約 1,012,517 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1381.html
虚無の曜日。 休日であるこの日、シエスタは朝早く自分の服を掃除し、洗濯する。 一通り部屋の掃除を終わらせた後、マジックアイテムの入ったポーチを腰に付け、マントは畳んで小さなバッグにしまい込む。 一般的なメイジ達よりも小さく作られた杖は、腰ではなく脇の下に下げて、外出の準備を終えた。 魔法学院の裏門で、貴族用に作られた靴よりも丈夫に作られた靴の紐を確認する。 シエスタの曾祖母が伝えたという”ブーツ”という靴らしい。 忘れ物がないか再度確認すると、シエスタは駆けだした。 走りながら考える。 貴族の生徒達と一緒に授業を受け、最初に感じたのは恐怖だった。 何せ貴族の使う魔法は、この世界で無くてはならないものであり、同時に平民を蹂躙する力でもある。 貴族の生徒の中に放り込まれ、シエスタは泣きそうになった。 だが、シエスタという異質な存在を受け入れさせるため、オールド・オスマンはルイズを利用する。 オールド・オスマンは、土くれのフーケを道連れにルイズが起こした爆発の規模を教師陣に説明し、一つの仮説を立てた。 「ミス・ヴァリエールは魔法を『失敗』していたのではなく『暴走』させていたのではないか」 魔法の暴走などという事象は聞いたこともない。 しかし、その破壊力と、自分自身までをも傷つけてしまう危険な魔法がこれから先現れないとも限らないとし、トリスティン魔法学院は既存の魔法だけではなく、文献に残された『特殊なケース』に目を向けることになる。 それが他ならぬオールド・オスマン自身であり、シエスタでもあった。 魔法の原理を研究するため、自身の身体を実験台としていたオールド・オスマンは、まったくの偶然で長寿を手に入れたと説明した。 もちろんこれには『波紋』が関わっているが、その事はロングビルとシエスタ以外には伏せられている。 シエスタの場合は、曾祖母リサリサが『東方より癒しの力を伝えた人物である』と説明することで一応話はまとまった。 この背後には、ルイズの母、カリーナ・デジレの働きもある。 若きメイジ達の育成に細心の注意を払い、未知の現象をただ『失敗』と断じるのではなく、その原因究明に勤めるようにとメッセージが届いたのだ。 また、意外なことに、魔法学院の教師の一人『疾風のギトー』がシエスタを評価してくれた。 疾風のギトーは風系統のメイジであり、風の魔法に強い自信を持っている。 授業が始まれば「風は最強だ」「風に勝る属性はない」ばかりを繰り返し、度が過ぎるためか、同じ風系統のメイジからも煙たがられている。 その評価が変わるのは、ギトーがシエスタを指名した日だった。 「……む、今日から一人多いのだったな、右奥の君」 「はっ、はい!」 「ミス・シエスタだったかな、オールド・オスマンから話を聞いている」 シエスタは突然名前を呼ばれ、緊張して返事が上ずってしまう。 「早速だが、私の属性は風、二つ名を『疾風のギトー』という」 依然、シエスタに視線を向けたままのギトーは、杖を取り出して得意げに言った。 「諸君らの前で、風が最強であることを示そう。折角だ…ミス・シエスタ、君の得意な魔法を私に放ってみたまえ」 「えっ!?」 「オールド・オスマンが言うには、君は特殊な魔法を使うそうだな、良い機会だと思ってね」 シエスタは驚き、慌てたが、そこでキュルケが助け船を出した。 「ミスタ・ギトー。ミス・シエスタは治癒に特化したメイジですわ、そんな彼女に人を傷つけさせようなどと仰っては、疾風の名が泣きますわよ」 キュルケの言葉を聞いて、ギトーが顔を綻ばせた。意外だった。 「ほう!治癒か!これはいい、なら是非それを見せてくれないか」 「えっ…えっと…」 シエスタが困ったように辺りを見回す、すると、窓際に置かれている花瓶に気が付いた。 いつも手入れされている教室には珍しく、何本かの花は枯れかけていた。 シエスタはおもむろに立ち上がり花瓶に手を当てると、呼吸を整える。 そしてオールド・オスマンの言葉を思い出す。 『君はいつも、重い物を持ち上げる時、呼吸を整えてから持ち上げるそうじゃな?それをやってみたまえ』 大丈夫。 何回も練習した。 だから大丈夫。 シエスタは身体の中を流れる”何か”を感じていた。 呼吸をする度に身体の内側から”何か”が流れていく。 呼吸がそれを押し出すように、一定の方向にそれを向かわせるように、ゆっくりと確実に呼吸を整えていく。 生徒達の耳に、コォォォォォォォ…という風のような音が聞こえたかと思うと、花瓶に挿された花に異変が起こった。 つい先ほどまで萎れていた花が、水分を吸収できずに枯れかけて変色した花が、まだ花の咲かぬ蕾のまま腐りかけた花が、だんだんと生気を取り戻していく。 三十秒ほど続けた後、花は生けられた時のように、いや、野に生えるよりも活き活きとその花を咲かせた。 そして教室にふわりと風が舞う、実際には窓の閉められた教室で、魔法も使わずに風が起こるはずはない。 花から漂ってくる香りが、まるで風のように教室中に舞ったのだ。 それと同時に、シエスタの身体が光り輝いて見えた生徒も居たが、目の錯覚だと思い黙っていた。 「素晴らしい…」 ギトーが、呟いた。 ギトーの言葉は生徒達にとって意外なものだった。 何人かの生徒は、シエスタの魔法(波紋)を見て『それぐらい水のメイジなら誰だって出来る』と言おうとしたが、ギトーの言葉にそれを挫かれた。 「諸君、風は最強だ、すべての障難を吹き飛ばし、また風は偏在する」 そう言いながら杖でシエスタの席を指し、シエスタに自席に戻るよう促す。 「だが今の治癒を見て分かるとおり、治癒に適する水の魔法のようなことはできない、風は最強であるが故に攻撃に特化しているのだよ」 それから一時間、授業は皆の予想とは違う方向に進んだ。 相変わらず『風は最強だ』とか『風は何者にも負けない』と繰り返すが、それは攻撃手段としてのもの。 最強だからこそ、『傷』を癒す『水』のメイジを、風の系統が保護してやらねばならないと熱弁していた。 シエスタをからかってやろうと思っていた貴族は出鼻を挫かれたのだ。 不満そうに腕を組んで黙り込んでいたのを見ると、ギトーの言葉に驚いたが納得はしていない様子だ。 授業が終わると、興味を牽かれた生徒達から質問攻めにされ、シエスタはしどろもどろになりながら”波紋”について答えた。 オールド・オスマンから口止めされている部分もあるので、詳しく説明することは出来なかった。 しかし、水の魔法と違い生命を癒す能力に特化していると説明すると、特殊な治癒魔法の使い手として生徒達に受け入れられるのだった。 それには、ルイズの死が関係している。 微熱のキュルケ、風上のマリコルヌ、青銅のギーシュ、香水のモンモランシーは特にルイズのことを良く覚えていた。 常日頃馬鹿にしていた相手が、その失敗魔法が原因で死んだというある種のトラウマがあるのだ。 ルイズは爆発を起こすという特殊なケースだった。 今度のシエスタは、爆発ではなく癒しの力を使う。 ある者からは贖罪のためにシエスタを受け入れ、ある者からは癒し手としてシエスタを受け入れ、ある者は成り上がりの平民を嫌い、そしてタバサは……… 「……もしかしたら」 シエスタの”力”に、一つの可能性を期待していた。 魔法学院から馬で二時間ほどの距離にある、小さな池。 ルイズが死んだと言われている場所だが、オールド・オスマンが言うには、訓練に丁度良い場所らしいい。 シエスタはここで”波紋”の訓練をしろと言われていた。 ここにたどり着くまで、シエスタは馬と大差ない速度で走り続けていた。 そればかりか、途中で休憩すらしていない。 タルブ村にいた頃は、一日がかりで山菜を採りに行くこともあった。 重い荷物を遠くから運んでくることもあった、しかし、これほど長距離を休まず走り続けた事があっただろうか。 シエスタは、自分の身体の中に、不思議な力がわき上がってくるのを実感した。 一通りの訓練を終えて、夕焼けが射す頃に、シエスタは魔法学院に帰還した。 「失礼します」 「鍵はかかっとらんよ、入りなさい」 シエスタはオールド・オスマンに一日の様子を報告した。 訓練の内容、成果、それらを毎日報告しろと言われていたのだ。 今日はロングビルが休みのため、学院長室にはオールド・オスマンとシエスタの二人しかいない。 「よく分かった、やはり水の上に立つのはまだ無理かのう」 「はい…申し訳ありません…」 「……ついこの間まで平民として過ごしていたんじゃ、上達が遅いのは仕方ない。…しかし、こちらにも急がねばならぬ理由があるんじゃ」 「理由、ですか?」 オールド・オスマンは、懐から一冊の本を取り出した。 それは土くれのフーケに盗まれ、ロングビルが持ち帰った『太陽の書』だった。 「それは、この間の本ですね」 「うむ、いいかねミス・シエスタ、これから言うことを誰にも言ってはならんぞ」 「…はい」 オスマンがディティクトマジックを唱え、次にサイレントの魔法を唱える。 」 「君がタルブ村から持ってきた、ひいお爺さんの日記は読ませて貰ったんじゃが…ワシには全部は読めん。この『太陽の書』と同じ、異国の文字で書かれておるようでのう」 「はい、その本も、日記も、ひいお爺さんの生まれた国の文字で書かれてるそうです」 「そうじゃろう、そうじゃろう。そして君はその文字を教わっている…と。」 オールド・オスマンは『太陽の書』のあるページを開き、それをシエスタに見せた。 「このページを読んでみなさい、君なら読めるはずじゃよ」 「はい。えーと…」 『この仮面は人間を吸血鬼に変身させ…』 学院長室に、シエスタの音読する声だけが響く。 しかし、シエスタの声はだんだん小さくなっていき、一ページ読み終わる頃には顔が青ざめていた。 「吸血鬼って、怖いんですね…本当にひいお婆ちゃんが、こんな吸血鬼と戦っていたんでしょうか」 「………ショックを受けるのはまだ早いぞ、これを見たまえ」 オールド・オスマンが差し出したのは小さな箱、中には復元された『石仮面』が入っている。 「これって、この本に書かれている『石仮面』ですか?」 「本物は唇と顎の部分じゃ、他は全部復元した物であって、人間を吸血鬼にしてしまうような効果はないわい」 「そうなんですか…でも、これが存在するという事は、吸血鬼が存在するって事…ですよね」 「まあ、そういう事になるじゃろうな」 「それじゃあ、私は、この石仮面で吸血鬼になった人を……退治するために魔法学院に入学させられたんですか」 オスマンは無言で頷いた。 「無理に、とは言わん、だが、人間と吸血鬼を区別できる魔法など、存在しないんじゃよ。その”波紋”意外にはのう」 「……わかりました、やります、私、自分にできることをします」 「ルイズ様が仰っていました、貴族は貴族の、平民には平民の、一芸に秀でた物には一芸に秀でた物としての役割があるって…ですから、私、精一杯やってみます」 オスマンはにっこりと微笑んだ。 しかし、微笑みの仮面の裏に、途方もない罪悪感があることを、シエスタは知らない。 To Be Continued → 17< 目次
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2431.html
コルベールが中庭で戦っている頃、食堂でも戦いが繰り広げられていた。 不覚にも銃士達は、斬りつけても怯まない、突き刺しても死なない、得体の知れぬメイジを相手にして、混乱の一歩手前だった。 ゾンビを相手したことなど、あるはずが無いのだ、仕方がないのかもしれない。 既に二人の銃士が、ゾンビメイジの捨て身の攻撃で銃士がやられ、床に倒れている。 腹や手足に受けた傷からは、血が流れ続けている…このままでは死んでしまう。 「おああああッ!」 アニエスは、渾身の力を込めて、ゾンビメイジの腕を切り払った。 が、相手も手練らしく、『ブレイド』の魔法を纏った杖でいなされてしまう。 手強い…!アニエスがそう思った瞬間、頭上から六人がけのテーブルが落下してきた。オスマンが投げ落としたのだ。 メイジは咄嗟にそれを避けたが、床が濡れていたために足を滑らせ、一瞬の隙が出来た。 「うおおおあああっ!!」 アニエスは渾身の力を込めて切り払い、メイジの杖をはじき飛ばした、そのまま腰溜めに剣を構え、心臓目がけて突き立てる。 「くっ!」 ドコッ!と鈍い音を立てて、メイジの体を剣が貫く。剣は胸板を貫き骨ごと心臓を貫いた、しかし、剣が抜けない。 そこにもう一人のメイジが、アニエスに向けてマジックアローを放った。 アニエスは剣を捨て、後ろに転がってマジックアローをかわしていく、一発目、二発目、三発目……このままでは回避しきれない。 タバサにもそれを防ぐ手段は無かった、もう一人のメイジは、タバサの魔法で全身を貫かれ、首を半分まで切り裂いたというのに、傷口が瞬く間に塞がってしまう。 この場にキュルケが居てくれれば…! タバサはそう考えて、すぐにそれを否定した。 今まで、ずっと困難な任務を受け続けてたタバサは、他人に頼ることを良しとしない。 巻き添えを作らないために、迷惑をかけないために、タバサは一人で戦い続けてきた。 けが人であるキュルケの復帰を期待するなど、あってはならないことだ…そう思い直して奥歯を強く噛みしめた。 「ラグー・ウォータル…!」 タバサは、氷の壁でメイジの動きを封じるべく、詠唱を開始する。 しかし途中で、空気が異常に乾いていることに気が付く。 原因は、氷の矢の使いすぎだった、空気中の水蒸気を使いすぎてしまったのだ、床に零れた水や氷では、すぐに魔法に利用することはできない。 このままでは相手の動きを封じるどころか、必殺の『ウインディ・アイシクル』も使えない。 六回目! アニエスがテーブルを盾にして、六発目の『マジック・アロー』をやり過ごした頃、胸から剣を生やしたメイジが、落ちた杖を手にしていた。 