約 1,012,613 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3057.html
前ページ次ページナイトメイジ うっすらと開けたまぶたの隙間から光が目に飛び込んで来る。 ルイズは光に刺されて少し痛みを感じる目を擦りながら体を起こした。 石造りの部屋の中を窓から差し込む光が照らしている。 太陽の角度から考えて、今は朝のはずだ。 だから、ベッドに寝ているのは問題ない。 問題はその前だ。 ルイズには昨夜、ベッドに入って寝た記憶がなかった。 目頭を押さえ昨日のことを思い出す。 「確か昨日は、使い魔召喚の儀式をしたはずよね。で、私もサモン・サーヴァントを唱えて……それから」 どうもそこら辺から記憶が曖昧だ。 召喚が成功したのはおぼろげに覚えている。 だが、 「何を召喚したんだっけ」 それがどうしても思い出せない。 何かこう、嫌なことを思い出そうとしているような、そんな予感がする。 とりあえずベッドから出ようと、ルイズは片手をついた。 そこには不自然に柔らかい物があった。 いや、ベッドは柔らかいから、柔らかいのは当たり前だ。 おかしいのは、その柔らかい何かがこー、ぷにぷにした明らかにシーツやベッドとは違う質感をしているって事だ。 ルイズがシーツの端を持っておそるおそるめくってみると、その下には両目をぱっちり開いた少女がいて、ルイズを見てこう言った。 「おはよう」 ベッドから降りる、と言うより落ちたルイズは猫から逃げるネズミのような動きで机まで転がり、その上に置いてある杖を取ると、ぶるぶる震える手でその先を少女に向けた。 「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あなた誰よっ!」 少女はゆっくりまばたきをした後、今のルイズよりはよっぽど貴族らしい仕草でベッドから降りた。 「だれって、昨日あなたに召喚された使い魔よ」 「私が?あなたを?」 「ええ、そうよ。忘れた?」 だんだん思い出してくる。 そして、さっきから感じてたいやな予感の原因がわかってきた。 この少女だ。 「ベール・ゼファー?」 「覚えてるじゃない」 そう、間違いない。 大公、そして魔王を自称する嘘つき女。 ベール・ゼファーだ。 「何でここにいるのよ!」 「なんでって、あなたをわざわざここに運んできてあげたのよ」 「そ、そう……そう言う当然ことじゃなくて、私はあなたが私のベッドの上で何をしてるのかって聞いてるの!」 「ああ。そう言うこと。聞きたいことがあったんだけどあなたが全然起きないから、ちょっと寝てたのよ」 「使い魔が主人のベッドで寝るなんて、どういう身の程知らずなのよ!」 「使い魔はベッドで寝たらいけないの?」 「そうよ!」 「そうよって、あなた……まあ、いいわ」 ため息をついてベール・ゼファーはすとんと音を立ててベッドの上に座る。 次にひょいと上げて足を組み、日の光を受けて輝く金色の瞳を昨日と同じようにルイズにむけた。 「あなた……」 「ルイズよ!私はルイズ。使い魔風情があなた呼ばわりはやめて」 「はいはい、ルイズ……」 「様!」 「いいじゃない。呼び捨てで。それに私は大公よ。あなたがどの程度の貴族かわからないけど、そのくらい良いでしょ」 「じゃあ、私はベルって呼ぶわよ。それでも良いの?」 「いいわよ」 「ぐっ」 大公を自称するのであれば、名前の呼び方にはこだわると思って言ったことだがあっさり受け入れられた。 こうなってしまってはもう呼び捨てを許さざるを得ない。 「で、まずはルイズ。その杖を下ろして、少し落ち着いたら?私はあなたの使い魔なんだし、そんなに緊張することもないでしょう」 言われてみればその通りだ。 使い魔相手にここまで緊張するというのはひどくばかげている。 とりあえず深呼吸をして気を落ち着かせたルイズは、机に杖を置き直して椅子に座った。 自分の視線を方向を確認する。 ベッドより椅子の方が少し高いので、少しだが見下ろすようになっている。 「よし」 やっぱり、使い魔とメイジはこういう位置関係でないといけない。 使い魔なんかに見くびられてはいけないのだ。 「じゃあ、落ち着いたところで聞きたいことがあるんだけど良いかしら?」 少し考えてルイズは答える。 「いいわよ」 人間が使い魔として召喚されたのだ。 たぶん、突然の事だったのだろう。 それなら、いろいろ聞きたいこともあるのは当然だ。 「まず、ルイズはなんのために私を呼び出したの?」 「使い魔にするためよ」 「だから、なんのために使い魔として呼び出したのかって聞いてるの」 「使い魔いったら使い魔よ。それ以外に何があるって言うの?」 ルイズはベルの答えを待つ。 そのベルはと言うと、額を人差し指で押さえて考え込んでいる。 どうやら質問の仕方を考え直しているのだろう。 「だったら、質問を変えるわ。ルイズが言う使い魔って一体なのをするの?」 ルイズは心の中で快哉を叫ぶ。 ここでこの無知な少女に使い魔とは何かを教えて、立場をわからせてやろうという寸法だ。 「いいわ。教えてあげるわ。使い魔の仕事は3つ。主人の目となり耳となること、主人の望む物を見つけてくること、それから主人を守ること。ま、人間のあなたにはどれも期待してないけどね」 どうだ、恐れ入ったかとばかりにベルを見下ろしたがベルは全然恐れ入ってなかった。 というか、むしろあきれ顔である。 「ルイズ。そんなことのためにこの私を呼んだの?」 「いやなの?」 「いやよ。どれも私がする事じゃないわ」 あまりにはっきり拒絶されたルイズは声を大きくする。 それはあなたに言われたくない。 「私だって、人間の使い魔なんて嫌よ。あなたが見てる物を見ることはできないし、秘薬の材料もって来てって言っても無理そうだし、その細腕で私を守ることなんでできそうにないし。でも、ベルが出てきたのならしかたないわ。掃除、洗濯、雑用。それをやってもらうわ」 そしてルイズはため息をついた。 「あーあ、どうせならドラゴンやグリフォンがよかったのに」 「それなら、そうすればよかったじゃないの。だいたい召喚って言うのは、自分の目的にあわせて呼ぶ物でしょうに。それって、どういう召喚よ」 「どういう召喚って、ベルこそどういう召喚のこと言ってるのよ。メイジにふさわしい者が召喚されるのよ。召喚される者を選ぶ事なんて誰にもできないわ」 「そーなの?」 「そーよ」 二人の間に沈黙が訪れる。 ベルは再び何事かを考え出し、そして何事かを思いつき顔を上げる。 「術者の魔力を消費し続けない長時間召喚をしたと思ったらそう言うわけだったのね。いいわ、あなたにちょうどいいのを紹介してあげるわ」 「は?」 ベルは聞いたことの意味がわからないと言ったルイズの見ている前で、どこからともなく長方形の箱のような物を出す。 ちょうつがいで折りたたまれたその箱を開いたベルは、それを耳と口に当ててしゃべり出した。 「あ、エイミー?うん。私。ベール・ゼファー。うん……うん。それで、お願いがあるだけど、こっちに来てくれない?そう、使い魔になってあげて欲しいの。え?今のご主人様を気に入っているからダメ?今度一緒に遊びに行く?ちょっと、そんなの今すぐ破棄してこっちに……」 ぶつっ。つーつーつーつー 「あいつ……切ったわね」 ベルは怒りで手をふるわせている。 右の唇の端がひくひくしてるし、顔の上半分がなにやら暗い。 「ねえ、どうしたのよ」 「知り合いの雑用が得意な魔王に連絡を取ったの」 「私にちょうどいい使い魔って、雑用の方?それに、雑用が得意な魔王って何よそれ」 「でも、今は別のところでやってるからダメだって。無理矢理連れてくるのも面倒だし、どうしようかしら」 「どうするのよ。雑用、やってもらうわよ」 ベルはふう、とため息をつき開いた箱をたたみ直してどこかにしまう。 箱をどこから出したかよくわからなかったルイズは、どこにしまうのかをじっくり確認しようと目を凝らせたがやっぱりわからなかった。 「やらないわよ。それ、私の担当じゃないから」 「だったら!」 「だから、雑用が得意な人間を現地調達するわ。私が人間を使ってやらせる分には問題ないでしょ?私がやるのと同じだから」 「そりゃ、良いけどできるの?」 ベルは金色の瞳を持つ目をゆがめる。 今にも悪戯を始めそうな目だ。 「まあ、見てなさい」 そんな目なのに、ルイズはそれに圧倒されるように気分になっていた。 そろそろ部屋を出ないと朝食の時間に遅れてしまう。 雑用はできないと頑として譲らないベルをベッドに座らせて、ルイズは着替えをしていた。 上着に袖を通し、スカートを止めるとルイズにはベルに聞きたいことが浮かんできた。 「ベル。あなた、雑用はしないって言ったけどだったら何が得意なの?」 「そうね。人の自尊心に訴えて犯罪を教唆するとか、敵を滅ぼし、軍を打ち砕くとか。そんな感じかしら」 かなり物騒でしかも後になると大きな話になっている。 ルイズは、前のような大ボラに違いないと思うことにした。 「いいけど、そう言う冗談は他ではやめておいてね」 「はい。マスター」 ベルが微笑んだ。 何となく、信用ならない微笑みだった。 前ページ次ページナイトメイジ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1465.html
