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魔法少女リリカルなのはSparking!METEOR Wii・PS2にて二機種同時発売 161人のキャラクターが登場し、発売日は2007年10月4日 主題歌は水樹奈々さんが歌う新曲『MASSIVE WONDERS』 新キャラ確定:高町なのは(前期)・高町なのは(中期)・八神はやて(前期・車椅子) 高町士郎 ・高町恭也 ・プレシアテスタロッサ ・闇の書(巨大化) ・闇の書 ナンバーズ ・スカリエッティ ・ザフィーラ(犬) 追加確定ステージ:海鳴市 ・機動6課周辺 ・海上 改良点 グラフィックの進化 トランスフォームリリカルの改良(カメラアングルなど) ステージの昼夜選択が可能に 新要素 「デバイスコンボ」 コンボ中に必殺技を発動できるようになった 「リリカルバーストダッシュ」 オーラをまとい相手の背後に高速移動 「リリカルカウンター」 攻撃をくらう直前相手の背後に回り反撃 「ソニックスウェイ」 相手の攻撃を紙一重でかわす防御テクニック メインモードである「リリカルヒストリー」では、数々の原作バトルを臨場感満載で追体験できる。 原作にある数々の「印象的なアクションシーン」を、メインモード専用のデモとしてバトルに盛りこんだり、 バトルの状況次第でキャラ同士の会話がバトル中に流れたりする。 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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第1話「それは不思議な出会い!急げ!百鬼魔界へ」 (誰か……助けて……誰か……。) ある企業グループの私有地とされる山中、人の通わぬ森の奥で一匹の小動物が血を流し倒れていた。 (お願いです……この声を聞いた人がいたら……) もはや満足に体を動かすこともできないそのフェレットは、一縷の望みを掛けて 念話によるSOSを発信していた。 念話、すなわち魔法を使える者だけが聞き取れる手段で。 魔法の存在が確認されていないこの管理外世界『地球』で。 それがどれほど期待のできないことかは本人にも分かっていた。 管理外のこの世界の、それも彼のすぐ近くに魔導師が偶然いて、 幸運にもその人物がジュエルシードによって凶暴化した獣を撃退できるほどの実力で、 そして私利私欲のためにジュエルシードを欲しようとしない高潔な人物である、 などという都合のいい現実があるわけがない。 それでもそのフェレット、ユーノ・スクライアという名の年若い魔導師は あり得ない可能性にすがるしかなかった。 数分もすればあの獣がユーノに追いついて、彼の体を引き裂くのだから。 (お願い……誰か……) このまま誰にも気付かれず、人知れず朽ち果てていくのだろうか、 ユーノがそう絶望した時だった。救いの主が現れたのは。 「いかん。このフェレット怪我をしてるじゃないか」 優しそうな男性の声が聞こえる。しかし――――― (良かった、気付いてくれた人………が…………) 自分を見下ろす人影を見た瞬間ユーノの思考は完全に停止した。 (な、な、なななな、なんだコレエエエェェェェェ!?) それは人ではなかった。 頭部は戦車の砲塔にしか見えない形状、足にはキャタピラを装備、全身を覆う分厚い装甲板と 右手の銃器は、その体が戦闘の、あるいは戦争のために生み出されたことを容易に想像させる。 傀儡兵の類かと考えたが、流暢に喋る傀儡兵などユーノは知らない。 「早く手当をしてやらないと…」 凶悪な外見と不釣り合いに優しい態度を見せる救世主。 ネロス帝国機甲軍団烈闘士ブルチェックだ。 なお、ユーノの念話が聞こえたわけでは決してない。演習後にたまたま通りがかっただけである。 (あの…もしもし!?僕の声聞こえてますか!) 「待っていろ、ゴーストバンクの設備ならすぐに治るからな」 (うわ!ちょっと、そんなゴツイ指で掴まないで!) ブルチェックの無骨な指先は牛の乳を搾れるほど繊細に動くのだが、そんなこと露ほども知らない ユーノにとって殺人兵器とおぼしき物体に掴まれるのは恐怖でしかなかった。 (ど、どうなるんだ僕は…!) 鈍重そうな姿と裏腹に猛烈な勢いで駆けるブルチェックの手の中で、 抵抗する力もないユーノは絶望的な気分になっていた。 が、程なくしてブルチェックはその歩みを止める。 『グルルルル……』 体長2メートルほどの巨獣。四つの目と二本の角を持ち、黒褐色をした四つ足の生物が道を塞いだからだ。 「な、何だこの生物は!」 (えーと、それはジュエルシードという…) 「怪我をしてる動物がいるんだ!邪魔をするなあっ!」 有無を言わさず頭部の大砲が火を噴く。 ネロス帝国には珍しく動物の命を奪うことを良しとしないブルチェックであるが、 『かわいい動物』の範疇に入らない相手には容赦がない。例えばヘドグロスとか。 不意打ち気味の攻撃は狙い違わず怪物の胴体を直撃する。 そしてユーノは、自分の念話が全く通じてないことを喜ぶべきか悲しむべきか分からなかった。 『グギュウウアアァァァ!!』 「こいつ、まだ立つか!だったら!!」 至近距離からの砲撃を食らい吹き飛んだ獣は、おぞましい叫びをあげながらなおも戦闘態勢をとろうとする。 そこに飛来する第二第三の砲撃。さらには右手の銃もうなりをあげる。 『ギョオォォアアアア!!!』 「これでどうだ!」 六発目を食らったところでついに力尽きたのか、怪物はピクリとも動かなくなった。 「おそろしくタフだったな。モンスター軍団の失敗作か?……ん、何だこれは!」 動かなくなった獣はブルチェックの目の前でするすると縮んでいく。 数十秒後、砲撃によってえぐられたクレーターの中心には、一匹の傷ついた犬と 青く輝く結晶体が転がるだけであった。 「お、俺としたことが犬を殺してしまっただと!? ……いや、まだ生きている!可愛い動物たちを、俺の前で死なせたりはせんぞ!絶対に救ってみせる!」 叫ぶが早いがブルチェックは右腕で犬を抱えて駆け出す。妖しげな結晶体を回収することも忘れていない。 一方左手で掴まれているユーノは現実逃避に忙しかった。 (ま、魔法を使ってないのに、力ずくでジュエルシードを回収しちゃった……) 確かに理論上は可能かもしれない。しかし一度発動したジュエルシードを融合した生物から 物理的に引き剥がすには常識を遥かに越えたパワーが必要なはずだ。 (こんなこと……あるわけがない……) 痛みと疲労の上に精神的なショックが重なり、そろそろユーノも限界が近い。 自分を掴む戦車のような怪物がなんなのか、それを考える余力もなかった。 ユーノ・スクライアは後に語る。 この時念話でなく直接話しかけていたらどうなっていたか、その末路は想像もしたくない、と。 ネロス帝国。 世紀末の悪の帝王ゴッドネロスのもとに組織された恐るべき帝国である。 その目的は経済による世界の支配であり、表の姿である桐原コンツェルンの利益を生むためにはどんな 恐ろしいことにも手を染める。競合他社への直接的間接的問わない攻撃や、石油プラントの破壊による 原油価格の高騰での荒稼ぎ、また時に一国の歴史すら変えてしまうこともあるという。 その本拠地であるゴーストバンクは桐原コンツェルン本社地下にあり、桐原コンツェルンの社長である 桐原剛三は真の姿である帝王ゴッドネロスへと姿を変えて謁見の間に降臨するのだ。 ゴーストバンクには帝王が作り上げた恐るべき4つの軍団が控えている。 まずヨロイ軍団。銀の甲冑に身を包んだ剣士クールギンを長とする軍団で、ヨロイや強化服を身につけた 人間もしくはサイボーグで構成される。正々堂々とした戦いを好み、皆が皆武人たらんとする強者揃いの 軍団である。 次に戦闘ロボット軍団。戦闘に特化し、高い戦闘力を持ったロボット達で構成される。軍団長である バルスキーは男気あふれる性格で、部下からの信望も篤い。 そしてモンスター軍団。バイオテクノロジーで作られたミュータントや合成生物で構成される。 「口八丁手八丁、卑怯未練恥知らず」「食うて寝て果報を待つ」といった4軍団の中では異色の モットーを持つ集団で、軍団長のゲルドリングをはじめとしてどんな汚い手段を使ってでも勝つことを 美徳としている。透明化、液状化、夢を見せるなど特異な能力を持つ者も多い。 最後に機甲軍団。戦車、ミサイル、ヘリコプターなど実在の兵器をモチーフとしたロボットで構成される 火力と装甲に優れた軍団である。「数と機動性」という特色も持ち、他の軍団とは異なり同型機が 複数生産されている。また4軍団の中で唯一航空戦力を持っており、その価値は帝王ゴッドネロスも 認めている。戦艦を模した姿の軍団長ドランガーはあまりゴーストバンクを離れず、副官のメガドロンが 現場指揮を行うことも多い。 各々の軍団には厳密な階級が存在し、軍団長である凱聖をトップとして豪将、暴魂、雄闘、爆闘士、激闘士、 烈闘士、強闘士、中闘士、最下級である軽闘士へと続く。また修理ロボ、音楽ロボのような非戦闘員は 軽闘士よりも更に下に位置する。 「ネロス!ネロス!ネロス!ネロス!」 ゴーストバンク謁見の間に戦士達の叫びが唱和する。帝王が降臨する際は各軍団勢揃いで迎えるのが慣例と なっていた。 整列した4軍団の前で、玉座に人影が浮かび上がる。 醜悪な老人の姿。その内に湛えられた知性と野望。たった1人で、1代でこの帝国を作り上げた男、 帝王ゴッドネロスその人である。 「余は神、全宇宙の神ゴッドネロス!」 「ネロス!!ネロス!!ネロス!!ネロス!!」 ヒートアップする一同。それを手で遮り静かにさせた帝王はおごそかに言葉を紡ぎだした。 「各軍団、現在の状況を報告せよ」 「豪将ビックウェイン、中東において我が帝国に仇なす政権を抹消しました」 「雄闘トップガンダー、こそこそと嗅ぎ回っていたFBI捜査官の暗殺を完了」 「ヨロイ軍団一同、鍛錬は怠っておりません」 「激闘士ストローブ、3機によるフォーメーションは完成に近づきつつあります」 「試験中のデスターX0ですが射撃精度にまだ問題が残るようです」 満足げに報告を聞く帝王。自分も報告をしようと声を上げかけたブルチェックであったが――――― 「帝お……」 「帝王!ワシはブルチェックに問い正したいことがあるんですがよろしいでっか?」 モンスター軍団長ゲルドリングに出鼻をくじかれた。 「何事だゲルドリング………まあかまわん、許可する」 「ありがとうございます帝王……おうブルチェック、帝王の前や。さっきのアレ、どういうことなんか ちゃあんと説明してくれや」 モンスター軍団長凱聖ゲルドリングの、嫌らしさに満ちた声が謁見の間に響く。 頭部を覆う透明なカプセルの中に見えるにやにやとした笑みが、ブルチェックの不安をかき立てていた。。 それは少し時間を遡ってのことだ。2匹の動物をゴーストバンクに連れ込んだブルチェックだが、 当然ながら機械兵器であるところの機甲軍団には生物の怪我を治すような設備はない。 そこで彼が乗り込んだのはモンスター軍団が怪我を癒すバイオ室だった。 何の価値もない薄汚れた動物を、しかも部外者である機甲軍団員が持ち込んだというのだから モンスター軍団の反発は大きかった。しかし意外なことにバイオ室から軍団員達を退かせたのは ゲルドリングである。 死にかけた動物を前に気が急いているブルチェックは、それがどれほどおかしなことか気付いていなかった。 「機甲軍団の烈闘士ともあろう男が、その辺の動物捕まえてきて無断でゴーストバンクの設備を使用! こりゃあ重罪やで」 「なっ!?邪魔をするモンスター軍団員をあの部屋から追い払ったのはあんただろう!」 「ワシは用事があったから軍団員を集めただけや、使っていいなんて一言も言うとらんで。 あれやな、家主の留守にバイオ室を使うとは、機甲軍団ちゅうんはずいぶんと手癖が悪いんやなあ。 おいドランガー、お前んとこは部下の教育もちゃんとやっとらんのかい」 部下の失態を責められた軍団長ドランガーは、苛立ちを隠せぬ様子で詰問する。 「ブルチェックよ、これは一体どういうことだ?」 「も、申し訳ありません軍団長!」 ブルチェックは自分の愚かさに今更ながら気付いた。 あの自他共に認める嫌な性格のモンスター軍団長が、死にかけた動物に情けを 掛けるような真似をするはずがなかったのだ。 あの男の目的は最初から、『帝王の御前で』『規律違反を咎め』『機甲軍団の地位を貶める』 この点にあったのだろう。 (俺は大馬鹿者だ!動物たちの命を救うことに気を取られて、こんな事にも気付かないとは!) しかしブルチェックにも勝算はある。 ここまで露骨にゲルドリングにはめられるとは思っていなかったが、 要はあの動物たちに命を救うだけの価値があることを示せばいいのだ。 その証拠はブルチェック自身の中にある。 「ブルチェックよ、申し開きはあるか」 帝王の重々しい声が響く。機械の体であっても震えを感じずにはいられない、力と威厳に満ちた声。 その声の主は今、彼を咎めようとしている。 まともな規律がないに等しいモンスター軍団や軍団長の裁量が大きい戦闘ロボット軍団と異なり、 機甲軍団は規律を重視する。軍規違反により軍法会議の上銃殺刑、となる可能性は高い。 (ここでしくじっては命がない。オレも、あの動物たちも) 故にブルチェックは一歩前に進み出て、帝王の放つプレッシャーの中に自ら飛び込んでいった。 「恐れながら帝王に申し上げます。 あの動物は高い戦闘力を持った生物兵器の可能性があるため確保しました。 念のためゴーストバンクのデータベースをチェックしましたが、あの動物に該当する個体は モンスター軍団に存在しません。 おそらくはネロス帝国以外の技術で作られたものと考えられます」 「はあ~?生物兵器~?」 ゲルドリングの不審げな声が背後から聞こえる。先ほどまでの芝居がかったしゃべりと 声色が違うのは、本心から疑問を持っているからだろうか。 沈黙を保ったままの帝王の心中は読めないが、制止されない以上続けてもいいのだろう。 「アホ言うな。あれは完璧にタダの動物やった。ワシが直々に調べたんやからな」 他人の粗探しには熱心なこの男のことだ。ブルチェックがゴーストバンクに帰還してから 帝王が降臨されるまでのさして長くもない時間の間に、何かしらの落ち度がないか目を皿のようにして 探したに違いない。 ……などと周囲にいる者達は考えていたのだが、実際にモニタールームで目を皿のように『させられて』 いたのは下位のモンスター軍団員だったことを追記しておくべきだろう。 「ゲルドリング、それは真か?」 「ええ、帝王。そりゃあもう隅から隅まできっちり調べましたからな、間違いないですわ。 犬もイタチも何の変哲もない弱ったケダモノ。あれじゃあ実験材料にもなりませんで」 「そんな馬鹿な!ちゃんと調べたのか!」 「調べたわい!お前こそあれが生物兵器いうんやったらその証拠見せんかい!あるんやったら、やけどな」 「もちろんある!」 「何やて?」 そう、証拠はある。これ以上ない形で。 「帝王、私の交戦記録をご覧下さい」 ブルチェックはモニターと自分をケーブルで接続しながらそう言ったのだった。 戦闘ロボット軍団員と機甲軍団員が見聞きした物は、彼らの『記憶』であると同時にゴーストバンクのデータ バンクに収集される『記録』でもある。自ら改竄することが不可能なそれは、物証としては十分な物と言えよ う。 (それにしても因果な物だ) 怪我をした哀れな動物たちを救うためには、あの犬を危険な生物兵器として認知させねばならない。 奇怪な生物が砲撃になぎ倒される映像を映しながら、 ブルチェックは自らの行動の矛盾が回路にかける負荷を増大させているのを感じていた。 「おお、これは……」 「あの至近距離でブルチェックの主砲を受けて粉みじんにならない生物だと?」 「あれだけ食らえばオレ達だって危ないな」 「あの質量の変化、有り得んな…一体どうなっている」 「モンスター軍団の新兵器ではないのか?」 「アホ言え、あんなもん知らんわ」 「静まれい!」 にわかにざわついた室内だが、響き渡る帝王の一喝にその場にいた全員が口を閉じた。 「ブルチェック、報告を続けよ」 「はい帝王。今ご覧になられたようにあの生物は戦闘能力を失うと同時に小さくなり、 無害な動物となりました。そして現場に残されていたのが……」 言いながら青い結晶体を恭しく帝王に差し出す。 「この物質です」 「ふむ……」 帝王が手をかざすと、手のひらから放射された不思議な光が結晶体を包み込み、 ふわりと浮き上がったそれが帝王の掌中へと運ばれる。 「ほお……すさまじい魔力を感じるな」 「魔力……?人間の言う魔術とか魔法とかいうやつですか?」 帝王の言葉にバルスキーは疑問の声を投げかける。 純粋に科学で作られた彼らロボットにとって、超自然的な現象は理解の外にある。 今、帝王が見せたような力も何かの装置を使っている物とばかり考えていたのだ。 「帝王は偉大な科学者であらせられるが、妖術においても造詣が深い」 そのバルスキーの疑問に答えたのはクールギンだった。 おそらくはネロス帝国で最も帝王ゴッドネロスとの関わりの深いこのヨロイ軍団長は、 時折他の凱聖すら知り得ぬ情報を持っている。 「妖術を?なんと、さすがは帝王。……もしやヨロイ軍団にもそういった力を持つ者がいるのか?」 「いや、我々には帝王ほどのお力はない。護摩を焚き加持祈祷をするのが精一杯だ」 「そうなのか」 ヨロイ軍団は強化された人間やサイボ-グで構成されている。