約 1,012,678 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1970.html
「それで、この女性を宿屋に放り込んだ後、その男は煙のように消えてしまったんだな?」 「はい、金貨を渡されまして、『丁重に休ませておけ』と言われました」 「もう一度聞くが、顔は見ていないんだな?」 「はい、帽子を深く被っておりましたので…あ、ただ、薄いグレーの髭を蓄えておりました。声も低めでしたが、重々しい感じではなく、二十代そこそこの貴族様かなぁ…と」 「ふむ……」 ラ・ロシェールの宿屋で、女騎士が店主に質問をしていた。 剣と銃を携え、シュヴァリエのマントを着けたアニエスである。 昨晩、怪我をした女性がメイジらしき男に担がれ、宿屋に放り込まれたと聞いて、事情を調査するため駆けつけたのだ。 アニエスは、その女性が誰なのか知っていた、アルビオン出身の元貴族、マチルダ・オブ・サウスゴータ。 事情を一通り聞いたアニエスは、マチルダの眠っている部屋に入り、備え付けの椅子に腰を下ろす。 マチルダがぐっすりと眠っているのを確認すると、窓の外に目を向けた。 ラ・ロシェールの岩壁や建物は、『レキシントン』からの砲弾で所々が傷ついており、壁面には傷を修復する人夫とメイジの姿が所々に見えていた。 『練金』で修復される壁面や建物、メイジの便利さが羨ましくなって、アニエスは再度マチルダに目をやった。 彼女は腕と肩に包帯を巻かれ、寝息を立てている。 椅子の背もたれに身を預けて、アニエスは昨晩の出来事を思い返していた。 アニエス達銃士隊は、基本的に近衛か、親衛隊待遇で扱われている、だがそれ以外にも『情報収集』という役割が与えられている。 トリスタニアに亡命政権を構えたウェールズ・テューダーからの密命で、トリステインに亡命・疎開したアルビオン国民の調査に当たっていたのだ。 人数を確認するだけではなく、いまだアルビオン国内でレコン・キスタに抵抗を続けるレジスタンスと接触する目的もあった。 アニエスは、ある情報通の男に頼み、レジスタンスとの接触を試みた。 情報通の男から指定された場所は、ラ・ロシェールでは一般的な宿屋で、岩山の一角をくりぬいて作られた宿屋だった。 指定された時刻になると、ラ・ロシェールの丘が月明かりを遮り、宿屋の周囲はまるで月のない夜のように暗闇に覆われる。 宿屋の主人にチップを払い、目的の部屋に案内されたが……そこでアニエスは異変に気づいた。 血の臭いがする。 宿屋の主人に扉を開けさせると、主人が悲鳴を上げて腰を抜かした。 アニエスが中を見ると、そこに生きた人間は一人もおらず、死体だけが転がっていた。 壁をくりぬいて作られた石造りの二段ベッドが、部屋の左右に作られていおり、正面には跳ね上げ式の窓がある。 簡素な机の上には、飲み物が六つ置かれ、死体が三つ。 アニエスは主人に衛兵を連れてくるように告げて、部屋の中を調査した。 三つの死体はお互いに短剣で胸を突かれ、仰向けに倒れていた。 だがアニエスはメイジの仕業だと直感的に理解し、舌打ちをした。 傷口から流れ出るはずの血が少なすぎる上、三人とも口を大きく開いているのだ。 歯の裏を指でなぞると、歯垢…ではない、粘土らしきものが指先に付着した。 心臓を突き刺されているが、ナイフが根本まで深々と刺さっているため、思ったより血は出ていなかった。 体の中は血の海だろう。 アニエスは考える。 『レビテーション』で三人を宙に浮かせ、『練金』で動きを奪い窒息させつつ、ナイフを突き立てたのだろうか?と。 二人か、それか三人の、メイジを含む暗殺者がこの部屋にいたはずだ。 だとしたら急がなくてはならない、暗殺者らしき者の情報だけでも手に入れなければならない。 暗殺者に狙われるということは、後手に回るということでもある。 アニエスは駆けつけた衛兵に後を任せると、衛兵の詰め所で伝書フクロウを借り、暗殺者が潜入していると王宮に知らせた。 そのすぐ後、郊外でメイジらしき男四人の死体が発見された。 女がメイジに襲われているのを目撃した市民が、衛兵の詰め所に知らせてくれたのだ。 アニエスは衛兵に命じて死体を片づけさせると、メイジに襲われていたという女の行方を捜した。 朝日が昇る頃になって、ようやく女が担ぎ込まれた宿屋を探し出した。 いくらチップを貰ったのか知らないが、宿屋の主人は女が担ぎ込まれたことを話したがらなかった。 ようやく発見した女性を見て、アニエスは驚いた。 女性の名はマチルダ・オブ・サウスゴータ。 魔法学院での名はミス・ロングビルである。 「ふわ…」 窓の外を見ていたアニエスが、大口を開けて欠伸をした。 昨晩からずっと動き続けていたので、眠気と疲れが溜まっているようだ。 両腕を挙げて背伸びをし、もう一度欠伸をした。 「「ふわあ…」」 欠伸の声が重なったのに気づき、アニエスがベッドの方を振り向く。 マチルダは眠そうな目をこすりながら、包帯の巻かれた上半身を起こしているところだった。 アニエスは椅子を動かし、マチルダのすぐそばに座り直す。 「目が覚めたか」 「……ここは?」 「ラ・ロシェールの宿屋だ、怪我をして担ぎ込まれたそうだが…覚えていないか?」 マチルダが自分の体に目をやる。 顕わになった胸を隠そうともせず、包帯の巻かれた自分の体を見つめていた。 徐々に昨晩のことを思い出し、同時に鈍痛を感じて顔をしかめた。 「う……アンタが介抱してくれたのかい?」 「いや、私じゃない、この宿で働いている少女がやってくれたそうだ」 「そっか…後で礼を言わなきゃね。ところで何でアンタがここに居るんだ?」 アニエスは無言で部屋の扉を開け、廊下を見渡す。 誰もいないのを確認すると、扉を閉じて鍵をかけた。 「ラ・ロシェールではアルビオンから亡命、疎開する人間がどれだけいるのか調査しているが、私はその陣頭指揮を任されている。貴方を見つけたのは偶然だよ」 「偶然ね。 ……ふああぁぁぁ」 大あくびをしたマチルダを、アニエスが「やれやれ」と言いたげな目で見た。 「薬か魔法で眠らされたのか? 心当たりがあるなら話して貰わないと困ふぁぁ……ゴホッ」 アニエスは、あくびを咳で誤魔化したが、マチルダはそれを見逃さなかった。 ニヤニヤと笑みを浮かべてアニエスを見ている。 「ええい!そんな目で見るなッ! …とにかく、昨晩何が起こったかちゃんと話して貰うぞ、それと、後でメイジ四人の死体を見て貰うからな」 「メイジ四人?」 「そうだ、貴方はメイジに襲われていたらしいな。目撃者は、貴方が四人組に襲われ郊外に逃げたと言っていた。その四人が何者なのか調査している」 「ああ、そういえば、そいつらに眠らされたんだ。あいつらは何者なんだい?」 「それは私が知りたいさ。それと、貴方をここに担ぎ込んだメイジのことも話して貰わないとな」 「それこそ、こっちが知りたいよ」 マチルダは心の中で、あんたに教える気はないよ、と呟いた。 「「ふああ……」」 またも同時に欠伸をして、二人は恥ずかしそうに顔を背けた。 太陽の明かりが岸壁に反射し、ラ・ロシェールの町は戦時下とは思えぬほど穏やかな陽気に包まれていた。 一方少し時間は過ぎ…こちらは『魅惑の妖精亭』 ワルドが目を覚ますと、誰かの顔が見えた。 「………ん?」 「起きた?」 心配するような顔で、ルイズが顔をのぞき込んでいたようだ。 ワルドは自分がどんな状態に置かれているのか、周囲を見回して確認する。 ここは『魅惑の妖精亭』の一室、住み込みで働く者のために用意された部屋。 昨晩、ラ・ロシェールで活動していた遍在が四人組のメイジを倒した後、ロングビルを宿屋に預けた。 そこで精神力が底を突き、遍在は消失し、本体は気絶してしまった。 ワルドは上体をベッドから起こそうとしたが、風邪でも引いたような気だるさがあり、体の動きが鈍く感じられた。 「ふぅーっ……さすがに疲れたな」 「ラ・ロシェールに遍在を作り出すなんて、とんでもないわね。暗殺なんかお手のものじゃない」 「そうでもないさ、トリスタニアから馬で遍在を走らせたんだ、そうでなければラ・ロシェールまで遍在を維持できないよ」 「そうだったの…で、何で遍在なんかを使っていたの?」 ルイズはワルドの背中に手を回して体を支えた。 ワルドは平静を装っているが、体に疲れが溜まっているとすぐ解った。 この状態では『サイレント』を使うのも一苦労だと思い、ルイズはワルドに顔を寄せて、小声で話しをした。 「僕がレコン・キスタを裏切ったことは既に知られているだろう。だとすれば、何らかの動きがあるはずだ、それを調べていたんだ」 「……まあいいわ、信じてあげる」 「そうしてくれるとありがたいな」 「ところで、ロングビルはどうなったの?」 「彼女は無事だよ。ラ・ロシェール麓の小さな宿に頼んでおいたからね。金貨を二枚渡しておけば上手くやってくれるだろう」 「金貨なんて、よく持っていたわね」 「彼女を襲った四人は、もう金も使えないからな。懐から少し拝借して…」 ワルドが指を曲げ、懐からくすね取る仕草をする。それを見てルイズが眉をひそめた。 「まあ、それじゃ追い剥ぎじゃないの」 「君がそれを言うのかい? まあ、死人が使うよりも、ずっと有効な使い方さ。それに、あのままでは彼らも無念だろうしな」 ワルドはカーテンの下がった窓を見て、その向こうに広がる空を想像し、ニューカッスル城の惨状を思い出した。 死体、死体、死体、青空の下、ニューカッスル城は死体にまみれていた。 それを蘇らせ、反逆者狩りに利用するクロムウェル。 トリステインを裏切った自分も、クロムウェルも、非業な最期を遂げるべきだと、ワルドは思った。 「ロングビルを襲ったのは、アルビオンの近衛兵って言ってたけど、本当?」 「ああ、近衛兵か親衛隊か、ウェールズにごく近い者達だった…見覚えがあるよ。おそらく、アルビオンから亡命した者を探していたんだろう」 「つまり、レジスタンス狩りってやつ?」 「おそらくな」 「…やるせないわね」 ルイズが目を細めて軽く歯を食いしばる。それは怒りではなく、悲しみから来るものだとワルドは理解した。 「彼らを気遣っているのか? …君は、本当に優しいな」 「え? 何よ、急に」 「僕は彼らが二度と蘇らぬよう、奇襲して首をはねるのが精一杯だった。これも皆クロムウェルのせいだと、そう思いながら戦っていたんだ」 「けれども君は違う。彼らの名誉を思って君は悲しんでいる…違うかい?」 「………ワルド」 ワルドは、心底からルイズを羨ましいと思った。 トリステインの腐敗を知ったときも、母の死を知ったときも、ルイズが死んだと聞かされたときも、石仮面と戦ったときも、怒りしか無かった。 ルイズは違う、淡々と事実を受け止める強さと、悲しむだけの余裕と、そしてこれから何をすべきかを決断する力を持っている。 もっと早く、ルイズに仕えていれば、一人のメイジとして、充実した日々を送れたかもしれない。 そう思いながら、ワルドはごく近い距離で、ルイズの瞳を見つめた。 不意に、廊下の向こうからバタバタバタと足音が近づいてきた。 二人が振り向く間もなく、バン!と音を立てて勢いよく扉が開かれる。 「おふたりさーん!遅番の時間 だ よ ……」 扉を開けたのは、店主の娘、ジェシカだった。 ベッドの上で上体を起こしたロイド(ワルド)とロイズ(ルイズ)が、ごく至近距離で見つめ合っている。 その姿はどう見ても、キスをする直前か、はたまた事後かといった感じだった。 「えーと…………お邪魔だった?」 照れ隠しに後頭部に手を当てつつ、引きつった笑みを浮かべるジェシカを見て、ルイズは自分がどんな風に見られているのか気が付いた。 男と女が顔を接近させていると言えば……キス? 「うきゃあ!」 ルイズの顔が一瞬で真っ赤になり、ワルドを勢いよく突き飛ばす。 「ぐはっ!?」 突き飛ばされたワルドは『魅惑の妖精亭』を揺らすほどの勢いで壁に衝突した。 「あー、やっぱり兄妹ってのは嘘だったんだー」 ジェシカが笑みを浮かべつつ、ルイズに迫る。 「ちちちちがうわよ!こいつとは何でもないわよ!」 ワルドに恋愛感情を抱いている訳ではないが、それでも『キス』と言われると狼狽えてしまう。 既に何度か全裸まで見られているのに、ルイズの頭の中はまだまだウブだった。 「でもキスしようとしてたでしょ?あ、それともキスした後?」 「だから違うって言ってるでしょうがあああ!」 「同じ部屋じゃ危ないよねー」 「キーーーーーーーーーーーーー!!」 壁に激突したワルドが、痛む顔を押さえながらむっくりと起きあがる。 手玉に取られているルイズを見て、ワルドは静かに、だが心底から楽しそうにほくそ笑んだ。 「やれやれ、困ったお姫様だ」 To Be Continued→ 戻る 目次へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8697.html
トリスタニア・某街道の某交差点。 横断しようとする人々を遮断する棒が下り、その外側には人だかりができている。 その中、それも遮断機のすぐ前に黒髪メイド服の少女・シエスタの姿があった。 反対側にある遮断機のすぐ向こうに、1人の少女の姿があった。シエスタがいる位置からでは、顔は棒で隠れて見えない。 するといつの間にかその少女が遮断機の内側に侵入し、シエスタの方に接近してきた。 「あ、渡れますね」 「え!?」 一緒にいた同じくメイド服の少女の声も気にせず、シエスタは遮断機をひょいとくぐって街道を横断しようとする。 ──シエスタは後にこう語っている。 『向こう側から女の子がごく自然に渡り始めたのが見えたんです。だから私も誘われたようについつい渡ってしまったんです。……え!? 女の子は確かにいましたよ。……誰も見ていない? そんなはずはありません』 と──。 シエスタとすれ違いしばらく歩いたところで、少女は目を見開いて振り返った。 ……首を半回転させて。 「馬車に轢かれてぺっしゃんこ、馬車に轢かれてぺっしゃんこ」 街道アンジー 以前この交差点で轢かれた少女が地縛霊となったものである。 「アンジー」は本名ではない──という噂もあるが、詳細は定かではない。 アンジーが伸ばした腕は蛇のようにうねりつつ伸張し、シエスタの頭部をわしづかみにしようと迫る。 ……が、その直前、少女のものと思しき手がアンジーの手首をつかみその動きを封じる。 「そこまでよ、この悪霊め!」 桃髪の少女・ルイズがアンジーの腕をひねり上げた直後、ルイズの傍にいた少年がシエスタを抱き寄せる。 そのシエスタの額をかすめて、数十台の馬車の列が高速で通過していった。 「あ……、わわわわああー!?」 目の前を高速で通過していく馬車の列に、シエスタは驚愕の声を上げた。 「失敗!? 失敗失敗失敗失敗失敗失敗──ちっ」 アンジーは忌々しげにそうまくし立てると、ごそりと体が崩壊していった。 「逃げたわね」 「いいさ。お前など敵ですらない」 ルイズ・少年がそう言った次の瞬間、遮断機が上がり人々が3人の元に殺到する。 「わ……、うあーっ! 何をやってるんだ、君達は!」 「え? え?」 「シ……、シエスタ、大丈夫? 怪我は無い?」 「い、いえ、あの……」 「いきなり遮断機をくぐるなんて……。自殺でもする気だったのか!?」 「そ……、そんなあ」 シエスタは何が何だかわからず、ただ狼狽するばかりだった。 「し……、知りません。私知りません」 一方、ルイズ・少年は集まってきた人々とは別の方向に視線を向けていた。 (そうよ、彼女は知らない事なのよ。少女のふりをした地縛霊の仕業なのだから) (これが起こる事を知っていたのはボクとルイズ、そうしてもう1人) 2人の視線の先には、新聞紙が集まって形成されているような巨大な女性の頭部が空中に浮遊し、2人をじっと見下ろしているのだった。 「あんたは全部知ってるのよね、恐怖新聞!!」 「お前には負けない!! 