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ロングアーチ――はやてが部隊長を務める、機動六課の後方支援部隊である。 補給や索敵、人員輸送などを主な任務とし、前線部隊を影から支える大黒柱として組織されたこの部隊の初陣は、皮肉にも自分達自身が前線に出るという形で始まった。 『カートリッジロード! 一番槍いきまーす!!』 シャリオの掛け声と共にダヤッカイザーの頭の大砲から、ドラム缶のように巨大な空薬莢が排出され、同時に砲口正面に魔方陣を展開――砲撃魔法が発動する。 放たれた光の奔流がムガンを呑み込み、敵の群れに風穴を開けた。 『今の砲撃で敵勢力の5.7%が消滅、誘爆により尚も減少を続けています』 『砲身冷却までの推定所要時間十五秒、二十秒後には第二射撃てます』 ダヤッカイザーに乗るシャリオにそう報告しながら、アルトとルキノ――ツインボークンが前に出た。 『ターゲットロックオン!』 『スピンバリアー弾発射!!』 ツインボークンの両掌からドリル型の弾丸――スピンバリアー弾が射出され、ムガンを撃ち抜いていく。 その間にダヤッカイザーの砲身冷却が完了、カートリッジ装填と共に砲撃の第二射が放たれた。 再び空を貫く光の奔流と並走するように翔る一つの影がある――グリフィスの駆るエンキドゥだった。 単身ムガン群に突入したエンキドゥが頭のトサカを取り外し、ブーメランのように投擲した。 円のような軌跡を描いて飛ぶトサカ――エンキラッガーがムガンを切り裂き、再び主の手の中に戻る。 トサカを頭に装着し直したエンキドゥは、今度は左右の腰の刀を引き抜いた。 『カートリッジロード!!』 グリフィスの怒号と共に刀身の付け根から空薬莢は排出され、鞘を被せたように鋼の刀身の外側に魔力刃が生成される。 魔力刃によって延長した二本の刀を我武者羅に振るい、エンキドゥはムガンの群れの中を飛び回った。 ガンメン――かつてこの世界とは違う次元、違う宇宙において、対アンチスパイラル用に開発運用された大型質量兵器。 時空管理局の魔法技術を応用し、魔導兵器として再設計されたガンメンを駆り、若者達は戦う――自分達の長、はやてを完全に置き去りにして。 「こらぁーっ! お前らウチを無視するなぁーっ!!」 部隊長である自分の指示を仰ごうともせず、好き勝手に戦い始めるガンメン軍団に、はやては拳を振り上げ怒号を上げる。 助けにきてくれたことは素直に感謝するが、しかしそれとこれとは別問題である。 傲慢な言い方になるが、ロングアーチは自分の部隊なのた――自分は部隊を指揮しなければならないし、グリフィス達は自分の言うことを聞かなければならない。 それが指揮官としての自分の責任であり、部下としてのグリフィス達の義務なのだ。 機動六課――ロングアーチも組織である以上、そのけじめは果たさなければならない。 そして何より――これが本音なのだが――部隊長の自分を差し置いて活躍するガンメン軍団に、はやては嫉妬していた、対抗心を燃やしていた。 「リイン、ウチらも征くで! シャーリーやグリフィス君達だけにええ格好はさせへん!!」 胸に抱いたリインフォースⅡを解放し、はやては昂然と言い放った。 新参者共にこれ以上出番を喰われてなるものか……リインフォースⅡを見下ろすはやての瞳の奥で、熱い炎が燃えている。 「イエス、マイスターはやて!」 笑顔で首肯するリインフォースⅡの身体が光に変わり、はやての身体の中へと吸収される。 ユニゾン――術者とデバイスが文字通り一心同体となり、魔力や戦闘能力を爆発的に上昇させる融合能力。 ラゼンガン――或いは同タイプのグレンラガン――の合体が気合いと気合いのぶつかり合いならば、はやて達のユニゾンは思いと想いのぶつかり合いである。 ユニゾンの影響で白金色に変わった髪を風に遊ばせ、翡翠色に染まる瞳を煌かせ、胸の奥で鼓動するリインフォースⅡの心を感じながら、はやてはデバイスを構える。 右手に握る騎士杖型アームドデバイス――シュベルトクロイツ。 左手で開く魔導書型ストレージデバイス――夜天の書。 ユニゾンの際に同時に融合したもう一つの魔導書型デバイス――蒼天の書。 そしてその全てを統制する管制人格――リインフォースⅡ。 四つのデバイスを同時に扱い、圧倒的な攻撃力で戦場そのものを消し飛ばす……それがはやての真の戦闘スタイルである。 若いな……見せ場の奪還に燃えるはやてをモニターの端に見遣りながら、ロージェノムは唇の端を持ち上げる。 かつて、今のはやてと同じ眼をした男と出会った。 そしてロージェノム自身もまた、同じように身と心を戦いに燃やした経験がある。 言葉や理性では抑えられない熱い衝動――螺旋の本能。 はやてもその存在を認知してはいるが、己の内から迸るその衝動こそが螺旋の力に他ならないということには、未だ気付いてはいないだろう。 「ロージェノムさん! デカい呪文で一気に叩くから、詠唱の間ウチを守って!!」 はやての命令にロージェノムは不敵な笑みを浮かべ、「是」と応えた。 グラパールが盾となるようにはやての前に仁王立ちし、腕組みしてムガン群を見据える、 ムガンのビームが雨のように撃ち込まれるが、グラパールの展開したバリアに阻まれはやて達までは届かない。 「ふん……」 歯応えの無い敵の攻撃にロージェノムは退屈そうに鼻を鳴らし、自分達を守るバリアを解除した。 迫り来るビームの雨にグラパールは腕組みを解き、右腕をギガドリルに変形させる。 前方に突き出されたギガドリルの先端から更に五本の細長いドリルが指のように突き出し、ムガンのビームを鷲掴みした。 ビームのエネルギーがドリルの「腕」と吸収一体化し、巨大な光球となってグラパールの掌の上で暴れ回る。 『返すぞ』 荒れ狂い爆発寸前のエネルギー塊を、グラパールはムガン群へと投げ返した。 ムガン爆発の連鎖による炎の帯が空に広がる中、はやての呪文が完成した。 「詠唱完了、皆逃げろぉーっ!!」 念話、通信、そして肉声と、あらゆる手段で伝えられるはやての退避勧告に、ガンメン軍団が慌てたようにムガン群から遠ざかる。 最後の一体――ムガン群の中心に斬り込んでいたエンキドゥ――の退避を見届け、はやては魔法を起動した。 「遠き地にて沈め……デアボリックエミッション!!」 はやての咆哮と共に、暗黒の光が周囲の空間ごとムガン群を呑み込んだ。 はやての放った広域攻撃魔法によって空の敵は全滅し、地上の小型ムガンは教会騎士団が全て片付けた。 静けさを取り戻した戦場に、山の向こう側から一機の輸送ヘリが姿を現す。 グリフィスの派遣した交替部隊である。 「へ? こ、交替部隊……?」 交替部隊到着の報告をグリフィスから受け、はやては思わず声を上擦らせた。 「交替部隊……?」 胡散そうな視線を向けるフェイトに、はやては乾いた笑みを浮かべる。 「あははははー。……すっかり忘れとったわ」 「しっかりしてよ部隊長!?」 てへっと可愛らしく首を傾げて誤魔化すはやてに、フェイトが魂の叫びを上げる。 「しゃ、しゃーないやろ! 交替部隊って半分グリフィス君の私兵みたいなもんやし、あん時はウチも冗談抜きでテンパっとったし……」 逆上したように顔を紅潮させながら弁明するはやてだが、容赦なく突き刺さるフェイトの絶対零度の視線を前に言い訳の声は次第に小さくなっていき、 「もーしわけありませんでした!!」 ……最終的に、はやてはフェイトの前に土下座して謝っていた。 部隊長としての威厳の欠片もない親友の姿に、フェイトは呆れたように息を吐く。 その時、 「上に立つ人間が、そんな風に軽々しく頭を下げたりするものではないわよ? はやて」 穏やかな女性の声が、はやての背中にかけられた。 「カリム!?」 「久しぶりね、はやて。リインも元気そうね」 顔を上げ、満面の笑顔を浮かべて振り返るはやてに、声の主――カリム・グラシアも柔和な笑みを返す。 「そちらの方は初めてお会いするわね。聖王教会騎士、カリム・グラシアです」 「機動六課ライトニング隊隊長、フェイト・T・ハラオウンです」 フェイトとの自己紹介を簡潔に済ませ、カリムははやてへと向き直る。 「部隊の方は順調みたいね。今回は助かったわ」 騎士団と共に現場検証や負傷者の救助作業を行う交替部隊の隊員達、そして瓦礫の撤去作業を行うガンメン達を好意的に評価するカリムに、はやての笑顔が固まった。 言えない、今回獅子奮迅の活躍を見せたガンメン軍団の中の人が、実は前線部隊でも何でもないただの内勤スタッフであるなどとは絶対に言えない……。 「そ、それより……今回カリムがウチと会って話そ思うとったんは何なんや?」 慌てたように話題を変えたはやての問いに、カリムの顔から笑みが消えた。 「そうね……早速だけど、本題に入りましょうか」 そう言ってカリムは傍らの騎士に合図し、何かのケースを受け取った。 「昨日の深夜――日付は今日に変わっていたかしら――教会礼拝堂を清掃していた修道士が、長椅子の陰に隠すように置かれていたこれを見つけたの」 そう言ってカリムが差し出した金属製のケースに、はやてとフェイトは瞠目したように同時に声を上げた。 「「レリック!?」」 第一級捜索指定ロストロギア、レリック。 ロストロギア――様々な世界で生じたオーバーテクノロジーの内、消滅した世界や古代文明を歴史に持つ世界において発見される、危険度の高い古代遺産。 レリックもその一つである。 外観はただの宝石だが、古代文明時代に何らかの目的で作成された超高エネルギー結晶体であることが判明している。 レリックは過去に四度発見され、その度にムガンの出現が確認されている。 そして、今回の事件が五度目。 アンチスパイラルがレリックを狙う理由は未だ解明されていないが、レリックの放出するエネルギーを螺旋力と誤認してムガンが出現するという仮説が有力である。 思わず息を呑む二人に、しかしカリムは首を振り、ケースに掛けられたロックを解除する。 「……イエスとも言えるし、ノーとも言えるわ」 カリムの返答と共に開けられたケースの中身に、二人は驚愕を隠せなかった。 通常レリックを安置する台座が納められている筈のケースの内側いっぱいに、複雑な機械と回路が詰め込まれ、配線が血管のように張り巡らされている。 明らかに何者かの細工の施された、変わり果てたレリックケース――しかし二人の驚愕した理由は、それだけではなかった。 回路の心臓部に搭載されている二つのロストロギア――片方は動力部に設置されたレリック、そしてもう一つは……。 「これ、コアドリル……?」 困惑したようにはやてがケースの中に手を突っ込み、スイッチのように差し込まれていた小さなドリル――コアドリルを引き抜いた。 稼動していた機械が動きを止め、発光していたレリックも徐々に光を失っていく。 コアドリルもまたロストロギアに登録され、ムガンはこれを破壊するために動いている。 機動六課が追う二つのロストロギア、その二つともを積み込んだ謎の機械……理解を超えた事態に、はやて達は思わず顔を見合わせた。 「……カリム、正直これはウチらだけには荷が重過ぎる。幸い、これの専門家が今ここに来とるから、その人にも見て貰ってええかな?」 カリムにそう提案し、はやてはロージェノムへと通信を繋いだ。 「ロージェノムさん……ちょっとええかな?」 はやての召喚を受けて、独りガンメンを降りて救助作業に参加していた巨漢――ロージェノムが三人の元へと足を運ぶ。 「……これは一種の永久機関だな」 はやてから手渡されたケースをためつすがめつ観察し、やがてロージェノムはそう結論を下した。 「レリックのエネルギーをコアドリルが増幅し、そして再びレリックの中へと戻す――それ以外には何の機能も無い。 増幅したエネルギーの殆どは機械部分の稼動に回され、機構外部への仕事は機械部分の廃熱と余剰エネルギーの漏出以外には一切存在しない。 コアドリルのエネルギー増幅率も必要最低限に抑えられ、ほぼ完全にこのケースの中だけで完結したエネルギー循環機構だ」 「そんなものに、一体何の意味があるんですか……?」 フェイトの口にした疑問の言葉に、ロージェノムはつまらなそうに鼻を鳴らした。 「何の意味も無いだろうな。精々……ムガンを無限に呼び寄せる程度だ」 ロージェノムの答えに、三人の顔は戦慄に凍りついた。 そのためだったのか……無意識の内に、フェイトは拳を握り締めていた。 あの執拗なまでに続いたムガンの増援はこれが原因だったのか……! ケース中央、回路の心臓部付近に、一枚の金属プレートが貼られている。 プレートに彫られた製作者の名前、銘を入れるように刻印されたその名は……。 「ジェイル・スカリエッティ……!」 風の中に消えたフェイトの呟きは、憎悪と憤怒に染まっていた。 荘厳――この場所以上にその言葉の相応しい場所が、果たしてこの世に存在するだろうか。 豪華な装飾の施された支柱の立ち並ぶ、巨大な金色の空間。 まるで玉座の間のように絢爛に飾り立てられた広間は、しかし中央に展開された巨大なウィンドウによって、その荘厳な雰囲気を台無しにされている。 ウィンドウに映し出される映像は二つ――片方はなのは達を乗せて飛ぶ輸送ヘリ、もう片方は火の手の収まりつつあるベルカ自治領。 機動六課の動く二つの現場を映したウィンドウを食い入るように見つめる、白衣を着た一人の男がいる。 しなやかな細身の身体、長い黒髪、中性的な細面、そして金色の瞳――男を構成するパーツの一つ一つが絶妙なバランスで調和し合い、異形の美しさを形成している。 そう、男は人の形をした異形だった。 数々の禁断の知識をその身に修め、己の欲望を満たすためならば如何なる犠牲も辞さない外道。 生まれながらに罪を背負い、業に塗れたその両手で幾つもの未来を破壊し、そして創造してきた天才。 男の真実を識る者は、畏怖を込めてこう呼ぶ――〝無限の欲望〟と。 男の傍らにウィンドウがもう一枚開き、妙齢の女性の顔が映し出される。 『ベルカ自治領市街地のムガン全滅、ムガン発生装置も稼動を停止した模様です』 「見ていたよ、ウーノ」 ウィンドウの女性――ウーノの顔を横目で見遣り、男はその報告に首肯を返す。 『よろしいのですか、ドクター? これで刻印ナンバー9並びに刻印ナンバー44のレリック、それにコアドリルが管理局の手に落ちてしまいましたが……』 「別に構わんよ、そのおかげで面白いデータが手に入った」 ウーノの問いに涼しい顔で即答し、ドクターと呼ばれた男は正面の巨大ウィンドウに視線を戻した。 「それにしても、この案件はやはり素晴らしい……。私の研究にとって興味深い素材が揃っている」 ウィンドウの映像が切り替わり、機動六課前線部隊の内の三人――スバル、エリオ、そしてフェイト――の戦闘映像が映し出された。 三人ともその出生には、男の過去の研究と浅からぬ因縁がある。 それに……男は更に画面を切り替え、二つの戦闘映像を表示させた。 ベルカ自治領市街地上空を縦横無尽に飛び回る鋼の巨人達――ガンメン。 仮初の街を駆け回る漆黒の巨人、ガンメンのオリジナル――ラゼンガン。 「私以外に螺旋の力を、それも私以上に深く識る者がいるとは……」 氷のような笑みを顔に貼り付け、魅入ったように恍惚とした声音で男が呟く。 螺旋の力――それは人という種が秘めた無限の可能性、そして世界をも滅ぼす魔の力。 「足掻いてみせろ抗ってみせろ……螺旋の戦士達よ」 憎むように愛おしむようにウィンドウの中の巨人達にそう語りかけ、男――ジェイル・スカリエッティは高らかに哄笑を上げる。 金色の瞳の奥で、炎が回っている、光が巡っている――ロージェノムと同じ螺旋の輝きを、宿していた。 天元突破リリカルなのはSpiral 第10話「ジェイル・スカリエッティ……!」(了) ところで――、 「え゛!? み、皆仕事放り出して来てもーたの!?」 ロングアーチ出撃の裏の真実を聞き、はやては引き攣らせた。 「はやてさん達が心配でいてもたってもいられなくて、なのはさん達に必要最低限の指示だけ出して、他は全部丸投げして飛び出して来ちゃいました」 「現場放棄に無断出撃、それに任務管轄外の越権行為……どんな処分でも受ける所存です」 シャリオはあははーと誤魔化すように笑い、固い表情で部隊長の返答を待つグリフィスに、はやては思わず天を仰いだ。 なまじ善意で動いてくれたので、怒るに怒れない……。 平穏を取り戻したベルカ自治領の空は、どこまでも高く、広く、そして青かった。 己の過失に加えて部下の監督不行き届き……洒落にならない失態の連続に、はやては絶望したようにこう呟く。 「か、神はどこまでウチを試すん……」 全部お前に自業自得だろうというツッコミを喉の奥に留め、フェイトは諦めたように嘆息を零す。 街のどこかで、鴉がアホウアホウと鳴いていた。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2876.html
