約 3,290,175 件
https://w.atwiki.jp/kiyotaka/pages/24.html
第13話 誕生日 『遊園地のフリーパスチケットがあるんです。レッド先生と二人で行けば・・』 『え、え!私がですか~!?』 『もちろんです!』 『・・さ、さすがに2人っきりは・・』 『・・・・それじゃ、こうしましょう。』 運命の8月8日。ついにこの日がきた。 その日、イエローは6時に目が覚めてしまった。 約束の時間は午後8時。少し早めに起きてしまったかもしれなかった。 眠気がまだ頭に残っていたものの、イエローはベッドから起きた。今から寝てしまうと、それこそ遅刻だ。早めに用意 をした方が何かと都合がいい。 顔を洗おうとして洗面所に入ると、真っ先に目に入った自分の顔に驚いた。鏡に反射している顔は、髪が寝癖でぐち ゃぐちゃとなっていて、目の下にうっすらとくまが出来ていたのだ。昨日、緊張のせいで眠れなかったのが原因だろ う。 はぁ、と息を漏らしたイエローは、すぐに顔を洗って、まっさきに髪の毛を整え始めた。ここまで寝癖になっているのは 久しぶりのことだった。 30分ほどかけて、ようやく寝癖がましになると、イエローは洗面所から離れて台所に向かった。今度は朝食の用意 だ。 食パンと目玉焼き、牛乳の簡単なメニューにしておいて、朝食は終わり。手抜きと言われようが、今は時間が無いの でしょうがない。寝癖を直すのに結構な時間がかかってしまったのだ。 朝食を食べ終わると、イエローは自分の部屋に向かった。時刻はすで7時になりかけ。あと1時間で全てを終わらせ ないといけない。 洗濯などの家事は帰ってからする事にして、イエローは着ていく服を決める事にした。これが1番重要だ。慎重に、か つ迅速に決めなければならない。 ならないのだが・・・ 「・・・・あ~もう、決まらない~・・・」 どうしても着ていく服が決まらなかった。 あれとこれじゃ色が合わない。これじゃちょっと形が変になる。これはちょっと子供っぽい・・・・ などなどのセリフを鏡の前で呟き、自分が持っている服のほとんどを引っぱり出して色々な組み合わせを試してみ る。 元々持っている服が少ないので、組み合わせはそれほど多いわけでもない。だが、それでも出来るだけ可愛い格好 で行きたかった。 鏡の中の色々な服装をした自分と何度も向き合って、1番いい服を選ぼうとする。だが、その間にも時間は淡々と進 んでいた。 なんとか服を選び終えた時には、時刻はもう7時半になっていた。 部屋に散らばっている服をそのままにして、イエローはすぐに玄関に向かう。 荷物を持ち、玄関で靴を履いた時、ふと、本当に行っていいのか自分で最終チェックをしてみようと、イエローは思っ た。 部屋と自分を見回してみる。 ――服装・・OK―― あれだけ服をかき回して、結局決まったのは黄色いワンピースだった。あまり工夫をしたら変になるし、第一自分に似 合わない。やはりここはシンプルに行くのがベストだろう。 もちろん、麦わら帽子は持って行く。 ――髪型・・OK―― 寝癖を直すのは疲れたが、その成果あって、髪はいつも以上によく仕上がっていると思っている。今回はポニーテー ルにしていない。背中まで下ろして、うなじ辺りでバレッタをつけていた。このバレッタは、デパートで一目惚れした髪 留めだ。 ――持ち物・・OK―― 小さいバッグの中に、日常に必要なものとプレゼントが入っている。これが渡せるかどうかが、今回のイベント中1番 のポイントだ。 ――お金・・OK―― 財布の中には、苦渋の選択によって生活費から絞り出した、なけなしのお金が入っている。これで向こう1週間は、 質素な生活になってしまうだろう。 だが、これから先生にプレゼントを渡せる代償がこれなら、それもしょうがない。。 ――ポケモン・・は持っていけない、と・・・・―― 玄関の棚には、いくつかのモンスターボールがある。その中から、寂しそうな顔をしてこちらを見ているポケモンを見 ていると、少し心が痛んだ。 だが、今日行く遊園地はポケモンお断りらしいので、さすがに連れていけないのだ。 イエローはボールの中に向かって、ごめんね、と呟く。 そして、 ――・・よし!オールパーフェクト!―― 全てを確認し終えたイエローは、すぐさま玄関から飛び出していった。 そして、小走りで駅まで向かう。 急がなくても、目的の電車に乗れば間に合うのだが、これからある出来事のことを思うと足取りが軽くなってしまうの だ。 ――遊園地だ~!―― イエローは、駅までの道のりをスキップしそうな勢いで歩いていくのだった。 そして、物語は前回の冒頭に戻る。 イエローは、待ち合わせ場所の最寄の駅で、電車から降りたところだった。 「ゆうっえんち~遊園地~♪」 イエローは、駅の中でも特に周りの注目を引いていた。 その注目というのは、もちろんこの歌のせいでもあった。電車を降りるなり、いきなり歌を歌われるとびっくりするだろ う。 しかし、それだけではなかった。今のイエローの容姿もその原因だったのだ。 普段は服などに気をかけず、男の子っぽい服装をしているイエローが、かなり気合を入れて服をきめている。その容 姿は、駅にいる男の10人中9人は振り向くであろうものだった。 しかし、イエロー自身はそんなことはおかまいなしといった様子で、機嫌良く学園に向かって歩き始めていたのだっ た・・・・ 学園前・・ やっと待ち合わせ場所に着いた時には、時刻は8時を越えてしまっていた。約束の時間は8時。本当なら、その10 分前には来るつもりだったのだが、今日は朝の支度で戸惑ってしまい、遅れてしまった。もう皆も来ているのだろう。 とりあえず、待ち合わせ場所である犬の銅像の前についた。だが、待ち合わせしている人物の姿が見えない。どうし たのだろうか? イエローは周りを見回してみる。 銅像の周りには、自分と同じ様に待ち合わせをしている人達がたくさんいた。これでは、特定の人物を探すのは難し い。 「あ!イエローさ~ん!こっちです!」 急に後ろから声が聞こえたので、振り向いてみる。 そこにはクリスがいた。 イエローは安心して、クリスがいる方に近づいていった。 「クリスさん!遅くなってすいません・・・・って、あれ?」 近くまで行って気付いた。 先ほどは、銅像や木の陰になっていて分からなかったが、クリスと一緒にいる人が・・・ 「よ!イエロー!」 はレッド。 「おそいぜ~」 はゴールド。 続いて・・・・ 「まったく・・・・遅刻は駄目だと言ってるだろうはずだ・・・・」(グリーン) 「まあ、いいじゃない。女の準備っていうのは、時間がかかるものよ」(ブルー) 「ふ~ん、そういうものなのか?」(ジェルブ) 「俺に聞くな・・・」(シルバー) ――・・・・・・・・・―― イエローは、目の前にいる人々の顔を眺めて呆然としてしまった。レッドが「お~い?どうした?」と声をかけてきた が、それにも反応できなかった。 しかし、すぐにハッ!となって、クリスの袖を掴んで引っ張っていく。クリスは「イ、イエローさん!?」と驚いた声を出し ているが、それは気にしない事にした。 銅像の後ろ側にまでクリスを引っ張っていったイエローは、皆からは見えてないことを確認すると、「クリスさん・・・」と 口を開いた。 「は、はい?」 「・・・あれはどういうことですか?」 イエローはすぐさま真剣な顔になって、皆がいる方を指差した。 それはこう暗に示していた。「どうしてあんなに多いんですか?」と。 2日前の8月6日。レッドへの誕生日プレゼントをどう渡すか悩んでいると、急にクリスから電話がかかってきた。その 内容は、レッドと遊園地に行ってみてそこでプレゼントを渡すのはどうか?という提案だった。 だが、さすがに2人っきりというのは緊張してしまう。プレゼントを渡すという目的も忘れてしまうかもしれない。 それをクリスに言うと、「じゃあ、私とゴールドもついていきますよ。他にも1人ぐらい誘いますけど?」と言ってくれたの だ。 そうして土壇場で2人っきりになってプレゼントを渡す、というのがクリスの意見だった。 それに対しては、イエローも賛成した。それなら渡せるかもしれない、と。 だが、先ほどの人数を見て愕然とした。あまりにも人が多すぎて、これでは逆に渡せなくなってしまうかもしれな い・・・ イエローは、落胆した顔でクリスを見つめていた。 するとクリスは、申し訳なさそうな顔をして口を開いた。 「すみません。大人がレッド先生だけじゃ駄目かなと思って、ブルー先生にも声をかけたんです。そうしたら、いつの間 にかこういう風になっちゃって・・・・」 「はあ・・それじゃ、仕方ありませんね」 ブルー。 やはり彼女が今日の鍵となる人物なのだろう。 イエローはそう思って、銅像の影からブルーを覗き見た。今彼女は、グリーンと何かを喋っている。グリーンはかなり 嫌そうだったが・・ ――今年も・・・ブルー先生に邪魔されたりして・・―― 2年前は、ブルーの薬のおかげで見事に玉砕してしまった。 普段も、色々な実験とか何とかで、なにかとトラブルが絶えない。 彼女が意図的に邪魔しようとしているわけではない。その行動が、気付かない内に間接的な障害となるのだ。「風が 吹けば桶屋がもうかる」ということわざと似ている。 今回ももしかしたら・・ イエローは、なんだか嫌な予感がしてきた。 ――本当に・・・・ちゃんと渡せるかな・・?―― バッグの中にあるプレゼントを思い返しながら、これから起こるであろう苦労に気を重くしたイエローは、再びレッド達 の元に戻っていった。 こうしてイエロー達は、8人という大所帯で遊園地に向かう事になったのだった。 タマムシシティの郊外。 街の近くにある山の中腹に、その遊園地はあった。 普通の町ぐらいの大きさをしているその遊園地には、外国の映画に登場する乗り物やキャラクター、その他色々なも のが、アトラクションとして再現されている。 ジェットコースターや観覧車など、遊園地としては基本となっている物のほか、ここにしかないアトラクションも数多くあ る。 また、昨年開園されたばかりなので、やってくる人も多い。入り口付近でも多くの人が、胸を弾ませながら遊園地へと 入ろうとしていた。。 そんな中で、自分達は絶対に周りの注目を集めているだろう。 そう思ったイエローは、今の状況をつぶさに観察していた。 「さあ~行くぜ~!!」 「おいおい、バクハツ頭!俺が先に入るんだ!!」 「ちょっと2人共!勝手に先に行かないで!!」 フリーパスのチケットを持って、勝手に入り口に向かおうとするゴールドとジェルブを、クリスが止めている。 いつもならクリスが静止するのはゴールドだけだが、今日はそれにジェルブまで入っている。彼は、いつもより興奮気 味だった。 何故だろうか?と思って、行きの電車の中でジェルブに聞いてみると、彼は遊園地に始めて来た、という答えが返っ てきた。 