約 1,100,811 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/812.html
前ページ次ページ異世界BASARA 「あんたねぇ!こっちが誤解するような事してんじゃないわよ!」 洗い場から戻った後、幸村はルイズの部屋でこってりと説教されていた。 「せ、拙者は少しでもお役に立とうと!」 「だからって、何でそこまでして洗濯が出来るようになりたいの?」 正座している幸村にきつく問いかける。 幸村はルイズに睨まれながらも話し始めた。 「拙者は…ルイズ殿の目となり耳となる力はありませぬ。秘薬の知識も持ち合わせておりませぬ」 「……………」 ルイズは幸村の言葉を黙って聞いている。 「使い魔本来の役目を果たせぬ愚か者。ならば雑用だけでもこなす事が出来なければこの幸村、元の世界のお館様にも顔向け出来ぬ!」 確かに幸村以外に召喚された3人、前田利家も本多忠勝も…最近では北条氏政もケティやギーシュに言われたのか渋々と雑用をこなしている。 ただの猪突猛進な男かと思っていたが彼なりに悩んでいたようだ。 「だから拙者はその道の達人であるシエスタ殿に教えてもらおうと…」 「もういい、あんたの気持ちは分かったわ」 ここでルイズは説教を止める事にした。 気づけば夜もかなり更けてきている。明日も授業があるので早く寝なければならないのだ。 「そろそろ寝なきゃ。いい?明日は“静かに”起きるようにしなさいよ!」 そして幸村を廊下に出し、自分も寝巻きに着替えて眠りについた。 「うおやかたすわむわああぁぁぁぁー!!!!」 …結局、彼は熱い魂を抑えられなかったようだ… 朝の恒例になってきた雄叫びの後、幸村とルイズは食堂で朝食を取っていた。 いつものようにスープと固いパンを飲み込み、食事を終える。 食べ終わったので立ち上がろうとした幸村だが、皿に何か落ちてきた。 見てみると、鶏肉の皮だ。確かこれは今日ルイズ達が食べている朝食の… 「ルイズ殿?」 「肉は癖になるからダメよ。早く食べなさい」 ルイズはそう言うと食事を再開した。 これは彼女なりの感謝の気持ち。 学院でも家でも魔法が使えない事を馬鹿にされていた自分を慕い、ただ一途に働く幸村への感謝の気持ちであった。 最も、素直な性格ではない彼女ははっきりと言わなかったが… 「…有り難く頂戴いたす」 しかし、幸村はそんなルイズの思いを理解したようだ。 この日…ルイズと幸村の距離が少し縮まった日であった。 「ほぉ~流石は真田幸村、あんな我侭娘にまで忠誠を尽くすとは流石じゃわい」 その様子を同じく食堂で食事を取っていた氏政は見ていた。 「そう思うのならば君も少しは見習ったらどうだい?」 と、隣で一緒に食事を取っていたギーシュが言う。 彼が言うのも最もだ。 最初の頃よりは良くなったが、彼の使い魔はほとんど言う事を聞かないのだから。 「見たまえ!タバサの使い魔はこんな時も働いているんだよ!」 ギーシュが指差した先では、忠勝が紅茶を運んでいた。 しかもあの大きな手で器用に茶を注ぎ、生徒達に配っている。 「あああありがとう、タ、タ、タバサの使い魔はずず随分気が利くねぇ…は、ははははは…」 だがほとんどの生徒の顔は引きつった笑顔を浮かべていた。 「フン、わしはいいんじゃ!総大将だから関係ないもん!あ、もう少し貰うぞ」 そんなギーシュの言葉など聞く耳持たず、氏政は皿から勝手に肉を切り取って食べてしまう。 「ききき君ぃぃ!もう半分以上食べているじゃないか!」 「やかましい!老人は体力が無いから肉を食わなきゃならんのじゃ!それと出来れば魚が食いたいわい」 「そんな事言って!ケティからいつもお菓子を貰っているのを知っているぞ!昨日はビスケットを貰っていただろう!」 「…ギーシュ?」 聞こえてきた声にギーシュはしまったと言わんばかりの勢いで振り返る。 隣にモンモランシーが座っていた事をすっかり忘れていたのだ。 「あ…い、いや違うんだよモンモランシー。使い魔の管理は主人の役目(バチン!)はぁうっ!」 とりあえず、召喚された4人はこの世界の生活に慣れてきているようである。 「あ、けーきも貰っとくからの!」 前ページ次ページ異世界BASARA
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/577.html
前ページ次ページ異世界BASARA 時間は流れて昼。 ギーシュと幸村が決闘を行った広場に、幸村と利家が対峙している。 2人とも自分の得物の槍を構え、微動だにしない。 彼らは待っているのだ、もう少しで聞こえてくる声を… 「うわああぁぁぁ持病の頭痛じゃああああああ!!」 「「うおらああぁぁぁぁぁ!」」 その声を合図に2人の槍が激突する。 昼の空いた時間、彼等はこのように手合わせを行っている。 武士にとって鍛錬は常に怠ってはいけない事の1つ、その内容が強者との仕合ならこれ程喜ばしい事はない。 ギリギリギリ… 「「ぬううぅぅぅぅぅっ……!!」」 両者お互いの槍を受け止め、力比べに入る。 この硬直状態を先に破ったのは幸村であった。 「でええりゃああああ!」 彼の左手が光った瞬間、利家を上空に打ち上げ、追撃を仕掛ける為に自身も跳躍する。 だが利家は空中に打ち上げられながらも槍を横に振り、この追撃を払う。 利家はその反動でさらに上昇。幸村はもう1度高く飛び上がり、空中で「烈火」を繰り出した。 「うおおおおー!!!」 すると利家は体を回転させ、幸村の烈火に真っ向からぶつかっていく。 「うおりゃあ!撃破撃破撃破あぁぁぁー!!!!」 「そりゃそりゃそりゃああああーっ!」 幸村の怒涛の突き、利家の回転斬撃。 2人はお互いの技をぶつけ合いながら落下していく。 ズドオォォォン!!!! そしてそのまま地面に激突し、周りに土煙が巻き上がる。 と、土煙の中から幸村と利家が飛び出してきた。 「「……………」」 しばらく槍を構えていた2人だが、利家が構えを解く。 「流石は武田に仕える虎の若子、強いなあ!!」 「前田殿も、槍の又左の名に偽りなし…見事な武勇でござる!」 幸村も槍を下ろした。同時に、左手の輝きも消えていく。 「毎日よくやるわねぇ…」 「…あんた達…」 と、幸村の背後から怒りの込もった声とあきれたような声が聞こえてくる。 振り返ると……それぞれの主であるルイズとキュルケが立っていた。 「ルルル、ルイズ殿!?」 「昨日も言ったけどいい加減にしなさい!あんた達が戦うと揺れや大声が教室まで伝わってくるのよ!」 ルイズが怒るのも無理はない。実際に2人が闘っている時の音は凄まじく、授業を妨害しているのだ。 「し、しかしルイズ殿…確か決闘が禁止されているのは貴族同士だけの筈。前田殿ならば良いのでは?」 しかし、そんな言い訳を許すルイズではなかった。 「ダメ!今日から決闘禁止!これ絶対だから!!」 「そんな!ルイズ殿!」 「ダメ!」 「ルイズ殿おぉ!!」 「ダメと言ったらダメ!!」 「ルイズ殿おぉぉぉぉぉ!!!」 「ダメダメダメエェェー!!!」 この2人の叫び合いは数十分間続く事になる… 「やれやれ、今日もあの2人は騒がしいのう…」 そのやり取りは学院長室まで聞こえていた。 「ミス・ヴァリエールの言い分が正しいです。それとお尻を触るのは止めて下さい、セクハラです」 「ひょお!?あー…あ、ザビザビザビ♪」 「ボケた振りをしてもダメですよ」 お互い言い合って数十分は経っただろうか。 ルイズは叫び疲れて肩で息をしていた。 「こ…これだけ言っても…ハァ、ハァ…分からないなんて…」 ここまでくると、ルイズにも我慢の限界が来た。 「もう許さない!あんた今日ずっとご飯抜き!!」 「ル、ルイズ殿おおぉぉ!?」 「な、なんだってえええーー!!??」 その言葉に幸村と、なぜか利家までもが声を上げた。 ただでさえ怒りの沸点が低い彼女である。幸村の態度に、遂に堪忍袋の緒が切れてしまったのだ。 「あらあら、あの子お仕置き喰らっちゃったわよ?」 「キュ、キュルケ殿!そ、そ、それがしまでご飯抜きじゃないよな!?」 前ページ次ページ異世界BASARA
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9082.html
前ページトリスタニア連続殺人事件 ルイズ「私があなたを召喚したルイズです。『ミス・ヴァリエール』と呼んでください。 ここが事件のあったトリスタニアです。どういう風に捜査を始めますか?」 →ひと しらべろ ルイズ「誰を調べますか?」 →ミス・ヴァリエール ルイズ「私の何を調べますか?」 →おっぱい ルイズ「やめてください」 →ひとにきけ ルイズ「では、この辺りの人に聞き込みをしてみます。 ヤス! わた……『ルイズちゃんは最高!』だそうです」 ヤス「他に情報は無かったのか?」 ルイズ「ありませんでした」 ヤス「自演乙」 →なにか みせろ ルイズ「何を見せますか?」 →ぱんつ ルイズ「いつも見せてあげてるじゃないですか、エッチ」 ヤス「それもそうだな、グヘヘ」 →たいほ しろ ルイズ「あなたが逮捕されるべきでしょう」 ヤス「何で俺が逮捕されなきゃいけないんだ」 ルイズ「毎晩私にあんな事をしているくせに?」 ヤス「合意の上だろう」 ルイズ「駄目だこいつ。早く何とかしないと」 →よべ ルイズ「誰を呼びますか?」 →ミス・ロングビル ルイズ「なぜミス・ロングビルを呼ぶのですか?」 ヤス「もちろん太腿をすりすりするためだ」 ルイズ「ファック・ユー。ぶち殺すぞ、ゴミめ」 →ばしょいどう ルイズ「どこに行きますか?」 →ラブホテル ルイズ「まだ昼間ですよ」 →まほうがくいん ルイズ「では、魔法学院に向かいます」 ルイズ「魔法学院会議室です」 →ひと さがせ ルイズ「会議室には誰もいないようです」 ヤス「それじゃ会議室プレイをしようか」 ルイズ「君は本当に馬鹿だな」 →ひと しらべろ ルイズ「誰を調べますか?」 →ミス・ヴァリエール ルイズ「どうしますか?」 →なにか とれ ルイズ「何を取りますか?」 →ふく ルイズ「私が脱いだら、このSSが削除されますよ」 ヤス「それは困る」 ルイズ「期待してた奴ぷぎゃー」 →すいり しろ ルイズ「何を推理すればいいのかわかりません」 ヤス「事件についてだよ! 事件!」 ルイズ「事件って何ですか?」 ヤス「連続殺人事件だろ?」 ルイズ「そんなものは起きていませんが」 ヤス「え?」 ルイズ「それよりももっと重大な事件が起きているのです」 ヤス「何だそれは」 ルイズ「子供ができました。私とあなたの子です。責任取ってください」 ヤス「な、何だってー。そんな馬鹿な、避妊はしたはず」 ルイズ「タス、まだわからないのですか。ゴムに穴を開けておいたのです。見事な危険日中出しでした」 ヤス「オーノー。ていうか、殺人事件じゃなかったのか」 ルイズ「いいですか。よく考えてください。恐ろしい連続殺人事件よりも、新しい命が誕生する事。その方がとても素晴らしい事件じゃないですか」 ヤス「でもタイトルには『連続殺人事件』って」 ルイズ「すまん、ありゃ嘘だった」 ヤス「な、何だってー」 ルイズ「あっ、陣痛が!」 ヤス「えっ、もう!?」 ルイズ「ひぎいっ、陣痛イイ!」 ヤス「何てこった、事件は現場じゃなく会議室で起きてるんだ!!」 ルイズ「早くー、救急馬車ー」 →でんわ かけろ ルイズ「お前がかけろよ」 ヤス「サーセン」 ルイズ「ひっひっふー、ひっひっふー……あー、頭出てきたー」 才人『はい、平賀です』 ヤス「あっ、間違えました」 ルイズ「馬鹿野郎」 こうしてルイズは元気な双子を産みました。 ヤスとルイズはメディアに大きく取り上げられ、2人はめでたく結婚しましたとさ。 めでたしめでたし。 トリスタニア連続出産事件 終わり ルイズ「な……、何ですか、このゲーム……」 ロングビル「もちろん、この魔法学院を舞台にしたゲームですよ?」 ルイズ「いや、これはいくら何でも……」 キュルケ「ま、そういう反応が自然よね……」 ロングビル「何よー。退屈してる生徒を楽しませようと思ったのに。結構苦労したのよ、これ」 キュルケ(あなたは口出すだけで、作ったのは私でしょうが……) ルイズ「でもこれは酷いですよ……。何か出産しちゃってるし。『陣痛イイ!!』とか訳がわかりませんよー」 ロングビル「陣痛はイイッ!! のよ。私は知ってるわ」 キュルケ(そりゃエロ小説の中の知識でしょうが……) ロングビル「はあ……、こんな事がまかり通るのもこの学院が暇なせいよね……」 キュルケ(暇なのはあんただけよ……) ルイズ「やっぱりきちんとした教師がいないと……」 キュルケ「そうよねー。この学院にも早く教師が来るといいわねー」 ロングビル「まったくオールド・オスマンも何をしてるやら……」 キュルケ「あら? そういえばオールド・オスマンは?」 ルイズ「オールド・オスマンなら今日は早く帰ったみたいですよ。今日は大事な日なんだそうです」 キュルケ「大事な日?」 ロングビル「ああ……、そうか。以前オールド・オスマンが言ってたわね……」 ルイズ「知ってるんですか? 教えてくださいよー」 ロングビル「駄目。これはオールド・オスマンの大事な思い出に関わる事だから……」 ?「……お世話になりました」 守衛に挨拶をし、牢獄を後にする。 僕は今日釈放となった。 そして懐かしい人が目の前にいる。 オスマン「『ラ・ロシェール港の見えるこの場所で会おう』。そういう約束じゃったね。出所おめでとう」 ?「……オールド……オスマン……」 オスマン「ふふ……、久しぶりに会ったんじゃ。昔のように呼んでくれないか。なあ……、そうじゃろう、ヤス?」 ヤス「……もう一度……、呼ばせてもらえるのですか? ……ボス……」 オスマン「もちろんじゃとも」 ヤス「ボス……、僕は……ううっ……! ボス……!」 オスマン「おいおいヤス、何を泣き出してるんじゃ? ……さあ、行こう。ミス・アニエスも君を待っているぞ」 ヤス「……はい! ボス!!」 トリスタニア連続殺人事件 原作 ヤマグチノボル 開発 ちゅんそふと 製作 えにっく ヤス「ボスもせっかちですね。そんな性格だと女の子に嫌われますよ」 ヤス「かなり古い建物です。何でも昔外人が建てた物を買い取って改築したとか……」 ヤス「ボス、ここはラグドリアン湖じゃありませんよ」 ヤス「僕に脱げと言うのですか? ボスはまさか……」 ヤス「わ、わかりました……」 ヤス「ボス、見事な捜査でした。僕がアニエスに召喚された文江の兄です。妹達を死に追い込んだ、あの2人を許せなかったのです」 アニエス「その後は私が話します」 ヤス「アニエス! お前は逃げろって!」 アニエス「ヤスは黙ってて!」 ヤス「これで全ておしまいです。でも皮肉なもんですね、殺してからコルベールが後悔してた事がわかるなんて……」 ヤス「僕があなたの使い魔の真野康彦です。『ヤス』と呼んでください」 オスマン「……おお、そうじゃ、ヤス」 ヤス「何ですか、ボス?」 オスマン「君の勤め先を用意しておいたよ。メイジに魔法を教える学院なんじゃがね……」 前ページトリスタニア連続殺人事件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1144.html
「この平民が!平民が!!平民がぁぁぁ!!!」 ルイズが召喚したのは平民 しかもパンツ一丁のマッチョな中年だった 心底がっかりしたルイズがそれでもコントラクト・サーヴァントを行おうとしたときにマ ッチョ中年は言ったものだ 「魔法?使い魔?お嬢ちゃん、寝言は寝て言うもんだぜ?」 ブチ切れたルイズはハルケギニア早口言葉選手権でワールドチャンピョンになれそうな勢 いで呪文を唱え続ける 連続して起こる爆発に飲み込まれるマッチョ中年 「止めたほうがいい…」 「そうよねえ、自分の呼び出した使い魔殺しちゃったら下手したら留年だもの」 あきれたような口ぶりのキュルケ タバサはふるふると首を横に振った 「ルイズの命が危ない」 「もう終わりかい?」 爆煙が晴れるとそこにはマッチョ中年が悠然と立っていた あちこち焦げたり煤けたりしているがそれだけだ 「じゃあ今度は俺が攻める番だな!」 いきなりウエスタンラリアート 人形のように吹っ飛んだルイズを抱え上げてパワーボム 白目を剥いてピクピクと痙攣するルイズにストンピングの嵐 遂にピクリとも動かなくなったルイズを再度抱え上げて情け無用のツームストン・パイル ドライバー 「何なのあれは…?」 ルイズを助けるのも忘れ唖然とした表情で呟くキュルケ 「キングオブデストロイ」 「修羅の門」29巻を読みながらタバサは言った オワール
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5783.html
前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第十二話 気絶したフーケを捕らえ、タバサとキュルケは元来た道を大急ぎで戻ると、意識を失ったルイズを学院に運び込んだ。 キュルケが強引に引っ張ってきたモンモランシーのおかげで大体の傷は治り、特に別状はないという。 それでも、ルイズは目を覚まさなかった。 結局、事の報告は後回しとなり、タバサとキュルケの二人はつきっきりでルイズの看病にあたることとなったのだった。 そして、その日の夜 「ぅ……ん……」 ルイズが目を覚ますと、そこは見慣れた自分の部屋であった。 キュルケが上からこちらを覗き込んでくる。 その傍らにはタバサもいた。 「やっとお目覚めね。まったく、いつまで寝てるんだか」 おかげで舞踏会に行けなかったじゃない、とキュルケは腕を組みながら言った。 「……ごめんなさい」 ルイズがしょんぼりとした表情で謝る。 それを見て、キュルケは微笑んだ。 「ま、いいわ。それより、あのカメなんとか……」 「仮面ライダー」 タバサが突っ込む。 「そうそう、それそれ。あれって一体何だったの? 詳しく話してみなさいよ」 ルイズは一瞬顔を曇らせたが、しばらくすると体を起こし、ゆっくり口を開いた。 ミラーワールド、モンスター、仮面ライダー…… キュルケは、ルイズの口から語られる信じられないような話に目を丸くしていた。 一方のタバサは、表情一つ変えずに話を聞いている。 「……なるほど。だから、そのカードデッキは破滅の箱なんて呼ばれてたのね」 ルイズの話が一段落すると、キュルケがルイズの手元にあるタイガのデッキを指差しながら言った。 「多分、そうでしょうね。……それで、今日あったことだけど……」 ルイズがミラーワールドでの出来事を話そうとした時、突然部屋の扉が開かれた。 「ひっ! あ、アサクラ!?」 扉の前に立つ浅倉を見た途端、ルイズの顔から血の気が引き、青ざめる。 それを見ると、浅倉は笑いながら彼女がいるベッドへと近づいていった。 「いつもの偉そうな態度はどうした? 俺に叩きのめされたのが、そんなに怖かったのか?」 「い、いやっ! 来ないで、来ないでぇっ!!」 ミラーワールドでの恐ろしい体験が脳内に甦り、ガタガタとその身を震わせるルイズ。 そんな彼女と浅倉との間に、キュルケが割って入った。 「ちょっとアンタ! 一体ルイズに何をしたのよ!?」 キュルケがきっ、と浅倉を睨み付ける。 今まで浅倉をダーリンとよび、恋心を抱いていたキュルケであったが、今の彼女にそんな気持ちは微塵もない。 むしろ、友を傷つけたことへの怒りの感情の方が強くなっていた。 そんな彼女を浅倉はフン、と鼻で笑う。 「そのデッキを手にした今、こいつも一人のライダーだ。