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* 「人間じゃ、ない……?」 フェイトの発した台詞にジョーカーの体を強ばらせるカズマ。フェイトは彼を抱き締めたまま、その顔は見えない。 彼女がどんな表情で自らを“人間ではない”と言うのか、それをカズマは知ることが出来ない。 「フェイトちゃんは人間だよ!」 「なのは、私はそういう意味で言ったんじゃないの。うん、母さんやなのはのお陰で私は生まれが特殊でも生きてこれた。今でも感謝してるよ」 「生まれが……じゃあ、フェイトはどうやって――」 「――今から話すよ。カズマには、聞いてほしいから」 腕をほどいたフェイトが、カズマに向けて小さく微笑みかけた。 それが、彼女の話の始まりだった。 リリカル×ライダー 第十二話『来訪者』 「プロジェクトFATE――――それがフェイトの出生の秘密なのか」 「……うん」 彼女が話した一つの計画。 時空管理局には組織を束ねる中枢機関、最高評議会と呼ばれる存在があったらしい。 彼らは管理局が質量兵器、つまり銃などの兵器を禁止しているため常に戦力不足であり、そのため次元世界の治安を守り切れない状況だった。そんな現状を打破するために、彼らはある計画を始動させた。 ――プロジェクトFATE 後にプロジェクトF、又は人造魔導師計画とも呼称されることになるこの計画とは、人為的に魔導師を生み出そうとする計画だった。 何故魔導師を生み出す計画になったのかというと、魔導師になれる人間は全体の三割程度で、更に才能ある魔導師となるとその中の数パーセントしかいないからだそうだ。なのはやはやては地球という本来魔導師の生まれない星で誕生した変わり種らしい。 また魔導師の魔導師たる所以である魔力精製器官『リンカーコア』を人為的に再現できないのも理由らしい。周辺の霧散魔力を集積、倍加させる魔力炉や一時的に魔力を充填して魔法の発動を強化、促進するカートリッジなどがあるものの、魔力そのものを生み出すことは出来ないそうだ。 話を戻すが、この計画を遂行する人材を確保するために最高評議会は古代の遺伝子操作技術を用いてある天才を作り出した。 ――ジェイル・スカリエッティ。 彼は遺伝子レベルでこの計画を遂行しようとする意思が刻み込まれており、その最高レベルの知能を発揮して計画を進めた。 彼が取った手段はクローン技術。魔導師をクローニングし、記憶を転写することで魔導師そのものを複製するというものだった。 元々、最高評議会は遺伝子操作技術で計画を進める予定だったため、スカリエッティもその方面に長けた人物になるよう調整されていたのだ。 「今は最高評議会もメンバーが変わったし、計画自体も戦闘機人計画に変わって廃れてしまったんだけどね」 フェイトが疲れたように息を吐く。所々なのはも助力しながら説明された話は、俺には理解し難いややこしい内容だった。 しかし重要なのはこれからだ。 「その計画とフェイトがどう関係するんだよ?」 フェイトが視線を下げる。そこでなのはがフォローするように口を開いた。 「計画自体はさっきも言うように破棄されたの。けれど、ある人がその計画を引き継いだ結果、計画は別の形で続行されることになった。その人が――」 「――私の、母さん」 引き継ぐように、フェイトが重い口を開いた。 「母さんは娘をなくしていて、我が子を生き返らせるために計画を引き継いだの。けれど、結局生み出されたのは失敗作だけだった」 「失敗作、って……」 俺の顔から血の気が引くのを感じる。いつの間にか、俺の体はジョーカーから人間の姿に戻っていた。 「私、だよ。その娘と同じ外見、記憶を持ちながら全くの別人になってしまった失敗作。試験管から生み出された人の形をした異形【ホムンクルス】」 「そういうことか……」 プロジェクト名をそのまま付けられたのは、おそらく失敗作としての烙印だろう。娘の名を授ける気も起きなかったのか。 「……くそっ!」 彼女には本当の親がいない。俺は死んだとはいえ覚えているが、彼女には覚える親の顔さえないのだ。 「でも平気だよ。今は私を大切にしてくれる母さんや親友がいるから。それに私は自分を生んでくれた母さんも好きだから」 そう言って笑うフェイト。 彼女は乗り越えたのだろう。他人には想像も出来ないほどの地獄を、親友や多くの人に助けられながら。 「だから今度は、カズマは私が助ける」 最初はなのはを傷付けた俺に敵意を剥き出しにしていた彼女が、次第に見舞いにも来るようになり、今はこんな俺の手を握って温かい言葉をかけてくれる。 だからこそ、気付いてしまった。 「――ありがとう。けど、俺はここには居れない」 「どうして!?」 フェイトの顔から目を反らして手を見る。俺は誰かに守られる存在でもなければ、ましてや人と共に存在できる体でもない。そう、この手は―― 「――全ての人々を、守るためにあるんだ」 そのためには、何かを求めてはならない。これは無償の戦いだ。例えそれが、目に見えないものだとしても。何か大切なものを作ってしまったら、俺の戦いも終わってしまうから。 そう、こんな所で立ち止まってはおれない。 ――――ドクン。 人々を、守らなければ。 ・・・ カズマがアンデッドを封印するために六課を出た次の日、はやてはまたもや頭を抱えたくなるような事態に直面していた。 「フォォォォォウ!」 意味不明な叫び声を上げる男。先程フェイトちゃんのスポーツカーと違って趣味の良いデザインの車が六課に突っ込んできたのだが、それに乗っていたのがこの男だった。 「いやぁ、入局申請? みたいなのをするために来たつもりが事故の処理をやる羽目になるとはねぇ」 椅子にふんぞり返りながらそんなことを言う男。 アンタが原因だろ、とは言わない。はやては大人なのだ。 「取り敢えず管理局保安部には連絡しておきました。それで、どういった御用件でしょうか」 極めて事務的に、かつ口調を固めに言うはやて。彼女としては、さっさと要件を済ませて出ていってもらいたいのだろう。 だがこの男、アロハシャツに丸いサングラスといった奇抜な外見や奇妙な言動からも分かる通り、一筋縄ではいかない。 「へぇ、キミが部隊長? やっぱり美しいモノは皆好きだよねぇ。けど怖い顔してると美貌も台無し、やっぱ誘うなら笑顔でなきゃ」 「……真面目に答えて下さい」 というより、話が通じなかった。 「いやぁ、管理局に入りにきたのよ。就職、ってヤツ?」 はやては目の前の男を鋭く睨み付ける。冗談にしか聞こえない口調で言っていい内容ではない。少なくとも、はやての前では。 だが彼女は大人だ。どれだけ内心怒り狂っていようとも、公の場では笑顔すら装う。 「管理局は非常に大きな組織です。入局されるのでしたら地上本部で身体検査、心理テスト、学力テストを受けて最適な部署を紹介してもらってください。ここでは募集は行っておりません」 ポーカーフェイスのまま、事務的な内容を告げるはやて。彼女は本人すら気付かぬ内に身構えながら、簡単な地図を描いた紙を差し出す。 「ではお引き取り――」 「――仮面ライダー、ここにいるんだよなぁ?」 その台詞に、はやてのポーカーフェイスは砕け散った。 彼女の頭に浮かぶのは前回の戦い。彼女の愛しい守護騎士が傷付いた、あの戦闘。 『俺は、仮面ライダーだ!』 カズマが放った、あの言葉。 「実は知り合いなんだよねぇ、ちょっと顔を見たくてさぁ」 「カズマ君のことを知っとるん!?」 はやての手は自然と、男の襟首に向かっていた。 「ちょっと過剰じゃない? スキンシップがさぁ」 「何を知っとるんや!? カズマ君はいったい何者なんや!」 魔導師では歯が立たなかった怪人を倒したカズマを思い出すはやて。彼女は彼が普通じゃないことに薄々感付いていた。記憶が戻りつつあることも。 だが彼女はそれを聞くことはできない。聞けばカズマはもうここに居れなくなってしまうから。 彼女は、部隊長なのだから。 「教えてや! 私は、私は知りたいんや!」 「ふぅん? 仮面ライダーって、こっちでも人気なんだ?」 そんな彼女を見ながら笑みを深める男。いつしかその笑みが危険なものになっていることに、はやては気付かない。 「じゃあさ、こうしようか」 「……なんや?」 「ライダーが来るまでに俺を倒せたら、とか」 その瞬間、彼女の体が三メートル先の壁まで吹っ飛んだ。 「ッ! かはっ、けほっ」 「今日は助けてくれる奴、いないんだろ? 二人でお楽しみってわけだ。フォォォォォウ!」 いつの間にか、男の外見は変化していた。 凶悪な面に羊を思わせる双角。左右非対称な体、白い右側の体は肩から真っ直ぐ歪角を伸ばし、白い羊毛で覆われている。 その名はカプリコーンアンデッド。 彼が上級アンデッドと呼ばれる存在であることを、はやては知る由もない。 「まさか、怪人やったなんて……」 吹き飛ばされた直後にデバイスがオートで起動したため、彼女の体は白黒のバリアジャケットに保護されていた。それでも装甲板を埋め込んだ壁をへこませるほど衝撃は、彼女を苦しめた。 「怪人? 違うな、俺達はそんな名前じゃない」 心底愉快気に笑うカプリコーンアンデッドは太く逞しい右腕を振り上げ、掌を拳の形に変えていく。 「俺達はアンデッドって言うんだぜ? フォォォォォウ!」 その右腕を、勢いよく振り下ろした。 「――ッ!」 はやても十字架を模した杖型デバイス、シュベルトクロイツを構えながらプロテクションを発動させて受け止めるが、その凄まじいパワーにじりじりと圧されていく。 「フォォォォォウ!」 さらに左腕も駆使しての連撃を放つカプリコーンアンデッド。その怪力によって打ち出される拳撃は単純なパンチにも関わらず凶器と呼べるレベルである。 特にはやては六課でも屈指の魔力量を生かした大規模魔力爆撃が得意な後方支援型だ。なのはのように砲撃がメインながらあらゆるレンジを対処出来るタイプとは異なる。 そのため近接戦では無類の強さを誇るアンデッドとは余りにも相性が悪すぎた。 (せやかて、こんな所で私は負けられないんや!) 少しずつ後退しながらもはやては新たな魔法の術式を起動させ、足元に正三角形を元にした魔法陣を展開させる。 「刃を以て、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー!」 詠唱によって術式を発動させる。 その瞬間、カプリコーンアンデッドを囲むように12の血に染まったような紅い短剣が出現する。 「行け――!」 それらが一気に中心点を屠るべく迫る。 「グォォォォオ!?」 カプリコーンアンデッドの全身にブラッディダガーが突き刺さり、さらに爆発を以て傷口を抉る。 それに対しカプリコーンアンデッドは今までの喋り方からは想像も出来ないような獣じみた呻き声を上げる。 「今の内に……」 はやてが素早く部屋の隅に備え付けられた警報装置を作動させようとする。だが―― 「なんで!? なんで作動せんのや!」 「テメェ、痛ぇじゃねぇかよ! 可愛い顔して舐めた真似してくれちゃってよぉ!」 作動しないスイッチを叩くはやてを後ろから襟首を掴んで強引に持ち上げるカプリコーンアンデッド。 その右腕を、ぎりぎりと握り込む。 「やっぱり女って汚いよなぁ。前も女に騙されて殺られたが、今度はそうはいかねぇ!」 カプリコーンアンデッドは舐めるようにはやての顔を眺め、そして彼女の腹に向けて拳を打ち込む――! 「フリジットダガー!」 その瞬間、カプリコーンアンデッドに氷で作られたような蒼く透き通ったナイフが幾重も刺さった。 「グォォォォオォォォ!?」 その傷口は瞬く間に凍り付いていき、カプリコーンアンデッドの動作を阻害する。 はやてはそれを見て弛んだ手から脱出する。 「リィン! 気付いてくれたんか!」 「もちろんです~! はやてちゃんを守るのがわたしの務めですから!」 リィンが場にそぐわない明るい笑みを浮かべる。妖精のような外見だから余計に場違いだ。 しかし、そんな笑顔も一瞬で暗いものに変わった。 「ただどこからか分かりませんけど、六課のコンピュータがハッキングをかけられて各設備が使用できなくなってます。ロングアーチスタッフはその処理に追われててんてこ舞いですよ~」 (それが原因やったんか……) いったい誰が、と思考を続けようとするはやて。 しかし彼女がそんな思考に埋没できる時間はない。 「舐めてくれちゃってよぉ。いい加減ブッ殺さないと気がすまねぇなぁ!」 「リィン、ユニゾンや!」 「はいです!」 立ち上がったカプリコーンアンデッドに対抗すべくユニゾンデバイスたるリィンが本領を発揮する。 光り輝き出したリィンがはやてに溶けるように消えていくと同時にはやてを光が包み、髪の色や黒が基調のバリアジャケットを白く染め上げていく。 カプリコーンアンデッドとはやての戦いが、始まった。 ・・・ 「はぁ、はぁ、はぁ――――」 目の前で斬り伏せたジャガーアンデッドの腹部にあるバックルが二つに割れる。その割れ目にはスペードの刻印と9という数字が刻まれている。 俺はアンデッドに向けてカードを放ち、封印する。鮮やかな躍動感のある豹の絵が描かれたカードを確認しながら俺は後ろを向いた。 (おかしい。あの感じは上級アンデッドだったはずなのに……) 今回のアンデッドの反応は妙だった。現れては消えを繰り返すもので、探すのにかなりの時間を費やしてしまった。 しかし今封印したアンデッドの反応だったとは思えない。あれは上級アンデッドのものだった気がするのだ。 (おかしい……) 嫌な予感がする。何か忘れているような、大切なものを放っておいてしまっているような――。 そんな俺の視界に、何かが滑り込んだ。 「また会ったな、剣崎」 「た、橘さん!?」 現れたのは橘さんだった。しかも今回はバイクに跨がって。 そのバイクは―― 「ああ、お前のだ。あの伯爵に頼まれたのでな。今は従うしかないので届けに来た。感謝しろ」 不快そうに眉を潜めながらそう話す橘さん。だが今回ばかりは全く気にならなかった。 ――ブルースペイダー。 あらゆる不整地を走行出来るように計算された高い車体。蒼いカウルで保護された車体。そして最大の特徴たるスペード型の青いスクリーン。 かつての愛車であり、たった一人で戦っていた頃も共にいてくれた相棒。 「……なんで、橘さんが?」 「俺は届けに来ただけだ。次に会うときは殺し合う仲、お前と話すことなんてない」 本当に鬱陶しいんだと言わんばかりにヘルメット(それも俺が使っていたものだ)を脱いでハンドルに引っ掛け、バイクを降りる。 「さっさと行け、お前がベストのコンディションで戦えないと俺も気分が悪い」 「どこに行けと言うんですか?」 「知るか。自分で考えろ」 記憶と随分違う橘さんの言動に戸惑いつつ、話の内容を咀嚼する。 (まさか、六課が……!) 辿り着いた結論は、嫌なものだった。頭の悪い俺の結論にも関わらず、外れている気がしない。 「すいません、行かせてもらいます!」 俺がブルースペイダーに跨る。セルでエンジンを起動させ、クラッチを握りながらギアを一速に切り替える。 橘さんは何も言わずに何処かへと去っていった。 その背中を見届けた後にアクセルを少しずつ捻りながらクラッチをゆっくりと開き、緩やかに、だが徐々に加速させながら走り出した。 ・・・ 「はぁ、はぁ、はぁ……」 はやてが苦し気に息を吐きながらシュベルトクロイツを構え直す。 対照的にカプリコーンアンデッドは腕を軽く振りながら軽い足取りではやてに迫ってきていた。 はやてがリィンとユニゾンしてから、すでに15分が経過していた。 「健気だねぇ、まだ抵抗を止めないとは」 じりじりとあちこちが凹んだ壁へと追い詰められるはやて。バリアジャケットが傷付いて露出した、赤みがかった白い肌を舐めるように見回すカプリコーンアンデッド。 先に動いたのは、はやてだった。 『「フリジットダガー!」』 はやてとユニゾンしているリィンの声が重なるように発されるのと同時に、部屋の各所から水晶のように透き通った冷気を帯びるナイフが幾つも出現する。 それらは目にも止まらない速度でカプリコーンアンデッドに飛来する。だが―― 「ハァァアァ!」 カプリコーンアンデッドが吐き出した青いエネルギー体が、それらを弾き飛ばした。 「くっ……!」 はやてはエネルギー体の突撃をプロテクションで防ぐが、吹き飛ばされて壁に激突してしまう。 「フォォォォォウ!」 カプリコーンアンデッドが止めを刺すべく右手を振り上げる。 その時だった。 「りゃあああぁぁぁ!」 強化ガラスを突き破って、カズマがブルースペイダーに乗ったままカプリコーンアンデッドに突撃した。 