約 1,268,411 件
https://w.atwiki.jp/th_izime/pages/1320.html
レミリアに沸点が低くなる魔法をかけてみた 87-94 ねんがんのLIMOUSINEをてにいれたぞ! 234
https://w.atwiki.jp/crackingeffect/pages/56.html
【クラス】ランサー 【真名】レミリア・スカーレット 【出典】東方Project 【性別】女性 【属性】秩序・中庸 【パラメーター】 筋力:C 耐久:B 敏捷:A 魔力:A 幸運:D 宝具:B 【クラススキル】 対魔力:B 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。 【保有スキル】 運命操作:D 彼女の持つ能力。運命を操るとされるが、実際のところ操れてはいない。 なので「それとなく幸運が起きる」程度の代物であり、しかも本人に時期の操作は不可能。 吸血鬼:B 強靭な肉体と再生能力を両立する。 但し、直射日光を浴びれば気化してしまう弱点を持つ。 【宝具】 『運命射抜く神槍(スピア・ザ・グングニル)』 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1-99 最大補足:1人 正確には槍そのものを投げているのではなく、弾を超高速で投げつけることで槍のように変化させるとされるランサーの十八番。原典におけるランサーの代名詞とも取れる技であるが故に、此度の聖杯戦争において宝具の域にまで昇華され、とうとう持って振るうことも投げることも可能な槍へと変貌を遂げた。 真名開放と同時に投擲することで真価を発揮する。 その性質は不明だが、単純に強力であるが故に穴がない「対軍宝具」。 【weapon】 なし 【人物背景】 東方紅魔郷の舞台、紅魔館の主である吸血鬼の少女。 吸血鬼としては少食で、人間から多量の血が吸えない。また、吸い切れない血液をこぼして服を真っ赤に染めるため「スカーレットデビル(紅い悪魔)」と呼ばれている。 貴族らしい威厳や体面を重視しており、自らを「誇り高き貴族」と呼んだり、ツェペシュ(ドラキュラのモデルないし、吸血鬼の始祖)の末裔を名乗ったりしている。ちなみにスペルカードにも彼の名を冠した物があるが、実際の血縁関係にはない。だがその本質は尊大かつ我が儘で、非常に飽きっぽいという少し幼い思考。常日頃から退屈しており、気紛れで突拍子も無い事を思いついては周りを振り回している。 強大過ぎる程強大なので、周りは良い迷惑であるとのこと。 【サーヴァントとしての願い】 なし。飽きるまでは付き合ってやる。 【基本戦術、方針、運用法】 日光に弱いという弱点を持つため、主に夜間を中心とした戦闘が望ましい。
https://w.atwiki.jp/ffwm/pages/78.html
レミリア・スカーレット&セイバー◆DIOmGZNoiw 赤い、紅い月夜だった。 見上げた空に輝く満月が、真紅に染め上げられている。周囲を取り巻く空間そのものが、赤黒い闇に覆われている。息が詰まるような圧迫感の中、セイバーはそれでも構えた剣の緊張を解きはしない。背後に控える己がマスターに危害を加えんとする敵に、殺意の眼差しを向ける。 赤黒い闇の中、薄い紅色のドレスを身に纏った少女が、自らの屋敷の屋根に腰掛けた姿勢のまま、くすりと微笑んだ。歳の頃は十歳かそこらの幼女のように見えるが、少女が放つ威圧感が、その認識を改めさせる。闇の中でも爛々と輝く少女の瞳が、自身が人間でないことを物語っている。 敵は、吸血鬼だ。人の血肉を啜り、自らの糧とし、時には人を眷属へと作り変える悪鬼である。 気高き誇りを胸に吸血鬼退治に乗り出したセイバーが、携えた剣の切っ先を吸血鬼の少女へと向けた。 「お前は、これまで何人の血を吸ってきた」 「あなたは、今まで食べてきたパンの枚数を覚えているの?」 少女の返答には、淀みがなかった。その返答ひとつで、戦うには十分過ぎる理由が整った。 セイバーが眦を決する。剣を構え直し、今まさに吸血鬼の少女目掛けて跳ぼうとした時だった。ぎぃ、と鉄が軋む音を響かせながら、真紅の屋敷の門が開いた。中から現れたのは、茶色の髪を片側に寄せた、年若い青年だった。毒々しい印象を与える黒と赤の装束に身を包み、全身に鎖を巻き付けている。肩からかけた真紅のマントをたなびかせながら、ブーツの音を甲高く響かせて、男が数歩前へ歩み出る。男の足跡が、石の床に黒く焦げ付いたように残り、そこから炎を吹き上げていた。 瞬時に察する。今現れた男こそが、吸血鬼のサーヴァントだ。聖杯戦争を戦う上で、避けては通れぬ敵だ。 それを証明するように、吸血鬼の少女がサーヴァントに命令を下した。 「やれ、セイバー」 敵もセイバー。命令は単純明快。戦闘開始の合図である。 なにかをされる前に、有無を言わさず先手を取ろう。そう判断し、セイバーは大地を蹴った。 同時に、敵のセイバーがフン、と鼻で笑う。掲げた左の掌の中に、赤黒い魔力の輝きが迸っていた。刹那のうちに肉薄したセイバーの剣を、敵セイバーが魔力漲る左手で受け止める。セイバーの刃は、魔力に阻まれて男の掌にまでは届いていなかった。 危険を察知したセイバーが、大きく飛び退く。同時に、男の左手の魔力が弾けて、光の奔流が放たれる。上手く回避したセイバーに、吸血鬼の少女が頭上からささやかな拍手を送った。 「あっはっは、上手く避けたね、でも次はどうかな」 頭上からかけられた少女の玲瓏な声に呼応するように、どこからか黒と赤の蝙蝠が姿を表した。まともな蝙蝠ではない、金の瞳を妖しく輝かせた、異形の蝙蝠だ。敵のセイバーの、なんらかの魔術礼装であろう。それを認識すると同時に、少女がその玲瓏で整った顔を歪ませて、剣呑に笑った。 「こんなに月も紅いから、本気で殺すわよ」 「ありがたく思え、絶滅タイムだ」 少女に続くように、サーヴァントの周囲を羽ばたいた蝙蝠が、低い声でセイバーを嘲る。敵のセイバーが、蝙蝠をその手の中に収めた。次いで、蝙蝠の牙が、その手を噛んだ。噛まれた腕から、毛細血管状の影が伸びる。瞬く間に毛細血管は全身を覆い、顔にまで広がり、男の腰にベルトを形成した。 「変身」 敵セイバーの体がエメラルドグリーンの輝きに覆われ、そしてその形を作り変える。全身を赤と黒の鎧に包み、蝙蝠の翼を思わせる緑の複眼で、敵はセイバーを見据える。 「さあ、お前がこれから相手をするのは世界すら滅ぼす『闇のキバ』だ。どこまでやれるかな、力を見せてみろよ」 いつの間にか、少女の背からは悪魔を思わせる翼が生えていた。その翼を羽ばたかせて、少女はゆっくりと『闇のキバ』と呼んだ鎧の男の後方へ降り立つ。 ふと、空を見上げた。この場の全員を頭上を覆うように、空には周囲の闇よりも一際どす黒い、闇色をした巨大な紋章が浮かんでいた。蝙蝠の翼を思わせる紋章だ。 敵が右手を軽く掲げる。足元に、頭上に現れたものと同じ形をした、翠色に光輝く紋章が現れた。 直感的に危険を察知したセイバーは、もう一度敵と距離を取ろうとしたが、もう遅い。 「誰も俺からは逃げられん」 闇のキバが、歌い上げるように嘲りの言葉を告げると同時に、掲げた右腕を真っ直ぐにセイバーへと伸ばした。 足元の紋章が、地面を泳ぐようにセイバーへと放たれた。地面をスライドしてきた紋章は、セイバーの退路を立つように地面から迫り上がり、壁となる。紋章型の壁が、セイバーの体を捉え、磔にする。もはや逃れることは不可能だった。翠の紋章から放たれた赤黒い魔力が、セイバーの体を苛む。 「セイバー!」 「おいおい、不利になったからって騒ぐなよ。お前は私を殺すために此処に来たんだろう。だったら、こうなる覚悟もあった筈だ」 マスターの狼狽の声を、吸血鬼が遮った。 闇のキバが、突き出した右腕を大きく引いた。セイバーを磔にしていた紋章が、その体を大きく弾き飛ばした。勢い良く闇のキバの方向へと跳ね飛ばされたセイバーを、闇のキバは、その鎧に包まれた豪腕で勢い良く殴り付けた。セイバーの鎧がひしゃげ、吐血する。拳に投げ飛ばされるように弾き飛ばされたセイバーを、再び紋章の壁が捉える。紋章から放たれた魔力の稲妻が、セイバーの体を焼く。もう一度、闇のキバは右腕を引いた。魔力の壁に囚われていたセイバーが、再びその体を闇のキバへと向けて射出する。闇のキバの拳が、セイバーを容赦なく殴りつけた。 あとはその繰り返しだった。セイバーが戦う気力を失うまで、紋章に囚われ、弾き飛ばされ、殴られる。それを、ただひたすらに、何度も何度も繰り返す。 やがてセイバーは嗚咽すら漏らさなくなった。もはや虫の息だった。 闇のキバが、掌に赤黒い闇を集約させる。闇は形を成して、一振りの剣を形作った。黄金の柄に、白銀に煌めく宝石で出来た刃。見る者の目を奪う美しさを秘めていながら、同時に、目を背けたくなる禍々しさを内包している。 闇を纏ったその剣を、セイバーに向ける。紋章に囚われたままのセイバーを全方位を取り巻くように、闇のキバが持つものと同質の剣が生成される。剣は加速度的に複製されて、その数は十本、二十本、三十本と爆発的に増加して、やがて目視では数えられない数にまで膨れ上がった。 これからなにが起こるのかを、セイバーは察した。おそらく、その場の全員が、察した。 「絶滅せよ」 底冷えするような冷淡な死刑宣告に次いで、生成された無数の剣が、一斉にセイバーへと急迫した。胴体も、四肢も、頭も。余すところなく、闇のキバが放った剣に斬り裂かれ、穿たれる。 セイバーが意識を失ってもなお、攻撃の勢いが緩むことなかった。生成されたすべての剣がその身を斬り裂くまで、射出は続いた。 ◆ スノーフィールドの外れ、森の湖の畔に設えられた偽りの紅魔館の一室で、レミリアは玉座に深く腰掛けたまま、一仕事を終えたセイバーに向き直った。頭上のステンドグラスから差し込む紅い月光が、薄暗い室内に佇むセイバーをほのかな紅色に彩っている。 闇のキバの鎧を脱ぎ去ったセイバーは、見かけにはただの奇抜な格好をした若い男にしか見えないが、この男がいかに優秀かをレミリアは知っている。闇のキバを纏った戦いにおいては、常勝にして無敗。ただの一度たりとも敗北の経験を知らぬ、無敵の王。それが、レミリアに与えられた最強最悪のサーヴァントだ。 レミリアは、最強最悪とか、そういう言葉が大好きだった。 「フフン。お疲れ様ね、セイバー。まあ、大した敵じゃあなかったね」 「ああ。あの程度の力でこの俺を倒す気でいたとは、まったく片腹が痛い」 余裕に満ちた薄ら笑みを浮かべて、セイバーは機嫌よく回答する。 結局、レミリアは敵のマスターを殺さなかった。敵のセイバーを完膚なきまでに叩き潰したのは、それが闘争を以てレミリア陣営に勝負を仕掛けてきた挑戦者だったからだ。戦意を喪失した敵を縊り殺す趣味は、レミリアにはない。尤も、セイバーは敵のマスターの生命力(ライフエナジー)を吸い尽くして殺すつもりでいたようだが、この紅魔館を居城とする限り、厳密にはその必要すらない。 そもそもの話、この紅魔館で戦闘を行う時点で、圧倒的にレミリアが有利になるように、条件は整えられているのだ。 この紅魔館には、屋敷全体を覆う簡易な魂喰いの布陣が敷かれている。夜間に限って、この紅魔館で働く従者から魔力を吸い上げ、セイバーに供給するようにできている。それゆえ、紅魔館は赤黒い霧に包まれ、ここから見上げた月は、紅く見えるのだ。 「だが、本当に良かったのか、敵のマスターを逃して。絶滅させねば、また新たな仲間を引き連れてくるかも知れんぞ」 セイバーの宝具の化身たる蝙蝠、キバットバットⅡ世が、レミリアの周囲を羽ばたきながら苦言を呈する。 「いいや、ありゃもうダメだね。全然ダメ。そういう骨のある手合いじゃあないよ。完全に戦意を折ってやったもの」 「仮にもう一度立ち向かって来るとして、俺はそれでも一向に構わんがなあ。その時は、再びこの俺の力を思い知らせてやる」 嘲りを多分に含んだ笑みとともに、セイバーが嘯いた。 レミリアの隣に用意された玉座の前に立ったセイバーが、腰からさげた自らの宝具――魔皇剣ザンバットソードを、薔薇の散りばめられた足元に突き立てた。セイバーもまた、自らのために用意された玉座に深く腰掛ける。 今や、このスノーフィールドにおける紅魔館の王は、ふたりでひとりだった。 五百年の時を生きた幻想の吸血鬼と、歴代最強と謳われたファンガイア・キング。小手先の策に頼らず、正面から敵を叩き潰す、暴力の権化たる主従が、この紅魔館にはいる。 「いい、セイバー。私の目的は、聖杯を獲ること。我が覇道を阻むものは叩いて潰す。歯向かうものは暴力で以て支配する。それだけが我が陣営における唯一の法よ、わかってるわね」 「誰にものを言っている。このような遊戯、俺にとっては所詮無聊の慰め。だがな、所詮遊戯とはいえ、戦争の名を冠するからには、頂点を獲る。そしてただの一度の敗走もなく、我が陣営に聖杯を齎してやる。それが貴様のサーヴァント、最強の名を恣にするファンガイアのキングだ。レミリア・スカーレット」 「はは、相変わらず頼もしいわね。魔族の私からすれば、聖者の杯になんぞ興味はないけれど、こうして聖杯戦争に呼び出された以上は、誇り高き血族の長として、頂点を獲らなくっちゃあ気がすまないってわけ。フフン、その点は私もお前と同じ考えよ、セイバー」 レミリアには、スカーレット家、紅魔館の当主としての誇りがあった。誰にも負けず、誰にも見下されない完璧なる血族の頂点であるという、誇りがあった。それを、あろうことか、レミリアはこのスノーフィールドに来てからというもの、長らく失念していた。 自分は、スノーフィールドの外れの屋敷の、金持ちのお嬢様である、と。なんの疑いもなくそう思い込まされて、取るに足らない従者を従えて、なんの変哲もない暮らしに満足していたのである。数日間の擬似生活とはいえ、それがレミリアには許せなかった。 ――このレミリア様を捕まえて、あろうことか記憶をいじくって、戦争に参加させるなんて、いったい何様のつもり。そっちがその気なら、とことん乗ってやろうじゃないか。思惑通り、この戦争に乗って、あらゆる敵を叩き潰し、そして幻想郷に帰ってやる。 それがレミリアの動機だった。 負ける気はしない。なにしろ、レミリアは幻想郷において最強にして最速の吸血鬼なのだ。 力では鬼に負けるし、速度では天狗に負ける。そもそもレミリアは博麗の巫女にも、綿月姉妹にも敗北しているが、それでもレミリアの中では、自身こそが幻想郷において最強にして最速なのだ。その誇りを弄ばれたことによる怒りは大きい。 だが、まあ、最強の自分に、最強のサーヴァントがあてがわれたことだけは、見る目があると褒めてやってもいい。 「ムーンセルだかなんだか知らないが、連中には、誰が真の支配者か刻み込んでやる必要がある」 「案ずるな、レミリア。泣こうが喚こうが、この俺が最強であることに変わりはない。聖杯は獲る、これは確定事項だ」 「あら、相変わらず大口叩くじゃないの。ま、このレミリア様のサーヴァントってんだからそれくらいじゃなきゃ困るけど」 レミリアは、今隣にいるセイバーが存外嫌いではない。気高き真紅の、吸血鬼の王。レミリアの隣に並んで遜色のない、厳選されたサーヴァントである。 他の有象無象がどんなサーヴァントを引き当てたのかは知らないが、自分のサーヴァントこそが最強で、最強最速の吸血鬼たる自分がセイバーと組んだ時点で、我が陣営に敗北はあり得ない。 いかな敵が現れようと、鋭く研いだ闇の牙で刺し穿つのみ。小手先のテクニックなど不要だ、どんな相手であろうとも、正面から叩き潰し、吸血鬼の誇りと、その暴力の恐ろしさを刻み付けてやるのみ。 誇り高きふたりの吸血鬼による聖杯戦争は、幕を開けたばかりである。 【出展】仮面ライダーキバ 【CLASS】セイバー 【真名】暁が眠る、素晴らしき物語の果て 【属性】混沌・悪 【ステータス】 筋力A 耐久A+ 敏捷C 魔力A+ 幸運E 宝具A (※宝具発動時のステータス) 【クラス別スキル】 対魔力:A Aランク以下の魔術を完全に無効化する。 宝具解放中ならば、事実上、現代の魔術師による魔術では傷をつけることは不可能。 騎乗:A++ かつてドラン族最強の個体『グレートワイバーン』を捕獲し、生きた居城『キャッスルドラン』として改造・支配下に置いた逸話を持つセイバーは、本来騎乗スキルでは乗りこなせない筈の竜種を例外的に乗りこなすことができる。 【保有スキル】 神秘殺し:A 敵対するあらゆる魔族を討ち滅ぼし、ファンガイアをこの世に現存する魔族の頂点へと昇華させた。 魔族・魔性といった性質を持つ敵と戦闘する場合、ステータスに補正を得られる。 純血の支配者:EX 歴代最高にして最強のキングと謳われたセイバーが持つ天性の資質。 魔剣ザンバットの呪いをも跳ね返した王の資質は、威圧・混乱・幻惑といったあらゆる精神干渉を無効化する。 また、種族を率いて繁栄させてきた功績と実績から、軍団を指揮する際にこのスキルの真価が発揮される。事実上「カリスマ」スキルの側面を同時に持つスキルだが、ただし、指揮能力としては「カリスマ:B」相当である。 吸命牙:A 数々の人間を死に至らしめてきたファンガイア固有の能力。 他者の生命力を吸収し、自らの体力・魔力を回復するが、対象が対魔力を持つ場合、そのランクに応じて効果は落ちる。 また、セイバーが行うあらゆる「魂喰い」の効率をアップさせる効果を持つ。スキルランクに応じてその効率は上がる。 魔皇の紋章:A 左手の甲に刻まれしファンガイア・キングの紋章。それそのものがセイバーが膨大な魔皇力を保持していることの証明でもあり、セイバーは魔力を魔皇力として運用する。 『紅き月夜を穿つ闇の牙』解放時は、鎧の力によってより自由度の高い魔皇力のコントロールがなされ、空中に魔皇力で出来た巨大なキバの紋章を形作り、そのまま攻撃・拘束に転用することも可能となる。 対魔力を持つ者ならば、キバの紋章による拘束力をある程度削減することは可能。同ランク以上の対魔力ならば判定次第で抜け出すことも可能だが、逆に言うと、同ランク以下の対魔力では、展開された紋章から完全に抜け出すことはまず不可能。 【宝具】 『紅き月夜を穿つ闇の牙(ダークキバ・エクスターミネイション)』 ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:1人 敵対するあらゆる魔族を「殲滅」するため開発された、ファンガイア族が誇る最強の鎧。通称『闇のキバ』。 ファンガイアの頂点に君臨する『キング』のみが装着を許されており、鎧そのものが「装着者の資質に呼応し、その能力を無制限に高める」という性質を持っている。歴代最強のキングと謳われたセイバーがこれを用いることで、実際にウルフェン族・マーマン族・フランケン族、そして、かつてファンガイア族を除いて最強と畏れられたレジェンドルガ族は、揃ってほぼ絶滅という状態にまで追い込まれている。 本来の『闇のキバ』の耐久性は「核爆発の中心にあってなお無傷」である『黄金のキバ』の三倍を誇ると謳われているが、宝具として再現された『闇のキバ』もまたその逸話に恥じぬ絶大な耐久性を誇る。宝具ランク以下の魔術では、まず傷をつけることすら不可能だろう。 また、鎧そのものが限定的な「空想具現化」の性質を有しており、全身から魔皇力を放出することで、自身の力を最大限発揮できる環境に世界の状態を変化させることが可能。……ただし、真祖ほど万能というわけではなく、自由自在に能力に融通を利かせられるわけではない。 具体的には、戦闘中、鎧から沸き出した真紅の闇が周囲の空間を、そして空に浮かぶ月を紅く染め上げることで、空間内で戦うセイバーの攻撃の威力を底上げする、というものである。 『生命食らう絶滅の魔皇剣(ジ・エンド・オブ・ザンバット)』 ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~50 最大補足:100人 ファンガイア・キングのために造られた、この世に存在する最も強力な剣を用いた宝具。剣自体の正式名称は『魔皇剣ザンバットソード』。 その刀身は、巨大な魔皇石の結晶から削りとって造られたという逸話を持っており、剣自体がライフエナジーを持つものに対して過剰に反応し、それを「喰いにいく」性質を持つ。宝具として解放した際は、斬り裂いた相手の生命力・魔力を吸収し、放たれる技の威力を向上させる。 宝具『紅き月夜を穿つ闇の牙』による「空想具現化」発動時ならば、この剣と同等の神秘を持った剣を無限に複製し、敵に向けて一斉に射出することが可能。 また、剣が持ち主を選ぶため、この宝具のランクを越える資格(セイバーの場合「純血の支配者:EX」)を持つ者にしか扱えず、資格を持たぬ者が扱った場合、対象にこの宝具と同ランクの「狂化」を付与し、見境なく暴走させる。 【weapon】 『キバットバットⅡ世』 セイバーの体内を循環する魔皇力を活性化させ、その身に『闇のキバ』を纏わせる黒き蝙蝠型モンスター。体内に『闇のキバ』を内包している。 今回召喚されたセイバーは、あくまでファンガイアの王として、一族の繁栄のため、あらゆる敵を討ち滅ぼして来た一騎当千の英雄時代。所謂全盛期である。よって、キバット自身もセイバーとともに戦場を駆け抜けた時代から召喚されており、現時点のセイバーを裏切ることはない。 ただし、自身がのちにセイバーを裏切ったことは、知識としては理解している。 今回は純粋なセイバークラスとしての召喚のため、魔剣ザンバットを用いないウェイクアップ1~3の攻撃は全て発動不可となっている。 【SKILL】 『魔皇力』 体内に循環する膨大な魔皇力を攻撃に転用し、それを「魔皇の紋章」が刻まれた左手から放出する。赤き魔皇力の奔流は、対峙するあらゆる魔族を焼き尽くし、数えきれないほどの同族を処刑してきた。 『絶滅・ザンバット斬』 宝具解放時、限定的な「空想具現化」によって能力の底上げが適用されている間のみ、空間内にザンバットソードの複製を無限に複製する。キバの紋章で身動きを封じた対象へ向けて、精製した膨大な数の剣を一斉に射出し、最後は魔皇力を充填させたザンバットソードを縦一閃、紋章ごと対象を断ち斬る大技。 【人物背景】 かつて歴代最強にして最高のキングとして畏れられた、ファンガイア族の英雄。 闇のキバを身に纏っての戦闘は常勝無敗で、敵対するあらゆる魔族を討ち滅ぼすだけでなく、劇中においても無敗。ただの誰一人としてファンガイア最強を誇るキングが変身したダークキバを攻略したものはいない。 しかし、ある時突然、最強にして完璧であったキングの伝説に陰りがさした。 クイーンである真夜が、人間である紅音也に恋をしたのである。そこからはじまるキングの転落は、まさしく破竹の勢いであった。 真夜が自分を裏切ったからといって、その真夜を傷付けることは、自分がこの裏切り者を愛していたことの証明になってしまう。ゆえにキングは、この世で最も強いと謳われた魔剣ザンバットソードを自らの居城の壁に突き刺して封印し、それをもって自分自身への戒めとした。こうしてキングは、まず、己の剣を失った。 真夜と紅音也が愛し合う仲になったことを知ってなお、キングは真夜を殺さなかった。その代わりに「死よりも思い刑罰」として、真夜からファンガイア・クイーンとしての力を奪い取り「亡霊のように生きてゆけ」と命じる。 また、裏切り者である真夜との間に出来た息子・太牙にも裏切り者の血が流れているとして、キングは真夜に「次に紅音也と会ったら太牙を殺す」と告げる。だが、その真夜への仕打ちがまずかった。真夜との間に友情を感じていたキバットバットⅡ世はこれを「気に入らない」とし、闇のキバをその身に内包したキバットバットⅡ世はキングを裏切った。こうしてキングは、己の鎧を失った。 嫁を失い、剣を失い、鎧を失い、それでもなおキングの不幸は止まらない。 未来からやってきた紅音也と真夜との間にできた息子・紅渡の変身する黄金のキバまで敵に回し、ついにキングは闇のキバと黄金のキバのふたりを同時に敵に回してしまうこととなったのだ。それでも互角以上の戦いを繰り広げるあたりはファンガイア最強の面目躍如といったところだが、ついには敗北、最後には自らの実の息子・登太牙を道連れに逝こうとしたところ、キングの資格を受け継いだ赤子の太牙に、放った魔皇力を跳ね返され、死亡。 なにもかも失い、最後は自分の嫁を奪い取った男と、その憎き男と元・嫁との間にできた子供に致命傷を負わされ、実の息子にトドメを刺されるという恐ろしいまでの不幸っぷりである。 なお、二十二年後において理性を失い復活を遂げるが、上記の腹違いの息子・紅渡(黄金のキバ)と、実の息子・登太牙(闇のキバ)に団結され、二人がかりで殺されている。不幸まっしぐらである。 しかし、嫁を寝取られるに至るまでは、紛れも無く最強にして最高の英雄であった。 敵対するあらゆる魔族を討ち滅ぼし、支配下におき、かつて最強の名を恣にしていたレジェンドルガ族のロード、仮面ライダーアークを封印したのもほかならぬキングである。 ファンガイア族の今日の繁栄は間違いなくキング率いる軍団の活躍によるものであり、ビショップをはじめとし、キングを英雄視するものは多い。 ファンガイア最強のキングと、ファンガイアの資質を無制限に上昇させる闇のキバとの相性も素晴らしく、上記の通り劇中では無敗。闇のキバと互角と謳われた黄金のキバの必殺キック、エンペラームーンブレイクをほぼ無防備の状態で受けても無傷であった。 ザンバットはなくとも、闇のキバさえ奪われなければ、キングに敗北はなかったのである。 今回は、紅音也らと関わるよりも前の、まさしく英雄時代からの参戦。 魔皇剣を片手にセイバーとして召喚されている都合上、闇のキバの魔皇力を解き放って発動するウェイクアップ1~3、ファンガイアのキングとしての怪人態などはすべて解放不可となっている。だが、剣のみでも戦力としては十分過ぎる脅威である。 【サーヴァントとしての願い】 紅音也と関わる前の英雄キングとしての現界のため、特になし。 ただし、誇り高きファンガイア・キングとして敗北は許されない。 戦うからには勝利を。敵対するあらゆる勢力を絶滅させ、聖杯を獲る。 【基本戦術、方針、運用法】 小手先の策に頼らず、『紅き月夜を穿つ闇の牙』による殲滅戦による純粋で圧倒的な暴力で真価を発揮する。そもそも、攻防ともに圧倒的なスペックを誇っているため、小手先の策など不要。 ただし、高スペックゆえに魔力消費は絶大。レミリア自身が魔族の中でもトップクラスの存在であるため、魔力の捻出は不可能ではないが、それでもダークキバが魔力消費を気にせずフルスペックで戦闘を行えば、いかな吸血鬼とはいえ、体内の魔力はすぐに底を突くだろう。 そこで重宝するのが、セイバーが持つ魂喰いに関連するスキルである。吸血鬼らしく、セイバー自身が吸命牙で他者から生命力・魔力を吸収することが可能な上、宝具『生命食らう絶滅の魔皇剣』そのものが吸命牙と同様の性質を持っている。セイバーがこの宝具を用いた場合、吸命牙によって吸収効率はランク分アップされるため、実質戦闘中は相手から奪い取った魔力を糧にすることになる。 また、『紅き月夜を穿つ闇の牙』による「空想具現化」は、発動のために多大な魔力を消耗するが、ひとたび発動すれば、ダークキバの周囲を真紅の闇で覆い尽くし、空間内にいる他者の魔力を自動的に吸収し、尚且つ自らの性能を底上げするという性質を持っている。 レミリア自身が施した、紅魔館における魂喰いもそうだが、吸血鬼コンビらしく、魔力を他者から吸収して戦闘を行うことが、この主従の肝である。 そういった性質上、純粋に聖杯戦争の妥当を目指すものとは相性が悪く、尚且つ我の強いコンビの性格から考えても、同じく聖杯戦争に乗った者とも相容れないことは明白である。ただし、レミリア自身は根っからの悪ではない。プライドが高く、負けず嫌いなだけである。そのため、認めた者が相手ならば、場合によっては協力出来る可能性もある。 また、セイバー自身は、のちにたどった不幸の連続のため、幸運の値が絶望的に低い。が、レミリア自身の持つ「運命を操る程度の能力」に影響され、ある程度は不幸を覆すことができる……のかもしれない。 【出展】東方Project 【マスター】レミリア・スカーレット 【参加方法】 咲夜がどこからか手に入れてきた、魔力を秘めた白紙のトランプ。 それは、天邪鬼異変によって小槌の魔力を与えられたトランプであった。物珍しさにそれを保管しておいたレミリアだが、よもやそのトランプによって、自身が聖杯戦争に巻き込まれることになるなどとは思いもよらなかった。 【人物背景】 かつて幻想郷を妖気を帯びた紅い霧で包んだ、紅霧異変の首謀者。誇り高き紅魔館の当主にして、吸血鬼である。 異変を起こした理由は、幻想郷全体を紅い霧で覆ってしまえば、日光が遮られ、昼間でも騒げるようになるんじゃないか、とのことである。 吸血鬼としては少食で、一度に人間から多量の血を吸えない。また、吸いきれない血をこぼして服を真っ赤に汚してしまうことから「スカーレットデビル(紅い悪魔)」の異名を持つ。 本人はワラキア公国君主、ヴラド・ツェペシュの末裔を名乗っており、自らのスペルカードにも彼の名を冠するものがあるが、別にヴラド・ツェペシュの末裔ではない。血縁関係もない。 その本質は尊大かつ我が儘で、非常に飽きっぽいという見た目通り少し幼い思考。常日頃から退屈しており、気紛れで突拍子も無いこと(ロケットを造って月に行きたい、など)を思いついては周りを振り回している。 また、運命を操る程度の能力を持っているとのことだが、それが有用性を見せたことはないため、どのような能力であるかはイマイチ不明。 文花帖によれば"周りにいると数奇な運命を辿るようになり、一声掛けられただけで、そこを境に生活が大きく変化することもある"と言い、珍しいものに出会う率が高くなるらしい。 【能力・技能】 レミリア自身はすっかり幻想郷に迎合し、今や実質的に霊夢らの愉快な仲間と化してしまってはいるものの、種族・吸血鬼としての力は絶大で、数多くの新顔が頭角を現し続けている昨今においても、未だに幻想郷のパワーバランスの一角を担っている。 その本質は、目にも留まらぬスピード、岩をも砕くパワー、思い通りに悪魔を使役できる莫大な魔力といった反則的な身体能力にあらわれており、小手先のテクニックを無視する戦法を好む。 また、防御面においても優秀で、自らの身体を霧や蝙蝠に変えることも可能。頭以外が吹き飛ぶ怪我を負っても、一晩で元通りになる。 ただしその反則的な身体能力に比例して弱点も多い。 日光に弱い、流れ水を渡れない、にんにくを嫌う、鰯の頭なんて持っての他、と散々だが、十字架には強い。 というか彼女は、なんでそんなもんにやられなきゃいけないのか常々疑問に思っている。 【マスターとしての願い】 勝利して、支配する。それだけが満足感よ! (やるからには勝つ。聖杯も獲る。その上で、幻想郷に帰る。) 【令呪】 左手の甲に、キングのものと同じ王の紋章。 上段の王冠で一画。翼の描かれた中段で二画。一番下の薔薇で三画。 【方針】 小手先のテクニックなど無視。 力でもって捩じ伏せ、聖杯を獲る。
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/651.html
某所の泣き崩れるゆうかりん読んで思いついたネタ話 というかうみねこパロです。不愉快だと思う人がいれば今後は止めます その切っ掛けは、ただの妖精メイドの報告だった。 神社で行われるという大宴会。…その参加の誘いがあったというだけのことだった。 しかしそれは、彼女の主人を酷く不愉快にさせたようだった。 レミリアの罵声を聞くと幼い容姿の妖精メイドはひどく震えあがり、すぐにペコペコと頭を下げた後、飛ぶように部屋を出て行った。 「駄目だ駄目だ駄目だ!! そのような些事に費やす時間など必要ない、そんな暇があったなら、……、あったならッ!! …私は会いたい。もう一度会いたい! ○○に今一度会いたい!! あぁ、○○、どうしてこれ程までに私を拒むの!? ○○、頼むわ後生よ、聞こえているんでしょう!! 私の前にもう一度現れて、そして笑って欲しい! 望むなら、今こそ私の命をお前にくれてやってもいい! ああ、○○ぅ、○○ッッ!!」 妖精メイドに向けたはずの怒鳴り声は、いつしか誰に向けたものでもない絶叫になり、慟哭になっていた。 レミリアはいつしか床に伏し、両手で床を掻きむしりながら涙を零していた。 ――― レミリア姿は自室にあった。 気だるさが残る重い体を椅子より起こし、……カーテンの隙間から除く満月を眺める。 その月の輝きは、いつの時代も変わっていないように思える。そう、■■■年前から見える光景とまったく同じだ。 そしてレミリアはその両手を、天上の何者かに訴えるかのように広げた。 「……私はいつになったら、お前と再開できる? あぁ、○○…。…………死んでもいい! 貴方の姿を見ることができるのならこの命は惜しくない! あの日お前が望んだように、私の心臓をくれてやる! だから、…後生よ、貴方に、……もう一度会わせてちょうだい…。 そして、その時にこそ、私の愛を伝えさせて、私の罪を謝らせて!! うぅぁあぁぁぁぁぁ……。 ……だが逃がさんッ!! お前は私のものだ! 髪の毛一本から爪先まで、爪の垢すらも私のものだッ!! お前の肉一片までも私のもので、その体を流れる血流の一滴すら私だけのものだッ!! 逃がさんぞ、今度こそこの手から零さんッ!! 今度こそお前は永遠に私のものになる! その血を、体をッ、魂をッッ!! 私の眷属にして全て手に入れてやるッ!! 二度と逃がすものか、二度と逃がすものかッ」 吠え猛るレミリアは、突然、震えだしながら、…自身の体を掻き抱きながら崩れ落ちる。 ……それはいつの間にか、嗚咽になっていた。 「…………ぅうぅ、うっく…、違う、私が言いたいのはこんなことじゃないんだぁぁぁ、○○ぅうぅぅぅ……ひっく。 頼む、もう一度会わせてくれ。一言、伝えるだけでいい……。ぅうううぅう、○○ぅ、……。 …ひっく、…うっく…! うわああああぁああああああぁああぅああぅあぅあぁ…!! お前が愛しい、恋しい…! 私が間違っていた…! 貴方と共に過ごせるだけで、それだけで他には何もいらなかったのに。私が、私が間違えた、私がそれを間違えて、……うぅぅぅううぅぅ……」 その、震えながら泣く少女の小さな背中を見て、誰が彼女を恐ろしい吸血鬼だと連想するだろう。 その背中に、一対の蝙蝠のような羽がなければ…。ただの、何かに赦しを請う、幼い子供にしか見えないはずだ。 ……やがてその震えが収まり、すすり泣きが止む。 レミリア・スカーレットは、その虚ろな、何も映していないかのような瞳で月を見上げ、…呟いた。 「……アナタを、……愛しているわ…。……○○…………」 …………。 ……。 …。 「……何を怒鳴っているのかさっぱりだぜ。結局、アイツの言う○○ってのは何者なんだ?」 「軽々しく他人の心に踏み込むような真似はどうかと思うわよ、魔理沙。……どこで聞いたの?」 「別に聞くつもりはなかったが、……あんな大声で叫んでたら聞きたくなくても聞こえちまうぜ、パチュリー」 それもそうね、と溜息を一つ。動かない大図書館は読んでる本に顔を落としたまま、目線だけを白黒の魔法使いに向けて言った。 「ただの普通の人間よ。……もう何百年も前に死んでいる、ね」 「…はぁ?」 その予想外の言葉に、霧雨魔理沙は思わずぽかんと口を開けてしまう。 もっとこう、すごい経歴の大魔法使いとか、吸血鬼の王とかを想像していたのだが……。 「詳しくは知らないわ。私がこの紅魔館にやってきた時には、すでに死んでいたから…。 いえ、そもそも当時のレミィは死んだ○○を生き返らせる方法を躍起になって探していたわ。私が館に招かれたのもそれが理由。……魔道の知識に縋ろうとしたみたいね。 ただ――」 そう言うとパチュリーは読んでいた本をパタリと閉じ、地下室の天井――レミリアの部屋がある辺りを見つめた。 その瞳の中にある感情は読み取れない。彼女が、100年以上の時を共に過ごしてきた親友へ向ける想いは、いったいどのようなものなのであろうか。 「ただ一つ確実に言えるのは、レミィが○○を愛していたということだけよ。……狂気に駆り立てるほどにね」
