約 1,044,333 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5682.html
前ページ次ページ炎神戦隊ゴーオンジャー BUNBUN!BANBAN!クロスオーBANG!! 次回予告 「ガンパードだ。秘宝『ルサールカの鎧』を狙うフーケ。阻止はできるか」 「ヒロインといっても、1人ではないんでおじゃろう?」 「GP-08 奇襲ツチクレ ――GO ON!!」 モット伯邸を壊滅させ(シエスタを除いて)意気揚々と学院に帰還するルイズ達。 しかしもうすぐ学院が見えてくるという時、突然蛮ドーマ機内に警報が響いた。 「な、何!?」 「む、あそこは確か宝物庫!」 操縦するキタネイダスの言葉にルイズが宝物庫に視線を向けると、身長30メイル近い巨大な土人形が宝物庫の壁を殴りつけていた。 「ゴーレム!?」 急加速して蛮ドーマをゴーレムに接近させたルイズ達は、呆然としつつもその様子を見守っていた。 一撃で宝物庫の壁が崩壊し大穴が空いたかと思うと、ゴーレムの腕の上を人影のような何かが駆け抜け穴に飛び込んでいった。 「泥棒!?」 聞こえないはずのシエスタの言葉に反応したかのように、ゴーレムは蛮ドーマめがけパンチを放ってきた。 「くらうぞよ!」 蛮ドーマの砲撃でゴーレムの腕の一部が弾けたものの、即座にその傷が修復された。 「再生能力かよ……」 「少々分が悪いでおじゃるな……」 「ミス・ヴァリエール、相手が悪すぎます。ここは逃げましょう」 「蛮ドーマ、最大出力ぞよ!」 「駄目! それじゃ泥棒が逃げちゃう!」 「何言ってんだお嬢! あいつに勝てるわけねえだろうが!」 「メイジがいればそいつを狙えばいいが、中に入られては蛮ドーマの火力であいつの相手は無理ぞよ」 「キタネイダスの言葉通りなり。あの大きさから見て、トライアングルかスクウェアクラスのメイジなり。蛮ドーマでは勝算が無いなり!」 残念ながらヨゴシュタインの正論は仇になった。「トライアングルかスクウェア」の忠言は、ルイズの心を煽ってしまったのだ。 「トライアングルの土メイジって……、まさか『土くれのフーケ』?」 「そ、そうかもしれません……。そんな相手じゃ奇跡でも起きないと……」 「それならなおさら逃がすわけにはいかないわ!」 ――GP-08 奇襲ツチクレ―― 「相手に後ろを見せないのが貴族よ! 奇跡が起きなきゃ勝てないなら奇跡を起こして――」 「ルイズ」 そんなルイズの言葉を遮ったのは、それまで沈黙していたケガレシアだった。 「ギーシュとの決闘の時やさっきのモット伯邸での時、奇跡が起こったと思うでおじゃるか?」 「えっ……?」 「自分とわらわ達を誇ろうとするルイズのため、シエスタを助け出すため、わらわ達は一丸となったでおじゃる。そんな結束の結果でおじゃる」 脳裏に嬉々としてセンプウバンキを作ろうとしているキタネイダス達の姿、モット伯邸侵入の際巡回の衛兵を始末したデルフリンガー・イカリバンキの姿が浮かび、ルイズは思わず目を閉じた。 「ヒロインといっても、1人ではないんでおじゃろう?」 「……ケガレシア……。……わかったわ。起こらないから奇跡って言うのよね。だから全力を尽くすわよ」 「違うでおじゃる、ルイズ。奇跡は起こるでおじゃる。でも最高の奇跡は既に起きているでおじゃるよ」 「もう? 最高の奇跡が?」 「わらわ達がルイズに召喚されて使い魔になった。それが最高の奇跡でおじゃる! それ以上は……無いでおじゃるよ!」 「ええ!」 ルイズの言葉に満足げな笑みを浮かべケガレシアは頷いた。そして砲撃でゴーレムへの牽制を続けるキタネイダスに、 「キタネイダス、シエスタを安全な場所まで頼むでおじゃる。わらわ達はフーケとかいうあのゴーレムを使っているメイジを追うでおじゃる」 「任せるぞよ」 「ケガレシア、行くわよ!」 「無論でおじゃる!」 そう言い終えるが早いか、2人は蛮ドーマから飛び降りていった。 「こいつが『ルサールカの鎧』かい」 水晶にも似た透明で堅固な物質でできた箱の中から取り出した目的の物を抱え、フーケは呟いた。 全体的に薄い赤銅色、どこの家の家紋なのか随所に渦巻き模様の紋章らしき意匠が施された鎧。手甲には盾と一体化した騎槍が握られていて、兜の支えらしい青い仮面は左半分に亀裂が入り端整な容貌を不気味な雰囲気に変えている。 ワイバーンすら打ち倒す魔力とは、この鎧が装着者に与える魔力とはいったいどれほどなのだろうか。 (まあ、自分で使うよりは売った方が金になるだろうね) 長居は無用とばかりフーケは入ってきた穴に向かった。外からは轟音が聞こえてくる。追っ手の動きが予想以上に早かったようだ。 「土くれのフーケ!!」 「観念するでおじゃる」 穴から出たフーケの視線の先で大剣を手にした薄桃色の髪の少女と、鞭を構え銀色の部分鎧を纏った女性がゴーレムの腕の上に立ちはだかっていた。 即座に2人を排除するための計算を脳内で開始する。 (宝物庫の中に戻って本来の出入口から脱出する……こんな騒ぎになってたらすぐ見つかる。却下) (ゴーレムに腕を振らせて振り落とす……私も落ちるじゃないか。却下) (ゴーレムを土に戻して生き埋めにする……だから私も生き埋めだろ。却下……待てよ) その時、フーケの頭に却下しかけた作戦の改良案が閃いた。 即座に杖を振り、宝物庫の穴にかけているゴーレムの手首を石化させる。 「足場の確かさの差が戦力の決定的な差じゃない事を教えてあげるわ!」 「待つでおじゃる、ルイズ!」 ゴーレムの腕の上を駆けてフーケに迫ろうとするルイズだったが、 「目障りだ、埋まれ!」 その言葉と共に石化していた手首を除くゴーレム全体が土に還元された。ルイズは手首目指して咄嗟に跳躍したものの、わずかに及ばず腕を構成していた大量の土砂と共に落下していった。 「ああ! ちょっと、埋まっちゃったじゃない!」 2人の様子を地上から見上げていたキュルケは冷や汗をかいた。 これだけの騒動に彼女達が気付かなかったわけがない。魔法を使っても致命傷にならないならばフーケを狙うしかないと、シルフィードで上空を旋回していたのだ。 ゴーレムの手に立つフーケらしい人影が積極的にルイズ達を狙っているようなのでその隙に、と思った途端に土砂の大量落下だ。 ルイズ達が埋まったのを見て、フーケらしき人物は満足そうに頷き塔に開いた穴から飛び降りる。どうやらこのまま逃げるようだ。 「タバサ! 追いかけなきゃ!」 「……助けないと……」 「そうね……」 タバサの指差した場所に視線を向けると、校舎の3階部分に届こうかという土の小山が見える。先程フーケのゴーレムが土に戻った場所、ルイズ・ケガレシアが埋まっているだろう場所。 それを見てキュルケは額に手を当て溜め息を吐きつつ、恨めしげに逃走するフーケを睨みつける。 学院の外壁を飛び越えフーケは姿を消した。 『「ルサールカの鎧」、確かに領収いたしました。 土くれのフーケ』 夜も明けぬうちに、トリステイン魔法学院は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。 何しろ宝物庫に納められた「ルサールカの鎧」が盗まれたのだ。それもゴーレムで壁を破壊するという大胆不敵な方法で。 口々好き勝手喚いて責任の擦り合いをしている教師達のもとに、ミス・ロングビルが近所の森をうろついていた不審者の情報を持ってきた。 「では捜索隊を結成する。我と思うものは杖を上げよ!」 オスマンの宣言に呼応するかのように1本の杖が上がり、それに2本の長い杖と1本の鞭が続く。 周囲の教師達の視線が4人の人物に注がれた。最初に杖を掲げたルイズ、そしてそれに続いたヨゴシュタイン・キタネイダス・ケガレシア。 「ミス・ヴァリエール、ミスタ・キタネイダス、ミス・ケガレシア、ミスタ・ヨゴシュタイン! あなた達は生徒とその使い魔ではありませんか! ここは教師に任せて……」 「その教師の誰が杖を掲げているんですか、ミセス・シュヴルーズ? そう言うのならあなたも同行しますか?」 「ふん、ヴァリエールには負けられませんわ」 「……心配……」 負けじと杖を掲げるキュルケを見てタバサも杖を掲げた。さらにギーシュも、 「僕にも手伝わせてもらおう、ミスタ・ヨゴシュタイン。僕も決闘以来修行を積んでいるのでね。足手まといにならない程度の力は付けたと自負しているよ」 オスマン・コルベールは不安を覚えた。 強力な炎メイジのキュルケ・シュヴァリエのタバサ・そして何より「蛮機獣」という強力なゴーレムを作り出せるルイズの使い魔達……。戦力としてだけなら楽勝とはいかないまでも不安はほとんど無い。 問題はそれ以外の部分……特にルイズの使い魔達だ。 コルベールは魔法に依存しないでマジックアイテム同様の効果を発揮する道具を開発する技術(ヒューマンワールドにおいて「科学技術」と呼ばれている技術)に大きな関心を持っている。 魔法に依存せずとも魔法と同じ力を得られれば、魔法を使えない多数の平民も魔法と同じ恩恵が得られると信じている。 しかしそれも魔法同様使い方次第の単なる「力」であり「道具」、悪用・暴走によって大きな悲劇をもたらすものだという事も知っている。 決闘の時3人が見せつけたのは、コルベールには求めてやまない異界の技術の暗黒面を見せつけられたように思えた。 (私の危惧が的中していたら、ミス・ヴァリエールは……) 自身の使い魔とそれを召還した自身の力に恐怖のあまり心を閉ざす、それは重大な問題だがまだ最悪ではない。 幼少の頃より魔法が使えない事に苦しんだだろうルイズが魔法によらない強大な力を得た事で、使い魔達と共に自分を苦しめてきた魔法と疎んじてきたメイジに復讐の牙を剥いたら……、 (私には彼女を止められるだろうか……?) 実時間にして1分足らずの間にコルベールはこの先一生分と言えるほども考え抜き、 「……私も行きましょう。大人達は子供を守る、それが私の子供の頃も私の両親が子供の頃も変わらない常識です。子供達に戦わせて大人が後ろで高見の見物と決め込むなど、あってはなりません」 「よし、決まりだ。討伐隊はこの8名。ミス・ロングビル、案内役を」 「はい」 「今すぐ出発と行きたいがこの闇夜では不利じゃろう。夜明け頃に到着するように出発は3時間後じゃな。……よいか! わしが許可するのは『ルサールカの鎧』の奪回だけじゃ。無謀な行動はするのではないぞ。そして皆、必ず生きて帰ってきてくれ」 『杖にかけて』 前ページ次ページ炎神戦隊ゴーオンジャー BUNBUN!BANBAN!クロスオーBANG!!
