約 1,012,590 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5017.html
前ページ次ページトルネコの大冒険・不思議な使い魔 召喚時に吹きあがった大量の煙が、キュルケの視界を悪くしていた。あのルイズが、ついに何者かを召喚したのだ。キュルケは、からかいがいのある友人の成功に内心喝采を送りたい気分だった。 ルイズの努力も、憤りも、全てがキュルケの好みだった。さんざんからかっておきながら、キュルケは本心ではけしてルイズのことが嫌いではなかった。 ルイズの成功を本心から喜んでいるのは、彼女を除けば担任のコルベールくらいのものだろう。しかし、そこはキュルケだった。喝采のかわりに、何かしらいってルイズをいじってやろうと笑みを浮かべる。 だが、煙の中から現れた影を見て、キュルケはからかいの言葉を呑み込んだ。 キュルケ以外の生徒の反応はもっと露骨なものだった。 固唾を呑んでいた中で、誰かが我慢できないように噴出したのが引き金になった。 どっと巻き上がる笑い声。 「ぜ、ゼロのルイズが平民を喚(よ)びやがった!」 「いい加減にしてくれよな、俺たちを笑い殺す気かよ!」 ぎゅっと両手を握ってうつむくルイズ。その姿を見て、キュルケは思わず駆け寄って抱きしめてやりたい衝動に駆られていた。 *** 巻き上がる笑い声を、ルイズは手のひらにつめを立て、唇を噛むことで耐え抜いた。 落ち着け、と自分に言い聞かせる。屈辱に耐えろ。慣れるのではない、耐えるのだ。 今までの失敗よりはましなはずだ。何もないよりは、ゼロよりはましなのだ。 何しろ、彼女の召喚にこたえて、何かが来たのは事実なのだから。 ルイズは自らが呼び出した相手を観察した。 彼女の召喚に応じたのは、たっぷりと突き出した腹ときちんと手入れをされた口ひげを持つ、穏やかな顔つきの中年の男だった。 縦縞のシャツにベストを羽織り、足元はたっぷりと余裕のあるズボンに靴。頭には平たいパンケーキのような帽子を被り、体の倍はありそうな、はちきれそうに膨らんだ大きなかばんを背負っていた。 と、驚いたように周囲を見回していた男がルイズの視線に気がついた。男はにっこりと笑うと、確かな足取りでルイズのほうへと歩いてきた。 思わず後ずさるルイズに気をつかったのか、絶妙な距離で立ち止まると言葉を発した。 「こんにちは、お嬢さん! 見たところ、あちらで楽しげに笑っている方々も、お嬢さんもどうやら人品卑しからぬ身分のご様子。私はこのあたりは初めてなのですが、今日はお祭りか何かなのでしょうか?」 「――あんた、誰」 「これは申し遅れました」 愛想よく男が言った。 「私の名はトルネコ――旅の武器商人をしております」 ぶっちぎりで平民だった。 *** ルイズは猛烈な勢いで抗議をした。コルベールに食って掛かり、召喚のやり直しを訴え、その全てを拒否されてうなだれた。笑い転げる生徒たち。 ルイズはやるしかない、と覚悟を決めた。 その間、トルネコは一切口を挟まなかった。興味深そうに黙り込み、時々考えるような表情を浮かべるほかは何もせずにいた。 いや、一度だけ奇妙な行動をとっていた。後ろ手にかばんを探ると、美しい羽根で作られた装身具のようなものを取り出し、エジンベア、とつぶやいて空に投げた。 なにもおこらずに落ちてくる羽根を片手で受け止め、なるほど、とだけ口にする。 覚悟を決めたルイズがトルネコの前に立つ。 「かがみなさい」 「何故ですか?」 「いいから!」 かんしゃくを起こしかけたルイズに笑みを浮かべて、トルネコは片ひざをついてルイズと同じ高さまで視線を下げた。 「"我が名はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール"」 ルイズの呪文が響き渡る。 「"五つの力を司るペンタゴン。かの者に祝福を与え、我が使い魔となせ"」 ルイズは両手を伸ばして、トルネコの顔をとらえようとし―― がっちりとトルネコの手で押さえられた。 「な、何をするのよ! 平民の癖に!」 「今、口づけをしようとしたでしょう」 トルネコがすまなそうにルイズにいう。 「私は妻帯者でして。たとえお嬢さんのような歳の方であっても、妻以外の女性と口づけをするのには抵抗が」 「なにそれ!?」 トルネコの言葉が聞こえたのか、周囲の生徒たちがさらに大きな声で笑う。 「いいから放しなさい! 命令よ!」 「そうは言っても」 そのとき、後ろから来ていたキュルケがトルネコの腕をつかんだ。 「今よ、ルイズ!」 笑いながらキュルケが言う。 「ちょ、ちょっとお嬢さん!?」 「ルイズ! 男の人はね、なんだかんだ言って既成事実を作ってしまえばこっちのものよ!」 「妙に生々しくないですか! もしもし!?」 「ありがとうキュルケ! 今日だけはお礼を言うわ!」 ルイズは飛んだ。己の全人生がかかっているこの瞬間のために飛んでいた。 キュルケに押さえられているトルネコに向かって飛んだ。その唇を奪うために飛んでいた。 *** 結局、一度学園に戻ってコルベールが説明をすることになった。 なぜか和やかな雰囲気になってしまった召喚の儀式に、コルベールも苦笑を隠しきれない。 他の生徒たちが空を飛んで学園へと戻る中で、ルイズ、トルネコ、コルベールの三人が並んで歩いていく。 「ほう! つまり私はある種の魔物のように召喚され、こちらのルイズさんと使い魔の契約をしたということですか!」 「ええ」 適切なタイミングで入る質問と感嘆の声に、コルベールは気持ちよく説明を続けていた。 「私もこの仕事について長いですが、人間が召喚された例は初めてです。色々と困ることもあるでしょうが、学園も、そして私個人も協力を惜しみません」 「ありがたいことです」 なるほど、なるほどとつぶやきながら、トルネコはあごに手を当てて考えるような表情を浮かべていた。 ルイズは中年男たちの会話を上の空で聞いていた。冷静になって、少しずつ状況に対する理解が芽生えてくる。色々と問題はあったが、ついに彼女は使い魔を手に入れたのだ。 つまり、私は平民を使い魔にしたわけね、とルイズは思う。他の生徒に比べれば見劣りするが、それでも使い魔を手に入れたのは事実。これで、誰にもゼロとは言わせない。 と、そこでルイズは本来の頭の回転を取り戻し、問題がそれだけではないことに気がついて青ざめた。 「もういくつか質問をしてもよろしいでしょうか」 というトルネコの声が遠く聞こえる。 コルベールがルイズの様子に気づかずに気安くトルネコに 「どうぞ」 と言った。 トルネコが穏やかに言った。 「今回の犯罪に関する責任は、結局どなたが負うことになるのでしょうか」 *** トルネコの説明を聞くにつれ、コルベールの顔も青ざめていった。 「ええ、確かに平民は貴族の方々には逆らえないでしょう。ですが、『私が平民である以上、どこかの領民である』という当たり前の事実を無視なされたのは問題ではないですかな?」 トルネコは穏やかに続けた。 「私がこの国の人間であるならばまだ問題は簡単でしょう。ですが、私はそうではない。あなた方は、他国の人間に内容を知らせないままに契約を強要し、それが当然と言う態度をとった」 トルネコは背負っているかばんをゆすって見せた。 