約 4,055,623 件
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/682.html
魔法少女リリカルなのはBR Stage04 虹の星剣 ◆19OIuwPQTE /09「星の輝き-ViVid-」 金居へと飛び掛かり、双剣を同時に振り下ろす。 掲げる様に持ち上げられたパーフェクトゼクターが、双剣の攻撃を阻む。 バク転するように跳びのき、突撃と同時にレヴァンティンを振り抜く。 金居は応じるようにパーフェクトゼクターで迎撃する。 それによりレヴァンティンとパーフェクトゼクターが鍔競り合う。 レヴァンティンからパーフェクトゼクターを通して、金居に稲妻が伝播する。手元の剣から伝わる雷撃に、金居の動きは鈍らざるを得ない。 そこへバルディッシュを槍のように突き出す。 金居は辛うじてそれを躱し、距離を取る。 パーフェクトゼクターを構える金居は、明らかに困惑の表情を見せていた。 なぜならヴィヴィオの剣筋は、金居にとって酷く見覚えがあるモノだったのだ。 「貴様、まさか……」 「あなたの戦い方、“覚えさせて”いただきました」 それもそのはず。 今のヴィヴィオの剣技は、双剣を使った自分の剣技そのものだったのだから。 それが常ならば、分は金居にあっただろう。 ヴィヴィオが使うのは自らの剣技であり、所詮は借り物。 その利点も欠点も、金居は熟知している。 その対処は容易に過ぎる。 だが、ヴィヴィオの持つデバイスがそれを覆していた。 ライオットブレードとなったバルディッシュ。 サンダーアームを受けたレヴァンティン。 この二機はその刀身に高圧電流を伴い、接触する度に金居に雷撃によるダメー ジを与えてくる。 ダメージ自体はたいした事はない。 だが、これにより金居は、ヴィヴィオの攻撃にまともな対処ができないでいた。 金居が剣を振り下ろす。 それを僅かに下がることで躱し、返すようにバルディッシュを振り下ろす。 返しからの切り上げで防がれる。 そこにレヴァンティンを突き出す。 回避と同時に右回転し、遠心力を加えた一撃が迫り来る。 マッハキャリバーで急加速し、前進することで回避する。 パーフェクトゼクターの一撃を受け止める事はしない。 金居のパーフェクトゼクターを使った攻撃は強力だ。 速度こそ双剣の時ほどはないものの、その威力はスバルのリボルバーナックル を、ただの一撃で大破寸前にまで追い込んだ事からも窺える。 故に、攻撃は常に私から。 もし受け手に回ってしまえば、戦いの形勢は逆転しかねない。 今の私の攻撃はライオットブレードとサンダーアームの効果により、接触する 度に相手に電撃を流し込む。 それにより、パーフェクトゼクターに力が乗る前にその攻撃をキャンセルする。 痺れを切らした金居が、バルディッシュによる一撃を左腕で直接受け止める。 高い切断力を誇るライオットブレードに、腕を半ばまで切り裂かれるが、それでも刃の侵攻は止まった。 バルディッシュから流れる高圧電流を耐え抜き、パーフェクトゼクターを大き く振り被る。 「バルディッシュ! レヴァンティン!」 『Load cartridge.』 『Schlange Form.』 バルディッシュがカートリッジをロードし、その魔力を受けたレヴァンティン がシュランゲフォルムへと変化して、パーフェクトゼクターを絡め取る。 サンダーアームの効果はまだ続いている。 パーフェクトゼクターを握る腕ごと拘束された金居は剣を手放す事が叶わず、 結果、両腕から高圧電流が流れ込む。 「ガア――――ッ!!」 金居は二重の雷撃によるダメージで動けない。 その絶対の隙にバルディッシュを引き抜き、金居の心臓へと突き出す。 だが――― 「言った筈だ! 俺を舐めるなとッ!!!」 「ッ―――! しまった!」 金居は雷撃に耐え、自らの腕に絡まったレヴァンティンを力の限り引っ張る。 私は堪らず体勢を崩し、レヴァンティンを手放してしまう。 そこへパーフェクトゼクターが降り抜かれる。 どうにかバルディッシュで防ぐも、バルディッシュがまたも弾き飛ばされる。 金居はレヴァンティンを振り解き、パーフェクトゼクターへとエネルギーを籠 め、今まさに止めの一撃を放たんとする。 そのパーフェクトゼクターの一撃は、壊れかけのリボルバーナックルでは、た とえ聖王の鎧越しでも防ぎきる事は出来ないだろう。 可能な限りの速さで体勢を立て直し、その一撃を回避する。 しかし、私が体勢を立て直すよりも早く、必殺の一撃が放たれた。 「死ねェッ!!!」 「ッ―――!!!」 稲妻の如く突き出された一撃。 体勢を崩した私では防ぐ事も避ける事も敵わない。 それでも諦めず、聖王の鎧に魔力を集中させようとした、 その時だった。 ふわりと、風に飛ばされてきたものがあった。 どこか見覚えのある、一枚の白い羽根が、一瞬だが金居の視界を遮った。 『Wing Road!』 その隙を見逃さず、マッハキャリバーが金居の一撃を迎撃した。 すぐにマッハキャリバーの狙いを看破し、その指示に従う。 『Calibur shot, left turn!』 ウィングロードで体を無理やりに回転させ体勢を立て直し、金居を蹴り飛ばす。 それによって、今度は金居が僅かに体勢を崩す。 『Shoot it!』 そこに渾身の力を籠め、スバルのリボルバーナックルを叩き込む。 金居はパーフェクトゼクターを盾に防ぐが、それでも十数メートルの距離を弾 き飛ばされる。 ――――それと同時に、右手からリボルバーナックルが壊れる音が聞こえた。 もともと壊れかけていたスバルのリボルバーナックルは、今の一撃で限界を超 え、ギンガの物と同じように大破してしまったのだ。 『……Thank you, and good bye. My best buddy.』 マッハキャリバーが別れを告げる。 それがどちらに対してのものか、などと考える意味はない。 だって彼女たちは、いつもずっと一緒だったのだから。 金居はまだ防御姿勢を崩していない。 おそらくこれが最後のチャンス。 金居に自分が知る限りでもっとも強力な拘束魔法を掛け、その体を固定する。 「レストリクトロック!」 「――――――ッ!?」 それでも金居を相手に拘束していられる時間は、僅か数秒。 ならその数秒の内に、私の最高の魔法を以って決着をつける! 「バルディッシュ!」 『Riot Zamber.』 すぐさまバルディッシュを回収し、カートリッジをロード。 バルディッシュをライオットザンバー・カラミティに変化させ、正眼に構える。 それと同時に、周囲の空間に虹色の輝きが次々に現れ、バルディッシュの刀身 へと集束してゆく。 星空から流星が落ちるように、それは集い、輝きを増していく。 その流星雨はまるで『星の光(スターライト)』 彼女の母と同じ、集束魔法特有の輝きだった。 金居に遠距離攻撃は効かない。 それはどれ程の威力のものであろうと変わりがない。 金居への攻撃は直接的なものか、ゼロ距離からのものに限定される。 故に攻撃の通用するゼロ距離へと肉薄し、 直接剣を叩き込む――― 「ッ――――!!」 だが金居は、もうすぐ全てのバインドを破ろうとしてた。 間にあわない。 このままでは振り抜く前に抜け出され、直撃を避けられてしまう。 かと言って、追加拘束は出来ない。 この魔法は制御が難しい。今は私自身の詠唱を必要とする魔法は使えない。 ――――ならばイチかバチか、金居の次撃に合わせて叩き込む! そう決意した直後だった。 緑色に輝く鎖が、金居を再び拘束したのだ。 「ヴィヴィオ! 今の内に!」 ユーノの言葉に頷き、大きく構えを落とす。 傍から見ればその体勢は、力を溜める肉食獣そのものだ。 刀身に集められた魔力が、臨界点へと達する。 ベースとなった魔法の名残か、虹色に輝く刀身に金色の雷光が迸る。 金居は必死で抜け出そうともがいている。 刀身に圧縮された魔力は、もはや暴発直前の様相だ。 マッハキャリバーのホイールが地面と摩擦し咆をあげる。 「行くよ、これが私の全力全開―――!」 ―――駆ける。 A.C.Sによる加速を得たマッハキャリバーが、彼我の距離を一瞬で零にする。 数秒と経たずに、金居の目前へと跳び上がる。 「スターライトザンバー―――!!」 その魔法(キセキ)の真名と共に、星の剣を振り上げる。 刀身が一際眩く輝き、昇り始めた太陽よりも強く、崩壊する世界を照らし出す。 交錯する視線。 ここに決まる勝者と敗者。 その差は、他者を利用し、自分だけを信じた者と。 他者を信じ、仲間との絆を紡いだ者との差だった。 「――――ブレイカー――――!!!!」 炸裂する虹の極光。 その輝きは、周囲の全てを飲み込み、長き戦いの終わりを告げる旭光となった。 体力は完全に底をついた。 マッハキャリバーは稼働限界を超えてスタンバイモードへと戻り、バルディッシュもアサルトフォームへと戻っている。 そして極光が炸裂した爆心地では、 金居が半壊したパーフェクトゼクターを支えに、再び立ち上がっていた。 ユーノさんが驚愕の声を上げる。 それも当然だろう。 あの一撃の直撃を受けて立ち上がれる者など、普通はいない。 しかも金居の胸にある大きな傷跡が、見る間に再生されていく。 ユーノさんはその事実に絶望感を顕わにする。 けど不思議と私は、危機感を感じなかった。 スバルのデイバックから、一枚のカードを取り出す。 それはジョーカーと書かれた一枚のトランプ。 このカードを取り出した理由は、自分でもよく解らない。 ただ、このカードが自分を使えと言っているように感じるのだ。 そしてそれは正しかったようで、金居は腹部のバンクルに手を当てた後、目に 見えて狼狽する。 それにどんな意味があったのか、私には分からないが、金居にとっては致命的 なことであるらしい。 ジョーカーのカードを片手に金居へと歩みよる。 「ア、アァアアアア――――!!!!」 追い詰められた金居が、パーフェクトゼクターを振り上げ斬りかかってくる。 だがパーフェクトゼクターは、聖王の鎧に阻まれるまでもなく、金居を拒絶す るかのように自壊した。 「………………ふん。 今回は、ここまでか」 それを目の当たりにした金居は、そう小さく呟いた。 ジョーカーのカードを押し当てる。 最後の武器を失った金居は、もう抵抗をしなかった。 ジョーカーは、彼の世界でケルベロスと呼ばれるカードと同じく、 金居――ギラファアンデッドを封印した。 /10「安らぎの場所に向かって」 クレーターの中央付近で、スペードのKと書かれたカードを拾う。 近くにはデイバックがあり、当然それも拾い、中身を確認する。 中にはハンドグレネードとRPG-7、天道さんの持っていた爆砕牙、それと先ほ ど拾ったトランプと同種の、ハートのAと3から10の9枚が入っていた。 ユーノ君の結界を出て行動しているのは、身体の調子を見る為と、私にも何か できる事がないかと、周囲を捜索していたのだ。 結果見つかったのは、金居が使っていた赤いレイピアと、仄かに魔力を感じる 青白く輝く鉱石。それとキングの物と思われるデイバックとカードだけだった。 今一ぱっとしない結果に、もう一度捜し回ってみようかとも考えたが、今はま だ無茶は出来ない。 もし探すのであれば、ユーノ君達と合流してからにする。 クレーターの外へと飛翔し、大きく息を吐く。 体の調子は悪くない。 まだあちこちが痛み、戦闘行動を執るのは難しいだろうけど、普通に移動する 分には問題ない。 問題があるとすれば――― 「レイジングハートは大丈夫?」 『自動修復可能範囲内ではありますが、時間がかかります。 現状、戦闘行動を行うのは厳しいでしょう』 「そっか。やっぱり……」 今戦闘を行えば、レイジングハートが壊れる危険があるという事だ。 この後にナンバーズが控えている今、レイジングハートと一緒に戦えないのは 非常に厳しい。 実家が古流武術の道場であるため、多少なら刀の心得もあるが、やはり自分は 魔導師なのだ。 自分の相棒が戦えないというのは、酷く心許ない。 その時だった。 何処からか、誰かの走る足音が聞こえた。 序で聞こえたのは、自分の名前を呼ぶ声だった。 「なのはママ!」 「なのは!」 「ヴィヴィオ! ユーノ君!」 声の方向へと振り返ってみれば、ヴィヴィオとユーノが走ってくる。 思わず体の痛みを忘れて駆けだした。 そしてある程度の距離まで近づくと、ヴィヴィオが跳び付いて来た。 それをしっかりと抱き止める。 「ただいま、なのはママ」 「お帰りなさい、ヴィヴィオ。 よく頑張ったね、えらいぞ」 「うん!」 お互いに抱きしめ合い、約束の言葉を交わす。 聖王になっても感情に飲まれる事なく、自分の意思で戦えたヴィヴィオを目一 杯褒める。 無事帰る事が出来たら、何かご褒美を上げなきゃいけないと思う。 「なのは、もう動いて大丈夫なの?」 「なんとかね。ユーノ君の方こそ、怪我してない?」 「ヴィヴィオのおかげで、なんとかね。 なのはが動けるんなら話が速い。 時間がないから手短に言うよ」 そう言うとユーノ君は座り込んで、自分のデイバックを目の前の地面に置いた。 私もユーノ君にならって座り込み、抱えていた三つのデイバックを地面に置く。 ヴィヴィオも同様に座り込んで、デイバックを地面に置いた。 それと同時にユーノ君が、ラウンドガーダー・エクステンドを発動する。 「ユーノ君、これは?」 「説明や作業の間、少しでも回復できるようにね。 大丈夫。僕は後方支援が基本になるからね。 戦闘ではなのは達ほどには魔力を消費しない。 て言うか、むしろこういう時こそ後方支援の出番だろ」 「それもそうだね」 そう言って思わず苦笑する。 そしてユーノ君は咳を一つ、真顔になって喋りはじめた。 「じゃあ始めるよ。 まず、全員の荷物を簡単に整理するんだ。 自分が持っておいた方がいいモノ、持っておきたいもの。 使える物や使えない物。全部だ」 「それはいいけど、一体なんで?」 そう聞くと、ユーノ君は一際真剣な声で言った。 「もうすぐ会場の大崩落が始まると思う」 「大崩落?」 「そう。この会場を維持していた核と言える部分が、既に機能していない。 今は余剰魔力でなんとか持ってるけど、それももうすぐ尽きる。 そうなったら、底の割れたバケツみたいに、一気に中の物が零れ出す。 つまり、この会場があっという間に崩落するんだ。 そうなる前に魔法陣で安全な場所まで転移する」 つまり、今は小康状態となっているが、会場に響いている振動や轟音は、この 世界の悲鳴の様なものなのか。 「よく分かったね、そんなこと」 「魔法陣を調べた時に、ついでにね」 「それで、安全な場所って? やっぱり、プレシア達のいた所?」 「いや、多分そっちには転移出来ない。 言っただろう、核がないって」 通常、転移魔法は使用者が目的の場所の座標を知らなければ、術者が望んだ場 所へは転移出来ない。 これは転移魔法を知る者なら誰でも知っている常識である。 当然、ユーノは勿論、なのはだって知っている。 そしてなのは達はプレシアのいた場所の座標を知らない。 ならば何故ここに来たのか。 それはここの転移魔法陣が“使用者の望んだ場所へと転移させる”機能を持っ ていたからだ。 そしてそれは、八神はやてが二度実践し、確かであると証明している。 一度目はヴィータの所へ、二度目はスバルの所へと。 そして当然、はやては二人の居場所――つまり座標など知らなかった。 ならば何故はやては望んだ場所へと転移出来たのか。 それはその魔法陣とこの会場、そして参加者に関係があった。 魔法陣があるエリアは【E-5】。つまり会場の中央に存在する。 そして会場の端と端はループしている。言い換えれば、端から端へ転移しているのだ。 この時点で魔法陣が会場のループに関係がある事は、容易に想像がつく。 そこから発展させれば、会場の構成そのものにもだ。 もし魔法陣が会場を構成する上で重要な機構であるならば、会場の中であるならばどこへ転移させるのも容易い事だろう。 なにしろ会場そのものだ。何処に何があるかなど、容易に把握できる。 後は使用者のイメージを受け取り、その人の望んだ場所、あるいは物の近くへと転移させればいいだけだ。 ユーノは魔法陣と会場を解析した際に、それらの仕組みを大凡ではあるが把握 したのだ。 魔法陣を維持するエネルギー源たる核が、同時にこの会場の核である事も。 そして既にその核が存在していない事も、また同時に。 もし核が健在であれば、そのエネルギーの流れを逆算して核の座標を割り出し、 そこに転移する事も可能だったかもしれないが、エネルギーの供給が断たれた 以上、それは不可能だ。 「じゃあどこに転移するの? この会場から出られないんじゃあ、何処に至って危険だよ」 その説明を大雑把に聞いた私は、目の前が真っ暗になるような感覚を覚えた。 「あるだろ、一つだけ。 衛星軌道上に上る事も可能で、次元跳躍も可能な空中戦艦が」 けどユーノ君は自身を持ってそう断言した。 それを聞いて私も、思い当たるモノが一つだけあった事に気づく。 「あ……そうか、“聖王のゆりかご”!」 「そう。ゆりかごなら、この会場の崩落にも耐えられるかもしれない。 もしかすれば、元の次元に帰る事だってね。 幸い、こっちには艦長役もいる事だし」 「へ……? それって、私のこと?」 いきなり話を振られたヴィヴィオが、困惑気味に聞き返してくる。 その様子を見て、私とユーノ君はクスクスと笑った。 「まあとにかく、そういう事だから」 「解った。でもなんで荷物の整理を? 時間がないならい出来る限り急いだ方がいいじゃないのかな」 「時間がないと行っても、別に一分一秒を争う訳じゃない。 時々、大きい振動が起こるから勘違いしやすいけどね。 この振動は、結界の核がなくなって、維持できなくなった部分。 つまり、ループ機能とかが壊れ始めているからだと思う」 それはつまり、先ほどまで繋がっていた空間が、いきなり断絶したという事。 いわば次元震に近いものなのだろう。 「それに転移が上手くいったとしても、“何が起こるか判らない”からね。 すぐに対処できるように、出来る限りの準備はしておくべきだ」 その言葉に頷く。 