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前ページ次ページ爆炎の使い魔 教室に入るなり、ヒロはほう、と思わず声を出す。 学校といったものに行ったことがなかったヒロは、教室とはこういうものなのか。と部屋を見回した。 ヒロとルイズが入っていくと、先に教室にいた生徒が振り向くなり、くすくす笑い始める。 先ほどのキュルケもいた。男に囲まれている。 (まあ、ああやって色気を振りまいていれば男も寄ってくるだろうな) そう思い、ネバーランドにいた頃の自分を思い出す。 思えば自分は戦いの日々だった。しかも単なる戦いではなく戦争レベルのものがほとんどだった。 そんな中で周りにいた男と言えば、サトー、チク、ザキフォン、大蛇丸、シンバ、ソルティ、アキラ、スカーフェイス。 ザキフォンは筋肉の自慢をよくしてたし、チクはよく変わった発明をしては私に見せていた。大蛇丸にはよく尻を触られた。 シンバとソルティは何時も2人一緒だった。きっとホモだったに違いない。アキラとスカーフェイスはすでに相手がいたし、 サトーはどうだろうか、よく自分を見つめてたりしてた。実は自分に好意を持っていてくれたのではなかろうか? 少し頬を染めるヒロ。しかし現実は残酷だ。 そう考えると、自分ははすでに色んなものを逃してしまったんじゃなかろうか・・・ しかし、伴侶を見つけてキャッキャウフフしてる自分を想像してちょっと嫌になった。 自分もすでに100近い年齢まで達している。種族的に長寿なので見た目は若いままだが、実は中身はおばあちゃんと言われてもおかしくない。 彼氏いない暦100年。ちょっぴり切なくなってため息をつくヒロであった。 気を取り直して周りを見ると、なるほど、確かに周りの生徒は色々な使い魔を連れていた。 フクロウやカラス、ヘビといった普通の動物レベルのものからバジリスクやバグベアーといったモンスタークラスのものまでいた。 ルイズは1番後ろである自分の席に座る。椅子は1つしかなかったので、ヒロは立っていることを選んだ。といっても壁に背を預けている状態だが。 扉が開いて中年の女性が入ってくる。紫色のローブに身を包んでいる。見る限りでは人の良さそうな女性だ。 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですね。このシュヴルーズはこうやって春の新学期に、様々な使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ。」 ルイズはバツが悪そうに俯く。 「おやおや、変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズのその一声を皮切りに、教室がどっと笑いに包まれた。 「ゼロのルイズ!召喚できないからってその辺を歩いてた平民を連れてくるなよ!」 その声にルイズが立ち上がろうとするがヒロに肩をつかまれ立ち上がれない。 「ちょ、何するのよ!」 「わめくな。程度が知れるぞ。雑音など聞き流せばいいではないか」 「うぐ・・」 「ははは、使い魔に諭されるなんてとんだ主人だな」 そんな声もどこ吹く風か、なおも立ち上がろうとするルイズを押さえつけ、ヒロはシュヴルーズのほうを向く。 「おい、そこの女、ここは託児所か?たかだか小事ですぐ五月蝿くなる。私の知り合いの孤児院の子供たちのほ うがよっぽど躾がなっているぞ。教師なら教師らしく、さっさと静めて授業に入れ」 少し、殺気が滲み出るヒロ。 「そ、そうですね。さあさ、皆さん静かにしてください。授業を始めますよ!」 シュヴルーズの一声で静かになる教室。ルイズももう立ち上がるのを諦めたようだ。 シュヴルーズの授業が始まる。ここでヒロは1つ学ぶ、この世界の魔法には系統があり「火」「水」「土」「風」の4つと失われた 「虚無」という系統の魔法があるということだった。 ヒロはネバーランドの魔法を思い浮かべる。「火」「水」「土」「風」「雷」「光」「闇」に分かれていた。 「雷」はおそらく「風」に「光」と「闇」が「虚無」に該当するのだろう。 また、この世界では建築や鋳造なども魔法によって行うという。魔法が発達している代わりに科学の発達は遅いようだ。この辺もネバーランドとは違うようである。 (なるほど貴族だのメイジだのが、ここまで偉ぶっているのは技術のほとんどを握っているからか。それなら合点もいくな) シュヴルーズが杖を振ると机の上に石ころが現れる。 「さてみなさんには『土』系統の魔法の基本である『錬金』をやっていただきます。1年生のときにできるようになった人もいるかもしれませんが、おさらいということでもう1度やってみましょう」 シュヴルーズは短くルーンを唱え、杖を振る。すると石ころは光りだした。 光が収まると石ころがピカピカの光る石に変わっていた。 「ゴ、ゴールドですか?ミセス・シュヴルーズ!」 「いえ、これはただの真鍮ですわ。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの『トライアングル』ですから。」 ゴールドを錬金できると聞いて呆れるヒロ。そんなことをすればこの世界のゴールドの価値や貨幣制度などは崩壊してしまうのではないか?と 思ったがどうやらゴールドを錬金するには相当の時間と技術が必要な上に大した量も作れないようだ。 「さっきからスクウェアやトライアングルとはなんのことだ?」 知らない単語が出てきたのでルイズに小声で聞くヒロ。 「系統を足せる数のことよ。それでメイジのレベルが決まるってわけ」 「なるほどな、『火』と『土』を足したりできる技術のことか」 ネバーランドではそこまで珍しい能力ではなかった。いや、単に自分の周りにそのクラスの連中ばかりがいただけなのかもしれない。 「ミス・ヴァリエール!授業中の私語は慎みなさい!」 「すいません」 「おしゃべりをする暇があるのなら、貴方にやっていただきましょう。この石ころを貴方の望む金属に変えて御覧なさい」 「わ、わたしが、ですか」 困ったようにもじもじするルイズ。 「ご指名だ」促すヒロ。 「あ、あんたのせいでしょうが!」 「ほら、ミス・ヴァリエール。早くしなさい」 シュヴルーズが呼びかけるとキュルケが手を上げる。 「先生、危険です」 「どうしてですか?」 「先生はルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ、でも彼女が努力家だという話は聞いています。さあ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやって御覧なさい。失敗を恐れていてはなにもできませんよ。」 「ルイズ。やめて」 キュルケは顔を蒼白にしている。 なんだこれは?ルイズは今から魔法を使うというだけだ。まるで良くないことが起きるかのような雰囲気である。例えば、彼女の魔法の威力が大きすぎて周りにすごい被害でも起こしてしまうと言うのだろうか?だがそれならば恐れられることはあっても馬鹿にされることはないはずだ。 しかも、今から行うのは錬金、単に石ころを別の金属に変えるだけのはずだ。 「やります」 緊張した面持ちで石の前に立つルイズ、生徒のほとんどが机の下に隠れてしまった。 ルイズはシュヴルーズに教えられた通りに短くルーンを唱え、杖を振った。 すると石が光り、大爆発を起こした。 光った瞬間ヒロは舌打ちし、一瞬のうちに術式を完成。『トルネード』を自分の周りに発動させ、爆風を防いだ。 一瞬のことだったので周りはヒロが魔法を使ったことに気がついていない しかし、爆発の影響をモロに受けた教室は悲惨なものだった。 ルイズの1番近くにいたシュヴルーズは吹き飛ばされたのだろう、気絶していた。周りの使い魔たちもその爆発に驚き、暴れだす。 火を吹くトカゲ、窓ガラスをぶち破る怪鳥、他の使い魔に襲い掛かる使い魔、暴れる使い魔を抑えようとして逆に襲われてしまう生徒たち。 もはや教室は阿鼻叫喚の嵐と化していた。 そんな様子を見て、ヒロはため息をつく。 「者共、静まれ!!!!」 ヒロの怒鳴り声が教室に響き渡る。すると暴れていた使い魔たちだけでなく生徒たちもピタリと動きを止めヒロのほうを向いた。 ジロリとにらむと生徒たちは机に座りなおし、使い魔たちはのそのそ主人の下へ帰っていった。 シュヴルーズと同じように気絶していたルイズも目を覚ます。ルイズは起き上がると顔についた煤をハンカチで拭きながら淡々と言った。 「ちょっと、失敗したみたいね」 静かになっていた生徒たちもさすがに猛反撃をする。 「ちょっとじゃないだろ!なにしてくれるんだゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないか!!」 (なるほどな。だから『ゼロ』のルイズか。) 特に気にしていたわけでもなかったが、どうしてルイズの前に『ゼロ』と付けられるのかヒロは理解したのだった。 前ページ次ページ爆炎の使い魔