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/1699.html
※ゆっくりでは無い生き物に変化させられた、ゆっくりふらんが登場します。 ※レミリアによる、四肢付きゆっくり虐待。全体的に虐待描写ぬるめ。 ※性的な描写を含みますが、18禁にはならないレベルです。たぶん。 ※可愛がりシーンも存在しますし、さらにハッピーエンドです。お察しください。 ※前編fuku1514.txt、中編fuku1665.txt、後編その1_18禁エロfuku1758.txtの続きです。 ※ほぼエロシーンのみの「後編その1」を読まず、非18禁の微エロ程度な中編からすぐ読 んでも内容通じるようになっているはずです。 ※例の如く、ある意味レミリア虐めかも知れません。キャラ性格の俺解釈ひどすぎるので。 ※「美鈴と森のゆっくり」の後日談的な感じとなっておりますが、このシリーズ単独でも 普通に読めるようにしたつもりです……一応。 ※当然のように俺設定満載な感じです。 ※原作キャラもゆっくりも俺設定要素多大ですので、イメージと大きく違う場合もござい ます。ご注意ください。 「レミリアと森のゆっくり 後編その2」 ついテンションを高めすぎ、ゆっくりふらんを本物のフランドール・スカーレットだと 思い込み、レミリアは肛門性交を行ってしまった。 最初は抵抗していたふらんも、いつしか快楽に心を蝕まれ、最終的にはアヘ顔で淫語を 呟くような状態に堕とされた。 ふらんの肛内へ合計7回ほど射精してから、漸くレミリアは相手が妹ではなく妹に似た 生き物だと言う事を思い出す。 長時間の肛虐により身も心も疲れ果て、ぐったりするふらんを放置して帰るわけにも行 かず、レミリアは彼女を膝の上へ横抱きに寝かせ介抱していた。 紅魔館へ連れ帰って、いつでも気軽に使い放題の尻穴便器奴隷にしてしまおうとか、そ の手の外聞をはばかりそうなエロ妄想にレミリアは頬を緩めている。 「ふふふ、そう言えばこいつ……食べ物で出来てるのよね……身体ばかりか、う、……う、 うん、ちとかも……」 独り言なのだから気にする必要がないにもかかわらず、排泄物を指す名詞を言葉にする 際、彼女は顔を赤らめ口籠もった。 御歳500歳の多感な幼女であるレミリアは、乙女らしく直接的な単語に対して強い羞恥 と抵抗を感じる。 「だ、だから……す、すすすす、すかと…………い、色んな倒錯プレイができるわねっ!」 誰も近くに居ないと思っていても気になるのか、あたりをきょろきょろと見回す。 見回したところで、特に異状は無い。 夜明けが近付いてきた夜の森が、ただ静まりかえっているだけである。 そして、それは唐突に現れ──レミリアへの攻撃を開始した。 「なっ、なに……!」 上空から何かが飛来してくる気配に、レミリアは上を向く。 迂闊であった。 こんな近くまで敵性が接近し、しかも攻撃を開始してくるまで気付かなかったのは、彼 女が淫猥な妄想に熱中していたからに他ならない。 素早くレミリアは、飛来してくる物の正体を見極める。 「ぐ、グングニル……って、え!? ウソぉ? なんで?」 飛来してくる物の正体に気付き、彼女は間の抜けた声で驚いた。 それは見慣れた形をした魔力を収束して作った紅い槍──自らの必殺技のひとつである 神槍「スピア・ザ・グングニル」に見えた。 「なっ、なんだって言うのよっ? くそっ!」 単なる奇襲であれば、充分に余裕を持って避けられたはずである。 しかし、敵が飛ばしてきた物が物だけに、驚きで対応がやや遅れた。 「わ、ちょ……え!? う、うそぉ……きゃあっ!」 何者かが放った魔力の槍が──レミリアの頭部を直撃する。 「うぅ……い、痛ぁい……うっ、痛……うぅっ…………あれ?」 とても痛い。 頭がぐわんぐわんして、ずきずきする。 目にはたくさんお星様が見える。 図書館に住まわせている友人を激高させ、ぶ厚い本の角で殴られた時と同じぐらい痛かった。 だが、それだけだった──。 「……なっ、舐めるなぁ! わ、私の技がこんな弱いわけ無いでしょ!」 頭部を完全破壊されるかもと思い、少しびびった自分へのやり場の無い怒りとともに、 レミリアは敵に向かって怒声を張り上げる。 痛みのあまり半べそをかいているため、あまり怖くはない容貌で上空の敵を睨む。 「……………………うそ……こんなの……」 敵の姿をしっかりと、その目に映したレミリアは、そう呟いた。 真っ青な顔で、全身をぷるぷると小刻みに震わせている。 月を背に上空に浮かぶは、蝙蝠のような翼を拡げ、やや紫がかった青い髪に赤いリボン のついた帽子、薄桃色の服の腰には大きな紅いリボン、頭がでかく顔が丸い幼女の姿。 そう──ゆっくりれみりゃである。 「いやっ、うそよ……こ、こんなのって……ひ、ひど……ぐすっ、うぇぇぇぇぇん」 レミリアは──泣き出した。 「うっうー☆ れみぃこーげき、いたいいたい? れみぃすごいすごい?」 れみりゃは上空で得意げに胸を張り、にぱーと笑った。 声は湖に住む氷精に似ている。 悩みが無くて良さそうな感じの、凄く頭の悪そうな声であった。 その声を聞き、レミリアの涙に勢いが増す。 「うっ、ひっく……ぐしゅっ、わ、私が、なにをしたって言うのよ……ひ、ひどいわ、あ んまりよ……ふぇぇぇぇぇん」 ゆっくりれいむ、まりさ、ふらんを見て、覚悟はしていた。 だが、見せつけられた現実は、そんな覚悟を吹き飛ばす破壊力を持っていた。 それに──レミリアは耐えられなかった。 弱いのは、まだいい。 ゆっくりふらんは通常弾幕しか放てないようだったから、弱いとは言え必殺技を放てる 分だけ、ゆっくりれみりゃは強いと思える。 だが、直撃なのに痛いだけ、人間なら下手すれば死ぬかも知れないぐらいの痛みだが、 痛いだけの威力しかないと言う点が、とても許せない。 こんな中途半端な威力の技を放たれては、それのオリジナルを持つ身として、非常に惨 めな気分になる。 姿の衝撃が大きかった。 自分はあんな丸顔じゃない。あんなに間抜けヅラじゃない。手足もあんなに短くはない。 可愛いかと聞かれれば可愛いと答えられるが、美しさが致命的に欠落しているのが、と にかく許せない。 お気に入りの普段着が全く一緒なのに絶望した。 同じような着こなしなのに、死にたくなるほど似合っていない。 まるで自分のファッションセンスが全否定されたカリカチュアを見せつけられて、人格 までも馬鹿にされてるような気分だ。 とどめは声である。 可愛い声と言えば可愛い声なのだが、全く知性が感じられない。 質も調子も高さも話す内容も、馬鹿どころか白痴としか思えないような声。 殺伐としているふらんの声の方が、まだ数倍マシだと思える。 プライド高い幼きデーモンロードには、耐え難い己の似姿であった──。 「うー? どーしてどーして、ないてる? れみぃこーげき、いたいいたい?」 れみりゃは心配そうな目でレミリアを見下ろす。 別に倒して捕食するために攻撃したのではなく、弾幕ごっこをして遊びたかっただけで ある。 だから、相手が泣いているのが心配なのであった。 「ふぇぇぇん……ひどいっ、やだっ、こんなの……ひっく、ぐすっ……」 膝の上に横抱きにしている、ふらんの胴体に突っ伏して、レミリアは肩を震わせ泣く。 突然攻撃してきた敵に、なんか心配されているのも、より一層心の傷を大きくする。 「うっうー? おねーさん、だいじょぶだいじょぶ? れみぃわるいわるい?」 上空から地上に降りてきたれみりゃは、レミリアより数歩離れた位置でおろおろとして いた。 やりすぎてしまったと思ったのか、気遣い謝るような仕草をしている。 「……う、ぅ……ぁ……んー……」 気を失っていたふらんが目を覚ます。 身体がひどくだるいが、動けないほどではない。 ゆっくりだった時も再生能力を備えていたが、レミリアの血と精液を取り込んだ事によ り、本物の吸血鬼には及ばないが、相当高い自己回復能力を身に付けている。 もっとも、自己回復や再生は外傷に対してがメインであり、疲労については「ちょっと 疲れが取れやすい体質」ぐらいの効果しか無い。 「ふぇぇぇぇん! もぅ、いやぁっ! 帰りたい! 咲夜ぁぁぁぁぁぁっ!」 自分を膝に乗せているレミリアが大泣きしているのに、ふらんは気付く。 「うー……れみぃわるいわるい? おねーさん、ごめんごめん……うぁぁぁぁぁん」 れみりゃがぽてぽてと歩み寄って来て、謝り泣き出した。 「……え? ちょっと、どうしたの? な、なんなの?」 わけがわからない。 目が覚めたら、あんなに強くて憎たらしくいやらしかったレミリアが、無力な幼女のよ うに号泣している。 その上、この森で最強クラスの強さを誇る個体である、れみりゃが来ていて、何故かこ いつも泣き出した。 ふらんは──混沌とした状況に混乱した。 懸命に、ふらんは状況を把握しようと頭を回転させる。 「………………どうしよ……わからない……」 考えてみても、全くわからなかった。 レミリアもれみりゃも、ふらんの思考の及ぶ範囲外の存在なのだから、考えてもわから ないのは、当然と言えば当然であるが。 どちらを先に落ち着かせるべきかを、ふらんは次に考える。 「……どっちもこのままなら……わたしは、へいわ……じゃないのよね……」 どちらも別に泣いたままでも困らない、むしろ冷静にさせたら何らかのとばっちりが来 そうである。 かと言って、このまま放置するわけにも行かない。 すでにふらんは、ゆっくりであってゆっくりでは無い存在となってしまっている。 もう元の生活には戻れない事を、ちゃんと自覚していた。 レミリアの血と精液を取り入れた事で、入ってきた知識と高められた知能によって形成 された人格が、そのように結論づけている。 こうなった責任者に何とかして貰う以外、ふらんには今後の生きる術が思いつかない。 だるい身体を起こし、彼女はレミリアの膝から降り、裸の尻をぺとんと地面に落として 座る。 「ちょっと! なにがあったのよ? ねぇ、ちょっと!」 こんなやつに話しかけたくないけど、と思いつつ、ふらんはレミリアに声を掛けた。 「ぐすっ、うぅっ……な、なんでもないわよ……ふぇぇぇぇんっ」 何でもないわけがない。 「……なんでないてるのよ? どうしたのよ? ねぇ……れ、れみりあ!」 こんなやつの名前なんか呼びたくないが、肩を掴み、顔を見ながら呼びかける。 「うぅっ、ふぇ……ふ、ふぇぇぇぇぇんっ!」 「ちょ、だ、だきつかないでよっ! な、なんなのよぅ……もう……」 仕方ないと言った表情を浮かべ、ふらんはレミリアを抱き留め背中をさする。 「わぁぁぁぁぁん……ぐしゅっ、わ、私……ふぇぇぇぇん」 「あー、はいはい……よしよし……」 何の因果でこんな羽目にと思いつつ、ふらんはレミリアをあやす。 言いたい事は山ほどあるし、出来れば殺したいほど憎んでいる相手だが、最早これに頼 らねば今後どうすることも出来ない身の上であった。 「ぶぇぇぇぇぇんっ! れみぃもだっこだっこ! ぶわぁぁぁぁぁん」 レミリアばかりが優しくされていることに嫉妬したのか、れみりゃがふらんの肩を掴む。 「って、こっちもぉ? ど、どうしろってのよぉ~……やれやれ」 うんざりした顔で、れみりゃも一緒に抱きしめる。 地面の上に座った裸のふらんが、仲良く並んで声を上げて泣くレミリアとれみりゃを抱 きしめて、懸命にあやすという光景がしばらく続いた。 「……で、いったいどうしたってのよ? ねぇ、れみりあ?」 どちらもが泣きやんだ頃合いを見て、ふらんがレミリアに話しかけた。 「……むー……なんでも、ないわよ……」 「うっうー☆ ふらん~♪ れみぃとあそぼあそぼ!」 口を尖らせ拗ねるレミリアと、もう楽しそうに笑っているれみりゃ。 どちらにも共通しているのは、全く質問に答えようとしない態度である。 「なんでもないわけないでしょ? なに、ひょっとしてこいつになかされたの?」 ちょっと挑発的な口調で、ふらんはカマをかけた。 「なっ!? そっ、そそそんなわけ……あ、あるわけないでしょっ!」 慌て吃りレミリアは否定する。 このような否定の仕方では、図星ですと白状しているのと同じ事だ。 「むっうー! れみぃむし、しないしない! あそぼあそぼ!」 全く相手にされないのが不満なため、れみりゃはしきりに話しかけてくる。 「はいはい、あとであそぼうね……って、そうなんだれみりあは、こいつになかされたん だ……ふーん、ぷぷっ」 れみりゃを軽くあしらいつつ、ふらんはニタニタとレミリアを見つめる。 色々と酷い目を見せてくれた相手に対して、なんとなく一矢報いられたようで、愉快な 気分になった。 「うっ、うるさいわねっ! し、仕方ないじゃない……こ、こんな……ぐすっ……」 育ちが良いため嘘が苦手なレミリアは、渋々事実を認める。 認めながら理由を言い訳しようとして、再び悲しい気持ちになって涙ぐむ。 「あー……ごめん、わたしがわるかったから、なんだかわかんないけど、ごめん」 泣かれると厄介であると経験を通して学んだため、すかさずふらんはフォローする。 あんなに強いレミリアが、どうしてれみりゃに泣かされたのかはわからない。 それに対して非常に強い興味を覚えるが、とりあえず今は理由を聞くべきでは無いと考 えた。 「あ、あんたなんかに……わ、私の気持ちが……ぐしゅ……ふぇぇぇぇん」 ふらんのフォローは効果が無かった。 「あー、ごめんってば……なかないでよ、れみりあ……」 よしよし、とばかりにレミリアの頭をふらんは撫でる。 もうどっちが年長者で主人なのか、傍目には良く判らない。 「うー☆ れみぃも、なでなでなでなで!」 ふらんがレミリアを撫でるのを見て、れみりゃは真似をした。 いい子いい子とばかりに、レミリアの頭を撫でる。 「だーっ! 元はと言えば、あんたの所為でしょっ! こいつっ!」 涙を流しながら500歳児は怒ってれみりゃの頬を叩いた。 乾いた音が周囲に響く。 「ぴゃっ!? ぶ、ぶぇぇぇん……ぶったぁ~っ……いだいいだい……う゛ぇぇぇぇん」 頬に走った鋭い痛みに、一瞬きょとんとした顔を浮かべてから、れみりゃは泣き出した。 「ちょ、ちょっとあんた……」 泣いていたと思ったら、いきなり怒り出したレミリアを宥めようと、ふらんは手を伸ば す。 「うるさいっ、邪魔するな! 私の姿で泣くな! 情けない!」 制止の手を邪険に振り払い、さらに往復でれみりゃからビンタを取った。 「ぶべっ! な、なじずるのぉ~? ひどいひどい、やべでやべで……びぇぇぇぇん」 両頬を強く叩かれ、弱々しく抗議しながら、流す涙の勢いを強める。 どうして自分が打たれるのか、何故このお姉さんが怒っているのか、れみりゃには全く 判らない。 「や、やめなさいよ! そんなおとなげな……きゃっ!」 「黙れっ! 私に指図するな!」 ふらんはレミリアの両手を抑え、この一方的な暴力行為を止めようとしたが、はね退け られ地面に尻餅をついた。 「い、いったぁ~っ……な、なによぉ、もう……ほんとにおとなげないわね……」 身を起こし、痛む裸の尻を手で摩りながら、呆れ声でぼやく。 「大人気なくて悪かったわね! あんた生意気よっ!」 彼女は怒りの矛先をふらんに向けた。 無防備なみぞおちへと拳を繰り出す。 「がふっ……」 強い衝撃を受け息が詰まり、苦しげな呼吸とともに中身を少し吐き出した。 「ちょっと良い具合のお尻してるからって、偉そうに意見すんじゃないわよ!」 ふらついたふらんの両肩を両手で掴み、レミリアは身体を密着させ、両脚の太ももへ交 互に膝蹴りを行う。 「あぐっ、いだぁっ! うぎっ、いぎぃっ!」 完全な八つ当たりである理不尽な暴力に晒されながら、ふらんは己の迂闊さを後悔した。 この相手が色々な意味で常軌を逸していると言うか、とんでもなく我が侭な暴君であ る事を、すっかり忘れていたのである。 「痛い? 痛くしてるんだから当たり前よね! 私に意見するなんて百年早いわよっ!」 涙目になった顔を覗き込み、レミリアは吐き捨てるように言うと、地面の上へ無造作に 突き倒した。 「あうっ!」 覆う物無く露わにされている背中と尻を、強かに打ち付け、ふらんは苦痛に喘ぐ。 レミリアがふらんに関わっている隙に、こっそりと逃げれば良かったのだが、ずっとぐ しゅぐしゅ泣いていたれみりゃは、この時になって漸く泣きやみ、 「う~……ぐしゅっ、おねーさんひどいひどい! れみぃ、おうちかえるかえる!」 この場から立ち去ろうと、もたもたと動き始めた。 黙って逃げていれば、気付かれずに済んだであろうが、この余計な別れの言葉がアダと なる。 「あぁん? ふざけんじゃないわよっ!」 わずかに宙へ浮いている程度の高さに飛び上がり、歩くのと然程変わらない速度で移動 するれみりゃの羽を、レミリアは掴んだ。 「うー! やめてやめて! れみぃ、おうちかえるかえる!」 振り解こうと身を捩るが、逆に翼が引っ張られて痛い。 「帰るですって? あんた、私をおちょくって無事に帰れると思ってんの?」 ぐいっと掴んだ羽を引っ張って、逃げようともがく獲物を引き寄せる。 「うっうー! やー! おねーさん、こわいこわい! やめてやめて!」 じたばたと両手両脚をばたつかせるが、そんな程度の抵抗で怯む相手ではない。 先ほど突然攻撃した時のように、れみりゃが本気で弾幕を放つなりしていれば、多少の 隙は作れたであろう。 だが、捕食種と言えども、ゆっくりは基本的に警戒心の薄い生き物である。 明確な強い害意を向けられていても、なかなかそれに気付けない。 「あーっ、もうっ! いらいらする声ね! 鬱陶しいったらありゃしない!」 苛立たしげに怒鳴ると、れみりゃの翼を引き千切る。 「う゛ぎゃっ! いっ、い゛ぎゃぁぁっっ!」 灼けるような激痛を背中に与えられ、れみりゃは地上に落ち、のたうちまわる。 「たかが翼を失った程度で、なに情けない声出してんのよっ!」 地面を転がる己の戯画的似姿の脇腹をレミリアは蹴り上げた。 「ごぶっ!」 新たに発生した痛みと衝撃に、油混じりの中身を少量吐き出す。 自分はただ単に遊んで欲しかっただけなのに、何故こんな攻撃を受けるのか、れみりゃ には全く判らなかった。 判っているのは、何だか知らないが豪く凶暴なお姉さんを、どう言うわけだか怒らせて しまったと言う事だけである。 「ほら、立ちなさいよ……あら、泣いてるの?」 左手で襟首を掴み、自分の目の高さまで持ち上げ、涙と涎に汚れた顔を覗き込み、レミ リアは軽蔑したような声を出した。 「うー……おねーさん、ごめんごめん……ゆるして、れみぃおうち……かえりたい」 ゆっくりふらん種と違って、ゆっくりれみりゃ種は、あまりプライドが高くない。 自分より弱い者には強く出て、強い者に対しては媚びを売り、許しを乞い、哀れみを誘 う事を、別に恥とは思わない。 怖い事、痛い事、苦しい事、悲しい事、楽しくない事を、れみりゃ種は極度に嫌い、避 ける傾向がある。 もっとも、それはれみりゃ種に限ったことではなく、いわゆる通常種と呼ばれるゆっく りの特性とほぼ共通していた。 退く事を知らず、勝敗が決するまで戦う性質を持つ、ふらん種がゆっくりの中では異端 なのである。 しかし、そんな事を全く知らないレミリアは、先にふらん種と対峙した経験から、妹の 姿の方は闘争心に溢れているのに、自分の姿をした方は腑甲斐ないと言う印象を抱き、ま すます不満を募らせる。 「敵に哀れみを乞うな! それでも私のゆっくりか? ふざけるな!」 怒声とともに空いている右手を振り上げ、れみりゃの左頬を打つ。 「う゛ぐっ! ぐじゅっ……ど、どうしてどうして、ひどいひどいするの?」 嫌悪と侮蔑に満たされたレミリアの眼を、涙に濡れた瞳で見る。 この怖い人が何を言っているのか、れみりゃには良く判らない。 「どうしてだって? あんたが腑甲斐ないからに決まってるじゃないの!」 今度は右頬を打つ。 「あびゃっ! い゛、いだい゛いだい……もうやぁっ! しゃくやしゃくやぁ~っ!」 本能に刻まれた保護者の名前を、れみりゃは呼んだ。 強い恐怖や危機にさらされたとき、会った事も見た事もない保護者に助けを求める習性 が、この種にはある。 「……咲夜ですって? あれは私のだ! 軽々しく名前を呼ぶな!」 全幅の信頼を置くメイド長の名を出され、レミリアはさらに激高した。 姿ばかりか人間関係までも、この存在は勝手に自分の真似をしているのかと思うと、非 常に腹立たしい。 先のグングニルと言い、この存在の猿真似は中途半端すぎるとレミリアは思った。 「忌々しいっ! あー……もう、バラすわ……こんなの」 様々な液体で汚れた顔面に唾を吐きかけ、レミリアは右手で相手の左上腕部を掴み、そ のまま潰し切った。 「あぎっ! お゛、おででぇぇぇぇっ! いぎゃぁぁぁぁっ!」 まだ失われていない右腕と両脚を、めったやたらと無意味に動かし、れみりゃは突然訪 れた激痛から逃れようともがく。 当然、襟首を掴んでいるレミリアの身体に、その右腕や両脚はぶつかる。 「……たかが腕一本で、がたがた騒ぐな! じたばたと見苦しく暴れるな! そんなに腕 が惜しいなら、こうしてやるっ!」 ぐぢゅ、ぶぢゅ、べぢゅと言う水分過多な破砕音が、夜の森へ立て続けに三度こだまし た。 「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっ! う、う゛ぞぉっ! ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」 ほとんど一瞬のうちに、右上腕部、右太腿、左太腿に、強く圧迫されるような痛みが走 ったと思った直後、それらの箇所より先の部位が身体から生き別れとなり、れみりゃは半 狂乱の態で泣き叫ぶ。 四肢が揃っているから、一つ失っただけで騒ぐのであろう──ならば揃わなくしてやれ ば良いという物凄い飛躍した理屈である。 「あははははははっ! いい格好よ! 可愛い可愛いダルマさんの出来上がりね……あは ははははははっ!」 自分には四肢が備わっている、それに対してこの戯画的似姿は四肢を失った。 己を情けなく侮辱するような存在が、少しだけ自分そっくりではなくなったので、レミ リアは上機嫌である。 「いぎゃぁぁぁっ! れ゛みぃのおででぇ! あんよぉ! やだやだやだやだやだやだや だやだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 両翼に続き、両腕と両脚を失い、ただ胴体を蠢かせ、声を発する以外何も出来ない生き 物へと変容させられ、れみりゃはひたすら泣き喚き恐怖した。 時間が経てば、その身に備わった再生能力により回復するからと言って、平常心を保て るほど強靱な精神構造では無い。 「あははははっ……ん?」 悲痛な叫びが心地良く、とても上機嫌になり哄笑していたレミリアは、ふと視線を横に 向ける。 「あ、あぁ……あぁぁぁ……」 ぺたんと地面の上に全裸のまま横座りしたふらんが、がくがくと震えていた。 ゆっくりふらんであった時と違い、今は普通の人並みに恐怖を表現出来るようになった ので、新たに獲得した感情表現能力を存分に発揮している。 「なにそんな怖がってるの? ふふっ、私の下僕のくせにだらしないわよ」 にっこりと、ふらんに向かってレミリアは微笑みかけた。 今しがた生き物の四肢を生きながら潰し切ると言う、とても残虐な行為を行ったとは思 えないような優しげな笑顔である。 「ご、ごめん……わ、わたし……あんたが、こわいわ……」 もう今さら虚勢を張っても無意味だし、そんな事をする場面でもないので、ふらんは素 直に思った事を話す。 「あら、そうなの? ふふっ、さっきはあんなに反抗的だったくせに……可愛い子ね」 何かにつけて自分に対して突っかかって来て、いちいち気に触る事を言っていた下僕が、 少しずつ素直になって行くのは喜ばしい事であった。 恭しく傅かれるのは退屈だが、ずっと楯突かれるのも癪に障る。 気分を害さない範囲で多少逆らうぐらいが一番だと、我が侭な主は考えていた。 「そ、そりゃどうも……ってか、どうするつもりなのよ、そのこ?」 相変わらずぎゃんぎゃんと喚いている、れみりゃを指さして質問する。 「……! ……そ、そうねぇ……」 レミリアは動揺した。 どうするつもりかと聞かれても、全く考えて居なかったのである。 動揺が声と態度に表れるのと同時に、強く存在していた威圧感はどんどん薄れて行く。 「……かんがえて、なかったんでしょ?」 「なっ!? なに言ってんのよ! ちゃ、ちゃんと考えてあるわよっ!」 育ちが良いお嬢様による咄嗟の嘘や誤魔化しは、見破れない者の方が少数であろう。 戦闘や政治、外交を行う際など心構えがある局面ならばともかく、それ以外の場面では、 育ちが良ければ良いほど結果的に正直者となってしまう。 「ふーん……そうよね、あんたのいきざまって、いきあたりばったりだもんねぇ」 レミリアの血を飲んだ事により、その記憶を一部獲得しているふらんは、彼女自身が起 こした異変や解決に動いた異変、日常の生活を思いながら言った。 「失礼ね! い、行き当たりばったりだなんて……」 言葉では強く否定したが、そのように言われても否定出来ない事実が多すぎる事に気付 き、レミリアは口籠もる。 顔を赤らめ、視線を彷徨わせ、まごまごと言葉を探すが──見つからない。 そんなレミリアの姿を見て、 「……ま、まぁ、そ、そそれはいいわよ……どうすんの、そのこ?」 可愛いと思ってしまい、ふらんもまた挙動を不審にしつつ、話を本題に戻した。 「あー……その辺にうっちゃっておく?」 投げやりな調子で問いかけつつ、手に掴んだままのれみりゃを、ぐいっとふらんに向け て突き出す。 「って……なんで、ぎもんけいなのよ?」 こっちに振られても困ると言いたげに、ふらんは口を尖らせた。 「ぐしゅっ……れみぃのはね、れみぃのおてて、れみぃのあんよ、ないない、ないない… …ひどいひどい……」 泣き喚くのに疲れたのか、れみりゃはぐすぐすと泣きながら、力ない声で嘆き悲しむ。 「……んじゃ、殺す?」 あんまり気が進まなそうな顔で、究極的処置を口にした。 怒りの赴くままに行動している時ならともかく、冷めている今は、抵抗力を完全に喪失 した存在を殺すのは気が退ける。 失った四肢が回復しないのであれば、殺すのも情け──しかし、この程度なら再生する と言う事を、レミリアは話に聞いて知っていた。 そのため殺してしまうのは、いささか後味悪い気分になりそうで、どうにも踏ん切りが つかない。 己を風刺する戯画的な生き物は、確かに愉快な存在ではない。 だが、殺すほど不快とまでは、今は思っていない。 高貴なる者であり強く力のある存在だからこそ、卑賤な弱者に対しては、刃向かわない 限り寛容であるべきだとレミリアは考えていた。 圧倒的な暴力と残虐性だけでは、カリスマのある支配者には成り得ないと言う事を一応 知っている。 「いや、ってか……それは、んー……」 少し前、まだふらんが普通のゆっくりふらんだった頃ならば、嬉々として殺害に賛同し、 自らそれを楽しみながら実行したであろうが、今は違う。 すでに精神構造や考え方などが、ゆっくりふらんと言う種から離れているため、哀れみ や情けなどの感情も備えている。 滑稽なほどに無様で哀れな者を、さっくり殺してしまえ、と言って切り捨てるのに躊躇 いがあった。 そもそも、ゆっくりふらん種は本能により、ゆっくりれみりゃ種を好んで捕食対象とし ているが、同時に一部の例外を繁殖時のパートナー、つまり敵と認識しない求愛対象と定 義する事が良くある。 その一部の例外を決定する基準は、ふらん種の各個体ほぼ共通で、自らより強い力を持 つれみりゃと決まっていた。 一般的に、ゆっくりれみりゃ種はゆっくりふらん種より、知能も力も劣るとされている が、それは長く生き残れるれみりゃが多くないため生じた誤解である。 れみりゃ種の戦闘能力は、だいたい生後二年を過ぎると急速に成長し、一年ほどで十年 前後生きたふらん種を追い抜く。 個体の生まれ持った素質と、その後の経験によって多少の変動はあるが、おおむね生後 二年で弾幕を放てるようになり、それから三ヶ月も経つとレミリア・スカーレットが得意 とする各種の技を、自然に会得してしまう。 威力に関してはオリジナルと比べものにならないが、対ゆっくりならば絶大なパワーで あり、野生動物や低級な妖怪、普通の人間程度が相手ならば、倒せるだけの戦闘能力を持 つ。 そして、れみりゃ種もふらん種と同様に、生き延びれば生き延びただけ強くなる。 もっとも、戦闘能力の急成長は、生後二年からせいぜい生後四年までしか続かない。 その後の成長速度は、ふらん種とあまり変わらなくなるため、高位の妖怪などと渡り合 えるほどには、まずなり得ない。 また、れみりゃ種は強さの上昇に伴い、戦闘に関わらない能力が、ある一定段階まで退 化してしまう。 語彙が減り話し方がますます幼稚になるなど、言語能力が退化する個体が大半だが、生 殖能力をほぼ喪失したり、感情表現がふらん種以上に乏しくなったり、大部分の理性を失 いバーサーカーのようになる例もある。 今でこそ四肢を失ったダルマ姿でぐしゅぐしゅ泣いているが、このれみりゃもつい少し 前までは、ふらん種を凌駕した戦闘能力を持つ、この森で最強クラスの個体であった。 そのため、ゆっくりふらんの本能が多少残り、性格や思考が影響を受けているふらんは、 ゆっくりだった時の自分よりも強いこのれみりゃに対して、なんとなく好意を抱いている。 「なんていうかな……べつに、このこわるいことしてないんだし、ころしちゃうのはひど くない?」 とりあえず殺処理に関しては、反対であると意思表明をした。 本当は「わたしといっしょにつれてかえったら?」と言いたいが、よく考えると自分を この後どうするつもりなのか、レミリアはまだ言っていない。 ほぼ確実に彼女が自分を連れ帰るであろうと予測はしているが、下手な事を言うと余計 な意地悪をされかねないので、ふらんは発言に気をつけている。 「んじゃ、どうしろって言うのよ! 反対するなら代案を出しなさいよ!」 自案を下僕に否定され、主は機嫌を損ねた。 今のところ、れみりゃを連れ帰ってペットにすると言う選択肢は、レミリアの中に存在 しない。 すでに良く判らない生物を血を与えた下僕としたのだから、もう充分だと考えている。 「だいあんっていわれても……このこ、こんなにしたのあんたなんだから、あんたがじぶ んでかんがえなさいよ!」 そのレミリア自身が考えた案に、代案も出さず反対している事は棚に上げ、ふらんは語 気を荒げた。 意見に反対されたからと言って、目に見えて不機嫌になったレミリアに対し、無性に反 発したくなったのである。 「なによ! 別に放っておいたって、別に……!」 言いかけて、レミリアは気付く。 何故ふらんが放置にも殺害にも賛同しなかったのか、直感的に察した。 にやっと人の悪い笑みを浮かべ、 「ふーん、そっかぁ……そう言う事ね……ふふっ」 揶揄するような態度を示す。 「なっ、なにが……そ、そういうことだってのよ……!」 顔を赤らめ、上手く回らなくなった舌で、照れを隠すように強く言った。 れみりゃに好意を感じているという事実が、レミリアに勘付かれたんだろうと、ふらん もまた正確に推察している。 「あはっ、照れちゃって可愛いわね。ふふっ、良いのよ、それならそれで素直に言えば良 いじゃない」 四百数十年以上ずっと思春期な御歳五百歳のお嬢様は、他者の恋愛に強い興味と関心を 覚える。 妹に似た者が、自分に似た生き物に対して、好意と執着を持っているのが嬉しく愉快で あった。 気分が良くなると寛容な気持ちになり、それを誇示し、感謝と尊敬を受けたい欲求が生 じてくる。 「良いわ、あんたもそいつも私が面倒見てあげるわよ……ふふっ」 さぁ思う存分に賞賛するが良い、とばかりにレミリアは薄い胸を張った。 「……くっ……あ、ありがと……」 得意の絶頂になっているのを見ると、どうにもそれを崩したやりたい衝動が芽生える。 だが、ここでまた我が侭すぎる相手の機嫌を損ねるのは得策ではないと、ふらんは現実 的な判断を下し、横を向いて視線を逸らしながら礼を述べた。 「ふっふーん、あんたもだいぶ素直になったわね? ほらほら、もっと喜びなさいよ…… あははっ」 レミリアは調子に乗った。 くすくすと笑いながら、ふらんを冷やかし、からかう。 「くっ……こ、こいつ……」 すげぇむかつく。めっちゃむかつく。ぶんなぐりたい。 嬉しくはあるが、それ以上に腹立たしい。 ぐっと唇を噛み、拳を握りしめて、ふらんは怒りを堪えた。 「ああ、そうだ! 良い事思いついた!」 上機嫌なレミリアは、名案を思いついたとばかりに、ぽんと手を打つ。 「……あっそ、よかったわね」 対照的に不機嫌なふらんは、吐き捨てるように言った。 「ええ、とても良い案よ、きっとあんたも喜ぶわ! 良かったわね!」 にんまりと笑いながら、レミリアはふらんに歩み寄る。 「へっ? わたしが、よろこぶ……?」 何を言ってるんだこのガキは、と口には出さず思いつつ、視線をレミリアに向けた。 「ふふふ……これが好きなんでしょ? だから……」 手にしていたれみりゃを、ふらんの足下へ猫の子でも投げるように放り捨てる。 「う゛びゅっ! う゛ぁぁぁぁぁん! いだいいだい、ひどいひどい」 両翼と両腕および両脚が失われているため、れみりゃは受け身を取る事が出来ず、顔面 を地面にぶつけ悲鳴を上げた。 再生能力によって切断面は早くも塞がっているが、まだ奪われた部位の回復は始まって いない。 失った部位を蘇らせる際に、外部からの栄養補給が無いと、本格的な再生がなかなか始 まらず、そのスピードも栄養が充分な時より遅くなる。 「……だ、だから……な、なんなのよ?」 一瞬、痛くて泣いているれみりゃを介抱しようか迷ったが、ふらんはレミリアへの質問 を優先した。 好意を抱く相手が粗略に扱われ泣かされた事に文句の一つも言いたいが、それよりも何 を企んでいるのかが気になる。 この相手の発想が、あまり賢くない方向へ常軌を逸しているのを、ふらんは身を以て知 っているからだ。 「ふふっ、決まってるじゃない……だ、だか、だから……そ、その……」 言いかけて、レミリアは顔を紅く染め、もじもじと視線を彷徨わせる。 「……あー……すっごくいやだけど、あんたがなにかんがえてるか、わかっちゃった……」 ふらんは、うんざりとした顔でぼやく。 かくの如き反応を示しながら言い淀む案なんて──エッチな事としか思えない。 「そ、そう……は、はは話が早くて、う、嬉しいわ……じゃ、しなさい!」 「なにを?」 レミリアが何を自分にさせたがっているのか、ふらんには判っているが、あえてとぼけ て見せた。 思惑通りに動くのは癪である。 どうせ具体的に命令されたら身体が勝手に動くのだから、その恥ずかしい命令をレミリ ア自身の口から出させる事で、少しでも一矢報いてやりたい。 「なっ! な、何って……き、決まってるでしょ! あ、アレよアレ!」 大半の人間が変態的倒錯行為に分類するような、そこそこマニアックな性的虐待を、つ い先ほど嬉々としてふらんに行ったくせに、レミリアは羞じらっていた。 多感な思春期の乙女であり、育ちが良く高貴なるお嬢様は、ノリノリなプレイ中でも無 い限り羞恥心を忘れない。 続き このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/toho_yandere/pages/664.html