私達はこのデスゲームの開幕を始め、突発的な出来事に翻弄され続けている。 なら、今度だって何が起こるか判らないのだ。 「よし。これで多分大丈夫だと思う」 目の前には三つのまとめられたデイバック。 私達の手元にはそれぞれのデバイスや武器があった。 レイジングハートは現在、自動修復機能をフル稼働させてる。 当分は戦闘に出せない。 バルディッシュやレヴァンティン、マッハキャリバーはヴィヴィオが持ってる。 元々砲撃魔導師な上、まだダメージでまともに動けない私よりは、ヴィヴィオ の方が接近戦には適任だからだ。 ケリュケイオンは私が持っている。 最初はユーノ君に渡そうとしたんだけど、ユーノ君いわく、 「ケリュケイオンで使える補助魔法はもう覚えた。 アスクレピオスの補助があれば自力で使えるから、ケリュケイオンはなのは が使ってあげて」 との事。 ユーノ君はよく私を天才だって言うけど、ユーノ君だって十分凄いと思う。 ちなみにアスクレピオスは、私と合流する前にスバル達の遺品と一緒に拾った らしい。 蒼天の書はユーノ君が持っている。 ヴィヴィオは前衛だし、私では蒼天の書の魔法を使いこなせないからだ。 しかし、現在保有するデバイスの中で一番特異なのが、私の持つ紫紺色の宝玉 状態のデバイスだろう。 それはヴィヴィオに支給されたボーナス支給品で、十年前のレイジングハート と殆ど全く同じ形状の、色彩とAIだけが違うデバイスだった。 いつ、どこで、どうやって作られたのか。持ち主はいったい誰なのか。 ルシフェリオンと名乗った彼女は、自己紹介を済ませると黙りこんでしまって、 何も聞く事が出来なかった。 けど、力は貸してくれるようなので、レイジングハートの力を借りれない今は、 それだけでも有り難かった。 非常時用の武器は、刀の心得がある私が爆砕牙とデザートイーグルを、ユーノ 君は赤いレイピアを持っている。 ヴィヴィオは、いざとなれば素手でも平気、との事だ。 その他の道具は、私はスバルが身に着けていた指輪と天道さんが持っていた羽。 二人の形見に、と思ったのだ。 ヴィヴィオは壊れたデバイスと、キング達が変化した謎のトランプ。 ボーナスが支給された以上、死亡した事にはなっているのだろう。 ユーノ君が一番数が多くて、余ったデイバック二つに、それぞれ重火器と完全 に使い道のない道具を入れている。 道具の確認を終えたところでユーノ君が立ち上がり、デイバックを肩に担ぐ。 同様に私達も立ち上がり、自分の荷物を背負う。 「さあ、行こう」 その言葉に頷き、私たちは魔法陣の元へと移動した。 足元には淡く光る魔法陣。 その光は小さく明滅し、今にも消えそうだった。 この魔法陣が会場の維持に関係しているのなら、この魔法陣が消えた時にこの 会場も完全に崩壊するのだろう。 「みんな、準備はいい? だいぶ荒い転送になると思うから、気をつけて」 ユーノ君が魔法陣に手を当て、魔力を流し込みながら言った。 その言葉に私とヴィヴィオは頷く。 「僕が転送のサポートをするから、ヴィヴィオはゆりかごを強く思い浮かべて。 一度行った事のある君の方が、座標の特定がしやすいんだ」 その言葉に従い、ヴィヴィオはゆりかごを強くイメージした。 それと同時に、あの場所で死んだ、まだ幼かったフェイトを思い出した。 自分に、嫌いにならないで、と言った少女。 今の自分なら、彼女を助けられたのだろうかと考えて、首を振る。 助けられるかどうかじゃなくて、絶対に助けだすんだと。 会場の崩壊と共に罅割れていく空を見上げる。 もう二度と、あんな思いはしたくない。 そして同時に、誰にもさせたくないとも思う。 だから、全てを救う事は出来なくても、この手の届くところにいる人たちは、守って見せる。 そう心に誓う。 魔法陣の淡い魔力光が次第に強く輝き出す。 それはまるで、消える寸前の蝋燭の輝きのようだった。 「行くよ、みんな! しっかり掴まってて! 座標確認! 場所、聖王のゆりかご! 転送、開始―――!!」 その声の直後、魔法陣が一際強く輝き、光が私達三人を飲み込んだ―――― 【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード 封印確認】 【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード 封印確認】 【2日目 朝?】 【現在地 ?-? 聖王のゆりかごへ転移中】 【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】全身ダメージ(大)、魔力消費(中)、バリアジャケット(エクシードモード)展開中 【装備】ルシフェリオン(6/6)@魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE-THE BATTLE OF ACES-、{ケリュケイオン、レイジングハート・エクセリオン(6/6、中破)}@魔法少女リリカルなのはStrikerS、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、{翠屋の制服、すずかのヘアバンド}@魔法少女リリカルなのは 【道具】支給品一式、カートリッジ詰め合わせ(残り20発)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、アンジールの羽根@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使 【思考】 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。 1.聖王のゆりかごへ向かう。 2.ユーノとヴィヴィオと共に脱出する。 【備考】 ※ブラスター3を使用しました。何らかの後遺症が残っている可能性があります。 【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】聖王モード、疲労(大)、魔力消費(小~中?)、ダメージ(小)、 肉体内部にダメージ(小)、騎士甲冑展開中、リンカーコア消失、強い決意 【装備】{バルディッシュ・アサルト(6/6)、レヴァンティン(3/3)、マッハキャリバー、レリック(刻印ナンバーⅦ、融合中)、St.ヒルデ魔法学院の制服}@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】支給品一式、{リボルバーナックル(右手用、大破)、リボルバーナックル(左手用、大破)、クロスミラージュ(破損)、フリードリヒの遺体(首輪無し)}@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ジョーカー、ハートのA~K、スペードK、ダイアK、クラブのK、スペードKとダイアKのブランク、コモンブランク)@魔法少女リリカルなのは マスカレード 【思考】 基本:みんなの為にももう少しがんばってみる。 1. なのはママの様に強くなる。もう二度と暴走しない。 2. 聖王のゆりかごへ向かい、起動させる。 3. みんなと一緒に、生きて帰る。 【備考】 ※現在使用している魔力は、レリック(刻印ナンバーⅦ)によるものです。 ※スターライトザンバーブレイカーを習得しました。系統は集束砲撃魔法です。 【ユーノ・スクライア@L change the world after story】 【状態】全身に擦り傷、肩に切り傷、疲労(大)、魔力消費(大)、強い決意 【装備】{アスクレピオス、シルバーケープ}@魔法少女リリカルなのはStrikerS、蒼天の書@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS、{バリアのマテリア、ジェネシスの剣@}魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使 【道具】支給品一式×2(食料有り)、支給品一式×2(食料無し)、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、治療の神 ディアン・ケト@リリカル遊戯王GX、サイドバッシャー@魔法少女リリカルなのは マスカレード、キングと金居のデイバック(道具①②) 【道具①】RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、C4爆弾@NANOSING、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック、バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s ~おかえり~、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER 【道具②】リンディの茶道具一式(お茶受けと角砂糖半分消費)@魔法少女リリカルなのは、砂糖1kg×5、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、浴衣(帯びなし)、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車、ユーノ、ヴィヴィオ、フリードリヒ)、首輪について考えた書類 【思考】 基本:なのはの支えになる。 1.ここにいる全員を何としても支えて、脱出する。 2.聖王のゆりかごへ向かう。 3.ゆりかごに着いたら、今後の対策を考える。 4.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。 【備考】 ※ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerSによって使用できる補助魔法を習得しました。アスクレピオスの補助があれば使用が可能です。 ※魔法陣は、この会場を構成する上での『要』である可能性があると推測しました。 【全体の備考】 ※【E-5 瓦礫の山】に中規模のクレーターが出来ました。 ※会場はもう間もなく崩壊します。 【カートリッジ詰め合わせ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 高町なのはに支給されたボーナス支給品。 名前通りの代物。 カートリッジ各種が、計30発入った箱。 【ルシフェリオン@魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE-THE BATTLE OF ACES-】 ヴィヴィオに支給されたボーナス支給品。 星光の殲滅者の所有デバイス。 性能は第二期(A's)のレイジングハート・エクセリオンと同程度。 性格は非常に無口と思われるが、詳細不明。 【スターライトザンバーブレイカー】 ヴィヴィオが戦いの中で習得した“集束砲撃魔法”。 なのはのスターライトブレイカーとフェイトのプラズマザンバーブレイカーを合体させたもの。 儀式魔法による雷のエネルギーではなく、周囲の空間の魔力をザンバーの刀身に集束し、強力な砲撃として一気に放出する攻撃魔法。 本来は定石道理に、“対象を拘束し、その後に砲撃する”のが基本である。 が、今回劇中で使用したのは、マッハキャリバーのA.C.Sを用いて高速突撃し、零距離砲撃を行う、“スターライトザンバーブレイカーA.C.S”である。 ちなみにイメージは某騎士王の聖剣。 Back 魔法少女リリカルなのはBR Stage03 紡がれる絆 時系列順で読む Next 魔法少女、これからも。(前編) 投下順で読む Next 魔法少女、これからも。(前編) 高町なのは(StS) Next 魔法少女、これからも。(前編) ユーノ・スクライア Next 魔法少女、これからも。(前編) ヴィヴィオ Next 魔法少女、これからも。(前編) キング GAME OVER 金居 GAME OVER
https://w.atwiki.jp/nanoha_data/pages/26.html
トーマ一行 トーマ・アヴェニール リリィ・シュトロゼック アイシス・イーグレット スティード 管理局特務六課 高町なのは スバル・ナカジマ フェイト・T・ハラオウン ティアナ・ランスター エリオ・モンディアル キャロ・ル・ルシエ 八神はやて シグナム ヴィータ シャマル ザフィーラ リインフォースⅡ アギト シャリオ・フィニーノ アルト・クラエッタ ルキノ・ロウラン フッケバイン ヴェイロン アルナージ サイファー ドゥビル フォルティス ステラ・アーバイン カレン・フッケバイン トーマ・アヴェニール(一人称:俺) リリィ:リリィ アイシス:アイシス スティード:スティード、相棒(バディ) スバル:スゥちゃん ティアナ:ティアさん アルト:アーちゃん チンク:チンク姉 ノーヴェ:ノーヴェ姉 ヴェイロン:ヴェイロン サイファー:サイファー ドゥビル:ドゥビル フォルティス:フォルティス ステラ:ステラ リリィ・シュトロゼック(一人称:わたし) トーマ:トーマ アイシス:アイシス スティード:スティード スバル:スゥちゃんさん アイシス・イーグレット(一人称:あたし) トーマ:トーマ リリィ:リリィ スティード:スティード スバル:スゥちゃんさん アルナージ:アル パフュームグラブ:パフィ スティード(一人称:私) トーマ:トーマ なのは:高町教導官 高町なのは(一人称:わたし) スバル:スバル ヴィータ:ヴィータちゃん はやて:部隊長 ヴィヴィオ:ヴィヴィオ レイジングハート:レイジングハート スバル・ナカジマ(一人称:あたし) トーマ:トーマ なのは:なのはさん エリオ:エリオ フェイト・T・ハラオウン(一人称:私) トーマ:トーマ スバル:スバル ティアナ:ティアナ、ティアナ執務官 エリオ:エリオ ティアナ・ランスター(一人称:あたし) シグナム:シグナム一尉 アギト:アギト フェイト:フェイトさん エリオ・モンディアル(一人称:僕) トーマ:トーマ スバル:スバルさん ヴィータ:ヴィータ教導官 キャロ・ル・ルシエ(一人称:わたし) 八神はやて(一人称:私) なのは:高町一尉 スバル:スバル フェイト:フェイト執務官 エリオ:エリオ ヴィータ:ヴィータ リイン:リイン ルキノ:ルキノ シグナム(一人称:私) アギト:アギト ヴィータ(一人称:あたし) バルディッシュ:バルディッシュ シャマル(一人称:私) ザフィーラ(一人称:私) リインフォースⅡ(一人称:私、リイン) はやて:司令 アギト(一人称:あたし) シグナム:シグナム レヴァンティン:レヴァンティン シャリオ・フィニーノ(一人称:私) アルト・クラエッタ トーマ:トーマ スバル:スバル ルキノ・ロウラン トーマ:トーマ ヴェイロン(一人称:俺) トーマ:クソカス、バカガキ、チビカス アイシス:メスガキ アルナージ:アル サイファー:サイファー ステラ:ステラ カレン:カレン、姉貴 アルナージ(一人称:あたし) アイシス:ぺったん胸 ヴェイロン:ヴェイ兄 ドゥビル:ビル兄 フォルティス:フォルティス ステラ:ステラ サイファー(一人称:私) リリィ:破損プラグ シグナム:公僕 ヴェイロン:ヴェイ ドゥビル:ビル ステラ:ステラ ドゥビル(一人称:俺) ヴェイロン:ヴェイ フォルティス(一人称:僕) トーマ:トーマ君 ヴェイロン:ヴェイロン アルナージ:アル サイファー:サイファー ドゥビル:ビル ステラ:ステラ カレン:カレン ステラ・アーバイン(一人称:わたし) トーマ:トーマ君 ヴェイロン:ヴェイお兄ちゃん フォルティス:フォルティス カレン:お姉ちゃん カレン・フッケバイン(一人称:私) はやて:特務のお嬢ちゃん アルナージ:アル サイファー:サイファー ステラ:ステラ
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/31.html
魔法少女リリカルなのはStrikerS 第5話 【星と雷】 キャロ「私の新しい居場所。大好きな人と、優しい人がいっぱいいる場所。 だけど、どこかでまだ迷ってる。きっと、自分のことが怖いから。 一緒に戦うパートナーと一生懸命な先輩たちと、きっと私と同じ思いを持った優しい子。 迷っていられない。決めたから。自分がこれから進む道。魔法少女リリカルなのはStrikerS…始まります」 なのは「ヴァイス君、私も出るよ。フェイト隊長と二人で空を押さえるっ!」 ヴァイス「うっす、なのはさん。お願いします」 なのは「キャロ。大丈夫、そんなに緊張しなくても。離れてても通信で繋がってる。一人じゃないから。 ピンチの時は助け合えるし、キャロの魔法は皆を守ってあげられる、優しくて強い力なんだから。…ね?」 リインフォースII「任務は二つ。ガジェットを逃走させずに全機破壊すること。 そして、レリックを安全に確保すること。ですから、スターズ分隊とライトニング分隊、 二人ずつのコンビでガジェットを破壊しながら、車両前後から中央に向かうです。 レリックはここ。7両目の重要貨物室。スターズかライトニング。 先に到達したほうがレリックを確保するですよ!」 リインフォースII「デザインと性能は、各分隊の隊長さんのを参考にしてるですよ。ちょっと癖はありますが、高性能です!」 局員「確かにすさまじい能力を持ってはいるんですが、制御がろくにできないんですよ。 竜召還だって、この子を守ろうとする竜が勝手に暴れまわるだけで。 とてもじゃないけど、まともな部隊でなんて働けませんよ。せいぜい単独で殲滅戦に放り込むぐらいしか」 フェイト「ああ、もう結構です。ありがとうございました」 局員「それじゃあ」 フェイト「いえ。この子は予定通り私が引き取ります」 キャロ「私はこれからどこへいけばいいんでしょう?」 フェイト「それは君がどこに行きたくて何をしたいかによるよ。キャロはどこに行って何をしたい?」 なのは「発生源から離れればAMFも弱くなる。使えるよ!フルパフォーマンスの魔法が!」 はやて「スターズの三人とリィンはヘリで回収してもらって、そのまま中央のラボまでレリックの護送をお願いしようかな」 リインフォースII「はいですぅ!」 グリフィス「ライトニングはどうします?」 はやて「現場待機。現地の職員に事故処理の引継ぎ」 次回予告 なのは「初出動を終えて、日々の訓練もちょっとレベルアップ」 フェイト「そして事件は少しずつ、ひそやかに、その姿を現していく」 なのは「次回魔法少女リリカルなのはStrikeS第6話」 フェイト「進展」 なのは&フェイト「Take off!」