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前ページ次ページゼロの社長 所変わって、ここはトリステイン魔法学院内にあるルイズの部屋である。 強引かつ強制的な契約により,ルイズの使い魔となった(された)海馬であったが ルイズとコルベールから一通りの説明は受けたものの、今の現状が全くつかめずにいたので、 とりあえず頭の中で整理する事にした。 (遊戯とのデュエルの最中に現れたあの奇妙な鏡。あれがこの小娘の言うところの召喚のゲートとやらであろう。それにしても魔法のある世界とは…。) 海馬は過去に自分が体験した仮想現実のことやドーマとの戦いのときに垣間見た デュエルモンスターズの世界のこと、ファラオの記憶の中の古代エジプトのこと。 (感覚からすればデュエルモンスターズの世界に一番近いか…しかし、戻る手段が無いとは…) コルベールの説明によれば、契約した使い魔を送り返す方法など無い。使い魔か主のどちらかが死ぬまでこの契約は続く、故に送り返す必要が無かったために その魔法も全く研究されなかったという事である。 (なりゆきとはいえ、こう何度も異世界に飛ばされると驚きもなくなってしまうな。しかし、まずはもとの世界に戻る方法を探さなくては…。) 「あーもうっ!黙ってないでなんか喋りなさいよッ!」 海馬がまたもとの世界に戻る方法を考えはじめたころ、ついに沈黙に耐えられなくなったルイズが口を開いた。 「説明してるときも『ふぅん』だの『ほぉ』だの『なん…だと…』だの偉そうな態度で聞いてるかと思えば、 説明が終わるったあとはずっと黙りっぱなしでなんかずっと考えてるし! あんたは…っそ、その…わたしと契約したんだから、私の使い魔なのよ! 私がご主人様であんたは使い魔!使い魔なら使い魔らしく、私のことを無視してずっと考え事なんてしてないでよ!」 ぜーっ…ぜーっ…と勢いよくまくしたてるルイズ。しかし目前にいる海馬はといえば、 「勝手なガキだ。一方的に呼びつけて強引にこんなものを刻み付けるのを契約とは。 身勝手にもほどがある。俺は貴様の使い魔になど、なった覚えも無ければするつもりも無い。」 つまらなそうにルイズを一瞥してはき捨てるように言う海馬。 最も彼の言い分は正しい。強制的に連行し、もといた場所には一生戻さない。お前は永遠に自分の下で働け。 使い魔召喚とは人間を相手にしてみればこういうことを言っているのと同義である。 普通なら納得できるはずが無い。しかしルイズからしてみれば、自分がせっかく成功させて召喚した使い魔が、 自分の言う事を聞かずに反論してくる状況に納得は出来ない。 「何言ってるのよ!そのルーンが契約の印!それが刻まれている以上あんたは私の使い魔なの!」 「ふん。俺は、いや、たとえお前が別の何かを召喚したとしても、殆どの者がお前には従わん。身の程を知れ!」 「なっ…なっ…?」 ルイズは過去、自分の事を馬鹿にされた事はあれど、ここまでの侮蔑を受けた事は無かった。 それゆえに海馬の発言に言葉を返す事が出来なかった。 「他者の上に立つということは、自分自身の力量だけでなく、頭脳の回転の速さ、人望などが必要だ。 貴様のようにギャ-ギャ-とわめくだけで何を示すでもなく主を名乗る、そんな子供になど誰がついてくるものか! ましてや,俺は他者の指図など受けん!」 ルイズは絶句した。 いや,反論しようにも言葉が出ない。平民にここまで言われて、 「平民の癖に、貴族に対してなんて口の聞き方を!」と反論しようにも、貴族としても自分は魔法を成功した事が無い『ゼロのルイズ』 その程度の実の無い反論では同じことで論破される。 それでも,目の前のこの男に対して何とか言葉を紡ごうとしてもまとまらない。 言葉にできない。 むしろ恥かしいとさえ思えてくる。自分は使い魔との契約を軽軽しく見ていたのではないか。 召喚さえできればあとは勝手に使い魔が動いてくれる。 そんな風に考えていたのではないか。 違う メイジにとっての使い魔は『一生の僕であり、友であり、目で耳である』 そう,一方的な奴隷ではないのだ。 (それなのに…私は…っ!) 知らず知らずの内にルイズの瞳からは涙があふれていた。 自分のメイジとしての力量の無さに。 自分の使い魔に対する浅はかな考えに。 どうすればいいのかわからない悔しさに。 「どうすれば…いいのよ…?魔法が成功しないから…一生懸命勉強したっ! それなのに!魔法は成功しない!成功率『ゼロ』!『ゼロのルイズ』! クラスのみんなにも馬鹿にされてっ!せっかく召喚した使い魔にまで拒絶されて!それじゃあ私はどうしたら良いのよっ!」 涙に濡れた顔をぬぐいもせず海馬に食いかかるルイズ。 わからない!どうすればいい!誰か答えて!おしえてよ! 私はどうすればいいの!? 「なに勘違いをしている?」 「ふぇ」 「貴様は今、魔法が成功しないといった。では、どうしてこの俺がここにいる? それは貴様の召喚魔法が成功したからではないのか?」 そうだ。 ここに海馬がいる以上、ルイズのサモンサーヴァントは成功している。 そう、ルイズの魔法は成功しているのだ。 「私の…魔法…?」 「俺はこの世界の魔法とやらの知識は無い。だが、俺がここにいる以上、貴様の魔法は成功しているのだろう? 俺にとっては迷惑この上ない魔法だが、成功した以上、お前は『ゼロ』ではないだろう。」 「私は…ゼロじゃ…ない?」 「少なくとも1は成功した。ならそれが2にならないとどうして言い切れる? 貴様は既にゼロではない。ならば次はさらに前へと進むのみだ。 全力で、貴様の目指す未来へのロードを突き進め。そして,前へと進む気があるのならば…」 海馬はそこで区切り,ルイズを正面から見据え 「俺は貴様を助けてやる。怠惰に現在を食いつぶし、我侭を言うだけのガキには興味は無い。 が、貴様は既に目指す場所を見つけているのだろう。そして貴様の進む道のりに、 俺の力が必要だというのなら、俺は力を貸してやる。 俺は貴様の『使い魔』なのだろう?」 まっすぐな瞳で見つめてくる海馬 そう、海馬は確かにこの理不尽な契約に怒りを覚えていた。 だが、決して海馬はただの自分勝手な男ではない。 異世界に召喚され、使い魔として契約させられる。それだけでも怒りを覚えるというのに、 その主と言い張るルイズは、何を示そうともしない。 そんな一方的な押し付け、子供の我侭に付き合っている暇などない。 …だが、もしルイズが自分で道を歩こうとするのなら。 そこに自分の手が必要とするのなら。 いつのまにか止まっていた涙 ルイズはその瞳に答え、まっすぐに海馬を見つめ 「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ド・ル・ブラン・ラ・ヴァリエール。」 そう、これこそが本当の使い魔との契約。 同じ道を進み、同じ未来を見据えるもの同士の契約。 「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」 その呪文とともに口付けをするルイズと海馬。 ルーンは既に刻まれている、故に肉体的変化は起こらない。 だがそれでも、ルイズと海馬の間に小さな、目には見えない絆という契約が生まれたのだった。 「これからよろしくね、セト!」 「いいだろう、ルイズ。元の世界に戻るそのときまで、貴様と共にいてやろう。」 前ページ次ページゼロの社長