メイジがアニエスに杖を向け、詠唱を開始する…アニエスは鳥肌を立てた、回避しきれない。 「あ」 奇妙な光景だ…アニエスは頭のどこかでそう考えていた。 メイジの放ったマジック・アローが、ヤケに緩慢な動きで自分へと飛んでくるのだ。 マジック・アローだけでなく、自分の体さえもゆっくりと動いている。 避け、られない。 ジュバッ!と音を立てて、マジック・アローが炎に包まれる。 炎の弾が、アニエスに届くはずだったマジック・アローを消滅させたのだ。 矢次に飛ばされる火の玉は、杖を構えていたメイジの腕に当たり腕を焼き尽くす、すると腕がぼろりと崩れ落ち、剣状の杖が床に落ちた。 「グア…」 見ると、キュルケが杖を構えて、食堂の入り口に立っていた。 キュルケはタバサと相対していたメイジにも炎の弾を飛ばし、タバサを後ろに下がらせる。 「遅れてご免なさい」 そう言って、キュルケがタバサの肩に手を乗せる。 「怪我は」とタバサが聞くと、キュルケはウインクをして答えた。 「私は平気よ、シエスタとモンモランシーが怪我人を治して、すぐにこっちに来るわ。…さっきは情けないところを見せたけど、この”微熱”だって負けていられないのよ」 キュルケはタバサの前に出ると、メイジに向けて杖を向ける。 燃えさかる炎の中で、そのメイジは、にやりと笑みを見せた。 「来なさい、化け物」 ◆◆◆◆◆◆ 「んんぅーっ!」 連れ去られた生徒が、傭兵メイジの腕の中でもがく、口には即席の猿ぐつわを噛まされていて声が出せない。 「くそガキ!じたばたするな!この高さから落ちたい訳じゃあないだろう」 生徒は、自分を抱えているメイジにそう忠告され、下を見た。 メンヌヴィルに先に脱出しろと指示された二人のメイジは、『フライ』を詠唱して空を飛んでいる、下は草原だが30メイル以上の高さがあった。 生徒は息をのみ、黙った。 「ジョヴァンニ、船はまだ見えないのか」 生徒を抱えていたメイジ…ギースがそう呟くと、ジョヴァンニと呼ばれた男は、林の奥を指さした。 「見えたぞギース、あれだ」 林の奥には、黒塗りのフリゲート艦が碇を降ろし、超低空で停泊していた。 ハルケギニアでは、フリゲートという呼称は小型高速の軍艦に用いられるのだが、この船は余計な装備を廃した特別製のもので、軍艦としては格別に小さい。 『ライン』以上のメイジであれば十分に浮かせることが出来る…という訳で、もっぱら特殊条件下での人員高速輸送に使われていた。 本塔を占拠した時、傭兵メイジが出した合図は、フリゲート艦を魔法学院に近い林の中へ下ろす合図だった。 十人ほど人質を取り、船で逃げる手はずだったが、手痛い反撃に遭い生徒を一人抱えるのがやっとだった。 しかし、今回の仕事は『誘拐』ではないので、人質をいつまでも連れて逃げるわけではない、彼らの目的は別にあったのだ。 二人は船に乗り込むと、中で待機しているはずのメイジを探した。 この船で帰還することはできない、せいぜい目立つところを飛んで貰って、トリステインの哨戒の目を引きつけて貰うしかない…。 「おい!船を出せ!仕事は果たしたぞ!注文通り『トリステインの逆鱗に触れてやった』ぞ!」 ジョヴァンニが叫びながら、船室の扉を開けていく、だがメイジの姿は見えない。 貨物室に入って中を見渡す…しかし、誰も居ない。 「おい!何処へ行った!…くそ、なんてこった、あの気味の悪いヤロウ、逃げやがったか」 そう悪態を付くと、ギースが人質を抱えて中に入ってくる。 抱えていた人質を貨物室へ放り込むと、その足に杖を向け短くルーンを唱える、鉄の足かせを『練金』したのだ。 「よし…恨むなよ嬢ちゃん」 「んむーーっ!」 生徒は、身をよじらせて何とか動こうとするが、足かせが重くて自由に動けない、その上腕までも封じられていては、為す術が無かった。 「おい、どうするんだ」 事を見守っていたもうジョヴァンニが、焦りを隠さずに聞く。 「予備に風石があったはずだ、そいつで船を浮かせる。どうせ二時間しか浮けないだろうが十分だ、風任せで動けば囮にはなる」 「このガキはどうする」 「風石が尽きれば、船ごと落ちて死ぬだろうが、万が一救出されたら厄介だ…そうだ、船室を燃やしておけばいい、二時間ばかりこの船が囮にないいんだからな」 「よし、それでいこう」ジョヴァンニが頷いた。 ギースは、貨物室から外に出ると、後部甲板下の船室に入った。 ランプを二つ手に取ると、床に投げ捨てる。 二つのランプはガラス片と油を飛び散らせて散らばった。 杖を振り、油に『着火』すると、燃焼時間を調節するため扉を閉じる。 すぐさま甲板に戻り、ジョヴァンニの姿を探す…甲板には居ない。 碇を上げる余裕はない。碇の根本にあるフックを魔法で外すと、ジャラジャラジャラと鎖が落ちる音が聞こえ、がくんと船が揺れた。 船は静かに上昇を始める…… 「ジョヴァンニ!行くぞ!」 船が浮き始めれば、あとは逃げるだけだ。ギースは姿の見えぬ よく見ると、人質を閉じこめた船室が開いていた。 「あいつめ…また悪い癖か」 ジョヴァンニという男は、メンヌヴィル率いる傭兵団の中でも古株だが、悪い癖を持っている。 メンヌヴィルが人間の…いや、生き物の焼ける臭いが好きでたまらないように、ジョヴァンニは女を陵辱したくてたまらぬといった口だ。 一刻も早く逃げなければならないのに、こんな時まで悪い癖が出たのか…そう考えてギースは声を荒げた。 「おい!ジョヴァンニ、早くしろ」 船室の中では、ジョヴァンニが人質の上着を引きちぎっていた。生徒は胸を露出させ、恐怖のあまり震えている。 「まあ待てよ、男を知らないうちに死ぬなんて可哀想じゃないか」 そう言って下卑た笑みを見せる、が、そんなことをしている余裕は無い。 「時間はない。先に行くぞ」 「…ちっ。まあいいさ。餞別に膜だけは破ってやるよ」 ジョヴァンニは、太さ2サント長さ30サントほどの、鉄で出来た杖を持っている。 それを生徒の眼前にちらつかせ、パジャマのズボンに手を伸ばした。 「んむっ!んむううー!」 自由を奪われた体でありながら、必死で逃げようとする生徒。 それを見てジョヴァンニは舌なめずりをした。 「反吐が出るわ」 と、突然、どこからか女の声が聞こえた。 ジョヴァンニは咄嗟に、誰だ!と叫んだが、その声は床がぶち破れる音でかき消された。 床を破ったのは、銀色に輝く二本の剣であった、それは一瞬で円を描き、床に穴を開けた。 と次の瞬間には糸のようにバラけ、ジョヴァンニの足を掴む。 「うわ、うわああ!」ギースが叫んだ。 奈落の底、と表現すべきだろうか。直径わずか20サントの穴に、ジョヴァンニの体が引きずり込まれていく。 ベキベキベキと不快な音を立てて…それは床板の音か骨の音か、どう考えても後者しか思いつかなかった。 ほんの数秒で、ジョヴァンニの体は消えてしまった。 当たりに飛び散る血飛沫を残して。 「………」 人質となっていた生徒は、その異常な光景に驚く暇もなかった、何が起こったのかを理解することが出来ず気絶したのだ。 「う、うわ、わあああああああああああああああああッ!?」 今度は、ジョヴァンニが叫ぶ番だった、そして、なりふり構わずに逃げた。 一歩、二歩、三…! 三歩目を踏み出したとき、左足の動きが止まった…いや、留められた。 振り向くと、銀色の糸が何本もブーツに絡みつき、まるで大蛇のような力で足を締め付けていた。 「うわっ!ああ、ああわああああ!」 慌てながらも、何とか『ブレイド』を詠唱し杖を刃にした。糸を切断しようと足掻くが、糸は鋼のように硬い上、切っても切っても再生し、足へと絡みつく。 そうこうしているうちに糸は太く絡まり、荒縄のように…そして蛇のように足を登ろうとした。 「ちくしょおおおおっ!」 ギースは雄叫びを上げて、自分の足を切断した。 千分の一秒だけ躊躇したが、それ以上はジョヴァンニと同じ最期を辿ることになる、決断は早かった。 すぐさま、『フライ』を詠唱しようと、したが、糸はもう片方の足へと絡みついていた、中を浮いた体が、ぐいぐいと船室へと引きずり込まれようとしている。 「嫌だ!嫌だ!助けて!助けて!」 「往生際が悪いわよ」 船室の中に引きずり込まれると…そこには、暗くて良くわからないが、女の形をした『何か』が居た。 その『何か』は、背中に長剣を背負い、腕から銀色の糸を生やしていた。 着ている服は血に塗れ、所々を切り裂かれたローブは、もはや服としての機能を成していない。 「ひっ…」 「聞きたいことがあるわ…貴方の依頼主についてね」 「ひっ、ひっ、ひ…」 ギースの頭が急速に冷めていく。 目の前の『何か』は、化け物のような力を持っていても、見た目は『女』だった。 こいつは女だ!どんな化け物であっても、女に違いない!そう自分に言い聞かせて、気を落ち着かせる。 「な、なななななんでもしゃしゃしゃ喋る、だかかかから助けてててててくへ!」 「そう、じゃあ場所を移しましょう?ここじゃあ目立つわ…」 ギースは、必死で声を震わせた、恐怖で震わせるのではなく、詠唱を誤魔化すために声を震わせた。 「(ウル)わわわか(カーノ)った!(ジエー…)ひ、は、おれは(……)」 ぴくりと女の眉が上がる、詠唱に気づかれた?だが俺の方が早い! 「うおおおおおっ!」 杖の先端から、ありったけの精神力を込めた炎が迸る。 炎は、自分の足をも焦がしてしまうだろうが、そんなことはどうでもいい。 とにかく今は逃げるために、生き延びるために、こいつを焼き殺さなければならない。 「うおああああああ!」 叫んだ、そして、力を振り絞った。 だが、その悪あがきは、女が背負っていた長剣によって切り裂かれた。 ごぉうという風の巻き上がる音を立てて、炎が消える。 女は長剣を…片刃の長剣を、ギースの顔に突きつけていた。 「…ひどい炎ね、人質も一緒に焼く気?」 その言葉と共に、剣が首へと差し込まれ…ギースの首は胴体と永遠の別れを告げた。 女は…、いや、ルイズはデルフリンガーを手にしたまま、人質となっていた生徒を抱きかかえる。 そして甲板の縁に立ち、高さを知るために下を見下ろした。 「まずいわね、私、レビテーションも使えないのに…」 すでに高度は百メイルに近い、自分が飛び降りる分には問題ないが、生徒を無事に下ろすことはできない。 ルイズは、後ろめたさからデルフリンガーに話しかけるのを躊躇ったが、生徒の命を助けるためには仕方ないと自分に言い聞かせ、静かに話しかけた。 「…デルフ。私の杖は確か『風のタクト』って言うんでしょう?これを使えば平民でも空を飛べるって言ったわよね、使い方を知らない?」 デルフリンガーは拍子抜けするほどいつもの調子で、かちゃかちゃと鍔を鳴らして答える。 『あー、どうっだったかなー。えーと…そうそう、イミテーションの宝石を回すんだ』 「イミテーション?……ああ、これ」 ルイズはデルフリンガーを口にくわえ、杖のグリップに埋め込まれている宝石を回した。 すると体が軽くなり、ふわり…と浮き始める。 ルイズは宝石を元に戻すと、甲板から地面に向かって飛び降りた。 空中で一度、二度と杖の中に仕込まれている『風石』を発動させ、落下速度を殺していく。 数秒後、どすん、と音を立てて地面に着地した。 衝撃はそれほど強くない…人質となっていた生徒も大丈夫だろう。 ルイズは生徒を適当なところに寝かせ、足かせを引きちぎった。 ちらりと脇を見ると……フリゲート艦で待機していたゾンビメイジの『残骸』が目に入る。 アンドバリの指輪の力でも再生できぬよう、三十六分割されたそれは、文字通りの残骸であった。 目が覚めたときこれを見つけたら、また気絶してしまうだろう…そう考えて、ルイズはクスッと笑みを漏らした。 「!…近づいてくるわね」 遠くから聞こえてきた音に、ルイズは敏感に反応する。 耳を地面に当てると、馬の蹄の音と、人の足音が聞こえてくる…間もなくこの生徒も発見されるだろう。 ルイズはデルフリンガーを鞘に収めると、木々の間をすり抜けて、その場から離れていった。 ◆◆◆◆◆◆ 「厄介ね!」 キュルケはそう叫びながら、宙に浮いた炎の弾を操り、ゾンビメイジの『マジック・アロー』を相殺していく。 シエスタから『波紋』を注ぎ込まれたキュルケは、一時的に精神が研ぎ澄まされているが、それでもコルベールの技を真似することは出来なかった。 コルベールが巨大な蛇状の炎を操るのに比べ、キュルケは直径50サント程の火球を一個操るのがやっと。 アニエスと戦っていたメイジが、炎で焼かれた腕を再生できないことから、ゾンビの弱点が炎であることは理解できた。 水系統の力で動いている以上、水分が必要だと証明されたのだが、それはかえってアンドバリの指輪が持つ人知を超えた力を見せつけているようでもあった。 「ほんとに!厄介、ねっ!」 キュルケの相手は、風系統の高位のメイジらしい、風の障壁を貼りつつ『マジック・アロー』を飛ばしてくるのだ。 キュルケの炎では障壁を越えにくい、超えたとしても、多少の炎ではゾンビを行動不能にできない。 タバサは、オールド・オスマンを連れて待避している。 オスマンの波紋は、リサリサの直系であるシエスタに比べて、はるかに弱い。 メイジの足止めをしたのが一回、ロフトの教師用テーブルを投げ落とす際に肉体を強化したのが二回……それだけでオスマンの呼吸は乱れ始めていた。 そのため、タバサに頼んでオスマンと怪我人を下がらせたのだが…アニエスとキュルケだけでゾンビを相手するのは辛い。 キュルケが攻めあぐねている時、アニエスは激しい鍔迫り合いを繰り広げていた。 ゾンビは杖を燃やされたので、胸に突き刺さっている剣を引き抜いて使っている。 …アニエスの旗色が悪い。 「く!……なんて馬鹿力だっ」 吸血鬼ほどデタラメではないが、ゾンビは人間が備えているリミッターの外れた状態で戦っている。如何に歴戦のアニエスでも限界がある。 「アニエスさん!」 と、背後から誰かが叫んだ。 