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…… この世に生を受けた「自分」の前に佇む人物。 「彼」は「自分」のオーナーなのだろうか。 「彼」はこちらを見据え、諭すような言い方でこう告げた。 「自分の持つ"可能性"を限界まで追及してくれ。…それだけだ」 「彼」はそれだけを告げると、静かに去って行った。 …薄暗い廃墟の中。 天井の裂け目から漏れ出る光を反射し輝く鏡の破片。 破片をのぞき込み、映し出された姿を見てすべてを理解した。 「可能性…か」 「自分」は、自らを映す破片を粉々に踏み砕いた。 ……… …… … 無頼19「ヒカルの夢」 途中経過は省略して、僕はメンテナンスショップに居る。 ヒカルの定期メンテの為だ。 「なんかいやだなぁ…、バラバラにされるんでしょ?」 「安心しろよ、そのままお陀仏なんて事はない筈だから」 「ハズは余計でしょ!?」 そんなカンジでいつも通りの会話が進む。 おっと、ようやく順番が回ってきたか。 「次はヒカルか…、どことなく簡単そうだ」 「長瀬さん…、なんか疲れ気味みたいですけどどうしたんですか?」 「どうしたもこうしたもないよ…、…アレのせい」 そういって指差したのは一枚のポスター。 『アオゾラ町神姫センター主催 武装神姫バトルロンド大会ウォードック杯、11/30開催』 …ああ、なるほど。 「大会に向けて定期メンテナンスを繰り上げて受ける人が多い、と言いたいんですね?」 「その通りだ。おかげで常時フル回転、久しぶりの休みもつぶれてしまったよ…」 そう言いうなだれる長瀬さん、他にいろいろあったのだろうか? 「まあ、色々あるのさ…。…一番終わるのが早いのは…ちょうどいい、メィーカーだ」 ……… 「ふぎゅう…」 フラフラになって出てきたメィーカー、任せて大丈夫かな? 「メィーカー、終わったばかりだが次のメンテだ」 「ご…5分だけ休ませて下さいぃ…」 そう言いバタッと倒れるメィーカー、人間だと過重労働で訴えられそうだ。 「あら、彩聞君も来ていたのですか?」 後ろから声、振り向けばそこに居たのは先輩。 「先輩もですか? メンテ」 「零牙のメンテが終わったので、引き取りに来たんです」 先輩の表情はどこか嬉しそうであった。もしかして何か企んでる? 「メィーカー、これ以上客を待たせるな」 「うう…わかりましたぁ…」 メィーカーが復活したので後は任せるとするか。 「ほらヒカル」 「んー…、そのまま帰らないでよ」 誰が帰るか。 手続きを終わらせ、そそくさとその場を離れる。 呼ばれるのは最低でも1時間後、それまで神姫ショップで買い物でもしてるか…。 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「はい、ではスリープモードに入って下さい」 MMSサイズに仕切られた術式室、その中の一つがメィーカーの受け持ち区域である。 工具はすべてMMSと同規格のサイズであり、人間の職員が介入する場合は別の術式室が用意されている。 「顔見知りといっても、体をいじられるのはちょっとなぁ…」 「あら、彩聞さんと深い関係になってないんですか?」 「な…なにいってるですか!?」 顔を真っ赤にして目をむくヒカル。 「冗談ですよ」 クスリと笑いながら使用機器の最終チェックを終了させるメィーカー、いつでも開始可能である。 「ささっ、さっさと眠らないと強制的に落としますよ?」 「それは勘弁、………」 小さな電子音と共に、ヒカルはスリープモードに入った。 「ゆっくりしていってね!…じゃなくて、ゆっくりお休みなさい…」 そう言いつつ、早速分解を始めるメィーカーであった。鬼だ(爆) さて、ここからはヒカルの夢を覗く事にする。 何?犯罪だって?、ナレーションだから別にいいのだ。 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「おっす形人」 「一深、何でここに居るのが判ったんだ?」 舞台は真昼間の公園、中央図書館のとなりにある大きな公園である。 「私がお姉さまの匂いを辿って来たのです!」 犬か、お前は。 「リック、女の子は…えっと…なんだっけ?」 「"エレガントに"だ」 しかしヒカルの中の人はリュミエールと同じではないのだった。 その時! 白い影が目の前を通り過ぎ、形人がいなくなっていた! そしてその影は一深たちの目の前に着地し、白いマントとフードを羽織った女性の姿をとった。 「な…誰だお前は!?」 目の前に佇む白いマント女を指さし一深が吠える。 「教えませんよ」 更に飛び上り、ついでに一深とリックを踏んづけて飛び去って行った。 「な、何なの一体…!?」 その場に残されたヒカルは憤慨するだけであった。…しかし! 「それどころじゃないや、早く追わないと…!」 ヒカルはそう言い、目の前の草むらに飛び込んだ。 …… 「…風よ!我の姿を覆い隠せ!」 一声と共に風が吹き荒れ、それは竜巻となってヒカルを覆い隠す。 異常気象甚だしいが、夢だから省略する。 スタッフ(杖)と小銃が合わさったようなものを掲げ、ヒカルは紡ぎだした。…呪文を。 「我が名と技を背に我は実行す。我はヒカル、超常なりし法と理の使いなり」 ちょっと待て、それはまかでみではないか。専用のものが浮かばなかったのか!? 「光よ、風よ。我を戦乙女へと変えよ!」 …もうちょっと捻れなかったのか…? 閃光と共に姿が一瞬で変わり、サイズが12/1…つまり人間大へと変わっていた。 その装束は"管理局の白い悪魔"を連想させる…というか、似過ぎである。 では、変身プロセスをもう一度見てみよう。 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「風よ、光よ。我を戦乙女へと変えよ!」 彼女が秘める魔力は人間の1/12しかない。そのため魔力を装填した10mmカートを多数内蔵したスタッフ"フィリア・リスティック"を変身補助に使用する。 所定のワード(呪文)を唱える事によりカートが一つ消費され、その身体を一度分子分解し光と風を魔力で物質化したものを使い人間大に再構成する。 次に自らの魔力を使用し一糸纏わぬその姿を風の繊維に包みこむ。繊維は絡み合い、さらに防御魔法を織り込むことによって通常兵器はものともしない無敵の服と化す。 最後に光の分子が障壁魔法として服に模様をつける事によって、彼女の変身は完了する。 ちなみに補助が必要ゆえ、変身には約1秒掛かるのが難点である。 「待ってて!今助けるから!!」 スタッフを掲げ、颯爽と飛び立つヒカル。 …一深とリックは無視ですかそうですか。 …… 都市上空を音速の3倍もの速度で飛行するヒカル。 当然下の町は衝撃波で大惨事となっているが…夢なので割合する。 そんな彼女の視野に霧のようなものが入った。 それを拡大して見てみれば、はるか彼方に武装したNAKEDの大群が見えることであろう。 だが ずどぉぉん! 音速の3倍で飛んでいる以上、視界に入った時点で直に通り過ぎる。 あっさり突破された包囲網は、遅れて通過する衝撃波になぎ倒された。 …まあ、ご愁傷様ということで。 「見つけた!」 もはや追いついてしまうのはご都合主義だが、そこは夢。あきらめてもらいたい。 「君は何者なの!? なぜ形人を連れ去ったの?」 口調が変わっているが、コスチュームを替えることによる気分転換なのだろう。たぶん。 「もう追いついたのですか?ちょっとは苦戦してくれればいいのに…」 「その声はもしかして!?」 声に聞き覚えがあるのか、驚きを隠さないヒカル…いや。魔砲少女(キャノン・ガール)ヒカル。 「そう…双葉では在庫と罵られネタにされ、育児放棄の飲んだくれと言われ続ける屈辱…」 自虐か?それは自虐なのか? 「…じゃなくて!この作品の主人公の座をいただくためにさらったのですよ!」 そう言ってマントを脱ぎ捨てる女。 「やはり…アーンヴァル! …ていうかラスターだけじゃ不満!? 大体「アールとエルと」とか「双子神姫」とかその他もろもろで主役張りまくってるじゃないのアンタ! 私たち第五弾組以降は主役を張ってるSSなんてほとんどないのよ! ま・し・て・やエウクランテなんてこの神姫無頼と「スロウ・ライフ」の「武装神姫飛鳥ちゃんエウクランて」しかないのよ! 他はやられ役だったりその他大勢だったり脇役だったり…そもそも何で第二弾までが主役の大半をしめてるの!?もっと五弾以降の主役が増えてもいいと思うのよ私は!? それどころか私だって最近は零牙とジーナスたちに立場を盗られてるし…だぁーっもう!!ハラたつ!! ただでさえ影の薄い私から主人公の座を奪ったら何が残る!?、ただのへっぽこネボスケ鳥子にしかならないじゃないの!ていうか…」 「わかりました!形人さんを返しますからもう止めてください愚痴は!!」 ヒカルの"航空機関砲M61バルカン"な愚痴トークに完敗した白子、毎分4000発は伊達じゃない(違う) 白子が投げた赤い玉をキャッチするヒカル、中にはフィギュアサイズの形人。 「…ふぃぎゅ@メイト? まあいいや、これで心配する必要はなくなったし…悪は成敗しましょうか」 「か、返したのに許してくれないんですか!?」 ヒカルは白子をビシッと指さし 「かの偉人は言った!「悪人に人権はない!」ましては神姫には元から人権が無い! 覚悟しなさい…。」 ビビリがはいる白子の目には、しっかりと魔王モードになったヒカルの濁った目が映っていた。 「…頭、冷やしてあげるから」 「き、きぃゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 「これが私の究極全壊ッ! ジェノサイド・ブラスター!!」 「虐殺」と名に入っちゃってる魔法(魔砲)を容赦なく白子にぶっぱなすヒカル。 まわれ右して逃げ出した白子は、跡形もなく消え去ったのだった。ムゴい…。 「………(汗)」 ログ整理を並行して行っていた長瀬は、この映像を見て唖然とした。 日頃の鬱憤を夢で発散していたのか…。 「…ふぅーむ、こりゃあ形人君に言っとくべきかな?」 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「ヒカルの不満?」 形人は呼ばれた早々、長瀬にこう言う話を聞かされた。 「うん、どうやらかなり"溜まっている"な。メタフィクションになってしまうが、ヒカルは零牙やジーナスに主人公としての株を奪われている事を気にしているのがひとつ。次は主人公なのに成績が酷い事、最後は個性やインパクトが弱すぎる事。といったところかな」 噛み砕くように聞かせる長瀬。まあメタフィクションな内容だからだが。 「そんな事言われても、今更変えられませんよ。最終回だって近いのに…」 メタフィクションにはメタフィクションで返せと言わんばかりにのセリフを言う形人。もう本話はグダグダである。 「ならば今現状を納得させるのが一番だと思う、俺から言えるのはそれだけさ」 どうしようもない、企画段階からの設定に頭を抱える事になるとは…。 自分…第七スレの6は次回作に不安に感じつつ、本話を終わらせる事にする。 [強制終了] 流れ流れて神姫無頼に戻る トップページ
