約 1,012,624 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/988.html
ゼロのルイズが魔法を失敗し、爆発を起こす。当たり前の光景であり、そこには毛の先ほどの意外性もない。 はずだった。 『春の使い魔召喚の儀式』でサモン・サーヴァントを唱え、使い魔を呼び出す。 メイジであれば誰もが通る道だが、例外がないわけではない。例えばここにいるルイズ。 魔法を行使しようとしてもその成功率ゼロパーセント、ゆえにゼロのルイズ。 フライ、ロック、レビテーション、コモンやルーンの違いに関わらず、全ての呪文が爆発に通じる。 心無いクラスメイト達の期待にたがわず、大事な儀式でも爆発を起こす。 向かう先は留年、退学、兎にも角にも不名誉な道だが、嘲笑う人間にとってはどうでもいいことだ。 ただここに笑うネタがある。それで十分、十二分。 「おいおい、使い魔くらいまともに召喚してくれよ!」 「さすがはゼロのルイズだな」 「あなたには使い魔無しがお似合いよ!」 ここでルイズからの苦しい反論があり、それをネタにもう一笑い、という流れに沿うはずだった。 だが、当のルイズが動かない。爆発により巻き起こった土ぼこりを呆然と見つめていた。 自然、からかうことに腐心していたクラスメイトもそちらを見る。 笑いもからかいも無く黙って眺めていた級友達、慰める準備をしていたコルベールもそちらを見た。 土ぼこりの向こうに茫としたシルエットが見える。 はっきりとはしないが、二本の足で立っているようだ。 「亜人……?」 「まさか人間……?」 一人ならぬ人間が息を呑んだ。一陣の旋風が土ぼこりを払う。 皆のマントがバタバタとあおられ、女生徒のスカートがはためくも、目を逸らす者は一人としていない。 ルイズの爆発によって起こされた土ぼこりが吹き飛ばされた先には――何もいなかった。 一転、爆笑。 「やっぱりゼロはゼロだな!」 「まったく驚かせないでよね。紛らわしい」 ルイズの双眸は驚愕に見開かれていた。普段は澄んだ桃色を湛えているその瞳は、掴みかけた成功を奪い取られた絶望の黒に塗り固められていた。 「違うのよ! たしかに召喚した! 手ごたえがあったのよ!」 転々、爆笑。 「だっていたじゃない! みんな見たでしょ! そこに人影が!」 「光の加減でおかしなものが見えたんだろ」 「見間違いにすがるのはやめとけよ」 「いや、たしかに召喚は成功していたようだ」 土ぼこりの跡を調べていたコルベールの一言に、場の空気が再度固まった。 「見たまえ、かすかではあるが足跡が残っている。これはミス・ヴァリエールが起こした爆発の後にできたものだ」 「それじゃミスタ・コルベール……わたしはサモンに成功していたんですか!?」 「そういうことになる」 絶望は喜びへと転化しようとしたが、ルイズの理性が急転直下を押しとどめた。絶望は喜びではなく疑念に変わった。 召喚に成功したというのなら、なぜ使い魔がいない? まわりの生徒達もざわめいている。 使い魔に逃げられたとなれば格好の笑いの種だが、問題はその逃げ方だ。 衆人環視の中、忽然と消え失せた。そんなことが可能で、あのシルエットの持ち主となると―― 「音も無く消えるっておい……」 「エルフ……?」 「いや吸血鬼ってことも……」 「本当かよ……あのルイズが……」 思い当たる存在を次々あげていくだけで、ささやかならぬ恐怖が蓄積されていく。 不安げに囁きあう生徒達の心配が杞憂に終わらないであろうことを次なる発言者が念押しした。 「逃げていない」 「……そうか。君は風のトライアングルだったね、ミス・タバサ」 眼鏡をかけた少女がドラゴンの頭を撫でていた。 次々変わる状況におびえているのか、使い魔のドラゴンが少女について離れない。 「風が動いていない」 タバサの耳元でドラゴンが口を動かしているその様は、タバサという通訳を介してドラゴンの考えを語っているかのような滑稽さがあったが、それを笑う余裕がある者はこの場にいない。 「召喚された者が未だここに留まっているというのかね?」 「そう」 動揺は揺れ返し、恐慌になろうとしていた。 「なんだよ! どういうことだよ!」 「ど、どこに隠れてるんだ!?」 「落ち着きたまえ! 皆、見ない顔はいないか周囲を確認しなさい」 キュルケは杖を構えルイズの傍らへと移動した。さりげなくマリコルヌがついていく。強い者の周りが安全――風上との判断か。 ギーシュは右手にモンモランシーを、左手にケティを抱え、落ち着かない様子で周囲を見回す。 コルベールは油断無く生徒の顔を確認した。次いで召喚されたばかりの使い魔達を見る。 ――おかしい。 見知った顔しかない。教師の務めとして、召喚されたばかりの使い魔もきちんと把握している。 この場にいないはずの存在、いてはならない存在がない。 「ちょっとルイズ! あなたが召喚した使い魔でしょ、責任とりなさい!」 小声だが強い調子で話しかけた。キュルケの声が聞こえないはずはないのだが、ルイズは動かない。 「ルイズ?」 キュルケの語調が弱くなり、語尾に疑問符がついた。 いつでも魔法を使えるよう、杖を構えたままでルイズの顔を覗き見る。 そこにあったものは……。 「ル、ルイズ……!?」 高いプライドを持ち負けず嫌い、そのせいでコンプレックスに潰されかかっている。 何かとつっかかってくるが、その方向性はいまいちずれている。 空気は読めないが、他人のことを思いやることもできる。ただし余裕がある場合に限り。 キュルケにとってのルイズは、危なっかしく目が離せない妹――ルイズに聞こうとキュルケ本人に聞こうと言下に否定されるだろうが――のような存在だった。 だが、そこにはキュルケが見たことのないルイズがいた。 異相? 異様? 違う。これは……異形。 呆けているのではない。確固たる意思を持って半ば開かれ、半ば閉じられた口。 怒りとも笑いともとれない角度で押さえつけられている柳眉。 そしてその眼。平生の桃色でも絶望の黒でもない。そこには何も無い。『何も無い』があった。ただあった。 眼球が零れ落ちる寸前まで瞼が押し広げられ、瞬き一つ無く……。 キュルケは意識することなく一歩退いた。一歩退き、その事に気づいて戦慄した。 使い魔がこの場から離れていないとすれば、召喚主であるルイズが誰よりも危険に晒されているということになる。 ま、たまには恩を売ってやってもいいかもね……その程度の軽い気持ちでルイズの傍らに寄った。 庇護すべき対象だったはずのルイズに恐怖した。その事実がキュルケを戦慄させる。 この子は……この子は何だ? 何を見ている? 分からない。分からないことがたまらなく恐ろしい。 「おびえる必要はないよ」 キュルケの肩に手が置かれた。 「ルイズちゃんは集中しているだけなんだ」 「集中……?」 キュルケが振り返った先には女性用の下着をかぶった熊がいた。 「ここで使い魔をゲットしなくちゃ破滅が待ってる……追い詰められたルイズちゃんのインスピレーションがいつもの何倍も働いているんだ」 二本足で立つ熊が訥々と、だが自信ありげに語る。 「あの悪い目つきはその印だよ。あの鋭い目から逃げられる犯人は一人もいないんだ」 キュルケがふっと息をはいた。タバサとシルフィードは黙して動かない。 ギーシュ達三人は震えている。マリコルヌは汗を拭った。コルベールは息を殺している。 「さあ始まるぞ。ルイズちゃんの名推理が……!」 <読者への挑戦状> さあ、材料は全て揃った。 あなたは事の真相を見抜くことができるかな?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1183.html
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど…洗濯ってどこでやればいいの?」 「はい?」 ~奇妙なルイズ 空条徐倫の場合~ シエスタはテーブルクロスを両手で抱えながら、先ほど声をかけてきた女性『空条徐倫』と一緒に洗濯場へと歩いていた。 「ルイズ様が平民を呼び出してしまったと、厨房でも噂になっていましたよ」 「あー、そうなの?」 徐倫は苦笑いしながら、このハルケギニアに召喚された瞬間を思い返した。 『来いッ!プッチ神父!』 加速し続ける時間の中で、父も、友も、自分に求婚してきた男も、皆バラバラに切り裂かれて散っていった。 自分自身の体からも血が流れ出て、体が冷たくなっていくのが分かる。 エンポリオ少年に最後の望みを託し、ほんの一瞬、時間が加速し尽くす直前に、千分の一秒だけでも時間稼ぎをすべく、空条徐倫はプッチ神父の前に立ちはだかった。 そして無惨にも五体をバラバラに切り裂かれ、意識が虚空に消えていったのだ。 (目が覚めたらファンタジーの世界?何の冗談?それとも夢?) 今自分が生きていることに感謝すればいいのか、それとも取り残されたエンポリオを心配すべきなのか。 徐倫の思考は、召喚されてからずっとループし続けていた。 「…夢じゃないのね」 「え?」 「あ。何でもないわよ、こっちの話」 徐倫が空を見上げる、その仕草を見て察したのか、シエスタは話を変えることにした。 「トリスティンは自然に溢れていて、住みよい所ですよ」 「ありがと、確かに空気は美味しいわね」 昨日ルイズから聞いた話では、元の世界に返す魔法なんて存在しないし、使い魔を呼び出すゲートを開く『サモン・サーヴァント』は使い魔が死ななければ唱えられないと言う。 ちょっとだけふて腐れていた徐倫は、シエスタの言葉を短く返した。 徐倫が慣れない洗濯をしている頃、ルイズはキュルケ達と共に授業を受けていた。 疾風のギトーが、相変わらず『風の魔法こそが最強である』と、慢心に満ちた講義をしている。 そこでルイズが手を挙げて質問した。 「先生、質問があります」 「なんだね…君が質問とは珍しいな、まあいい、言ってみたまえ」 「エア・ニードルとエア・カッターでは、どちらが強力なんですか?」 ギトーは、思いがけない質問に数秒ほど考え込むが、生徒達に言い聞かせるように答えた。 「面白い質問だ、いいかね、両方とも風の刃であることには違いないが…」 呪文を詠唱し、小さなつむじ風でノートのページを何枚か宙に浮かせる。 「エア・カッターは風の刃だ、目に見えぬ鋭い刃が、広い範囲に展開される」 ギトーの前後左右にばらまかれたノートがの紙が、空中で切り裂かれる。 「エア・ニードルは密度の高い風の刃を作り、我々メイジの杖を、名だたる魔剣よりも鋭い刃とする」 ギトーは宙に舞う紙切れに杖を当てる、すると紙切れはバリバリッと音を立て、跡形もなく散った。 「このように、どちらが強力か議論しても意味はない、使いどころが違うのだ」 何人かの生徒は納得したように頷くが、ルイズは更に質問した。 「…では、エア・カッターで起こした竜巻に、エア・ニードルを付加することは考えられますか?」 そう言われてギトーは言葉に詰まる。発想はともかく、そんなシチュエーションはなかなか考えられないからだ。 「考え方は悪くはないが、効率が悪い、水の魔法を重ねたウインドウ・アイシクルの方が効率は良いな」 「そうですか…ありがとうございます」 「どこからそんな発想が出てきたのだね?」 「いえ、ちょっと思いついただけです」 「ユニークな使い方を思いつくのは結構だが、その前に魔法を使えるようになって欲しいものだな」 ギトーの言葉に苦笑いするルイズ、魔法云々は仕方がないとしても、まさか魔法衛士隊の隊長に殺されそうになりましたとは言えない。 (スタープラチナはエア・カッターでは傷つかないけど、エア・ニードルなら傷つく…)ルイズ苦笑いしつつも、自分の『スタープラチナ』の能力を分析していた。 しばらくすると授業終了の鐘が鳴り、本日の授業が終わった。 「ルイズ、あんた明日はどうするの」 キュルケが声をかける、明日といえば虚無の曜日だ。 「明日?」 「あんたの使い魔、服とか買ってあげなきゃいけないんでしょ?」 「あ、そっか」 「それにしてもルイズには驚かされるわ、やっと召喚したと思ったら平民を召喚するなんて、始祖ブリミルもビックリよ!」 「うっさいわね!」 思わず声を荒げるルイズ。 やっとの事で召喚したのが平民、しかも女性。 中庭で召喚してしまったため当日のうちに全校生徒に知られてしまった。 しかも、コルベール先生も召喚の瞬間を目撃していたので、言い逃れも出来なかった。 コントラクト・サーヴァントを余儀なくされ、ファーストキスは同姓に…思い出す度にブルーになる。 「怒らないでよ、明日はタバサが町に用事があるって言うから、シルフィードに乗せて貰いましょ」 ルイズは悩んだ、シルフィードに乗せて貰うのは嬉しい、しかし他人の使い魔に乗せて貰うのは癪だ。 メイジの実力を見るには使い魔を見ろと言われるが、平民を召喚した自分と、風竜を呼び出したタバサの実力差を見せつけられてしまう。 と、考えたところで、タバサの用事というのが気になった。 タバサは読書の虫と言われる程、読書が好きで本を手放さない、休日は部屋に引きこもって印象がある。 「タバサの用事って何かしら」 「入荷日って言ってたけど」 「何の?」 「さあ」 明日になれば分かるだろうと、キュルケが話を切り上げて食堂に向かった。 ルイズは徐倫を呼びに部屋に戻ると、徐倫が取り込んだ洗濯物を畳んでいるところだった。 「徐倫!夕食の時間よ、あんたも食堂までついて来なさい」 やれやれと言いたげな表情で、徐倫がルイズの後をついて行く。 ルイズ達が食堂に着くと、奥の給仕口からシエスタが顔を出すのが見えた。 「ルイズ様、徐倫様の分もお食事を準備させて頂きますが、皆様と同じものでよろしいのでしょうか」 シエスタに徐倫を紹介しようとしたところで、逆にシエスタから声をかけられ、ルイズは驚いた。 「あー、悪いけどこんな豪勢なの食べられないわ、厨房でまかないの料理でも分けて貰える?」 「それでよろしいんですか?では徐倫様、こちらへどうぞ」 「ありがと、あ、さっきも言ったけど徐倫で良いわよ、様なんて付けられるのは苦手なの」 シエスタと徐倫が普通に会話しているのを見て拍子抜けするルイズ、そこで思わず徐倫の肩を掴んでしまった。 「ちょっ、ちょっと待ちなさい、何私を置いて話を進めてるのよ、って言うか何でシエスタが徐倫の事知ってるの?」 昨日と今朝は厨房から分けて貰ったパン(日持ちする固い奴)を徐倫に渡しただけで、徐倫を食堂には連れて行っていない、シエスタとは面識がないはずだ。 「洗濯場はどこかと聞かれたんです」 シエスタが笑顔で言う。 「あ、そ、そうなの、それじゃ徐倫はまかないを分けて貰いなさいよ」 「そうさせて貰うわ」 ルイズの想像では ルイズ『使い魔とはいえ人間に餌を食わせるわけにはいかないわ、一人分の料理を追加して頂戴』 徐倫『ルイズ…田舎から出てきた私をそこまで気遣ってくれるの?』 シエスタ『わあ、ルイズ様は貴族の鏡でいらっしゃいます!』 …と、なるはずだったのだ。 「ではルイズ様、食事が終わる頃、こちらに徐倫様をお連れします」 有能かつ気の利くご主人ざまを演出しようと、穴だらけの計略を用いたルイズは、肩を落としてため息をつきつつ、手招きするキュルケの元へと歩いていった。 「ルイズ様…疲れてるんでしょうか…」 「くだらないことでも考えてたんじゃないの」 「まあ」 シエスタは、徐倫のぶっきらぼうな態度に驚いた。 閑話休題。 食事を終えると、徐倫がシエスタに連れられてルイズの元へとやってくる。 ルイズの近くに座っているのは、キュルケ、タバサ、ギーシュ、モンモランシー、平たく言えばいつものメンバーだ。 「やあ凛々しいお嬢さん、ルイズに召喚されたとは災難だね」 「災難よ」 徐倫はギーシュの言葉に素っ気ない返事を返した、ルイズはそれが気に入らないのか、少し唇を尖らせると。 「あんたねえ、使い魔なんだからもうちょっと使い魔らしい事言いなさいよ、例えば…」 「『ゼロのルイズに召喚されて光栄です』」 「そうそう、ゼロの…ってちょっと待ちなさいよ今言ったの誰!?」 どこからか聞こえてきた声が、自分を侮辱する内容だったので、ルイズは立ち上がって周囲を見た。 別のグループがルイズ達を嘲笑の目で見ながら、食堂を出て行った。 おそらく彼らが言ったのだろう。 「…あー、そういえば聞きたかったんだけど、さっきから何度か『ゼロの使い魔』って言われるのよね、ゼロって何?あだ名?」 徐倫の何気ない質問に全員が固まる、ルイズは一瞬の硬直の後、ハァーとため息をついた。 「ま、ここで話すのもなんだから、皆でルイズの部屋に行きましょう、アフターディナーティーも悪くないわ」 キュルケが提案すると、ルイズ以外の皆が頷いた。 「ちょっと待ちなさいよ、なんで私の部屋なの」 「だって貴方、授業に出てたんだから、その使い魔さんにトリスティンのことを何も教えてないでしょ?」 「そりゃそうだけど…」 ワゴンを押して食器を片づけていたシエスタが「後ほどお菓子をお持ちします」と言ったのをきっかけに、皆はルイズの部屋へと歩き始めた。。 途中、空に見える二つの月を見て、徐倫は考える。 プッチ神父はどうなったのだろうか、この世界は神父が望んだ世界なのか? エンポリオは?アナスイは?エルメェスは?そして…父は… 「徐倫、何してるの、行くわよ」 「はいはい、ご主人様」 考えても仕方がない。今はとにかくこの世界の情報収集に努めようと頭を切り換えて、徐倫はルイズの後をついて行った。 目次