十数年生きてきて、遊園地に1回も行った事が無いというのは不思議だったが、ジェルブ曰く「色々事情があってな」 だそうだ。 そんなことを思い返していると、ゴールドとジェルブが、クリスに何かを言い返しているのが聞こえた。 「いいじゃねえかよ!クリス」 「そうだ、そうだ。早く行ってみたいんだよ、委員長」 「駄目!それとジェルブさんは委員長って呼ばないで下さい!」 ジェルブは最近、クリスのことを、『委員長』と呼んでいる。 前にゴールドがクリスと喧嘩している時「超マジメ系学級委員長!」と言ったのを聞き、大変気に入ったらしい。ジェル ブはあだ名付けが楽しいようだ。 「とにかく、戻ってきなさい!」 「「はいはい・・・」」 眉を吊り上げて怒っているクリスに、ジェルブとゴールドは渋々といった様子で戻ってきた。 それを確認したクリスは、今度はバックから数枚の紙を取り出した。その紙は、この遊園地のフリーパスチケットだ。 それを、クリスは皆に1枚ずつ配っていく。 最後のグリーンにまで行き渡り、クリスが息をつくと、ふとレッドが口を開いた。 「そういえば、何でこんなにフリーパスがあるんだ?」 それを聞き、イエローも不思議に思った。 フリーパスはかなり値段がはる代物だ。しかもこの遊園地は結構人気あるので、チケット自体が売り切れ、というの が普通だ。 なのに、8人分きっちりとある。 この質問に対し、ゴールドが誇らしく答えた。 「俺の母さんの友達がここの経営者で、今回は特別にもらえることが出来たんぜ。へへ~ん、すげえだろ?」 「それはお前が凄いのではなく、お前の母親、もしくはその友達が凄いということだろうが」 シルバーが吐き捨てるように言った。彼はブルーに無理やりに連れられたらしく、機嫌が悪いらしい。 そんなシルバーの言葉に対し、ゴールドがムッとした顔をする。 「結局俺が頼まなきゃ、これは手に入らなかったんだよ」 ゴールドは穏やかな表情で言っていたが、頭の端には青筋が立っている。少しいらついているようだった。 これではまた喧嘩が始まる。 そう思ったイエローは、ゴールドだけでもなだめようと、2人の間に割って入った。 「まあまあ、確かにゴールドさんが持ってこなければ、ここには来れませんでしたから・・・・・ありがとうございますね。 ゴールドさん」 にこっと笑ってそう言うと、ゴールドは顔を赤くした。 その様子を不思議に思ったイエローは、さらに首を傾げると、ゴールドは「いや、その、どうも!」としどろもどろに答え て、そのまま入り口に向かっていった。 喧嘩が始まらない事にほっとしつつも、何故ゴールドが素直に怒りを収めたのか不思議に思ったイエローは、さらに 頭に?マークを浮かべていた。 すると、いつの間にかグリーンが目の前にやってきて、「イエロー・・・・・その姿で、あまり男に微笑まないように」と、 注意してきた。 その言葉のせいで、さらに訳が分からなくなったイエローだったが、もう他の皆が入り口に向かっているのを見て、「う ~ん・・」と呟きながら遊園地へと向かっていくのだった。 ジェットコースター・・ 「あの・・・・本当に乗るんですか?」 「「当たり前だ!!」」 ハイテンションなゴールドとジェルブに、イエローが溜息をついた。 ここはジェットコースター前。遊園地の中でも、1、2を争うほどのアトラクションの乗り場だった。 ここのジェットコースターは、全カントーの中でも最も急な角度で落ちるため、スピードは150キロを越えると言われて いる。 しかもループあり、トルネードあり、逆走ありと、普通の少年少女が乗ったならば、何人かはトラウマになってしまう可 能性があるアトラクションだ。 しかし、目の前の2人は、瞳をきらきらさせながら長い列の最後尾に入っていき、他の面々さえも、平気な顔で向かっ ている。 なぜ、こんなものに乗るのか・・・1時間も並んで、150キロの猛スピードを体感しなければならないのか。 イエローにはどうしても分からなかった。 「はあ・・・・・」 「なんだ、イエロー。ジェットコースターは苦手なのか?」 溜息をついていると、前にいたレッドが振り返って問い掛けてきた。 「いえ、そういうわけじゃないんですけど・・・」 「じゃ、行こうぜ」 そう言われて手を差し伸べられれば、掴まざるをえない。 レッドと手を繋いで、引っ張られながら、結局、列の最後尾まで歩いていくことになるのだった。 後の恐怖も知らないで。 休憩時間・・ 頭がくらくらして、足元はおぼつかない。なんだか夏休み前の球技大会の気分だった。 イエローは、やはりジェットコースターに乗らなければ良かったと後悔していた。思っていた以上に速かったそのスピ ードは、まるで高速道路を走っている車の窓から顔を出しているようで恐かったし、ループやトルネードで思いっきり酔 った。 コースターが走っている間は、叫び声さえも上げられない状態。 そんな悪夢にも思えるような状況から解放され、やっとのことでコースターから降りれたと思った途端、イエローは気 分が悪くなり、その場で倒れてしまったのだった。 ※ 倒れたイエローを気遣ったメンバーは、彼女のためにベンチ近くで休憩を取る事にしてくれていた。レッドとグリーンが 買ってきたアイスクリームなどを食べたり、色々と喋ったりして、イエローの気分がよくなるまで時間を潰そう。そう、ゴ ールドとレッドが口を揃えていってくれた。 そんな気遣いに嬉しくなりながらも、コースターでの恐さが抜けないイエローは誰かと喋るような気分がしなかった。 しかし、黙ってベンチに寝転がりながるのも暇だ。 どうせなら、と仰向けになりながら思ったイエローは、おしゃべりを続けている周りの会話に聞き耳を立ててみた。 「へえ、レッド先生って1人暮らしなんですか?」 「まあな。もう何年も前からそうなってる。料理を作るのだけは、いまだに苦手だけど・・・」 この会話は、クリスとレッド。主にレッドの生活についての話らしい。 レッドは1人暮らしをしているのは、前々から知っていた。なんでも、5年以上も前から1人で暮らしているらしく、料理 が苦手なレッドは何度か保険医のナナミやブルーに夕食を作ってもらっている、と前にレッドが言っていた。ブルーの 場合、料金を取られるようだが・・・・ イエローはその会話から注意をそらし、他のところにも耳を向けてみる。 「シルバー!俺のポッキ―食ったろ!」 「お前のものなど食べるか」 これはゴールドとシルバー。 どうやら、ゴールドのポッキ―を奪った奪わないで揉めているようだが・・・・まあ、どうでもいいことだろう。 今度はジェルブとブルーの会話を・・・・ 「へえ、沸騰してきたら硫酸を入れるのか~」 「ええ、そうしたら結構な量の爆薬ができるし・・」 聞かなかった事にしよう。 ひと通り聞いて回ると、グリーンの声だけが聞こえないことに気が付いた。ここにはいないのだろうか?それとも黙っ ているだけ? 不思議に思ったイエローは、周りに様子を伺おうと体を起こしてみた。 「あれ・・・・?やっぱりいない・・」 「イエロー、もういいのか」 「ひゃ!」 周りにグリーンがいないと思った瞬間、急に後ろから声をかけられたイエローは、驚いて大声をあげた。 そして振り向くと、そこには呆れた顔をしているグリーンがいた。 「グ、グリーン先生・・・」 「・・・その様子だと、もう気分はよくなったようだな」 「そうなのか?イエロー?」 驚いていると、今度はレッドの声が後ろから聞こえてくる。振り返ると、レッドを含めたメンバー全員が自分の方を向い ているのに気付き、イエローは恥ずかしくなってきた。おそらく、さっきの大声に驚いているのだろう。 イエローは顔が赤くなりつつ、「は、はい・・・もう大丈夫です」と小さく言う。 それを聞いたレッドは、「そっか」と微笑んで、みんなの方を向いた。 「じゃあ、次に行くか?」 「よっしゃあ!今度はあそこだ!」 レッドの言葉に1番に反応したゴールドは、今まで持っていたポッキ―の箱をゴミ箱に放り投げ、一気に駆け出してい く。「ちょ、ちょっとゴールド!」とクリスが声をあげるが、それにまったく反応せずに走っていった。 その様子を見て、レッドは「じゃ、ゴールドについていくか」と苦笑いを浮かべながら皆に言うのだった。 お化け屋敷・・ だが、そうやっていくらか回復した身体でも、次のアトラクションに入るのはかなり嫌だった。 「お化け屋敷・・・」 イエローはお化け屋敷の看板を見ると、周りに聞こえないように呟いた。 この遊園地のお化け屋敷は、『本物の恐怖の館』と言われていて有名だった。どんな生意気な子供でも入れば泣く し、大人のお客さんでもその恐怖のために失神してしまった、という話もよく聞く。 入り口の前にも、「心臓の弱い方は、ご入場をお控えください」という張り紙が貼ってあり、一層恐さを引き立たせてい る。 だが、そんなお化け屋敷にイエロー以外のメンバーは躊躇せずに入っていった。ゴールドやジェルブなどは笑ってさ えいる。その姿がイエローには信じられなかった。 イエローは、お化け屋敷の戦々恐々とする看板を見上げながら、呆然と立ちすくんでいた。 「・・・・・・」 「何をしている。早く入れ」 「グリーン先生・・・」 看板を見上げ、入り口の前で入るべきか入らざるべきか迷っていると、後ろのグリーンが文句を言ってきた。もうすで に他のメンバーは中に入っている。 驚いた事に、グリーンはお化け屋敷はむしろ好きらしい。自分には到底理解できない事だが、ああやって恐がる事も たまにはいい、と彼はここに向かう道上で言っていた。 それを思い出しながらイエローは後ろを向いた。グリーンは「なんだ?」と言って不思議そうな顔をしている。 しかし、イエローにはそんなことにかまっている暇は無かった。今は、グリーンをなんとしてでも口説き落として、この お化け屋敷に入らなくてもいいようにしなくてはならない。いわゆる、言い訳を始めるのだ。 イエローは口を開いた。 「あのですね・・・・・やっぱりこういうものは苦手な人が入っても、一層苦手にさせてしまうだけだと思うんです。そもそ も、お化け屋敷というのはあまり良いものではないと思いませんか?人を脅かして、それでお金を取るだなんて、な んだか理不尽な気がします」 捲くし立てるように次々と言葉を出して行くイエローは、そこで一息を入れた。グリーンは驚いた顔をしている。よし、 なんとか全部かまずに言う事ができた。これでなんとかグリーンが言いくるめられてくれれば・・・・ そう思ったイエローだったが、次の瞬間、グリーンが自分の体の1点を静かに見つめている事に気付き、そこに目を移 す。するとそこには、震えている自分の手が・・・ まずい。これじゃあ、ただ単に恐がっているだけだと思われる! イエローは危機感を感じ、すぐに次の言葉を続けようとした。 だが、その前にグリーンからの反撃がやってきた。 