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5990.html
前ページ次ページ谷まゼロ ルイズは、谷を呼びたしたことに心底がっかりしていた。 呼び出した使い魔が、幻獣や動物であれば、主人の身を守ったり、 秘薬などの素材を主人のために見つけてきたりすることが出来、ルイズを大いに満足させたであろう。 しかし、自分が呼び出したのは人間で、魔法が使えないただの平民。 使い魔にとって一番重要である『主人の身を守る』ということすら出来ないように見えた。 加えて、『コントラクト・サーヴァント』が出来ていないとなれば、落胆もひとしおである。 そして今、『主人を身を守る』ことが使命であるはずの使い魔は、 その主人に対し、拳を振り上げていた。 「え?」 間の抜けた声を上げたルイズ。 しかし、この状況が理解できないほど頭が回らなかったわけではなかった。 目の前の使い魔は自分を殴り飛ばそうとしているのだった。 ルイズは慌てて頭を下げた。その僅か上を谷が振りぬいた拳が通り抜ける。 標的に当たらなかった拳は、窓ガラスを盛大な音をたてながら叩き割った。 ルイズが信じられないものを目の当たりにしたかのように、驚きの声を上げた。 「ちょっと何よ!?貴族に!使い魔が主人に!手を上げるなんて信じらんない! どうなるかわかってんの!?なんとか言いなさいよ!」 だが、その言葉が無意味であることにルイズは気がついた。 谷の耳には何も届いていない。今もルイズを殴り飛ばすことだけに意識を集中させている。 異様なまでの殺気を発しながら。 ルイズは喉をならして唾を飲み込んだ。 自分の主人に手をあげる使い魔なんてルイズは聞いたことがない。 取りみだしながらも、ルイズは谷から逃れるためにベッドどから降りた。 谷がおもむろに歩いてそれを追う。 壁を背にしたルイズは逃げ場を失っていた。その時杖をもっていなかったし、抵抗する術は持ち合わせていなかった。 ルイズは竦み上がりそうになりがらも、心を奮い立たせ、谷に言った。 「わたしが何をしたっていうのよ!?」 ルイズが何をしたか。そして、なぜ谷は怒っているのか。 それらの答えはすべて、ルイズが『島さん』をバカにしたことに帰結する。 谷にとって『島さん』はかけがえのない存在である。 谷は幼い頃より自分の意思で仮面をつけていた。谷が居た世界でも、日常生活で仮面をつけるということは、異端であった。 だから、彼は周りの人間からは奇異の目で見られ、変人扱いされてきた。 本人はそのことに関して毛ほども気にはしていなかったが、そんな状態でまともな人間関係など築けるはずはなかった。 だが、それはある意味本人が望んだことであるようであった。谷は望んで他人との間に壁を作っているのだった。 人は、誰しもが人に恋い焦がれる時がある。 ある者は、幼稚園の保母さんが初恋の相手かもしれない。 ある者は、近所の幼馴染が相手かもしれない。 だが、谷は『島さん』と出会うまで、他人に恋をするどころか、信じられる人すらいなかった。 そんな谷が初めて他人である『島さん』を好きになったのだ。 広い世界で『唯一』好きな、大好きなヒト。それが谷にとっての『島さん』であった。 その『島さん』をルイズにバカにされたのだ。 谷には許すことができなかった。 谷は、自分の怒りを買うものに対して、容赦という言葉を持たない。 年端もいかない子供に対しても、大人げない態度で虐げることができるし、 大勢の不良であろうと、短刀を持ったヤクザであろうと、たとえ女であろうと、 その拳をもってして殴り飛ばすことになんの迷いもない。 ルイズもまた、谷が容赦すべき相手と認識するわけがなかった。 谷は再び拳に力を込めた。 「てめェ!よくも島さんを!!ゆるさん!」 「シマ、シ、シ、シマサン!?」 再びルイズに対して拳が振るわれた。 その動作自体は比較的遅く、ルイズでも間一髪避けることができた。 だが、ルイズは避けたあとに起きた出来事に驚愕した。 谷が放った拳は空を切り、そして壁にぶち当たった。 普通なら、石造りで出来た壁なんかを素手で思いっきり殴ろうものなら拳のほうが壊れてしまう。 しかし、谷は違った。 ルイズの耳に轟音が響いた。 恐る恐る谷がいる方を見てみると、衝撃の光景が目の前に展開されていた。 谷が素手のパンチで壁をぶち破ったのだ。 谷の、馬鹿が二回付いても足りないぐらいの馬鹿力が可能にさせる破壊力であった。 壁は破片となり粉々に砕かれ、人一人が余裕で通れるほどの巨大な穴が出来ていた。 「ちょ、ちょっとなんなの!?戦争でも始まったの!?」 そう叫んだのは、先ほどまで就寝中であった、ルイズの隣の部屋の女性であった。 名をキュルケ。ルイズのヴァリエール家と宿命関係にあるツェルプスト―家の者である。 ルイズとは同じ学年の生徒ではあるが、家同士の因縁があるためか、いつもいがみ合っている関係である。 しかし、今のルイズは混乱していた。 誰でもいいから、助けが欲しかった。なぜなら自分の使い魔が間違いなく自分に敵意を向けているのだから。 そして、ルイズ自身には、この状況をどうにかする術がなかった。 ルイズは、谷が作った壁の大穴から、キュルケの部屋に飛び込んだ。 そして、キュルケが寝転がっているベッドに飛び乗った。 「ちょ、ちょっと何をやってるのよあなた!ここが誰の部屋かわかって?ルイズ。 っていうか、なんで人の部屋の壁を壊してるのよ!」 「わたしの部屋の壁でもあるわよ!!ちょ、ちょっと助けなさいよ」 「助けるってあたしが?ヴァリエール家のあなたを、このツェルプストー家のあたしが?冗談言わないで」 「この状況で冗談なんて言えるわけないでしょ!!?あの壁見たでしょ!?」 「あの壁がどうしたのよ?どうせあなたが魔法を失敗してぶち壊したんでしょ!?」 ルイズは歯ぎしりをし、じれったそうに叫んだ。 「っ違うわよ!!そんなことできるわけないじゃない!わたしの使い魔が素手でぶち破ったのよっ!!」 信じらんない、あり得る筈がない、といった風に目を見開き驚きを隠せないキュルケが言った。 「あの平民の使い魔が!?それこそ冗談でしょ!? 素手で学院の壁が壊せるわけないでしょう!?っていうかアレ……」 キュルケが、そしてルイズが息をのんだ。 そこには壁の穴を通り抜け、ルイズたちに視線を向けている不気味な白い仮面の男がいた。 心情を表わす顔を隠し、余計に恐怖をかきたてるのに一役買っている仮面が目に付いた。 それを見ると、先ほどの谷とルイズのやり取りを知らないキュルケも理解できた。 その目の前に立つ男が、明らかにルイズに敵意を抱いていることを、そして自分も巻き込まれていることを。 「ふ、フレイム!!!」 キュルケは思わず自分の使い魔の名を呼んだ。 部屋の隅の闇からのっそりと、虎ほどの大きさの真っ赤なトカゲが現れた。 尻尾が、燃え盛る炎でできていた。チロチロと口から火がほとばしっている。 このフレイムという使い魔は、谷と同様、使い魔召喚の儀式で呼ばれた生物であった。 サラマンダーのフレイムは主人であるキュルケの身の危険を察知した。 そして、その原因であると思われる谷の前にその大きな体を盾にし立ちはだかった。 フレイムの口にから、熱気が溢れ出す。 炎を吐いて谷を追い払うつもりであった。 だが、それは成功しなかった。 「邪魔だ、このトカゲめ!!!」 「きゅおっ!!?」 谷は、片手でフレイムの頭を鷲掴みにし、そのまま上に蹴り飛ばした。 天井にフレイムが激突し、部屋が僅かに揺れる。 パラパラと天井の破片が落ちてくるが、肝心のフレイム自身が落ちてこない。 フレイムは完全に天井に埋まってしまい落ちてこないのだった。 普通の人間ならば、フレイムを持ち上げることすら出来ないであろう。 谷がしたことは、まさに異常であった。 「う、嘘でしょ。あたしの自慢の使い魔が……」 頭の中が絶望に溺れたキュルケも、ルイズの使い魔の異常性に気がついた。 そして何でこんな理不尽なことに巻き込まれているのかと、憤りを感じていた。 キュルケは、ルイズの服をとっ掴んで問い詰めた。 「なんなのよこれ!?あんなのに殴られでもしたら、頭にコブどころじゃ済まないわよ! あなた自分の使い魔に何をしたの!?何をどうしたらあんなに怒らせられるのよ!?」 「そんなのわたしだって知らないわよっ!……あっ、もしかしてシマサンっていう女をわたしが悪く言ったから?」 「誰よ!?そのシマサンっていうの!?」 「タニが好きな女の名前よ!」 「なに?好きな女をバカにされたから怒ってるの!?……それなら」 キュルケとルイズは顔を見合わせた。 そして、無言で二人は一つの答えに縋りついた。谷に聞こえないように、こそこそと話した 「なら、今度は褒めるのよ!褒めて褒めまくって褒めちぎるのよそのシマサンっていう人を! そのシマサンっていうのはどんな人物なの!?」 「な、名前しか知らないわよ!」 「ちょっと何よそれ!あの男殴ろうと拳を振り上げてるわよ!あたし死にたくないわ! なんでもいいから褒めるのよ!!!」 「そんな!どうやって言えばいいのよ!わからないわ!!」 キュルケはチッと舌打ちをした。 そして、拳を振り上げている谷に向って愛想のよい笑顔で言った。 「あ、あなたタニっていうのかしら?ルイズと違って、あたしはそのシマサンを素敵な女性だと思ってるわよ?」 知りもしない女性を褒めることは滑稽としか言いようがなかった。 ルイズはこんなことで谷が止まるはずがないと、どこか確信めいたものを抱いていた。 だが、物事は二人の予想を反した。 谷の振り上げた拳が、ピタリとその動きを止めたのだ。 しめた! キュルケは赤く燃えるような髪をかきあげながら、一気に責め立てるように言った。 「もうシマサンったら、このあたしでさえ、一目置いちゃうほどの美人じゃない? そんなシマサンが想い人なんて、もうタニったら隅に置けないわね。ねえルイズ?」 突然話を振られて、慌てふためきながらもルイズは相槌を打った。 「え!?……え?……え、ええ!そうねっ!わたしもシマサンは素晴らしいと思うわ!!」 ルイズもキュルケも必死であった。 「そうよ、あの艶やかに煌めく長くて綺麗な髪なんて最高よねっ!ね、ルイズ?」 髪がショートだったらどうするのよキュルケ!とルイズは心の中で責めた。 「そ、そうね!それに、スタイルも出るところは出て引っ込むところは引っ込んでて抜群よねっ!ね、キュルケ?」 何よ、もしもあなたみたいに貧相な体つきだったらどうするのよルイズ!とキュルケは心の中で責めた。 っていうか、またあたしに振るんじゃないわよルイズ!! まるで、導火線に火がついた爆弾の押し付け合いをしているような有様であった。 完全に想像による島さんを称賛する言葉。 そんなもので谷が、どうにかなるかどうかは二人はわからなかった。 生きた心地がしない二人は谷の反応を待った。 谷はしばらく無言で固まっていたが、ふと呟いた。 「それは嘘だろ」 やっぱりダメだった! やはり、こんな嘘が通じる筈がなかったのだと二人は後悔した。 そしてキュルケが悪あがきをする様に、取り繕った。 「ルイズが言ってたのよ!タニがシマサンことを語っているの聞いてると、 シマサンがどんな女性か容易に想像できるって!それはタニの想いの強さがそうさせるんじゃない? そんなに想われてるなんてシマサンが羨ましいわ!凄いわシマサン!ねえルイズ!?」 「え!?……え、ええ!!」 完全に詭弁であった。 タニのこともシマサンのことも全く知らない。その上での発言であるから出鱈目もいいところである。 しかし、思いもよらぬことが起きた。 谷が頭をかいて、まるで照れているかのような素振りをして言ったのだ。 「そっ、そうか!?そうだろ!?しっ、島さんは、凄いイイんだ!運動神経もいいんだぜ!」 まるで自分の父親はパイロットなんだと自慢する子供のようだった。 仮面で表情はまったくわからないが、今さっきまでの怒りようはどこにやらといった感じで、 本当にうれしそうに喋っていた。 心の底から『シマサン』という人間が好きなのだと、ルイズとキュルケは理解できた。 危険から逃れられたのがわかったせいか、つい興味本位でキュルケは谷に聞いてしまった。 「……そのシマサンってタニの恋人なの?」 「こいびっ……!」 恋人という単語を聞くと、物凄い勢いで後ずさり、 壁の方が壊れるのではないかと思ってしまうほど、 谷は、背中から壁に激突した。壁にはヒビが入っていた。 そして、部屋の中央に戻ってきた谷が慌てふためいた様子で言った。 「いっいや、違うんだけどさ。へへっ。それに、ま、まだ告白もしてないんだよ」 谷は委縮しきっていた。 そんな姿を口をポカンとさせ見ていたルイズは、谷のポケットから一枚の紙がヒラリと落ちたのに気づいた。 ルイズは、そのことに気が付いていない谷に先んじて、その紙を拾い上げた。 それは島さんが写っている写真であった。ハルケギニアには写真は存在しない、 だからルイズにはそれが、精巧な絵に見えた。 「なによ、この絵。いや、これ絵なの?まるで鏡に映った像みたいに鮮明……。 っていうか、この絵の女の人がもしかしてシマサンってっていうヒト?」 キュルケはルイズが手に持っている写真を横から覗き込んで言った。 「あら、確かに美人ではあるわね、こうなんか抱擁力がある優しさと、リンとして引かない強い部分をもってそうな……」 なに適当なことを言ってるのか、とルイズは心の中でキュルケを責めた。 せっかく谷の怒りがおさまったのに、下手に何か言って逆戻りになったらどうするのかと。 突然キュルケに向ってビシリと指をさして、谷は力強く叫んだ。 「そう!そのとおりだ!!」 キュルケの適当な言葉に谷は同意した。 「ど、同意するわけ……?」 思わずズッコケそうになるほど、ルイズは呆れてしまった。 「……」 「……」 「写真返せ」 谷は、乱暴にルイズの手から写真をひったくった。 そして、大切なものなのか、折り目が付かないように細心の注意を払いながらポケットの中に写真をしまった。 谷は頭をガリガリと掻いた。 今度は、ルイズに対してではなく、現状について苛立ちを感じていた。 天井に向って谷は叫んだ。 「夢にしちゃ長すぎるぞ!しかも面白くねェ!オレだって暇じゃねェんだぞ!……島さんにも会えねェし。 ……っさっさと夢から醒めろオレ!……っこうなったら逆に夢の中で寝てやるからな!」 谷は寝ている間に、夢から醒め現実に戻るんじゃないかと考えた。 ズカズカと足音をたてながら、自分が開けた穴からルイズの部屋に戻っていった。 「……夢ってなによ?ルイズ」 当然の疑問であった。ルイズはキュルケの疑問に答えた。 「タニはここを自分の夢の世界だと思ってるのよ。でも、ここが現実だったら別の世界だとか言ってたから、 ハルケギニアのことなんて知らないとこから来たっぽいことはなんとなくわかるんだけど……」 キュルケは、谷の心情が少し読めた。読めたからこそ嫌な予感がしていた。 「それって不味いんじゃないかしら」 「は?どこらへんが?」 「……多分、タニは薄々っていうかほとんど気づいてるけど認めたくないのよ。 ここが現実だとしたら、シマサンに二度と会えないかもしれないんだからねえ」 ルイズはハッとした。その通りかもしれないとも思った。 そしてルイズにも何が問題かわかった。 使い魔は呼び出す魔法はあっても、送り返す魔法なんてものは存在しない。 何故なら呼び出された使い魔は、その生涯をその主人と共にすることが大前提だからである。 そして谷も、どうにかできるならば、ルイズがとうに送り返すか何かしているはずということも、 ルイズの態度から薄々読み取っているのかも知れなかった。 だから、谷にとってここは夢の世界でなければならないのだった。 もし、その谷がここを現実としっかり認識して、愛しの『シマサン』と会えないとわかったならば……。 ルイズとキュルケはゾッとした。 キュルケは片手を上げて、にこやかに言った。 「じゃ、あたしは寝るから。もうあたしを巻き込んじゃダメよ?」 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!わたしどうすればいいのよ!?」 キュルケはタヌキ寝入りを決め込んでいた。 ルイズは頭を抱えて、ブルブルと震えていた。 「……っ!ど、どどどど、どうしよう。なんなのよあの使い魔っ!」 ルイズは得体のしれない仮面をつけた使い魔に振り回されっぱなしであった。 明日以降のことを考えると不安を感じずにはいられないルイズであった。 前ページ次ページ谷まゼロ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1002.html