「――ッ!?」 ウィリーによって持ち上げられた前輪にかかった力学的エネルギーはカプリコーンアンデッドを容易く吹き飛ばすに足るものだった。 「大丈夫か、はやて!?」 「カズマ君……」 『カズマさん来てくれたんですねっ! リィンはちゃんと信じていましたよ!』 カズマがブルースペイダーから降りつつはやてとリィンの元に行こうとする。 しかし一足早かった者がいた。 「あぐっ!」 その影は太い腕をはやての首に回し、そのまま縛り上げる。 「ベルトを下に置け! さもないとこの女が死ぬぞ?」 影の主、カプリコーンアンデッドは愉しげな声でそう言った。 その台詞、光景に何故かカズマは既視感を覚える。この吐き気のするような光景に。 「卑怯な!」 「五月蝿い! お前のせいで俺はこんな目に遭ってるんだからお前も痛い目を見ろ!」 「何のことだ!?」 「覚えてないとでも言うか!? なら今すぐ思い出させてやる!」 怒り狂ったカプリコーンアンデッドははやての首を絞める腕に力を込めていく。その太い腕と対照的に細いはやての白い首が嫌な音を上げ出す。 「あっ、あ、ああ……」 「はやて!」 「さっさとベルトを置け!」 カズマがカプリコーンアンデッドを睨み付けるが、意にも解さず笑みを浮かべながら首を絞めていく。 だが、この時三人は後一人の存在を忘れていた。そう、はやての中にいるもう一人の存在を。 『フリジットダガー!』 突然はやての内側から舌っ足らずな叫びが上がる。 「な……!?」 その瞬間、カプリコーンアンデッドの真上に出現した氷の刃が彼の脳天を貫いた。 「今だ!」 カズマがそこでショルダーチャージをかけて吹き飛ばす。その腕の中には、救出されたはやてがいた。 「か、カズマく――」 「はやて、離れてくれ。俺はあいつを倒す!」 「……」 はやては一瞬不満そうな表情を浮かべるが、状況が状況故に素早く身を離す。 カズマは醒剣ブレイラウザーのカードホルダーを展開し、二枚のカードを抜き出す。 『KICK,THUNDER』 スラッシュされた二枚のカードから引き出される力は混ざり合い、コンボという名の必殺技へと昇華される。 『――LIGHTNING BLAST』 カプリコーンアンデッドが、ゆらりと立ち上がった。 その動作と同時にカズマはブレイラウザーを地面に突き刺し、彼の元に走る。 カプリコーンアンデッドはそれを見ながら慌てて腕をクロスさせて防御態勢を取る。 カズマはジャンプによって得られた位置エネルギーと、カードによって得られた雷撃の力を、強化された右足に込める。 「うぉあああぁぁぁぁ!」 それを、容赦無くカプリコーンアンデッドに叩き付けた。 「ウォォォォオッ!?」 その力によって、彼は壁をひしゃげさせるほどの勢いで吹き飛ばされる。 カシャンという軽い金属音。 カズマは静かに、『Spade Q』を封印した。 ・・・ 戦いが終わって、ようやく私は応接室を見回す余裕が生まれていた。あまりの酷い惨状に泣きたくなるだけだが。 何だかんだで私も頑張ったと思う。数少ない近接魔法を駆使し、苦手なんてもんじゃないクロスレンジをどうにか戦い抜くことが出来たわけだし。 それはそうと、今は聞きたいことが山ほどあった。カズマ君に。 「――なぁ、カズマ君」 「はやて、大丈夫か? 全身傷だらけだし……。くそっ、俺の帰りが遅れたばっかりに――!」 けれど、こんなに他人のために一生懸命なカズマ君を見ていると、何だかどうでも良くなってきた。まるで往年のなのはちゃんみたいな……って、それは本人に失礼か。 「私は大丈夫や。今リィンが回復魔法をフル稼働中やし。それよりロングアーチに連絡を取ってくれんか? そこの受話器が使えればええけど、無理なら直接行ってくれん?」 「ああ、わかった」 そう、私は大丈夫。私は部隊長、こんなところで倒れるようじゃ『奇跡の部隊』を率いることなんて出来ない。 しかし今回のハッキングを行った者が誰か、それが問題だ。ロングアーチにハッキングするほどの実力者で、怪人に協力できる者。心当たりは、二人いた。 これは捜索を急いだ方が良いかもしれない。 そう思考していた私の元に、唐突に“轟”というエンジン音が耳に入る。 顔を上げた先には、今日二人目の来訪者がいた。 「剣崎、ようやくお前と戦う時が来たようだな」 その来訪者は―― 「――紅い、『仮面ライダー』?」 真紅の配色ながら、カズマ君の変身した姿とそっくりなバリアジャケットを纏っていた。 細部は確かに違う。頭はカズマ君のが一本角なら二本角になっているし、肩のアーマーなども形状が違う。 そして似ているのはカズマ君のバリアジャケットとだ。何故なら、不自然なまでに腹部や肩が何かを塗り潰すように装甲が貼られているからだ。 「橘、さん……」 「剣崎、後でお前に通信を送る。そこに一人で来い。誰か一人でも連れて来ればあの悲劇がここで起きることになる」 「あの悲劇――?」 「お前がかつて己の体をかけて止めた悲劇だ」 そのセリフで、カズマ君の表情が変わった。 「いいな?」 「待ってください、橘さん!」 だが橘さんと呼ばれた紅い『仮面ライダー』はそれに答えることなくバイクを走らせてこの場を去ってしまった。 結局私は、何一つ理解出来ないまま。なのに状況だけが次々と進んでいた。 ・・・ カズマが受けた決闘状。相手はかつての師、戦うのは異国の地、奮うのは人とは異なる体。 人の皮を被る怪物と試験管から生まれた異形がぶつかり合った時、伯爵のストーリーは進む。 次回『決闘』 Revive Brave Heart 目次へ 次へ
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第四話「懸念」 12月2日 2136時 海鳴市 セーフハウス 「どーーーーなってんのよ!」 先ほど起きたことに対してメリッサ・マオ曹長は困惑していた。 人が空を飛び、ASと切りあい、変な光線が空に向かって放たれたらヴェノムも 空を飛んでた護衛対象も姿を消した所を目撃したのだから当然と言えば当然だ。 「分からん。俺も目撃はしたが常識を超えていた。」 マオ・クルツ・宗介の3人はもう5回ほどお互いの頬をつねった。 その痛みが、これが紛れも無い現実だと伝えてくる。 「正直言って、この街でなにが起きてるか分からないわ。ただ確実に分かることは 私達の常識外のことが起きている事とアマルガムが絡んでるということだけね。」 空を飛ぶ人のことや夜空に放たれた光線は置いといて、現実的な問題はヴェノムについてのことだ。 ラムダ・ドライバ搭載型ASが現れた以上、M9でも荷が重い。 あと3機、それに装備が充実していればの話である。 今回の護衛任務には40ミリライフル砲と単分子カッターしか持ってきていない。 「対抗するには、アーバレストを寄越してもらうしかないのではないか?」 「そうねぇ。一応言ってみるとするか。」 支援要請のため衛星通信機に向かうマオ、宗介とクルツはまたお互いの頬をつねっている。 「ソースケよ。M9の映像記録を見なけりゃ誰も信じないだろうな。 いや加工された映像だと思うだろうぜ、普通」 「肯定だ、現在圧倒的に情報が不足している。この街で何が起こってるか知る必要がある。」 つねったまま今日の戦闘の映像記録のことを話し合う2人 「ところで、そろそろ手を離せよ。」 「そっちこそ離したらどうだ?」 お互い一向に離す気配は無い、むしろつねる力が強くなってきている。 「止めな。状況がよく分からないし、提出した映像も訳わかんないものであることは事実よ。 アーバレストについては追って返答するだって、なんか研究部の連中が来てるらしいわ。」 「研究部がかよ。あいつらの研究は俺達の生存率を上げる為のものじゃねえのかよ。 率先して足引っ張りやがって。」 「仕方ないわよ。ラムダ・ドライバの研究はミスリル全体の生存率を上げることになるんだから それに先日の香港の事件のときにラムダ・ドライバが複数回発動したでしょ? 機体への影響とかについてじっくり調べたいんだって」 アーバレストは、確かに香港事件でも上層部は出し惜しみをした。 ミスリル唯一のラムダ・ドライバ搭載機である、あれを失うことは出切るだけ避けたいのだろう。 もしくは、失っても代替が利くように研究しておく必要がある。 「そうか。しかし、あの無人地帯ができない限り奴等もそう簡単に手を出すこともできんだろう。 気をつけるべきは、日常生活における拉致だ。」 貧しい装備で戦うことは慣れていたし、M9でも戦い方次第ではヴェノム相手であっても何とかなる。 宗介の言葉に他の二人は頷き、この場の議論はそれで終了した。 同日 同時刻 海鳴市 八神家 「いや、明日の朝に入ることにする。」 シグナムはそういって風呂の勧めを断り、リビングルームに残った。 「今日の戦闘か?」 「聡いな、その通りだ。テスタロッサと言う魔導師に、あの傀儡兵・・・」 上着と長袖を捲り上げると、そこには痣ができていた。 「魔導師にしては、いいセンスをしていた。良い師に学んだのだろうな。武器が違ったならどうなったか・・・ それにお前達は見ていなかっただろうが、あの傀儡兵には妙な機能がついていた。」 「妙な機能?」 「完全に決まったと思われた攻撃がギリギリで見えない壁のようなものに防がれた。 しかもご丁寧にそれを使って逆襲してきた。」 「大型の傀儡兵に装備されているバリア機能ではないのか?」 「違う、通常のやつは防御一辺倒のものだ。あれは明らかに攻撃の機能も備わっている。 それに恐らくあれは管理局の物ではない、ヴィータの話では警告なしで攻撃してきた聞く。 管理局なら質量兵器は使わない上に攻撃する前に決まり文句を必ず言う。」 あごに手を当て考え込むシグナム 管理局でもないなら傀儡兵は、やはりこの世界のものか? しかし、よくニュース番組に出てくる傀儡兵―――この世界ではASというのだったか? と今日見たものは、かなり相違点があったが・・・。 「言ってなかったが、あの場所、いやあの傀儡兵から昼間に話したのと同じ臭いがした。」 ふと、ザフィーラは思い出したように言った。 「お前が言う刺激臭か?」 ああ、とザフィーラは頷いた。 この近くにやつが潜んでいるということか・・・? 「ザフィーラ、その臭いは今でもしているのか?」 「今はしない。するようになったら報告する。」 「そうか・・・今日は、もう動かないのかも知れんな。明日にでも調べるとしよう。」 シグナムは闇の書を持ち窓から外を眺め、これからどうするかという事に思いを廻らした。 同日 同時刻 時空管理局医療ブロック ずきりという痛みでなのはは目覚めた 「ここは・・・?」 辺りには見たことの無い機械が、ずらりと並んでいる。 規則正しくリズムを刻むこれは心電図だろうか? どちらにしても触らないほうがいいと判断し、しばらくぼうっとする。 (レイジング・ハート大丈夫かな?) 相棒を自らの弱さで傷つけてしまった後悔が脳裏をよぎる。 そんなことを10分ばかり考えていると部屋のドアが開き、白衣を着た男の人が入ってきた。 「おお、目が覚めたかね。どこか痛むところはあるかい?」 「ええと、肩がちょっと・・・じゃなくて、ここどこですか?」 「ここは時空管理局本部にある医療施設だよ。・・・ふーむ、肩か。」 時空管理局本部、なのはにとって初めて訪れる場所だ。 話に聞くアースラのみんなの職場である。 フェイトちゃんも今はここでお世話になってるはずだ。 「うむ。リンカーコアは、もう回復を始めているね。若いからかな?」 耳慣れない単語が出てきて、なのはは少し首を傾ける。 後で、聞いて分かったことだが魔法を使う者なら誰もが持っている魔力の源であり 魔力吸収器官でもあるらしい、自分はそれが極端に小さくなっていたそうだ。 しばらくして、検査が終わり出て行く医者と入れ替わりにフェイトちゃんが入ってきた。 「なのは、大丈夫?」 「うん、私頑丈だから・・・でも」 でも、レイジング・ハートが・・・ 「レイジング・ハートは大丈夫だよ。今、エイミィが部品を発注してる。 それに、私もバルディッシュを」 辺りになんとも言えない雰囲気が流れる。 いけない、そう思い話題を変えるなのは 「久しぶりだね、こんな再会になっちゃったけど」 フェイトは、うんと答え二人の話題はこの半年間のことに移った。 同日 同時刻 時空管理局医療ブロック休憩所 ユーノとアルフは、休憩所でジュースを買っていた。 「それにしても、あいつら何者なんだい?クロノはなんか心当たりがあったみたいだけど」 「文献で見たことがあるけど彼女達はベルカの騎士だよ。 武器の形状をしているデバイスに、あのカートリッジ・システムは間違いない。」 「ベルカって、あのベルカかい?最近になって古代技術の復元作業が進んでる、あの?」 「うん、そのベルカだよ。実の所、復元の8割は終わってミッドチルダ式との ハイブリットである近代ベルカ式も一応完成してるらしいけど 最大の特徴であるカートリッジ・システムの安全性に関するデータが揃って無いから 一般にはまだ出回ってないらしい・・・。 なんで彼女達が失われたベルカ式を使ってるのか知らないけど、とても厄介な相手だよ。 集団戦法に優れたミッドチルダ式に徐々に駆逐されていったけど1対1なら無類の強さを誇ると文献にはあった。」 ジュースを片手にアルフに相手の正体を推測するユーノ、実際に相手をして彼女達の強さは痛いほど分かる。 自分より明らかに強いなのはを倒し、フェイトを追い詰めたと言う事実だけで証拠は充分だろう。 そして一定の自負がある自分の防御魔法も危うく破られかけた。 なのはがSLBで結界を破壊してくれなければ全滅していただろう。 「なのはだけじゃなく、フェイトまで傷つけるなんて・・・!」 主とその親友が、傷つけられたことを思い出したのか ギリっと握り拳を作りアルフは近くの壁を殴る。 幸い手加減はしているらしく壁は、へこまなかったがそれでも大きな音はした。 「うわ、何?今の音。」 「なにか、すごい音がしたぞ。」 「クロノにエイミィさん・・・。どうですか?レイジング・ハートとバルディッシュは」 「フレームはひどいことになってるけど、基本構造にはダメージが及んでないから 部品交換すれば元に戻るよ。あ、ちなみに部品は来週来るみたい。 ・・・・それからフェイトちゃんは、どこ? 担当の保護観察官の人との面接の時間だから呼びに来たけど」 それを聞きアルフは急いでフェイトを呼びに行った。 保護観察官の心証を悪くしてもいい事なんて無いからだ。 同日 2156時 ギル・グレアム提督の執務室 グレアムは自分の方針を述べ、フェイトに自分との約束を守れるか聞き なのはには自分の昔話を話した。 「さて、フェイト君が約束を守ってくれると確約してくれた以上、面接は終了だよ。 そういえば、今回の事件の担当はアースラになるんだって? 現場はいろいろと面倒なことになってると聞くが」 グレアムは、なのはやフェイト後ろで控えていたクロノに尋ねる。 「はい。もう知っていると思いますが今回の事件には、あの闇の書が関わってます。 さらに現地世界の傀儡兵・・・いえASという兵器が出現しました。」 「そうか、あまり熱くなってはいけないよ。」 「大丈夫です。折り合いはもう着けましたし、提督の教えは守ります。」 クロノが部屋から出て行くと、それになのはとフェイトも続いていく。 「クロノ、ASってなのはを助けた傀儡兵のこと?」 「ああ、なのはに聞いた所によるとアーム・スレイブという人が搭乗する兵器で 第97管理外世界の各国に配備されてるらしい。」 「うん。忍さんが詳しいから知ってたけど本物を見るのは、あれが初めてだよ。」 クロノの言葉に頷く、なのは 「ASについての情報はエイミィたちが収集してくれてる。 現実問題は第1級捜索指定ロストロギア『闇の書』についてだ。」 「『闇の書』?」 なのはとフェイトは同時に聞き返す。 「闇の書は魔力収集型のロストロギア、他人のリンカーコアを吸収してページを埋めていく。 666ページがすべて埋まったら完成するというものだ。」 「完成すると、どうなるの?」 「少なくともいいことだけは起きない。」 とだけクロノは答えた。 12月3日 1007時 海鳴市 市立図書館前 ザフィーラの散歩ついでに、はやて、シグナム、シャマルは図書館に寄る。 ちょうど、はやても返却しなければならない本があった。 ちなみにヴィータは家でまだ寝ており、お留守番である。 「しかし、珍しいなあ。シャマルも調べ物があるって、何について調べるん?」 答え難いことを聞いてくる主に、どう答えたものか迷うシャマル 「ええと、最近ヴィータちゃんがロボットアニメに嵌っちゃって それで、この世界にもASって言うロボットがあるって言ったら興味心身で・・・ だからヴィータちゃんのために図鑑みたいなものを探してるんですよ。」 嘘は言っていない。事実、月曜日のゴールデンタイムに放送しているロボットアニメ番組をヴィータは、はやてと一緒に見ていた。 その嵌り具合を知っているはやては、なるほどと納得してしまう。 しかし、実際は昨日の戦闘に現れたASについて調べるためだ。 「では、私はしばらくザフィーラとここの周りを散歩してきます。」 図書館に動物の立ち入りは厳禁なのである。 ではなく、調べ物はシャマルに任せ散歩と称した付近の見回りをするためだ。 それに・・・・ (シグナム、例の臭いだ。) ザフィーラが、家を出る際にシグナムに警告してきた。 だが殺気の類は全くなく、主の前でもある。一応、いつでも対応できるようにしていた。 しかし監視者がいるなら情報を得る絶好の機会だ。 そうして、ザフィーラが言う臭いの中心に向かって進んでゆく。 (ここら辺だ。) 流石にここまで来れば、ほんの微かだがシグナムにも臭いを感じることができる。 辺りを見渡しても、それらしい臭いの元になるものはない。 しかし臭いと気配を感じる虚空をシグナムとザフィーラは、じっと見つめ続けた。 前へ 目次へ 次へ
