約 997,956 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1002.html
姉妹スレの作品置き場 アニメSS総合スレ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました ガンダムキャラがルイズに召還されました アニメSS総合スレ ■ 過去スレ └ アニメSS総合スレ 作品タイトル 元ネタ 召喚されたキャラ(他備考等) 更新日時 ゼロのミーディアム ローゼン・メイデン 水銀燈 2009-11-13 16 21 31 (Fri) (注:このSSは本スレに連載先が変わりました ページ最上部へ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました ■ 過去スレ ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part15 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part14 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part13 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part12 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part11 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part10 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part9 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part8 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part7 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part6 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part5 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part4 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part3 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part2 └ ルイズがアンデルセン神父を召還してしまった 作品タイトル 元ネタ 召喚されたキャラ(他備考等) 更新日時 タバサの大尉 HELLSING 大尉 2009-06-28 03 38 02 (Sun) フーケの憂鬱 HELLSING アーカード少女形態、アンデルセン、大尉 2009-06-28 03 41 30 (Sun) 神父様のコートは四次元コート HELLSING アンデルセン 2009-06-28 03 41 58 (Sun) ギーシュの吸血 HELLSING ギーシュ(吸血鬼) 2009-06-28 03 42 53 (Sun) アーカードはそこにいる HELLSING アーカード 2009-06-28 03 44 06 (Sun) ゼロのロリカード HELLSING アーカード少女形態 2010-05-25 12 57 13 (Tue) HELLOUISE HELLSING アーカード(少女形態)、ウォルター(少年形態)、セラス、大尉 2010-12-10 11 27 18 (Fri) タバ→大尉 HELLSING 大尉 2009-06-28 03 47 19 (Sun) スナイピング ゼロ HELLSING セラスとリップバーン 2009-12-22 07 59 30 (Tue) 虚無と狂信者 HELLSING アンデルセン、アーカード 2009-06-28 03 50 36 (Sun) ルイズとヤンの人情紙吹雪 HELLSING ヤン・バレンタイン 2011-10-13 11 20 05 (Thu) 確率世界のヴァリエール HELLSING シュレディンガー 2011-01-24 10 44 21 (Mon) ANGEL DUST HELLSING アンデルセン(短編) 2007-12-22 20 50 26 (Sat) ゼロの伯爵 HELLSING アーカード(短編) 2009-06-28 03 48 09 (Sun) ページ最上部へ ガンダムキャラがルイズに召還されました ■ 過去スレ ├ ガンダムキャラがルイズに召還されました 2人目 └ もしルイズが召喚したのがトレーズ様だったら 作品タイトル 元ネタ 召喚されたキャラ(他備考等) 更新日時 ゼロの使い魔0083サーヴァントメモリー 機動戦士ガンダム0083スターダストメモリー アナベル・ガトー 2008-01-16 06 51 43 (Wed) ハルケギニアの蜻蛉 機動戦士ガンダム0083スターダストメモリー シーマ・ガラハウ リリー・マルレーン(短編) 2007-08-30 15 24 38 (Thu) ページ最上部へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4480.html
前ページ次ページZERO A EVIL ルイズは朝食を食べ終わった後、シエスタの淹れてくれた紅茶を飲みながら、のんびりした時間を過ごしていた。 今日はこれからどうするかと考えを巡らせていると、誰かが自分のことを見ているような感じがした。 だが、辺りを見回してみてもこちらを見ている人間はいなかった。 「どうしました?」 「視線を感じたんだけど気のせいだったみたい。それより、シエスタは今日も仕事なの?」 「今日は朝だけですね。この後は、特に予定はありませんよ」 「それなら街まで付き合ってくれない? ひ、一人で行ってもつまらないしね」 「ええ。私でよければお付き合いしますよ」 シエスタと一緒に出かけたいのが本音だったが、いつもの癖でつい言い訳をしてしまう。 この学院に来てから、誰かと出かける事など一切なかったし、虚無の曜日もほとんど一人で過ごしていた。 だが、今日一日は楽しく過ごす事ができそうだ。街に着いたら何をするかでルイズの頭はいっぱいだった。 そんなルイズの姿を見ている者がいた。キュルケの使い魔であるフレイムだ。 使い魔は主人と視聴覚が共有できる。フレイムが見ているルイズの様子はキュルケに筒抜けであった。 そのころキュルケは親友であるタバサの部屋でつまらなそうにしていた。 ルイズに対抗するために魔法の特訓までしていたのに、肝心のルイズはメイドと街に出かけるのを喜んでいる有様だ。 これでは何の為に魔法の特訓をしていたのかわからなかった。 「ごめんなさいね。あなたに付き合ってもらった特訓も無駄になりそうよ」 「別にいい」 タバサにとってはキュルケが心配で特訓に付き合っていたので、二人が戦わなくて済みそうなことにどこかほっとしていた。 表情には出さず、本を読みながら素っ気なく答えているので、はたから見れば無関心に見える。 だが、キュルケにはそんなタバサの心遣いがわかっていた。 「ありがと。あーあ、何だか退屈ね。ねえ、私達も街に出かけましょうか?」 「行かない」 「そう言うと思ったわ。じゃ、今日は久し振りに男の子達とお付き合いしようかしら」 タバサは、虚無の曜日にいつも本を読んで過ごしているのをキュルケは知っていたので、無理に誘う気はなかった。 最近はルイズのことばかり考えていたので、今日は蔑ろにしていた男の子達の相手でもしようとキュルケは思った。 ルイズとシエスタは街一番の大通りとされるブルドンネ街にやってきていた。 二人で通りの露店を眺めながら、他愛もない会話をする。たったそれだけの事がルイズにとってはとても嬉しく感じる。 今までずっと一人だった反動もあり、今日のルイズは少しはしゃぎすぎのようにも見えた。 シエスタはそんなルイズを見ながら嬉しそうにしていた。こんなに喜んでもらえるなら一緒に来たかいもあるというものだ。 これなら、ギーシュと決闘した時のように別人になってしまうことも、もうないだろうとシエスタは思っていた。 そんな二人が歩いていると、裏通りの方から人の怒鳴り声が聞こえてくる。 「もう我慢ならねえ!! やいデル公!! 今日こそてめえを貴族に頼んで溶かしてやるぜ!!」 「やれるもんならやってみろ!! 今更この世に未練なんてねえや!!」 どうやら二人の男が言い争いをしているようだ。 「えらく物騒な会話をしてますけど、何かあったんでしょうか?」 「どうせ傭兵同士の喧嘩でしょ。あの辺は確か武器屋があったはずだし、血の気の多い連中が集まりやすいんでしょ」 二人が話していると、裏通りの方から錆びた長剣を持った中年の男が現れた。いよいよ決闘でも始まるのかと二人は緊張したが、どうも様子がおかしい。 現れたのは中年の男一人だけだったし、その姿はとても屈強な傭兵には見えなかった。 そして一番の違和感は、男が自分の手にしている剣に向かって怒声を浴びせていることだった。 「言ったなデル公!! 今日の俺は本気だからな!!」 「ああ上等だ!! ちょうどそこに貴族の娘っ子がいるから頼んでみたらどうだ!!」 男が持っていたのは意思を持つ剣であるインテリジェンスソードのようだ。剣に言われてルイズ達に気付いた男がこっちに近づいてきた。 「これはこれは貴族の若奥様。お見苦しい所を見せてしまって、申し訳ありません」 「別にいいけど。一体何があったのよ?」 「へえ、実は……」 男から話を詳しく聞くと、ようやく事の真相が見えてきた。 まず、この中年の男は裏通りにある武器屋の主人で、インテリジェンスソードはその店に置かれている商品であるらしい。 今日もいつもどうり店を開けていると、ある貴族が剣を買いに武器屋までやってきた。 最近、土くれのフーケと呼ばれる盗賊がトリステインを荒らしているので、自分の家の使用人にも剣を持たせたいとのことだった。 そこで武器屋の主人は、ゲルマニアの高名な錬金魔術師が鍛えた剣を貴族に勧めることにした。 貴族はその剣を気にいったようだったが、ふと試し斬りをしたいと言い出す。 そして、店に乱雑に積まれていた剣の中から錆びた剣を取り出し、その剣に向かって斬りつけた。 だが貴族の持っていた剣は、錆びた剣を斬る事ができず、逆に斬りつけた所から折れ曲がってしまう。 唖然としている貴族に、試し斬りをした錆びた剣が言葉をかける。 「そんなちゃちな剣で俺を斬ろうなんて甘いんだよ。お前さん剣を見る目がないねえ、よく見ればインチキだってわかりそうなもんなのに」 その言葉を聞いて怒り出した貴族に、武器屋の主人は土下座して必死に謝った。 平民が貴族を騙そうとしたのだからただでは済まない。下手をすれば自分の命が消えてなくなってしまうのだ。 店にある剣を好きなだけ持っていっていいという条件で何とか許してもらえたが、店にとっては大損害であった。 その後、余計な事を喋った剣に激怒した武器屋の主人が、剣を溶かしてもらうために表通りに出たところでルイズ達に出会ったというわけだった。 「事情はわかったけど、貴族にそんな剣を売りつけようとしたあんたが悪いんじゃない」 「あ、あっしも知らなかったんですよ。知ってたらそんな恐れ多い事できませんぜ」 「け! よく言うぜ!」 「うるせえデル公! と、とにかくこの剣と鞘は若奥様に差し上げますんで、どうかどろどろに溶かしてやってくだせえ」 「え? ちょ、ちょっと!」 