『予言』は全て覆してやる!! 『鬼形礼』のような犠牲者はもう出させない──そう誓ったんだ!」 2人の名はルイズ・ヴァリエールと鬼形冥。恐怖新聞に取り憑かれたメイジと使い魔だ。 その夜、2人は14歳になったばかりだった。 「シンブーン!!」 声と共にルイズの部屋の窓を突き破って、新聞が室内に飛び込んできた。 「うわっぷ! な……、何よ!?」 眠っている自分達の顔面に覆い被さってきた新聞を、ルイズは慌てて払いのける。 「し……、新聞!? 誰だよ、こんな悪戯するのは~」 目を擦りつつ2人は枕元の時計に視線を移し、うんざりした表情になる。 「……夜中の12時!?」 だが、1面に掲載されている記事の内容に2人は思わず目を見張る。 『恐怖新聞 深夜刊 現代の予言書 恐怖新聞が再び!! 鬼形一族の1人である鬼形冥と彼を召喚したルイズ・ヴァリエールは、本日14歳となったため恐怖新聞を購読する資格を得たと判断された。 そのため、35年間発行停止となっていた恐怖新聞が再刊となった模様である。 恐怖新聞の購読料は100日分の寿命であり、これは何人たりとも例外無く漏れなく徴収されるものである! (恐怖新聞は予言が外れた場合、代金とされる100日分の寿命は頂きません)』 時間は進んで2人がシエスタを助けた日の深夜、2人は寮の自室で就寝準備を整えていた。 「今日は何とか覆す事ができたけど、守るだけじゃきついわよ。まったく!」 と言いつつ2人がベッドに入った直後、枕元の時計が12時を示し……、 「シンブーン!!」 声と共にルイズの部屋の窓を突き破って、新聞が室内に飛び込んできた。 降り注いだ新聞紙と窓ガラスの破片に布団から這い出す2人。 「くそっ、ゆっくり眠る事もできないのか! で……、明日は何があるってんだ!?」 舌打ちしつつ配達された恐怖新聞に目を通す冥だったが、すぐにルイズ共々顔色が変わる。 直後、2人は寮を飛び出し町へと駆け出していくのだった。 (人の不幸を予言する恐怖新聞は、書かれている事に外れる事が無いわ。つまり不幸のみをもたらす新聞よ。だから──) 深夜の住宅街を全力疾走するルイズ・冥。2人の脳裏には先程配達された恐怖新聞の見出しが浮かんでいた。 『鬼形冥とルイズ・ヴァリエール、予言の阻止失敗!? 2回目の事故を見逃した』 (予言は今回2回目があったんだ! 午後6時と午前1時と! 昨日の新聞には午後6時の分1つしか出ていないから、騙されたんだ。くそっ、でもそれは詐欺だろ) その先にあるのは、2人が夕方事故を防いだ街道の交差点。 (──だから私達はその予言を外れさせるのよ。不幸を止めるのよ) 一方その頃、件の交差点では……。 「んっ、んっ」 若い女性が1人、石畳の間の隙間に足首を挟まれ立ち往生していた。 「やだあ、抜けない! もう、何で……? 馬車が来ちゃうよ。誰かいないの!?」 「きゃはははははははははは! そうよ、あたしが邪魔してるから抜けないのよ。大好きよ大好きよ、もう放さない!」 必死で足を引き抜こうとする女性には、アンジーの長く伸張した四肢が幾重にも絡みついていた。 幾つもの馬車の前照灯が交差点を照らし始める。 「ほらほらほらほらほらほら! 轢いて轢いて轢いて轢いて! 轢け轢け轢け轢け! 一緒に轢かれてぺっしゃんこ!!」 女性が絶望の表情で光に視線を向けたその時、 「恐怖新聞と共謀してボク達を騙したのか。力の無い地縛霊のくせにやるじゃないか。だけどな」 「確かに私達には霊能力は無いけど、悪霊に対抗する知恵はあるのよ!」 そう言いながら、ルイズ・冥が花束片手に息を荒くして到着した。 そしてアンジーの横っ面に花束を叩きつける。 「!? ンギギギギギギギ……」 すると花束の花が吸い寄せられるようにアンジーに突き刺さり、さらに高速回転してえぐり始める。 「痛いだろう! 当然だ! その花はお前が死んだ場所に供えられていた花だ。みんなの『心からの善意の花』だもの!」 「あんたがここで死んだ時、みんなが悲しんだわ! だけどあんたはそんなみんなに逆に嫌がらせを始めたのよ! 『もっと同情しろ』『もっと優しくしろ』っていうねじくれた根性があんたを悪霊にしたのよ。悪霊の身に『善意』は辛いでしょう」 「ガガガ……、ギギギギ」 花にえぐられる苦痛に堪えきれず、アンジーは身をよじって女性から離れかける。 「あんたの不幸は馬車に轢かれた事じゃないわ。生きてる人間を妬んだ事よ!!」 「他人を巻き添えにするな! 迷惑だ!!」 この機を逃がさず、ルイズはアンジーを女性から引き剥がし、冥はその女性を抱え街道の外に跳び退く。 (あんたのような甘ったれた悪霊がいるから、恐怖新聞みたいな悪霊(やつ)までが図に乗ってはびこるのよ!!) アンジーを正面から馬車に叩きつけた後、ルイズも遅れて街道から跳び退いた。 その場に取り残された女性の鞄が馬車に引きちぎられて、中身が路上に散乱する。 「あ……、悪霊なんか、『へ』でもねーや!!」 「あああああ! また邪魔をまた邪魔をまた邪魔を! しかも私を馬車にぶつけたな2度轢きしやがったなあああ──」 馬車の正面に貼り付いたアンジーの声が次第に遠ざかっていく。 その上空では、夕方にも出現した新聞紙で形成された女性の頭部が忌々しげに2人を見下ろしていた。 (『ちっ、失敗か』って顔をしているわね) ──今は亡きキガタレイへ。 私とメイは毎日が恐怖新聞との戦いです。神経が磨り減る事ばかりです。大変です。 でもやめません。あなたのような犠牲者を出さないためにも戦い続けます。 私とメイが無事生き残れるよう、あなたも見守っていてください。 ルイズ・ヴァリエール──
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/425.html
番外編 「お嬢様」から「王女様」へ ここはトリステインの宮殿の中にある中庭、高名な庭師が整えた美しい場所 風に優しく吹かれた木々が囁き、最後の楽園かと思わせるような場所 その中でほんの少しの静かな時を過ごしている少女がいる この国の王女、アンリエッタ姫である 彼女はゲルマニアとの同盟を結ぶ為の遠征を始める前に、短い休日をこの場所で過ごしていた 空は青く、小鳥が歌うように鳴くこの場所は心を安らかせるには最適だった しかしそれでも彼女の心は曇ったままであった 今、ハルケギニアの政治情勢は最悪に近い状態である ハルケギニアの始祖ブリミルが与えたと言われる三本の王権を持つ国、『白の国』アルビオンの貴族達は クーデターを起こして王を倒し、やがてハルケギニアをも統一するという野望を掲げていた それに対抗する為にトリステインの女王、マリアンヌは愛娘アンリエッタを帝政ゲルマニアの皇帝に嫁がせる事によって同盟を成立させ 来るべき戦争の日に備えようとしていた 望まない結婚 従兄弟であるアルビオンの皇太子、ウェールズの安否 そして、今後のトリステインの行方・・・・ 全てが混じり合い、頭でかき回されて、アンリエッタ姫はとても憂鬱な気分であった 「私は・・・・この国は・・・・どうなるんでしょう・・・・」 そんな一人言をポツリと発した時、突然、眩しい光が自分を包んだ 「なっ何事!?」 急な光に驚くアンリエッタ姫 目をグッとつむり、手を顔の前に掲げ光が止むのを待った そして光が止んだ 恐る恐る瞼を開けようとする、そして自分の前を確認する 赤い「何か」がそこにあった 「い、一体これは・・・・」 赤い「何か」は人の形であった アンリエッタ姫は思考した これはゴーレムの類か?それにしてもこんな物は今までみたことがない すると「何か」は突然立ち上がった。そして 「いたたたた・・・・、お嬢様、大丈夫ですか?ってあれ?お嬢様!?」 なんと人語を発したではないか! 「お嬢様!?何処にいらっしゃるのですか!?そ、それにここは何処!? 私はロム様を探して街の中を走っていたはずなのに!?」 更に手と足をバタつかせ慌てているような素振りを見せる 一体これは何なのだ、知識はあるのでわかるのだがゴーレムはこのように自ら意思を持ち、人間の様な仕草はしない (そうだ、きっと「これ」には中に人が入っているのだわ。取り敢えずどうやってここに入って来たのか まずそれを尋ねましょう) 「貴方は誰ですか?」 そう尋ねるとそれはアンリエッタ姫の顔を見た 「・・・・あ、そのお嬢様・・・・、いや、質問を質問で返すようで悪いのですが 貴方ぐらいのお年の女の子は知りませんか?」 アンリエッタ姫はまた驚いた 受け答えが出来ている、やはり人が入っているのか? それにしてもお嬢様とは? 疑問がどんどん沸き上がってくるが一応質問に答える事にした 「いえ、この場所には私しか居ません」 「そ、そんな!?お、お嬢様~!何処にいらっしゃるのですか~!?」 それはそう言うと頭を抱えて嘆いた 「王女様!何事ですか!」 騒ぎを聞き付けた衛士達がやって来る 彼らは「それ」を見て目を丸くして驚いた 「な、何だあれは!」 衛士の一人が叫ぶ 「王女様が危ない!皆のもの!あいつを捕まえろ!」 衛士達はそれぞれ剣を持ち、それに飛び掛かった 「な、何なんですか貴方達は!?え、ちょ、ちょっと止めてください!誰か助けて!あ~~!」 「・・・・で強い光が現れたと思ったらいつの間にかそこにこいつが居た。 そういうことで良いのですね?殿下」 アンリエッタ姫の側近、マザリーニ枢機卿が口髭をいじりながら質問した 彼は衛士の報告を聞き、中庭に来ていた 「はい、それでお願いします」 アンリエッタ姫の返事を聞くとマザリーニは嫌そうな顔をして、侵入者に尋ねた 「お前、ここがどんな所か知っているのか?」 「わかりません。気付いたら何故かここに・・・・」 侵入者はやたらしょんぼりした声で言った 「ここはトリステインの宮殿、そしてお前の前にいらっしゃるのはこの国の王女、アンリエッタ姫だ。わかっているのか?」 「すみません、わかりません・・・・」 侵入者はそう答えると下を向いて肩を落とした 衛士の一人の顔が怒りに染まる 「貴様!王女の前で失礼を!」 「よしなさい!」 アンリエッタ姫は一声出して兵士を抑えた 「彼はきっと何かが原因でここに来たのです。 ただの平民ならここにすんなり入るなんて事ができるはずがありません まずは彼の事情を聞きましょう」 そう言うとアンリエッタ姫は侵入者の前に立ち、微笑みながら尋ねた 「貴方、お名前は?」 侵入者は顔を上げて答える ・・・・ 「・・・・わかりました。では私は貴方を小間使いとして貴方を雇います。これで文句はありませんね枢機卿」 「はい・・・・、では私は仕事があるのでこれで。皆の者、それぞれの配置場所に戻るがよい」 マザリーニがそう言うと衛士達は中庭を去っていき、残ったのはアンリエッタ姫と侵入者だけになった 「これで縛り首にならずにすみましたね」 アンリエッタ姫がにっこり笑う 「はい!あのお礼と言っては何なのですが、これで」 侵入者はそう言うと体を変型させて珍妙な形の乗り物となった 「まあ!」 アンリエッタ姫が声をあげて驚く「では乗ってください!」 乗り物の透明部分が開く、そこには一人分の座席があった アンリエッタ姫がそこに乗ると透明部分が閉じてパタパタパタパタという音が聞こえてきた なんと乗り物となった侵入者は突如浮き始めたのだ そしてどんどん城を離れ高く宙を浮き、城下町が見える程の高度まで来た 「凄い・・・・、貴方こんな事ができるのね」 アンリエッタ姫は驚きながら周りの光景を見る 「どうですか王女様?」 侵入者が言う 「とても・・・・、楽しいわ!」 アンリエッタ姫は興奮しながら言う 彼のおかげで憂鬱な気分は吹き飛び、最高の休日を過ごす事が出来たのであった 「では、貴方の『お嬢様』が見つかるまでの間、小間使いとして宜しくお願いしますね。 トリプル・ジム」 「はい!『王女様』!」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2577.html
酒場の女将、コーラの話を聞いたルイズは、一人ラ・ロシェールの町を歩いていた。 ”こんな偶然があるのか”と叫びたい気持ちのまま空を見上げ、うつむく。 コーラは、アルビオンから疎開した少年を一人預かり、酒場の手伝いをさせていた。 少年の名はロバート。彼の父親はラ・ロシェールにほど近い村の出身で、空の上にあるアルビオンに憧れて船乗りの道を選んだ。 輸送船で働くうち、アルビオンの人々との交流が深まり、アルビオンの気風をより好きになっていった。 やがて船で稼いだ金が貯まると、一念発起してアルビオンに古い家を買い、酒場を開いたのだった。 ボロボロの家を改造して酒場にするだけでなく、簡易の地図を酒場に張り出し、町の見所や、酒場、宿屋の場所などを記して好評を得ていった。 そのため、行商人や傭兵の常連客も増えていったという。 だが…、平和だったアルビオンにも戦争の兆しが見えた、レコン・キスタと名乗る貴族の一派が、王家に反逆ののろしを上げたのだ。 貴族派と王党派の争いが激化するに従い、ロバートの父は、船員時代に世話になった酒場の女将を頼って息子を疎開させることにした。 コーラは二つ返事で了承し、ロバートを預かった。が、ロバートは酒場で働くのがいいと言って聞かない。 本来なら戦争に巻き込まれにくい場所へと疎開させたいのだが、父親の背を見て育ったロバートに好感を持ったのも事実だった。 それなら仕方がないと、酒場を手伝わせたのだが、父親の姿を見て学んだのだろう、子供とは思えない要領の良さで酒場を手伝っていた。 その仕事ぶりを見て、女将コーラだけでなく、酒場を贔屓にしている自警団の連中にも気に入られ、可愛がられていたのだが…。 今日の昼頃、自警団の人間が酒場にやってきて、ロバートがスリの疑いで捕まったと知らされたという。 つまりは、ルイズが見かけた少年こそが、スリの疑いをかけられたロバートという少年なのだ。 「あの子は、スリの疑いをかけられて、衛兵に捕まっちまったのさ。あたしはあの子の親をよく知ってる、義理に厚くて、くだらない話でも笑う奴でねえ。あの子がスリを働くような真似するはずがないよ」 酒場の女将コーラは、悲しそうに呟いていた。 コーラの話では、ロバートは12歳になったばかりで、煤で灰色になった帽子を被り、ぼろっちい薄茶色の上下を着ているらしい。 (あの時、私はどうすれば良かったの。時飛び込んで助ければ…『イリュージョン』で姿を誤魔化して…いっそ、『忘却』で何が起こったのか忘れさせれば…) どの考えも無茶だと解っていても、こうすれば良かった、ああすれば良かったという考えが、自責の念と共に心にあり続けている。 助け出すのは簡単だ、ルイズが持つ羊皮紙は『アンリエッタ直属女官』を示し、アニエスに並ぶ権限を持つ。 これを衛兵に見せ、ロバートの身柄を預かればいい。 しかし…ルイズはこの町の衛兵が、調査対象たるメルクス男爵の管轄下に置かれていることを知っている。 アンリエッタ直属の女官がラ・ロシェールの『何か』を調査していると気付かれたら、証拠を一足早く処分されるかもしれない。 胸に不安を抱えたまま、ルイズは狭い通りを歩いて行く。 フードの下では、痛みをこらえるような悲痛な表情をしていた。 『胸が苦しい』とはよく言ったものだ、心臓を吹き飛ばされてもたいした痛みもない体なのに、胸に突き刺さるような後悔の念は痛みを感じさせるのだから。 ふと気がつくと、汚水の臭い漂う細い通りの一角に、安酒の臭いが漏れるぼろ屋があった。 酒樽の形をした看板には『金の酒樽邸』と書かれている。 「ここか、金の酒樽亭。…どう見ても廃屋じゃない」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ラ・ロシェールの町は、戦時中だからこその賑わいを見せている。 明日になれば、造船所で艤装を終えた船がラ・ロシェールに集合し、遠征前の最終調整が行われる。 