お茶会の内容は恋愛相談だった。 レミリアはあれでそういう経験が薄いらしく、 「え、私?なんで?咲夜やパチェじゃなくて?」 と焦っていたがフランの事だと先に伝えると胸をなでおろした。 「ああなるほど、それで咲夜じゃなくて私にね……」 「フランの事が好きなんだ。 あんな見た目が小さい子にそういう感情を持つのは異常かもしれないけど、さ」 「それって私がレディじゃないって意味にも取れない?」 カップを口に当てたまま、上目づかいにレミリアは睨んできた。 「妹と違って立派な姉だこと」 「よろしい」 納得した様子で飲み干した。 「私はフランが○○の事をどう思っても勝手だと思うわ」 「いや、それじゃ相談の意味が無いじゃないか」 「あら、だって必要ないもの」 はあ。 というと「どうせ結ばれる事は無い」と言ってるように聞こえたのだが。 「一応言っておくと運命がそうさせてるから、あなたはフランと結ばれる事は無いわよ」 「は、はぁ!?なんでまたそんな事を……」 レミリアは当然と言った顔で返してきた。 「あたりまえじゃない、私が○○の事を好きだからよ」 ……くらっと来た。 この目眩が一服盛られてたーとかそういう事ならどれだけ楽な事か。 「三角関係って事か……」 「すぐ相思相愛になるから大丈夫よ」 にんまりと笑っていた。 しかし何もこのタイミングでそれを告白する必要はないだろうに…… 勿論隠し続けて修羅場になれば良いという訳ではないが。 「それに運命の力が働いている内はフランがあなたに興味を持たないわ」 あぁそういう、それで「どう思っても構わない」ね…… 「ところで○○は出すのと入れるのどっちが好みかしら、男の子だしやっぱり入れる方?」 「そりゃまあ、ってなんだその……卑猥な妄想を誘うような物言いは」 「だって人間と吸血鬼じゃ寿命が違うじゃない。 だから○○が吸血鬼になればいいのよ!」 ああレミリア君の笑顔は太陽みたいだね。 ついでにマッチポンプ式に暫く灰になってくれればとっても助かるんだけど。 「大体あなたが何を考えたのかわかるけど、 要するに私の血を取り込むか血を吸われるかって事ね」 とはいえこれは不味い。 さっき変に小洒落て無い事を言っちゃったりするあたり運命の影響とか色濃く受けてるんじゃないだろうか。 古典的な考えだが運命を切り開かねば。 「両方断る、このまま人間の俺に恋し続けて死を悲しむ悲劇のヒロインになってくれ」 肩を竦めて言った。 「まあまあ、帰る支度なんかしないで上着を脱いで頂戴」 「ああ」 もう一服位いいか、 どこからともなく咲夜さんが現れて上着を預かってくれた。 って、なんだかおかしいぞ。 帰るつもりは元から別になかったけど、なんでそんな気分になってたんだ? 「胸元が苦しいでしょ?シャツを緩めると良いわ」 「そうだね」 シャツのボタンを大きく開く。 「ちょっとした余興をするわ、しばらく座っていて頂戴」 「わかった」 あ……れ? やっぱおかしいぞ。 なんで言う事を聞いてるんだ? いや、大したことじゃないけど、レミィの要求は。 何も考えずに反射的に言う事を聞いてしまった。 「ちょっと詰め込みすぎちゃったかしら」 「おいレミィ何を……」 立ち上がって問い詰めようとしたが腰が上がらない。 力が抜けたみたいで、椅子から離れられない。 「あなたと目を合わせて、名前を呼んだ。それだけよ」 吸血鬼の魅了の力か。 「運命なんて所詮点と点の繋がりだもの。過程はどうあれ、ね」 「よくも…!」 「回答以外で喋らないで」 舌が痺れて、声が出せない。 喉も声が掛からず唸る事も出来ない。 「じゃあ○○、もう一回質問するね。 出すのと入れるの、あなたはどっちが好きなのかしら、○○?」
https://w.atwiki.jp/suifuden/pages/26.html
永遠に紅い幼き月レミリア・S 永遠に紅い幼き月レミリア・S コスト:(4)(R)(R) タイプ:クリーチャー - 吸血鬼 P/T:6/3 キャラクター(レミリア・S)、飛行、プロテクション(赤) コメント 関連 第一弾
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/1729.html
「お嬢様、こちらがよろしいかと」 「うん、いいわ。それにして頂戴」 咲夜に服を選ばせて、もう一時間余りが経っていた。 だが、レミリアは楽しそうに咲夜の差し出す服を代わる代わる着替えては悩んでいる。 「よし、これでいいかしら」 「はい」 「貴女が言うなら間違いないわね」 レミリアは微笑って、くるりと身を翻す。外向きの、いつもより少しだけ洒落た衣装だった。 リボンを、派手でないようにあしらった服に、少しシックな印象を与えるケープを上着代わりに。 片手に付けているシュシュも、いつもとは少し印象を変えて、微かな薄青を基調にした色にしている。 左手には、控えめに指輪が輝いていた。手首に巻いているレースの薄青が、それに填められた紅玉を引き立てている。 「似合う?」 「勿論です、お嬢様」 そう微笑む咲夜の方が、何故かレミリアよりもやり遂げた表情をしていた。 「随分待ってますねえ」 「ああ、ええ。まあ、準備には時間がかかるものでしょう」 門柱にもたれかかっていた青年は、美鈴の言葉に微笑って頷いた。 「しかし朝からお出かけなんて珍しいですね」 「まあ、約束していましたし」 「仲がよろしくて何よりです」 美鈴は闊達に微笑った。そして、空を少し見上げる。晴れ間を横切るように雲が流れていた。 「しかし、いい天気ですから気をつけてくださいね」 「気を付けます。雨は降らない……でしょうかね」 「どうでしょうねえ……まあ、ここのところ大きく崩れてないですし、大丈夫と思います」 「なら、大丈夫ですかね」 空の様子を見ながら、彼は小さく頷いた。本当にいい天気だった。昔ならばはっきりそう頷いていただろう。 今となっては、快晴はいい天気とは本当に言い難い。動くことに支障はないものの、後々日陰に入ったときに疲労を少しだけとはいえ自覚するのだ。 それでも、自分の身を考えれば破格のものなのだろう。それもこれも、全部レミリアのおかげで―― 「お待たせ」 声がしたのは、そんなときだった。 「いいえ。そんなには」 青年は首を振って門柱から身体を離し、レミリアの姿を見て軽く微笑んだ。 「可愛いです」 「そう?」 素っ気なく言いながらも、レミリアの機嫌はさらに良くなったようで、羽が上下にゆっくりと動いた。 「では、お願いしますね」 「はい」 咲夜から、念のためと言うことだろう、渡された日傘を受け取り、彼はレミリアに向かって頷く。 「お二人とも、お気をつけて」 「いってらっしゃいませ」 美鈴と咲夜に見送られて、二人は紅魔館を後にした。 二人の姿が見えなくなって、今度は遠くに里の姿が見え始める。 「大丈夫ですか?」 朝から動くことになりますが、と青年は心配そうに尋ねる。 約束していたとは言え、朝から活動するのは吸血鬼にとってはどうなのだろうか。 それに対しては、あっけらかんとした答えが返ってくる。 「一日二日寝なかったからと言って、別にどうとなるほど柔ではないわよ?」 それは貴方も知ってるでしょう、とレミリアは傍らの恋人を見上げる。 「まあ、それはそうですが」 「だから、今日は一日中、貴方のエスコートで、ね」 そう、レミリアは青年の腕に手をかけた。 里の入り口近くには、朝市が並んでいた。 「へえ、面白いことをやっているのね」 「早朝の市はもう終わりでしょうが、ここからは店と市と、両方が開く時間ですからね」 賑やかになりますよ、と彼は微笑う。 レミリアは面白そうに周囲の店をのぞき込み始めた。 「ああでも、こんなところで油を売っても大丈夫なのかしら?」 「ええ、もちろん」 立ち止まって店の物を手にとって眺めていたレミリアの問いに、彼は頷いた。 「時間に余裕を保たせてますので大丈夫ですよ」 「あら、そうなの?」 「がちがちに予定を固めると酷い目に遭うのは経験済みでして」 軽く手を振って、彼は微笑った。 「それは、外での経験?」 「まあ、そんな感じです。学校行事にしてもどうしてああもと思った記憶が」 学校? と首を傾げたレミリアに、簡単に説明をしながら、再び歩き出す。 「そういうことで、またふらりと見て回れればと思います」 「そうね、そうしましょうか」 ゆっくり歩調を合わせて歩く彼に寄り添って、レミリアは微笑った。 幾つか店を冷やかしつつ、喫茶店で一息入れようかと歩いているところに、不意に声がかけられた。 「兄ちゃん!」 「ああ……君は」 「知ってる子?」 声をかけてきた少年に、彼は困ったような曖昧な笑みを向けた。 レミリアは、彼と少年を交互に視線を向け、ああ、と合点がいったように頷く。 「元気に、なりましたか」 「うん、いっときは危なかったーってみんな言ってたけど」 少年は屈託のない笑みを浮かべている。彼の戸惑いがレミリアには手に取るようにわかった。 どういう顔をすればよいのかわからないのだろう。彼にはそれで良い、とは告げてはいるが。 「兄ちゃんもたすけてくれたんだよな、ありがとな」 「……僕は、助けられていない。流されそうになる君を見ることしかできなかった」 青年は首を振った。水に飛び込めなかったのは事実のこと。だが、少年は咎めはしなかった。 「でも兄ちゃんカナヅチだったんだろ? 仕方ないよ。それに、竹林の医者様まで運んでくれたんだろ? だからさ」 笑う少年に、青年は困ったように眉を寄せていた。 「礼を言うことではないわ」 レミリアは口を挟んだ。十分だった。その一言だけで彼には十分なのだろうとわかっていた。 「彼が助けたのは、里との約定。礼を言うならば村長と守護者に告げなさい。私達は約束を破らない。ただそれだけよ」 その言葉もまた事実だった。そして道理でもある。 少年が一歩下がった。レミリアの言葉は吸血鬼としてのものを十分に含んでいた。 たとえ年若の者であっても、その態度は崩さない。崩すわけにもいかない。彼女達は吸血鬼だから。 「え、あ、う、うん」 レミリアに気圧された様子の少年は一つ二つ頷き、やがて、そっかぁ、と青年を見上げ、予想外の言葉を口にした。 「兄ちゃんの彼女ってこの人かあ。可愛い人だなあ」 「な」 「そうでしょうそうでしょう」 ようやく、彼は笑みを浮かべた。少しばかり誇らしげでもある。 「うんうん、兄ちゃんがいっつも自慢してるの、よくわかった!」 「いつも何言ってるのよ!」 レミリアはばさばさと羽を広げて抗議した。どうどう、と宥めて青年はちらりと笑い、少年に声を向ける。 「言っていた通りでしょう」 「うん、みんなにも言っとくよ」 少年の言葉に、レミリアは大きくため息をついたが、特に何も言わなかった。 少なくとも、誉められたのは悪い気はしない。 「そんじゃ、逢い引きの邪魔する奴は馬に蹴られろ、って言ってたし、そろそろ行くよ」 「はい、気をつけて」 「また落ちないようにね」 レミリアの軽口に少年は照れたように笑うと、手を振って走っていってしまった。 「……これで良かったのですね」 「ええ。これでいいの。私達は里との約定をただ守っただけ」 「はい」 彼は頷きを返した。非常に契約主義のようにも見える。が、きっと悪魔とはそれで良いのだ。 そんなことより、と、レミリアはじと目で彼を見上げた。 「いつもあの子達に何を言ってたのかしら?」 「あー、いや、その」 「とりあえず、次の目的地でゆっくり聞きましょうか」 「はい」 レミリアに腕を引かれて、彼は少し困ったように頷いた。 茶屋に着いて、彼は少し困ったように顎に手を当てた。 「満席でしたか」 「あら、どうする?」 レミリアも中をのぞき込んで頷く。店内は非常に賑わっていた。人妖関係なく、甘味に舌包みを打っている。 味が良い上に、値段は味に比して安いため、よく人が集まるだということを失念していたのだった。 さてどうしたものか。和風の店の方が珍しいかと連れてきてみたのだが。 「おや、珍しいね」 聞き覚えのある声が聞こえてきて、レミリアと一緒に彼はその方向を見る。入り口近くの席に、見知った顔が座っていた。 「あら、久しいわね」 「どうも、妹紅さん」 軽く頷いて、妹紅が手を挙げた。意図を理解して、レミリアが彼の手を引く。少し迷ったが、彼も頷いた。 近付いてきた二人を、妹紅は軽く笑って迎える。 「この時間は混むからね、相席も多いよ。ここも今空いたとこ」 「いやはや、リサーチ不足でした」 「まあ、肝心なところ抜けているのがらしいと言えばらしいわ」 レミリアは肩を竦めて、妹紅の向かいに座った。レミリアの隣に腰を下ろして、彼は店員に注文を頼んだ。 「あんみつ……すぺしゃる?」 「ああ、それここの目玉だよ。面白いから食べてみたら?」 「じゃあそれ」 「では僕はお茶だけにしましょう」 いいの? というレミリアに、彼は頷き、妹紅はくくと笑った。 「来たらわかるよ」 「名物なんですよねえ」 彼は何とも言えない曖昧な笑みを漏らした。レミリアはさらに首を傾げる。 そのとき、周りから声がかかった。若い男の声だった。 「おう、兄ちゃんじゃねえかい、なんだ、逢い引きか?」 「そんなところですよ」 周りの席の知り合いが彼に声をかけてきたのだった。 別の席の年かさの男が、彼とレミリアを交互に見て何度か頷いた。 「いや、別嬪さんだのう」 「でしょう?」 「自慢するはずだな」 それに対して笑みを向けた彼に、最初に声をかけた男が余計な言葉をかける。、 「ほほー、いやしかし、やっぱり幼女趣味だったか」 その一言に、ちょっと失礼、と彼は断って席を立った。 「馴染んでるわね」 「まあ、あいつは里の手伝いもしてるからね」 妹紅が茶を口に運びながら相づちを打つ。 「馴染み過ぎは問題だけど」 「まあ、きちんと分はわきまえてるよ、きっと。それに、里との在り方は常に変わっていくものさ」 「そう……」 「何、あいつも外れてはいないさ。妖としての立ち位置にはきちんと立ってる」 「なら、いいんだけどね」 レミリアもそう、茶を一口飲む。そして、彼の方に目を向ける。 「じゃあ、あれも割と?」 「うん、日常までは行かないけど普通かなー。みんな意外に懲りないんだよね」 二人の視線の先では、余計な一言を言った男が彼にアイアンクローを受けていた。 「で、これ?」 「これ」 どん、と効果音が付かんばかりの大きさの器に、あんみつがこれでもかと盛られている。 小豆に、寒天、季節の果物、中にはドライフルーツもちらほら。それにクリームがこれでもかと盛られている。 「いやー、ははは、さすがに予想外だったか」 「名物、かつチャレンジメニューなんですよね」 楽しそうに微笑う妹紅と、美味しいのは美味しいのですけど、と困ったように笑む彼。 レミリアは何回か頷き、彼の前に無言で器とスプーンを置く。彼は従容としてそれを受けた。 それを見やった後、レミリアは妹紅に視線を向ける。 「……蓬莱人」 「はいよ」 「手伝え」 「はいはい」 その会話を横に、彼はあんみつを取り分け始めた。 かくして小半刻後。 「……おや珍しいな。というか何やってるんだ……?」 「慧音、いいところにー」 「手伝え白澤ー」 へるぷーと手をばたばたさせる妹紅とレミリアをよそに、若干青い顔で温かい茶をすする彼の姿があった。 さらに半刻ほどの後、空になった器を前に、レミリアは一つため息をついた。 「……確かに美味しかったのは認めよう。けれどもあの量はないわ……」 「ん、私も甘く見てたわ」 その慨嘆に、妹紅もうんうんと頷いた。 「慧音さんが来てくれて助かりました」 「いや、まあ、私も甘味を取るつもり出来ていたからそれはいいんだが」 昼もまだだったしな、と、何とも表現しがたい表情で、慧音は息をついた。 「珍しいこと尽くしだな。貴女が昼間から出てきているのも、妹紅と相席しているのも」 「まあ、成り行き?」 「そうね、成り行き」 レミリアはそう妹紅に同意の頷きを返して、若干ぬるくなった茶を一口飲んだ。 「まあいいが。逢い引きの邪魔をしていないかな」 「声をかけたのはこちらだしね」 レミリアはくつくつと微笑って、彼の方を見上げた。 「そういえば。里の子供たちに私について何を吹き込んでるの?」 「いや、まあ、その」 忘れてくれてたと思ったのですが、と曖昧に言葉を濁す彼の代わりに、慧音が笑みを漏らした。 「十二分に自慢しているよ、貴女の恋人は」 「あら、そうなの?」 「ああ。安心して良い、貴女の評判を落とすようなものではないさ」 「慧音さん、程々に」 何を言われるのかと不安になった青年が慧音にやんわりと釘を差す。 「おやおや、あれだけ惚気ておいて」 「そうだね、今だって」 妹紅はそう、レミリアの指先に視線を向けた。レミリアの左薬指には、銀色の輝きがある。 「ん、まあ、ね」 レミリアは曖昧な、それでいて満足そうな笑みを向けた。 やれやれ、と慧音は肩を竦め、それでもどこか優しげに微笑う。 「それについてもいろいろ話は聞いてるよ。では、それも含めてかな」 「ええ、いろいろ詳しく」 楽しそうに少女同士話すのを見て、敵うはずもなかったか、という諦めの境地で、彼はもう一度湯飲みを口に運んだ。 しばらく周囲の客も入ったりしながらからかわれ続けた後、吸血鬼主従は茶屋を後にした。 「随分面白かったわ」 「それは良かったです」 「あんみつも美味しかったし、話は面白かったし」 「……それはその」 散々からかわれたのを思いだし、彼は困ったように表情を動かした。 「あれだけ私とのことを吹聴してるなんて思いもしなかったわ」 「すみません」 さらに困ったように眉を下げる彼に、レミリアはくすくすと笑った。 「さっきも散々聞いたし、苛めるのはここまでにしておきましょうか。さ、また案内して頂戴」 「では、服や小物などでも」 さりげなく腕を差し出しながら、彼はそう微笑んだ。 里の中を再び歩く。昼過ぎてだいぶ開いてきた店を、好奇心一杯にレミリアは眺めていた。 手芸店を興味深そうに眺めたり、小物を手に取ったり。その行動はどこか見た目相応にも見えた。 しばらく楽しんだ後、レミリアは彼を見上げる。瞳には真剣な光が漂っていた。 「さ、目的の一つにもいきましょうか」 「……職人の?」 「ええ。会いに行くつもりだったもの」 レミリアの言葉に、彼は頷いた。 「それでは、ご案内します」 こちらです、と、彼はレミリアに道を示した。 「失礼しますよ」 彼は軽く声をかけて、作業場の中に足を踏み入れる。職人はすぐに出てきて、彼とレミリアの姿を目に留めた。 「これはこれは旦那様、おや、御当主様も御一緒でしたか」 職人は丁寧に一礼する。だが、どこか無骨でもあった。レミリアはそれを咎めない。それが最大の礼だとわかっているからだった。 「指輪を見せてもらった」 「それはありがたく」 職人の瞳の奥は笑っていなかった。どこか挑むような瞳にも見えた。 レミリアはそれに満足したようだった。彼もそれでいいのだろうと、納得のまま頷く。 「この通りだ。私に丁度良い」 「そう仰っていただけますれば」 レミリアが左手を見せるように差し出すと、職人は再び静かに礼をした。 彼は何も言わない。レミリアが語るべき場では何も口にする必要はない。 「またそのうち、何事か頼ませてもらうと思う」 「お待ちしております、御当主様」 職人は謹厳な表情に微かな笑みを浮かべた。レミリアも、ここにきて初めてちらりと笑みを浮かべる。 「細工も気に入った。いいものだ」 「あんなに熱心なご注文を受けましたら、私も熱を入れぬわけには」 「それは」 思わず、彼は口を挟む。そして、気恥ずかしさを誤魔化すように口の端を結んだ。 「ふふ、いいことを聞いた」 「おや、ご存知ではなかったので」 「それが聞けたら苦労はしないよ」 レミリアは楽しそうに羽をはためかせ、彼の隣に寄ってくる。 「あまり長居も悪いな、そろそろ失礼しよう」 はあ、と溜めていた息を吐いて、彼は微かに笑みを浮かべると、軽く職人に礼を述べる。 「ありがとうございます、本日もいろいろと」 「いえいえ、ご贔屓にしていただけるならこれ幸いです」 そう応える職人に頷きを返し、レミリアの手を恭しくとる。 「それでは」 「また、何事か頼ませてもらうよ」 それだけの言葉を置いて、礼をしたままの職人を背に、二人は作業場を出た。 陽はすでに傾きかけている。妖の時間はもうすぐだった。 「面白い人間だったわ」 レミリアは微笑っていた。上機嫌であることを示すように、羽はゆったりとはためいている。 「いい話も聞けた」 「それは、その」 青年は返答に困る。確かに、全身全霊をかけた頼みであったかもしれないが。 「今日は本当に楽しいわ。さて、これからはどうするの?」 「酒肴にしようかと。まあ、そこはある程度どうするかですが」 「そうねえ……たまには、このあたりのも面白そうだけど」 「ミスティアさんが近くに出していますかね」 「夜雀か……そういえば何か面白いお酒が入ったって聞いたわね」 踊り出すとか何とか、という言葉に、彼は何とも言えない表情をする。 「……それは、どうなのでしょう」 「あら、乗り気じゃない?」 「……踊るのは、ちょっと……」 難色を示す彼に、レミリアは逆に面白味を得たようだ。 「まあ、いいじゃない。それを飲まなければいいし、ほかの店をふらりと回ってもいいわ」 「梯子ですか、それも悪くはないかもですね」 「酔いつぶれないようにね」 善処します、と、こればかりは本当に苦笑を漏らして、青年はレミリアに腕を貸しながら、日が暮れた里を歩き始める。 かくして、様々な場所で酒を飲み、あるいは話をし、夜が更ける中、二人の吸血鬼は里を回った。 ある場所では顔見知りの人妖にからかわれ、ある場所では初めて会う者達と話をし。 日常の中の非日常を楽しむように、二人は里を回っていた。 紅魔館に戻ってきたのは、日が昇り始める頃合いだった。 「結局、一日遊び倒したわね」 「ええ。こういうのもたまには」 「いいものね、本当に」 彼の胸の上に肘をついて顔をのぞき込みながら、レミリアは微笑った。 「面白かったわ」 「それは何より」 僕はいろいろと大変でもありましたけれど、と、からかわれたことを指しているのか、彼はそう微笑った。 「そうね、本当にいろいろ聞かせてもらって楽しかったわ」 「もう少し自重しようと思いましたよ、僕は」 気を付けてね、と笑いながら、レミリアは湯浴みをした後のしっとりした頬を、彼の胸元に擦りつける。 そして、少し甘えを含んだ声で囁いた。 「貴方のいろいろな姿も見えたわ」 「人間の頃から、あまり変わってはいませんが」 「それでも、よ。貴方がどう生きているのかも見えた」 レミリアは身体を起こして、そっと彼の髪に触れた。撫でるように、指を絡めて。 「でも、やっぱり今は独り占めしていたい」 「僕はいついかなる時も、レミリアさんのものですよ」 「うん、それでも」 軽く口唇を重ねて、レミリアは瞳を細めた。 「貴方を私のものにしていたいの」 「それは、僕の台詞のような気も」 青年は困ったような表情をした後、真剣な瞳をしてレミリアの髪に手を伸ばした。 「いつでも、僕は貴女を思っていますし、僕のものにしていたいのに」 甘言であり、本心であり、珍しい、彼が口にする我儘だった。 それがわかって、レミリアは嬉しそうに瞳を細める。 「ん、私も、貴方のもの。すべての時間に置いてそうだとは言えないけど」 そう、レミリアは青年の手にその小さな手を重ねた。 「だから、今の時間からは」 ――全部、貴方のものにして。 小さな呟きには、優しげなため息が返ってきた。 「過不足なく応えるのが、僕の役目ですかね」 「過ぎても、いいのよ」 貴方からのならどれだけもらっても足りないもの、とレミリアは微笑った。 そう、何もかも足りない。想いも、何もかも。 彼を自分のものにしていたいという欲は、きっと誰にも負けないのだから。 「それでは、仰せのままに」 頬に触れた大きな手に、満足そうにもう一度微笑んで、レミリアは目を閉じた。 窓の外はもうきっと明るい。初夏の朝は早い。 けれども、そんなことももうどうでも良かった。 ただ、愛しいこの人を、自分の物にしていられる時間の方がもっと、ずっと、大事だった。 Megalith 2012/06/22 ──────────────────────────────────────────────────────────────── 「暑いー」 「暑いー」 紅魔館の風通しの良い一室。その部屋にやはり風がよく当たるように置かれたソファから、二対の羽が気だるそうに動くのが見えていた。 片やこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットのもの。もう片方は、その妹、フランドール・スカーレットのもの。 二人とも気だるげに横になり、夏の熱気に文句を言っていたのだった。 「お二人ともはしたないですよ」 「だって暑いのだもの」 「暑いのばかりはねえ」 咲夜に窘められるが、そんなことはどこ吹く風と言わんばかりに、二人の吸血鬼は抗議した。 「何か冷たいものでもお持ちしましょうか……と、私が持ってくるまでもないようですが」 「え?」 レミリアの疑問の声に、それには応えず一礼した咲夜が扉を開けると、トレイを持った青年の姿がそこにあった。 「あ、ありがとうございます。びっくりしました」 「いいえ」 「それ何ー?」 フランドールが起きあがり、青年が持ってきたトレイの上の物について尋ねる。透明なグラスの中に氷と何か飲み物が入れられていた。既にグラスは随分と汗をかいている。 「レモネードです。レモンシロップを分けてもらったので」 そう言いながら、二人の目の前にコースターを並べ、グラスを丁寧に置く。氷が少し崩れて、涼しそうな音を立てた。 「酸っぱくない?」 「蜂蜜も入っていますから大丈夫ですよ。ああ、冷水で割ってるので、今回炭酸は入ってないですが」 「かまわないわ」 レミリアは軽く頷いて、ストローに口をつける。ひんやりとした甘味と酸味が、心地よく喉を通っていった。 フランドールも同じことを思ったようで、上機嫌にばたばたと羽を動かす。 「美味しい!」 「ええ、まあまあね」 そう言いつつも、レミリアの羽も上下している。暑い中だったのも相俟ってか、随分と美味しく感じられた。 「二人も飲んだら?」 「よろしいのですか?」 「疲労の回復にもいいですからね。まだだいぶもらってきてますから」 彼の言葉に頷いて、レミリアは咲夜に命じた。 「そうね咲夜、貴女の分を作るついでに、パチェにも分けてきなさい。ああ、後は好きにしていいわ」 その言葉の意味を理解して、咲夜は丁重に一礼する。そして、失礼します、と告げて、その場を立ち去った。 「貴方は?」 「僕は後でも。先に軽く水はいただいてますし」 「けれどもそれじゃあ、乾きは癒えないんじゃない?」 フランドールが、少しばかり意地悪な視線を向ける。何のことかなど、この場にいる者にはよくわかっていた。 ばつが悪そうに、彼はフランドールに対して首を振る。 「あまり意地悪を言わないでください、フランさん」 「ふふふー、隠さなくてもいいのに。ねえ、お姉様?」 「フラン」 窘めるように、レミリアは鋭く妹の名を呼んだ。はーい、と形ばかりの返事をして、にこにこしながらフランドールはストローを咥える。 「まったく、貴女の暇潰しで苛めないの」 「いいじゃないー」 「僕暇潰しで弄られてるんですか」 困ったように微笑って、彼はもう一度かぶりを振った。どう足掻いてもこの二人の気ままさからは逃げられないのだろう。無論、逃げる気さえもないのだが。 フランドールはそういったことを意に介した風もなく、レモネードを吸い上げてぼやく。 「こう暑いと暇だもんー。暴れたいー」 「ま、フランもこうだから、そろそろガス抜きさせないと、とは思うのだけどね」 レミリアはそう、何か案はないかと彼に振ってきた。暇なのはレミリアも同じなのだろう。 「ふーむ……納涼、かつ暇潰し……」 いきなり言われて、早々簡単に案は出てこない。 唐突に言われて、何だかんだ言いながらも案を出せるパチュリーがいかに無茶振りに慣れているかわかる気がした。 「花火、とか」 「花火!?」 フランドールの羽がぴこぴこと動いた。どうやら興味を刺激したらしい。 「祭りの時とかに上がってるあれね」 「はい。ああ、でも今は特にその予定はないんでしたっけ」 祭りはもう少し後の頃になる。そこまで待てるだろうか。 「何言ってるの」 「え?」 「どこもやらないなら、私達がやればいいじゃない!」 レミリアは、名案を思いついたとばかりに立ち上がる。 「お姉さま、じゃあ」 「ええ、今宵は花火大会よ!」 満面の笑みで、レミリアはそう宣言した。 そして、晩。青年は紅魔館の庭で皿や料理を並べながら、空を仰いでぼんやりと呟いた。 「……花火ってこういうものだったかなあ」 レミリアと咲夜が、空で弾幕を広げている。 夜空を紅く染める弾幕に、それを飾りたてるような銀の弾幕。 一見すれば、弾幕ごっこにも見えなくはないその情景を眺めていると、不意に背後から声がかかった。 「何やってるのよ、紅魔館」 「随分騒がしいようだがな」 霊夢と魔理沙だった。咲夜がレミリアの相手をしているため、彼が代わりに応対する。 「いらっしゃいませ。花火大会です」 「……あれ花火っていうの?」 「…………いや、ううむ」 どうだろう、と彼は空を再び見上げる。レミリアと咲夜が、変わらず踊るように弾幕を繰り広げている。 ただの弾幕ごっこ、ではない。好き放題に魅せているだけの弾幕だ。いつもの弾幕ごっこがで互いの意志も競わせるのだとするならば、今日はただ美しさのみを競っている、とも言うべきかもしれない。 「まあ、この分なら大したことじゃないわね」 「何事か、拙いことがありましたか」 霊夢のぼやきに、彼は尋ねる。 「里が、紅魔館が何かしでかすんじゃないかって心配してたぜ」 「で、依頼が来てね。私らに見てこいって」 「なるほど」 納得と共に頷く。確かに、紅魔館が何かしらしているとなれば、人里からすれば気にもなるだろう。 何より、ここまで派手に、かつ目立つようにやっているのだ。それは向こうからも目に留まるに違いない。 「今日は買い物だけのつもりだったのに」 「まあ、居合わせたのが運の尽きだな。まあいいじゃないか、報酬の分は買い物代なんだろ?」 「思い切り買ってやるんだから」 不機嫌そうな霊夢を、魔理沙が混ぜっ返してからかう。楽しそうなことだ、と思っていると、レミリアと咲夜が弾幕を収めて降りてきた。 「あら、霊夢、魔理沙、いらっしゃい」 「あんた達のおかげてこの暑い中駆り出されたのをどうしてくれようか考え中よ」 霊夢の言葉に肩をすくめ、レミリアは咲夜に目配せした。 「かしこまりました」 さっと消えた咲夜が、霊夢達の分の飲み物を持って再び現れる。 「じゃあ、一杯だけもらっていくぜ」 「私も」 「あら、いいの?」 咲夜の言葉に、霊夢が大きくため息をついた。 「里に報告に行かなきゃいけないもの」 「珍しく仕事熱心ね」 失礼ね、いつもよ、と文句を口にする霊夢をよそに、魔理沙が説明する。 「そういう約束なんだ。まあ、信用のないことだな」 くくく、と嘯くように魔理沙が笑う。青年とレミリアが顔を見合わせて肩をすくめた。 「じゃあ、私から書状でも出して上げましょうか。何も心配いらないから楽しめって」 「言葉だけもらっとくぜ。とにかく、心配ないから花火代わりに楽しめ、ってことだな」 「花火よ。ほら、次が始まるわ」 見上げれば、美鈴とフランドールが夜空に上がっていくところだった。 楽しそうに笑いながら、二人で何か打ち合わせている。 「フランもやるのか」 「それが主目的だもの」 「とりあえず、私達は行くわ。後で駆り出された分の借りは返してもらいに来るからね」 「あ、霊夢早い。私も行くぜ」 二人の人間は空に再び浮かび上がった。人里の方に向かっていく彼女達の背を、七色の光が照らし始めていた。 「パチェも加わるとさらに華やかねー」 青年の膝の上に座って、レミリアは夜空を眺めていた。そうですね、と応じながら、彼は大人しく椅子になっている。 夜空の弾幕は、フランドールと美鈴の虹に、パチュリーの五色が加わってさらに派手さを増していた。 ちなみにパーティの方はと言えば、後は私がするから、と咲夜が全部請け負ってしまっている。あちこちに現れたり消えたりしながら、庭の全てを掌握していた。流石だった。 「綺麗ですねえ」 小悪魔は隣に立ったまま、のんびりとそう口にした。羽が上下しているあたり、彼女も楽しんではいるらしい。 だが、ただ立っていて暇ではないのだろうか。そう思った彼の代わりに、レミリアが尋ねた。 「小悪魔、貴女はいいの?」 「あー、いえ、私今パチュリー様のアンプ役なんですよ」 そう告げた小悪魔の周囲には、淡い光を放つ魔法陣がいくつも浮いている。 レミリアは傍らの彼と顔を見合わせた後、呆れたような声でさらに尋ねた。 「……もしかしてパチェ、結構ノリノリ?」 「かなりノリノリです。花火が決まってからいろいろ文献引っ張り出しましたし」 「ああ、もしかしてちょっと前に片付けたあれですか」 「あれです」 のんびりと会話しながら、三人はパチュリー達が織りなす弾幕を眺めやる。 途中、咲夜が顔を出して冷えた飲み物を用意してくれた。 「小悪魔はいいの?」 「私はパチュリー様が戻られてから一緒に」 「了解」 そう会話をする従者達の会話を聞いていると、また夜空に影がかかった。 「ああ、おかえりなさい、霊夢さん、魔理沙さん」 「その表現は何だか妙な気がするけどね」 レミリアは呆れた声でそうため息をつき、彼の膝から降りて霊夢と魔理沙に相対した。 「埋め合わせしてもらいに来たわ」 「はいはい。咲夜、よろしく」 そう咲夜に命じるレミリアに、魔理沙は空の弾幕を眺めながら告げる。 「それにしても、随分また妙なことをやったもんだな」 「フランの暇潰しに、ね」 「それにしては大がかりだ」 「いいのよ、大がかりで」 そう呟いたレミリアに対して、魔理沙がさらに何かを告げようとする前に、咲夜がグラスを魔理沙に渡した。 