約 2,188,132 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1668.html
リリカル・グレイヴ外伝 鮮血のバレンタインデイ ここは地下深くに居を構える研究施設、ジェイル・スカリエッティの根城にして戦闘機人ナンバーズと死人兵士ビヨンド・ザ・グレイヴの住まいでもある。 そして今日は2月14日、乙女が鬼へと変わる日でもあった。 △ 「これだけっすか……」 ウェンディはそう言いながら机の上に鎮座した赤い包みを見つめる。 そしてウェンディだけでなくこの施設に住まう全てのナンバーズがここに集まり、その赤い包みを見つめていた。 その包みの中にあるのは説明するまでもなくチョコレートである。 「さて……問題はこれを誰が頂くか…」 セインが続けて口を開き、現在争点になっている話題をストレートに切り出す。 そう、この施設には現在チョコと名の付く物は机の上にあるこれ一つきりなのだ。 全員分のチョコレートを通販で買ったのだが発送の段階でトラブルが起こり、買い置きしてあったチョコはこれ一つ、そして施設のナンバーズは11人。 言うまでも無く数が合わない。 行き詰ったナンバーズは問題のチョコ一つを囲んで思い悩むに至っていた。 そして次に口を開いたのはナンバーズ長女ウーノであった。 「そう言えばこれを買ったのは私だったわね」 「なっ! そんな事言ってこの貴重なカカオの至宝を独り占めする気っすか!?」 「そうだよ! それにどうせウーノ姉はドクターにあげるんでしょ!?」 「なっ! べ、別にドクターに上げたって良いじゃない」 「あの変態中年に上げるくらいなら、日ごろお世話になってるグレイヴに上げるべきっすよ!」 チョコの権利を主張するウーノにウェンディとセインが猛反論。 もはやこの論争は開始より数時間を経ているが延々と平行線を辿り、一向に解決の糸口を見出せない。 そこでナンバーズ1番の単細胞ことノーヴェは事態を混沌へと導く爆弾発言を放つ。 「めんどくせえ! こうなったら勝負して決めようぜ!!」 その言葉に一同沈黙、ノーヴェの言葉を取るのならばつまりはナンバーズの姉妹がたった一つのチョコを巡って戦いをするという事である。 だが沈黙は一瞬で破られた。 「がはあっ!」 オットーが断末魔を漏らす、彼女の胸からは赤い刃が突き出していた。 それはディードの放ったツインブレイズの凶刃、あろう事かディードは自分の近くにいたオットーを問答無用で突き刺したのだ(ちなみに非殺傷設定なので死にません、念のため)。 「な…ディード……なんで…」 「ごめんなさいオットー、でも私はグレイヴにチョコを渡したいんです」 ディードの凶刃を合図にナンバーズ同士での血で血を洗う凄惨な戦いが始まった。 △ 「エリアルキャノン!!」 ウェンディの声と共に彼女の武装ライディングボードから砲撃が放たれる。 ウェンディの眼前に佇んでいたチンクはこの攻撃を最低限の体捌きで回避して距離を測る。 「甘いぞウェンディ!」 そして砲撃の合間を縫って投げられたチンクのダガーナイフが、ウェンディの身体に突き刺さる(もちろん非殺傷だ)のにそれ程時間は掛からなかった。 「うあああっ!!」 ウェンディはその身体に深々とナイフの刃を埋めて倒れ伏す。 この戦いで倒れたナンバーズは彼女でもう3人目、オットーに続けて戦闘能力の無いウーノが倒れたのだ。 戦いは始まってまだ10分も経っていないが、もう既に混沌の域に達していた。 「すまんなウェンディ、姉もこの戦いは引く訳にはいかんのだ……お前の分も想いを込めてグレイヴにチョコを渡す、だから安らかに眠ってくれ」 倒れたウェンディにすまなそうな顔をするチンクだがその時彼女に波打った壁から影が飛び掛る。 「隙あり!!」 それは固有技能ディープダイバーにより機を伺っていたセインである。 ウェンディを倒した隙を逃さずセインの魔手がチンクへと迫る。 だがチンクはこれでもナンバーズ中でもトーレに次ぐ最高の実戦経験を持つ戦闘機人である、この程度の不意打ちなど意味を成さなかった。 「きゃあ!!」 セインが壁から身を投げ出した瞬間、彼女の背後で小規模の爆発が起こる。 その爆発力に吹き飛ばされたセインにさらにトドメのダガーナイフが踊りかかった。 「甘いなセイン、最初からお前の奇襲を読んでナイフをセットしておいたのだ」 これでチンクの倒したナンバーズは二人、まだその他のナンバーズが残っているならば残りは6人。 △ チンクがウェンディとセインを撃破していた頃、別の一角では高速で宙を交錯する二つの影があった。 それはナンバーズの中でも飛行戦闘を得意とするトーレとセッテであった。 「ISスローターアームズ!!」 セッテの掛け声と同時に二つのブーメランブレードが高速で軌跡を描きながらトーレに迫る、だがトーレはこれを苦も無く回避してセッテの懐に潜り込んだ。 「遅い!!」 トーレの手に装着されたライドインパルスのエネルギー翼の刃がセッテに迫り、彼女の戦闘能力を殺がんと高速で襲い来る。 セッテも伊達にトーレから訓練を受けている訳でなく、トーレの攻撃をなんとか腕で受けて致命打を逃れた。 「くうっ!!」 なんとかトーレの攻撃を受けきったセッテだが、もはや腕は使い物にならない状態だ。 それでも彼女の瞳には降伏の二文字は無く、闘志に満ちている。 「もう止めろセッテ、これ以上は無駄だ」 「……嫌です」 「どうしてもか?」 「はい……彼にチョコを渡すのを、他の姉妹には譲らない!」 「そうか、ならば全力で応えよう!!」 トーレは全速で一直線に攻撃を仕掛ける、対するセッテは上手く動かぬ腕で持ったブーメランブレードを振りかぶって最後の抵抗を行った。 だがセッテの攻撃は虚しく空を切り、トーレの刃が下腹部に深く突き刺さっていた(非殺傷ですのであしからず)。 「セッテ……安らかに眠れ」 自身の倒した妹に涙ながらに呟くトーレ、だがそんな彼女に無慈悲な狙撃が火を吹き心臓を貫通した(言っとくが非殺傷だよ?)。 「がはあっ! ま、まさか……ディエチか…」 その遥か後方では狙撃砲を構えたディエチとそんな彼女の傍らに佇むクアットロの姿があった。 「ふふふっふのふ~♪ お馬鹿なトーレ姉さま、そんな風に派手に殺りあってたらバレバレですよ~?」 「う~ん……やっぱり漁夫の利なんて気が乗らないよクアットロ」 「あら~、ディエチちゃ~ん、そんな事言ってたらこのバトルロワイアルで勝ち残れないわよ~?(もちろん最後はディエチちゃんにも死んでもらけど)」 「そうかな…(なんか最後に裏切られそうだけど)」 ナンバーズ、残り5人。 △ 「うおおおおお!!!」 「くううっ!!!」 ノーヴェの放った蹴りをディードがツインブレイズの刃で受け流す。 だがジェットエッジの加速を加えられたノーヴェの蹴りは受け流されてなお重く、ディードの体勢を大きく崩した。 その隙を逃さずノーヴェは連続で回し蹴りを放つ。 「貰ったあああ!!!」 だがノーヴェの攻撃がディードを捉える前に空を切って鋭いナイフの刃が踊り掛かり、爆炎を巻き起こしてノーヴェを吹き飛ばした。 「きゃあああっ!」 「くううっ!!」 その攻撃に転がるノーヴェとディード、そして二人に近づく銀髪隻眼の少女の影。 それは説明するまでもなく、生き残ったナンバーズの一人チンクであった。 「ノーヴェ、ディード、二人とも生き残っていたようだな」 「チ、チンク姉…」 「チンク姉さま…」 ダガーナイフを両手に構えるチンクの瞳はいつもの優しい眼差しではない、それは無慈悲で残酷な戦士の目だった。 相手が可愛い妹であっても今の彼女に手加減する気など毛頭無いのだ。 チンクはナイフの狙いを二人に付けながら横目で周囲を確認すると物陰に向かって叫んだ。 「隠れていないで出てきたらどうだ、クアットロ!!」 その声にチンク達から離れた空間が揺らめき固有技能シルバーカーテンで隠されていたクアットロとディエチの姿が露になる。 「あら~? やっぱりチンクちゃんはできるわね~、なんでばれちゃったのかしら?」 「気配、そしてディエチの砲が持つ熱だな。さあ役者は揃った、最後の戦いを始めようじゃないか」 次の瞬間、目標をクアットロとディエチに変更したディードがツインブレイズを翻して襲い掛かる。 ディエチは即座に応戦しようと砲を構えるがそれは間に合わずディードの振るう赤い凶刃に倒れた。 「クアットロ姉さま、お覚悟!!」 ディードがクアットロに向き直った瞬間、ディードの胸を鋭い爪が貫いた(だから非殺傷だってば)。 それはスカリエッティの使う鉤爪型デバイス、まさか作戦指揮を行うのが基本であるクアットロが近接戦を行うなど考えてもいなかったディードはその凶刃をあっけなく喰らったのだ。 「お馬鹿なディードちゃんねぇ~、最後まで油断しなければ死なずに済んだのに(死んでないけど)」 こうして遂に凄惨な戦いはチンク・ノーヴェ・クアットロを残すのみとなった。 ノーヴェはエアライナーを展開し自分の駆ける道を作る、チンクは手に持ったガーナイフに固有技能ランブルデトネイターを発動し爆発的な破壊力を持たせる、そしてクアットロはシルバーカーテンによって作り出した幻で自身の身体を無数に増やした。 一触即発、少しでも均衡が崩れればそれが命取りになる。3人が3人とも汗を額に浮かべて緊張にツバを飲む。 そんなところに予期せぬ闖入者がやってきた。 「あ~、みんなここにいたのかね。ところでさっき机の上にあったチョコを食べてしまったんだが、あれは誰かのオヤツかい?」 まったくもって緊張感の無いスカリエッティの言葉に3人は盛大にずっこけた。 こうして虚しい姉妹同士の戦いは一人の勝者も産まずに終わりを告げた。 言うまでもないがスカリエッティはナンバーズの皆にフルボッコにされた(ウーノ除く)。 △ グレイヴが血液交換から起きてみれば、施設はメチャクチャに壊れ、ナンバーズは皆沈痛な面持ちでうなだれていた。 「…?」 不思議そうな顔をするグレイヴにナンバーズは皆、どこかすまなそうな表情をする。 そして涙ぐんだ声でウェンディが謝りだす。 「すまないっすグレイヴ、あたしらがバカだったす……せっかくのバレンタインなのに上げるものが何も無いなんて…」 ウェンディが泣きそうな顔でグレイヴに謝ってくるが、バレンタインという風習をよく知らないグレイヴは首をかしげる。 ナデナデ、とりあえず泣きそうなウェンディの頭を撫でる、それはもう子犬にでもするように優しく。 「う~、もっとして欲しいっす~」 「ウェンディだけずるい! あたしも~」 「ちょっと待て! そこは勝者(3人いたけど)の姉だろう!!」 「勝ち組で1番の年長者の私ですよね~、グレイヴさん♪」 「お前ら退け! ここはあたしとチンク姉が先だ!!」 「「………(セッテ・オットー・ディエチ・ディードの無口組み既に先に並んでる)」」 「なあ! 先を越された! この私がスローリーだと! ライドインパルスも堕ちたか…」 結局是全員の頭を撫でることになり、今日も騒がしく慌しい日々が過ぎる。 ちなみにこの後、ドゥーエの送ってきたチョコの詰め合わせを巡って第二次バレンタイン戦争が勃発する事になるとは誰も予想できなかった。 終幕。 目次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2476.html
リリカル・ニコラス 第一話「牧師と騎士」 青い空と白い雲、そして異形の方舟の下、彼が最後に聞いたのは遠雷に似た響き。 それが自立型プラント同士の力の拮抗が生み出した轟音だったというのを理解する事は出来なかった。 何故なら彼は死んでいたから。 その身に受けた数多の銃創、過剰に投与された代謝促進剤の影響、その他あらゆる外傷が彼の生命を絶った。 だが運命の神は気まぐれで悪戯好きである。 プラント同士のこの衝突で生じた凄まじいエネルギー、これによっていかなる奇跡か悪夢か、空間は軋みを上げて裂けた。 彼のすぐ隣に座っていた自立型プラントの青年は空間の生じた時空の裂け目に目を奪われる。 そしてその刹那、最後の寝床となったソファに座る彼の骸は彼の得物である罪深き鉄火の十字架と共に宙に刻まれた暗き裂け目に消えた。 プラントの青年は暗き淵に消える朋友の骸に手を伸ばして虚しく叫んだ、彼のその名前を。 「ウルフウッドォォ!!!」 血と硝煙にまみれた歪な聖職者はそうして次元の狭間に消えた。 朋友、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの叫びと共に。 その日は恐いくらいに月と星がよく見える夜だった。 どこまでも澄んだ空、星月の眩い光の下、夜の冷気に白く染まった吐息が映える。 女性はその豊かなブロンドの髪を揺らして月夜の散歩をしていた。 それは彼女の数少ない趣味であり、ここ最近の日課でもある。 仕事柄、教会から離れる事の少ない彼女にとって夜の帳の下りた中を気まぐれに歩くのは密かな楽しみであった。 そして女性は天に照る数多の星と眩い二つの月に見惚れて思わず口を開いた。 「綺麗ね……こういう日はなにか良い事がありそうだわ…」 教会騎士カリム・グラシアは空の芸術にそう感嘆した。 夜の冷気に冷えて真っ白に染まった彼女の吐息が季節を感じさせる。 カリムは天の絶景に見惚れながら気ままな夜の散歩を楽しむ、そこにはいつもと変わらぬ緩やかな時間が流れた。 だがその中にいつもと違う相違点があった。 それは匂い、それも凄まじい異臭。 まるで腑分けられた臓腑のような血生臭い臭気、濃密な血の香り。そしてその中に溶けた鼻を付く硝煙の芳香。 夜の冷気の中に漂う異臭にカリムは眉をひそめた。 (なにかしらこの匂い……いったいどこから?) 心中でそう疑問を浮かべながらカリムは匂いを辿って足を進めた。 夜闇の中でも強烈な臭気を辿れば捜索はそれほど難儀しない、程なく辿り着いた場所にあった臭気の根源は人の形を成したものだった。 カリムが辿り着けば、そこには傍らに歪な鉄の十字架を持ち黒衣を纏った男が草むらの中に横たわっていた。 月光の下でも明らかに分かるほど、男の身体は夥しい流血に赤く濡れている。 凄惨なその姿に、冷えた夜気とは違う寒気がカリムの背筋を駆け抜けた。 一瞬呼吸すら忘れてカリムは立ちすくむが、即座に思考を冷静なそれに戻して男に駆け寄る。 「あなた、大丈夫ですか!?」 声を荒げながらも慎重に抱き起こした男の身体は温かかった。 だが生命の脈動、心臓の鼓動は感じられない。当たり前だ、既に男の命は事切れているのだから。 しかし、彼の容態をある程度察しながらもカリムは諦めようとは思わなかった。 即座に念話を展開し、自分の秘書である修道女へと繋げる。 『シャッハ!!』 『へっ? 騎士カリム? どうかなさったんですか?』 『人が倒れています、すぐに病院に連絡を! 大至急です!!』 『わ、わかりました!』 簡潔に念話を切り上げると、カリムは男に向き直った。 心停止状態で放置し続ければ確実に蘇生は不可能になる。最悪、蘇生に成功しても脳に異常などが出てしまいかねない。 彼女は昔聞いた方法を思い出しながら、即座に蘇生措置を開始した。 頭を後ろに傾け気道を確保し、胸骨下端部に手を当て心臓に狙いを定める。 集中する時間は一秒、その時間で手の先端に溜まった魔力を男の体内に流し込んだ。 ドスン、という音を立てて男の身体が跳ね上がる。魔力の衝撃に男の四肢の筋肉が収縮したのだろう。 だがそれでも彼に心の臓腑は動かない。 カリムは額に嫌な汗を流し、神に祈りながらもう一度手の平に魔力を集める。 今度はさっきよりも大量の魔力を集め、再び彼の身体に触れた。 「神よ…」 小さくそう祈りの言葉を呟き、再度魔力の放出が男の身体を流れた。 今度は先ほどよりも強く男の四肢が跳ねる。 そして… 「がはっ!!」 男の口から固まりかけた血の泡が吐き散らされる。 今までの比でない凄まじい血の匂いが周囲に漂うが、そんな事を気にかける暇はなかった。 息を吹き返してもなお、男の呼吸は再び止まりかける。 「そんなっ! 死なないでください!!」 そう悲痛に叫ぶが彼は答えられない。 苦悶の表情をしながらもカリムは弱まる心臓に刺激を送り続け、ついで彼の顔に手を当てると迷う事無く唇を重ね合わせて息を吹き込んだ。 濃い血の味を味わいながら目一杯息を吹き込む。 男の呼吸はそれで少なくともある程度は回復した。 そうしてカリムが汗だくになりながら蘇生を続けていると、空からヘリのローター音が響いてきた。 救急救命のヘリが到着すると、男は速やかに医療施設に運ばれる。 後には彼が持っていた歪な鉄の十字架だけが残された。 彼が目を覚まして最初に見たのは真っ白な天井。 全身に鈍く響き渡る苦痛を感じながら瞬きして視界を確認し周囲を見回す。 白いカーテンを透かして窓から部屋の中を満たす陽光が目に痛い。 死の淵を彷徨った思考はまどろみの中でゆるやかに再起動を果たしていく。 そして彼は静かに口を開いた。 「なんや……地獄にしては…随分綺麗やなぁ…」 間の抜けた声でそう言うと男は目蓋を閉じてもう一度眠りの世界に落ちようとした。 あの時の自分の状況から生き延びるのはどう考えても絶望的だった。自然、彼は自分自身が既に死んでいるものだと考える。 そして思う、ならばここは地獄だ、血の斑道を歩み続けた自分が上の方に逝ける筈が無い。 いやあってはならないのだ、故にここは穏やかな地獄の入り口だと覚醒寸前の鈍い彼の思慮は思い至る。 そして、そう考えたら後はもうどうでも良くなった。今はただもう一度、泥のように寝むりたかった。 疲労と苦痛が限界だったのだから無理も無い、だが運命は残酷で彼にしばしの安らぎを与える気は無いらしい。 彼が目を閉じようとした刹那、ドアが開け放たれた。 「えっと……まだ眠ってらっしゃるのかしら?」 澄んだ声と共に輝く金髪をなびかせた女性がそう呟きながら部屋に踏み入る。 女性は部屋に入ると手探りで電灯のスイッチを押し、病室を人工の光で満たす。 唐突に目を指す眩い白光に男は顔をしかめて手で顔を覆う、死神のキスから逃れたばかりの目覚めにこれは少しきつい。 思わずしゃがれた声を上げた。 「ああ……眩しすぎや…目ぇ溶けてまうで」 喉から零れたその言葉に女性は思わず男に駆け寄り、マシンガンの如く彼に言葉を撒き散らした。 「目が覚めたんですか!? ケガの具合はどうですか!? 痛くないですか!? 気分はどうですか!?」 「…ちょい落ち着いてくれや……ってか、なんやねんもう…地獄に仏やのうて姉ちゃんかいな…」 「ああ…すいません……つい…」 男はもういい加減にしてくれ、とでも言いたげな口調で女性を諌めた。 彼のその言葉に、女性は落ち着きを取り戻して一つ息を吐いて呼吸を整える。 そんな彼女の様子に男は思わず苦笑した。 「しっかし、ホンマ……地獄にしては随分VIP待遇やなぁ…」 「あ…あの、なにが地獄なんですか?」 「ん? なんや……ワイ死んだんやないのんか?」 男のその言葉に、女性は顔を真っ赤にして反論した。 せっかく必死になって助けたというのに死んだ気でいられては、たまったものではない。 「し、死んでなんかいませんっ! ちゃんと生きてます!!」 男は彼女の剣幕に一瞬ポカンとする。 一瞬の沈黙、男は冷静な思考を徐々に取り戻し状況を確認した。 自分は生きている、あの死の淵から生還したという実感が胸に沸いてきた。 静寂、彼はただ黙って感慨深げに瞑目する。 (そうか…ワイ、生きとんのやな……リヴィオ、トンガリ…なんやまた会えそうや…) 脳裏を過ぎるは共に死線を潜り抜けた朋友、そして踏み外した道から連れ戻った弟分達の事。 生き残ることができ、また彼らに会うことが叶うと思えば、柄にも無く胸が熱くなった。 そんな彼に女性がふと声を掛けた。 「あの、そういえば自己紹介が遅れましたね。私は聖王教会騎士のカリム・グラシアです」 「ワイはニコラスや、ニコラス・D・ウルフウッドっちゅうねん。よろしゅうな」 カリムは笑顔でそう言うと、ウルフウッドに一歩近づいて手をさし伸ばした。 ウルフウッドは軋む身体をやや起こして迷う事無くその手を握る、軽く握手を交わして彼もまた笑顔で答えた。 牧師と騎士、奇妙な運命に導かれた二人はこうして出会った。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/520.html