武器屋の主人はそう言うとインテリジェンスソードと鞘をルイズに渡し、裏通りの方に走り去ってしまった。 ルイズとシエスタはその姿を見ながら、呆然と立ちつくしていた。 「行ってしまいましたね」 「もう! こんな剣渡されても困るのに!」 「あの親父、都合が悪くなりそうだから逃げ出しやがった。さあ貴族の娘っ子、俺を溶かすなり何なり好きに……ん?」 すると、あれほどやかましく喋っていたインテリジェンスソードが急におとなしくなる。 異変を感じたルイズとシエスタが顔を見合わせていると、黙っていたインテリジェンスソードが再び喋りだした。 「こいつはおでれーた。まさかこんな娘っ子が“使い手”だなんて、時代も変わったもんだな」 「おとなしくなったと思ったら急に喋りだして、今度は一体どうしたのよ?」 「貴族の娘っ子、さっきの言葉は取り消しだ。この俺を使ってみちゃくれねえか?」 「いきなり何言い出すのよ。それに、私は剣なんて使ったことないわよ」 突然の提案に戸惑うルイズだが、インテリジェンスソードはそんなことはお構いなしに喋り続ける。 「いいじゃねえか、何事も経験だぜ。損はさせねえぞ」 「ルイズ様、溶かしてしまうのは可哀想ですよ」 「しょうがないわね。溶かしたりはしないけど、あんたを使ってあげるわけじゃないんだからね」 「そうこなくっちゃ! 俺の名前はデルフリンガーってんだ、これからよろしく頼むぜ相棒!」 「誰が相棒よ!」 その後、デルフリンガーを加えて再び大通りを歩き出す。 デルフリンガーはルイズとシエスタの会話にしょっちゅう絡んできたが、ルイズは悪い気はしなかった。 魔法学院ではシエスタしかまともに会話できる人物がいないルイズにとっては、デルフリンガーとの会話は新鮮なものであった。 最初はしぶしぶだったが、今はデルフリンガーを受け入れてよかったとルイズは思い始めていた。 そんな感じで、途中に一悶着はあったが、ルイズは久し振りに満足のいく虚無の曜日を過ごすことができたのである。 だが、その日の夜。 ルイズはいつものように魔法の練習をするため、シエスタと一緒に外に向かっていた。 デルフリンガーは部屋で留守番である。俺も連れて行けとうるさかったが、剣の練習をする気はないルイズは鞘に押し込んで黙らせた。 二人で外に出ると、前方に人影があることに気付く。それはキュルケと青い髪の少女だった。 青い髪の少女は、キュルケと一緒にいるのを何度か見かけたことがあった。 「奇遇ね、ルイズ。今日はそのメイドに一日中べったりと甘えられて、さぞ満足だったでしょうね」 「あ、甘えてなんかいないわ!」 キュルケはタバサと一緒にいつもの魔法の特訓を行うため外に出ていた。 特訓の必要はもうあまりなさそうだと考えていたが、タバサと魔法の特訓をするのは楽しかったので、もうしばらくは続けてもいいかと思っていた。 「その子と街に出かけられるとわかった時は大喜びだったじゃない」 「ど、どどどうしてそれを!?」 「さあ、どうしてかしらねー」 キュルケがフレイムを使って様子を探らせていたのをルイズは知る由もなかった。 「あ、あんただって、そこにいる子とこんな夜に二人っきりで何をしようとしてたのかしら」 「この子はタバサっていって、あたしの友達よ」 「どうだか。あんたのことだから、男だけじゃ満足できなくなって女の子にも手を出してるんじゃないの。いやらしいったらありゃしない」 このルイズの悪口はさすがのキュルケも頭にきたようだ。 「言ってくれるじゃない。何なら今から決着をつけましょうか?」 「望むところよ!」 「ル、ルイズ様!」 「シエスタは黙ってて、この女とはいつか決着をつけなくちゃいけないと思っていたのよ」 二人は杖を手に取ると、お互いに距離をとりながら向かい合う。 シエスタとタバサは黙って二人の姿を見守ることしかできない。 その時、少し離れた場所でその様子を見ている人物がいることに気付く者はいなかった。 ルイズとキュルケが同時に杖を相手に突きつけ、呪文を唱える。 キュルケはファイヤーボールの呪文を唱えたようだ。特訓の成果が出ているのか、いつもよりも大きな火球がルイズの方に向かっていく。 それに対し、ルイズもファイヤーボールの呪文を唱えたのだが、いつものように失敗し、キュルケの背後にある宝物庫の壁が爆発する。 キュルケの火球はルイズの足元に着弾し、ルイズは吹き飛ばされてしまう。 よろよろと立ち上がるルイズだが、もう戦うことはできそうになかった。 「ルイズ、もう降参しなさい。今のあなたじゃ、あたしには勝てないわよ」 ルイズを警戒していたキュルケは本気でファイヤーボールを使ったが、吹き飛ばされたルイズを見てやりすぎたと思っていた。 だから、早めにルイズに負けを認めるように促す。 「ま、まだよ。これからあんたに吠え面をかかせてあげるんだから、覚悟しなさい!」 プライドの高いルイズは負けを認めるわけにはいかなかったし、シエスタの前で無様な姿も見せられなかった。 だが、威勢がいいのは口だけで、満身創痍なのは誰が見ても明らかだった その時、ルイズの背後の地面に異変が起こる。突如、高さが30メイルにも及ぶ巨大な土ゴーレムが出現したのだ。 ゴーレムはルイズ達の方に向かってくる。キュルケは慌てて逃げ出すが、ルイズは先程のダメージもあり、すぐに動くことができなかった。 そうこうしている内に、ゴーレムはルイズのすぐ側まで迫ってきていた。 そして、無慈悲にもルイズの頭上にゴーレムの足が振り下ろされる。 「ルイズ様!」 だが、ルイズがゴーレムに踏み潰されることはなかった。ルイズを助けるために走ってきたシエスタがルイズを突き飛ばしたのだ。 ゴーレムの足が振り下ろされる。足の下に誰がいようとゴーレムには関係なかった。 突き飛ばされたルイズが辺りを見回してもシエスタの姿は見えない。 自分の代わりにシエスタがゴーレムに踏み潰されてしまったと結論づけるのにそう時間はかからなかった。 悲しみと怒り、憎しみなどの感情がごちゃまぜになってルイズを襲う。シエスタと過ごした日々を思い出し、ルイズの頬を涙が伝った。 目の前では、ゴーレムが宝物庫の壁を殴りつけている。 (よくも、よくもシエスタを!! 仇は必ず取ってみせる!!) ギーシュと決闘した時と同じように、ルイズの左手のルーンが光を放っていた。 ルイズはシエスタがゴーレムに踏み潰されたと思っていたが、実はそうではなかった。 踏み潰される直前に、タバサの使い魔である風竜がシエスタを助けたのだ。 風竜にはタバサの他にキュルケも乗っており、今は少し離れた上空でゴーレムの様子を伺っていた。 「ミス・タバサ、ルイズ様も助けてください!お願いします!」 「それはだめ。今近づくと相手を刺激することになる」 「そう。ルイズの安全を考えるなら、今は様子を見るのが一番なのよ」 ゴーレムは宝物庫の壁に穴を開け終わったようだ。ゴーレムの肩から黒いローブ姿のメイジが中に入っていく。 そして、何やら大きな箱をレビテーションで浮かせながら運び出していた。 「タバサ、これからどうするの? このまま黙って見てるわけにもいかないでしょ」 「ばれないように追跡。油断している時に箱を奪い返す」 「そうね。それなら、ルイズも安全だし」 二人が今後の行動を考えていると、急にシエスタが叫びだした。 「ルイズ様!!」 「急にどうしたのよ!」 「いけない」 ルイズの方に目を向けると、ゴーレムに向かって走り出しているのがわかった。タバサはこちらに注意を向かせるために風竜をゴーレムに近づける。 だが、ルイズの走るスピードは早く、もうゴーレムの側まで近づいていた。 その時、三人は信じられない光景を目にする。 ルイズがゴーレムに飛び乗り、上にいるメイジの所まで一気に駆け上がったのだ。そして、突如現れたルイズに驚いている黒いローブのメイジに向かって飛び蹴りを放つ。 不意を突かれた黒いローブのメイジは、それを避けられずに顔の辺りを蹴られていた。その際、レビテーションが切れたのか、浮かせていた大きな箱が地面に落下していく。 ルイズは畳み掛けるように攻撃しようとするが、黒いローブのメイジの方もすぐさまゴーレムで反撃に移る。 ゴーレムがルイズを捕まえるために腕を伸ばすが、素早い動きのせいで中々捕まえることができない。 ルイズの方もゴーレムの腕に邪魔されて、黒いローブのメイジに近づけないようだった。 風竜の上でその様子を見ていたキュルケは唖然としていた。表情には出さないが、タバサも驚いているようだった。 武術の達人のような素早い動きを見せるルイズは、さっきまでとは別人のように二人には見えた。 シエスタは、ルイズが再び別人ようになってしまったことに不安を覚えていた。 何か取り返しがつかないことが起こってしまう前に、一刻も早くルイズの側に行かなければならないと思った。 「お願いしますミス・タバサ! 私をルイズ様の所に連れて行ってください!」 ゴーレムの上で果敢に攻撃を仕掛けるルイズだが、最初の飛び蹴り以外の攻撃が当たることはなかった。 黒いローブのメイジは、ゴーレムでルイズの攻撃を防いでいる。まずはこのゴーレムをなんとかしなければならなかった。 その時、ゴーレムを破壊する方法を考えているルイズの目にある物が写った。 地面に落下した際に壊れた箱から飛び出し、無造作に転がっている物体。細長い筒状の形をしており、六本の銃身とレバーが付いている。 胴体からは無数の弾丸がまるで蛇のように伸びていた。 それを見た瞬間、ルイズは素早くゴーレムを駆け下りる。 地面に横たわっている胴体を起こし左手で支えると、銃身をゴーレムに向け右手でレバーを掴む。 使い方はわかっている。当然だ、これはかつて自分が使っていた最強の武器なのだから。 「シエスタをかわいがってくれたお礼はたっぷりしてあげるわ。受け取りなさい……このガトリング銃の弾をね!!」 ルイズがレバーを回転させると、ガトリング銃から弾丸が勢いよく発射された。 発射された無数の弾丸を浴びているゴーレムは、見る見るうちに穴だらけになっていく。 黒いローブのメイジはゴーレムを修復しようとするが、絶え間なく浴びせられる弾丸のせいでとても修復が追いつかない。 そして、銃身が徐々に上に向けられていることに気付く。自分が狙われていることを悟った黒いローブのメイジはフライで逃走を図った。 たとえこの場は逃げられても、飛び蹴りが当たった時に顔をはっきりと見ている。 まさか学院長の秘書が盗賊とは予想外だったが、例え相手が誰であろうとシエスタを殺した報いは受けさせなければならない。 シエスタの仇を討つ機会はまだあるが、このままあっさりと逃がすわけにはいかなかった。 ルイズが黒いローブのメイジに狙いを付けようとした時、一匹の風竜がこちらに近づいてくるのが見えた。 「ルイズ様!! 駄目です!!」 その声を聞いた瞬間、ルイズの動きが止まる。声のした方に恐る恐る目を向けると、風竜の上にいるシエスタの姿を発見した。 左手のルーンは急速に光を失い、ルイズの手を離れたガトリング銃は地面に落下する。 ルイズのすぐ近くに着地した風竜からシエスタが勢い良く飛び降りる。そして、唖然としているルイズを抱きしめた。 「盗賊は逃げました。だから、ルイズ様が戦う必要はもうないんです」 そう優しく囁きかけてくれる声や抱きしめてくれる感触が、シエスタが生きていることをルイズに実感させる。 それに気付いた時、大粒の涙がルイズの頬を流れていく。安堵感と嬉しさのあまり、感情の歯止めが利かなくなっていた。 キュルケとタバサはそんな二人の様子を静かに見守っていた。 前ページ次ページZERO A EVIL
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6648.html
