田隆彦 熊谷哲矢 丸藤広貴 ■関連タイトル マクロスΔ Blu-ray Box Walkure Edition 特装限定版 ワルキューレ FINAL LIVE TOUR 2023 ~Last Mission~ ミッション・コンプリート盤 初回限定盤 Blu-rayDisc付き マクロスΔ ライブベストアルバム「Absolute LIVE!!!!!」 [初回限定盤] 4CD + Blu-ray Blu-ray ワルキューレ LIVE 2022 ~Walkure Reborn!~ at 幕張メッセ Blu-ray 劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!! / 劇場短編マクロスF ~時の迷宮~ 特装限定版 ライブBlu-ray付き「劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!」ボーカルソング集 3rdアルバム Walkure Reborn! 初回限定盤 超時空要塞マクロス 河森正治デザイナーズノート Blu-rayDisc付き ワルキューレ 未来はオンナのためにある リスアニ! Vol.41 マクロスΔ特集 Blu-ray「マクロスがとまらない」スペシャルディスク 初回限定版 Blu-ray LIVE2018“ワルキューレは裏切らない at 横浜アリーナ 初回限定盤 ワルキューレぴあ マクロス音楽証言集 1982-2018 ワルキューレは裏切らない Blu-ray LIVE2017“ワルキューレがとまらない"at横浜アリーナ Blu-ray マクロスΔ 01 特装限定版 ワルキューレ ワルキューレがとまらない マクロスΔ キャラクターデザインワークス ワルキューレ2ndアルバム Walkure Trap! DVD付初回限定盤 マクロスFebri 【PSVita】マクロス Δ スクランブル 【初回封入特典付き】 OPテーマ 絶対零度θノヴァティック ワルキューレ Walkure Attack! 初回限定盤 DVD付 マクロスΔ オリジナルサウンドトラック1 OP EDテーマ 一度だけの恋なら/ルンがピカッと光ったら VF-31J ジークフリード ファイターモード ハヤテ・インメルマン機 プラモデル マクロスΔ色紙ART 10個入りBOX りるこっと マクロスΔ 10個入食玩・ガム 特番放送記念特集号 フィギュア王No.215 河森正治 ビジョンクリエイターの視点 rakuten_design= slide ;rakuten_affiliateId= 053df7e0.7c451bd1.0c852203.190c5695 ;rakuten_items= ctsmatch ;rakuten_genreId=0;rakuten_size= 468x160 ;rakuten_target= _blank ;rakuten_theme= gray ;rakuten_border= on ;rakuten_auto_mode= on ;rakuten_genre_title= off ;rakuten_recommend= on ; 随時更新! pixivFANBOX アニメ@wiki ご支援お待ちしています! ムック本&画集新刊/個人画集新刊/新作Blu-ray単巻/新作Blu-ray DVD-BOX アニメ原画集全リスト スタッフインタビューwebリンク集 最新登録アイテム Switch ゼルダの伝説 Tears of the Kingdom Switch 世界樹の迷宮Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ HD REMASTER Switch ピクミン 4 大友克洋 Animation AKIRA Layouts Key Frames 2 小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女 1 ONE PIECE FILM REDデラックス・リミテッド・エディション 4K ULTRA HD Blu-ray Blu-ray 劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ 完全生産限定版 Blu-ray 映画『ゆるキャン△』 Blu-ray 【コレクターズ版】 Blu-ray ウマ娘 プリティーダービー 4th EVENT SPECIAL DREAMERS!! Blu-ray 天地無用!GXP パラダイス始動編 Blu-ray第1巻 特装版 天地無用!魎皇鬼 第伍期 Blu-ray SET 「GS美神」全話いっき見ブルーレイ Blu-ray ソードアート・オンライン -フルダイブ- メーカー特典:「イベントビジュアル使用A3クリアポスター」付 ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 5th Live! 虹が咲く場所 Blu-ray Memorial BOX 宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち Blu-ray BOX 特装限定版 地球へ… Blu-ray Disc BOX 完全生産限定版 神風怪盗ジャンヌ Complete Blu-ray BOX HUNTER×HUNTER ハンター試験編・ゾルディック家編Blu-ray BOX BLEACH Blu-ray Disc BOX 破面篇セレクション1+過去篇 完全生産限定版 MAZINGER THE MOVIE 1973-1976 4Kリマスター版 アニメ・ゲームのロゴデザイン シン・仮面ライダー 音楽集 テレビマガジン特別編集 仮面ライダー 完全版 EPISODE No.1~No.98 MOVIE リスアニ!Vol.50.5 ぼっち・ざ・ろっく!号デラックスエディション ヤマノススメ Next Summit アニメガイド おもいでビヨリ アニメ「魔入りました!入間くん」オフィシャルファンブック 『超時空要塞マクロス』パッケージアート集 CLAMP PREMIUM COLLECTION X 1 トーマの心臓 プレミアムエディション パズル ドラゴンズ 10th Anniversary Art Works はんざわかおり こみっくがーるず画集 ~あばばーさりー!~ あすぱら画集 すいみゃ Art Works trim polka-トリムポルカ- つぐもも裏 超!限界突破イラスト&激!すじ供養漫画集 開田裕治ウルトラマンシリーズ画集 井澤詩織1st写真集 mascotte 鬼頭明里写真集 my pace 内田真礼 1st photobook 「まあやドキ」 進藤あまね1st写真集 翠~Midori~ 声優 宮村優子 対談集 アスカライソジ 三石琴乃 ことのは 亀田祥倫アートワークス 100% 庵野秀明責任編集 仮面ライダー 資料写真集 1971-1973 金子雄司アニメーション背景美術画集 タローマン・クロニクル ラブライブ!