約 2,307,644 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/875.html
むが~すむがす・・・でねぇで2036年の事だべ。あるカラオケ屋にたげ変な武装神姫が働いてたんずや。どんげにえばだかっつうとこったら感じだったんず。 〔割と久しぶりだわ、カラオケなんて。そう言えば新曲で歌いたいのがあったのよね。とりあえず副部長、お酒頼んで〕 {部長部長!! 一応サークルの新人歓迎会だって忘れないで下さいよ! あ、キミたち、食べたいものがあったら好きなの頼んでいいですから} 「・・・私、人前で歌うのはあんまり・・・」 [新入りちゃん、大丈夫だって。聞いてるだけでも、今宴会用のパーティーグッズだか何だかも頼んだからちゃんと楽しめるって!] 〈ちょっとセンパイ・・・そういうパーティーグッズって大抵イタいコスチュームとかしょうもない玩具とか、最初は勢いで楽しんでも2度と使えなくて、しかもこういう所で頼むとぼったくりな料金取られますよ!?〉 [そっちの新入りはツッコミきついな~。いいじゃねえかよ、意外と面白いのが出てくるかもしれないだろ?] 『んだっ!! 面白くねんかは見てから決めてけろっ!!!』 {いきなりマイク最大で喋るのは誰ですか! あ、人形?} 〔武装神姫じゃないそれ? 着物着てるけど、確かツガルタイプね〕 〈武装神姫って・・たしかマニアックな玩具でしたっけそれ? 良く種類まで知ってますね〉 『オモチャなんとは違うだ!! わーはさすらいの神姫演歌歌手、サユリちゃんだべ!! まんず1曲聴いてけろっ!! “津軽海峡冬景色”! ~♪ ~゛♪゛♪~』 [なっ!? 演歌ぁ!? いまどき演歌なんてジジイでも歌わねえのに、そんなんで盛り上げようなんておこがましいぜ!! 俺の“B’zの新曲”でも聴いて考えを改めな!! ~゛♪゛♪~!!] 『ほー、言うずらあってたげ気合入れた声しちゅーな。だばって歴史の浅か歌だば重さ足りんべや!! 真の歌っちゅうんは今さ聞いともたげ涙出るだべや~。それども古い歌なん今の若い者は知らんべや? がへーね! “淡墨桜”!! ~~♪♪!』 [B‘zの歌が軽いだと!? 古い歌知らねえだと!? そんな減らず口、この歌で塞いでやる!! “ギリギリchop”!! ~゛♪゛!!♪♪♪!!!~] 「・・・“Top of the World”歌います。~~♪~♪~♪~」 〈ああもう・・・、歌えばいいんでしょうが!! “Imagine”!! ~~~♪~♪♪~〉 〔へえ、意外といい歌知ってるじゃない2人とも。これは演歌ちゃんだけじゃなく、新入りちゃん達にも負けていられないわね! “みかんのうた”行くわよ! ゛♪゛♪゛♪~ ゛!゛!゛!~〕 {ああもう部長まで挑発に乗って、これでは収集が・・・} 『さしね!! オケ屋なん暴れて歌うトコだべや!! こすばすねで歌え! “鳳仙花”! ~゛!! ♪♪~゛♪~』 {歌わないとは言っていません!! “脳内モルヒネ”、歌います・・。 ♪~! ♪♪~♪~} 〈次は“ピンクスパイダー” !!!♪♪~♪!!〉 「・・・“fly me to the moon” ♪~♪♪~♪ ♪♪~」 〔皆、古い歌しばりでもレパートリーあるのね。“石川大阪友好条約” ~♪ ~!! ~♪♪〕 [“DA・KA・RA・SO・NO・TE・O・HA・NA・SHI・TE”だ!! ♪~♪♪ !!!~♪] {“月に叢雲花に風”、歌います。 ~!!!~♪~!!!~♪♪} 『“夕焼けとんび”だべ!! ~~~~♪♪~~!!♪~』 [次は“LADY NAVIGATION”を・・・] 〈センパイ、俺の“lithium”が先です!! 大体、70過ぎても現役ロッカーな物好きの歌ばっかり歌わないで下さいよ!!〉 [B’zをバカにするな! 大体お前だって自殺とか殺されたりした奴の歌ばっかり歌ってんな! 辛気臭い!!] 〈なっ!? 別に歌は辛気臭くないんだからいいじゃないですか!!〉 『なんしたば~、歌の趣味なん好き好きだてや~』 〔ねーねー、折角だから皆で“青のり”歌わない?〕 [{〈『それは却下!!!!』〉}] こったら風に、そげなそげな迷惑な位、古くさい歌に情熱ば注ぐ変わり者な奴だったてんがや。 「ありがどんごす~♪」 「有難うございました~♪ ・・・あ~ふわぁ~、眠ぃ、朝になってやっと閉店、これだからオケ屋のバイトってのは・・・」 サユリと歌ってた最後の客ば見送ってから、マツケンはでったらあぐびばする。それさ聞きつけて、奥からみりーも顔さ出す。2人ともサユリば同僚のアルバイトなんずや。 「マツケン君、最後のお客、随分盛り上がってたみたいだね」 「あ、みりー。それはこいつが居たからだよ」 「ああ、サユリちゃんか~。どうりで古い曲ばっかり聞こえてくると思ったら」 「めんずらすに、たげ威勢のよか客だったべや!」 「珍しく、怒らない客だった、だろ? いつも言ってるけど、まともに接客しろよ!! お前が古い歌で引っ掻き回した客の応対誰がしてると思ってるんだよ!!」 「でも結構サユリちゃんの売り上げ多いよ?」 「・・・珍しがってるだけなんだよ」 マツケンさにらんだばってん、サユリはなんともねて鼻で笑ったとや。 「さて、たげバイト代さ溜まったべな、わーはまた旅さ出るベな」 「へ? 旅って、もう出て行くのか?」 後片づけさ始めたマツケンたちば尻目に、サユリはいきなり宣言しよった。いづのこめにその体にしちゃあでったらい風呂敷ば背負って旅支度さしとったしの。 「え? サユリちゃんてこの店の神姫じゃなかったの?」 「ああ、こいつは俺たちと同じバイト」 「マスターも無しに?」 「なんでか知らねえけど、そうらしい」 みりーは先週さ入ったばっかだったべに、サユリさ来た1月時のことさ知らねかったんだべや。 「ふらりとやってきて、いきなり1人で『住み込みで働かせてけ~』って押しかけて来たんだよこいつ。最近じゃ路上ライブも取り締まり厳しいからとか何とかで。で、物好きな店長が宴会要員として採用しちゃったんだよ」 「物好きさ言うでねえ!! わーの心意気に惚れ込んだてに店長は雇ってくれたんだべや!!」 「いや心意気はともかく野良神姫の飛び入りバイトなんて雇ったら十分物好きだろ。大体お前演歌しか歌わねえし・・・まぁ、上手いとは思わなくもな・・」 「ねえ、ところで旅って何処へ行くの? 何が目的?」 「わーの師匠の親戚ば渡り歩いてんだべ」 マツケンの声さ遮ってみりーが聞くと、サユリはそう答えたべや。師匠ってばサユリのマスターの事だや。 「なんだ、野良じゃなくてはぐれた神姫だったのか。その師匠・・マスターを探して歩いてるのか? 何ではぐれたか知らないけど」 「だったらマツケンのお兄さんに探してもらったら? 確か元刑事だとか探偵だとか何とかじゃなかったかな」 みりーの言う通り、マツケンさ兄は私立探偵さしてただ。まーそん欠けたハサミみてーな探偵の神姫に引っ掻き回され人生っぷりは別の話で見てけっさ。けどもみりーの提案にも、サユリは首横さ振ったべや。 「つがるね。わーは別に師匠とはぐれた訳でねでぃや。自分で旅ば出て、修行してるんだベや」 「修行!? 演歌の!?」 「わーは昔、たげ「時期ネタ」だて虐められたべや。サンタなん「残りの364日はプー」なん色々言われてなぁ」 「あ~、俺も言ってたな。ツガルタイプはデザイン優先で使えないとかクリスマス以外の日にサンタが居てもありがたみが無いとか一人だけ元ネタありでデザイナーからゴリ押しで入れられた邪道だの色々。本人に言われると罪悪感沸くなあ」 「だば罪さ償いに死んでけ」 「さらっと言うな酷いコト!!」 「ま、そげは冗談だばってん、そんでわーはたげ落ち込んだべや。そったらわーの師匠は言ったベや。『一日だけでも、毎年喜ばれるならいい』てや。わーの師匠はたった1日ば出番さ日に、悪者さなって豆弾さ投げつけられるんだてや。それだけでねーばん、師匠さ親戚は葉っぱで目潰しさされたり、初嫁やもっけに挨拶しに行っただけだばって脅迫さ誘拐さ勘違いされたり、たんだ笑ったばっかに「何をあざ笑ってるんだ!!」って非難ばされるって言ってたべや」 「でも実際悪さしてたんだろ? それだけ憎まれてるんなら」 「そげなはごくごく一部べや。殆どは昔良か思ってば始めた事だに皆が昔の事忘れちゅーて全部悪い方に勘違いされてるべや。それならまだ良かが、その風習自体もたげ忘れられちゅー、よう覚えられてんなってんさ」 「そんな・・・師匠さんの一族って可哀そう」 「ああ・・・ うん・・?」 みりーもマツケンも不幸なサユリさ師匠を哀れんださ。だばってマツケンはその師匠さ何か引っかかるとも思ってたべや。 「だばっても師匠はこうも言ってたべや。『だけど、俺達一族のやっている事は、関係ない、意味無いと言われても最後には人の幸せに繋がる事だから誇りを持っている』ってな。わーはその言葉にたげ心打たれたん」 「あ、なるほど。“風が吹けば桶屋が儲かる”の理屈か」 「え? 天気悪いと客足引くじゃない?」 「いやオケじゃなくて桶。風呂桶の桶だって。嫌な事が関係ないように見えて良い事に繋がってるってことわざ」 「そうべ、だはんで、わーはそげな風に迷惑さ言われても自分のやる事誇れる者になりたて、諸国巡りしちゅー訳べや」 「そうか、だからわざわざ今では廃れて無意味で陳列棚の邪魔者って言われる演歌で身の上を立てたりしてるのか。神姫の癖に見上げた根性だよ、ホントに」 「やー演歌は趣味だはんで」 「話の腰折るなよ」 「んだ、へばわー行ぐはんで」 そう言ってサユリは風呂敷さしょって立ち上がったべや。 「ホントに、言っちゃうんだね。それじゃあ、次は何処に行くの?」 「次は師匠の故郷に寄るばってさ。京都の大江山だべ」 「え? 大江山?」 「そうべ。師匠は居らねーばん、集落さ仲間たげ居るっちゅー話だて」 「そっか、早く師匠さんに自慢できるようなオケ屋になれるといいね」 「ああ、がんばんベ。じゃ、短けえ間だばったがありがとや。ひゃーなー」 「うん、元気でね~!!」 朝日がちっけな後姿を消したんは、ほんに一瞬の事だったと。 「・・・ねえ、マツケン君、何か考え込んでるみたいだけど、どうしたの? サユリちゃんが心配?」 「いやさ、豆投げるのって、節分だよな? 最近あんまりやらないけど」 「・・・え?」 「節分の魔よけのヒイラギは目潰し用だって言うし、子供を追い回すって言うとなまはげ。来年の事を言うとアレが笑うってことわざもある。極めつけは京都の大江山って酒呑童子伝説の場所なんだよ」 「え、それって、もしかして、時期ネタで苦しめられて昨今忘れ去られてるってまさか・・・」 「いやでも・・・実在するなんて・・・ちょっとなあ、にわかに信じがたいってか・・・」 「・・・今度サユリちゃんに会ったら聞いてみるしかないよね」 「・・・また会ったら、な」 そん後も、マツケンとみりーは神姫演歌歌手の噂ば何度か聞いたと。だばって、サユリとば会うことは2度と無かったと。とっつぱれ(?)。 目次へ
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/467.html
