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魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS 第2部 ―――1 第17無人世界にある惑星ホスは、鉄とニッケルから成る核の部分以外は総て氷で出来ている不毛の世界である。 表面は猛烈なブリザードが常に吹き荒れていて、例えしっかりした防寒装備を身にまとっていようとも、数時間も 経てば氷のオブジェと化してしまう。 広域次元犯罪者の刑務所がここに作られたのも、その苛酷な環境が脱走を防ぐのにうってつけだったからである。 収容されているのはジェイル・スカリエッティ以下JS事件の主犯全員で、惑星の核の中に作られた監房区画に 隔離されている。 外部との接点は、表面にある居住・運営区画からエレベーターを通じて毎日決まった時間に送られる食事のみであり、 侵入・脱獄共にほぼ不可能という点において、まさに理想的な重罪犯の刑務所と言えた。 猛烈な風と共に横殴りに吹き付ける雪で日中も薄暗い空を切り裂いて、隕石が一つ落ちてきた。 激突時の物凄い爆発音はブリザードの轟音に掻き消され、立ち上った煙も雪と風によってたちまちの内に吹き散らされる。 雪が積もり始めたクレーターの底では、隕石が例のゴガガギギという音と共に変形を始めた。 第97管理外世界ではジャガーまたはピューマと呼ばれる、獰猛な猫科の大型捕食生物へと姿を変える。 違いは全身金属製である事と、一つ目で腰の上に機関銃付きのミサイルランチャーが付いている事だ。 “デストロン軍団諜報破壊兵ジャガー”は、身体を揺すってこびりついた氷を払い落とすと、強力な肢を振るって一気に クレーターを駆け上がって行った。 “ピッ” 警告音と共にオペレーターの眼前にある空間モニターに、“隕石が衝突”というデータが表示された。 近くに小惑星帯があるホスでは、隕石の落下は日常茶飯事で気にする者など誰もいない。 この時も、焦点の見当たらない眼に骸骨そのもののような顔立ちをしたオペレーターが、うんざりした様に 首を横に振っただけだった。 「おかしいな…」 オペレーターはそう呟きながら表示を消すと、天井を仰ぎながら背伸びをする。 「近くの基地と連絡はまだ付かないか?」 ライオンの頭に四枚の鳥の翼を背に生えている士官からの問い掛けに、オペレーターは姿勢を正してから 振り向いて答える。 「はい。更に付け加えるなら、軍用通信はおろか民間用のネットワークも使用不能になっております」 「確かにおかしいな…」 士官もそう呟くと、腕を組んで考え込む。 「警戒レベルを引き上げますか?」 オペレーターの言葉に、士官は渡りに船とばかりに頷いて言う。 「うむ、そうだな。 所長とちょっと話し合ってみよう」 普通の生物なら足を取られる深い雪の中を、滑って転びそうな氷河の上を、ジャガーは強力な肢と岩をも砕く鋭い爪 でもって難無く駆け抜ける。 障害物はミサイルポッドの上にあるレーダーで探知するので、行く手を妨げるものは何もない。 やがてジャガーの眼前に、ブリザードを除ける為に深く丸く掘り下げられた窪地が見えてきた。 窪地の縁に立つと、ジャガーはゆっくりと縁を廻りながら、光学・赤外線・紫外線などの映像やレーダーで下の状況を 詳しく調べ上げる。 窪地の中心には、イヌイットのイグルーと同じドーム型の造りをした刑務所への入口がある。 その周囲には重さを検知できる感圧センサーがびっしりと張り巡らされ、更には建物の頂上部分にはレーダーが設置 されていて気付かれずに侵入する事は不可能となっている。 ジャガーの口から、小さな昆虫型ロボットが一匹出て来た。 それは“インセクトロン”と呼ばれる、諜報と偵察を主任務とする超小型トランスフォーマーである。 あまりに小さいくてレーダーにまったく映らないこのメカイノイドは、悠々と空を飛んでレーダーサイトの基部に取り付く。 インセクトロンは基部の上を動き回ってレーダーの制御基盤と繋がっているケーブルを見つけると、そこに口吻を突き 刺してレーダーの中枢システムと直結する。 “案内人”から得たデータを基にシステムを解析すると、インセクトロンは偽のレーダー情報を流し始めた。 レーダーが無効化された旨を伝えられたジャガーは、縁から少し下がって距離を取ると、助走を付けて建物の屋根まで 一気にジャンプした。 レーダーサイトの隣にある通気孔のカバーとフィルターを前肢で破壊すると、口を大きく開いて屈み込む。 すると口の中から大量のインセクトロンが湧き出し、滝の如くダクトの中へと流れ込んで行く。 インセクトロンの大群は床に落ちる前に羽根を広げて飛び立ち、音を立てる事なくダクト内を探索する。 分岐に差し掛かれば二手に分かれ、通風口があれば二~三匹が降り立って外の様子を偵察する。 この数にものを言わせた人海戦術(?)で、たちまちのうちに刑務所内部の構造――職員の居住区画、指揮統制を行う 中央管制室、監房区画へ通じるエレベーターといった重要施設の場所――が白日の下に曝される。 ジャガーの口の中から、今度は十数体の掌サイズの小型ロボットたちが飛び出し、通気孔へと飛び込む。 彼等は“リアルギア”という名の、破壊活動や暗殺などの潜入工作を主任務とする特殊部隊であった。 リアルギア達はダクト内へ降りると、二体はエレベーターの方へ、残りは中央管制室へと二手に分かれて向かった。 刑務所内は一切の装飾が排除された実用性一点張りの造りで、勤務する人間にとっては非常に退屈な場所 である。 「くそっ。トンタークの軌道ステーションで酒と女が待ってるってのに突然警戒レベルを引き上げやがって…。 上は何考えてやがんだ?」 偃月刀型のデバイスを持った、彫りの深い顔立ちのアラビア系と思しき魔導師が、休暇を邪魔されたグチを デバイスにこぼしながら、殺風景な廊下を巡回していた。。 「私に言われても困ります」 デバイスの方はそんな様子の主に対して冷静に答えを返して来る。 「そんなこと言うなよ、お前と俺の仲じゃないか~」 「いつから私たちはその様な関係に? マスターは変態ですか? それよりとっとと任務に戻ってください」 泣き落しを受け流された上にどん底に叩き落とされた魔導師は、肩をがっくりと落としながら角を曲がって姿を消す。 それと同時に、天井の通風口からインセクトロンが湯船から溢れ出すお湯の如く、大量に湧き出始めた。 インセクトロン達は天井全体へ絨毯のように拡がると、軍隊蟻を彷彿とさせる動きで、いくつかの場所に集まって 団子を形成する。 団子は次第に大きくなり、それぞれが合体を始めて一つの大きな物体を形成する。 やがて物体は複数の鎌を持つ、一つ目のカマキリのような化け物へと姿を変えた。 “リードマン”という名前を持つそれは、光学迷彩を展開して周囲の景色に溶け込む。 しばらくして別の魔導師が二名巡回にやってきたが、天井で息を潜めるリードマンにまったく気付かなかった。 目次へ 次へ
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襲撃から一夜開け、被害を免れた一部の地上本部局員は本局と連携をとり事態の収拾に着手していた。 そして、その甲斐があってか崩壊した機動六課隊舎の瓦礫を早急に除去、避難シェルターの入口を発見し無事救助 更に近くに倒れていたフォワード陣もまた早急に聖王医療院へと搬送された。 一方でスバルの後を追っていたティアナは右腕に怪我を負って倒れているスバルを発見、 ティアナは傷口を見るや否や先端技術医療センターと連絡を取り、その後に現れた搬送車によって搬送、ティアナも同行者として乗り合わせた。 そしてなのはの身を案じていたフェイトは医療院に辿り着くと、うつ伏せの状態で倒れているなのはを発見、 すぐさまなのはを抱え医療院に向かうと院内ではヴァイスとシャッハが治療を施されてる姿があり、 フェイトは二人から事情を聞き、ヴィヴィオが攫われた事を知るのであった。 リリカルプロファイル 第二十二話 扉 …事件から一週間が経ち、ミッドチルダ全土は今回の事件で持ちきりな状態が続いている。 マスメディアの一部はスカリエッティの所業、管理局の失態などを取り扱っているが、その多くは最高評議会の声明を取り扱っていた。 最高評議会は神の三賢人と呼び名を変え、巨大な次元航行船ヴァルハラにてミッドチルダ全土を破壊すると宣告した。 つまり“未曾有の危機”は彼等三賢人の手によって起こされるという事を指し示す声明である。 その事をマスコミは管理局には責任があると報じるが、管理局側は今回の事件は最高評議会の独断による声明で、我々管理局の意向ではないと表明した。 そしてその意を民衆に伝える為、三賢人が関わる事件に関わった人物の逮捕に勤めていた。 今まで三賢人に関わる事件は改ざん、削除、抹消されていたのだが、 ある男の死によって無限書庫に存在する事件簿の情報が復活を遂げ、その情報を基に次々と逮捕する事が出来たのである。 そして今回の逮捕劇の要であるこの情報は功労者の名を取りレジアスレポートと呼ばれるのであった。 話は変わり此処聖王医療院の通路に右手には花束、左手にはフルーツの盛り合わせが入ったバケットを携えたフェイトが歩いていた。 フェイトは今回の事件で負傷・入院をしたエリオとキャロ、そしてなのはの見舞いに来たのである。 そして暫く通路を歩きエリオとキャロの病室に入るフェイト、 二人は窓側にキャロ、その隣にはエリオと並ぶように位置をとっていた。 『フェイトさん!!』 「二人共、お見舞いにきたよ」 そう言うと花瓶に花を生け、台にバケットを置くと二人の間に座るフェイト。 二人はフェイトの顔を見て明るい表情を見せるが、すぐに暗い表情を覗かせる。 二人は今回の戦闘で大きな傷を残していた、それは肉体ではない心の傷である。 ――元々…アナタ達に居場所なんて無いでしょ…―― 二人が対峙した少女、あの少女が放った言葉が今でも二人の心に深く刺さっている。 居場所……二人の居場所である機動六課隊舎は既にもう無い、それは即ち自分達の居場所はもう無いという意味と同義であると考え落ち込む二人、 すると二人の表情を見たフェイトは、椅子から立ち上がり二人に近づくと優しく頭を撫でる。 「大丈夫、私は此処にいる、二人の“居場所”はちゃんと此処にあるんだよ?」 フェイトの言葉に二人はフェイトの顔を見上げる、二人は何も一言もフェイトに胸の内を話してはいなかった。 しかしフェイトにはちゃんと二人の気持ちを理解していたのだ。 そしてフェイトは言葉を続ける、確かに隊舎は無くなってしまった。 でも“居場所”とは自分が“居る場所”だけを指し示している訳ではない、 自分が安心する・出来る所、つまり“拠り所”という意味も指し示していると優しく語る。 「…それとも私じゃ、二人の“拠り所”になれない?」 『そんなことありません!!』 二人はフェイトの問い掛けに声を合わせ力一杯否定する、自分達が此処にいるのはフェイトさんが拾ってくれたから、 もしフェイトさんと出会わなければ、自分達はずっと施設に居たかも知れない。 そう二人はフェイトに感謝の弁を述べると、自分達の心からある感情が湯水のように沸き上がる。 …自分達にはフェイトさんという“居場所”が“拠り所”あるんだ! そんな喜びと安堵の感情を感じた瞬間、二人の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。 「あっあれ?……悲しく……ないのに…何で?」 「…人は安心した時にも…涙が出るんだよ?」 「…うぅ……フェイトさん!!」 フェイトの屈託のない笑顔に二人はフェイトの胸の中で泣き続け、二人の涙をその胸で優しく受け止めるフェイトなのであった。 そして二人は泣き疲れ眠りにつくと、フェイトは次の目的地であるなのはの病室へと赴く。 その時、向かい側からシグナムが姿を現す、どうやら同じく入院しているザフィーラとシャマルの見舞いを終え、 今度はヴィータの見舞いに向かうところのようである。 フェイトは軽く挨拶を交わすとシグナムは少し影を潜めた表情で返し、フェイトはシグナムの態度に首を傾げる。 するとシグナムはフェイトに、医者に言われた事を話し始める。 シグナムは二人の見舞いに来たところ医者に呼ばれ、二人…と言うよりヴォルケンリッターに関する変化が伝えられた。 本来ヴォルケンリッターとは夜天の書の一システムで、 騎士内でのリンクや主であるはやてから魔力を供給される事で得られる、無限再生機能などが上げられるが、 それらの機能は初代リインフォースの消失によって薄まる、もしくは消失していった。 だが、それらの事は前々から分かっていた事なのであるが、 今回は更に肉体の再生能力が低下し人に近いレベルにまでに至っているという。 つまりは重傷や致命的な傷を負えば“死”が訪れると言う事だ。 だが人に近づいたとは言え、その治癒力は高く、寿命や肉体の成長は起きないと付け加えられたと話す。 「そうですか…皆さんにそんな変化が…」 「あぁ…だがまぁいいさ、せっかく手に入れた“一度きりの生”だ、有意義に楽しむつもりだ」 そして今回の内容をヴィータにも話すつもりであると、人に近づいたとは言え肉体は成長しない… ヴィータはさそがし悔しがるだろうと、意地の悪い顔をしながら笑みを浮かべるシグナム、 その笑みに頬を掻き苦笑いをするフェイトであった。 シグナムと別れたフェイトは、なのはの病室に辿り着きベッドに近づくと、その姿は見受けられないでいた。 するとフェイトはベッドの隣に置いてあるハズの松葉杖が無いことを確認、 恐らく“アノ”場所へと向かったのだろうと判断すると病室を後にした。 此処は医療院の屋上、此処にはブランコや滑り台、砂場などがあり、まるで公園のような造りをしていた。 そしてその場所に存在するベンチにて右側に松葉杖を置き、 右手にはレイジングハートを握り締めた病院服姿のなのはが座り空を見上げていた。 なのはは今回の事件で使用したブラスターシステムの反動により、肉体・リンカーコア共にダメージが蓄積、 魔力は最大値の8%も低下し、肉体も松葉杖がなければ動けない程なのである。 その為此処医療院にて治療兼リハビリを受けているのだ。 そしてなのはの姿を見かけたフェイトは優しく声をかける。 「やっぱり此処にいたんだ」 「あっ…フェイトちゃん……」 フェイトの声に気が付いたなのはは、顔を向けるがすぐに空を見上げる。 その反応にフェイトの表情は少し陰りを見せるもなのはの隣に座る、そして暫く静寂に包まれると一つの風が二人の髪を靡かせる。 その風に髪を乱されたフェイトは、指で髪を解くと、なのはの口が開き始める。 「…私、ヴィヴィオを護れなかった……」 小さくか細い声で言葉を口にすると目線を下ろし遊具を見つめる。 なのはの目にはブランコを漕ぐヴィヴィオや、一緒に砂遊びをしているヴィヴィオの姿が幻影の様に映し出していた。 そしてそれらが蜃気楼の様に消え去ると、今度は目線をレイジングハートに変え握り締めると、ゆっくりと話し始める。 自分はヴィヴィオと約束した、ヴィヴィオを絶対護ると。 そして自分のモットーでもある全力全開でレザードに立ち向かった、 しかし結果はなす統べなく倒され簡単にヴィヴィオは攫われてしまった。 なのはは自分の弱さを歯噛みするも、もう自分には何も出来ないと諦めに近い表情を見せ話し続ける。 するとフェイトはベンチから立ち上がりなのはの前に佇む。 それに気が付いたなのはは顔をフェイトに向けると、辺りに乾いた音が響き渡る。 なのはは痛む左の頬を押さえフェイトを見つめると、フェイトは怒りにも悲しみにも似た表情を表していた。 そしてフェイトの怒号ともいえる声が辺りに響き渡る。 「しっかりしてなのは!そんなの…なのはらしくない!!」 「フェイトちゃん……」 フェイトの怒号の後に風が一つ激しく吹き収まると、フェイトは話し続ける。 十年前、なのはは自分と何度も対峙した、決して諦めずに自分を救おうと、そして友達になる為にも… はやてが闇の書に飲み込まれた時、決して諦めず救おうとしていた、 そして闇の書を消し去る時も管理局の切り札であるアルカンシェルを地上に向けて発射する事に対して、 決して諦めずに策を練り見事、闇の書を撃破した。 八年前の撃墜の時も、二度と飛べないかもしれないと伝えられても、決して諦めずリハビリを受け見事に復活した。 そんないつも諦めない不屈の心を持つなのはが吐く台詞では無いとフェイトは叫ぶ。 「攫われたのなら取り返せばいい、私の知っているなのははそう言う人のハズ……」 「フェイトちゃん……」 フェイトの叱咤の混じった励ましに俯くなのは、暫く沈黙が辺りを支配し 風が二人の髪を靡かせると、なのはは俯いたまま静かに言葉を口にし始める。 「ヴィヴィオ…今頃泣いているかな?」 「そうだね…アノ子は泣き虫だから…」 フェイトはそう言うと俯いたまま一つ笑みを浮かべヴィヴィオを思い返すなのは… 最初ヴィヴィオに出会った時はシャッハにデバイスで脅され泣いていた。 機動六課で引き取った時、ザフィーラの大きさに驚き、ジクナムの顔を見て泣き出したこともあった、 シグナムが珍しく落ち込んでいたのは見物だった… 聖王教会にて話を聞きに向かおうとした時、ヴィヴィオが泣きながら離れず困り果てた事もあった、 あの時程フェイトちゃんがいて良かったと思った事はなかった。 そして…ヴィヴィオは今でも自分を探して泣いているハズである。 そんな時に自分が塞ぎ込むわけにはいかない、ヴィヴィオは自分を待っているのだから! するとなのはは松葉杖を手に持つと歩き始める、その行動に思わずフェイトは声をかける。 「何処行くの?」 「リハビリに行ってくる」 今自分に出来る事は先ず、この体を満足に動かせるようにする事 そう話すなのはの瞳には不屈の炎が宿っていた。 その炎を見たフェイトは、歩幅をあわせなのはの後をゆっくりとついて行くのであった。 場所は変わり此処はゆりかご内に存在するスカリエッティの施設… 部屋ではレザードとスカリエッティがチェスを嗜んでいた。 スカリエッティは今こそ落ち着いてはいるが、一週間前は荒れに荒れていた。 それもそのハズ、スカリエッティは綿密に立てた計画を実行に移し、計画は順調に進み見事地上本部を壊滅させた。 そしてその光景を民衆に見せつけ管理局の無力さをアピールする算段であったのだが、 最後の最後に事もあろうに三賢人に回線を乗っ取られミッドチルダ壊滅を宣言されたのだ。 三賢人はスカリエッティが行っていた計画をお膳立てとして利用し、ミッドチルダの終焉をアピール 更にはヴァルハラと言う次元航行船を見せつける事で、絶望感を与えたのである。 最も忌むべき存在である三賢人にまんまと利用されたスカリエッティはモニターを叩き割るほどに怒りに震え、 その後のメディアの対応に新聞を破り捨てテレビを消すなどと、怒り心身といった状態が続いていたのであった。 「もう、怒りは収まりましたか?」 「……正直、ハラワタが煮えくり返るほどの怒りは残っているが、その怒りは奴らと出会った時に発散するよ」 それよりも今はヴァルハラの分析が優先だとスカリエッティは話しつつ城兵〈ルック〉を動かす。 スカリエッティの見解では、ヴァルハラは此処ゆりかごとほぼ同格の能力を持っていると考えている。 何故ならば、かつて三賢人はゆりかごの解析の為スカリエッティを此処に送り込むが、 スカリエッティはゆりかごを奪取し、此処を拠点としたのだ。 本来では三賢人は奪取されたゆりかごを血眼で探すのが普通であるのだが、捜索は簡単に打ち切られた。 それには訳があったのだ、その頃には既にゆりかごに取って代わるヴァルハラを建造していたのだろう。 つまり、ゆりかごを諦める事が出来る程の能力がヴァルハラにはあるとスカリエッティは考えていた。 すると今度はレザードが話し始める、ヴァルハラが陽炎の様に消えた技術、あれはまさしくルーンによる物だと。 つまりヴァルハラにはレザードの世界の呪法が使われているという事である。 レザードの話ではルーンの一部にはレザードの世界でも失われた呪〈ロストミスティック〉と呼ばれるほどの呪式が存在する。 それらが使えているということは、レザードと同じ世界から来た者がいるか、もしくは情報を持っていることを指し示す。 「成る程、それは厄介だ、ところでナンバーズとタイプゼロの方はどうなっているんだい?」 スカリエッティの質問に対し眼鏡を動かし騎士〈ナイト〉を動かすと説明を始めるレザード。 先ずナンバーズであるが、ノーヴェは失った右足の治療を終え現在リハビリを行っている。 次にチンクであるが体に違和感を感じている為、医療ポットで治療、今はそれも終え元気に模擬戦を行っていると。 次に回収した戦闘機人を調査したところ、我々が造り出した戦闘機人とは全く異なり、人に近い造りをしているという。 そして失われた左手はギミックアームとして修理を施し、更に洗脳までも施したのだが、 只の洗脳ではなく心の奥底に存在する感情を利用していると語る。 「彼女の奥に潜む感情……それは自分が地味であるという事 即ち、彼女の地味な性格を利用する事により、もっと目立ちたいという感情を芽生えさせ その結果、派手な破壊工作を行う事が出来るのですよ……」 「…………それは…冗談かね?」 