それが終われば荷物の積み込みが始まり、人員の最終確認が行われ、いよいよ遠征軍は出立となるのだ。 そのための荷物や人員が町に集り、ラ・ロシェールで最も忙しい日が続いている。 街には今、戦争を機に一儲けしようと企む沢山の人々が集まっており、様々な思惑が渦巻いているのだろう。金の酒樽亭もその例に漏れず、戦争で一稼ぎしようとする者が集まってた。 傭兵と言うより、盗賊・ごろつきと呼んだ方がしっくりくる風体の男達が、酒を飲んで、役人や兵士、または娼婦を口汚く罵っている。 そんな中、カウンターで身なりの汚い痩せた男が誰かを待っていた、男はちびちびとエールを飲んでいる。 ルイズの目的はその男だった、他の男達のなめ回すような視線を意に介さず、ルイズは隣の席に座った。 「約束通り、後金を払うわ」 ルイズはそう言って、隣に座る痩躯の男に銀貨を差し出した。 男は目尻に皺を寄せて、こけた頬をつり上げ、にやりと笑みを見せると、素早く銀貨を懐にしまいこむ。 「へへ、あんた、よく解ってるよ」 「ごたくは要らないわ。それで、あの男は?」 「どっかで稼いだのか、ワインと肉を食べて、一番奥の部屋に泊まってるぜ」 「この酒場の?」 「ああ、偶然も偶然、俺とあんたが待ち合わせの約束をした、この酒場さ。驚いたね。だが、手間が省けただろう」 「まあね…」 痩躯の男は笑みを浮かべると、グラスに残った安物のエールを一気に煽った。 「何の用か知らないが、危なそうな奴だ、俺は先に出させて貰うぜぇ」 「ええ、いいわよ」 痩躯の男は、笑みを浮かべながら酒場を出て行った。 ルイズは『財布をすられた男』の後を追わせるため、町をふらつく適当な男に金を握らせた。ちゃんと仕事をする保証など何処にもないので、念のため後金を払うと約束しておいたが、それが功を奏したらしい。 アニエスの話では、仕事を探している浮浪者を使った場合、後金を払うと言えば、5割は仕事をこなし、4割は後金を払う時になって仲間を呼び強盗に早変わりし、残り1割は相手からも金を取ろうとするのだとか。 ルイズは給仕を手招きすると、金貨を一枚渡した。 「つりは良いわ。ここ宿もやってるんでしょ、部屋は開いてる?」 「こ、こんなに… ええ、部屋は開いておりやす」 給仕は金貨に驚いたが、宿賃も一緒だと聞いてすぐに笑みを浮かべた。 「階段の奥に部屋が三つありやして、真ん中と手前の部屋が空いてまさ、自由にしてくだせえ。鍵は中からかけられやす」 「そう」 ルイズはおもむろに席を立ち、階段を登っていった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ フードで顔を隠した女が階段を上っていくのを見て、酒を飲んでいたごろつきは、仲間同士で目配せをした。 下卑た笑いを上げると、男達は腰や懐に隠したナイフの感触を確認して、席を立つ。 「ちょ、ちょっと、乱暴は困りますよ」 給仕が小声で呟くと、男達は「ここじゃ何もしねえよ、ここじゃな」と言い、階段を上っていった。 「おっと、騒ぐなよ」 二階に上がってすぐに、ごろつきの一人が女を後ろから羽交い締めにした、すかさずナイフを首に当て、動きを封じる。 「…何の用?」 ルイズは、動揺したような様子も見せずに言い放つ。 「間違いねえ、女だな」 「場違いだぜこんな場所によ」 「俺達でちょっと町を案内してやろうぜ」 「どんな顔してるか解らねえぞ」 「いつものことだろ!」 「ハハハ!」 そのうち、ごろつきの一人がルイズのフードをはぎ取った。すると、中から現れた顔が想像以上のものだったのか、おお…と声が上がった。 「こりゃあ上玉だあ」 「肉は付いてなさそうだぜえ」 そのうち一人が胸や体をまさぐり始めた。懐に入れた財布の感触に気がつくと、その重さに驚いた顔をする。 「随分抱えてるなあ。ナイフも持ってねえ…メイジでもねえな、杖もなさそうだ」 奥の扉を叩き、中に居るであろう誰かに声をかけた。 「おい、上玉がおめえに用だとさ。おめえ何やったんだ」 すると扉が開き、中から体格のいい、肌の浅黒い男が現れた。 間違いなく、少年に『財布をすられた』と叫んだ男だ。 男はルイズをつま先から頭までじっくり見定めて「知らねえなあ」と答えた。 「私は貴方だけに用があったんだけど…」 その声は女性にしても高めで、幼さを感じさせる声だった。 それが意外だったのか、男は首をひねった。 「乞食に金まで握らせて、俺を捜させたってか? …おい、外に変な奴はいねえだろうな」 ちらりと目配せをすると、手の空いいていた小柄な男が酒場の外を確認し、あたりに兵士や自警団が居ないかを確認した。 「それらしい奴は見あたらねえ、この女一人で来たみてぇだ」 「こんな場所に女一人で来たのか、何の用でぇ」 男が不機嫌そうに言い放つ、するとルイズは少しばかり苦しそうに、羽交い締めにされた体をくねらせた。 「ん…。仕事を頼みたくて来たのに、こんな仕打ちは困るわ。離してくれない?」 「仕事だと?」 「あんたの腕前を見込んでね」 おとこはにやりと笑みを浮かべて、女の手を取った。 すると、羽交い締めにしていた男も手を離し、後ろに下がった。 「仕事か…へへへ、誰から聞いたか知らねえが、俺を頼るたあいい度胸だ」 男は、部屋へ連れ込もうと、女の腕をぐいと引っ張った。 「待ってよ、ここじゃ声が漏れちゃうわ。下に聞かれたくないもの」 「おっ、なんだ、その気じゃねえか…へへへ。 じゃあちょうど良い場所があるぜ、そこへ行こうじゃねえか、な」 ルイズは男に手を引かれて階段を下り、裏口から外へと連れ出された。 仲間らしきごろつきが周囲を囲み、逃げ道を塞いでいる。 その様子を見ていた酒場の給仕は、はっとして頭を振ると、小さなグラスにエールを注いだ。 「何も見てない。何も聞いてない」 そう呟き、一気にあおった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 男達に手を引かれて辿り着いたのは、酒場の裏にある洞窟。 広さは、小さな馬車なら縦に二台、ヴァリエール家の使うような大型の馬車では一台入れて多少余裕がある程度だった。 中には木箱や煉瓦などが積み上げられ、倉庫として使われているのは間違いないようだった。 似たような横穴は町の所々にあり、倉庫としてだけでなく、家の一部としても使われている。 「おい、塞げ」 手を引いていた男が命令すると、ごろつきの一人が奥のランプに火を灯し、横穴に並べられた木箱を入り口に積み上げた。 「ずいぶん準備がいいのね」 さして慌てた様子もなく、女が呟く。 「へへへ、声を上げるにはもってこいだろ、ここなら叫んだっていいんだぜ。どうせ表までは響かねえ」 男達はルイズを囲むと、下卑た笑みを浮かべている。 ルイズの位置は洞窟の一番奥、正面に浅黒い肌の男、その右二人、左に一人、入り口の前にはもう一個のランプを持った小柄な男が一人。 五人の男が、か弱い女を囲む、最悪の構図であった。 「そうねえ…あ、さっそく一つ教えてほしいのだけど、あの乞食に尾行させたことを知ってたわよね。あいつも仲間なの?」 ルイズがそう質問すると、浅黒い肌の男は、得意げに話し始めた。 「あんな乞食何でもねえや。 小遣いほしさに『女に頼まれて後をつけてる』って、わざわざ言いにきたんだ」 別の男が後を続ける。 「いけねえなあ嬢ちゃん、乞食を使うにはもっと頭を使わねえとよ」 ハハハ!と笑い声が洞窟に響いた。 「そうだったの…人を軽々と信用するものじゃないわね」 「そういうこった」 「それじゃあ、仕事の話をしたいんだけど」 ルイズが懐に入れた財布を取り出すと、男達はナイフを取り出してルイズに向けた。 「…なんのつもり?」 「自分で言ったろ、軽々と信用するもんじゃねえ、ってな。…さあ財布をこっちによこすんだ。そうすりゃ命は助けてやる」 「……」 ルイズは鈍く輝くナイフを見つめ、仕方ないわねと言って財布を投げた。 ガシャッと重い音を立てて財布が落ちる。手近な男がそれを手に取り、中身を確認すると歓声を上げた。 「うおおおおおっ、金貨だ、金貨だ!た、たまんねえ!」 「本当か! 何枚だ、何枚入ってる!」 「新金貨か、エキュー金貨か? どっちにしろ当分遊んで暮らせるぜ、へへへ」 浮かれているごろつき達を見て、「全部渡すつもりじゃ無いわよ」と呟くと、浅黒い肌の男は訝しげな視線を向けた。 「おい、何の仕事を頼むつもりだった? こんな金まともじゃねえぞ」 ずい、と男が近づいてナイフをちらつかせた。 「あら…仕事を頼むんだから、多いに越したことは無いでしょう」 「なめやがって、これだけの金が手に入るなら、仕事なんかせずに強盗に早変わりだ。それぐらい解って近づいたろ。いったい俺達に何をさせようとした」 男が凄んでみせるが、ルイズはさして意に介した様子もなく笑みを浮かべるばかり。 「仕事のついでに、相手して欲しかったのよ。ああ、五人もいれば…満たされそう」 男達の目には、それはそれは妖絶なものとして映っただろう。 ランプの明かりに照らされて悩ましげに舌なめずりをしたルイズに、身が震えるほどの何かを感じたのだ。 「た、たまらねえ」 一人がナイフを木箱の上に置いて、ルイズへと近寄った。 肩を掴み、服に手をかけようとしたところで、身をよじってそれを躱す。 「今更逃げられねえぞ!」鼻息を荒くして叫ぶ。 「破かないでよ、自分で脱ぐわ」 フードつきの上着に手をかけ、一つ一つボタンを外していく。 上着を脱ぎ捨て、インナーに手をかけたところで、ツバを飲む音が聞こえた。 ルイズの体は豊満とは言い難いものの、しなやかさと力強さを兼ね備えた肉体には独特の美しさがあった。 ランプの明かりに照らされて浮かび上がる陰影は、体力の有り余った若い踊り子を思わせる、その肉体をこれから蹂躙するのだから、体が震えるような興奮を感じるのもごく自然なことだ。 「………………」 そこで一人の男が、何かを呟いているのに気がつく。 (なんだ、この女は、気でもおかしいのか) 下着を脱ぎ捨てて、裸体を晒したところで、ぼそぼそとした呟きは終わり、女が両手を前に差し出した。 抱きしめられるのを待つかのようなその仕草で、胸の谷間に見える陰影が強調され、肩幅はより小さく見える。男達の劣情を誘うには十分だった。 だから彼らは、ルイズの掌に、腕の骨と一体化した『杖』がせり出してくるのを認識できなかった。 ズルリ、と粘膜がこすれ合うような音が聞こえた次の瞬間、彼らの意識は性欲もろとも消え去るのだ。 「……”忘却”」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ もし、この光景を誰かが見ていたら、恐怖のあまり叫びを上げるか、何が起こっているのか理解できずに呆然としただろう。 女の髪の毛が生き物のように動いたかと思うと、数十本が縄のように纏まって、浅黒い男の頭に突き刺さった。 「あ゛っ、あ、は あ お 」 植物の新芽のようにも見える小さな肉腫が頭に入り込んでいくと、男は声にならない声を上げてよだれを垂らし、白目をむいて体を震わせた。 他の男達も同じように肉の芽を刺され、同じように体を震わせていた。 肉の芽は頭蓋に穴を開け、脳に進入し、喜怒哀楽の感情を探り、脳細胞の隙間へと入り込んでいく。 ものの三十秒もしないうちに、男達の体から力が抜け、その場にへたり込んだ。 「あ、あ、あああ」 男達の目には先ほどまでの卑しさはなく、畏れと憧れを湛えルイズを見上げていた。 ランプの明かりが逆光となり、男達からはルイズの表情を伺うことはできない。 ただ一つ解るのは、闇夜に動物の瞳が輝くように、ルイズの瞳が爛々と輝いている事だけだった。 「さあ、教えて。貴方は今日の昼、財布をすられたフリをしたかしら」 「は、はい。おれは、小汚いガキに財布をすられた事にして、一騒ぎしたら町から離れるつもりでございやした」 「ふうん…?誰かに頼まれでもしたのかしら」 「そう、そうでございやす。一昨日、宿を探していたら、貴族らしき、マントを着けた男に頼まれやした。『難民のガキを一人、スリの罪にでっち上げたら、すぐこの街を出ろ』と言われて、金払いが良かったんで、引き受けやした…」 「そいつは、何処の誰?」 「ま、まったく、聞いて、おりやせん」 裏で糸を引くメイジが居ると解れば、少年を牢屋に入れておく必要はなくなった。 しかし問題は別にある、少年の名誉回復と、裏で糸を引くメイジの存在である。 「…あんた達、心当たりはある?」 ルイズは男達を見渡した、すると入り口の手前にいた小柄な男が、そそくさとルイズに近寄って跪き、声を上げた。 「こ、心当たりはねえですが、あ、あっし達にお任せ下されば、町中ひっくり返してでも、貴族の屋敷でも探してごらんにいれやす! 姉御のためなら命なんて惜し く 」 パゴッ、という音が響いた。水袋を破裂させたような、煉瓦を砕いたような音であった。 数秒遅れて、水たまりに倒れ込むような音が、どちゃっ…と響く。 ルイズの手は紅く染まり、足下には、首から上を失った小柄な男が倒れていた。 「わたしを姉御と呼ぶな」 ……そう呼んでいいのは、一人だけ…… ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2536.html
アニエスの手でリッシュモンが”処刑”された後、達銃士隊はリッシュモンの屋敷に突入し、数々の不正を暴いていった。 リッシュモンの屋敷で働いていた者のうち、不正に関わりがあった者は投獄された。 それ以外の者達は一通りの取り調べを受けた後に、銃士隊によって他の仕事を斡旋され、遠ざけられた。 隠し部屋などは徹底的に調査され、不正によって得たと思しき物品は押収され国庫へと納められた。 また、屋敷の地下には逃走用と思しき通路が造られていた、これに利用価値があると判断したアニエスは屋敷を拠点として利用したいとアンリエッタに進言し受諾された。 それからすぐに、アルビオンからルイズとワルドの二人が戻り、二人もこの館を拠点の一つとして利用する許可を貰っている。 かつては調度品が並べられていた廊下も、今は壁掛け式のランプだけが等間隔に並ぶだけであった、他の貴族がこの有様を見ればそのみすぼらしさに嘆くことだろう。 しかしそれは貴族の価値観、平民が見ればこの屋敷は巨大な調度品だ、大理石で化粧された壁や、紫檀の巨大な柱、廊下に敷かれた絨毯など、すべてが平民の手に届かない物ばかりなのだから。 以前は高名な画家の絵が飾られていた壁にも、銀作りの彫像が並んでいた棚にも、何一つ残っていないが、屋敷で働くメイドがそれを見ても『掃除がし易い』程度の変化でしかない。 その廊下を、一人のメイドがワゴンを押していた、アルビオンからルイズ達が帰還した際に、気を失ったワルドの看護を勤めたメイドで、名をハンナという。 彼女は銃士隊を志したが、年若いだけでなく身体が弱いため訓練に耐えきれなかった。しかし誠実さが認められ銃士隊の下で働いている。 14歳ばかりの少女は、慎重にワゴンを押していた。 ◆◆◆◆◆◆ 夜のリッシュモン邸で、ルイズとアニエスの二人が顔を合わせていた。 応接間では、ルイズの向かいのソファに座ったが、柔らかいソファは身動きを取りづらいのであまり好きではなさそうだった。 「久しぶりね、アニエス」 「お互いにな『石仮面』。アルビオンはどうだった?だいぶ混乱していると思うが」 「混乱に乗じて上手くやっている連中もいたわよ」 「武器商人と盗賊まがいの傭兵だろう?どこも変わらないな」 魔法学院襲撃の後、アニエスはすぐさま王宮へと向かい、事の顛末を報告した。 生徒を人質に取られる等の失態を犯した以上、任務を外されるのも覚悟していたが、マザリーニ枢機卿を通じて任務を続行するよう指示が下った。 アニエスは分隊を招集し、部隊を再編成して魔法学院へと戻り、生徒への軍事教練と警備任務を続けた。 