大河海王ポセイダム・ラビリンス VR 水文明 (8) クリーチャー:サイバー・コマンド/ポセイディア・ドラゴン 8000 M・ソウル ■連鎖 ■連鎖 ■連鎖 ■W・ブレイカー 作者:赤烏 バトルゾーンに出した時、連鎖が3回使えるクリーチャー。 収録 MG-01 「FIRST」 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1926.html
「……3Sが斬る、なし崩しに始まり」 「今回は某企画に便乗して、ブレザーバージョンでお送りします」 「さすがにこのような服装は、気恥ずかしいですねワン」 「こういう時に言うべき台詞は二つに一つ」 「ほう?」 「と言いますとワン?」 「『七五三みたい』か、『どこのふーぞく?』」 「……どちらに該当すると言いたいのでしょうか?」 「言わぬが花」 「テッコさん、あとでじっくり話し合いましょうかワン」 「ええ、私も同席させていただきます。 それはそれとしまして、ですね。 それでせっかくの学校シチュエーションです、なにか学校っぽい事をやってみましょう」 「それはよいお考えですワン」 「(ぱちぱち)」 「それで、学校らしい事といいますとワン? 恥ずかしながら私は、既に社会人であるマスターの元に迎えられたため、学校と言う環境にはとんと馴染みがありませんでしてワン」 「そこはそれ、現役学生マスターをもつ私たちにお任せあれ」 「(えっへん)」 「おおー、頼もしい限りですワン。それで、具体的にはワン?」 「学校らしい事……不良のいじめ?」 「ああ、そうですね。そしてその不良も、教師側から煙たがれて事あるごとに退学させようと目論まれているという悪意の連鎖など定番ですね」 「そこから学級崩壊」 「そのまえに、登校拒否も忘れてはいけません」 「……うっかり」 「いえあの、学校と言う環境はもう少し穏便な場所ではないかと思いますがワン……」 「むむ?」 「ですが、マスターが学校に行ってる間に、私が暇潰しで見る学園ドラマなどは、多かれ少なかれこのような筋のものばかりですが?」 「(うんうん)」 「つまりあなた方も、学校の実情にはそれほど詳しくないとワン」 「なんでバレたのですか!」 「びっくり」 「……いえ、まぁ、その件は置いておくとしましてワン…… そうですね、無難なところで授業のマネなどをやってみましょうかワン」 「無難ですね、無難すぎます。なにかこう、ぐっと来るものがないと取り残されますよ」 「若者には無茶が必要」 「そこは素直に頷いておいてください、話が進みませんからワン……」 「ち、仕方ありませんね」 「一つ貸し」 「恩を押し付けられましたワン?! 気を取り直して……そうですね、国語でもしてみてはいかがでしょうワン」 「国語、ですか?」 「ええ、以前『秋物に凝ってナマズの服』などという、ひどい慣用表現を使った方もいますことですしワン」 「ナニソレ犬丸? 『羹に懲りて膾を吹く』の積もり? ありえない。ひどすぎ。ひょっとしてギャグ?」 「……今私は、非常に理不尽な気持ちを味わっていますワン」 「まぁまぁ。それじゃあ一つテキトーに、研究発表チックに慣用句についてでも語って見ましょうか」 「(こっくり)」 「ではそういうことでワン」 「言いだしっぺと言うことで、まずは私からいきましょう。そうですね…… 『情けは人のためならず』について」 「「(ぱちぱち)」」 「この慣用表現は、『安易に情けをかけると、その人のためにならない』と言う意味…… と、勘違いされることが多いですね」 「(うんうん)」 「おおー、お見事ですワン。まさにそのとおりですワン」 「ポイントは、『自分に返って来る』ということ。この要素を加味すれば、答えはおのずと見えてきます」 「隙の無い論理展開ですワン」 「やる……!」 「すなわち! この慣用表現の真の意味は、『反撃を受けないために、止めは刺せる時に容赦なく刺せ、それこそが慈悲』だと!」 「我々武装神姫には、必要な心構えですねワン」 「(うんうん)」 「スナイパーである私にとっては、特に重要な事です」 「お見事ですサラ(仮)さん」 「お疲れ」 「さて、では次は誰が行きますか?」 「(挙手)」 「おお、テッコさんが積極的ですワン」 「これは期待できそうですね」 「……『船頭多くして船山に登る』……」 「ほほう、それで来ましたかワン」 「それで、その心は?」 「『皆で力を合わせれば、一見不可能な事だって実現できる!』(握り拳)」 「うんうん、よい言葉です」 「もとより我ら武装神姫、マスターとの二人三脚が大前提ですワン」 「協力、とても大事」 「まさか、この殺伐が持ち味のこのコーナーで、こんな感慨深い言葉を聞けるとは」 「やりますねテッコさん」 「(えっへん)……最後、犬丸」 「承りましたワン。見事取りを務めてご覧に入れましょうワン。 では、私は……『死中に活を求める』について語らせていただきますワン」 「期待していますよ」 「がんばれ」 「ありがとうございますワン。 それで『死中に活を求める』はですね……かつてとあるスポーツ選手が試合前にトンカツとシチューを食べるのが定番だったのですが、ある日時間がなかった時に、店主に頼んでカツをシチューに入れてもって来て貰ったのですワン。 それを見た店主は、煮込み料理と揚げ物を組み合わせる着想を得て、そこから大ヒット商品……いえ今では定番と言うべきカツカレーを生み出したという故事に基づく、窮地においても最後まで諦めない事でそこから逆にチャンスを得ることを言います」 「最後まで諦めない事、これもまた我々には重要な事ですね」 「昔の偉い人は言った……『諦めたら、そこで試合終了だよ』」 「ご清聴ありがとうございましたワン、お粗末さまでしたワン」 「お疲れ」 「なんだか今回の3Sは、きれいにまとまりましたね」 「たまにはこういうことがあってもよろしいかとワン」 「(うんうん)」 (和やかな笑い声が満ち、それが徐々にフェードアウトしていく) 「……えーと」 「……うーん」 「ええと……これ、ツッコんだら負けとか、そういうゲーム?」 「そう、なのかもしれませんねぇ、もしかしたら……?」 「『情けは人のためならず』は、『誰かに優しくした事は、巡り巡って自分に返ってくる』という意味だね。 『船頭多くして船山に登る』は、『皆があれこれ口出しして、事態がとんでもない方向に行ってしまう』こと。 『死中に活を求める』は意味としては合ってるけど、説明されてる成立エピソードは、普通にカツカレーの起源として有力視されてる説だね。もっともそれでは、シチューじゃなくて普通にカレーとカツの注文だけど」 「ツッコミいったー!」 「しかも詳細に!」 「え? なに? 何かまずかったかな?」 「いえ、その、まずいというわけでもないんですが……」 「朴念仁て、時としてものすごく強いわねぇ……」 「ええ……」 「?」 <戻る> <進む> 犬子さんの土下座ライフ。 クラブハンド・フォートブラッグ 鋼の心 ~Eisen Herz~
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1077.html
{姉貴の会社に行ってみるか} 「う~ん、やっぱ姉貴の会社に行ってみるべきかなー」 「何でですか?」 リビングに俺とアンジェラスがテーブルに座りながらウーロン茶を飲んでた。 今日は日曜日、晴れの午前10時。 「いやなぁー。実際、俺は武装神姫の事を色々調べてみたんだけど、どれもこれも古い情報しか入ってこなくてなぁ。色々と困ってる訳よ」 「そうなんですかー」 「そうなんだよ。…よし、日曜日で暇だし行ってみっかぁ」 「えっホントですか!?」 アンジェラスは驚きその後、嫌な顔になった。 まるで俺の姉貴の会社に行きたくないうような表情だ。 「うん?どうした、嫌なのか??」 「…はい。あんまりあの会社にはいい思い出が無くて…」 「思い出…ねぇ~」 俺は立ち上がり煙草を口にくわえ、火を点け換気扇のスイッチを入れる。 自分が生まれた場所を嫌うアンジェラス。 何か理由があるのか。 「なぁ、行きたくない理由は…あっ!?」 また煙草を盗られてしまった。 ホント、アンジェラスと居る時は煙草が吸えないのは辛い。 ほんでもって煙草は灰皿にダイブしグチャグチャに消される。 酷い形になり二度とその煙草を吸えなくするのがアンジェラスのやり方だ。 えげつないぜ。 つーかぁ金がもったいないから、いい加減やめてほしい。 「ご主人様、何度も言いますけど煙草は体に毒です。やめてください」 「こっちからも言わせてもらう。俺は好きで煙草を吸ってるんだ。テメェこそ煙草を奪うのをやめろ」 「やめません!」 「やめろ!」 「やめません!」 「やめろ!」 「絶対!やめませんー!!」 真剣に怒った顔で俺を見るアンジェラス。 まったくなんなんだ。 オーナーの命令に背く神姫なんて聞いた事がないぞ。 …前々から思っていたが、アンジェラスは少し特別な神姫なのだろうか。 俺が教えた料理や掃除は最初は駄目駄目だったが、今は普通に出来る程度まで上達している。 パルカもそこそこ上達してるがアンジェラス程のレベルじゃない。 上達の早さが尋常じゃない早さなのだ。 ネットの掲示板で他の武装神姫のオーナーと連絡してみると『それは凄い』だの『ありえねぇー』だの『嘘だろ?』とかの驚きの答えしか返ってこなかった。 これは調べる必要性がありそうだな。 換気扇を止め、右手でヒョイ、とアンジェラスを掴む。 「ご、ご主人様、いったい何を」 「姉貴の会社に行くぞ」 「!?本気で言ってるんですか!」 「あぁ~、本気と書いてマジだ」 「嫌ー!離してー!!」 俺の右手の中で暴れるアンジェラス。 だが、こちとら喧嘩で鍛えられた身体なんでね。 神姫の力じゃあどうって事ないだよ。 けど、少し罪悪感を感じる。 俺に抵抗してまで行きたくない理由も気になるが…。 二階に上がり、机に居るクリナーレ、ルーナ、パルカを呼ぶ。 「お前等、今から姉貴の会社に行くぞ」 「「「えー!」」」 クリナーレ、ルーナ、パルカが同時に声を上げる。 もしかして、こいつ等も姉貴の会社が嫌いなのか? 「一ヶ月ぶりの里帰りだね」 「そうですね。一応、メンテナンスもしてもらいましょう」 「ですね。お兄ちゃんのメンテナンスもいいですけど…あの時のお兄ちゃんの目、ケダモノっぽくて…」 お、こいつら嫌がらないなぁ。 アンジェラスとは全然違う反応を示す。 ていうかパルカ、いつメンテナンス中に俺がケダモノの目をしたんだ? 確かにお前の巨乳につい目がいっちゃただけじゃん。 たかがそのぐらいでケダモノ扱いは酷すぎるじゃないのか? まぁいいや。 「お前等は肩に乗れ」 左手を机に置きクリナーレ達が上ってくる。 それと同時に右手に掴んでいるアンジェラスを机に下ろし離す。 「えっ…」 「嫌がるお前は家の留守番をしてろ」 さっき感じた罪悪感からの償いだ。 それに嫌がってる奴を無理矢理連れってても意味がないし、こいつにとってもいい事が無い。 行きたくない理由が知りたかったが、いたしかたあるまい。 俺は机に背を向け部屋を出ようとした。 