約 739,293 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1926.html
貴族派に取り囲まれたニューカッスルにて、結婚式を行おうともちかけたのはワルドである。 ルイズは即座に応じたのだが、こうして式を執り行おうとしたその時になると、突如として杖を振り、ワルドを吹き飛ばしてしまったのだ。 「わたしと本気で契りたいのならば、その杖は不要のはず! 目出度い婚約の儀に武器を持ち込むとは、ワルド、あなたはわたしと結婚するつもりなんてないのね?」 「ち……違う。僕は……決して、そんなことは」 「ルイズにはお見通しよ。さあ皇太子殿下。この不埒者はわたしが成敗いたします」 「ど、どういうことなのかね」 ウェールズも困惑しているが、ルイズだけは並々ならぬ自信の炎を目に宿らせ、続けた。 「先日の夜わたし達を襲撃した白仮面の男、あの男とワルド、あなたはまったく同じ人物だったわ」 「か……顔は見えなかった。僕にはそんなことは……」 「顔などたった一要素に過ぎないわ。かたち、魔法の使い方、筋肉の流れ、におい……全てあなたと白仮面は同じ。 そしてあなたは風のメイジ! 遍在を使えることは間違いないなり!」 「な、なり……?」 ワルドは身の震えを抑えながら、目の前のあの小さなルイズに問いかけた。 段々変貌しているような、そんな気のする相手だが…… 「ルイズ……昔の君はそうじゃなかった。一体何が君を変えてしまったんだ?」 「散さまの燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのよ!」 叫んでルイズは杖を振り上げる。 「不退転戦鬼、ゼロのルイズ! 散さまになりかわり、無礼者ワルドに天誅を下すなり!」 「ハララ……あの使い魔か……」 「ゼロ式魔法防衛術! 爆破!」 なんのことはない、いつもの失敗魔法である。 しかしルイズの精神力がことのほか充実していたためか、ワルドを凄まじい威力が襲う。 「ぐおっ!? ルイズ、残念だよ、君を仕留めなければならないだなんて」 「戯言は不要! 爆破!」 容赦の無い魔法であった。 流石にこれはたまらないと、ワルドはすぐさま詠唱を行う。 ルイズの爆発をかいくぐって、四体の遍在が姿を現した。 「さて、僕の……っく」 「爆破!」 本当に、無駄口を叩いている暇はなさそうだ。 それでも、この爆発。確かに威力も速度もなかなかのものだが、まだまだ戦闘のプロであるワルドには及ばない。 しかも遍在もいるのだから、ルイズの隙をついての魔法など容易いものだ。 (僕の小さなルイズ。君にはそんな杖を振っている姿など、似合わないよ……) いくらかの愛惜を覚えながら、ワルドの、ルイズの死角にいる遍在が詠唱を終える。 ウィンド・ブレイクにて、ルイズを仕留めるのだ。 「さようなら! ルイズ!」 「……うぬ!」 死角からの痛打! 小さなルイズは、その猛烈な風の打撃にたちまち吹き飛ばされた。 礼拝堂の壁に叩きつけられ、ずるりと床に崩れ落ちる。 「使い魔は選ぶべきだったね、ルイズ。……では改めてウェールズ殿下。お命頂戴いたし……」 「爆破!」 倒れたはずのルイズは、そのワルドの思惑を容易く打ち砕いた。 強烈な打撃により、骨のいくつかも砕けたはずである。 事実、ルイズの口元から血が零れ落ちている。しかしルイズはそれをものともせず立ち上がっているのだ。 「ぐ……」 不意を衝かれたワルドだったが、今の爆発も致命の一撃には程遠い。 改めてルイズを見るに、最早ボロボロで戦えるようには見えなかった。 「やめておきたまえ。ルイズ、せっかく助かった命を散らすこともないだろう」 「戯言は不要と言ったはずよ! 爆破!」 「昔から……意固地になると君は聞かなかったね……!」 もう一度、ワルドとその遍在は詠唱を行う。 五方向からのウィンド・ブレイクである。一撃ですら容易に人の命を奪えるというのに、それが五つ重なったとなれば…… 「今度こそ! さらばだ、ルイズ!」 「……! 爆破!」 ルイズを中心に巨大な爆発が起こった。 ウィンド・ブレイクを防ごうとして果たせなかったのだろうか。 風の魔法とこの爆発によって、今度こそルイズは砕け散った……そうワルドは思ったのだが。 「ぬ……微温いわ、ワルド! それでもスクエアのつもりなの!?」 「ル……ルイズ。君は、そこまで……」 なんと。ルイズは、全身に傷を負い、滂沱の如く血を流しながらも、なおも立ち上がっていた。 鑑みるに、五方からのウィンド・ブレイクが自身に命中するその一瞬前、自らに爆発を放ったのであろう。 爆発によってウィンド・ブレイクの威力は相殺され、こうしてルイズは生き残ったのだ。 しかし体内に爆破を行ったのである。ルイズの内蔵も最早ズタズタのはずであった! 「君は、君はそこまでして戦える人ではなかったはずだ! 何故だ! ルイズ、何故こんなにも!」 「全て散さまのお陰!」 そう、ルイズは散に絶対の愛を捧げていた! 使い魔として召喚し口付けを受けた、あの散に! 散の言葉によってルイズは、ゼロの名をおぞましきものから栄光の名へと変えたのである! ――ルイズよ! 零式とは最強の武術の名なり! ならばゼロのルイズとは! ――はい! ゼロのルイズとは最強の魔術師の名にございます! ――その通りだ! 「この身は既に散さまのものなれば、爆破しても死にいたるはずがなし! ワルドごときの魔術恐れるに足りないわ!」 「そう……か。そこまであの使い魔に入れ込むとはね……」 気力のみでここまで戦えるルイズに、ワルドは戦士としての畏敬の念を抱いた! 裏切ったとはいえ魔法衛士隊長である! 武人として一流の血がその念を呼び覚ましたのだ! 「ならばこれで本当に最後にしよう。尊敬を込めて君を仕留める」 遍在もろとも、揃って杖を構える! 刺し貫く魔法、エア・ニードル! 近接戦の必勝形であった! 「僕の手で直接仕留めることが君への手向けになるだろう。いくぞルイズ!」 「来い~!」 血まみれのルイズが吼える! それに呼応するように遍在は揃ってエア・ニードルを構え、突撃した! 瞬間! 「この刹那を待っていたわ!」 「なんだと!?」 全てのエア・ニードルがルイズに突き刺さる! しかし同時に、全てのワルドがルイズを中心として動きを止めていた! 「不退転戦鬼たるもの、実力の及ばぬ相手に抗する技はひとつ! 肉弾幸なり!」 「バカな! ルイズ、君は!」 ルイズ渾身の爆発である! 数瞬後、目を開けたウェールズが見たものは、崩れ落ちるルイズとそれを支えるアンリエッタの姿であった。 「ア、アン!? どうして君がここに……」 「ルイズの莫迦!」 アンリエッタはルイズの頬を張った。 気絶していたルイズがうっすらと目を開ける。 「ひ……姫殿下」 「このような局面で肉弾幸を使い、散さまが喜ぶと思っているの!?」 「アン、散さまって……」 ウェールズの呟きは無視された。 「ルイズ。本懐を遂げるにはまだ早すぎるわ」 「で……でも、ワルドが……」 「ワルドごとき散さまの敵ならず! 狙うは大将首でしょう! 走狗相手に相果てたところで何になるのですか!」 「あ……ああ……!」 ルイズは涙を流していた。 「不甲斐なしやルイズ! 命の使いどころを誤ってはなりません!」 「ああ……姫殿下。わたしは散さまに申し訳のつかないことをするところでした」 「分かればよろしいのです。では! 此度の戦果、ともに散さまにご報告いたしましょう!」 手に手を取って帰ろうとするルイズとアンリエッタ。 流石にウェールズは聞いてみた。 「アンリエッタ……昔の君はそうじゃなかった。一体、何が君を変えたんだい?」 「散さまの燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのよ!」 「あ、やっぱりそっすか」 ルイズはコントラクト・サーヴァントの折に燃える口付けを。 アンリエッタはルイズの部屋に忍んで来た夜、燃える口付けを。 双方受けたため、この有様となったのであった。 「ふふふ……元はと言えばルイズもアンリエッタもこの散を召喚した魔法国の王侯貴族! しかし散の燃える口付けを受けて、人ではいられなくなったのだ!」 美 し さ は 兵 器 ゼロのススメVoltex 完
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3413.html
前ページ次ページ異世界BASARA 夢を、ルイズは夢を見ていた。 夢の中でルイズは、池のほとりにある小船の中にいる。 うらぶれた中庭にある池…ルイズが「秘密の場所」と呼んでいる所だった。 「ルイズ、ルイズ」 そこへ、マントを羽織った貴族が現れた。 羽根つき帽子を被っているせいか、顔を見る事は出来ない。 「ルイズ、泣いていたのかい?」 「子爵様…」 ルイズは呟いた。 「また母上に怒られたんだね?安心して、僕がとりなしてあげるから」 そう言って手を差し伸べてくる。 ルイズは立ち上がり、その手を握ろうとした…が。 そこに風が吹き、貴族が被っていた帽子が飛んでいく。 「あ…」 そこに現れた顔は、ルイズの思っていた顔ではなかった。 「な、何やってるのあんた」 「さあ行こう、ルイズ」 貴族だと思っていた男は、自分の使い魔…幸村だった。 「行こうじゃないでしょ、何でここにいるのよ!」 「何って、僕の婚約者を迎えに来たんじゃないか」 ボク?こいつ今自分の事を“僕”って言ったのか? いつもは拙者と言っているのに…いや、それよりも婚約者とは何だ。 ルイズは困った顔でぐるぐると思考を巡らせている。 その反面、幸村はルイズを見て微笑んでいた。 こ、こいつ…静かにしてれば結構カッコイイかも… 「待て!貴様…僕のルイズに何をするか!!」 と、今度は別の男の声が聞こえた。 見てみると、羽根つき帽子を被ってマントを羽織った男…今度は本物の子爵様だった。 しかし、幸村は慌てる様子もなく、軽く子爵に向けて腕を振るう。 すると強い風が吹き、子爵は吹き飛んで池に落ちてしまった。 「やめてよね。本気になった僕に勝てると思ってるの?」 幸村はしれっと言い放つと、ルイズに向き直って微笑む。 「さ、行こうルイズ」 「ちょ、ちょっと!行かないわよ!離して!」 抗議するが、幸村は気に止める様子もなく、ルイズを抱きかかえた。 「何でよりによってあんたなのよ!離しなさーい!!」 ルイズは抱きかかえられたまま手足をばたつかせるが、幸村はただ微笑んでいた。 ルイズはそれが何だかとても恥ずかしかったのだ。 「う~ん…離しなさいよぉ…」 ルイズ殿……ルイズ殿…… 「何笑ってるのよ馬鹿ぁ…Zzz…」 ルイズ殿…ルイズ殿!! 「むにゃ…うん?」 「ルウゥゥイズ殿おぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!」 「ほわあああぁぁぁ!!??」 突然の大声でルイズは夢から現実へと一気に引き戻される。 「おおルイズ殿!目が覚めましたか?」 「ユキムラ…」 目を覚ましたルイズはしばらくぼーっとしていたが、我に返った。 「あ、あんた私の部屋で何してるの?廊下で寝てたんでしょ?」 「はっ!何やらルイズ殿の呻き声が聞こえたので、駆けつけた所存!」 幸村は心配そうな表情でルイズを見ている。 さっきまで見ていた夢を思い出し、ルイズは顔を真っ赤にして俯いた。 「ルイズ殿、どこか具合でも悪いのでござるか?」 「べ、別に何でもないわよ…馬鹿…」 「…あれ?」 だがここでルイズは奇妙な事に気づく。 この部屋にはちゃんと鍵か掛けられている。そして幸村は鍵なんか持っていない。 ならば、どのようにしてこの部屋に入ったのか。 「ユキムラ、どうやってこの部屋に入っ…」 その答えは幸村の背後にあった。 壁に大穴が空いている。いや、元はそこにドアがあったのだが無くなっていたのだ。 「…ねぇユキムラ、あの穴は何かしら?」 ルイズは出来るだけ平静を装って、幸村に問い掛ける。 「ははっ!駆けつけようにも鍵が掛かっていたので、武田軍に伝わる『武田式開門』で扉を開放した結果にござる!」 『武田式開門』………閉じられた扉、門を蹴破る。もしくは引っぺがす。 「ふざけるなあぁぁぁぁー!!!!」 烈火の如く怒ったルイズの蹴りが幸村を吹き飛ばした。 「あんたは力任せで物を壊す事しか出来ないの!?」 「しかし!ルイズ殿の御身に何かあってからでは!!」 「うるさいうるさい!このバカムラ!アホムラ!サナダムシイィィー!!!!」 「…あーあ…だから止めとけって言ったのによぉ…」 廊下で、デルフリンガーはポツリと呟いた。 ――同時刻、チェルノボーグの監獄―― 城下で最も監視と防備が厳重と言われている監獄… その入り口の門の横に、1人の男が立っている。 「やれやれ…隠密というのは苦手だ…」 男はそう言いながら松明の炎を見ている。 「待たせたな…土くれを連れて来た」 男が炎を眺めていると、門から仮面を付けた男が出てきた。 その横には、トリステインを騒がせた盗賊…ルイズ達によって捕らえられたフーケが立っている。 「やぁフーケ殿…ご機嫌如何かな?」 「ご機嫌に見えるかい?こいつがあんたの言っていた連れ?」 男の言葉にフーケは苛立った声で言った。 仮面の男は頷く。 「ああ…目的は違えど、我等の仲間だ」 その言葉を聞いた男はフッと笑った。 妙な格好をした男だと、フーケは思った。このトリステインでは見た事のない服装である。 「変わった格好をしているけど、あんた何処の出身だい?」 「そうだな、遠い世界から此処へ呼ばれた……と言っても卿は信じないか……」 「はっ!別の世界から呼ばれただって?あいつ等みたいに?」 『あいつ等』…その単語を聞いた男の眉がピクリと動く。 「ほぉ…あいつ等とは誰かな?」 「私をこの監獄にぶち込んだ奴等だよ。確かユキムラ…いや、サナダユキムラだったね」 それを聞いた男の唇が不気味な程吊り上った。 そして、今度は笑い出した。 「ははははは、ふはははは!成る程成る程、人生はこれだから楽しいものだ。 いや、私の人生はあちらで一度終わっているから違うかな?」 いきなり訳の分からない事を言い出した男に、フーケは言葉が出なかった。 男は一頻り笑うと、2人を見て言った。 「さぁ行くとしよう。その者達に一度会いたくなったよ」 前ページ次ページ異世界BASARA