「…………当然、冗談ですよ」 手を広げ肩を竦めるレザード、その態度に頭を押さえるスカリエッティ、 レザードの説明はリアリティがありすぎると窘めると、レザードは眼鏡に手を当て本当の説明を行う。 彼女の根底にある感情、それは妹に対しての愛情、それを引き出すことにより他のナンバーズと連携をとれるようにしてあると語る。 論より証拠、取り敢えず見て欲しいと言わんばかりにレザードはモニターを開き、ナンバーズの様子を映し出す。 モニターにはナンバーズの一人、ノーヴェとギンガがリハビリを兼ねた模擬戦をしている姿や、 セインとウェンディと楽しく談話している様子、更にはオットーとディードと一緒に食事をとり、面倒を見ている様子が映し出されていた。 「………見事に順応しているね」 「えぇ、計画通りです」 ナンバーズには腹違いの姉……もとい生まれが違う姉と紹介したところ、以外とすんなり受け入れられた。 故に此処まで順応しているのだろう、と言うのがレザードの展開である。 「そう言えば聖王はどうです?」 レザードの質問に顔を曇らせるスカリエッティ、暫くすると大きくため息を吐き女王〈クイーン〉を動かし近況を報告する。 鍵であるヴィヴィオの肉体は幼くリンカーコアも弱い、其処でレリックを使って魔力を上昇させ、ゆりかごを起動させるだけの肉体と魔力を補うと話す。 するとレザードから一つの提案が生まれる、それはベリオンに搭載されているリンカーコアを使うと言うものだ。 だがゆりかごは聖王の“遺伝子”がなければ機能しないとスカリエッティが主張すると、更に話を続ける。 先程のスカリエッティの主張通り、ゆりかごを動かすには聖王の血筋、つまり“遺伝子”が必要である。 つまり別に聖王自身が必要というわけではない、“遺伝子”と言う鍵があればいいのである。 故にベリオンのリンカーコアと接続させたレリックからもたらされる魔力を、 “聖王の遺伝子”に通す事により“聖王の魔力”に変えゆりかごを起動させると言うものであった。 「可能なのかね?」 「理論上不可能では無いハズです」 リンカーコアとレリックの強制接続はゼストのデータを基に可能であり、 リンカーコアと“遺伝子”は人造魔導師と戦闘機人技術の応用で何とかなると、 そして“遺伝子”提供は鍵から手に入れればいいと眼鏡に手を当て話すレザード。 「……となると、あの“鍵”はどうするのかね?」 「まぁ、レリックウェポンとしても優秀ですから、戦力として使えるでしょう」 いざとなれば、ベリオンのサブとしても利用価値はあるとレザードは話す。 そしてレザードは笑みを浮かべ城兵を動かし、チェックメイトをかけるのであった。 それから一週間以上が経ったある日、此処聖王教会に存在する会議室では、今後の対策の為の会議が行われようとしていた。 会議室にはカリムを中心に右の席にはクロノとその側近であるロウファにユーノ、 左の席にははやてとその側近であるグリフィスにフェイトとリハビリにより、 体はある程度動けるようになったなのはの姿があった。 そして予定された時間になり会議が開始され、最初にカリムが語り始める。 今回、地上本部壊滅を防ぐことが出来ず、予言は覆らなかった。 更に三賢人の発言によりスカリエッティが“無限の欲望”であると判明、 それと同時にレザードが“歪みの神”であることは間違いないと話す。 そしてレジアスレポートにより復活した無限書庫に存在するデータベースにより、様々な事実が明らかにされたと語る。 そして議題は三賢人に関する内容に移り、ロウファが席を立ちモニターへと赴き説明を始める。 先ずはヴァルハラからの説明であるが、レジアスレポートを元に調査した結果、 ヴァルハラとはミッドチルダの魔導技術を基に、アルハザードの技術とロストロギアであるレリックを使った次元航行船であると言う。 レリックは本局と地上本部に保存されていた物を横流しする事により入手、 アルハザードの技術は三賢人が元々持っていた情報である可能性が高いと指摘、 だがアルハザードの技術の情報はレジアスレポートの情報だけではなく、“独自”のルートによる情報が功をそうしたとロウファは語る。 更にヴァルハラの性能は最新の次元航行船を大きく越えた性能を持つ、まさに現代の技術によって作り出されたロストロギアであると説明を終える。 次にエインフェリアであるが、此方にはルーンと呼ばれる技術が使われており、ヴァルハラと同じ扱いであると簡単に説明を終える。 次に今回の事件の発端でもあるスカリエッティに関する情報であるが、此方はグリフィスが席を立ち説明を始める。 今回の事件でティアナが入手したディスクとレジアスレポートの情報を基に奴らの場所を特定、聖王のゆりかごと呼ばれる次元航行船に存在すると説明する。 聖王のゆりかごとは、古代ベルカの王が使用していた質量兵器で当時は戦船と呼ばれた代物である。 「歴史的価値がある聖王のゆりかごが、このような形で表に出るとは悲しいことです」 「……その通りですね」 カリムの言葉に頷くユーノ、だがグリフィスは更に話を続ける。 ディスクの持ち主の話ではゆりかごにもルーンと呼ばれる技術が使われており、 ゆりかごの他にもヴァルハラ、エインフェリアの動力源に使われ、更には不死者の脳に刻まれた呪印もそうであるという。 このルーンの情報はレジアスレポートによって復活した無限書庫のデータベースを基に手に入れた魔導書によって解ったことである。 更に元々ルーンはロストロギアともアルハザードの技術とは異なる技術で、 無限書庫の奥深くに隠すように保存されていたという。 そしてこのルーンはスカリエッティ側、三賢人側、両方にもたらされている技術であることは間違いないと判断する。 「つまり…おんなじ技術が両方で使われているっちゅう事か……」 誰かが無限書庫の情報を横流ししたのか、それともただの偶然か… だがどちらにせよ、驚異である事には変わりがないと考えるはやて。 次に対策であるが、先ずカリムは居場所が特定されているスカリエッティの方から攻略を始めた方がよいと考えを述べる。 何故ならば予言を考慮すると三賢人は“神々の黄昏を告げる笛”が鳴り響くの待っている可能性があるためだ。 ゆりかごはルーンによって存在次元をずらされているのだが、無限書庫の情報により短い時間ではあるが、 ルーンを中和する事が出来ると判明、その間に潜入・大本であるルーンを解除するという。 その役はカリムの義弟であるヴェロッサと、彼が信頼する仲間が行うという。 次の対抗策であるが、戦力として教会騎士団も協力するとは言うが、一斉に黙り込む一同。 片方は現代の技術によって作り出されたロストロギアの塊で武装した三賢人… もう片方は過去に幾つもの世界を滅ぼしたロストロギアを保有した歪みの神と無限の欲望… この二大勢力に幾ら聖王教会から戦力を借りたとしても満身創痍の管理局が向かったところで勝ち目はない。 「本局に応援要請はでけへんの?」 「…本局は次に狙われる事を考慮して戦力を温存しようとしている、十中八九無理だな」 クロノの発言にそれぞれは落ち込む表情を見せる中、ユーノがそっと手を挙げる。 「現実的じゃないけど、手は無い訳じゃないんだ」 そういうと一つの本を取り出す、本の表紙には円に囲まれ中心には正三角形が均等に並ぶ魔法陣が描かれていた。 レジアスレポートによってもたらされた情報は何も最高評議会だけではない、 削除された為、永久的に解けなかった謎が解け、新たな情報に繋がる場合も存在していたのだ。 そしてこの本は、それによって表に出た本であると説明する。 無限書庫には二通りの情報の保存方法がある、先ずは物質による保存法つまり本である、 もう一つは無限書庫の奥の奥、原初の頃から存在する今でも解析不可能なエネルギーによる電子的な保存法である。 そして物質的な保存法であるこの本には特殊な力場によって時間劣化が起こらないように出来ているという。 恐らく表に描かれている魔法陣による効果であるとユーノは興奮するように説明すると、 周りの冷ややかな目線に気が付き、自重するように一つ咳をすると話を戻す。 この本の題名は流浪の双神と書かれ、ある神の話が書かれているとユーノは語る。 …双神は時間・世界・事象のあらゆる次元を渡り歩く放浪者… 神の名は男神ガブリエ・セレスタと女神イセリア・クイーン… 神は強き者を好み、自らが生み出した世界にて強き者を待っている… そして神が与えた試練を乗り越えた者のみ神と対峙する権利を得られる、 そして神にその強さを認められれば、神は力を貸すという内容なのである。 更にこの本には神の住まう世界セラフィックゲートへの扉の位置が記されているとユーノは語るとクロノが声を荒上げる。 「バカな!こんな世迷い言を信じろと?」 「僕も最初はそう思ったさ、でも此処に記載されている扉は実際に存在するんだ」 ユーノの一言に一同は動揺しざわめく中、話を続ける。 此処に記載されている場所の説明と今の地形、更にこの時代の地形を照らし合わせた結果、その場所は此処聖王教会の地下と判定、 そこでカリムの協力を得て調査すると近くに鍾乳洞があり、そこから地下数千メートルの位置に存在する空洞を確認、 其処には本の表紙に書かれている魔法陣が描かれていたという。 つまりこの本の信憑性が実証されたと言う事である。 神の世界への道は見つけた、次に誰が向かうのかであるが、はやては機動六課のフォワード陣を現地に向かわせる事を提案する。 しかしなのはだけには留守番をするように命じた、何故ならば未だ体が万全ではない為、治療に専念させる為にである。 しかし周りの制止を無視して自分も行くと聞かないなのは、 その瞳には決意と不屈の色が宿っており、はやてはこうなったなのはを止める事は出来ない考え、渋々了承する。 そして現場には明日向かうことで会議は終了、早速なのはとフェイトは今回の決議を他のフォワード陣に伝えるのであった。 その日の夜…、此処聖王教会の敷地内に存在する中庭にて、なのはが一人ベンチに座り物思いに呆けるように夜空を見上げていると、 そこに一つの影が姿を現す、なのははその影に気が付き目を向けると、其処にはユーノの姿があった。 「あっユーノ君…」 「お邪魔だったかな?なのは…」 ユーノの言葉に首を振り屈託のない笑顔を見せると、ユーノはなのはの隣に座る。 辺りは沈黙に包まれ、虫の鳴き声が静かに響き渡る中、静寂を優しく切るようにユーノの口が動き出す。 「……ヴィヴィオの事、考えてたの?」 「……うん」 ユーノの問いかけになのはは一つ頷くと静かに話し始める。 最初はあの男、レザードの言う通り同情の目でヴィヴィオを見つめていた。 しかし共に過ごしていく内に自分の心にヴィヴィオへの思いが広がっていった。 レザードはそれを同情から生まれたの優越感だと罵ったが、自分はそう思ってはいない。 自分の心に広がるヴィヴィオへの思い…それは絶える事無く募っていく。 自分の思いは本物である!そう確信した瞬間、心の底でヴィヴィオの母親になりたいと思うようになった。 そう語るなのはの目には迷いは無く、決心に満ちた色を宿していた。 「もう自分の想いに嘘をつきたくない!」 「そうか……それじゃあ僕も自分の想いに正直になろうかな」 「えっ?」 ユーノの言葉に驚き顔を向けると、ユーノの唇がなのはの唇に重なり合う。 暫く沈黙が続き唇を離すと、なのはは頬を染めユーノに目を向けると、 其処には男の顔をしたユーノ・スクライアの姿があった。 「なのは…愛しているよ」 「ユーノ……君」 「こんな時にこんな事を言うのは卑怯かもしれないけど…」 なのはが自分の想いに正直になったように、自分もまた、自分の想いに正直なろうと。 十年前に出会ってから、二人はそれぞれの道を歩んで来た。 だがそれでも自分は、なのはの支えとなろうと努力してきた。 なのはの支えになる…その想いは昔も、今も、そして未来も変わらない、 二人の絆が消える事は無い、寧ろ堅く結ばれていくのを感じている。 そして照れ臭さそうな笑みを浮かべ更に話を続けるユーノ。 「それに…ヴィヴィオには男親も必要だと思うし……」 そんな事を口走ると今度はなのはから目線を逸らし俯くユーノ、自分はヴィヴィオを盾にして告白する破廉恥な男と感じ恥じていたのだ。 そんなユーノの態度になのはは笑顔で、そんなことは無い…ユーノはヴィヴィオの為を思って言ってくれた言葉であると理解を示し、 更に顔を真っ赤に染め小さく頷くと意を決したように話し出す。 「ユーノ君…私を“女”にして」 そう言うなのはの顔は真っ赤に染まったままだが、その目は真剣そのものである。 レザードの話ではないが、自分は母親になる前にユーノの“女”になりたいと望んでいる。 その言葉にユーノは無言になるが、その目にはなのはと同じく真剣そのものであった。 その目を見たなのはは目をゆっくり閉じると、ユーノは優しく答えるように、なのはの肩を抱き締め 唇を重ね合わせ、二人だけの夜が始まり更けて行くのであった。 夜が明けた次の日、聖王教会によって割与えられた部屋のベッドの上には上半身裸のユーノのが寝ており、その近くではなのはが制服に着替えていた。 すると着替える音に気が付いたユーノが上半身を起こすと、それに気が付いたなのはが目を合わせる。 「あっ起こしちゃった?“ユーノ”」 「ううん、今起きようと思っていたところだよ、なのは」 二人は軽く挨拶を交わすと頬を赤く染め上げるユーノ、どうやら昨晩のことを思い出していたようである。 すると着替え終わったなのはが入り口に向かうとユーノに目を向ける。 「それじゃあ、行ってきます、ユーノ」 「うん、いってらっしゃい、なのは」 二人は挨拶を交わしなのはは部屋を出る、そして凛とした態度で集合場所に向かうのであった。 集合場所にははやてを中心にフェイト、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマルに スバル、ティアナ、エリオ、キャロとフリードリヒが並び立っていた。 そして道案内にユーノの秘書を勤めているメルティーナの姿も見受けられた。 「なのはも来た事やし、いっちょ行ってみますか!!」 「うん!行こう、セラフィックゲートに!!」 なのはの合図に全員は気合いを込めて返事をし、いざセラフィックゲートへと続く空洞へと向かうのであった。 その道中、先頭を歩くメルティーナに続き、はやてとフェイト、少し離れた位置になのはの姿があり、二人はなのはの印象が変わったように見えていた。 いつものような優しい顔だけではなく、ふと見せる凜とした大人の顔が垣間取れていたのだ。 たった一晩で一体なのはに何が起きたのか?…二人は首を傾げていた。 「なのは、昨晩何かあったのかな?」 「さぁ?分からんなぁ~」 「彼女はきっと“女”になったのよ」 二人のヒソヒソ話に耳を傾けていたメルティーナが二人の疑問に答える。 その答えにはやてはニンマリと不気味な…イヤらしい笑みを浮かべ、フェイトはキョトンとした表情を表していた。 メルティーナの“女”の勘では、恐らく相手は十中八九ユーノであろうと小声で話す。 はやては、そんな面白い事があったのなら、なのはの後をついて行けば良かった…と冗談混じりに考えるが、 ディバインバスターにて吹き飛ばされるのは必至と考え身震いを起こし自分の考えを自重する。 そして戻って来れたら色々な意味で祝杯として、はやて直々に赤飯を炊こうと考えるのであった。 それから数時間、道なりに歩き目的の場所である空洞へと赴く一同。 空洞は広く天井も50mはあると思われる程に高く、地面には巨大な魔法陣が描かれており、資料と全く同じ作りをしていた。 「それじゃ、私は帰るわ、後はがんばって」 そう淡白にメルティーナは挨拶を交わすと、そそくさと地上へと戻って行く。 そして一同が残されると、先手をとってなのはが魔法陣に踏み込む。 それを皮切りに次々と魔法陣に踏み込みちょうど中央に集まると、 三角形が一ずつ光り出し、最後に円が輝き出すと周りは白い光に覆われ始める。 「いよいよやな!みんなぁ、気ぃ引き締めていくでぇ!!」 はやての掛け声に一同は気合いを込めて返事をすると扉が起動、 機動六課フォワード陣は光に包まれ、この世界から消え去り神が住まう世界、セラフィックゲートへと向かうのであった…… 前へ 目次へ 次へ
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Round ZERO ~ JOKER DISTRESSED(後編) ◆HlLdWe.oBM 「インテグラ卿!!!」 ギンガの叫びが幾重にも重なった深い煙の中に虚しく響く。 どういう原理か知らないが校庭周辺に漂っている煙の量は半端ではない。 ガジェットに施されたランブルデトネイターによる爆発によって発生した爆煙。 広い校庭の細かな砂が爆発によって舞い上がった事で発生した土煙。 さらにガジェットが爆発した付近には体育倉庫があり、その中にはどこにでもあるようなラインパウダーが保管されていた。 それがガジェットの爆発に巻き込まれて周囲に拡散する始末となった。 つまり現在校庭付近に限定するなら3重もの煙幕が展開されて視界はほとんど防がれている状態。 この異常事態の確かな原因をギンガは知らないが、最悪の状況である事は確かだ。 インテグラはもちろん、膠着状態だった弁慶・カリス・ギンガ・ギラファの4人も爆発の影響で離れ離れになってしまった。 つまり現状誰がどこにいるのかさっぱり分からない状態なのだ。 「インテグ――ッ!」 ギンガはあらん限りの声を上げてインテグラを呼び掛けていたのだが、そこで唐突にある可能性に気付いた。 この状態では目に頼った捜索は困難を極める。 では目に頼らなければどうするか。 答えは耳。 周囲の音から物事を判断する事が自然と重要になってくる。 そしてそんな中で声を上げるという事は自分の居場所を相手に教えるという事に他ならない。 この場所にいる者がインテグラだけなら大して問題ではないが、実際は違う。 ここには始と戦っていたアンデッドと僧侶姿の大男がいた。 そんな危険人物のいる中で自らの居場所を教えるなど少々浅はかである。 (危なかった。あのままだったら、あとでインテグラ卿に怒られてい――) そこでギンガの思考は途切れた。 深く立ち込めた灰色と白色が入り混じった煙の向こうに二つの人影を見つけたのだ。 一つは地面に伏していて、もう一つはその脇に立っている。 それを見た瞬間、ギンガは再び嫌な予感がした。 心の内にチラつく不安に後押しされてギンガは碌な確認もしないまま既に足をそちらに向けて知らず知らずの内に走っていた。 全力で走ってすぐさま現場に着くと、そこにいるのが誰なのか分かった。 地面に伏しているのはインテグラ、立っているのは金色の怪人――ギラファアンデッド。 そして地面にうつ伏せの状態で倒れているインテグラの背中には紅い槍が刺さっていた。 「貴様ァァァ!!!」 限りなく即死に近い状態だった。 槍が刺さっている場所は心臓付近。 そこを穿たれて平気な人間などいない。 しかもインテグラは数時間前に全身火傷を負って体力が消耗している さらに手元に碌な治療用具がない以上適切な処置など不可能。 つまりインテグラの死は確定的だった。 「……見られたか、ならば!」 当の下手人であるギラファはギンガの姿を認めると、静かな殺気と共に襲いかかって来た。 ギラファが殺し合いに乗っている事は火を見るよりも明らかである。 そんな危険な者を、インテグラを殺した怪人を、ギンガはこのまま野放しにする気など毛頭なかった。 ギンガは悲しみを心の底に追いやり、猛然とギラファに向かっていった。 「ハ――ッ!!」 「――ッ!!」 幼い頃よりこの身に刻んできたシューティングアーツの技を惜しみなく繰り出していく。 その一手一手にはカード内に蓄積されていた魔力を順次開放させて上乗せしている。 本調子とまではいかなくても威力は申し分ないはず。 だが届かない。 拳も、蹴りも、魔法も、全て。 ナックルバンカー――魔力付与によって強化した拳は右手の剣で払われた。 ストームトゥース――防御破壊と直接打撃の左拳二連撃は最初の一撃を躱されて膝蹴りを喰らわされた。 リボルバーシュート――猛烈な衝撃波と共に放たれた魔力の弾丸はバリアによって阻まれた。 お互いの声が漏れるたびに拳と剣が交錯する。 戦況はギンガに圧倒的に不利な状態だ。 数手交わしただけでそれが嫌というほど分かった。 おそらく目の前の相手の力は殺生丸や金髪の男と同等だ。 しかもこちらにはデバイスがなく、魔導師としてそれは戦力の低下を意味している。 今までの数手で自分は持てる技を最大限に駆使したが、全く攻撃が届く気配がない。 まだ奥の手のリボルバーギムレットがあるが、あれはナックルスピナーがない状態では回転させる動作制御が不十分になる。 おそらく威力不足でバリアに阻まれて相手に届く事すら叶わないだろう。 いくらカードで魔力を付与してもデバイスがない以上リボルバーギムレットを出すのは難しい。 (ギムレットが無理なら、もう一つの方に賭けるしかな――って、迷う暇なんてないわね。もう今しかチャンスはない!) 今までの攻防でアンデッドはこちらの力量を掴んできたはず。 