崩落 の ステージ(後編) ◆HlLdWe.oBM 今から思えばこの時誰もが油断していたのだろう。 思いもかけぬ再会に心が安らいで気が緩んでいたのだろう。 だから誰も気付く事ができなかった。 一途な願いを叶えるために殺人を犯す小さな魔導師の存在を。 小さな魔導師に仕える炎の魔人を。 主命により魔人がもたらす地獄の業火を。 ▼ ▼ ▼ 「ルル、ありがとう」 シャーリーはこれから死にゆくものとは思えないほど安らかな表情を浮かべていた。 これも咄嗟に掛けたギアスのおかげか。 本当なら再びシャーリーにギアスを掛けたくはなかった。 だがこうするしかなかった。 突然起こった地震並みの揺れとアニメイト全体の倒壊。 降り注ぐ瓦礫の雨と押し寄せる炎の波。 どれも防ぐ事など出来なかった。 魔眼を備えようともこの身は人の域を出ない。 金髪の男や赤いコートの男と同じように人の域を超えた怪物には為す術がなかった。 一瞬で瓦礫は隙間なく降り注ぎ、炎は身体を舐め尽し、こうして思考しているのが不思議なぐらいだ。 唯一出来た事はシャーリーをしっかりと抱きしめてやる事だけ。 『幸せな夢を見ろ』という最期のギアスを掛けたのはその時だ。 これから死ぬ運命を変えるのは不可能だった。 だがせめて死ぬ瞬間までは辛い思いはしてほしくなかった。 もうシャーリーは十分辛い目に遭ってきたのだから。 それにしても、本当に嬉しそうな顔だ。 たぶん俺に告白する夢でも見ているのだろうか。 ふとそんな気がした。 だがシャーリーすまないな。 夢の中の俺なら君の想いに答えてやれるだろう。 だが現実の俺はそれには答えられない。 なぜなら俺が愛する者は唯一人あいつしかありえないからだ。 こんな状況だからこそ改めて分かる事もある。 自分がどれだけあいつの笑顔や行動に救われてきたか。 もうあんな風に口喧嘩する事も笑い合う事もできないんだな。 ――好きだったんですね、その人のこと。 ああ、そうだ。 俺はスバル・ナカジマという女性を心から愛している。 だがその想いも死んでしまえばそこで終わりだ。 「最期にあいつの顔、見たかったな……」 ▼ ▼ ▼ ルーテシア・アルピーノはヴィヴィオを背負って聖王のゆりかごへ向かっていた。 なぜ北へ向かっていたはずのルーテシアがこのような状態になっているのか。 それにはいくつかの理由があった。 【放送前後のルーテシアの動向】 元々ルーテシアの目的地はC-9にあるスカリエッティのアジトであった。 目的は本来ならば生体ポッドの中にいるはずの母メガーヌ・アルピーノがいないという証言の確認。 誰にも会わないままアジトに辿り着き、さらに見慣れた場所ゆえに万事順調に進んで第二回放送前には目的は果たせた。 その結果、メガーヌの姿はどこにもない事が判明した。 これで転送前のプレシアの発言と天上院明日香の発言の裏付けが取れた。 しかしだからと言ってルーテシアの行動方針に変更があるわけではない。 あくまで全ての参加者は別々の世界から連れて来られたという事を再認識しただけだ。 それから行われた第二回放送に関してはプレシアからの提案以外は特に興味を引かれるものはなかった。 敢えて言うなら取引を交わした一人ブレンヒルトの死亡だが、それも最初から乗り気でなかったので特に思う事はなかった。 そして放送後ルーテシアは周辺の探索に勤しむ事にした。 ルーテシア自身の体力は全参加者から見れば下位であるが、それを補う足としてマッハキャリバーというデバイスがある。 このデバイスのおかげで行動距離はずいぶんと広くなっているのだ。 目下ルーテシアの探しているものは大きく二つに分けられる。 一つはキース・レッドに頼まれているキース・シルバーや『ベガルタ』『ガ・ボウ』の情報。 だがこれはそもそも乗り気ではないので正直どうでもいいとさえ思っている。 そしてもう一つこそ本命、つまりイフリート以上の戦力の確保。 確かにイフリートの力は並みの参加者にとっては脅威となるだろう。 だがあの剣士のように対抗できる参加者がまだいるかもしれない。 さらに召喚の際に要するタイムラグと疲労も無視できるものではない。 何よりイフリートを渡してくれたキース・レッドはもしもの時に備えて既に何か対策を講じている可能性は十分にある。 つまりイフリートの力を過信して安易に頼ってばかりはいられないという事だ。 アジト周辺に大して何もない事が分かると、ルーテシアはキース・レッドとの取り決め通り会場の北を中心に捜索しようとした。 だが森の中より市街地の方が見つかり易そうと考えてD-5の橋を渡って北西方面に向かう途中であるものを見つけた。 それはE-7の駅からA-8へと伸びる謎の線路。 地図を確認するとこの会場唯一の駅は橋へ向かう途上の近くにあったので探しものがてら少し寄ってみる事にした。 ちなみに廃墟も近くにあったが、何かあるとは思えないので寄らなかった。 そしてルーテシアは温泉に向かっていたシャーリーを発見した。 この時ルーテシアはある作戦を思いついた。 ――囮だ。 わざとシャーリーを生かして逃がす事で近くの参加者を引き寄せて、そこでイフリートを召喚して一掃するという算段だ。 上手くいけば殺した参加者から有能な道具が手に入る可能性もある。 ルーテシアはその作戦を思いつくと即座に実行に移した。 適度に攻撃射出魔法トーデス・ドルヒを放ちつつ付かず離れずの距離を保って追いかける。 もう既にマッハキャリバーの扱いにも慣れてきたのでシャーリーと違ってルーテシアの疲労は大した事なかった。 シャーリーは最初こそ銃撃や投擲で難を逃れようとしていたが、全て失敗に終わると後は逃げるだけに徹するようになった。 この際見た感じ役に立ちそうになかった弾切れの銃とバッグ以外は何かに使えると思って拾っておいた。 だがバッグを投げた時に零れ落ちた1枚のカードの存在にはシャーリーもルーテシアも気づく事はなかった。 しばらくそれを続けていたが、予想に反していつまで経っても誰も現れなかった。 実際は数人気づく可能性があったのだが、各々の事情で気付く事はなかった。 だからこの地獄のような鬼ごっこはかなりの間に渡って続いたが、最終的に途中で中断された。 その原因は早乙女レイにある。 【エボニーの試射】 ルーテシアがシャーリーを追いかける事を中断したのは瀕死のレイを発見したからだ。 当然ルーテシアの前を走っていたシャーリーも気づく可能性はあったが、逃げる事で精一杯だったので気づく事はなかった。 しかもレイが倒れていた場所は二人がいた道から少し離れた場所だった上にハイパーゼクターの出現もあって尚更だった。 この時ルーテシアはシャーリーが既に限界に近いと勘付いていた。 だから少しぐらい目を離してもすぐに見つかると高を括っていた。 そうして一応シャーリーが西へ向かった事だけ確認してからレイの方に向かったのだ。 ルーテシアがレイに興味を持ったのは荷物を回収する事に加えてエボニーの試し撃ちをしておこうと思ったからだ。 キース・レッドから貰い受けたもう一つの武器、黒鍵を思わせる拳銃エボニー。 質量兵器が殺傷能力に長けている事はルーテシアも知っていたが、実際の威力までは知らない。 だから本番で不覚を取らないように一度試し撃ちをして威力などを確認したいと考えていた。 そこで発見したのが瀕死の状態のレイ。 動かない的として適任な上に参加者殺害によるプレシアからの見返りも期待できる。 そして十分に近づいたところでエボニーを撃った。 レイは最期まで何をされるか分かっていないようだったが、ルーテシアには関係ない事だった。 結局片手で撃てば無理そうだが、両手で撃てば問題ないという結論に至った。 残念ながらデイパックはなかったのでここでの目的は終わった。 そしてシャーリーの行方を探るのだが、意外な事が契機で見つける事ができた。 その原因はスバル・ナカジマにあった。 【イフリートの召喚】 ルーテシアがシャーリーの居場所を見つける事ができたのはスバル・ナカジマの行動のおかげだった。 スバルが裏口で盛大にドアにぶつかった時、ちょうどルーテシアがアニメイトの前を通っていたのだ。 当初西へ向かって捜索していたルーテシアだったが、意外とすぐにシャーリーを見つける事ができなかった。 そんな時にスバルがドアに激突した奇妙な音を耳にしたのだ。 そして気になってアニメイトの中を注意深く覗き込んだ結果、店内にいるシャーリーとルルーシュを発見できた。 ちなみにこの少し前にスバルは正面の入口に来ている。 だが日の光の加減で中の様子が見えなかった事に加えて自動ドアが反応しない時点で裏口に回ってしまっている。 この時自動ドアを叩けば中にいるシャーリーとルルーシュが気づく可能性はあったが、所詮は後の祭りだ。 その時とは違ってルーテシアはドアに張り付き目を凝らす事で中の様子を把握できた。 この瞬間スバルとこなたは裏口で談笑していて死角にいて、ルルーシュとシャーリーは感動の再会の真っ只中。 それはまさにタッチの差としか言いようがないタイミングだった。 そして炎の魔人による蹂躙が始まった。 もう囮作戦も頃合いだと判断するとイフリートを召喚して外から一方的にアニメイトを破壊した。 天高く振り上げられた剛腕から繰り出される槌の如き一撃でアニメイトはほぼ倒壊。 さらに灼熱の業火を思わせる「地獄の火炎」による焼き払いで残骸は灰塵と化した。 まるで元から会場には地図の通りそんな建物は存在しなかったかのように。 そしてアニメイトを襲撃したルーテシアは北へ戻らず、さらに南下して聖王のゆりかごに向かう事にした。 その理由はヴィヴィオにある。 【聖王のゆりかごの利用】 ルーテシアが聖王のゆりかごを目指す契機となったのはヴィヴィオを発見したからだ。 あの後少々やりすぎた感を抱きながらルーテシアはアニメイト跡地で何か使えるものが残っていないか探した。 だがイフリートの力によってデイパックは中の道具諸共ほとんどが灰となり、死体も炭化していた。 辛うじて回収できたのはなぜか無傷だったトランプのカードと、少し離れた場所に落ちていて無事だったアサルトライフル。 実はトランプが燃えなかったのはアンデッドを封印する特殊なカードだからで、ライフルはこなたが落としたものなのだが、当然ルーテシアはそのような事情は知らない。 その二つは途中で拾ったデイパックと一緒に自分のデイパックに入れておいた。 そして予想外の収穫は唯一の生存者ヴィヴィオである。 なぜかバリアジャケットのような意匠の服を着ていたのでそのおかげかとも思ったが、どうも違うらしい。 なぜヴィヴィオは無事なのか。 それはヴィヴィオ自身と装備していたクラールヴィントのおかげだ。 あの時ヴィヴィオは迫り来る危機に対して無意識で「聖王の鎧」を発動させていた。 ひとたび危険が迫れば本人の意思とは関係なくその身を守るという古代ベルカ王族が遺伝子レベルで所有している自動防衛能力。 それに加えてクラールヴィントが自主的に発動させた防御魔法。 この2つの防護のおかげでヴィヴィオは無事だったのだ。 そして襲撃時にアニメイトの一番奥に位置する事務室にいたのも幸いだった。 そのおかげで地獄の火炎はヴィヴィオに至るまで瓦礫に阻まれて威力は半減していたからだ。 だが今は直前にルルーシュへの治癒魔法も行使していた事もあって多大な魔力を消費したために意識を失っている。 しかしルーテシアにとってはそのような事情はどうでもよかった。 重要なのはヴィヴィオを保護できたという事。 聖王の器であるヴィヴィオは聖王のゆりかごを起動するための鍵である事はルーテシアもチンクから聞かされて知っていた。 そのヴィヴィオは今自分の手元にある。 つまりこのまま聖王のゆりかごに行けば、その強大な戦艦の力を手に入れる事ができる。 それはイフリートよりもさらに強力な力であり、おそらく実現すれば生存している全参加者で太刀打ちできる者はいない。 だからルーテシアはヴィヴィオを背負って聖王のゆりかごに向けて移動しているのだ。 その先にある希望を信じて。 【1日目 午後】 【現在地 G-7 大通り上(南下中)】 【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、魔力消費(中)、疲労(中)、キャロへの嫉妬、ヴィヴィオを背負っている 【装備】マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ウィルナイフ@フェレットゾンダー出現! 【道具①】支給品一式、召喚マテリア(イフリート)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、エボニー(9/10)@Devil never strikers、エボニー&アイズリー用の予備マガジン×1、レギオンのアサルトライフル(100/100)@アンリミテッド・エンドライン、ラウズカード(クラブのK)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レイとフェイト(A’s)のデイパック(道具②と③) 【道具②】支給品一式(名簿の裏に記述あり、内容は情報交換のメモと同じ)、SIG P220(8/9)@リリカル・パニック、情報交換のまとめメモ(内容は守りたいもの参照) 【道具③】支給品一式、フリーズベント@仮面ライダーリリカル龍騎、光の護封剣@リリカル遊戯王GX 【思考】 基本:最後の一人になって元の世界へ帰る(プレシアに母を復活させてもらう)。 1.どんな手を使っても最後の一人になる(自分では殺せない相手なら手は出さずに他の人に任せる)。 2.南に向かい聖王のゆりかごを起動させる。 3.18時に地上本部へ行き、キース・レッド他集まった参加者をイフリートor聖王のゆりかごで一網打尽にする。 4.3がキース・レッドに察知された時の保険として一応キース・シルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』を探す(割とどうでもいい)。 5.もしもレリック(刻印ナンバーⅪ)を見つけたら確保する。 【備考】 ※ここにいる参加者は全員自分とは違う世界から来ていると思っています。 ※プレシアの死者蘇生の力は本物だと確信しています。 ※ユーノが人間であると知りました。 ※マッハキャリバーは参加者の時間軸の差異に気付いています。 【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、疲労小、魔力消費極大、シャーリーへの心配、知り合いが死んだ事への悲しみ、強い決意、浅倉に対する複雑な感情、ルーテシアに背負われている、気絶中 【装備】クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フェルの衣装、レークイヴェムゼンゼ@なのは×終わクロ 【道具】支給品一式、ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本:六課の皆と一緒に脱出する。 1.シャーリーお姉さんを助けたい、ルルお兄さんも助けたい。 2.ママ達がいなくなってもヴィヴィオがんばる! 3.天道お兄さんを助けたい、浅倉お兄さんともお話したい。 【備考】 ※浅倉は襲い掛かって来た矢車(名前は知らない)から自分を救ってくれたヒーローだと思っています。 ※浅倉をまだ信頼しており、殴りかかったのは何か理由があるのだと思っています。 ※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道を助けてくれるいい人だと思っています。 ※この場にもう1人なのはやフェイトがいる事に気付いていません。 ※クラールヴィントは浅倉を警戒しています。 ▼ ▼ ▼ 泉こなたが目覚めた瞬間に目にしたものはこちらの顔を心配そうに覗き込むスバルの顔だった。 「こなた、気が付いて良かった……」 「え、私、なんで……」 こなたは意識を失う前の出来事を懸命に思い出そうとした。 ルルーシュとシャーリーの再会に水を差してはいけないと思ってリインを連れて外に見張りに行こうとした。 一応なぜかシャーリーが持っていた自分のデイパックと護身用にアサルトライフルは持ち出した。 そして静かに事務室に移動。 それから二人の邪魔にならないように配電盤を操作して自動ドアが開かないようにセット。 次いでソファーの上でまだ眠っているヴィヴィオを確認してから裏口に向かった。 そこで鍵が掛かったドアを無理やり開けようとする何者かの存在に気付いた。 恐る恐る覗き穴から確認するとそこにはドアを拳で破壊しようとしているスバルがいたので急いでドアを開けて再会した。 そこで記憶は途切れていた。 「スバル、ここはどこ?」 「アニメイトから少し離れたところにある建物。たぶん見つかってはいないと思うよ」 その言葉は暗に自分達が追われているという事を意味していた。 護身用に持っていたはずのアサルトライフルが無くなっている事からも何か非常事態が起きた事は想像できた。 そしてスバルの左腕には骨折を処置したと思われる包帯が巻かれていた。 おそらく必死に守ってくれた証なのだろう。 「え、もしかして私達襲われたの?」 「うん、誰が襲ったのかは分からなかったけど……ただ炎の巨人を操っている事だけ分かったよ」 よくゲームで見る召喚士みたいな人をこなたは一瞬思い浮かべた。 だがそれよりも気になる事があった。 それはアニメイトにいたルルーシュやシャーリーやヴィヴィオの安否だ。 「スバル! ほ、他の皆は無事!?」 「お、落ち着いてこなた。私はこなたを守って逃げるだけで精一杯だったけど、リイン曹長なら無事だよ。 最初の攻撃を無理して防いでくれたせいで今はまだ気絶しているけどね」 「え、リイン以外は……?」 その言葉を聞いた瞬間、スバルの顔が一気に青ざめるのがよく分かった。 今までこなたとリインが無事で安心していた顔にはもう未知の怖れしか見えなかった。 「う、うそ……もしかして、アニメイトにまだ誰かいたの!?」 その時こなたは悟った。 これから自分の言う事はスバルを深い悲しみに追いやるだろうと。 だがいつかは分かってしまう事だ。 それならば早いうちに知らせた方がいい。 だからこなたは重い口を開いた 「アニメイトには……ルルーシュとシャーリーとヴィヴィオが残っていたんだ……」 「え――?」 その言葉はスバルがまたしても仲間を守れなかった事を意味していた。 【早乙女レイ@リリカル遊戯王GX 死亡確認】 【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反目のスバル 死亡確認】 【シャーリー・フェネット@コードギアス 反目のスバル 死亡確認】 【1日目 午後】 【現在地 G-6 市街地 アニメイトから少し離れた建物】 【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】疲労小、全身ダメージ小、左腕骨折(処置済み)、ワイシャツ姿、質量兵器に対する不安、若干の不安と決意、仲間の死によるショック 【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定) 【道具】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照) 【思考】 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。 1.う、うそでしょ……。 2.かがみを止めにいく。 3.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。が、かがみの事はどう説明するべきか……。 4.アカデミアに戻って首輪を回収したい。 5.六課のメンバーとの合流とつかさの保護。しかし自分やこなたの知る彼女達かどうかについては若干の疑問。 6.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。 【備考】 ※参加者達が異なる時間軸から呼び出されている可能性に気付きました。 ※仲間(特にキャロやフェイト)がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。 ※自分に割り振られた調査エリアを調べ終えました。何かを見つけたか否かは後続の書き手さんにお任せします。 ※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。レイにも注意を払うようにしています。 ※万丈目とヴァッシュが殺し合いに乗っていると思っています。 ※アンジールが味方かどうか判断しかねています。 ※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。 【泉こなた@なの☆すた】 【状態】疲労小、仲間の死によるショック 【装備】涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)、リインフォースⅡ(疲労大、気絶中)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS 【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、救急箱 【思考】 基本:かがみん達と共に家族の元に帰る為、自分の出来る事をする。 1.うそ、みんな……死んじゃったの……? 2.落ち着いたらこれまでの事をスバルと話し合う。 3.リインが心配。それと時間が経ってから後でフェイトとプレシアの関係を確認してみる。 4.かがみん達……大丈夫だよね? 5.おばさん(プレシア)……現実とゲームを一緒にしないで。 【備考】 ※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。 ※いくつかオタク知識が消されているという事実に気が付きました(スバル達に話すつもりはありません)。 ※かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。 ※ルルーシュの世界に関する情報を知りました。 ※この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。 ※地図に載っていない施設が存在する事を確信しました。 ※PT事件の概要(フェイトとプレシアの関係は除く)をリインから聞きました。 ※自分に割り振られた調査エリアを調べ終えました。何かを見つけたか否かは後続の書き手さんにお任せします。 ※アーカードとエネル(共に名前は知らない)、浅倉、キング、レイを警戒しています(特にレイとアーカードには二度と会いたくないと思っています)。 ※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからこれまでの経緯を聞きました。矢車(名前は知らない)と天道についての評価は保留にしています。 【リインフォースⅡ:思考】 基本:スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する。 1.落ち着いたらこれまでの事を話し合う。 2.はやて(StS)や他の世界の守護騎士達と合流したい。殺し合いに乗っているならそれを止める。 【備考】 ※自分の力が制限されている事に気付きました。 ※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからこれまでの経緯を聞きました。 【チーム:黒の騎士団】 【共通思考】 基本:このゲームから脱出する。 1.これまでの情報を纏める。 2.首輪解除の手段とハイパーゼクターを使用するためのベルトを探す。 3.首輪を見つけた時には機動六課か地上本部で解析する。 4.それぞれの仲間と合流する。 【備考】 ※それぞれが違う世界の出身であると気付きました。 ※デュエルモンスターズのカードが武器として扱える事に気付きました。 ※デュエルアカデミアにて情報交換を行いました。内容は守りたいもの本文参照。 ※「月村すずかの友人」からのメールを読みました。送り主はフェイトかはやてのどちらかだと思っています。 ※チーム内で、以下の共通見解が生まれました。 要救助者:万丈目(注意の必要あり)、明日香、かがみ、つかさ、ルーテシア 合流すべき戦力:なのは、フェイト、はやて、キャロ、ヴィータ、シャマル、ユーノ、チンク、クアットロ、C.C./(フェイト及びクアットロには注意の必要あり) 危険人物:赤いコートとサングラスの男(=アーカード)、金髪で右腕が腐った男(=ナイブズ)、炎の巨人を操る参加者 以上の見解がそれぞれの名簿(スバル、こなた)に各々が分かるような形で書き込まれています。 【全体備考】 ※アニメイトは全壊・全焼して灰塵と化しました(跡地にルルーシュとシャーリーの焼死体があります) ※以下のものが焼失しました。 ブリタニア軍特派のインカム@コードギアス 反目のスバル、シャーリーのデイパック(支給品一式、デュエルアカデミア売店の鍵@リリカル遊戯王GX)、ルルーシュのデイパック(支給品一式、洞爺湖@なの魂、小タル爆弾×2@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、インテグラのライター@NANOSING、医薬品一式、メス×3、医療用鋏、ガムテープ、紐、おにぎり×3、ペットボトルの水、火炎瓶×4、シーツ数枚) ※【E-7駅】と【G-6アニメイト跡地】の間のどこかにレッド・デーモンズ・ドラゴン@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―が落ちています。 ※リインフォースⅡのお出かけバッグとゼロの銃(0/10)は破壊されました。 【涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)】 某有名アニメ涼宮ハル○の憂鬱に出てくる主要人物が通っている県立北高校の女子用の制服を再現したもの。 水色と白のセーラー服とスカートで、胸元の臙脂色のリボンが特徴的。 ただし涼宮ハル○(CV:平野綾)仕様という事でオプションとして黄色のカチューシャと『団長』と書かれた腕章が付いている。 こなたはアルバイトのコスプレ喫茶でこの衣装を着用している。 【フェルの衣装】 某18禁ゲームプリズム・アー○に出てくる自称「自称天才魔法操者」フェル(CV:水橋かおり)の衣装を再現したもの。 先が二つに分かれた大きな薄紫色の帽子と背中の大きな薄橙色のリボンが特徴的。 Back 崩落 の ステージ(前編) 時系列順で読む Next 共振~バイブレーション~ 投下順で読む Next 機動六課部隊長斬り捨て事件~バトルロワイアル放浪ツアー、街角に待ち受ける幻惑の罠、鉄槌の騎士と烈火の剣精は聞いていた~ ルーテシア・アルピーノ Next ロリッ!幼女だらけのクリスマスパーティー ~ボインもあるよ!~(前編) ヴィヴィオ Next ロリッ!幼女だらけのクリスマスパーティー ~ボインもあるよ!~(前編) スバル・ナカジマ Next Blue Swear―――蒼い誓い 泉こなた Next Blue Swear―――蒼い誓い 早乙女レイ GAME OVER ルルーシュ・ランペルージ GAME OVER シャーリー・フェネット GAME OVER
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3274.html
―――汝は己が乗り越えねばならぬ壁の高さに怯え竦みし弱き者か?――― ―――それとも己が乗り越えねばならぬ壁の高さに怯えず立ち向かう強き者か?――― ―――さあ、汝の強さを見せてみよ!――― リリカルプロファイル 第二十六話 四層 はやて達の活躍により見事に第三層を突破した一同は順調に進み第四層の試練場へと辿り着くと、暫く滞在していた。 第四層…此処を突破すればいよいよ神の領域に辿り着く事が出来る… するとなのはの下にフェイトが駆け寄り話し始める、フェイトは次の試練は間違いなく自分達の番であると。 だがなのはの様態は未だに思わしくない為、ブラスターシステムを使用しないで欲しいと注意を促す。 するといつもの笑みを浮かべ快く了承なのは、しかしなのはの性格を知っているフェイトはその笑みに 深い溜息を吐くと二人の体が光に包まれ始め、試練が始まる印象を感じていた。 「やっぱり最後は私達か……」 「少し…緊張するね」 珍しく緊張をしている二人に対し、一同は激励を込めると少し解れたのか笑みを浮かべ、 二人は転送され、それを見守り無事を願う一同であった。 …フェイトが跳ばされた場所は金色に輝く空間で、辺りを見渡すと奥に続く下り道があり、 皆が話していたのと同じ造りに納得していながらも、道なりに進み広場へと赴く。 広場の中央には黒いウェーブがかかった長髪に黒いローブを纏った女性が後ろを向いて佇んでいる。 その姿に思わず息を飲むフェイト、其処には彼女が緊張する程の人物が立っていたのだ。 「まさか!何故アナタが!!」 「あら?どんな奴が相手なのかと思ったら、かつて私が作った“人形”じゃない」 そう言ってフェイトを“人形”扱いする人物、プレシア・テスタロッサその人である。 彼女はフェイトの生みの親で十年前のジュエルシード事件の張本人でもあり、 時の庭園の崩落の際、愛娘であるアリシアの遺体と共に虚数空間に飲み込まれたハズであった。 しかしプレシアは虚数空間の中を漂っていると、流浪の双神に拾われアリシアと共に此処で生活兼アルハザードへの研究をしていたところ、 神から一つの案が提示される。 その内容は今から転送される人物を倒せば、プレシアの念願でもあるアルハザードへの道を開いてくれるというものであった。 「だから…大人しく倒されなさい、操り糸が切れた“人形”のように…」 「アナタはまだ!そんな幻想を!!」 フェイトはプレシアに吐き捨てるかのように言葉を口にするが、さも当然のような口振りを見せるプレシア。 元々フェイトはアリシアの“代用品”として造られた存在、それが全てである。 使えなくなった“人形”はただ捨てられるだけ…しかし今回は“いらない人形”を捨てさえすれば 自分が欲しかった物が手に入る為、価値のある廃棄だと笑みを浮かべ語る。 「初めて私の役に立つのだからサッサと倒されて頂戴」 そう言って蔑むような目線を見せると、フェイトは怒りとも悲しみとも取れる表情を醸し出していた。 …プレシアは十年たった今でも一切変わってはいなかった、愛娘に対する愛情も…自分に対する憎しみも…アルハザードに対する縋るような想いさえも… だが自分は十年前とは違う…一緒に過ごしてきた仲間や友、そして自分を拠り所としてくれる二人… それら十年の経験を無碍にするようなプレシアの態度と言葉にフェイトはバルディッシュを起動させ強い眼差しで見つめる。 「残念ですが、もう私はアナタの“人形”ではありません、此方にも負けられない理由があるのです!」 「そう……やはり欠陥品は欠陥品のままね…」 そう言うと懐から一つの柄を取り出す、するとその柄の先から金色の細長い鞭が姿を現し、鞭からは稲光が走っていた。 ライトニングエッジ、魔力鞭で構成され剣にも変化する攻・防・縛の三種に対応した管理局時代から使っている愛用のデバイスである。 「だったら…実力でねじ伏せるしかないわね」 そう言うや否や魔力鞭を二回程床を叩き、魔力鞭をフェイトに向けうねりながら伸ばすと、 フェイトはハーケンモードに切り替え魔力刃にてプレシアの攻撃を防ぐ、 するとプレシアは大きく円を描く動作を行い、魔力鞭がうねりをあげバルディッシュごとフェイトを縛り付けた。 そしてプレシアは床にフェイトを叩き付け更には左右の柵、床を削るように振り回し遠心力が掛かったところで縛を外し上空へと吹き飛ばした。 しかしフェイトは空中で体勢を立て直し更に急降下、床ギリギリまで降りると這うようにプレシアの下へ向かう。 するとプレシアは迎撃の為にフォトンランサーを展開、槍の形をした無数の魔力弾が雨のようにフェイトに襲いかかる。 その中を縫うようにして迫るフェイト、そしてフォトンランサーの群を抜けるとソニックムーブにてプレシアの背後を捉え、一気に振り抜く。 しかし既にフェイトの動きを予測していたプレシアはフェイトの動きに合わせ左手をかざすとサンダースマッシャーを撃ち抜きフェイトを飲み込んだ。 だが跡地にはディフェンサーを展開させているフェイトの姿があった、飲み込まれる直前にバルディッシュがディフェンサーを展開させて事なきを得たのだ。 「やはり…十年も立てば“人形”でも力を付けるのね……」 そう一言呟くと魔力を高めフォトンランサーを撃ち出す、すると今度は上空に逃げ込みハーケンスラッシュをプレシアに向け撃ち出すが、 プレシアはサンダースマッシャーで迎撃すると今度は左手に環状魔法陣が展開され、 加速増幅されたサンダースマッシャー、プラズマスマッシャーを撃ち抜く。 プレシアのプラズマスマッシャーをソニックムーブで回避したフェイトは左手をかざし カートリッジを消費しトライデントスマッシャーを撃ち抜くが、ディフェンサーを展開され攻撃を防がれてしまう。 そしてフェイトの一撃により辺りは魔力の残滓が舞いプレシアの姿を隠していると、 床から突き抜けるように金色の魔力鞭がフェイト目掛けて伸び迫ってきており、それに気が付いたフェイトは縦横無尽に逃げ惑うが、 魔力鞭は徐々に距離を詰めバルディッシュの魔力刃に纏わりつくと一気に引き寄せられ、四方あらゆる場所に叩きつけられるフェイト、 このままでは危険だと感じたフェイトはハーケンモードからライオットブレードに切り替え、魔力鞭を切り裂き難を逃れる。 その様子を見たプレシアはこのままでは少しキツいと感じ魔力を更に高めると服装が変化し始める。 プレシアが着ていた黒いローブは黒いハイレグカットされた軽装に変わり足元は高いヒール、 両手には黒い皮の手袋が付けられており、長い髪はポニーテールとして纏められていた。 その姿はかつて管理局時代に活躍していた姿で、フェイトのソニックフォームを彷彿としていた。 「この大魔導師、プレシア・テスタロッサの実力を見るがいい」 そう呟くとソニックムーブにてフェイトの目の前まで近づき膝蹴りを腹部に打ち込み、くの字に曲げるとライトニングエッジを剣に変え一気に振り下ろす、 だがフェイトはブリッツアクションにて全身のスピードを高め、なんとかして攻撃を防ぐ。 しかしプレシアはライトニングエッジを鞭に変えると一瞬にしてフェイトを縛り上げ更に電撃を与えた。 「う…うぁぁぁああああああ!!!」 「そう言えば十年前も、こんな事したわね…懐かしいわ」 そう言って感傷に浸りながらフェイトにバインドを掛け魔力鞭の縛を解くと、何度も何度もフェイトの身を打つ。 フェイトの身に打ち込まれる度に声を上げ苦しむ姿を堪能したプレシアは上空へと移動すると 左手をかざし徐々に魔力が集い圧縮されていくと閃光のように輝き始めていた。 「墜ちなさい!フォトンバースト!!」 撃ち出されたフォトンバーストは真っ直ぐフェイトの元へ向かい飲み込むと一気に爆発、 辺りは閃光によってまばゆく光り、プレシアはその光景をじっと見つめるのであった。 場所は変わり、なのはは桜色に輝く空間へと転送され先に続く緩やかな下り階段を下りていた。 その中でなのははフェイトとの約束を思い返していた、それはブラスターシステムの使用を禁ずるものである。 なのはの体は万全とは言い難く魔力に至っては未だ回復の兆しを見せてはいない、その為の処置であった。 しかしこの先の試練でブラスターシステム無しで立ち向かえられるのかどうか不安もあった。 …もし現状の能力で不可能であれば、使わざるを終えんだろう…そう考えている内に広場にたどり着くなのは。 広場の中心には一人の男性が佇んでおり、年は自分と同じぐらいだろうという印象を受けていた。 そして男はなのはの存在に気が付き振り向くと、その瞳は鋭くなのはを見つめており、その目線に懐かしさを覚えていると男の口が動き出す。 「次の相手はお前か…」 「アナタは一体?」 「私か?私の名は不破士郎、御神流の後継者だ」 士郎の言葉に目を見開くなのは、御神流と言えば兄や姉が父に習っている剣術である。 するとなのはは士郎の目をじっくりと見る、そしてどうりで見覚えがあるハズだと感じていた。 何故ならあの目は道場で兄達に稽古をつけている時の父と同じ目であるからだ。 では今目の前にいるのは若かりし頃の父、士郎なのではないのか…なのはは動揺を隠せないでいた。 …だが実は彼は、なのはの知る士郎ではなく、“同一人物”で“別人”の士郎なのである。 彼はなのはの出身世界である地球の平行世界から来た人物で 一人で修行している中に神に誘われ、此処で鍛錬をしていたところになのはが姿を現したのである。 話は戻り、未だ動揺を隠せないでいるなのはを後目に、士郎は更に話を続ける。 「此処に来て様々な奴と戦ってきたが、女…しかも人間の女を相手にするとはな」 士郎は此処に来てから様々な相手をしてきた、頭が三つもある猛獣、蛇が髪の毛のように生えた巨大な目玉、金属で出来た巨人など その中で次の対戦相手が女である事に疑問を感じるも、もしかしたらかなりの実力者なのかもしれないとも考える士郎。 「では…そろそろ始めるか……」 そう言って腰に抱えている小太刀を引き抜き構えると、なのはもまたレイジングハートを起動させて構える。 そして対極に対峙する中で、なのはが最初に動き出しアクセルシューターで士郎を牽制しようとする、 だが士郎は手に持っている小太刀を振るい次々とアクセルシューターを切り裂き、更になのはに迫り右の小太刀を振り払う。 しかしなのははラウンドシールドで士郎の攻撃を防ぐと流石の士郎も驚く表情を見せる。 「ほぅ…そんな能力も持っているとはな」 そう言って不敵な笑みを浮かべると右手に力を込め一気に振り抜くとラウンドシールドが真っ二つに切り裂かれる。 その光景になのはは目を丸くする、何故ならば自分の防御魔法の中で最も強固なラウンドシールドがいとも簡単に切り裂かれたからである。 なのはの驚きを後目にに士郎は左の小太刀を振り下ろそうとした瞬間、なのははとっさに後方へと飛ぶが士郎もまたついて回り 士郎の斬撃をプロテクションにて防御していると、士郎が左に力を込めるのを察し、 左の一撃に合わせて士郎の右後方へと移動、すぐさま振り向きカートリッジを消費させディバインシューター六発を士郎に纏めて撃ち込む。 しかし士郎は迫ってくるディバインシューターに対し右の小太刀を逆手に持ち替え左回転にてディバインシューターを弾き飛ばす。 なのはは士郎の動きに驚く一方で士郎がなのはの下へ真っ直ぐ向かってくるのを見て、 地上戦では此方が不利と感じ士郎の左の突きをギリギリで回避し上空へと逃げ込むと、 更にレイジングハートをエクシードモードに替えカートリッジを消費、ディバインバスターを撃つ体勢に入る。 「なるほど、考えたな…だが、対空用が無いとは言ってないぞ」 そう言うと持っていた小太刀を仕舞い懐から一本の棒手裏剣、飛針を取り出すとなのは目掛け投げつける。 一方なのはは既に魔力チャージを始めており一歩も動けない状況の中、飛針はなのはの肩を掠める程度に終わり悔しがる表情を垣間見せる士郎。 「ちっ…距離を見誤ったか」 そう言うと懐から六本の飛針を取り出すと、なのはの急所目掛け投げつける。 六本の飛針がなのはに迫る中、ディバインバスターのチャージが終わりすぐさま撃ち出すと、ディバインバスターは飛針を飲み込み士郎に迫る。 その勢いに驚きの表情を見せる士郎を後目にディバインバスターは床に突き刺さり爆発、辺りには魔力の残滓が煙のように舞うと、 その光景を上空から見つめるなのは、すると煙の中から切り裂くような勢いで四本の飛針が飛び出す。 それをラウンドシールドにて弾いた瞬間、足に違和感を感じ見てみると、足には鋼糸がまとわりついていた。 そして煙が晴れていくと其処には不敵な笑みを浮かべ鋼糸を握る士郎の姿がいた。 「捕まえたぜ!そらぁ降りて来い!!」 そう言って士郎は鋼糸を床に激突するように引き、なのはは背中から床へと激突、なのはの身には悶え苦しむ程の衝撃を受けていた。 しかし士郎の行動は終わらず、自分の元へなのはを引き寄せると鋼糸を手放し左手で顎を掴み、そして右手で小太刀を引き抜く。 「これで終わりだ」 そう一言口にするとなのはの心臓目掛け突き刺す体勢をとる士郎であった。 場所は変わり上空でフェイトの様子を見つめるプレシア、するとフェイトのいた場所から金色の魔力が現れ、中心には身なりが軽くなったフェイトの姿があり、 その手には二本の剣が握られており、柄の端は魔力の糸で結ばれていた。 これがフェイトの切り札、真・ソニックフォームとライオットザンバー・スティンガーである。 真・ソニックフォームは防御を一切無視し速度を重視した超高速特化形態で、 スティンガーはライオットブレードの二刀流の事を指し、柄が繋がれている事で安定した切れ味を実現したものである。 「チッ!…さっさと倒れればいいのに!」 「私は負けない!私にはその理由があるから!!」 自分には自分を待つ人がいる、自分は戻らなければならない場所がある、だから此処で倒れるわけには行かない! そう力強く言葉にするフェイトを苛つきの目で見つめるプレシア、 そしてフェイトはカートリッジを消費すると瞬間移動ともとれるような速度でプレシアの懐には入り右の魔力刃を振り下ろす。 しかしプレシアはブリッツアクションにて右手の動きを速めフェイトの一撃を止めると魔力刃を縛り上げる。 だがフェイトは左の魔力刃にて魔力鞭を切り落とし更にプレシア目掛け振り下ろすが プレシアはソニックムーブにて後方へと回避、フェイトの刃はプレシアの前髪を掠める程度に終わった。 するとプレシアは左手をかざしプラズマスマッシャーを撃ち出すが、フェイトはソニックムーブにて難なく避け背後を捉えると両手を振り上げる体勢をとる。 しかしプレシアは既にフェイトの動きを予測しており、振りかざした瞬間を狙って二本纏めて魔力刃を縛り上げた。 「二刀流とは考えたわね、でもこうやって二本ごと縛り上げれば意味ないんじゃない」 「まだまだぁ!!」 そう言うとスティンガーの鍔を合わせ一本の巨大な大剣へと姿形を変える、 ライオットザンバー・カラミティ、二刀のライオットブレードを合わせる事で生まれる破壊力重視の大剣形態である。 そしてカラミティの巨大な刃に耐えきれず魔力鞭の呪縛が断ち切られるとそのまま振り下ろし、プレシアは弾丸のような速度にて床に激突する。 プレシアが激突した辺りは舞い上がった塵に覆われており、上空からその光景を見つめていると 魔力によって塵を吹き飛ばしフェイトを見上げるプレシアが姿を現した。 「おのれ!このクソガキがぁ!!」 プレシアの表情は怒りによって歪み殺気を籠もった瞳で睨み付けるが、フェイトは冷静にカラミティからスティンガーに切り替える。 