約 1,012,653 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/966.html
「さようなら、城之内君、杏子、本田君、それに相棒」 「遊戯………ううん、さようなら『×××』」 ここに一人の王がいる。全てのゲームと名の付くものを勝利した、歴史にその名を忘れ去られた、王(ファラオ)が。 物語はこのファラオの記憶が一人の少女に召喚されるところから始まる。 その物語の名は……… デュエルモンスターズZERO 「宇宙のどこかにいる、私の使い魔よ!」 すでに何回目かになるか分からない詠唱を繰り返し、ルイズ・フランソワーズは本日10回目の爆発を起こした。 「お~い、ルイズ。君の使い魔はまだ来ないのか~い?」 「さすがは『ゼロのルイズ』だな」 「HAHAHA」 「フハハハハ!」 同級生達も3回目くらいまでは爆発に合わせてルイズを嘲笑していた。 が、さすがにそれも10回も続けば飽きてくる。 頬杖をつく者。あくびをする者。なかには鼻くそをほじっている生徒までいる始末だ。 爆発の後、一瞬の間をおいて煙が晴れる。 クラスメイトの全員が、『どうせまたなんにも出てこないんだろ』などとたかをくくって考えていた。 だが、じっと眼を凝らしていたルイズは見逃さなかった。 煙の向こうで何かが黄金に輝くのを。 煙が晴れるか晴れないかのうちに急いで駆け寄る。 そこには二つのよくわからない物体があった。 『ウジャトの眼』と呼ばれる巨大な目を一つだけ中央に備えた黄金の三角錐。もう一つは円盤と板を合体させたような不思議な物体。近くによって物体を手にとって見ると、その物体には何枚もの札が差し込まれていた。 つまりはそれが、ルイズの召喚した『物』であった。 「おい、ルイズが使い魔(候補)を召喚したぞ!(ほじほじ)」 「ホントだ!ゼロのルイズが使い魔(無機物)を召喚した!」 「フハハハ! 奇跡だな!!」 散々な言い草である。 ルイズは涙が出そうになった。 やっとの思いで召喚したのがただの無機物×2である。 「ミス・ヴァリエール。残念ですが今日はもう遅い。また召喚の儀をやり直すことにして今日は休みましょう」 コルベールの言葉を聞いた生徒達が三々五々散っていく。 この時は、誰も 召喚したルイズですら気づいていなかった。 ルイズは使い魔の召喚に成功していた。 それも、およそ20体近い魔物と。 そのことを彼女が知るのはもう少し先の話である。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8341.html
前ページ計算外な使い魔 ここは地球とも、世界樹と「魔」が飛来したとある星とも異なる世界ハルケギニア。そして、その中の王国の一つであるトリステインに存在する魔法学院。 その名の通り、魔法を扱う者――――メイジたちの学院であるここでは今、メイジがその生涯を共にする存在である使い魔を召喚する、召喚の儀が行われていた。 「また失敗かよ!いい加減諦めろって!」 ――――数度目の失敗、そして起こる爆発。 既に幾度も繰り返された失敗を見飽きたか、誰かが野次を飛ばす。 この儀の監督者たる魔法学院の教師コルベールは、現在使い魔召喚の魔法…… サモン・サーヴァントの失敗を繰り返している少女が、この儀式に際しどれ程の努力をしてきたかを知っている。 知っているが故に続けさせてやりたいと思ってはいるのだが、教師という立場上それは許される事ではなく。 「ミス・ヴァリエール。そろそろ次の授業もありますし、終わりにしますよ」 次の授業までの時間が押している以上、彼女一人を贔屓するわけにも行かず、そう告げる。 それは、この少女……ルイズにとって、死刑の宣告のようなものであり。 今ここで使い魔を召喚出来なければ退学、良くて落第。 そのようなことになっては、自分はおろかこの国でも随一の貴族の家系であるヴァリエール家の名にも泥を塗る事になりかねない。 「もう一度、もう一度だけやらせてください!」 そう必死に縋る。今までの失敗の連続だ、次に唐突に成功するなどと言う奇跡が起こるとは考えにくいし、ルイズ自身もそれは分かっている――――が。 それでも、一筋でも光明があるなら行う。何もしなければ、正真正銘成功の可能性は"ゼロ"だ。 「……分かりました。それでは、次で最後です。始めなさい」 あと一回だけなら、と。 時間が押している以上は本来ならばもう切り上げるべきなのだが、それでもあと一回だけなら、と。 努力家の彼女に最後の機会を用意しても問題は無かろうと、コルベールはそう判断し告げる。 『宇宙の果てのどこかにいるわたしの下僕よ!』 『神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!!』 『私は心より訴えるわ! 我が導きに答えなさい!!!』 ……そして、再びの爆発。 最後の機も失敗に終わったか――――と、誰もが思った時。 周囲で見ていた生徒の誰かが、爆発で巻き起こる土煙の中に何かを見、叫んだ。 「ゼ、ゼロのルイズが召喚に成功した!?土煙の中に影が見えるぞ!!」 信じがたいものを見た、と言わんばかりの叫びを受け、その場にいた全員が土煙の中を凝視する。 其処に浮かぶのは、人型の影。 亜人か何かを召喚したのかと誰もがその正体を空想する中、ついに土煙が晴れる。 「――――なに、これ?」 人型の、影。 その正体は、亜人でも、はたまた平民やメイジ、人間ですらなく。 謎の材質の金属のようなものでできた、人型の「なにか」だった。 「人形、というのは考えにくいな。しかし生物にも見えない……ゴーレムか、動いていないが、ガーゴイルか? しかし、それにしては精巧すぎる……頭部はまるで人と区別が付かないし、それにこの身体の材質はなんだ?」 右側で括られた、夜空のような青みがかった紫色の髪。ゴーレムなどとは明らかに違う、人と見分けが付かないような顔。 顔を見る限りは、無機的な尖った赤い耳を除けば、それはまるで人のようで。 しかし、素材の分からない金属じみた装甲や露出している胴部の骨格、胸の部分にある赤い核の存在はあまりに人とはかけ離れた姿だった。 「ねぇ、あれって人じゃないわよね? ガーゴイルか何かの類かしら。それにしては随分と造りが細かいけど……」 「ガリアにも、あのようなものは存在しない……恐らく、未知の技術か、存在」 遠巻きに見ていた、赤と青の対照的な髪色、そして体型をした少女二人が言葉を交わす。 召喚された"それ"は、この場の誰もが知らない謎の存在だった。 「……っと、おめでとう、ミス・ヴァリエール。 召喚されたその……彼女は動かないが、恐らくゴーレムやガーゴイルか何かの類だろう、契約があれば動くかもしれない。 さあ、コントラクト・サーヴァントを行いたまえ」 身体はあくまで人型を取っているだけで人とも思えないが、かろうじて女性的と見る事ができる体型。 そして、人間の女性のような顔をしたその存在を"彼女"と指し、コルベールが召喚の儀の続行を促す。 「はい……分かりました」 召喚された"もの"の正体はよく分からない。だが、召喚に成功したのは紛れもない事実だ。 動かないのが不安だが、まずは使い魔の契約まで行ってから、と。 ルイズは、使い魔との契約の魔法――――コントラクト・サーヴァントを行う。 『我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』 『五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ』 杖を召喚された"もの"の額へと当て、そのまま口付けを交わす。 唇を離し、数瞬の後。使い魔としての契約のルーンが、その左手に当たる部分に刻まれる。 「これは……見ないルーンだな。後で調べておこう」 他の使い魔に刻まれる者とは異なる、特異な形状のルーン。 何時の間に近づいたか、コルベールがその左手を間近で興味深そうに眺め、スケッチを取り始めると。 今まで動かなかった、その使い魔の瞳が開かれた。 「………起動、完了」 唐突に発せられた無機質な声に、その声が聞こえる範囲にいたルイズとコルベールは同時に使い魔の顔を見る。 「私は……オランピア。 世界樹の指令により生まれた魔を狩るための機兵……だった」 オランピアと名乗る、その使い魔は。 「あなたの使い魔となる。それが、私の新たな役目……」 ルイズの方へと歩き目前で跪くと、冷たく、何処か抑揚のない声でそう告げた。 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 「ええと、ミス……で良いのか分かりませんが。 ミス・オランピア。その、機兵……というのが、貴女なのですか?」 唐突に口を開き、謎の言葉と名前を告げたオランピアに、コルベールが質問する。 「そう。私は、迷宮の奥に眠る、今は滅びた魔を討つ為に世界樹により生まれた機兵。 深都では、私のような機兵を『アンドロ』と……そう呼んでいる」 先に述べた内容と同じような旨を、オランピアは答える。 しかし、質問をしたコルベール……否、この場にいるオランピア以外の誰もが、その説明では一切理解出来ない。 コルベールやそのそばで聞いていたルイズは、単語の意味は何も分からないまでも、 何かと敵対している存在が戦闘用に作り出した、意志を持ち動く魔法人形……ガーゴイルだろう、と大雑把に理解する。 「それで、"マ"っていう相手との戦いが理由で作られたけど、今は私の使い魔なのが役目、ってこと?」 およそ、今まで聞いた範囲で分かることから、そうルイズが確認する。 「そういうこと。 海都の冒険者達によって魔は討たれ、役目を終え活動を停止していた私はあなたに召喚された。 今は、この契約の証により貴女の使い魔としてあるのが私の役目」 "海都"と、またルイズ達にすれば意味の分からない単語……恐らく地名が出たが、 既に大雑把にしか理解の出来ない話である以上また一つ謎の単語が出たところで大して気にする事もなく。 世界樹より遙か離れた地だからか、使い魔のルーンの影響からか。 記憶は失われていないまでも、その使命は既に果たされた魔の撃破から、ルイズの使い魔として生きる事へと書き換えられていた。 「それでは……ミス・ヴァリエール。 ミス・オランピアに使い魔としての仕事を伝えておいてください」 大きな疑念は残るが最低限の認識は行えたと判断したのか、コルベールはそうルイズへ告げ、周囲にいた生徒達に撤収を促す。 「おい、お前は歩いて帰れよ!」 「なんたって、"フライ"も"レビテーション"もまともに使えないんだからな! 次々に空中へと浮かんだ生徒達は、去り際にルイズへと罵声を残し、去っていく。 (人が、それもこの人数が空を飛んだ……? 占星術師の使うような、何かの術式の類?) 去りゆく生徒達を見、思案するオランピアと、冷静に罵声に対し無視を決め込むルイズ。 あのような中傷を受けようと、最早関係はない。 自分は、なんだかよく分からない存在だが使い魔の召喚に成功したのだ。もう、ゼロではない。ゼロとは呼ばせない。 「さあ、私たちも戻るわよ」 オランピアと名乗った、使い魔の少女?を連れて。 二人は、学院へと向かった。 前ページ計算外な使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3048.html