それはすなわち己との圧倒的な力の差。 そこには僅かだが余裕という名の隙ができる。 だが奥の手を使えばその差を覆せる可能性はある。 逆転の一手を仕掛けるなら今しかない。 決意すると後は行動するだけ。 ギンガは少し溜めを作り、一気に走りだした。 もちろん向かう先は金色の怪人ギラファアンデッド。 「これで終わりにしようか」 必死なギンガとは対照的にギラファは悠然と構えて言葉を放った。 ここまでの戦闘で彼我の差が明らかである以上それも当然だ。 だがそこに僅かながら隙がある。 そしてそれはギンガが狙っていた事。 徐々に距離を詰めていき後数歩という所で―― 「な!?」 ――ギラファの目の前に光の道が出現した。 今まで見せなかったギンガの先天固有魔法・ウイングロード。 突然目の前に紫の光の道ができた事でさすがのギラファも驚愕を隠せないでいた。 だから一拍遅れて迫ったギンガへの反応が遅れる事になった。 (……私は今まで何もできなかった) 最初は空港火災の時、二度目は地上本部の時。 どちらも自分の責任を貫き通す事が出来なかった。 ここに来てからも同じようなものだ。 最初は殺生丸さん、次に矢車さんとキャロ、そして今度はインテグラ卿。 だからせめて目の前の相手だけは倒す。 ここで放っておけば必ず皆に刃を向ける怪人を。 自分は今度こそ責任を貫かなければいけない。 だからここにいる人を、そしてスバルを―― (――私が守るって、決めたんだ!!! だからフェイトさん、殺生丸さん、あなた達の力、貸して下さい!!!) 刹那デイパックより一振りの傷だらけの刀が抜き出された。 その刀の名は殺生丸の形見となった童子切丸。 それを左手に持たせたままその手を腰だめにして構え、逆に右手は前に突き出す。 カードを全て使って魔力の補充は万全。 あとは撃ち出すのみ。 「プラズマアアァァァァァァァァスマッシャアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!!」 至近距離から放たれた魔法は憧れの対象である恩人の技。 オリジナルのような電撃は付与できないが、全カードを使って補充した魔力で威力は十分だ。 ギンガの決意を秘めた左腕が限界まで込められた魔力と共に突き出される。 (この距離ならバリアも――) (――甘いな!!) ウイングロードで作り出した僅かな隙。 だが後一歩及ばず。 目の前にはあの全てを阻む透明の壁が。 それでもギンガは信じている。 煌めく銀河の雷光が必ずや敵を貫くと。 ここで二人が知らない事実がある。 それは童子切丸の特性である「人間の生き血を捧げれば、あらゆる防御術式を貫く事ができる」というもの。 もちろんギラファアンデッドも、ただ形見として拾っただけのギンガも、この特性を知る由もない。 今回ギンガがこの剣を取り出したのは殺生丸の力にあやかりたいという部分が大きい。 だがここで偶然にも奇跡的な事が起こった。 ここまでの戦闘でギンガは身体のあちこちに傷を負っていて、当然そこから血が流れ出ていた。 それが腕を伝って童子切丸に行き着いていたのだ。 正式な形はともかく童子切丸に「人間の生き血」が僅かばかりでも捧げられた事に変わりはない。 それによって妖刀童子切丸はその「あらゆる防御術式を貫く事ができる」という特性を発動させる事ができた。 当然ギラファのバリアも「あるゆる防御術式」にカテゴリ―されるものであり、童子切丸によって貫かれる事は明らかだ。 もちろんそんな事は知らないギラファはここでバリアを展開して攻撃を防いでから反撃に転ずるつもりだ。 しかしギンガの左拳にはその童子切丸が切っ先をギラファに向けた状態で握られている。 この瞬間バリアは無意味となった。 こうして二人の知らない事実の下で童子切丸は計り知れない力の奔流と共に生身の身体に叩きつけられた。 肉と骨を断った剣は役目を終えたかのように根元から折れて眠りに就いた。 限界まで高められた魔力の激流は出口を与えられた瞬間、目の前の敵に叩きつけられた。 そして全てが終わった。 ▼ ▼ ▼ 俺はもう誰も失いたくなかった。 だがこの傷でじゃ遅かれ早かれ死ぬだろう。 少し無茶をしたせいか、血を流し過ぎたかもしれない。 だから最期に俺はこの身を差し出してやる。 ……和尚……寺のみんな……竜馬……隼人……そしてティアナ。 もう誰かが死ぬのは御免だ。 確かにお前は少し胡散臭いところもある。 だがお前のおかげで俺達はあの時無駄に対立する事を防げた。 お前が悪人ならあの時俺達が勝手に仲違して自滅する様を見ていれば良かったはずだ。 だから俺はお前を信じるぜ。 だから……あばよ、金居…… ▼ ▼ ▼ ギンガは目の前の出来事が信じられなかった。 「え……あぁ……そ、そんな……」 ギンガのプラズマスマッシャーは確かに目の前の男に刃を突き立て魔力の奔流をその身にぶつけた。 もちろん童子切丸による出血とプラズマスマッシャーによる衝撃で既に息はない。 だがギンガの顔は青ざめていた。 なぜならギンガと戦っていたギラファはその男の背後に未だ無事な状態でいるからだ。 ギンガのプラズマスマッシャーを金居から庇った男は武蔵坊弁慶。 弁慶はあの爆発に巻き込まれて地面を転がり出血多量もあって気を失っていた。 そして気絶から回復した弁慶の目に飛び込んできたものは襲われているギラファアンデッド、金居の姿だった。 それを見た時もうこの傷ではそう長くないと悟っていた弁慶は自らの身を挺して金居の身代りになる事を選んだのだ。 しかも驚く事に弁慶は童子切丸でその身を貫かれプラズマスマッシャーでその身を焼かれてその命が尽きても倒れる事はしなかった。 まさに伝説で伝え聞く『弁慶の立ち往生』のようであった。 そんな悲劇としか言いようのない結末を目の当たりにしてギンガはただ呆然としていた。 「弁慶君、感謝するよ」 「……ガァッ――ッ!?」 そしてその隙をギラファアンデッドが逃すはずがなかった。 己のした『あやまち』に心ここに在らずの状態にあったギンガの身体にはインテグラと同様に紅い槍が突き刺さっていた。 しかし咄嗟に身体を捻ったおかげで槍が貫いた部分は左腹。 致命傷のインテグラとは違って適切な処置を施せばまだ助かる傷ではある。 「――え? そ、そんな……ぁ……」 だがギンガの身体は限界だった。 自らが犯した『あやまち』と命を奪う一撃。 その二つの衝撃で若い身体はボロボロになっていた。 もう立つ事すら覚束なくなり、すぐに重力に引かれて身体は支えを失って倒れた。 ギラファに握られたままの槍はそのまま身体から離れ、左の腹に紅い穴を形作っていた。 その穴から紅い生き血が止めどなく流れ出ている事にギンガは気付いたが、もうどうする事も出来なかった。 (私は、ここで……なにも、なにもできないまま……死ぬの……?) 少しの間を置いて地面に叩きつけられたギンガの身体が再び動く事はなかった。 ▼ ▼ ▼ 校庭を外界と遮っているコンクリート製の灰色の壁。 その内側に凭れかかった状態で相川始はいた。 その姿はハートのA「チェンジマンティス」の力を宿したカリスの姿ではない。 ハートの2「スピリット」の姿を宿した相川始のものだった。 あの爆発の衝撃でカリスの変身が解けたのが原因だった。 しかもその際に壁にぶつかった衝撃で今まで気を失っていたのだ。 とりあえず一緒に吹き飛ばされたらしいパーフェクトゼクターをデイパックに仕舞いつつ始は今の状況を確認していた。 (俺はどれくらい気を失っていたんだ? カテゴリーキングは? 弁慶は? そして、ギンガ……) ふと思い出すのは先程の一件。 ギラファの斬撃から自分を守ってくれた少女ギンガ・ナカジマ。 ギンガは自分の正体を知った後でも変わらぬ態度で説得しようとした。 そして危険を顧みず自分の命を助けるために戦いの渦中に飛び込んできた。 そこまで自分に関わってくる理由は己の胸に引っ掛かっているあの言葉に関係あると容易に想像がつく。 だが今の自分はそれに応える事はできなかった。 (人間、か。だが俺は……アンデッド……人間な――! なんだ! この気配は!?) その事が胸に引っ掛かりつつもカリスはまだ痛む身体を起こした。 未だ視界が定まらぬ煙の向こうから感じる禍々しい気配。 それが始に悠長に休息を取っている場合ではないと警告していた。 だが自分の感覚を信じるならばそこにいるのはアンデッドではない。 だがそれ以上の何かを感じさせる者がいる事は確かだった。 周囲一帯に立ち込める煙でほとんど何も見えないが、そんなものを感じさせない程にその存在は異常だった。 不意に一陣の風が校庭に吹いた。 それにより立ち込める煙は一掃されていき、三重の煙幕は徐々に晴れていった。 そしてカリスは見た。 紅い血で真っ赤に染まった地面に倒れ伏すギンガと、その脇に立っている赤いコートの男を。 「……貴様が殺ったのか」 「そうだと言ったら、どうする?」 その言葉を聞いた瞬間、相川始の中で何かが弾けた。 不意に頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなるほどに身体の奥底から何かが沸々と湧き上がってきた。 それは言葉に出来ないほどの暗い衝動。 それが自分の本来あるべき姿を呼び覚まそうとしていた。 それは長らく封印してきた自分の真の姿。 それになるという事は真の意味で化け物になる事だ。 だが。 それでも。 湧き上がる衝動は抑えがたく。 ついに。 「――――――――――ァァアアアア――――――――――ッッッ!!!!!」 その暗い衝動に身を委ねた。 次の瞬間、そこに相川始はいなかった。 そこにいる者は『相川始』に非ず、彼の者の名――それは『ジョーカー』。 ▼ ▼ ▼ アーカードの目の前には一つの死体があった。 見慣れた服装、見慣れた髪、そして確認するまでもなく見慣れた顔。 それは紛れもなくアーカードの主インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングに相違なかった。 アーカードがここに来た理由はガジェットの爆発に気付いたからだ。 その爆発音が市街地を捜索していたアーカードまで届き、戦闘の気配を感じるままに赴いた次第だ。 そして一度は去った学校に再び戻った時、アーカードは主インテグラの気配を感じ取っていた。 先程死にかけの女を抱えて去って行った黒い化物を放っておいたのも近くで主の気配を感じたからだ。 それなのに当の主はアーカードを見るなり悠然と命令を与え終わると、それが最期の力かのように静かに逝ってしまった。 「それがお前の最後の命令(ラストオーダー)か、我が主インテグラ」 ――見敵必殺(サーチアンドデストロイ)だ! 我々の邪魔をするあらゆる勢力は叩いて潰せ! そして、あのプレシアを…… その最期の言葉がヘルシング機関の鬼札<ジョーカー>の胸にいつまでも木霊していた。 【1日目 昼】 【現在地 D-4 学校の校庭】 【アーカード@NANOSING】 【状況】疲労(小)、昂ぶり、セフィロスへの対抗心 【装備】パニッシャー(砲弾残弾70%/ロケットランチャー残弾60%)@リリカルニコラス 【道具】支給品一式、拡声器@現実、首輪(アグモン)、ヘルメスドライブの説明書 【思考】 基本:??? 1.主の命令(オーダー)は見敵必殺(サーチアンドデストロイ)か。 【備考】 ※スバルやヴィータが自分の知る二人とは別人である事に気付きました。 ※パニッシャーは憑神刀(マハ)を持ったセフィロスのような相当な強者にしか使用するつもりはありません。 ※第1回放送を聞き逃しました。 ※ヘルメスドライブに関する情報を把握しました。 ※セフィロスを自分とほぼ同列の化物と認識しました。 ※はやて(A s)が死亡した事に気付きました。 ※インテグラの死体(背中に朱羅の片方@魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~が刺さった状態)の傍にデイパック(支給品一式)が落ちています。 ▼ ▼ ▼ 相川始は図書館にいた。 なぜ学校にいた始がエリアを隔てた図書館にいるのか。 それはジョーカーの姿に戻って学校から移動したからだ。 だが本来ならジョーカーとして覚醒すれば赤いコートの男に襲いかかったはず。 しかしジョーカーとなった始は戦わなかった。 「……ぅ……!」 読書用に設置されたソファーの上から微かな声が聞こえてくる。 そこには全身血まみれの少女が寝かされていた。 青紫のショートヘアも、茶色の陸士制服も、その身体を沈ませているソファーも自らの血で汚しつつもまだ少女は生きていた。 ギンガ・ナカジマ。 あの時ギンガがまだ生きていると気づいたから始はジョーカーでありつつも逃走を選んだ。 まだギンガを助ける事ができると信じて。 それは先程ギラファから助けてもらった借りを返そうとしたからかもしれない。 だが実のところはそのようなものがなくとも助けようとしたのかもしれない。 本当のところは始にも分かっていない。 「……始、さん」 ようやく気が付いたギンガの声は明らかに弱々しくなっていた。 当然だ。 左腹からの出血はもう手の施しようのないレベルに達していた。 応急措置をしようにもとっくに手遅れの状態だった。 もうギンガが助かる可能性はなかった。 そのギンガは最後の力を振り絞って何かを言おうとしていた。 始はそれを黙って聞いてやる事にした。 「は、始さん……」 「…………」 「わ、私のデイパックの、中の……録音機を、アーカードという人に……渡して……」 「…………………」 「お、お願い……し……」 「……ああ、分かったよ」 なぜか肯定の返事を返していた。 表情には出さなかったが、そんな事をしている自分に驚いていた。 だが不思議と断ろうという気持ちにはなれなかった。 そして始の承諾を得たギンガの顔は安らかなものだった。 「ありがとう……ござ、います。あと……なのはさんと、フェイトさん……はやて部隊長、それにスバルと……キャロに会ったら――」 「…………………………………」 その言葉の続きがギンガから話される事はなかった。 ▼ ▼ ▼ いつのまにか私は始さんに背負われて、そして寝かされていた。 その時はっきりと相川始は人間だと確信できた。 誰かを助けようとする人が化け物であるはずがないと思ったから。 だから安心して録音機の事を頼めた。 あの中にはここへ来る途中でインテグラ卿がアーカードに対してメッセージを入れていた。 本来はインテグラ卿不在時にアーカードの遭遇した時の備えだったが、こんな事になるとは思っていなかった。 あと出来る事なら仲間の事も話しておきたかったが、どうやら時間切れのようだ。 もう既に意識が遠のき始めていた。 ああ、スバル。また守ってあげられなくてごめんね。 そして。 殺生丸さん、私は―― ▼ ▼ ▼ 紅に彩られたソファーに寝かせられたギンガはまるで安心しきったかのように眠っていた。 だがその眠りは永遠である。 もうギンガが目覚める事はない。 それを理解した時、始は胸に言葉に出来ない何かを感じていた。 それが何なのかなぜそのように思うのか自分でもよく分からない。 「何を考えているんだ、俺は……」 その不可解な感情がジョーカーの心を大きく揺さぶっていた。 【1日目 昼】 【現在地 E-4 図書館のロビー】 【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【状況】疲労(中)、全身に軽い切傷、左腕に強い痺れ、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、カリスとジョーカーに1時間変身不可 【装備】ラウズカード(ハートのA~10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード 【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ 【思考】 基本:栗原親子の元へ戻るために優勝を目指す。 1.とりあえず身体を休める。 2.見つけた参加者は全員殺す(アンデットもしくはそれと思しき者は優先的に殺す)。 3.アーカードに録音機を渡す? 4.あるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。 5.ギンガの言っていた人物(なのは、フェイト、はやて、スバル、キャロ)が少し気になる。 【備考】 ※自身にかけられた制限にある程度気づきました。 ※首輪を外す事は不可能だと考えています。 ※「他のアンデットが封印されると、自分はバトルファイト勝者となるのではないか」という推論を立てました。 ※相川始本人の特殊能力により、アンデットが怪人体で戦闘した場合、その位置をおおよそ察知できます。 ※エネルという異質な参加者の存在から、このバトルファイトに少しだけ疑念を抱き始めました。 ※ギンガを殺したのは赤いコートの男(=アーカード)だと思っています。 ※カリスの方が先に変身制限は解除されます。 ▼ ▼ ▼ 学校で、図書館で、二人のジョーカーが想いを馳せている時、金居は一人東に向かっていた。 目的地は当初の予定通りB-8にある工場だ。 (いくつか誤算はあったが、まずまずの結果だ) 金居は今までの経緯を振り返っていた。 まずはジョーカー――カリスとの戦闘。 この時金居は本気で戦う事はしなかった。 だが一応それなりに戦っていたので精々ジョーカーが違和感を覚えた程度だろう。 このような事をしたのは当初の予定通り弁慶と潰し合わせて漁夫の利でカリスを仕留めようと考えていたからだ。 だからカリスの消耗を待って一気に片付ける気でいた。 あの作戦が破綻した時は少し予定が狂いかけたが、弁慶の捨て身の行動で絶好の機会に転じる事ができた。 ジョーカーの注意を逸らそうと雄叫びまで上げた事が功を奏したのかは知らない。 だがその機会は突然乱入してきたギンガ・ナカジマによって阻まれてしまった。 ここでしばらく膠着状態に陥った時はさすがに本気を出してギンガ諸共カリスを倒す事を優先しようかと考えた。 転機はその直後に起こった爆発だ。 爆発の理由は不明だが、その直前に到着した新たな人物。 その女性はギンガから「インテグラ」と呼ばれていた。 この地でそれに該当する者は「インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング」に他ならない。 そしてインテグラはペンウッド曰く、アーカードの抑えられる唯一の存在らしい。 つまりインテグラを殺せばアーカードを止める者はいなくなり、結果デスゲームの進行に貢献する事に繋がる。 それは金居の望むところだった。 爆発の衝撃はバリアで防いだので即座に行動を再開する事ができた。 そしてすぐにあの煙の中で幸運にもまだ爆発の衝撃から回復していないインテグラを発見できた。 目的は一瞬で終わった。 一気に背後より近付き左手のスケルターで背部を強打。 こちらの姿を見ないまま倒れたところに落とした槍で心臓付近を一突き。 実に呆気ない最期だった。 凶器に槍を選んだのはもしものための保険だ。 ヘルターやスケルターではなく誰でも扱える槍なら下手人が判明する可能性は低くなる。 ついでにインテグラが所持していた銃器を拾えた事は幸運だった。 一番の誤算はその現場をギンガに見られた事だ。 煙で視界が悪いのですぐに済ませれば問題ないと思っていたが、ここは運が悪かった。 だが直後の戦闘でインテグラ同様に槍を刺して殺せたので大した問題にはならなかった。 少し意外だったのは弁慶が身を挺して守ってくれた事だ。 あそこまで仲間想いの奴だとは思っていなかったから少し驚いていた。 だがあそこで弁慶が庇ってくれなければ面倒な事になっていた可能性が高い以上弁慶には素直に礼を言っておいた。 そして直後に得体の知れない禍々しい気配が近づいてきたのを感じたので、その場は弁慶のデイパックだけ回収して立ち去った次第だ。 もし仮に誰かに見られたら不味い場面なのは確実だったので長居はしなかった。 心残りはジョーカーを仕留める事ができなかった事だが、あの様子ではすぐに動く事は難しいだろう。 もし運が良ければあの禍々しい気配と一戦構えてくれればと思うが、そう上手くいかないだろう。 「これが支給されたのは幸いだったな。このおかげですぐに動けるようになった」 金居の手には小さな袋が握られていた。 その中に入っている物こそ金居がこうして戦闘直後にも関わらず不自由なく行動出来ている理由だ。 この袋の中にある物は「いにしえの秘薬」と言って、服用すればどのような傷でも完全に癒し体力も回復してくれる万能薬だ。 これのおかげで本来なら幾らかの負傷と変身後の疲労ですぐには動けない金居が不自由なく動けるのだ。 全体的に今回は上手く立ち回る事ができた。 基本的に戦闘は避けていく方針だったが、止むを得ない時は仕方ない。 ジョーカーとの決着は避けては通れないから。 (とりあえず弁慶君は……ジョーカーに殺された事にしておこう。あながち嘘ではないからな) ふと時計を確認すると次の放送までもう少しというところだった。 これからの具体的な行動方針は放送を聞いてからでも遅くはない。 