「そうだな・・・だが、恐怖を克服することも人生においては大事なことだ・・・・・お化け屋敷というのは、お金を払う事 で恐怖に慣れることができるという利点を、我々が買っている・・・・・・そう思えば、あまり理不尽でもないはずだ」 イエローは「うぅ・・」と小さく呻き声をあげる。グリーンの意見は的を得ている。これでは負けてしまう。 彼の言葉に続いて「ですけど、」と言おうとしたイエローだったが、その前にグリーンに震えている手を捕まれた。 「けども何も無い。議論は終わりだ。早く行かなければ他の奴らとはぐれる。行くぞ」 「ま、待って下さい、先生!」 グリーンは自分の手を掴みながら、どんどんとお化け屋敷に入っていく。イエローは必死になってそれに抵抗したもの の、そこは大人と子供の差。そして男女の差。力では到底かなわない。力ずくとも言っていい。グリーンに引っ張られ ながら、イエローは嫌々ながらにお化け屋敷へと入っていった。 そうして10分後には、 「やぁ~~!!!」 イエローの叫び声がお化け屋敷中に響き渡っていた。 ベンチの上・・ やはり駄目だった。あんなものに耐えられるはずが無い。 イエローはベンチの上で再び寝転びながら、お化け屋敷の恐さを思い出していた。周りには誰も居ない。また倒れて しまったイエローを置いておき、他のところに遊びに行っているのだ。もちろん、1人で置いていかれては居ない。傍ら にはジェルブが座っていた。 お化け屋敷は、本当に恐かった。思い出したくないのに、勝手に頭が考えている。 お化け屋敷の中に入って早々、辺りは真っ暗になってしまった。いくら目をこらしても周りには何も見えず、唯一の灯 りは順路に点々とあるロウソク型のランプだけだ。1メートル先も見えない状況の中、歩くのは本当に恐い。 しかも入るのが遅かったため、イエローとグリーンは他のメンバーからの距離が離れてしまった。出口に行けば待っ ていてくれるだろうが、やはり大人数で行きたかったとイエローは思っていた。2人だと余計に恐さを助長させている 気がする。 建物の中を歩いている間、イエローはずっと目を瞑っていた。回りの恐いものを見ないように、力の限り瞼を閉じてい た。そのままでは歩くことも出来なくなってしまうので、とりあえずグリーンの服の裾を掴みながら歩いていた。グリー ンはそれに関しては何も言わなかった。しょうがない、とでも思っていたのだろう。 だが、問題があった。 目を瞑っていても、恐いものは恐いのだ。 視覚的恐怖がない代わりに、耳から入る奇声や何かの気持ち悪い感触を、敏感に感じ取ってしまっていたのだ。 変に冷たい空気を感じたと思えば、急に化け物の雄叫びのような声が聞こえ、そうかと思えば女の人の悲鳴が聞こ え、そして耳の辺りに生温かい空気を感じる。 そこまでくると、イエローはパニック状態になってしまった。 グリーンの服を掴んでいた手は、いつの間にか彼の右腕を抱き締めていて、何かの音が響くたびに思いっきりその腕 を抱き締めていた。 そうして出口に着き、グリーンの腕を放すと、イエローはすぐに腰が抜けてしまい、全く歩けなくなってしまったのだっ た。 ――・・・・2度と入らないようにしよう―― 木陰の下にあるベンチで、イエローは人知れず決意していた。これからどんなことがあろうとも、お化け屋敷には入ら ないでおこう、と。 決意を固めた後は、イエローは「皆はどうしているんだろう」と思い始めていた。今、横にはジェルブしかいない。他の メンバーは自分達より先に、他のアトラクションに行っているはずだ。 お化け屋敷から出てきて倒れてしまった時、皆は自分が回復するまで待とう、と言ってくれた。 だが、イエローはそれを遠慮した。 もうすでにジェットコースター後に1度待たせているから悪いし、皆も他のアトラクションに早く行きたいだろう、と思った からだった。 それを言葉で言った時、最初に答えたのはクリスだった。 「じゃあ、誰か1人だけ残りましょう」 そう言って、周りを見回し始めた。誰かを探しているような感じだ。 そして、ある程度まで首をあちこちまで向けると、「あれ・・・?レッド先生は?」と呟いた。どうやら、彼女はレッドを残 しておいてくれるつもりだったのだろう。 しかし、その思惑は「レッド先生ならさっきブルー先生に連れていかれたぞ?」というゴールドの言葉によって否定さ れてしまった。 「ええ!?」 驚くクリスに、ゴールドが答える。 「さっきブルー先生が『先に行ってるから!』って言って、レッド先生とグリーン先生の2人を連れて行っちまったぞ?」 「そ、そんな・・・」 落胆するクリスがこちらを向き、小さく呟いた。「すみません、イエローさん」と。 その時イエローは気付いた。クリスは、自分がレッドにプレゼントを渡せるように取り計らってくれるつもりだったのか、 と。しかし、どうやら失敗に終わったようだ。 その失敗の原因は、やはりブルー。 今回プレゼントを渡せるかどうか、彼女の行動にかかっていると言ってもいいだろう。今までそうだったのだから・・・ 「いいですよ」 申し訳なさそうな顔をしているクリスに向かって、イエローは小さく言った。仕方が無い。まだチャンスはあるはずだ。 そして、結局ここに残る事になったのは、それを自ら志願したジェルブになったのだ。 だが、今はそれでもよかったと思っている。 いや、それ以上にジェルブが居てくれて、本当に良かったと思っていた。 なぜなら、ジェルブは親切だし、何より傍にいるとほっとするのだ。なんというか、恋人と一緒にいるとしたら(今までい たことはないが)こんな感じなのかなあ、と思うような感覚だった。 ジェルブの話は面白いし、話し方なども楽しい。おおげさに表現する時もあれば、小さく呟くように話すときもある。と にかく千変万化なのだ。 先ほどまでも色々と喋っていたが、今は沈黙が訪れている。しかし、それも居心地が悪いものではなく、何かしら温 かい雰囲気がするものだった。 自分の額には、ジェルブが持っていたハンカチを水で濡らして置いてある。布にしみこんでいる水は、暑い外気に触 れてどんどん暖かくなっていくと思ったが、それほどすぐに温度は上がらず、冷え冷えと額の温度を下げていった。 それにともなって、先ほどお化け屋敷のせいでパニックになっていた心も、落ち着いていくような気がした。 「なあ、イエロー」 「はい?」 しばらく何も考えず、ハンカチの冷たさを感じて目を瞑っていると、突然ジェルブが話し掛けてきた。すぐさま目を開 け、先ほどまで寝転んでいたベンチから、上半身だけを起こす。 ジェルブはこちらを見ていなかった。その視線の先には、子供連れの男女がいる。両親と思われる人物が、双子のよ うにそっくりな男の子と女の子にソフトクリームを手渡していた。 「なんか、今日、レッド先生に渡すんだろ?」 「え?」 その家族見ながら目を動かしもしないで言ったジェルブ。イエローはその言葉に、一瞬、思考が止まってしまった。 そして、それは数秒後に再び動き始めた。何かを言われたことを頭が認識し、1文字1文字も整理していく。 彼の言葉の意味を理解した時には、驚きが身体の底から出てくるのを感じた。 「・・・・どうして分かったんですか?」 「ん・・雰囲気で・・・・・かな?」 雰囲気で分かるものなのだろうか? だが・・・・・ばれているのならしょうがない。 イエローはそう思い、もう観念する事にした。隠していても仕方が無い。ここは正直に言っておこう。 「・・・・そうです。誕生日のプレゼントが渡したくて・・」 イエローが言い終わると、ジェルブはただ、「そうか・・・・」と言うだけで終わった。何も反応を返してこずに、黙りこくっ てしまう。顔はなんだか寂しそうな表情をしていた。 イエローは不思議に思い、「ジェルさん・・・?」と声を掛けた。ジェルブは、それを聞き、一瞬だけビク!となったが、す ぐにそれは無くなる。そして身体を横に向けて、こちらを見つめてきた。 ジェルブは微笑みながら口を開く。 「ならさ、協力してやるよ」 「え・・・・・・本当ですか!?」 「ああ」 ジェルブの言葉に、イエローは素直に喜んでいた。 協力してくれるというのなら、それは願っても無い事だった。先ほどもクリスが、レッドを付き添いにしてくれるようにし てくれたが、それもあえなく失敗してしまった。 それを見て自分も、もしかしたら渡す事が出来なくなるかもしれない、と少し思い始めていたのだ。 だから、彼の申し出は本当に嬉しい。 しかし、理由が分からなかった。 そんなことをして、何かジェルブに得はあるのだろうか? しかしそれをジェルブに聞くと、 「別に・・・・ただの気まぐれ。」 と答えた。 これにイエローは少し笑った。それは彼らしくあって、彼らしくもなかったからだった。 それからしばらく、どうやって渡そうかとか、渡す時はこういうセリフを言ったほうがいいとかを笑い合いながら話し込 んでいると、気分はすっかりよくなっていった。 「もう行きましょうか?」 「気分は?」 「大丈夫ですよ」 回復したならば、こんな事でぐずぐずしている暇は無い。早くレッド達に合流するべきだ。 それに、この遊園地に来る事自体、前々から楽しみにしていた。レッドへのプレゼントなどを抜きにしても、普通に遊 びたい。 イエローはベンチに座っていた身体を立ち上がらせ、大きく伸びをした。 ずっと寝ていたせいで、後ろの髪が、少し乱れている気がしたが、それは手ぐしで、さっと直しておいた。やはりポニ ーテールじゃないと少し面倒だと思う。 それから、すぐにジェルブの方を向き、目で、『行きましょう』と言った。 だが、ジェルブは「先に行っといてくれ。トイレに行くから」と言うので、イエローは「そうですか」と言って、みんなが言 っているであろう方向に歩き始めた。 と、歩き始める直前、イエローはジェルブの方を振り返った。 「協力お願いしますね。ジェルさん」 笑顔で言うと、ジェルブは「分かってるよ」と返してきた。これで本当に安心。彼ならなとかしてくれる。そんな気がして ならない。 そうしてイエローは、これからのことを前向きに考えながら、元気よく歩き始めていったのだった。 「・・・・・・・・」 トイレに行くと言ったはずのジェルブは、イエローを見送った後も、その場から全く動かなかった。ベンチに座ったま ま、どこかを見ている。 その視線の先には、先ほどの親子がいた。 なにやら女の子が泣いている。両親はなだめるようにその子の頭を撫でてやっているが、女の子はまったく泣き止む 様子が無い。 どうやら、女の子の持っていた風船が木に引っかかってしまったようだ。 ジェルブは立ち上がり、まっすぐに女の子の前に歩いていった。 「どうかしました?」 両親に向けて言った。 「風船が木に引っ掛ってしまって・・・」 「・・・なら、任せてください」 両親にそう告げると、今度は女の子の前に立ち、その場にしゃがんだ。そうして目線の高さが同じになるようにしたの だ。 ジェルブは言った。 「お兄ちゃんがとってやるよ」 泣いている女の子の頭を撫でてやると、ジェルブは立ち上がり、ちょうど真上に引っ掛っている風船を見上げた。 