姉妹スレの作品置き場 アニメSS総合スレ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました ガンダムキャラがルイズに召還されました アニメSS総合スレ ■ 過去スレ └ アニメSS総合スレ 作品タイトル 元ネタ 召喚されたキャラ(他備考等) 更新日時 ゼロのミーディアム ローゼン・メイデン 水銀燈 2009-11-13 16 21 31 (Fri) (注:このSSは本スレに連載先が変わりました ページ最上部へ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました ■ 過去スレ ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part15 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part14 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part13 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part12 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part11 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part10 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part9 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part8 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part7 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part6 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part5 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part4 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part3 ├ HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part2 └ ルイズがアンデルセン神父を召還してしまった 作品タイトル 元ネタ 召喚されたキャラ(他備考等) 更新日時 タバサの大尉 HELLSING 大尉 2009-06-28 03 38 02 (Sun) フーケの憂鬱 HELLSING アーカード少女形態、アンデルセン、大尉 2009-06-28 03 41 30 (Sun) 神父様のコートは四次元コート HELLSING アンデルセン 2009-06-28 03 41 58 (Sun) ギーシュの吸血 HELLSING ギーシュ(吸血鬼) 2009-06-28 03 42 53 (Sun) アーカードはそこにいる HELLSING アーカード 2009-06-28 03 44 06 (Sun) ゼロのロリカード HELLSING アーカード少女形態 2010-05-25 12 57 13 (Tue) HELLOUISE HELLSING アーカード(少女形態)、ウォルター(少年形態)、セラス、大尉 2010-12-10 11 27 18 (Fri) タバ→大尉 HELLSING 大尉 2009-06-28 03 47 19 (Sun) スナイピング ゼロ HELLSING セラスとリップバーン 2009-12-22 07 59 30 (Tue) 虚無と狂信者 HELLSING アンデルセン、アーカード 2009-06-28 03 50 36 (Sun) ルイズとヤンの人情紙吹雪 HELLSING ヤン・バレンタイン 2011-10-13 11 20 05 (Thu) 確率世界のヴァリエール HELLSING シュレディンガー 2011-01-24 10 44 21 (Mon) ANGEL DUST HELLSING アンデルセン(短編) 2007-12-22 20 50 26 (Sat) ゼロの伯爵 HELLSING アーカード(短編) 2009-06-28 03 48 09 (Sun) ページ最上部へ ガンダムキャラがルイズに召還されました ■ 過去スレ ├ ガンダムキャラがルイズに召還されました 2人目 └ もしルイズが召喚したのがトレーズ様だったら 作品タイトル 元ネタ 召喚されたキャラ(他備考等) 更新日時 ゼロの使い魔0083サーヴァントメモリー 機動戦士ガンダム0083スターダストメモリー アナベル・ガトー 2008-01-16 06 51 43 (Wed) ハルケギニアの蜻蛉 機動戦士ガンダム0083スターダストメモリー シーマ・ガラハウ リリー・マルレーン(短編) 2007-08-30 15 24 38 (Thu) ページ最上部へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6648.html
前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔 魔法学院の教室は、講義を行うメイジの教卓が一番下の段に位置し、階段の様に机が続いている。 ルイズとミュズが中に入って行くと、先に教室にやって来ていた生徒達が一斉に振り向き、そして、くすくすと笑い始める。 皆、様々な使い魔を連れていて、教室中に沢山の生き物が居た。 梟、蛇、烏、猫。ミュズの中のデータにある地球に存在する生き物が見える。 しかし、ミュズの目を引くのは、椅子の下で眠り込んでいるキュルケのサラマンダーの様な見た事も無い未知の生物だった。 アバロス星人に似た姿の、六本足のトカゲがいた。 ミュズは気になって、ルイズに尋ねた。 「あの六本足のトカゲは何ですか?」 「バジリスク」 ミュズは次々に不思議な生き物の名前を尋ねる。 ルイズはそれを次々と不機嫌な声で答えて、席の一つ腰掛けた。 ミュズはその傍らに怖ず怖ずと無言でぴたりと立った。 ルイズは使い魔達が集まっている教室の壁際に居る様に言いつける。 しかし、ミュズが怖がってマントを掴んで離れないので、渋々諦める事になった。 扉が開いて、中年の女の先生が入ってきた。紫色のローブに身を包み、帽子を被っている。ふくよかな頬が、優しい雰囲気を漂わせている。 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。 「皆さん。使い魔召喚は、大成功の様ですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは俯き、ミュズが居るのとは反対側の方に顔を逸らした。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したのですね。ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズがミュズを見て、何気無しにとぼけた声で言うと、教室中がどっと笑いに包まれ、太っちょの男子生徒から野次が飛ぶ。 「ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺の平民を連れてくるなよ!」 ルイズは立ち上がり、長いブロンドの揺らして怒鳴った。 「違うわ!きちんと召喚したもの!この子になっちゃっただけよ!」 「嘘つくな!『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう?」 ゲラゲラと教室中の生徒が嘲笑う。 「ミセス・シュヴルーズ!風邪っぴきのマリコルヌが私を侮辱したわ!」 握り締めた拳でルイズは机を叩いた。 「風邪っぴきだと?俺は風上のマリコルヌだ!風邪なんかひいてないぞ!」 マリコルヌも立ち上がり、ルイズを睨みつける。 「あんたのガラガラ声はまるで風邪をひいてるみたいなのよ!」 シュヴルーズは小ぶりな杖を振って、立ち上がった二人を制止させ、席に座らせる。 「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はお止めなさい」 さっきまでの勢いが吹っ飛んで、ルイズはショボンとうなだれていた。 「お友達をゼロだの風邪っぴきだの呼んではいけません。分かりました?」 「ミセス・シュヴルーズ。僕の風邪っぴきは只の中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」 マリコルヌの一言に、生徒達からくすくす笑いが漏れる。シュヴルーズは厳しい顔で教室を見回して杖を振るい、何処からともなく現れた赤土の粘土でくすくす笑いをする生徒達の口を塞ぐ。 「あなた達は、その格好で授業を受けなさい」 教室中のくすくす笑いが治まった。 授業の開始を告げ、シュヴルーズは咳払いをして、ルーンを唱え杖を振うと、教卓の上に石ころが現れた。 「テレポート?あの人のESP波が一瞬で急に強くなった様な感じがした…」 ミュズはその光景に眼を見開き、口をきゅっと締めて呟く。 「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。」 二年生になって最初の講義と言う事も有り、おさらいをする様に系統魔法や『土』系統の魔法の特長が説明される。 そして、シュヴルーズは『土』系統の魔法の基本である『錬金』を、教授する為のお手本として、自ら石ころに向かって唱える。 石ころが光りだし、それはピカピカした黄色味を帯びた金属に変わっていた。 ミュズはその様子をじっと注視して、目の奥をチカチカと光らせた。 キュルケが身を乗り出し、「ゴールドですか?」と尋ねると、シュヴルーズは謙虚そうに「真鍮」と答えた。 その後に、ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』で有り、自分は『トライアングル』だともったぶった様に付け足した。 ミュズがルイズの肩をつつく。 「マスター」 「何よ。授業中よ」 「『スクウェア』や『トライアングル』って何ですか?」 「系統を足せる数の事よ。それでメイジのレベルが決まるの」 「はい?」 ルイズは小さい声で顔を近づけさせる。 そしてミュズに、一つの系統に他の系統を足して呪文を強化する事や、同じ系統を足してその系統を強化する事などを、すらすらと説明した。 ミュズはその説明に納得すると、ぽつりと疑問を投げ掛けた。 「マスターは幾つ足せるの?」 その疑問に口をへの字に閉じて悲しげに眼を細め、ルイズは押し黙ってしまった。 そんな風にしゃべっていると、シュヴルーズに見咎められ、ルイズはクラスメイトの前で錬金の実技を行う様に言いつかる。 しかし、困ったようにもじもじするだけで、ルイズは立ち上がろうとしなかった。 シュヴルーズが再び呼び掛けると、キュルケが『危険』を理由にルイズの実技を取り辞めるように困った声で言い、教室の殆ど全員が頷いた。 初めてルイズを教えているシュヴルーズはその意味が分からず、励ましの声を掛けルイズに実技を行う様に促す。 キュルケは褐色の肌から血の気が引いて、ルイズに実技の辞退を懇願するが、決心した様にルイズは立ち上がってシュヴルーズに答える。 緊張した顔でルイズはつかつかと教室の前へと進むと、隣に立ったシュヴルーズはにっこりと笑い、錬金したい金属を心に思い浮かべるようにと指導をする。 こくりと頷いて、ルイズが手に持った杖を振り上げ、それと同時に前の席に座っていた生徒が椅子の下に隠れた。 ルイズは目をつむり、短くルーンを唱え、杖を振り下ろす。 その瞬間、教卓ごと石ころは爆発と化した。 爆風をモロに受け、ルイズとシュヴルーズは黒板に叩き付けられた。 驚いた使い魔達が暴れ出し、サラマンダーが火を吐くは、マンティコアが外に飛び出すは、大蛇が烏を飲み込むはの大騒ぎになった。 悲鳴や罵声が溢れる教室で、ミュズは誰も気付かない小さな声で呟いた。 「真空の揺らぎが『ゼロ』になった」 シュヴルーズはたまにピクピクと痙攣をして倒れたまま動かない。 煤で真っ黒になったルイズは、服の至る所が破れた見るも無残な格好で、むくりと立ち上がる。 大騒ぎの教室を意に介した風も無く、顔の煤をハンカチで拭きながら、淡々とした声で言った。 「ちょっと失敗みたいね」 他の生徒達から猛然と反撃を食らう。 「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」「いつだって成功の確率、ゼロじゃないかよ!」 ミュズは、どうしてルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているのかを、ルイズが魔法を使うと如何なるかを知った。 前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3151.html