そう考えを出した金居は落ち着いて放送を聞くために近くのビルに入る事にした。 クワガタムシの始祖たる不死の王の大顎はまだ牙を剥き始めたばかりだ。 【一日目 昼】 【現在地 D-5 西大通り沿いのビル】 【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【状態】健康、ギラファアンデッドに1時間変身不可 【装備】なし 【道具】支給品一式×2、トランプ@なの魂、いにしえの秘薬(残り7割)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、砂糖1kg×9、カードデッキの複製(タイガ)@仮面ライダーリリカル龍騎、USBメモリ@オリジナル、S W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、コルト・ガバメント(6/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、ランダム支給品0~1 【思考】 基本:プレシアの殺害。 1.プレシアとの接触を試みる(その際に交渉して協力を申し出る。そして隙を作る)。 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する、強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。 3.利用できるものは全て利用する。邪魔をする者には容赦しない。 4.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。 5.もしもラウズカード(スペードの10)か、時間停止に対抗出来る何らかの手段を手に入れた場合は容赦なくキングを殺す。 6.USBメモリの中身を確認したい(パソコンのある施設を探す)。 【備考】 ※このデスゲームにおいてアンデッドの死亡=カードへの封印だと思っています。 ※最終的な目的はアンデッド同士の戦いでの優勝なので、ジョーカーもキングも封印したいと思っています。 ※カードデッキ(龍騎)の説明書をだいたい暗記しました。 ▼ ▼ ▼ アンジール・ヒューレーは倒れていた。 目の前でチンクを失った事。 それが想像以上にアンジールを苛み、精神的に負担になっていた。 当初はクアットロを探そうと荷物をまとめようとしていたが、チンクの眼帯を見た瞬間何も考えられなくなった。 ディエチとは違ってチンクはすぐ傍にいた。 それなのに守る事ができなかった。 誰もいない大通り上でアンジールはいつまでも己のあやまちを責め続けた。 そして気づけばアンジールはチンクの眼帯を握ったまま当てもなく歩きだしていた。 だがそんな状態がいつまでも続くはずがなく、程なくしてアンジールは己を苛んだまま地面に倒れてしまった。 そして予想以上に精神的に堪えていたアンジールはそのまま意識を手放した。 だからアンジールは気付く事が出来なかった。 荷物をまとめる際にガジェットがどこかへ行ってしまった事を。 そしてそのガジェットが3人の参加者の命を奪う手助けをした事を。 その中にアンジールと同じように誰かを守ろうと必死になっていた者がいた事を。 全て知らないまま2回目の放送の時刻が近付いていた。 【1日目 昼】 【現在地 G-6】 【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 【状態】疲労(中)、全身にダメージ(小)、セフィロスへの殺意、深い悲しみと罪悪感、睡眠中 【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、アイボリー(6/10)@Devil never strikers、チンクの眼帯 【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本:クアットロを守る。 1.チンク…… 2.クアットロ以外の全てを殺す。特にセフィロスは最優先。 3.ヴァッシュ、アンデルセンには必ず借りを返す。 4.いざという時は協力するしかないのか……? 【備考】 ※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。 ※制限に気が付きました。 ※ヴァッシュ達に騙されたと思っています。 ※チンクが死んだと思っています。 ※ガジェットが無くなった事に気付いていません。 【武蔵坊弁慶@ゲッターロボ昴 死亡確認】 【ギンガ・ナカジマ@魔法妖怪リリカル殺生丸 死亡確認】 【インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング@NANOSING 死亡確認】 【全体の備考】 ※以下の物がD-4の学校の校庭に放置されています。 弁慶の死体(腹に童子切丸@ゲッターロボ昴の刀身が突き刺さり全身焼け焦げた状態、仁王立ち)、童子切丸の柄@ゲッターロボ昴、朱羅の片方@魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~ 閻魔刀@魔法少女リリカルなのはStirkers May Cry、パイロットスーツ(真っ二つにされた状態)@ゲッターロボ昴 ※カード×48@魔法少女リリカルなのはA’sはギンガが全て消費しました。 ※ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerSがD-4の学校まで移動して爆発しました。その際深い煙が発生しました。 ※G-6の大通りにはバニースーツのうさぎ耳、炭化したチンクの右腕が落ちています。 【カード@魔法少女リリカルなのはA’s】 デバイス内での炸裂を必要としない簡易型のカートリッジシステムのような働きをする使い捨ての魔力蓄積装置。 仮面の戦士(リーゼ姉妹)が魔力行使の際に使っていた。普段は左太腿のカードホルダーに収納されている。 【録音機@なのは×終わクロ】 記録用のメモリ式携帯録音機(バッテリー式)。本来の持ち主は佐山御言。 Back Round ZERO ~ JOKER DISTRESSED(前編) 時系列順で読む Next 過去 から の 刺客(前編) 投下順で読む Next 過去 から の 刺客(前編) アーカード Next しにがみのエレジー。~名もなき哀のうた~ インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング GAME OVER ギンガ・ナカジマ GAME OVER 相川始 Next The people with no name 金居 Next MISSING KING 武蔵坊弁慶 GAME OVER アンジール・ヒューレー Next 過去 から の 刺客(前編)
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1話 時を越えろ 空を駆けろ 第97管理外世界 地球 ゴルゴム神殿 今、仮面ライダーBLACK 南光太郎とゴルゴムとの決着が付こうとしていた。 「最後だ! 創世王!!」 BLACKが、サタンサーベルを創世王に向かって投合する。 投げられた剣は創世王のバリアを貫き創世王を串刺しにした。 「フグァッ・・・・、見事だブラックサンだがこれで終わったわけではない・・・・・」 「貴様をシャドームーンとともに異世界へ飛ばす!シャドームーンを倒し創世王になれば元の世界に戻ることも容易い・・・・」 「そうはさせんぞ! 創世王!!」 BLACKは阻止するため、ライダーキックを放つ。 「創世王を決める戦いは終わらん! さらばだ! ブラックサン!!」 BLACKの抵抗も虚しく創世王による移転は発動する。 「――ッ・・・創世王ォォォォォォオオ!!」 創世王が消滅するとともにゴルゴム神殿は崩壊する・・・・・ そして仮面ライダーBLACK、南光太郎とシャドームーン、秋月信彦はこの世界から消えた・・・・ ■■■ 「これは・・・ゴルゴムの仕業か?」 光太郎は空港の屋上で目覚めた。 だが、その空港は普通ではなく、火に包まれ地獄を連想されるものだった。 「おのれゴルゴム、罪の無い人々の幸せを引き裂くとは・・・・絶対に許さん!!」 t突如、光太郎の耳に助けを求める声が響く。 「――聞こえる・・・・助けを求める声が・・・・今もどこかで助けを求めている!」 少しでも早く、苦しんでいる人々を助けるために・・・・ 光太郎は精神を集中させ両拳を引き寄せ、強く握り締める。 「変―― 腰に拳をあて、左手を逆方向に伸ばし半円を描くように回転 ―――身! 掛け声と同時に両手を一気に右側へ振り切る! 瞬間、光とともにエネルギーが吹き荒れた! ―――その時、不思議なことが起こった――― キングストーンは瀕死の創世王の時空移転により傷つき キングストーンは光太郎の体から分離し、変身が不完全になってしまったのだ。 そして、その体はキングストーンの魔力によって構成される。 そして光太郎は,仮面ライダーBLACKに変身する、・・・はずだった 「この姿は・・・・BLACKの姿ではない・・・・」 その姿に仮面は無く、それはBLACKの格好を魔術師にしたようなものだった。 共通点といえばベルトと胸の世紀王のエンブレムぐらいだ。 姿は違うものの感覚は鋭くなり、体は軽い、熱も遮断したようでただの服ではないようだ。 「間に合ってくれ! トゥア!!」 どんな姿になろうが助けることができれば関係ない・・・・ 光太郎は救助に向かうため空港の屋根を拳で突き破り火の海に飛び込んでいった。 「だめだ!だめだ!こっちはだめだ!」 「この先にはまだ少女が・・・クソッ!」 数人の男たちが己の無力さを嘆く時、天井が崩れ瓦礫が崩れ轟音が響く。 黒いバリアジャケットを纏う青年、南光太郎だ。 その本人はバリアジャケットのことなど、知るよしもない。 「大丈夫ですか!?」 「管理局の魔術師か!こっちは大丈夫だ!それよりもこの先にまだ少女が取り残されているんだ!」 聞きなれない単語に光太郎は考える。 (管理局?魔術師?やはり僕は異世界に来てしまったのか?それにこの姿はいったい・・・・) 「頼むぞ・・・!」 「わかりました!」 光太郎は男の願いを聞き、火に突っ込んでいく。 「すごい・・・・火に飛び込んで・・・」 「・・・大丈夫そうだな、彼に任せてみよう。時期に彼女も来る」 女神像の傍で少女、スバル・ナカジマは泣いていた。 「こわいよう・・・・家に帰りたいよう」 火に取り残された少女は、泣いて、力なく助けを求めていた。 そんな少女に残酷にも、女神像の台座が砕け始めスバルに向けて崩れてきた。 「あ・・・・!」 時すでに遅し・・・・このままではスバルは女神像に押しつぶされてしまうだろう。 だが・・・! 「ライダーチョップ!!」 直径100mmの鉄棒を切断をも切断するライダーチョップが女神像を一刀両断していた。 切断された女神像は見事にスバルを押しつぶさず、その両脇へ倒れる。 「もう大丈夫だ・・・よかったな・・・ッ!」 光太郎は嬉しそうな表情でやさしく少女を両手で抱き上げた。 その時だった管理局魔術師、高町なのはが遅れて到着したのは・・・ 見たこともないBJを纏う光太郎になのはは声をかける。 「あなたは・・・・?」 突然の呼び声に光太郎は瞬時に振り向き叫ぶ。 「空を飛んでいる!貴様ゴルゴムかッ!?」 優しかった光太郎の表情は一瞬にして鬼の形相に変わる。 そのあまりの変化にスバルは小さく咽せてしまった。 南光太郎・・・人生最大の勘違いである。 「ゴ、ゴルゴ!?・・・ち、違います!私は時空管理局魔術師、高町なのはです!」 「管理局・・・!では貴方が!」 光太郎は先ほどの男たちから管理局や魔道士の言葉を聞き、なのはを味方と判断した。 「この子を頼みます!僕は次の救助へ向かいます!」 光太郎は勝手に一人合点したようで、なのはにスバルを預け、すさまじい跳躍で視界から消えていった。 あまりの速さになのは唖然とするばかりだった。 スバルの救助を終えたなのはは、さっきの青年を探しへいく。 そう思ったよりも時間はかからず青年は救急車の瓦礫に座り込んでいた。 沈んだ表情をしていて考え事をしているようだった。 なのはは青年へ近づき声をかける。 「救助お疲れ様」 青年ははっとした表情でこちらを向き、愛想よく微笑む。 「まだ名前聞いてなかったね、あなたは?」 「僕は南光太郎といいます。なのはさんでしたね?あの・・・管理局とは?」 「あなた・・・時空遭難者みたいだね」 「時空遭難者・・・そうだと思います」 「なら、管理局に来てくれないかな?もちろん悪いようにはしないし、いろいろ聞きたいこともあるから・・・・」 「わかりました・・・もう僕には行く場所はありませんから」 光太郎は考えていた。 (創世王が戦わせるために、この世界に送ったなら・・・信彦は・・・・信彦は生きている! 信彦、僕は諦めない・・・僕は運命を変えて見せる!) 異世界に来て戦友も、家族も、故郷までも失った光太郎にとって信彦は唯一の希望だった。 信彦を救う、そう決意すると光太郎はなのはについて行くのであった。 目次へ 次へ
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戦いは、すでに始まっていた。 アンデッドとこの世界の住人の初戦闘。だが、やはりアンデッドに勝てはしないだろう。 アンデッドは死なない。封印能力を持つジョーカーかライダー、または統制者の力が無ければアンデッドは決して止められないのだ。 案の定、あの守護獣はものの見事に打ち倒されていた。 そしてあの獣人を受け止める二人の女性ににじりよるアンデッド。 そこに、ようやく奴は現れた。 「遅いぞ、剣崎ぃ!」 思わず歓喜の叫びが漏れる。そうだ、今こそ奴の力を解放するときだ。俺が倒すべき力を。仮面の力を! 俺は煙幕を兼ねたステルス結界を展開しながら、奴の元に接近していった。 リリカル×ライダー 第十話『ライダー』 「俺は、『仮面ライダー』だ!」 カズマから溢れ出す力。封印されていた力が解放され、細胞の一片までも余すところ無く活性化される。 銀色に光るアーマーの各部に穿たれたスペードの刻印、ハンドガード部に展開式のカードホルダーが設けられたことで本来の状態に戻った醒剣ブレイラウザー。 ライダーシステム二号機、ブレイド。 これこそが、カズマの刃だった。 「そうだ、それだ! その力こそ僕が打倒したかったものだ!」 イーグルアンデッドは空から地上の煙幕越しにカズマを見つめる。その鋭い瞳は、最高の獲物を見つけたことによって輝いていた。 カズマは空を見上げる。未だ煙幕は濃く、視界には白い煙しか映らない。だが彼の視線は正確にイーグルアンデッドに向けられていた。 そんなときだった。 『久しぶりだな、剣崎君』 「えっ!?」 突然チェンジデバイスから声が発生する。 その声が、台詞が、カズマの様々な記憶を揺さぶる。 (剣崎……そうだ、俺の名字だ。そうだ、俺はこんなもので仮面ライダーに変身したりはしなかった。何故? それにこの男は……) 『剣崎君、今は目の前のことに集中したまえ』 その台詞にはっとする。そうだ、今はこの上級アンデッドの封印が先決だ。 『手短に説明するが、そのチェンジデバイスには魔導師モードとライダーモードがある。 今はライダーモードを起動しているが、ライダーモードは全機能を解放するモードだからその状態でも魔法は使用可能だ。すぐに飛行魔法を使用したまえ』 「待て、アンタは一体――」 『君の恩人であり、君を苦しめる者。忘れているだけだよ、君は。さぁ、急げ。剣崎君』 それきりチェンジデバイスは何の反応もしなくなった。 カズマは嘆息をつきながら両脚に力を込める。そう、今はそんな瑣末なことを気にしてはいられない。戻った力を使って、目の前の脅威を振り払わなければならない。 「フライブースター!」 『Fly booster』 力強く地面を蹴り上げ、カズマは飛翔する。 イーグルアンデッドの待つ、蒼空へと。 ・・・ ついに憎きライダーが本来の力を取り戻した。 欠けていた刻印とカードも戻り、かつて戦ったときと同じ姿になった。ベルトだけは違うが、それはどうでもいいことだ。 そう、これでかつての雪辱を晴らすことができる……! 「ライダーァァァッ!」 「うあぁぁぁあぁっ!」 俺は鉤爪を振るい、奴は醒剣を奮う。 激しい摩擦音と火花。 パワーは同じだが、技のキレは増している。やはり記憶も連動して戻っているのだろう。前回の野獣そのものの戦い方とは別人のようだ。 互いに力を入れて相手を吹き飛ばし合いながら一旦間合いを取る。 そして僕は自らの鉤爪を遠心力がかかるように振り回しながら奴に叩き付ける! 「ぐっ!?」 だが奴はそれを剣で受け流し、あまつさえ反撃としてこちらの腹を蹴飛ばした。 「うあぁぁぁっ!」 更なる連撃。 こちらが怯んだ隙を突くように斬撃を放ってくる。それは滝のような激しさと流麗さ。 「調子に乗るなっ!」 僕はそれを鉤爪で受け止めつつお返しに奴のヘルメットを左手で殴り飛ばす。 勝負は全くつかない。 僕は戦術を変えるために翼を羽ばたかせ、高度を一気に上げた。 「食らえ!」 奴の上空から羽根を展開し、奴に撃ち込む。数十の魔弾はそれぞれが独自の軌道を描きつつ、ライダーを射抜かんと迫る。 『――SLASH』 「でやあっ!」 同時に奴は剣の側面にあるカードリーダーにカードをスラッシュさせ、アンデッドの力を引き出す。 互いの渾身の一撃がぶつかり合い――その余波が僕を襲撃する。 「何っ!?」 両翼を畳んで盾としながら何とか防ぐ。 信じられなかった。 いくら奴がアンデッドの力を操る能力を持っているとしても、上級アンデッドが放つ精魂の一撃を容易く破れるはずがない。 (何故、だ……?) 奴を見る。 その無機質な仮面に付いた複眼からは、今までとは違う澄んだ力が感じられる。そう、目の輝きが以前より増している。 だがそんなことはどうでもいい。僕は、勝たねばならないんだ! 「ライダァァァアァァァッ!」 奴に向かって突撃する。己の信じる得物に全てを託し、身体中の細胞を躍動させ、自らの全てを懸けて。 『――KICK』 奴はカードをスラッシュさせた後、足元に魔法陣を展開させ、その上で独特の構えを取りつつ剣を魔法陣に突き刺す。 「僕は、カリスと決着をつけるんだ!」 「俺は皆を、全ての人々を守るんだ!」 互いが誇る最強の攻撃。 僕の突きと奴の蹴り。 原始的で単純で、それ故に最強足り得る攻撃が衝突する――! 「……が、はっ」 結果、アンデッドの力を纏ったライダーの蹴りは僕の腹に直撃し、僕の突きは奴の剣によって受け止められた。 「がほっ、ごっ」 身体から力が抜けていく。敗者の証明として、アンデッドバックルが開かれる。 たかが低級アンデッドの力を纏っただけの、人間の一撃。しかしそれはこの僕を確実に貫いた。 (これが、奴の――人間の、力……) ――人間は弱い。けれど強い。 過去が一瞬フラッシュバックする。 カリスと決闘の約束を交わした後、残ったアンデッドの掃討をしている時の記憶。 ――僕らには、守るべき者がいるから。 そう、自分を倒した存在。カリスではないただの下級アンデッド。 ヒューマンアンデッドの記憶。 (そう、か。奴には……) それを理解した数瞬後、僕は一枚の紙切れに吸収されていく自分を感じた。 ・・・ 「ようやく、ここまで来たな。剣崎君」 広大な広間に広がる機械群。空中に展開される無数のモニター群。たった一人の人間には広すぎるはずの空間は、それらによって狭くすら感じる場所となっていた。 その一枚には、緑の光になりながら一枚のカードに封印されていく一体の上級アンデッドが映っていた。 それを封印するのはブルーのインナースーツにスペードの刻印があしらわれた銀色の装甲に身を包む仮面の戦士。 「いよいよ奴も、そして橘君も動き始めたようだし、これから忙しくなるよ」 一人の男がデスクに腰を下ろしてコンピューターを操作する。壮年の皺が入った頬を引き締め、紫の短髪をかき揚げながら彼は機械を操作し続ける。 「頼むよ、剣崎君。あの偽物を追い詰めてくれたまえ。私があの男を殺すために。そう、過去に清算を付けるために」 モニターに四人の女性に囲まれた白衣を着た長髪の男が映る。その画面を注視しながら、男はキーボードを力強く叩いた。 そこに映し出されるのは膨大な量の文章。正確には一つの物語。 だがそれは彼が書いたものではない。周辺のモニターに映る数値に合わせて更新されている、いわば計画書。 「これは、私のケジメなのだからな」 男は静かに、画面に映る白衣の男を睨み付けた。 ・・・ 結局、煙幕もとい妨害結界のせいで戦いの一部始終を見ることは叶わなかった。 後方支援部隊のロングアーチも妨害によって今回の戦闘を記録することができなかったと報告している。指揮官自ら戦場に出向いたのもミスだったかもしれない。 「しかしどうやってあの怪物を倒したんやろう……」 最後に見た緑の閃光を発しながら消えていく怪人の姿が思い出される。あの現象が何なのかも分かっていない。 すでに染み付きつつあるため息を漏らす。まだ19歳なのにどないしよー、となのはちゃんやフェイトちゃんに相談する始末だ。