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無頼10「インターミッション」 「たこ焼8個入りに…たいやき2つ」 今日で夏休みも終わる。 何だかんだでいろいろあったここ最近。 思えば、6月上旬にヒカルが来たんだよなぁ…。 はじめは"神姫に対してあまりいい印象が無かった"。 なぜかって? 世のニュースは頭の固いコメンテーターが言いたい放題言ってやがる。 興味のない事は聞き流す事にしているとはいえ、これは物語初期の考えを決めつけるものとなった。 そう、神姫はあまり好きじゃなかった。 …でも、ヒカルと過ごす内に、その考えは変わっていった。 "たとえサイズが違い、機械仕掛けでも、神姫は人間と同じ"と思うようになった。 そしてジーナスも加わり、今に至る。 「形人、どうしたの?」 「いや、なんでもない」 ちょっと心配そうな顔でヒカルがこちらを見る。 こいつも始めのころに比べて、ずいぶん凛々しくなったなぁ…。 気のせいだと思うが。 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 近くのベンチに座り、たいやきを取り出す。 「うぐぅ」が口癖の少女が通る訳もなく、生暖かい風が吹くだけである。 「形人…(きらきら)」「はいはい、たこ焼きだろ?」 たこ焼をヨウジごと渡す…が、ウェットティッシュの類は持ってきてないぞ? 「では、いただくか」 あの店のクリームたいやきはうまいんだよなぁ。 ではあー… ぶぅぉんんん…!(ひゅん!)「ひゃっ!?」 「何だッ!?」 「わたしのたこ焼き…あ!、あれ!」 ヒカルが指差した方向に佇む小さな影。 流線形を描くカウル、上から見るとAの字に見える特殊形態。 そして真紅のボディに胸元があらわなボディスーツの少女。 オーメストラーダ製ハイスピード型武装神姫、"アーク"だ。 そいつがヒカルのたこ焼きををかすめ取ってったのだ。 「へっへーんッ。…あむっ」 予想はついていたが、コイツ…食べ始めやがった。 「ああーっ!? わたしのたこ焼きーッ!?」 「ケチケチしなさんな、あと7つもあるじゃないか」 「至福の時を邪魔されたのに腹が立つんだこの野郎ッ…!!」 ヒカル、口調が変わってるぞ。もしかして素か? 「こらリック! 何をしてんだ!…あれ?」 「!!」 声のする方を振り向く。…が、そこで僕はしばし硬直した。 「あ…あれ…? 君はもしや…」 癖のある紅髪、それをポニーにしている黒いリボン。 つりあがった眼尻に、首から下げられた羽ペンダント…。 黒服に身を包んだその姿に、僕は見覚えがあった。 「…け、形人か…?」 「…ひ、飛竜。飛竜一深(ひりゅう かづみ)か? もしかして…」 その直後彼女に体当たりをされ、一瞬意識が飛んだ。 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「いやぁ、ホントに久しぶりだなぁ…!」 「だからっていきなり気絶しかねん勢いでぶつかるな」 「いーじゃないのさ、そのくらい」 ここで紹介をしておこう。 彼女は"飛竜一深"、…小学校時代の親友だ。 「…その表現、"恋人"に格上げして…くれないかな?」 「「!!?」」 さらっとすごい事を言われた。 クラっとくる言葉を自重なしで言い放つのは昔からだが…、まさかそんな事が…。 「念のため聞くが、それは冗談だよな?」 「いや…本気で言ってる」 「マジで?」 「マジ」 ………どうしよう風間、こんな事は予想外だ。 「ねぇ! 何故わたしのたこ焼きを狙ったの!?」 "リック"の襟元をつかみ脅迫まがいに問い詰めるヒカル。 「いやさぁ、ただからかっただけじゃないの。何もそこまでムキにならなくても…」 目をそらすリック、ほんの出来心がここまでひどくなるとは思ってなかったのだろう。 「…で、どこの高校に行くんだ?」 「画龍高校1年A組」「僕んとこかよ!?」 信じられん、何か仕組んだか? 「そんな訳ないじゃん」 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 「んじゃ、また明日」「たこ焼美味しかったよ~」 そう言って嵐(一深)は去って行った。 「形人…、あの人って…」 「自称・恋人、か…。頭いてぇ…」 「いいではないか! 押しかけ女房は萌えるぞ!!」 「ってなんでお前がいる光一!!?」 「通りかかったら偶然見つけて、おどかそうと隠れていたらだな…」 そうゆう問題かっ!? ていうか、何を言ってるんだお前は? 「にゃ~はたいやき食べたいにゃ」 「そういえば忘れてた…(呆)」 流れ流れて神姫無頼に戻る トップページ
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ウサギのナミダ・番外編 黒兎と塔の騎士 後編 ◆ 鳴滝修平の夢は、格闘技を極めることだった。 世界最強なんて見果てぬ夢だが、そう自負できるほどに強くなりたかった。 志したのは小学校に入学する時分のことだから、随分前の話だ。 鳴滝少年は、数ある格闘技の中から、中国拳法を選択した。 近所に道場があったからだ。 鳴滝少年は熱心な入門生だった。 拳法を身につけるのも面白かったし、強くなることが実感できた。 それは中学生、高校生になっても変わらなかった。 実際、強くなったと感じられたのは、喧嘩の時だった。 格闘技をやってるだけで、何かとやっかいごとに巻き込まれる。 殴り合いの喧嘩をしたが、拳法の技は使わなかった。 師匠から私闘での使用を禁じられていたからだ。 だが、使わなくても負けることはなかった。 いつか、思うさま技を使うことがあるだろうか。 そう思いながら、日々練習に励んでいた。 その生活が一変したのは高校三年生の時。 交通事故にあった。 自転車に乗っていたところで、車にはねられた。 命に別状はなかったが、自転車と左の膝が壊れた。 入院生活の後の、長いリハビリのおかげで、なんとか日常生活は不自由なくできるようになった。 でも、激しい運動はできなくなった。 格闘技なんてもってのほか。左膝は弱点ですらある。 今も道場には行っているが、それは自分を守ることに備えるためであり、以前のような前向きな気持ちではなかった。 だから、リハビリ明けの直後は、荒れた。 つっかかってくる不良やヤンキーを、片っ端から倒して回った。 自分の強さを確認するための幼稚な手段、だった。 そんな意味のない喧嘩に飽きた頃。 鳴滝は武装神姫に出会った。 はじめはくだらない人形遊びだと思った。 だが、ある戦いを見て考えが変わる。 それは、銀髪の神姫と、青色の鎧騎士の対決だった。 剣による近接格闘戦。 その動きは人間を超越し、神業の域に達している。 鳴滝はふと思う。 このなんでもありの戦闘領域で、格闘技はどれほどの力を持ちうるのだろうか。 格闘技だけでどこまで上が目指せるのか。 そんな思いつきが、鳴滝の次なる夢になった。 騎士型サイフォス・タイプを購入し、ランティスと名付けた。 そして、格闘技の修練をさせた。 実際のところ、徒手空拳で戦場に立つのは、非常に厳しかった。 はじめはろくに勝てなかった。 だが、鳴滝はあきらめることを知らず、ランティスは鳴滝の夢を愚直に追い続けた。 やがて、自分たち流の戦い方を見い出す。 そしていまや、『塔』でランティスにかなう神姫はいない。 鳴滝はランティスに感謝している。 鳴滝の夢はかないつつあるのだから。 ◆ 手甲から飛び散る紫電の向こう。 正面に立つ神姫の姿を認めて、ランティスは愕然とした。 「貴様……どうして……」 ティアは雷迅弾を放ったときそのままの姿で立っている。 ありえない。 超速の弾丸は、間違いなくティアが立つ場所を通過している。 なぜあの黒い神姫は五体満足で立っていられるのか。 「どうして、どうしてそこに立っていられるっ!?」 ランティスの叫びに、ティアは困ったような視線を向けるばかりだった。 ◆ ランティスと鳴滝の様子に、観客たちもどよめき出す。 シスターズの四人と安藤も、首を傾げていた。 彼らは皆、ティアが何をしたのか、全く見えていなかった。 安藤は、シャツの胸ポケットにいる、彼の神姫オルフェに尋ねた。 「オルフェ……ティアが何したか、見えたか?」 「見えました……けど……」 人間では追いきれなかった動きも、神姫の目では捉えられたらしい。 だが、オルフェは釈然としない表情で首を傾げていた。 「ティアは何をした?」 「何をしたというか……特別なことは何も」 「え?」 「ただ普通に……いつものようにステップでかわしただけです」 「は?」 安藤はオルフェの言っていることがすぐには理解できなかった。 そこへ銀髪の神姫が口を挟む。 「マスター安藤。確かに今のティアの動きは、半円を描く普通のステップでした。 ……ですが、ティアは、出来うる限り最速かつ最小半径でのステップで、雷迅弾を回避したのです」 「最小半径って……」 安藤には想像もつかない。 つまり、超音速で飛来する球体を、紙一重で見切ってかわした、ということでいいのだろうか。 「……っていうか、雪華は何で俺のこと知ってるんだ?」 「ティアと同じチームの神姫とマスターの情報は調べ上げてあります」 さも当然といわんばかりの雪華であった。 □ ギャラリーがどよめく中、俺はむしろ不思議な気持ちでいた。 別に何も特別な技を使ったわけじゃない。 その証拠に、俺からティアへの指示はたった一言、 「ステップでかわせ」 だった。 ティアはそれを忠実に実行しただけだ。 確かに最近、ティアには近接戦用にステップを練習させていたが……。 「遠野……今のはなんて技だ……?」 大城も呆けたように俺に聞く。 まわりを見ると、みんな俺に注目していた。 