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autolink ZM/WE13-T09 カード名:一緒に買い物 ルイズ カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:1000 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《虚無》? 【永】応援 このカードの前のあなたのキャラすべてに、パワーを+500。 急がないなら、先に行っちゃうから! レアリティ:TD illust. トライアル限定カードの一枚。 同作品の赤のレベル0応援には、効果を持ったキュルケというカードも存在する。 採用するのであれば「ルイズ」?や《虚無》?を持つことを活かしたい。 ・関連ページ 「ルイズ」?
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Dewy s Adventure 水精デューイの大冒険!! 機種:Wii 作曲者:田辺裕詞、桐岡麻季 発売元:コナミ 発売年:2007年 概要 収録曲(サウンドトラック順) 曲名 作・編曲者 補足 順位 ジャーニーキッズ 田辺裕詞 バナーひょうじ かじつデート 桐岡麻季 プレイデモ ちかくてもとおいきみ プロローグ もしもしハート タイトル パラダイスヒストリー オープニング かぜというなのがっき 田辺裕詞 そうげんステージ(ウキウキそうげん) ぐりごりスリル そうげんボス(ガスドロン) ミルクあじのおもひで 桐岡麻季 むてき ソーダじゃんぐる 田辺裕詞 ジャングルステージ(ガタゴトジャングル) あわてんぼニイサン ジャングルボス(ジェルロン) きみとのえにし リザルト いてついたしゅうはすう アイスステージ(ヒエヒエアイランド) まっしろなやみおと アイスボス(フラフロン) シュールクリーム ヒントコント!1 ぜっきょうアンシエント 桐岡麻季 どうくつステージ(ヌーヌーどうくつ) めがとんポイズン 田辺裕詞 どうくつボス(キャタビロン) やけこげベーコン ヒントコント!2 いにしえセンセーション いせきステージ(ハラハラいせき) デフォルメまっしーん 桐岡麻季 いせきボス(ファラドロン) たそがれピラフ 田辺裕詞 ヒントコント!3 かざんバイバイ かざんステージ(グツグツかざん) テツはあついうちにうて! かざんボス(モスドロン) ぼくらのナンバーワン 桐岡麻季 ボスリザルト ララバイてんごく 田辺裕詞 ドンヘドロンスペース1 はらぐろいやつら ちゅうボス ささやきプレリュード 桐岡麻季 ドンヘドロンスペース2 ジューシーストイック だいおう1 あしたのために だいおう2 おひさまサンクス 田辺裕詞 ステージクリア(ジングル) おわりとはじまりはともだち ゲームオーバー(ジングル) えはがきハミガキ ほとりのむら なんやかんや セレクト がばがばピンナップ フォトギャラリー パワフルせんたくきママ 桐岡麻季 おたのしみモード(セレクト) ほしぞらからのてがみ 田辺裕詞 おたのしみモード(エディット) なかよしみたいなもんさ おたのしみモード(プレイ) オヤツなじかん 桐岡麻季 おたのしみモード(ジングル) りゅうせいがきこえたら エンディング Rainbow Smile 作:桐岡麻季編:田辺裕詞 テーマソング(スタッフロール)歌:Carole Blackschleger とおくてもちかいきみ 田辺裕詞 エピローグ かぜというなのがっき ~苺彼方 Diary ver.~ 作:田辺裕詞編:桐岡麻季 ボーナストラック1歌:デューイ Rainbow Smile ~Splash Hot Cake ver.~ 作:桐岡麻季編:田辺裕詞 ボーナストラック2 サウンドトラック Dewy’s Adventure 水精デューイの大冒険!! オリジナルおんがくじてん
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いつもと変わらぬ朝食。 いつもと変わらぬ授業風景。 いつもと変わらぬトリスティン魔法学院。 多くの生徒達にとっては、いつもと変わらぬ日常だった。 ギーシュは疲れていた。 魔法衛士隊隊長、ワルドの裏切りを知り、ギーシュは自分の人を見る目のなさを恥じた。 半裸のミス・ロングビルを連れて帰ってきたので、モンモランシーに問いつめられ、右の頬に紅い紅葉を作った。 更に、数日間の不在は浮気旅行じゃないのかと詰め寄られ、左の頬にこれまた見事な紅葉を作った。 そして傷の癒えたロングビルに礼を言われたのをケティに目撃され、その情報はモンモランシーに伝わり、年増ババァのどこがいいのかと詰め寄られて頭に大きなたんこぶを作っていた。 タバサは不在だった。 実家からの手紙に何が書かれていたのか知らないが、しばらく学校を休むそうだ。 キュルケの話では、こうしてたびたび実家に呼び出されるのだとか。 シルフィードに乗って実家に帰る前、タバサはルイズを心配していた。 キュルケは少し不機嫌だった。 普段通り授業を受けてはいるものの、タバサがいないと調子が出ない。 その上、ゼロとあだ名される生徒の席が、ここ一週間ばかりずっと空席だった。 その席を見ては、時折ため息をつき、つまらなそうにしていた。 シエスタはどこか落ち着かなかった。 いつものように食堂のテーブルクロスを洗濯する。 いつものように食器を洗う、いつものように配膳をする。 しかし、いつもより一人分足りない。 ルイズの姿を探しては、今日も居ないとため息をつく。 ギーシュやキュルケから、ルイズは今実家に帰っていると聞かされたが、それは嘘だと、なんとなく理解できた。 オスマンは相変わらずだった。 職務に復帰したミス・ロングビルの下着の色を、使い魔のネズミを使って調べるだけでは飽き足らない。 復帰祝いと称してロングビルに過激なビキニをプレゼントしたが、練金で瞬時に土くれに変えられてしまったため、いじけていた。 トリスティンの城、そのゲストルームに置かれた豪華なベッドの上に、一人の少女が眠っていた。 眠る少女の体中には包帯が巻かれており、その姿を同じ年頃の少女が見守っていた。 トリスティンの王女アンリエッタである、彼女はベッドの上に眠るルイズに治癒の魔法をかけていた。 「く…」 アンリエッタから苦しそうな息が漏れる。 キュルケ達がシルフィードでトリスティン城に降り立った時、アンリエッタがすぐに駆けつけなければ、ルイズは失血死していたかもしれない。 傷が塞がらないのだ。 出血はかろうじて止まったが、傷口は開いたまま、どんなに治癒の魔法をかけても、治癒の秘薬を用いても効果がなかった。 しかも秘薬の代金は国庫から出すことは出来ない、これはあくまでもアンリエッタが個人的に頼んだ依頼だからだ。 「アンリエッタ、私が代わろう」 「ウェールズ様…」 「アンリエッタ、君には公務がある、王女としての勤めを果たさなければ、ミス・ヴァリエールに笑われてしまうよ」 「………はい」 部屋に入ってきたウェールズは、アンリエッタの隣に座ると、慣れない治癒の呪文を唱え始めた。 一通り魔力が伝わるが、ルイズの身体に反応はない。 「マザリーニ枢機卿は、なかなかの切れ者だね」 「えっ?」 「僕はここでも身を隠すことになるようだ、当分は地下で過ごすことになる」 「そんな!」 「気にすることはない、本来なら私は死んでいたはずだ、ニューカッスル城と秘密港の崩壊で私は死んだと思われているので、 今の私を外交のカードとして利用させて欲しいととハッキリ言ってくれたよ。だが、その方がありがたい」 「………トリスティンの民から、私とマザリーニ枢機卿がなんと呼ばれているか、ご存じでしょうか」 「知っているよ、だが、王とはそうしたものだよ、王の立場にある者が、不用意に不快感をあらわにすると、王の権威を保つため不快感の原因となる要素は排除される。 平民は浴場で、風呂が熱い、ぬるいだのと文句を言えるそうだね、王族がそれをしたら浴室付きの侍女は皆、お役御免になってしまう、王族とは難儀なものだよ」 「私は、自分は操り人形ではないと意地になっておりました、ですから、私はマザリーニに気づかれぬよう、ルイズを利用したのです。私に…私に王女の資格などありませんわ…」 「アンリエッタ、いいかね、ミス・ヴァリエールは最後まで諦めなかった、最後まで…だ、ワルド子爵の裏切りを一番つらく感じていたのは彼女だろう、それでも彼女は君に与えられた任務を諦めなかった、それどころか、逸脱しようとした」 「逸脱…とは?」 「昨日までは、私は仲間達を残して一人生き残ってしまったと、後悔したよ。しかし、生き残ってしまったからには生きている者の勤めを果たさなければならない、ミス・ヴァリエールを恨もうとも思ったが、今で感謝しようと思っている」 「ウェールズ様、死ぬおつもりだったのですか…?」 「私は、皆の前で共に戦おうと宣言したのだよ、おめおめと生き残っている私を見て、天国の彼らはどう思っているのだろうね」 「そんな!ウェールズ様、どうか、もう死ぬなどとおっしゃらないで下さい!」 アンリエッタがウェールズの腕に、しがみつくようにして叫ぶ。 するとウェールズは微笑み、アンリエッタ手に手を重ねて言った。 「私はもう死ぬつもりはないよ、無様でも、部下を裏切ってでも、私は生きてアルビオンの魂を伝えねばならない。でなければ、私は彼女に顔向けできないからね…アンリエッタ、君はどうなのだ?」 「わたくし…ですか?わたくしは…」 アンリエッタはルイズの姿を見た。 包帯だらけで、呼吸も消えてしまいそうなほど細い、このまま治癒を続けても無駄だと王家の侍医は言っていた。つまり絶望的な状態なのだ。 「わたくしは…」 言葉を続けることの出来ないアンリエッタの肩を抱き、ウェールズはアンリエッタを自分へと向き直らせた。 「私は仲間を見殺しにした罪悪感にさいなまれた、だが助けられた以上は生きた王族としての使命を果たさねばならぬ、 彼女を使わせたアンリエッタ、君も彼女を傷つけた罪悪感に苛まれるのであれば、なおさら彼女のためにも君は王女として威厳を示さねばならないだろう… でなければ、私は彼女の決意を、無碍にすることになると思う」 「ウェールズ様…」 アンリエッタが何か言いかけたとき、扉を軽く叩く音が聞こえた。 「姫殿下、マザリーニでございます」 「入りなさい」 マザリーニは部屋にはいると、アンリエッタに一礼した。 「殿下、どうか公務にも顔をお出し下さい、それと、もはやミス・ヴァリエールを治癒して七日が過ぎました、どうかお考えを…」 「…わかりました、すぐにそちらに戻ります、下がりなさい」 アンリエッタはルイズの顔を見る、ルイズは相変わらず死んだように眠っていた。 マザリーニの言った『お考えを』というのは、ルイズへの治癒を打ち切るという事だ。 アンリエッタは、心の中でルイズに謝った。 「ウェールズ様、ルイズに、最後に、治癒をかけてあげたいのです、どうか、一緒に…」 「喜んで」 そう言うと二人は息を合わせ、同時に呪文を唱え始めた。 水のトライアングルメイジと、風のトライアングルメイジが、二つの魔法を一つにするという強力な秘術、王家にしか伝わらないこの技術をヘキサゴンスペルという。 