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前ページ次ページゼロの魔獣 結論からいえば、真理阿は『役に立つ』使い魔だった。 召喚から3日経ち、あらためてルイズはそう思った。 まず、彼女よく働く。 ルイズが指示を出すまでもなく、掃除や洗濯にと甲斐甲斐しく動き回る。 おそらくは天性の働き者なのだろう、同年代のメイド(シエスタと言ったか?)と親しくなった真理亜は そのまま厨房の仕事を手伝いに行き、たちまち平民たちの間で人気者になった。 (手伝ったお礼にと貰った布団を繕いなおし、その日のうちに寝所まで確保した。) 平民だけではない。 彼女はどういうわけか、他の使い魔達から好かれた。 彼女の前では本来獰猛な性質の使い魔も、鼻を鳴らして擦り寄ってくる。 じゃれつくフレイムを見て、「どっちが主人か分ったもんじゃないわね」などとキュルケは苦笑したが 彼女自身、真理阿の事を気に入っているらしく、いつものように毒づいてこない。 それは、キュルケに限った事では無いらしく、初めは平民を召喚した事を馬鹿にしてきた学友たちも 公の場で彼女を侮辱する事は無くなっていった。 しかし! しかしである。 ルイズは気に入らない。 平民の小娘を召喚し、公衆の面前で接吻するハメになった。 その事実だけでも耐え難い屈辱だというのに、彼女は平然と平民たちの仕事の真似事をする。 しかも、彼女はただ従順なだけではない。 一度、ルイズは彼女に 「使い魔は主にだけ仕えていればいいのよ!主を貶めるようなマネはしないで!!」と抗議したが、逆に 「平民の上に立つ貴族がそんな狭量でどうするのか」と、たしなめられた。 ルイズは主従関係を持ち出して優位に立とうとしたが、真理阿は未熟な妹に言い含めるかのように 時に強く、時に優しくルイズに迫り、まったく頭が上がらない。 普段は同年代に見える真理阿が、その時は何故か、母親のような貫禄すら感じさせた。 結局その日、ルイズは使い魔にセイザ(真理阿の故郷の風習らしい)させられ 小一時間足が痺れて立てなくなるほど説教を受けた。 ゼロのルイズの汚名を返上できず、使い魔に八つ当たりもできない。 悶々とした日々を送るルイズは、数日後、ある騒ぎに首を突っ込む事となった・・・。 前ページ次ページゼロの魔獣
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前ページ次ページTHE GUN OF ZERO あの草原から、トリステイン魔法学院の敷地内に来て、しばらくの間クォヴレーはこの部屋で放っておかれた。 すっかり日も沈んだ頃、ようやくルイズが戻ってきた。 「済まないが、勝手に明かりを付けさせて貰った」 と、燭台を指さすクォヴレー。 しかしルイズは一言も言葉を発さないまま近づいてきて、クォヴレーを見るとふかぁーくため息をついた。 「はぁぁぁぁ~」 普通の人間なら、人を見てため息をつくとは何事かと怒るところだが、生憎とクォヴレーは普通の人間ではない上に、それとは別の所で感性もかなりずれていた。 「疲れているのか?」 「アンタ……人間、なのよね……」 クォヴレー本人としては結構ナイーブな問題を無遠慮げに触られた格好となり、それにより初めていささか不機嫌になるが、すぐにこの少女は何も知らないのだと意識を切り替えた。 「そうだな。俺は、自分のことをヒトだと思っている」 「何で平民なんか……」 そのままクォヴレーの前を通り過ぎ、ベッドに倒れ伏す。 「平民……という事は、お前は貴族なのか」 「そうよ。メイジなんだから当たり前でしょ?わかったら、その『お前』って呼び方改めなさいよね」 ベッドの上、首だけ動かしてクォヴレーを睨み上げる。 「わかった。……ところで、メイジとは何だ?」 「……アンタ、どこの田舎から来たのよ?メイジは魔法を使える者の事よ」 「成る程。魔法使いのことをここではメイジと呼ぶのか」 ふむふむと興味深げにしきりに頷くクォヴレーを見て、ルイズは心底後悔した。 使い魔召喚の儀で呼び出したのは人間の平民で、しかもろくに常識も弁えない田舎者ときた。 (なんで……こんな……) 涙ぐみそうになるのを、シーツに顔を埋めることで見せないようにする。 「それでルイズ」 「……何よ」 まだ涙ぐんだままだというのは自覚していたので、クォヴレーとは反対に顔を上げながら尋ね返す。 「使い魔は、具体的に何をすればいい?」 「そうね……使い魔の仕事は大きく三つあるわ」 気だるげに、指を三つ立ててみせる。 「一つは、主人との感覚の共有。主の代わりに目となり耳となること。つまり、アンタの見聞きした物を私も感じることが出来るようになるの」 「……まさか出来ているのか?」 少し驚いたようにクォヴレーが尋ねた。 「ダメね。教本通りにやってみたけど、ちっとも繋がらない」 「そうか……」 内心ほっとするクォヴレー。この少女の平穏な日常のためにも、自分と繋がるのはお勧め出来ない。人間、知らない方が幸福なことなど世の中に山のようにあるのだ。 「二つめは、主人に代わって薬草や硫黄なんかの鉱物を取ってくること」 「この辺りの植物の生態に詳しくないので薬草は無理だが、硫黄などはすぐにでも出来るぞ」 「本当?」 些か驚きで目を見開くルイズ。つい寝返りを打ってクォヴレーの方を向いてしまう。最も、この時点では既に涙は引っ込んでいたのだが。 「俺の考えてる硫黄と、こちらで言う硫黄が同じ硫黄であるのならな。火山地帯などでよく見かける物質のことか?」 「ええ」 「それなら俺も知っている硫黄だ」 自信ありげに頷くクォヴレー。 「ふーん、案外使えるじゃない。で、三点目は主人であるメイジを守ること」 少し気を持ち直したか、上半身を起こしベッドに腰掛ける形になるルイズに、若干胸を反らし気味にクォヴレーは答えた。 「それこそ俺の得意分野だ。任せて貰おう」 「へえ?少しは腕に自信があるみたいね。何が出来るのかしら?」 「銃の腕なら、かなりのものだと自負している」 ここで、行き違いが発生する。 「は……?銃?」 「そうだ」 ルイズにとって銃とは、このハルケギニアに存在するマスケットの類であり、クォヴレーにとってそれは、カートリッジ式であったりシリンダー式であったりする拳銃から対物狙撃ライフルに至るまでの幅広い銃の種類であった。 当然、威力・性能共に段違いであると共にその有用性もまた雲泥の差である。 だが、ルイズはそんなことは露知らず。一度期待に胸が膨らんだだけに落胆も激しかったようで。 「そう……銃、ね」 目を伏せがちにすると、再びベッドに倒れ込んでしまった。 (あんな役立たずな物が扱えるからって何だって言うのよ……) 「その三つが、俺の使い魔としての仕事か?」 「……そうだけど、あんたは三つ全部出来てる訳じゃないわ。それ以外の雑用もやって貰うわよ」 顔だけを、今度はクォヴレーの方に向けつつ答えた。 「雑用……掃除などか。俺自身はあまり経験はないが、やってみよう」 これについては自信なさげに返すクォヴレー。 「そ。それじゃあ明日の朝、それ洗っておいて頂戴」 とルイズの指さす先には、駕籠に入れられた洗濯物。 