サンシャイン!! Find Our 沼津~Aqoursのいる風景~ 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会[復刻版] 梅津泰臣 KISS AND CRY 資料集 安彦良和 マイ・バック・ページズ 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』編 氷川竜介 日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析 Blu-ray THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 10th Anniversary Celebration Animation ETERNITY MEMORIES Blu-ray おいら宇宙の探鉱夫 ブルーレイ版 Blu-ray 映画 バクテン!! 完全生産限定版 アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~ Blu-ray BOX 初回生産限定版 はたらく細胞 Blu-ray Disc BOX 完全生産限定版 Blu-ray 長靴をはいた猫 3作品収録 Blu-ray わんぱく王子の大蛇退治 Blu-ray 魔道祖師 完結編 完全生産限定版 魔道祖師Q Blu-ray Disc BOX 完全生産限定盤 にじよん あにめーしょん Blu-ray BOX 【特装限定版】 Blu-ray 鋼の錬金術師 完結編 プレミアム・エディション Blu-ray付き やはりゲームでも俺の青春ラブコメはまちがっている。完 限定版【同梱物】オリジナルアニメ Blu-ray「だから、思春期は終わらずに、青春は続いていく。」
https://w.atwiki.jp/gods/pages/2285.html
ポルキュース ポルキュスの別名。
https://w.atwiki.jp/gods/pages/30152.html
コルキューラ コルキュラの別名。
https://w.atwiki.jp/gods/pages/50004.html
ケルキューラ コルキュラの別名。
https://w.atwiki.jp/totopedia/pages/8.html
ソレイユコースト以降のマップに点在するフィールド上に沸くボスモンスターの報酬箱から取得できるアイテムを一部抜粋しています。 ソレイユコースト ルーンヒル ラルスレイトの森 シュテルン山 トワイライトの森 裁きの高地 ●ソレイユコースト 『カルマル』 ・ヘラクレスの鍵の欠片 ・応龍の鍵の欠片 ・ミノタウロスの鍵の欠片 『カイト』 ・レジェンドメイル ・アポロンの鍵の欠片 ・ヒュドラの鍵の欠片 ・玉藻御前の欠片 『ピローク』 ・レジェンドヘルム ・ガルダの鍵の欠片 ・ギルガメッシュの鍵の欠片 ・カエサルの鍵の欠片 『スローター』 ・ワルキューレの鍵の欠片 ・ミノタウロスの鍵の欠片 ・ヘラクレスの鍵の欠片 ・レジェンドメイル ●ルーンヒル 『フィンク』 ・応龍の鍵の欠片 ・ヘラクレスの鍵の欠片 ・ワルキューレの鍵の欠片 ・レジェンドヘルム 『レオライト』 ・ヒュドラの鍵の欠片 ・アポロンの鍵の欠片 ・シヴァの鍵の欠片 ・レジェンドメイル 『ダニランカ』 ・ガブリエルの鍵の欠片 ・カエサルの鍵の欠片 ・ガルダの鍵の欠片 ・レジェンドメイル 『ベイン』 ・シヴァの鍵の欠片 ・玉藻御前の鍵の欠片 ・アポロンの鍵の欠片 ・レジェンドヘルム ●ラルスレイトの森 『マーヴェリックⅪ号』 ・ガルダの鍵の欠片 ・ギルガメッシュの鍵の欠片 ・ガブリエルの鍵の欠片 ・レジェンドグローブ 『デストロヤーG800』 ・玉藻御前の鍵の欠片 ・シヴァの鍵の欠片 ・ヒュドラの鍵の欠片 ・レジェンドベルド 『エクスプローラーL型』 ・ミノタウロスの鍵の欠片 ・ワルキューレの鍵の欠片 ・応龍の鍵の欠片 ・レジェンドブーツ 『エンダーHD』 ・カエサルの鍵の欠片 ・ガブリエルの鍵の欠片 ・ガルダの鍵の欠片 ・レジェンドグローブ ●シュテルン山 『エール』 ・ヘラクレスの鍵の欠片 ・応龍の鍵の欠片 ・ミノタウロスの鍵の欠片 『ガブリート』 ・レジェンドベルト ・アポロンの鍵の欠片 ・玉藻御前の鍵の欠片 ・ヒュドラの鍵の欠片 『イーミス』 ・レジェンドグローブ ・ガルダの鍵の欠片 ・ギルガメッシュの鍵の欠片 ・カエサルの鍵の欠片 『ゴライオン』 ・レジェンドブーツ ・ワルキューレの鍵の欠片 ・ミノタウロスの鍵の欠片 ・ヘラクレスの鍵の欠片 ●トワイライトの森 『ブーニエ』 ・ミノタウルスの鍵の欠片 ・ワルキューレの鍵の欠片 ・応龍の鍵の欠片 ・レジェンドベルド 『アイリ』 ・レジェンドブーツ ・ガルダの鍵の欠片 ・ギルガメッシュの鍵の欠片 ・ガブリエルの鍵の欠片 『ギョーム』 ・レジェンドリング ・玉藻御前の鍵の欠片 ・シヴァの鍵の欠片 ・ヒュドラの鍵の欠片 『リリス』 ・カエサルの鍵の欠片 ・ガブリエルの鍵の欠片 ・ガルダの鍵の欠片 ・レジェンドマント ●裁きの高地 『オットー』 ・シヴァの鍵の欠片 ・玉藻御前の鍵の欠片 ・アポロンの鍵の欠片 ・レジェンドベルト 『マグ』 ・ガブリエルの鍵の欠片 ・カエサルの鍵の欠片 ・ガルダの鍵の欠片 ・レジェンドグローブ 『ゴードン』 ・ヒュドラの鍵の欠片 ・アポロンの鍵の欠片 ・シヴァの鍵の欠片 ・レジェンドネックレス 『スティーニー』 ・応龍の鍵の欠片 ・ヘラクレスの鍵の欠片 ・ワルキューレの鍵の欠片 ・レジェンドブーツ このページはsow・午後ティー・ととり・美桜・湖亜が編集しました。 Copyright © 2013 X-LEGEND Entertainment Co., Ltd. All Rights Reserved.
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1042.html
ヴェストリの広場は、噂を聞きつけた生徒たちによって活気に満ちていた。 ギーシュが決闘をするということが学院中に広まってしまったのだ。 決闘を楽しみたい者、賭けを始める者、決闘相手の月の精霊を見たいがために足を運んできた者とかなり多くの人間が集まっている。 しかし、観客たちがここに集まった理由はただ一つ。 みんなヒマなのだ。 ただでさえ娯楽の少ない学院なのだから、滅多に無い『イベント』でヒマを潰そうと考える生徒も少ないない。 さて、こうなってしまうともう後には引けない人物が一人いる。ギーシュだ。 頭に上った血が下がると共に、自分のやらかしてしまった事態を-非常に運が悪いことに-理解してしまったのだ。 自分のやらかした不始末を二人の女性のせいにして八つ当たりしたどころか、月の精霊に決闘を挑んでしまった。 しかもこんなに人が集まってしまっては「全部僕が悪かったです。ごめんなさい」なんて言い出せっこない。 (あぁ、お願いだからここへ来ないでくれ・・・) ギーシュは強くそのことを願うが、広場に近づいてきた人影によってその願いが砕かれる。 「挑戦者が来たぞー!!」 その一言で、広場に集まった人間の視線が一人の少女-シャオ-に向けられる。 「よ、よく来たじゃないか。