約 2,307,691 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/820.html
折り返し──あるいは二日目その二 “鳳凰カップ”は二日目の中天を過ぎ、流石に客足は決勝ブロックの ギャラリーへと流れつつあった。私・槇野晶は必死で客を捌き続け、 神姫たる“妹”のアルマも、数時間に及ぶゲリラライブをこなした。 あれ程の大群衆を引きつけてくれたのは、彼女の功績に他ならんな。 故に、遅めの昼食を摂る事とした。アルマも空腹だろうしな、有無。 「アルマ、よく頑張った。あれ程歌い続けて、ヘトヘトだろう?」 「あ、はい……ちょっとだけバッテリー残量が心許ないですけど」 「ならば昼食をたっぷりと食べて、午後のライブまで休むと良い」 「えっと……すみませんマイスター、本当はお手伝いの時なのに」 構わぬ、と言って私は彼女の躯を軽くチェックし、着衣の乱れを正す。 しっとり風のラブソングから熱血の極みと言えるファンファーレまで、 アルマは実に、アルバム1枚超に及ぶ長丁場を一人で切り抜けたのだ。 その間急造のステージから降りる事も叶わず、彼女は一人歌い続けた。 激しい動きをせずとも、その服が乱れてしまうのは仕方ない事なのだ。 「ところでマイスター、梓ちゃんとロッテちゃんはどうしたんです?」 「有無。先程渡瀬美琴がやってきおってな……勝ちを拾ったそうだぞ」 「本当ですか!?ファーストやセカンドが、ひしめいているのに……」 「……これで公式に反映されるポイントも、相当数になる……だがな」 冴えない私の表情から、何かを感じ取るアルマ。そう、語られぬ所では クララとアルマも、ちゃんと公式バトルでの勝利と敗北を重ねている。 だが、ロッテとのランク格差は……今回の一件で大きく開く事だろう! 流石に何もせずしてセカンドへ昇格、等という事態はないだろうがな。 だがそれでも、この様に突出する事が果たして“三人”の幸せなのか? 「多分、この次も勝ったら……あの娘らは、即刻棄権するだろうな」 「……そうじゃないか、と思います。戦うなら最後まで、ですけど」 「だが望まぬ戦いをも率先して受ける様な、戦闘狂ではあるまい?」 「はい……ただあくまでロッテちゃんは、限界を見切るつもりです」 「有無。それを知りたくて、頂点を目指しに行ったのだろうからな」 言葉では明言されない物の、今ならばロッテと梓……ついでにアルマが、 奇策を弄してまでトーナメントの参加を押し通した理由が、良く分かる。 “己の戦いに誇りを”。これはロッテが戦いの際に、時々告げる誓いだ。 だが言葉だけの“誇り”等、いかがわしいネオンサインより陳腐である。 実行しなければ、出来ない事ならば。野心も勇気も願望も、力を持たぬ。 「ならばこそ己が何処まで出来るのか、更に何処へ伸びて行けるのか」 「それらの見極めの為に、今回の“聖杯”は打って付けだったんです」 「……アルマや。別にお前達が後ろめたさを覚える事は、何もないぞ」 「マイスター……はい、有り難うございます。そして、ごめんなさい」 「その意志を大事にしたい故に、私も“魔剣”等を求めたりしたのだ」 何も頂点に立つ事だけが大事なのではない。その過程に何を見出すか、 それが出来てこそ“求道者”や“戦士”としての成長が、あるのだな。 だからこそ、“姉”であり後援者たる私は……過程も結果も尊重する。 『結果が全てだ』等とは今世紀初頭から言われているが、愚かな事だ。 過程がなければ結果はまず成せず、結果が見えなければ過程も為らぬ。 「まあ何を言おうとも、私は彼女らを褒め称え労うつもりでいるぞ」 「あ……は、はいっ!本当に有り難うございます、マイスター!!」 「有無。所で何故、前日に『神姫素体で赴く』と言い出したのだ?」 ここで話を変える。このゲリラライブは、文字通り“ゲリラ戦法”だ。 大会本部への申請は、殆ど事後承諾となっていた。私自身、アルマめが 前日に準備を始めるまで、本気でライブを行うとは思わなかったのだ。 その時は強い意志に根負けして挙行を認めたのだが、やはり気になる。 だがその疑問に対する答えは、やはり驚く程シンプル且つ強固だった。 「あたしだって神姫です。神姫でしか出来ない事で、挑戦したかった」 「……故にこそ敢えてHVIFでなく、その躯で挑んだというのか?」 「はい。“肉の躯”よりも、“殻の躯”で伝えたかった想いですから」 HVIFは、人と神姫の垣根を取り払う。だが同時に、神姫達にとっては 不便な要素も存在していた。“心”に纏わる事柄についても、同じ様だ。 だからこそ“歌い手としての”アルマの感性は今回、神姫素体を選んだ。 神姫の“心”が人と同様だからこそ、僅かな差を敏感に感じるのだろう。 そう言う意味では、『同様であっても模造ではない』とも言えるのだが。 「そうか。想いを皆に伝えたいが故に、より良き策を取ったのだな?」 「はい……巧く言葉では表現出来ないんですけど、こうなんとなくっ」 「それで構わぬ。人の心も神姫の心も、理論では説明しきれぬしな!」 私はそう言って、アルマを肩に乗せてブースを離れた。二人とは今日、 一緒に昼食を摂る事は叶わぬが、最早全ての懸案は払拭されたも同然。 後はロッテ達が悔いの無い様に戦えば、それで十分だ。上機嫌である。 喫茶店“LEN”専用ブースたる大型トレーラーに、向かう事とした。 それは混雑する往来を小柄な躯ですり抜けていく、そんな最中だった。 「む……あの娘は、先日店へとやってきた……いや、人違いか……?」 「ん?……えっと、どうしたんですかマイスター。振り返っちゃって」 「いやな、この間店にやってきた女性に似ている者が居たのだが……」 L字定規を投げつけて、分かっていない不埒な輩を追い出したあの日だ。 うっかり往来にて投げたまま忘れていたL字定規を届けてくれた、ミラ。 “本物のガンスミス”の業物を持ち歩いていた、武装神姫達のオーナー。 「……彼女も彼女で忙しいのかもしれぬな。構わぬ、行くぞアルマ?」 見間違える筈はないのだが、彼女の姿を認めたのは会期中初めてである。 だが、あれ程“訳あり”の雰囲気を醸し出しておいて……偶然ではない。 ならば今の私が彼女を深追いする事は、お互いにとって“損”であろう。 不思議そうに首を傾げるアルマを宥めつつ、私は“LEN”に向かった。 「いらっしゃい……あら、晶ちゃんと大食いのアルマちゃんね」 「だッ、だから大食いって言わないで下さい!京都さん~!?」 「ふむ……そうか、千空めも決勝トーナメント出場組だったな」 「なんだ、彼奴がいないと寂しいか?そんな時はコーヒーだ!」 ──────寂しいのかどうかは、私だって分からないよ。 メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1520.html
白い天使に舞い降りた奇跡 年の瀬も迫るころ・・・街はクリスマスムード一色。 夕暮れ迫る頃にはイルミネーションの灯がともされ、より一層あでやかな表情となる。 そんな本通りの片隅、赤煉瓦作りを模した小洒落た外観を持つロボット専門店のショーケースに・・・凛々しいスタイルで飾られているアーンヴァルがいた。 両の手にサーベルを構え、白く輝く翼を背負い、今にも飛び出そうといわんばかりの格好・・・ではあったが。 どことなく、うつろな表情で。どこかしら、哀しい目つきで。 ショーケースの内側から、街の灯りを・・・行き交う人々を眺め続けていた。 彼女は、この店の武装神姫のディスプレイとして・・・発売されたその日から、いわば仮起動の形で置かれていた。 AIは起動しているものの、自らの意志で動くことは出来ず、焦点もディスプレイを覗いた人と目が合う位置で固定されて。 移りゆく季節をぼやけた視界で眺め続け、時折足を止めて自分を見てくれる人の顔を覚えるだけが楽しみの毎日。 今日も、いつもと同じ曖昧な景色を眺める・・・はずだった。 低い日差しの日が沈もうという頃、アーンヴァルの収まるショーケースを見ていたカップルが声を上げた。 -ホワイトクリスマスだ- 何のことか、わからないアーンヴァル。 だが視界には、ちらちらと白い物が映る。 一体なんなのだろう。確認したい・・・でも・・・。 そんな願いが通じたものか。 突如、センサーが・・・アイセンサーが動き、焦点を動かすことが出来るようになった。 ちらちらと舞うものは、雪。 道行く人が数年ぶりに積もりそうだと言いながら過ぎてゆく。 まだ浅いAIをフル作動させて雪というものを解析しようとしたアーンヴァルだったが。 目の前に広がる、初めて鮮明になった世界に、全てを奪われた。 様々な色と光が舞い踊り、幻想的な世界に・・・空からの小さな天使たちが舞い降りる。 街行く人々は皆幸せそうな笑みを浮かべながら白い便りを受け取っている。 店の前では買ってほしいと駄々をこねて泣く子供もいれば、胸にマオチャオ・ハウリンを収めてショーウインドウを眺めるサラリーマンの姿も。 だが、皆・・・その場を立ち去り、光あふれる世界へと消えていく。 サラリーマンの胸に収まったマオチャオが、手を振りながら遠ざかってゆくのを見たとき。 アーンヴァルの中に、今までには決して湧き上がらなかった感情が芽生えた。 仮起動させられたその時から、アーンヴァルは思っていた。自分には決して「マスター」は現れない。 妹たちの道しるべとなるべく、武装神姫たる姿を示し続けることが私の仕事。 ・・・そう思っていた。 