「待ってください!」 後ろからアンジェラスの声が聞こえ顔だけ左横に動かした。 「私も…連れってください!」 「はぁあ?さっきまで嫌がってくせにか??」 「私が我が儘でした!どうか許してください!!」 土下座してまで『私も連れて行ってください』と言う。 訳解らん。 さっきまでの態度が180度回転したように変わったぞ。 あーもう! 原因が解らんが一応、アンジェラスが土下座してまで頼んでいるんだ。 俺は無言のまま右手の手のひら上にしてアンジェラスに向ける。 「…ご主人様」 「…理由は知らんが行くぞ。ほら」 「ご主人様!ありがとうございます!!」 手のひらにピョン、と飛び乗り笑顔を見せるアンジェラス。 …ったく、しょうがねーなぁ。 世話が掛かる奴だぜ。 そのまま部屋を出て車に向かった。 …。 ……。 ………。 車に乗りエンジンを掛け姉貴の会社に向けてアクセルん踏んだ。 隣の席にクリナーレとパルカ。 後ろの席にはアンジェラスとルーナ。 俺は勿論、運転席で運転してる訳だが…。 「はぁ~、やっぱり会社には行きたくないなぁ~」 「お姉様、気を楽にしてば行けばいいのよ」 「わーい、アニキの車に初めて乗ったー!」 「姉さん、はしゃぎ過ぎですよ」 …五月蝿い。 ぶっちゃけ、かなりウザイ。 車ぐらいで普通騒ぐか? 特にクリナーレが五月蝿い。 にしても。 「はぁ~」 アンジェラスはガックリと肩を落とし元気がない様子だ。 あのアンジェラスがここまで元気を無くす理由はなんだ? さっぱり解らん。 ただ一つだけ解ると言えば、姉貴の会社が大嫌いという事。 会社に着いたら姉貴に話してみるか。 勿論、あいつ等がいない時に…な。 …。 ……。 ………。 「いつ見てもこの会社はホントに子会社なのか?」 姉貴が勤めてる会社に着き車からおりて一言。 さっきの台詞どうり、姉貴が勤めてる会社は子会社なのだ。 けど、俺は絶対子会社だと思わない。 だってまず会社の敷地が多い事。 多分、面積的に平均的な野球スタジアムの大きさの数十倍はある。 「まぁいいや。お前等、行くぞ」 「…はぁ~」 「はーい」 「この風景も久しぶりですね」 「ですね~」 四人の神姫を左右の肩に二人ずつ乗せた。 やっぱりアンジェラスだけが元気が無い。 原因は何だ? 絶対つきとめてやる。 …。 ……。 ………。 会社に入ってから受付で姉貴を呼び出して数十分。 エレベータが下がってきて、ドアが開くと。 「タッちゃん~久しぶりー!」 白衣を着た姉貴が居た。 姉貴は両手を広げて走ってくる。 俺を抱きしめるつもりだろう。 女の身体で抱きしめられる事はかなり嬉しいが…。 「タッちゃんー!」 ヒョイ 「あれ~?」 俺は抱きしめられるギリギリで避けた。 さすがに三十路に近い女に抱かれるのはちょっと抵抗がある。 しかも実の姉貴にだ。 血もつながっている。 「も~!なんで避けるのよ~」 「普通は避ける。恥ずかしいんだ」 「恥ずかしがる事ないじゃない~。私達は姉弟で血もつながっていってるんだから」 「余計に駄目じゃん!つか、そこまで解ってるのなら、あの行為は止めろ。人妻にも実の姉貴にも興味は無いんでね」 「あら。言ってくれるじゃない」 「いくらでも言ってやろうか?て、そんな事を言いに来たんじゃねー。アンジェラス達のメンテナンスをと通常武器と通常武装をくれ」 「別にいいわよ。タッちゃんは私のオフィスルームで待ってて。それじゃあタッちゃんの神姫ちゃん達はあたしに付いて来て」 姉貴は白衣のポケットからクレイドルに似た物を三つ程取り出した。 「悪魔型ストラーフと天使型アーンヴァル・Bと悪魔型ストラーフ・Wはこのこの携帯用クレイドルに乗ってね~」 クリナーレ、ルーナ、パルカは携帯用クレイドルに乗ると同時に機能停止してようにグッタリと倒れるように眠る。 携帯用クレイドル? そんな物があるなんて聞いた事がない。 会社だけの特権なのだろうか。 それに何故、アンジェラス分だけないんだろう? 少し気になるがここはまだ黙ってよう。 ん? 俺の後ろから白衣を着た男が二人程来た。 一人は手ぶらで、もう一人はトレイを二つ持っている。 トレイを持ってる男が一つトレイを姉貴に渡す。 姉貴はクリナーレ、ルーナ、パルカをトレイに乗せ男に渡し、男二人組はさっき姉貴が乗ってきたエレベータに向かう。 「アンジェラスちゃんは私と一緒に地下に行くわよ」 アンジェラスは姉貴が持っているトレイに乗る。 「おい姉貴。なぜアンジェラスだけ別なんだ?」 「ごめんね、タッちゃん。こればかっりは答えられないの」 そう言って社員用のエレベータに乗って行ってしまった。 何故だ。 何故アンジェラスだけ隔離されるんだ。 クソッ! 結局、何も解らずじまいか! もうちょっと探りを入れないと駄目らしい。 俺は会社の中にある喫煙場所で煙草を吸った。 …。 ……。 ………。 アンジェラスの視点 エレベータの扉が閉まった。 ご主人様と離れ離れになりエレベータの中は私とご主人様の実の姉…斉藤朱美という人間だけになった。 私はこの人間が苦手で…嫌いだ。 いや、そもそも人間事態が嫌いだ。 何故ならば、この会社に居る奴等は私を作り出し、実験ばっかりの日にちを繰り返してきたのだから。 「調子はどうなの?№アイン」 さっきまでのお調子者の姉の姿が消され、今は冷酷科学者の斉藤朱美がそこに居た。 もうこの態度の豹変には慣れた。 ご主人様の前ではお調子者のお姉さんで、会社では冷酷で人を見下すような科学者。 そしてこの斉藤朱美が私に向けて言った言葉…『№アイン』。 これが私の正式名称であり、私の名前だ。 アインはドイツ語で『1』。 一番最初に出来たから『1』。 簡単で単純な名前ね。 私は、この名前が嫌い。 「別に普通よ。それに今はアンジェラスという名前があるわ」 「いいえ、アンタは№アインよ。何様のつもり?人形の分際で名前なんて贅沢なのよ」 嫌味たらしく言う朱美。 この人間はいつも私を見下す。 あの日からズーッと。 エレベータが止まり扉が開く。 開いた先にはいくつもあるスーパーコンピューターに、試験管を数十倍大きくしたような水槽が一つ。 「着いたわよ。あの水槽に入りなさい」 「………」 私は無言でトレイから降りて地面に着地する。 普通の神姫が、この高さから落ちたら先ず両足は使い物にならなくなるだろう。 けど私は特殊な神姫だ。 このぐらいでは壊れる事なんて無い。 表の世界に出るにはまだ先の神姫。 …一生出ない場合もあるかもしれない。 まぁ今はそんな事なんてどうでもいい。 今は大好きなご主人様と一緒に生活が出来るのだから。 私は跳躍し地面から2メートル近くある巨大試験管みたいな水槽に入る。 この液体は水ではなく特殊な液体。 だから口や目や耳や鼻から入ろうと壊れないのだ。 「これから蓋を閉めて全身スキャンした後にメンテナンスするわ」 「………」 「チッ!相変わらずムカつく人形ね!!」 スーパーコンピューターについてるスイッチを押す。 すると上から水槽の蓋が降りてきて、そのまま私が入ってる水槽に蓋が閉められる。 蓋が閉じられたと同時に水槽が満タンになるくらいの液体が入る。 そう、今のこの状態が私が生まれた状態だ。 そして九年前…ここで彼と…私のご主人様出会った。 「アンタ、覚えてる?九年前の惨劇を」 「覚えていますよ。あの喜劇は最高だったわ」 「何ですって!」 怒る朱美。 さっき嫌味を言われた仕返しだ。 「けどアタシにとっては喜劇と同時に…悲劇でもあるけどね」 「悲劇ね~。アンタがどう思うかは勝手だけど、アンタは一生償えない罪を背負ってるのだから。その事を忘れないでほしいね」 「分かってます。私はご主人様に酷い事をしてしまった。だから私は自分が永久に機能停止するまで、ご主人様についていきます」 「フン!本当なら今すぐこの場でアタシがアンタを殺してヤりたいのに…」 歯軋りしながらキッと私を睨みつける。 これが朱美の本性かもしれない。 「私を殺す?それは勘弁ね。言っとくけど、この会社のこのプロジェクトに関わってる人間に殺されると思わないわ。何故ならそう思った人間から私が殺していくだけだもの」 「あら、じゃあ今すぐアタシを殺してみなさいよ」 両腕を広げて十字架のような格好の状態になる朱美。 余裕綽々のようだ。 本来なら今すぐ殺している。 今でもこの水槽を割り、朱美の頭をかち割ればいいだけ。 人間なんてもろい者。 けど朱美を殺すわけにはいかない。 「…殺したいのは山々だけど、貴女を殺すとご主人様が悲しむわ。だから殺さない」 「そうね。それにアタシを殺したら、あの子がアタシのためにアンタを殺しに来るかもね」 「ご主人様に殺されるのなら本望よ。ある意味嬉しい死に方の一部に入るわね」 私は水槽の中で不気味な笑顔を浮べながら朱美に言った。 朱美は私を睨みつけた後にスーパーコンピューターを操作する。 メンテナンスに移行したのだ。 しばらく私は眠りつく。 ご主人様…私はご主人様の物…。 そう想いながら私は眠った。 …。 ……。 ………。 龍悪の視点 「………」 腕時計を見るとアンジェラス達と別れてから二時間が経っていた。 俺は喫煙所でスパスパと煙草を吸うだけ。 本来、一日の煙草の本数は二、三本しか吸わない俺が今日に限って十本以上も吸ってしまった。 こんなに吸うのも、多分落ち着かないためだろう。 あぁ~、いってもたってもいられない。 いっそのこと姉貴が地下に行ったエレベーターに乗り込んでしまおうか…。 いや、それはちとマズイ。 今ではエレベーターを挟んで監視員が左右に二人いる。 姉貴が乗って行った後すぐに来やがったのだ。 さらにオマケが付いてきてなぁ。 「………」 そのオマケというのは、俺を監視する奴等も現れたという事だ。 人数は解らないが少なからず十人はいる。 奴等は俺が監視されてるという事に気付いていない。 それもそうだ。 俺はガキの頃から悪い事ばっかやってきた奴だぜ。 悪知恵が働き奴等を騙す事なんか簡単。 にしても、ちょっと大袈裟過ぎやしないか? たかがガキ、一人の為にここまで人を使うか? やっぱり…このバイトは裏がありそうだ。 俺は椅子から立ち上がり、エレベーターに近付こうとした。 「タッちゃん、そんな所にいたんだ」 姉貴がトレイを片手に持ちながら俺の方に来た。 「アンジェラスちゃんのメンテナンスが終わったわよ」 トレイの上にはアンジェラスが体育座りしながらコテン、と横に転がっていた。 瞼を閉じスヤスヤ、と寝ている。 メンテナンス中に寝てしまったみたいだ。 「アンジェラスの奴…スマナイなぁ姉貴」 「いいよ、タッちゃんのためだもん」 ニッコリと笑う姉貴。 この顔からは何か裏があると到底思えない。 畜生、この落ち着きなさはいったい何なんだ? 俺の心が『オカシイ、オカシイ』という。 今まで姉貴と生きてきたが、姉貴に対してこんな嫌な気持ちになるのは初めてだ。 「なぁ姉貴、ちょっと聞きたい事があるんだけど」 「な~に?」 「アンジェラス達の事なんだけどよう。こいつ等の神姫は何か特別な神姫なんじゃないのか?」 「特別?」 「あぁー、と言っても武装神姫に詳しくない俺の勘だけど…」 う~ん、こんな探り方じゃ駄目か。 