別に来なくてもよかったし、今から帰ってもらってもかまわないんだよ?」 引きつった顔でギーシュは本音を漏らすが、この場でその発言は挑発にしかならない。 現に月の精霊を相手に挑発する姿を褒め称えているヤツもいる。 「諸君、決闘だ!」 このセリフにギーシュはぎょっとなる。 「決闘をするのは『青銅』のギーシュと、ゼロのルイズが召喚した月の精霊だ!!」 声がした方を見てみると、なんとマリコルヌが高らかに宣言しているではないか。 「マ、マリコルヌ。君は一体なにをやってるんだ!?」 ギーシュは青ざめた表情でマリコルヌに詰め寄る。 「なにって司会進行に決まってるじゃないか。決闘、がんばれよ」 マリコルヌは当然だと言わんばかりの表情で言いのける。 「では、決闘のルールの説明だ。勝利条件はいたって簡単。相手が戦闘不能になるか降参を宣言した時点で終了だ」 この宣言により、広場は更にヒートアップする。 「二人とも、準備はいいか?」 マリコルヌが最終確認をすると、シャオは黙って頷いた。 「あぁ、もうやけだ!来い、ワルキューレ!!」 完全にやけくそ状態でギーシュは自身の二つ名『青銅』の名にふさわしい青銅のゴーレム『ワルキューレ』を魔法で作り出しシャオに突っ込ませる。 ワルキューレは動きこそは単調だが、金属で出来ているという特性からか並の攻撃にはビクともしない。 その上、たとえジャブであっても生身の人間を相手にするにはそれだけで必殺の一撃ともなり得るのだ。 シャオは見た目だけなら普通の女の子と大差ない。 女性を傷つけるのは忍びないが、きっと一発でも当てることが出来ればそれで終わるはずだ。 ギーシュはそう信じてワルキューレに襲わせる。 あぁ、なんでこんなことになっているんだろうか。 本当はわたしが受けるはずだった決闘を、今こうしてシャオが引き受け、彼女が危険な目に遭ってしまっている。 今のところ、シャオはワルキューレの猛攻を全て受け流しているがきっとそれも時間の問題だろう。 単純な話、ゴーレムはいくら動こうと疲れを感じることはないが、生身のシャオはそうではないのだ。 今は凌ぎ切っているが、いつかは疲労でそれも出来なくなってしまう。 そうなってしまったら傷つくのはシャオだ。 自分ならまだいい。痛いのはイヤだけど・・・。 だが、自分のためにシャオが傷つく姿を見たくない。 そんな葛藤を繰り広げていたルイズは意を決し、この決闘をやめさせるために人垣を分け入っていった。 少し話が逸れるが、そこは勘弁していただきたい。 不幸というヤツはつねに団体行動をしている。 例に挙げてみると、浮気がばれてしまい二人の少女から手痛い仕打ちを受けた挙句、シャオと決闘をするハメになっているギーシュがまさにそうだ。 まぁ彼の不幸はもう少し続くのだが、その辺りは今は置いておこう。 そして、今度の団体行動をしている不幸たちの次のターゲットは、どうもルイズのようだ。 「えぇい、ちょこまかと!これでも喰らえ!!」 ギーシュはそう叫ぶとワルキューレは大きく溜めを作り、一気にシャオに向かって突進する。 だが、この攻撃もシャオは軽く回避したのだが、その先を見て騒然となる。 「ご主人様、危ない!!」 元々ギーシュは人間の身体の作りについて詳しいわけではない。 それゆえにワルキューレは動きが単調になり受身も取ることができない。 だからなのだろう。 勢いの乗ったワルキューレが石に躓き、前方にすっ飛んでしまったのは。 そして不運にもその直線状には、その場の空気に支配された観客によって押し出されてしまったルイズがいたのだ。 「え?」 ルイズは自身の身に起こる未来を理解できずにその場で立ち尽くしてしまい、自分に向かってすっ飛んできたワルキューレを避けることができなかった。 「ぐぼぁ!!」 すっ飛んできたワルキューレの頭突き-俗に言うフライング・ヘッドバット-を喰らったルイズは、くぐもった悲鳴を上げた。 「ご、ご主人様!!」 シャオは慌ててルイズに駆け寄る。 「しっかりしてください、ご主人様!」 シャオは目に涙を浮かべながらも、ルイズの状態を確認すると治療専門の星神『長沙』を呼び出す。 「長沙、ご主人様をお願い」 シャオはそう言いつけると、再びギーシュに向かい合う。 今のシャオにはそれまであった甘さは一切無く、あるのはただ一つ『怒り』の感情のみ。 「ぼ、僕は悪くない。僕は悪くないぞ。ルイズが勝手に突っ込んできただけだからな!」 その雰囲気に怯えたギーシュは慌てて弁解をする。 だがな、ギーシュよ。そのセリフは更に相手を怒らせるためにあるんだぞ? 「たとえどんな理由があろうとも、ご主人様を傷つけましたね」 静かに言い放たれるその言葉には、怒りの色が強く滲んでいた。 「許しません」 シャオは支天輪をヴィンダールヴのルーンの輝く右手でかざし、高らかに謳い始める。 「天明らかにして星来たれ」 ルーンの輝きに合わせるかのように支天輪が輝き始める。 「鉤陳(こうちん)の星は召臨を厭わず 月天は心を帰せたり」 彼女は呼び掛ける。自身に仕える星神に。 「来々 北斗七星!!」 シャオが詠唱を謳い終わると同時に、貧狼、巨門、禄存、文曲、簾貞、武曲、破軍の7人からなる最強の『攻撃用』星神が現れる。 「ひっ!ワ、ワルキューレ!そいつらをなんとかしろ!!」 ギーシュはそう叫ぶと、さらに6体のワルキューレを作り出す。 数で言えば7対7で互角。それにドットとは言えメイジの作り出したのは金属性のゴーレム。 もしかしたら相殺しきれるかもしれない。その未来に一縷の希望を託した命令をギーシュは下す。 だが、その希望はワルキューレごと無残にも砕かれる。 一瞬にして全てのワルキューレが破壊されてしまったのだ。 北斗七星は、対抗するためには学校クラスの巨大な建物をゴーレムにしなければならない程強力な星神。 更に、今の彼らはヴィンダールヴの効果により普段の倍以上の力を発揮できる。 そんな連中に囲まれてしまってギーシュにできることは一つしかない。 「ま、まいっ「私はご主人様を傷つけたあなたを許すわけにはいきません」」 腰を抜かしたギーシュは降参しようとするが、無常にもシャオはその言葉を遮り、北斗七星が攻撃態勢をとる。 「ひっ!!」 ギーシュは次の瞬間に来る現実に耐え切れず目を強く瞑った。 「待って!!」 治療の終えたルイズがシャオのやろうとしたことを止めるために、彼女の前に立ちはだかる。 「ご、ご主人様?」 ルイズの行動に、流石にシャオも困惑としている。 「待って、シャオ。これ以上のことはもういいわ。わたしはもう大丈夫だから。ね?」 少しの沈黙のあと、北斗七星は攻撃態勢を解き姿を消した。 「わかりました。ご主人様がそうおっしゃるんであればそうします」 そういうとシャオは支天輪をしまう。 「そうそう、ギーシュにお礼をするのを忘れてたわ」 ルイズはそう言うとまだ腰を抜かしているギーシュに近寄る。 なんの好意もない笑顔が怖い。 「な、なにを言ってるんだ、ルイズ。お礼を言うのはむしろ僕のほっ!?!?!?!?!?!!!!!!」 キーン!!という擬音と共にギーシュが倒れる。集まった生徒たちのうち男の生徒だけが悲痛な表情で股間を押さえている。 「さ、行きましょうか、シャオ」 そう言うと、ルイズたちは広場を後にした。 『遠見の鏡』を通してこの出来事を見ていたオスマンとコルベールは脂汗を流し、股間を押さえながらシャオのことを王宮に報告することを禁止し、閉口令を下すのであった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9099.html