帝王同様に生身の肉体を持つ彼らの中には 魔力を持つ者がいるかもしれない、バルスキーはそう考えたのだが彼の予想した以上に魔力を持つ者は 稀少らしい。 (やはり帝王は全てにおいて別格ということか) そう結論づけたバルスキーは、意識を切り替えて帝王の次の発言を待つことにする。 不気味な明滅を続ける結晶体を掌の中でもてあそびながら、帝王は何かを思案している様子だった。 と、唐突に結晶体が強い光を放ち出す。 「帝王!」 「慌てるでない!」 注視する一同の前で結晶体は再びふわりと浮き上がる。帝王の手から放れると閃光は弱まり、 帝王に何かあっては一大事と焦っていた幹部達も落ち着きを取り戻した。 「い、今のは一体……」 「こやつ我が欲望を喰らわんとしおったわ。余でなければこの力に飲み込まれていたであったろうな」 「帝王!お体は大丈夫なのですか!?」 「侮るなクールギン、余は神、ゴッドネロスであるぞ?しかしこの強大な力、未知なる魔法の産物…… ふふふ……久々に探求心がたぎってきたわ。この力、必ずや我が帝国の糧となるであろう。 でかしたぞブルチェック」 「帝王にお褒めいただき光栄至極に存じます!」 乗り切った!ブルチェックは心の中でガッツポーズをする。 一方モンスター軍団員は上から下まで全員が唖然としていた。 「さてブルチェックよ、余はお前の働きに対し褒美をやろうと思う。何が望みだ?」 「……それでは帝王、私の回収してきた動物たち、彼らを山に帰してやってください。 すでにモンスター軍団の調査でただの動物だったと判明しているのですから、 逃がしても構わないはずです」 「ふむ…」 思案しながら、掌の上でふわふわと浮かぶ結晶体とブルチェックを交互に見やる帝王。 「まあよかろう。所詮は動物、ゴーストバンクの情報を外に漏らすようなことはできまい。 あの動物はお前の好きにするがいい」 「ありがとうございます帝王!」 「ちょ、ちょっと待ってください帝王!犬はともかくイタチは関係ないでっせ。いや、そもそも最初っから その結晶だけ持って帰ればよかったんとちゃいますか!」 「うう!そ、それは…」 ゲルドリングに突っ込まれたのは最も痛い点だ。百歩譲って犬の方はまだ調査する理由があるが、 フェレットにはそれがない。ブルチェックは全身から一気に冷や汗が吹き出すような感覚を味わっていた。 「今回は功績に免じて特別に許そう。だがブルチェック、次はないぞ?」 「は、ははー!」 再度訪れた危機をどうにか乗り越えたブルチェックは、これからは生物用の医療キットも携行しよう、 と心に誓うのであった。 「さて次なる任務だが……ストローブ、バーベリィ、これへ」 「ハッ!」 戦闘機とヘリコプターの機能を有する機甲軍団員が一歩前に出て気を付けの姿勢をとる。 「お前達は近隣一帯を空から調査し、この結晶体と同じ物を探すのだ。これ以外にも存在するやもしれん。 そして先ほどの犬のような高い戦闘能力を持った生物がいた場合これを撃破、結晶体を回収せよ。 ドランガー。この任、機甲軍団に命ずる」 「帝王のご命のままに!」 「ではこれにて解散。各軍団は十分に英気を養っておけ」 その言葉を最後に、帝王は玉座から姿を消しその場は散会となるのだった。 「ストローブ、バーベリィ、出られるか」 「いつでも出られるように燃料は満タンです!」 「よし、直ちに発進せよ!残りの者は給油次第出撃だ。弾薬のチェックを怠るな!」 「了解!」 ドランガーの檄が飛ぶ。戦闘態勢に入った機甲軍団は迅速に命令を実行しようとしていた。 一方現場指揮の任を帯びた豪将メガドロンは、出撃メンバーの姿が足りないことに気付く。 「ブルチェックはどうした!?」 「あいつなら元気になった動物たちを山に帰すと言ってどこかに行きました」 「……帝王直々にいただいた褒美か。ならば仕方がない、動物どもを山に帰したらそのまま 周辺地域の探索に移るよう伝えておけ」 動物愛護などという概念はメガドロンには全く理解できなかったが、帝王による裁定に 文句を付ける気など毛頭なかった。機甲軍団は鉄の軍規で縛られているが、その頂点には帝王が君臨する。 上官の命令は絶対、そして帝王の命令はそれ以上に絶対的な物なのだ。 「軍団長、今日の帝王は気合いが入っておいででしたな」 「あのようにお喜びの帝王を見るのは久しぶりだ。それに英気を養っておけという命令。 おそらくは帝王には次の戦い、新たなる一手が見えておられるのだろう」 「次の戦い、ですか……」 戦闘ロボット軍団では豪将ビックウェインと凱聖バルスキーが今後のことを話し合っている。 『伝説の巨人』とまで恐れられる副官は何故かあまり乗り気ではなさそうだったが。 「どういうこっちゃコレ」 帝王が退出し、解散となった謁見の間では未だにモンスター軍団だけが残ってボヤいていた。 「機甲軍団にミソつけてやろうとしたのに、なんで手柄になっとるんじゃあ!」 「軍団長落ち着いて」 「機材使われた分損しとるやないか!納得イカンで!この!この!」 「痛い、痛い!軍団長、八つ当たりはやめてください!」 「うおー!なんでやー!!」 モンスター軍団の行状が醜いのは―――――まあいつもどおりだった。 「さて、この辺りならいいか」 「キュウ~?」 「はは、かわいいやつだなお前は」 犬とフェレットを抱えたブルチェックは、2匹を発見した場所からかなり遠い山林まで来ていた。 「あのあたりはネロス帝国の演習場に近い。お前達はもっと静かなところで暮らすんだ」 要は自分たちと関わり合わないようにというブルチェックなりの心配りである。 そうして犬を地面に下ろし、フェレットを木の枝に乗せたブルチェックは後も振り返らず一心不乱に 駆けていった。そうしないと名残惜しくていつまでもその場に留まってしまいそうだったからだ。 そのフェレットが首に付けていた深紅の宝石が無くなっていることに、ブルチェックは 最後まで気付くことはなかった。そしてフェレットの瞳が高い知性を持った物で、ネロス帝国の中を つぶさに観察していたことにも。 「なんて恐ろしい世界なんだここは……。魔法を使わずにあんな物が、それもあれだけの規模で。 レイジングハートも取られちゃったし、もう僕一人じゃ無理だ。 どうにかして連絡を取らなきゃ……時空管理局に―――」 ユーノ・スクライアのつぶやきを聞いたのは風と雲と太陽だけであった。 明らかになる魔法の存在、そして悪の手に落ちたジュエルシード。 新たなる力を手にしたネロスの野望は留まるところを知らない。 だが、ジュエルシードを求める機甲軍団の前に新たな戦士が姿を現す。 瞬転せよ、フェイト。 魔法帝王リリカルネロス、 次回「翔く魔導師!娘よ、母の願いを!」 こいつはすごいぜ! 提 供 桐原コンツェルン 時空管理局 プロジェクトF.A.T.E. このSSはご覧のスポンサーの提供でお送りしました。 目次へ 次へ
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名前 深海マンモス(しんかいまんもす) 分類 不明 初出 214話 捕獲レベル 27 生息地 不明 概要 マミのフルコースの肉料理に、深海マンモスのグリルとして選ばれている食材。 関連項目 猛獣・食材図鑑(原作) マミマーブルマグロ 竜宮貝 華鮭 女帝マグロ 雪海老 シュガークラゲ 赤潮のワイン
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「………此処がロストグラウンド、か」 数多の世界を任務で飛び回り、荒廃した世界は見慣れたものだが、やはりこの殺伐とした独特の雰囲気は、ミッドチルダなどのような治安の良い世界では感じ取れないものだ。 こういう世界には必ずと言っていいほどに、荒くれ者の類が存在している。 事実、今回の任務でも仲間たちは早々にソレに遭遇し、交戦を果たしたという。 ヴィータもまたその記録映像はこちらに来る前に事前に目を通してはいたが、成程………こんな大地にならあんな奴がいたとしても確かにおかしくは無い。 名前は何と言ったか………ああ、そうそう確か『カズマ』だったっけ? 名字もなければ本名かどうかも怪しい、経歴も分からないハッキリ言ってしまえば得体の知れない相手。 「………でも、面白そうではあるよな」 映像で見た限りでも単純馬鹿、後先考えない特攻野郎とでも感じたが、正直そういう相手をヴィータは嫌いではない。むしろ個人的には好ましい部類だ。 惜しむらくは彼が敵対者であるということ。………いや、敵対する立場の方が好敵手となり面白いかもしれない。 思考が完全に自分たちの将寄りになっていることに気づき、いかんいかんと彼女は首を振りながら思考を元に戻す。 兎に角、この大地のどこかにあの男がいる。新人どもを圧倒し、あのなのはを追い詰めたあの男が……… 柄にも無いことだが、不思議とそれにワクワクしている自分が居るのを自覚する。 早く出会ってみたい、そんな風に考えてしまってすらいた。 だがそれもまだ早い。逸る欲求を抑え付け、己が立場を思い出し、自分が今すべき事を全うする必要があった。 それを忘れて向こう見ずな立場には、自分はなれないのだから……… 『ヴィータ副隊長、聞こえますか?』 その時、届いてきた念話―――部下のティアナ・ランスターの声にヴィータは肯定のメッセージを返した。 『十秒後にスバルとエリオで突入します。副隊長は取りこぼしてそっちに逃げ延びてきた相手の確保をお願いします』 「ああ、分かった。こっちは任せとけ、だから思い切り自信持ってやればいい」 随分と様になってきた現場指揮を任されている部下の声にそう応えながら、ヴィータは眼下の施設を見下ろした。 施設南部、その後方の宙域で待機している彼女は、言ってみれば現在は部下たちの捕り物劇のフォロー役である。 禁制品の違法売買を行っている小規模な犯罪集団、その壊滅にホーリー部隊として回された任務がそれだった。 援軍の着任早々にそんな任務をこなさねばならぬ事に文句は特に無い。こちらもJS事件が終わって以降は捕り物の類とは無縁だったデスクワークばかりだったので、こうして久しぶりに戦えることに文句は無い。 しかも早速アルター能力とやらを肌で感じることが出来るかもしれないのだ、得られるものの大きさから考えても是非は無い。 それに犯罪で私腹を肥やすような無法者を取り締まるのは通常業務でもあるわけだし。 だからこそ、なのはの代わりに今こうして自分が出張ってきているというわけだ。 「さて、それじゃあお手並み拝見といくかね」 念話で確認したタイミングで飛び込んでいくスバルとエリオ。 次の瞬間には襲撃に気づいたのだろう、瞬く間に慌ただしく連中が混乱して騒ぎ出しているのがこちらにまで聞こえてくる。 ミッドチルダや他の次元世界に比べてみても、犯罪集団の質そのものはお粗末といっていい。 だが何たらに刃物という言葉があるように、そう言った連中に限ってなまじ常識外の力を持っていた場合は性質が悪い。 この世界で言うなら、正にそのアルター能力とやらが良い例だ。 『すみません、副隊長。そちらに一人逃がしてしまいました。確保をお願いします』 念話で来たその要請に、ヴィータは「あいよ」と気楽に応えながら、丁度その件の逃亡者を目視にて確認でき相手に向かって降下を始める。 「時空管理………じゃなかった。ホーリーだ! 大人しくしろ!」 いつもの名乗り文句で言い間違いそうになるのを修正しながら、そう逃げてきた相手へと彼女は告げる。 どうやらホーリーという名は相手のような連中にとっては余程のものらしく、驚愕と共に青白い顔まで浮かべてくる始末だ。 まぁ此処で大人しく縛に就くなら穏便に済ませられたのだが、どうやら相手は先に述べていた何たらに刃物の類だったようだ。 歯がみをしながら睨んでいたかと思えば、どうやら覚悟を決めたらしく男はこちらとの距離を数歩取るように下がりながら、瞬間、男を中心に発生した虹色の光が周囲の岩を次々と消し飛ばし………否、分解していく。 そしてそれが終わると共に男の傍らには巨大な傀儡兵のような人形が現れていた。 「………成程、そいつがアルターって奴か」 物質を分解し再構成する能力………聞いてはいたが、実際目にしてみて彼女が感じたのはやはり魔法以上のそのデタラメさだった。 デバイスなどの機具を用いたわけでもない、プログラムされたものを展開して行使する管理局の魔法とは明らかに異なる異能。 種類別されてはいるらしいが、個人個人によって異なる明らかな多様性を持った超常の力。 つくづくデタラメだとしかヴィータには思えない。 ………だが、そんなものとやり合ってみるというのも面白い。 それがどれ程の脅威か、直接に身をもって確認してみるには良い機会だった。 目の前のコイツは、いずれ激突するであろう例の男と戦うまでの参考とさせてもらうことにしよう。 「よしいいぜ、なら―――やろうじゃねえか!」 自身の相棒、鉄の伯爵を改めて握り直しそう告げながら、鉄槌の騎士はこの世界で最初に出会った未知へと猛然と挑みかかった。 魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed 第2話 高町なのは 「………高町、さん」 名を呼ばれ調べものに没頭するようにコンピューターの画面に見入っていたなのはは、そこで漸く相手の接近に気づき顔を上げた。 ホーリーの実行隊員とは別種の医療・作戦情報処理などのスタッフの制服を着た女性が一人、こちらを見ながら立っていた。 年の頃は自分とそう大差も無い、少し下程度、ちょうど劉鳳と同年代くらいだろうか。 ストレートの艶のある黒髪に美人と評するには充分な整った顔立ちは、その本人が持つ落ち着いた様子と合わさってか、才女というイメージを抱かせる。 なのはは彼女の名前を知っていた。此処ではちょっとしたある意味では有名人であり、良くも悪くも自分たちと同じように周囲の注目を集める立場だ。 「桐生水守さん、でしたよね?」 なのはは確信を持ちながらも一応の確認を兼ねて相手の名を尋ねる。 水守と呼ばれたその女性はなのはの問いに返答の頷きを示した。 桐生水守。 ホーリーの作戦情報処理及びアルター研究班の研修生。本土の有名大学院において七年ものスキップをしている文字通りの才媛。 だが彼女の肩書きにおいてもっと重要な意味合いを持ってくるものが他にある。 ロストグラウンドの再興に力を入れるスポンサーの筆頭、その財閥の総帥の令嬢………というのがそれに該当するだろう。 この世界へと赴く前にロストグラウンドに関連する項目には一通りの目を通しておいたが、その中には確かに桐生家の名がホーリーという組織にも関わる重要なスポンサーとして記されていた。 当然、本土側と管理局が密約を結びパイプを繋いでいる以上、桐生家もまたそれに関わってくるのは自明の理。 尤も、その本土の財閥令嬢が自らこの地に赴きホーリーに所属していたなどというのは来てから知って驚いたことの一つだった。 赴任直後の挨拶回りでも一言二言言葉を交わしあった程度であり、以降はこちらに来てからのホーリーの任務や本来の管理局の調査などで忙しく、接点も無いままにそれっきりだったが、まさか彼女の方からこちらに接触してくるとは予想していなかったので、どう対応したら良いものか正直迷ってもいた。 「何か御用でしょうか?」 なのはには彼女がどの程度までこちら側のことを知っているのかが分からない。 ロストグランドはおろか本土でも有数の権利を誇る桐生家が管理局の存在を知っているのは当然だとしても、彼女自身が現在は桐生家と何ら関わりの無い形でホーリーに所属している様子である以上、こちらの素性を知っている可能性は低い。 だが桐生家の総帥の令嬢であり、愛娘であるという評判の高い彼女が本家の方から本当に何も知らされていないのかどうかなどなのはには分からない。 実際、ロストグラウンドに来て以降、桐生水守は桐生本家との関わりを彼女自身で断っており、立場そのものも一介のスタッフでしかないのだが、高町なのははそもそも彼女とは殆ど面識も無かった以上、そのような事実を知る由もない。 故に、桐生水守がどの程度まで“こちら側”の事情に踏み入っているのかが予測が付かないなのはは彼女への対応を測りかねていた。 「………とりあえず、ここでは何なので移動しませんか?」 本土から来た噂のアルター部隊の隊長と、その本土の財閥令嬢、良くも悪くも互いに注目を集める立場にある自分たちがこうして面と向かって接触している。 当然、この場で仕事を行っているスタッフたちもそれぞれ画面を見ていながらもこちらに聞き耳を立てて注目しているのがあからさまな以上は、この場でこれ以上の話を進めるのはどう考えても得策ではない。 故にこそのなのはの提案だったが、流石は才媛と名高い彼女も己の立場を理解しているのか反論もなくそれには肯定してきた。 席を立ち、とりあえずホーリーのスタッフ専用の休憩場にでも向かうことに決めた。あそこならばここよりは密談をするにしても幾分かマシというものだろう。 さて本土のお姫様がはたして自分にどのような話があるのか、それはなのは自身にとっても気になることではあった。 最後の悪足掻きのように振るわれる巨人の豪腕、さながらこちらの接近を拒むように振り回されているソレは暴風じみたものであったのは間違いない。 わざわざ接近する危険を冒さずとも、遠距離から仕留める方法とてヴィータには持ち合わせていた。 だが今回はそれをしない………何故か、前線部隊の副隊長としては問題のある思考ではあったが、先に見せられた戦闘記録に触発されての対抗意識が彼女にそれを選ばせた。 