約 723,813 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4407.html
前ページ次ページZERO A EVIL 途中からシエスタが手伝ってくれたおかげで、昼食前に掃除を終わらす事ができた。 「それでは、私は昼食の支度がありますので、これで失礼します」 「あ……う、うん」 シエスタはそう言って教室から出ようとしたが、ルイズが何か言いたそうにしているのに気が付いた。 「ミス・ヴァリエール、どうかなさいましたか?」 「え! どどど、どうして?」 「いえ、何かおっしゃりたい事がおありのように見えましたので」 シエスタにそう言われて、ルイズはかなり動揺しているようだ。目線を上にしたり、下にしたりと落ち着きがない。 やがて後ろを向いて一つ深呼吸をすると、意を決したようにシエスタに向き直った。 「そ、その、あああ、ありがとう!」 「え?」 「か、勘違いしないでよね! こ、これは貴族が平民に対する最低限の礼儀なんだからね!」 ルイズはシエスタに感謝していたが、貴族のプライドと気恥ずかしさからこのような言い方になってしまった。 シエスタも感謝の言葉をかけられるとは思ってもいなかったので、少し驚いてしまう。 だが、すぐに笑顔を浮かべるとルイズに向かって頭を下げる。 「ありがとうございます。そう言っていただけると手伝った甲斐もあるというものです」 「そ、そう」 「ええ。後で食堂にもいらしてくださいね。今日はデザートにおいしいケーキを用意していますので」 「わかったわ」 「では、失礼します」 そう言うとシエスタは教室を出て行った。 ルイズはシエスタが出て行った後に改めて教室を見回してみる。自分が爆発を起こしたとは思えないほど、教室はきれいに片付いていた。 なんだか自分の心もすっきりしたように感じ、さっきまでとは違い晴れやかな気分になる。 しばらく教室を眺めていたが、お腹も減ってきたので食堂に向かうことにした。 食堂に入ると、すでに多くの生徒達で賑わっていた。 メイド達は昼食の世話で忙しそうに働いている。その中にはシエスタの姿も見えた。 邪魔をしては悪いと思い、特に声もかけずに席に着く。 ずっと掃除をして体を動かしていたせいか、昼食はいつもよりおいしく感じられた。 昼食が終わった後、デザートのケーキがメイド達から運ばれてくる。 「ミス・ヴァリエール。今日のケーキはコック長のマルトーさんの自信作だそうですよ」 そう言われてメイドの方を見ると、そこにはシエスタの姿があった。 「そ、そう。期待しておくわね」 「ええ。どうぞ」 そして、ルイズの前にケーキの入った皿が置かれる。 一口食べてみるが、コック長の自信作だけあって中々の味だ。甘くておいしいケーキに思わず顔がにやけてしまう。 「いかがですか?」 「ええ、おいしいわ」 「喜んでいただけてなによりです」 シエスタとそんな会話をしていると、後ろの席が妙に騒がしくなる。 どうやら、男子生徒達が色恋沙汰の話で盛り上がっているようだ。 その話の中心にいるのは、ギーシュ・ド・グラモンだ。彼は確かに二枚目で、女子生徒にも人気がある。 だが、ルイズには彼のきざったらしい仕草はとてもかっこいいとは思えなかった。そもそも、ルイズはこの学院の男子生徒にはまったく興味がない。 自分には許婚のワルド子爵がいる。 彼に比べたら、この学院の男子生徒など幼稚な子供にしか見えない。比べるのも失礼なくらいだ。 (子爵様。今頃どうしていらっしゃるのかしら……) もう随分と会っていないワルド子爵の事を考えていると、不意にシエスタから声がかかった。 「ミス・ヴァリエール。今、ミスタ・グラモンのポケットから何か落ちたみたいなんですが」 「ん?……何かの液体が入った小瓶みたいね」 ギーシュのポケットから落ちた小瓶はルイズとシエスタのいる方に転がってきた。 それをシエスタが拾い上げる。 「気付いていらっしゃらないみたいなので、私が渡してきますね」 「あんたはまだケーキを配り終わってないでしょ。私が渡しておくから仕事に戻っていいわよ」 「え! でも……」 「いいから。あんたは気にしなくていいの」 「すいません。それではお願いします」 ルイズはシエスタから小瓶を受け取ると、ギーシュ達が話している方に向かった。 (シエスタには教室の掃除を手伝ってもらったし。貴族として、平民の恩義には報いるのが礼儀よね) 本当は親切にしてくれたシエスタに恩返しがしたかっただけなのだが、プライドの高いルイズはそう考えて自分を納得させていた。 ルイズはギーシュ達の所までやってくると机の上に小瓶を置いた。 「ギーシュ。落し物よ」 「何を言っているんだいミス・ヴァリエール。これは僕の物じゃないよ」 「あんたが落としたのを見てた子がいるのよ。いいから受け取りなさいよ!」 「しつこいね君も……」 ルイズが小瓶を渡そうとしていると、ギーシュと話をしていた生徒達が騒ぎ出した。 「それはモンモランシーが作っている香水じゃないか!」 「ああ、間違いない! ……ということはギーシュはモンモランシーと付き合っているのか!」 「ち、違う! いいかい……」 ギーシュが何か弁解をしようとした時、一人の女子生徒がこちらに向かってくるのが見えた。 マントの色から一年生だとわかる。 「ギーシュ様、やっぱり……」 「ケティ! これは……」 ギーシュが何かを言う前に、一年生の少女は泣きながら走り去ってしまった。 そして、すぐに別の少女がやってくる。次にやってきた少女はルイズにも見覚えがあった。 さっき男子生徒の会話の中にも出てきた縦ロールの金髪が特徴的なモンモランシーだ。 「やっぱり一年生の子に手を出してたのね!」 「誤解だよ、美しいモンモランシー。そんな怖い顔をしないでおくれ」 「誤魔化さないで!」 そう言うとモンモランシーは机に置いてあったワインをギーシュの頭にかける。 「最ッ低!」 ギーシュに止めのセリフを言い放ち、モンモランシーは去っていった。 いきなり茶番劇を見せ付けられ唖然としていたルイズだが、用事も済んだのでケーキを食べに戻ることにする。 が、立ち去ろうとしたルイズをギーシュが呼び止めた。 「待ちたまえ! ミス・ヴァリエール!」 「何よ、何か文句でもあるの。言っとくけど私は悪くないわよ、二股かけてたあんたが悪いんだからね!」 ルイズのこの言い方は、ギーシュの怒りに火を付けてしまう。 「ゼロの君に、話を合わせる機転を期待した僕が馬鹿だったよ!」 「な、なんですって!」 いきなり馬鹿にされたせいで、ルイズの頭に一瞬で血が上る。 「あんたなんて、私の許婚の子爵様に比べたら唯のお子様よ! 振られて当然だわ!」 さっきまでワルド子爵の事を考えていたせいか、ルイズはつい言葉に出してしまう。 それを聞いたギーシュはにやりと笑うと、ある言葉を口にする。 だがそれは「ゼロのルイズ」よりも言ってはいけない言葉だった。 「ふん。ゼロである君の許婚なんて、どうせたいした事無い男に決まってる!」 その言葉を聞いた瞬間、ルイズの視界が真っ赤に染まる。 かつてないほどの怒りと憎しみで、ルイズの心は張り裂けそうだった。 (この男は子爵様を侮辱した! 私の子爵様を!! この男だけは許せない! 絶ッ対に許せない!!) ルイズの左手のルーンが光を放つ。今までと違い、光っているのがはっきりとわかるほどだった。 そして、左の拳がギーシュの顔面に突き刺さる。 ルイズに殴られたギーシュは鼻血を出しながら、机の上まで吹き飛ばされる。鍛え抜かれた体を持つ男に殴られたような、鋭く重い一撃だった。 だが、そんな事はどうでもいい。ゼロであるルイズにここまでやられて黙っていられる訳が無い。 ギーシュは立ち上がるとルイズに向かって叫んだ。 「もう許さん! 決闘だ!」 「……いいわ。どこでやるの?」 「ヴェストリ広場だ! 準備が出来たら来たまえ!」 そう言うとギーシュは、鼻血を手で拭いながら食堂を出て行った。 近くで騒いでいた他の生徒達もヴェストリ広場に向かう様だ。 ギーシュを殴ったルイズだったが、この程度では怒りと憎しみは収まらない。 すぐにヴェストリ広場に向かおうとするが、自分の方に駆け寄ってくる人物に気付き足を止める。 「ミス・ヴァリエール!」 ルイズに駆け寄ってきたのはシエスタだった。 小瓶をルイズに渡した後、ケーキの配膳の仕事に戻っていたが、先ほどの騒ぎに気付き慌ててやってきたようだ。 「申し訳ありません! 私のせいで大変な事に……」 ルイズに向かって謝ると、深く頭を下げる。 自分がギーシュの小瓶に気付いたせいで、ルイズが騒ぎに巻き込まれたのを気にしているようだ。 「あんたのせいじゃないわ。これは私とギーシュの問題よ」 「でも……」 「いいから!」 気持ちが高ぶっているせいか、つい言い方がきつくなってしまう。 シエスタも黙ってしまい、二人の間に気まずい空気が流れる。それを嫌ったルイズは、足早にヴェストリ広場に向かった。 シエスタはルイズの背中を見送る事しかできなかった。 ヴェストリ広場に着くと、すでに多くの生徒が集まっているのがわかった。娯楽の少ない学院生活の中で、決闘という言葉は多くの生徒達の興味を集めたようだ。 広場の中央にギーシュの姿が見える。どうやら鼻血はもう止まっているようだ。 「ルイズ、逃げずによく来たね」 「あなた程度の相手に、何故私が逃げないといけないのかしら?」 「その減らず口をいつまで叩いていられるかな? いくぞ!」 ギーシュが薔薇の造花をあしらった杖を振る。 すると花びらが舞い、鎧を着た女性の人形が現れる。これこそ、ギーシュがワルキューレと呼ぶゴーレムであり、彼の得意とする魔法だった。 「魔法が使えない君と違って、僕はメイジだから魔法を使わせてもらうよ。文句はないだろうね?」 ギーシュは自分の勝利を確信していた。魔法が使えないルイズに自分が負ける訳が無い。 ワルキューレで少し脅かしてやれば、すぐに降参するだろうと思っていた。 だから彼は考えもしなかった。 今のルイズにとって、決闘という言葉がどういう意味を持つのかを…… 「行け! ワルキューレ!」 ワルキューレをルイズに向かって突撃させる。 ルイズは固まって動けないか、逃げるだろうと思っていたギーシュは、後はどうルイズのプライドを傷付けて謝らせようか考えていた。 だが次の瞬間、彼は驚愕の表情を浮かべる。 ルイズがワルキューレに向かって、ものすごいスピードで突っ込んできたのだ。 そのままワルキューレに近づいたルイズは、左手で掌底をワルキューレの腹部に炸裂させる。 スピードが乗っている掌底を受けたワルキューレは、吹き飛ばされて地面に激突し動かなくなった。 今の技の名は「骨法鉄砲」。 夢の中で格闘家だったルイズが、遠くにいる相手によく使用していた技だった。 誰もが唖然としている中、ルイズはギーシュの方を見る。 まるで、次の獲物を見定めるように…… ワルキューレが倒された事でギーシュに動揺が広がる。 だが、ゼロのルイズに負ける訳にはいかない。すぐさま、次のワルキューレを繰り出す。 今度は一度に三体のワルキューレを作り出し、ルイズの周りを包囲する。 さっきの攻撃ではワルキューレは一体しか倒せない。三体同時で攻めかかれば、ルイズにはどうすることもできないと考えていた。 しかし、ルイズはいきなりワルキューレよりも高く飛び上がったかと思うと、一体のワルキューレの顔と胸の部分に二段蹴りを放つ。 そして、その反動を利用して他のワルキューレにも次々と蹴りを放っていく。 ルイズが着地すると同時に三体のワルキューレは崩れ落ちた。 この技の名は「デスズサイズ」。 まるで死神の鎌のように広範囲を攻撃する真空二段蹴りだ。 自慢のワルキューレを四体も倒され、ギーシュが怯んだ隙をルイズは見逃さなかった。 すぐさまギーシュの目の前まで近づくと、鳩尾の辺りに拳を放つ。ギーシュの表情が苦悶に歪み、あまりの苦しさに地面に蹲る。 その隙に、ルイズはギーシュの背中から腕を回し体を両腕で掴むと、そのまま上空に飛び上がる。 空中でギーシュの頭を下に向け、全体重をかけて脳天を地面に叩きつけた。 必殺技の「アクロDDO」。 夢の中で格闘家だったルイズは、この技で多くの対戦相手の命を絶ってきたのだ。 ヴェストリ広場は静まり返っていた。 ギーシュは白目を向いて痙攣している。辛うじて生きているようだが、かなり危険な状態だった。 ルイズはギーシュの方にゆっくりと歩み寄る。 ギーシュの近くまで来ると、いきなりギーシュの体を蹴り上げた。 その光景を見た瞬間、ヴェストリ広場に女子生徒の悲鳴が響き渡る。 ルイズはギーシュを殺す気なのだと誰が見てもわかった。 「よ、よせ! それ以上やったら本当に死んじまうぞ!」 「誰でもいいから! ルイズを止めなさいよー!」 「で、でも! どうやって!」 生徒達の叫びが飛び交い、ヴェストリ広場は騒然となる。 ルイズを止めるにしても、先ほどのギーシュとの戦いを見てしまえば、足が竦んでしまうのも無理はなかった。 その時、一人の少女がルイズの前に立ちはだかる。学院の生徒ではない、メイド服に身を包んだ黒髪の少女だ。 ルイズの前に立っていたのはシエスタだった。あの後、ルイズが心配でヴェストリ広場に来ていたのだ。 シエスタはルイズに向かって叫ぶ。 「もうやめてください!ミス・ヴァリエール!」 その声を聞き、ルイズの動きが止まる。 「退きなさいシエスタ。決闘で真の勝利を得るには、相手の命を絶たなければいけないのよ」 シエスタには信じられなかった。 ルイズとは少し話をした程度だったが、こんな事を言う人物ではなかったはずだ。まるで、ルイズの姿をした別人と話しているように感じた。 違和感を感じたシエスタだったが、今はルイズを止めなければならない。 「嫌です! ミス・ヴァリエールが今やろうとしている事は決闘じゃありません! ただの殺人です!」 その言葉を聞いた時、ルイズは不思議な感覚に襲われる。同じような言葉を以前にも聞いたような気がするのだ。 一体どこで聞いたのかルイズが思い出そうとすると、脳裏にある若者の姿が思い浮かぶ。 | てめえのやってる事は格闘技じゃない……ただの殺戮だ! その言葉を思い出した瞬間、急速に頭が冷えてくる。そして同時に、左手のルーンも徐々に輝きを失っていった。 真の勝利の為に、相手の命を絶たなければいけないと考えていたのは自分じゃない。あれは夢の中の話だったはずだ。 だが自分は今、ギーシュの命を絶とうとしていた。 背中に嫌な汗が流れる。得体の知れない恐怖を感じ、ルイズは後ずさった。 「ミス・ヴァリエール?」 「ち、違う……わ、私じゃない……」 「え?」 そう言うと、ルイズはその場から走って逃げ出してしまう。 シエスタは慌ててその後を追った。 ひたすら走り続けたルイズが辿り着いたのは、自分の使い魔を召喚した場所だった。そこには使い魔の石像が立っているだけで、他には誰もいない。 走り続けたせいで息が上がってしまい、呼吸を落ち着けていると、誰かがこっちに走ってくるのがわかった。 「はぁ…はぁ…。ミ、ミス・ヴァリエール!」 シエスタだ。息を切らしながらこっちにやってくる。 ルイズは後ずさりするが、使い魔の石像にぶつかってこれ以上下がれなくなる。 そうこうしている内に、シエスタがルイズの目の前までやってきた。 「や、やっと。追い着きました」 シエスタはルイズの前で息を整えている。 ルイズはどうしたらいいかわからくなっていた。だから、今自分が思っている事を素直に口に出す事しかできなかった。 「ち、違うの! あれは私じゃない! 私じゃないの!!」 髪を振り乱し、目に涙を浮かべながら必死に叫ぶルイズ。 そんなルイズをシエスタは優しく抱きしめ、小さな子供を落ち着かせるように背中を軽く叩く。 抱きしめられたルイズは、シエスタの胸に顔を埋めて大声で泣き始めた。 シエスタはルイズに優しく言葉をかける。 「大丈夫ですよ。私は信じてますから」 今、自分が抱きしめているのは間違いなく本物のルイズだ。シエスタはそう思いながら、ルイズを抱きしめ続ける。 そんな二人の姿を見ていたのは、使い魔の石像だけであった…… 前ページ次ページZERO A EVIL
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3219.html