前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔 魔法学院の教室は、講義を行うメイジの教卓が一番下の段に位置し、階段の様に机が続いている。 ルイズとミュズが中に入って行くと、先に教室にやって来ていた生徒達が一斉に振り向き、そして、くすくすと笑い始める。 皆、様々な使い魔を連れていて、教室中に沢山の生き物が居た。 梟、蛇、烏、猫。ミュズの中のデータにある地球に存在する生き物が見える。 しかし、ミュズの目を引くのは、椅子の下で眠り込んでいるキュルケのサラマンダーの様な見た事も無い未知の生物だった。 アバロス星人に似た姿の、六本足のトカゲがいた。 ミュズは気になって、ルイズに尋ねた。 「あの六本足のトカゲは何ですか?」 「バジリスク」 ミュズは次々に不思議な生き物の名前を尋ねる。 ルイズはそれを次々と不機嫌な声で答えて、席の一つ腰掛けた。 ミュズはその傍らに怖ず怖ずと無言でぴたりと立った。 ルイズは使い魔達が集まっている教室の壁際に居る様に言いつける。 しかし、ミュズが怖がってマントを掴んで離れないので、渋々諦める事になった。 扉が開いて、中年の女の先生が入ってきた。紫色のローブに身を包み、帽子を被っている。ふくよかな頬が、優しい雰囲気を漂わせている。 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。 「皆さん。使い魔召喚は、大成功の様ですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは俯き、ミュズが居るのとは反対側の方に顔を逸らした。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したのですね。ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズがミュズを見て、何気無しにとぼけた声で言うと、教室中がどっと笑いに包まれ、太っちょの男子生徒から野次が飛ぶ。 「ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺の平民を連れてくるなよ!」 ルイズは立ち上がり、長いブロンドの揺らして怒鳴った。 「違うわ!きちんと召喚したもの!この子になっちゃっただけよ!」 「嘘つくな!『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう?」 ゲラゲラと教室中の生徒が嘲笑う。 「ミセス・シュヴルーズ!風邪っぴきのマリコルヌが私を侮辱したわ!」 握り締めた拳でルイズは机を叩いた。 「風邪っぴきだと?俺は風上のマリコルヌだ!風邪なんかひいてないぞ!」 マリコルヌも立ち上がり、ルイズを睨みつける。 「あんたのガラガラ声はまるで風邪をひいてるみたいなのよ!」 シュヴルーズは小ぶりな杖を振って、立ち上がった二人を制止させ、席に座らせる。 「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はお止めなさい」 さっきまでの勢いが吹っ飛んで、ルイズはショボンとうなだれていた。 「お友達をゼロだの風邪っぴきだの呼んではいけません。分かりました?」 「ミセス・シュヴルーズ。僕の風邪っぴきは只の中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」 マリコルヌの一言に、生徒達からくすくす笑いが漏れる。シュヴルーズは厳しい顔で教室を見回して杖を振るい、何処からともなく現れた赤土の粘土でくすくす笑いをする生徒達の口を塞ぐ。 「あなた達は、その格好で授業を受けなさい」 教室中のくすくす笑いが治まった。 授業の開始を告げ、シュヴルーズは咳払いをして、ルーンを唱え杖を振うと、教卓の上に石ころが現れた。 「テレポート?あの人のESP波が一瞬で急に強くなった様な感じがした…」 ミュズはその光景に眼を見開き、口をきゅっと締めて呟く。 「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。」 二年生になって最初の講義と言う事も有り、おさらいをする様に系統魔法や『土』系統の魔法の特長が説明される。 そして、シュヴルーズは『土』系統の魔法の基本である『錬金』を、教授する為のお手本として、自ら石ころに向かって唱える。 石ころが光りだし、それはピカピカした黄色味を帯びた金属に変わっていた。 ミュズはその様子をじっと注視して、目の奥をチカチカと光らせた。 キュルケが身を乗り出し、「ゴールドですか?」と尋ねると、シュヴルーズは謙虚そうに「真鍮」と答えた。 その後に、ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』で有り、自分は『トライアングル』だともったぶった様に付け足した。 ミュズがルイズの肩をつつく。 「マスター」 「何よ。授業中よ」 「『スクウェア』や『トライアングル』って何ですか?」 「系統を足せる数の事よ。それでメイジのレベルが決まるの」 「はい?」 ルイズは小さい声で顔を近づけさせる。 そしてミュズに、一つの系統に他の系統を足して呪文を強化する事や、同じ系統を足してその系統を強化する事などを、すらすらと説明した。 ミュズはその説明に納得すると、ぽつりと疑問を投げ掛けた。 「マスターは幾つ足せるの?」 その疑問に口をへの字に閉じて悲しげに眼を細め、ルイズは押し黙ってしまった。 そんな風にしゃべっていると、シュヴルーズに見咎められ、ルイズはクラスメイトの前で錬金の実技を行う様に言いつかる。 しかし、困ったようにもじもじするだけで、ルイズは立ち上がろうとしなかった。 シュヴルーズが再び呼び掛けると、キュルケが『危険』を理由にルイズの実技を取り辞めるように困った声で言い、教室の殆ど全員が頷いた。 初めてルイズを教えているシュヴルーズはその意味が分からず、励ましの声を掛けルイズに実技を行う様に促す。 キュルケは褐色の肌から血の気が引いて、ルイズに実技の辞退を懇願するが、決心した様にルイズは立ち上がってシュヴルーズに答える。 緊張した顔でルイズはつかつかと教室の前へと進むと、隣に立ったシュヴルーズはにっこりと笑い、錬金したい金属を心に思い浮かべるようにと指導をする。 こくりと頷いて、ルイズが手に持った杖を振り上げ、それと同時に前の席に座っていた生徒が椅子の下に隠れた。 ルイズは目をつむり、短くルーンを唱え、杖を振り下ろす。 その瞬間、教卓ごと石ころは爆発と化した。 爆風をモロに受け、ルイズとシュヴルーズは黒板に叩き付けられた。 驚いた使い魔達が暴れ出し、サラマンダーが火を吐くは、マンティコアが外に飛び出すは、大蛇が烏を飲み込むはの大騒ぎになった。 悲鳴や罵声が溢れる教室で、ミュズは誰も気付かない小さな声で呟いた。 「真空の揺らぎが『ゼロ』になった」 シュヴルーズはたまにピクピクと痙攣をして倒れたまま動かない。 煤で真っ黒になったルイズは、服の至る所が破れた見るも無残な格好で、むくりと立ち上がる。 大騒ぎの教室を意に介した風も無く、顔の煤をハンカチで拭きながら、淡々とした声で言った。 「ちょっと失敗みたいね」 他の生徒達から猛然と反撃を食らう。 「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」「いつだって成功の確率、ゼロじゃないかよ!」 ミュズは、どうしてルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているのかを、ルイズが魔法を使うと如何なるかを知った。 前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8803.html
前ページ次ページデュープリズムゼロ 第十九話『裏切りのワルド』 昨夜ルイズと喧嘩別れをしたままミントはニューカッスル城からの脱出準備の為城の中を駆け回っていた。 そう、火事場泥棒だ。 脱出船が出発する時間まではまだまだ余裕がある。それまでにありったけのお宝を回収しなければならないのだ。 (今頃結婚式始めてるのかしらね………風のルビーはルイズがウェールズから預けられるだろうし…ワルドが何か企んでるっぽいのは気になるけど。) 多少気にはなるが今は時間が無い…今はお宝だ。 ___礼拝堂 ルイズは戸惑っていた、今朝方早くにいきなりワルドに起こされ、ここまで連れてこられたのであった。 昨夜のミントの言葉と滅びる王家のショックもあり殆ど眠れていなかったルイズはワルドにこれから結婚式を挙げよう等と突然言われて戸惑い、混乱したまま状況に流されて此処まで来てしまった。 ウェールズの好意で貸し与えられ、ワルドの手によって頭に乗せられたアルビオンの秘宝の一つ『白の花冠』は白の大陸アルビオンを形容する様に魔法の力で瑞々しく咲いた白い花で作られたそれは美しい物だった。いつも身に付けていた黒いマントも今は純白のマントで着飾り、簡易的ではあるがその姿はまさに花嫁以外の何物でも無い… ヴァージンロードの先には荘厳なステンドグラスと神々しく聳える始祖ブリミルの像があり、その袂には皇太子としての礼服に身を包んだウェールズが心から祝福しているのだろう…ルイズを暖かく見守っていた。 「さぁ、ルイズ。僕の花嫁。」 そう優しく言ってワルドがルイズの手を優しく引き寄せウェールズと始祖の像へと一礼を行う。 それを確認してウェールズはにっこりと微笑むと祝詞の記された書を朗々と読み上げ始める。 「これより結婚式を始める。子爵、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか?」 「誓います。」 ワルドの迷い無い誓いの言葉にウェールズは満足そうに笑みを浮かべる。 「新婦ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか?」 そのウェールズの問いにルイズはようやく自分が今結婚式を挙げているのだと言う事を理解した。 今自分を見つめている隣のワルドと自分は結婚する…それはイヤでは無い。もともと婚約者でもあるしずっと憧れていた子爵様なのだむしろ嬉しい…だがルイズ自身は今全くどこかこの結婚に納得がいっていないのだ。 戸惑いの中ルイズはつい後ろを振り返る…当然ながら礼拝堂には誰も居ない。 ここ最近ずっと自分の側に居てくれていたミントは一足先にアルビオンを発っているとワルドから聞いていた…それでも無意識にミントの姿を探してしまった自分は何なのだろうかとルイズは自問自答する。 「新婦?」 ウェールズの声に思考に沈んでいた頭を覚醒させてルイズは慌てて顔を起こす。 「緊張しているのかい?大丈夫さ、君は僕を信じてくれれば。」 ルイズの様子がおかしいと感じたのかワルドが爽やかに言う。 (そうよ…ワルド様を信じれば…) ワルドの言葉にそこまで流される様に考えたルイズだったが不意に昨夜のミントの言葉が頭をよぎった。 『あんたさ~…ちょっと甘えてんじゃないの?』 途端にルイズは混乱していた自分の思考がクリアになるのを感じる。 確かにここでこのままワルドと結婚すれば後は幸せで安泰な人生がまっているだろう。 だが、それは何かが違う。ルイズ・フランソワーズはまだ自分の力で誰も見返してはいないし何よりミントを元の世界に戻すという責任を果たしていない。 結局このままでは『ルイズ・フランソワーズ』というメイジの存在は否定され『フランシス・ド・ワルドの妻』という人物が生まれるだけだ… そんな事、認める訳にはいかない…結局自分の貫く生き方だけは自分で決めねばならないのだ。 心を決めたルイズは先程までの戸惑いを浮かべた表情を一変させてウェールズへと視線を真っ直ぐ向けた。 「誓えません。」 「なっ!?ルイズ??」 「何と?新婦はこの結婚を望まぬか?」 「はい。そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません。」 