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第2話「音速は伊達じゃない!!」 ~あらすじ~ ソニックは何と自分が起こしたカオスコントロールを制御できずに、 首都クラナガンに飛んでいってしまった! そこから新たな生活が始まろうとしていたのだが… 「あなたの名前は?」 「オレ?オレの名前はソニック。ソニック・ザ・ヘッジホッグさ!!」 明朗快活にそう答える青いハリネズミ。 フェイトは、本当にさっきのエネルギー反応の根源がこのハリネズミか気になっていた。 「あの…ソニック…さん?一体どうしてここに?」 「ん?なんか、カオスコントロールを制御しきれなくって…この世界に飛んじまったってわけだ。」 「カオスコントロール?」 フェイトにはその単語の意味がさほど理解できなかったが、時空間魔法の一種だとは容易に推測できた。 (となると、次元漂流『者』か…いや、次元漂流鼠、というべきかな?) この世界では、次元漂流者などはフェイト達の属する機動六課が責任を持って元の世界に返す、という義務があった。 「あの、ソニックさん。とりあえず、機動六課に―――――――――――――――っていない!?」 ソニックは、フェイトが何か考え事をしている内にどこかへ走り去ってしまった。 (まだそう時間はたっていないからそう遠くへ入ってないはず…) そう推測し、周囲に青いハリネズミがどこに行ったか、聞き込みをするフェイト。 だが、【そう遠くへ行っていない】という考え方では、ソニックを連れ帰ることができないということを、フェイトは知らなかった。 ソニックは今、どこかの森の中を走っていた。 ここがどこかなんてどうでもいい。ただ、退屈したくない。 そんなさっぱりとした、しかしどこか抽象的な概念のもとで生きてきた。 「………寝るか。」 周りを見渡して、一番涼しそうな木の下で寝始める。 穏やかな風が気持ちよかった。 目を閉じていると心地よい睡魔に襲われる。 だが、その睡魔はすぐにどこかへ吹き飛んでしまった。 「見つけた。」 その声の主が誰かと思って見上げたら、そこには明らかに怒っているフェイトが立っていた。 「突然どこかに行ったりして!何を考えてるんですか!」 「だって、さっきの話は退屈だったんだぜ~?俺は、自由に生きたいんだ。」 陽気に話してくるソニック。 そんなソニックに少し苛立ちを覚えるフェイトであった。 「とにかく!一緒に来てもらいます。手続きとかいろいろやらなきゃいけないのに…」 その言葉を聞いてソニックが嫌そうな顔をする。 退屈なのはいやだ、といったそばから退屈そうなことが回ってくるのはごめんだ。 「……オーケイ、じゃあ、こうしよう。これからレースをしようじゃないか。オレが勝ったら、放っておいてくれ。 オレが負けたら、連れていくなり何なり好きにすりゃいい。これでどうだ?」 目を丸くして何を言っているのか分からなさそうにしているフェイト。 だが、その言葉の意味を理解すると、真剣な表情で頷いた。 (大丈夫。スピードだったら、私に分がある。) 勝ちを確信したフェイトだが、ソニックの本当の速さを知らない。 多少警戒して、念のためにバリアジャケットに着替えるのであった。 レース場は高速道路。ソニックが逃げるのでフェイトはそれを捕まえればいい、という鬼ごっこ形式のものだった。 「3…2…1…GO!!」 ソニックが高らかにスタートを宣言した。 フェイトがスタートダッシュしてソニックを捕まえようとした矢先だった。 「っ!?」 フェイトの手はむなしく宙を舞う。ソニックを逃してしまった。 そして気がつけば、ソニックと100メートルほど離れている。 なぜ、と疑問が浮かんだが、考えている暇はなかった。 フェイトはソニックを追い、全速力で飛んだ。 「くっ…」 正直、ここまで速いとは思っていなかったフェイト。 ソニックはこちらを振り返り、にやりと笑ってスピードを上げる。 (仕方ない。攻撃魔法を多少使うか…) そういってバルディッシュを一振りし、 「プラズマランサー!!」 数本の光の矢がソニックを追う。 だがそれらすべて、ソニックに当たることはなかった。 「こんな攻撃じゃ、欠伸が出るぜ!!」 といいながら、全て避けきる。 ソニックはまだ余裕の表情だが、このレース場は大きな欠陥があった。 それは、『ここの高速道路はまだ工事中』ということだった。 ソニックの目の前に断崖絶壁が広がる。 (勝った!) そう確信したフェイトは、この世のものとは思えない動きを目にする。 「!?」 ソニックはその崖から飛び降りた。ここまでは良かった。 しかしそのおよそ0.5秒後、ソニックはハイスピードで上昇し、断崖絶壁の向こう側にたどり着こうとしていた。 「どうして………?」 物理的法則を捻じ曲げたとしか思えない動き。 しかし、フェイトが驚いていることに驚いた。 (どうして………って、ライトダッシュしただけじゃないか。) ソニックはただ単に、この高速道路の端から端まで続いていたリングにライトダッシュしただけなのだ。 (もしかして…リングが見えないのか?) そんな余計なことを思っていた時だった。 「ふぶっ!」 ソニックの顔面に何かがぶつかる。 それが何か、確認してみると、ピンクの網。 しかも、その網はどうやらソニックをがっちりと捕獲していた。 「フェイトちゃん、おつかれさま。」 その声にフェイトが振り向く。 そこには、茶髪のツインテールで綺麗な人が立っていた。 「なのは!」 「もう、帰りが遅いから心配したんだよ~。」 「ご、ごめん……」 「でも、無事だったから、いいよ。」 などと、ソニックそっちのけで話が進んでいる。 「と、こっち忘れてたね。」 「なのは、それ、どうするの?」 「とりあえず、はやてちゃんに相談しなきゃ。」 そういって、なのは―――と呼ばれたばれた女性―――はソニックを捕まえた網ごと空へ飛ぶ。 それに合わせ、フェイトも飛ぶ。 「NO~~~~~~~~!!!!!」 こうして、ソニック対フェイトのスピード勝負は実質ソニックの勝ちだが、結果的にフェイトの勝ちで幕を閉じた。 「なんや、ハリネズミっちゅーのは聞いとったけど、ネズミにしてはずいぶんでかいなぁ。」 かれこれソニックが捕獲(?)されて20分。ソニックははやてのもとに連れてこられていた。 もちろん、なのはお手製の檻の中で。 「しかし、本当に奇妙な構図やな~。」 ピンクの檻、その中にいる青いハリネズミ。しかもしゃべる。 はやて自身、アルフやユーノとは知り合いなので見慣れていたといえば見慣れていたが、やはり、シュールだった。 「それで、本当に君は一人でその『かおすこんとろーる』を使ってここに来たの?」 「何度も言ってるだろ~。カオスコントロールがうまく発動しなくって、無理やり発動したら、ここに飛んできたんだ。」 半ばふてくされて言うソニック。 こんな質問をゆうに、20回ほど聞かれれば、ふてくされるのも当然だろう。 「そうすると…彼はロストロギア並み、いや、それ以上の危険性を持っているっちゅーことか…」 「となれば厳重な保護観察が必要ね…それも、そのカオスコントロールを無作為でも発動させられれば、 ソニックを殺してでもそれを阻止しなければいけない…」 自分を殺す、という言葉を聞いてソニックはようやく真剣に聞く態度になった。 「それなら心配ないぜ。オレのスーパー化は疲れるから、そんなに使えないしな。それに、ここにはカオスエメラルドもない。 オレは今この場じゃ、ただの歯牙無いハリネズミだぜ。」 その言葉を聞き、なのはが当然の疑問を投げかける。 「カオスエメラルドって何?」 「言ってみれば『奇跡の石』だな。7つ集めれば強大な力を手に入れることができる。それ一つで ……そうだな~。少なくともここら一体の電力くらいは補えるんじゃないか?」 何気なく口にした言葉がその場の空気を凍らせる。 「そ、その石には数字が彫ってなかった!?ローマ数字が!!」 「?い、いや…彫ってないぜ。」 突然フェイトが聞いてきたので何事かと思いきや、そんなことか、とソニックは少し脱力する。 「よし、わかった。ソニックはしばらくここで預かることにする。その間はなのはちゃん、フェイトちゃん、 ソニックのこと頼むで。ソニック、あんたもさっき言った通り、カオスコントロールを発動させれば、 あたしたちはアンタを殺してでも止めるからな。」 はいはい、といった様子で肩をすくめるソニック。 ふと、自分を縛っていた網がどこかえと消えた。 「この管理局から出ない限りは、一応自由ってことで。」 なのはにそう言われたが、制限つきの自由では物足りない、といった表情だった。 「OK。わかったよ。」 その条件に妥協したソニックは、おもむろに立ち上がり外に出る。 「なのはちゃん、フェイトちゃん、頼んだで。」 その言葉にうなずいた二人は、ソニックの後をついていく。 そんなこんなで、青いハリネズミの新しい生活が幕を開けるのだった。
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魔法少女リリカルなのはStrikers 高町なのは フェイト・T・ハラオウン 八神はやて SP:127 能力 コマンド 消費 SP:124 能力 コマンド 消費 SP:128 能力 コマンド 消費 性格:普通 格闘140 集中 15 性格:冷静 格闘152 直感 20 性格:普通 格闘137 集中 10 射撃153 直感 20 射撃146 迅速 20 射撃152 分析 20 防御110 狙撃 15 防御 99 集中 15 防御 98 直感 20 成長:普通型B+ 技量181 てかげん 1 成長:普通型B 技量181 突撃 30 成長:普通型B 技量181 直撃 30 回避174 魂 50 回避179 魂 50 回避172 友情 35 命中178 愛 65 命中175 絆 55 命中181 期待 60 スバル・ナカジマ ティアナ・ランスター SP:126 能力 コマンド 消費 SP:119 能力 コマンド 消費 性格:強気 格闘151 加速 15 性格:普通 格闘139 必中 20 射撃138 集中 15 射撃151 努力 15 防御104 不屈 10 防御 97 狙撃 15 成長:晩年型A+ 技量173 闘志 30 成長:晩年型A+ 技量175 集中 15 回避172 気迫 50 回避170 熱血 35 命中173 魂 55 命中177 かく乱 55 エリオ・モンディアル キャロ・ル・ルシエ SP:121 能力 コマンド 消費 SP:127 能力 コマンド 消費 性格:普通 格闘146 集中 15 性格:普通 格闘129 分析 20 射撃136 必中 25 射撃145 応援 35 防御103 気合 30 防御101 信頼 20 成長:晩年型S 技量167 突撃 30 成長:晩年型A+ 技量165 直感 20 回避171 不屈 15 回避166 直撃 35 命中171 勇気 60 命中173 覚醒 70 隊長たち3名は、能力的にはガンダム系のエースパイロットに似た設定にしている。 フォワード4名は才能あふれる新人として、全員大器晩成型の成長タイプにした。。 なのはに関しては、フォワード人の教官としての立場や模擬戦から、てかげんを導入。 愛を習得させるか不屈を習得させるかで迷ったが、彼女の本来の優しさを表すために愛で決定した。 防御系魔法と、元々の素質から防御値は高くした。 射撃値の大きさや命中値、コマンド等から、高機動・射撃戦主体のキラと似たスタンスになっている。 (没となったコマンド 不屈・激励・直撃) フェイトは格闘戦メイン、ライオットザンバー等の武器から突撃を採用。 なのはよりも高機動な為、迅速を所持している。 遠距離戦もこなす為、なのはに比べて全体的なバランスは良い。 最後のコマンドの絆は、無印からの引用。 愛はなのはに譲った。 (没となったコマンド 気合・愛・友情) はやての能力値は広域魔法による殲滅戦をモチーフにしている。 格闘値については、本人が接近戦を捨てているため極力低くした。 SSランク魔導師だが、なのは達に比べて実戦経験がそこまで多くないので、技量値は同じになった。 Asの頃の設定を残し、絆を取るか友情を取るかでフェイトと比べたが、現在はこれで安定した。 彼女の家庭的な優しさから、こちらの方がしっくりくるかもしれない。 (没になったコマンド 絆・覚醒) スバルは、戦闘機人としての能力は反映されていないが、格闘主体としての能力を色濃く設定した。 射撃値は、ディバインバスターがあるが遠距離砲撃とは言い難いので、低く設定した。 ウイングロードがあるので加速を設定。他のキャラにも使えるので、追風でもいいかもしれない。 戦闘機人としての〔覚醒〕は、気迫と闘志に代わりオミットされた。 (没になったコマンド ド根性・気合・突撃・覚醒) ティアナは、本人が認めている努力を軸として設定している。これは彼女という存在の最低条件でもある。 凡人と言っているがそんなことは無い。 最初のコマンドを、集中か必中かで迷ったが、二丁の銃を扱いこなす素質から必中になった。 幻術使いでもあるので、かく乱を設定した。 (没になったコマンド 根性・ひらめき・信頼・直撃・突撃・) エリオは唯一の少年キャラであり、ガリューに恐れず立ち向かったキャラの為、必然的に勇気を覚える。 子供の為、一般的なキャラよりもコマンドの消費は多い。 瞬発力は高いため、フォワードで2番目に高い。 技量値は10歳の子供にしては高く設定した。 (没になったコマンド エリオは迷わず確定した。) キャロはサポートが主なので、他の3人に比べて能力は低い。 サポート関連として応援を所持している。 召還魔導師として、覚醒を設定した。 感応は、今作に登場しないリインフォースが担当するので設定しなかった。 (没になったコマンド 幸運・感応・集中)