アニエスはその声が誰なのか解らなかった、ゾンビの剣に絡まったツタを見て…そしてツタに流れる『ライトニング・クラウド』のような閃光を見て、それが『魔法とは違う何か』だと直感的に理解した。 「山 吹 色 の 波 紋 疾 走 !」 シエスタが放った波紋は、剣を握る手に麻痺を起こさせた、その隙にアニエスがゾンビの体を蹴って距離を取る。 ゾンビは、剣を落とし…ふらり、ふらりとした足で少しずつ後ろに下がっていった。 「アニエスさん、大丈夫ですか!」 「礼は言う!だが非戦闘員は下がっていろ!」 「そういうわけには行きません!」 シエスタは半身に構えて両腕を前に出し、腕に絡めたツタを垂らす。 アニエスは何か言おうとしたが…そんな余裕がないと気付き、無言で剣を構えなおした。 だが、ゾンビは襲いかかってくる気配もない。 それどころか、自分の手を見て、周囲を見渡して……まるで迷子の子供のような顔をしてあたりを見回している。 「…様子が変だ」 アニエスが呟いた、その時。 「う、うおおおおおおっ!」 ゾンビが、キュルケが相手しているゾンビに向かって体当たりをした。 ごろん、と床に倒れ込むと、もがくゾンビを取り押さえて、叫ぶ。 「燃やせーっ!早く!俺ごと、やれーっ!」 キュルケはその言葉に、一瞬だけ躊躇いを見せた。 だが、それは本塔に一瞬のこと…杖を二人のゾンビに向かって振り下ろす。 ごうごうと音を立てて二人のゾンビが燃えていく、あたりに焦げ臭い、人間の焼ける嫌な臭いが立ちこめていく……しかし、誰もその場から離れようとしなかった。 皆、じっと燃えていく様子を見つめていた。 しばらくすると、炎が消えて、黒こげになったゾンビ二体が床に残る。 「…………」 もう、どちらがどっちなのか判別できないが、片方のゾンビが声にならぬ声を呟いていた。 皆、自然と耳を澄まし、その言葉を聞いた。 「と りす て いん の とも よ しょう き に も どし て くれた あ り が と……」 その言葉を聞いて…キュルケとは、床に膝をついた。 アニエスは祈るように両手を重ね、握りしめる。 シエスタは、水の精霊に会い、リサリサの記憶の一部を受け継いだことを思い出していた。 曖昧な記憶なので、はっきりと思い出すことは出来なかったが、正気を取り戻したゾンビを見て、ある一つの記憶が鮮明になった。 曰く『波紋は精霊に干渉できる』 ◆◆◆◆◆◆ 人質となっていた少女が衛兵に発見され、魔法学院に運ばれたのを確認してから、ルイズはトリスタニアへと足を向けた。 兵士達の会話の中から、魔法学院に潜んでいた賊が殲滅されたことを知ったので、もはや自分の用は無いと判断したのだ。 ルイズは、いつものように街道を避け、街道沿いの林の中を歩いていた。 「ねえ、デルフ」 『ん?』 デルフがいつものように背中から返事をする。その声はいつもと変わらなくて…変わらなすぎて、かえってルイズを不安にさせた。 「あなた、心を読めるんでしょう」 『前にも言ったけど、多少ならなあ』 「私の心、読んだ?」 『………あー、もしかして、見ず知らずの親子を殺したのを気にしてるのか?』 ルイズが、足を止めた。 背中の鞘からデルフリンガーを引き抜き、銀色に輝く刀身を見つめる。 「…軽蔑した?」 『いんや、別に』 驚くほど軽く、デルフリンガーが呟く。 それでは納得できないのか、ルイズはその場に座り込んで、足下にデルフリンガーを突き刺した。 「どうしてよ、だって、貴方は、武器屋で見つけたとき、私をずいぶん嫌ってたじゃない」 『いや、そうだけどさあ……』 デルフリンガーは言いにくそうに、鍔をカチャカチャと数度鳴らして…ぽつぽつと語り出した。 『俺っちは剣だ。悪いものばかりじゃなくて、いろんな奴に使われて人間も沢山切ってきた。おれは誰に使われるかを選べねー。 でもよう、嬢ちゃんはずっと後悔しっぱなしじゃねーか。俺っちは元から剣として生まれたから、自分じゃ戦うのは嫌だなーと思ってるけど、人を切るのに抵抗もないんだわ。 嬢ちゃんはずっと我慢してるじゃねーか。できるだけ相手を選んで殺してるし、希に我慢できなくなるのも仕方ねーと思うよ。 それに俺、嬢ちゃんはもっと食欲に流されると思ってたんだぜ。でも人間を襲わないようにすげー努力してるのは解る。 親子のことは可愛そうだと思うけどよ、貴族の横暴で似たような死に方してるヤツなんて、数え切れないほど見てきたぜ。 俺はよ、後悔し続けるそんな嬢ちゃんを嫌いになれねえ』 ほんの数分、沈黙が流れた。 ルイズは、そっとデルフリンガーを引き抜くと、その刀身を優しく抱きしめる。 「あんたが、人間だったら良かったのに」 『よせやい』 空を見上げる……月は雲に隠れているが、所々から綺麗な光線が漏れていた。 「この戦争を、終わらせましょう」 誰に言うでもなく…いや、自分に言い聞かせるように呟く。 月を見上げたルイズは、憑き物が落ちたように、穏やかな微笑みを浮かべていた。 To Be Continued→ 70後半< 目次 >72
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2372.html
今日も今日とてルイズはお決まりの召喚をしていた。 ――そして、『それ』は現れた。 「あんた誰?」 爆音と共に姿を見せた平民らしき人物にルイズは呼びかける。 帰ってきた答えは―― 「武器や防具は装備しないと効果が無いよ」 「・・・へ?」 「武器や防具はry」 一瞬、まるで小島よしおが熱湯風呂に入った時のような沈黙が訪れた。 なんとも言い難い、痛々しい目線がルイズとその平民の男に向けられる。。 それはそうだろう、これが唯の平民ならば、『おい!ルイズが平民を召喚したぞ!』 などと言って、笑い物にするのだろう。 しかし、目の前に現れたのは―― 「武器や防具は装備しないと効果が無いよ」 としか『言わない』、のではなく、『それ以外の反応が無い』。という人物だったからである。 容姿自体はいかにも普通の男性であり、服装もまさに平民といった格好である。 だが、目は虚ろで焦点が分らない、ヤク中の末期患者と見まごう姿だった。というかそれ自体なのかもしれない。 最近噂のものを例に挙げるとすれば邪神セイバーあたりだろうか。 これには閉口するしかない、そしてこういう場合はなるべく関わりたくないものだ。 周囲の反応も 「おい・・・あれ・・・」 「いくらルイズでもあれは流石に・・・」 などといった、憐みと同情の言葉が発せられる。 「・・・ミスタ・コルベール!もう一度召喚させてください!!」 「ミス・ヴァリエール、これは伝統です。・・・お気持ちは大変察しますがやり直しは出来ません」 涙目になりながらルイズは言う。しかしコルベールはルイズに目を合わせず却下した。 「うう・・・唯の平民ならまだしもなんでこんな人間かどうかも怪しいやつなんかと・・・」 酷い言いようだがルイズはこの『平民』と契約しなければならないのだ。 会話は困難を極めるだろう、王様から剣一つも買えないはした金渡されてホイホイと魔王退治に行く 「はい」「いいえ」のセリフもとい選択肢しか無い勇者でももう少し高レベル会話が可能なもんである。 そして、その『平民』にルイズは唇を重ねた―― 後に、この使い魔はあらゆる武器を使いこなすガンダールヴとしてその力を遺憾無く発揮することとなる。 (しかし、ガンダールヴの主はこの使い魔の存在を否定したとかどうとか。) 死後も伝説として残り続け、彼が生涯に残したたった一つの言葉はあまりにも有名であり、王様の近衛兵から村人Aまで多岐に渡って語り継がれている。 『武器や防具は装備しないと効果が無いよ』 これは彼を表す言葉であり、伝説の名言となった。 ――しかし、どうしても彼の名前だけは分らなかったとか。 ~完~ -RPGにおける村人Aを召喚
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6218.html
前ページ次ページゼロの魔王伝 ゼロの魔王伝――8 夢の世界に沈んだルイズは、これが夢の中だと分かる不思議を感じながら、懐かしくさえ思える夢を見ていた。それは春の使い魔召喚の折の事。唱えても唱えても爆発ばかりが起き、一向に使い魔を召喚できずにいたルイズに周囲の生徒から罵倒が飛ぶ。 “ああ、これは、Dを召喚した日の事ね” この日の事は今も鮮明に思い出せる。その時の情景も、周囲から向けられる感情の種類も、虚しく空を切る杖の感触も、なにも呼ぶ事無く虚ろに響く呪文も……もっとも、Dの美貌ばかりは夢の中でも思い出せないけれど。 魔法学院の外に広がる薄緑が連なる草原の真ん中で、同級生達に軽蔑の視線でもって見守られながら、ルイズは何度も杖を振り、呪文を唱え続ける。だがそれは実を結ぶ事無く草原に土煙を幾筋もたなびかせていた。 引率として同伴していた頭頂の毛が薄い、温和そうな中年男性のミスタ・コルベールが、最後の機会と夢の中のルイズに告げる。ルイズは上空からその様子を俯瞰する高さで見つめていた。これが最後と覚悟を決め、詠唱を始める夢の中のルイズ。 それまでと変わらぬ爆発が起きた時、夢の中のルイズは目の前が真っ暗になったようだった。いや、実際そうだった。必死に歯を食い縛って流すまいと堪えていた涙の粒が眼尻に大きく盛り上がり、ついには理性の堤防を破って滴り落ちそうになる。 その涙を許さない貴族としての矜持、もうどうでもいいと投げやりになる素の感情。せめぎ合うそれらがルイズの心を掻き乱していた。 周囲の生徒達の野次が一層ひどく、そしてコルベールの姿にも傍から見てもあからさまに失望の色が伺えた。無理もない、また自分は落ちこぼれのルイズである事を証明したのだから。 一人進級する事も出来ず、また同じ一年を過ごし、周囲からの嘲りと憐れみとを満身に浴びて、いずれは耐えきれずに屈辱に胸を掻き毟り自ら命を断つか、あるいは心に癒えぬ傷を抱えたままラ・ヴァリエールの領地に戻っていただろう。 “でも、違った” 慈悲深き始祖ブリミルはルイズを見放しはしなかった。やがて土煙に薄く人影が映し出された時、すべての音は絶え、唯一その場に居た人間のみならず使い魔たちの息を呑む音だけが響いた。 そう、風さえも音を絶やしていた。風は怯え、土は慄き、火は熱を失い、水は流れる事を止めた。 ルイズが召んだ者――いやモノとはそれほどまでに美しく、それほどまでに恐ろしいものだと、人間よりも世界が悟ったのだ。 見よ、立ち込める土煙は決して触れてはならぬ者の出現を悟り自ら左右に分かれ、踏みしめられる大地は喜びと共に甘受し、頬に触れた風は恍惚と蕩け、泥の如く蟠って大地に堕ちた。 ルイズの瞳にそれが映し出された。コルベールの脳がそれを認めた。周囲の生徒達が考える事を止めた。使い魔達は来てはならぬ者が来た事を悟った。 かつて、森の彼方の国から、一人の美女を追って全てを白く染めるほどに濃い霧と共に、死者のみを乗せた船の主となって倫敦を訪れたバンパイアの様に、ソレは姿を見せた。 太陽の光がそのまま闇の暗黒に変じてしまうかの如き黒の服装。胸元で時折揺れる深海の青を凝縮したようなペンダント。それらが彩る、広く伸びた鍔の旅人帽の下にある美貌よ。美しさとは、これほどまでに極まるものなのか。 それは、美しいという事さえ認識できぬ美しさであった。目の前のそれを表す言葉を探り、しかし美しいと言う他ないと認め、それよりも相応しい言葉を見つけられないと絶望するのに刹那の時を必要とした。 若い、まだ二十歳になる前の青年であった。銀の滑車がついたブーツは音一つ立てずに歩み、かろうじて息を吹き返した風の妖精たちによって靡く波打った黒髪も、漆黒のコートもその全てに美しいという形容の言葉を幾度も着けねばならぬ。 右肩に柄尻を向けて斜めに背負った一振りの長剣は180サントを悠々と越える青年の身の丈にも届くほどに長く、尋常な腕では満足に鞘から抜き放つ事も出来ないだろう。 一歩、二歩と歩む青年の姿はルイズの魂を根幹から揺さぶるほどに美しく、この瞬間、ルイズはこれまで影のように傍らに在り続けた“ゼロ”というコンプレックスを忘れた。 一人の少女の輝かしい生涯を、その終りまで暗黒に変えるだろう劣等心を忘却させた青年は、しかし、三歩目を刻む事はなかった。土煙とは異なる白煙を全身から立ち上らせた青年は、ゆっくりと、その様さえも美しくうつ伏せに倒れたのだ。 ど、と重い音が響く。ルイズが目の前の光景を理解するのに数秒を要した。 『目の前に倒れているのは、誰? 私が召喚した、使い魔? いや、こんな美しい御方が? いえ、それよりも、倒れている? どうして? 違う、そんな事よりも!!』 意味のある言葉にならぬルイズの思考を突き動かしたのは、自分が呼び出したかもしれない使い魔を保護しようという意識ではなかった。 それは奉仕の心であった。この方の為に何かしなければならない。何か自分に出来る事があるのなら、それに全力を尽くさねばならない。期待の結婚詐欺師にかどわかされ、夫を殺した婦人方の万倍も強く、ルイズは眼前の青年の奉仕者となっていた。 トリステイン王国でも五指に数えられる名家中の名家ラ・ヴァリエール家の令嬢として、多くの召使たちに傅かれ日常の雑事の全てを他者に委ね、頭を下げられる事を当たり前の事として育った少女が、この時世界の誰よりも強い奉仕の心を持っていた。 誰よりも早く倒れ伏した青年――Dに駆け寄り、膝をついて白煙をたなびかせる剣士へと手を伸ばして声をかけた。 「大丈夫ですか、ミスタ! どこかにお怪我でも? 熱っ!?」 その背に恐る恐る伸ばした右手が、途方もない熱を感じ、思わずルイズは手をひっこめた。この場に居る誰もが知り得る筈もないが、Dはほんの数秒前まで燃えたぎるマグマに飲み込まれんとしていたのだ。 その余熱がこの青年の体を焼き、今も体内に残留していたのである。Dの意識が絶えている事を、自分の呼び掛けに無反応である事から確認し、ルイズは大きく声を張り上げた。