「私は武器商人です。武器を商う以上、最大の顧客が誰かはおわかりですね? ――そう、軍隊であり、軍隊をもつだけの領主さまがたです。わたしも幾人か懇意にさせていただいている方々がいます」 いまやコルベールの顔は蒼白だった。反対に、トルネコはにこやかな表情を崩さない。 ルイズは、自分が呼び出したのがどういう男なのかを理解していなかった。 トルネコは商人だった。武器を商う人間だった。 戦争間際にある二国家間で、人殺しのために使われると知りつつ武器を売りさばき、利益を上げられる男だった。 武器という極めて市場の限られる商品を、ほぼ囲い込みが完成している商品を、旅先で商い利益を上げられる男だった。 血のにじむような努力の果てに得た資金を、トンネル採掘や町の発展といった公共の利益のために投資できる男だった。 魔物に命を狙われ、各地を転々としながら、それでも生き延びられる男だった。 そして。 美しい妻。可愛い息子。あの、故郷を失った少女。勇者と言われた少女。 トルネコは夫であり、父であり、勇者の、英雄の仲間だった。 「では、話し合いましょうか」 トルネコは穏やかにコルベールに言った。 前ページ次ページトルネコの大冒険・不思議な使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8008.html
前ページ次ページ三重の異界の使い魔たち ~第4話 もう1組の主従~ ハルケギニアの竜の中に、古代から伝説として詠われる種族が存在する。その種族は言語感覚に 優れ、知能は通常の竜はおろか人間さえ上回り、先住魔法の名で知られる精霊の力を操り、強力な 息吹を武器とし、大空を疾風のごとく飛翔する。 その強力な種族を韻竜といい、その中で風と深く関わる眷族は風韻竜と呼ばれた。 「そして、その一員が、このイルククゥなのね! きゅい!」 魔法学院の片隅で、齢約200歳――人間でいえば10歳前後――である竜の少女、イルククゥは、 自らを召喚した桃色がかったブロンドの少女、ルイズにそう名乗る。その召喚者は半ば呆然とした 表情でイルククゥを見上げていると、やがて我に返ったらしく口を動かしはじめた。 「まさか、貴方が韻竜だなんて思わなかったわ……」 信じ難いとばかりにルイズが言う。 「きっとそうだと思ったから、黙ってただの風竜のふりをしてたの! だって、ルイズ様ったら 風竜を呼んだと思っただけで泣いて喜んでるんですもの!」 風韻竜が人間に劣るなどとはこれっぽっちも思っていないが、一応は使い魔となったのだし 相手のことは様付けしておく。 「これで、わたしが風竜どころか風韻竜だなんて判ったら、嬉しがりすぎで死んじゃうかも しれなかったわ! この風韻竜の機転と心遣いに、感謝するがいいのね!」 初めて一族から暮らす巣の外に出てきたことと、初めて人間と会話していることの興奮から、 イルククゥは口も軽く言葉を吐き出していく。普通の竜ならばこんな風にぺらぺらと喋ることなど 不可能だが、韻竜である彼女には雑作もないこと。それにイルククゥは年頃の少女らしくお喋りな 気質なのだ。 「なんだか微妙に偉そうな態度が気になるけど、それにしても驚いたわ」 イルククゥが1人言葉を続ける中で、ルイズは少し落ち着いたらしい声をだす。 「韻竜は、もう絶滅したっていわれているのに」 「きゅい! それは違うのね。わたしたちは、人間の目から離れた場所に巣を作って、そこで 暮らしているの」 ルイズの言葉に、イルククゥは召喚される直前までいた場所を思い出す。 彼女たちの一族は、俗世間から遠く離れた場所で、修道僧のように毎日大いなる意思への祈りを 捧げ続けるという、なんとも退屈な暮らしを続けていた。父曰く、自分たちのような古い一族は あらゆる危険から離れて長生きすることが世界への恩返しなのだというが、巣の外へ出ることも 許されない生活なんて幼いイルククゥには窮屈すぎる。 だからこそ、イルククゥはルイズが開いた召喚のゲートに、迷わず飛び込んだのだ。偉大なる 古代の眷族たる自分を召喚するのだから、さぞや強力な魔法使いなのだろう、その人物から様々な ことを学べば、一族に新たな知識をもたらせるだろう、そんな期待を胸に。 ゲートの主が思ったよりも頼りな気な少女だったということは少々期待外れだったし、偉大なる 風韻竜の自分をただの風竜呼ばわりしたことには多少怒りを覚えたが、自分に抱きつきながら涙を 流す姿を見ては、とても刺激するような真似はできなかった。 それに、ルイズの容姿が人並み外れて整った、可憐な容姿であることも大きい。ウェーブ気味で、 桃色がかったブロンドの綺麗な長い髪。小柄でほっそりした、柔らかそうな体。勝ち気そうな鳶色の 双眸を持つ、あどけなくも高貴さを感じさせる顔立ち。竜の目から見ても、ルイズは美しいと認める ことができた。イルククゥも女の子、可愛いものには弱いのだ。人間の少女が愛らしい猫や犬に頬を 緩めるように、異種族であっても、むしろ異種族だからこそか、可愛いものは可愛いと感じてしまう ものらしい。 一方、ルイズはイルククゥの言葉に1つ頷くと、なにやら顔を笑みで彩りだす。 「私が、風竜どころか風韻竜を召喚するなんて」 小さな呟き、それを皮切りに、自信に満ちた声が放たれていく。 「そうね、そうよね! とうとう努力が実ったんだわ! 私だってヴァリエール公爵家の娘なんです もの、いつか大成するって信じてたわ!」 満面の笑みで、ルイズは自分の召喚の結果に、再度の喜びを露わにした。ほんの少しだけ、また 目に涙を見せながら。 「見てなさいよ、あいつら! なんたって風韻竜を使い魔にしたんだから! これでもうゼロだ なんて呼ばせないわ!」 「ゼロってなに?」 「なんでもないの! もう関係ないんだから! きっと、この調子で私はどんどん才能を開花させて いくわ!」 言いながら、ルイズは腰に手を当てて薄い胸を張った。 それにしても、先程は泣いて喜んだと思ったら、今度はこの自信たっぷりの様子。愛らしい外見の 割に、結構調子に乗り易いタイプなのかもしれない。 もっとも、お調子者なのはイルククゥも同じなので、似た者主従といえるのだが。 それはともかく、自分を召喚したことでこれほど喜んでくれるルイズに、イルククゥは好印象を 抱いた。 「きゅい! そんなに喜ばれると、わたしも嬉しくなってくるわ! きゅいきゅい!」 歌う様な調子で言いながら、イルククゥはあることを思い出した。 「きゅい! でも、ルイズ様! これだけは覚えておいてほしいのね!」 「? どうしたの?」 「あのヘンテコ! あの気持ち悪いのには、近づいちゃダメなのね!」 イルククゥの言葉に、ルイズは首を傾げるばかりだ。そこでイルククゥも記憶をたどり、補足の 言葉を重ねる。 「ほら、あの青い髪のちびっこ! あの子の召喚したのの1匹なのね!」 「青い髪……ああ、あの子、タバサっていったかしら」 「そうなのね、って、ありゃん? ルイズ様あの子のこと知らないの?」 同じ魔法学院のクラスメイトだということなのに、よく知らなそうな様子に疑問符を浮かべる。 「去年は別のクラスだったし、あの子目立つタイプじゃないから」 ルイズは説明しながら、それにツェルプストーとよく一緒にいるし、とよく判らないことを言って 眉をしかめた。 