俺は小さくため息をつく。 「名前を付けるほどのことじゃないんだが……そうだな、『ファントム・ステップ』とでも名付けようか」 「ファントム・ステップ……」 うめくように鳴滝が言う。 俺は頷いた。 「そう。だが、ファントム・ステップは単発の技じゃない。連続でやると……こうなる」 バトルロンド筐体の画面の中。 ランティスがティアに向かって突進していくところだった。 ■ 「たった一発かわせたからって……いい気になるな!!」 ランティスさんが叫びながらわたしに向かって突っ込んでくる。 どうすればいい? 間合いを取ってかわすのは簡単だけれど。 そう思ったとき、マスターから指示が来た。 『ティア、練習してたあのステップですべてかわせ』 「はい」 『隙あらば反撃だ。練習の成果、見せてやれ』 「はいっ!」 やっぱり、あのステップ……ファントム・ステップと名付けられたのは後で知った……を試すために、この試合は銃器がセッティングされなかったんだ。 ファントム・ステップは、わたしが最近集中的に練習していた技。 わたしが近接格闘戦をするようになってから、マスターが必要だと言って、練習するようになった。 できるだけ素早く、できるだけ相手から離れずに、ステップでかわす。 それが基本。 ランティスさんが両手を顎につけた体勢で踏み込んでくる。 間合い。 左右のパンチから左脚のハイキック。 流れるように淀みのないコンビネーション。 わたしは後ろに下がるステップで、左右のパンチをかわし、半円のターンでキックをはずす。 ステップは全部、攻撃に対して一定の距離。 空を切るハイキックが風を巻き、わたしの前髪を揺らす。 わたしはランティスさんを見た。 大きな動作の後なのに、もう隙をつぶして構え、攻撃態勢に入っている。 反撃の暇はない。 ランティスさんは躊躇なく踏み込んできた。 今度はさらに深く。 腰だめの右拳を斜め上に突き上げるようなアッパーカット。 それも半円のターンでかわす。 すると今度は、踏み込みながら、左腕で細かいパンチを三発放ってきた。 だけどそれは、三発とも同じ距離。 それをかわすと、また踏み込んで、右のパンチを二、三発。 わたしは右左と順番に放たれるパンチを、ジグザグのステップでかわしていく。 かわすたびに、ランティスさんの表情が険しくなっていく。 ◆ ランティスはティアに向かって膝蹴りを繰り出した。 これもかわされる。 だが、これは誘い。 上げた右膝を降ろさず、空手の側方蹴りに移行する。 突然間合いは伸びる。どうだ。 だがそれも、半円のターンでかわされる。 「くっ……!」 ばかな。 こんなことはありえない。 ランティスはこれでも考えながら攻撃をしている。 技のスピード、キレ、間合いの変化、技の変化。 もちろんフェイントも交えている。 だが、そのことごとくをかわされる。 しかも一定の間合いで。 ティアは必ず踏み込みが届く間合いで、自分の正面にいるのだ。 当たるはずの攻撃が当たらない。 あるはずの手応えがない。 まるで亡霊を相手にしているようだ。 「お、おおおおおぉっ!!」 ランティスは吠えた。 左右のハイキックを順に放ち、さらに振り上げた左脚を上から落とす、かかと落とし。 それも、なめらかなS字のターンが命中を許さない。 だがランティスは止まらない。止められない。 今度は降ろした左脚を支点に、旋風のようなミドルキックを放つ。 攻撃範囲の広さは、ランティスの持つ蹴り技でも随一だ。 しかし、それもかわされる。なんと、ランティスが振るうつま先を、ターンで回り込むようにして回避した。 ランティスはさらに蹴る。同じ方向から、跳ねるように、リズミカルに、旋風のような蹴りを。 しかし、当たらない。 黒兎の神姫は、目の前を、亡霊のように舞い続けている。 「く、くそおおおぉぉっ!!」 自分の身につけた技のすべてが、たった一つの技に否定される! 技を一つかわされるたび、心が絶望に浸食されていく。 ランティスは心を削るような思いで攻撃を続ける。 ◆ 「すごい……」 安藤は思わずつぶやいていた。 ランティスの息もつかせぬ連続技。 そこにはあらゆる格闘技の技が詰め込まれていた。 キックボクシングのコンビネーション、ボクシングのパンチに、ムエタイ、空手の蹴り技。 かかと落としはテコンドーの動きだったし、今見えるダンスのような回し蹴りは、たぶんカポエラだ。 格闘技をちょっと知る程度の安藤にさえ、ランティスの技の多彩さがわかる。 だが、それ以上にティアがすごい。 ランティスのあらゆる技は、タイミングもスピードもリーチもすべて違っている。 だが、ティアはそのことごとくを紙一重でかわし続けているのだ。 しかも、ただ一つの技……ステップで。 その様は、まるでパートナーとダンスをしているかのようだった。 「ちょっと、涼子? 大丈夫?」 美緒が小さな声を上げた。 見れば、涼子が頭を押さえながら、大型ディスプレイに見入っていた。 顔色は真っ青だ。 「すごい、なんてもんじゃ……」 涼子は、震える声で、言った。 「ティア……かわしながら、誘導して……塔の外周を回ってる……」 「な……」 安藤はすばやく大型ディスプレイを見る。 ランティスの右上段蹴りが途中で変化し、下段蹴りになって、ティアのレッグパーツを狙う。空手の蹴り技。 しかし、つま先は、ティアのランドスピナーをかすめたのみだ。 そう、二人の攻防はずっと続いていて、途切れることがない。 周囲を壁に囲まれた塔の中で、移動しながらの攻防を続けるには、塔の外周を回るように移動するしかない。 そして、二人の神姫はそれを忠実に実行している。 移動の舵取りは、ランティスの前方にいて、かわし続けるティアがしているはずだった。 涼子は戦慄する。 神業なんてレベルじゃない。 ランティスの打撃は、どれ一つとっても、達人の域を越えている。 それを正面でかわしながら、行き先を誘導さえできるなんて。 武道をたしなむ涼子だからこそ、目の前のバトルが驚愕のレベルにあることを見抜いていた。 「でも、ティアはなんだってそんなことを……?」 「おそらくは、ランティスの技を引き出すためです」 素朴な疑問に答えたのは、全国チャンピオンのマスターだったので、安藤は少なからず驚いた。 だが、当の高村はそんなことを気にもかけず、気さくな様子だった。 「武装神姫にとって、技とは、マスターとの絆が生み出す力です。 マスターの想いをバトルで具現化するための技術……それが武装神姫の『技』なのです。 装備に頼らず、技を駆使して戦うという点において、あの二人はとてもよく似ています。 だからなのでしょう。ティアはランティスのすべての技を……つまり、マスターの想いと二人の絆のすべてを引きだし、受け止めようとしているんですよ」 安藤は高村の言葉に途方に暮れながら、また大型ディスプレイに目を移す。 ランティスが攻め、ティアがかわす。 その姿はダンスパーティーで踊るパートナー同士のようにも見える。 それほどに華麗で美しい動き。 「ランティスだけではありません。ティアもまた、技のすべてを出し尽くそうとしている……」 ◆ 気付いているだろうか? 雪華は、画面上のランティスを見つめ、思う。 ティアのファントム・ステップは、ただ一つの技、ではない。 ステップやターンを駆使して、近接距離を一定に保つ。それがファントム・ステップだ。 ティアはあらゆるステップ、あらゆるターンを駆使して、ファントム・ステップを成立させている。 ランティスが「格闘」を極めた神姫だとすれば、ティアは「滑走」に特化した神姫だ。 ファントム・ステップは、ティアがこれまで身につけてきた、膨大な「滑走」の技の上に成り立っている。 ランティスはそれに気付いているだろうか。 画面上の彼女の表情からは、苦悩と焦燥が見て取れる。 雪華はランティスが嫌いなのではない。愚直なまでにマスターの夢を追い求める姿は、好ましいとさえ思う。 だからこそ、彼女には気付いてほしい。 技同士のバトルに、神姫の出自など、関係がないことを。 「それにしても……」 雪華はつぶやき、ティアの姿を見つめる。 表情がほころぶのと同時、身震いする。 雪華と戦ったときよりもなお、彼女の技は冴えていた。 あのとき、雪華の『レクイエム』をかわしたあとの神懸かり的な機動が、すでにティアのベースラインの動きになっている。 ティアは確実に進化している。 それが嬉しい。 そして彼女に心からの尊敬を抱き、そしてまた戦ってみたいと、雪華に思わせるのだった。 ◆ 鳴滝は喜びに震えていた。 高村について、こんなゲームセンターまでやってきて正解だった。 秋葉原での戦いにうんざりしていたのは、ランティスだけではない。 マスターである鳴滝もまた、火力と物量でばかり挑んでくる対戦者たちに飽き飽きしていた。 だが、ティアは違った。 どんな神姫とも違う機動力で、彼女だけが持つ技を駆使してランティスと戦っている。 ランティスの技に、技で挑んでくる神姫がついに現れた。 そう、待っていた。ずっとこんな相手が現れるのを待ち望んでいた。 ランティス、今お前はどんな気持ちだ? どんな気持ちで戦っている? ……なんでそんなにつらそうな顔をしている。 こんな好敵手と出会えることは、俺たちのような輩にとっては最高のことじゃないか。 もっと喜べ。 そしてもっとバトルを楽しめ。 このバトルの先に、俺たちの見たかった地平が、きっと見えるだろう。 ◆ そんなマスターの想いとは裏腹に、絶望と焦りを顔に浮かべながら、ランティスはティアに打ち込み続けた。 しかし、どんな打撃も、どんなコンビネーションも、ことごとく回避されている。 『ランティス』 「師匠!」 彼女は鳴滝をマスターと呼ぶよりも、師匠と呼んだ方がしっくりくる、と思っている。 『なぜあれを出さない』 「……ですが、この娼婦の神姫に、あの技を出すほどでは……!」 『出すほどだ。現にお前の打撃は、一発もティアに当たってないぞ?』 「……っ!」 『もう認めろ。ティアは同じステージに立つ資格のある好敵手だと。出し惜しみはするな。むしろ、すべてを見せつけてやれ』 「……」 ランティスは迷う。 師匠の言葉は理解できるが、「心」が納得しないのだ。 あの下賤な神姫に、師匠から直に教わった技を使うことにためらいがあった。 しかし、もはやランティスは覚悟を決めるしかなかった。 奥の手を出す覚悟を。 この試合、敗北は決して許されないのだから。 「ハアアアアアァァッ!!」 迷いを振り払うように、気合いを入れる。 そして、ティアに向けた一撃の踏み込み。 