前ページ次ページユリアゼロ式 「ルイズさん、ただいま帰りました!」 「遅いわよ。あんた今までどこ行ってたのよ?」 ユリアが戻ってきたころには、ルイズはすでに寝間着に着替えていた。ピンク色のネグリジェが上下のものである。ルイズのお気に入りの服だ。 そして、ルイズの右手には少し汚れた杖が左手には夕方洗濯したばかりの布が握られていた。 「えへへ……ちょっとシエスタさんのところに行っててて………。」 そう言ってユリアはバツが悪そうに笑う。 『ユリア100式マニュアル ダッチワイフであるユリア100式の電気系統の充電は自家発電によってまかなわれているのだ!』 「ふーん、そうなの……。」 その事に関してあまり興味を持っていないルイズは顔を下ろし、杖に向かう。 「えーっ! 何か言ってくれたっていいじゃないですか! どんなお風呂だったの?とか 私も一緒に入ってもいい?とか 私も一緒に気持ちよくなりたい!とか」 「言わないわよ、そんな事!!!」 「がーん………ひょっとして、ルイズさん私に興味ないんじゃ………。」 声を荒げて怒鳴ったルイズに驚いたユリアは目に涙をためてえぐっ、えぐっ、と声を上げて泣き始めた。 『ユリア100式マニュアル ダッチワイフであるユリア100式は全般的に大変濡れやすくなっております ご了承ください』 「違うわよ! 今、杖を磨いてるからそっちに集中してただけよ。」 ルイズは右手に持った布を手と一緒に振りながら慌てて弁解する。 そして、泣き止まないユリアを見かねたルイズは、手にした布でそっとユリアの涙を拭ってあげた。 「あ………。」 「どう? もう、治まった?」 「はい………。」 「そう、よかった……。」 ルイズはそう言ってユリアににっこりと微笑んだ。ユリアはそんなご主人様に思わずときめいてしまう。 「じゃあ、次は私が……」 そう言って、いつの間にかルイズの布を奪取したユリアはそれでルイズの身体を拭こうとする。 身の危険を察知したルイズは思わず、半歩下がった。 「私、どこも濡れてないんだけど」 「やだなあ、もう濡れてるじゃないですか。ルイズさんの下の ……ごぶぁっ!」 ルイズの蹴りがユリアのおなかを直撃した。 「おいたはほどほどにね、ユリア……!」 ユリアはうずくまってお腹を押さえながら激しく首を上下させるのであった。 ユリアに使い魔と主人の関係を改めて認識させたルイズはベッドに腰掛けて杖を磨く作業に戻った。 「どうして、杖を磨いているのですか?」 「ああ、これ? これはその………あれよ。あれ。」 ユリアの質問に答えようとしつつも、杖を磨く作業を怠らないルイズ。 すると先ほどまで少し汚れていた杖がだんだんと綺麗になって、光沢を放ち始めていくのがユリアにもわかった。 「最近まではしてなかったんだけど、はじめて杖を持ったときは毎日寝る前に杖をピカピカに磨いていたのよ。 だから、なんで最近はじめたのかというと……うーん……なんとなく、かしらね。」 「なんとなく………ですか。」 「うーん…………。」 なんとなくだとルイズははぐらかしたが、ルイズは明確な理由があると思っている。 それはユリアという使い魔のおかげだ。今までの自分は「ゼロのルイズ」と馬鹿にされて何もかもが嫌になって周りに散々当り散らした。当然物にも。 だけど、今は違う。ユリアと一緒に生活していくうちに自分の性格が変わってきていることに気づいた。 そんな自分に戸惑いはしたもののそれを受け止めようと思う。だって、今の自分の性格そんなに嫌いじゃないし。 「よし、まあこんなものかしらね。」 おおっーとユリアは思わず拍手をした。目の前にある杖は新品同様にぴかぴかになっていたのである。ルイズは誇らしげに胸をそらした。しかし、 「あっ…………。」 何かを思い出したユリアは急に顔が青ざめていく。 「どうかした?」 ぴかぴかになった杖に夢中になっているルイズは顔を向けることなく、ユリアの声がした方向に向かって尋ねた。 「えっ、ええ! だっ、大丈夫ですから!! ははは……。」 ユリアはそう取り繕ったが少し笑顔が引きつっている。ユリアが綺麗に磨かれた杖を見て思い出した事。それは……… 「メンテナンスしなくちゃ………」 誰かが定期的にこういう清掃行為をしているのを見てると、悪い部分があるわけでもないのに不安になってしまうユリアであった。 『ユリア100式マニュアル ダッチワイフであるユリア100式は数ヶ月に一度定期点検をすることをお勧めします』 (ここは、ルイズさんに協力してもらうしか………!) 「やっぱり、ルイズさんお願いします」 「なっ、何かしらユリア?」 青ざめた表情から急に決意をした表情に変わるのを見て戸惑いを隠せなかったがなんとか返答するルイズ 「私の身体をすみずみまで調べて下さい!」 そう言ったユリアは服を瞬く間に脱ぎ去り、一瞬にして全裸になった。 「なっ………!」 突如として裸になったユリアを目の前にし、ルイズは思わず赤面する。 「お願いですルイズさん。どこか異常が無いか念入りに調べてください。」 「ええっ!? でっ、でもどうしてそんな事を!?」 冷静さを事欠きながらもルイズはユリアに理由を尋ねる。 「それは、その…………月に一度しなくちゃいけない事で、だから………ルイズさんにしてもらいたいんです。」 本当のことを言うわけにはいかず、しどろもどろになりながら適当なことを言うユリア。しかし…… 「………わかったわ。」 ルイズは、それで納得した。 「えっ、いいんですか?」 「ええ……。女の子が月に一度しなくちゃいけないことって言ったらアレしかないわよね………。 ま、まあ使い魔の体調管理は主人の仕事のひとつだから……うん。」 「あっ、ありがとうございます!」 ユリアはルイズに頭をぺこりと下げて感謝の意を伝える。 「それで………どこを調べればいいのかしら?」 「あっ、じゃあ腋下とか下乳とか………。」 ユリアはそれぞれの部位を指差してそこを調べるように促す。 ルイズもそれを入念に調べに取り掛かった。 「見た感じ、特に問題は無いと思うけど……。」 ルイズは顔を真っ赤にして少し俯きながらなんとかそう答える。 「そうですか………。」 体の外部に異常は無いとわかってもユリアの不安は消えない。ユリアはその場に座って足を大きく広げた。 「中身も……覗いて下さい。」 くぱぁという音がした。ユリアは自ら股を開き顔を真っ赤にさせている。 「わ…わかったわ………。」 ルイズは恐る恐るユリアの股間に顔を近づける。 「………どっ、どうですか?」 しばらく顔を近づけたまま返答が無いルイズに、不安になったユリアが思わず問いかける。 「えっ、ええ…よく見えるわ。中はピンク色で白く光っててとっても綺麗……」 思いがけない言葉にユリアは思わず、体をビクンと震わせる。 「きゃっ!」 突然のユリアの動きに、顔を股間のところに近づけていたルイズはユリアの股間が顔面に直撃した。 ごんっと鈍い音がして、ルイズはそのまま後ろにどさっと倒れこんだ。 「ルイズさんっ!?」 ユリアは立ち上がってルイズの元に駆け寄る。 少し気絶していたルイズであったがすぐに起き上がる。 「いたたたたた………もうっ、いきなり何すんのよ! それにちょっと鼻を打ったみたいだし…」 そう言ってルイズは鼻を擦る。すると、ルイズの口の周りに透明な液体がべとべとついているのをユリアは見た。 「ルイズさんっ!!」 「きゃああっ!」 それを見た瞬間スイッチが入ったユリアはルイズを抱きしめてそのまま押し倒す。 「しよっ………。」 「ええええっ!!!!」 ユリアは目を閉じて唇をゆっくりとルイズの元へと近づけようとする。 (このままじゃ、本当に押し倒されちゃう………!) 「たあっ!!!」 「はうっ!」 危機感を感じたルイズは突如として馬鹿力を発揮し、ユリアを両手で思い切り突き飛ばした。 「いい加減に…」 ルイズは杖を手にするとそれをユリアに向ける。そして、 「しなさいっ!!!!!」 「きゃああああああああ!!!」 ルイズの杖から一際激しい魔法が発射された。それをもろに受けたユリアは大きな爆風とともに夜空へと吹き飛ばされた。 「ふう……」 口の周りを左手で綺麗にふき取ったルイズは、疲れがどっと出たようでその場にへたり込んでしまう。と、その時 扉からかたんと音がした。 「誰?」 ルイズは急いで扉に駆け込むとそこには見知った顔がいた。 「あっ…」 そこにはさっきまで扉越しから部屋を覗き込んでいたシエスタがいた。 「えっ、えっと私は、さっきユリアちゃんがうちの厨房に忘れ物をしてたのでこっちに届けようと 「どこから…見てたの?」 そう言うとルイズはシエスタの両肩をがしっと掴んだ。女の子とは思えないぐらいとても強い力である。 「その……クンニリングスからいちぶし…うぶぁっ」 ルイズはシエスタの股間を思いっきり蹴り上げた。シエスタは痛さのあまり股間を手で押さえてその場に座り込んでしまった。 「今日見たことは絶対忘れること。もし、誰かに言ったらあなたの命は無いと思いなさい!」 ルイズは鬼のような形相でそう言い放つ。 恐らくこのときの顔は生涯忘れられないに違いない。と薄れ行く意識の中でシエスタは思ったのであった。 前ページ次ページユリアゼロ式
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5344.html
前ページ次ページ伝説のメイジと伝説の使い魔 第二話 記憶喪失 「ブロリー?それがあんたの名前なのね」 「ブロリー……僕の、名前……僕は誰……?」 男は意味不明な言葉を紡ぐ。 「あんた、何意味わかんない事言ってるのよ。ブロリーってあんたの名前でしょ」 「名前……わからない……ここは……?」 会話が成立していない。ルイズの頭に再び血が上り始める。 「知らないわよ!も~、何でこんな変な平民を使い魔にしなきゃいけないのよ」 男は、ルイズの存在などまったく無視で、自分の世界に入り込んだように独り言を続けている。 使い魔の癖にこの態度。ルイズの頭がいい感じに煮えたぎる。理性がストレスを抑えるのを放棄する。 失笑という冷や水を浴びなかったら、透き通るような桃色の髪を乱さねばならなかっただろう。 ここでキレては恥の上乗せ。活力を取り戻した理性に従い、ルイズは次の行動に入ることにする。 使い魔と主従の契約を結ぶ儀式である。これさえできれば、ルイズは変でむかつく男の主人。使い魔とは何たるかを“教育”してもなんら問題はない。 いや、必ず教育し、二度と主に迷惑を掛けぬようにせねば、とルイズは固い決意を心に結んだ。 「あんた、こっち向きなさい」 一度では伝わらないと思えたが、男の耳にはしっかりと言葉が入ったらしい。ルイズは男の目を捉えることができた。 変わらぬ無表情。見続けると、妙な気分になる。 「じっとしてなさいよ。すぐに終わるから」 意味は伝わったようだ。男は頷いて肯定を示す。無表情で、どこか呆けたような男の雰囲気。 ルイズは契約の呪文を唱える。こんな男に、あんなことをしなければならない、と心に澱む感情を振り払うように。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 ルイズは、男の頬に手を添え、キスをした。異性と認識する相手に始めて。 相手は平民、使い魔、これは儀式、と反論してもこれはファーストキスである。 顔をほんのり朱に染めたルイズは唇を離した。男の唇は、ルイズが思っていたより、ずっと無骨、ゴツイとも表現できる硬さがある 男は先ほどと変わらぬ表情で見つめている。キスをされたのに何の反応もないのはおかしな話だ。 キスしたのにこの態度。ルイズは釈然としない気持ちになる。しかし、使い魔相手にそんなこと思っても仕方がないので、ささっと契約成功の報告に移る。 コルベール先生から成功のお墨付きを承り、ようやく、ルイズは一息つける心地になった。 不安で一杯だった召喚の魔法の成功。本来なら嬉しいはずのルイズであるが、やって来た使い魔は最悪。 それでも成功は成功と、ルイズは心を落ち着けた。 そんなルイズの心の平静は、すぐに茶化されて、掻き乱されてしまったが。 ルイズの叫び声が虚しく青空の中に響き渡る。 「ぐぉおおおおおおおおおおおおお!」 ルイズが口喧嘩に躍起になっていると、突然、男が猛獣のような咆哮を上げた。 人を竦み上げるほどの大音響。わずかでも男に意識を向けていたら、と条件が付く理由は、誰もが自分が楽しむので満足していて、それ以外には気が回らない。 男のすぐ脇に立っているルイズも自分を守ることで精一杯。そもそも、十数人が笑っているので、聞き取るのは少々難しい。 よって、男の黒髪がわずかに変色し、金色に光る粒子を纏ったことに、誰一人気づかなかった。 男が悶絶した原因は契約成立を示す使い魔のルーンが刻まれている証だ。 大量の汗を流し、動悸の激しい男の左手の甲に意味不明な文字が躍る。 コルベール曰く、珍しいルーンとのこと。全生徒が召喚の儀式を終了したので、コルベールは学院への帰るよう促した。 ひとしきり笑い終わった生徒たちは寮を構える学院への帰途につく。地上でなく、空中を散歩しながら。 驚くべき光景だ。なんと全員が空を飛んでいる。これがハルケギニアにおいて、貴族の支配を象徴する魔法の力なのだ。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」 「何なら、その使い魔にでもおぶってもらえよ!地面に足をつけなくてすむぜ」 ルイズに降りかかる辛らつな言葉。未だ、こいつらを黙らせる術を持っていないルイズは悔しさで震えることしかできない。 いつも付きまとう劣等感。ルイズは、逃げるように、使い魔に目を移した。 男は飛び去っていく生徒達を見つめていた。この表現では生ぬるい。食い入るように凝視しているのだ。 「空を飛ぶのが珍しいの?あんたどこの田舎者よ」 呆れたルイズの声など、どこ吹く風。男は学院内に消える生徒を見続けている。 ルイズは、頭を抱えて心の荷を吐き出すように、ため息を吐く。会話が成立しない、そもそも何を言っているかわからない人間を相手にしているので精神的にかなり疲弊している。 「ちょっと、あんた。もう部屋に帰るわよ。さっさと立ちなさい」 口だけじゃ反応しそうもないので、ルイズは男の肩を揺らす。 男は、眠りから覚めたようにはっと体を強張らせ、音もなくルイズに質量のない視線を投げかける。 「部屋……ここは……どこ?」 心に穴でも開いているような男の言葉。またこれだ。これにいちいち説明をしなければならないとは何という苦痛か。 「ここはトリステイン。あんたが見た建物は高名なトリステイン魔法学院よ」 「トリステイン……魔法……?それは何?」 「トリステインを知らない?あんたどこの田舎から来たのよ」 ハルケギニアの歴史にその名を轟かすトリステインを知らない人間など、ルイズの常識からはかけ離れている。 ルイズは、言葉も通じないような世界の果に住んでいる使い魔を召喚したのかと、絶望的な気分になった。 「どこから来た……?わからない」 小鳥が囀るような力のない声。その中に混じった重要なキーワードを、ルイズは聞き逃さなかった。 「わからない?あんた、自分がどこにいたかわかんないの?」 試しに聞いてみたら、男が頷いて肯定を示した。 何かがおかしいと、ルイズの心に疑惑が渦巻き、心に沈殿する粘着質の闇が溶けてゆく。 「ちょっといい。私の質問に答えてくれる?」 「はい……」 男の了承をもらえたので、とりあえず、当たり障りのない所から、ルイズの尋問が始まった。 「あんたの名前は?ブロリーじゃないの」 「わからない」 「あんたの両親の名前は?」 「わからない」 「あんた、今まで何をしていたの」 「わからない」 さらに数回の質問をした結果、男から、知らない、わからない、以外の答えを得ることはできなかった。 「これってもしかして、記憶喪失ってやつ?」 疑問形で言ってみてたが、ルイズはそうであると信じ始めている。これまでのおかしな言動に説明を付けるにはこれしかない。 記憶喪失。つまり、記憶が「ゼロ」。ルイズは、自分ってなんて呼ばれてるんだっけ、と意味もなく考える。 「ゼロ」のルイズ。理由は魔法が成功できないから。その使い魔も「ゼロ」。何も覚えていないから。 ルイズは筋肉ムキムキのお兄さんによって、頭から地面に叩きつけられた。そのお兄さんの姿が誰かに似ているのは気のせいだろうか……。 そう思わせるほどに、ルイズは勢いよく草原に体をめり込ませたのだ。 傑作な話である。間違いなくこの男は「ゼロ」のルイズの使い魔だ。ルイズは魔法の才能がない。こいつは記憶がない。 自分は呪われている。多分、どこぞの執事に不幸をうつされたのだ。じじいめ、妙な物渡しやがって。 