深々と雪が降るにぎやかな世界を、ガラス越しに眺めながら・・・沸々と湧き上がる、もっと世界を知りたいという欲望と、取り残されているのではないかという不安。 そして。本当は自分も、自分にも・・・マスターが現れる事を待っていたのではないかと・・・。 いたたまれなくなり、アイセンサーのフォーカスをずらしてガラスに映る自分の姿に・・・今までと同じ位置に合わせ、見慣れた自分の姿を見つめていると。 じわり。 視界に、今までとは異なるゆがみが生じた。 ・・・涙。 仮起動のはずなのに、涙の機能も作動するなんて。 外を行き交う人の影よりもずっと小さく、いつもよりも自分の姿がもっと小さく見える・・・。 ふと、聴覚センサーに鐘の音が響いた。 時計塔の鐘・・・。 街の灯りがひとつ、またひとつと消え始めた。 人の気配は多いけれど、街はそろそろお休みの時間。 今日は悲しい気持ちのまま、寝ることになるのだろうか・・・。その前に、もう一度だけ、怖いけれども世界を見ておこう・・・フォーカスを再び動かし、ガラスの外にピントを合わせたそのときだった。 目の前に、ポケットにマオチャオとハウリンを入れた、あのサラリーマンが・・・白い息を吐きながら、肩には雪を載せて立っていた。 胸のハウリンがサラリーマンの襟を引っ張りながら、アーンヴァルの方を指して何か言っている。マオチャオはといえば、ニコニコしながら何かを伝えようとしているのか、ぶんぶんと手を振っている。 サラリーマンはすでに一部消灯されたショーウインドウに顔を近づけ、吐息で曇るガラスを時折きゅっきゅと袖で拭きながら、アーンヴァルをやさしげな瞳で見つめて・・・。 小さく頷くと、ショーウインドウの前を立ち去った。 お願い・・・行かないで・・・! 私を・・・私をいっしょに連れて行って! 声にならない、心の叫びを上げるアーンヴァル。 すると。 ショーウインドウの明かりが、再度点された。 何事なのか、驚くアーンヴァルの背後で、今度は扉が開けられる音に続き、視界が、景色がぐるりと廻り、久々に店内へと持ち込まれた。半分灯りの落とされた、薄暗い店内でまだ明るさの残るカウンターに載せられたアーンヴァル。 そうか、またポーズの変更なんだろう・・・と、アーンヴァルの立てた予測は大胆にもはずされた。 電源の通ったクレイドルに、起動前のスタンダードスタイルで載せられ、カタカタと背後でなにやら操作がなされてアイセンサーが、瞳が強制的に閉ざされた。 かちり。 アーンヴァルの脳裏に、いつもと違う感触が走る。 ・・・手足に、力が入る。 動く!! 間違いない、これは・・・。 ・・・高ぶる気持ちを抑えながら、おそるおそる目をあけた。 「やぁ、はじめまして。ウチが、君のマスターになるヒサトオっちゅーもんです。 で、こちらがハウリンのシンメイ、アタマにのっかっているのが見ての通りマオチャオのエル・・・ガーーーー!! こら、髪の毛ひっぱるなーーー!!!」 まるで外の世界の楽しみを丸ごと背負ってきたような雰囲気を漂わせた、あのサラリーマンが・・・自分が一目惚れしたひとが・・・!!! 店長となにやら楽しそうに会話するヒサトオと名乗った男。 話の内容から、アーンヴァルはすぐに理解した。このひとも、今の瞬間を待っていたのだ、と・・・! 「君の名前なんだけど・・・夕方に君を見たときにビビッと思いついたこの名前でもいいかなぁ。シンプルだけれど、奥が深いと思うんだ。 どうだい、『イオ』ちゃん。」 先とは違う涙がわきあがる。 「帰ってから起動させてあげてもよかったんだけれど、この街でホワイトクリスマスなんてそうそうあるもんじゃないからね。無理を言ってお願いして、ここで起動させたんだ。 ・・・じゃ、みんなで一緒に帰ろうか。奇跡の夜を存分に楽しみながらねっ!」 そっと手を差し伸べるマスターとなるひとの顔も、一緒にいる神姫たちの顔も滲んでしまった。 でも、自分の手で拭けばいい。 フォーカスだって、我慢することも無い。 眺めるだけだった世界へ、自らの脚で飛び込んでいける・・・! 差し伸べられた手にゆっくりと乗り、マスターの顔を見上げて。 初めて発する言葉に、今の思いをありったけ詰め込んで-。 「よろしくお願いいたします、マスター!」 白い天使が舞い踊る街で。 地に降りた小さな天使にも、 届けられた大きなプレゼント。 そう。今宵はクリスマス。 皆が、幸せあふれる夜となりますように・・・。 <トップ へ戻る<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/686.html
「クイントスの理由」 「おかえりセロ・・・大会は楽しめたかい?」 そういって、二ヶ月ぶりに帰ってきた親友に話しかける私 「かなりの刺激になった。私もまだまだ未熟だということが良く判ったよ、キャロ」 マントを外しながら座る蒼い鎧姿。彼女の指定席は神姫の箱が並ぶ棚の真正面だ 「相変わらず自分に厳しいんだから・・・アンタは」 「いや・・・完全にコピーされた自分の技を見れば、厭でも謙虚になるさ」 「『ミラー・オブ・オーデアル』・・・だっけ?」 「あぁ、凄まじい強さだった」 マントを受け取り、ハンガーに掛ける 「良い闘い」について語る彼女を見る事が既に久しぶりだった もとよりこんな田舎のリーグの女王に収まっている様な器ではない 「・・・まだ、私と闘ってはくれないか?」 そうだ、彼女をここに縛り付けているのは私なのだ 「・・・最近の槙縞ランカーの動向さ。見るかい?」 聞こえない振りをして、最近のランキングのデータを渡す。我ながら下手糞で、強引な話題のすり替えだ 不承不承、データに目を通す。その表情には落胆は無いが、歓喜も無い感じだ 「『ウインダム』が順位を落としている様だが・・・成程、装備を丸ごと取り替えたのだな。慣らし運転と言った所か。『リフォー』は少しは腕を上げたのかな?」 「・・・新人が3人か『ヌル』『G』と・・・これは・・・カスミと読むのか?」 頷く私 「厳密に言うと『G』は新人じゃないがな。『メイ』が改名・・・というか登録名を変更したんだ」 「『メイ』?岡田さんの所の、あの気の弱い限定版アーンヴァルだったと記憶しているが・・・?こんなに力があったのか」 「こいつは・・・凄いな、殆ど一気に6位に駆け上がっている」 「闘ってみたい・・・って?」 「・・・その『問い』に対する私の答えは常に一つだ、キャロ」 「『私は闘いを望むパーソナリティだ』?」 彼女の口癖・・・その前半分 「『中でも特にキャロ、お前との再戦を望んでいる』だ」 一瞬 駄々をこねる子供の様な表情が、『完璧な女王』の顔に浮かぶ 「何度も言わせるんじゃないよ。あれは私の力じゃないし、アンタはこんな所で燻ってていい戦士じゃない・・・私の事なんて忘れて、とっととファーストにでも何にでも昇格しちまいなよ。また大きい大会があるんだろ?」 「鳳凰カップ・・・か」 2035年から始まった鳳条院グループ主催の武装神姫バトルカップだ。武装神姫の公式大会としては、冬に行われるファースト選出全国大会・・・つまりこの間まで彼女が出場していた大会より、ある意味大きなタイトルだ 「アンタより強い奴なんていくらでも居るさ。中には必ず、アンタの願望を満たしてくれる神姫も居る」 「私がお前と、きちんとした形でもう一度闘いたいという願望は・・・お前にしか満たしえないだろう?」 「・・・私は・・・もう闘いたくはないのさ・・・」 「嘘だッ!」 俯く私にぴしゃりと反応する 「私は女王で居たい訳じゃない・・・私は戦士で居たい。お前だって本当はその筈だ・・・!私には・・・判る・・・」 「・・・」 肩をつかまれ、揺さぶられる。真正面から彼女の顔を見つめることが出来ない 「戦士で居たいというなら私が相手になるわよ?『クイントス』」 入り口あたりからかかった声に振り向く・・・ランカー9位『ジルベノウ』。背負った二本の折りたたみ式実砲とジャンプ戦術が特徴のストラーフ 「貴女の望み通り、引き摺り下ろしてあげるわ。女王の座からね」 「・・・いいだろう、君の挑戦、受けよう」 私は、ツイてる 殆どこの店に来ない上に、滅多な事では闘わないといわれる『クイントス』と勝負が出来るなど (フッ!噂の女王の力、どれ程の物か見せてもらおうじゃないの) 実質、データを見た限りでは『ジルベノウ』と『リフォー』の差は大したものでも無い。今は9位に甘んじているが、それはチャンスが無かっただけの筈。ここで『クイントス』を倒して一気にポイントもランクも稼がせて貰おう 「『ジルベノウ』、準備はいい?」 『イエス、マスター』 種々の非公式パーツで強化した「サバーカ」、リアユニットに「チーグル」の代わりに装備した射撃向きの大型腕とキャノン、それらを装備したジルベノウの戦力は、決して『クイントス』に遅れを取らない自信があった 『バトル・スタート』 機械的なアナウンス、同時に跳躍するジルベノウ (『クイントス』は・・・?) フィールドの真ん中で突っ立っているだけだ・・・こちらの出方を伺っているのか?馬鹿め、砲撃で粉砕してやる 「ジルベノウ、ファイアー!!」 爆音、火を吹くキャノン。狙いたがわず、砲弾は真っ直ぐ『クイントス』へ向かう・・・何故か動く様子の無い『クイントス』 (粉々だ!) だが、そこには粉砕された鎧の残骸すらなく、傷一つ無く刀を構えた姿で『クイントス』は健在だ (バリヤか?しかしそういった形跡は無いが・・・) 『くっ!