前ページ次ページベルセルク・ゼロ ルイズは目を覚ますとまだ重いまぶたをごしごしとこすった。 窓からは朝の光が差し込んできている。 今何時だろう? ルイズは枕元に置いていた時計に目を通した。 授業が始まるまではまだ暇がある。 ようやく覚醒し始めた頭を振って、ルイズはベッドから降りた。 ちらりと壁に背を預けて眠るガッツに目を向ける。 ―――いいぜ、元の世界に帰るまでの間、お前の使い魔をやってやる 昨夜、そう宣言したその使い魔は、静かに寝息を立てていた。 そういえば、とルイズは思いだす。 ガッツを召喚したその日、ガッツが気絶しベッドで眠り続けていた間、ルイズは自分なりに使い魔をどう扱うか考えていた。 その時にとったメモを机の引き出しの中に入れっぱなしだった。 ルイズは引きだしを開けると『使い魔の扱い方!!』と書かれたメモ帳を手に取った。 パラリと表紙をめくる。 一.何の能もない平民なのだから、洗濯その他雑用をやらせるべきだわ! 着替えの手伝いなんかもやらせるべきね!! 実に元気良く書きなぐっている。 ルイズは視線を下げ、己の姿を確認した。 ネグリジェである。つまりこれから制服に着替えなければならない。 ガッツを起こし、着替えを手伝わせる。ガッツの逞しい手がルイズのネグリジェに指をかけ、するすると上に引き上げ―――ルイズの下着があらわになる。 ガッツが持つ制服に袖を通し、ガッツの指がそのボタンをとめていく。 必然、ガッツの太い指がルイズの慎ましやかな胸に触れる。 ルイズは小さく「あ――」と声を漏らした。 ―――っ て 出 来 る か そ ん な こ と ! ! ! ! ルイズは顔を赤くしながらメモ帳をパァン!!と思いっきり床に叩きつけた。 ぱたぱたと頭上に浮かんだ己の妄想を打ち払う。 そしてまたちらりとガッツの様子を伺った。 一.主人より遅く起きる使い魔には鞭打ちの刑!! 再び引き出しを開けると愛用のムチを取り出し、ガッツの頭に向かって一振り。 パシンッ!! 小気味良い音が鳴る。 ガッツの左目がくわっ!と開き、立ち上がると同時にドラゴンころし。ずんばらりん。 あっはっは、胴と足が泣き別れだわ。無様ねルイズ・フランソワーズ。 ―――ルイズはため息と共に制服を手に取ると、コソコソと着替え始めた。 まあね、あの時はガッツのこと何にも知らなかったからね。 大体ガッツの左手義手だしね。洗濯しなさいなんて鬼畜か私は。 制服に着替え終わってルイズは床に落ちたままのメモ帳を拾った。 こんなものガッツに見られたらどうなるかわからない。 ルイズは決してガッツの目に触れることがないようスカートのポケットにメモ帳をしまった。 準備を終え、授業へ向かおうとドアを開け部屋を出る。その前に、もう一度ガッツの様子を伺った。 けっこうパタパタと動いたというのに、ガッツはまったく起きるそぶりを見せない。 それもそのはず、実はガッツ、30分程前にようやく寝付いたところである。 ―――意外と寝起き悪いのね そんなことはつゆ程も知らないルイズは使い魔の思わぬ一面にくすりと笑うと、ゆっくりとドアを閉めた。 それからしばらくして、ガッツは目を覚ました。 しぱしぱする目をこすろうとして、自身の体に毛布がかけられていることに気づく。 ルイズはもう部屋にいない。どうやら起きてどこか出て行ったようだ。 その時にでも、かけてくれたのだろうか? ただの高慢ちきな小娘だと思っていたが―――意外な一面もあるようだ。ガッツは思った。 毛布をベッドに戻す。 ふと腰元のバッグに目をやると、毛布のせいで蒸していたのだろう、汗をだらだらかいたパックが寝苦しそうにベヘリットを蹴り上げていた。ベヘリット涙目である。 腹具合から今の時間を推定するに、眠りについてから3時間ほどたっていると思われる。 さてと―――何をするか。ガッツは頭を悩ませた。 とりあえずルイズを探してみるか。そう思い立ったガッツはベヘリットの鼻を引っ張りながら眠るパックをたたき起こした。 トリステイン魔法学院の廊下をガッツは歩いていた。 パックがその前を飛び、先導する。 「うむ、今日もセンサー好調! ルイズはこの部屋の中にいるよ」 わずかなドアの隙間からガッツは教室の中を覗き込んだ。 多くの少年少女が己の使い魔を引き連れて長机に着席している。 おそらく全ての少年少女はメイジ、かつ貴族なのだろう。 隙間からではルイズの姿を確認できない。 ガッツはドアを開いた。 教室がシン…と静まり返る。生徒たちの視線が一斉にガッツに集中した。 右の窓側、ギーシュは一瞬肩をすくませ、中央ではキュルケが目を輝かせ、タバサは一瞬ガッツに目をやるとすぐに読書を再開した。 左の窓側、ルイズもガッツがまさかこんなところに来るとは思っていなかったのだろう、驚き固まっていた。 「な、なんですかあなたは!」 突然現れた黒尽くめの剣士に、土のトライアングルメイジであり、本日『錬金』の授業を行っていたミセス・シュヴルーズは狼狽した。 どうやら彼女はガッツとギーシュの決闘を直に目にしていないらしい。 「ミセス・シュヴルーズ! 申し訳ありません! その男は私の使い魔なんです!」 慌てた様子でルイズが説明する。それからルイズは自分の座る窓側の席へガッツを手招いた。 ガッツが歩み寄ってくる。ルイズの頭にまたもや『ルイズメモ』がフラッシュバックした。 一.教室の席はメイジのものよ! 使い魔は床! (言えるかッ!? わたしッ!!) ルイズがわたわたしてるとガッツは既にルイズの席の傍まで来ていた。 ルイズに言われるまでもなくそのまま壁に背を預ける。 拍子抜けしたルイズははたと気づいた。 ―――てゆーかガッツ座れないんじゃないの? サイズが問題なのだ。ガッツでか過ぎ(甲冑着込んでるし)。席狭すぎ。 結局ガッツの選択肢は一つである。まだルイズの席が窓側だっただけましというものだ。 ガッツが教室中央で仁王立ちしている画を思い浮かべ「ないわ…」とルイズは首を振った。 気を取り直して授業が再開される。 意外にもガッツはシュヴルーズの話を興味深く聞いていた。 前述したが、今日の授業は『錬金』についてである。 シュヴルーズが錬金の原理についてつらつらと説明している。 錬金とは物質を金属に変える魔法らしい。教壇に立つ中年の女はただの石ころを真鍮なんていう金属に変えてみせた。 なるほど、この世界では武器弾薬の補充には事欠かないようだ。 ガッツはこの世界で矢や投げナイフを使うことがあるかはわからないが、一応、そういう技術があることを頭に刻み込んだ。 「ところでさ、ルイズ。あの女の人がちょくちょく言ってるスクウェアとかトライアングルってどういう意味なの?」 「こら、パック。今授業中よ」 ルイズの机に座り込んでいたパックがピーピー騒ぎ出した。 「じゅぎょうってなによ? いいじゃん教えてよ」 「しょうがないわね。いい? 魔法には系統があって…」 ルイズの魔法のレベルについての講釈が始まる。 長いので以下略だ。 「…てわけよ。わかった?」 ルイズが説明を終えた時、パックの頭からぷすぷすと煙が上がっていた。 (絶対わかっちゃいねえな) パックの性格と知能をよく知るガッツは思った。 ガッツの方はというとルイズの説明を大体ではあるが理解していた。 シールケをこっちに連れてきたら何に該当するのだろうか―――ガッツはそんなことを考えていた。 「ミス・ヴァリエール!!」 「は、はい!!」 シュヴルーズから叱責の声が飛ぶ。 「授業中の私語は慎みなさい」 「すいません……」 「お喋りをする暇があるならあなたにやってもらいましょう。ここにある石ころを望む金属に変えてごらんなさい」 そんなシュヴルーズの言葉に教室中からブーイングが飛ぶ。 やめさせろ、危険だ、そんな声が端々から聞こえた。 「わかりました。やります」 そんな周囲の声に反発するようにルイズは立ち上がった。 教壇に向かうと、緊張した面持ちでシュヴルーズの隣に立つ。 ガッツは首を捻った。 なぜこうも皆反対しているのか。 赤毛の女など顔面蒼白ではないか。 なんてことを思っていると―――石が爆発した。 そしてガッツは知る。ルイズの二つ名『ゼロのルイズ』その意味を。 教室の片づけを行いながら、ガッツはルイズに声をかけた。 「お前が錬金を使うといつもああやって爆発すんのか?」 ルイズはごしごしと床についた煤を雑巾でぬぐっている。 少しべそをかいているようだった。 「…そうよ」 本当にもう、泣きわめきたいくらいに恥ずかしかった。 こんなんじゃもう、ご主人様としての威厳なんて地の底である。 「だいじょぶだいじょぶ! ルイズもいつか出来るようになるって!!」 片づけを手伝いもせずぷかぷか浮かびながらパックは能天気な励ましをかける。 ルイズはガッツの反応が怖くてたまらなかった。 せっかく使い魔としてやっていってくれると言っていたのに、ご主人様がこれじゃ、早々に愛想がつきたんじゃないだろうか。 しかしガッツの言葉はルイズの予想外のものだった。 「大したもんだな」 その言葉に驚いたルイズは瓦礫を運んでいるガッツの方を振り向いた。 その顔に皮肉や何かを含んだような様子は見られない。 ガッツは真剣に感心していた。ルイズの起こした爆発、その威力に。 自身の持つ炸裂弾を大きく超える火力だった。 しかもそれはただの石ころにルイズが『錬金』をかけた結果だという。 だとすれば『武器』としてこれほど有用なものは無いとガッツは思っていた。 (……励ましてくれたのかな) そんなガッツの真意など知らないルイズはそんな風に思っていた。 片づけが終わると昼食の時間だった。 ルイズはガッツに『アルヴィーズの食堂』の説明をしながら食堂に入室する。 テーブルの上には豪華な料理が並べられてあった。 パックは目を輝かせる。ガッツも少し感心している様子だった。 ルイズは自分の席について―――気づく。 自分の席の隣の床に、粗末なスープとパンが置いてあった。 「あ゛っ」 忘れていた。そういえば、こういう料理を用意するようにと、ガッツを召喚したその日に厨房に命令していたんだった。 それからようやく今日、ガッツを伴って食堂に来ることになったわけで、こんなもんガッツに食えなんて言えるか!!ってなわけで。 ルイズメモ。 一.「あのね、本当は使い魔は外。アンタは私の特別な計らいで、床」 なんて考えてた台詞ももちろん言えるかッ!!となる。 ルイズはコソコソとテーブルの下にスープを隠した。 ガッツに見られた。 「―――!?!!?!!?」 真っ青な顔で必死に言い訳を考える。 「何たくらんでたかは知らねえが……どの道、ここでおちおち飯を食ってるわけにゃいかねえらしいな」 そう言い残してガッツは食堂を出て行った。 「ちょ、ちょっとガッツ!?」 そんなに怒ったんだろうか―――そう考えて、ルイズはようやく気づいた。 食堂にいた生徒たちが、敵意を持った眼差しでガッツを睨み付けていたのである。 ギーシュとのいざこざでガッツがした貴族への耐え難い侮辱。それに対する怒りは根強く生徒の心に残っているようだった。 当のギーシュは本来昼食をとるべき昼休み、食堂には行かず中庭の原っぱに座っていた。 トリステイン魔法学院は中庭にもよく手が入れられていて、咲き誇る花々と整えられた木々が美しい様相を作り出していた。 そんな庭を眺めながらギーシュは考えていた。 脳裏に浮かぶのはワルキューレを切り倒しながら自分に迫り来るガッツの姿。 ガッツが振り回すその無骨な大剣。優美さも、雅さの欠片も無い、ただ『敵を粉砕する、そのためだけに造り上げられた剣』。 その在り方を―――美しいと、感じてしまってはいなかったか。 貴族に対して耐え難い侮辱を行ったあの男に、憧れのようなものを自分は感じてしまっていたのではないか。 ギーシュは薔薇の杖を振り、ワルキューレを錬金する。 中身を伴わないその優美な姿が、今のギーシュの目にはひどく矮小なものに映った。 夜になって、ルイズが部屋で魔法書に目を通していると、ガッツが部屋に帰ってきた。 少し頬が煤け、露出している右腕にも少し傷が出来ているような気がする。 何かあったのか聞きたいが―――そこまで踏み込んでいいのだろうか? 使い魔の状態を把握しておくのは主人の義務、そう自分に言いきかせてルイズはガッツに声をかけてみた。 「ガ、ガッツ…それ、ど、どうしたの?」 よく観察してみるとけっこう深い傷のようにも見える。 ルイズは慌てて机からいつも自分が使っている傷薬を取り出した。 ガッツに駆け寄り、傷に薬を塗ろうとするルイズをガッツは手で制した。 「必要ねえよ、もう処置はすんでる」 言われて傷口をよく見ると、ほのかに輝く粉が塗りつけられている。 (何か特別な魔法薬でも持ってるのかしら?) 考えたがルイズにはわからなかった。それよりもまた自分がガッツに対して何も出来なかったことに落ち込んだ。 ガッツが口を開く。 「何人か貴族のお坊ちゃま連中に襲われてな」 「え! 嘘っ!? 何ソレ!?」 告げられた衝撃の事実にルイズは声を上げた。 確かにガッツは貴族を侮辱したとはいえ、今は自分の使い魔だ。 それに手を出すとは許せない。あとでとっちめてやる。ルイズは思った。 それにしてもギーシュとの決闘を見た後でガッツに挑む気概がある者がいたとは…ルイズはそこにも驚いていた。 そして最も気になるのは。 「も、もしかして、ここ殺しちゃったり、して、ない、わよ、ね?」 ガッツは鼻で笑った。 (ど、どっちよぉぉぉ~~~~!!!!) ルイズは心の中で悲鳴を上げた。 「心配すんな、そんな面倒なことはしちゃいねえよ」 ガッツの言葉にルイズはほっと息を吐いた。 「で、でもね、ガッツ。あの時あなたが言った言葉は貴族にとってはとても許しがたいものなのよ? そ、その、面倒ごとが嫌なら、一度謝っちゃったほうが…」 勇気をもって注意してみる。ルイズはガッツの反応をびくびくしながら待っていた。 ガッツが口を開く。ルイズは身構えた。 「そうだな。いきなり襲われるようなことがなけりゃあ、な」 ガッツの言葉にルイズは拍子抜けした。 (い、意外と素直なのね……) ガッツとて誰にでも譲れないものがあるということは承知している。 あの時は頭に血が上っていたため、発言を取り下げる気はさらさらなかったが、今のガッツは避けられる面倒事はなるべく避けるつもりでいた。 