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1666.html
ルイズは夢を見ていた。幼き日の夢を。 小船の中でルイズは泣いていた。 魔法が使えないルイズは、つらくなるといつもそこに逃げ込んでいた。 いつもと違う点は一つ。その幼い日の自分の姿を、ルイズは空から眺めていたのだ。 (立ち上がりなさい!) ルイズは声をかける。しかし、実体のないルイズの声は幼いルイズには届かない。 そのことにルイズは強く歯をかみしめる。今のルイズは、幼き日とは違う。 つらいこともあった。苦しいこともあった。 腹の立つこともあった。泣きたいこともあった。 しかし、それらをじっとこらえて己を磨いたのが今のルイズだ。 そして己の使い魔たちを召喚し、属性もわかり、自信もつけてきた。 だからこそ、今は昔の自分が歯がゆいのだ。 ルイズはふと思い浮かぶことがあった。これはいつも見ている夢だと。 いつも通り、自分はワルドに連れ出してもらうのだと。 (自分で夢だとわかるなんてはじめてね。) そう思ったルイズは、成り行きを見守ることにした。 遠くの方から声が聞こえた。いつもと違うその声に、ルイズ達はそちらの方を向いた。 そこには 桃がいた。シエスタがいた。伊達がいた。キュルケがいた。雷電がいた。飛燕がいた。ギーシュがいた。 富樫も虎丸も、ルイズと関係の深い者達がせいぞろいしていた。 そうして、大きく息を吸うと、一つとなって声をだした。 「フレー!フレー!ルイズ!」 ルイズを応援しはじめた。その声援に思わず視界がにじむ。 (そっか。) そうしてルイズははじめて気がついた。 (私は、誰かに応援して欲しかったんだぁ。) ルイズの家族は暖かかった。 しかし、こと魔法という点では全員優秀すぎた。 ルイズの気持ちがわからないのも無理はない。 唯一魔法についても甘やかしてくれた小姉さまには心配をかけたくない。 彼女の体の弱さは、幼いルイズの目から見ても怖かったのだ。 その姿をじっと見ていた、幼いルイズもそろそろと動き始めた。 その姿を見たルイズも思わず叫んでいた! 「「「「フレー!フレー!ルイズ!」」」」 その声についに幼いルイズは…… そこでルイズは目を覚ました。 学院がざわめいている。 急に王女のアンリエッタが急遽学院に立ち寄ることになったのだ。 街道に人が集まる。 王女達一行がここを通ると聞いた人たちが集まってきたのだ。 最前列には、一号生達がいた。 祭り好きな連中が、そのガタイを生かして場所を取ったのだ。 ちょうど近衛兵の一人が花を摘んできたところで、 ユニコーンが引く馬車の中からアンリエッタの姿が見えた。 「ほー。流石にほんまもんの王女様は綺麗じゃのう。」 富樫がいう。 「わしはキュルケみたいなのがいいがのう。」 虎丸が反論する。 個人個人意外と好みにうるさいようだ。 「しかし、彼女は疲れているようですね。」 女心にもさとい男、飛燕がそういう。 「王女様ともなれば、色々と思うところもあるのだろう。」 桃がしめたところで、王女の姿は学院に消えていった。 (姫さま、どうしたのかしら。) ルイズは自室で考え込んでいた。 そばにはJがいる。 不思議と安心感を与えてくれるこの男は、ルイズのお気に入りの使い魔の一人だ。 今も、ルイズが何か考え込んでいるのに気がついたこの男は、 壁によりかかって腕を組み、静かに目をつぶってたたずんでいた。 (何かお疲れのようだったけれど。) いかに隠そうとも、かつての親友であり、他者のことを考える余裕の生まれたルイズの目はごまかせない。 肉体ではなく、精神が悲鳴をあげているのが見えたのだ。 そんな、(今でもルイズはそう思っている)親友の力になれそうにない自分が悔しい。 そう思ったところでルイズの脳裏に、朝見た夢がよぎった。 せめて、ここから応援だけでもしていよう、そして自分がわずかにでも力になれるならなろう。 その時、Jがかすかに体勢を変えると一言声を上げた。 「客が来たようだ。」 その言葉を証明するかのように、ノックが響く。 ルイズがドアを開けると、そこには黒い頭巾を被った少女が立っていた。 その少女は、中に入り後ろ手にドアを閉めると、ディテクトマジックを使う。 ルイズにはその正体が、なんとなく予想がついていた。 いかに姿を隠そうと、今の今まで考えていた人物だ。 親友のルイズが見間違うはずがない。 そうして彼女は優雅に膝をついた。 とうとう黒い頭巾を脱いだ少女が、ルイズに声をかける。 「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ。」 神々しいばかりに光を放つアンリエッタであった。 余人ならば、その美しさに感激のあまり声もでないことであろう。 しかし、ルイズは (ああ。やはり。) 己の考えがあたったことを感じていた。 そうして始まったルイズとアンリエッタの会話を、Jは目を細めて見守っていた。 立場が違う。身分が違う。 しかし、話している二人の様子はとても楽しげだ。 昼見ていた時は、Jには作り物にしか見えなかったアンリエッタであったが、 今は本当に、心の底から輝いていた。 (桃の言った通りのようだな。) そう思ったところで二人の会話のトーンが変わった。 そうしたところでアンリエッタがJに気づいた。 「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら。」 アンリエッタが素っ頓狂な声を上げる。 「お邪魔?どうして?」 「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう?いやだわ。わたくしったら、つい懐かしさに かまけて、とんだ粗相をいたしてしまったみたいね」 「はい?恋人?」 ルイズは一瞬言葉を失う。 確かにJは頼りになりそうな男ではあるが、ルイズの好みとは大きくずれているのだ。 Jはその言葉を訂正しようとした。 ルイズのことはある程度気に入っているが、恋人となると話は別だ。 もっとグラマーな女性が、Jの好みなのだ。 「姫さま!あれは使い魔の一人です!恋人なんかではありませんわ!」 「使い魔?一人?」 顔に疑問符を貼り付けたアンリエッタにルイズが説明する。 総計100人にせまる人数の男達を召喚したのだと。 しかも、全員暑苦しい男ばかりであることを。 その言葉にアンリエッタが思わず声をあげて笑う。 かつての幼い時の気持ちを思い出していたアンリエッタは、ついそのままルイズをからかう。 あいかわらず変わっているわね、と。 その言葉に思わずルイズは憮然となるが、何も言い返せない。 いかにルイズとて、自分の使い魔達を指して変わっている、という台詞には反論できないのだ。 そんなルイズの様子に、さらにアンリエッタは笑う。 ますますルイズは憮然とした。 そうして少し時間が流れた。 笑い終わったアンリエッタは、一つため息をついた。 これから、かつての親友を死地に赴かせなければならないのだ。 ため息の一つも出るというものだろう。 アンリエッタの表情が変わったことにルイズは気がついたが何も言わない。 そんな主人の様子をJは黙ってみている。 そうして語りだそうとしたアンリエッタであったが、なかなか本題に入ろうとしない。 その様子にルイズは悲しいものを感じていた。 アンリエッタは、かつての親友であるルイズの忠誠心を試そうとしていたのだ。 ふと朝の夢が頭をよぎったルイズは思う。 自分にさえ、このような態度をとらねばならないほど、王宮とはつらいところなのかと。 自分だけは、世界中の誰が敵に回ろうとも自分だけは、最後までアンを裏切るまい、と。 そしてルイズは万感の思いを込めて言った。 「わたしをおともだちと呼んでくださったのは姫さまです。 どうかそのおともだちに悩みをお話ください、アン。」 ルイズの強い視線がアンリエッタを貫いた。 その視線に、アンリエッタの被った仮面が貫かれる。 アンリエッタの全身に衝撃が走った。 (ああ、ルイズ。あなたは、ほんとうにわたくしの親友なのですね。) そう思ったアンリエッタは、思わず天を見上げてブリミルに感謝の言葉をささげた。 その目には涙が浮かんでいた。 急に泣き出したアンリエッタに、ルイズは焦った。 自分が何かやってしまったのかと思って。 しかし、これはうれし涙というアンリエッタに、ルイズもまた喜びの涙を浮かべてアンリエッタを抱きしめた。 それをJは優しい瞳で見守っていた。 アンリエッタいわく、 アルビオンの皇太子の下にある手紙を取り戻して欲しい それにトリステインの運命がかかっている、と。 「一命にかけても!」 ルイズは力強く言い切った。 今のアルビオンの情勢は聞き及んでいる。 間違いなく一筋縄ではいかないだろう。 だが、それがどうした。ルイズは思う。 親友とは親に等しい友と書く。それが困っているところを助けずして親友とは呼べないのだ。 おそらく、アンリエッタもそう思っているだろう。 ルイズは確信していた。 そこへ乱入者が現れる。ギーシュだ。 Jは気づいていたが放置していたのだ。 ここしばらく一緒の釜の飯を食った相手だ。 それで判断したのだ。こいつは信頼できると。 事実、シエスタとの決闘に敗れてからのギーシュは潔かった。 素早く自分の非を改めると、今は毎日一号生達と一緒に男を磨いている。 信用に足る男だ、Jはそう判断していたのだ。 「ひとつ、塾生は忠誠をつくすべし!」 そう言って、ギーシュはひざまずいてアンリエッタに嘆願した。 自分はグラモン元帥の息子であり、父のようにお役に立たせてください、と。 そのまっすぐな思いに戸惑ったアンリエッタはルイズを見やる。 ルイズは処置なし、とばかりに肩をすくめる。 ルイズは知っていたのだ。最近のギーシュの奇行を。 その様子にどこかおかしいものを感じたアンリエッタは(微妙にルイズの普段の苦労を感じたのかもしれない)、 くすりと笑うとギーシュとJに向き直った。 ルイズの使い魔であるJはもとより、ギーシュも信用することにしたのだ。 片手を伸ばしたアンリエッタにギーシュは感激し、カチカチに凍ったままキスをする。 一方Jは、意外にも優雅にキスをした。 この男、もとマリーン士官候補生だけあって、礼儀はしっかりと仕込まれている。 その大柄な体格と相まって、実に絵になる男であった。 最後にルイズに、ウェールズ皇太子宛の手紙と秘宝の水のルビーを渡したアンリエッタは去っていった。 Jにガードをするよう命じると、ルイズは旅支度を整えることにした。 なお、Jにはついでに明日もう一人か二人使い魔を連れてくるように頼んでおいた。 大人数では帰って目立つが、少人数過ぎても悪目立ちする可能性があるのだ。 旅支度を整えたルイズは早めに寝ることにした。 出立は明日。善は急げである。 男達の使い魔 第六話 完 NGシーン 雷電「あ、あれはまさか!」 虎丸「知っているのか雷電!」 雷電「これぞまさしく、中国において古代より伝わる癒仁胡雲(ゆにこうん)!」 癒仁胡雲、それは古代中国において伝説と詠われた生き物である。 角を生やした馬のごときその姿はあらゆる武人から恐れられた。 単純に強かったのである。 その蹴りの一撃は山をも砕き、一度走り出せば雲をも追い抜いたという。 そんな癒仁胡雲であるが、ある日一人の拳法家の前に敗れることとなった。 その拳法家の名前は羅於卯(らおう)と言った。 角を折られその強さに屈した癒仁胡雲は、羅於卯を己の主と定め、 生涯、主とその友以外の男を乗せることはなかったという。 この故事が当時の大秦帝国(ローマ帝国)やハルケギニアに間違って伝わり、ユニコーン は清らかな女性以外は乗せない、と言われるようになったのはあまりにも有名な話である。 民明書房刊「世界、乗り物大辞典」(平賀才人著)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2317.html