おのれ』 もう一度発砲するジルベノウ 回避しておらず、バリヤでもない・・・ないという事は・・・? 『・・・今度はこちらの番だな・・・』 呟き、走り始める『クイントス』・・・速い、が、一般のサイフォスの域を出るものではない。今度こそ砲弾の餌食だ 迫る砲弾、『クイントス』は それを事も無げに「切り裂いた」 「な・・・!?」 即座にキャノンを畳み、手持ちの機銃を発砲するジルベノウ・・・濃紺のマントにいくつもの弾痕が刻まれる・・・? マントだけ・・・? 『アーンヴァルの様に無限に飛んでいられる訳では無い様だな』 跳躍の最頂点を過ぎ、落下するジルベノウの背中側に跳び、刀を振り下ろす・・・例え改造刀であってもジルベノウの装甲はそうそう容易に切り裂けるものではない ない筈なのに・・・ ジルベノウの装甲が砕け散る。凄まじい鋭さで切断された面の周りから、粉砕されてゆく 一撃だったらしい・・・らしいというのは、私には『クイントス』の剣閃が見えなかったからだ たった一撃刀を打ち込まれただけで、まるで超高速の戦闘機同士が衝突したような無残な姿に、ジルベノウはなっていた 『勝者クイントス』がコールされるまで、私はジルベノウが負けた事にすら気付いていなかった 私は・・・ツイてたんじゃなかったのか? すごすごと帰ってゆく主従を、セロは無表情に見つめていた いつも通りの、どこか取っ付き辛い硬さのある『クイントス』として 「アドバイスはしてやらないのかい?」 「・・・した。聞こえていたかどうかは判らないがな。ただ・・・」 「ただ?」 「本当に強い者ならば、私が何も言わなくても勝手に強くなるし、どうしようもない者には何を言っても無駄だ」 「手厳しいね、ホントに」 「かもな・・・。だが強くて妬まれるのならば、悪い気はしない」 その正直さ、飾らなさが、私の好きな彼女だ 「戦いを望む性状を否定しない・・・良くも悪くも、それが偽らざる私という人格なのだ」 そしてそれが、彼女の足を止めている 自らに嘘をつけない事、私と・・・否、『G』(注)を纏った私ともう一度闘いたいと願う余りに 私の好きな彼女の部分が、私の好きな彼女の翼に枷を嵌めている・・・ 「ままならないもんさね・・・」 私は二本目の煙草に火をつけた 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ 注.ランカー6位の『G』=『メイ』のGでは無い・・・が、全くの無関係でもない
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/186.html
そのろく「類は共を呼び友になるのか?」 きりきりきりきり ひゅっ ずとん 「的中」 現在部活動の真っ最中。 人間何事も平常心が大切だよね、って取って付けた事を言うつもりも無いけど、雑念邪念を振り払いたい僕にとって、この部活を選んで良かったと言わざるを得ない。 昨晩のアレは、なんて言うかダメすぎる。 おかげで今朝は、なんとなくティキを正視出来なかった。 そういう意味でも弓道っていいよね。精神修行だし、集中しないと動作に現れる。 つまりへまをやらかしたくなければ余計な事は考えないようにしないといけない。 ひとしきり矢を番えた僕は、更に精神を落ち着かせる為道場の隅で正座し、反目閉じる。 ウチの学校の弓道部は大会等で好成績を残す事を目的としていない。なら何が目的なのかと言えば、「修練」なのだそうだ。 だから勝つ為の技法より、心構えや求道性を求められる。そんな指導で強い選手など早々育ちはしない。 つまり、そんな空気感のある部活と言う事。 だから僕が隅で心を落ち着かせる為に正座をしようが、誰にもとがめられる事は無い。 顧問に言わせればむしろ奨励。 実際にどんな邪念妄想を打ち消そうとしているかなんて、誰にもわかるはず無いのだから、僕はこの時間を有効活用し、必死に平常心を取り戻そうとしていた。 すうっ、と僕の隣に誰かが座る気配を感じる。 一人が座して、他の部員がそれに倣う事も多々あることなので、僕は気にしないで雑念と闘っていた。 の だ が、 「武装神姫」 耳元ではっきりとそう聞こえた。 雑念を読み取られるわけ無いんだけど、僕はそれでもギョッとして今となりに座した人を確認する。 同じ一年の式部敦詞(しきぶ・あつし)がそこにいた。 式部は目を閉じたまま、小声で続けた。 「明日の放課後、神姫を連れて三丁目の公園に来い」 「……わかった」 僕は、やはり小声で答えるしかない。僕は学校ではそういう興味がまったく無い人間として過ごしているので、事を大きく出来ない。たとえそれが脅迫だとしても、だ。 結局僕は、新たな雑念を抱えて家路に就くことになった。 次の日 部活が無い日をわざわざ選ぶのは、やはり同じ部に所属するからで、部活がある日だと時間的に都合が悪い。そういう意味じゃ常識的な相手。 つまり、あまりにも非常識な要求はしてこないだろう、と僕は予測する。 正確に時間を決めていたわけじゃないので特に急ぐ事も無く、僕は公園に到着した。 「遅い!」 来るなりヤツはそう言う。 「別に時間決めてたワケじゃないだろう?」 僕は答える。チョット言葉が強張るのは緊張してるから。 「それがお前の神姫か?」 「そ……そうだ」 式部は僕の頭の上にいるティキを見る。今日のティキは母さんが作った服を着ていた。 そんなティキを確認し、式部はチョットだけ目付きをきつくした。 頭の上でティキがビクッと震えるのを感じる。 「なんで武装して無いんだよ」 「……はぁ?」 「それじゃあバトル出来ねーじゃんかー!」 式部はそう言うと、大げさに天を仰ぐ。 「……話が読めないんだけど?」 そう言った後で、僕は式部のすぐ近くで宙に浮いている、小さな人影を確認した。 白い素体に真っ赤なアーマー。 「おい、それって……」 僕は思わず指差す。 果たしてそこにいたのはMMS TYPE SANTA CLAUS ツガル。 その姿に頭上のティキも気付いたんだろう。僕の頭の上でジタバタと暴れだす。 「マスタ! マスタ! 見た事無い娘がいるですよぉ☆ すごいですよぉ♪」 「まだ発売して無いウエポンセットの!!」 「はい。はじめまして。きらりです。よろしくお願いします」 未だ天を仰いで悶絶している自らのオーナーを尻目に、きらりと名乗った神姫が丁寧にお辞儀した。 公園にいたままじゃ埒が明かないという結論に至って、僕らは連れ立って近所のアミューズメント・センターに場所を移した。 ここは所謂昔で言うところのゲーセン。それにファーストフード店とそして武装神姫のアクセスセンターとを兼ね備えている施設だ。 「つまりBAのコニ○・パレスみたいなところなのですよぉ♪」 「……誰に対して言ってるかわからない上に、僕には言ってる意味もわからん」 遠慮がちにティキにつっこむ。 場所柄だろうか、周りには神姫を連れた人たちで賑わっている。ここではセカンドリーグまで扱っているらしいので、そういう意味じゃリーグ参加者が多いのも当然か。 僕らの様な地方(と言っても首都圏)に住んでいる人間にとって、こういう施設は需要が高い。 僕らは適当に空いている席を陣取ると、軽食を取りながら改めて話を始めた。 あー……でも、たいした話でも無いので内容だけ。 要するに、式部は僕とティキが初めてバトルしたあの試合を偶然にも目撃していたらしい。それでオーナーの顔を覗いて見たら、何と見知った顔じゃないか。神姫ユーザーである事を(僕とほぼ同じ理由で)隠していた式部は、何としても発見した同士を逃がすわけには行かない。 「と思って、つい声をかけちまったんだよ」 式部はそう言ってジュースのストローに口をつける。 「それにしたって、もっとやり方ってあるだろう? っと、ティキ、ウロチョロしない」 答えながらもティキをあやす。ティキとしては珍しいんだろうな。もっと色々と外に連れ出さないと。反省。 そういう意味じゃ、きらりは落ち着いたもので、大人しく座って式部と一緒にポテトをかじっている。 「あんな言い方じゃ、どう好意的にとっても友好的には受け取れないよ」 僕は大好きなマウ○テン・デューに手をつける。 「あー…… それについては反省してる。よっぽど切羽詰ってたんだな、俺」 「一人で納得するなよ」 「ははは。まぁ良いだろ? で、それじゃ、改めて。今度部活が無い日に、俺のきらりとお前のティキでバトルしようぜ」 そう言って右手を僕に差し出す。これは握手しようってことかな? 「わかった。明々後日だね。……最初からそう言ってくれれば良かったんだよ」 僕は式部と握手を交わす。こういうのって慣れて無いからチョット照れる。 「へへへ、こういうの、チョット照れるな」 まるで僕の心の中に浮かんだ言葉をそのまま言った様な、そんな事を口にした式部に驚く。 だけど、僕が驚いた事には気付かなかった様で、式部はごく普通に話を続けた。 その後、僕と式部は今まで誰にも言えなかった神姫の話を十分に語り合い、ティキときらりはお互い知らない事を情報交換し、親睦を深めていった。 「それじゃぁ、またな」 「うん、また明日」 「今度はバトルフィールドで会おうね」 「ハイですぅ♪ 楽しみなのですよぉ♪」 僕らが別れの挨拶を交わす頃にはもう時間は十分に遅くなっていて、とても高校生が遊んでいる時間とは言えない。 空には満天の星が輝いていた。 「明日も晴れそうだね」 「ハイですぅ♪」 足取りも軽く、僕は家路についた。 ……母さんに怒られる事は必至なんだけど、ね。 終える / もどる / つづく!