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【魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】 蒼天の書 柊かがみに支給されたボーナス支給品。 リインフォースⅡ専用の魔導書型ストレージデバイスで、主に儀式系を含む多くの補助魔法が記されている。 全容量の半分程度をリインフォースⅡ個人では使用しない融合時用の魔法データが占めている。 トカレフTT-33 エリオ・モンディアルに支給。 全長194mm・重量858g・口径は7.62mm×25・最大装弾数8というソビエト連邦陸軍が1933年に制式採用した軍用自動拳銃。 本来必須なはずの安全装置すら省略した徹底単純化設計且つ生産性向上と撃発能力確保に徹した構造をしている。 さらに過酷な環境でも耐久性が高く、それに加えて弾丸の貫通力に優れている。 第二次世界大戦中~1950年代のソ連軍制式拳銃として広く用いられた拳銃であり、正確な総生産数は不明ながらコルト ガバメントと並んで『世界で最も多く生産された拳銃』と称される事もある。 FINAL WARS内ではラドンに襲われた町で半裸に豹柄のコートというギャングっぽい黒人風の男性が所持していた。 リインフォースⅡ 早乙女レイに支給。 時空管理局空曹長にして、はやてが創り出した人格型ユニゾンデバイス。身長約30センチで、長い銀髪を持った少女の姿をしている。魔導師(作中では主にヴォルケンリッター)とユニゾンすることで、その能力を飛躍的に向上させることができる。また、彼女自身もストレージデバイス「蒼天の書」を用いた戦闘が可能で、主に氷結系魔法を得意とする。 天真爛漫な性格で、語尾に「~です」とつけるのが特徴。また、「よく食べてよく寝る」とのこと。参加者には、鞄型移動寝室(通称「おでかけバッグ」)に収納された状態で支給されている。ちなみに、この時も眠っていた。 【なのは×終わクロ】 Ex-st 高町なのは(StS)に支給。 新庄・運切の武器。白い砲塔に似た杖型のストレージデバイス(という名の概念兵器)。 砲門を取り換えて多様な砲撃ができる。威力は使用者の意志に比例する設定となっており、望みさえすれば自壊する程の大威力も発揮できる。 1st-Gの賢石 ブレンヒルト・シルトに支給。 賢石とは概念を媒体に記録させた物で、所有者を変調させる事無く概念を付加、デバイスの燃料にもなる。 1st-Gの概念『文字には力を与える能がある』を媒体とした物なので、通常空間でも1st-Gの術式が使用可能となる。 板型概念展開装置 キース・レッドに支給。 周囲の空間に概念を展開する金属製カード(簡単に言えば一定区域に特殊能力を付け足すアイテム)で、これは「―――惑星は南を下とする。」という概念のもの。 発動すれば一定区域は南方が下、北方が上になる様に地面が垂直になる。発動時に前記の文章(概念条文という)が効果範囲内にいる者の脳裏に響く。 本来はこれが発動している空間と現実空間は出入り不能になる。 ただし本ロワでは出入り自由で効果エリアは半径100m・効果持続時間は10分とする。使用回数1回。 レークイヴェムゼンゼ ヴィヴィオに支給。 1st-Gの魔女ブレンヒルト・シルトのデバイス(概念兵器)。意思はある。 普段は待機形態で三日月型の飾りがついたチョーカー、他に戦闘用の大鎌形態と飛行用の箒形態がある。 冥界との境を開いて死者と話せたり、一時的に実体化させる機能がある(ここで呼び出せる死者は元々の1st-Gの住人+この地で死んだ者)。 録音機 ギンガ・ナカジマに支給。 記録用のメモリ式携帯録音機(バッテリー式)。本来の持ち主は佐山・御言。 【小話メドレー】 スモーカー大佐のジャケット 八神はやて(StS)に支給。 海軍本部所属のスモーカー大佐の着ているジャケット。 オプションとして大量の葉巻と先端に海楼石を仕込んだ七尺十手が付いている。
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此処はホテル・アグスタから少し離れた森の中、其処で一人の不死者が消滅した。 名はカシェル、かつて管理局陸士部隊に所属していた局員でありスバルとティアナの同期でもある。 その同期を討ったのはヴィータ、スバル達が所属しているスターズ部隊の副隊長である。 今現場は静まり返っていた、カシェルは討つ事でしか助ける方法が無かった。 しかし…だからといって許される事では無い、スバルはきっと自分に対し憎しみに満ちた瞳で睨んでいるだろう… ヴィータはそう思いつつもスバルの身を案じ様子を伺おうとスバルに目を向けた。 …スバルは一点を見据え茫然自失と化していた、そんなスバルに対し肩に優しく手を当てているティアナの姿もあった。 二人の様子を見たヴィータは目をそらすとグラーフアイゼンを堅く握りしめ苦い顔を醸し出す、すると其処にザフィーラが姿を現した。 ザフィーラは先程までエリオ達の護衛を行っていた。 すると其処にエリオ達のもとへ向かっていたシャマルが現れ、シャマルは早速二人の治療を開始、 それを見届けたザフィーラはこの場をシャマルに任せ、自分はヴィータとともにレザードのもとへ向かおうと此処へ来たと話す。 その話を聞いたヴィータは一つ頷くと、ティアナにスバルの事を任せ二人はアグスタへと向かったのであった。 リリカルプロファイル 第十六話 狂騒劇 此処はホテル・アグスタの上空、レザードのモニターには各隊員達がレザードのもとへ向かっている姿が映し出されていた。 「やはり…あの程度の不死者では足止めにはならないか……」 予め予測は出来ていた、元々あの不死者は足止めに使うのには力不足である、むしろ不死者の“存在”こそが足止めに重要であった。 だが…まさかあの様な“演出”が生まれるとは…レザードは眼鏡に手を当て笑みを浮かべていると、左前方からシグナムが姿を現した。 次に右前方からヴィータが、そして後方からいつの間にか回り込んでいたザフィーラが地上から浮かび上がるように現れ、 少し間を置いて、なのはとフェイトが前方正面より姿を現した。 なのはは依然として俯いたままで、その光景を見たレザードは眼鏡に手を当て笑みを浮かべるとモニターを閉じ話し始めた。 「フフッ…どうでしたか?私の考えた“劇”は……」 「“劇”ですって!?」 フェイトの言葉にレザードは「えぇ」と一言口にし頷くと“劇”の説明を始める。 本来であればもっと強力な不死者による足止めを行うことが出来たのだが、それでは面白く無いと考えた。 其処でレザードは最近造った不死者の中に管理局員を材料にした不死者がいた事を思い出し、それを使った足止めを考案したと語る。 何故彼等を起用したかと言うと、一度不死者化した人間は二度と戻ることは出来ない、そして救う為にはその者を消滅させなければならない。 それはつまり不死者化した管理局員を、同じ管理局員の手によって殺す事を指し示す。 そうなればその時に醸し出されるであろう悲痛な表情も見られる為、彼等を起用し足止めを“劇”と称したと語った。 「結末は知っての通り……とても素晴らしい“劇”となったでしょう?」 そう言うと眼鏡に手を当て笑みを浮かべるレザード、その言葉にフェイトは一歩前に出ようとするが、なのはに肩を掴まれ止められる。 するとなのはは今まで俯いていた顔を上げると、その瞳には悲しみの色が滲んでいた。 そして今まで沈黙を守っていたなのはの口が開き、静かに囁くようにレザードに問いかけた。 「アナタは……」 「ん?」 「アナタはこんな“劇”を私達に見せる為に、彼らにあんな惨い事をしたの?」 「そうだ」 「私達の悲痛な表情が見れる…それだけの為に何人もの一般人や管理局員を犠牲にしたというの?」 「その通りだ」 「くっ!アナタって人は!!」 なのはの問いかけに笑みを浮かべ即答するレザード、その態度にフェイトが一言悪態をつく。 フェイトは産まれが“特殊”な為、人一倍命に対し強い想いを持っている。 それ故に命を冒涜するレザードの言動や行動に対し怒り心頭の想いであった。 だがレザードはフェイトの悪態をさらりと受け流すと更に話を続ける。 「もっとも…今回の“劇”は演者の“アドリブ”があってこその完成度とも言えますがね……」 その言葉に周りが疑問を感じていると、レザードは話の説明を始める。 本来の“劇”の内容とは不死者化した“ただ”の管理局員と六課の対決であったのだが、 材料にした管理局員の中に六課と関わりがある人物が存在していたというのは、レザードにとっても予想外の出来事であったと。 つまり今回の“劇”はレザードが考えたシナリオとは異なる内容、つまりは“アドリブ”が含まれていたと語る。 「まぁ、良い“劇”というのは“アドリブ”が栄えてこそ…とも言えますがね」 そう言うと高笑いを上げるレザード、するとなのはは目を瞑り大きく息を吐く。 そして目を開くと、そこにはいつも笑顔が絶えないなのはの顔からは想像も出来ない、怒りの表情を現していた。 そしてその瞳には静かに…だが激しい怒りを宿しレザードを睨みつけこう告げた。 「レザード・ヴァレス…アナタを逮捕します!!」 その言葉とともになのははデバイスをレザードに向け構えると、次々と構えるメンバー達。 するとレザードの腰につけたナイフが輝き出し魔導書へと変化すると左手に収まる。 そして辺りを見渡すと、こう述べた。 「やはりこうなりましたか…まぁ予測していた事ですし、第一幕を開始しましょう……」 そう言って眼鏡に手を当て対峙するレザード、その中まず最初に動いたのはシグナム。 シグナムは一気に間合いを詰めるとカートリッジを一つ消費し紫電一閃を放つが、 右手に五亡星を中心とした円陣で構成されたシールド型ガードレインフォースを展開され一撃を防がれる。 「どうしました?まさかこの程度ではないでしょう」 「なにを!!」 レザードに挑発され更に力を込めるも、一向に砕ける様子のないシールド、むしろシールドを介してレザードは魔力による衝撃波を撃ち出すとシグナムは吹き飛ばされた。 そしてレザードはシールドを解除するとクールダンセルを唱え、レザードの前には精霊を模した氷の人形が現れる。 氷の人形の手には氷の刃が握られておりシグナムに切りかかるが、 未だ刀身が燃え続けているレヴァンティンによって切り払われた。 一方レザードの後方ではフェイトが見上げる形で位置に付くとハーケンセイバーを撃ち出す。 ハーケンセイバーは弧を描きながら標的であるレザードに向かっていった。 だがレザードはリフレクトソーサリーを展開させ、ハーケンセイバーをフェイトに向け跳ね返した。 「そんなっ!何故!」 「甘いですね、私が使えないとでも?」 そう言って目だけを向け見下ろす形で応えるレザード、その表情に苛つくもフェイトは跳ね返されたハーケンセイバーを迎撃した。 その間にレザードの頭上で待機していたヴィータがラテーケンハンマーの推進力を利用した振り下ろしが襲いかかる、だがそれすらもシールドで防がれてしまった。 「野郎!砕けやがれ!!」 「その割には一歩も動いていませんね」 レザードはヴィータを挑発するとヴィータは歯を噛み絞めカートリッジを消費する。 それを見たレザードは足元に五亡星を描くとその場から消え去る。 場にはヴィータの一撃が虚しく空を切る音が響いた。 「転送魔法だと!?野郎!何処に!!」 「……っ!ヴィータ!上だ!!」 シグナムの呼びかけにヴィータは上を見上げるとレザードが右手をかざしている姿があった。 レザードはファイアランスを唱えると二つの炎がヴィータに向かって襲いかかる。 だが、ヴィータの前にザフィーラが立ちふさがると障壁を展開させ、ファイアランスを弾いた。 「ほう……ならばこれはどうでしょう?イグニートジャベリン」 そう唱えるとレザードの周りに光の槍が五つ姿を現れ、一本ずつ撃ち出した。 まずは一本目、イグニートジャベリンは容易くザフィーラの障壁に突き刺さると亀裂が生じた。 続いて二本目、これも同様に突き刺さり亀裂が生じると先程の亀裂と繋がり障壁全体的に走る。 このままではマズいとザフィーラが考えていると、なのはから念話が届きヴィータと目を合わせ頷く。 そして三本目を撃ち出すとザフィーラの障壁を容易く打ち砕いた。 だが障壁が砕けた瞬間、ヴィータとザフィーラは左右に展開し中央からなのはのディバインバスターがレザードに向かって延びていった。 レザードは残りのイグニートジャベリンを撃ち出すがディバインバスターの勢いにより弾かれてしまう。 すると今度はシールドを展開させ、ディバインバスターを受け止めたのであった。 「なのはのディバインバスターを受け止めやがった!?」 「やるな…あの男」 ヴィータは驚きザフィーラはレザードの実力を認める中、なのはは今までの戦況を見るやロングアーチと連絡を取った。 「どないした?なのは」 「はやてちゃんお願い!能力リミッターの解除を承認して!!」 「なんやて!?」 なのはの言葉に思わず椅子から飛び上がるはやて。 なのはの見立てではレザードはSランクの実力者、リミッターがかかっている自分達では歯が立たないと語る。 しかしはやては顎に手を当て考え込んでいた、そんなはやての態度になのははダメ押しとも言える言葉を放つ。 「今!この場でアイツを捕まえなきゃもっと被害者が増える!私や…スバルみたいな思いを受ける人が大勢出てくる!! それだけは……なんとしても防がなくっちゃ!!!」 なのはが放ったその言葉は、はやての心に深く響き頷くと意を決した。 「わかった、せやけど120分や、それ以上はアカン!えぇな」 「はやてちゃん!……120分もあれば十分だよ!!」 そう言って連絡を切るなのは、はやては椅子に座るなり一つ溜め息を吐くと机に肘を置き手を組むと考え込んでいた。 これは危険な賭である、何故ならこの先起きるであろう“未曾有の災厄”の事を考えれば、今此処で切り札である能力リミッターを解除するのは得策ではない。 だがその“未曾有の災厄”がレザードの手によって行われるものだとしたら、此処で逮捕する事によって未然に防ぐ事が出来るのかもしれない。 しかし的が外れれば切り札の無駄使い、更に此方の戦力を把握される可能性がある。 そんなハイリスクを背負ってでも、なのはの要望に答えたのは、はやてもまたなのはと同じ思いを感じていたからだ。 それにリミッターを解除したなのは達に適う者などいない……例え相手がSランクの実力者であっても… そう言い聞かせるかの如く自分の判断を信じ、はやてはモニターを見つめていた。 「みんな!はやてちゃんからリミッター解除の承認が下りたよ!!」 なのはのその一言に頷くと一斉にリミッターを解除するメンバー達。 リミッターの外れたリンカーコアは活性化し、魔力を作成していく。 そして体内は本来の魔力数値で満たされると一斉にレザードを睨むメンバーであった。 「成る程……今まではリミッターが掛かっていたのですか…ならばその本来の実力を見せて―――」 「随分と良く喋る男だ」 レザードの後方から声が響きレザードは振り向くと、其処にはシグナムがいつの間にか回り込んでおり、紫電一閃を放つ寸前であった。 レザードはとっさにシールドを展開するが、先程とは異なり呆気なく切り崩された。 シールドを崩されたレザードは後方へ飛びながらアイシクルエッジをシグナムの正面に向け撃ち出す、だがアイシクルエッジは次々と撃ち落とされていった。 その間にヴィータはレザードを見下ろす位置に立つと、自分の目の前に鉄球を8つ並べ次々と魔力が覆っていく。 そして魔力に覆われた鉄球は次々とグラーフアイゼンで撃ち抜いた、シュワルベフリーゲンと呼ばれる誘導弾である。 シュワルベフリーゲンがレザードに迫る中、ヴィータの攻撃を跳ね返そうとリフレクトソーサリーを展開させ攻撃を受け止める。 「くっ!重い!」 だがシュワルベフリーゲンは一つ一つが重く威力が高い為、的確にヴィータへ跳ね返す事が出来なかった。 レザードは仕方なくシュワルベフリーゲンを周囲に跳ね返している最中、上空からヴィータがラテーケンハンマーを振り下ろす。 レザードは先程と同様シールドを展開させるが、先程とは異なり容易く打ち砕かれた。 「まだまだぁ!!」 すると今度は先程の一撃の勢いを利用してその場でカートリッジを消費させるとヴィータは回転し、ラテーケンハンマーを連続で撃ち出そうとする。 だがレザードはヴィータが回転している隙をついて移送方陣でヴィータの後方上空へと移送した。 移送後レザードはヴィータに向けファイアランスを撃ち出すが、 ヴィータは回転を止め左手をかざすと三角形の盾パンツァーシルトを展開させて攻撃を防いだ。 「ザフィーラ!!」 「承知!!」 ヴィータの掛け声に呼応する様にザフィーラはレザードに迫っていく。 するとレザードはザフィーラに向けイグニートジャベリンを撃ち出す。 だがザフィーラは左手に障壁を展開させると先程とは異なりイグニートジャベリンを弾き飛ばしながらレザードの目の前まで向かう。 そして右手に魔力を乗せ突き抜けるように振り抜くが、レザードは半球体型のバリア型ガードレインフォースを展開させ攻撃を防いだ。 しかしザフィーラは気にも止めずバリアの上から何度も左右の拳を叩き付ける。 その衝撃はレザードにも伝わっており、更にバリアにヒビが生じ始めると、それを見たザフィーラは勝機とばかりに右手で左拳を包み込むように握り絞め振り上げた。 「小賢しい…」 レザードは一言呟くと振り下ろしに合わせてバックステップで回避、更に右手をザフィーラにかざした。 その瞬間ザフィーラの口の端がつり上がると、レザードは手足だけではなくで体中をバインドで縛られた。 「んっ!?