約 2,188,025 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1328.html
――それは、ほんの一瞬、いや、刹那といった方が良いかもしれません。 それ程に、短い、本当に短い間の出来事でしたでした。 「……あれ?」 「あれあれ?」 ふと気がつくと、ニジュクとサンジュは、いつの間にか広い広い、 一面をいろいろなお花に覆われた、草原の上に立っていました。 「「……」」 そうです、クロやセンは、森を抜けたら次の村に着くといってました。 しかし、 「おはないっぱいだね……」 「ひとやおうち、いないね……」 そのように、村があるといった風には、全く見えません。 「どなってるのかな?」 ちょっと舌っ足らずなニジュクです。 「わかんないの……」 ぶんぶんと首を振るサンジュ。 ただただ、何が起こったのか理解できず、二人はきょとんとするばかり。 そんな時でした。 「……えっとぉ、あのぅ」 後ろから女の子の声が聞こえます。 「「……っ?」」 きょとんとした顔のまま、二人はゆっくり振り向きました。 そこには、見慣れない奇妙な服に身を包んだ、 年の頃なら二人より少しお姉さんな女の子がいました。 「だれ?」 「だれなの?」 ライトブラウンの長い髪、その両側を短く結んでいる二つのリボン、 二人のものよりちょっと薄め青いの半袖の上着に短めのスカート、 そして何より、右はエメラルド、左はルビーのような、きれいなきれいな目をしたその女の子は、 「えっ?」 と言ってきょとんとした顔をしました。 そんな女の子を見て、 「「あっ!」」 やっちゃったといった顔になった二人。 「サンジュ、サンジュ」 「そうだよ、ニジュク」 「いけないことだよ」 「クロちゃんにおこられちゃう」 顔を見合わせ、両腕をぶんぶん降る二人。 そんな二人の様子に「えっ? えっ?」と目を点にして戸惑う女の子を横目に、 「「ひとになまえをたずねるときは、まずじぶんからなのらなきゃだよ」」 普段からよくクロに言われていたことを、思い出していたのでした。 「……さて、クロよ」 「何だい、セン?」 「俺たちは、テルヌーゼン村に向かってたんだよな」 「ああ、そうだね」 「それで、あと少しで森を抜けるところだった」 「確かに、そうだった」 「なのに、何でまだ森の中なんだ……?」 「さあてね……」 黒衣に身を包み、棺桶を背負った旅人と、その連れであるコウモリは、いつの間にか、森の奥深くに連れ戻されていた。 クロの様子は至って平静であった。――棺桶を背負うための革製のバンドを握る手が、いつもよりも力がこもっているようだが。 そんな、素っ気なく答えているようで、実は急な状況の変化に戸惑っているクロの様子を、センは見て取っていた。付き合いの深さと、 クロよりも重ねている歳と知識の深さは、伊達ではないということか。 ただ、セン自身も戸惑いは覚えていた。クロへの問いかけが、自身の動揺を抑えるためのものでもあることを、センは自覚していた。 それだけ、今の状況は突然、身に降りかかったものだった。 確かに、あと少しで、森を抜けられるはずだった。 そして、あの双子は駆け出し、出口に到達した。 その、刹那だった。 出口の光がいきなり大きく玉状に膨張して、爆発したのだ、音もなく。 真っ先に巻き込まれたのは、あの双子。 そして、二人を助けるどころか、否応もなくクロとセンも膨張する光に飲み込まれた。 叫び声さえ、上げる暇もなく。 そして、また森の中。 ただ、雰囲気が違う、というか、おかしい。 空気の様子、鳥の鳴き声、生えている樹木の姿形等々、……状況は森の中なのに。 何より。 「もう少し、木々が鬱蒼と生い茂っていても良いはず、……だ」 「確かに。三日間、私たちはあまり太陽を拝められなかったからね」 「でも、今はこんなにも、太陽が燦々と照ってやがる」 「……つまり、ここは」 「違う森、それも、人が介入しまくっている、人工の森かな。見ろよ」 センがある一点を指さす。 「あの道。かなり整備が行き届いている。定期的に補修も行われてるな、ありゃ」 「私たちが歩いてたのは、あまり人が立ち入らないような森だったからね。道はあったけど、お世辞にも立派とは言えないものだった」 「ああ。全く、何でこうなっちまったのか……」 センは頭を抱えた。 「……」 クロは押し黙った。 あの、白い双子の行方が気になった。 自分たちの傍らに、二人はいない。 真っ先に光に飲み込まれて、以来行方知れず。 ついさっきまで、傍らで元気にはしゃいでいたのに。 今までも急に行方知れずになったことは、確かに数知れない。 だが、今の状況は明らかに前例にない、異常なことだ。 今、何処にいるのか。 何をしているのか。 いや、寧ろされているのか。 (まさか、いや、そんな、でも……) 徐々に、不安が募る。不安で押しつぶされそうだ。 「ねぇ、セ……」 連れのコウモリに話しかけようと顔を向け……、 「んっ?」 視線の先にいないことに気づく。 そして。 「ねえ君何て名前? おっと、見目麗しいレディに名乗るより先に名前を聞くなんて紳士的じゃなかったね。 ボクの名前はセン。見ての通りのコウモリさ。でも、そんじょそこらの男何かより、君のことを楽しませる自信はあるよ。 どう? 陽はまだ高いけど、今からでもどこかで遊ばない? 君みたいな可愛い娘となら、 きっと楽しくて熱い一時を過ごせると確信してるから――」 「えっと、あの、その……」 一心不乱に口説きにかかっている一匹のコウモリと、その状況にあたふたとしている、 栗色の長いサイドポニーの女性を見つけ、 ――かすかに青筋を立てた。 「あたしは、ニジュクなの」 黒い猫耳と尻尾を持つ女の子が言った。 「あたしは、サンジュってゆうの」 白い猫耳と尻尾を持つ女の子が言った。 「ニジュクに、サンジュ……」 ヴィヴィオはつぶやいた。 その二人は、あの光る蝶を摘んだ瞬間、突然現れた。光と共に現れた。 ほんの、刹那のことだった。 そして今、興味深げに、四つのエメラルドグリーンのくりくりまなこが、今だ戸惑うヴィヴィオを見つめる。 「「ねぇ、あなたはだぁれ?」」 くりくりまなこが、見つめます。 「えと、……ヴィヴィオ、高町ヴィヴィオ、っていうの……」 若干の戸惑いを残しつつ、ヴィヴィオはニジュクとサンジュに名乗った。 「へえー、ヴィヴィちゃ、なのね」 そういったのは、ニジュク。 「ヴィヴィちゃん、ってゆうんだぁ」 そういったのは、サンジュ。 ヴィヴィ、ちゃ……。 「……えー、……うん、そうなの」 二人の勢いに、押されるヴィヴィオ。 「かわってるね」 「かわったおなまえだね」 幼子は歯に衣を着せることを知らない。 そのことで、ヴィヴィオは少しムッとした。 「……うん、よく言われる。そんなの分かってる。でも可愛い名前だねっていわれることもあるし、それに」 初対面でそんなことは言われたくない。 だいたい、 「二人だって、変わった名前だと思うけど。ていうか、何か変な発音だし」 そんな二人に、言われたくないというのは、正直な気持ち。 ヴィヴィオの言い分に、今度は二人がムッとなる番です。 「そんなことないもん」 「へんじゃないもん」 ニジュクとサンジュは口を尖らせます。 「あたしたち、はかせのじっけんたい」 「そのなかで、とくべつななまえ、はかせがくれた」 「えっ、実験た――」 「「そんななまえが、へんなわけないもんっ!」」 ムキになって反論する二人に、というより、思わず知ってしまったその二人の誕生の秘密に、 今度は愕然としたヴィヴィオだった。 「――ッ、そんなことが……」 「まあ、俄には信じてもらえないとは思いますけど……」 驚くサイドポニーの女性に、クロはため息混じりで答えた。 それもそうだ。いきなり光の爆発に巻き込まれて、気づいたら別の森(?)の中にいただなんて、 早々信じてもらえる話ではない。良いとこ、変人扱いされておしまいだ。 だが、 「いえ、この世界ではごく希にですけど、そのような事件や事故がないわけでもなくて、 私はそういったことを取り扱う仕事をしてますから」 きりっと表情を引き締めて、彼女は言った。 「信じます。大丈夫ですよ」 その彼女――高町なのはの言葉に、ようやく安堵の気持ちになれたクロは、 「……ありがとう、ございます」 心から、感謝の気持ちを込めて、言った。 「……それにしても、なのはさん」 「クロさん?」 「あなたが魔法使いだなんてね……」 「んー、魔法が使えるって言っても、せいぜい空を飛ぶことぐらいですけどね」 「しかし、私のことを一目見て、あなたはこう言った」 「……」 「『あなたの体は、もしかして本当は……』ってね」 「すいません、思わず初対面の人に失礼なことを――」 クロは頭を振る。 「いえ、別に気にしてませんよ。……でも、そう言われたのは二度目、かな」 「クロさん……」 「なかなか言われることではありませんから、……成る程、うん、きっとあなたは、その時空管理局ってところでは、 いろいろと活躍なさっていらしゃるのではないのかな、ふふッ」 「いえ、そんなことは、……もうッ、クロさんったら」 「ふふッ……」 微笑みあう二人。どうやらそれぞれの身の上も、ある程度お互いに話しているようで。 それにしても。 「あの、……クロさん、あのコウモリさん、は」 「ああ、いつものことですから、気にしたら負けですよ」 なのはの言葉に素っ気なく応えるクロ。 実はこの二人が見知った、そもそもの原因にして、結果として仲を取り持った功労者たるコウモリ――センは、 「~~~~ッ! ~~~~~~ッッ!!」 戸惑うなのはを無理矢理ナンパしたことを罪状に、猿ぐつわの上に簀巻きの刑に処されて道端に放置されていた。 「それにしても、その、……ニジュクちゃんとサンジュちゃん、今、何処にいるんでしょうね……」 「そうですね……」 うつむき、押し黙るクロ。 なのはは、そんなクロを見て、つい今し方のことを思い出す。 「――ッ! 何、今の感じ……」 樹に寄りかかってうたた寝していたなのはは、突然の衝撃に目を覚ました。 地震か? 否、それ以外の何か巨大なエネルギーの衝撃に、体が反応したというのが正しい。 とは言え、未だ起きてすぐの頭は、ボンヤリとしてなかなか状況が把握できない。休暇中で緊張感が乏しい分、尚更だ。 しかし、それでも周囲を見渡してみる。 特に目立って変わった様子、は……、あれ、ヴィヴィオ、何処に行ったのかな。……てッ。 「えッ、あの人、何でこの季節にあんな厚着をしてるんだろう……?」 その、黒衣に身を包んだ人物をなのはが見つけた、その瞬間。 「おっぜうすぅわーーーーーーーーーぁぁぁああああああんっっっっっ♪♪♪♪♪♪」 コウモリが光の速さで飛んできた。 センと名乗ったそのコウモリは、戸惑うなのはを口説き落とそうと必死になり、結果、 「……何をしている、セン?」 クロに、ジャイアントカプリコーンにされた。 「申し訳ありません、うちの連れが、大変な粗相を……」 黒衣に身を包み、背中に棺桶を担ぎ、眼鏡をかけたその人物は、慇懃に謝罪した。 「あっ、いえ、そんな、ご丁寧に……」 「そうだ、申し遅れました。私はしがない旅人をしております、クロと申します」 やはり、慇懃にお辞儀する。初対面の人間に対する礼儀をよくわきまえているようだ。 「えっと、ご丁寧にどうも……。私は、時空管理局で航空隊の戦技教導官を勤めています、高町なのはといいます……」 あれッと、なのは思った。相手の慇懃な態度に、どうやらつられてしまったようだ。 だが。 「時空、……管理局? 失礼ですがそれは、どのような組織なのですか?」 「えッ、ご存じ、無いんです、か」 「はあ、全く」 なので、ごく掻い摘んでクロになのははレクチャー。 「――お解りになりました?」 「……あー、まあ、なんとなく」 しかし、信じ難い顔をクロはしていた。 「でも、魔法使いって、そんなにこの世界にたくさん居ましたでしょうか……?」 「あの、クロさん、それはどういうーー」 「……そうだ、そんなことより」 「えッ、何ですか」 「幼い双子の姉妹を見ませんでしたか? 猫の耳と尻尾を持っているから、すぐに解ると思うのですが」 さっきまでの落ち着いた態度から一変して、クロは些か狼狽した表情をしていた。 そして、お互いの身の上を話し合って、――今に至る。 「……何となく、把握しちゃいました」 クロが、ぽつりと呟いた。 「ここは、どうやら、私たちの旅していた世界とは、別次元にある世界らしい」 「クロさん……」 「ありがとう、大丈夫です。それより、ニジュクとサンジュと、ヴィヴィオちゃんの安否が先でしょ? 早く見つけないと、ね」 「ッ! ――はい」 強い人だと、なのはは思った。 (あの二人も、ヴィヴィオと同じなの……) 花の絨毯の真ん中で、ヴィヴィオは愕然としていた。 自分と同じく、ニジュクとサンジュもまた、作られた生命。ということはあの二人も、 創造した人のエゴに振り回されて、もしかして今まで悲しい思いを……。 「? ヴィヴィちゃ?」 「ヴィヴィちゃん、……ないてるの?」 「えっ……」 そう言われて、ようやく自分の頬を伝う涙に気付く。 「ヴィヴィちゃ、かなしいの?」 「ヴィヴィちゃん、どうしてなくの?」 ヴィヴィオを気遣って、ニジュクとサンジュは顔を曇らせます。 「えと、これは……」 「あっ、サンジュっ!」 「なに、ニジュク?」 「もしかして、あたしたちがおおきなこえ、だしたからかな」 「……えっ?」 「……っ! そうだよニジュク、なまえがへんっていわれて、ムキになっちゃったから」 やっぱり、ぶんぶんと腕を、顔を見合わせて二人は振ります。 「えっ、えっ?」 「そうだね」 「そうだよ」 まあ、ちょっと勘違い、ですかね……。 とは言え、そう言うことで納得した二人は、 「ごめんね、ヴィヴィちゃ」 「あたしたちがわるかったの、ヴィヴィちゃん」 ぺこりと頭を下げたのでした。 そんな二人にあっけにとられたけれど、でも……、 「……ううん、ヴィヴィオだって、二人の名前が変って言っちゃたんだし、……ごめんなさい」 ヴィヴィオも、ぺこりと頭を下げた。 「……おあいこだね」 そう言ったのは、ヴィヴィオ。 「おあいこだね」 そう言ったのは、サンジュ。 「おあいこ、おあいこ♪」 そう言ったのは、ニジュク。 そして三人は、顔を見合わせて、 「「「きゃははははっっっ」」」 と、笑い転げたのでした。 「さて、と。しかし、ここって結構広いですよね?」 「ええ。歩き回って捜すのは、ちょっと骨かも」 「成る程……」 クロは、うつむき加減に呟いた。 《マスター》 「レイジングハート?」 「えっ、今の声、その首の宝石から……」 目を見開き驚くクロに、 「ええ、私のインテリジェントデバイス『レイジングハート』の声です」 そう言って、宝玉状態のRHを手に持って見せるなのは。 《驚かせて申し訳ありません、クロさん》 「あっ、いえ、……しかし、成る程」 まじまじとRHを見つめるクロを可愛いなと思いつつ、なのははRHに尋ねた。 「それで、どうしたの」 《ここから半径二百メートル以内で、クロさんとセンさんの出現時に発生したエネルギーに酷似したエネルギー発生の残照らしきものを確認しました。 ですが、完全に同時に発生したことと、その放出量があまりにも微量、及び発生後、何らかの要因で急速に拡散したらしく、場所の特定までは……》 「……そう」 《申し訳ありません》 「いや、ぜんぜん大丈夫。それだけで上出来だよ、ありがとう、レイジングハート」 《了解、マスター》 「と言うことなんですけど」 「つまり、あの二人も、取り敢えずここにいる……」 クロは、胸をなで下ろしたようだ。 