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/705.html
「魔法少女リリカルなのは」のユーノ・スクライアが召喚される話。 公式 ttp //www.nanoha.com/archive/charactor/yuno.html 更新休止中 魔法少女リリカルルイズ01 魔法少女リリカルルイズ02 魔法少女リリカルルイズ03 魔法少女リリカルルイズ04 魔法少女リリカルルイズ05 魔法少女リリカルルイズ06 魔法少女リリカルルイズ07 魔法少女リリカルルイズ08 魔法少女リリカルルイズ09 魔法少女リリカルルイズ10 魔法少女リリカルルイズ11 魔法少女リリカルルイズ12 魔法少女リリカルルイズ13 魔法少女リリカルルイズ14 魔法少女リリカルルイズ15 魔法少女リリカルルイズ16 魔法少女リリカルルイズ17 魔法少女リリカルルイズ18 魔法少女リリカルルイズ19 魔法少女リリカルルイズ20 魔法少女リリカルルイズ21 魔法少女リリカルルイズ22 魔法少女リリカルルイズ23 魔法少女リリカルルイズ24 魔法少女リリカルルイズ25 魔法少女リリカルルイズ26 魔法少女リリカルルイズ27 魔法少女リリカルルイズ28 魔法少女リリカルルイズ29 魔法少女リリカルルイズ30 魔法少女リリカルルイズ31 魔法少女リリカルルイズ32 魔法少女リリカルルイズ33 魔法少女リリカルルイズ34 魔法少女リリカルルイズ35 魔法少女リリカルルイズ36 魔法少女リリカルルイズ37 魔法少女リリカルルイズ38 魔法少女リリカルルイズ39 魔法少女リリカルルイズ40 魔法少女リリカルルイズ41 魔法少女リリカルルイズ42 魔法少女リリカルルイズ43 魔法少女リリカルルイズ44 魔法少女リリカルルイズ45
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8506.html
前ページ次ページGOTHIC DELUSION ZERO 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン!我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」 その日、トリステイン魔法学院では使い魔召喚の儀式の真っ最中であった。 使い魔召喚の儀式とは、この魔法学院に通う生徒達が2年へ進級するにあたって行われるものである。 同時に彼らのパートナーである使い魔を決める大事な場でもあるのだ。 使い魔は生涯をかけて主を守り、導き、そして共に歩む。 故に、使い魔召喚は神聖な儀式として、代々執り行われてきたのである。 そして、今その使い魔召喚を行っているのは桃色がかった髪の少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールであった。 ルイズが召喚の魔法『サモン・サーヴァント』の呪文を唱え、杖を振ると目の前に小さな爆発が起きる。 だが、もくもくと上がる煙が消え去っても、そこには何も無かった。 「また失敗かよ!!」 「何回目だっけ?」 「さあ?もう10回は軽く超えるんじゃないの?」 周りの級友たちの声がルイズの耳へと入る度に、彼女は腹を立て、ムキになって呪文を唱える。 そしてまた爆発を起こし、その回数だけを重ねていく。 そんなことの繰り返しに、周りの級友たちも流石に煽りだけではなく、本気の抗議の声を浴びせかける。 「いい加減にしろ!!」 「一体、何時までやってんだ!!」 「もう止めちまえ!!」 他の級友たちは既に使い魔を召喚し終え、契約まで済んでいた。 未だに召喚すら出来ていないのはルイズただ一人だけであった。 学院の教師の一人でこの場を監督しているコルベールはそんなルイズを見て、思わずため息を吐く。 コルベールはこの学院内ではルイズの努力を認めている数少ない人物であったが、流石に今の状態のまま続けていても埒が明かないと思い始めていた。 「……ミス・ヴァリエール。このまま続けていても同じことの繰り返しだ。今日のところは次の召喚を最後にしようじゃないか」 「……え?」 ルイズはこのコルベールの言葉に少なからずショックを受ける。 とうとう自分は見限られてしまったのだと。 彼女も彼女でコルベールのことを多少は信頼していたのである。 そんな信頼している教師から遂に最後通告を出されてしまった。 自分の不甲斐無さに思わず下唇を噛む。 (……させなきゃ。絶対に次で成功させなきゃ!!) ルイズは強迫観念とさえ言えるほどの自己暗示をかけると、スッと目を閉じた。 そして意識を最大限に集中させ、呪文を唱え始める。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン!宇宙のどこかにいる私の僕よ!神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ!我が導きに応えよ!」 杖を振った瞬間、今までにない程の大爆発が目の前で起きた。 物凄い爆風が巻き起こり、思わずルイズは二、三歩後ずさってしまう。 しかし、その鳶色の目を閉じることは無く、大量の煙で覆われた場所をしかと見つめる。 (私の……私の使い魔!!) ドラゴンやグリフォンとまではいかなくてもいい。 猫や犬……果てはネズミやカエルだって構わない。 ただ、そこに自分が召喚に成功したという証があって欲しいと願いを込めて凝視していた。 やがて、煙の膜が徐々に薄くなるにつれて、中に何かの影が見え始めた。 そのシルエットから察するに、そこそこ大型の生物のようである。 (やった……やったわ!!) それまでの過程はともかく、召喚が成功した。 そして、使い魔もそこそこ大物である可能性が高い。 ルイズは湧き上がる喜びの感情を隠すことが出来ずにニヤけていた。 だが、その喜びも束の間であった。 煙が晴れて、その中の正体がハッキリすると、ルイズの顔が凍りつく。 級友たちの中の一人がするどくその正体を見とめると、大きな声を上げた。 「……ゼロのルイズが、平民を召喚したぞーーーーー!!」 その言葉が切っ掛けとなり、周囲に笑い声が巻き起こる。 中には、直接的にルイズを馬鹿にしたようなことを言ってのける者もいた。 だが、それらの言葉はルイズには届くことは無かった。 彼女は彼女で目の前の現実を受け入れきれずにいたのであった。 (何よ、これ?嘘、でしょ?え?) 何度目を擦って確認しても、そこにいるのは仰向けに倒れた平民と思われる傷を負った男。 身の丈はコルベールくらいあり、何やら上下にボロボロの黒い服を着ている。 髪型も特に癖っ毛ということは無く、セットしている様子も無く、ただストレートに伸ばしているだけ。 長過ぎず、短過ぎず、といったところか。 多少茶色掛かっているが、基本的には黒い髪である。 ここハルケギニアでは黒い髪というのは珍しく、ここトリステイン魔法学院でも使用人の中に一人該当する人物がいるくらいである。 だが、珍しいだけで存在はしているのだ。 顔は目を閉じてはいるものの、至って平凡。 特に美男子というわけでもない。 これがルイズの呼び出した使い魔の姿であった。 全身に傷を負ってはいたものの、致命傷という風には見えず、また普通に息をしている為、治療は後回しにすることとなった。 「……さあ、ミス・ヴァリエール。『コントラクト・サーヴァント』を」 コルベールは無慈悲にルイズへとそう告げる。 少しの間、その男を見つめていたルイズではあったが、すぐにコルベールへと向き直り、必死の形相で言った。 「ミスタ・コルベール!お願いです!!『サモン・サーヴァント』をやり直させてください!!」 しかし、コルベールは無言で首を振る。 更にルイズが食い下がると、コルベールは困ったような顔で言った。 「ミス・ヴァリエール……残念ながら『サモン・サーヴァント』のやり直しは許可出来ない。『サモン・サーヴァント』は神聖な儀式なんだ。やり直すということは始祖ブリミルへの冒涜にもなる」 「そんな……!?でも、平民を使い魔にするなんて聞いたこともありません!!」 「それでもだ。……分かって欲しい。それにもう一度『サモン・サーヴァント』を行って成功させる自信があるとでも言うのかい?」 最もな疑問であった。 此度の成功の前には、数多の失敗があった。 ルイズ本人でさえ、再び『サモン・サーヴァント』が成功するとは思っていなかった。 だが、それでも変えたかった。 彼女が望んでいたのは普通。 例え、ネズミやカエルだったとしても、それで良かったのだ。 ルイズは生まれてこの方、系統魔法をまともに成功させたことが無く、その為に周りから浮いてしまっていた。 せめて他で補いたいと、筆記などの実技以外の部分で好成績を修めても、その現状は変わらなかった。 それならば、使い魔だけは他の者と同じようなものでありたい。 そう願い、成功させたと思ったら、その使い魔が人間……それも平民である。 耐え難い事実。 それを受け入れるくらいなら、始祖ブリミルに背いてでももう一度召喚をしたかった。 だが、それが出来る筈もないのだということも頭のいい彼女には分かっていた。 暫くの間、コルベールと問答をしていたが、それも切り上げて、ルイズは渋々倒れている平民の男の元へと足を向ける。 そして、男の顔の側まで来ると、観念したかのように『コントラクト・サーヴァント』の呪文を唱え始めた。 (もう背に腹は変えられない。それは分かっている。でも……) 迷いを抱えたまま、半ば棒読みで『コントラクト・サーヴァント』の呪文を紡ぐ。 「……我が名はルイズ・ フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 そうして、男の唇に自らの唇を重ねようとした。 その時であった。 「やめろ!!!!」 突如、舌足らずな子供のような、だが何処か威厳を感じる声が辺りに響いた。 その声に思わずルイズは男の唇に触れる寸前に止めてしまう。 コルベールや級友たちは声の正体を探して辺りを見回していた。 すると、再びその声が今度はルイズに向けて放たれた。 「たかみちはわたしの遂<ミニオン>だ!おまえのつかいまなどにはけっしてならない!!」 ルイズはその声の方へ目を素早く向けた。 他の者たちが声の正体を見失っているのとは対照的に、ルイズにはその声の主のいる場所がすぐに分かっていた。 視線を向けたそこには一人の小さな少女が立っていた。 美しい髪と満月のように丸く大きい瞳。 そして、まるで何処かのお嬢様だとしか思えないゴシックロリータの服装。 今、目の前で倒れている男の知り合いにしては、あまりに不釣合いな存在に見えた。 ルイズは少しムッとした表情で少女へ問い質した。 「……アンタ誰よ?一体何なの?」 少女はそんなルイズの視線をしっかり受け止め、寧ろルイズが怯みそうになるぐらいに強く睨み付けたまま言った。 「私の名はロー。ファルシュ・ドロレス・ヴァレンタインだ。ゴシックハートは<決して錆びぬ思い>。最上なる高貴、揺るぎなき誇りを掲ぐ<星の揺籃>の血と名を継ぎし者なり!!」 前ページ次ページGOTHIC DELUSION ZERO
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5344.html
前ページ次ページ伝説のメイジと伝説の使い魔 第二話 記憶喪失 「ブロリー?それがあんたの名前なのね」 「ブロリー……僕の、名前……僕は誰……?」 男は意味不明な言葉を紡ぐ。 「あんた、何意味わかんない事言ってるのよ。ブロリーってあんたの名前でしょ」 「名前……わからない……ここは……?」 会話が成立していない。ルイズの頭に再び血が上り始める。 「知らないわよ!も~、何でこんな変な平民を使い魔にしなきゃいけないのよ」 男は、ルイズの存在などまったく無視で、自分の世界に入り込んだように独り言を続けている。 使い魔の癖にこの態度。ルイズの頭がいい感じに煮えたぎる。理性がストレスを抑えるのを放棄する。 失笑という冷や水を浴びなかったら、透き通るような桃色の髪を乱さねばならなかっただろう。 ここでキレては恥の上乗せ。活力を取り戻した理性に従い、ルイズは次の行動に入ることにする。 使い魔と主従の契約を結ぶ儀式である。これさえできれば、ルイズは変でむかつく男の主人。使い魔とは何たるかを“教育”してもなんら問題はない。 いや、必ず教育し、二度と主に迷惑を掛けぬようにせねば、とルイズは固い決意を心に結んだ。 「あんた、こっち向きなさい」 一度では伝わらないと思えたが、男の耳にはしっかりと言葉が入ったらしい。ルイズは男の目を捉えることができた。 変わらぬ無表情。見続けると、妙な気分になる。 「じっとしてなさいよ。すぐに終わるから」 意味は伝わったようだ。男は頷いて肯定を示す。無表情で、どこか呆けたような男の雰囲気。 ルイズは契約の呪文を唱える。こんな男に、あんなことをしなければならない、と心に澱む感情を振り払うように。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 ルイズは、男の頬に手を添え、キスをした。異性と認識する相手に始めて。 相手は平民、使い魔、これは儀式、と反論してもこれはファーストキスである。 顔をほんのり朱に染めたルイズは唇を離した。男の唇は、ルイズが思っていたより、ずっと無骨、ゴツイとも表現できる硬さがある 男は先ほどと変わらぬ表情で見つめている。キスをされたのに何の反応もないのはおかしな話だ。 キスしたのにこの態度。ルイズは釈然としない気持ちになる。しかし、使い魔相手にそんなこと思っても仕方がないので、ささっと契約成功の報告に移る。 コルベール先生から成功のお墨付きを承り、ようやく、ルイズは一息つける心地になった。 不安で一杯だった召喚の魔法の成功。本来なら嬉しいはずのルイズであるが、やって来た使い魔は最悪。 それでも成功は成功と、ルイズは心を落ち着けた。 そんなルイズの心の平静は、すぐに茶化されて、掻き乱されてしまったが。 ルイズの叫び声が虚しく青空の中に響き渡る。 「ぐぉおおおおおおおおおおおおお!」 ルイズが口喧嘩に躍起になっていると、突然、男が猛獣のような咆哮を上げた。 人を竦み上げるほどの大音響。わずかでも男に意識を向けていたら、と条件が付く理由は、誰もが自分が楽しむので満足していて、それ以外には気が回らない。 男のすぐ脇に立っているルイズも自分を守ることで精一杯。そもそも、十数人が笑っているので、聞き取るのは少々難しい。 よって、男の黒髪がわずかに変色し、金色に光る粒子を纏ったことに、誰一人気づかなかった。 男が悶絶した原因は契約成立を示す使い魔のルーンが刻まれている証だ。 大量の汗を流し、動悸の激しい男の左手の甲に意味不明な文字が躍る。 コルベール曰く、珍しいルーンとのこと。全生徒が召喚の儀式を終了したので、コルベールは学院への帰るよう促した。 ひとしきり笑い終わった生徒たちは寮を構える学院への帰途につく。地上でなく、空中を散歩しながら。 驚くべき光景だ。なんと全員が空を飛んでいる。これがハルケギニアにおいて、貴族の支配を象徴する魔法の力なのだ。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」 「何なら、その使い魔にでもおぶってもらえよ!