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2886.html
――その男は暗闇の中で覚醒した。 随分と長く意識を失っていた気がする。 或いはたった今、この世に生れ落ちたかのような。 そう言った認識を得た直後、急速に世界が広がった。 状況を把握できた、と言い換えても良いだろう。 彼は自分が金属製のベッドに横たわっている事に気付いた。 否、ベッドではあるまい。これは――手術台だ。 「やあ、目が覚めたか」 不意にガコンと音がして、彼を灯りが照らし出した。 周囲の様子が露になる――が、彼にとっては然したる意味も無い。 たとえ真の暗闇の中であろうと、彼の"眼"は見通す事ができるからだ。 手術室。手術台。何の事は無い。見慣れた光景だ。 その入り口にたたずむ白衣の男だけが、普段とは違った存在だった。 「――"博士"ではないのか。誰だ、貴様は」 「ジェイル・スカリエッティ。或いはドクターとも呼ばれるがね」 その男、およそまともな人物でない事は一目でわかった。 眼が違うのだ。爛々と輝く金色の瞳は、それだけで男の異様さを物語る。 肉体がどうかなど知らない。その精神こそが異常。 「……何故、俺はココにいる?」 「的確な質問だ。"彼ら"はキミを使ってある作戦を行い――そして失敗した。 そして大きな損害を受けたキミを廃棄する代わりに、我々に売ったのさ」 「つまり俺は……払い下げられたのか」 彼は虚ろな声で言った。ある種の虚無感が其処にある。 「ガラクタとして、残骸として、スクラップとして」 「そう悲観する必要は無いぞ。単に彼らではキミの肉体が再生できなかった、というだけの事だ」 言われてみれば、確かにそうだ。 彼と同等の損傷を受けた仲間は、皆間違いなく死亡していたのに対し、 手術台の上に横たわっている彼の身体は、全くと言って良いほど無傷。 見慣れた黒色の戦闘服も、胸部装甲も、傷一つついていない。 となれば、頭部も同様なのだろう。 ぎこちなく腕を伸ばして顔を撫でると、硬質の感触があった。 間違いない。自分は完全に回復している。 「俺を買い取ったと言ったな。そして、修理まで行った。――――だが、何の為だ?」 「私の"上司"には色々あるようだがね。私に限って言えば、夢の為だ」 「……夢、だと?」 頷き、白衣の男は大きく両手を広げた。 まるで役者でもあるかのような大仰な仕草。 「生まれた時から持っていた夢。 刷り込まれたものかもしれないが、これは私の願いだ。 私が望む世界。 私の世界。 自由な世界。 それを襲い掛かって、奪い取る。 ――それが、私の夢だ」 世界を奪い取る。 その言葉が、電撃のように彼の脳裏を駆け抜けた。 たとえ自分が今生まれたばかりであるとしても、 たった今受けた衝撃こそが、彼にとっては何よりも大切だった。 「――――それは」 ようやく絞りだせた声は、随分と震えていた。 恐ろしいのでもない。怯えているのでもない。 それは極めて明確な一つの感情によるものだ。 彼は喜んでいた。 歓喜していた。 世界を奪うという、その『夢』に。 「?」 「世界征服、という事か」 ――これが、全ての発端だった。 魔法少女リリカルなのはNumberS 『仮面の男』 「スローターアームッ!!」 二本の足で地に立つ男目掛けて、空より飛来する刃が二つ。 戦闘機人No7。セッテの固有技能および固有装備、ブーメランブレード。 空中戦闘に特化した彼女によって、意のままに操作されるその兵器は、 古代ベルカ騎士の一撃に匹敵するという威力、速度を秘めた代物だ。 当然、まともに喰らえば只では済まず、また回避する事も難しい。 だが――……それが届くよりも先に、大地が踏み砕かれた。 ――跳躍。 一瞬にして15m。恐るべき脚力である。 回避したのみならず、その男は空中のセッテ。その間近にまで迫る。 「――ッ!」 たまらず彼女は急制動をかけ、距離を取った。無論、その間にも戦闘行動は途絶えることが無い。 投擲したブーメランブレードを呼び戻しながら、両手に更に二振りの刃を生み出す。 宙に浮いてしまえば、何の装備も有さない存在は動きようが無い。狙うならば今だ。 両手に武器を握ったセッテは、背後から男に迫る刃に加え、その二刀を投擲。 前後左右からの回避不能な同時攻撃によって、一挙に畳み掛ける。 悪くは無い。 決して、悪くは無い。 だが、それはおよそ一般的な場合にのみ言える戦術でしかない。 この男は、そのようなマニュアルの範疇に入る筈が無いのだった。 しっかりとその脚が"宙を舞うブーメラン"を踏みしめる。 「反転―――……」 どん、と鈍い音。 男が更に跳躍した事を理解した瞬間には、その一撃がセッテへと放たれていた。 「――キィイィィックッ!!」 この男を一瞬にして15mの高みにまで至らせた脚力。 其処から全力を持ってして放たれるキックの威力は、およそ10トンになるだろう。 そうなれば無論、まともに喰らえば戦闘不能となる事は間違いない。 まさに一撃必殺。 空中戦特化という事もあって、比較的防備の少ないセッテでは耐えうる事は不可能だろう。 トンと脚が触れた瞬間に、模擬戦終了を告げるブザーが鳴り響いた。 「どうですか、001」 「戦術は悪くない。が、思考外の出来事にとっさに反応できないようではな」 地に降り立った彼女に対し、同様に着地した男――001は、そう答えた。 ナンバーズは異常な存在だ。だが、それを上回るほどに異常で不気味なのが、この男だった。 身に纏っているのは黒色の戦闘服。これはさして問題は無い。 基本的にはナンバーズの其れと、男女の差こそあれど大きな違いは無いからだ。 しいて言うならば肘や膝、肩などの要所にプロテクター、そして胸部には頑丈な装甲が備わっている点くらいか。 首にマフラーを巻いているのも、気にする程の事ではない。 チンクの眼帯、ディエチのリボンや、ディードのカチューシャ、或いは他ならぬセッテのヘッドギアなど、 ナンバーズと言えども戦闘行動の支障になら無い範疇で、多少のファッションは許されている。 問題は、頭部だ。 ――仮面。 ヘルメットと呼ぶことはどう考えても不可能だった。 何故なら其処には『顔』が存在していたのだから。 緑色の目を持つ、無機質な『顔』 であるならばそれは、正しく『仮面』だった。 そんな存在がどうして正常だと言えようか。 まだしも肉体が生身であったならば、そう呼べたかもしれない。 だがセッテの視界――解析システムは、男が生身の人間では無い事を伝えている。 脳の一部を含む肉体の大半が機械に置き換わっている彼こそは、まさしく最初の戦闘機人。 およそ全ての戦闘機人の原型となったが故に"001"と呼ばれている男。 ドクタースカリエッティの旧友であり、同時にナンバーズの教官でもある男。 それが、彼だった。 空戦型であるセッテの模擬戦相手としては役者不足とも思えたが、 しかし先程の跳躍を見ればわかる通り、この男は十分以上の空戦能力を有している。 このように何の問題もなく、彼女に訓練を施すことが出来るのだ。 少なくともその点については、セッテも文句は無い。 「お前の姉からも言われなかったか?」 「はい。トーレから"機械過ぎる"と」 的確な表現だな、と呟いて001は笑った。 「我々は改造人間――もとい、戦闘機人だ。兵器であるが、同時に兵士でもある」 「001。言っている意味がわかりかねます」 「つまり、人間なんだよ、俺たちは。ここに詰まっているのは蛋白質の塊か?」 そう言ってコツコツと001はヘルメットを叩いた。 緑色の複眼が煌き、セッテは奇妙な居心地の悪さを覚える。 文句があるとすれば、これだ。 セッテは彼が苦手だった。 こんな感情は、完璧な兵器であろうとする彼女にとって有り得ない事なのだが、 とにかく彼女にとって001は苦手と判断せざるをえない対象だった。 理由はと問われても、セッテには判断できない。 結局、プログラムに発生したバグ、或いは欠陥と結論せざるを得なかった。 どちらにせよ留意すべき事態であるのは間違いあるまい。 こうして幾度か1号に戦闘訓練を受けるのも、そのバグを克服するのが目的なのだが。 どうにも、この複眼に見つめられるのだけは、慣れない。 思考の中へと陥っていたセッテを現実に引き戻したのは、1号の次なる言葉だった。 「ただの兵器では、奴らに勝てん」 「――……奴ら?」 「圧倒的な性能差。絶望的に不利な戦況。 そういった物を、いとも簡単に覆してのける存在だ」 「……わかりかねます。 性能差や戦況の悪化。別々に発生したのでしたら覆す事も可能かと思いますが、 両者が同時に発生したのであれば、それを打開するのは不可能かと」 最もな意見である。 およそ魔法に関して言えば持って生まれた素質がほぼ全てであるし、 彼女達の持つIS、先天固有技能なども、その典型的な例だと言える。 だが、それに対して001は皮肉げな呟きでもって答えた。 「それが、可能なんだよ。――――人間という奴には」 ――人間には、それが可能。 不可解な理論に彼女が頭を悩ませていると、001は笑いながら手を振った。 「まあ良い。いずれお前も逢うだろうし、今考えても仕方ない事だ。 それより、集団洗浄の時間じゃないのか? お前も行って来たらどうだ」 「いえ、可能ならばもう一戦お願いしたいのですが」 「悪いが、俺はドクターに逢いに行かなければならない。 良いから行って来い。訓練、訓練、では機械そのものだ」 「はい、ではそのように」 *********************************** ジェイル・スカリエッティの本拠地には、大規模な集団洗浄場が存在する。 より一般的な表現をするならば、大浴場と言った所か。 12人のナンバーズ姉妹全員で入浴してもまだ余裕のある規模の浴場では、 今日も今日とて幾人かのメンバーが、集団洗浄を行っていた。 話題と言えばまあ、いつも通りだ。 ノーヴェやウェンディによるバカ騒ぎから始まり、 オットーの性別について、或いはクアットロについての軽口。 この場にはいないドゥーエに対してのあれこれやらも加わり、二転三転した後、 研究施設における唯一の男性型戦闘機人――つまり001の事になる。 「あー……ダメだ。やっぱアイツは好きになれない」 「そうッスねー。あのヘルメット、髑髏みたいで、ちょっと怖いッス」 「そこじゃねぇよ。何考えてるかわかんねぇところが苦手なんだ」 浴槽にしっかり肩まで使ったノーヴェと、のんびり浮かんでいるウェンディの会話に、 さもありなんと他のナンバーズ一同、揃って頷く。 性別不明なオットー以上に謎めいているのが、あの仮面の男、001だからだ。 戦闘機人の試作品――タイプゼロよりも前に存在していたとの触れ込みであり、 ドクターとの付き合いも長く、ナンバーズ達も生まれた当初から関わっている。 更に言えばセッテならずとも訓練を指導してもらった経験は全員にある。 そしてその戦闘能力は、魔術的要素が一切無いとはいえ、特筆すべきだ。 だが――果たして"姉妹"の中で、誰か一人でも彼を好ましいと感じる者はいるだろうか? 嫌っている者はいないだろう。だが、好きにはなれなかった。 「僕も彼の事は好きになれない。――何故、顔を隠してるんだ」 「あたしも。001さんの顔、見たこと無いもの。ディードは?」 「特段、好ましいとも思ってはいませんが」 「でもさー。私、前にドクターから聞いたんだけど。 私たちの持ってるIS――先天固有技能ってあるじゃない?」 「ああ、あたしのエアライナーとか、セインのディープダイバーとかだろ?」 「お姉ちゃんのこと呼び捨てにすんな。 ともかく、戦闘機人にそれぞれ固有能力持たせようって、001の発案だって聞いたよ?」 「うわ、マジかよそれ」 「あ、それとあたしはあの仮面には爆弾が装備されてるって聞いたッス! 外すと爆発するって」 「……誰から聞いた、それ」 「クア姉から」 「そりゃ嘘だよ、ウェンディ」 満場一致でそれは嘘だ、という結論に達する姉妹たち。 しばらくしてセッテが集団洗浄に参加すると、すかさず質問攻めが始まる。 加えてウェンディによる胸部接触も行われ、解放されたディードが胸を撫で下ろす一面もあった。 つまり何が言いたいのかと言えば、単純な一言である。 ナンバーズは今日も平和だった。 ************************************** 「――――終わったぞ」 研究室。 不意に聞えた静かな声に、001の意識は緩やかに覚醒した。 またしても手術台の上。だが、特に慌てることも無い。 日に一度スカリエッティの検査を受けるのが、彼の日課だからだ。 「どんな按配だ?」 「キミのお陰で彼女達の製作も、訓練も、実に滞りなく進行している。 いや、むしろ当初の予定をはるかに上回る出来栄えだ。 だからこそ、私も努力はしているのだが――……」 「難しい、か」 「……ああ、すまないね」 ドクター・スカリエッティにしては珍しく、沈鬱そうな表情を見せた。 だが、それに対して001は特に気にした様子も無い。 元より仕方の無い話なのだ。 「拒絶反応――リジェクション、か。 最初から機械との適合を考えて生み出されたナンバーズならばともかく……。 元々がただの人間だったキミでは、機械との融合は負担が大きすぎるのだよ」 「理解している。ドクターが努力をしてくれたことも。不満は無い」 マフラーを結び直しながら001は言う。 言葉に他意はなく、まったくの本心であった。 結局のところ薬で無理やり抑え込むだけであっても、大したものだ。 そういった事すら以前は不可能だったのだから。 「こんなにも人間らしい待遇を受けたのは、久しぶりなんだ。何せ――」 その声は何処か笑っていた。 「改造人間という名の『兵器』だからな、俺は」 「戦闘機人という名の『兵士』なのだよ、今は」 ドクターの声は、何処か疲れていた。 「私にとって、生命というのは素晴らしいものだ。 その可能性を探りたいし、尊い存在だとも思う。 人は『生命を弄ぶ』などとも言うがね。だが、しかし君は――……」 「構わない。判りきっている事だ」 頷きを一つ返し、手術台の上に腰を下ろす。 伸ばした右手が手繰り寄せるのは、スカリエッティの用意した作戦計画書だった。 複製が困難であるという意味において、紙と言う情報媒体は比較的優秀なのだ。 慣れた手付きでページを繰る001の姿に、スカリエッティは苦笑を浮かべる。 「相変わらず君は、寝ても覚めても征服、征服、だな」 「当然だろう。この"組織"で戦闘経験者は俺だけだ。それに――」 「それに?」 「これは俺の『夢』だからな」 これにはスカリエッティも笑うしかない。 一番の同士。一番の友人。本当に頼りになるが、頼り切ってしまいたいわけじゃない。 と、不意に001の手が止まる。 「……スカリエッティ。ひとつ聞いても良いか?」 「ああ。一つといわず、幾つでも」 「この――タイプ・ゼロファースト、セカンドという奴だ」 001が指差した先には、カーボン複写された設計図が添付されていた。 スカリエッティの計画書において「可能であれば捕獲」と記されたそれは、 図案の人物が子供であるとはいえ、その内部構造は間違いなく改造人間――戦闘機人である。 「ああ、文字通りの存在だよ。戦闘機人のゼロ番機――もっとも、君よりは後発だが。 『誰か』が作り、奪取され、現在は管理局に所属している。私の知的好奇心から、調べてみたくてね」 「――……特徴は?」 「ファーストがテクニックを。セカンドはパワーを重要視している――らしい」 「……………」 「興味があるのかね?」 いや、と首を左右に振った001は手術台から降り、資料を手にしたまま歩き出す。 「技と、力……か」 退室する間際、ひどく懐かしげに彼が呟いた言葉の意味は、スカリエッティにはわからなかったが。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2172.html