「とは言え、それでも徒に歩き回るのは、効率良くないから……」 そう言って、なのはは何か唱え始め、やがて胸の辺りに桃色の光球を出現させた。 「これが、あなたの……」 「探索魔法、そのサーチャーですよ」 ちょっと得意げに言って、 「お願い、ヴィヴィオとニジュクちゃん、サンジュちゃんを捜して」 なのははサーチャーを解き放った。 「さて、これで捜しやすくなったかな」 「でも、……もう少し、捜しやすくした方が良いかもな」 「えっ、それって……」 「何、より多角的に捜す方が、更に効率が良いって事です」 そう言って、クロはセンの拘束をようやく解いた。 「と言うことだ、セン」 「何が、『と言うこと』なんだよッッ!!」 「今の自分の状況、……解ってるよね」 「……しょーがねぇ、まあ、何時ものことだしな」 「宜しい。では、頼む」 クロは、背負っていた棺桶を近くの樹にゴトリと立てかけた。 「はいはい、了解しました。――あっ、なのはちゃん」 「えっ、何ですか?」 「まあ大丈夫だと思うけど、……驚かないでね」 「? どういうことですか?」 センの言ったことを理解できないなのはに、クロは、 「こういう事」 と言って、棺桶の蓋を開けた。 「……えええええええええっっっっっっ!!!!!!」 流石のエース・オブ・エース(または自主規制)も、流石に素っ頓狂な声を上げてしまった。 無理もない。 棺桶から夥しい数のコウモリが飛び出してくれば、どんな人間でも身じろぐくらいはしてしまうだろう。 その数、九百九十九匹。 バサバサバサバサバサバザハサバサ……。 喧しい羽音を響かせて、飛び立っていく……。 そしてセンも、 「そんじゃ、行ってくる」 「頼んだよ」 「ああ」 飛び立っていった。 「……あの、クロさん」 「はい」 「その棺桶、どんな仕掛けがあるんですか」 「いえ、これと言って、特に」 「武器とか、仕込んでませんよね?」 「いや、流石にそれは……」 四方に散らばって行くコウモリ達を、呆然と眺めつつ質問したなのはに、頭をかいて答えるクロ。 「これで、あの子達があの時みたいに花火を打ち上げてくれれば……」 ぽつりとクロが呟いた言葉に、 「ゑッ! 何ですか、それッ!」 あからさまに狼狽する、なのは。 「えっ、いや、自分たちの居場所を教えるための信号弾代わりに花火を渡してて……何か、不味いことでも?」 「ここ、……自然公園内なんです」 「はぁ」 「火遊び、厳禁なんです」 「はぁ」 「やっちゃうと、管理人の人に怒られて、お財布が少し寒くなるくらいの、罰金取られちゃうんですッ!」 「……成る程」 そして、なのはとクロは、 (*1) と、願ったのだった。 さて、その頃のヴィヴィオとニジュクとサンジュは。 「これ、……花火、なの?」 「だったかな?」 「まえにつかったとき、そういわれたかも」 「いわれたかも」 エプロンドレスをたくし上げ、その下につるしていた円筒を、猫耳の双子はヴィヴィオに見せました。導火線らしきものが着いてます。 「これ、……何に使うの?」 「うんとね、クロちゃが『みちにまよったときにつかいなさい』って、ゆってたの」 「まえにクロちゃんとセンとはぐれたとき、つかったの」 「おいちゃに、クロちゃのおてがみよんでもらったの」 「それで、おはなをきいろくしたの」 「きいろにしなさいっていわれたから、きいろにしたの」 「それで、そらに、おっきいきいろいおはながさいたの」 「おっきいおとして、びっくりしたの」 「びっくりしたの」 「でも、ちょっとしたらセン、むかえにきてくれた」 「だから、つかいたいの」 「ふぅん……」 ヴィヴィオは、いまいち双子のいうことが解りません。 「えと、つまり、この花火を使えば、センって人が迎えに来てくれるんだよね」 「セン、ひとちがうよ」 「セン、コウモリだよ」 「……そっ、そっか」 やっぱり、ヴィヴィオにはいろいろと理解できないようです。 「とっ、とにかく、これを使えば、……ママも解ってくれるかな」 「だいじょぶ」 「きっときてくれるの」 「……うん、わかった。その『クロちゃんのおてがみ』、見せて」 「よめるの?」 「わかるの?」 「学校通ってるもん。大丈夫だよ」 そして、ニジュクから、その手紙をヴィヴィオは受け取りました。 「……読めない」 「なんで?」 「おじちゃん、よめたよ?」 「だって、学校で習ってないっていうか、見たこと無い文字だし……」 「みたことないの?」 「つかえないの?」 「うーん……」 手紙とにらめっこをしているヴィヴィオ。 その様子に、流石に不安になる、ニジュクとサンジュです。 「クロちゃにあえないの?」 「クロちゃん、きてくれないの?」 「ママ……」 そんな時でした。 「君たち、こんな所で何しているのかな」 おじさんの声がします。優しそうな声です。 でも、突然話しかけられて、三人はびっくりしました。 「「「うわあっっっ!!!」」」 「おっとと、……いや、ゴメンゴメン、びっくりさせてしまったようだね」 三人の視線の先には、おさまりの悪い髪を、申し訳なさそうに掻いている、 しかし優しく微笑んでいるおじさんが立っています。 「おや、それは打ち上げ花火かい? 駄目だよ、君たちだけでやろうとしては。そう言うのは大人の人にやってもらわないとね。 まあ、そもそもここは自然公園だから、花火で遊ぶのは駄目なんだけど……」 ニジュクとサンジュは、ポカンとしてます。 ヴィヴィオも最初はそうでした。でも。 「おじさん……」 ヴィヴィオは知っています。 「えっ?」 「ヴィヴィちゃ?」 ママの知り合いです、知ってますとも。 「『魔術師』のおじさんッ! こんにちはッ!」 「いや、だから私はリンカーコアなんて無いから、……おや、よく見ればヴィヴィオじゃないか。 なのはママは、一緒じゃないのかい。……そう言えばこの子達は、君の友達かい?」 「えっと、ついさっき合って……」 「ニジュク」 「サンジュ」 飛び跳ねるように名乗ります。 「へぇ、名前が言えるのか、おりこうだね」 そう言って『魔術師のおじさん』は、二人の頭を優しくなでてくれました。 「えへへ、あたしたちなのった」 「こんどは、おじちゃんのばん」 「うん? ……ああ、そうだね、私は――」 その時です。 「――二匹に手ぇ出すなや、この変態ロリコン野郎ぉーーーーーおおおおおおッッッッッ!!!!!」 真っ黒い大群が、叫び声と共におじさんに突撃してきます。 「えっ、うわっ、……ぷッ!」 そして、瞬く間に『魔術師のおじさん』は、コウモリ達に押しつぶされたのでした。 「こっちで良いんだろうな、セン」 「ああ、間違いないぜ」 「ヴィヴィオ……」 センの報告を受けて、クロとなのはは、現場に走った。 そして、件の草原に到着。 「ヴィヴィオッ!」 「ママぁっ!」 見つけるやいなや、娘は母に飛びつき、母は娘の頭を優しくなでた。 「もう、勝手に離れたら駄目じゃない」 「ごめんなさい……」 「でも、無事で良かった……」 母は、娘を優しく抱きしめた。 「……」 ヴィヴィオは、ただ、なのはママの暖かさにニコニコとしていました。 「ニジュク、サンジュ」 「クロちゃ……」 「クロちゃん……」 クロは何も言わず、猫耳の双子を抱きしめた。強く抱きしめた。 「クロちゃ、いたいの」 「クロちゃん、いたいよ」 でも、不思議と、二人には不快な痛みではありませんでした。 「心配、したんだぞ」 「「……」」 「でも、無事で良かった、本当に……」 かすかに、クロは鼻をすすったようでした。 「ごめんね、クロちゃ」 「ごめんね、クロちゃん」 クロはただ、何も言わずに二人を抱きしめたのでした。 さて、各々が再会の喜びに浸った後。 「で、この下に?」 「ああ。あの一人と二匹襲おうとした変態野郎がいるぜ」 クロとセンの視線の先に、コウモリ達で築かれた黒山があった。 「全く、俺があいつ等見つけるのが少しでも遅れたら、どうなってたことか……」 センは、腕(?)を組み、得意げに言った。 「ねぇ、ママ」 「何、ヴィヴィオ」 「あのコウモリさん達の下にいるの、『魔術師のおじさん』だよ」 何気ない娘の一言に、 「……ゑッ!」 なのはの顔は、凍り付いた。。 確かに、魔術師・魔導師の類はいくらでもいるが、 敢えて『魔術師』と直接に比喩または揶揄される人物は、ミッドチルダといえど『あの人』しかいないッ! 「センさんッ! 早くそのコウモリさん達、どけてッッ!!」 「どッ、どうしたのなのはちゃん、急に取り乱したりなんか……」 「良いからッッ!! 早くッッッ!!!」 「うッ、わ、解ったよ……」 なのはの勢いに押され、渋々コウモリ達をどけるセン。 「はい、これで……」 なのはにタックルをかまされて、 「あーれー……」 センは遠いお空の星となった。 「大丈夫ですかッ、提督ッッ!!」 突っ伏していた『魔術師』を抱き上げ、彼の体についた草の葉を払いながら、尋ねた。 「……いやぁ、突然だったからびっくりしたけど、何とか大丈夫だよ。すまない、なのは」 何故か申し訳なさそうに頭を掻きながら、『魔術師』――ヤン・ウェンリーは苦笑していた。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3069.html
春、桜が舞い散るこの季節に設立した古代遺物管理部第六課、通称六課 八神はやての指揮の下、粒揃いの精鋭が並ぶ中に スバル・ナカジマとティアナ・ランスターが胸を張って整列をしていた。 リリカルプロファイル 第十一話 六課 日は遡り此処は陸士386部隊の宿舎、その中に存在する中庭でスバルとティアナは悩みを抱えていた。 二人は先程までBランクの試験を受けていた、だが試験中にティアナは捻挫を起こし倒れ、 スバルはティアナを背負い合格を目指しゴールに向かっていった。 結果、制限時間内にゴールしたものの危険行為などの行動により失格とされたのだった。 その時にスバルの恩人で管理局のエースオブエースと呼ばれている人物、高町なのはと出会い なのはと共に二人は六課の施設に向かうと、はやて・フェイトの両名がソファーに座って出迎えていた。 二人には特別講習の推薦状と4日後の再試験の臨時手続きを手渡されたのだが、条件として六課への編入を要望されたのである。 古代遺物管理部第六課、通称六課とは八神はやてを部隊長に高町なのは、フェイト・T・ハラオウンとビッグネームが連なり ヴォルケンリッターの面々や各部署の精鋭達が犇めく部隊で、 主にロストロギアに関する事件を扱う事になっている、八神はやてが設立しようとしているエリート部署である。 そんなエリート部署にBランクの試験にすら落ちた自分達が編入しても良いのだろうか?と悩んでいると、二人の前に三つの影が近づいて来る。 「よぅお前等、試験はどうだったんだ?」 「あっカシェル……落ちちゃった」 「そっか……残念だな」 「でも、ある条件を満たせば追試を受けさせてくれるそうです」 その条件こそが六課への編入だとティアナは説明する。 六課設立の噂は瞬く間に管理局内に広がり、もはや知らない者はいないと言うところまで広がっていた。 そんな部署にスカウトされたなんて羨ましいとエイミが言うが、二人は断ろうと考えていると。 どう考えても自分達には相応しくなく、既にBランクを持つカシェルやエイミ、更にAランクを持つグレイ達を差し置いて 編入するのはおかしいとスバルは語った。その言葉にカシェルはスバルの額にデコピンを喰らわせた。 「バ~カ、折角のチャンスを不意にするんじゃねぇよ」 スバルは額を押さえカシェルを見つめるとカシェルは話を続ける。 スバル達には夢がある、今回の話は夢を叶えるきっかけだと それを俺達のせいにして不意にするのは卑怯だと熱く語った。 その言葉に続きグレイが話し始める。 「六課の部隊長はやての眼力は確かだと聞く、そんな人物に目を付けられたんだ、自信を持つと良い」 「でも、私達は未熟です…そんな人間が部隊にいたら――」 「ならば力を付ければいい」 ティアナの迷いにグレイはこう答えた。 これはかつて非力だった自分に対し、かけてくれた言葉で、 変わらぬ思いを秘めていれば自ずと力は付くと、ある人に教えられたと。 グレイがここまで強くなったのはその言葉と思いがあったからだと静かに…だが熱く語っていた。 それに六課には教導隊の教官でもある、なのはがいる為、力を付けるにはもってこいの環境だと付け足した。 そして最後にエイミが二人に励ましの言葉を贈った。 「大丈夫!私達はあなた達を応援してる、だから胸を張って行ってきな!」 そう言うと二人の頭をなでるエイミに対し、ハニカム表情を二人は醸し出していた。 カシェル達の励ましにより二人の瞳には強い決意の色を宿していた。 そして中庭を後にしようとすると、スバルがカシェルを引き留める。 「どうした?スバル」 「あの……元気にはなったんだけど、まだ不安があって…その御守りみたいな物が欲しいかな……って」 「御守り?」 「カシェルがいつも付けてるその指輪…御守りとして欲しいかな……なんて」 カシェルの右手の中指に付けている中央に赤い宝石が装飾されている指輪を指差すスバル。 カシェルは特に問題ないと指輪を引き抜きスバルに渡す、 スバルは両手で指輪を受け取るとカシェル同様、右手の中指にはめる。 「……どう……かな?」 「う~ん、ブカブカだな…新しい奴買ってやろうか?」 「いい!これで良いの!!」 「そうか?」 あっけらかんとした表情で左手で頭を掻くカシェルに対し、頬を赤く染め、指輪を包み込むように手を胸に当て微笑むスバルであった。 遠くではエイミとティアナがニヤケた表情でその光景を見つめていた。 「青春だね~ティアナ」 「そうですね~エイミ姐さん」 「……ティアナ…随分と行動がエイミに似てきたな…」 呆れた表情で二人を見つめるグレイであった。 場所は変わり此処は聖王教会の入り口、そこに大型犬化したザフィーラと ワゴン車の荷台に荷物を乗せる管理局の制服姿のシグナムの姿があった。 シグナムは荷物を乗せ終えると扉を閉め入り口へと向かう。 入り口にはアリューゼ、カリム、シャッハの順に並んでおり、シグナムはアリューゼに声をかけた。 「……本当に六課には行かないのか」 「わりぃな、誘ってくれたのは嬉しいが、俺にはやりてぇ事があるんだ」 そのやりたい事は六課では実現出来ないからだとアリューゼは告げる。 シグナムは名残惜しさを残しつつ、アリューゼと別れの握手を交わすとシャッハに目を向ける。 「あとは頼んだぞ」 「非才の身ながら“アリューゼ”の事は任せてください!」 「…何故そこに“アリューゼ”の名が出る」 微妙な空気が二人を包む中、ザフィーラに抱き付き頭を撫でるカリムの姿があった。 「辛くなったら、いつでも戻ってきていいんですよ」 「…………善処する」 そう言いつつ、カリムに目をそらし冷や汗を掻いているザフィーラであった。 そしてザフィーラは助手席に、シグナムは運転席に座ると、カリム達に別れを告げワゴン車はターミナルへと進路を取った。 一方ターミナルには赤い髪の少年が人混みに紛れながらも誰かを待っていた。 暫く待っているとシグナムが姿を現す。 「お前がフェイトが言っていたエリオか」 「フェイトさんのお知り合いですか?」 エリオと呼ばれた少年の問いに答えるシグナム。 本来は保護責任者であるフェイトが出迎えるはずであったのだが、 どうしても外せない用事が出来た為、急遽聖王教会から六課へ直接向かう予定であったシグナムに頼んだのである。 「もう一人いると聞いたが知らないか?」 「あっ…じゃあ僕が探してきます!」 そう言うとメモを貰い探しに行くエリオ、その姿を腕を組み見つめるシグナムであった。 