これほど乱暴に声を荒げたのは初めての事だったろう。 「誰か、水魔法使える子は早く来て! 治癒をかけるのよ、怪我をされているわ! のろくさとしないで、さっさとしなさい!!」 雷に打たれたように、ルイズの怒声を耳にした生徒達の中の、全水系統の者達が全力疾走でDの元へと駆け寄った。彼らもまた美の奉仕者へと変わったのだ。 押しあいへしあい、我先にこの美しい方の傷を癒さんと杖を伸ばす生徒達のど真ん中で、ルイズは憎悪の視線さえ向けられながらぐいぐいと遠慮なく体を押されていたが、それに負ける事無く、ひたむきな視線を倒れ伏したDへと向けていた。 敬虔な信徒、忠義に熱い騎士、一途な恋に身を焦がす少女、その全てに似て非なる視線であった。だが、Dの身を案ずるという一点においてその全てと共通していた。 ルイズにとって二番目の姉の体を案ずるのと同じくらいに、今、Dの怪我の治癒に対して心を砕いていたのだ。 流石に教師としての面目を思い出したのか、コルベールが最も早く正気に戻り、Dの傷が癒えた頃を見計らって、生徒達に戻るよう声をかける。途端にこれまでの人生で浴びせられた事の無い程の、怒涛の殺気がコルベールの全身を呑みこんだ。 途方もなく巨大な蛇に飲み込まれてしまったように、コルベールは恐怖に身を竦ませた。美への奉仕を邪魔する者に制裁を、この一念で水系統の魔法学院生徒達はコルベールを睨みつけたのだ。 とても実戦経験の無い生徒達が放つとは思えぬ殺気を浴びてコルベールの毛根は死んでゆく。はらはらと抜け落ちる自身の毛髪には気付かず、なんとか心胆に力を込めて生徒達に声をかけ直す。 「こ、これで使い魔召喚の儀は終わりですぞ! 急いで学院に戻りなさい!」 ゆらゆらと立ち上がる生徒達は、まるで冥界から生ある者を恨みながら黄泉返った死者の様に恐ろしくコルベールの眼に映る。チビりかけるが、かろうじてこらえる。教師としての威厳や年長者としての自尊心を動員し、なんとか成功した。 傍らを過ぎる度に水系統生徒達に血走った眼を向けられて、コルベールは保健室で胃薬を貰おうと決心した。その他の系統の生徒達も、頬を薔薇色に染めながら、失神したクラスメート達を抱えて、学院へと戻り始めた。 美の衝撃は抜けず、人間に空を飛ぶ事を約束するフライの魔法を唱える事の出来た者は一人もおらず、全員が自分の足で使い魔を連れて戻っていった。他の生徒達がいなくなった草原に、倒れたままのDと共に残っていたルイズに、コルベールが声をかけた。 「さ、ミス・ヴァリエール、保健室にその方を運びますぞ。契約はそちらが目を覚まされてから事情を説明した上で、でよろしいですかな? 古今人間を使い魔にした例はありませんが、神聖な使い魔召喚の儀式においてやり直しは認められませんからな」 「あの、でも、ミスタ・コルベール」 雨に打たれる子犬の様に弱々しく、ルイズはそのまま泣き出しそうな顔で、上目使いにコルベールを見た。赤く染まった頬に潤んだ瞳は、誰もがこの小さな少女を守ってあげなければならないと思わせるほど儚く、可憐だった。 「なんですかな?」 「わたしなんかが、この人を使い魔にするなんて事があって良いのでしょうか?」 「うむ、それは、まあその青年が目を覚まされてからの話と言う事で」 と、コルベールは逃げた。彼自身、このような使い魔が召喚されるなど想像だにしていなかったのだ。メイジに相応しいと思える使い魔が召喚される場面は何度も見てきたが、使い魔に相応しいかどうかと、メイジの方を疑ったのは初めての経験だった。 その後、コルベールが対象物を浮かび上がらせるレビテーションの魔法を掛けてDを保健室まで運んだ。 旅人帽と長剣、ロングコートを脱がし、腰に巻かれた戦闘用ベルトを括りつけられたパウチごと外して清潔なベッドに寝かせたDを、傍らでぽけっとルイズは見つめていた。完全無欠に心ここに在らずである。 気を絶やして眠りの世界に陥った青年の横顔を、宝物を眺めて一日を過ごす子供の様にして見ているのだ。 この時、ルイズは生涯でもっとも幸福であった。この時を一分一秒でも長く過ごす為にか、ルイズの体は身体機能を調節する術を覚え、保健室に運びこんでからの数時間、手洗いに一度とて行く事もなく、また睡魔に襲われる事もなかった。 自分の膝に肘を着けて、細い顎にほっそりとした指を添えて、うっとりと、うっとりと見つめていた。このまま食を断ち、眠りを忘れて命を失い、骸骨に変わろうとも何の後悔もなくルイズは見続けるだろう。 ルイズとD。ただ二人だけの世界は、この上なく美しく輝いていた。ちなみに保険医の水メイジの先生は、Dの美貌を目の当たりにして瞬時に気を失い、Dの隣のベッドで笑みを浮かべながら眠っている。 固く瞼を閉ざし、浅い呼吸は時に目の前の青年が既に息をしていないのではないかとルイズの胸に不安の種を植え付け、それが芽吹くたびにルイズは、震える指を青年の花の前にかざし、本当にかすかな吐息を確認する。 Dの吐息を浴びた指が、そのまま宝石に変わってしまいそうでルイズは頬をだらしなく緩めた。 一見すれば気が触れたとしか思えないうっとり具合であったが、その原因が桁はずれの説得力を有する外見の為、今のルイズをからかう資格のある者はこのトリステイン魔法学院には誰一人としていなかった。 はあ、とルイズは切ない溜息をついた。もう切なすぎてそのまま死んでしまうんじゃないかしら、私? と本人が思うほど切ないのである。憂いも愁い患いもルイズの心の杯をいっぱいに満たし、溢れんとしている。 それは、ルイズがこれから行うかもしれない使い魔との契約の儀が理由だった。召喚した使い魔との契約――それは粘膜の接触、すなわち口と口での接吻であった。 通常動物や幻獣の類が召喚される為、この接吻は誰とてキスの一つには数えぬものだが、ルイズの場合は相手が相手であった。 『ここここここの、くく、唇に、キキキキキィイイイイイッススススススゥをしなけれなならないのかしら? わわわわたしししし!? ふぁ、ファーストキッスにかかか、カウントすべきよね! ね!!』 とまあ、こんな具合に愁いを帯びた深窓の令嬢の雰囲気とは裏腹に、ルイズの内心はいい感じに茹だっていた。タコを放り込めばコンマ一秒で真っ赤っかになるだろう。実にホット。地獄で罪人を煮込む釜並みにぼこぼこと沸騰しているに違いない。 はあ、とそのまま雪の結晶になって落ちて砕けてしまいそうな溜息が、ルイズの唇から零れる。これまでルイズに目向きもしなかった同級生達も、はっと息を飲みそうなほどに麗しい。 可憐、と言う言葉を物質にできたならまさに今のルイズほど似合う少女は居なかったろう。 つい見惚れて、ふらふら~っと誘蛾灯に誘われる蛾よろしく――蛾、というのはいささかルイズに失礼かもしれないが――、ルイズは思わず目を細めて唇を突き出し、Dの唇へと引き寄せられる。 二人の唇の間に引力が存在するかのように、夢見る顔でルイズの頭が眠りの世界の魔王子となっているDの頭に重なる。 『横にズレなし、後は縦に落ちるだけよ、ルイズ!』 さあ、さあ、ぶちゅっと一発! とルイズは平民の様な伝法な声で自分を励ます自分の声を聞いていた。心の中の鼓膜が盛大に揺れる。それを、絞り粕の様に残っていたルイズの理性が留めた。 いくらなんでも眠っている殿方の唇を奪うなど、婦人に夜這いを掛ける殿方よりも、よほど卑しくはしたないではないか、と誇り高いトリステイン貴族でもとりわけ格式も誇りも高いヴァリエール家に生まれたルイズの気高さが、反攻の狼煙を上げたのだ。 『でもこの唇に、キ、キスできるのよ?』 はう、と声を上げてルイズは自分の小ぶりな胸を押さえて背を逸らした。残り数センチで重なった唇は、遠く離れる。反攻の狼煙は一瞬で踏み潰された。 重なる唇。触れ合う唇。融け合う唇。 私と、この青年の、唇が、こう、ちゅう、とくくく、くっつく!? かは、と息を吐いてルイズは自分の体を抱きしめた。やばい、非常にやばい。このまま心臓の鼓動が激しくなりすぎて破裂しそうだ。 ルイズはそのまま燃え上がりそうなほど過熱してゆく体温を感じていた。年相応に豊かなルイズの想像力が、重なり合う二つの唇を思い描いて脳の許容量を突破し、ルイズの理性を粉微塵にした。 『もう、悩んでないでぶちゅっといっちゃえば? べ、別に私だって好きでこんなはしたない真似するんじゃないわ。だ、だって使い魔を呼び出せなきゃ進級できないし、そしたらお父様やお母さまに恥をかかせることにもなるし。 ……ね、だからキスするのは仕方のないことなのよ。し、し、仕方なくああ、貴方とキスするんだから、そこの所を誤解しないでよね! 仕方なくよ、仕方なく何だから!』 と、この上ない至福の笑みを浮かべて契約の呪文を唱える。一秒が数十年にも感じられる中、呪文を唱え終えたルイズはすう、と息を吸った。なだらかな丘のラインを描く胸がかすかに膨らむ。 お父様、お母様、ルイズは女になります―― 「いざあああああああああ!!!!!!」 と、豪胆な戦国武将さながらに反らしていた背を勢いよく振りかぶった。割とアレな子らしい。アレとはなんぞや? と言われた、まあ、頭のネジの締め方が緩いとか、数本外れているとか、そーいう意味でだ。 そんな時、気迫が何らかの獣の形を取って咆哮を挙げている姿を幻視するほどのルイズが、どん、と背中を押された。 へ? とルイズがぽかん、とする間もなかった。コルベールに頼まれてDの世話をしにきたメイドがルイズの背を押した張本人だった。 怪我人でも摂れるようにと軽めの食事を乗せた銀盆を手にやって来たのだが、ベッドの中の眠り姫ならぬ眠り吸血鬼ハンターに心奪われ、夢遊病者の様に歩み、ルイズと激突したらしかった。 そして自分のタイミングを逸したルイズは、え、まだ心の準備が、と今さらな事を呟きながらD目掛けて落下し、やがて ぶちゅうううう という音がした。 Dが目を覚ましたのは、そのぶちゅう、という乙女のロマンもへったくれもないキスをルイズがかました直後である。 左手に刻まれる使い魔のルーンの熱と、痛みが、暗黒の淵に落ちていたDの意識を浮上させたのだ。 とうのルイズはもっと、もっとこうロマンと言うかムードのあるキスがああああああ、となまじキスが成功した所為で、現実のキスとの落差にショックを隠しきれず頭を抱えていた。 一方で、ルイズに望まぬ形でのキスを行わせた張本人たるメイドは、目の前で行われた美青年とルイズのキスの光景に、気を失って保健室の床に伸びていた。 ま、無理もない。この世ならぬ美とこの世の範疇に収まる美の接触を目の当たりにした事は、メイドの少女にとって直視に耐えうるレベルを超えた現象だったのである。 もはや兵器と呼んでも差し支えないのではないかと言う、冗談じみたDの美貌であった。頭を抱えてうんうん唸るルイズは、やがてDの視線に気づきはっと顔をあげ、Dの視線とルイズの瞳が交差した。 ひゃん、とルイズの喉の奥から仔猫の様な泣き声が一つ漏れて、腰砕けになる。かろうじて椅子から落ちなかったのは幸運といえただろう。 開かれたDの瞳に宿る感情を読み取る事は、どれだけ人生経験の豊かなものでも不可能だろう。およそ人間とは様々な意味で縁の遠い青年なのだ。その時の流れを忘れた堅牢な肉体も、その氷と鋼鉄でできた精神も。 Dはルイズの様子に注意を払うでもなく無造作に上半身を起こし、枕元に置かれていた旅人帽とロングコート、長剣を身につける。それから、至福の笑みを浮かべたまま器用に気絶しているルイズを見た。 床で伸びている黒髪のメイドにはそれこそ一瞥をくれる事もなく、ルイズの額へとDは左手を伸ばした。その左掌の表面がもごもごと波打つや、小さな老人の顔が浮かび上がったではないか。 皺と見間違えてしまうような、糸のように細い眼。米粒を植えた様に小さな歯。こんもりと盛り上がった鉤鼻。驚くほど年を取った老人の人面疽であった。この青年は自らの左手に独立した意思を持った老人を宿しているのだ。 表に出た老人の顔が口を開いた。 「やれやれ、九死に一生かと思えばとんでもない所に来てしまったのう。お前も気付いとるだろうが、ここは“辺境”区ではないかもしれんぞ」 答える声はなく、Dの左手はルイズの額に触れて、老人の唇から目に見えぬ何かがルイズの体内へと流れ込んだ。まるで氷水を直接頭蓋骨に流し込まれたような冷たい感触に、ルイズの意識が急速に覚醒した。 はっと眼を開き、自分の額から離れて行くDの左手に、皺の集合体の様な老人の顔が浮かんでいるように見え、驚きに目を見張った。老人の顔は、ひどく意地悪げに笑っていたのだ。 「あ、あの」 「ここはどこだ?」 こちらの問いの答えしか聞かぬと冷たく告げるDの声に、ルイズの蕩けていた心が強張った。目の前の青年が、美しいだけの人間ではないと悟ったからだ。不用意な言葉の一つが、自分の首を刎ねる理由になる。 それほどの、抜き身の刃と例えるも生温い心根の主なのだと悟った。美貌に囚われた心は、今や眼前の青年が死の塊なのだと知り恐怖に怯えた。 「ここは、トリステイン魔法学院よ」 これほど落ち着いた声を出せた事が、ルイズには不思議だった。心当たりがなかったのか、二秒ほど間をおいてDが質問を重ねた。 「ほかの地名は?」 「……ハルケギニア大陸、トリステイン、ゲルマニア、ガリア、アルビオン、ロマリア。主だった国や地方の名前だけど……」 「おれがここにいる理由は?」 来た、とルイズは思った。自分が目の前の青年に殺されるとしたら、コレだろうと覚悟していた。 ルイズは何が嬉しくて使い魔の契約で命の覚悟をしなければならないのかと、自らの不運を呪ったが、うまく行けばこの超絶美青年が使い魔である。 着替えさせて、と命じるルイズ。返事はないがもくもくとルイズの服を脱がして新しい服を身につけさせるD。 食事よ、と食堂に来たルイズの為に椅子を引き、腰かけたルイズにうやうやしく給仕をするD。 寝るわ、とととと、特別に私のベッドで寝てもいいわ。