トリステイン魔法学園、春の使い魔召喚の儀式。 二年に進学した生徒たちが「サモン・サーヴァント」の魔法を用いて己の使い魔となる生物を召喚するという、生徒たちにとって非常に重要な儀式である。 既に一人を残して全ての生徒が思い思いの使い魔を召喚し、ある者はその結果に喜び、またある者は嘆いていた。一部、無表情を貫く者もいたが。 そして、最後の一人である桃色の髪の少女が呪文と共に杖を振り下ろした。 一瞬の閃光と共に、広場の中心に大爆発が巻き起こった。 「あーあ、また失敗だ」 「さすがゼロのルイズね。これで何度目?」 「最初のも含めてきっかり10度目さ。全く、早く帰りたいというのに!」 爆発を見た生徒たちは、皆口々に少女への文句を言っている。 少女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 通称ゼロのルイズ。 全ての魔法を「爆発」という形で失敗する、「魔法成功確率ゼロ」のルイズだった。 「………また、失敗なの……?」 彼女は絶望していた。 9回も連続で召喚に失敗し、今度こそはと全力を込めて行ったにもかかわらず、ひときわ大きな爆発が起きただけで、結局失敗してしまったのだ。 だが、 「ま…まて、あれは何だ!?」 「え……?」 爆発の煙で覆われる広場の中心を見ていた生徒の一人が声を上げた。 反射的にルイズが顔を上げると、確かに煙の中にいる巨大な影が目に映った。 「うそ……!」 「馬鹿な、ゼロのルイズが成功しただとッ!?」 「しかも、あんな巨大なゴーレムを!?」 時間の経過と共に、次第に煙が晴れてゆく。 そして煙が晴れきった時、そこには青と赤の体を持つ、鋼の巨人が鎮座していた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」 ルイズは自らが召喚した巨人の姿を見て驚喜し、すぐさま契約を決意した。 後ろで儀式を見守っていた教師コルベールにレビテーションで巨人の頭部の高さまで浮かべて貰い、契約の言葉を唱えつつ、口に当たるであろう部分にそっと口を付ける。 すると、巨人の左腕の甲と両足の裏のあたりが光り出した。 それを見たコルベールの目が驚愕に染まる。 「なんと、使い魔のルーンが三箇所に刻まれているのか!?」 それに何と珍しいルーンだと言いつつ、コルベールはルーンをスケッチしている。 だが足のルーンは装甲の内側に刻まれたらしく、直接見ることは出来なかったようだ。 ルイズは巨人の肩に立ち、しきりに巨人に話しかけていた。 「ねぇ、貴方の名前は何というの?」 「―――」 「私の名前はルイズ。ヴァリエール家が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!ねぇ、貴方の名前は?」 だが、反応はない。 周りの生徒たちの反応も次第に冷めてきている。 それでも話しかけ続けていたルイズは、暫くしてようやく気が付いた。 反応がないのも当然。この巨人の体は朽ち果てていたのだ。 「そ……そんな………」 「なんだ、やっぱりゼロのルイズだ!期待を裏切らない!」 「でかいだけの醜いガラクタ、貴方にお似合いよ!」 ルイズが呼び出した者の正体が分かると、生徒たちは再び悪口を言い始めた。 コルベールは困っていた。 彼の生徒ルイズが呼び出したゴーレムは一向に動く気配を見せない。 ルーンが刻まれたからには彼女の使い魔で間違いないのだろうが、このままでは不憫すぎる。 実際ルイズは今にも泣き出しそうな顔をしている。 「……ミス…ヴァリエールはその場で一端待機。他の生徒諸君は学園へ戻りなさい」 「魔法の使えないゼロのルイズは、後で歩いて帰ってこいよ!」 コルベールの号令で生徒たちは、ルイズを馬鹿にしながらフライを唱えて飛び去っていく。 だが、その場に残る生徒が二人いた。 サラマンダーを召喚したキュルケと、風竜の幼体を召喚したタバサだった。 「ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ。貴方達は戻りなさい」 「いいえ、ミスタ・コルベール。もう少し……ここで待ちますわ」 「………」 「そうですか。……わかりました、良いでしょう。私は、とりあえず学園長の指示を仰いできます」 そう言って、コルベールはフライを唱えるために杖を軽く構えた。 巨大なゴーレムの肩の上で、ルイズは涙を堪えていた。 いつもいつもゼロのルイズと馬鹿にされ続け、初めて魔法が成功したと思ったら呼び出した使い魔は巨大なガラクタだったのだ。 巨大なゴーレムを召喚したのだと有頂天になっていた自分が馬鹿らしい。 使い魔はメイジの実力を現す。つまり、自分は結局ゼロだったのだ。 「ねぇ……動いてよ」 それでも、それでもまだ僅かな可能性にすがりつく。 この使い魔はまだ眠っているだけだと、眠っているから声が届いていないだけなのだと。 そんな自分の有様に、ルイズの目の涙が溢れ出す。 それでも、すがらずにはいられなかった。 「動いてよ……起きて、動いてったら………!」 ルイズの目からこぼれ落ちた涙のしずくが、朽ちた装甲に落ちる。 その時、異変が起こった。 「……ぇ?」 涙の落ちた場所から、山吹色の凄まじい光が溢れ出したのだ。 「何よ……あれ……」 「何が起こっているのだ……?」 「………!」 その光は、下にいた三人にもはっきりと確認できた。コルベールは杖を構えた姿勢のまま、キュルケとタバサと共に見入っている。 だが、四人が驚く間にも光は溢れ続け、瞬く間にゴーレムの体を覆ってゆく。 「「「「……なッ!!?」」」」 四人の目が驚愕に染まる。 ゴーレムの光に覆われた箇所が再生しているのだ。 屑鉄と化していた装甲が、磨きたての鋼のような光沢を取り戻してゆく。 「え……えっ、?ちょっ、ぇ…きゃ、きゃああッ!!」 「ルイズッ!?」 「レビテーション……!」 突然の事態に取り乱したルイズが、足を滑らせて落下した。 タバサが瞬時にレビテーションをかけ、救出する。 レビテーションによって宙に浮いたルイズが地面に付いた時には、ゴーレムの体は全身が山吹色の謎の光に包まれ、そして完全に再生していた。 「…………、」 ゴーレムの頭部の目に当たる部分に光が灯る。 そして、ゆっくりと立ち上がると、力強い雄叫びを上げた。 「おおおおおおああああああアアアアアアァァァァァァァァァッ!!!」 Prologue[次元を越えて]完 Next[その名は超竜神]に、シンメトリカルドッキング承認! これが勝利の鍵だ![シエスタ] To be continued...
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3211.html
……そして、『剣』と『たて』をかざっていた27の宝石が 『27の真の紋章』となり、世界が動きはじめたのである。 (『創世の物語』より) ☆ 抜けるような青空の下、広い大海原。その波の合間を一艘の小船が漂っている。 乗っているの一人の少年……だったものだ。 顔は青白く、見るからに生気はない。心臓に脈動の気配はなく、息をしていないことは明らかだ。 ――小船の上の少年は死んでいる。 誰が見たとしても、そうとしか判断できない状態。 彼の左手には大きな痣があった。黒い、巻貝を重ねたような歪な痣。 その痣が光を放つ。目を覆わんばかりの眩い光だ。光輝くその痣は一つの紋章であった。 そして彼の体に生気が戻る。血色が良くなり、心臓が脈打ち、胸も呼吸で上下している。 それはあまりにも小さく、彼が未だ瀕死の状態であることは明らかだ。 だがそれでも、彼はたしかに息を吹き返したのだ。 そして、紋章の光とは別の、温かな光が彼を包む。 その光はしばらく彼の体にまとわりつき、そして消える。 光が消えた時、彼はもうこの世界には存在していなかった。 ☆ 「――我が導きに答えなさい!」 ルイズは精神を集中し、高らかな声で使い魔召喚の呪文を唱え、魔法を発動させる。 彼女の手の中の小さな杖は振るわれ、そして―― 「うわあっ!」 「きゃぁっ!?」 まわりで召喚の儀式を見守っていた同級生達は悲鳴を挙げる。 轟く爆音、激しい光、そして舞い上がる土ぼこり。 ルイズの魔法の結果はいつものとおりの爆発。彼女のよくやる失敗魔法だったのだ。 メイジとしての一生を左右すると言っても過言ではない使い魔召喚の儀式。 それに失敗することは、いつもの魔法の失敗とは程度の違う問題だ。 また失敗してしまった? ルイズの内心に焦りが浮かぶ。 使い魔を召喚できなければメイジ失格。彼女の在籍するトリステイン魔法学院を落第となっても文句は言えないだろう。 そう考え、ルイズは最悪の結果を恐れた。だが、それは意外な形で裏切られることとなる。 ルイズの失敗魔法が引き起こした爆煙は未だあたりに立ちこめている。 その爆煙の中に何ものかの影が映る。人間大の影、それはルイズが召喚した『使い魔』に他ならない。 ルイズは歓喜の声を挙げる。 「やった? 成功した!」 喜び勇み、一刻でも早く使い魔の姿を確認しようと煙の中に歩み寄る。 少しづつ煙は晴れていき、その姿は鮮明になっていく。 竜だろうか? グリフォンだろうか? いや、この影はそれほど大きくないか。でも一体、自分の使い魔は何なのだろう? 期待に胸を躍らせ、じっくりと己の使い魔を見定める。 だがその使い魔は…… 「何これ! 人間じゃないの!」 煙の中から現れた彼女の使い魔は、幻獣でもなければ竜でもない。小動物ですらない、ただの人間だった。 年のころはルイズと同じか、それよりも少し上くらいだろう。青年というには少し若い、少年であった。 顔立ちはまぁまぁ整っている。特徴らしい特徴は無いが、強いて言うなら優しげな面立ちをしていると言えるだろう。 身なりは立派なものではない。黒いシャツに黒いジャケットに黒のズボン、そして黒の皮手袋。 服の上から胸当てをつけていることからそれが一種の軍装であることがわかる。 鎧姿のような頑丈さよりも身動きのとりやすさを主軸にした水兵服に近いものだ。 いずれにせよ、貴族の身なりではない。平民のそれであることは間違いない。 ふと、ルイズの前に立っている少年の体がぐらりと揺らぐ。その目は薄く閉じられていて、体勢は弛緩している。 つまり、彼は意識が無いということで。当然の結果として彼は倒れ付す――目の前に立つルイズの上に。 「きゃっ!」 ドサリ、と鈍い音を立てて二人は倒れこむ。 