そう、あの黄金の右腕で制限下とはいえなのはの魔法を正面から打ち破って見せたあの男………カズマの土俵がそれだと思ったからだ。 いずれは挑戦してみたい、自分たちを取り纏める将でもあるまいし、何故そんな下らない事を自分が願ったのかは分からない、見当も付かない。 だが純粋に、あの拳と正面からぶつかってみたいと思ってしまったのだ。 相手には可哀そうだが、コレはそのための前哨戦………アルターという未知の能力への挑戦を兼ねた肩慣らしだ。 「………まぁ悪く思うな」 犯罪者相手とはいえ踏み台のような扱いをすることに、良心が痛み思わずそんなことを呟いてしまったことに自分自身で驚き、苦笑を浮かべてすらいた。 だがそれも仕方が無い、実際に今の自分は公私混同だ。それは認めよう。 だからこそ、その分命じられた任務だけはキッチリと果たす。 その決意の元、相棒のアームドデバイスによるカートリッジロードを敢行。銃弾の薬莢の排出めいた機構の中、ハンマーの先端に出現したドリルが回転を始める。 そしてソレを扱うヴィータ自身もまたドリルの反対側から展開されるバーニアの勢いに合わせてその身を独楽の様に回転させ始める。 かつて、高町なのはとの初遭遇戦で彼女を撃墜せしめた一撃、それと同じもの。 「ラケーテン……ハンマァァァアアアアアア!!」 叫びと同時、強襲する赤き騎士。その回転の込められたフルスイングは巨人の振り回す腕に見事に激突し………打ち砕く。 虹色の粒子へと拡散しながら消えていく巨人。アルター能力を打ち破られたダメージが本体にフィードバックしたのだろう、能力者もまた白目を向いて倒れる。 苦戦らしい苦戦も無いまま、力押しという相手の土俵に則って撃破して見せたものの、ヴィータの表情には感慨らしきものは無い。 当然だった。所詮相手は小物、三下の雑魚に過ぎない。異能力を有しようと訓練された管理局の魔導師に通用するレベルですらない相手だ。 「………でも、テメエは違う。そうだよな」 あのなのはを地に着かせかけたほどの相手、その強大な力はこの程度の輩とはきっと比べものにすらならないはずだ。 肩に鉄槌を抱えなおしながら、戦ってみたいと改めて思う欲求をヴィータは認めていた。 この大地で珍しく闘争に餓えている己の奇妙さに、その理由にまだ彼女自身もそれが何故なのか気づくには至っていなかった。 「………それでご用件というのは?」 場所を移し、周囲に誰も近づいては来ないと判断できるロビーの片隅の席にて向かい合いながらなのはは水守へとそう尋ねる。 水守の方はなのはのその問いに、一瞬僅かばかりの躊躇を示す素振りを見せながらも、やがてこちらへと真っ直ぐに視線を向けながら口を開いた。 「高町さんは本土から来られたアルター部隊の隊長と聞いています」 「はい、本土より派遣されてきたアルター使い四名を率いる立場です。………今は、もう一人増援が着任しましたので五名ですが」 そして己を含めて六人。それが本土側より派遣された特殊部隊『機動六課』の構成と表向きにはなっている。 だがこれは着任当時に既に対外的にも知れ渡っている言わば周知の事実に過ぎない。未だ注目を集める的ではあるもののそれ以上にも以下にも意味は無い。 少なくとも、このロストグラウンドにおいては、だ。 だが――― 「失礼ですが、アルターとはロストグラウンドで生まれた新生児が数パーセントの割合で生まれ持つ特殊能力を指す筈です。貴女たちは本土出身とされていますがこれはどういう………」 桐生水守のそこまでの発言を聞きながら、高町なのはは成程と概ねを理解した。 やはり予想通り、彼女は桐生家の方からは何も知らされていない。それは当然時空管理局などの存在も知りえてはいないということだろう。 つまりは正真正銘、此処においては彼女の立場は一介のスタッフでしかないということだ。 本土の財閥令嬢とはいえ事情を知らされていない部外者である以上は、管理局に関わる情報を教えることは出来ない。 故に彼女の問いかけに対しては予め決めていた通りの答を返す他にないということだ。 「残念ですが、桐生さんには我々の素性を知り得る権限がありません。申し訳ありませんがその質問にお答えすることは出来ません」 自分でも思った以上に事務的な返答だと内心で驚きながらも、若干の後ろめたさと共になのははそう返した。 実際、なのはたち『機動六課』に関する情報は、ホーリー部隊隊長であるマーティン・ジグマールに並ぶ秘匿機密レベル扱いであり、ホーリー部隊内においてその情報の閲覧権利を持つ者はジグマール以外には存在しない。 次元世界の安定を図り、管理外世界において公の立場には現れないようスタンスを取る時空管理局においては当然と言えば当然の措置だ。 無論、局員であるなのはたち自身も管理外世界の人間においそれと素性を明かす行為は禁じられている。 しかも今回は現地においては特に慎重に行動するようにと上層部から厳命を受けている手前、普段以上にその辺りに関しては配慮を怠るわけにもいかない。 故にこそ、彼女たちは予め公開されている嘘で塗り固めた偽りの経歴以外の情報を漏らすわけにもいかないのだ。 そこに例外を挟めぬ以上、なのはが水守に対して取った対応も妥当と言えたものだった。 ………尤も、 「………そうですね。私には貴女たちの正体を知る権利はありません。ですが―――」 そう言ってそこで一旦言葉を切りながら、次に彼女がこちらに見せたのは再びの躊躇い。それも今度は若干恐れにも似たものが強く入り混じったものだった。 明らかにその言葉の続きをこちらにしてくることを躊躇っている。それを口にしてしまえばまるでもう後戻りは出来ないとでも思わせるようなものだ。 その彼女が躊躇いと同時に見せている恐れは、なのはの方にも何か嫌な予感を抱かせるには充分過ぎるものであった。 彼女は何を知っている? 何を口にしようとしている? 予測が付かぬその未知への緊張は、なのは自身にも後戻りが出来ぬような予感を抱かせる。 或いは、桐生水守がその言葉の続きを言わなかったならば。 或いは、それ以前に彼女がこちらへと疑問を問い質すようなことをしていなければ。 或いは、彼女がそのようなことを知り得なかったならば。 或いは、彼女と出会ってさえいなかったならば。 高町なのはがこの後にこの大地で取ろうとする選択は違ったものになっていたかも知れない。 ソレは或いは、後の彼女自身の運命すらもまったく変わったものともなっていたことだろう。 けれど彼女たちは出会い、 「―――ですが、貴女たちはアルター使いでもない。それだけは、私が知っている確かなことです」 そして桐生水守はその言葉を言ってしまった。 思いもがけぬ真実を意外な相手から指摘された当人たる高町なのはは――― 気づいた時には退路は全て塞がれていた。 「カズくん、今日こそ一緒に牧場の仕事に行ってもらうからね!」 その要求を突きつけてくる少女の言葉に、残念ながら逃げ道が無い事を遅すぎるこの時点で漸くに理解できた。 「分かった、分かったから服を引っ張るんじゃねえよ。何処にも逃げやしないからよ」 故に仕方ないのでそう言いながらやれやれと言った様子も顕に、カズマは服の袖を引っ張ってくる由詑かなみに対して諦めたかのようにそう告げた。 実際、今日ばかりは逃げられそうにも無い。いつも以上に必死になってこちらを連れて行こうとするかなみの姿を見ては、カズマも力づくには引き離せない。 むしろそんなことをすれば後が怖い。牧場のおばちゃんたちに受けの良いかなみを哀しませれば、彼女たちに何を言われるか分かったものではなかった。 マトモに働くなど本来ならばゴメンだし、そういうのには本当に向いていないと自分自身でも自覚しているカズマとて、今日ばかりは諦めて労働に従事する以外にないようだ。 「………本当? また途中で抜け出して仕事サボったりしない?」 前科のある身としてはいまいち信用されていないようで、実際カズマも今回もまた隙を窺い逃げ出す心算だったので釘を刺されただけなのだが、その言葉に対しても慌てて否定を示す。 「サボらない、抜け出さない。………ちゃんと今日は真面目に働くって」 そう言ったのだが、やはり彼女からすればそんな言葉もいまいち信用にかけているようだった。 「約束だよ。もう米も野菜も残り少ないんだから、ちゃんと働かないと食べる物もなくなっちゃうんだよ」 まるで幼子に言いきかせる母親のような口調で何度も牧場までの道すがらでそう言われ続けた。 それに精神的にウンザリしながらも、この時漸くに己がいかに傍から見れば甲斐性無しのロクデナシかがカズマ本人にも少し自覚でき始めていた。 「お疲れ様。皆、今日の任務もしっかりこなせたみたいだね」 桐生水守との密談を終え、六課に手配された仕事部屋へと戻ってきたなのはは、そこで丁度任務から戻ってきた部隊の連中へとそう労いの言葉をかけた。 自分は調べ物の都合で一緒には行けなかったが、合流してくれたヴィータに任務の同行は任せていたのだが、どうやら上手く事は運べたらしい。 上がってきた報告にも問題らしい問題も無い。これならばそのままジグマールへと報告書を提出しても問題はなさそうだった。 「まぁ、あたしも貴重な体験をさせてもらえたしな」 そう言ってデスクの椅子の背凭れへと体重を預けているのは副隊長のヴィータだ。着任早々の戦闘任務を問題なくこなした彼女は、アルターという能力に直に触れてみてやはり自分同様に思うところがあるようなのは直ぐに察することが出来た。 「ヴィータちゃんもお疲れ様。未知の能力との初戦闘、大変だったでしょ」 「別に。あたしがやったのはお前らが戦った奴とは比べられない程の三流だ。能力持ってても所詮は素人、間違っても後れを取るような相手じゃねえよ」 慢心ではなく自負、そして厳然たる事実としてヴィータはなのはの労いにそう本音を応えた。 管理局員として、夜天の守護騎士として、数多の歳月を数え切れない戦場で費やしてきた彼女にしてみれば、どのような特殊能力を持っていようが、訓練もマトモに積んでいない相手は素人と大差ない。負ける要素がそもそも存在していない。 それに管理局の高ランク魔導師の看板を背負わされている以上は、管理外世界の未知の相手といえどもそう易々と後れを取ることはメンツに関わる問題だ。 だからこそ、抑止力という観点から鑑みても素人の犯罪者相手に自分たちが負ける事は許されない。 「………まぁ、それに堂々と喧嘩を吹っ掛けてきてくれる相手がいるみたいだけど」 言うまでも無くそれが誰かを彼女は口にしない。口にせずとも自分も相手も分かっているからだ。 その当人………NP3228ことカズマという男の脅威性を。 「ヴィータちゃん。私たちは喧嘩をしにこの世界に来てるわけじゃないんだよ」 そのヴィータの様子から彼女が今何を考えているのか、その凡そを長い付き合いから察することの出来たなのはは嗜める様に言葉を選んで彼女へと告げる。 ………尤も、 「分かってるさ。でも向こうが売ってくるってんなら、買わないわけにもいかねえだろ?」 犬歯を剥き出しにする様な好戦的な態度で言ってくる彼女は、なのはが普段知っているものとは大きくかけ離れたものだ。 確かに守護騎士という闘争の世界で長い間生きていた彼女が、彼女たちを束ねる将と差異はあれども強敵を見つけたならば、それに興味を抱き戦いを望もうとしても可笑しなものではない。 だがここまで露骨に、それもまだ直接出会ってもいない相手をここまで意識しているというのは例に無いことだ。 その理由がなのはには分からず、それ故に少し不安にもなる。 なのは個人の見解としては、出来ればカズマとはもう二度と争いたいとは思わない。まぁ再度の激突の回避は天文学的に見ても不可能な数値であることは彼女自身にも予想が出来てはいたが、出来うるならば争いではない別の道を彼とは選び取って行きたいというのが本音だ。 しかしヴィータはそれを望んでいない。それこそ彼との正面からの激突を、そして打倒を望んでいるのは明らかだ。 彼女の強さも、そして先の戦闘でカズマの強さも身を持って知っているなのはは、出来るならば両者の激突だけは避けて欲しいところだ。ただでは済まなくなるのは目に見えて明らかなのだから。 「ヴィータちゃん、くれぐれも勝手な行動だけは………しちゃ駄目だからね」 本来ならば彼女に向かって言うべきような言葉ですらないはずだ。 けれど一応は此処で釘を刺しておかないと、後々に面倒な事が起こる原因ともなりかねなかった。故に放置できず、こうして釘を刺した。 それが皮肉にも両者の関係と対応の態度からか、傍から見ていてもそれは娘に言いきかせる母親の様子に見えなくも無かった。 なのはに対してヴィータはそういう意識は持ち合わせていない。だが何分に古い付き合いの親友の言葉である以上、悪し様には振り払えずに彼女はそれを渋々とはいえ聞き入れるしかない。 皮肉にも、それが同時刻において、自分が拘り始めている男と極めて同じ立場であるという事実を、彼女は知る由もなかった。 やはり性に合わねえ。 それが大工仕事を始めて三分でカズマが抱いた結論だった。 やはりサボるか………そんな誘惑に早々に屈しかけているが、それを早過ぎると取るか、三分はよく我慢したものだと感心するかは、カズマと言う人間を知っている者で違うことだろう。 「こらボウズッ! 何モタモタしてやがんだ! さっさと木材運んで来い!」 そんな葛藤を抱いていることなど知る由もなく、大工仕事の親方から飛んで来た怒鳴り声にカズマは慌てて木材を担ぎなおして走り出す。 金さえ積めば何でもやる、アルター使い“シェルブリット”のカズマの今の現状には自分自身でも呆れを抱いてもいた。 こんな所で二束三文の金を稼ぐためにおっさん連中に顎で扱き使われるより、よほどホーリー相手にドンパチやらかす方が彼自身にとっても有意義だと感じられる。 それでもこの場で我慢して、あえてこうして扱き使われているのに甘んじているのは、かなみの為でもあった。 何だかんだと言いながらも、カズマはかなみに対して甘い。自分に頼らず(甲斐性無しのロクデナシだが)独りで生きていけるように普段から接するように心がけている心算だが、彼女が悲しい顔をする度に胸の奥が痛み苛立って仕方が無くなる。 ここで我慢もせずにおっさん連中を殴り倒すだとか、仕事をフケるだとかすれば、それはもう間違いなくそういう顔をするはずだ。 それを見たくない、それに弱いカズマはだからこそこうして真っ当な労働に現在甘んじているわけなのだが……… (………本当に、調子が狂うったらありゃしねえ) 言いようのない苛立ちから感情に任せて力任せに釘を目掛けて金槌を振るう。 「嬢ちゃんだって頑張って働いてんだ。オメエもちゃんと働いて、オメエが養ってやらなきゃいけねえんだぞ、分かってるか」 気楽におっさんの一人がそういうと共に、回りのおっさんたちも似たような事を何だかんだと口出ししてくる。 正直、ほっとけと言ってやりたいがここら辺りのおっさんおばちゃん連中にはかなみが世話になっていることからも頭が上がらない。 だからこそ甘んじて聞いているのだが、余計なお世話であり実に鬱陶しくもある。 益々溜まっていく苛立ちに任せて金槌を振り下ろす………がそれは釘ではなく指を思いきり強打してしまった。 絶叫が晴天の青空の下に響き渡る。 やはり普通に仕事するのなんざ性に合わねえ、とつくづく実感するカズマだった。 差し出されたサンドイッチを口に運ぶ。 「………どう、かな?」 傍らで固唾を呑んで感想を待つ少女に、彼はハッキリと現実を分からせる為に告げた。 「不味い」 ストレートなその感想に、少女―――由詑かなみは「うぅ」と悔しそうに呻いて俯いてしまった。 実際はかなみの料理はそこまで不味いわけではない。むしろ世間一般的なレベルで言えば充分に美味いほうだ。 しかしカズマの味覚には合わないのか、彼はいつも少女の手料理を不味いと評する。 それが悔しいのだろう、彼女はその度に躍起になって今度こそ彼に美味いと言わせるべく料理に対して研鑽を欠かさない。 恐らくソレは、第三者が傍から見た光景とすれば実に微笑ましいものとして映っていることなのだろう。 何だかんだと不味いと言いながらも、カズマは彼女が作ってくれたサンドイッチを残さず全て食べる。 それが一応嬉しかったのだろう、少女は上機嫌な様子で空になった弁当箱を回収すると間もなく終わる昼休憩の時間を察して、仕事場へと戻っていく。 去り際に、 「カズくん、昼からもサボっちゃ駄目だからね」 念を押すようにそんな言葉を残していきながら。 やれやれと溜め息を吐きながら、カズマは木陰で寝転がり、空を見上げる。 雲一つ無い、憎らしいほどの晴れ晴れとした青空。鳥たちが我が物顔で己が領分とばかりに翼を広げて飛んでいるのも見える。 「………サボんな、か」 昼休憩は間もなく終わる。昼からも扱き使われることが確定している為、さっさと持ち場に戻っていなければおっさん連中からどやされるのは分かりきっていたことなのだが、どうにも動く気になれない。 かなみ直々に釘を刺されている以上、サボるわけにはいかない。それは理解している。 だが――― ………やっぱ、合わねえんだよな。 今日一日、といっても午前中に過ぎないが、カズマがマトモに働いてみて思った感想はそれしかなかった。 かなみが望んでいる普通の生活とやらからは切り離せない普通に働くこと。アルター能力の一切を用いず、ただ普通の人間に出来る事をする。 戦いはなく、ひりつく様な緊張も、身を裂くような痛みも無い。そんなものを経験せずとも金をもらえる。 