本来ならヘキサゴンスペルは攻撃に利用するのだが、今回は慣れない治癒の魔法を二人で唱えた。 奇跡を願って、最後の可能性にかけたのだ。 そのころルイズは、暗闇の中にいた。 暗闇の中で、ルイズは承太郎に詰め寄られていた。 ウェールズを連れて帰る決意は、アルビオン貴族派の矛先をトリスティンに向けさせるという大きな代償を払う事となる。 それを知っておきながら、なぜルイズがウェールズを助けようとしたのかを、問いつめていたのだ。 「…難しいから、何なのよ、これで戦争が始まっっても、私には責任なんか取りようがないわよ、でも、でも! あんなところで死んでいい人じゃないわ!」 ルイズの声が、漆黒の闇に響く。 『”覚悟”…いや、ワガママだな』 「何とでも言いなさいよ、それに、ウェールズ殿下が誇り高きアルビオンの魂を伝えたいと言うのなら、死ぬべきじゃないわ」 聴きようによっては、自暴自棄になった人間の台詞にも聞こえた。 『俺のいた世界には、”武士道”という本がある』 「ブシド-?」 『この世界風に言えば、貴族道とでも言ったところか…その本には、確かこんなことが書かれていた』 『武士道という花が散っても その香りは残り 人々の人生を豊かにし続けるだろう』 『ウェールズはその”残り香”になろうとした、それを邪魔するのは、ウェールズに対する冒涜じゃないのか』 「ち、違うわよ!」 『どう違う!』 「………わ、私は…私は!」 言葉を続けることが出来ず、ルイズは黙ってしまった。 『ルイズ、俺は”正しい答え”なんか期待しちゃいない、”お前の答え”が聴きたい』 しばらくルイズは黙っていたが、意を決して、口を開いた。 「アンの…アンリエッタの恋人を助けられないなんて、友達失格じゃない。私は王女から密命を受けたんじゃないわ、友達の頼みを聞いたのよ、だから、よけいなお節介をしたのよ!」 承太郎は笑みを浮かべた。 『やれやれ、やっと言ったか』 「へ?」 『貴族としてとか、貴族らしいとか、そんなのは言い訳に過ぎない、ルイズ、お前は『友達の頼みに応じた』それこそ命がけでな、それを覚悟して自覚しているのなら、俺が言うことも無い』 「フン!何よ分かったような口聞いて、使い魔のくせに…偉そうに…」 『俺はもうアドバイスできなくなる…だから、その覚悟だけは聞いておきたかった』 「………えっ?」 承太郎の背後からスタープラチナが現れる、すると、周囲の暗闇がはれ、足下にルイズが見えた。 すぐ傍らにはアンリエッタとウェールズが、二人で治癒の魔法を詠唱している。 「これ、私? え、私、どうなってるの?」 驚いているルイズを無視して、スタープラチナの手がルイズの頭に入り、そして、銀色の円盤をゆっくりと引き出し始めた。 「これ…貴方の、ディスクって奴よね」 『ああ』 「どうして取り出すの?」 『ワルドとの戦いで受けた傷は、俺が引き受けると言ったはずだ』 「でも、秘薬とか魔法で治せばいいじゃない」 『それは無理だな、幽霊のような状態で見ていたが、俺がいると魔法がかからないようだな』 話していくうちにも、円盤がゆっくりと引き出されていく、半分ほど姿を見せたところで、ビシッ、と音を立てて円盤にひびが入った。 『水の魔法でも、魂までは直せないようだ』 ビシビシと音を立てて円盤に日々が広がっていく、それと同時に、承太郎の姿にもヒビが入っていった。 「ちょっと!ねえ、やめてよ 郎!… ? あれ…?」 『これからお前は目が覚める、目が覚めたら俺のことは忘れてしまうだろう』 「待って!そんな、こんな急に、駄目よ!私はまだ、貴方が居ないと、戦えない!」 『俺はお前の記憶を操作した覚えはない、ただ、夢を見せただけだ。ルイズ、お前は俺の記憶を見ただけであれだけの『覚悟』を決めて、成長した、自分に自信を持て』 「イヤだ!忘れたくない!わすれたく…」 ルイズの魂が肉体に引き寄せられると、承太郎の姿はそれにあわせてゆっくり消えていく。 『………もし、娘に会ったら、その時は助けてやってくれ』 そうして、ルイズの意識は闇に落ちた。 「げほっ」 アンリエッタの目の前で、ルイズが咳き込む。 「ルイズ…!」 アンリエッタは詠唱を止めて、ルイズの顔をのぞき込んだ。 「げほっ…はぁ…あ、アンリエッタ姫さま…おはようございます」 「ルイズ…ルイズ!」 「ま、待ちたまえ!」 ルイズに飛びつこうとしたアンリエッタを、ウェールズは慌てて押さえた。 「ウェールズ殿下、私なら、大丈夫です、ほら」 そう言ってルイズが頭の包帯を取ると、顔や頬につけられていた傷は綺麗に治っているのが見えた。 それを見たウェールズはアンリエッタの肩から手を離した、アンリエッタはルイズに抱きつくと、まるで子供のように泣きじゃくった。 ルイズは、アンリエッタを抱きしめながら、何か大事な夢を見ていたはずだと考えたが、とりあえず今はアンリエッタに抱きしめ返すことが先だ。 外した包帯の中から、ヒビの入った円盤が、きらりと輝いた。 To Be Contined → 前へ 目次 次へ
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「…それで、その『ゼロのルイズ』が平民を助けたと言うのか」 「ええ、そうよ」 城下町の小さな劇場に、サイレントの魔法で包まれた二人組がいた。 一人は仮面を被った男、もう一人はミス・ロングビルである。 ロングビルが男に話したのは、ルイズに関することだった。 昨日、モット伯の別荘に平民が連れて行かれたのを知った『ゼロのルイズ』は、単身でモット伯の別荘に乗り込んだ。 それを知ったロングビル、タバサ、キュルケの三人は、タバサの使い魔シルフィードに乗り、モット伯の別荘へと急いだ。 途中、馬で逃げようとしたモット伯を発見し、ロングビルが保護。 別荘に向かったルイズはシエスタを背負って屋敷から出てきたが、キュルケとタバサを見るなり気を失った、現在シエスタが看病している。 モット伯を魔法学院で保護しようとしたが、そこにマンティコア隊が現れ、モット伯のバックを没収し、モット伯の身柄は拘束されてしまった。 翌日オールド・オスマンから話を聞くと、モット伯は以前から汚職の件で疑われていたのだと言う。 モット伯が持ち出した書類の中からその証拠が発見され、最低でも身分剥奪は免れないとか。 「…腑に落ちん、『ゼロのルイズ』と呼ばれるメイジが、モット伯に仕えていたメイジと戦い、勝利したというのはな」 「実力を隠してたんじゃないかしら?…それにしても、ずいぶんあの娘のことが気になるのね」 ロングビル…いや、本物の『土くれのフーケ』は、宝物庫でこの男から受けた脅迫を忘れたかのように、男をからかいつつ話を進める。 男は、それがフーケの虚勢だと気づいているのだろうか、男はフーケに言い返した。 「気にしているのはお前の方だろう、平民を助けようとするメイジに、心を乱されているようだな」 「………」 フーケは、何も言い返せなかった。 さて、場面は移り、ここはトリスティン魔法学院の女子寮。 ルイズが目を覚ますと、すでに日は高かく昇り、午後の授業が始まる頃の時間だった。 驚いたルイズはベッドから飛び起き、ベッドから降りようとすると、なぜかベッドの脇に置かれている小さな机に足を引っかけ、盛大に転んでしまった。 どべちーん、と音を立てて、おでこから床に落下したルイズ。 「ルイズ様!」 それを見て驚いたのはメイドのシエスタ。 なぜかルイズの部屋にいたシエスタは、ルイズを助け起こすと、こんな所に机を置いた私が悪いんですと謝り始めた。 そんな事はどうでも良いから、なんでシエスタがここに居るの?と問うルイズ。 謝り続けるシエスタ。 何がなんだか分からずシエスタを慰めるルイズ。 授業が終わり、夕食前にキュルケとタバサがルイズの様子を見に来るまで慰め合戦は続いた。 「それにしてもあんた、凄いじゃない、タバサが感心してたわよ」 「……」 キュルケの言葉に無言で頷くタバサ。 だが、当のルイズは何の話なのか分からず、頭にクエスチョンマークを浮かべた。 何の話なのか質問しようとした時、シエスタがルイズに頭を下げた。 「あの…ルイズ様、助けて頂いて、本当にありがとうございました」 「助けて?…って、あ、そっか、シエスタ!あの変態に何かされてない?大丈夫?」 ルイズはシエスタの一言で、モット伯の別荘で起こったことを思い出した。 「呆れた!ルイズ、あんた今まで自分が何をしたのか忘れてたの?」 キュルケが両手を左右に開き、ジェスチャアを交えつつ、心底呆れたように言う。 そしてタバサはルイズの若年性痴呆症を疑っていた。 ルイズには地下牢でオークに殴られてからの記憶がはっきりしていない。 タバサが言うには、ミス・ロングビルはオールド・オスマン不在の間、学院に異常がないか監視するように言われていた。 夜間外出したルイズを見たロングビルが、マルトーに話を聞き、キュルケとタバサの二人に頼んでルイズを追いかけたそうだ。 破壊された別荘のテラスにルイズとシエスタを発見し、すぐさまシルフィードで助け出したが、ルイズは気を失っていた…という事らしい。 窓から別荘の廊下を見たタバサは、風を使うメイジとルイズが戦ったのではないかと分析した。 キュルケは、ルイズは前兆のない『爆発』を起こせると知っているので、タバサの考えに異論を挟まなかった。 ほかの生徒たちはルイズが何をしたのかまでは知らされていないが、おそらくルイズがほかのメイジと戦えば惨敗すると思っているだろう。 何よりも驚いたのは、オークに立ち向かうルイズの話だ。 杖のないメイジがオークに立ち向かうのは自殺行為と言える、しかし、シエスタを守ろうと自ら危険な役を引き受けたという。 キュルケにとって、ルイズを含むヴァリエール家は宿敵だが、ルイズに対しては友情に近い感覚が芽生えている、すでに彼女は『ヴァリエール』ではなく『ルイズ』と呼んでいるのだから。 もっとも、本人はそれを否定するだろう、素直になれない友人に、少しだけ苦笑いするタバサだった。 「…いけない」 突然、タバサが立ち上がった。 タバサの表情は変わらなかったが、いつになく緊迫した雰囲気が漂っている。 その様子に驚いた三人は、タバサから目が離せなかったが、遠くから響く夕食終了の鐘の音を聞いて、慌てて食堂へと移動した。 「あちゃー、片づけられちゃったわね」 そう言いながらテーブルを見渡すキュルケ。 タバサは誰かが食べ残した食事を見て、自分の好物が無惨にも残されているのに気づき、少し腹が立った。 ルイズも空腹感はあったが、ちょっと疲れているので、いつものコッテリとした夕食を思いだし、食べなくても別に良かったかなと考えた。 そんな三人にシエスタは、おそるおそる話しかける。 「あの、私、料理長に掛け合ってみます」 「いいわよ、遅れたのが悪いんだし、規則は守らなきゃね」 ルイズはシエスタを庇うように言う、そうでもなければシエスタは自分のせいだと思いこんでしまうからだ。 「あら、いいじゃない、たまにはぬるいスープじゃなくて作りたてを食べたいわよ」 「ハシバミ草大盛り」 キュルケとタバサの遠慮のない言葉に苦笑いするルイズだったが、シエスタは嬉しそうに微笑んでいた。 シエスタが交渉する間もなく、ルイズが来たと聞いた料理長によって、三人は厨房へと招かれた。 