せめて皺などは入らないようにしなければ。 閑話休題。 「フェイトちゃんとティアナが帰ってきてくれて良かったわ」 ちょうど戦闘が終了した一時間後に二人は捜査を終えて帰ってきていた。ザフィーラが重傷を負った時だったので心強い限りだ。お陰で六課の防衛は二人に任せることができる。 なのはちゃん達はまだ二日ほど帰ってこられないのもあって、二人の存在は想像以上に六課の皆を安心させている。というより、私が安心しているのだが。 かつてJS事件のときに一度隊舎を破壊されたことがあるので、その安心感は何よりも欲していたものだ。私は広域殲滅魔法が専門だから迎撃などは向いていないし。 「カズマ君も元気みたいやしな」 あの戦闘後、今までとは打って変わって明るく元気になったカズマ君は、今はフェイトちゃん達と夕食を取っている。 本当は私も行きたかったのだが、今回の事後処理にザフィーラの通院申請と、やることが山ほどあったので諦めた。 「私はいつも退け者やぁ……」 独り言が増えたのは内緒だ。 ・・・ 高い天井と広さを兼ね備えた部屋を橙色の灯りが照らし出す。 ホテルのロビーのように整っている部屋は、しかしホテルのように誰かを迎え入れるようには作られていない。 そこは作戦室。 または闘技場。 円形のそこは、そのような用途で作られていた。 そこに現れる影が二つ。 片方は以前と比べてさっぱりした薄紫の髪と白衣が特徴の男、ジェイル・スカリエッティ。 もう一人は彼の秘書にして、戦闘機人――スカリエッティの生み出した一種のサイボーグ――でもある妙齢の美女、ウーノ。 スカリエッティは単に広い場所を求めてここに来ただけらしく、大量の機材をカプセルのような外見をしたガジェットⅠ型に運ばせてきていた。ウーノは彼についてきただけのようだ。 スカリエッティはある装置の上に以前手に入れた緑を基調に金の装飾の入った箱を置く。装置を起動させると、いくつものモニターが空間に浮かび上がった。 「やはり、偽物だな」 「……はい?」 突如呟くスカリエッティに、ウーノが戸惑いながらも問いかける。 スカリエッティが思い付きや考えなしに独り言を言い出すのは今に始まったことではないのだが、ウーノがいちいちご丁寧に反応するのも今に始まったことではない。 「ウーノ。これはね、オリジナルを元に誰かが作り出した贋作なのだよ」 「は、はぁ」 ウーノとて頭は悪くはない。いやむしろ秀才とすら言っていいほど彼女の頭脳は優れている。戦闘機人故にそれはコンピューターそのものとすら言えるほどだ。 しかし彼女には柔軟性という人間として決定的なものが欠けていた。 「カードの方も偽物だ」 憎々しげに吐き捨てる。そう言いながらカードもしっかりと手放さずに握りしめているのだが。 「オリジナルはおそらく何らかの不死生命体のようなものから力を汲み出す装置のようなものだったんだろうが、これは魔力を通せば特定の効果が発動するだけの、ただのデバイスだ」 デバイスカードといったところか、と漏らすスカリエッティ。 ウーノにはやっぱりついていけなかった。 「これもレンゲルクロスという名前らしいことは分かったんだがね……」 偽物なのが残念だ、と言いながら弄り回す。しかし何だかんだ言いながら、スカリエッティはそれをいたくお気に召しているらしかった。 彼の顔に張り付いた笑みが、それを証明していた。 「失礼します」 そこに現れる新たな影。 「どうしたんだね、セッテ」 影の正体は、薄桃色の可愛らしいストレートヘアに似合わない無表情を浮かべた少女だった。 彼女、セッテはスカリエッティ奪還には参加せずに秘密基地の確保に向かったナンバーズであり、彼女を含めた四名が今スカリエッティの元に残ったナンバーズである。本来は12名もいたため、今は三分の一に戦力が低下していた。 「ラボのシステムが完全に復旧しました。これで全ての部屋に動力が供給されます」 「御苦労、休んでいてくれたまえ。これからまた忙しくなるからな」 「ドクター、これから何かなさるのですか?」 その言葉に、ウーノが素早く反応した。 「当然だ。良い玩具も手に入ったことだし、ゲームでも始めようと思ってね。機動六課には借りがあるんだし、もうすぐ解散するそうだから、いっそのこと”消してしまえばいい”と思ってね」 ウーノの言葉に顔を醜く歪めながら答えるスカリエッティ。だが彼の視線はウーノにではなく、レンゲルクロスの横のカプセルに注がれていた。 そう、レンゲルクロスに似た、三つの機械に。 「ドクター……。いえ、わかりました」 ウーノは答える。そう、彼女は決してスカリエッティには逆らわない。彼女は他の愛し方を知らないのだから。 ・・・ 久しぶりに会ったフェイトとティアナとの夕食。それが終わった俺は、外に出て空を眺めていた。 記憶。 そう、俺は、重要な記憶をいくつか思い出していた。 まずは本名。剣崎一真という己の名。 そして自らの正体、正確には仕事。それが、仮面ライダー。 最後に、俺が戦う理由。 それは、イーグルアンデッドとの戦いが思い出させてくれた。 (そうだ。俺は、母さんや父さんの時みたいに後悔したくない) 脳裏に過る灼熱の業火。明るく弾ける我が家と、光に押し潰される両親。何も出来ずに打ちひしがれるだけだった幼い過去の自分。 ようやく思い出せた、自らの存在意義。 (俺が例え何者であろうと、人々を守らない理由にはならない) それが、ようやく分かった。 まだジョーカーとして活動していた頃やライダーとして戦っていた頃の記憶は曖昧だが、今はこれで十分だ。アンデッドが発生している原因を突き止め、この世界の人々を守る。それを決意することができたのだから。 そうして自分の気持ちに整理をつけ、隊舎に戻ろうとした刹那―― 「――動かないで」 凛とした声が、俺を押し止めた。 ・・・ ついに本来の力を取り戻したカズマだが、そんな彼に彼女が戦杖を突き付ける。 そして二人の前にあの男が立ちはだかる――! 次回『火焔』 Revive Brave Heart 目次へ 次へ
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コメント欄です 感想や応援メッセージなどをお気軽にどうぞ(無名コメントも可能です) ですが、コメント同士での会話や荒らしコメは禁止。度を越えた展開予想もやめてください。 後編がまちどうしくて、たまりません。 -- 流れ星 銀 (2008-11-06 10 57 23) 続き期待してます -- K (2008-11-11 11 02 56) 続編が楽しみで仕方ありません。 続編もがんばってください! -- レーバテイン (2008-12-11 18 30 41) 早く続きを書く作業にもどるんだ! -- 名無しさん (2008-12-24 10 46 50) ストーム1かっこよすw 続きを待ってますぜ! -- もびお (2009-01-08 18 34 18) 地球防衛軍はやったことないですが面白かったです。これからどうなるか楽しみです。 -- 名無しさん (2009-01-17 00 07 27) いい作品ですね、続きが気になります リリカルなのはは知らないですが頑張ってください -- HEAVEN (2009-01-24 04 54 18) プレデターの話がとても気になります!次回が楽しみ! -- ぽにゃ (2009-02-08 22 51 37) おもしれええ 続き期待!! -- 名無しさん (2009-02-12 21 40 44) EDF連載が面白すぎです。 続編楽しみに待っています。 -- 怨呪 (2009-03-23 15 49 31) 続編めっちゃ楽しみです応援してます -- 名無しさん (2009-10-08 21 23 53) 私は、いくらでも待ちます。続編頑張ってください -- 名無しさん (2010-05-05 20 49 46) これを読むまでなのはの事はよく知らなかったけどこれで興味を持ったよ -- 名無しさん (2010-08-07 15 04 16) EDFIAにEDF2Pそして念願のEDF4発売決定! これを機に続きが投稿されることを願って今日も地球を守り続けます! -- 名無しさん (2011-01-07 01 23 57) 本部、本部! 続編が待ち遠しすぎるせいで皆やられました! せめて生存報告くらいはお願いします! -- 名無しさん (2012-01-22 17 03 47) 誰か…応答してください!…誰か! -- 名無しさん (2013-06-25 00 39 52) EDFは的に背中を見せない!それだけは忘れるなぁ! -- 名無しさん (2014-05-05 13 18 07) 名前 コメント
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リリカル・コア外伝第2話「騎士と鴉」 「えーと、今日の分の日誌はこれで良し、後は月例報告に添付する画像はと……」 エリオ・モンディアルは自身に割り当てられた端末と向かい合って格闘していた。 「あのデータ、何処に入れたかな……?」 機動六課在隊時に当時スターズ分隊副隊長だったヴィータに仕込まれたとは言えまだまだぎこちない。 エリオにとってはこのようなデスクワークよりも訓練、そして今ではキャロやルーに及ばないとは言えそれなりに 心を通わせれるようになった自然保護区の動物達と交流しているほうが落ち着くというのが本音である。 「あった。これを添付して……」 「エリオ、ちょっといいかい?」 「タントさん?どうかしましたか?」 「ちょっとね」 書類を作成後、提出し裁可して貰う現在の上司に声を掛けられる 「すいません、書類にはもう少し時間がかかりそうなんです……」 「ああ、それはまだいいよ。でも来たばかりの頃に比べれば大分此処にも業務にも慣れてきたね?」 「はい、おかげさまで」 六課解隊後、エリオはキャロと供に自然保護隊へ異動した。 エリオには他の三人と違い、前任部隊は無く、陸士部隊―特に一線級部隊から―からの引く手数多であったが、 結局自身の希望を通してもらう形で自然保護隊への転属となった。 六課解散後から一年と少し、牧歌的な“後方部隊”と揶揄されることもある辺境自然保護隊とは言えど、密猟者等の 追跡や捜査も一義的には任務として負っており、密猟者と向き合えば立派に“前線部隊”となる。 そんな中対密猟者戦において自然保護隊内の専門部隊以外、数少ない取り締まりも出来る保護官として実績も上げていた。 騎士として鍛練は一日も欠かさず行い、六課時代よりも上達のテンポは少し遅くなったものの、今では誰もが一目置く 自然保護隊最強の一角である。 「ちょっとお願いがあるんだ」 「お願いですか?」 「そう、ちょっとした荷物の受け取りに行って欲しいんだ」 「荷物の受け取りですか?それじゃあフリードと一緒に……」 「いや、そんなに大きくないから一人で大丈夫だよ」 タントが言葉を区切る。 「荷物って何なんですか?」 「時々大きな規模で発生してる“蟻”の話は聞いてるね?」 「“蟻”って……、まさか……?」 「うん、そう。“バグ”。幾つかの世界で猛威を振るう“蟻”さ」 “蟻=バグ”。 何者かが作り出した生物兵器とされ、女王を中心とした集団、つまり蟻に似た組織を作り地中深く潜み、 時々現れては人間の生活圏を脅かす生命体。 「やっぱり人の手による物……、何でしょうか?」 「おそらくね、自然の生命体がその世界以外で同種が確認されるのは極めて稀、自然保護隊や過去の記録を見ても殆ど無いよ」 「この世界への流入があったんですか?」 「まだだよ、でも大分前に“蟻”が一つの都市を壊滅させた時、何者かが開発した極めて強力な駆除剤を使用したんだ。 そのおかげでその都市の“巣穴”の“蟻”を全滅させれたんだ」 その都市の住人はは殆ど死亡したんだけど……、タントが付け加える。 「荷物というのはその駆除剤の事ですか?」 「やっと生産が軌道に乗って此処にもそれが回ってくるということさ。備えあれば憂いなし。でも物が物だから受け取りに 行って欲しいんだ」 「でも、あれって人の手が入った生命なんですよね?研究元を叩かないと……」 「ああ、それなら君の保護者さん達がやってるよ」 「フェイトさんですか?」 「……くしゅん!!」 「風邪ですか?」 「うーん、違うと思うけど……。何て言うんだっけ?」 「……人が噂してるから、ですか?」 「そうそれ」 (フェイトさんなら四六時中誰かが噂しててもおかしくないと思うんだけど……) ティアナが当然の疑問を脳裏に思い浮かべ、すぐにそれを打ち消す。 「えーと、報告の続きですが、“バグ”といわれる生物兵器群の開発元とされるケミカル・ダイン社ですが クローム社の解体後、グループ企業だった同社の企業内の研究内容は細切れにされ散逸、 何処にあるかも分かりません」 「あー、それじゃこの線は望み薄?キサラギの方が望みが在るかな?」 「そうでもありません。ケミカル・ダイン社の実験施設と思われる施設の場所の特定に成功しました。そこには まだ稼動中の記録媒体があるかもしれません。つまり……」 「どこで“実地試験”をしていたかが分かると……。さすが、ティアナ、よく分析したね」 「これぐらい出来なければ執務官補の名が泣きますから。でもコイロス浄水場で発生した生物ですか? これも生物兵器って言われてますが……。なんでこんなものばかり作るんですかね、人って……」 ティアナはため息一つ、フェイトも同じ気持ちだった。 鉄道貨物ターミナル。列車の引込み線にクレーンが聳え立ち、周囲には色取り取りのコンテナが並ぶ、そしてコンテナを 積載するためのトラック・ヤード……。 普段こじんまりとした場所を中心に動くのに慣れたエリオにはこの貨物ターミナルの広さは圧巻であった。 「広い……、この施設だけで六課の施設ぐらいの敷地ぐらいはありそう」 タントに示された荷物保管所だけでもエリオの観点からすれば大きい部類に入る。 「すいません、荷物の受け取りはこちらですか?」 受付と思しき場所を見つけそこに明らかに暇をもてあましている係員 「はい、どちら様でしょう?」 「時空管理局自然保護隊、エリオ・モンディアル一等陸士です」 受付の顔に一瞬驚きが走る。だがそれも一瞬、すぐに仕事の為の顔に戻る。 一応は自然保護隊の制服を着用しているとは言え自分がおそらく管理局員として驚かれているのではなく、かつての 機動六課の隊員の一人として驚かれているのにエリオは慣れていた。 「積載されたコンテナはわかりますか?」 「特別仕立てのコンテナって聞いてるんですが……」 係員が端末を向き、 「それでしたら……。えー、管理局使用のコンテナですが次の列車で到着するとの事です」 「次のって、どのくらいですか?」 「まあ、後四十分程度ですね」 「エントランスで待たせて貰って良いですか?」 「どうぞ」 係員の言質を取り、エントランス内で適当な場所を見つけ、そこに座る。 あまり危険は感じられず、リラックスできる空間。冷房が効き過ぎずなおかつ暑くない申し分無しの場所。 だがエリオは自分がこの敷地内に入ってからずっと監視されていたのに気付いていた。 (外の車両に一人、監視カメラ、警備員がエントランスと廊下の向こうに二人ずつ……。ストラーダ、他には?) 《建物の外、小隊規模の“有明”を確認しています》 念話でストラーダに確認。しかし高々一等陸士を監視するにはあまりに物々しい警備。 (僕ってそんな危険人物に見える?) 《もしくは別の何かを警戒してるのでは?》 (うーん、ストラーダ、一応記録しておいて) 《Ya》 「間も無く着くそうです。一応契約上、コンテナの封印を解くのをお願いします。解除手順は分かりますか?」 「大丈夫です。ストラーダ、コードは分かってるよね?」 《Ya》 この係員がエリオを見て驚くのは二回目。デバイスを使ってることに驚いたようだ。一応民間では警備・巡察等を除く、 通常の任務では攻撃的なデバイスの所持・仕様には一応の規制が掛けられている。 重要な荷物の受け取りとは言え、通常の任務の観点から見れば取るに足らない任務である。デバイス、特に六課謹製の ストラーダは過剰といえば過剰な装備であるといえる。 「いいデバイスですね?」 「……?ありがとうございます」 係員がそういったのは皮肉かそれとも正直な感想かエリオには分からなかった。 建物の外、強い日差しが降り注ぎ敷かれたコンクリートを熱していた。 各区画を結ぶ連絡路の一つをエリオは職員の誘導に従い、その中を歩く。 自身の歩く先、目的地と思しき場所までには“有明”が二機、着座していた。 (ストラーダ、周囲の状況は?) 《“有明”の小隊に動きはありません。我々を見ているのは監視カメラのみです》 取り越し苦労だったのか、一応彼らが注目しているのは別の何からしい。 「あの、此処って何時も警備は厳重なんですか?」 エリオが自分を先導する職員に聞いた。 「さあ、何処もこんなモノだと思いますよ?」 職員の答えは素っ気無いモノだった。その答えが疑わしい物であるのは明々白々。 (タイミング、悪かったかな……?) エリオの思考が巡ろうとした時、周囲の平和な空気が一変した。 電柱に着きえられたスピーカから何者かの襲撃を伝える警報と警告。 『管制塔より全職員へ、敵性飛行体が接近、所定のシェルターへ移動せよ。繰り返す……』 「……え?」 まさかの事態に思わず素っ頓狂な声を上げる。管理局の質の悪い冗談でもこんな事はない。 「……状況は?……こちらも避難させた方が良いのか?」 先導の職員が手持ちの端末で確認していた。 (ストラーダ、通信を聞ける?) 《可能です》 ストラーダから直に送られてきたのは管制塔と警備小隊の交信。 <管制塔、接近に気が付かなかったのか!?> <NOEで接近された。レーダーの探知が遅れたんだ!!> <前衛より各機、機種を確認した。“ウェルキン”無人攻撃機だ> <こちら管制塔、全火器の使用を許可、繰り返す……> <リーダー了解。小隊全機、施設への被害を最小限に抑えろ> 最後の通信と同時に“有明”が動いた。 エリオの正面に着座していた二機はほぼ同時に起動し、右手に持つサブマシンガンを発砲。 発砲音が空気を震わし、さらに排夾されたカートリッジの地面に落ちる音が響く。 思わず耳をふさぎ、頭を下げた。 だが目は周囲を確認し、体は自然とひざを曲げ、半屈の姿勢をとり、次の動きに備える。 エリオ達の後方から別の音が聞こえ振り返る。後方にいた一機が背部のブースターを点火、地面の コンクリートに脚を擦り、火花を上げながらこちらに向かっていた。 「危ない!!」 通過した一機は寸前で跳躍、二人の上を影を残し通過していった。 エリオと職員、二人とも顔の前で腕を組んで通過の風圧に耐える。 その次に来たのは弾幕を抜けた“ウェルキン”が一機、航過していく。 機体下面に装備された大口径機関砲は一機の“有明”を狙う。が、狙われた機は半身を取って寸前で回避。 “ウェルキン”は狙った機体に回避されたとはいえまだ地上に攻撃する目標はあった。 エリオと職員、“有明”に比べれば容易な標的。 「……不味い!!ストラーダ!!」 『Sonic form』 子供とは思えないような力と爆発的な加速で以って自身と職員を射線上から退避させる。 つい先ほどまで居た空間を機関砲がなぎ払い、破片をばら撒く。 (……あれ?) 職員の体に接触した時、、そして抱えた時、職員の体は妙に堅く、普通の人間とは思えない違和感を持っていた。 (ボディーアーマー?それに……拳銃型のデバイス?) 違和感の正体はすぐにわかった。職員は着ていた作業服の下にボディーアーマーを着込んでいる。 さらに右の腰には外側からは簡単に判らないように拳銃型のデバイス、さらに予備弾倉を携帯していた。 (一般職員までここまで武装をしている?) そもそも一般職員が武装するのであればそれは着用する必要は殆んど無い。 警備班が警報を鳴らした後にでも装備を付けさせれば良い。“普段の業務”では戦闘装備は不要な物だ。 だが此処に居るのは本当に一般職員なのか?手際よく管制塔への連絡を取った手腕、落ち着いた交信内容。 しかもただのターミナルにしては豪華すぎる警備小隊の“有明”配備……。 (もしかしたら……) おそらくはこの襲撃を此処の職員達は知っていた、もしくは予期していた可能性に思い至る。 建物の陰に隠れ、職員を下ろし、建物を盾に周囲を見渡す。 しかし襲撃側の狙いはなんなのか?皆目見当が付かなかった。 「此処は危険です!!」 端末を耳からはずした職員が叫ぶ。エリオは現実に引き戻される。 かれのその声は耳には入っている。だが目は空を飛ぶ“ウェルキン”を追い、耳は聞きながら周囲の 闘騒音を拾い、頭は周囲の状況を組み立てる。 「これがテロであれば管理局員として見逃すわけにはいきません!!手を貸します!!」 「しかし、此処は社有地です!!管理局員といえど礼状や所有者の許可無くデバイスを使用するのは……!!」 職員の言葉は正しい。しかしエリオには違う教えがあった。 「……大丈夫ですよ」 努めて表情を殺し、低く落ち着いた声をだそうとする。 「……な、何がですか?」 職員の顔が引きつった。 成功だ。エリオは内心ガッツポーズ。 