「午前中に東京都お台場で行われていた、ウェイン産業の一周年パーティーにて、複数の男が乱入。 ウェイン産業関係者、政府関係者、金融関係者などを拉致し、逃走を図りました。 現場に巻き込まれた人の話では、乱入した男の1人が、ゴッサムシティの犯罪者である『ジョーカー』と名乗っていたということもあり、 警視庁は一刻も早くの拉致された方の救出、犯人逮捕を行うと……」 「今回の事件に対して、首相は、日本政府への挑戦であり、 警視庁、警察庁に対して直ちに対応し、犯人の逮捕に努めて欲しいと厳命したことを記者に発表しました。 また今回の拉致事件の被害者で、パーティーに列席していた金融副大臣、与党の中堅議員、野党の議員などもおり、身の心配が案じられます」 「ウェイン産業のパーティーの防犯カメラからの映像を、 アメリカ政府を通じてゴッサムシティに送ったところ、 犯人はゴッサムシティで殺人、放火、誘拐などの罪で指名手配を受けている通称『ジョーカー』であることが判明しました」 「通称『ジョーカー』は、その姿をトランプのジョーカーのように顔を白く化粧していること、 また犯罪現場にトランプのジョーカーを置くことからその名前がつけられました。 『ジョーカー』はゴッサムシティの犯罪者の中において、 もっとも凶悪といわれており、刑務所からの脱獄も三回にのぼるとして、その危険性による、人質への安否が懸念されます」 「ウェイン産業のブルース・ウェイン氏は、人質の解放のために全力を尽くすとして、 警視庁に協力を約束し、積極的に捜査に協力すると発表しました」 第2話 裏 高町なのはと、フェイト・T・ハラオウンは、警察と救急車でごった返す、ウェイン産業の敷地を離れ、人が少ない海辺に来ていた。 潮の香りを感じながら、二人の気持ちとは裏腹に、海は穏やかで、青い空の中、陽が傾き始めていた。 暫く、何も言葉に出来ない二人。 自分のせいでヴィヴィオは連れ去られた…。なのはも、フェイトも自分を責める。 「…なのは、探そう?ヴィヴィオはまだ、近くにいる」 「うん……」 今は悩んでも何にもならない。今自分ができることを考えないと…。 そう、ヴィヴィオを探して取り返す。それが今の私たちができる唯一のことだから。 絶対に…。 「だけど…どうやって?探そうにも手がかりまったくないよ」 フェイトは何も出来ない自分の無力さに怒りが湧く。 ここでは自分の力も遠く及ばない。執務官という肩書きだって、ここでは使うことが出来ない。 世界がかわるだけで、ここまで無力な存在になるなんて。 「大丈夫。私たちには、これがあるよ」 なのはは、そんなフェイトの心配を他所に笑顔を向ける。 なのはは、こうやっていつも心配や不安に陥るフェイトを無意識に助けている。 そのことがフェイトにとって、なのはに対する強い想いを持たせ続ける原動力となっているのだ。 なのはがそういって、取り出したのは携帯電話…。 ヴィヴィオはうずくまりながら、見つめていた。 トラックに揺られ下にさがっていくことを感じながら、車が止まった場所は、広いコンクリートに囲まれた空間だった。 トラックの後ろの扉が開かれ、ピエロの仮面をした男たちが銃を持ち、下りるよう指示する。 前にいるのは、自分たちを攫ったピエロの大ボス。 「君が、ジョーカーか…、私たちにこんなことをしてどうするつもりだ」 1人のスーツを着た人が、前に出てそのピエロの大ボスにいう。 ビエロの大ボスは口の周りの赤いペイントから常に笑っているように見える。 「君は?」 「私は日本国の野党の国会議員だ。君たちの要求を言ってみろ。人命を優先し解放するのなら、私が直接交渉に当たる。なんだ、金か?権力か?」 「フフフ……フハハハハハハハハハハ」 高らかな笑いが、そのコンクリートに囲まれた場所で響き渡る。 ピエロの大ボスがその人の襟首を掴み、顔を近づける。 「金?権力?そんなものに興味はない。俺はただ楽しめれば良い。みんなハッピーに笑顔をみせてもらえれば、一番だ」 「バカな。犯罪をすることが目的だとでも言うのか?」 ピエロの大ボスは、その議員から手を離して、距離をとり、全員が見えるよう、車の上に立つ。 「皆さん、改めて…始めまして。皆さんは私を知っていますが、私は皆さんのことを余り知らない。 一方的な新聞やテレビでしか知らず、まるでアニメやドラマ、映画の世界のような好奇な目で見ている………俺はそれが我慢できない!!」 最後の言葉に強い感情がこめられている。 ヴィヴィオは、怯えながら、そのビエロの大ボスを見る。 「俺は笑うことは好きだが、笑われることは大嫌いだ。だから、第三者を気取るお前たちにも同じように笑ってもらうことにした。 それがジョーカー劇場の目的だ!!君たちには道化師として、踊ってもらおう。フハハハハハハハハ~」 恐怖に怯えるものたち、そんなものたちを見ながら、ビエロの大ボスは笑い続ける。大人たちは、悲鳴を上げながら逃げ出そうとする。 だが、それは銃口を持ったものたちによって阻まれ、そして、別のトラックの中にと再び詰め込まれていく。 ヴィヴィオも大人たちの狭間に紛れながら、流れていく。 そんなヴィヴィオのポケットの中、携帯電話が点滅して光っている。 トラックが出発したとき、何かの影が駐車場で揺れ動いた。 「わああぁ!?」 悲鳴とともにピエロ仮面の誰かが消えた。 車に乗り込もうとしていたジョーカーは、その悲鳴にあたりを見回す。 下水道工事のための地下駐車場…。 こんなところに、警察がいるはずがない。 「うわぁぁ!!」 「ぐぅぅ!!」 再び消える声に、ピエロ仮面たちが銃を向け、あたりかまわずに撃ちまくる。 だが、そのピエロ仮面の上から現れた巨大な黒い影にピエロ仮面は不意をつかれ、殴り飛ばされる。 ジョーカーの表情に笑みが浮かぶ。こんなことをするのはあいつしかいない。 「蝙蝠男、こんな異端の地までよくやってきたな?」 だが、そこに現れたのはジョーカーの知るものではない。 黒いマントをなびかせ、長い金色の髪をなびかせる女。 「…あなたが捕まえた人質を返しに貰いにきた」 「ふ、フフフ…フハハハハハハハハハハ」 フェイトの姿を見たジョーカーは再び大きな声で高らかに笑う。 「バットマンの新しい女か?それとも猿真似上手な日本の犬か? 趣味の悪さも似ているみたいだな。だが、顔をそんなにはっきりと見せるところだけは、性格が良いと褒めてやる」 笑いながら、拍手する…そんなふざけたジョーカーに対して、フェイトはバルディッシュをジョーカーに向け、鋭い眼差しを向ける。 「もう一度言う、大人しく人質を解放して、抵抗をやめなさい」 「アハハハハハハハ。残念だ、お嬢ちゃん…断る」 ジョーカーは指を鳴らすと、両脇にたつピエロ仮面が機関銃を鳴り響かせる。 フェイトは、バルディッシュを高速で目の前で回転させると銃弾をすべて弾いていく。 そしてそのまま一気に近づき、機関銃を持つ男たちをバルディッシュで腹部や背中をたたき、気絶させる。 そしてジョーカーの襟首を、掴み車の上に押し付ける。 「わぁっ!わぁっ!わかったから、こ、殺さないでくれぇ!」 「人質はどうした?」 「別にトラックにのせた」 「目的地はどこだ」 「そ、それはいえん」 フェイトの手に力がはいる。 「あ、あ……わかった、わかったから…あんたの強さには恐れ入った。まさか日本にこんな強いお嬢さんがいるとは……今回は素直に負けを認める」 ジョーカーは両手をあげながら、震えた声でそうつげる。 フェイトはそのジョーカーの言葉を信じて、手の力を緩める。 「やめろ!」 誰かの声が聞こえた、その瞬間… ジョーカーの服の隙間から、手榴弾のような丸いものが落ちると凄い勢いのガスが噴射する。 その勢いに手を離してしまうフェイト…。 催涙弾?よくわからない… 「アハハハハハハ、お嬢さん、また会おう!」 煙の中、車の走り出す音と、笑い声だけが頭に残った。 そしてフェイトの意識はそこで途絶えた。 高町なのはが現場の下水道駐車場に辿り着いたのは、それからすぐのことだった。 なのはは、フェイトとは別に、ヴィヴィオの持つ携帯の発信機を元に近辺の人質が乗っていそうなトラックを探していたのだが、 トラックを乗り換えられたことで、その電波もまたトラックの防護壁か何かによって遮断を受け、電波を失ってしまっていたのだ。 倒れているフェイトに駆け寄るなのは。 フェイトを抱きしめ、なのはは、そのフェイトのぬくもりを確認する。 「…ガスを少し、吸い込んだだけだ」 その声に振り返る、なのは。 そこにたつのは、黒きマント…顔を覆った黒きマスク。 すべてを黒に覆うそれは、こちらを睨む。 「お前たちが何者か、検索する気はないが……、私の邪魔をするのは、やめてもらおう。ジョーカーを捕まえるのは私の仕事だ」 その姿は、どこかおぞましいものを感じる。 とてもヒーローというものとはかけ離れた存在…そして気配。 「……私たちの助けたい人たちも人質の中にいるの」 なのはは、それに負けずに告げる。そう、ヴィヴィオがいる。 ヴィヴィオは私たちの娘。大切な存在。 幾多の戦いの中で、手に入れた…存在。 「…君たちではジョーカーには勝てない」 冷淡に、はっきりと告げる黒きマスクの男。 なのはは、言い返そうとするが、フェイトちゃんから発せられた声で、視線を移す。 「なのは……ごめん、私」 「うぅん…大丈夫だよ。だから今は…休んでいて」 なのはは、なぜ、そこまではっきりと自分たちではジョーカーを倒せないか問い詰めようと、再び視線を移すが、 既にそこには黒きマスクの姿はない。 なのはは、悔しさに心を震わせながら、ヴィヴィオの奪還のために次のことを考え始めていた。 一般道を走る車の中で、ハンドルを握るジョーカーは、先ほどのことを考えていた。 日本政府にあのようなものがいるとは考えていなかった。 そもそも、あれは本当に政府の存在であるのか? 目的はなにか……政府の要人。蝙蝠男と比べると負ける気はさらさらないが、面倒そうな存在ではある。 ジョーカーはそこでニヤリと微笑む。 相手が何を求めているか、そして最高のショーにするためのものを同時に考えついた。 ヒントはそう、アメリカのつまらないヒーロー漫画よりも、よっぽど面白い日本の漫画から考えついたものだ。 「バットマン~♪タ~ララララ、タ~ララララ、バットマン~♪」 ジョーカーは口でそんな事を歌いながら、車を走らせていく。 その崎に見える、光り輝く彼の根城を目指して。 前へ 目次へ 次へ
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艦船フリーデン内 休憩室。 大きなソファーに観葉植物が置かれた質素な作りのこの部屋で、ウィッツとロアビィの雇われ組は休憩をとっていた。 ロアビィはを何か考えているのか、壁に寄り掛かって難しい顔をしている。 ウィッツはウィッツでそれを全く意に介さず、つまらなそうにソファーに寝そべっていた。 「おかしいとは思わない?」 ふと、静寂を切ってロアビィがウィッツに話し掛ける。 「何がだよ?」 「ジャミル・ニートといえば、この世界じゃかなり名の通ったバルチャーだろ? そんな奴が実は時空管理局の人間で、『提督』なんて大層な役やってる超エリートと来たもんだ」 「……そのジャミルが、あんな小娘一人に血眼になってるってことか?」 「ご名答」 起き上がり様にウィッツはロアビィに顔を向ける。 実を言うと、ウィッツも少しだけティファの素性が気になっていた。 名目上二人への依頼は『船の護衛』だが、ジャミルから託された真の依頼は『ティファ・アディールの護衛』 しかも仕事は護衛だけだというのに給金は破格。 何故ティファという娘にそこまでこだわるのだろうか。 ウィッツには皆目見当もついておらず、それは話を始めたロアビィも同じだった。 「それにあんなに強そうな局員の方々連れてるのに、俺達みたいなフリーの魔導師雇うのも解せないんだよねぇ」 「裏があるってか?」 「ま、そういうこと」 「……ジャミルが何を考えてるか知らないが、俺には関係ねぇや」 理由を知った所で報酬を貰ったら即さよならだしな、と付け加える。 契約云々以前に、ウィッツは時空管理局と関わりたくないという強い思いがあった。 時空管理局の管理下に置かれたアフターウォーでは法が施行されている。 殆ど飾りに近い法とはいえ、バルチャーを営むにはその法律に則って管理局の許可が必要になるのだ。 しかし質量兵器の使用禁止や魔導師ランク取得などバルチャー認定基準がこの世界の住人にとっては厳しい為、ほとんどのバルチャーは無許可で活動をしている。 ウィッツも認定手続きが面倒だという理由で無許可バルチャーをやっており、時空管理局と行動を共にしている今現在もかなり居心地の悪い思いをしているのだ。 触らぬ神に祟り無しとでも言わんばかりに、ウィッツは再びソファーへ横になった。 そんなウィッツを見てロアビィが呆れたような表情を浮かべる。 「そいつは残念。彼女の秘密がわかれば、それをネタにして儲け話にでも」 「儲け話だぁっ!?」 完全に冷えたと思われたウィッツの態度が急速に加熱した。 ソファーから飛び起き、ロアビィにズイと詰め寄る。 金が絡んだ途端に豹変したウィッツの態度に驚きを隠せないロアビィだが、場所が場所だけに焦りを感じた。 「し、しーっ! 声が大きいよ。誰かが聞いてたらどうすんの?」 「聞いていたが、どうする気だ?」 ハッと口を抑えるが時既に遅し。 後ろから痛い程視線が突き刺さる。 目の前のウィッツの表情が引き吊っているのを見ても、後ろにいるのは話しを聞かれたら相当不味い人間だと言う判断はついた。 ロアビィは恐る恐る後ろを振り返る。 そこにいたのは怖い顔をした鬼……ではなく、腰に手を当てたシグナムとサラだった。 「全く、偵察に行くと呼びに来てみれば。油断も隙もあったものではないな」 「い、いやー……これはその、ちょっとした出来心で……」 「とにかく、キャプテンに報告します」 「ちょ、ちょっと待った!」 ロアビィは去り行くサラの腕を慌てて掴み、自分の方へと引き寄せる。 ジャミルに知られれば報酬を貰う前に追い出される危険さえあるのだ、かなり必死である。 しかしサラは煩わしそうにロアビィを睨み付け、捕まれた腕を振り払う。 「言い訳はキャプテンの前でどうぞ」 「怒ると、素敵な顔になるね」 「この状況でよくそんな口が利けたものだな」 身が危ないと言うこんな時まで口説き文句は忘れない。 そんなロアビィに呆れ果てるシグナムだが、サラは対照的に薄っすらと頬を染めた。 しかし厳しい表情が崩れることはなく、またすぐに部屋の外へと歩みを進める。 その時、またもロアビィの手がサラの腕を掴む。 「おい! 待てって言ってんだろ!」 「ちょ、ちょっと! 放して!」 「キャプテンキャプテン言ってるけどさ、あんたらだって何も知らされずにこんな偏境世界まで来てるんだろ!?」 「そっ、それは……」 確信を突く一言に今まで厳しかったサラの表情が一変した。 目を逸らし、ばつが悪そうな顔でうろたえている。 ロアビィはサラの腕を放し、今度は打先程とって変わった優しい表情を見せた。 「こっちだって命張って商売してるんだ。……せめて、あのティファとかいう娘のこと、知りたいと思うんだけどね」 「そ、それは……」 「シグナムさんもそう思わない?」 「全く思わんな」 即答。 シグナムにも自慢の話術で賛同してもらおうと企てていただけに、思わずロアビィは肩を透かしを食らう。 「私は主はやてを信頼し、主はやてが信頼したジャミル提督に全幅の信頼を寄せている。そのジャミル提督の事だ、何か考えがあってのことなのだろう」 「これは、見上げた忠誠心で……。でも、こちらとシグナムさんみたいにキッパリ割り切れるような性格してないんでね」 ね? とサラに微笑みかけるが、彼女は浮かない顔のまま何も答えない。 