ルイズの予想外の答えにワルドは戸惑いを隠せないままルイズへと詰めよりその手を握る。 「どうしたね? ルイズ、気分でも悪いのかい?そうだろ?」 「違うの、ごめんなさい……」 「あぁそうか!!日が悪いなら、改めて……」 「そうじゃない、そうじゃないの。ごめんなさい、今のままの私じゃワルド、あなたとは結婚できない。」 そう伏し目がちに言って首を振るルイズ… 「何故だ!?言ったじゃ無いか、いつか君は素晴らしいメイジになる。そう、世界だ!!君の力があれば世界を手にする事だって!!」 激昂した様にワルドはルイズの両肩を強く掴む…そのワルドの豹変ぶりにルイズは驚くと同時にまるで悪い夢でも見ている様な強い恐怖を感じた。 「わ…私は世界なんて欲しくない!痛いわ、離してワルド。」 常日頃から世界征服等という世迷い事をルイズはミントの口から夢なのだと語られている。その大それた夢を語るミントの瞳は今思えば希望に輝き、その野望は聞いている方が元気を貰える様な物だ… しかしワルドの瞳が映しているのは邪な欲望だ…ルイズは世界を手に入れると声高に語ったそのワルドの瞳を見て確信する。 「ルイズ!!僕の物になるんだっ!!」 叫ぶワルド…それは最早誰が聞いても恫喝の声にしか聞こえぬ恐ろしい声。 「嫌よっ!ワルド、今解ったわ。あなたは私を愛してなんかいない…あなたが欲しがっているのは私の中にあるなんて思ってる在りもしない才能……こんな侮辱初めてよ!!」 「子爵!!ヴァリエール嬢を離したまえ。彼女は君との婚姻を望まぬと言い、今はっきりと君を拒んだではないか?残念だがこれ以上は私も見過ごす訳に行かん。」 ルイズがワルドを拒むのと同時にウェールズがワルドの背中に声をかける… ウェールズもミントとワルドそれぞれが語る『世界』の意味の違いを感じたのだろうか、その片手は自然と腰に下げていた杖に伸ばされていた。 ワルドはその様な状況になってようやくルイズの肩を掴んでいた両手を離す… あまりに想定外の事態に些か取り乱してしまった様だ…ルイズから向けられる侮蔑と恐怖の込められた視線を受けながらワルドは残念そうに微笑みを取り繕う…… 「こうまで言っても駄目かい?残念だよ…ルイズ。」 「当たり前よ…」 「それでは仕方ない…君の事を手に入れるのは諦めるとしよう。これでも道中君を籠絡させる為に色々と手を回していたんだがね、本当に残念だ。だが、だからこそあと二つの僕の目的は達成させなければ成らない。」 「二つの目的?」 その不気味な物言いにルイズはワルドが何を言っているのかが解らず頭に疑問符を浮かべる… 「一つは君の持つ王女の手紙の回収さ…尤も君とは依頼主が違うがね。」 そう言った次の瞬間、不穏な気配を感じ取ったウェールズが杖を抜き。だがそれよりも早く風の魔力を纏い光を放つワルドの杖による神速の突きがウェールズの胸を正確に貫いていた… 「子…爵…貴様…」 「もう一つは彼の命だよ…ルイズ。」 「ワルド……まさか……あなた………」 ルイズは目の前の崩れ落ちるウェールズとその胸から杖を引き抜くワルドというその衝撃的な光景を信じる事が出来ず震える様に言葉を紡ぐ… 「あぁ、そうだよルイズ。…僕はレコンキスタだ……」 そう言って口元を歪めたワルドを前にしてルイズは懐から杖を抜いてワルドへとその先端を咄嗟に向けた… 唱える魔法等何でも良い…ルイズは目の前の『敵』へと精神を集中させる。 「フラ「エアハンマー。」」 ルイズが呪文を唱え始めると同時にワルドも呪文を詠唱する。 それは決定的なメイジとしての力量の差だった。ルイズのコモンマジックがワンスペルで在るにも関わらずワルドの詠唱の完了の方が尚早かった… 瞬間、ルイズの杖を掴んだ右手に凄まじい衝撃が襲いかかる… 杖はその手を離れ遙か後方へと吹き飛ばされていく… そして… ルイズの右腕は肘から先が本来ならば曲がるはずの無い方向へと不自然に曲げられていた… 「いっ……ぁ……ぃゃ…ああぁぁぁぁ!!!…ぅぁ…」 自身にとって初めて感じるであろう形容しがたい激痛にルイズは思わず悲鳴をあげ、折れた腕を押さえる様に反射的に踞る。 (痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!) 「フッ…言っただろうルイズ、君には間違いなく素晴らしい才能があるんだ。だから君の爆発の魔法を僕は評価している。しかしだからこそ君に魔法を使わせる訳にはいかないんだ。」 ワルドの声も上手く理解出来ぬ程ルイズの思考は今痛覚によって乱されている。それでも今現在ワルドが自分に止めを刺そうとしているのは何となく理解はできた。 「い、嫌っ…助けて…」 「命乞いかい?だけど残念だ、僕はこれから君を殺す。」 ワルドはそう言って邪悪に笑う。 「助けてよっ…ミントッ!!!」 絶体絶命の窮地の最中、ルイズは無意識に叫んだ。己の使い魔の名前を… ___ニューカッスル城 今、ミントは息が乱れるのも構わず一心不乱に走っていた。 遡る事数分前。 粗方城内に残されていたお宝を回収し終え、ミント主観で価値の高そうなお宝の詰まった荷袋を担いで脱出の為に停留していたイーグル号の乗り込もうとそのタラップに足をかけた瞬間、ミントは自分の左目が妙な光景を映し始めた事に気が付いたのだ… (何よこれ……此処は礼拝堂?…ワルドもウェールズも一緒って事はこれもしかしてルイズの見てる光景なの?) ミントも使い魔と主の視角共有の話は以前ルイズに聞いていた。しかし、問題はそこでは無い。ミントの視界に映るワルドの鬼気迫る表情は明らかにただ事では無く、ルイズの感じている恐怖心なのだろうかミントの胸に言いようのない不快感が襲いかかる。 「まずいっ!!」 あれこれ考えるよりも早くミントはデュアルハーロウを握りしめると礼拝堂に向けてその場から疾風の如く走り出した。 後ろ髪を引かれる思いではあるが回収した金銀宝石類が詰まった荷袋はイーグル号の甲板へ乱暴に放り投げる… 「どうしたよ相棒?急に走り出して、お前さんあの船に乗らなきゃ帰れないんじゃねぇのか?……はは~ん、さてはお前さんもよおし「そぉいっ!!」」 「……………悪かった…」 ミントの全力の投擲によって進行方向にある壁面に深々と突き刺さったデルフリンガーを走り抜ける様に引き抜いてミントは更にひた走る。感情の高ぶりが力を与えているのかそのスピードとスタミナは野生のディグレであろうと悠々と振り払えるであろう程の領域だ。 そして、左目の視界に映るワルドがどこか影を孕んで優しく微笑む… ミントは通路の窓から大きく跳躍し、柔らかな花壇をクッションに飛び降りると現在地から礼拝堂までの直線を繋ぐ庭園を突き抜ける… 視界に映るワルドが突然に杖を抜いた… ミントは目の前に聳える邪魔な城壁を睨み『ドリル』の魔法を発動させる…漆黒の螺旋はいとも容易く固定化のかけられた前方の強固な壁に大穴を開けた… 相変わらず左目は見たくも無い嫌な光景を映し続ける……ミントはギリッと唇を噛んだ… 胸を貫かれたウェールズの身体が力無く崩れ落ちる… 目の前に礼拝堂が見えた… 次いで左目が映したのは歪に曲がった華奢な右腕…それは間違いなくルイズの物だった… 『助けてよっ…ミントッ!!!』 そうして礼拝堂の大扉を前にしたミント耳にルイズの自分を呼ぶ声が届く… 「ワルドォッ~~~~~~~~~~~~!!!!!!」 暴走した様に早鐘を打つ心臓でミントは跳び蹴りで大扉を蹴破ると同時に怒りの雄叫びを上げた。 前ページ次ページデュープリズムゼロ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1156.html
空に穴が開いた。 /*/ 視界を覆う土煙が晴れた時、彼は視界に映る情景に首を傾げた。 先ほどまでの自分は冒険艦に乗って星の海にいたはずだが、ここはどう見ても学園か修道院にしか見えない。 視線を巡らせば幾種類かの動物たちを侍らした人の子たちがこちらを窺っている。 「ゼロのルイズが成功した……なぁ、俺、夢でも見てるのかなぁ?」 「でも猫だぜ、どこかから拾ってきたんじゃないか? なんか服着てるし」 「ていうか、なんだあの大きさ」 ふむと頷き、口を開こうとして止めた。 ここがどんな世界か解らぬ以上、自分が喋れることを告げるのは得策ではない。 視界に入る動物たちの種類から第六世界群の内のどれかだとは思うが、それだけしか解らない。 悩んだ末、首輪の奥に隠された多目的結晶にインストールされたプログラムによりどの世界でも会話に不自由しない大猫は、第二世界の言葉であるバルカラル語で目の前にいる桃色の髪の少女に呼びかけることにした。 「娘よ、少々尋ねるが……」 /*/ 呼びかけられた娘、すなわちルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは歓喜のあまり茫然自失していた。 生まれて初めて自分の魔法が成功したのである。 いつかその日が来ると信じてはいたが、実際にその日が来れば感慨もひとしおである。 「………………!」 無言で拳を握り締めて感動に打ち震える。 ニャオニャオと目の前の猫が鳴いていたのも気づかずに腕を振り上げては振り下ろすのを繰り返す。 「ああ、そろそろよろしいかな、ミス・ヴァリエール? さあ、『コントラクト・サーヴァント』を行いなさい」 ルイズの歓喜の踊り(?)を暖かい目で見ていたコルベールが呼びかけた。 教師らしい威厳を保とうとしているが、その顔には抑えきれぬ喜びの色がある。 手がかかる子ほど可愛いと言うが、彼にとってルイズはまさしくその典型だった。 (本当によくやりましたね、ミス・ヴァリエール) 心の内で思う。 ルイズは貴族の一員であるが魔法が使えない。 だが、それ故にこの魔法学院の誰よりも自分が貴族であることに誇りを持ち、貴族たらんと努力してきた。 民を守り、治めるに相応しい者として歩んできた。 無論それを認めない者もいる。魔法が使えぬ者の無駄な努力と嘲笑う者もいる。 けれどその度に彼女は『それがどうした』と言い続け、ついに今日この日を迎えたのだ。 ついに彼女は魔法を成功させたのだ。名実共に貴族となったのだ。 こんなに嬉しいことはなかった。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 教え子の紡ぐ呪文を聞きながらその使い魔を観察する。 どこにでもいるような猫だが、しかし大きい。 成体の獅子や虎に比べても遜色のないその体躯に赤い短衣を羽織り、首輪をつけている。 (……ん?) 赤い短衣? 首輪? つまり……野生ではない? 「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 ……飼い主が、どこかにいる? その事に思い至った時、ルイズはすでに大猫と口付けを交わしていた。 /*/ さて、バルカラル語での呼びかけを無視された大猫は途方にくれた。 この言葉が解らぬと言うことは、この少女は神族との接点を持っていないということだろう。 あるいはこの世界に神族が既にいないということも考えられる。 言葉を解する猫というものがこの世界でどんな地位にいるか解らぬ以上、自分の正体を隠すにこしたことはない。 悪魔の使いとして追いかけられるなら誤解だと言い切れるが、研究材料として追いかけられてはたまったものではないからだ。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 考えているうちに桃色の髪の少女が近づいて来た。 その胸にある首飾り、蒼い石のついたそれに大猫の目がとまる。 それは大猫にとって非常に馴染み深いものだった。 目を細め、此度の件を画策したであろう古い知り合いを胸の中で罵った。 あやつめ、またしてもわしに介添え役をやらせるつもりか。 