「そ、それじゃあ眠る時は言ってね。毛布、貸すから」 そう言ってルイズは机に戻ろうとする。 「おい」 その背中をガッツは呼び止めた。 ビクッ!と肩が震えてルイズは恐る恐る振り返る。 「な、なに…?」 ガッツはぽりぽりと頭をかいた。 「何をビクビクしてるのか知らねえが……使い魔をやると言った以上はちゃんとやってやる。もっとシャンとしろよ『ご主人様』」 ―――不意打ちだった。不意打ちだったが故に、心にしみこんだ。 そうよ、主人が使い魔に媚びてどうするの。 ガッツを使い魔らしく扱いたいのなら、私がまずご主人様らしくふるまわなくっちゃ。 使い魔を恐れるメイジなんて、メイジじゃない!! 私は私らしく、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールらしくあなたに接するわ、ガッツ!! 決意を新たにガッツに顔を向ける。 その顔にはガッツを召喚して初めて―――『不敵な笑み』が浮かんでいた。 「お前がちゃんと俺が帰る方法を探している限り、な」 そしたら釘を刺された。 うぐっ、となったけれどルイズは「わかってるわよ!」と返す。 俄然やる気が出てきた。うん、私はやっぱりこういう風にやるほうが私らしい。 その時パックが窓から部屋に入ってきた。学院内を散策でもしていたのだろう。 ルイズは鞭を取り出すとガッツにビシイッ!と突きつけた。 頭の中には『ルイズメモ』が復活している。 「あなたのご主人様として命じるわ、ガッツ!! これから毎朝私の下着を洗濯しなさい!!」 ぴかー。 ルイズから放たれる光にパックとガッツが照らされる。 変な空気になった。 ぽとりとルイズのポケットからメモが落ちる。 ルイズがそれに気づくより早く、ガッツはそれを拾い上げた。 ルイズの顔が真っ青に染まる。パックもガッツの傍に飛びよってきてメモに目を通した。 不思議だ。ルーンの効果だろうか、メモの字は読めずとも、その内容はばっちりと意訳されてガッツの頭に流れ込んでくる。 ガッツはメモを窓から投げ捨てた。 前ページ次ページベルセルク・ゼロ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7328.html
前ページ次ページ使い魔の達人 森の中の開けた場所に、ポツンと建った炭焼き小屋。その近くにルイズとカズキ。 そして、少し離れた場所に、巨大な土ゴーレムが二人を見下ろすように立っていた。 「で、出た……!」 昨夜見たときよりも、よりくっきりとその姿が視界に飛び込んできた。身の丈は三十メイルほど。巨大な土人形だ。 どうやら周辺の土を使って作ったらしい。後方数メイルから、地面がごっそりと削られたようになっている。 すると、ゴーレムがのっそりと動き出した。腰を低く構えては、腕を振り上げる。 「きゃぁああああああ!!」 ルイズの悲鳴が響いた。次いで、ゴーレムはその腕を斜めに振り下ろす。拳の先は…! 「みんな、伏せろ!」 カズキが怒鳴った。ゴーレムの腕は、小屋の屋根を大きな音を発てて吹き飛ばしてしまった。 「……ゴーレム!」 キュルケの声が聞こえた。小屋の中から、見上げているのだろう。 すると、巨大な竜巻が小屋から舞い上がった。タバサが即座に魔法を唱えたのだ。 ごう、と音を立て、小屋の破片を舞い上げながら、ゴーレムにぶつかっていく。が、土ゴーレムはびくともしなかった。 「頑丈だな…!」 カズキが唸っていると、そのゴーレムに火球が見舞われた。キュルケだろう。昨夜見たものとは違う、大きな火の玉だ。 火炎がゴーレムを包んだが、やはりゴーレムは意に介した様子はない。やがて、ゆっくりとこちらに向けて歩き出す。 「無理よこんなの!」 おそらく、めいっぱい力を込めた一撃だったのだろうか。キュルケが早々に音をあげた。 「退却」 タバサが呟く。二人は小屋から飛び出し、一目散に逃げ出した。 「ルイズ、ここはいったん退こ…あれ?」 ルイズが居ない。さっきまで、小屋の近くに居たのに。 大急ぎで辺りを見回す。その間にゴーレムはこちらに…いた! 「ルイズ!」 カズキの視線の先、ゴーレムの背後に回って、杖をゴーレムに向けるルイズの姿があった。 使い魔の達人 第十話 掌握、決意、そして咆哮 ルイズがルーンを呟くと、ゴーレムに杖を振りかざす。巨大なゴーレムの表面で、どかんと辺りに良い音が響くが、ゴーレムはやはりびくともしなかった。 するとゴーレムは、ルイズに気づいたようだ。のっそりと後ろを振り向いた。 「逃げろ、ルイズ!」 カズキは怒鳴った。しかし、ルイズは唇を噛み締めた。 「いやよ!このゴーレムを倒して、フーケを捕まえれば……今度こそ、『ゼロ』の汚名は返上できるわ! あんたの力を借りずに、わたしの魔法で、それをするの!」 その目は、真剣だった。真剣すぎて、危うく思えるほどだ。 カズキは歯噛みした。やはりルイズは、そのつもりでこの捜索隊に志願したのだろう。 ゴーレムは、近くに立ったルイズをやっつけようか、逃げ出したキュルケたちを追おうか、迷っている様子だった。 「なに言ってんだ!こんな大きなゴーレム、ルイズの魔法はぜんぜん効いちゃいないじゃないか!」 「そんなの、一発じゃだめでも、何発も当てればきっと倒せるわ!やってみなくちゃ、わかんないじゃない!」 「その前に、ルイズがやられちまう!いいから逃げろ!!」 ルイズはぐっとカズキを睨み付けた。 「なによ、あんたもやっぱり、わたしを『ゼロ』だって思ってるんじゃない!」 「はぁ!?」 「わたしが何も出来ない『ゼロ』だから、あんたは逃げろって言うんでしょ!?」 「なんだそりゃ!?そんなことないから!逃げろって!」 「ほら、また言ったじゃない!『ゼロ』だって思ってなきゃ…そうじゃなきゃ……」 ルイズの表情が、切迫したものに変わる。 わたしが『ゼロ』だから。魔法のひとつも満足に使えない、役立たずの『ゼロ』だから。この使い魔はきっと、わたしに逃げろと言うのだ。 そうでなければ、何故あの時、タバサには何も言わなかった? タバサには『風』の魔法がある。速く飛べる、立派な使い魔も居る。 こんな『ゼロ』と比べたら、頼りになるのは一目瞭然。考えるまでもないわ。 だからあいつも……だから、わたしは…! ルイズは頭を振った。そして、ゴーレムを睨み付ける。 「それに今…今、ここで逃げたら、それこそ『ゼロ』だから逃げた。結局カッコつけたところで、『ゼロ』は『ゼロ』なんだって、みんな言うに決まってるわ!」 「言わせときゃいいじゃんか!」 「わたしは…わたしは貴族よ!魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ!」 ルイズは杖を握り締めた。 「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」 ゴーレムはやはりルイズを先に叩きのめすことに決めたらしい。ゴーレムの巨大な足が持ち上がり、ルイズを踏み潰そうとした。 ルイズは口早に魔法を詠唱し、杖を振った。しかし、やはりゴーレムにはまったく通用しない。 ゴーレムの胸が小さく爆発するのが見えたが、それだけだ。ゴーレムはびくともしない。わずかに土がこぼれただけだ。 カズキは剣を構えると飛び出した。 ルイズの視界に、迫りくるゴーレムの足が目いっぱい広がる。沸いて出た恐怖が、目を閉じさせようとする。が、歯を食いしばって堪えた。 そのとき……疾風のごとく走りこんだカズキが、ルイズの体を抱きかかえ、地面に転がる。間一髪、そのすぐ横を、ゴーレムの足がめり込んだ。 「セーフ……って、死ぬ気か!馬鹿!」 カズキは思わず、ルイズの頬を叩いた。乾いた音があたりに響く。ルイズは呆気に取られて、カズキを見つめた。 「昨日もそうだ。なんでそんな…死んだら終わりじゃないか!」 ルイズは瞳いっぱいに涙を溜めて…やがてそれは、堰を切ったようにぼろぼろと零れだした。 「なによ…なによなによなによぉっ!あんただって…あんただって、なんでわたしを助けんのよ!」 カズキをぽかぽかと駄々っ子のように殴り始めるルイズ。そんなルイズに、カズキは困惑しつつ答えた。 「な、なんだよ。そんなの、ルイズが危なかったから……!」 「なんで!なんで、わたしは駄目であんたはいいのよ!わたしは駄目で、あの子はいいのよ!なにがいけないの?わたしが『ゼロ』だから!?」 ルイズは悔しかった。自分の『ゼロ』が悔しかった。悲しかった。情けなかった。 この使い魔も。自分のために、ギーシュと決闘してくれた少年も…この『ゼロ』のせいで、結局自分を認めてはくれない。 それどころか、タバサに対してのあの態度…ルイズはカズキに、大事な何かを裏切られたような気になっていた。 だから、なんとしてでもこのゴーレムを倒し、フーケを捕まえて…『ゼロ』の汚名を返上したかったのだ。 カズキはやるせない面持ちでルイズを見つめた。 「ルイズ、オレは……」 しかしカズキはルイズに、危険なことをして欲しくなかった。 カズキにとって、ルイズもまた、守るべき人の一人なのだから。だから昨日も、あんなことを言ったのだ。 だけど、とカズキは思う。 カズキは、ルイズを助けたかった。 そしてルイズも、カズキを助けたかった。 そう、どちらも変わらない。人が人を助けようとする気持ち。 自分にとっても、何より大切な気持ちを否定するようなことを言ってしまった自分を、カズキは責めた。 そんなカズキに、上からぱらぱらと何か降り注ぐ。手にとって見ると、土くれだった。 「ん……?」 振り向くと、巨大なゴーレムが大きな拳を振り上げている。カズキはあ、と声を上げた。 そういえば、今はフーケのゴーレムに襲われていたのだ! カズキはルイズを抱え上げ、その場をぴょんと飛び跳ねた。そこにちょうど、ゴーレムの拳がめり込んだ。 「あぁくそ!とにかく、ここは逃げよう!」 このままでは二人一緒にぺしゃんこだ。ルイズを抱えたまま、カズキは走り出した。 「……!いやよ、降ろして!」 ルイズがじたばたと暴れ出す。 ゴーレムはずしんずしんと地響きを立て、追いかけてくる。大きいだけで、動きはあまり素早くない。 ルイズが暴れるので、うまく走れないカズキはゴーレムとそれほどスピードが変わらなかった。 そしてカズキは、そんなルイズを落とさぬよう、腕に力を込めて言った。 「イヤだ!」 しかしルイズも退かない。 「降ろしなさい!」 「イヤです!」 「…っ!降ろせって言ってるでしょ!この使い魔は!」 「イヤん」 「この……っ!」 ルイズはカズキに魔法の一つも見舞おうかと思った。しかし、カズキの言葉がそれを阻んだ。 「オレ、ルイズに死んで欲しくない!死なせたくないんだ!」 「だからなによ!このまま逃げて、ずっと『ゼロ』のままでいろとでも言うの!?」 「ここで死んだら、その『ゼロ』から抜け出すこともできないじゃないか! オレはルイズに、危険を冒してでも『ゼロ』から抜け出して欲しいとは思わない!」 ルイズは力なく俯いて、唇を噛んだ。じゃあ、どうしろというのか。 もはやこのチャンスを逃して、『ゼロ』を払拭することなど、適うのだろうか。 「それにオレ、ルイズに言いたいことが…言わなきゃなんないことがあるから!」 ルイズは、はたと涙が止まった。 すると、風竜が二人の前に飛んできた。すぐ前で着陸し、タバサが顔を出した。 「乗って」 風竜に跨ったタバサが叫んだ。カズキはルイズを風竜の上に押し上げた。 「あなたも早く」 タバサが珍しく、焦った調子でカズキに言った。カズキは風竜の背を一瞥して、タバサに尋ねた。 「キュルケさんとロングビルさんは?」 「一人はあっち。もう一人はそのあたりに居るはず」 「お宝は?」 「ここに」 タバサは制服のポケットに手を添えた。魔法学院のお宝は、ポケットに収まるサイズらしい。 「よし。じゃあ、二人を先に回収してくれ。オレはあいつを引き付ける」 「カズキ!?」 風竜に跨ったルイズが怒鳴った。カズキはルイズを見つめた。 「ルイズ…それに、タバサも。昨日はあんなこと言ってゴメンな。そんで、ありがとう」 そして、ゴーレムに向き直った。 「さ、早く二人を!」 タバサは無表情にカズキを見つめていたが、追いついてきたゴーレムが拳を振り上げるのを見て、やむなく風竜を飛び上がらせた。 ゴーレムの拳がうなる。それをカズキは後ろに跳んでかわした。 できればフーケも捕まえたかったが、このゴーレム相手に、普通の戦い方では勝てない。そして、普通ではない戦い方をするつもりは、ない。 ルイズには申し訳ないけれど、これ以上危険を冒すこともない。もう取り返すものも取り返したのだ。あとは、無事に帰ることに専念するのみ。 「さぁ、お前の相手はオレだ!ゴーレム!」 剣をぐっと握り締める。すると、力が沸いてきた。 ルイズは呆けたような顔をしながら、カズキを見つめていた。 「なによ、ごめんって。今頃そんな…なんで……」 すると、風竜がゴーレムから離れる。ルイズは怒鳴った。 「カズキ!カズキを助けなきゃ!」 しかしタバサは首を振った。 「近寄れない」 タバサはゴーレムを指した。近くに居ると、やたらと拳を振り回してくるのだ。 風竜はまずキュルケを回収しようと、その場から離れだす。 ルイズは、やきもきしながら遠くなっていくカズキを見つめた。そして、先ほどの言葉を思い出す。 「そういえば、昨日って…」 ルイズはタバサに尋ねた。カズキは確か、タバサにも謝っていた。何故だろう? タバサはルイズを一瞥した後、静かに口を開いた。 「…昨夜、あの後あなたの使い魔が言ってきた。危険なことはするな、と」 そう。昨夜、ルイズが去った後。カズキはタバサにも、ルイズと同様、苦言を呈していたのだ。 ちなみにその場にはキュルケも居たが、恋は盲目なのか。親友への叱咤も、カズキへの好感度を上げる要因となった。 ついでにタバサもタバサで、あまり気にしていなかった。他者にどう思われようと、彼女は変わらない。 「…そう」 なによあいつ。普通そういうこと、すぐに言わないといけないじゃないの。 ルイズの胸の中で、何かが溶けていく感覚が広がった。 ゴーレムの拳がうなりを上げて飛んでくる。よく見ると、拳は途中で鋼鉄の塊に変わっている。 こんなもの、まともに食らえばひとたまりもない。 カズキは拳をよけると、少しでもダメージを与えようと剣で切りかかった。 がぎんと鈍い音がして、剣が根元から折れた。 「うそん」 カズキは目を丸くして破断面を見た。確かどこかの錬金術師が鍛えた業物だという話のはずだが…。 デルフやルイズの台詞じゃないが、なまくらだったようだ。 ゴーレムの拳が更にうなる。現状、他にまともに対処できる手段を持ち合わせていないカズキは、後ろに跳んでそれをかわした。 「くそっ!