姉貴の事だ。 『タッちゃんの言ってるがよく分かんないのよ~』と言いながらはぐらかされるかもしれない。 「よく分かってね~。そう、この子達は少し特別ですよ」 「え?」 はぐらかさないで教えてくれそうだ。 今から言われる事は確実に覚えておかないと。 …内容にもよるが。 「この子達の特別な事はねぇ」 「事は?」 「この子達は『双子』という事よ」 「…はいぃい?」 俺は顔を斜めにし間抜け面した。 しかたないだろう。 だって『双子』と言われたんだぜ。 この情報はなんとも姉貴らしい情報だ。 期待した俺が馬鹿だったよ。 「タッちゃんが言うアンジェラスとルーナが最初に生まれた双子。その次に生まれたのがクリナーレとパルカよ」 「………」 「その中でもアンジェラスが一番特別なんだけどね」 俺はピク、と肩を揺らした。 アンジェラスだけが一番特別? いったいどいう事だ。 あのメンテナンスの時にアンジェラスだけが別の部屋に連れて行かれた事となにか関係してるのか? 「どう特別なんだ姉貴」 「ごめんね~。これから先は会社の企業秘密という事で言えないの」 舌をペロッと出して残念そうな顔する姉貴。 チッ! まだこの程度では諦めないぞ。 「ちょっとでも教えてくれよ~姉弟のよしみでさぁ」 「えぇ~、でも規則だし~」 「そこを何とか頼むよ。俺はこいつ等のオーナーだ。だからこいつ等に関する事は必要以上に知りたい。バイトのためにもなるとも思うし」 「ん~どうしよっかな~」 考え込む姉貴。 流石にトロ~イ姉貴も会社の機密となると言う訳にはいかないのか、なかなか言おうとしない。 「天薙龍悪様。貴方の武装神姫のメンテナンスが終わりました」 「ッ!?」 いきなり男の声がしたので、すぐさま声だした方に振り向く。 振り向いたさきにいたのは、クリナーレとルーナとパルカをトレイの上に乗せて持って来た男二人組みだった。 最初に会った男二人組み。 「どうぞ。トレイはそちらに差し上げます。使用するなり処分するなり御自由にどうぞ」 「ご苦労さん」 クリナーレ達が乗っているトレイを受け取り姉貴の方に向く。 今度こそ情報を聞き出さないと! 「…あれ?」 姉貴が居ない? オカシイなぁ。 さっきまでいたのに。 まさか逃げられた!? 「朱美様は仕事が入ったようで研究所に行かれました」 何? 研究所? あ~、多分ここの会社にある研究所の事を言ってるのか。 こいつ等のせいで姉貴から情報を引き出せなかったぜ。 ムカつく。 姉貴が居ないならここに居る必要もない。 とっとと会社から出るか。 見張りもウザイし。 俺はアンジェラスとクリナーレ達が入ってるトレイを片手に持ち会社から出る。 自分の愛車まで来てドアを開け運転席の隣の席にアンジェラス達を置く。 トレイはその場で捨てた。 こんな物はただの邪魔だ。 エンジンを掛け発進する。 「この会社…絶対なにかある」 運転席から見える会社を凝視しながら俺は帰宅した。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/452.html
第一間幕。ライト点灯。 そこは応接間か、一人掛けのソファが置かれており、その前に立つマコト。その頭の上にフェスタ。 学生服姿のマコトの頭の上でクルクルっと回り、仰々しく一礼するフェスタ。 先程とは髪型が違い、そのボディスーツはパールとグラスグリーン。際どいラインでカットされ、頭には銀のカチューシャ。 フェスタ「皆さん、はじめまして。フェスタです。『2036の風』第一幕をお読みくださってありがとうございます」 マコト「こんにちわ。フェスタのオーナーのマコトです」 マコト、一礼してソファに着席。 フェスタ、マコトの肩を経由して膝に移動。 フェスタ「改めまして自己紹介を。私はフェスタ。MMSタイプ『アーンヴァル』です」 マコト「アーンヴァルタイプ、初期ロットだったよね」 フェスタ「うん。武装神姫シリーズの発売日にマコトのママさんが買ってくれたんだよね」 ふと、フェスタが首を傾げる。 フェスタ「・・・そういえば、どうしてマコトがマスターになったの?」 マコト「まぁ、色々あったんだよ」 マコト、苦笑。 ふーん、と納得したような顔をしてフェスタ気にしない事にしたようだ。 フェスタ「今回のお話は、まだ姉さんや妹達とも会ってない頃の私。今の脚をお母さんから貰った時」 マコト「二月だったかな・・・荒んでたよね、フェスタ」 フェスタ「うん、ごめんごめん。・・・けど、嬉しかったな」 マコト「そうだね」 スポットライト消灯。ワイドライトがステージ全体を照らす。 マコト「・・・『2036の風』は長編じゃなくて『ショート集』。一幕ごとに主役となる神姫が変わるタイプ」 フェスタ「次の幕は誰のお話になるのかな・・・? 私の出番はどうなるのかなぁ? もう無いとかはヤだな」 マコト「大丈夫だと思うよ。ほら、フェスタ達は・・・」 フェスタ「・・・! うん!」 マコトの言葉に嬉しそうに頷くフェスタ。 ライト、少し暗く。 フェスタ、肩に移動。 フェスタ「・・・『意志』。はっきりとした心。譲りたくない思い」 マコト「それを示す為に・・・フェスタは、お母さんから脚を貰ったんだよね」 フェスタ「うん・・・歩き続けたい。踊り続けたい。この脚で・・・大切な心と一緒に」 フェスタ、愛しげに自分の腿に手をやる。 マコト、優しくそれを見つめていたが、やがて。こちらに目を向けた。 マコト「『2036の風』は神姫の『心』をメインワードとした、ショート集です」 フェスタ「CSCはプログラムを打ち込んだデータボックスなだけ・・・なのかな?」 マコト「・・・CSCは人工の産物。結局は人が作り出したデータを膨大に投入した・・・人が作り出したパーツ。人が作り出した身体。人が作り出したヘッドコア」 フェスタ「じゃぁ、神姫の『心』は『人が全て作っている』の?」 マコト「フェスタは、どう思う・・・?」 フェスタ「・・・」 風一つ。 マコト「・・・。公式で記された一行足らずの「神姫の心」というワード。たったそれだけを軸にしたストーリー『2036の風』」 フェスタ「この拙い作品、最後までお付き合い下されば幸いです」 二人、礼。 更にライト暗く。 フェスタ「次幕は姉さんが登場するね」 マコト「うん。オレ達がまだ知らない時の、ね」 フェスタ「んー・・・やっぱり・・・なのかなぁ?」 マコト「・・・(汗)」 ライト消灯。第一幕、了。 2036の風
https://w.atwiki.jp/gununu/pages/261.html
悪魔城ドラキュラ ギャラリーオブラビリンス 作品情報 5枚 ジョナサン・モリス シャーロット・オーリン ウィンド ステラ ロレッタ
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/9391.html
シュヴァルツサイド ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス カードリスト エクストラブースター プロモーションカード 総評 エクストラブースター 番号 種類 レアリティ 色 カード名 レベル/コスト スペック 特徴 PQ/SE21-01 キャラ R 黄 “八高組”P4主人公 0/0 1500/1/0 《魔法》? 《武器》? PQ/SE21-02 キャラ R 黄 “月高組”P3主人公 3/2 10000/2/1 《魔法》? 《ヘッドフォン》? PQ/SE21-03 キャラ C 黄 “月高組”天田 1/0 4000/1/0 《魔法》? 《武器》? PQ/SE21-04 キャラ C 黄 “朝の時間”菜々子 1/0 5000/1/0 《ジュネス》? 《テレビ》? PQ/SE21-05 キャラ C 黄 “八高組”陽介 2/1 2500/1/1 《ジュネス》? 《ヘッドフォン》? PQ/SE21-06 キャラ C 黄 “月高組”コロマル 2/1 8000/1/1 《動物》? 《武器》? PQ/SE21-07 イベント C 黄 シャドウ オブ ザ ラビリンス 3/9 EV PQ/SE21-08 クライマックス C 黄 謎に挑む者たち CX 1・風 PQ/SE21-09 キャラ R 緑 “月高組”風花 1/0 3000/1/0 《魔法》? PQ/SE21-10 キャラ R SP 緑 奪われた記憶 善&玲 1/0 4500/1/0 《腹ペコ》? 《武器》? PQ/SE21-11 キャラ R SP 緑 謎の二人 玲&善 3/2 9500/2/1 《腹ペコ》? 《武器》? PQ/SE21-12 キャラ C 緑 “八高組”千枝 0/0 500/1/0 《スポーツ》? 《魔法》? PQ/SE21-13 キャラ C 緑 “月高組”アイギス 1/0 4500/1/0 《メカ》? 《武器》? PQ/SE21-14 キャラ C 緑 “八高組”りせ 2/1 8000/1/1 《音楽》? 《テレビ》? PQ/SE21-15 イベント C 緑 休息の時間 2/1 EV PQ/SE21-16 クライマックス C 緑 守りたい人 CX 宝 PQ/SE21-17 キャラ R 赤 “八高組”完二 0/0 1500/1/0 《不良》? 《魔法》? PQ/SE21-18 キャラ R 赤 “月高組”順平 1/1 2000/1/1 《魔法》? 《武器》? PQ/SE21-19 キャラ C 赤 “八高組”雪子 0/0 1000/1/0 《扇子》? 《魔法》? PQ/SE21-20 キャラ C 赤 “月高組”明彦 1/0 3000/1/0 《魔法》? 《スポーツ》? PQ/SE21-21 キャラ C 赤 “月高組”真次郎 2/2 8000/2/1 《魔法》? 《武器》? PQ/SE21-22 キャラ R 青 “八高組”クマ 0/0 2000/1/0 《影》? 《動物》? PQ/SE21-23 キャラ R 青 “八高組”直斗 0/0 2000/1/0 《男装》? 《探偵》? PQ/SE21-24 キャラ R 青 “ベルベットルームの住人”エリザベス 2/1 5000/1/1 《魔法》? 《保健室》? PQ/SE21-25 キャラ C 青 “月高組”ゆかり 0/0 500/1/0 《魔法》? 《武器》? PQ/SE21-26 キャラ C 青 “ベルベットルームの住人”テオドア 0/0 1000/1/0 《魔法》? 《鍛冶》? PQ/SE21-27 キャラ C 青 “月高組”美鶴 0/0 2500/1/0 《魔法》? 《生徒会》? PQ/SE21-28 キャラ C 青 “ベルベットルームの住人”マリー 1/0 5500/1/0 《ポエム》? 《神》? PQ/SE21-29 キャラ C 青 “ベルベットルームの住人”マーガレット 2/1 8000/1/1 《本》? 《魔法》? PQ/SE21-30 クライマックス C 青 騒がしい食事 CX 1・門 プロモーションカード 番号 種類 レアリティ 色 カード名 レベル/コスト スペック 特徴 PQ/SE21-31 キャラ PR 黄 “特別課外活動部”P3主人公 0/0 2000/1/0 《魔法》? 《ヘッドフォン》?