「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 むぎゅ、と押し付けられた唇に固まる。 この世界の女性は積極的なのだなと驚きはしたが、それでも若い女性に唇を許されるのは嫌いではない。 というかむしろ好きだ、大好きだ。英雄色を好む。 「契約は終わりよ。ルーンが刻まれるからじっとしていてね」 言いながら自分を抱きしめる少女に大猫は自ら顔をすり寄せた。 首飾りを近くで見たかったからで、他意はない。 すり寄せた顔が胸の部分に当たったのも偶然ならば、 少女の胸の薄さに、懐かしい誰かを思い出したのも偶然である。 「気のせいかしら。誰かに馬鹿にされた気がするわ」 気のせいだ。大猫は思った。 火の国の砦にいた電子の巫女姫を思い出したのは、この前脚に走る痛みの所為だ。 焼け付くような痛みに、キメラのレーザーを連想したからだ。 断じてお前の体型からではないぞ。いててててて。 /*/ 大猫にルーンが刻まれるのを見ながらコルベールは微かに肩を竦めた。 例え飼い主が他にいても使い魔召喚の儀は神聖なもの。 ルイズだけ特例を認めるわけにもいかない。 飼い主が平民ならばその補償をしなければならないが、幸いにして主人であるルイズは貴族の誇りを重んじる。 おそらく自分からその補償を進んでするであろうし、飼い主が望むのならば召抱えて大猫の傍にいることを許すだろう。 貴族ならもっと簡単だ。この儀式の神聖さを知らぬ貴族などいない筈なのだから。 「コルベール先生!ちょっと見ていただけますか?」 ルーンを確認したルイズが言う。どうかしたのだろうか。 早速周りの生徒たちが 「やっぱり失敗かよ」 「ゼロだしな」 と言うのを尻目に大猫に近づいた。 「おや、これは珍しいルーンだね」 「ええ。わたしも見たことがなくて……先生もですか?」 うむ、と頷いて速やかにメモを取り、周囲に聞こえるように声を上げた。 「これは今後の課題としよう。ルーンが違えども君が使い魔を召喚し、契約できたことに違いはないのだからね」 不満そうな顔の生徒に内心で舌打ちする。隙あらば他人をあげつらうのが自称貴族のやることかね? 「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」 杖を振って『フライ』の呪文を唱える。 性懲りもなくルイズを蔑む生徒たちの声が聞こえるが、微かに眉を顰めただけで黙殺する。 注意しても聞かぬだろうし、何よりルイズ自身がそれを望まない。 あの誇り高い少女には、憐れみこそが最高の侮辱になるのだから。 /*/ 「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」 「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』さえ出来ないんだぜ!」 宙から聞こえた声に、しかしルイズは怒らなかった。 ただ胸をそらして言っただけだった。 「それがどうした!」 大猫は目を細め、愉快そうに笑った。 なるほど、あいつが選んだのはこの気性ゆえか。 素晴らしい、それはいつだって「それがどうした」と言い続ける所から始まるのだから。 まさしくその通り。空を飛べなければ歩けば良い。ただそれだけのことではないか。 行くわよ、との声に足を速め、ルイズの前に回る。 きょとんとした顔の主に首を振って自らの背中を指し示した。 「乗れって言うの?」 そっとルイズがそこに腰を下ろすと走り出す。 下を見た女性徒の何人かが羨ましそうな顔をした。 前に戻る 次に進む 目次
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1297.html
前ページ次ページ使い魔のカービィ 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに、応えなさい!!」 杖を振り下ろすと、爆音と共に光が炸裂した。 彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、昇級をかけた使い魔召喚の儀を行っていた。 が、さっきから巻き起こるのはお得意の爆発という名の失敗魔法ばかり。 何度この行程を繰り返して来たか、だんだん数えることさえ面倒になってきいた。 周りの生徒達も彼女の失敗にはもう飽き飽きしたのか、自分の喚んだ使い魔達を愛でている。 (私だって、あの位……いや、あれ以上に立派なの喚んでやるんだから……!!) もう一度気合いを入れ、再び杖を構える。 と、その時、ルイズの瞳に煙の向こうの何かが映った。 まさかと思い、すぐに爆発の中心に駆け寄るルイズ。 するとそこには――― 「………何、これ」 ルイズの髪の毛と同じ、ピンク色のボールみたいな生物が倒れていた。 恐らく胴だと思われる部分からは短い三角の手が生え、真っ赤な足はまるでコッペパンのようだ。 気絶しているのか、このピンクボール(仮称)は全く動く気配を見せなかった。 動かないピンクボールに生物なのかどうかさえも怪しくなったルイズは、試しに手に持った杖でつついてみる。 ぷにっ (あっ、柔らかい) 感触としてマシュマロに近いかもしれない。 そんな事を考えながら更にピンクボールの体をつついていると、流石に気が付いたのか、目だと思われる部分がゆっくりと開いた。 「っ!? お、起きた……!」 「ぷぃああぁぁぁ……」 ピンクボールは大きな欠伸を1つすると、目を擦りながら周りを見渡した。 「……ぽよ?」 そして気付いた。そこが自分の家ではないことに。 見慣れた白い天井も、同居人の黄色い鳥も、大好きなテレビもない。 代わりに目に入ってきたのは、青空と自分を見つめる1人の少女。 しかもその少女は、何故か小刻みに震えている。 「……ぽよぉー?」 ピンクボールが訳も分からずただその様子を眺めていると、少女が飛び上がって叫んだ。 「いやぁっっったああぁぁーーーーーーーー!!!」 天にも昇る気持ちとはまさにこのことを言うのだろう。 何度も何度もその場で飛び跳ねながら、ルイズは今までに感じたことのない程大きな喜びに浸っていた。 遂に、憧れの、念願の、自分の使い魔を手に入れることが出来た。 予想していたのに比べれば大分頼りないが、まともにに魔法を使えたというのは紛れもない事実。 自分の喚びだしたピンクボールを抱きかかてクルクル回っていると、上の空だったギャラリーが漸く気付いた。 「ゼ、ゼゼゼ、ゼロのルイズが成功した!?」 「そ、そんな、まさか!?」 「天変地異の前触れじゃないのか!?」 「雪だ! 雪が降るぞ!」 『魔法成功率0%』のルイズの成功に、一瞬辺りが戦々恐々となる。 が、ルイズの腕に納まっているそれが生徒たちの目に入ったとたん、すぐにそれは嘲笑に変わった。 「ルイズ! 使い魔が喚べなかったからって縫いぐるみを代わりにするなよ!」 「流石ゼロのルイズ! 誤魔化し方のセンスもゼロだな!」 生徒達から笑いが飛び、先ほど以上の野次がルイズに投げつけられる。 その発言を、ルイズは顔を真っ赤にして否定した。 「縫いぐるみじゃないわよ! ほら、ちゃんと生きてるでしょ!?」 ピンクボールを生徒達に見せつけ、生きていることをアピールするルイズ。 ピンクボールは体を強く掴まれ、ちょっと痛そうに顔を歪ませている。 「でもそんな出来損ないのボール、なんの役に立つのさ?」 「やっぱり失敗には変わりないな、ゼロのルイズ!」 再び起こる爆笑。結局バカにされることに変わりはなかった。 一部の女子はその愛らしさに「あれ欲しい!」などと言っている。 いい加減頭に来たルイズはもう一発怒鳴ってやろうと前へ踏み出したが、召喚の儀を監督していたコルベールがそれを制した。 「ミス・ヴァリエール、儀式を続けなさい」 「でも、ミスタ・コルベール!」 あんな事を言われているのに! と、ルイズはコルベールに訴える。 コルベールはいきり立っているルイズの肩に手を置くと、穏やかな口調で彼女を諭し始めた 「言わせておけばいいのです、ミス・ヴァリエール。貴女の使い魔には貴女の使い魔だけの素晴らしい能力がきっとあるはずです。貴女の使い魔を信じてあげなさい」 教員にここまで言われては、流石のルイズでも引き下がらない訳には行かなかった。 グッと言いたいことを堪え、腕の中のピンクボールを見つめる。 確かに、今は言わせておけばいい。 きっとこの使い魔には、誰の使い魔にも負けない凄い力が有るはずだ。 ……多分、きっと、おそらく……… 気を取り直し、ルイズは杖を握りしめた。 まだ儀式は完全には終わっていない。 ルーンを刻むまでが儀式なのだ。 「ぽよ?」 未だに状況を掴めていないピンクボールが首(ほぼ胴体)を傾げる。 そんな幼さの残る姿を見つめながら、ルイズはルーンを唱え始めた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と成せ」 ルーンを唱え終えると同時に、ルイズはピンクボールに口付けた。 杖でつついた感触の通り、マシュマロのような柔らかさだ。 どんなに高価なぬいぐるみでも、この感触を再現することは出来ないだろう。 「ぷぃう………」 唇に伝わる柔らかさを享受していると、ピンクボールからふ抜けた声がした。 瞼を開け唇を離すと、心なしピンクボールに赤味が差していた。 恥ずかしかったのだろうか。 そう思うと、怒り心頭に発していたルイズに自然と笑みが零れた。 「コントラクト・サーヴァント、完了しました」 「よろしい。では……」 「っ! ぽっ、ぽよぉ! ぽよぉ!!」 コルベールの号令を遮り、急にピンクボールに苦しみだした。 いきなり左手に走った激痛と熱さに耐えられなかったようだ。 余りの苦しみように、ルイズは腕の中のピンクボールを強く抱き締める。 「大丈夫、使い魔のルーンが刻まれるまでの辛抱だから……大丈夫」 しばらくそのままでいると、ピンクボールの左手から発せられていた光が収まった。 光と一緒に熱も引き、後にはルーンだけが残される。 刻まれたルーンは、ルイズの目から見ても珍しいものだった。 一方痛みから解放されたピンクボールは、自分の左手に現れたルーンをただ単に不思議そうに見つめている。 それはルーンに既視感を覚えたコルベールも同じだった。 見慣れぬルーンだと、手にしていたスケッチブックに熱心に書き写す。 「それでは皆、教室に戻りますよ」 スケッチを素早く終えると、コルベールは生徒たちに改めて号令を出した。 号令と共に、生徒達が一斉に空へと舞い上がる。 「ルイズ! お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』も使えないんだぜ? 精々あの風船お化けに掴まって飛んでくるしかないって」 「違いないな!」 そんな彼らのやり取りに下唇を噛みしめながらも、ルイズは使い魔に視線を戻した。 「ぽよ! ぽよ!」 使い魔の方はすっかり懐いたらしく、ルイズの無い胸に抱きついている。 先程ルーンが刻まれている時、強く抱き締めていたのが相当嬉しかったようだ。 手足をバタつかせながら、ルイズに擦寄って甘えている。 ルイズは使い魔を思いきり抱きしめたい衝動を抑え、一旦地面にそれを降ろした。 「あなた、名前は?」 「カービィ、カービィ!」 その場にしゃがみ込み、ルイズはカービィと名乗った生物と視線を合わせる。 カービィは嬉しそう笑い、ルイズも釣られて笑った。 使い魔のルーンのおかげで、言語の面は心配ないようだ。 何よりカービィがルイズにとても懐いているので、意思の疎通も問題ない。 「カービィね。私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 「ル、ルイィ……フラダンスゥ……?」 「……………ルイズでいいわよ。ル・イ・ズ」 「ル・イ・ズ?」 幼いのは性格だけではないらしい。 長い言葉を覚えたり、スムーズに会話をするのは無理なようだ。 ルイズは赤ん坊に言葉を教えるように、ゆっくりと名前を復唱した。 主の名前を言い切ってくれなかったことに一抹の悲しさを感じつつ。 「ル・イ・ズ……ルイズ!」 「そう、ルイズ!」 「ルイズ! ルイズ!」 初めて名前を呼んでもらった感慨から、ルイズは我慢できずにカービィを強く抱き締めた。 カービィは覚えたての主の名前を笑顔で連呼している。 ルイズはカービィの声を聞きながら、抱きしめる腕にさらに力を込めた。 『はるかぜとともにやって来たこの子となら、きっと最高のパートナーになれる』 そう信じて。 前ページ次ページ使い魔のカービィ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3106.html