前ページゼロの誓約者 「私は、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。ご主人様でいいわ」 「……何が?」 「呼び名よ。分かった?」 「……はい、ご主人様」 抵抗はあったが、ハヤトは怒らせてはならないと思ってその言葉に従った。だが、男がご主人様って寒くないだろうか。 必死に気を紛らわそうと、自分の事をマスターと慕うメイトルパの少女を思い出す。彼女は愛らしいが、自分にそれを置き換えてみると……、無理だ。 もう少し打ち解けたら、考え直して貰おう。 そして、しばらくルイズと言葉を交わした。 ハヤトは落ち着いていた。別の世界の存在は知っていたし、召喚された経験もある。 思っていたとおり、ここはハヤトの知っている世界ではないらしい。まだ、発見されていない世界のひとつだろうか。魔法が発達している世界。まるで、ファンタジーだ。 (って、人の事言えないか) ハヤトの前いた世界は、魔法使いなどいない。しかし、その代わりに召喚師というものが存在する。 異界のものを呼び出し、彼らに力を借りて術を使う人々。ハヤトも、物理攻撃の方が得意だが召喚師だ。 しかも、ルイズには言わなかったが普通の召喚師とは比べ物にならない力を持っている、誓約者と呼ばれる人間だ。 その力は、異界の様々な生き物を自由に呼び出し、その力を最大限に発揮させる事ができる。 はずなのだけど、どうもこっちに来てからおかしい。 「異世界から来た?なに言ってんのよ、頭大丈夫?」 ルイズには説明してみたが、信じて貰えなかったようだ。 異世界から来たなんて話、あっさりと信じられるはずがない。ハヤトだって初めて召喚された時は、混乱したのだから。 あの時はしっかりと説明してくれたパートナーがいた。だが、ハヤトには口でルイズを納得させるのは難しそうだ。 なにか、証拠を見せるしかない。と、ずっと握っていた石ころが、怪しく輝いた気がした。 「……で、使い魔の仕事は、」 「あのさ」 ハヤトは、ルイズの言葉を遮った。ルイズは、気分を害したように眉を顰める。 「俺の話が、本当だっていう証拠を見せるよ」 「証拠?」 ハヤトは、握りしめていた石ころをルイズの前に置いた。どこにでもある、なんの変哲もない石ころ。 ふざけているのか、とルイズがハヤトに視線を送る。しかし、予想に反してルイズが目にしたのは真剣な表情をしたハヤトだった。 二つの月の光が、控えめに窓から差し込む。 成功するかどうかは分からない。だが、何かが呼んでいるような感覚がした。 (誓約者の名の元に、声よ、届け-ーー) 瞬間、頭が真っ白になる。体が支えられない。ハヤトは、膝を床に付けた。成功したのかは、すぐには分からなかった。 目の前がチカチカする。視界はなかなか戻らない。ルイズの沈黙が痛い。もしかして失敗ーー? 「か、可愛い……!」 「プワ?プワ!?」 やっと視界が戻る。そこに見えたのは、ルイズと……ポワソだ。三角帽子を被った、可愛らしいお化けの召喚獣だ。 ルイズは突然現れたポワソに驚いたようだが、目が合うと疑問より先に抱きしめていた。プワ、と抵抗の声も聞こえるが気にしない。 「ハヤト!凄いわ!他にも出来ないの!?」 「キーアイテムがあれば、出来るけど」 「キーアイテム?」 「たまに、不思議な力を持ったアイテムがあるんだ。さっきの石ころとか、ペンダントとか色々」 「分かった!」 なにが分かったのか、ルイズはポワソを撫でながら、部屋の中をあさりはじめた。貴族、というだけあって高そうな小物がハヤトの前にいくつも並べられる。 ハヤトは、それを眺めながら力が満ちるのを感じていた。少しだけど、異界との繋がりが強くなった。 ポワソを召喚したおかげだろうか。試す価値はある。 ルイズの持ち物の中にも、いくつか力を感じるものがあった。 (もしかしたら、) 数十分後には、ルイズの部屋は小さい使い魔が増えていた。 正確には、使い魔の使い魔なのだけど。使い魔のものは主人のものなのだから、そんなこと関係ない。 ルイズは、最高の気分だった。こんなに使い魔をよべる使い魔を召喚した自分は凄いのではないか。 使い魔たちの名前も教えて貰った。お化けみたいなのがポワソ、ゴーグルをつけてるのがテテ、そしてゴーレム。 初めはルイズを警戒していたようだが、段々と懐いてくれた。小さくて弱そうだけど、可愛い! ルイズも上機嫌なら、ハヤトも上機嫌だった。ハヤトの立てた仮説は間違っていない。 召喚獣と契約をするほどに、異界との繋がりが強くなっているのだ。このままいけば、リィンバアムと繋がり送還術が使えるかもしれない。 送還術とは、元の世界に召喚獣を返す術。ルイズの帰る手段はない、という言葉は間違いだった。ひとつだけある。 まだ、高位のものとは契約できないだろうが、魔力が戻ればそれも可能になる。 キーアイテムを見つけ、多くの召喚獣と契約すること。ハヤトの当分の目標が定まった。 「ルイズ、これで俺の話を信じるか?」 「し、信じる!ハヤト、見直したわよ!」 そして、こぼれるような美しい笑顔をルイズはハヤトに向けた。呼び捨てで呼んでも、特に反応はない。 ハヤトはその笑顔に照れつつも思った。 どこの世界でも、可愛いは正義なのだと。 前ページゼロの誓約者
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1372.html
「「決闘(デュエル!!)」」 決闘が始まった。 先に動いたのは青銅のギーシュ。 口にくわえた薔薇の造花を右手に持ち替え、かれはその造花を振る。 「ゼロのルイズ! 君自身が魔法を使えなくとも、僕まで魔法を禁止したりはしまいな? 出でよ! 青銅のゴーレム ワルキューレ!!」 ギーシュは芝居がかった口調でそういうと、くすんだ色の青銅人形を召喚する。 青銅のワルキューレ 土属性 岩石族 攻撃力? 守備力? 一方のルイズは右手に6枚の札を構えたまま動かない。 「……っく」 しつこく言うが、ルイズの右手には6枚の札が握られている。 だが、悲しいことにその札全てが、今現在使うことの出来ないものばかり。 (いいか、相棒。おれのこの40枚の札……デッキは3種類のカードから構成されている。モンスター。魔法。罠の三種類だ) ルイズは己の手札を確認する。 緑の手札が4枚。 黄土色と濃い褐色の札が一枚。 緑は魔法。 黄土色は効果を持ってはいないモンスター。 対して褐色は特殊能力を発動するモンスター。 本来なら大衆の目の前で、モンスターを召喚し、ギーシュのゴーレムをボコボコにのしてからシエスタに謝らせるつもりだった。 だが、それは適わない。 なぜか? 黄金錘に眠る、自分の使い魔の言葉を思い出す。 (いいか。相棒。モンスターカードは色々な種類がある。効果を持たない通常モンスターと特殊能力を持つ効果モンスター。 力は弱いが、何の代償なしで召喚できるモンスターを下級モンスター。 たいしてその召喚に生贄を必要とするのを上級モンスターというんだ) ルイズの手の内にあるカード。 上級モンスター「ブラック・マジシャン」 効果を持つ上級モンスター「ギルファー・デーモン」 魔法カード「融合」 魔法カード「死者蘇生」 魔法カード「魔法移し」 魔法カード「サウザンド・ナイフ」 現状ではルイズにはモンスターを召喚することも、ギーシュのゴーレムを破壊することも出来ない。 モンスター二体は生贄が必要になるため、召喚することが叶わない。 融合は決められたモンスター同士を合成させる魔法だが、ギルファー・デーモンとブラック・マジシャンでは融合は出来ない。 死者蘇生は『墓地』と呼ばれるカードゾーンにモンスターがいなければ使う事が出来ない。 魔法移しは自分や相手のモンスターにかけられた魔法を、別の対象に移し変える魔法。 サウザンド・ナイフはブラックマジシャンが場に召喚されることで初めて効力を発揮できるカード。 専門用語では今のルイズの状態をこう表す。 『手札事故』と。 「どうしたんだい? ゼロのルイズ。降参するかい?」 「馬鹿を言わないで! あたしの辞書に降参の二文字は無いわ!」 「……残念だよ。この僕がレディに手を挙げねばならないとはね。 ワルキューレ! 彼女の手から『使い魔』を奪い取れ!!」 ゴーレムがルイズに迫る。 (3分……3分持ちこたえれば私にも勝機がある!) 相手から目をそらさず、ルイズは考える。 自分の内に眠る使い魔は言っていた。 (いいか? 相棒。魔法や、罠、モンスター効果を使わない限りモンスターの召喚やデッキからカードを引く(=ドローする)行為は自分のターンに一回しか許されない。 だが、こういう乱戦じみた決闘では自分のターンとよべるものは存在しないだろう。だから本来の自分のターンである3分が過ぎるのを待つんだ。そうすれば、また新たな可能性が開ける!) ルイズが回想を終えると同時、ワルキューレが自分のデュエルディスク目掛け、サーベルを振る。 バックステップを取り、ぎりぎりでかわすルイズ。 とはいえ、かわせたのはまぐれのようなものだ。 ギーシュはまだ本気を出してはいないはず。 「ルイズ。君もほとほと頑固だね」 「ええ、自覚しているわ」 ギーシュはため息をつくと、薔薇の造花を振った。 青銅の戦士がまた新たに2体。 一方 ルイズに必要な時間はあと、40秒。 「もう面倒だ。ワルキューレ。その円盤を破壊しろ」 ワルキューレはサーベルの切っ先をデュエルディスクに向ける。 そのままの体勢で、スピードをつけて襲い掛かる青銅人形。 (――ッ間に合わない!) ワルキューレの移動速度は並の人間よりも遥かに速い。 ルイズは反射的に腕を抱え、守った。 ――己の体ではなく、デュエルディスクを。 ざく、と音を立てて、青銅の細剣がルイズの腕を切り裂く。 「ぐうぁぁっ!」 「なっ!?」 痛みに顔をしかめ、おもわず声を漏らすルイズ。 だが、慌てたのはギーシュの方だ。 誓って言うが、彼はルイズを傷つけるつもりは無かった。 青銅のメイジが破壊しようとしたのはあくまで「ゼロの使い魔」である。「ゼロ本人」ではないのだ。 「ああ、ルイズ! 何をやっているんだい! すぐに棄権したまえ!! 今から治療すれば、すぐ治るはずだ!」 ギーシュは貴族の女性を傷つけたとあってえらく狼狽している。 だが、駆け寄ろうとしたギーシュをルイズは手で制した。 「断るわ! これは決闘よ!!」 ゼロと呼ばれた少女はデッキに手をかける。 ギーシュはその少女の言葉を聞いて顔を引きしめると、再びワルキューレを召喚した。 「僕が一度に召喚できるワルキューレは6体までだ。この子達を使って君を無理やりにでも医務室へ連れて行く!!」 ルイズは深呼吸する。時は来た。 おそらくこのドローを逃せば、自分は6体のワルキューレに敗北するだろう。 (お願い。私を導いて!!) 「ドロー!」 懇親の力を込めて、ルイズはデッキからカードを引き抜いた。 その札を手にしている腕から血が滴り落ちる。 ルイズは血の気を失い、青い顔になりつつも凄絶な笑みを浮かべた。 「ギーシュ!」 「な、なんだい?」 「悪いけど、この決闘 私の勝ちよ! 私は手札より、魔法カード『強欲な壷』を発動!」 ルイズはドローカードを、魔法、罠を発動する場所に叩き込む。 ヴェストリの広場に、『ソレ』が召喚された。 つぼである。 ただ、とてつもなく趣味が悪い。 なんとも不細工な男がにんまりと笑った顔が掘られているのだ。 そのつぼには。 「キャアアァァア!」 「ゼ、ゼロのルイズが呪いの壷を召喚したぁぁぁ」 「目、目を合わせるなぁぁ! 呪われるぞぉぉ!」 『強欲な壷』のあまりのヴィジュアルイメージに外野は大混乱に陥る。 だが、当のルイズはそんなことは関係ないとばかりに、再びデッキに手をかける。 「強欲な壷を使用したプレイヤーはデッキからカードを二枚ドローできる。ドロー!!」 一方のギーシュは、ただ狼狽している。 彼には、この状況が理解できない。 Qあのつぼは何でしょう? Aゼロのルイズの魔法らしいです ルイズがドローすると同時、つぼは消えた。 そして…… 「私は! 手札から魔法カード『融合』を発動する!」 ルイズは二枚のカードを墓地に送る。 さきほど、強欲な壷の効果でドローした二枚のカード。 そのカードとは。 「出でよ! 悪魔族の先鋒 バフォメット! 駆けなさい! 幻獣王 ガゼル!」 よりにもよってルイズ・フランソワーズは一番召喚してはマズイ者を呼び出してしまった。 その体には4本の人間の腕。 その背には白い羽。 頭には禍々しくねじれた二本の角。 その顔は優しさなど微塵も感じさせぬ獣のような顔。 まさしく悪魔。 名をバフォメット。 「ル、ルイズが悪魔を召喚したァァァ!」 「ギャアアアァァアァ!!」 ギャラリーも、ギーシュも、一緒になって絶叫した。 ルイズは笑みを浮かべる。 そしてもう一体。 額に角を戴き広場にふく一陣の風が、彼のたてがみを撫でる。 一角の黒きたてがみを持つ獅子 幻獣王ガゼル。 不動の如く土の属性を持つ獣族の戦士。 「げ、幻獣まで召喚したぞぉぉ!」 「ど、どうしちまったんだぁぁ!」 「ル、ルイズ。君は一体……」 「ギーシュ。貴方が馬鹿にしたこの40枚の札にはね、数多くの魔法、モンスター、そして罠が封印されているの」 「な!?」 「心配しないで、命まで取りはしないわ。 さあ、ガゼル。バフォメット。その体を一つにし、翼持つ幻獣となりなさい!!」 二体の姿が空間に溶け込むように消えた。 入れ替わりに現れるのは、バフォメットの羽にガゼルの体。 二体の頭を備えた幻獣。 「有翼幻獣 キマイラ 召喚!!」 ルイズの声に合せるようにキマイラは低く遠吠えをあげた。 その咆哮に怯える人々。 ルイズの瞳が輝く。 彼女は召喚された使い魔の目を通して見通す。 「見えるわ。あなたの青銅でできたゴーレムの強さが」 ワルキューレ 攻撃力1200 守備力1000 効果 一度に6体まで特殊召喚できる。 ちなみに、キマイラの攻撃力は2100。 ワルキューレの攻撃に比べ、遥かに高い。 「さあ、ギーシュ。行くわよ。キマイラの攻撃!」 ルイズの声にあわせ、キマイラの二つの頭が鋭い角をワルキューレと、ギーシュに向けた。 「GO!」 突進する有翼幻獣。 その攻撃はワルキューレの一体を粉々に粉砕する。 キマイラがワルキューレの一体に攻撃を加えたことで、他のワルキューレがキマイラに攻撃を開始する。 だが、青銅の剣は容易く幻獣の剛毛にへし折られ。 そ鈍い色の体は鋭い爪と牙に跡形も残すことなく大地に還った。 「あ、あ、あ、あ」 未熟なメイジはぺたん、と尻餅をつく。 彼の腰は抜けて、歯の音ががちがちと奮えていた。 もう、『青銅』には手段が残されては居ないのだ。 「降参なさい。ギーシュ・ド・グラモン。命までは取りはしないわ」 「………そ、そうさせてもらうよ」 かくかくと、まるで自身が使役していた青銅のゴーレムの様に彼は頷いた。 そして、その宣言を聞き入れると同時、青い顔をしたまま我らがヴァリエール嬢は地面に伏し、意識を手放した。 ヴェストリの広場の決闘はこれにて終着を迎える。 だが、他でもないルイズ・フランソワーズの決闘はここから始まるのだということを 彼女も、彼女の使い魔たちでさえも予測は出来なかった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1682.html