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/5058.html
瓦礫なる者ラビリンス・グール UC 闇文明 (3) クリーチャー:リビング・デッド 0000+ ■ブロッカー ■このクリーチャーは、パワーが0以下になっても破壊されない。 ■ブロック中、このクリーチャーのパワーは +5000される。 作者:赤烏 収録 DMWZ-01 「ベーシック・オリカセット」95/210 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2378.html
7匹目 『猫の野望』 ある日、マスターがこんなことを言っていた。 「僕達はさ、世界の歯車みたいなものなんだよ。 たぶん」 マスターが夕飯を食べている時に、随分と唐突に、しかもそれほど改まって聞かされることでもないように思ったので、私は 「はあ」 と気のない返事をした。 そんな考えを私の表情から見て取ったのか、マスターは 「ああ、違う違う、そういう意味じゃなくて」 と話を続けた。 「社会で働いている人を歯車に例えるとかそういうことじゃなくて、なんて言えばいいのかなあ――世の中のすべてのものが脳の神経のような機能を持っていて、僕達の何気ない行動が何かの情報を産み出しているようなイメージなんだけど、どうかなあ」 「えっと、それは一昨日マスターがえっちぃ動画をこっそり見ていて、その行動を見た私に 【憤怒】 という情報を発生させたとか、そういったことですか?」 「だ、だからごめんってば、アマティは意外と根に持つなあ。 そういうことじゃなくて、もっと宇宙規模の大きな話だよ」 私にとってはマスターこそ世界のすべてであって、そのマスターが私という魅惑の塊を差し置いて 『必要以上に大きなセーラー服3』 を鑑賞していたことはわりと死活問題なんだけど、ここで蒸し返しても不毛な争いにしかならない気がしたので、とりあえず先を促した。 「ファンタジーものの小説や漫画に 【世界の意思】 とか、そういったものがよく出てくるよね。 それに影響されたってわけじゃないけど、じゃあその 【世界の意思】 は具体的にどうやって情報を扱っているのかなって考えたんだ」 「それは、神様がいるんじゃないですか? 神様に何か考えがあって、世界を作ったとかなんとか」 「まあ、そんな存在がいるなら神様って呼んでもいいんだろうけどね。 でも僕が言いたいのは、その神様の 【脳】 は世界そのものなんじゃないかってこと」 食事中の会話に 【世界の意思】 っていう単語が出てくるあたり、マスターもつくづく変わった人だ。 変わった人でも女子高生に萌えたりするんだなあ、とも思ったり。 かぼちゃの煮物を箸で行儀悪く突付きながらマスターは考え考え言った。 「大きく言うなら地球だとか、太陽だとか、もっと言えば銀河系だとか、止まっているものはないよね。 その動きの一つ一つが、実は脳の電気信号みたいな意味を持ってるんだと思うんだよ。 そうだなあ、例えば、惑星ベジータとウルトラの星がコンマ5光年くらい平行移動する時があれば、それは宇宙全体が 『おなかすいたー』 って考えているかもしれないってこと」 マスターが言いたいことはなんとなく分かったけれど、宇宙の意思がそこまで単純だとすれば、ロマンを追い求める天文学者は答えに辿り着いた瞬間、拍子抜けを通り越して魂が抜けてしまうかもしれない。 そもそも惑星ベジータはとっくに滅ぼされている。 M78星雲に至っては星ですらない (光の国はきっと、私達の心の中にある)。 そういった空想物はともかく、宇宙のあらゆるモノの動きと干渉が何かしらの意味を持って、それらが複雑な記号としてまとまって一つの意思になる、ってことでいいのだろうか。 「でもそれだと、私達なんてちっぽけすぎて、宇宙さんの考えにまったく関われないですね」 「いやいや、案外僕達がピンポイントで重要なのかもしれないよ。 それに 【世界の意思】 が一つとは限らない」 そこでマスターがビシッ! と人差し指を立てた。 この時のマスターはやけに饒舌だったけど、会社でいいことでもあったのだろうか。 「僕は宇宙規模どころか、地球、国、もっと絞って町レベルにも意思があると思うんだ」 「町、ですか。 まさかマスター、その意思こそが町内会規則だ、っていうオチじゃないですよね」 「……そんなことを言うつもりはないけど、アマティ、ボケ殺しはよくないよ」 そういうつもりで言ったわけじゃないけど、素直に頷いておいた。 マスターはコホン、と一度咳をして、話を続けた。 「先週の水曜日と木曜日に出張に行った時なんだけどさ、帰りの飛行機でいろんな町の上を通ったんだよ。 夜だったから道路の明かりが葉脈みたいに並んでいて、これがすごく綺麗でね」 「私も見たかったです。 今度から出張には私も連れて行ってください」 「連れて行くのはいいけど、アマティはガッツリ電子機器だから飛行機に乗れないんじゃないかなあ」 「(ガーン!)」 「まあ、今度からは極力新幹線を使うよ。 飛行機とはまた違った楽しみがあるよ。 それで、そう、夜景を見下ろした時なんだけど、町の明かりの中に規則正しく動く明かりがあってね。 あまり細かく見えたわけじゃないけど、車が高速道路を走ったり、信号で止まったり、曲がったりしててね、それが僕には生き物の血管に流れる血みたいに見えたんだ。 一人で呟いたよ、『町が生きてる』 って」 「町が、生きて――」 この時のその言葉が、私の閉ざされた目を覚ました。 唐突に視界が広がって、いや、視界のみならず私の全感覚が、広く、遠く、より繊細で強いものになったようだった。 部屋にあるものを、部屋の形を、自分の手で一つ一つ触れているようにはっきりと認識できた。 部屋だけではない。 その気になれば、部屋の外にまで手が届きそうな気がした。 町が生きている。 この町を好きになれなかった私の心に、知らず凝り固まっていた私の心に、マスターの言葉が波紋のように響き渡った。 命を持った、命の集まり。 もし本当にそうなのなら。 町が本当に生き物と呼べるものなのなら。 そこには何かしらの、意思がある。 その意思は―― 「――その意思こそ、僕達のことだと思うんだ」 「マスターって、案外ロマンティストなんですね」 「わりと本気で話したんだけどなぁ……」 「でも」 「うん?」 「そういうお話は――私は好きです」 マスターからしてみると、私達は 【町】 という生き物の一部として動いているということになるけれど、私はちょこっと違うと思う。 やっと目覚めることができたからこそ言えることだけど、私達が、町という生き物を動かしているんだ。 結果は同じことかもしれないけど、この町も、日本も、世界も、宇宙も、私達が造っている。 これくらい図々しく言っても、唯一私達を咎められる神様は私達が形作っているんだから、大目に見てくれることだろう。 それに、私の名前は日本の神様から貰っているのだし。 「でも神姫も混ざっていいんでしょうか。 心はあってもロボットなわけですし」 「それは大丈夫だと思うよ。 むしろ、これからもし武装神姫が一大ブームを巻き起こしたら、町の意思は少し神姫寄りになっていくと思うよ」 「あはは、神姫の神姫による神姫のための町ですね。 神姫センターがいっぱいできて、毎日が感謝セールになりそうです。 じゃあ、そうですね、もし猫が支配する町になったらどうなっちゃうんでしょう」 「町中の言葉の 『な行』 が 『にゃ行』 になるだろうね。 アマティはネコミミが生えてるからいいけど、僕なんかがにゃあにゃあ言ってたら絶対に不気味だよ」 「そんなことはないです、きっとカワイイと思いますよ」 「そんなフォローをされても……もしアマティが猫語を話すようになったら、一度言ってもらいたい文章があるよ」 「そんな状況が来るとは思いませんが……どんな文章ですか?」 「それはね――」 その時に聞いた文章は、確かこんな感じだった。 「おい、そこのロリ巨乳。 これを読み上げるにゃ」 「はあ、これっスか。 えー、『斜め77度の並びで泣く泣く嘶くナナハン7台難なく並べて長眺め』」 「マドモアゼル、復唱してみるにゃ」 「にゃにゃめにゃにゃじゅうにゃにゃどのにゃらびでにゃくにゃくいにゃにゃくにゃにゃはんにゃにゃだいにゃんにゃくにゃらべてにゃがにゃがめ」 「かぁーわぁーいーいーにゃー!」 体内に充満した 【呆れ】 を溜め息に変えたかったけれど、まだ固い床に押さえつけられたまま頭だけ持ち上げられているせいで、口から出たのはカエルの鳴き声のような音だった。 ゲロゲロ、じゃなくて、もっとリアルな汚い感じ。 「聞いたにゃネコミミギュウドン、これだから猫はやめられません。 おっと、思わず自画自賛してしまったにゃ。 まーでも仕方にゃいにゃ、にゃにせこれから、猫が世界を救うのにゃからにゃ!」 両手を大きく広げ、馬鹿みたいに高笑いする馬鹿。 その馬鹿に続いて、他のマオチャオ達も皆大笑いした。 私と、うっかり疫病猫につられたことで渋い顔をしたカシヨだけが黙っている。 笑い声に囲まれるのがこれほど気持ち悪いことだとは思ってもみなくて、頭の片隅で、ああそういえば 【猫の集会】 なんて言葉があったっけ、そんなどうでもいいことを考えていた。 「なんにゃ、オマエタチ2人ともノリが悪いにゃあ。 んー、そろそろ解放してやるかにゃ、どうせこのメニーマオチャオズの前にはどんにゃ抵抗も無駄にゃことは分かっただろうからにゃ」 パチン、と疫病猫が指を鳴らすと、私を押さえつけていたマオチャオ達が、私が暴れださないか警戒してか、ノロノロと退いていった。 私のヘルメットを掴んでいたマオチャオだけはバッと手を離して、私は危うく床で顔をうちそうになった。 たぶん、分かっているのだろう。 私が疫病猫に飛びかかりたくても、未だ無理な着地による全身の痺れが取れておらず、指すらまともに動かせないことを。 そのことを、せいぜい他のマオチャオ達に悟られないよう、ふらつかないようにゆっくりと、できるだけ自然さを取り繕って立ち上がった。 