ルイズは自分でも意味不明な罵詈雑言を呪詛のように吐き続ける。 「平気?」 男が初めてルイズに話しかけた。男の身を案じる言葉が耳に入った瞬間、ルイズはバネが反発するように跳ね起きた。 由緒正しいヴァリエール家の三女が、使い魔に心配されるなどあってはならない、と頭の回路が警告したらしい。 「だ……大丈夫よ。ななな、舐めないでくれる。私、貴族。こんなことじゃ動じないから、うん」 目元が引きつり、口がソーセージになってるのに、どこが大丈夫なのかは本人もわかってない。 「さ、行くわよ、使い魔。私について来なさい。私の前から消えちゃだめよ」 使い魔を視界から消した、つまり振り返った、ルイズは震える声でそう言った。 男は命令どおりにルイズの背にぴったり張り付く。 膝を伸ばして、手足が前方で平行になってるルイズがその場を後にし、草原が舞台の狂想曲は閉幕となった。 「もう一度聞くけど、本当に何も覚えていないの?」 豪華な調度品で飾られてる部屋、ここでルイズは日々の生活を過ごしている。 今、ルイズはベッドに腰掛け、男は壁際にもたれ掛かっている。 室内は淡い蝋燭の光に包まれ、窓は、満天の星空とハルケギニアを象徴する双子の月を、切り取っている。 落ち込んだルイズは、精神力を回復するためしばしの休息が必要だった。一般には昼寝と判断される。 起床は夕方で、それからある作業をしていたのこともあり、今は深夜といえる時間帯になっている。 「はい……」 男は、昼からほとんど変化のない表情で節目がちに、ルイズの疑問に答える。 ルイズが立ち直ってからしたこと、それは男への尋問の続きだ。 ルイズの頭が冷えて最初に浮かんだことは、なぜ、男の記憶が失われたかについてだ。 てんでだめな魔法と違い、ルイズは座学の成績がいい。魔法ができないからこそ、知れることは全て知っておこうという好奇心が強いのだ。 ルイズのこうした性格も、男の謎めいた正体を解明することに一役買っている。 使い魔召喚について、メイジたちは一つの事実を知っている。使い魔の記憶を、主人に従うように改ざんする。 もちろん、それで記憶が全て失われた記録など存在しない。しかし、共に記憶に作用する何らかの力、排除していい話でもない。 よって、ルイズは、記憶が消えたのは召喚前か、はたまた召喚後かを見極めるため、男から召喚される前の出来事を聞きだしているのだ。 男は寡黙に見えても、会話に支障が出るほど口下手ではなかった。そのためスムーズに、ルイズの作成した質問表にチェックが入っていた。 そして、日が沈んでから深夜まで続いた質疑応答の結果は、成果となるものがほとんどない、と結論付けられた。 「まさか、召喚直前に何やってたのかすら覚えてないとはね」 「ごめん……」 一晩中話し合ってるので、男とルイズにちぐはぐな空気が流れることはなくなっていた。 最初は口に出すどころか首の動きだけで返答していた男も、時を経るに連れて、言葉による受け答えをするようになった。 ずっと二人きりだったので、警戒心が解けてきたのだろう。 羊皮紙にびっしりと書かれた細かな文字。その全てにペケマークを付けたルイズは頭を抱えてる。ここまで手がかりなしとは予想外である。 数時間に及ぶ苦労が徒労に終わり、ルイズは深いため息を吐いた。 「も~、わけわかんない」 ルイズはベッドに体を投げ出す。月の光に浮かぶ、絹のようになめらかで美しい肢体が悩ましく宙を舞う。 ルイズは、横になったとたんに強い睡魔が上ってくるのを感じた。そういえば、今日は、昼から体も感情も動きっぱなしなことを、今更思い出す。 変な男を召喚して、自分で勝手に大騒ぎして、いろいろなことを言った気がする。 男のイメージは、召喚直後と比べて、ずいぶん変わっていた。暗そうだけど、少なくとも悪い人じゃない。記憶がないだろうか。でも、ルイズはそれがなくても酷い人間だとは思えなかった。 ルイズの心に召喚したときの光景が浮かぶ。 (そういえば……私、こいつに酷いこと言ったけ) 平民を召喚したと馬鹿にされてショックだった。感情任せに、男に辛らつな言葉をぶつけていた。今思い返すと、やってはいけない事かな、と罪悪感が芽生えてきた。 貴族は平民の上に立つ者。それだけではない。持てる魔法を使って、平民を護る者でもある。平民より身分があるといって、驕り高ぶるようでは貴族の勤めは果たせない。 遠い昔に母が教えてくれたこと。叱られてばかりだったけど、貴族とは何たるかを熱心に教えてくれたかつての勇猛な戦士。 ルイズは自問する。魔法ができない自分。ならばせめて、誰よりも貴族らしく振舞おうと思った。今日の自分はそれができただろうか。 ルイズは男に言った言葉を思い出す。そう、ブタとか、ロクデナシとか。かなり汚い侮辱をしていた。そしたら、こいつはなんて言ってたっけ?たしか…… ルイズの中に閃光が走ったのはその時だった。虚ろな意識が一気に覚醒する。烈風のごとく回る記憶を確認しながら、男が何を呟いたか思い出す。 闇の中に消えた男の記憶。八方塞でお手上げではなかったのだ。底の見えぬ奈落の中に、一筋の光明があるではないか。 「あんた、確か、ブロリーとか言ってたわよね。あれはあんたの名前じゃないの」 「わからない。名前、知らない」 予想通りの回答。当然だ。この男は、召喚した時から、何の変化も見られないのだから。 しかし、ルイズは男の言い分が違うと確信している。でなければあんな言葉は出てこない。 「いいえ、あなたの名前はブロリーよ。私があんたに、えっと、あ、あれこれ言ったとき、あんたはそこからある言葉を連想した。それがブロリーよ」 ルイズは、トリックを暴いた探偵気分で、まくし立てる。 「私が言ったのは“ブ”と“ロ”まで。その先の“リー”はどこから出てきたの?その場所はあなたの記憶の中じゃない!」 人々が心地よく夢に浸る静かな夜に、ルイズの迷推理が木霊する。 「僕はブロリー……。本当に?」 「多分ね。私が名前を聞いたとき、かすかに残った記憶が呼び起こされたんだと思うわ」 ルイズは、私は確信を持って言っている、というオーラに包まれている。ただし、外見だけ。 人間、その場でそうだと思って、勢いで動いては後悔するらしい。 ルイズの心臓の鼓動は増すばかり。冷や汗も少し流れている。見当はずれかも、と不安でがどんどん圧し掛かる。さすがに、証拠が少なすぎた。確証がないことに、今さら気づいたのだ。 男の様子を窺うと、本当にそうかも、という顔をしているような気がした。 後一押しで信じ込ませることができる、とルイズは確信する。主旨が変わってるよ、との誰かの注意声は爆散させた。もう、跡形もない。 何を言ったら、こいつの名前がブロリーになるか。ルイズはいい方法はないか探すことに専念する。 そして、男がなぜここにいるか、ということを使うことにした。 「それにね、あんたは私の使い魔。名前がないと不便じゃない!」 双月をバックに仁王立ちするルイズ。 ルイズの額には何かを達成した御褒美である気持ちの良い水疱が滴っている。 彼女の指先は男の心を撃ち抜かんばかりに伸びきり、腰に手を当てたポーズは、判決を下す裁判官のように、凛々しく、立派である。 「そう……かもしれない」 妙に神々しいオーラに圧倒されたのか、男も同意を示した。 「でしょ。これで決まりね。あなたはブロリー。この私の使い魔」 「僕は、ブロリー。ブロリーか。あと、使い魔って……?」 名前が決まったせいか、男は少しずつ饒舌になっている。無論、ルイズものどに引っかかった骨が取れたように、いい気分になっている。昼間からの陰険さはどこへやらだ。 「そうね、使い魔は私の従者。私の身の回りの全て雑務は全てやりなさい。手抜きは許されないわ。それと、私の命令には絶対服従。破ったら許さないんだからね。 最後に、これが一番大事なんだけど、この私を守ること。これだけは何があっても優先しなさい。あなた、力強そうだから大丈夫でしょ?」 「わからない。でも、やる」 男は、何かを決心した顔つきになっていた。 「わからないじゃダメ。もっとはっきり決意しなさい」 「わかった」 「返事は、はいよ。元気良く!」 「はい!」 ルイズは王様気分で上機嫌でうなずいた。 前ページ次ページ伝説のメイジと伝説の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2428.html
前ページ次ページ鮮血の使い魔 夢だったらいいな。そう思った。 でも、どこから、どこまで? 魔法を失敗ばかりして『ゼロ』と呼ばれた事が? サモン・サーヴァントで平民を召喚してしまった事が? 言葉と誠に慣れていく自分が? あるいは。 もしくは。 「おはようございます、ルイズさん」 「……おはよー」 ひとつのベッドに言葉と並んで眠っていたルイズは、起床と同時に嘆いた。 嗚呼、夢じゃなかった。 Nice Real. 理由は解らないが昨晩突然言葉がルイズに愛をささやき、ベッドにまで突入してきた。 ヤる気満々の言葉を必死に説得し、貞操を死守したルイズ。 でも流れで同じベッドで眠る事になってしまった。 このままいくと数日後にはヤられかねない、とルイズは頭を抱える。 その日、言葉は誠の入った鞄を一度も開けぬままルイズと朝食に行った。 言葉は鞄を持って来なかった。 いったい何事かと他の生徒達は驚いていたが、 あんな気味の悪い物は見たくない近づきたくないという意味で受け入れられた。 そのまま授業に出て、ふとルイズは気づく。 言葉が鞄を持ってないせいか皆上機嫌なのに、なぜかモンモランシーだけは顔色が悪い。 そういえば昨晩のワインの事、すっかり忘れていた。 結局ワインはあの場に放置して……ワイン? 「ワインの件で話があるんだけど」 「知らない聞かない話さない」 授業後、ルイズは話を聞かれないよう言葉に部屋の掃除を命じてから、 モンモランシーを人気の無い廊下に連れ込み問い詰めていた。 「昨日の夜、あんたギーシュと一緒にワイン飲んでたでしょ?」 「飲んでない」 「あんた達が残していったワイン、グラスに入ってる分、 もったいないから私とコトノハで飲んじゃったのよ。直後から『ああ』なの」 「知らない見てない興味ない」 「香水のモンモランシーっていうくらいだからポーション作りとか得意よね?」 「ううん全然ちっともポーションに関しては成功率ゼロなくらい苦手」 「人の精神を惑わす薬とか、犯罪よね。水のメイジに調べてもらえばすぐ解るわ」 「そうね、でもあの平民は薬なんか飲んでないから調べる必要ないわね」 「そうね、だから調べても問題ないわよね。ちょっと頼んでくる」 「ごめんなさい堪忍してください私がやりました惚れ薬ですしくしく」 実にスムーズに話は進み、モンモランシーはすべて暴露する。 ギーシュに口説かれて嬉しかった事、言葉から誠入り鞄を盗ろうとした事、 ギーシュに助けられて惚れ直した事、ギーシュの浮気が許せない事、 惚れ薬を飲ませようとした事、言葉達が現れたのであの場から逃げ出してしまった事。 「あんたねー……やっぱりマコトを盗もうとしてた訳?」 「だって、気持ち悪かったんだもん」 「気持ちは解るけど……」 「でも今日は鞄持って来てなかったし、今が捨てるチャンスじゃない」 「薬が切れたら殺されるじゃない」 「そこは自分の責任にならないよう上手に誘導するのよ」 「……」 Nice idea. 「コトノハただいまーお掃除すんだ?」 モンモランシーのアイディアにより意気揚々と帰ってきたルイズ。 愛しい人が帰ってきて、言葉は満面の笑みで出迎えた。 「はい、うんと綺麗にしておきましたよ。特にベッドを」 見ればシーツにはしわひとつ無い。 嫌な予感にルイズの笑みがちょっとだけ歪む。 ルイズのそっちの気は無いのだが、言葉の性的魅力は同性でもクラクラするほど強烈だ。 あの豊満なバストなどあらゆる男を魅了の魔法にかけるだろうし、 女性からは嫉妬と羨望の双方を向けられる強力な武器いや兵器だ。 それに大きくて柔らかい胸を触った時の気持ちよさは男女共通。 昨夜、ベッドの上で窒息しそうなほど胸を押しつけられたルイズはその恐ろしさを知った。 (し、死守よ! ヴァリエール家の娘ともあろう者が、平民の使い魔の、 しかも同性相手に貞操を奪われるなど天地が引っくり返ってもあってはならない事ッ!! 私は主、コトノハは使い魔。私は貴族、コトノハは平民。 そう! 私が上、コトノハが下ッ!! これは天地開闢以来くつがえらぬ絶対の掟! なればこそ! ルイズ・フランソワーズ、弱気になってはダメよ。強気になるの! そう、私は強い。強気に断る! 拒む! 主として貴族として強気の強気に決める!) 心の中でルイズが咆哮すると、突如窓の外で雷鳴が鳴り響いた。 さらにザーザーと豪雨。これはまさにルイズの気迫が呼んだものだった。 天をも動かすルイズの覇気が狭い部屋に嵐のように渦巻く。 「ルイズさん」 来たな、とルイズは身構えた。雷と龍を背景に背負う。 その迫力たるやエルフも裸足で逃げ出す勢いだ。 強気で無敵で素敵なルイズが炎と猛る! 「あ、あのねコトノハ。昨晩も話した通り私はヴァリエール家の娘なの。 だから私は、誇り高い貴族として心身を清く在らねばならない宿命にあってね。 すなわち、こ、困るから、その、結婚前の男女、いや、男女じゃないけど、 ともかくお父様やお母様に知られたらお仕置きされちゃうし、 いくら私でも両親には逆らえないし、敬ってるし、尊敬してるし、敬愛してるし、 両親の期待と信頼を裏切るくらいならもー死んでお詫びをしたいくらいで。 だからどおか今宵のうっふんあっはんは堪忍してください後生ですから」 全力で低姿勢のルイズ。 それを聖母の如き包容力で包み込む言葉。 「大丈夫ですよ。私は無理強いなんてしませんから」 「そそ、そう思うなら、あの、頭を胸で挟むの、やめてもらえないかな」 「えいっ、ぱふ……ぱふ……うふふっ」 「ふにゅぅ~」 夢心地な挟撃にルイズの脳味噌がトローリトロリと溶け出した。 (あー、気持ちいい。何ていうの、至福? そう、至福。 いいなぁ、胸が大きいのは正義よね。胸が、胸、大きいの、いい。 私もこれくらい大きくなったら、もう、死んでいい。胸胸胸胸胸……んはぁっ!?) 思考がヤバイ方向へ全力疾走していると気づいたルイズは大慌てで言葉から離れた。 バックステップだ。 蹴っつまづいた。 ベッドの上に背中からポフン。 「わひゃぅっ」 「純潔を穢さない範囲で気持ちよくして差し上げますね」 獲物を逃がすまいとする肉食獣のように言葉はルイズに迫る。 絶体絶命。このままでは快楽の虜に堕とされる。 それだけは阻止せねばならない。ラノベヒロインの誇りにかけて。 しかし逃げるすべが見つからない。 ルイズが呼んだ雷雲は轟々と雨を降らし、ルイズの悲鳴も嬌声も飲み込むだろう。 だから大声を出すという手段は使えない。 もっとも使い魔に押し倒されて大声で助けを呼ぶなど、プライドが許さないが。 「ルイズさん……好き……」 「だ、ダメ……。み、見られながらなんてダメ! マコトが、その、いるじゃない?」 と、ルイズはベッド脇の棚に置かれている鞄に視線を向けた。 すると言葉は、ニッコリと微笑んで鞄に向かう。 「中に誰もいませんよ」 と、空っぽの鞄の中を見せつけた。 「……えっ…………」 意味が、解らない。 「だから、今日は二人っきり……誰も邪魔する人なんていません。 ……やっと二人きりになれましたね、ルイズさん」 鞄を放り、制服を脱ごうとする言葉。 「……マコトは、どこ」 震える声で問われた言葉は、穏やかな瞳で微笑みで口調で答える。 「寮の裏の木の下に埋めちゃいました。亡骸を野ざらしになんてできませんから」 ……意味が、解らない。 「ごめんなさい、勝手に埋葬してしまって。でも、誠君の生首を持ちあるくだなんて、 正気の沙汰じゃありませんよね……以前の私はどうかしていたんだと思います」 そう、そうだけど、でも。 「女同士だなんて不自然かもしれませんけど、私は全身全霊でルイズさんを――」 ベッドから起き上がり、うつむいたままのルイズの唇が動き出す。 同時に窓から射し込む閃光。 「黙って」 静かな、しかし力強いルイズの声。 直後、天を裂くような雷音が鳴り響いた。 それはまるでルイズの言葉そのものであるかのように、力強く言葉の身を打つ。 「……ルイズさん?」 「あんたは……あんたは……あんたは、あんたは、あんたは!」 何色だっただろうか。 生首を偏愛していた狂気の暗く深く淀んだ黒瞳は、今は真っ直ぐな愛情にきらめいている。 