普通ならば、それこそ皆が皆喜んで選ぶであろう道。 そう、普通ならば……… だが合わない。どうしようもないくらいに。 ムシャクシャする程にしっくりこない。 何故か?………そんなの決まってる。 ―――結局の所、やはりカズマはカズマでしかない。 骨の髄までアルター使い。これと己はもはや切っても切り離せない。 ロストグラウンドなんて荒地で生まれて十六年。親の顔もマトモな本名すらも知らぬまま、ただ只管に生き抜いてきた。 生きるためには何だってやった。奪い、傷つけ、そして壊す。 裏切りだって何度も喰らってきた。同じ穴の狢同士だ、生き残るためだからそれに文句を言う心算は無い。 それがこの大地だ、ロストグラウンドだ、カズマが生きてきた世界だ。 それは今も変わっていないはず。ガキの頃に比べれば、確かに治安は少しはマシになっている。けれど生きている世界も、そこのルールも変わっていない。 俺はそんな世界で生き続けるって決めたはずだ。誰にも頼らず、己の拳だけで、奪い、勝ち取り、そして守ると……… だって言うのにどうだ? この体たらく、これが“シェルブリット”のカズマか? 小娘のオママゴトに付き合って、下げたくもねえ頭下げて、自慢の拳を振るう機会も無く、せこせこと金を稼ぐ……… 「………なら、やめちまえばいい」 嫌ならやめればそれでいい。己を縛るものなど何も無い。この身は自由なのだから、窮屈な場所だというのなら、此処を出て行き、何処か別の場所で再び根を下ろせばいい。 このロストグラウンドにいる限り、ホーリーの相手は何処でだって出来る。 あの少女に付き合うのが苦痛なら、捨ててしまえばそれでいい。小娘一人どうなろうがそれこそ知ったことではないはずだ。 悩む必要も迷う必要も無い。今まで散々好き勝手に生きてきて、またこれからもそうやって生き続けるんだ。 ならば荷物になるものなど、全て捨ててしまえば――― 「―――なわけあるかってんだ」 一瞬でも考えてしまった、そんな思考を振り払いながらカズマは先の呟きを打ち消すように強く言葉を発していた。 ああそうさ、好きに生きてきたさ。これからだって好きに生きるさ。 好きで背負って、好きで守ってんだ。これは好きで選んだやり方だ。 だから違えない、守る。最後まで、拳を握れなくなるまで。 俺はこのやり方を、この生き方を続ける。 別に真っ当に生きようというわけでもない。アルター使いであることもやめる心算は無い。 ただ此処を出て行く心算も、かなみを捨てていく心算もないだけ。 ただ今まで通りの生活を、不満と文句を垂れながらも続ける。 ただそれだけのことだ。 我が儘かい? 我が儘だな。だが仕方ねえ。俺に関わってる連中には、そうやって付き合ってもらうしかねえ。 ………本当に、昔に比べれば少し丸くなったのかもしれない。 本人は絶対に認めたがらない事実ではあったが。 さて、本当にそろそろ戻らないとどやされる。 昼からも扱き使われる事にウンザリしながらも、カズマはかなみとの約束を守るべく、木陰で寝転がっていた状態から身を起こし――― 或いは、ソレさえ見つけなければ、約束は破らずにすんだ。 ソレさえ………アイツさえ、偶々向けた視線の先で見つけなければ。 どうしてアイツが此処にいるのか、そんな疑問は当然ある。 だがそんなものは些細なものだ、一々気にしてたらキリがない。 何が目的で、何を企んでいるか、そんなことはもはやどうでもいい。 ただ……… ただ――― 「―――面ァ拝んじまったんだ。見逃せるわけがねえ」 悪い。すまねえ。許せ。 最後に一度、胸中でかなみにそう謝りながら、カズマは躊躇うことなく駆け出す。 仕事場とは逆方向、偶然見つけたアイツ―――あの本土のアルター使いの姿を追いかけて。 もうその時点で、既に彼の表情はアルター使いのソレへと変わっていた。 高町なのはが単独でインナーの暮らす街へと赴いたのは、表向きは調査という名目だった。 だが実際は、この大地で生きている大多数の人たちの生活を良く見て知りたいと言う欲求からきた行動だったのも確かだ。 都市部で生活している限られた人たちとは違う、この大地で本当の意味で生きている住人たち。 彼らがどのように生き、そして生活しているのか。 何を信じ、何を笑い、何を悲しみ、何を糧に。 この大地で生きているのか、ただそれだけが知りたかった。 だから彼女は此処に来た。空の上から見下ろすのではなく、己の足でこの大地を踏みしめ、歩いてそれを見るために。 空に上らなければ見えないものはある。だが逆に、地に足を着けてみなければ見えないものもある。 この失われた大地で出来る事を見つけるためには、その両方が必要だ。 そう考えたからこそ、高町なのははソレを実行して此処にいるのだ。 流石に六課の制服では目立つので、当然ながらインナーに溶け込めるような服装を選んで身に着けていたが、それでも人混みに混じろうと彼女が何処か浮いた存在であるのが傍目に見ても明らかだった。 当然だろう、外見だけ取り繕ったところで彼女は実際にこの大地で生きている者ではない。言うなれば、この大地の生活に馴染んでいない、他所から来たという雰囲気をどうしても隠し切れないのだ。 コレは何も彼女が責められる事では無い。余所者が他所の土地で受ける異質感、己のテリトリーの外側に存在する齟齬、それをこの大地に来て日の浅い彼女が埋めようとしたところで埋まらないのは仕方の無いことだ。 「………でも、これじゃ失敗だね」 やれやれと己が失敗を悟り、なのはは残念そうに溜め息を漏らす。 これではろくな調査はおろか、警戒されてマトモなコミュニケーションすら現地のインナーと取れそうに無い。 明らかに遠巻きに警戒されながら見られていても、この事態に進展は無い。 どうやら出直した方が賢明のようだ。次なる課題はどうしたらインナー間に溶け込めるかどうかということになるだろう。 だがこれはある意味で最大の課題であるのかもしれない。 アルター能力を調べるのと同じくらい、なのははこのロストグラウンドで人々に何かをしてあげたいという思いが強い。 それは先にあったある出来事とも関係して、顕著にもなってきていた。 だが調査と違い、こちらの目的はこうも彼らとの間に溝が深いままではどうしようもない。 まさに異文化の壁、此処でそんなものに遭遇しようとは予想外だった。 「………先はまだまだ長そうだね」 だが諦めない、必ずこの溝だって埋めて見せよう。 確かに大人になって諦めの分別も付けるようになったが、それでも相も変わらず一般の定義よりも彼女の諦めは悪い。 何よりも、この問題を諦めるべきレベルだと彼女自身が捉えていないという理由も大きかった。 故に、この場は戦略的撤退もやむを得ないが、次こそはもっとインナーの人々と歩み寄って見せると決意しながら踵を返し、 「―――よう、また会ったな」 そう言いながら不敵に笑う反逆者に出会った。 目次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3108.html 前へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3154.html 次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3155.html
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名前 メガマンモス 種族 お山の大将 年齢 18 肌色 黒人 身長 テラマンモスくらい(53cm) 体重 227g スリーサイズ B 31 W 12 H 35 特徴 シェリアの通う学校の保護者会会長 モンスター総書記 山界を総べる大将で姫川友紀の部下 髪型 ショート 髪色 白 性格 ツンデレ 一人称 私 口癖 早く寝なさい 性癖 レズ CV 早見沙織 正体 白人 判定 C 作られたスレ109( http //hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1492694807/ ) 110( http //hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1492700203/ )
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リリカルなのは Iron Outolow Zero’s byゼミルさん リリカルなのは Iron Outolow Zero’s http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2531 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 1話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2538 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 2話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2544 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 3話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2551 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 4話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2559 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 5話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2577 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 6話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2585 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 7話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2592 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 8話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2600 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 9話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2610 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 10話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2615 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 11話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2628 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 12話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2639 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 13話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2650 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 14話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2663 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 15話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2668 リリカルなのは Iron Outolow Zero’s 16話 http //www16.atpages.jp/darkten/cgi-bin/patio/patio10.cgi?mode=view no=2674
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別に……別に、目の前の相手を恨んでいるわけじゃない。 違う出会い方をしていれば、進むべき道が違っていたならばこうはならなかったのかもしれない。 けれど、現実に私と彼はこうして出会い、こうして違う道を歩んできた。 この道は交わらないのかもしれない。同じゴールを目指せないのかもしれない。 差し出した手は取ってもらえず、かける言葉も届いてはくれない。 ……けれど、それでも――― 知ってしまった。彼の本当の思いを、悲しみを。 聞いてしまった。少女の儚い願いを、奇跡を願うその祈りを。 ……だから、私は諦めない。絶対に諦めきれない。 十年前に手に入れた魔法の力は、今歩むと決めたこの道はこんな時の為にあるのだから。 だからカズマ君、私は君を絶対に――――助けてみせる。 いつだって全力で、一秒でも早く不幸な悲しみを終わらせるその為に……… 魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed―――始まります。 魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed 第8話 なまえをよんで 遠雷が鳴り響く音が耳へと木霊してくる。 天は厚い雲に覆われ、日の光は隠れ、この大地を闇へと染めていた。 高町なのはは荒れ果て、様相を更なる過酷な形状へと変貌を遂げた眼下の大地を見下ろしながら痛ましげな表情を隠しきれてはいなかった。 「……とりあえず、揺れも収まったみたいだし下に降りようか」 自分が抱きかかえている教え子たるスバル・ナカジマへとそう告げながら、けれど言葉とは裏腹に警戒を崩さぬようにしながらなのははゆっくりと下降していく。 「……何か、四年前を思い出しちゃうよね」 重苦しい沈黙を嫌ったのか、下降していく最中、なのはは己が腕で抱きとめているスバルへと苦笑を向けながらそう告げる。 思い出すのは四年前、ミッドチルダ臨海第8空港で起こった火災事件。 あの時に二人は出会い、こうして気づけば同じ道を歩んでいるのだ。 思い返してみても数奇な縁だとなのはは思う。昔を懐かしむなどと言う年寄り染みた感慨を抱くにはまだまだ早すぎる年齢だと自分自身でも自負しているはずなのに、あの時の事をどうして懐かしく鮮明に思い返してしまったのだろうか。 その理由は、恐らく…… 「……スバルは本当に大きくなったね。それに……見違えるほどに強くなった」 炎の中で一人取り残され、泣いているだけだった無力な少女。 民間人の一人として救助しただけだったというのに、気づいてみれば彼女は自分などに物好きにも憧れ、目標として目指してくれていた。 嬉しかった。素直に、そう思うことがなのはには出来た。 戦う以外に能の無い、時よりその事に虚しさに似たものを感じることもあったなのはにとって、それでも自分などに憧れ、価値を見出し付いて来てくれたという事は自分のやってきたことにも少なからずの意味は有ったのだと実感することが出来嬉しかった。 だからこそ、教導官としての仕事にも誇りを持ててこれたし、彼女たちを鍛え上げることにも全力を注げてこれた。 ……私は、間違ってはいなかった。 恐らく、その実感と安心が自分は欲しかったのだろうなとなのはは思った。 だがそれもなのは側の思いであり、考えに過ぎない。 今のスバルにとって、なのはの言葉は他の何よりも重く、相応しくなど無かった。 それがスバル自身にも痛いほどに分かっていた。 だからこそ――― 「……違い……ます……ッ……あたしは、強くなんて―――」 ―――強くなんて、なれてない! そう涙と共に激しく頭を振るスバルの様相になのはは驚いた。 あまりにもいつものスバルらしくない様子に、これまでの連絡の途絶していた経緯もある。 ……何かがあった。彼女を……あの天真爛漫で力強かったスバルを変えてしまうような何かがあったのだ。 愛弟子の変化を確認すると共に、それを即座になのはは悟った。 彼女はてっきりエマージー・マクスフェルの件を引き摺っているのだとばかり思っていたのだが、それだけではどうやらないようだ。 「……スバル、何かあったの?」 まるで四年前のあの時に立ち戻ってしまったような少女を前に、一瞬戸惑いを見せかけたなのはだったが、即座にそれを押さえ込み、意を決してそう尋ねていた。 救わなければならない、そう思ったから。 今、スバル・ナカジマは高町なのはの助けを必要としている。 