料理人たちの食事である『まかない』を作っている最中だったが、その香りにキュルケとタバサは鼻をひくつかせた。 「美味しそう」 グー… タバサが小さく呟くと、タバサのお腹がグーと鳴った。 「何よ、タバサったら食いしんぼ…」 グー… 続いてキュルケのお腹も鳴る。 「二人ともお腹すいてるんじゃない」 グーー そしてルイズのお腹がひときわ盛大に鳴り響いた。 「あんたが一番」「食いしん坊」 ルイズは、キュルケとタバサに言い返すことも出来ず、顔を真っ赤にした。 「ほっほっほ、お前たちもつまみ食いに来たか?」 厨房の奥から出てきた意外な人物は、三人を見ると嬉しそうに声をかけた。 オールド・オスマンである。 オスマンは三人を厨房の奥のテーブルへと招くと、そこには厨房で働くメイドや料理人達がいた。 オスマンはテーブルの端に座ると、キュルケ、タバサ、シエスタ、ルイズの席を々席に着くように促す。 貴族嫌いのマルトーが仕切る、普段の厨房の様子からは考えられないほど、ルイズ達は好意的に迎えられた。 「ええと、ヴァリエール公爵嬢様、シエスタを助けてくれて、本当に、ありがとうござい…ます」 「ほっほっほ、マルトー、お前が敬語を使ったら雨が降るわい」 オスマンが笑うと、マルトーは頭を振って、少し恥ずかしそうにした。 「ミス・ヴァリエール、魔法学院で学ぶ生徒達は、国家の宝であるとは何度も申しておるな。ここに居る料理人達やメイド達も、魔法学院にとっての宝であることに代わりはない。貴族の横暴によって損なうことなど、決してあってはならん」 料理人やメイド達、そしてルイズ達もオスマンの話を神妙に聞いている。 「魔法学院の長として、ワシからも礼を言わせてもらうぞ、ミス・ヴァリエール。『身分に応じた責任を負う』それがメイジを貴族たらしめる理由じゃ。今回の件は国家預かりになっておるが、ワシは勇気ある行動を尊敬するぞ」 ルイズはオスマンの言葉に驚いた。 ほかの料理人、メイド達までルイズにお礼を言い始めたので、更に驚いた。 今までに感じたことのない、むず痒い気持ちに困惑してしまう。 子供の頃から魔法が使えず、メイジとして失格とまで言われてきた。 しかし今はどうだ、『貴族』として尊敬を受けているのだ。 「さあ、お友達の二人も食べていってくれ、腕によりをかけたんだ!そうだ、おいシエスタ、34年もののワインがあったな、あれを三人に出してくれ」 マルトーが威勢の良い声で料理を作り、そして運ぶ。 次々にテーブルの上を彩っていく料理の数々に、キュルケは素直に感心した。 「何よ、これがまかない料理って奴なの?…美味しいじゃない、あんたたち厨房でこんな美味しいもの食べてるなんてずるいわよ」 タバサも無言で食べ続ける、心なしかいつもよりペースが速いぐらいだ。 「ところでマルトー、せっかくじゃから、ワシの分もワインを…」 「ちょっと、学院長、またミス・ロングビルに怒られますぜ」 「彼女は城下町に用があって出かけておる、酒は別れによし再会によしと言うじゃろう、ここにいるヴァリエールがおらねば、シエスタと再会できなかったかもしれんのじゃぞ?野暮なことを言わずワインを出しなさい」 「そこまで言うなら、アッシも飲ませてもらいますぜ!」 「ベネ!」(良し!) 妙にノリの良い学院長の一言で、全員に振る舞われる酒。 ルイズは、自分が記憶を失っている間に何が起こっていたのか、これから先どうなってしまうのか、姫様から頼まれた用事を前にしてこんな事をして大丈夫だったのか… 等々、いろいろな事が頭を駆けめぐった。 だけど、今はとにかくこの時間を楽しもうとして、ワインをあおった。 ワインは確かに美味しいものだったが、この楽しい雰囲気と、マルトー特製の料理は、酒の肴にするには勿体ないと感じた。 そして飲み過ぎた。 翌日、シエスタは恥ずかしそうに、四人分の布団と下着を洗っていたとかいないとか。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-13]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-15]]}
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サモン・サーヴァントに『爆発して』失敗するルイズは、学院長の取り計らいによりトリスティン魔法学院の二学年として授業を受けている。 本来ならサモン・サーヴァントすら成功しないルイズは、使い魔を召喚するまで進級できないはずだが、オールド・オスマンはルイズの『爆発』に目を付けた。 『彼女はすでに新種の使い魔を呼び出しているのではないか?』 そう言って、オスマンはルイズの進級に反対する教師達を黙らせていた。 実際には、土塊のフーケと戦った時の痕跡から、何らかの使い魔を呼び出していることは予想していたが、その確証はない。 温情と言えば聞こえは良いが、オスマン氏はルイズに、執行猶予を与えているとも言えるのだ。 ルイズは自分部屋で、腕から伸びる半透明の『腕』を見た。 おそらく自分の使い魔であろうこの『腕』は、五体が揃っているのは感覚で理解している、しかし今はまだ『腕』だけしか自由に動かせない。 ベッドに座ったまま、エルフの使う『先住魔法』のことを思い出した。 エルフは杖も使わずに魔法を使うとか…もしかしたら、これはエルフの使う『先住魔法』なのではないだろうか。 この腕は、障害物をすり抜けられるくせに、ものを掴むことができる。 しかも精神を集中すれば、半透明な状態で人に見せることが出来る、これはキュルケとタバサが確認した。 これを使い魔だと主張するにあたって二つの問題がある。 一つは、前例のない『これ』が使い魔として認められるのか分からないこと。 もう一つは幽霊騒ぎの件だ、キュルケとタバサが目撃した幽霊は明らかにこの『腕』だ。 幽霊騒ぎは、トリスティン魔法学院を一時混乱に陥れ、キュルケとタバサ(と自分)を驚かし、ちょっと人には言えないような恥ずかしい目にあわせのだから。 マリコルヌを全力でブチのめした後、二人にこんな事を言われた。 「幽霊の正体があんたの使い魔だってバレたら…全生徒から恨まれるでしょうねぇ~♪」 「…使い魔の不始末は主人の責任」 キュルケはルイズの弱みを握って気分を良くしていたが、タバサからはシャレにならない殺気を感じた。 とにかく、今のルイズには、部屋でため息をつくことしか出来なかった。 その晩、ルイズの部屋を誰かがノックした。 間を置いて叩かれる回数に、誰が訪問したのか気づき、客を迎えた。 「こんばんは、ルイズ」 「姫様、今日、ここに来られたということは…」 アンリエッタはいつものようにディティクト・マジックで部屋を調べてから、フードを脱いだ。 子供の頃のように、ルイズの隣に座る。 「ゲルマニアの皇帝に、書簡が届き、その返答が送られてきました。内容は私を正室(正妻)として迎えるとの事です」 「………そう、ですか…」 しばらく、沈黙が流れた。 「…思い過ごしならば良いのですが、一つだけ腑に落ちないのです。わたくしの婚約だけではなく、軍事的な提携に関しての要求書も添えられていたはずなのです、それはトリスティン側に有利な内容です。本来なら…わたくしの婚約だけでは見合わない内容でしょう」 ルイズはじっとアンリエッタ姫の話を聞いていた。 姫が言うには、トリスティン側が望む婚約の条件が、かなり高い状態であること、それにより婚約を引き延ばしできると考えたが、ゲルマニアは条件をすべて呑むということ。 アルビオン貴族派がトリスティンへ侵攻を開始した場合、おそらくゲルマニアは何か理由を付けてトリスティンを見捨て、国力が低下したところでトリスティンに介入、そして王族と貴族をゲルマニアの支配下に置く… アンリエッタとマザリーニ枢機卿は、ゲルマニアにすら不信感を抱いていた。 ルイズは知らなかったが、アンリエッタはマザリーニのことを嫌っている、しかし今回の出来事はアンリエッタに危機感を抱かせ、図らずしてアンリエッタとマザリーニの政治的信頼は強くなっていたのだ。 一通り政治の話をしてから、アンリエッタはベッドから立ち、懐からトリスティン王家御用達の紙を取り、ルイズのペンを借りて書状を書き始める。 そのときのアンリエッタの表情は恋する乙女のそれでありながら、どこか陰のある姿で、胸の奥の悲痛な思いを一文字一文字に込めているようだった。 「ルイズ、この手紙をアルビオンのウェールズ皇太子に届けて欲しいのです、アルビオンの貴族派は王都を囲む準備を整えたと言われています、王城に攻め込まれる前に…」 「しっ!」 ルイズはアンリエッタの言葉を遮った。 扉の外から気配を感じ、誰かが扉の外で聞き耳を立てているのが分かる、これはルイズの感覚ではなくスタープラチナの聴覚だが、ルイズはまだ自覚できない。 アンリエッタをカーテンの後ろに立たせてから、ルイズは扉を勢いよく開けた。 「どわっ!?」 ごろん、と転がり込んできたのは、青銅のギーシュ、正しくは『ギーシュ・ド・グラモン』だった。 転がりつつも薔薇の造花を手に持つ根性は見上げたものだが、ルイズは扉を閉めながら(二股のギーシュがのぞき見のギーシュに格上げね)などと考えた。 「何やってんのよあんた」 ルイズの質問に答えようともせず、ギーシュは立ち上がり、薔薇の花を両手に持ち直してこう言った。 「薔薇のように麗しい姫さまのあと追っておりますれば、こんな所へ……、下賤な学生寮などで万が一のことがあってはと、鍵穴から様子をうかがっておりましたところ…」 「ふーん、要はのぞき見? 重罪よね」 そう言ってルイズはアンリエッタを見る、アンリエッタは困ったような表情でルイズを見たが、『とても楽しそうな』笑顔を見せていたので、アンリエッタはルイズの意図を汲んだ。 「そうですね…公式な訪問ではないとはいえ、先ほどの貴方の言葉を借りれば、私をアンリエッタと知りながら後を追い、そして部屋を覗き見したと言うことになります」 「姫さま、非公式とはいえ姫殿下訪問の御席は、王宮に準じると聞いています、故意に不作法を働いたのであれば侮辱にあたると存じ申し上げます」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの進言、この部屋の主たる責を負ってのものとして真摯に受け取ります、ではこの者に一級以上の罰を与えねばなりませんね」 ギーシュは顔を真っ青にした。 この世の終わりのような顔とは、こういうのを言うのだろうか、二股がバレた時とは比べものにならない。 ルイズは内心で「やりすぎたかな?」と考えたが、たまには良い薬だろうと思って何も言わなかった。 「ルイズ、この者の名は?」 「グラモン元帥のご子息、ギーシュ・ド・グラモンでございます」 「では…」 アンリエッタはギーシュの前に手を出した、貴族の作法で言えば、手に口づけを許すという事だ。 呆然としていたがギーシュだったが、差し出された手の意味に気づくと、さっきまで死にそうに震えていた男とは思えない程うやうやしく、手の甲に口づけをした。 「では貴方に罰を与えます、私の…アンリエッタ姫としてではなく、ルイズの友人としてのアンリエッタに、力を貸して頂きたいのです」 「任務の一員にくわえてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」 ギーシュの言葉にアンリエッタは微笑む。 「ありがとう。貴方のお父さまも立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいでおられるのですね。…この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」 「姫殿下がぼくの名前を呼んでくださった! 姫殿下が! トリステインの可憐な『薔薇の微笑みの君』が、このぼくに微笑んでくださった!キャッホー!」 感動のあまり、立ち上がってわめき散らし、後ろにのけぞって転び、後頭部を打つギーシュ。 それを見たアンリエッタは「ルイズの友人もおもしろい人ばかりね、うらやましいわ」と心底うらやましそうに言った。 ルイズは、まるで看守にマスターベーションを見られた徐倫のように、嫌そ~~~~~な顔をしていた。 アンリエッタ姫を見送った後、ギーシュは股のあたりを気にしながらヒョコヒョコと部屋に帰っていったらしい。 「そりゃ怖かったでしょうね…」 ルイズは、誰に言うわけでもなく呟いた。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-15]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-17]]}