受身も何も無い、あまりにも無防備な倒れ方から彼が正真正銘意識不明であることがわかる。 「ちょ、ちょっと! 離れなさいよ!」 客観的に見れば彼に押し倒される格好となり、真っ赤になってルイズは彼に怒鳴りつける。 しかし眠っているわけではない彼が目を覚ますはずもない。 彼の体の下から抜け出そうにも脱力した少年の体は重く、非力なルイズの力では思うように動かせなかった。 ことの成り行きを見守っていた級友達が、先ほどにも増してざわざわと騒ぎ始める。 「ルイズが平民を召喚した?」「でもなんかぐったりしてるわよ」「ひょ、ひょっとして死んでる?」「ルイズが殺した!?」 最後の言葉に弾かれるように、皆一斉に後ずさる。関り合いになるのを恐れての行動だ。 あまりにも薄情が過ぎるクラスメイトに、ルイズは涙目になって叫ぶ。 「ま、待ちなさいよあんた達! 私はただ呼び出しただけでしょうがあー!」 「落ち着きたまえ、ミス・ヴァリエール」 そう言って監督役の教師であるコルベールは、喚くルイズを少年の下から引っ張り出す。 人間が呼び出されたことに驚きこそすれ、死体のようなものには動じることなく淡々と少年の体を検分する。 脈に手を当て、口元に耳を寄せ呼吸を確かめ、手でまぶたを開いて瞳孔の反応を見る。 「……ふむ、死んではいないようだ。かすかだが、脈もある」 「ほ、ホントですか?」 あわや殺人者扱いされるところだったルイズはほっと息をつく。 「ああ。だがとても衰弱していることは間違いない。すぐに手当てをしなければな。それとミス・ヴァリエール」 「はい?」 呼び出したものが死体でなかったことにたいする安堵感でいっぱいのルイズに、コルベールは意外な言葉を投げつける。 「今のうちに契約をしておきたまえ」 「ええ? こんな状況でですか!」 驚くルイズ。 契約の儀式そのものは簡単に済ませられるものであるが、何もこんな状況でやることはない。 この謎の平民がの健康状態が回復し、その正体を確かめてからであっても遅くは無い。 無論のことコルベールもそう思ってはいるのだろう。やや困った顔をして言う。 「今は契約の儀式をしている場合ではないという、君の言うことももっともだ。ミス・ヴァリエール。 だがこのままこの少年が助かるにしろそうでないにしろ、契約をしておかねばいろいろと厄介ごとも多い。 なにせ前例の少ない事態だ。契約前に召喚した生物が死亡した場合、次にまた使い魔を召喚することが可能かどうかも怪しい。 それに、ただの平民ではなく君の使い魔ということにすれば手当ての手続きも簡略化できる。 平民を使い魔にするなど、不測の事態であるとは言え決まりは決まりだ。混乱するのもわかるが、残念ながら例外は認められない」 召喚した使い魔が死亡した場合、メイジは新たな使い魔を召喚することができる。 しかしそれはあくまでも契約した使い魔が死んだ場合だ。 ルイズのように、召喚したはいいが契約していない場合はどうなるかわからない。 普通はこのように、瀕死の状態で使い魔が召喚されることなどまず無いからだ。 そして彼を治療するにしても、自らが回復の魔法を使えるわけでもないルイズは学院の薬と治療専門の教師を頼ることとなる。 しかし、貴族のために用意された医療設備がただの平民の治療に使われるということは無い。 それを行うには、せめて彼がルイズにとって無二の関係者であるという事実が必要だ。 つまり彼を、メイジであるルイズには大事な存在『使い魔』にするのだ。 そのことに、無論抵抗はある。相手は獣や竜ではない。人間、しかも平民なのだ。 平民を使い魔にするなど、前代未聞と言ってもいいだろう。 この少年はたしかに自分の魔法で呼び出されたものではあるが、普通は平民が召喚されるなど在り得ない事態だ。 そんなイレギュラーを納得して受け入れることなどできはしない。 だがしかし――ルイズはやはりメイジなのだ。召喚した使い魔を無下に扱うなど、メイジ失格といえる。 さらにこの魔法学院においては、使い魔契約の儀式を成功させなければ在学し続けることはできないという厳しい掟があるのだ。 これではルイズとて、彼を使い魔にすることを拒むことはできない。 そして何より。たとえどこの誰だかわからない平民であっても、瀕死の重態に陥っている人間を見捨てることなどルイズにはできない。 使い魔を得なければならないという打算でもなく、弱者への哀れみとも少し違う、彼女の中にある『義』がそれを要求するのだった。 「わかり、ました……」 しかしそれでもまだ少し戸惑いながらも、ルイズは契約の儀式を行う準備をする。 少年の体を地面に寝かせ、その顔を見つめる。契約の儀式――すなわち口づけをする相手の顔を。 不思議なことに嫌悪感は少ない。この、まだ口も聞いたことの無い少年からは嫌な感じはしなかった。 「なんでこんなことになっちゃったのかしら……?」 ぼやくルイズ。自分が確実におかしな事態に陥っていることがわかる。 しかしそれでも、この少年を助けるためには自分が契約するしかない。 「……これでもファーストキスなんだから。ちゃんと回復しなさいよね」 せめてそれだけが願いとばかりに、早口で契約の呪文を唱え少年と唇を合わせる。 近づいた少年の髪からは、どこか懐かしい潮の香りがした。 ☆ 夢を見ていた。遠い、たしかな記憶として残っていないほど過去の夢。 それがいつのことなのか、浮かんでくる風景がどこなのか、誰が見えているのか、それを思い出そうとしても適わない夢。 だけどただ一つだけわかること、あれは―― ☆ 「ようやく目が覚めたみたいね」 薄く開いた眼に飛び込む光。まるで何日も光を見ていなかったかのような、あまりの刺激に頭痛がする。 「っ……」 首を振って、ゆっくりと眼を開ける。彼が最初に見たのは少女の顔だった。 薄く桃色がかった髪が特徴的な、気の強そうな顔立ちをした美しい少女。 彼女の大きな眼はじっとこちらを見つめていた。 「まだ寝てなさいよ。あんた三日も眠りっぱなしだったんだから」 言われて彼は身を起こそうとしてみたが、硬くなった関節は容易に彼の言うことを聞こうとしない。 時間をかけなければ歩くことはおろか、起き上がるのも難しいだろう。 三日とこの少女は言ったが、ひょっとすればもっと長い間気を失っていたのかもしれない。 記憶が混乱する。気を失う以前のことがはっきりと思い出せない。 少女の顔に見覚えがないことから、いろいろと状況が変わっていることは間違いない。 彼は少女に今の状況を尋ねようとして、自分がまだ彼女の名前も知らないことに気がついた。 「えっと……君は?」 「私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 「ルイズ・フランソワーズ……?」 あまりにも長ったらしい名前に閉口する。彼の知っている最も長い名前よりもさらに長い。 名前を覚えられない彼の態度に不機嫌そうな顔をして少女、ルイズは言う。 「……ルイズでいいわ。それで? あんたの名前は?」 「ラズロです。姓はありません」 問われて彼――ラズロはそう名乗る。姓も何も無い彼の名前は、ルイズに比べれば単純なものだ。 ラズロの名前を聞き、ルイズはしばし思案するような素振りを見せる。 「ラズロ、ね。……姓も無し。その名前からして、やっぱりあんた貴族じゃないわね」 「え、ええ。そうですけど」 彼の知る限り、世界には貴族でない人間のほうがよほど多い。というよりは、そうでなければ貴族にはならない。 なので、彼が貴族でないことは別に驚くことではないはずである。しかしそれに対する彼女は……。 ラズロは辺りを見回す。質素だが品の良い調度品に囲まれた清潔な部屋。間違っても下賎な人間の住むところではない。 かつてある貴族の屋敷で住み込みの使用人として働いていたことのあるラズロには、それがよくわかった。 「ええと――ルイズさん、ここはどこですか?」 「私の部屋。ついでに言うならあんたが寝てるのは私のベッドよ」 「え?」 言われて自分の寝ているベッドを見てみれば、それは天蓋つきの立派なもので、かけられたシーツも上質のものだ。 つまり、不可抗力とは言え自分は女の子のベッドで眠りこけていたということになる。 「――うわっ!」 気恥ずかしさに慌てて身を起こしベッドから抜け出ようとするが、やはり体はついてこない。 結果ベッドの上で転んでしまうこととなった。 それを見てルイズは呆れたように言う。 「だから寝てなさいって言ってるでしょ!」 「ご、ごめんなさい……」 女の子のベッドでゆっくり寝れるわけはないが、今は彼女の言うことを聞くのが懸命だ。 ラズロの肩をベッドに押し倒し、強引にベッドに寝かしつける。 「私だって赤の他人――しかも平民にベッドを貸す趣味は無いわ。でもしょうがないのよ、あんたは私の使い魔なんだから」 彼女が自分を心配してくれているのは、どうやら自分が『使い魔』なるものらしいからであるようだ。 「あの……使い魔って何ですか?」 聞きなれない単語に、ラズロは彼女に尋ねてみる。 彼が抱く当然の疑問に、ルイズは面倒そうに言う。 「やっぱり説明しなきゃ駄目よね……。もう! 普通の使い魔ならこんなこといちいち言わなくていいのに!」 そしてルイズは説明を始める。使い魔とは何か、召喚とは何かを。 説明を聞いたラズロは、半信半疑といった様子で聞く。 「つまり、貴女が僕をその……『召喚』したってことですか?」 「そうよ」 通常の場合、獣や竜などがその対象になるというのに、自分のような人間が召喚されてしまっている。 普通は起こりえないことだと言われ、召喚された当の本人であるラズロも困り果てる。 「それは……困ったな」 「困ったのは私のほうよ! 強くて美しい使い魔を期待してみれば出てくるのは平民だし! しかも死にそうになってるし!」 「ぼ、僕に言われても……」 怒りを露にするルイズに、ラズロは圧されたようになる。 