するとプレシアはソニックムーブを起動させフェイトの懐に入り、一気に振り抜くが紙一重にて攻撃を回避、だがプレシアはソニックムーブにてフェイトの後を追いかけると フェイトは一度立ち止まりソニックムーブにて急転、プレシアに迫り右の払いを繰り出すとプレシアはディフェンサーにて攻撃を防ぐ。 その時である、防御により動きを止めたプレシアの隙をつき左のライオットブレードを繋げカラミティにしプレシアの障壁を砕くとスティンガーに戻す。 そしてカートリッジを三発消費し更にブリッツアクションを用いて体全体の速度を高め次々と斬撃を繰り出す。 その斬撃はまるで無限の剣閃と呼べる程でプレシアの体に続々と金色の軌道が描かれフェイトは振り上げた瞬間カラミティに替えプレシアの顔目掛け一気に振り下ろす。 「はぁぁぁああああああ!!!」 フェイトのカラミティを受け止めたプレシアの顔が徐々に歪む中、フェイトはプレシアを連れ一気に急降下、そしてプレシアごと床に叩きつけると床は大きく円形にへこんだ。 そのへこみの中心でプレシアは信じられないといった表情でフェイトを見上げていた。 「…バカな!この…私が……負ける…ハズが……」 しかしプレシアの目に写るのは凛とした姿で佇むフェイトの姿で、その姿に思わず口元が緩むと意識を無くし倒れるプレシア。 その光景を最後まで見届けたフェイトは、まるで糸が切れたかのように膝を突き頭の中が真っ白になりながら倒れ込むフェイトであった。 一方でなのはの心臓に士郎の凶刃が迫りバリアジャケットにふれた瞬間バリアジャケットが爆発、士郎の攻撃を相殺した。 リアクターパージと呼ばれる防御機能で対象において限界と思えるダメージが起きた場合、バリアジャケット自らが爆発しダメージを相殺するのである。 リアクターパージはなのはにとって最終的な防御手段、それを発動させる程の一撃を士郎は繰り出していたのだ。 それもそのハズ、士郎は徹と呼ばれるドラム缶を一刀両断できる技を繰り出していたからである。 士郎は自分の一撃を爆発によって相殺された事に驚きの顔を見せると、その隙をついてなのはは即座にショートバスターを撃ち抜く。 すると士郎は左の小太刀を抜き手前で交差させてショートバスターを受け止めるが見る見ると押されていき、50m程放されるとショートバスターを四散させる。 「ここまでやるとは驚きだ!…仕方がない“本気”を出すか」 士郎のふとした言葉に目を見開くなのは、士郎にとって今までの攻撃は本気を出してはいないというのだ。 そんなバカな…ただの強がりだ…そう自分に言い聞かせレイジングハートの先端に魔力刃を形成し鋼糸を断ち切ると、 士郎は小太刀を仕舞い、瞳から光が消えまるで人形を思わせるような瞳に変わり全身からなのはに向け殺気を放ち始める。 士郎の殺気になのはの全身は粟立ち頬からは冷たい汗が垂れ、左手が震え始める、 …飲まれるな!!そう自分を奮い立たせていると真正面にいた士郎が消え目の前に姿を現す。 そして士郎はなのはの左手を掴むと、なのはは回転しながら宙を浮き背中から床に叩きつけられる。 なのはは背中から来る衝撃と痛みに苦しみながら士郎を見上げると、士郎は右足でなのはの顔を踏みつける体勢をとっており、 とっさに右に転がり士郎の踏みつけを躱すとアクセルシューターを撃ち出す体勢に入る。 しかしその瞬間を狙って士郎は左掌底をなのはの胸元に突きつける、するとなのはの体の中に猛烈な衝撃が響き、 その衝撃によって傷つけられた内臓の出血により口から血を吐き出す。 すると今度は左拳を握り顎をカチ上げ脳を揺らすと、がら空きになった腹部目掛け右の掌底を打ち込み吹き飛ばす士郎。 御神流は何も剣術だけが取り柄ではない、表面を傷つけず内部のみを破壊する当て身や受け身がとれない投げ技なども存在し、 先ほど使用した飛針や鋼糸などもまた御神流の技の一つなのである。 一方、腹部に強烈な打撃を受けたなのはは士郎の強さを実感していた、御神流は力よりも速度を用いた武術、 その速度はエクシードを使用したなのはの瞳にすら映らぬ程の速度であった。 …今のままでは確実に殺される、しかし自分はこのまま殺される訳には行かない 自分には助けたい者がいる守りたい者がいる、自分の帰りを待っている人がいる。 だからこそここで負けるわけには行かない!するとなのははレイジングハートに命じる。 「レイジングハート…ブラスターシステム起動!ブラスター2!!」 しかしレイジングハートはなのはに注意を促す、今のなのはの肉体でブラスターシステムを起動させれば 二度と魔法が使えなくなる可能性があり下手をすれば死んでしまうと。 しかしなのははこう答える、今此処で負けれる事は死を意味する、今更自分の肉体に気を使った所で奴に勝つ事は出来ない。 たとえ自分の肉体に不幸な事故が起きたとしても、此処で自分が勝てば仲間達が先に進むことが出来る。 それに自分は死ぬつもりはない、そう笑みを浮かべ話すとレイジングハートは屈伏した様子でブラスターシステムを起動する。 なのはの身に大量の魔力に満ちるとA.C.Sドライバーを起動させレイジングハートに魔力羽が展開される。 そして魔力によって反応速度、胴体視力、加速を高め士郎の動きを見極めようとしていた。 結果は士郎の動き全てを見る事は出来なかったが、出だしの一歩を見極める事に成功、A.C.Sドライバーにてかろうじて回避する。 しかし負けじと士郎も追いかけるが、瞬間的に移動・回避しイタチごっこが続いていく。 「逃げてばかりでは勝てん―――」 イタチごっこに飽き飽きして言葉を発した次の瞬間、正面で構えるなのはとは別方向、 士郎を中心に右上後ろから桜色の直射砲が降り注ぐのに気がつき転がるように回避 攻撃された方向を見つめると其処には金色のブラスタービットが宙に浮いていた。 「チッ!小賢しい!!」 そう言って懐から飛針を三本取り出して投げ、ブラスタービットを破壊する。 これで安心と考えた矢先、今度は後ろから桜色の直射砲が撃ち抜かれ、小太刀にて受け止め切り払う。 そして鋼糸にて縛り上げるとブラスタービットは一瞬にしてバラバラとなった。 すると他のビットによって右腕をバインドで縛り上げられ左の小太刀にてバインドを断ち切ろうとした瞬間、なのはのディバインバスターが士郎に迫ってくる。 「チッ!…仕方がないな」 士郎はバインドを断ち切った瞬間、一瞬にして移動なのはのディバインバスターを回避、更に飛針にてビットを破壊した。 その動きを一通り見たなのはは、恐らく性質としてはソニックムーブと同じだが、速度は遥かに越えていると判断していた。 「チッ…いくつこれはあるんだ!」 「そんなの答える訳ないじゃないですか!」 なのはのもっともな意見に不敵な笑みを浮かべる士郎、 実際問題として、ここまでやれるとは想っても見なかったのだ。 しかしこのままジリ貧が続くのは戴けない、この状況を打破するには“アレ”を使うしかないと悟ると 小太刀を仕舞い前傾姿勢で構える士郎、その構えを見たなのはもまたレイジングハートを士郎に向け構えていた。 「これで終わりにする…」 そう一言呟くように口にすると辺りは静寂に包まれ重苦しい空気が二人の肩にのしかかる。 そしてなのはは士郎の動きを見逃さんとジッと見つめていると、一瞬にして士郎が姿をかき消える。 なのはは驚きともにどこに行ったのか?と脳が考え始める瞬間に後方でキンッと小太刀を仕舞う音が聞こえ、 その音が耳から消え去った瞬間、なのはの胸元は大きくバツ印で刻まれ、傷口から血が噴き出し膝をついて前のめりで倒れた。 神速…御神流の中で奥義と称される歩法で自らの意志で認識速度を高め、常人を越える判断能力・攻撃・速度の可能としている。 しかし本人の肉体にも多大な負担を抱える為多用は出来ないが、その分一撃必殺ともいえる攻撃力を秘めているのである。 士郎の一撃はなのはに致命傷を与え、もはや立ち上がれないと確信に似た表情で士郎は振り向くと 其処にはレイジングハートを支え棒代わりに立ち上がろうとするなのはの姿があり、 思わず目を見開き驚きの表情を見せるがすぐに冷静な顔になり、なのはの行動に疑問する士郎。 「何故立ち上がろうとする?」 「……私には…負け…られない……理由…が…あるから」 自分には命を賭しても守りたい者がいる、自分を大切にしてくれる人がいる、大切な者を救う為に此処に来た。 だから此処で倒れている訳には行かない、たとえ気絶するような痛みでも、致命傷を受けたとしても、立ち上がらなければならない。 そう言って立ち上がり胸を張ると振り返り士郎を瞳を睨みつける、その瞳はとても半死人に見えず強い決意が滲み出していた。 そしてその瞳見た士郎は、なのはの中に母の強さを感じふと目を閉じる、其処には1歳とも見える小さな男の子が写り出す。 自分もまた、命を賭してまで守りたい者がいる、すると士郎の顔が暗殺者としての顔から父親の顔へと変化し、なのはに向け神速の構えに入ると なのはもまたレイジングハートを向けA.C.Sドライバーの体勢に入るとブラスター3を起動させる。 それによって得た魔力を先ほど受けた致命傷部分に注ぎ覆う事で応急処置的に傷を塞ぎ、残りの魔力は反射神経・動体視力・加速のみに集中させた。 そして互いの間の空気が緊張に満ちていくと、士郎がその想い空気の中、口を開く。 「…何か言い残すことは?」 「無い…」 自分は負けるつもりは無い、だからこそ言い残す言葉など無いと力強く答えるなのは。 なのはの言葉に決意を見た士郎は、なのはの強さに感服するも全力で相手をすることを決めていた。 「行くぞ!我が奥義によって散れ!!」 「私は負けない!全力全開で立ち向かう!!」 そう言ってカートリッジを全て消費すると先にかき消える士郎、そして間髪入れずになのはもまたかき消えるように姿を消した。 そして互いが対峙していた中心にて周りの柵が揺れ床にヒビが入る程の強烈な衝撃が響く。 そして衝撃波の発生元では小太刀を交差させた士郎と魔力刃にて小太刀を受け止めるなのはの姿があった。 互いの一撃は強力で小太刀の交差した中心部分に亀裂が走り始めるが、レイジングハートは全体的に亀裂が走っており、砕けるのも時間の問題である。 「このまま砕け散れ!!」 「砕けはしない!レイジングハートは!私の心は!!」 そう言うと小太刀のヒビが徐々に広がりを見せ、とうとう小太刀を打ち砕くと 空になったカートリッジを抜き出し新しいカートリッジに入れ替え装填、レイジングハートに環状の魔法陣が展開され先端では魔力が増幅していった。 「不屈の心だからぁぁぁ!!!」 そしてなのはの決死のディバインバスターが撃ち出されると桜色の魔力は士郎を飲み込み、 なのはもまた自身が撃ち抜いた魔力の光に包まれるのであった。 場所は変わり一人倒れていたフェイトが気が付き起きあがると其処は白い空間が広がっていた。 その時である、先程まであれだけの激戦を繰り出していたハズなのに自分の身がとても軽いことに気が付き首を傾げていると、 目の前に一つの魔法陣が姿を現し中から黒いローブ姿のプレシアが現れ、警戒の眼差しで見つめていると、肩をすくめるプレシア。 「安心して…もうアンタに手を出さないから」 フェイトがここに呼ばれた理由はプレシアに勝った為、だから自分はこれ以上手を出すことは出来ないと。 神はフェイトの奥に潜む母への想い、そして憧れそしてフェイトの中にある母性の力が母より越えているのかという物であった。 結果、プレシアの想いよりフェイトの想いが強く母の陰を乗り越えたという事と判断したのだという。 「これで私の願いも終わりなのね…忌々しい……」 そう言いながら顔が緩んでいるように見えたがすぐにフェイトに背を向けるプレシア。 フェイトは哀しくも変わらないプレシアの態度に苦笑いを浮かべると転送され始める。 すると背を向けたままのプレシアから言葉が聞こえる。 「……じゃあね“フェイト”」 「えっ!?母さ―――」 最後の一言に驚いた表情を見せながらフェイトは転送される。 そして一人残されたプレシア、神によるアルハザードへの道は閉ざされた… アルハザードへの道は自分で切り開くしかないか…そう諦めた様子を見せていると、プレシアの目の前に一人の金髪の少女が姿を現す。 「……お母さん?」 「アリシア!?」 その少女はアリシア本人であった、プレシアは目の前の愛娘に思わず抱きしめ、どうして此処にいるのか訪ねると、笑みを浮かべながら話し始める。 …今まで自分はとても長い夢を見ていた、その夢の中では母が一生懸命私を構ってくれていた。 ある日、母がいなくなり一人寂しくしていると、自分そっくりの少女と出会う。 少女は自分の“妹”だと名乗りそれから毎日“妹”と仲睦まじい生活を送っていた。 するとある日、“妹”がこう言った「そろそろ自分は行かないと」アリシアは一人にしないで欲しいと叫ぶと “妹”は…もう一人じゃないから大丈夫だよ…と優しい笑みを浮かべ光の中に吸い込まれていき、自分は追いかけていたら此処に立っていたと話す。 「変な夢だった…私には“妹”なんていないのに……」 「………そうでもないかもよ?」 プレシアは一言を発し天を仰ぎ目をつぶると…神も粋な計らいをしてくれるものだ…と、 そう心の中で呟いていると母の行動に首を傾げ疑問の表情を見せるアリシア。 するとそれに気が付いたプレシアは満面の笑みを浮かべ、アリシアの手を取り光の中を歩み始めるのであった。 一方で光に包まれたなのはは一人立ち尽くしていた。 そして今まで受けていた傷全てが完治しており、当初から存在していた体の不調、魔力の低下も見られず、 寧ろ絶好調とも言えるコンディションであった。 一体自分の身に何が起きたのだろう?そう疑問に満ちた表情を見せていると目の前に士郎が姿を表す。 「落ち着け、もう戦いは終わりだ…お前の勝利によってな」 士郎の言葉に一瞬唖然とするが徐々に喜びに満ちた表情を見せるなのは。 するとその表情を見た士郎は頭を掻きながら完敗を宣言する。 正直、自分と此処まで戦えて更に自分が負けるとは思ってはいなかった。 その強さは恐らく守る者の力の差なのだろうと、肩をすくめ首を振る士郎。 「出来る事ならお前の名前を教えて欲しい…私に勝ったお前の名を」 「私の名前は……“なのは”です」 「“なのは”か……良い名前だ、覚えておくぞ…」 そう言うと時間切れなのか徐々になのはの体は転送されていき、その場を最後まで見守る士郎。 そしてなのはが完全に転送されたのを確認すると歩み始め、その道中で考え事をしていた。 …もし、自分に娘が出来たとしたら、その子に“なのは”と名付けよう… ……不屈の心を宿すその名を…… 場所は変わり此処は海鳴市に存在する翠屋、時間は既に深夜を回っており、住民も寝息を立てている中 住人の一人である一人の男がふと目を覚ましベッドから起きあがる、すると隣で寝ていた妻である桃子が気付きふと声をかける。 「どうしたの?アナタ」 「いや…何でもない、少し夜風に当たってくる」 そう言うと男は妻を寝かしつけ部屋を出ていき、玄関へと赴く。 外は静寂に包まれ空は満天の星空に覆われており、ふと男は空を見上げると呟くように言葉を口にする。 「頑張れよ……なのは…」 …何故自分はそのような事を口にしたのかは分からない、ただ何故かそう思う父“士郎”であった。 前へ 目次へ 次へ オマケへ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1349.html
Ririkaru無双 クロス元:無双OROCHI 最終更新:08/01/07 プロローグ 第壱章「嵐が来る前」 無双NANOHA 魔王再臨 クロス元:無双OROCHI 魔王再臨 最終更新:08/05/30 プロローグ 第1章「集いし無双の者達」 スカリエッティ軍 第1章 小ネタ TOPページへ このページの先頭へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3283.html
―――我等の試練に討ち勝ちし者達よ、見事である――― ―――さあ…我等の下へ来るが良い、そして汝の強さを示せ――― ―――さすれば我等は汝の力と成らん事を約束しよう――― リリカルプロファイル 第二十七話 五層 第四層の試練も、なのは達の活躍により無事突破した一同は、 帰ってきたなのは達に激励をすると、今回の目的でもある神が住まう地、第五層へと足を運ぶ。 目的の地まで今までとは異なる程に長い階段を下る一同は、今までの試練を思い返していた。 最初はスバルとティアナが憧れ、そして目標である母と兄の壁を乗り越えた。 次にエリオとキャロが自らの内に潜む暗い闇に打ち勝ち、 はやてとヴオルケンリッターは自分達の罪を乗り越え、 そしてなのはとフェイトは守る意志を試され、父と母に打ち勝った。 …全ての試練を乗り越えた今ならば……そう考え気合いを込めていると、神が住まう地へと辿り着く。 それは今までとは異なり、とても広く三倍近くの面積があり、柵の外には見上げる程の巨大な柱時計がゆっくりと時間を刻んでいた。 そして神との対峙に鼓動が高鳴っていくと、床に描かれている二つの魔法陣が赤と青の色に分けて輝き出し、 なのは、ヴィータ、スバル、ティアナ、シャマルの身が赤い魔力に包まれ始め フェイト、シグナム、エリオ、キャロ、ザフィーラの身が青い魔力に包まれていく。 その中ではやて一人だけがぽつんと無色で佇んでおり、自分の身を何度も確認するが、 周りのような変化が起こらず、思わず怒鳴り散らすはやて。 「なんや!何で私だけなにも変化せぇへんのや!!」 「あ~たぶん定員オーバーなんですよ」 今回は神がバランスよく二班に分けた結果、一人余ったはやてが留守番する事になったとディルナが語ると、 全く納得いかない表情を表しながらシャマルに指を指し怒鳴り散らしながら抗議する。 「んじゃ何か!私よりシャマルの方が役に立つっちゅうんか!!」 「……それはどういう意味かな?はやてちゃん…」 シャマルはとても綺麗な笑みを浮かべながらこめかみに血管を浮き出させて質問する。 その表情に思わず慄くが、直ぐにつふてくされるはやて。 「私はもう真の夜天の王になったっちゅうねん、なのに何でハブかれなきゃいかんのや……」 ブツブツ言いながら体育座りで呟くはやてをリインが慰めているところで、なのは組、フェイト組は転送されていき、 その場にははやてとリイン、それにディルナが取り残されていた。 そしてディルナは落ち込むはやての肩に手を当てると顔を見上げると優しい笑みを浮かべ出迎える。 「心配なのはわかりますけど、大丈夫ですよ!試練を突破した皆さんなら!!」 そう言って励ますディルナ、確かに此処に来てから自分を含め成長したかに見える、 自分が此処で出来る事…それは皆の無事を祈る事であるだろう… そう考えたはやてはディルナの励ましに感謝して立ち上がるとディルナはある方向を指さす。 其処にはカフェなどに置いてありそうなお洒落な白いテーブルとチェアーが置いてあり テーブルクロスの上には白いティーポットとカップ、それにクッキーが入ったバケットが置いてあった。 ディルナ曰わく神が用意してくれたようで、此処で暫く休息を堪能して欲しい為の処置のようである。 そして説明を終えたディルナとリインはいち早くテーブルに向かい、はやては困惑しながら、テーブルへと赴くのであった。 場所は変わりなのは達は一面白い大地に覆われた場所に転送され、フェイト達もまた似たような別の場所に転送されていた。 一同は離れないように纏まって警戒をしていると両者の目の前に魔法陣が現れ中心から等身大の神が姿を現す。 その姿は金髪に三日月を彷彿させる杖を持ち、黒いローブを着ていて背中には六枚の翼、頭には金色の輪が浮かんでおり、 両者に現れた姿はほぼ同じなのであるが、なのは達の下に現れた神は赤い翼と魔力に覆われ、フェイト達の下には青い翼と魔力に覆われていた。 一同は神の出現に唖然としていると、神が静かに言葉を口にする。 『よくぞ辿り着いた…』 「我は男神ガブリエ・セレスタ」 「私の名は女神イセリア・クイーン」 『我等はこの世界の住人にして主である』 別の場所で言葉を合わせるように話す流浪の双神、様々な修羅場を潜って来た一同だが その圧倒的な存在感に息を飲まれていると、その中でなのはだけが先陣を切るように神に問いかける。 「流浪の双神よ!私達は―――」 「皆まで言わずとも分かる、我等の力を貸して欲しいのだろ?」 此処に来る者は、大抵腕試しか力を借りに来たかの二択位で なのは達は入って来た当初から力を借りに来たというのは分かっていたと語ると、 流石、神を名乗るだけの事はあると考えつつも話が早いと考える一同。 すると双神は杖で一同を指すと力強くこう述べる。 『我等の力を欲するのであれば、我等に強さを示せ!!』 神の言葉を合図に一同はデバイスを次々と起動させ神と対峙するのであった。 …フェイトは仲間と念話で作戦を伝える、先ずは自分とエリオが先手を打ち 次にザフィーラが時間差で攻撃、そしてキャロの援護と共にシグナムが攻撃を仕掛けるものであった。 フェイトの作戦に一同は頷くとフェイトはザンバーフォーム、エリオはデューゼンフォルムに変え構える。 「行きます!!」 