「わかった」 こくりと頷きかえす。 「それじゃあひとまず」 ルイズがベッドから降りながら、命じる。 「私を着替えさせなさい」 ルイズ曰く、貴族の子弟は使用人に着替えさせるのは当たり前なのだそうで。 (そういうものなのか……) 全く頓着無く、純粋に未見の物事を知った故にクォヴレーは感心していた。 命じられるままに引き出しからネグリジェと替えの下着を取り出し、命じられるままにルイズの服を脱がせたところで、ハタと動きが止まった。 「……ちょ、ちょっと。主人を裸にしてじっと見るのは……」 少し顔を赤くしながら後ろを向くと、クォヴレーはルイズの方など見ていなかった。その手にしたネグリジェなどをまじまじと見つめている。 「ちょ……ちょっと、クォヴレー……?」 もしかして、こいつ服に欲情する変態……?等と失礼なことを考えながら一歩引くルイズ。それが変態なのならば着替えさせているルイズは何なのかという話である。 だが、難しい顔でネグリジェを見ていたクォヴレーは全く予想だにしないことを口走った。 「すまない、ルイズ。着せ方が判らない」 「はぁ?あんた何言って……」 文句を言いかけて、目の前のクォヴレーの服装に目がいく。 どう見ても文化系統の違う服であった。 「しょ、しょうがないわね。それじゃあ私の指示通りに着せなさい。これから覚えるのよ?」 「ああ。わかった」 突き詰めていくと、別にクォヴレーの服装は文化系統とはあまり関係の無いパイロットスーツであり、彼の大本の世界でもネグリジェなどは普通にある服飾品である。 だが、クォヴレーの生い立ちに問題があった。 生まれてしばらくの間を人造生命体バルシェムとして過ごし、ロンド・ベル、およびαナンバーズに居た期間にも、女性と「そういう」接触が皆無のままで、次元を超えて旅をする事となったクォヴレーには、ネグリジェなど初見であったのだ。 ぎくしゃくしながらも着替えを終えたところで、今度はクォヴレーが尋ねた。 「ルイズ。使い魔としての仕事は大体了解した。それで出来れば、一日の内睡眠を除いた2時間程の休みが欲しいんだが?」 「そうね……私の言った仕事さえこなせば、別にそれぐらいは構わないわ」 「助かる」 にっこりと、全く邪気のない笑みで笑いかけるクォヴレー。 少し、どきりとした。 「そ……それじゃあ、私はもう寝るわね」 すとんとベッドに腰を下ろす。 「俺はどこで寝ればいい?」 「ゆ、床よ。毛布ぐらいなら貸してあげる」 ぽーんと飛んでくる丸まった毛布を受け取り、クォヴレーは燭台に近づく。 「明日は7時には起こしなさいよね!」 「了解した。灯を消すぞ」 手をかざしながらフッと吹きかけ、部屋の中は星と二つの月明かりだけが照らす。 (け、結構整った顔立ちじゃない。……そうよね。この私が召喚したんだもの。例え平民だろうと、あれぐらいの美しさを持ってる奴が応じるのが妥当だというものだわ!) ベッドの上で毛布にくるまりながら何やら勝手に自己満足しているルイズ。クォヴレーもごろりと横になり、ベッドの上で動くルイズの様子を気遣いつつ、やがて規則正しい寝息が聞こえてくる段になるとようやくクォヴレーも意識を手放した。 前ページ次ページTHE GUN OF ZERO
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第零章 くちづけよりも熱い左手 一 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは今まさに、人生の転機を迎えようとしていた。 サモン・サーヴァント。すなわち使い魔召喚の儀式である。 召喚された使い魔は主人と一生を共にするのが定め。 使い魔次第で、主人のメイジとして、また貴族としての人生はどうにでも左右するのだ。 失敗は、許されない。 「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ! 強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」 ――呼びかけに応えたのは、いつもの爆発だった。 周囲を包むのは「あぁ、やっぱりな……」という空気と、言うまでもないが爆発による煙。 だが、失敗ではない。 ルイズは確かに、いつもとは違う手応えを感じていたのだ。 煙が、晴れる。 ……そこには何も無かった。 ――いや、よく見れば一振りの剣が転がっている。黒い鞘に納められた、細身の長剣。 それ以外は、何もない。 「さすがゼロのルイズだ、生き物ですらないとはねぇ! くっくっ」 「使い魔の分も自分で働けって事じゃない? あの剣使って」 「逆に考えるんだ。実は召喚に成功したんだけど今の爆発で吹っ飛んでしまった、と考えるんだ」 そんな嘲笑混じりの野次が飛び交うも、当事者たるルイズは涼しい顔で聞き流していた。 生き物ではない? だからどうした。 使い魔の分も自分で働け? 大いに結構! ――この剣は、紛れもなく私が召喚したものなのだ。 『ゼロのルイズ』などという不名誉極まる異名で呼ばれるのも今日で終わり。 とにもかくにも、この私が初めて魔法に成功したのだ。 それで出て来たのが剣だと言うのなら、私はこのハルケギニアで最強の剣士にだってなってやる! 剣などほとんど触れたこともないが、今から習い始めることだって今の私には苦にはならないだろう。 あぁ、いっそメイジなどよりそちらの方が向いているかもしれない。 表情とは裏腹に、彼女の心は激しく高揚していた。 一分一秒でも早く契約してしまわなければ、血管が破裂しかねないほどに。 しかしそれでも、何故か声だけは冷静そのものだった。 「ミスタ・コルベール。使い魔は生物でなければならない、という規則は有りませんでしたよね?」 禿頭の教師は即答した。 「もちろんだ。君の召喚にその剣が応え、この場に現れた以上、その剣が君の使い魔となる。 その剣は紛れもなく君の使い魔だよ、ミス・ヴァリエール」 ルイズは満足げに微笑んだ。 「では、コントラクト・サーヴァントを行います」 悠々と剣に歩み寄り、拾い上げた。 ルイズの口からほう、と溜息が漏れる。 遠目では気付かなかったが、黒い鞘には目立たないように複雑な模様が彫り込まれている。 製作者の優れたセンスを感じさせる、素晴らしい物だった。 これは蛇……いや、竜の一種だろうか? 架空の幻獣か、それとも―― (……まぁ、いいわ。後で調べてみましょう) 本の虫のタバサなら何か知っているかもしれないし。 ともかく、今は契約が先だ。 静かに、しかし力強く、ルイズは呪文を唱え始めた。 「我が名はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 右手に杖、左手に剣。鞘を掴み、柄の方を上に。 「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」 杖の先で柄に軽く触れ、ゆっくりと顔を近づけ―― 唇が触れる。 ――そして、ルイズは爆煙に包まれた。
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陰陽師 攻撃術 式神召喚・参 目録 召喚術・伍? 必要気合 1120 必要アイテム 呪符 ウェイト 2 効果時間 式神が倒れるまで 発動準備 なし 使用場所 戦闘専用 効果 ランク3の式神を召喚し、ともに戦わせる。 特徴 憑依攻撃(敵単体に若干ダメージと確実に呪い。ウェイト?) 憑依回復(召喚者を回復。ウェイト?) 憑依付与(召喚者にランダムで付与。ウェイト?)が使える 敵の攻撃の対象になる その他情報 名前 コメント