彼女には彼女の事情があるとはいえ、自分もまた召喚に応じた覚えも無ければ好き好んでここにやってきたわけではない。 困り果てて視線を逸らし、窓の外を眺めてみてラズロは驚く。 「海が……無い?」 うみぃ? と鸚鵡返しにルイズは言う。 「海なんてここからじゃすごく遠いわよ。……ねえ、あんたどこから来たの? この辺じゃあ見ない格好してたけど」 それはラズロも気になっていた。ルイズの格好と自分たちが暮らしていた場所の服装は少し違う。 自分が主に海上での活動を主においた服装をしているのに対し、彼女の服装は内陸部のものにように見受けられる。 「群島諸国のラズリルからなんですけど」 群島、という言葉にルイズは得心したような顔をする。 「……そうか、島ね。それでキスした時に潮の香りが――」 「キス?」 何やら聞き捨てなら無い単語を聞きつける。 キス? キスというとやはり口づけのことか? 「えっと、キスってなんの事?」 不思議に思い、ラズロは聞いてみるが。 「! な、なんでもないわよ!」 ルイズは何故か顔を赤くし、慌てたように首を振る。 「とにかく! ラズリルなんて聞いたことないわ。あんた適当なこと言ってんじゃないでしょうね?」 誤魔化すように言われたその言葉に愕然とする。 「じゃあ僕は本当にここに召喚されたの……?」 ラズロの仲間の中には、一瞬で離れた場所へ移動することのできる力を持った紋章を使う者もいた。 そして、さらに数ある紋章の中には異界から物や生物を召喚するものもあるという。 それと同じような現象がラズロの身に起きたというのだろうか? 半信半疑のラズロにルイズは言う。 「契約の儀式を済ませた使い魔の体には、使い魔の刻印(ルーン)が刻まれるているわ。それが証拠になるはずよ」 なるほど、とラズロは納得する。理屈はわからないが、自分の体に何かしらの変化があるならば だがまた一つ、素朴な疑問が浮かんでくる。 「それで、その契約の儀式っていうのはどんなことをしたんですか?」 使い魔の刻印、というからには何か彫り物でもされてしまったのではないかと思ったのだ。 しかしルイズにはその質問が意外だったのか、再び慌てたようにして言う。 「う、うるさいわね! なんだっていいでしょう!」 言うや否や、ルイズはバッとシーツをめくりラズロの左腕を引っ掴む。 引き出したラズロの手の甲を指差す。 「とにかく、あんたの左手にはこの使い魔のルーンが……って、あら?」 「!」 彼の左手を見た瞬間。ルイズは間の抜けたような声を出し、ラズロは息を呑む。 ラズロの左腕にはたしかに使い魔のルーンがあった。 ラズロには読むことの出来ない、棒を何本か組み合わせた単純な文字。これがおそらくルイズの言う『使い魔のルーン』だろう。 問題はその『使い魔のルーン』の下にあるものだ。 「最初に見たときは慌てたから気づかなかったけど、ルーンの下に何かあるわね。何これ……痣?」 表面を刻印に覆われるようにして描かれた、黒い歪な形の巻貝を重ね合わせたかのような形をした禍々しい紋章。 ラズロは己の愚かさを悔やむ。 自分は何故この紋章の存在を今まで忘れていたんだ? これを宿したその日からラズロの運命を大きく動かしてきた、今の彼とは不可分の因縁のある呪い。 この世に27あるという、世界の根源を現した真の紋章の一つ。 その忌まわしき名こそ―― 「……罰の紋章」 え? とルイズはラズロのほうを見る。ラズロはそんなルイズと瞳を合わすことなく俯いた。 「まだ、僕の手の中にあったんだな……」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4637.html
前ページ誇り高き使い魔 1話「ルイズとベジータ」 学院の中庭。 使い魔召喚の儀式。 順番が最後になるルイズは召喚の呪文に意識を集中する。 (大丈夫よ。上手くやれる。それに……キュルケはわけの分からない平民を呼び出したのよ。ここで私がカッコいいユニコーンとか ペガサスを召喚して一気に差をつけてやるんだから) ルイズはライバルであるキュルケに差をつけるべく、全神経を集中し召喚に備える。 (行くわ!絶対に成功させるんだから!」 意を決し呪文を唱える。 「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ。 我が導きに応えなさい!」 それと同時に起こる大爆発。 周囲は爆炎に包まれた。 「おいおい。また爆発だぜ」 「やっぱりゼロのルイズだ。使い魔すら召喚してない」 と、周囲の生徒からはルイズを馬鹿にする声が聞こえてくる。 しかし、その煙が風で飛ばされ、煙の中から人影が『二つ』出てくる。 一つはルイズ。 そしてもう一人、ルイズに召喚された男がそこにいた。 「なんだここは?……何があった…………見覚えは………無いか」 男は周囲を見渡しながら独り言を呟く。 そしてルイズはそれを呆然と見つめている。 「これが………私の使い魔」 ルイズは唖然としながら呟く。 しかし先ほどキュルケは渋々ながら平民を契約をしたのだ。 自分だけがやり直しが出来るわけは無い。 「はあ、しょうがないわ。いい。あんたみたいな平民が私に契約してもらえるなんて凄く光栄な事なんだからありがたく 受け取りなさい」 「契約?何をするつもりだ。もしや貴様がここに俺を呼んだのか。貴様一体なんの………」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、 我の使い魔となせ!」 「ぐっ!?」 ルイズは有無を言わさず一気に契約の口付けを交わす。 男はあまりに自然な行為に呆気にとられ、ありえないほど隙だらけにしてしまいあっさりと契約を交わしてしまった。 「ふう、終わったわね」 「………お、終わっただと!貴様一体何のつもりで俺の……」 「貴様貴様ってうるさいわね。 私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールってちゃんとした名前があるの。 ……そういえば聞くの忘れてたわ。あんた名前は?」 「あんただと!俺はべジータだ。俺をあんたと呼ぶとは中々なめた真似をしてくれる」 「だって使い魔でしょ。まあ、あんたは可哀想だからべジータって名前で呼んであげるわ」 「なんだと、きさ……っ!」 ルイズの態度にベジータは少々イライラするが、不意に右手の甲に痛みが走り手を押さえる。 よく見ると、手には見覚えの無い紋様のようなものが刻まれている。 「ああ、それは使い魔のルーンよ。これがあなたも正式に私の使い魔になれたのよ。感謝しなさい」 「使い魔だと、貴様、俺を舐めるのもいい加減にしろよ!」 ルイズの態度に流石のベジータも怒り、ルイズの真横を気で爆破させる。 それは、ルイズの魔法失敗の爆発と違い、強い威力を誇る爆発だった。 「っ!?」 その爆発にルイズは息を呑んだ。 いきなり起こった爆発に腰を抜かし、小さく震えていた。 「あっ!ちょっとベジータさんじゃないですか!?」 と、そこでようやく他の生徒の人ごみを掻き分けて、一人の男がベジータへと駆け寄る。 「悟飯じゃないか?どうしてここに……」 「多分ベジータさんと同じです。ベジータさんはこの子に召喚されたんでしょ。僕はキュルケって人に召喚されて……」 「そうよ。私がこのゴハンって子の主よ。へえ、あなたがルイズの使い魔。さっきの爆発はあなた?ひょっとしてメイジ?」 「ふざけるな。俺がこいつの使い魔になるわけ無いだろ。大体メイジってなんだ?」 ベジータは先ほどの爆発のショックでへたり込んでいるルイズを無視してキュルケにも背を向けて、歩き出す。 しかしそれを悟飯が止める。 「待ってください、ベジータさん」 「なんだ?お前も来るか。早く帰らないと貴様の方はチチが心配するだろ」 「はい。ですが………ちょっと来てください」 「なんだ?」 「すぐ済みます。キュルケさんも構いませんか」 「ええ、別にいいわよ」 「ありがとうございます。それでは……ベジータさん」 悟飯がベジータを促し、少しキュルケと距離をとる。 そこでゆっくりと悟飯が口を開く。 「それがですね。どうやらかなり遠くの宇宙の星みたいで……」 「宇宙の星?どういうことだ?」 「一応色々聞いたんですけど、まず地球ではありません。ドラゴンボールもセルや魔人ブウの事もミスターサタンの事さえ 誰も知りませんでした」 「なるほど。だが、それなら他の星だけで、遠くの星とは限らないだろ」 「はい、ですけど…………月が二つあるらしく」 「二つ?」 「はい。月が二つ見えるってことは、太陽系以外の可能性もあります。ひょっとすると界王神様の管轄する外の区域の可能性も」 「ちっ、それじゃあ自力では脱出も、助けを呼ぶのも無理なのか」 「はい、それに……どうやらこの星は貴族の方々の身分がとても高いらしいので………しばらくはあの方達のお世話になったほうが 良いと思います。生活は保障してくれるみたいですし」 「つまり俺にあの小娘の使い魔になれというのか」 「………はあ、僕もキュルケさんの使い魔になりますし……無理ですか?」 「…………しょうがない。まあブルマも昔はあれぐらいだったから、不可能ではない。帰るまでの我慢だ」 ベジータも渋々ながら使い魔となる決意をする。 そして二人でルイズとキュルケの元へと帰る。 「あら、もう終わったの?」 「はい、ベジータさんもルイズさんの使い魔になるそうです」 「へえ、そうなんだ」 「ああ」 べじーたがぶっきらぼうに答えると、コルベール先生から号令が掛かる。 「それではこれにて使い魔召喚の儀式を終える。大変遅くなってしまったので、今日は寮に直帰するように」 その言葉と共に、現地解散となり生徒達は空を飛んで、宿舎へと向かう。 「じゃあ行きましょうか」 「はい」 キュルケは空を飛んで、悟飯に手を伸ばすが、悟飯も既に空を飛んでいた。 「それで宿舎って何処ですか?」 