「はい、魔理沙。霊夢も」 「おお、サンキュ」 アイスティーを渡されて、魔理沙はそれを一息にあおる。もう少し女の子らしく、と咲夜は呆れているが、本人はどこ吹く風であった。 霊夢の方は、ありがと、とだけ言ってグラスを口に運んでいる。 「しかし、私を呼ばないとはな」 「あんたを呼ぶといろいろ大変でしょう。それに今日決まったのだもの」 「あら、けど新聞はさっき届いてたわよ」 「文さんいつの間にかいましたからねえ」 霊夢の言葉に返して、彼は、夜空を虹色に染めている美鈴とフランドール、そして二人の弾幕にうまく調和する色の弾幕を選んでいるパチュリーを眺めながら呟いた。 「しかし、あれだな、もう少し欲しいところだな」 そう、魔理沙がさっと箒に乗る。何をするのかわかった周囲が一歩下がった。 「ブレイジングスター!」 「わぁい魔理沙だー!」 フランドールの歓喜の声が聞こえる。虹を横切るように星の帯が夜空に一筋の明かりを描いていた。 それを見た美鈴が、パチュリーに何事か声をかけて一緒に降りてくる。 「おかえりなさいませ」 咲夜の声に、パチュリーは軽く頷いて夜空を降り仰いだ。 「魔理沙がいるなら私達はいいでしょう。小悪魔、何か飲み物をちょうだい」 「はいっ、ただいま!」 小悪魔が魔法陣をしまって、パチュリーのためのグラスを用意する。そちらを任せて、咲夜は美鈴に声をかけた。 「美鈴もお疲れさま」 「ああ、ありがとうございます。まあ、あれ以上は私達は邪魔になるだけですし」 その言葉をかき消すような轟音が、頭上から聞こえる。フランドールが弾幕を放ってはそれを破壊する、という遊びを始めているようだった。 「ああいう音も、花火の醍醐味だっけ?」 「ああ、ええ、うん、そうだとは、思いますが」 レミリアの、どこかのんびりした言葉に、彼は首を傾げつつ同意した。 いや確かに花火は音もするものだが、それとはまた全く違うもののようにも思える。深くは考えないことにした。 「それで、貴方は?」 いつの間にかすっかりくつろいでいる霊夢の問いに、青年は首を傾げた。 「僕ですか?」 「弾幕使えないものねえ」 レミリアがため息と共に、アイスティーのストローを回した。それに頭をかいて、彼は誤魔化すように応える。 「まあ、最近少しばかりは」 「いつになることやら」 レミリアの視線は、そう言いつつも優しい。今度は頬をかいて、がんばりますよ、と彼は応じた。 その様子を、霊夢は呆れた目で見ている。見ているだけでなく口にも出した。 「はいはい、暑いんだからさらに暑くしない。咲夜、おかわりー」 「はい、砂糖抜きね」 「ええ、砂糖抜きで」 このあたりの呼吸が合ってきてしまっているのは如何すべきか。 軽く息をついて、彼は夜空を楽しげに舞っている二人を眺めやっていた。 「楽しかったー!」 ご機嫌なフランドールが、咲夜から渡されたグラスのストローに口を付けている。 「まあ、こんなもんだろ」 魔理沙も機嫌良さそうにそう笑ってグラスを傾ける。グラスに入れる飲み物は、アイスティーからいつしかアルコールに変わっていた。 「フランも随分ストレス発散できたようね。何より」 レミリアも上機嫌に笑みを浮かべて、そう言えば、と青年の方を見上げる。 「貴方は見るだけだったけど良かった?」 「……いや、花火ってこうやって参加するものではないような気も」 ずっと思っていたことを小さく呟いた後、彼は、ああ、とポケットの中から何かを取り出した。 「こういう補助具をパチュリーさんにいただいてはいましたが。何となく使う機会がなくて」 「パチェどれだけノリノリだったの……でも何か紐みたいね、これ」 「線香花火ですかね。本にも載っていましたし」 火を灯すと、パチパチ、と、小さな火花が弾けた。魔法の火ではあるが、なるほど線香花火に似ている。 「だいぶ地味ね」 「まあ、そういうものですからね」 ですが、と彼は笑う。レミリアの興味を引いているのはわかっていた。 「これをいかに落とさないままでいられるか、というのがまた楽しいもので」 「ふぅん、そういうものなの?」 「まあ、楽しみ方の一つ、ですかね。こういう風情を楽しむのも一興という。やりますか?」 「そうね、そこまで言うなら」 口調とは裏腹に、好奇心一杯に羽をバタバタさせながら、レミリアはその花火を手に取った。 「私もやるー!」 「はい、ええと……」 フランドールの求めに、彼はポケットをさぐる。全員分あっただろうか。 内心の疑問が読まれたかのように、パチュリーが大量に取り出した。どこに持っていたのか。 「大丈夫、まだあるわよ」 「では、最後はそれにしましょうか。霊夢と魔理沙もやるわよね?」 レミリアはそう水を向ける。向けられた魔理沙が、楽しそうに破顔した。どうやら少し酒も回っているらしい。 「おお、勝負なら負けないぜ?」 「私も負けないよ、魔理沙、霊夢」 「え、何で私まで入ってるの」 まあまあ、と咲夜に宥められながら、霊夢も魔理沙と共にフランドールの隣にしゃがみこんだ。 あれ、これ火どうするの。私が点けるよ? フランお前はやめとけ。という微笑ましい会話が聞こえる。 「咲夜、火を準備して、貴女達も」 「はい」 咲夜は頷き、火の灯った蝋燭をどこからか持ってきた。花火を始めた面々の真ん中に置く。 「これ爆発とかしないですよね」 「確率ね」 「するんですか!?」 「冗談よ」 美鈴と小悪魔を脅かすような発言をさらりとしたパチュリーも、花火に火を点け始めていた。 「こういうのも悪くないわね」 「そうですね。ああ、レミリアさん」 「ん」 線香花火に火を灯して、彼はレミリアに手渡した。パチパチと弾ける火を、レミリアはじっと見つめている。 「綺麗ね。どこか寂しくもあるけれども」 「ええ」 しばらく無言で見つめ続ける。何も言わず、ただ二人で見つめ続けた。 やがて、小さく、ジジ、という音を残して、線香花火の火は地に落ちる。 「……終わると呆気ないのね」 「……そういうものですから」 そうね、と、レミリアは目を細めてそれを見やった。彼も何も言わずその横顔を見ていた――が。 「あー! 落ちたー!」 「揺らすからだ。って、あ、私のまで落とすなフラン!」 「煩いわよあんたたちは……」 フランドール達のところを中心にしたところから、大きな声があがる。 どうやら勝負をしていたのか、落ちた落ちないで騒いでいるようだった。 レミリアは大きく息を吐くと、軽く首を振って苦笑気味の微笑みを浮かべた。 「ああもう、向こうは賑やかね」 「行きますか」 「ええ」 彼がレミリアの手を恭しく取る。そして、二人は騒いでいる友人達の方に向かった。 夏も、気が付けば終わりに向かっている。 けれども、こうした一つ一つのことが思い出になるのならば、それはきっと寂しいだけのものではないのだろう。 きっと、どれくらいの時間が経ったとしても。 何の根拠もないことだったが、手を繋ぎながら、ただ、そんなことを思った。 Megalith 2012/08/20 ─────────────────────────────────── 「外界旅行、か」 「スキマもよくやるわねえ」 配られた用紙を眺める青年の後ろから、レミリアが顔をのぞかせた。 ソファにだらしなく座っていた彼は少し姿勢を正して、レミリアに用紙を見せる。 ざっと眺めた後、レミリアは彼の頬に頬をつけるようにしながら尋ねてきた。 「……里帰りしてみる?」 「あちらに未練はないですけれど」 「……私が行きたい」 囁くように呟いた一言に、彼は笑った。おそらく、自分から言うよりこちらに言わせたかったのだろうことがわかったからだった。 「笑わないでよ」 「いえいえ。では、申し込んでおきましょう」 むくれた主の髪を撫でて機嫌を取る。 「ん、お願いね」 少し機嫌が直ったかのように、羽が一つ、ぱたりと動いた。 外界に行く、と連絡してから程なくして、八雲紫が訪ねてきた。 というより、気が付いたらソファで紅茶を飲んでいた。相変わらず神出鬼没である。 「さて、どこに行きたいの? 何処でもオーケーよ」 挨拶もそこそこに、そう紫は切り出す。 どうやら、何処に行くかの打ち合わせのために来たらしい。 「僕はどこでも。レミリアさんはどこか希望がありますか?」 「じゃあ……ここ。と、ここ」 レミリアが指し示した地図を見て、紫は扇を開いて口元を隠す。 「随分移動するわねえ。貴女は日中大丈夫?」 「何とかするわ。雨だったら予定を延ばせばいいし。出来るでしょ?」 「相変わらずね。了解したわ」 「貴方もいいわね?」 紫とレミリアが眺めている地図を隣から覗き込んで、彼は目を丸くした。 「レミリアさん……ここは」 「一度行ってみたいの」 「……わかりました」 「では、出発の日時は追って伝えるわ。よろしくね」 紫が立ち去った後も、青年とレミリアは地図を眺めていた。 「……嫌だった?」 あまりにも地図を見つめる様子に、袖を引いてそう尋ねたレミリアに、彼は首を振った。 「いいえ……まさか、ここに行きたいと言い出されるとは思ってなくて」 「……行ってみたかったのよ」 「何もないところですよ……ああ、それでも懐かしいですね、故郷というのは」 出発当日。羽を霧にして隠したレミリアと共に、青年は外界に立っていた。 「いやはや、ここに直接来るとは」 「その方が早いんだもの。出発場所は指定可能だったし」 人気のない小高い峠の上。すぐ下に町が見える。夜ならば、町の明かりが見えるはずだった。 「まあ、貴女達はまた随分と移動するしねえ」 二人を送りに来た紫が、呆れたように言う。 「ま、何かあったら呼びなさいな」 「ええ。お土産の件に関しても」 「それに対しては伝えたとおり。ああ、このメモに書いてるのも一緒に買っておいてもらえるかしら」 「はい、了解です」 「行くわよー」 メモを受け取る彼を置いて、レミリアが日傘を差したまま歩いていこうとしていた。 「ああ、待ってください。それでは紫さん、また」 「ええ、良い旅を」 手を振ってスキマに去っていく紫を見送り、彼はきょろきょろと周りを見回す主の下に急ぐ。 先に歩くレミリアに追いついて、彼は隣に並んだ。近くなっていく町を眺めながら、レミリアがぽつりと呟く。 「本当に、何もないのね、幻想郷……程じゃないけど」 「まあ、田んぼばかりですから……それでも、ここが僕の生まれた……ある程度までは育った、町です」 その言葉に、曖昧に頷いてレミリアは目を眇めた。 「ああ、でもあれはあるのね。ええと、パチェの本にあった……」 「自動車、ですか?」 「うん、それそれ。それは結構あるのね……忙しないわ」 「田舎だと逆に、こういう足が必要ですからねえ……」 思わずしみじみと呟いてしまう。それに、レミリアはくすりと笑った。 「まあ、ゆっくり行くわ。だいぶ長い旅行になりそうだものね」 「まったくです」 肩をすくめて笑って、彼は今回の行程を頭の中で確認した。 何しろ、彼が外界で生活した場所を回りたい、というものだから、かなりの長距離移動である。百キロ単位で移動するくらいに。 夜に基本移動するとして、さてその他諸々をどうするか。 「とりあえず……僕が小さい頃居たところを、ふらふら回ってみますか」 「ええ……もう、そこには?」 「まあ、誰も居ないですよ。でも引っ越すまでは住んでた辺りですから」 昔とそう変わらないから、勝手はわかる。というよりも、見通しが良いのでほとんど迷わない。 田舎を絵に描いたようなところだった。 「……いいところね」 「そうですね、若干不便なところもありますけれど……久々に戻ってくると、そんな気もします」 レミリアは曖昧に頷いて、日傘をくるくると回しながら、彼の隣に並んだ。 「ああ、すみません、傘持ちますか」 「いいわ。それより」 くい、と袖を引っ張られて、何かを要求するように見上げてくる。 「あ、ええと、これ、でいいですか?」 「ん、よろしい」 間違ってないかな、と思いながら手を差し出すと、レミリアは嬉しそうにその手を握り返してきた。 「……そうだ、近くに行く前に、ちょっと喫茶店でも寄って行きますか」 「この辺りにあるの?」 「ええ、パフェが名物だった気が……とりあえず、行ってみましょうか」 歩いたら歩いたで結構な距離になるのだが、まあそれも悪くはないだろう。 しばらくの後、ようやく着いた喫茶店で、二人は文字通り一息ついていた。 「しかし、結構歩くのね。飛べないし不便よねえ……」 運ばれてきたパフェにスプーンを入れながら、レミリアが呟いた。 ちなみにパフェは中々のボリュームと花火がささっているという仕様だったりする。 アイスも何種類か乗っているので、いろいろな味が楽しめると言うものだ。 「まあ、そうですね。後でバスにも乗ってみます? 移動には便利ですよ」 「いろいろ体験するのも悪くないわね。乗りましょう」 一口クリームを口に運んで、楽しそうに笑う。 「あ、そういえば貴方は珈琲だけで良かったの? 一口食べる?」 「ああ、いただきます。さすがに一つ入る気はしなくて……」 本心を言えば、レミリアが一人で食べれるかも心配だったのだが。 記憶の中にあるものよりは随分と小さく感じたものだが、それでも大きめである。 まあそれでも、甘いものは何とやら、という奴らしい。 「はい、じゃあ」 パフェを掬ったスプーンを目の前に出されて、彼は困惑する。 「えーと、その、それは」 「はい、あーん」 物凄くいい笑顔である。心底楽しんでいるに違いない。 それはいいとして、周りの目があるのですが。かなり恥ずかしいのですが。 そんな心の声が届くわけがなく、催促するように小首を傾げてくる。 「どうしたの?」 「あ、い、いただきます」 意を決してスプーンを咥える。甘いが、こういうことはそれ以上に気恥ずかしさが先に立つものだ。 「どう?」 「十分甘いです、ありがとうございます」 周囲からの視線が刺さるような気がするが、気のせいと言うことにしておく。 照れ隠しに窓の外に目をやると、懐かしい景色が見えた。 喫茶店を出る際に、この辺りに縁の場所はないか、と聞かれ、思いついたのは学校くらいのものだった。 幸い下校時間も過ぎているためか、人気はない。警備員は流石にいたが、卒業生ということを丁寧に説明して、無理を言って入れてもらった。 レミリアもいたので、何か悪いことをするとは思われなかったらしい。まあ、危険度は別の意味で高いはずなのだが。 「何だか、随分殺風景ねえ」 「まあ、幻想郷で言う寺子屋に似たようなものですよ。人が住んでるわけではないですから」 「ん、それはそうなんだろうけど」 彼に傘を持たせて、レミリアは手を繋いでいた。建物や校庭を眺めた後、彼を見上げる。 「懐かしい?」 「ん、まあ、そうですね。小さい頃を思い出します」 「思い出したこと、少しずつ聞いていっていい?」 「ええ、もちろん」 手を繋ぎながら歩く。歩きながら話をする。学校の周りをのんびりと歩きながら、他愛のない話に花を咲かせた。 途中、遊具に目を留めたレミリアが袖を引っ張ってきた。 「ね、あれ何?」 「ああ、ジャングルジムとか鉄棒とかですね。よく遊んだなあ」 近くまで寄って、傘を渡して軽く逆上がりをしてみる。久し振りだが、意外と上手くいった。 「小さい頃は、こういうのが楽しかったですねー」 「私もやってみていい?」 物凄くわくわくしているのがわかるが、スカートでこれは拙い。 「……陽がありますよ」 「ああ、そうか、残念ね……じゃあ、あれに上るのはいいかしら」 言うが早いか、レミリアはジャングルジムに上る。 傘を差したままというのは器用だが、それでも下からは見えそうだと気が付いて欲しい。 とりあえず隣にまで上って、一番上に腰掛けているレミリアの隣に腰を下ろした。 「昔はここが随分と高く感じたものですよ」 「今は、ねえ」 「確かに」 くすくすと笑い合って、またしばらく、二人で誰も居ない校庭を眺めた。 行きたい場所がある、とレミリアは言った。青年の方もわかっていたから、素直に案内する。 やはりしばらく歩いてたどり着いた家屋の近くで、レミリアが尋ねた。 「……ここが?」 「ええ、僕の実家だったところです」 引っ越した後は誰も居ないですけど、と呟く。 彼がかつて住んでいた家は、既に空き家になっていた。引っ越してからは、戻ってこなかった場所。 「寂れてるわね」 「人が住んでいないと、どうしても、ですね」 既に陽は暮れ始め、空気まで寂しげな雰囲気をまとっているようだ。 しばらく佇んだ後、彼はレミリアを促す。 「行きましょうか。懐かしいですが、ここにはもう」 「……ええ」 並んで歩きながら、レミリアは彼を見上げて、その手を取る。 「?」 「何か話しながら行きましょう」 「ああ、ええ、そうですね」 思い出は寂しいものだけではないからと。何か昔のことを共有したくて、レミリアはそう促したのだと、鈍い彼にもわかった。 一つ頷いて、彼は子供の頃の話をし始める。どういう風に遊んでいたか、過ごしていたか。 話しながら、不意と視線を空いた土地に向けて、彼は微笑った。 「……この広場も、よく駆け回りました」 「意外と活動的……意外でもないか」 「向こうでも里の子達と遊ぶのは楽しいですしね」 たまに一緒に慧音に怒られるのだが、それは伏せておく。 だが、それはすでにレミリアの知るところだったようで。 「時々白澤に怒られてるらしいわね?」 「バレてるんですか……咲夜さんから?」 「本人からも聞いたわよ」 「……危険なことはさせてないつもりなんですけどねえ」 頬をかいて、誤魔化すように呟く。 「余計なものも寄ってくるからだそうよ。妖精とか」 どこか拗ねたような物言いに、彼はレミリアの顔を覗き込む。 「妬いてくれてたりします?」 「………………馬鹿」 顔を微かに紅く染めて、行くわよ、とレミリアは彼を引っ張った。 太陽が既に山の端に姿を隠した頃、さて、と青年は声を上げた。 「そろそろ移動しますか」 「この町で泊まるんじゃないの?」 「いや、この町のはさすがに知らないんですよ。それに、移動するにもそちらの方がいいので」 「その辺りは任せるわ。ここでやり残したことはない?」 「特には……ないかな、友人達には便りも出しましたし。返信は紫さん任せで」 「…………まあ、いいけど」 微妙な顔をしたレミリアに、彼は軽く肩を竦める。それで、レミリアは何の用件か察したようだった。 「……ああ、そうか。そういう用件だったのね」 「もしかしたらどこかで道も交わるかもしれません。けれども一応、けじめとして」 「まあ、またこうして来ることもあるでしょう」 レミリアは素っ気なくそう言った。そんな態度を取りながら、彼の傍に寄り添う。 「ありがとうございます。では、行きましょうか」 その気遣いに感謝しながら、彼はレミリアの手を取った。 日が暮れてからでなければ、長距離の移動は難しい。昼間、レミリアが興味を惹かれて乗ったバスは細心の注意を払って移動した。 「……うーん、しかし随分かかるのですよね」 「そんなに?」 「乗り換えもありますしね」 「乗り換え?」 無邪気に首を傾げられて、彼は視線を彷徨わせた後、一つ咳払いした。 「……移動しながら説明しますね」 いろいろ思考が飛びそうなくらい可愛らしい仕草だった。人気が少ないとはいえ、さすがに危なかった。 駅に着き、物珍しさにきょろきょろするレミリアに合わせながら、電車をしばらく待ち。 そしてやってきた電車に、がたんがたんとしばらく揺られて乗換駅に着いた。 「面白いものを作るのね、人と言うのは」 「ええ、本当に」 くるりと見回して、ああ、と青年は声を上げた。 「ついでだから、一つ面白いものを買ってきましょうか」 「え?」 「少し待っていてください」 そう、荷物をおいて、青年は駆けていく。レミリアがきょとんとしているうちに、近くにあった売店で何かを買ってすぐに戻ってきた。 「電車の中で食べようかと」 「それは?」 「お弁当です。駅弁ですね。流石に向こうではないものですから」 そう言っている彼の方が楽しそうに見えて、レミリアはくすくすと微笑った。 「何か?」 「いいえ。そうね、珍しいのを食べるのも楽しそう」 言いながら、レミリアは目の前にやってきた電車に視線を向けた。 空席がほとんどの列車の中、隣り合って座り、弁当を広げる。 「……結構美味しい」 「でしょう? ここのは名物なんですよ」 彼の言葉に頷きながら、一緒に買ってきてもらった茶を口に運ぶ。 「特急にして正解だったかもですね、席も空いていますし弁当も食べられますし」 「列車って弾幕に使うものかとばかり思ってたわ」 「……そんなこと出来るのは紫さんだけだと思いますよ」 そんなどうでもいい話をしながら、弁当をつまみつづける。 少し強めの味だが、それもまたレミリアには気に入った。安いものなのかもしれないが、そうしたものを食べるのもまた面白いというものだ。 そう思いながら、隅にあった紅いものを一口食べる。 「っ!?」 「どうしました?」 レミリアは慌てて茶を手に取ると、くいと喉に流し込んだ。 それでも、口の中に辛いような妙な味が残る。 「……これ、あげる」 「ああ、紅しょうがですね? ……辛かったです?」 「…………」 レミリアは無言で見上げた。辛さで舌先はまだおかしいし、目尻には涙がにじむ。 「あ、ああ、わかりましたわかりました! 僕が食べますから」 「……うん」 こく、とレミリアは頷いて、箸で紅しょうがを彼の弁当に移していった。 随分と長く乗っていたような気にまでなっていた電車を降りて、駅の大きさと広さに感心しながら外に出る。 くるりと見回して、青年はレミリアに軽く説明した。 「ここが、まあ、この辺りの中心の街というか」 「さっきまでいたところとは似ても似つかないわねえ」 「僕もそんなに知っている街ではないのですけどね」 馴染みのない街は、逆に旅の気分を味わわせてくれる。一つ深く呼吸をして、彼はレミリアの手を取った。 「とりあえず宿にチェックインだけして……それからどうしましょうか。お疲れでしたらもう休みます?」 「……そうね、そうしましょう」 「では」 手を取ろうかと思ったが、レミリアは首を振って腕を絡めてきた。 「昼間はこう出来ないもの」 楽しそうな言葉に頷いて、彼は地図を片手で確認しながら、宿の場所を確認する。 随分と海の方だった。それはそれでいいのかもしれない。少し長めに歩くことになるが。 「少し歩きますが、バスに乗りましょうか」 「ん、それがいい?」 「そうですね。街の様子も見れますし」 そういうことなら、と乗ったバスから外を見て、レミリアが何ともいえないため息をもらす。 「ここは随分明るいのね。夜でも昼間かと思うほど」 「まあ、都会はこういう感じですよ」 「これでは確かに、幻想の入る余地はないのかもね」 かもしれません、と返しながら、二人はしばらく過ぎていく街並みを眺めていた。 宿に着いてからチェックイン自体はすぐに終わった。 姓のところも、レミリアの方を書いているから、奇異には見えるだろうが止められはしない。 止められても大いに困るけれども、と思いながら、案内された部屋に入る。 「ん、ようやく一息ね」 そう言いながら、レミリアはベッドに腰掛けて翼を現した。そちらの方が落ち着くのだろうか。 「そうですね。今日はもうゆっくり休んで、明日またどこかに行きましょうか」 「ええ。どこか面白い場所はある?」 「それは……ううむ、天気にもよりますが、景色の良いところや遊ぶところは」 「じゃあ、その辺りは任せるわね」 微笑ったレミリアに、はい、と返しながら、彼は電話に目を向けた。 「それでは、休む前に何か飲み物でも」 「ん、お願い」 フロントに電話をかけながら、青年は窓の向こうに気が付いた。受話器を置いて、窓際にレミリアを手招く。 招かれるままに寄ってきたレミリアは、外を見てぽつりと呟いた。 「……海」 「ええ。幻想郷にはないですし……ああでも、月で見たのでしたっけ?」 こく、と頷いて、でも、とレミリアは続けた。 「向こうのと違って、こっちにはいろいろ生き物がいるのよね」 「明日にでも見に行きますか」 「ん、そうする……」 ぼんやりと外を眺めていると、部屋のチャイムが鳴った。レミリアをそのまま残して、彼だけが取りに出る。 ワインと紅茶を受け取って戻ってくると、窓際のテーブルに置いた。 「海を見ながらというのも」 「ん、いいわね」 レミリアは窓から離れて、こちらに近寄ってきた。座りやすいように、軽く椅子を引く。 「ありがとう。でも、その前に」 「はい? ……っ」 背伸びしたレミリアに、ちゅ、と軽く不意打ちで口付けられて、彼は口元を押さえて言葉を失った。 本人は悪戯っぽく微笑って椅子に腰掛ける。それに合わせて椅子を戻した。この辺りは不意を打たれても抜かりなくやらねばならない。 「今日は一日ご苦労様。労いには十分でしょう?」 「ええ、本当に。かないませんね」 彼は困ったように微笑って、レミリアと自分の分のグラスに紅いワインを注いだ。そうして、レミリアの向かいに座る。 「では」 「ええ、この旅行がもっと楽しめるように」 彼女らしい言い方で、レミリアはグラスを掲げた。それに合わせて、彼も唱和する。 「乾杯」 思い出を偲ぶ旅行は、まだ始まったばかり。 次はどこを巡ろうかと考えながら、青年は、軽くグラスを傾けた。 うpろだ0009 ─────────────────────────────────── 久々に曇り空の合間から陽が差し込む、二月にしては温かい日だった。 とはいえ、館の中にあまり差し込んでは困るのでカーテンはほとんど閉められたままだ。 それでも暖を取るためにいくつか開けてはいる。妖精メイド達がたまにそこでたまってもいるが、まあそれくらいは許容範囲だろう。 そうしていても、レミリアのよく行動する一角はやはり閉ざされたままである。間違っても日が射さないようにされている。 そんなことを考えながらティールームの扉をノックした。今日は昼間からフランドールも上がってきていると聞いたからおそらく一緒にいるのだろう。 「どうぞー」 「いいよー」 「失礼します」 二人分の声に、やはり一緒かと中に入って――絶句した。 あまりに唐突に止まったからか、ソファに腰掛けている二人に疑問の声を投げかけられる。 「んー」 「どうしたのー」 「僕の台詞ですそれは」 どうしてレミリアとフランドールの頭に猫耳がついているのか。 どうしてお尻の方にぱたぱたと動く尻尾がついているのか。 どうして二人とも気怠そうにこちらを見ているのか。 そう、まるで昼寝前の猫であるかのように。 眠そうなのは百歩譲ろう。今は昼間だ。だが問題はそこではない。 「どうしたんですか、その耳と尻尾」 「どうしたんだっけ……?」 「何か今日はこういう日だからーとか聞いたような……」 よほど眠たいのか全く要領を得ない会話になっている。 誰かを問い詰めようか、という気分になってきた。この館内でこういうことをしそうなのは一人しかいない。 「ね」 「は、い、なんでしょう」 レミリアに手招かれて、ソファの近くに寄る。 近くに寄るとよくわかるが、レミリアの耳と尻尾は銀を基調とした毛並みで、フランは金を基調とした毛並みだった。 その滑らかさとふわふわした感じは、見ているだけで思わず手を伸ばしたくなるほどのもの。 それをぐっとこらえて、二人の要求を聞こうとした。 「どうしまし……わっ!?」 「眠い」 「眠い」 二人してこちらにしがみつこうと手を伸ばしてくる。どうやら頭はほとんど回っていないようだ。確かに日の高い、普段ならば寝ているような時間。 だが、この唐突すぎる行為には流石に急には対応できなかった。 「え、あ、ちょっと待ってください二人いっぺんは流石に」 「じゃあ私こっち」 「私背中ー」 「ちょ、ちょっと待ってください、ああ落ちるから!」 しがみつこうとしてバランスを崩しかける二人を何とか宥める。 最終的には安定した形でレミリアを腕に抱き上げ、フランドールを背中に負うことが出来た。 「……とりあえずパチュリーさんのところに行くか」 早くもまどろみ始めた二人を連れ、彼はティールームを出て図書館へと足を向けた。 「私が原因ではないわよ」 「……でしょうね」 二人の吸血鬼を抱えた彼の姿を軽く見やった後のパチュリーの言葉に、彼は軽く頷き返した。 理由は明白。図書館の書斎机に掛けているパチュリーからも耳と尻尾が生えていたからだ。こういった悪戯をするときはパチュリーは自分を標的にしないだろう。 「原因は?」 「八雲紫よ。外の世界では猫の日とか言ってたわ」 「その結果がこれですか」 レミリアは彼の腕の中で、フランドールは背負われたまま眠っている。 時折、ぱた、ぱたと尻尾が動くのはこう可愛らしい。可愛らしいのは可愛らしいが、この状態では何も出来ない。 かつ、二人とも非常に動きが猫っぽい。普段からどちらかというと猫気質のような気もするが、今日は特にだ。 「……ですが、普段とこう行動が変わるものですか?」 「妙に凝ってるみたいね。私も普段は眠くならないのにだいぶ眠いのよ」 「そんな風にはお見受けできませんが」 「せっかくの体験だからたっぷりデータを取らないともったいないでしょう」 魔法使いらしい返答に納得もしながら、パチュリーがこの案を受けたことを少し不思議にも思う。 「しかし、よくパチュリーさんもお受けしましたね」 「ああ、幻想郷の人妖を巻き込んでるみたいよ」 「……拒否不可とはまた」 「拒否しても無理矢理付けるでしょうしね。まあ害はないみたいだし、一日二日もしたら取れるでしょう」 そう言いながら、パチュリーは手元の本を閉じると小悪魔を呼んだ。すぐにぱたぱたと足音がする。 「はーい。あら、お嬢様と妹様もですか」 「……小悪魔さんも」 「ええ、たまにはこういうのもいいですねー」 猫耳をぴこぴこさせて非常に楽しそうにしている小悪魔に、パチュリーは紅茶を一杯持ってくるように頼む。 「お願いするわ」 「はーい。あ、そちらは……」 「僕はいいですよ。どのみち飲めそうにもないです」 肩を竦めようとしたが、竦めるとフランドールが落ちる。 小悪魔は、そうですね、と微笑むと、踵を返していってしまった。普段悪魔の尻尾のそれが猫のものになってる。 「……普段から生えてる人はどうなったのでしょう」 「ああ、アンケートみたいなものが送られてきたらしいわ」 「行き届いてますねえ……」 こういったおふざけに全力を出すというのは何となく理解は出来る。もうここに住んで長いのだ。だが、長くても慣れないというものはある。 とにかく、目下の問題は彼にしがみついている吸血鬼二人だった。 「しかしこれはどうしましょう。僕身動きあまり取れないのですが」 「ベッドに放っておけば? まだ昼だし、夜になれば元気になるでしょう」 「そうしますか……」 咲夜を呼ぼうか、と考えていたところで、腕の中のレミリアがもぞもぞと動いた。目を覚ましたらしい。 「起きました?」 「ん、ねむいけど……フランをなんとかしてあげないとね」 目をこすって、レミリアはパチュリーの書斎机の上の鈴を鳴らす。 「お呼びでしょうか」 「ん、咲夜、フランを地下室に」 「はい」 現れた咲夜は、青年の背中からフランドールを離して抱き上げた。 行動は常の通り瀟洒で無駄がない。彼女の頭にも猫耳が見えることを除けば普段通りだ。 「……本当にみんな生えてるんですね」 「ええ、でも割と普段通りよ」 微笑みを返して、咲夜は一瞬だけ消えるとすぐに戻ってきた。 「お嬢様も戻られますか?」 「うん」 そして彼に、連れて行って、と囁く。軽く頷いて、彼はレミリアを再び抱き上げた。 「それでは後ほど」 「ええ、今日のお茶の時間には上がるから」 そう答えたパチュリーに一礼して、彼はレミリアと咲夜と図書館を後にする。 「咲夜さんは大丈夫ですか? パチュリーさんでさえ少し眠いと言っておられましたが」 「一応は大丈夫よ」 「咲夜も眠かったら今日は休みを取りなさい。命令よ」 「はい、かしこまりました」 レミリアの言葉には素直に頷いて、咲夜は懐中時計を取り出した。 「まだ時間がございますから、もう少しお眠りになってよろしいかと」 「ええ、そうするわ」 それから軽く夜からの予定の話をしながら廊下を歩き、レミリアの部屋の前で立ち止まる。 「それでは」 「咲夜、また後で」 「はい」 咲夜に扉を開けてもらい、中に入ってベッドの方に向かう。扉が閉まる音がしたが咲夜が来た気配はない。仕事に戻ったのだろう。 薄暗い部屋の中を進み、ベッドにそっとレミリアを下ろした。もう目隠ししてでもこの部屋には何があるか大体わかっている。 下ろされたレミリアは、そのまま彼の方に手を伸ばしてきた。 「ね、少し休むから付き合って」 「はい」 ぎゅ、と抱きついてくるレミリアのなすがままに出来るように、青年もベッドに寝転がった。 そして一刻ほどの後。少し寝てすっきりしたのか目覚めたレミリアの隣で、不機嫌そうに青年が横になっていた。 「……どういう時間差なのでしょうか」 「さあ? 私達だけでは不公平だと思ったんじゃないかしら」 「……言っては何ですが、男の猫耳尻尾って一体誰が得するのでしょうね……」 ベッドに仰向けになるように身を沈めたまま、青年は大きくため息をついた。大体こういうのは可愛い女の子だからいいのであって男にするのが良いとは到底思えない。 レミリアの猫耳尻尾を見れて眼福だったのだが、まさか自分がこういうことになるとは思わなかった。 「あら、私は得してるわよ?」 そう、楽しそうにレミリアは彼の上に乗って尻尾を扱っていた。不機嫌なのでしっぽがぱた、ぱたと動いているのだが、それにじゃれるのが楽しいらしい。 意外にぱたぱた動かせるもので、レミリアの前でゆらゆらと揺らしてやると楽しそうに手で捕まえている。 「楽しいですか」 「楽しいわ」 指先で楽しそうにわしゃわしゃと弄っている。よほど楽しいのか、ゆらゆらとレミリアの尻尾が目の前で揺れていた。 ふらふらと楽しそうに動いているそれは、何共も言えずこちらの関心を誘う。 おそらくこれも猫化の影響なのだろう。衝動のままに手を伸ばして尻尾をそっと撫でた。 「にゃっ!?」 「すみませんつい」 撫でた瞬間、レミリアに思い切り逃げられてしまった。しゃーと警戒するように耳をぴんと立てて抗議してくる。 「いきなり何するの」 「いや、ゆらゆら揺れててつい」 すみません、と言いながら、身体を起こしてベッドの端まで逃げてしまったレミリアに手を伸ばす。 むう、と警戒したままレミリアは寄ってきた。そのまま頭も撫でる。耳の辺りも。気持ちいいのか、耳がぴょこぴょこ動いた。 「んー……」 「気持ちいいです?」 「ええ。気持ちいい」 もっと、と言いながらレミリアは彼の傍まで寄ってきた。尻尾が揺れていて思わず手を出したくなる。 衝動をこらえながら撫でていると、その手を外された。 「何か?」 「私もやってあげる」 「ああ、はい」 ぴょんと胸元に飛びついてきて、レミリアは彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。 耳に当たる手がくすぐったい。だが、悪い気はしない。 「気持ちいい?」 「……ええ、まあ」 尻尾が上機嫌に揺れる。我ながら正直なことだ、と思いながら、レミリアの手に撫でられるままになる。 「……僕も撫でていいですか」 「ん、いいけど」 答えが来るか来ないかのうちにレミリアの腰に腕を回して抱き寄せて、もう片方の手で頭を撫でる。 