本当に自分でいいのか、自分で助けられるのかは分からない。 だがスバルは現実として今自分に助けを求めていて、そして目の前には自分しかいない。 この愛弟子もまた、なのはにとっては大切な存在の一人でもある。見捨てるわけになどいかない。 師として、先達として、そして一人の人間としてそう思ったからこそなのははスバルから今思っていることを聞き出し始めた。 微力だろうとも、彼女の迷いを、立ちはだかった目の前の壁を乗り越えられる一助となる為に……… 「……そう、そんなことが」 大地の上へと降りてきてスバルから聞き出したこれまでの経緯と事情、吐いてしまったという嘘と犯してしまったという罪、そして後悔と無力の念。 決して軽々しくなのはも扱うことの出来ない辛いスバルの経験には思うところが色々とあった。 ―――君島邦彦。 またしても狂騒の渦中の原因ともなった一人の男の死。 それに直接的にスバルまで関わっていたというのは正直に驚きでもある。 自分を無力な罪人、許されざる嘘つきだと責め続けているスバルの姿はなのはにとっても痛々しすぎる。 彼女は背負ってしまったのだ。一人の人間の人生、その末路に選んだ選択の結果を。 今まで自分が教え込んできた価値観とも相反するからこそ、否定することも無碍にすることも出来ず、彼女は苦しんでいる。 スバル・ナカジマを苦しみに縛り付けている原因の一端となっているのは、間違いなく己なのだろうとなのはは自覚した。 自分が教えた価値観や自論が全て過ちだったとは思わない。だが現実として教え、信じ込ませたものによって教え子が苦しんでいる。 ならば彼女を助けるのは、やはり自分の役目であり責任なのだろう。そう改めてなのはは思い直す。 自分はシャマルのように傷を癒してやることも出来なければ、フェイトのように際限も無く惜しみない愛や優しさを与え続けてやることも出来ない。 だから飾った言葉で筋道を通した弁論で彼女を納得させてやれる自信だってない。 出来るのは、心から思った、魂で感じた、裏打ちの無い建前を排した本音だけだ。 ……そんな言葉で、この少女を救うことは出来るのだろうか? 自信が無い……そう正直に思った考えをなのはは慌てて打ち払い否定する。 自信が無いでは済まされない。言い訳で逃げることは許されない。 それはスバルを侮辱し、蔑ろにすることも同じだと思ったからこそ、真っ直ぐに彼女と向き合うことをなのはは決めた。 「……それでも、それでもスバルは無力じゃないよ」 そう出来るだけ優しく告げながら、なのははスバルへと手を伸ばしその頭を優しく撫でる。 「……確かに、君島くんは亡くなって、スバルはその命を救えなかった……そう思っているのかもしれない。けどね、それでもスバルが救い、護ったものはちゃんとあるんだよ」 なのはの告げるその言葉に、スバルは目を見開いて驚きながらその言葉の意味を問いかけてくる。 「……あたしが、護れたもの………?」 「うん。スバルはね―――君島くんが生きた証、貫き通した人生を嘘にはさせなかった。彼がこの大地で生き抜いた意味、カズマ君の相棒としてやり遂げた誇りをちゃんと護ったんだよ」 確かに、命に勝るものは無い。 どんな時でも、最後まで諦めず、生き抜く覚悟を持ち続けることこそが、無茶をせずに無事に乗り切ることが大事だと言うのは変わらない。 「……それでも、無茶を通さなきゃならない場面って言うのは確かにある。君島くんにとって、スバルに望みを託したその時がきっとそうだったんだと思う」 酷い矛盾だ、それを承知の上でなのは自身も今までの言葉とは裏腹にやってきた無茶の数々を思い返して改めてそう思う。 けれど、そんな矛盾もまたあることを、受け入れるべき時があることも必要だとは思っていた。 普通であるならばそれは必要ない。けれどどうしようもない異常を前にした時は、そんな無茶を通す覚悟も必要になる。 ……出来れば、スバルたちにはそんな時が無い事を祈りながら、だからこそそうならないことを前提とした覚悟を持った強さを持って欲しかった。 死ぬ事を覚悟することより、生き抜くことを覚悟する方がずっと難しい。 けれど難しくとも、教え子たちにはその覚悟を抱き続けて欲しかったのだ。 「……スバルはね、それを聞き届けた。君島くんの願いを、誇りを嘘にしないために護った……ううん、今だって護り続けてるんだよね」 スバル・ナカジマは君島邦彦という男の人生を背負った。 だからこそ、それが途轍もなく重く感じ、苦しんでいるのだろう。 けれど――― 「……でもね、スバル以外にはもう君島くんの貫いた誇りを、人生の意味を背負うことは出来ない。誰かが支えてくれることは出来る……けど、誰かが代わりに背負うことは出来ないの」 自分自身でも酷い事を言っているとは思う。教え子に十字架を背負わせている事とこれは何ら変わらない事なのだろう。 これでは根本的な救いにはならないのかもしれない。だがそれでも…… 「それはスバル自身の背負ったものだから……苦しくても、重たくても、背負うならスバルが背負い続けなきゃならない」 ……私が代わりに背負ってあげることも出来ない。 直前まで出かけたその言葉をなのはは無理矢理飲み込んだ。 恨まれるのを覚悟で、失望されるのも承知の上で。 それでも、その言葉を言ってしまえばそれは当人たちへの侮辱になると思ったから。 心を刃で殺し、そうして出来るだけ自然に表面上は平静を保ちながらスバルへと告げる。 「……でもね、スバル。背負い続けることはスバルにしか出来ないけど、無理して背負い続ける事だってないのも確かだよ」 君島邦彦は最後まで生き抜いた。 それをスバルは見届け、証明した。本来ならば、それだけでいい。 その時点だけで、恐らく君島だって満足しているはずだ。 だからこそ、それ以上に続ける必要だって無い。 背負い続けるのが辛いなら、憶えていることが辛いなら。 「忘れてしまう事だって逃げじゃない。許されることだと私は思うよ」 或いは、それを本当は君島だって望んでいたのかもしれない。 ここでスバルが背負ってきたものを降ろしてしまっても、誰も彼女を責めはしない。 ……いいや、責める者がいたとしても自分がスバルを護る。 不器用にも、こんな形でしか救いを提示してやれないなのはにとってそれが最低限の責任であるとも思っていた。 だから、辛いなら忘れてしまってもいい。簡単なことでは無いし、後味の悪く思うことになってしまっても、いずれは時間の経過がそれすらも救ってくれる。 だからこそ、選ぶのは自由だ。 「どの選択を選んでも、誰もスバルを責めないし、私だって受け入れる。だから選ぶのはスバルの自由だよ」 背負ったものを背負い続けて、信念を通して苦しみもまた背負うか。 背負ったものを降ろし、忘れてしまい安息を得るか。 その選択を残酷かもしれないが、なのははスバルへと提示する。 それが己に救いを求めてきた者へと正面から向き合う最低限の礼儀として。 背負い続けるのか、それとも降ろしてしまうのか。 どちらを選んでもいいとなのはは言った。 どちらを選ぼうとも自分を責める者はいないと彼女は言った。 でもだからこそスバルはその選択に迷う。 ……重い、苦しい、そして何よりも辛くて悲しい。 心に思う正直な本音を前にするならば、救いを求めてしまいたいとすら思う。 けれど、そう思う一方で――― 『……それじゃあ、スバルちゃん。本当にありがとう。それから――――ごめんな』 脳裏に過ぎるのは最後の君島の言葉と彼が浮かべていたその笑み。 思い出すたびに胸の内すら切なくなる彼の最後の姿。 なのはは言った。 自分は護ったのだと、護り続けているのだと。 君島邦彦という男が『生きた証』と人生を貫き通したその誇り。 他の誰でもなく、最後にスバルが願いを聞き入れ、そして受け取ったその意味。 ………それを、捨てる? ………嫌だ。 そう、スバルは正直に心の底から思う。 『出来ない』ではない『嫌』なのだ。 心の奥底にあるスバルの中で人間としての最も純粋な部分が、彼を恩人と慕っていたその想いが、それを否定させる。 彼の最後の思いを、その姿を忘れてしまうなど、嘘で誤魔化す以上に我慢ならない。 だってそうだろう。そうしてしまえば、あの時流した涙の意味はどうなる? 最後まで己と共にカズマの前で騙し続けた彼の最後の思いは、意地はどうなる? 捨ててしまえば、忘れてしまえば、それこそそれらを嘘にしてしまうことと何が違うというのだ。 だからこそ……嫌だとスバルは思ったのだ。 確かに心の内は重くて苦しく、そして辛くて悲しいままだ。 救われるなら救われたいとやはり思う。 けれど、この嫌だという思いを否定してまで救われようとは……思えない。 どんなに考えても、後悔し続けるのではないかと考え続けても、思えなかった。 ……ああ、そういうことなんだとスバル・ナカジマはふと思った。 ……あたしは、君島さんを救いたかったんだ。 改めて思うべきことでもないことを、けれど改めて違う意味で思い返す。 なのはは言ってくれた。自分は無力じゃないと。 護り続けているのだと、確かに救ったものがあるのだと。 そして君島にだって言われた言葉を思い出す。 『……そっか。魔法使いか……やっぱ凄いな、スバルちゃんは』 全然凄くなんてないのに、本当に凄い人からそう言われた。 スバル・ナカジマは高町なのはのようになりたかった。 強く、優しく、どんな状況でも、必ず助けてくれる不屈の魔法使いに。 四年前から抱き続け、今まで目指し続けてきたその憧れ。 けれど君島邦彦を死なせてしまったその時に、もう彼女のようにはなれないのだと、そんな資格は失ったのだと無力感と共に絶望した。 だからこそ、信じてきた道を見失い、迷い、原点へと戻りたかった。 そうして、救いという名のやり直しを望み、憧れの原点へと立ち戻り、その憧れの対象を前に気づかされた。 ………だからこそ、もう一度、もう一度だけ憧れの彼女へと訊きたかった。 「……なのはさん」 「うん? なにスバル?」 首を傾げそうこちらを促がしてくる憧れの人へとスバルは勇気を胸にその言葉を、願いを問う。 「あたしは……まだ……まだ、なのはさんみたいに―――――なれますか?」 もう一度、あなたを目指しても良いんでしょうかとスバルはなのはへと尋ねる。 スバルのその問いが思ってもみなかったものだったのか、なのはは驚いたように目を見開きながら、やがて納得と共に一度だけ目を閉じ、そして小さく頷いた。 そしてスバルの胸の前に握った拳を向けながら、当然のような表情を浮かべてはっきりと言ってくれた。 「勿論―――なれるよ。……ううん、それどころかスバルに……スバルたちの胸に不屈の想いがあり続ける限り、いくらだって強くなれるよ。私を……私たちを並び超えていくことがいつかきっと出来る」 それをずっと信じて、待っているのだとなのはは言ってくれた。 その言葉が聞けただけで、もう充分だった。 その言葉だけでも支えになる、彼の最後を背負い続けていけるその支えに。 だから、スバルは決めた。 「なのはさん……あたし、背負い続けます」 ハッキリと彼女を真っ直ぐに見ながら迷うことなくスバルは告げた。 背負うと、背負い続けると。 重くとも、苦しくとも、辛くとも、悲しくとも。 それでも背負い続ける。絶対に投げ出したりしない。 高町なのはに憧れ、彼女を目指し続けるものとして。 君島邦彦が言ってくれた賞賛に応えられるだけの、背負うのに相応しい強さを得るために。 もう二度と、嘘に負けないために、逃げない為に。 スバル・ナカジマはその選択を覚悟を持って選び取った。 ハッキリとした強い決意を込めた瞳と言葉で、スバルはなのはにその選択の答を示して見せた。 なのははそれを誇りを持って受け入れた。 改めて思う……やはりこの娘は本当に強くなった、と。 真っ直ぐに、曲がらずに、力強く……そして何よりも優しく。 ……本当に、本当にそれを嬉しく思う。 こんな弟子を持つことが出来たこと。こんな弟子から憧れを抱かれ目標として目指し続けられているということ。 責任を持ってそれを重く受け止めながら―――故にこそ、逃げられないしその期待を裏切るような真似はしたくない。 彼女の師に相応しい……憧れを抱かれたに足る不屈のエースとして、自分はまた行動しなければならない。 だからこそ、再び彼と――― 「ラディカルグッドスピードッ! 脚部限定ッ!」 いきなり甲高いそんな叫びが響いてきたのと直後、岩盤を削るような音を上げながらこの場へと近付いてくる震動。 何事かとハッとなってなのはとスバルがその声が聞こえてきた方向へと振り向いた瞬間だった。 地が爆ぜ、旋風が巻き起こる。視認すらも困難極まる速度で瞬間的に発生したその現象の中から飛び出してきたのは一つの影。 「ふぅ~、何とか地面がマトモな場所まで到着……っと、あれ? なのかさん、それにヒバルも一緒ですか?」 「……クーガーさん?」 驚いたように目を見開きながら、何とかその突如現れた乱入者―――ストレイト・クーガーの名を呼ぶなのは。 最前の乱闘騒ぎ、その終盤に愛車を駆使して駆けつけた彼の存在は気づいていたが、先の大規模な再隆起現象のゴタゴタに流されてどうなってしまったか分からず、その安否を心配していたところだったのだが…… 「無事だったんですね……って、水守さんも!?」 「安心してください。気を失ってるだけですよ。いや~、それにしても流石にこんな荒地を人二人も背負って最速で駆け抜けるのは、さしもの俺でもきつかった」 そう言って疲れたように息を吐きながら、クーガーはその背負い担いでいた二人の人物……気を失っている桐生水守と橘あすかを地面へと丁寧に降ろした。 彼の状況と言動から察するに、先の非常事態の際、彼が二人を救助してくれたと言う事なのだろう。 空を飛べたなのはなら兎も角、あれだけ激しく揺れ動き、震動も凄まじく危険としか言い様のない状況の中で、咄嗟によく人間二人も救助できたものだと驚愕を抱くと共に、素直に感謝してもいた。 「……ありがとうございます。クーガーさん」 「いえ、みのりさんにしてもコイツにしても死なすわけにもいかないですからね。ホーリーとして当然の事をしただけですよ……ただ」 そう一度区切りながら無念そうな表情で口篭るクーガーの姿を見て、なのははどうしたのだろうと思いながらも、直ぐに違和感に気づいた。 クーガーが助けたのは桐生水守と橘あすかの二人。……だが思い返してみれば、あの場にはもう一人、そうなのはも良く知っている人物が居たはずなのだ。 「―――かなみちゃん!?」 何故直ぐに思い出せなかったのか、その信じられないような己の迂闊さに彼女が居ないという事実と共に顔を青褪めさせながら、なのははあの少女の名を叫んでいた。 「……ええ、あの少女のことでしょう? どうにもカズヤの奴の所に駆け寄ろうとあの瞬間に飛び出していったみたいで、二人を助けるのに精一杯で止める事が出来ませんでした」 俺としたことが速さが足りなかった! そう悔しげに唸るクーガー。その姿は少女を止められなかったことへの事実に対して己の無力さに苛立ちを抱いているかのようでもあった。 しかしクーガーを責めることは出来ないだろう。むしろ彼はあれだけの事態の中でこれだけの事を良くやってくれたと逆に評価されても然るべき。 一時的な感情に流され、事態を悪化させる引鉄の要因ともなってしまった己とは違うとなのはは思っていた。 「……とりあえず、もうちょっとだけ休んで体力を取り戻したら付近を探して―――」 ―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!! そう続きを言おうとしていたクーガーであったが、直後に響いたその獣の咆哮のような叫び声に掻き消される。 「―――!? この声は………!?」 「―――カズヤ、でしょうね」 なのはが戦慄と共に呟く答を引き継ぐようにクーガーがその名前(間違っているが)を提示する。 今の叫び声……間違いない、どう考えてもあの咆哮を上げているのは彼だ。 “シェルブリット”のカズマ……この事態を引き起こした張本人の片割れ。 あの光の中へと消えていったと思ったのだが、無事だったのだろうか。 驚きと同時にしかし何処かホッとした安堵も抱きながら、けれどそれでもなのはの胸中を埋め尽くすのは不安であり恐怖だ。 先の叫び……自分や劉鳳と戦っていた時と変わらない、否、あれすらも凌駕するような叫び声。 それに恐らくは此処からかなり離れているはずなのに、それでも肌が粟立つように感じずにはいられない凄まじいプレッシャー。 行き場の無い憤怒、際限のない憎悪……そして、餓えた闘争本能。 間違いなく、未だ健在にカズマはそれを発し続けている。 恐らく、頭を冷やすどころか益々前以上に燃え上がり猛り狂っているのだろう。 「……カズマ君」 「……やれやれ、あの馬鹿も世話を焼かしやがって」 おちおち休んでる暇もありはしない、そんな愚痴を零しながらクーガーは座っていた岩から立ち上がる。 そして真っ直ぐ、先の咆哮が聞こえてきた方角を見据えながら呟く。 「……傷を負った獣は自身の痛みしか見えない――まさに今のアイツを表した言葉だな」 本当に世話を焼かしやがる、溜め息と共に呟かれた言葉はしかし同時にある種の覚悟をも同時に抱いていたことは向けられた視線からなのはもまた感じ取っていた。 「すいません、なのかさん。……どうやら、あの馬鹿をほったらかしにしとくことは出来そうにないんで、ちょっくら行って来ます」 かつて僅かな時間とはいえ共に時を過ごし、この大地での生き方と戦う術を教えた者としての責任が、兄貴分としての弟分を放っておけないその意志をクーガーは止められそうになかった。 