前ページ次ページNeverwinter Nights - Deekin in Halkeginia 「もうしない、もう絶対しないから。 あだっ! 君、年寄りにそんな乱暴じゃから婚期を……あいだっ!」 ここはトリステイン魔法学院本塔・最上階。 暇を持て余したオスマン学院長が秘書のミス・ロングビルにセクハラを行い、反撃を受けている。 いつもの光景だ。 そこへ早足で向かってくる足音が聞こえ、続いて扉をノックする音が響いた。 ロングビルはさっと机に戻ると、何食わぬ顔で業務の続きを始める。 オスマンも素早く起き上がって軽く服を整え直すと、腕を後ろに組んで重々しく威厳のある態度を装う。 これもまたいつもの事で、二人とも手慣れたものだ。 「誰かね?」 「私です、オールド・オスマン」 「ああ、ミスタ・ゴートゥヘル君か、はいりたまえ」 「私はコルベールです!」 コルベールは仏頂面で扉を開けて部屋に入ってきた。 これまた、よくあるやり取りだ。 どうもわざと名前を間違うのは、この学院長の持ちネタであるらしい。 「お邪魔して申し訳ありません、学院長。 実はヴェストリの広場で、決闘を始めようとしている生徒がおりまして……」 「まったく、暇をもてあました貴族ほど性質の悪い生き物はおらんな。 ……で、君は止めなかったのかね?」 「その、情けない話ですが……、 止めようにも生徒たちの熱狂がひどくて、どうも」 オスマンはそれを聞いてひとつ溜息を吐く。 「やれやれ、君はそういうことになるとどうにも気弱でいかんの。 それで、誰が暴れておるんだね?」 「はい……、すみません。 その、一人は、二年生のギーシュ・ド・グラモンです」 「ああ、あのグラモンのとこのバカ息子か。 オヤジも色の道では剛の者じゃったが、息子も輪をかけて女好きと見えるわい。 大方他の男子生徒と女の子の取り合いになって、といったところかの?」 「いえ、それが………」 コルベールはそこで、言いにくそうに言葉を濁した。 「む? ……なんじゃ、違うのか?」 「相手は男子生徒ではありません、というか生徒でもなければメイジでもなく――メイドです」 「………、なんじゃと?」 「そのため、私以外の教師もどう対応していいものか戸惑っているようで。 中には止める必要はないと生徒に混ざって傍観している者も……」 オスマンはそれを聞いて、困惑したように眉間に皺を寄せた。 「……平民と決闘……? 何を馬鹿な事をしでかしておるんじゃ。 性質が悪いにもほどがある」 興味深げに横合いで聞き耳を立てていたロングビルの目がきらりと光った。 「学院長、でしたら大事にならないうちに止めた方がよろしいのでは。 私に宝物庫の鍵を貸していただければ、急いで『眠りの鐘』を用意してきますわ」 「むう、そうじゃな……、」 オスマンが考え込みながら杖を振ると、壁にかかった『遠見の鏡』にヴェストリの広場の様子が映し出された。 なるほど、周囲を熱狂した観衆に取り囲まれたギーシュとメイドらしき少女が、今まさに決闘を始めようとしている。 オスマンはその様子を見てますます顔をしかめたが、少女の後ろに昨夜この部屋を訪れた亜人の姿を見つけると表情を変えた。 視線を止めて、少し首を傾げながら数秒ほどじっと鏡を見つめる。 「……学院長、どうされるのです?」 ロングビルに怪訝そうに声を掛けられて、オスマンははっと我に返った。 見ればコルベールも似たような顔をしている。 「む……、ああ、そうじゃな。 ひとまず用意はしておいてくれ、使うべきかどうかはもう少し様子を見てから判断するとしよう」 オスマンはそう言ってロングビルに鍵を渡すと、困惑したような顔のコルベールをよそに鏡の光景をじっと見つめ続けた。 一方ロングビルは、鍵を受け取ると一礼して学院長室を足早に立ち去った。 その顔に怪しげな笑みを浮かべながら……。 ヴェストリの広場では、いよいよ決闘が開始された。 シエスタはディーキンの『勇気鼓舞の呪歌』の演奏を背に受けながら、剣を構える。 そして小細工も何もなく、ぐっと姿勢を低くして勢いをつけると、真っ直ぐワルキューレに斬りかかっていった。 対するギーシュは余裕の姿勢を崩さない。 普通に考えれば青銅製のゴーレムを剣で、それも素人の女性が斬り付けたところで大した傷が与えられるはずもないのだから、当然と言えよう。 しかもワルキューレは硬いのみならず、屈強な成人男性以上の腕力と素早さを持っている。 その気になれば防御も反撃も容易いことだ。 (よし、まずは振り下ろしてくる剣を余裕で弾いて見せて……、 体勢が崩れたところへ、可哀想だが軽く一撃叩き込んでやるとしよう) 実際に力の差を痛感させれば、あのメイドも目を覚ます事だろう。 ギーシュはそう考え、余裕たっぷりに薔薇の杖をくいと持ち上げてワルキューレに指示を出した。 ――――が、しかし。 「え……?」 シエスタの剣はギーシュがその足の速さから想像していたよりもずっと速く、力強く振り下ろされていた。 ワルキューレが主の命令を受けて拳を持ち上げる遥か前に肩口を鋼鉄の刃が捕え、青銅をまるで粘土のように容易く斬り裂いていく。 斜めに両断されたゴーレムは瞬く間に形を失って、ぐしゃりと地面に崩れ落ちた。 「……!? お、おい、あのメイド、ゴーレムを倒したぞ?」 「せ、青銅ってあんなに簡単に壊れるもんだったのか? なあ、お前土メイジだろ、どうなんだよ?」 「そ、そりゃあ……、出来具合にもよる。けど、まさか女の子の力で………」 「あのメイド、実は剣の達人だったのか!」 予想外の展開に、観衆が一斉にざわめきだす。 シエスタ自身もまた、自分の攻撃がもたらした結果に少し目を丸くしていた。 ある程度想像はしていたが、まさか自分のような素人同然の娘に、ここまでの力を……。 「……な、なかなかやるじゃないか! どうやら、丸っきりの素人というわけではないらしいね」 ギーシュは若干顔をひきつらせながらも精一杯余裕のある態度を装い、薔薇の杖を大きく振った。 複数の花びらが舞い落ちて、今度は同時に六体ものワルキューレが、しかも盾を装備した状態で構成される。 全部で七体のワルキューレがギーシュの武器なので、これで数の上では全力を出したことになる。 盾を持たせたのは一撃でワルキューレを斬り倒した攻撃力を警戒したのと、流石に殺傷力の高い武器を持たせて殺し合いにするわけにはいかないためだ。 「おおっ、ギーシュが本気を出したか?」 「これで勝負は決まったな」 「そう? でもあのメイド、同じゴーレムをさっき一瞬で斬り倒していたじゃない」 「いや、どんなに力があってもあれだけの数に囲まれたら、魔法が使えない平民じゃ対応できないさ。 それに今度は、盾を持たせてるしな……」 「着てる鎧は粗末なもんだし、一度殴られて体勢を崩したら殺到されて終わりだな」 わいわいと沸き立ちながら今後の予想などを話し合っている観衆をよそに、ディーキンは内心少し感嘆していた。 駆け出しのメイジが中型サイズのアニメイテッド・オブジェクトに類似する人造を簡単に作れるだけでも大したものだが、同時に六体とは。 