トリステイン魔法学園、使い魔召喚の儀式 ルイズが召喚したのは顔に3本の長い傷跡のある黒ずくめの中年の男であった。 「平民だ!ルイズが平民を召喚したぞ!」 「しかも何だよあの男どう見てもただのオッサンだぜ」 垣原(何だこりゃ一体オレは確か新宿にいて…。) ルイズ「ねえちょっと!」 垣原(またオヤジに殴られてる内に気絶して外に置き去りにされちまったか?) ルイズ「ちょっと!ねえあんた聞いてるの!?」 垣原「…悪いなお嬢ちゃん今ちょっと考え事してんだ、消えてくれ。」 ルイズ「ハァ!?何言ってるの使い魔がご主人様を無視する気?」 垣原「…てめェ今何つった?」 ルイズ「つ、使い魔がご主人様を無視する気だけど」 垣原「フッ…お嬢ちゃんがご主人様でオレが使い魔か(まさかこんなガキの女がSM嬢やってるとはな…) 言っとくがオレはママゴトに付き合う気はねェゾ。」 ルイズ「ママゴトですって?生意気な使い魔は教育が必要なようね、ついて来なさい」 垣原「こりゃスゲーな…ホントの城みてェだ、最近のラブホテルは凝ってんな。」 ルイズ「何をぶつぶつ言ってるのよここが私の部屋よ早く入りなさい」 部屋に入るなり男は着ていた服を脱ぎさり その体にはロープが複雑に交差状に結び縛られていた ルイズ「なななな何で服を脱いでるのよ!…それに何よその格好」 垣原「何でって…脱いだ方が気持ち良いからだろ ホラどうしたご主人様、そのムチで生意気な使い魔をひっぱたくんだろ。」 ルイズ「や、やるわよやればいいんでしょ…やれば」 部屋に軽く乾いた音が響く 垣原「どうした、全然力が入ってねェゾ。」 ルイズ(な、何なのよコイツ) 垣原「ホラどうしたやれって。」 ルイズ「エイッ!エイッ!エイッ!」 垣原「………」 ルイズ「ハァハァハァ…ほ、ほらもうこれくらいで終わりにしといてあげるわ …さっさと服を着なさいよ」 垣原「…なぁ、そこにあるオレの上着に長げェ針みてェなの入ってンだろ ソイツでオレを刺してみてくんねェか。」 ルイズ「え?そんなことしたら血がいっぱい出ちゃ…」 垣原「いいからヤレ!!」 ルイズ「ヒッ!……何なのよコイツ…いやもう…ヒグッ… なんでいつも私ばっかり…ウッ、ヒグッヒグッ……」 垣原「…ダメだなこりゃ。」 完
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1913.html
「はぁ……」 本番30分前。楽屋の中でルイズはふとなぜ自分がこんなことをやっているのかと思いを馳せる。 ルイズは半年前から使い魔と一緒に国境を越えてさまざまな場所へと訪れた。 彼女たちはそこで歌を歌う。そこでさまざまな人を楽しませ勇気づかせなぐさめ励ましたのである。 しかし、こういう事になったのは彼女の使い魔の能力のせいに他ならない。 ルイズが召喚した使い魔は緑の髪を赤い髪留めで結んだ女の子だった。 最初はあの子全然喋らなかったからむちゃくちゃ焦ったわ……と過去のことを思い出して苦笑した。 だが彼女には歌があった。 彼女に刻まれた使い魔の紋章「ガンダールヴ」は彼女にありとあらゆる歌を歌わせることが出来るようにさせた。 彼女の歌声は学院生や教師、はたまた厨房で働いていた平民に限らずに使い魔すらも虜にした。 その姿を眺めていたルイズは誇らしいと思いながらもどこか複雑だった。 フリッグの舞踏会では彼女が呼ばれそこで彼女は素晴らしい歌を披露し、観客を魅了した。 その舞踏会を抜け出したルイズは一人夜空の下で風に当たっていた。いつの間にか涙が零れていた。 悔しかったのだ。と今になってルイズは思う。 使い魔は素晴らしい歌声で人を笑顔にすることができる。 でも自分は魔法も使えない「ゼロのルイズ」だ。それでは人を幸せにするどころか自分も幸せになることができない。 「はぁ……」 するとどこからともなく使い魔が現れた。 暗くてよく表情はわからなかったけど泣きそうな顔をしている気がした。 「なっ、なんであんたがここにいるのよ!」 そんなことを言った後でルイズは気づいた。自分は使い魔を見知らぬ人物がたくさんいるところに放り出して何をしているのかと 「まったく、ご主人様失格ね……」 すると使い魔の後ろにはルイズの友人であるキュルケが立っていた。 ルイズの姿が見えなくて使い魔が必死に探しているのを見かねて一緒に私を探しにきてくれたのだろう。 「ごめんなさい………」 自然と口をついてきた謝罪の言葉。その言葉にキュルケは驚きを隠せなかったそうだ。 でも使い魔はゆるゆると首を振り、私に歌を贈ってくれた。 その歌は頑なになっていた彼女の心を氷解し、勇気を与えてくれた。ルイズは感動して自然と涙を流していた。 そしてルイズは決心した。「私も一緒に歌を歌う」と それからというもの彼女は使い魔と一緒に歌の練習に励んだ。 使い魔である彼女は歌を知っている代わりに曲というものをあまり知らなかった。だからルイズは彼女に一音一音丁寧に教えてあげた。 練習は外れの草原で行われた。時折吹いてくる風が心地よかった。 「ルイズさーん、お弁当もってきましたよー」 このことを知ったシエスタというメイドはよくルイズと彼女にサンドイッチを作って持ってきてくれた。 その草原で一緒に食べたサンドイッチの味は忘れることは無いだろう。 「ん……はむ。」 ルイズはふと目の前にあったサンドイッチをつまんだ。 「……おいしい。」 そして使い魔品評会の日 彼女は使い魔と一緒に歌を披露した。その歌は聴く者を共感させ、感動させ、勇気を与えた。 アンリエッタ王女も涙を流して感動してくれた。 「あなたたちの歌をこの国で埋もれさせるのはもったいないと思うわ。 ぜひ、各地であなたたちの歌を広めてくださらないかしら?」 「そして、現在に至る……と。」 ルイズの独り言にじっと耳を傾けていた使い魔が不思議そうに首をかしげた。 「時々、ふと思っちゃうのよね。もし私がゼロのルイズじゃなくなってものすごい魔法を使えるようになったら… ううん!もしもの話よ。もしもの話。私はどうなっていたのだろうか……ってね。」 不思議そうに首をかしげる彼女。それに構わずにルイズは続けた。 「でも、私はあなたに出会えて本当によかったと思ってる。あなたと出会えなかったら世界中を回ることも出来ないし、人を喜ばせる喜びを知ることも無かったから……」 最近涙もろくなったとルイズは思う。 彼女と一緒に世界中を回って歌を歌うという事がどれだけ自分にとっても幸せな事か。本当にわかったかもしれなかった 彼女と一緒にユニットを組むようになってからルイズは彼女のことを「使い魔」と呼ばなくなった。 彼女は立派な「パートナー」だから――― 「ルイズさーん! 本番あと10分前でーす! スタンバイお願いしまーす!」 シエスタは今ではルイズ達の敏腕マネージャーとして活躍してくれている。 彼女の作ってくれるサンドイッチは今でも私の大好物だ。 「はーい!」 ルイズは笑顔で返事を返した。 はじめてステージに立ったときはとても緊張したけど今ではその緊張感を楽しめる様になっていた。 「行こっか! ミク!」 ルイズはパートナーの名前を愛しげに呼びかけた。 「VOCALOID2」の初音ミクを召喚
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4438.html
前ページ次ページ異世界BASARA 幸村とルイズは長い廊下を、2人並んで歩いていた。 「良き主君にござるな、ジェームズ殿は」 廊下を歩きながら、幸村はルイズに話し掛ける。 「配下の将を見ていれば分かる。あのように慕われるのは幸せでござろう」 「……でも、明日には戦って死んじゃうのよ?」 ルイズが震える声で口を開いた。 「嫌だわ……何であの人達死のうとするの?姫様が逃げろって言っているのに……」 次第にルイズの目から涙が流れる。遂には立ち止まり、その場で泣き出してしまった。 幸村はそれを黙って見ている。 「私、もう一度説得してみる。国より、愛する人の方が大事じゃない」 「それはなりませぬ」 と、黙していた幸村が首を横に振りながら言った。 「どうして!?ウェールズ様だって本当は……!」 「アンリエッタ殿を想うからこそにござる」 幸村は真剣な表情でルイズを見つめ、さらに続けた。 「ルイズ殿。皆、勇敢に戦い果てる事を決心しておられる。その思い、察して下され」 だがルイズは頷かなかった。 ルイズは武士ではない、ましてや戦に出た事もない少女である。 彼女にはどうしても理解出来なかった。だから、ルイズは幸村にこう言った。 「……ユキムラ、あんたは死ぬのが怖くないの?」 「この幸村、武士となったその日から死する事は覚悟しておりまする」 「じゃあ、私が戦って死ねって言ったらあんたは死ぬの?」 「それがルイズ殿の望みであれば」 その瞬間、幸村の頬に平手が飛んできた。 一瞬、幸村は何が起こったのか分からず、呆けた顔でルイズを見ていた。 「ルイズ殿?何を……」 数秒後、自分の頬を押さえていた幸村がやっと口を開いてルイズに尋ねた。 「やっぱりあんた馬鹿だわ、この国の人と同じ、自分の事しか考えてないのね!」 「そのような事は!拙者はルイズ殿の為ならば命懸けで……!」 「それで死んで満足?残された人の気持ちはどうなるのよ!!」 ルイズはその目に涙を溜めたまま、幸村を睨んだ。 今まで何百、何千という敵と刃を交えてきた幸村であっても、ルイズの涙と、その小さな体から発せられる気迫にたじろぐ。 しばらく幸村を睨んでいたルイズだったが、少し落ち着いたのか、腕で涙を拭ってもう一度幸村を見て言った。 「あんたは使い魔だから、私を守るのは当然よ。でもね、それで死ぬなんて絶対ダメ。分かった?」 「……は、ははっ!!」 幸村は我に返り、ルイズに深く頭を下げた。 「あ、そうだ」 と、ルイズは何かを思い出したのか、はっとした顔になる。 「あ、あのねユキムラ……ラ・ロシェールで言い忘れていた事だけど……」 「はっ!何でござろうか?」 ルイズは困ったような表情になり、ポリポリと頬を掻いた。 「ワ、ワルドがね、私と結婚しないかって」 「おお!そうでござるか!結婚…………結婚んんんーーーっっ!?!?」 予想だにしなかった告白に、幸村は素っ頓狂な声を上げた。 「け、け、けけけけけけけ結婚とは!ななな何故いきなり!?」 今にも飛び出しそうな程に目を見開き、ルイズに尋ねた。 「そんなに驚かないで、婚約者なんだからいつか結婚するのは当たり前じゃない」 そんな幸村とは違い、ルイズは落ち着いた様子で腰に手を当てている。 「でも安心しなさい。結婚はしないから。」 「そ、そうでござるか……」 それを聞いてほっとしたのか、幸村は大きな溜息をついた。 「私、これからワルドにこの事を謝ってくるわ」 「ルイズ殿、拙者も御供いたしますぞ」 しかし、ルイズは突然慌てた様子になってそれを止める。 「い、いいわ!ユキムラは先に戻ってて!こ、こういうのは当人同士で話し合った方がいいのよ!」 「し、しかし……」 「いいから!戻ってなさい!!」 戸惑っている幸村を戻らせ、ルイズはワルドの部屋に向かっていた。 相手は憧れていたワルド子爵だ。