「もう、いきなり」 「駄目ですか」 「駄目って言ってもするんでしょう、もう……」 文句を言いながらも、レミリアはわしゃわしゃする手を両手に変えた。思い切り髪が乱されていく。 そのお返しとばかりに、腰に回した方の手をレミリアの尻尾に伸ばした。 「ひゃ!?」 「今度は逃がしませんよ」 冗談めかして言いながら、逃げては戻ってくる尻尾を撫でたり指先でくすぐったりしてみる。 本当にいい手触りだった。髪を撫でているときもかなり気持ちいいのだが、それとはまた違った心地よさがある。 そんなことを思いながら弄っていると、かぷ、と首筋に軽く甘噛みされた。気が付けば頭を撫でていた手は離されて、胸元を掴んできている。 「くすぐったいから、やめて」 むう、と見上げてくる目は少し潤んでいた。ざわざわと騒ぐ気持ちを無理に押さえつけて手を離す。 「これは失礼」 「わかればいいの」 ぱた、ぱた、とレミリアの尻尾と羽が同じタイミングで上下する。そのまま、胸にすりすりと頬を寄せてきた。 「けど、まだもう少し時間はありそうね」 「まあ、そうですね。夜になったらフランさんも起きてくるでしょうし」 「ん、じゃあそれまで、もう少し貴方を独占することにするわ」 そう言いながら、レミリアは胸から身体を離すと、軽く口唇を重ねてくる。 「いいでしょう?」 「ええ」 そう答えると、ぴょこぴょこと耳が嬉しそうに動いた。ぎゅうともう一度抱きついてきて、こちらの口唇をなぞった。 「じゃあ、ちょうだい?」 「はい」 自分の耳と尻尾が上機嫌を示しているものになってるだろうな、という考えは、口づけの甘さの前に溶けていった。 「で、結局全員猫のままと」 「朝には解けるでしょ」 ティールームで紅茶を傾けながら、レミリアとパチュリーがそう言葉を交わしている。 「面白いのにねー」 「そうねえ、たまにはいいかもしれないわよね」 フランドールの言葉に同意して、レミリアは尻尾をパタパタと動かした。 「……普段から猫っぽいのにねえ」 「そんなことと思うけど。ねえお姉様」 「ええ。猫はこの館にはいないと思うけど」 「よく言うわ。そう思わない?」 「この状態で僕に同意を求めますか」 黙ってカップを傾けていた青年は、返事を曖昧にするために肩を竦めた。 「僕には何とも」 「忠義なことね。そうね、貴方はどちらかというと犬よね」 「うん、犬だよねー」 パチュリーとフランドールの言葉に、彼はさらに微妙な表情になった。だが、レミリアだけがぽつりと異を唱えた。 「……猫も悪くないと思うけどね」 「あらレミィ、何か心当たりでも?」 「良いじゃない別に。ねえ」 そう言いながらも、レミリアの尻尾が照れ隠しをするかのようにぱたぱた動いているのを、パチュリーは見逃さず、だが追求はしなかった。 「はいはい。さて咲夜」 「はい、もう一杯、少し濃いめの」 咲夜が差し出す紅茶に頷きを返す。何よ、と返しながら、レミリアは自分にもと咲夜に求める。 どういうことなのか、とフランドールに尋ねられて困っている彼を、どういうタイミングで助けるかと考えながら。 そう紅茶を傾けるレミリアの尻尾は、ゆらゆらとどこか楽しげに動いていた。 うpろだ0020 ─────────────────────────────────── 幻想郷の春。桜の季節はそう長くはない。だからこそか、宴会が多く開かれる。 昼も夜も。だが、結局のところ、青年が主と共に参加するのは夜の宴会が主だった。 無論昼のものにもたまに参加することはある。けれども、やはり夜の方が落ち着くのも事実。 今宵もまたそうであった。博麗神社の境内で、いつものように花見の席が開かれていた。 その片隅。手頃な大きさの岩に片胡座で腰掛けている青年と、その膝の上で抱かれたような状態で座っているレミリアの姿があった。 「いい月ね」 「ええ、本当に」 相槌を打ちながら、さてどうしてこうなったのか、と考えても仕方のないことを考える。 レミリアの声は既に酔っていた。まるで猫のように目を細めて、くすくすと微笑いながら腕に寄りかかっている。 ため息混じりに、膝の上のレミリアに声をかけた。 「酔ってらっしゃるでしょう」 「酔わなければ楽しくないわよ」 くすくす、と紅い悪魔は身を寄せて笑った。今日の酒はどうやら強めのものが用意されていたようで、随分酔客が多い。 かくいう自分も結構酒は回っている。派手に乱れていないのは自制しているからだった。 そう、自制。自分をきちんと抑えておかなければ、そもそもこの状態の主を膝の上において平然と出来るはずがない。 傍らには盃が二つ。水面にゆらゆらと月が揺れている。 澄んだ、きついが良い酒だった。ちびちびと彼も傾けている。つまみはないが、ゆっくり飲んでいるならば酔い止めを持っておけば何とでもなる。 が、レミリアはお構いなしに盃を傾けていた。大丈夫だろうかとちょっと不安になる。 今年の桜は花々の主でさえ誉めたという程の見事なもので、それに十三夜の美しい月がかかっているとなれば、上機嫌になるのも道理かもしれないけれども。 そんな見事な桜の宴席の中、どこからか酒瓶を一本くすねてきて、それをこうして二人で酌み交わしている。 「あまり飲んでないんじゃない?」 「そうでもないですよ」 盃を揺らして、彼は口元に笑みを浮かべた。大して会話をしているわけではない。 何も話さずにただ寄り添っているだけ、というようにも見えもするだろう。 だがそれでもいいのだ。常に何かを話していなければならないような関係ではない。 ただ黙って二人で並んで酒を飲むのも、これ以上なく落ち着く時間なのであった。 「ね」 「はい? っ!?」 不意に、く、とレミリアは盃を傾けると、彼の口唇を塞いだ。香りの強い液体が口の中に流し込まれる。酒精が鼻に抜けていく。 「っ……!」 「ん、ん」 レミリアは彼の服の襟元を掴んで逃げないようにしながら、口移しで酒を飲ませてきたのだった。 酒がなくなっても、レミリアは離す様子を見せなかった。そのまましばらく、口付けを続ける。 「ん、うぅ」 やられっぱなしは何となく悔しくて、レミリアにちょっとした反撃を試みる。 こちらの口の中にある舌を甘く噛んでみるとレミリアの身体が震えた。 「ん、あ、もう」 ちろ、と舌先を舐めて、レミリアの口唇が離れていった。瞳はやはり酔っている。 だが何に酔っているのか、それは考えないようにした。考えると抑えていられない気がした。 酒かそれ以外のものかが零れそうになったのを指先で拭って、レミリアのしてやったりという表情を何とも言えない想いで見やる。 「どう?」 「……随分と美味で」 「あら、成長したわね」 以前なら味なんてわからない、なんて言ってたのに。そう、レミリアは上機嫌に告げる。 一つため息をついて、酒精が身に染み込むのを感じながら空を見上げる。 ざあ、とざわめく風の音に合わせて桜の花びらが舞っていた。その向こうに月が昇っている。 「綺麗ね」 「……ええ、本当に、綺麗な月です」 こちらを向いたレミリアと視線が合った。レミリアは嬉しそうに微笑んで、もう一度、口付けしてくれた。 「あんたらねえ……」 しっとりとした空気を破るように、微かに怒気を含んだ声がした。この神社の巫女、霊夢の姿だった。 彼女も幾分か酒は入っているようで頬が赤い。 「神社の片隅で砂糖まき散らすな」 「あら、甘い物が似合うお酒もあったはずだけど」 「そういう問題じゃなくて」 レミリアのにべもない反応に、はあ、とため息をついて、霊夢が青年の方を軽く睨む。 「貴方も止めないさいよ。レミリア止められるの貴方だけでしょうに」 「いやはや」 「誤魔化さないの。向こう、甘さにあてられて飲んで大変になってるんだから」 「ああ、随分騒がしいと思ったら」 くつくつとレミリアは笑った。つい、と酔眼を宴会場に向ける。騒がしい、という単語が控えめに見えるような惨状になっていた。 「もう少し、こうしていたかったけど」 「家でやれ家で」 「桜の下、月の明かりの下でやるからいいんじゃない。無粋ねえ」 とはいえ、と言いながら、レミリアは名残惜しそうに彼の膝の上を退いた。 「騒がしくしすぎて桜も月も楽しめないのはもっと無粋。行ってくるわね」 「お気をつけて」 レミリアの手の甲に軽く口付けて、青年はレミリアを見送る。 弾幕ごっこも加わっていた騒ぎは、レミリアの参戦によりさらに悪化していた。 「まったく、見せつけるわねえ」 悪態をつきながらも、あまり気にはしていない様子で霊夢が肩を竦めた。 「まあまあ、こういったのもこの季節しかできませんから」 「年中いちゃついてるくせに?」 「それを言われますと」 ああ、否定しないんだ、と呆れる霊夢に、今度は青年が肩を竦める。 その会話に割り込むように、爆音と閃光が降ってきた。二人して空を見上げる。 いつの間にかレミリアが中心で暴れているようだった。何事か起こすときには自分を中心にしたがるレミリアらしいとも言えた。 「派手にやってるわね」 「ええ。夜空に映える、綺麗な紅い月ですよ、本当に」 「惚気はもうお腹いっぱいだわ。そうだ、あれが終わる前に何か軽いの作ってくれないかしら。お茶も」 彼は頷いた。霊夢の要求は、レミリアが騒がした分の迷惑料のようなものだった。否応もない。 「承知しました。数は適当で良いでしょうか」 「いいんじゃない? じゃあよろしく」 ひらひらと手を振って宴席に戻る霊夢を見送って、彼は神社の台所に入る前にもう一度空を仰ぐ。 美しい彼の紅い月が、煌々と、活き活きと、輝いていた。 うpろだ0034 ─────────────────────────────────── 「暑くなりましたねえ」 「いきなり暑くならなくてもねえ」 館の、風通しの良い一角で青年とかき氷を食べながら、レミリアはため息をついた。 「まあ、それでも湖からの風でだいぶ涼しいですが」 「外はもっと暑いんでしょう? よく耐えられていたわねえ」 「まあ、そこは涼しくするものがいろいろありましたので」 かちゃ、とスプーンを器の中において、青年は微笑った。 紅魔館は窓こそ少ないが、風通しのよいところにきちんと備えられてもいる。最近はそこのほとんどを全開にして空気がこもらないようにしていた。 図書館の方は、パチュリーが以前に空気を循環させたり入れ替えたりする法を作って何とかしているらしい。地下にある分、ある程度涼しいのが救いでもある。 「後で咲夜にフランにも持ってくように言わないと」 「ああ、そうですね。今はまだおやすみ中のようですが」 「暑くて起きちゃったものねえ」 レミリアが不満そうな声を上げる。青年は困ったように微笑った。彼もまた同じような理由で起きたのだった。 まあ、たいていどちらかが起きれば起きてしまう、というのもあるのだが。 「もう少し風通しでもよくしようかしら」 「それもありかもですね、ここまで暑いと。蚊帳をかけて窓を開けておくのもいいかもですが」 レミリアの部屋にも一応小さめの窓はある。月明かりを取り込むためにいくつか窓はきちんと用意されているのだった。 それもその用途のためで、たまに部屋の窓から月を鑑賞することもある。 「明日からそうしましょうか」 レミリアがそう、器を行儀悪くスプーンで鳴らした。涼やかなガラスの音がする。 その音を破るように、ノックの音が聞こえてきた。 「咲夜?」 「失礼いたします、お嬢様。招かれざる客です」 咲夜の口調はいつもの真面目なものながら、ちょっとした諧謔味が混じっていた。 暇を潰せるものはこの際何でもありがたくある。レミリアは入るように声をかけた。 咲夜が開けた扉の向こうには、見慣れた紅白と黒白の姿があった。 「よう」 「あら、美味しそうな食べてたみたいじゃない」 「何、たかりにきたの?」 「是非にと言うなら仕方がない」 軽妙な返しに、やれやれと肩を竦めるレミリアを視線で宥めて、青年は立ち上がった。 「作ってきましょうか」 「ええ、私の分もお願い。ああ、咲夜にさっきの話も」 「かしこまりました」 青年はそう頷いて、霊夢達と入れ違いになるように部屋の外で出た。 咲夜に用件を伝え、台所でかき氷を作り――ついでに咲夜の分のかき氷も作って――少しの時間の後、彼はかき氷の入った器を三つトレイに乗せて部屋に戻ってきていた。 「霊夢さんもいらっしゃるとは珍しいですね」 「涼みにね。ああ、ありがと」 霊夢の前に氷をおく。シロップは作り置きをしていたレモンのシロップだった。疲労回復にも良い。 「ん、美味しいな」 しゃく、と聞いているだけで涼しくなるような音を立てて、魔理沙の前に置かれた氷が崩される。 「人里の氷室もこの分だと大変そうよね」 「そうだなあ。ああでも、今年は氷も多めに取れてたらしいから、とんとんじゃないかな」 「上手くできているものですね」 「そんなものでしょう」 霊夢が何ということもないようにしゃくしゃくと崩して口に運ぶ。そういうものか、と彼も納得した。 「貴方はよかったの?」 「もう十分先ほどいただきましたしね」 「遠慮しなくてもいいのに」 レミリアも氷を崩して口に運んだ。その様子を、青年は楽しそうに見ている。 「……幸せそうだなあ、お前」 「ん? 僕です?」 「他に誰がいるんだ、全く。まあ、仲良いのはいいことだろうけど」 「そうねー……」 霊夢はしみじみと同意した。この二人は喧嘩を始めたりトラブルを起こしたりする度、否応なしにいろいろ周囲を巻き込んでいくのだから尤もな感想だった。 現に以前何度か巻き込まれているのだから、そうも言いたくなることだろう。 「そういえば、霊夢と魔理沙は何か涼しくなる方法知らない?」 「すごい無茶振りが飛んできた」 「暑いんだもの。人間はこういうときどうするのかなって」 「横にも元人間いるじゃない」 「僕はそもそも外の人間ですから、こちらでは出来ないのも多いですし」 青年は軽く両手をひらひらと振ってお手上げの意を示した。 「まあ、こう暑いとそういうのが気になるのもわかるが」 「大体変わらないんじゃない? 風通しをよくして冷たいもの食べたり飲んだり。まあ逆に熱いお茶を飲んで汗流したりするけど」 「ああ、汗かいたときは湯浴みもありだなー」 魔理沙と霊夢がぽんぽんと案を上げていく。ふむ、と彼は顎に手を当てた。 「湯浴み……は逆に暑くなりそうですからねえ。そもそも汗はほとんどかかないですし」 「涼しくするなら水かしら。今日は水浴びにしましょう。流れてなければ問題はないし。私も貴方も」 「そうですね、後で準備しておきます」 言葉の端々から、一緒に入っていることを察した人間二人が、何とも言えない視線を吸血鬼に向けた。 「……それは、お前ら、素か」 「素でしょうよ。折角涼しくなったのにね」 霊夢がやれやれと首を振った。魔理沙も肩を竦めて、ああでも、と話題を転じた。 「夏の温泉もいいけどな」 「暑いけどね。上がった後のお酒が美味しいのよねー」 うんうん、と頷きながら、霊夢は空にした器にスプーンを置いた。 以前の地底の異変の関係で、博麗神社の近くにも温泉が湧いているところがあるのだった。 「あ、いいわねそれ」 「え、食いつくのそこに。というか温泉大丈夫なの、流れあるけど」 「湯は水に非ずだもの。今日はそうしましょう」 良い案だというように、レミリアは手を打ち合わせた。青年もその案に乗る。 「そうですね、桃のワインがあったような。咲夜さんに聞いて準備しましょうか」 「それ、当然私達も貰えるわよね?」 「そうだな、惚気をきいてやったんだから当然の給付だよな」 「勝手に押し掛けてきたのはそっちだろうに」 レミリアは図々しい二人に呆れつつも、青年に向かって一つ頷いた。青年もそれに返して、それでは、と部屋を出ていく。 それを見送って、呆れたような口調のまま霊夢が呟いた。 「涼みにきたのに変なことになったわねえ」 「ま、酒をもらえるんだから良しとしよう」 魔理沙の声には宥めるような響きがあった。レミリアもまた呆れた声で返す。 「吸血鬼の館に勝手に押し掛けてきて涼んでお酒をせびっていくって結構だと思うんだけど」 「いつも押し掛けてくるのはそっちじゃないの」 「まあ、そうだけどさ」 釈然としない調子でレミリアが答えたとき、再び部屋の扉が叩かれた。顔を出したのは青年だった。 「失礼します。少し多めに頂いてきました。出かけるときは一言お願いします、とのことです」 「ん、わかったわ。陽も落ちるし、そろそろ行きましょうか」 レミリアは霊夢と魔理沙を急かすように立ち上がる。仕方なさそうに二人も席を立った。 「もう少し涼んでいようと思ったが仕方ないか」 先に行こう、と言うように魔理沙は霊夢に頷いて見せた。霊夢も諦めたように頷く。 「ま、私達は先に行くわ。仲良く来るのもいいけど、程々にね」 「あ、風呂は別に入れよ。私達はそこまであてられたくない」 言いたい放題言って、先に二人が部屋の外に出た。そして、館の入り口の方に歩いていく。 その後ろ姿を見ながら、レミリアは大きくため息をついた。 「全く、それくらいはわかってるのに。ねえ」 「ええ、まあ。流石にそこまでの度胸はないですからねえ」 ずれた会話をかわしながら、二人は並んで廊下を歩き始める。 「そういえばどう冷やしておくの?」 「神社の井戸水でも借りようかと」 「……神社で宴会が始まりそうね」 そうなったらどのみちいつもの通りかしら、とレミリアは楽しそうに笑う。 「まあ、それも良いかと。また暑くなってしまいそうですが」 「そうね。そうなったら、寝る前に水を浴びるのもいいわね」 「……そう、ですね」 「あら、温泉に行くと聞いて残念だったかと思ったのだけど」 レミリアのからかうような視線に、彼は複雑な表情をした後、はあ、と一つ息をついた。 「下心を見透かされるのはその、少し」 「あら、いいじゃない。どうせ隠すようなことでもなし」 「まあ、それもそうですが」 くすくすと笑うレミリアに、心の底から降参の意を示す。 結局、いつまで経ってもレミリアの手のひらの上なのだった。中々意趣返しも出来ないのは残念だが、悪い気分ではない。 「これ以上不利になる前に行きましょうか」 「ええ、咲夜に言付けて。楽しみだわ」 レミリアは上機嫌にそう笑った。彼も笑みを返して、手を恭しく差し出す。 結局のところ、予想通りと言うべきか、神社に着いて温泉を楽しんだ後は人妖が集まってきてしまい宴会の騒ぎになってしまった。 そういうのも暑気払いには悪くないでしょう、と笑う主に、改めて敵わないという想いを抱く。 そして、彼は主と並んで眺める夏の喧噪を、何ともかけがえないのないもののように感じていた。 うpろだ0049 ─────────────────────────────────── 野分の後の空気は、大抵澄んだものになる。埃っぽい空気も何もかも吹き飛ばしてしまうから。 少しだけ湿った空気が残るような夜は、冷え込みながらもとても綺麗な空が見える。 「随分冷えますが、大丈夫ですか」 「うん、大丈夫よ」 レミリア・スカーレットの言葉に頷きながらも、青年は自分の上着の中に抱え込むように彼女を寄せた。 空を見ているレミリアは、その行為をすんなりと受け入れた。自分から寄ったようにも見える。 十三夜の月はよく澄み渡っている。確か一年で一番月が綺麗に見える夜ではなかっただろうか。 そんなことを呟いたのがきっかけで、誰にも何も伝えずに紅魔館から出かけて散歩をしている。 適当に紅茶をポットに詰めて、少しばかりの用意をして、そっと出かけてきた。 「野分は酷かったわね」 「ええ、里の方も無事だといいのですが」 「また、貴方も借り出されるかしら?」 「かもしれません。ただ、作物への被害は心配はないでしょう。もうほとんど刈り入れてましたし」 とりとめない話をしながら、静かな夜を歩く。月は昇っていた。満月に少し足りない月の光が、辺り一面に降り注いでいる。 ここのところは冬への準備でいろいろと忙しかった。何気ない話をしながら歩くのも、どこか心躍る。 「冬になるわね、すぐに」 「ええ、台風が全部持って行ってしまった気がしますね」 「台風、か。何となく、テュポーンを思わせるわね。語原だったかしら」 「ええ、そういう説もありますね」 「でもそうだとしたら、この程度には収まらない気もするけれど」 「どれにしろ、人にとっては恐れるものだったということでしょうね」 「ん」 レミリアは曖昧に頷いて、彼を振り仰ぐ。 「どこかでゆっくり出来るかしら」 「ええ、そうですね。少し先にちょうど良いところがありますから、そこで」 青年は頷いて、レミリアの肩に手を乗せて引き寄せた。 少しばかり開けた草原の端、自然の岩が無造作に並ぶ場所。 その一つの上に、持ってきた布を敷いて、簡単な椅子代わりにする。 「どうぞ」 「貴方が先に座って」 「ああ、はい」 何を求めているのか理解して、彼は岩に座る。その膝の上に、レミリアが乗った。 それをもはや当然のこととして、青年はポットを開けると、中に入れていた器に紅茶を注いでレミリアに手渡した。 「ありがとう」 「いいえ」 月の光を十分に浴びながら彼の身体に背を預けている。何も特に話すこともなく、ただくっついているだけ。 たまにはこういう時間もいいものだ、と青年は思っていた。 もしこれが図書館の魔女殿辺りに聞かれていれば、いつもそうしているくせに何を言っているのだこいつらは、という顔をされていただろう。 レミリアにとっても不満などなかった。不満があれば、即座にそれを口に出す。それを躊躇いはしない。 時にはそれを『察してほしい』という我儘は述べるものの、その程度だ。 「寒くないですか」 「大丈夫。貴方は?」 「大丈夫ですよ、こうしているだけで暖かいです」 「体温は、貴方の方が温かいくらいだけど」 「そればかりというわけでもないですから」 青年はそう言って、膝の上のレミリアをさらに引き寄せた。吸血鬼だからか、肌はやはり少しひんやりしている。 けれどもその中にあるものは温かくて、それをさらに感じられるように、強く抱きしめた。 「どうしたの?」 「ああ、いえ、何となく」 自分の行動を誤魔化すために、話題を探す。この辺りは、まだ未熟と言っていいのかもしれない。 「しかし、黙って出てきて、後で咲夜さん辺りに怒られそうですね」 「もう」 レミリアは仕方なさそうな、どこか拗ねたようなため息をついた。 「折角二人きりの時に、そうやって別の子の名前を出すのは無粋でしょう? たとえそれが咲夜でも」 「これは、失礼しました」 素直に非を認めて、彼は膝の上でこちらを向いてきたレミリアに降参の意を示した。 無粋で気の利かないところはどうにかしないと、と心に思いつつ、宥めるようにレミリアの髪を撫でる。 「全く、こんなのでは誤魔化されないわよ」 言いながらも、背中の羽は機嫌を直したように上下している。 それに少し安堵して、髪を撫でながら、月明かりが降り注いでいるレミリアの背中をぼんやりと眺める。 いつしか、誘われるように首筋に口付けていた。唐突なそれに、レミリアが身動ぎする。 「……お腹でも空いた?」 「ああ、いや、そういうつもりではなかったのですが」 そうなのかもしれないですね、と誤魔化す。少し月にあてられたのだろうか。 普段はあまり外でこういうことはしないのだが。していないはずなのだが。 「食べてもいいけど?」 「誰が見ているかわからないでしょう」 含みのある言葉に、青年は困ったように首を振った。 「見せつけてやればいいのに」 「生憎と、誰かに見せるのは好きではないので」 「あら、意外に独占欲は強いのかしら」 「もうご存知でしょうに」 拗ねたように言うと、レミリアはこちらの顔をのぞき込んでくすくすと笑った。 その様子さえ可愛らしくて、どうにもかなわない気分になる。 「まあ、それは後に取っておきましょうか」 「そうしてください」 「でも」 レミリアは青年の頬に手を伸ばすと、口唇を奪うように重ねた。 「これくらいなら、いいでしょう?」 「不意打ちは卑怯ですよ」 「いつもは貴方から存分に不意打ちしてくるじゃない。だから、ね」 そう言って、レミリアはもう一度、口唇を塞いでくる。 月からは、変わらずに柔らかな光が降り注いでいた。 夜明け前に帰った後、咲夜に二人してしっかり怒られた。 満月までは大人しくしておくから、というレミリアの言葉に、とりあえず場は収めてもらった。 部屋に戻って、休む用意を終えながら、彼はレミリアに尋ねた。 「よかったのですか?」 満月まで二日とはいえ、それまで暇ではないのか、という含みを持たせた問いに、レミリアに楽しげに笑った。 「あら、貴方が相手してくれるんでしょう?」 「ああ、ええ、まあ」 「退屈させないように、楽しませてね」 くすりと笑った姿に、曖昧な返答を返す。本当にいつもレミリアの手のひらの上なのだ。 それもまた悪くない、というのは、やはり惚れた弱みと言うものだろう。 妙なおかしさを感じながら、レミリアを自分の方に抱き寄せる。 カーテン越しの外からは、中秋から晩秋にかけての朝の気配が漂ってきていた。 秋の終わりの気配を感じながら、愛しい月を腕の中に抱いて眠るのも悪くはない。 眠りに意識を手放す前に、そんなことを、思った。 うpろだ0054 ─────────────────────────────────── 夕暮れの中、青年は里を歩いていた。仕事を終わらせたので、これから紅魔館に帰ろうとしているところだった。 日中の強い日差しも弱くなり、暑さも少しばかりマシになっている。 何か甘味でも買うか、それともまっすぐ帰るか、と考えていると、後ろから声をかけられた。 「あら」 「ああ」 「お疲れさま。帰りかしら?」 「はい。咲夜さんは買い出しに?」 「ええ」 十六夜咲夜だった。どうやら買い物に来ていたらしい。 日中はあまりに暑いので、夕方頃に動くことも多いのだった。 「今日来られるなら、先に聞いておけば良かったですね」 手に持っている荷物を幾つか受け取りながら、青年はそう咲夜に声をかけた。 「急に足りないものが出たから。今日は?」 「もう終わりです。レミリアさんが起きるまでには帰れそうで。まあ今日は、幾人かこの日差しで体調を崩してたので代わりに日中荷物を運ぶ仕事でしたので」 楽なものでした、と笑う青年に、咲夜は何とも言い難い表情をした。 「……吸血鬼の発言とは誰も思わないでしょうね」 「……ですねえ」 呆れた声に、それもそうだというような笑いを含んだ声で彼も答えた。 「香霖堂の店主は煙草を吸ってたかしら」 「ええ、たまに。ああ、もしかして煙草の匂いが」 「少し残ってるわね。後で洗濯してしまうから出しておいて」 「了解しました」 咲夜の言葉に、素直に青年は頷いた。 日は傾いたところから落ち始めている。沈む前には、紅魔館に帰れそうであった。 「何度か言ってるけれど」 「はい」 「貴方はもう少し自分が何なのか自覚すべきだと思うの」 自分の主に説教されて、青年は少しばかり小さくなりながら頷いた。 帰ってきて呼ばれたティールームにて、今日の報告をしていたのだった。 もっとも、報告というほど仰々しいものでなく、今日何をしていたか、くらいなのだが。 怒っているのは無論報告内容のことだった。彼女の眷属でありながら、太陽の下で仕事をするとは何事かと。 「確かに貴方は日差しが大丈夫だけれど。消耗は大きいでしょう?」 「いや、その、香霖堂でも、休みましたので」 「そういう問題じゃないの」 仁王立ちのまま、羽をばさりと広げて、レミリア・スカーレットが不満を漏らす。 「第一、陽に当たりながら仕事する吸血鬼がどこの世界にいるのよ」 目の前に、という言葉は流石に飲み込んだ。軽口は軽口で許されもするのだが、大きな不満と共に心配している気配もあったから。 反省しているのを感じたからか、まだ不満そうな表情ではあったものの、一つ息をついてレミリアは説教から解放してくれた。 「まあ、いいわ。咲夜、お茶」 「はい」 ただいま、という声と共に、咲夜がティーセットを持って現れる。レミリアはソファに先に座ると、青年にも座るように促した。 「また後で呼ぶわ」 「かしこまりました」 咲夜はそれぞれの前に紅茶を置くと、一礼してその場を立ち去る。 レミリアは一口紅茶を飲むと、ふうと気を抜くようなため息をついた。 「心配しているのも本当だから。気を付けなさい?」 「はい」 それを申し訳なく思いながら、紅茶に口を付ける。柔らかい香りが漂った。 少しばかり腹が満たされる気分になったのは、血が入っているからだろう。 「足りる?」 「ああ、ええ。そこまで消耗もしてませんし」 「ならいいけど。貴方は私よりも食べるしね」 そう、微かに甘えるような声色で言った後、レミリアは不意打ちのように軽く口付けてきた。 そして、苦いものを食べたときのように少し顔をしかめる。 「煙草の匂いがする」 「わかりますか」 「当たり前でしょう」 レミリアは拗ねたような口調で言うと、青年の膝に乗った。肩を竦めて、彼は説明する。 「香霖さんのところで一ついただきまして」 「意外。吸わない人だと思ってたわ」 「滅多に吸いませんよ。普段は貰いませんし。今回だって――そうですね、こちらに来てすぐくらいに一本もらって、それ以来ですね」 青年は軽く笑った。こちらに来てすぐということは彼がまだ人間であった頃のことだった。 一瞬だけ切なそうな瞳をしたが、すぐに不満そうな表情をして、レミリアは羽をバタバタと動かした。 「ああ、ええと、拙かったですか」 「不味くなるのは確かね」 レミリアはそう言って、青年の膝の上で向かい合うように座り直した。 何事か、と思う前に、レミリアに軽く口唇を塞がれる。 「キスが苦いのは、嫌」 「はい」 声が妙に艶っぽくも聞こえて、思わず息を呑む。子供っぽい仕草からこれは反則ではないだろうか。 悪戯っぽい光が紅い瞳の奥に揺らいで、レミリアはもう一度口唇を重ねてきた。 今度は少しだけ深くて、だがその舌に感じたのであろう苦みに少しだけ眉をしかめた。 口唇を離して、少し恨みがましい口調で告げる。 「もう、吸っては駄目よ?」 「仰せのままに」 レミリアの言葉は絶対である。許しが出ない限りは生涯の禁煙も同じだが、そもそもそんなに吸う方でもない。 これが愛煙家だったら随分辛かっただろうな、と少しだけ笑う 「何を笑っているの?」 「いや、煙草がそこまで好きでなくてよかったな、と」 「好きじゃないならそもそも吸わないでよ、まったく」 むうとむくれるレミリアを宥めるように肩を抱いて、今度はこちらから口唇を塞ぐ。 まだ苦いのか、僅かに身じろぎした。構わず少し押さえつけるように、口付けを深くする。 「ん……嫌がるの、楽しんでない?」 「いやいや、そういうつもりは」 ありませんが、と言いながら、青年はまた一つレミリアと口唇を重ねた。 今度は、思った以上に素直に受け入れてくれた。 「ということで、今日はご遠慮を」 「おや残念だ」 少しも残念そうでない口調で香霖堂の主はそう答えた。 外からのものをまた拾ってきた店主と、これはどういうものかと話をしているところだった。 その途中、手間賃代わりにと薦められた煙草を簡単な説明付きで断った青年に、霖之助は肩を竦める。 「君もいい加減染まってきたんじゃないのかな」 「そうですかねえ……まだまだ足りない、とはいつも言われていますが」 「いや、幻想郷に、だよ」 外からの人間と聞いたときはどうなるかと思ったけどね、と煙草をくゆらせて霖之助は続けた。 「そちらですか。慣れはしますよ」 「何もかも、かな」 「かもしれません。まあ、日々の変化も大きいですが」 青年は小さく笑った。これはこれで楽しい人生ではあると思っている。もう人でない身で言うのは妙かもしれないが。 「楽しいものですよ、こういうのも」 「楽しそうでいいけれど、惚気は程々にね」 「……気を付けます」 自覚があって何よりだ、という言葉に肩を竦めた青年は、館に買って帰る土産を選びはじめ、店主の苦笑を深めることになった。 うpろだ0024 ─────────────────────────────────── 空気の澄んだ夜であった。 夜だというのに、人里はにわかに活気づいている。青年はそれを何ともなしに眺めやった。 秋祭りではない。たまに試験的に行われている夜市であった。 屋台を出したり、雑貨を売ったりと内容は雑多なもの。だが、そういった場を予めあつらえるということが大事らしい。 夜と言うことで、客層は妖怪が多い。とはいえ人間も居ないわけではない。人里が不可侵領域だからこそ出来ることであった。 紅魔の主、青年の愛しき主であるレミリア・スカーレットも、その雑踏の中に十六夜咲夜を伴って足を踏み入れている。 その姿を視界内におきながら、一歩下がって彼は歩いていた。女同士の買い物に口を挟むのも無粋である。 とはいえ、急に話を振られたときのために、いろいろと考えておかねばならないが。 その彼に、不意に声がかけられた。知っている声だった。 「おや」 「ああ、慧音さん。どうも」 軽く会釈をすると、向こうも会釈を返してくれた。人里の守護者、上白沢慧音だった。 「一人……というわけではないか」 「ええ」 慧音は少し気遣わしそうに、レミリアと咲夜の方を見やった。とにかく目立つ二人ではある。 「大丈夫ですよ」 「まあ、騒動を起こす方ではないだろうけれど」 彼は頷いて、もう一度夜市を眺めやる。思ったよりも賑わいでいた。 「この時期の夜市は珍しいですね」 「少し前に野分もあった影響で、いろいろずれこんで……それでも、みんな楽しみにしているみたいだからね」 慧音はそう応えた。元々、それほど娯楽があるわけでもない。楽しみとしては確かによいものだろう。 それでも、これ自体は統制を必要とするから、人里と神社と妖と、三者が共同で行うのだが。 「まあ、それで僕達も出てきたわけですが」 「そのようだな。まあ、来る者拒まずだから問題はないが。騒動さえ起こさなければ」 「大丈夫ですよ。どうやら楽しんでいただけているようですし」 咲夜と一緒に楽しそうに夜市を見回っているレミリアに、青年は嬉しそうな視線を送っている。 その反応に、慧音は少しばかり呆れたようなため息をついた。 「どうやら機嫌もいいようだな」 「ここのところいい天気でしょう。月もよく見えて、それでレミリアさんの機嫌もよくて」 「なるほど」 慧音が言及したのはただレミリアに対してだけではないのだが、それ以上は何も言わなかった。 代わりに、ふと思いついたように尋ねる。 「月、といえば、あの格言は彼女は知っているのかな」 貴方はよく口にしている気がするが、と言葉を続ける。 少しばかり考えて、青年はああと頷いて笑った。 「さあ、どうでしょうか。どちらでも構わないのですけどね。僕にとって最も美しい月はただ一人ですから」 「……ごちそうさま」 慧音は肩を竦めた。息をするように惚けられてはたまらないというような、少しばかり呆れた微苦笑を浮かべている。 そう話しているうち、こちらの様子に気が付いたのか、咲夜をつれてレミリアが近付いてきた。 慧音は軽くその姿に会釈する。それに応じた後、首を傾げてレミリアは尋ねた。 「こんばんは、白澤。何か彼に用でもあった?」 彼と慧音が話していることはとっくに知っていただろうに、レミリアはあえてそう言っているようだった。 慧音は再び肩を竦め、少しばかり軽い口調で返す。 「随分と惚けられていたよ」 「あら、それは良かったわね」 ぱた、とレミリアの羽が上下する。