ライダー同士、戦うのは当たり前だろう?」 「なら、これからもルイズと戦い続けるとでもいうの?」 「いやっ!」 キュルケの問いかけにルイズが反応し、膝を抱えて体を縮こまらせた。 その目には涙が湛えられている。 「もう戦いたくない……! もう戦いたくなんかないよ……!」 浅倉はそんなルイズに冷めた目を向けると、再びキュルケの方へと視線を戻した。 「だとしたら、どうする?」 怒りの形相で睨み続けるキュルケに、浅倉は余裕の表情で問い返す。 「……なら、容赦しないわ!」 「ほう、やるか?」 そう言って、キュルケは杖を、浅倉はデッキをそれぞれ取り出した。 そんな二人を、ルイズは心配そうに見つめている。 「待って」 不意に聞こえてきたタバサの声に、皆の視線が彼女に集中する。 そして、タバサの口から思いがけない言葉が発せられた。 「……私が仮面ライダーになる」 「ダメよタバサ! 危険よ!!」 タイガのデッキに伸ばされたタバサの手を見て、ルイズはタバサに渡すまい、と両手でデッキを抱きしめた。 しかしタバサが杖を一振りすると、デッキはルイズの元を離れタバサの手に収まった。 「誰かがライダーにならないと、ルイズが食べられてしまう。でも、今のルイズに変身は無理」 タバサが淡々と理由を述べていく。 「それに、まだアサクラに助けてもらったお礼をしてない。私なら、相手をしてあげられる」 浅倉の方を向き、微笑みかけた。 「……本気なの? アサクラには摩訶不思議な怪物がいるし、下手したら死んじゃうのよ?」 納得のいかないキュルケがタバサに尋ねた。「こういうのには慣れてる」 「でも……」 「俺なら誰だって構わないぜ。」 尚も食い下がろうとするキュルケを、浅倉が邪魔をした。 「それに、こいつよりもよっぽど楽しめそうだしな」 そういうと、浅倉はルイズの方へ顔を向けた。 「情けない奴だ。周りの人間にまで迷惑をかけておいて、役立たずにもほどがある」 浅倉の放った言葉が、ルイズの胸にぐさりと突き刺さる。 「そのくせプライドだけは人一倍、か。笑わせるな。……少しは身の程を知ったらどうだ?」 ルイズは堪らず、目から涙をポロポロとこぼし始めた。 「私は……私は……」 「ルイズ! ……アサクラ、あんた何てこと言うのよ!! 誰のせいでこんなことになったと思ってんの!?」 キュルケが再び浅倉に食って掛かる。 「俺は事実を言ったまでだ。……寝るぜ?」 それだけ言うと、浅倉は部屋の隅まで歩いていき、床の上に寝転がる。 そして、キュルケが投げ掛けてくる憎しみのこもった視線をよそに、浅倉は深い眠りへと落ちていった。 翌日。 ルイズ、タバサ、キュルケの三人は、学院長室にてフーケ討伐の報告を行っていた。 しかし、いつも通り無口なタバサに加え、ルイズも終始沈んだ表情で黙りこんでいたため、報告はもっぱらキュルケによってなされていた。 「……というわけで、今回の成功はルイズとその使い魔の活躍があってこそのものなのです」 『ルイズ』の部分を特に強調して、キュルケが報告を終えた。 「なるほどのう。まさか、あのロングビルが……」 オスマンが残念そうに溜め息をつく。 「ともかく、ご苦労じゃった。……そうじゃ、王室にも報告しておこうぞ。きっと何かしらの褒美がもらえるじゃろうて」 先ほどの表情から180度変わって、ニッカリと笑いながらオスマンが言った。 キュルケとタバサの顔にも、それぞれ笑みが浮かぶ。 が、ルイズの表情は相変わらず沈んだままだった。 「ミス・ヴァリエール、どうかしたかの? 元気がないようじゃが……」 「え? あ、いえ。何でもありません。ありがとうございます」 「……そういえば、破滅の箱を君の使い魔殿に渡す約束じゃったな。約束通り自由にしてよいと伝えておいてくれ」 ルイズはそれを聞くと、コクリ、と力なく頷いた。 「それと、ついでじゃ。これも渡しておいてくれ」 そう言って、オスマンは一枚のカードを取り出した。 「これは……?」 「荒らされた宝物庫の整理をしてたら出てきたものでの。破滅の箱に入っていたものとそっくりじゃから、君の使い魔なら使えるじゃろう。 わしには無用の品じゃ。もっていくがいい」 「……ありがとうございます」 ルイズは小さな声でお礼を言いながら、手渡されたカードを懐にしまった。 「ルイズ。ちょっと」 「……なに?」 学院長室からそれぞれの部屋へと戻る途中、ルイズはキュルケに引き止められた。 ――バチン! 振り返ったルイズの頬を、キュルケの手のひらが思い切りはたき、赤く染めた。 ルイズが驚いた顔で頬に手を当てる。 「アンタ、いつまでくよくよしてんのよ! らしくもない!」 キュルケが腰に手を当て、ルイズを見据えながら言った。 「いい? フーケに勝てたのはルイズが破滅の箱を使って、ゴーレムの動きを封じたからなの! ルイズのおかげ! わかる!?」 「でも、それは破滅の箱の力で……」 「破滅の箱を使って戦おうと勇気を出したのはアンタでしょう? もっといつもらしく誇りなさいよ!」 ルイズの反論を遮り、キュルケが続ける。 「例え魔法が使えなくても、諦めずに一生懸命頑張ってきたのが今までのアンタじゃない! そんなルイズはどこに行っちゃったのよ!?」 呆然と話を聞いていたルイズが、暗い表情のまま顔を下に向けた。 名門貴族に生まれながらも魔法を使えず、優秀な家族との落差に悩んだ日々。 失敗ばかりで散々ゼロのルイズと馬鹿にされ、劣等感に苛まれ続けた学院での毎日。 やっと成功したサモン・サーヴァントでも、呼び出した使い魔の扱いすら上手くいかず、逆に虐げられる始末。 それらの辛い記憶がルイズの頭の中を駆け巡り、涙となって目から溢れ出てきた。 「……何がわかるのよ」 俯いたまま、ルイズが震えた声をあげた。 「あなたに私の何がわかるのよぉっ!!」 顔をあげてその泣き腫らした表情をキュルケに向けると、ルイズは大声で言い放ち、自室に向かって勢いよく駆け出した。 「あっ、待ってルイズ!」 キュルケが止めようと手を伸ばしたが、走り出したルイズには届かず空を切る。 「ルイズ……」 自らの思いが友の心に届かなかったことを歯がゆく感じながら、キュルケはその場に立ち尽くすのだった。 同じ頃、ミラーワールドのとある森の中。 フーケとの戦いの最中に気配を気づかれた白い怪物のうち、王蛇の攻撃から免れた一体がそこにいた。 くねくねとした動きで怪物が森の中を歩いていくと、しばらくして広大な湖が目の前に現れた。 トリエステンとガリアに跨がる湖、ラグドリアン湖である。 水の精霊がいることで知られる湖だが、鏡の中の異世界では異様な光景が広がっていた。 今しがた辿り着いた白い怪物と同じ怪物があちこちから集まり、続々と湖へと向かって行ったのである。 不気味な唸り声をあげながら、無数の怪物がひたすら前に進んでいく。 たどり着いた怪物も湖に向かおうと動きだした、その時。 怪物が突然どさりと前のめりに倒れると、手足をピクピクと動かしながら体を丸め始めた。 そしてしばらくすると、背中がボコボコと盛り上がり、固い表皮にヒビが入る。 次の瞬間、白い怪物の体を破り、羽の生えた青い怪物が姿を現した。 青い怪物はすぐに頭に生えた羽を羽ばたかせ、湖の上を飛び始める。 それから、同じようにして数匹の青い怪物が現れ湖の上を舞うと、何処へともなく飛び去って行ったのだった……。 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1448.html
前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形 トリステイン魔法学院にある寮の一室。ここの寮生であるルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの部屋のベッドには彼女が召喚した少女が横たわり、夜も更けようかというころ、ようやく目を覚ます。 「やっと起きたわね」 部屋の主、ルイズは尊大に少女に声をかける。 「おはようございます」 少女はまだ覚醒しきっておらず、目をこすりながら答える。 「おはようございますじゃないわよ!あんた昼間のは何、平民が貴族にあんなことしていいと思ってんの?」 「えっと、ごめんなさい。よく覚えていないんです」 そう答えた少女にルイズはあきれかえる。 「覚えていないって、まぁいいわ。ところであんた名前は」 「はい?」 「名前よ名前。あんたの名前教えなさいよ」 「えっと、アンジェリカです」 「ふーん、じゃあアンジェって呼ぶわね」 「はい。ところであなたのお名前は何ですか?」 「わたしの名前?昼間聞いていなかったようね。光栄に思いなさいよ貴族に二度も名乗って貰えるんだから。」 そういって高らかに名乗りをあげる。 「わたしはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、トリステインの貴族よ!」 ルイズは『決まった!アンジェリカは賞賛の眼差しでこちらを見てるに違いない』そう思っていたが、 「はい、ルイズちゃんですね」 現実は違う、感情の起伏がないような、機械的に微笑を浮かべていた。 「ルイズちゃんって何よ!ともかくあんたはわたしの使い魔なんだからね!わかった?」 「はい、わかりましたルイズちゃん。あの質問があるんですけど」 「質問?何よ、言ってみなさい」 「貴族とか使い魔とかって何ですか?」 「貴族も使い魔も知らない、メイジって言葉も知らない?」 ルイズの問いにアンジェリカは知らないと答える。 「まったく、貴族もメイジも使い魔を知らないなんてどこから来たのよ」 「イタリアから来ました。ところでここはどこなんですか?」 「ここはかの高名なトリステイン魔法学院よ。そんなことも知らないなんて、イタリアってどんだけ田舎なのよ」 「まほーがくいん?」 