だからこそ行って止めてこなければならない。これ以上にあの馬鹿が暴れ回ってはそれこそ色々なものが手遅れになりかねない。この大地の未来を憂う者の一人としても、それは看過できるものではなかった。 「ですから本当に悪いんですが、あの少女の捜索はなのかさんが代わりに――」 「――そんな! 危険すぎます!」 やってくれませんか、その頼みの言葉は結びを終えるその前に割って入ってきたスバルの制止の声に打ち消される。 やれやれと言った様子も顕にしながらこちらを引き止めるように前へと立ち塞がるスバルにクーガーは言い聞かすように言葉をかける。 「おいおいヒバル、俺を甘く見るなよ。こう見えて、俺は結構強いぞ。……それにな、これはアイツの元兄貴分としても俺がやらなきゃならない事なんだよ」 「それでも危険です! いくらクーガーさんでも今のあの人を相手にするなんて」 下手をすれば……否、下手をせずともそれは恐らく命懸け。 先の怒れる復讐の獣と化していたカズマ……あの闘争の悪鬼の如き姿を目にしていれば尚更に。 加え、恐らくは劉鳳の力もあったのだろうが挙句の果てにはこの再隆起現象である。 現状では危険度など未知数……どれ程の強さも安全の目安になどなりはしない。 だからこそ、クーガーの言う実力云々はどうであれ、知り合いを危険地帯の中へと行かすなどそれこそ死にに行かせるようなものだ。 君島の件に一区切りをつけ、新たな決意を抱き直したスバル・ナカジマからすればこの必死な引止めもまた尚更のことである。 しかし少女のそんな危惧はどうであれ、クーガーもまたこればかりは譲れない……否、正確には現状に置いても自分しか適任がいないというのも事実なのだ。 シェリスは負傷、瓜核はシェリスを連れて撤退。残存しているホールドの部隊とてこの一大事にそれどころではないというのが現状であり、そもそもどれだけの部隊を引き連れてこようとも今のあの獣は止められない。 マーティン・ジグマール……彼にしてもこの非常時では動けないのも事実であり、そして何より彼はもう戦わせてはならないことを薄々であれどクーガーもまた気付いていた。 だからこそ自分、この瞬間、この場に置いて、彼を止めるだけの力を有し、そして戦えるのは自分だけだ。 損な役回り、命懸けではあるが文句を言ってもいられなければ、ましてや逃げ出すことなど自分自身が絶対に許しはしない。 ならば―― 「――クーガーさん、少し良いですか?」 強引な手法でスバルを退かしてでも行く、その覚悟を固めかけていたクーガーへとしかし次に言葉をかけてきたのは彼女ではなく高町なのはの方であった。 両者の口論を見守っていた彼女が口を開いたことに二人の注意もまた同時にそちらへと向く。 「何です? まさか貴女まで俺に行くなって言う心算じゃないですよね?」 甘い……否、優しすぎるお嬢さんたちは同時に頑固すぎて扱いにもまた困る。そんな辟易とした思いを胸中で抱きかけていたクーガーになのははハッキリとした口調で、その言葉を彼へと向かって告げてきた。 「私が、彼を止めに行きます」 ずっと考えていた。そして思ってもいた。 先の一件、取り返しのつかない事態へと発展してしまったこの現状への後悔と、力ばかりで彼へは決して届きはしなかった告げるべき言葉と伝えたい自分の想い。 まだ、まだ間に合うはずだ。否、間に合わせなければならない。この大地で固めた戦うべき目的と意志にかけてそれを諦めることなど断じて出来ない。 だからこそ、クーガーではなく自分が行く。そう決意を込めてクーガーへと彼女は告げたはずであった。 しかし―― 「冗談でしょう? 他の誰よりも貴女だけは行かせるわけにはいきませんよ」 ――相手から返ってきたのは、思ってもいなかった強く拒絶の意志を込めたその言葉。 クーガーの返答にそれこそ何故だとその表情にも顕にするなのは、そんな彼女にクーガーは今までにない真剣な口調でその理由を告げてきた。 「まぁハッキリ言ってしまえば―――なのかさん、あの馬鹿に貴女の声は届きません」 そう、決して届きはしないだろう。 その確信に近いモノがクーガーにはあった。だからこそ、なのはの為にも、そしてカズマの為にも、今の彼女を行かせてはならないとクーガーは判断したのだ。 「自分でももう気付いたんじゃないんですか? こうして派手にぶつかり合ってみて分かったでしょう。あの馬鹿には、貴女の伸ばす手を取ろうとする意思がない」 彼女の生き様、貫こうとするその意志を否定するわけでは決してない。クーガー個人の価値観から見ても、彼女の思い、その決意は大変美しくて素晴らしい。 素晴らしいのだが……だからこそ、逆に彼女の目指す理想はこの大地には美しすぎる。 綺麗事……あの反発心を形にしたかのような男に、自らの確信以外を決して信じず、省みることの無いあの男には、きっとそうにしか見えないはずだ。 だからこそ届かない。ただ障害と認識し、振り払うように歯牙にもかけずに進み続ける。そういう男なのだ、カズマというあの男は。 相性と言い換えても良いだろう。高町なのはとカズマ。高潔な理想を掲げる悠久の空を翔る翼持つ彼女と、我が道以外に何も無い、最低最悪の大地の上に君臨するしかない獣とでは相容れるべき妥協点からしても絶望的だ。 振り上げる拳、握り固めるソレしか知らないその手は、差し伸ばされる他者の手を掴むなどということはありえない。 このまま彼女を行かせても、その結果は覆るまい。きっと悲惨な結果、明確な拒絶による血みどろの争いの発展へしか道も無いはずだ。 だからこそ、そんなカズマに拒絶される彼女をクーガーは見たくなかった。そうして命懸けで傷つき、無駄にすらなりかねないリスクを彼女には負わせたくなかったのだ。 「貴女はここにいてください。みのりさんも居ます。今は彼女を守って彼女と一緒にいてください」 今、高町なのはがすべき事。その固めた決意、想いを確実に実現させる為に動くとするならば、関わるべきはカズマではなく桐生水守、そうクーガーは考えていた。 女子供の絵空事、稚拙なまでに青臭く、実現性に乏しい理想だが、その美しさに惚れ込み肩入れすることを決めた身としてはここで彼女には耐える事を選んで欲しかった。 危ない橋を渡るのは、命を懸けるのは男の役目。ここが所謂己自身の正念場だとクーガーもまた覚悟を決めての、それは促がしであり願いでもあったのだ。 しかし―― 「それでも……それでも、私に行かせて欲しいんです」 引き下がることも無く、ハッキリと目を逸らすことなく言ってくる彼女の言葉。 その告げる言葉、こちらを見据えるしっかりとした視線。それを見て故にこそクーガーは重い溜め息と共に思ってもいた。 やっぱり、そう言ってくると思ってました……と。 握った拳と握手は出来ない。 それは高町なのはから見て今の自分と彼の現状すらも如実に物語る言葉であった。 それを理解していたからこそクーガーもまた自分にそう言ってきたのだろうというのはなのはもまた分かっていた。 実際、その通りだ。四度に渡る交流の内二度の激突。総計しても己が望む想いがカズマへは繋がっていないこと、逆に亀裂を深めてしまったことは身に染みて理解している。 この想いは言葉は、彼へと届きはしない。差し出した手を彼が取ってくれることもない。 分かっている。……そんなことは今更言われなくとも十二分に承知の上だ。 だがそれでも―― 「それでも……それでも、私に行かせて欲しいんです」 無理なものは無理。どんなに頑張ろうとも結果的には不可能。そんなものはこの世の中、探してみればごまんとある。この選択肢が限られた大地の上では尚更に。 だがそれでも、結果的に無理な事が明らかだとしてもそれでもそれは諦めることとは違うと思う。 勝手な言い分だが、自身の確信を否定されるからと恐れていては、諦めていれば、それは何もしないこと、何も出来ないことと何ら変わらない。 そんなものは嫌だ。少なくとも、高町なのはにはそんな賢しらに達観するだけの潔さは自らの内には無かった。 それがジグマールの言うところの若さ、或いは青さそのものであったとしても、それでもそれがあるからこその自分だともまたなのはは思っていた。 それこそ、全ての小賢しい修飾を剥ぎ取って言ってしまえばそれは単なる利己的な願望。 そうしたいから、そうする。 恥も外聞すらもかなぐり捨て、結論だけを言ってしまえばそれだ。 カズマを放っておけない。自分の伝えるべき想い、言葉を伝えたい、手を伸ばしたい。 少女の小さな願い、それを叶えると約束した責任と義務感。そして自身の願望。 大局を捨てる責任放棄も同然だ、だがたとえそうだとしても今目の前で自分に助けを求めてくる人がいた。ならばこそ、それを無碍には出来ない。 自分にとっての原初の決意。始まりの願望。思い出したソレらを無視することは今のなのはには出来なかった。 だから止まれない。ストレイト・クーガーがその不器用な優しさでこの身を護ってくれようとしても、自分自身が納得できない。受け入れられない。 助けるのは自分の役目だ。護るのは自分の役割だ。 度し難いほどに傲慢で稚拙な独善さを自らでも自覚していようが、その最後の一線の部分だけはどうしても他人に譲れそうにない。 本当に……諦めが悪くて我が儘だ。 それでもこの手に望んだ魔法の力がある内は、自らで固めたこの信念を打ち崩さない内にはもう譲れない。譲れないのだ。 「……本当に、頑固なお人だ。貴女は」 しかし桐生水守にも通ずるその輝きに魅せられたからこそ、彼女のやり方に肩入れすると決めたのもまた己だとストレイト・クーガーは認めていた。 そして同時に気付いていた。彼女の示すその決意、信念を垣間見てクーガーは気付いてしまったのだ。 ……ああ、この人はもう止まらないんだな。 と。 真っ直ぐにひたむきで、そして尊くも綺麗な理想。 それは荒れくれた無法の大地を生きる為に駆け抜けたクーガーが、その余生の終わりに見てみたいと思っていたものにも或いは通ずる。 この大地には似合わない、そしてありえない、土台無理であるはずの小奇麗な絵空事。 しかし、或いはこの大地にさえ生まれていなければ、自分にもまた触れえたかもしれないそんなifの生き方、可能性。 それを示してくれる、命を懸けてまで為そうとしている彼女を見届けたいとクーガーは思った。 そしてだからこそ、自分の手で出来る限り護ってやりたいとも思ったのだ。 ……けれど、それはもう無理らしい。 「……籠の中の鳥は、それでも空へと羽ばたくことを憧れる……か」 あの悠久の空を飛ぶための翼を、己の思いだけで縛り付けておくことなど出来ないし、してはならないことくらいは分かっている。 鳥は空へと還る、いや還さなければならないのが正しい生き方だとも思っていたから。 どうやら、本当に鳥籠としての己の役割もお払い箱らしい。 それは本当に……本心から、惜しいとも思った。 出来ればもう少しでいいから、この最高の戦友と共に戦っていければと思っていたのだが……それも、今ここで終わりということらしい。 「……分かりました」 「クーガーさん!?」 やれやれと頷くクーガーにスバルが信じられないように彼の名を叫んだ後、戸惑うように今度はなのはの方へと慌てて視線を向ける。 クーガーが行くのを思い留まってくれた……それはいい。 だが問題は今度はこっち、次はなのはがカズマの元へ行くなどと言い出したことだ。 まったくもってスバルには訳が分からなかった。そして訳が分からずともそれでもハッキリと直感的に察せられたのはやはり高町なのはもまた行かせてはならないということだ。 それは実力云々だとかそんな問題ではない。ただ本能がなのはを行かせることは危険だと、きっと取り返しのつかないことになると予感していたからだ。 「なのはさん!?」 だからこそ行かせない。行かせるわけにはいかない。そんな思いで慌てて彼女まで駆け寄ってそのバリアジャケットの袖を掴むように飛び立つことを踏み止まらせようとする。 「スバル………」 「行かないでください! 置いてかないでください!……なのはさんッ!」 必死に涙まで滲ませた瞳を向けながら、呼び止める為に言葉を張り上げ嫌だ嫌だと首を振る。 傍から見れば、それは我が儘を示して親を引き止めようとする幼子が起こしそうな光景だったが、それでも今のスバルからしてみれば恥も外聞も何一つ関係なかった。 行かせてはならない。行かせたくはない。その思いしか今のスバルの頭の中には存在していなかったのだから。 漸く取り戻した歩むべき道、その導と言って良い存在がスバル・ナカジマにとっての高町なのはだ。 今彼女の手を離してしまえば、それらが永久に失われてしまうのではないか……そんな嫌な予感が後から次々と沸いて来て仕方が無かった。 だからこそ、必死になってスバルはなのはを呼び止めようとする。行かないでと掴むその手を決して離さずに固く握りこむ。 なのはに傍に居て欲しかった。今度は間違わないように自分を導いて欲しかった。 明確な目指す目標として、その背を自分の目の前で示しておいて欲しかった。 だからこそ、酷い我が儘を承知の上で、彼女が困るだろうことが事前に分かりきっていたとしてもそれでもスバルは繋ぎとめたかったのだ。 だからこそ―― 「行かないで……お願いします。……行かないで」 君島邦彦の二の舞はもう二度と御免だ。 掌から失いたくない大切なものを……これ以上、取りこぼしたくはなかった。 そうやって必死に訴えてくるスバルへと、しかしなのはは静かに首を振りながら、優しく彼女を抱きしめた。 「……大丈夫。大丈夫だよ、スバル。私は何処にも行かない。スバルを……皆を置いて行ったりなんかしないよ」 それはまるで幼い子供に言いきかせるような優しさを込めた言葉。 不安で堪らなくて、泣きそうな子供を励まそうとするかのような力強い言葉。 「私はいつでも皆と一緒。いつだってどこだって、同じモノを目指し続けてる限り置き去りにすることなんてないよ」 むしろそれを護りたい、護るからこそ戦っている。戦いへと赴くのだ。 それはこの少女にもしっかりと教えたはずの言葉であり、自分自身にすら常に言いきかせてきた誓いでもある。 「仮に……もし仮に、いつか離れ離れになることがあったとしてもだよ……スバルが私を目指して追いかけてきてくれるなら、きっと直ぐに追いついてくれるよ」 いや、追いつくどころかあっという間に追い越してくれる。 自分が築き上げてきたもの、護り抜いてきたものを更に強固なものとして引き継いでくれる。 自分たちが同じ理想を抱き、同じものを信じ、目指し、護っていく限りはいつだって一緒だ。 陳腐な言い方でこの上ないが、それでも心は繋がっているのだ。 「だから大丈夫。きっとまた私は帰ってくるし、私たちはいつかまた出逢える」 それを信じて、今はこの大地の上を、空を、自分の信念で飛ばして欲しいとなのはは願った。 自分の後を継ぎ、進んで行ってくれる次代を担う若き可能性を護る意味合いを込めても。 今はただ迷わずに、彼の元へと行かせて欲しかった。 言うべき言葉、伝えたい想い、差し伸べたい手。 あの明日を省みない獣に、明日を願う自分はそれを示さなければならない。 これは他の誰でもなく、高町なのはがやらねばならないこと。 由詑かなみの願いを叶えると決意した、不屈の魔法使いが果たさなければならないことだったから。 「私は負けない。スバルが憧れてくれたなのはさんは、誰にも負けない。無敵のエースだからね」 この想いが消えないうちは、誰にだって負けはしない。 支えてくれる者たちが力を貸してくれる自分は、いつだって一人じゃないから。 だから――――大丈夫。 そうスバルへと、自らに課す誓いの意味合いも込めてなのはは微笑みと共に告げた。 「……行っちまったな」 「はい………」 クーガーの言葉に頷きを示して答えながら、彼と同じようにスバルはなのはが飛び立っていった空を見上げていた。 行ってしまった高町なのは。見送ったスバル・ナカジマとストレイト・クーガー。 傍から見ればこれは置いてけぼり……しかし、だからといって何も出来ない訳では無い。 「ならヒバル、俺はあのお嬢ちゃんを探しに行ってくる。お前はみのりさんたちの事を任せたぞ」 「はい……クーガーさんもお気をつけて」 ただ突っ立って待っているだけではない。自分たちには自分たちに出来る事を。 彼女が安心して帰ってこられるそれまでに、果たしておく義務があった。 だからこそ、今はその役割を精一杯に果たそう。 自分を信じて、彼女を信じて。 それが今のスバル・ナカジマにとっての戦いの始まりでもあった。 十年前のあの日、私は運命に出会った。 喫茶『翠屋』を経営する高町家の末っ子の次女……それが私の元々の立場だった。 温かな家庭、優しい両親、立派な兄と姉。 不満なんて一つもないくらいに満たされていて、私は確かに幸せだったと胸を張って言う事が出来ると思う。 ……けど、 『なのはちゃんにしか出来ない事、きっとあるよ』 ……そう、あれは丁度十年前のあの日、アリサちゃんやすずかちゃんと将来の事を話していた時の事だ。 友達が未来へのヴィジョンを持って夢を語る中、私には何も無かった。 温かな家庭、優しい両親、立派な兄と姉、そして大好きな二人の親友。 何もかもが揃っていて、満たされていた。そこに不満なんて何も無かったし、そんなもの抱くこと自体が贅沢な我が儘なのだと思っていた。 私は幸せだった、満たされていた。それは絶対に間違いないこと。 ……けれど、満たされていたけれど、私はそれだけだった。 現在が幸せで、満足で、これ以上は何もいらないとは思っていた。 