勘違いしないでね、藁を敷いた床で眠らせるのがちょっと可哀想だから、特別なんだからね! 普通の貴族だったら、こ、こんなこと許してくれないのよ。 私の優しさに感謝してよね、だだ、だから、ほら、早く入んなさいってば! いいこと、同じベッドで寝てもいいけど、指一本でも、私に触ったらダメなんだから! そういうのは結婚してから、結婚しても、三ヶ月はダメなんだから! ……で、でもどうしてもって言うんなら、ちょっとだけ許してあげない事もない事もないのよ? ど、どうしてもって言うならよ! ちょ、さ触ったらダメって、始祖ブリミルも、お父様もお母様もお許しに、や、ご、強引なんだから……あ、あぁ…………。 でへへ、とルイズはにやけた唇の端から涎を垂らしていた。何が引き金になって首をはねられるか分からないこの状況で、かような妄想に浸れる辺り、やはりルイズはかなりアレな子であった。可哀想な意味で。 そのルイズの様子を九割呆れ、一割感心した様子で眺めていた左手が感想を零した。 「お前を前にして、なんというか、度胸のあるガキじゃな」 「…………」 ルイズのようなタイプは珍しいのか、Dは沈黙していた。毒気を抜かれたか、肌の内側に滞留していた鬼気を小さなものに変えていた。それでもルイズか周囲に敵意を感じ取れば、レーザーよりも早いと謳われた抜き打ちが放たれるのは間違いない。 二人(?)の痛いモノを見る視線に気づいたのか、ルイズは頬を恥ずかしさで赤く染めて、もじもじと床の一点を見つめた。そうしているだけなら神がかった可愛らしさなのだが、常軌を逸した妄想に浸った直後の姿なので魅力も万分の一であった。 それから、流石に下手をしたら自分が殺されかねない状況を思い出したのか、若干手遅れな気もするシリアスな顔をした。 「少し長い話になるけど、いいかしら?」 Dは黙って頷き、先を促した。意を決したルイズの唇が開く。淡い桜色に染めた珊瑚細工の様な唇は、死を覚悟する事で一層美しさを増していた。 「私、貴方使イ魔呼ンダ。私、貴方ノ主人」 びびって片言だった。しかも省きも省いたりな内容だ。ルイズ、ここ一番で空気の読めない子であった。 だってホントの事言ったらどうなるか分からないんだもん、怖いんだもん、女の子だもん、とルイズは心の中でマジ泣きしていた。 「短いわい」 「なに、その声?」 自分の口調は棚に上げて、ルイズは聞こえてきた老人の声に眉を寄せる。若者の張りの中に鋼の響きと錆を孕んでいたDの声とは、聞き間違えようの無い声である。これは無論Dの左手に宿る老人だ。 ルイズの疑惑に答えはせず、今度は影を帯びた青年の風貌に相応しい声がルイズの心臓を射抜いた。 「きちんと答えろ」 「ひう、は、はい。実は……」 ルイズは一言ごとに自分が死刑台への階段を踏んでいるようで、まるで生きた心地がしなかった。かといって下手に誤魔化しを口にしようものなら、その場で体を真っ二つにされかねないのだから、選択肢など元からない。 ルイズは、はやくもこの使い魔を召喚した事を後悔しつつあった。 ――あ、なんか胃に穴が開きそう。 なんとか、ルイズがDを召喚した事実を伝え終えたとき、 ルイズは自分の髪が全部白髪になっているではないかと疑ったほどだ。 Dは開口一番、 「戻る方法は?」 「わ、わからないわ。普通、人間が呼び出されることなんてないから、そのまま使い魔として扱うし、使い魔の契約は使い魔が死なない限りは解除されないのよ」 「では、契約者が死んだ時は?」 「そ、それは」 見る見るうちにルイズの血色のよい顔から抜けて行く血の気。瞬く間に顔色を死人の色へと変えたルイズは、目の前の青年が必要とあれば殺す事も厭わないのだと、悟った。 ――あ、私死んだ。これは殺されるわ。 死への恐怖に涙をぽろぽろ流し始めてしゃくりあげるルイズを見てから、Dは無言で立ち上がった。びくり、とルイズの小柄な体が跳ねた。えう、と嗚咽を漏らし、せめて痛くないと良いな、優しくしてくれるかしら? と思いながら眼を閉じた。 何にも出来ずに終わる。ずっと馬鹿にされて、ずっと憐れまれて、ずっと悲しませて、ずっと失望させ続けてきた人生が、今、自分が呼び出した使い魔によって幕を引く。それはそれで、ゼロの自分には相応しいと思えた。 ぎゅ~と眉を寄せて瞼を閉じていたルイズに、Dの声が届く。 「この学院の責任者の所へ案内してもらおう」 「……え? あ、あの私を殺……」 「早くしろ」 「はは、はい!」 背に鉄筋でも通したみたいにあわあわと立ち上がり、ルイズはDを魔法学院の最高責任者オールド・オスマンの所へ案内すべく動き始めた。生命が助かった安堵も、新たな緊張に即刻引き締められ、ちっとも気が楽にならない。 ルイズがきびきびとドアを開けて歩きはじめてからその後を追うDに、左手からこんな声が聞こえてきた。 「お前にしてはずいぶん優しい反応じゃな。左手の甲に浮かんでいるルーンから精神干渉がさっきから来とるが、この程度で靡くようなやわな心でもあるまいに」 寝ている間にルイズによって交わされた契約によって刻まれた左手のルーン。一般に人間との意思疎通が難しい幻獣や動物の類を、主人に従順に従う存在に変える為に、使い魔のルーンには使い魔の知能向上のほかに親しみや忠誠心を抱かせる効能もある。 最終的には思考が主人と同一化するという、ある種と残酷極まりない洗脳効果もあるのだが、Dも過去に都市の住人全員を千分の一秒で発狂死させる精神攻撃を破った男、そう簡単に心は操れぬようだ。 「ずいぶん遠くに招かれたようなのでな」 「衣食住と情報源の確保か。しかし、青色と紅色の親子月か。貴族の手が伸びた外宇宙にもこんな衛星の記録はなかったわい。となるとさらに外側の宇宙か、別次元か。やれやれ、厄介なのは毎度の事じゃが、今回はいつにもまして面倒じゃわい」 Dの視線は、廊下の窓から覗く蒼と紅の二つの月を見つめていた。 そして学院長室にルイズとDは到着し、まだ執務中だったオールド・オスマンに会う事が出来た。 オールド・オスマンは齢三百歳を超えるトリステイン最強のメイジ、と謳われる事もある大御所なのだが、入学式の時にフライを唱え損ねて死に掛けたのを目の当たりにした事があるから、ルイズはさほど尊敬できずにいる。 ノックの音から間もなくオスマンから入室の許可がお降りた。夜中にアポイントを取らずの急な訪問であったが、オスマンの返答は穏やかな声だったので、ルイズは少し安堵した。 扉を開いた向こうには、白く変わった髪とひげを長く伸ばし、ゆったりとしたローブに身を包んだオールド・オスマンが椅子に腰かけて待っていた。動かしていた羽根ペンを止めて、入室者を見つめる。 「このような時間になんの様じゃね? ミス・ヴァリエールと…………」 ルイズの傍らに立つDを見て、机の上でクッキーをかじっていたネズミの使い魔ソートモグニル共々ぽかん、と口を開けて固まる。 自分の使い魔に対する反応に、ルイズは奇妙な優越感を感じてかすかに口元を緩めた。自分も同じ目に遭っていたのだが、それが他人も同様と知って嬉しいらしい。 たっぷりと一分かけてオスマンが現実世界に復帰してから、Dが一歩前に出て口を開いた。オスマンも、Dの体からかすかに立ち上る尋常ならざる気配を前に、二度と我を失う様子はなく、生ける伝説に相応しい威厳でDと対峙した。 そうそうに用件を口にし、使い魔の契約の解除とも元いた場所への返還手段を訪ねた。オスマンは長いひげをしごきながら黙ってDの話を聞いていた。使い魔の契約を解除してくれ、などと使い魔の側から言われたのは初めての事だろう。 「おれはある男を捜さねばならん」 「ふう、む。しかし君には悪いが使い魔を帰す魔法はわしの知る限り存在せんのじゃよ。君の事情とやらもなにかただ事ではないと分かるが、帰してやろうにも帰し方が分からぬのじゃ。 どうじゃね? ミス・ヴァリエールの使い魔が不満と言うなら、護衛の傭兵と言う触れ込みでしばらく暮らしてみては? 住めば都と言うてなあ、君ほど美しければ嫁さんもいくらでも……」 と、そこまで諭すように口を開いていたオスマンの口を止めたのは、Dの気配に死神の携える鎌を思わせる冷酷なモノが混じっていたからだ。これまでの人生で多くの大剣をしてきたオスマンからしても、一瞬死を覚悟せざるをえぬ鬼気。 それを止めたのは二人のやり取りを見守っていたルイズだった。 「やめて! 貴方を呼んだのは私よ。私が召喚した所為で貴方に迷惑をかけたというのなら、私が償うわ。ここには大陸中の魔法関係の書物を集めた図書室もあるから、情報もたくさんあるわ。 貴方の食事とかの世話も私の責任で見ます。貴方を元の場所に帰す方法も探します。怒りが収まらないというのなら私を斬っても構わない。だから!」 一人の少女の懇願をどう受け取ったか、Dはしばし自分をまっすぐ見つめるルイズを見返していた。左手のルーンがかすかに輝いていたが、それはDの心に影響を及ぼす事がないのは、すでに明かされている。 「口にしたからには守ってもらうぞ」 「はい。貴族の誇りに掛けて」 ルイズの口にした貴族と言う言葉に、Dはかすかに苦笑めいた影を這わせたが、それをルイズやオスマンに悟らせる間もなく消し去り、踵を返した。 どうやら矛を収めてくれたらしい、とルイズとオスマンが気づいたのは、Dが院長室の扉に手を駆けた時だった。 「ま、待って。ええっと……」 「Dだ」 「あ、ディ、D? Dが貴方の名前なの?」 「そうなるな」 ようやく使い魔都の名前を知る事が出来た事の喜びに弾むルイズの声が、二人の主従共々消えてから、オスマンは深く長い溜息をそろそろと吐き出した。一気に何十歳分も年を取ったような気分であった。 「なんとまあ、ミス・ヴァリエールはとんでもないものを召喚したものじゃ。まだこちらの言い分を聞いてくれるから救いが無いわけではないが。こりゃ『転校生』を呼ぶ事も視野に入れた方がいいかの?」 オールド・オスマンの呟きは知らず、Dとルイズは再びルイズの部屋に戻り、緊張に満たされた世界で対峙していた。 ルイズはベッドの上に、Dは窓際に背を預けて腕を組み、黙って目を閉ざしている。部屋に戻って以来言葉の一つもない。シーツをぎゅっと握り締めてもじもじしていたルイズが、何度目になるか分からない覚悟を決めて口を開いた。 「あ、あの」 「……」 「えっと、D? あのね、一応使い魔の役割を説明しようとおもんだけど」 「……」 「い、いい? まず主人の目となり耳となって、視覚や聴覚を共有するのだけど」 Dの首がほんとうにかすかに横に振られた。まあ、確かに同じものは見えていないので、ルイズも同意する。今の所Dの導火線に着火するような真似はしないで済んでいるようだ。早く終わらせないと私の神経が持たない、と判断したルイズは一気にまくし立てた。 「あとは秘薬なんかを探してきたりするの。ポーションやマジックアイテムの作成の時に必要だから。それと特にこれが重要なんだけど主人の身を守る事、これ、これ大切よ」 「世話になる間は君の身は守ろう」 「ほ、ほんと?」 「嘘を言っても仕方あるまい。だが、おれを帰す魔法の調査は約束通り行ってもらおう」 「は、はい!」 「もう眠れ。明日は授業なのだろう?」 「そう、だけど」 「なんだ?」 そんなまともな事を言われるとは思わなかった、と口にする勇気はルイズにはなかった。ぶんぶんと壊れた人形みたいに何度も首を縦に振る。 雰囲気はやたらと怖いけど、わりとまとも? とルイズは一縷の希望に縋る様な感想を抱いた。そうだったらいいなーというかそうであって欲しいなー、と痛切に願う。 ルイズはもう色々と疲れすぎて着替えるのが面倒になってしまい、そのままベッドに倒れて眠ってしまった。 Dは、その様子を黙って見守っていた。 前ページ次ページゼロの魔王伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8436.html
前ページ次ページ使い魔は四代目 「いや、からかってるわけじゃなくてな。本当に読めないんじゃ。今まで不自由なく話せておったからうっかりしておったわい。 してみると、今会話ができているのもルーンの力か?…いや、違うか」 「…違う?使い魔にした動物と会話ができるようになるのは珍しい話じゃないけど?ああ、勿論ただの動物とリュオを一緒にするわけじゃないわよ」 「わかっておるわい。そうじゃなくてじゃな、ほれ、わしが召喚された時の事を思い出してみんかい」 「…ああ、そういえば最初はリュオからコルベール先生に話しかけたんだっけ。…そうか、確かにあの時から言葉が通じてたわね。」 「そうじゃ、勿論その時はルーンなんぞ刻まれておらんかったしのぉ。すると、問題はそれ以前じゃな。すると…まぁ、どう考えてもゲートの方が原因か …しかし、融通が効かんなぁ、どうせなら文字も分かるようにしてくれれば良かったのじゃが」 「…ちよっと待って、これって新発見なのかも。」 ルイズは少し考え込んだ。使い魔と会話ができるようになるのは刻まれるルーンのせいだというのが通常の考え方のはずだ。 しかし、リュオの話だと召喚された時点で会話が可能であり、契約は関係ない、という事になる。 もっとも、偶々そうなったという可能性もあるし、新発見ではあるかもしれないがそれが重要な事だとは思えなかった。 要は契約までの順番が多少前後するだけだ。大発見とは行かないか。 エレオノール姉様辺りならまた違った受け止め方をするのかもしれないが…。 しかし仮に興味を持ったとしたら、色々と細部まで追求されるのは明白である。 本人に悪気が無いのは一応分かっているが、迂闊に話せない秘密を抱えている以上、ぼろを出さずにやり過ごせるとは到底思えない。 それに、やっぱりその、なんだ、怖いし。やはり姉様には話さない方が良さそうだ。ルイズがそう結論付けた一方で、リュオもその事に興味を引かれた様だ。 「新発見.…?そうか、魔法の知識がある故の先入観じゃな。使い魔になったから言葉が分かるようになる、という。しかし実はそうではない、と。 