前ページ次ページゼロの大魔道士 その日、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはいつになく硬い表情をしていた。 サモン・サーヴァント。 それが本日行われるメインイベントにしてメイジの今後が決まるといっても過言ではない儀式だった。 召喚の魔法を唱え、ゲートから現れた生物を使い魔にする。 言葉にすれば僅かこれだけの作業である。 だが、たったそれだけの作業がルイズにとっては重大だった。 無能、落ちこぼれ、劣等生、そしてゼロ。 それがルイズの評価にして絶対の事実だった。 魔法が使えない。 ただその一点が彼女を苛み、心の奥底で淀みとなって沈殿し続けていたのである。 (絶対、絶対成功させて見せる!) メイジの力を見るにはその使い魔を見よと言う。 つまり、ここで絶大な能力を持った使い魔を召喚することが出来れば自分の評価はガラリと変わるのだ。 仮に平凡な能力しか持たない生物を召喚したとしても、召喚自体は成功なのだからそれはそれで自信の源にすることが出来る。 召喚される使い魔はどうあれ、まずは召喚そのものの成功。 自分はゼロではない、それを真実とするための一歩。 それがルイズの本日の、いや現時点における人生一番の目標だった。 (行くわよ!) 手を大きく振り上げる。 高らかに宣言するように伸び上がった腕は蒼天を貫き、ピンと垂直に静止する。 ルイズは召喚の詠唱を口にし、詠う。 己の全てと誇りを賭けて。 「――我が導きに応えなさい!」 振り下ろされる手。 次の瞬間、爆音と共にその場にいる全ての者は立ち込めた土煙に視界をふさがれた。 「けほっ、けほっ」 「あー、やっぱり失敗かよ。流石はゼロのルイズ!」 「ったく、失敗しかありえないんだからやるだけむ…だ?」 「ん、どうしたんだよ?」 「あ…あれ…」 煙が晴れていく。 一人、また一人と視界が蘇る中、ある生徒が最初に『ソレ』に気がついた。 彼の名はマリコルヌ・ド・グランドプレ。 風上の二つ名を持つぽっちゃり系の男子学生である。 「んなっ…ななななななな!?」 「ちょ、ちょっとまて、俺は目がおかしくなったのか!?」 「落ち着け、こういうときは素数を数えるんだと神父様から聞いた覚えがあるぞ!」 「っていうか、あれは…」 『り、竜ーっ!?』 一人の少女を除いて、その場にいた全ての人間の声がハモった。 彼らの目に映ったのは一匹の竜。 神々しい輝きを放ち、両手を隠すようにして鎮座するその竜はその場の人間の度肝を抜いた。 サモン・サーヴァントにおいて竜が召喚されることは少ない。 それは竜という種族自体の絶対数が少ないということもあるのだが、 何よりも彼らは生物の頂点に立っているといっても良いくらいの能力を持っているのだ。 故に、彼らを召喚するということは並大抵の能力ではおぼつかないのである。 今年度の儀式においては、唯一青髪の少女が風竜の召喚に成功しているが、それでさえ規格外といって差し支えはない。 にもかかわらずルイズも竜の召喚に成功した。 いや、竜としての格でいえば外見からしてタバサの風竜を上回っている。 メイジの力を見るにはその使い魔を見よ。 この言に従ってルイズを判断するならば、正に彼女は始祖ブリミル並。 下手すればそれすら超える空前絶後の才を持つメイジということになるのだ。 「あ、あは…あはははは…」 唯一声を上げなかった少女――ルイズが壊れた蓄音機のような声で笑いを上げる。 それは呆然と驚愕、そして歓喜が織り交ざった笑いだった。 マザードラゴン。 その竜の種族名をルイズが知る由もないが、詮索するまでもなく目の前の竜は最上級の生物であることは間違いない。 正直、彼女は召喚の成功すら半信半疑だった。 強く自分を信じていても、これまでがこれまでだったので、根の部分では「でも…」と言い続けていたのだ。 それが蓋を開けてみたらどうだろう。 なんと現れたのは竜、しかも物凄い神々しい。 (わ、私ってひょっとして凄い!?) 混乱する周囲と思考の中、ルイズは感涙にむせんでいた。 思えばつらい人生だった。 ゼロと蔑まれ、バカにされる日々。 だが、その苦難の人生は今この瞬間のためにあったのだ。 これからは輝ける栄光の未来が待っている。 今までは興味なんてなかったけど、今日から日記をつけよう。 記念すべき第一文目はこうだ。 『…傷つき迷える者たちへ… 敗北とは 傷つき倒れることではありません。そうした時に自分を見失った時のことを言うのです。 強く心を持ちなさい。あせらずにもう一度じっくりと自分の使命と力量を考えなおしてみなさい。 自分にできることはいくつもない。一人一人が持てる最善の力を尽くす時たとえ状況が絶望の淵でも必ずや勝利への光明が見えるでしょう…!』 なんと感動的で素晴らしい文なのだろう。 この文を読めば魔王に立ち向かうなんて無謀な挑戦をする人間ですら感涙にむせぶに違いない。 思わず自分の才能に酔ってしまいそうだ。 ルイズは人には見せられないほどのニヤけた表情でえへらえへらと妄想に耽っていた。 「ミ、ミス・ヴァリエール? 感動に打ち震える気持ちはよくわかりますが…」 恐る恐る、といった風体でルイズに近づいたのは教師のコルベールだった。 彼とて突然の竜召喚に狼狽しないでもなかったのだが、この場の責任者としての義務が彼を後押しする。 「ミス・ヴァリエール?」 「ふふふ…そして伝説へ……はっ!? な、なんでしょうか!?」 「いや、コントラクト・サーヴァントを行ってください」 「あ…」 今頃そのことに気がついたとばかりにハッとなるルイズ。 そうなのだ、召喚に成功すればそれで終わりというわけではない。 召喚した使い魔と契約――つまりコントラクト・サーヴァントをかわさなければならないのだ。 だが 「…届きません」 ルイズの声が虚しく場に響いた。 マザードラゴンは状況を把握するかのようにキョロキョロと周囲を見回している。 そのため、首は伸び上がり、口はルイズの身長ではとても届くような場所にはない。 コントラクト・サーヴァントにおいて必要な口付けを行うためにはいささか問題のある状況だった。 「ええと…」 未だ混乱する生徒たちを余所に、コルベールはでっかい汗を一つ頬に流した。 通常、サモン・サーヴァントによって呼び出された生物はゲートを潜った段階で九割方使い魔になっているといえる。 何故ならばゲートを潜るまでの段階でその生物は召喚したメイジ専用に自動的に教育、悪い言い方をすれば洗脳、改造されている。 ひらたく言えば、意思の疎通やある程度の忠誠心や友愛心。 そういった主人にとって都合がよいようなものが自動的に備え付けられるようになっているのである。 ぶっちゃけ、召喚される側からすれば非道極まりない魔法といえよう。 それはさておき。 本来ならば召喚魔法の効果でマザードラゴンもルイズに対してある程度の友愛を感じているはずである。 であるならば、ルイズの意図を汲んで首を下げるというのが自然というものだ。 にもかかわらず、目の前の竜は首を下げる様子はない。 というか、ルイズを無視すらしている。 (ま、まあそれだけ能力が高いということなんだろう) この段階でコルベールはきな臭いものを感じたのだが、言わぬが華とばかりに沈黙を保った。 仮に自分の推測が――実は洗脳効果が発揮されてないということが当たっていたら、下手すればこの場は大惨事になる。 となれば一番の解決法はとっととルイズとこの竜の間に契約を発生させることだ。 幸い、竜は関心こそ向けてこないが、同時に敵意も向けてきていないのだから。 「……え?」 仕方なく、コルベールがフライを唱えてルイズを口元まで運ぼうと考えたその時。 竜が、マザードラゴンが動いた。 大きく翼を広げ、雄々しさと神々しさを兼ね備えた動きでふわりと浮き上がったのである。 「ちょっ…きゃあああ!?」 「うわっ!?」 至近距離にいたルイズとコルベールが羽ばたきによって起こった風に吹っ飛ばされる。 が、ルイズはすぐに何かに引っかかりなんとか吹き飛ばされるのを耐えた。 ちなみに、コルベールは赤い髪のある生徒のボインな胸元に受け止められ、後にラッキースケベの異名を得ることになる。 「ま、待ちなさい! まだ契約が! コントラクト・サーヴァントが…!」 幸せの絶頂から一転。 ルイズは焦りと混乱の中手を伸ばす。 だが、既に空に舞い上がった竜にその手が届くことはない。 マザードラゴンはルイズを、厳密にはルイズの後ろを僅かに一瞥すると、そのまま飛び去っていた。 「ね、ねえ。これって…どうなるの? 私の栄光の未来は? 輝かしい英雄への道は?」 呆然と呟くルイズ。 普通に現実逃避だった。 それはそうだろう。 召喚した生物が逃げ出すなど前代未聞の出来事である。 はっきりいって、これならまだ召喚自体を失敗した方がマシ。 「あ、あは…あはははは…」 再び笑い声をあげるルイズ。 だがそれは最初の笑いとは違い、正真正銘壊れた笑いだった。 故に彼女は気がつかなかった。 自分のお尻にしかれている――少年の存在に。 前ページ次ページゼロの大魔道士
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6311.html
前ページ次ページゼロの騎士団 ゼロの騎士団 PART1 始まりの地 トリステイン-1 トリステイン魔法学園 春の日 使い魔召喚の儀 その日は、ジャン…コルベールにとって普通に終わる日のはずであった。 「ミスタ……コルベール……」 不安そうな生徒の声に意識を現実に戻す。 ピンク色の髪の生徒の目が「どうしましょうと?」訴えかける。 「ミス……ヴァリエール……」 コルベールは彼女に対して、言葉を紡ぎだそうとするが、それには時間が欲しかった。 生徒たちは、ほとんどが召喚を終えて学園に戻っている。その場に残っているのは数人だけだ。 (どうして、こんなことになったのよぉ……) 召喚の成功への喜びでもなく、召喚されたものに対する不満でもなく、事態の異常さに嘆きたいルイズであった。 トリステイン魔法学園では2年生の進級の際、自分の使い魔を呼び出す。 生徒たちにとって使い魔召喚の儀はこの学園に入った生徒の楽しみな行事の一つであり、 コルベールとっても召喚した生徒たちの一喜一憂する顔、また、生徒たちが召喚した使い魔を見るのが楽しみでもあった。 コルベールはルイズに召喚の儀で使われる形式的な意見を述べる 「ミス…ヴァリエール召喚の儀はとても神聖な儀式です。たとえ何があっても、『サモン…サーヴァント』で召喚されたものと契約しなくてはならないのです。」 「ですけど……これは……」 彼女が召喚した先に視線をやる。 「けど、これって、ゴーレムですよね?」 彼女に認識では、それは鉱物などでできた土のメイジが得意とする人型のゴーレムであった。 人型と認識したのは手と足があったからだ。 1・6メイル程の大きさでゴーレムとしては小型であり、白を基調とし赤い羽根のようなものを背負っている。 ただ、ルイズが気になるのはその頭身であった。人の頭身は約7頭身前後である。しかし、目の前のゴーレムは約3頭身しかない。ルイズの感覚ではまだギーシュのワルキューレのほうがなじみ深かった。 「ミス・ヴァリエール、『コントラクト・サーヴァント』には主への忠誠が含まれているのは知っていますね?」 コルベールは複数の意味を持つ契約でなぜそれだけを言ったのか? 「はい、しっています……」 ルイズにはコルベールの意図がわかっていた。 「……危険なのですか?」 「わかりません、けど、だからこそ『コントラクト・サーヴァント』を行う必要があるのです。」 同意を求めるように、コルベールがルイズを諭す。 「でも……こん「契約しちゃいなさいよ。」!」 自分の声を遮られ、ルイズが声の主に振り替える。 「キュルケ!あんた人ご「人ごとじゃないわよ」」 「だって、あなたと同じものを召喚しちゃったんだもの」 彼女は自身が召喚したものに指をさして、その声にはどこか諦めが含まれていた。 彼女が召喚したのも、また、ゴーレムであった。大きさも同じで違いは自分のと比べて赤を多く含んでいるくらいである。 「ちなみに、タバサも同じゴーレムよ」 「……同じじゃない」 新たな声の主は自分と同じくらい小柄な青髪の少女であった。 「微妙に違う……」 彼女は自分のほうに振り向こうともせず、じっとゴーレムを観察している。 それも、また、彼女が召喚したゴーレムにそっくりであった。 同じ大きさでこちらは青を多く含んでいる。そしてほかの2体と比べてルイズにとってなじみ深い騎士のような格好をしている。