前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形 ルイズはアンジェリカを抱きしめたまま眠りについていた。 「アンジェ…泣いているの?」 朝日が昇るほんの少し前に目を覚ましたルイズはアンジェリカが寝ながら涙を流しているのに気付く。ルイズはアンジェリカを自身の胸元にギュッと抱きしめる。 「ごめんねアンジェ。わたし、こんなことしか出来ないの」 ルイズはアンジェリカが目を覚ますまでずっと抱きしめ続けるのだった。 アンジェリカが目を覚まし以前のように水汲み場へ行ってもそこにシエスタの姿はない。 「ルイズさん。シエスタちゃんがいませんよ?」 きょろきょろと辺りを見回しながらルイズに尋ねる。 「そ、そうね。どうかしたのかしら?」 分かっていた事だった。シエスタがアンジェリカを避けていることなど……。 「時間が惜しいから早く洗濯済ますわよ」 「はいルイズさん」 あのモット伯の屋敷で何かがあった。シエスタがアンジェリカを避ける決定的な何かが……。 「ねぇアンジェ…」 「どうかしましたかルイズさん」 アンジェリカがルイズの瞳を覗き込む。 「やっぱりなんでもないわ」 「?」 やっぱり怖くて聞けない……。 しばらくの間二人は何もしゃべらずに黙々と洗濯を続けるのであった。 ルイズは洗濯が終わり厨房へ向かおうとするアンジェリカを引き止める。 「今日から食堂で一緒に食べましょ」 「え?」 足を止めルイズの方へ振り返ったアンジェリカ。 「だから、一緒にご飯食べるって言ってるの!」 顔を赤くしてアンジェリカにぶっきら棒に言い渡した。アンジェリカはそんなルイズをみて笑顔を浮かべるのだった。 二人そろってテーブルに着いたが、ルイズは食事を取る前にある人物を指差しアンジェリカに問いかけた。 「あいつのこと覚えてる?」 そういってモンモランシーとギーシュを指差す。 「モンモランシーさんと…あと一人は何方ですか?」 首をかしげながら答えるアンジェリカ。 「じゃあ、あいつは?」 次いでキュルケとタバサを指差した。 アンジェリカはしばらくその方向を眺めながらも……力なく首を左右に振った。ルイズはそれをみて考え込む。 『アンジェはこのことを自覚しているのかしら…』 「ルイズさん…」 「何アンジェ?」 アンジェリカの呼び声にハッとして答える。アンジェリカはルイズの瞳をじっと見つめながら口を開いた。 「あの、私忘れてるんですか…大切な人を忘れてたりしていませんか?」 そういうアンジェリカの顔には不安がありありとでていた。 「大丈夫よ。ちょっと聞いてみただけよ。だから気にしないで」 少しでもその不安を和らげようと気休めの言葉をかける。 本当はもっと色々聞きたいのだがそれをしてしまえばアンジェリカを傷つけてしまうのではないか。そんな不安からこれ以上聞くことも出来なかった。 「さあ早く朝食を済ませましょう」 気が滅入ってしまう……この話題を打ち切り目の前の朝食に取り掛かるのであった。 Zero ed una bambola ゼロと人形 何事もなく時間は過ぎていく。そして日が暮れ始めた頃、アンジェリカとルイズに向かってキュルケが声をかけた。 「ルイズ! まちなさいよ!」 キュルケの大きな声にピクッと反応するルイズ。それを最初は無視しようかとも思ったがさすがにそれは出来ない。しぶしぶその足を止める。 「何か用?」 「何か用じゃないわよ。アンジェちゃんが起きたんでしょ?何であたしに言ってくれないのよ」 「別にあんたには関係ないでしょ」 ぶっきら棒に答えるルイズ。だがキュルケはそんなルイズを無視してアンジェリカに話しかけた。 「はぁい。アンジェちゃん久しぶり~。元気? あたしのこと覚えてるかな?」 「ちょっと、わたしを無視してるんじゃないわよ!」 騒がしい二人をよそにアンジェリカは静かに答える。 「ごめんなさい。覚えていないです。お名前教えていただけますか?」 「は?」 アンジェリカの回答に声が出ないキュルケ。思わずルイズに詰め寄る。 「ヴァリエール笑えない冗談を吹き込むのはやめて貰えないかしら?」 「冗談じゃないのよ…」 ルイズは少し怒ったようなキュルケに向かってぼそりと呟くように答えた。 「あなた何言ってるの?」 ルイズは自分をからかっているのではないだろうか。キュルケはそう思いながら呆れたように言った。 「そうよ、冗談だったらいいのに…。アンジェリカが記憶を失うなんてわたしも信じたくないわ」 ルイズは俯きブツブツと呟く。 「アンジェだって自分の症状のこと自覚しているし……」 その声はだんだんと小さくなり次第に聞き取りにくくなっていく。 「ちょっとルイズ何言ってるの?」 ルイズは俯いたまま小さく声を上げるがよく聞き取れない。 「ああもう! ここじゃ何だから外にでも行って散歩しながら詳しく聞かせてもらうわよ」 「わかったわ」 ルイズも気分転換になるかもしれないと同意する。 「アンジェちゃんもそれでいい?」 キュルケは笑顔でアンジェリカに話しかけた。 「ルイズさんが行くのであれば私も行きます」 それにアンジェリカも笑みで返す。 「それとね、あたしの名前はキュルケよ。もう忘れたら嫌よ?」 優しい声で名前を再び教え、アンジェリカにウインクをする。 「はい、キュルケちゃん」 Episodio 21 Insegni un nome 名前を教えて 前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4446.html
前ページ次ページZERO A EVIL あの決闘の後、ルイズの日常は大きく変化していった。 ルイズと決闘したギーシュは、一時は命の危険もあったが、水の秘薬と治癒の魔法のお陰で一命を取り留めた。 ギーシュを振ったはずのモンモランシーは、ギーシュが運ばれた医務室にすぐさま駆けつけ、付きっきりで看病していた。 ギーシュが目覚めた時など嬉しさのあまり泣き出してしまい、ギーシュを困惑させるほどだった。 回復したギーシュは、以前とは違い他の女の子に手を出すことはなくなり、今はモンモランシー一筋になっている。 自分を看病してくれたモンモランシーに惚れ直したようだ。二人の仲睦まじい姿は、多くの生徒に羨ましがられていた。 ギーシュにとっては正に怪我の功名といったところだった。 幸せいっぱいのギーシュは決闘の事などすっかり忘れていたが、他の生徒達はそうはいかない。 あの決闘を見たり、聞いたりした生徒達のほとんどが同じ事を考えていた。 “次は自分の番かもしれない” ルイズはギーシュのワルキューレを破壊できるほどの力を持っているし、何より恐ろしいのはあのスピードだ。 メイジが魔法を使うには詠唱をする必要があり、それには少し時間がかかる。 あのスピードで突撃されたら、詠唱中に攻撃を食らってしまい、ギーシュと同じように医務室行きだろう。 奇襲をかければ勝てるかもしれないが、失敗した時は自分の命が危ない。 そんな命懸けの戦いに挑む生徒がいるわけもなく、多くの生徒が導き出した結論はルイズを避ける事だった。 それは陰でルイズの悪口を言っていた平民達も同じだった。 教師達もルイズに対して避けるような対応をする者が多かった。 決闘の後にルイズは学院長室に呼ばれたが、注意を受けただけで何の処罰もなかった。 オスマンは、ギーシュがルイズを侮辱していた事、決闘はギーシュから申し込んでいる事、ギーシュの命に別状が無い事等を罰しない理由に挙げていた。 だが、以前からオスマンはルイズを贔屓目で見ていると思っている教師も多かったので、納得のいかない者も少なくなかった。 結果として、ルイズを避ける教師が増えてしまったのである。 こうしてルイズは、馬鹿にされる事はなくなったが、みんなに恐れられ避けられる存在になってしまった。 そんなルイズに対して、今までどおりに接する者もいた。 ルイズの隣の部屋に住んでおり、ルイズの事をよくからかっていたキュルケだ。 生徒達の間では、ギーシュの次に医務室送りにされるのはキュルケだろうと噂されていた。だからきっと、キュルケもルイズを避けるだろうと誰もが思っていた。 だが、そんな予想とは裏腹にキュルケのルイズに接する態度はいつもと変わらなかった。 むしろ、魔法は使えなくてもそれを補えるような力を隠し持っていたルイズに対し、『微熱』の二つ名を持つキュルケは対抗心を燃やしていた。 最近は親友である青い髪で無口な少女、タバサに付き合ってもらい魔法の特訓をしているようだ。 そして一番の変化といってもいいのは、メイドのシエスタがルイズの側によくいるようになった事だ。 ルイズの事を放っておけないシエスタが、よく世話を焼くようになったからである。 他のメイド達がルイズを怖がって近づかないため、まるでルイズ専属のメイドのように見える。 最初は戸惑っていたルイズだったが、自分の事を信じると言ってくれただけでなく、優しく抱きしめてくれたシエスタと仲良くなるのに時間はかからなかった。 今では、シエスタはルイズの事を親しみを込めて「ルイズ様」と呼んでいる。 ルイズはシエスタにそう呼ばれて嬉しいはずなのだが。 「貴族を名前で呼べるのは光栄な事なのよ。あ、あなたの忠誠心に答えて許可してあげるんだからね」 と、またしてもプライドが邪魔をして素直な気持ちを言葉にすることはできなかった。 だがシエスタは、素直になれない不器用なルイズの性格を知っていたので、特に気にもしなかった。 そんな感じで二人の関係は良好だった。特にルイズは、この学院に来てからほとんどしていなかった親しい人との会話を楽しんでいた。 あの決闘以来、左手のルーンが光を放つ事も、不思議な力を発揮する事もなかった。 使い魔の石像も変化は無く、今では多くの生徒達に待ち合わせ場所の目印に使われていた。 そして、あの不思議な夢も見ることはなかった。 だが、ある日の夜。 ルイズは寝る前にシエスタに髪を梳かしてもらっていた。 桃色がかったブロンドの長い髪はルイズの自慢であり、毎日の手入れは欠かせないのだ。最近はシエスタに髪を梳かしてもらうのが日課のようになっていた。 髪を梳かし終わったシエスタを見送るために部屋の外に出ると、そこをキュルケに目撃されてしまった。 「あら、ルイズじゃない。今日もお気に入りのメイドをはべらせてご満悦みたいね」 「こ、この子はそんなんじゃないわよ!」 「ふーん。男が寄り付かないから、てっきりメイドの女の子に手を出してるのかと思ったわ」 「どうしてそうやっていやらしい事しか考えられないのかしら。これだからゲルマニアの女は嫌なのよ!」 いつものように口げんかが始まり、側にいるシエスタはおろおろするばかりだった。 「まあ、あなたのような貧相な体じゃ色恋沙汰とは無縁でしょうけど」 「ななな、なんですって!」 「本当の事を言っただけじゃない。精々これからの成長に期待でもしなさいな、それじゃあね」 そういってキュルケは自分の部屋に入っていった。後には悔しがるルイズとシエスタだけが残される。 「な、何よ、あの女! ちょっと人より胸が大きいからって!」 「ルイズ様、女は外見より中身で勝負ですよ!」 シエスタは励ましてくれるが、自分より胸が大きいシエスタに励まされても嬉しくなかった。 シエスタと別れた後、着替えて眠ろうとするが、苛々しているせいでなかなか眠ることが出来ない。 今日は嫌な夢を見そうな予感がした。 ルイズは夢を見ている。 前と同じ不思議な夢を…… 夢の中のルイズは葉巻を咥えた大男だった。 ルイズには多くの子分達がおり、無法者の荒くれ集団クレイジー・バンチと呼ばれ恐れられていた。 ある時、サクセズ・タウンという街に金があるという噂を聞きつける。 ルイズは金を手に入れるために子分達と街に訪れ、街の住民達の生活を脅かしていく。 だがある日、街に行っていた子分のパイクがある男に敗れて逃げ帰ってきた。 別行動していた他の子分二人も、その男と後から現れたもう一人の男に敗れたと聞き、ルイズの怒りが燃え上がる。 ルイズは復讐の為に、子分達全員を引き連れてサクセズ・タウンに向かった。 たった二人に自分達が負けるはずがない。それに自分には最強の武器であるガトリング銃がある。 ルイズは自分達の勝利を確信していたが、街に入った瞬間予想外の事態が起こる。 街には罠が仕掛けてあったのだ。ルイズは罠のせいで多くの子分を失ってしまう。 数少ない残った子分達と二人の男に戦いを挑むがルイズは敗れてしまう。 敗れたルイズは本当の姿へと戻っていく。 ルイズの正体は、スー・シャイアンの連合軍によって全滅させられた第7騎兵隊の生き残りの馬だった。 馬に死んだ騎兵達の恨みと憎しみが宿り、ルイズが生まれたのだ。 場面が切り替わり、ルイズの姿も変わる。 次のルイズは拳法家であり、義破門団という拳法家集団の頭領を務めていた。 義破門団に仲間意識は無く、ただ同門なだけであり信頼関係などとは無縁であった。 同門であっても隙があれば命を取られる。真の強さとは、そこまでしなければ求められないとルイズは思っていた。 義破門団の他にも、大志山という山に拳法使いの老人が居り、心山拳という拳法を弟子達に教えていた。 肉体より精神に重きを置き、人としての強さを追及する心山拳は、ルイズの考える強さとは正反対であった。 自分とは違う強さの考え方を持つ心山拳の老師とは、いつか戦う事になるだろうとルイズは思っていた。 そして、その機会は意外と早く訪れる。心山拳の老師がいない隙をついて門下生達が、老師の弟子達を襲ったのだ。 弟子の仇を取る為に、老師と生き残った一人の弟子がルイズ達に戦いを挑んできた。 老師と弟子の力はかなりの物で、義破門団の精鋭達が次々と敗れ去っていく。 そして遂に、老師と弟子はルイズの前までやってくる。ルイズも暗殺拳の使い手の二人を呼び出し、最後の戦いが始まろうとしていた。 だが、老師は暗殺拳の二人と戦い始め、ルイズの相手を弟子に任せたのだ。 ルイズはこの若い弟子が自分に勝てる訳がないと思っていた。 しかし、老師は弟子に心山拳の奥義「旋牙連山拳」を託していたのだ。弟子が放つ奥義を喰らいルイズは敗れてしまう。 ルイズを倒した弟子は、力を使い果たした老師の最後を看取り、老師の死に涙を流していた。 そしてまた場面が切り替わる。 だが今度のルイズは今までと違い、山の頂上のような高い場所で下にいる二人の人物を見ているだけだった。 一人は金髪の剣士風の男、もう一人は長い黒髪のメイジ風の男だった。 どうやら黒髪の男が金髪の男に一方的に話しかけているようだ。黒髪の男の話は、金髪の男に対しての恨み、妬み、憎しみに溢れていた。 そして、黒髪の男は最後の言葉を言い放つ。それは、金髪の男への憎しみが込められた魂の叫びだった。 「あの世で俺にわび続けろ、オルステッドーーーーッ!!!!」 その言葉を聞いた瞬間、ルイズは跳ねるようにベッドから飛び起きた。 「はぁ…はぁ…はぁ…」 まるで全速力で走った時の様に息が乱れている。 男の最後の叫びは、忘れる事ができないほどの衝撃をルイズの心に与えていた。ベッドの上で息を整えようとするが思うようにいかない。 男の一方的な会話を思い出そうとしたが、その部分だけがまるで霞がかかったようにぼやけており、思い出す事ができない。 