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俺の名前は平賀才人。ルイズの『二人目』の使い魔だ。 元々俺は地球の日本にいたのだが何の因果かハルケギニアっていう場所に呼び出されちまった。 召喚されたときはそりゃ泣いたりしたが『住めば都』っていう言葉通り結構環境が良かった。 ご主人様であるルイズは以前までは結構厳しい性格だったらしいが。 『最初に召喚した使い魔』のおかげでその性格を改善したらしい。恩に着るよ。 俺がルイズに怒ったことは、初めてルイズの部屋に入った時にドアを開けたら本の山が俺に襲いかかってきたことだ。 そのとき俺は本の中に埋まって危うく死にかけるところだった。 部屋の中も凄まじく、ところせましに本の塔が建てられていた。 俺はルイズに少しは片づけたらどうだって言ったらルイズは返事をしただけで以来ちっとも片づけようともしない。 しょうがなく使い魔として掃除しようとしたら乗馬用の鞭で叩かれちまった。痛かったぜ…。 そんなあくる日のこと、ルイズのいない部屋でのんびりしていたらふとある物が目に入った。 それは『帽子』だった。よく魔法使いが被る黒い帽子、それがベッドの横に置いてある。 俺は何故かそれが気になったので帽子を手に取ってみると帽子の下に日記が置いてあった。 タイトルが書かれてあったがこの国の言葉はまだわからなかったら何なのかさっぱりだった。 俺は気になったのでページを開いてみると…そこには懐かしい日本語が書かれていた。 俺はプライバシーに関わりそうな事を理解して、日記を読む事にした。 ○月○日 (これは私が元いた世界の日にちだが) 私を召喚したルイズって奴から日記を借りた。 こんなに珍しい事は無い、珍しい事があったら日記に書き取っておこう。 しかしルイズから聞いた話だけだがこの世界には珍しい物がたくさんありそうでワクワクするぜ。 ▽月⊿日 今日ルイズやキュルケ達と一緒に『土くれ』のフーケとか言う奴を退治しにいった。 そいつはでかいゴーレムを作って襲いかかって来たが私の『マスタースパーク』であっという間に倒してやったぜ。 その後にノコノコと出てきたフーケの正体はなんと学院長の秘書だった。あの時は驚いたぜ。 『破壊の杖』は手に入れたかったが学院長が断固として断ったため代わりに『遠見の鏡』をもらった。 ★月★日 アルビオンから久方ぶりに帰ってきた。 まさかあのワルドって野郎が敵だったとは知らなかった。まぁすぐに倒してやったけど。 後帰るついでにアルビオンの宝物庫からいろいろと拝借してきたぜ。 でもそのせいでお姫様の愛人をむざむざ見殺しにしてしまった。 あの時気づいていれば助けられたのに…本当に情けないぜ。 ☆月☆日 やっと元の世界に帰れる方法を見つけた。 ルイズはそれを聞いて帰らせまいと私にしがみついたが仕方なく自作の眠り粉をかがせた。 この日記は置いておこう、短い間だったがルイズは私のことを本当の親子か何かのように慕ってくれた。 だから私がここにいたことをここに残しておくぜ。後、名残惜しいが良く喋る剣も残しておこう。 本当ならすぐにでも帰りたいがなんかこの国にレコン・キスタとかいう連中が近づいているらしい。 どうせ最後だ、この霧雨魔理沙がハルケギニアにいたことを記録に刻んでやるぜ。 追伸、恐らく次に召喚される奴。人間で日本語が分かる奴に伝えておく。 私の代わりにルイズの世話を見てくれ。 『タルブ会戦』の折、箒に跨りたった一人でレコンキスタの旗艦『レキンシントン』号を沈めたうえに竜騎兵を全滅させたメイジがいた。 その者の名は……キリサメマリサ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、霧雨魔理沙。
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「……はぁ……」 ぽつりと、悲しげなため息が聞こえた。 そのため息の主、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、肩を落とし、眉根を下げ、とぼとぼと広大な草 原を歩いていた。 「……これから、どうしよう……」 ルイズは途方に暮れていた。 先ほど行われていた、春の使い魔召喚の儀式に失敗し、何の成果もなく一人学園に向かって歩いていたからだ。 級友達はみな各々使い魔召喚に成功して、飛べないルイズを置いて帰ってしまっていた。 「……わたし、どうなっちゃうんだろう……」 さすがに落ち込んでしまう。置いていかれたりするのは、魔法が使えない自分にはそう珍しい事でもない。それより、使い魔すら喚 びだせなかったことに暗澹とした気分になる。 「……なんだか、もういやだわ……。……ちい姉さまの声、聞きたいな……」 ふと、ルイズに望郷の念が沸いてきた。 この一年、ルイズは必死に頑張った。必死に一年、砂を噛むような思いで学んだ。幼い頃からダメだった自分に決別するために、あ らゆる努力をした。 劣っていた自分。両親を、厳しい姉を、使用人たちを見返して、優しかった次女の姉を、みんなを喜ばせたかった。それが自分なり の恩返しだった。 認められたかった。ほめてもらいたかった。よくやった、頑張った。お前は頑張れば出来る子だ。そういって頭をなでて欲しかった。 それ以外何もいらなかった。 でも、全ては徒労だった。夜中まで教科書と格闘したり、原っぱで爆発に転がされて泥まみれになったり、周囲の侮蔑に必死に虚勢 を張ったのも無意味だった。 魔法使いたる貴族の基本とも言える、使い魔召喚すらできなかったのだ。いくらルイズが強い信念の持ち主であっても、心が折れて しまった。 「……帰りたい……ぐすっ……」 故郷を思い出すと、自然とルイズの目に涙が溢れてきた。今まで我慢してきた感情が、急激に膨れ上がってくる。 「……ぐすっ……ひっく……もう、やだ……やだぁ……」 悲しくなって、その場に立ち尽くしてしまった。 もう、我慢ができなかった。ずっとずっと、耐えてきたのだ。いつか、きっと努力は報われると信じて。 それでも、現実は残酷にルイズの敗北を突きつけた。どうしようもないほどに、明確に魔法は使えないという事実を。もはや、覆し がたいほどに。 ルイズとて、女の子である。とうとう、膝が折れ、腰が砕けるように座り込んで、ぼろぼろと泣き出してしまった。 「う……うう……う……」 つらい、悲しい。苦しい、耐えられない。 がんばったのに、努力したのに、してきたのに、どうして。わたし、どうしてこうなるの。どうして。 もうだめ。もう苦しい。もう耐えられない。もう、もう……前が、見えない。 誰も見ていない草原の真ん中で、ついにルイズは、恥も外聞も忘れて、大声で泣き出してしまおうとして――― 「っはくちゅっ!」 そのために息を吸い込んだところで、可愛らしいくしゃみをした。 ……。 「……あれ? は、はくちゅ! くちゅん! くちゅん!」 立て続けにくしゃみが出る。 「え、あ……? ずず、うう……な、なに?」 鼻をすすって、不思議そうな顔をした。 急に鼻水が溢れてきている。ルイズには、何事かわからない。 「あ、は、は、くちゅん! くちゅん! はくちゅん!」 世の中、悪いことは重なる物と言われている。 ルイズも、まさにそれであった。 新たな悲劇はルイズの小さく可愛らしい形のいい鼻、その鼻腔の中で、決して人目には触れず、だが確実に―――進行していた。 『彼ら』が動いていた。 長年、このルイズという少女は、『彼ら』にとって攻略すべき目標だった。 見えないことをいいことに、季節が来るたびに波状攻撃を仕掛け、ゆっくりと、しかし確実に『彼ら』は彼女の体を蝕んでいた。 そして、ついに、ついに―――積年の努力が身を結んでしまったのである。 『彼ら』、そう、『彼ら』とは。 「―――ぼくったちっ花粉っくん今年もがんばるぞー♪」 花粉である。 季節は春、彼らの季節である。 これより、ルイズの体内に侵入した精強なる『花粉くん一個小隊』はその猛威を振るおうとしていた。 