その答えに満足したのだった。 そして、青年の方にちらりと視線を向ける。青年が何か言う前に、咲夜が動いた。 「お嬢様」 「ええ、よろしく、咲夜」 咲夜は頷いて、青年の背を軽く押した。慧音も隣で了解したような表情をしている。 レミリアといえば、何かを催促するように羽をパタパタと動かしていた。 「はい、交代。後のエスコートはよろしくね」 「ああ、ええ。いいのですか?」 「貴方が他の女性と話していることの方が気がかりみたいだから」 咲夜は小声でそう言って、ほら、行きなさい、と青年を促した。 レミリアの手をとって、市を見て回る。 先程までは少しばかり不満そうだったが、今はまた機嫌が戻ったようだった。 市には彼や咲夜、美鈴といった紅魔館でも使いに出る面々はたまに顔を出すが、当主であるレミリアは当然出て来はしない。 自然、物珍しいものが多くなるためか、好奇心のままに店を眺めている。 「さっきも咲夜と話してたんだけど」 ふいとレミリアが口を開いた。視線は様々な店に向けられたままだ。 「祭りのときとはだいぶ傾向が違うのね。あのときは娯楽が多い感じだったけど」 「ああ、そうですね。あれは完全にお祭りの感じですから。今回は特に冬に向けての市を立てている形ですからね。祭りの時よりも生活に直に触れている感じはすると思います」 今回の夜市は、日用品や日持ちのする食料品を売っている店も多い。おそらく他の里から来ている物もいるのだろう。 そういう者達はここで買い物をして夜を越してから帰って行く。流石に夜に里の外を出歩く者はいない。 そして夜の市ということで、妖怪達も店を出したり客に回っていたりする。なので、祭りの時と同じく賑やかだ。 「ふぅん……冬に向けて、か。里は大変ね」 「かもしれませんが、こうして人が集まるのも見ていて面白いものですよ。人だけでなく妖も店を出していますし」 「全く、うまくやっているものね……」 レミリアが感心したのは、この市に対してか、この市を企画し最終的に全て統制している者に対してか、その口調からは読みとれなかった。 ゆるりと首を振って、レミリアが彼の手を引く。どこか楽しそうな笑みを浮かべていた。 「今はそれはいいわね。楽しみましょう。たまにはこうしたものを見て回るのも楽しいわ」 「はい」 青年は頷いて、レミリアに引かれるまま彼女の隣に並ぶ。 辺りを照らす提灯の上から、月の光も降り注いでいた。 そのどこか幻惑的な光の中を、二人は歩いていく。 しばらく店を冷やかしながら歩いていると、市から少し外れた、人もまばらな場所に出た。喧噪は背後に遠い。 「こちらはここで終わりですね。戻りますか?」 「いいえ。少し休んでいきましょう」 レミリアはそう言って、彼を近くに呼び寄せてきた。ぽすりと背を預けてくる。 人通りはほぼないとはいえ、若干の人目はある。だがそれを気にした風もなく、レミリアは寄りかかっていた。 青年も、レミリアが求めるならば大して気にしない。視線を向けてくる者はいるが、煩わしいほどでもなかった。 寄りかかったまま、レミリアは空を見上げた。彼もつられて空に視線を向ける。煌々とした月が空に浮かんでいた。 「ねえ」 「はい」 「月が綺麗ね」 レミリアは澄ました顔でそう言った。羽はぱた、ぱたと揺れている。気が付くかどうかを図っているのだ。 真っ正面から言ってくれないのは、それは趣がないと思っているのか、それとも気が付いてほしいという想いの表れか。 どちらでもよかった。ただそんな様子が愛しくてならなかった。 「ええ。綺麗です。愛しています」 後ろから抱きしめて、そう囁く。レミリアは満足そうにぱたりと音を立てて羽を畳んだ。 けれどもその畳んだ羽がゆらゆらと揺れている。機嫌がいいことは一目瞭然だった。 それの触れる感触が嬉しくて、少し腕の力を強める。 「苦しいわ」 「これは、失礼を」 腕を緩めると、レミリアは軽く微笑んで彼を見上げてきた。 表情は満足そうで、少しばかり軽口を叩く気分も生まれてくる。 「もしかして返事は、死んでもいい、の方がよかったですか?」 「それは駄目。私とずっと一緒にいるんだから」 「はい」 むうとむくれたレミリアにに謝罪して笑って、その頬に触れる。少し冷えていた。 レミリアはその手に自分の手を重ねて少し頬を寄せるようにした後、彼の腕から離れて向き直る。 月を背にしてこちらに微笑む姿は綺麗で、その様子に少しばかり見とれた後、少しぼうとした声で青年は告げた。 彼がずっと恋し続けている姿に、囁くような声で告げた。 「ああ、本当に月が綺麗です」 「でしょう?」 レミリアはそう、月明かりの中で、嬉しそうに笑った。 笑って、再び彼の手元に戻ってくる。彼は顔を寄せて、彼の愛しい主を迎え入れた。 二人の上に、晩秋の澄んだ月の光が柔らかに降り注いでいる。 うpろだ0029 ─────────────────────────────────── 春の風が鼻をくすぐっていく。 紅魔館のテラスから見える景色にも、桜色のものが混じっていた。もうすぐ満開になり、また散るまでの間宴会が何度も開かれるのだろう。 「あら、先に来ていたのね」 声をかけられて、青年は振り返る。紅魔館のメイド長、十六夜咲夜がそこにいた。 「湯を頂いたので、それでそのまま」 「なるほど、それでそんな格好なのね」 青年は、紅魔館でくつろぐ格好としては珍しく、普段の服の上に羽織をかけている。少し前に調達した書生羽織で、冷えそうなときなどにそれを着ていた。 もっとも、大して寒さなど感じない身になっているから、大して意味はない。ただ少しばかり格好を付けたいだけでもあった。 「まあたまには」 「いいけどね。じゃあ、お嬢様をお呼びしてくるわ。その間お茶でも飲んでる?」 「ああ、いいですね。いただきます」 頷いた咲夜が、テラスにあるテーブルの上に焙じ茶の入った湯飲みを置いてくれた。入れ立てのようで、湯気が上っている。わざわざ持ってきてくれたのだろう。 「ありがとうございます」 「いいえ」 では行ってくるわ、と言って、咲夜はその場から姿を消す。湯飲みを手にとって、中身を啜りながらもう一度テラスの向こうの光景に視線を移す。 月明かりにぼんやりと遠くの桜が照らされて、中々の風景になっている。春になっていく幻想郷をここから眺めるのが面白い、とかつてレミリアが言っていたが、確かにそうだと思う。 暫く、茶を啜りながらテラスに腕を預けて景色を眺めていた。 「あら、先に楽しんでたの?」 声に、青年は再び館の方を向いた。館の当主にして最愛の主、レミリア・スカーレットの姿がある。 「すみません、湯上がりにそのまま」 「春になって里仕事も増えているのはわかるし、汚れるのもわかるけど。私の方に顔を出しても良かったじゃない」 そう言いながら、レミリアは青年の隣に並んだ。持っている湯飲みに興味を示し、温かい焙じ茶だと知ると一口寄越すように求めてきた。 「もうだいぶ冷めてはいますし、残り少しですけど」 「それでもいいわ」 そう彼から受け取ると、レミリアは湯飲みを傾けた。少しだけ残っていた温もりに一つ息をついて、彼に湯飲みを返す。 「後でパチェも来るわ。観測しに」 その言葉に頷いて、受け取った湯飲みをテーブルの上に置きに行く。咲夜はパチュリーを呼びに行っているのか、茶の用意をしているのか、まだ来ていない。 あるいは、二人きりの時間を邪魔しないでいてくれているのかもしれない。どれにしろ有り難いことだった。 レミリアの隣に戻って、青年は湖とその向こうの桜に視線を向ける。 「いい眺めです。いつも、花見というと神社ですが」 「ここからでも見えるから、たまにはね。まして今日は満月だもの」 「ええ、本当に綺麗です」 そう呟いて息を吐く。この季節の夜はまだ少し冷える。少しばかり息は白かった。 花見と月見を今日は同時に行おうというのだった。全く贅沢な話である。今日の目的はもう一つあるのだが、とにかくも贅沢な眺めだった。 外ではこういう光景も中々見られまい、と思っている。完全な月明かりだけの中で、桜を眺めるというのはそれだけで心が躍った。 まあきっと、心が躍るのは、自分が人間でないことも含めて、なのだろうけれども。 「冷えるわね」 レミリアはそう小さく呟いて、羽織の中に身を滑り込ませてきた。身体は少し冷たかった。 「これは、気が利かず」 「全くだわ」 レミリアはそう言いつつも楽しそうだった。羽織の前を合わせて、彼に身体を預けてくる。 温めるように、腕を前に回す。よろしいとレミリアは言った。機嫌は悪くないようで少しほっとする。 「ああ」 暫くそうして彼に身を預けるままになっていたレミリアが声を上げた。何事か、と思う前に、そっと片手を空に向ける。 「月が欠けるわよ」 「ああ、はい」 今日の月見の目的はそうだった。皆既月食。月が欠ける夜に桜見をするいうのもまた一興、ということだった。 腕の中のレミリアは赤く欠けていく月を眺めている。青年はそのレミリアに視線を落とした後、同じように月を見上げた。 月が陰る。月が見えなくなっていくのが何となく、何となく―― 「怖いの?」 レミリアに言われて、自分が強くレミリアを抱きしめていたことに気がついた。 「ああ……意識はしてなかったのですが」 そうかもしれません、と、青年は素直に認めた。何が怖かったのかよくわからない。けれども、月が欠けるのが何故かどこか怖いような気がしたのだ。 「私は此処にいるわ」 「はい」 青年の手に頬を寄せて、レミリアは微笑む。彼の子供っぽい様子を楽しむような様子だった。けれどもそうして頬を寄せるレミリアの仕草もまた、外見年齢相応に見えた。 その行動に、寄せられるだけでなく、青年もレミリアの頬を撫でた。くすぐったそうな表情をして、レミリアは目を細める。 「此処に」 「ええ」 レミリアはそっと顔を近付けるように背伸びした。青年はそれに応じる。身体を屈めて少しだけ口唇を触れさせる。 「よろしい」 満足そうに言ったレミリアは、背伸びをやめてまた月を見上げた。青年もそれに倣った。月はまだ欠けていく途中だった。 もう青年にそれは怖いものとは映らなかった。永遠の紅い月は、陰ることはないのだから。 羽織の中の温もりを少しだけ寄せて、二人は月を見上げている。 その背後のテーブルでは、呆れた表情のパチュリーが咲夜に茶を用意してもらいながら、その様子と月食を眺めている。 「私達もいるんだけどね」 「まあ、しばらくはあのままで」 咲夜はそうくすりと笑って、紅く変わった月を同じように見上げた。直に、月はいつもの姿を取り戻すのだろう。 パチュリーは頷いて、咲夜と共にそれを待つことにした。普段通りに戻った親友を、どうからかってやろうかと考えているようだった。 うpろだ0036 ─────────────────────────────────── 随分涼しくなった、と誰かが呟いた。 紅魔館から働きに来ている青年も全く同感だった。空は高くなっている。 複数人で、里の補修のための資材の運搬をしているところだった。 「もう刈り入れの季節になりますかねえ」 「だなあ。そうなると里中の手がちょい足りなくなるか」 「だからこそ僕もお仕事できるわけですが。あ、この木材こちらでいいです?」 よろしく、という声を背に木材を抱え上げ、指定された場所に置いていく。 秋になれば野分も増える。その前に補修すべきものは多い。 畑や田圃などの水に関わることは出来ないが、こうした力仕事は青年の割り当てであり、得意分野だった。 得意になってしまったともいう。もう、こちらに来て人を辞めて随分経つからだ。 「兄ちゃん、休憩だぞー」 「あ、はい、行きます」 木材を積んで固定した後、昼休憩に入った作業員達の中に彼も混じった。 秋口になれば、もう日の落ちるのも早い。これからどんどん夜が長くなるのだろう。いや、夜が長い方が彼の主にとってもいろいろと都合はよいのだが。 仕事が終わった後、その夕日が照らす里の中を青年はふらふらと店を見て回っている。 人里で妖怪が歩き回るというのは珍しいことではないし、外見が人間と変わらなければ大概見逃されるものだ。第一陽の光の中でゆったりと歩いている者が吸血鬼だなどと誰も思わない。 「やあ、兄ちゃん、帰りかい」 「ああ、ええ。今日はもう上がりでして」 「じゃあちょっと買ってかないかい。お土産にどうかね」 声をかけてきたのは、顔なじみの甘味屋の女将だった。彼自身が甘いものが好きなこと、彼の主であり恋人であるレミリア・スカーレットが甘いものを好むことで、よく土産に買って帰るのだ。 その関係で、よく顔を合わせる甘味屋は多い。この女将もそうした知り合いだった。 「そうですね、何かあります?」 「もうぼちぼち甘藷が出回ってるからね、茶巾絞りなんてどうだい」 「茶巾ですか」 女将が勧めてくれたのを見れば、どうやらできあがったばかりらしい茶巾絞りが並んでいた。甘く、心地よい香りが花をくすぐる。 「ちょっと早いけどね。味は保証するよ」 「ああ、ではこれだけ包んでいただけますか」 はいよ、と女将が茶巾絞りを包んでいく。それを待ちながら、夕暮れの里を眺める。 ぼちぼち閉まっていく店も、これからが本番だという店もある。人と妖の間で商売する者達にとっては、時間が多少遅くなっても構わないのだろう。 ぼんやりとしていると、再び声をかけられた。 「はい、出来たよ」 「ありがとうございます」 代金を払い、出来上がったばかりの茶巾を手にして、再び里中を歩き出す。ついでに茶でも見ていくかと思ったが、その辺りは咲夜なり美鈴なりに相談した方が早いと気が付いてやめた。 やめて正解だった。里の出入り口の付近で買い出しに来ていたらしい咲夜と行き合ったからだった。 「あら、お疲れさま」 「お疲れさまです、咲夜さん。ああ、荷物持ちます」 大きめの荷物を受け取った後、つぶれそうだったので茶巾の入った包みだけ咲夜にお願いした。咲夜は少し首を傾げて、ああ、と頷いた。 「茶巾絞りね? もう甘藷は出回っているのかしら」 「少し早めのようですが」 なるほど、と頷いて、咲夜は思考を巡らせるように宙を見上げた。 「……美鈴に何かお茶をお願いしようかしら」 「紅茶よりはそちらですよね」 「そうと決まったら早めに帰りましょうか。お嬢様がお目覚めになってしまうわ」 「はい」 一つ頷いて、紅魔館への帰路に足を進める。 「ただいま戻りました」 「おかえりなさい」 起きたレミリアを迎えに行く仕事は、今日は彼に振られていた。 ここのところ仕事で中々時間が合っていないから、という咲夜の配慮であった。まことにありがたいことだと思う。 「貴方が迎えに来てくれるのは久々ね」 「すみません。夏の終わりから秋にかけてはどうしても」 「わかってるわ。許可してるのは私だもの」 ベッドの上で手を伸ばして、レミリアは彼を呼んだ。 呼ばれるままに側によって、着替えを手伝い始める。その途中、不意にレミリアが少し顔を寄せてきた。 「……何か、匂いがするわ」 「あれ、汗は流してきたんですが」 「そういうのじゃなくて、甘い香り?」 「ああ、和菓子を買ってきたのでそれかもですね。台所にも寄ってきたもので」 流石に、その香りは自分ではわからない。レミリアは楽しそうな表情をして、首を傾げた。 「じゃあ、今日はそれかしら?」 「ええ。お茶も菓子に合うように、と」 「そうね、趣向としては気に入ったわ」 そう微笑んで、レミリアは青年の袖をちょいと引いた。どうしたのか、と思う間もなく、レミリアに抱きしめられる。 胸元に顔を埋めて、レミリアは囁くように言った。 「もう少し、香りを楽しんでいって良いかしら?」 「……構いませんけど、お茶が冷めてしまいますよ?」 返しながら、レミリアの背に手を回す。流石にこうした甘え方をしてくるのは、二人きりの時だけだ。 「咲夜が調整してくれるわよ。それに少しだけだもの」 「はい」 レミリアがそう言うならば、彼には止める理由などない。最近は、少し活動時間がずれることも珍しくなかった。こうして甘えられるのも悪くない。 しばらくレミリアのしたいように、抱きしめられるがままになることにした。 四半刻ほどの後、レミリアと青年はティールームに向かって廊下を歩いていた。 「あまり待たせても悪いものね。パチェも呼んでるんでしょう?」 「ええ、おそらく」 少しばかり残念な思いもないわけではない。だがまあ、レミリアの言うことも道理だった。 それに長く待たせたらそれはそれでまた呆れられるのも目に見えている。 呆れられてもそちらは気にはしないのだが、待たせることに関してはやはり申し訳なさがある。 レミリアがふと立ち止まった。薄い月の光が、夜になってカーテンが開けられた窓から差し込んでいる。 「細いけど、良い月ね」 「ええ。後で散歩に行きますか? 随分涼しくなって過ごしやすいですよ」 「じゃあ、お茶の後はそうしましょう」 そう、嬉しそうなレミリアに腕を引かれた。 「それでデートの約束していたと」 「そういうわけじゃないけど」 「同じようなものでしょう」 どのみちパチュリーには呆れられてしまった。青年は礼儀正しく沈黙を守っている。 茶巾絞りは甘かった。その分、しっとりとした渋みを持った茶が美味しい。中国茶のようだが一体何だろうか。後で聞いてみることにしよう。 現実逃避にも思えなくはないが、親友同士の会話に水を差すのは野暮というものだ。大人しく二人の会話を聞いていることにする。 「直に月見はするけどね。まあ、こういうのもいいかなって」 「まあ、確かにね。季節が変転する時期だからいろいろ魔力の流れも変わるし、気晴らしにはいいんじゃない?」 「別に気が塞いでたわけじゃないけど」 「暇にはしてたでしょう?」 パチュリーのからかうような言葉に、僅かに不機嫌そうにレミリアはふいと顔を逸らす。 「ということで、レミィの暇を適度に潰してあげなさいな」 「ここで僕に振りますか」 「黙っているのは正解だけど、それだとイニシアティブはこちらよ」 額をかいて、それは何とも、と意味のない言葉を返す。 おそらくレミリアが暇していたときはパチュリーのところに行っていたのだろうから、その分も含めた言葉なのだろう。 「まあ、それではご期待に応えられるよう頑張りましょうか」 「だそうよ、レミィ?」 「……まあ、それならいいかな」 レミリアは崩していた機嫌を直したように、微かに笑った。 その後しばし歓談した後、レミリアは席を立って親友に断りを入れた。 「じゃあ、行ってくるわ」 「行ってらっしゃい」 ティールームを出たレミリアに続いて廊下に出て、咲夜から念のための日傘を受け取った。 「よろしくね」 「はい」 咲夜の言葉に頷いて、そういえば前にもこんなことがあったなと思いながら、レミリアと並んで館の外に出る。 心地よい風が吹く中、秋の夜空を見上げた。細い月と星が瞬いている。良い夜だ。 「さ、エスコートをよろしくね」 隣で楽しげなレミリアに、一つ頷いて手を差し出す。 よろしい、という微笑む様子を、可愛らしく、愛しく、思った。 さあ、どこに行こうか。 まだ賑やかだろう里の近くまで出るのも良いし、少し足を伸ばして、広い場所で空を眺めるのも良い。 きっと二人でいれば、どこでも素敵な夜になるだろう。 うpろだ0044 ─────────────────────────────────── 雪が降り続いている。冬は幻想郷自体が白く閉ざされてしまう期間だった。 無論それでも日々の営みが完全に止まるわけではないが、どうしても制限されるところは多い。 それは霧の湖の湖畔にある紅い館とて、変わるものではない。 「暇ね」 館の主、レミリア・スカーレットは、窓の外を見ながらそう呟いた。 「どうにも退屈にはなりますね、こう雪が続きますと」 青年も珍しくそう困ったように笑って応じる。紅魔館には似つかわしくない将棋の駒を手にしていた。秋頃に手に入れて、たまにそれで詰め将棋などをして遊んでいるのだった。 「貴方はずっとパズルをやってて楽しそうだけど」 「まあ確かにこれはこれで楽しいですが。チェスでもあるでしょう、ええと」 「チェス・プロブレム? まあそうだけど、一人で延々とやるのはつまらないわ」 要するに、盤にばかり向かっていないで構えということか、と青年は理解した。 「これは、失礼しました」 「わかればいいの」 窓際から身体を離して、レミリアは盤を片付けた青年の膝の上に収まる。 窓の側にいたからか、少し冷えたその身体を抱きしめる。ありがと、と少し甘い声でレミリアは応えた。 心地よさそうに目を細めていたが、それだけではどうやら足りないらしい。 「とはいえ、何か暇つぶしの遊び道具がほしいわね」 「ううん、里に何か売ってますかね」 青年はそう首を傾げた。いまいち思いつかない。本を読む、というのがせいぜいだ。 「外の式使ったものも、地味に最近増えてきてるらしいけど……」 「里ではそうでもないですが、そういえば妖怪の中では結構回ってきてますよねゲームとかの娯楽。電気の供給も大きいのかもですが」 「地底だとそういうのもっとあるのかしら。今度さとり辺りに聞いてみましょうか」 地底の友人の名前を呟いて、レミリアはうんうんと頷いた。 「核融合の要のお空さんが地底ですしね。後は守矢神社ですか」 発電を担っているのは、霊烏路空の能力に依るところが大きい、らしい。 この辺りはどうにも伝聞でしかないのだが、そのためか、地底の方が電力を回されているらしいとも聞く。 無論、発電自体の管理をしている守矢神社も同様だ。 「神のところに行くのは何か癪ねえ」 「神社なら霊夢さんのところにも行ってるじゃないですか。しかし後となると」 行きやすい場所は、と青年は思考を回す。レミリアも同じように何かを考え始めた。 暫くして、レミリアがぽつりと考えを漏らす。 「古道具屋とかはどうかしら」 「ああー、香霖さんのところならあるかもですね」 「じゃあ、丁度雪も小降りになったことだし行ってみましょうか」 機嫌良く応えて、レミリアは青年の腕の中からすり抜ける。 若干名残惜しくも感じながら、それでは準備しましょう、と青年も応じた。 香霖堂に入って、レミリアは青年と顔を見合わせて目を瞬かせた。いらっしゃい、と店の奥から聞こえてきた声に、レミリアが応じる。 「どうも、店主。大量仕入れでもしたの?」 「そのつもりはなかったんだが、いつの間にかね」 香霖堂の店主、森近霖之助が奥から出てくる。店内に比べて、いつもと変わらない様子だった。 店はストーブが常備されていることもあって暖かい。その暖気の中を歩き回りながら、青年は首を傾げた。 「見たことないものが多いですね」 彼が示しているのは、大量に棚に並べられたボードゲームだった。 馴染みの深い人生ゲームなどから、外国語で書かれたものもたくさん置かれている。 「この時期はあまり物は増えないはずなのだけどね」 「本当にいろいろ入ってきてますね。ああ、でも丁度よかった」 「何かお探しかな」 「ちょっと遊び道具を。ここまでボードゲームが揃ってるとは思いませんでしたが」 「店主、ちょっと見ていっていい?」 レミリアの問いに、どうぞと返して霖之助は帳場に座った。何かしら買って行くものだと思われているらしい。 確かにそれは間違いないだろう。レミリアは興味津々にボードゲームを眺めている。 「こんなにあると大変じゃないの? そもそも広い店でもないし。この冬?」 「冬になる頃にどっと入ってきてね。とはいえ、売れ行きも上々だからとんとんかな」 霖之助はそう返しながら、軽く苦笑していた。それでもだいぶ場所には難儀したのだろう。 「暇な奴は多い、ということかしら。ええと、あれは何かしら」 「ええと……駄目です、読めない」 レミリアが指したものを取り出して見たものの、英語ですらない言語が並んでいる。 これがドイツ語で作られていることはわかるのだが、その程度しかわからないようでは説明書を読むなど覚束ないだろう。 「見せて見せて。んー……資源使って点数貯めて、十点になったら勝ちね」 「……もう少し言語の勉強もした方がいいでしょうか、僕」 「そうね、パチェの蔵書はこの程度じゃないし」 レミリアはくすりと微笑い、霖之助に向かって告げた。彼女自身が調べていたゲームも手にしている。 「在庫在るならこれとこれ、後これも欲しいんだけど」 「いいよ、どうにも多くて逆に場所を取ってしまっていてね。お買い上げいただけると助かる」 「魔理沙辺りとか持って行かないの?」 「ここで霊夢と遊ぶだけ遊ぶんだがね。生憎場所は取ったままさ」 軽く肩を竦めた店主に、それは残念ね、と返してレミリアは笑った。 楽しそうに上下する羽を見ながら、レミリアが求めたゲームを手に取っていく。随分な量だ。 「では、帰ったらみなさんで遊びましょうか」 「そうね。店主、包んで頂戴」 レミリアは上機嫌にそう、香霖堂の店主に求めた。 紅魔館に帰った後はまた雪になった。酷くなる前に帰れてよかったというべきか。 この状態では門を守るのもあまり意味がないだろう、ということで、レミリアは美鈴を呼び戻している。 内心としては、ゲームをするメンバーを増やしたかった、というのもあるが。 ともかく、暖炉のある談話室に集まって、買ってきたゲームを順に開けながらみなで遊んでいる。 「あ、はーい、それ私カウンター!」 「あああ、また減点です……」 「フランの手札が強いわね……」 少し困ったように羽をへにょと下げる小悪魔と、悩みながらカードを選ぶパチュリー。 レミリアが強引に連れてきたものの、二人ともそれなりに楽しんでいるようだった。 「それでは私もこれで。咲夜さんはそれでターン終わりですか?」 「ええ」 美鈴が咲夜にそう促す声を聞きながら、レミリアは紅茶を手にそれを眺めていた。 参加していない青年もまた、テーブルを眺められる位置の、少しゲームテーブルから離れた椅子に座ってゲームを見ている。 空になったカップを置いて、レミリアは青年のソファに近付く。 「楽しそうね」 「ええ、見ているのも中々楽しいものです」 青年はそう笑った。先ほどまでは彼もゲームをしていたのだが、今は休憩時間だった。確かに、少し離れて眺めるのも楽しい。 「一巡りするだけで随分遊べそうですね」 「物足りなくなったらまた買いに行けばいいわ」 そう言いながら、青年の腕の中に収まる。彼はレミリアのしたいようにさせてくれながら頷いた。 「ルール把握が大変そうですが。でも勉強にもなって楽しいものです」 「それならよかったわ」 楽しそうに青年の姿を見るのは嬉しくて、レミリアも頬を綻ばせる。 「ま、これだけあれば梅雨でも遊べるしね」 「外に出れないときは多いですからね」 「いろいろ暇潰しはあるけれど、多くて困ることはないわ」 青年の頬に頬を寄せて、ゲームの邪魔にならないよう囁くような声でレミリアは告げる。 彼も笑って頷いた。そして、少し冗談のような口調で応える。 「何で遊ぶか迷ってしまいそうですけどね」 「それなら片端から遊んでいけばいいわ。ね、貴方はそれに付き合ってくれるんでしょう?」 「それは勿論」 くすくすと笑い合っていると、呆れたような声がゲームをしているテーブルからかけられた。 「レミィ、そこでいちゃついててもいいけど、こっちワンゲーム終わったわよ」 「あ、じゃあ次私やる。さ、貴方も」 はい、と身体を離したレミリアに手を引かれるままに、青年もゲームに加わる。 もう一回やる! と言っているフランドールと、それに付き合った美鈴が残留して、咲夜と小悪魔がお茶と菓子の追加にかかった。 もう今宵は遊び倒してしまおう、とレミリアは思っている。こうして、みなで遊ぶ時間は楽しいものだ。 ふと窓の外を見れば、やはりまだ雪は降り注いでいた。今年は後どれだけ降るだろうか。 とはいえ、少なくとも退屈はあまりしないで済みそうだ、と思う。 「お姉様の番よ」 「ああ、ごめんなさい」 視線をゲームに戻してカードを引き、自分の手番を始める。 こうして過ごせる間は、きっと何も退屈しない。そう思いながら、妨害の目的を持ったカードを場に出す。 「……そのカード来ますか」 「何か手はある?」 「す、少し待ってください……」 真剣に悩む青年にちらりと笑って、他の面々の対応も眺める。 フランドールは楽しそうにカードを選び、美鈴は首を傾げながらカードを見つめている。 パチュリーは本をめくりながらこちらをたまに眺め、咲夜と小悪魔はそれぞれの手元に茶と茶菓子を用意している。 その光景が何故だか嬉しくて、目を細めた。 「ではこれで。レミリアさん、何か嬉しそうですね」 「ええ、そうね」 青年の言葉に応えて、また口の端に笑みを浮かべる。彼が気が付いてくれたことも、何となく嬉しかった。 そう、こういう時間を持てるのは、きっと幸いなことで、それが何より楽しいのだと。 レミリアは咲夜の淹れてくれた紅茶のカップを手にしながら、そう心に小さく呟いていた。 うpろだ0061 ───────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/propoichathre/pages/1466.html
外界篇 「○○ー、次はこっちー」 「はいはい、慌てないでくださいね、人が多いんですから」 ○○の腕を引くレミリアを、彼は優しくなだめた。 「あら、大丈夫よ、貴方が手を引いていてくれるんでしょ?」 「まあそうですけれど、それでも気をつけてくださいね」 そう微笑んで、彼は楽しそうな彼女に日傘を差し掛けた。 どちらかというと、腕を引かれているのは彼の方なのだけど。 八雲紫主催の神無月外界旅行。 暇を持て余していた紅魔館の主が食いつかないはずも無く。 一も二も無く、彼自身が直接八雲藍に申請書を手渡しに行くことになっていた。 『お前も大変だな』 『いえいえ、好きでやってますので』 という会話を交わしたことは内緒である。 「○○、あれは何?」 「ああ、冷やした鉄板の上でアイスを作ってるんですよ」 「……?」 「食べてみます?」 「ええ」 繁華街の中。騒がしい場所だが、遊ぶには事欠かない。 本来はもう少し静かな場所もあるのだけれど、それは夜に回すとしよう。 それに雨になれば動けなくなるのだから、天気の良い日には出来るだけ出歩くに限る。 いや、晴天も、決してレミリアと○○にとって『良い天気』とは言えないのだが。 「はい、どうぞ」 「ありがと、○○」 嬉しそうに受け取って、レミリアはアイスに口をつける。 外界に出るに当たり、彼が一番心配していたのは彼女の羽のことだったのだが。 『これが問題なら、霧化させておけば良いでしょう?』 そうこともなげに言い放ったので、彼の心配は杞憂に終わった。 少し不自然に二人の周囲が紅いのはどうしようもないけれど、人が気に止めるほどではないのは幸いであった。 その代わり。 「あら、どうしたの、さっきから周りばかり気にして」 「いえ、何も」 「変なの。一口食べる?」 「……ええ、いただきます」 レミリアが差し出すアイスに口をつけながら、彼は周囲の視線が痛いほどこちらに集中するのを感じていた。 常人離れした美少女とどこか冴えない青年の二人組の旅行者は、とにかく目立つのであった。 「帰ったらパチェに頼んで作ってもらおうかしら……」 「それもいいかもしれませんね」 言いつつも、○○は周囲が気になって仕方が無い。 「○○、どうかしたの?」 「いいえ、久しぶりだなあと思いまして」 そう応えつつ周りを見る。久しぶりなのは正しいが、本心はそうではない。 レミリアに好奇の視線を送る者達が気に入らないのだ。自身に対する妬みの視線は気にならないが。 いつもの服装ではなく、外に出る様に誂えた、淡い紅のワンピースにカーディガンを羽織った服装。 ごく普通の服装のはずなのだが、それでも彼女が着るとそれだけで映える。 初見のとき、思わず抱きしめそうになったことが記憶に新しい。気の利かない言葉で褒めることしか出来なかったが。 「そうね、懐かしい?」 「まあ、確かに懐かしくもありますが……」 こんなに街は騒がしかっただろうか。まだ離れてそう経ってないはずなのにそんなことも思ってしまう。 「じゃあ、いろいろ回りましょう?」 「え?」 「貴方が外でどういうものを見てきたのか知りたいわ。案内して頂戴」 「はい、喜んで」 指を絡めるように手を繋いできたレミリアに、少し照れながらも彼は頷いた。 外に出るのに許された期間はそう長くなく、また二人は天候にも左右される。 だからこそ、昼夜問わず様々な場所を巡った。 「○○、これはどうー?」 「いいんじゃないでしょうか?」 「もう、そればっかり……あ、こっちは?」 「ちょ、そっち下着ですから! 僕入れないですから!」 服を見に行ったり。 「ん、このケーキ美味しい……作り方わかる?」 「これですか? まあ、たぶん。そういう本も買って行って、咲夜さんに作ってもらいますか?」 「ええ、そうするわ」 喫茶店でお茶をしたり。 「意外と、静かね」 「ええ、まあ、人も若干いますが……この河原は、結構穴場なんですよ」 「渡れないけどね」 「まあそうですけど、でも、こうして静かに虫の声を聞くと言うのも、風流でしょう?」 「そうね……悪くは無いわ」 そう、二人で他愛も無い話をしたり―― 限られた時間のデートを、目一杯楽しんでいた。 だが、それでもたまには天候に祟られるわけで。 「雨ね……」 「ええ、今日は大人しくするしかないですね」 残念そうに外を見るレミリアの隣で、○○がポットを手にしていた。 宿泊先など諸々のことも紫の手配なので問題はほぼ無いが、天候だけはどうにもならない。 「ま、こちらに来てから動きっぱなしだし、たまにはいいかしら」 そう、いつものように羽を現して、レミリアが椅子に座った。彼はその前に紅茶のカップを置く。 「咲夜さんのようにうまくないですけれどね」 「精進なさい。貴方の味も嫌いじゃないけれどね」 雨音を聞きながら、静かにお茶の時間が過ぎて行く。 しばらくして、レミリアがふと口を開いた。 「ねえ、○○。貴方は後悔していない?」 「? 何をでしょうか?」 「何度目の問いになるか、もうわからないけれどね。吸血鬼になったことよ」 そう、カップを指先で弾く。安物だからか、あまり良い音は鳴らなかった。 「こちらに来て、貴方が喪ったものを見たわ。もう貴方はこちらには戻れないけど、でもだからこそ」 目を細めて、彼女はそっと告げる。 「心配になったのよ。貴方が全てを憂えないか。自分の運命を厭わないか。私に――」 そこまで言ったレミリアは、不意に正面から自分を包んできた腕を感じて、目を瞬かせた。 「○○?」 「僕は」 はっきりとした声で、彼は言葉を紡ぐ。 「貴女に逢えて、貴女の側に居られて、居続けさせてもらえて、とても幸せなんですよ」 顔を覗き込むように、優しい声色で。 「何度でもお答えします。僕は微塵も後悔していない。後悔しない。 人間を捨てたこと、貴女の側に在り続けること――これがもし、運命だというなら」 彼女にとって極上の微笑で、彼は告げた。 「僕もまたそれを望む。貴女と一緒に居られるなら、僕は何だって望む。嘘偽りなんてない、本当の気持ちです」 「○○……」 レミリアは○○の背中に手を回すと、強く抱きついた。 「ありがとう、○○。少し心配になったの。街を眺め続ける貴方を見て。懐かしいという言葉を聴いて」 生を無為に思ってしまうことほど、永遠を生きるものにとって恐ろしいものは無い。 