それはシグナムのように無償でジャミルを信用出来なかったことへの自己嫌悪によるものか。 はたまた、副官である彼女に何も教えてくれないことへの寂しさか。 結局ロアビィの言葉に何も返せぬまま、サラは無言を貫き続けていた。 ガロードがティファを連れ去ってから数時間。 二人は逃げ込んだ森の中で焚き火を前に並んで座っていた。 木々に囲まれた森の中だけに、月の明かりは入って来ない。 揺らめく炎の明かりだけが二人の顔を照らし出している。 「ティファ。君って、あいつらに捕まるまではどこにいたんだ? それに、あの不思議な力は?」 ティファに話し掛けながら、ガロードは焚き火の中へ拾ってきた小枝をくべた。 だが、ティファは答えない。 沈黙の中、枝の爆ぜる乾いた音だけが暗い森の中に響く。 「魔法、じゃあないよな? もしかして、前の戦争の時にいたっていう超能力者って君みたいな人だったのかな?」 再びガロードはティファに問う。 だが、やはりティファは答えなかった。 上空で透き通った風が吹き、頭上から木々がざわめく音がする。 雰囲気も手伝ってかその音は非常に不気味に聞こえた。 「なぁ、ティファ。黙ってちゃ何もわからないよ」 焚き火の暖かな光を眺めながらポツリ呟く。 そして沈黙が三度二人の間に落ちるかと思われた時だった。 「私は」 「え?」 殆ど自分からは何も喋らなかったティファが、ガロードに話し掛けてきたのだ。 軽い驚きに顔を横へ向けると、ティファと目が合う。 吸い込まれそうな紺碧の瞳がこちらに向けられていた。 「私は、あなたを知りたい……」 「ティファ……うん。わかったよ」 ガロードはティファからの意外な質問を嫌な顔一つせず快諾した。 気持ちの何処かで、ティファのことも知りたいが、自分のことも知っておいて欲しいと思っていたのかもしれない。 視線を再び焚き火の方へと戻し、ガロードは語り始めた。 「俺が生まれたのは、ちょうど戦争が終わった年だった……」 親父は軍に籍を置く技術者だったけど、戦争で死んじまった。 物心ついた頃って、まだめちゃくちゃだった。 太陽なんて出てないし、ずっと冬みたいだった……。 なんだかんだで、友達も半分くらい死んじゃったし。 やっと春が来るようになって、俺は時空管理局の技師になろうと思ってたんだ。 親父の血を継いだらしくって、昔っからそういうのが得意だったから。 それに管理局なら才能次第で子供でも雇ってくれるし。 でもある日、町は流れの魔導師の一団に襲われて……。 酷い有り様だった、ホントに……。 俺、昔から魔法の素質だけは全然なくてさ、何にも出来なかった……。 だから、そんな俺が助かったのは奇跡だった。 いや、あの時、俺は一度死んだんだと思う。 「……へっ、それでふっ切れちゃってさ。今みたいなお仕事になっちゃったってわけ」 「悲しい時代……」 「えっ?」 「思い出も、悲しい……」 そっと、ティファが自分の手をガロードの手に添える。 手自体は、少し冷たい。 しかし、何処か温もりを感じさせるその感覚にガロードの心は解きほぐされてゆく。 「私も、独り……」 「ティファ……」 ガロードは再びティファの瞳を見つめた。 先程は綺麗だと感嘆しただけだったが、今度は少しだけ違う。 ガロードの過去を知ったからか、深い悲しみの色がそこにはあった。 涙など一滴も零れ落ちていないのに、悲しみを感じさせる深い瞳。 その不思議な色に、ガロードはただただ見入っていた。 「暖かい、手……」 「え? ……うぇっ!? うわぁっ!!」 今更ティファに手を握られていることに動揺し、ガロードは慌てて手を離した。 気恥ずかしいやら嬉しいやら、思わず体が縮こまってしまう。 もちろん顔は沸騰したように赤くなっていた。 それが不思議なのか、ティファは小首を傾げる。 だが、次の瞬間その表情が強張った。 『Emergency』 「うわぁっ!?」 GXの警告と同時にティファがガロードを押し倒した。 突然の出来事に目を見張るガロード。 が、目の前を魔力弾が通過し、背後の森に着弾した瞬間全てを悟った。 自分達はまたも襲撃されていると。 「だ、誰だっ!?」 魔力弾が飛んで来たであろう方向を警戒しながら凝視する。 木々の間に魔力の光が見えた。 それはゆっくりゆっくりとガロード達の下へ近づいてくる。 森の中から出て来たのは一人の女バルチャーだった。 そして光は女の持っていたデバイスの魔力刃だと分かる。 「フフフ。お宝を見つけたよ?」 ガロード達を見つめ、女バルチャー――ヴェドバは妖しく微笑んだ。 魔力光が照らすその笑みは、背筋が凍るほど気味が悪い。 「さようなら、坊や達……」 弱者への慈悲でも掛けているつもりなのだろう。 そう囁くとガロード達に掌を向け、拳大の魔力弾を生成した。 GXを起動させようとするガロードだが、ヴェドバが魔力弾を撃つ方が早い。 ヴェドバがそのまま魔力弾を二人に放とうとした刹那。 ヴェドバが出ていた方とは全く違う方向から魔力弾が飛んで来た。 魔力弾はヴェドバとガロードの間に着弾し、凄まじい砂煙が両者を分かつ。 「なっ! 同業者かい!?」 「い、今だ! GX、行くぜ!!」 『Drive ignition』 砂煙の中、すぐさまティファを背に隠れさせガロードは叫んだ。 同時にガロードの体が光に包まれる。 僅か数瞬で光は弾け、バリアジャケット姿のガロードが姿を現した。 光が弾けた衝撃で立ち上がっていた砂煙も晴れる。 だが、そこには目を疑う光景が広がっていた。 「こっ、これはっ! なんて数の魔導師だ!?」 前から、右から、左から。 裕に50は超えるバルチャー達がガロードを狙っていた。 正確には、ガロードの持つGXを。 アフターウォーの大部分である闇を生きる人間は、何もバルチャーだけではない。 情報屋という人種もこの世界において幅を利かせているのだ。 二人が森へ逃げ込んで来た時に茂みから二人を観察していた人物もそんな情報屋の一人。 ガロードは運悪くもGXを所持している所を見られ、バルチャー達に広められてしまったのだ。 「くっ! 渡してたまるかぁっ!」 「うわぁっ!!」 『Round shield』 商売敵の登場に焦ったヴェドバがガロードへ襲いかかった。 辛うじてGXのオートガードにより魔力刃を防ぐ。 しかしいくらデバイスが高性能でもガロードは魔導師として素人だ。 GXに頼り切りで生み出したラウンドシールドは本来の強度の半分にも満たない。 貧弱な障壁はヴェドバの魔力刃によって火花を散らしながら着実に罅を入れられてゆく。 「フッフッフッ……もらったよ!!」 「まだ……まだぁ!!」 『Rifle form』 ガロードの叫びに呼応するようにGXが魔力の光を纏った。 操縦桿の姿は見る見る内に変わってゆく。 光が晴れた時、ガロードの手の中にあったのは白いライフル銃だった。 障壁を維持したまま銃口をヴェドバに向ける。 「ふんっ! 障壁の越しに狙ってどうするつもり」 「食らえ!!」 『Shield buster』 次の瞬間、勝ちを確信していたヴェドバの鳩尾に拳大の魔力弾が直撃した。 障壁として利用していた魔法陣を魔力構築に利用したのだ。 ヴェドバの余裕に満ちていた表情は一瞬で苦痛に歪む。 「がはっ!!」 肺からすべての空気が吐き出されたような錯覚に襲われながら吹き飛ばされるヴェドバ。 そのままの勢いで木に激突し意識を失った。 素人の放った弾とはいえ、ほぼ零距離で射撃魔法を食らったのだ、無傷で済むはずもない。 「よ、よし、まずは一人……うわああぁ!!」 ヴェドバを退け一安心……とは、他のバルチャー達が許さなかった。 同業者が倒れたのを機に、周りで様子を見ていたバルチャー達が一斉にガロード達に攻撃を開始してきたのだ。 罅の入ったラウンドシールドが雨粒の様に飛んでくる弾を防ぐが、いつ消滅してもおかしくない。 (くっ! これじゃあいくらガンダムでも……!) GXを強く握りしめ、反撃できない歯痒さを押さえつけるガロード。 これだけたくさんのバルチャーに囲まれれば、負けは目に見えている。 それに人数も去ることながら、相手は場数を踏んだバルチャー達。自分は初心者。 絶望的だ。 もしガロード一人であったならば、何が何でも逃げようとしていただろう。 「……って、弱音吐いてる場合じゃねぇよな!」 しかし、今のガロードは一人ではない。 守りたい存在が自分のすぐ傍にいるのだ。 有りっ丈の気合いを籠め、ガロードはライフルフォームのGXの銃口をバルチャー達に向けた。 「こんなところで死んでたまるかっ!」 狙いも付けずに引き金を引く。 人数が人数だけに狙いが定まらずとも弾は当った。 「死ぬもんかっ!!」 無我夢中になって引き金を引く。 魔力弾が放たれる度にバルチャーは一人また一人と倒れていった。 「死なせるもんかあああああっっ!!!」 とにかく一人でも多く倒し活路を開く。 自分の後ろに隠れているティファを守るの為に。 ガロードは引き金を引き続ける。 (ガロード……) 10人ほどのバルチャーがガロードの射撃によって気絶した頃。 ガロードを守っていた障壁についにガタが来た。 度重なる攻撃に耐え切れなくなったラウンドシールドは砕け散り、魔力弾の直撃がガロードを襲う。 「うわぁぁぁっっ!!」 バリアジャケットの強度があったお陰で痛みは耐えられる位だが、衝撃は緩和できない。 必死にその場に止まり反撃に出ようとするが、思ったように体が動かないことに気がつく。 慣れない魔力弾の連射にガロードの精神も限界を迎えようとしていたのだ。 「はぁ、はぁ、はぁ……!ジ、GX!」 『Round shield』 少しでも時間稼ぎをとなけなしの魔力で再び障壁を構築する。 が、構築された障壁は点滅し、今にも消えそうなほど頼りないものだった。 これが消えれば、本当にガロードには打つ手がなくなる。 「く、くっそぉ……これまでか………?」 「ガロード」 「えっ?」 ガロードが今度こそ諦めかけたその時、彼の背に隠れていたティファが口を開いた。 命の危機が迫っているというのに、彼女の声は落ち着きを放っている。 「あなたに、力を…」 「力? 力って一体……?」 ガロードが聞き返す声も聞かずティファは不意に目を閉じた。 何かを感じているのか? 理解に苦しむガロードだったが、変化はいきなりやって来た。 『ニュータイプによるシステムロック解除確認。サテライトシステム起動』 GXが告げた瞬間、ライフルフォームだったGコンはデバイスフォームへと戻った。 「な、なんだ!?」 『Satellite form』 「うわぁ!?」 変化はそれだけでは終わらなかった。 再びGコンが変形し、小型画面と透き通った緑のレンズ部が現れる。 更に発動させていない筈のリフレクターウイングの翼までもが出現。 極めつけは、ただ背負っているだけだった巨大な砲身が稼働し、ガロードの右肩を陣取ったのだ。 連続する変化について行けないガロードの前に、今度は空間モニターの画面が現れる。 そこには細かな文字とともに、こう記されていた。 『SATELLITE SYSTEM GX-9900 NT-001』と。 「サテライト…システム……? これが、その力なのか?」 その問いに小さく頷くティファ。 元の性格の為だろうか、それとも例の不思議な力で勝利を確信しているのだろうか、表情に不安や焦りは見て取れない。 しかしガロードにとっては些細なことだ。 諦めるくらいならとGXを強く握りしめた。 「よぉし……行くぜっ!」 『フラッシュシステム起動。メインシステムとの魔力リンク接続。初回ユーザー登録を行います』 丁度その頃。 ティファの捜索を再開したフリーデンが、今まさにガロード達が戦闘をしている森へ近付いていた。 戦闘と思わしき光を見つけ、もしやガロードではないかと疑いを持ったからだ。 守護騎士一同と雇われ組は偵察に行っているため、ブリッジには緊急時に襲撃できるようはやてが待機している。 「キャプテン、そろそろ戦闘区域に……あら?」 「どうしたですか?」 管制の手伝いをしていたリインがサラの疑問符を浮かべた声に反応する。 「あ、いや、戦闘中だと思われる魔導師一体の魔力値が規則的に上下しているの。どこかと通信でもしているのかしら」 「なに!? まさかっ……!」 「? ジャミル提督?」 「至急偵察に出ている守護騎士達を呼び戻せ!!」 「は、はいです!!」 様子が急変したジャミルに驚きつつも、リインはすぐにシグナム達と通信を始めた。 ジャミルは落ち着きを失い、体を震わせながら拳を握る。 脳裏に過るのは15年前の悪夢。 (やめるんだ! ティファッ!) 強く念じるジャミルだが、頭を駆け巡ったのは激しいノイズだけだった。 同時に、横にいたはやてが月から伸びる一本の光を視認する。 「なんや、あれ……?」 『ユーザー登録完了。魔力受信用ライン精製』 GXを銃を撃つように構えると、月から伸びてきた魔力ラインがレンズ部に直結した。 空間モニターの内容が文字から射撃照準へと変わり、ガロードの狙いと照準の中心がリンクする。 「次っ! 4.03秒後に……月の魔力!?」 「……来ます」 ティファの言葉の直後、膨大な月の魔力が魔力ラインを通してGXへと流れ込んできた。 同時にGX内蔵された小型画面にリフレクターウイングと全く同じ形のケージが現れ、魔力のチャージ量を逐一表示する。 ガロードの背のリフレクターウイングも更なる輝きを放ち、それに怯んだバルチャー達は思わず攻撃を中止した。 歴戦の勘から逃げ出す者も少なくない。 魔力を受けているガロード自身も、デバイスから伝わる魔力の強さにGXを握る力が強まる。 『ライン精製及び受信成功。チャージ完了までのカウントダウンを開始します』 「キャプテン! 例の対象魔力値が大幅に上昇しています!!」 「くっ! ティファよ……!」 ノイズと闘いながらティファに呼びかけるジャミルだが、返答は全くない。 遂には耳から鮮血が垂れ出してきた。 「は、はやてちゃん……」 「誘拐事件は起こるわ月からレーザー光線が降ってくるわ……今度は一体何が起きるって言うんや……」 不安げな表情を浮かべて近づいてくるリインを軽く抱き寄せ、はやては深く溜息をついた。 しかし、不安を抱えているのははやても同じだ。 ジャミルの只ならぬ様子を見ていれば、これから何が起こるのか想像がつかなくても恐怖を掻き立てられる。 何かとんでもないことが起こる。 フリーデンクルー全員が緊張に包まれた。 『Three』 ――秩序の崩壊したこの世界にあって、頼れるのは己の力だけである。 生きるためには、戦わねばならないのだ。 確かに戦争は終結した。 だが、一人一人の戦争は、まだ終わってはいなかった。 『Two』 だから人は力を求めた。 己の欲を満たすため、己の大切だと思うものを守るため。 ただ我武者羅に力を求めた。 手に入れた力は争いを招くと知っていて、それでも人は力を求めた。 そして、人が求めた力によって…… 『One』 悪夢は再び蘇る―― 『Count zero』 「撃つなあああああああああああああ!!!」 「行けええええええええええええええ!!!」 『Satellite cannon』 奇しくも、ジャミルの叫びとガロードが引き金を引くのは同時だった。 瞬間、サテライトキャノンの砲口から眩い『光』が噴き出す。 噴き出した『光』は一本の巨大な束となり触れたもの全てを飲み込んでゆく。 草花が、木が、暗闇が、人が、全て例外なく。 『無慈悲』という言葉が最も当てはまるのだろう、その光の前には如何なるものも抵抗を許されなかった。 「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 そして光の爆心地であるガロードの視界も光に包まれてゆく。 まるで自分の体が消えてゆくような感覚。 広がってゆく無音の世界。 目の前の現象を全く理解することが出来ず、ガロードはただ叫ぶしかなかった。 ――ティファの異変に気付かずに。 かくして、森は数分も経たないうちに光に溶けた。 強い恐怖のみを感じる、死の光に。 『GX-9900 ガンダムX』 15年前一つの世界を滅ぼしかけたデバイスの名である。 ―PREVIEW NEXT EPISODE― 復活したサテライトシステムにより、多くの人間が死に、ティファの心は深く傷ついた。 時空管理局の精鋭達により捕えられたガロードは、GXを奪われ監禁されてしまう。 そして他方では、大いなる悪意が静かに動き始めていた。 第三話「私の愛馬は凶暴です」 戻る 目次へ 次へ