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ルイズ、タバサ、モンモランシー、ギーシュ。 この四名は学院長室で『土くれのフーケ襲撃事件』について、事細かに質問された。 暗くじめじめとした場所で涼んでいたカエル、モンモランシーの使い魔ロビンが、不審な人物を発見したのが事件の切っ掛けだった。 主人に異変を知らせたロビンは主人の到着を待ったが、ここで困ったことが起きた。 使い魔は主人の目となり耳となる。しかし、それはメイジが実力で使い魔を従えている場合と、メイジと使い魔がお互いを信頼している場合である。 使い魔品評会の日、モンモランシーは気が気ではなかった。 香水のモンモランシーの名の通り、彼女は水系統のマジックアイテムを調合する技術に優れたメイジだが、使い魔にさせる芸はとんと思いつかない。 ロビンが異変を伝えたのは、使い魔品評会が始まって間もない時だった。 使い魔のロビンが姿を見せないので、不機嫌だったモンモランシーには「ロビンが何かを伝えようとしている」程度にしか分からなかったのだ。 急いで宝物庫周辺にいるロビンを探しに行ったが、そこに居たのはフードを被った怪しい男。 モンモランシーはロビンを探していたので、不審な男に気づきはしたが気には止めなかった。 だが、男は、自分が盗賊であると気付かれた、と思いこみ、モンモランシーを拘束したのだ。 男は小型のゴーレムでモンモランシーを殴って気絶させ、手足を錬金した鉛で拘束した。いざという時の人質になると考え、ゴーレムでモンモランシーを運ぼうとしたときに、モンモランシーを追ってきたギーシュに発見されたのだ。 ギーシュは焦っていた。 何せ下級生女子のメイジに声を掛けられ、少し話し込んでいただけなのに、偶然横を通りかかったモンモランシーが血相を変えてで走り去って行ったからだ。 モンモランシーは使い魔のロビンを探しに行っただけだが、ギーシュは『また嫌われた』と思いこみ、慌ててモンモランシーを追いかけた。 そして、後はルイズの知るとおりである。 大怪我した者もおらず、一件落着かと思われたが、オールド・オスマンは神妙な面持ちを崩さなかった。 「だいたいの事情はわかった。しかし災難じゃったのう」 「いえ、このギーシュ・ド・グラモン、薔薇の刺が花を守るように、当然のことをしたまでです」 キザったらしい態度を、隣に立つモンモランシーに見せつけつつ、ギーシュが答える。 「………」 隣に立つモンモランシーは赤面し、目をウルウルさせている。キザったらしい態度は逆効果な気がしたが、どうやらモンモランシーにはストライクだったらしい。 ルイズはモンモランシーの隣で、心底嫌そうな表情をした。 オスマン氏は、ほっほっほと笑い、話を続けた。 「ミス・ヴァリエール、そしてミス・タバサ、君たちもご苦労じゃった。 危険を顧みずに立ち向かう行為は、誇り高い行為と言えるじゃろう。 しかし、貴族は魔法で領民を守るだけでなく、領地を治めることも意識せねばならん。 死を覚悟するのはかまわんが、無謀と勇気をはき違え、領民を混乱させるようなことがあってはならんのじゃぞ」 「「「「はい」」」」 四人は同時に答えた。 「さて、もう一つ、土くれのフーケが処刑されたという話じゃが…あれは偽物じゃ」 モンモランシーは驚いたが、他三人は特に驚きもしなかった。 土くれのフーケ操る巨大ゴーレムを破壊したのは、他ならぬ”本物の”土くれのフーケだ。 土くれのフーケは有名になりすぎ、既に二名の偽物が逮捕されている。 オスマン氏の話によると、今回の事件で逮捕された男は『鉛のゴーゾ』という男らしい。 その男が『土くれのフーケ』という名前を使い、一連の盗難事件を起こしたとして、処刑されたというのだ。 偽物を本物として処刑する。何かの作戦なのか、貴族達の面子からなのか、おそらく両方の思惑が絡んでいるのだろう。 不意に、オスマン氏が杖を振った。 バタン!と扉が開かれ、聞き耳を立てていたキュルケが、ごろんと転がり込んできた。 「ミス・ツェルプストー、盗み聞きはいかんぞ」 オスマン氏は呆れたように言った。 キュルケはばつが悪そうにしていたが、開き直って、オスマン氏に詰め寄る。 「このまま本物の土くれのフーケを放っておいて良いとは思えませんわ」 「…ほう?この部屋はサイレントの魔法で包まれておる。ミス・ツェルプストーはそれを打ち消せると言うのかね?」 オスマン氏の疑問に答えるかのように、タバサが「私がもう一体のゴーレムの話をしました」と言った。 オスマン氏は「なるほど」と言って頷くと、ここに集まった五人意外には口外無用だと伝えた。 「それにしても喧嘩するほど仲が良いとは、よく言ったものじゃのう。持つべき者は親友じゃわい」 そう言ってルイズとキュルケを見比べるオールド・オスマン、それに気付いた二人が 「誰がこんな奴と!」「誰がこんな奴に!」 と同時に叫んだ。 その様子を見たモンモランシーとタバサが「仲が良いじゃない」「類は友を呼ぶ」などと言って、 ゼロ(爆発)vs微熱の、学院史に残る戦いの火ぶたは切って落とされたのだった。 オスマン氏が「うまく誤魔化せた」とほくそ笑んでいたのは秘密だ。 かくして、土くれのフーケ事件も終え、一応の平穏が戻ったトリスティン魔法学院だが。 とても『魔法』学院とは思えないような奇妙な噂に、教師は頭を抱えていた。 幽霊騒ぎである。 事の起こりはこうだ。ある日の夜、お手洗いに行こうとした女生徒が、廊下を歩く幽霊を見たのだ。 最初は誰も相手にしなかったが、目撃者が増えるにつれ、その噂は信憑性を増していった。 もう一つは、謎の『小物紛失事件』である。 夜眠っている間に、部屋にある道具が移動している。 最初は使い魔の悪戯かと思われていたが、 魔法も唱えていないのに宙に小物が動いたとか。 魔法の気配もないのに扉が開いたとか。 誰もいないはずの廊下で何かにぶつかったとか。 そんな体験談を話す生徒が増え、ついに幽霊退治の話が持ち上がった。 「で、何で私が手伝わなきゃいけないのよ」 ルイズの部屋には二人の客が居た、キュルケとタバサである。 「得体の知れない相手には得体の知れない魔法が聞くかもしれないじゃない」 「な、何よその言いぐさはぁ!」 タバサは喧嘩の始まりそうな二人を制止してから、ルイズに頼んだ。 「貴方の力を借りたい」 タバサの言い分ではこうだ。キュルケのファイヤーボールは相手に向かって飛んでいく。自分の風の魔法は小型の竜巻も起こせるが、発生の予兆を関知されるおそれがある。 それに比べてルイズの魔法は、杖を持って呪文を唱えるだけで、突然爆発する。 爆発の予兆は他の魔法に比べて判別しづらい…らしい。 「それにこの子、幽霊とか苦手なのよ」 キュルケが言うと、普段感情を見せないタバサにしては珍しく、キュルケを恨めしそうに見つめた。 黙っていて欲しかったらしい。 ルイズにしても幽霊には良い思い出はない。 アンリエッタ姫と遊んでいた頃、姫を驚かそうとシーツを被り、幽霊のフリをしたことがある、 困ったことに姫も同じ事を考えており、シーツを被った二人は廊下で鉢合わせして、仲良く気絶してしまったのだ。 そんな負い目もあるので、ルイズは幽霊退治を引き受けることにした。 「で、どうするのよ」 ルイズが質問すると、体より大きい杖をカツッと地面に突き立て、タバサが答えた。 「三人で行動、幽霊を発見したら全力で殲滅」 「ちょ、ちょっと…」 さすがのキュルケも焦る。こんな過激なことを言うとは思わなかったからだ。 それにタバサの実力もある程度は知っている。覚悟を決めたタバサと、ルイズが全力を出したら、建物が半壊、いや全壊してしまうのではないかと危惧した。 「そ、その前に、本当にそれが幽霊なのか確かめてからにしなさいよ」 ルイズも冷や汗をかきながら提案する。それぐらいタバサの覚悟には迫力があった。 タバサはしばらく考えてから、渋々頷いた。 そんなわけで、その日の夜から、ルイズ・タバサ・キュルケによる見回りが始まった。 タバサは風の魔法で周囲を探知、キュルケは日の魔法で暗がりを照らし、ルイズはその後をついていくだけだった。 見回りの最中、半裸の女生徒と男子生徒、頬を染めて抱き合う女子生徒二人、頬を染めて抱き合う男(略等々、余計な者を発見してしまうことも多かった。 ただ、見回りが功を奏したのか、見回りを始めてから幽霊を目撃したという話は出なかった。 一週間目のことだ。ルイズは半ば呆れていたが、キュルケとタバサは至って真面目に幽霊を探していた。 タバサは幽霊が苦手なだけでなく、幽霊を見たと言っていたので、意地になるのは分かる。 しかしキュルケが毎晩タバサと行動を共にするのを見て、少しばかり羨ましく感じていたのも事実なのだ。 呆れながらも行動を共にしてくれるルイズに、言葉にはしなかったものの、キュルケとタバサは感謝していた。 「ふわ……」 最後尾で欠伸したルイズに、キュルケが気づき、今日は終わりにしようと提案した。 タバサは無言で頷くと、部屋に戻るための最短距離を選び、歩いていった。 ルイズは廊下から外を見た。空には月が二つ浮かんでいる。 月を見ると思い出す。加速した世界の中で闘っている自分…いや、自分ではない誰かを。 不意に、頭を真っ二つに切り裂かれる瞬間が思い浮かぶ。 その時は、自分の精神エネルギーも一緒に切り裂かれていたはずだ。 真っ二つに切り裂かれたそのエネルギーの名前は、確か『スタープラチナ』 ギーシュとモンモランシーが潰されそうになった時、不意に叫んだ名前と一緒だ。 ルイズは背筋が寒くなり、歩みを止めた。 「ルイズ?」 ルイズが歩みを止めたのに気付き、キュルケが後ろを振り向く。 タバサもそれにつられて振り向いた。 「…あ、何でもない。ちょっと考え事してただけよ」 そう言ってキュルケとタバサに近づこうとしたが、どうも二人の様子がおかしい。 キュルケは褐色の肌が黒く見えるほど顔を青ざめ、 タバサは白い肌が真っ白になるほど呆然としている。 そして、二人とも、ルイズではなく…ルイズの後ろを見ていた。 ルイズが後ろを振り向いてカンテラを掲げると… 顔を真っ二つに切り裂かれた大男が ルイズの持ったカンテラに照らされて 半透明でぼやけた姿を漂わせていた ドカン! 突然の爆音と共に、使用人部屋の扉が吹き飛ばされ、シエスタは飛び起きた。 それと同時にシエスタの体に、何かがぶつかってきた。 「 ! ? !!!! ??? !?」 突然体を拘束されてパニックに陥りそうになるたシエスタだが、 月明かりによって、ルイズと他二人の貴族に抱きつかれているとすぐに気が付いた。 ガクガク、ブルブルと震えてた三人に抱きつかれたまま、シエスタは朝を迎えることになる。 翌日 厨房付きのメイド、シエスタは ルイズ・タバサ・キュルケ三人の貴族の極秘命令により 三人の下着を洗濯することになったとか。