気合いがこもったフェイトの声を合図に二人は飛び出し縦横無尽に動き回りフェイントをかけながらフェイトは 上空から振り下ろしエリオは地上から突き上げる。 しかし神、ガブリエはフェイトの攻撃を左上の翼で、エリオの攻撃を右中央の翼で難なく防ぐ。 だが時間差でガブリエの右後方上をとったザフィーラが拳を合わせガブリエの後頭部を狙うが それすらも右上の翼によって防がれる。 ザフィーラは一つ舌打ちをするとそれを合図に三人は怒涛の連撃を繰り出すが それぞれの翼にて難なく防がれてしまい、流石の三人も困惑の色を見せていた。 「そろそろ…此方も攻撃を仕掛けるか……」 ガブリエは小さく呟くように言葉を口にすると右手に持つ杖の先端が鈍く光る。 杖の先端の三日月部分は刃物のように鋭利で首を跳ねやすくする為に出来ている。 そしてフェイトとエリオの攻防で一直線に首が並んだところを狙い杖を右に振り抜くガブリエ。 しかしいち早くフェイトが気が付きエリオに念話で下がるように指示を送り二人は ソニックムーブにて回避、二人の前髪を何本か切り散らしただけですんだ。 だがガブリエの杖は更に進み後方を捉えていたザフィーラの頭部に迫るが、障壁を展開させ一撃を止める。 ところがガブリエの一撃は徐々にザフィーラごと障壁を押し上げ、 こう着状態から直ぐに障壁が砕けると、その勢いによりザフィーラは吹き飛ばされる。 一方ガブリエが背中を向いている位置にはキャロがおり、勝機と考えたキャロはフリードリヒにブラストレイを命じ フリードリヒはブラストレイを撃ち込むと、既にキャロの動きを察していたガブリエが左手をかざしファイアランスを唱え相殺する。 動きを読まれていた事に気が付いたキャロは驚きの表情を見せていると、 既にガブリエは目の前で見下ろしており、振り上げた右手には杖が握られていた。 「…まずは一人目」 そう小さく呟くと容赦なく杖は振り下ろされる、しかしガブリエの一撃はキャロの頭上を直撃する事はなかった。 何故ならガブリエとキャロの間をシグナムが割って入りレヴァンティンにて防いだからである。 そしてシグナムはキャロに下がるように指示をすると、キャロはフリードリヒに乗って後方上空へと避難 横目でそれを確認したシグナムはカートリッジを消費し刀身は炎に包まれ押し返すように紫電一閃を振り抜く、 シグナムの一撃はガブリエの予想を大きく上回り後方へと押し返されるが、 その勢いに乗りながら左手をかざしクールダンセルを唱え氷の刃を持った氷人形がシグナムに襲いかかる。 シグナムは一つ舌打ちをすると氷の刃を受け止め鍔競り合っていると刀身が凍り始め、 カートリッジを使用して溶かそうと考えた瞬間、金色の閃光がクールダンセルをバラバラに切り裂く。 そしてその場にはライオットブレードに切り替えたフェイトの姿があり、 愚直なまでに真っ直ぐ上空に移動したガブリエの下へ向かう。 フェイトはガブリエの目の前でソニックムーブを行い一気に後ろをとるが、動きを既に予測していたガブリエは右上の翼にて防ぐ。 ガブリエの翼とフェイトの攻撃により火花が散る中で、フェイトはエリオに念話で合図を送る。 (エリオ!!) (了解です!フェイトさん!!) エリオもまたフェイトに念話を送り応えると、カートリッジを二発消費、 ストラーダの矛先をガブリエに向け構え、スピーアアングリフを打ち出す。 そして見る見ると距離を縮めていきガブリエに迫るが、中央の二枚の翼にて受け止められエリオを吹き飛すように跳ね返し、 ガブリエは更に翼でフェイトを後方へ吹き飛ばした後エリオに迫ると、止めとばかりに杖を振り下ろす。 だがエリオの左手は電撃に覆われており、それに気が付いた瞬間の隙を狙いガブリエの顔を目掛けて紫電一閃を打ち抜く。 エリオの紫電一閃が迫る中でガブリエは振り下ろした杖の先端を向け攻撃を防ぐが、 エリオはそのまま拳を振り下ろしガブリエを吹き飛ばす。 しかしガブリエは体勢を立て直し床に静かに着地するのであった。 一方、空中から落ちて行くエリオをフリードリヒが口でキャッチ、 エリオは一言礼を言うとフリードリヒの背中ではキャロが微笑みを浮かべていた。 そしてガブリエはそれぞれに目を向けると口の端が徐々につり上がる。 「…成る程……がしかしまだまだこの程度では無かろう、さぁ…もっと強さを見せて見ろ!!」 そう言ってけしかけるガブリエを後目にフェイト達は冷静に今の状況を整理し対峙するのであった。 一方なのは達も念話によって作戦を練りそれぞれの役割の為に移動し始める。 そして定位置に付くとまずはなのはとティアナがアクセルシューターとクロスファイア合わせて12発で牽制する。 更に魔力弾に合わせるようにスバルは地上を滑走、ヴィータが上空を飛行してイセリア下へ迫りデバイスを堅く握る。 二人が放った魔力弾がイセリアの下へ辿り着き次々に着弾する中でスバルとヴィータは合わせるように一撃を放つ。 「ラテーケン!」 「リボルバー!」 「ハンマァァァ!!」「キャノォォォン」 二人の叫びが合わさると共に振り抜きヴィータの一撃は頭部に、スバルの一撃は腹部にそれぞれ直撃する。 だがイセリアは平然とした表情で右手に持つ杖を振り抜き二人を吹き飛ばす。 その間になのはとティアナは次の行動に入っておりアクセルシューターとクロスファイアが二人の前で激しく回転していた。 「アクセルシューター…」 「クロスファイア…」 『スパイラルシュート!!』 此方も声を合わせて放つと魔力弾が螺旋を描きながらイセリアへと迫る。 しかしイセリアは持っていた杖を振り抜き衝撃波を発生させると魔力弾をかき消し更に二人に襲いかかり、 衝撃波に飲まれた二人は吹き飛ばされていると、シャマルが二人の後方にヴァルヒ・スツーツを張り難を逃れる。 その頃スバルは反撃とばかりにイセリアへ向かうと拳と蹴りのコンビネーションであるキャリバーショットを繰り出すが イセリアは平然と攻撃を体で受け止め、その状況に困惑するスバル。 「…どうしたの?もう終わり?」 イセリアの優しく問いかける言葉にスバルの体に戦慄が走り、思わず離れると今度はヴィータがギガントフォルムに切り替え頭上から振り下ろす。 しかしイセリアは全く動じることもなくヴィータの一撃を頭で受け止め更に左手をかざしイグニートジャベリンを唱える。 そしてヴィータの頭上から光の槍が降り注ぎ、危険を察知したヴィータはパンツァーシルトにて攻撃を防ぎつつ後退すると、 一同はなのはを中心に集いイセリアを睨みつけながらも頬に冷たい物を垂らす。 …神とはこれ程の実力を持ち尚且つここまで差があるとは思っていなかった。 だからといってこの差を何とかして縮めなければ神の協力を得られない… なのははそう考えているとイセリアの口がゆっくりと動き始める。 「さて……そろそろ体も解れてきたようですし、始めますか」 今までの一連の動きは全て只の準備運動に過ぎず、今から本番であるとイセリアは話すと 赤い魔力が全身から噴き出し、魔力が衝撃波となって身を貫き、恐怖心をかき立てる。 なのはは震える左手をまるで恐怖心を押さえ込むように握り締めると、 自身の最大の能力であるブラスターシステムを起動、それを皮切りに次々に能力を解放させる。 それを見たイセリアは不敵な笑みを浮かべ杖をなのは達に向けると第二幕を開始する。 先ずはシャマルがスバルとヴィータにブーストアップのアクセラレイションとストライクパワーのツインブーストを掛けると スバルはA.C.Sドライバーを起動させて突進、ヴィータもまたギガントハンマーに フェアーテを加えて加速、イセリアの後方へと回ると一気に振り下ろす。 一方イセリアはスバルの一撃を左手一本で受け止め、ヴィータの一撃は杖にて受け止める。 するとヴィータはすぐさまその場から上空へ逃げ込むと、スバルの左手に環状魔法陣により発生した魔力球が握られており、 そのままイセリアの胸元に打ち付けると右手を突き出しディバインバスターを撃ち抜く。 イセリアはディバインバスターに飲み込まれ吹き飛ばされるが、魔力を放出し攻撃を吹き飛ばすと 上空から追い討ちとばかりにギガントハンマーを打ち出すが簡単によけられ、むしろ杖で弾き飛ばされ返り討ちに合うヴィータ。 するとイセリアの下へクロスファイアが弧を描いて襲いかかり、イセリアは杖で次々に払いのけるとティアナの下へ向かい一気に杖を振り抜く。 だがティアナは陽炎のように消え、辺りには無数の五人の幻影が姿を現す。 ブーステッドイリュージョン、ティアナの幻術をシャマルのブーストにより増幅・強化させたものである。 流石のイセリアも驚きの表情を隠せずにいると後方から桜色の直射砲が襲い掛かり それに気が付いたイセリアはギリギリのところで回避すると左右からクロスファイアが二発襲い掛かる。 「ちっ!」 イセリアは一つ舌打ちをするとその場で回転を行おうとしたところ、幻影の一つがシャマルに変わり戒めの鎖にてイセリアを縛り付けるとそのまま退避、 イセリアはなす統べなくクロスファイアを受けるが対したダメージは負っていなかった。 すると左右からショートバスターが襲い掛かり後方へ退避すると後ろの幻影がヴィータに変わりラテーケンハンマーを背中に受け、 そしてヴィータはそのまま退避し幻影の中に溶け込む。 イセリアはこのままでは埒があかないと考えた結果一つの案を導き出し 幻影の森よりも更に上空へと逃げ込み地上を見下ろす。 一方地上からはリボルバーシュートやアクセルシューター、クロスファイアに シュワルベフリーゲンなどがイセリア目掛けて襲いかかって来ていた。 「ちっ!仕方がないわね」 そう言うと足下に巨大な多角形の魔法陣を展開すると詠唱を始めるイセリア。 「…我、久遠の絆断たんと欲すれば……」 イセリアの詠唱により更に上空には巨大な槍が姿を現し縦回転を始め、 その状況を唖然とした表情で見上げる形のなのは達。 「まさか!アレは広域攻撃魔法!!」 「…言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう」 すると巨大な槍の矛先がなのは達に向けられ、動揺の隠せないなのは達に対し 不敵な笑みを浮かべ見下ろしながらイセリアは杖を振り上げこう述べた。 「分からないから全てを吹き飛ばすだけよ!ファイナルチェリオ!!」 そして杖を振り下ろすと巨大な槍の鍔部分から魔力が放出し真っ直ぐ勢い良く落下、 床に激突すると辺りに衝撃が走り幻影ごとなのは達を吹き飛ばし、その勢いは床全体を超えるほどの広がりを見せ その光景を上空にて見下ろしているイセリアなのであった。 一方フェイト達もガブリエとの戦いにおいて切り札を切り始める。 先ずはフェイトがライオットザンバー・スティンガーに切り替え、二刀流による牽制を促す、 だがガブリエはいとも簡単にフェイトの猛攻を防いでいると、左後方へと先回りしていたエリオが突き刺す、 しかしガブリエは左手一本でストラーダをつかみ取り受け止めると、 エリオはウンヴェッターフォルムに切り替えノイズから金の針が飛び出す 「サンダァァ!レイジ!!」 エリオの叫びを合図にフェイトが退避しガブリエの周囲は稲妻に覆われ始めその身を打つ。 しかしガブリエは動じることなくエリオごとストラーダを振り投げ杖を向けるとキャロによるアルケミックチェーンに縛られる。 「フリード!ブラストレイ!!」 更に追い討ちとばかりにブラストレイを撃ち抜きガブリエの身は炎に包まれ、 加熱された鎖が身を締め付ける中でガブリエは魔力を一気に解放、炎と鎖両方を弾き飛ばした。 しかし弾き飛ばした瞬間の隙をザフィーラが突き鋼の軛にてガブリエの身を呪縛する。 そしてガブリエの前方にはフェイトとシグナムがおり、フェイトはスティンガーをカラミティに換え空いた左手をかざし、 シグナムは居合いの構えをとっており、両者はカートリッジを使用する。 「飛竜一閃!!」 「トライデントスマッシャー!!」 次の瞬間、金色と炎の直射砲がガブリエに迫り直撃、それを目撃した一同はフェイトの下へ集う。 二発の強力な魔法が直撃した場所は白煙に包まれており、白煙から上空へ突き抜けるようにガブリエが姿を現し、左手をかざし詠唱を始める。 「冥府の底で燃え盛る聖玉の採光…贖罪無き罪は罰と化し裁きの時を呼び寄せる」 するとガブリエから炎が放たれフェイト達の周りを青く染め包み込むと球体となって上昇、徐々に赤く染め上がり一気に爆発した。 ペイルフレアー、ガブリエ・セレスタが放つ闇属性の広域攻撃魔法である。 そして跡地をガブリエはじっと見つめていると、中からブーステッドプロテクションを展開しているキャロと エクストラモード起動させ更に多重障壁を展開させているザフィーラが姿を現し、 二人の障壁に守られる形で姿を現す一同、その状況を上空で見下ろしていたガブリエは、ゆっくりと下降し床に足を着ける。 「よくぞ耐え抜いた!だが貴様達の強さは此処までなのか?」 ガブリエは誉めながらも挑発を促し、一同はガブリエの挑発に乗る形で次々に力を解放させる。 そしてまずはエリオが動き出す、その動きはまさに地を走る雷鳴の如き動きで、 一回り小さくなったストラーダを右手に携え振り上げ、払い、通り抜けるように振り下ろすと、 全身に光る雷光が更に輝き出し加速、ストラーダから繰り出される突きは最早、人の目では認識出来ない程の速度にまで至っていた。 「奥義!エターナル!レイド!!」 加速された無数の突きはガブリエの身を突き、最後の一撃はすり抜けるように貫き通すと 次に真の姿のレヴァンティンを握り締めたシグナムが薙払うように振り抜く。 「火龍一閃!!」 撃ち出された火龍一閃は瞬く間にガブリエを飲み込み辺りが炎に包まれる中、 ガブリエが炎の中から飛び出すと、その周囲は長方形の刃に囲まれ飛び回りながらガブリエの身を切り裂いていく。 そして右腕に次々と刃が連結し巨大な刃に変わると一気に振り下ろすザフィーラ。 「奥義!グリムマリス!!」 振り下ろされた一撃をガブリエは杖で受け止めるが、ザフィーラは力を込めガブリエに直撃させると、 真・ソニックフォームの姿をしたフェイトが閃光の如くガブリエの下へ向かい、残像を発生させながら次々とその身を切り裂いていく。 「無限の剣閃、アナタに見えますか!」 そう言いながら徐々に加速しつつ斬りつけ最後はカラミティに切り替えて一気に振り抜き吹き飛ばす。 だがガブリエは最後の一撃に耐え抜き見上げると上空ではキャロが召喚したヴォルテールが見下ろしており、キャロはヴォルテールの肩の上で エクストラモード起動させを起動させるとヴォルテールの胸元に竜紅玉が姿を現し魔力が集い始める。 「奥義!ドラゴンドレッド!!」 キャロの命に呼応するように胸元から強力な光線が発射され、ガブリエに直撃すると爆発 辺りは爆風と衝撃が響きフェイト達の身を揺らす。 その中でフェイトは確かな手応えを感じ、拳を握り締めるのであった。 一方、ファナルチェリオを受けたなのは達は辺りに横たわっており、それを見かけたイセリアはゆっくりと床に着地する。 するとゆっくりとではあるが、確実に起き上がる一同にイセリアは不敵な笑みを浮かべながら話し出す。 「成る程…耐え抜いたか……しかしその分では抵抗すらままならそうだ……」 見下すような目線で見渡しているが、なのは達の目は未だ諦めの色が見えず、 その死んでいない瞳に密かに期待を寄せているイセリア。 そして全員が立ち上がるとなのはが振り絞るように声を発する。 「まだ……まだ私達は負けていない!」 そう力強く言葉を口にするとそれぞれの全力を解放させる。 先ずはスバルがエクストラモードを起動させてカートリッジを消費すると、体に纏っている赤い魔力が増大し威勢良くイセリアの元へ向かう。 そして右拳を突き出し、振り下ろし、更にその場で左回転して勢い良く振り上げ、 更に左回転から体ごと持ち上げるようにアッパーを繰り出しイセリアの体を持ち上げながら的確に顎を狙い撃つと 床に着地、そして床を打ち砕くように拳を振り下ろした。 「奥義!ブラッディカリス!!」 次の瞬間、床から大量の赤い魔力がイセリアに襲い掛かり、その身を何度も打ち抜いていく。 そしてスバルの攻撃が終わると間髪入れずティアナの攻撃が始まる。 ティアナはエクストラモードを起動させると、エーテルを散弾のように撃ち出すクリティカルフレアと呼ばれる攻撃で牽制する。 牽制が功をそうしたのか続いてクロスミラージュを平行に構えると白い直射砲サンダーソードを撃ち出し、 そして間髪入れずにカートリッジを消費すると魔力によってエーテルが増大、ティアナの前で巨大な球体となって姿を表す。 「奥義!エーテルストライク!!」 次の瞬間、エーテルストライクはイセリアを飲み込み辺りは閃光に包まれていき 閃光が落ち着き始めると今度はヴィータの番とばかりに力を現す。 ヴィータの全身には稲妻が走り右手は重厚な鉄の手袋、そしてその手にはツェアシュテールングスフォルムのグラーフアイゼンを握り締め 稲妻がグラーフアイゼンに伝わると目を瞑りたくなる程までに金色に輝き出していた。 そしてグラーフアイゼンの先端が外れ柄の部分を稲妻で繋ぐとヴィータは頭上で回転させ始める。 そして金色の環を描き最大加速に至ったところでイセリアの頭上目掛け一気に振り下ろした。 「食らえぇ!ミョルニルハンマァァァ!!」 振り下ろされたツェアシュテールングスフォルムの先端はドリル状で稲妻を発生ながら回転しており 流石のイセリアも息を飲み杖にてヴィータの一撃を受け止める。 しかしヴィータの一撃はイセリアを中心として広範囲に渡って稲妻が走りまたもや辺りを閃光で包む、 そして閃光が消え始めると跡地からイセリアがヴィータを睨み付けながら上空へ飛び出すと その瞬間的な隙をついてシャマルが鋼の軛を打ち出し、イセリアの身を貫き動きを止める。 するとシャマルの動きに呼応するようになのはが6基のブラスタービットを六角形の形で置き イセリアより更に上空でなのはは構え、なのはとブラスタービットの前には桜色の魔力が収束されていた。 「全力全開!スターライト…ブレイカァァァ!!」 七発のスターライトブレイカーはイセリアを飲み込み着弾地点では桜色の魔力光が球体の形となって輝いていた。 そして――――― 「ブレイクゥシュゥゥゥトォォ!!!」 なのはの言葉と共に七発の収束砲が消えると中央で形成されていた魔力球が膨張、 一気に爆発し天を貫くと言わんばかりの桜色の魔力柱が姿を現しそれは徐々に細くなって消滅、 スターライトブレイカーが直撃した地点の床は大きくクレーター状に窪み、其処にはイセリアの姿を見受けられなかった。 その頃上空では肩で息をし左手を抑えながらなのはがゆっくりと降下し床に着くと力が抜けたかのように膝を付き、 その姿に一同は集まり、跡地を見つめ確かな手応えと安堵が見え隠れしていた。 両者の世界は静寂に包まれ試練の終わりを感じる頃、それは起こった。 なのは達そしてフェイト達の下へ竜巻の如き勢いで姿を現した流浪の双神が仲間達を次々に巻き込んでいく。 それはまさに疾風怒濤、一騎当千に相応しい動きで相手を叩きつけるように次々と杖を振り下ろし 次に吹き飛ばすが如く突き刺すと、今度は回転しながら移動、なのは達フェイト達はなす統べなく跳ね上げられ、 更に流浪の双神の回転が増すとガブリエは青いイセリアは赤い魔力の嵐を生み出し、一同はまるで木の葉の如く舞い上がる。 そして流浪の双神は持っていた杖を力一杯振り下ろした。 「力とはこういうものだ!!」 「これぞ真の裁き!!」 別空間にいる両者の声が重なる瞬間に合わせ、空間が断裂するほどの激しい衝撃がなのは達フェイト達の身を貫き、力無く次々に床に落ちていく。 …女王乱舞、流浪の双神の切り札ともいえる怒涛の連撃で、これを受けた者は立ち上がる事が出来ないとさえ言われる程である。 故に床に落ちたなのは達フェイト達は一切動きを見せてはおらず、流石に流浪の双神も此処までだと考えその場から転送しようとしていた。 だがなのは達フェイト達はゆっくりと身に染み込む痛みに耐えながら徐々に体を動かし始め、 それぞれはまるで生まれたての動物のように弱々しく…しかし確実に力強く起き上がり あれだけの攻撃を受けてもなお彼等の瞳は死んではいなかった。 そんな彼等の行動に自分達が知る人の強さを垣間見た流浪の双神は、歓喜に震え笑みを浮かべる。 流浪の双神の見たかった人の強さ、それは不屈、根性、“ガッツ”とも言えるもので かつてこの地を訪れた人の中で何度も倒れても立ち上がり、結果自分達は倒す人物が現れた。 その敗北から人の強さ不屈の精神を知り、同じ精神を持つ人物には力を貸すという考えに至っていたのである。 そして流浪の双神は杖で床を叩くと一面が変わり、其処でなのは達フェイト達は合流を果たす。 互いはボロボロの姿に笑い合い心配し合いしていると、流浪の双神が一同を回復させて更にゆっくりと話し始める。 「お前達の強さ、確かに見せてもらったぞ!」 「その強さならこの力に溺れる事もないだろう…受け取るが良い!」 そう言うと流浪の双神の前に杖が姿を現す、魔杖アポカリプスと聖杖ミリオンテラーである。 この二本は持ち主の能力を高める事出来るほか、アポカリプスはペイルフレアーが ミリオンテラーはファントムデストラクションが撃てるようになり、 更に杖を媒介に此処の魔法陣を展開させれば流浪の双神を一回だけ召喚が出来ると語る。 しかし流浪の双神を召喚し終えると媒介となる杖は消失すると付け加えられた。 「では…お前達の武運を祈る」 「ありがとう…流浪の双神」 そう言ってなのは達を転送させると、先程までの戦いを思い返し自分の身を確かめる。 彼女達の攻撃はとても優しく、今まで此処に来た者に無い攻撃であった。 故に彼女等なら自分達の力を正しく扱ってくれるだろう、そう確信にも似た気持ちで考える両者であった。 一方で神との契約を終えた一同ははやての下へ転送されると其処ではへばったはやてとディルナの姿があり 一同ははやて達の下へ駆けつけると、はやての手にはひまわりの種が握られていた。 「何があったの?!はやてちゃん!」 「いや…ちょっとネズミがな……それよりどうやったんや?」 はやての言葉になのはとフェイトは首を傾げるものの、証拠の品でもある杖を見せる。 証拠を見たはやては頷き褒め称えると、頭を掻き照れ臭いようで赤く染め、 そして先程までへばっていたディルナが復活し、一同を連れて出入り口へと転送されるのであった。 …此処はセラフィックゲートの出入り口、それぞれが一列に並ぶと対面にはディルナが佇んでいた。 「またのご利用をお待ちしておりま~す!!」 そう言って手を振るとなのは達も別れの挨拶を交わす。 …だがその中ではやてだけが苦い顔をしながら見つめていた。 結局あの場でなにが起きていたのかは教えてくれなかったが、 きっと酷い目に会ったのだろうと言うのが一同の展開である。 そして…ディルナに背を向け一同は魔法陣に足を踏み入れ、聖王教会へと意気揚々に戻るのであった……… 前へ 目次へ 次へ オマケへ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2408.html