膝に手をつこうとして、膝の突起が両足とも折れていることに気づいた。 さっき着地した時の不吉な音はこれか。 帰ったらマスターに怒られる。 それとも、悲しませるだろうか。 どっちにせよ……もう勘弁してほしい。 「私だけじゃなくて、そこのカシヨも解放したらどうですか」 「却下にゃ。 マドモアゼルにはまだやってもらわにゃきゃにゃらんことがあるのにゃ」 「まだにゃにかするつもりに……! ……っ……にゃ、に、にゃー!」 どうしても言葉が猫語になってしまうカシヨは抗おうとすればするほど自爆してしまい、屈辱と羞恥で凛々しい顔を赤く染めた。 しかしそれでも疫病猫を睨みつけるだけの気力を保っていられるのは、私程度の神姫が偉そうなことを言うけれど、賞賛に値すると思う。 「もうお分かりにゃと思うが、今このマドモアゼルにインストールしたのは 【ネコ化パッチ ベータ版】 にゃ。 開発は苦労したんにゃよ? 幾度となく立ちふさがる障害、ライバルとの衝突と離別、データを奪おうとする黒幕との死闘――すべてが終わった暁には、ワガハイの開発手記を出版するつもりにゃ。 犯罪者の独白本が売れる世の中にゃら、ワガハイの手記は世界中の人間が手に取るんじゃにゃいか? 印税のことを想像するだけでヨダレが出てくるにゃ」 「で、開発には実際のところ、どれくらい時間がかかったんですか」 「一時間にゃ」 よくもまあ、ここまで悪びれることなく嘘を吐けるものだ。 「神姫のAIをいじるくらい、ワガハイにとって朝飯前にゃ」 事もなげに言うけれど、私にはそれがどれほど高度な技術なのかすら想像がつかない。 マスターがいつか言っていたように単純に 『な行』 を 『にゃ行』 に変えればいい、というものでもないのだろうし、被害者であるカシヨも猫語以外の影響を受けているようには見えず、重大なバグも起こっていないようだ。 プログラムそのものがバグのようなものだけれど。 「まだベータ版にゃから、対応する神姫は少にゃいんだけどにゃ。 これからさらに実験を重ねて、全神姫に対応させていくのにゃ。 残念にゃがら、まだアルトレーネは未対応にゃが、完成の暁にはオマエをいの一番に猫にしてやるにゃ。 嬉しいにゃろ?」 「…………」 「やれやれ、無反応とはつれにゃいにゃ。 そんにゃ立派なネコミミを持っておきながら――まあいいにゃ、どーせオマエはすぐに、自分の仲間を増やしてくれたワガハイに感謝の祈りを捧げることににゃるのにゃからにゃ」 仲間を増やす。 想像はしていたけれど、やはり疫病猫は 【ネコ化パッチ】 なるものを世にばら蒔くつもりらしい。 カシヨのように一体一体捕まえてインストールするのではなく、インターネットに下水の如く垂れ流すのだろう。 出回っている神姫すべてがにゃあと鳴く、猫の猫による猫のための世界。 コンピュータウイルスのように (いやもうウイルスそのものだ) 神姫のCSCを狂わせ、神姫が口を開けば、聞こえてくるのはにゃあにゃあにゃあ。 多くの神姫が集まる神姫センターなんてきっと、右を向いてもにゃあ、左を向いてもにゃあ、前を向いても後ろを振り返っても、耳を塞いでも眼を閉じてもにゃあ、そんなある種の拷問のような場所と化すことだろう。 そんなことできっこない……と言おうとして、疫病猫の技術力の高さを見せつけられたばかりだったことに気付く。 やってることが馬鹿っぽくて気が抜けてしまうけれど、私は今、割と責任重大な場面に立ち会っているのではなかろうか。 さっきはカシヨだけがターゲットだった。 今度はそれが、世界中の神姫になった。 全身が痺れて立っているのもつらい、だなんて泣き言を言っている場合じゃない? 「くっふっふ、ようやく事の壮大さに気づいたようにゃね。 でも安心するにゃ、さっきも言ったように、まだこのパッチはベータ版にゃから、夢の猫世界への御招待はもうちょっと先になるにゃ。 全神姫に対応させるだけじゃにゃく、一番重要な部分が未完成にゃのよこれが。 こればっかりはさすがのワガハイでもどうにもできにゃかったのにゃ」 そう言って疫病猫は、私を――正確に言うなら、ヘルメットの上からちょこんと覗いているものを、真犯人の正体を暴く探偵のように指差した。 私の意思とは関係無く、それはピクンと動いた。 「そのネコミミ、どうやって生やしたのにゃ」 これまでとは打って変わって声の調子は低く、その言葉には、私を責めるような響きが混じっていた。 気圧され、無意識のうちに一歩後ろに下がろうとして、脚に力が入らずふらついてしまった。 私を睨みつける疫病神の釣り上がった目は、元が目の大きいマオチャオのものであるだけ歪で、威圧感があった。 「ずるいにゃ! マオチャオを差し置いてデフォでネコミミ装備なんてずるいにゃ! ワガハイも天然もののネコミミが欲しいのにゃ!」 気圧された私が馬鹿だった。 「どうやって生えたかだなんて知りませんよ、私がマスターに開封してもらった時にはもう生えていたらしいですし。 ディオーネにでも問い合わせてみたらどうですか?」 「とっくに電話したにゃ。 でも 『ネコミミ、ですか? 申し訳ありません、ちょっとどういう状況なのか…………確かに生えて? そうですねぇ……そのような事例はちょっと…………そう仰られましても、現物を確認しないことには…………あ、その声はもしや…………ですよね、ちょっとあなたのオーナーに代わってもらえますか』 てな感じで、神姫だからって相手にされないのにゃ。 まったく、ディオーネの電話番は電話の向こうにいる相手への気遣いがなってないのにゃ。 ここはワガハイがクレームと称した自爆テロでモンスターカスタマーの恐ろしさを知らしめてやる――わけあるかにゃー!」 「そのネタはもういいです」 アーンヴァルやヴァッフェドルフィンみたいに真面目な神姫ならともかく、マオチャオからかかってきた電話なんて、ましてや内容が内容なだけに、イタズラ電話としか思えないだろう。 念のため言っておきますが―― 「画面の前の紳士さん。 そう、『武装神姫ssまとめ@wiki』 を開いているあなたです。 ディオーネの電話のお姉さんは、相手がマオチャオだったからちょっと戸惑ってしまっただけで、普段は親切丁寧に出来る限りの対応をさせて頂きます。 他に類を見ない親切さと安心感が、ディオーネにはあります。 精密機器ゆえに何かと困り事の多い武装神姫ですから、今後新たに神姫をお迎えする予定がありましたら、完璧なサポート体勢でお楽しみいただけるディオーネ製の戦乙女をご検討下さいますよう、宜しくお願い申し上げます」 お粗末さまでした。 「いきなりなんの話にゃ」 「気にしないで下さい。 時空を超えた宣伝です」 「メタは作者寿命を著しく縮めるのをご存知にゃ?」 「二次創作物内でのメタほど寒いものはないと重重承知の上ですから、きっと大丈夫です」 私の知る限り武装神姫ss関連でメタなネタを見たことがないので、誰かに宛てたネガティブキャンペーンにはならないはず……ですよね? 置いといて。 「私のネコミミがどうやって生えたかだなんて、誰にも分からないと思いますけどね。 もちろん、私も含めて。 開発段階ではネコミミがあった、なんて話も聞きませんし」 「そんにゃことは分かってるにゃ。 そこまで立派にゃネコミミはもう、生産時のバリとか不良品ってレベルじゃにゃくて、もうオカルトの領域にゃ。 そう簡単に他の神姫で再現できるにゃんて思ってにゃいにゃ」 「そうですか。 それなら、どうしますか」 さっきのメタに付きあわせたお詫び、というわけではないけれど、ここは敢えて疫病猫の話に乗ってみた。 そうでもしないと――何かしゃべらないと、頭の中でガンガンと鳴り続ける警鐘でコアがどうにかなりそうだった。 アームには力が入るようになった。 脚はまだガタつくけど、なんとか動きそうだ。 視界の右隅に放り出した大剣ジークリンデが、左隅に片手剣ブラオシュテルンが見える。 一飛びで両方を回収するのは無理そうだ。 それなら―― 「決まってるにゃ。 分からにゃいものは調べるまで――目の前にサンプルがあるにゃら、バラして中のCSCまで調べ尽くすだけにゃ!」 ドリルを高速で回しながら疫病猫が飛びかかってくるのと同時に、私はジークリンデがある右側へ、身を投げ出すように跳んだ。 8匹目 『G.P.M.』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/654.html
そのいち「前夜」 僕はモニターから目を離すと、そのままPCの傍らで座っている体長15㎝ほどの『少女』に視線を移す。 僕の視線に気が付いた『彼女』は、僕の目を確認すると「にひゃー」と満面の笑みを浮かべた。 「もう少しだけ、我慢してくれるかな?」 「全然平気なーのでーすよぉ♪」 彼女――MMS TYPE CAT 機体名『猫爪』、固体名『ティキ』――は歌うように答えた。 その言葉に僕は少しだけ笑いながらうなずくと、眼鏡を上げて再びモニターに目を移す。 もう一息。 僕は緑色の装丁をしている炭酸飲料をあおるように口に流し込んだ。 これは僕がティキと初めて会った、あの数日間の話。ほんのわずかだけ前の事。 その頃の僕は、オタク気質のクセにいまどきの高校生のフリをしていたから、まるで武装神姫については知識が無かった。……もちろん興味はあったけど、やっぱり高校生としての見栄もあったからチェックなんてしてなかった。 個人的な不幸と、身内の不幸。そしてチョットばかりの幸運が僕とティキを引き合わせたんだ。 順を追って説明すれば、ある日何の前触れもなく僕はその時付き合っていた彼女に振られた。彼女から告白してきたというのに、二股を掛けられていたのだ。……僕等ぐらいの年齢じゃ、それはものすごい不幸だと信じてしまえる。 で、そのショックから立ち直る時間も与えられず、僕は親父を亡くした。さして仲が良いってワケでもなかったけど、彼女に振られた事なんて消し飛ぶくらいには頭が空っぽにはなれた。 幸い、母方の祖父が僕らを援助してくれると言ったので、僕と母は路頭に迷う事無く済んだけども。 