更に翌日の晩、アニエスはリッシュモンの屋敷を訪ねていた、隠れ住んでいるルイズと情報の交換をするためである。 ルイズは、そもそもが王家の傍流であるヴァリエール公爵の娘であり、社交界へ出ればアンリエッタに最も近づける位置にある。 社交界と、両親の会話の中から、ルイズは貴族の力関係を学んでいた。更に今ではアンリエッタの影武者として王宮内でも特殊な立場を得ている。 聞こえてくるのは、華やかな王宮の光と影であった。 魔法の使えない落ちこぼれとしてのルイズは、貴族の力関係に敏感だとお世辞にも言えなかった。落ちこぼれに向けられる言葉の数々はルイズを傷つけ、いつしか、心の痛みに過敏な反応を示すようになった。 魔法が苦手であっても、貴族らしい知識と行動をすべきだと自分に言い聞かせてきたのは自己を正当化して精神を守ろうとする自己防衛だったのだろう。 しかし吸血鬼と化したルイズは、それら一切の枷が外れる気がした。暗闇の中に光が差し込むような晴れ晴れとした気分だった。 吸血鬼となったルイズは、過敏でもなく、鈍感でもなく、貴族の力関係をありのままに観察できるようになった。 貴族社会の中で生きざるを得ないアニエスとルイズは、上手く立ち回るためにお互いに情報の交換を望んでいたのだ。 「ああ、そうだ、礼を言い忘れていたな。魔法学院から連れ去られた生徒を助けたのは、貴殿だろう」 「アンリエッタから聞いたの?」 「いや、私の憶測だ。その様子からすると事実のようだな」 アニエスが不敵な笑みを向けた、だが、アニエスの予想よりもルイズの表情は優れなかった。 「正直に言えばね…間に合わなかった。もっと早く駆けつけることもできたけど、私が魔法学院に近づくのは危険も伴うわ。だから…やめましょう。何を言っても言い訳になるわね、ごめんなさい」 ごく自然に謝罪されたのに驚き、アニエスは少しばかり狼狽した。 「ああ…その、何だ、これについて私から非難はできない。むしろ陰ながら支援してくれただけでもありがたいさ。我々の味方は少ないからな…」 「銃士隊は嫌われてるものねえ…」 「私は『女王陛下の足下をウロチョロするネズミ』だと言われているよ。我々の失態を心待ちにしている者がどれほど居る事やら」 そういってアニエスは笑った。自分たちの行動に自信があっての笑みではなく、アルビオンとの戦争を目前に控えて尚権力にしか興味のない貴族をあざ笑ったのだろう。 「我々銃士隊は、魔法学院での軍事教練を主として派遣されたが、警護をおろそかにして良いという訳ではない。女王陛下は、我々の責任は問わない形で話を進めると仰って下さったが……」 アニエスはため息をつく、生徒達を無事解放できたとはいえ、魔法学院が占拠された事実は覆せない、これは銃士隊の失態として取りざたされるだろう。 しかし、ルイズは笑みを見せた。 「その点は大丈夫よ、実はね、魔法学院に隣接する領地の貴族宛に『魔法学院の警備に力を貸すように…』と書簡を出していたの」 アニエスは、問うような目でルイズを見た。 「それだけじゃないわ、このリッシュモンの屋敷から『国境警備に関する資料』が押収されたことにして、将軍達の危機感を煽ってもらったの、そのすぐ後に魔法学院が襲撃されたわ」 ルイズは、足を組み、背もたれに体を預けた。 「わかる?周辺の警備隊、国境警備隊や近隣貴族は、魔法学院に向かう不審な船に誰も気がつかなかったのよ。そんな彼らじゃ銃士隊の責任なんてとても追及できないわ」 ふふふ、とルイズが笑い声を漏らした。 「ただし、貴女は責任を問われない代わりに、責任を問うことも出来ないわ。争えばお互いが傷つくから、銃士隊と軍が痛み分けをした形でオシマイよ」 話が終わると、アニエスは先ほどよりも少しだけ肩を落としている気がした。 「油断していた自分に腹が立つ…」 ぽつりと、アニエスがつぶやく。 「貴女は最善を尽くしたわよ。それでも油断というのなら、私も…」 (油断していなければ、吸血鬼にはならなかったのかしら) 声にならぬ呟きは、アニエスに聞かれることはなかった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ハンナは応接間の前に立つと、緊張した面持ちで応接間の扉を見上げた。 襟を正して、ノックをしようとしたところで「入って良いわよ」と声をかけられた。 ほんの少し驚いたが、気を引き締めて扉を開けると、アニエスと『石仮面』がソファに座っていた。 髪の色を除けば、アニエスと『石仮面』は姉妹にしか見えない、それほど二人は似ていた。 ハンナはワゴンを運び入れてテーブルの上に茶器と菓子を並べていく。 ティーポットから漏れる微かな香りから上等な紅茶だと解る、ルイズは飾り気のないティーポットを見て、口を開いた。 「香しいわね…アルビオンあたりの茶葉かしら。リッシュモンの置き土産?」 「はい。こちらは、お屋敷のお茶類をメイジ様が鑑定した際『アルビオン産の上等な物だ』と仰っていたものです」 屋敷には食料や嗜好品も残されていたが、これらはルイズ達がこの館を使うため、高級な物も回収されずに残っている。ただし食器類は安物しか残されていない。 「そう。注いで頂戴」 「はい」 給仕を終えたハンナが応接間を出ていくと、ルイズが感心したように言った。 「あの娘、よくやってくれるわ。不用意に近づこうともしないし変な詮索もしない、仕事は忠実。とても誠実な娘ね」 石仮面ことルイズが呟くと、小さなテーブルの向こうでアニエスが笑みを浮かべた。 「私が傭兵をしていた頃、トロル鬼から逃げていた彼女を保護したんだ。それ以来色々と世話を焼いてくれる。いい子だよ」 そう言って微笑むアニエスを、ルイズが身を乗り出してじっと見つめた。 「………ふぅん…へえ…」 「何だ」 「いい顔で笑うようになったじゃない」 「…そうか?」 背もたれに身体を預け、足を組むと、ルイズは紅茶に口を付けた。 アニエスは、不思議そうにルイズを見返して、ティーカップを手に取った。 しばらくの沈黙の後、ルイズが口を開く。 「ところで…」 「ん?」 「魔法学院が占拠されたのが一昨日の夜で、解放されたのは昨日の朝夜明け近く。そして…貴方が王宮に報告したのは昨日の昼前頃で間違いはないわね?」 「ああ。その通りだ」 頷いたアニエスも、ルイズが嫌に真剣な表情をしているのに気づいた、鋭い視線はアニエスを捉えているが、アニエスではなく別の何かを見定めている気がする。 「『”白炎のメンヌヴィル”率いる傭兵の一団が、アルビオンのフリゲート艦で魔法学院を急襲、生徒が犠牲になった』…この噂はすでに流れているわ」 「なに」 目を見開き驚くアニエスを、真っ正面から見つめ返しつつ、ルイズが紅茶に口を付けた。 「この噂は、一昨日夜にトリスタニアの酒場や宿で流されたと見ているわ。明日の朝には地方貴族の領主にも噂が伝わっているでしょうね…この意味解るわね?」 アニエスは少々乱暴にティーカップを置くと、忌々しげに拳を握りしめた。 「魔法学院に子弟を預けている貴族達は黙っていないだろうな」 「さっきも言ったとおり、貴女たちの責任は問われないだろうけど、矛先は女王陛下とウェールズに向けられるでしょうね」 「噂を流したのは、いったいどんな奴か目星はついているのか?」 「商人風の男だと聞いているわ。昨日からワルドが追ってるから、何か分かったらすぐに知らせるわよ」 「そうしてくれると有り難い。 しかし…」 アニエスは祈るように両手を組んだが、その手には力が、表情には苦々しさが見て取れた。 「ねえアニエス、アルビオンは兵も民も疲弊しているわ。トリステイン・ゲルマニアとの輸出入を封じられたら国力は衰える一方…そんな状況で戦争をするとしたら、貴方はどうする?」 「…アルビオンはハルケギニア最強と呼ばれる艦隊と竜騎士があるな、数で勝るトリステイン・ゲルマニアの戦力を相手するには、防衛戦ぐらいしか思いつかない」 その答えに、ルイズがにやりと笑った。 「ごく一般的で模範的な回答だと思うわ。ウェールズも、今の段階でアルビオンに攻め込むのは難しいわ。アンリエッタも慎重に事を進めようとしている。たぶん…ヴァリエール公爵やも同じ意見でしょうね」 「だが、魔法学院が襲撃された以上、猶予は無い…アルビオンの誘い通りに、罠の中へ飛び込む事になる…そういうことだな?」 「ええ。罠の中に飛び込まざるを得ないの」 話をしつつルイズは、ポットに残った紅茶をカップに注ぎ、二杯目に口を付けた。 ルイズとの間にしばらく沈黙が流れるが、その沈黙を破ったのもアニエスだった。 「…私も傭兵としてメイジを相手にしたことはある、卑怯と言われても仕方のない手をさんざん使ってきた。だが奴らのやり口は私には思いつかない。タガの外れたやり方だ。 なあ、石仮面、奴らは貴族だからかこんな手段ばかりを使うのか? 名誉などという美辞麗句で権力を欲しがる貴族連中はみんなこういう手を思いつくのか?聖地を奪還するために虐殺をしたいのか、何なんだ、奴らは!」 ルイズには、アニエスの不満が至極もっともな事だと思えた。レコン・キスタはタルブ戦で自軍の船を燃やして開戦の名目を作った、また貴族の子女ばかりが残る魔法学院を襲撃し人質に取るなど、トリステインはレコン・キスタの後手に回っている。 いつ来るのか分からない敵、どんな卑怯な手でくるか分からない敵を相手にし続けるのは心理的な負担が大きい。 「落ち着きなさい、今の貴女の反応そのものが彼らの狙いかもしれないわよ」 ルイズの言葉はアニエスを小馬鹿にするような雰囲気を纏っていた。 「…すまない。確かに、そうかもしれない」 気を取り直したアニエスは、さめかけた紅茶を口にした。 ルイズはポットを手に取り自分の紅茶をつぎ足しつつ、話を続けた。 「ほかにも懸念はあるわ。ガリアは中立を表明したけど、元々アルビオンとガリアの間では風石のコストがかかりすぎて、ラ・ロシェールほど頻繁な交易はできなかったわ。でもこれからは違う。 木材に恵まれたアルビオンは軍艦の材料こそ豊富、それを対価に風石をガリアから輸入せざるを得ないでしょうね。」 「ガリアは風石の鉱山を持っていると聞いたが、これを機に一儲けするつもりか」 ルイズはアニエスの言葉に頷いた。 「…それだけじゃないわね。ガリアにリッシュモンのような裏切り者や、レコン・キスタに人質を取られた貴族が居たとしたら、もっと大変よ。 既に、ウェールズに取り入ろうとする者もいるわ。彼はまだ賄賂をはね除けているけど、誰かが『ウェールズ派』を名乗り口火を切れば、トリステインは派閥争いで自壊するかもしれない。 後はゲルマニアね。トリステインの兵は、タルブ戦への助力を無視したゲルマニアを心の底で恨んでいるわ。この火種が連合軍という”わら”に燃え移れば………」 アニエスは目を細め、心底いやそうな顔をした。 「あまり想像したく無いが、それも有り得るだろうな。何せ私はよくゲルマニアと比べられる。『貴族を名乗る成り上がり平民』と…なんとまあ、ちぐはぐな国で同盟を結んだものだ」 「時勢って、そういうものでしょ」 「かもな」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ それから間もなくしてアニエスは、魔法学院の警備を続行するため、魔法学院へと戻っていった。 アニエスが去った後、ベッドルームに戻ったルイズがつぶやく。 「お疲れ様。貴方も一緒にお茶すればいいのに」 するとタイル状の模様が入った壁が、扉のように開かれ、ワルドが姿を現した。 「女性が二人で密談していると、入りにくくてな」 「のぞき見は良いの?」 「覗かれるためにあの部屋に居たんだろう?」 「まあね」 ルイズが使った応接間は、覗き穴から監視できるように作られていた。 監視用の部屋は地下の隠し部屋へと通じており、そこにはリッシュモンが残した魔法薬や麻薬などが残されていた。 「帰るのが随分早かったじゃない、噂を流していた男は捕まえたの?」 「三人捕まえたよ。眠らせて地下に転がしてある」 「そう、それじゃ早速尋問しましょ。貴方は明日に備えて休んでいいわ」 ワルドにそう告げて隠し部屋へと降りて行くと、壁はゆっくり閉じられた。 残されたワルドは漆黒の外套を脱ぎ、ベッドの上に腰掛けた、ちらりと机の上を見ると、女王陛下宛に出されたアニエスの報告書が置かれていた。おそらく、アンリエッタからルイズへと渡されたものだろう。 ワルドは何気なくそれを手に取り、中身を読み進めた。 報告書には、魔法学院が襲撃されて生徒達が人質に取られたという事柄と、幾人かの生徒と一人の教師の機転で反撃に転じ、返り討ちにした事について記されている。 さらに読み進めていくと、コルベールという教師は白炎のメンヌヴィルを圧倒する実力者だったらしい。 「………魔法学院のミスタ・コルベールが、『白炎のメンヌヴィル』を圧倒した……コルベールか、あまり聞かない名だが、そんな実力者が潜んでいたとはな」 ワルドは実力のある者が無名であることに驚いたが、すぐにそれが自分の先入観であると気づき、無名の実力者に敬意を向けた。 なぜなら、シュヴァリエを賜ったという『モンモランシー』と、元平民の『シエスタ』が治癒を施したが、ミスタ・コルベールは戦闘の怪我が元で息を引き取ったらしいのだ。 ワルドは、リッシュモンへの復讐をアニエスに譲った。 センチになったからではない、ワルドはワルドなりの考えがあったのだ。 ルイズの力で蘇った母を見て、死人が蘇るおぞましさを目の当たりにしたワルドは、リッシュモンへの怒りだけでなく、今まで自分が何をしてきたのかという絶望も感じていた。 しかし、それはルイズという『あこがれ』が全てを変えてしまった。 激しい怒りでも、深い悲しみでもない、死への納得……『リッシュモンを殺して死ぬのも悪くない』『ルイズのために死ぬのも悪くない』という、死への納得を得ていた。 「敵討ちを済ませたは良いが…おまえの魂は決着がつくのか?アニエスよ」 ワルドはパチンと指を鳴らし、マジックアイテムであるランプを消す。 暗くなった部屋で、カーテンの隙間から差し込む月明かりがやけにはっきりと見えている、斜めに差し込む光は、自分には上ることの出来ない、天国への階段のようだと思った。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あの日、ダングルテール。 海に面したトリステイン北西部の村々は、赤く燃えていた。 アニエスがまだ三歳の頃、浜辺で貝殻を拾っていたアニエスは、一人の女性が倒れているのを発見した。 指に輝く、赤いルビーの指輪が強く印象に残っている。 アニエスは恐る恐るその指輪に触れた、すると女性は目を覚まし、かすれたような声でこう問いかけたのだ。 「……ここは…?」 「ダ、ダングルテール」 そうアニエスが答えると、女性は満足そうに頷いた。 ぐったりとしている女性を見捨てておけなかったのか、アニエスは急いで村に戻り『浜辺に倒れている人がいる』と村人達に告げたのだ。 女性は瀕死の重傷を負っていたが、村人の手厚い看護によって一命を取り留めた。 ヴィットーリアと名乗るその女性は、貴族でありながら旧来のブリミルと貴族を中心とする教えから身を遠ざけ、平民の間で『新教徒』と呼ばれる実践的教義を信仰し生きようとしたらしい。 ロマリアに住んでいたが、いつしか新教徒への弾圧が激しくなり、なんとか逃げてきたと語った。 それから一月の後、トリステイン軍のある部隊が、ダングルテールへとやってきた。 村人達のほとんどは、悲鳴を上げることすらできずに火にまかれ命を落とした。 軍隊は問答無用で村を焼き払った、念入りに、確実に全てを焼き尽くしていった。 自分が生まれ、育った家は一瞬で炎に包まれた。 家族もまた、炎の中に消え、アニエスは自分が死ぬということを直感的に悟った。 アニエスは必死で炎の中を逃げ惑い、ヴィットーリアが隠れている家へと逃げ込んだ。 