「キャロさ~ん、六課隊員のキャロ・ル・ルシエさん~いませんかぁ」 エリオは探し人の名を叫びながら詮索していると、エレベーター付近で応える声を発見し目を向ける。 するとエレベーターから白いフードを被った同い年ぐらいの少女が大きなバッグを持って姿を現した。 少女は辺境の世界から来た為か、文明機器に慣れずエレベーターを降りる際に躓いてしまう。 エリオは時計型に待機してあったデバイスでソニックムーブを発動させ少女の肩を抱き助けるが、 助け出した後の魔法解除後の対応に体が追いつかず、少女を巻き込んで倒れてしまった。 「あいつつっ…大丈夫ですか?」 「あっ………あの、すみません………」 エリオの上で恥ずかしそうに答える少女…それもそのハズ、 エリオの手は少女の肩から胸に移動していたからである。 エリオは顔を真っ赤に染め、謝りながら手をどけ目を背ける。 少女もまたエリオの上から降りると恥ずかしさからか後ろを向いていた。 気まずい空気の中、少女の肩に真っ白い竜の姿がちょこんと乗ると、思わずその竜を見つめるエリオ。 「ドラゴン?」 「はい!フリードリヒ、フリードって呼んでます!」 フードを取りフリードリヒを説明するピンクの髪の少女キャロであった。 二人はシグナムと合流すると足早にワゴン車に向かう、中にはザフィーラが退屈そうに待っていた。 そこに二人を連れたシグナムが現れるとキャロはザフィーラを見るやいなや感想を述べた。 「うわぁ、大きい犬ですね!シグナムさんの使役獣ですか?」 「いや、我が主の守護獣だ」 シグナムは二人の荷物を荷台に乗せながら説明する、二人はその説明を聞きながらザフィーラを撫でていた。 シグナムが出発を促すと二人は後部座席に座り、一路六課へと向かった。 それから暫くして此処部隊長室では八神はやてがスピーチの文を書いていた。 「ダメや…緊張して何も出へん……」 この日はやては自分が思う以上に緊張していた。 何故ならば今日は六課が正式に発足されその挨拶をはやてはしなければいけないからである。 自分が思い描いていた六課の設立、様々な思いがはやての体を駆けめぐりそれが緊張となって言葉を詰まらせる。 一旦机を離れ外を見渡す、外は明るく式には最高の日和だった。 そこで胸に広がる言葉を一つずつ丁寧に整えていく。 六課を構想して五年、様々なことがあった、小娘だからと足蹴にされたこともあった。 必死に人材も集めた、カリムからザフィーラを引き抜くのに苦労したのも今や笑い話だ。 設立の際の立地条件や食堂のメニューまでこだわった。 そしてその苦労は今報われる、だがこれからも苦労は絶えないだろう。 だからこそ、此処にいるみんなで苦労を分かち合おう、 一人一人の努力が守る力となり悪の手から人々を世界を守ろう。 胸の内に集まった言葉を整理し一つの文が完成する、それとほぼ同時に式の準備を終えたと伝えられる。 はやては意気揚々に部屋を後にした。 六課の中広場にて粛々と式は進んでいた。 部隊長が挨拶をする中、スターズの隊長なのは副隊長ヴィータ、ライトニングの隊長フェイト副隊長シグナムが静かにその挨拶を聞き、 エリオ、キャロは真剣な面持ちで話を聞き、スバルとティアナは胸を張り整列をしていた。 ……その中でスバルの胸の中にはネックレスにしたカシェルの指輪が輝いていた…… 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1468.html
その一撃は唐突だった。 『予測』不能ッ、『防御』も不能ッ! 完全に不意を突いて、その一撃は用心深いなのはの懐に直撃した。 今、SLBの為の魔力を終息し終え、発射寸前という臨界状態のなのはの胸から、何者かの手が『生えている』―――ッ!! "ドッバアァアアアア―――z_____ッ!!" 「なッ……ぁ、ぁああ……ッ!!?」 突如、何の前触れもなく自身の体の内側から走った衝撃に視線を降ろせば、何者かの腕が胸から突き出ていた。 肉体を突き破って出てきたものではない。しかし、この手は確かになのはの内部を貫いて出現しているッ! そして、その手のひらの中には、なのはの魔力の源である『リンカーコア』があった。 貫いていたのは『肉体』ではなく『魔力的器官』だ。 「な……なのはァアアアアーーーッ!!」 ある種凄惨な光景に、それを見てしまったフェイトが悲壮な叫びを上げた。 しかし、助けに行きたくとも、シグナムがそれを許さない。 「う……あ、あ、ぁあああ……っ」 全身を襲う脱力感と内臓に直接触れられているような激痛を感じながら、なのはは思考を回転させた。 SLBは……『撃てる』! 依然、魔力は集束中! だが、自身の魔力が猛烈な勢いで減少している。『行動』しなければ、今動けるうちにッ! すぐにでも気絶してしまいそうな、断末魔の一瞬! なのはの精神内に潜む爆発力がとてつもない冒険を生んだ。 普通の魔導師は追い詰められ、魔力が減少すればリンカーコアを庇って逃げようとばかり考える。 だが、なのはは違った! 逆に! 『な、何……この子!?』 遠く離れたビルの屋上から、なのはのリンカーコアをデバイス『クラールヴィント』によって掴んでいたシャマルも、その変化に気付いた。 「レイジング……ハート、『バインド』……ッ!!」 なのはは自らの心臓とも言うべきコアを握り締めた敵の腕を、逆にバインドで自らの体ごと縛り付けて、固定したのだ! 「馬鹿な、正気か……っ?」 「なのは、なんて事を……!」 それと見たシグナムとフェイトも戦闘を中止するほどの、驚愕の判断だった。 自分のリンカーコアを握る相手の腕を、逆に『固定』する。普通の者はそんな判断は下さない。 実際に、なのはも一人で戦っていたのなら、こんな無茶はしなかっただろう。まず、ダメージを最小に押さえる事を考える。 しかしッ、なのはは本能で理解していた。 感覚で分かる。魔力が吸い上げられる感覚、この手は自分の魔力を『吸収』している! (これは……『この攻撃』はマズイッ! 魔力弾とか結界とか、そういう魔法攻撃じゃなく、この全く違う『攻撃』は危険だ……ッ!) 敵を倒す為の手段ならば、コアを捉えた時に全ては決している。 だが、敵はコアを潰すのではなく吸収する事を選んだ。 その行為にどういう『目的』があるのかは分からない。しかし、魔力を『奪う』という手段が、計り知れない『大きな目的』に直結しているのだと、なのはは直感した。 この『敵』、この『目的』を放置しておくのは危険だ。ここで倒しておかなければならない―――ッ! なのはは、己の直感に従って、そう判断したのだった。 「目標、変更……既に、『位置』は掴んでいるの……ッ!」 『……! い、いけない!!』 レイジングハートの砲口が向きを変える。 シャマルは我に返った。あの少女は、自分を捉えている。自分は既に狙われている、と! 「スター……ライト……ッ」 「シャマル!」 冷静に動けたのはザフィーラだけだった。 アルフとユーノを弾き飛ばし、全速力でシャマルの元へ駆けつける。 「ブレイカァァァーッ!!」 次の瞬間、桃色の閃光が一直線に空間を切り裂いた。 『シャマル、無事か!?』 『……ええ、なんとか。寸前でザフィーラが防御してくれたわ』 『だが、逸らすので精一杯だった。おまけに、俺もダメージを受けた。とんでもない威力だ、片腕が動かん』 爆光の後、すぐさま念話を飛ばしたシグナムの心に仲間の声が返ってくる。 シグナムは安堵した。 ヴィータの消息も不明な今、これ以上仲間を失うのは御免だった。 そして今、もう一つの意味でも安堵していた。 なのはは、SLBを放つと同時に、力尽きて倒れ伏していた。 「さすがに、無茶をしすぎたようだな。だが……正直冷や汗をかいたぞ。恐ろしい発想と度胸を持った魔導師だ」 「な、なのはぁ~……」 一方のフェイトはシグナムとは全く正反対の心境だった。 「わ……私、どうすれば……? な、なのはが……嘘だ!」 「……どうやら、あの魔導師がいなければ本当に何も出来ないようだな」 未だ戦える状態にありながら、既に戦意喪失してうろたえるしかないフェイトを冷めた目で一瞥し、シグナムはレヴァンティンを構えた。 予想外の事態はあったが、魔力は十分に手に入れた。あとはヴィータを回収して、増援が来る前にここから逃走するだけだ。 「ザフィーラとヴィータの容態も気になる。さっさと済ませるか……消えろ!」 目の前にシグナムが迫っても、もはや震えることしか出来ないフェイトに向かって無慈悲に剣を振り上げる。 ―――しかし、突如下方から閃光が飛来し、シグナムは反射的にそれを回避した。 「何……っ!?」 「……え?」 フェイトから離れたシグナムを、更に別の閃光が襲う。 桃色の光を放つ魔力弾。それが四つ、ミサイルのように自在に軌道を変えて、シグナムに襲い掛かっていた。 それはッ、間違いなくなのはが持つ魔力の光! 彼女の魔法『ディバインシューター』だったッ!! 「な……」 フェイトは目を見開いて、魔力弾の飛来した方向に視線を走らせた。 「ディバイン……シュー……ター……」 「なのはァアァァァ―――ッ!!」 起き上がる事も出来ないほど衰弱した体で、しかしなのはは半ば無意識に魔法を使い続けていた。 朦朧とする意識で操作されているとは思えないような正確さと、獣のような獰猛さで、ディバインシューターは逃げ回るシグナムに追い縋っていく。 「うっ、ううっ……。本当に、その通りだったんだね……なのは」 フェイトは、ボロボロになりながらも戦うなのはの姿に溢れる涙を堪えきれず、震える声で呟いた。 脳裏に、かつてなのはと戦った時の事が思い出される。 あの時、なのはの示した『覚悟』が。その時、なのはが言葉にした『覚悟』が。 「『いったん食らいついたら、腕や脚の一本や二本失おうとも決して『魔法』は解除しないと』私に言った事は!」 海上での戦い。事実上、なのはとの最後の戦いになったあの時、彼女の叫んだ言葉が鮮明に浮かんでくる。 その言葉は、あるいは冷酷な響きを持っているのかもしれなかった。 ―――しかし、同時にフェイトは別の言葉も思い出していた! なのはが、厳しさだけではなく、途方もない優しさを抱えている事を実感した時の言葉も! 全ての出来事が終わり、一旦のの別れとなった、二人で会ったあの時の事―――。 「これから、もうしばらくお別れになっちゃうね……なのは」 「……うん」 「私ね、なのはと友達に……なりたいな」 「……」 必死に言葉を紡ごうとするフェイトの様子に、なのははチラリと一瞥を向けただけだった。 「でも、私、友達になりたくても、どうすればいいかわからない……。だから、教えて欲しいんだ、どうしたら友達になれ―――」 「ねえ、フェイトちゃん。さっきからうるさいよ 『友達になりたい』『友達になりたい』ってさァ~~」 「え……」 無言のなのはに不安になり、捲くし立てるように喋っていたフェイトは、突然遮ったなのはの突き放すような言葉に凍りついた。 恐る恐る顔を上げれば、なのはは戦った時のような強い視線で自分を見つめている。 その強すぎる意志の瞳を、フェイトは睨まれているのだと感じた。 「どういうつもりなの、フェイトちゃん。そういう言葉は私達の世界にはないんだよ……。そんな、弱虫の使う言葉はね……」 「ご、ごめんなさい……っ!」 なのはの強い口調に、フェイトは絶望的な気持ちになりながら俯いた。 拒絶されたのだと、考えた途端に涙が溢れてくる。 友達になりたいなどと、なんておこがましい考えだったのか。フェイトは自分が分不相応な領域に踏み込んでしまったのだと感じた。 ……だが、そんな弱気な考えに沈んでいくフェイトを意に介さず、なのはは告げた。 「ごめんなさい……もう友達なんて欲張りな事言わないから……っ」 「『友達になりたい』……そんな言葉は使う必要がないんだよ。 なぜなら、わたしや、わたしの親しい人達は、その言葉を頭の中に思い浮かべた時には! 実際に相手を抱き締めて、もうすでに終わっているからなの―――」 そして、なのはは泣きじゃくるフェイトを強く抱き締めた。 「え、なのは……?」 「『友達になりたい』と心の中で思ったのなら、その時スデに絆は結ばれているんだよ」 そう言って笑ったなのはは、やはり、いつもの幼い少女の顔ではなかったが―――フェイトの全てを包み込むような、黄金の輝きを放つ笑顔を浮かべていた。 「な、なのはァァ~……ううッ」 「フェイトちゃんもそうなるよね、わたしたちの友達なら……。わかる? わたしの言ってる事……ね?」 「う……うん! わかったよ、なのは」 「『友達だ』なら使ってもいいッ!」 今度は嬉しさで泣きじゃくるフェイトの体を抱き締めた、小さいけれど大きく、暖かいなのはの腕を、今でもはっきり覚えている―――。 「―――わかったよ、なのは! なのはの覚悟が! 『言葉』ではなく『心』で理解できたッ!」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ そして、フェイトは変貌していた。 その『面がまえ』は、10年も修羅場を潜り抜けてきたような『凄み』と『冷静さ』を感じさせる。それは、はっきりと『成長』だった。 もう、プレシアの影を追い続ける泣き虫のママッ子(マンモーニ)なフェイトはいなくなったのだ! 「『友達になりたい』と思った時は、なのはッ!」 『<Scythe form> Setup!』 フェイトの戦いの意思に呼応し、バルディッシュがフォームを変化する。 「―――すでに私達は絆で結ばれているんだね」 かつてない速度で飛翔する。 本来の戦闘スタイルを取り戻したフェイトは、かつてなのはと戦った時と同等……いやかつて以上のスピードでシグナムに肉薄した。 レヴァンティンの刃と、バルディッシュの光刃が激突する。 「何、この気迫……! さっきとはまるで別人だ!?」 『シグナム、聞こえる? ザフィーラとヴィータを連れて逃げたいんだけど、ダメなの! まだ私の腕は固定されているみたいなのよ!!』 眼前に迫るフェイトと聞こえてきたシャマルの念話に、歴戦のシグナムをして冷たい戦慄が走り抜けた。 「やるの……フェイトちゃん。わたしは……あなたを、見、守って……いる、よ……」 ―――もはや半ば気を失いながら、魔法を行使し、且つ自分の命を鎖にして敵を捉える続ける少女の覚悟。 ―――僅か時間で、臆病な弱者から戦士へと変化した目の前の少女の成長。 シグナムは自らの体験している出来事が、まったく未踏の領域にある事を理解した。 苦境には何度も立たされた。命がけの戦いにも挑んだ。 だが、今自分が目にしているものは、それらとは全く種類が違う『脅威』だ―――! 「何者だ……お前達は!?」 「なのはが選んだ……『撃退』じゃなく『撃破』! アナタたちはここで倒すッ! 私はフェイト・テスタロッサ! 高町なのはの『友達だ』―――ッ!!」 バ―――――z______ン! リリカルなのはA s 第二話、完! 戦闘―――続行中!! ヴィータ―気絶中。 シャマル―拘束中。 ザフィーラ―負傷。なのはのバインドを解除作業中。 アルフ、ユーノ―負傷、気絶中。 なのは―昏睡状態。しかし、魔法は依然継続中。 to be continued……> 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/246.html