けれど同時に……これがいつまでも続いてくれるのかどうかという漠然とした不安があったのは事実だ。 浮き彫りになったのは学校の授業、将来何になりたいかというありふれた話の時のことだった。 アリサちゃんもすずかちゃんも、形として見える未来……夢を持っている中で、私だけがそれを持っていなかった。夢や未来を語ることが出来なかった。 振り返ってみれば、あの時くらいの年齢ならば今考えてみても私みたいなのは本当は大して珍しいものでもなかったのだろう。 けれど当時の私にとっては、あの時に一人だけ形とした夢や未来を語れなかった私は二人に置いて行かれたかのような思いを正直に抱いてもいた。 夢や未来を語れる二人がこの上もなく立派に、そして眩しく、羨ましく映るのと同時に、一人だけ取り残されたかのような疎外感や寂しさを抱いてしまっていたのは事実だ。 ……そう、あの時の私は、“また”独りぼっちを味わっている気分だったのだ。 お父さん……高町士郎がお母さんと『翠屋』を始める前にやっていた仕事……今の私と似たような危険な仕事に就いていたというのを知ったのは随分と後のことだ。 けれど父がその仕事を引退する切っ掛けともなった原因……最後の仕事で負った命を左右するほどの大怪我。 結果的に父は助かった。けれど重傷であったのも事実であり、長い入院生活で家族の誰もがその父の状態に左右されていた。 母は始めたばかりの『翠屋』を経営していくことに忙しく、兄と姉もまたその手伝いや入院している父の世話などで奔走されざるをえなかった。 当時、唯一人幼かった私だけが何も出来ず、独りで時を過ごす他に無かった。 家族の事を恨んだ事は無いし、恨めるような立場でもない。私はお父さんが助かったこと、生きていたことが本当に嬉しかったし、早く元気になって欲しいともいつも願っていた。家族みんなで本当に幸せに過ごせる日が早く来てくれることを待ち望んでいた。 ……けれど、本音を言えば独りぼっちにならざるを得なかったあの時期が、例えようも無く寂しく、辛いと思っていたのもまた事実だ。 結果的に、父のその入院から退院までの間に私を除く家族の絆は一致団結という形で高まり、父が復帰した後はより確かなものとなっていた。 当事者から除外された私だけが、一人だけ奇妙な疎外感(無論、勝手な主観的なものに過ぎないが)を感じて、居づらさを感じていたというのも事実だ。 家族の皆は仲良しで……仲が良すぎて、一人だけ幼くてその苦楽を共には出来なかった私だけが仲間外れ。 被害妄想も甚だしいことなのだが、寂しさと共にそれを感じていたのは事実だった。 だから、私だけが何も無いように感じられていたのだ。 お父さんは家族を護って『翠屋』を経営していくことが出来る。 お母さんはそんなお父さんと同じ道を歩みながら、それを支えていくことが出来た。 お兄ちゃんやお姉ちゃんにしても、それぞれ未来への明確な目標へと向かって努力していた。 誰もが眩しく、家族として誇れるくらい立派で……だからこそ尚更、私には何も無いという事実が浮き彫りにされてしまっていた。 私だけが……私だけが家族の中で何も持っていなかったのだ。 そしてあの時、学校で話題に上がった将来の夢について。同い年のアリサちゃんやすずかちゃんさえも夢や未来のヴィジョンを持てる中で、ここでも私は自分だけが何も持っていないという事実を思い知らされた。 『でも、なのはも喫茶翠屋の二代目じゃないの?』 それも選択肢の一つとしては確かにあったのだろう。 手伝いだってあの頃には出来る様になっていたし、ちゃんと将来真剣に修行すればお母さんの後を継ぐことだって出来たとは思う。 ……けれど、それは何かが違うのだとどうしても思えてならなかった。 贅沢な悩みと、聞く人が聞けばそれこそ自分勝手な我が儘だと思われるかもしれない。けれど、『翠屋』を継ぐというのは自分の中では何かが違うと納得出来なかったのだ。 ……多分、その理由はあの店が元々私の両親のものだったから、なのだと思う。 元々あの『翠屋』はお父さんとお母さん、二人の夢として始めた、二人のものなのだ。 確かに、親の後を継ぐというのは子供の権利であり、時に義務である場合もある。二人が何も持っていない私の為に、選択肢として残してくれようとしていたというのは分かる。 けれど、それでは違うのだ。私が抱いていた悩みに対して何の解決にもならない。だって、それこそ贅沢で我が儘だと言われてもしょうがないのかもしれないが、それでも私は他人から与えられたものではなく、私が、私だけが持ち誇れる何かが欲しかった、あって欲しかったのだ。 高町士郎や高町桃子の娘である高町なのはという以上に。 ただの少女である高町なのはだけが持っている何か……当時の私は、それが欲しかったのだと思う。 本当に酷い贅沢で、我が儘だ。けれど、あの時の私は――― ―――それでも、私だけに出来る何かを求め続けていた。 そしてあの時、私はユーノ君に、レイジングハートに、そして魔法の力に出会った。 運命、実に陳腐な表現だと笑われるかもしれない……けれど、私にはあの出会いが始まりであり、今の私という存在の全てなんだと思っている。 成り行き、ただ巻き込まれただけ……始まりは偶然だった、確かにそうかもしれない。けれどこの世界に踏み込み、これから先も進み続けていくことを決めたのは私自身の意志だったというのは確かだ。 この手には魔法の……誰かを救えるだけの力がある。 何も持っておらず、憧れに手を伸ばすことすら出来ないほどに臆病で、無力で独りぼっちでしかなかったはずの私に、そんな力があったのだ。 ジュエルシードの回収をユーノ君に頼まれ、手伝っていた最初の頃はそんな独り善がりの使命感に酔っていなかったかと問われれば否定できないだろう。 実際、中途半端なだけのいい加減な覚悟や使命感で臨んでいたせいで街に大きな被害を齎してしまいかなりのショックを受けた。 だから、私は私の持つ力とそれを本当に扱う理由に明確で曲がらない責任感を持つ事を誓い直した。 それを選んだならばこそ、最後まで責任を持って貫き通すのだと……… そうして改めて誓いを建て直し、ジュエルシードを回収し直しはじめた私たちの前に現れたのがフェイトちゃん………私の生涯最高の親友だ。 訳も分からず状況に流されるままに最初は敵対せざるを得なかった私たちだったが、だからこそ私は彼女が何で戦っているのかを知りたかった。 理解は知ろうとすることから始まる……何よりも私は、彼女の事をもっと知って、そして友達になりたかったからだ。 きっと分かり合える、信じ合うことが出来る、それを最後まで信じ続けたからこそ私はあの想いが通ったのだと思った。 彼女が抱え続けていたもの、それを傍で支えてあげられることの出来るようになりたいと思った。何よりも、決して幸せには見えない、辛そうな彼女を助けたかった。 ……だからこそ、ジュエルシードを巡るあの事件。私とフェイトちゃんが友達になれた時、彼女を助け彼女の笑顔を見た時に思ったのだ。 これが本当に、私がやりたかったことなのだと。 これが本当に、私が見たかったものなのだと。 私は、私の魔法の力で―――誰かの笑顔を護りたかったのだ。 「……そしてそれは、きっと今も変わらない」 己に言い聞かすように呟く原点回帰の結論。誰かの笑顔を護る為に、悲しみを吹き飛ばす為にこそあるべき魔法の力。 ……そう、その為に自分はこの十年を駆け抜けてきたはずだ。そしてその道にだって、後悔は決して抱いてはいない。 そんな悲しみや後悔を抱いたり抱かせたりするような結末は、絶対に訪れさせなどしないと戦ってきたからだ。 だからこそ今だって――― 「……はやてちゃん、聞こえる?」 先の戦いの影響か、次元にすら干渉する人知を超えた規模のエネルギーが発生した名残が強いのかどうにもロングアーチとの通信が取り辛い。 だが今はそんな文句を言っている場合でもない。是が非でも急ぎ部隊長たる八神はやてに取り次いで聞き入れてもらわねばならない用件があった。 『……なのはちゃんか!? どうなっとるんや、こっちはえらい騒ぎになっとる。皆も無事なんか?』 状況把握より先に仲間の安否を気遣うあたりは彼女らしいと言えばらしい、それは彼女の美徳であり優しさでもあるのだろう。 改めてはやての皆を気遣う優しさを実感しながら、しかし今は一刻を争う事態の為に状況を詳しく説明している暇も無い。 ある種の義務を放棄し権利だけを主張しようとしている自分に改めて隊長失格だと自覚を持ちながら、けれどそこにはあえて触れずに本題だけを切り出す。 「皆の方は色々あったけど何とか大丈夫。……はやてちゃん、詳しく説明している暇も無いけど黙って聞き入れて欲しいお願いがあるの」 なのはがこの時はやてに向かって言ったお願い……それはたった一つ。 六課の部隊長である彼女にしか許可を出せない、けれど今は出してもらう必要があるその要請。 即ち――― 「―――リミッター解除を申請します。八神部隊長」 そうはっきりと、なのはは念話先への彼女へと告げた。 「……リミッター解除って……そんなヤバイ状況になっとるんか? 他の皆は……っていうか『HOLY』の人らかっておるんちゃうんか?」 突如発生した次元震、連絡が取れず混乱した情報が錯綜するロングアーチの最中に唐突にかかってきたなのはからの連絡。 情報が断絶し、情報把握もままならず事態の正確な危険度すらも判断できぬ状況でなのはが申請してきたそのリミッター解除要請。 だがはやてには無論の事ながら二つ返事では即座に答えられない。 理由は主な対象だったJS事件が終了していようと未だ六課という部隊にかかっている保有魔導師ランクの制限は変わっていないこと。隊長クラスのリミッター解除申請にはリスクや制約が大きいという現実。 そして何より……… 「……なのはちゃん、無茶しようとしてるんやないやろな?」 親友を案ずる八神はやて自身の心境がそれを躊躇わせる。 状況はただでさえ把握不可能な未知の危険な事態、そんな中で突如連絡を漸くに寄こしてきたかと思えばいきなりのリミッター解除要請。 何よりなのはには未だゆりかご戦の影響だって残っているはずだ。 胸を不安で焦がす彼女の直感が、なのはが途方も無い無謀且つ無茶な行いをしようとしているように思えてならなかった。 下手をすればそれこそ八年前……否、それすら上回る最悪の事態にだってなりかねない。 仮に本当に緊急を要する事態だと言えども、なのはに状況を説明してもらえば何か彼女が無茶を行わずに済む打開策だって自分が編み出せるかもしれない。 故にこそ、はやては此処で安易に状況に流されるわけにはいかなかった。 「……どうなんや? 本当にリミッター解除が必要な事態なんやったらその理由を詳しく教えて欲しいんやけど。何も言わずに聞き入れろかってそれこそ流石に無茶や」 少しでもなのはとの会話を引き伸ばしながら、状況を判断する情報を集めて事態を把握する。そうしようと会話の主導権を握る為に更に言葉を紡ごうとしたその時だった。 『……どうしても助けたい人がいるの。叶えてあげなきゃならない願いがあるの。……その為には全力全開で臨まなきゃならない。……この理由じゃ、駄目かな?』 なのはらしいと言えばらしい答なのだろうが、しかしそれだけではどういう状況かは分からない。彼女が助けたい人とは誰であり、叶えたい願いとは何なのか。 それは本当に限界を超えかねない無茶を代償にしてまでなのはが行わねばならないことなのだろうか。 こんな事を考えるのもいけないことだとは分かるが、それは自分にとってなのはを天秤に掛けてまで聞き入れるに足る価値があるのだろうか。 正直に、なのはの身を案じる思いからはやてはそんな風にすら思っていた。 親友として、部隊長として、なのはを自分なりに護る為にはどうすれば良いのか。 葛藤に胸焦がされるはやてへと次になのはがかけてきた言葉はしかし――― 予想通りにそう簡単には要請は通りそうになかった。 仕方が無いことだ、自分の方が無茶な要求ばかりをしているのだからそれではやてを責め様という心算もなければ道理も無い。 最悪の場合はそれこそ……このままやるしかないということになるが、そうなったらそうなっただ。既に覚悟は固めてある。 それでももう一度、敢えてはやてへとなのはが声をかけたのは…… 「……ねえ、はやてちゃん。私たちは機動六課だよね?」 抱いた思いとその決意を、他でもない彼女へと聞いて欲しかったからかもしれない。 唐突な何の前フリも無いその問いかけに念話の向こうの彼女が戸惑いを抱いているのはなのはにも直ぐに察せられた。 脈絡の無い質問、そう捉えられても仕方ない。これから自分が言おうとしていることとて決して整合性の取れた弁論でもない。 それでも今は彼女に……夢と決意を分かち合った親友に己の思っている正直な思いを告げたかった。 「………四年前のあの日、私とフェイトちゃんとはやてちゃん……三人で誓い合った事を覚えてる?」 『………後手に回らんで一秒でも早く動いて事態を解決できる、そんな少数精鋭のエキスパート部隊の設立』 はやての返答になのはもまたそうだよと頷いた。 四年前の臨海空港火災で思い知った現実と歯痒さ、そこからその解決の為に動こうと誓い合った約束。 一秒でも早く苦しみ助けを求めている人々を最速で助けられるようにと願った部隊。 此処はミッドチルダではないし、あの夢に多感で真っ直ぐに抱き続けられた少女の時代の幻想は遙かに遠い。 夢の部隊と信じた六課の設立目的もまた、あの誓いが全ての理由ではなかった。 だがそれでも――― 「私の夢は、想いは……あの時からずっと同じままではやてちゃんに預けたままだよ」 そう、誓い合ったあの日の夢も想いも情熱も、色褪せることも陰る事も無く今だって自分たちの夢の部隊―――この機動六課に捧げて共にある。 だからこそ、その預けた夢、重ねた想いの行方を曲げたくはない。裏切ることは出来ない。 「此処は確かにミッドチルダじゃない。私がしようとしていることだって夢を言い訳にした勝手な自己満足なのかもしれない。……許されるなんて、自分でも思っていない」 ミッドチルダと管理局を護る為の機動六課の方向性を別のモノへと向けてしまっていることだって理解はしている。 だがそれでも――― 「―――それでも、今の私には一秒でも早く、助けてあげたい人たちがいるの」 そう、今この瞬間のこの場所で、目の前にソレは存在している。 そしてソレを助ける……大局を見誤っていると言われても仕方の無い我が儘を通そうとしているのは承知の上。 だがそれでも―――もう、立ち止まれない。 決めたのだ、己の在るべき在り方を。 思い出したのだ、本当に見たかったものが、護りたかったものがなんなのかを。 だからその為に―――進む。 ただ前を見て、上を目指し、迷いや後悔を抱いて立ち止まらぬように。 自分が抱いた譲れない大切な信念、それを握り締めて戦うのだと。 戦って……目の前の壁を超える、と。 機動六課の理念と信念。 親友や仲間達と誓い合った夢や希望。 何よりも高町なのはが高町なのはであるための、その不屈の信念に懸けて。 「……私は私の信念を、この大地で貫き通したい」 勝手な我が儘。理解しろなどと間違っても思わなければ、言える立場でもない。 どこまでも身勝手で馬鹿で傲慢な、どうしようもない己の衝動。 「だから……はやてちゃん、ごめんなさい」 詫びる、心から。形だけのものと言われても仕方が無いが、それでも誠意が欠片でも残っていると言うのなら言わないわけにはいかない。 親友の彼女に。そして彼女を通して仲間の皆へ。 今まで自分を護り続けてきてくれた、この厳しくもそれでも優しい世界へと。 訣別としてではなく、決意の度合いと覚悟の程を、その重さの貴さを自分自身でも忘れない為に。 刻み付けた思いと、その思いをこれから全力全開で通す為に。 「だから私は―――」 『―――もうええ』 行くよ、そう告げようとしたのを遮ってはやてが唐突に言ってきた言葉は、震えていた。 ある種の感情の爆発を、必死に耐えて抑えつけようとし……けれど出来そうに無い。 そんな不安定な危うい均衡を、堤防を決壊させるかのようなはやての悲痛な叫びが響く。 「なのはちゃんは勝手や! いつもいつも、自分だけで決めて自分だけで背負う! 私らの心配なんか聞き入れもせんで無茶ばかりする!」 その癖こちらにそれを助けさせてくれない。 酷い身勝手だ、我が儘だ、そして何より……卑怯で悲しいと思う。 そんなに自分たちは頼りないのか、そんなに自分たちに力を貸されるのが嫌なのか。 和を尊び、それを護ろうと戦っているくせに、この親友はいつも孤独な戦いばかりを続ける。 歯痒い……あまりにも歯痒く、そしてそれ以上に悔しい。 「信じて待ち続けるのが、どれだけ辛いか、待たされる立場がどんだけ悔しいか、なのはちゃんは考えたことがあるんか!?」 その身勝手で傲慢な我が儘を、不可能を可能に変え続ける不屈の強さを信じ続ける裏側で、その信じ続けるということ自体にどれ程の心労があるのか分かっているのだろうか。 「なのはちゃんは矛盾しとる! 他人が無茶することを絶対に許さへん癖して自分だけは無茶ばっか通す!……そんなん自分に甘いんと何処が違うんや!?」 だからこそ、許せない。だからこそ、許さない。 もう二度と、八年前のようなあんなことは繰り返させない。 孤独と無茶に彼女を押し潰させるようなことはさせない。 大切な友達を一人で戦わせ続けるなど絶対に―――絶対に、許さない。 それで万が一の事などあってみろ。 それこそ自分は……自分は――― 「……まだ私、なのはちゃんに助けてもらった恩全部、返しきってへん」 そう、八神はやては高町なのはに大きな、とても大きな恩がある。 