幼い頃、結婚するのを夢見ていた…… それなのに、今は結婚する事を考えると気持ちが沈んでしまうのである。 滅び行くこの国を見たからか、それとも死に向かうウェールズを目の当たりにしたからか…… しかし、そのどれも今の心境の原因ではないように思えた。 不意に、ルイズは幸村にワルドと結婚する事を話した時の事を思い出す。 幸村にまだ結婚はしないと話した時の、あのほっとした顔を見た時…… 何故か自分も安心したのである。 まさか、自分はワルドとの結婚を否定して欲しかったのだろうか? そんな考えが頭をよぎった頃、ルイズはワルドのいる部屋の前まで来ていた。 ルイズがワルドの部屋に着いた頃、幸村は言われた通りに自分の部屋に戻っていた。 「ひでぇ慌てっぷりだったな相棒」 すると、今まで黙っていたデルフリンガーが口を開いた。 「あそこはあれだぜ、俺の傍にいてくれ!とか、そういった事を言わねぇと」 「何を申すか、拙者はルイズ殿の傍にいるよう心掛けているが?」 そういう意味じゃねぇよ……と、デルフリンガーは小さい声で呟いた。 デルフ自身も薄々感づいてはいたが、この幸村という男、戦いにおいては中々のものだが、女性の事となるとまったくの二流……いや、三流であった。 さらに片や自分の気持ちに素直になれないルイズである。 (こりゃ嬢ちゃんが猛烈にアタックしない限りは無理だな……) 「結婚は出来ない?」 一方、こちらはワルドの部屋。 突然訪れてきた婚約者の言葉に、ワルドは思わず聞き返した。 「ごめんなさい。ワルド、あなたには憧れていたわ。もしかしたら恋だったのかもしれない……」 ルイズは俯きながら話していたが、深く深呼吸すると顔を上げ、決心したように言った。 「でも、今は違うの。私……」 話そうとしたところで、ワルドがルイズの手を取った。 「……緊張しているだけさ。そうたろうルイズ?」 しかし、ルイズは首を振る。 その瞬間、ワルドの目が吊り上り、ルイズの肩を強く掴んできた。 「世界、世界だルイズ!僕は世界を手に入れる!その為に君の力が必要なんだ!」 豹変したワルドに、ルイズは震え上がった。 「……む?」 その頃、幸村の体にある異変が起こっていた。 「どうしたね相棒?」 「今……ワルド殿の姿が見えたような……」 幸村はそう言って、しきりに目をこする。 武器を握っていないのにも関わらず、左手のルーンが光っていた。 「ルイズ!僕には君が必要なんだ!君の才能が、力が!」 ワルドはルイズの肩を掴んだまま、激しい口調で詰め寄る。 その剣幕に、ルイズは顔を歪めた。 「嫌よ。そんな結婚死んでも嫌……!あなた、私の事愛してないじゃない!」 ルイズはそう言い放つと、ワルドの手を振り解く。 「……こうまで言ってもダメなのかい?」 「嫌よ。誰があなたなんかと結婚するもんですか!」 その言葉を聞いたワルドは、唇の端を吊り上げ、禍々しい笑みを浮かべた。 「そうか……分かった、分かったよルイズ。手に入らないのならば、壊すとしよう……」 ワルドはそう言うと杖を手に取り、呪文を唱え始める。 そして、杖を振るうと、杖の先から光の玉が飛び出す。 光は窓を突き破って上昇すると、空中で大きな音と光と共に爆ぜた。 「子爵……今のは?」 ルイズは恐る恐るワルドに尋ねる。 対してワルドはいつもルイズに見せるような笑顔を浮かべて言った。 「合図だよ。ニューカッスル城を総攻撃せよという合図さ」 その言葉の後、城が轟音と共に大きく揺れ動いた。 「……どうやら、彼は言いくるめるのに失敗したようだな……」 レキシントン号の甲板上で、松永久秀は砲撃を受けるニューカッスルの城を見ながら呟いた。 不意に松永は指を鳴らす。 すると、彼の背後に長身のメイジが現れた。だがそのメイジから発せられる雰囲気は貴族というよりも傭兵のそれである。 「御出陣ですかマツナガ様」 「欲しい物は自分で手に入れるから良い。セレスタン、卿は女子供を捕らえてくれ」 「何に使うんです?」 「余興だよ。いずれトリステインの姫君に見せる余興に使うのだ」 松永はその顔に嫌な笑みを作り、笑った。 だが、セレスタンと呼ばれたメイジは困ったように松永に尋ねる。 「俺はやりますけど……“あの2人”はどうするんで?」 それを聞いた松永は、歯を剥き出しにし、さらに邪悪な笑みを浮かべて言った。 「欲望のまま血を啜らせればよい。肉を喰らわせればよい。それが彼等の真理……」 前ページ次ページ異世界BASARA
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7328.html
前ページ次ページ使い魔の達人 森の中の開けた場所に、ポツンと建った炭焼き小屋。その近くにルイズとカズキ。 そして、少し離れた場所に、巨大な土ゴーレムが二人を見下ろすように立っていた。 「で、出た……!」 昨夜見たときよりも、よりくっきりとその姿が視界に飛び込んできた。身の丈は三十メイルほど。巨大な土人形だ。 どうやら周辺の土を使って作ったらしい。後方数メイルから、地面がごっそりと削られたようになっている。 すると、ゴーレムがのっそりと動き出した。腰を低く構えては、腕を振り上げる。 「きゃぁああああああ!!」 ルイズの悲鳴が響いた。次いで、ゴーレムはその腕を斜めに振り下ろす。拳の先は…! 「みんな、伏せろ!」 カズキが怒鳴った。ゴーレムの腕は、小屋の屋根を大きな音を発てて吹き飛ばしてしまった。 「……ゴーレム!」 キュルケの声が聞こえた。小屋の中から、見上げているのだろう。 すると、巨大な竜巻が小屋から舞い上がった。タバサが即座に魔法を唱えたのだ。 ごう、と音を立て、小屋の破片を舞い上げながら、ゴーレムにぶつかっていく。が、土ゴーレムはびくともしなかった。 「頑丈だな…!」 カズキが唸っていると、そのゴーレムに火球が見舞われた。キュルケだろう。昨夜見たものとは違う、大きな火の玉だ。 火炎がゴーレムを包んだが、やはりゴーレムは意に介した様子はない。やがて、ゆっくりとこちらに向けて歩き出す。 「無理よこんなの!」 おそらく、めいっぱい力を込めた一撃だったのだろうか。キュルケが早々に音をあげた。 「退却」 タバサが呟く。二人は小屋から飛び出し、一目散に逃げ出した。 「ルイズ、ここはいったん退こ…あれ?」 ルイズが居ない。さっきまで、小屋の近くに居たのに。 大急ぎで辺りを見回す。その間にゴーレムはこちらに…いた! 「ルイズ!」 カズキの視線の先、ゴーレムの背後に回って、杖をゴーレムに向けるルイズの姿があった。 使い魔の達人 第十話 掌握、決意、そして咆哮 ルイズがルーンを呟くと、ゴーレムに杖を振りかざす。巨大なゴーレムの表面で、どかんと辺りに良い音が響くが、ゴーレムはやはりびくともしなかった。 するとゴーレムは、ルイズに気づいたようだ。のっそりと後ろを振り向いた。 「逃げろ、ルイズ!」 カズキは怒鳴った。しかし、ルイズは唇を噛み締めた。 「いやよ!このゴーレムを倒して、フーケを捕まえれば……今度こそ、『ゼロ』の汚名は返上できるわ! あんたの力を借りずに、わたしの魔法で、それをするの!」 その目は、真剣だった。真剣すぎて、危うく思えるほどだ。 カズキは歯噛みした。やはりルイズは、そのつもりでこの捜索隊に志願したのだろう。 ゴーレムは、近くに立ったルイズをやっつけようか、逃げ出したキュルケたちを追おうか、迷っている様子だった。 「なに言ってんだ!こんな大きなゴーレム、ルイズの魔法はぜんぜん効いちゃいないじゃないか!」 「そんなの、一発じゃだめでも、何発も当てればきっと倒せるわ!やってみなくちゃ、わかんないじゃない!」 「その前に、ルイズがやられちまう!いいから逃げろ!!」 ルイズはぐっとカズキを睨み付けた。 「なによ、あんたもやっぱり、わたしを『ゼロ』だって思ってるんじゃない!」 「はぁ!?」 「わたしが何も出来ない『ゼロ』だから、あんたは逃げろって言うんでしょ!?」 「なんだそりゃ!?そんなことないから!逃げろって!」 「ほら、また言ったじゃない!『ゼロ』だって思ってなきゃ…そうじゃなきゃ……」 ルイズの表情が、切迫したものに変わる。 わたしが『ゼロ』だから。魔法のひとつも満足に使えない、役立たずの『ゼロ』だから。この使い魔はきっと、わたしに逃げろと言うのだ。 そうでなければ、何故あの時、タバサには何も言わなかった? タバサには『風』の魔法がある。速く飛べる、立派な使い魔も居る。 こんな『ゼロ』と比べたら、頼りになるのは一目瞭然。考えるまでもないわ。 だからあいつも……だから、わたしは…! ルイズは頭を振った。そして、ゴーレムを睨み付ける。 「それに今…今、ここで逃げたら、それこそ『ゼロ』だから逃げた。結局カッコつけたところで、『ゼロ』は『ゼロ』なんだって、みんな言うに決まってるわ!」 「言わせときゃいいじゃんか!」 「わたしは…わたしは貴族よ!魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ!」 ルイズは杖を握り締めた。 「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」 ゴーレムはやはりルイズを先に叩きのめすことに決めたらしい。ゴーレムの巨大な足が持ち上がり、ルイズを踏み潰そうとした。 ルイズは口早に魔法を詠唱し、杖を振った。しかし、やはりゴーレムにはまったく通用しない。 ゴーレムの胸が小さく爆発するのが見えたが、それだけだ。ゴーレムはびくともしない。わずかに土がこぼれただけだ。 カズキは剣を構えると飛び出した。 ルイズの視界に、迫りくるゴーレムの足が目いっぱい広がる。沸いて出た恐怖が、目を閉じさせようとする。が、歯を食いしばって堪えた。 そのとき……疾風のごとく走りこんだカズキが、ルイズの体を抱きかかえ、地面に転がる。間一髪、そのすぐ横を、ゴーレムの足がめり込んだ。 「セーフ……って、死ぬ気か!馬鹿!」 カズキは思わず、ルイズの頬を叩いた。乾いた音があたりに響く。ルイズは呆気に取られて、カズキを見つめた。 「昨日もそうだ。なんでそんな…死んだら終わりじゃないか!」 ルイズは瞳いっぱいに涙を溜めて…やがてそれは、堰を切ったようにぼろぼろと零れだした。 「なによ…なによなによなによぉっ!あんただって…あんただって、なんでわたしを助けんのよ!」 カズキをぽかぽかと駄々っ子のように殴り始めるルイズ。そんなルイズに、カズキは困惑しつつ答えた。 「な、なんだよ。そんなの、ルイズが危なかったから……!」 「なんで!なんで、わたしは駄目であんたはいいのよ!わたしは駄目で、あの子はいいのよ!なにがいけないの?わたしが『ゼロ』だから!?」 ルイズは悔しかった。自分の『ゼロ』が悔しかった。悲しかった。情けなかった。 この使い魔も。自分のために、ギーシュと決闘してくれた少年も…この『ゼロ』のせいで、結局自分を認めてはくれない。 それどころか、タバサに対してのあの態度…ルイズはカズキに、大事な何かを裏切られたような気になっていた。 だから、なんとしてでもこのゴーレムを倒し、フーケを捕まえて…『ゼロ』の汚名を返上したかったのだ。 カズキはやるせない面持ちでルイズを見つめた。 「ルイズ、オレは……」 しかしカズキはルイズに、危険なことをして欲しくなかった。 カズキにとって、ルイズもまた、守るべき人の一人なのだから。だから昨日も、あんなことを言ったのだ。 だけど、とカズキは思う。 カズキは、ルイズを助けたかった。 そしてルイズも、カズキを助けたかった。 そう、どちらも変わらない。人が人を助けようとする気持ち。 自分にとっても、何より大切な気持ちを否定するようなことを言ってしまった自分を、カズキは責めた。 そんなカズキに、上からぱらぱらと何か降り注ぐ。手にとって見ると、土くれだった。 「ん……?」 振り向くと、巨大なゴーレムが大きな拳を振り上げている。カズキはあ、と声を上げた。 