自分自身にさえ意味を見出せなくなる――彼がそうなってしまうことが、レミリアには怖かった。 「お礼を言うのは、僕の方ですよ。そしてすみません。ご心配をおかけして」 言葉の後半が微妙に申し訳なさそうな響きを持つことに気が付いて顔を上げると、彼は何ともいえない表情をしていた。 問いただすレミリアに、彼はここ数日の、周囲からの好奇について白状した。 「気が付かなかったわ。でも、悪い気分じゃないわね」 「僕には不本意ですよ」 「ああ、そういうことじゃなくて。貴方がそういう思いを抱いてくれてた、ということが、よ」 その言葉に少し顔を紅くして、当然でしょう、という彼に、レミリアは満足気な想いを持つことが出来たのだった。 「何だか、眠くなってきたわ」 ほっとしたからだろうか、ここのところあまり寝ていないからか、軽く目をこすってレミリアは呟く。 「今日はすることももうないし、休むわね」 「ええ、では僕は――」 どうしていましょうか、という言葉は、不意に再び抱きついてきたレミリアの唇に塞がれた。 「貴方も一緒に寝るの」 「え……ええ?」 「貴方は私のものなんだもの。だから」 甘えるように彼の胸に擦り寄る。少し戸惑っていたらしい彼も、やがてそっと優しく抱き返してくれた。 この愛おしさが、何よりも一番大事なもので――この旅の一番の想い出となることを、二人は確信していた。 「咲夜にはこれ、パチェにはこれで、美鈴はこれ……ああ、フランには何にしようかしら、どれが気に入ってくれるかしら……」 「レミリアさん、決まりました?」 「もう少し待って。○○は?」 「大体は。霜月初めの宴会用のも買っておきましたよ」 「ん、ありがと」 応えながら、レミリアはまた土産物の物色にかかった。 旅行の最終日。もうすぐ紫が迎えに来る手筈になっている。 「んー……これがいいかしら」 ようやく決めてきたレミリアに微笑んで、彼は恭しく手を取った。 「それでは、これは僕から」 「え?」 可愛らしい紅色の縮緬作りの巾着を、そっと手に提げさせる。 「折角の旅行ですから、何か思い出の品などあった方が良いと思いまして」 「あ、えっと、うん、ありがと、○○。嬉しいわ」 照れたように微笑むレミリアに満足そうに頷いていると、後ろから声がかかった。 「あらあら、相変わらず熱いわね」 「紫さん」 「もう、少しは空気読んだらどうなの? あの龍宮の使いみたいに」 「それは失礼。でもそろそろ帰る時間よ」 紫は悪びれずにくすくすと笑うと、スキマを開いて二人に道を示した。 「ま、楽しかったわ。そろそろ館も放っておけないしね」 「ありがとうございました」 「いえいえ、来月初めの宴会、楽しみにしていてね」 言葉に少しの違和感を感じたが、それが何かわからないうちに、彼は再び尋ねられた。 「どうだった? 外界への里帰りは」 「そうですね、敢えて言うなら『故郷は遠くに在りて思うもの』でしょうか」 それに、と○○はレミリアに視線を向けて軽く笑む。 「僕の帰る故郷はもう幻想郷ですから」 「ふふ、まあいいわ、そういうことにしてあげる。幻想郷、の部分に別の地名が入りそうだけどね」 紫は再び笑って、さあ、と彼らを促した。 「ねえ、○○」 「はい」 前を行くレミリアが、不意に話しかけた。 「貴方の帰る場所は、私よ」 くるりと振り向いて、少し不満そうにしながらも、傲然と言い放つ。 「貴方の居る場所は私の傍。ずっと、ずっとよ。いいわね」 ああ、と彼は思う。なるほど、先ほどの会話の、帰るのが幻想郷というのが気に入らなかったのか、と。 そんな小さな我儘と嫉妬が嬉しくて、彼はレミリアの頬に手を伸ばした。 「はい、かしこまりました。僕はずっと、永遠に、貴女の傍に」 「よろしい」 微笑んだレミリアに、彼はそっと口唇を重ねた。 後日宴会の席で面々の旅行中のことが暴露され、照れと怒りでレミリアがまた暴れ、それを何とか彼が宥めるのだが―― それは別の、ちょっとした余談である。 新ろだ53 ─────────────────────────────────────────────────────────── 在るがままで居てくれればいい、とは思う。 そのまま、のんびりとしたままで居て欲しい、とは思う。 それは紛れもない本心。 それでも、種族的なもの等のしがらみがないわけではなく。 少しくらいは、と望むのは、贅沢ではないと、思いたい。 紅魔館のティールーム。何となく集まって何となく談笑する、いつもの光景。 「外の世界の本はどうなのかしら。最近紙が少なくなってきたって言うけど」 「紙の本もきちんとありますよ。ただ、そうですね、電子媒体も増えましたからねえ……」 とりとめない話をする中、唐突に扉が大きな音を立てて開いた。 「あら、フラン。いつも言ってるでしょう、ノックを――」 レミリアが言い終わる前に、入ってきた存在、フランドールは満面の笑みを浮かべて―― 「おにーさまーっ!」 「グッ……!?」 心底楽しそうな呼びかけと共に、○○の背中に突撃を敢行。 盛大な紅茶の霧が辺りに舞って、綺麗な虹を映し出した。 「ごほ、けほ、こほ……」 盛大に紅茶を噴き出した○○は、テーブルに伏せて背中を押さえている。 別に、驚いたわけではない。いやまあ、驚きも十分以上にあるのだが。 「……大丈夫?」 「せ、背骨がずれました……」 なってて良かった吸血鬼。いや本当に。 吸血鬼じゃなかったら、大怪我では済んでいないだろう。 「まあ、夜だしすぐに治るでしょう。ところで、今のは何? フラン」 「え? だって魔理沙が」 動揺しているのか、○○を放って尋ねたレミリアに、フランドールは大したことでもないように答える。 「『○○はレミリアの旦那なんだからお前のお義兄様だろ?』って」 「あの黒白ネズミ……」 「呼んだか?」 「居るのか!」 よっ、とばかりに現れた魔理沙に、反射的に突っ込む。 「あんたはフランに一体何を吹き込んでる……」 「あー? 私は別に嘘を教えたつもりはないぜ」 にやにやと笑いながら魔理沙は応じた。 「だってそうだろ? 何よりも大事にしてる奴なんだから」 「ちょっと待ちなさい、どうしてそういうことになってるのよ」 「みんな言ってるぜ?」 「勝手に決めるな」 言いつつ、レミリアはふいと顔を逸らす。照れ隠しであることを知ってる面々は敢えて何も言わない。 「お姉様、違うの?」 「違うわよ、まだ」 「まだ?」 にやにやしながら言葉の端をあげつらっていく魔理沙をきっと睨んで、レミリアは声を上げた。 「だ、第一、○○は全然力量が足りてないもの」 何か鉾先が向いたことを感じて、○○は顔を上げる。 「魔力も弱いし弾幕も撃てないし、半人前もいいとこよ」 「まあ、確かにそうですが……」 そこまできっぱり言われるとさすがにへこむものを感じるのか、彼は少し微苦笑する。 「なら、鍛えてあげればいいということになるわね、レミィ?」 それまで本に目を落としていたパチュリーが不意に声をかけた。 「ん……まあ、そう……なるかしら」 少し歯切れの悪い言葉に、魔理沙とフランドールが顔を見合わせる。 「それじゃあ、私達で鍛えてやればいいんだな」 「そーだねー。弾幕ごっこだね、○○!」 「え、あれ? 何でそういうことに?」 何だか話が妙な方向を向いたことを感じた○○は、驚いた声で二人を見る。 「だってそういうことだろ? 今の話」 「それに、○○も今は吸血鬼だもんね。弾幕勝負できるでしょ?」 「いや僕は……」 弾幕なんて撃てないのですが、と言う前に、ふむ、とレミリアの声がした。 「ま、鍛えるのには丁度良いかもしれないわね。咲夜、貴女も手伝いなさい」 「かしこまりました、お嬢様」 「魔力の素地も才能もないけれど、まあ努力の価値はあるかもしれないしね」 パチュリーが何気に酷いことを言った。あの、とおずおずと彼は手を上げる。 「……僕、弾幕撃てないのですが? というかそもそも飛ぶのも……」 その言葉に、吸血鬼と魔女の親友コンビは顔を見合わせて頷き、素敵な笑顔を向け――。 「ねえ、○○」 「気合避け、って素敵な言葉よね」 ――大変御無体な言葉を彼に放った。 「…………それは」 「さ、○○、始めようか」 楽しそうな声で、魔理沙が○○の肩に手を置く。 「……御手柔らかに、願います」 「安心しろ、最初から全力だ」 「あー! 魔理沙、私からだよー!」 既に部屋の外――ホールの方に向かっていたフランドールの、嬉々とした声が聞こえてくる。 紅魔狂の始まりを確信して、○○は大きく息をついた。今日一日、自分は無事に過ごせるだろうか。 明け方、ベッドの上で、仰向けになって青年が呻いている。 「……トラウマになりそうだ……」 「大丈夫?」 少し心配気に覗きこむレミリアに、彼は僅かに苦笑して頷いた。 「遠くで見ている分は綺麗なんですけど」 「あら、弾幕る方も楽しいわよ?」 ぱたぱたと羽をはためかせ、レミリアは○○の胸の上に顎を乗せて楽しそうに微笑む。 「まあ、すぐに無理は言わないわ」 「そうしていただけるとありがたいです。何せまだ」 「ええ、わかってるわ」 レミリアは体勢を変えると、○○の枕元まで来て彼の頭を膝の上に乗せた。 「……これは、何かのご褒美ですか?」 「そうね、初日にしては頑張ったし」 ○○の頬に手を当てながら、レミリアは、でも、と言葉を繋ぐ。 「少しは頑張って欲しいというのも本当よ。この私の血を受けた眷属だと言うのに、ここまで力量がないと威厳に関わる」 「承知しているつもりです」 「一朝一夕に、なんて無茶は言わないわ。貴方はまだ人間に近しいし。でも、いつか」 そう、いつか。たとえ十年掛かろうが百年掛かろうが。 「いつかは、私の隣に堂々と並べるくらいになってくれるわよね?」 「努力します。僕も、そうなりたいですし」 「待ってるわ。気長にね」 それはきっと、退屈しのぎにもなるだろう。この永き生の、ちょっとした慰みにくらいには。 日付が少し経過して、黒白の魔法使いが再び紅魔館を訪れていた。 「よ、メイド長」 「魔理沙また来たの……って、珍しい、今日は正面からなのね」 「ああ、今日は正式な客だぜ? パチュリーの」 「まあそれなら。でも今ホールは危険よ?」 咲夜の言葉に、魔理沙が首を傾げる。 「どうしたんだ? 妹君がご機嫌斜めか? それともパチュリーの実験か?」 「それだったらまだマシな方ですわ」 瀟洒な従者は苦笑を微笑みに隠して、魔理沙を案内する。 「おお、何か凄い音してるな」 「よりにもよってこんなときに真正面からなんて、貴女もタイミングが悪いと言うか何と言うか」 ホールの方向から派手な音が響いていた。時折声も聞こえるが、何を言っているのかはわからない。 「わざわざ他のメイド達が入れないように空間も遮断してたって言うのに」 「あ、だから今も広さが違うのか。というか何があったんだ?」 魔理沙の問いには直接答えず、咲夜はホールを示した。そこでは―― 「こら、○○! これくらい避けれるでしょう!?」 「無理! 無理ですって!」 ――Lunatic並みの弾幕が飛び交っていた。 ただでさえ紅いホールが、レミリアの弾幕でさらに紅く染まっている。 「おー、派手にやってるじゃないか」 「もうこの四半刻ほどずっとこうなのよ」 「頑張るなー」 魔理沙もたまに○○の弾幕訓練(決して勝負ではない)に付き合っていたので、現状は飲み込めたようだった。 「でも何でまたお嬢様はご機嫌斜めなんだ?」 レミリアの機嫌が悪くて、それに○○がつき合わされているのも理解できる。できるのだが。 「まあ、元々の原因は○○さんよ。現在の発端は私だけど」 「何したメイド長」 「少し唆しただけよ」 何事もないかのように言いきって、咲夜は微笑して呆れた様なため息を漏らした。 その間も、激しい弾幕は続いている。 「獄符「千本の針の山」!」 「それ死んじゃいますから!」 「吸血鬼でしょ! 大丈夫よ!」 ○○に欠片も余裕が無いのが見て取れる。そもそも飛ぶのすら上手く出来ない青年だ。 「あ、被弾ー」 「何度目かしら」 「前も思ったがタフだなー」 それをのんびりと眺めやる少女二人。 「でも正直よくかわしてるわ」 「そうだな、最初とはえらい違い……というか、原因は何なんだ? あの痴話喧嘩の」 「実は全部つながるんだけどね」 咲夜が再び微苦笑した時、弾幕勝負に変化が生じた。 「…………」 「どうしたの○○! 行くわよ!」 紅蝙蝠「ヴァンピリッシュナイト」。蝙蝠が音を立てて飛び回り、ナイフ弾を形成して行く。 「……もしか、して」 ナイフが額を掠めたことにも構わず、○○はレミリアに向かって突っ込んでいった。 「え、ちょっと!?」 蝙蝠とナイフ弾をグレイズしながら一目散に近付いて、彼は囁くような声で言う。 「怒っておられますか」 「……今更、気が付いたの?」 「ええ、今更です、でも」 口ごもって、それでも彼はレミリアを真っ直ぐに見て、その腕を掴む。 「……接触は被弾扱いのはずだけど」 「それでも構いません」 そして、少しだけ唸ると、大きく息をついてすまなそうに言った。 「ごめんなさい。何が悪かったのか、今でもわからない」 「そこまでは気がつかなかったのね」 「すみません」 「…………最近」 弾幕を止め、蝙蝠を身に返しながら、レミリアが呟いた。 「最近、フランやパチェと弾幕勝負してばかりじゃない」 「ああ、ええ、訓練にと」 「だから! ……あまり、構ってもらえてない、私は」 拗ねたような口調で、レミリアは○○から顔を逸らす。 がつんと殴られたような表情になった後、彼はレミリアを引き寄せた。レミリアも抵抗せず、腕の中に収まる。 「すみません、本当に」 「全くね。主を放っておくなんて」 拗ねたような言葉には、それでも不安が滲み出ていて。 「……寂しかったですか」 「…………」 沈黙は雄弁だった。擦り寄るように頬を彼の胸に当ててくる。それだけで十分すぎた。 「すみません」 「謝れば、いいってものじゃないわ……」 「それでも、です。ごめんなさい、やはり僕は、焦っていたのかも」 ○○はゆっくりと言って、レミリアの顔を覗きこんだ。 「早く貴女に認められたくて、それで」 「……それで私を蔑ろにしてちゃ駄目じゃない……」 「ええ、そうなのですけれど、でも」 それでも。その言葉の先をわかったかのように、レミリアは切なげに彼を見つめた。 力のない、人間とあまり変わらない吸血鬼。愛しい者の傍にいるためだけの。 だからこそ、せめて隣に並び立てないまでも、認められるくらいに。 「……馬鹿ね、言ったでしょう? 慌てなくて良いと。何十年をかけても良いと」 「……はい」 「大丈夫、私は愛想を尽かしたりなんかしないから」 逆に抱きしめられて、○○は低く何事か唸って頷いた。 「ゆっくりでいいの。貴方が吸血鬼らしくなるのにも」 「はい……ありがとう、ございます」 「でも」 身体を離して顔を見上げて、レミリアは軽く微笑して言い放った。 「それとこれとは別の話。私を蔑ろにしてた分は、どう補ってくれるのかしら?」 「あー、えーと」 ○○は一瞬迷って、レミリアの頬に手を添えた。 「これで、如何でしょう?」 「ん、まずは及第、ね」 優しい口付けを受け入れるようにしながら、レミリアは満足気に微笑んだ。 「……御馳走様」 「あら、もういいの?」 目の前でキスシーンを見せ付けられて、魔理沙がなんとも言えない表情で呟く。 「よくお前らあれに耐えられるな……」 「あら、まだマシな方よ?」 「普段がどうなのか、考えないようにしておくぜ。で、発端は?」 「今語ってた通りよ」 「それはわかったんだが、咲夜がけしかけたとかいう」 「ああ、お嬢様が最近寂しそうだったから、それとなく○○さんに伝えたんだけど」 そこまで言われて、魔理沙は一つ息をついた。 「わかった。あいつ、何か惚けたこと訊いたんだな。変に鈍いから」 「ご名答」 「よくお前が怒らなかったなあ」 「まあ、じゃれあいみたいなものだからね」 そんなもんか、と頷いてホールを見上げて、まだいちゃついている二人に魔理沙は軽く呆れた。 「というか、私達が居ること気が付いてないだろあれ」 「居ても気にしていない、の方が正しいと思うわ」 慣れきった様子の咲夜に首を振り、魔理沙は軽く呻いて図書館に足を向けた。 「あー、甘い甘い。メイド長、私の分の紅茶には砂糖はいいや。先に行ってるー」 「はいはい」 図々しい注文に苦笑して、咲夜もその場から消えた。 「ん……先に行ったみたいね」 「え、ああ、魔理沙さんと咲夜さんですか?」 「パチェが呼んだって言ってたから。何かあったのかな」 彼の腕の中で小首を傾げ、そして柔らかに微笑む。 「さ、私達も行きましょう。咲夜の紅茶で一休みとしましょ」 「ええ」 するりと抜け出して、彼の腕を引く。機嫌はもうすっかり直っていた。 「今日の紅茶は何でしょうかね」 「さあ、苦くないと良いのだけど……まあ、でも」 いきなり彼を引き寄せて、レミリアはその口唇を塞ぐ。 「こちらの方が甘いから、多少苦くてもいいけどね」 「……はい」 不意打ちに照れる彼を満足気に見て、微かに自分の顔も紅くなっているのを誤魔化すように、行くわよ、とレミリアは促した。 この後の図書館で、彼の膝の上に座って上機嫌のレミリアに、魔理沙は何とも形容し難い表情を向けることとなるのだが―― どうしたの、とあっさりレミリアに涼しい顔で受け流され、濃い目の紅茶をお代わりする破目になったのだった。 後に曰く、『紅魔館の菓子が糖分控えめになった理由がわかった』ということだが、これはまあ、ちょっとした余談である。 新ろだ99 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「Trick or Treat!」 楽しげな声が、調理場に飛び込んできた。 「妹様、お菓子はまだですよ」 「あら、咲夜はTrickの方が良いの?」 ふふ、と無邪気に笑いながら、咲夜の周囲をフランドールがくるくると回る。 「こらフラン、あんまり咲夜を困らせないの」 後ろから入ってきたのは、館の主、レミリア・スカーレット。 「お嬢様。お菓子はもう少しですわ。パーティには十分間に合いますので」 「ええ、大丈夫。つまみ食いなんてしないから」 そう言いつつ、レミリアは楽しそうに調理場の中に視線を巡らせた。 目当ての存在を見つけたのか、その紅い瞳が輝く。だが、すぐにそちらには向かわず、咲夜に声をかける。 「量は十分?」 「はい。妖精メイドも導入しましたし、今年は何より」 咲夜はその意を汲んだのか、奥のほうで作業していた青年の方に注意を向ける。 「お菓子作りが趣味って言ってたものね」 レミリアも満足そうな、だがどこか甘みを含んだ声で頷いた。 その言葉が交わされた辺りで、ボールの中のクリームを確かめていた彼が近付いてきた。 「んー、こんなもんかなあ……ああ、レミリアさん、フランさん、どうも」 「○○、○○、まだ出来ないの?」 フランドールの言葉に微笑んで、○○は頷く。 「もう少しですから、待っててくださいね」 「もう、咲夜も○○もそればっかり……」 拗ねるフランドールの格好と、隣で笑っているレミリアの格好を改めて見て、彼は少し言葉を失った。 ――――どうして猫耳と尻尾が付いているのでしょうか。 心の中だけの疑問は、あっさり解消された。 「ああ、この耳? いつもと趣向を変えてみてね、ワータイガーなのよ」 「……ワータイガー?」 「人虎だよ、○○知らないの?」 「いやまあ、言われたらわかりますが」 二人がつけていると、トラ猫の耳をつけているように見えるのだけれども。 言葉にはせず、○○は咲夜に視線を送った。 「いいですかね、一枚くらいなら」 「その辺りは全部○○さん任せだから、足りるなら良いわよ」 「では」 ○○は調理台の上からクッキーを二枚つまむと、二人の前に立った。 「それでは、悪戯されないうちにお二人に先に一枚ずつ」 「いいの!?」 頷かれて、フランドールは嬉しそうにクッキーに口を付けた。 「いいのかしら?」 「量は大丈夫ですから。折角来ていただいたのに、手ぶらでは申し訳ないですし……今日はハロウィンですから」 微笑みが心持ち柔らかくなって、レミリアは少し満足したような声を上げる。 「では、いただくわ」 サク、と小気味よい音を立てて、レミリアもクッキーを口にする。 柔らかな甘味が口の中に広がって、彼女は感嘆の息をついた。 「美味しいわ、○○」 「ありかとうございます」 レミリアに恭しく礼をしたところで、フランドールが話しかけてくる。 「○○、もっと頂戴?」 「今は我慢です。後でたくさん持って行きますからね」 「はーい」 声は渋々だが、表情は明るい。余程気に入ったらしいことが周囲にもわかって誰知らずほっとする。 「そうだ、準備を急ぎなさい」 「ですが、まだお時間はあるはずですけれども」 咲夜が首を傾げると、レミリアは楽しそうに笑みを浮かべた。 「貴女達も仮装するの。そこの妖精メイド達もね。さっさと終わらせてしまいなさい」 急に声をかけられて、妖精メイド達があわあわしはじめる。直に声をかけられるのはやはり怖いらしい。 「では、一度この場は僕が持ちましょう。出来た分を運ぶ等は咲夜さんに監督してもらって。よろしいですか?」 「ん、そうね……それがいいかもね」 咲夜は何気なく視線を巡らせて一つ頷く。 「それでは、お嬢様、失礼致します」 「ええ、よろしくね、咲夜」 「私もついてくー」 フランドールが咲夜に着いていき、びくびくしながらも妖精メイド達も台車を運んでいく。 それを見送りながら、二人きりになった調理場で○○は仕上げに掛かった。それを、興味深そうにレミリアが覗きこむ。 「難しそうね」 「意外と、覚えてしまうと簡単ですよ。楽しいですし」 てきぱきと出来上がった菓子を並べ、○○は、そうだ、と頷く。 「もう一つ、味見をお願いして良いですか? さっき作ってたクリームなんですけれど」 「ええ」 嬉しそうに頷いたレミリアは、○○が自分でも味見をしようと指先に取っていたクリームを、指ごと口に含んだ。 「んー……ちょっと甘めね」 「………………まあ、スポンジがそう甘くないので、その釣り合いを取るために、ですね」 彼が微妙に照れたような表情をしたのを楽しげに見て取り、レミリアは言葉を続けた。 「でも、それ以上に美味しいわ。パーティが楽しみね」 「ええ……ところで」 「ん?」 「僕も、何かするんでしょうか」 「当たり前でしょう? 今日はハロウィンだもの」 楽しそうに言った主に、彼は心の中だけで両手を挙げた。 方々から人を呼び寄せたハロウィンパーティは、つつがなく始まった。 仮装している者も多く、見ているだけでも十二分に楽しめる。 「よ、○○。何だ、お前も仮装か?」 「向こうで犬になってる咲夜と猫になってるパチュリーがいたけれど、今年の紅魔館はそういう趣向なの?」 「魔理沙さん、霊夢さん、いらっしゃいませ。そういうわけじゃなかったはずなんですが……」 そういう彼の頭にも、犬科の耳が生えている。どちらかというと、狼のそれに近く見える。 「尻尾まで生えてるのか。狼男か?」 「らしい、です。気が付いたらパチュリーさんに魔法かけられてました」 困ったように微笑んで、彼は、どうぞ、と二人の客をテーブルに案内する。 「あら、いらっしゃい、霊夢、魔理沙」 「いらっしゃーい」 吸血鬼姉妹が巫女と魔法使いの姿を認め、各々の方法で近付いてくる。 つまり、レミリアは悠然と、フランドールは魔理沙に飛びつくように。 「邪魔してるぜ。あー……お前らもか」 「それ何? トラ猫?」 「人虎よ」 不満そうにレミリアが答えるが、猫に見えるのも仕方がない気はする。 「何でまた。吸血鬼といえば人狼だろうに」 「普通すぎるじゃない」 「ならどうして僕は狼に」 「貴方は初めてでしょう? 基本も大事よ」 楽しそうに言うレミリアの背後で、虎模様の尻尾が動いている。 全部パチュリー手製の魔法だと言うから驚きと言うか何と言うか。彼女もこのパーティを楽しみにしたのは間違いないようだ。 「ああ、わかった。レミリアの我儘に結局振り回されたってことね」 「霊夢、その言い方はあんまりじゃない?」 抗議するレミリアと涼しげな表情の霊夢のじゃれ合うような会話に少し微笑んで、彼は何ともなしに答える。 「僕も楽しんでますからね」 「言うようになったわね、本当に」 やれやれ、と苦笑して、霊夢は近くのテーブルの皿に手を伸ばした。綺麗に切り分けられたケーキが乗っていた。 パーティも盛り上がってきた頃、ふと気配を感じて、料理を運んでいた彼は顔を上げた。 「ああ、どうも、紫さん」 「ええ、お邪魔してるわ」 隙間から出てきてそれに腰掛ける。○○は料理を手近のテーブルに置いて切り分け、紫に渡した。 「あら、ありがと」 「いえいえ」 「それにしても、紅魔館は楽しそうねえ、今回のハロウィン」 「みんな態と揃えたのかも知れないですが、確かに」 「貴方も楽しそうね」 「ええ」 笑顔で答えた彼に、紫もまた楽しげに頷く。真意は読み取れないが、楽しんでくれていれば良い、と彼は胸中で頷いた。 「○○、こんなところにいたの」 「レミリアさん」 「お邪魔してるわ、お招きありがとう」 「ええ、楽しんでくれていれば重畳よ」 軽く応じるレミリアに、紫がくすくすと微笑いながら尋ねる。 「みんなで揃えたの、それは?」 「そういうわけじゃないけど、いつの間にかね。何なら、貴女もする?」 「いいわ、うちはもう二匹も居て間に合ってるから」 微笑みながら言って、紫は○○に目を向けた。 「ああ、いいわよ、私の相手してなくても。貴方の愛しい主のところに居てあげなさいな」 「え、と、はい」 「……何故みんな勝手なことばかり言うんだ」 同時に真っ赤になる程照れたレミリアと○○を見て満足したように紫は笑った。 おそらく二人は気が付いていないに違いない。それぞれの感情が、その魔法でつけている耳と尻尾に如実に表れていることなど。 「私はもう行く。○○、来なさい」 「はい。では、失礼します」 「ええ、また」 ひらひらと手を振る紫を後に残して、○○はレミリアの隣に並ぶ。 その彼を見上げるようにして、彼女が尋ねた。 「○○、この後に用は?」 「いえ、特には」 「では、私に付き合いなさい。主人を一人にするものではないわ」 「はい。気が利かずすみません」 「わかればいいのよ」 虎模様の尻尾が機嫌よさそうに軽く揺れて、レミリアは○○の腕を取った。 さっと顔を紅くした○○を見てまた微笑うと、さあ、行きましょう、と彼女は告げた。 パーティは盛況の内に幕を閉じた。 終わっても、すぐに帰っていく者、しばらく談笑する者、酔い潰れて館で介抱される者など行動は様々だ。 紅魔館側も、帰る者にはお土産としてケーキを切り分けてラッピングしたものを渡したりと、いつものパーティとは少し違う様相を見せた。 そして今ホールには、語り合う者と片付ける者だけが残っていた。 館の主とその妹は終わって早々に部屋に戻っている。特にフランドールは楽しかったのか、終わる頃には既に眠そうにしていた。 そして、○○もまた、片付けの一員として働いている。 そのパーティの片付けも終わる頃、何となしに○○は気が付いた。 「……あれ、みなさん魔法解いてます?」 「ええ、片付けには邪魔になるもの」 「割合簡単に解けるわよ。そんなに複雑なものではないし」 残っていた面子との会話が終わって戻ってきたパチュリーが説明する。 だが、無茶を言わないで欲しい、と彼は思う。魔法なんて元々縁が無かったのだ、簡単に解けると言われて解けるはずが無い。 「……どうするんですか、これ?」 「えーと、説明が難しいわね……」 咲夜が苦笑する。ということは、何の苦もなく解ける魔法と言うことか。説明が要らないくらい。少し落ち込む。 「まあ、一日くらいで解けるから、そんなに気にしなくてもいいでしょ」 「……僕寝るときもこのままですか」 「いいんじゃない? レミィもまだそれで遊んでみたかったみたいだし」 そう、パチュリーは○○の尻尾を差す。心なしかしゅんとなっているのは、彼の気落ちを表しているのだろう。 「何だかそれは非常に複雑ですが」 「それなら、○○さんはもう上がって。お嬢様はもう部屋に戻られてるし」 「ですが」 「お嬢様の機嫌を損ねるつもり?」 う、と詰まって、わかりました、と彼は頷いた。 しかし、言葉とは裏腹に、その尻尾は嬉しそうにパタパタと動いている。 それを少しだけ眺めて、パチュリーが咲夜に声をかけた。 「では私も図書館に戻るわ。咲夜、後で紅茶を頂戴」 「かしこまりました、パチュリー様」 「では、お先に失礼します」 それぞれの方向に歩きながら、さてどうしたものか、と○○は考え始めた。 部屋で寛いでいたレミリアの耳に、扉を叩く音が届く。誰何するまでもない。 「入って良いわよ、○○」 声に応じるように扉が開き、○○が姿を現した。レミリアが座っている椅子の所まで真っ直ぐ近付いてくる。 「お疲れ様」 「ええ、お疲れ様です」 汗を流して着替えてきたらしく、微かに石鹸の香りがする――ふさふさの尻尾からも。 「それまだ解いてないの?」 「解けないんですよ」 憮然となった彼に笑って、レミリアは○○にも椅子に座るよう促した。 「楽しかったわ、今日は」 「ええ」 「フランもはしゃぎ疲れて、今日はすぐ寝ちゃったしね」 それは良かった、と彼も微笑んだ。レミリアもワインを薦めながら、今日の事を語り合う。 パタパタパタパタ、と○○の後ろで尻尾が揺れるのを眺めて、レミリアは何となく楽しくなった。 酒にあまり強くないことも知っているが、これくらいでは酔い潰れないだろう。 それに何より、彼の気分や機嫌が耳と尻尾でわかるのが楽しい。またパチェにかけてもらおうかな、と考えた。 「ふかふかね」 「んー、風呂上りですし」 ほむほむ、とレミリアが○○の耳に手を伸ばし、満足そうに頷く。 この分だと、尻尾もかなり気持ち良いのではないだろうか。そんなことも思う。 そんなことをしているうち、寝酒にしていたハーフボトルも空になった。 「そろそろ休みましょうか」 「はい、でも、その前に」 椅子からベッドに座る先を代えたレミリアの隣に腰掛けて、○○はレミリアの方を向く。 「? 何?」 「ええ――Trick or Treat?」 唐突な言葉が何なのかわかるまで、少しの時間を有した。 「え、ええ?」 「甘い物、欲しいなと」 そう言った彼の視線が一瞬サイドボードに流れる。そこにはラッピングしたクッキーの袋。 「あんまり食べてないので。作るだけ作って」 「そういえばそうね……」 レミリアはそう言ってクッキーの包みを開き、一枚取り出して彼に渡そうとする。 「ああ、いえ、そうでなくて」 「? ……!」 ○○はレミリアの手にあるクッキーを取上げると彼女に咥えさせた。 驚く暇もあればこそ。○○は、その反対側からクッキーを食べ始める。 反応できずに止まっているレミリアに構わず平らげ、彼女の口唇をぺろりと舐めた。 「御馳走様」 「……いきなりじゃなくて、せめて何か言ってからにしなさい……」 顔を紅くして逸らしてレミリアの目に、○○の狼の尻尾が千切れんばかりに振られているのが見えた。 表情はいつもと同じ微笑みだが、相当上機嫌らしい。本当に感情をよく出すものだ。 「……まだ、要る?」 「出来れば」 本当に機嫌の良いらしい彼に、もう一度クッキーを与える。今度の口付けは、少しだけ長かった。 「……ん、甘党、だったかしら」 「ええ、かなりの。でも、まだ欲しいな、と思います」 気が付けば、彼の腕の中で抱きかかえられたような状態になってしまっている。 でもそれに反発しようなんて想いは湧かなくて。 「自分で作り始めて、それに凝ってしまうくらいの甘党ですから。でも、今は」 「あ……」 今度はキスだけが下りてきて、レミリアは目を閉じた。 「……もっと、好きなものがありますけれど」 その笑顔は、レミリアにとっては反則すぎて。 「……ずるいわ」 「ですか?」 「ええ、ずるい……」 今度はレミリアから頬を寄せて、そっと口付ける。長めの口付けの後、囁くように○○に尋ねた。 「……もっと、欲しい?」 「はい」 「いいわ、あげる――」 もう一度口付けて、優しく抱きよせられるのを感じて、レミリアもまた、○○の首に腕を回した。 甘い宴は、まだ終わりそうに無い。 後日、耳尻尾付きだと反応わかりやすいから、もう一度付けてみるか、とパチュリーが冗談でレミリアに提案するのだが。 「……え?」 「だから、結構面白かったでしょう? 咲夜もそうだったけど、○○さんも――」 言いかけたパチュリーの言葉を遮って、レミリアが声を上げた。 「駄目、絶対に駄目!」 大きく羽をバタバタさせて、顔を真っ赤に染めて慌てる親友に、パチュリーもそれ以上は突っ込まなかった。 ただ、少しだけ好奇心は湧いたので、咲夜と小悪魔を使って○○に尋ねさせてみたのだが。 「すみません、ノーコメントで」 と、こちらも紅くなって応えたので、それ以上の追求は出来なかった。 かくしてあの夜に何があったのかは――二人だけが知る秘密となったのであった。 新ろだ114 ─────────────────────────────────────────────────────────── その日は、起きた時から変だった。 何がおかしいのかはすぐにわかった。 愛しい人に、出逢ってない。 どこかに隠れたように、逢えていない。 「うーん……?」 首を捻りながら、○○は紅魔館の中を歩いていた。 辿り着いた先のティールームを、ノックの後に開けて失望のため息をつく。 「どこに行ってるんだろう……? 神社に行ったりしてるのかな……」 小柄な彼の愛しい主の姿がそこにないことをもう一度確認して、ぽつりと呟いた。 そう、今日目覚めてから、彼はレミリアの姿を見ていないのであった。 「咲夜さん、すみません」 「あら、どうしたの? 今日は里に出ない日だったとは思うけど」 「ええ。ああ、お仕事中すみません、少しお聞きしたいことが」 掃除中らしい咲夜に、謝りつつ声をかける。 「あら、何?」 「レミリアさん、お見かけしませんでしたか?」 ○○の問いに、咲夜は目を瞬かせる。 「起きてすぐ、紅茶を召し上がられていたけれど……それからも、何度かお会いしているわ」 「んー、では、館の中にはいるんですよね……うーん」 「会ってないの?」 意外そうな瞳に、こくこくと頷く。 避けられてるんだろうか、いやそんなことはない、と信じたい。だがもしかすると何か気に障ることでもしたのか。 「もう少し探してみます……ありがとうございます」 一礼して背を向けた○○に、咲夜は一瞬何かに気が付いたような顔をして、ふっと微笑んだ。 「○○さん、意外と近くにいらっしゃるかもしれないわよ」 「え?」 「私からのヒント。頑張ってね」 咲夜はそれだけ言うと、次の仕事のためか姿を消した。 次に赴いたのは、図書館。 「見てないわよ、ここには来てないわ」 パチュリーの言葉に、そうですか、と○○は肩を落とした。 「んー、目ぼしいところはいろいろ見てきてるはずなんですけどね」 「盛大な隠れ鬼でもやってるのかしら?」 「そんなはずでは……いや、そうなのかもしれないのですけど」 がくりと机に突っ伏す○○に、パチュリーは首を傾げる。 「レミィのことだから、どこかで見てそうな気もするけどねえ……」 「うーん、僕が右往左往している様子をですか?」 「ええ。まあ、気長に探すといいかもね。