その時ヴィットーリアは、アニエスを抱きかかえ布団の中へと放り込む、するとすぐに男たちの声が聞こえた。 「ロマリアの女がいたぞ」 野太い男の声、続いて聞こえる呪文の詠唱。 アニエスがひっ、と怯えた瞬間に、ヴィットーリアが炎に包まれた。 薄れ行く意識の中、アニエスはヴィットーリアの水魔法が自分を包み込んでいるのだと、何となく理解できた。 炎からアニエスを守ろうと、自分の身を顧みず、身体を真っ黒に焦がしながらも詠唱を続けていた。 ……そして、アニエスは目を覚ました。 毛布から顔を出すと、そこは浜辺だった。遠くの空が赤く揺らめいていた。すぐにそれが炎に包まれた村の明かりだと気づく。 どうして自分だけが浜辺に居るのか解らず、辺りを見回すと、途切れ描けた意識の中で見えたヴィットーリアの最期と、誰かに背負われていた記憶が蘇る。 自分を背負っていた『誰か』は、首筋に火傷を負っていた。 首の後ろから肩にかけての、引きつったような火傷の痕は、アニエスの脳裏に深く深く刻み込まれた。 火傷痕を持つ男は、手に杖を持っていたはずだ、つまり、その杖で村を焼き尽くしたのだろう。その男が魔法で村を、人を、両親を、すべてを焼き尽くしたのだろう。 あれから二十年の月日が過ぎたが、火傷痕の記憶は決して薄れる事がない、だから、見間違えるはずもない。 魔法学院を襲撃したメイジの一団を撃退し、中庭へと走り出たアニエス。 彼女は、倒たメンヌヴィルを冷たい目で見下ろす男の首筋に、コルベールの首筋に、見間違えるはずもない火傷の痕を認めていた。 ◆◆◆◆◆◆ アニエスは全身を粟立たせ、怒りと喜びとに震えていた。 「貴様が……、貴様が魔法研究所(アカデミー)実験小隊の隊長か」 その問いにコルベールが頷く。 「応急の書庫では貴様のページだけが破られていた、リッシュモンがやったのかと思ったが…貴様がやったのか?」 「そうだ」 アニエスは無言で剣を抜き、コルベールに突きつける。 「教えてやろう。わたしはダングルテールの生き残りだ」 「……そうか」 「なぜ我が故郷を滅ぼした?答えろ」 コルベールは俯くと、静かに、しかしハッキリと答えた。 「……命令だった。疫病が発生したと告げられたんだ」 「疫病か…貴様、もう知っているのだろう。 疫病など嘘だったと、いつ気が付いた、最初から知っていたのか」 「焼かねば被害が広がる。そのように告げられた私は、仕方なくすべてを焼いた…。だが、部下の一人はロマリアの女を確実に殺すよう言いくるめられていたのだ、それを不審に思った私は、部下を問いただした」 「部下の責任にするつもりか?貴様は何も気が付かなかったと言うのか?」 「いや、火を放ったのは私だ。疫病が漏れぬよう作戦を決めたのも私だ。あの作戦が…要は〝新教徒狩り〟だったと知ったのは後の事だ。 わたしは毎日罪の意識にさいなまれていた…。先ほどメンヌヴィルの言ったままの事を私がやったのだ、女も子供も見境なくすべてを焼きた。 許されることではない。忘れた事もただの一度もない、忘れようはずがない…それで私は軍を止め、身元を隠すために部隊の名簿を破いた。 二度と炎を……、破壊のためには使うまいと誓って、間違った使い方をさせたくはなくて、魔法学院の教師になることを選んだのだ」 なんとなく…なんとなくだが、アニエスは『嘘はついてない』と感じていた。コルベールという男は本気で罪の意識に苛まれていたのだろう。 それが嫌だ。 何が嫌かと説明する事はできないが、とにかく、嫌だった。 「……それで、貴様が手にかけた人が帰ってくると思うのか?」 コルベールは首を横に振った。 「…私が何をしても罪が消えるとは思っていない、ただ、あの時の子供が、私を殺しに来るのなら、それでいいと思っていた」 「ふざけるな」 アニエスは得体の知れない苛立ちが身体を駆けめぐったのを感じ、氷のように冷たい怒気を放った。 リッシュモンを殺した時に感じたのはただの虚しさだった、それと同じ虚しさを目の前の男から感じるのだ。 ワルドがとどめをアニエスに譲ったとき、『こんなものか』という感想が頭に思い浮かんだのだ。 目の前の男からも、その時と同じ雰囲気が感じられてしまう、それが気に入らない。 しかしコルベールは杖を手にしている、戦う気があるのだ、生きるのを諦めていないはずだ。そうでなければ殺し甲斐がないではないか。 おもむろにコルベールが膝をついた、メンヌヴィルの首に指を当て、何かを確認している。 「何をしている」 「脈を取ったんだ、生きているかもしれないからな」 「自分で殺したのに、今更脈を取るのか?」 アニエスが訝しげな視線を向けると、コルベールは立ち上がり、杖を放り投げた。 「敵は居ないようだ、私を殺すのなら、いつでも構わない」 苛立つ。 「…ふざけるな」 はらわたが煮えくりかえる。 「ふざけるな!」 何が不満なのか自分でも理解できない。 コルベールはそんなアニエスを見て、こう呟いた。 「やりたまえ、君にはその権利がある」 その言葉がいつかのウェールズと重なった。瞬間、アニエスの怒りが頂点に達する。 「ふざけるなあ!!」 アニエスが全力を叩きつけるために剣を振り上げた、確実に殺すのなら突き殺したはずだが、苛立ちが彼女の冷静さを奪っていた。 だから、シエスタが間に合った。 「やめて!」 ズシャッ!という変な音と手応えが、アニエスの頭を冷やした。 頭を真っ二つに割るつもりで振り下ろした剣は、布に遮られて狙いを外した。 シエスタの持っていた布は自分の怪我に当てていた布で、血に塗れている、血は波紋を伝え、布を木材よりも堅く石よりも柔らかい『こん棒』へと変化させていた。 「邪魔をするな!」 邪魔者ごと着るつもりで逆袈裟に切り払うが、シエスタは棒状に変化した布で剣の軌道を逸らした。 その時、アニエスの手に不快感があった、シエスタの波紋が手を痺れさせたのだ。 咄嗟に距離を取り、剣の柄を握りしめて感触を確かめる、握力が失われていないと判断しもう一度剣を構えた。 「もうやめてください!コルベール先生は私たちを助けてくれたじゃないですか!」 「何も知らない奴が、邪魔をするな!そいつは村を、私の故郷を焼きすべてを奪った、そいつを殺すために私は二十年耐えてきたんだ!」 アニエス剣は、はっきりとシエスタに向けられた。邪魔をするならお前も殺すと目が語っている。 シエスタは故郷を焼き払ったという言葉に、思わず瞳孔が開いた気がした。だが、逃げようとはしない。 「…いいえ引きません。貴方の仇であっても、私たちを助けようとしてくれたんです、殺させたくありません!」 シエスタが叫んだ。 「よしなさい。私の事はいいんだ」 コルベールはシエスタの肩に手を置き、呟いた。 「でも…」 「いいんだよ」 シエスタを押しのけて、コルベールはアニエスの前に立った。 「……………」 無言のまま、コルベールはアニエスを見、アニエスはコルベールを見つめる、だがアニエスの目はどこか揺れていた。 仇を討つ、仇を討つ、仇を討つ、そう自分に言い聞かせて剣を握る。 『オレは……貴様のような腑抜けを、二十年以上も追ってきたのか……、貴様のような、能なしを!許せぬ!』 アニエスには聞こえなかったはずの、メンヌヴィルの言葉が聞こえた気がした。 自分でも気が付いている、自分はメンヌヴィルと同じだと、敵討ちのために戦い続け、シュヴァリエの立場を得るまでになったが、本質は強大な敵を討ち果たす事に充足を感じていた。 死ぬのが当然だと思っている相手を殺す程、むなしいことはない。 だが、それでも、かたきはうたねばならない 「……ッ!」 アニエスは剣を振り上げた、今度こそコルベールを一刀両断し復讐を終わらせるために。「いかん!」 コルベールが叫ぶ、本塔の脇に見えた人影から、魔法の矢が放たれるのに気が付いたからだ。 アニエスの懐に入りつつ、コルベールは身体を捻ってアニエスの身体をはじく、アニエスは体勢を崩されたが、なんとか踏みとどまってコルベールの背中に一太刀を入れた。 次の瞬間、ドバッ、という音と共に赤い血しぶきが、霧のように舞う。 「先生!」 シエスタがコルベールに近づく、コルベールは背中だけでなく胸から大量の血を流していた。崩れ落ちたコルベールへすぐさま波紋を流していく。 アニエスは、コルベールの負傷に驚きつつも、本塔の近くに目を懲らした。 傭兵のメイジと思しき男が、杖を握りしめてうつぶせに倒れている。 数回、赤く染まったコルベールの身体と、倒れているメイジを見比べて、ようやく理解した。 自分は今、この男に庇われたのだ。 昔と同じように。 それから、本塔の中で治癒を続けていたモンモランシーがこちらへと走ってきた、コルベールの怪我に気づいたモンモランシーは必死になって呪文を唱え、治癒を施していく。 治癒の苦手なキュルケも追いつき、コルベールの顔を覗き込んでいた。 アニエスは、わなわなと頬を震わせながら、横たわるコルベールを切り裂こうと剣を向けた。 しかし、キュルケがコルベールをかばうようにして覆い被さった。人を小馬鹿にするような笑みは消えて、どこまでも真剣な表情で、キュルケが叫んだ。 「お願い、やめて!」 「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!」 緊張で、すべてが凍り付きそうな時が流れた。 だが、モンモランシーが杖を下ろした事でその緊張は解かれた。 「モンモランシーさん!」 「……無理よ……もう…先生は…」 アニエスの手から力が抜け、剣はカラン、カランと音を立てて地面に落ちた。 皆が言葉を失う中、アニエスははっとして剣を拾い上げ、何も言わずに本塔へと戻っていった。 シエスタは、その後ろ姿を見送りながら、胸を痛めていた。 ◆◆◆◆◆◆ 本塔・学院長室。 傭兵を排除した後、オールド・オスマンは学院長室へと駆け上がっていった。 杖は寝室に置かれているので、走って階段を上がらなければならなかったが、波紋の効果により若者と変わらぬ勢いで走っていられる。 オスマンは学院長室に保管してある、予備の『水の秘薬』を水メイジに渡し、怪我人の治療に使わせるつもりだった。 学院長室にたどり着いたオスマンは、部屋を見渡して窓が一枚割られているのに気が付いた。 しかも、破片がほとんど落ちていない事から、外からではなく中から割られていると解る。 オスマンは机の中に隠されている秘薬を探そうと、自分の机を見た。 引き出しの鍵は壊され、中には物色された痕がある。 だが、不思議な事に金品や秘薬には手を付けられていなかった。 しかし、あるはずの大事なモノが、そこから抜き取られていた。 「…ない。無いぞ、奴ら、これの存在を知っていたのか!」 オールド・オスマンの机から奪われたのは、波紋の伝承書としてオスマンが記した『太陽の書』であった。 To Be Continued→ 71< 目次 >73
https://w.atwiki.jp/touhouvision/pages/482.html
《ルイズ》 No.1493 Character <第十六弾> GRAZE(2)/NODE(3)/COST(1) 種族:魔界人 (自動γ): 〔あなたの場の「種族:魔界人」を持つキャラクター〕が相手プレイヤーに戦闘ダメージを与える場合、〔相手プレイヤー〕が受けるダメージは+2される。 攻撃力(3)/耐久力(3) 「あらめずらしいわ 人間の人かしら?」 Illustration:せとらん コメント 魔界における村人A。 今回は種族:魔界人のサポートに終始している。 種族:魔界人が相手プレイヤーへ与えるダメージを増加してくれるが、キャラクターへのダメージは据え置き。 ユキ/13弾らのサポートをするインスタント雛人形の影響を受けないなどの細かい点を除き、基本的に攻撃力への戦闘修正の下位互換でしかない。 お誂え向きに種族:魔界人の全体強化には耐久力も上げてくれる神綺/7弾がいるので、このカードの立場は厳しいと言わざるを得ない。 神綺/7弾に比べて圧倒的に軽いという利点はあるが、魔界によりキャラクターの重さを誤魔化せるのが種族:魔界人の本領であり、また、種族:魔界人自体がそれほど序盤から攻めたいデッキでもないので、このメリットも些細なものでしかない。 どうしてもこのカードを採用するなら、神綺/7弾を積みにくい神綺/16弾と魔界蝶でビートダウンしていくタイプの魔界デッキとなるだろう。 神綺/16弾の横に1体据えるだけで魔界蝶が実質4/1グレイズ0のキャラクターとなり、クロックの加速を大いに補助してくれる。 また、神綺/16弾自身も11点をわずかグレイズ3で叩き出すキャラクターとなる。 神綺/16弾自体の戦闘力が異常に高いので、対キャラクターを気にしなくてよくなるのはこのカードと噛み合っている。 ただし、盤面に維持したいシステムキャラクターの割にやや脆いのには要注意。 リリカ・プリズムリバー/11弾であっさり沈んでしまうので、過信は禁物である。 関連 第十六弾 ルイズ/7弾 ルイズ/13弾
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3519.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ 闇を閃光が切り裂いた。 仮面の男の杖がまさしく閃光のような鋭さでユーノの胸に迫る。 「デル・イル・ソル・ラ……」 ユーノの振り上げるデルフリンガーが仮面の男の杖とぶつかり、小さく火花を上げる。 デルフリンガーの剣先は天を向き、男の剣先も天を向く。 勢いのままにユーノは弾むように後ろに飛び退いた。 軽い男の杖の方が先に攻撃可能となる。ルーンの直感がそう教えてくれたからだ。 そして、その通りに男は風切る音を鳴らす杖を振り下ろした。 「ウィンデ」 それで男が唱えていた呪文が完成する。 杖先に突如現れた空気の固まりが槌となった。エアハンマーの魔法だ。 ユーノはさらにもう一歩飛び下がり、剣から離した左手を広げ前に突き出す。 「シールド!」 エアハンマーがシールドとぶつかる音が夜のラ・ロシェールに響く。 手をたたき合わせたような軽い音だが、シールドを支えるユーノの腕には衝撃がわずかだが届いた。 「ふぅ、相棒。危なかったな。その光の盾がなかったら、骨の2本……いや5、6本くらい折れてたぜ」 ユーノの返事はない。 ただ、荒い息だけが連続している。 体が酸素を求めて、肺を無理矢理動かしていた。 咄嗟に返事などできはしない。 「あいつ、並じゃねえな」 町を覆うほどの木の化物。 無数のロケット砲を備えたゴーレム。 どちらも単純な攻撃力で言えば仮面の男よりもずっと強力だが、この男にそれらにない物がある。 優れた技量。 対人戦闘の経験の浅いユーノには、それは単純な破壊力よりもずっと恐ろしい。 今、仮面の男との距離は剣の間合いではなく魔法の間合い。 二つの月の光が互いの姿が隠すことなく見せている。 「来ない……か」 男がぽつりと呟く。どこかで聞いたような声だった。 「なら、先に行かせてもらうとしよう」 男が駆けだした。 ユーノに向かってではない。 桟橋に伸びる道につながる小さな路地に向かい駆けだしたのだ。。 「あっ!」 ユーノは男を追って走る。 空を飛ぶ魔法は使えない。重なる屋根が仮面の男を隠してしまう。 ルイズ達を追わせるわけにはいかないのだ。 息切れはまだ続いているが、ルーンがユーノの足に力を与えてくれる。 風の速さでユーノは仮面の男の前に駆けだした。 剣と杖、魔法とシールド、そして追跡。 ユーノと仮面の男はそれを何回も続け、そしてなおも続いていた。 戦う場もいつしか移り変わり、横に見えるラ・ローシュの整えられた崖の上にはフーケのゴーレムだった残骸が見える。 互いに相手を倒すほどの一撃を繰り出すせてはていない。 仮面の男が回り込み、桟橋に走ろうとすれば、ユーノはその前に立ちはだかる。 仮面の男の魔法はユーノのシールドに防がれる。 