そういえば、今はフーケのゴーレムに襲われていたのだ! カズキはルイズを抱え上げ、その場をぴょんと飛び跳ねた。そこにちょうど、ゴーレムの拳がめり込んだ。 「あぁくそ!とにかく、ここは逃げよう!」 このままでは二人一緒にぺしゃんこだ。ルイズを抱えたまま、カズキは走り出した。 「……!いやよ、降ろして!」 ルイズがじたばたと暴れ出す。 ゴーレムはずしんずしんと地響きを立て、追いかけてくる。大きいだけで、動きはあまり素早くない。 ルイズが暴れるので、うまく走れないカズキはゴーレムとそれほどスピードが変わらなかった。 そしてカズキは、そんなルイズを落とさぬよう、腕に力を込めて言った。 「イヤだ!」 しかしルイズも退かない。 「降ろしなさい!」 「イヤです!」 「…っ!降ろせって言ってるでしょ!この使い魔は!」 「イヤん」 「この……っ!」 ルイズはカズキに魔法の一つも見舞おうかと思った。しかし、カズキの言葉がそれを阻んだ。 「オレ、ルイズに死んで欲しくない!死なせたくないんだ!」 「だからなによ!このまま逃げて、ずっと『ゼロ』のままでいろとでも言うの!?」 「ここで死んだら、その『ゼロ』から抜け出すこともできないじゃないか! オレはルイズに、危険を冒してでも『ゼロ』から抜け出して欲しいとは思わない!」 ルイズは力なく俯いて、唇を噛んだ。じゃあ、どうしろというのか。 もはやこのチャンスを逃して、『ゼロ』を払拭することなど、適うのだろうか。 「それにオレ、ルイズに言いたいことが…言わなきゃなんないことがあるから!」 ルイズは、はたと涙が止まった。 すると、風竜が二人の前に飛んできた。すぐ前で着陸し、タバサが顔を出した。 「乗って」 風竜に跨ったタバサが叫んだ。カズキはルイズを風竜の上に押し上げた。 「あなたも早く」 タバサが珍しく、焦った調子でカズキに言った。カズキは風竜の背を一瞥して、タバサに尋ねた。 「キュルケさんとロングビルさんは?」 「一人はあっち。もう一人はそのあたりに居るはず」 「お宝は?」 「ここに」 タバサは制服のポケットに手を添えた。魔法学院のお宝は、ポケットに収まるサイズらしい。 「よし。じゃあ、二人を先に回収してくれ。オレはあいつを引き付ける」 「カズキ!?」 風竜に跨ったルイズが怒鳴った。カズキはルイズを見つめた。 「ルイズ…それに、タバサも。昨日はあんなこと言ってゴメンな。そんで、ありがとう」 そして、ゴーレムに向き直った。 「さ、早く二人を!」 タバサは無表情にカズキを見つめていたが、追いついてきたゴーレムが拳を振り上げるのを見て、やむなく風竜を飛び上がらせた。 ゴーレムの拳がうなる。それをカズキは後ろに跳んでかわした。 できればフーケも捕まえたかったが、このゴーレム相手に、普通の戦い方では勝てない。そして、普通ではない戦い方をするつもりは、ない。 ルイズには申し訳ないけれど、これ以上危険を冒すこともない。もう取り返すものも取り返したのだ。あとは、無事に帰ることに専念するのみ。 「さぁ、お前の相手はオレだ!ゴーレム!」 剣をぐっと握り締める。すると、力が沸いてきた。 ルイズは呆けたような顔をしながら、カズキを見つめていた。 「なによ、ごめんって。今頃そんな…なんで……」 すると、風竜がゴーレムから離れる。ルイズは怒鳴った。 「カズキ!カズキを助けなきゃ!」 しかしタバサは首を振った。 「近寄れない」 タバサはゴーレムを指した。近くに居ると、やたらと拳を振り回してくるのだ。 風竜はまずキュルケを回収しようと、その場から離れだす。 ルイズは、やきもきしながら遠くなっていくカズキを見つめた。そして、先ほどの言葉を思い出す。 「そういえば、昨日って…」 ルイズはタバサに尋ねた。カズキは確か、タバサにも謝っていた。何故だろう? タバサはルイズを一瞥した後、静かに口を開いた。 「…昨夜、あの後あなたの使い魔が言ってきた。危険なことはするな、と」 そう。昨夜、ルイズが去った後。カズキはタバサにも、ルイズと同様、苦言を呈していたのだ。 ちなみにその場にはキュルケも居たが、恋は盲目なのか。親友への叱咤も、カズキへの好感度を上げる要因となった。 ついでにタバサもタバサで、あまり気にしていなかった。他者にどう思われようと、彼女は変わらない。 「…そう」 なによあいつ。普通そういうこと、すぐに言わないといけないじゃないの。 ルイズの胸の中で、何かが溶けていく感覚が広がった。 ゴーレムの拳がうなりを上げて飛んでくる。よく見ると、拳は途中で鋼鉄の塊に変わっている。 こんなもの、まともに食らえばひとたまりもない。 カズキは拳をよけると、少しでもダメージを与えようと剣で切りかかった。 がぎんと鈍い音がして、剣が根元から折れた。 「うそん」 カズキは目を丸くして破断面を見た。確かどこかの錬金術師が鍛えた業物だという話のはずだが…。 デルフやルイズの台詞じゃないが、なまくらだったようだ。 ゴーレムの拳が更にうなる。現状、他にまともに対処できる手段を持ち合わせていないカズキは、後ろに跳んでそれをかわした。 「くそっ!まぁいいや、あとはルイズたちが二人を回収したら、お前とはおさらばだ!」 カズキは、ゴーレムの拳から逃げ回った。 「どうするの?」 風竜にキュルケが乗り込んだ。タバサはキュルケに、あとはロングビルを回収する旨を伝える。 ルイズはハラハラした様子で、逃げ回るカズキを見ていた。キュルケはカズキを指して言った。 「大丈夫よ。ダーリンなら、あんなに速く動いてるじゃない。あんな木偶の坊に、やられるわけないわ。 あんたも、一人であんなの相手に立ち向かっちゃって。良くやるわよ。見直すの通り越して、呆れそうだったけれど」 ルイズは呆気にとられたようにキュルケを見た。キュルケは口元に笑みを浮かべた。 「ま、それで死に掛けてちゃ世話ないけどね。あんたが今度の件、どれだけ真剣かってのは、よくわかったわ。 でも、ここで死んでもしょうがないし、良いじゃない。『ゼロ』なんてこれからいくらでも、返上する機会はあるわよ」 ルイズは唇を噛み締めた。仇敵ツェルプストーに言われるのは癪だが、ルイズ自身、あのゴーレムに勝つ方法は思いつかない。 冷静になった頭は、あとはロングビルを回収し、カズキを乗せて、この場を離れることを考え始めていた。 風竜を見やる。キュルケを回収したようだ。あとは…ロングビルのみ。 「ロングビルさーん!竜に乗って逃げよう!」 とにかく出てきさえすれば、あとは風竜が駆けつけてくれるはずだ。 ひょっとしたらゴーレムを恐れて出てこないのかも知れない。ゴーレムの攻撃を避けながら、カズキは叫んだ。 やがて、ゴーレムの向こう。だいぶ離れた木陰から、ロングビルが姿を現した。 「ルイズ!」 カズキは竜に向けて声をあげた。竜は自分より更にロングビルに遠い。もう少し、時間を稼ぐ必要がある。 すると、ゴーレムもまた体の向きを変え始めた。重い足取りの先は、なんとロングビルの居る方向ではないか! 「おい、まさか……」 自分より先に、ロングビルを叩きのめすことにしたらしい。 「そんなことさせるか!おい、お前の相手はオレだ!」 カズキは歩くゴーレムの足に折れた剣を打ち付け始めた。しかし土がわずかにこぼれるばかりで、ゴーレムは少しも意に介した様子はない。 「止まれ!止まれよ!!そっちじゃないって言ってんだろ!!」 すると、近づくゴーレムに怖気づいたか。ロングビルはまたも森の中に入ってしまった。あれでは、風竜がロングビルを回収することができない。 「くそっ!」 先回りした竜は飛びながらロングビルを探しているが、森は深く、上からでは見づらいのだろう。 ロングビルの逃げ込んだ周辺を旋回している。このままでは、ロングビルだけでなく竜も襲われてしまう。 どうすれば……どうすれば、みんなを助けられる? 決まっている。わかっている。このゴーレムを、止めれば良いのだ。 だから――。 ふと、竜の上のルイズに目を向けた。遠目にも、よく見える。涙の跡を拭おうともせず、今は必死になって、ロングビルを探していた。 が、時折こちらにも、目を向けてきた。焦りと不安が混ざった顔のルイズと、目が合った。 その不安を拭うため、微笑んだ。見えるかどうかは、わからないけれど。 きっと、ルイズはまた怒るんだろうな。でも、それを謝ることはできないだろうから。 「ゴメン、ルイズ。それから…」 カズキは折れた剣を捨て、そのまま手のひらを左胸にあてた。 「さよなら」 そして、ゴーレムを追い始めた。 ルイズは目を見開いた。カズキが剣を捨てて、ゴーレムに突っ込んでいくのだ。いったい何をするつもりなのだろう? 「カズキッ!?」 悲痛な叫びに、キュルケが、タバサが振り向いた。三つの視線が、カズキに注がれる。 カズキには、‘錬金術’の‘力’が‘埋め込まれている’。 『核鉄』―――‘錬金術’の粋を集めて精製された、超常の合金である。これは、人間の精神の一番深い所…‘本能’に依って作動する。 一度命を落としたカズキは、これによって‘生存本能’を揺り起こし、『核鉄』を心臓の代用品にしているのだ。 そして、もう一つ。 それは、人の‘闘争本能’に依って作動する――戦う‘力’! その‘力’こそが、『核鉄』本来の用途。持つものが秘めたる戦う‘力’を形に変えた、唯一無二の武器の創造! 掌握! 決意! そして咆哮! その名称―― 「誰一人、やらせやしない!『武装錬金』!!」 光とともに、カズキの手中に、幾多のパーツから形作られた、一本の突撃槍(ランス)が現れる。 ‘龍の頭を思わせる意匠の、飾り布が付いた大振りの突撃槍’――それを見て、カズキは表情を驚愕に染めた。 『サンライトハート』!?あれ、だってオレは…!? ほんの一月前まで自分の武器だった、ヴィクター化の影響により形態(フォルム)を変えてしまったその突撃槍。 初めて『武装錬金』を発動してから、幾多もの激戦を共に潜り抜けてきた、かつての自分の相棒である。 それが、何故今……? が、考えている時間も余裕も、今はない。まずは、目の前のゴーレムを止めなくては…! なのに…なんだろう。この感じ。すごく安心する。この形態だからなのか? カズキの脳裏に、斗貴子の顔が浮かんだ。カズキの武装錬金に、名前をつけてくれた、カズキの大切な人。 まるで、斗貴子さんが後押ししてくれているようだ。迷うな、突き進めって! カズキは突撃槍を構えた。添えられた左手のルーンが、眩いほど輝く。狙うはゴーレムの胸、飾り布が、光を帯び始める…! 「いくぞ!サンライトスラッ――」 一条の光の矢が、ゴーレムの胸を貫いた。そしてその矢はそこで止まることなく、その勢いのまま空を駆ける。 矢の穂先には、突撃槍を構えたカズキ。必死に槍の柄を掴んでいる。 突撃槍の飾り布からは、迸る生体エネルギーの本流が、凄まじい推進力を生み出していた。 「うぉおおおお!?」 なんだ!?エネルギーが思っていたよりずっと強い! このままでは遥か彼方にすっ飛んでいってしまう。空中ですぐに姿勢を整えようとする。すると何故だろう。 力の込め具合が、自然にわかった。高出力のエネルギーの、今の扱い方も、すぐに理解できた。 カズキは飾り布を掴むと適切なエネルギー量で逆噴射を行い、その場に静止する。 そして自由落下していき、エネルギーの噴射で樹木の上に軟着陸した。森が深すぎるので、木の下に入っては、ゴーレムが見えないのだ。 よし、使い方は忘れてない。 一つ頷くと、ゴーレムを見やった。かなりの速度で突っ込んだはずだが、胸にぽつんと小さな穴が穿たれただけだ。 「なっ…!?」 それもすぐに、塞がってしまう。土でできたゴーレムは、そこいらに材料があるのだ。ちょっとやそっとのダメージは、ああして修復してしまうのだろう。 「だったら…だったら直る前に、ぶっ壊すまでだ!」 カズキは突撃槍を再度構える。そして、また光の帯を引きながら、ゴーレムへと突っ込んでいくのだった。 前ページ次ページ使い魔の達人