「へぇ、それじゃ社会科見学に来たの」 なのはの案内でハレとグゥは本局の廊下を歩いている。 前から本局の職員が来た。 なのはとハレは、小さく会釈。 グゥは右手を挙げて挨拶した。 「あははー、そうなんです。いきなり来てすいません」 「いいよ。ホントは事前に連絡しないといけないんだけど、ハレ君やグゥちゃんにはこの前助けてもらったし、私が手続きしておくよ」 「ははは、ありがとうございます」 愛想笑いをしながら、ハレはグゥを横目で見る。 「それにしてもグゥ、ここのどこが魔法の国なんだよ」 「なのはは自分は魔導士だと言っていたし魔法を使っていた。ならば、ここは魔法の国に違いあるまい」 「まぁ・・・・」 右の壁を見て、ぐるっと天井を見る。 「そうなんだけどさぁ」 今度は左の壁を見ながら前を見る。 別の職員が角を曲がるのが見える。 「魔法の国って言うより、都会って言うか、未来都市って言うかなんというか・・・」 また、別の職員とすれ違う。 頭を下げたなのはがハレのおかしな動きに気づいた。 「どうしたの?ハレ君」 「いえいえいえいえいえいえいえ。なんでもないです」 「そう?だったらいいけど・・・じゃあ、まずは隊長のはやてちゃんに会いに行きましょう」 「はい、わかりました」 二人は静かな誰もいない廊下を進んでいった。 はやての部屋は隊長の部屋だけあって広い。 部屋の主のはやてが見えないとなおさらだ。 「あれ?はやてちゃんどこに行ったんだろ?はやてちゃーーん?」 返事はない。 周りを見ていたハレは小さいミニチュアの机を見つけた。 「へー、小さい机ですね。これって、そのはやって人の趣味ですか?」 「ううん、ちがうの。リィンの机なの。後で紹介するね」 「え・・・・あんな机を使う人がいるのか」 ついたての後ろを見ていたなのはが戻ってきた。 「おかしいな。今日はここにいるはずなのに。ハレ君、お茶でも飲んでからまたこよっか」 二人は部屋を出て行った。 誰もいなくなった部屋には湯気の立つコーヒーカップがあった。 中では、ミルクが黒いコーヒーの中で渦を巻いて回っていた。 誰とも会うことなく来た食堂は明らかにおかしかった。 誰もいないのだ。 まだ食事時には遠いが誰もいないなんて事はないし食堂で働く調理員すらいない。 鍋は火をかけっぱなしで煙を噴いていてハレとなのはがあわてて消したくらいだ。 「おかしいな・・・みんなどこに行ったのかしら」 調理場以外の場所もよくよく見るとおかしい。 コーヒーカップやティーカップが置かれている机の上もあるし、そのカップから湯気も上がっている。 フォークの刺さったケーキがある皿もあれば、麺をつまんだまま落としたようなうどんもあった。 「はのはさん・・・俺、こういう話、聞いたことあるんですけど」 「私も聞いたことあるの」 「マリー・セレスト号でしたっけ」 「うん、それ」 二人は顔見合わせると、その場を走って飛び出した。 なのはとハレはそれからいくつかの部屋に飛び込んで行った。 だが、どの部屋にも誰もいない。 決して空にしてはいけないはずの部屋にさえ誰もいない。 誰1人としていない。 廊下で誰かに会うことさえない。 本局の部屋を半分ほど見たとき、 「うわー」「きゃーーー」「ひえええ」「ぐああああああ」 遠くから大勢の悲鳴が聞こえてきた。 悲鳴の方に走るなのはとハレ。 その二人に、角のから飛び出してきた赤い少女がぶつかった。 「ヴィータちゃん!」 「なのはか!」 ころんでしまったヴィータとハレになのはが手を貸す。 「どうしたの?」 「みんな・・・みんなやられち待った。あいつに・・・シグナムも、シャマルも、ザフィーラも・・・それに・・・はやても」 ヴィータが飛び出してきた角から、ひたひたという足音がやけにおおきく聞こえてきた。 「ちっ、もう来やがったか。なのはは逃げろ!それから、戦力を整えてくるんだ。いいな!ここはあたしが引き受ける!」 角に全速力でダッシュするヴィータ。 「いくぜ。みんなの仇だ!ラケーテンハンマー!!「Jawohl」・・・なっ、やめろ、はなせ・・・はなせ、うわあーーーーーーー」 すぐに静かになった。 再び、ひたひたと足音が大きくなってくる。 足音は角に迫り・・・・ グラーフアイゼンをつかんだヴィータの手を口から出しているグゥが姿を現した。 「お前かぁあああああああ!!!!!!」 グゥが首をちょっと動かして、ちゅるんと手を飲み込もうとするのをハレがつかんで止める。 「グゥさん。一体何をやっているんですか?」 「ちょっとな」 「ちょっとな・・・じゃねええええ。吐け、全部吐き出せ」 ハレが手を引っ張るとヴィータが出てきて、次の手が出てくる。 さらにそれも引っ張るとシグナムが出てくる。 さらに引っ張る・・・・シャマルにザフィーラ スバルにティアナにエリオにキャロ。 フェイトにヴァイスにシャーリー。 でるわでるわ、どんどん出る。 最後にリィンとはやてが出てきた。 「あーあ」 「あーあ、じゃねぇええええ。だいたい、いつからこんなことしてたんだ」 「それはな」 巻き戻し 再生 行をさかのぼって呼んでください。 「そう?だったらいいけど・・・じゃあ、まずは隊長のはやてちゃんに会いに行きましょう」 「はい、わかりました」 二人は静かな誰もいない廊下を進んでいった。 「その時からかぁあああ。どうするんだよ。これ」 廊下には、死屍累々とグゥに飲み込まれた人たちが横たわっている。 「そうね・・・みんな、元に戻しておくのがいいかな」 「二人でですか?」 「やだなぁ、なに言ってるんだい」 「私たちも手伝うわよ」 「ほれほれ、何ぐずぐずしとるん。早くせんと日が暮れるたい」 「ああ、そうだね・・・って、なんであんた達がいるんだぁあああ」 三人ほど起きている人間が増殖した。 「さっきハレハレが引っ張り出したんじゃないか」 「すごい勢いだったわね」 「ほんなこつ、びっくりしたたい」 「アンタラは戻れぇえーー」 「待って、ハレ君」 なのはがシグナムを引きずりながら言った。 「え?」 「その人達にも手伝ってもらいましょ」 「そうだよねー、人では多いほうがいいよね」 「じゃ、私はこの人」 「私はこっち」 三人はそれぞれ人を抱えて走っていった。 「なのはさん・・・」 「なに?」 「慣れてきてません?」 「すこし・・・かな」 その後なのは達6人は本局中をかけずり回る。 日誌に見学希望者により六課壊滅寸前の文字が記録されることはなかった。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/240.html
本日の献立は! …肉じゃが! おひたし! ぬか漬け! 味噌汁の具は、油揚げとほうれん草なり。 配膳確認、各自、箸の置き忘れはないか? ヴィータよ、速やかに席につけ。 飯が冷めるなり! シグナム、シャマル、リィン、はやて、覚悟…着席完了。 ザフィーラに猫まんまの用意あり。 全員…そろった、準備よし。 いざ! 「いただきます」 強化外骨格は飯を食えぬが、家族は皆で食事を摂るが八神家の掟なり。 今宵もただ、食卓に席並べて鎮座す。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第四話『葉隠禁止(前編)』 あの日、いきなりはやてが知らない男を連れて帰ってきた。 シャマルがそいつの名を知っていた…葉隠覚悟。 クソ重てえユニゾンデバイス、零(ぜろ)のマスター。 大ケガしてるくせに空港火災で人助けに走り回ってた、 死んでない方がおかしいケガで走り回ってたやつだ。 それだけでも胸クソ悪い…のに、一緒に話してるはやてが楽しそうにしてるのを見て、決定的にムカついた。 最初は数日世話になるだけ、とか言ってたけど、何考えてんだか全然わかんねーし。 わざとお茶、頭にこぼしてみても、なんにも言わねーで拭きやがるし。 怒るとかなんとかしろよ! バカにしてんのかよ! あの目つきがムカつく。 なんか色々見透かされてるみてーでムカつく。 もっとムカついたのは、こんな風にキレてたのがこのあたし、ヴィータ一人だけだったってことだ。 シャマルがいきなり言い出しやがったんだ。 「いっそ、ここにずっといれば? 覚悟君」 入院中はずっと身の回りの世話してたんだっけか、情が移りすぎだってんだよ。 「はやてちゃんは簡単に言うけどね、首都圏だと住む場所も高いのよ」 おめーこそ簡単に言ってんじゃねえよ、男だぞこいつ。 「はやての力になる気があるなら、ここに居る方がよほど実際的だ」 なのにシグナムまでこれモンだったから、あたし一人で認めねー認めねーって言ってたら、 「本日まで、まことお世話になりました」 荷物まとめて敬礼してよ、さっさと出て行きやがったんだよ、あいつ! 完ッ璧あたしが悪モンじゃねーか、ざけんな! その後、はやてに本気で怒られた。 「覚悟君、独りぼっちなんよ。 独りぼっちの子をほっぽり出すなんて最低や」 全員で探しに出て、なのはとフェイトにも手伝わせて、 明け方、あいつが高級住宅街の川べりで座り込んでたのを見つけたのは、よりにもよってあたし自身だった。 帰ってこいなんて言いたくなかった。 あたしは心を許していない…だから。 「メシ、できてんぞ、来いよ…いいから!」 それで突っ張り通して連れ戻したのが、早くも半年前の出来事だ。 今じゃずいぶん慣れたもんだよ、我ながら。 はやての言う通り、あいつが管理局の仕事を手伝うこともあった。 戦力としては、くやしいけど認める。 うちに来て早々、なのはとの対戦結果を聞いてたシグナムが心待ちにしてたみてぇに模擬戦を申し込んだんだけど、 正午に始めてから日が落ちるまで、ずーっとにらみ合ったまま動かねえのな。 で、最終的には、 「積極!」 「紫電!」 同時にしかけて相打ち。 剣と拳が紙一枚の隙間で止まってた。 「葉隠覚悟は袈裟懸けに深き一太刀浴び、即死いたしました!」 「烈火の将シグナム、貴様に首を砕かれて二度と立てん!」 「零(ぜろ)の意志、果たせぬまま終わりました」 「主はやてを置き去りに散ってしまったか」 「不甲斐なき也(や)!」 「私もだ!」 なに、固い握手してんだよ。 戦い通じて友情はぐくんでやんの。 これだからバトルマニアはイヤだよ。 それからはもう、ヒマを見つけては試合(しあ)ってて、たまにあたしも巻き込まれたから、 弱いわけねーってのはよーくわかった。 ラケーテンハンマーを『因果』された時は最低の気分だった。 回転始めて力を溜めた瞬間に「隙あり 因果」とか、やってらんねーよマジで。 空気読めってんだよ。 おかげで、より遠くから打ちかかれるように技自体を改良するしかなかった。 そんくらいには、強い。 だから、ガジェットドローンを素手でズッコンバッコンぶっ壊されても、別に驚かなかったな。 零(ぜろ)は仮封印処置を取られてて許可がないと使えねぇって話で、 シグナムと立ち会ったときにも実際装備しなかったけど、ぶっちゃけあいつ武器いらねーって。 ま、そんなこんなのそんなこんな。 全員一緒の休日がとれたあたし達は、遊園地に行くことになった。 クラナガン・サン・ガーデン。 最近できた遊園地だとか。 んなことはどうでもいいんだ、楽しけりゃな。 だけどよ…こいつ、完ッ璧、ダメだ。 マッハがつくポンチ野郎だ。 はやてにムリヤリ組まされて、その辺はっきしわかった。 ガンシューやったんだよ、ガンシューティングな。 『スーパー・リアル・アサルト3』。 最近ゲーセンに入ったばかりの新作が、大迫力の立体映像で遊べる。 遊園地だと後がつかえるから、二人プレイでライフ共有になってるけどな。 うん、まあ、銃自体はうまかったんだよ。 ほとんど百発百中であきれたしな。 だけど弾は切れるようにできてるのがゲームってもんで、 「弾、切れるだろ、あれ撃てよ」 向こう側に出てきたカートリッジを指さしたんだけどよ… 「なにやってんだよ、撃てってば」 「火薬の塊たる弾倉に銃弾叩き込むなど、正気か、ヴィータ!」 「いやこれ、ゲームだから! ゲームだから! そういうモンなんだってば、そういうルールなんだってばよ」 「しかし…これはリアル、すなわち現実的であると銘打たれていたからして、そのような…」 「だーっ、アホヤローッ」 銃をぶん取ってあたしが撃ったら、弾が満タンになって、 あいつは釈然としない顔でゲームを続けてた。 あたしもぶちぶち言いながら結構先まで行けたんだけどよ、それで終わりじゃなかったんだよなあ。 ガンシューだとよ、ヘルプミーとか言って出てくる民間人いるじゃん。 撃つとワンミスになる邪魔なやつ。 ボスの直前に大量配置されてたんだよな、今作。 それを、あいつな…反射的に撃っちまったのな。 アーオゥ! とかいう悲鳴と一緒にワンミス。 「…今のは!」 「民間人だな、撃つとワンミス」 「なんだと…」 「あいつの盾になるよーに配置されてんじゃねーかな」 「外道許さじ! 正しき因果極めてやる」 んで、銃をピッタリ構えたかと思ったら、奥にいた敵キャラにしこたまぶち込みやがった。 一発撃てば死ぬのによー、こいつはもー。 「あらがえぬ人々の痛み、覚えたか」 「ノリノリだよな、おめー…あ、でも一発残したのな」 弾の補充のために残したか、やっと飲み込めてきたみてぇだな。 ここからはフツーにやれそうだ、そう思ってたのによぉ。 「…何やってんだ? それ、何のマネだ?」 「自害なり」 大真面目に銃口をてめえの頭に向けているこいつに、そろそろ泣きたくなってきたあたしは正常だよな? 「誤射にて罪なき人の生命を絶ったとあらば、我が生命、捧ぐ以外に償う途(みち)なし」 「だから、これゲームだから! それより、ボスが来っぞ」 「首魁(ボス)!」 また眼鏡をギラリと光らせやがった、こいつ。 嫌な予感がするんだけどよ、とりあえず言うだけのことは言って… 「弾一発じゃどうしようもねーから、おめーはすっ込んで」 「問題なし」 「はぁ?」 「胸すわって進むなり。 正義に敗走は無い!」 もう、何言っていいんだか全然わかんねえ。 その後すぐ、ライフ共有のせいで、あたしもろともゲームオーバーになった。 「あっはっはっはっは!! ふわはははははははっ!!」 何が悪かったのであろうか。 てめえはリアルで死ねと言われて蹴飛ばされたゆえ、 昼食がてらはやてに一部始終を伝え是非を問うてみたのだが。 …なにゆえ、皆は笑うのか? シャマルに、リィン、シグナムまで。 「あー、もうダメ、お腹痛くなっちゃって、もう…あはは、ははははっ」 「お腹が痛い?」 「言っておくが違うぞ覚悟、ぷっ、くくくくくっ」 食事に悪いものでも入っていたのかと立ち上がりかけたのを シグナムの両手に軽く制された。 「いや、すまん、おまえを笑い物にする気はない。 むしろその馬鹿正直さは好ましい」 「なにが悪かったかって、本気で聞いてるんだもんね、ふふっ」 「リィンはそんな覚悟くんが大好きなのですよー」 「わたしもや。 もー、ほんと、覚悟君らしーわぁ」 笑い物にされているなど、最初から思っておらぬなり。 皆の微笑みが、これほどに暖かければ。 ザフィーラに目をやると、尻尾をひとつ振って寝転んで居た。 その脇にかがみ、なにやら下を向いていたヴィータが立ち上がり、こちらに向けるは鋭き視線。 「どいつもこいつも…あたしの身に、なれッ!」 ずかずかと歩み来て、わが傍らに置かれたトランクをばんと叩く…何をする。 「零(ぜろ)よぉー、おまえ、こいつにどういう教育してんだよ、こらぁっ」 『我らはただの強化外骨格なれば、常識一般を教えることはできぬ』 零(ぜろ)はすでに心を許していた。 はやてに近しい人全てに。 やはり、はやて主導による徹底した人間扱いが効いているのかも知れぬな、と思う。 零(ぜろ)も一度は止めたらしいが、郷に入りては郷に従えと逆に諭されてしまったという。 ヴィータがこうしてからむのも、今日では日常茶飯事なり。 