注意)本ssは原作とは異なる設定・背景事情・ストーリー展開で進んでいきます。 そういうものが苦手な方はご注意下さい。 『闇の書』事件終結から十年。 次元世界は――人間は平和な日々を貪っている。 飢えた胃袋に破滅という酒が注がれるとも知らず……。 平穏は、あっさりと崩れ去った。 アンチスパイラルと名乗る謎の勢力による全次元世界への宣戦布告、円と直線で形成された異形の質量兵器――後に〝ムガン〟と呼称――による破壊活動。 不安が毒のように世界に浸透し、終末思想やテロの横行。 疲弊した人間達の精神を、際限なく現れる敵の襲撃が更に追い詰めていく。 その悪循環、その無限螺旋。 そんな時だった。 一人の男が、ミッドチルダに現れたのは……。 戦場に突如現れた、一体の見慣れぬ人型の質量兵器。 その右腕――身の丈を遥かに超える巨大なドリルが唸りをあげる。 『ギガドリルブレイク!!』 轟く咆哮、突き抜けるドリル。 その度に、空を覆い尽くすムガンの大群が、まるで消しゴムでもかけられるかのように爆破消滅していく。 その光景を、男達――時空管理局の武装局員達は呆然と見上げていた。 自分達があれだけ煮え湯を呑まされた敵を、あんなにも簡単に倒している……。 それはまるで悪夢か、奇跡のようにしか思えなかった。 しかし如何に圧倒的な攻撃力を誇ろうとも、数千ものムガンの軍勢に単独で立ち向かうというのは流石に無理があったらしい。 貪るような勢いで敵の数を減らしていきながら、アンノウンもまた確実に傷ついていった。 腕は千切れ、脚は吹き飛び、顔面を模した胴体には無数の亀裂が入っている。 初めはその驚異的な自己修復能力で破損を即時再生させていたが、もうその余裕も無くなったのか、ダメージをそのままに戦い続けている。 そして遂に力尽きたのか、糸の切れた人形のように地面に倒れ伏した。 限界を超え、スクラップと化したアンノウンの周囲に、生き残りのムガン達がハゲタカのように群がる。 アンノウン頭部のハッチが開き、搭乗者らしき男がゆっくりと立ち上がった。 ガラクタ同然の愛機を見下ろし、吐息を零す。 ――ガンメンなど、所詮はこんなものか。 胸に去来する思いは、かつて『己』が口にしたもの。 しかし男――ロージェノムの口は、自然と別な言葉を紡ぎ出していた。 「……よくぞここまでついて来てくれた。ラゼンガン」 言ってから、ロージェノムは虚を衝かれたように黙り込んだ。 自分は、何故こんなことを言ったのだろうか? たかが機械――それも自分と同じ、仮初の存在に過ぎないというのに……。 自問するロージェノムに、しかし答えを見出す時間は与えられなかった。 アンノウン――ラゼンガンの周囲を取り囲み、様子を窺っていたムガン達が、動き出した。 「ふん……」 見慣れた――寧ろ見飽きた敵の無機質な姿を一瞥し、ロージェノムはつまらなそうに鼻を鳴らす。 瞬間、ロージェノムの禿頭から炎のたてがみが噴き上がった。 全身の筋肉が膨張し、血管が浮き上がる。 「わしを……誰だと思っている!!」 怒号と共にロージェノムはコクピットを蹴り、手近なムガンに殴り飛ばした。 殴られたムガンは錐揉み回転しながら吹き飛び、周囲の味方を巻き込みながら爆破四散する。 魔導師達は再び唖然とした。 デバイスもバリアジャケットも無い生身の人間が、素手でムガンを撃破した……! 同じ人間とは思えぬロージェノムの力に男達は畏怖し、しかしそれ以上に、これ以上も無い程心強い味方の出現に興奮していた。 血湧き肉踊るとはこのことだろうか……? 満身創痍、疲労困憊、魔力も尽きかけたこの絶望的状況で、それでも力が湧いてくる。 螺旋の本能――魂の奥底から湧き上がる熱い衝動に突き動かされ、男達の反撃が始まった。 形勢は完全に逆転した。 雄叫びを上げながら次々とムガンを破壊していく男達の螺旋の息吹は、先陣を切って戦うロージェノムにも伝わっていた。 髭に覆われた口元が吊り上がり、獰猛な笑みを形作る。 何故今頃ムガンが暴れているのか、何故消滅したはずの自分がここにいるのか、そもそもここはどこなのか。 疑問は山程あるが、今は取り敢えずどうでも良い。 どうせ二度も死んだ身、今更何が起ころうとも驚きはしない。 今はただ、螺旋の衝動に身を任せ、螺旋の明日の為に戦おう。 一人の戦士として。 ――変わられましたな、螺旋王。 かつて部下に言われた言葉が、ロージェノムの脳裏に蘇る。 ああ、確かに自分は変わった。 否、元の自分を取り戻しただけだ。 自分が解放されたのは肉体の頚木からではない。 己を偽り、螺旋の衝動を押し殺しながら千年の倦怠の中で自らを腐らせていく……そんな魂の牢獄からだ。 自嘲するロージェノムの背後から、その時、一体ムガンが襲い掛かった。 咄嗟に回避しようとするロージェノムだが、疲労とダメージから反応が一瞬遅れる。 その時、 「ディバインバスター!!」 凛とした女性の声と共に、桜色の閃光がムガンを貫いた。 ……時は少し遡る。 ミッドチルダ東部の地方都市に出現した敵質量兵器、その討伐部隊からの救援要請に、時空管理局は二人の空戦魔導師を派遣した。 高町なのは一等空尉。 フェイト・T・ハウラオン執務官。 共に弱冠19歳にして魔導師ランクS+に認定され、管理局の看板とも言える天才魔導師である。 現場に到着した二人の魔法少女は、二重の意味で絶句した。 一面に広がる瓦礫の山。 立ち上る黒煙、焼け焦げた地面。 上空から見下ろすと、はっきりと解る。 この街は、もう死んでいる。 「酷い……」 惨状を目の前にし、フェイトが表情を曇らせる。 そして驚いたことはもう一つ。 救援要請を受けて現場に急行したなのは達は、部隊の全滅、或いはそれに近い絶望的状況を予想していた。 しかし現実に目の前に広がる光景は……、 「オラオラオラぁっ! 無機物風情が調子に乗ってんじゃねぇっ!!」 雄叫びを上げながら次々とムガンを破壊していく武装局員達。 空で、地上で絶え間なく響く爆砕音。 ボロボロな部隊員達の姿は、確かに増援を要請しても不思議ではない程酷い有様ではある。 しかし戦況は、こちらが圧倒的に優勢だった。 ……これ、救援いらないんじゃない? 何やら妙な熱気を帯び、自暴自棄――というよりは調子に乗っているような部隊員達の勢いを前に、二人はそう思わずにはいられなかった。 そんな男達の中で、一際異彩を放つ者がいる。 武装局員達に紛れーー否、寧ろ先陣を切ってムガンを破壊している一人の巨漢。 地上に降下したムガンが攻撃を仕掛ける度に、その驚くべき身体能力で逆に返り討ちにしている長身の男。 筋骨隆々とした身体からは魔力の欠片も感じられない、純粋に身体能力だけで戦っているようである。 そして何より……頭が燃えていた。 「何、あれ……?」 呆然と呟くなのはに、フェイトは全力で同意した。 素手で敵を殴り飛ばして痛くないのか、頭が大変な事になっているが無視して大丈夫なのか、そもそもあの男は何者なのか。 疑問……というよりもツッコミ所が多すぎて困る。 だが驚いてばかりもいられない。 浮遊するムガンの大群――目測だが未だ数百は残存している敵が、なのは達の存在に気づいた。 二人は表情を引き締め、各々の右手に握る宝石――デバイスに語りかける。 「レイジングハート、お願い」 ≪All right. My master≫ 「いくよ、バルディッシュ」 ≪Yes sir≫ 主の声に応え、デバイスがその姿を変える。 なのはの右手に握られる紅と白金の魔導師の「杖」――インテリジェントデバイス・レイジングハート。 フェイトの手の中に出現する黒鋼の戦斧――インテリジェントデバイス・バルディッシュ。 十年近い月日を共に戦い続けてきた、二人の大切な「友達」である。 最初に動いたのは、なのはだった。 足元に魔方陣が出現し、構えられたレイジングハートの先端に光が集束する。 流星のようになのはの許に集う、様々な色の魔力光――先に戦っている武装局員達の戦闘の残滓である。 なのは自身の桜色の魔力光と重なり合い、虹色の光球となってその大きさと輝きを増していく。 「スターライトブレイカー!!」 気合一発、なのははデバイスを振り下ろした。 レイジングハート先端から虹色の光の奔流が放たれ、ムガンを呑み込んでいく。 今の一撃で敵勢力の二割弱、その誘爆で更に幾らかのムガンが一瞬で消滅した。 フェイトも負けていなかった。 なのはの砲撃で統制の崩れたムガン達に突っ込み、敵陣を引っ掻き回して同士討ちを誘う。 「ディバインバスター!!」 「フォトンランサー!!」 なのはの援護を受けながら、次々と敵を撃破していくフェイト。 勢い衰えぬまま敵の数を減らしていく武装局員達。 数百――なのは達が到着する前は数千も存在した敵は、今や数える程しか残存していない。 戦闘の終わりは近い……誰もがそう思ったその時、一体のムガンが燃える頭の男――ロージェノムに攻撃を仕掛けた。 咄嗟に避けようとするロージェノムだが、反応が一瞬遅れる。 反射的になのははムガンを撃ち抜いていた。 なのは達の存在に気づいたのか、緩慢とした動きでなのはを見上げるロージェノム。 ……目が合った。 これが、螺旋の王と魔法少女達の出会いだった。 (面妖な……。人が空を飛んでおるわ) 空どころか宇宙でさえも神出鬼没に現れた自身の娘のことは棚に上げ、口には出さずに呟くロージェノム。 (あー……、髪の毛燃え尽きちゃってる) 螺旋の炎の消えたロージェノムの禿頭に目を遣り、申し訳なさそうな顔をするなのは。 ……第一印象は、互いにあまり良好とは言い難かった。 天元突破リリカルなのはSpiral プロローグ「わしを……誰だと思っている!!」(了) 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2251.html
朝焼けに染まる無人の街を、白い閃光が駆け抜ける。 桜色の魔力弾を周囲に従え、鋼鉄とコンクリートの森の中を縦横無尽に飛び回るなのはを、スバルは必死に追っていた。 「ウィングロード!」 スバルの声と共に出現した光の「道」――ウィングロードが、なのはの行く手を阻むように回り込む。 一巡、二周、そして三重……まるでリボンで包装するかのように、ウィングロードが幾重にもなのはの周りを取り囲む。 それは最早「道」ではなく、獲物を捕らえる一つの「牢獄」だった。 ウィングロードの網の目を潜り抜け、無数の魔力弾がなのはへと撃ち込まれる。 ティアナの狙撃か……迫り来る敵の凶弾を周囲で遊ばせていた自身の魔力弾で相殺しながら、なのはは冷静にそう分析する。 待ち伏せ……まんまと罠に嵌ったという訳か。 「でも……これだけじゃ全然甘いよ!?」 吼えるなのはの周囲に新たな魔力弾が生成され、前後左右、あらゆる方向に撃ち出される。 一見出鱈目に放たれた無数の魔力弾は、しかし周囲を取り囲む魔法の「檻」に正確に着弾し、まるで紙切れのようにズタズタに引き裂いた。 牢獄から解放されたなのはは、しかし次の瞬間、消えかけるウィングロードを高速で駆け上るスバルの姿を見た。 「リボルバー……!」 なのはの攻撃により途中から途切れたウィングロードを蹴り、デバイスを装着した右拳を振り上げながらスバルが跳ぶ。 撃ち落とすべくデバイスを構えるなのはの耳に、その時、 「龍魂召喚! フリードリヒ!!」 凛としたキャロの声が飛び込んできた。 驚愕の表情で背後を振り返ったなのはは、翼を広げた巨大な白い龍――フリードリヒの姿を認めた。 その口元には光が集束し、いつでも砲撃出来る態勢である。 「こんな街中でこんな大技を、しかもスバルまでいるこの距離とこのタイミングで……!?」 下手をすれば――否、どうしようとも、フリードリヒの攻撃がスバルを巻き込むことは確実である。 暴挙としか言えないようなキャロの行動に歯噛みするなのはに、そんなものはお構いなしとばかりにスバルの拳が迫る。 「――シュートッ!!」 気合いと共に打ち出されるスバルの拳を左手で受け止め、なのははデバイスを握る右手を掲げ、防御陣を展開した。 スバルをこのまま掴まえたまま、自分が盾となってフリードリヒの砲撃から守り抜く――この状況で教え子を救う方法を、なのははそれ以外に思いつかなかった。 全身全霊を込めて防御陣に魔力を注ぎ込むなのはの目の前で、その時、フリードリヒの姿が陽炎のように歪んだ。 幻術!? 動揺するなのはの思考を肯定するように、フリードリヒの虚像を突き破り、エリオがデバイスを振り上げながら姿を現した。 未だ空中を漂うウィングロードの切れ端を飛び石のように伝い、ジグザグな軌道を描きながら、エリオは防御陣の死角――なのはの頭上へと辿り着く。 エリオの足元に展開される加速用の魔方陣――ラゼンガンとの戦いで見せた、キャロとの連携戦術である。 「ストラーダ! 全力突貫!!」 号令と共にブースターを点火し、エリオは流星のようになのはに突撃した。 ストラーダの推進力に加えてキャロの補助、更に重力までをも味方につけて、エリオがなのはに迫る。 上空から降下してくるエリオという名の人間砲弾、しかし脅威はそれだけではない。 なのはに掴まえられたスバルの右拳、その周囲に、環を描くように魔方陣が展開される。 「ディバイン――」 スバルの声に合わせて魔方陣が回転を始め、激烈な光を放ちながら加速していく。 しまった……なのはは咄嗟にスバルの手を離し、後方へと飛び退いた。 なのはとスバルの間――本来なのはのいた場所を、エリオが空しく突き抜ける。 なのは拘束から解放されたスバルも、ウィングロードという足場を失い、重力に引かれてゆっくりと落下を始めた。 奇襲失敗……しかし、これで終わる二人ではなかった。 「ストラーダ……逆噴射!!」 怒号するエリオの指示に従い、ストラーダはブースターを逆方向――地上に向けて噴かした。 極限まで加速したエリオの突進力は一瞬で相殺され、偽りの無重力状態を作り出す。 無論、そのような無茶をして代償が無い筈が無い。 急激なGの変化に全身の骨が悲鳴を上げ、衝撃で胃液が逆流する。 しかし、まだだ……まだこれだけでは終われない。 デバイスを両手で握り直し、エリオは雄叫びと共に魔力を込めた。 ストラーダの穂先に魔力刃が出現し、のびる、伸びる、延びる……!! 己の身長の数倍、10m近い大きさまで達した魔力刃を、エリオは次の瞬間、あろうことかスバルへと振るっていた。 「スバルさん!」 叫ぶエリオの振り上げた魔力刃を、スバルは両脚でしっかりと踏み締めた。 「いっけえええええええええっ!!」 スバルの乗った魔力刃を、エリオは気合いと共に一気に振り抜く。 魔力刃の射出台から打ち出されたスバルが飛ぶ、そして同時に、スバルは跳んでいた。 重力の壁に風穴を開け、遥か上空に浮かぶなのはを目指して、ひたすら空を突き進む。 右手首を覆うタービンが、その周りを巡る魔方陣が、まわる、回る、廻る……! そして遂に、スバルはなのはの許まで辿り着いた。 「――バスター!!」 拳と共に至近距離から撃ち出されたスバルの砲撃魔法を、なのはは防御陣を展開して受け止める。 しかし尚も進み続けるスバルの勢いを殺し切れず、なのはの身体は徐々に後方へと押し飛ばされていく。 そして次の瞬間、なのはの背中が何かにぶつかった。 背後を振り返ったなのはは、次の瞬間愕然とした。 背中越しに広がる巨大な桜色の魔方陣――フリードリヒの虚像相手になのは自身が作り上げた防御陣である。 このままでは潰される……なのはは背中の防御陣を消滅させ、そしてスバルへの防御に集中した。 未だ勢い衰えぬスバルの拳となのはの防御陣がぶつかり合い、激しく火花を散らしている。 スバルの攻撃はなのはを押している――しかし今の状態では文字通り、物理的に「押している」だけに過ぎない。 スバルが拳を押し込めば押し込む程、それだけなのはは後方に退がる――それだけだった。 まさにジリ貧、決着のつかないこの攻防は、しかしスバルにとっては圧倒的に不利な状況だった。 砲撃呪文の効果が尽きれば攻撃を支えていた推進力は消え、空を飛ぶ術を持たないスバルは再び重力の鎖に囚われ、ただ落下するしかないだから。 「あたしは……」 しかし、スバルは諦めない。 拳を押し込んだだけ後ろに退がられるのならば、退がられる前に突き破れば良い。 向こうが一歩退がるのならば、自分は二歩進めば良い。 もっと強く、もっと速く。 一途な思いを拳に乗せて、スバルはひたすら前に進み続ける。 ……鼓動が聞こえる。 アンダーウェアの下のコアドリル、『あの人』に貰った宝物が脈動している。 「あたしの拳は……!」 ピシリ……なのはの防御陣に亀裂が入った。 瞠目するなのはの目の前で、亀裂は段々と広がっていき、遂に防御陣全体を蜘蛛の巣のように覆い尽くす。 「――天を、突くっ!!」 咆哮と共に打ち抜かれたスバルの拳に耐え切れず、防御陣が音を立てて砕け散った。 「あたしを誰だと思ってる!!」 粉々に弾け跳ぶ防御陣、桜吹雪のように舞い散るその残滓を全身に浴びながら、スバルは不敵な笑みを浮かべて決め台詞を口にする。 しかし目の前の相手が自分の直属の上司、しかも命の恩人であり憧れの人でもあることを思い出し、 「――んですか!!」 スバルは慌ててそう付け加えた。 ともあれ、これで邪魔な防御は打ち破った。 後はこのままなのはに一撃与えれば――もっと手っ取り早く言えば、このまま殴り飛ばせば、この戦闘は終了である。 もう一度拳を振りかぶるスバルに、なのはも最後の抵抗を見せるようにデバイスを構える。 停滞、或いは後退を考えるのならば、足場の無いスバルが不利である。 しかしそれ以外の選択――このまま前進するのならば、何の問題も無い。 なのはが呪文を使うと前に、デバイスを武器代わりに振るう前に、己の拳を届かせる自信がスバルにはあった。 チェックメイト……しかし油断はしない。 何故ならば、相手はなのはなのだから。 刹那にも満たない静寂――しかし向かい合う二人には永劫の時間のように感じられた。 二人の間の時間が止まり、そして再び動き出す。 最初に動いたのは、スバルか、なのはか――否、そのどちらでもなかった。 廃ビルから放たれた一発の魔力弾、完全な不意打ちとして撃たれたそれは、防御陣の消えたなのはの無防備な背中に吸い込まれ、純白のバリアジャケットに焦げ跡を作った。 「……ちょーっと卑怯臭かったかな?」 タイミングを崩されたことで空振りし、そのまま落下するスバルと、慌ててスバルを掴まえに降下するなのはを見ながら、ティアナはそう呟いた。 全く悪びれた様子の無いティアナの言動に、隣のキャロとフリードが嘆息する。 「ティアナさん……空気読みましょうよ」 こうして、この日の早朝訓練は終了した。 朝日に照らされたハイウェイを、黒い車が疾駆している。 「おぉー、あの子ら意外とやりおるなぁ」 カーナビの液晶に映る戦闘映像――スバル達の早朝訓練の様子を眺めながら、はやては感嘆したように声を上げた。 隣でハンドルを握るフェイトも、同意するように首肯する。 四人の中で一番足の速いスバルが追い込み役となり、他の三人の潜む待ち伏せポイントまでなのはを誘い出す。 本来足場として使用するウィングロードを包囲網として応用し、なのはの足を止めたところで、ティアナの幻術――偽のフリードリヒを投入する。 キャロにフェイクの召喚呪文を叫ばせることで虚像を本物であると思い込ませ、更にスバルを特攻させることでなのはの思考から余裕と選択肢を殺ぐ。 防御魔法は全部で三種類――受け止めるバリア系、弾いて逸らすシールド系、そして身に纏って自分を守るフィールド系。 スバルもいるあの状況でなのはの選べる選択肢は、バリア系かシールド系の二者択一、更に訓練場の仮想空間とはいえ、周囲の被害も考えれば選べるのは一つ。 