得体のしれなさはかわらないのだが…… (同じゴーレムでもタバサのほうがよかったわ!) なんとなく、タバサが少しうらやましくなった。 「契約しなきゃだめなの?」 ルイズはキュルケに振り向きもせずに、声をかける。 「ていうか、もう契約しちゃった」 「え!本当なの、それ!?」 ルイズは予想外の一言に驚きの声を上げ、改めてゴーレムを見直す。 見ればキュルケのゴーレムには契約の証しであるルーンがうっすらと光っている。 「なんで!なんで!?危ないとか!危険とか!危ういとか思わないの!?」 「3つとも意味が一緒じゃない……ミスタ…コルベールの言った通りよ。……それに、もうタバサも契約してるし」「ええっ!!」 「契約完了。」タバサが無表情にそれを告げる。 タバサのゴーレムの手にもまたルーンが光っていた。 (ウソ、なんでそんなあっさり契約できるのよー!) 事態を考えればそれは決して間違っていることではなかった。しかし、ルイズの理性はそれを許容できなかった。 そんな二人にルイズは早口でまくしたてる。 「あなたたち無神経すぎ、迂闊すぎ!!どうしてそんなにあっさり契約しちゃうの!? ガリアやゲルマニアじゃどうか知らないけどトリステインでは使い魔は神聖な物なの、一生物なの!!気に入らないから、はい、さよならではいけないのよ!私はこの日をずっと楽しみにしてたわ、ゼロとバカにされた私がカッコイイ使い魔を召喚して見返してやるのを!使い魔はメイジの鏡なのよ!わたしはこんなヘンチクリンなんかじゃないわ!!はぁはぁ……」 今までため込んでいた思いを一気にまくしたてる。 すこし気分が軽くなったが、それでも、普段通りに戻るには至らない。だが、しいていえば私の怒りが通じたのかキュルケとタバサが驚きの表情でこちらを見ている。一息深呼吸し言葉を続ける。 「やっと、あなたたちも私の「きみ、少しいいかい?」少しはえっ!なんですか、ミスタ……コルベール。私は今このふた……」 ルイズはコルベールに向かって振り返り見上げる。 しかし、目の前に顔はなかった。 「君、少しいいかい?」声が聞こえた。ルイズは視線を平行に戻す。 顔があった。 「少しいいかい?」ゴーレムの顔であった。 「ここはどこだい?」どうやら自分に向かってしゃべりかけているらしい。 「私たちは、確かジーク…ジオンとの戦いで……」なにかをしゃべっている。 「私たちは光に包まれ……しかも、梟の杖もなくなっている」 ゴーレムは状況を確認している。 「そうだ!ジーク…ジオンはどうなったのだ?ナイトガンダム殿がとどめを刺したはずだが………」ゴーレムが何かを聞いてくるが、それどころではない。 「あっアンタ、なに!?なんなのよぉ!?」 正気に戻りルイズは目の前のゴーレムに詰め寄る。 「うおぉっ!」ゴーレムは気押され半歩下がる。 ルイズは心なしか少し安心し、ゴーレムからの返答を待つ余裕はできた。 「すまない、驚かせてしまって」 少しの間をおいてゴーレムは謝罪する。 立場という物が理解できたのだとルイズはそう確信した。 「私の名前は法術士ニュー、アルガス騎士団法術隊の隊長だ。君の名前は?」 「ルイズよ、ルイズ・フランソワーズ・ルブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!って、違うわよ、アンタに聞きたいのはアンタの名前じゃなくてアンタが何者かってことよ!?ちなみにアンタの質問に答えるなら、ここはハルケギニアのトリスティン魔法学院であんたは私の使い魔として呼ばれたのよ!!」 謝罪の意味は立場の理解からではなく、名前を名乗らなかったことに対するものであった。 「トリスティン?聞いたことのない地名だなぁ……私の様なガンダム族は珍しいが、ここにはあまりモビルスーツ族はいないのかい?」 「ガンダム族?モビルスーツ族?あんたの仲間って他にもいるわけ!?信じられない!ちなみに聞くけどあんたって生物?」 (――エレオノールお姉さまなら何か知っているかしら?) アカデミーにいる姉を思い描き新種を発見した学者の心境で、ルイズはゴーレムに質問する。 「生物?君はずいぶん失礼なことを聞くなぁ、私はちゃんとした生物だよ、いくら物珍しいからと言って、そんなに驚く事かい?」 「驚くわよ、だってアンタって生物らしさゼロじゃない。キュルケ、タバサどうし――」 後ろの二人に同意を求めようとして、ルイズは固まった。 「よぉアンタ、ここがどこかわかるかい?」 キュルケの召喚した赤いゴーレムがキュルケに尋ねている。 「お嬢さん、失礼ですがここがどこか教えていただきませんか?」 タバサの召喚した青いゴーレムもまた丁寧な口調で同様のことを尋ねている。 「あ、あぁ……」ルイズは事態の悪化を確信していた。 「おっ!ゼータとダブルゼータじゃないか」 後ろから覗き込むように、ゴーレムが前にいる二体を認識する。 「ニュー!お前もいるのか」赤いゴーレムがこちらのゴーレムに気づき近寄ってくる。 「三人揃っているようだな」青いゴーレムもまたこちらに近寄ってくる。 気がつけば三体のゴーレムにルイズは囲まれていた。ルイズの意に介さず三体は会話を続けている。 「どうなったてんだ?自分達はジーク・ジオンとの戦いで……」 青いゴーレムが自分のゴーレムと同じようなことを口にする。 「ナイトガンダム殿が倒したんじゃないのか?それより俺の獅子の斧を知らないか?」 ルイズの知らない名前を赤いゴーレムが口にする。 「私の龍の盾も、そういえば見当たらんのだが……そうだ!団長は?アレックス団長はどこに行ったのだ?」 こんなゴーレムが、まだいるのか!ルイズの脳裏に断片的な会話から思ったことがよぎる。 「……ミス・ヴァリエール」 聞きなれた声に恐る恐る顔を向ける。 コルベールは目の前の事態に驚きとそして、ルイズに宣告する言葉を渋るような複雑な顔つきをしていた。 「ミスタ・コルベール……」 ルイズは縋るように指示を仰ぐべき人間に顔を向ける。 「ミス・ヴァリエール……契約しなさい」 ルイズにとって、それは無情な死刑宣告であった。 0(どうして、こんなことになったのよぉ……) 召喚の儀 ルイズは途方に暮れている。 PROLOGUE 「1アンタは私の使い魔なのよ!」 ゼロのルイズ ヴァリエール侯爵家の三女 MP 280 「2アレックス団長は?ここはいったい?……] 法術士ニュー ハルケギニアに召喚される MP 1150 ゼロの騎士団 PART1 始まりの地 トリスティン 春の召喚の日 朝 ルイズの朝はキュルケとの口論から始まる。 ルイズは今日の日を楽しみにしながらも不安であった。 自分は本当にゼロなのではないのか? しかし、キュルケに闘争本能を刺激されその不安が消える。 (やってやろうじゃないのよ、キュルケなんかに負けるもんか!) ルイズは広場に向かう、未だ見ぬ使い魔を想像して…… 前ページ次ページゼロの騎士団
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4448.html
前ページ次ページ約束の地ハルケギニア Chapter1 召喚 「ゴホ、ゴホッ………」 ルイズは、自らのサモン・サーヴァントによって生まれた爆発の煙に咳込みながらも、 今までとは違う感覚に確かな手応えを感じていた。 やがて煙が晴れ、爆発の中心に何かが見えてくる。級友達は既に召喚の儀式を終え、 各々立派と言える使い魔を召喚している。自分はどんな使い魔を召喚したのだろう……ルイズは祈りにも似た気持ちで、見えてくる「何か」を見つめていた。 「エクセル!起きなよ」 「ひゃっ!?」 完全に集中していたからだろうか、突然聞こえた声に、ルイズは思わず情けない声を発してしまう。 「喋った……って事は、まさか人?」 やがて煙が晴れ切る。回りでルイズのサモン・サーヴァントを見ていたクラスメートも、 ルイズが何を召喚したのだろうと、興味津々のようだ。それだけに、事態の理解も早い。 まず目に入るのは、横たわっている人間。見た目からして少年のようだ。顔付きも幼い。 その人間の上に、黒い猫。背中にはささやかな翼が生えている。 そして地面に突き刺さった、黄色い武器のようなもの。剣にも、槍にも見える、奇抜な形の武器だ。 「あんた、誰」 微かな失望を込めて、ルイズは問い掛けた。しかし少年からの反応は無い。 「ん……ん」 と、少年から唸りが洩れる。見た目に違わず、可愛い声である。 「早く起きな……きゃっ!」 ルイズが近寄ろうとすると、少年の上に乗っていた猫が飛び掛かってくる。しかし所詮は小動物、爪に気をつけさえすれば、障害にはなりえなかった。 「見ろよ、ルイズが自分の召喚した使い魔に襲われてるぜ」 「さすがルイズだ!」 その台詞をきっかけに、人垣から笑いが巻き起こり、それはいつしか爆笑へと変わった。 野次に赤面しながらも、ルイズは倒れている少年を揺すり、意識を覚醒させようとしていた。既に覚醒しかかっている事もあり、僅かに目を開き、焦点がルイズに合う。 「きみは……誰?」 「それはこっちのセリフよっ!」 ルイズが怒鳴るも、少年はキョトンとしてルイズを見ているだけだった。怒っている理由がわからないのだから仕方ないだろう。その様子に、ルイズの機嫌はさらに悪くなる。 「だから!あんたの名前はって聞いてるの!」 少年は体を起こし、立ち上がって 「僕はエクセルっていう名前だけど……」 埃の付いた体を払いながらそう告げた。 「いったいどこの平民よ、それは……ミスタ・コルベール!」 「なんだね、ミス・ヴァリエール」 「もう一回召喚させて下さい!」 その言葉には確かな懇願が満ちていたが、頭の淋しい男性――コルベールは、首を振った。 「それはダメだ、ミス・ヴァリエール」 「どうしてですか」 「決まりだよ、二年生に進級する際、君達は使い魔を召喚する。今やっている通りに―― そして、一度召喚した使い魔は変更する事はできない。何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。好む好まざるに関わらず、彼かその動物を使い魔にするしかない」 「でも!」 食い下がろうとするルイズだが、コルベールは聞く耳を持たない。 「これは伝統なんだ、ミス・ヴァリエール。どちらかを使い魔に選ばなくてはならない」 がっくりと肩を落とすルイズだが、どちらか使い魔にしなければならないと言われれば、今胸に抱える形になっているこの猫を使い魔にするしかないと思い、猫を小突く。 よくよく考えれば、少年は気を失っていたのだから、声を発したのがこの猫だと行き着く。少しはマシか、とルイズは思い、猫に対して使い魔契約をしようとするも 「僕はエクセルの使い魔なんだって!二重契約なんか出来ないしする気もない!」 猫はルイズの手を振り払い、エクセルの元に戻る。 「ならば仕方ない、そこの少年を使い魔にするしかないね」 「そんな……」 この世の終わりを体言したかのように、ルイズは肩を落とし――何かを決心したように、エクセルの目の前まで歩を進める。 「感謝しなさいよね、貴族にこんなことされるなんて、普通は一生無いんだから」 「え……?」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 ルイズが手に持った小さな杖がエクセルの額に置かれ、少しずつルイズの唇が、エクセルの唇へと近づき―― 「ん……」 「むーっ!?」 唇が重なる。エクセルは離れようとするものの、ルイズがしがみついていてそれを許さない。 やがて、唇が離れる。ルイズが顔を真っ赤にしながら、エクセルから距離をとる。 「サモン・サーヴァントは何回も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんとできたね」 コルベールが嬉しそうに言った。キスをされたエクセルだが、余りの事に反応できずにいたものの、急激に熱を持ち始めた体に、苦痛で表情を歪めた。 「すぐ終わるわ、使い魔のルーンが刻まれているだけだから」 その言葉通り、熱に支配されていた体はすぐに冷やされた。 「一体、何が」 エクセルが異常がないか体を確かめていると、いつの間にか近づいて来ていたコルベールが、エクセルの右手の甲を確かめた。そこには、神聖文字に似た字が刻まれていた。 「珍しいルーンだな」 コルベールはそう呟いた後、 「さて、皆教室に戻るぞ」 踵を返し、宙に浮いた。エクセルはその様子に、驚きを隠せないでいた。 「翼もないのに、空を飛んでる」 コルベールが宙に浮いたのを皮切りに、回りの人垣も次々と宙に浮き、最終的にルイズ以外の全員が宙に浮いていた。 「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」 「あいつフライはおろか、レビテーションさえまともに出来ないんだぜ」 2500 口々にそう言って、近くに建っていた石造りの建物へ飛び去って いった。二人と一匹のみになった瞬間、ルイズは怒鳴った。 「あんた一体なんなのよ!」 「そんな事言われても……ここが何処かもわからないのに」 「あんた平民なだけじゃなくて知識もないのね、ここはトリステイン魔法学院よ」 「魔法学院!」 エクセルは首を傾げた。ルイズはさらに句を継ぐ。 「そして私がルイズ・ド・ラ・ヴァリエール今日からあんたのご主人様よ、覚えておきなさい」 ルイズは言い切ると、石造りの建物へと歩を進める。 「ルイズは飛んでいかないの?」 なんとなく聞いたのだが、それが逆鱗にふれたのか、ルイズ一度立ち止まってこちらを向きは「いいから早くついてきなさい!」と怒鳴り、再び歩いていった。 「何なんだよもう……」 エクセルは地に刺さっていた武器を掴む。しかしその瞬間、体の異変に気がついた。 「エクセリオンが……?」 何だか、体が軽くなったような気がする。その違和感に動揺していると、足元の猫が問い掛けてくる。 「どーしたの、エクセル」 猫が訝しげに問う。 「ロゼ……いや、なんでもないよ」 「本当に?」 「本当だよ。とりあえず、ここがどのあたりなのかもわからないし、ルイズに付いていってみよう」 エクセル、続いてロゼもルイズの後を追った。 第一節了 前ページ次ページ約束の地ハルケギニア