「にしてもよぉー、もうちょっとよー」 『生まれた世界が違うのだ! やむをえぬ部分は許してくれぬか』 「あんまり、零(ぜろ)を困らせたらあかんよ、ヴィータ」 荒れる様を見かねてか、はやてがたしなめにかかるも、 ヴィータはますますへそを曲げている様子。 やはりおれに落ち度ありか。 「あたしが困らされてんだよ、こいつに! とにかく、もうあたしはイヤだからな、こいつとは行かねー」 「よくわからぬが、申し訳ない」 「謝ってんじゃねーよ、もっとムカつくんだよ」 ではどうしろというのだ。 半年も共に生活しているが、このヴィータのことは未だわからぬ。 彼女らは皆、かつては闇に囚われた戦鬼(いくさおに)であったとは シグナム、シャマル自身の口よりすでに聞いており、その強さにも首肯せざるを得ぬが、 日常のヴィータがただの少女に過ぎぬことに変わりなし。 おれの何が彼女の機嫌をそこねるのか… 「ほなら、しゃーないわぁ」 はやてが席を立ち、おれのとなりに来た。 彼女もまた、たまにわからぬことをするので困るが… 「覚悟君、一緒に行こか。 お化け屋敷」 「お化け屋敷?」 「ヴィータが行きたないみたいやし…怖いんやね」 「彼女ほどのものが恐れる場所とは!」 奇っ怪至極! 遊園地、まっことわからぬ場所(ところ)なり。 先の射撃訓練施設といい…ここは民間人の遊戯場ではないのか? 「わたしは覚悟君と一緒なら怖ないねん」 「了解、謹(つつし)んで護衛させていただく」 …なぜ笑う、シャマル、シグナム。 これは試されていると見るべきか。 よかろう、ならば応えよう。 お化け屋敷がいかなるものであろうとも、はやてに指一本触れさせぬなり! 「征くぞ!」 「うん。 みんな、零(ぜろ)のこと見ててなー」 「待て、っつの」 突如、足を踏みならしたヴィータに振り返ると、 またずかずかとした足運びにて我らの征く道阻みたり。 「止めるな、ヴィータ」 「あたしも行くってんだよ」 「怖くはないか」 「ざけんな」 「良し!」 やはり彼女も戦士であった! ならば共にいざ征かん。 目標、お化け屋敷! 「あ、リィンも行くです、行きたいですーっ」 ―――これが、わが腑抜けぶり思い知る、実に五分前であった。 「覚悟くんたら、もう、ねえ?」 「まったく、少しは洒落のわかる男になれと言いたいが…どうした、零(ぜろ)?」 『侵略行為が行われている!』 「…なに?」 『半径50m以内、室内なり』 「なん、だと」 『追うのだ、覚悟を! はやてを!』 「言うに及ばず!」 「くるしい、ひぐっ、たすけて、息が…」 「撮るよーっ! 次は脱いでスマイル!」 「い、いやだあっ」 「お肉も脱いでスマイル!」 「ぎゃっ、ぐぶげっ!」 「バッチリ撮れたよー、お代は結構! だってボクの写真は芸術だから!」 「ひ、人喰った…お化け屋敷に、ホントにオバケ…おまえ、なに? ナニモノ?」 「ボクは戦術鬼(せんじゅつおに)、激写(うつる)! さあスマイルスマイル、撮るよーっ!」 「助け、うげぇっ」 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3075.html
「ふぅ、これで良しと。あぁモスキー君、ちょっとかよ子さんの所までコレ届けて貰える?」 「あ、はい。このタッパーですか?」 「そうそうそれ、明日はレッドさんとの対決だからヤル気を出して貰う為にもちゃんと精をつけて貰わないと♪あ、中の汁が漏れるといけないからちゃんと水平に持ってね。」 「解りました。それじゃあ行って来ま~す!!」 「電線に引っ掛からない様に気を付けてねぇ~それとレッドさんにもちゃんと挨拶するんだよ~!! ………はぁ………」 ヘンゲルとの会談から数日経った夕方、ヴァンプは今日の夕飯のおかずを調理しその一部をお裾分けする為、赤い大きな目が特徴の蛾型怪人モスキーに頼んだ。 だが彼が去った後に漏れたヴァンプの溜め息はどこか疲れた様子だった… 『天体戦士リリカルサンレッド』この物語は川崎にて繰り広げられる善と悪の壮絶な闘いの物語である――― FIGHT.00『忍び寄る、異世界への魔手!!』(後編) ~翌日~ 「ったくお前らは毎度毎度懲りずによぉ…」 いつもの公園にて繰り広げられた善と悪の壮絶な戦いの後、半ズボンに妙な文章がプリントされたTシャツ(今日は『カラスの天敵はユリカモメ』と書かれている)、 そしてヒーロー独特のデザインをした赤いマスクが特徴的な男性…溝ノ口発の真っ赤なヒーロー『天体戦士サンレッド』がタバコを吹かしながらフロシャイムの面々に説教をしていた。 無論ヴァンプをはじめとしたフロシャイムのメンバーが正座をしているのは言うまでも無い… 「大体よぉ、自分達から時間を指定しておいて遅れて来んのはどう言う事だよ?やる気あんのかア゛ァ?」 「そんな滅相も無い!!私達やる気は充分に「うるせーから黙ってろ。」す、すいません…」 レッドはヴァンプの抗議を遮り二本目のタバコに火を付け、少し間を置いてから話を続ける。 「おまけによぉ…何で相手がまたコイツなんだよ!?前に倒したじゃねーか、パワーボムでっ!!」 レッドが怒鳴りながら指を指した先にはヴァンプの隣で鼻血を垂らしつつも無表情…もとい何も考えずにボーッと正座している細身ながらも逞しい体つきをした青い狼型怪人、 タイザがいた。 「実はこちらの書類ミスで今日来る筈だった怪人が来なくて…それで都合のつく怪人がタイザ君しかいなくてその…」 ヴァンプは弁明をするがどうも歯切れが良くない。 「それでまたコイツかよ…もういい加減にしてくれよ。意志疎通の取れない奴や花粉症になってる怪人が出て来るわ…最近グダグダ過ぎるんだよお前ら!! ホンットこっちのヤル気も失せてくるわ、マジで!!」 「えぇそんなぁ!?ヤル気を出して貰う為に昨日お裾分けしたじゃないですか、ブリ大根!」 「どこの世界にブリ大根を貰ってヤル気の出るヒーローがいるんだよ!? だいたい昨日のは生臭かったしよぉ!」 レッドは感情に任せて怒鳴り散らし、ヴァンプも反論をするがあっさりと一蹴されるが… 「アレ、レッドさんもやっぱり生臭く感じたんですか?」 そこに割って入った者がいる。タイザの隣で正座をしていたフロシャイムの戦闘員2号だ。 「え、もしかして2号も?」と、更に隣で正座をしていた1号も続く 「1号もか。いやぁ良かったぁ~昨日の晩もしかして俺だけなんじゃね?と思って心配したんだよ。」 「あ~解る解る(笑)。ヴァンプ様に限ってまさか…と思って中々言い出せなくてさぁ~タイザさんはどうでした?」 「わすれた~でもおいしかったぁ~。」 「えぇそうだったの!?そう言えば昨日は生姜を入れ忘れてたような…あらやだどうしよう、後でかよ子さんに謝らないと。」 「お前ら俺を無視して話してんじゃねぇ!!つーかヴァンプ、俺には謝んねぇのかよ!?」 「え~だってレッドさん、味音痴じゃないですか…」 「臭い位解るんだよ俺でもっ!」 そんな問答を繰り返していく内に、だんだんと話がそれていく。 「ったく…おい戦闘員、二人共コーヒー買って来い。微糖な。で、いったいどうしたんだよヴァンプ?」 レッドは呆れながらもベンチに腰掛け、戦闘員をパシらせてからヴァンプに問う。 「え、何がですか?」 「とぼけんな。対決がグダグダになんのはいつもの事だけどよぉ、お前が誰かに言われるまで料理の失敗に気づかねぇ何て結構な『事』じゃねぇか…一体何があったんだよ?」 ヴァンプは最初キョトンとしていたがレッドの指摘に言い返せず、ゆっくりと口を開く 「あの、実は…悩んでる事があるんです。」 「はぁ?悩み?何だよ珍しいじゃねぇかお前に悩みなんてよぉ、何だリストラか?それともクビか?まさかその歳になって恋の悩みとか言い出すんじゃねぇだろうなぁ~(笑)」 レッドは興味深げに身を乗り出し、四本目のタバコに火をつける。 「いえ、そう言うのじゃなくて…実はその、異世界への出張があるんですよ。長くて一年ほど…」 「はぁ出張?何だよ全然たいした事ねぇじゃねーかツマンネェ…」 レッドはヴァンプの期待外れな悩みに肩を落とす。 「そ、そんな…レッドさんは私達が一年も出張するの心配じゃ無いんですか!?」 「何でヒーローが悪の組織の心配しなきゃならねーんだよ?俺は一年もお前らに振り回されずにすむんで清々するぜ。」 「ヒ、ヒドイ!私が向こうの水は合うかとか言葉は大丈夫かとか、向こうの病院にかかる時保険料はどうなるのとかで色々と悩んでいるのにそれを他人事みたいに…」 「まんま他人事じゃねーか…だって俺、他人だし。」 「すいませーん遅れました!!」 「はぁはぁ、コーヒーが売り切れてまして…コンビニまで行ってました…ってどうしたんですかヴァンプ様!?」 戦闘員達が息を切らして戻って来たのは丁度ヴァンプがワナワナと震えだした時だった。 「もぅいいです!!私達は来月の金曜に出発しますけどレッドさんなんか他の怪人にヤられちゃえばいいんです! 1号、2号、行くよ!!ほらタイザ君も起きて。全くレッドさんがここまで薄情だとは思わなかった、私。」「フガ、フアァイ…」 「あ、ヴァンプ様待ってくださ~い。」 「レッドさん、コーヒーです。失礼しましたっ!」 ヴァンプはいつの間にか寝ていたタイザを起こし、プンプンと言うSEが似合う剣幕でスタスタと帰ってしまう。そして戦闘員もレッドにコーヒーを渡して後を追う。 「おぅおぅ行ってこい。そんでハクでもつけて戻って来いやぁ~!! ……………ったくあんな怒んなくてもよ…」 レッドは帰ってくヴァンプ達に野次を飛ばす。そして彼らが去った後ボソリと愚痴り、ベンチの背にもたれながら貰ったコーヒーに口を付ける。 「チッ、アイツら微糖つったのにまた甘ったるいの買ってきやがって…」そう呟くとレッドはグイッとコーヒーを飲み干した。 ~出発当日~ 「町内会の池田さんやお向かいの森末さん、それにかよ子さんや他のご近所の皆さんとも挨拶を済ませたし…それじゃあ皆、忘れ物は無いね?」 荷物を纏め、支度を済ませたヴァンプは同行する戦闘員、怪人達に声をかける。 ちなみに今回同行するのは戦闘員1号、2号、タイザ、メダリオ、カーメンマン、ウサコッツ、デビルねこ、Pちゃん改、ゲイラスの9人であり、他の怪人たちは後発組として出発する事になっている。 「じゃあロウファー、後の事はお願いね。解らない事とかがあったらちゃんと聞くんだよ。ご近所の皆さんや怪人の皆は良い人だから教えてくれるし。」 「うん、任せて兄さん。兄さん達がいない間、ちゃんとアジトの番をしとくよ。」 川崎支部の指揮にはヴァンプの弟でありフロシャイム静岡出張所隊長であるロウファーが研修を兼ね川崎支部将軍代理として就くことになった。 「うん、天井さんもいるしロウファーなら大丈夫だしね…それじゃあ皆、少し早いけど行くよ。新宿駅に行くからまずは溝ノ口に向かうね、 道中は一列になって進むから車に注意してね~」 周りのは~いと言う返事の後、ヴァンプを先頭にしたフロシャイム先発組はゾロゾロと連なって歩き出す。だがその道中にある人物が現れた。 「おいおいお前ら…まるで遠足みてぇじゃねぇか。」 「あ、レッドさん…」 レッドである。彼は普段の格好(今回は無地)でヴァンプ達の前に立っていた。 「どうしたんですかレッドさん?ま、まさか忍び寄る魔の手から異世界を守る為に私達を抹殺しに…」 「バカ、そんなメンドクセーことしねーよ… ほらよ、餞別だ。」 レッドはそう言うとポケットからあるモノを取り出し投げ渡す。ヴァンプや怪人達は若干身構えていたが、ヴァンプは落としそうになるも何とか投げられたモノをキャッチする。 その手にあるのは赤い色をした一見おもちゃの様に見える銃だった。 「これってサンシュートじゃあ…悪いですよこんな大切なのを貰うなんて!?」 「バカ、誰がやるなんて言ったよ。貸すだけだ『貸す』だけ!!帰ってきたら返せよな。 それによぉ…勘違いいしてんじゃねぇぞ?この前かよ子に棚の修理やらされて、そん時に偶然見つけたんだ。そんで手ぶらだと何か落ち着かねーから持ってきただけだ …別にお前らの為にわざわざ探した訳じゃねぇんだからな!!」 レッドは普段から赤い顔を更に赤くさせながら捲し立てる。 「レッドさん…まさかヒーロー物お約束の『悪の組織に武器を奪われピンチになる』と言うシチュエーションをグスッ、わざわざ…あ、1号ちょっとティッシュ貰える?御膳立てしてくれる何て…」 「だぁから違うつってんだろ殴るぞテメェー!! つーか時間とか大丈夫なのかよ?」 「あらやだ困る、せっかく転送ポートを手配して貰ったのに遅れたら迷惑がかかっちゃう。それじゃあレッドさん、コレ借りてきますんで」 ヴァンプは涙ぐんでいた顔を切り替え行こうとするが、急に立ち止まりレッドの方を向く。 「あの、レッドさん…」 「何だよ?」 「再び我等が現れる時それがサンレッド、貴様の最後となる…それまでせいぜい首を洗って待っておるのだ!!」 「いいからさっさと行ってこいバカッ!!」 「痛っ!?」 いらんことを言って殴られるヴァンプであった。 「レッドも素直じゃないよねぇ~」 「アレじゃね?ほら、いつも苛めてた奴が引っ越すんで寂しいとか?」 「あ~言えてる言えてる。何かそんな感じじゃん(笑)」 「テメェ等もゴチャゴチャぬかんしてんじゃねーよ!!」 「「「痛ぇっ(い)!」」」さらに殴られる怪人達だった。 ~新宿駅~ 「う~んやっぱり平日でも新宿は混んでるねぇ…」 「それでヴァンプ様、転送ポートってどこにあるんですか?」 「ちょっと待ってね、確か京王百貨店口改札の男子トイレだから…あぁこっちこっち。」 ヴァンプ達は京王線京王百貨店口にある男子トイレの個室に向かう。そして戸を開けるとそこには青く輝く魔方陣がある。 「それじゃあ皆、準備は良い?他の人に気付かれないように早く入っちゃおうね。」そしてフロシャイムの面々は転送ポートへ順に入り、次元航行艦の前に現れる。 「あ~向こうに着いたら彼女に連絡しないとなぁ…」 「あ、そう言えば1号も遠恋か。俺も連絡しないとなぁ~」 「魔法の世界って楽しみだねネコ君!!」 「うん、良い糖尿病治療があると良いなぁ…」 「℃¥$¢£%#♂♀°*&∞∴」(とにかく楽しみらしい) 「向こうでバイト探さないとなぁ~」 「俺、向こうのカップ麺がどんなのか楽しみだぜ♪」 「またカップ麺かよ(笑)つか船に乗って酔うなよな~」 「お出かけ!お出かけ!」 (レッドさん…頑張ってきますね、私達) 彼らはそれぞれの思いを胸に船へと乗り込む。 だがボディーチェックの際サンシュートが管理局法に引っ掛かり、急遽ゲイラスがレッドへの返却の為に後発組へとシフトすることになった… ~続く~ 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1626.html