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最終話 理想と現実、その狭間で… 私たちは、なぜ戦うのか? それは誰かに頼まれたわけじゃない。誰かを憎むためじゃない。 愛すべき人を守るため、愛すべき仲間を守るため。 そのためには、私は…手段を選べない。 もし、もしも…管理局が私の愛すべきもの…フェイトちゃん、はやてちゃん、ヴィヴィオ… 他のみんなを理不尽に追い詰めるようなことがあるならば、 私は……例え管理局を敵に回しても守りたい人を守るだろう。 それが…私が戦うという覚悟。 ジェットコースターが動き続ける。 その速度はわからないが、レールに火花を散らすところから見ると、 相当の時間を、規定速度以上で走らせている可能性がある。 「ヴィヴィオ!」 「なのは…ママ?」 その声を聞いてなのはを認識するヴィヴィオ。 今まで会いたかった存在に、ようやっとあえる。 ヴィヴィオは伏せていた目をあけ、あたりを見回す。 だが、ジェットコースターに乗っている状態では、なのはを確認することは出来ない。 「…なのは」 フェイトはなのはを見つめる。 時間が迫る中、ヴィヴィオを助けるべきか…一般の人質、人間爆弾にさせられている人を助けるべきか。 そのどちらの答えも私たちは否定した。 私たちは…両方を助ける。 「……ジェットコースターに乗って、ヴィヴィオを下ろすのと同時に、私が席に着く」 なのはは、フェイトに言う。 それは…自分がヴィヴィオの代わりとなるということ。 ジェットコースターに搭乗する事で、その体重がかけられ、起爆しないということは…誰かが座れば問題はないということ。 それをなのはは、自分がやろうと言うのだ。 人間爆弾は爆発しない。ヴィヴィオも死なない。 だけど、なのはは…。 フェイトは首を横に振る。 「…そんなこと、させない」 「フェイトちゃんには…ヴィヴィオを任せる」 「なのはの、願いでもそれは聞けない」 フェイトは真剣な眼差しで、なのはを見つめる。 振り返るなのは…。 フェイトは顔を伏せる。 「ヴィヴィオには、なのはが必要だよ。だから…私に、やらせて」 「…出来ないよ。私には、フェイトちゃんが必要なの。フェイトちゃんがいない…明日は、私には…考えられない」 「なのは…」 空に浮かぶ二人、月明かりの下で…見つめあう。 誰かが犠牲にならなくては助かることは出来ない…。 すべてに奇跡は通じない。すべてに理想は通じない。 もしそれが起こるなら、フェイトがここに今いることもないし、高町なのは自身もここにはいないだろう。 「ヴィヴィオ…の母親として……私がヴィヴィオを、助けないといけない」 フェイトは、なのはの強い気持ちを汲み取る。 なのはが、一度言い出したら聞かない。 いつまでも、それは変わることはない。 私は…そんな、そんな…なのはのことが大好きだ。 「…なのは?」 「…?」 「私だって……私だって、なのはがいない明日なんか……いやだから。 だから、なのは…生きて、生きて…帰って…き…て」 フェイトの涙交じりの声に、なのはは、フェイトを抱きしめる。 「ありがとう」 なのはは、フェイトの耳元でそっと囁く。 フェイトは、涙を止めることができなかった。 なのはの胸に顔を埋め、涙を流し続ける。 なのはは、フェイトを抱きしめたまま…その、ぬくもりを感じていた。 フェイトちゃん……私の、かけがえのない…大切な人。 なのはは、フェイトから身体を離す。 フェイトもまた、なのはから顔を離し、涙を拭いて…ジェットコースターを見る。 すべてに奇跡は通じないかもしれない。すべてに理想は通じないのかもしれない。 だけど、私は信じ続けたい。このわたしの大切な人と……。 「ククククク……ヒャハハハハハハ」 手足を拘束され捕まった状態で、ジョーカーは大きな声で高く笑う。 バットマンがそんなジョーカーを見つめる。 「バカな奴だ。きっと、あの2人は自分の娘を助けるだろう」 「……」 「人間爆弾は爆発する。世の人間はみんな、己のものが可愛いに決まっているのさ。 お前のような偽善者だったら、たった一人の命を見殺しにするだろうが、 あの2人は、良くも悪くも人間だからな、ヒャハハハハハハ」 バットマンはそんなジョーカーに拳を顔面にぶつける。 ジョーカーは、その拳をもろに受けて、地面に叩きつけられて、気を失ってしまう。 「…少し、黙っていろ」 ジョーカーがいかなる工作をしようとも、彼女達に託した。 それだけだ…彼女達が何をしようが、それは私が全て受け止める。 暴走するジェットコースターが、ジェットコースターの進行上にあるトンネルから飛び出す。 瞬時に、なのはとフェイトは…ジェットコースターに取り付く。 時間が迫る中で、なのはは、一番先頭にいるヴィヴィオを見つけ、そこに近づいていく。 速度が増す中で、風に煽られ飛ばされないようしっかりと手すりを握りながら…。 「なのはママ!!」 ようやっと見つけたかけがえのない存在…愛してやまない、ヴィヴィオとの対面。 その顔や服は汚れていて、目は涙のためか…はれぼったい。 「ヴィヴィオ…動かないで?」 ヴィヴィオに優しく語り掛ける、なのは。 ヴィヴィオは、『うん』と頷いてなのはを待つ。 なのはは、ヴィヴィオのシートベルトを外し、彼女の座っているところに自分も腰をつける。 そして、優しくヴィヴィオを抱きしめる。 「……ごめんね。大変だったでしょう?」 「そんなことないよ!なのはママやフェイトママが助けに来てくれるって信じてたもん!」 ヴィヴィオは、涙を浮かべながらも笑顔で答える。 なのはは、そんなヴィヴィオの頭をそっと撫でてあげる。 そして…ヴィヴィオを、フェイトに手渡す。 ジェットコースターの障害物にぶつからないよう、体勢を低くしながら…。 「なのはママ?」 「……ヴィヴィオ、フェイトママといい子にしていてね?」 その言葉の意味がわからない、ヴィヴィオ…。 フェイトは、なのはを見つめる。なのはは、そんなフェイトを見つめ、頷く。 それを合図に、ジェットコースターからヴィヴィオを抱え、飛び降りるフェイト。 「なのはママ!!なのはママ!!」 ヴィヴィオの悲痛な叫びが聞こえる中……ジェットコースターは轟音と供に爆発する。 ヴィヴィオの悲鳴と供にフェイトの脳裏にうつる…大切な人の残像。 「…なのはぁーーーー!!!!!」 私の始めての友達…。 私の…一番、大切な人。 私を受け入れてくれた。 私を…包んでくれた。 なのはは、私を…… 私を…… …好きといってくれた。 『ウェイン産業における、拉致事件がジョーカー逮捕という結果で解決しました。 多数の死傷者をだした、この事件ですが、ゴッサムシティにおける犯罪が多数あることで、 日本政府はゴッサムシティにジョーカーを国外追放とすることで決着となりました』 『ジョーカーは既に精神が病によって侵されており、残念ながら現在の日本の法律では、裁くことが出来ないと、 ○○大学病院精神外科医の××氏は言い、日本政府としても、これは正しい判断だと言っていますが、 弱腰外交と野党からは批判が相次いでおり、通常国会内において…』 『各国メディアでは、日本政府の対応が遅いという意見が多く、 対テロにおける予防がなっていないと中国の新聞では書かれており、 政府は、日本の警備体制について抜本的な見直しが必要であると声明を発表しました』 『事件解決から一週間。ウェイン産業の代表者であるブルース・ウェイン氏がようやく帰国の途につきました。 ジョーカーの乱入等で、滞在時間の延長と、警察における協力から、警視庁から賞を受け取る予定でしたが、 亡くなった方もいるとしてこれを辞退。 ウェイン産業の代表は、日本において忘れられない傷を負うこととなったようです』 『…ブルース様、長期間、お疲れさまでした』 パソコンにアルフレッドの顔がうつる。 ブルースは、浮かぬ顔でアルフレッドを見つめる。 『さすがに…今回は、効きましたか?』 「…ただ、疲れただけさ。それで?」 ブルースは、アルフレッドに対して、微笑み答える。 アルフレッドは、そんなブルースの気持ちを知っている。 そして知っているからこそ…彼には何も言わない。 『…先日から、土壌汚染等で問題にされている重化学工業の幹部が何者かに殺害されています。 手口は全て一緒で。自然界に有する植物の毒を塗られて殺害されていて、 犯行声明では、自分は自然界の、植物の救世主…ポイズン・アイビーと名乗っております』 「…トランプの次は、草か……わかった」 そう、バットマンに休みはない。 この世の悪が、バットマンという恐怖に怯え、姿を消すまで…バットマンは戦い続ける。 たった1人…いや、違うな。 様々な世界で悪と戦うすべてのものたちと、供に。 「?」 顔をあげる少女 彼女の見上げた青空に小さく飛んでいく飛行機…。 しかし、すぐにその視線は自分の手を繋いでいる両隣の女性にうつる。 嬉しそうに、二人の女性の手を引っ張って歩く少女……。 二人の女性も笑顔でお互いを見ながら、少女に引っ張られていく。 …その先に見える海が見える公園へと向かって…。 前へ 目次へ
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――上を向いて歩け、スバル! お前の拳は天を突く!! 一面に広がる廃墟――否、これは魔法で造り出された立体映像に過ぎない。 時空管理局第七特別演習場――魔導師昇級試験、Bランク試験会場。 虚構の街の中心に寝転がり、スバル・ナカジマは空を見上げていた。 右手に着けたグローブ、左腕に結んだ白い鉢巻き、両足に履いたローラーブーツ、そして懐にしまったペンダント……。 自分の勝負アイテムとも言える装備を一つ一つ指先でなぞり、スバルは再び空に視線を戻す。 ……ティアナ・ランスターの顔が、青空を覆い尽くしていた。 「まぁーた空見てんの? アンタは……」 そう言って自分を見下ろす親友の呆れ顔に、スバルは億劫そうに上体を起こした。 「ティア……もう時間?」 スバルの問いにティアナは時計を取り出し、「あと10分」と短く答える。 「それじゃーあと5分はゆっくり出来るね。その後全力で走れば余裕で間に合う」 そう言って再び倒れかかるスバルの身体を、ティアナは慌てて捕まえる。 「まったく……アンタってホントに空が好きよねー」 呆れたような声と共に差し出されたティアナの手を掴み、スバルはゆっくりと立ち上がった。 別に空が特別に好きという訳ではない――ただ上を向いて歩いていたら、自然と空が目に入ってくるだけだ。 四年前、アンチスパイラルの空港爆破テロにスバルは巻き込まれた。 その当時のスバルは弱く、ただ泣くことしか知らない無力な子供だった。 逃げ遅れ、炎と瓦礫の海の中に独り取り残されたあの時も、スバルはただ悲鳴を上げ、家族を呼びながら泣き叫ぶことしか出来なかった。 そんな時だった、スバルがその人と出会ったのは……。 ――コアドリルインパクト!! 気合いと共に瓦礫の壁を突き破り、『あの人』はスバルの前に現れた。 顔は覚えていない、声もはっきりとは思い出せない。 ただ青いコートに隠れた大きな背中、そこに描かれた『あの人』のエンブレム――炎とサングラスを組み合わせたあのマークだけは、しっかりと心に刻み込んだ。 スバルの憧れた『あの人』との出会いは唐突で、そして一瞬だった。 気がつけば『あの人』はスバルの前から姿を消し、スバルはその後、もう一人の憧れの人――高町なのはに救助された。 あれは夢だったのではないか……今でも時々、スバルはそう思うことがある。 しかし『あの人』は確かに、あの日、あの場所にいた。 ――上を向いて歩け、スバル! その言葉と共にあの時『あの人』から託されたペンダント――金色に輝く小さなドリルが何よりの証拠だった。 その日以来、スバルは上を向いて歩き続けた、上を向いて生き続けた。 逃げない、泣かない、振り返らない、そして立ち止まらない。 ただ己の道をまっすぐ突き進む。 『あの人』も言っていた――自分の拳は、天を突くのだから! そして……スバルは今、ここにいる。 「ティア……征こうか」 左腕の鉢巻きを額に巻き直し、スバルはティアナを――無二のパートナーを振り返る。 迷いも曇りも無いスバルの瞳――その奥で輝く相棒への絶対の信頼に、ティアナもまた力強く頷いた。 「当ったり前でしょ、馬鹿スバル」 Bランク昇級試験、実技審査。 絶対に合格する――二人はそう決意を固めるのだった。 実技試験は、簡単に言えば障害物競走のようなものらしい。 中空のウィンドウに映る試験官――リインフォースⅡ空曹長の説明を、スバルとティアナはそう結論付けた。 コース各所に設置されたポイントターゲットを全て撃破し、ゴールに辿り着く。 制限時間内にゴール出来なかったり、一体でも破壊に失敗、またダミーターゲットを破壊してしまった場合は失格となる。 試験の概要としてはこのようなものだが、やはり障害物競走という印象は拭えないというのが二人の感想である。 『――ではスタートまであと少し、ゴール地点で会いましょう』 ウィンドウが切り替わり、試験開始用のシグナルが表示される。 三つの光点の内一つが消え、二つ目、そして――、 『スタート!!』 リインフォースⅡの合図と共に、二人は無人の街へと繰り出した。 ハイウェイを疾走する二人の前に、最初のターゲット――人間大の顔に手足を付けたような不恰好なロボットが現れる。 その数、三つ。 ガンメン――時空管理局が作業用に開発した新型の自立行動型魔導機械である。 未だ試験段階ではあるものの、被災地での救助活動や危険地域でのロストロギア回収作業など、その活躍が期待されている――らしい。 ニュースで見た時には二人揃って「これ明らかに戦闘用だろ」と断言したスバルとティアナだったが……どうやらその認識は間違っていなかったらしい。 救助だの探査だのといった「建前」的な目的よりも、こうして銃器で武装している方が遥かに似合っている――ガンメンという兵器は。 「ティア、援護よろしく」 背後の相棒に一言言い置き、スバルはローラーを噴かせた。 右手のグローブ――母の形見の篭手型デバイスが唸りを上げ、手首部分のタービンが紫電を飛ばしながら激しく回転する。 ……アンダーウェアの下のペンダントが、脈動するように光を発する。 「リボルバーシュート!!」 気合いと共にスバルは更に加速し、先頭のガンメンに砲弾のように突っ込んだ。 拳が敵の装甲に文字通り突き刺さるが、スバルはまだ止まらない。 腕が、上半身が、全身がガンメンを貫き、突き破る……! 「あたしを誰だと思ってる!!」 雄々しく吼えるスバルの背後で、無残に破壊されたガンメンが爆破四散する。 まず、一体。 ……まだ身近にもう二体残っていることを、スバルはすっかり失念していた。 接近戦に切り替えたのか銃器を捨て、残りのガンメンが左右からスバルに襲い掛かる。 「げっ……!」 敵の思わぬ奇襲にスバルは蛙の潰れたような声を上げるが、それでも反射的にガンメンの片割れを殴り飛ばした。 しかし残るもう一体の鉤爪が、隙だらけのスバルの背中に迫る。 その時、 「こ……んの、馬鹿スバル!!」 怒号と共に放たれた光の弾丸が、ガンメンに眉間を貫いた。 「ティア!」 窮地を救われたスバルが満面の笑みで後方の親友――二挺拳銃を構えるティアナを振り返った。 ……修羅がいた。 「スバル! アンタ馬鹿ぁ!? 呑気に格好つけてて不意打ち喰らいかけるなんて馬鹿にも程があるわよこの馬鹿!!」 「三連発で馬鹿って言われた!?」 「四連発よ! そして今から五回目を言ってやろわ……この一分一秒にも時間はどんどん減ってるんだから、へらへら笑ってないでとっとと進め馬鹿スバル!!」 ティアナの雷から逃げるように、スバルは慌てて身を翻した。 協調性――実際の連携はともかく――に多少の問題は見られるものの、概ね順調にコースを進む受験生達を、はやてとフェイトは試験場上空の管制ヘリから見守っていた。 はやてが目をつけた二人の新人――この試験の結果次第では新部隊の前衛への引き抜きも考えている、期待の人材である。 「小型ガンメンをどれもほぼ一撃で破壊か……新人にしては中々やるね」 好意的に二人を評価するフェイトに、はやても頷く。 