「それで、あの子がどうかしたの?」 聞き返す召喚者に、若干苛立ちながらイルククゥは繰り返す。 「だから! あの子が召喚したヘンテコ! 3体も召喚されてたけど、その中で1番気持ち悪いの!」 「ああ、あの気味の悪い仮面のこと?」 イルククゥはこくこくと頷いた。 「そうそう、そいつ! あれには近づかない方がいいのね、というか絶対近づいちゃダメなのね!」 「う、うん。まあ、あんなのに近寄りたくはないけど」 鼻息荒く迫れば、ルイズがやや(?)怯んだ様子で応える。 「でも、なんでそこまで念を押すのよ?」 不思議そうな顔で尋ねてくるルイズ。それに一瞬イルククゥの方がきょとんとするが、すぐに 人間は精霊の声が聞こえないことを思い出した。 「あのヘンテコ、絶対危険なのね! だって、あいつが出てきた途端、周り中の精霊たちが一斉に 警戒しだしたんだもの!」 「精霊が警戒? そんなことってあるの?」 どうやら韻竜が精霊の声を聞ける種族であることは理解しているらしい。召喚者の博識ぶりに 嬉しくなるが、今はおいておく。 「今まではそんなこと1度もなかったし、お父様もお母様も長老様たちも、誰もそんなことが あるなんて言ってなかったのね。だから、そんな事態を引き起こすあいつは、絶対に危ない奴 なのね!」 語気も強く、力説してみせた。あんな者に、この愛らしい召喚者を会わせるわけにはいかない。 あの時の精霊たちの声、あんな怯えを含んだ声なんて、聞いたことがなかった。第一、あの 仮面の姿自体も気に入らない。繰り返すが、イルククゥは女の子。可愛いものは好きだが、不気味な ものは嫌いなのだ。まずは外見で第一印象が決まることは、どの種族もあまり変わりがない。 「えーっくし!」 「どうしたの、ムジュラの仮面?」 突然奇妙な声を上げるムジュラの仮面に、ナビィが驚いた。 「いや、なにか急にくしゃみが……」 ムジュラの仮面が戸惑った風で言うと、今度は才人が訝しむ。 「鼻も口もないくせに、どこでくしゃみ出すんだ?」 「いや、オレもこれまでこんなことはなかったんだが……」 そして、ムジュラの仮面は体ごと首を傾げ、周りの者たちも合わせる様に首を捻るのだった。 「そう、判ったわ。元々そうするつもりはなかったけど、あの仮面には近づかないようにする」 シルフィードの警戒心が伝わったのか、ルイズは先程よりもはっきりと約束してくれた。それに 安堵の息をつくと、今度はルイズが表情を引き締めて口を開く。 「でも、私の言うことも聞いてちょうだい」 「? なんなのね」 聞き返すと、ルイズは周囲を見回して、人目があるかどうかを確認した。今更という気がするの だが。やや呆れ気味に見ていると、ルイズはイルククゥに近づき顔を下げさせる。 「今日から、人前で言葉を話すのはダメだからね」 そして、声をひそめて耳打ちされた言葉に、激昂する。 「何を言い出すのね、この桃色娘は! 偉大なる風韻竜であるこのわたしに、いつまでもおバカな 風竜なんかのふりをしていろっていうの!」 唾と一緒に抗議の声を飛ばした。今日はルイズが落ち着いてからということで我慢したが、 これから毎日会話してはいけないなど冗談ではない。その怒りのままに、イルククゥは文句の 言葉を放っていく。その声の風圧に吹き飛ばされそうになりながらも、ルイズは長い髪を抑えつつ 言葉を続けた。 「お願い、聞き分けて! 韻竜種は絶滅していると思われてるし、もし貴方のことが知れたら きっと大変なことになるわ!」 「大変なことって、どんなことなのね」 まだ憮然としながらも、少し声を抑えてイルククゥは聞いてみる。その質問に、ルイズが 溜息混じりで説明を始めた。 「きっと、アカデミー(魔法研究所)が研究のためだっていって、貴方を連れていっちゃうで しょうね。もしそうなったら、きっと連日連夜実験材料にされて、挙句の果てには体を バラバラに……」 ルイズの語る内容に、イルククゥは慄然とする。 「こわい!」 たかだか言葉を喋るか喋らないか程度のことで、そんなことになり得るとは思いもよらなかった。 恐怖の声を上げるイルククゥに、ルイズは頷く。 「そう、恐いことになっちゃうのよ。私もそんなことにならない様させたいけど、アカデミーは 王立機関だからヴァリエール家でも流石にどうにもできないし、それに万一エレオノール姉さまに 知れようものなら……」 そこまで言うと、突然ルイズは身を震わせ始める。 「きゅい?」 それに怪訝としていると、ルイズの口からなにやら言葉が漏れていることに気が付いた。 「ごめんなさい姉さまでもイルククゥはせっかく召喚できた私の使い魔なんですだから 取らないで……」 「きゅ、きゅい……?」 自分の鱗のように顔を青くしながらぶつぶつと呟くその姿に、イルククゥは我知れず 後ずさった。その距離、約3メイル程。先程のエレオノール姉さまなる人物に、よほどなにか あるのだろうか。 「貴族の義務は判っていますですけどおねがいです連れていかないでああごめんなさいほっぺた つねらないで顔ふまないでごめんなさい母さまへの報告だけは堪忍して……」 「あ、あの……、ルイズ様……?」 憑かれたように独り言を続けるその様は正直不気味この上ないが、イルククゥは思い切って 声を掛けてみた。そこで、やっと正気に戻ったらしいルイズが咳払いをする。顔色はまだ 真っ青なままだ。 「と、とにかく、喋ったら大変なことになるから、他の人には喋っているところを見られない ようにしなきゃダメなんだからね!」 びしっと指を突きつけてくるルイズに、イルククゥは勢いよく首を上下させた。先程の尋常で ない、むしろなさすぎるルイズの様子に、すっかり不安が伝染してしまったのである。 そこで、ルイズが何か思いついたような顔をした。 「そうか、それなら名前も変えた方がいいかもしれないわね」 「きゅい? 名前?」 「ええ。イルククゥって可愛い名前だと思うけど、私が思いつくような名前じゃないし、なんで そんな名前にしたかって聞かれたら答えられないもの。もし聞いてきたのが姉さまだったり したら……」 そこまで言って、また何処か遠い所に行ってしまいそうになりかけるルイズに、イルククゥは 慌ててブレーキを掛けさせる。 「そ、そういうことだから、人前ではなにか別の名前で呼んだ方がいいと思うのよ」 言うが早いか、ルイズは唇辺りに指を当て、考え込み始めた。 「風韻竜なんだから、風に関する名前の方がいいわよね、それに女の子だし、可愛い名前に しなきゃ」 眉根を寄せて、可愛らしく唸るルイズ。それを見ていると、自然と胸が温かくなってきた。 使い魔となった自分の身を案じてくれ、自分の名前を一所懸命に考えてくれている。そのことに、 イルククゥはルイズの優しい心根を感じずにはいられなかった。 そして、やがてルイズは結論が出たらしく、両の手を打ち鳴らす。 「うん、決めた! シルフィードっていうのはどう?」 「シルフィード?」 聞き返すと、ルイズは笑顔で頷いた。 「物語に出てくる、風の妖精の名前よ。どうかしら?」 ――シルフィード…… ルイズが考えてくれた名前を反芻していると、心が感激に染まっていくのが判る。 「素敵な名前ね! きゅいきゅい! 可愛くて綺麗な名前! 新しいなーまーえー!」 