第零話『永劫の開演』 其処は様々な色彩が混濁した、異形の闇だった。 昏く淀み、白く醜く、ありとあらゆる色彩表現から逸脱された怪異に侵されし闇だ。 その邪悪に彩られた世界の中心、ヒトのと呼ばれる生命を模された影が、舞台の中心で踊るように両手を掲げる。 ―――哂(わら)いながら。 『ハハっ……予想だにしなかったよ、今回の結末は。やっぱり九朗君は何処までも僕の予想を裏切ってくれるねぇ。 それもまた一つの物語、陳腐で愛すべき、最も忌むべき刹那の永劫!』 それは、余りに邪悪過ぎた汚濁の微笑みだ。 あらゆる感情が唸りをあげて混ざり合い、感情という想念を越えた怨嗟の叫びだ。 度重極まったその憎悪は―――然り、愛と似ている。 純粋で真っ直ぐ過ぎたその邪悪は、相反する愛情となんら変わりばえが無いと言えた。 影は―――『女』は、哂い続ける。 目の前の混濁の海に漂流する、一つの『黒い人影』を見据えながら、嘲笑を零した。 『だが、そんな刹那の永劫もこう何回と続けば飽きちゃうモノだよね。―――ほんの少しくらい、“お遊び”をしたって誰も文句は言わないさ』 そうだ。 あの無限の檻に囚われた『二人の王』の御伽噺。 よもやあのような結末になろうとは、如何なこの『女』としても計り知れぬコトじゃなかった。 だからこそ。あれくらいの枝の数では、足りないのだ。ならば増やそう。 枝の数を増やし、彼等をそれに絡めさせ、さながら人形劇のように操り続けようと。 用意をするのは簡単だ。 だが物語(セカイ)の骨子(プロット)を推敲するには少しばかり時間が必要だ。 だが、無限輪廻においてかの二人の王を育て続けた『女』だ。これくらいの時間、刹那すらほど遠い。 が――、それでは少々無粋だ。いくらあの“女”とて、遊びを欠いては飽きてしまう。 せめて、そうだ。 『もっと別の御伽噺』を作って観るのも悪くは無い。せめてもの『暇潰し』だ。 道化は道化らしく、お遊戯は丹念に清々を篭めて、子供のような邪悪を孕ませたつまらない御伽噺を作っていく。 ―――それが彼女、『無■■神』である『■■■■ラ■■■ッ■』が思いついた戯れ事。 ―――『女』は溺死体のように闇の海をたゆたう『男』をまた見つめ、愉快げに手を差し伸べた。 黒い装甲は所々剥がれ落ち、元々あった筈の顔を覆う仮面は先の戦いで破壊され、少年のようなあどけない寝顔をさらしている青年。 かつて実の姉に殺され、恨み、妬み、辛み、憎悪の限りを以って殺し愛った黒き天使。五つ目の黒き堕胎。 『だけど“それが良い”。ずっと昔から壊れている人形が、どんな風に踊ってくれるのか。 それを見届けるのもまた一興。泡沫に消える楽しい一幕さ』 邪笑。 『女』は本当に楽しそうに、身を捩(よじ)りながら、悶えるように、喘ぐように謳う。 ……狂騒劇の始まりを! 狂った御伽噺を! 嗚呼、愚痴たる人間を贄として、儚くも強壮な物語を! そうして、『女』は告げた。 狂った笑顔で。無の貌(かお)で。灼ける三つの眸に孕ませた、苛烈に熾(おこ)る憎悪と愛を以って。 『―――では、始めよう! 君は僕に愛される資格を手に入れられるのか! それともただの陳腐で唾棄すべき存在のままでいるのか! 嗚呼、君が踊る演目は一体どんなモノなのだろう。ワルプルギスの再来か、グランギニョールの狂喜か!』 歓喜に似た声は感極まって、この混沌たる闇の世界すら歪ませる程の邪悪が詰まった笑い声を発する。 一頻り喋り終わり、呼吸を整える。 そして、期待に心を膨らませながら、憧れるように、恋焦がれるような静かな声でこたえた。 『それとも―――そう。この邪悪に冒された狂騒劇を、荒唐無稽に無理やり終わらせてくれる ―――“デウス・エクス・マキナ”へと成り果てるのかな?』 その言葉を最後に、『女』は己が欲にのまれながら狂喜して、暗き混濁の海にたゆたう黒い影……『男』の周囲を円形状に歪めていく。 カチリと、鍵の音が響いた。 この世界から、異なる世界へと通じさせ/転移させ/開闢させて。 『女』は尚も哂う。 言わせてみれば、総ては決まったコトなのだ。この遊戯も。この物語も。 『そう――――総ては、ナ■アル■ト■■■■の意のままに!!』 * 主役は憎悪に焦がれた黒い影。 深く淀んだ恩讐と殺意は、時として愛によく似ていた、最後まで愚かであり悲哀であった男。 黒き天使の名を冠する復讐者。 ヒロインは未だ壇上に昇らず。影は独り、絶望に酔いながら踊り狂う。 ……されども。 『――否(いや)! まだだ、まだ間に合う!!』 一つの、脆弱な光が必死に叫ぶ。まだ絶望するには速いと。 否、絶望などさせるものかと。 だがその光も、この壇上という囲いの外に在る。舞台に上がるには未だ至らず。 未完成の箱庭。 不実の輪。 蛇の輪舞曲(ウロボロス・ロンド)。 それでは、始めるとしよう。 白き王の紡いだ荒唐無稽の御伽噺とはまったく別で、それでも、その愚かな生に縋って足掻き続ける、弱く、醜く、そして愛すべき物語を。 『機人咆哮リリカルサンダルフォン』、開幕。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/564.html
「姫矢さぁん!」 光の中に消えていくウルトラマン―姫矢准。僕はただ、彼の名を叫ぶことしか出来なかった……。 ダークメフィストこと溝呂木眞也と姫矢を包む消滅を告げる光が、異空間の暗い空を満たしていく。それはこの 一連の事件の終焉を示すものでもあり、また―……。 「ここは……何処だ?」 ウルトラマンで‘在った 者、姫矢准にとっては新たな始まりを意味していた。 鳴海の岸に流木と共に漂着していた彼の手には、デュナミストの証がしっかりと握られていた。それの僅かな鼓動と 共に、彼はこの世界で眼を覚ます。 手に入れたのは光の力。出会いと別れ。悲しみを知る彼が不屈の心を持つ少女と出会う時、新たな絆が生まれ来る。 魔法少女リリカル☆なのは~NEXUS~ 始まります 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1234.html
魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~ 第六話「その日、機動六課。そして崩れ落ちる城(前編)」 忠勝は六課のヘリポートに立つ。 どうやら何かの警備らしい。どちらにしろ自分は居候の身なので行けない。 「じゃあ・・・忠勝さん、ヴィヴィオを・・お願いね。」 なのはとフェイトが少し寂しそうにヘリという空を翔る船に乗る。ヴィヴィオも寂しいのだろう顔が不安で染まっている。 しかしこれも仕事。三人もよくわかっているはずだ。このままでは埒が明かないので、心を鬼にしてヴィヴィオを連れてその場から去った。 「忠勝っ・・・」 ヴィータが何か言いそうだったのをシグナムが止める。 「言うな。本多も・・・辛いんだ。」 皆が乗ったヘリは管理局地上本部へと向かった。予言が現実になるまで・・・あとわずか。 有名な管理局員が集まる管理局地上本部。 ニュース番組にてレポートが始まり、現場にいけなかったメンバーはそれぞれの思いでモニターに目を向ける。 「公開意見陳述会開始まで、あと三時間を切りました。本局や各世界代表による、ミッドチルダ地上管理局の運営に関する意見交換が目的のこの会議。 波乱続きとなることが珍しくなく、地上本部からの陳述内容について注目が集まっています。今回は特に、かねてから議論が絶えない、地上防衛用の迎撃 兵器「アインヘリアル」の運用についての問題が話し合われると思われます。」 忠勝も、モニターに眼を向ける。ヴィヴィオは今、アイナが相手をしてくれている。 「陳述会の開始まで、ライブの映像とともに、実況を続けていきます。」 忠勝は立ち上がり、何もないことを祈りながら外に出ることにした。 外に出ると、隣からこの世界にいるはずのない見知った男が現れた。その男は巨大な錨を持ち、真剣な面持ちで忠勝に話しかけた。 「いよぉ、戦国最強本多忠勝さんよ。今日はなンか重要な日らしいな。」 男の名は長曾我部元親。戦国の世では何度か戦ったことがある。忠勝は槍を構えた。 「おいおい、ここで戦闘したってしゃあねぇだろ。一応俺はアンタに話をしにきた。風魔もいるんだがな、怪我をしちまってて来れねぇ。」 忠勝は槍を下ろし、また誰もいない門へと顔を向けた。向けたというよりかは、睨んでいる。 嫌な予感が彼の頭から離れなかったのだ。だからこうして、門の向こう側から映える太陽を眺める。 それぐらいしか気を紛らわすことができなかった。 「それで・・・俺達がこの世界に来た理由・・・ちょっとずつ・・・憶測だがわかってきたぜ。」 「!?」 「まぁ落ち着け・・・。俺等より前に生死不明になったやつ等がいてよ・・そいつらが関係してるみてぇだ。」 自分達より生死不明になった武将・・。 考え込んでからしばらく経ったあと、忠勝はハッとしたように元親の顔を見る。 「そうだ・・・魔王のオッサン・・・織田信長、その配下・・・明智光秀。この二人は本能寺で明智光秀が謀反を起こし、崩れ去る本能寺の中で 斬り合ってたのを最後に、サッパリ姿形消えちまった。」 その話は自分も知っている。 炎で焼け落ちる本能寺の中で斬り合ってた魔王と悪臣。崩れ落ちた本能寺の瓦礫を掃除しても遺体すらなかったという。 残るはずの武器も消えていた。つまり、もしかしたら自分達より先にこの世界に来たのかもしれない。 「・・・で、この世界に来てから知ったんだが・・次元震っつーもんがあるらしいぜ。一見普通の地震と変わらねぇがその地震によって次元と次元を 繋げる穴がポッカリと開いちまうことなんだ。多分、あの二人の大きすぎる邪気に引き寄せられたんだろう。偶然にも謀反の時に、地震が起こったという証言も聞いた。 で、その二人があっちに行っちまったことで・・・なんつーんだ。その穴がゴチャゴチャになっちまって、穴ができやすくなって・・あとは知ってのとおりだ。」 その話を聞いても一つ納得がいかない。 何で元親は自分がここにいることをわかったのか。自分の存在は特定の人以外は秘密のはずだし、何よりこの世界に慣れてないはずの元親がそんなことを知ってるのか。 忠勝はわずかに赤く光る眼で元親を睨みつける。大体の内容を理解した元親はため息をついて説明する。 「聖王教会だかなんだかしらんが、そういうとこに拾ってもらった・・そういうわけだ。」 忠勝は、少し同情した。 「IS発動、ランブルデトネイター。」 「遠隔召喚・・・開始。」 そのころ地上管理局本部では、惨劇が起こっていた。 爆発音が響く。倒れていく人たち。進入するガジェットドローン。 その数は軽く1000を超えている。 中にはまだ人が残っている。走るフォワードメンバーとヴィータ、リィン。 「本部に向かって・・航空戦力・・・!?速い・・・!!」 「ランク・・推定オーバーS!!」 ロングアーチからの連絡を聞き、ヴィータは走りながらリィンを呼ぶ。 「そっちは、あたしとリィンが上がる!!地上は、こいつらがやる!!」 ポケットから待機状態のシュベルトクロイツとレヴァンテインを取り出し、ティアナに渡す。 「こいつらのことを・・・頼んだ!」 「届けてあげてくださいです!」 「「「「はい!」」」」 スバル達と別れるヴィータ。 ヴィータは赤い光、リィンは蒼白い光となり、一つになる。 「ユニゾン・イン!」 普段の真紅に染まったゴスロリ風のバリアジャケットが生成されてからバリアジャケットが純白へと染まる。 ユニゾン・インしたヴィータとリィンは、まだ見ぬ敵の元へと飛んでいく。そして 「ギガントハンマー!!」 「外したです!」 雲が消えたその空に浮かぶは茶髪だった男。今は髪が金に染まり、赤き眼光をヴィータにへと向ける。 その男の名は、ゼスト。 そしてその騒ぎの中、別々の場所でガジェットドローンが出てくるはずの魔方陣からは、二つの人影が出ていた。 一方ーー 「うわぁぁ!」 突然の襲撃者の攻撃に吹き飛ぶスバル。 ティアナ達は桃色の魔力に囲まれ動けない状態となっていた。 「ノーヴェ、作業内容忘れてないっすか~?」 ノーヴェと呼ばれたスバルによく似た赤髪の少女はそっけない態度で返事をする。 「うるせーよ。忘れてねぇ。」 奥から出てきた大きなサーフボードのような機械を持った少女、ウェンディがからかうように語る。 「捕獲対象三名。全部生かしたまま持って帰るんすよー?」 「・・・旧式とはいえ、タイプ0がこれくらいでつぶれるかよ。」 「・・・・戦闘・・・・機人・・・」 その二人の少女の姿を見てポツリとつぶやくスバル。 「ふっふーん?あたし達だけじゃないっすよー?」 その背後には無数のガジェットドローン。 「絶対絶命ってやつね・・これは・・・。」 ティアナが敵を思い切り睨みつけながら銃口を向ける。 「それでも・・やらなきゃいけない・・・」 ストラーダの切っ先を向ける。 「それが・・・私達の今やるべきこと!」 「キュクルー!」 ケリュケイオンを桃色に光らせ、戦意を見せるキャロとフリード。 「ちっ・・・。だったら!」 まず先手を切ったのはノーヴェ。黄色のウィングロードを発動させてスバルへと突撃。 「くっ・・・!」 スバルも突撃。そして拳と拳がぶつかり合う。すぐさまスバルは離れ、その離れた隙をついてティアナが射撃。 ノーヴェは回避して後ろに回りこみ、ティアナに蹴りを喰らわせようと、突撃する。 ティアナに当たったと思ったらティアナの姿は光の塵となって消えた。 「・・・幻影!?」 蹴りの衝撃であたりに砂塵が起こり、ウェンディが眼球に内蔵されているカメラであたりを見ると、四人ではなく、 数十人に増えたスバル達であった。 「うっそぉ!?・・なーんてね!」 一見成功したかに見えたこの作戦、だが二人の少女の悲鳴によって失敗に終わる。 「きゃあぁぁぁ!!」 「このっ・・・はなせぇ!」 ガジェットドローン参型の機械の触手に捕らえのは幻術を発動させていたティアナ、キャロの二人であった。 殴りかかろうとしていたスバル、切りかかろうとしていたエリオはその悲鳴によって動きを止められた。 「策を作るときは常に相手の裏を突け・・・。松永のおっちゃんが言ってたことがこんなとこで役に立つとはな。」 「さぁ、人質もいることだし、ついてきてもらうっすよ~?」 本当に絶体絶命かと思われたその刹那、手裏剣がティアナとキャロを捕らえていた触手を切り裂いた。 爆発の砂塵の中、スバルが目にしたのは見覚えのある赤髪。 「風魔・・・さん?」 その名を呟いた瞬間、その赤髪の人影の中心の砂塵が晴れる。そこに立っていたのは迷彩服を着ていた男。 手には少し大きい手裏剣が二つ。 「悪いけど、俺伝説の忍って呼ばれるほど働くの好きじゃないのよね~。ま、俺のほうがいい男だろ?」 その男を殺気を込めた目つきで睨み、構えるノーヴェ。 「・・誰だ。」 並の人なら逃げ出しているであろうその殺気を受けても不敵に笑うと手裏剣をヨーヨーのようにもてあそぶ。 数秒すると男の眼光が鋭くなっていた。 「人呼んで猿飛佐助。さぁーて、お前に俺の動きが見切れるかな?あ、言っとくけど一人じゃないよ?」 「何?」 その瞬間、装甲がボコボコにへこみ、上半分が引きちぎられたガジェットドローンの残骸が吹き飛んできた。 残骸を見て目を見開き、驚愕するノーヴェとウェンディ。 「フン・・・これしきで我に挑むとは・・・片腹痛いわ。」 奥から現れたのは人間にしては大きすぎる身長、体格をした男。片手にはボロボロになったガジェットドローンが握られている。 「我が名は豊臣秀吉・・・。貴様等は我を楽しませてくれるのだろうな・・・?」 二人の武将が、並んでノーヴェ達二人を睨む。 「・・・あ、お嬢ちゃん達早く行ってくれないかな?」 「あ・・・はい!撤退ー!!」 突然の乱入者にわけがわからないままスバル達は隊長の下へと走る。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/649.html