ん?それを推し進めていけば言葉が分かるからこそ使い魔になる…いや、使い魔にするために言葉を分かるようにする、のか? …まぁ、情報が少ないからこれだけでは何とも言えぬか。…いずれにせよこのサモン・サーヴァント…じゃったか? 相当癖のある術式のようじゃな…というか、お主等そんな良く分かってない術式なんぞホイホイ実行するんでないわ。変な物を呼び出したらどうするんじゃ」 「そんな事言ったって今まで何の問題も起きなかったわけだし…大体、変な物って何よ」 「ん?そうじゃな、…やまのようにおおきなまじんとか、とてつもなくおそろしいもの、とか?」 リュオの言う「変な物」とやらが余りに荒唐無稽だったので、ルイズはからかわれていると感じ、少々ムッとしながら抗議した。 「…ちょっと、適当なこと言わないで頂戴よね」 「適当じゃないぞ。そういった物を召喚できる呪文があるんじゃ。『パルプンテ』というんじゃがな。なんなら実演して見せても良いぞ。 まぁ、実際にそういう物を召喚出来るかどうかは分からんがな、 なにせ唱えた本人にも何が起きるかわからない呪文じゃから…本当、何の為にある呪文なんじゃろうな?」 「…私に言われても分かるわけないじゃないのよ。ああもう、どうせ冗談なんでしょうけど、本当にそんな物騒な物唱えたりしないでよね」 「そうかそうか、見てみたいか。よろしい。始原の名もなき無なる神よ、混沌の太古よりその姿なき姿を現したまえ。虚無の力をわが前に現したまえ。我に」 「だから止めてってば!…全く人を驚かすのが好きなんだからもう。大体、何が虚無…え?虚無?」 リュオの詠唱を打ち切らせたルイズは、その詠唱中に出てきた言葉、「虚無」の単語に何か引っかかるものを感じた。 リュオの今の話が本当だとすれば、今の呪文は虚無の力を使って凄まじいものを召喚できるようだ。 そして、始祖ブリミルが操ったと言う、四大系統魔法に分類されない今は絶えたとされる幻の系統、虚無。 どちらにも虚無が絡むのは偶然だろうか。そして、リュオの存在自体が充分に凄まじいものなのではないのだろうか?だとすれば…? 前例の無いコントラクト・サーヴァント。リュオの存在、虚無の力を利用した召喚の呪文、それらがおぼろげながら一本の線で繋がった、ルイズはそんな気がした。 …が、すぐに自分でそれを打ち消した。馬鹿な。それでは自分は虚無の使い手ということになる。 コモンマジックすら成功しない者が始祖ブリミルと同系統の虚無の使い手などと、自惚れにも程があるというものだ。 大体、今の会話の流れだとリュオが自分をからかうために即興でそれらしく呪文の体裁を整えて唱えてみせた、というのが本当の所だろう。 それを真に受け、他人が聞いたら間違いなく誇大妄想と笑われるような考えを一瞬でも浮かべた自分が恥ずかしく、ルイズは赤い顔でリュオを睨み付けた。 「ん?どうしたんじゃ?難しい顔をして睨みおってからに」 「…いや、なんでもないわ.。ていうか、誰のせいだと思っているのよ…もう」 「ふぉっふぉっふぉっ。いや、流石に冗談が過ぎたか。済まんかったな。 しかし困ったの。いずれは字を習わなければならんが…取り合えず倉庫を漁るときはルイズにこのリストを読み上げてもらうしか無さそうじゃな。 さて、その話はここまでにして…ルイズ、一応確認しておこうかい。この世界での使い魔の勤めとは何かな?」 「…やっと本題に入れたわね。脇道に逸れ過ぎよ.、全く…そうね、色々あるけれど、主人の目となり耳となる、 秘薬の材料等といった主人の望む物を見つける、主人を護衛する、といったところかしら」 その返答が概ね予想通りのものだったので、リュオは頷くと、言葉を続けた。 「うむ、やはり使い魔のやる事はどこに行っても変わらん様じゃな。なら話が早いわい。それで、わしの見てるいものが見えているのか?」 「…駄目ね。いつもと変わらないわ」 「そうじゃったのか?わしにはルイズの見ているものが良く見えるがのぉ…これ、冗談じゃ。そんな顔で見るでないわ。 しかし、感覚を共有するというのはそういう事じゃ。自分の見ている物をずっと見られるというのは監視されているようで気分が良いものではないじゃろ? 今ルイズがそんな顔をして見せたようにな。じゃから、物は考えようじゃ。お互いこれで良かったと言う事にしようではないか。 さて、二つ目の探し物じゃな。物が分かっていれば出来なくは無いだろうが、こっちの世界のことは良く分からんから余り期待は出来んな。残念じゃったな」 「…自分で言わないで… で、最後の主人の身を守る、と言う点についてだけど。これに関しては何も言う事はないわね」 「戦闘に絶対はないから油断は出来んがな。とはいえ、大抵の敵には遅れをとらんじゃろう。 じゃが、敵が多いようなら己の生き方を振り返ってみるべきだとは思うぞ?」 「そんな敵キュルケぐらいしかいないわよ!私が言ってるのはそういうんじゃなくって…」 「ふぉっふぉっふぉ、わかっておるわい。まさかわしの力を疑うわけではあるまいな?」 「勿論凄く強いだろう、ってのは分かるんだけど、比較できるものが無いからどのくらい強いと言うのかが今ひとつ良く分からないのよね」 「それもそうじゃな。ま、それはその時がくればわかるじゃろ。正直戦闘なんぞせずに済めばそれが一番じゃからそんな時がこない事を願いたいもんじゃが…ん?誰じゃろ?」 その時、ドアをノックする音が響いた。続いてドア越しに聞こえてきた声にリュオは聞き覚えがあった。 「ミス・ヴァリエール様。夕食をお持ちしましたが」 「来たわね。開いてるわよ。入って頂戴」 ルイズの許可を受け、メイドが二人分の夕食を乗せた台車を押しながら部屋に入ってきた。リュオの予想通り、そのメイドは昼間会ったシエスタであった。 「こんばんはリュオ様、昼間はどうも」 「うむ、こんばんは、じゃなシエスタ。何じゃ、ルイズが頼んだのか?」 「そうよ。だって昼間に騒動やらかしたばかりよ?食堂で色々クラスメートに説明する事になるのも面倒だしね。 …まぁ、明日の授業からは出来るだけ一緒に出てもらうから、時間稼ぎでしかないけれど。 …それはそうと、何よ、メイドなんかといつ知り合ったの…って、私が授業に出ている間しかないか」 「うむ。偶然中庭で出会ったのじゃがな。なにやら…うむ、その。何じゃ。凶悪なドラゴンが出たという噂に怯えていたのでな。わしが落ち着かせた」 「…え?凶悪な…ドラゴン?」 ルイズは、何か嫌な予感がした。 「ミス・ヴァリエール様、リュオ様って凄いんですね!凶悪なドラゴンを見事宥めたんだそうですよ。ああ、見たかったなぁ…」 「宥めた…って…ねぇリュオ、その…凶悪なドラゴンってもしか」 「はっはっは、ん~何の事かなフフフ」 図星だった。ルイズは内心頭を抱えた。薄々感じていた事だが、このリュオ、「話の分かる気さくな王」じゃなくて「ただ単に調子のいい王」なんじゃ… 「えぇ、まぁ、確かにその、色々と凄いメイジなのよ」 冷や汗を浮かべながらそう言ったルイズは、かなり扱いにくいけど、と内心で付け加えた。 「それはそうと、あー、あの、シエスタ、だっけ?リュオがそう言ったの?」 「はい。それだけじゃないですよ。怯えていた私を落ち着かせてくれて、厨房まで送ってくれたし、マルトーさんに怒られた時も庇ってくれたし…本当、リュオ様は素敵な紳士ですわ」 「…そ、そう、紳士、ねぇ」 どういう事なのよ?と口には出さず冷たい眼で問いかけるルイズにリュオは乾いた笑いを返した。 「…はっはっは、ルイズよ。そこら辺の所はその、何じゃ、軽く流してくれんか」 「あ、安心してください、ミス・ヴァリエール様。マルトーさん始め、厨房スタッフ総出で無礼のないよう歓待させていただきました!」 「…うむ、まぁ、そういう事だったんじゃよ」 「ああ、それで随分飲んでたのね。納得できたわ」 そう言った所でルイズはふと気付いた。このシエスタなら、リュオに好印象を持っているようだし、自分も面識はある。リュオに付けるメイドにするには丁度いいかもしれない。 「…そうね、貴女、シエスタだったわね?」 「え?そうですが… あの、私、何か粗相を?」 食事の支度の手を止め、怯えたように質問してくるシエスタを見てルイズは苦笑した。 「ああ、心配要らないわ。驚かせて御免なさい。実はこのリュオにつけるメイドを探していたんだけど、 シエスタならリュオに好印象を持っているみたいだし、丁度良いかと思ったの。 引き受けてくれるかしら?学院長の発案だからメイド長辺りには話が通っているはずだし、後の事は問題無い筈よ」 「おお、それは良いのぉ。わしもシエスタなら安心じゃ。無論、シエスタが良ければの話じゃがな」 「はぁ…それは構いませんが。そうなると、私はずっとここに詰めるような形になるのですか?」 「そこまでせんでええじゃろ。ルイズは授業もあるし…朝、出掛けるまでの間来て貰えば良いのではないか? 後は夜に少し来て貰って何か用があるならその都度やって貰う、そういう形でどうなんじゃ、ルイズ」 「うん、それで良いでしょ。確かにずっとここにいて貰うほどの仕事は無いと思うしね。じゃぁ、そういう形でよろしく頼むわ、シエスタ」 「はい、わかりました。では、早速明日の朝からこちらに伺えばよろしいのですか?」 「えぇ、それで頼むわ」 「わかりました、それではまた明日の朝伺います。それでは失礼します」 「うむ。明日からよろしくな」 深々とお辞儀をして退室するシエスタを見届けると、ルイズは口を開いた。 「さて、それじゃ冷めないうちに食べちゃいましょ。流石にお腹もすいたしね。 偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今夜もささやかな糧を我に与えたもうことを感謝いたします」 「え…ささ…やか…?」 豪華な食事を前にして祈りを捧げるルイズにリュオは言わずにはいられなかった。 「悪かったわね、生憎と学生の身だから質素な食事なのよ。そりゃ王族の食事のようにはいかないわ」 「…逆なんじゃがなぁ。まぁえぇわい。」 どこがささやかなんじゃ、竜王たる自分より余程贅沢な物食べてるわい、とリュオは多少切なく思ったが、美味そうな食事にケチを付ける気は無かったので黙っている事にした。 食事をしながらルイズは、リュオの事を聞きたがった。 「仮にも主人としては使い魔の事を良く知っておかないとね」 と、尤もらしく言ってはいたが、いかにも興味津々と言ったその表情からそれが建前であることは明白だった。 が、その事にはあえて触れず、リュオはアレフガルドで広く知られている英雄譚、そして自分とも深く関わりのある話… つまり、ロトの子孫であるアレフが竜王から世界を救い出す戦いの話を披露する事にした。 それにルイズは眼を輝かせて、質問を挟みつつ聞き入った。 その様子を見ているだけで、リュオの中から先程感じた切なさは跡形もなく消え去っていった。 「…それで?その魔王の方の竜王と、リュオとどっちが強いの?」 「まぁ、実際会った訳でもないから比較しようがないがな、まずひい爺さんじゃろうな」 「…ちょっと待ってよ。そんなとんでもないドラゴンに、そのアレフは立ち向かったっていうの?たった一人で?」 「うむ、凄いじゃろう。伊達に勇者として延々語り継がれとらんわい。それでじゃな。ローラ姫は自分を救い出したアレフにぞっこんになってな。 まぁ無理も無い話じゃがな。『王女の愛』を授けたんじゃ。これはな…」 リュオは、どこと無く子供や孫が出来たような気分で話し続けていたが、ルイズが大きな欠伸をしたので、そこで話を止めることにした。 「なんじゃ、おねむの時間かい。確かに随分と夜も更けたし、頃合かの。続きはまた今度じゃ。 ところでルイズ…わしをどこで寝かせる気かな?」 「え、それは」 「一つ言っておくぞい。言った通り使い魔としての勤めはやってやらん事もない。 だからこそ今わしはここにいるわけじゃしな。じゃがわしにも竜王の一族としての誇りがある。 あまり馬鹿な事をさせると怒るからそのつもりでの。…例えば、床で寝ろとか」 「あああ当たり前じゃない…と言いたい所だけど生憎こんな事になるなんて思ってなかったから、ベッドは一つしかないのよね.…」 「そうじゃろうな。安心せい。わしとてルイズからベッドを取り上げて床で寝ろという気は無いわい。 まぁここは二人で一緒に寝るのが良かろう。…何じゃその目は。ワシは紳士じゃ、安心せんか」 「…一応聞くけど、ドラゴンの姿に戻って外で寝るってのはどうなの?あの姿なら寒さなんて感じないんじゃない?」 「ああ、それは良い案じゃな。夜が明けたら凄い騒ぎになりそうじゃ。それに最近風邪気味でな。 あの姿でうっかりくしゃみすると豪快に炎がなぁ。ま、ここは魔法学院じゃし耐火の魔法ぐらい」 「……一緒に寝るわよ。寝ます。寝させて下さい。寝れば良いんでしょう…」 「おお、見た目通りにふかふかじゃのう」 リュオは上機嫌でベッドに滑り込んだ。 「…はぁ…全く疲れるわぁ…」 ルイズはのろのろと着替え終えると、げんなりと横になった。 「ほっほっほ。娘っ子と一緒に寝るなんぞ何年ぶりかのう。これで『ぱふぱふ』があれば最高なんじゃが」 「…あまり聞きたくないんだけど、その『ぱふぱふ』ってなんなのよ」 その言葉にリュオはルイズを…詳しく言えばルイズの胸の辺りをしばし見つめた後に、気の毒そうな声で続けた。 「…悪かったのぉ。ルイズには縁の無い話じゃ。 ……いや、むしろこれはこれでええと言う者もおるかのぉ。ふぉっふぉっふぉ」 「くっ……なにかすっごく馬鹿にされているような気がするわ…」 ルイズはしばらくぶつぶつ言っていたが、色々あって疲れていたのだろう。程なく眠りに落ちた。 リュオはその姿をしばし柔らかい表情で眺めていたが、やがて真顔に戻ると窓越しに空を見た。 リュオの視線の先には、煌々と輝き大地を優しく照らしだす、巨大な 「…二つの月か…果たしてこの地にルビスの加護は届くのかのぉ…」 少しだけしんみりとリュオは呟いた。 こうして、波乱の一日が終わったのである。そしてそれは、伝説の始まりであったのだが… その事を知る者はまだ、誰もいない。 前ページ次ページ使い魔は四代目