「そう、魔法学院。今日からあんたはわたしの使い魔になってもらうからね。使い魔の仕事については・・・」 「あの、ルイズちゃん」 ルイズの説明を遮って、アンジェリカが喋る。 「わたし、マルコーさんの所に行かないといけないの。どうやったらローマに帰れますか?」 「無理よ、『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけ、元の場所に帰す魔法はないのよ」 「よく・・・わかりません」 「だからどうやったらそのイタリアとかいう場所に帰れるか知らないって言ってるの!」 「そんな、じゃあ・・・!?」 アンジェリカがルイズに詰め寄ろうとすると、彼女の左手に刻まれたルーンが熱を帯び、彼女に植え付けられた条件付けを侵食する。 ―ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔になれ― アンジェリカの条件付けは上書きされた。 ルイズは突然雰囲気が変わったアンジェリカに慌てて声をかける。 「ちょ、ちょっとアンジェ、大丈夫なの?」 「はい、大丈夫ですルイズちゃん。じゃあ、わたしはルイズちゃんの使い魔になればいいんですね」 「そ、そうよ。でもあんた秘薬とか探したり、わたしを守ったりするのは無理そうだから・・・」 ルイズは従順になったアンジェリカに驚きながら、一人で呟く。 「ルイズちゃん、どうしたんです?」 「何でもないわ。そうね、あなたにできる仕事といったら、掃除に洗濯、あとはその他雑用ってとこかしら。できるわよね?」 「はい、そのくらい公社でもやってましたから」 公社とは何だろうか、疑問に思ったがまた後で聞けばいい、ルイズはそう判断した。そうだ、大事なことを忘れていたと、アンジェリカに一つだけ言っておかないと。 「ねぇ、アンジェ。さっきからルイズちゃん、ルイズちゃんって、少し馴れ馴れしいわよ。ちゃんとご主人様とかルイズ様とかにしなさいよ」 「はい、わかりましたルイズさん」 大して変わってない気がするが、これ以上は何を言っても無駄かも、そう思い話を打ち切る。 「しゃっべたら眠くなってきたわ」 じゃあアンジェは床で寝なさい、そう言おうとしてさっきまでアンジェをベッドに寝かしていたのを彼女は思い出す。いまさら床に寝ろなんて言えない。 ルイズはネグリジェをアンジェに投げ渡す。 「ちょっと大きいかもしれないけど、それに着替えなさい」 そういうとルイズもネグリジェに着替える。 「着替えた?じゃあ今日は一緒のベッドで寝るのを許して上げる。か、感謝しなさいよね!」 「ルイズさん!ルイズさん!」 アンジェリカがなにやら興奮している。 「何?どうしたのよ」 「見て下さい、月!月が二つあります」 「それがどうしたのよ」 「トリステインでは二つ月があるんですね。イタリアでは一つしか見えませんでした」 まだまだ問題が山積しているようだ。 しかし、ルイズは睡魔に負け、早々に眠りについてしまった。 「あれ?ルイズさんもう寝ちゃったんですか?じゃあ私も寝ちゃいます。お休みなさい」 Episodio1 Il mio nome e Anjelica 私の名前はアンジェリカ 前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/999.html
>>back >>next かつて名城と謳われたニューカッスルの城は無残に瓦礫と化していた。戦場跡には人間の体が焦げた臭いが立ちこめている。 風が死臭を運んだ。死体を避けながら瓦礫の間をぬって歩くワルドは、思わず顔を顰める。 スクウェア・クラスのメイジでありトリステイン魔法衛士隊のグリフォン隊隊長であったワルドには、もちろん戦場など珍しいものではない。 (だが、被害が二千とは多すぎる。それもすべて、あの一匹の幻獣によって壊滅的な打撃を受けたのだ……) 左腕がずきりと痛んだような気がして、ワルドは手を伸ばしかけた。ち、とワルドは己に向かって毒づいた。 ルイズの使い魔によって切断され、もはやそこには左腕はないのだ。 吐き気をもよおすような臭いを運ぶ風が吹くたびに、ワルドの左袖ははたはたと揺れた。 (それにしても、異様な光景だ) ワルドの周りでは『レコン・キスタ』の兵士たちが黙々と瓦礫をどける作業を行っていた。誰一人として宝漁りなどするものがいない。 みな、『婢妖』に頭を乗っ取られ、人間ではなくなった兵士であった。見ると、片腕を吹き飛ばされたり、目が潰れた兵士も混じっていた。 (もはや血もでないのだろう。死体を操っているようなものだ) むしろ兵士としてはよほど有用だな、とワルドは冷酷に呟いた。 自分がウェールズを刺した場所にたどり着いたワルドは、右手で杖を抜こうとした。すると、誰かが遠くからワルドに声をかけた。 「子爵! ワルド君! 我らが友人、ウェールズ皇太子は見つかったかね?」 「ただいま探索をさせるところでございます、閣下」 そう言ってワルドは一礼した。 近づいてくる男は三十代半ばだろうか、一見すると聖職者のような、緑色のローブとマントを身に付けている。 高い鷲鼻に碧眼、カールした金色の髪が丸い球帽の裾から覗いている。 「君の討ち取ったウェールズ皇太子の亡骸はぜひとも必要なのでね! 燃えてなければなお都合が良いがな。して、探索とはどうするつもりだね、子爵?」 「婢妖に血の臭いを追わせます。ウェールズの血が私の杖に残っていますので」 そう言いながら、ワルドはマントの下から婢妖を出した。ミス・シェフィールドに貸し与えられたものである。 婢妖はワルドの杖にからみつくようにして血の臭いを嗅いだ。そして、しばらく辺りを飛び回っていたが、やがて中庭の一端を指した。 なるほど、そこだけ土が掘り返され、小さな石が墓石代わりにのせられている。傍には花まで添えてあった。 「ウェールズはあそこに埋葬されています、オリヴァー・クロムウェル閣下。おそらくはルイズ・フランソワーズのやったことでしょう」 「そうか、心優しいことだな、君の元婚約者は! もっとも、するなら火葬にするべきだったな。埋葬したおかげで、墓石が我々の目印になったわけだ!」 閣下と呼ばれた男は、にかっと笑みを浮かべてワルドの肩を叩いた。 ワルドはわずかに頬を歪める。しかし、すぐに真顔に戻った。 「さて、我らが友人、ウェールズ皇太子にはもう一働きしてもらわなくてはな! 余としても死人に鞭打つようなまねはしたくないのだ。 もっとも、彼はすこぶる協力的であってくれるはずだがな……」 軽口を叩くクロムウェルのローブの下から、びゅる、と何かが飛び出した。ワルドの婢妖より一回り大きいそれは、あっという間にウェールズの墓の下に潜りこんだ。 何かが蠢くような音が微かに聞こえてくる。満足そうに男はそれを眺めていた。 やがて……ウェールズ皇太子の白い腕が、ぼこりと土から突き出された。 ルイズたちが魔法学院に帰還してから三日後、アンリエッタ王女とゲルマニア皇帝の婚姻が発表された。式は一ヵ月後である。 それに伴い、トリステイン王国と帝政ゲルマニアは軍事同盟を締結する運びとなった。 直後、アルビオンの新政府樹立の公布がなされ、新皇帝クロムウェルからの打診により両国との間に不可侵条約が結ばれた。 トリステイン魔法学院にも平和が戻り、ルイズも穏やかな生活に戻ることとなる――はずであった。 「――なのに、なな、なんでこんなことになるわけ!? とと、とらはいないし! 変なのは来るし!」 半泣きになってわめくルイズに、目の前の妖魔(としかルイズには見えなかった)が言う。 『お嬢さん、安心しろ~。あたしたちは敵ではないぞう』 『ずーいぶん探したんだよぉ……60年も間違えるとはなーあ』 『じーさんが流れを読み間違えたせいだよう』 『ああっ、あたしゃ悪くないぞう!』 自分で会話を始める妖魔に、ルイズは頭を抱える。まったくもって散々な一日であった……。 朝……。 ルイズはぐっすりと眠っていた。それはもう、朝食の時間に間に合わないほどにぐっすりと眠っていたのであった。だから、目を覚ましたルイズは開口一番慌てふためきながら叫んだ。 「どど、どうして起こしてくれなかったのよ、とら――!」 寝ぼけ眼をこすりながら叫ぶルイズ。その予想に反して、とらからの返事はなかった。高くなった日が差し込んでくる部屋には静けさが漂っていた。 あれ、とら? どこ? と呟きながらルイズは部屋を見渡した。普段は、とらは夜には散歩に出かけ、朝になるとルイズの部屋に帰ってきてルイズを起こしてくれるのだが…… 「とら? とら、どこー? ちょっと……出てきなさいよ、とら! もう!」 次第に不安になってキョロキョロとルイズは周りを見渡す。だが、いくら部屋の中を探してみても、自分の使い魔の姿はどこにもないのだった。 急に焦りはじめたルイズは、ベッドの下に押し込んであった古ぼけた鞘から、デルフリンガーを引っ張り出した。 鞘から抜かれた途端にデルフがまくし立てる。 「おうおい、娘っ子! 久しぶりに抜いてくれたと思ったら、あいかわらずちっせー胸――」 「黙りなさい」 「はい」 ルイズが鬼のような形相になってデルフリンガーを睨むと、インテリジェンスソードはピタリと軽口をやめた。 「デルフ、とらがどこ行ったのか知らない? 昨日の夜から帰っていないみたいなのよ」 「さぁね」 「……正直に言わないと溶かすわよ? あ、コラ?」 ドスの利いたルイズの脅しの言葉に、デルフリンガーは動揺した様子もない。 「ああ、溶かすなら溶かせよ、娘っ子。いっそせいせいするね」 「ど、どうしたのよ、デルフ」 「どうしたもこうしたも……うっ……うぐっ……うう」 突然、おいおいとデルフリンガーは泣き出して、ルイズが面食らってしまった。この涙らしき水は一体どこから出ているのだろう? 「娘っ子よ……わ、わかるか? 