しかもどうやら、任意の武具を装備した状態で作ることも可能らしい。 ただ、呪歌でサポートしたとはいえシエスタに一度斬られただけで倒れるあたり、強度や耐久性は少し低いようだ。 青銅ならもう少し硬くてもよさそうなものだが……。 そういえば先程の授業で、錬金の魔法はどうしても不純物が混じったりするものだ、と言っていたか。 ならば作成者の腕もまだ未熟なのだろうし、見てくれはよくても中身が炉でしっかりと精製した青銅には劣るのは仕方ないのだろう。 瞬殺されるのを見た以上、数を増やすよりもより強い大型のゴーレムを出した方が良さそうな気もするが……、それはできないのだろうか。 そのあたりのことも後でまた、しっかりと調べておこう。 「まずは褒めよう、ここまでメイジに楯突く平民がいることには感激したよ。 レディーとはいえ手加減は無用のようだ、僕も本気を出すとしよう。 悪いが君の活躍はここまでだ」 「………はい、私も、最後まで全力でお相手します」 ギーシュは一時の動揺から回復して、新たに呼び出した忠実な僕たちにシエスタを囲ませながら、一斉攻撃を仕掛けるタイミングを見計らっている。 シエスタは少し険しい顔をして周囲を囲むゴーレムに視線を走らせつつ、いつでも動けるように身構えている。 ディーキンは数秒ほど思案に耽っていたが、ギーシュとシエスタのやりとりを聞いて我に返った。 考え込みながらも演奏に全く乱れが無いのは流石といったところだろうか。 まあ、激しく戦闘しながら演奏を続けなければならないこともあるバードがこの程度で演奏を乱していたら、それこそお話にならないのだが。 ……この状況は、『勇気鼓舞の呪歌』だけでは少し厳しいかもしれない。 この呪歌では攻撃力は上がっても、耐久力や回避力まで上がるわけではないのだ。 これだけの数に囲まれれば、周りの観衆も論じている通り、恐らくかわし切れずに攻撃を喰らってしまうだろう。 数発も殴られれば、一般人と大差ないシエスタの体では持つまい。 たとえそうでなくとも、シエスタにこんなことであまり痛い思いをさせたくはないし……。 ならば。 「オオ、いよいよ決戦なんだね? ちょっと待って、ディーキンもそれに相応しい音楽で応援するよ!」 そう宣言して周囲の注目を集めると、歌うようにして素早く二、三の音節を呟き、今まで演奏していたリュートから手を離した。 するとリュートはその場で宙に浮かび、今までと変わらない演奏をひとりでに続ける。 おおっ、と驚きの声を上げる観衆をよそに、続けて更にもう一つ呪文を唱えた。 呪文が完成するや、ディーキンの手の中にバイオリンが出現する。 それをさっと構えると、今まで以上に心を高揚させる荘厳で勢いのある旋律を、浮かぶリュートの演奏に重ねて奏で始めた。 《動く楽器(アニメイト・インストゥルメント)》と《楽器の召喚(サモン・インストゥルメント)》という、2つの呪文を使用した芸当だ。 「せ、先住魔法だ!」 「精霊の力を借りる恐ろしい技だって聞いていたけど……、こんなこともできるの!?」 「いや魔法もすごいが、演奏も……」 普段は畏怖している“先住魔法”による楽しい演出と、お抱えの宮廷詩人のものだと言っても通用しそうな勇ましく荘厳な演奏。 観衆の興奮は、最高に高まっている。 一見するとただ注目を集めて気分よく歌っているかに見えるが、実のところディーキンの負担は、ある意味戦っているシエスタ自身よりも大きかった。 2つの呪歌を立て続けに“強化”して歌った反動で、ディーキンの喉には鈍く熱い痛みが走り始めている。 もしシエスタの体にこれと同じ反動を負わせたら、耐えきれずにたちまち昏倒してしまうだろう。 だがその苦痛を少しも表情には出さず、胸を張って楽しげに、誇らしげに、歌い続ける。 ここで苦しそうな顔などしていたら演出が台無しだし、何より実際、ディーキンはその表情通りの気分なのだから。 英雄の活躍に立ち会えて、その手伝いまでできる。 観衆も、最高に沸いてくれている。 この状況で楽しさと誇らしさとを感じないバードがいようか。 これで、決戦に向けての準備は整った。 「おおっ、何とも気の利いた音楽と演出じゃないか! ワルキューレたちの総突撃に相応しい調べだな、感謝するよルイズの使い魔君!」 「…………」 ギーシュは先程の焦りなどすっかり忘れて、自分の活躍を引き立ててくれる(と自分では思っている)勇ましい調べに気を良くしていた。 一方シエスタは、自分の中に湧き上がってくる更なる力に驚愕して言葉を失っていた。 今までの力でさえ信じられないほどだったのに……。 しかも今度のは、ただ力が漲っているというだけではないような気がする。 何か、感じたことのないような――――。 「さて場も整ったことだし、今度こそ覚悟をしたまえ」 「……………! はい、行きます!」 ギーシュがワルキューレの布陣を終えて、いよいよ一斉突撃を命じようと余裕ぶって杖を構えたあたりで、シエスタはハッと我に返った。 間髪入れずにばっと駆け出すと、一番手近のワルキューレに向けて先程と同じように剣を叩きつけようとする。 囲まれて不利な立場に追いやられる前に、先手を打って数を減らそうとしたのだ。 明らかに数で不利な状況だというのに、敵がこちらを囲んで突撃してくるまでただ漠然と構えて待ち受けるほど愚かではない。 「えっ……!?」 先程まで少しぼうっとした様子だった少女があまりにも唐突に、素早く行動に移ったことで、宣言をしたギーシュの方がかえって不意を突かれた。 ワルキューレは所詮ギーシュの指示を受けて動くもの、ギーシュ自身の命令よりも素早い反応はできはしない。 そして今のギーシュの反応速度は、シエスタよりも明らかに遅かった。 突撃を命令しようとしていたのを慌てて防御の指示に切り替えるが、既にシエスタはワルキューレの眼前に迫っている。 しかも重い盾を持たせたためにかえって腕の動きが鈍り、先程以上に速いシエスタの剣を防御するのには全く間に合っていない。 盾に遮られない角度から横薙ぎに斬り付けた長剣が、そのワルキューレの胴体を両断して仕留めた。 「くそっ!」 ギーシュとて全くの素人ではなく、軍人の家系であるがゆえにゴーレムを運用する戦闘の訓練はそれなりに受けている。 自分が命令しようとしていた個体がもう駄目なのを悟ると、悔しげに呻きながらもすぐに残りのワルキューレに指示を出して体勢を立て直させた。 もしシエスタが真に凄腕の剣士だったなら、間髪おかず手近のワルキューレに連続攻撃をかけて、体勢を立て直す前に更に一、二体は仕留められただろう。 だが呪歌の効果で大幅に攻撃が素早く、力強くなっているとはいえ、シエスタの技量自体はやはり素人に毛が生えた程度でしかないのだ。 数秒の内に三体も四体も敵を倒すというような真似は無理だった。 「これ以上はやらせない、いけワルキューレ!」 ギーシュの命令が飛ぶのを聞くと、シエスタはさっと視線を巡らせて周囲のワルキューレたちの動向を確かめた。 残った五体全てがこちらへ向かってきているが、二体はまだ若干距離が遠い。 早急に対峙しなくてはならないのは正面に二体、そして背後に一体。 シエスタはそれだけ確認すると、攻撃される前に素早く正面右側のワルキューレの懐へと飛び込んで行った。 