これは…」 「掛かったな」 先程のザフィーラの攻撃は囮で本命はこのバインドによる拘束が目的であった。 まんまと掛かったレザードであったが、バインドを外そうと魔力を高める。 その間に目の前にいたザフィーラが退散すると、上空に光を感じレザードは目を向けた。 レザードから見て左側上空にエクシードを起動させたなのはと、右側上空でザンバーフォームを構えるフェイトの姿があった。 二人はカートリッジを二発消費すると、レイジングハートの前に流星のように魔力が収束し、バルティッシュの刀身には強烈な雷が蓄積していった。 そして――― 「スターライト……」 「プラズマザンバー……」 『ブレイカァァァー!!』 二人が声を上げた瞬間、魔力砲は解き放たれ桜色の魔力砲と金色の魔力砲は真っ直ぐレザードに向かい直撃した。 だが二人の攻撃はまだ終わってはいなかった。 二人は間を徐々に詰めて行き二人の背中が重なり合うほどまで詰め寄ると、デバイスを重ねこう叫んだ。 『ダブルブレイカァァァー!!』 次の瞬間、デバイスから撃ち出されていた魔力砲が混ざり合い、螺旋を描きながらレザードが縛られた場所を飲み込みそのまま大地に突き刺さる。 そして螺旋を描いた魔力砲が消えると、キノコ雲のような土煙を高々と立ち上らせたのであった。 その様子を二人は上空で見つめており、その二人を囲むようにシグナム、ヴィータ、ザフィーラが集まっていた。 「………凄い…これがリミッターを外したフェイトさん達の実力……」 一方地上ではスバル達と合流したエリオ達が隊長達の戦いを見守っていた。 そしてシャマルは先程はティアナの、今はスバルの疲労を回復させていた。 スバルは依然として呆然自失としており、みんなの呼びかけにすら反応しなかった。 ティアナはシャマルに事情を説明すると、シャマルはスバルを見つめ落ち込む表情を見せる。 すると今度は顔を背け苦い顔を醸し出していた。 シャマルは自分の無力さを噛み絞めていた、生まれて幾年月、風の癒し手と称され様々な怪我に携わってきた。 だが心の傷を癒やす事は出来ない、つまりスバルの痛みを癒せないのだ。 それでもせめてスバルの疲れた体を癒やす位はしようと静かなる癒しをかけていたのだ。 一方ティアナはシャマルにスバルの身を任せエリオ達と共に隊長達の戦いを見守っていた。 エリオは一言漏し目を輝かせて見守っており、キャロもまたフリードリヒを抱きかかえながら見守っていた。 二人の心には安堵感に満ち溢れていたが、その中でティアナは一人冷静に戦況を見据えていた。 おかしい、何かがおかしい…確かにリミッターを外した隊長達の力は凄まじくティアナの想像を超えていた。 加えてフェイトはザンバーフォームを起動させ、なのはに至っては短期決戦用のエクシードを使用している。 まさに“無敵を通り越して異常”な戦力、その異常な戦力を“たった一人”の魔導師に向けられている。 …寧ろ今の状況こそ異常では無いのかと考えるティアナ。 幾らあのレザードが強者であってもSランクオーバーもしくはそれに準する魔導師五人で相手にする程なのだろうか? もしそうならレザードはあの異常な戦力と対等の力を持っていることを指す。 そんな馬鹿げた事を考えつつも、なのはの姿を見上げる。 なのははあれ程の収束砲にコンビネーション攻撃を仕掛けたにも関わらず、なのはの瞳には未だ警戒の色が滲んでいた。 だとすれば、なのははレザードを倒したという確固たる手応えを感じてはいないのではないか? そんな有り得ない事を考えるも、背中に冷たいモノを感じるティアナであった。 一方舞上げられた土煙の中、その中央の場でレザードは大の字を描いて寝そべっていた。 レザードは上半身だけを起こすと手の感覚を調べる、次に自分の服装を調べた。 服は舞上げられた土煙のせいで砂を被っており、レザードは眼鏡に手を当て頭を横に振る。 「やれやれ…一張羅が台無しだ……」 そう答えるや空を見上げるレザード、空は未だ舞い上がった土煙に覆われており、太陽も朧気になっていた。 そこでレザードはモニターを開きルーテシアと連絡を取る。 「どうしたの博士?」 「ルーテシア、ガリューの方はどうなっていますか?」 「……………………」 その言葉に沈黙するルーテシア、レザードは首を傾げると意を決したように話し始めた。 ガリューは無事アグスタへの潜入に成功しスカリエッティの依頼品を無事に回収、 続いてレザードの依頼品を回収に向かったところ、一つは回収したのだが もう一つはある“ハプニング”により目下捜索中で暫く時間が掛かると告げた。 それを聞いたレザードは呆れるように頭に手を当て振る。 「仕方がありませんね、ではもう少し時間を稼ぎましょう……」 「大丈夫博士?ゼストを向かわせようか?」 「いえ…それには及びませんよ」 そう言うとルーテシアと別れの挨拶を交わすとレザードはモニターを消し、これからどうするか考えた。 彼女達の攻撃があの程度であれば、このままでも充分時間を稼ぐ事は出来る。 だがそうなると攻撃を全て受け止めなければならない、それにやられっぱなしというのも面白くない。 「やはり…リミッターを一つ解除するしかないですね」 考えを纏めたレザードはゆっくりと立ち上がり空を見上げていた。 一方上空では、なのはとフェイトを中心に舞い上がった土煙の様子を見つめていた。 だが未だ動きがない為かヴィータが業を煮やし問い掛ける。 「なぁシグナム、やったんじゃねぇか?」 「さぁ…どうだろうな、油断は出来ん」 「なのははどう思う?」 「……………………」 ヴィータの問い掛けに警戒を促すような答えを出すシグナムに、フェイトの呼び掛けに一切答えず土煙を見つめるなのは。 土煙も徐々に薄くなっていき地上が見え始めている中、地上にはレザードが膝あたりの砂を叩きつつなのは達を見上げていた。 その光景にやはり…といった様子でデバイスを構えるなのは、それを皮切りに他のメンバーも構え始める。 それを地上で見ていたレザードは眼鏡に手を当てこう言い放った。 「成る程…どうやら貴方達を侮っていたようですね…ならばこちらも……」 その言葉の後にレザードの足元から青白く光る五亡陣が現れると更に言い放った。 「ネクロノミコン、能力リミッター解除、モードII……グングニル!!」 するとレザードに掛けられていたリミッターが外れリンカーコアが活性化すると体はふわりと浮かび上がり体から青白い魔力が溢れ出す。 溢れ出した魔力は周りの木々を薙ぎ倒すと徐々に小さくなっていき右手に炎のような形で揺らめく。 レザードはその魔力をかき消すように振り払うと今度は左手に持っていた魔導書が輝きだした。 魔導書は柄の両端に巨大な両刃の刃が付いた槍へと変わりレザードの右手に収まった。 モードIIグングニル、かつてレザードが居た世界に存在する、 神の世界アスガルドを支える四宝の一つで、神の王オーディンが所有していた武器を模倣した形態である。 一方上空ではレザードの魔力に唖然としていた。 あれだけの魔力を保有していながら今までリミッターが掛かっていた事に。 おそらく今のレザードの魔力は自分達の想像を超えているであろう、だが此処で屈しる訳にはいかない。 そう隊長達は気を取り直しレザードを睨みつける。 そしてレザードは地上からなのは達を見上げこう述べた。 「では……最終幕を始めましょうか」 そしてなのは達に向けグングニルを振り払うと衝撃波を作り出し、衝撃波はなのは達に直撃した。 なのは達は叫び声を上げながら吹き飛ばされるが、すぐに体制を立て直し地上を睨みつける。 地上には既にレザードの姿はなく、なのは達はレザードを探していると更に上空にてレザードを発見する。 「野郎!いつの間に!」 「待て、私が行こう!」 ヴィータが飛び出そうとする中、シグナムに止められシグナムはレヴァンティンを構えた。 「レヴァンティン!カートリッジロード!!」 レヴァンティンからカートリッジが二発排出されると、刀身に紅蓮の炎が纏いレザードとの間合いを詰め切りかかる。 だがシグナムの紫電一閃はレザードのシールドに阻まれてしまう。 「ほぅ……そのデバイスの名はレヴァンティンと言うのですか…成る程…貴様の能力によって炎の魔剣を体現させている訳か」 「貴様!何を言っている!!」 「だが…我がグングニルと同様、オリジナルとは程遠い!!」 レザードは意味深な台詞を吐くとグングニルをシグナムに向け切り払う。 それによって発生した衝撃波がシグナムに直撃し吹き飛ばされた。 それを見たヴィータはレザードとの間合いを詰める。 ヴィータはグラーフアイゼンをギガントフォルムに変えるとカートリッジを二発消費させレザードに打ち込む。 ギガントハンマーと呼ばれるヴィータのフルドライブから繰り出される一撃である。 だがレザードはヴィータのギガントハンマーをグングニルで防いだ。 「バカな!アタシのギガントハンマーをデバイスで受け止めやがった!!」 「材質が違うのですよ」 そう言うとレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせるとヴィータにかざした。 「ダークセイヴァー」 次の瞬間、ヴィータの右下・左下・上後方に闇の刃が現れ、それぞれ右わき腹・左わき腹・延髄あたりを貫く。 更に右上・左上・下後方に先程と同様の闇の刃が現れると、右肩・左肩・腰のあたりを貫き、 またもや右下・左下・上後方に先程と同様の闇の刃が現れると同じく右わき腹・左わき腹・延髄あたりを貫いた。 「ヴィータちゃん!!」 「安心しなさい…非殺傷設定されていますから死にはしませんよ…痛みは伴いますが」 そう言うとヴィータを貫いた闇の刃が消え力なく落ちるヴィータ。 その間にザフィーラが正面から襲いかかる。 「おのれ!よくもヴィータを!!」 「次は貴方ですか……先程貴方には一杯食わされましたね」 そう言って手をかざすとザフィーラの手足に赤いバインドに、胴には青いバインドによって縛られた。 「くっ!これは!!」 「無駄ですよ、その赤いバインド、レデュースパワーは縛った対象の力を抑え、 青いバインド、レデュースガードは縛った対象の防御を抑える……その意味はわかりますね?」 そう言うとグングニルを振り上げるレザード、ザフィーラはバインドを外そうと力を込めるが思うように力が入らなかった。 ザフィーラはなす統べなくレザードの攻撃を受け吹き飛んだ。 すると今度はフェイトがトライデントスマッシャーをレザードに放つ。 最初に撃ち出された直射砲を軸に上下に直射砲が伸び、三本の直射砲がレザードに向かって襲いかかる。 だがレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせライトニングボルトを放つ。 ライトニングボルトはトライデントスマッシャーを打ち破りフェイトに直撃した。 すると今度はなのはがエクセリオンバスターを撃ち込む。 「エクセリオン……バスター!!」 「フッ……プリベントソーサリー」 するとエクセリオンバスターから黄色い魔力の鎖が現れ、巻き付くとエクセリオンバスターは徐々に拡散し消滅した。 なのはは驚く表情を見せるとレザードは得意気にバインドの説明を始めた。 プリベントソーサリー、レザードがこの世界に合わせた魔法で、縛った対象の魔力を封じる効果を持つという。 つまりそれは魔法を縛れば魔力の運動を止められ消滅し、 肉体を縛ればリンカーコアの動きを封じられ魔法が使えなくなると語る。 そしてレザードは眼鏡に手を当てると更に話しを続けた。 「どうしました?さっきまでの威勢は何処へ行ったんでしょう? それとも…フフッ犠牲者がでなければ実力が発揮出来ないとか?」 そう言うと左手を地上にかざすレザード、左手は先ほどと同様、魔力に覆われていた。 なのはとフェイトはレザードがかざす手の方へ目を向ける、すると其処にはティアナやエリオ達の姿があった。 まさか!といやな予感がしたなのはは、とっさにティアナ達に念話を送る。 (ティアナ!みんな!急いでその場か―――) 「…バーンストーム」 そう言うとレザードは指を鳴らすと纏っていた魔力が消える。 そしてスバルが居た場所を中心に直径数百メートルの部分が三度に分けて大爆発を起こし、その光景を目の当たりにするフェイト。 するとレザードはバーンストームの説明を始める、バーンストームは爆炎を利用した魔法、 そしてレザードの手によって非殺傷設定されている為、死ぬ事は無いと。 だがレザードの炎は特別で対象が気絶するか、かき消すか、そして非殺傷設定が解除されてあれば燃え尽きるかしないと、炎は消える事が無いと話す。 しかしバーンストームの跡地に残された炎は見る見ると消えて来ており、その状況に疑問を感じるレザード。 「おや?思いの外、炎の消えが早い……そうか!相手が弱すぎて最初の爆炎だけで気を失ったのか! ならば…その後に訪れるハズであった身を焼かれる苦しみを味わなくて済んだようですね」 そう言って高笑いを上げるレザード、フェイトは依然として跡地を見つめていた。 あの場にはエリオ達の姿もあった…それが一瞬にして消されたのである。 するとフェイトは怒りで目の瞳孔が開き、髪をふわりと逆立てると、ソニックムーブでレザードの後ろをとり、 ブリッツアクションを用いて腕の振りを早めたジェットザンバーを放つ。 だがレザードはとっさにシールドを展開させフェイトの攻撃を防ぐ。 互いの攻防により火花が散る中、フェイトはレザードを睨み付け吐き捨てるように叫んだ。 「アナタは!命をなんだと思っているんですか!!」 「ほぅ……“人形”が生意気にも命を語るか……」 その言葉に動揺を覚えるフェイト、その隙を付いてレザードはグングニルでフェイトの子宮辺りを突き刺す。 グングニルにはアームドデバイスと同様、非殺傷設定されてあれば肉体を傷つけず、 肉体を傷つけた際に生じるであろう痛みのみを与える効果を持っている。 「かぁ!?……はぁぁぁ……ぁぁ…」 「“人形”が…処女〈おとめ〉を失う時の様な喘ぎ声を上げるとは…な!」 そう言ってレザードは更にグングニルを深く突き刺し更に突き上げた。 グングニルによって深く突き上げられた痛みによって、フェイトは目を見開き涎を垂らしていた。 「はぅ!……ぁ…ぁぁああ!!」 「キツいですか?なぁに…すぐにこの感覚にも馴れます…よ!」 更に深く突き上げ、グングニルは尾てい骨辺りを超えて貫き、腰から刃を覗かせていた。 「カハァ!!」 「とは言え所詮はただの“人形”……貴方が相手では木偶と情交するに等しいか…」 「わた…しを…“人形”と……呼ぶな!!」 涎を垂らし目には涙を溜めながらも必死に抵抗するフェイト。 するとレザードはグングニルを引き抜きフェイトの顎を掴み、顔を近づけこう言い放った。 「“人形”と呼ばれるのがそんなに不服か?…ならばこう呼んでやろう……プロジェクトFの残滓よ」 「ッ!!!キッキサマ!!」 フェイトの怒りは頂点に達しレザードの手を振り払うとバルディッシュをまっすぐ振り下ろした。 だがレザードはフェイトの怒りの一撃をたやすく受け止めていた。 「そんな!フィールド系?…いや支援魔法!?」 「ご名答…正解した貴女にはコレを差し上げましょう…」 そう応えるとレザードはフェイトに手を向ける、手には魔力が纏われており、魔力は手のひらを介して球体へと変化、それは徐々に加速していった。 それを見つめるなのはは見たことがあった、いや確信していた、あれは自分の十八番とも言える魔法であると。 「確か……名は」 「フェイトちゃ――」 「ディバインバスターでしたか」 次の瞬間、レザードから青白いディバインバスターがフェイトに向け撃ち出された。 フェイトはディバインバスターに飲み込まれ吹き飛ばされていく。 だが後方でザフィーラがフェイトの救出に成功していた。 「何で!アナタがディバインバスターを!」 「ただの魔力を加速させて放出させるなど、私が出来ないとお思いで?」 レザードは様々な魔力変換が可能な存在、魔力を加速させて撃ち出すことなど造作もないと不敵な笑みを浮かべ話す。 その中レザードにルーテシアから念話が届く。 内容は今し方ガリューは目的の品を回収し無事アグスタを脱出、現在ルーテシアの元へ向かっているという。 (…わかりました、ではルーテシアはガリューが到着後すぐに転移して下さい、しんがりは私が務めましょう…) (わかった…やりすぎないでね) ルーテシアは一言残し念話を切る、それを確認したレザードは辺りを見渡すとなのはを中心にメンバーが募っていた。 レザードは一通り見渡すと肩をすくめこう言い放った。 