地面に足をつけなくてすむぜ」 ルイズに降りかかる辛らつな言葉。未だ、こいつらを黙らせる術を持っていないルイズは悔しさで震えることしかできない。 いつも付きまとう劣等感。ルイズは、逃げるように、使い魔に目を移した。 男は飛び去っていく生徒達を見つめていた。この表現では生ぬるい。食い入るように凝視しているのだ。 「空を飛ぶのが珍しいの?あんたどこの田舎者よ」 呆れたルイズの声など、どこ吹く風。男は学院内に消える生徒を見続けている。 ルイズは、頭を抱えて心の荷を吐き出すように、ため息を吐く。会話が成立しない、そもそも何を言っているかわからない人間を相手にしているので精神的にかなり疲弊している。 「ちょっと、あんた。もう部屋に帰るわよ。さっさと立ちなさい」 口だけじゃ反応しそうもないので、ルイズは男の肩を揺らす。 男は、眠りから覚めたようにはっと体を強張らせ、音もなくルイズに質量のない視線を投げかける。 「部屋……ここは……どこ?」 心に穴でも開いているような男の言葉。またこれだ。これにいちいち説明をしなければならないとは何という苦痛か。 「ここはトリステイン。あんたが見た建物は高名なトリステイン魔法学院よ」 「トリステイン……魔法……?それは何?」 「トリステインを知らない?あんたどこの田舎から来たのよ」 ハルケギニアの歴史にその名を轟かすトリステインを知らない人間など、ルイズの常識からはかけ離れている。 ルイズは、言葉も通じないような世界の果に住んでいる使い魔を召喚したのかと、絶望的な気分になった。 「どこから来た……?わからない」 小鳥が囀るような力のない声。その中に混じった重要なキーワードを、ルイズは聞き逃さなかった。 「わからない?あんた、自分がどこにいたかわかんないの?」 試しに聞いてみたら、男が頷いて肯定を示した。 何かがおかしいと、ルイズの心に疑惑が渦巻き、心に沈殿する粘着質の闇が溶けてゆく。 「ちょっといい。私の質問に答えてくれる?」 「はい……」 男の了承をもらえたので、とりあえず、当たり障りのない所から、ルイズの尋問が始まった。 「あんたの名前は?ブロリーじゃないの」 「わからない」 「あんたの両親の名前は?」 「わからない」 「あんた、今まで何をしていたの」 「わからない」 さらに数回の質問をした結果、男から、知らない、わからない、以外の答えを得ることはできなかった。 「これってもしかして、記憶喪失ってやつ?」 疑問形で言ってみてたが、ルイズはそうであると信じ始めている。これまでのおかしな言動に説明を付けるにはこれしかない。 記憶喪失。つまり、記憶が「ゼロ」。ルイズは、自分ってなんて呼ばれてるんだっけ、と意味もなく考える。 「ゼロ」のルイズ。理由は魔法が成功できないから。その使い魔も「ゼロ」。何も覚えていないから。 ルイズは筋肉ムキムキのお兄さんによって、頭から地面に叩きつけられた。そのお兄さんの姿が誰かに似ているのは気のせいだろうか……。 そう思わせるほどに、ルイズは勢いよく草原に体をめり込ませたのだ。 傑作な話である。間違いなくこの男は「ゼロ」のルイズの使い魔だ。ルイズは魔法の才能がない。こいつは記憶がない。 自分は呪われている。多分、どこぞの執事に不幸をうつされたのだ。じじいめ、妙な物渡しやがって。 ルイズは自分でも意味不明な罵詈雑言を呪詛のように吐き続ける。 「平気?」 男が初めてルイズに話しかけた。男の身を案じる言葉が耳に入った瞬間、ルイズはバネが反発するように跳ね起きた。 由緒正しいヴァリエール家の三女が、使い魔に心配されるなどあってはならない、と頭の回路が警告したらしい。 「だ……大丈夫よ。ななな、舐めないでくれる。私、貴族。こんなことじゃ動じないから、うん」 目元が引きつり、口がソーセージになってるのに、どこが大丈夫なのかは本人もわかってない。 「さ、行くわよ、使い魔。私について来なさい。私の前から消えちゃだめよ」 使い魔を視界から消した、つまり振り返った、ルイズは震える声でそう言った。 男は命令どおりにルイズの背にぴったり張り付く。 膝を伸ばして、手足が前方で平行になってるルイズがその場を後にし、草原が舞台の狂想曲は閉幕となった。 「もう一度聞くけど、本当に何も覚えていないの?」 豪華な調度品で飾られてる部屋、ここでルイズは日々の生活を過ごしている。 今、ルイズはベッドに腰掛け、男は壁際にもたれ掛かっている。 室内は淡い蝋燭の光に包まれ、窓は、満天の星空とハルケギニアを象徴する双子の月を、切り取っている。 落ち込んだルイズは、精神力を回復するためしばしの休息が必要だった。一般には昼寝と判断される。 起床は夕方で、それからある作業をしていたのこともあり、今は深夜といえる時間帯になっている。 「はい……」 男は、昼からほとんど変化のない表情で節目がちに、ルイズの疑問に答える。 ルイズが立ち直ってからしたこと、それは男への尋問の続きだ。 ルイズの頭が冷えて最初に浮かんだことは、なぜ、男の記憶が失われたかについてだ。 てんでだめな魔法と違い、ルイズは座学の成績がいい。魔法ができないからこそ、知れることは全て知っておこうという好奇心が強いのだ。 ルイズのこうした性格も、男の謎めいた正体を解明することに一役買っている。 使い魔召喚について、メイジたちは一つの事実を知っている。使い魔の記憶を、主人に従うように改ざんする。 もちろん、それで記憶が全て失われた記録など存在しない。しかし、共に記憶に作用する何らかの力、排除していい話でもない。 よって、ルイズは、記憶が消えたのは召喚前か、はたまた召喚後かを見極めるため、男から召喚される前の出来事を聞きだしているのだ。 男は寡黙に見えても、会話に支障が出るほど口下手ではなかった。そのためスムーズに、ルイズの作成した質問表にチェックが入っていた。 そして、日が沈んでから深夜まで続いた質疑応答の結果は、成果となるものがほとんどない、と結論付けられた。 「まさか、召喚直前に何やってたのかすら覚えてないとはね」 「ごめん……」 一晩中話し合ってるので、男とルイズにちぐはぐな空気が流れることはなくなっていた。 最初は口に出すどころか首の動きだけで返答していた男も、時を経るに連れて、言葉による受け答えをするようになった。 ずっと二人きりだったので、警戒心が解けてきたのだろう。 羊皮紙にびっしりと書かれた細かな文字。その全てにペケマークを付けたルイズは頭を抱えてる。ここまで手がかりなしとは予想外である。 数時間に及ぶ苦労が徒労に終わり、ルイズは深いため息を吐いた。 「も~、わけわかんない」 ルイズはベッドに体を投げ出す。月の光に浮かぶ、絹のようになめらかで美しい肢体が悩ましく宙を舞う。 ルイズは、横になったとたんに強い睡魔が上ってくるのを感じた。そういえば、今日は、昼から体も感情も動きっぱなしなことを、今更思い出す。 変な男を召喚して、自分で勝手に大騒ぎして、いろいろなことを言った気がする。 男のイメージは、召喚直後と比べて、ずいぶん変わっていた。暗そうだけど、少なくとも悪い人じゃない。記憶がないだろうか。でも、ルイズはそれがなくても酷い人間だとは思えなかった。 ルイズの心に召喚したときの光景が浮かぶ。 (そういえば……私、こいつに酷いこと言ったけ) 平民を召喚したと馬鹿にされてショックだった。感情任せに、男に辛らつな言葉をぶつけていた。今思い返すと、やってはいけない事かな、と罪悪感が芽生えてきた。 貴族は平民の上に立つ者。それだけではない。持てる魔法を使って、平民を護る者でもある。平民より身分があるといって、驕り高ぶるようでは貴族の勤めは果たせない。 遠い昔に母が教えてくれたこと。叱られてばかりだったけど、貴族とは何たるかを熱心に教えてくれたかつての勇猛な戦士。 ルイズは自問する。魔法ができない自分。ならばせめて、誰よりも貴族らしく振舞おうと思った。今日の自分はそれができただろうか。 ルイズは男に言った言葉を思い出す。そう、ブタとか、ロクデナシとか。かなり汚い侮辱をしていた。そしたら、こいつはなんて言ってたっけ?たしか…… ルイズの中に閃光が走ったのはその時だった。虚ろな意識が一気に覚醒する。烈風のごとく回る記憶を確認しながら、男が何を呟いたか思い出す。 闇の中に消えた男の記憶。八方塞でお手上げではなかったのだ。底の見えぬ奈落の中に、一筋の光明があるではないか。 「あんた、確か、ブロリーとか言ってたわよね。あれはあんたの名前じゃないの」 「わからない。名前、知らない」 予想通りの回答。当然だ。この男は、召喚した時から、何の変化も見られないのだから。 しかし、ルイズは男の言い分が違うと確信している。でなければあんな言葉は出てこない。 「いいえ、あなたの名前はブロリーよ。私があんたに、えっと、あ、あれこれ言ったとき、あんたはそこからある言葉を連想した。それがブロリーよ」 ルイズは、トリックを暴いた探偵気分で、まくし立てる。 「私が言ったのは“ブ”と“ロ”まで。その先の“リー”はどこから出てきたの?その場所はあなたの記憶の中じゃない!」 人々が心地よく夢に浸る静かな夜に、ルイズの迷推理が木霊する。 「僕はブロリー……。本当に?」 「多分ね。私が名前を聞いたとき、かすかに残った記憶が呼び起こされたんだと思うわ」 ルイズは、私は確信を持って言っている、というオーラに包まれている。ただし、外見だけ。 人間、その場でそうだと思って、勢いで動いては後悔するらしい。 ルイズの心臓の鼓動は増すばかり。冷や汗も少し流れている。見当はずれかも、と不安でがどんどん圧し掛かる。さすがに、証拠が少なすぎた。確証がないことに、今さら気づいたのだ。 男の様子を窺うと、本当にそうかも、という顔をしているような気がした。 後一押しで信じ込ませることができる、とルイズは確信する。主旨が変わってるよ、との誰かの注意声は爆散させた。もう、跡形もない。 何を言ったら、こいつの名前がブロリーになるか。ルイズはいい方法はないか探すことに専念する。 そして、男がなぜここにいるか、ということを使うことにした。 「それにね、あんたは私の使い魔。名前がないと不便じゃない!」 双月をバックに仁王立ちするルイズ。 ルイズの額には何かを達成した御褒美である気持ちの良い水疱が滴っている。 彼女の指先は男の心を撃ち抜かんばかりに伸びきり、腰に手を当てたポーズは、判決を下す裁判官のように、凛々しく、立派である。 「そう……かもしれない」 妙に神々しいオーラに圧倒されたのか、男も同意を示した。 「でしょ。これで決まりね。あなたはブロリー。この私の使い魔」 「僕は、ブロリー。ブロリーか。あと、使い魔って……?」 名前が決まったせいか、男は少しずつ饒舌になっている。無論、ルイズものどに引っかかった骨が取れたように、いい気分になっている。昼間からの陰険さはどこへやらだ。 「そうね、使い魔は私の従者。私の身の回りの全て雑務は全てやりなさい。手抜きは許されないわ。それと、私の命令には絶対服従。破ったら許さないんだからね。 最後に、これが一番大事なんだけど、この私を守ること。これだけは何があっても優先しなさい。あなた、力強そうだから大丈夫でしょ?」 「わからない。でも、やる」 男は、何かを決心した顔つきになっていた。 「わからないじゃダメ。もっとはっきり決意しなさい」 「わかった」 「返事は、はいよ。元気良く!」 「はい!」 ルイズは王様気分で上機嫌でうなずいた。 前ページ次ページ伝説のメイジと伝説の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2300.html
0 ○ ●プロローグ ○ 永遠と須臾の姫が企画した肝試しから数日後の事 ☆ 『博麗神社』 ここは幻想郷と現実世界の入り口を兼ねている神社である その神社の主である巫女は神社の中を掃除していた。 「ふー…これで良し。」 巫女『博麗 霊夢』は持っていた箒を床に置くと中を見渡した。 さきほどまで薄汚かった神社は少し輝きを取り戻した様に見える。 試しに近くの壁を指でなぞってみると指にはホコリ一つ付いていなかった。 霊夢がいつも食事を取ったり寝たりしている小屋の方はこまめに掃除しているが神社の掃除をするのは久しぶりだった。 ちなみに事の発端は昨日神社で昼寝をしていたら丁度頭の上に少し大きめのホコリが落ちてきた為である。 外を見てみるとすでに日は半分沈みかけており、人の時間から妖怪の時間になろうとしている。 掃除を始めたのは朝方だからどうやら今日一日中掃除していたらしい。 「さてと、この前手に入れた高級茶を飲んでから軽めの夕食を作ろうっと。」 霊夢は掃除に使った道具を手に持ち入り口に置いてある靴を履いて戸棚に置いている高級お茶の味を想像しながら 小屋の方に帰ろうとすると境内の丁度真ん中に光の鏡が何の前触れもなく現れた。 「ん?何かしら、これ…?」 霊夢は掃除道具をその場に置くと興味深そうに鏡を見つめた。 一瞬誰かの悪戯かと思ったが何故か『違う』と感じた。 (うーん…どこかに繋がってるわねこれ。紫と同じ能力かしら?) その鏡からは不思議な力が放出しており 何故か『何処かへと繋がっている』と頭の中で無意識に感じていた (全然わからないわね…) 「こんばんわ霊夢、なんかへんな気配が神社からしたから来たわよ。」 頭を捻って考えていると後ろから聞き覚えていた声が聞こえたので振り返ってみると境界を操る能力を持つ「八雲 紫」が立っていた。 いつのまに、と普通の人間なら思うが霊夢は普通の人間よりこのスキマ妖怪と何回か会っているため平気になってしまった。 紫は霊夢の隣まで歩くと光の鏡を一目見てこう言った。 「う~ん…見たこともない術で作られてるわね。それもかなり精密な…」 「本当、一体これなんなのかし…」 霊夢がそう言いながら鏡に触れると突然鏡が霊夢の手を取り込みそのまま一気に体全体を吸い込むと、鏡は消えてしまった。 その一瞬の光景を見た後、八雲紫は空を見上げてこう呟いた 「しばらく忙しくなりそうね…。」 彼女は何もない空間を指でなぞってスキマを作り、その中に入っていった。 ☆ ★ 使い魔召喚の儀式 ☆ ―少女は拒否権もなく召喚され― ★ ―虚無と出会う――――― ☆ ここはハルケギニア大陸の一角にあるトリステイン王国の魔法学院 ここではある行事が行われていた。 それは「春の使い魔召喚儀式」である。 ――――おお!キュルケがサラマンダーを召喚したぞ あれって火竜山脈のサラマンダーじゃないの?――――――― 一年生が二年生に進級するためのテストでもあり、一生のパートナーを決める大事なものでもある。 ―――――――――――――でもタバサの召喚した風竜もすごいわね 使い魔は本人の強さを示すような物だからな――――――――――― 儀式は順調に成功すすみ、遂に最後の一人となった。 桃色の髪が特徴なルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが前に出ると周りにいた生徒達が笑い始めた。 「おいおい!皆下がってろ、大爆発が起きるぞ!?」 「ゼロのルイズ、せめてネズミくらいは召喚しろよ!」 彼女、ルイズは魔法が出来ない いや、正確には爆発しか起こせないの方が正しい。 初歩的な攻撃と補助呪文や練金はおろか、基本中の基本であるレビテーションすら爆発魔法になってしまうのである。 故に今回のサモン・サーヴァントも失敗するだろうと多くの生徒は思っていた。 皆がはやし立てる中、ルイズはコホン、と咳払いすると杖を上に上げ、呪文を唱えた。 「五つの力を司るペンタゴン…我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」 唱え終わり杖を思いっきり振ると、今までに起こした爆発など比ではない程の爆発が起こった。 爆発で生まれた煙がしばらく辺りを覆い、全員が目を開けられない状態であった。 しばらくして煙が薄くなり、ルイズは自分が何を召喚したのか目をこらしてみた。 ルイズが召喚したのは平民?の少女であった。 紅白の服は見たことがないデザインで本来あるはずの袖が無く。 頭に大きな赤いリボンを付けている。 顔立ちはハルケギニアに住む者達のものではなく、この学院でメイドをしている一人の平民と少し似ていた。 髪が黒い所もそっくりである。 そして肌は誰よりも白く、新品の石けんのようだ。 仰向けに寝そべっていて試しに杖で2、3回つついてみたが反応がない。 息をしているからおそらく気絶だろう。 