https://w.atwiki.jp/nolnol/pages/4955.html
陰陽師 攻撃術 式神召喚・壱 目録 召喚術・壱 必要気合 420 必要アイテム 呪符 ウェイト 2 効果時間 式神が倒れるまで 発動準備 なし 使用場所 戦闘専用 効果 ランク1の式神を召喚し、ともに戦わせる。 特徴 憑依攻撃(敵単体に若干ダメージと確実に呪い。ウェイト?)が使える 敵の攻撃の対象になる その他情報 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4299.html
「次の停車駅は~、惑星ハルケギニア~、惑星ハルケギニア~、停車時間は一ヶ月~」 鉄郎はその星で聖地と呼ばれた銀河鉄道ステーションに降りた直後、コントラクト・サーヴァントで召喚された ルイズの使い魔となった鉄郎は、盗難された学院の秘宝を奪還するためにフーケのゴーレムと対峙する 「テツロー!この秘宝『宇宙の竜騎兵』は取り返したわ…」 「ルイズ!それを"返せ"!」 鉄郎は戦士の銃コスモ・ドラグゥーンでフーケのゴーレムを撃ち砕き、勝利した 後に鉄郎とルイズは神聖アルビオンとの戦争に巻き込まれ、戦艦レキシントンの攻撃に晒されるが その時、タルブ村の地下での長い眠りから目覚めた宇宙戦艦ヤマトがやってきた(第二案、ハーロック) ルイズは戦艦ヤマトの艦首で虚無の魔法をエネルギー変換して、レキシントンに叩き込んだ 「…これは…波動砲…」 後に鉄郎はルイズを守るため、7万のアルビオン軍に戦士の銃一丁で立ち向かうが 深い傷を負った鉄郎はウエストウッド村に住む金髪で豊満な体型の黒服女性に助けられる 「…鉄郎…999に帰りましょう」 鉄郎はこの星を去った なお、メーテルや森雪、エスメラルダのような松本零冶作品の女性とは似ても似つかぬルイズは 鉄郎にとっては女でなく、恋愛対象にはなりえなかったとか ルイズが星野鉄郎を召喚
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2768.html
前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ 拝啓、私の王子様 すごいです。私、王子様の顔を見ただけですごくどきどきしてしまうんです。 この思いを王子様に伝えたい………でも私は臆病だからそれをいまだに伝えられずにいたんです。 だから私、この思いをチョコレートにこめました。私の愛の手作りをどうか召し上がってください。 しらとりく……死神ももえ 「で、それが愛の手作りチョコなわけ? 明らかにシエスタに作ってもらってたけど。」 「そーだよ。これが愛の手作りチョコレート 私料理下手だから。」 リボンで梱包されたチョコレートをさも自分のものかのように扱うももえであった。 「いいんですよ。私はモモエさんのお世話をすることが数少ない生きがいなのですから。」 「………! ねぇちょっと、あんたシエスタに何したのよ! 何したのよーーー!!!!」 にっこりと曇りない表情で微笑むシエスタをよそに、ルイズはももえの襟首をつかんでがくがくと上下させ続けた。 これが投稿されたらうどん食べて寝る「ゼロの使い魔死神フレイムデルフリンガーシルフィード二年生ももえサイズ」 馬に乗って帰ってきたルイズは、先に帰ってきてたももえ達から自分達が学院内でしばらくの謹慎を命じられたことを知った。 仕方ないとはいえルイズは思わず肩を落とした。しかしももえは相変わらずの様子だ。悪魔はこの学院内にまだ潜んでいるらしいが……… 「洗濯をしてきなさい。」 翌日、ももえの前に大量の下着やら何やらが渡された。御主人様と使い魔の主従関係を示すのが先決だとルイズは考えたのだ。 「これは?」 「見れば分かるでしょ。私の下着よ」 「………」 「こらぁ! いきなり臭いを嗅ごうとするなぁ!」 思わずルイズは下着をひったくった。 「………ったく、いい加減にしなさい! その洗濯が終わるまでこの部屋に戻ってきちゃだめだから。いいわね?」 「とはいっても………」 大量の洗濯物を持ってももえは頭を抱えた。ももえは洗濯などしたこと無いのだ。メイドのメイちゃんが全部してくれたから。 「メイド、メイド、メイド…………メイド!」 するとたまたまメイドがちょうど通りかかってきたのでその娘にお願いすることにした。 「そこのおっぱい星人!」 「誰がおっぱい星人ですか! しかもなんで初対面の人にいきなりそんな事を言われなきゃいけないんですか!」 メイドは胸をぷるんぷるんとゆらしながらももえに近づいた。 「どうでもいいけどとりあえず名前を聞いておくわ。そうしないと話進まないし」 「私の名前はシエスタで、このトリステイン魔法学院で給仕を中心にメイドの仕事をしています。で、あなたはミス・ヴァリエールの………」「生き別れになった双子」 「いやいやいやいや、確かあなたはミス・ヴァリエールの使い魔のモモエさんだったはずでは……」 「だから早くこの下着を洗ってね☆」 「だから って何ですか! この下着を私に洗えと!?」 「だってあんたさー、本編のみならず幾多数多のSSで召喚されてた奴と友情やらなんやら育んでたし」 ???ものしり館??? ※幾多数多のSS【いくたあまたのえすえす】 「幾多」とは数多くの、「数多」とは数の雅語的な表現。つまり数多くのという意味で今回は使われている。 ゼロ魔本編でのヒロインぶりは勿論のこと、「召喚されました」SSでもシエスタが召喚された者の味方になるケースが多い。 そして今回の場合幾多(ryでのルイズとシエスタとの友情も含まれていたため、イメージ図での大きさは5mぐらいの大きさと思われる。 「いきなり何わけのわかんないこと言ってるんですか! いくら私が人のいいメイドとはいえ、こんな勝手な人の頼みなんて知りません!」 シエスタは怒ってしまってこの場を去ろうとしている。 その時ももえには『幾多数多のSSで培ってきた友情』のイメージ図がシエスタの体からふわふわと離れていくのが見えた。 「あ、そうだ!!」 ももえはカマを取り出すとそれをばっさりと真っ二つに斬った。すると、 「モモエさん だーい好き!」 くるりと振り返ったシエスタはももえに抱きついたのであった。 『ももえのカマで斬られた物の存在はももえが肩代わり』 「じゃあ、洗濯してくれる?」 「はい! 下着からミス・ヴァリエールとの鬱陶しい関係までなんでも洗い流して差し上げますよ!」 「あははははは」 「あははははは」 シエスタを抱きかかえたももえはしばらくその場を回り続けた。 翌朝、ルイズの部屋の元にシエスタがチョコを持って訪れた。それを受け取ったももえはたいそう喜んだのだけど、 「それで、このチョコレートは誰にあげるつもりなのかしら?」 ルイズは作られたチョコを見てそう尋ねた。形も整っていて真心が感じられる物だと思う。その相手に向けられてないのは確かだが 「憧れのギーシュさまに………」 「ぶっ! あっ、あんたみたいなのがあんなのに興味を持つなんて、い、意外ね。」 ルイズの声は上ずっていた。正直驚きを隠せなかったのだ。趣味を疑う的な意味で 「実は昨日、女の子を一人斬っちゃってさー」 「え」 「いやー、でもあれは仕方なかったよ。ねー、シエスタちゃんもそう思わない?」 「思います、思います。 本当あれは相手が圧倒的に悪かったですから。」 ルイズはこの二人が真実を語っているとは到底思えなかった。そして腕組みをして考え込んでいたら、ある答えがひらめいた。 「その娘って、もしかしてケティの事じゃないかしら?」 ケティはルイズたちの1年後輩で最近ギーシュと付き合っている女子のことである。 「あー確かそんな名前だったような」 「すごい洞察力ですね、ミス・ヴァリエール。」 シエスタはルイズのことをほめたのだが、明らかに棒読みだったのでルイズを苛立たせただけだった。 「それが臭くってさ~」 「あははー臭いですよねー」 二人が別次元の会話をしているのをよそにルイズはまた腕組みをして考え込んでいた。 「たしかにギーシュはもてるわよねぇ………」 ギーシュは女の子に甘ったるい言葉をかけたりするなど、女子には優しかったから人気はある。 しかしギーシュには前から恋仲であるモンモランシーという女子がいたはずだ。恐らくあいつの事だから二股でもかけてたんだろうかと思いをめぐらせてるとまたある答えがひらめいた。 「もし、あんたが後輩を斬ったって事は………下級生?」 「「あ」」 「わあ、超人的洞察力ですね、ミス・ヴァリエール」 『ももえのカマで斬られたものの存在はももえが肩代わり 後輩のケティが斬られたのでももえの学年が1年下がります』 ???ものしり館??? ※肩代わり【かたがわり】 本来他人が背負わなければならないものを自分が代わりに背負うこと。 このSSでの「肩代わり」の解釈は能力的なものから肩書き的なもの、物理的なもの等、時と場合と都合に応じて変化する。 つまり前々回は上級生の「称号」だけ肩代わりされたにもかかわらず今回性格的なものも肩代わりされているというのは作者のご都合主義に他ならない。 しかしクロス先の「ももえサイズ」はそのような枝葉末節など吹き飛ばしてしまうような漫画なのでそれに倣ったまでである。ご容赦いただきたい。 とうとうその時がやってきた。ももえはいてもたってもいられなくなって空を飛んでギーシュの元へと向かった。 「きゅいきゅい」 『シルフィードの能力』 そして上にはシエスタとルイズが乗っていた。 ルイズも結局この騒動に巻き込まれたからには必ず元を取ってやろうと思うようになったのでももえについてきたのだ。 「わぁ、私達って今、空をとんでいるんですね。」 「言いたいことはそれだけなの!?」 シルフィードの能力を無駄遣いしつつも素早くギーシュを発見し急降下した。 「いやああああああぁぁぁあぁぁ!!!!」 「あはははははは。あっははははははははは」 「むしろそれは中原よね………」 ギーシュは友人達に恋人とはなんであるかを偉そうに解釈していた。 「…………であるからして僕は薔薇一族を作るのが夢なんだよ。」 ???ものしり館??? ※薔薇一族 【ばらいちぞく】 ローザネイから派生する競走馬一族である。ローズやローザなど薔薇に関する名前が付けられることからきている。 GⅡ、GⅢは勝てるのにGⅠになるといまいち勝てなくなることで有名。 そんな成績のためか、この牝系にはファンが多い事で知られている。 友人達が上空の異変に気づき逃げようとするものの時すでに遅し。ももえ達は思いっきり突っ込んだ。 「うわあああああああ!!!!!」 「きゃあああああああ!!!!!」 そしてそんないざこざの間にギーシュの胸ポケットから香水の瓶が飛び出した。 「落ちる!」 ももえはおもわず手にしたカマでそれをキャッチしようとしたが、 ざしゅっ 小さな瓶はきれいにまっぷたつに割れた。 「つまり、これは………」 いち早く立ち上がったルイズが横になったまま動かないももえを見てまたしてもあることに気づく。 「ギーシュさまぁ」 「ごほっ………ごほっ、なっなんだい君は。」 「私、ギーシュさまの落とした香水ですよー。だから拾ってくださーい」←使い魔死神友情フレイムデルフリンガーシルフィード香水下級生 「なっ、何を言っておるのだ。僕はこんな大きな香水は落としてないぞ。じゃ、じゃあ僕は用事があるからこれで」 そんな事を言うとギーシュは逃げるように去ってしまった。 「じゃ俺も用事があるし。」 「あっ、俺も。」 「俺も俺も」 ギーシュの友人達もそれに続いた。後に残されたのは寝転がったままのももえとそれをじっと見つめるルイズとシエスタだけだった。 ももえは懐から取り出したプラカードとマジックで「拾ってください」と書いて自分の首に巻きつけたのだが一向に効果は見られなかった。 そしてルイズがあきらめかけたその瞬間! 「あら、こんなところに私の香水が落ちてるわ」 たまたま通りかかったのはギーシュの香水を作った女子、モンモランシーであった。 「でも、こんなに大きい香水ははじめてみたわ。どうやって持って帰ろうかしら。」 モンモランシーはももえの前でうんうんと唸り始めた。見かねたシエスタが声をかける。 「あの、これって実は 「私が手伝うわ。」 「あら、いいの? ミス・ヴァリエールが人の手伝いを進んでしてくれるなんて珍しいわね。」 「私の気が変わらないうちにとっとと済ませるわよ。」 モンモランシーの憎まれ口にも反応する暇など無い、ルイズは渡りに船とばかりに実行に移すことにした。 とりあえずモンモランシーは足を持ってルイズは首を持った。試しに持ち上げてみると意外と軽かった。これならいけそうだ。 「いっち、に、さん、し」 「えっほ、えっほ」 「いっち、に、さん、し」 「えっほ、えっほ」 遠くに連れて行かれるももえを見てシエスタはとりあえず大声で聞いてみることにした。 「その香水今度使わせてもらってもいいですかーー?」 「ええ、いいわよーー!」 すぐさまルイズの返事が返ってきたのであった。 「ただいまー!」翌朝、何事も無かったかのようにももえがルイズの部屋に戻ってきた。 「モンモランシーとの生活はどうしたのよ」 「いや、私より彼女のほうが香水"向け"だったから。」 「?」 「ところでさー、知ってる? エッチな気分になる香水って女の子の脇の臭いとおっさんの脇の臭いを混合させて作ってるんだよ。」 「知らないわよ、そんなこと。」 するとももえが急にルイズの脇元に鼻を近づけた。 「なっ、なな何するのよ!」 「いやー………やっぱりあんたのほうが香水向けね。マニアックな臭いがする。」 「マニアックな臭いってどんなのよ! って私の脇を指差すなぁ!! わ、私の脇はそんなに臭ってないわよ。臭ってないんだからね!」 ※おわり これまでのご愛読、ご支援ありがとうございました。 ※次回からはじまる「ゼロの使い魔死神友情フレイムデルフリンガーシルフィード香水下級生ももえサイズ」に乞うご期待!!! 前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8687.html