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7718.html
前ページ次ページ疾走する魔術師のパラベラム 第一章 召喚の儀式 1 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの人生には、不遇がつきものだった。本人がどんなに努力しても、実力とは全く結びつかなかった。どんな勉強も、どんな訓練も報われない。そんな状況が何回も続くと、人間は努力をやめてしまうだろう。 けれどもルイズは、努力を怠らなかった。 人より多く杖を振り、人より多く本を読み、そして人より多く失敗した。 火、水、風、土。知りうる全ての呪文を唱えた。ありとあらゆる本を読み、知識を溜め込んだ。 しかし、ルイズの魔法が成功することはなかった。 初めて笑われたのはいつの事だっただろうか。 恐らく魔法学院に入学して、しばらく経った時だ。 それまでは座学で、魔法の基礎や国の成り立ちについて説明を頭にいれる。 そう、その時点ではルイズは優秀だった。 母のようになりたい。 父のようになりたい。 姉たちのようになりたい。 婚約者のようになりたい。 ただそれだけの想いに突き動かされ、ルイズは必死に努力した。 『さすがはヴァリエール家だな』『ねぇ、アナタはルイズがあの烈風の娘って噂はもう聞いた?』『なんでもお姉さんは、アカデミーに勤めているらしいじゃないか』『ひょっとするとスクエアになったりするんじゃない?』 そんな風評は瞬く間に広がった。しかし。 迎えた初めての実技。 学友が次々と『レビテーション』を唱え、机に置かれた小石を浮かばせる。 レビテーションは物を浮かせる呪文。ほとんどのメイジが扱える初歩的なスペルである。メイジの力量により浮かせることができる物の数や重さは変わるが、これを使うことのできないメイジなど、そうはいない。 順番が巡ってきたルイズの唱えたレビテーションは失敗した。浮かせようとした小石は、失敗の際に起きる爆発により砕け散り、教室を爆風が包んだ。 生徒たちには何が起きたのか理解できなかったが、それは教師も同じだ。理解できたのはただ一人。呪文を唱えた本人であるルイズだけだった。 混乱する同級生たちの中で、彼女は静かだった。 ――まただ。また失敗。どうして私は・・・・・・・ ルイズの心は静かだったが、それは痛みに慣れてしまっただけだ。もはや彼女の心は擦り切れて、今更失敗したところで波立ちはしない。代わりに生まれるのは闘志にも似た炎のような激情。 ――諦めない。諦めたりなんかするもんか。 この出来事をきっかけに、周囲のルイズに対する評価は変わっていった。 『優秀な白鳥の雛』から『羽を白く染めたアヒルの雛』へと。 授業の実技の度に、魔法は爆発。成功はただの一度も無く、やがてルイズはこう呼ばれようになった。 『ゼロのルイズ』 メイジの表す象徴ともいえる二つ名。 『烈風』『閃光』『微熱』『雪風』『土くれ』『炎蛇』『香水』『青銅』 さまざまな二つ名があるが、そのどれもがそのメイジをよく表している。 魔法が成功しないルイズに与えられた二つ名は、ルイズを残酷なまでによく表していた。 『ゼロ』、『ゼロのルイズ』。魔法成功率0%のゼロ。 それが彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ラ・ヴァリエールに与えられた現実と才能だった。 そうして彼女は、友も味方のただの一人もいない孤独な学園生活を送る。けれどルイズは、諦めなかった。唯一、心の内に秘めた一欠片の矜持と常に気高くあろうとする誇りを支えに生きてきた。そしてこれからも。 そしてルイズは一年生最後にして最大の行事、『使い魔召喚の儀式』を迎えた。 2 学院から少し離れた草原。そこで若きメイジたちは、己の生涯のパートナーである使い魔の召喚を執り行う。 次々と同級生たちが召喚に成功していく。カエルやネコ、鷲など普通だが、主人に見合った使い魔が召喚される。中にはまだ幼いが風竜を呼び出した実力者もいた。 『使い魔には主人に相応しいものが召喚される』 メイジであれば誰もが知っている常識だ。 ――ならば自分は? 今まで一度の成功もしたことが無い自分には、答えてくれる使い魔がいるのだろうか。 この儀式は使い魔を召喚するものともう一つ、二年生への進級試験を兼ねている。 魔法学院に通いながら、使い魔を召喚することに失敗して落第した者など聞いたことがない。 それだけ使い魔を召喚するということは『当たり前』なのだ。 また生徒から歓声が上がる。草原の中央に目を向けるとそこには、サラマンダーがいた。 大きな蜥蜴を思い起こす容姿。しかし大きさは蜥蜴などとは比べ物にならないほど大きく、尻尾の先には炎が揺らめいていた。 サラマンダー。風竜ほどではないにしろ、かなりのアタリだ。 召喚したメイジは、褐色の肌に艶のある赤毛。大きく胸元を開けた制服を扇情的に着こなした女生徒。 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 ルイズの隣の部屋の住民であり、ルイズの敵。 キュルケのツェルプストー家とルイズのヴァリエール家には浅からぬ因縁がある。 キュルケはルイズの向ける視線に気づいたのか、こちらにウインクをして見せた。 奥歯を噛み締める音が脳髄に響く。 ――負けられない。 その後も次々と召喚に成功していく。もちろん、失敗するものはいない。 やがて、ルイズの番が回ってきた。 担当教諭のコルベールをアドバイス与える。 「いいですか、ミス・ヴァリエール。落ち着いて、自信を持つのです。あなたは優秀で努力家です。私は応援しています」 「ええ、ありがとうございます。ミスタ・コルベール」 応援はしてくれても、信じてはくれないのか。 ――それでいい。私のことは私が一番信じている。 杖を取り出し、構える。ルイズの杖は煤だらけで、傷だらけだ。だがこれは、ルイズの扱いが雑というわけではない。これは彼女の努力の証。 「宇宙の果ての、どこかにいる私の使い魔よ・・・・・・私の求めに応じ、我が使い魔となれ」 呪文を唱え、杖を振る。爆音が響き、熱を孕んだ風がルイズを吹き飛ばす。 失敗。いつもどおりの爆発。ルイズは地面に叩きつけられ、低く呻いた。 「だ、大丈夫ですか? ミス・ヴァリエール」 コルベールが慌てて駆け寄り、ルイズを心配そうに覗き込む。 「・・・・・・大丈夫です。もう一度、やらせてください。」 まだ痛みを残す腕に力を入れ、立ち上げる。 コルベールは一瞬、止めようとしたがルイズの目に宿るギラつきを見て口を閉じる。 ――諦めない。決して、諦めるものか。 「やっぱり、ゼロだ! 見たか、サモン・サーヴァントまで失敗したぞ!」 「ははは、サモン・サーヴァントってどうやったら失敗するんだ? 教科書には載ってなかったぞ」 「いや、ブタか何か召喚したのかもしれないぜ? まぁ、あの爆発じゃ肉屋も引き取ってはくれないだろうけどな」 「おい、賭けしようぜ! 俺は『ルイズが失敗する』に50ドニエ賭けるぜ」 「バカ、賭けになんないわよ。誰がゼロに賭けるのよ。勝率も『ゼロ』じゃない」 ――見返してやる。必ず魔法を成功させてやる。 「宇宙の果ての、どこかにいる私の使い魔よ・・・・・・私の求める力強い使い魔よ、我が導きに答え使い魔となれ」 やはり起きるのは爆発。再びルイズは放り出される。 今度の爆発はさっきより、規模が大きかった。ところどころ体がヒリヒリする。火傷したかもしれない。 またコルベールがルイズの元へやってくる。 止められたくない。ルイズはコルベールが口を開く前に立ち上がった。 「もう一度、お願いします」 呪文を唱え、杖を振る。 爆発。爆発。爆発。 杖を何度振っても、呪文をいくら唱えようとも、起きるのは爆発だけ。その度にルイズの小さな体躯は吹き飛ばされ、宙へ舞い、地面へと叩き付けられる。 それでもルイズは立ち上がるのをやめない。 ――負けたくない。 誰よりも、自分自身に負けたくなかった。 3 そろそろ十回を超えようとした時、見かねたコルベールが止めに入った。 生徒たちは飽きたのか、哀れんだのか、もはや嘲笑の類をルイズに向けようとすらしない。その中でただ一人、キュルケだけはじっとこちらを見ていた。 「ミス・ヴァリエール、これ以上は危険です。ほかの生徒の召喚の儀式もまだ済んでいません。今日はここまでにしましょう」 「・・・・・・嫌、です。お願いします。あともう一度だけ・・・・・・」 何度も地面に叩きつけられたルイズの身体は傷だらけだ。息も絶え絶えになっている。 「ミス・ヴァリエール」 「お願いします」 自分のせいで予定が遅れている。それぐらいはルイズにだってわかる。だけど諦めたくない。 コルベールの目を真っ直ぐに見つめる。結局、コルベールが折れた。 「・・・・・・わかりました。あともう一度だけ、許可しましょう」 コルベールはすっと下がった。キュルケは相変わらず、こちらを見つめている。 これが最後のチャンス。ルイズは目を閉じ、スッと息を吸った。自分の魔法によって焦げた草の匂い。今度は失敗しない。するわけにはいかない。 「・・・・・・宇宙の果ての、どこかにいる私の使い魔よ・・・・・・力強く、誇り高き使い魔よ。私の求めに応じ、我が導きに答えよ!」 今までにない規模の爆発がおき、ルイズの召喚は成功した。 前ページ次ページ疾走する魔術師のパラベラム トップページへ戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2067.html
「土くれのフーケ?彼女が?」 ウェールズが唖然とした表情のまま、ルイズに問いかける。 マチルダが土くれのフーケだという事実は、あまりにも予想外だったのか、アンリエッタもウェールズと同じようにきょとんとした表情で固まっている。 「どこから話そうかしら…そうね、私が『死んだ』時のことから話しましょうか」 ルイズは、呆然としている二人に、土くれのフーケとの馴れ初めを話し出した。 吸血鬼になったルイズが、魔法学院を自主退学しようとした日は、奇しくもアンリエッタが魔法学院に立ち寄った日だった。 ロングビルとしてオールド・オスマンの秘書をしていたフーケは、アンリエッタが来る日に宝物庫の警備が手薄になると気づき、ゴーレムを用いて物理的に宝物庫を破壊しようとしていた。 宝物庫にはヒビが入っており、そこを土に練金してしまおうと思ったが、固定化を崩すことができなかった。 そのためゴーレムを用いて物理的に宝物庫の壁を破壊した。 フーケは、集まってくる衛兵の目を誤魔化すためゴーレムを囮として走らせ、その隙に反対方面に逃げようとした。 その時偶然、馬車に乗って立ち去ろうとするルイズが、フーケの姿を目撃しており、すぐさま追跡を開始した。 人間よりはるかに鋭敏な吸血鬼の五感を用いて、ルイズはフーケを追跡し、隠れ家を発見した。 そしてルイズはフーケと戦った、土くれのフーケがロングビルだったのには驚いたが、それ以上にルイズの心を支配したのは『喜び』だった。 情報収集のための手駒を欲していたルイズは、フーケをやんわりと説得し、協力を約束してもらった。 「ちょっと待ちなよ、どこが説得だよ、あの時アタシ本気で怖かったんだからね」 ルイズの説明を聞いていたマチルダが口を挟む、それを聞いてルイズはすこしむっとした顔で言い返す。 「何よ、あなた無抵抗な私を鉄で押しつぶすわ火で焼くわ、殺そうとしてたじゃない。私はぜんぜん手出ししてないわよ」 「よく言うわ、あんな殺気ぷんぷんさせて見つめられたら誰だって身を守るために攻撃するわよ」 「そう?」 ウェールズは「ははは…」と力なく笑った、苦笑と言った方がいいかもしれない。 アンリエッタを見ると、彼女もウェールズと同じように驚いていた。 ワルドは既にフーケのことを知っているので驚きはしなかったが、ルイズが楽しそうに喋っているのを見て、ほんの少しだけ嬉しそうにはにかんでいた。 