跳びはねたい様な喜びを歌声で表してみれば、ルイズの方もますます顔をほころばせていった。 「ふふ、気に入ってくれたみたいね」 「ええ、とっても! どうもありがとう、ルイズ様!」 感謝の言葉を告げながら召喚者、否、主人であるルイズに鼻先をすりよせる。 「も、もう、使い魔が勝手にご主人様に顔を近づけるなんて、本当は不敬なんだからね」 口ではそんなことを言っているが、その紅潮した頬と緩んだ口許を見れば、照れ隠しである ことは見え見えだ。そんな主の子どもっぽい愛らしさにイルククゥ、否、シルフィードの中で ルイズへの愛おしさが募っていった。 「でも、あのヘンテコには絶対近づいちゃいけないのね!」 だからこそ、あの奇妙な仮面に対しては、釘をしっかり刺しておく。 そして、実のところその考えは決して的外れのものではなかった。 ハルケギニアに生息する幻獣と、ハイラル、タルミナ等でモンスターと総称される魔物や魔族。 姿形に関しては大差が無くもないのだが、この両者はある一点において大きく異なっている。 それは、幻獣が生態系に則った存在であるのに対し、モンスターはこの世のルールの乱れから 生まれ出るものであるということだ。 世界のルールの乱れ、例えば世の平和が脅かされる時、そこにモンスターの生まれる余地が 生じる。生まれたモンスターたちはその凶暴性のままに世を乱し、それが更にモンスターを 生む。その歪んだ生態故に、モンスターは世界の理法を司る精霊たちとは敵対関係にあった。 普通、幻獣は精霊と戦おうなどとは思わないし、中には韻竜のようにその力を借りるものさえ いる。しかし、モンスターはそうではない。例を挙げるなら、ハイラルではナビィの故郷である 森を守護してきた精霊デクの樹が魔物に呪い殺されたし、それとは別の時代に空の精霊ヴァルーや 水の精霊ジャブー等が魔物に脅かされ、また別の時代にはフィローネ、オルディンといった光の 精霊たちが魔物に力を封じられている。そして、当の奇妙な仮面、ムジュラの仮面自身もまた、 邪気と魔力が健在の頃はタルミナの四方を護っていた守護神たちを呪って魔獣に変えた上、精霊の 眷族である大妖精を――殺したわけではないが――ばらばらに引き裂いていた。 世界に仇なし、時として精霊さえも手にかける魔性の命、それを魔物や魔族と呼ぶのだ。 そんな異世界の存在の生態をシルフィードたちが知る由はないが、それでもシルフィードはあの 仮面に対しては最大限の警戒をしておくよう、心に決めていた。 と、そこでシルフィードのお腹がくぐもった音を鳴らす。 「きゅい、ルイズ様、わたしお腹がすいた、お腹がすいた、お腹がすいた!」 「そうね、そういえば、召喚してからまだご飯あげてなかったっけ」 思い出したようにルイズは言うと、踵を返してシルフィードを招いた。 「じゃあ、いらっしゃい。厨房の場所を教えるから、貴方が来たらご飯をもらえるように 言いつけておくわ」 「きゅい! ごはんごはん!」 喜ぶシルフィードに、ルイズは少し眼を厳しくさせる。 「でも、約束ちゃんと判ってるわね?」 「きゅい! きゅいきゅい!」 喋ってはいけないことを覚えていることを示すように、シルフィードは竜の泣き声で応えた。 その態度に満足したらしいルイズは、シルフィードを厨房に連れていき食事を与えてくれる。 その食事の美味しさに、シルフィードは思わず感涙してしまった。巣では調理という概念が なかったため、貴族用の食事を作るコックたちの料理は新鮮な驚きと喜びに満ち溢れていた。 そして、そんな食事を与えてくれた主のことが、ますます好きになっていく。舌鼓を打ちながら、 イルククゥ改めシルフィードとなった風韻竜の少女は、新たな絆の証である使い魔のルーンを 見つめるのだった。 その左前足の甲に浮かんだルーンが何を意味し、自分を召喚した少女がどういうメイジなのか、 何も知らないままに。 ~続く~ 前ページ次ページ三重の異界の使い魔たち
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1974.html
薔薇乙女も使い魔menu/ next ・・・・・ やわらか くちに なにか さわった 何が起こったんだろう? 唇に柔らかい感触を感じ、意識を取り戻した 目に光を受け、ゆっくりと瞼を開けていく 突如、体が燃えるように熱くなった! 「ぐああああああ!あぁあ!ぃぎゃああああああっっ!!」 散々のたうち回った末に、ようやく収まった 脂汗をたらし、ハァハァと息をつきながら、ようやく体を起こし、周囲を見た 「あんた誰?」 抜けるような青空をバックに、桜田ジュンの顔をまじまじと覗き込んでいる女の子が言った。何か制服のようなものを着た、長いブロンドの女の子だ。 ジュンは顔を上げて辺りを見回す。草原の中に、同じ制服を着た沢山の生徒達がいる。その向こうには大きな城だ。 「・・・、・・・。・・・・、え?」 ジュンは一瞬ほうけてしまった 「名前よ、なーまーえ」 女の子は更に問いかける。 ピンクがかった長いブロンドの髪、白い肌。外人かな?でも、日本語でしゃべってる 「・・・ジュン。桜田、ジュン・・・・です」 『薔薇乙女も使い魔 プロローグ』 ここは・・・どこだろう?えーっと・・・なぜここにいるんだろう? さっきの熱さは何だったんだろう? ・・・・・ そうだ! あの「お父様」の偽者のせいで、真紅達ローゼンメイデンが戦わされて 薔薇水晶にローザミスティカを奪われて、でも薔薇水晶も6つのローザミ スティカに耐えられなくて自滅して、偽物と一緒に消えて、そんで「ロー ゼン出てこい!」とか叫んだら、ホントに来てくれたらしくて、 目を覚ました真紅と一緒に帰ろうと、扉をくぐって・・・・ 「真紅!?真紅は!!」 狼狽した彼は、すぐに向こうで眠る紅いドレスのアンティークドール--ローゼンメイデン第五ドール「真紅」--を見つけた。 「よ・・・よかった。ふぅ、どうやら戻って来れたんだ」 「ちょっと、何を無視してくれてるのよ。何が良かったのよ!? あんたどこの平民?」 「へ、平民?なにそれ?? ・・・あの、すいません。ここってどこ? 見たとこ日本じゃないよな」 キョトンとしたジュンの言葉は彼女の耳には届いていなかった 「サモン・サーヴァントは何回も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんとできたね」 黒いローブの男が彼女に言った 「相手がただの平民のガキだから契約できたんだよ」 「そいつが高位の幻獣だったら契約なんか出来ないって」 何人かの生徒が笑いながら言った 「バカにしないで!私だってたまにはうまくいくわよ!」 「ホントたまによね、ゼロのルイズ」 「ミスタ・コルベール!洪水のモンモラシーが・・・」 彼女は生徒達のからかいに必死で抗議していた。 何がなんだか分からないぞ。 あのルイズという女の子は、あのコルベールという男は、生徒達は何の話をしているんだ?周囲にいるモンスターみたいなのは何なんだ?まるで本物みたいだ 一体何が起きたんだ?? ジュンは、ルイズと呼ばれた少女に声をかけるのは後回しにした。状況はどうあれ、彼には一番にしなければいけない事があった。 「おい、真紅。起きろよ。