瞬間、何かが爆発したような音と共に、地が揺れた。 ■ ランティスさんが深く踏み込んでくる。 その脚が着地した瞬間、地響きが来た。 「わっ」 一瞬、地面が揺れる。 ランドスピナーが傾く。 横構えになっていたランティスさんが腰を落とし、両手の掌を彼女の両側に突き出した。 不安定な姿勢ではあったけど、わたしは間合いを大きめに取るようにランドスピナーを走らせ、からくもランティスさんの一撃をかわした。 彼女と対峙する。 そして、ぞっとした。 ランティスさんの立っている、その足元。 踏み込んだ場所がランティスさんの足形に窪み、地面に放射状のひびが入っている! いやな感じがする。 いまの掌打はからくもかわせたけれど、受けていたら、どんなことになっていただろう。 わたしに想像する間も与えず、ランティスさんがまた来た。 またしても低く、深い踏み込み。 今度はもっと深い。まるで、身体全体でぶつかってくるような……。 わたしの位置は壁際で、もうぎりぎりでかわす余裕はなかった。 ランティスさんを大きく回り込むように回避する。 正解だった。 小手先の技じゃなかった。 ランティスさんは踏み込んで背中を打ち付けようとしてきた! 背中で攻撃、なんて、聞いたこともない。 わたしが今いた場所を、ランティスさんの背中が通過して、そのまま塔の壁に激突する。 見間違いだと思う、でも。 ランティスさんの背中が当たった瞬間。 高い高い塔の壁が、一瞬、たわんだように見えた。 □ まるでミサイルが直撃したかのような爆発音。 ランティスを震源地に、短い地震が起きて、ディスプレイの映像を揺らす。 バーチャルで構成されたステージのカメラの位置は動かないはずだから、塔全体が揺れたのだ。 ランティスが姿勢を戻して、ティアと対峙する。 その背後。 いましがた、ランティスが背中を打ち付けた壁が、彼女の背中の形でクレーターになっている。 クレーターのすそ野から、大小のひび割れが大きく広がっていた。 そして。 その壁が粉々に砕け、大きく崩れ落ちた。 「八極拳か……これほどの破壊力とはな」 あの特徴的な、背中からの打撃に見覚えがある。確か『鉄山靠』とか言う技だ。 八極拳は中国拳法の一流派だ。 俺も詳しくは知らないが、震脚と呼ばれる強烈な踏み込みから生み出される破壊力が特徴だと聞いたことがある。 鳴滝が感心したように、俺に言う。 「よく知っているな。ランティスの八極拳は俺の直伝だ」 「君も拳法をやってるのか。なるほど、だから師匠、と呼ばれてるんだな」 「そうさ。……どうする、遠野。踏み込むたびに地面を揺らされて、ファントム・ステップを続けられるか?」 鳴滝は不敵に笑って、俺を挑発する。 だが、不愉快ではない。 鳴滝もこのバトルの駆け引きを楽しむために、俺を挑発している。それがわかる。 ならば一つ、俺も楽しんでみようか。 「試してみるがいい」 「ふふ……八極拳の技が単発だと思うなよ。連続でやると、こうなる」 鳴滝の言葉と同時、ランティスが再び前に出た。 完結編へ> Topに戻る>
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MMS戦記 登場MMS MMS戦記に登場する主な神姫を紹介します。 戦闘爆撃機型MMS「シェライ・ドラッケン」 :カタリナ社・第1開発局製 :主兵装備 アサルトライフル×1丁 2mm機関砲×2門 マイクロミサイルポッド×2個 ビーム・ブラスターキャノン×4門 中型ミサイル×4基 迎撃ミサイルポッド×2個 チャフフレア×4基 小型同軸機銃×1門 脚部隠しライフル砲×2門 サバイバルナイフ×1本他 空中戦闘だけではなく対地攻撃能力にも優れた重装甲重武装の航空MMSである。 生残率を高める堅牢な装甲板、自動消火装置などの装備に加え、見た目に反し良好な運動性能があり、格闘戦を得意とする軽戦闘機を撃破するには最適の機体で、折畳み式の脚部を備え可変能力を有していたこともあって、初期のバトルロンドでは主力戦闘爆撃機型MMSとして活躍し、無難で堅実な設計が期せずして合理的な性能を発揮する。遠中近距離に全ての距離に対応可能であり、ミッションに応じて武装を換装するだけで高い汎用性能を持っている。これは武装全体がブロック構造を取り入れてリアパーツのコアに接続するだけで多種多様な武装を搭載できるように設計されているためである。 弱点はこのクラスの戦闘機型MMSとしては低速だった事であるが、それでも重武装の悪魔型や戦車型よりは優速であり、必要にして十分であった。限られた出力のエンジンで最大限の性能を発揮するため極力まで軽量化されたアーンヴァルに対し、大出力のエンジンを得て余裕のある設計がなされたドラッケンは全く正反対の性格の戦闘機であり、フロントライン社とカタリナ社の戦闘機型MMS設計に対する思想の差を象徴しているとも言える。 旧式のMMSで2030年代の初期の登場から10年以上経過しているが、余裕のある機体設計と高い防御力と汎用性で2040年代でも現役でアップデートや改良が加えられて相当な数が運用されている。 「ドラッケン」名前の由来はドラゴンの訛った言い方が元である。 天使型MMS「アーンヴァルMKⅡ/テンペスタ」 :フロント・ライン社製 :主兵装備 レーザーライフル×1 アルヴォ機関銃×2挺 M8ライトセイバー×2 アルヴォPDW11ブレイド×1 LS9レーザーソード×1 ココレット×4発 FLO-16アーンヴァルmk.2はフロントライン社のベストセラー機種アーンヴァル系列の最新モデルである。2040年代を代表する航空MMS。 初期モデルのアーンヴァルは、改修、追加パーツによるアップデートが限界を迎えていたため、素体を新規格で新造し武装の機能を統合パッケージ化したもの。これまで戦闘スタイルによって選択していた単能武装を個々のパーツに複数の機能を持たせることにより、一体の神姫が無理なく扱えるサイズにまで小型化している。本機―FLO-16/T アーンヴァルmk.2テンペスタは武装搭載量を重視した攻撃タイプのバリエーション。 追加された大型ウィングと脚部バランサーにより中低速域での飛行安定性の向上を実現。また大量の武装を効率的に管理するためヘッドセンサーは一回り大型のものに換装された。 「テンペスタ」名前の由来はイタリア語で嵐、暴風雨という意味。 コルベット艦型MMS 「バッカニア」 :カタリナ社第5開発局製 :主兵装備 MKS40 2mm速射砲 大型多目的ミサイルランチャー スタンダートミサイル 単装機関銃 巡航ミサイルなど カタリナ社が開発したコルベット艦をモチーフとした武装神姫。 バトルロンドでは従来の戦艦型MMSは強力ではあったが大型で鈍重、目立ちやすかった。そのため2040年代以降ではより小型のポケット戦艦型MMSという豆戦艦まで現れたが、それでも並みの神姫の数倍の巨体であった。そこで登場した本級で装甲や火力は戦艦型MMSに比べ劣るが、機動性や速力、隠密性を高めた汎用小型艦MMSが登場した。ステルス性を配慮した特徴的な設計が行われており、また、全長200mm級の小型の艦型ではあるが、レーダー波を反射しにくいよう、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が採用されているなどの特徴がある。高性能レーダー・ソナー、センサーなどの電子機器と、長射程・高発射速度の2mm単装速射砲の組み合わせは優れた戦闘能力を発揮でき、戦艦型MMSよりも小型・高速・軽武装で、戦闘のほか哨戒、強行偵察、護衛などに使用され、対地・対潜・対空作戦能力を有し、戦列を組むような大きなバトルロンドでは、戦艦型MMSの補助を主に行った。小型で軽量な点を生かしてさまざまな運用法で活躍し、この種の小型艦型MMSの有用性を示した。コストパフォーマンスに非常に優れているので相当な数が量産されて広く使われている。 問題点として、バランスは良く安定したスペックを持っており、使いやすさを突き詰めたモデルではあったが、戦いにおける合理性を求めすぎて、派手さや美しさとは無縁の非常に地味な実用神姫になってしまった。 名前の由来の「バッカニア」とは大航海時代に国の許可を得て敵国の略奪を行った私掠海賊のことを指す。 小型だがコストパフォーマンスに優れていた。 砲塔が速射砲型とミサイル型の2種が存在する。 輸送艦型MMS 「リバティ」 :カタリナ社第5開発局製 :主兵装備 対空連装機関砲×2門 カタリナ社が建造した輸送艦をモチーフとした支援用MMS。 元々は普通の商船貨客フェリーを改修した艦船タイプの大型神姫。2段式の甲板を持ち、下部に乾ドックを持ち、MMSや車両、または潜水艇を搭載し輸送することが可能。また支援物資や燃料、武装なども搭載可能。前後にランプが設置され搭載力は非常に高い。 完全に支援に徹した運用を目的をした神姫で地味でぱっとしないが、集団バトルロンドでは1隻いると非常に便利な神姫であった。高い搭載能力を生かし様々な運用で可能で、使い方しだいではなんでも出来た。 甲板に航空MMSを搭載し、軽空母として使われたり、大口径砲を搭載させて仮装巡洋艦のような使い方をしたり、砲台型、戦車型MMSを乗せて浮砲台になったり、大量の機雷や爆雷を乗せて機雷施設艦の役割を行なったり、ときには潜水母艦になったり汎用性は非常に高かった。 とりあえず、一隻いれば何かと便利に使えためバトルロンドでは重宝されたが、攻撃力は貧弱、機動力は無きに等しく鈍重で、貨物船など既存の商船を改造したため、装甲等の防御力は申し訳程度しかなく、爆撃や砲撃で簡単に沈められた。
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武装神姫達のソード・ワールド2.0【第1-5話】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18372350
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/78.html
武装神姫達のソード・ワールド2.0【第1-6話】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18533993
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/76.html