前ページ魔法少女ゼロ☆ベル 普通の人なら丸一日かかる量の薪割りを、わずか一時間程度で終えた厚志は、そろそろルイズを起こした方がいいだろうと思い、シエスタに洗濯物をルイズの部屋まで届けてくれる様に頼むと主人が眠っている部屋へ戻った。 部屋に戻ってみるとルイズは、朝部屋を出る時と、全く変わらぬ寝顔で寝ているのであった。フッと軽く笑いながら厚志はルイズに声をかける。 「ルイズ君。もう起きる時間だぞ!」 「うーん?……キャア!あんた誰よ!」 目覚めたら、いきなりマッチョが自分の部屋にいる事にルイズは驚愕した。 「ヒドいなあ。昨日、君が召喚した使い魔だよ。」 ああそういえば…と、ルイズは昨日の使い魔召喚の儀式で彼を召喚した事を思い出した。 「もういきなり驚かさないでよ!変質者か泥棒だと思ったじゃない!」 「スマンね。できるだけ優しく声をかけて起こしたつもりだったんだけどね。まあこれからは慣れてもらうしかないよ。」 ルイズは明日から自分で目覚めようと誓うのであった。慣れる前に朝一で驚いて心臓が止まってしまうんじゃないかと感じていたからである。 「じゃあ、着替えと下着を取って。そこのタンスに入ってるわ。」 「これかい?」 「そうよ。丁寧に扱ってよね。あんたじゃちょっと力入れただけで破りそうだし。」 「はいはい。」 厚志は洋服タンスからルイズの下着と着替えを取り出す。 「ほら着替えさせなさい」 「ルイズ君。貴族は自分で着替えもできないのかい?」 ルイズのあまりに無茶な命令に厚志はあきれ気味に質問するのだった 「そんなわけ無いじゃない!ちゃんと出来るわよ。あんたは私の使い魔なんだからそれくらいしても当然なのよ。それと他人の前では「君」は止めなさいよ。様付けで呼びなさい!。それからあんたは私の使い魔なんだから、私の言う事は絶対服従しなさい!」 どうやらルイズは厚志を使い魔として教育・調教していくつもりらしい。 一方厚志は彼女を「守る」事には賛成だが、自分の生き方まで変える気は全く無いので、彼女にそこだけは譲れないと話すのである。 「「様」付けまでは了承しよう。ただし自分の事は自分で出来てもらわなければ、私も使い魔としてのやりがいを見いだくなる。私は君を命をかけて守る!君も私の主人に相応しい存在になってもらわなければ、使い魔の契約は破棄させてもらおう!」 少し強めの言い方で、ルイズに警告をする。 冷酷な様であるが高田厚志という人は優しい心を持っているが、いざ戦いとなれば徹底的に時には非情にもなれるくらい厳しい人である。 ルイズにも成長して欲しいと思うからこそ、時には冷酷に優しく見つめていこうと誓う厚志であった。 「ひっ!わっ、分かったわよ!……何よ。使い魔のクセして…」 ルイズはちょっと脅えながら、ブツブツと自分で着替えを行うのであった。 「えーとルイズ様?今日の予定は?」 ルイズの着替えを見ない様に厚志は声をかける。 「この後はまず朝食よ。その後は午前中は自分の召喚した使い魔を連れて共に授業をうけるわ。午後からは普通の授業があるくらいね。」 ルイズの着替えを終え、朝食をとるべく食堂へ向かう際にルイズの部屋と、真向かいの部屋の住人と対面する 「あら、おはようルイズ。」 「おはよう、ミス・ツェルプストー。」 ルイズの態度からこの赤毛の女性との仲は、あまり良くないようだなと感じた厚志であった。もっともルイズだけが毛嫌いをしているように感じた。女性はむしろ好意をもってルイズに接しているようだ。 「はじめまして。ミスター? 」 「私は高田厚志と申します。ルイズ様の使い魔をやらさせていただいております」 とりあえずルイズとの約束を守るため、使い魔として挨拶を行う。 「あらどこかの誰かとは違って礼儀正しいはね。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーていうの、長いからキュルケって呼んでくださる」 「ちょっと!ツェルプストー!人の使い魔を誘惑してるんじゃないわよ!」 どうやらこの二人のケンカは日常茶飯事らしく、他の生徒は慣れたように2人をかわして食堂にむかうのであった。 「あー。2人とも早くしないと朝食がとれないよ?」 厚志は2人をなだめて、食堂へ向かう。 「あなた朝食はどれくらい食べるの?結構大食でしょ、その体格だし。」 ルイズは厚志の食事について心配していた。事前に少し多めの用意を頼んであったが、足りないかもしれないので、彼の食事について聞いてみた。 「栄養バランスがよければなんでも大丈夫だよ。わがままをいえばプロテインが、あればなおいいんだけど。」 「プロテイン?なによそれ?うーん、そうだ!厨房へ行って料理長に聞いてみましょう。多分あなたと同類だから。」 「同類?」 「行けば分かるわよ。」 食堂の厨房に入ってみると、やたら威勢のいい声が厨房内を飛びかっている。 「おら、なにやってんだ!鍋が吹いちまってるだろうが。」 「バカやろー!もっと腰を入れろ!そんなへっぴり腰で旨いもんが作れるか?」 明らかに他のコック達よりでかく厨房をしきっている人物に声をかける。 「ちょっとマルトー親方?私の使い魔に朝食をあげたいんだけど?」 「食事なら全部用意してあったはずだが、何か足りないんですかい?」 男はトリステイン魔法学園の厨房の主マルトー、厚志並ではないが腕の太さは丸太程あり、厚志と共通の何かが感じられる人物である。マルトーは厚志を見て 「兄ちゃんいいガタイしてやがんな!ああそういえば平民の使い魔を召喚した貴族さまがいるって聞いたがまさかヴァリエール嬢のことだったんですか。」 マルトーは夜の勉強の為に、たびたび夜食を頼んでくるルイズと顔見知りである。貴族ながらも努力しているルイズに対しマルトーは認めているのだった。 「そうよ。じゃ私は食堂で食べてくるし、後は親方に聞きなさい」 ルイズは食堂の方に向かい、厚志はマルトーに食事について注文をした。 「そのプロテインてのは分からねえが、要は栄養材の一種だろ?ツテを頼って仕入れといてやるよ。他ならぬヴァリエール嬢ちゃんの使い魔さんの頼みだ。何とかしてやるよ。」 「ありがとうございます。じゃあ、もう時間もあまり無いですし、卵を複数個と大ジョッキ貸してくれますか?」 厨房内は一瞬で静まり返る。他のコック達は冷や汗が止まろなくなり、メイド達は気分がわるくなったと厨房から逃げるように出ていった。 そんな中なぜか満面の笑みを浮かべジョッキを2つと大量の卵を用意する。 「お!分かってるね~。俺も朝一はこれが無いと始まらねえんだよな。周りから気分が悪くなるから止めてくれって言われてるんだが、ついに分かり会える同士と出会えたか!」 2人は慣れた手つきでジョッキに生卵を次から次と入れ、ジョッキ満タンになった所で、「体に乾杯!」と生卵を一気飲みしていくのであった。 周りのコック達はそんな彼らを怪物でも見るのように気分悪げに溜め息をつくのであった 前ページ魔法少女ゼロ☆ベル
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6096.html
前ページ次ページゼロのヒットマン ここはとある町でのことだった。 「たまには散歩もいいですね、十代目。」 「そうだね。」 ツナと獄寺は町を楽しそうに散歩していた。すると突然不気味な鏡が現れました。 「なんだこのヘンテコな鏡は、」 獄寺が鏡に手を触れた瞬間、獄寺が鏡の中へと吸い込まれていった。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 「獄寺くーーーーーーん!大変だリボーンに知らせないと。」 その頃、ハルケギニアの世界ではルイズが召喚の魔法の儀式を行っていた。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ!神聖で美しく!そして強力な使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ!我が導きに、 応えなさいっ!」 杖を振り下ろすと、爆音とともに煙が巻き上がった。 「げほっ、げほっ、使い魔はどうなったの。」 煙の先に現れたのは、銀髪の男で服装はハルケギニアではみかけない格好だった。 「いてててててっ、ここは何処だよ、何がどうなっちまったんだよ・・・・・・」 「あんた誰よ?」 「俺は獄寺隼人だ!それよりもおめぇこそ誰だよ!訳の分かんねぇ世界に来ちまって俺は混乱してるんだ!」 獄寺は怒りを露にしながらルイズに質問した。 「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。」 「長ぇよ!そんな名前!」 「ルイズでいいわよ。」 「それよりもここは何処だ!それになんで俺がこんな世界にいるんだよっ!」 「ここはハルケギニアのトリスティン魔法学校で、あんたは私の『サモン・サーヴァント』という召喚の魔法で呼び出され使い魔よ。 しかしなんで私の使い魔がこんな平民なのよ。ミスタ・コルベール!召喚をもう一度やり直させて下さい!」 ルイズはローブを纏って杖を持っている禿頭の中年男に言う、しかし男は首を横に振った。 「ダメです。一度召喚された使い魔は変更することはできません。」 「そんな・・・」 コルベールのその一言にルイズは少しショックを受けた。それを見ていた生徒達は 「おいルイズ!召喚で平民呼び出してどうすんだよ!」 「さすがゼロのルイズ。召喚したのが平民なんて傑作だ。」 「うるさいわねっ!私だって好きでこんな平民呼び出したわけじゃないんだからね!」 ルイズと生徒達が争っていると、後ろから獄寺がなにやら不満そうな態度を見せていました。 「さっきから俺を無視しやがって、それに俺を平民平民と呼びやがってふざけんじゃねえ!俺は十代目の右腕となる存在だ! 喰らえ!ハリケーン・ボム!」 獄寺がポケットからダイナマイトを取り出すとそのダイナマイトが発火し、そのダイナマイトは生徒達へと向かっていった。 ボガーーーーーーン! 「げほっ、げほっ、何だよ平民のくせに。」 「おめぇらもう一回ハリケーン・ボムを喰らいてえのかっ。じゃあ果てろ。」 獄寺の鋭い目つきと手に持っているダイナマイトを見た生徒達は 「ルイズの使い魔のあいつヤバそうだぜ。」 「じゃあ逃げるしかねぇよな」 あまりにもやばいのか逃げ出しました。 「獄寺!あんたのその技すごいのね!」 「当然だ!俺は十代目の右腕となるために強くなったんだ!それよりも俺を元の世界に帰してくれ!あっちでは十代目が俺のこと心配してんだ!」 するとルイズは首を横に振った。 「無理よ、元の世界に帰す方法がないのよ。」 「そうかよ、だったら俺はお前の使い魔にでもなんにでもなってやる!ただしその代わり俺を十代目の所へ帰す手段を見つけろよ!」 「分かってるわよ!」 そういうとルイズと獄寺は魔法学校の遼に戻りました。 その日の夜の事でした。ルイズは獄寺にこんな質問をしました 「そういえばあんたの言ってた十代目って誰なのよ。」 「なんだよいきなり・・・・まぁ教えてやるよ。十代目っていうのは沢田綱吉のことだ。俺は初めてあの方と会ったとき、なんでこいつがボンゴレファミリーの 十代目なんだよって思ったんだ。しかしあの方と戦ってみて俺は負けたんだ。あの方こそボンゴレファミリーの十代目にふさわしいとな。」 「そうなんだ。あんたにも大切な仲間がいたのね。」 それからルイズと獄寺は眠りにつきました。 眠りについてから数時間後、獄寺は変な夢を見ました。 「獄寺くん!獄寺くん!」 夢の中でツナが獄寺を呼んでいました。 「十代目、一体何ですか。」 「獄寺くん早く帰ってきてくれよ!みんなも獄寺くんの帰りを待ってるんだ!」 「すみません。俺はまだ十代目の元へは帰れません。」 「なんでだよ!みんなが獄寺くんの事を心配しているんだよ!」 「十代目、俺は・・・・・・」 夢の中で獄寺がツナに何か言おうとしたその時 「ご~~~く~~~で~~~ら~~~っ!」 ルイズが怒った表情で獄寺を起こしました。 「うわっ!ビックリさせんなよっ!」 「ビックリしたのは私の方よ!いくら叫んでも全く起きなかったんだから、いったいどんな夢を見たのよ。」 「そんなのお前には・・・・・」 「いいから答えなさいよっ!」 獄寺はルイズに自分が見た夢の内容を話した。 「そうなんだ。つまりその十代目の人が獄寺の帰りを待ってるんだ。」 「そうだ!俺は一刻も早く十代目の元へ帰る手段を見つけるんだ!」 「いつになるか分からないけど必ず見つけるわ!だって獄寺の頼みなんだから。」 しばらくして獄寺はルイズにこんな質問をしました。 「そういえば、なんでルイズはあいつらにゼロのルイズって呼ばれてんだ。」 ルイズは悲しげな表情で答えた 「それは・・・・私はどんな魔法を使おうが必ず爆発して失敗してしまうのよ。この世界では魔法を使えないことなんて考えられない事なのよ。 それでお父様もお母様も、エレオノールお姉様も私に何一つ期待しなくなったのよ。」 「そうだったのか。悪かったなこんな事聞いちまって。」 「いいのよ。獄寺に私の辛い気持ちを伝えることができたから・・・。」 ルイズの悲しげな表情を見た獄寺は 「魔法なんて努力すれば使いこなせるようになんだからよ。あんまりメソメソすんな。俺も十代目の右腕として頑張ってるんだからお前も頑張れよ!」 「ありがとう・・・・獄寺。」 前ページ次ページゼロのヒットマン