何百年もずっとずっと相棒を待ち続けて、とうとう見つけたときの俺の気持ちが! うぐっ…… し、しかも、そいつは最強の使い手と来たもんだ! ああ、そうさ。俺は感動したね。こんな錆びた体でも、心が震えたよ」 う、とルイズは言葉に詰まる。なるほど、とらを引き当てたと言えば、デルフリンガーもルイズと立場は一緒かもしれない。 「それがどうだ。相棒ときたら、俺を使おうともしねぇ! うぐっ……畜生、俺はちゃーんと教えてやったんだ。『お前の心の奮えが俺を強くする』ってな! そ、そしたら相棒、なんて言ったと思うよ、娘っ子? よう! なんて言ったと思うよ!?」 「し、知らない」 これまでの不幸を全てぶつけてくるような剣幕のデルフリンガーに、ルイズは思わずたじろぐ。デルフリンガーは自嘲気味に続けた。 「相棒の奴……『獣にゃ心なんざねぇ』だってよ。そうさ、相棒は無敵だ、俺なんていらねぇのさ……さぁ、溶かすなら溶かせよ娘っ子! せいせいすらぁ!」 泣きながら大声で叫んだデルフは、それっきり、がっくりと黙り込んだ。ルイズも黙った。部屋には哀しい沈黙が立ち込めた。 やがて、寂しそうにデルフリンガーは呟いた。 「相棒の行き先はしらね。ここ二三日、鞘から抜かれてもいねえし」 「……そのうち、いいことがあるわ」 ルイズはそっと呟くと、優しくデルフリンガーを自分のベッドに下ろしてやった。 (とにかく、とらを探しにいかなきゃ……とらに限って、危険な目にあってたりなんかしないと思うけど……。そうだ、あのメイドに聞いてみよう) 手早くマントを羽織り、ルイズは部屋を出る。静かにドアを閉める時、デルフの押し殺した嗚咽が扉の向こうから聞こえていた……。 >>back >>next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5799.html
前ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔 ルイズは膝を抱えて泣いていた。 ヴァリエール家の庭にある池に小船を浮かべ、その上で。 どうにも陰気な雰囲気の漂うこの場所に好んで近づくものは少なく、それ故、専らルイズが一人で泣くための場所となっていた。 今回はどうして泣いているんだろう? そう考えてルイズは気づいた。これは夢だ。 膝を抱えて泣いているルイズ。ルイズはそれを俯瞰して見ていた。 これが夢でないというのなら、膝を抱えて泣いているように見えるルイズは実は既に死んでいて、肉体を抜け出し魂となって己を見ているのかもしれない。 (案外、そうかもしれない) ルイズは思った。 俯瞰してみるこの感じ。空気に溶けているかのようなこの感覚。 これは『本』を読む感覚に似ている。 自分の『本』があるというのなら、自分はもう死んでいるのだろう。しかしその『本』を読む自分は誰なのか。 (ああ…) 死んだ己の『本』を読む。それは・・・。 彼女はあの時、今のルイズとは比にならない混乱と当惑を感じただろう。 ただ呑気に過去を夢に見ているだけの自分と、彼女の身に起こったことを同列に並べるべきではない。 これは夢だ。ならば早く夢から覚めてしまおう。 とはいえ、夢から覚めるにはどうしたものか。 そんなことを考えるルイズの視界に、一つの影が映った。 そんなことを考えていない小舟の上のルイズもその影に気づく。 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。ルイズの婚約者。 小舟の上で泣く自分と、それを迎えに来た優しい婚約者。 この夢は自分が思っていたよりもずっと過去の出来事だったらしい。 これは確か……自分が一桁の年齢の時の出来事ではなかったか? そう思って見ていると、小舟の上のルイズがいつの間にか随分と縮んでいた。この夢を見始めた時には、小舟の上で泣くルイズは魔法学院の制服に身を包み、今現在のルイズと変わらない姿であったのに。 成る程、まさしくこれは夢だ。 よく見ればワルドも立派な髭を蓄えた現在の姿と、当時の青年とも少年ともいえるような年頃の姿を行き来している。 夢の不条理さを夢の中で感じながらルイズは彼らのやりとりを眺める。 夢の中の不条理故か、彼らの言葉は確かに耳に届いているはずなのにルイズには聞こえなかった。世界は沈黙で満ちていた。 幾つかの言葉のやりとり。その後、ワルドが小舟の上のルイズに向けて手をさしのべようと一歩踏み出した。 ワルドがルイズに手をさしのべようと一歩踏み出したとき、ルイズの心の中に悲しみと怒りが綯い交ぜになったような名状しがたいものが溢れてきた。 ワルドと幼いルイズのやりとりはまるで聞こえてこないのに、ワルドの足の下からは一匹の小さな蟻が潰れるぐしゃりという音、耳を澄ませても聞こえるはずのない音が大きく響いた。 ――ルイズは夢から覚めた。 「おはようございます」 まだ覚醒しきらぬルイズに声がかけられる。 ルイズはぼんやりとしたまま身を起こし、顔を声のする方へと向けた。 「アンタ誰? 此処はどこ?」 声の主はルイズの知らない顔だった。 ニヤニヤとした笑みを浮かべた青年。いや、その顔だけを見れば少年と言うべきかもしれない。童顔。しかし、高いというより長い言いたくなるようなひょろりとした長身と、その手に持つやたらと武骨な鉄杖が少年と言うには不似合いだ。 ただ、ニヤニヤと笑っているがそこからは下品さを感じさせるものはなく、どちらかと言えば爽やかさすら感じさせるものがある。つまりはいかにも好青年と言った表情だった。 そこそこにもてそうな、貴族の子女の間より平民の娘たちの間でこそもてそうなタイプだなと、ルイズはぼんやりと思った。 「そこは『私は誰? 此処はどこ?』でしょう。勿論『私はどこ? 此処は誰?』でもOKですよ。こういうときはオーソドックスにいきましょう。オーソドックスを楽しめないと人生の半分を損しますよ」 男が言う。 見た目ほどはもてないだろうな、とルイズは評価を改める。言わなくてもいいことを言わずにはいられないタイプだと見える。 「おっと、いらんことを言う男だと思ってますね? いやはや申し訳ない」 その科白こそいらぬことだとルイズは思うが、声には出さない。こういうお喋りな手合いにいちいち反応するのは無駄であるし、どうにも眠気が抜けない。ぼんやりとした倦怠に包まれている。 「ではそろそろあなたのような可憐きわまりない御令嬢に名を名乗る栄誉に預からせていただくとしましょう。僕の名前はグレアム。それ以上でもそれ以下でもありません。 僕があなたと同じ年の頃の時にはそれ以上だかそれ以下だったのですが、まぁ、家名を失ってしまいましてね。今はただのグレアムです。 元は子爵家に生まれましたが、今は気楽な傭兵稼業です。通り名は『泥濘』。そう名乗るとよく土メイジと間違われますが、僕は水系統です。水のトライアングル。 自分で言うのも何ですがそこそこに腕は立つ方ですよ。傭兵ですからね、実戦においてなら頭でっかちなスクエアよりはいけると自負してます。 もう一つ自分で言うのも何ですがといったことですが、あまり傭兵らしくないと言われるのが密かな自慢です。 この稼業は、元貴族でも2、3年もやってればいかにも傭兵と言った風情になってしまうのですけれどね。がさつと言うか粗雑というか……。 まぁ、傭兵らしさに染まってはいないからといって、貴族らしいのかと言えばまた別の話なのでしょうが。 傭兵とはいえ荒っぽいことばかりして生きていけるわけでもないので傭兵仲間の間ではそこそこ重宝されています。今のボスにもそのあたりを買われたところがありますからね。 だからこそ……」 男、グレアムは身振り手振りを交えながら一方的にまくし立てる。 しかしそれは控えめに叩かれたドアの音によって中断された。 グレアムは少し残念そうにしながら「どうぞ」とドアのむこうに応える。 ドアを開けて入ってきたのは一人の大男だった。グレアムとは違い縦だけでなく横にも大きい。大きいという言葉も似合わない。有り体に言えばごつかった。 ルイズは一瞬岩でできたゴーレムが入ってきたのかと思ったほどだ。体だけでなく、顔立ちまでもが岩のようだ。 その岩のような男はグレアムに一瞥をくれると、ルイズに向けて恭しく一礼をし、 「おはようございます。ミス・ヴァリエール」 やはり岩のような声、しかしその物腰はごつごつとした岩ではなく、何か磨かれた岩のような声で言った。 ルイズが磨かれた岩にたとえられるような声がこの世に存在していることに驚いていると、その間に岩男はてきぱきとルイズのベッドの隣に置かれた小さなテーブルへ食事を並べていく。 最後にグラスにワインを注ぐとボトルをテーブルに置き、 「冷めないうちにどうぞ」 と、一言だけ添えて岩男は入ってきた扉から出て行った。 スープから漂ってくる香りがルイズの鼻を刺激する。それはまたルイズのぼんやりとした意識を刺激する。 ぼんやりとした意識の中から疑問が急速にふくれあがる。此処はどこなのか。このグレアムという男は誰なのか。先ほどの岩男は何者か。そもそも何で見知らぬベッドで寝ているのか。 ルイズがその疑問を口にしようとする前に、グレアムがまた喋り始めた。 「今のは僕の同業、つまり傭兵で、今は僕と同じ任務についている仲間です。名前はクラウス。通り名は『鉄波』。 水のメイジに間違われることはないみたいですね。土のラインです。たしか産はゲルマニアの方だといってましたね。性格はあまりあちらの方とは思えない真面目そのものといったところですが。 見た目に似合わず細かいところまでよく気の回る男です。魔法の方も細かい細工物を作ったりというのも得意ですし、とはいえ見た目通りの大味な魔法も得意です。 実戦においてはラインとは思えぬほど気を吐く男ですが、普段は少し無口なところをのぞけばつきあいやすい男です。 