そして、ユーノの剣は仮面の男を倒せはしない。ユーノにはそれができない。 互いに決め手を欠いている。 ──ルイズを追わせないなら それでいいはずだ。 ワルド子爵もいるが、ルイズを守りながらの戦いでは不利になるはず。 だから、仮面の男はここで止めておかなければならない。 ユーノは仮面の男の動きを注視する。 ──次は魔法、杖、それとも…… 仮面の男はじりじりと間合いを詰め、また間合いを開ける。 そして、もう一度間合いを詰める、かとも思ったが仮面の男は足を止めた。 「終わらせるとしよう」 仮面の男が杖を空に突き出す。 杖の先から巻き上がる風は頭上のゴーレムの残骸とぶつかり、微妙な平衡を持ってそこにあった残骸を大きく揺らす。 そうなれば、支える物のない岩はその身を重力に任せ遙か下へとただ、ただ落ちていった。 その下にいるユーノはわずかに顔を上げると、左手を頭上に掲げた。 直後、光の魔方陣が湖面に広がる波紋のように姿を現す。その儚げな見かけとは裏腹に光の魔方陣は落ちる残骸を全てはねとばす。 同時に身を低くした仮面の男は呪文を唱えながら前に飛んだ。 「あっ!」 ユーノの作るシールドの傘の下に潜り込んだ仮面の男が呪文の最後の一説を唱える。 「ウィンドブレイク」 杖の前に渦巻く風が現れる。 さらに踏み込んだ仮面の男が杖を振ると、風は暴風となりユーノを襲った。 「う、わぁあっ!」 ユーノはデルフリンガーを振り下ろそうとする。が、体が硬直する。 わかっているのだ。剣では魔法は防げない。 「相棒!振れ!思いっきりな!」 デルフリンガーの怒鳴り声に押されるようにユーノは剣を振り下ろす。 切れるはずのない魔法の風を斬らんばかりの勢いで。 デルフリンガーが魔法を切り裂いた。少なくともそのように見えた。 魔法の風の中に入ったデルフリンガーは突如、光を放つ。 光の中で風はねじれ、うねり、刀身の中に吸い込まれていった。 「なにっ!?」 男が驚きの叫びを上げる。 それは、魔法がデルフリンガーに吸い込まれた事のみによる物だけではなかった。 振り下ろしたデルフリンガーは地面とぶつかり固い感触を腕に伝える。 その少し前、デルフリンガーは地面とは別の固い感触をユーノの腕に伝えていた。 今、ユーノの目の前に仮面の男はいない。 仮面を切り裂かれ、素顔をさらした男が1人いるのみ。 しかもユーノはその男を知っていた。 その男はユーノが信頼し、信用できると思った男だった。 ルイズを守ってくれると思った男だった。 「ワルド……さん!?」 ワルドはルイズと桟橋まで行ったはず。 そのときには間違いなくワルドと仮面の男は同じ場所にいた。 なら、このワルドは? ユーノは心当たりを1つ見つける。 ルイズと風の魔法のレポートを書いていたときに調べたあの魔法なら…… 「わかったようだな」 ワルドは唇をゆがめ、その表情に悪意を隠そうともしない。 「だが、私の勝ちだ。見たまえ」 ワルドの天を指す杖の遙か上を、空を飛ぶ帆船が通り過ぎていく。 「あれが……船?」 見ただけでは、どのような技術を使っているかはわからないが次元世界を探しても滅多に見られないような航空機だ。 あの、帆船のような形をした航空機こそフネなのだろう。 ユーノの目の前でフネは腹を、次に背中を見せる。 ルイズはあのフネの中にいるはずだが、その姿はユーノは見えようはずもなかった。 見えるはずもないが、ユーノは確かに船の中にルイズの存在を感じていた。 ユーノはその感覚に手を伸ばし、のばしきっても届かず、石畳を蹴る。 それでも届かず、魔力を体に纏わせ、空を飛んだ。 「私の勝ちなのだよ」 口の端をゆがめるワルドの持つ杖が、魔法を紡ぐ。 魔法の力はわずかに口笛の音を立てながら空気を集め、その固まりをユーノめがけてごうっと振り下ろした。 「わぁっ!あ、あああっ!!」 ユーノの体をくの字に曲げて地面にぶつかる。何かが砕ける音が体のどこかでした。 次に、ユーノの体は伸びきって弾み、路地の中に飛び込んでそこに置かれた木箱の上に落ちる。 月明かりがあるとはいえ、今は夜だ。 うっすらとした埃が路地の入り口をふさいでしまった。 「ふ……む」 ワルドは振り下ろした杖を再び上げ、次の呪文を唱える。 組み合わせるのは、風を3つ。 少年1人を砕くには十分な数だ。 倒すではない。殺すでもない。 ワルドはユーノの体を砕こうと、呪文にあわせて杖を振った。 「がぁああああああああっ!?」 ワルドの口から出たのは呪文の最後の一節ではなかった。 苦痛の叫びを上げ、地面を転がる。 杖と共に貴族の象徴であるマントが深紅に燃え、彼の背中を飾っていた。 「ワルド子爵。今のはどういうわけかしら?」 ワルドを燃やす火の魔法の使い手の声が夜の町に響く。 炎に照らされる赤い髪と褐色の肌。 伸ばした長い手に杖を持ち、倒れているワルドを見下ろすのはキュルケ・フォン・ツェルプストー。 彼女の右には眼鏡の奥から静かな視線を向けるタバサが体には不釣り合いな杖をワルドに向け、その左にはしきりにワルドとキュルケを見比べるギーシュがおろおろしていた。 「彼は私達の敵だったのだ」 「あら、それは嘘ですわね」 杖を振るう音が小さくする。 ワルドがその音の元を見ようと首を動かしたとき、タバサの唱えたウィンディアイシクルの氷の槍がその体を貫ぬいた。 とたんに突風が吹き上がり、ワルドを包む炎がさらに大きくなった。 「し、子爵が。あぁあ……き、君たち。何をしたかわかっているのか?」 大きく開いた口をわななかせて、無意味に手足を振り回すギーシュを無視してキュルケは燃えるワルドを蹴飛ばしたが、彼女の足には何も当たらない。 「え?」 「よく見なさい。何もないわ」 蹴散らされた火が爆ぜて消えていくだけだった。 「ど、どういうことだい?」 「あなた、授業を聞いていなかったの?」 ため息混じりにのキュルケが足下の火を踏みつけていく。 すでに魔法の効果の切れた炎はそれだけで消えていった。 「ミスタ・ギトーが言ってたでしょ。飽きるくらいに。風の遍在よ」 「遍在?」 「そう、遍在。あのお髭の子爵様、スクエアだって話だし。それなら、風の遍在が使えても不思議じゃないわね」 「だったら、子爵が言ってたようにあのユーノという子供がルイズ達の邪魔をしようとして、それで子爵が魔法を使ったんじゃないのか?」 「あ、それはないわね。絶対に」 根拠など無い女の堪ではあるが男のこととなるとキュルケはこれを滅多に外さない。 タバサのことで外したことはあったが、あれはタバサが女なので数には入れていない。 そのタバサはと言うと、ユーノが飛び込んだ路地の入り口にしゃがみ込んでその中を杖で探っていた。 「何か見つかった?」 こくりとうなずいて、タバサは立ち上がって振り向く。 手の中には小さな白いフェレットが抱かれていた。 「みつけた」 「あら、そっちのユーノ?人間のほうは?」 「いない」 タバサの胸元でユーノはぐったりと動かない上に、元は淡い琥珀色の毛皮の所々には赤い汚れがついている。 ワインや果物の染みではない。間違いなく血だ。 「大丈夫なの?」 タバサはうなずく。 「傷はふさがっている。息もしている。平気」 ユーノがわずかに動いて空に向かって小さく鳴く。 キュルケにはそれが空にいるルイズに声を届けようとしているように見えた。 その後、キュルケ達はゴーレムが暴れた現場を急いで離れた。 ゴーレムがいなくなって、ようやくラ・ロシェールの衛兵達が駆けつけてきたのだが、キュルケ達はそれにつきあうつもりはなかった。 これで静かになって今後のことを考えられるかと思ったがそうはいかない。 「あぁ、どうしよう。どうしよう。僕はこれからどうすればいいんだ」 頭を抱えるギーシュがそこら辺を歩き回って、かなりうるさい。 「少しは落ち着きなさいよ」 「落ち着けるものか!一体ルイズはどうなったんだ?子爵は何をやっていたんだ?任務はどうなるんだ?」 「黙りなさい!」 魔法で作った炎でギーシュの髪の毛を軽くあぶってやった。 少しは静かになるかと思ったが、逆にギーシュのわめき声で騒がしくなってしまう。 「はぁーー、これからどうしよう」 ため息をつくキュルケに頭の火を消し終えたギーシュが勢い込んで答える。 「もちろん僕はルイズを追う。そして任務を達成する!」 「あんた、ルイズがどこに行ったか知ってるの?」 「う……アルビオンじゃないかな」 「そんなことわかってるわよ」 またため息が漏れる。 そんなことは分かり切っている。 こいつは当てになりそうにない。 「ねえ、タバサ。貴方はどうするの?」 「追いかける」 即答だった。 しかも、それはたぶん無いだろうと思っていた答えが即答で返ってきた。 「本気?」 タバサはいつものように無言で首を縦に振る。 ワルド子爵が怪しいのなら、ここから先は今までよりもさらに危険になるかもしれない。 戦地のアルビオンに行くとなればなおさらだ。 それなのに、タバサがそこまでしようとするとは思わなかった。 「貴方、そんなにルイズと仲良かった?」 今度は首を横に振る。 「でも心配。だから行く」 それならキュルケもタバサを1人で行かせのは不安になる。 ギーシュも着いていくのならなおさらだ。 キュルケまでルイズの心配をしているように見られそうなのが釈然としないが、 「ま、一緒戦った仲って事にしておきましょう」 キュルケはそれで納得することにした。 とはいうものの、それでも問題はまだある。 「ねえタバサ。あなたのシルフィードでアルビオンに行ける?」 タバサは黙って肯定する。 いつもながら、簡単な答えだ。 「じゃあ、アルビオンまではそれで良いとして問題はアルビオンのどこに行けばいいかよね。ギーシュはどこが目的地かは知らないって言うし……」 「うむ。目的地はルイズにしか伝えられていない。重要な任務だからね」 ──ダメだ。こいつ本当にダメだ 三回目のため息をつき、キュルケは夜空を見上げる。 とりあえず、アルビオンに行ってみるのがいいかもしれない。 アルビオン最接近より前の日にラ・ロシェール出て、アルビオンの港に入るフネはかなり珍しいはずだ。 そこから辿れるかも知れない。 ──よし、これでいきましょう 「うわああ?わあ、あぁあああああ!?」 ようやく決まった決心を台無しにするギーシュの叫び声。 キュルケが赤い怒りを宿したような視線を向けると、ギーシュの背がどんどん伸びていく。 「た、助けて。助けてくれぇえ」 よく見ると背が伸びているわけではない。 ギーシュの足下がどんどん盛り上がっているのだ。 木の芽が土を割る様子にも似ているが、そんな物とは比べものにならない速さでまだ盛り上がる。 「だ、誰か。だれぁ……ぐあっ」 ふるえる足を踏み外したギーシュはひっくり返って盛り上がった土の上から落ち、後頭部を石畳にぶつける。 目を回すギーシュの上に黒い影がのしかかった。 土をふるい落とし姿を見せたのはギーシュの使い魔ヴェルダンデだった。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3343.html
前ページ次ページゼロと魔砲使い そこに現れた人物を見て、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは激しく混乱していた。 春の使い魔召喚の儀式――これに失敗すれば後はない――において、彼女はある意味初めて魔法に成功したといえる。彼女の呼びかけに答え、それは召喚されたのだから。 だが、今彼女の目の前にいるのは。 年の頃は自分より上、明らかに大人の女性。 肌の色は自分たちよりやや黄色っぽいが、キュルケのように濃い色ではない。 髪は長い栗色、頭の横でくくられている。 着ているものは見たことのない意匠の服。かなりきっちりとしたイメージの服で、色は白と紺、スカートも短めではあるが裾が縮まっていて猥雑な感じは受けない。全体的に見れば自分たちの制服をもう少しお堅くしたような感じがした。 そして彼女のまわりには、金属とも木とも付かない何かで出来た、薄い箱のようなものがいくつか落ちていた。これはおそらく彼女の私物であろう。 身なりはよいが、杖やマントは所持していない。ということはたぶん裕福な平民であろう。 と、そんな風に説明できる女性が、気を失ったまま、ルイズの目の前に倒れていたのであった。 混乱が収まるにつれて、ルイズは自分が何を召喚してしまったのかを理解した。 「ミスタ・コルベール!」 あわてつつも、今回の儀式を取り仕切る教師である、コルベール師に声をかける。 「も、もう一度召喚させてください!」 しかし、彼女の意に反して、コルベールは首を横に振った。 「ミス・ヴァリエール……遺憾ながら、例外は認められない。春の使い魔召喚の儀式はすべてにおいて優先する神聖なもの。続きを」 まわりでは級友達が平民を召喚したのなんだのと盛んにはやし立てているが、そんなものは今のルイズの耳には入っていなかった。 内心不満ではあったが、これを拒絶すれば自分は落第確定である。そうなればいくら何でもこの場にはいられない。故郷へ強制送還の上そのまま事実上の幽閉、ろくに魔法も使えない公爵令嬢として、いずれ待つのは政略結婚であろう。 一応婚約者くらいは居る身であるが、魔法学校を落第中退となったら、そんなもの解消される可能性の方が遙かに高い。何しろ彼はきわめて優秀なメイジとして王家に使えている身なのだから。 (でも、いいのかしら……どう見ても自分より年上の女性を使い魔にするなんて。身の回りの世話はしてもらえそうだけど、それ以外のことには期待できそうもないわよね、はあ……) 邪険に扱うわけにも行かないだろうし、まあ、メイド扱いくらいかな、と、多少不埒なことも思いつつ、ルイズはコントラクトサーバントの呪文を唱え、いまだ眠ったままの彼女と唇を合わせた。 と、その時、彼女の胸元で、何かが光った気がした。 突然マスターに注ぎ込まれた強力な魔法に反応して、レイジングハートは覚醒した。次元間移動と思われる現象にマスター共々巻き込まれ、その衝撃で機能不全に陥っていたようだ。 そこにゼロ距離で、マスターのものとは異質の魔力が注がれたことを彼女は感知した。 しかもどうやらその魔力には、マスターに対して肉体的・魔法的危害を加える要素が感知された。すでにマスターの肉体および魔力線に対する侵略行為が行われている。 直ちに対抗魔法を執行しようとしたが、その侵食はあまりにも強力であり、また、発動場所がマスターの体内であることが災いした。外部からの干渉であれば、干渉元との連結を断ち切ることによって対抗できたであろう。 だが問題の術式は接触によって直接マスターの体内に打ち込まれた。こうなると対抗術式の起動はマスターに想像以上の負担をかけることになる。 ただでさえ現在、マスターの内部にはかつての事件による後遺症が残っている。外面的にはほぼ完治したように見えるものの、内部には細かい傷が無数に残っている状態だ。 そんなマスターの内部で魔法をぶつけ合ったりしたら間違いなくマスターの肉体に今以上の負担をかけることになる。 打つ手なしであった。 “申し訳ありません、マスター。防御に失敗しました” 小さく、はかなげにつぶやくレイジングハート。だが、意外なことに彼女は気がついた。 体内に侵食した謎の術式は、その過程において、急速にマスターの魔導的内部障害を修復していく。 リンカーコアとの間に独自の連結線構成。 神経回路・筋肉組織内に魔力制御可能な副次ユニットを構成。 左手に収束端末を兼ねたセンサー回路を形成。 脳の一部と接触する形で各種情報を魔導的にやり取りするためのカプラー端末を作成。 レイジングハートにはこのシステムに見覚えがあった。 (リインフォースⅡのユニゾンシステムに酷似) そして、このマスターに対する魔導的改造は、レイジングハートには接触できない領域にストレージデバイスによく似たメモリのようなものを形成して終了した。