風船が引っかかっている場所まで約5メートル。普通ならジャンプをしても届きそうに無いだろう。 「あの・・・・木に登るのは危ないですよ?」 女の子の母親が言った。隣にいる父親も頷く。どうやら彼らは、自分が木に登ると考えているらしい。 だが、そのつもりはなかった。 ジェルブは両親に微笑みだけを返して置き、再び風船を見上げる。 そして・・・・・膝を思いっきり曲げて、飛んだ。 「よっ、と」 ジェルブは思いっきりジャンプすると、木の枝の中でも1番低いものに手をかけ、宙ぶらりんになった。 そして、鉄棒の要領で枝を逆上がりし、その枝に登り、少しからだを動かして枝の上に乗った。 そうすれば、後は簡単だった。枝を数回登り、伸ばせる限り腕を伸ばして風船の紐の部分に手をかける。 風船をしっかりと掴むと、それが枝に引っかからないように気を付けながら、3メートル以上の高さがある枝の上から ジャンプして、下に降りた。 一連の動作が終わり、家族の方を向いた。両親は唖然とし、女の子は拍手をしている姿がそこにはあった。 ジェルブは女の子に近づいていく。 「ほら、お嬢ちゃん。もう離すなよ」 「うん!」 風船を手渡してやると、女の子は嬉しそうな顔でお礼を言い、両親に取ってもらった風船を見せに行った。女の子が 近づくと、両親は頭を撫でてやり、ジェルブの方に向かって頭を下げた。お礼を言っているようだ。 ジェルブはそれに手を挙げて会釈した。 「お兄ちゃん、ありがとう!」 女の子がお礼を言ってきたので、ジェルブはそれにも「ああ」と言って微笑み、答えた。 ある程度まで話を終えると、両親たちは去っていった。風船を持っている女の子は本当に嬉しそうな顔をしている。ま た、男の子や父母も、女の子の様子を見て微笑んでいた。 ジェルブはそれを、見えなくなるまで眺め続けていた。 そこでふと、空を見上げる ――・・・・・・・・・―― 今日の空は快晴だった。夏の間は晴れが多いと言うが、ここまで綺麗な青空はめったに見られないだろう。 「嫌になってくるな・・・・」 ジェルブはそう呟くと、すぐに歩き始めた。歩幅を限界まで大きくし、急いでイエローが歩いていった先を追っていく。 先ほどの呟きは、誰にも聞かれることは無かった。 それからのイエロー達は、かなりの数のアトラクションを回っていった。 ウォータースライダー、ミラーハウスや、木造コースター。他にも、小さい船に乗って遊園地内の川を遊覧したし、立体 映画も見た。(ゴールドとジェルブはこれを見て、かなり興奮していた) しかし、まだ乗っていないものもある。 それは、遊園地の定番。なくてはならないもの・・・ 「観覧車!」 イエローは、いきなり聞こえてきた大声にびっくりした。 まだ乗っていないアトラクションがあるもの、時間も遅くなってきたのでそろそろ帰ろうか、とみんなで話し合っていた 時のことだった。 その時、ゴールドがいきなり叫んだのだ。 観覧車、と。 「観覧車・・・・?」 グリーンがピク!と反応し、なんだか嫌そうな顔をしてオウム返しに言った。顔色もそんなによくなく、いつの間にか持 っていた荷物も下に落としている。 しかし、ゴールドはそんなことなども気にもせず、大声で喋り続けていた。 「そうっスよ!観覧車!まだ乗ってないっスよ!」 「だけど、もう遅いぞ?」 レッドが腕時計を見ながら言った。 イエローも近くの柱時計を見て確かめると、レッドが言うように時刻は遅かった。あと30分もすれば閉園になってしま うだろう。 ゴールドもそれは気付いているようで、「そうっスけど・・・・・」と戸惑いながら言う。だが、やはり意を決したように続け た。 「それでも、やっぱり乗らないと!この遊園地の目玉っスよ!」 「「「・・・・・・」」」 みんなは一斉に黙ってしまった。 何故こんなにもゴールドは観覧車に乗りたがっているのだろうか? 確かに、ここの観覧車は大きいと言われている。テレビのCMでは、もっぱらそれが遊園地の目玉アトラクションと放 送している。それだけ、ここの観覧車は大きいのだ。 しかし時間が無いうえに、そろそろ並ぶことがみんな億劫になっているはずだ。もちろん、ゴールドも。 なのに、なぜそこまでゴールドが観覧車に乗りたがるのか・・・・ イエローには、ゴールドの真意がよく分からなかった。 それは他の面々も同じのようだった。 「・・・・・そうだな、行くか。」 と、急にジェルブが落ち着いた声を出す。ゴールドとはしゃいでいた時とは違い、冷静で策略を考えているかのような 口調。 そして、なにやらこちらを見てきて、含みのある目をする。イエローには、これも何を示しているのか分からなかった。 「う~ん・・・・じゃ、行くか」 一方、ジェルブの言葉を聞いたレッドが、そこまで言うなら・・・・という感じで言った。 他の面々も同じ様だった。 「じゃ、早速レッツゴー!」 ゴールドが先頭になり、イエロー達は観覧車へと向かって行った。 観覧車前・・ 観覧車前に着くと、クリスがいきなり、「くじを引いてください!」と言った。 それに対し、また皆が疑問顔をした。何故また、くじ?という感じだ。 「おいおい、これって1つで4、5人乗れるんだから、お前達と先生達で分かれれば・・」 「それじゃ、駄目です!とにかく、引いてください!」 レッドの意見はすぐに却下され、クリスは半ば強引ともいえる形で、みんなにくじを引かせ始める。くじは、何本もの細 長い紙に番号が書いてあるものだ。 イエローは少し身体を動かし、横にいるレッドの番号を覗いてみた。『3』と書いていた。 イエローが引く番になると、クリスがいきなり、「がんばってくださいね、イエローさん」と、耳元でささやいた。これもま た、イエローにはよく分からない。何をがんばるというのだろうか? 引いた番号はレッドと同じ、『3』だった。皆が引き終え、他に『3』を引いた人物を聞いてみると、ジェルブだけが『3』を 引いていた。 「あ!」 だが、この結果を聞いたクリスが一瞬、驚いた声を出していた。いったい何を驚いているのだろうか? しまった、という感じの顔をしているクリス。一方、『3』を引いたジェルブは、「俺、高所恐怖症だから」と言って、乗る ことを辞退する。 これもおかしいと思った。 ジェルブが高所恐怖症だなんて聞いたことが無い。それに、ジェットコースターは平気で乗っていた。すさまじいスピ ードを反対に喜んでいたくらいだ。 不思議に思っていると、ジェルブが歩いてきた。彼もまた目の前に来ると、「がんばれ」と、ただ一言だけいい、ベンチ の方に向かった。 それを聞いた時、頭にお化け屋敷の前のベンチでジェルブが「協力してやる」と言ったのを思い出した。 あの時、確かに協力してくれると言った。それに、クリスもゴールドも同じ様なことを言ってくれた。 ということは・・・・・これは・・ ――・・・・そっか―― ここでやっと、理解する事が出来た。 分かれば、今まで理解できていなかった自分がおかしくなってくる。 彼らはまさしく『協力』してくれたのだ。こんな直接的な方法で。 「観覧車に行こう!」と言ったゴールドは、とにかくみんなを観覧車に向かわせようとしてくれた。時間が無い事は自 分でも分かっていただろうし、無理矢理なことをいっている、と思っていたはずだ。 それでも、自分のためにやってくれた。 クリスは、これは推測だけれども、くじにイカサマをしたに違いない。 そうでないと、偶然レッドと同じ番号を引く事はできない。どんなイカサマをしたのかは分からないけど・・・ ジェルブは、2人の作戦の後押しだろう。 最初のゴールドの「観覧車に行こう!」を、自分が最初に賛成することで皆も行かせることに成功した。 観覧車のくじ引きも、おそらくクリスの手違いで『3』を引いたんだろうけど、それも乗ることを辞退したので何の問題も 無くなった。 ――・・・・・3人共・・・ありがとう―― イエローはこの3人に感謝した。 自分の為に、3人は出来る限りの事をしてくれたのだ。 後は、自分次第。 なんだか、今年の誕生日は無事にプレゼントが渡せるような気がしてきた。 観覧車に乗る直前、後ろから、「なんで私がグリーンと二人で乗らなきゃならないのよ!」という声が聞こえた。おそら くブルーだろう。 後ろを振り返ると、不満げな顔していながらも少し楽しみな顔をしているブルーと、顔がとても青いグリーンがいて、と ても対照的だった。 一瞬、ブルーがこっちに一緒に乗ってきそうな気配を見せたが、すぐにクリスが「ブルー先生、ちゃんと並んでください ね」となだめて、それを阻止する。 そして、クリスはイエローにウインクしてきた。 それを見ると、より一層「がんばろう」という気持ちがした。 観覧車の中・・ 観覧車の中は結構狭かった。レッドと互いに向かい合うように席に座り、係員がドアを閉めるのを待つ。 ドアが閉まると、それはゆっくりと上に向かいだした。段々と高くなってくると、窓から広がる景色は壮大なものとなっ てきて、その時イエローは素直に、「すごいなあ・・」と呟いた。 「結構高いな」 「はい」 レッドが言った言葉に、素直に返す。 レッドは窓の外を見ながら、色々な話をしてくれた。イエローもそれを聞いて笑った。 この観覧車は、1周約15分と長い時間をかけて回っているが、その程度の時間じゃ全然足りないくらい、おしゃべり をしていた。 「そういやさあ、グリーンが何で観覧車に乗る時に青い顔してたと思う?」 「さあ・・・・・・何でですか?」 そういえば、グリーンは「観覧車」という単語をした時に青い顔をしていたし、乗る前からぐったりとしていた。 レッドは続ける。 「あいつな、1度、観覧車に乗ってる時に、ドアの鍵が外れて開いちゃってさあ。外に落ちかけたんだよ」 「うわあ・・・・・それはまた、トラウマになりそうですねえ」 「ああ。今でもあいつは、観覧車って聞くだけでいっつも顔が青くなってる。それでもプライドのせいか知らないけど、 乗るのが嫌って言えない所が、面白い奴だよ」 その話を聞いてひとしきり笑った後、イエローは、前のゴンドラに乗っているブルーとグリーンを少し見てみようと、身を 乗り出した。すると案の定、顔を下に向けてぴくりとも動かないグリーンと、それを見て何かを喋っているブルーの姿 が、ちょっとだけ見えた。 なんだか、グリーンが気の毒に思えてきた。 ※ やっとゴンドラが頂上まで到達し、いよいよ見える景色も凄いものになっていた。 ずっと遠くにタマムシシティが見え、近くには凄いスピードだったジェットコースターや、凄く恐かったお化け屋敷など が見えた。 山も見える。タマムシとヤマブキの間にある小さな山だが、夏の季節となった今、その小さな山が深い緑に包まれて いるのがとても綺麗だった。 イエローは窓から見える景色に目を奪われ、おしゃべりを中断していた。レッドも同様だった。 イエローはちらりとレッドの顔を見た。彼は、目を細めて外の景色に見入っていた。