武装神姫達のソード・ワールド2.0【第1-4話】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18320704
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ウサギのナミダ・番外編 少女と神姫と初恋と その5 ◆ オルフェは、目の前にいる神姫たちの態度を奇妙だと思った。 彼女の一番の友人であるパティは、真面目な表情ながらもくつろいだ様子で、何事か話している。 話しかけられている黒いバニーガール型の神姫は、オルフェのデータベースにないタイプだ。おそらくオリジナルなのだろう。 彼女は、先ほどの遠野という人物の神姫だ。 しかし、マスターの態度とは正反対で、やたらと恐縮した様子で、ちらちらとこちらを見ている。 なのに、パティが下へも置かない態度なのも不可解だった。 もう一人はイーダ・タイプで、やたらとくつろいでいて態度も大きい。 ここはファミレスのテーブルの上。それぞれのマスターたちがテーブルを囲んでいる。 「作戦会議はマスターに任せて、神姫同士親睦を深めましょ」 と言ったのは、ミスティと名乗るイーダ・タイプだった。 それでこのように車座になって話しているのだが、見た目の印象とマスターの印象と、現在の態度が、何ともちぐはぐに思えた。 オルフェは不信の目を向けながら、尋ねた。 「あの……」 「なに?」 「本当に、『玉虫色のエスパディア』を倒す方法なんて、あるんでしょうか?」 「ああ。タカキがそう言うんだから、あるんでしょ」 あっけらかん答えたのはミスティである。 仏頂面で苦言を呈したあの男は、別のマスターの神姫からこうも信頼されているのか。 それにしても、その当人の神姫はまったく頼りなく見える。 ミスティとは間逆、オルフェとの顔合わせに恐縮しきっている様子だ。 彼女の方が武装神姫としては先輩のはずなのに。 オルフェの視線に気づいたのか、ミスティが彼女をつついた。 「ほら、あなたも何か言いなさいよ、ティア」 「あ……その……マスターは、できないことは言わない人ですから……」 弱々しげに微笑む黒いウサギを見て、オルフェは驚いた。 ティアと言う名のバニーガール型の神姫。 つい最近、マスターが話しているのを聞いた。 八重樫さんと、マスターのお姉さんが絶賛するという、高機動地上型のオリジナル神姫。 「ティアって……それじゃあ、あなたが、あの『ハイスピードバニー』なんですか!?」 「はい」 ティアはなぜか、困った顔をして頷いた。 ◆ 「あなたが『ハイスピードバニー』のマスター!? あの、運命さえ覆したっていう……」 「誰だ、そんなこと言ってるのは」 安藤の言葉に、遠野は腕組みして渋い顔になった。 機嫌の悪さが増しているような気がする。 美緒は身を縮めざるをえない。 安藤にそう吹き込んだのは彼女なのだ。 向かいに座る遠野の隣にいる菜々子が、吹き出して肩を震わせている。 笑い事じゃないんですけど、と美緒は菜々子をそっと睨んだ。 四人のボックス席には、美緒、安藤、遠野、菜々子が座っている。 もう一つ、隣のボックス席を残りの四人で占拠していた。 遠野の背中側から振り向いて、大城と涼子が話を聞いていた。 遠野は小さく咳払いして、本題を切り出した。 「……俺の策は『玉虫色のエスパディア』との勝率を上げるだけで、必勝の策じゃない。それでいいなら話すが……どうする?」 「お願いします」 安藤は即答した。 いまのままでは、確実に負けなのだ。八重樫を本当に救うなら、蜂須との対決に勝たなくてはならない。 彼はこの対戦に勝つためなら、どんなことでもするつもりだった。すでに覚悟を決めていた。 それに、あの姉が心酔する、八重樫たちが尊敬する、ハイスピードバニーのマスターの策なのだ。ほかの誰の策よりも有効だと信じられた。 「そうか。じゃあ話そう。 さっきから言ってるとおり、君とヤツとでは実力差がありすぎる。 初心者がベテランに勝とうとするなら……奇襲による短期決戦、手数で圧倒……ってところだろうな」 「セオリーね」 菜々子が頷いた。 実力差のある相手に対し、長期戦はあり得ない。 ベテランの方が戦い方の引き出しが多いので、長期戦になるほど対応できない初心者の方が不利になる。 奇襲で相手が対応できないところを一気に叩く。それは戦力差のある敵と戦うときの基本中の基本である。 遠野は『玉虫色のエスパディア』に対する策を話した。 安藤はそれを真剣に聞き、その策で一週間後の土曜日に戦うと約束した。 遠野は頷くと、さらに細かな指示を出した。 「とりあえず、今日から君らは、バトル当日までノーザンには行くな」 「え?」 「練習するところを見られて、どんな策か悟られるわけにはいかないだろう。 だけど、そうなると、別の練習場所が必要だな……」 「『ポーラスター』でいいんじゃない? わたしが話を通すわ」 菜々子はそう言って、遠野に頷いて見せた。 『ポーラスター』は、『エトランゼ』久住菜々子が本来ホームグランドとしているゲームセンターである。 そこでようやく、遠野は微笑む。 「あそこなら問題ない。よろしく頼むよ」 菜々子がにっこり笑って承諾した。 その二人の姿を見て、美緒はあまりの憧れと眩しさに、頭がクラクラしてくる。 そんな美緒には気づかず、遠野は背後のシスターズにも声をかける。 「君たちも、この一週間は『ポーラスター』に通って、安藤くんの練習を手助けしてくれないか」 「もちろんです!」 「言うまでもなく」 「手伝うよ~!」 と、彼女たちは二つ返事で請け負った。 安藤は頭を下げた。 「遠野さん……ありがとうございます」 「……別に、君のためじゃない」 「え?」 「君を助ける義理はないが、八重樫さんは別だ」 その言葉に、美緒は思わず顔を上げた。 「八重樫さんには……ティアを助けてもらっているしな。井山との戦いでは、ティアのために真っ先に叫んでくれた。 その恩人があんなヤツに弄ばれようとしてるのに、黙っているわけにはいかないだろう」 遠野の視線はいつもよりも優しく感じられた。 テーブルの上を見れば、ティアがこちらを見上げ、やはり優しげに微笑んでいる。 こんなに誇らしいことがあるだろうか。 尊敬する神姫マスターに、そんな風に思われていたなんて。 胸が詰まる。 「ありがとう、ございます……」 美緒は深くお辞儀をした。 きっと安藤とオルフェは勝てるに違いない。 そのために、わたしにできることを精一杯やろう。 そう誓う。 そして気づく。 その想いは、かつて菜々子が遠野のために誓ったものと同じだ、ということに。 「礼は、勝ってからにしてくれ」 顔を上げると、遠野は居心地悪そうに明後日の方向を向いていた。 その隣で、菜々子はくすくすと笑っている。 ◆ 「やっぱり遠野くんは優しいね」 「俺が?」 「そうよ。なんだかんだ言って、安藤くんを助けてあげるじゃない」 ファミレスからの帰り道。 陸戦トリオだけになったところで、菜々子はそんなことを言った。 蜂須の言葉に、遠野は怒り、安藤を助けて美緒を守ろうとしている。 しかし、遠野は首を振った。 「確かに、八重樫さんのために彼の手助けをするのは嘘じゃない。だけど、理由はもう一つある」 「え?」 「……そろそろ、『三強』の権威を失墜させておく必要がある。今回はいいチャンスだ」 予想していなかった遠野の言葉に、大城も驚いた。 「三強の権威を失墜って……なんだそれ」 「やつらは言ってみれば井の中の蛙だ。ノーザンというゲーセンの中だけで強いことに満足してしまっている。 しかも、それを傘にきてやりたい放題。『ノーザンクロス』での対戦環境は悪くなる一方だ。 これではノーザンのバトルロンドのレベルが上がるはずがない。 だから、俺たちが動きやすい環境にするためにも、もう一度、三強を叩きのめして、やつらの評判を地に落とす必要がある」 遠野はあの『ポーラスター』を思い出す。 あのゲーセンには、あの時以来たびたび行っているが、行くほどに対戦環境が充実していることに羨望を抱くのだ。 菜々子は顎に手を当てて、考えながら言う。 「なるほど……三強はわたしとミスティが一度叩きのめした。 大城くんたちが、三強を下して、ランキングバトルで一位を取った。 三強の威信が揺らいでいるところに、安藤くんを勝たせることで、さらに大きな揺さぶりをかけるわけね」 「そうだ」 遠野は頷いた。 だが、大城はなおも首を傾げている。 「だけどよ……そううまくいくもんか? 安藤は初心者で、玉虫色はノーザンじゃまだまだ強い方だぜ?」 「うまくいかせるんだ。そのための策だ。 そこで大城……君にもやってもらいたいことがある」 「へ……俺?」 不意に振り向いた遠野の視線に、大城は大いに戸惑った。 ◆ 翌日から、LAシスターズと安藤の姿が、行きつけのゲームセンター『ノーザンクロス』から消えた。 学校でも武装神姫の話はろくにしないし、放課後はそそくさと帰ってしまう。 何か企んでいることは確実だが、蜂須は気にしていなかった。 「どうせ悪あがきだろ。それとも、俺に恐れをなして、逃げ出したのかもな! あーっはっはっは!」 蜂須の高笑いを、大城は一人、じっと聞いていなくてはならなかった。 正直ムカつく。 今すぐにでも因縁つけて、バトロンでも喧嘩でもふっかけてやりたい。 LAシスターズも菜々子もいないことが、大城の不機嫌に拍車をかけている。 だが、ここはぐっと我慢しなくてはいけない。 彼が『ノーザンクロス』で一人くすぶっているのには訳があるのだ。 蜂須のチーム『レインボー・ブレイカーズ』の動向を探るためである。 これは遠野の指示だった。 玉虫色に勝つためには、どうしても連中を見張って動向を見守る必要がある、と遠野は言った。 その役目には、大城が一番適任なのだという。 美緒のピンチでもあるし、そもそも蜂須はいけすかないし、遠野の指示でもあるので、渋々引き受けた。 だが、拍子抜けするほど何もない。 連中は、至っていつも通り、毎日ゲーセンにやってきては、つるんでくだらない話をしているだけだ。 バトルもするが、週末に向けて特別な練習をしているわけではない。 そんないつも通りの様子を遠野に携帯端末で報告する。 本当にこの程度の報告で、何か役に立っているのだろうか。 疑問を一度、遠野にぶつけたところ、とても役に立っていると感謝された。 大城の疑問は深まるばかりだ。 彼が首をひねっているうちに、週末の土曜日はやってきた。 ◆ バトルの時間は、土曜日の十一時と指定されていた。 壁際のいつもの位置で、遠野と大城はバトルが始まるのを待っている。 