それと同時に、今の術式によって肉体的な痛みを覚えたマスターが覚醒する。 レイジングハートは、いずれ行われるであろうマスターの質疑に答えるためのデータの作成を開始した。 使い魔のルーンが刻まれる衝撃で、使い魔となった女性が目を覚ましたようだった。 「あなた、誰?」 寝ぼけ眼の女性に、ルイズはそう問いかける。瞳は黒い。食堂のメイドに似たような色のがいた気がする、と、彼女は思った。 「ここ……どこ?」 彼女は私の問いには答えず、辺りを見回しながらそう聞いてきた。 ルイズは少しむっとしたものの、無理もないと思い直し、彼女の問いに答えた。 「ここはトリステイン魔法学院。あなたは私の使い魔としてここに召喚されたのよ」 「トリステイン魔法学院?」 「そう。で、あなたは?」 名を聞かれていることに気がついた彼女は、見た目より幾分若く感じられる口調でそれに答えた。 「あ、私は高町なのはです」 「タカマチナノハ? 珍しい名前ね。私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。私のことはご主人様と呼びなさい」 いきなりそんなことを言われ、さすがになのはもとまどった。 「い、いったい何事なの? なんでご主人様?」 “落ち着いてください、マスター” そこに挟まるレイジングハートの声。なのははすっと落ち着いたが、逆にルイズの方がびっくりして彼女から距離を取った。 「だ、誰?」 その様子を見たなのはは、レイジングハートに念話で話しかける。 (ね、レイジングハート、いったい何があったの?) (“どうやら我々は、彼女の召喚を受けたようです。キャロ達が使うものとは形式が違う、未知の魔導によって”) (召喚? それで全然知らないところにいるんだ) (“はい。それで、申し訳ないのですが、マスターが意識を失っている間に、何らかの魔導改造による拘束を受けた形跡があります。詳細は不明ですが、未知の形式と既知の技術が組み合わさったような、不可解なものです。 幸いですが、現在のところマスターの身体に不都合な影響はありません。むしろ、生体強化のような、マスターに有益な改造の気もします”) (有益な改造? でも、とにかく手遅れなわけね……) (“はい。彼女が『使い魔』といっていたところからすると、従属の術式である可能性が高いと思われますが、現時点でその形跡は見られません。なお、マスターを悩ませていた後遺症が、一連の改造の際に取り除かれました。僥倖ですが”) (人間の強制召喚、後に無断改造、おまけに従属強制……ものすごい重大犯罪だけど、まわりの様子からすると、そんな感じは受けないわね。ごく当たり前の事みたいだし) 周りを見れば、自分に語りかけてきたルイズという女の子と同年代の少年少女が多数、その大半は様々な動物と一緒にこちらを注視している。 そこでなのはにも判ったことがあった。 (その改造……本来動物用なのかな) (“使い魔という呼び方からして、可能性は高いと思います”) なのはは一度頭の中の情報を整理した。 トリステイン魔法学院。 召喚と従属による使い魔獲得。 だとすると、一連の行為はこの社会においてごく当たり前のもの。 ……自分にはそんな社会形態に心当たりはない。 結論。 未知の形式の魔法が存在する管理外世界からの強制召喚。 >現時点において彼女の行為を犯罪として罰することは出来ない。 >同時に自分のミッドチルダおよび日本国民としての権利行使も無意味。 >>元の世界との接触が確保できるまでは、自己の生命に危険がない限り彼女たちに敵対するのは不可。それは他世界の文明・文化を不当に弾圧・糾弾することとなり、他世界文明の保護に関する法律違反になる。 一応、隷属の強制という、自己の尊厳に関わる行為は行われているものの、もう少し情報が集まってからでないと勇み足となる可能性も高い。管理外世界に対する干渉には、かなりの慎重さが要求されるのだ。 自分から見てどんなに非道、無体な行為でも、現地社会において容認されているのならば否定は出来ない。なのはだって、自分のふるさとである地球――第97管理外世界に対して、管理局が侵攻して地元の文化を野蛮だの、質量兵器行使だのと糾弾・否定されるのはいやである。 “郷に入りては郷に従え、ですね” とどめを刺すレイジングハートの言葉に、なのはは大きくため息をついた。覚悟を決めて、あまり言いたくない言葉を口にする。 「で、私はどうすればいいんでしょうか、ご主人様」 それが、後にこの世界、ハルケギニア6000年の歴史を終焉させたあの大事件の始まり、ルイズとなのはの邂逅であった。 前ページ次ページゼロと魔砲使い
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6998.html
前ページ次ページルイズと無重力巫女さん ―その時の事は今も尚覚えていて、時には眠っているときにさえあの光景が夢としてよみがえる。 銀の降臨祭の前日、その日私と母はとある事情で父の友人宅で過ごしていた。 薪をくべられた暖炉の中で炎がまるで生きているかのように動き、部屋の中を暖めてくれる。 窓から外を見れば空から降ってくる白い雪が地面や木の上に積もり、辺り一面は銀世界であった。 まだ小さかった私はイスに座ってくつろいでいた母の横に座り、古ぼけた壊れたオルゴールで遊んでいた。 最初このオルゴールを見つけ、試しに開けてみたがウンともスンともいわなかった。 その後、秘宝と呼ばれていた指輪を嵌めて遊んでいたある日のこと… ちょっとした弾みで間違ってオルゴールの蓋を開いたところ、鮮やかな音楽がオルゴールから聞こえてきた。 少しギョッとしたものの、その音色を聞くと何故か懐かしい感じがして安心するのである。 そして今日もオルゴールが奏でてくれる音楽は私の耳を癒し、心地よい気分にさせてくれる。 母はそんな私を突然抱き上げると膝の上に自分を乗せ、頭を優しく撫でてくれた。 私のよりも少し大きく、細くて…そしてとても暖かい母の手の感触は今も忘れていない。 自分が顔を向けると、母が優しく微笑んでくれた。 ―――――それが、最後に見た母の笑顔であった。 今思えば…きっと母は自分の末路を予想していたのだろう。 「―――!――――――?」 「――――――!?―――――――!!!」 「―――――!!」 突然、ホールの方から何やら騒ぎ声が聞こえてきた。 何事かと思い、私がホールへと続くドアの方へ顔を向けた直後――――― 今まで背中を丸めて昼寝をしている猫の様に静かだった母が自分を乱暴に抱き上げたのだ。 突然のことに私はビクッと体を震わせ涙目になってしまう。 「い…イタイ!お母さん何するのっ!?」 私の悲痛な声に母は何も言わず、部屋に隅に設置されていたクローゼットを開け、その中に私を押し込んだ。 いきなりの豹変ぶりに私は思わず泣きそうになったがその前に母が私の口を手で押さえつけ、言った。 「いい『 』?貴方はまだ小さい、だからまだもっとこの世界の素晴らしさを知らなければ行けない…。 私はその全てを貴方に教えてあげることはもう出来ないけど――――」 その時、部屋の外から何やら叫び声に混じって魔法が飛び交う音まで聞こえてきた。 魔法の音に交じり、何かが倒れる音も聞こえてきた。 母はハッとした顔になると私の額にキスをし、クローゼットを閉めてしまった。 そしてその瞬間、ドアが開く音と共に足音が私の耳に入ってくる。 この時は何か急ぎの伝言でもあったのだろうかと訝しんだけど、それは違った。 私はクローゼットの外から聞こえてきた男の声を聞いて震え上がった。 「間違いない―――エルフだ。」 それは私が生まれてこの方初めて聞いた、憎しみが篭もった声であった。 まるで憎しみの念を凝縮し、それを体に無理矢理押し込まれたような者が発しているような声…。 男の声に恐怖した私は、肌身離さず持ち歩いていた父の杖を両手で持つとギュッと握りしめた。 それから数秒してから、華麗で清楚な母の声が直ぐ傍から聞こえてきた。 聖職者のように杖を握りしめて震えている私を励ますかのように… 「なんの抵抗も致しませぬ、私たちエルフは争いは望ま…」 だが、母の言葉を遮るかのように男の怒声が私の耳を突いた。 「ほざくな化け物め!やってしまえ!」 次いで聞こえてきたのは母を襲う激しい魔法の音。 薄いクローゼットのドア越しに聞こえてくるのは詠唱する男達の声と何かを切り裂く音。 死ぬまで私を気遣ってくれたのか、母は泣き叫ぶようなことはしなかった。 それから数十分…もしかするとたったの数十秒かも知れない。 魔法の音がふと途切れ、誰かがクローゼットの方へと近づいてきた。 足音に混じって鎧が擦れる音も聞こえるから、きっと母を殺した連中の者だろう。 やがて足音はすぐ私の目の前まで来ると聞こえなくなり、――――――――そこで目の前が真っ暗になった。 ◆ 「ん…、うぅん…。」 夢から覚めた私は目を開き、二、三回瞬きをするとゆっくりと上半身を起こし、ため息をついた。 (あの時の事を夢見るなんて…。) 私はうんざりしたように心の中で呟くと、ふと辺りを見回す。 どうやら、うっそうと生い茂る森の中で寝ていたようだ。 足元を見てみると篭が転がっており、その周りには色鮮やかな木の実が転がっている。 ソレを見た私はある事をすぐに思い出すことが出来た。 自分が木の実拾いの帰りにもの凄い音を聞いてそちらの方に近づいていった事。 そこで見知らぬ人間に見つかってしまい、その際に帽子が頭から取れて…それで耳を見られて――――― 「どうやら起きたようね。」 ふと声を掛けられた私は後ろを振り向き、そこにいた人物を見て目を丸くした。 後ろにいたのは黒い髪に見たことのない紅白服を着た少女であった。 その年相応な少女の顔と、それに対立するかのような年齢的に不相応な白けた瞳を見た途端、私は思い出した。 帽子を落ちた事に気がついた私はとりあえず帽子を手に取り立ち上がろうとした。 だけど、石か何かに躓いてしまい体勢を崩して後ろに倒れて目の前が真っ暗になって――― 全てを思い出した私は『耳を見られてしまった』という事に焦りを感じた。 母から受け継がれたこの耳はこのアルビオン大陸だけではなく、その下にある世界で暮らす人々に畏怖の対象として見られている。 力なき者なら恐れおののいて逃げてしまうが、力を持つ者なら間近いなくその耳の持ち主を『殺す』であろう。 よく見ると杖を右手に持っているメイジには違いない。 私の母もこの耳の所為でメイジ、というより貴族達に殺されてしまい、私はそうなるのを怖れてこの森の中で暮らしている。 これから起こるであろう結末に私は恐怖の余り動くことも出来ず、少女の方へと顔を向けた。 彼女は先程と同じように白けた目で此方をジッと見つめており、私はその目を見て少しだけ驚いた。 その瞳には私の『耳』に対する怒りや殺意、そして怖れの色は一切見えない。 (まさか…この人は私の耳を見て何も感じていないの…?) 「ねぇ、少し聞きたいことがあるんだけど。」 少女が口を開き、鈴のように綺麗で、だけど何処か冷たい響きを持った声で私に話しかけてきた。 「あ、はっ…はい!?…こ、ここはアルビオンのウエストウッドっていうところだけど…?」 突然話しかけられた私はビクッと体を震わせ、過剰に反応してしまった。 一方の少女も、『アルビオン』という言葉を聞いて納得したように頷いている。 「成る程、ここがアルビオンってわけだったのね…。」 彼女は一人そう呟くと、すぐに私の方に顔を向け、話しかけてきた。 「でも――――なんでそんなにビックリしてるのよ?」 私はその言葉を聞いて、今確信した。 ―――――ああ、この人は私を全然怖れてはいないのだと。 「……だ、だって貴方みたいに私を怖れない人は初めて見るから…。」 それでも、まだ油断は出来ないと思った私は恐る恐るそう言った。すると彼女は… 「なんで何もしてこないアンタを怖がらなきゃいけないのよ。」 と、めんどくさそうに言った。直後――― ぐぅ~… 彼女の腹部から何処か悲しげな音が聞こえてきた。 それを聞いた私は少しだけ唖然し、数秒おいてから口を開いた。 「あの…お腹が空いてるなら、何か食べるものをあげるけど…?」 ◆ 幻想郷 迷いの竹林――――― そこは人里から見て、妖怪の山から反対側に位置に広がっている。 一度入れば地面の僅かな傾斜の所為で斜めに生長している竹の所為で常人ならすぐに平衡感覚を狂わせる。 妖獣なども好んで住み着いている危険な竹林の中に、『永遠亭』という大きな屋敷が存在している。 見た目は伝統的な日本家屋ではあるが、築数ヶ月くらいしか経過していないかと錯覚するほど古びた様子を見せない。 そんな奇妙な屋敷に住んでいるのが、人里との交流を殆ど持たない者達と多数の兎達である。 永遠亭は外見と同じく、屋敷の内装も正に歴史ある日本家屋の造りである。 しかし、とある一室だけは雰囲気がまるで違っていた。 床、天井、壁は全て白色に統一されており、置かれているデスクには多数のビーカーやフラスコが置かれている。 他にも外の世界で言う顕微鏡みたいな物もあり、部屋を見ればそこの主がどんな人物なのか大体見当は付きそうだ。 その部屋の主人である八意永琳は椅子に腰掛け、背もたれに身を任せ何やら考え事をしていた。 だいぶ前に、文々。新聞で『博麗の巫女が幻想郷から失踪!』という記事がデカデカと載ってあった。 その記事を見たときはまさか捏造か?とは思ったがすぐにその考えは人里での薬売りから帰ってきた優曇華の報告で否定されてしまった。 どうやら白黒やあの紅魔館の瀟洒なメイドといったあの巫女と関わりがある者達がせわしなくあちこちを飛び回っているらしい。 話を聞いた永琳は輝夜にこの事を報告したところ―――― 「その事なら今知ったばかりよ。」 ――――文々。新聞に目を通しながらそんな返事を返してきた。 適当な返事ではあるが、輝夜が今回の異変に心の中で冷や汗を流している事を知っている永琳は何も言わなかった。 博麗の巫女が幻想郷から失踪、つまりは『博麗大結界』の崩壊を意味している。 もし幻想郷が消えれば、幻想にしか住めない者達には破滅の一択しかあるまい。 それに永琳や輝夜にとって此所は、『月』の追っ手から隠れるのに最適な場所でもある。 その後、優曇華や竹林に古くから住んでいるてゐに情報を収集するよう命令を下した。 だが、先に行動している者達同様、有力な情報は何一つ掴めなかった。 それから何日か後、今日の朝早くに八雲紫の式から紅魔館で話があるから来いと言われた。 本来なら永遠亭の主である輝夜が行くべきなのだがその事を輝夜に伝えたところ―― 「面倒くさいから代わりに行ってこい。」 ――とあっけなくそう言い返してきたので、とりあえずは代わりに行くことにした。 しかし、外では未曾有の異変が現在進行形で進んでいるというのに輝夜はと言うと外のことなど知らんぷりである。 だけど――恐らくはもう理解しているのだろう。 「このまま無駄なことをやっても幻想郷崩壊は時間の問題」だと言うことに。 …と、まぁそんなこんなで永琳が代わりに行ったものの、その時に八雲紫の言った言葉は強烈であった。 博麗の巫女が何処へ行ってしまったのか特定できたこと―― 幻想郷を覆う結界が全く別のモノになってきているということ――― そして、時が来れば巫女がいるその世界へ乗り込むということ――― 流石幻想郷の創造主であり、境界を操る妖怪だとこの時ばかりは思った。 他の者達より遙かに格上の情報を持っていて、更にはもう解決の目処も立っている。 正に賢者というのはああいう者の事を言うのである。いささか胡散臭いのは唯一のキズであるが。 それからすぐに永遠亭へと戻り、この事を輝夜に報告したところ―――― 「あの巫女を救うのはいいけど、アイツの事だからその世界をついでに滅茶苦茶にするかもね。」 という、何やら物騒な事を言ってきた。 