イズコ とりあえずどうしようかと悩んでいると煙は緩くて涼しい風に煽られ何処へと飛んでいった。 そして他の生徒達はルイズの召喚した平民?を見てドッと笑い始めた。 -見てみろよ?あの服袖がないぞ! -よっぽど貧乏な平民なんだな。 -どんだけ貧乏なんだよ! 皆が堪えずに笑い、罵っていると気絶していた平民?が目を開けてガバッと起きあがった。 「あ、アアアンタ誰よ!?」 いきなり起きあがってびっくりしたルイズはどもりながらも聞いてみた。 平民はルイズの声に気づき、顔を向けた。 「…?………!あ、アンタね!私をさらったのは!」 鬼気迫る顔で叫んだ平民にルイズは驚きながらも貴族として威厳を振る舞いこう言った。 「さ…さらったとは失礼ね!私は使い魔としてあなたを召喚しただけよ。」 平民は『使い魔』という言葉を聞いて少々顔に苛立ちの色を作ると素早く立ち上がった。 身長は丁度ルイズの頭が彼女の胸に当たるほどの大きさであった。 ルイズが平民を見上げていると平民の体がフワッと浮き、そのまま上昇して空中で停止した。 その光景を見た生徒達はオオッ!と驚愕の声を上げた。 彼らは今まで平民だと思っていた少女がメイジ(正確には能力だが)だったからである。 「め…メイジだったのあなた!?」 一番驚いているルイズは平民を指さしながら叫んだ。 平民は なによそれ? みたいな顔をした。 「いっとくけど私は魔法使いでも魔女でもないわよ。」 ルイズはその言葉に ハァ? と顔をしかめた。 「じゃあアンタ一体何なのよ?というか…」 降りてきなさい!とルイズは言おうとしたが平民は一呼吸置くとこう言った。 「私は博麗霊夢、夢と伝統を保守する巫女よ。」 平民、霊夢はそう言うと一拍おいて喋り始めた。 「んで、ここはどこよ?結界もないし別の世界かしら…?」 「けっかい…?ナンダカヨクワカラナイケド…とりあえずここはハルケギニアのトリステイン魔法学院よ。」 霊夢は不思議そうな顔をした後俯いて「ハルケギニア…トリステイン?」と呟いて顔を私の方に向けた 「なんかいまいち良く分からない所ね…ここに溢れてる魔力もなんか変だし。」 霊夢は腕を組んでう~ん、と頭を捻った。 とりあえずルイズは使い魔として霊夢を召喚したという事を彼女に軽く説明した。 「つまり私は使い魔としてここに召喚されたってわけ?」 ルイズがそれを聞いて首を縦に振った。 彼女は人を召喚した自分を不甲斐なく思いながらも一刻も早く霊夢と契約したい気持ちだった。 平民だと思った少女が実は何の独唱も無しに空を飛んだのだ、契約しても損はない。 これがもし霊夢ではなく普通の魔法使いや病弱魔女、7色の人形遣いならある程度の興味は示していたと思うが霊夢は違う。 彼女、博麗霊夢は幻想郷の外には迂闊に出られないのだ その理由は、彼女が張った現実界と幻想界の出入り口を封鎖している結界が崩壊するからである。 結界が崩壊すれば現実世界から多くの人間達や幻想郷の妖怪達などが出たり入ったりすることになるのだ。 故に少女は一刻も早く帰らなければ行けない、だから… 「悪いけど、使い魔になる気は無いわ。」 あっさりと、少女は言い切る。 それを聞いたルイズが「でも…!」と言うと彼女の肩に教師であるミスタ・コルベールの手が置かれ、一拍おいてコルベールが霊夢に話しかけた。 「ハクレイレイム…といったかな?この儀式は大変神聖なものでやり直すわけにもいかないのだよ。」 「冗談じゃない、そもそも私は人間よ?短い人生は有意義に、自由に……あれ?」 「確かに人間を召喚した前例はないが…………ん?」 霊夢がルイズを不思議そうな目でルイズを見てるのでコルベールも振り向いた瞬間 独唱を終えたルイズが霊夢目掛けて杖を思いっきり振った。 すると空中にいる霊夢の1メートル横で大爆発が起こったのだ。 「な……!?」 何もない空間で爆発が起こり驚愕した霊夢は爆発を起こしたと張本人のルイズを睨む。 (なんとか帰る方法を安全に聞き出そうと思ったけど…あっちがその気なら。) 実際ルイズはレビテーションを唱えて無理矢理霊夢を地面に下ろし、素早く契約をしようと考えていたのだが案の定失敗。 対して霊夢はこれを宣戦布告と受け取ったらしく、常に常備している符と針を手に取った。 「ま、待ってくれ!双方落ち着い…」 コルベールが止める暇も無く、霊夢はルイズの足下目掛けて針を投げた。 投げた針は丁度ルイズの足下に刺さった。 それを見た生徒達や他の使い魔達が怯え始めたのだ。 「お、おいなんだ!?あいつ針を物凄い早さで投げたぞ!」 「なんかやばいんじゃね!?」 数秒遅れてルイズは足下の針に驚き、数歩下がった。 そして今まで空中に浮いていた霊夢はふわふわしながら地面に降りると針を構えた。 「単刀直入に言うわ、私を元いたところに送り返しなさい。」 これは「警告」だ…! そう感知し、危険と判断したコルベールはルイズの前に立った。 「ミス・ヴァリエールは他の生徒達と一緒に避難を、奴は私がなんとかする。」 その言葉を聞いたルイズは首を二、三回振ると顔を引き締め、杖を再び霊夢に向けて「ファイアー・ボール」の独唱をし始めた。 (また独唱…なら!) それを見た霊夢は目を瞑り手を横に広げ、比較的完成するのが早い結界を組んで来たる衝撃に備える。 「……ファイアー・ボール!!」 独唱を終えたルイズが杖を思いっきり振ると、先ほどとは比べものにならないレベルの爆発が起きた。 「ッ゙!!!?」 予想外の爆発の前に簡易に作った結界は呆気なく破壊され、爆発の衝撃が霊夢を吹き飛ばし壁に叩きつけた。 (やば……意識が………) 夕食を食べていなかった所為か、壁に叩きつけられた彼女は空腹と痛みであっさりと意識を手放してしまった。 爆発の煙と衝撃は庭全体に広がり、周りにいた生徒達もゴホゴホと咳をしている。 「酷い爆発ね、ルイズは大丈夫かしら…ゴホゴホ!」 ルイズと同級生であるゲルマニア人のキュルケは咳をしながら必死に目を瞑って呟いた。 煙は物凄く濃く、目に入ったらそれこそしばらくは目が開けられなくなるくらいである。 やがて煙が晴れ、そこにいたのは左部分の頭髪がドリフ爆発後ヘアーになったコルベールと服がボロボロになってしまったルイズ そして彼女が召喚した少女、ハクレイレイムはというと壁にもたれ掛かって気絶していた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5778.html
前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔 《その日 私の人生は終わりを告げた――》 「ねぇ、ルイズ。私が召喚したこのコ、とっても可愛いわよ」 モンモランシーが、ルイズに手の平に乗せた蛙を見せびらかす。 「きゃ、そんなもの、見せないでくれる!『洪水』のモンモランシー」 ルイズは軽く悲鳴を上げて、嫌がりながら言う。 「誰が『洪水』ですって!わたしは『香水』のモンモランシーよ!」 「あんた小さい頃、洪水みたいなおねしょしたって話じゃない。『洪水』の方がお似合いのよ」 ルイズは同じ歳の学友に軽口を叩く。 《直前まで―― そんな気配も なかったのだ》 「ルイズ。まだあなた、召喚が出来ていないの?」 キュルケがこれみよがしに大きな火トカゲの頭を撫でながら、ルイズを冷やかす。 「あんたなんかに負けない位、立派な使い魔を召喚してやるんだから、待ってなさい!」 ルイズは宿敵に負けじと、声を張って言い放ち、鼻をフンッと鳴らす。 《貴族の子弟が集うこのトリステイン魔法学院で―― どうにかやってきたのだ》 「ミス・ヴァリエール、あなたで召喚の儀式は最後です。心して使い魔を呼び出すのですよ」 監督役の教師であるコルベールは、穏やかにそれでいて厳しく、ルイズに召喚を行う様に促す。 《なのに 春の使い魔召喚の儀式―― その日》 ルイズは何度目かの召喚呪文を唱え、杖を振るう。 「宇宙の果ての何処にいる私の下僕よ。神聖で美しく強力な使い魔よ。私は心より求め訴えるわ。我が導きに答えなさい!」 《多くを望んでなどいなかったというのに》 杖を振るった時、空の一点が瞬き、そこから何かが物凄いスピードで落ちて来たのを、その場にいた面々で気付く者は少なかった。 ルイズの目の前に、これまでを超える大きな音と土煙が広がる。 その中心に、子供の様な人影とその後ろに控える大きな影が見えた。 土煙が晴れると、そこにはコップを持った年端のいかない『鎖が繋がった首輪を付けた』少女が立っていた。 《突然に その少女は やってきたのだ》 「お水を…ください…」 「な、に?」 ルイズは、自分が召喚したものと、それの発した言葉に惑乱する。 ・・ 「ぼくは――”力”、あなたが望む全てを手に入れられる”力”。だから、ぼくとひきかえに水を…いっぱい…」 その少女は、真っ赤な大きな布で体を包み、右肩でその布の端を結び、腰や脚に沢山のベルトを巻き付けた、身窄しい格好をしていた。 背や体型からして、12歳位だろう。茶を帯びた金髪のショートヘアで、顔には、手入れされていない太めの眉毛と、明るい緑色の大きな瞳が目立つ。 「なん、ですっ…て?」 《そして私は混沌と とまどいの中で…》 《その日コップ一杯の水と その中に映る”全て”とを交換したのだ》 「うわっ、なんだ?あの娘?」「ルイズが召喚したの?」 周りで見ている生徒達から次々に疑問の声が上がる。 「”主(マスター)”が…傷ついています…。お願いです…水を」 少女が手に持ったコップを差し出しながら、心細い声を発した。 「その娘の後ろ!何かいる」 誰かがそう叫ぶ。 布を覆われた大きなものが呻き声を上げ、躯を引き擦りながら少女に近寄っている。 生徒達は驚懼の声を出して、ルイズが召喚したものから離れていく。 それは布を被った、躯が甲殻で形作られた、首の長いドラゴンだった。 布の下から見える脚や複眼、光沢を持つ青黒色の甲殻が昆虫を思わせる。 「きゃあぁ!怪物っ!」「生きてる?ドラゴンだぁ」 離れた生徒達から悲鳴が上がり、最も近くにいたルイズも後退る。 「待ってください。お願いっ…”主(マスター)”は…、もう命の火が消えかけています!じきに…死んでしまう!最後の願いなんです。ぼくに何かしてあげられる最後の機会なの。」 少女は叫び、瞳に涙を溜めて嘆願する。 (なぜ…その時、そんな気になったのかは…自分でもよくわからないけれど、その娘の瞳と、息苦しそうなそのドラゴンの姿をみていると…) 「……水?ね」 ルイズの言葉に少女は深く首肯する。 そして、ルイズは少女からコップを受け取った。 「ねぇ、モンモランシー。水を作ってくれるかしら?」 ルイズは生徒達の方を向き、知り合いの水メイジに水の初歩的な魔法を使う様に頼む。 「お願い、貴女が頼りなの。『香水』のモンモランシー」 「判ったわ、ルイズ。水メイジの魔法を見てなさい」 モンモランシーは、他人にそうそう頼る事のないルイズの願いに答え、杖を振るう。 宙空に水の塊が生じ、コップの中に注がれていく。 それをルイズは少女に渡そうとした瞬間、横からルイズ達の手を噛み付かん勢いで、息苦しそうにしていたドラゴンがコップを咥える。 ルイズは手を噛み付かれそうになり、恐怖から尻餅を突いてしまう。 ドラゴンはその長い首を高々とのけ反らせ、喉を鳴らして水を飲み、空のコップを口で投げ捨てる。 「うまい…水であった」 ドラゴンは躯が軋む音を立てながら、湧き出る泉の様にこつこつと喋り出す。 ルイズ達はそのドラゴンが喋る事に驚いていた。 魔法成功確率0%のルイズが、伝説的な幻獣の韻竜を召喚したからだ。 その場に居たもの全てが、韻竜の弱々しい声を聴き漏らさんと、耳を傾ける。 「かつて、千の星をめぐり、千億の命を殺めた…。その名を轟かせ、銀河そのものをも手にせんとしたわれが、最後に手にせしものが…、たった一杯の水だったとはな…」 しかし、その韻竜の口から漏れ出る言葉は、狂人の譫言より理解しがたい話であった。 ルイズを含め耳を傾けていた多くの生徒達は、『ルイズ(自分)』が何処の芝居小屋から『連れて来(召喚し)』た、物乞い役の少女と張りぼてのドラゴンだと思った。 「だが…それは今われが望みし、全てのもの…。裏切りと謀略の人生にあって…、手に入れた唯一の真実」 『龍』は、少女を突き飛ばし、腰が抜けたルイズにその少女を寄越す。 「受け取れ!全てには全てをもって応えよう。”黄金の下僕”ミュズ…、わが手に残る最高傑作!銀河最強を誇る”黄金の船”ネクシート号の”舵輪(ヘルム)”にして、”黄金の地図”ネクストシートそのもの!」 抱き留めたルイズと受け止められたミュズは、『龍』の言葉と、見知らぬ人と抱き合っている状態に、お互い困惑の表情を浮かべている。 「宇宙の…全ての神秘と真実を手に入れる。そのチャンスと力をおまえは今…、手に入れた。おまえのような奴にやっても無駄だろうがな! ハハハ! くだらない! 意味がない! おもしろい…」 『龍』の躯は、ジュウウジュウウと音を立て、濁った泥の様な煙を吹かし、甲殻の隙間からドロドロとした液体を垂らしている。 「だが…、われを裏切った者どもにだけは…くれてやらぬ…のだ。ハ ハ ハ あとは…好きにしろ…」 『龍』の硬そうな甲殻がボロボロに崩れ、ドロドロとした液体が滝の様に流れ出す。 「きゃあっ、とっ とける」 ルイズは『龍』の様子に驚き、悲鳴を上げる。 「ファ…”一枚目の地図(ファーストシート)”に気をつけろっ」 『龍』は不可解な言葉を残して事切れ、グッシャアァと音を立て、その躯が自重から地面に叩き付けられた。 コルベールや幾人かの生徒がルイズに近寄ってくる。 「ルイズ!」 「あ…とけちゃった、完全に。ううう」 ルイズは緊張の糸が解け、今更になって恐ろしくなりブルブルと震える。 「ミス・ヴァリエール、ケガはありませんか?」 コルベールに名を呼ばれ、ルイズは混乱した頭が現実に引き戻されて、ミュズをぎゅっと抱き締めている事に気付く。 ミュズは眼を潤ませ、ぼんやりと虚空を見つめていた。 「きっと、ヒトはこれを悲しいというのでしょうね…」 ミュズはルイズの視線を感じ、まるで自分が『ヒト』では無い様な口振りで呟き、手の甲で目尻を拭う。 「こんなヒトでも、ぼくの親だったから。でも、ぼくは…生まれたてだから、まだよくわからない…や……」 「生まれたて え?」 ミュズは愛想の良い顔をして、不思議な事を言いながら、ゆっくりと立ち上がる。 ミュズのその不思議な言葉から、既に立っていたルイズの頭に疑問符が浮かぶ。 「ありがとう、願いをきいてくれて。これでぼくはあなたのものになりました。さあ!どこへなりとも」 「ちょちょちょっと待って!まだ話がさっぱりみえないわ」 ルイズは、上目使いで緩く握った右手を胸に当てた異国の礼儀の様な振る舞いをするミュズの、隷従発言に当惑する。 ミュズと呼ばれる少女、ドロドロに溶けた張りぼてのドラゴン、その一人と一頭の不可解な言葉。 何が事実で何が偽りか、ルイズは冷静にこの事態を考えれば考えるほど、納得のいく話が思い浮かばない。 「きゃー。何を言っているの、あの娘」「そーだ!ずるいぞ、ルイズ!」 「ちゃんと説明し「そんなのゆるさないぞ」「ひとりじめはいかん!みんなでわけるのだ」」 「うるさい!外野は黙ってなさいっ!」 周りの生徒達、特に男子の一部が騒ぎ立てるので、ルイズは腹を立て怒鳴り声を上げる。 ミュズに待つように告げると、ルイズは状況を静観しているコルベールの方に詰め寄って行く。 「ミスタ・コルベール!」 「なんだね。ミス・ヴァリエール」 「あの!もう一回召喚させてください!」 「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」 「どうしてですか!」 「一度呼び出した『使い魔』は変更することはできない。何故なら、春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。好むと好まざるにかかわらず、彼女を使い魔にするしかない」 「でも!平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!それに私が呼び出したのは、溶けてしまったあのドラゴンかも知れません!」 ルイズは自分が偽物だと思っている事を棚に上げ、『ドラゴンを召喚した』と主張する。 「何を言っているのかね、ミス・ヴァリエール。彼女は『ぼくはあなたのものになりました。』と言ったではありませんか?