「せやな。正面突破してるスバルちゃんも凄いけど、ティアナちゃんも低い攻撃力でよー頑張っとるわ。装甲の継ぎ目とか、ガンメンの弱点を的確に狙い撃ちしとる」 「逆に言えば、そういう面ではガンメンも改良の必要ありってことだけどね」 和やかに談笑する二人に割り込むように、その時、試験監督中のリインフォースⅡからの通信ウィンドウが開いた。 『お二人ともなごんでるところに恐縮なんですが、ちょっと報告したいことがあるんですけど……』 「リイン? どないしたん?」 首を傾げるはやてに、リインフォースⅡは困ったような表情で報告する。 『受験生のスバル・ナカジマさん――鉢巻き巻いてる方の娘なんですけど、彼女から断続的に螺旋反応が検出されてるんです』 リインフォースⅡの言葉に、二人は驚愕に目を見開いた。 螺旋力――半年前、時空漂流者ロージェノムからもたらされた、魔力とは根本から異なる未知のエネルギー。 この謎の力について現時点で判明している事実は三つ。 螺旋力の発現には特別な才能や資質を必要とせず、しかもAMF下でも問題なく発動可能――理論上は、いつでもどこでも誰でも使用可能であるということ。 全次元世界共通の敵――アンチスパイラルの尖兵ムガンに対して、螺旋力を利用した攻撃が現状最も有効であるということ。 そしてもう一つ、アンチスパイラルは螺旋力を絶対的な敵と見做し、その存在を許していないということ。 それはつまり……、 「はやて……私、何か嫌な予感がする」 険しい表情でそう口にするフェイトに、はやては同意するように首肯する。 「フェイトちゃん。念のため、いつでも出撃られるようにしといてや。なのはちゃんの方にも連絡入れとくわ」 アンチスパイラルと敵対する次元世界にとって、螺旋力は希望を掴むパンドラの箱である。 しかし同時に破滅を呼び込む禁断の果実にも、螺旋力はなり得るのである。 「うおおおおおぉっ! リボルバーシュート!!」 人間砲弾と化したスバルが、ガンメンを三体纏めて突き破った。 その傍らではティアナが、宙に浮かぶ巨大な顔――飛行型ガンメンを一体ずつ撃ち落としている。 障害物競走も佳境に入り、コースを進み、標的を破壊する二人の身にも力が入る。 しかし同時に、これまでの戦闘での疲労やダメージも、徐々にではあるが確実に蓄積していた。 「あぁ~、ちょっと休憩……」 「そんな時間無いわよ。休みたいならさっさとゴールする!」 地面に座り込もうとするスバルを叱咤し、しかしティアナ自身も疲労に息を吐いた。 後方からちまちま援護している自分もこれだけ疲れているのだ、自分自身を弾丸代わりに特攻しているスバルの消耗は並ではないだろう。 しかし、制限時間もあと僅か、ここで立ち止まっている暇は無い。 酷なことかもしれないが、無理をしてでも前に進まなければならないのだ。 先に進みたいのならば、夢に近づきたいのならば。 「ほら、行くわよスバル」 そう言って手を差し伸べるティアナの背中の向こうで、その時、何かが光った。 咄嗟にスバルが地を蹴り、押し倒すようにティアナを組み伏せる。 「ちょっ……スバル!?」 狼狽するティアナの目の前を、一筋の閃光が突き抜ける。 魔力弾――否、今のは何かが違う。 体勢を立て直しながら敵の奇襲を分析したティアナは――隣で立ち上がるスバルも――次の瞬間、上空から自分達を見下ろす『敵』の姿に愕然とした。 円と直線で構成される無機質なシルエット、不気味に発光する結晶状のボディ――今の二人にとっては想定外の、しかしいずれは相対していたであろう、明らかな『敵』。 「「アンチスパイラル……!」」 その尖兵――ムガン。 それも一体や二体ではない――百、二百、それ以上の大群である。 最初に動いたのはスバル達でもムガンでもなく――フェイトだった。 デバイスを起動しながら管制ヘリから飛び降り、鉄砲玉のように敵陣の真ん中に突っ込む。 大剣型に変形したバルディッシュが魔力の刃を形成し、伸びる、伸びる、伸びる――! 「このおおおおおおっ!!」 限界まで魔力を注ぎ込んだ魔力刃――もはや巨大な光の柱としか見えぬそれを、フェイトは気合いと共に振り下ろした。 その一撃でダース単位のムガンが切り裂かれ、周囲の味方を巻き込みながら爆発する。 その光景にまずスバルが我に返った。 グローブに覆われた右拳を握り締め、単身敵軍と睨み合うフェイトに助太刀しようと走り出す――前に、ティアナに後ろ襟を掴まれ阻止された。 「……ちょっとティア、放して欲しいんだけど?」 「アンタ馬鹿ぁ!? Cランクの下っ端でしかもバテバテでついでに馬鹿なアンタがしゃしゃり出ても足手纏いにしかならないわよ!! 余計なこと考えてないで、さっさと逃げるわよこの馬鹿スバル!!」 お前の考えはお見通しだとばかりに怒鳴り散らすティアナの剣幕に、スバルは観念したように走り出した――後ろへと。 『受験生のお二人さん! 緊急事態です!!』 コースを逆走するスバル達の前にウィンドウが開き、慌てたような顔のリインフォースⅡが映し出される。 『アンチスパイラルの大量出現により、この辺り一帯は第一級戦闘区域に指定されました! 試験は中止、二人は早く逃げて下さい!!』 「「もう逃げてます!!」」 切羽詰ったようなリインフォースⅡの警告に、二人も必死な形相でそう返した。 ムガン達の身体に光が集束し、ビームの砲弾が撃ち出される。 スバル達を狙い――フェイトを無視して――放たれた攻撃は、その大部分がフェイトの魔法によって相殺された。 しかし僅かに撃ち漏らした一部の生き残りが、流星のように二人の頭上から降り注ぐ。 「やばっ……!」 スバルはティアナを後ろから抱え上げ、ローラーを全力で噴かせて砲撃の雨の隙間を掻い潜る。 「ちょっとスバル、何すんのよ!? アンタに抱かれて無人の街で大量の無機物と追いかけっこなんて……羞恥プレイにも程があるわよ!?」 腕の中のティアナが赤面しながら抗議しているが、スバルは無視して更に加速する。 両脚のローラーが過負荷に悲鳴を上げ、バチバチと火花を飛ばしている。 「ムガン……まだ追って来てる?」 振り返らず前を見据えたまま、スバルはティアナに尋ねた。 その問いにティアナは顔を上げ、スバルの肩越しに背後を確認する。 「……ばっちり、相変わらず、ストーカーみたいにぞろぞろついて来てるわ。試験官の人が足止め頑張ってくれてるけど、攻撃防ぐのに手一杯みたい」 ティアナの現状報告に、スバルの顔に焦燥の色が浮かぶ。 ローラーはもう限界に近い……そう長くは走れない。 もう、逃げられない……。 自分の最も嫌いな選択肢を進んでいる上、その道すらも壁に阻まれかけているという現実に、スバルは歯噛みした。 その時、ムガンの一体がフェイトの頭上を飛び越え、二人を目掛け降下を始めた。 体当たりによる自爆攻撃――否、あの大きさと重量で押し潰すつもりだ。 フェイトは撃ち落そうとバルディッシュを構えるが、ある一つの懸念が引き金にかかる指先を躊躇させる。 ここであれを破壊すれば、爆発に二人も巻き込んでしまう……! 迷うフェイトを嘲笑うように、ムガンはスバル達の頭上に迫る。 その時、不意にスバルが立ち止まった。 腕に抱いたティアナを解放し、迫り来るムガンを無言で見上げる。 ムガンを睨むスバルの眼に光る、決意の炎にティアナは気づいた。 まさか……!? 嫌な予感に襲われるティアナだったが、その予感は正しかった。 スバルの右手のデバイスが起動し、タービンが紫電を放ちながら高速回転する。 まわる、回る、廻る――! 尚も回転数を上げていくタービンに呼応するように、荒れ狂う紫電の渦がスバルの周囲を暴れ回る。 ……懐のペンダントが、鼓動している。 暴走するように唸りを上げる右拳を握り締め、次の瞬間、スバルが跳んだ。 その常人離れした脚力で重力に逆らい、ムガン目指して垂直に跳ぶスバルを、直後、ムガンのビームが呑み込んだ。 「スバル!!」 無慈悲に放たれた死の光に消えた親友に、ティアナは悲痛な叫びを上げる。 しかし涙と絶望に濡れたその顔は、次の瞬間、驚愕に塗り潰された。 スバルは……生きていた。 ムガンのビームを拳で受け止め――寧ろ逆に突き破りながら、尚も上昇を続けている。 その姿は、固い岩盤を掘り進むドリルに似ている……ティアナはそう思った。 「あたしの拳は――」 ビームの壁を貫きながら、スバルが咆哮を轟かせる。 その拳は遂にムガン本体まで辿り着き、表皮を突き破り、奥へ奥へと前進を続ける。 そして遂に、スバルはムガンの身体を貫通し、 「――天を突く!!」 大空の中、太陽へと名乗りを上げるスバルの背中で、ムガンが爆炎と共に消滅した。 「あたしを誰だと思ってる!!」 無事に着地し、決め台詞と共に格好つけるスバル――その足元が、次の瞬間、音を立てて崩れ落ちた。 突然の地面の崩落はスバルだけでなくティアナをも巻き込み、 「そんな、何このオチぃいいいいいいいいぃっ!?」 「ちょっと、何でアタシまでぇえええええぇっ!?」 ……間抜けな悲鳴を残して、二人は奈落の底へと消えていった。 天元突破リリカルなのはSpilai 第3話「あたしの拳は天を突く!!」(了) 戻る目次へ 次へ
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ステキな朝を二人のママと―― ヴィヴィオ【朝のジョギングは日課です】 ヴィヴィオ「ゴールッ!」「ママ、ただいま!」 なのは「おかえりー(ハートマーク)」 ヴィヴィオ【今週はフェイトママもお休みで毎日楽しいし 高町ヴィヴィオ今日も絶好調です!】 魔法少女リリカルなのはViVid Memory;08☆「ブランニューステージ」 新しい物語――私たちから始まります リリカル マジカル がんばります ヴィヴィオ「じゃあ、フェイトママ」 なのは「いってきます」 フェイト「いってらっしゃい」 なのは「そういえばヴィヴィオ、新しいお友達、アインハルトちゃんだっけ?ママにも紹介してよ」 ヴィヴィオ「んー、お友達っていうか先輩だからねー」「もっとお話ししたいんだけど、なかなか難しくて」 ヴィヴィオ【そう 出会ったのは少し年上の女の子】 ヴィヴィオ「あ…!」「アインアハルトさん!」 アインハルト「はい」 ヴィヴィオ「ごきげんよう、アインハルトさん!」 アインハルト「ごきげんよう、ヴィヴィオさん」 ヴィヴィオ【中等科の1年生アインハルト・ストラトスさん アインハルトさんは凄く強い格闘技者で 真正古流ベルカの格闘武術覇王流(カイザーアーツ)の後継者 それからベルカ諸王時代の王様 覇王イングヴァルト陛下の正当な子孫 私もこないだ試合をさせてもらったけどまだまだ全然かなわなくって できれば今よりもっと仲良くなって 一緒に練習したりお話したりしたいけど… アインハルト「――ヴィヴィオさんあなたの校舎はあちらでは」 ヴィヴィオ「あ、そ、そうでしたっ!」 アインハルト「それでは」 ヴィヴィオ「あ」「ありがとうございます、アインハルトさん」 ヴィヴィオ【なかなかうまくいかなかったり】 アインハルト「――遅刻しないように」「気を付けてくださいね」 ヴィヴィオ「はいっ!」「気をつけますッ!!」 ヴィヴィオ【なにげない一言が嬉しかったり そんな一喜一憂の日々だけど 今はもうなくなってしまった旧ベルカの出身同士 『強くなりたい』格闘技者同士 触れあえる時はきっとあるから】 リオ「……て言うかー」「今日も試験だよ―!大変だよ―!」 ヴィヴィオ「そうなんだよね~~!!」 ヴィヴィオ【初等かも中等科もただいま一学期前期試験の真っ最中です】 リオ「でも試験が終われば、土日とあわせて4日間の試験休み!」 コロナ「うん!楽しい旅行が待ってるよー」 ヴィヴィオ「宿泊先も遊び場ももう準備万端だって!」 リオ・コロナ「おおー!」 ヴィヴィオ【今回のお休みはママ達の引率でみんな一緒に異世界旅行!】 リオ「よーし、じゃあ楽しい試験休みを笑顔で迎える為にッ!」 コロナ「目指せ100点満点!」 「お―――――っ!」 同時刻 高町家 フェイト「エリオ、キャロ、そっちはどう?」 エリオ[はい、さっき無事に引き継ぎが終わりました] キャロ「予定通り、週末からお休みです!」 フェイト「そう、よかった!」 なのは[じゃあ、予定通りにみんなで行ける] [春の大自然旅行ツアー&(アーンド)ルーテシアも一緒にみんなでオフトレーニング!] 同時刻 ナカジマ家 ウェンディ「みんなで旅行、あたしも行きたいッス~~!」「ノーヴェとスバルだけってずるいッス~~!」 ノーヴェ「あー、うるせーな」「あたしらだって別に遊びで行くわけじゃねー。スバルはオフトレだし、あたしはチビ達の引率だ」 ディエチ「とかいって。通販で水着とか川遊びセットを買ってるのをおねーちゃんが知らないとでも?」 チンク「なんだ、そうなのか」 ノーヴェ「!!!」「おまえ、ヒトのものを勝手にッ!」 ディエチ「いや発送データに中身書いてあるし」「まあ、いいじゃないノーヴェはバイトも救助隊の研修も頑張ってるんだし」 チンク「まったくだ」 ノーヴェ「だから遊びじゃねーって」 ウェンディ「いいな~いいなぁ~ッス~」 チンク「そういえば、あの子……アインアハルトも一緒か?」 ノーヴェ「そのつもり、これから誘うんだけどね」 アインハルト「合宿…ですか?」「すまみません。私は練習がありますので」 ノーヴェ[だからその練習のために行くんだって]「あたしや姉貴もいるし、ヴィヴィオも来る。練習相手には事欠かねー」 [しかも魔道師ランクAAからオーバーSのトレーニングも見られる] アインハルト「はい…」 ノーヴェ「ついでに歴史に詳しくておまえの祖国のレアな伝記本とか持ってるお嬢もいる。まあたったの4日だ、 だまされたと思ってきてみろ」 「つまんなかったら、走り込むなり一人で練習するなりしてていいんだし」 アインハルト「あの……」 ノーヴェ[いいから来い!絶対いい経験になる!]「あとで詳しいことメールすっから、とりあえず今日の試験がんばれな」 アインハルト[…はい……] ディエチ「ノーヴェのああいう強引さってつくづくスバルと姉妹だよねえ」 チンク「ああ…そうだな」 ウェンディ「うう、あたしも行きたかったっス~」「バイトが~~」 で、そんなこんなで試験期間も無事に終了 なのは「試験終了お疲れさま」 フェイト「みんなどうだった?」 リオ「花丸評価いただきました!」 ヴィヴィオ「三人そろって」 コロナ「優等生ですッ!」 成績表(注:手に持ってる大きめの長方形のカードに印刷されてます) リオ S(3/235) 90・85・88・98・91 ヴィヴィオ A(22/235) 97・100・100・92・90 コロナ B(87/235) 100・100・100・100・100 なのは「わー。みんなすごいすごーいっ」 フェイト「これならもう堂々とおでかけできるね!」 リオ「あははー」 なのは「じゃあ。リオちゃんとコロナちゃんはいったんおうちに戻って準備しないとね」 リオ・コロナ「はいっ」 レイジングハート「Good job」 ヴィヴィオ「ありがとレイジングハート」 フェイト「おうちの方にもご挨拶したいから車出すね」 ヴィヴィオ「あ、じゃあ準備すませてわたしも行く!」 なのは「あー、ヴィヴィオは待ってて、お客様が来るから」 ヴィヴィオ「おきゃくさま?」 レイジングハート「It seems to have come.(いらっしゃったようです)」 アインハルト「こんにちは」 ヴィヴィオ「アインハルトさん!?…とノーヴェ!」 アインハルト「異世界での訓練合宿とのことでノーヴェさんにお誘い頂きました」「同行させて頂いても宜しいでしょうか?」 ヴィヴィオ「はいッッ!」「もー全力で大歓迎ですッ!」 フェイト「ほらヴィヴィオ上がってもらって」 ヴィヴィオ「あ、うん」「アインハルトさんどーぞ!」 アインハルト「お邪魔します」 フェイト「あの子が同行するって教えなかったの正解だね、ノーヴェ」 ノーヴェ「はい、予想以上に」 リオ・コロナ「こんにちはー」 ヴィヴィオ「はい」 なのは「はじめまして…アインハルトちゃん」「ヴィヴィオの母です。娘がいつもお世話になっています」 アインハルト「いえ…あの、こちらこそ」 なのは「格闘技強いんだよね?凄いねぇ」 アインハルト「は…はい……」 ヴィヴィオ「ちょ、ママ!