おい真紅」 ジュンは真紅の体を優しく起こし、軽く頬を触れた コルベールはジュンの声を聞き、何気なく彼を見て、固まった 隣にいたルイズも何気なくコルベールの視線の先を見て、やはり固まった 「コルベール先生・・・これって・・・」 「し、信じられん。そこの少年の人形じゃなかったのか? まさか、2体も召喚していたのか!?」 2体、といわれて周囲の生徒達も一瞬で静まりかえり、こちらをじっと見つめる 「お、おい・・・あれ、人形じゃなかったの?ゴーレムか?」 「まさかぁ、どうみても生きてるわよ」 「えーっと、人間じゃないわよね、小さいし。亞人かなぁ、小人?」 「もしや、ただの子供なんじゃ?でも、それにしては何かヘンな・・・」 最初は笑っていた生徒達が、一瞬で静かになり、次に何か妙な雰囲気でさわさわと話し始めた。 生徒達が見つめる先には、目を覚まして立ち上がった真紅がいた 周囲をキョロキョロと見回している そして、その小さく可愛い口から、言葉がもれた 「ジュン、ここはどこなの?」 「え?いや、さぁ・・・日本語通じてるから、日本なのか?」 「どうなってるのかしら? 確かにnのフィールドを通って家に帰るところだったわよね?」 「うん、扉を通って帰ろうとして・・・真紅の知らない場所?」 「知らないわ」 「困ったな・・・おまけに真紅をこんな沢山の人に見られたぜ」 真紅とジュンは困っていた。そして、傍らのコルベールとルイズも 「あ、あの!コントラクト・サーヴァントをやり直させて下さい!」 いきなりルイズが叫んだ コルベールは困った顔で、首を横に振った 「言いたい事は分かるよ。そこの平民じゃなくて、えと、ゴーレム?の方と契約し直したいんだね」 「そ、そうです!きっと私が呼び出したのは、そっちのゴーレムの方です! お願いします!もう一度コントラクト・サーヴァントを!」 「これは…伝統なんです、ミス・ヴァリエール。例外は認められない。」 「そんな!」 懇願するようなルイズの叫びにも、しかしコルベールはただルイズに視線を送り、宣告する。 「もう、契約してしまったんだ。すまない。この春の使い魔召喚は神聖な儀式だから、事情はどうあれ、もう変更できないよ」 「でも!神聖な儀式だからこそ!正しく契約を行うべきでは!?」 あの大爆発の連続も正しい契約なのだろうか、というコルベールの突っ込みは口にはされなかった。口にしたのはもっと冷静で冷酷な決定事項だった 「そう、そしてあの2体が召喚された。そして、平民の少年と契約してしまったんだ。 本当にすまない、もう少し早くあの、えと、亞人?の存在に気付いていれば」 「でも!2体も召喚されるなんて!平民を使い魔にするなんて聞いた事がありません!」 ルイズがそういうと、事態の推移を眺めていた周囲の生徒達がどっと笑う 「いやまぁ、ゼロのルイズには平民の方がピッタリなんじゃないか?」 「ん~残念な結果ねぇ~。でも2体も召喚だなんて、さすがはルイズかしら?」 ルイズは人垣を睨み付ける。だがそれでも笑いは止まらない 「真紅、一体どうなってるんだ?」 「分からないわ。ところでジュン、その左手は何?」 ジュンは自分の左手を見た。そこには見慣れない文字が躍っている。 「ふむ・・・珍しいルーンだな」 コルベールが何時のまにやら近寄って、左手の文字をメモしていた。 「あのぅ、えと、コルベールさんでいいですか?」 「うん?ああ、なんだね少年」 「えーっと、その~・・・聞く事が多すぎて、何から聞けば良いやら」 「ふむ、当然の事だと思う。だが、残念ながら時間がないんだ。 詳しい事は君の主、ミス・ヴァリエールから聞くといい。 それにしても・・・」 コルベールは真紅をまじまじと見つめた 「うーん、人間にしか見えないな。でもさっき確認した時は、確かに人形だったし」 「レディをジロジロ見つめるのは失礼でなくって?」 真紅に咎められ、慌ててコルベールは一歩下がった 「これは失礼致しました。 お初にお目にかかります、レディ。私はこのトリステイン魔法学院で教師を務めるコルベールと申します。失礼ながら、お名前を教えて頂けますか?」 丁重に頭を下げて自己紹介するコルベールに、真紅もドレスの裾をつまみ上げ、チョコンと頭を下げた。 「よろしいですわ。私の名は真紅。ローゼンメイデンの第五ドール。 お会い出来て光栄ですわ、ミスタ・コルベール」 「ドール!?するとあなたは、やはり人形なのですか!?」 この言葉を聞いた周囲の生徒達もどよめいた --まさか、本当にゴーレムなのか。でもろーぜんめいでんって何だ? --そんなはずない、自律式の自動人形を完成させた魔術師は未だにいない --どう見ても亞人よ。それにしても、可愛いわねぇ --でもさっきコルベール先生が、手足が球体関節だって。腹話術ってヤツか? --インテリジェンスソードみたいなもんだろ?きっと誰か完成させたんだ --待って。すると、その所有者は、あの平民!?まさかあの子、あれで貴族!? --いや、杖もないし、貧相だし、何かヘンよ 周囲の生徒達の混乱は、ますます深まりつつあった 「さぁ諸君!ともかく春の使い魔召喚は全て終わった 聞きたい事は山ほどあるだろうが、今は教室へ戻ろう」 ここでコルベールが大きな声で叫び、きびすを返して宙に浮いた 他の生徒達も一歩遅れて、一斉に宙に浮いた 「ルイズと使い魔達、お前達は走ってこいよ!」 「後でその子達の事教えてねー」 「急げよー」 そういって、生徒達は飛び去っていった。 後に残ったルイズ、ジュン、真紅は立ちつくしていた 「ジュン・・・みんな飛んで行ったわ」 「真紅・・・・みんな飛んでいったな もしかして俺たち、まだnのフィールドに居るんじゃないか?」 「それは無いわ、確かにここは現実よ ねぇ、そこのあなた。確かルイズって言ったかしら? そろそろ事情を教えてちょうだい」 そう問われたルイズは、ゆっくりとジュン達に向き直り、押し黙り、肩をわなわなと振るわせ始めた。 「あら、どうしたの?」 「あんたら!なんなのよ!!なんでこんな事になるのよ!!どうしてよりによって平民のガキと契約しなきゃなんないのよー!!!」 「聞いているのはこっちよ。 答えなさい、ここはどこなの?どうして私たちはここにいるの?」 「なぁんですってぇえっ!!貴族に対してなんて口の利き方!」 そう叫んだルイズは、真紅につかみかかろうとした ビシィッ!「触れるな」 ルイズは、真紅の平手打ちに、つかみかかった手をはじかれた 「まったくなんて下品で粗暴なのかしら? それで貴族を名乗るなんて、おこがましいにもほどがあるわね」 「ぬ、ぬぁあんですってぇえええっ!!」 激怒したルイズが杖を真紅に向けた 「まま、まった!二人とも落ち着いて!ここでケンカしても何にもならないぞ!」 間に割って入ったジュンが二人を止め、ルイズに頭を下げた 「と、ともかく!失礼な事を言ったのは僕からも謝ります。すいません でも、僕らも何がなんだか分からなくて困ってるんです とにかく事情を教えて下さい、お願いします!」 「あらジュン、ずいぶんと紳士になったのね」 「いいから真紅も、ホラ!」 「そうだわね、私も少々無礼だったわね ごめんなさいだわ」 真紅も素直に頭を下げた。ルイズはようやく杖をおさめ、ジュンと向き合った 「ふ、ふんっ!まぁいいわ。あなた達もいきなり召喚されて混乱しているでしょうし。 