もはや防衛能力を完全に喪失したルイズの免疫機構は、彼らに対する対抗手段をまったく持たず、哀れルイズの鼻腔は荒らし回られ ようとしていた。 つまりルイズは今年から、花粉症になってしまうのであった。 だが。 『彼』がいた。 異世界より召喚され、強大な力を持つ救世主が。 立派な髭を生やした、初老に差し掛かろうとしている中年男性だった。ピシッと糊の聞いた品のいい上等なスーツを着て、赤と黒の 横縞のネクタイをしていた。 銀で作られた印が前につけられたつば付きの帽子を被り、さらにその上に象徴たる不思議なモニュメントが載せられていた。 そして、『彼』は油断しきっていた花粉たちの前に、颯爽とその姿を現した。獰猛なる二匹のドーベルマンを従えて。 【スカイナーさん】 花粉は―――花粉は、恐れた。驚愕し、目を見開き、思わず悲鳴染みたうめき声を上げ、彼を仰ぎ見るしかなかった。 『―――コラーッ』 スカイナーさんの少しかすれた怒声が響き渡った。 さらにすかさず、スカイナーさん得意の堅固なる防御がルイズの鼻腔を覆い尽くす。 ―――【出始めガード】――― それだけで、花粉は戦う意欲を完全に失った。肩を落とし、降参した。 「アイム、ソーリーーーーっ!!!」 ルイズの鼻腔は、守られた。 「くちゅん! くちゅ……。……。……あ、あれ? 止まった……」 いきなり出てきたくしゃみが、今度は急に止まったルイズは不思議そうに首をひねった。 ルイズは気づいていなかった。 圧倒的な力を持ち、主をあらゆる敵から守りきる偉大なる無敵の盾―――ガンダールヴを自分の鼻腔の中に召喚していたことに。 ヒューマンヘルスケア エーザイ『スカイナーAL錠』のCMより スカイナーさんを召喚
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学院長の秘書であるミス・ロングビルがルイズの下を訪れたのは、医務室でもらった鎮痛剤を飲んでようやくウトウトし始めた頃のことだった。 コンコンという控えめなノックの後に入室してきた彼女の、「学院長がお呼びです。至急学院長室までいらして下さい」という言葉に、ルイズは来るべきものが遂に来た、とある種の覚悟を決めたものである。 ルイズが決めた覚悟とは、留年勧告に対してのものであった。 使い魔召喚の儀式の成否が進級できるか否かに関わっている以上、彼女がそういう覚悟を持ってしまうのも当然と言えば当然である。 しかし、覚悟を決めたと言っても所詮腹が据わったとかその程度のものでしかない。 腹が据わったところで、それだけのことで前向きになれるわけでもないのだ。 そんなわけで学院長室のドアをノックし、「入りたまえ」という言葉に従ってドアを開けたルイズの表情はと言えば、鬱々とした、という表現がぴったりくるような酷いものであった。 「やぁ、よく来たね、ミス・ヴァリエール。病み上がりのところを態々呼びつけてすまなかったのう」 「いえ……」 「怪我の予後はどうかね? 治癒の術と言っても怪我の具合が酷ければ痛みまでは消せはしない。まだ痛むじゃろう」 「朝方に医務室で鎮痛剤を処方してもらいましたから、今はなんとか」 「そうかそうか。しかし無理はいかんぞ? 誇り高き貴族といっても痛みは誰しも平等じゃからの。ああ、そこに掛けたまえ」 促されて応接用の大きなソファに腰掛ける。 オスマンも執務用の机を立ってこちらに向かってくるが、ルイズの視線はオスマンでなく、その横に立つ青年に向けられていた。 少しくすんだ色合いの金髪に、薄汚れたマント、腰には二本の剣を差している。 年はルイズより幾分か上だろう。 その顔には見覚えがあった。 そして、その青年が額につけている鉢金を見ていると、薬を飲んでマシになったはずの頭痛がぶり返してくるような気がした。 間違いない、あの男は――。 「ふむ、どうやら気になっているようじゃし、先に紹介を済ませてしまうかね? 聞いた話では昨日は互いに挨拶をする時間もなかったようじゃからのう」 ひょひょひょ、と長い髭をしごきながらオールド・オスマン。 「では紹介しよう、ミス・ヴァリエール。彼はビュウ殿という。家名はないらしい。ああ、かといって平民と侮ってはいかんぞ? 彼の国では家名というのはあってもなくても構わんようなもんらしいそうじゃ」 その言葉にルイズは怪訝な顔をする。 「平民ではない……? では彼は、彼も貴族なんですか?」 「まぁ土地が違えば律令も変わるもんじゃ。貴族とも違うそうなんじゃが、彼は君に呼び出されるまではカーナ王国というところの騎士団で、戦竜隊という部隊の隊長をしていたらしい。ハルケギニア風に言うと竜騎士じゃな。竜騎士隊の隊長殿というわけじゃ」 「竜騎士――!」 ルイズは今度こそ驚いたような顔で青年、ビュウを見た。 竜騎士といえばハルケギニアでは一部の選ばれた貴族しか成ることの許されない、云わばエリートである。 対するビュウは困ったような笑顔をルイズに向け、その表情をすぐに取り繕うと真面目な顔をしてルイズの前に進み出た。 一瞬ギクリとするルイズだが、 「初めまして、カーナ王国騎士団で戦竜隊の隊長を務めております、ビュウと言います。――その、昨日は本当に申し訳ないことを」 ビュウは、そう言ってぺこりと素直に頭を下げたのである。 困ったのはルイズだ。 留年を告げられる覚悟で来てみれば、昨日召喚失敗で呼び出した使い魔(?)がいて、しかもそれが竜騎士だと言う。 こんな事態は想定していなかったし、いや、そういうことではなく、ともあれそんな一定の地位のある人間にこんな風に頭を下げられて、まあルイズも本来は傅かれる立場の人間ではあるのだが――とにかく慣れていない。 「あ、いえ、その、昨日は私も不注意でしたから……」 「そうは言っても、あれほどの大怪我をさせてしまったわけですし」 「もう怪我自体はよくなってますので、そんなに畏まられるとこっちが恐縮しちゃいます」 お互いに頭を下げ合うという奇妙な構図が誕生する。 オスマンはそれを「何やら見合いみたいで初々しいのう」などと思いつつ眺めていた。 が、いつまでもそうしていては話が進まないとばかりに口を挟む。 「まあまあ、ビュウ殿もヴァリエール嬢もその辺で――こほん、それではこちらも紹介しようかの。 ビュウ殿、こちらが先日貴殿を召喚した我が校の生徒、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢じゃ。 トリステイン王家が諸子、ヴァリエール公爵家の第三公女でもある」 オスマンの紹介にルイズもひとまず立ち上がり、貴族らしい優雅な礼を送る。 先ほどはビュウに機先を制され取り乱してしまったが、ちゃんと挨拶をやろうと思えばそれなり以上のものがキチンと出来るのだ。 学院では単に魔法を教えるだけでなく、貴族として相応しい立ち振る舞いも教育しているのだから。 「ふむ、それでは互いの紹介も終わったところで、ミス・ヴァリエール? 今日は一体どういう用向きで呼び出されたか、分かるかね?」 ルイズの身体に再び緊張が戻る。 そうなのだ、使い魔召喚の儀式から昨日の今日で、今のルイズが学院長直々の呼び出しを受ける理由なんて、そんなものは一つしかない。 使い魔召喚の儀式で人間を呼び出すだなんて前代未聞の大失敗をしてしまったこと、更にはその人間と契約すら出来ていないということ。 それらはすなわち、ルイズの留年という処分を意味している。 留年――その宣告を受け入れる覚悟をしてこの場に臨んだはずだったのに、改めてその事実を突き付けられれば、その衝撃は小さなルイズには受け止めきれるものではない。 もう枯れ果てたと思っていた涙がまた眦に溜まる。 俯いたら零れてしまうと分かっていたから、ルイズは顔を上げ、オールド・オスマンの顔を正面から見つめ返した。 「はい、分かっています。――留年、ですよね」 答えたその声が震えなかったことなど、誇るにも値しない。 