愛称は『テッパッパー』これは僕がつけたのですがいまいち流行りません。本人が気に入ってないみたいで、あの強面で否定すると、皆遠慮してしまうみたいですね。僕はいいと思うのですが、『テッパッパー』。 そうそう、あなたのつけているその腕輪。それも彼の作ったものです」 「腕輪?」 ルイズはグレアムの言葉に首を傾げ、そして己の腕を見る。 「なっ! 何よこれ!?」 ルイズは思わず声を上げる。 己の左手首に巻かれた鉄の輪。そしてそこから鎖が伸びベッドのポールへと繋がれている。 「なんなのよ!? これは!?」 ルイズはグレアムを睨みつけもう一度言った。 「その質問には勿論お答えいたしますが、その前に一つ警告をしておきます。くれぐれも蟻は出されぬよう。その場合には手加減は一切するなと言われております。あなたごと『面』で蟻を一度にたたきつぶすように言われております」 そう言ってルイズへと鉄杖をむけるグレアム。その口元は笑っているが、目からは冷たいものしか感じ取れなくなっている。 ルイズは言われるまで蟻を出すことなど忘れていた。グレアムの言葉でそれを思い出したが、しかし彼の目が安易に蟻を出すことを許さなかった。 グレアムの目はルイズの黒蟻をしっかりと驚異と認識した上で、出した瞬間に対応してみせると物語っていた。 微塵の油断もないが、自信に溢れている目。 ルイズはゴクリとつばを飲み込む。 「ご理解頂き有り難うございます」 グレアムは慇懃に言う。 「うちのボスから、あなたの蟻についてはよく伺っております。恐ろしい力だと思いますよ。一手でも対処を間違えるとスクエアだろうと不覚をとるでしょう。 杖を取り上げても無意味だというのがまた恐ろしい。こうして鎖に繋いでいても一瞬たりとも気を抜けないわけですからね」 そう言いながらもグレアムの目が優しいものへと変わっていく。とはいえ警戒は解いていないだろう。 「できればあなたには温和しくしていて頂きたいのですよ。ボスからも丁重に扱うように言われてますし、僕個人の好みからしてもあなたのような可憐な女性を手荒に扱うのは避けたいところです。 ただ、その腕輪だけはご容赦願いたい。あなたがうちのボスと敵する限りは外せません。 ボスはあなたを高く評価していますし、僕個人の好みとしてもあなたを敵にまわしたくありません。テッパッパーの奴なんかもきっと同意見でしょう」 そこまで言うとグレアムは言葉を切る。そしてルイズの様子をうかがう。 ルイズの瞳には敵意と言うよりも当惑に満ちていた。 ルイズは、今、自分が囚われの身であることは理解していたが、そこに至る経緯が思い出せないでいたのだ。 「ではあなたの疑問にお答えいたしましょう。その腕輪はあなたを拘束するためにテッパッパーが作りました。鍵穴はありません。錬金で砂にでもしないと外せません。杖を取り上げられている以上あなたにはどうしようもありません。 また、蟻を使って僕たちを脅しつけても、結局誰かが至近距離で魔法を使わなければそれを外せません。つまりあなたが自由になるには至近距離で他者に魔法を使わせる必要があり、蟻で脅しつけたような場合、素直に錬金を使う者などいないと考えて頂きたい。 ちなみにその腕輪になにやらウサギをもしたキャラクターが刻まれているでしょう。それもテッパッパーの奴がやりました。奴なりの配慮です。女の子の手首に露骨に手錠じみたものをつけるのはいかがなものかと。あいつは女子供には結構甘いんです」 ルイズが腕輪を注視すると、そこには二足歩行するウサギの絵が刻まれていた。なにか、あの館長代行のシャツに縫い付けられたアップリケに似ているなと思った。 「……これが配慮というのなら、私をなめているか女というものをなめているかのどちらかね」 「それには僕も同意ですが、奴はこれで大まじめなんですよ。一度、5歳ぐらいのお嬢ちゃんにそんな感じの陶器の人形を作ってやったら喜んでいたとかいって、それ以来、年齢身分関係なく女はそれで喜ぶと思ってやがるんです。 あとであいつが来たら存分に馬鹿にしてやってかまいませんよ。 ……それから、此処がどこかと言うことですが、ラ・ロシェール上空1500メイル、北に10リーグ程ずれたあたりですね」 「フネ」 「はい、フネです。僕の本職は船乗りではないので船についての詳しい質問はご遠慮ください。しても無駄です。テッパッパーも、フランシスもフネについてはまるで無知です。 あぁ、フランシスというのはもう一人の同僚です。彼女は今は睡眠中ですので後で紹介しますね。この3人であなたの身の回りの世話と、まぁ、監視をしています。あ、ご安心くださいね。 あなたが寝ていた間は勿論、これからも着替えの手伝いなどはフランシスがやりますから。一応僕たちは紳士を気取ってますんで」 グレアムはそう言うとにこりと笑う。 ルイズはそんなグレアムの言葉の一部に引っかかる。 「『寝ていた間』?」 「あぁ、言っていませんでしたね。あなたは、えーっと、13日ですね。まる13日間魔法で眠らされていました」 グレアムの言葉にルイズは驚愕する。 「13日間!?」 「はい。その間、フランシスが毎日お召し物は取り替えていましたし、栄養も僕の魔法で与えていましたので特に問題はないでしょう。着替えのたびにフランシスの奴があなたのことを人形みたいでかわいいって言ってましたよ。 僕も手伝おうと申し出たのですが、断固として役得を譲ってはくれませんでした」 グレアムが軽口を叩くが、ルイズはそれを無視して頭を抱える。 「13日間? 13日前? え?」 「ルイズさん?」 「ねぇ、そもそもあんたの言うボスって誰なの」 グレアムが怪訝な顔をする。そして何かわかったようなわからないような顔になる。 「そうですね。13日間も眠らされていたわけだし、記憶が混濁していても当然でしたね。僕としたことが失念してました。それでルイズさん。どこまで覚えています? どこから記憶がありません?」 ルイズは懸命に頭を捻って記憶を絞り出そうとする。 「姫様に……頼まれて…ギーシュ……アルビオンへ……ワルドが現れて……ワルド……それから……」 ルイズがうんうんと唸る。 「まぁ、時間はまだあります。ゆっくりと思い出せばいいですよ……」 グレアムの言葉が遠くに聞こえる。 私は何かとんでもないことを忘れている。 思い出さなくては。 アンリエッタにアルビオン行きの密命を仰せつかって、ギーシュと行くことになって……。 そしてワルドが現れた。 長らく会っていなかった婚約者。 魔法衛士隊グリフォン隊隊長。 それから。 それから……。 前ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2317.html
前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形 ルイズはアンジェリカを抱きしめたまま眠りについていた。 「アンジェ…泣いているの?」 朝日が昇るほんの少し前に目を覚ましたルイズはアンジェリカが寝ながら涙を流しているのに気付く。ルイズはアンジェリカを自身の胸元にギュッと抱きしめる。 「ごめんねアンジェ。わたし、こんなことしか出来ないの」 ルイズはアンジェリカが目を覚ますまでずっと抱きしめ続けるのだった。 アンジェリカが目を覚まし以前のように水汲み場へ行ってもそこにシエスタの姿はない。 「ルイズさん。シエスタちゃんがいませんよ?」 きょろきょろと辺りを見回しながらルイズに尋ねる。 「そ、そうね。どうかしたのかしら?」 分かっていた事だった。シエスタがアンジェリカを避けていることなど……。 「時間が惜しいから早く洗濯済ますわよ」 「はいルイズさん」 あのモット伯の屋敷で何かがあった。シエスタがアンジェリカを避ける決定的な何かが……。 「ねぇアンジェ…」 「どうかしましたかルイズさん」 アンジェリカがルイズの瞳を覗き込む。 「やっぱりなんでもないわ」 「?」 やっぱり怖くて聞けない……。 しばらくの間二人は何もしゃべらずに黙々と洗濯を続けるのであった。 ルイズは洗濯が終わり厨房へ向かおうとするアンジェリカを引き止める。 「今日から食堂で一緒に食べましょ」 「え?」 足を止めルイズの方へ振り返ったアンジェリカ。 「だから、一緒にご飯食べるって言ってるの!」 顔を赤くしてアンジェリカにぶっきら棒に言い渡した。アンジェリカはそんなルイズをみて笑顔を浮かべるのだった。 二人そろってテーブルに着いたが、ルイズは食事を取る前にある人物を指差しアンジェリカに問いかけた。 「あいつのこと覚えてる?」 そういってモンモランシーとギーシュを指差す。 「モンモランシーさんと…あと一人は何方ですか?」 首をかしげながら答えるアンジェリカ。 「じゃあ、あいつは?」 次いでキュルケとタバサを指差した。 アンジェリカはしばらくその方向を眺めながらも……力なく首を左右に振った。ルイズはそれをみて考え込む。 『アンジェはこのことを自覚しているのかしら…』 「ルイズさん…」 「何アンジェ?」 アンジェリカの呼び声にハッとして答える。アンジェリカはルイズの瞳をじっと見つめながら口を開いた。 「あの、私忘れてるんですか…大切な人を忘れてたりしていませんか?」 そういうアンジェリカの顔には不安がありありとでていた。 「大丈夫よ。ちょっと聞いてみただけよ。だから気にしないで」 少しでもその不安を和らげようと気休めの言葉をかける。 本当はもっと色々聞きたいのだがそれをしてしまえばアンジェリカを傷つけてしまうのではないか。そんな不安からこれ以上聞くことも出来なかった。 「さあ早く朝食を済ませましょう」 気が滅入ってしまう……この話題を打ち切り目の前の朝食に取り掛かるのであった。 Zero ed una bambola ゼロと人形 何事もなく時間は過ぎていく。