これこそ、彼女が使い魔として召喚に応じた証拠ですぞ」 「そんな……」 ルイズは、コルベールの強引な理屈に押し込まれ、がっくりと肩を落とした。 「さて。では、儀式を続けなさい」 「えー、彼女と?」 「そうだ。早く。次の授業が始まってしまうじゃないか。君は儀式にどれだけ時間をかけたと思ってるのだね?いいから早く契約したまえ」 そうだそうだ、と外野から野次が飛ぶ。 ルイズはミュズの顔を困ったように見つめ、諦めた様に目をつむる。 手に持った小さな杖をミュズの目の前で振った。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴンこの者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 朗々と呪文を唱え、すっと、杖をミュズの額に置いた。 そして、ゆっくりと顔を近付けていく。 「何をするんですか?」 「いいからじっとしてなさい」 戸惑うミュズに怒り声で、ルイズは叱り付け様に言った。 ルイズはミュズの頭を左手でがっと掴み、唇を合わせる。 「終わりました」 ルイズが唇を離すと、恥ずかしそうに言い放つ。 「『サモン・サーヴァント』は何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできましたね」 コルベールが嬉しそうに言った。 「相手が只の平民だから、『契約』できたんだよ」「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんてできないって」 何人かの生徒が笑いながら言っている。 ミュズは、ルイズが野次っていた生徒達を睨みつけ怒鳴っている光景を、未知の現象が起きたかの様に珍しそうに見つめていた。 その時、不意にミュズは自らの頭を抱える様にうずくまる。 「あ、ああ…。『データ』が流入する…!『プログラム』が書き加えられる…」 ミュズは途切れ途切れに弱々しい声を漏らすと、ずるりと地面に横たわった。 その様子を見ていたコルベールは慌ててミュズに近寄る。 ルイズもコルベールに続くと、倒れているミュズに心配そうな顔をする。 「ふむ……。『使い魔のルーン』が刻まれた痛みで、気を失ってしまった様ですね」 片膝を付いたコルベールはミュズの口元に手を近付け、呼吸をしている事を確認した。 「ふむ……。珍しいルーンだな」 コルベールは、気を失っているミュズの左手の甲をしげしげと確かめる。 そうすると、素早く立ち上がり踵を返し、生徒達に号令を掛ける。 「さて。じゃあ、皆さんは教室に戻りますよ」 多くの生徒達は宙に浮かび、トリステイン魔法学院に向かって飛んでいく。 「ミス・ヴァリエール。この娘は私が医務室に運んでおきますから、貴女も教室に戻りなさい」 コルベールは杖を振るい、ミュズを宙に浮かべると、ルイズ次の授業に参加する様に促す。 やむを得ず、ルイズはコルベールの言葉に頷くと、とぼとぼとトリステイン魔法学院へ戻って行った。 おまけ リプリム … ルイズ エイブ … 才人 スソクホウ … シエスタ ゲン … ギーシュ リム(一人二役) … ケティ 星見 … モンモランシー リプミラ … キュルケ シアン … タバサ 息子たち … ギーシュの悪友 ゲン「なんだこりゃ?」 エイブ「ああ、新しい寸劇のキャスティングですよ。地球のファンタジーを題材にしてみたんです」 リプミラ「私の衣裳の露出、少ないな」 リム「主役はいいんだけど、ややこしい役ね」 星見「私の役、出番少なくない?」 ゲン「俺はこんな浮気者じゃない!」 (全員の意見を無視して)エイブ「問題がありまして、話が長くなりそうなんですよ」 ゲン「それは『指輪物語』より長いのか?」 エイブ「小説が文庫で15冊、漫画が単行本で5巻、アニメで3期38話」 ゲン「ミョーに具体的だな…」 ちゃんちゃん 前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1761.html
トリステイン魔法学院の図書館は、本塔の中に存在する。 高さ三十メイルにも達する巨大な本棚が、壁際にずらりと並んでいる様は壮観の一言だ。 ここには始祖ブリミルがハルケギニアに降臨して以来の歴史が、全て詰め込まれていると言われている。 蔵書量はトリステイン有数で、教師のみに閲覧を許されるフェニアのライブラリーには、禁書と呼ばれるものも多数存在していると噂されている。 そんな巨大な図書館の一角で、ヒースは本の山と格闘していた。 本来、平民である彼はこの図書館に入ることは許されないのだが、オールド・オスマンの口利きによって入ることを許されている。 ハルケギニアに来てから二十日が経つ。 それだけの期間、文字を学んだだけにも関わらず、ヒースは完全な読み書きを可能としていた。 いくらヒースが高い知能を持っているからといえど、これは異常だ。 しかし、このことに関してヒースは余り疑問は抱いていなかった。 そもそもからして、何故か言葉が通じているのだ。 土地が変われば言葉は変わる。 アレクラスト大陸においても大陸の東西で、大きく西方語と東方語に分かれる。 さらにエルフ語やドワーフ語などを筆頭とする種族語。 上位古代語や精霊語などの魔法言語などを含めると、言葉の数は実に数十にものぼる。 同じ世界においても大きく言葉が異なると言うのに、異世界において普通、言葉が通じるわけがないのだ。 ヒースはこの現象を召喚の“ゲート”によるものだと推測している。 召喚される使い魔は多種多様。犬や猫と言った小動物ならば兎も角、中には獰猛かつ凶暴な生き物も召喚される。 だがそう言った生き物も問題なく使い魔とされている、契約に接吻が必要だと言うのに。 このことから“ゲート”を潜った時点で何らかの魔法の付与効果が発生しているのだと、ヒースは推測した。 となれば本来召喚されるはずが無い人間が呼ばれた場合、言葉が通じたり、文字をあっさり理解できたりなど可能でもおかしくはない。 それに気にしたところでどうにかなるものでもない上、現状不利益が無いのだから特に問題は無い。 そんなわけでヒースはこの特典を大いに活かし、アルビオンから帰還してから本日までの三日間、図書館に入り浸っていた。 調べているのは主に使い魔関連だ。 ルイズは呼び出した使い魔を元の場所に戻す方法は知らない、と言っていたがそれは存在しないという意味ではない。 ただ、彼女が知らないだけで存在する可能性があるため(最もオールド・オスマンすら知らないそうだが) こうして僅かな可能性に賭け調べていた。 悪魔召喚の壷をオールド・オスマンに預けた古代王国の男や、 レコン・キスタの刺客と思われる仮面の男が何故だか魔神を使役していたり、魔力のカードと呼ばれるカストゥールのマジックアイテムを使いこなしているということも、気になりはするが、調べる方法がないためどうしようもなかった。 ハーフェン導師との定期的なやりとりでも、お互い進展なしという文面が続くだけという現状を、 打破しようとしているのだが……。 「見つからんなぁ……」 成果は芳しくなく、分かったことは使い魔の召喚はあっても召還という概念がそもそも存在していなさそう、ということ程度だ。 早い話が手詰まり。どうしようもない状態だった。 「フェニアのライブラリー覗かせて貰えれば違うかも知れんが……無理って言われたからなぁ」 流石にオールド・オスマンの一存ではそこまで許可は出ず、色々と探せそうな一角には足を踏み入れることは出来なかった。 暇を見つけてはオールド・オスマンが調べてくれているそうだが、余り時間が取れず、成果は芳しくないらしい。 「うーむ、ここで探してても見つからんとなると……別所に探しに出るか、 人使って情報集めるか、さもなきゃ研究させるか……何にしろ素寒貧じゃなぁ」 ヒースがため息を吐く。 そう、彼は無一文なのだ。何をするにしても金が必要なため、貧乏どころではない身としてはどうしようもない。 良い金策は無いかとヒースが考えていると、ど~んという音ともに、本塔が揺れた。 その正体は言わずもがな、ルイズの爆発である。 少なくとも爆音を轟かせる存在はそれ以外にヒースは思いつかない。 「……今日はいつも以上にでかいな」 ヒースは天井を見上げる。 ぱらぱらと、埃が落ちてきた。ついでに本も。 「んなぁ!?」 本棚と建物の揺れ、この組み合わせそれ即ち本の落下。 ヒースはその避けがたい摂理の攻撃を、ものの見事にその身で受けた。 脚立に乗ってたのでぶっちゃけ回避が不可能だった。 派手な音をたて脚立から転がり落ち、本の山に埋もれる。 不幸中の幸いと言うべきか、落ちてきた本が下敷きになり怪我はなかった。 「ってぇ……はじめてみたときから思ってたが、やっぱここの本棚危ねぇ」 起き上がり、落ちてきた本をかき集めると、ヒースは本棚を見上げた。 高さ二十メイルほどの場所にぽっかりと空いている部分があった。 イリーナから幸せが逃げると注意されている、最近頻度が矢鱈と増えたため息を吐く。 ヒースが使う古代語魔法は系統魔法と違い、簡単な魔法でも精神力の消耗はそれなりに高い。 どれほど熟達していても、個人差はあるが日に十数回も使えばそれで打ち止めだ。 高さ二十メイルともなれば十メイルまでしか浮かない“レビテーション”では届かないため、 消費の激しい“フライト”を使うしかない。 ヒースは精神力が潤沢というわけではない、魔術師としては少ないほうだ。 この世界に来てから僅かな間に大きな事件に二つも巻き込まれているため、 出来うる限り無駄な消費は避けたいと考えていたが、ヒースは諦めて詠唱を開始する。 ふと、そんなヒースの目に、本と一緒に落ちてきたらしい一枚の羊皮紙が目に止まった。 詠唱を止め、それを拾うとまじまじと見つめる。 「……試してみる価値はあるな」 ハルケギニアに来てから二十日余り。始めて、実に楽しそうにヒースは顔をゆがめた。 オールド・オスマンは学院長室で一冊の本を見つめていた。 古びた革の装丁がなされた表紙はボロボロで、触っただけで破れてしまいそうだ。 そっと、表紙をめくる。現れたのは色あせ、茶色にくすんだ羊皮紙のページで、何も書かれていない。 「これがトリステイン王室に伝わる始祖の祈祷書か……バッタもんじゃね?」 伝承には、かつて始祖ブリミルが神に祈りを捧げた際に読み上げた呪文が記されているとされているのだが、この本には呪文のルーンどころか文字一つ書かれていない。 こういった伝説の品物には、よくあることだ。 現に一冊しか存在しないはずの始祖の祈祷書は、金持ちの貴族や寺院の司祭、各国の王室に存在する。 当然、どこも自らの始祖の祈祷書が本物であると主張していた。 世界中に存在する始祖の祈祷書を集めたなら、それだけで図書館が一つ建つと言われるほどだ。 オールド・オスマンは長い年月を生きているため、始祖の祈祷書と呼ばれるものは幾度か目にしたことがあった。 それらはまだ如何にもそれっぽく体裁が整えられていたのだが……。 「いくらなんでも白紙というのはのぅ。手抜きにもほどがある」 王宮から送られてきた文字一つ書かれていないこの始祖の祈祷書を、 オールド・オスマンが偽物だと思うのは、至極当然なことだった。 一体どのような経緯で誰が見ても偽物だと分かるこの始祖の祈祷書が、トリステイン王室に渡ったのか、思考をめぐらせる。 そんなどうでもいい考えは、ノックの音で途切れることになった。 オールド・オスマンは秘書を雇わなければならぬな、有能で美人で尻撫でても怒らないねーちゃんを。 と思いながら来室を促す。 「鍵は掛かっておらぬ。入ってきなさい」 扉が開き、桃色がかったブランドの髪がオールド・オスマンの目に入る。足取り重く、やけに疲れた様子で室内へ入ってくる。 「……何の御用でしょうか、オールド・オスマン」 ぐったりとした、気だるそうな声で入ってきた人物……ルイズは声を出した。 そんな様子にオールド・オスマンは少々首を傾げつつも、とりあえず立ち上がり、両の手を上げ、歓迎の意を表する。 「あー疲れとる様子じゃの、ミス・ヴァリエール」 「いえ、大丈夫です……」 良く見ると、服の裾が煤で汚れている。 またいつもの失敗の後片付けだろうとオールド・オスマンは思い、気を取り直して咳払いをする。 「ごほん。ミス・ヴァリエール、旅の疲れは……癒せておらんようだが。兎に角、お主たちの活躍で同盟は無事締結され、トリステインの危機は去った」 疲れからかボーっとした様子のルイズを見やり、一拍間を置いてオールド・オスマンは言葉を続ける。 「そして、来月にはゲルマニアで、無事アンリエッタ王女と、ゲルマニア皇帝との結婚式が執り行われることが決定した。君たちのおかげじゃ、胸を張りなさい」 張る胸は薄いがの、とオールド・オスマンが考えていると、ルイズは少し悲しそうな顔をして、黙って頭を下げた。 オールド・オスマンは暫く黙ってじっとルイズを見つめると、手にしていた始祖の祈祷書を差し出す。 「……これは?」 差し出された古ぼけた本を、ルイズは怪訝な表情で見つめる。 「始祖の祈祷書じゃ」 「始祖の祈祷書?これが?」 今、ルイズが嵌めている水のルビーと同じく、かつて始祖ブリミルから授けられたとされている、トリステインの国宝である。 何故そんなものをオールド・オスマンがもっていて、自分に差し出しているのだろうと、ルイズは首を傾げる。 「トリステイン王室の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意せねばならんのじゃ。 選ばれた巫女は、この始祖の祈祷書を手に、式の詔を詠みあげる慣わしになっておる」 「はぁ」 宮中の作法に詳しくもなく、興味もなかったためルイズは思わず生返事を返す。 そして、僅かな間をおいて何故オールド・オスマンがそんなことを自分に説明したのかにルイズは気が付いた。 「では、わたくしが?」 「うむ、察しが良いの。姫がの、ミス・ヴァリエール、そなたを巫女に指名したのじゃ。 そして巫女は式の前より、この始祖の祈祷書を肌身離さず持ち歩き、詠みあげる詔を考えねばならぬ」 「えええええ!詔をわたしが考えるんですか!?」 ルイズはあからさまに嫌そうな顔をした。 行き成り考えろと言われても、公の、王族の結婚式に使うような詔なんてとてもじゃないが浮かばない。 「そうじゃ。もちろん、草案は宮中の連中が推敲するじゃろうが……。伝統と言うのは、面倒なもんじゃの。だがな、姫はミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ。これは大変に名誉なことじゃぞ。王族の式に立会い、詔を詠みあげるなど、一生に一度あるかないかじゃからな」 そりゃそうですけど、と渋い顔をしそうになり、ルイズは思い直す。 今回の結婚は完全な政略結婚だ。アンリエッタは、好きでもない相手と、夫婦になることになる。 そんな式の巫女に、せめてもと、幼い頃を共に過ごした自分を選んだ。 その想いに答えるべきだと考え、顔をあげた。 「わかりました。謹んで拝命いたします」 ルイズはオールド・オスマンから、始祖の祈祷書を受け取り、表紙を捲る。 返事を受けると、オールド・オスマンは目を細めて、ルイズを見つめた。 「快く引き受けてくれるか。よかったよかった。姫も喜ぶじゃろうて」 ほっほっほ、と笑うオールド・オスマンは、ルイズがじっと開かれた始祖の祈祷書を見ていることに気がついた。 最初は仮にも国宝とされているものが白紙なのに驚いているのだと思ったが、目の動きは、明らかに文字を追っていた。 「……ミス・ヴァリエール?どうしたかね、その始祖の祈祷書は文字の一つも書かれていない白紙のはずじゃが」 ルイズが顔をあげると、怪訝な表情を浮かべた。 「白紙、ですか?きちんと書いてありますが」 「なんじゃと?一体どのような文章が?」 オールド・オスマンの眉がぴくりと動く。 「えっとですね……序文 これより我が知りし真理をこの書に記す。この世の全ての物質は、小さな粒よりなる。四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。と、ページを捲ったらまだ続きもあるようですが」 オールド・オスマンの顔が、驚愕の色に染まる。 ルイズが、嘘を吐いているようにはとても見えなかった。 何より、自分が開いたときには何の変化も無かった始祖の祈祷書が光っていると言う事実に、嘘など見出せるはずも無かった。 