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人生オワタの大冒険とは・・・ 生まれたときから終わっているひとそれが\(^o^)/オワタです 彼の先に待つものは一体・・・
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ロングビルは口を半開きにして、呆然としていた。 安宿の一室で、ルイズとワルドがミノタウロスと戦った時の様子を、ロングビルに聞かせていたのだ。 壁に寄りかかっているロングビル、目の前には、ベッドに座り足を投げ出している少女がいる。 この少女が魔法を使わずにミノタウロスを倒したなど、誰が信じられるだろう。 元々知能が高く生命力も並はずれて強いミノタウロス、頭に深い傷を負っていたとはいえ、それを倒してしまうなど普通は信じられない。 だが、ロングビルはそれが嘘ではないとよく解る、ルイズと対峙したとき、ロングビルは鉄の塊を練金で作り出し、ルイズを挽肉同然にしたのだ。 それでも彼女は生きていた。 細い手足のこの少女が、ルイズが獰猛なミノタウロスを倒した姿を想像しようとして……目眩がした。 「どうしたの?」 ベッドの上に座るルイズがロングビルの顔をのぞき込む。 「ちょっと、あんたの無茶苦茶さに呆れてただけよ…まったく、あんたがいりゃトリステインは安泰だねえ」 ロングビルが両手を肩の高さにあげ、掌を上に向けて『やれやれ』というジェスチャーを交えて呟く。 「そうでもないわよ」 それを見たルイズは、少し自虐気味に笑った。 「私はいずれ倒されるわ…誰かにね。私ほど権力者にとって不都合な存在は無いのよ」 「そうかもしれないけどさ」 正直、ルイズが誰かに殺される姿など、想像できない。 虚無の魔法と、吸血鬼の力を持つルイズを殺せる人間などこの世に存在するとは思えない。 仮に強力なエルフが相手だとしたら、ルイズでも危険かもしれない。 しかし、ロングビルの知るエルフはといえば、ティファニアとその母だけ。 温厚で戦いを嫌うエルフが如何に強力な魔法を使ったとしても、シエスタの波紋が吸血鬼にとって猛毒だとしても、ルイズを殺せるとはとても思えなかった。 ルイズは、ふとカーテンの隙間から外を見た、既に夕日が差しており、空は赤くなっている。 「そろそろ外も暗くなるわね……学院に戻らなくていいの?」 「そうだね、じゃあ、あたしはこれで帰らせて貰うわ」 そう言ってロングビルがドアノブに手をかける、ルイズはちらりとワルドに目配せしてから、ロングビルと共に部屋を出た。 廊下で、ルイズはロングビルに耳打ちする。 「ティファニアがね、『危険なことはしないでね』って言ってたわよ」 「…あの子に、会ったのかい?」 ロングビルがルイズの顔をまじまじと見る、ルイズは笑みを浮かべると、いたずらを思いついた子供のような笑顔を見せた。 「私、アルビオンに潜入したって言ったでしょ?そこで…ほら、子供達も元気だったわ」「ああ…そっか、元気ならいいのさ」 静かに笑みを浮かべるロングビル、どこか懐かしそうに目を細めていた。 「まだワルドに知られたくないから、ここで簡潔に言うわ。彼女は私と同じ系統の使い手よ」 「………」 先ほどのはにかみは何処へやら、ロングビルの口元は笑ったままだが、目つきは途端に厳しくなった。 「詳しいことはこの紙に書いてあるわ。読んだらすぐ燃やして」 ルイズは、胸に巻いたボロ切れの中から、宿帳の切れ端らしき紙を取り出し、ロングビルに手渡した。 無言でそれを受け取ると、ロングビルは急ぎ足になり、ぱたぱたと階段を下りていった。 階段を下りていくのを見届けたルイズは、すぐにワルドの待つ部屋に戻った。 ギィ、と不快な音を立てて開かれる扉を見て、ワルドが意外そうに呟く。 「おかえり、早かったな」 「見送るだけだもの」 ルイズは返事をしつつ、ボロボロのマントを放り投げて、ボロ布の下着姿になった。 その姿は、とても貴族とは思えないみすぼらしい姿だが、その眼光は先ほどまでとは違い、鋭く輝いていた。 ルイズは両手を上に上げて背伸びをし、ボキボキと音を立ててながら身長を変化させる。 アンリエッタとの身長差は約5サントほど、それぐらいなら体の中に入った吸血馬と自分の骨だけで調節できる。 それが終わると、今度は髪の毛を引っ張り長さを揃える、そして顔の筋肉を指で押しつつ、表情を確認していく。 宿に入る前に手に入れてきた染料を髪の毛にふりかけ、わしわしとかき回すと、ルイズの髪の毛は深い紫色に染まっていく。 それを見てワルドは、ルイズがアンリエッタに変装しようとしているのだと理解した。 「…凄いな。”フェイス・チェンジ”でも身長までは変えられれないのに。どこからどう見ても姫様じゃないか…ん?」 ルイズの姿は、表情さえ調節すればアンリエッタ姫そのものとしか思えないほどだ。 しかし、魔法衛士として間近でアンリエッタを見ていたワルドには、ルイズの変装には致命的な欠陥があると気づいてしまった。 「”フェイス・チェンジ”みたいに顔も変えられれば便利なのだけど。 ……ちょっとワルド、どこ見てるの?」 「いや……」 ワルドの視線に気づいたルイズが、ワルドを見つめ返したが、ワルドは顔を逸らしてしまった。 「どこ見てたの…?」 ルイズがワルドに詰め寄る。 「いや、何でもないさ、本当に」 ワルドは誤魔化したが、視線は明らかにルイズの胸を見ていた。 「どこ比べてるの?」 「いや。本当に、何も」 その日、安宿の一室から断末魔の悲鳴が上がった。 深夜。 二の月が雲に隠れ、トリステインの空が暗闇に覆われた頃。 女王となったアンリエッタの居室へと、一人の女騎士が急いで足を進めていた。 アンリエッタの居室を警護する衛士は、女騎士の足音に気が付くと、それを制すかのように扉の前に立ちふさがった。 「こんな時間に、陛下に何用だ」 衛士は、あからさまに女騎士を見下した態度で、冷たく言い放った。 「銃士隊のアニエスが参ったとお伝えください。私は、いついかなるときでもご機嫌を伺える許可を陛下よりいただいております」 衛士は苦い顔をした、アニエスはそれを見て「またか」と思った。 アニエスはシュヴァリエを得たが、平民であるが故に、王宮内での扱いは酷く悪い。 女王アンリエッタの身辺警護を担当する親衛隊の肩書きも、王宮内でのやっかみの前では、どこか頼りなかった。 この衛士にもやっかみはあった、魔法衛士隊よりも強い権限を、平民の女傭兵風情が持っていいはずがないと考えていた。 衛士はアニエスを見下したまま、慇懃に言い放つ。 「陛下はお休みあそばされておる、日が昇ってから出直……」 アニエスは、身長で勝る衛士を、無言で見上げていた。 あからさまにアニエスを見下していた衛士の態度、特にその表情が、みるみる恐怖に変わっていくのだ。 いつの間にかアニエスの後ろには、一人の男が立っていた。 マザリーニ枢機卿である。 「君、火急の用だ。陛下にお取り次ぎを願う」 「ハッ!」 マザリーニが静かに言い放つと、衛士は慌てて敬礼し、居室の扉を開いた。 アニエスとマザリーニの二人は、冷や汗をかいている衛士を無視して、静かにアンリエッタの居室へと入っていった。 それからしばらくして、マザリーニ、アンリエッタ、ウェールズの三人が、アンリエッタの執務室に集まった。 ウェールズは寝間着も兼ねられる簡素なシャツに、上着を着てマントを羽織っている。 つい先ほどまでデルフリンガーと話をしていたらしく、デルフリンガーはウェールズが携えて来た。 デルフリンガーをテーブルの上に置くと、鞘から二割ほど刀身を露出させ、デルフリンガーも会話に参加できるように準備した。 それが終わると、コンコンとノックの音が響き、返事を待たずに扉が開かれた。 執務室に入ってきたのは、ボロボロのマントを羽織った女性。 次に入ってきたのはフードを被った男だったが、その男は首に枷が嵌められており、首と右腕が枷でつながれていた。 更にその背中にアニエスが剣を向けている、アンリエッタは驚き「まあ」と呟いて、口元を隠した。 執務室の扉が閉じられると、ウェールズは杖を持ち『ディティクト・マジック』続けて『サイレント』のルーンを唱えた。 外界の音が遮断され、不自然なほどの静けさが執務室を包む。 『よー嬢ちゃん。元気そうで良かったぜ』 「久しぶりねデルフ、姫様も…今は陛下とお呼びすべきかしら。それに皇太子殿下も、枢機卿も、お久しぶり」 ボロボロのフードを外してルイズが微笑む。 それを見て、アンリエッタは思わず席を立ち、ルイズに近寄った。 「ルイズ…心配したのよ、ああ、でも無事で良かったわ」 アンリエッタがルイズに近づいて手を取ると、ルイズは困ったような顔をするばかりで、アンリエッタの手を握り返そうとはしなかった。 「どうしたの?」 「あの…私、しばらくお風呂に入ってないのよ。今の私ちょっと臭いわよ」 アンリエッタが鼻で息を吸うと、確かに汗のような、焦げ臭いような、埃くさい臭いが鼻につく気がした。 「……そ、そんなこと気にしなくても良いですわ」 と言いつつも、アンリエッタはルイズから手を離す、ルイズは仕方がないとでも言うように苦笑した。 「話が終わったら風呂を用意させますわ。それにしても……」 アンリエッタが、フードを被った男に視線を向けると、つられて皆の視線が集中する。 「………陛下も、皇太子殿下もよくご存じのはずよ」 ルイズはそう呟きつつ、男の顔を隠しているフードをめくり、顔を露出させた。 そこにいたのは、裏切り者のワルド子爵その人だった。 「なっ」 ウェールズは咄嗟に杖を手に取った。 執務室が緊張感に包まれ、マザリーニ、アンリエッタの視線も途端に厳しくなる。 「殺気立つのは止めて。とりあえず…そうね、アルビオンに潜入した時のことから説明するわ」 ルイズはそう言って微笑む。 マザリーニは、驚いたままのアンリエッタ、席から腰を浮かせているウェールズの二人に着席を促す。 アンリエッタが自席に着いたのを見届けてから、ルイズとデルフリンガーによる報告が始まった。 井戸水が、洗脳効果を持った水の先住魔法に汚染されていたサウスゴータ地方の都市。 自称6000歳のデルフリンガーが、水の先住魔法から『アンドバリの指輪』を思い出した。 アンドバリの指輪はどんな怪我もたちどころに治す力を持つ、それどころか、死者を操ることも、生きている人間の心を操ることもできるという。 