アインハルトさん物静かな方だから!」 なのは「えー?」 フェイト「さて…ここから出発するメンバーはみんなそろったし。途中で2人の家によってそのまま出かけちゃおうか」 「はぁ―――い!」 コロナ「あ、ヴィヴィオ着替え着替え!」 ヴィヴィオ「あーそうだ!クリス手伝ってッ!」 リオ「賑やかになりそうですねー」 ノーヴェ「ああ」 リオ「そういえばスバルさんたちは別行動なんですか?」 ノーヴェ「スバルは次元港で待ち合わせ。ちょうど仕事終えてるころじゃねーかな」 湾岸警備隊 宿舎 同 特別救助隊オフィス スバル「それでは司令!」「スバルナカジマ防災士長」「本日只今より4日間の訓練休暇に入ります!」 ヴォルツ「おう頑張ってこいや。今回の訓練は例の執務官殿も一緒だったか」 スバル「はい、ランスター執務官と一緒にいろいろ鍛えなおしてきます」 本局 次元航行部第3オフィス ティアナ「オフトレとはいえ、本格的な戦闘訓練はちょっと久しぶりよね」 「気合い入れなきゃ!ヴィヴィオやアインハルト達にダメなところは見せられないし!」 クロスミラージュ「Yes master」 ティアナ「でもその前にこのデータ整理を終わらせなきゃ」 クロスミラージュ「Let s work hard(がんばりましょう)」 無人世界カルナージ アルピーノ家 メガーヌ「じゃ、それで人数確定ね」 なのは[はい!][お世話になりますアルピーノさん] メガーヌ「いいえ~♪じゃ待ってるわね~」 ルーテシア「ふふ」「うふふ」「ねえガリュー、私自分の才能がちょっと怖いかも」「なんといっても今回のおもてなしは過去最高!」 「レイヤー建造物で組んだ訓練場は陸戦魔導師の練習に!」 「わたしとガリューの手作りアスレチックフィールドはみんなのフィジカルトレーニングに!」 「我が家の横に建築した宿泊ロッジも内外ともにパワーアップ!設計わたし!」 「掘ったら出てきた天然温泉も癒しの空間にノリノリで改造ッ!!」 「完璧!」「もと六課のみなさんもヴィヴィオ達も!」「我が家にど―――んとおいでませ――!!」 メガーヌ「ルーテシア~スープの味見手伝ってー」 ルーテシア「はーい、ママ」 ヴィヴィオ『みんなで一緒のトレーニング&旅行ツアー』『クリスとの遠出も初めてだし』『アインハルトさんがいっしょだし』 「アインハルトさん。4日間よろしくお願いしますね」 アインハルト「はい。軽い手合わせの機会などあればお願いできればと」 ヴィヴィオ「はい!!!こちらこそ、ぜひッッ!」 ヴィヴィオ【これから4日間素敵なイベントが はじまります!】 新展開は鮮烈に☆
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魔法少女リリカルなのはStrikerS 第21話【決戦】 ヴィータ「闇の書の守護騎士。あたしたちはたぶん、レリックや空へ上がったゆりかごと同じような、 ただの兵器だったんだと思う。はやてが、あたし達に生きる意味をくれて、 罪を償いながら一緒に過ごしてきて、いつの間にか10年、大切なものはずいぶん増えちまった。 はやてと仲間たちと、教え子たちと。守らなきゃならねぇもんがある。だから、戦うんだ!」 ユーノ「聖王のゆりかごのデータ、さすがにかなり少ないけど、発掘は無事完了。今送るよ」 クロノ「ああ。こちらから艦隊と前線全てに送信する」 リンディ「あの船の危険度は?」 ユーノ「極めて高いです。先史時代の古代ベルカですらすでにロストロギア扱いだった古代兵器。失われた世界、アルハザードからの流出物とも…」 クロノ「…アルハザード」 リンディ「我が家にとっては、あまり思い出したくない名前だけど」 ユーノ「その真偽はともかくとして、最大の危険は軌道上に到達されること。軌道上―二つの月の魔力を受けられる位置を 取ることで、極めて高い防御性能の発揮と地表への精密狙撃や魔力爆撃が可能となるっていうのは、 教会の伝承にあるとおりだけど。こっちの調査では、次元跳躍攻撃や次元空間での戦闘すら可能とある」 クロノ・リンディ「!」 ユーノ「その性能が完全に発揮されれば、時限航行隊の艦隊とも正面から渡りあえるかもしれない」 リンディ「軌道上に上がる前に、止めないといけないのね」 クロノ「対抗策は!?」 ユーノ「鍵となる聖王がそれを命じるか本体内部の駆動炉を止めることができれば」 クロノ「鍵の聖王、ヴィヴィオがスカリエッティの戦闘機人に操作されてる可能性が高い」 リンディ「スカリエッティの逮捕でも、止まる可能性はあるのね」 アルフ「お母さん、クロノ。スカリエッティの逮捕はフェイトがやってくれるよ」 リンディ「アルフ」 アルフ「フェイトがずっと頑張って、今まで追いかけてきたんだ。きっと捕まえてくれる」 ゆりかごのほうでは、はやてを中心に航空魔道師たちが必死にガジェットと応戦中。 はやて『それにしても、大きい。外からやと、魔道師が何人集まろうとどうにもなれへんなぁ』 「ミッド地上の航空魔道師隊。勇気と力の見せ所やで!」 魔道師一同「はいっ!!」 魔道師『高町一尉!奥へと進めそうな突入口が見つかりました!突入隊20名が先行しています!』 なのは「はやてちゃん!」 はやて「外周警戒はあたしが引き受ける!なのはちゃん、ヴィータ。いってくれるか?」 ヴィータ「おう」 なのは「了解」 ヴィータ「AMF!?」 なのは「内部空間、全部に?」 魔道師『別働隊、通路確認。危険物の順次封印を行います』 フェイト「了解!各突入ルートはアコース査察官の指示通りに」 魔道師『はい!』 フェイト「ありがとうございます、シスターシャッハ。お二人の調査のおかげで迷わず進めます」 シャッハ「探査はロッサの専門です。この子達が、頑張ってくれました。このまま奥へ!スカリエッティの居場所まで!」 フェイト「はい」 ティアナ「確認するわよ。あたしたちはミッド中央、市街地方面。敵戦力の迎撃ラインに参加する。 地上部隊と協力して向こうの厄介な戦力、召喚師や戦闘機人たちを最初に叩いて止めるのが、あたし達の仕事」 スバル「他の隊の魔道師たちはAMFや戦闘機人戦の経験がほとんどない。 だからあたしたちがトップでぶつかって、とにかく向こうの戦力を削る!」 キャロ「後は、迎撃ラインが止めてくれる、というわけですね」 ティアナ「そう」 エリオ「でも、何だか。何だかちょっとだけ、エースな気分ですね!」 ティアナ「そうね」 キャロ「ガジェットも戦闘機人も、迎撃ラインを突破されたら、市街地や地上本部までは一直線です」 スバル「市民の、安全と財産を守るのがお仕事の管理局員としては、絶対!行かせるわけにはいかないよね」 ティアナ「後は、ギンガさんが出てきたら」 エリオ「優先的に対処」 キャロ「安全無事に確保」 スバル「うん」 ティアナ「よっし、行くわよ!」 ティアナ『こっちは結界の中。ライトニングもスバルも分断距離と戦力負担はかなり大きい。 背中を見せたら、その瞬間で終わる!』 『ライトニング、スバル!作戦、ちょっと変更。目の前の相手、無理して一人で倒す必要はないわ。 足止めして削りながら、それぞれに対処。それでも充分、市街地と中央本部は守れる』 ノーヴェ「ばっかじゃねぇの!そんなに時間かかんねぇよ!」 ウェンディ「あんたは捕獲対象じゃねぇっすから。殺しても怒られねぇっすからね~」 ティアナ『念話が聞かれてる?』『通信は以上!全員、自分の戦いに集中!!』 シャッハ「これは、人体実験の素体?」 フェイト「だと思います。人の命をもてあそび、ただの実験材料として扱う。あの男がしてきたのは、こういう研究なんです」 シャッハ「一秒でも早く、止めなくてはなりませんね」 フェイト「はい」 フェイト「シスター!」 シャッハ「フェイト執務官。こちらは無事です、大丈夫。戦闘機人を一機、捕捉しました。 この子を確保しだい、すぐにそちらへ合流します」 セイン「……」 フェイト「了解しました」 トーレ「フェイトお嬢様」 フェイト「っ…」 トーレ「こちらにいらしたのは帰還ですか?それとも、反逆ですか?」 フェイト「どっちも違う。犯罪者の逮捕、それだけだ」 なのは「ヴィータちゃん。あんまり飛ばしすぎる」 ヴィータ「はぁ、はぁ、うるせぇよ。センターや後衛の魔力温存も、前衛の仕事のうちなんだよ」 なのは「うん」 管理局員「突入隊、機動六課スターズ分隊へ」 なのは「はい!」 管理局員「駆動炉と玉座の間、詳細ルートが判明しました」 ヴィータ「っ…」 なのは「真逆方向?」 ヴィータ「突入隊のメンバーはまだそろわねぇか?」 管理局員「各地から緊急徴兵していますが、後、40分は」 ヴィータ「仕方ねぇ。スターズ01とスターズ02、別行動で行く」 管理局員「了解しました。急いで応援をそろえます」 なのは「ヴィータちゃん!?」 ヴィータ「駆動炉と玉座のヴィヴィオ。かたっぽとめただけで止まるかもしれねぇし、 かたっぽとめただけじゃ止まらねぇかもしれねぇんだ。こうしてる間にも、外は危なくなってる」 なのは「でも、ヴィータちゃん。ここまでの消耗がっ」 ヴィータ「だからあたしが駆動炉に回る。おまえはさっさとヴィヴィオを助けて来い」 なのは「でも!」 ヴィータ「あたしとアイゼンの一番の得意分野、知ってんだろ? 破壊と粉砕。鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン。砕けねぇものなぞ、この世にねぇ。 一瞬でぶっ壊しておまえの援護に行ってやる。さっさと上昇を止めて、表のはやてに合流だ」 なのは「うん。気をつけて!絶対、すぐに合流だよ!?」 ヴィータ「あったりめーだ!」 そしてティアナのほうは一人にナンバーズ二人で悪戦苦闘。 幻影を作るも看破され、ノーヴェに攻撃をもらってしまう。 ティアナ『こんな狭いところで二人相手じゃ、持ちこたえるのが精一杯。 結界破壊スタッフが来るまで、なんとしてでも生き延びなきゃ!』 ウェンディ「ディード!あんたも?」 ディード「オットーの指示。あの幻術使いは確実に仕留めておかないと、面倒だって」 キャロ「あなたはどうして?何でこんなことするの!?」 ルーテシア「…」 エリオ「こんなところで!こんな戦いをする理由はなんなんだ!?」 キャロ「目的があるなら教えて!悪いことじゃないなら、私達、手伝えるかもしれないんだよ!?」 ルーテシア「っ…」 ゼスト「局の騎士か?」 シグナム「本局機動六課、シグナム二尉です。前所属は首都防衛隊。あなたの後輩ということになります」 ゼスト「そうか…」 シグナム「中央本部を、壊しにでも行かれるのですか?」 ゼスト「古い友人に、レジアスに会いにゆくだけだ」 シグナム「それは、復讐のために?」 ゼスト「言葉で語れるものではない。道を、あけてもらおう」 シグナム「言葉にしてもらわねば、譲れる道も譲れません!」 アギト「グダグダ語るなんてな!騎士のやるこっちゃねぇんだよ!」 リイン「騎士とか!そうでないとか!お話をしないで意地をはるから戦うことになっちゃうですよ!」 アギト「うるせぇバッテンチビ!剣精アギト、大儀と友人ゼストがために!この手の炎で!押して参る!」 リィン「祝福の風、リィンフォースツヴァイ。管理局の一員として、あなた方を止めさせて貰います!!」 スバル『ギン姉に怪我させちゃうから、振動はさいは使えない。狙うのは、打撃や破壊じゃなくて、 魔力ダメージでのノックアウト。ギン姉と、本気の勝負なんて生まれて初めてだけど』 「私が絶対!助けるから!」 ヴィータ「ここまでくりゃ、もうちょっとだ。カートリッジもまだある。大丈夫。楽勝だ」 「あんとき、なのはを落としたのは、てめーらの同類か!ざけんなよ。一機残らず、ぶっ壊してやるうぅぅ!」 次回予告 なのは「続く戦い、傷ついてゆく隊員たち。立ち向かう痛みと立ち向かえない痛み。 消せない過去とそれぞれの傷跡。次回、魔法少女リリカルなのはStrikerS第22話、Pain to Pain、Take off!」
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「ブルース・ウェイン氏の来日は、今回で二回目となっております。ウェイン氏はウェイン産業の社長であります。 ウェイン産業は世界各地に支社を持つ大企業であり、その分野は軍事から薬品、食品等、様々なところに行き届いており、目に触れる消費者の方も多いでしょう。 ウェイン氏の来日の目的は、日本支社の一周年パーティーです。 ウェイン氏は今日の午後にも自家用機でナリタ空港に到着するそうです……」 「ウェイン産業の本社があるゴッサムシティでは、ウェイン氏以外にもバットマンと名乗る奇怪な男のことで有名です。 ゴッサム警察は、彼に関する情報を集めており、懸賞金もかけて捜査にあたっています。また、それに呼応されるかのように複数の怪人と思われるような犯罪者も現れています。 最近起きました通称『ペンギン』の事件においては…」 「日本の空港では既にかなりの人数のブルース氏のファンが集まっています。 これはブルース・ウィエン氏が総資産額10兆円とも言われる大富豪であり、 さらには、いぜんとして婚約者がいないためということもあり、かなりの女性の方がプラカードを持ち、アピールしているようです」 「ウェイン産業日本支社は、新たに建設されたお台場副都心にあり、その高層ビルは、50階立てに相当します。 日本支社の一周年パーティーでは金融や芸能界の著名人のほかにも政府の閣僚のかたも訪れるということで、強固な警備が施されるということです。 なお、近くのお台場ではテレビ局主催のお台場祭が開催されており、人手がとられると、関係者は語っています」 「ゴッサムシティにおけるバットマンは、警察に協力しているよう一見見えますが、その見方は様々であり、賛否両論ということです。 一時期ゴッサムシティの犯罪の検挙率は世界でもっとも低かったのですが、バットマン登場後、検挙率は上昇している傾向にあります。 ですが、その一方でジョーカー、ペンギン、リドラーといった凶悪犯罪者が出現しており、 バットマンの存在が犯罪を助長しているのではないかという意見も聞かれています」 第1話 来日 「ブルースさま、ブルースさま…」 そのステュワーデスの甘い声で、目をあける。 まだ意識は完全に回復はしていないが、 空の上では、誰にも襲われることはないと思っているせいか、ほんの少しだけ気を落ち着かせることができる。 前面にある画面を見ると、もうそこは空港の映像を捉えていた。 今日は、久しぶりに表の顔で仕事をこなさなくてはいけない。 ついこの間までは、裏の顔として奮闘していたわけだが、力仕事もきついが…こちらのほうの仕事も大変だ。 なんせ、よくわからないものにもしっかりと挨拶をしなくてはいけない。 人前での愛想笑いはなれてはいるが、神経を使う。 「きゃぁー!ブルース様!」 「結婚してくださーい!」 空港のロビーでの声援とカメラのフラッシュ…。 日本の女の子は、こういったことには興味があるのだろう。 テンション高く、声をあげながら、花束や、中には上半身を露出するような子まででてくる。 歴史や礼儀を大事にする国というイメージがあるが、こういったところは時代の流れかもしれない。 なかなかエキサイティングであることは認めよう。 「ブルースさま、本日の予定ですが…」 リムジンの車の中、執事であるアルフレドが、ノートパソコンのテレビ画面の中で声をかける。 予定を聞きながら、手前の書類に目を通す。 ブルース・ウェインは仕事を平行に行うことは当たり前だ。 今、こうしている間にも世界、数十社と契約をかわす動きがでている。 休んでいる場合はない。 「……ブルース様、もしもの場合に備え、例のものを送っておきました」 「すまない。保険としては必要不可欠だからな」 「はい。出来れば使いたくはないものです」 「あぁ…なにかあったら連絡する」 「それでは連絡がこないよう祈ることにします」 リムジンが止まる。 フラッシュがたかれている…、その中、車をおり笑顔を忘れずに…日本支社の中にと入っていく。 すぐに日本支社の幹部との挨拶、明日のパーティーのための会議がある。 翌日… その日、高町なのは、フェイト・T・ハラオウンは久しぶりの休暇をもらいこっちの世界にと帰ってきていた。 