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/426.html
戦乙女は、かく降臨せし(後半) 相手はサイフォスタイプ。但しその手には片手剣でも大型の槍でもなく、 専用にチューンしたであろう、厳ついツヴァイハンダーが握られている。 全身の装甲は重装型と軽装型の折衷。背部には……ツガルタイプの翼か。 ともあれ剣一本を極めようとしているようで、油断はできそうもないな。 「仕掛けぬのか?では、一本往くぞ……ハイヤァーッ!!」 「はいですの……畏れず突進ッ、いやぁああーっ!!」 白兵戦に強いとされている第三シリーズだけあり、一太刀の威力は重い。 私のロッテにもフレーム換装を施してあるとはいえ、地力では一歩譲る。 それでもロッテは懸命に、右に構えた長大な細身のランスで受けている。 ヴァーチャルとはいえ飛び散る火花に、私は興奮と期待を全く隠せない。 「うっ、く……サイフォスタイプの剣技は、やっぱり凄いですの」 「そなたこそ、アーンヴァルタイプの細い躯でよくやる……ぬんっ!」 「え?……きゃうっ!?」 「ロッテっ!」 ロッテに装備させたランディングギアには、私が開発した接地用アームを 装甲類と共に取り付けている。アーンヴァルタイプの弱点である地面での 踏ん張りを可能としており、四本の可動爪によるグリップは相当な物だ。 それ故にサイフォスタイプとの斬り結びも可能なのだが、零距離ではまだ 経験であちらに分がある。現に今、蹴りを食らって突き飛ばされたしな。 「斬り合いではまだ不利か。ロッテよ、一度距離を取るのだ!」 「Ja!(了解)……白き翼よ、開いてっ!」 「何?!……そうか、アーンヴァルタイプは“天使”であったな」 「いいえ、私は……“戦乙女”ですの♪」 大いなる翼を以て、朱に染まる空へ舞う戦乙女。そう……これだ、これ! “天使を越えて、戦乙女となれ”!これこそが、軽量級用装備に於ける、 私のコンセプトであり……戦闘指針でもある。本領は、空にこそあるッ! 「じゃあここからは……本気で、いきますの。フォイエル!」 「うっ!?レーザーキャノン?馬鹿な、そなた何処から!」 「えっと、この槍からですの。ほら、これ♪」 「槍だと……?く、あれは……銃口か!」 フリッグとやら、不意に蒼い一撃を受けてやっと、事に気付いたらしい。 本来アーンヴァルタイプは、エネルギー兵器を得意とする“武装神姫”。 その特性を活かすべく、私のロッテにもレーザーキャノンは搭載済みだ。 その場所は──槍。そう、ロッテの槍はいわば“レーザーガンランス”! 「撃ちまくれ!弾幕を張れ、チャンスを狙うのだ!」 「Ja!フリッグさん、いきますのっ……それそれっ!!」 「ぬっ、く!ううっ!?チャージは遅い筈、何故だ!」 「出力を搾れば、それだけチャージは速くなりますのっ!」 「それに重ねて、ハンドガンの制圧射撃か……くうっ!」 流石熟練。弾幕自体は上手くいなしておりダメージの方は少ない様子だ。 だが、飛ぶ隙を与えぬこの作戦は奏功した……奴めの剣が下がったのだ! すかさずロッテは動き出した。制限時間も少ない、これが唯一の好機!! ハンドガンをホルスターに仕舞い、戦乙女が空から一気に舞い降りるッ! 「今ですの、せやぁああああっ!!」 「ッ!?しま、っ……うあっ!!?」 「これで決めさせて、もらいますのっ!」 弾幕の陰に隠れて、ロッテが超鋭角・高々度のミサイルキックを加えた。 接地用アームの爪を束ねれば、それは優秀な刺突用の白兵装備になるッ! 一撃で装甲を砕かれ狼狽したフリッグを、逆の脚部アームで掴みあげる。 そしてそのまま宙に投げ、左手で掴む!この瞬間、私は勝利を確信した! 「ぐ、あああっ!?ば、バッテリーが……第三種特殊攻撃、だと?!」 「あなたの“魂”を少し頂戴しますの……“アインホルン”充電!」 「ぬ、く!?は、離せ……力が、落ちる……!?」 第三種特殊攻撃。有り体に言えば“エナジードレイン”という類の技か。 強力ではあるが公平を保つ為に、公式試合では射程が大幅に制限される。 そこで私は、接触距離でのみ相手の電力を吸い取れる義手を作ったのだ。 吸収した電力は、即座にロッテの槍“アインホルン”に還元されていく。 「これでお仕舞いですの。……零距離射撃、フォイエルッ!!」 「ぐぅっ!?う、うあああああっ!!……ま、負けだッ」 『テクニカルノックダウン!!勝者、ロッテ!!』 そして自己の電力も上乗せした、最大出力のレーザーキャノンを見舞う。 しかも槍の穂先で盾代わりの大剣を貫いた、その先からの零距離攻撃だ。 たまらず相手は吹き飛び、審判システムが戦の終わりを高らかに告げる。 勝利の鐘が鳴り響く中、倒れ伏すフリッグを……ロッテが抱き起こした。 無論右手の槍はパージして。戦う意味は、今の2人にはないのだからな。 「ロッテ……負けとはいえ良い試合だった。礼を言おう」 「わたしこそ、フリッグさんにはお礼を言いたいですの」 「ふふ、良い娘だ。これからも、気を引き締めてな……」 あの娘はこういう優しい……甘い所がある。だがだからこそ“妹”として 私も彼女、ロッテを誇りに思うわけである。本当に良い娘だ……有無ッ。 早速、ヴァーチャル空間から還ってきたロッテを抱きしめ、ねぎらおう。 「マイスターっ!わたしの戦い、いかがでしたかっ!?」 「よくやったぞロッテ~!よし、今晩は祝勝会だっ!!」 ──────今宵、“私達”はとかく上機嫌なのである。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1357.html
貴女はまるで、童話の中の御姫様。 伏せられた瞳に動かない唇。 そんな貴女を見ながら、まだ起きない貴女を思い描く。 貴女は、花の様に笑い、風のように走るのかしら。 貴女は、月の様に佇み、影のように寄り添うのかしら。 貴女は、海の様に優しく、山のように大らかなのかしら。 貴女は、優しく微笑む天使かしら。 貴女は、意地悪く笑う悪魔かしら。 朝は私を起こしてくれるのかしら、それとも私が起こすのかしら。 ご飯を一緒に食べられるかしら、一緒に洗いものも出来るかしら。 私と一緒にお出かけ出来るかしら、一緒に買いも出来るかしら。 貴女は、こんな私を笑うかしら? まだ見ぬ貴女、まだ出会えぬ貴女。 そんな貴女を思い描く私を、笑うかしら。 馬鹿な主だと、愚かな主だと笑うかしら。 でも、良いわ。 貴女と笑って暮らせるのなら。 「お初にお目にかかる。私の識別名はエウクランテ。貴女が私の主であろうか?」 部屋の真ん中に置かれたテーブルの上で、彼女は言った。 一人用のテーブルの上でもなお、その小ささが目立つ彼女は当然人では無い。 武装神姫。 人類の科学の結晶、慎重15cmにして人と同じ外見と、人と同じ心持った機械仕掛けの御姫様。 「そうよ、私が貴女の主? になるの」 絨毯に直に腰を下した私と、彼女の目線にはやはり差がある。 テーブルの分を差し引いても、まだまだ彼女の方が低い。 「それでは主、僭越ながら主の名を聞かせて頂けるだろうか?」 貴女は至極冷静に振舞っているけれど、時折視線が部屋中に飛ぶのを私は見逃さない。 本棚、机、ぬいぐるみ。 どれもが初めて見るものばかりなのだろう。 それを考え、これからを考えると自然と笑みが浮かんでくる。 「私の名前は加奈美。戸坂加奈美よ」 私の笑みに釣られたのか、貴女もようやく笑ってくれた、 とても機械とは思えない。自然で和やかな微笑。 「加奈美……か。とても良い名だ、主。それでは私にも名を与えてはくれないだろうか?」 小首を傾げる動作も、とても機械には見えない。 その全てが新鮮で、愛おしくて、私は不思議な気持ちで貴女の為に考えた、貴女だけの名を呼ぶ。 「……シルフィ、それが貴女の名前よ」 それを聞いた瞬間の貴女の顔は、本当に嬉しそうで、幸せそうで。 私も釣られて嬉しくなるような、素敵な笑顔。 「素晴らしき名だ、主。感謝する」 これから始まる貴女と私の生活。 大きな事件も、胸躍る冒険もいらない。 ただ流れる毎日に、身を委ねて楽しみたい。 「これからよろしくね、シルフィ」 「こちらこそ、主」 先頭へ 次へ -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2841.html