まずは名乗りましょう。我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたの主よ」 「僕は桜田ジュンです、初めまして・・・・あるじって、何が?」 「ああ、寝ている間だったから気付かなかったでしょうね。 その左手にルーンがあるでしょ」 「ああ、あるな」 ジュンには読めない文字が、左手に踊っている 「あたしはあなたと契約したの。『コントラクト・サーヴァント』を」 「へ・・・・こんとら・・・?」 ジュンは首をひねって考えた。そういえば、目が覚める時、何か口に触れて、体が熱くなってたような 「それよ。・・・か、感謝しなさいよ!貴族が平民にあんなことするなんて、普通は一生ないんだから」 「てことは・・・あれは、まさか、き、キ・・・」 ジュンは真っ赤になった ルイズも真っ赤になった 二人の視界まで真っ赤になった 「「え?」」 真っ赤な薔薇の花びらが、二人の周囲を覆い尽くしていた 「あなた・・・私が寝てる間に・・・まさかジュンに!私のミーディアムに!!」 怒りで震える真紅の左手から、大量の薔薇の花びらがわき出していた。 そしてその花びらはルイズを包囲し始めた。右手にはステッキも構えている 「う、うっさいわね!あたしだって、あたしだってファーストキスをこんな平民なんかとしたくなかったわよ!!」 ルイズも杖を構える 「ま、まてぇ!だから、話をぉぉ!!」 ジュンが間に割って入って止めようとした ちゅどーん 夕暮れの草原に、派手な爆発音が響いた 薔薇乙女も使い魔menu/ next
https://w.atwiki.jp/shinsen/pages/4846.html
陰陽師 攻撃術 式神召喚・弐 目録 召喚術・参 必要気合 840 必要アイテム 呪符 ウェイト 2 効果時間 式神が倒れるまで 発動準備 なし 使用場所 戦闘専用 効果 ランク2の式神を召喚し、ともに戦わせる。 特徴 憑依攻撃(敵単体に若干ダメージと確実に呪い。ウェイト?) 憑依回復(召喚者を回復。ウェイト?)が使える 敵の攻撃の対象になる その他情報 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3513.html
クロノ・トリガーよりカエル 春の使い魔召喚の儀式。 土煙が収まったそこには、人間と変わりの無い大きさの服を来たカエルが横たわっていた。 カエル嫌いのルイズはそれを見て立ったまま意識を手放した。 「ミ……、ミス…ヴァ……ル、ミス、ヴァリエール。」 コルベールが肩を揺すりながら呼ぶ声でルイズは何とか意識を取り戻した。 先程召喚してしまったものに気付いたルイズは…。 「ミ、ミミミミミミスタ・コルベール!」 「も、も、ももももう一度召喚させてください!」 カエル嫌いのルイズはこれ以上契約の儀式が続けられないと、凄い剣幕。 しかし、コルベールは首を縦には振らなかった。 「ミス・ヴァリエール。残念ながら、例外は認められない。春の使い魔召喚の儀式は全てにおいて優先する神聖なものなのだ。」 「失敗を繰り返して折角召喚できたのに、契約を行わないなら君は本当に退学になってしまいますぞ?」 「退学で構いません!」 ゼロのカエル完
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2918.html
ルイズは召喚呪文を唱え、杖を翳した 学院の目の前に現れたのは、10リーグ四方もあろうかという巨大な街だった 召喚されたのは、秋葉原とその一帯 ルイズはラジオデパートの支柱に口づけをした、ソフマップの巨大モニターにルーンが刻まれる ルイズ「みんな~、今日も授業終わったらドネルケバブ食べにいこうよ~」 テファ「ごめんルイズ、今日わたしヤマギワソフトでイベント出なきゃいけないの」 キュルケ「あたしはそっち、どうも馴染めないから、隣の神田で蕎麦でも食べてくわ」 タバサ「・・・ジャンク屋でパーツ漁り・・・」 アンリエッタ「とらでサークル申込書貰わなきゃ、今年もウチはサムライトルーパー本で行きますわ!」 シエスタ「さ、ティッシュ配んなきゃ」 秋葉原の街と共に異世界に召喚された少年少女達からは、それを抗議する声は出なかったとか
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3709.html
使い魔召喚の儀式。それは、快晴の青空の下、トリステイン魔法学園の、ある広場でとり行われていた。 特に問題も無く、生徒達は使い魔を召喚し、口付けをして契約を成功させていく。 サラマンダーを召喚する生徒がいたり、風竜を呼んでしまう者もいたりして、例年よりも優秀な生徒が集まっているな、と監督役のコルベールは思った。 流れるように儀式は進み、そのまま締めくくられるかと思われた。 ―――順調に終わるわけも無かった。最後の生徒はあの、ルイズだったのだ。 使い魔はPSI能力者 第1話 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」 何度唱えても、何度唱えても、ルイズの勢いよく振り下ろした杖の先には何も起こらない。 (なんでよ!? どうして!? 成功しなきゃ進級できないわ! ヴァリエール家の3女が留年したなんてことになったら、こんどこそお母様に魔法学院を退学させられちゃう! なんでもいいから、来て! お願い……) ルイズは深く祈った。そうして唱えたスペルも、青空に霧散した。 いつもの失敗とも違い「爆発」すらも起こらない。 だから、少し離れた後ろで、困った顔をしていたコルベールも、周りで野次を飛ばしていた他の生徒達も、その日は全く油断していたのだ。 呪文を唱えるルイズの声がかすれてきた頃。 いきなり特大の爆発が起きた。 ルイズを囲むようにしていた彼らとその使い魔達は、悲鳴を上げる間もなく炸裂した白い光に吹き飛ばされた。 爆風にえぐられて土が剥き出しになった、半径4メイル程のクレーターの上に立っていたのは、咄嗟の勘で防御の魔法 を張ったコルベール、キュルケとタバサとその使い魔2匹、そして爆発を起こした張本人であるルイズだけである。 皆、服がボロボロであることに変わりは無かったが。 コルベールは冷静に生徒達を見回した。地面が芝生であったことが幸いして、みんな怪我はないようだった。 ルイズが起こす爆発はいつも生身の生き物に関しては、吹き飛ばすだけで傷つけはしない。 その原則は今回も守られたようで、至近距離で爆風を受けた生徒達も大事はないようである。 だが、ルイズの様子がおかしい。コルベールに向けた背中がカタカタとふるえているのだ。 ―――プライドの高い彼女のことだ、何度も魔法を失敗してしまった上に、また爆発を起こしてみんなを巻き込んでしま ったことが悔しいのだろう。 コルベールのそんな推測は、彼女の右足と左足の隙間から覗く、「小さな手」を見た瞬間に吹き飛んだ。 召喚されたものの全容は、ルイズが壁になっていてコルベールの立ち位置からは見えない。 だが、その小さな手は、それが繋がっている身体を見たくないほどに、傷だらけだったのだ。 「先生! 私、医務室のメイジを呼んできますわ!」 「そ、そうだな! 