何かを考えているのか、それとも 何も考えずに外を見ているのか、表情はぴくりとも動かなかった。 イエローは、自分の胸に手を当ててみた。 不思議と、気持ちは落ち着いていた。身体はまったく正常に動いていたし、心臓も早くなる事もなかった。 今なら、渡せる。 カバンの口を開けて、昨日、とても綺麗に包装し直したプレゼントを出した。 「レッド先生・・」 呼びかけると、レッドはこちらを向いた。 「ん?なんだ?」 「これを・・・・」 プレゼントをレッドの前に差し出す。なんだか手が震えてきた。とても緊張しているのだ。 だが、レッドはそれを見て、まず不思議そうな顔をした。まるで、何の箱?と思っているような様子だ。 まさか、と思った。いや、レッドなら考えられる事だ。 「あの・・・・今日はレッド先生の誕生日です」 「・・・・・ああ!そうだった!いや~すっかり忘れてた」 ハハ、と笑うレッドの言葉を聞いて、イエローは、2年前友達に言われた「レッドに誕生日を渡すとこうなるに違いな い」の話の内容を思い出した。 確かその中でも、レッドは自分の誕生日のことを忘れていた。プレゼントを渡すと不思議そうな顔をして、こちらから言 うとはにかむように笑う。そういう話だったはず。 それを頭の中に浮かべたイエローは、もう少しで笑いが出てきそうになった。 なんだか、デジャブのようなものを感じたからだ。 「開けてもいいか?」 「え?あ、はい、もちろんです。」 1人で色々と考えていると、レッドがいつの間にかプレゼントを受け取っていた。 開封する事を許すと、レッドはすぐに包装紙を取り始めた。しかし、結構不器用なのか、ところどころ破けてしまってい る。 不器用だというのは、ここで初めて知った。 それを見て、レッドのことをまた1つ知ったな、と思った。 「ふふ」 「笑うなよ・・・・・・・・」 自分が不器用なことが分かっているのか、レッドは恥ずかしそうに言う。それがまた面白くて、笑いそうになってしま う。 と、そうこうしている内に、プレゼントが開けられた。 「これは・・・」 レッドは、プレゼントの中身を見た途端、驚いた顔をして動きが止まってしまった。何か複雑な表情でそれを見てい る。 その様子の変化に、イエローはなんだか不安を覚えた。 もしかしたら、中身は嫌いなものだったのだろうか? いや、それはないはずだった。中身はレッドがよく身に付けているもの・・・・ 「これは・・・・・グローブか・・・・・」 レッドは箱からグローブを取り出しても、まだ複雑な表情をしていた。 彼がもつグローブは、黒い革で作られたものだ。手を全体的に包むようにし、指先だけは素肌が出るようになっている もの。以前からレッドがつけていたものと、同じ種類のはずだ。 しかし、レッドの顔は晴れない。 イエローは不安になってきた。 「・・・はい・・・・もしかして、嫌でしたか?」 そう尋ねると、レッドは慌てたように答える。 「あ、そんなことないさ・・・・・・ありがとう、イエロー」 レッドはそう言うと、イエローの頭を撫でた。 これもまた、2年前に友達に聞いた話とまったく同じだった。プレゼント渡すと、レッドに頭を撫でられる。まさしくその 通りだ。 『最後は、頭を撫でてくれて、ハッピーエンドよ!』 嬉しさに包まれた中、なんだか、あの時の友達の声が聞こえてきた気がした。 観覧車を降りて・・ 「あの・・・・・レッド先生」 「ん?」 「どうしてあの時、グローブを見て驚いてたんですか?」 「ああ・・・・・俺さあ、そろそろ新しいグローブが買わないとなあ、って思ってたんだよ。今のは、俺が新任の時に買っ たグローブだからな。そしたら、イエローがプレゼントしてくれただろ?一瞬、何で俺の欲しいものが?って思ったん だ」 微笑みながら答えるレッドは、もう先ほどのような表情はしていなかった。 彼の言葉を聞いたイエローは、そうだったのかと安心した。別に嫌だったわけではなかったのだ。それだけがよかっ た。 ただ、レッドがグローブを欲しがっているというのは知っていた事だった。 何ヶ月か前、レッドがグリーンと学校の廊下を歩いている時に、『そろそろ新しいグローブいるよなあ』言っていたの を、こっそり聞いていたからだ。 何をプレゼントするかを決める時、まっさきに思いついたのはグローブだった。もうすでに新しいものを買っているかも しれなかったが、やはり相手の欲しいものをあげるというのが、1番のプレゼントになると思ったのだ。 そして、遠くのデパートまで足を運び、レッドに一番合いそうな手袋を見つけてきた。 それらの行動が実を結んで、本当によかった。 「レッド先生・・・・・」 「ん?」 「楽しかったですね、今日」 「ああ」 「おーい、レッド先生!部長!」 レッドと微笑みながら話していると、前からゴールドの声が聞こえた。 よく見ると、げっそりとしてブルーに寄りかかっているグリーンと、それに文句をいっているブルーと、なんだか楽しそう なゴールドとクリスとジェルブがいた。 もう、先に観覧車を降りていたらしい。 イエローは、そんな彼らに、手を振りながら、小走りで近づいていくのだった。 イエローの日記・・ 8月8日 金曜日 快晴 今日は、なんと!みんなで遊園地に行きました! 久しぶりに遊園地に行ったんで、すっごく楽しかった。あ、ジェットコースターとお化け屋敷以外・・・・ とにかく、よかったなあ。もう一度行きたいよ。 そして、やっと思いで渡せたレッド先生の誕生日プレゼント・・・・・ なんだか、渡した時、「数々の怨念を乗せて、今!」ていう感じがした。(なんだか変なセリフ・・) レッド先生は、すごく喜んでくれた。本当、遠くのデパートまで言った甲斐があったよ~ もう夏休みに入っているけど、やっぱり暇じゃないなあ。もうすぐ合宿もあるし、気を引き締めていかなくちゃ! それでは、もう寝てしまいましょう。身体は疲れてるし。 明日もいいことがありますように。
https://w.atwiki.jp/wrs48/pages/17.html
1月 1日:山田・ンドゥーラ・花子、十六夜 さくら 11日:水勲 亜鶴 2月 9日:久留米 らいす 13日:山崎 晶 28日:浄善 千夢 29日:色鉛筆 世界、浦夢 茉莉 3月 14日:リアナ・ジュード 15日:五木田 まきは 28日:立直 之美 4月 26日:竜ヶ谷 はえる 28日:萬田 芳子 5月 13日:丸子 沙智 21日:公文 公香 25日:斎藤 ヒロミ 6月 2日:蒲田 麻衣 6日:フラドヴェリア 21日:二階堂 幸子 30日:白鳥 百合香 7月 1日:千歳 蘭蘭 2日:能丸 亜安愛 7日:七瀬 季雨、宝井 真紀 15日:河原 悠 21日:豊 繞 8月 1日:直向 夏葵 4日:四ツ谷 昴 16日:九留津 上葉 9月 3日:村田 奈々 9日:頭川 瑠依 22日:山一 朋香 28日:世大 愛定 29日:豊間 瑠子 10月 13日:豆村 水萌 28日:津抱 陽子 29日:三白 眼、八つ墓 奈多 11月 11日:言葉之 彩 15日:宿里 郁乃 12月 2日:由里子・フローリオ 12日:赤野 広葉 17日:那由他 ミリオン 19日:草村 なずな 25日:水内 依利 30日:草村 しげみ 31日:岡 奥菜
https://w.atwiki.jp/mashironoshiro/pages/72.html
スペシャルチーム ハンターアメリカ支部に設けられた、特殊部隊。 世界各地から集められた優秀なハンターのみで構成されている。 人数は、14人。 いずれも、高い能力を持つ。 ちなみに、S2号はボスの甥。 (「スペシャルチーム」そのものの設定は本作及びWikiの設定に準拠し、これらの設定を相談無しに改変・追加することを厳禁とします) ハンターS1号:あんず ♂→♀ 「ハンター本部最後の日!?」(流離太) ハンターS2号:ブドウ ♂ 「ハンター本部最後の日!?」(流離太) ハンターS3号:(未登録) ハンターS4号:レイシ ♀ 「ハンター本部最後の日!?」(流離太) ハンターS5~10号:(未登録) ハンターS11号:怪盗ジャック 「ハンター本部最後の日!?」(流離太) ハンターS12~13号:(未登録) Joker:(未登録)
https://w.atwiki.jp/f_go/pages/5151.html
│ステータス│入手方法|詳細情報|性能|性能比較│その他│コメント│ ゴッフ・スペシャル No.1461 礼装名 ゴッフ・スペシャル 初期 最大 Rare 3 LV 1 60 Cost 5 HP 300 1500 タイプ イベント期間限定 ATK 0 0 自身のArtsカード性能をアップ 3% 5% &HP回復量をアップ 5% 10% 詳細情報 イラストレーター TAa 解説 たっぷり遊んだ後は、 海辺でシェフのお勧めをどうぞ。 本日のスペシャルサンドは…… これそこの小動物、作った端から食べようとするのはやめたまえ! 入手方法 聖晶石召喚 6周年記念ピックアップ召喚(2021年8月1日(日) 19 00~8月15日(日) 12 59まで) 性能 コメント 名前 すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/dreamxkiss/pages/409.html
∞女 丸裸スペシャル(むげんだいおんなまるはだかすぺしゃる) ■∞のギモンにて2005年09月27日に放送 ◆松竹座の観客席に座る関ジャニ∞のコメントあり ◆美容整形のギモンなど、未公開シーン&総集編放送 ◆スカ☆J予告
https://w.atwiki.jp/koyarift/pages/194.html