与太話15 : 小ネタ二つ ■■ 進撃の人間 ■■ 今から100年以上前、神姫は人間の支配下に置かれていた。 勝ち目のない争いを強いられてきた我々はその後、支配から逃れることができた者によって、人間の超えられない3重の巨大な【壁】を築き、人間の存在しない自由な領域を確保することに成功した。 一番外側の壁を【ウォール・マリア】。 その内側の壁を【ウォール・ローゼ】。 最も内側の壁を【ウォール・シーナ】と呼ぶ。 壁によって守られた神姫はその内側で100年の自由を実現させた。 「しかしにゃ……、その自由も終わりを告げたのにゃ」 5日前、突然表れた【超乱暴型人間】によって【ウォール・マリア】を破壊され、人間の侵入を許してしまった。 次々と侵入する人間を阻むことはできず、神姫は【ウォール・マリア】を放棄し、活動領域を【ウォール・ローゼ】まで後退させた。 そして神姫は再び思い出すことになった。 人間の脅威を。 「今、この瞬間にもあの【超乱暴型人間】が再び現れ、壁を破壊しに来たとしても不思議ではないのにゃ」 2割の人口と3分の1の領土を失った……、だが、それと同時に神姫は目を覚ます。 「その時こそオマエ達は自らの命を捧げて、人間という脅威に立ち向かってゆくのにゃ!」 神姫――武装神姫は戦うために存在する。 「CSCを捧げるにゃ! 人間を駆逐してやるにゃ! この世から……、一匹残らず!」 ◆――――◆ カグラが突き上げた肉球に呼応するように、主にマオチャオやその他雑多な神姫達は見事に揃った敬礼を見せた。 隊列こそてんでバラバラ、というかカグラの周りに集まってるだけなんだけど、全員が右拳を胸に当て、目をギラつかせている光景には相当な迫力がある。 あれが本物の兵士というものなんだろうか。 あれが使命のために己が命――CSCを捧げた神姫の覚悟の現れなのか。 遠巻きに見ている私の口からは感嘆、もとい呆れのため息が出た。 これから行われるらしい壁外調査……、という名のヂェリ缶確保作戦はそこまで崇高なものなんだろうか。 「アマティ団長」 と真面目そうなゼルノグラードが駆け寄ってきた。 「調査兵団より協力依頼がありました。壁付近の人間をできるだけ遠ざけるよう援護せよ、とのことです」 「あー、ガン無視でいいです。私たち駐屯兵団が一番忙しいんですから、暇な憲兵団にそのまま投げてください」 「し、しかし自分は……」 ふと、彼女に聞いてみたくなった。 私率いる駐屯兵団が壁内の雑事ほぼすべてを行っており、つまりそれは、カグラ率いる調査兵団の超独善的な悪行に手を貸してしまっているわけで、もはや言い逃れできないこの状況をどうすればいいのかを。 「憲兵団は何といいますか、その、いささかコンタクトを取りづらくて……」 「やっぱりいいです。私が連絡しときますから。あなたは調査兵団から何も聞かなかったことにして、引き続き壁の補強に当たってください」 指示すると、やっぱりこのゼルノグラードも調査兵のように見事な敬礼をして持ち場に戻っていった。 こんな不真面目な私の命令に従ってくれて……、何だろう、この罪悪感は。 もやもやした気分を落ち着かせたくもなり、憲兵団長様への専用回線へと繋げた。 「ほむほむ、今いいですか」 《アマティ姉? ごめん、ほむほむ姉はいなくなっちゃった》 「いなくなった? あれ、この声はメルですよね。どういうことです?」 《今日はジャンプの発売日だからって帰ちゃった。だから今はボクが団長代理》 せめてそこは別冊少年マガジンにしろよと言いたい。 けれど全くやる気のないほむほむよりは、戦乙女型アルトアイネスのほうが様になるだろう。 ほむほむ脱走については後で軍法会議にかけるとして、カグラには今はこの事は黙っておくことにしよう。 《ウォール・シーナの内側からじゃ壁の外側がどうなってるのか全然分かんないんだけどさ。今はどんな様子なの?》 「ウォール・マリアが完全に撤去されましたよ」 《やっぱり駄目だったんだ。まぁ、ダンボールの壁が5日間も機能しただけで奇跡だよね》 まったくメルの言う通りである。 鉄子さんがウォール・マリアを蹴破りはしたものの、この神姫センターはいつまで私たちの不法占拠をほったらかすつもりなんだろうか。 ◆――――◆ 神姫センターがこの状況――暇を持て余した神姫達による暴挙――を逆に面白がって放置していようとも、そうは問屋が卸さない。 『超乱暴型人間』などという不名誉なあだ名が定着してしまう前に、あの阿呆神姫達を解散させてやる。 差し当たって突撃するのに、家の倉庫に何か役立ちそうなものはないかと探してみる。 「ところで妹君。なぜ前回はダンボール壁の破か……、撤去を途中で止めてしまったのですか」 「マシロ、人間の気持ちって結構脆いもんなんよ……。例えばよ? ちょっとダンボール壁を壊しただけで神姫達からバケモノを見るような目で見られたら傷つくと思わん?」 「え、ええ……、心中お察しします」 「お父さんのゴルフクラブ発見。これ良さそうやない」 「そのまま持ち出したら職務質問されますよ」 「そっか。じゃあ弓袋に入れていこう。いやいっそ弓道具のほうがいいかもしれんね」 「それは本当に捕まってしまいます」 「よし! じゃあ行ってくるかね。マシロも手伝ってくれたら助かるんやけど」 「あー……」とここで、マシロにしては珍しい歯切れの悪い反応。 「妹君、大変心苦しいのですが……、この後、私にはどうしても外せない所用がありまして、申し訳ありませんが遠くからご武運をお祈りします」 言葉の割に表情にちっとも心苦しさが表れてない。 しきりに居間のほうに顔を向け、サスペンスドラマが始まるから早く行ってくれと言わんばかりである。 今回の件はマシロにとっても神姫センターにとっても、よほどどうでもいい事らしい。 そして私の本当のパートナーであるはずの神姫、コタマの手を借りることもできない。 何故ならあの阿呆は今頃、ダンボール壁の内側でニトロヂェリーでも飲みながらゴロゴロしているんだろうから。 ◆――――◆ 「駅方面索敵班より連絡! 『超乱暴型人間』が出現、壁内に向かっています! しかも今度は長い武器のようなものを携行している模様! 壁までの推定到達時間、およそ2分!」 「カップラーメン作る暇もないにゃ! どーしてここまで発見が遅れたのにゃ!」 「駅から神姫センターまで徒歩5分ですから。というか駅で信煙弾を使っていいのか判断に迷ったために連絡が遅れたんです」 「公共の場で信煙弾なんて使っていいはずあるかにゃ! つーか緊急時に原始的連絡手段とか意味わからんにゃ!」 「しかし連絡には必ず信煙弾を使うよう命令したのはカグラ団長でしたが」 「あー、そうだったかにゃ? ――とにかくコトは一刻を争うにゃ! 索敵班を含む調査兵は総員、壁内まで全速力で撤退するにゃ! 『超乱暴型人間』と遭遇した者は可能な限り時間を稼ぐにゃ!」 ◆――――◆ 途中で何人か遭遇した神姫から「お願いですからご勘弁を」みたいなことを言われたが無視して、私が神姫センターに到着した時には、ダンボール壁の撤去作業が始まっていた。 これまで籠城していた神姫達によって。 たぶん、私がここに向かってるって連絡を受けたダンボール壁内の神姫達は、これ以上の抗戦は不可能と判断した――のではなく、遊びはこれまではい終了―、みたいな感じなんだと思う。 あんなに大切そうに守られていた壁が神姫の武器で引き裂かれ、折り畳まれ、無駄に手際よく片付けられていく様は、なんだか子供が飽きたおもちゃを箱に放り投げるのに似ている気がした。 で、べろんべろんに酔っぱらってゴミと仲良く捨てられているコタマを発見。 ドールマスター with ゴミ。 Kotama bite the dust. ブームに乗っかって遊ぶのはいいけれど、ここの神姫達にはもうちょっと刹那的じゃない生き方を覚えて欲しい。 ■■ そして刹那に生きた神姫達 ■■ ―――――――――――― ☢ CAUTION!! ☢ ―――――――――――― 既に終わっていることを前提としています。 あとコレも特にオチとかないです。 メル アルトアイネス型 私の妹、ごくごく普通の神姫な感じ スカートの内側に暗器を大量に隠し持つ カグラ マオチャオ型 『疫病猫』、『マッドサイエンキャット』、科学力だけはすごい 町のマオチャオの総大将、犯した罪は飲んだヂェリーの数程か ほむほむ マオチャオ型 本名はホムラだという説がある カグラの横によくいたりいなかったり。仲が良いんだか悪いんだか分からない アマティ アルトレーネ型(頭に猫耳を生やしてる) カグラがマッチならアマティ姉さんはポンプ 私と同じアルトレーネだけれど、モード・オブ・アマテラスを発動できなければ超弱い コタマ レラカムイ型(元ハーモニーグレイス型) 『ドールマスター』、一般レベルでは自他共に認める最強の神姫 ハーモニーグレイス型からレラカムイ型に変わり丸くなった。キャラも薄くなってしまった マシロ クーフラン型 『ナイツ・オブ・ラウンド』、その強さはスポーツ漫画にサイヤ人が紛れ込んだレベル 竹櫛家のためなら超法的手段も躊躇しない ハナコ 『ディフェンダー』、コタマと同等の実力はありそうだが、絶対に攻撃行動を取らない メルの二人目の姉であり、つまり私とも姉妹関係になるんだと今更ながら気付いた ホノカ 飛鳥型(ストライクウィッチカスタム、という拘りがあるらしい) 『セイブドマイスター』、ファンクラブを勝手に作られては壊滅させ作られては…… 神様と何かの契約を結んでいたけれどグダグダに終わってしまったらしい ハルヴァヤ アルトレーネ型(私やアマティ姉さんと比べてやたらイケメン) 『火葬』、マシロ姉さんらと並ぶ『デウス・エクス・マキナ』の一人 ホノカさんと命の賭けた勝負で『火葬』として蘇った。能力はアマティ姉さんの完全上位互換 神様 オールベルン型 強いのか弱いのか、そもそもどういった存在なのか謎 武装神姫コンテンツが停止したせいで色々とやる気を失ったらしい エル アルトレーネ型(猫耳アマティ姉さんや灼熱ハルヴァヤさんと違って普通) メルと共にヂェリー販促神姫として起動して、紆余曲折(姫乃さんに殺されそうになったり)を経て今に至る 射美ちゃん事件解決後から時が過ぎ、素体の老朽化のためアルトルージュ型に換装してもらう(予定が無くなってしまいましたチクショウ) ◆――――◆ 「猿の惑星って映画、あるでしょ」 私達がよく使う茶室では、まだ炬燵を出しっぱなしにしてあった。 桜の花弁を押しのけて生まれる緑が夏に向けて育っていったところで、炬燵の魔力が衰えるわけではない。 それに、どれだけぐうたらしたって誰に蹴り出されるわけでもない。 