0076年 4月 『レリック回収事件』が幕を閉じ、何時もより穏やか風が吹き始め。その事件において力を尽くした時空管理局の部隊・機動六課は役目を終え。 春風が吹くなかで解散することになった……。 皆を召集しての挨拶も済ませ。 勝利の鍵達が別れと新な門出を祝うために手加減なしの最後の模擬戦を開く。 なのは「全力全開!行くよ!」 スバル「はい!!行こう皆!」 が、そこに新な嵐が迫っていることを誰も気付きはしない……。 シャマル「何かしらこの力……」 今まさに模擬戦が始まろうとしていた何かの変化にシャマルは怪訝な表情を浮かべて呟く。 ヴィータ「何だよ、今からって時に……。」 楽しみを邪魔され、ヴィータは不満そうに声をかける。 フェイト「っ……空が……」 一同「!?」 フェイトの言葉に皆は空を見上げる、すると先程まで晴天であった天候は突如として雲り初めていた……。 それもビデオの映像を早送りするかのように。 なのはは、それがただの天候の変化でないことを悟っていた。 ……一体何が起きているの? なのは「……っ!?」 曇り空を見上げていたなのは、それに皆は。更に訪れた変化に目を見開く。 何……あれ? それは雲りだした空に大きな穴がぽっかりとあき、辺りの大気を巻き込むように渦を成し初めていた。 そして……。 その渦から紫色の光が注がれ、さらに地震に似た大きな揺れが起きる。 はやて「何や……何が起こって…………皆、とにかく飛ん----。」 リイン「はわ、皆さん早く!」 シグナム「くっ!?」 地面がバウンドしているような感覚にはやては皆に空を飛ぶように促すが足が地面を離れる刹那、光が身体を呑みこんでしまい。皆の意識はそこで途切れてしまう。 そのまま光はミッドチルダ全土を呑み込んでいく……。 ※海上隔離施設 ギンガ「何……この光?」 チンク「引き寄せられている……?」 ※聖王教会 クロノ「……次元震に似ている。これは貴女の能力にありましたか?」 カリム「いえ、こんなことが起きるなんて……。」 そして、こことは違う場所で。彼女達の姿を水晶球に映し出して眺めている男がいた。 ???「ククク、強者よ。集うが良い。」 男の名は魔王・遠呂智。 太古、遠呂智は、境界無く世界に乱を招いた罪により、永劫の生、果てることのない罰を科された。 仙界に幽閉され業苦を与えられ、ゆるゆると悠久を生かされる。 周りの者から永遠に忌み嫌われながら……。 それを見ていた妖魔・妲己は遠呂智を手引きし、仙界から脱走させた。 そして。遠呂智は三国志、戦国史、ミッドチルダ。 時代、国、境界すらも超越した異世界を創り、そこに猛者を集結させた。 遠呂智の目的はただ一つ……ただ一つの目的のため。 すべてを戦いへと呑みこんでいった。 遠呂智『強者達よ、我に挑め。』 リリカル無双OROCHI-導入- ※宛城 なのは「ここは一体……」 光が晴れ、視界が回復し。気付けば私は見知らぬ場所に居た。 辺りにはテントのような寝所や、木で造られた食糧庫が列び。それら全てを囲うように石造りの壁がある……。 それはまるで城壁のようで……。 ここはミッドチルダじゃないことは解る。やっぱりあの光が原因だね……。 ??「ようやく来たんだ。待ちくたびれちゃったなー。」 っ! 背後からの声に振り向くと、そこには恐ろしいくらいの白い肌の女の人がいた。 辺りに人の姿は無く、この人が声をかけたんだと理解できた。 なのは「どうゆうことですか?」 今の言葉は何かを知っているような……そんな言葉。だから、私はレイジングハートを構えて彼に向ける。 なのは「私は高町なのは。お話、聞かせてほしいの。」 妲己「私は妲己。よろしくねー。」 可笑しそうに妲己さんは名乗り返し、瞬時に私の目の前に現れて大きな玉を私に放つ。 なのは「っ!?」 咄嗟にレイジングハートで払い、当たらずにすんだけど。 速い……。あまりの速さに私はそんな印象しか浮かばなかった……。 妲己「ホラホラ、どうしちゃっの~?そんなんじゃ、貴女死んじゃうってば~あははは。」 なのは「くっ!」 彼女から間を置くために離れ、私は空に飛び。アクセルシューターを出来るだけの数で放つ。 しかし、踊るかのように移動する彼女に魔力は一つも当たらない。 一つ、また一つ。 上、横、下。あらゆる方向から狙う攻撃を回避しながら彼女はアクセルシューターを破壊していく。 彼女は強い。でも、そのまま壊させはしない! 避けきる彼女の動きを目で追い掛け、私はレイジングハートを再び構える。 全力全開じゃいかないけど……私は捕まるわけにいかない! なのは「ディバイーン……」 レイジングハートの先に魔力を集束し、私は出来る限りの魔力を彼女に放つ……。 なのは「バスター!!」 妲己「っ!気を取られ過ぎちゃった!?」 レイジングハートから放たれた私の魔力は彼女に襲いかかり、妲己さんは回避しようとしたけど……遅かった。 ディバイン・バスターの光に包まれ。彼女の存在が消えたことを私は確認し、彼女がいた場所に近づいてレイジングハートを後ろに向ける。 妲己「非殺傷設定とかつまんないなぁ~。でも、なかなかやるじゃない。なのはちゃん。」 なのは「私は時空管理局員だから!あグッ!?」 彼女は玉も動かしていないのに。腹部に重いなにかがぶつかる。 な、何……!? なのは「かはっ、……け、結晶…」 足元から伸びるように飛び出した大きな紫の結晶体が私のお腹を殴ったんだ……。 妲己「はぁーい。で、これはオ・マ・ケよ♪」 楽しそうにそう告げ、彼女は二つの玉を私に向けている。 く、回避しないと……。 でも。頭でそう考えても、身体が思うように動かない。 先程の結晶体の一撃が身体に大きなダメージを負わせてしまった。 妲己「ああ、そうそう。今の攻撃で貴女の魔力をすこーし貰ったから♪」 なのは「そんな!?」 妲己「貴女達の世界じゃ、魔導師って魔力取られたら何も出来ないんだっけ?不便だねー♪」 なのは「魔力が無くても……戦え「無理無理」 妲己「貴女の今の身体じゃあ無理よ♪」 見ただけでそこまで知っている彼女の言葉に私は返せなくなる。 確かに、今の私は傷がある。でも、それでも……。 なのは「私は「貴女、飽きちゃったからもう寝ててよ♪」 彼女にそう遮られたのが耳に入った時。 あの時、私達を包み込んだような紫の光が魔力砲撃のように玉から放たれ。 直撃した。 なのは「きゃあぁぁぁっ!?」 身体を焼くような痛み。魔力砲撃とは違った衝撃が身体を、意識を襲い。音を立てて私は地面に倒れ込む。 妖しく曇った空を眺めるような形で……。それはここが異世界だと思わせて……哀しかった。 なのは「ぐっ……」 妲己「あららしぶと~い。」 痛みを押し、なんとか逃げようと立ち上がる。けど、あの光の攻撃を受けたからか力が入らない……。 なのは「……この世界は……貴女たちが?」 妲己「ここは遠呂智様が創りあげた異世界。貴女達のミッドチルダの他にもいっぱい別世界からの人達が居るわ♪」 なのは「私達の他に……?」 妲己「そう。三国志と戦国、ミッドチルダが合わさった世界になったの♪」 なのは「一体なんのために……っ……う。」 妲己「貴女は知らなくて良いの♪な・の・はちゃん♪」 痛々しそうに言ってるのがかわいくて。つい、倒れている彼女のお腹を踏み付けちゃった♪ 妲己「なのはちゃ~ん。起きてる~?」 呼び掛けてもなのはちゃんから言葉は返ってこなかった。 あらら~、気を失っちゃったんだ~♪ 妲己「こっちはまずまずね。他は……と。」 ※ミッドチルダ東部 森林地帯 スカリエッティのラボ跡付近 フェイト「やあぁぁぁっ!!」 ??「ふんっ!!」 宛城にて、なのはが気を失った頃。 この森林において一人の魔導師と一人の武将がデバイスと戟を交わらせている。 エリオ「あの人、強い……。」 少し離れた場所でその闘いを見ているエリオ・モンディアルはそう呟く。 遡ること1時間前……。 あの光に包まれ。晴れ渡った時。 二人はこの場所に居た。そこに青白い肌の人の軍団が二人に襲い掛かり、それをフェイトが一蹴し。 終わったかに見えた……だが、フェイトの闘いぶりを見ていた赤い巨馬に跨がった一人の武将が彼女に勝負を挑んできたのだ。 呂布「俺は呂布、字は奉先。お前の名を教えろ。」 フェイト「フェイト、テスタロッサ・ハラオウンです。何故、貴方は私に闘いを挑むんですか……?」 呂布「フン……上なる獲物よ。俺を楽しませろ!!」 フェイトも、彼がただ者ではないと悟り。バリアントジャケットをソニックフォームへと変え。 プラズマザンバーを振るい。彼の戟によって弾かれて突き放される。 それを利用してフェイトは何度も何度も呂布に攻撃する。 それが何度も繰り返され、今に至っていた。 フェイト「くっ!!」 再び、突き放される形でフェイトは身体を吹き飛ばされる。 本当に強い……。 奉先から発せられる力は半端な魔力砲撃よりも強力だ……少しでも気をやればあの戟で貫かれてしまう。 なら!! フェイト「この間合いを利用すれば!!」 なんとか、態勢を立て直し。ソニックムーヴを使った速度を利用して馬上の彼の背中に回転斬りを放つ。 だが……。 ザンバーは空を切る。 呂布「俺をのけ反らせるとは……面白い!!」 呂布は身体を素早くのけ反らし、水平斬りを回避して愛用の方天画戟をフェイトに振るう。 エリオ「な……今のを避けた。」 確実に直撃すると思っていたのに……。 今までフェイトの闘いぶりを見てきただけにエリオの衝撃は大きいものだった。 フェイト「っ!?」 呂布の攻撃は鋭く、回避する先に方天画戟が襲い掛かってくる。 避け切れない!!なら障壁で!! しかし、それは間違っていた。 呂布「おおー!!」 ガシャァン!! 呂布の一撃を受け、障壁は音を立てて破壊されてしまう。 フェイト「そんな!」 障壁を破壊するなんて……。 でもこれほど強力な一撃だから動きに隙が出来る。そこを今狙うしかない! 再び、私はソニックムーヴを使って奉先の頭上に飛びザンバーを構え。振るう。 でも、後で私はどこか彼を侮っていたんだと思うようになった。 奉先は私に追い付き。バリアントジャケットの襟元を開いている左手で掴んでいた。 呂布「寝ろ!!」 そう叫び、奉先は掴んだ状態で私は地面へとたたき付けられた。 フェイト「っぁあ!!」 地面が砕け散り、私の身体をいいようのない衝撃が襲う。 それ以外、わからない……。 エリオ「フェイトさん!!」 今の闘いを見るかぎりあの人にたたき付けられて大丈夫なはずはない。 ただ、それだけしか考えられなくて……。僕はフェイトさんの元に駆け寄る。 エリオ「フェイトさん!」 バリアントジャケットはもはやボロボロになり、フェイトさんは瞼を閉じて呼吸しているだけ。 気を失っているだけだった。 でもそれは僕達の終わりを意味していた。僕も闘える。 しかし、あの人に勝てることなど出来ない……。 兵士「ヘッヘッヘーようやく殺せるぜ!」 青白い肌の兵士達が口々にそう言いながら僕達に歩み寄り、刀をぎらつかせている。 兵士「死ねー!!」 シャリオ「っ……」 刀や槍を振り上げられ。 死んでもかまわない。フェイトさんを護る!そう決意した。 兵士「ギャアァ!!」 兵士「ウガァァッ!!」 え……。 僕はフェイトさんを倒したあの呂布が、戟で兵士達を貫くのを目撃する。 呂布「獲物に下らん真似をするなら……殺す!!」 兵士「ひ、ヒイぃ!」 見る者すべてを射殺してしまうような威圧に兵士だけじゃなく、僕も彼に恐怖を感じた……動けば殺されるとさえ思えた。 エリオ「な、何で……」 呂布「フン、殺すには惜しい獲物だからだ。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン……俺の袖鎧を砕くとはな。」 なんとも嬉しそうに答える彼になんとなく誰かさんに似ているなと思う。 誰ナムさんだったっけ……? エリオ「あの、僕たちはこれから「お前達はこれから魏に連れて行くそうだ。檻車に入っていろ……」 エリオ「くっ!」 そんなわけに行かない!!そう思って、僕はストラーダを起動しようとしたけど。 あの目が、僕を捕らえる……。 呂布「小僧、良い目をしているがお前では俺を倒せん。」 エリオ「……そんなこと!わからないですよ!」 呂布「下らん」 エリオ「下らなくなんて「相手にならんからだ。」 ……く!! 遮るような言葉にエリオは動きが止まる。 呂布「高順、連れていけ。」 高順「はっ!」 そして呂布の言葉通り、高順さんは用意していた檻車を僕たちの前に持ち出す。 フェイトさんを抱えて逃げ出すなら今しかない……でも。この人からは逃げられない。 どうすれば良いんだ? 呂布「俺には関係ないが。来たるべきときがずれくる。そのときは貴様の相手をしてやろう……。」 来たるべきとき? 呂布の言葉は、その時の僕にはそれが「その女の為に今は従え。」そういうふうに思えた。 フェイトさんを助けたい。でも、この人から逃げたくなかった。 複雑な気持ちが僕の心にあった。 恐らく、いや。今まで見てきた人達よりもこの呂布という人は強い。 彼の赤い馬が輝かしく見える。 エリオ「わかりました。フェイトさんは僕が運びすから……。」 また、フェイトさんを抱き抱えることになるなんて……。 ゆっくりと檻車に入り、扉が閉まろうとするとき。 僕は振り返る。 エリオ「呂布、僕は貴方を越えたい。」 呂布「フン、期待せずに待ってやる。」 そして、それらすべては妲己の手の平のうえに浮かべた鏡で見られてた。 妲己「エリオくんかわいい♪呂布さんやるじゃなぁい……これで二人のエースはこっちのものね。こっちは……」 鏡が映す人を切り替える。そこに映しだされていたのは……。 八神はやてちゃん。かぁ……。ま、手札はこっちにあるし小次郎さんに孫策さんを手伝わせよかな。 妲己「フフ♪」 あーダメダメ。笑っちゃいそう、この小さい女の子の事どれだけ大事なのかなぁー? 再び、映すものを切り替えて確認し。妲己はなのはと共に宛城から姿を消す。 こうして、二人のエースは遠呂智軍に囚われるの身となる。 遠呂智にとってそれはミッドチルダから選ばれた者達にとって思ってもみない試練の闘いの準備として……。 続く 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/spiralcrystal/pages/49.html
りぃが放った名言。 相手の発言を待たず、畳み掛けるように言うのが特徴。 アニメ「魔法少女リリカルなのは」が大好きな彼が、リリカルなのはの面白さを説明する時に使う。 そのときの彼はまるで虫取り少年のよう。瞳がキラキラしている。 しかしその内容が内容なだけに、周りからはキモがられる。 もっとも、本人にとってみればそんな視線も慣れたもの。 むしろキモがられたくて発言している節があり、「これがたまらない」ということなのかも知れない。 あのね、リリカルなのはっていうのはね、何が面白いかっていうとね、フェイトちゃんが9歳でね、可愛くてね、主人公のなのはとの友情がね、 と続く。
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/464.html
Burning Dark(後編) ◆9L.gxDzakI ぎん、と。 鳴り響く剣戟の音はさすがに重い。 驚嘆に値する相手だと、改めてアンジール・ヒューレーは思考する。 バスターソードと互角に打ち合える重量を、軽々と振り回すその筋力。 荒々しくも素早い攻撃は、さながら棒切れでも振り回しているかのようだ。 自分も今の腕力を手に入れるだけに、どれだけの鍛練を重ねたことか。 おまけにこれまでに見たこともない、異常なまでの再生能力も備えている。 断言しよう。こいつは強い。 自分達ソルジャーのクラス1stと、ほぼ同等のポテンシャルを有している。 それでも、倒せない相手ではないはずだ。故に剣を振るい続ける。 いかに優れた再生能力を持とうと、完全な不死などということはありえない。 仮にそんなものが呼ばれていたとすれば、その時点で殺し合いのゲームバランスは崩壊する。 もしも奴が本当に不死であるならば、デスゲームの結果は論ずるまでもない。 どう考えても、耐久力の差でアンデルセンが優勝する。 それ以外の可能性はありえない。それはプレシアの望むところではあるまい。 つまり、アンデルセンは無敵ではない。 であれば、倒せる。 ばさ、と。 背後の片翼を羽ばたかせた。 戦闘において、飛行能力とは重要なアドバンテージとなる。 相手が飛べない相手ならば、跳躍の限界以上の高度まで飛べば、それだけで攻撃をシャットアウトできる。 そうでなくとも、相手以上に多様な角度から、攻撃を仕掛けることも可能だ。 敵の頭上を一飛び。一瞬にして、背後を取る。 舌打ちと共に振り返るアンデルセン。 さすがに速い。だが、隙は一瞬でもできれば十分。 「はぁっ!」 気合と共に、一閃。 振り向くその刹那に、一撃。 バスターソードの太刀筋が、アンデルセンの胸部に引くのは真紅のライン。 肉が断たれた。鮮血が弾け飛んだ。 この剣はソルジャーに入隊した記念に、郷の両親が譲ってくれた大切な家宝だ。 使うと擦り減る。勿体ない。 故に本当の危機に迫られた時以外は、敵に刃を立てることなく、全て峰打ちで潜り抜けてきた。 だが、今回は相手が相手だ。再生能力を有した敵は、斬りつけなければ倒せない。 「この程度か! 俺の能力(リジェネレイト)を見ていながら、この程度の傷をつけて満足する気か!?」 「ブリザガ!」 そして今回は、これだけではない。 ただ斬撃を繰り返しただけでも、そうそう勝てる相手ではない。 故に、戦い方を変える。 突き出した左手。足元に浮かぶのはISのテンプレート。 マテリアルパワー、発動。使用するのは氷結の力。 迸る冷気が弾丸をなし、アンデルセンの傷口へと殺到。 命中する。凍結する。斬り開かれ、修復のために蠢く筋肉が、停止。 自慢の再生は中断される。 「ぬおっ……」 「いかに再生能力を持っているといえど、凍らせて復元を止めれば……」 「嘗めるなよ剣闘士(ソードマスター)! この程度の拘束で、俺をどうこうできると思ったか!」 ぴしっ、と。 ガラスのごとき氷晶に入る、亀裂。 そこはイスカリオテの最強戦力、アレクサンド・アンデルセン。 込められた気合が。発揮される気迫が。 氷の枷へと網のごとく、鋭いひびを広がらせ、遂には粉々に砕かせる。 当然の帰結だ。 そもそも最初の遭遇で、アンデルセンは同じブリザガの凍結を破ってみせた。 であれば、部分的な冷凍など、はねのけられないわけがない。 だが。 「――氷を砕くために、その足を止める!」 それが狙いだ。 突撃。すれ違いざまに、また一閃。 氷の砕けたその矢先、今度は脇腹を襲う痛烈な斬撃。 当然、回避などできない。もろに食らった一撃が、深々とアンデルセンの懐を抉った。 治り始めたところを、また即座に氷結。 「俺がその隙を許すと思ったか」 再度標的へと向き直り、アンジールが告げる。 これが彼の狙いだ。 いかに氷を砕けると言えど、そのためには一瞬の間隔を置く必要がある。 これが並の人間同士の戦いならば、何ということもない刹那の隙だ。 だが、ここにいるのは常人ではない。 アンデルセンは熟練の達人であり、アンジールもまた同じく達人。 互いに圧倒的な実力を誇る、彼らの戦いであればこそ、その一瞬こそが命取り。 