その瞳を見つめる鳶色の双眸は、何色だっただろうか。 「あんたは私の使い魔なのに!」 どういう意味で、どんな意味を込めて言ったのか、そんあのルイズにだって解らない。 けれど、言葉はルイズの使い魔で。 首を持ち歩くだなんていう狂気の平民が使い魔だなんて認めたくない。 だから認めないために、ルイズは行くのだと思う。おかしいけれど、そうなのだ。 言葉を突き飛ばして、ルイズは鍵もかけずに部屋から飛び出した。 「ルイズさん!?」 背中に言葉の呼び声が投げつけられても、構わずルイズは廊下を走る。 雨音、風音、足音、雷音、心音、響く。 すべての音が速度を増す。すべての音が感覚を狭める。すべての音がルイズを打つ。 ザァザァ、ゴゥゴゥ、カツカツ、ゴロゴロ、ドクドク。 響いて打って早く早くと急かし立てる。 寮から飛び出たルイズをさっそく歓迎する雷雨。 一瞬で濡れ鼠になりながらもルイズは走る。泥が跳ねて靴もソックスも汚れていく。 嗚呼、私は何をしてるんだろう。何をしようとしてるんだろう。 自問自答した直後、その答えをハッキリと思い描いて否定する。 馬鹿な! そんな真似をする訳がないこの自分がなぜよりにもよって何かの間違い絶対そう。 ならなぜ泥を跳ねさせる足は止まらない? ならなぜ足はあそこに向かってる? きっと自分は頭がおかしいのだ。 使い魔の頭が『ああ』だったから、自分も『ああ』になっちゃったに違いない。 理性は言う、やめよう引き返そう。 身体にベッタリと張りつく服が冷たく、そして気持ち悪いけど、気にならない。 理性は言う、立ち止まれ。 立ち止まった。 嗚呼、何だ。やっぱりそうじゃないか。 ルイズは思う。理性の言う事を聞ける自分は、頭がどうにかなってしまったのだ。 だって、立ち止まったその場所は、寮の裏にある木の前だったから。 見下ろした木の根元、土がぬかるんでいるそこに、在る、いや、居る。 理性は言う。まだ引き返せると。 うん、そうね。引き返せるね。じゃあ、掘り返そうか。 本当に、自分は馬鹿になってしまったのだとルイズは確信した。 尋常ではないルイズに不安を駆られた言葉は、慌ててルイズの後を追った。 自分を召喚したルイズ。誰よりも愛しいルイズ。 死体を愛でるだなんていう狂気を打ち払ってくれたルイズ。 そのルイズが、あんな瞳の色を見せてるだなんて。 鳶色の中で渦巻いていた、様々な感情の色。 混ざりすぎて、元の色が何色だったのかなんて誰にも解らない色。 でも、すべての色を混ぜると黒くなるのに、黒くなかったと言葉は感じた。 「ルイズさん……」 轟々と降る雨の中に言葉は身を投げ出す。 こんな雨を浴びていたら風邪を引いてしまう、早くルイズを連れ戻さないと。 彼女がどこに行ったのか。 想像はついたが、確認のため言葉はその場にしゃがみ込んだ。 「足跡……やっぱり、寮の裏……」 そこに何があるのかは、誰よりも知っている。自分がそこに埋めたから。 「どうしてっ……!」 ルイズは違う。かつての自分のような、狂気の住人ではない。 首だけとなった醜くおぞましい死体に向ける感情など無いはずだ。 あの優しいルイズが、聡いルイズが、どうして。 駆けつけた時、一心不乱に木の下を掘るルイズの姿が見えた。 「ルイズさん! やめてください!」 このままではルイズが狂ってしまう。言葉は直感的に思った。 うずくまって犬のように地面を掘るルイズの無様な姿が胸を痛ませる。 白い指は茶色く汚れ、爪の間に土が入り込み、泥がかかった顔で振り向くルイズ。 「……コトノハ……」 「もう、やめてください。部屋に戻りましょう? もう、無理に求めたりしないから。 早く身体をあたためないと、風邪を引いてしまいますよ? あから、お願いします」 「うん、早く戻ろう。三人一緒に」 視線を穴に戻したルイズは、再び素手で泥を掘り返し始めた。 一度は言葉が掘って埋めた穴、素手でも十分作業できる。 だが、雨で土が泥になり、柔らかくなったものの、 固体とも液体ともつかぬ泥は手のひらに絡みつき思うように掘り返せない。 指がジンジンするほど冷たいのに、動悸も息遣いも荒くなっていく。 「どうして、どうしてですか。ルイズさんは……誠君の事が、好きなんですか!?」 「ううん、嫌いよ。大嫌い」 掘る。掘る。ルイズは掘る。 黒い髪が指に絡む。 「だったら誠君を掘り返す理由なんて何も無いじゃないですか! もう、死んでるんですよ!? 誠君は死んでるんです! 死んでいるんです!」 「何だ、解ってるんじゃない」 掘る。掘る。ルイズは掘る。 灰色の皮膚が露出する。 「ルイズさんに、そんなつらくて汚い事を、私はして欲しくないんです! 私が悪かったのなら謝ります。ごめんなさい、ごめんなさい」 「何が悪いのかも解らず謝られても、相手の心には届かない」 掘る。掘る。ルイズは掘る。 白い眼球が露出する。 「解りません、今のルイズさんが何を考えているのか解りません……」 「私はコトノハが何を考えてるのか解らないわ。死体を愛でるなんて、変」 掘る。掘る。ルイズは掘る。 瞳孔全開で見つめ返される。 「もう誠君の事は何とも思っていません! 彼はもう死んだ、過去の人です。 でもルイズさんは生きている、生きているんですよ!?」 「でも私が今、雷に撃たれて死んでしまったら、言葉は私の遺体を抱きしめる」 掘る。掘る。ルイズは掘る。 落雷。 「キャッ……」 「ずいぶん近くに落ちたわね。ここに、落ちなきゃいいけど」 掘る。掘る。ルイズは掘る。 ようやく呼吸をやめている鼻を発掘する。 「ルイズさん……少しでも、ほんの少し、カケラほどでもいい。 私の事を好きでいてくれているのなら、もうやめてください」 「じゃあやめない。私はコトノハが大嫌いだから」 掘る。掘る。ルイズは掘る。 唇は青紫。多分ルイズの唇も身体が冷えたせいで似たような色をしてるはず。 「コトノハなんて大嫌い。何で平民が私の使い魔になるのよ、最ッ低だわ。 生首持ってるのも信じられない。馬鹿じゃない? っていうか馬鹿よ馬鹿。 死んでるマコトを後生大事に持ち歩いて、話しかけたりなんかして。 人形遊びじゃないんだから、そんな事したって無駄だし無意味で無為よ。 気持ち悪い。 うん、もう言っちゃうから。正直に。気持ち悪いのよ、あんた。 生首、死体、マコトなんかを恋人だなんて言い張って。頭おかしいわ。 恋人が死んで頭がおかしくなった可哀想な平民、それがあんたよコトノハ。 同情や憐憫よりも、恐怖と嫌悪が先に立つ。 おぞましい、穢らわしい。 マコトなんて見るのも嫌、触ったらそこが腐りそう。 そんなマコトが大好きなコトノハも嫌い嫌い大嫌い……大ッ嫌いなのよ!」 きっと自分は泣いているんだろうと言葉は思う。 拒まれ、罵られ、雨と一緒に頬を流れているに違いない、涙が。 悲しい。最愛のルイズから嫌われて、胸が引き裂かれそう。 でも、まだ、引き裂かれない。 小さな疑問が心を守る。 「そんなに……嫌いなら……。どうして……そうまでして、誠君を……?」 「あんたは多分、ううん、絶対、今のままの方が幸せなんだと思う。 そう、解ってる。解ってるのよ。でも、私は主だから、こうするの。 死んでしまった恋人を忘れて、新しい愛に生きているコトノハの瞳は、 普通の人間らしい生気が感じられて、黒曜石のようにきらめいてる。 ああ、これが生きている人間なんだ。これが正気の人間の瞳なんだ。 十六年しか生きていない若輩者にだって、それくらいは解るの。解るのよ。 でも違う。その心は偽り。だって、コトノハは、飲んだから」 「何を?」 「心を惑わす惚れ薬。モンモランシーがギーシュに飲ませようとしてたの、 あんたが間違って飲んじゃったのよ。だからモンモランシー達は悪くない」 「惚れ薬なんて、関係ありません。私は本当に、ルイズさんの事が」 「薬の効果はいつか切れる。その時になって、コトノハは後悔する。 マコトを埋めてしまった事を後悔して、怒って、誰かを傷つけるかもしれない」 「まさか、自分が傷つけられるだなんて思っているんじゃ……。 わ、私、ルイズさんを傷つけるなんて、絶対にしません!」 「薬が切れて、私にも非があるって解ったら、きっとコトノハは私を傷つけるよ。 それが怖かった。だから自分の責任にならないようコトノハを誘導して、 自発的にマコトを埋めるよう仕向けてやろうと思った」 「だったら大成功じゃないですか! 私は自分の意思で、彼を埋めたんですよ!?」 「意思の上に『薬でおかしくなった』という文をつけるのが正解よ」 「やめて、やめてください。惚れ薬なんて私は飲んでません! ルイズさんを愛するこの純然たる想いは、私の内から自然と産まれたもの!」 「今は信じなくてもいい。でも惚れ薬の効果が切れたいつか、コトノハは後悔する。 悔やんで、怒って、悲しむの。自分自身の手でマコトを埋葬した事実に」 「私はそれでも構わない!」 「私がイヤだと言っている!」 雷鳴が天地を切り裂き、耳が痛くなるほどに響く中、ルイズの手が動きを止めた。 雨は、まだ降り続けている。ルイズの掘った穴にも、泥水が溜まっていく。 「だから、コトノハ」 ルイズは泥水の中に深く手のひらを突っ込み、 そこに沈んでいる、あるいは埋まっているそれを両の手でしっかりと掴んだ。 「ちゃんと持ってなさい」 引っこ抜くようにして、尻餅をついて、ルイズはそれを腕で抱きしめる。 「コトノハが本当に自分自身の意思でマコトと別れられるその日まで」 泥まみれになった誠の頭部を、ルイズは言葉に差し出した。 「……。はいっ」 受け取って、彼を愛していた過去を思い出し、言葉はしかと抱きしめる。 雨は上がらない。二人の身体から容赦なく体温を奪っていく。 でも、寒いとは思わない。 「薬の効果が切れて、またコトノハが狂気に呑み込まれても、私は絶対見捨てない。 そう、自分の使い魔を見捨てるメイジなんて貴族失格だもの。 私の使い魔は狂気に呑み込まれたコトノハじゃない。 薬で仮初の正気を取り戻したコトノハでもない。 私がまだ見た事もない本物のコトノハが私の使い魔よ」 雨も雷も、二人の意識から消える。 あるのは自分と相手、ただそれだけだった。 だから雨の中でも雷の下でもなく、自分と相手の二人きりの世界で、 偽りの愛情に満たされたまま、本当の心が解らぬまま、言葉は応えた。 「それがルイズさんの使い魔としての条件なら、必ずいつか、私は」 興奮のせいか本音を全部吐き出してしまったルイズ。 後悔していない訳じゃない。 薬の効果が切れたら、今自分が言ってしまった言葉を言葉は赦さないかもしれない。 そうして、自分に凶刃を向けるかもしれない。 だから、後悔してる。少しだけ。 でもそれ以上に、そんな小さな後悔が問題にならないくらいに、自分が誇らしい。 人間として、貴族として、間違った事をしてしまったのかもしれない。 でもルイズとしてやった事だから、それでいい。それでいいんだ。 第6話 私がイヤだと言っている 前ページ次ページ鮮血の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4804.html
前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔 「ボーっとしちまって、どうしたんだ相棒」 デルフリンガーがカチカチと音を立てながら言う。 「うん」 しかしルイズの反応は鈍い。 アンリエッタ姫の歓迎の式典が終わってから、ずっとこの調子である。 ルイズは久しぶりに見たアンリエッタともう一人のことで頭がいっぱいだった。 「まぁ、ボーっとするのは構わねえけどよお、俺の扱いがちょっとどうかと思うんだがよ……」 ルイズはボーっとしながらも、デルフをその手に持ち上下に動かしていた。 ダンベルのように。 「そういう使い方されると、おれの剣としての自尊心が……激しく傷ついちゃうんだよ……」 しかしルイズはにべもない。 「部屋の中で振り回したら危ないじゃない」 デルフの言葉を意に介さず、ダンベル運動を続ける。 そんな折、部屋の中に控えめなノックの音が響き渡った。 控えめではあるが、規則正しいノックの音。長く2回。短く3回。 ルイズはハッとして、デルフを投げ捨て扉へ駆け寄る。 扉を開けると、そこには黒い頭巾をかぶった小さな影。 「ひ……」 その影を見たルイズが口を開こうとするが、その影は口の前に指をあててそれを遮る。 そして影が杖を振る。光の粉が部屋中に漂う。 それはディテクトマジック。 その結果に満足したのか影は頭巾を取る。 「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」 そう言いながら露になった顔にルイズは覚えがある。ノックの音を聞いた時から予感していた顔。 「姫殿下!」 昼間、学院総出で出迎えたトリステイン王女、アンリエッタがそこにいた。 ルイズとアンリエッタは思い出話に花を咲かせる。 ルイズは幼少の頃、アンリエッタの遊び相手を務めていたことがあった。 その頃のことを二人は顔に楽しそうな笑みを浮かべながら語り合う。 しかし、そんな和やかな空気もいつまでも続きはしなかった。 アンリエッタの顔からいつの間にか笑顔が消えている。 「……本当、楽しいことばかりでしたわね、あの頃は……」 言葉の裏を読むまでもない。昔を思い出して笑うことはできても、今、現在のアンリエッタを笑わせるようなことはないということ。 ルイズはアンリエッタの現状に思いを馳せる。 アンリエッタの父親でもある先王が3年前に急逝した。 その後今に至るまで、王の座は空いたまま。アンリエッタの母であるマリアンヌ大后も女王の座に就く意思はなく、アンリエッタは国民の期待を一身に受ける立場になってしまった。 今は宰相のマザリーニが政治を取り仕切っているが、アンリエッタに求められるものも増えていっているのだろう。 しかしそれは……。 「結婚するのよ、わたくし。……ゲルマニアの皇帝と」 アンリエッタが肺腑の中身をすべて吐き出すかのように言う。 「それは!」 アンリエッタの言葉に、ルイズは思わず声を荒げるが、すぐに声のトーンを落とす。 「それは……おめでとうございます」 ルイズは言った。それがアンリエッタの望む結婚ではないことも、そして、自分がそれを祝う気になどなれないことを知っていながら。 それは仕方のないことなのだ。 ルイズが、貴族として上に立つ以上、下に立つ平民のために力を振るおうと決めているように、上に立つ者にはその特権的な地位に相応しい責任がある。 そしてアンリエッタは王族。 このトリステインにおいて、最も特権的な立場にある存在だ。 「……レコン・キスタですね」 ルイズは吐き捨てるように言う。 レコン・キスタ。最近いやでも耳に入ってくる名だ。 ハルケギニアの統一と、聖地の奪回などという名目のもとに、アルビオンで反乱を起こしている者たち。 アルビオン王家の旗色は悪く、早晩アルビオン王家は滅びるだろうといわれている。 そうなったら次は、地理的にトリステインに攻め込んでくるに違いない。 しかし、歴史はあれど小国にすぎぬトリステイン。しかも求心力たる王の座も空いたまま。 アルビオン王家を滅ぼすような相手に、立ち向かうには厳しいものがある。 そこで、アンリエッタがゲルマニアに嫁ぐことで軍事同盟を敷き、アルビオンに立ち向かおうというのだ。 それはトリステインが生き残るためにとりうるほぼ唯一といっていい手段。 「ええ。王権に楯突く不埒者どもに対抗するには、これしかないのでしょう」 アンリエッタの表情は暗い。 目の前の王女は、ある意味でルイズと同じなのだ。 ルイズが貴族でありながら系統魔法が使えないように、アンリエッタは王族でありながら王者としての力を持たない。 先王の急逝によってアンリエッタは国を背負う力を持たぬまま、それを背負うことになった。 「でも……」 アンリエッタが気まずそうな表情をしている。 「どうかなさいましたか?」 ルイズがそれを気に掛けるも、 「いえ、どうかしてたんだわ。こんなことお願いできるわけないじゃない」 アンリエッタはそう言って首を振る。 どうやらルイズに「お願い」があって、わざわざ人目を盗んでルイズに会いに来たらしい。 そして、それはとても言いづらい事らしい。 「姫様。私でよければ何なりとお申し付けください」 ルイズは言うと片膝をついて頭を垂れた。 アンリエッタの話をまとめるとこうだ。 ゲルマニア皇帝との婚姻の妨げとなる手紙が存在する。 それはアルビオンの皇太子、ウェールズのもとにある。 このままではアルビオンが敗れたとき、その手紙がレコン・キスタに渡り、同盟の妨げになるだろう。 