まぁいいや、あとはルイズたちが二人を回収したら、お前とはおさらばだ!」 カズキは、ゴーレムの拳から逃げ回った。 「どうするの?」 風竜にキュルケが乗り込んだ。タバサはキュルケに、あとはロングビルを回収する旨を伝える。 ルイズはハラハラした様子で、逃げ回るカズキを見ていた。キュルケはカズキを指して言った。 「大丈夫よ。ダーリンなら、あんなに速く動いてるじゃない。あんな木偶の坊に、やられるわけないわ。 あんたも、一人であんなの相手に立ち向かっちゃって。良くやるわよ。見直すの通り越して、呆れそうだったけれど」 ルイズは呆気にとられたようにキュルケを見た。キュルケは口元に笑みを浮かべた。 「ま、それで死に掛けてちゃ世話ないけどね。あんたが今度の件、どれだけ真剣かってのは、よくわかったわ。 でも、ここで死んでもしょうがないし、良いじゃない。『ゼロ』なんてこれからいくらでも、返上する機会はあるわよ」 ルイズは唇を噛み締めた。仇敵ツェルプストーに言われるのは癪だが、ルイズ自身、あのゴーレムに勝つ方法は思いつかない。 冷静になった頭は、あとはロングビルを回収し、カズキを乗せて、この場を離れることを考え始めていた。 風竜を見やる。キュルケを回収したようだ。あとは…ロングビルのみ。 「ロングビルさーん!竜に乗って逃げよう!」 とにかく出てきさえすれば、あとは風竜が駆けつけてくれるはずだ。 ひょっとしたらゴーレムを恐れて出てこないのかも知れない。ゴーレムの攻撃を避けながら、カズキは叫んだ。 やがて、ゴーレムの向こう。だいぶ離れた木陰から、ロングビルが姿を現した。 「ルイズ!」 カズキは竜に向けて声をあげた。竜は自分より更にロングビルに遠い。もう少し、時間を稼ぐ必要がある。 すると、ゴーレムもまた体の向きを変え始めた。重い足取りの先は、なんとロングビルの居る方向ではないか! 「おい、まさか……」 自分より先に、ロングビルを叩きのめすことにしたらしい。 「そんなことさせるか!おい、お前の相手はオレだ!」 カズキは歩くゴーレムの足に折れた剣を打ち付け始めた。しかし土がわずかにこぼれるばかりで、ゴーレムは少しも意に介した様子はない。 「止まれ!止まれよ!!そっちじゃないって言ってんだろ!!」 すると、近づくゴーレムに怖気づいたか。ロングビルはまたも森の中に入ってしまった。あれでは、風竜がロングビルを回収することができない。 「くそっ!」 先回りした竜は飛びながらロングビルを探しているが、森は深く、上からでは見づらいのだろう。 ロングビルの逃げ込んだ周辺を旋回している。このままでは、ロングビルだけでなく竜も襲われてしまう。 どうすれば……どうすれば、みんなを助けられる? 決まっている。わかっている。このゴーレムを、止めれば良いのだ。 だから――。 ふと、竜の上のルイズに目を向けた。遠目にも、よく見える。涙の跡を拭おうともせず、今は必死になって、ロングビルを探していた。 が、時折こちらにも、目を向けてきた。焦りと不安が混ざった顔のルイズと、目が合った。 その不安を拭うため、微笑んだ。見えるかどうかは、わからないけれど。 きっと、ルイズはまた怒るんだろうな。でも、それを謝ることはできないだろうから。 「ゴメン、ルイズ。それから…」 カズキは折れた剣を捨て、そのまま手のひらを左胸にあてた。 「さよなら」 そして、ゴーレムを追い始めた。 ルイズは目を見開いた。カズキが剣を捨てて、ゴーレムに突っ込んでいくのだ。いったい何をするつもりなのだろう? 「カズキッ!?」 悲痛な叫びに、キュルケが、タバサが振り向いた。三つの視線が、カズキに注がれる。 カズキには、‘錬金術’の‘力’が‘埋め込まれている’。 『核鉄』―――‘錬金術’の粋を集めて精製された、超常の合金である。これは、人間の精神の一番深い所…‘本能’に依って作動する。 一度命を落としたカズキは、これによって‘生存本能’を揺り起こし、『核鉄』を心臓の代用品にしているのだ。 そして、もう一つ。 それは、人の‘闘争本能’に依って作動する――戦う‘力’! その‘力’こそが、『核鉄』本来の用途。持つものが秘めたる戦う‘力’を形に変えた、唯一無二の武器の創造! 掌握! 決意! そして咆哮! その名称―― 「誰一人、やらせやしない!『武装錬金』!!」 光とともに、カズキの手中に、幾多のパーツから形作られた、一本の突撃槍(ランス)が現れる。 ‘龍の頭を思わせる意匠の、飾り布が付いた大振りの突撃槍’――それを見て、カズキは表情を驚愕に染めた。 『サンライトハート』!?あれ、だってオレは…!? ほんの一月前まで自分の武器だった、ヴィクター化の影響により形態(フォルム)を変えてしまったその突撃槍。 初めて『武装錬金』を発動してから、幾多もの激戦を共に潜り抜けてきた、かつての自分の相棒である。 それが、何故今……? が、考えている時間も余裕も、今はない。まずは、目の前のゴーレムを止めなくては…! なのに…なんだろう。この感じ。すごく安心する。この形態だからなのか? カズキの脳裏に、斗貴子の顔が浮かんだ。カズキの武装錬金に、名前をつけてくれた、カズキの大切な人。 まるで、斗貴子さんが後押ししてくれているようだ。迷うな、突き進めって! カズキは突撃槍を構えた。添えられた左手のルーンが、眩いほど輝く。狙うはゴーレムの胸、飾り布が、光を帯び始める…! 「いくぞ!サンライトスラッ――」 一条の光の矢が、ゴーレムの胸を貫いた。そしてその矢はそこで止まることなく、その勢いのまま空を駆ける。 矢の穂先には、突撃槍を構えたカズキ。必死に槍の柄を掴んでいる。 突撃槍の飾り布からは、迸る生体エネルギーの本流が、凄まじい推進力を生み出していた。 「うぉおおおお!?」 なんだ!?エネルギーが思っていたよりずっと強い! このままでは遥か彼方にすっ飛んでいってしまう。空中ですぐに姿勢を整えようとする。すると何故だろう。 力の込め具合が、自然にわかった。高出力のエネルギーの、今の扱い方も、すぐに理解できた。 カズキは飾り布を掴むと適切なエネルギー量で逆噴射を行い、その場に静止する。 そして自由落下していき、エネルギーの噴射で樹木の上に軟着陸した。森が深すぎるので、木の下に入っては、ゴーレムが見えないのだ。 よし、使い方は忘れてない。 一つ頷くと、ゴーレムを見やった。かなりの速度で突っ込んだはずだが、胸にぽつんと小さな穴が穿たれただけだ。 「なっ…!?」 それもすぐに、塞がってしまう。土でできたゴーレムは、そこいらに材料があるのだ。ちょっとやそっとのダメージは、ああして修復してしまうのだろう。 「だったら…だったら直る前に、ぶっ壊すまでだ!」 カズキは突撃槍を再度構える。そして、また光の帯を引きながら、ゴーレムへと突っ込んでいくのだった。 前ページ次ページ使い魔の達人
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1297.html
前ページ次ページ使い魔のカービィ 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに、応えなさい!!」 杖を振り下ろすと、爆音と共に光が炸裂した。 彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、昇級をかけた使い魔召喚の儀を行っていた。 が、さっきから巻き起こるのはお得意の爆発という名の失敗魔法ばかり。 何度この行程を繰り返して来たか、だんだん数えることさえ面倒になってきいた。 周りの生徒達も彼女の失敗にはもう飽き飽きしたのか、自分の喚んだ使い魔達を愛でている。 (私だって、あの位……いや、あれ以上に立派なの喚んでやるんだから……!!) もう一度気合いを入れ、再び杖を構える。 と、その時、ルイズの瞳に煙の向こうの何かが映った。 まさかと思い、すぐに爆発の中心に駆け寄るルイズ。 するとそこには――― 「………何、これ」 ルイズの髪の毛と同じ、ピンク色のボールみたいな生物が倒れていた。 恐らく胴だと思われる部分からは短い三角の手が生え、真っ赤な足はまるでコッペパンのようだ。 気絶しているのか、このピンクボール(仮称)は全く動く気配を見せなかった。 動かないピンクボールに生物なのかどうかさえも怪しくなったルイズは、試しに手に持った杖でつついてみる。 ぷにっ (あっ、柔らかい) 感触としてマシュマロに近いかもしれない。 そんな事を考えながら更にピンクボールの体をつついていると、流石に気が付いたのか、目だと思われる部分がゆっくりと開いた。 「っ!? お、起きた……!」 「ぷぃああぁぁぁ……」 ピンクボールは大きな欠伸を1つすると、目を擦りながら周りを見渡した。 「……ぽよ?」 そして気付いた。そこが自分の家ではないことに。 見慣れた白い天井も、同居人の黄色い鳥も、大好きなテレビもない。 代わりに目に入ってきたのは、青空と自分を見つめる1人の少女。 しかもその少女は、何故か小刻みに震えている。 「……ぽよぉー?」 ピンクボールが訳も分からずただその様子を眺めていると、少女が飛び上がって叫んだ。 「いやぁっっったああぁぁーーーーーーーー!!!」 天にも昇る気持ちとはまさにこのことを言うのだろう。 何度も何度もその場で飛び跳ねながら、ルイズは今までに感じたことのない程大きな喜びに浸っていた。 遂に、憧れの、念願の、自分の使い魔を手に入れることが出来た。 予想していたのに比べれば大分頼りないが、まともにに魔法を使えたというのは紛れもない事実。 自分の喚びだしたピンクボールを抱きかかてクルクル回っていると、上の空だったギャラリーが漸く気付いた。 「ゼ、ゼゼゼ、ゼロのルイズが成功した!?」 「そ、そんな、まさか!?」 「天変地異の前触れじゃないのか!?」 「雪だ! 雪が降るぞ!」 『魔法成功率0%』のルイズの成功に、一瞬辺りが戦々恐々となる。 が、ルイズの腕に納まっているそれが生徒たちの目に入ったとたん、すぐにそれは嘲笑に変わった。 「ルイズ! 使い魔が喚べなかったからって縫いぐるみを代わりにするなよ!」 「流石ゼロのルイズ! 誤魔化し方のセンスもゼロだな!」 生徒達から笑いが飛び、先ほど以上の野次がルイズに投げつけられる。 その発言を、ルイズは顔を真っ赤にして否定した。 「縫いぐるみじゃないわよ! ほら、ちゃんと生きてるでしょ!?」 ピンクボールを生徒達に見せつけ、生きていることをアピールするルイズ。 ピンクボールは体を強く掴まれ、ちょっと痛そうに顔を歪ませている。 「でもそんな出来損ないのボール、なんの役に立つのさ?」 「やっぱり失敗には変わりないな、ゼロのルイズ!」 再び起こる爆笑。結局バカにされることに変わりはなかった。 一部の女子はその愛らしさに「あれ欲しい!」などと言っている。 いい加減頭に来たルイズはもう一発怒鳴ってやろうと前へ踏み出したが、召喚の儀を監督していたコルベールがそれを制した。 「ミス・ヴァリエール、儀式を続けなさい」 「でも、ミスタ・コルベール!」 あんな事を言われているのに! と、ルイズはコルベールに訴える。 コルベールはいきり立っているルイズの肩に手を置くと、穏やかな口調で彼女を諭し始めた 「言わせておけばいいのです、ミス・ヴァリエール。貴女の使い魔には貴女の使い魔だけの素晴らしい能力がきっとあるはずです。貴女の使い魔を信じてあげなさい」 教員にここまで言われては、流石のルイズでも引き下がらない訳には行かなかった。 グッと言いたいことを堪え、腕の中のピンクボールを見つめる。 確かに、今は言わせておけばいい。 きっとこの使い魔には、誰の使い魔にも負けない凄い力が有るはずだ。 ……多分、きっと、おそらく……… 気を取り直し、ルイズは杖を握りしめた。 まだ儀式は完全には終わっていない。 ルーンを刻むまでが儀式なのだ。 「ぽよ?」 未だに状況を掴めていないピンクボールが首(ほぼ胴体)を傾げる。 そんな幼さの残る姿を見つめながら、ルイズはルーンを唱え始めた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と成せ」 ルーンを唱え終えると同時に、ルイズはピンクボールに口付けた。 杖でつついた感触の通り、マシュマロのような柔らかさだ。 どんなに高価なぬいぐるみでも、この感触を再現することは出来ないだろう。 「ぷぃう………」 唇に伝わる柔らかさを享受していると、ピンクボールからふ抜けた声がした。 瞼を開け唇を離すと、心なしピンクボールに赤味が差していた。 恥ずかしかったのだろうか。 そう思うと、怒り心頭に発していたルイズに自然と笑みが零れた。 「コントラクト・サーヴァント、完了しました」 「よろしい。では……」 「っ! ぽっ、ぽよぉ! ぽよぉ!!」 コルベールの号令を遮り、急にピンクボールに苦しみだした。 いきなり左手に走った激痛と熱さに耐えられなかったようだ。 余りの苦しみように、ルイズは腕の中のピンクボールを強く抱き締める。 「大丈夫、使い魔のルーンが刻まれるまでの辛抱だから……大丈夫」 しばらくそのままでいると、ピンクボールの左手から発せられていた光が収まった。 光と一緒に熱も引き、後にはルーンだけが残される。 刻まれたルーンは、ルイズの目から見ても珍しいものだった。 一方痛みから解放されたピンクボールは、自分の左手に現れたルーンをただ単に不思議そうに見つめている。 それはルーンに既視感を覚えたコルベールも同じだった。 見慣れぬルーンだと、手にしていたスケッチブックに熱心に書き写す。 「それでは皆、教室に戻りますよ」 スケッチを素早く終えると、コルベールは生徒たちに改めて号令を出した。 号令と共に、生徒達が一斉に空へと舞い上がる。 「ルイズ! お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』も使えないんだぜ? 精々あの風船お化けに掴まって飛んでくるしかないって」 「違いないな!」 そんな彼らのやり取りに下唇を噛みしめながらも、ルイズは使い魔に視線を戻した。 「ぽよ! ぽよ!」 使い魔の方はすっかり懐いたらしく、ルイズの無い胸に抱きついている。 先程ルーンが刻まれている時、強く抱き締めていたのが相当嬉しかったようだ。 手足をバタつかせながら、ルイズに擦寄って甘えている。 ルイズは使い魔を思いきり抱きしめたい衝動を抑え、一旦地面にそれを降ろした。 「あなた、名前は?」 「カービィ、カービィ!」 その場にしゃがみ込み、ルイズはカービィと名乗った生物と視線を合わせる。 カービィは嬉しそう笑い、ルイズも釣られて笑った。 使い魔のルーンのおかげで、言語の面は心配ないようだ。 何よりカービィがルイズにとても懐いているので、意思の疎通も問題ない。 「カービィね。私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 「ル、ルイィ……フラダンスゥ……?」 「……………ルイズでいいわよ。ル・イ・ズ」 「ル・イ・ズ?」 幼いのは性格だけではないらしい。 長い言葉を覚えたり、スムーズに会話をするのは無理なようだ。 ルイズは赤ん坊に言葉を教えるように、ゆっくりと名前を復唱した。 主の名前を言い切ってくれなかったことに一抹の悲しさを感じつつ。 「ル・イ・ズ……ルイズ!」 「そう、ルイズ!」 「ルイズ! ルイズ!」 初めて名前を呼んでもらった感慨から、ルイズは我慢できずにカービィを強く抱き締めた。 カービィは覚えたての主の名前を笑顔で連呼している。 ルイズはカービィの声を聞きながら、抱きしめる腕にさらに力を込めた。 『はるかぜとともにやって来たこの子となら、きっと最高のパートナーになれる』 そう信じて。 前ページ次ページ使い魔のカービィ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1156.html