「………へえ、ゴハンも空飛べるんだ?」 「えっ!?だって皆飛んでましたよ」 「空飛べるのって、メイジだけよ」 「えっ?……………あっ、ほら練習したんですよ。練習。空ぐらい飛ばないと駄目かなって」 「ふふ、まあいいわ。じゃあ行きましょう。後で色々聞きたいから」 「はっ、はあ」 そして一方、ベジータとルイズ。 「おい、さっさと立て。いつまで放心してるつもりだ」 「えっ、……あっ」 「どうやら寮へ帰るそうだ。さっさと行くぞ」 「えっ、ええ………」 ルイズはそっと立ち上がろうとして、そして止まる。 「っ!?」 「どうした?」 不自然なルイズの動作にベジータは不思議そうに問いかける。 しかし、ルイズは顔を若干赤くしたまま、若干上ずった声で答えた。 「なっ、なんでもないわよ。私は後で行くから先に行きなさい!」 「無理だ。場所が分からない」 「いいから!キュルケたちと同じ場所よ。だから行きなさい!」 「ああ、じゃあ先に行かせてもらう」 ベジータはルイズの変な態度が気になりながらもすぐに悟飯達の居る寮へと空を飛んで向かう。 それを見届けてから、ルイズは辺りに人がいないことを確認して、そっとスカートを捲る。 「うう、やっぱり………貴族ともあろうものがこんな………屈辱だわ」 そうだ。ルイズのショーツは先ほどのベジータの起こした爆発のショックで濡らしてしまっていた。 そしてそれを気付かれる前にルイズはベジータを追い払ったのだ。 「とりあえず………メイドに着替えでも取ってこさせて着替えないと。………はあ、最悪だわ」 ルイズは顔を少し赤らめながら、自らの失敗を恥ずかしく思っていた。 こうして、ルイズとベジータ。キュルケと悟飯の使い魔と主の不思議なお話が始まった。 前ページ誇り高き使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1668.html
蒼いドールと翠のドールが深い闇へと落ちていく。 その先には、突然現れた光る鏡のようなもの。 鏡の中の鏡。それに蒼いドールは飲み込まれていく。 ゼロの使い魔~緑と蒼の使い魔~ [第一章 ゼロの使い魔] 第一話 召喚 その日、ルイズは召喚の儀を行い、毎度お馴染みの爆発が起こった。 爆発したのでルイズは失敗したのだと思い即座にもう一度行う。他の誰にも気付かれないように素早くもう一度。そしてもう一度爆発する。 こうなると周りの生徒達は、ルイズが失敗したと確信し、誰だってそうするようにからかっていた。 …しかし、煙の中には人影みたいなものがあったのだ。 ルイズは喜んで煙の中に駆け込んでいった。 「やった!成功したわ!」 生徒達は各々ざわめきだす。 「ば、馬鹿なッ!ルイズが成功した。そんなはずはッ!」「落ち着け。メイジはうろたえなィィィィ!!」「素数を数えて落ち着くんだ。」 ルイズが魔法を成功させるということは、普段失敗を目の当たりにしている生徒達にとって、とてつもない衝撃なのである。 そんな生徒達を無視し、ルイズは己が召喚したものに近づき呪文を唱える。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 と。 そして接吻をしようとした。 だが、よく見ると二体いるのだ。もちろん召喚されたものが。 一方、召喚された蒼いドール、ショートカットでいやらしい帽子を被っているボーイッシュ、つまるところは蒼星石である…は、召喚された際に通常の状態に戻っていたのである。 ローザミスティカは失っているのに動いている。ルイズに召喚されるにあたっての効能であろうか。まさにファンタジーやメルヘンの世界なのだ。 そして煙の中で、自分が抱きついている緑色がぼんやりと見える。 此処が異世界であると気付いてはいないのだが、緑色、翠星石が一緒であると言うことに、正常に戻った蒼星石はギュッと強く抱きなおす。 (なんだか硬いなぁ…。) そう思い、よく見てみると大きい。男性一人分の大きさだ。しかも何だか飛蝗みたいだ。 蒼星石は驚いて離れようとするが、石に躓いて尻餅をついてしまう。 「あの…抱きついたりして、ごめんなさい。」 少しばかり恥じながら、申し訳なさそうに蒼星石は謝った。 ルイズはその光景を見ていた。 口付けをしようとしたら、二体いたのだ。暫し戸惑っていると蒼色の方が飛びのいて、尻餅をつき、謝っている。 蒼いほうはどう見ても小さい子である。しかし、緑色のほうは何だか強そうな亜人だ。 ルイズは心の中でガッツポーズをした。 その頃には煙も晴れて、無事成功したかと心配して、コルベールがやってきた。 コルベールは二体召喚されたという前例のない事態に驚き、とりあえず両方とも契約させるべきかな…と思い、ルイズに契約を二体ともするように促した。 言われたことに従ってルイズは契約を済ませようとする。 まずは練習がてらに蒼い小さい方に口付けをした。蒼い方は何だか戸惑っているようだった。 (こっちはあんまり役にたたなそうね。身の回りの世話でもやってもらおうかしら。) 「あぁぁぁぁ…あうぅぅ…うぅぅ…」 蒼いほうがルーンを刻まれるにあたって起こる熱に、悲鳴をあげていた。勿論我慢しようと心がけているのだが。 次は緑色の亜人だ。蒼星石を相手にせず、ルイズは緑色に近づく。その緑色と契約するのが楽しみで、蒼星石はアウトオブ眼中である。 ここで少しばかり時間は前後する。 緑色の亜人、ご存知我らの矢車の兄貴は、影山の亡骸と供に白夜の世界に向かおうとしていた。 その途中、目の前に謎の鏡のようなものが現れる。 ワームの類かと思い、矢車はゼクターを装着し、変身する。 …CHANGE KICK HOPPER!! 電子音が響く。白夜の世界に向かうのを邪魔するヤツは倒す。 その勢いで蹴りを繰り出すキックホッパー。しかし輝きに飲み込まれてしまった。 そして辿りついたこの世界。気付いたら小さい子に抱きつかれてて、そんでもって謝られる。 次にピンク髪の女の子が小さい子に急にキスをするという光景に。そこで害はないと思ったのか、変身を解く。 驚いたのはルイズだった。さっきまで緑色の亜人だったのが、黒いロングコートを着たただの平民に変わってしまったからだ。 暫し考え、きっと風の先住魔法か何かだろうと思い、ルイズは更に喜び、最高にハイってヤツになる。 そうしてその流れに乗ったまま接吻をする。ルイズはルンルンである。 (さっきは子供、今度は亜人だからファースト・キスにはカウントされないわ!) ズキュゥゥゥゥゥゥン!! (遂にやったわよ!本当に凄い当たりくじ、これで少しは見返してやれるわ。) 当然ルーンが刻まれることによって起きる熱に苦しむ。 「それはルーンが刻まれているだけよ。すぐに終わるわ。」 蒼星石のときにはかけなかった言葉をかける。 痛みが納まり、ルイズのほうを一体何なんだと見る矢車。それに対してなんともないという風に見返して尋ねる。 「あなたの名前は?」 矢車は流れがよくわからなく、面倒だったがとりあえず答えておいた。これぞルーンの洗脳効果である! 「………矢車、矢車想だ。…どうせ俺なんて……。」 to be continued…
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1358.html
前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形 教室にはもうほとんどの生徒が集まっていた。そして生徒の数だけ使い魔がいる。 「うわぁ」 様々な生き物にアンジェリカは目を奪われ感嘆の声をあげる。 「アンジェここに座るわよって何であんたがこっちにくるのよ!」 「いいじゃな。どこに座ろうとあたしの勝手でしょ」 ルイズが席に着くと隣にキュルケがやってきた。 ちょうどその時、紫色のローブを身に包んだ女性が現れ、口を開いた。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。おや、ずいぶん可愛らしい使い魔ですね。ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズがそういうと教室はどっと笑う生徒と可愛いと口に出す生徒に分かれた。 「ゼロのルイズ!召喚できないからって、可愛い女の子を誘拐してくるなよ!」 「誘拐!ふざけたこというんじゃないわよ!ミセス・シュヴルーズ!かぜっぴきがわたしを侮辱します!」 「かぜっぴきだと!俺は風邪なんか引いてない!風上の・・・」 「はいはい、みっともない口論はおやめなさい。いいですか、お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません」 シュヴルーズがそういって二人を諭そうとした。 「ミセス・シュヴルーズ、ルイズがゼロは事実です。事実を言って何が悪・・・」 マリコリヌは最後までしゃべることができない。彼の口に赤土の粘土が張り付いていた。 「あなたはその格好で授業を受けなさい。では授業を始めます」 ルイズが怒鳴りあっている間、キュルケはというとアンジェリカと戯れていた。 「アンジェちゃんかわいいわね~」 キュルケはそういってアンジェリカを膝の上に乗せる。 「あら、ちょっと見かけのわりに重いわね」 少し苦しげにぼやく。そのまま授業を受けていたキュルケだったが、ようやくルイズがそのことに気付いた。 「ちょっとキュルケあんた何してんのよ。早くアンジェをおろしなさいよ」 「ええー、かわいいからもう少しだけいいでしょう」 「アンジェ、いやよね?そいつの膝の上なんて」 ルイズがムキになってアンジェリカをキュルケから引き離そうとしているとシュヴルーズに注意されてしまった。 「ミス・ヴァリエール!私語を慎みなさい!そんなに授業が退屈ですか?」 「いえ、その」 「ならあなたにやってもらいましょう。さあこの石を望む金属に変えるのです」 「ルイズやめて!」 