故に誰かが取りに行かねばならない。 「ああ! ルイズ。聞かなかったことにして頂戴。こんな危険なことあなたに話してもどうなるものでもないのに」 アンリエッタが嘆く。 婚姻の妨げになる手紙。 つまりは恋文ということだろう。 しかも、それがただの結婚ではない、軍事同盟を背景とした婚姻にすら影響するというのならば、始祖のもとに愛を誓った、そういうことだろう。 ルイズは口には出さないがそう結論する。 ルイズは心をきめて口を開く。 「姫様。手紙奪回のその任務、私にお任せください」 始祖の名のもとに誓ってしまった愛をなかったことにする。それは実に自分にぴったりの仕事ではないか。 ルイズはそう考えた。 自分が異端であることをばれなければいいと思っているように、その手紙もなかったことにし、ばれなければいいのだ。 そして目の前の姫君。 アンリエッタ自身が言ったとおり、本来ルイズのような一学生に言ったところでどうにもならぬ問題だ。 だが、アンリエッタには頼れる人間としてルイズ以外の者がいなかった。それゆえにこの部屋にいる。 アンリエッタも頼れる力を持たぬ、弱い者なのだ。 ならばルイズは弱い者のためにその力をふるうことに異議はないし、それが幼少のころ同じ時を過ごした友人であるなら尚更だ。 「しかし……よろしいのですか?」 アンリエッタがルイズに視線を向ける。 ルイズはそれに対してまっすぐに力強い視線を返す。 「……ではお願いしますわ」 アンリエッタはそう言うと懐から一枚の紙を取り出して、手紙をしたためる。 そしてその手紙と一緒におのれの指にはまっている指輪をはずし、ルイズに手渡す。 「これが私の使者としての身の証になるはずです」 それは水がそのまま固まったかのような青く透き通った宝石のついた指輪だった。 「それでは明朝、すぐにでも発ちます」 ルイズはそう言うとアンリエッタを扉の所まで連れて行く。 ルイズはドアノブに手をかけながら、アンリエッタのほうを向く。 「姫様。ゲルマニアに嫁がれましたら早く信頼できる者を見つけ、そばに置かれますよう」 アンリエッタに頼るべき力がないからこそ、ルイズはこの任務を引き受けた。 しかし、アンリエッタが力を持たないでいていいわけがないのだ。 例え先王の急逝ということがあったとしても、アンリエッタは早く己の懐刀というべき存在を見つけておかなくてはならなかった。 それを怠ったが故にルイズのような学生に頼ることになる。 自分が異端になってまで力を手に入れようとしているように、アンリエッタも相応の力を手に入れるよう努力しなければならない。 ルイズはアンリエッタの返答を待たずに扉を開けた。 ギーシュがいた。 「さあ! いざ行かん! アルビオンへ!」 ギーシュは杖を振りかざし高らかに宣言する。 「馬鹿」 ルイズはそう言うとギーシュの後頭部をぽかりと殴る。 「何をするんだ!」 「アンタねえ、隠密って言葉の意味解ってるの?」 不遜にもアンリエッタの後をつけ、そして部屋をのぞき見話を盗み聞きしていたギーシュは、結局ルイズとともにアルビオン行の任務に就くこととなった。 早朝の魔法学院の正門で2頭の馬が轡を並べている。 「あ、あぁ、そうだった。すまない」 後頭部を抑えながら謝るギーシュの足もとの地面もこもこと盛り上がる。 するとそこから巨大なモグラが顔を出した。 モグラはルイズをつぶらな瞳で見つめている。 「紹介するよ。僕の使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンテさ! どうだ! 美しいだろう!」 そう言うとギーシュはヴェルダンテを抱きしめて頬ずりをする。 ルイズが再びギーシュの後頭部を叩く。 「アンタは黙るってことを知らないのかしら?」 そう言うルイズだが、それは殴った理由の半分にすぎない。 もう半分は単純にモグラに頬ずりするギーシュの図が気持ち悪かったからだ。 ギーシュが頭を押さえてうずくまる。 なおも拳を握っているルイズを見ると、ギーシュはどうしても何時ぞやの決闘を思い出してしまい、少し腰が引けてしまう。 「そのモグラにはちゃんと留守番させておくのよ。急ぎだし、目的地が目的地だし」 ルイズがそう言って馬の手綱を取り、馬に跨ろうとしたところ、それを遮るものがあった。 ヴェルダンテだ。 「あぶねえ相棒!」 馬の鞍にくくりつけられたデルフリンガーが叫ぶ。 ヴェルダンテがルイズに猛然と飛び掛かるが、ルイズはデルフリンガーの言葉に反応し、ヴェルダンテが飛びかかる頃には何とかそちらを向いていた。 ルイズは両の手でヴェルダンテの突進を抱え止める。 がっぷり四つ。 早朝の魔法学院の正門前。 少女とモグラの異種族間相撲が行われていた。 「あぁ、ヴェルダンテ! 僕を殴るルイズを懲らしめてくれようとしてるんだね。なんて主人思いの素晴らしい使い魔なんだ!」 ギーシュはそう言うと感極まった顔をしている。 しかし当のヴェルダンテは何やら鼻をひくつかせ、ルイズの体をまさぐろうとしている。 それに対してルイズは、 「さっきから鼻を鳴らしてるんじゃないわよ~!」 突如始まった相撲で、己の腋から汗がにじみ出るのを感じていた。 鼻をひくつかせるヴェルダンテがまるでルイズの腋のかほりを嗅いでいるようで、ルイズの顔が羞恥で赤くなる。 「どっせ~い!」 「ああっ! ヴェルダンテ!」 ルイズは腰のひねりをつかってヴェルダンテを豪快に投げ飛ばした。 肩で息をしながら鬼の形相のルイズ。 その視界に、グリフォンに跨った、見覚えのある顔がいた。 「ワルド……様?」 その顔はえらく引いた顔をしていた。 前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9045.html
前ページときめき☆ぜろのけ女学園 (タバサに人間だって知られちゃったわ。このままじゃ他の妖怪にもバレて、襲われちゃうかもしれない。食べられちゃうかもしれない) そんな事を考えつつ、ルイズは布団に包まっている猫耳の少女を見据えていた。 (そんなの絶対に嫌!! そんな事になるくらいなら、私は、キリと同じ猫股になるわ!) 決意を込めて布団をめくり上げるルイズ。 そこでは、キリと同じ猫股だが別の少女が静かな寝息を立てていた。 (ま、間違えたああ!) ルイズは頭を抱え心中で絶叫する。 その時、背後で襖が開く音がした。 「ひ……っ(誰か来たっ!!)」 慌ててキリの掛け布団に潜り込む。 「……ル、ルイズ?」 文字通り「頭隠して尻隠さず」という状態になっている何者かの正体を匂いで看(?)破し、キリはそう声をかけた。 「……キリ」 「ルイズ! そんなかっこで何してんの!?」 「これは~、その~」 キリに尋ねられたルイズがしどろもどろになっていると、 「ううん……、うるさいな……」 もう1人の猫股が寝ぼけ眼で体を起こした。 「キリ? どうかした?」 ルイズはそれより一瞬早くキリの布団に潜り込み、キリは何事も無いように装って答える。 「あ……、暑くて水飲んできた。ごめん……、起こしちゃった?」 「あ……、そ」 猫股はそう答えると即座に眠りについた。 安堵の溜め息を吐いたキリは、 「ルイズ、今のうちに部屋戻ろう」 と布団の上から声をかけるもルイズの反応は無い。 代わりに自分の下半身に奇妙な違和感を覚え始めたため、布団をめくる。 「ちょ……、ルイズっ、何してるの!?」 「し……、下のお口っ!」 そこではルイズがキリのスパッツを下着ごと脱がそうと引っ張っていた。 「は!? ええっ!? ええええええ?」 「下のお口……、下のお口ってどれ? どこ? どうしたらいいの!?」 「ルイズっ、どうしちゃったの? 落ち着いて!!」 ルイズの突然の行動に混乱しつつも何とか落ち着かせようとするキリ。 しかしそんな彼女にルイズは、 「私、猫股になるって決めたの……!!」 と自分の決意を告白した。 「え?」 呆気に取られたキリ。そこに、 「むにゃ……、うるさいな……」 先程の猫股が目を擦りつつ再度体を起こした。 2人は即座に布団を頭まで被って狸寝入りを決め込む。 「……あれ?」 周囲を見回した猫股が三度眠りにつくと、 「………」 「………」 しばらく息を潜めてからルイズ・キリは会話を再開した。 「ねえルイズ、自分の言ってる事わかってる?」 キリからの問いかけにルイズは赤面しつつ頷く。 「猫股になったら、もう人間には戻れないんだよ? それでもルイズは本当に猫股になりたいの?」 (他の妖怪に襲われるくらいなら、猫股の方がいいに決まってる) 心中でルイズはそう呟き、キリからの再度の問いかけに再び決意を口にする。 「キリ……、私を猫股にして」 その言葉にキリはルイズをそっと抱きしめる。 「ありがとう、ルイズ。私凄く嬉しいよ」 「キ……、キリ」 そして2人はそっと口づけ合う。 (だから……、だから……、これでいいのよね……) キリが優しく胸を揉む感触に耐えられず、ルイズの口から声が漏れる。 「ふ……っ、うん、キ……、キリ、どうして胸を触るの? 下のお口……でしょ?」 「だって気持ちいいでしょ。ほら……、下のお口も気持ちいいって言ってる」 「やんっ!」 嬌声を上げたルイズの口を自分の口で塞ぐキリ。 「ふっ、んっ、やあ」 「ルイズ、声出したら駄目」 「んん」 キリはそっとルイズの下半身に手を伸ばしていく。 (何これ何これ、こんなの初めてよーっ!! き……、気持ちいいよ~!) さらにキリの口がルイズの胸を攻める。 「はっ、キリ……、駄目、もう駄目。あ、お願い、早く猫股にしてっ!」 「ルイズ、可愛いな。無理なら今日はもうここまでにしよ?」 「だ……、駄目っ。だって……、だって、タバサに人間だって知られちゃったから、私早く猫股にならなきゃ!」 「……タバサに……、だからそれで突然……」 そう呟いたキリはそっとルイズから離れ起き上がる。 「キリ……?」 「ルイズ、駄目だよ。そんなの駄目だよ」 「キリ……、駄目って……、どうして!? だって私猫股にならなきゃ他の妖怪に……っ」 「タバサには私から話をつけてくるから大丈夫」 「でも……」 「だからそんな理由で妖怪になるなんて言わないで!!」 キリが荒げた声にまたも隣で寝ていた猫股が体を動かす。 「キリ……、声大きいよ……。うううん……」 その声に一瞬沈黙した2人だったが、ルイズの方から声をかける。 「……何か怒ってる?」 「………」 しかしキリはそれに答えず布団に潜り込んだ。 「もう寝よう。今日はここに泊まっていっていいから」 「キリ……」 ルイズも仕方なく布団に潜り込む。 (タバサに知られちゃった事も、キリの様子がおかしかった事も心配なのに――) しかしルイズの頭の中は先程のキリとの事でいっぱいになっていた。 (あんなに気持ちいいなんて……。どうしよう、もっとしたい!) その夜、ルイズは一睡もできなかった。 前ページときめき☆ぜろのけ女学園
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6377.html
前ページ次ページアクマがこんにちわ ラ・ヴァリエール家の屋敷、裏庭。 練兵場として使われている一角に、すり鉢状の穴があった。 その縁にはラ・ヴァリエール公爵夫人、カリーヌ・デジレが立ちつくしている。 彼女の着る、過度な装飾を廃した浅紫色のドレスは、貴族婦人と言うより、家庭教師を思わせる凛とした雰囲気を漂わせている。 「ここに居たのか」 公爵が、カリーヌの後ろから声をかけた。 カリーヌは返事をせず、じっと地面を見つめている。 「凄まじいものだな」 公爵が隣に並び、呟く。 数分の沈黙の後、カリーヌが口を開いた。 「……最初、ルイズが連れてきた使い魔を見たとき、ルイズが騙されているのではないかと思ってしまいました」 「わしもだ。…それどころか、今でも彼がルイズの使い魔なのか、疑問に思っている」 公爵はどこか寂しそうに呟く、それはまるで、娘が戦地に向かっていると知りつつ、止めることのできない悔しさが滲み出ているようだった。 「あの少年は、どんな思惑でルイズと接しているのでしょうね」 「彼の言葉を信じるなら、自身のためなのだろう。彼は家族も友人も失って、ルイズに召喚されたようだ」 「戦いの虚しさを知っているのなら、ルイズを力に溺れさせることはないかもしれません。ですが私には、彼の力に群がる者達が現れる気がしてなりません、ルイズがそれに耐えられるでしょうか…」 「カリーヌ…それは、私も同じだ」 二人は、強大な力に不釣り合いなほど、純朴な性格の少年…人修羅の姿を思い浮かべた。 ディティクト・マジックで計りきれぬ強大な魔力、系統魔法とは違う、先住魔法らしき魔法。 そして別の文化圏という、ハルケギニアを冷静に判断する視点の持ちよう。 彼が戦争を望むのなら、ハルケギニアを戦乱の渦に陥れ、世界を破滅させることも可能かもしれない。 彼が戦争を望まなくとも、その力を欲する様々な者達が、彼とルイズを混乱へと導くかもしれない……。 「メイジとして一人前になれなくとも、せめて貴族として社交を身につけて欲しいと、そう思って魔法学院に行かせた。だが、ルイズは、とんでもないモノを召喚してしまった」 そう呟いた公爵を、カリーヌが諫めた。 「女々しいですよ、あなた。ルイズは私たちが思っているよりもずっと困難な道を歩むのかもしれませんが…これも始祖のお導きかもしれないのですから」 「うむ…そうだな、そうだな。カトレアを診てくれたミスタ・人修羅に対しても、些か失礼な物言いになってしまった」 そう言って公爵は空を見上げた。 あまりにも強大過ぎる力の出現は、ハルケギニアにどんな影響をもたらすのか…… 二人は、その力がルイズと人修羅自身を傷つけることにならぬよう、祈る以外に無かった。 ◆◆◆◆◆◆ 朝早くラ・ヴァリエールの屋敷を出たルイズと人修羅は、ゴーレムの御者が手綱を握るブルーム・スタイルの馬車に乗ってトリステイン魔法学院を目指していた。 ルイズは揺れる馬車の座席に座り、人修羅に寄りかかって夢を見ている、人修羅は実家に帰っても気の休まる暇がないルイズを案じて、魔法学院に到着するまで余計な声はかけないように勤めていた。 ごとん、という地面からの衝撃で、ルイズの体が前へと傾きそうになると、人修羅はそっとルイズの肩を押さえて体を支える。 ラ・ヴァリエールの領地にある屋敷と、魔法学院の間はそれなりの距離がある。 平均的な馬で三日ほどの距離があるのだが、帰りは馬でなく竜を使って馬車を引かせているため、移動時間を大幅に短縮できるとのことだった。 その見返りとして、ちょっとした地面の凹凸が大きく響くいてしまう、人修羅は、ふと中世の戦車はこのような物だったのか?と考えた。 古い時代の武将や、レギオンを召喚できたら聞いてみよう…そう考えて、またルイズに目を向けた。 安心して眠るルイズの姿は、妹が居たらこんな感じだったのか、と想像させるに十分な可愛らしさがあった。 ◆◆◆◆◆◆ ルイズは夢を見ていた、舞台はラ・ヴァリエールの領地にある屋敷、つい先ほどまで一時帰省していたはずなのだが、どこか雰囲気が違っていた。 夢の中のルイズは、屋敷の中庭を逃げ回っていた。 背丈と同じぐらいの高さだった植え込みが、まるで迷宮のようで、ルイズは誰かから逃げるようにその陰に隠れていた。 二つの月のうち、片方が隠れてしまう夕方のひととき、一つの太陽と一つの月が交差する時間。 「ルイズ!どこに行ったの? まだお説教は終わっていないのですよ!」 その声でルイズは、これが夢なのだと悟った。 聞こえてきた声は母。 ルイズはデキのいい姉たちと魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られていた。 実際は母に叱られたことなど殆ど無い、だが、母の恐ろしさといったら家庭教師のそれとは比べものにもならない。 だから夢の中にも登場し、ルイズを叱りつけては、魔法のできが悪いと怒るのだろうか。 (これは、子供の頃の夢…) そう思いながらも、夢から抜け出すことは出来ない。 だんだんと辺りが暗くなる頃、植え込みの下から、誰かの靴が見えた。 「ルイズお嬢様は難儀だねえ」 「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに……」 召使い達が自分のうわさ話をしている、それがとても悔しくて悲しくて、ルイズは両手を強く握りしめ、歯がみした。 