「さて…貴方がたの実力も見えてきた頃ですし、そろそろ私は退散でもしますか」 「なっ逃げるの!それに…私達がそれを許すと思うの!!」 なのはのその言葉に大笑いするレザード、するとレザードは眼鏡に手を当てこう言い始める。 「これは面白い事を言う、貴女は自分がどのような状況かまるで解っていないのですね」 「それはどういう意味!」 「こう言う事ですよ」 そう言ってレザードは移送方陣で更に上空へと上がる。 なのは達は必死に追いかけているとレザードの足元に、 巨大な複数の環状で構成された多角形の魔法陣を展開、そして左手をなのは達に向け詠唱を始める。 「…闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ…」 するとレザードの目の前に黒い球体が姿を現す。 球体の中は幾つか稲光が見えていた、そしてレザードは更に詠唱を続ける。 「彼の者に驟雨の如く打ち付けよ!」 すると球体は見る見る膨らんでいきレザードの姿すら見えないほどにまで巨大化していた。 「あれは……まさか広域攻撃魔法か!?」 「こんな場所で撃ち出そうと言うの!」 なのは達は上空を見上げレザードの魔法を分析する。 するとレザードの声だけが響いてきた。 「安心なさい…非殺傷設定されてあります…ですので……」 レザードの姿は魔法に隠れ見えないが、不敵な笑みを浮かべているだろう声でこう告げた。 「存分に死の恐怖と苦痛を堪能して下さい…」 そしてグラビティブレスと叫ぶと漆黒の球体はなのは達に向かっていった。 なのは達は苦い顔をしながら迫ってくる球体を睨みつけると回避を否がす。 だがヴィータがそれに反発する、何故ならなのは達の後ろにはアグスタが存在していた。 アグスタの中にはまだ局員達が多数警備しており、今自分達が避けたらアグスタに直撃してしまうからだ。 するとザフィーラが一歩前に出ると障壁を最大にして展開、グラビティブレスを受け止めようとする。 その間になのは達はアグスタに残っている局員達に連絡を取ろうとした瞬間、 ザフィーラの障壁が脆くも打ち崩され、ザフィーラを飲み込んでいった。 更になのは達をも飲み込み、グラビティブレスは無情にもアグスタを包み込むように直撃した。 …グラビティブレスの中は詠唱如く、無数の雷が蠢きあい、内にあるモノ全てを驟雨の如く打ち付けていた。 暫くするとグラビティブレスは一つの稲光を残し消え、跡地にはアグスタが瓦礫の山となっており、一部は砂塵と化していた。 その様子を上空で見届けたレザードは眼鏡に手を当てながら口を開く。 「我ながら中々の威力ですね」 そして高笑いをしながら移送方陣でその場を後にした。 一方、一部始終見届けていたロングアーチは静寂に包まれていた。 誰もが今まで見ていた光景が偽りであると考えるその中で、はやての檄が飛ぶ。 「何を惚けとる!早よ現場に救護班を急行させ!いくら非殺傷設定の攻撃だとしても、あの量の瓦礫に埋められたら圧死か窒息死してまう!!」 その言葉に端を発し一斉に動き出すロングアーチ、その中はやては右手を握ると思いっきり机を叩く。 そして苦い表情を表しながらモニターを見つめ吐き捨てるかのように言葉を口にした。 「私の……私の判断ミスや!!」 一方ゆりかごに戻ったレザードは通路を歩いていると、ルーテシアがレザードの帰りを待っていた。 ルーテシアはスカリエッティに頼まれた品物を渡しナンバーズにも品物を渡し、残りはレザードの品物だけだと話す。 ルーテシアはレザードに一つのパピルスを渡す、パピルスには設計図のような物が描かれていた。 そしてルーテシアはその品物が何なのか問いかけた。 「博士…それ何なの?」 「これですか?」 ルーテシアの疑問に対し、パピルスに目を通しつつ笑みを浮かべこう答えた。 「“ゴーレム”の設計図ですよ…」 前へ 目次へ 次へ
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デジモン・ザ・リリカルS F 第二話 「少女と龍」 キャロとアグモン、フリードは、ジャングルの中を歩いていた。一番近い街でも十数キロ先という場所に何故いるかというとそこしか、街に行く道はなかっただけであった。 「ハァハァ疲れたね」 「オイラもキツイよ、姉御ぉ」 「もう少し、頑張ろう。日が暮れるまでにジャングルを抜けなきゃ」 とは言ったものの、たかだか、10歳の少女の体力である。既に限界は越えている。それに食料などもなく、三日間飲まず食わずだったのだ。数百メートルいくと倒れてしまった。 「姉御!」 アグモンはそう言うとキャロに駆けよった。フリードも心配そうにキャロを見つめる。アグモンが額に触れると呟いた。 「凄い熱だ、どうしよう…、近くに街はないし…」 「キュウゥ~!」 「え、なになに、『近くに洞窟がある』だって!でかした、フリード!」 そう言うとアグモンはキャロをおぶって、その洞窟へと歩いていった。数十メートル行くと、そこには、フリードの言った通り、洞窟があった。アグモンは恐る恐る中に入っていった。 そこは、誰か住んでいるようで、洞窟の壁には服と見れるものがあり、また大量の果物やキノコなどが置いてあり床にはベッドのような物があった。 その脇には、良くは見えないが写真があった。とにかく、キャロを寝かせようと思った時、後ろから声が響いた。 「あなた達は、だ~れ?」 「誰だろうね?」 振り向くとそこには赤い龍型デジモンと幼い少女がいた。 少女はライトブラウンの髪にリボンを二つ結び、その右目は翡翠のごとく輝く緑、左目は夕暮れのごとく透き通った真紅の瞳を持っており、体には質素なワンピース風の服を纏っていた。 「え~っと、オイラはアグモン。」 「フ~ン、アグモンかぁ!私は高町ヴィヴィオ!で、この子がお友達のギルちゃん!」 「僕、ギルモン!よろしくぅ」 「ねぇねぇ、どうして、こんな所にいるの?」 「街まで行こうと旅をしていたら姉御が熱を出して、倒れたから運び込んだだけなんだ。」 「姉御ってだぁれ?」 「オイラを庇ってくれたりする心の強い人でオイラの自慢の姉御、キャロ・ル・ルシエってんだ」 「キャロお姉ちゃん!?本当なの。」 「当たり前だよ!此処に居るじゃないか」 それから一時間してキャロは目を覚ました。 「姉御!しっかりして姉御!!」 「う、う~ん…。アグモン?それにフリード?そっか私、倒れちゃったんだ」 「良かったぁ!あ、そうだ姉御、これ着替え!姉御の服は今、洗ってるんだ」 言われて見ると確かに今まで着ていた服はなく、半裸だった。 「え、あ、ありがとう!」 そう言うとキャロは渡された服を着た。どうやらそれは男物を仕立て直した物らしく少し大きめだったが何とか着ることが出来た。 「姉御、似合ってるよ!」 「そ、そうかな?」 その格好はTシャツの様な上着と短いスカートを履きマントを纏うというものだった。 「お兄ちゃんの服似合ってるね!」 「嘘!?ヴィヴィオちゃん!?」 「うん、そうだよ!」 「良かったぁ、無事だったんだ~。ところでさっきから言ってるお兄ちゃんって?」 「えっとねぇ、ヴィヴィオとずっと暮らしてたの。で、今は南の方にお出かけしてるの」 「お兄ちゃんの名前は?」 「イクトって言うんだよ。野口イクト!」 「ヴィヴィオ~洗濯終わったよ~。今持ってくねぇ」 「分かったぁ。ありがとうギルちゃん!」 「ギルちゃん?」 「ギルモンって言うデジモンらしいですよ、姉御!」 「持って来たよぉ。とっ、とっ、とっ、うわっ」 洗濯物をばら蒔いてしまったギルモン。その中にはキャロの下着もあった為、さすがにキャロも慌てて片付けた。 アグモンはヴィヴィオと話をしていた。 「へぇ~、その写真の人はヴィヴィオのお母さんなんだ」 「うん、とっても大好きなんだ」 母親のことを思い出し少し落ち込んでしまいアグモンは狼狽えた。 「ゴメンね。気に触ること言ったかなぁ」 「ううん、大丈夫!今は、ギルちゃんも居るし寂しくないよ!」 そう言って笑うヴィヴィオ。アグモンにはそれが悲しげに見えたという。 「そう言えば、ギルモンのことあんまり聞いてないなぁ」 「じゃあ、教えてあげる」 ヴィヴィオは語り始めた、初めてギルモンとあった時のことを。 それは、嵐の晩のことだった。ヴィヴィオは、いつものように夕食をとり、眠りに就こうとした時だった。 外で、ドサッ、という物音がした。そして、ヴィヴィオが外に出てみるとそこには赤い騎士の様な影が見え、近づいて見るとそこには赤き龍が倒れていた。 「それが、ギルちゃんだったって訳なの」 「フ~ン。そんなふうに出会ったんだぁ!」「あ、そういえばギルちゃんとあった時、こんな声が聞こえたんだよ!『我が友のことを頼むぞ、幼き少女よ。我は影から見守って行こう。』て言う声がした後、白い鎧っていうのかな、左手が剣の人影が見えたんだ。」 そんなふうに喋っていたその時、茂みから唸り声が響いた。 「ウオォォ!」 そして茂みから出て来たのは、トータモンであった。 「力を試すには丁度いい。お前ら、死ねぇ!」 「ヴィヴィオちゃん下がって、ベビーバースト」 アグモンはベビーバーストを放つが全く効かなかった。 「堅い…、どうしよう。」 「待ってて、今、進化させ…」 「無茶だ!今の姉御じゃあチャージは出来ないよ」 「死ぬ覚悟は出来たなぁ。し、グオッ!」 「ヴィヴィオに手を出すなぁ!ファイアボール!」 トータモンがヴィヴィオを襲おうとした時、ギルモンが乱入し火球を放ち牽制した。 「えぇい邪魔だぁ!シェルファランクス!」 そう言うと甲羅のトゲが一斉に飛び、ギルモンを吹き飛ばした。 「ギルちゃん!」 「大丈夫だよぉ」 「私、私ギルちゃんの力になる!」 そう言ったヴィヴィオの周りを眩いほどの白銀のデジソウルが覆いい、その右手には、瞳の色と同じ、透き通った赤と緑のデジヴァイスicが握られていたのだ。 「ギルちゃんに力を!デジソウル、チャージ!」 その眩き銀のデジソウルはギルモンへと降り注いだ。 『ギルモン進化ぁ!グラウモン!』 そこには真紅の魔龍、グラウモンの姿があった。 「ヴィヴィオに指一本触れさせない!」 「ふざけるな!シェルファランクス!」 しかし、今度はシェルファランクスは届くことはなかった。 「プラズマブレイドォ!」 「な、なにぃ!?」 全てのトゲを真っ二つに斬られてしまったのだ。 「これで終わりだぁ!エキゾーストフレイムゥ!」 そう言って爆音と共にトータモンへと強力な火炎を放った。 「力を手に入れたばっかりなのにぃ…」 そう言い残しトータモンはデジタマへと戻ったのであった。 「ギルちゃん、凄い!」 「えへへ、褒められたぁ」 そう言いながらじゃれあう一人と一匹。 キャロは何かを決心したようにアグモンの方を向いた。 「決めた。ヴィヴィオちゃんを連れて行こう!」 「えぇ~!本当!」 「本当!」 「やったぁ!」 「大丈夫、姉御ぉ?」 「な、何とかなるよ」 前途多難な旅路に不安がる二人を見つめる影が二つ。 「やっぱり、ダメダメだな。私がしっかりしないと。な、ガオモン」 「イエス、マスター」 次回 デジモン・ザ・リリカルS F 第三話 「疾風と鉄槌」 お楽しみに! 戻る 目次へ 次へ
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戦士のエチュード グリフィスは川岸にいた。ザフィーラの埋葬の場所を探して。 「とにかく、ザフィーラを埋葬しよう。でないと報われない」 傍らにはザフィーラの遺体。右手には木刀、左手にはデイバックを持っていた。 「ザフィーラ…、あなたはもしかしてあの娘を…」 ザフィーラの遺体の近くにいて、ザフィーラを殺害したと思われる少女。 もしかしたらあの娘は自らの身を守っただけでは? だとしたらザフィーラは殺し合いに乗ったというのだろうか? そんなことを考えながらも埋葬場所を探していた。 「だとしたら、あなたも彼女も罪を問われるべきなんだろうな…」 真面目な彼はそんなことを考えていた。 移動しようと、デイバックを持っていく為にザフィーラの側から離れた瞬間、赤い熱線が先程までいた場所を抉りザフィーラの遺体を消し去った。 (なんなんだ、一体) そう考え、上空を見ると、そこには身体に大きな傷を負った、魔導師だと思われる人がいた。 グリフィスがザフィーラの遺体を川岸に運んだ頃、少年エリオ・モンディアルは川の対岸にやって来ていた。 彼は、戦う相手を求めここまでやって来たのだ。 ヤクトミラージュを握りしめ、マジンカイザーを使い。 そして、エリオは見つけた。新たなる敵を、グリフィスを。 本来グリフィスは非戦闘員。しかし、今のエリオにはそんなことはどうでもよかった。 ただ、戦えればいいのだから…。 だから放つのだ無慈悲の閃光を。 「ファイヤーブラスター!」 しかし幸か不幸かグリフィスは移動し、閃光は外れた。 エリオにはこう移った避けたのだと…。 「次はあなたが相手をしてくれるんですか?グリフィスさん」 グリフィスは焦っていた。突然の襲撃者に。今、自分に武器はない。木刀は先程の攻撃の衝撃で落としてしまった。 どのみち、木刀では魔導師には勝てない。 グリフィスは先程の攻撃で断定した。相手は魔導師だと。 そして今の自分に魔導師と戦う力はない。ならば方法は一つ。 逃げる、とにかく逃げきることである。 幸い近くに森がある。森の中なら相手が飛んでいようと関係はなくなる。 しかし、エリオはそれも許さないかのように射撃をしてくる。 「うわッ!あ、眼鏡が」 激しい攻撃にふとした拍子に転び、眼鏡とデイバックの中身が放り出された。 グリフィスは急いで立ち上げろうとする。 その右手にカードデッキをつかんでいることに気付かず。 地面に放たれた魔力弾の光。それは眼鏡に反射しグリフィスとカードデッキを写した。 そして、グリフィスの腰にバックルがセットされる。 「これはもしかして…」 グリフィスは考える。これはこの箱の力を引き出すものではないのか、と。 しかし、エリオは待ってくれない。 「鬼ごっこは終わりですか?」 「一か八かだけど、ウオォォォ!」 エリオの放つ魔力弾が迫る中、グリフィスはデッキをバックルにはめこんだ。 そして、 「やっぱり戦いはこうじゃないと」 そこには緑の鎧を纏った戦士がいた。グリフィスである。 戦士の名はゾルダ。 神崎が作り上げたデッキの力を纏った姿である。 「早く戦いましょうよ。ねっ!」 「狂ってる…」 【1日目 現時刻AM2 46】 【場所 I-5 森付近】 【グリフィス・ロウラン@リリカルなのはFeather】 [状態]健康。疲労(中)ゾルダに変身中 [装備]マグナバイザー、カードデッキ(ゾルダ@マスカレード [道具]遊戯王カード「バスターブレイダー」「魔法の筒(マジックシリンダー)」「光の護封剣」@リリカル遊戯王GX [思考・状況] 基本的にこのゲームには乗らない。 1.目の前の魔導師の拘束しなければ 2.部隊長…、どこに…。 〔備考〕 ※カードデッキの制限については知りません。 ※魔導師がエリオだとまだ気付いてません。 【1日目現時刻AM2 45】 【場所 I-5 森付近】 【エリオ=モンディアル@リリカル遊戯王GX】 〔時間軸〕第六話終了後 〔状態〕左胸上部から右脇腹への裂傷、デュエルゾンビ化、魔力消費大、体力消費大 〔装備〕マジンカイザー@魔法少女リリカルマジンガーK s ヤクトミラージュ@NANOSING 〔道具〕支給品一式 レヴァンティン@スーパーリリカル大戦(!?)外伝 魔装機神 THE BELKA OF MAZIKAL ローザミスティカ@ヴィータと不思議なお人形 [思考・状況] 基本 戦いを楽しむ 1.グリフィスさんと戦おう。 2.なのはさんを探す 049 本編投下順 051