そこには高町なのはの養子となったヴィヴィオも一緒である。 本来ならこっちの世界に帰る必要はないなのは達だが、 ヴィヴィオに自分の世界を見せておきたいということ、 そして自分自身、こういった休暇でなければ見ることが出来ないということから、観光としてやってきたのだ。 しかし、こちらのほうの現状についてはあまりよくわかっていないためか、 今日がそのブルース・ウェインの来日のパーティーであることを2人は知らなかった。 「凄い人…こんなに混んでるの?お台場って?」 フェイトもまた、あまり知らない場所に行くので、少し緊張をしている。 しっかりとヴィヴィオの手を繋いで離さないようにしている… 彼女の過去の経歴から、子を離さない、という一種のトラウマ的なものがあるからだ。 「おかしいな…もうお祭も終盤だから、あんまりいないとおもったんだけど…」 潮の香りを感じながら、ヴィヴィオはそんな、なのはやフェイトの心配をよそに二人の手を引っ張りながら進んでいく。 見えてきたお台場…そして、人混みが吸い込まれてはいっていくウェイン産業の高層ビル。 「あっちいってみようよ~」 「ダメだよ、ヴィヴィオ…あっちは私達ははいれないから」 ヴィヴィオは、たくさんの人がいるほうが興味があるようで、なのはとフェイトの手を引っ張りながらその人混みの中にはいっていく。 「わぁ!ヴぃ、ヴィヴィオ?」 その人の波に押されるようにフェイトはヴィヴィオの手を離してしまう。 招待客と一般客に別れている、会場では、数万の人間が訪れていた。 フェイトはあわてて、その人波に乗りながら、ヴィヴィオを探す。 そうしている間に、なのはまでも見失ってしまう。 「あ、あれ…なのは?ヴィヴィオ?」 あたふたしながら、フェイトはそのまま、会場の中にと入っていく。 会場内は、広く芝生が敷き詰められており、中には出店も置かれている。 一般客はそれこそ大人から子供まで様々だ。 その芝生の向こうは招待客として、バリケードのようなものが作られ、一般客とを遮断している。 フェイトは、その遮断された壁際にたちながら、周りを見る。 そこに、なのはからの携帯電話が鳴る。 もしもの場合とヴィヴィオとフェイトそれぞれに地球圏での携帯電話を渡してあったのを、フェイトは忘れていた。 「なのは!?ヴィヴィオは見つかった?」 「まだなの。電話にもでてくれないし……」 「とにかく、合流しよう?」 「うん…」 そんなやり取りの中、会場が静かになる。前の大画面のスクリーンに映し出されたブルース・ウェインの姿。 ブルースは蝶ネクタイに黒いスーツをしっかりときて、世界で5本の指に入る富豪と、そして二枚目の顔を見せていた。 ヴィヴィオはブルースの話の中、なのはを探していた。 さっきから携帯がなっているのだが、周りの歓声と、ヴィヴィオが動き回ることで振動、音ともに消されてしまっている。 ヴィヴィオは、一般客と招待客の出入り口を小さい子供の背から警備に気づかれることなくとおりぬけていく。 警備はそれに気がついていない……。 「私達は、こうしてこの日本という国に、私自身の会社を建てられたことを光栄に思います。 これから先、何年もこの地にとどまれるよう、途中で見放さず、ついてきてほしいです。 今日はみんなに感謝する日だ。ありがとう…乾杯」 ブルースがそういって、グラスを上に持ち上げるのと同時に、周りから風船が割れるような銃声が鳴り響く。 その音に周りの参加者も驚き悲鳴をあげながら、その場にうずくまる。 ブルースは、危険を察知したのか、舞台から伏せながら飛び降り、人混みの中に姿を隠す。 次に舞台に現れたのは、顔を白く染め、奇怪な化粧をする男…スーツを着たその男はマイクの前に立つと、咳をひとつする 「あー、あー…マイクテスト、マイクテスト。うぅ~ん、やっぱり日本製はいいねぇ」 だんだんと関係者の中には、そのものが誰なのか気づくものも出てきて、逃げ出そうとするが、 それを阻むように、その奇怪な化粧の男の隣、そして客の横や後ろにピエロの仮面を被った機関銃を持つ男達が現れる。 「レディィス&ジェントォルメェェン~、本日のウェイン産業のパーティーは残念ながらこれで終わりです。今から、世にも楽しい~ジョーカー劇場をお送りします」 「ジョーカー!?」 「それって…ゴッサムの?」 周りの観客がざわめくのを楽しそうに眺めるジョーカー。 その視線は観客の顔をひとりひとり眺め、表情の変化を探っているようだ。リアクションを求めているのである。 「まずは、私の劇場に参加してくれる俳優を募集します。安心してください。立候補制ではないです。こちらで選ばせて貰いますから~」 すると巨大なトラックがウェインの庭園に突入してくる。 芝生を荒らしながらやってきたその巨大なトラックは後からつっこんでくると、トラックの荷物をいれる箇所が開く。 「はぁ~い、それでは参加者の皆様は至急、この中にお入りください!」 銃をもったピエロたちが招待客を次々とトラックに押し込んでいく。 悲鳴を雑踏の中で、強引にトラックに押し込んでいくピエロ。 なのはと、フェイトはなにがおこったのかさっぱりわからないでいた。 ただ一般客が逃げ惑う中でヴィヴィオを探すことに必死で…。 「アァ~ハハハハハハ、それでは皆様、ジョーカー劇場第一幕をご覧頂き感謝します。第二幕をお待ちください~。アァハハハハハ~」 高らかな声をあげ、トラック数台は走り抜けていく。混乱した場所に、誰もが逃げ惑っている。 なのはと、フェイトは、そこで靴が落ちていることに気がついた。 それはヴィヴィオの靴…。 なのはは、まさかと思い、去って行ったトラックのほうを見た。 「……なのはママ…フェイトママ…」 トラックの暗闇の中、膝を抱え叫ぶ大人たちの中でヴィヴィオはじっと泣くのを我慢していた。 そう、信じているから…すぐに、なのはママとフェイトママが迎えに来てくれると…。 「…ジョーカー、何を考えている」 ブルースは、携帯端末からトラックの動きを見つめていた。 トラックの動きを見つめながら、その姿は既に表から…裏に変わっている。 ゴッサムにおける犯罪者を狩る存在に…。 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのはStrikerS 第1話 【空への翼】 0071年 4月29日 ミッドチルダ臨海第8空港 スバル・モノローグ『小さい頃から私は、本当に弱くて、泣き虫で。 悲しいこととか、辛いことに、いつもうずくまって。ただ、泣くことしかできなくて』 地上本部局員「うわぁっ!ダメだダメだ!こっちはダメだ!」 「この先に子供が取り残されてるぞ!何とかならないのか!」 「さっき本局の魔導師が突入した!救助は彼女がしてくれる!」 スバル「おとーさん…、おねーちゃん…うわぁああっ。痛いよ…、熱いよ…こんなのやだよう…帰りたいよう…」 スバル「助けてけて…誰か…助けてぇっ……?!きゃぁっ!」 なのは「良かった…間に合った…。助けに来たよ。よく頑張ったね。偉いよ」 スバル「あ…う…う…」 なのは「もう大丈夫だからね。安全な場所まで、一直線だから」 レイジングハート(Upwards clearance confirmation.)「ファイアリングロック、解除します」(A firing lock is canceled.) なのは「一撃で地上まで抜くよ!」 レイジングハート「オーライ、ロードカットリッジ。バスターセット」 なのは「ディバイーン!バスター!」 「こちら教導隊ゼロワン。エントランスホール内の要救助者、女の子一名を救助しました」 地上本部局員「ありがとうございます!さすがは航空魔導師のエースオブエースですね!」 なのは「西側の救助隊に引き渡したあと、すぐに救助活動を続行しますね」 地上本部局員「お願いします!」 スバル「あ…」 スバル・モノローグ『炎の中から助け出してもらって、連れ出してもらった、広い夜空。 冷たい風が優しくて、抱きしめてくれる腕が、暖かくて。 助けてくれたあの人は、強くて、優しくて、かっこよくて。 泣いてばかりで、なにもできない自分が情けなくて。私はあの時、生まれて初めて心から思ったんだ』 0075年 4月 ミッドチルダ 臨海第8空港付近 廃棄都市街 スバル・モノローグ『泣いてるだけなのも、なにもできないのも、もういやだって。強くなるんだって』 スバル「ふっ!ふっ!はぁーっ!」 ティアナ「スバル。あんまり暴れてると試験中にそのオンボロローラーが、イッちゃうわよ?」 スバル「ふぇーっ、ティーアー!ヤなこといわないでー!ちゃんと油も注してきたー!」 スバル・ティアナ「おはようございますっ!」 リインフォースⅡ「さて、魔導師試験の受験者さん2名、揃ってますか?」 スバル・ティアナ「はい!」 リインフォースⅡ「確認しますね?時空管理局陸士386部隊に所属のスバル・ナカジマ二等陸士と」 スバル「はいっ」 リインフォースⅡ「ティアナ・ランスター二等陸士」 ティアナ「はいっ」 リンイフォースⅡ「所有している魔導師ランクは、陸戦Cランク。 本日受験するのは陸戦魔導師Bランクへの昇格試験で、間違いないですね?」 スバル「はいっ!」 ティアナ「間違いありません!」 リインフォースⅡ「はい!本日の試験官を務めますのは、私、リインフォース・ツヴァイ空曹長です。よろしくですよー」 スバル・ティアナ「よろしくお願いします!」 はやて「お、さっそくはじまってるなー。リインもちゃんと試験官してる…。ふふっ…」 時空管理局 二等陸佐 八神はやて フェイト「はやて!ドア全開だと危ないよ。モニタでも見られるんだから」 時空管理局本局 執務官 フェイト・T・ハラオウン はやて「はーい」 フェイト「この二人がはやての見つけた子たちだね」 はやて「うん…ふたりともなかなか伸びしろがありそうなええ素材や」 フェイト「今日の試験の様子を見て、いけそうなら、正式に引き抜き?」 はやて「ん…直接の判断は、なのはちゃんにおまかせしてるけどな?」 フェイト「そっか」 はやて「部隊に入ったらなのはちゃんの直接の部下で、教え子になるわけやからな」 レイジングハート「範囲内に生命反応、危険物の反応はありません」(There is no vital sign in the range,There is no dangerous object either) 「コースチェック、終了です」(Check of the course was finished) なのは「ん、ありがとう。レイジングハート。観察用のサーチャーと、障害用のオートスフィアも設置完了。 私たちは全体を見てようか」 レイジングハート「イエス、マイマスター」 リインフォースⅡ「二人はここからスタートして、各所に設置されたポイントターゲットを破壊。 あ!もちろん破壊しちゃダメなダミーターゲットもありますからね。 妨害攻撃に気をつけて、全てのターゲットを破壊。制限時間内にゴールを目指してくださいです。 なにか質問は?」 スバル「あ…えーっと…」 ティアナ「ありません!」 スバル「ありません!」 リインフォースⅡ「では、スタートまであと少し、ゴール地点で会いましょう、ですよっ!」 ティアナ「レディーッ!ゴウッ!」 はやて「おぉ、始まった始まった」 フェイト「お手並み拝見、っと」 ティアナ「スバル!」 スバル「うん!中のターゲットは私がつぶしてくる!」 ティアナ「手早くね!」 スバル「オッケーイ!」「ロードカートリッジ!リボルバーッ!シューート!」 ティアナ「落ち着いて…冷静に…。…ぁっ!」 スバル「いーいタイム!」 ティアナ「当然!」 フェイト「うん。いいコンビだね」 はやて「そやけど、難関はまだまだ続くよ。特にコレが出てくると、 受験者の半分以上は脱落することになる最終関門…、大型オートスフィア」 フェイト「今の二人のスキルだと普通なら防御も回避も難しい、中距離自動攻撃型の狙撃スフィア…」 はやて「どうやって切り抜けるか…、知恵と勇気の見せ所や」 スバル「いーくぞぉーっ!」 ティアナ「スバル、うるさい!」「よし。全部クリア!」 スバル「この先は?」 ティアナ「このまま上。上がったら最初に集中砲火が来るわ。オプティックハイド使って、 クロスシフトでスフィアを瞬殺!やるわよ!」 スバル「了解!」 フェイト・はやて「あっ…!」 なのは「んっ…」 ティアナ「5!4!3!2!1!」 スバル「ふっ!」 スバル・ティアナ「ゼロ!」 ティアナ「クロスファイヤーッ!」 スバル「リボルバーッ!」 スバル・ティアナ「シューッ!ト!」 フェイト「なるほど…これは確かに伸びしろがありそうだね」 はやて「ふふっ、そやろ」 フェイト「残るは、最終関門」 スバル「イエーイ!ナイスだよティア!一発で決まったね!」 ティアナ「ま、あんだけ時間があればね。」 スバル「普段はマルチショットの命中率あんま高くないのに、ティアはやっぱ本番に強いなー!」 ティアナ「うっさいわよ!さっさと片付けて、次に…!」 スバル「ん?」 ティアナ「スバルっ防御!」 スバル「うわっ!」 ティアナ「んあっ!」 スバル「ティア!」 はやて「…!なんや?」 フェイト「サーチャーに流れ弾が当たったみたいだけど…」 なのはトラブルかな…?リィン、一応様子を見に行くね」 リインフォースⅡ「はいです、お願いします」 レイジングハート「私もセットアップしますか?」(Am I set up?) なのは「そうだね。念のためお願い」 レイジングハート「オーライ、バリアジャケットスタンディンアップ」 スバル「ティア!」 ティアナ「騒がないで。なんでもないから!」 スバル「嘘だ!グキッっていったよ!捻挫したでしょ?」 ティアナ「だから何でもないってっ、くっ。あ、た…」 スバル「ティア…。ごめん、油断してた…」 ティアナ「あたしの不注意よ…。アンタに謝られると、かえってむかつくわ。走るのは無理そうね…。最終関門は抜けられない」 スバル「ティア…」 ティアナ「あたしが離れた位置からサポートするわ。そしたら、アンタひとりならゴールできる」 スバル「ティア!」 ティアナ「うっさい!次の受験の時はあたし一人で受けるつってんのよ! スバル「次って、半年後だよ?」 ティアナ「迷惑な足手まといが居なくなれば、あたしはその方が気楽なのよ」「わかったらさっさと…でっ…!ほら、はやく!」 スバル「ティア、あたし、前に言ったよね。 弱くて、情けなくて、誰かに助けてもらいっぱなしな自分がイヤだったから管理局の陸士部隊に入った…」 「魔導師を目指して、魔法とシューティングアーツを習って、人助けの仕事に就いた…」 ティアナ「知ってるわよ。聞きたくもないのに、何度も聞かされたんだから」 スバル「ティアとはずっとコンビだったから、ティアがどんな夢をみてるか、 魔導師ランクのアップと昇進にどれくらい一所懸命かも、よく知ってる! だから!こんなとこで、私の目の前でティアの夢をちょっとでもつまづかせるのなんてイヤだ! 一人で行くのなんて、ぜったい嫌だ!」 ティアナ「じゃあどうすんのよ!走れないバックスを抱えて、残りちょっとの時間でどうやってゴールすんのよ!」 スバル「裏技!反則取られちゃうかもしれないし、ちゃんと出来るかもわからないけど…うまくいけば二人でゴールできる!」 ティアナ「本当?」 スバル「あ、あー、えーと、その、ちょっと、難しいかもなんだけど…、ティアにもちょっと無理してもらうことになるし… よく考えるとやっぱり無茶っぽくはあるし…そのなんというか、えと、ティアがもしよければっていうか…あの…」 ティアナ「うあーっ!イライラする!グチグチいっても!どうせアンタは自分の我が儘を通すんでしょ?! どうせ私はアンタの我が儘に付き合わされるんでしょう?!だったら、ハッキリ言いなさいよ!」 スバル「二人でやれば、きっと出来る。信じて、ティア」 ティアナ「残り時間、3分40秒。プランは?」 スバル「はっ…うん!」 はやて「お、出てきた」 フェイト「うん。あれ…?だけど…」 はやて「あっ!直撃!?」 フェイト「ん、違う…」 はやて「高速回避?いや、ちゃうなぁ…」 フェイト「あの子、ティアナは囮」 はやて「ということは…」 ティアナ「フェイクシルエット…コレ、めちゃめちゃ魔力食うのよ…。あんまり、長く保たないんだから…、 一撃で決めなさいよ!