だが、オルステッドと呼ばれた金髪の男に憎悪の感情をぶつける男の姿は鮮明に思い出す事ができた。 あそこまで誰かを憎んだ人間を見るのは初めてだった。 ふと、自分も我を忘れてギーシュを殺しかけた事を思い出す。シエスタのお陰で今まで忘れていたが、一歩間違えれば自分は人殺しになっていたのだ。 そう考えると急に体が震えだす。 ベッドの上で息を整えながら、両手で自分の震える体を抱きしめていると、無性にシエスタに会いたくなった。 シエスタに抱きしめてもらいたいと考えている自分に情けなさを感じるが、自分一人では体の震えは止まりそうもなかった。 幸い今日は虚無の曜日なので、授業は休みである。 ルイズは着替えを済ますと、シエスタに会うために部屋を後にした。 しばらく探し歩いていると、食堂でシエスタを見つけることができた。 思わず走りだしそうになるが、何とか踏み止まり、小走りでシエスタに近づいていく。 「おはよう。シエスタ」 「あ、ルイズ様。おはようございます」 笑顔であいさつしてくれるシエスタを見た瞬間、体の震えも止まり、夢のせいで陰鬱だった気分も晴れやかなものになっていく。 顔には無意識に笑みが浮かんでいた。 「何かいいことでもありましたか?」 「どどど、どうして!」 「いえ、朝から嬉しそうな表情をしていらしたので」 「べ、別になんでもないわよ。シ、シエスタに会えたから嬉しかった訳じゃないんだからね!」 恥ずかしくなったルイズは慌てて否定するが、誰が聞いても本音を喋っているようにしか思えなかった。 「そうですか。それより、朝食がまだでしたらすぐご用意できますよ」 「あ、うん。お願いね」 ルイズは、シエスタが厨房に向かって歩いていくのを眺めながらある事を考えていた。 シエスタに会って少し話をしただけで、あの夢も自分の身に起こっている不思議な事も忘れることが出来る。 ルイズはシエスタに心から感謝すると共に、シエスタが自分にとって大切な存在になりつつあるのを感じていた。 ちょうどそのころ、学院長室ではオスマンとコルベールが難しい顔で話し込んでいた。 「どうじゃね、ミス・ヴァリエールの様子は?」 「あの決闘騒ぎ以来、特に問題は起こしておりません」 「そうか。彼女のルーンがガンダールヴの印だと君から報告を受けた時はどうなるかと思ったが、どうやら心配のしすぎだったようじゃの」 ルイズとギーシュの決闘が行われていた時、オスマンはコルベールからルイズのルーンについての報告を受けていた。 コルベールの調べでは、ルイズのルーンは伝説の使い魔『ガンダールヴ』の印と同じであるらしい。 だが、始祖ブリミルと共に闘った伝説の使い魔のルーンが、使い魔の主人であるルイズに刻まれているのは不可解であった。 二人がそのことについて議論をしていると、オスマンの秘書であるミス・ロングビルが何やら慌てた様子で学院長室に入ってくる。 ルイズが決闘でギーシュに重傷を負わせ、その場から逃走したというのだ。 その後、ルイズやその場にいた多くの生徒達から事情を聞いたオスマンはルイズを処分しない事を決める。 教師達の反発も予想されたが、『ガンダールヴ』のルーンの事を公にするわけにはいかなかった。 この事が王宮に知られてしまえば、ルイズが戦争の道具に使われてしまう可能性もある。オスマンはそれだけは避けたかった。 結果として、ルイズは生徒だけでなく教師にまで避けられるようになってしまったが。 「最近はメイドの一人と仲良くしているようで、笑顔で話している姿も見かけますな」 「それは良かった。あのままではミス・ヴァリエールが不憫すぎるからのう」 ルイズが一人で孤独に過ごしているのを不憫に思っていたオスマンは、ルイズを理解してくれる者がいることを我が事のように喜んでいた。 「ところでオールド・オスマン。例の王宮からの知らせについてですが」 「うむ。土くれのフーケという盗賊がトリステインを荒らしておるという話じゃったな」 「ええ。魔法学院の宝物庫も狙われる可能性があるので注意するようにと」 「宝物庫には強力な固定化の魔法がかけられておるし、外壁自体も頑丈に作られておる。あまり心配はいらないと思うがの」 「あの壁を破るとなると、相当な物理衝撃が必要ですからな」 トリステイン魔法学院の宝物庫は強固な守りを誇っている。フーケがいかに優れた盗賊であろうとも、簡単に突破できるものではなかった。 「連中が心配しているのは“破壊の杖”じゃろうな」 「危険すぎるので厳重に保管するようにと王宮から託された物ですな」 「あの杖の破壊力は人が使っていいものではないからのう。盗賊なんぞに奪われたら一大事じゃわい」 そんなオスマンとコルベールの会話を学院長室の前で盗み聞きしている者がいた。 オスマンの秘書ミス・ロングビルだ。だが、その正体はオスマン達が話していた土くれのフーケその人であった。 前ページ次ページZERO A EVIL
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1448.html
前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形 トリステイン魔法学院にある寮の一室。ここの寮生であるルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの部屋のベッドには彼女が召喚した少女が横たわり、夜も更けようかというころ、ようやく目を覚ます。 「やっと起きたわね」 部屋の主、ルイズは尊大に少女に声をかける。 「おはようございます」 少女はまだ覚醒しきっておらず、目をこすりながら答える。 「おはようございますじゃないわよ!あんた昼間のは何、平民が貴族にあんなことしていいと思ってんの?」 「えっと、ごめんなさい。よく覚えていないんです」 そう答えた少女にルイズはあきれかえる。 「覚えていないって、まぁいいわ。ところであんた名前は」 「はい?」 「名前よ名前。あんたの名前教えなさいよ」 「えっと、アンジェリカです」 「ふーん、じゃあアンジェって呼ぶわね」 「はい。ところであなたのお名前は何ですか?」 「わたしの名前?昼間聞いていなかったようね。光栄に思いなさいよ貴族に二度も名乗って貰えるんだから。」 そういって高らかに名乗りをあげる。 「わたしはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、トリステインの貴族よ!」 ルイズは『決まった!アンジェリカは賞賛の眼差しでこちらを見てるに違いない』そう思っていたが、 「はい、ルイズちゃんですね」 現実は違う、感情の起伏がないような、機械的に微笑を浮かべていた。 「ルイズちゃんって何よ!ともかくあんたはわたしの使い魔なんだからね!わかった?」 「はい、わかりましたルイズちゃん。あの質問があるんですけど」 「質問?何よ、言ってみなさい」 「貴族とか使い魔とかって何ですか?」 「貴族も使い魔も知らない、メイジって言葉も知らない?」 ルイズの問いにアンジェリカは知らないと答える。 「まったく、貴族もメイジも使い魔を知らないなんてどこから来たのよ」 「イタリアから来ました。ところでここはどこなんですか?」 「ここはかの高名なトリステイン魔法学院よ。そんなことも知らないなんて、イタリアってどんだけ田舎なのよ」 「まほーがくいん?」 「そう、魔法学院。今日からあんたはわたしの使い魔になってもらうからね。使い魔の仕事については・・・」 「あの、ルイズちゃん」 ルイズの説明を遮って、アンジェリカが喋る。 「わたし、マルコーさんの所に行かないといけないの。どうやったらローマに帰れますか?」 「無理よ、『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけ、元の場所に帰す魔法はないのよ」 「よく・・・わかりません」 「だからどうやったらそのイタリアとかいう場所に帰れるか知らないって言ってるの!」 「そんな、じゃあ・・・!?」 アンジェリカがルイズに詰め寄ろうとすると、彼女の左手に刻まれたルーンが熱を帯び、彼女に植え付けられた条件付けを侵食する。 ―ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔になれ― アンジェリカの条件付けは上書きされた。 ルイズは突然雰囲気が変わったアンジェリカに慌てて声をかける。 「ちょ、ちょっとアンジェ、大丈夫なの?」 「はい、大丈夫ですルイズちゃん。じゃあ、わたしはルイズちゃんの使い魔になればいいんですね」 「そ、そうよ。でもあんた秘薬とか探したり、わたしを守ったりするのは無理そうだから・・・」 ルイズは従順になったアンジェリカに驚きながら、一人で呟く。 「ルイズちゃん、どうしたんです?」 「何でもないわ。そうね、あなたにできる仕事といったら、掃除に洗濯、あとはその他雑用ってとこかしら。できるわよね?」 「はい、そのくらい公社でもやってましたから」 公社とは何だろうか、疑問に思ったがまた後で聞けばいい、ルイズはそう判断した。そうだ、大事なことを忘れていたと、アンジェリカに一つだけ言っておかないと。 「ねぇ、アンジェ。さっきからルイズちゃん、ルイズちゃんって、少し馴れ馴れしいわよ。ちゃんとご主人様とかルイズ様とかにしなさいよ」 「はい、わかりましたルイズさん」 大して変わってない気がするが、これ以上は何を言っても無駄かも、そう思い話を打ち切る。 「しゃっべたら眠くなってきたわ」 じゃあアンジェは床で寝なさい、そう言おうとしてさっきまでアンジェをベッドに寝かしていたのを彼女は思い出す。いまさら床に寝ろなんて言えない。 ルイズはネグリジェをアンジェに投げ渡す。 「ちょっと大きいかもしれないけど、それに着替えなさい」 そういうとルイズもネグリジェに着替える。 「着替えた?じゃあ今日は一緒のベッドで寝るのを許して上げる。か、感謝しなさいよね!」 「ルイズさん!ルイズさん!」 アンジェリカがなにやら興奮している。 「何?どうしたのよ」 「見て下さい、月!月が二つあります」 「それがどうしたのよ」 「トリステインでは二つ月があるんですね。イタリアでは一つしか見えませんでした」 まだまだ問題が山積しているようだ。 しかし、ルイズは睡魔に負け、早々に眠りについてしまった。 「あれ?ルイズさんもう寝ちゃったんですか?じゃあ私も寝ちゃいます。お休みなさい」 Episodio1 Il mio nome e Anjelica 私の名前はアンジェリカ 前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3812.html
召喚の日の翌日。 1限はミセス・シュヴルーズによる授業だった。 彼女は「温和なおばさま」といった容姿と性格を持つ人物である。 一部の生徒からは下に見られることもあるが、多くからは「親しみのある良い先生」と慕われる。 それ故に、進級後の第一回目の授業には彼女が選ばれやすいのだ。 教室に入ると、その彼女は満足げに口を開いた。 「このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 教室には文字通り多種多様な使い魔たちが溢れている。 バグベアー、スキュア、ジャイアントモール……そして、 吸血鬼、吸血鬼、人狼、執事。 何かが明らかにおかしいが気にしてはいけない。お兄さんとのお約束である。 気にしてはいけないのだが、やっぱり気になってしまったのがミセス・シュヴルーズの運の尽きであろうか。 「おやおや。ずいぶんと変わった使い魔を召喚した方々もいらっしゃるのね」 思わず言ってしまった。 これがこの世界の無数の予期せぬ事態を招く一因だったと、今のシュヴルーズには理解できない。 「ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺の平民を連れてくるなよ!」 シュヴルーズに悪意はなかったのだが、これ幸いと野次を飛ばす生徒が出たのだ。 これに慌てたのがシュヴルーズ自身である。 実は彼女はコルベールから事前に使い魔達の詳細をもらっており、、 故にルイズが召喚したのが吸血鬼だと知っていた。 さっきから妙にこっちを凝視している彼女がそうだろう。視線が痛い。 赤い瞳がこっちを刺すように光っていた。 何故かシュヴルーズの中で「アーニーソーン アーニーソーン♪」という透明感のある歌声がループし出す。 だんだん意識が遠のいてきた。いや授業中よシュヴルーズしっかリしナサイ―― アア……アザラクサマハスバラシイ先生デス。 「うるさいわね、かぜっぴきのマリコルヌ!グールにされたくなきゃ黙ってなさい!」 「僕はかぜっぴきじゃない!大体、吸血鬼だって?『ゼロのルイズ』にそんなものが召喚できるか!」 「なんですって!?」 言い争いは激化していき、 ガタン、と騒ぎの中心である二人が立ちあがり杖を抜いたところで、 「おだまりなさい!」 唐突にシュヴルーズは声を荒げた。自身でも驚くほどに。 眼がぐるぐるしてアンインストールという単語が頭上を駆け巡っている気がしたがそんなことはなかった。 ……たぶん。おそらく。そのはずだ。 「お友達に杖を向けるなんて……いけません!そんなことでは2人とも始祖ブリミルに見放されますよ!! いいですか?杖を向けて良い相手は悪魔共と異端共だけです」 「「先生ッ ごめんなさい ごめんなさい~~~~~~ッ」」 温和な様子を見せていたはずのミセス・シュヴルーズ、その怒りと狂信は恐ろしいものだった。 異様な迫力に両者は引くべきだと判断、すぐさまその場は収まる。 が、当然だが2人とも納得はしていない。 これが、後にある事件の発端となる。 ともあれ、授業が再開。 