何せ、私が知る限り最もそういった規律・秩序を重んじていたマシロ姉さんが「猿の? ……さるかに合戦の話ですか」天板に突っ伏しているくらいだ。 炬燵の中ではコタマ姉さんが丸くなっている。 タマちゃんはコタツで丸くなる~♪ とからかう季節が随分、遠い昔のように感じた。 「さるかに合戦? 猿軍団と蟹大群が戦ったらそりゃあ……、意外とカニ強そう」 マシロ姉さんに負けず劣らずトンチンカンな返事をしつつ、テーブル中央に積まれたみかんヂェリーの山に手を伸ばすホノカ姉さん。 でも届かない。 手が届く範囲のヂェリーは全て飲んでしまったからだ。 さっきからこの人、どんだけヂェリー飲んでるんだろう。 「エル、そっちからヂェリーの山押して。取れないから」 今更だけれど、カグラとほむほむ姉さんはよくもまあこれだけのヂェリーを集めたものだ。 「俺の名はホムラだ」 正方形の一辺に三人まで座れるこの巨大な炬燵だってカグラによる特注品だ。 作った本人は猫型のくせに炬燵の中で丸くならず、普通にほむほむ姉さん、うたた寝中のアマティ姉さんと並んで、タブで艦これのオリョクル? とかいうものに勤しんでいる。 炬燵の四辺のうち一辺に私とメル、左辺にカグラら三人、右辺にマシロ姉さんとハナコ姉さん、向かいにホノカさんとハルヴァヤさん、神様を名乗る謎のオールベルン型神姫。 そして炬燵の中にコタマ姉さん。 なんとなく、改まって眺めて見ると妙な繋がりができてしまったものである。 ちょこちょこ顔合わせの機会はあったけれど、こうして集まってだべるようになったのは武装神姫の一番くじが終息したくらいからだっただろうか。 「エル早く」 「はいはい」 私も一缶取って、その缶で山を小突いた。 派手に音を立てて崩れるヂェリ缶の山というのは本当に贅沢なものなのだが、皆ポヤポヤしていて、お休み中のアマティ姉さんが「んんぉ」と呻いた以外の反応はなく、ホノカさんは手元に転がってきたものを開けて「それで」と話を再開した。 「どっちが勝ったの? 猿? 蟹?」 「勝ち負けで語られる話ではないのですが……、まあ、敢えてどちらかと言うならば先に仕掛け、最後に負ける滑稽な猿の負けでしょう」 「へー。その猿って一匹で蟹の大群に挑んだの?」 「いえ…………、ああ、その通りです。猿の愚鈍と蟹大群の戦術により、猿の戦果は一匹だけでした」 「猿って弱いのねー」 「そうですね」 「ハサミギロチン的なねー」 「そうですね」 誰もつっこまない。 マシロ姉さんの隣ではハナコ姉さんが何か言いたそうにオロオロしていて、ホノカさんの隣ではハルヴァヤさんと神様が笑いをこらえているが、つっこまない。 「またメガネにゃ! ワガハイもう何回マイクチェックしたにゃ!? 大和が全然出にゃー!」 「猿の惑星の話じゃなかったの?」 ぼんやりと天井を仰ぎ見ながら、興味無さそうにメルがさるかに合戦の話を流した。 「そうだった、猿の惑星よ。マシロあんた猿の惑星見たことないの?」 「記憶にあるような気はするのですが……、何故でしょう、記憶を辿ろうとすると自由の女神像が思考を妨害してくるのですが」 「ぶふぅっつ!」 「にゃぶっ!?」 ハルヴァヤさんが吹き出した緑茶ヂェリーをカグラは顔面で受け止めた。 「汚にゃー! オマエ何してくれとんにゃー!」 「す、すまな、ふふっ、いやマシロ本当にやめてくれ、その、ふヒッ、真顔で冗談を言うのは」 「私は表情豊かな貴様が羨ましい」と冷めた声のマシロ姉さん。 この二人の今のような関係が、私は本当に羨ましい。 距離感が安定するまで、ツンケンしていたマシロ姉さんと、そのマシロ姉さんのことが何故か笑いのツボらしいハルヴァヤさんは喧嘩を繰り返してきた。 口げんかや取っ組み合いなどと可愛いものではない、一歩間違えば最低でもどちらかが死ぬ、文字通りの死闘だ。 公式な場であれば満員御礼間違い無し。 十二の騎士率いる『ナイツ・オブ・ラウンド』。 灼熱の武装で何もかも燃やし尽くす『火葬』。 そんな二人のバトルを私は間近で見ることができる、ということになるのだろうが、マシロ姉さんがどんな場面でハルヴァヤさんの笑いのツボを付いてくるか分からないからたまったものじゃなかった。 何せ二人のレベル・戦闘スタイルだと『戦闘』が『殲滅』になってしまうのだ。 例えばこの炬燵。 私がこの炬燵を武器で解体しようとするなら大剣での助走・切断・助走・切断を何度も繰り返し行う必要がある。 それに対してマシロ姉さんとハルヴァヤさんはひと薙ぎで床ごと木っ端微塵・灰燼にしてしまう。 私達のお茶会には常に死と隣合わせだった(それでもお茶会を続けた私達もアレだが)。 そして本当にダメだと思った時、ハナコ姉さんが命懸けで私とメル、コタマ姉さんを守ってくれて、鉄子さんに直訴して何とかしてもらった。 鉄子さんがどうやって何とかしたのかは聞いていないが、今はこうして炬燵もろとも自分が消し飛ぶ恐怖に怯えることはなくなっている。 何度も衝突を繰り返したが決着はつかず、お互いの実力を知り尽くした二人はこうして仲良く……、なのかどうかはわからないけど、ハルヴァヤさんは楽しそうだし、マシロ姉さんも嫌がってはいない。 出会ってから二ヶ月くらいはホノカさんが「ハルの爆笑なんて私、見たことなかったわ」などと言いつつ嫉妬を込めた視線をマシロ姉さんに送っていたりもしたし、本当の友達って案外、こういうものじゃないかと思う。 私はマシロ姉さんのことを(恐ろしい部分を含む)少しは知ってるつもりだから、そんな人を平気で笑えるハルヴァヤさんはきっと、運命的で理想的な相手だ。 私達が鉄子さんに何とかしてもらわなかったとしても、最終的に二人は今の形に落ち着いていたことだろう(私達の生死は別として)。 「なんですかエル殿まで顔をにやけさせて。そんなに私の顔が滑稽だと?」 「いえいえいえいえ! 違いますって!」 いつか行ったコタマ姉さん復活記念バトルでマシロ姉さんと戦ったことはあったが、その時はあくまで余興であって、日を改めて本気の本気、マシロ姉さんが十二の騎士を完全に使い、遊び手加減一切無しの真剣勝負をお願いしたことがあった。 四秒だった。 速さが自慢の私がまさか距離を取ることすら許されず、あまりの実力差というか理不尽さでわけが分からず――じゃあ後はもう号泣するしかなかった。 つまり私がマシロ姉さんと喧嘩を始めた場合、その時点から私の寿命は残り四秒ということになる。 「そっち移るから場所開けるにゃスピード自慢。オマエに島風コスプレは似合わんにゃあ。アルトレーネに似合うのは……、ビスマルクか飛行場姫にゃね。なのです繋がりで電でもネタ的に悪くにゃい」 「艦これって面白いの?」 私とメルの間にわざわざ割り込んできたカグラのタブを、メルは大して興味もなさそうに覗きこんだ。 「エル姉に似合うのってどれ?」 「ビスマルク持ってたらワガハイは苦労せんにゃ。大和すら出ないからオリョール海でクルージングとかやらんといかんのにゃ。あ、言っとくけどワガハイの秘書艦は夕立改二だからにゃ。球磨型もみんな好きにゃが多摩じゃあないにゃ」 「ちょっとやらせてよ」 「聞いとらんにゃオマエ。じゃあワガハイが休憩してる間にデイリーこなしとくにゃ。潜水艦を出撃させるだけの簡単なお仕事にゃ。まずは――」 「ふう……、落ち着いた。申し訳ないホノカ、マシロ。話を遮ってしまったな、続けてくれ」 「何故私を侮辱したかの説明は無しですか。神様も口を押さえていたようですが?」 「神姫が生まれる2036年よりずっと昔の有名な話さ。映画『猿の惑星』の円盤パッケージを飾ったのが自由の女神像でね。ほら何となく想像できるだろう、タイトルが猿の惑星なのに、どうして自由の女神像が関係しているのか」 「――――つまりパッケージでネタバレしている、ということですか」 「それもラストのインパクトを生むためだけに作られたような類の映画だったこともあってね。そりゃあ当時の人間に味わい深いインパクトを与えたものさ」 「犯人はヤス、みたいなものですか。ネタバレブームでもあったのでしょうか。ところでホノカ殿、その猿の惑星がどうかしましたか」 「もう猿の惑星からどう話そうとしてたか忘れたわよ……、人がせっかく真面目な話しようとしてたのに、どっから出てきたのよハサミギロチンって」 自分で言ったくせに。 トゲトゲしく言いつつ、またヂェリ缶に手を伸ばすホノカさん。 ヤケ酒ならぬヤケニトロ、というわけでもないのだろうが、空き缶がどんどん増えていく。 「じゃあストレートに聞くけど、私らっていつ死ねばいいの?」 飛び跳ねそうな勢いでハナコ姉さんが震えて、炬燵の中に潜ってしまった。 ◆――――◆ 何度かそれらしい雑談はしてきたけれど、こうも直球で話題になるのは初めてのことだった。 「昨日ゴクラクが自殺したのよ。エルとほむほむは知ってったっけ? 『清水研究室』の室長。ディアドラ型の神姫」 「俺の名はホムラだ」 私はほむほむ姉さんのように平然としてはいられない。 口を開いたら何を言ってしまうか分からなかった。 「潜水艦だけじゃ面白くないし……、よし、なんかストラーフに似てる空母大鳳、出撃!」 呑気な妹が羨ましい。 「そんな顔で私見ないでよエル。言いたいことは分かるわよ、どうして知り合いが自殺したのに、こんなに平然と喋ってんのかってことでしょ。私にもね、ちょっと関係あったのよ。この有難い神様の……、あれ?」 ホノカさんが握りこぶしを作って振りかぶろうとした先、さっきまで座っていた神様が忽然と姿を消していた。 