まぁ確かに、八雲紫は幻想郷を愛しているというし腹いせぐらいにそんな事はするかもしれない。 巫女を攫ったという『ソコ』がどんな場所かは知らないが、間違いなくある程度は地獄絵図となるだろう。 と、そんな事を思いながら自分の研究室へと戻ってきた永琳はふとある考えが頭の中をよぎった。 (それにしても、幻想郷の住人を連れ去るなんてねぇ…。) 以前永夜異変の後に八雲紫からここにいれば月の追っ手から隠れる必要は無いと言われていた。 それ以降は永遠亭の住人達もやけに外へ飛び出していくことが多くなっている。 最近は輝夜が何やら博覧会を行う気でいるらしい。とか等々… まぁその話は置いておくとして。問題は「幻想郷の一角を担う博麗の巫女を連れ去った者の力」である。 連れ去られた博麗の巫女とは一戦交えたこともあり。弾幕ごっこではあったが、ある程度しか歯がたたなかった。 まぁ一応とある事情で自分の力はある程度セーブはしていたが、もし全力で言ったとしても後一歩と言うところで負けてしまうかも知れない。 それ程にも彼女は強力無比、どんな存在にも縛られず、必要とならば今日の味方を撃つ無慈悲さ。 故に最強であり、故にどんなものも彼女に干渉できない。 (そんな博麗の巫女を攫う程の力を持つ者なんているのかしら…。) 何に考えなければ答えは自ずと出てくる、無論―――それは否だ。 だがしかし、普通に考えるのではなく【逆】に考えるともうひとつの答えが浮かび上がってくる。 「博麗の能力すら凌駕する力を持った者がいるとでも…。」 その答えを否定することは簡単なようでそうもいかないのである。 (その答えだと結界の事もある程度納得が付きそうね。) 今回八雲紫が話した結界の変異も恐らくは博麗の巫女を攫った者の仕業なのだろう。 紫がこう言っていた「霊夢を攫っていった鏡と同じ術式を感じる」と。 一体何処の誰かは知らないが優しいことをしてくれる―と思った。 その優しさが仇となったとは思ってもいないのだろう。 ただ、永琳には一つだけ気になることがあった。 博麗の巫女を連れ戻すためにそこへ乗り込むのは良い、しかしもしそこでもめ事があった時―― (巫女をいとも簡単に連れ去るような強力な力の持ち主相手に勝てるのかしらねぇ?) 少なくともあのスキマ妖怪がそう簡単にやられるという事はなさそうだが… そこまで考えた永琳は一息つくと目を瞑り、数分してから彼女の口から寝息が聞こえ始めてきた。 ◆ アルビオン大陸にあるレコン・キスタの本陣――― 丁度陣の真ん中に設置されている大きなテントの中で、二人の男女が話をしていた。 「では、奴はもう既にこの大陸に侵入していると言うことですか?」 男の方は年齢三十代半ば。丸い球帽をかぶり、緑色のローブとマントを身につけている。 一見すると聖職者の身なりではあるが、坊さんにしては妙に物腰が軽い。 高い鷲鼻に、理知的な色をたたえた碧眼の男の名前は、オリヴァー・クロムウェル。 このレコン・キスタの指揮官ではあるが、元は一介の司教にすぎなかった。 その彼が敬語で話しかけている女性は軽そうなクロムウェルとは反対に、どこか重々しい雰囲気を纏っていた。 腰まで伸びた髪の色は黒く、肌の色は妙に白すぎるという感じがする。 黒いローブを身に纏っているこの女性の名はシェフィールド。クロムウェルの秘書である。 しかし、腕を組んで偉そうに指揮官から話を聞く秘書など恐らくはいないだろう。 指揮官であるクロムウェルはそれを咎めようとはしなかった。 「ええ、大陸の真下にある王族派が使っている隠し穴を通ってね。」 「あ、あの抜け穴を…ではやはりその者は王族派の味方…?」 シェフィールドの言葉にクロムウェルは恐る恐る質問した。 「いいえ、穴の中に待機させておいたコイツが追跡したけどそんな感じじゃあなかったわ。もっとも、追跡の途中で見失ってしまったけど。」 彼女は歯痒そうにそう言うと懐から一体の小さな人形を取り出し、テーブルに置いた。 この人形は「アルヴィー」という種類のモノで、自立して動くことが出来る魔法人形である。 大抵は人形劇やオモチャ、家の飾り付けに使うモノではあるが。彼女はどうやら変わった使い方をしているようだ。 「恐らくは個人の目的でこの大陸へやってきたと思うけど…そうとも言い切れない。」 テーブルに置かれたアルヴィーはカタカタとひとりでに動き出すと、ヒョコッと立ち上がり、そのまま何処かへと走り去って行った。 しかしシェフィールドはそれを気にすることなく再びクロムウェルとの会話を再開した。 「このアルビオン大陸にいるのは間違いないことだからとりあえずは私がアルヴィーと亜人を使って虱潰しに捜していくほかあるまいわ。」 シェフィールドはそう言うとドカッと指揮官用の椅子に腰を下ろし、大きな欠伸をした。 「ではでは、私は何をすればよいのでしょうか?」 一方のクロムウェルはと言うと無礼な態度をとっている秘書に怒ることなく、むしろもみ手をせんばかりの勢いで寄ってきた。 「お前は今まで通り指揮官をしていなさい。用があるなら此方から話しかけるわ。」 シェフィールドはそんな彼を鬱陶しそうな目で睨み付けながらクロムウェルに言った。 それを聞いたクロムウェルは何度も彼女に頭を下げそさくさとテントから出て行ってしまった。 クロムウェルがいなくなった後、一人っきりになれたシェフィールドは椅子の背もたれに身を任せた。 トリステインにあるブランド会社に特注で造らせたこの椅子の座り心地を試そうとしたその時、 今まで疲れていた感じがあったシェフイールドの顔が突然喜びに満ちあふれた。 「おぉジョゼフ様!」 シェフィールドはそう言うと椅子から勢いよく腰を上げ、その場で直立をした。 まるで目の前に、彼女にしか見えない『誰かが』と話しているような感じがし、妙な不気味さを醸し出している。 恋する乙女のような顔をしていたシェフィールドであったが、途端に泣きそうな表情になった。 「申し訳ございません、件の『巫女』は見失ってしまいました。ですが、このアルビオンに来ていることは間違いありません。」 独り言にしては、やけに現実味のある感じでそう言ったシェフィールドは、しばらくしてからまた嬉しそうな表情に戻った。 「わかっております!必ずやこのシェフィールド、【出来損ないのガンダールヴ】を捕らえて見せましょう!」 シェフィールドは右腕を空高く上げ力強くそう叫ぶと、ササッとテントから出て行ってしまった。 外へ出る瞬間、彼女の額に刻まれた『ルーン』が力強く輝いていた事に気づいた者はいなかった。 ◆ 誰かの噂話の対象になっている時にくしゃみがでるという言い伝えがある。 一回の時は良い噂、二回の時は悪い噂、そして三回だと惚れられているという。 「くしゅっ、くしゅっ!」 金髪長耳の少女の横を浮遊していた霊夢はふと、クシャミをした。 突然のことに霊夢は少し目を丸くし、咄嗟に手で口を押さえてしまう。 「…?どうしたの。」 そのくしゃみを横から聞いた金髪の長耳少女は怪訝な顔になった。 「何でもないわ、ただのクシャミよ。」 霊夢は少女の方へ顔を向けると大丈夫と言いたげに手を横に振ってそう言った。 少女は肩をすくめると再び歩き始め、霊夢もそれに続く。 事は数分前――――霊夢が腹の虫を鳴かせた直後へと遡る。 自分の腹が鳴る音を聞いた霊夢はふと昨日から食事にありついていない事を思い出した。 しかし時既に遅く、言いようのない空腹感が彼女の体を襲い始めていた。そんな時… 「あの…お腹が空いてるなら、村で何か食べるものをあげるけど…?」 狭い穴の中をくぐり抜け、こんな森の中へと出てきて初めて出会った人間(?)である長耳の少女がポツリとそう言ったのを霊夢は見逃さなかった。 「本当?」 霊夢の言葉に少女は小さく頷いてもう一度口を開いた。 「うん。けど、一つだけ約束して欲しいことがあるの。」 少女はそう言うと自分の長い耳を指さすと恐る恐るこう言った。 「…?、その耳がどうしたのよ。」 「この耳の事だけど、他の人に言わないでくれないかしら?」 少女はそこまで言うと口を閉じ、霊夢の返事を待ったがそれは直ぐに帰ってきた。 「大丈夫よ、どうせ私の言う事なんて誰も信じないから。」 ―――――その言葉を聞いて安心した少女は霊夢を連れて行くことにし、今に至る。 かれこれ歩き始めてから十分、目の前に森を切り開いて造られた小さな村が見えてきた。 藁葺きで造られた小さな家が数十件ばかり建っており、いかにも世間から忘れ去られたといった感じが伺える。 「ここはウエストウッド村っていうの。最も、村というよりは孤児院に近いけど…」 少女が苦笑しつつそう言った直後、村の入り口から大勢の子供達がこちらに向かってきた。 大小取り混ぜて、色んな顔があった。金色の髪、赤毛の子など髪の色もさまざまである。 「おかえりおねぇちゃん!」 「怪我はなかった?」 「おいしそうな木の実は採れた?」 子供達は小走りで霊夢――の横にいる少女の方へ一斉に寄ってきた。 皆元気旺盛で、隣にいる霊夢のことなどお構いなしでった。 (成る程、孤児院って言っても案外間違いでもなさそうね。) 霊夢は先程の言葉を思い返し、一人納得すると少女が群がる子供達を制止した。 「あ、あなた達…食事の準備をしてくれない?今日はお客さんが来ているから。」 『お客さん』という言葉を聞いた子供達は今になって霊夢の存在に気づき、一斉に彼女の方へ顔を向ける。 「ロシュツキョウだぁー!」 「はぁ?」 突然十歳ぐらいの男の子が霊夢を指さして叫んだ。 流石に霊夢も突然の事に素っ頓狂な声を上げてしまった。 「…こ、こ、こらジムッ!何失礼な事を言っているの!?」 「だってティファ姉ちゃん…あんなに堂々とワキをさらけ出してる服を着てるなんて可笑しいだろう!」 少女は顔を赤くし、ジムと呼ばれた男の子の頭を軽く叩いた。 一方のジムも叩かれた頭をさすりながら少女に言い返す。 「全くもうこの子は……あ、そういえば自己紹介がまだだったわ。ご免なさい。」 少女は思い出しかのようにそう言うと霊夢の方へ体を向きなおった。 「私の名前はティファニア。皆からはテファお姉ちゃんって呼ばれてるのよ。」 少女――――――ティファニアは絹のように繊細な金髪を揺らしながらそう名乗った。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9063.html
は行 作品タイトル 元ネタ 召喚されたキャラ ルイズの日記~二年生からの内容~ バイオハザード T-ウイルス 暴君の零 バイオハザード2 タイラント 死刑囚だった使い魔 バキ ドリアン 壺の使い魔 ハクション大魔王 ハクション大魔王 待つのと待たせるのとどちらが辛いね 走れメロス メロス 発明使い魔イッシン 発明軍人イッシン 市奥一真 華の使い魔 花の慶次 -雲のかなたに- 前田慶次 ゼロのバイオリン弾き ハーメルンのバイオリン弾き ハーメル+オーボウ ゼロの執事 ハヤテのごとく! 綾崎ハヤテ スキスキおじいさんガンダールヴ ハレのちグゥ ダマばあさん ゼロダマインパクト ハレのちグゥ ダマばあさん Trick or treat ハロウィン 殺人鬼(サイコキラー)ブギーマンことマイケル・マイヤーズ 臆さないものを、貴族と呼ぶのよ!! パンプキンシザーズ ランデル・オーランド伍長 狂信的な使い魔 HUNTER×HUNTER シャウアプフ 働くゼロ劇場 働くおっさん劇場 野見 つぶれあんまんな使い魔 パタリロ! パタリロ・ド・マリネール8世 きょむコン! ぱちゅコン! パチュリー=ノーレッジ 熱き使い魔 ヒートガイジェイ ジェイ K1伝説 ひぐらしのなく頃に 前原圭一 ルナが使い魔 美少女戦士セーラームーン ルナ ゼロの破壊大帝様 「ビーストウォーズ」シリーズ メガトロン 魔王の使い魔 姫狩りダンジョンマイスター リリイ ハヤめにネ! ヒューマンヘルスケア エーザイ『スカイナーAL錠』のCM スカイナーさん ゼロの使い魔の種 不安の種 Phoenix Saga episode ZERO ファーレントゥーガ アルテナ 誰がために ファイアーエムブレム トラバント王 八本腕の使い魔 ファイナルファンタジーⅤ ギルガメッシュ ギルガメッシュ召喚モノ余談 ファイナルファンタジーⅤ ギルガメッシュ 道化化粧の使い魔 ファイナルファンタジーⅥ ケフカ 光の射さない場所へ ファイナルファンタジーⅥ シャドウ 使い魔のハリセンボン ファイナルファンタジーⅥ サボテンダー バハムート『ゼロ』式 ファイナルファンタジーⅦ バハムート零式 SeeD戦記 ファイナルファンタジーⅧ スコール・レオンハート SeeD戦記・ハルケギニア if situation ファイナルファンタジーⅧ スコール・レオンハート SeeD戦記・ハルケギニア if situation(タルブ上空戦) ファイナルファンタジーⅧ スコール・レオンハート 剣王ジョゼフ ファイナルファンタジータクティクス 雷神シド ルイズの回顧録 another ファイブリアシリーズ「ティルトワールド」 カタリナル・カトリネス 雪風のパレット Forget me not -パレット- B・D 風来のルイズ 風来のシレン ゼロとクイズの部屋 不死身探偵オルロック 野沢ウォーケンとクイズの部屋 ゼロの男爵 武装錬金 大戦士長 坂口照星 小ネタ:核金 武装錬金 シリアル61番の核金 ふたりぼっち伝説より ふたりぼっち伝説 マチルナ ふたりぼっち伝説から骸骨 ふたりぼっち伝説 骸骨 特攻のルイズ 特攻の拓 武丸 魔法少女ラジカルイズ ブラックラグーン レヴィ&ロベルタ ルイズの憂鬱 (魔法少女ラジカルイズ~双子編~) ブラックラグーン ヘンゼル&グレーテル 生まれえざる0 BLOODY ROAR3~4、EX シオン 男爵 プラネテス ΠΛΑΝΗΤΕΣ 男爵 彼とルイズ フランケンシュタイン対地底怪獣<バラゴン> フランケンシュタイン ゼロと豹王 BLEACH グリムジョー・ジャガージャック ゼロメタルパニック! フルメタルパニック! 相良宗介 魔法の国のボン太くん フルメタルパニック?ふもっふ ボン太くん(一小隊分) ブレス オブ ファイア 0 ~虚無ろわざるもの~ ブレス オブ ファイアIV -うつろわざるもの- フォウル ゼロのルイズと大いなる子(ダイジェスト版) ブレンパワード プレート 怠惰な使い魔 封神演義(藤崎竜版) 太上老君 ギーシュが土行孫を召喚したようです 封神演義(藤崎竜版) 土行孫 完全懲悪ダンザイバー・ZERO 予告編 封神領域エルツヴァーユ 神鏡衝(ダンザイバー) ANGEL DUST HELLSING アンデルセン ゼロの伯爵 HELLSING アーカード 虚無の石 ベルセルク ベヘリット(覇王の卵) 使い魔は闇の守護神 MMORPG『ベルアイル』 闇属性のガーディアンを召喚 最強なる使い魔 ペルソナ 3 エリザベス さよなら使い魔、こんにちわ ホーンテッド! 白咲深春 革命的な使い魔 僕と彼女のホント 狩谷広樹 ルイズとハート様 北斗の拳 ハート様 ゼロのジョインジョイントキィ 北斗の拳 AC版トキ 世紀末使い魔伝説―虚無の拳― 北斗の拳 妖星のユダ様 今日も朝からのんびりと ポケモン ソーナノ ゼロの進化~可能性~ ポケモン イーブイ ゼロの真実(?) ポケモン ……? 『ぶん♪ぶん♪ぶん♪』 ポケモン スピアー マリコルヌの日記☆抜粋 ポケモン ポッポ 『醜いアヒルの子』 ポケモン ヒンバス ポスタル2からポスタル・デュード召還 ポスタル2 ポスタル・デュード ゼロのリミックス ポップンミュージック 神様 ゼロのウンコ~ハルケギニアにソフトクリームってあったっけ?~ ボボボーボ・ボーボボ ソフトン ゼロの超インチキな使い魔 プロアクションリプレイ プロアクションリプレイ ページ最上部へ