空に穴が開いた。 /*/ 視界を覆う土煙が晴れた時、彼は視界に映る情景に首を傾げた。 先ほどまでの自分は冒険艦に乗って星の海にいたはずだが、ここはどう見ても学園か修道院にしか見えない。 視線を巡らせば幾種類かの動物たちを侍らした人の子たちがこちらを窺っている。 「ゼロのルイズが成功した……なぁ、俺、夢でも見てるのかなぁ?」 「でも猫だぜ、どこかから拾ってきたんじゃないか? なんか服着てるし」 「ていうか、なんだあの大きさ」 ふむと頷き、口を開こうとして止めた。 ここがどんな世界か解らぬ以上、自分が喋れることを告げるのは得策ではない。 視界に入る動物たちの種類から第六世界群の内のどれかだとは思うが、それだけしか解らない。 悩んだ末、首輪の奥に隠された多目的結晶にインストールされたプログラムによりどの世界でも会話に不自由しない大猫は、第二世界の言葉であるバルカラル語で目の前にいる桃色の髪の少女に呼びかけることにした。 「娘よ、少々尋ねるが……」 /*/ 呼びかけられた娘、すなわちルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは歓喜のあまり茫然自失していた。 生まれて初めて自分の魔法が成功したのである。 いつかその日が来ると信じてはいたが、実際にその日が来れば感慨もひとしおである。 「………………!」 無言で拳を握り締めて感動に打ち震える。 ニャオニャオと目の前の猫が鳴いていたのも気づかずに腕を振り上げては振り下ろすのを繰り返す。 「ああ、そろそろよろしいかな、ミス・ヴァリエール? さあ、『コントラクト・サーヴァント』を行いなさい」 ルイズの歓喜の踊り(?)を暖かい目で見ていたコルベールが呼びかけた。 教師らしい威厳を保とうとしているが、その顔には抑えきれぬ喜びの色がある。 手がかかる子ほど可愛いと言うが、彼にとってルイズはまさしくその典型だった。 (本当によくやりましたね、ミス・ヴァリエール) 心の内で思う。 ルイズは貴族の一員であるが魔法が使えない。 だが、それ故にこの魔法学院の誰よりも自分が貴族であることに誇りを持ち、貴族たらんと努力してきた。 民を守り、治めるに相応しい者として歩んできた。 無論それを認めない者もいる。魔法が使えぬ者の無駄な努力と嘲笑う者もいる。 けれどその度に彼女は『それがどうした』と言い続け、ついに今日この日を迎えたのだ。 ついに彼女は魔法を成功させたのだ。名実共に貴族となったのだ。 こんなに嬉しいことはなかった。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 教え子の紡ぐ呪文を聞きながらその使い魔を観察する。 どこにでもいるような猫だが、しかし大きい。 成体の獅子や虎に比べても遜色のないその体躯に赤い短衣を羽織り、首輪をつけている。 (……ん?) 赤い短衣? 首輪? つまり……野生ではない? 「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 ……飼い主が、どこかにいる? その事に思い至った時、ルイズはすでに大猫と口付けを交わしていた。 /*/ さて、バルカラル語での呼びかけを無視された大猫は途方にくれた。 この言葉が解らぬと言うことは、この少女は神族との接点を持っていないということだろう。 あるいはこの世界に神族が既にいないということも考えられる。 言葉を解する猫というものがこの世界でどんな地位にいるか解らぬ以上、自分の正体を隠すにこしたことはない。 悪魔の使いとして追いかけられるなら誤解だと言い切れるが、研究材料として追いかけられてはたまったものではないからだ。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 考えているうちに桃色の髪の少女が近づいて来た。 その胸にある首飾り、蒼い石のついたそれに大猫の目がとまる。 それは大猫にとって非常に馴染み深いものだった。 目を細め、此度の件を画策したであろう古い知り合いを胸の中で罵った。 あやつめ、またしてもわしに介添え役をやらせるつもりか。 「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 むぎゅ、と押し付けられた唇に固まる。 この世界の女性は積極的なのだなと驚きはしたが、それでも若い女性に唇を許されるのは嫌いではない。 というかむしろ好きだ、大好きだ。英雄色を好む。 「契約は終わりよ。ルーンが刻まれるからじっとしていてね」 言いながら自分を抱きしめる少女に大猫は自ら顔をすり寄せた。 首飾りを近くで見たかったからで、他意はない。 すり寄せた顔が胸の部分に当たったのも偶然ならば、 少女の胸の薄さに、懐かしい誰かを思い出したのも偶然である。 「気のせいかしら。誰かに馬鹿にされた気がするわ」 気のせいだ。大猫は思った。 火の国の砦にいた電子の巫女姫を思い出したのは、この前脚に走る痛みの所為だ。 焼け付くような痛みに、キメラのレーザーを連想したからだ。 断じてお前の体型からではないぞ。いててててて。 /*/ 大猫にルーンが刻まれるのを見ながらコルベールは微かに肩を竦めた。 例え飼い主が他にいても使い魔召喚の儀は神聖なもの。 ルイズだけ特例を認めるわけにもいかない。 飼い主が平民ならばその補償をしなければならないが、幸いにして主人であるルイズは貴族の誇りを重んじる。 おそらく自分からその補償を進んでするであろうし、飼い主が望むのならば召抱えて大猫の傍にいることを許すだろう。 貴族ならもっと簡単だ。この儀式の神聖さを知らぬ貴族などいない筈なのだから。 「コルベール先生!ちょっと見ていただけますか?」 ルーンを確認したルイズが言う。どうかしたのだろうか。 早速周りの生徒たちが 「やっぱり失敗かよ」 「ゼロだしな」 と言うのを尻目に大猫に近づいた。 「おや、これは珍しいルーンだね」 「ええ。わたしも見たことがなくて……先生もですか?」 うむ、と頷いて速やかにメモを取り、周囲に聞こえるように声を上げた。 「これは今後の課題としよう。ルーンが違えども君が使い魔を召喚し、契約できたことに違いはないのだからね」 不満そうな顔の生徒に内心で舌打ちする。隙あらば他人をあげつらうのが自称貴族のやることかね? 「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」 杖を振って『フライ』の呪文を唱える。 性懲りもなくルイズを蔑む生徒たちの声が聞こえるが、微かに眉を顰めただけで黙殺する。 注意しても聞かぬだろうし、何よりルイズ自身がそれを望まない。 あの誇り高い少女には、憐れみこそが最高の侮辱になるのだから。 /*/ 「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」 「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』さえ出来ないんだぜ!」 宙から聞こえた声に、しかしルイズは怒らなかった。 ただ胸をそらして言っただけだった。 「それがどうした!」 大猫は目を細め、愉快そうに笑った。 なるほど、あいつが選んだのはこの気性ゆえか。 素晴らしい、それはいつだって「それがどうした」と言い続ける所から始まるのだから。 まさしくその通り。空を飛べなければ歩けば良い。ただそれだけのことではないか。 行くわよ、との声に足を速め、ルイズの前に回る。 きょとんとした顔の主に首を振って自らの背中を指し示した。 「乗れって言うの?」 そっとルイズがそこに腰を下ろすと走り出す。 下を見た女性徒の何人かが羨ましそうな顔をした。 前に戻る 次に進む 目次
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4438.html
前ページ次ページ異世界BASARA 幸村とルイズは長い廊下を、2人並んで歩いていた。 「良き主君にござるな、ジェームズ殿は」 廊下を歩きながら、幸村はルイズに話し掛ける。 「配下の将を見ていれば分かる。あのように慕われるのは幸せでござろう」 「……でも、明日には戦って死んじゃうのよ?」 ルイズが震える声で口を開いた。 「嫌だわ……何であの人達死のうとするの?姫様が逃げろって言っているのに……」 次第にルイズの目から涙が流れる。遂には立ち止まり、その場で泣き出してしまった。 幸村はそれを黙って見ている。 「私、もう一度説得してみる。国より、愛する人の方が大事じゃない」 「それはなりませぬ」 と、黙していた幸村が首を横に振りながら言った。 「どうして!?ウェールズ様だって本当は……!」 「アンリエッタ殿を想うからこそにござる」 幸村は真剣な表情でルイズを見つめ、さらに続けた。 「ルイズ殿。皆、勇敢に戦い果てる事を決心しておられる。その思い、察して下され」 だがルイズは頷かなかった。 ルイズは武士ではない、ましてや戦に出た事もない少女である。 彼女にはどうしても理解出来なかった。だから、ルイズは幸村にこう言った。 「……ユキムラ、あんたは死ぬのが怖くないの?」 「この幸村、武士となったその日から死する事は覚悟しておりまする」 「じゃあ、私が戦って死ねって言ったらあんたは死ぬの?」 「それがルイズ殿の望みであれば」 その瞬間、幸村の頬に平手が飛んできた。 一瞬、幸村は何が起こったのか分からず、呆けた顔でルイズを見ていた。 「ルイズ殿?何を……」 数秒後、自分の頬を押さえていた幸村がやっと口を開いてルイズに尋ねた。 「やっぱりあんた馬鹿だわ、この国の人と同じ、自分の事しか考えてないのね!」 「そのような事は!拙者はルイズ殿の為ならば命懸けで……!」 「それで死んで満足?残された人の気持ちはどうなるのよ!!」 ルイズはその目に涙を溜めたまま、幸村を睨んだ。 今まで何百、何千という敵と刃を交えてきた幸村であっても、ルイズの涙と、その小さな体から発せられる気迫にたじろぐ。 しばらく幸村を睨んでいたルイズだったが、少し落ち着いたのか、腕で涙を拭ってもう一度幸村を見て言った。 「あんたは使い魔だから、私を守るのは当然よ。でもね、それで死ぬなんて絶対ダメ。分かった?」 「……は、ははっ!!」 幸村は我に返り、ルイズに深く頭を下げた。 「あ、そうだ」 と、ルイズは何かを思い出したのか、はっとした顔になる。 「あ、あのねユキムラ……ラ・ロシェールで言い忘れていた事だけど……」 「はっ!何でござろうか?」 ルイズは困ったような表情になり、ポリポリと頬を掻いた。 「ワ、ワルドがね、私と結婚しないかって」 「おお!そうでござるか!結婚…………結婚んんんーーーっっ!?!?」 予想だにしなかった告白に、幸村は素っ頓狂な声を上げた。 「け、け、けけけけけけけ結婚とは!ななな何故いきなり!?」 今にも飛び出しそうな程に目を見開き、ルイズに尋ねた。 「そんなに驚かないで、婚約者なんだからいつか結婚するのは当たり前じゃない」 そんな幸村とは違い、ルイズは落ち着いた様子で腰に手を当てている。 「でも安心しなさい。結婚はしないから。」 「そ、そうでござるか……」 それを聞いてほっとしたのか、幸村は大きな溜息をついた。 「私、これからワルドにこの事を謝ってくるわ」 「ルイズ殿、拙者も御供いたしますぞ」 しかし、ルイズは突然慌てた様子になってそれを止める。 「い、いいわ!ユキムラは先に戻ってて!こ、こういうのは当人同士で話し合った方がいいのよ!」 「し、しかし……」 「いいから!戻ってなさい!!」 戸惑っている幸村を戻らせ、ルイズはワルドの部屋に向かっていた。 相手は憧れていたワルド子爵だ。幼い頃、結婚するのを夢見ていた…… それなのに、今は結婚する事を考えると気持ちが沈んでしまうのである。 滅び行くこの国を見たからか、それとも死に向かうウェールズを目の当たりにしたからか…… しかし、そのどれも今の心境の原因ではないように思えた。 不意に、ルイズは幸村にワルドと結婚する事を話した時の事を思い出す。 幸村にまだ結婚はしないと話した時の、あのほっとした顔を見た時…… 何故か自分も安心したのである。 まさか、自分はワルドとの結婚を否定して欲しかったのだろうか? そんな考えが頭をよぎった頃、ルイズはワルドのいる部屋の前まで来ていた。 ルイズがワルドの部屋に着いた頃、幸村は言われた通りに自分の部屋に戻っていた。 「ひでぇ慌てっぷりだったな相棒」 すると、今まで黙っていたデルフリンガーが口を開いた。 「あそこはあれだぜ、俺の傍にいてくれ!とか、そういった事を言わねぇと」 「何を申すか、拙者はルイズ殿の傍にいるよう心掛けているが?」 そういう意味じゃねぇよ……と、デルフリンガーは小さい声で呟いた。 デルフ自身も薄々感づいてはいたが、この幸村という男、戦いにおいては中々のものだが、女性の事となるとまったくの二流……いや、三流であった。 さらに片や自分の気持ちに素直になれないルイズである。 (こりゃ嬢ちゃんが猛烈にアタックしない限りは無理だな……) 「結婚は出来ない?」 一方、こちらはワルドの部屋。 突然訪れてきた婚約者の言葉に、ワルドは思わず聞き返した。 「ごめんなさい。ワルド、あなたには憧れていたわ。もしかしたら恋だったのかもしれない……」 ルイズは俯きながら話していたが、深く深呼吸すると顔を上げ、決心したように言った。 「でも、今は違うの。私……」 話そうとしたところで、ワルドがルイズの手を取った。 「……緊張しているだけさ。そうたろうルイズ?」 