夏休みスペシャル2022 【8/11~8/21】 昼枠 メガトン級ムサシ 崩した Raft 崩した Stranded Deep 終わらなかった 夜枠 11 山の日スペシャル 12~13 ホラーマルチ 14 花火大会 15~18 ホラー 19~20 ホラーマルチ 21 プレゼント抽選会 プレゼント抽選応募締切は8/21 1 00迄 詳しくはこちらに→プレゼント 終了 ホラー 零 ~濡鴉ノ巫女~ 崩した クアリー ~悪夢のサマーキャンプ やらなかった One More Night BiO Clinic やらなかった ホラーマルチ Project Zomboid 味わった Aliens Fireteam Elite やらなかった DEVOUR やらなかった 夏休みのホラー映画観賞会 2022 SP視聴予定映画 11 アタック・オブ・ザ・キラートマト(Gyao) 12 シン・ジョーズ 13 ニッポンの大家族 Saiko! The Large family 放送禁止 劇場版 (WATCHA) 14 ウィジャ・シャーク /霊界サメ大戦(字幕版) 15 グッド・ネイバー 16 寄生体XXX(字幕版) 17 シークレット ウインドウ 18 幽幻道士 キョンシーズ 19 ゾンビ津波 (吹替版) 20 ウィリーズ・ワンダーランド(吹替版) 21 道化死てるぜ! 22 放送禁止 劇場版 洗脳-邪悪なる鉄のイメージ-(WATCHA) 13日、22日の映画はWATCHAという配信サービスの無料期間で見るので要ユーザー登録 (WATCHAはこちら) 夏休みスペシャル2021 8/6 ~ 8/16 昼 日付 タイトル 予定 6~19 Subnautica(Steam)マルチ有 6~ cancel Raft(Steam)マルチ有 毎日18時から1時間 ARK Survival Evolved (Steam) (Epic)マルチ有 鯖 :Teikoku Ark Survival Evolved by G-Portal.com パス:mildom 夜 日付 タイトル(想定プレイ時間) 予定 6 Returnal(PS5) 6 7~11 Visage(Steam)6h 7~8 11~12 Root Letter Last Answer(Steam)10h 9~11 18~23 cancel 夜廻1(Steam)5h 12 13 13日の金曜日(Steam)マルチ有 13 14~17 The Medium - Deluxe Edition(Steam)8h 14 16 プレゼント抽選会 16 未 夜廻2(Steam) 7h 補 未 SIMULACRA 2(Steam) 5h 補 未 怪談大会絶賛募集中
https://w.atwiki.jp/25438/pages/3587.html
1 前作:和「約束のあの人」 和純 和ちゃん誕生日 2014/12/25 http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14921/1419507764/ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る 確かに何をしたかったのはよく分からんなぁ ↓疑問を抱いたのならそれも立派な感想、謝ることはないと思う -- (名無しさん) 2014-12-28 13 55 06 中盤以降電車の話がメインになって説明くさすぎる。 そのせいで肝心の和ちゃんと純ちゃんが置いてけぼり。 結局この二人の話を書きたかったのか電車の話を書きたかったのか、焦点がぼけてしまってもう一つ伝わってこなかったです。 あと細かいことを言うようだけど、口調が気になるところが何ヶ所かありました。 こうるさくてすみません。 -- (名無しさん) 2014-12-28 12 56 13 関わりないとか梓もドライだが、和っちゃんの冷たさも大概だな。 誕生日会やりたいって言ってくれてるのに… -- (名無しさん) 2014-12-27 13 26 27
https://w.atwiki.jp/vip_witches/pages/1676.html
『Good luck gift to you.』 突然だが、あなたにとっての幸運の証とは何だろうか? 四つ葉のクローバー?大吉のおみくじ?朝の占いで聞くラッキーカラー? 勿論人それぞれ、色々あるだろう。 私にとってはこれ。 そう、チョコバットの当たり。所謂ホームランだ。 他人から見れば単なるゴミにしか見えないかもしれないが、私にとってはとても大切な物なんだ。 今も自室の机の上、大事に写真立ての中に入れて飾ってある。 まぁ、疑問は解かる。 なぜこんなしょーも無い物を後生大事にしているのか?そう思っているのだろう。 こいつは“ツイてない”私が産まれて初めて手に入れた幸運の証で、14年間の私の人生において最高にハッピーな誕生日プレゼント。 どんなツイてない嫌な事があっても、一目見ただけで私を元気にしてくれる魔法の代物で、「私にもちゃんと幸運を掴めるんだ!」って前向きな気持ちにさせてくるんだよ。 これを私にくれたのは、勿論アイツ。 502が結成されてすぐ。 まだアイツとも全然仲なんて良くなくて、知り合いも1人もいないこの場所で上手くやっていけるか毎日不安に思っていた頃だったっけ? こうやって眼を瞑れば、今でも鮮明に思い出せる。 私が初めてアイツの優しさに触れた日。 アイツに、他の人に無い何かを感じた日 アイツの事、意外と悪くない奴って思った日。 私の、忘れられないバースデー。 * * * ≪1942年 オラーシャ 第502統合戦闘航空団基地≫ ニパ「むむむ…」 5月30日、自分が産まれた日が後数時間と迫った夜に、私はチョコバットの細長い包装を丁寧に破っている。 中身のチョコバーも大事だが、もっと大事なのは直径1cm程の包装の色が違う円形の部分。 正確に言えばそこに記されている文字。「ホームラン」、「ヒット」、「アウト」の3種類だ。 ニパ「…はぁ。」 辛気臭い溜息を吐いて、包装をくしゃりと丸めてゴミ箱へ放る。 今日もまた「アウト」だった。 別に誕生日が目前に迫っているからといって何も特別な事がある訳でも無いらしい。 何日連続でハズレを引いているのか、もう自分でも覚えていない。 「チョコバット」は扶桑のお菓子で、棒状の乾パン生地にチョコがコーティングされているものだ。 最大の特徴はクジが付いている事。「ホームラン」と「ヒット」が所謂当たりで、「アウト」が外れ。まったく扶桑人の考える事は面白い。 そもそも、なぜここオラーシャの土地に大量のチョコバットがあるのか?なんて疑問を持たれるだろうが、理由は単純。 とある1人の隊員が私物として持ち込んだから。それを隊員全員に「一日一本」として開放したのだ。 ここまでの流れを見れば予想がつくかも知れないが、当たりなら当然「もう一本。」貰えるって訳だ。 まぁ“ツイてない”私には無縁な話なんだけどね!! 俺「何?カタヤイネンは今日も外れ?」 少し遠慮がちに、チョコバットを持ち込んだ隊員…。 502JFWの唯一の男性である扶桑の俺少尉が私に声をかけてきた。 年は確か私と同じで、「爽やか」って言葉が似合う容姿をしていると思う。 クラスに1人はいる嫌味な感じがしない奴をイメージしてもらえば解かりやすいかも。 ニパ「あ、うん。また外れ。」 彼もきっと同い年って事で私に親近感を持ってくれたんだろう。 事ある毎にこうやって話かけてきてくれるのは嬉しいし、少し助かっている。 今の所一番仲がいいのかな? まぁ、まだ出会って1カ月そこそこだから仲がいいって言っても知れてるけどさ。 俺「俺は~…」 そう言って、目前の俺が手にしたチョコバットの包装を破る。 俺「ラッキー、またホームランだ。」 ニパ「凄っ!これで2週間連続じゃない?」 俺「最高で1カ月連続で引いた事もあるんだぜ?」 ニパ「嘘だ~。」 俺「本当だって。」 そんな嘘っぽい話をしながら、彼はもう一本手にとって包装を破る。 ちなみに先程のはすでに胃袋の中だ。 俺「今度はヒットか…」 ニパ「マジかよ…」 あまりの“ツキ”の違いを見せつけられて愕然とする。 俺少尉の通称“ラッキーストライク”ってのは伊達じゃないみたい。私と本当に正反対だ。 突き詰めればこんな物は確率の問題のはずなのに、おかしい。 ニパ「なんでこんなに違いがあるのかねぇ。」 俺「?」 思わず私が呟いた本心を聞いて、チョコバットを咥えたままの俺少尉が不思議な顔をして私を見つめる。 俺「食いかけで悪いけど、食べる?」 ニパ「いらない。」 私が彼を見ていたのを、チョコバットを食べたがっていると勘違いしたんだろう。 気を利かしてくれた俺少尉に少しだけ感謝して、申し出を丁重に断る。もう4分の1も残っていない物を貰うのはどうにも卑しい気がするしね。 ルマール「あ!ヒットだ!」 私の隣ではガリア空軍の少尉であるジョーゼット・ルマールさんが少しだけ嬉しそうに包装を眺めていた。 ルマール「えっと、ヒット4本でもう1本だったよね?」 ポケットをゴソゴソと探りながら、私に尋ねかけてくる。少しテンションが上がっているのかいつもより若干早口だ。可愛らしい。羨ましい。 ニパ「あ、はい。確かそう言ってたような…ねぇカンノ、それでいいんだよね?」 菅野「あん。」 口をモゴモゴさせながら、私の目前で小さなパワフルファイターがぶっきらぼうに頷いた。 こっちは余りクジには興味が無いようで、すでにチョコバーに齧りついている。 態度は悪いが、そこまで悪い奴じゃないような気がする。 今だって面倒くさそうだけど、ちゃんと答えてくれたしね。 ニパ「だそうですよ?」 ジョゼ「やった!じゃあ今日はもう1本♪」 ポケットから出した「ヒット」と記された3枚の丁寧に畳まれた包装と、先程の1枚を合わせて、食堂のテーブル端の「当たりクジ入れ」として使用されている小瓶に放り込んだルマール少尉は、足取り軽くチョコバットが納められている木箱へと向かって行った。 これで残りは後10本程かな? その中に後何本程の「当たり」が残っているのだろうか? もし、まだ残っているとしてそれを“ツイてない”私が引き当てられる確率は? ニパ「…ふぅ。」 ネガティブな事を考えながらチョコバットを齧る私。 齧った瞬間に口の中に広がる安っぽいチョコの甘さと香りは万人受けする味で、現にこうして多国籍の人間が集まる統合戦闘航空団でもみんな喜んで食べている。 私の母国のサルミアッキではこうはいかないだろう。いや、あれも美味しいとおもうんだけどなぁ。 ジョゼ「あ、今度はアウトか…」 チョコバットを手にして戻って来たルマール少尉が包装を破って嘆く。 一か月以上「アウト」しか出ていない人間もいるんだ。そうホイホイ当たりを引いてもらっても困る。 私がなぜ当たりに固執していたかと言えば、別にチョコバットをもう一本食べたかったからでは無い。 ニパ「ホンット、“ツイてない”なぁ~」 ほんの小さな事でいいから、「幸運の証」とでも言えばいいのかな?そう言った物が欲しかったんだ。 ほんのささやかな事でもいいから、「ちゃんと私も幸せになれる」っていう証明が欲しいんだ。 人に言えばたかがお菓子のクジで大げさだと笑われるかもしれないが、産まれてから一度も自分の幸運を実感した事が無い私にとって、それはとても重要な事でさ。 あまりに理不尽な不幸を私に押し付ける世界に対して…そんな不幸に対して立ち向かう事を諦めた私に、もう一度立ち向かう勇気をくれるようなそんな物を望んでいたんだ。 別にそれはチョコバットじゃなくても、チョコボールの金のエンジェルでも、ガリガリ君の当たり棒でも、なんでもいいのさ。 ニパ「…」 でもこうやって自分を信じて挑戦してみた所で、残るのは虚無感だけ。 自分が“ツイてない”のを実感させられて、また私の眼は世界を呪うために濁って、思考は自虐の泥沼へと深く潜ってしまう。 もう諦めようかな? 自分の不幸に妥協して、幸福を掴む事を放棄すれば…期待さえしなければ、今よりかは幾分か楽かもしれない。 俺「…」 私はきっと、浮かない顔をしていたんだろう。 俺少尉が少し心配そうな顔で私を見ている。 