解ける謎!!(後編) ◆LuuKRM2PEg ◆ 激しさを増す戦いの影響で、辺りは次々と吹き飛んでいった。 仮面ライダーと、アンデッドと、ソルジャーの手によって。 周囲の大地は所々が砕かれ、所々に亀裂が走り、植物はメラメラと音を立てながら燃えていた。 もはや、森林という元の原形は一片たりとも、保っていない。 そんな中で、三人は戦いを繰り広げていた。 カブトは、クナイガンの引き金を引いて、イオンで出来た弾丸を放つ。 アンジールは、渾身の力を込めてリベリオンを振るって、それを弾いた。 コーカサスビートルアンデッドは、ソリッドシールドを形成させ、イオンビームを防ぐ。 遠距離からの攻撃は、通らずに終わった。 カブトはクナイガンの持ち方を、クナイモードに変える。 目前からは、アンジールがリベリオンを振りかぶりながら、迫っていた。 「フンッ!」 「はあっ!」 クナイガンを頭上に掲げて、カブトは銀色の剣を防ぐ。 二つの得物が、掛け声と同時に激突し、火花を散らせた。 クナイガンとリベリオンの刃が擦れ合い、互いの力が拮抗する。 しかし、純粋な腕力ならばアンジールの方に、分があった。 故に、カブトは徐々に押されていく。 彼はふと、疑問を感じた。 コーカサスビートルアンデッドの姿が、見られない。 鍔迫り合いの中、彼は一瞬だけ横に視線を移す。 すると、見えた。 少し離れた位置から、コーカサスビートルアンデッドが真っ直ぐに腕を向けているのを。 何をするつもりなのか。 疑問を抱いた瞬間、掌から輝きが放たれる。 「「ッ!?」」 カブトとアンジールは、同時に背後へ飛んだ。 その直後、轟音と共にエネルギー弾が発射され、彼らのいた場所を飲み込んでいく。 そして凄まじい爆発が起こり、辺りの地面を容赦なく吹き飛ばした。 しかし、それだけでは終わらない。 音と共に発生した爆風は、カブトの身体を容赦なく飛ばした。 「くっ!」 だが、彼はすぐに受け身を取る。 そのお陰で、地面に激突する事態だけは、避けることが出来た。 ここから半径三メートル。 視界を遮る物は、全て跡形もなく吹き飛ばされていた。 「なるほどな」 体勢を整えながら、カブトはぽつりと呟く。 コーカサスビートルアンデッドは、まだこんな隠し球を持っていたとは。 先程の念力に加えて、今のエネルギー弾。 そしてアンジールと同じように、奴は自分の戦いを見切っている。 状況は、こちらが圧倒的に不利だ。 だがそんなことは関係ない。 おばあちゃんだって、言っていた。 仕事は納豆のように粘り強くするものだ…………と。 だから、今は必死に戦う。 その言葉を思い出しながら、カブトは敵に振り向いた。 「…………貴様、俺を巻き込むつもりだったのか」 アンジールは、コーカサスビートルアンデッドを睨み付ける。 彼もまた、エネルギー弾による衝撃波に、吹き飛ばされていた。 後退したことで、幸いにもダメージは負っていない。 「君だったら、すぐに避けられたでしょ?」 「何?」 「そんなことより、カブトを倒そうよ」 しかしコーカサスビートルアンデッドは、まるで悪びれもせずに答えた。 アンジールが避けるのを見て、彼は失望の感情を抱く。 この男は優勝するためなら、何でもするかと思っていた。 だが、実際はこのザマ。 カブトを止めている隙にエネルギー弾を放とうとしたが、避けるなんて。 (やれやれ、こいつはただの腰抜けだな) コーカサスビートルアンデッドは、心中で溜息を吐く。 もうこの男は駄目だ、使えない。 初めは妹を殺した自分の駒になるという、シチュエーションに心を躍らせた。 しかし、実際の戦いになってはロクに使えない。 カブトを始末するための道具にしたが、それすらも満足に出来ないとは。 だが、今だけは特別に一緒に戦ってあげよう。 侮蔑の視線を一瞬だけアンジールに向けて、カブトに振り向いた。 「ゲームを続けようか、カブト」 言い放ちながら、コーカサスビートルアンデッドは足を進める。 その様子は、まさに王。 カテゴリーキングの名が示すように、威風堂々としていた。 異形の身体からは、圧倒的と呼べるほどの覇気を放っている。 「一つ教えてやろう」 それを真っ向から受けながらも、カブトは微動だにしない。 彼もまた、一直線に足を進めていた。 その様子は、まさに太陽。 仮面ライダーカブトに与えられた、太陽の神の称号を示すように、威風堂々としていた。 「例え如何なる王が相手だろうと……太陽の前には平伏すのみ」 「太陽だって? 笑わせないでよ」 カブト虫を彷彿とさせる赤い仮面ライダーと、カブト虫を彷彿とさせる金色のアンデッド。 昆虫の王と、昆虫の王。 互いに言葉を、そして敵意を乗せた視線を激突させる。 太陽を自称する、カブト。 王を自称する、コーカサスビートルアンデッド。 同時に武器を振るって、激突を再開した。 クナイガンとオーバーオールの刃が、闇夜で煌めく。 力に任せたコーカサスビートルアンデッドの斬撃を、カブトは一つ一つ受け流した。 接触面から、次々と甲高い音が響く。 数度の撃ち合いが終わった後、彼らは距離を取った。 しかし、カブトは息を整える暇が与えられない。 地面に足を付けた直後、流れるようにアンジールが突進してきたのだ。 「オオォォォォッ!」 咆吼と共に、リベリオンが左袈裟斬りで振るわれる。 再度跳躍して、カブトは斬撃を回避した。 その結果、刃先は空振りに終わる。 カウンターを放つために、カブトはクナイガンを振るった。 しかし、それは届かない。 「うっ!?」 突然、身体が宙に浮かぶのを感じる。 地面から両足が離れた瞬間、カブトは数メートル後ろに吹き飛ばされていった。 受け身を取ろうとするが、四肢が動かない。 この現象には、覚えがあった。 数時間前にも経験した、キングの念力。 無様にも、カブトは地面に叩きつけられてしまう。 そのまま転がってしまうが、何とか起きあがって体勢を立て直した。 刹那、彼は見てしまう。 コーカサスビートルアンデッドとアンジールが、こちらに掌を向けているのを。 それを目撃したカブトの行動は、早かった。 「――――プットオン!」 『PUT ON』 カブトゼクターの角を、反対側に倒す。 それは咄嗟の判断だった。 この離れた位置からのクロックアップは、途中で切れる危険性が高い。 故に、マスクドフォームに戻るための機能、プットオンを選ぶ。 電子音声と共に、伸びた角が元の位置に下がっていった。 その直後、キャストオフによって吹き飛んだ銀色の鎧が、カブトの身体を覆う。 「遅いよっ!」 「ファイガ!」 そして、それぞれの腕から、エネルギー弾と灼熱の炎が襲いかかった。 ファイガはカブトの全身を飲み込み、光線が爆音を鳴らす。 一発だけでなく、無慈悲に次々と放たれていった。 連射される二つの力によって、大地は抉られていく。 それによって、大量の粉塵が舞い上がった。 視界が遮られたのを見て、二人はようやく攻撃を止める。 この光景を見て、コーカサスビートルアンデッドは充実感を覚えた。 (ハハハッ! 太陽とか名乗っておきながら、やっぱり弱いな! さて、どんな無様な姿を見せてくれるかな?) 敵は咄嗟にマスクドフォームになった。 『MASUKARE-DO』に書かれた文章によると、あれは防御に特化した形態らしい。 だが、この攻撃の前では意味を成さないだろう。 『CAST OFF』 侮蔑の視線を向けていると、音声が聞こえた。 その途端、目の前から金属片が放出されて、一気に煙が晴れる。 コーカサスビートルアンデッドとアンジールの脇を、凄まじい勢いで通り過ぎた。 『CHANGE BEETLE』 そして再び、粉塵の中から姿を現す者がいる。 言うまでもなく、ただ一人。 ライダーフォームへと形態を変えた、カブトだった。 しかし、先程とは少しだけ違うところがある。 短剣一本で戦っていたはずなのに、反対側の手に見慣れぬ剣が握られていたのだ。 「――――いくぞ」 右手には、クナイガンを。 左手には、黄金の輝きを放つ巨大な剣を持っていた。 それはZECTが生み出した、全てのゼクターの頂点に立つ必殺の武器。 ハイパーゼクターと同じく、ワームとの戦いに勝利する鍵の一つ。 パーフェクトゼクターの名を持つ、究極の剣だった。 ◆ 時間は、ほんの少し遡る。 爆発の衝撃を受けて、カブトは地面に吹き飛ばされた。 身体が転がっていくが、瞬時に勢いを止める。 エネルギー弾と炎の直撃を受けたが、瞬時にマスクドフォームとなったため、ダメージは軽減された。 関節を軽く動かす。やはり、致命傷は負ってない。 周りを見渡しながら、カブトは考える。 煙幕が広がっているので、視界がはっきりしない。 キャストオフをする手があるが、それでは格好の的になるだけ。 かといって、このままでは煙の向こうから、奇襲を受けるだろう。 (…………ん?) 周囲を見渡すカブトは、思考を止めた。 吹き上がる爆煙の向こうで、一つの影を見つける。 一瞬、敵かと思い構えを取った。 しかし、影は動かない。 それは棒のように、この場に突き刺さっている。 何かと思い、カブトは一歩前に進んだ。 見えるところまで行った途端、仮面の下で目を見開く。 (これは、まさか……) そこに顕在するのは、一本の巨大な剣だった。 刀身は黄金色に輝いて、握り手には四つのボタンが備え付けられている。 それぞれのスイッチには赤、黄、水色、紫の四色に彩られていた。 この武器を、カブトは知っている。 ワームを初めとした数多の脅威に対抗するため作られた、完全の名を持つゼクター。 「やはり、パーフェクトゼクターか…………」 敵に悟られないほどの小さな声で、カブトは呟く。 何故、これがここにあるのか。 ここに、彼の知らない事実が存在する。 先程合流したスバル・ナカジマの荷物の中に、パーフェクトゼクターが存在した。 しかしそれは、八神はやてが『妖艶なる紅旋風』を放ったことで、このC-9地点まで吹き飛ばされてしまう。 そして偶然にも、コーカサスビートルアンデッドとアンジールの攻撃によって、カブトもまたここまで辿り着いた。 彼はすぐにパーフェクトゼクターを手に取る。 まるで主の帰還を喜ぶかのように、刃は輝きを放った。 ハイパーフォームにはなれないため、本来の威力を発揮することは出来ない。 しかし、自身の中で力が沸き上がっていくような感覚がした。 これさえあれば、戦える。 カブトは、空いた方の手でゼクターホーンを反転させた。 「キャストオフ!」 『CAST OFF』 カブトゼクターから、力強い音声が発せられる。 その瞬間、堅牢な鎧と共に、辺りの煙が吹き飛んだ。 ◆ C-9地点と、D-9地点の境目。 そこは既に、完全な荒れ地と成り果てていた。 カブトがパーフェクトゼクターを手に入れたことにより、戦況は更に変わる。 コーカサスビートルアンデッドとアンジールが、数と物量の差で有利に立っていたはずだった。 カブトの視線に、左右から同時に凶器が襲いかかるのを目にする。 彼はそれらに対抗するため、両腕を突き出した。 左から迫るオーバーオールを、パーフェクトゼクターで受け止める。 右から迫るリベリオンを、クナイガンで受け止める。 四つの武器が衝突し、火花が散った。 そのままカブトはバックステップを踏んで、距離を取る。 そして、構えを取った。 普段なら二刀流での戦いは行わないが、この場合は仕方がない。 (…………まるで、あいつみたいだな) ふと、カブトは仮面の下で笑みを浮かべる。 今の構えが、長い間共に戦っていたあの男と、とても似ているのに気づいたため。 『戦いの神』と呼ばれる、クワガタ虫を模したマスクドライダーの資格者と。 とても考えが甘いが、見ていてとても面白いあの男と。 仮面ライダーガタック。 否、加賀美新とよく似ていたのだ。 「そんな武器を使うなんて、いけないなぁ」 無論、感慨に耽っている場合ではない。 コーカサスビートルアンデッドは、こちらに腕を向けている。 これが意味するのは、二つ。 エネルギー弾での攻撃か、念力を使ってパーフェクトゼクターを奪うこと。 可能性としては、後者が高い。 両足に力を込めて、カブトは跳躍した。 その途端、先程立っていた空間は予想通り、歪みが生じる。 「はあっ!」 舞い上がるカブトは、空中でクナイガンを投げた。 標的は、地上にいるコーカサスビートルアンデッド。 突き刺さろうとした瞬間、刃はソリッドシールドに阻まれる。 だが、それでいい。 目的は先程のように、敵の視界を隠すこと。 それを果たしたカブトは、身体を反転させる。 目前からは、アンジールが片翼を羽ばたかせながら、高速で迫っていた。 「「ダアッ!」」 互いに武器を振るい、激突させる。 スーパーでの戦いを再現しているようだったが、二つの違いがあった。 一つ、二人は相手の戦術を見切っていること。 二つ、所持する武器の違い。 それ故、彼らの条件は拮抗していた。 パーフェクトゼクターとリベリオンが、間髪入れずに次々と振るわれる。 一度激突する度に、火花が飛んだ。 一度激突する度に、微かな光が灯った。 一度激突する度に、金属同士が激突する音が響いた。 一度激突する度に、闇が震えた。 純粋な力ならば、アンジールに天秤が傾く。 しかし今のカブトは、パーフェクトゼクターを手に戦っていた。 その威力は、クナイガンを上回る。 アンジールまでには届かないが、その要素を足すことでカブトは戦っていた。 やがて、彼らの打ち合いは一時終わる。 きっかけは、アンジールが更に上空へ羽ばたいたことによって。 (距離を取る…………なるほどな) カブトは、眼下に視線を移す。 案の定、その先ではコーカサスビートルアンデッドが、腕を向けていた。 直後、あのエネルギー弾が轟音と共に放たれる。 最初に使った念力は、ただの囮だった。 空中戦という、アンジールの本領を発揮できる状況まで追い込んで、先程のように光線を放つ。 しかしその攻撃を、ただ受けることなどしない。 「クロックアップ」 『CLOCK UP』 再び脇腹のスイッチを叩いて、クロックアップを行った。 瞬時にカブトは超高速の世界に突入して、落下する。 周りの光景が遅く見える中、パーフェクトゼクターのボタンに指を付けた。 『KABUTO POWER』 大剣から、音程の高い機械音声が発せられる。 それは、聞き慣れた音。 武器の力を発揮するための、合図だった。 音声が鳴った瞬間、パーフェクトゼクターの刀身にタキオン粒子が纏われる。 生まれた原子は稲妻の形となって、赤い輝きを放った。 そんな中、カブトは地面に着地する。 残された時間は、三秒も満たない。 彼は姿勢を低くしながら地面を蹴って、コーカサスビートルアンデッドの懐に潜り込んだ。 『CLOCK OVER』 全ての動きが、元通りになる知らせが告げられる。 コーカサスビートルアンデッドはそれに反応し、振り向いた。 視界に映るカブトは、パーフェクトゼクターの握り手に備えられた、引き金を引く。 『HYPER BLADE』 「はあああぁぁぁぁっ!」 「なっ……!?」 咆吼と電子音声が、重なった。 パーフェクトゼクターから、凄まじいほどの赤い風圧が放たれる。 カブトはコーカサスビートルアンデッドの胸板を、下から斜め上に薙ぎ払った。 咄嗟に発生したソリッドシールドすらも、易々と砕いて。 タキオン粒子によって生まれた刃、ハイパーブレイドの一撃は、コーカサスビートルアンデッドを呆気なく吹き飛ばした。 その反動は凄まじく、身体が痺れるのをカブトは感じる。 いつもなら、感じたことのない衝撃。 本来パーフェクトゼクターは、ハイパーフォームに変身することを前提で、作られた武器。 このゼクターに内蔵されている一撃の威力は高いが、反動も凄まじい。 通常の形態で技を使っては、こちらに衝撃が来ても当然だった。 加えて、手応えがいつもより感じられない。 (だが、キングにダメージを与えた…………上出来だ) それでも、コーカサスビートルアンデッドに傷を負わせた。 クロックアップの疲労や、パーフェクトゼクターの反動など、耐えればいいだけ。 天の道を往く自分なら、この程度は何て事無い。 先程投げたクナイガンを、カブトは拾う。 その直後、空に飛んでいたアンジールもまた、地面に降りた。 片翼から羽根が舞い落ちる中、無言でリベリオンを構える。 カブトもまた、何も言わずに二刀流の構えを取った。 二人は睨み合い、冷たい空気が広がる。 