今日の授業は魔法の概論の復習と『土』系統の基礎だ。 『火』『水』『土』『風』の四系統と、今は失われた『虚無』。それがこの世界を支える魔術。 なんとなくミセス・シュヴルーズの顔色が悪いが、声は明瞭なので心配ないだろう。 ほう、と感心したのはアーカード。 一つは生活に密着する、この世界における魔法の汎用性に対して。 そしてもう一つ、自分の仮の主たるルイズに対してだ。 ミセス・シュヴルーズの説明は全くの門外漢たる自分にも分かりやすい。 もちろんそれはシュヴルーズの技量でもあるのだが、もう一つ、内容が基礎の基礎だということでもある。 それこそ、学院の生徒には不要な程に。 だがそれにもかかわらず、ルイズは真剣に話を聞いていた。 周囲と同様冷めた目で見てはいるのだが、態度に表さない。 最初の騒動を見て心配していたのだが、どうやらそれは杞憂だったようである。 しかし――。 (……面白くないのう) いや、授業内容はそこそこ為になるのだ。だがアーカードは現在(外見)年齢十歳以下の幼女。 精神年齢は(ある程度)肉体年齢に依存する。だから大人しくなどしているわけにはいかないのである。 『さっきの』は楽しかったし主のためにもなったが、やはり不完全燃焼なのは否めない。 だから、 「のうルイズ――」 主人に少々ちょっかいを出すのも仕方ないのである。 「のうルイズ、腹が減ったのだが。というか朝起きたせいで眠い」 「……何ですって?」 小声でルイズが反応する。 「だから、腹が減ったと言ったのだ。なんだかんだと言って召喚してから私は一食もしていないぞ」 「――それは、そもそもあんたが私をさっさと起こさないから」 「起こせ、とは言われておらぬ。そもそも夜の眷族より遅く起きるのはいかがなものか?」 う、とルイズが詰まる。 「食事か睡眠、どちらかを寄越せマスター」 「……わかったわよ、授業が終わったらね」 とうとうルイズは折れた。だが、 「私は今眠いのだマスター」 「だから、今は授業中だからダメだってば!」 思わず声が大きくなるルイズ。 「……はッ!」 しまった、とルイズが気付くが時既に遅く。 「――ミス・ヴァリエール?」 満面の笑みを浮かべたミセス・シュヴルーズがそこに居た。 (計画通り!) (くそっ、やられた!) にやり、と笑いを浮かべた従者、屈辱に震える主。 やがて、まんまと罠に嵌められた主は、ミセス・シュブルーズの指示にゆらりと立ち上がる。 そして前へと呼ばれ、実演をしようとしたその時、 ――殺す―― ルイズの口元は確かにその言葉を紡いでいたと、後に『青銅』のギーシュは証言する。 この日、”謎の大爆発”によって教室二棟が吹き飛んだ。 負傷者十数名の大惨事。 アーカードは頭が吹っ飛んだが、騒ぎが大きく、また即座に再生したせいで誰にも気付かれなかった。 ルイズだけは再生途中のアーカードを見て彼女が化け物であることを再確認する。 余談だが、ギーシュ・ド・グラモンは使い魔の活躍により外傷こそ負わなかったものの、 頭を打ったため保健室で昼過ぎまで寝ていた。 使い魔がずっと付いていた他、女子生徒二人がお見舞いに来たらしい。 ちなみに、当初昼から講義に出られると太鼓判を押していた保険医は見舞いの後に前言を撤回している。 何のことかは全く不明だが、片方は完全にダメになったとか。いや何のことかは全くもって分からないが。 だが、この授業を皮切りに、一般生徒とルイズは溝を深めていく…… かつて。 まだルイズがサモン・サーヴァントに成功する前のこと。 ルイズは嘲笑の対象ではあったが、かつて両者の関係はそこまで深刻ではなかった。 何かあっても、今まで一般生徒は「所詮『ゼロのルイズ』」と見下すことによって溜飲を下げていた。 そしてルイズも『ゼロ』という言葉への適切な切り返しを持たなかった。 それが両者のバランスであり、事が済めばそれなりに笑い合えているのが常だったのだ。 だが―― 吸血鬼アーカード。 彼女の召喚により、全ては大きく変わった。 ルイズが初めて成功した魔法。召喚された「吸血鬼」。 その種族の力と性質を考えれば、今までルイズを嘲笑っていた生徒たちが不安になるのも無理はなかった。 更に「私は『ゼロ』ではない」という自信をルイズが得たことで、対立構造は明確なものとなる。 ただ、一方で良い方向の変化もあった。 同じく人・亜人を召喚した生徒と一緒にいるようになったことだ。 これは(本人は否定するかもしれないが)お節介焼きなキュルケの功績と言えよう。 以前、キュルケは内心に忸怩たる思いを抱えていた。 ルイズと比較して、自分が優っていると自信を持って言えるのは魔法の実技のみだとキュルケは知っていた。 はっきり言って、魔法実技、スタイル、性格――この三つを除いてルイズを評価すれば、自分より上を行く。 全てにおいて、しかも簡単には埋めることが出来ないほどに、だ。 それを自覚し、それを原動力として自身をトライアングル・メイジへと押し上げるに至ったキュルケには、 自身と対等以上の能力を持っている「ライバル」への偏見が酷く不快だった。 だから、実のところルイズの成功をルイズに次いで喜んだのがキュルケだ。 これでやっと自分とルイズの「本当の勝負」が始まるのだ、と。 そんなわけで、キュルケは召喚の儀以降、何かと挑発しつつもルイズに付いているようになったのである。 その心境は妹を見る姉に近いかもしれない。 すると自然とタバサもついてくるわけで。「人型使い魔を持つ人間が固まっている」構図が出来上がり、 そんな中で独りだと自分の使い魔が寂しがるために(ギーシュ談)、 ギーシュもまたこの輪の中に混ざるようになった。 そうして三日も経つ頃には、彼らは「ゼロのルイズ御一行」と認識されるようになる。 その彼らも、今は食堂で昼食をとっているのだが…… 他生徒から距離を空けられているのは使い魔の異様さゆえか、それとも本人らの実力とアクの強さゆえか。 ――たぶん、両方だろう。 そんなことを思いながら、唯一「普通」である(と思っている)ギーシュ・ド・グラモンは 居心地悪そうに昼食を食べる。 あれ以来、ケティやモンモランシーの視線が痛くてここに逃げてきたギーシュだが、 何故か余計に痛くなった周囲の視線に首をかしげていた。いろいろと空気の読めない子である。 他の生徒からすれば、ギーシュは「女の子がいっぱいのところに特攻してる」ようにしか見えない。 しかもキュルケ、タバサ、ルイズ、アーカード、セラスと、 囲んでいるのは性格その他に目をつぶればかなりの美人揃い。 ケティやモンモランシーから言わせれば「またかコノヤロウ」な状況なのである。 とはいえ、あまりにおかしな集団に直接声をかける者がいないので視線だけが分厚くなっているのだが。 ――ところが。この日は珍しく、彼らに話しかける者がいた。 それが事件を巻き起こす。 「よう、ギーシュ。今度は誰が目当てなんだい?」 にやにやとした笑いで話しかけてきたのは、『風上』のマリコルヌ。 空気の読めなさではギーシュに次いで定評のあるおデブだ。 「マ、マ…えーと真理子塗る……じゃなかった、マリコルヌじゃないか」 一瞬「誰だっけ?」と言いそうになったのはギーシュだけの秘密。 まあ、思い出しただけまだましかもしれない。 「……誰?」 「………さあ、知らないわ」 「…ああー、アレよ、『かぜっぴき』」 上からタバサ、キュルケ、ルイズだ。 「だから僕は『風上』だと言っているだろうッ!」 あまりの悪態に、くそ、とマリコルヌは吐き捨てる。 「これだから『ゼロのルイズ』は…」 「風邪のせいで頭が回ってないのかしら?あいにく私はもう『ゼロ』ではないの」 「それ以来成功してないんだからどっちにしろほぼ『ゼロ』じゃないか! 大体、本当に召喚が上手くいったかも分かったものじゃない」 ハッ、と嗤ってみせるが、これが地雷だった。 この言葉にキュルケが反応したのだ。 「あら、あたしとタバサにも言ってるのかしら、おデブさん?」 最高に見下した視線で言い放つ。 「僕もかい、マリコルヌ?」 同調するギーシュ。 それに倣い、がたり、とルイズ一行の全員が立ち上がる。 う、とマリコルヌがたじろいだ。 はっきり言って、この集団に凄まれるのは怖い。 ぶくぶくと肥え太った彼に動物的な野性は残されておらず、故に彼にはアーカード達の危険性は分からない。 が、「トライアングル・メイジが二人もいる」という事実が彼に心的負担を強いた。 何せトライアングル以上というのは戦略級の実力を意味するのだから。 だが、それ故に勘違いが起きやすい。 トライアングルさえいなければ――そう思ってしまう奴が時々居るのだ。 そして、マリコルヌはあまり賢くなかった。 「ぐっ…『トライアングル』の二人はともかく、ギーシュとルイズはどうだろうな。 どう見てもただの平民じゃないか!まあ、二人にはぴったりかもしれないけどね」 色々とマズい事を言い放ってしまったマリコルヌ。 これにブチ切れたのは他でもない、始祖の吸血鬼とその主。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 妙な迫力とともにルイズが杖を振り上げる。が、振り下ろさない。 何だ、と思ったマリコルヌが見たのは、鋭い歯を剥き出しにした幼女の姿。 後悔先に立たず、である。 『逃げたら……分かってるわよね?』 という視線を送るルイズを背に、アーカードがゆっくりとマリコルヌに近づいていく。 焦ったのは残りの当事者二人――ギーシュ・ド・グラモンとセラス・ヴィクトリアだ。 (このままじゃあ『大惨事』になるのは確実です!) セラスがギーシュにアイコンタクトを送る。 (確実!) ギーシュが適切に解し、返し、 (そう、ワインを飲んだら酔うくらい確実ですッ!) バァーーーンという効果音とともに二人が驚愕する。 (どうする、どうしましょう、ギーシュ・ド・グラモンさん!) (うろたえるんじゃあないッ!トリステイン貴族はうろたえないッ!) 最初こそ二人も怒ったのだが、何よりも先にあの二人が動いてしまった。 こうなるともう自分たちの怒りなんかどうでもいい。 ある意味最も怖い主従がブチ切れてしまったわけで、その時点で思考がシフトしている。 今あるのは唯々マリコルヌの生還を願う感情のみである。 (ああッ……ギ、ギーシュさん、マリコルヌ君が、マリコルヌ君が!) 片手で持ち上げられ、マリコルヌはプルプルと震えている。 (くそッ、時間がない!ええい、死体処理の手段を考えた方が早いか!?) もはや一刻の猶予もない。というか若干手遅れ気味だ。 こうなったら―― 「マリコルヌ・ド・グランドプレ!君に決闘を申し込むッ!!」 ――あと十秒遅かったら、僕は食堂に居た全員の口を封じなければならなかったろうね。 『青銅』のギーシュ 前へ戻る 次へ進む 目次へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6366.html
前ページ次ページ重攻の使い魔 第2話 『日常非日常』 ルイズが自室で目を覚ました時、真っ先に視界に入ってきたのは昨日召喚した赤いゴーレムだった。あの後、ルイズは自室に戻り、ゴーレムを室内に入れようとしたが、ちょっとばかり苦労した。なにぶんこのゴーレムは身長が2.5メイルもあり、立っているだけで天井スレスレなのだ。横幅もこれまた相当に広く、そんな図体の大きい代物を廊下に置いておく訳にもいかない。共有空間の私物化で咎められる可能性もある。 そのため、ルイズはゴーレムを室内に入れることに決めたのだ。しかし、廊下を歩くだけで窮屈そうなゴーレムは自室のドアをくぐるにも一筋縄ではいかず、まるでパズルを解くかのように腕を曲げ、足を曲げ、体をひねり、30分ほどかけてようやく部屋に入れることが出来たのだった。 「んー……、にひひ。わたしの使い魔かぁ」 ルイズはしげしげと自らの使い魔となったゴーレムを眺めると、思わず破顔する。間違いなく同級生の中では一番の使い魔だ。もうあんな魔法が使えるだけの馬鹿な連中に大きな顔はさせない。これまでの不遇の反動からか、ルイズの思考は少しばかり暴走気味であった。 「名前、まだ決めてないけど、どうしようかなぁ。レッドドワーフ・ダハク・イーヴァルディ……。どれもいまいちしっくりこないのよね」 昨日の夜からルイズは使い魔の名前をどうするかで悩んでいた。考え始めた最初に比べれば大分候補を絞ってはいるのだが、なかなか決めるには至らなかった。これから長い付き合いになるだけに、絶対に後悔したくはない。とびっきりの名前を付けてあげようとルイズは決めていた。 「まあ時間はあるんだし、もうちょっと考えてからでもいいわよね。……とと、もうこんな時間じゃない、そろそろ準備しなくちゃ」 扉の外からはがやがやと生徒が話す声が聞こえる。朝食の時間が近くなったので生徒達はみな大食堂に向かっているのだ。ルイズはぽんぽんと寝巻きを脱ぎ、かごへと放り込んでいく。洗濯物が入れられたかごは後で使用人に渡せばいい。朝食を食いはぐれるのは御免だとばかりにルイズは身支度を整えていく。 「さ、行くわよ。昨日のでコツは掴んだから大丈夫!」 ルイズはそう命令すると、ゴーレムはのっそりと動き始める。昨日散々苦労した扉をくぐるのも、体を器用に回転させながら割とすんなり通ることができた。ルイズが扉を閉め、さあ食堂へ向かおうとした時、隣の部屋の扉が開いた。中から炎のように赤い髪をたたえた少女が出てくる。少女はルイズと傍に立つゴーレムを見ると、心持ち慎重な態度で話しかけてきた。 「あら、おはようルイズ。……そのゴーレムがあなたの使い魔?」 少女は異様な存在感を出しているゴーレムが気になるのか、若干引き気味である。普段ならこの少女に声を掛けられると、決まってルイズは不機嫌になるものだったのだが、この日は違った。明るく弾んだ声でルイズは返事をする。 「そうよ、驚いたでしょ。