葬儀も終わりしばらく日がたった後、親父の私物の整理をするため、僕は初めて親父の書斎に入った。 その時発見したのがティキだった。 親父の書斎で机の上のベッドみたいな機具――後で分かった事だけどクレイドル――に横たわり、微動だにしない15cm弱の大きさの人形。 正直に告白します。最初見たとき父に対して怒りに似た感情を持ちました。40後半になろうというおっさんが、家族にも内緒でナニを後生大事に持ってたんだ! と。 だから、というわけでも無いけど、僕は人形ごとそのベッドを払いのけてしまった。 かたん、という乾いた音と、がしゃり、というぶつかり合う音。 「痛っ」 そして声。 「…………は?」 思いもよらぬ言葉。 「くぅぅぅぅ~~~~っっっ…… 旦那さ~ん、痛いのですよぉ~」 そこには―― 頭をさすって涙目になって……動いている、さっきの人形があった。 僕はその人形を見て、思考が真っ白になった。 そんな僕をその人形は『発見』したらしく、じっと僕の目を見る。 「……………………」 「……………………」 「……………………」 「……えっと、どなたなのですかぁ?」 なおもポカンとしている僕にその人形は、人差し指を添えて首を傾げて問いかけた。 お世辞にも行儀良く、とは言えない様でその人形――神姫――は僕の目の前で座っている。 この娘が『武装神姫』である事に気がついたのは、お互いに名を名乗ってからだった。 「なるほどですよぉ~。つまり雪那さんは旦那さんのお子さんなのですねぇ♪」 何かを納得してる風だけど、僕はそんな余裕はなかった。 いくら僕が無知とは言え、まるで知識がないわけじゃない。 少なくとも「所有者を無くした神姫は機能を停止させる」くらいの事は知っていた。『武装神姫』じゃなくても、『神姫』そのものはすでに世の中に浸透しつつあるのだから。 だからこそ、僕は彼女――ティキ――の話を聞きながらも、彼女の説明書を読み漁る。 大事な事は黙ったままで。 「雪那さん、聞いてるですかぁ?」 「うわっ」 説明書と僕との間に、彼女が顔を割り込ませる。 そうして僕が驚いたのを確認すると、満面の笑顔を浮かべた。 「だから、ティキと雪那さんは兄妹みたいですねぇ♪」 なにが「だから」で、どうしてそんな結論が導き出されたのかわからないけど……こんな笑顔を見ちゃうと、親父が死んだなんて言えないよぉ。 そうやって考えると神姫の機能停止って、神姫に対して負荷を与えない為の適切な処置なのかもしれないけど、一体そこの所をメーカー側はどう捕らえているのか? って、今はそんな事に思いを馳せている場合じゃなく。 「雪那さんはなんだか難しい顔してるですねぇ?」 ……誰のせいでこんな顔していると思っているのか。 そんなこんなで二・三日もたった頃、メーカーに問い合わせというごくごく基本的な手段にやっと気がついた僕は、サービスセンターに電話をした。 その間僕は、ティキに親父が死んだ事も告げられず、そしてお袋にティキの事を言う気にもなれず、一人で悶々としていた。 その気分を打開するはずの電話で、僕はもっと悩むことになる。 『神姫にオーナーが亡くなった事を告げれば、自分から機能を停止するはずです。それが嫌なのでしたら神姫の設定をリセットするしかありません』 そんな事を聞きたかった訳ではなく。 確かにそれが一番の方法なのは解っていた。けれど僕は、AIにしろなんにしろ、心を持つ『神姫』という存在の側に立った答えを聞きたかったんだ。 メーカー側のその『回答』に軽く失望した僕は、またティキがいる親父の書斎へと向かう。 一体どうしたら良いのか。僕の中にまだ答えは無い。 「雪那さん、いらっしゃいなのですよぉ♪」 相変わらずティキはこの部屋を親父と自分のものとして認識いていた。 「……元気?」 「ティキは元気なのですよぉ♪ 雪那さんも元気ですかぁ?」 この突き抜けた笑顔に、僕はぎこちない笑顔で答える。 「それにしても、旦那さんは今日も帰ってこないのですかぁ?」 少し拗ねた様な口調で首を傾げた。 「う……ん、そうだね。出張なら、ティキも連れて行けば良かったのに……ね」 その時の僕には真実を告げる事なんてやっぱりできなかった。 それから一週間も過ぎた頃、さすがにティキも親父の不在に対して疑問を感じたらしい。 その日部屋に入った僕を出迎えたのは、涙目になったティキだった。 「……雪那さん……ティキは、ティキは旦那さんに捨てられたのですかぁ?」 その言葉に僕は絶句。 「だから、……だから旦那さんは、ティキの所に帰って来ないのですよねぇ?」 「ち……違うよ!」 僕の声は存外に大きかった。 「あんなのでも、ティキにとっては良いオーナーだったんだろ? だったら何も言わずにティキを捨てたりするもんか! だから……だから……」 「なら、なんで何時までも帰って来ないのですかぁ?」 「そ……それは」 何時もの様な都合の良いウソがとっさに出てこない。 「だって、だって……」 そういってうずくまるティキは、そこで更に何かに至った。 「あ……? ああああぁぁぁぁ――――!!」 「ち……違う! そうじゃない!!」 「――雪那さん…… 旦那さんは」 「そんなんじゃない!!」 「死 ん だ ん で す か ?」 ティキのその顔は作り物とは思えないくらいに悲壮で、それなのに生きているものとは思えないほどにゾッとするものだった。 あぁ、ここまでだ。 もう僕は自分にもこの娘にもウソをつけない。 僕は天井を仰ぎ、親父が死んでから初めて涙を零した。 「親父は……親父は仕事帰りに事故に巻き込まれて――」 ティキの顔はますます無表情になり―― 「死んだよ」 そして目を見開いた。 僕はティキから眼を逸らす。 僕のその言葉はおそらくティキを『殺す』。でも、捨てられたなんて誤解したまま心が消えてしまうより、本当の事を伝えたかった。 こんな形で伝えたかった訳じゃないけれど。 扉に寄りかかり、そこに崩れて、俯いて泣いた。 親父の死を自らの言葉で認識し、理解し泣いた。 そして、ティキを殺してしまった事実に泣いた。 「よし、出来たっと」 僕はそういって背もたれに体を預けた。炭酸飲料の缶の中身は、すっかり空になっている。 「マスタ、お疲れ様なのですよぉ♪」 そう言うと、ティキは僕に笑顔を見せる。そっちこそお疲れ、と言いながら、僕はティキとPCを繋いだコードをはずした。 「ふにゅうぅ……っぅうんん……ぅんっ」 ティキが体を震わす。 「……大丈夫?」 「っふぁ……大丈夫……ですぅ☆」 ティキはいつもコードを外す度に、今みたいなチョット鼻にかかったような声をあげて体を小刻みに震わせる。 ……不具合か何かなのかな? その度に僕は不安を感じるのだが、当のティキが「何でも無いったら何でも無いのですよぉ!」と顔を赤くしてまで強く言うので、僕としてはそれを信じるしかない。 「さて……と、これで今度のデビュー戦の準備が整ったね」 「ハイですぅ♪」 デビュー戦。と言っても公式戦に出るわけではなく、あくまで草試合。付け焼刃で知識を集めた僕は、それでもようやくバトルへ参加する事が出来るようになった。 親父もそっち方面に興味があったらしいが、時間が無いくせに凝り性なため、ついぞバトルに参加する事は無かったそうだ。 「取りあえず試運転と行こうか。装備付けてみよう」 そういって僕は基本のパーツを付けていく。基本、と言っても猫爪の基本武装ではない。 親父は他の神姫の素体は一切保有していなかったくせに、何故か第二段までの各々の基本武装および、TYPE RABBITの武装だけをコンプリートしていた。……ヴァッフェバニーって、コアパーツ付いてなかったっけ? とにかくそんな訳だから、僕はティキの特性と、自分の好みとで好きにパーツを選べると言う、他のオーナーから恨まれても文句言えない贅沢を味わっている。 そんな中から僕が選んだのは―― 鉄耳装・改 buAN FL012 胸部アーマー exOPT KT36C1 キャットテイル exAM FL013 01スパイクアーマー ×2 exOPT VLBNY1 リフトガード/L・R exOPT VLBNY1 脚部アーマー/R exOPT VLBNY1 収納ポケット/L・R WFブーツ・タイプ・グレイグ/L・R リアウイング AAU7 で、リアウイングにオリジナルの情報集積ユニットを搭載し、有線で鉄耳装・改と繋げている。空いている左大腿部には、自作の鞘を装備させておいた。 更に武装として、 モデルPHC ハンドガン・ヴズルイフ 親父のコレクションにあった西洋剣 GEモデル LC3レーザーライフル ちなみにLC3レーザーライフルはお手製接続パーツによりリアウイングに装着した。 「で、この剣は一体なんなんだ?」 「風の魔装機神の剣ですよぉ♪」 「???」 「でぃすかったーって言うのですよぉ♪」 「あー……いや、知らない、悪かった…… で、どう? 着け心地悪いところ無い?」 「大丈夫なのですよぉ♪ と言うよりむしろ快適無敵なのですぅ♪」 そういうとティキは早速、広いとはいえない部屋の中を飛び回る。 「マスタ、ティキはこの装備がとっても気に入ったのですよぉ♪」 「そいつは良かった。ティキが気に入ってくれたんだったら僕も嬉しいよ」 本当に楽しそうに飛び回るティキを見て、僕もなんだか幸せな気分になってくる。 しばらく飛んでいると、ティキは僕の頭の上に降り、そしてそのままうつ伏せになる。 「さすがに少し疲れたですぅ☆」 「あはははは、まだ慣れていないからね。明日から少しずつ慣れていこうな」 「ハイですぅ♪」 僕はティキの元気のいい返事を聞くと、頭にティキを乗せたまま電気を消し、親父の書斎だった部屋を後にした。 「明日天気が良かったら外で飛んで見よう」 「本当ですかぁ☆ うっれしいのですよぉ♪」 僕らはまだ本当の意味で過去の思い出から巣立ってはいないのだろう。でも、それでも僕は前を見る。 え? 結局この『ティキ』は親父の『ティキ』と同じなのかって? もちろんそれは…… 終える / つづく!