「続けなさい」 そう言われ、首を傾げながらもルイズは言葉を続ける。 「神は我に更なる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒よりなる。 神が我に与えしその系統は、四のいずれにも属せず。 我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文成り。 四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚無』。我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん」 オールド・オスマンが息を呑む。ルイズは興味深げな表情で、ページを捲った。 虚無、伝説の系統、始祖ブリミルが扱いし失われた零番目の系統。 「これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。『虚無』は強力なり。また、その詠唱を永きにわたり、多大な精神力を消耗する。詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力さにより命を削る。したがって我はこの書の読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四つの系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴィルトリ。以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す……オールド・オスマン、これは」 途中から震えが混じった声で読み上げていたルイズが、混乱に揺れる瞳をオールド・オスマンに向ける。 ふと、指に嵌めている水のルビー……四つの系統のうち『水』を司る指輪を見やると、始祖の祈祷書と同じく輝いていることにルイズは気がついた。 オールド・オスマンは、暫し厳しい顔付きで瞑目すると、顔をあげた。 「ミス・ヴァリエール、その指輪と始祖の祈祷書を私に」 言われたとおり、水のルビーと始祖の祈祷書をルイズはオールド・オスマンに渡す。 指輪を嵌め、オールド・オスマンは始祖の祈祷書を開いたが、そこにあるのは変わらぬ白紙のページだけだった。 分かっていたことを確認した、といった風情でオールド・オスマンは指輪と始祖の祈祷書をルイズに返す。 ルイズは指輪を嵌めず、始祖の祈祷書を開いた。白紙だ、光もせず、何も書かれていないページだけが延々と続く。 指輪を嵌め直すと、始祖の祈祷書は光り、文字も浮かび上がった。 「ミス・ヴァリエールが虚無の担い手……いや、それならば彼女がガンダールヴだということにも説明が付く……」 「……あの、オールド・オスマン?」 困惑しているルイズの問いに、ぶつぶつと呟いていたオールド・オスマンは顔を上げた。 「ん?おお、すまなんだ、つい考え事をの。……ミス・ヴァリエール。 正直私も驚いたが、どうやらお主は虚無の担い手のようじゃ」 あっさりと、本当にあっさりとオールド・オスマンはルイズを虚無の担い手と判断した。 言われた本人が、そんなのでいいのか、と思ったほどに。 「で、ですがオールド・オスマン!何かの間違いという可能性も!呪文が書かれていると書いてありますが他の頁にも何も書いてありませんし!」 「何故呪文が書かれておらんのかは分からんが、それはない。実はな、お主には黙っておったことなんじゃが……。お主の使い魔は始祖ブリミルが用いたとされる伝説の使い魔、ガンダールヴなんじゃよ」 「ええええ!?」 巫女役への抜擢、実は虚無の担い手でした、使い魔が伝説の使い魔だった。 短い時間で随分と驚くことが連続するものだとルイズは頭の片隅で思った。割と混乱している。 「そういうわけでの、何故彼女がガンダールヴなのか疑問じゃったのが、これで綺麗に解けた。 ミス・ヴァリエールが虚無の担い手であるのならば、 その使い魔がガンダールヴであることに疑問を挟む余地なぞないからの」 あーすっきりした、と言わんばかりにオールド・オスマンは爽やかな笑顔を見せた。 喉に引っかかっていた骨が取れてご機嫌のようだ。 オールド・オスマンは百面相なルイズを暫く楽しそうに眺めたあと、表情をキリっと変え、威厳ある言葉を発した。 「ミス・ヴァリエール」 「は、はい!」 百面相と化していたルイズが慌てて直立姿勢をとる。 「一先ずは、お主の系統が判明したことを祝そう。じゃが、このことは誰にも言ってはならぬ。 家族にも、友人にも、おぬしの使い魔にも。勿論、姫にもじゃ」 「……なぜですか?」 「虚無じゃからじゃよ。ミス・ヴァリエール」 そういうと、オールド・オスマンはルイズの肩にぽんと手を置いた。 「伝説においても、虚無の仔細は殆ど不明じゃ。何せ六千年も昔の話じゃからの。じゃが、伝説の使い魔であるガンダールヴとなったお主の使い魔は、恐ろしく強い。並みのメイジでは数十人掛りでも返り討ちじゃろう。メイジの実力を測るには使い魔を見よとはよく言う。なれば、そんな使い魔を生み出した虚無の担い手は、どれほど強力か。そう考える輩が出てくるのは当然じゃ。実際には、どれほどのものなのかはさっぱり分からんのじゃが。しかし、僅かながらに残る虚無に関する記述が記された聖者エイジスの伝記の一章に、このような言葉がある『始祖は太陽を作り出し、あまねく地を照らした』とな。あくまで伝記じゃから全てを鵜呑みにするわけにもいかんが……それほどの表現になるほど、強力なものであった、ということになる」 ルイズは黙ってその言葉を聞いていた。 「これはお主のためだけでなく、トリステイン、ひいてはハルケギニアのためでもあるのじゃ。強力すぎる力は、戦乱を呼ぶ。此度のゲルマニアとの同盟や、アルビオンとの不干渉条約など、虚無の存在でどう転がるか分かったものではない。ゆえに、今は虚無のことは考えず胸の内に秘め、詔を考えることに集中せよ。虚無に関しては私のほうで調べることにする」 「……はい、分かりました」 オールド・オスマンの言葉に、ルイズは頷いた。 「一度に色々あって、疲れたじゃろう。今日は部屋へ戻り、ゆっくりと眠りなさい。 結婚式までまだ一ヶ月はある、明日からのんびりと詔を考えればよいのじゃらかな」 そう言ってオールド・オスマンは破顔した。お辞儀をし、ルイズは学院長室を去る。 部屋へ帰る途中、ルイズは思考をめぐらせる。 『虚無』、失われたとされる伝説の系統。自分がその担い手。 オールド・オスマンには眠れと言われたが、とてもじゃないが眠れそうにない。 その三十分後。 ベッドの上で始祖の祈祷書を抱きしめ着替えもせず爆睡するルイズが夜のトレーニングから戻ってきたイリーナによって目撃された。 ルイズが巫女役を拝命してから、二週間が過ぎた。 始祖の祈祷書を片手に、ベッドの上でごろごろ転がる。ごろごろごろ……ぼて。 ベッドから落ちて、逆さになりながらもルイズは始祖の祈祷書を手放さない。 何も、思いつかない。 ばたばたと脚を動かす。だが、何も浮かんではこない。がしょんがしょん。 「拙い、拙いわ。いくらなんでも一節すら浮かばないっていうのは流石に拙いわ」 残るタイムリミットは15日とちょっと。時間に直して370時間ほど、草案の推敲や式の段取り把握なども含めれば300時間と言ったところか。 がしょんがしょん。 誰か得意な人に代わりに考えてもらう、というのも少しだけ考えたがそんなことをすれば姫さまを裏切ることになる。 それは出来ない、というかそれだと巫女役の意味が無い。がしょんがしょん。 例え苦手でも、考え付かなくても、考えて式に間に合わせるのだ。ああ、締め切りが怖い。がしょんがしょん。 「って、さっきからうるさいわね……」 ルイズは先ほどから聞こえる、耳障りな金属音に顔を顰めた。何だというのだ、この音は。 がしょんがしょんがしょんがしょんがしょん。 その音は、徐々に近づいてくる。 何の音だと、首を傾げていると、その音が部屋の前で止まり、扉が勢いよく開く。 扉が壁にぶつかり、蝶番が悲鳴を上げる。そのうち壊れるんじゃないだろうか。 「見てくださいルイズ!新しい鎧が届きました!!」 明るい、元気な声と共に白い甲冑ががしょんと音を鳴らす。 イリーナが、嬉しそうな顔で分厚い篭手に包まれた両手を広げるのをルイズは逆さになりながら見つめた。 「あー……そういえば、前に買ったやつは駄目になったから新しいの頼んでおいたんだっけ」 アルビオンにおける仮面の男との戦いで、イリーナが着込んでいた鎖帷子は所々千切れ、鎧としての役目を果たせなくなっていた。 そしてイリーナが新しい鎧を欲したため、街に出て、今度は板金鎧を特注したのだ。 それが、ようやく届いた。 「やっぱり、この全身に掛かるこの重み!擦れる金属音!匂う鉄臭さ!これぞ鎧です!」 ちなみに、お値段400エキュー。ルイズの今季のお小遣いの残りが全部吹っ飛んだ一品だ。錬金対策に固定化も掛かっている。 「そう、よかったわね」 ルイズは気の無い返事を返すと、ベッドへ上がり仰向けに寝転がると始祖の祈祷書を広げる。 するとひょい、と始祖の祈祷書がイリーナに取り上げられた。 視線をやると、腰に手をあてちょっと怒っているかのような雰囲気を出していた。 「駄目ですよ、そういう読み方をすると目が悪くなります」 「うるさいわね、あんたはお母さんか」 イリーナが召喚されてからかれこれ一ヶ月と少し。異国の地での生活にも慣れてきたのか、最近小言が多くなった。 着替えは自分でしろ、顔は自分で洗え、椅子に座るときは背筋を伸ばせ、爆発の後片付けをちゃんとやれ、などなど。 それぐらい別にいいだろう、とルイズが思うことに、一々小言を言ってくる。使い魔のくせに。 曰く4レベルになって信心深くなったからです、とのことだ。 何のことだかルイズにはさっぱり分からない。 聞き直したらそんなことは言っていないとも言われた、ますます分からなかった。 なお、ヒースへの小言はルイズの三倍ほどあったりもする。 兎角、最近小言が多いのだ。そう、使い魔であるイリーナが主人であるルイズに対して。 これはいけない、実にいけない。 虚無だ詔だ悩んではいるが、一旦それは横に置いて、主従関係というのをはっきりさせなければ。 ルイズは姿勢を正すと、始祖の祈祷書をペラペラと捲っているイリーナに向き直る。 「いい、イリーナ。確かにあんたは強いし、何だかんだ言って色々やってくれるから良い使い魔だと思うわ。だけど」 こんこん。扉がノックされる。 このタイミングでどこのどいつだと内心毒づきながら、ルイズは憮然としつつも開いてますよ、と返事をする。 扉が開き、入ってきたのは長い白髭を蓄えた老人、オールド・オスマンだった。 ルイズは慌ててベッドから降りて、寝っ転がっていたため乱れていた衣服を正す。 イリーナが始祖の祈祷書を机において、礼儀正しくお辞儀した。 「どうかの、詔のほうは。出来たかね?」 いいえ、全く。という言葉が思わず出そうになり、ルイズは口を噤み、首を振る。 嘘を吐いても意味が無い。 「その様子じゃと、まだのようじゃの」 「申し訳ありません」 ルイズが、言葉通り申し訳なさそうに俯く。イリーナが驚いた声をあげた。 「詔、まだ出来てなかったんですか?」 「だって……詩的とか言われても、困っちゃうわ。私、詩人なんかじゃないし」 うー、とルイズが唸る。その様子を見たオールド・オスマンは楽しそうに笑った。 「ほっほっほ、まぁとはいえ全く出来ていないわけではないじゃろう。どれ、今出来ているところだけで構わんから言ってみなさい。こういうものは、出来の良し悪しを自分で判断するのは難しいからの。他者の評価が重要じゃ」 いや、全く出来ていないんですが。と、また言葉が出そうになるのを、我慢して飲み込む。 ルイズは、とりあえず時間稼ぎのため詔の前文を詠みはじめた。 「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。畏れ多くも祝福の詔を詠みあげ奉る……」 それからルイズは、黙ってしまった。そんな様子にイリーナは首を傾げる。 「どうしたんですか?」 「これから、次に火に対する感謝、水に対する感謝……、 順に四大系統に対する感謝の辞を、詩的な言葉で韻を踏みつつ詠みあげるんだけど……」 「なるほど、五大神に順に祈るようなものですね。それで、どういう言葉を考え付いたんですか?」 ルイズは必死に頭を回転させ、何とか詔を捻り出す。 「笑わないでよ?」 「笑いませんよ」 その言葉の通り、確かにイリーナは笑わなかった。 「……炎は熱いので、気をつけること」 「それ、単なる注意じゃ?」 イリーナが思わず口を挟む。 「うるさいわね。風が吹いたら、樽屋が儲かる」 「諺じゃろ、それ」 あまりの酷さに、オールド・オスマンが額を押さえた。 出来の良し悪し以前の問題だ。 顔を真っ赤にしてルイズが俯く。 「あー、あれじゃ。始めてなら誰でもこんなものじゃろ。まだ式まで二週間ある。それまでに考え付けばよい」 「そ、そうですよ!まだ半月もあるんですから!」 オールド・オスマンとイリーナが、慌ててフォローを入れた。内心、駄目くせぇと思ってるのがバレバレだった。 それを感じ取ったルイズが半泣きで今にも爆発する瞬間、またコンコンとノックの音がした。 返事を待たずに扉が開く。 「おー、ここに居たかイリーナ。あ?なんだ、オスマンの爺までいるのか」 女性の部屋だと分かっていないのか、分かっていてやっているのか。 相も変らぬ傍若無人な男、ヒースがどかどかと部屋に入ってくる。 脇にはなにやら羊皮紙の束が挟まれていた。 「ちょっと!すぐ開けたらノックの意味無いでしょ!それにオールド・オスマンをじじじじ爺って失礼にもほどが!!」 「よいよい、ミス・ヴァリエール」 真っ赤な顔をさらに赤くするルイズを、オールド・オスマンが宥める。 ヒースの横柄な態度を一々気にしていてはキリが無い。 そもそもオールド・オスマンは、そういうことに余り頓着する性格ではなかった。 「ん、イリーナ新しい鎧届いたのか」 「はい!」 イリーナが嬉しそうに軽く飛び跳ねる。がしゃん!という金属音と共に木張りの床が大きく軋んだ音を立てた。 トリステインの有力貴族の子弟が通う魔法学院の学生寮なため作りは非常にしっかりしているはずなのだが。 鎧は見た目よりもかなり重いようだ。 そんな妹分に、ヒースは羊皮紙の束を押し付けた。受け取ったイリーナがそれを見て、首を傾げる。 「何ですかこれ?……地図?」 「おう。しかもただの地図じゃない、宝の地図だ」 「宝の地図~?なんだってそんなものを」 宝と聞いて目を輝かせるイリーナとは対照的に、ルイズは胡散臭げな声をあげた。 「俺様がフォーセリアに戻る手立てを探してるのは知っているだろうが、何をするにしても金が無いとどうにもならん、今素寒貧だしな。そこで手っ取り早く金を稼げる宝探しで一攫千金、というわけだ。何せ当たれば一財産だ!イリーナ!資金不足で買えなかった新しいグレートソードに手が届くぞ!それも何本でも!!銀の鎧もばっちりだ!」 「そ、それは素晴らしいですヒース兄さん!行きましょう!宝探しです!」 普段は物欲がそれほど無いイリーナも、剣や鎧のことになると途端目の色を変える悪癖があった。 それを聞いてルイズが呆れた顔をする。 「そんなの当たるわけ無いじゃない、外ればかりに決まってるわ。第一、お金ないくせしてどうやってそれだけの地図集めたのよ」 「図書館からに決まってるだろう」 「学院の所有物じゃない!」 ルイズが頭を抱えた。何勝手に持ち出してるんだこの男は。 「司書は誰も探しに行かないから好きにしろつってたぞ。きちんと許可は貰ってる。ついでだ、オスマンの爺も許可くれ許可」 「ふむ……いいじゃろ、許可する」 「オールド・オスマン!」 あっさりと許可が出され、イリーナとヒースが喜んで手を打ち合った。 キラキラと目を輝かせ、イリーナがルイズに詰め寄る。 相変わらず顔が近い。 「行ってきてもいいですよね?ね?っていうか一緒に行きましょう!気分転換にもなるでしょうし!」 「何でよ!私は詔考えなくちゃいけないし授業だって」 「構わんよ、行ってきなさいミス・ヴァリエール。休学届けは私のほうで許可を出そう」 またも、あっさりと許可が出る。オールド・オスマンの判子は随分と軽いようだ。というか教育者としてそれでいいのか。 おずおずとしながらもルイズが口を開く。 「ですが……詔のほうは?」 