でないと、二人で落第なんだから!」 スバル「うん!」『私は空も飛べないし、ティアみたいに器用じゃない。遠くまで届く、攻撃もない。 できるのは、全力で走ることと、クロスレンジの一発だけ!だけど、決めたんだ。 あの人みたいに、強くなるって!誰かを、何かを、守れる自分になるって!』「ウイング!ロード!」 ティアナ「行って!」 スバル「いーーっくぞおおおおおーっ!でやあああああっ!うぉおおおおおっ!うっおおおおおっ!」 「一撃!ひっっとおおおぅ!ディバイーン!バスタアアアッ!」「はぁっはぁっはぁっ…」 ティアナ「やった?」 スバル「なんとか…! ティアナ「残り、あと1分ちょい。スバル!」 スバル「うん!」 リインフォースⅡ「あ!来たですねー!」 スバル「あと何秒?」 ティアナ「16秒!まだ間に合う!」 リインフォースⅡ「ハイ!ターゲット、オールクリアです!」 スバル「魔力!ぜんかいいいいいいっ!」 ティアナ「ちょっ!スバル!止まるときのこと考えてるんでしょうね?」 スバル「え?あっ…!」「うわぁっ!」 ティアナ「嘘ぉ!」 リインフォースⅡ「あ、なんかチョイヤバですー」 スバル・ティアナ「うわあああああああっ!」 なのは「アクティブガード…、ホールディングネットもかな…」 レイジングハート「アクティブガード、アンド、ホーディンネット」(Active Guard and Holding Net.) リインフォースⅡ「んんんんんっ!二人とも!危険行為で減点ですっ! 頑張るのはいいですが怪我をしては元も子もないですよ!そんなんじゃ、魔導師としてはダメダメです!」 ティアナ「ちっさ…」 リインフォースⅡ「まったくもう!」 なのは「ハ、ハハハ。まーまー」「ちょっとびっくりしたけど、無事で良かった。とりあえず試験は終了ね。お疲れ様」 スバル「あっ、んっ」 リインフォースⅡ「むーっ」 ティアナ「あっ」 なのは「リィンもお疲れ様。ちゃんと試験官できてたよ」 リインフォースⅡ「わーい!ありがとうございます!なのはさん!」 なのは「まぁ、細かいことは後回しにして…、ランスター二等陸士」 ティアナ「あっ、はいっ」 なのは「怪我は足だね。治療するからブーツ脱いで」 リインフォースⅡ「わっ!治療なら私がやるですよ!」 ティアナ「あ、えと…。すみません…」 スバル「なのは…さん」 なのは「うん」 スバル「ああっ!いえ、あの!高町、教導官、一等空尉!」 なのは「なのはさんでいいよ。みんなそう呼ぶから」「4年ぶりかな?背、伸びたね。スバル」 スバル「…っ!えと、あの…あの…」 なのは「うん…また会えてうれしいよ」 スバル「うっ…」 はやて「さて…、なのはちゃん的に二人はどやろ?合格かなぁ?」 フェイト「ふふっ。どうだろうね?」 次回予告 なのは・フェイト「きっかけとはじまりは4年前の空港火災。炎のなか、いくつかの出会いがあって、 いくつかの決意がそこから生まれて。 次回、魔法少女リリカルなのはStrikerS 第2話 機動六課 Take off!」
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サージェスのサロンには菜月、蒼太、ヴィータ、シグナムの四人が揃っていたが、誰もが沈痛な顔で俯いている。口を開く者はいない。 山を降りてすぐに石化した少年は、映士の救急車ビークル、『ゴーゴーエイダー』によってサージェスの研究所に搬送された。 「真墨が子供を盾にして逃げるはずないよ!きっと何か理由があるもん!」 シグナム達に菜月はそう言った。 それは蒼太も同じだった。真墨は明石からチーフの地位を継いでから立派にミッションを遂行している。 明石とはスタイルが異なる彼だが、自分の為に子供を犠牲にするなどあるはずがない。 あるはずはないのだが――。 シグナムとヴィータは、確かにボウケンブラックが少年を盾にしたのを見たと言う。ボウケンブラックこと伊能真墨が。 だが、蒼太と菜月は、シグナムとヴィータが嘘を言っているとも思えなかった。菜月は純真さ故に二人を信じていたし、蒼太にとっても二人が嘘を吐くメリットが見当たらない。 彼女達はサージェスヨーロッパから来たと言われていた。サージェス程の組織が、ネガティブのスパイを見抜けないだろうか? そして何よりも大事なこと。それは蒼太も菜月も二人を信じたいのだ。 不思議なプレシャスの話に目を輝かせたヴィータを、自分だけの宝を探し求めていたシグナムを。彼女らの冒険への情熱を。 シグナムとヴィータもそれが解っている。二人の気持ちが解るから沈黙している。 でなければ、この場でボウケンジャーを厳しく糾弾していただろう。 シグナムとて、自分の目を疑ったくらいだ。 ボウケンジャーは自分の考えていたような連中ではなかった。彼等も人々を守る為に戦っているのだ。 そう、考え始めていたのに。 伊能真墨と高岡映士はまだ戻っていない。連絡も無かった。 結局は彼の口から語られるのを待つしかない。解っていながらも心の中では不安と疑念が渦巻き、焦燥感は膨れ上がっていくのだ。 それは伊能真墨が戻り、同時にMr.ボイスが叱責に現れるまで続いた。 ――命懸けの冒険に今日も旅立つ者がいる。 秘かに眠る危険な秘宝を守り抜く為に、あらゆる困難を乗り越え進む冒険者達―― 轟轟戦隊ボウケンジャーVS魔法少女リリカルなのは ExtraTask 03 新たなる冒険者 「たく、どうなってるんだろうなぁ……こりゃあ」 高岡映士は一人ごちた。それは研究所を出てすぐのこと。 真墨からは単独でジャリュウ一族――というより、邪悪竜バジークを先に追えと言われた。 「おい!俺様があいつらに言わなくていいのかよ!真墨!」 「必要無い。そんなことよりお前は奴を探しててくれ」 それを聞かされた時、映士はそれに逆らった。 彼はきっと、何も言い訳をしようとしないだろう。そういう男だ。 「けどよ!新入り共が――」 「いいんだよ、そんなことは!ともかくアイツはバジリスクの瞳の力を手に入れた。 俺は一度サージェス帰って対策を練るから、お前は先に行け。ただし一人では仕掛けるなよ」 「ちっ……わかったよ」 自分のことよりもミッション優先。いつの間にかチーフらしくなったものだ。 だが、映士はそんな真墨に明石暁には無かった危うさを感じずにはいられなかった。 明石はいつだって冒険を楽しむことを心の片隅に秘めていたから。 今の真墨にはそれがあるのだろうか――。 映士には、その後サージェスで繰り広げられる光景が容易に想像できた。 そしてもう一つ、ユーノ・スクライアの存在。 教えた寺に彼を追って行ってみたものの、寺にユーノの姿は無く住職の老人が一人眠らされているだけだった。 そして彼に教えたプレシャス――『百鬼夜行絵巻物』も奪われていた。 住職は薬で深く眠っていたので、彼を隠して先に孫の少年を探していたところで戦闘に出くわしたのだ。 「まさか……あいつが?」 そう考えると辻褄が合わなくもない。アシュを封印した神器を知りたがっていたことも怪しい。 それでも気に掛かる。アシュを知ったところであいつに何の得がある? それにあの神器はアシュを深く知る者にしか扱えない。 いや、それでも考え付く理由は幾らでも出る。疑問も疑念も尽きない。 「いや……そんなはずはねぇ」 それでも確かなことはある。彼もまた、未知の世界に瞳を輝かす者のはず。未知の術と聞いて、居ても立ってもいられずに駆け出した彼――。 「あれは……あの眼は"冒険者"の眼だ」 映士はそれを信じたかった。 「答えろ、伊能真墨!子供を盾にするのが貴様らの冒険か!」 シグナムが怒りを露わにして叫ぶ。最初に真墨に食って掛かったのは彼女だった。 「言った通りだ。俺は全員の撤退を確実にする為に、あの子供を盾にした。そんな事態を招いたのは俺のミスだ」 「そんな!嘘でしょ、真墨!?」 菜月が真墨の腕を掴んで揺さぶる。 と、背後からバンッ!と机を叩く音が聞こえた。 「……」 ヴィータが黙って真墨を睨んでいる。 真墨は何も語ろうとはしない。弁解をしないのはそれが真実だからなのか。 「そうか……。ならば、もう何も話すことはない……」 シグナムがそう言ってサロンを出て行く。声の冷静さに反してその表情は苦渋に満ちていた。 ――信じたかった。何か理由があるはずだと。子供を盾にするような外道ではないと。 「行くぞ、ヴィータ」 ヴィータも悔しそうに歯を噛み締めていた。シグナムと一緒にサロンを去る彼女は最後に一度、菜月を哀しそうに振り返った。 薄暗い遺跡の中、鶏冠に似た襞を頭に付けた邪悪竜が暗闇に向かって話しかける。 「貴様の言う通りにバジリスクの瞳を手に入れた。しかし……」 その眼は金色の光を放っていた。 「貴様は俺にこんなものの在り処を教えて、何が目的だ?確かに貴様には世話になった。だがジャリュウ一族の復活に手を貸して、貴様に何の得がある?」 暗闇から声が響く。重く低く、しかしはっきりと通った声だ。 「勿論、私にも得はある。私の目的はサージェスやボウケンジャーなど問題にならない程大きいのだ。君達の手で彼らを始末してもらえると私もそれに専念できる。これは相互利益の為なのだよ」 バジークは表情が読み取りにくい爬虫類めいた顔を、それでも明らかに不快そうに歪めた。 こいつはジャリュウ一族を駒程度に思っているのだ。そしてリュウオーン亡き後、ジャリュウ一族を統べるべきである自分を。 「それを信用しろというなら、顔くらい見せたらどうだ?」 「せっかくだが、君の瞳に見つめられるのは少々気恥ずかしいのでね。今は信用してくれとしか言えない。」 バジークは憎憎しげに眼を輝かせる。金色の魔眼を以ってしても、見えない相手を見ることはできない。 この声と対するのは初めてではなかった。ふざけた受け答えに、最初はその暗闇に踏み込んでやろうと思っていた。 だが、暗闇の先に歩を進める度に背中を怖気が走る。 ――危険だ。ジャリュウとしての本能が、この身に宿るバジリスクが全力で警鐘を鳴らしてくる。 結局、それ以上は進むことができなかった。 「いいだろう。貴様の言うとおりにするのは癪だが、俺がボウケンジャーに引導を渡してきてやる。ただし――」 バジークは背を向けて歩き出す。 「それが済めばその顔を拝ませてもらうぞ」 捨て台詞を吐きながら、やがてバジークの姿が完全に見えなくなる。 「自分を作った者が誰かも知らずにいい気なものだ」 暗闇の声は誰にともなく呟く。 「管理局も異変を察知して動き出したか……」 百鬼界がこじ開けられようとしているなら、この世界に目をつけるのは当然。 それでも派遣した捜査員が二人程度ならば、奴等はまだ何も掴んでいないのだ。 「まぁいい。無能な管理局に何ができる……。ガイやレイを倒したとはいえボウケンジャーも辺境の猿に過ぎない」 暗闇から溢れた笑い声が、誰もいない空間に谺した。 サージェスを飛び出したものの、行く当てのあるはずもない。ヴィータとシグナムはとぼとぼと街を歩いていた。 「なあ、シグナム……。どうしてはやてはあたし達を選んだんだ?」 もう何度目になるだろう。何度も何度も自問自答を繰り返した。 それでも答えは出なかった。ずっと考えていると、そのうちに不安と迷いが湧いてきて――。 今また口に出して尋ねてしまった。 武装隊としての任務しかしたことのない自分達を、捜査官である主が潜入捜査に選んだその意味を。 「さあな……」 訊いたところで彼女にもわかるはずなどないことは解っていた。 ボウケンジャーとして行動していれば必ずアシュと百鬼界に繋がるはずだ。 そうはやては言っていた。 おそらくはやても調査の任に当たっているのだろう。 かつて管理局の協力もあって高岡一族がようやく次元の狭間に封印したアシュ。たった数人でさえボウケンジャーを苦戦させた化物が溢れ出そうとしている。 それなのに、本当に自分達はこんなところにいていいのだろうか? 数年前に自分達は主はやてを守り、主と共に生きると誓った。その想いは少しも変わっていない。 嘱託魔導士となってからは任務で一緒にいる時間は少なくなったが、それを苦に感じたこともほとんどなかった。今の主に常にべったりと付いて守る必要も無いし、離れていても家族であることに変わりはない。 それに嘱託になれば主の罪も軽減されるし、彼女の「ロストロギアの悪用を防ぎたい」という想いを守りたかった。 そう思えたから管理局の仕事にも誇りを感じられたのだ。何よりも、それはシグナムを含む守護騎士全ての総意でもあった。 だが、今はどうだろうか? 主の下を離れ、突然サージェスに放り込まれ、ボウケンジャーとなった。 短期間で訓練をこなし、知識を身に付けても、結局は何もできずプレシャスを奪われた。それだけでなく、一人の少年の命を今も危機に晒している。 あの時の真墨に対する怒りは、無力な自分への怒りでもあったのかもしれない。 真墨の行動は腑に落ちない。それでも、それに救われたのもまた事実なのだ。 自分自身、それが一番許せなかった。 「魔法を使うことができれば……」 ――せめて魔法が使えれば。 シグナムが呟いた言葉はヴィータにも届いた。 確かに魔法を使うことができれば、あの時遅れを取ることもなかった。少年を危険に晒すこともなかっただろう。だが、 「それができりゃあ最初からやってるさ……」 これは潜入任務だ。あくまでサージェス・ヨーロッパからの命令で派遣された新人を装わねばならない。 誰が、何の目的で百鬼界を開こうとしているのかわからないのだ。魔力反応が伝われば管理局が関わっていることを知られてしまう。 それに、管理局はサージェスにも完全に気を許した訳でもないらしい。この世界のプレシャスの大半を掌握している上に、高岡映士もいる。云わば最もアシュに詳しい組織だ。 協力を要請する為に一部の者は真実を知っているが、どこから情報が漏洩するかわからない。はやてからも固く禁じられていた。 自分の本来の姿で戦うこともできず、信頼できる仲間もいない。 はやてを補佐することもできない。 かといって、任務を放棄することなどできるはずもない。そんなことをすればはやてが責任を問われ、何よりもはやての信頼を裏切ることになってしまう。 「あたし達は――」 ――どうすればいい。 多分そう言おうとしたのだろうが、ヴィータの言葉は腕のアクセルラーへの通信によって遮られた。 通信から聞こえてきたのは牧野博士の声。 「ジャリュウ一族が街を破壊しています!君達の位置が一番近い。すぐに向って下さい!」 「いや、私は――」 何か言おうとしたシグナムだったが、有無を言わせず牧野は必要事項のみを伝え、通信を終了させてしまった。 ――私は何を言おうとしたのだろうか……。 考える間もなく遠くから爆音が響いてきた。続いて次々に近づいてくる悲鳴。 瞬間、シグナムとヴィータの身体が反応する。目線を落とすと、二人の足は自然と爆発の方向へと向いていた。 ――ああ、そうか……。 自分が大事なことを忘れていたことに気付く。 サージェスが何者であろうと、管理局の意向がどうであろうと――。 自分達が迷おうと、迷うまいと――。 プレシャスを奪ったネガティブは今、街を壊し、誰かを傷つけているのだ。 今はわからないことばかりでも、為すべきことは身体が知っている。 後はそれに従うのみ。 「行くぞ!ヴィータ!」 言うが早いか爆音に向かって駆け出す。 「おうっ!」 答える彼女も既にシグナムの横を走っている。 ――きっと主が我々に望んだ在り方とは、たとえ主から離れようとも、騎士として魔法を行使することを封じられたとしても! ――その程度のことで存在意義を見失うようなものではないはず!『力』を失ってしまうようなものではないはずだ! ここは主と家族が住む世界。それを壊す者とは戦わなければならない。 それは任務ではなく、使命であり誓い。 そして自分達は、今はまだボウケンレッドでありボウケンピンクなのだ。それを果たさなくては、 そしてそう在る理由を見出さなければ彼女に会わせる顔がない。 二人はアクセルラーを握り締め、走りながら力強く左腕を突き出す。 「レディ!」 肩から突き出した拳に向けてアクセルラーのタービンを滑らせる。 「ボウケンジャー、スタートアップ!!」 眩い光に包まれ、アクセルスーツの胸にボウケンジャーのエンブレムであるコンパスが刻まれる。 それは彼女達の行くべき道を指し示しているようだった。 戻る 目次へ 次へ