バリア系――それも障壁が半ば物質化程高密度に魔力を練りこんだ強固なもの。 しかし如何なる魔法にも長所と短所があり、バリア系及びシールド系防御魔法の例で言えば、一方向にしか展開出来ないという弱点がある。 その弱点を衝き、虚像のフリードリヒの後ろという死角からエリオを特攻させ、バリアの効果の及ばない頭上からなのはを強襲させる。 更にスバルにも攻撃魔法を使わせることで一方に集中した対処という選択肢を奪い、チェックメイト。 結局はなのはに逃げられたという結果からも分かる通り、まだまだ甘い部分も多々あるが、それでも戦術としては十分及第点として評価出来る。 寝惚け頭でよくもまあ……この作戦を考え出したであろうティアナに、はやては内心舌を巻いた。 最後の不意打ちのことも鑑みるに、意外とえげつない性格なのかもしれない。 軌道六課が正式稼動を開始してから、二週間が経とうとしていた。 誤解、それから潰し合いという最悪の出会いを果たしたスバル達前衛四人だったが、今回の戦闘映像を見た通り、その後のチームワークには何の支障も出ていない。 全力のぶつかり合いが良い方向に影響を与えたのかもしれないし、始末書という共通の敵を相手に戦ったことで連帯感が生まれたのかもしれない。 何にせよ、「雨降って地固まった」という訳である。 それになのはとフェイトの介入により喧嘩両成敗という形で幕を下ろしたあの戦闘も、問題は山積みであったが全くの無意味という訳でもなかった。 ラゼンガンはフルドリライズモード――なのは達で言うフルドライブモード、キャロは完全制御状態でのフリードリヒの召喚に、共に成功している。 初陣を控えた機動六課前衛陣にとって、この二つの戦力の底上げは喜ばしい誤算である。 ……と、本部に提出した始末書の中で、はやてはそう言い訳した。 「……辛うじて「不幸中の幸い」に引っかかるかどうかーってトコなんよね、本音を言えば」 事ある毎に「ラゼンガンとフリードリヒのどちらが強いか」という口論を展開し、その度に再戦を申請してくる新人達を思い出し、はやては疲れたように息を吐いた。 パイロットとしてのスバルの矜持も納得出来るし、家族に良い格好をさせてやりたいというキャロの気持ちも理解出来る。 分かる、解るが……「お前ら子供か」とはやては声を大にして言ってやりたい。 スバルは兎も角キャロの方は本当に子供なのだが、それはそれ。 通常業務に加えて初日の不始末の事後処理で忙しいというのに、その上さらに仕事を増やそうとする新人達に、はやては笑顔と青筋を浮かべて申請書を握り潰すのだった。 この軋轢のせいでチームワークがガタガタになってでもいれば、雷を落としてそれで済むのだが、通常の連携には何の問題も出ていないのが逆に厄介なのだ。 己の部隊の前衛の実態を改めて思い起こし、はやては再び嘆息を零す。 「……そ、そう言えば、新人の皆への新デバイスの受け渡しって、確か今日だったよね?」 沈んだ表情のはやてを横目で見遣り、フェイトは話題を変えるべく口を開いた。 その言葉にはやては顔を上げ、幾分か明るくなった表情で首肯を返す。 機動六課の誇る前線メンバーとメカニックスタッフが、技術と経験の粋を集めて完成させた、四機の最新型デバイス。 ローラーブーツ型インテリジェントデバイス――マッハキャリバー。 拳銃型インテリジェントデバイス――クロスミラージュ。 槍型インテリジェントデバイス――ストラーダ。 グローブ型インテリジェントデバイス――ケリュケイオン。 後者二つは未完成だった素体を調整完成させた正式版である。 部隊の目的に合わせ、そして使い手それぞれの個性に合わせて造られた四機の専用デバイスは、更に別の意味でも「特別」だった。 魔力炉と超小型螺旋エンジンのハイブリッド機関――実験的に搭載されたその新型動力炉が、実力や限界を超えた所謂「火事場の馬鹿力」をも本当の力に変えてくれる。 あくまで理論上は、であるが。 ともかく、これで新人達も実戦の用意が整った。 これで予想外の緊急事態にも対応可能な、確固とした下地が完成したのだ。 「これで漸くカリムにも顔上げて会えるわ……」 安堵したようにそう呟き、はやてはシートに背中を埋めた。 聖王教会の騎士、カリム・グラシア――機動六課の後見人の一人であり、人材集めに奔走するはやてに代わり機動六課立ち上げの実質的作業を引き受けてくれた恩人。 八年前、教会騎士団の仕事に派遣された時以来の付き合いとなる、上司というよりは姉のようなその人物に、はやてはどうも頭が上がらない。 そのカリムからはやては緊急の召喚を受けた。 騎士として聖王教会の中で高い地位にあるカリムは、その立場上聖堂から自由に出歩くということは出来ない。 よって何か用事がある場合は必然的にはやての方が教会に出向くことになるのだが、今回の召喚には何か不穏な予感が付き纏う。 少なくとも、呑気にお茶を飲んで無駄話するだけでは、とても終わりそうにない。 「……カリムの占いはな、よく当たるんよ」 粛然とした表情で口を開くはやてを、フェイトはちらりと一瞥した。 カリム・グラシアの保有するというレアスキル〝預言者の著書〟――詩文の形で未来を予言する能力のことを言っているのだろう。 はやてから又聞きした話では「よく当たる占い」のようなものらしいのだが、カリムが後見人として自分達機動六課に関わる理由も、その予言が大いに関係しているという。 当たるも八卦、当たらぬも八卦という占いとは違い、確かな力があるということだろう。 「ウチもな、一つ予言してやろ思う」 真剣な表情を崩さぬまま、はやては続ける。 「これからウチらの向かう先には……何かあるで」 確固とした口調で断言するはやてに、フェイトは思わず固唾を呑んだ。 「何かって……何が?」 震えそうになる声でそう尋ねるフェイトに、はやては真顔でこう答える。 「何かや」 「…………」 それは予言ではなく単なる勘というのではないだろーか……喉の先まで出かかったツッコミを、フェイトは辛うじて飲み込んだ。 言葉は力を持つ――第97管理外世界〝地球〟極東、はやての故郷〝日本〟に伝わる、「言霊」という概念である。 ミッドチルダ北部、ベルカ自治領。 そこはやて達を待ち受ける、はやての言うところの「何か」の存在に、二人はまだ気付いていなかった……。 天元突破リリカルなのはSpiral 第7話「これからウチらの向かう先には……何かあるで」(了) 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2181.html
フェイトの雷撃が最後のムガンを粉砕し、戦闘は時空管理局側の勝利に終わった。 歓声轟き、放っておけば祝宴でも始めてしまいそうな程の異様な熱気の中、その男は独り彫像のように佇んでいた。 先程までの獅子奮迅の活躍とは別人のようなその静かな姿は、他の男達の熱狂の中、まるで別世界の住人のように周囲の景色から乖離している。 「時空管理局の高町なのは一等空尉です。ご協力ありがとうございました」 管理局局員ではない、恐らく地元の民間魔導師であろうその男――ロージェノムの傍に降り立ち、なのははそう言って敬礼する。 間近で改めて見てみると、こう言っては悪いが……異様な風体の男だった。 3m近い長身、鍛え上げられた逞しい肉体。浅黒い肌の胸と背中に残る、まるで巨大な何かに穿たれたような傷痕。 その外見も然ることながら、何よりも男から滲み出る気配――オーラとでも言おうか――が、一般の人間とは明らかに一線を画している。 ……この人は、只者ではない。 胸の奥の何か――心臓ではない、リンカーコアでもない何かのざわつく気配を、なのはは感じていた。 「……時空管理局?」 なのはの言葉にロージェノムは無表情のまま、しかし怪訝そうな声で問い返す。 何か後ろ暗いことがある――というよりも、初めてその名前を聞いた、そんな響きだった。 ロージェノムの呟きを聞き取り、なのはは眉を寄せる。 ミッドチルダは時空管理局のお膝元、この世界の人間で管理局の名を知らないということはありえない。 一部の例外を除いて。 まさか……? 一つの可能性に辿り着き、なのははロージェノムを見上げ、口を開いた。 「ご存知……ないんですか?」 「いや……」 なのはの問いにロージェノムは言葉を濁し、 「――ああ、初耳だな」 そう言い直した。 一瞬、ロージェノムの表情が動いた――ように、なのはには見えた。 その表情の変化と歯切れの悪い言動に僅かばかりの違和感を覚えながらも、なのはは己の推測に確信を抱き始めていた。 「……こちらも一つ質問して良いだろうか?」 頭三つ分以上高い位置から見下ろすように問うロージェノムに少し威圧されながら、なのはは「答えられることならば」と言葉を返した。 ロージェノムは首肯し、なのは達にとっては常識的な、しかしなのはの推測する人間にとっては非常識的な疑問を口にする。 「先程お前達は何の機械的な補助も無しに空を飛んでいたが……あれは、何だ?」 その問いに、なのはは自分の推測の正しかったことを知った。 この男は、時空漂流者――何らかの理由でこの世界に飛ばされた、次元の迷子だ。 ロージェノムと名乗る時空漂流者の移送、並びに時空管理局本部での事情聴取はフェイトが行うこととなった。 本当はなのはがやりたがっていたのだが、被害状況の調査や街の復興計画などの細々とした処理の指揮を任されてしまい、仕方なくフェイトにお鉢が回ってきたのである。 臨時の助っ人が何故そこまで……と思わないでもないが、これは一等空尉という肩書きが仇となったとしか言いようがない。 日々仕事に忙殺されているもう一人の親友のことを思い出し、偉くなるのも考え物だなぁーとフェイトは他人事のように思うのだった。 管理局本部への任意同行をロージェノムが二つ返事で了承したことに、フェイトは少なからず驚いていた。 これまでにも時空漂流者を保護した経験はあるが、こんなにもあっさりと了解を得られたことは少ない。 殆どの場合、何らかの形で抵抗されてきたし、それが当然であるともフェイトは思っていた。 右も左も分からないような場所に突如放り出され、その上訳の分からない組織に連行されようとしている……。 寧ろ抵抗しない方がおかしいだろう。 にも関わらず、ロージェノムはこちらの要求を何の迷いもなく受け入れた。 魔法の「ま」の字も知らないこの男にとって、時空管理局の名も馴染みがある筈などない。 警戒心というものがないのか、自分の実力に絶対的な自信でも持っているのか、何か管理局に近づく裏でもあるのか、……それとも、何も考えていないだけなのか。 表情一つ変わらぬロージェノムの顔からは何も読み取れない。 管理局本部への移送に、ロージェノムは一つの条件を出した。 ロージェノムが搭乗していた質量兵器――〝ラゼンガン〟というらしい――を本部に持ち込みたいというロージェノムの要求に、どうしたものかとフェイトは悩む。 時空管理局は質量兵器の保有、及びその使用を禁じている。 時空漂流者とはいえその規制に例外は無い。 そして第一……目の前のガラクタがまともに動くとはフェイトには到底思えなかった。 四肢は潰れ、尻尾は千切れ、胴体も崩れかけた、元は人型だったであろう質量兵器。 辛うじて無事と言える部分はコクピットのある頭部付近だけである。 ……どう見ても、粗大ゴミとしか思えなかった。 「あの……やっぱりこれで本部まで行くのは、幾らなんでも無理があると思うんですけど……」 危ないですよーやめましょうよーと安全性の面から説得を試みるフェイトだったが、ロージェノムは大破したラゼンガンのコクピットに足をかけ、一言。 「首から下など飾りに過ぎん」 ……無茶苦茶な科白だったが、何故かこの男が言うと物凄く説得力があるような気がした。 そしてその直後、フェイトはロージェノムの言葉の意味を知ることになる。 「ぬ……おおおおおおおおっ!!」 操縦桿を握り咆哮を上げるロージェノムに応えるように、ラゼンガンの両眼に光が灯る。 瞬間、ラゼンガンの頭部両側面、人間で言えば耳に当たる部分から腕が生えた。 両腕で首筋をがっちりと掴み、左右に捻りながら頭を引き抜くラゼンガン。 ……傍から見ていると、物凄くシュールな光景だった。 そうして苦労して首から引き抜かれた頭部には、やはりと言うべきか、小さな脚がしっかりと付いている。 「ほ、本当に飾りだったんだ。首から下……」 予想の斜め上をいくラゼンガンの驚くべき正体に、フェイトはただ唖然とするしかなかった。 「……どうした? 管理局とやらに行くのではなかったのか」 一頭身のラゼンガン――この形態は暫定的に〝ラガン〟とでも呼ぼう――のコクピットから、ロージェノムが怪訝そうにフェイトを見下ろす。 すっかり可愛くなってしまったその機体を眺め、フェイトは諦めたように息を吐いた。 武装も無いようだし、これならば問題ないかもしれない……と、思いたい。 「あの……貴方は、何者なんですか?」 問いかけるフェイトを一瞥し、ロージェノムは目を眇めた。 「事情聴取は管理局に着いてからではなかったのか?」 「私の純粋な好奇心から訊いているんです」 本部に着いてから色々とドッキリさせられる前に今の内に心の準備を……という本音は隠して、フェイトは答える。 ロージェノムは黙り込んだ。 表情こそ動いていないが、しかしその内心では物凄く困っていた。 自分は一体何者なのか――実のところ、その明確な答えをロージェノムは持たない。 螺旋王――否。 この身はクローン培養によって造られたコピー、記憶や知識は受け継いでいるが決してオリジナルの『ロージェノム』と同一の存在ではない。 大グレン団旗艦超銀河ダイグレン生体コンピュータ――否。 既に超銀河グレンラガンとは切り離され、再び一つの個体として活動している。 誰でもない、俺は俺だ――論外。 そもそもこの娘の疑問への回答になっていない。 消去法で次々と選択肢を消していき、ロージェノムは遂に一つの答えに辿り着いた。 「わしは……」 言いかけて、ロージェノムは自嘲するように唇の端を歪めた。 何様のつもりだ、「わし」などと……。 あの時、あの宇宙で、最後の最期まで共に戦ってくれた忠臣に自分は何と答えた? ――王ではない、今はただの戦士だ。ヴィラル……お前と同じ、な。 そうだ、自分は戦士だ。 たとえこの身が仮初の肉体、造られた人格だとしても、自分が一人の戦士として、螺旋の戦士として戦ったことに変わりはない。 シモン達と共に、大グレン団の一員として戦ったことに偽りはない。 吹っ切れたように小さく笑い、ロージェノムは改めて口を開く。 「――私は戦士。螺旋の戦士、ロージェノム」 威風堂々、胸を張ってそう言い切った。 宇宙とは、認識されて初めて確定する――それがこの宇宙の理である。 ならば自分自身の存在も、自分自身が認識した姿に確定するのではないか。 自分の信じる自分の形に……。 故にロージェノムは全力で信じる。 戦士としての自分自身を、自分の信じる自分自身を。 ロージェノムの示した回答に、フェイトは虚を衝かれたように目を瞬かせていた。 なのはが管理局に戻った時には、既に夜は明けかけていた。 ロージェノムはどうしているだろうか、フェイトの事情聴取は上手く済んだだろうか。 報告書を提出し、自分達の保護した時空漂流者について問い合わせたなのはは、事情聴取は依然継続中という答えに目を見開いた。 フェイト達がいつ頃本部に戻ったのかは知らないが、少なくとも日の入り前には着いていただろう。 そこから事情聴取にどれだけかけているのか、何時間時空漂流者を拘束しているのか。 管理局員としての常識を外れたフェイトの行動が、なのはには信じられなかった。 「フェイトちゃ……ん!?」 取調室の扉を蹴破るような勢いで入室したなのは、室内に揃った予想外の顔の前に思わず踏鞴を踏んだ。 「あ、なのはちゃんお帰りー」 にこやかな笑顔でなのはを迎える、八神はやて二等陸佐。 「君はもう少し落ち着きというものを持った方が良いな、なのは」 渋い顔でなのはを振り返る、クロノ・ハウラオン提督。 「うぉっ!? ……って、何だなのはかよ。ビックリさせんな!」 居眠りでもしていたのか、挙動不審なヴィータ。 他にもシャマルやシグナムなどの守護騎士の面々、ユーノ・スクライア司書長やアルフなど、なのはにとって馴染みの深い面々が狭い取調室に勢揃いしている。 そして極めつけは……、 「あらあら、まるで同窓会みたいね」 「リンディさんまで……」 湯呑み片手にほけほけと笑う管理局総務統括官の姿に、なのはは呆れを通り越して脱力した。 「もう……皆揃って何やってるんですか!?」 時空漂流者への長時間の不当拘束だけでも許せないというのに、こんな大人数で事情聴取など理解出来ない。 否、理解したくない。 これではまるで尋問である。 なのはの糾弾にはやて達はばつの悪そうに視線を逸らした。 「いや、まぁ……最初はフェイトちゃんだけで普通に事情聴取やってたんやけどなぁ……」 「ちょっと事情が変わって……というかわたしだけじゃどうしようもない展開になっちゃって、それで無理言って皆に来て貰ったの」 言い訳するはやてとフェイトに、なのはの眉が剣呑そうに吊り上がる。 「事情って……皆が一度に集まらなきゃ駄目な位大事なことなの?」 リンディを始めとして今この場に集まっている面子は、皆時空管理局の中でも重要な場所を任されている者達であるとなのはは思っている。 時空漂流者一人の事情聴取などという些事にかまけ、こんな所で油を売っている暇などない。 そういった意味でも、なのはは怒っているのだ。 はやてはフェイトとアイコンタクトを交わし、「驚かんでよ?」と前置きした後、真剣な顔でこう切り出した。 「なのはちゃん。ウチらな……今、アンチスパイラルへの対抗策話し合ってんねん」 「…………へ?」 はやての口にした予想外の言葉に、なのはは面食らったように間の抜けた声を上げた。 アンチスパイラル。 アンチスパイラルとは……あのアンチスパイラルだろうか? 四年前、ミッドチルダ北部の空港爆破テロと共に全次元世界に宣戦布告し、以来次元世界各地で質量兵器による破壊活動を行う謎のテロ組織。 目下、なのは達時空管理局にとって最大最悪の「敵」……! そのアンチスパイラルとロージェノムの間に、一体何の関係があるというのか。 なのはの疑問に答えるように、はやては部屋の奥に座るロージェノム――腕を組み、なのは達のやり取りを黙然と見守る異邦の戦士を一瞥し、そしてこう言った。 「とんでもないジョーカーやで、あの人は……」 天元突破リリカルなのはSpiral 第1話「貴方は、何者なんですか?」(了) 戻る目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2188.html