「コホン……ルイズは私のこと騙してらしたのね。ずるいわ、もう」 アンリエッタがぷいと横を向いて拗ねてしまったが、どこかかわいらしい。 フーケのことを黙っていたのが気に入らないのか、演技がかった仕草で顔を逸らしている。 ルイズは「ごめんね」と言ってアンリエッタの手を取った。 「ごめんなさいね、アン。クックベリーパイの食べ方なんて、そんな細かいクセまで覚えていてくれて、私は嬉しかったわ…でもフーケの事まで言って良いのか、その時はまだ判断できなかったの」 アンリエッタはルイズの謝罪を聞いて、ふぅとため息をつき、一呼吸置いてから呟いた。 「仕方ありませんわね。土くれのフーケと言えばトリステインを騒がせた大盗賊ですもの。それにあの時の私は単なるお飾りでした…フーケのことを黙っていたのは、むしろ英断だったかもしれません」 ふとマチルダの表情を伺うと、アンリエッタを値踏みするような目で見つめていた。 一瞬だけ視線が交差すると、マチルダはふぅとため息をついてルイズに視線を移した。 「ルイズ。そろそろちゃんと説明してくれないかい。アタシをこの二人に紹介して何をしようってのさ」 「そうね、じゃあ説明をするけど…その前に仕掛けをしておかないとね」 ルイズが腕を前に出すと、腕に仕込んだ杖が筋肉によって押し出され、手のひらに三分の一ほど露出した。 それを握りしめ、静かにルーンを唱えていく、詠唱時間の長さからそれが『虚無』のルーンであることが予想できた。 ルイズは、屋根裏部屋の窓際に移動し、部屋の入り口である小さめの扉に向かって杖を向けた。 周囲から霧のようなモノが集まり、ぐにゃりと景色が歪むと、ルイズは杖を腕の中に収納してため息をついた。 「フーーっ……『イリュージョン』を使ったわ。衛兵が来ても音が漏れなければ大丈夫よ。無人の部屋に見えるわ」 そう言ってルイズは部屋床に座り込む、額にはうっすらと汗が浮かんでいた。 「ルイズ、大丈夫?疲れたならベッドで横になった方が…」 アンリエッタがルイズの身を案じてくれたが、ルイズは首を横に振った。 「これぐらい大丈夫よ。ちょっと疲れただけ。気にしないで。……それじゃあマチルダを引き込んだ理由を、王子様から説明して頂こうかしら」 ウェールズはこくりと頷いてから、マチルダの方に向き直った。 「ミス・マチルダ。アルビオンから亡命・疎開した者は、確認されているだけでも二千人。そのうち540人が既に死亡している」 マチルダの眉がピクリと動いた。 「君を襲ったのは、私の部下達だ……だが彼らはニューカッスルと運命を共にし、僕を逃がすために皆死んでいったはずだ。生きているはずがない」 ウェールズの視線が、ワルドに移る。 「ラ・ロシェールで君を襲った連中の顔を、彼にも確認してもらったよ」 マチルダもワルドの顔を見る、偶然ワルドが通りかからなければ、今頃自分は死んでいた。 ワルドはちらりとマチルダに視線を移すと、おもむろに口を開いた。 「僕はニューカッスル城で、クロムウェルが死者を蘇らせるのを目の当たりにした。あの時生き返った近衛兵と同じ顔をしていたんだ。クロムウェルはアルビオンの衛士を操り人形にし、脱走者狩り、亡命者狩りをしている。 リッシュモンの元に出入りしている商人は、レジスタンスにも接触しているとアニエスから報告があった。それ以外のカネの流れを見ても、リッシュモンがアルビオンと繋がっているのは間違いない。」 「リッシュモンね…そいつ、ヘドが出るわ」 マチルダが呟く、その言葉はこの場にいる一同の思いを代弁していた。 ルイズが膝に手を置き、ゆっくりと立ち上がる。 首を左右に振るとゴキゴキと骨の鳴る音がした。 「ここからが大事なところよ。逃げ延びた者の話によると、レコン・キスタはレジスタンス狩りと称して、都市部だけでなく農村部にも捜索の手を伸ばしたと言っていたわ」 「……!」 マチルダの目が強く見開かれる。 ティファニアが危ない…そう思うと、居ても立っても居られなくなる。 マチルダはルイズに向き直ると、内心の焦りを隠そうともせず、強く言い放った。 「まどろっこしいね、アタシに何をして欲しいのか、見返りは何なのかとっとと言っておくれよ!」 ルイズは笑みを見せることなく、こくりと頷いた。 「ワルド共に街に出て、リッシュモン狩りを手伝って貰いたいの。これが私からの要求よ」 「見返りは?」 「リッシュモン狩りが終わり次第、私とワルドは『虚無』の魔法を駆使してアルビオンに潜入する予定なんだけど……そこに、貴方を追加してあげる」 「アタシをアルビオンに連れて行ってくれるのかい?アルビオンに到着した後は、アタシは何をすればいいのさ」 「ティファニアを守ってあげて」 「…それなら、言われるまでもないよ」 「交渉成立ね」 「何が交渉よ、はじめからアタシをハメる気じゃないか…」 「ごめんね…貴方の家族を引き合に出したら、確かにフェアじゃないわよね」 「フン…ああ、そうだそうだ、折角だから今ココで質問させて貰おうかね」 マチルダは、ウェールズとアンリエッタを睨み付けた。 とうの昔に貴族の立場を追われた身だが、心の何処かで『無礼だ』と自分に言い聞かせている気もする。 「ティファニアの身の安全は、保証して貰えるんだろうね? でなければ…今度こそアンタを殺す」 殺気を隠さずに話すと、いつになく低い声が出てしまう。 マチルダは本気で、ウェールズに殺意を向けていた。 「始祖ブリミルに誓って。そして彼女の従兄妹として、約束する」 ウェールズはマチルダの殺意に怯えることもなく、力強く頷く。 「私も約束いたしますわ、ミス・ティファニアは私にとって従姉妹にあたります。彼女が日の目を望むのならそれを、望まぬのならそのままに彼女を守りましょう」 二人の言葉を聞いたマチルダは、身をかがめ、恭しく跪いた。 小一時間後、ワルドの遍在とアニエスは、リッシュモンの家の近くで身を隠し、機会をうかがっていた。 アニエスは馬に乗ったままじっとリッシュモンの邸宅を見張っており、ワルドはその傍らに立っている。 アニエスに背負われているデルフリンガーも、こんな時に無駄話をするほど野暮ではない。 体の冷えを感じた頃、リッシュモンの屋敷に動きがあった、静かに扉が開かれると、年若い小姓が顔を出していた。 年の頃は十二、三歳ほどだろうか、頬の赤い少年がカンテラを掲げて、恐る恐る周囲を見渡している。 辺りに人の気配がないと思ったのか、小姓は門の中に姿を消し、すぐに馬を引いて姿を現した。 小姓は馬に飛び乗ると、カンテラを持ったまま馬を走らせ、繁華街の方角へと走り出した。 アニエスはそれを見て、薄い笑みを浮かべると、小姓の持つカンテラの明かりを目指して追跡を開始した。 ワルドはアニエスの馬に飛び乗ると、自身とアニエスに『レビテーション』をかけ、馬の負担を減らした。 小姓はかなり急いでいるようで、後ろからでも必死に馬に掴まっているのが解る、アニエスは気取られぬ程度に距離を保ち、ひたすら小姓を尾行していった。 しばらくすると小姓の乗る馬は高級住宅街を抜け、繁華街へと入っていった、繁華街と言ってもその奥にはいかがわしい店もある、いくら急いでいるとはいえ、リッシュモンの小姓が繁華街の裏通りに入っていくのは怪しすぎた。 途中、女王を捜索する兵士達や、夜を楽しむ酔っ払いの脇をすり抜けて、目的の場所にたどり着いた。 アニエスは少し前から馬を下り、ワルドの『サイレント』で足音を消しながら小姓を追いかけている、裏路地をいくつか曲がったところでアニエスは、小姓がある宿屋に入る瞬間を目撃した。 「小姓はメッセンジャーだ、あれが出て行ったら中に入ってくれ」 「わかった」 アニエスはワルドに指示すると、宿屋に入り小姓の後を追った。 ワルドは宿屋の前を通り過ぎ、別の角度から入り口を見張る。 魔法衛士であったワルドは剣状の杖を愛用していたが、剣状の杖は目立つので今は所持していない、義手に仕込んだ杖を取り出して、右手で杖の重さを確かめつつ待つこと五分。 ワルドは、宿屋から小姓が出てくるのを見届けると、ルーンを唱えて義手を外した。 その間に小姓は馬に跨って、夜の街へと消えていく。 それを見送りながら、ワルドは外した義手を鞄の中に入れると、ローブを脱ぎ捨てて腕を露出させた。 レビテーションの応用で頭に布を巻き付けると、そのままゆっくりと宿屋の中に入っていった。 隻腕の傭兵など珍しくない、ワルドが宿屋に入ると、店の者はワルドを一瞥しただけで、特に興味も示さなかった。 ちらりと二階に続く階段を見ると、階段からアニエスがワルドに視線を向けていた。 ワルドとアニエスが二階へと移ると、アニエスは小声で客室の番号を呟いた。 「203…そこに間者がいる。合図をしたら扉を吹き飛ばしてくれないか、時間をかけて鍵を開けていたら逃げられてしまうからな」 「扉を吹き飛ばすのは簡単だが、証拠まで吹き飛ぶぞ」 「そのときは自白させる」 ワルドはアニエスの言葉を聞き、にやりと笑みを浮かべた。 腰に差した杖を握りしめると、短く一言『エア・ハンマー』のルーンを口ずさむ。 瞬間、木製のドアが粉々に砕け散った。 間髪いれず、剣を引き抜いたアニエスが中に飛び込む、中では商人風の男が、驚いた顔でベッドから立ち上がり杖を握りしめていた。 男は部屋に飛び込んできたアニエスにも動じることなく、素早く杖を突きつけルーンをつぶやいた、それによってアニエスの体が空気の固まりに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。 商人風の男がアニエスにとどめの呪文を打ち込もうとしたとき、不意に自分の腕が視界から消えた。 ワルドの『エア・ハンマー』が、商人風の男の、杖を持つ手に直撃したのだ。 男はあらぬ方向に曲がった手を見て、ほんの一瞬呆気にとられたが、すぐさま逆の手で床に落ちた杖を拾おうとした。 だが、立ち上がったアニエスが、杖を取ろうとした男の腕を剣で貫いた。 「うがあっ!?」 そのまま床に転がった杖を蹴飛ばすと、アニエスは捕縛用の縄を掴んで男を捕縛する。 商人のようななりをしている中年の男だが、目には戦士のような眼光が宿りぎらついている、それなりの実力を持った貴族なのかもしれない。 「動くな!」 アニエスが男を捕縛して猿ぐつわを噛ませたところで、何人かの宿の者や客が集まって、部屋を覗き込もうとしていた。 「手配中のこそ泥を捕縛した。見せ物ではないぞ」 そうワルドが呟くと、宿の者はとばっちりを恐れて、顔を引っ込めた。 リッシュモンからの手紙を見つけると、アニエスはその内容を確かめ笑みを浮かべた。 他にも机の中や、男の服の中、ベッドの下などを洗いざらい確かめていくと、いくつもの書類や手紙が見つかった。 アニエスはそれらを纏めると、内容を確かめるため、一枚ずつゆっくりと読み始めた。 「なるほど、この男か」 商人風の男を見て、ワルドが呟く。 「知っているのか?」 アニエスがワルドに問うと、ワルドは鞄から取り出した義手を装着しつつ答える。 「いや、見たことはない。僕に接触したアルビオンの間諜とは別の奴だ」 「そいつは?」 「一昨日始末したよ」 事も無げに言うワルドに、アニエスは「ほう」と簡単の声を漏らす。 「さて…親ネズミと落ち合う場所は…」 アニエスはいくつもの書類の中から、一枚の紙を見つけた。 それは建物の見取り図のようであり、いくつかの場所に印がついている、座席数から見て城下町の劇場に間違いはないだろう。 「貴様らは劇場で接触していたのだな? そしてこちらの手紙には『明日例の場所で』と書かれている…ならば例の場所とは、この見取り図の劇場に間違いないか?」 アニエスの問いにも、男は答えない。じっと黙ってアニエスから目をそらしている。 「答えぬのか。ふん、貴族の誇りとでも言うのか」 アニエスは冷たい笑みを浮かべると、床に突き刺した剣を抜いた。 そのまま男の足の甲に剣を突きたて、床に縫いつける、すると猿轡を噛まされた男がうめき声を上げ、体を硬直させて悶絶した。 そして、男の額に拳銃を突きつけ、静かに言い放つ。 「二つ数えるうちに選べ…生か、誇りか」 商人風の男は、額に汗を浮かべて狼狽えた。 ガチッ、という音が響き、撃鉄が起こされる。 ワルドはその様子を見て、何か思うところがあった。 『石仮面』の正体がルイズだと知らず、全力を以て石仮面を殺そうとした、あの時の自分とよく似ている。 石仮面を殺すことこそが自分の存在意義だと思いこんでいたあの時と、とてもよく似ている。 アニエスは、リッシュモンと、ダングルテールの虐殺に関わったすべての人間を殺すために、生きているつもりなのだろう。 だからこそアニエスは、復讐のためならどこまでも残酷になれる。 涙を流しながら、アニエスの尋問に答える商人風の男を見て、ワルドはやれやれと首を振った。 そして夜は明け、昼が近づく。 サン・レミの聖堂が鐘をうち、十一時を告げると、申し合わせたようにトリスタニアの劇場前に馬車が止まった。 馬車から降りた男は、タニアリージュ・ロワイヤル座を見上げた、リッシュモンである。 御者台に座った小姓が駆け下りて、リッシュモンの持つ鞄を持とうとしたが、リッシュモンがそれを制止した。 「よい。