「例えどんなのが相手だったとしても!!……ストラーダ!!」 騎士甲冑の着用は人前で裸をさらすようなもの。が、いまはそんな贅沢は言ってられない。 (最初の発光で目をつぶっていますように……) エリオはそう願いつつ、騎士甲冑を着用、待機状態から実体化したストラーダを握り、振るう。 「降り掛かる火の粉を払って!!……まずはお話を聞いてもらうんです!!」 吐き捨てるように叫ぶとストラーダで以って加速、空に舞う。 エリオは航空魔道士ではないがストラーダを使えば限定的な空戦は可能。 「ストラーダ、敵の数は!?」 空に上がったと同時に周囲を確認、自分の目にも見えるがストラーダのセンサー系の方が広く全周をカバーできる。 『“ウェルキン”を十機以上確認。警備の“有明”は敵味方不明とします』 ストラーダが眼前に索敵結果を表示。テロリスト側は“ウェルキン”、こちらは敵性を示す赤。 “有明”は六機、こちらも味方とは言い切れないが一応は味方に近い緑の表示。 <こちらターミナル管制塔!!エリオ・モンディアル一等陸士へ!!状況への介入を依頼していない!!直ちに退去しろ!! 繰り返す!!直ちに退去しろ!!……退去しない場合は貴官もテロリストとして対処する!!> 管制塔からの警告。 「時空管理局、エリオ・モンディアル一等陸士です。場所と状況は承知しています。 ですが今は人手が少しでも必要なはずです!!」 <こちらリーダー、管制塔へ。その通りだ。手駒は多いほうがいい。ロハであの“機動六課”が手助けしてくれるんだ。 最高の援軍だろ?> 此方は警備小隊のリーダーらしき機体からの通信が割り込む。ご丁寧に管制塔と自機の場所を送ってきた。 管制塔の位置はエリオからそう離れていない。しかもご丁寧に敵機の動きも付いている。 ストラーダが自身のデータを更新、表示した。 <リーダー、指揮権は此方にある!!余計な事を言うな!!> 管制塔の指揮官らしき男が叫ぶ。 <……所長!!来ます!!> 管制塔を目標に定めた“ウェルキン”が居た。数は二機、機首を管制塔に向け、機関砲の射程距離まで猶予は無い。 「……!!」 ストラーダが噴射ノズルを制御、エリオはそれに併せ方向変換と増速の動作をとる。 両手でストラーダを保持、コートをはためかせ一直線に“ウェルキン”に向う……、のではなく、少し軌道をずらし 管制塔を掠める軌道を取る。 <……待て、一体何を……> 管制塔の内部の人間がこちらを見る。 真横を通過する瞬間、ストラーダの噴射を停止、さらに急制動。 一瞬、体が浮いた。再びストラーダの噴射を再開だがあくまで一瞬だけ強力な姿勢制御用の噴射。 足が堅い物を踏む。地面ではなく、管制塔の強化ガラスを足で強く踏む。 「ストラーダ!!」 『Sonic form』 見せ付けるようにガラスを蹴り、再び加速、狙うのは前方の二機。 おそらく管制塔はストラーダの煙で視界は遮られている。 “ウェルキン”は突然の乱入者に臆する事無く機関砲を向け発砲。 機首下面のが光る寸前にエリオとストラーダはランダムで噴射を繰り返し接近。 相対速度の関係で接触するまではほんの一瞬、手の届くような距離にまで接近すればよし。 飛び道具を殆んど持たないエリオにとっては相手に以下に早く接近するかが一番重要なこと。 速度を保ったままストラーダの穂先に魔力刃を展開、すれ違いざまに一機の翼を切り落とす。 もう一機は標的をエリオに変更、急旋回に入るがエリオのほうが動きが早い。 急旋回のため速度を落とした“ウェルキン”の機体のほぼ中央にストラーダの魔力刃を突き立てる。 二機撃墜。戦果を確認すること無く、エリオは着地。地上で気配を殺し、絶えず周囲に目を配る。 何機かの“ウェルキン”が“有明”の十字砲火を受け墜落していくのが見えた。 <子供にしては良くやるようだ。だが……> 先ほどのリーダー機からの通信。強い敵意は感じられない。だが歓迎をしているとは感じられない声音。 <だが覚えておけ、お前はあくまで無許可で戦闘しているということだ。ああ、一応此方とリンクさせろ そっちの方が都合がいいだろう?> 『Ya』 ストラーダがエリオの代りに返答を代行、データリンクを表示。 「手出ししないほうが良かったかな?」 『降り掛かる火の粉は自分で払うのでは?』 ストラーダの返答。もしかしたら自分はとんでもない越権行為に手を染めてるのではないか? 疑問が脳裏をよぎる。 だが、今はそれを考える時ではない、疑問を頭から振り払い次の“獲物”に視線を定める。 「ストラーダ!!」 ストラーダが応える。不安定な飛行ではあるが、それを可能にするのはエリオとストラーダの相性の良さと 一人と一機のポテンシャルの高さ。 このコンビにとってガジェット並みかそれ以下の無人兵機など物の数ではない。 戻る 目次へ 次へ
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* 「人間じゃ、ない……?」 フェイトの発した台詞にジョーカーの体を強ばらせるカズマ。フェイトは彼を抱き締めたまま、その顔は見えない。 彼女がどんな表情で自らを“人間ではない”と言うのか、それをカズマは知ることが出来ない。 「フェイトちゃんは人間だよ!」 「なのは、私はそういう意味で言ったんじゃないの。うん、母さんやなのはのお陰で私は生まれが特殊でも生きてこれた。今でも感謝してるよ」 「生まれが……じゃあ、フェイトはどうやって――」 「――今から話すよ。カズマには、聞いてほしいから」 腕をほどいたフェイトが、カズマに向けて小さく微笑みかけた。 それが、彼女の話の始まりだった。 リリカル×ライダー 第十二話『来訪者』 「プロジェクトFATE――――それがフェイトの出生の秘密なのか」 「……うん」 彼女が話した一つの計画。 時空管理局には組織を束ねる中枢機関、最高評議会と呼ばれる存在があったらしい。 彼らは管理局が質量兵器、つまり銃などの兵器を禁止しているため常に戦力不足であり、そのため次元世界の治安を守り切れない状況だった。そんな現状を打破するために、彼らはある計画を始動させた。 ――プロジェクトFATE 後にプロジェクトF、又は人造魔導師計画とも呼称されることになるこの計画とは、人為的に魔導師を生み出そうとする計画だった。 何故魔導師を生み出す計画になったのかというと、魔導師になれる人間は全体の三割程度で、更に才能ある魔導師となるとその中の数パーセントしかいないからだそうだ。なのはやはやては地球という本来魔導師の生まれない星で誕生した変わり種らしい。 また魔導師の魔導師たる所以である魔力精製器官『リンカーコア』を人為的に再現できないのも理由らしい。周辺の霧散魔力を集積、倍加させる魔力炉や一時的に魔力を充填して魔法の発動を強化、促進するカートリッジなどがあるものの、魔力そのものを生み出すことは出来ないそうだ。 話を戻すが、この計画を遂行する人材を確保するために最高評議会は古代の遺伝子操作技術を用いてある天才を作り出した。 ――ジェイル・スカリエッティ。 彼は遺伝子レベルでこの計画を遂行しようとする意思が刻み込まれており、その最高レベルの知能を発揮して計画を進めた。 彼が取った手段はクローン技術。魔導師をクローニングし、記憶を転写することで魔導師そのものを複製するというものだった。 元々、最高評議会は遺伝子操作技術で計画を進める予定だったため、スカリエッティもその方面に長けた人物になるよう調整されていたのだ。 「今は最高評議会もメンバーが変わったし、計画自体も戦闘機人計画に変わって廃れてしまったんだけどね」 フェイトが疲れたように息を吐く。所々なのはも助力しながら説明された話は、俺には理解し難いややこしい内容だった。 しかし重要なのはこれからだ。 「その計画とフェイトがどう関係するんだよ?」 フェイトが視線を下げる。そこでなのはがフォローするように口を開いた。 「計画自体はさっきも言うように破棄されたの。けれど、ある人がその計画を引き継いだ結果、計画は別の形で続行されることになった。その人が――」 「――私の、母さん」 引き継ぐように、フェイトが重い口を開いた。 「母さんは娘をなくしていて、我が子を生き返らせるために計画を引き継いだの。けれど、結局生み出されたのは失敗作だけだった」 「失敗作、って……」 俺の顔から血の気が引くのを感じる。いつの間にか、俺の体はジョーカーから人間の姿に戻っていた。 「私、だよ。その娘と同じ外見、記憶を持ちながら全くの別人になってしまった失敗作。試験管から生み出された人の形をした異形【ホムンクルス】」 「そういうことか……」 プロジェクト名をそのまま付けられたのは、おそらく失敗作としての烙印だろう。娘の名を授ける気も起きなかったのか。 「……くそっ!」 彼女には本当の親がいない。俺は死んだとはいえ覚えているが、彼女には覚える親の顔さえないのだ。 「でも平気だよ。今は私を大切にしてくれる母さんや親友がいるから。それに私は自分を生んでくれた母さんも好きだから」 そう言って笑うフェイト。 彼女は乗り越えたのだろう。他人には想像も出来ないほどの地獄を、親友や多くの人に助けられながら。 「だから今度は、カズマは私が助ける」 最初はなのはを傷付けた俺に敵意を剥き出しにしていた彼女が、次第に見舞いにも来るようになり、今はこんな俺の手を握って温かい言葉をかけてくれる。 だからこそ、気付いてしまった。 「――ありがとう。けど、俺はここには居れない」 「どうして!?」 フェイトの顔から目を反らして手を見る。俺は誰かに守られる存在でもなければ、ましてや人と共に存在できる体でもない。そう、この手は―― 「――全ての人々を、守るためにあるんだ」 そのためには、何かを求めてはならない。これは無償の戦いだ。例えそれが、目に見えないものだとしても。何か大切なものを作ってしまったら、俺の戦いも終わってしまうから。 そう、こんな所で立ち止まってはおれない。 ――――ドクン。 人々を、守らなければ。 ・・・ カズマがアンデッドを封印するために六課を出た次の日、はやてはまたもや頭を抱えたくなるような事態に直面していた。 「フォォォォォウ!」 意味不明な叫び声を上げる男。先程フェイトちゃんのスポーツカーと違って趣味の良いデザインの車が六課に突っ込んできたのだが、それに乗っていたのがこの男だった。 「いやぁ、入局申請? みたいなのをするために来たつもりが事故の処理をやる羽目になるとはねぇ」 椅子にふんぞり返りながらそんなことを言う男。 アンタが原因だろ、とは言わない。はやては大人なのだ。 「取り敢えず管理局保安部には連絡しておきました。それで、どういった御用件でしょうか」 極めて事務的に、かつ口調を固めに言うはやて。彼女としては、さっさと要件を済ませて出ていってもらいたいのだろう。 だがこの男、アロハシャツに丸いサングラスといった奇抜な外見や奇妙な言動からも分かる通り、一筋縄ではいかない。 「へぇ、キミが部隊長? やっぱり美しいモノは皆好きだよねぇ。けど怖い顔してると美貌も台無し、やっぱ誘うなら笑顔でなきゃ」 「……真面目に答えて下さい」 というより、話が通じなかった。 「いやぁ、管理局に入りにきたのよ。就職、ってヤツ?」 はやては目の前の男を鋭く睨み付ける。冗談にしか聞こえない口調で言っていい内容ではない。少なくとも、はやての前では。 だが彼女は大人だ。どれだけ内心怒り狂っていようとも、公の場では笑顔すら装う。 「管理局は非常に大きな組織です。入局されるのでしたら地上本部で身体検査、心理テスト、学力テストを受けて最適な部署を紹介してもらってください。ここでは募集は行っておりません」 ポーカーフェイスのまま、事務的な内容を告げるはやて。彼女は本人すら気付かぬ内に身構えながら、簡単な地図を描いた紙を差し出す。 「ではお引き取り――」 「――仮面ライダー、ここにいるんだよなぁ?」 その台詞に、はやてのポーカーフェイスは砕け散った。 彼女の頭に浮かぶのは前回の戦い。彼女の愛しい守護騎士が傷付いた、あの戦闘。 『俺は、仮面ライダーだ!』 カズマが放った、あの言葉。 「実は知り合いなんだよねぇ、ちょっと顔を見たくてさぁ」 「カズマ君のことを知っとるん!?」 はやての手は自然と、男の襟首に向かっていた。 「ちょっと過剰じゃない? スキンシップがさぁ」 「何を知っとるんや!? カズマ君はいったい何者なんや!」 魔導師では歯が立たなかった怪人を倒したカズマを思い出すはやて。彼女は彼が普通じゃないことに薄々感付いていた。記憶が戻りつつあることも。 だが彼女はそれを聞くことはできない。聞けばカズマはもうここに居れなくなってしまうから。 彼女は、部隊長なのだから。 「教えてや! 私は、私は知りたいんや!」 「ふぅん? 仮面ライダーって、こっちでも人気なんだ?」 そんな彼女を見ながら笑みを深める男。いつしかその笑みが危険なものになっていることに、はやては気付かない。 「じゃあさ、こうしようか」 「……なんや?」 「ライダーが来るまでに俺を倒せたら、とか」 その瞬間、彼女の体が三メートル先の壁まで吹っ飛んだ。 「ッ! かはっ、けほっ」 「今日は助けてくれる奴、いないんだろ? 二人でお楽しみってわけだ。フォォォォォウ!」 いつの間にか、男の外見は変化していた。 凶悪な面に羊を思わせる双角。左右非対称な体、白い右側の体は肩から真っ直ぐ歪角を伸ばし、白い羊毛で覆われている。 その名はカプリコーンアンデッド。 彼が上級アンデッドと呼ばれる存在であることを、はやては知る由もない。 「まさか、怪人やったなんて……」 吹き飛ばされた直後にデバイスがオートで起動したため、彼女の体は白黒のバリアジャケットに保護されていた。それでも装甲板を埋め込んだ壁をへこませるほど衝撃は、彼女を苦しめた。 「怪人? 違うな、俺達はそんな名前じゃない」 心底愉快気に笑うカプリコーンアンデッドは太く逞しい右腕を振り上げ、掌を拳の形に変えていく。 「俺達はアンデッドって言うんだぜ? フォォォォォウ!」 その右腕を、勢いよく振り下ろした。 「――ッ!」 はやても十字架を模した杖型デバイス、シュベルトクロイツを構えながらプロテクションを発動させて受け止めるが、その凄まじいパワーにじりじりと圧されていく。 「フォォォォォウ!」 さらに左腕も駆使しての連撃を放つカプリコーンアンデッド。その怪力によって打ち出される拳撃は単純なパンチにも関わらず凶器と呼べるレベルである。 特にはやては六課でも屈指の魔力量を生かした大規模魔力爆撃が得意な後方支援型だ。なのはのように砲撃がメインながらあらゆるレンジを対処出来るタイプとは異なる。 そのため近接戦では無類の強さを誇るアンデッドとは余りにも相性が悪すぎた。 (せやかて、こんな所で私は負けられないんや!) 少しずつ後退しながらもはやては新たな魔法の術式を起動させ、足元に正三角形を元にした魔法陣を展開させる。 「刃を以て、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー!」 詠唱によって術式を発動させる。 その瞬間、カプリコーンアンデッドを囲むように12の血に染まったような紅い短剣が出現する。 「行け――!」 それらが一気に中心点を屠るべく迫る。 「グォォォォオ!?」 カプリコーンアンデッドの全身にブラッディダガーが突き刺さり、さらに爆発を以て傷口を抉る。 それに対しカプリコーンアンデッドは今までの喋り方からは想像も出来ないような獣じみた呻き声を上げる。 「今の内に……」 はやてが素早く部屋の隅に備え付けられた警報装置を作動させようとする。だが―― 「なんで!? なんで作動せんのや!」 「テメェ、痛ぇじゃねぇかよ! 可愛い顔して舐めた真似してくれちゃってよぉ!」 作動しないスイッチを叩くはやてを後ろから襟首を掴んで強引に持ち上げるカプリコーンアンデッド。 その右腕を、ぎりぎりと握り込む。 「やっぱり女って汚いよなぁ。前も女に騙されて殺られたが、今度はそうはいかねぇ!」 カプリコーンアンデッドは舐めるようにはやての顔を眺め、そして彼女の腹に向けて拳を打ち込む――! 「フリジットダガー!」 その瞬間、カプリコーンアンデッドに氷で作られたような蒼く透き通ったナイフが幾重も刺さった。 「グォォォォオォォォ!?」 その傷口は瞬く間に凍り付いていき、カプリコーンアンデッドの動作を阻害する。 はやてはそれを見て弛んだ手から脱出する。 「リィン! 気付いてくれたんか!」 「もちろんです~! はやてちゃんを守るのがわたしの務めですから!」 リィンが場にそぐわない明るい笑みを浮かべる。妖精のような外見だから余計に場違いだ。 しかし、そんな笑顔も一瞬で暗いものに変わった。 「ただどこからか分かりませんけど、六課のコンピュータがハッキングをかけられて各設備が使用できなくなってます。ロングアーチスタッフはその処理に追われててんてこ舞いですよ~」 (それが原因やったんか……) いったい誰が、と思考を続けようとするはやて。 しかし彼女がそんな思考に埋没できる時間はない。 「舐めてくれちゃってよぉ。いい加減ブッ殺さないと気がすまねぇなぁ!」 「リィン、ユニゾンや!」 「はいです!」 立ち上がったカプリコーンアンデッドに対抗すべくユニゾンデバイスたるリィンが本領を発揮する。 光り輝き出したリィンがはやてに溶けるように消えていくと同時にはやてを光が包み、髪の色や黒が基調のバリアジャケットを白く染め上げていく。 カプリコーンアンデッドとはやての戦いが、始まった。 ・・・ 「はぁ、はぁ、はぁ――――」 目の前で斬り伏せたジャガーアンデッドの腹部にあるバックルが二つに割れる。その割れ目にはスペードの刻印と9という数字が刻まれている。 俺はアンデッドに向けてカードを放ち、封印する。鮮やかな躍動感のある豹の絵が描かれたカードを確認しながら俺は後ろを向いた。 (おかしい。あの感じは上級アンデッドだったはずなのに……) 今回のアンデッドの反応は妙だった。現れては消えを繰り返すもので、探すのにかなりの時間を費やしてしまった。 しかし今封印したアンデッドの反応だったとは思えない。あれは上級アンデッドのものだった気がするのだ。 (おかしい……) 嫌な予感がする。何か忘れているような、大切なものを放っておいてしまっているような――。 そんな俺の視界に、何かが滑り込んだ。 「また会ったな、剣崎」 「た、橘さん!?」 現れたのは橘さんだった。しかも今回はバイクに跨がって。 そのバイクは―― 「ああ、お前のだ。あの伯爵に頼まれたのでな。今は従うしかないので届けに来た。感謝しろ」 不快そうに眉を潜めながらそう話す橘さん。だが今回ばかりは全く気にならなかった。 ――ブルースペイダー。 あらゆる不整地を走行出来るように計算された高い車体。蒼いカウルで保護された車体。そして最大の特徴たるスペード型の青いスクリーン。 かつての愛車であり、たった一人で戦っていた頃も共にいてくれた相棒。 「……なんで、橘さんが?」 「俺は届けに来ただけだ。次に会うときは殺し合う仲、お前と話すことなんてない」 本当に鬱陶しいんだと言わんばかりにヘルメット(それも俺が使っていたものだ)を脱いでハンドルに引っ掛け、バイクを降りる。 「さっさと行け、お前がベストのコンディションで戦えないと俺も気分が悪い」 「どこに行けと言うんですか?」 「知るか。自分で考えろ」 記憶と随分違う橘さんの言動に戸惑いつつ、話の内容を咀嚼する。 (まさか、六課が……!) 辿り着いた結論は、嫌なものだった。頭の悪い俺の結論にも関わらず、外れている気がしない。 「すいません、行かせてもらいます!」 俺がブルースペイダーに跨る。セルでエンジンを起動させ、クラッチを握りながらギアを一速に切り替える。 橘さんは何も言わずに何処かへと去っていった。 その背中を見届けた後にアクセルを少しずつ捻りながらクラッチをゆっくりと開き、緩やかに、だが徐々に加速させながら走り出した。 ・・・ 「はぁ、はぁ、はぁ……」 はやてが苦し気に息を吐きながらシュベルトクロイツを構え直す。 対照的にカプリコーンアンデッドは腕を軽く振りながら軽い足取りではやてに迫ってきていた。 はやてがリィンとユニゾンしてから、すでに15分が経過していた。 「健気だねぇ、まだ抵抗を止めないとは」 じりじりとあちこちが凹んだ壁へと追い詰められるはやて。バリアジャケットが傷付いて露出した、赤みがかった白い肌を舐めるように見回すカプリコーンアンデッド。 先に動いたのは、はやてだった。 『「フリジットダガー!」』 はやてとユニゾンしているリィンの声が重なるように発されるのと同時に、部屋の各所から水晶のように透き通った冷気を帯びるナイフが幾つも出現する。 それらは目にも止まらない速度でカプリコーンアンデッドに飛来する。だが―― 「ハァァアァ!」 カプリコーンアンデッドが吐き出した青いエネルギー体が、それらを弾き飛ばした。 「くっ……!」 はやてはエネルギー体の突撃をプロテクションで防ぐが、吹き飛ばされて壁に激突してしまう。 「フォォォォォウ!」 カプリコーンアンデッドが止めを刺すべく右手を振り上げる。 その時だった。 「りゃあああぁぁぁ!」 