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/363.html
前へ 先頭ページへ 畜生…。 畜生! 畜生!! 「畜生ッ!!!」 あの青瓢箪ッ! アタシの無敗記録に泥塗りやがって!! 絶対に、絶対に許さない……! 彼女はバーチャル・バトルマシーンの中から主人へと、思わず声をかけた。 「ご主人様……」 ハウリン型MMS、主から授かった名前は”トロンベ”。 ドイツ語で竜巻という意味だ。 「……何よ、まだ終わっていないじゃない。早く全部壊しなさいよ!」 「…了解しました、ご主人様」 とても少女のものとは思えない刺々しく、荒々しい言葉に視線を落として短く応えた。 0と1の信号の上に築かれた仮想現実の世界。 低く唸る用途不明の機械や、緑色の液体が充満するカプセルが密集する施設内部。 フィールド名”秘密工場”。 薄暗い工場に灯る明かりは赤と黄色のランプと天窓から差し込むか細い光。 そして、マズルフラッシュと爆炎のみ。 ハウリン型の基本武装は十手、棘輪そして吠莱・壱式とプチマスィーンズの四種。 近接型のストラーフ型やマオチャオ型、射撃型のアーンヴァルとは違ってそれなりに万能である。 アーマーも防御力を上げつつも機動性を殺しておらず、MMSの中でも汎用性が高いといえる。 その為、初心者であってもそれなりに勝ち進めるのがハウリン型の利点である。 一方で一点飛び抜けたものが無いのも事実。 よって、ハウリン型のオーナーはある程度実戦をこなすと一点に特化した装備に変更する傾向にある。 もちろん、水野アリカとこのトロンベも例外ではない。 アリカは”大出力・大火力を基に短期決着”のスタイルを選んだ。 その為に今のトロンベはデフォルトと程遠いものと成り果てている。 アーマー類はデフォルトと同一。 しかし、両腕にはGEモデルLC3レーザーライフルを三つ三つで計六門 腰から脚にかけてハイパーエレクトロマグネティックランチャーを四つずつで計八門 背中には吠莱・壱式を四門備え、全身のありとあらゆる部位に大中小のミサイルを無数に装備。 その見た目は、歩く砲台といった感じである。 ハウリン型の機動性を完全に殺し、射撃性能に特化した装備。 全てはあのストラーフに打ち勝つ為に。 ただ、それだけの為に。 トロンベは非情にゆったりとした歩みで薄暗い工場内を徘徊している。 現在のトレーニング・メニューは百人斬り。 即ち、100体のCPUMMSを撃破するまで終わらないトレーニングである。 現在撃破数は69体。 その間にトロンベが負った傷は極僅か。 致命傷は一つも無く、全て掠り傷程度である。 薄暗い工場に閃光が瞬く。 トロンベの、ちょうど真上から奇襲を仕掛けてきたマオチャオ。 しかしトロンベは慌てる事無く背中の蓬莱・壱式上に向けて、放った。 マオチャオがハウリンに到達するよりも速く、弾丸はマオチャオを貫いた。 四発の銃撃を胴体に受けたマオチャオはデータの塵へと化す。 完全に消え去るのを見届け、ゆっくりと歩み始めた。 「26分54秒……」 アリカはコツコツとディスプレイを指先で叩きながら呟いた。 「遅い」 「申し訳ありません…」 トロンベは主人の刺々しい視線を受け、深く頭を下げた。 「謝ったからってどうなるモンでも無いでしょう! 何でもっと上手く戦えないの!? あのストラーフだったらもっと速く終わってたわ! アンタはアレに勝たなきゃいけないのよ!?」 ヒステリックに叫ぶ主人に、トロンベはただ黙って頭を下げることしか出来なかった。 「いらっしゃいませー……って倉内君か。珍しいね、ウチに来るなんて」 「客に向かって珍しいとはなんですか」 「ははは、だって君はパーツとか自分で作っちゃうし、修理も大学で出来ちゃうでしょう?だから珍しいなぁ~、てね」 「まあ、用があるのは俺じゃなくて相棒の方なんですけどね」 「ああ、成る程ね」 ここは”ホビーショップ・エルゴ” 俺が今軽い雑談を交わしたのが店長の日暮 夏彦さん。 何年か前に親父さんの遺した模型店を神姫向けのホビーショップに転向して頑張っているらしい。 このホビーショップ・エルゴはそれなりに名の通ったショップでもある。 その理由の一つは品揃えの良さ。 個人経営の利点を活かした高品質・低価格でありながら武装・衣装を問わない品揃えの良さは大手ショップと同等だ。 その他にも店長の人柄の良さや大型バトルスペールなど。 それらの事からかなりレベルの高いショップだと言える。 「お久しぶりです、うさ大明神様」 「はい、お久しぶりです。ナルさん」 そして、忘れちゃいけないこのショップの目玉。 それが”うさ大明神様”と呼ばれるヴォッフェバニー型MMSだ。 彼女は何と言うか、とても個性的な出で立ちをしている。 頭は普通のMMSと変わらないのだが、身体が無いのだ。 というか、胸像? 本来EXウエポンセットに付属するヘッドパーツの彼女には、ディスプレイ用の胸像パーツが付属している。 彼女はその胸像のままなのだ。 しかも、店内に備え付けられた1/12スケールの教室、その教壇に備え付けられたハコ馬の上に。 その様子は正にシュール。 そして、このシュールなうさ大明神様が催す”神姫の学校”こそが、このショップの目玉である。 元を辿れば店長の学生時代に遡ると言うが、詳しい事は知らない。 俺が知っている事は、小学生などの学校に神姫を伴えないオーナーに代わっての神姫預かり、人間社会の勉強サービス。 そしてその神姫の学校が大人気で、俺の相棒もそのファンであるということだけだ。 もっともナルは別に授業を受けに来た訳でなく、戦闘のアドバイスを聞きに来たのだ。 うさ大明神様は教育だけでなく、戦闘についての知識も豊富だ。 その為、上位ランカーの神姫がアドバイスを請うことも多々在るという。 俺の相棒はさっさと胸ポケットから飛び降りてうさ大明神様の講義をかなり真剣に受けている。 はてさて店長の言うとおり、俺はパーツやらなにやらの事はは全部自分で出来る。 だからショップに用はないのだが、冷かしというのも居心地が悪い。 仕方が無いので内部パーツ系の棚に向かう事にした。 シリンダーアクチュエータとサーボモータのスペアが減ってきていたので丁度良い、と自己完結する。 が、しかしだ。 このショップの品揃えにはやはり目を見張る物がある。 メーカー純正パーツは当然の用に揃えられており、その他メーカーのパーツ類等も一通り網羅されている。 ここは聖地”秋葉原電気街”の専門店と同等かそれ以上の品揃えを誇っている。 だからついつい俺も本気でパーツ選びをしてしまう。 あれやこれやと手に取って、性能と値段を見比べて自分の懐と睨めっこ。 男というのは何時までたってもこういうものが好きなのだと言う事を改めて実感する。 三十分くらいだろうか。 俺がパーツと睨めっこを続けていた時間は。 ようやく買うものを決めた俺はカゴを片手にレジへと向かう。 その途中、うさ大明神様と相棒の様子を見るがまだまだ談義は終わらない様子。 何時の時代も女というのはお喋りが好きだな、とか談義が終わるまでどうやって暇潰ししようか、とかその他諸々の思惑を頭の中で巡らせている間にレジについた。 レジには先客がいたのでそれを待つ。 なんとなく先客の買っている物に目が行って少し驚く。 ありとあらゆる銃火器パーツがカゴの中に山を作っていた。 どんなバカかボンボンかと思って、その先客に興味が沸いた。 興味が沸くのと同時に何か嫌な予感が頭をよぎった。 嫌な予感がよぎったが俺はそれを無視して先客の様子を探る。 身長は160cm前後といったところだろうか。 後姿しか解らないので何ともいえないが、多分女だ。 しかし、そんなに銃火器ばかり買ってどうするんだと俺は心の中で苦笑した。 「まいどありがとうございました~」 店長の声がした。 清算は終わったのだろう。 俺も清算を済まそうと歩を進めた。 先客は振り向いて出口に向かおうとした。 そこで、俺と先客は鉢合わせる形になった。 心底、後悔した。 「…っ! 倉内 恵太郎、アタシと勝負しなさいっ!!」 「ワタクシハクラウチケイタロウデハアーリマセーン」 「くだらないマネしてんじゃないわよっ!」 最悪だ。 俺の前にいた先客、それは水野 アリカだった。 彼女はこの前のサバイバル・バトルからというもの、俺を見かけるたびに勝負を挑んでくるのだ。 運悪く彼女と俺は同じ町に住んでいるらしく、遭遇率は割りと高い。 俺としては同じ相手と何度も戦いたくもないので会う度に何とか巻いているのだが……。 最近会うことがめっきり減って油断していたところで、また見つかってしまった。 というか、今回は俺の不覚だろう。 彼女は曲がりなりにも神姫オーナーだ。 そしてここはそれなりに名の知れたホビーショップだ。 ……欝だ、死のう。 「さあ、今日こそは逃がさないわよ!」 「だーかーら、俺は同じ相手とは二度と戦わないって言ってるでしょうに」 これだけで引き上げてくれれば苦労はしないのだが……。 「なら大丈夫よ」 「は?」 「アタシのトロンベは生まれ変わったのよ! 超攻撃型MMSとしてね!!」 もう何を言っても無駄だろう。 そろそろ腹を括るトキかしらー。 「……はいはいわかりましたよお嬢さん。そこまで言うならお相手致しましょう?」 「…相変わらず糞ムカツクわね」 凄まじく冷たい視線を感じるが、そんなもんはスルーだ。 