しかし、ルイズは首を振る。 その瞬間、ワルドの目が吊り上り、ルイズの肩を強く掴んできた。 「世界、世界だルイズ!僕は世界を手に入れる!その為に君の力が必要なんだ!」 豹変したワルドに、ルイズは震え上がった。 「……む?」 その頃、幸村の体にある異変が起こっていた。 「どうしたね相棒?」 「今……ワルド殿の姿が見えたような……」 幸村はそう言って、しきりに目をこする。 武器を握っていないのにも関わらず、左手のルーンが光っていた。 「ルイズ!僕には君が必要なんだ!君の才能が、力が!」 ワルドはルイズの肩を掴んだまま、激しい口調で詰め寄る。 その剣幕に、ルイズは顔を歪めた。 「嫌よ。そんな結婚死んでも嫌……!あなた、私の事愛してないじゃない!」 ルイズはそう言い放つと、ワルドの手を振り解く。 「……こうまで言ってもダメなのかい?」 「嫌よ。誰があなたなんかと結婚するもんですか!」 その言葉を聞いたワルドは、唇の端を吊り上げ、禍々しい笑みを浮かべた。 「そうか……分かった、分かったよルイズ。手に入らないのならば、壊すとしよう……」 ワルドはそう言うと杖を手に取り、呪文を唱え始める。 そして、杖を振るうと、杖の先から光の玉が飛び出す。 光は窓を突き破って上昇すると、空中で大きな音と光と共に爆ぜた。 「子爵……今のは?」 ルイズは恐る恐るワルドに尋ねる。 対してワルドはいつもルイズに見せるような笑顔を浮かべて言った。 「合図だよ。ニューカッスル城を総攻撃せよという合図さ」 その言葉の後、城が轟音と共に大きく揺れ動いた。 「……どうやら、彼は言いくるめるのに失敗したようだな……」 レキシントン号の甲板上で、松永久秀は砲撃を受けるニューカッスルの城を見ながら呟いた。 不意に松永は指を鳴らす。 すると、彼の背後に長身のメイジが現れた。だがそのメイジから発せられる雰囲気は貴族というよりも傭兵のそれである。 「御出陣ですかマツナガ様」 「欲しい物は自分で手に入れるから良い。セレスタン、卿は女子供を捕らえてくれ」 「何に使うんです?」 「余興だよ。いずれトリステインの姫君に見せる余興に使うのだ」 松永はその顔に嫌な笑みを作り、笑った。 だが、セレスタンと呼ばれたメイジは困ったように松永に尋ねる。 「俺はやりますけど……“あの2人”はどうするんで?」 それを聞いた松永は、歯を剥き出しにし、さらに邪悪な笑みを浮かべて言った。 「欲望のまま血を啜らせればよい。肉を喰らわせればよい。それが彼等の真理……」 前ページ次ページ異世界BASARA
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7075.html
前ページ次ページ凄絶な使い魔 第七話 「凄絶なルイズ」 自分の部屋のドアをたたき壊す勢いで開け放つと、ルイズの目に飛び込んできたのは、 先日使い魔となった元親、そしてキュルケの姿だった。 元親は使用人から借り受けたシャツとズボンを身につけているが、シャツのボタンが止められていない。 その開いたシャツのボタンをキュルケが留めてあげている時にルイズが現れたのだ。 「あらルイズおかえり」 「ななな何がおかえりよ、キュルケあんた、一体なにやってるのよ!!」 烈火の如く怒鳴り散らすルイズに、キュルケはやれやれと言った風に肩をすくめる。 「別にぃ、彼がボタンの止め方を知らなかったから、教えてあげただけよ、ねぇ」 「ああ……、こちらの服の着方を俺は知らん」 「そんな事、私が教えてあげるわよ!、そんな事よりなんで私の部屋にツェルプストーがいるのよ!」 私の使い魔がツェルプストーの女といちゃついてる、しかも私の部屋で!! その事について当の使い魔は、これほど主人が腹を立てているにもかかわらず、主の側に立たないで 仇敵を弁護するような発言までして!! 「チョーソカベ、あんたの主人は誰?」 「ルイズ……、お前だ」 「そう、ならばその女をさっさと、私の部屋から追い出しなさい、今スグにね」 メラメラと怒りに燃える目をキュルケに向けながら、ルイズは元親にそう命じる。 「はいはい、出ていくわよ、……それじゃ~またね元親!」 「どうやら、もう来ない方がよさそうだがな」 腕組しながらそういってキュルケを部屋の外に出すと、ドアを閉める。 「チョーソカベ、ちょっとこっちに座りなさい!」 キュルケが消えた後はルイズの怒りは元親へと向けられるようだ。 目を三角にしたルイズを見て、思わずため息が漏れる。 「よほど……、仲が悪いらしい」 それから、ルイズの説教が始まった。 ヴァリエールとツェルプストーの確執から始まった話は、キュルケの学院での素行や男癖の悪さ、 そして、いままで受けた細かな厭味まで、延々と続きそうな話だった。 結局、朝の講義までの時間がない事を思い出し、残りは授業が終わってからという事で、とりあえず終了した。 「とにかく、絶対ツェルプストーの女とは仲良くしちゃダメなんだから!」 「先祖代々からの恨み辛みか……、キュルケ自身はそれほど気にかけてはいなかったと思ったがな」 そう呟いた元親の声はルイズには聞こえなかったのは幸いだ、ルイズは急いで教室へと向かって走った。 「早く来なさい、チョーソカベ、使い魔は主人と一緒にいなきゃだめなのよ」 「まるで……小姓か側役だな」 今更ながら、子供のようなルイズに従っている自分が不思議な元親であった。 反骨こそが自分の精神の柱と思っていたのだが、この少女の言う事をなぜか聞いてしまう……、 家康を討った後、その喪失感で心が弱くなったのか……、考えても分からない気持ちの変化に元親は 奇妙な感覚を覚えていた。 教室にはいると、ルイズと元親に生徒の視線が一斉に集中した。 特に元親は、楽器を片手に、教室の全メイジの視線が集中する中を悠然と歩いていく、その立ち振る舞いは、 とても平民の様には見えなかった。 ルイズは、前の席に座ると、隣に元親を座らせた。 「おい、ルイズ、なに平民を貴族の席に座らせてるんだよ、床に座らせろよ」 後ろから声が飛んだ。 「うるさい、「風っぴき」、彼の身分は私が保証する準貴族よ、この椅子に座る事に何の問題もないわ」 「準貴族?シュヴァリエの勲章をそいつが持ってるのか?」 「彼は召還される前までは、他国の将軍だった人よ、その彼を床に座らせるなんて、トリスティン貴族の 面子にかかわる問題だわ」 そのルイズの発言で、教室はちょっとした騒然とした様相になった。 元親の態度を横柄だと言う者、それに対し、でも他国の身分のある人物なら当然のじゃないか?という者、 どう考えても役者か楽師だろという者、 別にどちらでも構わないけど、男は顔よね~と大半の女子、 ……気にいらねぇと一部の男子。 そんな中、女性教師が教室へと入ってくると、騒ぎは一応おさまった。 「皆さん、春の使い魔召還は大成功の様ですね、このシュヴルーズはこの時期皆さんが召喚した様々な 使い魔たちを見るのが楽しみなのですよ」 そう言って教室の使い魔たちを見渡す中年の女メイジは、ヴァリエールの横の座る男性に目をとめた。 「そういえば、ミス・ヴァリエールは少し変わった使い魔を召喚したようですね」 「はい、…ですがチョーソカベは」 「ええ、彼の事についてはオールドオスマンからの言付けられています、授業を妨害しないのであれば、そこに座る事を認めます」 シュヴルーズの言葉にまた教室がどよめいたが、静かにさせるために数人の口に粘土を張り付けて、授業は始められた。 やはり、この世界は何でもありだな 魔法の授業を眺めながら元親はそう思った。 これほど簡単に唯の石ころを金属に変える事が出来るなら、七日七晩炉を燃やし続け、砂鉄を放りこみながら 鉄を作り出す元親の知る製鉄は明らかに効率が悪い。 メイジの格によって、作れる金属が決まっているようだが、それでも鉛玉程度なら無数に作り出せるに違いない。 信長が作った3千丁の鉄砲隊、いや、兵すべてに鉄砲を持たせた軍もあるやもしれん。 戦術にしても、空中を飛ぶだけで驚異だ、空からの敵に対して何が出来るだろうか……。 そして、俺の想像もつかぬ兵器もあるはずだ……。 あらためて、この世界は日本とは違いすぎると元親は思いなおした。 そんな思いつめた表情の元親にルイズが小声で話しかけた。 「どうしたの、真剣な顔して……」 「いや、この世界の魔法について思い直していた、もし敵がメイジならば、ルイズを守る事も容易ではないな」 「え、チョーソカベも、強力なマジックアイテムをもってるじゃない」 そういうルイズに元親は首を振った。 「一人、二人なら平気だろう、四、五人なら不意を突けば何とかなる、だが十を超えるメイジをどう相手をするかだな」 「メイジ十人って、そんな状況って有るかしら……」 元親が想定した状況を考えていると、シュヴルーズの声がルイズに飛んできた。 「ミス・ヴァリエール、私語は慎みなさい」 「は、はい」 「そうですね、せっかくですから、貴方に前に出て錬金を実践してもらいましょう」 にこやかにシュヴルーズはルイズを指名した。 「わ、私ですか?」 「そうですよ、さ、前へ」 この後の自分の運命を知らない中年女教師はルイズを手招いた。 「先生、危険ですわ…、やめた方がいいと思いますけど」 ルイズが逡巡していると、後ろから聞き覚えのある声が響いた。 元親は声の方へ視線を向けると、キュルケが真剣な表情で訴えかけていた。 あらん限りの言葉で、女性教師に気持ちを変えさせようと熱心に説いた。 そして、同時にその情熱は、彼女の属性が示すように、ルイズのやる気という導火線に火をつけたのだった。 それは教室が爆風で吹き飛ばされる一分前の出来事だった。 教室には二人、ルイズと元親だけが残っていた。 窓はすべて割れ、教室はルイズの魔法の洗礼を受け、見るも無残な状態だ。 ミス・シュヴルーズは爆心地近くにいた為、衝撃で黒板に叩きつけられ、そのまま気絶。 爆発のショックで暴れ出したその他の使い魔たちの騒動が、終わるころ、その他の生徒から口々に「ゼロのルイズ」 という言葉を投げかけられ、その間、ルイズは悔しそうに下を向いていた。 その後、失神から回復したシュヴルーズは医務室に連れて行かれる前に、この教室の掃除をルイズに命じたのであった。 残骸の中でルイズは気落ちした様にうつむいていた。 元親はルイズのそんな様子をしばし眺めていたが、ポツリと語りかけてきた。 「……お前に怪我はないのか?」 「……別に無いわ」 そうか、と呟くと元親は瓦礫を撤去しはじめた。 細身の体だが、筋肉質な元親は見た目よりもはるかに筋力がある。 大きな机の残骸などを次々に片付け始める。 「チョーソカベ……、私……いつもこうなの、……魔法を使うと必ず爆発しちゃうの」 「そうか……、理由は分からないのか?」 ルイズは力なく首を振る。 「今まで魔法が一度も成功したことがないの、だから私の二つ名はゼロ、ゼロのルイズなの」 「さっき言われたのはそれか」 力なく頷くルイズ。 「貴方を召喚したのが初めて成功した魔法、そして使い魔として契約したのが、その次に成功した魔法、 フフ、……思えば、あの後ファイアーボールを唱えて失敗してたっけ」 ルイズの胸中には希望があった。 元親を得て、これから変わる自分の未来への希望が。 希望があった分、反動も大きい、突き付けられた現実は彼女により深いショックを与えたのだった。 べべべッッッん 教室に蝙蝠髑髏の音色が鳴り響いた。 ルイズが顔をあげて振り返ると、教室の最上段、そこに積み上げた瓦礫の上に元親が立ち、三味線を掻きならしている。 それは聞きなれない音色だが力強く、悲しさ、優しさ、怒り、喜び、全ての感情が元親の三味線によって 表現されているようにルイズには感じられた。 元親が力強く弦を弾く度に、蝙蝠髑髏から炸裂する音の球が無数に吐き出され、教室を漂う。 学長室で脅された時は、恐怖で仕方なかった音の球が、いまのルイズの目には元親が立つ瓦礫の山から舞い降りてくる 光の球のように、とても美しく映った。 「……なんて、綺麗なの」 窓からの光をバックに無我夢中で音を紡ぎだす元親をルイズはとても美しいと思った。 最後に激しい旋律を奏でると、元親の演奏は終わった。 教室の中は元親が作り出した音の球で溢れんばかりだ。 他の誰にも見る事は出来ない、ルイズと元親だけにみえる幻想風景。 淡く溶けるように、音の球が消滅していくのを、手を伸ばしながらルイズは見つめていた。 「ルイズ……」 教室に元親の声が静かに、しかし力強く響く。 「俺には魔法の事はわからん、お前がありとあらゆる努力の末、それでも魔法を成功させる事が出来ないのなら、 それはお前の運命なのだろう」 元親から発せられた言葉は、ルイズの想像したやさしくいたわる様な言葉ではなかった。 「だが抗え、……たとえその身が砕け散り、影すら無くそうとも意志ある限り抗い続けろ」 「抗う……」 「そして凄絶に自らを意志し続けろ、他の誰でもない自らの存在を」 「私の存在……」 「ルイズ、上ってこい」 すり鉢状の教室の最上段に積み上げられた瓦礫の上で元親はルイズに言い放つ。 ルイズは最初半ばおぼつかない足取りで歩きはじめ、そして、だんだんと力強く、元親のもとへと駆け上がる。 「来たわよ、チョーソカベ……」 「ルイズ、振り返ってみろ」 元親に言われて教室の最も高い位置から全てを見渡す。 それは凄惨な教室の風景、ルイズによって一瞬で破壊された教室。 しばらく呆然としていたルイズだったが、彼女は元親が何を見せたかったのか理解した。 フフフ……、元親の横でルイズが笑いだした。 「ねぇ、チョーソカベ、私って……実は凄いんじゃない?あんな錬金でここまで教室全体をぶっとばしちゃうんだから! あなたにこんな真似できる?」 ルイズが肘で元親の脇をつつく。 元親は薄く口元に笑みを浮かべる。 彼の作戦は成功したようだった。 「ゼロの二つ名を不名誉と言ったな……、俺の二つ名は「鳥無き島の蝙蝠」だ、かつて俺の島へと攻めてきた 魔王と呼ばれる男が、俺の事をそう蔑称した」 「どういう意味?」 「土佐には鳥がいないから蝙蝠ごときが空を飛んで増長できるといった意味だ」 「何よそれ」 ルイズは自分の事のように腹を立てた、それを穏やかに見つめながら元親はやさしくルイズの肩に手を置いた。 「だがその魔王も土佐の蝙蝠がどれ程凶暴か、身を持って知ったがな……」 「……じゃあ私をゼロと呼ぶ奴らも震えあがらせないとね!」 「その時はなるたけ外でやれ、……片付けが容易ではないのでな」 ルイズはひとしきり笑った後、瓦礫から降りると、自分から部屋の掃除を始めた。 元親もまとめた残骸を外へと運び出す。 二人が掃除が終わったのは昼休み前になってからだ、ルイズは元親を連れて食堂へと向かった。 元親と一緒に昼食を取りたかったからである。 前ページ次ページ凄絶な使い魔