俺「どうしたの、大丈夫?」 ニパ「あ、ダイジョブダイジョブ。」 何が大丈夫なのかは解からないが、とりあえずこう返す。 しかし俺少尉が人の表情とかに気を配るタイプだった事は意外だった。 大型ネウロイ相手にも扶桑刀片手に突っ込んでブッタ斬る、勇猛果敢な荒武者のような戦場での姿からは想像もつかなくって、良い意味で驚いた。 俺「ホントに?大丈夫なようには見えないけど…」 言葉と共に俺少尉が私の方へと歩み寄って顔を覗きこんでくる。 スオムスには男性のウィッチがいなかったから男の人に耐性が無い私は少しドキリとしてしまった。 ニパ「なんでも…ないよ。」 少し口籠ってしまったのは、顔と顔の近い距離に驚いて緊張してしまっただけ。別に俺少尉の事どうこうでは無い。 きっと彼じゃなくて、そこいらのオッサンでも同じ反応を取っただろう。 だってずっと女所帯だったんだからしょうがないじゃないか 。 正直に喋った所で他人に理解できる類の悩みでは無いし、理解して欲しいとも思ってはいない。 下手に同情なんてされれば困るし、多分イラつくだろう。 イッルを始めとしたスオムスの仲間達みたいにネタにして笑ってくれればまだマシかもしれないけれど、まだ結成して日の浅いこの“502”ではそれも期待できない。 俺「…そう。」 言葉とは裏腹に納得など絶対していない表情の俺少尉は、眼を細めて私から距離を取る。 そして憮然とした面持ちで足早にキッチンの方へと向かっていった。 気を悪くしたのだろうか? ニパ「心配してくれたのにちょっと悪かったかな…」 なんてちょっぴり感じた罪悪感を呟いて時計を見れば時刻は22時過ぎ。結構長い事食堂にいたらしい。 菅野「ふぁあ~…眠…オレぁ部屋戻る。」 大欠伸を残して、菅野が食堂を後にして部屋へ帰っていった。 眠そうな眼をこすってトボトボと歩く姿はいつもの彼女と違ってとても可愛らしい。 やはり私達はまだまだ互いの事を知らないんだ。 ふとしたタイミングに、みんなの新たなる一面を日々感じ取っていく。 私がこう感じるって事は、みんなも私の事を見て同じように感じるのかな? ジョゼ「私もそろそろ戻りますね。ニパさんオヤスミなさい。」 ニパ「あ、はい。オヤスミ。」 どうだろうか?私は、正直あまり心を開けていないと思う。 そもそも502に出向してから本気で、思いっきり笑った事って無かったような気がする。 ここに来てからも相変わらず“ツイてない”のは変わらなくて、心開いて相談できる友達もいなくって、更にクジも当たらなくって… ニパ「…はぁ。」 大きく溜息。 俺少尉が私を心配するのも解かる。こんな溜息ばっかり吐いて陰気臭い奴誰だって嫌だろう。 こうやって不幸を言い訳に壁を作って、距離を置いて、それが今の“私”なのかな? それが、502の新しい仲間達が感じている“私”なのかな? 嫌だ。 “私”をちゃんと知って貰いたい。 でもその気持ちとは矛盾して、不幸の事はみんなにあまり言いたくない。 上述の通り、理解なんてして貰えるはずないし。同情も嫌だ。 そんな二律背反の思考に雁字搦めに縛られて、私は次の一歩を歩き出せずにいた。 まるで出口の無いトンネルを延々と通っているかのような錯覚を引き起こす。 解決法は解かっている。みんなに自分から歩み寄って理解して貰えばいい。 自分からは行動を起こさずに、他人から理解だけして貰いたいなんて幼稚な思考は流石に持ち合わせていないよ。 でも、頭にこびりついた思考は簡単に変わらない。 心に染みついた悩みはそう簡単に打ち明けられない。 そしてまた諦めと言う名の泥沼に私の足は沈んでいく。 ニパ「どうしよう。」 まさに八方塞がり。 だから少しだけ期待して、幼稚な思考に縋って、まだ電気の付いているキッチンに目を向ける。 もしかしたら、まだキッチンにいる彼が私をまだ心配してくれていて、もう一度私に話しかけてきてくれるかもしれない。 もう一度、私にすべてを話せるチャンスをくれるかもしれない。 ニパ「ダメだよ…さっき自分で拒絶したばっかじゃん。幾らなんでも都合良すぎ。」 自分から心を開かず、壁を作って距離を置いてる人間に歩み寄ろうなんて奇特な人がいる訳無い。 その時、私はそう思ってた。 でも。 俺「カタヤイネン曹長。上官命令だ。」 世の中には変な奴がいた。 ニパ「はぁ?」 そいつは、キッチンから2つのマグカップを持って現れた。 私の水色のマグカップと、彼の使ってる真っ白いマグカップに並々と注がれたホットココアを手にして。 そいつは、私が諦めようとした事を、他人からの理解を拒む事を許さなかった。 俺「親睦会しようぜ?ちなみにお前に拒否権は無い。」 そいつは、とびっきりの青空のような笑顔を浮かべて、まるで一迅の風のように私の心の隙間に入り込んできた。 ニパ「…」 そいつは、人が作った心の壁もお構いなしに叩いて壊して、人が作った心の距離も瞬時に踏み込んで縮めてしまった。 俺「んじゃ、腹割ってお話しましょうか。」 そいつは、諦めという泥沼につかって、「ここが私の居場所だ。」と強がっていた私をいとも簡単に引っ張り上げてしまった。 一見すれば、デリカシーが無いし、KYな行動だ。 でも今の私には俺少尉のそんな行動が、声が、言葉が救いになってくれたみたい。 不思議と嫌な感じはしなくって、自然と彼が手招く方へと足を運んでいた。 ニパ「クスッ。俺少尉って変な人だね。」 俺「よく言われる。」 時刻は22時45分、刻一刻と私の誕生日が迫る中。 私は眼の前で爽やかに微笑むKY男に手を引かれるように、ようやく自らの意思で止めていた足を一歩だけ前に踏み出したんだ。 * * * 対面する相手の息遣いまでもが聞こえてきそうな夜の静寂の中、私は同世代の男の子と向かいあって座る。 実は昔からちょっとだけ憧れていたシチュエーションだったりしたんだ。 例えそれがまだ出会って日の浅い何も知らない男の子でも、「2人っきりで内緒の話。」っていう漫画や小説みたいなシーンに私は少し緊張してドキドキしていた。 何度も言うが、それは私に男性に対する免疫が無いだけであって、彼にどうこうと言う訳ではない。 解かってくれるまで何度も繰り返すので、そのつもりでいてくれ。 そんな訳で意味も無く緊張している私は、何から話せばいいやらと足りない脳味噌をフル回転させてアタフタとしていた。 そんな私と対照的に、間に挟んだテーブルの上では、私と彼のマグカップが一個ずつ。なみなみと注がれたホットココアはまだ暖かくて、マイペースに湯気を放っている。 俺「あちっ!」 カップを手に取り、口に運んだ俺少尉が舌を火傷したようだ 自分で淹れてきた癖に、それに口をつけて火傷するとは、あまり頭は良くないみたい。 ニパ「クスッ」 俺「なんだよ、笑うなよ~。」 舌を出して、ヒーヒー言ってる彼が子供みたいで、可笑しかった。 猫舌なのかな? そんな彼の滑稽な姿に緊張が程良くほぐれたようで、ポツリポツリと言葉を選んで、私が感じていた漠然とした不安を打ち明け始めた。 まだ出会って間もない俺少尉に対して、自分でも不思議な程抵抗を感じる事無く心情を吐露していく。 真っ直ぐな瞳で、適度に相槌を挟んで聞いてくれる彼が聞き上手なのも理由の一つかもしれない。 ニパ「――ってのが、私が感じてた不安?ってやつかな?」 途中からは聞き上手な彼に甘えて一気に捲し立てるように話して、上述の不安を全て吐きだしてしまった。 不運に関して。 みんなと仲良くできるか不安な事。 そして「幸運の証」が欲しい事…。 そんな極私的な他人からすればバカバカしいとしか思えない話でも彼はまったく笑わずにただただ頷いてくれて、それが少しだけ嬉しかった。 ニパ「聞いての通り極私的な話で、誰かに解決してもらえるような内容じゃないんだ。」 俺「…」 そこまで話して、机の上のカップを手に取り口をつける。 もう湯気がたっていないココアはぬるくなっていて、時間の経過を感じさせた。 思ったより長く喋っていたみたいだ。 ニパ「自分で解決しないといけないよね。“答えはいつも自分で見つけろ”なんてよく聞くし。」 話を聞いてもらえて…心配してくれて嬉しかったから、素直に伝えようと思う。 実際こうやって不安を打ち明ける事が出来ただけで、少しだけ気持ちが楽になった気がする。 ニパ「でも、話聞いてくれて…ありがとう。」 ぬるくなったココアを飲み干し、それを片手に立ちあがる。 時計に目を向ければ時刻は23時30分。もうすぐ私の誕生日。 ニパ「嬉しかったよ。おやすみ俺少尉。」 誕生日前の今日は、私にとってイイ日だった…いや、俺少尉のおかげでイイ日になった。 だから、この後にまたなにか“ツイてない”事が起こって嫌な気分になる前に終えてしまいたかったんだ。 俺少尉のくれたささやかな幸運な時間を噛みしめたまま、私の特別な日を迎えたかったんだ。 彼に背を向け、返事を待たずに歩きそうとした時… いきなり背後から手を掴まれる。 ニパ「わっ!」 俺「悩みは解決できないけど、望みは叶えられるよ。」 男の子らしいゴツゴツしたマメだらけの手を肌で感じてドキドキしながら振り向けば、その武骨な手に似合わずいつも通りの爽やかな笑みの彼。 どこまでも真っ直ぐな瞳が私を射抜いて、見つめる。 ニパ「望…み…?」 俺「欲しいんだろ?幸運の証ってやつが。」 そんな彼の目線が私から外れて、食堂の片隅へ向かう。 追うように私も視線を向ければその先にあったのはチョコバットの入った木箱。 俺「見つけようぜ。」 どうやらまだ、彼のくれる幸運は終わらないようだ。 * * * 俺「ホームランが今まで14本出て、ヒットが全部出たみたいだな…」 先程と同じくひっそりとした空気の食堂の中、俺少尉が既に引き替え済みの「チョコバット」のクジが入った小瓶をひっくり返して、後「当たり」が何本残っているか確認する。 ニパ「って事は?」 俺「ホームランが1個だけ残ってる。」 ニパ「1個…だけ…か。」 俺「最後の1本になるまでにホームランを当てられれば、それはちゃんと“幸運の証”だよな。」 2人して並んで木箱を覗きこむ。 扶桑から俺少尉が持ってきたこの木箱に山ほど詰まっていた「チョコバット」も、毎日隊員達が食べ続けて、残りは後10本だけになっていた。 俺「大丈夫、この中に当たりは絶対あるんだから。むしろちゃんと当たりが残ってたのを“ツイてる”って考えよう。」 ニパ「うん!」 また少し不安になっていた私を、励ましてくれた。 本当に見かけによらずよく気がつく人だ。 そんな風に感心して彼の方に目を向ければ、顔の距離が思ったより近い事に気が付いてしまった。 ふと、先程掴まれた手の感触を思い出す。 ちょっとだけ恥ずかしくなって、しゃがんで距離を取ってしまう。 ニパ「1本目、いきますっ!!!」 誤魔化すように大きな声をあげて木箱の中のチョコバットを無造作に選び取り出す。 悩んだ所で仕方が無い、即断即決電撃戦術で攻めるんだ。 ニパ「…はぁ。」 俺「まだまだ!チャンスはまだ8回もあるんだ!」 ニパ「そだね!まだまだこれから!!」 