思わずキュルケが叫ぶ。だがルイズはそれを無視し、緊張した顔つきで前に進み出る。 「アンジェちゃん。隠れるわよ」 「キュルケちゃん、どうしたんですか?」 「どうしたもこうもないわよ、危ないから隠れるの」 キュルケはそういってアンジェリカを机の下に隠れさせる。 「フレイム。ちゃんとアンジェちゃんを守るのよ」 きゅるきゅる 他の生徒たちも同様に隠れる。しかしルイズは意に介さず、自身の魔法に集中する。そして杖を振り下ろす。 シュヴルーズは常識的な教師だ。ミス・ヴァリエールが魔法を使えないという話は聞いていたし、彼女が努力家だということも知っていた。 だがしかし、誰が魔法が失敗したら爆発するなんて考えるだろうか。いや普通はそんなことは考えない。だったら事前に教えて欲しかった。ミス・ヴァリエールは魔法に失敗したら爆発を起こす、と。 爆風に吹き飛ばされる中、シュヴルーズはそんなことを考えていた。 「ちょっと失敗したわね」 ―どこがちょっとだ― 皆の心が一つになった。 「ミス・ヴァリエール・・・」 「はい!何でしょうかミセス・シュヴルーズ」 「魔法が失敗したことは咎めませんが、しかし!この惨状はどういうことですか?」 シュヴルーズが指差す先、教室はめちゃくちゃだ。ルイズは目線でアンジェリカを探す。どうやら傷一つ負っていないようだ。 「大丈夫みたいね」 「どこが大丈夫みたいね、ですか!ミス・ヴァリエール!あなたには教室の片づけを命じます」 「わかりました」 ルイズはがっくりとうなだれた。 そして生徒達は使い魔と供に教室から出て行き、教室にはルイズとアンジェリカが取り残される。 「失望したでしょアンジェ?」 「はい?」 「わたし魔法が使えないのだからゼロのルイズなんて呼ばれているのよ」 「?」 アンジェリカはよくわからないといった表情でルイズを見詰める。 「はぁ。もういいわ。そういえばあんた魔法知らないのよね?」 「はい、よく知りません。でもあの爆発はすごかったですね」 アンジェリカを失望させずにすんだことに安堵したものの、失敗魔法の爆発に話が変わろうとしていた。慌てて話を摩り替える。 「そ、そういえば、朝のあれ。えーとオウグだっけ? それ何?」 「AUGですか?」 アンジェリカはヴィオラのケースからAUGを取り出し、構え、初弾を装填する。 「そうよそれ。何なの鉄砲?」 「えっとですね。これはステアーAUG、ブルパップ式の突撃銃です。全長は690mm、重量は3.3kg。5.56mmNATO弾をダブルカラムで30発装填出来ます」 「よ、よくわかんないけど、鉄砲なのよね。初めて見たわ。アンジェ、ちょっと貸してくれない?」 そういってアンジェリカからAUGを受け取る。 「何か話に聞いていたのと形が違うわね。どうやって撃つの?」 「ルイズさんストックを肩につけて、そうです。」 「こ、こうかしら」 「はい、それでトリガーを引けば撃てますよ」 ルイズアンジェリカにいわれるままに構え、銃口を窓に向ける。 「音と反動に気を付けてくださいね。」 そしてトリガーを力一杯引く。 数百羽の鳥が一斉に羽ばたくような規則的な騒音。肩に伝わる強い反動。そして床に散らばる30の薬莢。全てが予想外だった。思わずルイズは尻餅をつく。 「ルイズちゃんだから気を付けてっていったのに」 「あ、アンジェ、あんたこれ凄いわね。びっくりしたわ」 「はい、この前はこれで敵を三人やっつけてマルコーさんにも誉められました」 アンジェリカは笑顔でそう答える。 「やっつけたってアンジェ、どういう・・・」 「それよりもルイズさん、早く片付けましょう。お昼ご飯に間に合いませんよ」 「そ、そうね」 後で詳しく聞こう。ルイズはアンジェリカのことをよく知らない。だから彼女自身のことをもっと教えてもらおう、そう考えながら教室を片付ける。 Episodio 4 Il grande fucile dell'angelo 天使の大きな銃 前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/411.html
やっと、やっと出来た。これで、使い魔がわたしの元に……! ルイズの胸は高鳴っていた。 何度も何度も爆発を起こしては、皆に笑われていた『サモン・サーヴァント』。 最後の正直とばかりに魔力をつぎ込んだが、どうやらそれが功を奏したらしい。 魔術反応に空間が揺らめき、弾け――何かを、この世界に召喚した。 「何よ、これ……」 そこに突き刺さっていたのは、一本の杖だった。銀の飾りと大きな宝石が静かに輝いている。 ルイズはおずおずと歩み寄ると、その杖を引き抜いた。バランスを崩しかけ、ふらつく。銀飾りがちゃりりと鳴った。 「……………………」 「……………………」 さわやかな春風が、吹き抜けた。が。 「おーいゼロのルイズ! せめて生き物呼び出せよ!」 その罵声は沈黙を破ったばかりか、他の罵声を呼び出した。 「無機物呼び出してどうすんだよ」 「まさかインテイジェンスロッドとかー?」 「どこに口があるんだよ!」 ざわつく心ない声に、ルイズの顔がかあっと赤くなった。 「う、うるさいうるさいッ! こんな杖なんか……!」 今は杖の重さすら感じなかった。この喧しい声が止まるなら、腕など安い代償だった。 ゆっくりとルイズは杖を振り上げ、 「こんな杖なんかーッ!」 重力に任せ、振り下ろそうとした。 しかし、その刹那。 『何故ですか! アーロン様!!』 唐突に、奇妙な響きを持った男の声が、辺りに響いた。 男というより、声変わりしたばかりの少年のような若々しい声だった。 皆驚いて顔を見合わせ、今の声の主を探した。 そしてそれがルイズの持っている杖だと気付くと、大きく目を見開いた。 「なっ、によ、コレぇ……!」 杖は宝石から光を放ちながら、ルイズの手の中で震えている。 ともすれば自分の手から落ちそうなそれを、ルイズは必死に掴んだ。がちがちと銀飾りが激しく音を立てる。 遂に宝石から青白い稲妻が走り、生徒たちの目を焼きながら地に落ちた。 ルイズは反動で尻餅をつくという醜態を曝したが、それを恥ずかしく思う暇などなかった。 落ちた稲妻は何かのシルエットを象り、やがて薄れて消えた。 後には、不思議な生き物だけがひざまずいていた。 漸く視力が戻った生徒たちは、思わずその手に小さな杖を構え、生き物に近づいた。 狐の獣人だろうか。青と黄色の身体をしている。 黒い覆面をしたような頭には、雨粒の形をした房が4つ生えていた。 ルイズも何とか衝撃から立ち直り、獣人に近づこうとした。 が、しかし。ふいに獣人は頭を上げると、その房をピンと立て高速で振動させ始めた。 そして体を起こし、未だ自体が飲み込めないルイズに、ゆっくりと近づく。 『何故……城を捨てたのですか! 一体何故……何故なんです!』 どうやら先ほどの声の主は、この獣人らしい。 だが悠長に分析ができる人間など、この場には一握りもいなかった。 『アーロン様、一体……何故』 一番困ったのは、当然ながらこの獣人を呼び出したルイズだった。 先ほどから言っているアーロンなる人物が何者なのか、まったく見当がつかない。 何より目を閉じているのだ。何故自分とその人間を間違えているのだろう。 「あの、あんた……何か人違いしてない?」 ようやくルイズがそう言うと、獣人は喉の奥でブルルと唸った。 そして、辛そうに瞼を開いた。赤い目が、ルイズを射抜くように見つめた。 だがその目線も、すぐに戸惑うものへと変わった。 不安げに尾を垂らし、辺りをぐるりと見回す。 自分に突き刺さる視線にぶるりと身体を震わせると、獣人は軽い身のこなしでそこから跳ねるように走り去った。 「…………あれ?」 「え? 今の使い魔……」 「逃げた?」 「使い魔が?」 「召喚した使い魔が、逃げた?」 「ゼロのルイズが召喚した……」 つぶやきは、再び洪水となってルイズの鼓膜を破ろうとした。 「ミスタ・コルベールッ!!」 洪水が嘲笑に変わる前に、ルイズはそれを自分の怒鳴り声でかき消した。 「何だい? ミス・ヴァリエール」 「あの、もう一度! もう一度召喚させてください!! お願いします!」 嘲笑を消す声も嘆願も、コルベールはもとより、使い魔召喚の儀式を曲げることはなかった。 「残念ながら駄目だ。使い魔召喚が神聖な儀式であることは、君も知っている筈だ。一度呼び出した使い魔は、それから一生涯のパートナーになるということも」 ――やはり、駄目なのか。ぎりりとルイズは唇を噛んだ。 切れる限界まで唇を噛み締めると、きっとコルベールに向かい合い、 「……わかりました。連れ戻してきます」 不本意ながら、そう言った。 見つけることは、思ったよりも簡単だった。 獣人は学院内の広場で、空を仰ぎ、呆然と立ち尽くしていた。 不安そうに尾と耳を垂らし、心ここにあらずといった姿で。 怒鳴りつけてでも首輪を着けてでも連れ戻そうと思ったが、こうショックを受けていると…… ルイズは彼に、そっと近づいた。 気づいたのだろう、驚いたような声を上げ、彼は振り返った。 どうやら、この獣の唸り声のような声のほうが地声らしい。 ルイズが口を開く前に、彼は苦しげにつぶやいた。 『戦争は……戦争は、どうなったんだ?』 『ロータは、オルドラン城は……リーン様はどうなってしまわれたんだ!?』 『……アーロン様は……ッ!!』 それだけ、だった。 彼はそれきり黙ると、座り込んでしまった。 結局ルイズが引きずる形で彼を連れて行ったが、既に誰も残っていなかった。 あとには、ショックに打ちひしがれたルイズと彼だけが残された。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7391.html