「彼女の言うとおり部屋に閉じ篭って考えるより、別の場所に行き気分転換したほうがまだマシじゃろて。王室から迎えが来る式の二日前までに戻ってくればよい。ただし始祖の祈祷書はなくしてはならんぞ?」 そんなものだろうかと考えながら、ルイズは不承不承頷く。 「つーわけでだ。ルイズ、旅費よろしく」 「私が出すの!?」 ヒースが親指を立てながら笑顔で告げる。歯がきらりと光りそうなほど爽やかな笑みが実に腹が立つ。 「ごめんなさい。お金ないですから、私達」 しょんぼりとしてイリーナが俯いた。 ルイズはこっちだってあんたの装備にお金かけたから殆ど無いわよ!と叫びそうになるのをぐっと我慢する。 さっきから我慢してばっかりだ。 「わかったわよ!出せば良いんでしょ出せば!正し!出るもの出たら折半よ」 びしっとヒースに指を突きつける。 はて、とイリーナが頬に人差し指を当てて首を傾げた。 「えっと、私、ヒース兄さん、ルイズ……。折半って半分こってことですよね?一人ハブにされちゃいますよ?」 「何言ってるのよ。私、ヒースで折半すれば問題ないじゃない」 「私の分は!?」 当然とばかりに言ったルイズにイリーナが悲鳴をあげる。 「あんた使い魔、私ご主人様。使い魔のものはご主人様のもの、ご主人様のものはご主人様のもの」 後の世で、ヴァリエニズムと呼ばれるようになる思想が、この瞬間生まれた。 用語解説 ブアウゾンビ:古代語魔法、モンスター名。腐敗が凄く遅いぴちぴちゾンビ、 魔法や呪歌は使えないが、それ以外の技能であれば全て生前同様に保有する。 ただし頭がちょっと悪く、やっぱりゾンビなので動きが鈍いのが玉にキズ。 独自に物事を判断する知能を有するが、自我も精神もない。 アノス:国名。アレクラスト極東に存在する宗教国家。 至高神ファリスを国教とし、ファリス教団の最高司祭であるものが王を兼ね、法王を名乗る。 ファリス神官ならば一度は赴いて修行したい場所。早い話が規模がでっかいヴァチカン。 ジェニ:人名。剣の姫の異名を持つマイリー教団の最高司祭。 かつて国を一つ滅ぼした邪竜を仲間と共に倒した竜殺しの一人。若い頃は凄い美人だったが独身。 レビテーション:古代語魔法。自らが接地してる地点から10m浮くことが可能になる初歩の魔法。 10mと言う絶妙な高さが使い難いと大評判。 ヴァリエニズム:語呂悪いね。ルイズムのほうがいいだろうか。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7070.html
前ページ次ページゼロと世界の破壊者 第1話「召喚、契約」 ———ここはトリステイン魔法学院。 多くの貴族の子息子女が在学し、メイジとして、貴族としての在り方を学ぶ魔法学校である。 ここにはトリステインは元より、他国からの留学生も多く在籍しており、また多くの優秀なメイジを輩出した由緒正しき場所でもある。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール———」 今日、ここでは毎年恒例春の使い魔召喚の儀式が執り行われていた。 それは2年生への進学試験であると同時に一生を共にする使い魔を呼び出す大切な儀式であった。 「宇宙の果てのどこかにいる,私の僕よ———!」 昼になってから魔法学院の中庭で行われていた儀式であったが、もう殆どの新2年生となる生徒が儀式を終わらせ、各々の使い魔と親交を深め合っていた。 ———現在、召喚の呪文を唱えている桃色がかったブロンドの髪の少女、ルイズだけを除いて——— 「神聖で、美しく、強く、雄々しく、気高い使い魔よ———!」 儀式を初めて、もう何度目になるであろうか。 何度もサモン・サーヴァントの呪文を唱えても使い魔は一向に召喚されず、巻き起こるのは無意味な爆発、爆発、また爆発。 始めの内こそ「またゼロのルイズが失敗した!」と野次を飛ばして嘲笑っていた生徒達だったが十を超えた所で飽きがまわり、今では爆発が起こっても「またか」とぼやき「いい加減にしてくれ」とただただ呆れているだけとなっている。 「わたしは心より求めるわ———!」 もしこのまま使い魔を召喚出来なければ、ルイズは確実に留年、落第である。 そんな事になれば実家に強制送還され、永遠に籠の中の鳥にされる事は必死———そんな事は真っ平御免である。 そう思うと、自然と呪文を紡ぐ言葉にも力が入る。 すると今度こそ、次こそ、自分は立派な使い魔を召喚出来る———そんな根拠の無い自信が沸き起こってくる。 「我が導きに応えなさい!!」 そして言葉を紡ぎ終えると同時に力強く杖を振り下ろす。 と同時に"それ"は巻き起こった。 『大』爆発であった。 今までのものとは比較にならない程の巨大な爆発。 轟く爆音が大地を激しく揺らし、巨大な爆煙が空へと舞い上がり、快晴だった空に一時的に影をさした。 その爆心地の一番近くに居たルイズは爆風に吹っ飛ばされ、儀式を監督していたコルベールの足下まで転がる。 その余りの巨大さに無視を決め込んでいた他の生徒達も思わずそちらの方に視線を向けた。 突然起こった大爆発に驚いた一部の使い魔達がその場から逃げ去る。 学院長室で優雅に煙管を銜えていた学院長のオールド・オスマンは突如起こった轟音に驚き、咽せて咳き込んでしまった。 授業中だった他学年の生徒達も、学院に奉仕として仕えてる平民も、皆突如起こった巨大すぎる爆発音に、一体何事かとその爆心地である中庭に視線を集めた。 やがて爆風は収まったものの未だに『ゴゴゴ…』と地響きがなり続けていた爆心地の近くでは、巨大な煙の柱の前でルイズはお尻を押さえながら呆然としていた。 「い、一体何が…」 自分が引き起こした事態ではあるが、自分でも一体何がどうなっているのか全く理解出来なかった。 これまで何度も魔法を失敗させ爆発を起こして来たルイズだったが、これほどまでの規模となる爆発は生涯で初めてだった。 「…あれ?」 すると徐々に晴れてゆく煙の向こうから、何か巨大な影が見えて来た。 ルイズの顔が自然と綻んでゆく。 「…やった…私、成功したんだ…!」 それも影の大きさから判断するにかなりの巨体である。 先程風竜を召喚した少女も居たが、明らかにそれよりも巨大な影。 それに気付いた他の生徒達がにわかに騒ぎだす。「ゼロのルイズが何かとんでもないものを召喚した」と。 その大きさから、未だ見ぬ煙の向こうの自分の使い魔への期待に胸を膨らませるルイズだった。 しかし煙がだんだんと晴れてゆくにつれ期待一色だった表情が⇒怪訝⇒不安⇒そして絶望と変化してゆき、煙が完全に晴れた時点でルイズの顔は真っ青になっていた。 ルイズが起こした爆発の中心地には、一軒の『家』が建っていた。 貴族の屋敷と言うには小さいが、平民の家の中ではかなり立派な二階建ての家だ。 壁面にはガラス越しに幾枚かの絵が飾られ、見た事も無い文字の看板が玄関口の前に置かれていた。 が、どれだけ立派であろうと所詮は『家』なのだ。 「…あの…ミスタ・コルベール…」 あまりの惨状に思わず隣に居たコルベールに助け舟を求める。が、コルベール自身も困惑した様子で目をまんまるにしていた。 使い魔として召喚されるのは『生き物』である事が基本にして絶対条件で、風竜やサラマンダーはもとよりたとえ平民の少年が召喚されたとて前例が無いと言うだけでそれほど問題ではないのだが、しかし『家』である。生物ですら無い。 『家』が丸ごと召喚されるなどコルベールが教員を始めてからこれまで———と言うかそもそも『家』が使い魔として召喚されたなどと言う話、聞いた事無い。 たとえこの館の主が使い魔召喚に応じ召喚されたとしても、召喚されるなら家主だけであろう。 「…で、ではミス・ヴァリエール…コ、コントラクト・サーヴァントを行いたまえ…」 「…って、この家とですかぁっ!!?」 反射的にルイズからツッコミが入る。 どうのこうの言っていても仕方が無い。前例が無いのならば作るのみ。 たとえ家でもサモン・サーヴァントに応えて召喚されたのだ。だとすればこれと契約するのが当然の流れである。 とその旨をルイズに伝えるコルベールであるが、当然ルイズはそれを拒否する。 「冗談じゃありません!ミスタ・コルベール!やり直しを要求します!」 「ミス・ヴァリエール、あなたの気持ちは判るがそれは認められない。春の使い魔召喚の儀式はすべてにおいて優先する神聖なもの。たとえ家が召喚されたとしても、それを受け入れなければならないのだ」 「だからと言って家…家ですよ!?家なんて使い魔にしてどうするんですか!?これならまだ平民の少年を使い魔にした方がマシです!!」 ルイズとコルベールの口論がヒートアップしてゆく。 周囲の生徒達も一拍遅れて状況を把握したものの、「平民の家を召喚した!」と野次を飛ばすに飛ばせなかった。なにせ『家』である。幾ら何でも常識外れにも程がある。彼らを支配している感情は『驚き』と『困惑』に他ならない。 そんな周囲の事など目にもくれず、ルイズはコルベールに召喚のやり直しを要求するが。幾らそれらしい理由を連ねても悉く却下、「神聖な儀式、やり直しは認められない」の一点張りである。 「ならせめて…せめて、あの家から最初に出て来たものを使い魔に———!」 それはルイズの最後の譲歩だった。家なんかと契約するなんかより、家の住人を使い魔にした方が遥かにマシだ、と言う考えに至ったのだ。 すると、そんな進言に呼応したかの様に、その家の扉がバタンと開かれ、そこから長身の男性が外に出て来た。 扉が開いた音に気付いて振り返ったルイズと、その男性の視線が交錯した。 外へ出るや士は一瞬固まった。 何故か光写真館の周りを、同じ様な格好をした外人と思しき子供達が取り囲んでいたのだ。中には見た事も無い生物も居た。 一瞬この世界のモンスターかとも思ったが、子供達に襲われている様子は無い。 次にぐるりと周りを見渡す。 何故か光写真館は周りを壁で囲まれた敷地のど真ん中に建っていた。 「ちょっと待ってください士くん」 「士!夏海ちゃん!」 士が周囲の異常に頭を捻らせていると士を追って夏海とユウスケも外へと出てくる。 そして二人とも同時に固まった。 「…あの、ここ、元の世界…じゃ、ない…ですよね…?」 固まった身体から夏海は必死に声を絞り出す。 「あぁ、そうらしいな」 「…あの子達は…?もしかして、外人?てことは、ここは、外国?」 「かもしれん」 今まで幾つもの世界を訪れたとは言え、基本的に日本から出た事は無かったので、それだけでも驚きである。 「あの子達と一緒に居るの、モンスターかな?…もしかしてこの世界も、キバの世界みたいに人間とモンスターとが共存してるとか?」 「さあな。まぁ少なくともあいつらに敵意は無さそうだ」 「…そう言えば士くん、今回は服が変わっていませんね?」 すると夏海はいつも世界が変わると生じていた変化が今回は起こっていない事に気がついた。 夏海の言葉で気がついたらしく、ユウスケも「本当だ」と相づちを打って士の姿を不思議そうに眺めた。 これまで異世界を巡る毎に士はその世界で必要とされている職業・身分を与えられ服装も変更されるのだが、今回に限ってその変化が起こらず、士の姿は先程写真館を出る前と同じ姿のままであった。 「…って、今はそんな事を言ってる場合か?」 士に言われ二人ははっとなる。が、沸き上がる疑問は尽きない。まったく現状が把握出来なかった。 「考えて判らなかったら、人に聞けばいい」 そう言って士は子供達に交じって立っていた一人の中年男性に近付いて行った。 「…出て来ちゃった…」 出て来た人物は3人。最初に出て来た長身で茶髪の男性。続いて出て来た黒髪で髪の長い女性と、その女性と一緒に出て来た黒髪の男性。三人とも随分と変わった恰好をしているが、どうやらただの平民のようだ。 3人は一様に思わぬ場所に出て来た事で困惑している様子だった。まぁ無理も無いだろう。突然家の外が全く別のものに置き換わっているのだから。 他の生徒達は家から人が出て来た事で声を上げたが、彼らが平民であると判ると、イコールルイズが召喚したのは平民と結果付け「さすがゼロのルイズだ」「最初は驚いたが平民しか召喚出来ないなんてゼロらしい」等と野次を飛ばし出す。 ルイズも自分が平民を召喚したんだと理解し大きな溜息と同時に肩を落とした。それでももの言わぬ家と契約するよかマシか、と頭の隅っこで思いつつ。 すると最初に出て来た長身の男性がこちらに近付いてくると、コルベールに話しかけた。 どうやら見た目的に一番年上の彼がこの場の責任者であると判断した様子だ。 「Excuse me?」 男性は突然ワケのわからない言葉を発した。これにはルイズもコルベールも首を傾げた。 「え?あ、あの、これは異国語…なのかな?」 と、コルベールが困っていると、男性は一瞬「ん?」となって、 「なんだ、日本語通じるじゃないか」 と、今度はルイズ達も理解出来る言葉で喋った。ルイズ達は『ニホン語?』と聞いた事無い単語に再び首を傾げた。 「まぁ良い。おいアンタ、ここは何処だ?」 言葉が通じると判るや、男性はコルベールに対して不遜な態度で問い質した。 平民の分際で何たる礼儀知らずと憤慨するルイズだったが、コルベールは何も気にする様子も無く問いに応える。 「ここはトリステイン魔法学院、君たちは春の使い魔召喚の儀式でこちらのミス・ヴァリエールに召喚されたのです」 「トリステイン?魔法?使い魔?」 男性は明らかに困惑した様に首を傾げ、コルベールに示されたルイズを怪訝そうに眺める。 「士!何だって?」 するとさっき一緒に出て来た男性と女性もこちらに近付いてくる。 どうやら最初に出て来た男性の名はツカサと言うらしい。 「お前ら、トリステインって地名に聞き覚えはあるか?」 「トリステイン…ですか?」 ツカサが二人に問いかけると女性は首を傾げ視線をすぐ後ろに居た男性へと向ける。男性も首を傾げる。 「トリステインも知らないなんて、アンタら何処の田舎もんよ?」 と言うルイズだったが、ツカサはそれを無視して言葉を続けた。 「どうやらコイツらの言う魔法とやらで写真館ごとここに飛ばされて来た…らしい」 そんなツカサの態度にルイズは少し機嫌を悪くする。 もし先程の進言をコルベールが鵜呑みにするのであれば、ルイズはこのツカサと使い魔の契約を結ばねばならないのだ。 「何やら事態に困惑しているみたいですな。ですが起こってしまった事は仕方ありません。さあ、ミス・ヴァリエール、彼と契約を」 「…ってこのタイミングでぇっ!!?」 これまでの話の流れをぶった切るような話運びに思わず突っ込まずにはいられないルイズであったが、コルベールは続ける。 「ミス・ヴァリエール、貴女は先程「最初にあの家から出て来た者となら契約する」と確かに言ったね。私も鬼ではない、物言わぬ家と契約しろ等と無理強いはしない。あなたにも選ぶ権利はあるからね」 この禿、さっきの言葉しっかり鵜呑みにしやがっていた。 ルイズは心の中で悪態をつきつつも冷静に事態を分析した。 今自分の使い魔に出来る候補は4つ。家か、その家から出て来た3人の平民か。 家は…まず真っ先に却下。あんなの使い魔として使えるワケが無い。 ならば3人の平民…平民、と言う言葉の響きにげんなりする。 男2人は体格も良いし、腕っ節も強そうだが、男である。自分のファーストキスをどちらかに与えなくてはいけないのかと考えると気が滅入る。婚約者のワルド様ともまだなのに…。 なら女となら無効か?とも思ったが、使い魔とするには心許ない。 などと迷っているとコルベールから「この試験を終わらせなければ進級出来ませんよ?」とのお達し。 進級と言う単語を持ち出されてルイズの心は決まった。と言うか、もうヤケクソだ。 ファーストキスなどと言う一時の気の迷いで一生を棒に振るってたまるか。そもそも使い魔との契約の儀式、これはノーカン、ノーカンだ! そしてルイズは目の前の長身の男、ツカサにキッと目を向ける。 「ねぇアンタ、ツカサって言ったわね。今すぐその場で屈みなさい」 「はぁ?何言ってんだいきなり」 「良いから屈みなさいって言ってんのよ!」 相変わらず不遜な態度を取り続けるツカサに気を悪くしたルイズは服の裾を引っ張って無理矢理屈ませようとする。 仕方なくツカサはその場で屈んでルイズと視線の高さを合わせる。 「これで良いのか?ガキンチョ」 最期の単語に一瞬ピキッとなったがここは寛大な貴族の精神で我慢する。 そしてルイズは左手をツカサの頬に添え、右手に杖を構える。 一体何が起こるんだとツカサも、その後ろに居る男女も固唾を飲んで見守っている。 