こんな立派なゴーレムを使い魔にしてる貴族なんていないわ。あの土くれのフーケだってこんなの使える訳ないってものよ」 「そ、そう。よかったわね」 普段のルイズとはかけ離れた態度に、少女はいささか面食らったようであった。犬猿の仲といっても差し支えないほどルイズと少女の間柄は好ましいものではなかったのだが。 「で、キュルケ、あんたは何を使い魔にしたの?」 「う、えーと、……この子よ」 キュルケと呼ばれた少女は、若干どもりながら後ろを振り向き手招きする。すると扉の中からのっそりと、赤い鱗を持った巨大な爬虫類が現れた。廊下がむわっとした熱気に包まれる。 「あら、これってサラマンダーじゃない。あんたも中々やるわねぇ」 「……くっ、ナメてるわねルイズ」 「いいえ、そんなことないわよ? サラマンダーだって立派じゃない。もっともわたしのゴーレムには及ばないけどね」 ルイズはそう言うと、ゴーレムの体をこんこんと叩いた。ルイズとキュルケが話をしている間も、ゴーレムは微動だにしない。ルイズよりも頭一つ背が高いキュルケも、このゴーレムの前では幼児同然の大きさだった。巨体が特徴のサラマンダーでさえ、ゴーレムの威圧感の前では存在感が霞んで見える。 「ふんっ。得体の知れないゴーレムより、実績のあるサラマンダーの方がよっぽど価値があるわよ」 「へーぇ、こんなに精密に作られたゴーレムよりもねぇ。ま、いいけど。ほら早いとこ食堂に行くわよ」 そう言い放つと、ルイズはゴーレムを引きつれ、食堂へと足を向ける。ルイズの使い魔を見た生徒の中には、後ずさりをする者もいた。狭い廊下いっぱいを使ってのしのしと歩くゴーレムの威圧感はとてつもなかった。 その立ち去るルイズの後姿を眺めながら、キュルケは抑えきれない悔しさに臍を噛んでいた。自分の使い魔はそこら凡百の使い魔とは違う。事実、サラマンダーを使い魔とできる者はそう多くはなく、使い魔とした者は例外なく優秀なメイジとなっている。何も劣等感を感じる必要はなかったのだが、それでもゴーレムのあの姿を見ると、サラマンダーが見劣りしているような気分になってしまうのだった。 今までになく上機嫌で朝食を終えたルイズは引き続きゴーレムを随伴させながら、気分は大臣とばかりの足取りで教室へと向かう。すれ違う生徒が畏怖を込めた視線を送ってくるというのは表現の仕様がない快感だった。朝食を取っている間も、自分の後ろに立たせていたのだが、食堂にいた生徒・使用人全ての視線を集めていた。 (ふふん、あんたたちの使い魔なんて、わたしのゴーレムの足元にも及ばないんだから) 特に他の生徒の使い魔と手合わせをしたわけではないので、どちらが強いなどという結論を出せるはずもないのだが、このゴーレムの巨躯は、圧倒的な力を秘めていると思わせるに足る雰囲気を醸し出していた。普段は重い気分で開く教室の扉も、今日はさわやかな気分で開けることができた。 ルイズに引き続き、ぐりぐりと体を回転させながらゴーレムが教室に入ってくると、先に来ていた生徒達は一斉にルイズの方向を向いた。ルイズと目が合い、彼女がにやりと笑って見せると、そそくさと視線を外す。ここにいる薄ら馬鹿どもはきっと報復を恐れているに違いないのだ。それも当然、今まで散々無能だと馬鹿にしてきた人間が、見るからに強靭なゴーレムを使い魔にしたとあっては心穏やかではいられない。 ルイズがゆうゆうと自分の席に向かう間も、侮蔑の言葉を投げかける者はいなかった。そしてそれは授業が始まるまで続いたのである。 (ああ、この感覚、たまらないわ!) 横目で、ルイズへの嫉妬を隠しきれていない様子のキュルケを眺めながら、ルイズがひとり優越感に浸っていると、教室前方の扉が開き、中年の女性が入ってきた。女性はルイズのゴーレムを目にすると、軽く目を見開いたが、特別驚くでもなくゆったりとした声で話し始める。 「皆さん。春の使い魔の召喚は大成功のようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは先程のシュヴルーズの反応から、自分が声を掛けられることを半ば確信していた。土のメイジであるシュヴルーズが、このゴーレムを気に掛けないはずがない。今か今かと、ルイズは思わずそわそわしてしまう。 「ミス・ヴァリエール。あなたは素晴らしい使い魔を召喚したようですね。土のメイジとして、あなたのゴーレムからはとても強い力を感じますよ」 きた!とルイズは思わず声を上げそうになった。しかし長年鍛え続けた自制心により、つとめて冷静かつ謙虚な態度で受け答えする。 「ありがとうございます、ミセス・シュヴルーズ。わたしもこのようなゴーレムを使い魔とすることができて、感動しております。とはいえ、まだまだ若輩の身、今後も先生方の素晴らしいご指導を賜りたい所存であります」 「まあ、素晴らしい心がけですね。皆さんもミス・ヴァリエールを見習うように」 ルイズの謙遜な態度は、シュヴルーズの目には輝かしく映ったようで、上機嫌で授業を始める。しかし、周囲の生徒にしてみれば、歯の浮くようなおべんちゃらを並べ立てているようにしか見えなかった。 シュヴルーズがルイズよりの立場を取ってしまったため、どうにかルイズを茶化してやろうと考えていた生徒の出鼻は完全に挫かれてしまった。 ルイズにしてみれば全て計算ずくのことで、このゴーレムを学院内での地位を確立する足がかりとする算段であった。これからは自分を侮辱するものは許さない。いまに誰もが恐れ敬うメイジとなってみせる。ルイズの意思は強固だった。 授業はつつがなく進行し、錬金の実践の時間となった。シュヴルーズは教室を見回し、誰を指名するか迷っているように見える。しかし、彼女の中では誰を指名するかは決まっており、教室を見回したのは単なるポーズに過ぎなかった。そしてシュヴルーズは意中の人物を指名する。 「そうですねミス・ヴァリエール、あなたにやってもらいましょう。この石をあなたが望む金属に変えてご覧なさい」 「え、わたしですか?」 シュヴルーズがルイズに魔法の実験に指名したことに、教室は騒然となる。するとキュルケがおもむろに立ち上がり、シュヴルーズへと進言する。 「あの……、ミセス・シュヴルーズはルイズを受け持つのは初めてですよね? できればルイズにやらせない方がいいと思うのですが……」 「何故ですか? ミス・ヴァリエールは高位のゴーレムを使い魔としたのです。錬金ぐらい行うのはわけないでしょう。しかも彼女は努力家だと他の先生方から聞いていますよ。さあ、気にしないでやってごらんなさい。大丈夫です。失敗したとしてもそれはマイナスにはならないのですからね」 「ルイズ、お願い。やめてちょうだい」 事情を知っているキュルケが蒼白な顔で懇願するが、彼女の願いはルイズには届かなかった。 「分かりました。やります」 ルイズが席を立ち教壇へと向かうと、ゴーレムも当然とばかりにルイズの後についていく。ここで成功させれば自分の評価はまた一段と確実なものになる。ルイズとしても失敗する不安はあったが、ここで同級生達に畳み掛けるのもいいかもしれない。なにより後ろに物静かに佇んでいる己の使い魔がルイズの心の支えとなっていた。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 ルイズは頷き、手にした杖を振り上げる。そして唇をきつく引き締め、錬金の呪文を唱え始める。生徒達は我先へと机の下にもぐりこむが、ルイズにとってそのようなことはどうでもよかった。今ルイズの脳内にあるのは錬金を成功させることだけ。 呪文を唱え終え、杖を振り下ろしたその瞬間、ゴーレムは素早くルイズの前方に回りこむ。と同時に机ごと石が爆発した。爆風の直撃を受けたシュヴルーズは吹き飛ばされて黒板に叩きつけられ、その衝撃で意識を刈り取られた。シュヴルーズが目を回しながら倒れこむ。 突然の爆発に他の生徒の使い魔は驚き、教室はにわかに恐慌状態へと陥っていた。使い魔が使い魔を飲み込み、マンティコアのような大型の幻獣が暴れまわり、そこかしこから悲鳴と抗議の声が上がる。 「もうっ、だからルイズにやらせるなって言ったのよ!」 「頼むからヴァリエールを退学にしてくれ!」 「おおおお俺のラッキーがっ! ラッキーがヘビに食われちまったぁ!」 この騒ぎの原因となったルイズはというと、特に擦り傷一つなくぴんぴんしていた。ゴーレムがとっさにルイズを庇ったからである。ルイズが思わず瞑った目を開けると、目の前にはあの真紅のゴーレムがルイズを傷つけまいと、自らの体を盾にしていたのだ。ゴーレムはなんら損傷が無いようで、合いも変わらず物言わずに立っていた。 「あんた、わたしを守ってくれたの?」 ルイズの声にゴーレムは何の反応も見せなかった。しかし自分を守ってくれたことには間違いなく、錬金に失敗したというのに余り落ち込んではいなかった。今まで家族以外でルイズに救いの手を差し伸べてくれた者はおらず、長い間孤立していたルイズにとって、この一件はゴーレムに更なる信頼を寄せるきっかけとなった。 この後、ルイズは目を覚ましたシュヴルーズにこってりと絞られ、瓦礫の山となった教室の後片付けを言い渡された。周到なことにゴーレムを使って楽をしないようにキュルケが監視役として置かれ、しぶしぶとルイズは片付け始める。 ルイズの計画が実現する日はまだまだ遠いようだった。 前ページ次ページ重攻の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7568.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ ソーサリー・ゼロ これまでのあらすじ 第一部「魔法使いの国」 君は、若く勇敢な魔法使いだ。 祖国アナランドを危機から救うべく、カーカバードの無法地帯を横断する旅を続けていた君だったが、ふと気がつくと周囲の光景は 一変していた。 そこは、ハルケギニア大陸のトリステイン王国と呼ばれる未知の土地であり、魔法を使える特別な血筋の者たちが王侯貴族として君臨し、 大多数の平民たちを支配しているという、奇妙な世界だったのだ。 君がこのハルケギニアにやって来たのは、ルイズという少女が執り行った、『≪使い魔≫召喚の儀式』が原因だった。 ルイズは大いに戸惑いながらも、とにかく君を≪使い魔≫にすることに決め、自分に対する忠誠を求めた。 今すぐカーカバードに戻る方法がないと知らされた君は、当面の庇護を得るために彼女に従うことに決めるが、自分が重大な任務を帯びた 魔法使いであることは、黙っておいた。 ルイズは、貴族の子弟のための学び舎『トリステイン魔法学院』の生徒であり、君も彼女の学業につきあわされることになる。 君の『ご主人様』であるルイズは、名門貴族の令嬢でありながら、どういうわけか魔法がまったく使えぬ劣等生であり、 心ない者たちから≪ゼロのルイズ≫という屈辱的な名で呼ばれていた。 ハルケギニアに召喚されてから七日目に、事件が起きた。 学院の教師コルベールが、解読の助けを求めて君に手渡した≪エルフの魔法書≫と呼ばれる書物が、≪土≫系統の魔法を操る正体不明の盗賊、 ≪土塊(つちくれ)のフーケ≫によって奪われたのだ。 森の中でフーケに追いついた君は、盗賊の正体が美しい女だと知るが、そこに思いもよらぬ乱入者が現れる。 かつて、君によって全滅させられたはずの『七大蛇』のうちの二匹、月大蛇と土大蛇が、君とフーケに向かって襲いかかってきたのだ。 さらには、ルイズと、彼女の同級生であるキュルケとタバサまでもが駆けつけ、激しい闘いの末、月大蛇は打ち滅ぼされ、土大蛇は逃走した。 学院に戻った君は、ルイズと学院長のオスマンに、自らの正体と≪諸王の冠≫奪回の任務について打ち明ける。 ふたりは大いに驚きながらも、君の話を信じ、君がカーカバードに帰還する方法を調べると、約束してくれた。 翌日の夜、学院で催された舞踏会から抜け出したルイズは、君のところへやって来て、必ず≪ゼロ≫から抜け出し、君より偉大な魔法使いに なってみせる、と宣言する。 君は、『ご主人様』のルイズや学院の人々、そして、この美しい世界に対して愛着を覚えるようになっていたが、自身の内側で起きている 恐るべき異変には気づいていなかった。 第二部「天空大陸アルビオン」 トリステインの王女アンリエッタが学院を訪れた日の夜、君とルイズはオスマン学院長の呼び出しを受ける。 オスマンが話すところによれば、彼の旧友であるリビングストン男爵という貴族が、遠く離れた二つの場所をつなげる≪門≫を作り出す魔法を 研究しているのだが、その≪門≫は、このハルケギニアと、君が居たカーカバードを結んでいるかもしれぬというのだ。 カーカバードへ戻れる望みが出てきたことを知った君は、男爵が住まうアルビオンに向かうが、その旅には『ご主人様』のルイズと、 かつて君を相手に決闘騒ぎを起こしたギーシュが、強引に同行してきた。 港町ラ・ロシェールで≪土塊のフーケ≫と再会した君は、彼女と力を合わせて水大蛇を倒すが、七大蛇がアルビオンに拠点を置いて、 何かを企んでいることを知る。 『白の国』の異名をもつアルビオンは、雲と霧に包まれて天空を漂う、驚異の地だった。 空飛ぶ船でアルビオンに降り立った君、ルイズ、ギーシュの三人は、リビングストン男爵の領地へ向かうが、アルビオンは国を二分しての 内乱に揺れており、男爵は行方知れずになっていた。 男爵を探してとある村に立ち寄った君たちは、そこで酸鼻きわまる虐殺を行っていた傭兵たちと出くわし、捕らえられてしまう。 君は、以前にオスマンから貰った、意思を持つ魔剣であるデルフリンガーの謎めいた力の助けを借りて、彼らの首領格であるメンヌヴィルを 討ち取り、残った傭兵たちは、突如現れた、アルビオン王国の皇太子ウェールズ率いる一隊によって、殲滅された。 