だが、対するオスマンから返ってきた言葉はルイズには予想外のものだった。 彼はほっほっほ、と鷹揚に笑い、 「いや、まあ、そういう勘違いをしとるじゃろうとは、お主が部屋に入ってきたときから分かっておったがのう」 勘違い、というオスマンの言葉にきょとんとする。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢?」 「は、はいっ!」 「お主は自分が留年の処分を下されるだろうことについて、最早決定された事項であるかのように思っとるのかもしれんが……ふむ、今のところ、それはまだ保留じゃ」 「ほ、保留、ですか……?」 「うむ、お主は使い魔召喚の儀式で人間を呼び出してしまった。それはいい。あ、いや、いいとは言い切れんかもしれんが、ともあれじゃ、それはこの際わきに置いておく。 重要なのは、お主とビュウ殿の間で結ばれるはずであった契約の儀式、コトラクトサーヴァントの術が未了のままとなっていることなのじゃよ」 どういう意味なのか理解できない、といった風情のルイズのために、オスマンは言葉を砕く。 「ミスタ・コルベールもそうじゃが、わしとしては、この度のお主の成した使い魔召喚の儀式、それ自体は失敗ではないと思っておる」 「え!?」 「使い魔召喚の儀式とは、本来マスターとなる術者の得意分野を反映したような性質の者を召喚するというだけでなく、或いはマスターの苦手分野を補強するような性質の者を召喚する、という儀式でもあるのじゃ。 ミス・ヴァリエール、お主にとってのビュウ殿がその何れであるかは現時点では分からん。しかし、お主がビュウ殿を召喚したことには必ず何かの意味があるはずなのじゃ。 召喚の儀式とは、それすなわち始祖ブリミルのお導きであるとも言えるのじゃからな」 「……」 「召喚は成功した、成功したのじゃよミス・ヴァリエール。契約の儀式にしたって、儀式が完成する前にちょっとしたアクシデントがあって完了していないだけなのじゃ。 完了していないのならば完了させればいい。それだけの話じゃ。コントラクトサーヴァントが完了し、それが成功すれば問題は何も無くなる。留年になどなりゃせんのじゃよ」 オスマンは言って、にっこりと柔和な笑みを浮かべた。 優しげで深みのあるその笑みに、ルイズの緊張はこれまでのそれが嘘であるかのように解きほぐされていく。 これで留年せずに済む、家族に余計な心配や恥を掻かせなくて済む――そう考えただけで、先ほどとは全く意味合いの異なる、つまり安堵の涙がこみ上げてこようとしていた。 しかしルイズはすぐにハッとして涙を引っ込めた。 自分はそれでいい、それで助かる。 だが、その肝心の契約相手の方はどうなのだろうか? なにしろ使い魔の契約は相手の一生を縛り付けるものなのだ。 ビュウは何処かの国に仕える騎士であり、隊長としての立場がある。 契約の解除は使い魔の死によってしか成し得ないというのに、そんな立場のある人間が、自分なんかと使い魔の契約を交わしてくれるのだろうか……? そのルイズの視線の意味を察したのだろう、ビュウは少し困った顔をして口を挟んだ。 「僕は構いませんよ、ミス・ヴァリエール。こちらにも少し事情がありますので」 「事情、ですか?」 「まあ、話せば長くなるんですけどね?」 そう断りを入れて、ビュウは簡単に自分の故郷のことや、これから行動するに当たっての指針が全くないということを説明する。 ルイズは特にビュウの故郷であるオレルスのことについて色々と疑問を持ったが、それらを全て飲み込んで一つの質問を口にした。 「でも、コントラクトサーヴァントの儀式を行ったら、契約の解除は使い魔の死をもってしか成し得ないって」 「ああ、そこは僕も引っ掛かってはいたんですが、オールド・オスマン?」 「うむ」 話を振られたオスマンが髭をしごきながら答える、ルイズには他言無用じゃぞ?、と釘を刺して。 「実を言えば裏道、というか抜け穴のようなものがあるんじゃよ。だから、それを使えば使い魔の契約は破棄できる。 ただまあ、これを公にしてしまうと気に入らない使い魔を引き当てた生徒なんかが大挙して押し寄せそうじゃからのう。 散々言われたと思うが、使い魔召喚の儀式は神聖な儀式、そうそうやり直しなど認めるわけにはいかんのじゃ」 じゃから、この話は内密にな? と人差し指を口にあてながら笑ってみせるオスマンだ。 そこからまたビュウが話を引き継ぎ、 「そういうわけでね、オレルスに帰るための目処がつくまでは、君の使い魔というのをやってもいいと思っています。 帰る方法についても学院の側で支援してくれると言うし、その間の衣食住の提供もしてもらえると言うからね。その、君には半端な覚悟の使い魔と思われるかもしれませんが……」 「とまあそういうわけなんじゃよ、ヴァリエール嬢」 オスマンはニッと笑い、それから不意に真面目な顔に戻る。 正面からルイズの瞳を見据えて言った。 「後はもうお主が決断を下すだけなんじゃ、ミス・ヴァリエール。彼を使い魔とせんと契約の儀式に望むか。 或いは彼を使い魔とすることを不服として留年、来年の儀式に望みを託すか、二つに一つじゃ。 さぁ、ミス・ヴァリエール。お主はどうする、どちらの道を選ぶのじゃ?」 強い瞳で決断を迫る学院長の眼差しは、ルイズに適当な解答を許さない威圧感がある。 しかしそんな威圧感など今のルイズには全く意味の無いものだった。 何故ならルイズには、ここで契約をしないという選択を選ぶ理由が一つも無い。 人間を使い魔とすることに抵抗がないかと聞かれれば、それは確かにノーだ、抵抗がないわけではない。 だが、オールド・オスマンの話を聞いた今では、確かに自分が彼を、ビュウを呼び出してしまったことには何か大切な意味があるはずだと、そんな風に思える。 簡単にそんな風に心変わりしてしまえる自分の単純さをルイズは自嘲するが、そんな自嘲こそ今は無意味だ。 ルイズはビュウを見る。 その青い瞳を見つめ、何かは分からないが、その瞳に何かがあるとそう思った。 もしかしたら、すぐにオレルスへ帰れる方法が見つかって、使い魔とその主でいられる期間なんてほんの僅かなのかもしれない。 いかに使い魔と主という関係にあっても結局は人間同士、うまく付き合うことなんて出来ないかもしれない。 もし、そうでも、そうなったとしても、オスマンの言葉を聞き、ビュウの瞳を見つめ、例えそんな風になってしまったとしても、彼と契約を結ぶことは全くの無意味ということにはならないと、ルイズはそんな風に思った。 そう、確信した。 「私――やります! 彼と、契約します!」 ルイズは力強くそう宣言し、オールド・オスマンは満足げにその宣言を聞き届けた。 トリステイン王立魔法学院の学院長室の中央に淡い光を放つ魔方陣が浮かび上がる。 その中心に立つのは一人の少女と一人の青年、ルイズとビュウだ。 陣の外側には学院長のオールド・オスマンと、教師のコルベールがついて見届け人となっている。 契約の儀式、コントラクトサーヴァントの術はここまでは順調に来ていた。 陣の形成も安定しているし、魔力の循環も問題なく行われている。 教師としての視点で言えば、いま少しルイズの方に力が入りすぎている気がしないでもないが、それでも許容範囲内だろう。 やがてルイズの呪文の詠唱が終わり、契約の儀式のための陣が完成する。 ルイズはそっと一息をついて、これから彼女の使い魔となる青年、異国の竜騎士を見つめた。 「準備、完了しました」 「えっと、なんと言ったらいいか……お疲れ様です」 その少しとぼけたような物言いにルイズは小さく吹きこぼす。 ビュウも我ながら間抜けなことを言ったと思ったのか、少しバツの悪そうな顔をした。 「あの、契約をする前に一つだけいいですか?」 「なんでしょう?」 「その、もし失礼でなければ、これからはお互いに敬語はなしで、敬称とかもなしでってことでいきません?」 「あ、僕やっぱり堅苦しかったですか?」 「まぁ使い魔と主っていう関係を考えれば、本当は対当じゃあないのかもしれませんけど、むしろ私たちの場合はそっちの方が正しいのかなって気がして」 「僕もそっちの方が気が楽ではあります」 「それじゃあ……」 「はい……、じゃなくて、ああ――」 ビュウがルイズの肩に手を置いた。 ルイズもビュウの胸にそっと手を当て、ちょんと背伸びをする。 「ルイズ」 「ビュウ」 名前を呼び合い、そして―― 「「今、契約を――」」 唇が、重なる。 部屋は光に包まれ、今ここに、ルイズとビュウの契約が成立したのであった。