「アンタ、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、本当は一生無いんだから」 ツカサの顔を目前にして、改めて見たら結構良い男かもと思ったら、ファーストキスを差し出す事への負い目が少しだけ和らぐ。 そのままルイズはツカサの目の前で小さく杖を振るうとコントラクト・サーヴァントの呪文を口にした。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」 言葉を言い終わると同時に、ルイズはツカサと唇を重ねた。 ツカサは目を見開く。後ろの二人も絶句した。 と、ルイズはいきなりツカサに突っ放される。 「い、いきなり何する!!?」 ツカサはかなり動揺した様子で手の甲で唇を拭いながら後ずさっていた。 あ、ちょっと可愛いかも、とルイズは自分もハンカチを取り出して自分の唇を拭いながら思った。 すると、ツカサは突然胸を押さえて苦しみ出した。 「…くっ!な、なんだこの痛みは…!!」 「使い魔のルーンが刻まれているだけよ。少しだけ我慢なさい」 「使い魔ぁ…!?」 傍らに居た男が心配そうにツカサの肩を擦っている。…あれ?女の人は何処行った? などとルイズが訝しく思っている内に痛みが引いたのか、ツカサは落ち着きを取り戻し始めた。 「サモン・サーヴァントは何回も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんと出来たね」 傍らのコルベールが言う。 「何なんだ一体…」 ツカサは自分に何が起こったのか確認する為上着を捲り胸を露にさせる。 予想以上に肉付きの良い胸板を目にし、ルイズは少し顔を赤らめる。そこには言わずもがな使い魔のルーンが刻まれていた。 「ほぉ、これは珍しいルーンですね。スケッチさせてもらっても宜しいですかな?」 と前置きはするがコルベールはツカサの許可を待たずにそのルーンのスケッチを始める。 「おい、俺に一体何をした?使い魔ってどういう事なんだ?」 ツカサはコルベールにスケッチを続けさせたまま、ルイズに尋ねる。 するとルイズは立ち上がり、「フッフッフ…」と含み笑いをすると、ビシッとツカサを指差した。 「これで今日からアンタは私の使い魔となったのよ!つまり私の手となり足となって働くのよ!判ったわね!この下僕!!」 そう、高らかに言い放った。 が、ツカサは「はぁ?」と呆れ返った。 「まさか…それがこの世界での士の役割…?」 そう言ったのはツカサの肩を抱いていたもう一人の男。 女性の方は、やっぱりいつの間にかその場からいなくなっていた。 「…アホらしい」 ツカサは立ち上がって服装を整え直す。コルベールのスケッチが完了したのだ。 「さて、これで全員使い魔召喚の儀式は終わったね。では皆、教室に戻りなさい」 そうコルベールが言うと周りに居た生徒達はそれぞれ『フライ』や『レビテーション』を唱え空を飛んで教室へと戻ってゆく。 そんな様子に驚いて声を上げる、黒髪の平民。 「お、おい見ろよ士!子供が空飛んでってるぞ!」 「あぁ、どうやら、本当に魔法の世界に迷い込んだらしい」 身体全身で驚きを表現する黒髪の男に対し、ツカサはと言うと妙に落ち着いていた。ルイズとしては黒髪の方が何故そんなに驚いているのかが不可解であったが。 なんて二人を観察していると、コルベールがルイズに話しかけて来た。 「ミス・ヴァリエール。貴女は残りの授業は出なくて良いから、彼らに状況を説明しておきなさい。授業が終わったら私も後であの家に行くので」 「…判りました」 そう言うコルベールの眼は何処かキラキラ光っていた。彼の頭に負けない程。 コルベールにそう仰せ使わされたならば仕方が無い。正直気は進まないが彼らもかなり混乱している。状況説明が必要だろうとルイズも思い直した。何より少しでも早くツカサには使い魔としての自覚を持ってもらわねばならないのだし。 それにあっちの事情も少しだけ気になった。 「と、言う訳でアンタ達にいろいろ説明してあげるから。立ち話もアレだしあっちの家に案内してよ、お茶くらいは出してくれるんでしょうね?あぁ、お茶菓子も忘れないでよ」 「…クソ生意気なガキだな」 今日何度目かのピキッがルイズのこめかみを走った。 どうやらこの使い魔は貴族に対する礼儀作法から教育し直さねばならないらしい、とルイズの中で教鞭が振るわれた。 するともう一人の男がツカサの肩をポンポンと叩いてツカサを宥めた。 「まぁまぁそう剥れるな士。…えっと、ミスバリエールちゃん?」 「ルイズよ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 「ルイズ・フらんす…ルイズちゃんだね。俺はユウスケ、小野寺ユウスケだ。宜しく!」 ユウスケと名乗った男はルイズに対して手を差し出す。握手を申し出ているのだ。 が、ルイズはそれに応じず、冷ややかにユウスケが差し出した手を見つめている。貴族は易々と平民と握手などしないのだ。 気まずい空気が流れ、たまらずユウスケが次の行動に移す。 「あ、あぁコイツは士…って、もう名前知ってるよね、門矢士。見た通りひねくれたヤツだけど悪いヤツじゃないから」 そう言ってユウスケは士の肩を抱いて引き寄せる。士はと言うと、腕組みしたままルイズと眼を合わそうとしない。 「えぇ…っと、あぁ、お茶だったね。あそこは写真館だけど、コーヒーは格別だから!俺が保証する!」 「シャシン?」 聞き慣れない言葉に、ルイズは首を傾げる。 「写真も知らないって…お前何処の田舎者だ?」 さっきのお返しとばかりに言い放つ士。聞こえないふりしてしっかり聞こえてたのかコイツは。しかも根に持ってる。 流石に我慢の限界とルイズは杖を握りしめ、制裁を加えてやろうと士にじりじりと詰め寄るが、それを静止させようとユウスケが間に入る。 「はいはいはいはいそれまで!ルイズちゃんも落ち着いて!士も、いい加減にしろよ!」 仕方なく、ここはユウスケに免じて怒りを納めるルイズ。士は相変わらずそっぽを向いている。 そしてユウスケが先導してルイズは自分が召喚した『家』へと案内される。 するとその道すがら、思いも懸けず士の方からルイズに質問が投げかけられた。 「お前…『仮面ライダー』を知ってるか?」 「カメンライダー…?何よそれ?」 突然自分の使い魔が発した謎の単語に思わず正直に応えてしまう。 すぐにさっきの様に田舎者呼ばわりされると身構えたルイズだったが、士はそれっきり何も言わなかった。 ———決定的だった。 少なくともここのライダーは世間一般に認知されてない存在のようだ。いや、むしろ存在していない確率の方が高い。 もしここがライダーの世界だとしたら、そのライダーを捜す所から始めなくてはならない。骨の折れる作業だ。 いや、それでもまだ存在してくれるならまだマシな方だ。もしもここが仮面ライダーの存在しない世界だとしたら、士は、この世界で何をしろと言うのだ? そもそも、9つの世界は全て巡り終わった。にも関わらず、この10番目の世界に、『仮面ライダー』が存在しないかもしれない世界へ辿り着いた、その理由は———? 士はふうと息を吐いた。 いくら考えても、判らないものは判らない。なら考えても意味は無いと結論付けた。 この世界で過ごしていれば、いつかその答えは見えてくる。今までだってそうだった。 何も変わらない。こいつの使い魔とやらがこの世界での役割と言うのなら、その役割をこなすだけだ。今までの世界と同じように。 前ページ次ページゼロと世界の破壊者
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4318.html
前ページ次ページZERO A EVIL 魔法が存在し、それを使える貴族と使えない平民という二種類の人間が住む世界ハルケギニア。 そこに貴族でありながら魔法が使えない少女がいた。 少女の母親は「烈風カリン」と呼ばれた凄腕のメイジであり、二人の姉も優秀である。 なのに少女だけが魔法を使えない。 優秀な家族の中で自分だけが劣っているという事実は、幼い少女の心を傷つけていった。 また、少女が名門公爵家の三女という事も災いした。 地位が高ければ高いほど、人の妬みや中傷を受けやすい。 魔法が使えない少女の存在は格好の的だった。 他の貴族だけならまだしも、魔法が使えない平民にさえ少女は陰口を叩かれていた。 それでも、公爵家の領内にいたころはまだ良かった。 少女には、いつも優しくしてくれたすぐ上の姉がいたし、遊び相手を勤めた姫様の存在もあった。 そしてなにより、少女の心の支えとなったのは許婚でもあった憧れの子爵様。 子爵様に無様な姿は見せられないと少女は努力していたし、魔法が使えなくても常に前向きに進んでいく事ができた。 だが、少女がトリステイン魔法学院の生徒になり、学院の女子寮で暮らすようになってしまえば、もう少女の心を守ってくれる者はいない。 学院での少女は魔法が使えないという理由で馬鹿にされ続け、親しい友人もできなかった。 教師達の多くも魔法が使えない少女を見捨てた。 それでも少女は、何か一つでも魔法が使えるようにと授業も人一倍熱心に受け、夜に一人で魔法の練習も行っていた。 誰よりも努力していた少女だったが、結果はいつも同じ。 失敗して爆発するのみであった。 少女の魔法は失敗すると爆発する。このことが他の生徒達との溝を深めていく。 授業では失敗魔法で教室を滅茶苦茶にし、夜には爆発を起こし睡眠を妨害する。 少女の努力は何一つ報われる事はなく、少女への誹謗中傷となって返ってきた。 そして少女に二つ名が付けられる。 少女が魔法を使えない事を如実に現し、侮辱する呪いの言葉。 『ゼロのルイズ』と。 このころからある感情がルイズの心の中で大きくなっていく。 人間ならば誰もが持っている感情だが、大きくする事によって争いを生むもの。 その感情の名を『憎しみ』という。 そしてルイズは使い魔召喚儀式の日を迎える。 召喚された使い魔はメイジにとって生涯のパートナーになるものであり、そのメイジに相応しいものが召喚される。 ジャイアントモール、カエル、ヘビ、フクロウ、バグベアー、スキュア…… 様々な使い魔が召喚される中、最後にルイズの順番がやってきた。 が、やはりうまくいかずに失敗し、爆発を起こすばかりであった。 他の生徒達から、いつものようにルイズをからかい、馬鹿にする言葉が発せられる。 「あと何回爆発起こせば気が済むんだよ!」 「ルイズの呼び掛けに応えてくれる生き物なんていないってことなんじゃない?」 「とっととあきらめて実家に帰ればいいのに…」 侮辱の言葉を受け、ルイズの心が生徒達への憎しみで溢れていく。 そして、あの言葉が発せられる。ルイズにとって呪詛にも近いあの言葉が。 「やっぱり無理なんだよ!ゼロのルイズには!」 憎かった。 自分の苦労を何も知らず馬鹿にし続ける生徒達と自分を見捨てた教師達が。 (みんな嫌い、嫌い、嫌い、大ッ嫌い!) 口から憎しみの言葉が溢れそうになるのを誤魔化すように、ルイズはやけくそ気味に杖を振る。 そして一際大きな爆発が起こった後にそれは現れた。 それは大きな騎士の石像だった。 まだ完成してないのか足の部分は岩の塊のままである。 立派な鎧と兜を身に付けているが、顔の部分は兜に覆われておりよく見えない。 動く気配はなく、どうやら未完成のようだ。 生徒達は最初こそ、ルイズがゴーレムを召喚したと思いしばらく静観していた。 だが、未完成な唯の石像だとわかると口々にルイズを馬鹿にし始めた。 「なんだ、動きもしない作りかけのゴーレムじゃん」 「外見だけが立派なところはゼロのルイズにぴったりだな」 「あはは、言えてる~」 いつものように生徒達に馬鹿にされるルイズだが、そんな事はまったく気にならなかった。 気になるのは自分が召喚したこの石像である。 確かに未完成だが、完成している部分は見事な騎士の像を形作っている。 もしこの石像が完成しているゴーレムであったなら、自分を襲う様々な困難から守ってくれる存在になったであろう。 このまま何も召喚できなければ、ますます馬鹿にされて惨めな思いをするところだったので、すでに自分を救ってくれたとも思える。 「皆さんお静かに!」 使い魔召喚儀式の監督をしていた教師のコルベールが騒いでいた生徒達を注意する。 「ではミス・ヴァリエール。続いてコントラクト・サーヴァントを」 ルイズが召喚のやり直しを要求してくると思っていたコルベールだったが、意外にもルイズは文句一つ言わずに落ち着いている。 ゴーレムですらない唯の石像など、使い魔にするには問題があるように思える。 が、本人が納得しているのならばとルイズに契約を促すことにした。 石像の兜はたいぶ高い位置にあるため、コルベールはレビテーションでルイズを兜のあたりに浮かせる。 ルイズはぽっかりと開いている兜の隙間を覗き込んでみるが、そこに有るべき顔はなく、ただ真暗な空間が広がっているのみであった。 仕方がないので兜に口付けすることにし、コントラクト・サーヴァントの呪文を唱えた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 そして、兜の口に近い部分に口付けする。 「え!?」 口付けした瞬間、石像の兜の隙間から二つの目が怪しく光を放つ。 そして、ルイズの脳裏に様々な者達の姿が映し出された。 鋭い牙と長い尻尾を持ち獰猛な目をした翼の無いドラゴン。 頭に2本の角を生やした恐ろしい表情の顔だけの悪魔。 鍛えられた肉体を持つ上半身裸で坊主頭の長身の男。 大きな筒状の杖のような物を持つ大男。 紫の髪を逆立てた武道家風の男。 ヘビを首の部分に巻き付け服を着た巨大な醜いカエル。 背中に6枚の羽を持ち鳥の顔と手足をしているゴーレム。 そして、全てに裏切られ絶望したかのような暗い瞳を持つ金髪の青年。 突然の出来事にルイズは戸惑うが、それらは一瞬で消えてしまった。 再び石像の兜を覗き込んでみるが、やはり暗闇しか見えない。 「何?今の……くうっ!」 困惑していたルイズだが、急に体が熱を持ったかと思うと、左手の甲に焼けるような激痛が走った。 様子がおかしいルイズを心配したコルベールが慌ててルイズを地面に降ろす。 「ミス・ヴァリエール!大丈夫ですか!」 コルベールは急いでルイズに駆け寄る。 最初は苦悶の表情を浮かべていたルイズだが、徐々に落ち着いてきたようだ。 ルイズは恐る恐る激痛が走った左手を見てみると、甲の部分にルーン文字が浮かび上がっているのに気付いた。 「ななな、何で?」 「これは一体?」 普通は使い魔に刻まれるはずのルーンが、何故か召喚者であるルイズに刻まれている。 こんな事は前代未聞であり、コルベールもどう対応すればよいのかわからない。 とりあえずルイズに刻まれたルーンを見てみるが、普通のルーン文字と違いあまり見た事がない。 調べてみる必要があると思い、持っていた紙に書き記した。 続いて石像の方を調べてみたが、動く様子もなく何も変化はないようだった。 異変に気付いたのか、遠巻きに眺めていた生徒達が騒ぎ始めた。 「何かあったのかな?」 「ルイズのことだから、きっとコントラクト・サーヴァントに失敗したんだよ」 「拒否でもされたんじゃないの、作りかけのゴーレムに…ぷっくくくっ」 ルイズにルーンが刻まれているなど知りもしない生徒達は、ルイズがまた魔法に失敗したと思っているようだ。 中には笑っている者もいる。 「お静かに!皆さんは早く教室に戻りなさい!」 コルベールは騒ぎ始めた生徒達に指示を出す。 一刻も早く学院長にこの事を報告しなければならない。 「ミス・ヴァリエール、私は先に学院長に報告しに行きます。後で学院長室に呼びますので、しばらく待っていてください」 そう言うとコルベールはフライの魔法で学院に戻っていった。 生徒達もルイズを残してフライで学院に戻るようだ。 「じゃーな!がんばって歩いて帰ってこいよルイズ」 「フライもレビテーションも使えないなんてかわいそ~…くくくっ」 「その使い魔、ゼロのあなたにお似合いよ」 去り際にルイズを馬鹿にして帰って行く生徒達。 突然の事態に混乱していたルイズだが、馬鹿にされた事で悔しさに唇を噛み、両手を強く握り締める。 心に浮かぶのはあの感情。 憎しみであった。 その時、ルイズの左手のルーンが僅かに光を放っていることに気付いた者は誰もいなかった。 前ページ次ページZERO A EVIL