かつて、ゼロのルイズと呼ばれた少女がいた。 短期で気難しく激発しやすい感情を持て余した、しかし誇り高く家族や周囲の人間の幸せを願える優しい少女が。 だけど、その少女はもういない。いるのは、始祖ブリミルをも超えたと謳われる伝説の魔法の使い手であり、そんな自分を嫌悪するルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールというメイジである。 始まりは、春の使い魔召喚の儀式。 魔法の成功率ゼロのルイズという不名誉な呼び名を持つ少女は、このときに初めて魔法を成功させた。 召喚されたのは、今までに誰も見たことのない姿をした幻獣。 その長大な全長に比べれば細くみえる長く伸びた蛇体に、巨体に比べれば小さい鷲の爪を生やし、頭部には鹿に似た角を生やした不思議な幻獣。 神々しさすら感じるその幻獣は、召喚者であるルイズにこう言った。 「さあ、願いを言え。どんな願いでも一つだけ叶えてやろう」 何を言っているのだろう? ルイズは、そう思う。 彼女の目的は使い魔の召喚と契約であり、召喚を成功させたのなら、次は契約以外の目的などありはしない。 だから、そう言おうとしたのだ。 だけど、ルイズの口からこぼれ出たのは別の言葉だった。 「わたしを、魔法を使えるようにしなさい」 それは、少女が物心ついた頃から、常に願って止まなかった願望。 そのためなら、何を代わりに差し出しても悔いはないと思えるほどに渇望していたもの。 そんな彼女の願いに、幻獣は頷きを返す。そして幻獣が何かをした後でルイズの肉体が薄く発光した。 「願いは叶えてやった。では、さらばだ」 それでルイズと幻獣の出会いはおしまい。その後、何度召喚の呪文を唱えても幻獣が少女の前に現れることはなかった。 そのことで、ルイズを使い魔に逃げられたのだと嘲る者もいたが、そんな声はすぐに消える。 なぜなら、その日からルイズは魔法を成功させるようになったから。 どの系統に目覚めたのかと問うのは、無意味なことである。 魔法の成功率ゼロの彼女が目覚めたのは、全ての系統。水も土も火も風も、虚無ですら自在に操るようになっていたのだから。 もっとも、周りの者はもちろん、彼女自身もすぐにはそのことに気付かなかった。 使い魔召喚の翌日に起こった決闘騒ぎが、少女に自分の力を自覚させる。 決闘相手のドットメイジの少年が作り出した青銅の等身大女戦士のゴーレムを、ルイズはファイアー・ボールの一撃で吹き飛ばし、少年が次いで生み出した六体のゴーレムを、更に唱えたカッター・トルネードの魔法であっさりと消し飛ばしたのだ。 ファイアー・ボールは、ゼロと呼ばれていた少女には不可能な魔法であるし、カッター・トルネードに至っては、スクウェアスペルである。それを使いこなす彼女を、もはや誰もゼロとは呼べまい。 そして、少女は自身の実力に見合った活躍を繰り広げる。 土くれのフーケと呼ばれる盗賊の魔法で生まれた30メイルの土ゴーレムには、同じ大きさの鉄ゴーレムを作り対抗し学院の宝物庫を守り抜き。 王女の命でアルビオンに旅立ったときには、旅を共にした三人の学院生徒や婚約者の手助けもあってだが、 失われし虚無の魔法の数々をもってしてレコン・キスタを名乗るアルビオンの貴族派を追い払い余命のないはずのウェールズ皇太子の命を救いさえした。 その際、ルイズの婚約者たるワルド子爵が、何かに失敗したような苦い顔をしていたが、そこはどうでもいい。 四系統と虚無すら使いこなすメイジである彼女を、多くの者はブリミルの再来と呼び称えた。 この瞬間が、自分にとっての絶頂であったのだとルイズは思う。 その後の人生は、彼女にとって楽しいものではなくなっていく。 ルイズが生まれた公爵家は、トリステイン王家に仕える血筋である。 しかし、少女に目覚めた虚無の力は、それを許さないものであったのだ。 そもそも、トリステイン王国は始祖ブリミルの虚無の魔法を操る血筋を持って権威とする国である。 そこに、王家の血の連なりにあるとはいえ、王族でない者に始祖から伝えられた虚無が発現してしまえば、それは王家を脅かしてしまう。 彼女の存在は、本人の意思とは関係なく王家と公爵家に反目をさせあう結果となるのだ。 しかし、ルイズ自身にも、彼女の父たるヴァリエール公爵にも、王家を簒奪しようとする意志はない。 だが、先代の王亡き後、王妃マリアンヌが王位を継ぐことを拒否し続けた結果、この国は長い王不在の時を鳥の骨と呼ばれ嫌われている枢機卿マザリーニによって取り仕切られ、そのことに多くの貴族が不満を持っていたのである。 結果として、虚無の血を伝えたヴァリエール公爵家に王位を移せという動きと、それをさせまいという考えを持つ者の間で、トリステイン王国は割れた。 ルイズは、自分が尊敬する姫様と、お互いに望みもしないのに敵対しなければならくなかったのである。 そんなルイズが魔法学院に通い続けられるはずもなく、実家に帰った彼女は懐かしい人たちに会う。 それは、父であり、母であり、姉たちである。 ルイズが、誰よりも大切に思う下の姉のカトレアは、今も変わらず妹を大切に思ってくれていて、ささくれた心を解きほぐしてくれて泣きたくなるほどに嬉しかったのだけれど。 その姉が、会話の途中で咳き込んだ時に、ルイズは浮かれていた自分を恥じた。 そう。自分が虚無に目覚めようが、他の全ての系統の魔法を使いこなそうが変わらないものがある。 今の自分にも、救えない人間がいる。 誰よりも大切に思う人間だけを、自分は救えない。 それだけではない。 ルイズの虚無のことが知れてから、国内の多くの貴族がカトレアに婚姻を申し込んできた。 今までは、体が弱くヴァリエールの名も持たないカトレアに婚姻を申し込む貴族は皆無と言っても良かった。 だけど、虚無の血を伝え、王家に手の届いた公爵家の娘との婚姻は国の貴族たちには大きな意味を持つ。 別に死なれても繋がりを持った後なら構わない。そんな、浅ましい思考がそうさせたのだ。 本当なら、虚無の担い手本人であるルイズにも申し込むべきなのだろうし、実際にそうした貴族もいたのだが、彼女には婚約者がいて、公爵はそれを理由に全てを断った。 だけど、カトレアの方への申し込みは、そうはいかない。 誰にも引き取ってもらえない、死にぞこないの娘を引き受けてやるのだから、感謝してもらっても構わない。 そんな事を本気で思っている貴族を納得させるのは簡単ではないのだから。 大切な姉を、自分の存在が苦しめる現状を歓迎できるような性根はルイズにはない。 それに、ふとしたことで思うのだ。 自分の力は、本来の自分のものではない。使い魔召喚のときに現れた幻獣に貰ったものにすぎないのではないかと。 そして、こうも思う。 なぜ、あの時自分は姉の体の治療を願わなかったのかと。 ルイズの想像が正しければ、そう願っていたなら今の自分の栄光はなかっただろう。 だけど、大好きな姉は救えていたのだ。 なのに、それをしなかった自分をルイズは嫌悪する。 姉の命よりも自身の欲望を優先した自分を、潔癖な少女は許せない。だから、ルイズは己の浅ましさに絶望し続けるのだ。 小ネタでドラゴンボールからシェンロン召喚
https://w.atwiki.jp/398san/pages/550.html
《召喚八雲式》 通常魔法 自分のフィールド上モンスターを1体生け贄に捧げる。 生け贄に捧げたモンスターのレベル+2以下のレベルの「式神」と名のついたモンスター1体をデッキから特殊召喚する。 咲夜さんCGI2期で登場した式神サポートカード。 式神のキーカードの一つである。 生け贄モンスターに制約がなく、デッキから状況に応じて式神を特殊召喚できる。 やはり筆頭候補は【式神】の切り札たる《式神・八雲藍》だろうか。 召喚が比較的容易な《式神・シキオウジ》あたりを使えばコストも最小限で済む。 他にも《銀の式神-右京》から同じ光属性の《魔鏡の式神-那由多》を特殊召喚する、 《式神・八雲藍》が場に存在する状況で《式神・橙》を呼び出すなど利用法は多岐にわたる。 また、《洗脳-ブレインコントロール》等コントロール奪取とは非常に相性が良い。 相手の切り札モンスターを奪い、このカードで処理してやろう。 《メタル・リフレクト・スライム》を使えば全ての式神をカバーできる。 総じて、このカードをうまく利用できるかが【式神】の勝利の鍵となるだろう。 ただし、考えなしに使うと1枚のディスアドバンテージになってしまうのが欠点か。 2009/03/01にエラッタされ、現在の文章となる。 エラッタ前は特殊召喚できる式神のレベルが「生け贄に捧げたモンスターのレベル+1以下」だったため、強化されたといえよう。 レベル6の式神である《式神・十二天将》の存在でかなり使いやすくなった。 下級モンスターからこのカードを通して《式神・十二天将》を特殊召喚できる上、自身の効果でフィールドに呼びやすい《式神・十二天将》を使っての《式神・八雲藍》の特殊召喚が可能なのである。 原作・アニメにおいて―~ コメント募集中
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5179.html