馬車で待っておれ」 小姓は一礼して御者台に戻った、リッシュモンはそのまま劇場の中へ入っていき、切符売りの姿を見た。 切符売りはリッシュモンの姿を認めると一礼し、そのままリッシュモンを中へと通してしまう。 高等法院長の彼にとって、芝居の検閲も職務の一つなので、彼の姿を知らぬ者は劇場にいないのだった。 中にはいると、客席は若い女の客ばかりだったが、席はほとんど空いている。 開演当初それなりの人気があった演目だが、役者の演技がひどいため評者に酷評され、その結果客足が遠のいたらしい。 リッシュモンは彼専用の座席に腰掛け、じっと幕が開くのを待った。 続いて劇場の前にやってきたのは、アニエスと、ワルドの遍在だった。 劇場の前でしばらく待っていると、二人の前にもう一人のワルドと、ウェールズ、そしてアンリエッタが姿を現した。 アンリエッタとウェールズは平民の服を着ていたが、その気品は見間違えようもない。 その姿を確認すると、ワルドの遍在はポン!と音を立てて煙のように消えてしまった。 アニエスとワルドは、アンリエッタの前で、地面に膝をついた。 「用意万端、整いましてございます」 アニエスが呟くと、アンリエッタがにこりと笑顔を見せた。 「ありがとうございます。あなたはほんとに、よくしてくださいました。そして子爵も…よくつとめて下さいましたね」 アンリエッタは、アニエスとワルドを労った。 辺りに気をつけていたウェールズが、遠くにグリフォンとマンティコアの姿を確認した。 獅子の頭に蛇の尾を持つ幻獣にまたがった、魔法衛士隊の隊長は、劇場の前に居た者達を見つめて目を丸くした。 「なんと!これはどうしたことだアニエス殿!貴殿の報告により飛んで参ってみれば、陛下までおられるではないか!」 苦労性の隊長は慌てた様子でマンティコアから降り、アンリエッタの元に駆け寄った。 「陛下! 心配しましたぞ! どこにおられたのです! 我ら一晩中……」 声を張り上げる隊長に向けて、アンリエッタは口を塞ぐジェスチャーをした。 口を閉じた隊長の前で、アンリエッタはフードを深く被り、必要最低限の声で呟いた。 「心配をかけて申し訳ありません。それより隊長殿に命令です。貴下の隊でこのタニアリージュ・ロワイヤル座を包囲して下さい。蟻一匹漏らさぬようにです」 隊長は一瞬、怪訝な顔をしたが、アンリエッタが姿を隠さねばならぬほどの重大な事件であると悟り、すぐに頭を下げた。 「御意」 「尚、事情はそちらのワルド子爵がご存じです。子爵、隊長殿に説明をした後、『彼女』に合流しなさい」 「御意に」 「な、子爵殿…!?」 ワルド子爵と聞いて、隊長は目を丸くした。 魔法衛士隊の中では、彼はトリステインを裏切ったなどと噂されているのだ。 事実、彼はトリステインを裏切り同胞を手にかけていたし、その事実も報告されている。 そんな彼が陛下の元でアニエスと行動を共にしていた……隊長は驚きと疑いのあまり、ワルドの顔をまじまじとのぞき込んでしまった。 「それでは、わたくしは参ります」 アンリエッタは、ウェールズと共に劇場へと消えた。 アニエスは別の密命があるのか、馬にまたがりどこかへ駆けていく。 隊長とワルドは立ち上がると、部下に劇場を包囲するよう命令を下した。 「…ワルド子爵、その、説明をして頂けるか?」 「長くなるぞ。まあ細かいところは後にしよう……さてどこから話そうか」 マンティコア隊隊長の問いに、ワルドは笑顔で答えた。 劇場の中で、幕があがり、芝居が始まる。 女向けの芝居なので、観客は若い女性ばかり。 役者たちが悲しき恋の物語を演ると、それに合わせてきゃあきゃあと黄色い歓声が上がる。 リッシュモンは眉をひそめていた、役者の演技が悪いからではない、若い女どもの声援が耳障りなわけでもない、約束した時刻になったのに待ち人が来ないのだ。 リッシュモンは、女王の失踪について、さまざまな考えを巡らしていた。 アルビオンからの間者が自分に何の報告もせず女王を誘拐したとは思えない。 トリスタニアにアルビオン以外の、第三の勢力があるのか、それとも単に自分を通さず行ったアルビオンの工作なのか……。 「面倒なことだな」 リッシュモンは、小声で呟いた。 そのとき、自分のすぐ隣に客が腰掛けた。アルビオンの間者だろうかと思ったが、そうではない、深くフードを被った女性がそこに座っていた。 その隣にも男が座っていた、どうやら二人組らしい。 リッシュモンは、小声で隣に座った二人組にたしなめる。 「失礼。連れが参りますので、よそにお座りください」 しかし、二人組は立ち上がろうとしない、リッシュモンは苦々しげな顔で横を向き、再度口を開いた。 「聞こえませんでしたかな? マドモワゼル」 「観劇のお供をさせてくださいまし。リッシュモン殿」 フードの中から覗く顔を見て、リッシュモンは目を丸くした。失踪したはずのアンリエッタがそこに居たのだ。 「せっかくの演劇です、相伴させて頂きましょう」 更にその隣に座る男は、よくよく見てみれば、ウェールズ・テューダーである。 アンリエッタは、舞台を見つめたまま、リッシュモンに問いかけた。 「これは女が見る芝居ですわ。ごらんになって楽しいかしら?」 リッシュモンは内心の焦りをおくびにも出さず、落ちつきはらった態度で、深く座席に腰掛けた。 「芝居に目を通すのは私の仕事です。そんなことより陛下、そして殿下…。お隠れになったと噂がありましたが。ご無事でなによりでございます」 「劇場で落ち合うとは、考えたものですわね。あなたは高等法院長ですし。芝居の検閲も職務のうち。あなたが劇場にいるのを不審がる人などおりませんでしたわ」 アンリエッタの言葉に、ウェールズが続く。 「今までは、ね」 リッシュモンの目つきが、ほんの少しだけ厳しいものに変わった。 「さようでございますかな。それにしても、私の何をお疑いで?私が、愛人とここで密会しているとでも?」 リッシュモンが笑う。しかし、アンリエッタは笑わず、まるで狩人のように目を細めた。 ウェールズは腰に差した杖を握りしめ、いつでも魔法が発動できるように心を落ち着けていく。 「お連れのかたをお待ちになっても無駄ですわ。切符をあらためさせていただきましたの」 そう言って、手に持ったメモを取り出す、それはリッシュモンが小姓に持たせた手紙だった。 「この切符、劇場ではなく牢獄の切符のようだね。この切符を受け取った商人は今頃チェルノボーグの監獄だよ」 ウェールズが皮肉たっぷりに言い放った。 「ほほう!なるほど、お姿をお隠しになられたのはそのためですか。私をいぶりだすための作戦だったというわけですな!」 「そのとおりです。高等法院長」 「私は陛下の手のひらの上で踊らされたというわけか!」 リッシュモンの口調が強くなると同時に、劇場の声が一斉に止んだ。 「まったく……、小娘がいきがりおって……。誰《だれ》を逮捕するだって?」 「なんですって?」 「私にワナを仕掛けるなど、百年早い。そう言ってるだけですよ」 気がつくと、今まで芝居を演じていた役者たち、男女六名ほどが、上着やズボンに隠していた杖を引き抜いていた。 アンリエッタとウェールズの二人に杖を向けると、若い女の客たちは、突然のことに驚き、わめき始めた。 役者の一人が観客に向かって叫ぶ。 「静かにしろ!顔を伏せていれば、殺しはしない」 劇場の中で風が舞う、メイジが脅しをかけるために風を作り出したのだ。 それに驚いたのか、観客は萎縮し、そのまま身を伏せてしまった。 だが、そんな状況にあっても、アンリエッタは毅然とした態度を崩さないで、リッシュモンに言い聞かせるように言葉を放つ。 「……信じたくはなかった。あなたが、王国の権威と品位を守るべき高等法院長が、かような売国の陰謀に荷担しているとは……」 「陛下は私にとって、未だなにも知らぬ少女なのです」 「貴方は、私が幼い頃より、わたくしを可愛がってくれたではありませんか、わたくしを敵に売る手引きをしたのは、私を未だに少女だと思っているからでしょう」 「その通り。貴方は無垢な、いや無知な、少女。それを王座に抱くぐらいなら、アルビオンに支配されたほうが、まだマシというものですな」 ウェールズは内心は怒りに燃えているが、多数のメイジに囲まれたこの状況では何もできなかった。 「私を可愛がってくれた貴方は、偽りだったのですか?」 「主君の娘に愛想を売らぬ家臣などおりますまい」 アンリエッタは、自分の信じるべき家臣がまた一人減ってしまったのかと、悲しみに目を閉じた。 信じていた人間に裏切られるのは辛いが、裏切られたわけではない、この男は出世のために自分を騙していたのだ……と自分に言い聞かせた。 この作戦を発案したアニエスと、それを実行に移す決意をしたウェールズがいなければ、自分はリッシュモンの正体に気付かぬまま過ごしていただろう。 リッシュモンの言うとおり、自分は子供なのかもしれない。 でも、もう子供ではいられない……アンリエッタは毅然とした口調で、リッシュモンに告げた。 「あなたを、女王の名において罷免します、高等法院長。おとなしく、逮捕されなさい」 「ははは!野暮を申されるな。これだけのメイジに囲まれて、逮捕されるのは貴方がたでしょう。陛下だけでなく殿下の命もこの手に握れるとは、いやはや私の日頃の行いはよほど良いと見える」 「外はもう、魔法衛士隊が包囲しておりますわ。さあ、貴族らしいいさぎよさを見せて、杖を渡してください」 「まったく……、小娘がいきがりおって……。かまわん、痛めつけてやれ」 リッシュモンがそう言うと、次の瞬間、ドォン!と、何十丁もの拳銃の音が轟いた。 音響を考慮された劇場の中で、まるで雷鳴のようにも聞こえ、皆の鼓膜を叩く。 拳銃の黒煙が晴れると、役者に扮したメイジたちが、舞台の上で無惨な姿をさらしていた。 体中にいくつもの弾を食らい、呪文を唱える間もなく撃ち殺されているのだ。 リッシュモンの顔色が変わる、余裕の笑みは消えており、目を丸くして客席を見ていた。 客席に座っていた女性達は、実は皆銃士隊の隊員たちだった。 銃士隊は、全員が若い平民女性で構成されているため、リッシュモンにも、役者達にもその正体が見抜けなかった。 ウェールズが立ち上がると、アンリエッタに杖を手に持つよう促す。 そしてリッシュモンに冷たい声で言いはなった。 「リッシュモン殿。 銃声は、終劇のカーテンコールだ」 リッシュモンは、ふらふらと立ち上がると、高らかに笑った。 銃士たちがいっせいに短剣を引き抜き、ウェールズが杖を向ける。 気がふれたかと思えるほどの高笑いを続けながら、リッシュモンはゆっくりと舞台に上る。 その周りを銃士隊が取り囲み、剣を向けていた。何か怪しい動きを見せれば、即座に串刺しにする態勢だった。 「往生際が悪いですよ! リッシュモン!」 アンリエッタが叫ぶ、だがリッシュモンは笑みを崩さない。 「ははは…まったく、ご成長を嬉しく思いますぞ、陛下! 陛下は実に立派な脚本家になれますなぁ!この私をこれほど感動させる大芝居……くくくく」 リッシュモンは大げさなな身振りで両手を開くと、周りを囲む銃士隊を見つめた。 「さて陛下……陛下が生まれる前からお仕えしている、私からの、最後の助言です」 「おっしゃい」 「昔からそうでございましたが、陛下は……」 リッシュモンは舞台の一角に立つと、足で、どん!と床を叩いた。 ウェールズが即座に『エア・カッター』を唱えようとしたが、それよりも早くリッシュモンの足下が落とし穴のように開かれた。 「詰めが甘い!」 リッシュモンはそう言い残すと、身をかがめてまっすぐに落ちていった。 銃士隊が駆け寄り落とし穴の中を見ようとするが、即座に床が閉じてしまい、押しても引いても開かない。 「銃士隊!離れろ!」 ウェールズがそう叫び、エア・ハンマーを床に打ち込む。 ドン!と音がして床板が弾けたが、床板の下から出てきたのは頑丈そうな鉄板であった。 ガーゴイルか、ゴーレムか、何らかの強固な魔法技術で作られた仕掛けのようだ。 「出口と思わしき場所を捜索!急いで!」 アンリエッタはそう叫ぶと、悔しさに唇をかみしめた。 リッシュモンが逃げた穴はいざという時の脱出路であり、リッシュモンの屋敷まで地下通路で一直線に繋がっている。 屋敷まで戻れれば何とでもなる、集めた金を持ち、アルビオンから送られてくる間者に協力を求めれば、アルビオンで再起も可能だ。 リッシュモンは杖の先に魔法の明かりを灯しつつ、亡命計画を反芻していた。 「しかしあの姫にも、王子にも困ったものよ」 リッシュモンは亡命した後のことを考えて、顔を醜く歪めた。 クロムウェルに願い出て、一個連隊預けてもらおう。 そして今度は、アンリエッタを捕まえて、ウェールズに見せつけるように辱めてから殺してやる。 そんな想像をしながら、地下通路を歩いていると、あるはずのない人影が見えた。 リッシュモンは思わず後ずさり、人影に向かって杖を向け身構える。 「おやおやリッシュモン殿。変わった帰り道をお使いですな」 暗闇の中から姿を現したのはアニエスだった、薄い笑みを浮かべてリッシュモンを見据えている。 「貴様か…」 リッシュモンは笑みを見せて答えた。 