自分の命と、そしてそれ以上に大切だとも思う最愛の家族たちの命。 フェイトと共に彼女に助けてもらったその恩とも呼ぶことすらも憚られる大きな事実。 その返済は、まだまだ全然出来てない。 それだけではない、先程になのは自身が言ってくれた自分たちの夢だったこの機動六課という部隊。 この夢の設立の為に支えてくれ、尽力してくれた新たな借りだってある。 全部、全部……まだまだ返済はこれからなのだ。 だから…… 「……だから、お願いやから私らを置いて何処かになんか行かんといて……お願いや」 心の底から、或いは縋り付いていると笑われても自分でも仕方が無い事を承知の上で、はやてはそれでもなのはを引き止めようとそう嘆願する。 行かせたくなかった。ここで彼女を行かせてしまったら、それこそ――― ―――それこそ、もう二度と彼女は自分たちの元へは戻ってきてくれないのではないだろうか? 心の底から沸き上がってくるこの嫌な予感を肯定してしまいそうになり、それがはやてには耐えられなかった。 部下の前だとか、部隊長の威厳や責任など……それら全てにすら二の次と放り出して。 それでも、はやてはなのはを行かせたくなどなかった。 しかし――― 「―――ごめん、はやてちゃん」 返答は最初から決まっていた。決まっていたからこそ、その言葉を躊躇うことも無く、自分は告げねばならないと思い、そして告げた。 なのはにとってもはやての言い分は否定できない。ぐうの音が出ないほどに己の矛盾を言い当てられたのは否定できない事実だ。 だから、彼女の言い分やそのぶつけてくれた想いは、なのは自身にとっても凄く嬉しいものでもあったのだ。 けれど――― 「……でもね、はやてちゃん。私はいつでも、自分一人だけで戦ってるなんて思ったことはないよ」 八年前までなら、確かにその過ちは事実であり訓戒と刻み自分でも認めている。 けれど再び空に復帰して以降、確かに相変わらず勝手な無茶は通してきた。けれどそれは必要性に迫われた時だけでもあり、ギリギリまで意識して無茶だってセーブしてきた心算だ。 それに何より……… 「私はいつだって、皆の想いと一緒に戦ってきたよ」 孤独な空の戦場、確かに見ようによってはそう見られているとしても仕方が無いのかもしれないと思うことはある。 「だけどいつだって、私を空で支え続けてくれたのは、戦いの中で力を貸してくれていたのは皆だったって思ってる」 確かに自分は皆を守る為に戦ってきた。だが同時に、皆の想いが自分を護ってくれていたからこそ自分はここまでやってこれたのだとも思っている。 限界の先の無茶を出す時でも、不屈の思いすら叩きのめされそうになった時でも。 いつだって絶体絶命の正念場で、最後に自分を支えてそれでも勝利に導いてくれたのは――― 「―――他の誰でもなく、私自身が護りたいと想っていた人たちだったって信じてる」 だからこそ、背負った重さ、重ねた想いは、いつだって裏切らずに自分を護り、支え続けてくれていた。 決して一人ではない、その思いが自分へと力を貸し続けてくれていたのだ。 だからこそ、 「私は一人じゃない。いつだって……いつだって、皆と一緒だよ」 そして一緒だからこそ、一人ではないからこそ、誰にも負けない。負けられないのだ。 その想いを、正直な答えを、言葉に乗せてはやてへと送る。 他の誰よりも強く、フェイトと並んで自分を護り支え続けてくれている彼女に。 そして、 「……それにね、私はもう充分以上にはやてちゃんからは恩返ししてもらってるよ。むしろ、私の方がはやてちゃんたちに恩返ししなきゃいけないくらいだとも思ってる」 これは心からの事実。 教導隊入りの時や、自分が大怪我を負ったあの時、それら以外にも多々ある自分にとって人生で最も大変だった支えを必要とした時期。 それらの時の尽くではやてたち八神家には本当に何度も世話になっている。 『闇の書』事件の時の事を色々と引き摺っているのかもしれないが、あの時のアレが仮に彼女の言う恩だったとしてもそれはもうとっくに倍以上の彼女たちの助けや支えによって返済されている。 それに何よりあれは…… 「私はあの時、見返りが欲しくてはやてちゃんを助けたわけじゃないよ」 恩だとか借りだとか、そんなものは一切関係ない。 打算や何かが目的として彼女を……彼女たちを助けようとしたわけではない。 「―――助けたかった。ただ私は……誰にも泣いて欲しくなかったから、皆の笑顔が見たかったから、悲しい結末になんてしたくなかったから……ただそれだけで戦っただけだよ」 それこそあの時も、昔からただ自分の我が儘とも言っていい思いを通そうとしただけ。 自分で思い、自分で選んで、そして戦った。 きっと誰かの為という表裏における反対、その自分の為に戦ってもいた。 だからこそ、 「見返りなんて要らない。恩だとか借りだとか、別にそんな風に気に留めてもらわなくてもいい。私は……私の想いを、私たちの友情を取引にはしたくない」 そう、見返りを求めてしまえばそれは既に取引だ。言い換えれば、それは外部との交易を許容してしまった自己愛も同じ。 それが悪いとは言わない、考え方の違いに過ぎないとも自分だって思っている。 けれど自己愛の為に愛でる都合の良い人形にだけは、自分の大切な人たちをそのようにはしたくない。 綺麗だと思い、護りたいと願い、見たかったと思ったその笑顔を。 ただ純粋に、何の理由も差し挟むことも無く見続けていたい。 ただそれだけだ。 だからこそ――― 「ありがとう、はやてちゃん。本音をぶつけてくれて」 嬉しかった。この思いもまた自分にとって活力となり、支えとなってくれる。 彼女だけではない、自分と関わる大切な人全ての想いが負けない力となってくれる。 ああ、やっぱり私は一人じゃない。 人間の本質がたとえ孤独であったとしても。完全には心を重ね合わすことも出来ず、本当の意味での理解は出来ないのだとしても。 それを求めて、それに焦がれて、それに手を伸ばし続けることは出来る。 個という絶対の孤独の中で、それでも他者に手を伸ばし続けることは、言葉を投げかけ続けることは、 名前を呼び続けることは―――決して、無駄でも間違いでもない。 だからその為に、その信じた想いを偽らないために――― 「―――行って来ます、みんな」 己の護ると決めた全てのモノへと決意という形に変えて高町なのははそう告げた。 そして高町なのはのその返答に八神はやては――― 「レイジングハート! エクシード―――ドライブ!」 『―――Ignition.』 暗雲覆い遠雷の高鳴るロストグラウンドの空、その上空の一点に存在する白き魔導師が高らかにその命令と共に自身の相棒にして愛杖たる一心同体のデバイスを天を突くように突き上げる。 不屈の名を冠し、十年もの長きに渡る日々、共に戦い続けてきた魔法の杖は主のその命に高らかな受諾の意思を表明する。 瞬間、白き魔導師の全身を覆うのは桜色の閃光。 それが収束し、再び飛び出すように現れた彼女―――高町なのはのその姿は一変していた。 今までの通常状態のバリアジャケット―――アグレッサーモードが『長時間の凡庸的活動』に重きを置いたスタイルだとするならば、こちらはそれとは運用も異なる完全な別物。 エクシードモード。 高町なのはの空戦魔導師としての資質を最大限に活用する為に組み上げられたモードである。 高速機動、省魔力の概念をあえて切り捨てた代償としての絶対的な強度を生み出すことにより、彼女自身が最も得意とするスタイルで最大限に戦えるように想定された姿。 彼女にとっての『完全な戦闘用』としての意志の表れを示すものである。 沈黙の果て、八神はやてが通してくれたリミッター解除の要請を示すように、全身に今度こそ全力の魔力が立ち込めてくる。 ……だが出来れば、彼を相手にこのモードは使いたくはなかった。 始まりの出会いはなし崩し的な状況での戦闘。話し合う暇も何も無い慌ただしいものだった。 再びの出会い、彼の本質の一部を知り、この大地の厳しい在り方を突きつけられ、けれどそれでもだからこそ、相互理解の歩み寄りの為に彼と戦うことを自身に禁じた。 けれど先程の大乱闘、かなみの願いを叶える為、そして自分自身の思いからもカズマの暴走を止めたかったからとはいえ、不覚にも状況への焦燥と苛立ちに駆られ、結局は自分が事態悪化の引鉄を引く原因とまでなってしまった。 ……そして今、 「……だからこそ、もう間違えない」 止めてみせる。怒りと激情に駆られ、破壊に狂い破滅に進もうとしている彼を。 本当に悲しくて辛くて、泣きたい筈なのに泣けない憐れな獣である彼を。 今度こそ、絶対に必ず――― 「―――救ってみせる」 決意を言葉に乗せてなのはは呟く。不退転の意地として、これしか方法が残っていないというのなら。 危険で荒いとんでもない無茶なやり方だとしても。 振り上げた拳の収める場所を彼が知らないというのなら。 溜め込んだ激情と共に、真正面から全力全開で自分がそれを受け止めよう。 もう一度、今度こそ本当に、彼と向き合ってお話をする為に――― 避けられない対決へと向かって、今不屈の魔法使いは高らかに迷い無く、飛び出した。 胸中で、その救うべき彼の名前を呼び続けながら…… 失った。 何もかもを失い、何もかもがどうでもよくなった。 ただ悔しくて、憎くて、収まりが付かなくて、 「劉鳳ォォォオオオオオオオオオ! 何処行きやがったァァアアアアアアアア!?」 その相手を叩き潰すことだけを欲して止まない。 何もかもを失い、掌から零れ落し、そして二度とは自分の元へそれらが戻ってくることも無い。 だから―――もう、いらない。 何もいらない、何も欲しない、何一つ必要とはしない。 求めない、手を伸ばさない、掴み取らない……背負わない。 温かさの素晴らしさを一度は身に刻み、それを護ろうと望んだからこそ。 失敗し、現実に打ちのめされ、手元から奪い取られた喪失感には耐え切れない。 君島邦彦も、由詑かなみも。 どちらも彼にとっては代わりなど無い程に掛け替えのない大切なものだったのだ。 ……そう、代わりなど無い。あっていいはずもない。 だからこそ、二度とあの温かな幸福は手元へと戻ってくるはずも無く、永久に失われ、痛みと喪失感と屈辱だけが、十字架として残り背負わさせられる。 ……そんなものには、耐え切れない。 だから、逃避先が彼には必要だった。 それでも残るチッポケな己の矜持。生まれ出で、この大地で生き抜いたという自分が生きた証の証明。 何も残さず、何も残せず、無意味で無価値に成り下がっただけの存在として己を終えるなどということは耐えられない。 過程にあった、背負い刻んできたこれまでのものを全否定されるということに我慢ならない。 だからこそ、この上もなくみっともなくて見苦しく、そして情けなかろうとも。 それでも、たとえたった一つであろうともまだ自分が存在しても良いという理由がカズマには必要だった。 それが劉鳳―――憎たらしく、気に入らない、絶対に許すなどということが出来るはずもない、己が己である為に打倒せねばならぬ対象。 もう何もかもを耐え切れずに捨て去り、逃げ出す先が最も気に入らない相手というのも皮肉が過ぎるがそれでもいい。 少なくとも、あの男ならば壊れない。失われない。またベクトルはどうであれ純粋な渇望として己同様にこちらを求めている。 己という存在を肯定せんが為の己を否定し、またこちらも否定すべき相手。 もうそれでいい。それで構わない。それだけでも我慢する。 だからいなくなるな。かかって来い。逃げるな。 俺から俺という存在意義を奪うな。 だからさっさと出て来い、劉鳳。 テメエだって俺のことが気にいらねえんだろ? だったら――― ―――もう二人だけのサシのタイマンでそれだけをし続けようじゃねえか。 死んだって構わない。命だって或いは……くれてやらんこともない。 だから出て来い、さっさとかかって来い。 俺の全てをテメエとの喧嘩にくれてやる覚悟は出来てるんだ。 だから――― 「……俺から、俺の前から……居なくなってるんじゃねえよッ!!」 俺が俺であるべき理由を。 俺の拳を振り上げる理由を。 俺から、奪うな! 故に求め続ける。 吼え猛り、暴れ狂い、後も先も関係ない衝動の化身と化して。 カズマはただ、ただ劉鳳だけを求め続ける。 それしか、自分には残っていないと思っていたから。 しかし――― 「―――カズマ君!?」 己のチッポケな名が呼ばれ、カズマは反射的に上空を見上げる。 「かな―――ッ!?」 奪われたはずの、失ったはずの、何よりも愛しかったはずのその声が己の名を呼んできた。 奇跡が己に応えてくれたのか、とらしくもないそんな思いで空を見上げ、そして結果的には落胆によりそれすらも裏切られた。 「……また……テメエかよ……ッ!?」 憎々しい、そんな感情すらも生温いほどの激しい感情を込めた苛烈な視線で睨みあげる。叶うのならば、この睨みだけで呪い殺してしまいたいとすら思うほどに。 それ程に見上げた空の上からこちらを見下ろすその女は目障りだった。 ―――高町なのは。 またコイツか、そんな鬱陶しさとしつこさと気に入らなさ、そして何よりも許容しがたき感情が相手の存在を激しく否定し、彼を苛立たせる。 いつもいつもいつもいつもいつも! こちらの目の前に現れ、鬱陶しい綺麗事を押し付けようとしてくる目障りな相手。 何だというのだ、どんな恨みがあってしつこくこちらに付き纏ってくるのか。 何度立ちはだかって、邪魔をすれば満足するのか。 そして何よりも――― 「カズマ君、もうやめ―――」 「―――うるせえッ!!」 何かを言おうとしてくる相手の言葉を、半ば無理矢理に声を張り上げて掻き消す。 もう聞きたくないのだ、こいつの声は。 もう呼ばれたくないのだ、その声で自分の名前を。 「……何で……ッ……何で……テメエの声はそんなに―――」 ―――そんなに、かなみの声に似てやがるんだ! 一方的な言いがかりだが、それでもカズマにはそれが耐え切れない。 そちらが身勝手に奪い、もう二度と取り戻すことも出来ないのかと諦めかけていたというのに。 それに何より……もう彼女だけは傷つけたくないから、背負わないと決めたというのに。 忘れてしまいたいのに、捨て去りたいというのに……ッ! 『カズくん、カズくん……カズくんってば、ちゃんと聞いてるの』 愛しかった、護りたかった、心の底から初めてそう思えたはずの相手だったのに。 お前らが身勝手に奪い取りやがったというのに―――ッ! 「今更……ッ……今更、アイツの事をチラつかせてくるんじゃねえよ!」 汚すな、触れるな、玩ぶな。 そいつはお前らが勝手に触れていいものじゃない。 自分だけの、自分だけの大切な宝物だったというのに。 それを――― 「………返せよ」 睨み上げながら、震える声でカズマはその言葉を叩きつける。 かなみを返せ! 君島を返せ! 俺から奪った俺のモノを全部返せよ! それが出来ないって言うならさっさと――― 「俺の前から……消えてなくなれぇぇぇええええええええええええ!」 瞬間、咆哮と共に虹色の粒子が辺り一体を覆い、周囲の岩石などを次々に分解していく。 そしてそれを形として再構成……その姿は決まっている。 “シェルブリット” カズマの、カズマだけの、己が唯一持っていて誇れる自慢の拳。 己の全て、信念を結晶化した誓いの証。 この大地を生き抜くための、カズマが得たたった一つの力。 己の全てをコレに込めて、今はただ只管に気に入らない目の前のこの女を。 立ち塞がってくる強固な壁を。 「気にいらねえんだよぉ! テメエはぁぁぁあああああ!」 己の全身全霊の全てを賭けて、叩き潰す! 目次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3108.html 前へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3186.html 次へ= www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3317.html
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ジュエルシード集めは順調に進み、 なのはは深夜の学校で5つめのジュエルシードを封印する。 が、慣れない魔法の連発に、大分疲れ気味。 寝坊がちな日曜の朝、 集めたジュエルシードを眺めるなのはを見て、 ユーノは「今日はお休み」と休暇をすすめるが…。 編集長の一言 お休みのはずが、また戦いに ですが、なのはとレイジングハートには 不可能は無いんでしょうか? 注目です (ユーノくんもでってるよ) 映像は、こちら(消失の場合は、連絡の事 魔法少女リリカルなのはep 3 part 1 魔法少女リリカルなのはTVシリーズは、どれ位あるのへ戻る
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装甲マンモス 装甲マンモス 基本情報 攻撃 ユニットタイプ 動物-戦車 攻撃アイコン 出現レベル 30,35,39,40,44,45 ダメージタイプ HP 400 ダメージ 78-116 56-83(x3) 装甲 100 射程 1-3 1-2 ブロック ブロック 射程圏 第一線 第一線 ベース 85% 85% 125% 爆薬 ∞ ∞ 装甲 25% 25% 75% リロード - - 撃破経験値 128 使用火薬数 1 1 撃破獲得金 640 補給時間 2 1 備考 装甲貫通力40% -