ルイズはワルドに発言を促した、実際に死者が蘇る姿を見ていたのは、この場ではワルドしか居ないのだ。 ルイズが『ディスペル・マジック』で解除した水の先住魔法。 ワルドが目撃した『クロムウェルによる死者蘇生』 デルフリンガーの記憶に残る『水の先住魔法との戦い』 それらの情報は、アンリエッタ、ウェールズ、マザリーニの三名だけでなく、ワルドに剣を向けているアニエスをも驚かせていた。 そもそも、アルビオンの王党派にも落ち度が無かった訳ではない。 ウェールズの父、ジェームス一世は厳格で誇り高い王であった…と言えば聞こえはいいが、若くして王になった時から強烈な貴族権威主義であった。 国力を高めるため、王は崇高な理念を持って自ら機敏な政治を行った…と言えば聞こえは良いが、視点を変えれば独裁色の強い政治であったことも否めない。 反乱軍レコン・キスタ、彼らの革命が成功したのは、クロムウェルの持つ『アンドバリの指輪』の力だけではない、アルビオン貴族達の不満も同時に爆発していたのだ。 トリステインに幻滅し、レコン・キスタの誘いを受けたというワルドの話を聞き、ウェールズは自身の双肩に戦死者の重みを感じた気がした。 更に、ワルドとの戦い、船を吹き飛ばした虚無の魔法、ワルドの母、裏で糸を引いていたリッシュモン、ミノタウロスとの戦い…… 想像を超えた話が、ルイズの口から語られていった。 一通りの話をし終えると、皆は一様にため息をつく。 ウェールズは考える。 家臣達を殺したワルドにも、ワルドなりの事情があった。 ワルドの行った裏切り行為は決して許されることではないし、許してしまうこともできない。 だが、ウェールズは、ワルドにどこか…なぜか同情してしまう。 処刑すべきか、執行猶予を与えるべきか、思うように決考えられない、少しだけ苛つきを覚えた。 マザリーニにしてもそうだ、リッシュモンにはそれなりの信頼を置いていた。 100%信頼していた訳ではない、少なくとも仕事の面では信頼できると思っていた。 だが、ワルドの母が辱められたと聞いたとき、アニエス達の調査によって、ぼんやりと浮かんでいた不自然な金の動きが、はっきりと一つに繋がった。 マザリーニは、自分の甘さを恥じた。 アンリエッタはうつむいていた。 膝の上に置いた手が強く握りしめられ、肩は小刻みに震えている。 アンリエッタの視線がワルドに移るが、ワルドは何も言わず、ただ黙って突っ立っていた。 しばらくの沈黙の後、アンリエッタが口を開く。 「…ワルド子爵の処遇については、後ほど伝えます。しばらくは杖を取り上げ、王宮で監視下に置くことになりますが……ルイズはそれでかまいませんか?」 ルイズは、隣に立つワルドを見る、ワルドはルイズにほほえみを返すばかりで、何も言わなかった。 「ワルドは…リッシュモンに復讐して、死ぬつもりで帰ってきたの。リッシュモンを殺す権利を保障してくれれば何も言うことは無いわ」 「わかりました、アニエス、ワルド子爵を王宮内に監禁し、直ちにリッシュモンの身辺を調査しなさい」 「いや、お待ち下さい」 突然、マザリーニが口を開いた。 「王宮内ではいけません、すぐに気付かれてしまうでしょう。……しばらくの間、石仮面様と共に地下に潜伏して頂けませんか」 マザリーニ提案はルイズにとって有り難かった。 しかしウェールズの表情を見ると、納得がいかないとでも言いたそうな顔をしている。 ワルドは、ニューカッスル城で王党派を百人近く殺したのだ。 それを野に放つなど、ウェールズが納得できるはずがない。 「殿下。私は、ワルドに復讐を果たさせると約束しました。ワルドの処刑はそれまで待って頂けませんでしょうか、決して逃がしはしません。」 ルイズがウェールズに向き直る。 ウェールズは目を閉じた。 死んでいった家臣達を思い出す。 彼らは、ウェールズの決断を許してくれるだろうか? 家臣達は想像の中でただ微笑むばかりで、何も言ってはくれない。 残されたアルビオン王族としての重責、それがウェールズの肩に重くのしかかった。 「…『石仮面』殿を…いや、友人としてミス・ルイズを信用しよう。ワルド子爵の処遇は僕から口出ししないことにする」 「僕は、ワルド子爵の行いを許すことはできない。また彼の汚名を返上することは許さない。だが……君を憎みきれないのも確かだ」 「戦艦『ロイヤル・ソヴリン』の艦長を務めたサー・ヘンリー・ボーウッドという男がいる。彼は職務に忠実な軍人だからこそ王軍に牙をむいた」 「憎むべきは戦争だ、君個人を憎んでどうにかなるものじゃない…僕が言いたいのは、それだけだ」 ワルドは、ただ黙ってウェールズに跪いた。 すべての話が終わる頃には、既に空は明るくなっており、居室に戻ったアンリエッタを身支度を調える侍女達が迎えていた。 結局彼らは一晩中会議をして、徹夜してしまったのだ。 若いアンリエッタとウェールズはともかかく、マザリーニは眠そうに欠伸をしながら部屋に戻っていった。 ワルドは手かせを外されたが、顔を隠した状態で王宮の地下倉庫に匿われている。 そこで昼を寝て過ごし、夜になったらルイズと共に城下町へと出る予定なのだ。 ルイズは、王宮に務める兵士達が使う水場で、体の汚れを落とした。 用意された平民風の着替えを着て、厚手のローブを身にまとう。 そして、そのままウェールズの部屋を訪ねた。 ウェールズは徹夜の疲れをみじんも見せず、来客に応対していた。 各地に散らばったアルビオン王党派の貴族と連絡を取り合い、レコン・キスタ打倒の計画を練らなければならない。 ウェールズに、休んでいる暇など無いのだ。 ルイズを部屋に通したウェールズは、部下に命じて人払いをする。 ルイズはデルフリンガーを背負ったままウェールズの部屋に入り、ソファに腰掛けた。 向かい合わせに座ったウェールズが、ふぅー…と長いため息を吐く。 「だいぶ疲れてるわね」 「まあね。……君こそ疲れてないのかい?」 「ミノタウロスでお腹いっぱいよ」 「やれやれ、その体力は羨ましいな……」 ウェールズはまた欠伸をして、目をこすった。 子供の頃に遊んだ友人達は皆死んでしまった、海賊に扮してお互いに笑いあった仲間達も皆死んでしまった。 今、ウェールズが欠伸をするほど気を許せるのは、ルイズとアンリエッタしか居ない。 ルイズは、そんなウェールズを不憫に思ったが、不憫だと口に出すことはかえって失礼だと思い、黙っていることにした。 侍女の持ってきた紅茶を一口飲み、カップをソーサーの上に置く。 ほんの少し、沈黙が流れた。 「大公に、忘れ形見がいたわ」 「…なんだって?」 ルイズの呟きは、ウェールズを一瞬で覚醒させた。 「名はティファニア。大公の娘さんよ、今はサウスゴータ地方で、小さな孤児院を開いて隠れ住んでいるわ」 「そ、それは、本当なのか?」 「本当よ。直接会ってきたもの」 「そうか…」 ウェールズが顔を押さえて、俯いた。 「ねえ、これは絶対に約束して欲しいの。ティファニアを権力争いに巻き込まないで。いずれ彼女の存在は知られると思けど。それまでは彼女を争いに巻き込まないで欲しいの」 「ああ、解っているよ、解っているとも。 アンリエッタにも、マザリーニ枢機卿にも言わなかったのは、それを心配してのことだろう?」 「ええ」 「心配も無理はないさ。用心に越したことはない」 「そうね。ハーフエルフだと知られたら大変だものね」 「………」 ウェールズの顔は、『美男子が台無しだ』と思えるほど、驚きに染まっていた。 「そんな顔して驚かないでよ。彼女から聞いた話を全部話すわ、だからよく聞いて」 ウェールズが頭を振って気を取り直す、すぐさま『サイレント』と『ディティクト・マジック』を唱え、ルイズに続きを促した。 ルイズの口から語られたのは、ウェールズにとって驚くべき”真実”であった。 大公がエルフを妾にしていただけでなく、娘までいたという事実。 確かに『始祖ブリミルへの重大な反逆』だと言われれば、それまでかもしれない。 しかし、目の前には吸血鬼と化していながら人間に味方するルイズがいる。 ウェールズは、エルフに対する認識を改める必要があると感じた。 「それと、貴方から預かっていた『風のルビー』。それとニューカッスルから脱出したときに持っていた『始祖のオルゴール』これもティファニアに預けてあるわ」 「それは虚無の使い手である、君が持っていた方がいいんじゃないか?」 「いいえ、私の分はアンの持っている『水のルビー』と『始祖の祈祷書』よ。『風のルビー』と『オルゴール』は彼女が持つべきモノなの」 「まさか」 「そのまさかよ。王族の血を継承しているが故に…ね」 ウェールズはしばしの間思案し、呟く。 「ハーフエルフか…ロマリアが黙っていないな。ダングルテールの大虐殺の件もある…」 「アニエスもダングルテールの大虐殺を調べてるとか言ってたわね。それって何なの?」ルイズの質問に、ウェールズは言いにくそうに口ごもったが、意を決したのかルイズを見据えて語り出した。 「ダングルテールという村があった、そこはトリステインには珍しい移民中心の村だったそうだ。その村で流行した疫病を広げないために、村人が全員焼き殺された」 「……何よ、それ。アニエスがそれを調べてるってことは、もしかして」 「彼女の出身地はダングルテールらしい。僕も最近知ったことなので詳しくないが、どうもロマリアの先代教皇がそこに絡んでいるらしい」 ロマリアと聞いて、ルイズが首を捻る。 「なぜロマリアが関係するのよ」 「二十年近く前、トリステインとアルビオンで新教が流行ったんだ。ダングルテールの住人は新教に鞍替えしたんだが…どうやらそれが原因で異教徒狩りの標的にされたらしい」 「じゃあ、疫病が出たと言うのは?」 「アニエスは全くの嘘だと言っていた。ダングルテールに出入りしていた行商人からの証言でもそれは明らかだそうだ」 「冗談じゃないわよ……」 「エルフを敵視するのは、始祖ブリミルの歴史から見て仕方ない事だ。だが、ミス・ティファニアが虚無の使い手として生まれたのは、始祖のお導きだと主張すれば……」 「もしティファニアの存在が知られても、ロマリアを牽制できるかもしれない?」 ルイズの結論に、ウェールズが頷く。 「ティファニアか…その人は、争いが嫌い、復讐も嫌いなのか………それなのに、僕たちは人間同士で、何をやっているんだろうね」 ウェールズの呟きは、『サイレント』に包まれた部屋の中に消えていった。 一方、時を同じくして、魔法学院に一台の豪華な馬車がたどり着いた。 従者が馬車の扉を開け、金髪の女性が馬車の中から下りてくる。 馬車を出迎えたのは魔法学院の学院長オールド・オスマンと、モンモランシー、そしてシエスタだった。 「オールド・オスマン。お久しぶりでございますわ」 優雅に一礼した金髪の女性に、オールド・オスマンは満足そうに頷き、挨拶を返した。 「久しぶりじゃのう、アカデミーでは元気でやっておるかね?」 「ええ、オールド・オスマンの22年前の論文、読みましたわよ。精神力の根底を探る方法としての波紋法とその応用…でしたわね」 ちらりと横を見ると、先ほどから緊張のあまり固まっている二人が視界に入った。 「貴方がシュヴァリエを賜ったミス・モンモランシーと、ミス・シエスタね。噂は聞いているわよ」 「「はっ、はい!」」 二人は緊張して、同時に返事をしてしまう。 金髪の女性は、そんな二人にも一礼し、名を名乗った。 「私はエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。 ラ・ヴァリエール公爵夫妻からの依頼を伝えに参りました。 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。 並びにシエスタ・シュヴァリエ・ド・リサリサ。 お二人の『治癒』の力をお借りしたく参りました。 私の妹、カトレアを助けるために協力をお願い致します」 シエスタは思った。 この人、ルイズ様の面影がある。 To Be Continued→ 戻る 目次へ