「それじゃなのはちゃんも来たことやし、……ついでにヴィータも起きたことやし、軽くこれまでのおさらいしとこーか」 フェイトちゃんは三回目になるけど……と続けるはやてに、なのはを除く全員が首肯した。 独り話の展開について行けずに困惑するなのはを無視して、はやては早速話を始める。 「まず現状確認やけど、四年前、反螺旋族アンチスパイラルを名乗る謎の勢力が、次元世界に宣戦布告したのが全ての始まりやな。 アンチスパイラルの主力はムガンちゅー質量兵器やけど、物理攻撃もCランク以下の魔法攻撃もバリアで無効化してまう上、倒したら倒したで派手に爆発する曲モンや」 「奴等の目的は螺旋生命体の根絶とスパイラルネメシスの阻止。そのためにあらゆる次元世界の生命を根絶やしにしようとしているらしい」 はやての言葉をシグナムが引き継ぎ、続いてシャマルが口を開いた。 「螺旋生命体とは二重螺旋の遺伝子を持ち、螺旋力により永遠の進化を求める生命体の総称よ。なのはちゃんやはやてちゃん達人間も、螺旋生命体の一種ね」 「……螺旋力?」 聞き慣れない単語に首を傾げるなのはに、それまで黙っていたロージェノムが口を開く。 「螺旋生命体は、螺旋構造を持つ銀河とシンクロする。知的生命体がその認識する力で宇宙そのものが持つ力を得ることが出来る――それが螺旋力だ。 生命も宇宙も全て、上昇する螺旋エネルギーによって無限に増大する。それがこの宇宙の理だ。 そして螺旋力は、アンチスパイラルを打倒する唯一の力でもある――少なくとも、私の世界ではな」 いきなりスケールの大きくなったロージェノムの話に、徹夜明けのなのはの頭は早くもパンク寸前だった。 ヴィータも早速舟を漕ぎ始めている。 ……よく見てみると、周りの者達も似たような様子だった。 睡魔という強敵を前に早くも全滅の危機にあるなのは達を見回し、ロージェノムは呆れたように嘆息する。 「……端的に言えば、気合いだ」 それまでの小難しい話を「気合い」の一言で纏めてしまうロージェノムに、あらかじめ説明を受けていた面々は納得したように首肯する。 「何だ気合いかよ。それならそーと早く言えってんだ」 そう言ってケタケタと笑うヴィータを横目に見遣り、なのはは一人、何だかなーと納得しきれずにいた。 実のところ、フェイト達も最初に螺旋力の概要を聞いた時には半信半疑だった。 魔力とは根本から異なる未知のエネルギー、しかもその発動にはリンカーコアを必要としないらしい。 事実、素手でムガンの大群と渡り合ったロージェノムは、リンカーコアを持っていない。 この話を聞かされた当初、クロノやシグナムなどは「ふざけるな!」とロージェノムに掴みかかろうとすらした。 それ程までに螺旋力とはなのは達魔導師にとって衝撃的で、そして自分達のアイデンティティを脅かす恐るべき概念なのである。 しかしそう言われてみれば、思い当たることもない訳ではない。 なのはとフェイトが戦場に到着した時、ムガンを圧倒していた武装局員達……。 あの部隊のメンバーの魔導師ランクは全員B――ムガンに対抗出来る最低限の力しか持たなかった。 しかし蓋を開けてみれば、一方的とも言える管理局側の圧勝。 ムガンの弱点が螺旋力――気合いだというのであれば、あの予想外の結果にも納得出来る。 「しかし、その力を恐れる者達も現れた」 ロージェノムの言葉を引き継ぐように、今度はクロノが口を開いた。 「――それが、アンチスパイラル」 瞬間、室内に緊張が走った。 深刻な表情で黙り込むなのは達を一瞥し、今度はフェイトが口を開く。 「アンチスパイラルも、元は私達と同じ螺旋生命体だったらしいの。ただこの螺旋の力を使い続けると、宇宙そのものが滅んでしまう――そう信じた人達だった」 「スパイラルネメシス――四年前の宣戦布告の時にアンチスパイラルが言った言葉だけど、どうやらそれが宇宙壊滅のことらしいね」 流れるようにフェイトの言葉を引き継ぎ、ユーノがそう言って話を一度締め括った。 「さて、それじゃ次にロージェノムさんのことなんだけど……」 湯飲みを置き、リンディはロージェノムを振り返った。 何で皆リレーみたいに説明してるんだろーと頭の片隅で思いながら、なのはも釣られてロージェノムに顔を向ける。 「……構わん。別に隠すようなことではない」 重々しく告げるロージェノムに首肯し、リンディは言葉を続ける。 「――ロージェノムさんの出身世界も、アンチスパイラルの襲撃を受けたらしいわ」 リンディの言葉に、なのはは驚愕の目でロージェノムを見た。 「彼の世界の螺旋生命体は、汎銀河レベルで超科学文明を築いていた。螺旋力――宇宙と生命を繋ぐ無限の力で、時間も空間も、何もかもを支配下に置いた、まさに神の領域」 アルハザード……誰かの呟く声が、なのはの耳朶を打つ。 「――だが、その繁栄も長くは続かなかった」 「アンチスパイラルの猛攻に抗し切れず、ロージェノム達螺旋族は敗北したんだ」 「え……それじゃあ滅んじゃったの!?」 ザフィーラとアルフが交互に口にした言葉になのはは瞠目した。 しかしロージェノムは首を振り、厳かな面持ちで口を開く――前に、リインフォースⅡが横から科白を攫った。 「戦いに勝利したアンチスパイラルは、螺旋族の母星に螺旋生命体殲滅システムを配備したんです。地上の螺旋生命体が一定数を超えると起動し、その惑星を滅ぼす……。 螺旋の戦士として戦い、そして敗れたロージェノムさんは、種としての人類を救うべく、母星の人間達を地下に押し込めました。 そしてこの人は螺旋王を名乗り、獣人――螺旋遺伝子を持たない人造生命体の軍隊を組織して、地上に出ようとする人間を容赦なく弾圧したんです」 「そして千年の時が過ぎ……」 リインフォースⅡから漸く科白を取り戻したロージェノムだったが、 「――新世代の螺旋の戦士、シモン達大グレン団の登場って訳だ!!」 今度はヴィータに、またもや出番を奪われるのだった。 「地下の天井ぶち抜いて、突如現れた謎の美少女ヨーコ! 彼女に誘われ。兄貴分カミナと共に地上を目指す穴掘り少年シモン!! 相棒は顔型ロボ〝ガンメン〟のラガン! カミナのガンメン〝グレン〟と合体して兄弟合体グレンラガン!! ライバルの獣人ヴィラルとの激闘! 集う仲間達大グレン団! そしてカミナとの涙の別れ!! 螺旋の姫君ニアとの運命の出会い!! 立ち塞がる刺客を次々と倒し、成長するシモン! 進化するグレンラガン!! そして王都テッペリンでラスボス螺旋王との一騎打ちに見事打ち勝ち、シモンは地上の明日を取り戻した!!」 寝不足でハイになっているのか、妙に興奮した様子でヴィータは語る。 唖然とする一同を尻目に、ヴィータのマシンガントークはまだまだ続く。 「そして舞台は七年後! 止まらぬ繁栄を続ける人類の前に、突如現れるアンチスパイラル! バラバラになる仲間達! アンチスパイラルに奪われたニア! そして発動する螺旋族殲滅システム――月落下による惑星滅亡の危機!! 絶望のどん底に叩き落とされながら、それでもシモン達は諦めなかった!! 地下牢で再会したヴィラル、クローン技術で蘇ったロージェノム!! かつての宿敵を強力な味方として仲間に加え、さぁ反撃だ大グレン団!! 手始めに気合いで月を乗っ取り戦艦に変え、そいつを母艦に目指せ敵本星! 人類を救え、ニアを助け出せ! 銀河を越えるシモン達の旅が始まった!! 戦いの中、次々と散っていく仲間達……。その思いを心に刻み、そして生まれる超弩級ガンメン――超銀河グレンラガン! その最終形態、天元突破グレンラガン!! 真ラスボスのアンチスパイラルとの銀河レベルでの最終決戦の果てに、遂にシモン達は宇宙の明日を取り戻した!!」 一気に言い切り、ヴィータは感極まったように拳を握り締めた。 目尻には涙まで浮かべて力説するヴィータに、はやては溜息混じりにこう漏らした。 「ヴィータ……ロージェノムさんの昔話の部分だけはしっかり聞いてたんやね」 全てを聞き終わり、そのあまりにも現実離れした話の内容に、なのははただ呆然とするしかなかった。 「驚いてる?」 こっそりと話しかけてくるフェイトに、なのはは素直に頷く。 「うん、私も驚いた。事情聴取をしてる筈なのに、いきなりスペースオペラが始まっちゃったから……」 しかもその相手が、あのアンチスパイラルなのだ。 リンディ達に助けを求めたフェイトの気持ちも、今のなのはにはよく解った。 確かに……これは自分独りでは、どうしようもない。 「……って、あれ? ロージェノムさんの話が本当なら、アンチスパイラルは倒されたってことだよね……?」 では今次元世界を襲っているあれは、一体何だというのか。 「この結末はあくまで私の次元、私の宇宙、私の世界での話だ。 私の世界では他次元世界との交流は無いので断言は出来んが、我々が打倒したのはあくまで『我々の世界の敵』であり、この世界の敵には何の影響も与えていないのだろう」 なのはの疑問に答えるロージェノムの表情が、また一瞬、動いたような気がした。 胸の奥に芽生える違和感を意図的に見落とし、なのはは取り敢えず納得しておくことにした。 「それで、こっからが本題なんやけど……」 真剣な顔で切り出す早はやてに、一同の視線が集まった。 はやては一度周囲を見渡し、そして続ける。 「――ウチが前々から上に申請しとった新部隊設立の話なんやけど、あれ、何とか通りそうなんよ」 突然のはやての話に、事情を知るなのは達は皆大なり小なり驚きの表情を見せた。 時空管理局は、その体勢上様々な意味で後手に回ることが多い。 遺失物ロストロギアの暴走事故、違法魔導師による犯罪行為、そしてアンチスパイラルの破壊活動など、例を挙げればきりが無い。 そこで後手に回らず――寧ろ先手を打って行動出来る新しい部隊を創るべく、数年前からはやては仕事の合間を見つけては関係各所を動き回っていた。 「へぇ、良かったじゃねぇか。……でもはやての新部隊とこのアンチスパイラル対策会議に、一体何の関係があるんだよ?」 新部隊の専門はあくまでもロストロギア……はやてからはそう聞かされているし、自分達もその認識である。 一同を代表するようなヴィータの問いに、はやての表情が曇る。 「……上の人達は、どうも新部隊を対アンチスパイラルの精鋭部隊として使いたいみたいなんや。そのための戦力なら惜しみなく提供する言うてるんやけど……」 ――それは自分の理想とする部隊の形ではない……言外にそう告げるはやてに、なのは達は咄嗟に返す言葉が見つからなかった。 「アンチスパイラルがただのテロ組織やったら、ウチもその要求呑もう思うとった。 そんな連中さっさと潰して、んで改めてウチの望む部隊に創り直すー―実際、最初はそのつもりやったしな」 でも……とはやては続ける。 「――ロージェノムさんの話を聞いて、ウチは自分の考えの甘かったことを知った。 アンチスパイラルとの戦いはただのテロ組織相手の治安維持活動とは全然違う――戦争や。それも次元世界全部を巻き込む程の、ウチらの想像を遥かに超えた……」 はやてが部隊を設立すれば、この場にいる全員が何らかの形で力を貸してくれるだろう。 何人かは前線で戦ってくれることになるかもしれない。 しかしそれは、アンチスパイラルとの世界を賭けた決戦の、本当の最前線に彼女達を連れて行くという意味である。 ロージェノムの世界では、ロージェノム達旧世代螺旋の戦士はアンチスパイラルに敗れた。 辛うじて勝利したシモン達新世代戦士も、多くの犠牲を出した。 自分達もそうならないとは限らない。 否――螺旋力を知らない自分達は、彼らと同じスタートラインにすら立っていない。 こんな状態でアンチスパイラルに戦いを挑むなど、みすみす死地に転がり込むようなものである。 自分はなのは達をそんな目に遭わせたくない――はやてはそんな絶望的な賭けに仲間を巻き込みたくなかった。 「だから……」 ――皆、ウチから手を引いて……。 はやての口にしようとした決別の思いは、ヴィータに口を塞がれ、言葉になることはなかった。 「なーに言ってんだよ、はやて。 アンチスパイラルなんてとっとと倒して、それから本当のはやての部隊を創る……良いアイディアじゃん! はやてははやてのやりたいよーにやれ。アタシらはそれを全力で助ける!」 そう言って屈託なく笑うヴィータに、シグナムが同意する。 「ヴィータの言う通りだ、主はやて。我等ヴォルケンリッターは貴女の守護騎士――貴女の剣だ。 貴女が望むのならば我等は次元の狭間だろうと宇宙の果てだろうと、どこであろうと戦ってみせる。 そして必ず勝利し、貴女の許に帰ってこよう」 シグナムの言葉に、守護騎士全員が首肯する。 「わたし達も同じだよ、はやてちゃん」 呆然とするはやてに、今度はなのはがそう語りかけた。 クロノも達観――というよりも開き直ったような表情でなのはに同意する。 「……まぁ、どちらにしてもアンチスパイラルとの決戦は避けられそうにないからね。 こうして関わったのも何かの縁、最後の最後まで付き合ってやるよ」 そう言ってわざとらしく息を吐くクロノに、他の面々も苦笑交じりに同意するのだった。 「皆……」 なのは達の優しい言葉に、はやての目に涙が浮かぶ。 しかし……ここで折れる訳にはいかない。 ヴィータ達が自分を想ってくれているように、自分も彼女達を大切に思っているのだ。 故にはやては拒絶する……拒絶しなければならない。 「でも……!」 「……諦めろ、はやてとやら」 横合いからかけられた予想外の声――ロージェノムの一言に、はやては思わず言葉を呑み込んだ。 自分を見つめるなのは達を一度見渡し、ロージェノムは続ける。 「この者達は大グレン団の戦士達と同じだ。己の決めた道を己の決めたやり方で貫き通す、気高く力強い意思――お前が幾ら止めたところで、この者達は止まりはしない」 ――それは、お前も同じだろう……? そう諭すロージェノムの脳裏に、あの日、あの最期の戦いでの、シモン達の口上が蘇った。 ――因果の輪廻に囚われようと、遺した想いが扉を開く! ――無限の宇宙が阻もうと、この血の滾りが定めを決める! ――天も次元も突破して……掴んでみせるぜ、己の道を!! 自分も参加した最初で最後の、大グレン団の名乗り……。 そうだ、どんなに絶望が立ち塞がろうとも、この者達は決して立ち止まりはしないだろう。 それが螺旋の生命の宿命――否、そんな陳腐な言葉で括れる程、その熱い衝動は単純なものではない。 「皆……」 はやては涙を拭い、力強い瞳でこう告げる。 「――ウチと一緒に、戦って!」 その言葉に、なのは達も笑顔でこう応える。 「「「「「「「「「「「応!!」」」」」」」」」」」 そこからの会議の流れは、まさに怒涛の勢いだった。 まずロージェノムの管理局への技術的協力を取り付け、続いて彼の持ち込んだ螺旋兵器ラガンの分解解析、そしてその結果を基にした螺旋力の本格的研究計画の草案作成。 その第一の目標として螺旋力を応用した新型デバイスの開発までを決めたところで、この日の会議は解散となった。 日は既に高く昇り、昼食にはちょうど良い頃合いである。 ぞろぞろと仮眠室へと急ぐなのは達を見送り、ロージェノムは一人、取調室の天井を無言で見上げていた。 これで良かったのだろうか……? 熱が冷め、冷静さを取り戻した心に渦巻くこの感情は、『ロージェノム』にとっては千年ぶりの、ロージェノムにとっては初めての、迷い……。 事情聴取でロージェノムの口にした供述に、偽りは何一つ無い。 しかし全てを話したのかと訊かれれば、そうでもないと答えるしかない。 例えばスパイラルネメシス。 螺旋力とは宇宙と生命を繋ぐ力、銀河の成長は生命の成長と比例する。 生命はより螺旋の力を得るための形を求めて発達した――それが進化。 しかしその果てに待つ未来は、螺旋力の暴走による全生命の宇宙との同一化。 過剰銀河は互いに喰い尽くしブラックホールとなり、宇宙は無に還る……。 それがスパイラルネメシスの真実である。 そして例えばロージェノムの出身世界、シモン達の母星――地球。 第97管理外世界として管理局データベースに登録されている、なのはとはやての出身世界。 時空管理局の存在も、実のところ、断片的な知識としてであるがロージェノムは記憶していた。 そしてその行く末も……。 アンチスパイラルの猛攻に追い詰められた時空管理局は、禁忌とされてきた質量兵器を解禁、総力戦を決断する。 しかし戦況を覆すことは出来ず、ミッドチルダ、及び周辺の次元世界は陥落、多くの人間が時空難民として管理外世界を含む異世界へと流出した……そう、地球にも。 時空難民からもたらされた異世界の技術により、地球の文明は急速に発展、他次元世界と肩を並べられるまでに成長する。 そして螺旋力の発見、螺旋の戦士の登場。 その後は……はやて達に話した通りである。 それがロージェノムの知る――『ロージェノム』達の辿った、この世界の未来だった。 天元突破リリカルなのはSpiral 第2話「軽くこれまでのおさらいしとこーか」(了) ちなみに――、 「ところで皆何で一々交代しながら説明してたの? 学芸会の出し物じゃあるまいし」 なのはのもっともな疑問に、フェイトは眠そうな目で振り返りこう答えた。 「だって……ああでもしないと寝ちゃいそうだったんだもの」 戻る目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2053.html