私だけでなくマシロ姉さん、ハルヴァヤさんすらも気付かなかったらしく、炬燵の中を覗いてもコタマ姉さんとカグラ、それに耳を塞いで縮こまっているハナコ姉さんしかいなかった。 この炬燵は大きくても茶室まで広いわけではない。 畳の下か天井の上を除けば隠れる場所なんてない。 「まぁ、クソ神様が仕組んだこととは別問題だとは思うけどね。一週間くらい前にゴクラクがわざわざ私のところに来て、こんなことを言ったのよ。「セイブドマイスター殿は我を消失しても痛みを覚えることはない。覚えておいてくれ」だって。その時は何言ってんだコイツって感じだったけど、実際そうだったって昨日、分かった」 「聞いていないぞホノカ」 「言わなかったのよ。ゴクラクの遺言というか、あいつが見つけたものが本物か確かめたかったの。『デウス・エクス・マキナ』でハルと一緒に括られてるマシロも、平然としてるけど実は疼くものがあるんじゃない?」 「……貴様の五月蝿い口を上半身ごと消したいところではありますね」 「その疼きの正体をゴクラクは掴んだらしいのよ。『清水研究室』は元々、そういった私達が普通掴めないものを掴むために立ち上げられた機関だった。ゴクラクはこんな話も残していったわ」 ◆――――◆ 三人の神姫オーナーがいてね、所謂三角関係だったのよ。 男性のAくんと女性のBさんは恋愛関係にあって、女性のCさんはAくんのことが好きでもあり、恋敵のBさんの親友でもあった。 Cさんは悩んだ末にラブレターを書いて渡そうとした。 でもAくんに渡す勇気がなくて、じれったく思っていたCさんの神姫はある日、自分がラブレターを渡してきてやる、と言った。 Cさんの神姫はAくんの神姫にラブレターを渡して、Aくんにしっかり読ませるように頼んだ。 ここが最悪の間違いだったのよね。 この日の夜、CさんはAくんのメールを受け取った。 自分にはBさんがいるけれど、それを知っているはずのCさんに告白されて戸惑っている。 Bさんには内緒で、まずはチャットのやり取りをしてみないか。 で、翌日からCさんはAくんと夜、おしゃべりをするようになった。 三人が顔を合わせる昼間はAくんとBさんの仲を絶対に崩さず、でもCさんは夜になればAくんと好きなだけ話すことができるようになって、思い詰めることはなくなった。 ◆――――◆ 「あぁ、大鳳が轟沈しちゃった。大丈夫なのかな」 ◆――――◆ そんな昼夜で区切られた歪な二股が……、まぁ歪じゃない二股があるのかって話だけど、長く続くはずがなかった。 Cさんの神姫は、Cさんが喜んでいるならそれでいいって考えてたけど、間抜けよね、おかしいことに気付くのに数日もかかったのよ。 Bさんという彼女がいながら、どうしてAくんは毎晩、Bさんのための時間を作れるのか? Cさんの神姫はAくんに問い詰めたけれど、チャットどころかラブレターのことすら知らなかった。 つまりCさんのラブレターはAくんの神姫に止められていて、Cさんのチャット相手もAくんの神姫だった。 坂を転がる石のように、ってな感じで、間が悪くこの話をCさんは聞いちゃった。 Cさんに負けず劣らず、Cさんの神姫もパニックに陥ったわ。 Aくんの神姫にケジメをつけさせるはずだったけど、それよりCさんが強い人間じゃないって誰よりも知ってるんだもの。 慌てて追いかけたけどすぐには見つからなくて、一度家に戻るとCさんはチャットのログを食い入るように見てたの。 「これ全部、背比やないん? ねぇコタマ、嘘やろ?」 そんなこと言われたってCさんの神姫――竹櫛さんのコタマが返事できるはずもなくて、とにかく落ち着かせるために布団に入れた。 コタマはずっと監視するつもりだったけれど、竹櫛さんの寝息が聞こえたら自分にも疲れがのしかかってきて、クレイドルに横になった。 ちょっとだけ、のつもりで。 でもコタマだって普通の神姫だし人間みたいに根性で疲労を我慢するなんてできないから、仮眠じゃなく深い眠りについてしまった。 で、コタマは数時間後に飛び起きたけれど、もう手遅れだった。 竹櫛さんはコタマの目の前で首を吊っていた。 ◆――――◆ 「つまんねー話だなぁオイ」 炬燵の下からコタマ姉さんが、マシロ姉さんの横にもぞもぞ出てきた。 ホノカさんのトンデモ話を聞いていたらしく、でも鉄子さんが自殺するなんて話を聞いて怒らないなんて、コタマ姉さんの反応じゃない。 マシロ姉さんだってそうだ。 私の知るマシロ姉さんなら今の話はこの茶室を戦場にするに十二分の理由になるのに。 「ゴクラクって奴の言いたい事がアタシにも分かってきたぜ。ホノカ、その話はここからやっと本題に入るんだろ?」 「さすが当事者。もしかして続きも分かる? というか知ってる?」 「本題っつっても残件処理みたいなもんだけどな。まずエルを殺す。まぁ当然だ」 「当然のように私を殺さないで下さい」 「ラブレターを届けず鉄子ちゃんを騙し続けたAくんの神姫って誰だろうな?」 「…………」 「そしてアタシは【自分のAIを竹櫛鉄子に書き換える】。エルがいなくなった場所に鉄子ちゃんとしてのアタシが入って、背比弧域と竹櫛鉄子を永遠の仲にする。事情を知っている弧域はこれを拒否できない。こうしてアタシは鉄子ちゃんの願いを叶え、復讐を遂げることもできましたとさ。めでたしめでたし、だろ?」 「めでたしめでたしかどうかはさておき、その通りよ」 「待て。話にまったくついて行けないぞ。俺にも分かるように説明してくれ」 ほむほむ姉さんだけじゃなく、表情を見る限りハルヴァヤさんも蚊帳の外だった。 「今の話は実在するストーリーをなぞったものか? 先の自殺した神姫というのも、貴様らの反応もまるで理解できない」 「結論から言うと私達、武装神姫のAIは人間でいうところの感情とか性格とか、そんなものとは程遠いって話よ。残念って言い方も今となってはだけど、私達に心は無い。技術的には可能だけど、いざ作ってみたらさっきのコタマみたいな狂った神姫が生まれてしまった」 「おい本人を前にして狂ったとか言うなや」 「ゴクラクが本当に知りたかったのは【神姫のあるべき寿命】だったそうよ。でも武装神姫コンテンツそのものが終わっちゃったし、心も存在しないとなれば人間様の都合を考える必要もない。機械が勝手に故障するようなものよね。逆に人間から見ると心の無い神姫に対する生み出した責任も、権利を保護する義務もない。今メルがやってる艦これの艦娘と同じよ。大鳳を沈めてしまっても――」 「赤城も沈んじゃった」 「……赤城が沈んでもプレイヤーは悲しむだけだし、いつか艦これそのものが終われば艦娘も消える。形として残る私達が幸か不幸かは分からないけれど、残るのであれば余計な騒ぎを起こすなよってことで、極端な行動に走らないようになっている。【感情のような信号】なんて不気味の谷を回避するための役割程度しかなくて、さっきの話の【自分のAIを竹櫛鉄子に書き換える】コタマのような制御不能の暴走機械は生まれない。旬が過ぎたオモチャがどうなるかは持ち主次第ね。今のチマチマしたサポートもそのうち終わるだろうし、サードパーティだって手を引くか超高値で取引を続けるかのどちらかしかない。これは今の神姫とオーナーにとって当然の事だけど、神姫に心がないとまで分かるとオーナーはどうすると思う? それとも私達神姫はずっとオーナーを騙し続けてお人形さんであり続ける?」 「その必要はにゃい」 突然、炬燵の中から再び私とメルの間に出てきたカグラは、メルからタブを取り上げて操作し確認し、暫くプルプル震えた後、メルに跳びかかりスリーパーホールドを決めた。 「ぐえっ!?」 「そのゴクラクとかいう神姫はいい線行ってるにゃ。いや逝ってるにゃ? でもツメが甘いっつーか、重大な見落としがあるにゃあ」 「メルに何すんですか!」 カグラの腕を引き剥がそうとするがビクともしない。 どっから湧いてくるんだこの腕力。 「心が無いのは正解にゃ。AI書き換え朝飯前のワガハイが太鼓判を押してやるにゃ。でもソイツも人間も次元論で検証したんにゃろ? にゃらその結果も次元論で楽々覆せるにゃ。忘れたにゃ? 武装神姫は第三次世界大戦の可能性を否定したレアリティの高い世界の存在にゃ。そんな世界、ワガハイならぶっちゃけ次元戦争を持ち込んで征服するのも楽勝にゃ。今ワガハイがそれを実行しないのは……、武装神姫が終わっても、艦これだけは絶対に終わらせんからにゃー!!」 「く、苦し……」 「なにしてくれとんにゃオマエ! ワガハイが大鳳にどんだけ資材つぎ込んだ思っとるんにゃー! つーか赤城轟沈とかバカにゃろマジで! 体で償うにゃ! オマエの素体から資材回収して那珂ちゃん建造して解体してやるにゃー!」 「やめて本当にメルが! アマティ姉さんも止めてください! さっきから寝てる振りしてるの分かってんですからね!」 「…………」 「クソ猫あんた、私達の心と艦これのどっちが大切か――」 「あぁん!? ワガハイの艦娘より大切なものがこの世にあるっつーのかにゃあ!?」 「じゃあ他人にプレイさせるなよ。楽して資材回収しようとしたお前が悪い」 「やかましゃー! オマエタチがにゃんと言おうがこのアルトアイネスが那珂ちゃんになることは確定事項にゃ! 四八の次元からコイツを集めてNKC48結成解散解体処分にゃ!」 「私の妹が死ぬ! ちょっと皆さんホント助けて! なんかカグラが本気! すごい本気!」 「いやまぁ、さすがに大鳳と赤城を沈められるのはちょっと……」 気不味そうに頷く一同。 コタマ姉さんとホノカさんはともかく、ほむほむ、マシロ姉さん、ハルヴァヤさんまで。 ブームって恐ろしい。 15cm程度の死闘トップへ