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キャラクター詳細 名前: ルイズ・マッケンジー 性別: 男 年齢(享年): 不明 自我の有無: 不明 ゾンビになった経緯: 明日のライヴのために自慢の長髪を整えようとモールの美容院に行く途中、突如現れた鼠に噛まれゾンビウィルスに一発感染してしまった。彼は気付かぬうちにゾンビへと変わり果てた・・・・。 特徴: ピクシブタウンのデスメタルバンド「カコリッチズ」のギターを担当している青年。生前はデスメタルを愛してやまないファンキーな青年だった。喧嘩が強く鍛えぬかれた肉体が自慢だった。ゾンビになってもその力はより強力に引き継がれている。ちなみに身長は2m30cm。 戦闘法: 近距離打撃など。 攻略法: とにかく頑丈な肉体をもち豪腕。接近戦は訓練された人間でないと戦うには辛いものがある。また大股で歩くので思った以上に移動速度が速い。いつの間にか間合いをつめられるかも。そこまで強力なゾンビではないが2mを超える身長は圧倒される。逃げながら落ち着いて遠距離武器で戦おう。弱点は頭。 メッセージ: カコリッチズをよろしく!byルイズ 関連群像劇 カコリッチズ(CACOLICHS)
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デルフリンガーにお仕置きをして数時間後。 ルイズは、ティファニアの家に泊まることになった。 ティファニアは、マチルダから送られてくる仕送りでウエストウッド村の孤児院を運営している。 だが、マチルダが現在「ロングビル」と名を変えていることや、「土くれのフーケ」と呼ばれていた事も知らないようだった。 ルイズを案内してくれた男は、既にシティオブサウスゴータへと帰っている。 マチルダからの信頼を得ているという事で、神聖アルビオン帝国の動向を、可能な限り探ってくれるとか。 子供達も寝静まった夜、ルイズはティファニアの部屋にお邪魔していた。 ベッドに座ったティファニアは、膝の上にデルフリンガーを乗せて、心配そうにデルフリンガーを見ていた。 ルイズはティファニアに向かい合うように椅子を動かし、そこに座る。 「デルフ、もう、やりすぎたのは謝るから拗ねないでよ」 『俺もうダンスなんて嫌だ…嫌だ…』 「デルフリンガーさん、すごく怖がってますけど…ダンスって、あの、踊ることですよね?」 「一般的にはね」 『な、なあ、もうその話は止めてくれねえか』 「ご、ごめんなさい」 ティファニアはデルフリンガーに謝ると、ベッドから立ち上がり、デルフリンガーをルイズに手渡した。 ルイズは受け取ったデルフをテーブルの上に置きつつ、隣の部屋から持ってきたオルゴールをティファニアに渡した。 ティファニアはどこか懐かしそうにオルゴールを見つめつつ、オルゴールの蓋を開けた。 「聞こえますか?」 ルイズの耳に、どこか懐かしく感じられる調べが聞こてきた。 「ちゃんと聞こえるわ。ねえ…そのオルゴール、もしかして音を聞くためには、何か別の物が必要じゃない?」 ルイズの言葉に、ティファニアははっとなった。 そしてしばらくの沈黙の後、ティファニアはこのオルゴールと自分との関係を話し出した。 「わたしの父は、アルビオンの財務監督官だったの。家には父が管理していた財宝が沢山あって……私は小さい頃、それでよく遊んでたの」 喋りながらも、ティファニアはオルゴールを懐かしそうに見つめている。 おそらくこのオルゴールには、ティファニアの思い出が詰まっているのだろう。 「このオルゴールは、王家に伝わる秘宝だって父は言っていたけど、でもね、あけても鳴らなかったの。だけど、わたしはある日気づいたの」 「指輪を嵌めると音が聞こえる…」 ルイズが呟く。その手には、いつ取りだしたのか、風のルビーが嵌められていた。 「やっぱり、指輪を持っていたんですか……あの、その指輪は」 「この間、ウェールズ皇太子を亡命させたとき、報酬として貰ったのがこの『風のルビー』よ」 「…………」 ティファニアが俯いたまま、視線だけ上げてルイズを見る。 何処か怖がっているのか、不審がっているのかしているのだろうか。 「マチルダに喋ったら『余計なことを…』って怒ってたわよ」 マチルダの名前が出たことで、ティファニアは少し驚いた。 「マチルダ姉さんも知ってるんですか?」 「ええ」 「じゃあ、マチルダ姉さん、王家への復讐を諦めてくれたのかな……」 ルイズはこの時、ティファニアが本当に争いを嫌っているのだと感じた。 ウェールズに味方した話をしたのだ、ルイズがジェームズ一世寄りの人間だと思われてもおかしくない。 だがそんな事よりも、マチルダの復讐を止めて欲しいと、彼女は願っているのだ。 「……驚いたわね、本当に争いが嫌いなのね」 「うん、わたし、もう誰かが傷つくのは見たくない」 「だから”忘却”の魔法を最初に覚えたのね、私とは大違いだわ…ふふっ」 ルイズはどこか自虐的な笑みをこぼした。 二人は、オルゴールについて、現時点で判っていることを話し合った。 このオルゴールは、マチルダからの仕送りと一緒に届けられたものらしい。 ガラクタとして、古美術商に安く売られていたものを買い取り、ティファニアに送ったそうだ。 ティファニアは子供の頃、父の管理する財宝で遊んでいたが、その時のことをマチルダが覚えていたらしい。 このオルゴールを覚えていてくれたのが、ティファニアにはとても嬉しかった。 ルイズはそれを聞いて、少し心が痛くなった。 マチルダから送られてくる仕送りは、マチルダが得意とする練金で稼いだものだと思われている。 彼女が『土くれのフーケ』と呼ばれ、貴族の財宝を盗んでいるのだと、ティファニアは知らないのだろう。 そもそもこのオルゴールは、ニューカッスル城から脱出する際、報酬の代わりに貰ってきたものだ。 金目の物、珍しそうな物を見繕って袋に入れ、それを体中にくくりつけて脱出したのだが……その中にこんな重要なアイテムがあるとは思っても見なかった。 このオルゴールは、報酬としてマチルダに渡したものの一つ。 巡り巡ってティファニアの元に届いたのは運命の悪戯とでも言うべきなのだろうか。 そしてこのオルゴールの音についてだが、聞こえると解ったのは偶然らしい。 ティファニアの耳はエルフと同じように尖っており、人目に付くようなことは許されなかった。 遊び相手になってくれたのはマチルダと、父の管理する宝物類だったそうだ。 ある日、秘宝とされている『指輪』を嵌めた時、どこからか懐かしいメロディが聞こえてきた。 音の出所を探して戸棚を開けていくと、壊れていると思われていたオルゴールから音が鳴っているのに気づいたのだ。 だが、その音はティファニアにだけ聞こえており、マチルダの耳には決して届かなかった。 『指輪』をマチルダに嵌めさせて、音が聞こえるか確認したこともあったが、それでも音は聞こえなかった。 ティファニアだけに聞こえるオルゴール、それが何を意味するのか、子供の頃はまったく解らなかった。 だが、王家から差し向けられた兵士に殺されそうになった時……突然、オルゴールから聞こえてきたメロディと、何かの魔法のルーンが浮かんだ。 父から与えられた杖を手に、そのルーンを唱えたところ、兵士達の記憶からティファニアのことがすっぽりと抜け落ちてしまったらしい。 「なるほど…デルフ、あんた、何か知ってるんじゃないの?」 ルイズがデルフリンガーに聞くと、デルフはカタカタと鍔を動かして答えた。 『間違いねーな、始祖のオルゴールから聞こえてきたのは、”虚無”の魔法だ』 「虚無って言うんだ、知らなかった。私のことを知ってる人は『先住魔法』だって言うんだけど、違ったのね」 「そのことは、あまり人に言わないほうがいいわね」 「どうして?」 「〝虚無〟は伝説扱いされてるの。始祖ブリミルから6000年…使い手がいないままだとされてきたわ。もしそれを知られたら、貴方の力を利用しようとする奴が現れるわよ」 「伝説? 大げさね!」 ティファニアが笑う、ルイズはその様子を見て、太ももに隠していた杖を取り出した。 「こんなできそこないのわたしが、伝説? おかしくなっちゃうわ!」 「本当よ、先住魔法だとしても、虚無だとしても、貴方は危険に巻き込まれることになるわ」 「でも、大したことはできないのよ、記憶を奪うだけだもの」 「……虚無は、記憶を奪うだけじゃないのよ」 「えっ?」 ふとルイズの手を見ると、いつの間にかルイズの手には杖が握られていた。 ティファニアは突然のことに驚いた、『石仮面』が傭兵とは聞いていたがメイジだとは聞いていなかったからだ。 「これから…貴方とは別の”虚無”を見せるわ、『イリュージョン』といって、簡単に言えば幻を作り出す魔法よ」 「あ、あなたも、その、魔法を使えるの?」 ティファニアはルイズの記憶を奪うべきだろうかと考え、杖に手を伸ばしたが、その考えはすぐに消えてしまった。 「……………………………………………」 ルイズが、虚無独特の長い詠唱を開始する、すると小声にもかかわらず、その声に聞き入ってしまうのだ。 ティファニアが聞いたことのないルーン、だが、なぜか懐かしい。 オルゴールから聞こえてきた歌のように、どこか懐かしく、そして心が安らぐのだ。 イリュージョンの詠唱が完了し、ルイズが杖を降ると、ティファニアの目の前の空間がゆらぎ、雲が集まるかのように何かが形作られていく。 間もなく、その雲は人の形を取り、色が付き……ルイズの知るミス・ロングビルの姿が作り出された。 「マチルダ姉さ…えっ?」 ティファニアがマチルダに触れようとしたが、触れられない。 驚きつつも再度触れようとするが、やはり触れることは出来なかった。 「これが”虚無”の一つ、『イリュージョン』よ。やろうと思えば空だって、闇夜だって作り出せるわ」 しばらくの間、不思議そうにマチルダの姿を確認していたティファニアだったが、ルイズの言葉を聞いて現実に引き戻された。 「ティファニア、よく聞いて。虚無の魔法は強力過ぎるの…だから、絶対に人に知られては駄目よ」 「わかったわ。石仮面さんがそうまで言うなら、誰にも言わない。というか話す人なんか元からいないし、バレたところで記憶を奪えばいいだけの話だし……」 世間から外れた場所で育ってきたティファニアには、事の重大さがイマイチよく判らないのか、ルイズが思っていたよりも軽い調子で話した。 「解ってくれればいいけど…ちょっと心配ね。ところで私、ティファニアに聞いておきたいことがあるの」 「どんなこと?」 「私を是に案内してくれた彼、王家に伝わる『アンドバリの指輪』の使い道を、貴方の母が知っていたと言っていたわ。