夢だ。 紅い夢だ。 紅き焔は捧げた祈りを嘲笑い、森を村を人を焼き。 守人たる民はその身に流れる紅い血で、己と大地を染めあげる。 そして地上の灯を映した紅い空に浮かぶのは、精霊像を奪い去る巨大な……… リリカルなのはARC THE LAD始まります 『第一話:炎に消える真実』 「………ッ!」 ミッドチルダ北部の安アパートの一室でエルクは眼を覚ました。 室内はカーテンの隙間から入り込む月の光で蒼く浮かび上がっている。 静寂と秩序、夢とは対極にあるような自室。 「………今夜はもう眠れそうにないな」 汗で張り付いた衣服が気持ち悪い。 自嘲気味につぶやくとバスルームに向かう。 最近よく見るあの夢、あれは自分の過去の記憶だろうか。 温めのシャワーを浴びながら何度も自問するが何も思い出せない。 気分転換にハンターズギルドへ行ってみる事にしよう。 何か仕事があれば気が紛れるかもしれない。 着慣れた服に身を包み、相棒の十文字槍型デバイスを掴むと、エルクは夜の町へと出て行った。 ◆ 昼間は喧騒に包まれている大通りも、夜になれば人もまばらで物寂しい雰囲気となる。 そんな大通りの一角に佇むようにハンターズギルドはあった。 「何か仕事はあるかい?」 ギルドに入り声を掛けると、カウンターの難しい顔をした事務員はエルクを見て破顔した。 「丁度良かった。急な仕事が今入ったところで、お前さんを呼ぼうと思っていたんだ」 話によると空港で男が暴れているらしい。 しかもその男は強力な魔法を使い、管理局の捜査官では手に負えないとの事。 「ったく。天下の管理局様が聞いてあきれるぜ」 そうは言ったが、仕方の無い事かともエルクは思う。 多数の世界を管理するには人手がいくらあっても足りない。 ゆえに強い魔法が使えるもの、優秀なものは本部に引き抜かれ、地方の局員は二番手三番手ぞろい。 それゆえにハンターが仕事に困らないのだが………。 「管理局の手の回らない所を何とかするのがハンターだ。報酬は弾むから頑張ってくれよ」 「分かってるって」 「ヘリを待たせてある。すぐに向かってくれ」 「了解」 時間が経つほど状況は悪くなるものだ。 短い応答の後エルクはすぐに飛び出した。 ◆ 海上に浮かぶように建設された臨海第8空港。 ミッドチルダ内だけでなく、他の管理世界との橋でもあるこの空港に昼夜の区別など無く、常に多くの人で賑わっている。 だがそんな常とは異なり空港のターミナルの一角では緊迫した空気が張り詰めていた。 「近づくな!そうすれば危害は加えない!」 そう叫ぶのはマスクを着けフードを被った男。 その手には銃型のデバイスを持ち空港職員を盾にしていた。 「何をしている!さっさと捕まえろ!」 相対し、その男を取り囲むように陣取っているのは時空管理局の局員たち。 隊長格の管理局員が後ろから野次を飛ばすが、周りを囲んでいる局員は近づきたくとも近づけなかった。 先ほど一度魔法で吹き飛ばされており、その威力練度共に自分たちよりも上回っている事を身をもって味わったからだ。 「何度も言っているが空港の運行を停止しろ!僕の要求はそれだけだ!」 金でもなければ物でもない、この男の奇妙な要求に局員達は困惑もしていた。 離陸予定の飛行機は今の所なく、着陸待ちは輸送機が一機だけ。 こんな騒ぎを起こす必要などないようなものだからである。 それに男の使った魔法も怪我をしないよう加減されたものであったし、人質に対してもデバイスを近づけてすらいない。 なにより声やフードから覗く眼は犯罪者と言うよりはむしろ………。 そんな思考を遮るように天井のガラスを突き破り一人の男が乱入した。 ◆ 「もうすぐ着きます」 パイロットの声を受けて、エルクはヘリのハッチを開けて下を見下ろした。 海は満天の星空を映し、都市の夜景を背後に海に浮かぶ空港は幻想的で、平和そのものの様であった。 だが事実としてその中には犯罪者という異物が紛れ込んでいるのだ。 頭を戦いに向けて切り替えると、エルクは戦地へと夜の空気を切り裂いて飛び降りた。 着地してまず目に入ったのは驚いた様子の犯人と、半泣きの人質と見られる中年男性。 そして揃って似たように驚いている管理局の面々。 「ハンターだ、おまえを捕縛する」 エルクはそう宣言するやいなや、驚愕がその場を支配しているうちに行動に移った。 すなわち犯人のデバイス、及びそれを持つ腕への槍による刺突。 要するに不意打ちである。 本来ならば、いくつもの実戦経験に基づく正確にして鋭敏な一撃により、犯人の戦力を奪っていたはずだった。 だが今回の相手はそれなりの熟練者だったらしい。 いち早く冷静になると体勢を崩しながらもギリギリで槍を避けたのだった。 「へぇ………」 多少感心はしたが、しかしこれは予想の範囲内のことである。 槍の軌道は犯人と人質の間を縫うように突き進み、両者を分断する。 エルクはすばやくその隙間に滑り込むと、反撃の機会を与える間もなく、 「炎の嵐よ全てを飲み込め!」 己が最も得意とする魔法『ファイヤーストーム』を零距離から放った。 ◆ さすがに今度の一撃は避けきれなかったらしく、焼き焦げた犯人はピクリとも動かない。 「よし、制圧完了だな」 エルクがそう言って犯人のデバイスを取り上げた時、初めて管理局員らは状況に追いつき我に返った。 「だれだ!ハンターのごろつきなんぞを呼んだのは!」 声のした方を見ると、局員の輪の外側の安全圏にいた隊長と思わしき人物が喚き散らしている。 「揃いも揃って無能どもめ!これだけいてハンターの若造に遅れを取るとはな!」 どうやら自分たちだけで解決できなかったのが不満らしく、その怒りを部下にぶつけているようだ。 コネだけでのし上がった奴だろうとエルクは適当に予想する。 魔法の実力があるなら先頭に立って戦うだろうし、指揮能力が高いなら気力を削ぐ様な事は言わないはずだからである。 ひと通り愚痴を言い終えたのか、その男は周囲の局員を掻き分けてエルクの前まで来るとジロリねめつけてきた。 「犯人は我々が連行する。捕獲に協力した謝礼は払ってやるから、ハンターのごろつきはとっとと帰れ」 そう言われてエルクはさすがにむっとした。 ハンターはいわば便利屋だ。 仕事内容は今回のような荒事から子守やお使いなど多岐にわたる。 それゆえ金さえ払えばなんでもする輩と思われる事も少なくないが、エルクはこの仕事をプライドを持ってやっていた。 ゆえに何か言い返してやろうと口を開いたのだが、 「いやー、ハンターさんすばやい解決ご苦労様です。報酬はギルドに払っておきますので。隊長さんも犯人がなぜうちの空港を狙ったのかキッチリ絞り上げてください」 横から空港の責任者に口を挟まれ盛大に毒気を抜かれてしまった。 バインドで拘束されて連行されようとしている犯人を横目に眺め、手持ち無沙汰にしていると。 「何はともあれ、これでようやく輸送機が着陸できます」 空港の責任者が上を見上げつつ言うのを聞いて、エルクもそれにならってなにげなく上を見た。 ―――そこにあったのは悪夢だった。 突然の轟音と共に火達磨になった輸送機は、ジェット燃料を撒き散らしながら巨大なナパーム弾となって空港に直撃したのだった。 ◆ 空港全体を大きな揺れが襲った後、辺りは激しい炎に包まれる。 周囲の火の海、倒れ伏す人々、そのどちらにもエルクは既視感を感じた。 何かが脳裏をちらつくが、思い出そうとすると全身が拒絶するかのごとく不快な気分に苛まれる。 そんな折、不意に強力な魔力を感じ内へと向かう思考を外へと向けると、目に入ったのは打ち倒された局員と拘束を破り走り去る――― 「あの野郎!」 エルクが倒したはずの犯人。 魔法の直撃を受けたにしては回復が早すぎるのが妙だったが、そんなことを考えるよりも捕らえる方が先決だろう。 この事故と今回の事件、何か関係があるに違いない。 そう決断するやいなやエルクは犯人を追って灼熱の中へと飛び込んだ。 ◆ 事件による騒ぎがあったおかげか、客の多くはすでに空港の外に出ており、多数の局員が集まっていた為、残った民間人の誘導も比較的円滑に進んでいた。 しかし、この人数を持ってしてもカバー出来ないほど空港が広すぎた事、火の勢いが強く火の回りが速すぎた事。 この2つが災いし、空港内にはまだたくさんの民間人が取り残されていた。 「おとうさん………おねえちゃん………」 泣きながらうつむいて歩き回る少女もその一人。 自分はただおとうさんに会いに来ただけなのにどうしてこんな事になるのだろう。 そんな事を考えているとふいに上から影が差した。 誰かが助けに来てくれたのだろうか、淡い期待を胸に見上げた先にあったのは、無常にも自分に向かって倒れ掛かる石像の姿だった。 ◆ エルクは燃え盛る火の海の中を走っていた。 煙のために視界が悪く、それに乗じた奇襲の可能性も捨てきれない。 周囲を探りつつ慎重に進んでいると、目前の扉から人の気配を感じた。 (………ここか?) 扉を蹴破り中に入ると、部屋の中は燃えておらず、火災で電気も止まっていたため暗く、全体を把握できない。 「キュルルルルル」 獣のような爬虫類のような、なんとも形容しがたい唸り声。 エルクは警戒心を強めて声のした方へと槍を向けた。 「だめだよフリード」 今度は幼い少女の声、闇に慣れたエルクの目に映ったのは白銀の幼竜とそれを従える少女。 服装から見ておそらく逃げ遅れた民間人。 「お嬢ちゃん怪我は無いか?」 犯人の確保より、民間人の救出を優先に考えたエルクはこの少女に近づくが、少女の方は怯えたように一歩下がった。 そんな時ふと見えた少女の目、その目に宿るものにエルクは見覚えがあった。 この仕事をするようになってよく目にするようになった、何らかの犯罪に巻き込まれ人を信じられなくなった者、行き場を失った者の持つ負の感情。 まさしくそれがこの少女の目にはあった。 様々な理由が考えられたが、そのいずれにしてもこのままにして置く訳にはいかない。 相手の警戒心を解くために体勢を低くし目線を合わせる。 「怯えなくていい。俺はエルク、ハンターだ。お嬢ちゃんを連れ出しに来たんだ」 「私を………?」 「ああ」 そう言ってエルクは少女に微笑を向ける。 「私はこんどはどこへ連れて行かれるのでしょう?」 「あ~、それはお嬢ちゃんがどこに行きたくて何をしたいかによるな。何せハンターは人の願いを叶える仕事だから。お嬢ちゃんはどこへ行って何がしたい?」 思案している様子の少女により強い笑みを向けると、エルクは自分の着ていた上着を火避けのために被せる。 「ここは危ない。とりあえずここを出よう」 少女を抱えエルクは再び炎の海に踏み込んだ。 ◆ 部屋の外では炎がますます勢いを増し、紅蓮の他は殆ど何も見えない。 (出口はどっちだ………) 辺りを見渡していると、ふと何か聞こえた気がする。 気のせいかとも思ったが耳を澄ましていると、炎のはぜる音に混じり聞こえてきたのは………。 (まだ子供がいるのかよ!) エルクは微かな声を頼りに駆け出した。 しばらく進むと辿り着いたのは吹き抜けのホールであった。 憩いのために植えられた観葉植物も今ではただの薪として空港の壁を黒く焼いている。 その中央には倒れた石像とその下に広がる血溜まり。 (まさか………) 最悪の想定と、一縷の望みを託しエルクが近寄ると、 「あんたは確か………」 逃げ出したはずの犯人がそこにいた。 「生きているか?」 「………ああ………さっきの、ハンターさんか」 「事件を起こしたツケがまわったな」 「ははは………皮肉なものですね………」 エルクは槍を一閃させ、石像だけを切り払った。 巻き上がる粉塵、それが収まると先程の剣圧でだろうか、男のフードが外れていた。 「おまえ………その顔は」 見えたのは異形の姿、顔全体にトカゲのような鱗が生えている。 「魔が、差したんですよ………強い力を、得られると聞いて………おかげで、半身が潰れても、死に切れません………」 自らの愚かさを嘆くような笑みを浮かべると。 「頼みがあります………これを、ティアナ、ランスターという子供に、渡して欲しい………報酬も、ある………」 そう言って手帳と使い古した財布をエルクへと差し出した。 「心配するな。助け出してやる。だから―――」 「向こうに………女の子が、行った………その子を………」 遮るように言われた事にエルクは舌打ちすると手帳だけ受け取り。 「依頼は受けた。報酬は仕事の後でおまえから受け取る。だから勝手にくたばるんじゃねぇぞ」 そう言うと周囲に防壁を張り、示された方へと走り出した。 エルクは通路を突き進む、だが行けども行けども子供の姿は無い。 (あいつ嘘ついたんじゃねぇだろうな) そう考え出したとき目の前に現れたのは少女を抱えたツインテールの白服の女、浮いている事から見て空戦魔導師だろう。 「あなたがこの子を助けてくれたお兄さんですね」 出会い頭に言われたその言葉を聴いて、エルクはふと気がついた。 自分の槍をかわせるやつが普通石像の下敷きになる訳が無い、だとしたらまさか――― 「さあ、早く脱出を………」 エルクは相手の言葉を聴いていなかった。 自分の張った障壁が破られたのを感じたからである。 「この子を頼む」 背中の少女を相手に押し付けると、制止の声も無視して来た道を全速力で戻った。 ◆ 「いい格好だなティーダ」 「………」 「勝手に行動を起こすからこういう事になるのだよ」 エルクがホールに戻ったとき、そこに居たのは中央で犯人の男―――ティーダを取り囲むようにして立つ黒服達。 「カサドール執務官、レリックの回収終わりました」 「ご苦労………例の娘は?」 「不明です、この火災に紛れてどこかへ行ったものと思われます」 「ふん………まあいい、あれはたいして重要ではないからな。一応捜索隊は出しておけ」 指示を出す素振りは管理局の部隊の様だったが、それにしては服装が変であるしエンブレムも無い。 そんな集団を見てエルクは警戒感を露にして近寄った。 「なんだ、おまえは?」 声を掛けたのはこちらに気がついた黒服。 「ハンターだ。そいつは俺がギルドに引き渡す」 「ハンター?ああ、あのクズの寄せ集めか。悪いがこのキメラは我々が連れ帰る」 「何の権限があってだ!」 露骨な侮辱にエルクは激昂するが、 「地上本部秘密部隊カサドール一尉だ。問題なかろう。………引き上げるぞ」 懐から取り出した局員カードを軽く振ると、ほぼ同時に転送の魔方陣が展開される。 制止する間もなく黒服達は消え去り、後にはエルクだけが一人残された。 最後に一瞬だけこちらを見たあの男―――ティーダの顔、あれはまるで死を待つ殉教者のように穏やかで………。 「………ッ!怒りの炎よ!敵を焼き払え!」 行き場の失った怒りをそのままに己の魔法『エクスプロ-ジョン』を正面の壁に叩きつける。 桁外れの爆発と共に外まで達する大きな風穴が開いた。 外から冷たい夜の海風がエルクへとやさしく吹き込むが、エルクの心は全く晴れなかった。 そのまま外に出るとちょうど本局の航空魔導師隊が飛んできているのが目に入る。 少し前までならその命を賭して活動する姿に感心する事もあったが、あんなやつを見た後ではまるで道化のようにしか見えない。 もう帰ろう今日は心も体も疲れきってしまった。 そう思いながら歩こうとすると、服の裾を引かれるのを感じた。 後ろを見るとそこに居たのは………、 「ハンターさん、お願いがあります。私を管理局から逃がしてください」 白銀の幼竜を連れた少女。 どうやら今日はまだ忙しいらしい。 ◆ 明け方のニュースで昨日の事件が放送されている。 自分の部隊を作ると意気込む友人を応援しつつ高町なのはは昨夜の事を思い返していた。 要救助者の連絡を受け駆けつけた先にいた女の子。 目立った怪我も無く無事保護出来て、いざ脱出しようと抱き上げたとき、助けてくれたおにいちゃんが中に居ると言い出した。 そこにちょうどそれらしい人が来たから安心したけど、どうやら違ったみたいで自分に別の女の子を預けてどこかへ行ってしまった。 二人を外に逃がせて、急いで戻ったとき聞こえてきたのは『レリック、キメラ、秘密部隊』。 管理局には自分の知らない事があるみたい。 真実を知るには――― 「少数精鋭のエキスパート部隊、それで成果を上げていったら上のほうも少しは変わるかもしれへん。私がもしそんな部隊を作る事になったら協力してくれへんかな?」 「そんな楽しそうな部隊に誘ってくれなかったら逆に怒るよ」 ―――上を揺さぶる必要がある。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2722.html