今度はワルキューレの側も既に攻撃に対する備えができており、向かってくるシエスタに反応してさっと盾を構える。 しかしシエスタは強引に盾の上から斬り付けるような事はせず、ワルキューレの前で踏み止まると下から構えられた盾を思い切り蹴り上げた。 予想外の方向からの衝撃に盾を弾かれて体勢を崩した隙に、腰をすかさず全力で斬り付けてまた一体倒す。 ワルキューレはギーシュの指示によって動いている関係上、事前に想定していなかった状態になると立て直すのが遅れるのだ。 一見して見事な戦い方のようだが、見る者が見れば速さと力は並外れているが動作自体はあまり洗練されていない、ということにすぐに気が付くだろう。 呪歌の効力によって攻撃の素早さや力強さは段違いに上がっているが、技量自体が高まっているわけではない。 戦い方も実に大味だが、それに関しては単に未熟だからというだけではないちゃんとした理由があった。 仮に剣技を身に付けた人間相手なら、シエスタも未熟なりに牽制や受け流しなどを交えてもう少し技巧的に戦おうとしていただろう。 だが、今戦っている相手は人間とはまったくその性質が違う。 ワルキューレは基本能力はそこそこ高いが剣技などの技巧は皆無で、その代わりに人間と違って痛覚も恐怖もなく、体は金属製で硬い。 人間相手なら鎧の隙間を突けば軽い攻撃でも有効打となるし、それゆえにフェイント気味の素早いが軽い突きなどで牽制することもできる。 だが全身くまなく青銅製のワルキューレ相手では力の乗っていない攻撃は有効打になり得ないし、当然それに怯むこともない。 それに数が多いので丁寧に一体ずつ相手にしていては不利になるばかりであり、その間に囲まれて集中攻撃を受けてはたまらない。 ここはできる限り素早く倒して数を減らさなければならない。 ならば躊躇わずに一気に防御を崩しに行き、多少強引にでも隙を作ってそこを全力で斬り付け、一撃で倒すことを狙っていく……。 それがシエスタが自分なりに考えて選択した戦い方だった。 そのためにフェイントなどの技巧を駆使しない、全力で振り抜く攻撃ばかりの大味な戦い方になっているのだ。 シエスタは敵を仕留めた余韻に浸る間もなく、すぐに残る二体に対峙しようと体の向きを変えた。 しかし振り向いた時には既に一体が目と鼻の先にまで迫っており、今まさに殴りかからんとして盾を振り上げていた。 「………っ!」 慌てて地面に転がるようにしてどうにかその攻撃は避けたが、そこに残る一体がすかさず拳を繰り出す。 シエスタはとっさに革鎧の小手の部分をその腕の内側に叩きつけるようにして拳の軌道を逸らし、どうにか凌いで体勢を立て直した。 だがその時には既に距離の離れていた二体もシエスタの後ろに回り込んでおり、すっかり体勢を整えたワルキューレたちに取り囲まれてしまっていた。 これでは、もうこの囲みから抜けるのは難しい。 今と同じことをやろうとしても、一体に飛び掛かればすかさず残り三体が背後から襲ってくるだろう。 (よ……、よし! 少し冷や汗をかかされたが、これで何とかなる!) ギーシュは内心で安堵する。 まさか平民の、それもただのメイドがこれほどの使い手だとは思ってもみなかったので、ワルキューレを次々と撃破された時は少々焦った。 だが先程ワルキューレ二体がかりでの攻撃を切り抜けた時は相当際どい様子だったから、こうして四体で囲んで攻撃すれば流石に避けきれはしまい。 いかに動きが速かろうが太刀筋が鋭かろうが、革鎧を着ただけの生身の人間。青銅の拳や盾が直撃すれば痛みで動きが鈍るはずだ。 そこへ周囲から数発追撃を入れてやれば一気に逆転、勝負を決められる。 だが、ここで気を抜いてまたワルキューレを失えば今度こそ勝利が危うくなるだろう。 ギーシュはここまでの反省から今度は余裕ぶった態度も取らず、周囲を取り囲み終えると即座に杖を振って一斉に攻撃を仕掛けさせた。 シエスタは正面から盾で殴ろうとしてきた一体のワルキューレの懐に、姿勢を低くして飛び込んだ。 攻撃を仕掛けようと盾を掲げたために隙だらけになった脚から腰に掛けて、一気に斬り上げるようにして倒す。 そしてその勢いのまま、身を捩るようにして横へ飛んだ。 シエスタに迫っていた一体のワルキューレの拳は間一髪で脇を掠め、今倒した相手の体を打つ。 だが、身を捩りながら飛び退いた先に向かってきた、もう2体の攻撃はかわせない。 シエスタは咄嗟に体を捻って、斜め前方から向かってきたワルキューレの拳をかろうじて防具の硬い部分で受け止めた。 しかし、背後から迫っていたもう一体が、脇腹を盾で強く殴りつけた。 たかが革の防具などでは殺しきれない威力の、常人なら体を折って悶絶するような強烈な一撃だった。 シエスタは攻撃を受けたと悟った瞬間、思わず目をぎゅっとつぶって襲ってくるであろう痛みを必死にこらえようとした。 だが。 (……………、えっ?) シエスタは、覚悟していた苦痛が無い事に気が付いた。 受けた攻撃が決して弱いものでなかったことは間違いない、それは感じ取れた。 だが、その攻撃は実際のダメージをまるで伴わない、形ばかりの痛みと衝撃しかもたらさなかったのだ。 まるで毛布を何重にも分厚く体に巻き付けた、その上から殴られたかのように。 (これも、あの人の歌の………?) シエスタはワルキューレたちがここぞとばかりに追撃を掛けようと向かってくるのに気が付くと、困惑を振り捨ててぎゅっと剣を握り直した。 自分を殴りつけた背後のワルキューレを蹴り退け、正面で拳を振り上げたワルキューレの脇をその勢いで駆け抜けざまに斬り捨てる。 相手は苦痛で身動きが取れまい、と油断しきっていたギーシュは、まるで痛みなど感じさせないその素早い動きに全く反応できなかった。 「ばっ……、馬鹿な!?」 シエスタはギーシュが狼狽して指示を出せないでいる間に、素早く踵を返して先程自分を殴りつけた背後のワルキューレも袈裟懸けに斬り捨てる。 ギーシュは我に返ると、慌てて最後に残ったワルキューレを戻らせ、自分をガードするよう命じた。 だが、今更守りを固めたところで、ワルキューレは既に残り一体。 連携作戦も取れない以上、もうギーシュに勝ち目はない。 血気に逸ったシエスタはそう確信し、一気に片を付けようと突進していった。 今の自分に勝てるものなどいるのだろうか? 歌のもたらす高揚感も手伝って、そんな考えさえ、心に浮かんでくる。 つまるところシエスタは、やはり素人であった。 一流の戦士ならば、単純な動きしかできないゴーレム同士での連携よりも、ゴーレムとメイジの連携の方がずっと脅威であることを失念したりはするまい。 加えて、後がない状況に追い詰められた敵は往々にして覚悟を決めて、最後の激しい抵抗に出てくるもの。 そこへ攻め込んでいかねばならないこの状況は、先程までと同様心してかかるべき正念場であり、決して消化試合などではないのだ。 敵に対する然るべき敬意、すなわち警戒心を忘れたものは、往々にして手痛い代償を支払わされることになる。 シエスタはギーシュの前で盾を掲げて防御姿勢を取ったワルキューレに突撃すると、盾で守られていない側面から一気に斬り裂きにかかった。 狙い過たず、刃は防御姿勢を取ったまま棒立ちのワルキューレに食い込んでいく。 事前に防御の態勢を整えていたにも関わらず、全く反応せずに棒立ちで両断されていくワルキューレを見て、シエスタは一抹の不安を覚えた。 