でも貴方は『母の形見だ』と言った…ちょっと変だと思わない?」 「おかしくはないわ、」 くだけていた雰囲気が、急速に冷めていく。 ティファニアの表情から笑みが消え、どこか落ち着きなさそうに虚空に眼を泳がせていた。 「些細な食い違いよ…でも、どうしても気になるのよ」 「………」 ティファニアは、気まずそうに俯いた。 「わたし、一度、人間が怖くなったの。それで、あの人にも…」 「記憶を奪ったのね」 「うん、それを諫めてくれたのはマチルダ姉さんだった。『味方してくれる人まで疑ったら、あなたは独りぼっちになってしまう』……って」 「そんなことがあったんだ……マチルダの奴、格好いいこと言うじゃない」 ルイズは少しだけ、ティファニアに同情した。 自分は吸血鬼、ティファニアはエルフ。 人間から見れば、討伐対象には違いはない。 自分は何人もの人間を殺した、だが、ティファニアは人を殺すどころか、争いそのものをを嫌っている。 なのに、人間は『エルフ』という理由だけでティファニアを殺そうとするだろう。 以前のルイズには考えられない事だったが、今のルイズには、その疎外感と孤独感、そして不安感がよく理解できた。 ティファニアは両親を亡くした、だがマチルダと子供達がいる。 私は、両親に会えなくなり、学院にも行けなくなったが、アンリエッタとマチルダがいてくれる。 半ば脅迫のようにマチルダを仲間に引き込んだが、それは寂しさを紛らわすためだと、ルイズ自身よく自覚していた。 ふとティファニアを見ると、眠そうに目をこすっている。 「今日はもう休みましょう、ごめんね夜中までつきあわせて」 「ううん…久しぶりの話し相手で、嬉しかったわ。おやすみなさい、石仮面さん」 「ええ、おやすみ」 静かにティファニアの部屋の扉を閉めると、ルイズはティファニアから指示された部屋に入り、ローブを脱いだ。 デルフリンガーをベッドの脇に置き、余計な服を脱いで、簡素な下着とシャツのみの姿でベッドに入る。 お世辞にも上質なベッドとは言えなかったが、野宿に比べれば十分すぎるほど快適だ。 「神の左手ガンダールヴ、勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる…か」 ルイズはベッドの脇に置いたデルフリンガーを鞘から抜き、刀身に足を絡め、鍔を胸で抱きしめた。 『おいおい、危ねーよ』 「あたしの身体は切れても平気だって知ってるでしょう?それとも何、女は斬りたくないとか?」 『まあ、そんなもんかなあ』 「デルフ……あなたも、もう少し丁度よい大きさなら、私の身体を鞘にできたのにね」 『!? いきなり何言い出すんだ、おめーは!』 「……この身体になってから、性別とか、あまり気にならなくなったわ。男女関係なく、食欲とは別の意味で、『欲しい』と思うのよ……」 『だからって、おめえ、俺は剣だぜ』 「解ってるわよ、でも、何かを受け入れたいと思う気持ちが止まないの、私にとって必要な人がいない…そんな感じ」 『必要な人、ねえ』 「……神の左手ガンダールヴ、左に握った大剣…デルフ、これ貴方の事じゃないの」 『………』 「あなた、6000年生きているって言ったわね、眉唾物だと思っていたけど、違うわ…貴方は本物、生きた伝説よ」 『そーだっけ?』 「とぼけないで、虚無の担い手が私とティファニア以外にもいて、それぞれに使い魔がいる…それを知っていたんでしょう?」 『思い出したのはつい最近だ、それに確実じゃねえ。なら言う必要もねえだろ」 デルフリンガーはぶっきらぼうに言い放つ、ルイズはそれに少しむっとしたが、怒りはしなかった。 「教えて」 『何をだい?』 「私やティファニアが虚無に目覚めたのは、偶然じゃない。何か理由とか、あるんでしょう」 『さあね。おりゃあ所詮剣に過ぎねえ。深いことまではわからん』 「ガンダールヴって何?あなたを使っていたのなら、それは人間か、亜人?」 『よく思い出せねえよ』 「はぐらかさないでよ、私の、私の足りないものが、そこにある気がするんだから」 『そうは言ってもよ、6000年だぜ、細かいところまでいちいち覚えちゃいねえよ』 デルフが言う 「本当に、そう?」 『…………』 「…………」 室内に沈黙が流れる。 どれくらいそうしていただろうか、気が付くとデルフリンガーの冷たい刀身が、ルイズの体温で少し暖まっていた。 それを自覚したデルフリンガーは、ルイズの寝息が聞こえてきた頃を見計らって、カチャカチャと鍔を鳴らした。 『戦って欲しくねえのさ、特に、嬢ちゃんにはな』 ルイズからの返事は無かった。 翌朝早く、ルイズはティファニアを起こした。 ティファニアや子供達に情が移ると思うと、どこか後ろめたい気持ちが心を支配するのだ。 だから、子供達が起きる前に、ウエストウッドを離れようとした。 「もっと、ゆっくりしていっても……」 「ごめんなさいね、私にもやることがあるの。洗脳された人たちを正気に戻さないといけないし…そうそう、これ、貴方に渡しておくわ」 ルイズは自分の指から『風のルビー』を外し、ティファニアへと渡した。 指輪をフィットさせるルーンを教えて、唱えさせる、すると指輪の輪がティファニアの指に丁度よい大きさとなった。 「これ、石仮面さんにとっても大切な物じゃないの?」 「いいのよ、オルゴールと指輪は貴方のもの、これから先…記憶を消す”忘却”の魔法だけでは手に負えない危機が迫ったとき、必要になるかもしれないもの」 「……じゃあ、もう、いってしまうんですね。あの…マチルダ姉さんに、危険なことはしないでって、伝えて下さい」 「わかったわ、ちゃんと伝えておくから心配しないで」 ルイズは、ティファニアに背を向け、森の中へと歩いていった。 ティファニアはルイズの姿が見えなくなっても、じっとルイズの去っていった方角を見つめていた。 ウエストウッド村から適度に離れたところで、森の茂みの中から吸血馬が姿を見せた。 よく見ると背中の辺りに大きなこぶができている。 別の世界で『ラクダ』と呼ばれる、砂漠の生物によく似たこぶが、吸血馬の背中にできていた。 「どうしたの?」 ルイズが吸血馬に問いかけると、吸血馬はルイズの肩を軽く噛み、そのまま自分の背中に放り投げた。 どすん、と音を立てて吸血馬の背中に着地したルイズは、吸血馬のこぶに手を当てた。 「これ……血?もしかして、これ、私の分?」 「ブフッ、グルルルルルル……」 並の馬よりも遙かに逞しく、グリフォンをもしのぐ吸血馬の声は、まるで怪物のようだ。 だがルイズにはその声の意図がよくわかる、おそらく吸血馬は、ルイズのために何かをしたいと思ったのだろう。 背中にあるこぶは、きっとそのために作ったものだ。 「ありがとう、あなたって本当に優秀ね、執事みたいじゃない」 そう言いながらルイズは吸血馬のこぶに右の手を突き刺した。 こぶの中には、昨日野党から吸い取ったであろう新鮮な血液が沢山ため込まれているようだった。 ズキュン、ズキュンとルイズにしか聞こえない音を立てて血液をすする。 乾いた身体、疲れた細胞がみるみる蘇っていくのが実感できた。 「WRYYYYYYYYYYYYYY……」 細胞が喜び、脳が快楽を味わう。 ルイズの口は半開きになり、舌は緊張して尖るような形を見せていた。 剥き出しになった牙、高揚して紅くなる頬。 今のルイズがフードを被っていなければ、どこから見ても、誰が見ても立派な『吸血鬼』だと思われただろう。 吸血馬のこぶに溜められた血を吸い尽くすと、ルイズは吸血馬の背中にぐったりと寝そべった。 「はあ……生き返った気がするわ……」 ぎゅっ、と吸血馬に抱きつくと、それが合図だったかのように、吸血馬は駆けだした。 目的地、シティオブサウスゴータに到着するまでの数時間、ルイズは『この世界で唯一の同類』の、逞しい背中に身を預けていた。 シティオブサウスゴータの中央通りは、幅も狭ければ空も狭い。 昼間なのに薄暗い気がするのは、建物が日陰を作っているだけでなく、そこに済む住民達の眼に生気が見られないからだろう。 ルイズは表通りを避け、裏通りを歩いて、共同住宅の建ち並ぶ一角を探した。 共同住宅の近くには井戸が作られているだろうと踏んだのだ。 なるべく人気のなさそうな場所を探し、井戸を見つけると、ルイズはそこから水をくみ上げた。 背中のデルフリンガーを鞘から抜き、刀身を水に触れさせると、デルフリンガーは違和感を感じてカチャカチャと鍔を動かした。 『…こりゃあ先住の力だ、間違いねえ、ティファニアの嬢ちゃんが持っていた指輪とそっくりだ』 「じゃあ、この井戸に『ディスペルマジック』をかければ、この街の人たちは正気に戻るかしら」 『どうかな、街の人間を全員正気に戻すのは酷だぜ、この街全域をカバーする『ディスペルマジック』なんて、難しいんじゃねえか』 「そりゃ、自信はないけど、やるしかないでしょう」 『それによ、住民が正気に戻ったとレコン・キスタに知られたら、いろいろ面倒なことになるんじゃねえかなあ』 「じゃあどうしろって言うのよ」 『惚れ薬や毒と一緒さ、時間が経てば効果が切れる。地下水脈に『ディスペルマジック』をかければ……この濃さなら、一ヶ月ぐらいで街の人間は正気に戻るだろうぜ』 「なるほど」 ルイズは頷くと、デルフリンガーを地面に突き立てた。 「デルフ、辺りに気を配っていて。ディスペルマジック……やるわよ」 『気張りすぎて気絶するなよ』 「…………………………………」 ルイズは腕の中に仕込んだ杖を、掌まで押し出し、小声でルーンの詠唱を開始した。 精神を集中させ、井戸の中を思い浮かべる。 井戸に続く魔力の流れ、水脈に沿って流れる魔力の流れが、なぜかルイズの頭の中に入ってくる。 ルイズは杖を掲げて振り下ろすのではなく、掌を井戸の中に向かって突き飛ばすように振った。 「……かふっ はぁ はぁ…はぁ……」 『大丈夫か?』 「大丈夫よ…ちょっと目眩がしただけ。それより誰かに見られてなかった?」 『誰も見てねえよ、通りがかる奴もみんな目がうつろ、嬢ちゃんには誰も気づいてねーさ』 「それなら、いいんだけど」 ルイズは呼吸を乱しながらも、井戸から水をくみ上げて、再度デルフリンガーを水に浸した。 『もう大丈夫だと思うぜ、これなら飲んでも平気だ。街の人間も徐々に元に戻っていくんじゃねーかな』 「そう、なら、バレるまえに次の場所に行きましょう」 『慌ただしいねえ』 「レコン・キスタは、アンの結婚式に先だって親善訪問を行うそうよ。その親善訪問の真意を確かめるわ」 『親善訪問ねえ』 「ロンディニウムで見たでしょう、レコン・キスタは、王党派の船をわざと市街地に墜落させていたわ。親善訪問と言いながらトリステインを砲撃するかもね」 『やりかねねぇなあ』 「でしょう?」 デルフリンガーを鞘にしまうと、ルイズはフードを深く被りなおし、街はずれの住宅街から森の中へと駆けていった。 そしてその頃、親善訪問の予定を一週間繰り上げた『神聖アルビオン帝国』の特使達は、艤装の完了した『レキシントン』号へと資材の積み込みを開始していた。 それに合わせ、慌ただしく僚艦にも慌ただしく弾薬などが補給されていく。 ただ、不思議なことに…ある一隻の船には、食料も弾薬も積まれてることはなかった。 戦争は、近い。 To Be Continued→ 戻る 目次へ