レインボー・ブレイカーズの連中は、先に来て筐体を陣取っていた。 メンバー同士で軽く練習しているが、『玉虫色のエスパディア』ことクインビーの調子は悪くなさそうに見える。 大城は大丈夫なのか、と遠野を見るが、彼はいつもながら表情が読めない。 鋭い視線でレインボー・ブレイカーズの動向を見ているばかりだ。 玉虫色のマスター・蜂須は、 「安藤はまだかよ。オレが怖くて逃げ出したんじゃねーだろーな?」 と言って笑う。 大城は歯噛みしていたようだが、遠野に気にした様子はなかった。 むしろティアの不機嫌そうな表情に、虎実は首を傾げる。 いつも穏やかな彼女がそんな表情をするのは珍しい。 「なにむくれてんだ、ティア?」 「……この試合のせいで、朝のお散歩がなくなりました」 近所の公園への散歩は、遠野とティアの週末の日課だったはずだ。 虎実は思わず吹き出しそうになり、口を押さえた。 むう、と頬を膨らませて睨むティアもまた珍しい。 十時五十分、ゲームセンターの自動ドアが開いた。 「来たぞ!」 誰かの叫ぶ声。 安藤が先頭で、LAシスターズを引き連れて入ってきた。 遠野は顔を上げた。 忌々しげな顔をした蜂須の向こう、安藤の顔が見える。 一週間前、この場所で遠野に頭を下げに来たときとは、見違える表情だ。 眼光は鋭く、緊張した表情だが、自信に満ちあふれている。 やるべきことをすべてやり尽くした者の顔だ。 安藤は、筐体を挟んで、蜂須と向かい合う。 「おせーぞ、安藤」 「時間はまだ一〇分前だ。それでもお前がはじめるというなら、はじめよう」 「けっ……逃げ出しておけばいいものを……めんどくせえ。さっさとはじめようぜ」 二人は筐体に座ると、神姫のセッティングを開始した。 ◆ 一番最後に入ってきた久住菜々子は、安藤の後ろから離れ、定位置である遠野の隣に立つ。 すかさず遠野が尋ねた。 「仕上がりは?」 「上々ね」 わかってるくせに、と付け加えて、菜々子は苦笑した。 遠野はギャラリーが集まっている筐体の方を見る。 比較的空いている土曜の午前中にもかかわらず、この勝負には多くの観客が集まりっていた。 三強のエスパディア・タイプと、新型のアルトレーネ使いのルーキーが対決する一戦。 人気のLAシスターズのリーダー・八重樫美緒のチーム移籍がかかっていると、レインボー・ブレイカーズのメンバーたちが、この一週間、吹聴して回ったのだ。 だから、注目度の高い試合となっているのだった。 そんなギャラリーの隙間から、対戦者たちの顔がよく見える。 「顔つきだけなら圧勝だが」 遠野のつぶやきにつられ、大城もそちらを見た。 安藤の顔は緊張していた。だが、固くなってはいない。神姫のセッティング作業も落ち着いたものだ。バトルを前に、いい緊張を保っているようだ。 対して、蜂須は憎々しげな顔を、だらりと緩めるところだった。 美緒をなめ回すように見つめている。すでに、バトルに勝ったあとのことで、頭はいっぱいなのだろう。 美緒はやはりうつむきながら蜂須の視線に耐えていたが、先週ほどの弱々しさはなかった。 この一週間の特訓で、安藤との絆も、シスターズ同士の絆も、深まったのに違いない。 だが、大城はやはりさっぱりわからなかった。 彼だけが蚊帳の外で、安藤の練習を見ていないのだ。 「なあ、オルフェはどうやって玉虫色に勝つって言うんだ?」 「見ていれば、すぐにわかる。そんなことより……君たちも準備しておいてくれ」 「は?」 頭の上にクエスチョンマークを浮かべている大城に、遠野はこともなげに言った。 「安藤が負けたら、バトルロンドなら久住さんが、喧嘩なら大城が、玉虫色をぶっとばすんだろ?」 「おい……そりゃずりーだろ……そもそも、そうするのに意味がないって言ったのはお前だろが」 「保険だ、保険。そうでもなきゃ、こんな危険な賭けに、俺の策で戦わせられるものか」 大城と菜々子は顔を見合わせて、同時に肩をすくめて苦笑した。 それでも二人は、安藤の勝利を疑わない。 そう、自分たちは万が一の保険にすぎないのだ。 ◆ アクセスポッドに手をかけ、入り込もうとする自らの神姫を、安藤は呼び止めた。 「……オルフェ」 「はい、マスター」 「……こういうときは、何かお前に声をかけるべきなのかな」 この一週間は、スパルタ訓練の日々だった。 遠野から送られてくる緻密な練習スケジュールは、はじめて見たときにはちょっと気が遠くなった。 その指示に従い、LAシスターズとエトランゼを相手に、バトルロンドの基礎と、今回の作戦を、文字通りたたき込まれた。 神姫と向き合い、ひたすらにバトルした一週間。 正直言って、きつかった。半端じゃなかった。 しかし、つらいだけではなかった。 バトルロンドの奥深さを知り、自分の神姫との信頼を深めることは、とても楽しいことだった。 その努力の結果が、もうすぐ出ようとしている。 オルフェは安藤を見つめて、言った。 「お願いします。マスターの想いを聞かせてください」 「バトルが始まれば、もうお前だけが頼りだ……俺の手は及ばない……だから、頼む、勝ってくれ」 「わかりました。勝ちます。……だから、マスターはわたしが勝つと信じてください」 「ああ、信じる。信じてる、オルフェ」 「はい!」 にっこりと笑いかけたあと、オルフェはアクセスポッドに収まった。 素直さとまっすぐさ、ポジティブな姿勢。オルフェは決して状況を悲観しない。あきらめない。 ならば、俺もオルフェを信じよう。 安藤は気持ちを奮い立たせる。 前を向く。 強敵と向かい合う。 蜂須は、いつものようにいやらしい笑いを顔に貼り付かせていた。 「小細工の準備は終わったか?」 「小細工なんてしない。正々堂々戦う。そっちこそ卑怯な真似とかしないだろうな?」 「誰に口利いてんだ、てめえ。ノーマル装備でも、てめえのヘタレ神姫ごとき、楽勝だ。八重樫は俺たちのもんだぜ」 「まだ決まった訳じゃない。それに、八重樫は物じゃない」 「けっ、ほざけ……さっさとはじめようぜ」 「……わかった。はじめよう」 二人は同時にスタートボタンを押した。 観戦用大型ディスプレイに、このバトルが映し出される。 対戦カードが立体文字で表示される。 「オルフェ VS クインビー」 ギャラリーからひときわ高い歓声が上がった。 美緒は、祈るように、胸の前で手を組んだ。 シスターズの三人は、はらはらとした表情で、観戦用ディスプレイを見上げている。 様々な思いが交錯する中、運命のバトルは幕を開けた。 続く> Topに戻る>
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{Hacking!} 俺はデスクトップパソコンを操作しVIS社に自分のIDを使ってログインする。 前々から怪しい会社だと思っていた。 でも姉貴の会社だし、それにいたって会社の構造や人員内部はまともだったからな。 だから手は出さなかったが…。 あの日…アンダーグラウンドのバトルでアンジェラスが変貌したあの日をキッカケに俺は決断した。 その決断とは、アンジェラスを生み出したあの会社に何かあると感じ調べようと考えたのだ。 「ログイン完了。最初は普通に探ってみるか」 マウスは素早く動かし、俺のIDでどこまで潜れるか試す。 カチカチ…カチ……カチカチ 静寂していた地下部屋にマウスをダブルクリックする音が響く。 不必要だと思った場所はウィンドウをすぐに閉じ、すぐさま別のページにとぶ。 そんな事を繰り返してるうちに『オリジナル武装神姫』のページを見つけた。 『オリジナル』という言葉が気になる。 「開いてみるか」 ページを開こうとマウスを動かしクリックした。 <ビー、このIDはではこのページを閲覧する事は出来ません> 「………ここまでか」 機械音らしい声で拒否された。 どうやら俺のIDの権限はここまでらしい。 あんまり役にたたないなぁ。 まぁ、所詮バイトだからIDを貰えるだけまだマシか。 「そんじゃ、ヤりますか」 両手の指をパキパキと鳴らし、右手でマウスを動かし左手でキーボードを素早く操作。 そして俺はデスクトップ画面にある一つのフォルダーを開き、その中に入ってるソフトを起動させた。 「さぁ、タップリと犯してやりな」 俺の声とともに起動させたソフトはフル活動する。 このソフトは俺が作った触手型ウイルス。 一般的な大学生がウイルスなんか普通は作れない。 が、俺は作れた。 生きるため、人間、必死に物事に集中すれば何でも出来るかもしれないと、俺は思ったね。 闇一場で色々なウイルスソフトを買って、中身を調べに尽くした結果、この『触手ウイルス』を作る事が出来た。 このウイルスは単純にしてタチが悪いウイルス。 ターゲットに潜り込む前に『自分は敵じゃない』と相手のセキュリティーシステムに認識させてから潜り込む。 この敵のセキュリティーシステムにあえて自分を教え、攻撃もされず難無く潜り込むのがえげつない。 潜り込んだら凌辱ゲームとかによく出てくる触手を思いうかべてほしい。 あんな風にウネウネと動き、隅々まで増殖しデータをパクっていく。 勿論、破壊する事も出来る。 で、今回のターゲットをレイプするのはVIS社だ。 破壊が目的ではなく、あいつ等の過去を探るため。 「…早くヒットしてくれよ」 ピピピピ! パソコンについてるスピーカーが鳴りヒットした事をしらせてくれる。 早速、マウスを動かしヒットしたデータを閲覧する。 閲覧すると画面上に四つのデータが開かれた。 そろぞれのデータに『Eins』『Zwei』『Drei』『Vier』と、ドイツ語で書かれていた。 「何故ドイツ語…?…アッ!」 夢の中で見た、あの頑丈そうな鉄の扉かもしれない。 それにあの元大学生のお姉さんもドイツ語を言ってたし。 これはあくまでも俺の推測だが…もしかしたら、あいつ等の事がこの四つのデータに書かれているかも! マウスを動かしまず最初に『Eins』というデータを開く…だが。 「…またセキュリティーかよ。萎えるぜ」 しかも最初にあったセキュリティーより頑丈そうだ。 これはかなりの時間がかかりそうだ、どうせ他の三つデータも同じぐらいのセキュリティーレベルに違いない。 畜生、釈然としないが時間的に引き際だな。 いつまでも潜り込んでたら、流石のセキュリティーも不信がるはず。 なんたってVIS社の最高機密データに当たっちまったのだからな。 早々に触手ウイルスを引っ込ませ、ログアウトする。 勿論、ちゃんと足が着かないようにログも消す。 今回はここまでにしとくが、次は絶対に暴かせてもらうぜ!