切り替わる仮面。 自らを映し出す心の鏡。 映るのは自分だけとは限らない。 02 Montage AM12 53 機動六課、隊長室。そこでは、現在重苦しい空気が流れていた。 「――で、この人に助けてもらったと」 「うん……」 世界が時間を取り戻し、六課のシステムが復旧した頃、なのはと青年は六課に保護され、現在部隊長であるはやてに事情を説明していた。 しかし、その内容はとても信じられるようなものではなく、はやては頭を抱えたくなった。 当事者の一人である青年は連れてこられてすぐは物珍しげに辺りをキョロキョロと見回していたが、今は大人しくなのはの隣で、フェイトとデスクに腰掛けたはやてに向き合っていた。 はやては青年の顔を見つめる。この青年も訳が分からない。 六課に保護したはいいが、何故か腰に銃を下げていた。質量兵器が禁止されているというのにどうやってそれを入手したのかは知らないが、押収してみるとその正体はアンティークのようなもので、弾丸は出ない仕様になっていた。 着ている制服らしき服はタイまで締められ、首から提げていたのは携帯型の音楽プレーヤー。 戦地にいたとしてはおかし過ぎる格好だ。浮世離れした奇妙な存在感を、彼は放っていた。加えて、 「シャドウに影時間、か……」 隠された時間。止まっていた時間。映像記録の繋がりの不自然さも物語っている。 確認した映像記録では、ほんの一秒前まで存在していなかった青年がなのはの隣に立っていたのだ。 自身も体験している以上、影時間というものの存在については認めざるを得ないだろう。 しかし、なのはの言う「化け物」はどうにも要領を得なかった。それを語るなのは自信も困惑した様子で、「手が沢山生えた影のような化け物」とこれだけだ。 しかしなのはの言葉からは嘘は感じられなかったし、隣の青年の証言も合わせて考えるに、それはどうやら事実であるらしかった。 証拠がないからと言って十年来の友の言葉を軽く扱うはやてではない。 シャドウと呼ばれる怪物にどう対応すればいいのか……。 鍵は、目の前の青年が握っているらしい。 AM12 00 時間は影時間に遡る。 「あの、さっきはありがとうございました」 「……気にしなくていい」 あの後、なんとか立ち上がったなのはは、彼に話を聞いていた。 彼が道に迷っていたこと、偶然なのはを見つけたこと。そして、影時間のこと。 「影時間?」 「そう。一日と一日の狭間に存在する、隠された時間。 この時間の中では特殊なものを除いて一切の機械が動かなくなり、人間も、一部の人たちを除いて、「象徴化」し、棺型のオブジェになる」 青年の話は胡散臭いことこの上ない。 しかし、異常なこの現状や、先ほどの恐怖が拭い去れずにいるなのはは、それ併せて考え、青年を信じることにする。 頷いて、続きを促した。 「その一部の人たちは、「ペルソナ使い」と呼ばれる。 僕がさっきして見せたように、精神の力を具現化させることができる、素質を持った人たち。 さっきの怪物…僕が「シャドウ」と呼んでいるアレは、その素質を持った人を襲う」 「それって……」 なのはの呟きに、今度は彼が頷いた。そう、と呟いて、言葉を続ける。 「あなたにも、ペルソナを使う素質がある」 青年の言葉から数分後、影時間が終わり、周囲があるべき時を取り戻し始めた。 ガジェットもこれまでと同じように活動を再開する。 ちょうど一時間前と変わらない光景に、なのはは気を引き締めると、レイジングハートをセットアップした。 「それは……?」 驚きに目を見開く彼に微笑みかけると、残るガジェットを殲滅すべく、なのはは空に戻って行った。 青年は、魔導師を見たことは無論なく、ましてやこの世界の常識が一切分からない。 とりあえず目の前の女性が壊している機械を見て、自分も参戦して手伝おうかと思ったが、どうやら必要なさそうだ。 一気に手持ち無沙汰になってしまった青年は傍若無人にもズボンのポケットに両手を収めると、戦闘を傍観し始めた。 彼女に話を聞かない限りは自分はここで行き倒れるかもしれない。 転生してすぐそれはごめんだった。ならばここはこの戦いが終わるのを待つしかない。 なのはとしても、青年が下手に動かない方がやりやすかったこともある。 しかしそんな判断がその事態を招いたのかも知れない。 なのはから遠く離れ、射程から離脱していたガジェットは、近くにいた青年の後ろに回り込むように旋回していたのだ。 なのはが気づいた時には既に遅く、ガジェットは青年に攻撃を仕掛ける寸前だった。 「危ない、後ろ!」 なのはの声に咄嗟に振り返った青年は、ガジェットの攻撃をかろうじて回避した。 なのはは安堵の溜息をつき、しかし彼の矛盾に内心首を傾げた。 何故あれ程の怪物を倒せておきながら、攻撃に参加しないのだろうか? 彼はただ単にこの世界がどういうものか分からなかったし、戦う必要も思い当たらなかったので手を出さなかっただけなのだが、それでも今の不意打ちには思うところがあったらしい。 ホルスターの銃を抜くと、その銃口を躊躇うことなく、自らの頭に向けた。 「何を……!?」 するの、となのはが言い終わる前に、そのトリガーは引かれた。体を銃身に、精神を火薬にして。 果たして放たれた弾丸は、彼の心の仮面。自らを守護する精神の鎧であり、剣。 「オルフェウス……!」 最も目を引くのは背に背負われた巨大な竪琴だ。 そして、異様に細長い付け根と、その先に円筒を取り付けただけのような異形の手足。 腹部にはスピーカーのようなへこみがあった。アンバランスなシルエット。 青年に似ているようで、細部で大きく異なる異人。 「あれが……ペルソナ」 現れ出でし幽玄の奏者は、その背に背負う竪琴を後ろに振りかぶると、か細い腕のどこにそんな力があろうかという勢いで、思い切りガジェットに叩きつけた。 凄まじい衝撃にガジェットは地面にたたきつけられ、外郭である装甲がひしゃげる。 その一撃はガジェットの内部に損傷をきたしたらしい、ガジェットの機能は完全に沈黙した。 実験とも言えるオルフェウスでの物理的な攻撃の結果は予想通り。 シャドウ以外にも、この世界の機械にペルソナの攻撃が通用することがわかった。 それだけを確認すると、彼は自らの内で心の仮面を付け替える。 更なる標的のガジェットを見定めると、再びトリガーを引く。知らず、彼の口元には微笑すら浮かんでいた。 放たれたのは、兜を頂く隻眼の男。北欧神話の主神、 「オーディン!」 マントと雷をその身に纏う雷神、オーディン。その姿はまごうことなき王者たる威光を放っていた。 オーディンはその手に持つ槍「グングニル」を天に掲げた。 万雷を孕む黒雲が辺りに立ち込め、周囲に雷鳴を轟かせながら雷を降らし始める。 「マハジオダイン」。強大な雷は周囲に散らばっていたガジェット全てを貫き、撃ち洩らすこともなく破壊していった。 大規模な雷の嵐が静まり、黒雲が消えうせると、オーディンの姿もそれに伴うように露と消えた。 彼は周囲を見渡すと、呆然としているなのはを見上げた。 「終わり?」 「う、うん」 あっけなくガジェットを殲滅してみせた青年の能力は、なのはの想像以上だった。 青年は銃をクルクルと手で回転させてみせ、ホルスターに収める。 気障なパフォーマンスだが、青年はそれを自然体でやっているらしい。見惚れるほどさまになっていた。 正直彼には驚かされっぱなしで呆然自失のなのはだったが、その後、とりあえず彼を保護するとともに六課へ帰還、事の経緯をはやてに説明し、今に至る。 「で、あの「力」はなんや?魔法か?」 はやての言葉は、青年に向けられたものだった。 映像記録に残されていた彼の戦闘の映像は、すでに眼を通していた。 常ならざる能力であることは確かだが、その正体は不明のままだ。 見た感じでは、キャロの召喚術に似ていないこともない。 彼は少し思案し、やがて首を横に振った。そして、一言だけ単語を口にする。 「ペルソナ」 「え?」 「『ペルソナ』という能力。シャドウに対抗し得る、唯一の力」 「……詳しく聞かせてもらえる?」 フェイトが続きを促した。はやても頷く。彼は逡巡する様子を見せた。 自分の中で考えを纏めているような感じだ。 「これは、僕の主観ですが」 やがて彼は自分の心臓の位置に手を置き、そう前置きしてから話し始めた。 「……皆さんの使う魔法とは、全く別のものです。 潜在意識にある心の力を具現化したもの。言葉に表すならそんな感じです」 ……ペルソナについて一通りの説明を終えた彼は、もう話すことはない、とでも言うようにポケットに手を収めた。 「つまり…別の次元から何かを呼び出す召喚術とは、違う召喚術ってことかな?」 フェイトの問いかけに、彼は頷いた。 「ペルソナは内なる心の力。引き出すのに必要なのは技術じゃない。 魔法は技術、ペルソナは能力。そう解釈してもらえれば分かりやすい。 召喚器で頭を打ちぬき、仮想の中で内なる力を引き出す。 安定した召喚を行うにはこのプロセスを行う必要がある。でも、必ずしも必要な訳じゃない」 青年は頭のこめかみに手で作った銃を押し当て、引き金を引く真似をした。 「……それで、君はなんでそんなに事情に精通してるんや?」 はやての質問は、核心を突くものだった。彼は物思いに耽るように眼を瞑ると、やがて口を開いた。 「……僕は、この世界の人間じゃない」 三人は一様に驚く。薄々、この世界の人間ではないのでは、と思ってはいたが。 職業柄、次元漂流者というものにはまま、遭遇することがある。 しかしその殆どは自分の身に何が起こったのか理解していない。 しかし彼は自分が別世界にいることを明確に理解していた。 彼は、自分と自分の居た世界、そしてここに来ることになった経緯を説明する。 「――その後、僕は気づいたらこの世界にいた」 ユニバースの力の事や、デスを封印してからの経緯の事など、自分が向こうの世界では死んだ身であることは黙っていた。 自分でもうまく説明できる自信がなかったし、何故か彼は、目の前にいる人たちに自分は死んでいたのだということを知られたくなかったのだ。 「んー、なんやとてつもない話やなぁ……」 「それじゃあ、なんでこの世界に影時間があるのかは、分らないの?」 「……はい、僕もこちらに来たばかりで事情がよく……。次は、僕の質問に答えてもらえますか?」 この世界について、彼はまだ殆ど何も知らなかった。 目にした魔法にも興味があったし、この世界を知ることは不可欠だ。 その後も情報交換のようなやり取りは続くが、当然のように話はペルソナに帰結した。 この世界に影時間とシャドウがある限り、その脅威を退けられるのはこの力だけなのだ。 「基本的にペルソナは一人一体。僕のように、同時に複数のペルソナを所持することができる人も稀に存在します」 「私たちがペルソナを出すには、どうしたらええの?」 「……多分、召喚器で頭部を撃ちぬくことで、僕と同じようにペルソナを引き出すことができます。 でも、不安定なままの力を無理やり形にして引き出すようなものなので、下手をすれば暴走する」 自分にも経験があるのでわかる。 暴走を避けて安定して引き出したいならば、自然に覚醒するのを待つしかない、ということになる。 そんな悠長な、とはやては言うが、こればかりはどうしようもない。 「それで、これからのことだけど……」 そんな中、フェイトが言い難そうに話を切り出した。 「しばらくはここで身元預かりってことになると思う。 自由な行動ができなくなるから、申し訳ないんだけど……」 「いえ、是非お願いします」 身一つでこの世界に放り出された彼にとっては、衣食住もままならない状況が好転したといえる。 フェイトはすまなそうにしているが、制限がつくとはいえ、身元預かりとは願ってもない待遇だ。 「そういえば、自己紹介もまだだったね。私は高町なのは。」 確かに。なのはの言葉に漸く気づいた。苦笑を洩らしながら、彼は名乗った。 「僕は……藤堂、綾也です。」 なのはに送ってもらい、宛がわれた自室に入ると、綾也はベッドに倒れこんだ。 久しぶりに力を行使したからだろうか、眠気が酷い。 この世界で目覚めた時、気づいたら影時間の只中だった。 混乱するも、ここが別の世界だということを思い出し、とりあえずあてもなく歩きだす。 途中で見つけた人影と、今まさに襲いかからんとするシャドウ。咄嗟だった。 定位置である腰のホルスターに手を伸ばすと、召喚器を手に取りペルソナを召喚した。 今になって考えると不思議である。 なぜ自分はこの月光館学園の制服を着て、携帯音楽プレーヤーを身に着け、あまつさえ召喚器を持っていたのか。 思考は眠気にかき乱される。 気を抜けば失いそうな意識をなんとか繋ぎ留め、残ったなけなしの気力で起き上がった。 もぞもぞとブレザーを脱ぎ、タイを解いてそれらを床に放り出すと、綾也は再びベッドに倒れこみ、今度こそ意識を手放した。 違和感に目を覚ますと、そこは一面藍色だった。 ベルベットルーム。夢の中にいながら、これは夢だと自覚しているように、矛盾を感じる時がある。ベルベットルームにいるときは、そんな感覚に襲われる。 「また、お目にかかりましたな」 呼び出しておいてよく言う、と思うがそれは黙っていた。 「さて、今宵あなたを呼び出すのは二回目ですな。先ほど、と言ってよろしいものか、話の続きがございます」 「僕も聞きたいことがあった」 それはそうでございましょう、とイゴールは笑いながら頷いた。 「さて、何からお話致しましょうか……。そういえば、紹介がまだでしたな。」 イゴールが示したのは隣の麗人だった。 「初めまして。マーガレットでございます」 「……エリザベスさんじゃないんですか?」 イゴールに視線を送るが、老人はただ黙して笑みを深めるだけだった。 「妹は行方不明でございます」 「妹!?」 以外だった。エリザベス……彼女に姉妹がいたなんて。マーガレットと名乗った彼女に初めて会った気がしないのも、納得できる気がした。 しかし、行方不明とは。この世界の住人にも、そんなことが起こりえるのだろうか。……ありえそうだ、彼女なら。 「ずっと興味を惹かれておりました。妹を打ち倒す程の力を持った殿方……。一度、手合わせ願いたいものです」 「……ッ」 マーガレットは微笑んだ。綾也は肌が粟立った。一瞬だったが、自分に向けられたプレッシャーは凄まじかった。 無意識に、反射と無効を持たないペルソナにチェンジしてしまう程に。 間違いない、この人は強い。これまでに培ってきた経験が、警鐘を鳴らしていた。 「それほどにしておきなさい、マーガレット」 「これは私としたことが、つい」 冷汗が頬を伝う。内心、イゴールにこれほど感謝したのは初めてだった。 「それでは、本題に入りましょう。あなたはこの世界に誕生した際、ユニバースの力を失いました」 「!」 「いかにユニバースの力といえど、ここまでの奇跡は無理があったようですな。 大いなる奇跡の反動にか。それは定かではありませんが、今のあなたはユニバースを使えません」 なんとなく、気がついてはいた。自分の中にあった、あの「不可能な気がしない」感覚が抜け落ちていたのには。 だからと言って何か問題があるかと言われれば、答えはノー。今までが異常だったのだ、ただ元に戻っただけ。 「……僕はこれからどうすれば?」 「あるいは、意味や目的などないかもしれませんな。人生そのもののように曖昧で、あなたの行く末は私にもわかりえません。 深い漆黒の闇に覆われ、見通すことのできない前途。多難でございますな」 イゴールはフフ、と笑った。笑いごとではない。 「とりあえずは日々を気ままに過ごしてはいかがでしょうか。いずれ来るであろう試練に」 自分がここ来た事。そこに意味あるのだろうか。イゴールの言うとおり、意味などないのかもしれないが。 それでも、やるべきことはある。 「今は休まれるのがよろしいでしょう。そろそろ目覚めの時間ですな」 またもあの感覚だ。意識が浮上し、ベルベットルームを離れるのがわかる。 「それでは、ごきげんよう……」 綾也は夢とベルベットルームに別れを告げると、ひどい空腹とともに目を覚ました。 とにかく朝食を口にしようと部屋を出ようとして、どこで食べればいいのか分からない事に気づき、途方に暮れる。 ちらと視界の端に映った部屋の隅には、見覚えのある青い扉があった。 「こんなところに作らなくても……」 軽い眩暈を感じたのは、憔悴のせいか、空腹のためか。 とりあえず廊下を歩いて出会った人に聞こうと、部屋を後にぶらぶらと廊下を進む。何度目かの角を曲がろうとして、意外な人物に出くわした。 「君は……綾也君」 「確か、フェイトさん……?」 眠気も一瞬で醒めるほどの美女が、驚いた様子で綾也の名を呼んだ。 昨夜の自己紹介で教えられた名を確認するように言う。 「よかった、探していたんだけど……」 「あの。朝食って……どこで食べられますか……?」 フェイトの言葉を遮る綾也の言葉が以外だったのか、フェイトは瞬きを繰り返した。 「ごめんなさい、きちんと伝えておくべきだったよね……」 「いえ……」 綾也は外見通り、基本的には小食だが、食べる時は食べる。そして今は、食べる時だった。 彼は食堂のメニューを開き、彼のスタイルを考えると信じられない程の量を注文し、黙々と平らげ続けた。 フェイトはそれを余程お腹が空いていたのだろうと解釈したらしく、すまなそうにしている。 その光景は食堂の一角において、かなり異質な取り合わせだった。見慣れない青年と六課が誇る敏腕執務官が食事を共にする。 それだけでも周囲の視線は付きまといそうなものだが、六課の職員はほとんどが女性である。 その視線の中には、明らかに綾也へ向けられる好奇の視線が含まれていた。本人には自覚がなくとも、コーヒーを口に運ぶ彼の姿はカリスマ級だ。 しかし、当の二人はその視線には全く気付かず、妙な空間を形成し続けていた。 「よく食べるんだね」 「食べないと力が出ない」 漫画の食いしん坊キャラのようなセリフを吐きながらも、走り出した食は止まらない。あっという間に三人分はあろうかという量の朝食を取り終えると、食後のデザートへ入っていった。 「食事の最中悪いんだけど……」 フェイトの声のトーンが下がり、デザートを口元に運ぶ手は休めずに、綾也は目線をパフェから外した。 「この後、呼び出しがあるの。ここの部隊長から」 「部隊長?」 「昨日、私の横にいた人」 あの人か。独特のイントネーションで話す、女性。 「昨日の部屋……部隊長室に来てほしいって。私も同行する予定だから、探してたの」 「何の要件なんですか?」 「わからないけど、大事な話って言ってたよ」 やはり影時間やシャドウ、ペルソナに関することなのだろう。綾也はパフェを食べ終えると席を立った。 呼び出されている上、待たせているとなれば長居は無用だ。フェイトの案内され、部隊長室へ向かう。 そこで、ある意味綾也の予想は肯定された。 「僕が、六課に?」 「そや。うちらはまだシャドウに対抗する力を持ってない。君の力が必要なんや。 その力を貸してほしい」 予想の中でも、かなり望ましい位置にあった申し出だ。 自分はこの世界においてエキストラではなく、役職を得ることになるし、生活にも困らない。 「僕の力でよければ、いくらでも」 「ありがとう、そう言ってくれると思っとったよ」 綾也の言葉を聞くと、はやては笑って言った。 「よろしくな、綾也くん」 差し出された右手を、綾也は握り返した。 「こちらこそ、お世話になります」 六課への入隊。それは暗闇に包まれたこの世界での一筋の光明のように感じた。 これからの旅路、行く手に何が待ち受けるのか。分からなくても、それでも何とかなる気がしていた。 ユニバースの力がなくても、自分には残っている。ペルソナと、絆が。色褪せることのない確かな輝きを放つそれが、行く手を照らしてくれように感じて。 元の世界に未練がないわけじゃない。還ることができたらどんなにいいだろう。 しかしここにも僕の居場所ができた。無責任に捨てることはできない。 今は尽力しよう。この世界の闇を晴らすことに。それが、僕のすべきことだと感じていた。 そして、夜が来る――。 前へ 目次へ 次へ