結果だけ言えば、次もその次も、そのまた次も見事にアウトだった。 確率で言えば最初が1/10で、段々分母が下がって行き当たりやすくなるはずなのに一向に当たる気配が無い…。 我ながら自分のツキの無さが恐ろしいよ。 俺「いよいよラストチャンスか…。」 私が外したチョコバット達を齧りながら俺少尉が呟く。 木箱の中はいつの間にか寂しくなって2本のチョコバットが寄り添いあう夫婦のように並んでいるだけだった。 ここで外せば、もう幸運の証も手に入れられない。文字通りのラストチャンス。 ニパ「…」 チョコバットを掴もうとした手が震える。 確率は1/2だが当たる気がしない。 俺「…」 俺少尉が私を見つめる。 もしここで私がアウトを引いたら、彼はがっかりするだろうか? 彼がくれたチャンスに応えたい。 そして何よりも、“幸運の証”をこの手に掴みたい。 そんな想いが強ければ強い程、プレッシャーは重さを増して私の肩にのしかかる。 ニパ「ど、どうしよう。」 ガタガタ震えた手は動かない。 怖い。ここでまたアウトを引くのがどうしようもなく怖い。 ニパ「手…震えて動かない。」 俺「大丈夫。」 そう彼が言葉を発した瞬間、手の震えが止まった。 私が差し出した手を上から覆い尽くす様に重ねられた大きな手。 二パ「え?」 俺「ほら、震え止まったじゃん。」 耳のすぐ後ろから、そんな呑気な声がする。 頭だけで振り向けば、いつのまにか彼が私のすぐ背後に立っていた。 私が差し出した右手に自分も手を重ねて、私と目が合うと、彼も少し恥ずかしそうにハニカム。 傍から見れば、きっと私が背後から抱き締められているように見えるだろうか? そう見えたとしても実は体の触れあっている部分は手だけで、後は彼の気遣いだろうか?触れる事無く絶妙に距離を保っていた。 ニパ「…うん。」 不思議な事に彼の言う通りで、もう私の手が震える事は無かった。 年齢の割に大きな手から伝わるのは温もりと安心感。がっちりと優しく包み込んで、勇気をくれる。 俺「人間ってさ、誰かかが体に触れると安心するんだって。不思議だよね。 1人じゃないって安心するのかな?」 ニパ「不思議だね。本当に安心する…もう、怖くないよ。」 コツコツと時計の秒針が進む音だけが鳴る静寂の中で私達は見つめ合う。 本当に、この人は不思議な人だ。 ズケズケと人の心に踏み入ってくるし、KYだし、おまけに勝手に手を掴んでセクハラだし… でもそれが全然嫌じゃなくって、むしろ安心感をくれる。 もしかしたら私とは波長とか、なんと言うか相性みたいな物がいいのかな? 俺「いける?」 ニパ「いける。」 そうやって見つめ合う内に、彼が今の私達の状態の恥ずかしさにようやく気付いたようで、視線を逸らして訊ねてくる。 俺「じゃ、もう大丈夫だな。」 そう言って、手を離そうとする彼を ニパ「もうちょっとだけ…せっかくだから、ちゃんと掴むまで…お願い。」 私が引きとめる。 俺「え?…あ、うん。」 ちなみに手を離さないように頼んだ時、私は前を向いて彼に表情を悟られないようにしていた。 多分、顔が真っ赤になっていたと思うから。 だから彼がどんな表情をしていたか、私には解からない。 ニパ「じゃあ…いくよ。」 俺「うん。いこう。」 重なり合った2つの手を、残ったチョコバットの片方へと伸ばす。 二者択一、2つに1つ、どちらかが当たりでどちらかが外れ。 考えた所で答えなんて誰にも絶対に解からない、完全な運試し。 “ツイてない”私の意地を賭けた勝負、でも今は絶対に負ける気がしない。 だって今の私は1人じゃないんだから。 私の手を引っ張ってくれて。 私の背中を押してくれて。 私と一緒に手を伸ばしてくれた彼が一緒にいる。 だから、どんな不幸にだって負ける気がしない。 1人じゃないってだけで、こんなに勇気が湧いてくるなんて思ってもいなかった。 数分前の自分が嘘みたいだ。 そしてついに、私の手が一本のチョコバットを掴む。 俺「こいつでいいの?」 ニパ「うん。」 私がチョコバットを木箱から引き抜いた時点で、俺少尉が重ねていた手を離す。 一方私は胸元までチョコバットを引きよせて、じっと見つめる。 そして、チラリと彼の方を一瞥。ちゃんと見守っていてくれてるか確認。 安心できた所で、ゆっくりと包装を破り取っていく。 ニパ「…」 俺「…」 その先にあったのは… ニパ「あ…当たった。」 俺「マジ!?」 「ホームラン」という文字だった。所謂当たり。 喉から手が出るほど欲しかった“幸運の証”。 俺「マジだ…当たってる!よっしゃ!!やったじゃん!!」 私の手元を覗きこんで当たりを確認し、自分の事のように喜んでくれる俺少尉。 ニパ「やった…やった…やった―――――っ!!!!」 しかし彼なんて比じゃない位、当事者である私が喜んでいるんだからそれを可笑しいとは思わない。 ニパ「やった!やった!ほら見て!当たりだよ!ちゃんと私が当てたんだよ!!」 俺「あぁ!ちゃんとカタヤイネンが自分で当てたんだ!お前が掴んだ幸運だ!!」 ピョンピョンと飛び跳ねて全身で喜びを表現する私は、いつの間にか彼におもいっきり抱きついていた。 彼も興奮していたのか、それに疑問を感じなかったようで私を強い力で抱きしめて、背中をバンバンと叩いてくれた。 ニパ「あははっ!俺の、俺少尉のおかげだよ!!」 俺「ちっげぇよ!カタヤイネンが諦めなかったからだ!!」 異常なハイテンションのまま、依然抱きしめ合って喜びあう私達。 そんな異様な光景は、突然の闖入者によって終わりを迎える事となる。 サーシャ「何を騒いでいるんですか!!とっくに消灯時間は…」 夜中に馬鹿騒ぎしている私達を注意しに現れたポクルイーシキン大尉は食堂に立入るなり、抱きしめ合っている私達を見て、止まってしまった。 サーシャ「…え?」 俺「え?」 ニパ「え?」 ニパ「うわぁぁあああああああ!!!!!」 俺「うぉおおおおおおおぉおお!!!!!」 大尉の登場と反応により、自分達のとんでもない状態に気付いてしまった私達はマッハで互いから離れ、距離をとる。 俺「あ…あの、その…ごめん…」 ニパ「あ、いや私こそ…ごめんなさい…」 2人して俯いて、同じ表情して同じ顔の色してる。 そんな私達の様子を大尉は理解不能といった表情で見つめていた。 サーシャ「えっと、説明してもらえます?」 俺「どこから話せばいいのかな…」 ニパ「まずは…」 という感じで、なぜ私達がああなったかをかなり掻い摘んで大雑把に説明する私達。 ニパ「―――――って訳なんです。」 サーシャ「はぁ…そうですか。よかった…てっきり不純異性間交遊かと思いました。」 俺「ふじゅ…何だそれ?カタヤイネンは知ってる?」 ニパ「わかんない。」 俺「大尉、なんですかそれ?」 ニパ「なんですか?」 サーシャ「なんでもいいんです!」 なぜか怒られてしまった。本当になんなんだろうか? そして大尉はテーブルの上に散らかったチョコバットのゴミに目をやる。 サーシャ「もう!こんなに散らかして。」 ニパ「あ、ごめんなさい。」 俺「俺達で片付けますから!」 率先して片付け初めてしまった大尉を慌てて止める。 さすがに上官に掃除をさせる訳にはいかない。 サーシャ「今日だけですよ。ニパさんの誕生日に免じて許してあげます。」 ニパ「え?」 慌てて時計を見る、時刻は0時45分程。 いつの間にか私の誕生日になっていた。 俺「え!!??カタヤイネン今日誕生日なの!!??聞いてないっすよ!!」 サーシャ「だって言ってませんもの。」 俺「なんでですか!?」 サーシャ「最近出撃続きで忙しかったですからね…」 俺「確かに…つーかカタヤイネンもそう言う大事な事ちゃんと言えよな~…なんも準備できないじゃん…プレゼントどうしよう…」 彼が真剣に私へのプレゼントの事を考えてくれているのが、ちょっぴり嬉しかった。 でもね、もうプレゼントならすでに貰ってる。 ニパ「いらないよ。」 俺「いや、さすがにそういう訳には…」 ニパ「もう貰ったからね。」 そう言って、私はチョコバットの包装を胸の前に掲げる。 ホームランの文字が彼に見えるように、彼が私に掴ませてくれた“幸運の証”を見せつけるように。 ニパ「さいっこうのプレゼントだったよ。ありがとう、俺少尉。」 この時、私は502に出向してから初めて自然に笑えたと思う。 心からの、混じりっ気なしの100%の笑顔。 俺「あ…」 そんな私を俺少尉はしばらくハッとした表情で見つめて、急にそっぽ向いてしまった。 どうしたのだろうか? 俺「あ、いや…うん。カタヤイネンがそれでいいなら…。」 依然そっぽを向いたまま、彼が口を開く。 小声で喋るからどうにも聞きとりづらい。 サーシャ「とにかく、もう遅いですから早く部屋に戻りなさい。ニパさんの誕生日ならちゃんと今夜やりますから。」 ニパ「あ、ありがとうございます。」 ちゃんと私の誕生日祝ってもらえるんだ…。 みんなの仲間になれるか?とか、心開けるか?とか…本当にくだらない事で悩んでいたんだと実感する。 私は既に受け入れられていたらしい。すべて私の心の問題だったんだ。 誕生日にそれに気付くとはなんたる皮肉な事か。 サーシャ「ほら、俺さんもボーっとしてないで早く部屋に戻る!!」 俺「え!?あ、はい!!」 未だにブツブツと何か呟いていた俺少尉が大尉の指示を受けて我に帰る。 本当にどうしてしまったのだろうか? そのまま一目散に食堂を駆けだしていく俺少尉。 バタバタと足音が遠ざかって行く。 と、思ったら足音がまた近付いてくる。 そして、勢いよく開かれた食堂のドア。 私が彼に感じた第一印象の通り青空のような笑顔を浮かべて、彼が口を開く。 俺「言い忘れた!カタヤイネン、お誕生日おめでとう。」 ニパ「クスッ。」 それを言うだけに戻って来たのかと思うと、少し可笑しくって吹きだしてしまった。 そして私はこの変わり者で、KYで、ちょっと優しい男の子に応える。 ニパ「ありがとう。」 さっきと同じ笑顔で微笑んで、沢山のプレゼントをくれた彼を見る。 手には私の“幸運の証”、眼の前には私に幸運を掴ませてくれた人。 なんだか今日はイイ日になりそうな気がする。 それはきっと、彼のおかげかな。
https://w.atwiki.jp/bambohe/pages/331.html
概要 通称:どんスペ。 端的にいうならば、カツカレーと牛丼が合体した代物。 どん亭の主砲。四番バッター的なもの。 関連項目 どん亭 カレー カツカレー ファストフード店 外部リンク 満腹中枢を刺激しろ! どん亭スペシャル大盛り
https://w.atwiki.jp/avatarfashionista/pages/53.html
スペシャルアイテム スペシャルアイテムは当月のみ使用可能。 4月のスペシャルアイテム アイテム名 種類 入手方法 ドットリボン付バッグ1 アイ- 料亭 背景 アイ-ミドルクラス ベルトかごバッグ1 持ち物 サユリ- 観覧車 背景 サユリ-ミドルクラス 3月のスペシャルアイテム