今のは、攻撃に対する反応が間に合わなかったのではなく、最初から対応させる気が無いように見えた。 最後に残った一体のゴーレムで必死に対抗しようとせず、操作を放棄した? と、すれば、 それは、つまり………。 「……あ……、っ!?」 はっとして顔を上げたシエスタの目に、倒れていくワルキューレの陰からこちらに向けて薔薇を突きつけているギーシュの姿が飛び込んでくる。 その目には今までのような余裕も、気取りも、女性への遠慮も……、そして焦りも、狼狽も感じられない。 シエスタが駆け寄るまでの数瞬の間に、ギーシュは相手の強さを認め、これまでの自分の数々の慢心と自惚れを反省した。 そして勝敗はどうあれ、ただ最後まで全力を尽くそうという覚悟と決意とを固めた。 その、闘志の炎だけが燃えていた。 何か対応せねばとは思えど、全力で振り下ろした刃がまだワルキューレの体に食い込んだままで、満足に身動きが取れない。 背後のギーシュの動向に対してまるで無警戒であったために、完全に意表を突かれた。 「――――この時を待っていた! くらえ、『石礫』だァーー!!」 杖の先から飛び散った多数の薔薇の花びらがそれぞれ石礫に変化し、高速の散弾となってシエスタに襲い掛かる。 ギーシュが最後に残ったワルキューレを囮として、残る精神力を振り絞って勝負をかけた攻撃だ。 シエスタは咄嗟に剣から手を離し、飛び退きながら顔などの急所をガードしようとしたが、間に合わない。 石礫は容赦なくシエスタの体を叩きつけ、何発かは鎧に覆われていない剥き出しの部分に命中した。 普通なら致命傷にはならないまでも打たれた場所が内出血を起こし、骨にはひびが入り、大きな被害を受けるであろう攻撃だ。 だが、ギーシュの顔には快哉の笑みは無く、緊張した面持ちのままシエスタの様子を伺っている。 つい先程同じような状況で油断して反撃を受け、ワルキューレを壊滅状態にさせられた件を忘れるほど愚かではない。 もっとも、これに耐え抜かれたらもう油断もくそもなく、精神力もほぼ尽きているしこれ以上打つ手もない自分の負けは確定なのだが……。 例えそうなるとしても、油断した無様な姿を晒して負けたくはなかった。 果たして彼が懸念したとおり、シエスタは無事であった。 石礫にまともに撃たれても顔をしかめて一瞬怯んだだけで、やはり倒れなかったのだ。 ギーシュの最後の攻撃も、ディーキンの『武勇鼓舞の呪歌』による守りを打ち破るには至らなかった。 苦痛に怯まないだけならまだしも、剥き出しの肌をあれだけ打たれても傷ついた様子さえないのは不思議だったが……、 どうあれ、この期に及んで抗議や言い訳などは無様なだけだな。とギーシュは自嘲して、疑問を頭から追いやった。 「……まいった、僕の負けだ」 ギーシュは杖を捨て、降伏した。 それを見た周囲の観衆からどよめきや歓声、野次などの様々な反応が巻き起こる。 ディーキンもひとつ頷いてにこりと笑みを浮かべると、クライマックスを弾き上げて演奏を終えた。 だがシエスタは呆然とした様子で打たれた部分を撫で、それから捨てられた杖と手放した剣とを交互に見て……、 やがて、ゆっくりと首を横に振った。 「………、いいえ……、いいえ、ミスタ・グラモン。 私の負けです、ありがとうございました」 そう言って深々とギーシュに頭を下げ、次いで背後のディーキンの方を振り返って、同じように頭を下げた。 せっかく応援してもらったのに勝てなくて申し訳ありません、というように。 ギーシュは呆気にとられ、ディーキンは二、三度まばたきして首を傾げた。 周囲の観衆も、あまりに思いがけない展開の連続にがやがやと騒ぎ、首を傾けながら決闘の当事者たちを見守っている。 「……い、いや、何を言っているんだね? 誰が見ても君の勝ちだよ、残念だが僕にはもう、戦う力は残っていないんだ……」 「いいえ、私はミスタ・グラモンが杖を捨てられるより先に、思わず自分の剣を手放してしまいました。 杖を失ったメイジが負けとなるのなら、剣を手放した平民も同じのはずです」 シエスタはそう言って静かにギーシュの方に歩み寄ると、先程彼が落とした杖を拾って、もう一度頭を下げてからそれを差し出す。 その敗者らしい礼儀と顔に浮かぶ力のない微笑みを見て、ギーシュにもシエスタがおためごかしなどではなく、本心からそう言っているのはわかった。 だが、それであっさり納得して喜べるほどには彼のプライドは安くない。 ギーシュは差し出された杖を受け取らずに、悔しげに顔をしかめてシエスタを睨んだ。 「待ちたまえ、そんなことは事前に決めていなかったはずだ。 剣を手放したと言っても君は無傷で、僕にはもう、戦える力が残っていない。悔しいが、素手で君に勝てないのは、やってみなくてもわかる。 誰が見ても君の勝ちさ。君が勝者として僕の降伏を受け容れてくれない限り、その杖を返してもらうわけにはいかないよ」 「いいえ、私がミスタ・グラモンと戦えたのは、ディーキン様が応援してくださっていたからです。 それなのに……、それに最後まで全力で戦うとお約束したのに、それを忘れて、私は、……」 シエスタは口篭もって俯いた。 悔しさに唇をかみしめ、少し震えて、目に涙まで浮かべている。 彼女がこの戦いを自分の負けだと感じたのは、本当を言えば剣を手放したから、などという形式的な理由からではなかった。 ギーシュは、誰が見ても自分の負けだと言った。 だがそれ以前に、もしディーキンの歌による援護がなければ、自分はとっくに倒されている。 他の誰が知らなくても、自分にとっては明らかなことだ。 他人の援護のお陰で戦えているだけだと知りながら、最後には慢心し、自分のものでもない力に思い上がってしまった。 虚栄と傲慢の罪に塗れてしまった。 その結果が、あの被弾である。あれは、歌の力によって守られていなかったら、致命的だっただろう。 苦痛こそ殆どなかったが、精神的なショックは大きかった。 最後まで全力でお相手しますなどと約束しておきながら、あんな不義で、恥知らずな考えを胸に抱いてしまった自分が許せなかった。 望外の助力まで得ておきながら、なんという無様な体たらくか。 こんなことで、どうして他人の不義を咎める事などできようか。 「……………、」 ギーシュは神妙な面持ちで、そんなシエスタの姿を見つめた。 何故ここまで彼女が落ち込んでいるのか、どうして勝ちを受け容れないのか、彼ははっきりと理解はしていなかった。 ただ一つだけ確信したのは、このメイドが高貴な心を持っているという事。 おそらくは、貴族である自分以上に――――。 「……分かった、それではこの戦いには勝者はいないということだ。 それでも、たとえ君が勝者でなくとも、僕が敗者である事は変わらない事実だ」 そうきっぱりと宣言すると、人ごみの中にモンモランシー、ケティの姿を見つけて、詫びの言葉を述べてから深々と頭を下げた。 それからシエスタとディーキンにも向き直って、同じように。 「すまない、2人とも、僕が悪かった! ……君たち2人に責任を負わせようとしたのは、僕が間違っていた。この通りだ!」 それを聞いてシエスタはハッと顔を上げると、慌てて自分も礼を返した。 「そ、その……、私の方も、貴族様に逆らうような事をしてしまって申し訳――――」 「いや、あれは悪いのは僕の方だった。君に否はない」 ギーシュはその言葉を押し留めると、剣を拾ってシエスタに差し出した。 「君は自分が敗者だと言うが、今、僕が否を認められたのは君の……、いやあなたのお陰だということを忘れないでほしい。 そのあなたが堂々と胸を張っていてくれないと、僕がますます惨めになるだろう?」 「あ………、は、はい!」 2人がそれぞれ剣と杖を差し出して交換すると、誰かが拍手を始めた。 それを皮切りに、すっかり静まり返って事態を静観していた観衆から満場の拍手と喝采が沸き起こる。 ディーキンは何か場に会った演奏をしようかとリュートに手を掛けたが、周りの様子を見てもうその必要もないと悟ると、自分も拍手に加わった。 こうして、誰も傷つかず、誰もが勝者であり敗者であるという、奇妙な決闘は幕を閉じた。 後にディーキンによって詩の形にされ、永く歌い継がれることになる物語を残して………。 前ページ次ページNeverwinter Nights - Deekin in Halkeginia