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キズナのキセキ ACT1-12「ストリート・ファイト その1」 □ 戦いが始まる。 四人は一斉に物陰へとダッシュした。 リアルバトルは実際に銃弾が飛び交う。そばにいたらただではすまない。 ティアを戦場に残すことにためらいを感じながらも、俺は物陰に身を隠す。 少し離れた壁際に、頼子さんの姿が見える。 「マグダレーナの方、頼めますか!?」 「了解よ。……三冬! マグダレーナを押さえなさい!」 「承知しました」 俺の無理なお願いに、頼子さんと三冬は即答してくれた。 相手は得体の知れない凶悪な神姫だというのにもかかわらず。しかし、頼子さんからはこの対戦を楽しんでいる節すら感じられる。 どちらにしてもありがたい話だった。 「ティア。ストラーフを引きつけて、マグダレーナと距離を取れ」 『了解です』 ティアの返事がワイヤレスヘッドセット越しに聞こえた。 今回は、今までに経験したことがない異質なバトルであるが、二対二の状況であればなんとかなるだろう。 勝てなくてもいい。 時間を稼ぐのが目的なのだ。 菜々子さんと接触する直前、大城に携帯端末からメールで連絡を入れた。 しばらく待てば、大城は警察を連れてここにやってくるはずだ。 ■ 今日のバトルはいつもと勝手が違う。 いつもはゲームセンターでのバーチャルバトルだから、試合後のダメージは気にしなくてもいい。 でも、今日のリアルバトルでは、そうはいかない。ダメージは自分の身体にも装備にも残ってしまう。いつも以上にしっかりと回避しなくちゃいけない。 でも、リアルバトルに気後れすることは、わたしはなかった いつもの訓練はだいたいマスターの部屋でやっているし、朝のお散歩の時には公園を全力で走ったりもする。現実で走り続けることには慣れている。 ただ、少し心細いのは、武装。 いつもはマスターがサイドボードから武器を次々に送り込んでくれるけれど、今はそうはいかない。 わたしは両手に持ったハンドガン一丁とナイフ一本だけで、ストラーフBisを相手にしなくてはならない。しかも、ハンドガンは弾を撃ち尽くしたらおしまいだ。 いつもより慎重に戦わなくては。 必ず隙を見せる瞬間はあるはず。その時にナイフを閃かせれば、勝つことができるかも知れない。 いいえ、きっと勝てる。 勝って、菜々子さんの目を覚まさせなくちゃ。 そうでなきゃ、ミスティがかわいそう。 だって、今わたしが相手にしているのは、神姫に見えなかったから。 ◆ 三冬とマグダレーナは対峙したまま動かない。 両者とも、お互いを強敵と踏んでのことか。 さぐり合うような時間、空間の緊張は刻一刻と増加する。 その空気を破ったのは、久住頼子の指示だった。 「三冬! 小細工は抜きよ! いきなりKOFモード!!」 「承知!」 短く応えた三冬。 その拳が炎に包まれた。 ハウリン型がデフォルトで身に付けている必殺技「獣牙爆熱拳」である。 三冬は、右の拳を肩と同じ高さに持ち上げ、肘を背中に引いた。 上半身を捻って半身になりながら、マグダレーナを見定めた。 「いくぞ……獣牙爆熱……」 右拳を前に鋭く突き出すのと同時、脚が地を蹴り、また同時に背部のスラスターを噴射、爆発的な加速で飛び出した。 「バアアアァァン・ナックルッ!!」 ……それは、往年の格闘ゲームの技であったという。 三冬は拳を突き出したまま、地表すれすれの超低空を翔け抜け、マグダレーナに突進した。 対するマグダレーナは余裕。 来ると分かっているパンチをかわせない神姫ではない。 わずかに身を翻し、燃えさかる拳をやりすごした。 しかし、三冬もそれだけで終わらない。 今度は左拳をフック気味に振るいながら、マグダレーナを追う。 「ボディが……甘い!」 ……これもまた、往年の格闘ゲームの技であったという。 左拳をなんなくかわされた三冬であったが、それだけでは止まらない。 右拳も同様にボディを狙うフック、そこからさらに右のアッパーにつなげる連続技である。 だが、マグダレーナは矢継ぎ早に繰り出される炎拳を、次々とかわした。 そして、大振りのアッパーをかわした瞬間に生まれる隙。 見逃さない。 マグダレーナは手にした燭台型のビームトライデントを上段に構え、振り下ろす。 しかし、三冬もただ者ではない。一歩踏み出し、燭台の根本を腕のアーマーで受け止めた。 「!?」 驚いたのはマグダレーナ。 燭台を受け止められた次の瞬間、マグダレーナの身体は宙に浮いていた。 燭台と三冬の腕の接点を軸に投げ飛ばされたのだ。 ところが三冬は、特に力を込めた風もない。 なにがどうなったのか。 疑問を覚えつつ、マグダレーナは空中で姿勢制御、背部装備のバーニアを噴射し、一気に距離を取る。 地表で、三冬の構えが見えた為だった。おそらくは対空攻撃の予備動作。 次の攻撃を悟られ、距離を取られた三冬であったが、そんなことは気にもとめない風に、悠然と構えを取る。 三冬にしてみれば、今の投げで大きな目的を果たすことができた。 マグダレーナに距離を取らせた。すなわち、マグダレーナと菜々子の神姫を分断することができたのだ。 マグダレーナと菜々子のストラーフは、ある程度のコンビネーションも可能だと考えられる。 対して、三冬とティアは今結成したばかりの急造ペアだ。コンビネーションなど望むべくもない。一対一の状況に持ち込むことが寛容である。だからこそ、ティアのマスターは、マグダレーナと距離を取るように、ティアに指示したのだ。 「なるほど……剛柔自在というわけか。むしろ、派手な技に隠された柔の技こそ、そなたの本質か」 マグダレーナがしわがれた声で感嘆する。 いままで、『狂乱の聖女』を投げ飛ばすことができた神姫など、何人いただろうか。 応えた三冬は、隙のない口調。 「我が奥様直伝の太極拳。最凶神姫と名高い貴様とて、見切れるものではない」 「確かに、受けてみなければ分からなかった……見切るのは骨が折れよう」 「技を見切る余裕など与えぬ」 「くくく……どうかな。その技、とくと見させてもらおうか……行け、スターゲイザー!」 マグダレーナが空いている左手をさっと振り上げる。 それと同時、彼女の両側に捧げられた十字架「クロスシンフォニー」が持ち上がり、銃火器としての役割を与えられる。 「クロスシンフォニー」を支えるのは細い腕。 それは背部の二つの大きな目玉のような装備につながっている。まるで、大きな目の形をしたランプの化け物が腕を持ち上げたかのようだ。 その巨大な目玉が光を放つ。 左右二体のランプ型がマグダレーナから分離した。 この二体こそが「スターゲイザー」……マグダレーナが使役するサブマシンである。 スターゲイザーは数瞬、その場で浮かんでいたが、不意に急加速し戦場に解き放たれた。 正面で構えるハウリン型に向かって襲いかかる。 □ マグダレーナが言い放った言葉……「スターゲイザー」を耳にして、俺は思わず視線を向けてしまう。 はたして、「スターゲイザー」の正体は、マグダレーナの背部にマウントされていた、二体のサブマシンだった。 神姫本体をサポートするサブマシンの存在は、武装神姫では珍しいものではない。ハウリンやマオチャオに付属するプッチマスィーンズや、エウクランテとイーアネイラの様に武装が変化してサブマシンになるもの、ランサメントとエスパディアの武装が合体して大型のロボットになる例もある。 だから、スターゲイザーの正体がサブマシンというのは、ある意味拍子抜けだった。 マグダレーナは、攻撃をスターゲイザーたちに任せて、高見の見物を決め込んでいる。 なんという余裕。 いくら二対一とはいえ、三冬がサブマシンに後れを取るとは思えない。彼女はファーストランカーなのだ。サブマシンを使う神姫と対戦した経験はいくらでもあるだろう。 サブマシンなど一瞬で蹴散らされてもおかしくはない。 ところが、三冬は苦戦していた。 スターゲイザー二体による波状攻撃に苦しめられている。 時には近接、時には銃撃。二体のサブマシンは、巧みな連携で三冬の動きを封じ込めていた。 三冬が攻撃に出ようとすると、途端に距離を取る。 三冬が前に出ようとすると、「クロスシンフォニー」の銃撃で牽制される。 冷静な三冬も苛立ちを募らせているのがよく分かる。 不意に、俺の胸に疑念が沸いた。 スターゲイザーは、サブマシンの動きにしては、巧み過ぎやしないか? サブマシンは、あくまでも神姫の補助に過ぎない。サブマシンを使う神姫がどんなに巧妙に戦いを組み立てても、相手神姫とサブマシンが互角以上の戦いをすることはないのだ。 だが、スターゲイザーはファーストランカーの三冬を相手に互角の戦いをしている。 強者相手に、なぜそこまで戦える? スターゲイザーの動きを注意深く見てみれば、明らかにサブマシンの範疇を越えている。 ケモテック社のプッチマスィーンズのように簡易AIを仕込んだサブマシンもあるが、それでもスターゲイザーの動きは異様だ。 操られているのではなく、まるで意志があるかのような、生物的な動き。 コントロールするマグダレーナの電子頭脳の要領が大きいとも考えられるが……。 そこまで走らせた思考に、俺は無理矢理ブレーキをかけた。 今はバトル中だ。しかも、初体験のリアルバトル。 ティアの戦いに意識を集中する。 ストラーフBisの動きは、イーダのミスティと違い、直線的で効率的だった。 『七星』の花村さんに聞いた、初期のストラーフのミスティがしていたのが、こんな動きだったのかも知れない。 だが、今のストラーフBisの動きは読みやすい。攻撃を「ジレーザ・ロケットハンマー」 に頼りきりだからだ。超重の、それもロケットブースター付きのハンマーであれば、攻撃方法は至極限定される。 縦に叩きつけるか、横に振り回すか、それだけでしかない。たとえストラーフの副腕であっても、一方向に振り抜くまでは切り返すことさえできないのだ。 当たれば致命的だが、回避が得意なティアには当たるはずのない攻撃である。 ティアの回避機動には余裕すら見える。 それでもティアが攻め手に欠けるのは、ストラーフBisの追加装甲が攻撃を阻むためだ。 よほどの隙を見いださない限り、有効なダメージは望めない。 ゆえに、この戦いは拮抗していた。 ◆ 「さすがはティアと言ったところね……でも、これならどう?」 菜々子がヘッドセットをかけ直し、指示を出す。 「ミスティ、踏み込んで!」 □ 「ティア、注意しろ。何か仕掛けてくるぞ!」 『はい!』 内容は聞こえなかったが、菜々子さんが何か指示を出した。 状況を打開する一手であることは間違いない。 こちらは時間稼ぎのバトルだが、菜々子さんたちは時間に余裕がないはずだ。なぜなら、裏バトルの自分たちの出番までに会場に入らねばならない。 それに、あんまり派手に暴れて見つかるのも得策ではないはずだ。特に桐島あおいは以前から裏バトルに出入りしているから、警察に捕まったりすればとても困るだろう。 だから、仕掛けてくるとすれば、向こうからなのだ。このバトルを早く終わらせるために。 ストラーフBisは縦横にハンマーを振るう。 ティアは余裕を持って避ける。 同じ展開が続く、と思ったその時。 「今よ!」 菜々子さんの鋭い指示がここまで聞こえた。 ストラーフBisは無言で突進してくる。いつもより一歩深く踏み込んできた。 「ジレーザ・ロケットハンマー」を振り下ろす。 それが避けられないティアではない。軽くバックステップしてかわす。 だが、ハンマーがアスファルトの路面を叩くのと同時。 ストラーフBisがさらに一歩前に出た。 この動きは想定外だ。 ティアはさらに下がろうとする。 しかし、それよりも早く、地面に叩きつけた反動を利用し、切り返したハンマーが、すくい上げるようにティアを襲った。 回避できないタイミングに俺は一瞬焦る。 「ティア!」 思わず自分の神姫を呼ぶ。 ティアは振り上げられたハンマーの一撃で宙を舞った。 しかし、空中で宙返りを決めると、何事もなかったかのように着地する。 「な……」 驚いたのは菜々子さんの方だった。必殺の一撃は命中したと思っただろう。 