この秘密の通路を知っているのは痛いが、メイジではない、ただの剣士ごときに待ち伏せされても何のことはない。 リッシュモンは他のメイジ同様、剣士というものを軽く見ていた。 「ふん、どけ。貴様と遊んでいる暇はない。この場で殺してやってもよいがな」 リッシュモンの言葉に、アニエスは銃を抜いた。 「…私はすでに呪文を唱えている。あとはお前に向かって解放するだけだ。二十メイルも離れれば銃弾など当たらぬ。命を捨ててまでアンリエッタに忠誠を誓うか?そんな義理など、平民の貴様にはあるまい」 「陛下への忠誠ではない」 アニエスが殺意を含んだ声で答えた。 「なに?」 「…ダングルテール」 アニエスの言わんとしていることに気付き、リッシュモンは笑った。 リッシュモンの屋敷を去るとき、わざわざダングルテールの事をアニエスが問いかけていたが、その理由がわかったのだ。 「なるほど、貴様はあの村の生き残りか!」 「貴様に罪を着せられ、なんの咎もなかった、わが故郷は滅んだ」 アニエスは、唇をかみしめ、腹の底から絞り出すような声で言いはなった。 「貴様は、わが故郷が『新教徒』というだけで反乱をでっちあげ、焼き尽くした。その見返りにロマリアの宗教庁からいくらもらった?」 リッシュモンは、にやりと唇をつりあげ、笑った。 「金額など聞いてどうする、教えてやりたいが、賄賂の額などいちいち覚えておらぬわ。聞いたところで貴様の気など晴れまい?」 「浅ましい奴だ。金しか信じておらぬのか。”元”高等法院長」 「ハハハ!おまえが信じる神と。私愛するカネと、いかほどの違いがある?……ああ、卑しい身分の信じる神など、貴族の愛するカネと比べれば塵芥にも等しいわな」 すぅ、とアニエスの頭が冷めていった、怒りで熱くなるのではなく、怒りが体から温度という感覚を失わせている。 これ程の怒りがかつてあっただろうかと、アニエスは思った。 「殺してやる」 「お前ごときに貴族の技を使うのは勿体ない、が、これも運命かね」 リッシュモンは短くつぶやき、呪文を解放させると、杖の先端から巨大な火の玉が出現してアニエスに向かって飛んでいった。 リッシュモンは、アニエスが苦し紛れに拳銃を撃つかと思ったが、アニエスは拳銃を捨ててマントを翻した。 バシュウ!と音がしてマントが燃える、アニエスは水袋を仕込んだマントで炎を受け止めたのだ。 だが火の勢いは弱くなるだけで、消えたわけではない、残った火球がアニエスの体にぶつかり、身に纏った鎖帷子を熱く焼いた。 「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああッ!」 しかしアニエスは倒れない。 体が焼け付く痛みと恐怖を乗り越え、剣を抜き放ちリッシュモンに向かって突進した。 自分が絶対優勢だと信じて疑わなかったリッシュモンは、思いがけない反撃に慌て、次の呪文を放った。 風の刃がアニエスを襲う、鎖帷子と板金で作られた鎧が致命傷を防いでいるが、体に無数の切り傷を負ってしまう。 更に次の魔法をリッシュモンが唱えようとした瞬間、アニエスはリッシュモンの懐に飛び込み、リッシュモンの体ごと地面に転んだ。 「うお……げぷっ」 リッシュモンの口からは、呪文ではなく、赤い血が溢れた。 アニエスの剣がリッシュモンの体を貫通し、柄まで深くめり込んでいたのだ。 「貴様は、剣や銃など、おもちゃだと抜かしたなっ……これは、これは武器だ、我等が貴様ら貴族に一矢報いんと、磨き続けた牙だ、このまま、死ね…! アニエスは全身に火傷と切り傷を負い、気絶しそうな痛みの中で、剣をねじり込んだ。 ごぼごぼと、リッシュモンが大量の血を吐き、手に持った杖が地面へと落ちるた。 バシュゥ!と音が鳴って、リッシュモンの姿が、木目の浮かぶ人形に変わる。 「!?」 アニエスが驚くと、アニエスの体に空気の固まりが衝突した、アニエスは地下通路の壁に叩きつけられてしまったが、辛うじて頭を打ち付けずに済んだ。 だが、あまりの衝撃に呼吸が乱れ、声が出せない。 通路の奥に目をやると、そこには、無傷のリッシュモンが杖を翳していた。 「ふん、アルビオンを脱出した『騎士』が平民のフリをしていると聞いたが…どうやら貴様ではないようだな」 リッシュモンはそう言って、人形の胸に突き立ったアニエスの剣を引き抜く。 「詰めが甘い、主君に似て貴様も詰めが甘いな、これは『木のスキルニル』という魔法人形だ。血を垂らせばメイジでも平民でもまったく同じ姿を取り、身代わりになってくれるのだよ、言うなれば魔法で動く影武者だ」 そう言うと、リッシュモンはアニエスに近づき、眼球の寸前で剣をちらつかせた。 「目か?鼻か?耳か?お前の牙でお前を削いでやりたいところだが、時間もない。スキルニルを倒した手並みに敬意を表し、心臓を突いてやろう」 「……が………貴様ァ……!」 アニエスがリッシュモンを睨んだ、だがリッシュモンはそれに笑みを返すほど、余裕の態度を見せている。 「新教の神とやらに”なぜ助けてくれないのか”と恨み言でも言うがいい」 リッシュモンは、ゆっくりと剣を振り上げ…… 瞬間、土煙が舞った。 慌ててリッシュモンが剣を突き刺そうとするが、なぜか剣が動かない。 リッシュモンは、すぐさま剣から手を離し、後ろに飛び退きつつルーンを詠唱した。 先ほどより一回りも二回りも大きい火球が杖の先端に現れ、土煙に向かって放たれる。 だが、その火球は、土煙の中からゆらりと姿を現した、片刃の大剣に飲み込まれ消滅してしまった。 「な、なん……」 リッシュモンが狼狽え、更に後ずさる。 轟々と音がして土煙が消えていく、よく見ると、天井に穴が開き、そこから土煙が逃げていた。 土煙が貼れると、一組の男女がリッシュモンの前に立ちはだかっていた。 一人は茶色の髪の毛を靡かせた少女で、不釣り合いなほど大きな剣を持っている。 もう一人はリッシュモンのよく知る男、元魔法衛士隊グリフォン隊隊長の、ワルド子爵であった。 「アニエス、生きてる?」『よう、大丈夫かねーちゃん』 「………?」 やっと呼吸が落ち着いてきたアニエスは、激痛に絶えながらルイズの顔を見上げた。 よく見ると、ルイズの降りてきた穴の向こうで、マチルダが地下通路をのぞき込んでいる。 「ばかな!土のトライアングルでもこの通路は破れんはずだ!」 リッシュモンが狼狽えて声を荒げたが、ルイズはそれを聞いて笑みを浮かべ、上を見上げた。 「トライアングルじゃ無理みたいだけど、ホント?」 「こりゃ手抜き工事だね。トライアングルがライン程度の仕事しかしてなかったんじゃないかい?」 ルイズが問いかけると、穴の上からマチルダが答えた。 「ま、深さだけはそれなりだと認めてやるけどね」 マチルダはそう言って腕を組んだ、地下通路は二十メイル以上深くにあり、土くれのフーケと呼ばれたマチルダでも探すのは困難だった。 だがひとたび探り当てれば、そこまで練金で穴を掘ることぐらい容易い。 「裏切り者のワルド子爵までご一緒とはな、驚かされる」 「裏切り者か、お互い様だな」 ワルドが氷のような笑みを浮かべて答えると、リッシュモンは恐ろしさのあまり体を震わせた。 ルイズが上を見上げて、マチルダに呟く。 「アニエスの怪我が酷いわ、水のメイジを呼んで」 「アタシが呼ぶのかい?」 「メイジじゃなくて銃士隊の隊員に言えばいいでしょ」 「わかったよ」 マチルダの姿が見えなくなると、ルイズは改めてリッシュモンを見た。 リッシュモンもまた、ルイズを見ている。 「…その剣…まさか貴様が『騎士』か」 「答える義理はないわね」 ルイズが両手を左右に広げ、わざとらしいジェスチャーをすると、リッシュモンが杖を向けてルーンを唱えた。 ルイズの持つ剣は、魔法を吸収するマジックアイテムだと考えたリッシュモンは、その長さを見て地下通路で振り回すには大きすぎると判断した。 もう一度スキルニルを使えば逃げ切れるかも知れない、そう考えて牽制のために魔法を放ったのだが、それよりも早くルイズが一瞬で間合いを詰めた。 次の瞬間、地下通路の壁ごとリッシュモンの腕を斬り飛ばした。 ぼてっ、と腕の落ちる音を聞いて、リッシュモンが悲鳴を上げる。 「……ああ あああああああああああああうわああああああああああああああ!!」 「次は僕の番だな」 ワルドがそう呟くと、レビテーションを唱えてリッシュモンの体を浮かせた。 ゆっくりとリッシュモンの側に近寄ると、ワルドは小声で囁く。 「リッシュモン、僕の母の味はどうだった?」 「ひぃ、ひいい……」 「リッシュモン、僕の母の味はどうだった?」 「ああ、あああうううう」 「リッシュモン、僕の母の味はどうだった?」 「ひっ……ああ、あの、何のことだ」 「リッシュモン、僕の母の味はどうだった?」 ワルドはリッシュモンから視線を外さず問いつめていく、リッシュモンは全てバレていると思い、観念したのか、震える声でこう答えた。 「か、彼女は、とても聡明で、わ、私は彼女を気に入っていた」 「リッシュモン、僕はそんなことを聞いているんじゃない、おまえは僕の母を抱いたんだろう?どうだった?」 「とても、そうだ、とても美しかった、はは、はははは…」 「なら未練はないな」 脂汗を浮かべ、渇いた笑いを出したリッシュモンだったが、不意に『レビテーション』が解かれて背中から地面に落ちた。 うぐ、とうめき声を上げ、無防備になったリッシュモンの股間を、ワルドは勢いよく踏みつぶした。 「 ひ 」 ぶつっ、と何かが潰れた音が、地下通路に響いた。 「悪趣味な問いをするわね」 ルイズがそう呟くと、ワルドは苦笑して答える。 「自分でもそう思うよ」 ワルドは、アニエスの剣を拾い上げると、アニエスの腕を掴んで立ち上がらせた。 「うっ…」 アニエスは、体を走る痛みに耐えようとしているが、こらえきれずに声を上げてしまう。 「僕は両親を殺されたが…君は故郷ごと滅ぼされたそうだな。止めは君が刺すんだ…君にはその権利がある」 そう言って、ワルドがアニエスに剣を手渡すと、アニエスはワルドの手を振り払い、剣を杖代わりにしてゆっくりとリッシュモンに近づいていった。 口を開き、ヨダレを垂らして硬直しているリッシュモンに近寄ると、アニエスは剣を胸に突き立て、ゆっくりと力強く差し込んでいく。 リッシュモンは体をよじらせて、逃げようともがくが、既に剣は心臓を貫いている。 「ごぼっ、ごあ、あぶっ」 今度こそ本物のリッシュモンが、血を吐き出して悶え苦しみ、体を震わせた。 しばらくすると、白目を剥いて背を逸らし、リッシュモンは息絶えた。 「…ハァッ……ハァ…」 アニエスは息を荒げ、リッシュモンの亡骸を見つめた。 あっけない。 何の達成感も、なんの感動もない。 ただ、虚しいだけだった。 アニエスは、虚脱感に襲われると同時に、その意識を手放した。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3109.html
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく強力な使い魔よ! 私は心より求め訴えるわ! 我が導きに答えなさい!」 私の渾身の力を込めた呪文で、予想通り地響きのする爆発が発生した。 (まーたルイズが失敗したよ) 外野の雑音を無視して目を凝らすと、土煙の中に何かの影が見えた。 やったの?召喚できたの? 風が吹き、土煙をかき消していく。 その姿が顕わになっていくとともに周りのどよめきが大きくなる。 そこに居たのはまさにルイズの理想の姿であった。 「ち、ちぃ姉さま?」 まさか、使い魔として実の姉、敬愛し理想とする姉を召喚してしまったのか? 愕然としたルイズの顔面が一瞬で蒼白となる。 「あー、ミス・ヴァリエール、はやく、コントラクト・サーヴァントを」 付添の教師であるコルベールの声と共に、ぎくしゃくとした動きでルイズが近寄る。 ちぃ姉さまことカトレアらしき人物はゆらゆらと立ってじっとルイズを見つめる。 (あ、似てるけど、違……う) 違和感があった、目の前の女性は、確かにカトレアそっくりだが、更にルイズの理想に近かった。 (ええい、とりあえずー) 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 五つの力を司るペンタゴン この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 ルイズは呪文を唱えそっとキスをしようとした。 「ここじゃだめね」 「は?」 キスとしようと肩を掴んだら、その女性は初めて声をあげてルイズをふりほどいた。 おもわず愕然としたルイズをしり目に、その女性は淡々と告げる。 「ちょっとトイレ借りるわね」 「へ?」 ルイズの呆けた顔をしり目に、その女性は塔の方へ走っていった。 「おーい」 その姿を見送っていたルイズの口から、なんとも、気の抜けた呼びかけが走りゆく女性の背にかけられる 「あとでね」 カトレア似の桃色の髪のルイズの理想とする女性は、わき目もふらずに走っていった。 その場にいた全員はあっけにとられモブと化していた・・・・・ 「い、いったい、何? 何を召喚したの? 私」 人工少女3のT型を召喚