https://w.atwiki.jp/marowiki001/pages/3806.html
目次 【時事】ニュース筆安一幸 ふでやす かずゆき 【参考】ブックマーク 関連項目 タグ 最終更新日時 【時事】 ニュース 筆安一幸 『終末のワルキューレ』第11話 二刀流でさらなる奥義覚醒へ!(アニメージュプラス) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 『終末のワルキューレ』第9話 第3回戦、ポセイドンvs佐々木小次郎!(アニメージュプラス) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース アニメ「リアデイルの大地にて」TRUEのOPテーマ聴けるPV第2弾、追加キャストも発表(コミックナタリー) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース アニメ「リアデイルの大地にて」ケーナが泳ぐ新キービジュアルが公開(コミックナタリー) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 沢城みゆきのアニメ出演作品・キャラクターまとめ【2021年版】 - アニメ!アニメ!Anime Anime 田所あずさニューシングル、2022年1月放送開始TVアニメ『リアデイルの大地にて』EDテーマ「箱庭の幸福」Digitalリリース決定! (2021年11月11日) - エキサイトニュース 『終末のワルキューレ』第4話 人馬一体、再び神へ立ち向かう!(アニメージュプラス) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 『終末のワルキューレ』第2話 人類代表・呂布の反撃(アニメージュプラス) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 「終末のワルキューレ」沢城みゆきら声優陣が副音声で“限定トーク”!舞台化も決定(アニメ!アニメ!) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 「終末のワルキューレ」第2期が制作決定! 第1期は10月よりTV放送がスタート - アニメ!アニメ!Anime Anime リアデイルの大地にて:テレビアニメが2022年1月スタート 幸村恵理が主人公ケーナに 小野大輔、名塚佳織、杉田智和も - MANTANWEB リアデイルの大地にて | あらすじ・スタッフ・声優 - コミックナタリー - コミックナタリー 【2021夏アニメ】第2部スタートの『転スラ』2期に『うらみちお兄さん』『精霊幻想記』 (1/6) - ASCII.jp マキシマム ザ ホルモン、主題歌オープニング・テーマを書き下ろしたアニメ「終末のワルキューレ」Netflix独占配信スタート&ノンクレジットOP公開 - TOWER RECORDS ONLINE - TOWER RECORDS ONLINE 「神達に拾われた男」TVアニメ第2期が制作決定! キャラデザ・出口花穂のお祝いイラストも到着 - 超! アニメディア アニメ3期『邪神ちゃんドロップキックX』新キャラ・アトレ役の声優に長谷川玲奈さん決定! エキュート役は、公開オーディションを実施 - アニメイトタイムズ 「邪神ちゃんドロップキック」2期が初の全話一挙配信決定!3期キャストの重大発表も - アニメ!アニメ!Anime Anime 三条市舞台アニメ 製作決定 東京の会社 女子高生がDIY挑戦 - 新潟日報 “DIY女子高生”描くオリジナルアニメ制作決定 監督は米田和弘、アニメーション制作はPINE JAM - アニメハック 『リアデイルの大地にて』、アニメ化!メインスタッフ情報を公開 - マイナビニュース 2021年冬アニメ作品リスト - コミックナタリー - コミックナタリー 「回復術士のやり直し」TVアニメ化!監督は朝岡卓矢、シリーズ構成は筆安一幸 - マイナビニュース ふでやす かずゆき アニメ「ヘタリア World★Stars」Blu-ray BOX 収録の第15話の場面写真とあらすじを公開! - PR TIMES アニメ「ヘタリア World★Stars」主題歌CD収録楽曲の楽曲配信開始! - PR TIMES アニメ「ヘタリア World Stars」GW期間にアニメ#1~#4無料公開!主題歌 CD「地球まるごとハグしたいんだ」試聴動画公開! - ニコニコニュース アニメ「ヘタリア World★Stars」配信情報を追加! - PR TIMES アニメ『ヘタリア WorldStars』配信日時・サイト決定 - 電撃オンライン 2021年春より配信開始の「ヘタリア World Stars」より、主題歌CDがリリース決定! - TOWER RECORDS ONLINE - TOWER RECORDS ONLINE 【参考】 ブックマーク サイト名 関連度 備考 Wikipedia ★★ 関連項目 項目名 関連度 備考 参考/ペンギンの問題 ★★★ シリーズ構成、脚本 ふでやすかずゆき 参考/探偵オペラ ミルキィホームズ ★★★ 参考/ベン・トー ★★★ 参考/うーさーのその日暮らし ★★★ 参考/お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ ★★★ 参考/波打際のむろみさん ★★★ 参考/ワルキューレ ロマンツェ ★★★ 参考/ミス・モノクローム ★★★ 参考/ぴたテン ★★ 脚本 参考/逆境無頼カイジ ★★ 参考/絶対可憐チルドレン ★★ 参考/極上!!めちゃモテ委員長 ★★ 参考/にゃんこい! ★★ 参考/クッキンアイドル アイ!マイ!まいん! ★★ 参考/SKET DANCE ★★ 参考/ジョジョの奇妙な冒険 ★★ 参考/X -エックス- ★★ 筆安一幸 参考/MONSTER ★★ 参考/おくさまは女子高生 ★★ 参考/闘牌伝説アカギ ★★ タグ 人物 最終更新日時 2014-01-07 冒頭へ