そして日が暮れ始めた頃、アンジェリカとルイズに向かってキュルケが声をかけた。 「ルイズ! まちなさいよ!」 キュルケの大きな声にピクッと反応するルイズ。それを最初は無視しようかとも思ったがさすがにそれは出来ない。しぶしぶその足を止める。 「何か用?」 「何か用じゃないわよ。アンジェちゃんが起きたんでしょ?何であたしに言ってくれないのよ」 「別にあんたには関係ないでしょ」 ぶっきら棒に答えるルイズ。だがキュルケはそんなルイズを無視してアンジェリカに話しかけた。 「はぁい。アンジェちゃん久しぶり~。元気? あたしのこと覚えてるかな?」 「ちょっと、わたしを無視してるんじゃないわよ!」 騒がしい二人をよそにアンジェリカは静かに答える。 「ごめんなさい。覚えていないです。お名前教えていただけますか?」 「は?」 アンジェリカの回答に声が出ないキュルケ。思わずルイズに詰め寄る。 「ヴァリエール笑えない冗談を吹き込むのはやめて貰えないかしら?」 「冗談じゃないのよ…」 ルイズは少し怒ったようなキュルケに向かってぼそりと呟くように答えた。 「あなた何言ってるの?」 ルイズは自分をからかっているのではないだろうか。キュルケはそう思いながら呆れたように言った。 「そうよ、冗談だったらいいのに…。アンジェリカが記憶を失うなんてわたしも信じたくないわ」 ルイズは俯きブツブツと呟く。 「アンジェだって自分の症状のこと自覚しているし……」 その声はだんだんと小さくなり次第に聞き取りにくくなっていく。 「ちょっとルイズ何言ってるの?」 ルイズは俯いたまま小さく声を上げるがよく聞き取れない。 「ああもう! ここじゃ何だから外にでも行って散歩しながら詳しく聞かせてもらうわよ」 「わかったわ」 ルイズも気分転換になるかもしれないと同意する。 「アンジェちゃんもそれでいい?」 キュルケは笑顔でアンジェリカに話しかけた。 「ルイズさんが行くのであれば私も行きます」 それにアンジェリカも笑みで返す。 「それとね、あたしの名前はキュルケよ。もう忘れたら嫌よ?」 優しい声で名前を再び教え、アンジェリカにウインクをする。 「はい、キュルケちゃん」 Episodio 21 Insegni un nome 名前を教えて 前ページ次ページZero ed una bambola ゼロと人形
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4808.html
前ページ次ページ鮮血の使い魔 ルイズは困っていた。 「皿洗いくらい手伝いな」 とマチルダに言われた。 そんな下々の仕事をと思ったが、自分はこの家に厄介になってる身。 言葉に任せようかとも思った、指輪を取られて不機嫌そうなので頼みにくい。 だから仕方なく皿洗いを始めたのだが……。 「ルイズ、そんなに強くこすっちゃお皿に傷がついちゃうわ」 右隣にティファニアも立っていた。家事は自分の仕事だから一緒にやろうと言ってきた。 それはいい。 「ずいぶんお皿が多いですね。子供達の分……ですか?」 左隣に言葉も立っていた。ルイズがやるなら自分もやりますと言ってきた。 それはいい。 しかし「じゃあ二人に任せていいかしら」と言ったら、 言葉は「ルイズさんがやらないなら私もやりません」と言うし、 そんな風にティファニア一人に皿洗いを押しつけたら悪役になってしまう。 こうして三人一緒に皿洗いをしている訳だが。 (何で私が真ん中なの?) ティファニアが身体を傾ける。たわわな柔肉がルイズの腕に当たって形を変える。 言葉が身体を傾ける。たわわな柔肉がルイズの腕に当たって形を変える。 左右からの苛烈な乳房責めを受け、ルイズの脳みそは沸騰寸前だった。 (私はノーマル、私はノーマル、私はおっぱい、私はノーマル……。 クールになれ、クールになれ、素直クールになられ、クールになれ……。 うろたえるな、うろたえるな、ウロヤケヌマ、うろたえるな自分ー!!) 言い聞かせる。自らに命ずる。ノーマルで在れ、クールで在れと。 なぜならルイズ・フランソワーズは女の子! 花も恥らうツンデレ乙女! それが同性の肉袋如きに惑わされてどうするというのだ! 「きゃっ」 「えっ」 ティファニアが悲鳴を上げると同時に左手がやわらかい何かに呑み込まれていく。 それはティファニアの乳房だった。指が吸い込まれる。何この脂肪の塊という名の芸術。 (天の願いを胸革命に刻んで心頭滅却すれば火もまた火とひとつになれば炎となる。 煩悩退散煩悩退散、煩悩おっぱい困った時は、オラオラ、はしばみ、オラオラ、はしばみ) 頭の中で意味不明の念仏を唱えるルイズ。嗚呼、虚乳コンプレックスここに極めり。 「……ぼんやりしてると、お皿、落としちゃいますよ」 言葉の右手が、ルイズの左手に、伸びて、 薬指の水のルビーの表面を撫で、中指のアンドバリの指輪に、触れ、 ガシャン。 皿が滑り落ちた。 ルイズは慌てて自分の手元を、ティファニアはルイズの手元を見た。 その前に言葉はルイズの左手から素早く手を引いていた。 「……だから、言ったじゃないですか」 「あ、ごめん。ぼーっとして……」 謝ろうとして言葉の方に顔を向けようとして、洗い場から泡だらけの手を引いて、 肘が言葉の雄大な谷間に直撃。 「あんっ……」 熱っぽい言葉の声に、余計慌てたルイズはてんやわんや。 「わっ、痛かった? ごめ……ひゃうっ!?」 慌てて言葉から身を引いたため、隣にいたティファニアの胸に後頭部からダイブ。 「きゃあっ!?」 突然の出来事だったためティファニアはルイズを支えられず、そのまま転倒。 「あっ……」 反射的に言葉はルイズが転ばないよう腕を掴もうとした。 掴んだ。 引っ張られた。 バランスが崩れた。 結果、ティファニアの上に二人分の体重がのしかかった。 「きゅ~……」 倒れた時に頭を『前後』から打って、もうろうとしているティファニア。 思いっきり倒れこみ、ティファニアのおでこに自身のおでこをぶつけてしまった言葉。 その間で、ルイズが挟まれていた。 頭の左斜め後方! ティファニアの左乳房確認! 頭の右斜め後方! ティファニアの右乳房確認! 頭の左斜め前方! 言葉の右乳房確認! 頭の右斜め前方! 言葉の左乳房確認! ぱふぱふ……などというレベルではない。威力倍増にも程がある。 しかもどちらも威力は極上。 頭を打ったせいで小さく身じろぎするティファニアと言葉、 そのせいで肉のマッサージを受けるルイズの顔。 「お、おお……」 声にならない声が漏れ、それが甘い吐息となって言葉の肉丘を撫でるように吹き抜ける。 「んっくぅ……」 言葉が身をよじる。巨大な肉は面白いほどに形を歪め、ルイズの顔を圧迫する。 「むおおー……」 圧倒的圧力に押され、ルイズは後ろへと逃げる。しかし後ろはティファニアの肉枕。 底なし沼のように沈んでいく。 深いの谷に呑み込まれていく。 (お、おおお、おおちちちちちちち、ち、ちちぶささささ、くにゅうにゅう……) 至高の感触に思考は断絶され嗜好が覚醒する。 虚であるが故に巨に恋焦がれ続けたルイズ・フランソワーズ。 白き肉の奔流に溺れながらも、唇を焦がす程に熱い美酒を貪欲に飲み干す。 女王蜂の発するフェロモンの如き汗の香りは心肺を侵略し理性を四散させる。 まるで生き物のように姿を変えながら這い回る四つの白い球。 それはまさに生き物であり、魅惑の効果を放ち続ける"巨夢の魔法"であった。 (そう、私は伝説を体感した――!) 視界が真っ白い光に包まれる。 それは星の光だった。 意識が天空の頂をも飛び越え星々にまで至ったのだ。 星光の中、ルイズは悟る。 ("巨夢"は、此処に在る) 嗚呼、始祖ブリミル。 有難う御座います。 第21話 巨夢のティファニア 完? 「……何やってんだい?」 ルイズ達が盛大に転んだ音を聞きつけて戻ってきたマチルダが、 凶器の域に達した乳房に顔をふさがれ窒息して臨終寸前のルイズを救出する。 実は本気で危なかったルイズだが、息を吹き返した途端、恍惚の表情でこう抜かした。 「もう……死んでもいい……」 「だったら死にな、来世は牛になるよう願うんだよ」 呆れ返ったマチルダは、皿洗いの続きを言葉とティファニアに任せ、 朦朧としたままの精神的な意味で危ないルイズを、言葉が使っていた部屋に運んだ。 そしてティファニアが面倒を見ている子供達に、ルイズが大の苦手の蛙を取ってこさせると、 躊躇微塵も無く蛙をルイズの顔面に乗せてやる。 これこそ魔法学院で得た知識(ゼロのルイズの下らない噂や悪口)の有効活用である。 天にも届くような悲鳴と共に、ルイズはお星様から帰って来た。 一方、足手まといのルイズがいなくなったおかげで素早く皿洗いを終えた言葉とティファニア。 ルイズがいないから何を話したらいいか解らないが、 楽しくお話できたらいいなとティファニアは思う。 「あの、コトノハは――」 「すみませんが、この家を案内してもらえませんか? ウェールズさんにもご挨拶したいですし」 「案内するほど広い家じゃないけれど……コトノハもウェールズと仲がいいの?」 「いいえ、あまり」 共通の話題を見つけたと思った直後に潰された。 それでもめげず、ティファニアは言葉に部屋を案内した。 といっても、台所とくっついてる居間を除けば部屋は二つしかない。 ひとつはティファニアの部屋で、先日まではルイズが使い、今は言葉が使っている。 もうひとつの部屋はウェールズを担ぎ込んで、ずっと彼が使っているそうだ。 「ではルイズさんはどの部屋で?」 「居間の暖炉の前で。私とマチルダ姉さんと三人一緒に毛布で寝ました」 「そう……ですか」 つまらなそうに言葉は言った。 なるほど寝込みに指輪を盗もうとしても、マチルダと一緒なら気づいてもらえる。 (私……何を考えてるの) 視線を伏せ、左手を軽く握った。