召使い達が植え込みの中をがさごそと捜し始めたので、ルイズは植え込みの隙間を器用にくぐり抜け、中庭へと逃げ出した。 中庭にはあまり人が寄りつかない、が、その場所こそがルイズにとって最も落ち着ける場所だった。 池を中心に様々な花が咲き乱れ、小鳥が集う。石のアーチをくぐり抜けベンチの脇を通り過ぎ、池遊び用の小舟に乗り込むと、小さなオールを使って池の中心へと向かう。 池の真ん中には小さな島があり、そこには白い石で作られた東屋が建っている、ルイズはこの場所を『秘密の場所』と呼んでいた。 成長し、大人になった姉二人も、軍務を退いた両親も、昔はこの小さな池で船遊びをしていた。 だが今は忘れさられたのか、そこに浮かぶ小船を気に留めるものは、この屋敷にルイズ以外居ない。 ルイズは叱りを受けると、決まってこの中庭の池に浮かぶ小船の中に逃げ込み、一人でぼっちでただ時間が過ぎるのを待っていた。 幼いルイズは小船の中に忍び込むと、以前から用意してあった毛布に潜り込む。 毛布にくるまって顔だけを出していると、不意に誰かの姿が思い浮かんだ。 全身に入れ墨を入れた青年、人修羅の姿が、脳裏に浮かんだのだ。 すると不思議なことに、体に優しい暖かさが感じられた、人修羅が自分の肩を抱いてくれてくれている……そう思うと、ルイズの寂しさはいつの間にか暖かさに変わっていった。 「……?」 人修羅とは違う誰かの気配に、ふと顔を上げる。 いつの間にか小島には霧がかかっており、その向こうから誰かが近づいてくる。 その姿はマントを羽織った立派な貴族のようで、年のころは十六歳ぐらいに見える、人修羅と同じぐらいの男性だ。 「泣いているのかい? ルイズ」 その人物はつばの広い、羽根つきの帽子を被っていたので、顔を見ることができなかった。 だが、ルイズはその声を良く知っていた、彼が誰なのかすぐにわかったのだ。 夢の中で、ルイズは胸が熱くなるのを感じた。 すぐ隣の領地を相続した、憧れの子爵であり、晩餐会をよく共にし、自分を気にかけてくれる人である。 ルイズは、子爵と、父の間で交わされた約束を思い出した。 「子爵さま、いらしてたのですか?」 幼いルイズは慌てて毛布で顔を隠す、憧れの人にみっともないところを見られてしまった、その恥ずかしさでルイズの顔はますます赤くなった。 「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね」 「まあ!」 ルイズはさらに頬を染めて、俯いた。 「いけない人ですわ。子爵さまは……」 「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」 ほんの少しおどけた様子で子爵が言う、すると夢の中のルイズは、小さく左右に首を振った。 「いえ、そんなことはありませんわ。でも。わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」 そう言って、ルイズははにかんだ。 子爵もにっこりと笑い、ルイズにそっと手をさしのべてくる。 「子爵さま」 「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。もうじき晩餐会が始まるよ。さあ、掴まって」 ルイズは差し出された手に、自分の手を重ねようとしたが、母親に怒られていたことを思い出し手を引っ込めてしまった。 「でも、わたし」 「また怒られたんだね? 大丈夫だ、ぼくからお父上にとりなしてあげよう」 小さな島の岸辺、から小船に乗るルイズに手が差し伸べられる。 その手は大きな手で、憧れの手だった。 ルイズは立ち上がると、そっと…子爵の手を握った。 その時、風が吹いて子爵の帽子が飛んだ。 飛んでいった帽子を見ていると、その先に、人修羅の姿が見えた。 「ひとしゅら!」 霧のかかった池は、いつの間にか巨大な湖と化していた。 その向こうで人修羅が立っている。 まるで…ルイズを祝福するように笑顔を向けていた。 それがたまらなく寂しくて、ルイズは子爵の手を離し、人修羅へと向き直った。 「人修羅! ……ついてきて、くれないの」 ◆◆◆◆◆◆ 夕方。 魔法学院に到着したルイズと人修羅は、学院長に一時帰省の内容を報告した。 カトレアの治癒についていくつか報告した後、アンリエッタ姫殿下からの手紙を預かっているとのことで、ルイズだけが学院長室に残された。 人修羅が学院長室から出て、本塔の階段を下りていくと、途中でコルベールとロングビルの二人を見かけた。 「おやミスタ人修羅、いつの間に戻られたのですか」とコルベール。 「つい先ほどですよ」人修羅は笑顔で返す。 「ラ・ヴァリエール公爵にもお会いできましたかな?」 コルベールがそう聞くと、人修羅は顔を引きつらせた。 「むっちゃくちゃ緊張しました」 「ははは、まあ仕方ないでしょう」 と、そこで人修羅はあることを思いついた。 「あ、そうだ。ちょっと相談があるんですが」 「何でしょう?」 「実はまたルイズさんと外出することになりそうなんです。それで護衛に必要な道具が欲しくて」 「ほう。道具ですか…」 コルベールがううむと唸る。 「…道具を必要とするんですか?貴方が?」 ロングビルが不思議そうな顔で聞いてくる、すると、人修羅は苦笑いして答えた。 「手加減のために必要なんですよ」 「そ、そうですか…」 気のせいかロングビルの笑顔は、引きつっていた。 ◆◆◆◆◆◆ しばらく後。 部屋に戻ったルイズは、人修羅の姿がないことに気が付き、ふん、と鼻を鳴らした。 「まったく、何処に行ったのかしら、人修羅ったら」 ぐるりと部屋を見渡すと、壁に立てかけているはずのデルフリンガーが無い。 また外で訓練をしているのだろうか?ルイズはそんなことを考えながら、窓から外を見た。 辺りを見回すと、魔法学院の塀の上に座っている影が見えた、よく見ると背中に剣らしきモノを背負っている…人修羅だ。 その隣には小柄な誰かが座っている、おそらくタバサだろう。 ルイズは驚いて口を開けたまま、並んで座る二人を凝視した。 「……っ!」 カーッと頭に血が上る、ご主人様を放っておいて何をやってるの!と叫びそうになるが、かろうじてそれを押しとどめ、ばたーんと勢いよく扉を開けて外へと駆けだしていった。 「ちょっとー!人修羅ー!」 「あ、ルイズさーん」 外壁の下からかけられた声に、人修羅はのんきな調子で答えた。 「ご主人様を放っておいて何やってるのよー!」 「ああ、ごめん。すぐ降りるよ」 そう言うと、人修羅は手の力だけで跳躍し、ルイズの隣へと着地した。 「ごめんごめん、ちょっと相談を受けててさ」 「相談ですって?……タバサが、貴方に?」 タバサという少女は、寡黙でしかも人付き合いが少ない。 自分から何かを相談するとは思えなかったが、人修羅が嘘を言っているようにも思えなかった。 人修羅は上を見上げると、塀の上からこちらを見下ろしているタバサに声をかける。 「タバサさん。さっき言った通り、ルイズさんにも説明してくれないかなあ」 「……わかった」 タバサは少し大げさに頷くと、レビテーションを使ってふわりと地面に降り立っち、服に付いた埃を払って、ルイズの瞳を見つめた。 「な、何よ」 「人修羅が。貴方の姉を治癒して、一定の効果があったと聞いた……どうか、お願い。私にも治癒の力を貸して欲しい。母を、治したい」 「え?」 ルイズは、タバサの口から紡がれた言葉があまりにも意外だったので、言葉を失った。 そして、もしかしたら彼女の無口の理由はそこにあるのではないか…と勝手な想像を働かせてしまい、目をぱちくりとさせた。 「ルイズさん、ちょっと話はややこしいんだが…タバサさんの身内は、どうも普通の病気じゃないらしいんだ。 今までにも治癒のメイジに頼んだり、治癒の文献を読みあさって調べたらしいけど、全く原因もわからないらしい」 人修羅が説明をくわえる、と、ルイズは納得いったかのように頷いた。 「…そう、そうだったの。解ったわ、家族が病気なのは辛いわよね。でもしばらく待って貰えないかしら、私、明日からまたしばらく魔法学院を離れることになりそうなの。 帰ってきたら具体的な話を聞かせて、それで協力するかどうか決めるから」 「わかった」 タバサは小さく頷いて、そのまま魔法学院の寮塔へと戻っていった。 人修羅はタバサを見送った後、ルイズに促されて近くのベンチに座る。 「はあ…、そっか。タバサもそうだったんだ」 ルイズがため息を漏らす。 人修羅は少し間をおいてから、ルイズに声をかけた。 「ルイズさん、当分魔法学院を離れるって事は、王女様に会いに行くのと関係してるの?」 「え? そうなんだけど、ちょっと大変なことになりそうなの。オールド・オスマンが仰るには、明日にでもお忍びで姫殿下が来訪されるとか…」 どこか納得のいかなそうな顔で、ルイズはため息をついた。 「お姫様が来訪?ってことは、この魔法学院に?」 「そうよ…どうしても私と話したかったみたいなの……。なんか、私、複雑だわ」 幼なじみが政略結婚する…そんな経験は、人修羅にあるはずが無かった、かける言葉が見つからず、俯いたルイズを見守ることしかできない。 「あのね…姫様と会って、どんな話をすればいいのか解らないのもそうだけど… 私、立派なメイジになって姫様を助けたいって思ってたの。 お母様みたいに立派なメイジになれれば、何でもできるって思ってたのに、私はまだ何もできないのよ」 「だけどルイズさんは、俺を召喚したじゃないか」 「そうだけど、そうだけど……そうじゃないのよ。誰よりも強くて何よりも凄い使い魔を欲しがったのは私だけど。 だけど、オールド・オスマンも、お父様もお母様もお姉様も、人修羅を怖がるじゃないの。誰も、褒めてくれないわ…」 ずしりと、肩が重くなる気がした。 もし、ルイズが『もっと凄い使い魔が欲しかった』と駄々をこねたなら、人修羅は苦笑だけで済ませただろう。 もし、ルイズが『人修羅は最高の使い魔だからどんな敵も倒せる』と言ったなら、人修羅は怒っただろう。 もし、ルイズが『人修羅なんかいらない』と言ったなら、仕方ないと言ってそのまま旅に出ただろう。 しかしルイズは、ただひたすらに自分の不甲斐なさを責めていた。 「さっき、タバサがレビテーションを使って、外壁の上から降りてきたわ、私はまだレビテーションだって、アンロックだって確実にできないのに。なんだろう、私、悔しい……」 人修羅の出現で、皆の注目がルイズから人修羅へと移ってしまった。 その事で人修羅を責めるのは筋違いだと理解しているから、ルイズは自分を責めることを選んだ。 「ルイズさん」 そう言って、人修羅はルイズの肩を掴み、振り向かせた。 「悔しがらない人間はいない。悩まない人間は居ない。いや……何の悩みもなしに行動する人間より、悩んで、悩んで、それを乗り越えた人こそ、本当に尊敬されるべきだと思う」 ルイズはきょとん、とした顔で人修羅の言葉に耳を傾けている。 「ルイズさん、俺の力をどう使うか、ルイズさんの肩にかかってるんだ。俺は無闇に人を殺すつもりもないし争うつもりもない。 もしルイズさんが残酷な人だったら、俺はルイズさんの元に居ないよ、そうやって悩むことができるから、俺はルイズさんの元にいられるんだ」 「悩む…」 「そうだ。ルイズさんが悩んでいるのは、俺という存在がルイズさんの肩にかかっているからだろ、それは俺の行動の責任を取ろうとしてくれるからだろう。俺がもし他人の使い魔ならルイズさんはそんなに悩まないはずだ」 「うん…そう、そうよ、でも人修羅が嫌いって訳じゃないわ、今までと私の扱いが違って…だから……人修羅にふさわしい主人になりたいのよ」 「それこそ貴族じゃないか。ノーブレス・オブ…何だっけ。ええと、とにかくルイズさんは、貴族って立場の責任を取ろうとしているんだろ。その悩みこそ貴族の悩みじゃないか、立場と責任ある人の悩みじゃないか。 『ふさわしい』とか『ふさわしくない』じゃないんだ。ルイズさんが俺をどうしたいのか、自分がどうなりたいのかを決めるんだ。今はそれを決めるために悩んでいるんだろう?それこそ……貴族じゃないのかなあ」 ルイズは、頭の中でぐちゃぐちゃになっていたものが、少しずつ解けていく気がした。 ラ・ヴァリエール家の人間として教育を受け、領地を持つ貴族がどんな仕事をするのか理解しているつもりだったが、実は何も解っていなかったのだと、気づいてしまった。 大貴族は『領地』の管理を地方太守に任せているが、それはあくまでも現状維持を任せているだけである。 領地を発展させるには、領主がしっかりと方針を定めなくてはならない、例え部下が失敗したとしても、部下に仕事を任せた責任が付きまとう。 人修羅は、自分にとって唯一の『領地』であり『領民』なのかもしれない。 人修羅だけでもこんなに悩むのに、魔法学院を預かるオールド・オスマンは、領地を預かる父母は、王女たるアンリエッタ姫殿下はどれほどの苦悩の中にいるのだろうか。 ルイズはそこまで考えると、両肩に置かれていた人修羅の手をどかし、目に力を込めて人修羅を見返した。 「人修羅、ごめんなさい。私、泣き言を言っちゃったわ。 私が領主で、人修羅が領民なら、私の言葉は領民を不安にさせる失言だったわよね。 私より悩んでいる人なんていっぱい居るのに、それに今更人修羅の主人として相応しいか悩むなんて…駄目ね」 そう言ってルイズは笑顔を見せる、つられて人修羅の表情も軟らかくなり、二人で微笑みあった。 「しっかりしてくれよ」 「解っているわよ。…とりあえず、そろそろ部屋に戻りましょう」 ルイズが立ち上がる、が、人修羅はベンチに座ったまま近くの花壇に視線を向けた。 「悪いけど先に戻っていてくれないか?」 「…いいけど、早く戻ってきなさいよね」 そう言って、ルイズは早足で寮塔へと戻っていった。 ルイズを見送った後、人修羅は唐突に身をかがめ、まるでカエルのようにびょーんと跳躍し、10メイルほど離れた花壇の裏側へと着地する。 「のぞき見かっ?」 「うわああっ!?」 花壇の裏側にいたのは、マリコルヌだった。 人修羅が真後ろに着地したので、マリコルは驚き、丸っこい体で地面を転がる。 「デバガメか!覗きか!つーか何してるんだよ」 「わ、わ、いや、別に。ちょっとスカートがめくれ上がってベンチの後ろからパンティが見えていたとかそんなことは絶対にないよ!」 人修羅はコケた。 「マリコルヌ…その情熱は凄いと思うけど、みっともないとは思わないのかよ」 人修羅が呆れたように呟くと、マリコルヌは立ち上ってふんぞり返り、偉そうに口を開いた。 「何言ってるのさ、最近のヴァリエールは、いや、君が召喚されてからのヴァリエールはツンとしたところが半減してどこか物憂げな感じで、これはこれで良いんだ。 そんなパンツを覗かずにいられると思うかい?偶然見てしまうよ!これは事故だよ」 「どこが事故だよ…」 人修羅は頭を抱えたが、ふと何かを思いついて、マリコルヌに小声で話しかけた。 「ところでさ、話は聞こえていた?」 「ま、まあ不本意ながら」 申し訳なさそうにするマリコルヌを見て、人修羅は苦笑いした。 「一応秘密らしいから、黙っててくれないか」 「もちろんだ。女の子のスリーサイズと同じぐらい大事な秘密だからね。決して口外しないよ」 「やっぱり、バカだろうお前」 前ページ次ページアクマがこんにちわ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8058.html