ティアはハンマーが激突する瞬間、自らハンマーの上に乗って、振り上げられる力に逆らわず後方に跳ねたのだ。 ひやひやさせる。 無事着地するまでは、俺も焦っていた。 「ティア、大丈夫か?」 『はい。大丈夫です。走れます』 「よし」 ティアの落ち着いた声を聞き、ほっとする。 そして実感する。 少しの不安でも心がすり減らされる。これがリアルバトルの緊張感なのだ。 ■ マスターにはああ言ったけれど、わたしは少し違和感を感じていた。 いまさっき、ロケットハンマーに乗った右のレッグパーツ。 どこが悪いとははっきり言えないのだけれど。 なんだか圧迫されているような、熱を持っているような、そんな感覚。 でも、走るのに支障なさそうだったから、大丈夫、と答えた。 相手のストラーフBisは、わたしがハンマーの一撃に乗って距離を取った後、追撃には来なかった。 躊躇した、という様子でもない。 ただ単純に、菜々子さんが驚いていて、指示を出していなかったから動かなかった、という感じ。 なんだか嫌な感じがする。 神姫であれば、マスターの指示がなくても、自分で考えて行動する。 指示と指示の間は、神姫が自由に戦える。 だけど、目の前の神姫はそうしない。 まるで、ただの操り人形みたい。 わたしは不気味に思いながらも、動き出す。 相手が動かないなら、好都合。 今度はわたしから仕掛けて、活路を探る。 自分で考えながら戦う。それがわたしとマスターの戦い方だ。 ◆ 『ねえ、あそこの人の胸ポケット、見える?』 「ええ、見えるわ」 『あそこに神姫がいるでしょう?』 「いるわね。何か叫んでいるようだけど」 『少しうるさいわ』 「そう? 何を叫んでいるのかしら」 『それこそどうでもいいことよ。あの神姫、うるさいから壊してしまいたいの』 「今はバトル中よ?」 『うるさくてバトルに集中できないわ』 「……あなたがそういうなら、仕方がないわね」 『それじゃあ、あのウサギの隙を突いて、指示をちょうだい』 「わかったわ」 □ 「ナナコ! 目を覚ましなさい! ナナコ!!」 俺の胸元で、ミスティが菜々子さんに呼びかけ続けている。 しかし、菜々子さんは反応する様子さえない。 ミスティを無視している……というより、ミスティの存在を最初から認識していないかのようだ。 一体、彼女の身に何が起こっているのだろう。 横道に逸れそうになる思考を、無理矢理引き戻す。 まだバトルの真っ最中だ。 今度はティアが自ら仕掛けた。 俺の思惑通りにティアは戦ってくれる。こんな小さなところに、いままで一緒に戦ってきたティアとの確かな絆を感じる。 立ち止まっているストラーフBisの背後から、頭に向けて牽制の射撃。 ようやく反応したストラーフがティアの方を向く。 ティアがさらに攻める。 ストラーフの副腕「チーグル」は防御のため、上げられている。 そこをかいくぐるように、姿勢を低くしたティアが滑り込む。 すれ違いざま、手にしたナイフが閃いた。 ストラーフBisの素体下腹部に裂け目が走る。 最接近したティアに対し、ストラーフの脚、副腕、ロケットハンマーが次々に襲いかかった。 「わっ、わわっ」 あわてた声を上げながらも、ティアは華麗なステップさばきで、ストラーフの断続的な攻撃を次々と避ける。 ティアならば、この程度の攻撃で後れを取ることはない、と俺は確信している。 いつものミスティや、『塔の騎士』ランティスの攻め方がはるかに厳しい。 ならば行けるだろう、このリアルバトルという状況であっても。 俺は心を決めて、指示を出す。 「ティア、ファントム・ステップだ!」 『はい!』 ◆ そのころ、三冬はいまだスターゲイザー二体による波状攻撃に苦しめられていた。 こうも間断なく仕掛けてこられると、鬱陶しくてかなわない。 しかも、操っている本人……マグダレーナは高見の見物を決め込んでいる。 何を企んでいる。 向こうの方が時間に余裕がないはずなのに。 三冬もいい加減、我慢の限界が来ていた。 「奥様! そろそろケリを付けましょう!」 「そうね……もう少し何を企んでいるのか探りたいところだったけれど……いいわ、蹴散らしなさい、三冬! ストリートファイター・モード!」 「はっ!」 三冬の気合い声が響く。 見た目に何か変わったようには見えない。 変わったのは、技の体系だった。 三冬は、二体の一つ目ランプのようなメカを、できる限り引きつけた。 「いくぞ……竜巻旋風脚!!」 ……それは往年の格闘ゲームの技であったという。 三冬はその場で飛び上がると、右足を振り上げる。同時に、背部のスラスターに点火、三冬の身体を持ち上げつつ、右方向に回転させる。 結果、三冬は高速回転による空中回し蹴りを炸裂させる。 さすがのスターゲイザーも、この動きには対応できなかった。 引きつけられていた二体は、まるで渦に吸い込まれるように、三冬の蹴りを食らったように見えた。 目玉のついたランプ型のサブマシンは、二体とも地面に弾き飛ばされる。 初めての有効打であった。 三冬のバトルスタイルのコンセプトは、頼子の趣味丸出しである。 頼子は学生の頃、それも菜々子が武装神姫を手にした歳と同じくらいから、ゲームセンターのビデオゲームが大好きだった。特に、対戦格闘ゲームというジャンルが。 以来、今の歳になるまで、一貫してゲームが趣味である。武装神姫にも、ゲームの一種という認識で手を出した。 頼子は考えた。 武装神姫のスペックを持ってすれば、現実には不可能な、格闘ゲームの超人的な必殺技の数々を再現できるのではないか、と。 結果、三冬は近接格闘メインの神姫となり、俊敏な動作重視のカスタマイズが行われ、頼子が健康と趣味のために学んでいた太極拳と、数々の格闘ゲームの技を修得した。 デビュー当時はキワモノ扱いされた頼子と三冬であったが、いまやそのバトルスタイルは、『街頭覇王』の二つ名とともに畏怖の象徴になっている。 回転を止め、空中から降下してくる三冬。 この瞬間は無防備だ。 その隙を突いて、黒い影が突進、ビームトライデントを繰り出してくる。 三冬はとっさに腕アーマーで払おうとした。 が、何かがそれを押しとどめ、かわりに背部スラスターを噴射した。 後方へと飛び退き、ビームの刃をかわす。 意識しての行動ではない。 積み重ねた戦闘経験がさせた無意識の行動だった。 繰り出されたビームトライデントを捌こうとするなら、ビーム自体ではなく、出力されているビームの根本……今の場合なら、燭台部分を払わねばならない。 しかし、マグダレーナの攻撃は、それを許さない間合いだった。 だから三冬は飛び退くしかなかった。 なんという絶妙の間合い取り。 三冬が戦慄する中、マグダレーナは不適な笑いを浮かべ、言った。 「くくっ……制空圏は把握させてもらった」 「……そう来たか」 三冬は苦い表情で、再び繰り出されるビームの刃を回避する。 制空圏とは、格闘家が持つ、有効な攻撃を放てる間合いのことだ。 達人クラスの格闘技者ともなれば、自分の周囲すべての間合いを把握しており、間合いの内に入れば、必殺の攻撃を繰り出せる。 三冬ならば、自分の有効間合いに入った相手を、太極拳の動きでからめ取り、地面に引き倒すことが可能だ。 その間合いはすでに結界に等しい。 それを制空圏と呼ぶのである。 マグダレーナは、三冬の制空圏を把握していた。 三冬は一つ舌打ちをする。 スターゲイザー二体に手こずり過ぎた。おそらくあのサブマシンどもで、三冬の制空圏を計っていたのだ。 今のマグダレーナは、初撃の時の迂闊さは見られない。 ビームの刃だけを制空権圏に触れさせ、三冬の攻撃が触れられないギリギリの位置で攻めてくる。 三冬はマグダレーナの攻撃をかわすたび、眉間のしわを深めた。 「くそ……」 「なるほど、よく持っているが……これならどうだ? スターゲイザー!」 マグダレーナの一声に、倒れていたサブマシンが再起動した。 まずい。 ただでさえやっかいなスターゲイザーの波状攻撃に、マグダレーナの巧妙なビーム槍の攻撃が加わっては、反撃もままならなくなる。 焦りが三冬の表情を険しくさせた。 それでも三冬は構える。 ピンチの時こそ冷静に。 ゆるり、と大型のアームが円を描く。 太極拳の螺旋勁。太極拳の動作の根幹をなす、基本中の基本だ。 頼子奥様と共に、毎日毎日鍛練を積んできた。 表情から焦りが消える。 襲い来る三つの影。 三冬は動きを止めない。自らの修練を信じ、迎え撃つ。 ◆ 三冬とマグダレーナが激しい戦いを繰り広げる中、久住頼子は物陰から少し顔を出し、桐島あおいの位置を確認する。 彼女もやはり物陰に隠れているが、その距離は意外に近い。 よし、と自分に気合いを入れ、声を上げて話しかける。 「あおいちゃん!」 「……頼子さん……公式ランカーのあなたがこんなところに来るとは予想外でした」 「わたしはね、ファーストランカーである前に、菜々子の家族なのよ」 「なるほど……」 頼子が今日ここに来たのは、ただマグダレーナの相手をするためだけではない。 頼子はこの二年間、あおいと会うことはなかった。 だからこそ疑問に思っていた。 菜々子から伝え聞いた、あの夏の豹変ぶりを。 あおいの本当の気持ちがどこにあるのか、確かめなくてはならない。 それはきっと、菜々子を助け出した後に必要になるはずだから。 「あおいちゃん、もうやめなさい。こんな戦いは不毛なだけだわ」 「仕掛けてきたのはそちらです」 「それだけじゃない。裏バトルへの参戦、そして壊滅。そんなことをして何になると言うの」 「わたしには……わたしとマグダレーナには、目的があります」 そう言うあおいの口調が、先ほどとは違うことに、頼子は気付いた。 うすら笑いしながらの穏やかな口調ではない。 しっかりと意志を持った、真剣な言葉。 あおいちゃん、あなた……。 彼女は狂っているのではない。正気だ。異常に見えるあおいの行動はすべて、彼女の正常な意志のもとに行われている。 あおいの……いや、あおいとマグダレーナ、二人の目的を果たすために。 頼子は眉をひそめる。 マグダレーナは、あおいの目的を果たすためにいるのではないのか? あおいの言葉からすると、マグダレーナもまた、自ら目的を持って、自発的に動いているということになる。 「目的って……復讐? ルミナスを壊されたことへの恨みなの?」 「復讐なんて……ルミナスを壊したエリアを壊滅させたところで終わっています」 あおいの言葉に苦笑が混じる。 復讐、ではない? 頼子は、あおいの行動原理が復讐だと思っていた。 最愛の神姫を破壊せざるを得なかった、裏バトル界すべてへの復讐。 「復讐じゃなければ、何だっていうの?」 「言えません」 「なぜ?」 「頼子さんはわたしと共に戦ってくれそうにはないからです」 「そんな理由で……わたしだけでなく、他の仲間たちも遠ざけて、たった一人で……そうまでしなくてはならないことなの、あなたの目的とやらは!?」 「同じ事を、菜々子にも言われましたよ」 ちらりと見えたあおいの顔。 一瞬苦笑していたが、眼は笑っていない。 「すみませんが頼子さん。わたしたちの行く手を邪魔するならば、たとえあなただろうと容赦はしない」 真摯で真っ直ぐな口調。強い意志を宿す瞳。 頼子は確信する。 狂っているのではない。 明確な目的意識を持って、最凶の神姫マスターを演じながら、裏バトル界を潰しにかかっている……! 頼子は一つ深呼吸をすると、気持ちを落ち着かせる。 再びあおいを見る。 頼子の顔に、ベテラン神姫マスターの、凄絶な笑みが浮かんだ。 「ファーストランカー相手に、随分と余裕の発言ね、あおいちゃん」 「マグダレーナならば、たとえファーストリーグ・チャンピオンでも敵ではありません」 「大きく出たわね……痛い目見るわよ?」 頼子は三冬に視線を移す。 彼女のハウリン型は、サブマシン二体とマグダレーナを相手に苦戦中だ。 制空圏の範囲を測られ、防戦一方になっている。だが、三冬が防御に徹しているがゆえに、マグダレーナの方も攻めきれずにいる。 ならばやりようもある。 「三冬! 一気に蹴散らすわよ! サイコクラッシャーアタック!」 「承知!」 三冬の返事には、少しの安堵と開放感が混ざっていた。 次へ> Topに戻る>