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高町家の末っ子、高町なのはの朝は早い。 なのはは寝ぼけ眼をこすりながら立ち上がった。 「おはよう、レイジングハート」 レイジングハートに朝の挨拶をすませ、着替えを始める。 今日は寒そうなので暖かい服を選んだ。 着替え終えた後、魔法の練習を行うため桜台・登山道を目指す。 まだ日も昇っていない薄暗い海鳴市を一人歩く。 (う~、もうちょっと服を着てくれば良かったかな?) 予想を越える寒さになのはは体を震わせつつ先を急ぐ。 それから15分後、ようやく登山道に辿り着く。ここまで来れば残りは少しだ。 なのはは元気良く登山道を登り始める。 それと同時に日が昇り始め薄暗かった海鳴市が段々と明るくなっていく。 その光景を登山道が眺めるなのは。 (……綺麗だなぁ) なのははこの景色が大好きだった。 日光の反射によりキラキラと光る宝石のような海鳴市。 まるで、早起きした自分への神様からのプレゼントのように感じる。 そんな景色を見ながら歩を進めていくといつもの場所についた。 そして、いつものようにエリアサーチを行う。 エリアサーチを行いながらなのはは思う。 (ヴァッシュさんを見つけた時も今日みたいに寒かったなぁ……) ――早いものでヴァッシュさんが高町家で生活するようになって一週間がたった。 ヴァッシュさんも段々と翠屋での仕事にも慣れ、なかなか楽しそうにアルバイトをしている。 でも片腕が無いのであまりお客さんの前出る仕事はしていない。もっぱら、厨房で皿洗いやケーキの装飾などをしている。 ……それと、これはお姉ちゃんから聞いたことだけど、ヴァッシュさんは最近、翠屋に来る女子高生の間で人気になっているらしい。 なんでも『厨房にいる隠れ美男子』と呼ばれ密かに思いを寄せる人までいるらしい。 そのことをヴァッシュさんに言ったら、手を叩いて喜んでいた。 なのはは、その時のヴァッシュの様子を思い出し、おもわず笑ってしまう。 『周辺に人の反応はありません』 そんななのはにエリアサーチを終えたレイジングハートが声をかける。 「よし、それじゃ頑張ろっか。それで、今日はどんな訓練するの?」 『今日は広域防御魔法の練習をしましょうか』 「うん、分かった」 なのははコートとレイジングハートをベンチの上に置き、広場の中央へと進む。 そして、立ち止まり目をつぶる。 深く息を吸い、集中力を高めていく。 魔法を使用する上で大事なことは集中すること。 集中力が切れれば魔法が暴発することだってあり得る。 ――それは分かっている。分かっているんだけど、どうも上手く集中出来ない。 最近はいつもそうだ。何故か集中することができない。それは魔法に限ったことでは無く、勉強の時や遊んでいる時もそうだ。 この前もアリサちゃんやすずかちゃんに心配された。 ――何でだろう? いや、分かっている。 自分はあることで悩んでいる。 『……今日は止めときましょう、マスター』 「えっ?」 いつの間にか全く違うことを考えていたなのはに飛んできたレイジングハートからの言葉。 その意味が分からずつい聞き返してしまう。 『今の状態で魔法を使用しても失敗するだけです』 「そ、そんなこと……」 『いえ、失敗します』 なのはの言葉を遮りレイジングハートは続ける。 『先程のマスターは明らかに集中力を欠いていました。そんな状態では成功するわけがありません』 辛辣な言葉を飛ばしてくるレイジングハートになのはは一言も言い返せない。 『どうしたんですか、マスター?最近様子が変ですよ』 普段レイジングハートはこんなに喋る子ではない。 そのレイジングハートがここまで言うということは自分は相当な状態なのだろう。 『……ヴァッシュ・ザ・スタンピードのことですか』 その言葉に驚くなのは。 「なんで分かったの……?」 『マスターの様子を見ていれば分かります』 その言葉になのはは顔を歪める。そしてうつむき、ポツリと呟く。 「……分からないの。管理局にヴァッシュさんのことを伝えた方がいいのか、伝えない方がいいのか……」 ――なのはは悩んでいた。 ヴァッシュに管理局のことを伝えるべきか、伝えないべきか。 ――ヴァッシュさんは高町家に残ってくれた。 それはとても嬉しいことだ。……でも、それはずっとでは無い。 管理局にヴァッシュさんのことを伝えたらすぐにではないにしろ、ヴァッシュさんの世界は見つかると思う。 そして、自分の世界へ戻る方法が分かればヴァッシュさんはあの時と同じように悩むだろう。元の世界に戻るか、このまま高町家に残るか、を。 あの時のヴァッシュさんはとても苦しそうだった。 ――あんなヴァッシュさんを見るのはもう嫌だ。 でも、管理局にヴァッシュさんのことを伝えなかったら、ヴァッシュさんは一生元の世界に戻ることはできないと思う。異世界に帰るということはそれほどのことだ。 ――それをヴァッシュさんが喜ぶのか? もちろん自分にとっては喜ばしいことだ。 でもヴァッシュさんがそれを望むのか。それが分からない。 あの時は高町家に残る道を選んでくれたけど、あの時のヴァッシュさんには並々ならぬ覚悟を感じた。 その覚悟がヴァッシュさんを辛い世界で命を賭けた旅をさせているんだと思う。 その覚悟のことを知らない自分がヴァッシュさんの道を閉ざして良いのか? ――それがなのはには判断出来ない。 『……マスター、家に戻りましょう。今日は休日です、ゆっくりと休んで下さい』 レイジングハートは何も答えてくれない。 それはそうだ。これは自分が考えなくてはいけないことだ。 そう、ヴァッシュさんを引き止めた自分が。 「……そうだね。戻ってからゆっくり考えよっか」 なのはは笑みを作る。 レイジングハートを心配させないように。 だが、その笑みを見てレイジングハートの不安はつのる。 なのははそんなレイジングハートに気づくことなく、歩き始める。 ヴァッシュのことで頭を悩ませながら。 ■□■□ 「おはよう!」 家に着いたなのはが最初に見たのは笑いながら片手をあげるヴァッシュの姿だった。 まだ朝早くなのに元気な人だ。 「……おはよう、ヴァッシュさん」 陽気なヴァッシュとは対称的になのはは暗い。 そんななのはにヴァッシュが心配そうな顔をする。 「どうしたんだい?何か元気がないみたいだけど」 「な、なんでもないよ!」 なのはは慌ててごまかし笑いを浮かべる。 「……だったらいいんだけど」 訝しげな眼でなのはを見つめるヴァッシュ。 「そ、それよりヴァッシュさん、早起きですね!」 そんなヴァッシュを見てなのはは話題を変える。 「まぁね。前の生活で馴れちゃったからかなぁ、つい早起きしちゃうんだよ」 なのはの気持ちを察したのかヴァッシュもその話題にのる。 「へ~そうなんですか?」 「まぁ、早起きは三文の得ってね。早起きは良いことだよ」 ヴァッシュはヘラヘラと笑いながらそう言う。 だが、なのははこの言葉に対し―― 「……ヴァッシュさん、お年寄りみたい」 ――爆弾を落とした。 しかも、恐ろしい事にこの天然娘は自分が爆弾を放ったことに気付いていない。 「ヴッ!」 ヴァッシュの動きが止まる。 そりゃあ百数十年も生きてはいる。こんなことを言われたことが無いわけではない。……だが、これだけ純粋な子に言われるとショックだ。 ――負けるなヴァッシュ!幾度となく死線をくぐり抜けてきたお前だったら耐えられるさ! 自分自身に活を入れ、何とか気持ちを立て直すヴァッシュ。 だが、それも―― 「あ、そーいえばお兄ちゃんとお姉ちゃんも言ってたよ。ヴァッシュさんがお年寄りみたいだって」 ――再び投下された爆弾に粉砕された。 まさに会心の一撃。 何とか耐えていたヴァッシュもその言葉に崩れ落ちる。 「わ、わ、どうしたの!?ヴァッシュさん!」 いきなり机に突っ伏したヴァッシュを見て、なのは驚く。 「……いやいや、全然気にしてないよ……うん」 それから数分間ヴァッシュが立ち直ることはなかった。 ■□■□ 「……あ、そういえばなのは宛てでこんなのが届いてたよ」 ようやく立ち直ったヴァッシュはそう言い、懐からある物を取り出した。 「フェイト……って書いてあるのかな?」 それは小さな小包だった。 それを見てなのはは目を輝かせる。 「フェイトちゃんからだ!」 「フェイト?誰だい、それ?」 「私の友達です。……今は遠くにいて会えないけど」 なのははヴァッシュから小包――フェイトからのビデオメールを受け取ると嬉しそうにそれを見つめる。 ヴァッシュはそんななのはを見て理解した。 フェイトという子となのはがどれほど深い友情で結ばれてるかを。 「……僕も会ってみたいなぁ」 「なら今度遊びに来る時紹介しますよ!」 「本当かい?いや~楽しみだなぁ」 ヴァッシュはそう言い机の上に置いてあった朝刊を広げ読み始める。 ――今では楽々と新聞を呼んでいるが、ヴァッシュさんは全くと言っていい程、日本語の読み書きが出来なかった。 聞いたり話したりは日本人と見紛うくらい上手いんだけど、何故か読み書きになるとサッパリになってしまう。 まぁ、異世界の人なんだから仕方がないのかもしれないけど……。 それとお金の単位も元の世界と違うらしく、その事にも四苦八苦していた。 だが、驚いたのはここからだった。 何と、ヴァッシュさんは二週間で日本語の読み書きをほぼマスターしてしまったのだ。 これにはお父さんやお母さん、お兄ちゃん達も驚いていた。 当のヴァッシュさんも驚いていて、「いや~僕には勉強の才能があるのかもね」などとお気楽なことを言っていた。 今では新聞を読んだり、テレビを見たりしながらメキメキとこの世界の知識を身に付けている。 (フェイトちゃんもヴァッシュさんと会ったら喜んでくれるかな?) 黙々と新聞を読むヴァッシュを見ながらなのはは考える。 フェイトちゃんは少し内向的だけどヴァッシュさんとなら直ぐに仲良くなれる気がする。 ふと新聞から顔を上げたヴァッシュさんと目があった。微笑みかけてくる。 見ているものも和やかな気持ちになる笑み。 それを見てなのはは嬉しくなる。 ――ヴァッシュが毎日を楽しそうに過ごしている。 ――あの時のつらそうな顔はもうしていない。 それが嬉しい。 それどころか、ヴァッシュさんが来てくれたお陰で騒がしかった高町家ももっと騒がしく、そして楽しくなった。 ――ずっとこの日々が続いてくれれば。 心の底からそう思う。 そこまで考えなのはの顔に暗い色が灯る。 ――でも、分かってもいる。ヴァッシュさんは異世界の人だ。いつかはこの楽しい日々も終わりを告げる。 だけど、私が管理局に伝えなければ?この日々は終わらないかもしれない。 ――ヴァッシュさんはそれで良いと思うのか? 先ほど、レイジングハートに話した悩みがまた頭の中に浮かんでくる。 さっきまでのとても楽しい気分が段々と暗くなっていく。 「どうしたんだい?」 いきなりヴァッシュさんに話しかけられた。 その顔はどこか心配そう。 「別に何でもないよ」 それに対しなのはは何でもない、と言うように笑いかける。 その心配させないための微笑みが他人を余計心配させることを知らずに。 ■□■□ 「お使い……ですか?」 昼飯を食べ終わり束の間の休憩を味わっていたヴァッシュはそんな言葉を発しながら士郎を見た。 士郎から告げられたことは単純明快。 午後は厨房に入らなくていいのでお使いに行ってきてくれないか?とのこと。 別段断る理由もないが、何故この忙しくなる休日の午後から? 「でも、これから忙しくなるんじゃないんですか?」 その質問に士郎は手を振り答える。 「大丈夫さ。ヴァッシュ君はこの三週間、頑張ってくれたんだ。たまには休暇をあげようと思ってな」 そこで士郎は言葉を切ると台所で桃子の手伝いをしているなのはの方を見る。 「……それに最近なのはの様子が変だろ?出来れば元気づけて欲しいんだが……」 どうやら、そっちが本命らしい。 「そういうことなら任せといて下さい!」 ヴァッシュはドンと胸を叩き、にこやかな笑みを浮かべ承諾する。 (そうと決まれば善は急げだ) 「なのは、ちょっといいかい?」 「どうしたの、ヴァッシュさん?」 いきなり呼ばれたことに少し驚きながら洗い物から顔を上げるなのは。 「店長からの指示でね。ちょっとお使いに付き合ってくれないかい?」 「別にいいですけど……」 少し戸惑った顔でなのははそう呟く。 「よし!なら早速行こうか」 威勢良くヴァッシュは立ち上がる。そして二人は休日の海鳴市に繰り出していった。 ■□■□ 「え~っと、士郎さんから頼まれたのは……と」 「出来るだけ安いのを選んで下さいね!」 「大丈夫、大丈夫」 カートを押すなのはの横で、ヴァッシュが楽しそうに、野菜や食料をカゴの中へと入れていく。 鮮やかな金髪と左腕が無いことも重なり、相当他の人に注目されているが、ヴァッシュはそんなことを気にせずにポイポイと商品を手に取る。 なのははヴァッシュに合わせカートを押して行く。 「それにしてもこのデパートっていうのは面白いねぇ」 周囲を眺めヴァッシュは感嘆の声を上げる。 「これくらいのデパートだったらどこにでもありますよ」 「そうなのかい!?いや~スゴいなぁ!僕の世界にはこういうのが無かったからね」 楽しそうに歩くヴァッシュが、なのはにはまるで子供みたいに見えた。 「それに魚なんて見たこともなかったし」 ヴァッシュがカゴに入っている魚を指差しそう言う。 「そうなんですか?」 「うん。僕の世界では海っていうもの自体が存在しなかったからね」 「それなら今度、お母さんにお魚料理作ってもらいましょう!」 「いいねぇ~」 そんな他愛もない事を話ながら二人は買い物を続けていった。 ――楽しい。 なのはは正直にそう思った。 ヴァッシュさんの笑顔を見ているだけでこちらもつられて笑ってしまう。 こうしていると本当にヴァッシュさんをあの時引き止めていて良かったと思う。 ――だが、それと同時に再びあの悩みが頭の中に浮かんでくる。 『ヴァッシュさんのことを管理局に伝えるか、伝えないか』 (ダメだよ……!ヴァッシュさんもいるのにそんなこと考えてちゃ!) せっかくの楽しい気分が台無しになってしまう。 なのははその考えを振り払おうと頭を振る。 ――でも、いいの? 心の中で声が響く。 ――このまま答えを出すのをズルズルと引き伸ばして、本当にいいの? それはもう一人の自分が語りかけているかのように感じた。 ――そ、それは……。 ――ちゃんとヴァッシュさんに聞かなくちゃダメだよ。 ――で、でも、それじゃあ、またヴァッシュさんが苦しむんだよ!そんなの見たくない! ――……そうやって逃げるの? ――え? ――それは逃げてるだけだよ。それじゃあダメ。ちゃんとヴァッシュさんに聞かなくちゃ。ヴァッシュさんは悩むかもしれない、苦しむかもしれない。だけどその苦しみを通らなくちゃヴァッシュさんは先には進めないんだよ……。 ――で、でも……。 「もしも~し、聞いてるかい?」 「ふぇ!?ど、どうしたの!?」 ヴァッシュに話しかけられなのはは思考の海から急浮上させられた。 「なんかボーっとしてたよ」 「そ、そうかな?」 「あ、もしかして疲れたのかい?だったら言ってくれればいいのに」 そう言うとヴァッシュは買い物リストと山のようなカゴの中身を見比べる。 「……うん。頼まれたものは全部あるね。んじゃ行こうか」 ヴァッシュは微笑みながらそう言いカートを押し始める。 それなりに混んでいるのにそれをものともせずにスイスイと進んでいく。 ――どうすればいいんだろう? ヴァッシュを追わずになのはは考える。 ――まるで冷静で大人な自分と会話していたかのようだった。 どちらか正しいのかは分かっている。 でも、拒否してしまう、それが逃げだと分っていても。 「お~い!迷子になっちゃうぞ~!」 ヴァッシュさんがレジに並びながらこちらに手を振っている。 なのはは陰鬱とした気分のままヴァッシュの元へと向かった。 ■□■□ 会計をすませると、ヴァッシュさんがクレープを食べないかと進めてきた。なんでも自分の世界には無い食べ物なので食べてみたいとのことだ。 「美味しいですか?」 今なのはの目の前には両手に花ならぬ、両手にクレープ状態のヴァッシュがいた。 ヴァッシュは端から見ても分かるほど美味しそうにクレープを頬張っている。 「うん!美味しいねぇ!」 (ヴァッシュさんって花より団子なタイプなんだろうなぁ) 歓声を上げるヴァッシュを見てなのははそう思った。 それから二人で他愛もない話をしながらクレープを食べていると(ヴァッシュさんは追加でもう二つ買った)いきなり後ろから声をかけられた。 「あ、やっぱりいた!」 声のした方に振り向くと馴染みのある二人の女の子がいた。 「アリサちゃん!すずかちゃん!どうしてここに?」 「ん、その子達は誰だい?」 二人がそれぞれ疑問の声を上げる。 「みんなでお出掛けしようと思ってなのはちゃんの家に電話したの。そしたら士郎さんにデパートにいるって言ってたから……」 「そうゆうこと!……でそのトンガリ頭の人は?」 「ト、トンガリ……」 初対面にも関わらず、遠慮知らずのアリサの言葉に怯むヴァッシュ。 「ダ、ダメだよ……アリサちゃん。初対面の人にそんなこと言っちゃ……あのスミマセンでした」 「にゃははは……」 アリサの言葉にすずかはまるで自分が言ったかのように謝る。 それを見てヴァッシュは苦笑する。 「いやいや気にしなくていいよ。