頼む!」 その場で最初に口を開いたのは、コルベールよりも先にそれを見たキュルケであった。 医務室に向かうため、フライの呪文を唱えようとしたキュルケを、隣にいたタバサが制した。 「こっちの方が速い」 タバサはさきほど召喚したばかりの使い魔に飛び乗っていた。自分の後ろに乗って、というようにキュルケの肩を掴む。 頷くだけの返事をしたキュルケが飛び乗った瞬間、韻流は「きゅいきゅいっ」と一鳴きし、空へ舞い上がった。 「今ここにいる生徒の中で治療ができる者! 彼女らが医務室から帰ってくるまでの間、応急処置をするんだ! ただし無闇に動かすんじゃないぞ!」 コルベールが上げた声に、呆然としていた生徒達も我に返り、水属性のメイジ達は駆け寄ってきて呪文を唱え始めた。 辺りが騒然とする中、ルイズはへなへなと地面にへたりこんだ。 目の前で、うつ伏せに倒れている子供の背中には、無数の切り傷、刺し傷、火傷。 もうほとんど用を成していない服は血にぬれて、元の色も分からない。かろうじて髪の色が分かる程度。 その金色の髪も、ところどころが焦げていた。 ―――この子供を召喚したのは、わたし。 サモン・サーヴァントで人間が喚ばれた、というのは聞いた事がない。 でも、わたしが召喚しようとして、呪文を唱えて、杖をふった。 やっぱり、わたしが召喚したんだ。 そして、中途半端な召喚魔法が変なふうにこじれて、彼を爆発させてしまったのだ。 この酷い有様はわたしの所為。 自分の進級の為に何度も召喚を試みた、わたし。 すぐに諦めていれば、この子が傷つくことはなかった。 この子は、どこに住んでいた子供なんだろう。 どんなお母さんにお父さんに愛されてどんな家族に囲まれていてどんな友達がいて―――――! 「……イズ、ルイズ! しっかりしなさい!」 地面に倒れ込もうとした身体をコルベールに抱きとめられて、ルイズの目に、ようやく周りの様子が入ってきた。 涙で視界が歪んで見づらかったが、自分の召喚した子供が、フライで浮かされて医務室に運ばれるところのようだった。 「あの、子……わ、わたしのせいで! わたしが殺し」 「違う。彼の傷は、爆発によってついたものではなかった。君のせいであんなふうになったんじゃない。」 コルベールは彼女が言おうとしたことを強引に遮った。 「ぇ……?」 「すでに何らかの要因で傷ついた状態で召喚されたのだろう。 もし君がここに召喚しなかったら、彼はあのまま死んでしまったかもしれないんだ。 それに、彼はまだ生きているし、死なない。絶対にだ。この学院には腕の良い水メイジがいるんだ。安心しなさい。 むしろ君は、彼を助けたんだ」 コルベールのまくしたてた言葉には推測と希望が混じってはいたが、錯乱したルイズを落ち着かせるのに効果的だった。 彼女の大きく見開いた目は少しづつ細められ、さらにたくさんのの涙が溢れだした。 コルベールは気づいた。他の生徒達が召喚した使い魔達は、爆発に巻き込まれたにも関わらず、暴れる出す事もなく 今の今までじっとしていたということに。使い魔達のその目は、医務室に運ばれていく 傷だらけの子供を、心配そうに見ているかのようだった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/350.html
前ページ次ページゼロのミーディアム これは「出来損ない」と呼ばれ苦悩した二人の少女の… 「ゼロ」と呼ばれた少女と「ジャンク」と呼ばれた少女の物語 サモンサーヴァント―― トリステイン学院の生徒が二年生の進級時に行われる使い魔召喚の儀式。 これにより呼び出された使い魔は召喚主たるメイジに仕える文字通り運命共同体となる。 いわば魔法使いの一生を左右する重要な儀式と言えよう。 そしてこの桃色の髪の、若干の幼さの残る小柄な少女 …ルイズもまた自らの使い魔を召喚せんと奮闘しているのだが… 「あーあ、また失敗してやんの」 「まったく!何回失敗してんのよ!」 「ゼロのルイズ!サッサと終わらせろよ!」 散々な言われようであるが仕方ない。彼女はサモン・サーヴァントの儀式に何回も失敗しているのだ 「いい加減にしろ!ゼロのルイズ!」 「仕方ないわよ。だってゼロだし」 あんまりな罵詈雑言に頭の熱くなるルイズ。そもそも彼女はあまり気の長い方ではない。 「黙りなさいよあんた達!いいわよ!ここであんた達なんかとは比べ物にならないような 強くて美しくて気高い使い魔を召喚して汚名挽回といくんだから!」 どこぞの軍人さんも言ってたことが汚名は挽回するより返上したほうがいい ルイズは今一度儀式にかかる 「(こんなに大見得を切った以上失敗する訳にはいかないわ…!)」 そして一呼吸おいて高らかに叫んだ! 「宇宙の果てのどこかにいる私のシモベよ!神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!私は心より訴える…我が導きに、応えなさい!」 力強い呼び掛けとともに手にした杖を振り下ろす! ドッカァァァァァァン!! 先程から何度も起こしている大爆発。またもや儀式は失敗かと思われたが… 「何…?あれ…?」 ルイズの見上げた空の彼方から舞い降りてきたのはたった一枚の紙だった 「なんだ?あれがヴァリエールの使い魔か?」 「いや、流石にただの紙が使い魔ってのは流石に…」 「でもルイズだぞ?ゼロのルイズだぞ?」 周りの声には耳も貸さず降りてきた紙を受け取るルイズ。そして紙面をみるなり困惑した表情になる 「ミス・ヴァリエールどうしました?」 そこへ今回の儀式を担任した学院の教師、コルベールが駆け寄ってきた。 「ミスタ・コルベール…これは一体…」 「これは…何かの契約書みたいですな…」 ルイズの持っていた紙、それは黒薔薇の縁取られたシンプルだが美しい契約書のようなものだった しかし書かれていたのはこの一文のみ まきますか? まきませんか? 前ページ次ページゼロのミーディアム
https://w.atwiki.jp/shinsen/pages/4845.html
陰陽師 攻撃術 式神召喚・参 目録 召喚術・伍 必要気合 1120 必要アイテム 呪符 ウェイト 2 効果時間 式神が倒れるまで 発動準備 なし 使用場所 戦闘専用 効果 ランク3の式神を召喚し、ともに戦わせる。 特徴 憑依攻撃(敵単体に若干ダメージと確実に呪い。ウェイト?) 憑依回復(召喚者を回復。ウェイト?) 憑依付与(召喚者にランダムで付与。ウェイト?)が使える 敵の攻撃の対象になる その他情報 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5752.html