回復の隙など与えない。傷口を残らず凍結させながら、極限まで追いつめて始末する。 これがアンジール・ヒューレーなりの、再生能力との戦い方。 無論、だからといって楽に勝てるわけではない。 普段に比べて、ISの燃費が悪くなっている。エネルギーの消耗が平時よりも早い。 自身のスタミナが尽きるのが早いか、アンデルセンが倒れるのが早いか。これは極限の我慢比べ。 ばさ、と羽ばたく。 怒濤の三撃目を叩き込まんと。 「チィッ!」 されど、回避。 まさしく紙一重。 その身を強引によじったアンデルセンが、肉薄するバスターソードをかわす。 お返しと言わんばかりに迫る、グラーフアイゼンの反撃。 鉄槌をかわす。剣で受け止め素早くいなす。今度は袈裟掛けに斬りかかる。 これも回避。 振り下ろしたところを、鉄の伯爵の一撃。 大剣の防御。勢いを殺しきれず、滑るように後退。 (防御を捨ててきたか!) さすがにそう簡単にはいかないようだ。 この男、狂人であっても馬鹿ではない。崩し方の割れた再生能力に頼らず、回避行動に専念し始めている。 素早い変わり身だ。防御一辺倒と思っていた男が、ここにきて素早いフットワークを発揮した。 「Amen!」 そうこう考えているうちに、次なる一撃が叩き込まれる。 これまた剣で受け止め、弾き返し、ステップで右側へと回り反撃。 ぎん、と。 弾かれたばかりのグラーフアイゼンが、素早くバスターソードを受け止めた。 やはり手ごわい。 再生能力を抜きにしても、こいつの実力は相当に高い。 少しでも気を抜こうものなら、逆に向こうがその隙を突いてくる。 鉄槌の重圧を振り払い、後退。一旦両者の間に距離を取った。 間違いない。 これまでの戦いと現在の戦いが、アンジールに確信を抱かせる。 このアンデルセンという男、死力を尽くしてぶつからなければ、到底倒せる相手ではない。 そしてこの勝負、負けるわけにはいかないのだ。 ディエチを喪い、今度はチンクの命までもが散ろうとしている。 そんなことは許せない。今度こそ、自分のこの剣で守ってみせる。 びゅん、と。 純白の翼が疾風と化す。 眼前で待ち構えるアンデルセンへと、一直線に殺到する。 振り上がる刃。同時に構えられる相手の鉄槌。 そこからの衝突は、まさに壮絶の一言に尽きた。 「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!」 「カアアアアアァァァァァァァァ―――ッ!!」 一度斬りかかれば反撃も一度。 二度打ちかかってくれば反撃も二度。 十度の攻撃は十度の反撃。 百度の猛攻は百度の反撃。 目にもとまらぬ素早さで、繰り出されるバスターソードとグラーフアイゼン。 さながら横殴りの大豪雨。否、これはもはや押し寄せる波濤。 激流と激流同士がぶつかり合い、やかましい金属音と共にせめぎ合う。 アンジールの一撃が敵を掠めれば、アンデルセンの一撃が我が身を掠める。 一歩も押せず、一歩も引かず。 両者の攻め手は完全に拮抗し、怒号と共に激突し合う。 パワー・スピード・テクニック。そのいずれかでも相手より劣れば、即座にほころびとなるだろう。 しかし、均衡は崩れなかった。 どちらもが死力を尽くし合った結果、そこに優劣は存在しなくなった。 「いいぞアンジールゥ! それでこそ倒し甲斐がある! 殺し甲斐がある! 絶滅させる甲斐があるゥゥゥッ!!」 「知ったことか! お前が俺の家族を奪おうというのなら……倒すまでだッ!!」 ただありのままに、互いの一撃一撃を。 憎むべき敵の懐目がけ、一心不乱に叩き込むのみ。 そして―― 《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!!》 剣戟の轟音すらかき消す絶叫は、この時響き渡っていた。 ◆ 今のは何だ。 ただ戦闘を傍観していたチンクは、割って入った音に周囲を見回す。 それはアンジール達も同じようだ。 互いにつばぜり合いの態勢で静止したまま、意識のみで音源を探っていた。 アンデルセンと戦っていたと思えば、そこへあのアンジールという、訳の分からない男の乱入。 大剣を構えるあの男は、自分に味方してくれた。 であればこいつは一体何だ。またしても現れた第二の乱入者は、味方なのか敵なのか。 轟、と。 地鳴りのような音が響く。 いいや、地面は揺れていない。であればこれはまた別の音だ。 揺れているのは大地ではない。これは大気を揺らす音。 陽炎を起こす炎の音だ。 そしてその音源は――――――北から来る! 「いかん……チンク、逃げろッ!」 アンジールの声。同時に白き翼が羽ばたく。 一瞬遅れ、大通りに沿って現れたのは。 「なっ……!」 鬼だ。 まさしく炎の鬼の姿。 屈強な筋肉を巨体に身につけ、灼熱の業火を撒き散らす鬼神が、猛烈な加速と共に突っ込んでくる。 凄まじい熱量に歪む空気を、その突撃で吹き飛ばしながら。 溢れんばかりの真紅の炎で、その道筋を焼き尽くしながら。 理性で判断している余裕などない。 一瞬前に目撃した鬼は、今や倍のサイズに見えるほどに接近している。 かわせるか。いいや、かわすしかない。 あんなものを食らってはひとたまりもない。 かっ、と。 地面を叩き、バックステップ。 思い出したように、ハードシェルの準備を整える。 だが。 その時には既に遅かった。 一瞬の反応が遅れた結果、防壁が完全に展開するよりも早く。 「う……うわああぁぁぁぁぁーッ!!」 炎がその身に襲いかかった。 ◆ 単刀直入に言おう。 この時、チンクら3人へと襲いかかったのは、地獄の業火を操る灼熱の召喚獣――イフリートである。 その力は、数多いる召喚獣の中でも比較的低い。 クラス1stであるアンジールや、それと同等の実力を誇るアンデルセンなら、恐らく倒せていただろう。 事実として、最強のソルジャー・セフィロスは、かつてこれを一撃で撃破している。 だが、それは敵の攻撃をかいくぐり、こちらの攻撃のみを命中させた場合の話だ。 召喚獣の破壊力は絶大。 骨すら溶かす紅蓮の炎は、食らえば人間などひとたまりもない。 まして、制限によって弱体化されている今の彼らに、生き延びられる保障はない。 そしてその暴力的な力を前に、3人はいかなるアクションを取ったか。 まず、イフリートが使われている世界から来た、アンジール・ヒューレー。 雄たけびでその正体を察知した彼は、誰よりもいち早く離脱することができた。 続いて、イフリートを目撃した瞬間に、ようやく回避行動を起こしたチンク。 たとえ未知の存在であるといえど、似たような魔法生命体の存在は、一応頭に入っている。 間に合わずかの召喚獣の纏う炎を受けたものの、体当たりの直撃だけは避けられた。 真っ向から突撃を食らうことがなかっただけでも、まだましな方であったと言えるだろう。 そして、アレクサンド・アンデルセン。 いかに化物退治を生業とする彼でも、このような巨大生物は過去に見たことがなかった。 彼が屠ってきたのはヴァンパイアやグール。全て人間大の範疇に収まるもの。 故に、こんな冗談のような存在は、これまで目の当たりにしたことがない。 そのためその巨体を前に、一瞬とはいえ魅入られたアンデルセンは―― ――唯一、その直撃をまともに食らってしまった。 ◆ 凄まじい圧力を身体に感じている。 凄まじい熱量が身体を舐めている。 抗う術は既にない。真正面から体当たりを食らった瞬間、グラーフアイゼンは右手から弾け飛んだ。 くわと見開かれたアンデルセンの視線と、イフリートの視線が重なっている。 そうだ。これこそが真の化物だ。 人間の理解を容易に跳ね除ける、このような存在だからこそ、化物(フリーク)の名に相応しい。 掛け値なしの化物共に比べれば、自分など所詮健全な一般人だ。 だが同時に、自分はその化物を駆るべき人間でもある。 殺し屋。銃剣(バヨネット)。首斬判事。天使の塵(エンゼルダスト)。 語り継がれる数多の異名は、この身に培った力の証。 偉大なる神の御心の下、その威光に刃向かう百鬼夜行を、血肉の欠片も残らずぶった斬ること。 それこそが己の仕事であり、己の存在意義でもある。 それがどうした。 そのアレクサンド・アンデルセンが、こんな形で倒れるのか。 絶滅させるべき存在である化物に、逆にくびり殺されて終わるのか。 既に身体は動かない。 アンジールによって刻まれた傷痕から、炎が体内までも侵略している。 再生が追いつくはずがない。身体を動かす余裕などない。 情けない。 何だこの体たらくは。 法王の下へと帰還することすら叶わず、こんなところで朽ち果てるのか。 このまま地獄の炎に焼かれ、消し炭となって路傍に打ち捨てられるのか。 アンジールやチンクを放置したまま。 あの男との決着もつけられぬまま。 ――アーカードを殺せぬまま。 「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォ――――――――……………ッッッ!!!!!」 【アレクサンド・アンデルセン@NANOSING 死亡】 【残り人数:42人】 ※G-6の南北に走る大通りと、その南側の延長線上の建物が、イフリートの「地獄の業火」を受けました。 道路は焼け焦げ、建物は崩壊しています。 ※H-6の川に、アンデルセンの焼死体と、焼け焦げたデイパックが浮いています。 アレクサンド・アンデルセンは死んだ。 道路に転がったグラーフアイゼンと、最期の絶叫がその事実を物語っている。 それは受け止めよう。もっとも、こんな形で決着がつくとは思わなかったが。 だが、今アンジールの青き視線は、全く別のものを捉えていた。 もはや彼の全神経は、それとは全く異なるものに向けられていた。 「……チンク……」 肩を震わせ、呟く。 視線の先に落ちていたのは、黒い眼帯とうさぎの耳。 何故かバニーガールの服装をしていた、あの小さな妹の身に付けていたものだ。 姉妹の中で最も幼い姿をしながら、12人中5番目に生まれていた娘。 小さな身体とは裏腹に、常に下の妹達の面倒を見ていたお姉さん。 いつしかそこに加わっていたアンジールのことも、仲間の一員として受け止めてくれていた。 ウーノがケーキを買ってきたときにも、自分の代わりに剣の手入れを引き受けるとまで言ってくれた。 「俺はまた……守れなかったのか……」 彼女の眼帯のその先には――同じく黒に染まった、短い右腕が落ちていた。 肘から下の部分であるそれは、完全に炭化してしまっている。 間に合わなかった。 イフリートの突撃を回避できず、その身を炎に焼かれてしまった。 その右腕だけを残して。それ以外の部分は、影も形も残らぬほどに。 地獄の責め苦の苦痛の中で、死体すら残さず燃え尽きてしまったのだ。 自分のせいだ。 自分の力不足が彼女を殺した。 あの時回避をチンクに任せなければ。 距離が離れていようとも、届いて助け出せるだけの速さがあれば。 2人目の家族を、死なせずに済んだのだ。 「……くそ……ッ!」 後悔が。絶望が。 男の顔を、歪ませる。 【1日目 午前】 【現在地 G-6 大通り】 【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 【状態】健康、疲労(中)、全身にダメージ(小)、セフィロスへの殺意、深い悲しみ 【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、アイボリー(6/10)@Devil never strikers 【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本:クアットロを守る。 1.チンク…… 2.クアットロ以外の全てを殺す。特にセフィロスは最優先。 3.ヴァッシュ、アンデルセンには必ず借りを返す。 4.いざという時は協力するしかないのか……? 【備考】 ※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。 ※制限に気が付きました。 ※ヴァッシュ達に騙されたと思っています。 ※チンクが死んだと思っています。 ※G-6の大通りには、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 チンクの眼帯、バニースーツのうさぎ耳、炭化したチンクの右腕が落ちています。 全てを見ていた者がいた。 戦場から離れた道路の上で、一部始終を目撃していた者がいた。 黒と紫に彩られた、ゴシップロリータのドレスを纏うのは、未だ10歳にも満たぬ少女。 薄紫の髪を風に揺らし、真紅の瞳は手元を見つめる。 「……お疲れ様」 ぽつり、と呟いた。 視線の先にある、宝石のような球体へと。 マテリアだ。 魔晄エネルギーが結晶化し、固体と化した球状の物体。 人間はこのマテリアを介することで、その種類に応じた古代の魔法を、自在に発動することができるのである。 そして彼女の手の中にあるのは、その中でも召喚マテリアと呼ばれるもの。 対応する召喚獣の名は、イフリート。 そう。 彼女こそが、あの灼熱の魔神を呼び出した張本人。 スカリエッティに協力する召喚魔導師――ルーテシア・アルピーノである。 全てはほんの偶然だった。 元々は当初の予定通り、スカリエッティのアジトへと向かおうとしていた。 しかし、F-7エリアまで足を運んだ時、とある発想が頭に浮かんだ。 ――あの光と風に従ってみよう、と。 ユーノ・スクライアを刺した直前、襲いかかってきた衝撃波を思い出したのだ。 あれが砲撃魔法か何かの余波ならば、当時の状況から推察するに、G-5かG-6に向かって飛んで行ったことになる。 少なくとも、アジトのある北東ではなさそうだ。通り道であったはずの、G-7にその気配がなかった。 あれだけの破壊力の矛先だ。きっとその先には何かがある。 幸いにも、ここからもそう遠くない。 生体ポットの様子を見に行く前に、少し覗きに行っても罰は当たるまい。 そう思い、ひとまずはそちらへ向かうため、大通り沿いにF-6へと踏み込んだ。 そして南下しようとした時、その先に彼らを見つけたのだ。 切り結ぶ剣士と神父、そしてその手前に立つチンクの姿を。 ちょうどいい。 3人も人が集まっているのだ。ここらでイフリートの力を試してみよう。 起動テストも兼ねた実験だったが、どうやら上手くいったようだ。 見事召喚獣は顕現し、その絶大な破壊力を見せつけた。 体力の消耗がついてくるのが玉に瑕だったが、十分な威力と言っていいだろう。 しかし、1つだけ不満がある。 あれだけの猛威を振るっておきながら。 「殺せたのは1人だけ……か……」 【1日目 午前】 【現在地 F-6 大通り】 【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、魔力消費(中)、疲労(小)、キャロへの嫉妬、1人しか殺せなかったのが残念 【装備】マッハキャリバー(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ウィルナイフ@フェレットゾンダー出現! 【道具】支給品一式、召喚マテリア(イフリート)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、 エボニー(10/10)@Devil never strikers、エボニー&アイズリー用の予備マガジン 【思考】 基本:最後の一人になって元の世界へ帰る(プレシアに母を復活させてもらう)。 1.どんな手を使っても最後の一人になる(自分では殺せない相手なら手は出さずに他の人に任せる)。 2.北へ向かい、スカリエッティのアジトへ一度行って生体ポッドの様子を確かめる。 3.一応キース・シルバーと『ベガルタ』『ガ・ボウ』を探してみる(半分どうでもいい)。 4.一応18時に地上本部へ行ってみる? 5.もしもレリック(刻印ナンバーⅩⅠ)を見つけたら確保する。 【備考】 ※ここにいる参加者は全員自分とは違う世界から来ていると思っています。 ※プレシアの死者蘇生の力は本物だと確信しています。 ※ユーノが人間であると知りました。 ふらり、ふらり、と。 おぼつかない足取りが、前へと進む。 ぼろぼろに焼け焦げたシェルコートと、ちりちりとくすんだ銀髪を、力なく風に揺らしながら。 火傷を負った全身を、引きずるように歩きながら、少女が東へと進んでいく。 チンクは生きていた。 ハードシェルの展開こそ間に合わなかったものの、何とか一命を取り留めたのだ。 イフリートの炎に煽られた彼女は、G-7の西端へと吹っ飛ばされていた。 そしてその後は、危険な戦場を離れるために、こうして東へと逃れていたのである。 考えるべき事項はいくつかあった。 アンジールはともかくとして、あのアンデルセンはどうなったのか。 見知らぬISを発動していたアンジールは、一体何者だったのか。 何故自分の名前を知っていて、ああも馴れ馴れしく接してきたのか。 だが、そんなことを考える余裕など、チンクには一切残されていない。 それ以上に大きな念が、彼女の脳内を占めていたから。 ぼとり、と。 コートの裾からこぼれ落ちる、漆黒の塊。 それを気に留めることもなく、目の前の巨大な建物へともたれかかり、腰を下ろす。 「……参ったな、ディエチ……」 か細い声が、呟く。 天を仰ぎながら、自嘲気味な笑みを浮かべる。 地獄の業火に飲み込まれたあの時、チンクはとっさに両腕を突き出し、防御態勢を取っていた。 爆発物の投擲を基本スタイルとする彼女にとって、何よりも失いがたい両腕を、である。 その結果かどうかは分からないが、どうにかこうして生き延びることはできた。 全身に負った火傷はひどく痛むが、それでも死には至っていない。 だが、その代償もある。 それこそがあの襲撃の現場に落ちていたものであり、そして彼女がたった今落としたもの。 アンジールが見つけたそれと同じように、ぼろぼろに焼け焦げて抜け落ちたのは――左腕。 「もう、姉は……戦えない身体なんだとさ……」 す、と。 金色の瞳から、一筋の雫が線を引いた。 【1日目 午前】 【G-7 デュエルアカデミア外部】 【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、疲労(中)、全身に火傷、両腕欠損、絶望 【装備】バニースーツ@魔法少女リリカルなのはStrikers-砂塵の鎖-、シェルコート@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】支給品一式×2、料理セット@オリジナル、翠屋のシュークリーム@魔法少女リリカルなのはA's、 被験者服@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(フェイト(StS)、ナイブズ)、 大剣・大百足(柄だけ)@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる、ルルーシュの右腕 【思考】 基本:姉妹と一緒に元の世界に帰る。 1.ディエチ……姉は…… 2.G-6~8を中心に、クアットロを探す。しばらくして見つからなかったら、病院に戻る。 3.クアットロと合流した後に、レリックを持っている人間を追う。 4.姉妹に危険が及ぶ存在の排除、及び聖王の器と“聖王のゆりかご”の確保。 5.ディエチと共闘した者(ルルーシュ)との接触、信頼に足る人物なら共闘、そうでないならば殺害する。 6.クアットロと合流し、制限の確認、出来れば首輪の解除。 7.十代に多少の興味。 8.他に利用出来そうな手駒の確保、最悪の場合管理局と組むことも……。 9.Fの遺産とタイプ・ゼロの捕獲。 10.天上院を手駒とする。 【備考】 ※制限に気付きました。 ※高町なのは(A’s)がクローンであり、この会場にフェイトと八神はやてのクローンがいると認識しました。 ※ベルデに変身した万丈目(バクラ)を危険と認識しました。 ※大剣・大百足は柄の部分で折れ、刃の部分は病院跡地に放置されています。 ※なのは(A’s)と優衣(名前は知らない)とディエチを殺した人物と右腕の持ち主(ルルーシュ)を斬った人物は 皆同一人物の可能性が高いと考えています。 ※ディエチと組んだ人物は知略に富んでいて、今現在右腕を失っている可能性が高いと考えています。 ※フェイト(StS)の名簿の裏に知り合いと出会った人物が以下の3つにグループ分けされて書かれています。 協力者……なのは、シグナム、はやて、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、クロノ、ユーノ、矢車 保護対象……エリオ、キャロ、つかさ、かがみ、こなた 要注意人物……十代 ※フェイト(StS)の知り合いについて若干の違和感を覚えています。また、クローンか本物かも判断出来ていません。 ※アンデルセンが死んだことに気付いていません。 ※アンジールと自分の関係は知りませんが、ISを使ったことから、誰かが作った戦闘機人だと思っています。 ※シェルコートは甚大なダメージを受けており、ハードシェルを展開することができなくなっています。 ※G-7のチンクの目の前には、炭化したチンクの左腕が落ちています。 Back Burning Dark(前編) 時系列順で読む Next Paradise Lost(前編) 投下順で読む Next 銀色の夜天(前編) チンク Next 過去 から の 刺客(前編) アレクサンド・アンデルセン GAME OVER アンジール・ヒューレー Next Round ZERO ~ JOKER DISTRESSED(前編) ルーテシア・アルピーノ Next 過去 から の 刺客(前編)