君たちがアルビオンに来るにいたった事情を知らされたウェールズは、リビングストン男爵は貴族派と呼ばれる反乱軍によって捕らえられ、 むごたらしく殺されたと告げる。 ウェールズは、帰還の望みが絶たれたことを知らされて意気消沈する君を、ニューカッスルの城へと招いた。 追い詰められた王党派にとって最大の拠点であるその城には、男爵の遺品や書き置きが残されているかもしれぬのだ。 秘密の地下通路をたどってニューカッスルの城に入った君たちは、倉庫で男爵の日記を見いだすが、君の役に立つような記述は何もなかった。 ≪門≫の探索をあきらめてトリステインに戻ることに決めた君たちは、トリステインから派遣された大使、ワルド子爵と出会う。 婚約者であるルイズとの偶然の再会に喜ぶワルドだったが、その正体は、アルビオンの貴族派を背後から操る結社≪レコン・キスタ≫の 一員だった。 巨大なゴーレムがニューカッスルに襲来した混乱に乗じて、国王の命を奪い、ウェールズをも手にかけようとしたワルドだったが、その場に 君が立ちふさがる。 ルイズとデルフリンガーの助けもあって、どうにかワルドに打ち勝った君だったが、そこに火炎大蛇が現れ、ワルドは逃走する。 火炎大蛇が倒されたのち、ウェールズは君たちに、裏切り者のワルドにかわって、トリステイン大使の務めを果たしてほしいと頼む。 務めとは、かつてアンリエッタ王女がウェールズに宛てた恋文を、王女のもとへ持ち帰ることだった。 この恋文の存在が明らかになれば、締結直前にあるトリステインと帝政ゲルマニアの同盟は破棄され、トリステインは単独で、 ≪レコン・キスタ≫が主導する新生アルビオンの脅威に、立ち向かうことになってしまうのだという。 君たちに手紙を託したウェールズは、数日のうちに全軍による突撃を敢行し、名誉ある戦死を遂げるつもりだと言うが、ルイズはそれに反対し、 トリステインへの亡命を勧める。 ウェールズはルイズの意見に頑として耳を傾けなかったが、ついで説得に立った君の言葉に心を動かされ、たとえ卑怯者と呼ばれようとも 生き延びて、≪レコン・キスタ≫を苦しめてみせると告げた。 ウェールズと意気投合した君は、彼が語った噂話から、七大蛇が≪レコン・キスタ≫の頭目クロムウェルの忠実なしもべだと知る。 君たちはニューカッスルの城から脱出する難民船に便乗し、トリステインへの帰路につくが、その頃アルビオンでは大陸全土に、 奇妙な甲高い音が鳴り響いていた。 それは、二つの世界を隔てる壁が引き裂かれた音だった。 第三部「さまよえる冒険者」 トリステインに帰り着いた君たちは、アルビオンでの顛末とウェールズの決意をアンリエッタ王女に報告した。 アンリエッタは感謝の証として、ルイズに王家伝来の秘宝≪水のルビー≫を譲り、また、同じく国宝ではあるが、何も書かれていない頁が 連なるだけの書物≪始祖の祈祷書≫を預け、その調査を頼む。 アンリエッタは、大国ガリアを中心とした≪レコン・キスタ≫討伐のための諸国連合軍が結成され、トリステインもこれに参加することを、 君たちに伝える。 これによって、アルビオンの脅威は遠からず消滅することは確実なため、トリステインとゲルマニアの同盟締結は中止され、アンリエッタは、 ゲルマニア皇帝との望まぬ政略結婚をまぬがれることとなった。 学院に戻った君はタバサと言葉を交わし、彼女の家族が重い病に臥せっていると知り、近いうちにその者の治療に行くと約束した。 数日後、君は荷物持ちとして、ギーシュとその恋人モンモランシーとともに『北の山』へ行くことになったが、そこで土大蛇の襲撃を受ける。 土大蛇を倒した君だったが、深手を負ったギーシュを救うために、ブリム苺のしぼり汁を使い果たしてしまった。 この薬は、タバサの家族に試すはずの癒しの術を使うために、必要不可欠な物なのだ。 タルブの村の出身で、今は学院に奉公している少女シエスタの実家に、同じ薬があることが明らかになり、君、ルイズ、タバサ、キュルケ、 シエスタの五人は、タルブへと向かった。 シエスタの実家でブリム苺のしぼり汁を手に入れた君は、シエスタの曾祖父が、君と同じように≪タイタン≫の世界からハルケギニアに 迷い込んだ人物であることを知る。 君たちは、シエスタの曾祖父がくぐり抜けた≪門≫が存在するという洞窟を調べ、最深部にそれらしき場所を見出したが、そこに≪門≫はなかった。 洞窟の調査を終えた君たちがタルブに戻ると、そこに、生きた泥沼のような姿をした≪混沌≫の怪物が来襲する。 草木や家畜をむさぼり喰い、土や空気を汚染して、どんどん大きくなる≪混沌≫の怪物を前に、進退窮まる君たちだったが、ルイズが偶然開いた ≪始祖の祈祷書≫に現れた呪文を唱えると、まばゆい光が炸裂し、怪物は跡形もなく消滅した。 デルフリンガーによれば、ルイズが唱えた呪文は、伝説の失われた系統≪虚無≫のものであり、彼女は≪虚無≫の担い手なのだという。 ルイズが普通の≪四大系統≫の魔法を使えなかったのは、≪虚無≫を受け継いだ代償だったのだ。 タバサに連れられて、彼女の実家にやってきた君が見たものは、恐るべき毒に心を狂わされ、我が子を目にしておびえた声を上げる、 タバサの母親の姿だった。 タバサの母親に癒しの術をかけた結果は、完治には程遠いものだったが、それでも彼女は、恐怖や苦痛からは解放されたようだった。 タバサと、彼女の実家を管理する老執事は涙ながらに喜び、君は、タバサがガリア王家の出身であり、彼女とその両親は王位継承争いの 犠牲者だということを知らされた。 タルブから持ち帰ったブリム苺のしぼり汁は数に余裕があったため、君は次にルイズの姉を治療するべく、ルイズの実家である ラ・ヴァリエール公爵の屋敷へ行くが、そこで執事殺しの疑いをかけられ、屋敷の中を逃げ回ることになってしまった。 ルイズの姉カトレアは君の無実を信じ、部屋にかくまってくれるが、そこに今回の事件の黒幕である風大蛇が現れ、君たちに襲いかかる。 七大蛇の主人クロムウェルは、正体不明の兵器を用意していたが、それを妨げる手段を知るかもしれぬ君を危険な存在とみなし、 抹殺するべく土大蛇と風大蛇をさしむけてきたのだ。 風大蛇はルイズの母親によって倒され、怪物の放つ毒を吸って重態に陥ったカトレアも、君のかけた術によって救われたが、 癒しの術も、彼女の生まれつきの体質を改善するまでにはいたらなかった。 学院に戻った君は、≪虚無≫の絶大な力を恐れたルイズが、アンリエッタと相談した末、自分が≪虚無≫の担い手であることを絶対の 秘密とし、二度と≪虚無≫の術を使わぬと決めたことを知った。 ルイズやキュルケ、ギーシュたちと一緒になって、アルビオンに向かって出征するトリステインの軍勢を見物する君の内心は、 穏やかではなかった。 クロムウェルが用意しているという、この世界の常識を超えた恐るべき秘密の兵器とは、いったいなんなのだろうか? 一 夏の訪れを感じさせる陽射しを受け、額に汗をにじませながら、西の空を見上げる。 視界の遥か先を漂っているであろうアルビオン大陸の姿は、見えるはずもないが、雲と霧をまとって空に浮かぶ『白の国』の壮大な眺めは、 君の頭に刻み込まれている。 かの地では今、敵味方合わせて十万をゆうに越す大軍がぶつかり合い、火花を散らしているはずだ。 ハルケギニア諸国連合軍によるアルビオン遠征が始まって、二十日近くが経つが、トリステイン王国と魔法学院は平和そのものだ。 アルビオンにおける戦況について、宮廷からの発表はなく、人々の情報源はもっぱら、徴用された貨物船の水夫や荷役夫たちが持ち帰る土産話と、 貴族の将校たちが家族や恋人に宛てた手紙による。 君は学院とトリスタニアの町でこの大戦(おおいくさ)に関する噂を拾い集めたが、その多くは、万事が順調に進んでいることを示していた。 ──アルビオンへの進撃において、驚くべきことに、精強を謳われたアルビオン空軍の迎撃はなく、艦隊はまったくの無傷で上陸した。 ──連合軍は各地で快進撃を重ね、トリステイン軍は交通の要衝である古都シティ・オブ・サウスゴータを占領した。 ──主力をつとめるガリア軍は首都ロンディニウム攻略の準備にかかっており、もうすぐ≪レコン・キスタ≫は崩壊し、戦は終わるだろう。 噂を聞くかぎり、連合軍の勝利は揺るぎなきものと思えたが、君が本当に知りたいこと──ウェールズ皇太子の安否とクロムウェルの秘密兵器── に関する情報は、なにひとつ得られなかった。 『白の国』に上陸した連合軍はすぐさま、アルビオン王家の最後の生き残りであるウェールズの生死を確認すべく動いたが、 彼の足跡は、王党派最後の拠点ニューカッスルの城──今は瓦礫の山に変わっているそうだ──を最後にふっつりと途絶えており、 その行方は杳として知れぬという。 君は、アルビオンを発つ前夜にウェールズと交わした言葉を思い起こす。 「たとえ卑怯者のそしりを受けようとも、私は生きる」 「この命が続く限り、奴らの悪だくみを邪魔し続けてやるさ」 力強くそう言った皇太子が『名誉の戦死』を遂げたとは思えぬが、ならばなぜ、彼とその部下たちは連合軍と合流しておらぬのだろうか? また、ルイズの実家で風大蛇が語った、クロムウェルが準備しているという『百万の軍勢でも千フィートの城壁でも防げぬ、 まったく新しい武器』の存在も噂にあがらず、その実態は推測することもままならない。 追い詰められたクロムウェルにとって、起死回生の策となるであろう兵器は、結局のところ間に合わなかったのだろうか? それとも、連合軍を懐に引き寄せてから使って、一網打尽にするつもりなのだろうか? 君の不安はつのるばかりだが、アルビオンへ出向いて直接調べるわけにもいかない。 君の身分は、トリステイン魔法学院の生徒ルイズの≪使い魔≫にすぎぬのだから。 今日の授業は終わり、生徒たちは夕食までのあいだ、めいめいのやりかたで時間を潰している。 時間を潰さなければならぬのは、君も同じだ。 とくにルイズから言いつけられた用事があるわけでもなく、今の君は手持ち無沙汰なのだ。 これからどこに向かうべきかを考える。 マルトーやシエスタの居る調理場へ行けば、食糧や日用品を扱う出入りの商人から仕入れた、新しい噂を聞けるかもしれない。 噂といえば、ギーシュと話してみるのはどうだろう? 彼は武門の生まれであり、三人いる兄はいずれも、アルビオン遠征に参加しているらしい。 かの地の様子を記した手紙も、何通か受け取っているだろう。 授業が終わった直後に、東の広場へ向かっているところを見かけたので、そちらへ向かえば会えるはずだ。 そこまで考えたところで、君は唐突に、アルビオンから戻った直後にコルベールとかわした会話を思い出す。 コルベールは、君の左手に刻まれた≪ルーン≫の効果に興味を示し、人間のような知性をもつ生き物に≪ルーン≫が刻まれた例を 探してくれると言ったはずだが、あれから何の音沙汰もないままだ。 君は今の今までその事を忘れていた──考えてみれば、なんとも奇妙なことだ。 調べ物には何の進展もなかったのかもしれぬが、それでも彼の『研究室』を訪れるのは有意義だ。 彼のような学識豊かで誠実な人物と言葉をかわすというのは、悪くない時間の使いみちだろう。 どこへ行く? 調理場・二二二へ 『研究室』・一三六へ 東の広場・五三四へ ルイズの部屋・一二三へ 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7820.html
前ページ次ページ五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔 第4夜 やります 翌朝。 着替えを済ませ、顔を洗い、二人は食堂に向かう。クリオは部屋に待機する。まだタマゴなので食事の必要はないのだ。 道中同じ方向へ歩く生徒からひそひとと話が漏れ聞こえてくる。 「ほら、昨日の……」とか「ぱねえっす」とか「太もも」とか「尻神様」とか聞こえてくる。 後の二つは置いといて、自分の使い魔が良い意味で噂になっているので、ルイズは鼻高々である。 「ゼロのルイズ、とうとう使い魔にも負けちゃったぜ……」 そんな声が聞こえてきたので、容赦なく当人を爆発させた。もちろん命までは取らない。 使おうとしたのは『ファイヤーボール』だが、結果はいつもの通りの爆発だった。 ルイズは一抹の黒い感情をくすぶかせながら、食堂に向かった。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」 祈りの声が終わり、朝餐が始まる。黒いマントが並ぶ二年生のテーブルに、一つ浅葱色のマントが混じっている。 いわずもがなマルモだ。 マルモは美少女な見た目ではあるが、見た目以上に大食いである。数々の修行や冒険で小食でも実力を発揮できるようになってはいるが、逆にそれらがマルモを大食いにさせていた。 マルモは次々にパンや肉を口に運んでいく。周りの生徒たちは呆気に取られていた。 そして、やや離れた所からそれを観察するのはタバサとキュルケ。タバサはマルモ以上に食事を進めている。 「あの娘、あなたほどじゃないけど結構食べるわね」 「負けられない」 今朝の食事はいつもより残飯が少なかったそうな。 朝食が済むと、生徒と使い魔は授業のため教室に移動する。その中にはマルモの姿もあった。 石造りの階段状の教室にルイズとマルモが現れると、先に教室にいた生徒たちが一斉に目を向けた。皆興味深そうな視線である。 一方のマルモは、生徒たちの使い魔に注目した。フクロウや猫などの魔に通じていない動物もいれば、ダークアイのように浮遊する目玉の生物もいれば、ライオンヘッドのような獣もいる。人間の使い魔はマルモだけだった。 ルイズが席の一つに腰かけ、マルモはその隣に坐る。本来はメイジの席であり、使い魔は坐らないのだが、食堂では坐るのに教室では坐らない理屈はないと判断して坐った。