前ページ次ページゼロみたいな虚無みたいな ――ザッ、ザッ…… ルイズは無言で中庭の掃き掃除をしている。 「………」 ふと視線を向けた先では、タバサが2人羽織のようにシルフィードの背後から前方に手を回す形で箒を使っている。 「それで掃除できるの?」 「だってシルフィ、お姉様大好きなのね~!」 と今度はシルフィードが体の向きを変えてタバサにしがみついた。 「あんた達本当に女同士?」 あまりの雰囲気にそうツッコミを入れたルイズなど眼中に無い様子でタバサはシルフィードの頬をそっと撫で、 「……シルフィード……嬉しい……」 その時、何やら棒状の物体がタバサのスカートの前部を押し上げ始めた。 「!! ちょっ、ちょっと、そっ、それ何何何!?」 慌ててタバサからシルフィードを引き剥がしたルイズだったが、 「あー、ごめーん。箒が……」 「……いいよ……」 あぽろの使っていた箒の柄が、誤ってタバサの股の間に突っ込まれていたのだった。 「アポローっ!」 何となくいづらくなってその場から逃げた後、ルイズは地面に座り込んで大きく息を吐く。 「はー……」 「びっくりしたね」 能天気にもそんな発言をしたあぽろの頬を、ルイズはひとしきり引っ張るのだった。 「いひゃ……、いひゃ……い」 ようやく頬引っ張りの仕置きから解放されたあぽろは頬をさすりつつ、 「そうだルイズちゃん、タバサちゃんとシルフィードちゃんの指見た?」 「指?」 「うんっ、ほらほら」 そう言いつつあぽろが指差した先では、茂みの向こうでタバサ・シルフィードが抱き合いつつ何やら話していた。 あぽろの言葉通り、2人の指にはペアになった指輪が光っている。 「ねっねっ、見た?」 「うん……」 「あれ、先週の虚無の曜日に買ったんだって」 「ふーん」 「私も何か欲しーなー」 「ふーん。自分で買えば?」 そう言ってその場を後にしようとするルイズを追い、あぽろは彼女の腕に手を回す。 「じゃあ2人で買いに行こっか。で、交換!」 「……アポロ」 「はい?」 「今クラスで友達同士大切な物を交換し合ったり揃いの物買うの流行ってるけど、私はしないわよ」 「何でー? みんなしてるよ?」 手をばたつかせて不満げに訴えたあぽろだったが、ルイズはつれない態度で、 「みんながしてるからするなんて、心の弱い人間がする事よ。さ、帰るわよ」 (でも、でも……、ルイズちゃんの持ち物欲しいんだもん。どうしても駄目ならお揃いの物買うのっ) 「ルイズちゃんっ!」 その夜、寮の自室であぽろは満面の笑みと共にルイズに声をかけた。 「何?」 ルイズが読んでいた本から顔を上げると、あぽろはルイズのストッキング片手にルイズのベッドに歩み寄ってきていた。 「これルイズちゃんが今日穿いてたストッキング?」 「うん、そこ置いといて」 そのまま視線を本に戻したルイズだったが、何やら聞こえてきた物音を不審に感じてあぽろの方に向き直る。 するとそこにいたあぽろはルイズのストッキングを穿いて、自分が脱いだニーソックスをルイズに差し出していた。 「こらああああ! 何してんのよおお!!」 「ルイズちゃんは私の穿いてーっ」 「こんな萌え萌えソックス穿けないわよーっ!!」 「酷~い、ニーソックスだよー」 手渡されたニーソックスを投げ返したルイズだったが、あぽろはまったくめげた様子も無く頭に投げ返されたニーソックスが乗ったまま、 「あ、じゃあ何か買いに行く?」 「行かないってば。……とにかくそういうのしないの。それにしつこいの大っ嫌い」 「ふんだ……。ふーんだ、ケチっ。ルイズちゃんなんて寝てる時凄い歯ぎしりするし、いつも部屋にパンツ見える格好でいるしっ! (中学生)のくせにレースだらけのパンツ穿いて……えっち!」 「ほっときなさいよっ!」 赤面して反論したルイズに、あぽろはルイズのストッキングを手にしたまま涙を流し始める。 「ルイズちゃんと1番仲いいんだよって……、クラスの子に自慢したいんだもんっ! ルイズちゃん大好きなんだもん! ……もう帰るっ!」 そしてそのままあぽろは部屋を飛び出していってしまった。 「どこにっ!?」 残されたルイズは赤面したまま扉の向こうを眺め、 「……もう、最初からそう言いなさいよ」 魔法学院を取り巻く夜の森を2つの月が照らしている。 「うう……、ぐす……、みっ、道迷っちゃった。ママー」 その森の中をあぽろは1人泣きじゃくりつつさまよい歩いていた。 「私……、このままここで暮らす事になったりして」 森の中での野宿生活を想像しあぽろは思わず震えあがるが、それも一瞬の事、 「その方がいいわ。もうルイズちゃんなんて大っ嫌いだもんっ」 口ではそう言ってみたものの、裏腹にあぽろの目にはみるみるうちに涙が溜まっていった。 (嘘だよ……。本当は今だって凄く楽しいし満足してたの。ルイズちゃんと毎日一緒にいられるだけでよかったの。それなのに私、いつの間にかもっともっとってルイズちゃんに要求ばかりしてた。ルイズちゃんの気持ち無視してたよ……。やっぱりちゃんと謝るっ) 「ルイズちゃ……」 そう言いつつ学院に戻ろうとあぽろが回れ右をした時、 「何?」 あぽろの目の前には、汗だくになったルイズが険しい表情であぽろの肩をつかんでいた。 そしてルイズは、あぽろの頭を叩くと胸倉をつかんで睨みつける。 「あう」 「いつまでほっつき歩いてんのよ!」 「ごめんなさい……」 「まあ無事でよかったけど、あんまり心配させるんじゃないわよ」 そう言ってルイズは元来た道を戻り始めた。 (あ、ルイズちゃん凄い汗……) あぽろはルイズがどれだけ必死で自分の事を探していたかを悟り、思わず抱きつくのだった。 「ルイズちゃ~ん」 「なっ何よ、暑いのに」 「ごめんね、ごめんなさい(私の事探してくれてたんだ……)」 そして抱きついたまま学園への道を行く2人。 「ルイズちゃ~ん、ごめんねー」 「わかったから放しなさいよ……」 そんな2人を2つの月が優しく照らしていた。 (大好きだよーっ) 「いー天気だー」 翌朝、あぽろはそう言いつつルイズの部屋の窓を勢いよく全開にした。 「まだ起きるのに10分早いわよ……」 ベッドの中ではルイズがまだ布団の中で蠢いている。 「だってー、今日から衣替えの日だよー♪ 張り切っちゃうっ。さあっ、ルイズちゃんも起きてっ」 「はいはい」 そう言いつつ、ルイズはようやく布団から這い出して着替え始める。 ルイズが着替えを終えると、ふと思い出したようにあぽろに向かって手招きする。 「あ、そうだわ。アポロ、こっち来て。あげるわ」 あぽろの襟につい先程まで耳に着けられていたルイズのピアスが付けられた。 「交換よ。あんたのピアスちょうだい。私の制服の襟に付けるから」 そう言って自分の襟をつかんで見せたルイズだったが、あぽろは体を振るわせるばかりで微動だにしない。 「……何よ」 「う、嬉しーっ!」 叫びと共にルイズに飛びかかり抱きつくあぽろ。 「ルイズちゃーん!」 「もーっ、暑苦しいーっ!」 初夏のトリステイン魔法学院に2人の声が響いていた。 前ページ次ページゼロみたいな虚無みたいな
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5783.html
前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第十二話 気絶したフーケを捕らえ、タバサとキュルケは元来た道を大急ぎで戻ると、意識を失ったルイズを学院に運び込んだ。 キュルケが強引に引っ張ってきたモンモランシーのおかげで大体の傷は治り、特に別状はないという。 それでも、ルイズは目を覚まさなかった。 結局、事の報告は後回しとなり、タバサとキュルケの二人はつきっきりでルイズの看病にあたることとなったのだった。 そして、その日の夜 「ぅ……ん……」 ルイズが目を覚ますと、そこは見慣れた自分の部屋であった。 キュルケが上からこちらを覗き込んでくる。 その傍らにはタバサもいた。 「やっとお目覚めね。まったく、いつまで寝てるんだか」 おかげで舞踏会に行けなかったじゃない、とキュルケは腕を組みながら言った。 「……ごめんなさい」 ルイズがしょんぼりとした表情で謝る。 それを見て、キュルケは微笑んだ。 「ま、いいわ。それより、あのカメなんとか……」 「仮面ライダー」 タバサが突っ込む。 「そうそう、それそれ。あれって一体何だったの? 詳しく話してみなさいよ」 ルイズは一瞬顔を曇らせたが、しばらくすると体を起こし、ゆっくり口を開いた。 ミラーワールド、モンスター、仮面ライダー…… キュルケは、ルイズの口から語られる信じられないような話に目を丸くしていた。 一方のタバサは、表情一つ変えずに話を聞いている。 「……なるほど。だから、そのカードデッキは破滅の箱なんて呼ばれてたのね」 ルイズの話が一段落すると、キュルケがルイズの手元にあるタイガのデッキを指差しながら言った。 「多分、そうでしょうね。……それで、今日あったことだけど……」 ルイズがミラーワールドでの出来事を話そうとした時、突然部屋の扉が開かれた。 「ひっ! あ、アサクラ!?」 扉の前に立つ浅倉を見た途端、ルイズの顔から血の気が引き、青ざめる。 それを見ると、浅倉は笑いながら彼女がいるベッドへと近づいていった。 「いつもの偉そうな態度はどうした? 俺に叩きのめされたのが、そんなに怖かったのか?」 「い、いやっ! 来ないで、来ないでぇっ!!」 ミラーワールドでの恐ろしい体験が脳内に甦り、ガタガタとその身を震わせるルイズ。 そんな彼女と浅倉との間に、キュルケが割って入った。 「ちょっとアンタ! 一体ルイズに何をしたのよ!?」 キュルケがきっ、と浅倉を睨み付ける。 今まで浅倉をダーリンとよび、恋心を抱いていたキュルケであったが、今の彼女にそんな気持ちは微塵もない。 むしろ、友を傷つけたことへの怒りの感情の方が強くなっていた。 そんな彼女を浅倉はフン、と鼻で笑う。 「そのデッキを手にした今、こいつも一人のライダーだ。ライダー同士、戦うのは当たり前だろう?」 「なら、これからもルイズと戦い続けるとでもいうの?」 「いやっ!」 キュルケの問いかけにルイズが反応し、膝を抱えて体を縮こまらせた。 その目には涙が湛えられている。 「もう戦いたくない……! もう戦いたくなんかないよ……!」 浅倉はそんなルイズに冷めた目を向けると、再びキュルケの方へと視線を戻した。 「だとしたら、どうする?」 怒りの形相で睨み続けるキュルケに、浅倉は余裕の表情で問い返す。 「……なら、容赦しないわ!」 「ほう、やるか?」 そう言って、キュルケは杖を、浅倉はデッキをそれぞれ取り出した。 そんな二人を、ルイズは心配そうに見つめている。 「待って」 不意に聞こえてきたタバサの声に、皆の視線が彼女に集中する。 そして、タバサの口から思いがけない言葉が発せられた。 「……私が仮面ライダーになる」 「ダメよタバサ! 危険よ!!」 タイガのデッキに伸ばされたタバサの手を見て、ルイズはタバサに渡すまい、と両手でデッキを抱きしめた。 しかしタバサが杖を一振りすると、デッキはルイズの元を離れタバサの手に収まった。 「誰かがライダーにならないと、ルイズが食べられてしまう。でも、今のルイズに変身は無理」 タバサが淡々と理由を述べていく。 「それに、まだアサクラに助けてもらったお礼をしてない。私なら、相手をしてあげられる」 浅倉の方を向き、微笑みかけた。 「……本気なの? アサクラには摩訶不思議な怪物がいるし、下手したら死んじゃうのよ?」 納得のいかないキュルケがタバサに尋ねた。「こういうのには慣れてる」 「でも……」 「俺なら誰だって構わないぜ。」 尚も食い下がろうとするキュルケを、浅倉が邪魔をした。 「それに、こいつよりもよっぽど楽しめそうだしな」 そういうと、浅倉はルイズの方へ顔を向けた。 「情けない奴だ。周りの人間にまで迷惑をかけておいて、役立たずにもほどがある」 浅倉の放った言葉が、ルイズの胸にぐさりと突き刺さる。 「そのくせプライドだけは人一倍、か。笑わせるな。……少しは身の程を知ったらどうだ?」 ルイズは堪らず、目から涙をポロポロとこぼし始めた。 「私は……私は……」 「ルイズ! ……アサクラ、あんた何てこと言うのよ!! 誰のせいでこんなことになったと思ってんの!?」 キュルケが再び浅倉に食って掛かる。 「俺は事実を言ったまでだ。……寝るぜ?」 それだけ言うと、浅倉は部屋の隅まで歩いていき、床の上に寝転がる。 そして、キュルケが投げ掛けてくる憎しみのこもった視線をよそに、浅倉は深い眠りへと落ちていった。 翌日。 ルイズ、タバサ、キュルケの三人は、学院長室にてフーケ討伐の報告を行っていた。 しかし、いつも通り無口なタバサに加え、ルイズも終始沈んだ表情で黙りこんでいたため、報告はもっぱらキュルケによってなされていた。 「……というわけで、今回の成功はルイズとその使い魔の活躍があってこそのものなのです」 『ルイズ』の部分を特に強調して、キュルケが報告を終えた。 「なるほどのう。まさか、あのロングビルが……」 オスマンが残念そうに溜め息をつく。 「ともかく、ご苦労じゃった。……そうじゃ、王室にも報告しておこうぞ。きっと何かしらの褒美がもらえるじゃろうて」 先ほどの表情から180度変わって、ニッカリと笑いながらオスマンが言った。 キュルケとタバサの顔にも、それぞれ笑みが浮かぶ。 が、ルイズの表情は相変わらず沈んだままだった。 「ミス・ヴァリエール、どうかしたかの? 元気がないようじゃが……」 「え? あ、いえ。何でもありません。ありがとうございます」 「……そういえば、破滅の箱を君の使い魔殿に渡す約束じゃったな。約束通り自由にしてよいと伝えておいてくれ」 ルイズはそれを聞くと、コクリ、と力なく頷いた。 「それと、ついでじゃ。これも渡しておいてくれ」 そう言って、オスマンは一枚のカードを取り出した。 「これは……?」 「荒らされた宝物庫の整理をしてたら出てきたものでの。破滅の箱に入っていたものとそっくりじゃから、君の使い魔なら使えるじゃろう。 わしには無用の品じゃ。もっていくがいい」 「……ありがとうございます」 ルイズは小さな声でお礼を言いながら、手渡されたカードを懐にしまった。 「ルイズ。ちょっと」 「……なに?」 学院長室からそれぞれの部屋へと戻る途中、ルイズはキュルケに引き止められた。 ――バチン! 振り返ったルイズの頬を、キュルケの手のひらが思い切りはたき、赤く染めた。 ルイズが驚いた顔で頬に手を当てる。 「アンタ、いつまでくよくよしてんのよ! らしくもない!」 キュルケが腰に手を当て、ルイズを見据えながら言った。 「いい? フーケに勝てたのはルイズが破滅の箱を使って、ゴーレムの動きを封じたからなの! ルイズのおかげ! わかる!?」 「でも、それは破滅の箱の力で……」 「破滅の箱を使って戦おうと勇気を出したのはアンタでしょう? もっといつもらしく誇りなさいよ!」 ルイズの反論を遮り、キュルケが続ける。 「例え魔法が使えなくても、諦めずに一生懸命頑張ってきたのが今までのアンタじゃない! そんなルイズはどこに行っちゃったのよ!?」 呆然と話を聞いていたルイズが、暗い表情のまま顔を下に向けた。 名門貴族に生まれながらも魔法を使えず、優秀な家族との落差に悩んだ日々。 失敗ばかりで散々ゼロのルイズと馬鹿にされ、劣等感に苛まれ続けた学院での毎日。 やっと成功したサモン・サーヴァントでも、呼び出した使い魔の扱いすら上手くいかず、逆に虐げられる始末。 それらの辛い記憶がルイズの頭の中を駆け巡り、涙となって目から溢れ出てきた。 「……何がわかるのよ」 俯いたまま、ルイズが震えた声をあげた。 「あなたに私の何がわかるのよぉっ!!」 顔をあげてその泣き腫らした表情をキュルケに向けると、ルイズは大声で言い放ち、自室に向かって勢いよく駆け出した。 「あっ、待ってルイズ!」 キュルケが止めようと手を伸ばしたが、走り出したルイズには届かず空を切る。 「ルイズ……」 自らの思いが友の心に届かなかったことを歯がゆく感じながら、キュルケはその場に立ち尽くすのだった。 同じ頃、ミラーワールドのとある森の中。 フーケとの戦いの最中に気配を気づかれた白い怪物のうち、王蛇の攻撃から免れた一体がそこにいた。 くねくねとした動きで怪物が森の中を歩いていくと、しばらくして広大な湖が目の前に現れた。 トリエステンとガリアに跨がる湖、ラグドリアン湖である。 水の精霊がいることで知られる湖だが、鏡の中の異世界では異様な光景が広がっていた。 今しがた辿り着いた白い怪物と同じ怪物があちこちから集まり、続々と湖へと向かって行ったのである。 不気味な唸り声をあげながら、無数の怪物がひたすら前に進んでいく。 たどり着いた怪物も湖に向かおうと動きだした、その時。 怪物が突然どさりと前のめりに倒れると、手足をピクピクと動かしながら体を丸め始めた。 そしてしばらくすると、背中がボコボコと盛り上がり、固い表皮にヒビが入る。 次の瞬間、白い怪物の体を破り、羽の生えた青い怪物が姿を現した。 青い怪物はすぐに頭に生えた羽を羽ばたかせ、湖の上を飛び始める。 それから、同じようにして数匹の青い怪物が現れ湖の上を舞うと、何処へともなく飛び去って行ったのだった……。 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8763.html