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3742.html
貴船に降り立った昌浩たちを、無数の妖怪が取り囲んだ。猿に鳥に牛にヤギ、種類も様々な妖怪たちが大地に、木の上にひしめいている。 「大歓迎だな」 「やはりここで間違いない」 もっくんが紅蓮へと変化しながら言った。 ここは本宮のやや開けた場所だ。しかし、木々が多いので、迂闊に炎を使えない。雨が降らず乾燥しているので、下手をすると貴船が全焼してしまう。 「窮奇の姿はないな」 人間の姿に変化したザフィーラが周囲を見渡して言った。 「ならば、おびき出すまで」 シグナムがレヴァンティンを構える。 「臨める兵(つわもの)闘う者、皆陣列(やぶ)れて前に在り!」 昌浩の指先から魔力で出来た白銀の刃が放たれる。 それを合図に、運命をかけた一戦が始まった。 以前と同じ草原に出たクロノたちを、再び十二神将が出迎えた。 青龍、白虎、太陰、玄武、六合の五人だ。 「今日も引くつもりはないようだな」 青龍が険呑に言った。 「無論だ」 「剛砕破(ごうさいは)!」 青龍の手から本気の一撃が放たれる。光弾が地面に当たり、激しく土砂を巻き上げる。 クロノが思わず目を覆うと、砂のカーテンを突き破って太陰が現れる。 「またお前か!」 「またって何よ!」 クロノと太陰が空中で激しい接戦を繰り広げる。 「……」 「……」 ユーノは玄武と対峙していた。なのはの援護に行きたいのだが、目の前の敵を無視もできない。 とにかく足止めしようと、ユーノがバインドの魔法を放つ。 「波流壁!」 同時に玄武が水の結界を作り出す。ユーノのバインドが玄武を拘束し、玄武の結界がユーノの動きを封じる。 「しまった!」 ユーノは転移を試みるが、結界はそれすらも阻む。一方の玄武は涼しい顔で拘束されている。 お互いに完全に手詰まりだった。 その横では、アルフと六合が肉弾戦を演じている。 そして、 「はあああああああ!!」 「どおりゃああああ!!」 青龍と白虎が気合の声と共に、攻撃を繰り出す。 「もういやー! なんでこの人たち、こんなに怒ってるのー!?」 なのはとフェイトは男二人から必死に逃げていた。前回にも増して迫力が増している。 青龍たちが、なのはたちを執拗に狙うのは、放たれる魔力から、二人が最強の敵だと察したからだ。 飛べない青龍では、逃げられると追いきれない。それで白虎と連携することにした。白虎が空から、青龍が地上から攻める。 幼い外見に惑わされない。真っ先に全力で潰す。青龍たちはそう決めていた。 その様子を、晴明は部屋でシャマルと共に眺めていた。 「だんだん可哀想になってきたのう」 晴明としては足止めさえしてくれればいいのだが、血の気の多い青龍は完全に本気だ。 半泣きで逃げ回る女の子二人に、晴明は同情を禁じ得ない。 「晴明さんは、どうしてここまで私たちに協力してくれるんですか?」 シャマルが疑問をぶつける。窮奇退治は利害の一致としても、時空監理局の追手まで防いでくれるのはやり過ぎだと思う。 「お主たちが悪い人間には見えぬからよ」 晴明は人を食った笑みを浮かべる。 「それだけですか?」 晴明はそっと溜息をついた。今は十二神将のほとんどが出払っている。本音で語っても問題あるまい。 「わしの後継者は昌浩と決めておる。十二神将もいずれあやつが受け継ぐだろう。しかし、十二神将のほとんどが昌浩の力を疑っている。中には絶対に認めないと息巻いている者もいるほどじゃ」 「それで窮奇退治ですか?」 「そうじゃ。わしの助けなしで、窮奇を倒せば、昌浩の実力を認めざるを得まい。その後、気に入られるかどうかは、昌浩次第じゃ」 晴明が窮奇退治に本腰を入れていないのは明らかだったが、そんな理由とは思わなかった。 振り返ってみれば、十二神将が全員一緒のところを見たことがない。まさかそこまで仲が悪いとは。 (私たちは仲良しでよかった) たった四人しかいないヴォルケンリッターの仲が悪かったら、目も当てられない。 「でも、私たちの手助けはいいんですか?」 「どこの馬の骨ともしれない連中と協力し目的を遂げる。それはそれで度量の広さの証明になる」 「馬の骨は酷いですよ」 「やや、これは失敬」 二人して朗らかに笑う。 利用できるものはすべて利用し、いくつもの目的を同時に遂げる。まさに老獪。それでいて根底にあるのは、悪意ではなく孫に対する深い愛情だ。 (家族っていいな) これまでは漠然と家族というものを考えてきた。しかし、昌浩の家庭を見て、家族を本当に理解できた気がする。 帰ったらきっと、はやてともっといい関係が築けるだろう。シャマルは心からそう思った。 貴船の戦いは苦戦が続いていた。 延焼の危険があるので、広範囲攻撃ができないのだ。これだけ激しく攻められては、昌浩も大技を使う余裕がない。 一匹ずつ倒すしかないので、数に劣る昌浩たちは不利だった。 「くそ、この前にみたいに結界に引きずり込んでくれれば」 「泣き言を言うな。目の前の敵に集中しろ」 苛立つヴィータをシグナムがたしなめる。 「でも、このままじゃ防ぎ切れねぇよ!」 「危ない、ヴィータ!」 昌浩がヴィータを抱えて地面を転がる。鋭い爪が昌浩の肩を軽く掠める。 ヴィータはすぐさま体勢を立て直し、アイゼンで猿の妖怪を叩きつぶす。 しかし、その一瞬の攻防で、昌浩たちは紅蓮たちから引き離されていた。 紅蓮たちと昌浩たちの間に、妖怪の群れが殺到する。完全に分断された。 「やべぇ! 逃げるぞ!」 合流は無理と判断したヴィータと昌浩は、敵の包囲網の一角を破り山林の中へと入って行く。 「裂破!」 「くらえー!」 山道を駆け降りながら、昌浩の放つ術が、ヴィータの鉄球が、追いすがる妖怪を吹き飛ばす。 ヴィータ一人なら飛べばいいのだが、昌浩を置いてはいけないし、昌浩を背負って飛べば前回の二の舞だ。 脳裏に、刃に貫かれた昌浩の姿が蘇る。あんな思いは二度とごめんだ。 「ヴィータ!」 昌浩の声に、ヴィータは我に返る。 二人は川べりまで追いつめられていた。 「飛び越えるぞ!」 ヴィータが昌浩の首根っこをつかむ。 ヴィータと昌浩の体が宙に浮き、川を飛び越えようとした瞬間、川から伸びた触手が二人の足をつかんだ。 「しまった!」 振りほどく暇もなく、触手は二人を川の中へと引きずりこんだ。 「昌浩、とっとと起きろ!」 背中に衝撃が走り、昌浩は痛みで覚醒する。 うつ伏せに倒れた昌浩の背中を、ヴィータが踏みつけている。どうやら蹴り起こされたらしい。 「ヴィータ……」 「文句は後だ。見ろ」 川の中に引きずり込まれたはずなのに、そこは巨大な宮殿の中だった。 太い柱がいくつも立ち並び、本来なら玉座か祭壇があるべき場所には、巨大な翼を生やした虎が座っていた。 「窮奇!」 「我が城にようこそ。気に入ってもらえたかな」 窮奇が喉の奥で笑う。ここは窮奇が作り出した異界の中だった。 「一人で来るとはいい度胸じゃねえか! ぶっ潰してやる!」 ヴィータがアイゼンを振りかぶる。 「ふっ」 窮奇の魔力が大地を割る。そこから生じた不可視の壁がヴィータと昌浩を隔てる。 「ヴィータ!」 昌浩が壁を叩く。壁の向こうではヴィータがアイゼンを振りまわしているが、壁はびくともしない。音も完全に遮断している。 「貴様、我の配下にならぬか?」 「お前は彰子を殺そうとしている。そんな奴の仲間になんて、なるものか!」 「それは誤解だ。我はこの傷を癒すため、力ある者を欲している。だが、少しばかり血を貰うだけで、命まで奪うつもりはない」 窮奇が前足で地面を叩くと、彰子の姿が空中に浮かびあがる。 自室らしい場所で、彰子は熱に浮かされていた。その手には傷があった。 「彰子!」 「あれは我が配下がつけた刻印。決して癒えぬ傷、消えぬ傷」 傷からわき出す瘴気が、彰子の体をむしばんでいた。 「この苦しみから解放してやれるのは、我だけだ。それに貴様、この娘が欲しいのではないか?」 「!」 「我なら、その願いを叶えられる。この娘をさらい、この異界で幸せに暮らすといい。誰にも邪魔されぬ」 苦しむ彰子の姿が消え、代わりに幸せそうに笑う昌浩と彰子の姿が映し出される。 昌浩は凍りついた眼差しでそれを眺める。 窮奇がゆっくりと前に進み出る。昌浩の肩の傷から出た血が、手に伝い落ちている。窮奇は長い舌でそれを舐めとった。 窮奇の首の傷がみるみる塞がっていく。 昌浩が落ちるのは時間の問題だ。窮奇は自らの勝利を確信した。 「昌浩、昌浩!」 ヴィータが全力で壁を叩く。こちらの声は届かないが、向こう側の声はすべてこちらに届いていた。 「シャマル、転送を! シャマル!?」 シャマルとの通信が途絶している。ヴィータは完全に孤立していた。 窮奇が勝ち誇ったように目を細める。ヴィータの眼前で、昌浩が闇に落ちる姿を見せつけようとしている。 「駄目だ、昌浩!」 ヴィータが叫ぶが、昌浩は茫然と立ったままだ。 諦めかけた好きな人を手に入れられるのだ。抗えるわけがない。 窮奇の傷が癒え、魔力がますます強くなる。 (もう駄目なのか?) ヴィータが膝を屈しかけた時、昌浩が口を開いた。 「さあ、返答やいかに?」 「……断る」 静かに、だが、はっきりと昌浩は言った。 「何故だ!?」 窮奇が狼狽する。 「ここには蛍がいない! だから、駄目なんだ!」 今にも泣き出しそうな顔で昌浩が叫ぶ。 一緒に蛍を見に行くと約束した。その約束も果たせずに、自分の思いだけを押し付けることはできない。 (そっか。お前はそういう奴だったよな) 自分の身を顧みず、他人の幸福を願える存在。ただそれだけの為に全力を尽くす少年。そんな少年だからこそ、ヴィータは惹かれたのだ。 窮奇の動揺が結界にも伝わったのか、表面がかすかに揺らめく。 「アイゼン!」 ヴィータ渾身の一撃が、結界を粉砕する。 「ヴィータ!」 「その化け物をとっとと倒すぞ!」 「おのれ! 小癪なガキどもが!」 「ガキだけじゃないぞ」 天井に裂け目が走り、シグナム、ザフィーラ、紅蓮が姿を現す。 「貴様の配下はすべて倒した。後はお前だけだ」 紅蓮が全身に炎をまといながら言った。 よほど激しい戦いをくぐりぬけたのか、全員傷だらけだ。だが、その体からは活力がみなぎっている。 「ならば、貴様ら全員喰らってやるわ!」 窮奇の全身から紅い稲妻が放射される。 ザフィーラの展開したバリアがそれを防ぐ。 「鋼の軛!」 ザフィーラの咆哮と共に、地面から無数の鋭い棘が生え、窮奇の体をズタズタに切り裂く。 「はあああああああ!」 紅蓮の体から炎の蛇が放たれる。蛇は龍へと姿を転じ、白銀に輝き、窮奇を炎に包む。 「シュツルムファルケン!」 レヴァンティンが弓へと形を変える。放たれた矢が、窮奇の眉間を正確に射抜く。 「ギガントシュラーク!」 巨大化したグラーフアイゼンが窮奇の角を叩き折る。 「舐めるな! この程度で我が倒せるものか!」 満身創痍になりながらも、窮奇の魔力は衰えない。大地が裂け、瘴気が噴き出す。 「化け物め」 あの化け物を倒すには、もっと力がいる。 『昌浩君。これを使って!』 空間に出来た裂け目のおかげで、シャマルとの交信が回復する。昌浩の足元に緑の魔法陣が広がり、中から一振りの剣が浮かび上がる。 『晴明さんが鍛えた降魔の剣よ』 昌浩は剣を手に取る。強い力を感じる。 (駄目だ。これでもまだ足りない) 昌浩はこれまで培った知識を総動員する。 自分だけの力で足りなければ、どうすればいいか。 神の力を借りればいい。ここは龍神の住まう貴船。そして、神の力を借りる最もいい方法。 それは、 「この国の言葉でお願いする、だ!」 昌浩が走る。早口で呪文を唱えながら。 窮奇の振り上げた前足をザフィーラが両腕で受け止める。 「行け!」 瘴気を避け、ヴィータが無数の鉄球を打ち出す。 「邪魔はさせねぇ!」 窮奇が怯み、翼を開く。飛んで逃げようとしているのだ。 「させん!」 シグナムが右の羽根を切りつけ、紅蓮の炎が左の羽根を焼く。 窮奇がでたらめに魔力の刃を放つ。それらが昌浩の足を、肩を掠め、血を流させるが、昌浩は止まらない。 駆け抜けた昌浩が剣を突き出す。肉を貫く手ごたえ。呪文はすでに完成している。 「雷電神勅、急々如律令!」 龍神が封印から解き放たれ、純白の雷を窮奇に落とす。 「ぐぬあああああああああああ!」 窮奇が断末魔の悲鳴を上げる。雷によってその身を焼かれ、体内で炸裂した魔力が体を砕く。大妖怪、窮奇の最後だった。 「終わった」 昌浩がその場にへたり込む。魔力はもう空っぽだ。立ち上がる気力もない。 窮奇が死んだことで、世界が音を立ててゆっくりと崩れていく。 「昌浩」 ヴィータが心配そうに声をかける。 様子を察したシグナム、ザフィーラ、紅蓮が一足先に元の空間に戻る。 滅びゆく世界には、二人しかいない。 「……俺さぁ、窮奇の誘いに乗りかけたんだ」 「…………」 「もし彰子と一緒に暮らせるなら、それも悪くないって」 昌浩の声はかすれていた。何かを堪えるように上を向いている。 「ヴィータたちとも約束したのに、窮奇を倒すって、なのに……」 昌浩が静かに嗚咽を漏らす。 ヴィータはこういう時、慰める言葉を持たない。だから、こう言った。 「私は何も聞いてない。だから、好きにしろ」 ヴィータが昌浩と背中合わせで座る。 「ごめん。それから、ありがとう。ヴィータ」 昌浩は静かに泣いた。世界が消えるぎりぎりまで、ヴィータは一緒にいてくれた。 言葉はなくとも、ただ背中から伝わる温もりが、昌浩は嬉しかった。 しとしとと雨が降る。 蘇った龍神が盛大に雨を降らせていた。 封印を解いてくれたお礼に、龍神は昌浩たちの傷を治してくれた。 一晩経って、昌浩たちは再び晴明の部屋に集められた。 「皆、本当にご苦労だった。特にシグナム殿、ヴィータ殿、シャマル殿、ザフィーラ殿には、この晴明、どれだけ感謝しても足りません」 「いえ、我々も目的を達成できました」 窮奇の魔力を回収しても、闇の書は完成しなかった。しかし、そのページの大半は埋まっていた。これならば、主はやても目を覚ますだろう。 「さて、彰子様についてなのだが」 昌浩の表情が暗くなる。結婚の日取りが決まったのだろうか。 「うちで預かることになった」 「はあ!? どういうことですか、じい様」 「彰子様にかけられたのは、決して解けぬ呪い。このまま天皇の元に嫁げば、天皇にも呪いの穢れが及んでしまう。そんなことできるわけなかろう」 「じゃあ、結婚は?」 「彰子様の異母妹で、そっくりな方がいる。その方を彰子様として嫁がせるそうじゃ」 「そうですか」 昌浩は気が抜けたように座り込む。 昌浩の一念が、決まったはずの運命を変えたのだ。しかし、当の昌浩にその実感はない。 「彰子さまの呪いは、常に陰陽師が側にいて清め続けるしかない。そこでうちで預かることになったのじゃ。それにしても昌浩や」 晴明は扇で顔を覆って、泣き真似をする。 「じい様は情けないぞ。窮奇を倒すのに夢中で、彰子様にかけられた呪いを綺麗さっぱり忘れるとは。何たる未熟。これは一から修行のやり直しじゃのう」 昌浩は喉まで出かかった怒声を飲み込む。腹は立つが、今回ばかりはさすがに言い返せない。 「よ、よかったじゃないか、昌浩」 ヴィータがばしばしと背中を叩いた。わざとらしいほどに明るい笑顔だ。 「ありがとう。でも痛いよ、ヴィータ」 「さて、目的も果たしたし、帰るぞ、みんな」 ヴィータが静かに立ち上がる。 「えっ? もう少しゆっくりして行っても」 「すまないな、昌浩殿。我らも主の容体が心配なのだ」 シグナムも立ち上がって言った。 「早くアイスやケーキを食いたいぜ」 「ガスコンロが懐かしいわ」 シャマルが肩を回しながら言った。家事は嫌いではないのだが、現代文明に慣れた身に火打ち石から火を起こすのは重労働だった。他にも洗濯や裁縫、家事だけで一日がかりだ。 「そっか。もうお別れなんだ」 「なんて顔してんだよ、昌浩。私たちと別れるのが、そんなに寂しいのか?」 「べ、別に寂しくなんか……」 「へっ。お前がどうしてもって言うなら、会いに来てやってもいいぜ?」 「素直じゃ……痛!」 からかおうとしたシャマルの足をヴィータが踏みつける。 「本当? 絶対また会おうね。約束だよ」 「しょうがねぇな」 腕組みしながら、ヴィータが言った。 庭に出た四人は時空転移を開始する。 「あ、そうだ」 思い出したように昌浩が言った。 「この前の占い、ようやくわかったよ。これからヴィータたちにはとてつもない困難が立ちはだかる。でも、大丈夫。信じて頑張っていれば、きっと君たちを助けてくれる人が現れる。道は開ける、だって」 「なんだよ、それ」 ヴィータは苦笑する。漠然としていて、まったく参考にならない。 「でも、まあ、覚えておいてやるよ」 「みんな、本当にありがとう!」 ヴィータたちの姿が空の彼方に消える。 昌浩はいつまでも手を振っていた。 「ヴォルケンリッターたちが移動を開始しました」 アースラでも、その動きは感知していた。 「数は?」 「四です」 「つまり、ここには闇の書の主はいなかったということでしょうか?」 「そうね。こちらが追っているのを知りながら、主の元を離れるとは考えにくい。ここには魔力の収集に来たと見るべきかもね」 クロノの疑問にリンディが答える。二度目の戦いでも、クロノたちは撤退せざるを得なかった。 クロノたちが戦った相手は闇の書がらみではないようだ。彼らは一度としてベルカ式の魔術を使わなかった。現地の協力者なのだろう。 できれば、もう少し調査をしたいのが本音だが、学校があるなのはたちの手前、あまり長く滞在できない。 なのはたちにとっても、早くこの時空を離れた方が精神衛生上いいだろう。あれ以来、なのはとフェイトは毎晩、青龍と白虎に追いかけられる悪夢を見ているらしい。 アースラはヴォルケンリッターを追って、元の時空へと進路を取った。 エピローグ それからしばらくして、闇の書事件は解決した。 闇の書は元の夜天の書へと戻り、はやての足も治った。 その過程で、はやては悲しい別れを経験したが、今はなのはとフェイトという新たな友を得て、幸せに暮らしている。 昌浩の占いに出ていた助けてくれる人たちとは、なのはたちのことだったのだ。まさか時空監理局と和解する日が来るとは予想もしていなかった。 (お前の言う通りになったな、昌浩) ヴィータは子犬の姿になったザフィーラと歩きながら、あの少年のことを思い出す。 事件が解決した後、あの世界での出来事を話したら、はやてが行きたいと言い出した。 何故か、なのはとフェイトは全力で断ったので、はやてと守護騎士だけであの世界に向かった。だが、大規模な次元震でも起きたのか、道は閉ざされ行くことはできなくなっていた。 でも、これでよかったのかもしれない。昌浩と彰子が仲良くしている姿を見ずに済んだのだから。昌浩の幸せを願っていても、これだけはどうしようもない。 一つだけ心残りなのは、また会おうという約束を果たせなかったことだ。 あの律儀な少年のことだから、きっといつまでもヴィータたちが現れるのを待っているだろう。 「ヴィータ」 ザフィーラが声を出す。 道の向こうから、一人の少年が走ってくる。その顔は昌浩に瓜二つだった。 「ま、」 思わず声をかけようとするが、少年はヴィータの横を走り抜けて行ってしまう。 (当り前か) あの少年がここにいるわけがない。きっと他人の空似だろう。名前だって違うに決まっている。 「おーい、昌浩」 懐かしい声が、聞き慣れた名前を呼ぶ。 驚いて振り返ると、背の高い青年が少年を出迎えていた。 Tシャツにジーパンというラフな服装をしているのが、その顔は間違いなく紅蓮のものだった。 青年がこちらに気がつく。 「あ……」 青年は人差し指を口に当てると、そっと片目を閉じた。 ヴィータは、あの世界に着いたばかりの頃、交わした会話を思い出す。 あの世界はもしかしたら古い日本で、タイムスリップしたのかもれしれないと。その予想は正しかったのだ。 あの少年は昌浩の子孫なのだ。そして、十二神将は人ではない。紅蓮は千年の時を超えて生き続けているのだ。 紅蓮が後ろ手に手を振りながら去っていく。それを昌浩に似た少年が不思議そうに眺めている。 (いや、違う) あれはきっと昌浩の生まれ変わりだ。たとえ前世の記憶はなくとも、また会おうという約束を果たしに来てくれたのだ。 瞳が涙に滲む。 「本当……律儀な奴だよ、お前は」 去りゆく二人の姿を、ヴィータはいつまでも見送っていた。 エピローグ2 ヴィータが帰ってその話をした翌日、シグナムは朝早く家を出た。 半日を費やして町を駆けまわり、ついに一軒の大きな屋敷を見つけた。その家の前にたたずむ夜色の外套をまとった男を。 シグナムは力強く呟いた。 「楽園よ。私は帰ってきた!」 終 目次へ