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>>next (やった、ついに……ついに成功したんだわ!) 使い魔を呼び出す「サモン・サーヴァント」の儀式……いつものように「ゼロのルイズ」とクラスメイトたちに囃し立てられる中、 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは杖を振った。 お約束の爆発と白煙に、湧き上がるクラスメイトたちの嘲笑。 しかし、もうもうたる白煙が次第に薄れると、笑いはさあっと波が引くように静まっていった。 煙の中から姿を現したのは、およそ2メイルにも達する巨大な金色の幻獣であった。 「まさか、成功したのか!?」 「ゼロのルイズがあんな幻獣を……」 クラスメイトのざわめきを、ルイズはこのうえなく心地よく受け止めていた。 (私だって、私だってやれば出来るのよ。これだけの幻獣を召喚できるメイジなんて、そうはいないわ!) 「ほう、これはお見事ですな、ミス・ヴァリエール! さあ、『コントラクト・サーヴァント』を済ませるのですぞ」 コルベール師がにこにこと相好を崩した。 劣等生で手のかかるルイズが見事に「サモン・サーヴァント」を成功させたことは、人のよいコルベールには大きな喜びだった。 「はい、コルベール先生」 ルイズは、すう、と息を吸うと、召喚した幻獣に向かって歩み寄る。 目の前にうずくまる使い魔は、見るほどに見事な幻獣だった。黄金に輝く体毛、力強い四肢に鋭い爪。そして、こちらをじっと射抜く視線―― この幻獣を自分が召喚したのだ、という喜びに、ルイズの胸が震える。 「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 杖を幻獣の額に置こうとした瞬間だった。 「人間か……」 幻獣が、ニヤリと口を開く。口の中には獰猛な牙がずらりと並んでいるのが見えた。 (――ししし、しゃべったー!?) ルイズの目が驚愕に開かれた。人語を解する幻獣が居ないわけではない。例えば韻竜は先住魔法や人語を操るという。 しかし、実際に幻獣がしゃべるのを見るのは初めてであり――ルイズはペタンとその場でしりもちをついた。主人の威厳台無しである。 「あああんた、しゃ、しゃべれるのね。なな名前は?」 それでもルイズは、震える声で精一杯威厳を取り繕って幻獣の名前を聞く。 「やれやれ…相変わらず人間はやかましいな。まあ、いい……わしは……長飛丸――いや、ちがうな」 幻獣は、ずい、と身を乗り出し、ルイズの顔を見据えた。 「わしは、とらだ。小娘――覚えときな!」 ルイズは必死の表情で、コクコクと頷いていた……。 「驚きましたな……人語を操るとは。いやはや、わたくしでも見たことがない珍しい幻獣ですぞ! ふむ……サラマンダーでも、ドラゴンでもない。あえて言えばキマイラかスフィンクスでしょうか……」 コルベールが興味深々といった様子で近づいてきた。研究熱心な彼の目は好奇心で輝いている。彼の頭もまた、光を浴びてさんさんと輝いていた。 (コイツ、光覇明宗のボーズか……? まあ、いいやな) 「とら」と名乗った幻獣はルイズに向き直った。 「おい小娘……るいずといったか? 教えな、わしはどうしてここにいる? 冥界の門をくぐったとばっかり思ってたがな」 「コ、ムスッ……コホン、いいわ、おお教えてあげる。アンタは、わわ私が『サモン・サーヴァント』で使い魔として召喚したの! こ、ここれから『コントラクト・サーヴァント』の魔法で契約を結ぶのよ」 びびりながらもルイズは台詞を最後まで言い切った。それにしても、「とら」とは奇妙な名前だった。 いや、人語を解する幻獣だ。どんな名前だろうと不思議ではないのかもしれない。 とらは冷静に目の前に立つ人間を見つめていた。桃色の髪の娘は、西洋風の服を着て手に小さな杖を持っている。 (法具、じゃねえな。錫杖にしちゃ小さすぎる。どうやら、大陸の「魔術」ってやつか……) 妖怪を使い魔として召喚する術者たちのことは、とらにも聞きおぼえがあった。以前戦った「お外堂」たちのようなものだろう。 (ち、さっきからわしが動けねえのは、そのせいかよ……) 使い魔か、と考えてとらは少々うんざりした。できることならさっさと空に飛び出し、思うさまに暴れてみたいところである。 とはいえ、自分は確かに白面との戦いで消滅したはずだ。 状況から考えて、一度消滅した自分をここに召喚したのは、まぎれもなく目の前の小さな娘だった。 「……まあ、暴れたらまたうしおがうっせーだろーしよ……それにオマエには借りが出来たようだな、小娘――」 「ははは、はいっ!」 「さっさと済ましちまいな、その契約とやらを」 そう言って、とらは舌を突き出しながら凶悪に笑った。ルイズは失禁をこらえながら、ギクシャクととらに近づく。 そして、震える手で杖を差し出すと、とらの額にあて、そっと背伸びをしながら、とらにキスをした。 「こ、これで終わりよ。あああと、体のどこかに使い魔のルーンが刻まれるわ」 ルイズの言葉通り、とらの左手が熱を帯び、やがて金色の体毛にルーンが浮かび上がる。……やれやれ、呪印かよ、と呟くとら。 「ほほう、珍しいルーンですな……いや、まったく面白い。とら君、あとでぜひいろいろお話を聞きたいですぞ! 幻獣から直接話を聞ける機会など、そう滅多にありませんからな!」 にこにこと笑うコルベール。しかし、その姿は、どこか不思議な力に満ちていた。ちょうど、法力を放つ直前の法力僧のように―― (そうか、こいつ、うしおのオヤジに似てやがるんだな。普段は笑っているが、こいつ、つええな) とらはニヤリと笑った。強いものが好きな性格だけは死んでも変わるまい。 「……ボーズ、わしはその幻獣てのじゃねえ。バケモンよ。大キレーな呼び方だが、大陸じゃ字伏と呼ばれた妖怪だ」 「おおお! アザフセ、ですか。まったくの新種だ、素晴らしい、とら君! ……ハッ、いかんいかん、忘れておった」 メモを取っていたコルベールは、慌てて生徒たちを見回した。 「皆さん、教室に戻りますぞ」 生徒たちは次々と、「フライ」の魔法で飛んでいった。とらは感心して飛んでいくメイジたちを見ていた。 この連中はなかなか法力――いや、魔力が高いように見える。法力僧でも空を飛ぶような者はそう居なかった。なのに、子供まで―― 「む、小娘――オメーは飛ばんのか?」 一人取り残されたルイズは、ふるふると震えていた。 「飛べないのよ……あああと、あたしの名前はルイズよ。小娘は、やや、やめて」 しゃーねえなあと、とらは頭をかく。そのまま、むんずとルイズの細い腰をひっつかんだ。 「きゃあ、ちょ、なにーっ!?」 「つかまってろ、るいず。飛ぶぞっ!」 日本で長飛丸の異名を持ち、そのおそるべき速さを恐れられた妖怪は、ルイズをつかんだまま風のように飛び上がった。 耳元で風が猛々しくうなりをあげる。 (ああ……ひょっとして、わたし、やばいの、召喚、しちゃった、か…も……) 「ひょおおおおおおおおおっ!!!」 薄れていく意識の中で、ルイズはとらの歓喜の雄叫びがトリステイン魔法学院に鳴り響くのを聞き…… 気を失った。 >>next