強化ガラスを突き破って、カズマがブルースペイダーに乗ったままカプリコーンアンデッドに突撃した。 「――ッ!?」 ウィリーによって持ち上げられた前輪にかかった力学的エネルギーはカプリコーンアンデッドを容易く吹き飛ばすに足るものだった。 「大丈夫か、はやて!?」 「カズマ君……」 『カズマさん来てくれたんですねっ! リィンはちゃんと信じていましたよ!』 カズマがブルースペイダーから降りつつはやてとリィンの元に行こうとする。 しかし一足早かった者がいた。 「あぐっ!」 その影は太い腕をはやての首に回し、そのまま縛り上げる。 「ベルトを下に置け! さもないとこの女が死ぬぞ?」 影の主、カプリコーンアンデッドは愉しげな声でそう言った。 その台詞、光景に何故かカズマは既視感を覚える。この吐き気のするような光景に。 「卑怯な!」 「五月蝿い! お前のせいで俺はこんな目に遭ってるんだからお前も痛い目を見ろ!」 「何のことだ!?」 「覚えてないとでも言うか!? なら今すぐ思い出させてやる!」 怒り狂ったカプリコーンアンデッドははやての首を絞める腕に力を込めていく。その太い腕と対照的に細いはやての白い首が嫌な音を上げ出す。 「あっ、あ、ああ……」 「はやて!」 「さっさとベルトを置け!」 カズマがカプリコーンアンデッドを睨み付けるが、意にも解さず笑みを浮かべながら首を絞めていく。 だが、この時三人は後一人の存在を忘れていた。そう、はやての中にいるもう一人の存在を。 『フリジットダガー!』 突然はやての内側から舌っ足らずな叫びが上がる。 「な……!?」 その瞬間、カプリコーンアンデッドの真上に出現した氷の刃が彼の脳天を貫いた。 「今だ!」 カズマがそこでショルダーチャージをかけて吹き飛ばす。その腕の中には、救出されたはやてがいた。 「か、カズマく――」 「はやて、離れてくれ。俺はあいつを倒す!」 「……」 はやては一瞬不満そうな表情を浮かべるが、状況が状況故に素早く身を離す。 カズマは醒剣ブレイラウザーのカードホルダーを展開し、二枚のカードを抜き出す。 『KICK,THUNDER』 スラッシュされた二枚のカードから引き出される力は混ざり合い、コンボという名の必殺技へと昇華される。 『――LIGHTNING BLAST』 カプリコーンアンデッドが、ゆらりと立ち上がった。 その動作と同時にカズマはブレイラウザーを地面に突き刺し、彼の元に走る。 カプリコーンアンデッドはそれを見ながら慌てて腕をクロスさせて防御態勢を取る。 カズマはジャンプによって得られた位置エネルギーと、カードによって得られた雷撃の力を、強化された右足に込める。 「うぉあああぁぁぁぁ!」 それを、容赦無くカプリコーンアンデッドに叩き付けた。 「ウォォォォオッ!?」 その力によって、彼は壁をひしゃげさせるほどの勢いで吹き飛ばされる。 カシャンという軽い金属音。 カズマは静かに、『Spade Q』を封印した。 ・・・ 戦いが終わって、ようやく私は応接室を見回す余裕が生まれていた。あまりの酷い惨状に泣きたくなるだけだが。 何だかんだで私も頑張ったと思う。数少ない近接魔法を駆使し、苦手なんてもんじゃないクロスレンジをどうにか戦い抜くことが出来たわけだし。 それはそうと、今は聞きたいことが山ほどあった。カズマ君に。 「――なぁ、カズマ君」 「はやて、大丈夫か? 全身傷だらけだし……。くそっ、俺の帰りが遅れたばっかりに――!」 けれど、こんなに他人のために一生懸命なカズマ君を見ていると、何だかどうでも良くなってきた。まるで往年のなのはちゃんみたいな……って、それは本人に失礼か。 「私は大丈夫や。今リィンが回復魔法をフル稼働中やし。それよりロングアーチに連絡を取ってくれんか? そこの受話器が使えればええけど、無理なら直接行ってくれん?」 「ああ、わかった」 そう、私は大丈夫。私は部隊長、こんなところで倒れるようじゃ『奇跡の部隊』を率いることなんて出来ない。 しかし今回のハッキングを行った者が誰か、それが問題だ。ロングアーチにハッキングするほどの実力者で、怪人に協力できる者。心当たりは、二人いた。 これは捜索を急いだ方が良いかもしれない。 そう思考していた私の元に、唐突に“轟”というエンジン音が耳に入る。 顔を上げた先には、今日二人目の来訪者がいた。 「剣崎、ようやくお前と戦う時が来たようだな」 その来訪者は―― 「――紅い、『仮面ライダー』?」 真紅の配色ながら、カズマ君の変身した姿とそっくりなバリアジャケットを纏っていた。 細部は確かに違う。頭はカズマ君のが一本角なら二本角になっているし、肩のアーマーなども形状が違う。 そして似ているのはカズマ君のバリアジャケットとだ。何故なら、不自然なまでに腹部や肩が何かを塗り潰すように装甲が貼られているからだ。 「橘、さん……」 「剣崎、後でお前に通信を送る。そこに一人で来い。誰か一人でも連れて来ればあの悲劇がここで起きることになる」 「あの悲劇――?」 「お前がかつて己の体をかけて止めた悲劇だ」 そのセリフで、カズマ君の表情が変わった。 「いいな?」 「待ってください、橘さん!」 だが橘さんと呼ばれた紅い『仮面ライダー』はそれに答えることなくバイクを走らせてこの場を去ってしまった。 結局私は、何一つ理解出来ないまま。なのに状況だけが次々と進んでいた。 ・・・ カズマが受けた決闘状。相手はかつての師、戦うのは異国の地、奮うのは人とは異なる体。 人の皮を被る怪物と試験管から生まれた異形がぶつかり合った時、伯爵のストーリーは進む。 次回『決闘』 Revive Brave Heart 目次へ 次へ
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第八話「第二ラウンド」 12月12日 1916時 時空管理局医療ブロック 蒐集されたことでリンカーコアに悪影響が出てないか調べる為の検査も 異常がなければ今日で最後となるはずだ。他にもエイミィさんがカートリッジの適性検査とか 魔力の限界圧縮率検査とか云々言っていたが何の事なのかよく分からなかったので とりあえず黙って受けることにした。 「体は健康そのもの、リンカーコアも異常なし。これで通院も終了だね。」 担当医がカルテを見ながら満足そうに頷き、目の前のなのはに言った。 「ありがとうございました。」 「まあ、『闇の書』の蒐集行為は過去にも何度かあったから 医療データだけはたくさんあるんだよね。」 「そうなんですか。」 「ああ、前回は11年前だったかな。あの時も多くの人が運ばれてきたよ。 『闇の書』は厳重に封印されてここに護送される予定だったんだけど途中事故がおきてね。 L級巡航艦が轟沈したよ。タカ派の連中が騒いで当時はすごくもめたものさ。 自分達に一任させていればこういう事態は起きなかったって・・・ そういえば、そのとき沈んだ船の艦長は、今回の捜査の指揮を取ってるリンディ提督の旦那さんだったな。」 「え?」 なのはは耳を疑う。クロノ君もリンディさんもそんなこと一言も言ってくれなかった。 「あれ、もしかして知らなかった?あちゃー、僕から聞いたってのは内緒にしてくれよ?」 担当医は額に手を当て、やってしまったという感じに首を振った。 どうやら聞いてはいけない類の話だったようだ。 まずいことを話したと思ったらしく担当医の口数は明らかに減り、検査はそのまま終了し なのはは医務室から出る。部屋の前で待っていたフェイト達が診察結果を聞いてくる。 「なのは、結果はどうだった?」 「うん、ばっちりだよ。健康そのものだって」 「レイジングハートとバルディッシュの修理もちょうど終わったところだよ。」 自分たちの変わりに傷ついた相棒の修理も終了したとのことだ。 これでなぜあの人達が『闇の書』の完成を目指すのかを確かめることが出来る。 クロノ君は動機は後で取り調べればいいと思っているようだが自分にとってそれは重要なことだ。 「じゃあ、帰ろうか」 ユーノ君がそう言ってみんなで転送ポート向かう。 本局から海鳴までおよそ1時間といった所である中継ポートを 複数回乗り継ぎようやく到着する距離である。 それなら支部を作ればいいのにと思ったりもするが管理局の陸上部隊との 予算ぶん取り合戦でなかなか実現できないそうだ。 さらに言えば次元航行部隊は巡航艦など専門性の強い装備を使っているので これらを扱える人材を育成するのも大変なお金と時間がかかるのだ。 それからしばらくして最後の中継ポートに乗り継ごうとしたときエイミィさんから通信が入った。 「みんな、今どこ!?」 「最後の中継ポートですけど、どうしたんですか?」 「武装隊が守護騎士二名を発見したんだよ!今、12人がかりで包囲してる。 クロノ君がもうすぐ向かってるけど、残り2人の騎士と『闇の書』の主のことを 考えるとどうなるか分からないんだ。 4人は、そのまま海鳴の現場に向かって!」 遂に来た。このときの為になのはとフェイトは魔法の訓練を自らに課してきた。 今回は戦っても負けない。 なのは、フェイト、ユーノ、アルフは転送先を変え中継ポートに乗る。 早ければ10分後に現場に到着するはずだ。 同日 1920時 海鳴市 市街地上空 「君達は包囲されている。おとなしく武装を解除して投降せよ。 投降した場合、君達には弁護の機会が与えられる。」 いつものお約束の言葉である。 包囲している武装隊員は12人、これからもっと増える可能性もある。 「ザフィーラ・・・」 「心得ている」 どうやらザフィーラも同じことを考えてたらしい。 お互いに背中を預け、戦闘態勢に入る だがヴィータ達が仕掛けるために踏み出そうとしたとき、武装隊員は急に散開しだした。 「なんだ?」 その行動を不審に思い警戒を強めるが、奴らは何かしてくるわけでもなかった 「ヴィータ!上だ!」 ザフィーラの声と共に上を見上げると黒衣の執務官が百を超える魔力刃を発現させている 離れたのはこのためか、武装隊員12人程度では自分達の相手には役者不足だ。 12人は足止めが目的で、執務官の到着を待っていた。そんなとこだろう 「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」 宣言と共に大量の青白い刃がヴィータとザフィーラに殺到する ザフィーラはヴィータを庇うとようにバリアを展開するが、いくらかは貫通しザフィーラたちを襲った。 「ザフィーラ!?」 「大丈夫だ。この程度でどうにかなるほど軟ではない」 「へ、上等!」 幾分かのダメージはあるようだが、ザフィーラの言葉に少し安心した この守護獣は基本的に正直者だ。どんなにやばいときでも顔色一つ変えずに淡々と事実のみを言うのだ 「どうやら他の連中は、結界に集中するみたいだな。 あの執務官は相当信頼されてるらしいな」 集団戦法に優れたミッドチルダ式で個人戦を最も得意とするベルカ式に挑むとは腕に自信のある証拠だ だが、相手がこちらの流儀にあわせてくれるならやり易い 1対1でベルカの騎士に負けはないと自負している 「ザフィーラは手を出すんじゃねーぞ」 「それはいいが、新手だ」 馬鹿でかい魔力反応が転移してくるのを感じ、その方向に目を向けると見知った連中がビルの屋上にいた。 一人は亜麻色の髪の少女、紅い宝玉を握り締めまっすぐこちらを見ている 一人は金髪赤眼の少女、ザフィーラと同じような使い魔を従えている 「あいつらは・・・!」 同日 1926時 海鳴市 強装型捕縛結界外 「ヴィータ達はあの中か」 包囲された直後ザフィーラがすぐに思念通話でそのことを伝えてきた 管理局武装隊の強装型捕縛結界・・・・外6人、内6人で結界の維持を行っているのか 『行動を!』 自らの半身とも言うべき相棒が行動を促す 外にいる連中を倒し結界破壊を優先すべきか、それとも結界内に入りヴィータ達の援護に回るべきか 『私の主ならあらゆる困難を食い破ってくれるものと信じています』 そう付け加える炎の魔剣はどうやら先日着け損ねたテスタロッサとの決着をつけたいようだ。 「そうだな。お前の期待に応えるとするか」 『Ja(承知)!』 レヴァンティンから薬莢が排出され、圧縮された魔力が炎に変換される シグナムはそのまま加速し強装結界に己の魔力を衝突させた。 上空の騎士達を見つめるなのはとフェイト 「レイジングハート!」 「バルディッシュ!」 「「セットアップ!!」」 その言葉と共に巻き起こる桜色と金色の魔力 だが、何かいつもと違う。それは力強く、活力に満ちていた。 『二人とも、よく聞いて。今日帰ってきてから説明するつもりだったけど その子たちには新しいシステムが組み込まれてるの』 エイミィさんから通信が入る。今日受けた検査と何か関係があるのだろうか? 「新しいシステム?」 『その子達が望んだの。主である貴女たちを守る為に・・・・ ベルカ式カートリッジ・システムの搭載を・・・ 呼んであげて、レイジングハートとバルディッシュの新しい名前を!』 心に流れ込んでくる新しい名前と守りたいという願い。 その願いは自分のものでもあり、手の中の相棒のものでもあった。 「レイジングハート・エクセリオン!」 「バルディッシュ・アサルト!」 『『System all green, Set Up!』』 魔力が最高潮に高まり、新たな力が起動する。 なのは達は一応武装はしたがこれはあくまで保険に過ぎない 本当の目的はお話を聞いてもらうことだ。 「私達はあなた達と戦いに来たんじゃない」 「『闇の書』の完成を目指す本当の目的を教えて」 「あのさあ、言うと思うのかよ?」 予想はしたことである。もし話し合いの余地があるのなら 最初から問答無用で襲ったりはしないだろう。 「それでも私達は知りたいの」 強固な意志が宿った瞳がヴィータ達を見る 一瞬だけヴィータはたじろいだがすぐにこちらを睨み返した。 「うっせーな、言うわけにはいかねーんだよ どうしても聞きたいのなら、あたしらを捕まえてからにしな」 そう言って武器を構えるヴィータ どうやら話し合いの余地はないようだ 「じゃあ、約束だよ。私が勝ったら事情を聞かせてもらうよ」 そういって、なのはは周りの人に念を押すように言う。 「フェイトちゃん、みんな、手を出さないで。私、あの子と1対1だから」 「うん、分かった。それに私も・・・」 フェイトはヴィータやザフィーラがいるより先を見る 突如、凄まじい音と共に何かが落ちてくる。 それはビルの屋上に着地しこちらを見る。 「シグナム・・・」 フェイトはどうやら彼女が来るのは予期していたようだ この強装型の結界は念話を遮断する能力は備わっていない 包囲された時点で他の騎士たちに連絡が行っていても不思議ではない そして、フェイトの読みどおりシグナムは現れた。 無言で剣を構えるシグナム、それに呼応するようにヴィータ、なのは、フェイトも構える。 アルフもすでにザフィーラと臨戦態勢に入ってる 「ユーノ、僕と君で結界の外側と内側を調べる」 「残りの騎士と主がいるかもしれないってこと?」 「ああ、主はいないかもしれないが残りの緑の騎士がどこかに隠れているはずだ。 君は結界の内側、僕は外側だ。」 緊張が高まり空間が軋みだす。二人の会話が終了したのと同時に8人は空へと躍り出す。 「約束は守ってもらうよ。私が勝ったら事情を聞かせてもらうから」 「へ、やってみろよ」 『Master. Please call me load cartridge.(カートリッジロードを命じてください)』 レイジングハートが搭載されたばかりのシステムを起動するように言う なのはも同じ考えだった。 古来より相手が自分より優れた武器を持ったときに行う対抗策は 新たな戦術を作るか、相手と同じ武器を持つかのどちらかだ。 自分達は後者を取った、戦術を作るには時間が足りないし 武装隊の人たちと連携を取る訓練を受けてない自分はただ足手まといになるだけだ 「レイジングハート、カートリッジロード!」 『Yes,load cartridge! Drive ignition!』 カートリッジに圧縮された魔力が解放され、なのはの膨大な魔力がさらに膨れ上がる。 魔力の扱いには慣れていたつもりだがこれはこれで応える。 体中の血管が膨れ上がるような感覚に襲われた 「でも、制御してみせるよ」 前方の見ると赤熱する4つの鉄球が飛んでくる 距離があるので余裕を持って回避することが出来た。 しかし、相手はすでに次の手をうっていた。 相手もカートリッジを使いデバイスを変形させる時間を稼ぐ為の行動だ。 紅い髪の女の子は自分を倒した、あのスパイク付きのロケットハンマーで一撃必殺を狙ってくる 『Protection powered(プロテクションパワード)』 それに反応し、バリアを展開する。 波紋状の光の壁と相手のハンマーが衝突し、辺りに火花を撒き散らす。 今までのバリアならば3秒とたたずに叩き割られただろう だが――― 「く、かてぇ・・・!」 カートリッジから供給された魔力によってバリアの硬度は今までの比にないほど上がっていた しかしこのまま攻撃を受けているだけでは勝てない 反撃に移る為、レイジングハートはある魔法を発動させた。 『Barrier Burst(バリアバースト)』 相手のハンマーが接触している所にバリアの光が集まり点滅していき その間隔が次第に短くなり限界まで点滅した途端バリアが爆発した。 だが、爆発したといってもなのははダメージを受けてはいない 指向性の爆風が攻撃側のみにダメージを与え、相手を吹き飛ばす それがこのプロテクション・パワードの派生魔法の効果である。 『Let s shoot it, Accel Shooter.(アクセルシューターを撃ってください)』 距離を取り直したところでレイジングハートはもうすでに次の魔法を用意していてくれた 「アクセルシューター、シューート!」 魔力が水増しされたことで弾数は増えるだろうと思っていたが、それでも6発くらいだと思っていた しかし、発射されたのは予想を大きく上回る12発 制御が行き渡っていないアクセルシューターはそのまま直進していくが このままだとただの花火になってしまう。 『Control, please.(コントロールをお願いします)』 制御に集中し12個の弾丸がヴィータの周りをぐるぐると飛ぶがひとつも当たらない 相手はそれを見て先ほど飛ばした鉄球をこちらに放ってくる これほど多くの弾丸を精密にしかも同時制御するのは無理だろうと判断したのだろう。 自分もそう思った、12個同時制御なんて出来ない 『It can be done, as for my master.(出来ます。私のマスターなら)』 その言葉と共にある考えが浮かんだ。 この方法ならできる。なのはは目を閉じ集中する 飛んでくる四つの鉄球を迎撃する為こちらも4つのアクセルシューターに意識を集中する 1・・2・・3・・4! 半年の訓練でシューター系の同時精密制御は4つが限界だった それはこれから訓練すればもっと数を増やせるのだろうが今はこれが精一杯 しかし4つあれば十分だ。鉄球の迎撃に成功し、今度こそ相手は攻撃手段を失う。 「約束は守ってもらうからね!」 手を振り上げ、12個の弾丸を3つの編隊に分ける。その3つを入れ替わり精密制御していくなのは 編隊Aが攻撃し終わると編隊Bに制御を移し攻撃を始め、それが終わると編隊Cと入れ替わり A→B→C→Aという感じでローテーション組んで攻撃してゆく。 こうして波状攻撃を加えることで12個の魔力弾をフル活用する それこそが、なのはが考え出した制御方法だった。 『Panzerhindernis.(パンツァーヒンダーニス)』 ヴィータは12個の弾丸から逃げ切るのは無理だと判断したらしく防御壁を全方位に展開する だがそれも完璧ではない。アクセルシューターの弾丸が当たるたびに防御壁は削られ、あっちこっちが軋み、ひびが入る。 もちろんぶつかるたびにアクセルシューターのエネルギーも消費されて入るのだが カートリッジで供給された魔力のおかげでまだ余力がある。 「まだ、私の番は終わってないよ!」 先日の戦いと今日戦ってみて分かったが目の前の紅い娘は手数で勝負するタイプじゃない 最前線に出て防御の上からでも相手を叩き潰す一撃必殺を好むタイプのようである そうであるならば、こちらにイニシアチブがあるうちに勝負を決めるのが一番だ 『Load cartridge, ”Buster Mode”』 レイジングハートからさらに薬莢が2発排出され、三日月だった形が音叉状に変わる。 体が焼け付くような感覚に襲われるが、それを気合で押さえ込むなのは。 なのはの足元に桜色の魔法陣が現れ周囲の魔力がレイジングハートの先端に集まっていく アクセルシューターの数が減るが、それでもまだ2編隊ある 「チェックメイトだよ。この距離なら外すほうが難しいよ。」 照準は完璧、この距離で相手が動けないのならば外すことは100%ありえない 「私の勝ちだよね?事情を聞かせてもらえないかな?」 「まだ負けてねえ!鉄槌の騎士ヴィータを舐めんな!」 そうは言ったもののヴィータの顔には焦りの色があった。 なのはが言ったとおり、この状況を打破するのは難しい 下手に動けば砲撃の餌食、かと言ってアクセルシューターで削られた防御壁がいつまで持つか・・・ ヴィータは頭をフル回転させるが考えが纏まらず、相手を睨むことしか出来なかった。 