甲に刻まれたルーンが目に留まる。 (……でも、誠君のためだから……) ルイズと一緒にいたい。 それ以上に誠と。 それが言葉。 「ところでルイズさんは大丈夫でしょうか……」 「すごい悲鳴だったものね。マチルダ姉さん、いったい何をしたのかしら?」 言い終わるとほぼ同時に家の戸が開き、フードのついたローブを着たマチルダが入ってくる。 ルイズの悲鳴の後、マチルダは心配無用と告げて納屋に向かったのだが、 どうやら旅支度を整えてきたようだ。 「マチルダ姉さん、出かけるの?」 「ああ、港町ダータルネスまでね。夕食はいらない、遅くなるから先に寝てな」 「港町にお仕事?」 マチルダの本業を知らないティファニアの純粋な疑問だった。 暴露してやろうかという意思があった訳ではないが言葉は冷笑し、 それが酷くマチルダの癇に障った。 「コトノハ。余計な事をしでかしたら、いくらあんたでもただじゃおかないよ」 かつて言葉の狂気と凶器に恐怖し屈服した女が言ってのけたのは、 精神的に成長したとかではなく単純に言葉という人間に慣れただけである。 「……お気をつけて」 どうでもよさそうに言葉は見送る。 多分、トリステインに帰る船を調べに行くのだろうと察しながらも。 賄賂を渡して船の片隅に乗せてもらうか、それともひっそりと密航するか。 どちらにせよ、無駄な努力である。 ルイズもマチルダも、アンドバリの指輪が死者を生き返らせると知っている。 だが人の意思を操る事を知っているのは言葉のみ。 港町ダータルネスに着いたら堂々と正面から、指輪で操った兵に船へ案内させればいい。 だから、一応味方の立場にいるマチルダに無駄な労力を負わせる必要はない。 が、ルイズの側にいられては指輪を取る障害となる。 だから行けばいい、港町ダータルネスへ。 マチルダが帰ってくる頃には、きっと誠も生き返ってるだろう。 この家を出て行くまでなんて、待てないから。 事件は昼に起こった。 教会でルイズを裏切った事、レコン・キスタに侵入した時の事を直接聞きたいとウェールズが言い、 どこまで正直に話すかは疑問だが言葉はそれに応じた。 その間、ルイズとティファニアは外で洗濯物をほしていたのだが、 見るからにガラの悪い男達が十数人という数で、それぞれ武器を持ってやって来た。 「何か用?」 強気に出るルイズだが、男達は下卑た笑いをする。 「こいつぁいい。まだ乳臭いガキだが極上の上玉だ。そっちのデカ乳も入れりゃ、大儲けよ」 「あんた達、盗賊?」 「貴族派の傭兵だよ。本隊とはぐれて、満足に飯も食えねぇ有様さ。 そこでちょっと小金を稼がせてもらおうと思ったが、お前さんりゃを売れば金貨四千はいくぜ」 「貴族派の傭兵?」 ルイズは一瞬、ウェールズと言葉がいる部屋へ視線をやった。 口振りからしてルイズとティファニアをいかがわしい目で見ているようだが、 それはむしろルイズを安心させた。 貴族派にウェールズの居場所が知られた訳ではないようだ。 しかしここで彼等の略奪を許せば、家の中にいるウェールズも発見されてしまう。 この数が相手では"ゼロ"のルイズでは歯が立たない。 ティファニアはハーフエルフとはいえ魔法は使えないようだし、二人ではどうにもならない。 こういう時に頼りになりそうなマチルダは現在留守。 となれば、まだ回復してないながらトライアングルメイジであるウェールズと、 ガンダールヴの力を持つ言葉に頼らねばこの窮地を脱する事はできない。 助けて、と悲鳴を上げれば家の中の二人に声は届くだろう。 しかしそれまでの間に、もし、自分達が捕まって人質にされようものなら……。 いっそ家の中に逃げ込むか? いや、貴族が卑しい盗賊風情に背を向けたとあってはヴァリエール家末代までの恥! 「テファ、私が囮になってる間に、コトノハとウェールズ様に助けを求めて」 小声で指示され、ティファニアは一歩、前に出た。 ナウシド・イサ・エイワーズ……。 振り向くルイズ。貴族しか、メイジしか持たぬ杖を、ティファニアが持っていた。 ハガラズ・ユル・ベオグ……。 勤勉なルイズは魔法を使えない身の上なれど、学院で学んだ魔法の詠唱はすべて暗唱できる。 ニード・イス・アルジーズ……。 だがこんな詠唱は聞いた事がない。火ではない、水ではない、風ではない、土ではない。 ベルカナ・マン・ラグー……。 でも不思議と、ルイズはこの詠唱を知っている気がした。懐かしいとさえ思う。 脈々と受け継がれてきた血が知っていた。この詠唱は本物だと。 「テファ……?」 問いかけると同時に、ティファニアは小さな杖を振り下ろす。 大気が歪み、男達を包み込むと、霧が晴れるように消えうせる。 「……ありゃ? 俺達、ここで何してんだ?」 「つーか、ここどこよ?」 うろたえる男達に、ティファニアは落ち着いた声で言う。 「あなた達は森に偵察に来て迷ったのよ」 「はえ? そうなのか?」 「隊はあっち。森を抜けると街道があるから、北に真っ直ぐ行って」 「ああ……そうする」 ふらふらと、寝惚けているかのような、あるいは酔っ払っているかのような足取りで、 男達は森の方へと立ち去っていく。 その光景を見て、ルイズは何も言えなくなってしまい、口をパクパクとさせていた。 そんなルイズを見て、ティファニアは恥らうような声で言う。 「か、彼等の記憶を奪ったの。"森に来た目的"の記憶よ。 この村の事も、私達の事も忘れちゃってるから大丈夫 「せ、先住魔法?」 違うと確信しながらもルイズは問わずにはいられなかった。 先住魔法なら杖は必要ない。だから系統魔法のはずなのだ。 詠唱を聞いてた時に感じていた確信めいた何かを、今はもう感じない。 だから訳が解らなかった。 ただ確かなのは、ティファニアが"記憶を奪う"という魔法を使えるという事実。 (――まさか、虚無?) 一瞬の突飛な思いつき。しかし虚無かどうかよりも、もっと重要な事柄があった。 ルイズの疑問が、次々に氷解した。 この村とティファニアの存在を明かしたくなかったにも関わらず、ここに案内したマチルダ。 土くれのフーケではない、真実の名前とおぼしき名前を明かしたマチルダ。 ハーフエルフを匿っているという事実を知られながらも自信にあふれていたマチルダ。 それはつまり、自分達がここから去る時、それらの記憶を消すという事。 皇太子としての名誉を蹂躙すればウェールズを救えると言ったマチルダ。 それはつまり、ウェールズから皇太子の記憶を奪えばレコン・キスタに特攻などせず、 ただの平民としてこの地で平穏無事に生きていけるという事。 さらにマチルダはルイズ本人には言わなかったが、ウェールズと同じ手段で、言葉を救える。 言葉から誠の記憶、ルケギニアに召喚される前の記憶などを消し去れば、 惚れ薬の時とは異なる形で、忘却という救済の元、精神に安定を取り戻すだろう。 ウェールズを救う方法があると言ったマチルダだ、当然言葉も救えると知っていたはず。 だがそれを言わなかったのはきっと、ルイズが断ると考えたからだ。 ルイズは思い出す、惚れ薬に心を惑わされたままの言葉でいさせてやる優しさもあった事を。 あの事件をマチルダは知らないだろう。 けれどルイズが言葉の思い出や誠も大事にしようとしている姿を見れば、 忘却などという逃げに屈したりはしないだろうと思ったかもしれない。 もしルイズが恋人を喪い、絶望に打ちひしがれたとしたら、 忘却という逃亡に走ってしまうかもしれない。 でも言葉は心を壊しながらも決して手放そうとせず、 その一途さはうんざりすると同時に羨ましくも思う。 心壊れていても、言葉が言葉でいられるのは、その狂愛があるからだ。 でも、ティファニアなら言葉を救えるというのも、間違いなくて。 「その、その魔法で、テファ、記憶を……コトノハの……」 そこまで言い、ルイズは口を閉ざした。 こんな救済、言葉は望まない。 心が壊れる前の言葉こそ真の使い魔であり、その言葉に出会うためにがんばろうと決めた。 できる。 今、ティファニアに頼めば、すぐにでもできてしまう。 「ルイズ? コトノハの記憶を……消したいの?」 困惑気味なティファニアの声に、ルイズは首を横に振った。 「ごめん。違うの何でもないっ……忘れて……」 言葉を救いたいのに、目の前に救う手段があるのに、ルイズはその場から逃げ出す。 残されたティファニアは呆然とルイズの背中を見送っていた。 ルイズと言葉がこの村を去る時、記憶を消さなければならない。 けれどできるなら、友達の記憶は消したくない。 でもルイズは言葉に忘れてもらいたい記憶がある? その記憶とは、何だろう。 ティファニアは、マチルダとルイズが大事にしていた鞄を思い出した。 あの鞄は言葉の物で、今は言葉の手にあり、言葉はマチルダ達以上に鞄を大事にしている。 つまりあの鞄の中が、きっとそれに関係あるのだろう。 何が入っているんだろう。 家の壁に背もたれながら、言葉は天を仰いでいた。 ウェールズとの話を終え、ルイズとティファニアが洗濯している間に武器を探そうと、 裏庭にある薪割り用の斧を手にとってみたが、ルーンは輝かず武器と判断されなかった。 残念がりながら家に戻ろうとした時に、盗賊達が来た。 一部始終を見た。盗賊達が記憶を奪われ帰っていく様を。 一部始終を聞いた。記憶を消す魔法の存在を。 あの魔法を使えば、言葉は誠の存在を忘れ去り、ルイズの忠実な使い魔となる。 なのにルイズは、一度は頼みかけながらも、それをやめた。 「それでも……私は誠君の、彼女ですから」 ルイズよりもアンドバリの指輪を見つめる言葉。 もし指輪をしているのがルイズでなければ手荒な真似をしていたかもしれない。 「よかったですね、ルイズさん。私がルイズさんの事を好きで」 自嘲の笑みは痛々しく、しかしそれを見る者の姿はなかった。 第21話 虚無<ゼロ>のティファニア 前ページ次ページ鮮血の使い魔