前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園 トリステイン魔法学院、春の使い魔召喚の儀式。 それは2年次に進級する学生達が使い魔を召喚・契約し、自身の魔法属性と専門課程を決める重要な儀式だ。 しかしルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは既に使い魔召喚の呪文を数十回詠唱していたが、周囲には爆発で開いた穴が散見されるばかりで、使い魔に相応しい生物は影も形も見当たらない。 「ゼロのルイズは使い魔も召喚できないのか!」 「しょうがないよな。だってゼロのルイズだしさ」 生徒達の心無い声にルイズの胸は張り裂けそうになっていた。杖を握る手が震え、呪文を詠唱する口がこわばる。 コルベールは生徒達を下がらせてルイズの傍に立った。 「ミス・ヴァリエール、気負ってはいけませんよ」 「ミスタ・コルベール……」 自身の無能に落胆するルイズに優しくも力強くコルベールは説いた。 「使い魔はメイジの半身ともなる大事な存在です。そんなに落ち込んでいてはやってきてくれませんよ」 「でも私は……」 「無心に願いなさい。そうすればきっと始祖の導きであなたに相応しい使い魔を召喚する事ができるはずです」 コルベールの激励に、ルイズは呼吸を整えて再度杖を掲げる。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ。神聖で美しくそして強力な使い魔よ。私は心より求め訴えるわ。我が導きに応えなさい!!」 ルイズは願った。 (自分にも使い魔を、誰にも侮られない使い魔をください。魔法が使えない私にせめて胸を張れるような使い魔を……) 握り込んだ杖の先の地面が光を放って爆発する。巻き上がる土煙はこれまでの失敗よりもずっと激しく立ち昇り、広場を覆った。 「ケホ、ケホ……、つ、使い魔は?」 土煙が治まらないうちにルイズ・コルベールは爆心地を覗く。 「何これ……?」 爆発の中心地点だった場所の地面には何もいず、ただ地面が鏡のようにキラキラ輝いているのみだった。 「ほう、これは珍しいですね。召喚のゲートが維持されるとは」 「召喚のゲート?」 「ええ、ほかの皆さんの使い魔もこのゲートを通って召喚されたのですよ」 「ふーん……」 そう生返事を返しつつ、ルイズは好奇心からゲートに接近していった。 地面に置かれた大きな姿見のようなゲートをもっとよく見ようと、その縁に座って身を乗り出した……拍子にバランスを崩しつんのめる! 「え!?」 体勢を立て直そうとする間も無く、ルイズはゲートに飲み込まれてゲートごと姿を消してしまった。 『………』 コルベールを含め、その場にいる全員は呆然とゲートのあった地面を眺める事以外不可能だった。 ――ザー…… 頬に当たる冷たい感触でルイズは目を覚ました。 「え……、雨……?」 ぼんやりした頭を振って記憶を復活させる。 「確か……ゲート、そう、召喚のゲートに飲み込まれたのよね……。……ここはいったいどこなのかしら……?」 雨の幕の向こうを見渡すと、前後は果てし無く続く石畳でできた道、左右は無数に並んだ石柱群。 「もしかして、ここって墓場!?」 嫌な場所に放り出されたと言わんばかりにルイズは立ち上がり、 「とにかく墓場って事は人里に近いって事よね。こんな場所に長居は無用だわ」 そう言ってとりあえず前方に向かって駆け出した。 ……それから数十分後、墓地の出口いまだ見えず。 「こ、この墓場何でこんなに広いのよ!?」 後半の全力疾走がたたって息を切らしているルイズの視界に、人影が飛び込んできた。 「あ……」 そこにたっていたのは、ルイズが見た事も無い奇妙な衣服(正史において彼女が召喚した使い魔の故郷で「着物」という)を纏った眼鏡の美女だった。 (凄い美人……。でも何ていうか……、墓場にいるのが似合いすぎてる……。もしかして……、幽霊?) 「あら、見ない顔ね」 その美貌に一瞬ドキッとしたルイズだったがそれも束の間、 「あなた転入生?」 「……っ」 顔を接近させてきた女性にルイズは硬直した。 それはそうだろう。女性の体はルイズのいる位置から1メイル程度の距離を維持している。にもかかわらず女性はルイズに顔を接近させてきたのだ。 ……首を伸ばして。 (怪物!!) 驚愕したルイズはその場から一目散に闘争したが、女性は首を伸ばして追跡する。 「ひ……、あっ」 「嫌ね。何をそんなに驚いてるの?」 「きゃ」 ルイズの進路を封鎖するように、女性は頭部を逆さ吊りにしてルイズの目の前に顔を出した。 「わかったわ。その慌てよう、学校をサボるつもりだったのね。いけない子。お仕置きが必要だわ」 「いやああ」 女性は伸ばした首をルイズの体に巻きつけていたが、突然その動きが停止する。 「あっ、い、いたっ、やだ、首つっちゃった。ちょ……、戻して戻して」 あまりに苦しげな女性の懇願に、ルイズは今自分が彼女の首に巻き付かれているという事も忘れどうすべきか考えた。 (も……、戻すって!? え、何、怖いし!! あ、でも凄く苦しそう……) ルイズはとりあえず出てきた首を引っ込めればいいとばかり、胴体を押さえて首を押し戻し始めた。 「こ……、こうかしら?」 「いたいたいたいたいたいたい!! 無理やり押し込むなんて何て非常識な子!! どういう育ち方してきたのかしら!!」 「ひ……、非常識って!! そんな常識知るわけないでしょ!!」 「あー、もういいから背中のほくろ押して。ほら! 早く!!」 「ほ……、ほくろ?」 見ると確かにうなじと背中の境目付近にほくろがあった。 「これ?」 とルイズが押した途端、 シュルルルル……バチンッ 「ふう……」 伸びていた首が勢いよく縮んで人間と変わらない姿になると、女性は安堵の溜め息を吐いた。 「……サボろうとした事は大目に見ましょう。さ、行きなさい。授業が始まるわ」 「あ……、違うのよ。私……、道に迷って……」 「そう、じゃあ一緒に行きましょう」 そう言うと女性は再度首を巻き付けたルイズの体を引きずり、墓地の奥の方にある木造の建物の方に連れていった。 「やややや、そうじゃないのよーっ!」 「はい、席に着いてー。今日は我がもののけ女学園に転入生が来ました」 木造の建物が何なのかわからなかったルイズだったが、通された部屋を見て学校である事が即座にわかった。 魔法学院と比べれば狭いものの、椅子・黒板・机と授業に必要な設備がひと通り揃っていた。 しかしそこにいる女子生徒達は明らかに異様だった。 目が1つの者、頭部に皿が手に水掻きがある者、獣耳のある者、角のある者……。一見して人間に見える者は皆無だった。 (な……、何……) すると椅子の上に奇妙な姿勢で座っている猫耳・猫しっぽの少女が興味深げにルイズを見て、 「転入生なんて何百年ぶりだろうね! びしょ濡れだけど濡れ女かな」 「やめてよ。あんな品の無いのが私と同種の訳ないでしょ」 そう否定した少女は、上半身こそ人間だったものの下半身は蛇だった。 (猫!? 蛇!?) 「お腹空いたね」 「あんた食いすぎ」 「でも何かいい匂いがする」 そんな会話を交わしているのは、緑・黄・赤の肌を持ち角が生えている3人の亜人の少女。 「ゴブリン!? ……あ、わかったわ、仮装パーティーね」 自分の目を信じられず無理やりそう納得しようとしたルイズだったが、 「匂う……」 「ひっ」 その言葉と共に顔を接近させルイズの納得を粉砕したのは、少女のような形の煙だった。 「処女の匂いがする」 「ほんとだ、処女の匂いだ」 さらに単眼の少女2人が追い討ちをかける。 (こんなのどう見ても人間じゃないわ) 「確かにこれは処女の匂い」 「匂う」 「匂うね」 「まさかそんな。人間じゃあるまいし」 「でも匂う」 (どうしよう……) 「それ……、人間なんじゃないの?」 冷気をまとった少女の言葉に、その場にいる全員がルイズに注目する。 「(な、何とか誤魔化さないと)え……と、ルイズ・ヴァリエール、せ……、西洋妖怪ハッグで……す……っ。よ……、よろしく」 「何だー、西洋妖怪かー」 「もーやだあ、びっくりしたあ」 「人間だったら……、ねえ」 「ほんとに……、ねえ」 「いろいろ……、ね」 「そう……、いろいろ」 「いろいろ?」 首を傾げつつ尋ねたルイズに少女達は、 「食う」 「犯す」 「イタズラしちゃう」 と答えを返したため、 「……ルイズ・ヴァリエール、西洋妖怪ハッグです。よろしくっ!」 ルイズは一生懸命「西洋妖怪」の部分をアピールした。 「(一刻も早くここから立ち去りたいわ!)――それで、あの、ミスっ、転入初日なんですけど、体調悪いんで早退してもいいですか?」 「確かに顔色がよくないわね」 「じゃあ私が送ってくよ」 そう声をかけてきたのは先程の猫耳・猫しっぽ少女だった。 「こんにちは、ルイズ。私は猫又のキリ」 「あ……、ありがとう。でも1人で帰れるから!」 「だって寮の部屋わかんないでしょ?」 「寮?」 もしかしてと思ったルイズの考えを裏付けるような女性教師の、 「我がもののけ女学園は全寮制です」 という一言で大きく打ちのめされたルイズだった。 「今空いてる部屋はここかなー。ペロと相部屋だね。ペロには私から伝えとくよ」 量の部屋に案内されて初めての和室を興味深げに眺めるルイズに、キリは簡単に相部屋になる生徒について説明した。 「じゃあゆっくり休んで、また明日ね」 「うん、ありがとう、キリ……(亜人だけどキリはいい子ね)」 そしてキリが部屋を出ていくと、 「でも私は逃げるけど」 と窓を開けてみたものの、 「ここどこ!?」 窓の下は断崖絶壁と荒海のため窓からの脱出を断念。それならと廊下の様子を伺うも、 「でか!!」 巨大な頭部のみの寮母の姿を見つけまたも断念。 「どうなってるのよ、もう! このままじゃ私モンスターや亜人に食べられるわ! どうにか……しないと……どうにか……」 枕に顔を突っ伏して善後策を練るも、疲労からやがて寝入ってしまうルイズだった。 ぺろ……ぺろ…… 何かが胸を触る感触でルイズの意識は覚醒し始めた。 「やだ……、くすぐったい……ですよ、子爵……。ちょっ……いや、そんな所……っ」 そこでルイズははっとして目を覚ました。 目の前では女性教師が着ていたような着物を着崩した少女が、ルイズの足を舐め回していた。 「んー、おいち。キリから聞いたよ。よろしくね、ルイズ。あたしはあかなめのペロ」 「……あかなめ……」 ペロの口から長く伸びた舌にしばし硬直するルイズだったが、 「お風呂はどこー!?」 夜の学生寮にルイズの絶叫がこだまするのだった……。 前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園