一方、その頃フェイトは剣の騎士との壮絶な打ち合いの最中だった シグナムの剣戟は長年蓄積され、裏打ちされた実に合理的なものだ。 どう打ち込まれたら相手が嫌がるか、どう相手の攻撃を払ったら次に繋げやすいか 打ち合う度に新しい発見があった。 「やるな、テスタロッサ。打ち合うわずかな一瞬で私の技術を盗んでいるようだな」 「私の手数じゃ、どうやっても貴女に及ばない。ならある所から持ってくるだけです。」 しかし、僅かの一瞬で盗めるほどシグナムの技術は簡単なものではない 「いいセンスだ。」 この少女は大きな器だ。後からどんどん物を継ぎ足せる。 シグナムはしばらくぶりに出会うことができた好敵手を見て 自分が興奮していることに気がつく。 「いい・・・センス?」 「そもそもお前のデバイスは斧型だ。しかし私の技は剣に最適化されている。 お前はそれを斧でも使えるようにとっさにアレンジしている。 ・・・まさか無意識でしているのか?」 フェイトが気付いてなかったようだがシグナムはそれを看破した その言葉にフェイトは一瞬照れてしまったが、すぐに気を取り直し武器を構える。 シグナムもそれに呼応しレヴァンティンを構える 「ハッ!」 気合と共にフェイトはシグナムに突進する バルディッシュで脳天を狙うが、シグナムはレヴァンティンでそれを弾く。 攻守が入れ替り今度はレヴァンティンが閃き、袈裟切りが放たれる。 「シャッ!」 フェイトはシグナムの斬撃をシールドで受け止め相手の重心をずらそうとする。 「レヴァンティン、カートリッジロード!」 シグナムの魔力が高まり重心がずらされる前にシールドごと叩き斬ろうとする。 フェイトも負けじとバルディッシュのリボルバーからカートリッジを3発ロードさせる。 しかし矛と盾の競争は、えてして矛が有利なのだ シールドは真っ二つにされ、フェイトは自分の企みが失敗したと判断し、すぐさまシグナムと距離を取る。 「やっぱり、まだ正面から向き合うには足りないかな?」 もう一度距離を取りながらカートリッジを1発消費し魔法を編む 「プラズマランサー、ファイヤ!」 力場に封入された4発のプラズマの弾丸がフェイトの前に出現する それは高速でシグナムに殺到するが、スピード自慢のシグナムは余裕を持って上に回避する だが、それは予想していた。自分の本当の目的はシグナムをあの場から動かすこと・・・ 「かかった!」 フェイトは手を振ってバルディッシュに命令し、シグナムの剣を受け止めるときに 仕掛けておいた別の魔法を発現させる。 「なに!?」 突如シグナムの周りに現れる魔法陣、それが煌いたと思ったら 足に金色の丸い輪のようなものが絡みつく。 「これは設置型のバインド、いつの間に・・・!?」 すぐさまバインドを破壊しようとしたが、その一瞬で決着は着いた。 「私の勝ちです。投降してください、シグナム」 目の前に戦斧を突きつけ投降を促すフェイト 「3発もカートリッジを使ったわりにシールドが脆かったのはこのためか。 ・・・・どうやらお前の策に嵌ったようだな」 「私では技量もパワーも貴女に勝てません。 だから、罠に掛けることにしました」 「久々の強敵に熱くなった私の未熟だな。 ・・・いつぞやとは立場が逆になったな、テスタロッサ。それで我々はこれからどうなる?」 そうは言うがシグナムは不敵な面構えをしていた。 地上ではアルフ、ザフィーラがパワー勝負をしている 体格ならザフィーラが、しかし主の魔力量ならばアルフが上である故に なかなか勝負が着かない。 「オラオラ、いい加減お前らの目的を吐いて楽になっちまいな」 アルフはワンインチパンチを繰り出しながら、悪役のような台詞を言う。 「言うわけがなかろう。管理局が『闇の書』をどういう風に処理してきたか知らんわけでもあるまい。」 ザフィーラが痛いところを突く様に返す。 アルフも聞いたことがある。闇の書が完成すれば手がつけられなくなる 故に被害が拡大する前に魔導砲で吹き飛ばしてしまうのだ。 もちろん主ごと・・・・ 「貴様も使い魔なら主がそのような目に遭うことを我慢できるはずがなかろう」 「そうだけどさ、完成する前ならそんなことする必要なんてないんだよ」 「信用・・・・できん!!」 ザフィーラは力を込めアルフの胸倉を掴み全力で投げ飛ばす。 距離が出来たことで結界の外にいるシャマルに思念通話を入れる。 (シャマル、聞こえるか?) (ザフィーラ?中の様子はどうなってるの?) (ヴィータは防御壁の中から動けない、シグナムはバインドに捕まって動くことが出来ない このままでは2人とも管理局に捕まる。) (そんな・・・・どうにかできないの?) (俺も相対している相手がいる。どうにかできるのはお前だけだ。 やはり『闇の書』の力の一部を解放して結界を破壊するしかない) (でも、それじゃあページが・・・・) (今、使わなかったら『闇の書』の完成自体が不可能だ。) (・・・わかっ) 突如シャマルからの思念通話が途切れる。 不審がるザフィーラは何度も思念通話を送るが返事はない。 シャマルも見つかってしまったのか?そう思い結界の外の方に目をやるところである事に気がつく あの臭いがする。 テスタロッサという魔導師の使い魔も臭いを感じ取っているようだが その臭いが何の臭いかは分かってはいないようだ。 ドンドンドン! どこからか聞こえる発砲音。ザフィーラは音のする方向に目を向けると そこには注目を集めるように上空に発砲しているM9の姿があった。 前へ 目次へ 次へ
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仄暗い玉座の間を薄明かりだけが照らす。 暗闇から七人の男女が姿を現す。 玉座には中華風の衣装で煌びやかに着飾った女性が立つ。威厳の割りに、その顔は若く美しい。 「集まったか、八卦集よ」 彼女の声に玉座の下、左右に控える七人が恭しく傅く。 「ついに我ら鉄甲龍の復活の時が来た。長く国際電脳を隠れ蓑としてきたが、もはやその必要はない!今こそ世界を冥府へと変える時ぞ!」 高らかに叫ぶ声に、全員が深深と頭を下げる。 「だが、その前にやらねばならぬことがある……。わかるな?」 七人の内の一人、仮面の男が一礼し答える。 「はっ。裏切り者『木原マサキ』の抹殺、そして彼奴に奪われし『天のゼオライマー』の奪還にございます」 「左様。だが既に木原マサキは死んだとのこと。なれば残るは、天のゼオライマーの時空管理局からの奪還。誰ぞ我こそはという八卦は居らぬか!?」 七人全員がそれに応えた。彼女はしばし悩んだ後に 「耐爬、風のランスターに命ずる!必ずや天のゼオライマーの奪還、もしくは破壊を遂行せよ!」 両目の下に八卦の証である紋を入れた青年を指した。 「御意っ!必ずや御期待に応えて見せましょうぞ!」 彼は勇ましく答える。それは彼女――幽羅帝への忠誠。だが、それだけではない。 一瞬、彼女が耐爬に送った、切なげな視線に気付く者は何人いただろうか。 また、自らが去った後の、幾人かの耐爬への嘲笑を彼女は気付かなかっただろうか。 後にこの事件は、一般には『鉄甲龍事件』と呼ばれることになる。だが、真実を知る一部の人々はこう呼んだ。『冥王事件』――と。 魔法少女リリカルなのは―MEIOU 第一話「冥王、黄昏に降臨す」 「鉄甲龍……ですか?」 居酒屋風、否、居酒屋のカウンターに男女二人が腰掛けている。 一人は八神はやて。時空管理局 本局古代遺物管理部 機動六課部隊長である。仰々しい肩書きだが、19歳という年齢からはそうとわかるものは少ないだろう。 「ああ、別名ハウドラゴン。現在は動きを見せてないがな。多分水面下で活動してるんだろう」 もう一人はゲンヤ・ナカジマ。陸上警備隊第108部隊の隊長だ。階級ははやてが上ではあるが、それを感じさせない砕けた口調だ。研修中に彼女の面倒を見た関係で、今でも相談に乗ることがある。 「せやけど、次元世界を股にかけて活動するなんてできるんですか?」 「まあ、普通は無理だろうな。だが、奴らはおそらく独自の次元空間航行船、いや要塞を持っている。本局レベルのものをな」 「そんな……」 それほどの組織が何故、今活動していないのか。疑問は尽きない。 「連中のテクノロジーは管理局と同等かそれ以上。位置を悟らせない何らかの仕掛けがあるんだろう。組織も局と違って一枚岩だ」 「何でナカジマ三佐はそんなに詳しいんですか?」 はやての疑問は当然のことだろう。一介の部隊長が知っていることではない。 はやても今まで聞いたことすらなかった。 「昔……ちょっとな」 「はぁ……」 僅かにゲンヤの顔が曇った。が、すぐに笑って誤魔化した。 「ともかくだ、八神。鉄甲龍という名を覚えておけ。だが、できればこのまま忘れることができればいいんだがな……」 「わかりました。ありがとうございました、ナカジマ三佐」 「いや、休みだってのにこっちから呼んで悪かったな」 「いえ、今日は話せてよかったです。失礼します」 鉄甲龍――店を出た後もその言葉が頭から離れなかった。 その日、ティアナ・ランスターとスバル・ナカジマはいつもの休暇を満喫すべく、街に繰り出していた。 ウィンドウショッピングに買い食い等々をたっぷり楽しみ、さあ帰ろうかという頃。既に太陽は落ちかけ、街は朱に染まろうとしている。 二人乗りのバイクを走らせていると、懐かしい姿を見つけた。向こうも驚いてバイクを急停止させる。 「美久!?」 彼女は確かに氷室美久だった。二人の魔法学校の同期生。流れるような美しい栗毛、大きな瞳はまるで卒業当時から変わっていない。顔立ちも髪の長さもそのまま、背だけが少し伸びただろうか。 「スバル……ティアナ?」 彼女もスバル達を見て驚いているようだ。 「うん!久しぶりじゃん!」 スバルはつい懐かしくて手を握る。すると彼女も昔のように微笑み返してくれた。 「ほんと、久しぶりね。二人とも元気そう」 「まぁ、元気じゃなきゃ勤まらないしね」 「そうそう。身体が資本だから」 そんな他愛ない会話を交わす。それは15の少女らしい姦しいやり取りだった。 「そういえばさ、美久って確か本局勤務じゃなかったっけ?」 「何かミッドに用でもあるの?」 「あ……うん。そうなんだけどね……」 その話題になると急に歯切れが悪くなってしまった。困った顔で俯いてしまう。 「(ちょっとスバル。あんまり聞かないほうがいいかもしれないわよ。辞めちゃったとかかもしれないし)」 ティアナがスバルに念話を飛ばす。 「(あ、うん。そうだね、ごめん)」 スバルはこういったことに少々疎いので、ティアナのフォローはありがたい。 「いいよ。また今度、都合が合えば同窓会でもしよ?」 スバル達が気を使ったのがわかったのか、美久はほっとした顔で微笑む。 「うん、そうね。ありがとう」 そう言って彼女達は別れる。後はこのまま隊舎に帰り、残り少ない休日を楽しみ、明日に備えて眠る――はずだった。 「ティア!あれっ!」 二人の背後に輝いていたはずの太陽が突如、覆い隠される。 スバルの指の指す先には巨大な翼を開いた白いロボット、50mはあるだろうか。 「なに……あれ?」 バイクを横転しそうな勢いで止めたティアナはそう呟いた。いや、それだけしか話せなかった。 「どこだぁ!!ゼオライマー!!」 ロボットは訳のわからない言葉を叫びながら降下した。 足元の建物を踏み潰しながら、肩からは竜巻を放出しながら物や人を巻き上げていく。 街はあっと言う間に悲鳴に包まれ、人々は逃げ出した――しかし、どこへ逃げればいいのか?それもわからず、ただ、あのロボットから少しでも遠くへ逃げようとしている。 「と、とりあえず報告しよう!」 「そ、そうね!指示を仰がないと!」 その当然の答えにたどり着くのさえ、時間を要した。報告をしようとした時、上から自分達を呼ぶ声に気付く。 「スバル、ティア!」 「なのはさん!」 スバルとティアの上司、高町なのは一等空尉である。彼女は既にデバイスを発動させ、バリアジャケットをその身に纏っていた。 「なのはさん!何なんですか、あれ!」 「落ち着いて、二人とも!」 すっかりパニックになりかけている二人をまず落ち着かせる。 「あのロボット、こっちの呼びかけには全然答えようとはしない。私とフェイトちゃんは戦いに出ようとしたんだけど、上から強力なストップがかかったみたいなの。だから今は避難誘導を急ごう。二人も手伝って!」 「は、はい」 それぞれのデバイスを構え、 「マッハキャリバー!」 「クロスミラージュ!」 「セットアップ!」 『Standby,Ready』 同時に二人はデバイスを起動、バリアジャケットを纏う――瓦礫の撤去や障害物の破壊、攻撃を受けた時のためだ。 「それじゃあ、よろしく!」 なのはは再び飛び去り、スバルとティアナは顔を見合わせ頷くと走り出した。 なのはは避難誘導を急ぐ。 だが、何故上からのストップがかかったのか。それだけは気になって仕方がなかった。 こうしている間にもロボットは建物を吹き飛ばし、踏みにじっているというのに。 だが、その答えはすぐにわかった―― 「っ!公園が!?」 近くの公園が割れ、大きなゲートが開く。中からせり上がってきたのは、同じく巨大なロボットだった。 暴れているロボットとデザイン的には近い。各所に突起があり、特に頭部の突起は一際目立つ。 最大の特徴は、両手の甲の丸い球。同じ物が頭部中央にもある。 「またロボット?」 現れたロボットはぎこちない動作で手足を動かした後、背部のバーニアから青い炎を噴出しながら空へと飛び上がる。 「現れたか!ゼオライマー!」 暴れていたロボットは、現れたロボットに反応し、同じく空へと飛び上がる。形状から見て飛行に適しているのだろう。 間接の駆動音を響かせ、翼のロボットが殴りかかる。金属がぶつかり合う轟音は、周囲の悲鳴さえも掻き消す。 殴られたロボットは大きく飛ばされ、車、建物――人を破壊しながら地面を滑っていく。 爆音は更なる悲鳴を呼び、炎は薄暗くなった空を照らす。 倒れたロボットは再度飛び上がるが、風に煽られバランスを崩す。そこに敵の攻撃を受け転倒。 それを何度か繰り返し、やがて完全にロボットは沈黙した。 「何と呆気ない……これが天の力か……?」 エンジンが止まったのか、両手と頭の球体の光も完全に消えてしまっている。 「なのはちゃん!たった今、上から命令が下された。避難完了まで、できるだけ時間稼いで!」 「了解!」 はやての通信にも疑問が残る――この事態に攻撃にストップをかけておいて、ロボットがやられると今更戦えと言ってくる、上の指揮には明らかに不自然な点があった。 だが、今はそうも言ってられない。すぐにその考えを振り払った。 「時空管理局です!直ちに攻撃を停止し――っ!」 最後まで言い終えないうちに突風が真横を通り抜ける。ロボットは完全になのはに向き直っていた。 「邪魔をするな!管理局の魔導士!」 「そっちがその気なら……!」 なのはもレイジングハートを構える。 あれだけの巨体だ。殴られただけでも完全に防ぎきることはできないだろう。だが、懐に入ることができれば――。 『Accel Shooter』 高速で接近しつつ光弾を発射する。無数の光弾は尾を引きつつ、全てが着弾した。 「駄目っ!威力が低すぎる!」 アクセルシューターではかすり傷程度しか負わせることができない。 なのはの弱みはそれだけではなかった。 自分とロボットの下には未だ多くの市民が残っている。 彼女はロボットを市街地から引き離そうとも試みたが誘いにも乗ろうとはしない。余程もう一体のロボットから離れたくないのか。 それとも市街地の上なら全力の攻撃もできないと考えているのか――。 (距離を取って、全力の砲撃で撃墜できたとしても、あの巨体が落下して爆発すれば被害はかなりのものになる……!) それがなのはの攻撃を鈍らせている。 「邪魔をするなら、貴様から死んでもらうぞ!デェッド!ロン!フゥーン!」 ロボットの肩から六つの巨大な竜巻が放出され、外から内へ、囲むようになのはを包みこんでいった。 「きゃあああああああ!!」 竜巻の中では上下左右の感覚すら失われる―― フィールドやバリアジャケットが削られていくのを感じる―― (このままじゃ……!) なのははできる限り最大のバリアを張る。 そのことでダメージは軽減され、竜巻の中で体勢を立て直すこともできた。 レイジングハートを構える。 「ディバイン……」 狙いは一点、竜巻の隙間から見えるロボット、その肩。 魔法陣が杖を囲む――意識を集中させ、掛け声と共に一気に解き放つ。 「バスター!!」 収束された桜色の魔力光はロボットの右肩の、風の噴射口に突き刺さり爆発した。 「ぐぅぅぅぅぅ!!」 突然の反撃に驚いたのか、ロボットは肩を抑えて仰け反る。 弱まった竜巻を突破したなのはは再びロボットと対峙した。双方とも中距離で睨み合う。 一触即発の空気が流れる。下はまだ避難する市民や車の、悲鳴やクラクションでうるさいのに、上空は不思議な程静かだ。 「さっきは随分とやってくれたようだな……」 それを引き裂いた声は―― 「小さい……?」 「ゼオライマー!?」 なのはとロボットは同時に驚きの言葉を口にした。 「八卦……『風のランスター』か……」 なのはとロボットの間に浮かんでいるのは確かにさっきやられたはずのロボット――否、ロボットの形をした鎧だ。なのはと大きさはそう変わらない。 若干角が丸みを帯びているが、全体のシルエットは全く変わっていない。違う点といえば、両手の甲の球体が金色に光り、胸部の穴に光が灯っていることくらいか。 「やはりデバイスの形に切り替えたのは正解だったようだ……。ハリボテのゼオライマーとはいえ、十五年間『鉄甲龍』と管理局の馬鹿共を釣る餌くらいにはなってくれたようだな」 鎧の中から聞こえてくるのは若々しい少年の声だ。だが、その響きはとても冷酷なものに思えた。 「貴様がっ!真のゼオライマーだとでも言うのかぁ!!」 激昂したランスターが鎧に対して拳を叩きつけるも、拳は彼には届かなかった。 「バリア!?」 巨大な拳を受け止める程の強力なバリアが展開されている。 「そうだ……これこそが真なる『天のゼオライマー』!!」 冷酷で、それでいて心底楽しそうな声。 (この人……自分の力に酔っている……!) 「その証を見せてやろう……!」 ゼオライマーは右手をランスターへと向ける。手の甲の光球が光を増す。 そして光球から、ゼオライマーの何倍もの大きさの光の帯が走った。 「ぐうっ!!」 光はランスターの右腕を付け根まで消滅させる。 「次元連結システムは正常に稼動……。小型化しても威力に大差はなさそうだ」 次元連結システム――なのはには聞き覚えのない言葉だ。 ゼオライマーは左腕の光球をランスターへと向ける。 「次は……これでどうだ?」 光球が一瞬輝くと、ランスターの右足が爆発し、地面に落下する。 またランスターもバランスを崩して落下していく。 「クックック、貴様に同じ台詞を返してやろう。"何と呆気ない"」 そう言って、また彼は笑った。まるで地を這う蟻を見下すように、天から人を見下す神のように―― 「では……そろそろ終わりにするか……」 ゼオライマーは両腕を高々と天に掲げた。両手と胸の光は更に輝きを増す。 これ以上は危険だ。 「止めなさい!もう決着はついてます!」 なのははレイジングハートを構えた。 それは直感的な行動に過ぎない。後々罰を受けるかもしれない。 それでも――この光は止めなければならない。 彼はなのはを見ようともせず、 「ふんっ」 軽く鼻を鳴らしただけだった。 「ディバインバスター!!」 彼が鼻を鳴らすと同時に放ったディバインバスター。 彼はランスターの拳をバリアで受け止めていた。そのことを考慮して、制限があるとはいえ、全力全開のディバインバスターを放った。 しかし、ディバインバスターが当たる直前にその姿が一瞬幻影のように掻き消え、再び現れた。 「そんな!?」 「冥王の力の前に――」 両手と胸の光はもはや直視できないほどに輝いている。 「負けられんっ!この戦だけはぁぁぁぁぁ!!」 ランスターはなんとか身を起こし、『天』へと手を伸ばす。 「駄目ぇー!!」 「消え去るがいい!!」 なのはの叫びも空しく、ゼオライマーは両手を胸の前で突き合わせる。輝きが最大に達した時、地上に光が生まれた―― 地を覆い尽くす光は、ランスターを中心に家を、街を飲み込んでいく。『天』を見上げる数百の人々と共に―― その光は見る者全てを恐怖させた。それは指令所でモニターを見ていたはやて、少し離れていた場所で部下に指揮を出すフェイトも同様に。 身体が小刻みに震えるのを抑えることができない。厳密には、それは力への恐怖ではなく、多くの罪も無い人々を躊躇いなく消滅させることのできる者への恐怖――。 それはもはや人ではなく、まさしく――『冥王』。 「クックックッ……アーッハッハッハ――!!」 ならば今、なのはの前で笑っているこの男は――。 「そうだっ!ティア!スバル!聞こえる!?応答して!」 念話にも返事は返ってこない。 「まさか……」 眼下に広がる光を見る。広範囲に渡って街を包むそれは、まだ一向に消える様子はない。 この日、時空管理局は大規模な次元震を観測した―― 目次へ 次へ