「あ~あ…………痛いなぁ」 そんな中、緊張感を壊すような声が聞こえた。 カブトとアンジールは、そちらに振り向く。 二人の視線の先から、異形の怪人が黄金色の身体を輝かせながら、ゆっくりと迫っていた。 「やってくれるじゃないか、カブト。でも、礼を言うよ」 コーカサスビートルアンデッドは、気怠そうに肩を回す。 現れたアンデッドを見て、カブトは違和感を感じた。 あるはずの物が、身体にない。 「なんだかよく分からないけど、君のおかげで力を取り戻せたよ! ありがとう!」 そう、コーカサスビートルアンデッドの首にあるはずの首輪が、無かったのだ。 絶対に外せないはずの物が、何故。 カブトの中で、疑問が広がっていく。 ◆ これは、幾つもの出来事が重なった結果、起こったことだった。 まず一つ目。 コーカサスビートルアンデッドはウルトラマンメビウスと戦った際に、二人のウルトラマンが力を合わせて放った技を受けた。 メビュームナイトブレードの名を持つ、闇を切り払う剣を。 それを受けたコーカサスビートルアンデッドは、莫大なダメージを負った。 この時はアンデッドの再生能力と、治療の神 ディアン・ケトのカードを使って、命を繋ぐ。 次に二つ目。 これは参加者の知らない出来事だった。 第四回放送の際に主催側で内乱が起きて、プレシア・テスタロッサは死亡。 新たにゲームマスターとなったジェイル・スカリエッティが、参加者とのバランスを取るために、全ての首輪に備えられた爆薬を解除した。 その結果、首輪の爆発による死亡は、起こらなくなる。 そして最後に三つ目。 パーフェクトゼクターを手に入れたカブトによって、必殺の攻撃を受けた。 下から上に掬い上げるように放たれた、ハイパーブレイド。 その刃先が、コーカサスビートルアンデッドの力を縛る首輪に、偶然にも命中したのだ。 本来なら、首輪はこれだけでは壊れない程の耐久力を持っている。 しかし、メビウスとの戦いで敗北した際に、大きく劣化していたのだ。 アンデッドの再生力とディアン・ケトで、コーカサスビートルアンデッドの傷は治った。 だが、治癒されるのは身体のみ。 能力を縛る首輪は、その対象ではなかったのだ。 メビュームナイトブレードによる爆発と、ハイパーブレイドの一撃。 それら二つと、主催者が行った爆破解除が奇跡的に合わさって、首輪から解放された事になる。 その結果、コーカサスビートルアンデッドは本来の力を、ある程度のみ取り戻した。 恐らく、この真相に気づくのは、誰一人としていない。 ◆ 「ふふふふふふ、力が漲っていくなぁ…………!」 コーカサスビートルアンデッドはわざと両腕を広げながら、嘲るように喋る。 その態度からは絶対的有利に立ったという、余裕が感じられた。 首輪が破壊されて、何故無事でいられるのかは、彼自身分からない。 だが、真相などどうでもよかった。 忌々しい首輪が無くなったと言うことは、もう死ぬことはない。 元から心配もしていなかったが。 自分の身体が軽くなったような感覚を、コーカサスビートルアンデッドは覚えている。 そのまま、カブトとアンジールの方に振り向いた。 「せっかくだから、君にプレゼントをあげるよ」 軽く呟きながら、コーカサスビートルアンデッドは腕を向ける。 そしていつものように、二人を目がけて勢いよく衝撃波を放った。 カブトとアンジールはすぐに後ろに飛んで、回避行動を取る。 直後、彼らのいた大地にエネルギーの塊が激突し、大爆発を起こした。 その威力は先程までとは比較にならず、大地を激しく揺らしていく。 そしてエネルギーの余波で飛ばされそうになりながらも、カブトとアンジールは地面に着地した。 そんな中でも、コーカサスビートルアンデッドは笑い声を漏らしている。 「わかったでしょ、君じゃ僕には勝てないって。さあ、どうするのかな?」 たった今放った衝撃波の威力を見て、確信していた。 やはり自分こそが、最強の存在であると。 そして、脆弱な人間をもっと苦しめてやりたい。 コーカサスビートルアンデッドの脳裏に、いつもの光景が浮かぶ。 苦しむ人間の姿を見つけて、それを携帯のカメラに収めてホームページにアップロードすること。 もしも目の前にいるカブトを敗北へ追い込み、その姿にタイトルを付けるなら何がいいか。 そんなことを考えながら、コーカサスビートルアンデッドはエネルギー弾を放ち続ける。 「くっ!」 標的となったカブトは、左右に飛んで回避した。 彼は必死になって避けるが、その先に繋ぐ余裕がない。 何度目になるかわからない爆発の直後、周囲が再び煙で覆われる。 それでもコーカサスビートルアンデッドは、笑い声を上げながらエネルギー弾を発射した。 今度は、プットオンもクロックアップもさせない。 ペースがこちらに乗ったと確信した故の行動。 その最中、爆音と共に広がっていく粉塵の中から、一つの影が跳び上がってきた。 「はああぁぁぁぁぁっ!」 「ちっ!」 パーフェクトゼクターを構えながら、カブトは姿を現す。 叫びと共に大剣を、重力の落下速度と重ねながら、敵に目がけて振り下ろした。 コーカサスビートルアンデッドは、オールオーバーを構えて迎え撃つ。 そして、二つの刃は激突した。 カブトの与えた一撃によって、コーカサスビートルアンデッドが立つ地面は、ほんの少しだけ沈む。 だが、そこから先に進むことは出来なかった。 純粋な腕力だけで言えば、コーカサスビートルアンデッドに分がある。 カテゴリーキングの称号があるように、それはアンジールと匹敵するほどだった。 それを察したカブトは、上空からの攻撃を選ぶ。 この結果、ようやくコーカサスビートルアンデッドにまで力が届いたのだ。 地面に足が付いたカブトは、背後へ飛ぶ。 彼の首には、あの銀色の首輪が巻かれていなかった。 コーカサスビートルアンデッドの攻撃で煙が吹き荒れる中、彼はもしやと思い外すことを選ぶ。 結果、爆発は起こらなかった。 (どういう事だ、爆発が起こらないとは…………何かの罠か?) プレシア・テスタロッサは殺し合いを強制させる手段として、一人の少女を犠牲にしたはず。 だが何も起こらない。 もしや、これ自体が何かの罠で、首輪を外した参加者にペナルティを用意してるのか。 (いや、考えるのは後だ。まずはこいつらを倒すことが先決だ) 目の前には、コーカサスビートルアンデッドとアンジールがいる。 まずは、この二人との戦いに集中するべき。 特にアンジールも、自分達を見て異変が起こらないと気づいて、首輪を掴む。 そして力ずくで外し、残骸を投げ捨てた。 案の定、その首が飛ぶことはない。 こうしてここにいる三人は、自らに課せられた制限から解放させた。 彼らは同時に、地面を蹴って走り出す。 そのまま武器を掲げた。 ◆ 三つ巴の戦いを物陰から眺める金居は、舌打ちをする。 その理由は、コーカサスビートルアンデッドの首輪が突然破壊されたため。 あれは自分の記憶が正しければ、爆発する仕組みになっているはずだ。 しかし、カブトの攻撃を受けても何も起こらない。 ここは禁止エリアになっている訳でもないのに、何故。 疑問が広がっていく中、カブトとアンジールも首輪を外す。 それでも爆発することはなかった。 「チッ、何がどうなっている…………?」 苛立ちながら呟く。 物事が自分の都合の良いように動いていると思ったら、むしろ逆だった。 だが、これは逆にチャンスかもしれない。 金居は自分を縛り付ける、首輪に手を掛ける。 そのままアンデッドの力で、勢いよく引きちぎった。 数秒の時間が経過するが、やはり何も起こらない。 「何だと……」 何故爆発しないのか。 これが意味することは、参加者の解放。 何かの罠を、プレシアは仕掛けているのか。 もしや主催者は、自分達をこの世界もろとも捨てようとしている。 だから、首輪を爆発させる必要が無くなったのか。 金居は考えるが、答えが見つからない。 そんな彼の前では、未だに戦いが続いていた。 【2日目 黎明】 【現在地 D-9 荒れ地】 【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【状態】疲労(中)、全身にダメージ(中)、カブトに変身中、首輪が爆発しなかった事による疑問 【装備】ライダーベルト(カブト)&カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード 【道具】なし 【思考】 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。 1.アンジールとキングを倒す。 2.なんとかして皆と合流して全員をまとめる。 【備考】 ※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。 ※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。 ※ハイパーフォームになれないので、通常形態でパーフェクトゼクターの必殺技を使うと反動が来ます。 【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【状態】健康、コーカサスビートルアンデッドに変身中 【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード 【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ハートの1、3~10)、ボーナス支給品(未確認)、ギルモンとアグモンと天道とクロノとアンジールのデイパック(道具①②③④⑤) 【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル 【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story 【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸 【道具④】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER 【道具⑤】支給品一式、 【思考】 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。 1.アンジールと共に、カブトを叩き潰す。 2.先程の紅い旋風が何か調べる。 3.他の参加者にもゲームを持ちかけてみたり、騙して手駒にするのもいいかも? 4.『魔人ゼロ』を演じてみる(そろそろ飽きてきた)。 【備考】 ※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。 ※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。 ※十分だけ放送の時間が遅れた事に気付き、疑問を抱いています。 ※首輪が外れたので、制限からある程度解放されました。 【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 【状態】疲労(中)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感、キングへの疑念、主催陣(キング含む)に対する怒り 【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯 【道具】なし 【思考】 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。 1.天道との決着を付ける。 2.参加者の殲滅。 3.ヴァッシュの事が微かに気掛かり(殺す事には変わりない)。 4.キングが主催者側の人間でなかった事が断定出来た場合は殺す。 5.主催者達を許すつもりはない。 【備考】 ※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。 ※オットーが放送を読み上げた事から主催者側にナンバーズの命が握られている可能性を考えています。 ※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。 【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒、首輪が爆発しなかった事による疑問、現状への危機感。 【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s ~おかえり~ 【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×5、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、Lとザフィーラとエネルのデイパック(道具①②③) 【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)@オリジナル、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K、クラブのK)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ 【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1~3)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、かいふくのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使 【道具③】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック 【思考】 基本:プレシアの殺害。 1.何故、首輪が爆発しなかった? 2.プレシアの要件通りスカリエッティのアジトに集まった参加者を排除するor仲違いさせる(無理はしない方向で)。 3.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。 4.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。 【備考】 ※放送の遅れから主催側で内乱、最悪プレシアが退場した可能性を考えています。 ※首輪が爆発しなかったことから、主催側が自分達を切り捨てようとしている可能性を考えています。 ※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。 【全体備考】 ※フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerSがC-9地点に向かっています。 ※戦いの余波によって、D-9地点が荒れ地となりました。 ※アンジールのデイバッグ(中身は支給品一式)がD-9地点に放置されています。 【首輪の解除について】 ※解除しても、爆死が無くなっただけで全ての制限から解放されません ※どの程度まで解放させるかは、後続の書き手さんにお任せします Back 解ける謎!!(前編) 時系列順で読む Next 分かたれたインテルメッツォ 投下順で読む Next 分かたれたインテルメッツォ 天道総司 Next Masquerade アンジール・ヒューレー Next Masquerade キング Next Masquerade 金居 Next Masquerade