え~とすずかにアリサ、だね。僕はヴァッシュ・ザ・スタンピード。よろしく」 「ふーん、ヴァッシュねー。変な名前」 「ア、アリサちゃん!」 「へ、変な名前……」 「で、なんでなのははこのヴァッシュって人と一緒に仲良くクレープ食べてるの?」 「あれ、前に言わなかったっけ?」 なのはは首を傾げる。 「あ、もしかして長期のバイトさん?」 すずかが思いだしたかのように手を叩く。 「あ~あの、『厨房にいる隠れ美男子』って噂になってる」 「そう!その美男子こそ僕、ヴァッ「でもそれ程でも無いわよね」」 「ア、アリサちゃん!」 「何よ。本当のことじゃない」 ヴァッシュ・ザ・スタンピード、撃沈。 どうやらヴァッシュとアリサは予想以上に相性が噛み合うらしく、痛烈な口撃でヴァッシュは攻め立てられていた。 「ヴァ、ヴァッシュさん!アリサちゃん言い過ぎだよ!」 頬を膨らませそう言うなのは。 「ほら、アリサちゃん謝らなくちゃ」 「わ、分かったわよ。すずかはうるさいんだから……」 「何か言った?」 「な、何でもない……」「ほら、早く謝らなくちゃ」 「う~ごめんなさい」 渋々といった感じでアリサが謝る。 「いや……全然気にしてないよ……うん」 それにしてもこのヴァッシュ、押されっぱなしである。 「にゃははは……」 そんな三人を見てなのはは苦笑する。 ――とても騒がしく楽しい時間が過ぎていった。 ■□■□ 「ノォ~~~!ギブ!ギブゥ!」 その光景を一言で言うのなら異常。 公園の片隅にある砂場に五、六人ほどの子供たちが群がり暴れまわっている。 それをなのはとすずかは見守ることしか出来ない。 いや、あまりの気迫に止めようという気もおきない。 その子供たちの中心にいるのは、ド派手な金髪の頭をした一人の男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードだった。 「よ~し、次は卍固めいくわよ~」 「そんなハイレベルな技どこで覚えたの……ってイタイ!イタイ!ギブ!ギブ~~~!」 ――そして、そこにはヴァッシュに対し今までにない爽やかな笑顔で関節技をかけているアリサがいた。 更にそれに続くように、他の子供たちが各々に好きな技をヴァッシュにかけている。 ――何故こんな事になったのか順を追って説明していこう。 四人はデパートの帰り道公園へと立ち寄る→なぜか、そこに居た子供たちがヴァッシュに群がり始める→最初はまとまりつくだけだったが徐々にエスカレートしていき関節技祭りに突入→見かねたアリサが仲裁に入る→ミイラ取りがミイラ。 そして今にいたっている。 めくるめく展開の早さになのはもすずかも止める暇さえなく、ヴァッシュは子供たち+アリサの玩具にされているのであった。 「どうしよう?なのはちゃん」 「う~ん、飽きるまで待つしかないのかな……」 「ヘルプミ~!」 アリサたちを止めるのを早々に諦めたなのはとすずかは近くのベンチに腰を下ろす。 何か声が聞こえたが気にしない。 ――二人とも良い判断だ。 「アリサちゃんも楽しそうだね」 元気に暴れまわるアリサを見てなのはは心の底からそう思った。 「そうだね」 すずかも相づちをうちその光景を眺める。 (ヴァッシュさんも楽しそう) 所々で本気で痛そうな声を上げているが、まぁ楽しそうだ。 それを見てなのはの顔に自然と笑みが浮かんでくる。 「良かった……」 ふいに隣にいるすずかが声を上げた。 「?何が?」 すずかの言葉の意味が分からずなのはは首を傾げる。 そんななのはを見て嬉しそうに笑いながらすずかが口を開く。 「なのはちゃんが本当に楽しそうな顔してて……」 「ふぇ?そんなことないよ、いつも楽しいよ」 「うそだよ。最近のなのはちゃん、いつも何かに悩んでるような顔してたもん。アリサちゃんなんか、ずっと心配してたんだよ」 すずかは真っ直ぐになのはの目を見て話す。 「今日みんなで遊ぼうって話になったのだって、なのはちゃんに元気になって欲しかったからなんだよ」 すずかの言葉になのはは何も言えなくなってしまう。 「だから良かった!今日のなのはちゃん本当に楽しそうだもん」 微笑みながらすずかはそう言うと、アリサとヴァッシュの方に駆けていく。 (気付かれないようにしてたんだけどな……) 本当にあの二人にはかなわないな……。 ――アリサちゃん……すずかちゃん……ありがとう……。 なのはの心に浮かぶのは感謝の気持ち。 二人には心配かけてばかり。いつもこうだ。 (ダメだよね……このままじゃ……) ――なのはは決意した。 それと同時に立ち上がりみんなが暴れている方へ走り出す。 その顔にあるのは笑顔。 ――その笑顔は見ただけで人を和ませる最高の笑顔だった。 ■□■□ 「あ~体中が痛い……」 「にゃはは……」 すっかり暗くなった公園。 そこのベンチにヴァッシュとなのはの二人は座っていた。 もう時刻は六時を回ってる。 子供たちやアリサたちも帰ってしまい、ここにいるのは二人だけ。 「それにしてもアリサは凄いねぇ。将来格闘技でもやった方がいいよ。うん」 この場に本人がいたらかかと落としの一発でも飛んできそうなことをヴァッシュが言った。 「でも、ヴァッシュさんも楽しそうだったよ」 「まぁね。こういうのも久しぶりだしね」 「久しぶり……って前にもあったんですか、こういうの?」 「うん」 ヴァッシュはさも当たり前のように肯定する。 流石に、これにはなのはも呆れてしまう。 「まったくヴァッシュさんは……」 そんななのはを見てヴァッシュは嬉しそうな笑みを浮かべる。 「……いや~良かったよ」 「何がですか?」 「なのはが元気になってくれてさ」 「え?」 「自分で気づいてなかったのかい?最近よく張り詰めたような顔してたよ」 ヴァッシュは優しく語る。 (ヴァッシュさんにもバレているとは……。私ってそんなに顔に出やすいのかな?) こうしてみると悩んでいるのを必死に隠していた自分がバカみたいだ。 なのはは苦笑する。そして苦々しい笑みはどんどん本当の笑みに変わっていく。 ――心が軽くなった気がする。 「ねぇ、ヴァッシュさん」 なのははその笑みのままヴァッシュに語りかける。 「ん、なんだい?」 「この世界は楽しいですか?」 「あぁ!とっても楽しいよ!」 ヴァッシュはなのはの問いに迷うことなく答える。 なのははそんなヴァッシュを見て、決めた。 管理局にヴァッシュのことを伝えない、と。 ――せめて……せめてヴァッシュさんの傷が――ヴァッシュさんの心にある大きな傷がが治るまでは管理局に伝えなくても良いんじゃないかな……。 なのははそう思う。 ――あんな辛そうな顔で元の世界に戻ろうとするヴァッシュさんは嫌だ……。 戻る時はせめて笑いながら、元の世界に帰って欲しい……。 だから、その笑顔を取り戻せるまでは―― なのはは決意した。 ――自分の我が儘かもしれない。 でも、ヴァッシュさんがどちらの道を選ぶにせよ苦しまないで、笑いながらその道を選べるようになるまでは、なのははヴァッシュを守ろうと決意した。 お気楽な笑みを浮かべる人間台風を眺めながら、小さな魔導師はそう決心した。 前へ 目次へ 次へ
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『スカリエッティ立ち上がったー! しかし顔面が血まみれだー!』 「こ…これは…血…?」 先程鉄柱に打ち付けられたせいもあってスカリエッティの顔面からは大量の血が 流れ出ていたのだが…スカリエッティはそれに対し信じられないと言った顔をしていた。 「な…何故血が…何故血が流れるのだ…。」 「そりゃ~攻撃を受ければ傷付いて血が出るのは当然じゃないか!」 万太郎も呆れていた。万太郎の過去の戦績は確かに超人オリンピック・ザ・レザレクション決勝の ケビンマスク戦を除いて全て勝ち星を上げている。だがどれも苦しい戦いだった。血を一滴も 流さずに勝利出来た試合など一つも無い。むしろ全身傷だらけ、血だらけになる試合もあった。 だからこそ今更血が出たくらいで驚かなくなっていたのだが…元々研究者であり、 改造によって自身の肉体を強化したスカリエッティは自らの流血に対する耐性が無かったのだろう。 「何故だ…何故だ…私は究極の肉体を手に入れたはずだ…。どんな攻撃にも耐えうる 強靭な肉体を作り上げたはずだ…なのに何故血が出る…? 何故だ…何故だ… 何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 『あーっとスカリエッティが物凄い形相となったー!』 スカリエッティは激怒した。自らの肉体に自身を持っていただけに… その肉体を流血させた万太郎が許せなかったのである。 「きぃぃぃさまぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「んぐぁ!!」 次の瞬間スカリエッティの鉄拳が万太郎の腹部に直撃し、万太郎が勢い良く吹っ飛んだ。 だが、それもロープに引っかかってその反動で勢い良く戻って来るのだが… 「死ぬぇぇぇぇぇ!!」 その戻って来た万太郎にスカリエッティの蹴りが炸裂する。そしてまた吹っ飛んだ後で ロープに引っかかって反動で戻って来た後でまた殴り飛ばされたり蹴り飛ばされたり… その繰り返しが始まってしまった。 『あーっとスカリエッティの猛攻が始まったー! 万太郎手も脚も出ないー!』 「やばい! やばいんじゃないのこれー!」 「うん! パターンが入ってしまった!」 格闘技にはいまいち詳しくないなのはとユーノでも万太郎がピンチだと言う事は理解出来た。 如何に人間を遥かに超越した耐久力を持つ超人でもアレだけの猛攻を受けて無事でいられるワケが無い。 だが…やはり万太郎は並の超人では無かった。 「あ…あんまり調子に乗っちゃダメだよ!」 ロープの反動で戻って来た所をまたもスカリエッティの追い討ちを受ける万太郎だが… 次の瞬間万太郎が肉のカーテンの体勢を取る事によってスカリエッティの拳を弾き返していた。 『あーっと万太郎! 今度は肉のカーテンで逆にスカリエッティの攻撃を弾き返したー!』 「うおおおお!」 「今度は僕の番だ! マンタロー飛び付き腕ひしぎ十字固め!!」 万太郎はバランスを崩したスカリエッティの腕に飛び付いて腕ひしぎ十字固めを仕掛けた。 『出た! 万太郎の腕ひしぎ十字固めー!』 『パワーで劣る分はテクニックでカバーしようと言う事ですね?』 「う…うおあああああ!!」 「このままお前の腕を圧し折ってやる!!」 スカリエッティは流血に対してのみならず、関節技に対する耐性も低かった。 無理も無い。敵との戦いや自ら鍛えると言う方法では無く、改造によって自らを強くしたのだ。 敵から関節技を直接受けた事が無いからこそ意外にも関節技に対する耐性が低かったのである。 「確かにお前のパワーは凄いよ! 超人強度に換算すれば1000万パワーにも達してる。 でも…テクニックに関してはてんでド素人だ!!」 「うおああああああ!!」 万太郎の超人強度は93万パワー。しかしそれでも万太郎は700万パワーの ザ・コンステレーションや1200万のボルトマン、1000万のリボーンアシュラマンなど 自身の何倍もの超人強度の相手と戦い、辛くも勝利を収めて来た。 その万太郎が冷静にスカリエッティの実力を考えた場合、上記の三人に比べて 見劣りする物を感じていた。何故なら上記の三人はただ超人強度の高さから来る 強大なパワーだけでは無く、それぞれのテクニックと言う物を持っていた。 特にリボーンアシュラマンなど、ジェネラルストーンによって身体は20代に若返っていたが、 実際は50歳以上の高齢であり、血気盛んな若々しい肉体と数々の戦いを経験したベテラン超人の 頭脳と精神を併せ持つと言う実質的な実力は1000万さえ遥かに超越した超人だった。 しかし万太郎は激闘の末、死の一歩手前まで追い込まれながらも何とかそのリボーンアシュラマンにも 勝利して来たのである。その時の苦しみに比べれば…もはやパワーだけのスカリエッティなど 怖くなくなっていた。 「ふざけるなぁぁぁ!! 貴様の様な生まれ付いての超人に私の考えが分かってたまるかぁ!!」 『あーっとスカリエッティ! 腕に組み付かれたまま万太郎をキャンバスに叩き付けようとするー!』 スカリエッティはパワーに任せて強引に万太郎をキャンバスに打ち付けようとするが… 「なんの! マッスルアーマー!!」 次の瞬間万太郎の背筋が盛り上がり、その弾力によって受身を取る事でキャンバスに 打ち付けられた衝撃を吸収し、さらにバウンドの勢いで逆にスカリエッティを後頭部から キャンバスに落としていたのである。 「うおぁぁぁ!!」 『万太郎の返し技を受けて後頭部を打ったスカリエッティ! かなり痛そうだー!』 「ほらね! やっぱりあんたはド素人だ! 受身もまるで出来てないじゃないか!」 「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」 頭をフラフラさせながらも怒りに任せて起き上がったスカリエッティは 万太郎に対し連続でパンチを放つ。しかし力任せな大振りのパンチは万太郎に一発も当たらない。 『スカリエッティのパンチの連射砲だー! しかし万太郎には当たらないー!』 「何故だ! 何故当たらん!?」 「そんな力任せなパンチなんか連発しちゃったら余計に体力消耗しちゃうだけだよー! 少しは力抜いてあげれば~?」 「うるさいだまれぇぇぇ!!」 万太郎もかつて力任せな攻撃が脱力した相手に破られて苦戦した事があったからこそ その様な事が言えた。スカリエッティが全身に無駄に力を込めて殴りかかって来るのに対し、 万太郎は全身の力を抜いて柔らかく柔軟性に富ませてスカリエッティのパンチをかわしていく。 かの鉄人「ルー・テーズ」も力を込めれば鋼の様に堅く、逆に力を抜けばゴムの様に しなやかな筋肉をしていたと言う。今の万太郎はそれを体言していたのである。 『なおもスカリエッティのラッシュが続くが万太郎には当たらないー!』 「何で何でだー!? 何であの豚男があんなに強いんだー!?」 「私達が何度袋叩きにしたか分からん奴なのに…。」 スカリエッティを観客席から応戦する戦闘機人達にはこういう状況でこそ真の 強さ…渋さを発揮する万太郎の強さが理解出来なかった。 「それじゃあ今度は僕の番だ!」 『今度は万太郎のパンチがスカリエッティの顔面に炸裂したー!』 万太郎のパンチがスカリエッティの顔面に連続で炸裂しスカリエッティは怯んだ。 ただでさえ万太郎に一発も当たらないと言うのに逆に万太郎に一発食らわされたのでは 身体的なダメージ以上に精神的なダメージが大きかった。 ラフファイターは攻撃を受けた事が無い為に逆にラフファイトに弱い。 これは万太郎が火事場のクソ力チャレンジの最終戦で戦ったノーリスペクトの一人、 ボーン・コールド戦で学んだ事であった。 「ブ…豚男が偉そうな口を叩くなぁぁぁぁ!!」 スカリエッティは万太郎の顔面を再び掴み上げた。そして何度も何度も振り回し… 「これで時空の彼方まで吹っ飛びやがれぇぇぇぇ!!」 『あっとスカリエッティ! 万太郎を凄い勢いで投げ飛ばしたー!』 『これは場外は必至ですよー!』 軽量な万太郎はまるで豪腕投手に投げられた野球ボールの様に吹っ飛んで行くが、そこでロープを掴む。 しかしそのロープでも勢いは殺せずに伸びる伸びる。もう観客席を飛び越えて聖王のゆりかごの 外にさえ出てしまっている。そこでやっとロープの伸びが止まっていたのだが、 万太郎はなおもロープを掴んだままだった。 「ならば…お前に本当の僕の力を見せてやる!! 火事場の…クソ力ぁぁぁぁぁ!!」 次の瞬間万太郎の額に赤く燃え上がる「肉」の文字が現れ、万太郎の全身が眩い オーラに包まれた。これこそ万太郎が内包するオーバーブースト「火事場のクソ力」なのである。 普段93万パワーしか無い万太郎もこの火事場のクソ力発動時にはパワーが何倍にもなる。 万太郎の父スグルも瞬間的に7000万ものパワーを発揮するクソ力を持ち、 神にさえ恐れられて潰されそうになった程の恐ろしい力なのだ。 『出たぁぁ! 万太郎の火事場のクソ力がついに発動したー!』 『今まで様々な奇跡の逆転ファイトを生み出して来た火事場のクソ力が今度は どんな奇跡を見せてくれるのでしょうかー! これは女房を質に入れても見逃せませんね!』 そして万太郎は何百メートルにも渡って伸びきったロープの反動を利用して まるで弓から強引に放たれた矢の様にスカリエッティ目掛けて突っ込んでいた。 前へ 目次へ 次へ