事実ルイズも注意はしなかった。 しばらくすると扉が開き、ふくよかで優しそうな中年の女性が入ってきた。帽子を被り、紫のローブに身を包んでいる。 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んだ。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 すると、シュヴルーズの目がマルモに止まった。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 とぼけたような声である。感情や魂の機微に敏感なマルモはその声に害意のないことはわかっているが、周辺の生徒たちにとっては格好の切り口となり、教室中がどっと笑いに包まれた。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、メイジを雇って連れてくるなよ!」 太った少年が囃し立てる。ルイズが立ち上がろうとすると、マルモがそれを制して立ち上がった。 「五月蠅い」 その言葉は教室の隅々まで通り、教室中の笑い声が一瞬にして収まった。マルモの魔法の力が宿る言霊が教室を支配した。 「注意してくれてありがとうございます。では、授業を始めますよ」 シュヴルーズは、こほんと重々しく咳をすると、杖を振った。机の上に、石ころがいくつか現れた。 「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・マリコルヌ」 さきほどルイズを馬鹿にした少年が当てられた。 「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです」 シュヴルーズは頷いた。 「今は失われた系統魔法である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知っての通りです。その五つの系統の中で『土』は最も重要なポジションを占めると私は考えます。それは、私が『土』系統だから、というわけではありませんよ。私の単なる身内びいきではありません」 シュヴルーズの話はなおも続く。 だがマルモは、シュヴルーズの話よりも、隣のルイズの方に気を配っていた。 さっきの嘲笑のせいで、ルイズが負の感情に支配されつつあるのをマルモは感じていた。 そのルイズの現在の心境は、劣等感が台頭しつつあった。今朝食堂にいく途中の生徒の言葉。そしてさっきの教室での出来事。 賛辞の言葉も、畏敬の念も、全てマルモへのもの。ギーシュとの決闘で、わたしはあんな鮮やかに勝てただろうか? さっきの教室の騒ぎを、わたしの言葉で抑えられただろうか? 否。わたしはマルモに到底及ばない、敵わない。魔法の才能、実力、そして人としての強さ。どれもこれも劣っている。 優秀な姉と比較されたときとはまた別の劣等感が、嫉妬が、どうしようもない怒りが、次々と湧き出てくる。 そしてその矛先がマルモに向かおうとしたとき――ルイズは激しい自己嫌悪に襲われた。 自分はなんてことを、マルモは何も悪くない。悪いのは私の無能無力、ゼロの才能。使い魔にも劣るゼロのルイズ。 「ミス・ヴァリエール! 聞いていますか?」 「は、はい!?」 自分の世界に浸っていたルイズは、授業を聞いていなかった。 「ちゃんと授業に参加してもらわないと困りますわよ。では、あなたにやってもらいましょう。 ここにある石ころを『錬金』で望む金属に変えてごらんなさい」 「わ、わたしがですか?」 「そうですよ。他に誰がいるというのです」 ルイズがとまどっていると、キュルケが困った声を上げた。 「先生」 「なんです?」 「やめといた方がいいと思いますけど……」 「どうしてですか?」 「危険です」 教室のほとんど全員が頷いた。 「危険? どうしてですか?」 「ルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ。でも彼女が努力家ということは聞いています。さあ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」 「ルイズ。やめて」 キュルケが蒼白な顔で言った。 しかし、ルイズは立ち上がった。 「やります」 そして、緊張した顔で、つかつかと教室の前へと歩いていった。マルモはそんなルイズを心配して見詰める。 他の生徒たちは椅子の下に隠れたりしていた。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 ルイズは魔法に意識を集中させる。ここで成功しなくては、貴族として、マルモのご主人様として。マルモに合わせる顔がない。 ルイズは目をつむり、短くルーンを唱え、杖を振り下ろす。 その瞬間、机ごと石ころは爆発した。 その爆風はルイズとシュヴルーズを黒板に叩きつけ、椅子の下に隠れた生徒にも被害が及び、血が流れる。大小様々な使い魔が暴れだし、さらに被害が拡がっていく。 マルモは飛び出してルイズに駆け寄った。 ルイズとシュヴルーズは気絶しており、二人とも机の破片が当たったのか所々流血している。近くの生徒も頭から血を流して朦朧とし、教室の後ろにいた使い魔も暴れて傷ついている。 マルモはとっさに呪文を唱える。光が教室中のあらゆる生物を包み込み、傷を癒していく。全体回復呪文ベホマラーの効果だ。 ルイズの傷がふさがったのを確認して、マルモはほっとした。覚醒呪文ザメハを唱えてルイズとシュヴルーズを眠りから覚ます。 「あ……れ、マルモ…………?」 ルイズは目の前のマルモに少々驚いたが、すぐに事態を察した。 「そっか、わたし失敗しちゃったんだ」 呆けたようにルイズは呟く。 目覚めたシュヴルーズは自習を言い渡して教室から出ていってしまった。ルイズは罰として魔法を使わずに教室を修理することを命じられ、他の生徒と使い魔も教室を後にする。残ったのはルイズとマルモだけになった。 二人は黙々と作業に取りかかる。ルイズは爆発による煤を拭き取り、マルモは新しいガラスや机などを運んでいる。並の戦士よりは力のあるマルモにとってこんなことは重労働ではないが、ルイズには罪悪感が積もっていく。 やがて大まかに終わったところで、ルイズが口を開いた。 「ごめんなさい」 「……ルイズ」 「わたし、やっぱり駄目だった、ゼロのままだった。こんなわたしじゃ、マルモのご主人様だなんて、おかしいよね」 「ルイズ」 「ごめんなさい、マルモ。わたしなんかの……」 「ルイズ!」 マルモの大声にルイズはびくっと身がすくむ。今のマルモには食堂でギーシュに決闘を挑んだときのような意志の強さがあった。 「私は、ルイズに謝られる筋はない。私は自分の意思でルイズの使い魔になった。ルイズが謝る必要ない」 「でも! わたしはマルモに釣り合うようなメイジじゃない! わたしは、わたしは……」 糸涙が頬を伝い、零となって床に落ちる。そしてルイズは脱兎のごとく教室から駆け出した。 「ルイズ!」 すぐさまマルモも後を追うが、地の利はルイズにあった。上手い具合にマルモの追跡をかわし、マルモを撒く。 やがてルイズを見失ったマルモは足を止めて、別の方法で探すことにした。いかにマルモが賢者とはいえ、万事魔法で解決できるわけでもなく、人を探す魔法などマルモは使えないし知らない。 だが、マルモ独特の第六感ともいうべき能力がある。他の魂の存在を感じ取ることができるのだ。会ったこともない者の魂は漠然としかわからないが、近しい者だったらおおよそ見分けることができる。 目をつむり、意識を広げる。すると、すぐにルイズは『見つかった』。その場所は――。 ルイズが走りに走り、辿り着いた先は火の塔の階段の踊り場であった。この時間帯は、ほとんどこの場所に寄る人間はいない。 二つある樽の一つにルイズは入って隠れた。 そして、嫌が応でもさっきの教室での出来事が思い浮かんでくる。 わかっている、マルモの言葉が正しくて、本当の気持ちだってことは。 でも、わたしの気持ちも本当の気持ちだ。マルモがわたしに忠実だから、マルモがわたしに好意があるから、余計に心に刺が増えていく。マルモが素晴らしいほどに、わたしの嫌な所が見えてくる。 ああ、自分はなんて嫌な人間なんだろう。 「ルイズ」 びくっとルイズは身を振るわせた。樽の外から声が聞こえてくる。 マルモだ。 「ルイズ、話を聞いてほしい」 黙ったまま、ルイズはやり過ごそうとしている。マルモの声がルイズの胸を締め付ける。 「ルイズ」 とうとうルイズは耐え切れなくなって、樽の蓋を弾き飛ばして反射的に立ち上がった。 「ルイズルイズ五月蠅いわね! 何よ!」 ルイズはマルモの目を睨もうとしたが、代わりに床に目を向ける。今はマルモの目を見れそうにない。 「わかってるわよ!! マルモが正しくて、良い使い魔だってことは!! でもね、わたしの気持ちもどうしようもないくらい、真実なのよ! わたしはね、ずぅっと魔法ができなくて、努力して努力して、それでもまだ使えないの! マルモみたいな人には、わたしの気持ちは絶対わからないわよ!!」 一気にまくし立てたルイズは肩を上下させ、唾を飲み込む。 マルモはそんな様子のルイズに責任を感じていた。また再び自分のせいで大切な人を悲しませてしまった。 そのときの自分は、その人のもとから去ることで、解決したつもりになった。 しかし、果たして今回もそれで解決するのだろうか? 自分がルイズの目の前から消えれば、それでルイズは助かるのだろうか? 「ルイズ」 「……あによ」 「とりあえず樽から出よう」 言われてから、ルイズは自分が樽の中に立ったままであることに気付いて赤面した。 マルモとルイズは寮に戻り、部屋に鍵をかける。部屋にはマルモとルイズとクリオだけだ。 二人はベッドに腰かけ、横に並んだ状態になる。 「ルイズ、今から私は話をするけど、無視しても構わない。ここは元々ルイズの部屋だから、私を出ていかせてもいい」 「……わかったわよ」 そんなこと、できるわけないじゃない。 「私はルイズの悲しむ顔が見たくない。でも、私がいるせいでルイズが悲しむのなら、ルイズのもとを去ろうとも考えた」 「そんな! マルモがそんなことする必要ないわよ!」 悪いのは全部わたしだ。 「でも、それでルイズが悲しまなくなるかといえば、そうじゃない」 確かにわたしが魔法を使えないという事実は変わらない。 「だから、私は決めた。ルイズに修行をつける」 は? 「私の師匠も賢者だった。私も修行して賢者になった。だから、私もルイズに修行させて立派な魔法使いにする」 「……マルモ、わたしの話聞いてなかったの? それこそわたしも幼い頃から訓練してきたのよ? それにマルモは系統魔法を使えないじゃない」 「確かにその通り。だけど私は色んな所を旅して、色んな経験をしてきた。それを生かす」 「具体的にどうやって?」 「ルイズと一緒に冒険する」 「へ?」 「ルイズに足りないのは経験値と修行の質。修行の量だけはおそらく私と同じくらいだけど、手法に問題があるのかもしれない」 「…………」 事実ルイズはひたすら魔法を唱えることを繰り返してきた。もちろん読書で魔法について調べてもみたが、失敗による爆発の記述がなかったので結果としてそうなってしまったのだ。 でも、『賢者』を自称するマルモなら、異世界からやってきたマルモなら、違った方法を示してくれるかもしれない。 「……わかったわ、マルモ。わたし、マルモの下で修行する」 「ありがとう、ルイズ」 「それじゃあ、具体的にはどうすればいいの?」 「まず、私がルイズの実力をよく知ることが大切。だから……」 マルモはルイズに杖先を向けた。 「えっ、えっ?! ちょっとマルモ?!」 ルイズは飛び退ろうとしたが、マルモの呪文の方が早かった。 「モシャス」 「いやーーーーーーっ!! てあれ?」 ルイズの身には何ともない。むしろマルモの方がぼわんと煙に包まれた。 そして煙が晴れると――ルイズの目の前に、ルイズがいた。 「わ、わたし?!」 「そう。今の私はルイズ」 「きゃっ」 ルイズの目の前のルイズが、ルイズと同じ声で返事をした。 「マルモ?」 コクリと目の前のルイズが頷く。 「これは変身呪文モシャス。姿形だけじゃなくて、能力もそのままになる。当然、魔法も」 「へえーー……マルモってそんな凄い呪文も使えたのね」 系統魔法にも『フェイス・チェンジ』という呪文があるが、顔を変えるだけで体形や声までは変えられず、能力など況やである。 目の前のルイズは、少し腕を振ったりしたり首を捻ったりしていた。 「……確かにルイズは呪文を使えないみたい」 「あう」 目の前の自分に言われると少しショックだ。 「でも、魔法力はとても多い」 「精神力のこと? それは多分、今まで魔法が使えなかったせいね。使わない精神力は溜まる一方だから」 「精神力? 使わないと誰でもこうなるの?」 「うーん……それはちょっと……。なにせ十六年も魔法を使わないメイジなんて今までいなかっただろうし」 「私はこの世界の魔法について詳しいことはわからない」 「それじゃあ、どうせ今日図書館にいくんだから、勉強してみる?」 「でも、私のルーンを調べる方が……」 「魔法についてわからないとルーンについてもわからないわよ。ほら、ちょうど昼食の時間だし、さっさと食べてさっさと勉強よ」 「わかった」 「わかればよろしい。……マルモ、ありがとうね」 「だって、私は……」 「ルイズの使い魔、だからでしょ?」 笑顔で答えるルイズに、頷きで答えるマルモ。 雨降って地固まった二人は食堂に向かった。 ※モシャスについて ゲームのドラクエではMPまでは反映されません。この作品でのオリジナル設定です。 前ページ次ページ五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