そのうち向こうから痺れを切らして出てくるかもしれないし」 その言葉はレミリアの性格を知るが故だろうか。 「まあ、そうかも知れないですけど……」 「早く逢いたい、というところかしら」 パチュリーの静かなからかいに、彼は顔を紅くして、ええ、まあ、と応える。 「と、とにかく、見かけたら教えていただけますか」 「ええ、いいわ。頑張ってね」 「はい」 軽く会釈して踵を返した○○に、パチュリーは本から顔を上げて、軽く息をついた。 「そうね、あえて言うなら」 「はい?」 「灯台下暗し、というところかしら」 それだけを言ってまた視線を本に戻したパチュリーに、彼は首を傾げて図書館を後にした。 それから、○○は紅魔館のあちこちを歩き回った。 中庭で美鈴にも声をかけたが、見ていないと言う返事と、不思議そうな表情を返されてしまった。 「あー、まあ、見つかってないんですね」 「ええ。近くに居るかも、とはみなさんに言われるんですけどね」 「……そうですね、私もそう思います」 何となく納得した顔で、美鈴はそう答えた。 「まあ、頑張ってください。お嬢様も早く見つけて欲しいでしょうから」 「はい、頑張ります」 では、と館に戻っていく彼を見送りつつ、ふーむ、と美鈴は唸る。 「見つかるかなあ、あれ」 とりあえず見えなくなるまで帽子をクルクルと回しながら眺めて、さて、と呟く。 「仲良きことは良き事かな――私も仕事に戻りますか」 そして、彼女はいつもどおりの仕事に戻っていった。 結局見つからないまま、時間は過ぎる。○○は所在無げに、自室に戻っていた。 ドアは開け放ったままである。もしかすると、部屋の前でも通るかもしれない、思ってのことだった。 「灯台下暗し、って言われたけどなあ……」 いない、と呟いて、自室のベッドに腰掛ける。 最近はレミリアの部屋で休むことが多くなって、部屋を使う頻度も減ったことにふと気が付いた。 そんなに近くに居る人に、今日は逢っていない。逢えていない。 心の中に焦燥とか、苦しさとか、そういうものが湧き上がってくる。 「ああ、駄目だなあ……僕は、もう」 レミリアさん無しにはいられないんだな、と呟く。 呟いて認めたら、少し元気が出てきた。 また探そう。 パチュリーさんも言ってたじゃないか、大掛かりな隠れ鬼だって。 よし、と気合を入れる前に、少しだけ伸びをしようと、ベッドに背中を預けるように仰向けになって―― ぴぎゅ。 変な音が背中からして、慌てて彼は起き上がった。 「……こう、もり?」 彼に潰されて、目を回しているのは一匹の蝙蝠。 それを掌の上に乗せると、ばさばさと部屋の外からも音が響いてきた。 手の中に居た蝙蝠も一緒に集まって、一人の姿を形づくる。 形づくられると共に、部屋が静かになった。 「○○、酷いじゃない! 潰さないでよ!」 訂正、静かになった瞬間、それは少女の大声で破られた。 「レミリア、さん?」 「ええ、そうよ。もう、全然気が付かないんだもの」 拗ねたように言う彼女が、○○の膝の上に正面から乗ってくる。 「ずーっと背中に張り付いてたのに」 「……ずっと?」 「ずっと。私の気配くらい、わかるようになりなさい」 パタパタ、と羽を動かしながら、レミリアはこちらを見上げてくる。 いろいろ、言いたいことはあったはずだった。 何故半日近く姿を見せなかったのか、とか、ずっと見ていたなら声をかけてくれれば、とか。 だが何か言おうとした口からは言葉は出てこなくて。 少しだけ口を開閉した後、彼は何も言わず、彼女に腕を伸ばした。 言葉では到底、今の自分の想いを伝えるのには足りなかった。 不意に強く抱きしめられて、レミリアは一瞬戸惑う。 「○○?」 「……結構、寂しかった」 心の底から響くような言葉。その言葉を耳にして、レミリアは優しげに目を細めた。 「……探し回ってたわね、随分と」 「ええ。姿が見えなくて。とても、心配して」 「……ごめんなさい、ちょっとした悪戯のつもりだったのだけど」 貴方にそんな顔をさせるつもりではなかったの、と囁くように告げる。 「わかってます、けど」 「ええ、わかってるわ」 肩に顔を埋めるように強く抱きしめる彼の顔を上げさせて、軽く口付けをする。 「これだけで、埋め合わせろなんて言わないけど」 「……ええ、足りない」 くる、と視界が変わって、レミリアは○○のベッドに仰向けになっていた。 目の前には、覆いかぶさるように彼が覗き込んできている。 「もっと、いいですか」 「ん……ええ」 落ちてきた少し深い口付けを受け入れて、口唇を離して息をついて、また再び口付けを―― ――その瞬間。 「○○さん、こちらですか?」 「そろそろ答え合わせをしておこうかと思っ――」 パチュリーと咲夜が、半ば閉まり半ば開いたままであった扉を不意に開けたのだった。 数瞬の沈黙。硬直。 「……そこまd――!」 バタン。 パチュリーが何か言いかけた矢先、勢い良く扉が閉まった。いや、閉められたのだろうか。 硬直したままの○○とレミリアの元に、ひらひらとメモが落ちてくる。 それを手に取って一読して、○○は枕に顔を突っ伏した。 「え、何? どうしたの?」 「……どうぞ」 渡されたメモを、レミリアも眺める。 「『ごゆっくり。ですが、少しはご自重くださいね』…… …………咲夜…………」 呆れた声を上げて、レミリアも脱力した。 気を利かせられたのか、からかわれたのか、あるいは素なのか。 どれもありそうだ。 はあ、と大きく息をついて、丁度隣に顔を埋めている○○を眺める。 ○○も顔を中途半端に上げて、レミリアと視線を合わせた。 「ふ、ふふっ」 「はははっ」 何となくおかしくなって、二人で顔を見合わせて微笑う。 「ああ、何となく気が削げちゃったわ……咲夜に紅茶でも入れてもらいましょうか」 するりと○○の腕の中から抜け出て、レミリアは彼の腕を引く。 「ええ、ああ、はい」 起き上がりながらも、何となく名残惜しそうにしている彼に気がついて、レミリアは少し考える。 想いをそのまま言葉にするのは何となく気恥ずかしくて、でも、あんな様子を彼が見せたのは初めてだったから。 自分を必死に探して不安そうな表情も、そして見つけたときのあんなに安堵したような表情も初めてだったから。 「その」 「はい?」 腕を引きながら、少しだけ顔を背けて、レミリアはぽつりと告げた。 「埋め合わせは、後できちんとしてあげるから」 顔が熱い。きっと紅くなっているであろうそれを隠すように、レミリアは少しだけ腕の力を強めて彼を引き寄せた。 「いいわね?」 「……はい」 見上げた彼の表情は酷く嬉しそうで、少しだけ、早まったかな、と彼女が思ったのは秘密である。 ティールームに着くと、まだ何かぶつぶつ言っているパチュリーに紅茶を入れている咲夜がこちらに気が付いた。 「あら、お嬢様、○○さん、随分とお早いお帰りですね」 「何もしてないってば。咲夜、私達にも紅茶を頂戴」 「かしこまりました」 からかわれて不満そうにしながらも、レミリアが○○を離そうとしていないのを見て、パチュリーが一つため息をついた。 「まあ、いいけど、とりあえず人目は気にしなさいね、レミィ」 「ん、気を、付けるわ」 「後、○○さん」 「はい?」 「……扉はきちんと閉めておくことを薦めておくわ」 「……すみません」 顔を紅くした吸血鬼主従の、だがその手がしっかりと握られてることを確認して、パチュリーと咲夜は視線を合わせ、微笑ましく頷いたのだった。 新ろだ158 ─────────────────────────────────────────────────────────── 霜月になって寒さも強くなってきた頃。 暇を持て余していたレミリアは、たまたま訪ねてきた霊夢と魔理沙を館に入れ、お茶に付き合わせていた。 「暇ねー」 「そうねー。またそのうち何か開こうかしら」 だが結局はうだうだとしているだけで、とりあえずこの暇な時間の解消にはならないようだ。 「そういや、この前のあの魔法ってどうやってたんだ?」 「え? ああ、あれね。割と簡単なものよ。むしろジョーク的なものになるかしらね」 「まあ、使い道なさそうだもんなあ」 魔法使い二人のそんな雑談に、霊夢が口を挟んだ。 「この前? ああ、ハロウィンの?」 「ええ。冗談で使ってみる類の、ただ賑やかすだけの魔法。実用性は無いわね」 「私としては、そんな魔法をパチュリーが使ったのが驚きだけどな。結構楽しんでたんじゃないか?」 「さ、どうかしら」 魔理沙の軽口に微笑って応じて、パチュリーは紅茶を口に運ぶ。 「でも見てるほうには面白かったわ。咲夜とか○○さんとか」 「あら、私も?」 霊夢の言葉に、レミリアの命令で一緒にお茶していた咲夜が首を傾げた。 「ええ、耳と尻尾に感情が良く出てて。そう言う効果もあるのかしら?」 「あくまで副産物だけどね。ねえ、レミィ?」 「何で私に話を振るのよ」 そう言いつつ、レミリアの顔は紅くなっている。何かを思い出しでもしたのか、ふい、と顔を背けてしまった。 「ん、何かあったのか?」 「何もないわ――咲夜、紅茶を頂戴」 「はい」 命じて一緒のテーブルに座らせている咲夜に、レミリアは紅茶のお代わりを頼む。 瀟洒な従者はただそれに従っただけだった。主の胸中は察しているが、言葉に出さぬが華というもの。 「そういえば、○○さんは?」 「今日は本を漁ってるわ」 「レミィ、よく把握してるわね」 「からかわないで、パチェ」 実際、起き掛けに今日の予定を聞いていたからなのだが、それを口にすると明らかに泥沼なので黙っておく。 「へえ、仲が良さそうで何よりね」 隠す方が無理な相手と言うものも居るが。どことなく楽しげにからかうように、霊夢が微笑ってみせる。 「何だ何だ、楽しそうな話か?」 「ええ、きっとね」 「適当なこと言うな」 レミリアはそう誤魔化して、手元の紅茶に口を付けた。 賑やかな声が聞こえてくるのを耳にして、彼はひょいとティールームに顔を出した。 「ああ、みなさんお揃いで」 「あ、お疲れさま、○○」 レミリアが咲夜に頷いて、紅茶を用意させる。 「ああ、ありがとうございます、咲夜さん」 「いいえ、どういたしまして」 適当な所――レミリアの隣に腰を下ろして、○○は場を見回した。 「何か楽しそうな声がしたものですから」 「ええ、そうね。この前のハロウィンの話をしてたのよ」 「ハロウィン、ですか」 「具体的には、あのときの魔法についてだな」 楽しそうに魔理沙が口にした瞬間、彼の表情が微かに変わる。 慌てているような、少し紅くなっているような、そんな表情に。 「あ、面白い反応」 「わかりやすいなー」 楽しそうに笑う巫女と魔法使い。レミリアに軽く睨まれて、○○は肩をすくめる。 「ああ、いや、その」 「○○、余計なこと言ったらグングニルだからね」 「ええ、わかってますって」 レミリアが脅すが、こちらも顔が紅くなっているのであまり怖くは無い。 「仲の良いことで」 「咲夜ー、砂糖抜きでよろしくー」 「はいはい」 「あんた達は……」 そう茶化している中、本に目を落としていたパチュリーが不意に顔を上げて何言か呟いた。 ぽむ。 小気味よい音と共に、○○の頭に見覚えのある耳が。後ろには尻尾も生えている。 「……あれ?」 「……え?」 一瞬何があったのかわからず、わかった瞬間、レミリアが声を上げた。 「パチェ――っ!?」 「ほら、魔理沙、割と簡単な魔法でしょ」 怒鳴られたことなど何もなかったかのように、パチュリーは説明する。 「ああ、なるほど。本当に冗談のような魔法なんだな」 「あんたも普通に頷くな! ああもう……」 ちらり、と○○を見上げると、耳と尻尾がピンと立っている。相当驚いているらしい。 「……○○?」 「あ、え、ああ、はい、何でしょう?」 「良い感じに混乱してるわねー。なるほど、わかりやすい」 霊夢が砂糖無しの紅茶を啜りながら頷いた。 会話の途中に我に返ったらしく、だが慌てるように彼の耳と尻尾が動く。 「ああ、すみません、ちょっと驚いて」 「かなり驚いてたんじゃないかしら?」 「……はい」 咲夜の言葉に、しゅん、と耳が垂れる。 「いや、しかし面白いな。その毛皮柔らかいのか?」 魔理沙が○○の頭に手を伸ばそうとした瞬間、レミリアが強く○○を引き寄せた。 「駄目、○○は私のよ」 「おおっと、こいつはすまないな」 レミリアの示した態度に、魔理沙はにやにやしながら手を引っ込める。 自分が何をしたのかがわかって、レミリアは○○を離した。 「愛されてるわねえ」 「ええ、僕もそうですから」 「こら、○○……!」 「はいはい、御馳走様」 尻尾をパタパタと降り始めた○○に、霊夢は軽く呆れのような微笑で応じた。 お茶会は賑やかに過ぎていく。 霊夢と魔理沙が帰る段になってお開きになるまで、話題は尽きなかった。 レミリアの部屋に戻って、その彼女が妙に距離を取ってベッドの上に座っているのを見て、○○は困ったように微笑う。 「うーん、そこまで警戒しないでくださいよ」 「してないわよ、別に」 だが前科があるからか、枕を抱いて○○を軽く睨む様子に、可愛らしいと思いつつもどうしようもない。 というか、拒否するならそれは逆効果だとわかっているのだろうか。わかってない気がする。 それにそもそも、本当に彼を拒絶するなら、部屋には入れないだろうし。 「前回みたいなことにはなりませんから」 「ホントに?」 「前回は、その、いろいろと」 甘いものを食べ損ねていた、とか。いろいろ給仕とか片付けで疲れていた、とか。 そしてこれが一番大きいのだが、パーティの間、そう長いことレミリアといられなかった、とか。 一度は呼んでくれたものの、主人役はそうそう気儘にすることもかなわないから。 途中から結局給仕に戻っていたから、そういうのでいろいろと溜まっていたというか。 「……でも、今も」 ちらり、とレミリアが○○の尻尾を見る。千切れんばかり、ではないが、それでも左右に揺れている。楽しげに。 「ああ、これはその、まあ、レミリアさんの近くにいるといつもといいますか」 かなり恥ずかしい告白をしなければならないが、そうでもしないと近寄らせてもらえまい。 「心が、躍るんです。大好きな人の傍に居られるのは、それだけで嬉しいことですから」 「……本当に?」 「ええ、紛れもない本心ですよ」 これは本当だ。レミリアの傍に居られるのは有り難いし、嬉しい。 「……うん、わかったわ」 少しだけレミリアの表情が和らいで、○○の服の袖を引く。 「こっちに」 「はい」 レミリアの求めに応じて、近くに寄る。レミリアからも距離を詰め、枕を下ろして彼の腕に擦り寄ってきた。 「……うん、落ち着くわね、やっぱり」 「それは嬉しいです」 言葉の通り、尻尾がぱたぱたと動く。それを見て、あ、とレミリアは小さく声を上げた。 「ねえ、○○。尻尾にも触って良い?」 「え、ああ、はい。引っ張ったりされなければ」 その言葉に嬉しそうに頷いて、レミリアはもふもふと、前に回してきた○○の尻尾を抱きしめた。 「ん、やっぱり柔らかいわ」 「……ですか?」 「ええ、こうしたら気持ち良さそう、とは思っていたんだけどね」 もふもふしながら、レミリアは大変満足そうである。やれやれ、と思いつつも、○○も成すがままに任せた。 「あー、しかし明日一日このままですかねえ」 「かもね。大体一日って言ってたし」 「んー、明日は里に行くことにしてたんですが……」 「……駄目。耳尻尾有りは問題あるだろうし……それに、この貴方は私だけのものだから」 それは、あまり人に見せたくない、ということだろうか。 少し嬉しく思いつつ、明日誰かに連絡を頼まないと、と考えていると、レミリアが尻尾に顔を隠すようにして、ぽつりと呟いた。 「…………だから、前のこと、嫌だったわけじゃないから」 「……はい」 一瞬心臓が躍って、それを無理矢理静める。 「……今日は、もう寝ましょうか」 「そう、ね」 このままだと、妙な空気に発展してしまう。そうなる前にと、○○は少し腕に力を入れて囁く。 「……次は、あんなことにはなりませんから」 「……うん。約束よ」 「ええ、約束です」 その言葉に照れたようにこくりと一つ頷いて、レミリアは尻尾を抱いたまま○○に擦り寄った。 「それじゃあ、おやすみ、○○」 「はい、おやすみなさい」 幸せそうに目を閉じた彼女を抱き寄せて、○○は静かに目を閉じた。 腕の中の温もりを、この上なく愛しく感じながら。 新ろだ169 ─────────────────────────────────────────────────────────── ○○は里でたまに仕事をする。 何てことは無い、紅魔館に住み始める前からの習慣だ。 たまに出ては日銭を貰い、それをかつては博麗神社、現在は紅魔館に入れている。 無論、吸血鬼となった彼が里に再び出るには、人里の守護者や妖怪の賢者、博麗の巫女との会議が必要であったが。 結果的に許可された大きな理由は、彼の主人たるレミリアが幻想郷の人間に危害を加えぬ約束をしていたからであろう。 彼自身もそれに従う、という形を取ることで、意見は概ね一致した。 そして彼は今日も里に来ていた。本格的な冬支度の手伝いのため、ここのところ連日である。 幻想郷の冬は彼にとっても初めてであるが、相当厳しいということは訊いていた。 紅魔館から禄に出られないことも覚悟しておくように、とも言われている。 「そろそろ昼飯にするかー」 誰かが言い出して、それぞれ集まって弁当を開く。 ○○も今日は弁当だった。たまに里の食堂で食べることもあるが、たまにこうして作ってもらっている。 自分でも作ったりもするが、作ってもらうと嬉しいものだ。 直射日光を避けるため木陰に入り、ぱか、と弁当を開けると、色取りも鮮やかなおかずが現れた。 プラス白飯である。紅魔館に和食というのはどこかアンバランスでもあるが、○○の好みに合わせてくれたりもしている。 それはそれで申し訳なくも思うのだが、レミリアに遠慮しないよう言い渡されているので、ありがたく頂いている。 「お、兄ちゃん、旨そうだなあ」 「ん、ええ」 里人に声をかけられ、○○は弁当に箸を伸ばしつつ頷いた。 「いいよなあ、うちの奴も作ってくれるといいんだが」 「そう言うお前だってたまにもらってるだろうがよ、独り身にゃ辛いぜ」 そうわいわい言いながらの昼食も慣れたものである。 だが、よく見れば、いつもの弁当とは少し違うことがわかる。 それに気が付くのは彼にとっては当然ではあったが、思わず頬が緩んだ。 少し玉子焼きは焦げついているし、入っている野菜もどこか不揃いだけれども。 にやにやしながら食べていたことに気がつかれたのか、一人が声をかけてきた。 「なあ、良かったら一つ交換しないか?」 「あー、駄目です。今日のは」 少し困ったような表情をしつつも、きっぱりと断る。 「えー、そんなに旨そうに喰ってるのに」 「だからです。駄目ですよ」 手を伸ばそうとしてくる相手から遠ざけるように弁当を抱えて距離を取る。 その様子を面白がってか食いたがってか、何人かが参加し始めた。 「お、いいな、俺にもー!」 「複数は卑怯ですよー!」 「なら大人しく寄越せー!」 「それだけは断る!」 慧音に見られでもしたら、「何をやってるんだ」と呆れられるに違いない光景。 その喧騒を打ち破ったのは、静かな少女の声であった。 「一体何をしているのかしら?」 一同、ぴたりと停止する。その停止した中で、ただ一人○○だけが普通に挨拶した。 「あれ、レミリアさん。散歩ですか?」 「ええ、神社に行くついでにね。咲夜と一緒に」 レミリアはそう、後ろにいる咲夜に視線を送る。 「ん、では僕は今日の仕事が終わったら神社に向かいましょうか」 「それもいいわね。たまには」 微笑む表情は、それでも周囲に他の人間がいるからか、少しだけ余所向けの、紅魔館の主としての表情。 それでも、○○には一向に構わない。そんなものも全て含めて彼女のことが好きなのだから。 「今は?」 「ああ、昼食中だったんですよ」 「それにしては騒がしかったようだけど」 ○○がまだ手にしている弁当と、少し引き気味の里人達を交互に見てレミリアが呟く。 「まあ、弁当を死守していただけですよ」 「……よくわからないわ。まあ、咲夜の作ったお弁当なら、人気もあって当然だけどね」 ね? と背後の咲夜に話を振る。 「そうであるなら光栄ですわ」 本当に私のものなら、という含みを持たせるように、咲夜も楽しげに微笑んだ。 そのからかいの気配を感じたのか、レミリアは機嫌を損ねたかのように○○にも話を振る。 「○○だってそうでしょう? 咲夜の作ったものは美味しいものね」 「ええ、まあ」 曖昧に頷いて、○○は玉子焼きを一つ摘むと、レミリアに食べさせた。 「どうです?」 「……貴方はたまに唐突よね……」 「僕としては大変好みの味なんですけど。焼き加減といい味付けといい」 「……咲夜の料理だもの」 そういうことにしますか、と呟いて、彼は残りのものも平らげる。幸い、取られたものはなかった。 「大変美味しかったですよ」 「だから、私じゃなくて咲夜に言いなさい。ああ、でもついでだからその箱は預かっておいてあげるわ」 「ありがとうございます」 受け取って、荷物持ちになるのは当然咲夜だったけれども。 「では、そろそろ昼休憩も終わりますし、また行きます。後で神社で」 「ええ、待ってるわ。行くわよ、咲夜」 「はい。それでは、○○さん」 「はい、お願いします」 了解の頷きを交わして戻ってきた○○に、里の男達は一様に大きく息をついた。 「……本当にお前さんはなんてーか」 「羨ましいのとよく平気だなってのと、そういや兄ちゃんも妖怪だったかと」 ○○はそれぞれの言葉に曖昧に応じるように微笑う。 「いやいや、僕は全く普通ですよー」 嘘をつけ、と突っ込まれたのは当然の流れだったけれども。 「……で、ここでお茶飲みに来たと」 「いいでしょ、たまには」 「お賽銭持ってきてくれるならね」 神社の居間、炬燵に入りながらの会話である。 「あんたも大変ね、咲夜。好き勝手振り回されて」 「あら、心外ね。そんなことはないわよ」 レミリアのカップに紅茶を注ぎながら、咲夜も応じる。 「それに、その弁当も、自分で作ったって言えば良かったじゃない」 「言えるわけ無いでしょ」 ふい、と顔を背けるレミリアに、やれやれ、と霊夢と咲夜は顔を見合わせる。 丁度そのとき、境内に魔理沙が下りてきた。 「よー、寒いな。って、お前ら来てたのか」 「居ちゃ悪い?」 「悪い」 霊夢の言葉をスルーして、レミリアは紅茶に口をつける。 「そうだ魔理沙」 「ん、何だ霊夢」 何かを含んだ霊夢の声に、同じ様な口調で魔理沙が答える。 言いながら、すでにその身は炬燵の中へ入ってぬくぬくしていたが。 「里の上通ってきたんでしょう? 何か作業してたと思うけど」 「ああ、冬支度かー。ん、ああ、そっか、そだな」 霊夢の含みに気が付いたように、魔理沙はうんうんと頷く。 咲夜は肩をすくめているが、レミリアは顔を背けながらも気になっている様子だ。 「○○もいたなー。何か楽しそうにしてたが」 「へえ、まあ、今日はいいものも貰ってたみたいだしね」 「いいもの? 何だそりゃ」 「それがね……」 「霊夢」 咎めるような響きを持ったレミリアの声が二人の会話を中断する。 「別にいいでしょ、レミリア」 「ん、何だ何だ、何やったんだ?」 楽しそうに魔理沙が混ぜっ返す。兎にも角にも、この吸血鬼主従は話題に事欠かないからだ。 巻き込まれて砂糖を吐く破目になることも多いが、彼女達はそれはそれで楽しんでいる。 「お弁当。ね、咲夜?」 「ええ、お弁当、ね」 「咲夜……」 じと目でレミリアは咲夜を見るが、彼女は優しく微笑んだままだ。 レミリアは照れたように再び顔を逸らす。咲夜は何も、自分の意に反することをしているわけではない。 直接何かを伝えているわけではないし、別にレミリアも止めてはいないから。 「んー、ああ、なるほどねー」 いろいろ察したらしい魔理沙が、にやにやとレミリアを見返す。 「そりゃあ、○○も張り切るってもんだな」 「煩い」 冷たく言葉を撥ね退ける様子も、照れたままではその効果はなく。 何処までも強情なその様子に、何となく微笑ましい気分で人間三人は笑みを交わしたのだった。 夕方近くになる頃、一つの人影が神社に降り立った。軽く障子を叩いて、返事を貰った後に入る。 「どうも、遅くなりまして」 「おー、遅いぞー」 「待ちくたびれてるわよ、ほら」 霊夢の言葉に、○○は彼女を示した方を見る。 「お嬢様、今日は随分早かったものだから」 「ええ、そうでしょうね」 咲夜の言葉に――眠ってしまっているレミリアを膝枕している咲夜の言葉に頷いて、○○はレミリアの傍らに座る。 「いや、意外と長引いてしまって」 「まあ、幻想郷の冬は厳しいからな」 「○○さんも覚悟しときなさいよ?」 「はい、覚悟しておきます。ところで」 鍋の材料など頂いてきたのですが、という一言に、霊夢と魔理沙が歓声を上げる。 「温かい物が丁度食べたいと思ってたんだ、グッとタイミングだな」 「手間も省けていいわね」 「作らせる気かよ」 掛け合いに笑って、彼は軽く頷いた。 「久々ですし、作りましょうか」 「……じゃあ、咲夜も手伝った方が良いわね」 ゆっくりと起き上がって、レミリアが目をこすりながら告げる。 「ああ、起こしてしまいました?」 「ん、いいわ。お疲れ様」 「はい」 嬉しそうに微笑った○○に頷いて、レミリアは咲夜を呼んだ。 「私もここで食べてくわ」 「はい、かしこまりました」 「まあ、今回は○○さんが持ってきたものだし仕方ないか」 「では、行ってきます」 霊夢の許可を得て、○○は材料を持って神社の台所に入っていった。 「ところで」 「はい? 何かしら?」 二人がかりでさくさく進む料理の途中、彼はふと咲夜に尋ねた。 「咲夜さんですか? 僕の好みを伝えたのは」 「ああ、ええ、幾らかはね。後はお嬢様の匙加減よ」 「ですか。いやはや、咲夜さんにも劣らずの腕前で」 本日全体的に上機嫌なのはそれが理由かと、咲夜は微笑む。 「お嬢様は器用でいらっしゃるしね。今回はお嬢様から言い出したことだし」 「そうなんですか。いや、嬉しいです」 「だから」 手際よく煮込みながら、咲夜は少し真剣に告げた。 「後できちんと、お嬢様に伝えておいてね?」 「はい、もちろんです」 「よろしい」 真摯な態度で返したその様子に、そう咲夜は頷いたのだった。 とりあえず、鶏鍋などに舌鼓を打ち、夜も更ける頃に紅魔館組は神社を後にした。 「じゃ、また本格的に雪が降る前に行くってパチュリーに伝えておいてくれ」 「あまり盗って行くと、パチェも本気で怒り出すわよ?」 軽口を叩き合って、彼女達は微笑う。魔理沙は泊まって行くつもりらしい。 「じゃ、お暇するわ」 「今度は賽銭持ってきなさいよねー」 「はいはい」 適当に挨拶をして、三人は紅魔館に向かって飛んでいった。 戻って湯浴みした後、レミリアは自室のベッドで、手持ち無沙汰にパチュリーから借りた本をめくっていた。 一人は退屈だが、仕方が無いのだ。○○は連日――ここ一週間程、里に出ている。 ということは生活が彼女とはほぼ反転してしまっていることであり。 結局、一人で居る時間が長くなってしまっていた。 「ふう……」 それでも、彼があちこちにふらふら出歩くのは、レミリアはそう嫌っているわけではない。 むしろ、前と同じ様子が見られて、少し安心する所もある。 だが、確かにそれはあれど、一人で居るのが退屈なことに変わりはなくて――結局、無為に時間を過ごしてしまう。 咲夜にお茶でも頼もうかしら、と思った瞬間、扉がノックされる音がして、レミリアは起き上がって適当に返事を返した。 「ああ、もうこちらにお戻りだったんですね」 「○○? どうして、明日も里じゃないの?」 驚いたレミリアに近付いてきて、彼は少しはにかむように微笑ってみせた。 「明日は休みを貰いました。そして、里の方に出るのも後一日という話も頂いてきましたし」 「本当!?」 声に嬉しさが混ざったことに気が付いて、レミリアは一つ咳払いした。 「いいの、それで?」 「もう大方は終わってますし。帰りに紅魔館用の荷物を買い出して終わりです」 レミリアの隣に腰を下ろしながら、にこにこと笑って彼はそう言った。 「そう、じゃあ、今日はここで休めるのね」 「はい、お邪魔でなければ」 「むしろ命じて上げる。ここに居なさいってね」 悪戯っぽく笑ったレミリアに笑い返して、そうだ、と彼は呟いた。 「改めて、ですが。お弁当、ありがとうございました。大変美味しかったですよ」 「な、あれは……」 「咲夜さんじゃなくて、レミリアさんでしょう? 嬉しかったです、とても」 率直な言葉に咄嗟に返せなくて、レミリアは紅くなった顔を誤魔化すように背けた。 「……咲夜の方が上手でしょう?」 「まあ、慣れの点から言えばそうかも知れません。でも僕にとっては」 レミリアの頬に手を当てて自分の方を向かせて、○○は告げる。 「貴女に作ってもらえた、ってことが何よりも嬉しかったです。美味しかったですしね。御馳走様でした」 「……本当に?」 「ええ、本当です」 「……うん」 嬉しそうに、まだ照れたように微笑んで、レミリアは○○を抱きしめた。 唐突なことに驚く彼に、そっと囁く。 「……最近、忙しいみたいだったもの」 「ああ……寂しかったですか?」 「そ、そんなことは……」 「僕は、結構寂しかったです」 だから、とレミリアの背に腕を回しながら、彼が応えてくる。 「今日のお弁当、とても嬉しかった」 「……うん」 レミリアは目を閉じて、その抱擁を受け入れた。 朝に、咲夜を捉まえて弁当の作り方を教えろ、と言ったとき。 咲夜は最初驚いた顔をして、でもすぐに頷いてくれた。 いろいろ教えてもらって初めて作った弁当は、少し不恰好か、と我ながら思ったけれども。 でも、彼がこんなに喜んでくれたなら、作った甲斐があると言うものだ。 無論、そんなことをしたなんて、滅多な者には知られたくないけれど。特に天狗とか天狗とか。 「少し安請け合いしすぎましたかね、今回のは」 「ハクタクに、長く借りてすまない、って言われたわ、今日」 「ん、ですね。まさか、こんなに続くとは」 「でも一週間よ?」 「でも、その間レミリアさんとあまり一緒に居られなかったから」 子供みたいな言葉にくすくす笑って、レミリアは○○の胸に頬をつけた。 「なら、これから埋め合わせて。明日一日は私のものだし」 「その次が終われば、当分は一緒に居られますしね」 「ええ、一緒に、居て」 見上げて、レミリアは彼の頬に手を当てて、そっと顔を近づける。 「ん……」 軽く口唇を重ねて、さらに擦り寄るように抱きついた。 「ね、○○」 「はい?」 「毎年、冬は退屈になりがちだけど……今年は幾分か、マシになる気がするわ」 「そうですね、僕はこちらが初めてですから、何事も珍しいですし」 微笑って、彼はレミリアに口付けを送ってくれた。優しい、温かいキス。 「これからもいろいろと、よろしくお願いします」 「ええ、こちらこそ」 抱きしめて笑い合って、ぽす、とレミリアは○○をベッドに倒した。 「ここしばらくの話を聞きたいわ。随分楽しそうだったものね」 「では、寝物語にでもしましょうか。どうぞ」 「うん」 少し休むのには早い時間だけれども、こうして話をしながら横になるのもいいかもしれない。 そんなことを思いながら、レミリアは○○の腕を枕にして横になる。 「話をする前に」 「ん?」 「いろいろと本当に、ありがとう。大好きですよ」 カッと顔を紅くして、レミリアは○○の胸に顔を伏せる。 「唐突なのよ、貴方は」 「すみません」 「……でも、私も。貴方のことは、大好きだから」 紅くなったまま彼を見上げれば、彼も照れたように顔を紅くしていて。 「改めて言うと照れますね、こういうのは」 「貴方から言い出したことじゃないの、全く。さあ、話を聞かせて頂戴」 身体を寄せて囁いた言葉に、では、と彼も話を始めた。 久し振りに二人で眠ったベッドの中は意外なほど暖かくて。 こうした日々の少しずつを大事にしていけたら良いと、どちらともなく思いながら、彼らは眠りについた。 新ろだ196 ───────────────────────────────────────────────────────────
https://w.atwiki.jp/thpwiki/pages/74.html
基礎値 体力 850 移動 90 射角 10~95 基本ディレイ 530 弾1 判定 5 爆風 32 ダメージ 280 ディレイ 130 火力の高い単発弾 ダメージを取りたいときのメイン弾幕 火力が高い分削岩は低め 弾2 判定 8 爆風 42 ダメージ 190 ディレイ 160 削岩力のある単発弾 地形を削りたいときのメイン弾幕 弾幕1と比べると威力は低い またディレイもやや大きめ スペルカード スペル名 紅符「スカーレットダンス」 判定 8 爆風 28 ダメージ 0 ディレイ 230 EXP 200/900 火力型の単発弾を発射するスペルカード スペルカード(命中時) スペル名 紅符「スカーレットダンス」 判定 8 爆風 32 ダメージ 330(固定) ディレイ 180 EXP 200/900 着弾地点にキャラがいた場合、レミリアとフランによる同時攻撃を行う パワーアップアイテム使用時はダメージが+100され430の固定ダメージとなる + ダメージ目安 ダメージ目安 ※ダメージキル目的で使う余地がある弾のみ記載 ※主にキャラ判定に直撃させた場合の値を記載 実戦では当たり方により多少増減します 種類 通常 PuP 連射 連P 備考 弾1 275 360 550 635 単発威力弾 弾2 185 240 370 425 単発削岩弾 スペル 330 430 --- --- 固定ダメージ + 特徴と戦術 特徴と戦術 癖のない威力弾、削岩弾を持ち、固定高火力スペルも使用可能な威力型の万能キャラ。 高い基本性能で癖のない弾を扱うことができるという、非常に分かりやすい強さを持つ。 固定ダメージスペル持ちで削岩弾がややバランス弾寄りの性能をしていることからどちらかと言えばダメージを取るのが得意と言える。 立ち位置的には瞬間火力を下げて削岩を強化した公式天子。単発オンリーで貫通力がない点も似ている。 シンプルな性能故にやることもわかりやすく、近距離では弾1でダメージを、遠距離では弾2で削岩をしっかりと当てていくのが基本となる スペカの固定ダメージ330はかなり強力で、当てれば相手の回復リソースを確実に削れ、ディレイ回りがよければ味方との連携でそのままキルもできるため、使用可能になり次第しっかり当てていくのが勝利への近道 ダメージ合戦に弱い相手には殴り合いを、落としあいに弱い相手には撃ち合いを、とどちらにも対応できる強みを活かした戦い方ができればより有利に戦いを進められるだろう パワーアップはスペカの強化にも連Pにも使え、威力キャラにしては物足りない280弾の弱みを補えるため余裕があれば是非持っていきたい 総評: 弾は2種類と少ないが役割がはっきりしているため、クセもなく扱いやすい ダメージ取り、削岩もそつなくこなせるため苦手な場所が少ないが 単発の弾しかないため、シールド持ちの相手やデブリだらけの地形など、貫通力を求められるステージは少々つらい スペルカードはカスあたりでもダメージがとれるためここぞというときに確実に決めて、チャンスを作っていきたい