前ページ次ページデュープリズムゼロ 第十三話『二人の姫殿下』 ルイズは夢を見ていた。まだ小さい頃、トリステイン魔法学院に行く前の時の事だった。 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの?まだお説教は終わっていませんよ!」 ルイズは自分の実家である、ラ・ヴァリエールの屋敷の中庭を逃げ回っていた。 騒いでいるのは母、追ってくるのは召使である。 理由は簡単で、デキのいい姉達と魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られていた最中逃げ出したからだ。 幸い、中庭には迷宮のような埋め込みの陰が多々ある。その中の一つに隠れてやり過ごそうとしたのだが…… 「ルイズお嬢様は難儀だねえ…」 「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに……」 召使の会話を聞いて、ルイズは奥歯を噛み締める。それがどうしても悲しくて、悔しくて、落ちこぼれの自分に腹立てていた。と、召使達は埋め込みの中をがさごそと捜し始めた。ルイズはそれを見て再び逃げ出した。 そう、彼女の唯一安心出来る場所、秘密の場所となる中庭の池へと向かう。 途中見つからないようにと、小さい体をさらに小さくして細心の注意をはらう。 あまり人が寄りつかない、うらぶれた中庭。池の周りには季節の花が咲き乱れ、小鳥が集う石のアーチとベンチがあった。池の真ん中には小さな島があり、そこには白い石で造られた東屋が建っている。 その小さな島のほとりに小船が一艘浮いていた。船遊びを楽しむ為の小船も、今は使われない。、最早この忘れられた中庭の島のほとりにある小船を気に留めるのはルイズ以外誰もいない。ルイズは叱られると毎回この中に隠れてやり過ごしていた。 予め用意してあった毛布に潜り込み、のんびり時間を過ごそうとしているとふと影がルイズにかかり一人のマントを羽織った立派な貴族が、ルイズの小さな視界に写りこむ。 年は大体十代後半、ルイズよりも十程年上の紳士的な美丈夫。 「泣いているのかい? ルイズ」 つばの広い帽子に顔が隠されても、ルイズは声でわかる。子爵だ。 最近、近所の領地を相続した年上の貴族。 「子爵さま、いらしてたのですか?」 慌てて目の前にいる子爵から視線を外して赤くなった涙目を慌てて拭う。見られたくない自分の顔を憧れの人に見られてしまったので、 ルイズは顔を赤く染めた。 「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。あのお話の事でね」 「まぁ!いけない人ですわ。子爵さまは……」 ますます顔を赤くしてルイズは俯いてしまう、あの話とはルイズの父親が決めた子爵との婚約の話… 「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」 いつもと変わらぬ口調で子爵が言った。ルイズは首を横に振る 「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたし、まだ小さいし、よくわかりませんの。」 ルイズははにかんで言った。自分の素直な気持ちを理解してくれたのか、帽子の下の顔がにっこりと笑った。 「ミ・レィディ手を貸してあげよう。ほら、僕の手を取りたまえ。もうじき晩餐会が始まるよ」 普段のルイズから真っ先に掴むのだが、今回は躊躇われる。 「でも……」 「また怒られたんだね? 安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう」 さぁ、と再び手を差し延べてくる。大きな、憧れの手。 ルイズに断る余裕はない。頷いて立ち上がりその手を握ろうとした。 その時、突然何者かが視界の外から勢いよく飛び込んでくると子爵を小舟の上から池の中へと蹴り落とした。 「ミント!!あんた何て事を!!」 思わずルイズは子爵を蹴り飛ばした人物の名を叫ぶ。いつの間にか気づけばルイズは元の16歳の姿に戻っており、 子爵の姿は湖の底に完全に消えてしまっていた。 そしてミントはこれまたいつの間にか現れていた長く続く回廊、その先の果てに輝く黄金のリングに包まれ浮遊する虹色のクリスタルを今はただじっと見つめている。 「………」 しばらくそうしていたと思えば無言のままミントはその奇妙なオブジェに向かって走り出した。 「あっ…待ちなさいよ!!」 思わずルイズはミントを追いかけその背に手を伸ばす。するとミントは立ち止まって振り返るとやはり何も言わずルイズの手をただ強く握った。 そして再びミントが走り出す、今度はルイズを連れて… 走り続ける内にいつの間にかルイズは夢の中ミントの手を振り解き、その隣をがむしゃらに走り続けていた。 せめて足を引っ張らぬ様に… せめて置いていかれぬ様に… そしていつか追い抜ける様に…と…… ルイズ達がフーケを捕らえてから数日が経ったとある日。 その日執り行われた授業の担当教師は疾風のギトー、いつも黒を基調とした服装を身に纏って毎度毎度授業の度に自らの属性である『風』がいかに最強であるかを嫌みったらしくこんこんと説明してばかりの生徒達の人気が非常に低い教師である。 そして今日の授業でもいつもの様にギトーの風最強説の講義は行われていた。 「では質問だミス・ツェルプストー最強の系統とは何かね?」 このクラスで最もランクの高いメイジであるキュルケを挑発する様にギトーはキュルケに問う。尚タバサは風と水のメイジなのでギトーの嫌味の対象外である。 「虚無ではありませんの?」 対してキュルケは爪を磨きながらつまらなそうにギトーの質問に答えた。 「今は系統魔法の話をしているのだ。虚無などという伝説は今は関係ない。」 そう言って鼻で笑ったギトーにキュルケは不快感を覚える。 「では、火だと思いますわ。火はあらゆるものを燃やす、破壊と情熱の象徴、まさに最強に相応しい力。」 「ふむ、成る程、君らしい意見だ。ではそれを実践して見せてくれたまえ。君の最も得意な火の魔法、それが風に果たして通用するのかを…ね。」 ギトーのその言葉に教室中に緊張が走る。既にキュルケに火がついてしまっている事は明らかだ。 「ミスタ、火傷ではすみません事よ?」 胸の谷間からキュルケの杖がスラリと抜き放たれ、真っ直ぐにギトーに向けられる。 杖の先で小さな火が灯ったと思えばキュルケの詠唱に合わせて火は爆発的に大きくなり、1メイルを超えた辺りでついにギトーに向かって放たれた… 「フレイムボール!!」 火球は教室中に凄まじい熱風を生み出しながらギトーへと真っ直ぐに飛翔していく。 しかしギトーの目の前まで火球が迫った時ギトーは短く呪文を唱えて杖を薙ぐ様に振った。 ギトーが生み出した風はキュルケの放ったフレイムボールを粉砕し、風の衝撃がキュルケを襲いその身体を教室の壁に強かに打ち付ける。 すんでの所でタバサが空気のクッションを生み出した為キュルケには怪我一つ無いが、プライドを傷付けられたキュルケは忌々しそうにギトーを睨む。 ギトーはその様を満足げに確認してから、視線を教室全体へ移す。 「諸君。ご覧のとおりだ。強大な破壊力を秘めた火の魔法でも、私が操る風の前にはその力が及ばなかった事を覚えて置いていただきたい。風こそが最強、今日は特別にその所以たる魔法を今ここで御覧に入れるとしよう…ユビキタス・…」 しかしルーンが完成しようとした瞬間、教室の扉が勢いよく開かれ一人の教師が飛び込んできた。 「皆さん、授業は中止です直ぐに正装して正門前に集合です。」 「どういう事ですかな?ミスタ・コルベール、それにその恰好は…」 ギトーは授業の妨害に明らかに不機嫌な様子でコルベールに教室の全員の疑問を代表して訪ねた。 コルベールの服装が今日は何故か普段とは大きくかけ離れている。普段のそれよりも上質のローブを纏い、それの襟には細やかなレースが付いている。 何よりも目を引くのは、 ファンシーメル並の立派な金髪ロールの鬘だ。普段の彼を知るものから見れば冗談にしか見えないようなゴージャスなロールヘアである。 「アンリエッタ王女殿下がゲルマニアの訪問のお帰りに我が魔法学園を訪問されるそうです!!各方杖を磨き、直ぐにお出迎えの用意をしなくてはなりませんぞ!」 (どうしよう……) ルイズはコルベールからアンリエッタの来校の話を聞いて全身から血の気が引くのを感じた… 「うぅ…世界…むにゃ…征…服…」 今一応使い魔のミントは自分の隣の席で授業そっちのけで物騒な寝言を呟きながら昼寝をしているが彼女の立場は正真正銘の王女である。 そんな人物を双方の同意の下とはいえ使い魔にしているのがアンリエッタにばれたら不味い。 もしかしたらルイズには王族への敬意や忠誠が無いものと判断されるやもしれない。それは人一倍アンリエッタを敬愛するルイズにとっては耐えられぬ事だ… アンリエッタのお出迎えパレードが正門付近で催される中、ミントはキュルケとタバサと共に離れた高台から興味なさ気にその様子を見ていた。 その生徒達が整列して作っている花道を如何にも王女らしい余所行きの白いドレスを纏った美少女が臣下達を引き連れてそこを歩く。 「あれがトリステインのお姫様か…大した事無いわね、あたしの方が絶対可愛いわ。」 「………それ、私の台詞なんだけど。…まぁいいわ。」 ミントは勝手に勝ち誇った様子で髪を掻き上げるとルイズがどこに居るのかと生徒達の花道を見渡す。 「おっ、居た居た。って…ん?」 ルイズはそんな生徒達の花道の最前列に並んでいたがその瞳はアンリエッタでは無く、その護衛についたグリフォンに跨がる一人の魔法衛士隊のメイジを映していた。 「ほほぅ、成る程ねぇ…」 「何々、どうしたの?…へぇ~…」 そのルイズの様子を遠目に見ながら何かを察してミントとキュルケははニヤリと口元を意地悪く歪めた。 ___ルイズの部屋 その夜、部屋に戻ったルイズは心ここにあらずといった様子でベッドのに座り込むと溜息を漏らしながらぼんやりとしていた。 「なぁ相棒、嬢ちゃんは一体どうなっちまったんだ?さっきから様子が変だぜ。」 テーブルに立て掛けられたデルフリンガーがカタカタと鍔を鳴らす。まるでミントに己の存在を必死に主張するように… 「さぁね~。」 大してデルフリンガーに構う事も無くミントがニヤニヤとルイズを見つめて笑っているとルイズの部屋のドアが規則正しく叩かれる。初めに長く二回、それから短く三回…… 「ん?ルイズ、お客さんよ。」 その音にはっとルイズが反応し急い小走りで扉へ向かうと、ドアを開いた。 そこに立っていたのは、先端に水晶のついた杖を胸元に握りしめた真っ黒なローブの頭巾をすっぽりと被った少女であった。 少女はキョロキョロと辺りを伺い、部屋の外に誰もいない事を確認した後、ささっと部屋に入り、扉を閉める。 ルイズが声を出す前に、少女がしっと口元に指を立て、それから胸元の杖を軽く振りながら、ルーンを呟くと杖の先から光の粉が、部屋に漂う。 「……ディティクトマジック?」 「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」 ルイズの部屋に魔法の類いの影響が無いのを確認してようやく少女はローブのフードを外してルイズとミントへその顔をさらした。 「あれ?あんた…」 「姫殿下!」 ルイズはノックの仕方で半ば確信していたが驚きの声を上げ、急いで膝をつく。勿論ミントはそれに倣ったりはしない。 「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ。」 そう言って嬉しそうに微笑むとアンリエッタはルイズへと駆け寄りその身体を熱く抱擁した。 ルイズは慌ててアンリエッタの身体を優しく引きはがすと再び家臣の礼をとり恭しく頭を垂れる。 「いけません姫様、この様な場所にお一人で…」 「いや…この様な場所って一応あたしもここ住んでんだけど?」 ミントが呆れたように小さく呟くがどうやら既に二人はお互いの世界に入っている様で聞こえてはいないようだった。 「やめてルイズ、私達はお友達じゃない!ここには枢機卿も母上もあの友達面をして寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! ああ、もうわたくしには心を許せるお友達はいないのかしら。 昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、貴女にまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」 「姫殿下…」 顔を両手で押さえ頭を振るうアンリエッタの様子にやっとルイズは顔を上げた。そこからは二人の幼馴染の懐かしい昔話が続いた。 それはルイズとアンリエッタが幼馴染で、幼いころ、遊んだり取っ組み合いの喧嘩をした、という様な極普通の子供の思い出話だった。 ぶっちゃけてそんな他人の思い出話等に興味の無いミントはルイズのベッドに腰掛けて半ば冷めた様子で二人のやり取りを眺め… (王女ね~こんな娘が国を支配出来てるとは思えないけど…フフフ、良い機会だわ。ルイズをダシに近づいて王家の秘宝や情報をゲットする為に精々利用させて貰おうじゃ無い!!) 等と邪な考えを抱いていた。 「結婚するのよ…わたくし……」 先程まで嬉しそうに明るく話していたアンリエッタの声のトーンが暗いものへと変わる… 「それは…おめでとうございます。」 それは暗にこの結婚話が望まぬ政略結婚だと訴えている…それをルイズも察してその祝福の言葉は残念ながら心からのものとは到底言えるものでは無かった。 「所で…」 ここでようやくアンリエッタはルイズの後ろで退屈そうにゴロゴロしていたミントの存在に触れる。 「あちらの女性は学園のあなたの友人なのかしら?」 そうルイズに訪ね首を傾げたアンリエッタにルイズは自分がした昼間の最悪の想定が現実味を帯びた事に明らかに顔を青くした。 「あ、あの…姫様あいつはですね……」 「あたしはルイズの使い魔のミント様よ。よろしくアンリエッタ。」 どもるルイズに構う事無くミントは友好的な態度で立ち上がりアンリエッタに手を振ってみせる。 姫として体験した事の無い余りに砕けたその挨拶にアンリエッタは戸惑い、ルイズは頭を抱えて大きく溜息を漏らした。 「ミント、あなた少しは姫様へ礼儀を…お願いだから。」 ルイズは無駄と解りながらも言ってばつの悪そうな表情でがっくりと肩を落とす。 「別に良いじゃ無いルイズ、そんな事言ったらあんただってあたしに対してもっと礼儀を弁えなさいよ。」 「ぐぬぬ…」 ルイズとミントのやり取りにアンリエッタはついて行けず置いてけぼりになったままである。 そもそもルイズはミントに対して明らかに気を遣っている様子だし、ミントは自分が王女である事を認識した上でさっきの様な砕けた接し方をしてきた。アンリエッタにはいまいち自らを使い魔だと言ったミントの人物像を掴みかねていた。 「姫様、ミントの無礼をどうかお許し下さい。罰ならばわたくしに!!」 ルイズの真っ直ぐな視線にアンリエッタはさらに困惑する。 「どういう事なのルイズ・フランソワーズ彼女はあなたの使い魔なのでしょう?」 「はい、ミントは確かに私が春の使い魔召喚の儀式で呼び出した使い魔なのですが…」 ルイズは伏し目がちに観念し、アンリエッタにミントの事を説明する事にした。 「ミントはこことは違う異世界の魔法国家である東天王国の第一王女…位で言えばその…アンリエッタ姫殿下と同等の地位なのです。で、ですが現在私の使い魔で居るのはミントの意思で…痛っ!!」 そこまで言った所でルイズの脳天をデルフリンガーの鞘が軽く叩き、ルイズはあまりの衝撃にアンリエッタの前にも関わらず頭を押さえて床を転がりのたうち回る。 「言い訳してんじゃ無いわよ。まぁそんな訳でよろしくアンリエッタ。」 余程驚いたのか口を開いたまま唖然としているアンリエッタを見下ろしてルイズに振り下ろしたデルフリンガーを肩に担ぎ直しミントはニヤリと笑った。 「ミントォッ!!」 「本当に驚かされましたわ、ご迷惑をお掛けしますミント殿下。ルイズ・フランソワーズ、貴女って昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずなのね。」 「お恥ずかしいですわ…」 ミントとルイズの些細な口論が終わりミントとの友好を深めたアンリエッタがクスクスと笑う。が、そこで再びアンリエッタは気落ちした様に憂鬱げな表情を浮かべた。 そう、ここからがこのお姫様の本題なのだ… 前ページ次ページデュープリズムゼロ