前ページ次ページゼロと波動 「へ・・・平民??」 爆発と共に現れた使い魔は、人間だった。 元は白かったであろう、上着と呼べるかどうか怪しい布を身体に巻きつけ、丈夫そうな黒い紐を使って腰の辺りで縛りとめている。 腕を通すために開けられた穴もズボンも、裾は破れてボロボロだ。 そして頭には赤いハチマキ。 「はは!ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」 「しかも物乞いのオッサンだよ!」 「流石はゼロ!」 周りから漏れる失笑、揶揄。 確かにボロ布を纏った姿は物乞いにしか見えない。 「ミスタ・コルベール!!やり直しを!召喚のやり直しをさせてください!!」 桃色がかったブロンドの髪の少女――ルイズ・フランソワーズは目に涙を浮かべながら頭が多少寂しい責任者らしき男に訴えた。 「ミス・ヴァリエール、残念ですがそれはできません。貴女も知っている通り、春の召喚の儀式は神聖なものです。やり直しは認められません」 「でも!」 「確かに平民を召喚したというのは前代未聞ですが、規則は規則です。彼が死なない限り、彼はミス・ヴァリエールの使い魔です」 にべもないコルベールの言葉にルイズはがっくりと肩を落として、自分が召喚してしまった男を改めて見てみた。 年齢は・・・ミスタ・コルベールよりいくらか若いぐらいだろうか。 身長は決して低くはないけど、それほど高いわけでもない。まあ、それでも自分と比べれば随分と高いが・・・ ただし、体格は並外れている。 オーク鬼のような横幅と厚み。 首は顔よりも太いし背中も盛り上がっている。筋肉の筋がはっきり浮き出た腕なんてまるで丸太だ。 いや、丸太なんて柔らかそうなものじゃない。石・・・そう、土のメイジが石や鋼で錬金した彫刻のよう。 はぁ、せめてコイツにツノでも生えてればなぁ・・・首から下だけなら亜人みたいなのに・・・ ルイズは不満全開な顔で男を睨みつける。 他の生徒が召喚した使い魔であるサラマンダーや風竜を見て目を白黒させていた男は、ルイズの視線に気づくと初めて口を開いた。 「そんなに睨み付けないでくれ、あと、教えて欲しいんだが、ここはどこだ?なぜ俺はここにいる?そして、キミ達は何者だ?」 桃色髪の少女は黙って睨み付けてくるだけで一向に口を開こうとしない。 「ここはトリステイン魔法学院です。彼らは学院の生徒、そして、私は教師をしているジャン・コルベールです。貴方はここにいるミス・ヴァリエールに召喚されたのですよ」 無言で睨みつけるルイズに代わり、コルベールが答えた。 「とりすていん?聞いたことがないな・・・それに召喚ってなんだ?俺はアマゾンのジャングルにいたはずなんだが・・・?」 「召喚は召喚よっ!私がアンタを召還したのっ!だいたいトリステインを知らないなんてどんだけ田舎者なのよ!」 割って入ってルイズが叫ぶ。 勝手に召喚しておいてそんな言い草もあったものではないが、そこは典型的な貴族であるルイズ、平民の事情なんて考えない。 そんな彼女も大声を出したことで多少は吹っ切れたのか ”平民を使い魔にしなければならない”ということに諦めがついたらしい。 「平民のアンタを使い魔にしてあげようってんだから感謝しなさいよね!!」 ルイズは意を決すると、コンストラクト・サーバント<契約>の呪文を唱えて男の顔に手を伸ばす。 届かない。 「しゃがみなさいよ!」 訳の解らないまま言われた通りしゃがむ男。 ルイズは改めて男の顔を両手で挟むと、唇を合わせた。 「な!?何をするんだ!!?」 突然キスされた男は慌てふためいてルイズから離れた。 突如、左手の甲に激痛が走る。 「な・・・!?」 手の甲と拳の部分のみを覆うグローブを外すと、手の甲に光と共に不思議な模様が浮かび上がりつつある。 「ルーンが刻み込まれているだけです。すぐに収まりますから少しの間だけ我慢してください」 しばしの間、光を放ちながら模様は刻み続けられたが、なるほどコルベールが言った通り、激痛はすぐに治まった。 自分の手の甲に浮かんだ不可解な模様を消そうとこすったり叩いたりしてみるものの、模様が落ちる気配はまったくない。 戸惑う男に告げるコルベール。 「これで貴方は正式にミス・ヴァリエールの使い魔となりました。それにしても・・・変わったルーンですね・・・ちょっと見せてもらっていいですか」 コルベールは取り出したスケッチブックに浮き出たルーンを模写しだす。 自分の描いたスケッチに間違いがないかを確認したコルベールは満足気にうなずいた。 「さて、全員召喚の儀式を済ますことができましたね。では皆さん、学院に戻りましょう」 その場にいた少年少女たちは返事をすると、何事かをつぶやいて棒切れを振る。 すると突然、自分にキスした少女を残して全員が宙に浮き始めたではないか。 そしてそのまま学院と思しき建物に向かって飛んで行ってしまった。 男は唖然とした。 自分も宙に浮いたり瞬間移動したりする魔人やヨガ行者には会ったことがある。 が、彼らは・・・特に前者は常識を超越した特殊な存在だった。 しかし、今目の前で起こった出来事は、どうみても普通の少年少女たちの所業だ。 「・・・何がどうなってるのか・・・まったく解らん・・・」 見たこともない生き物や少女からのいきなりのキス、空を飛ぶ生徒たち、自分の左手に突然現れた刺青・・・ もはや理解の範疇を超えていた。 本来ならもっと取り乱してしかるべきなのだが、長年の修行で身につけた精神力がなんとか理性を保たせていた。 いや、もしかしたら、余りに常軌を逸していたせいで返って冷静でいられたのかもしれない。 空飛ぶ少年たちを見送りながら思考を巡らし、とりあえず緊急的に自分の身に危険が及んでいる訳ではなさそうだと判断する。 だとすると、不可解極まりないこの場所で下手に動き回るのはあまり得策とはいえない。 しばらくはこの場所で様子を伺った方がいい。 それに元々、ジャングルに篭って修行するつもりでいたのだ、その修行が多少険しくなったにすぎない。 厳しい修行なら望むところだ。 コルベールと名乗った男の話によれば、今の自分はどうやらこの少女の使い魔ということらしい。 使い魔というものが何をするものなのかは解らないが、未知の経験もまた修行。 そう、万物全てが修行である。 しばらくはこの少女についてみるのもいいだろう。 「俺はリュウだ、よろしく頼む。ヴァリエール」 笑顔で右手を差し出す。 「私のファーストネームはルイズよ・・・っていうか!アンタは私の使い魔なのよ!?私のことはご主人様と呼びなさい!!」 文句を言いながらも、一応、出された右手に握手で応える。 無骨でゴツゴツしたリュウの分厚い手は、とても暖かく、優しくルイズの手を包んだ。 「そうか、わかった、よろしく頼む。ルイズ」 「だからご主人様だって言ってるでしょ・・・まぁ、いいわ・・・」 思わず顔を背けるルイズ。頬が熱い。 何故だろう、この男の手に包まれていると広い広い草原に寝転んでお日様の光を浴びている・・・そんな穏やかな感覚に陥る。雰囲気がちょっとちぃ姉さまに似てるかも・・・ いやいやいやいやそれはない! 平民が、それもこんな薄汚い男がちぃ姉さまに似てると思うなんて私は馬鹿ですか阿呆ですか。 ブンブンブンと首を振りつつも、すっかり怒気を抜かれてしまい、思わずルイズと呼ぶことを認めてしまったではないか。 まあいい、これからみっちり使い魔として教育してやるんだから!でも、ご飯はちゃんとあげようかな・・・などと思いつつ学院に向かって歩を進め始める。 「ルイズは彼らみたいに飛んでいかないのか?」 「うるさいわね!歩きたい気分なのよ!」 前言撤回。やっぱ、コイツむかつく。ご飯は床決定。 リュウはリュウで、それにしてもよく怒る娘だなと思いつつ桃色がかったブロンドの髪を持つ少女、ルイズに続くのだった。 前ページ次ページゼロと波動