「店長、バトルスペース借りますね」 個人経営にしては上等な四面体のバトルスペース。 俺は四面体の一辺、簡易クレイドルがある一辺でナルのセッティングを施している。 不幸にもバーチャルバトル用のデータを持っていたので今回はそれを使う。 ……データも装備も持ってない。って言えば巻けたんじゃないの? 何か聞こえてくる気がするが、そんなもんはスルーだ。 一方、バトルスペースを挟んで対面する形の彼女もセッティングを施していた。 あきらかに銃火器満載と言った感じで、思わず溜息が漏れる。 「ナル~、こっちの準備はOKですよ~。そっちの準備はOKですか~?」 「はい、準備はOKです、マスター」 「はい~、では健闘を祈ります~」 備え付けられたコンソールを操作してナルを仮想現実の世界へと転送した。 同じく備え付けのディスプレイにナルの姿が顕れる。 それから間もなく、彼女の準備が出来たのだろう。 彼女の神姫、トロンベがディスプレイに顕れた。 顕れて絶句した。 まるでハリネズミのように備え付けられた銃火器の数々。 もはや犬型とは言い難い風貌に俺は軽く鬱になる。 「覚悟しなさい、倉内 恵太郎!」 「……は~いはい」 彼女の咆哮とほぼ同時にバトルの準備が整った事を告げるアラームが鳴った。 それと同時にバトルフィールドが決定される。 バトルフィールドは”荒地” 見渡す限り不毛な大地。 空にはどんよりと薄暗い雲が居座っている。 まさに俺の心模様そのものだ。 そこにナルとトロンベが転送される。 「地の利はアタシに味方しているようね?」 勝ち誇るような彼女の台詞に俺はもっと鬱になる。 が、その台詞にも一理ある。 荒野のフィールドには遮蔽物の類は存在しない。 その為、有利なのは砲戦型か高機動型となる。 「……ナル、徹底的に叩きのめしといてちょ」 「イエス、マスター」 俺はもう疲れたので、一言指令を伝えてバトルスペースを後にした。 「ちょ、アンタ何処行くのよ!」 「喉渇いたから自販~」 トロンベの脚部に備え付けられた八門のハイパーエレクトロマグネティックランチャー。 それはレールガンと呼ばれる類の火器である。 レールガンは電力を供給すればするほどに弾丸の速度は上がり、理論的には光速すらも突破出来る。 が、一介の武装神姫たるトロンベにはそれほどの電力は持ち合わせていないので精々音速くらいが関の山である。 それでも武装神姫相手には充分過ぎる速度なのだが。 そのハイパーエレクトロマグネティックランチャーから放たれた弾丸が音速を超えて飛翔した。 大地を抉り、大気を裂いて、眼前に立ちはだかる物全てを打ち壊さんと飛翔する。 目標はトロンベの前方10sm位置するナル。 音速を超えた弾丸がナルを貫いて試合終了。 トロンベはそうなることを願っていた。 が、現実はそう甘くなかった。 八つの弾丸は確かにナルに直撃した。 が、それはナルの身体を後方に押し出す程度だった。 ナルは左手に握る刃鋼、それを地面に突き刺し、剣の腹で音速を超える弾丸を防ぎきった。 もっとも、無傷という訳ではなく刃鋼の表面には八つの弾痕が薄く残っていた。 先手はトロンベ。 後手は、ナルだ。 ナルは地面から刃鋼を振り抜き、大地を蹴って駆けた。 腰のブースターを全開にしての疾駆。 10smを縮めてトロンベを両断しようと駆けて行く。 だが、トロンベとて伊達に鍛錬を積んだ訳ではない。 距離を詰めてくるナル目掛けて全身のミサイルを掃射。 幾重にも重なる爆音と共に、無数の大小ミサイルが白い尾を引きながら飛来する。 文字通り雨の様な爆撃。 ナルとミサイル群とは直ぐに衝突した。 否。 ミサイルはナルと衝突することは無かった。 ナルは真っ先に飛んできた大型ミサイルの弾頭を刺激する事無く、踏み台にして跳躍。 踏み台にされたミサイルは地面と激突、多数のミサイルを巻き込む大爆発を巻き起こした。 ナルはその爆風を背に受けて更に加速し、トロンベへ一直線に突っ込む。 その後ろでは、目標を見失った中小ミサイルがあさっての方向へ飛び去り、地面と衝突している。 ―――一閃。 刃鋼の重量とナルの速度を乗せた一撃は、トロンベの左側を斬った。 が、トロンベ本体は左腕を多少掠った程度で主な被害はハリネズミの如く付けられた武装だった。 トロンベ本体のダメージこそ少ないものの、余波である衝撃はトロンベを震わせた。 「っく!」 多少よろめきつつも体勢を崩す事無く、次の攻撃―――背中に残った二門の蓬莱・壱式を背部に向ける。 銃口の先では、ナルがスライディングの要領で勢いを殺している。 その距離、およそ15sm。 ナルが再接近するにしてもそれまでに充分迎撃可能と見たトロンベは蓬莱・壱式に弾丸を装填し、発射しようとした。 が、それとほぼ同時。 ナルの右腕に装着された銃鋼から無数のビームが放たれた。 背後からの攻撃に一瞬反応が遅れるトロンベ。 だが、すぐさま回避しようとしたが重装備が祟り回避できず、ほぼ全弾を背中で受け止めてしまう。 その衝撃に耐え切れず、トロンベは前のめりに倒れてしまった。 「何してるのよっ! 速く立ちなさいよ!!」 アリカの叱咤がトロンベの通信ユニットに響く。 直ぐに体勢を立て直そうとして、そこである事に気付いた。 ハリネズミの如く備え付けられた火器の類。 その重量が邪魔して上手く立ち上がることが出来ないのだ。 「…っく……う……ぁ……」 何とか立ち上がろうと両腕に力を入れていた、その時。 「やはり負け犬は負け犬ですね」 ナルの刃鋼がトロンベを文字通り両断した。 「……そんな」 ディスプレイに踊る『YOU LOSE』の文字。 アタシはそれを前に言葉を失った。 荒野というフィールドに完全砲撃仕様のトロンベ。 それに加えて相手のマスター不在。 地の利、時の利はアタシに味方していた。 それなのに。 「あれ、負けちゃったの」 青瓢箪が缶コーヒー片手に戻ってきた。 「なんで…なんで……」 アタシの頭は混乱していた。 何か言いたい筈なのに、何も言葉に出来ない。 出てくるのは『なんで』という疑問のみ。 「なんで負けたのか理解できない。そんな顔だね」 「……当たり前よ。アタシのチューンアップは完璧だったわ! トレーニングでも完璧だったのに……!」 そう、何十何百何千回とトレーニングを積んだのだ。 それなのに。 「……そうだわ、神姫よ。神姫の性能が劣っているのよ! それ以外に負ける要素なんてありえないわ!」 アタシは一つの結論に達した。 トロンベとあのストラーフの元々の性能が違うからアタシは負けたんだ。 これ以外にアタシが負ける要素は見当たらない。 「…お嬢さん。そんな事を言っているようでは何百年経っても俺には勝てないよ」 「そんな事無いわ! 神姫の性能が悪いからアタシは負けたの! だからもっと良い神姫を買えば…!」 「機体の性能差が戦力の決定的差でない。という言葉がある。今回、お嬢さんの神姫の性能だけでみるならば、俺のナルと同等だったと思う。しかし、お嬢さんは負けた。しかもマスターのいない俺のナルに、だ。これが何を表すか解るかい?」 「…神姫の性能が同じ? だったら一体何が悪いのよ!」 本当にコイツは訳の解らない事を抜かす。 「二対一でも戦力で負けていたと言う事さ。そしてそれは経験に大きく起因する。もし仮にお嬢さんが新しい神姫を買ったとしても、それは赤子と同じ。まさに赤子の手を捻るが如し、てね」 まあ、確かにそれも一理ある。 「だったら、トロンベにもっと場数を踏ませれば…!」 「それでようやく相打ちといったところかな。お嬢さんが俺達に勝つためには、足らない物がもう一つある」 「なによ、勿体つけてなんでさっさと言いなさいよ!」 青瓢箪は一口缶コーヒーを口にした。 「それはお嬢さん自身で見つけないと意味が無いのさ」 「……はぁ?」 コイツ、本当は何も考えてないんじゃないの? 「しょうがない。最大唯一のヒントだ。神姫は唯の玩具じゃない。笑いもすれば、泣きもする……もっとも、受け売りだけどね」 「…訳わかんないわよ」 「それが解ったらもう一度戦おう。リアルでね」 リアルバトル。 その言葉に何故か身体が強張った。 上位ランカー戦の主であるリアルバトル。 仮想現実ではなく、現実でのバトル。 使用される武器は全てリアル。 即ち受ける傷もリアル。 最悪の場合、神姫本体すら壊れる可能性を孕んでいる。 だが、これはチャンスでもある。 あのストラーフを破壊できるかもしれないのだ。 「…良いわ。その勝負受けて立つわ」 「日時はそちらの好きに決めてもらって構わないよ。それじゃあ、失礼するよお嬢さん。」 そう言うと青瓢箪はさっさと出て行ってしまった。 後に残されたアタシはただ帰る準備をするだけだった。 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1947.html
神姫。 身長14cmの精密機械。 それは人類…いや、日本人が待ち望んでいた「ともだち」であった。 世に出て数年後、彼女たちははホビーへと進出する。 技術力を結集した武装を身に纏い、それぞれの意思を掲げ戦う機械の姫。 武装神姫の誕生である。 「友達、かぁ」 近くの電気店の中をほっつき歩く少女が一人。 長い髪をツインテールに纏め、若干目尻が吊り上っている。 背は175cmぐらいだろう。 「突然すぎるなぁ、転勤だなんて」 ブツブツ呟きながら「神姫コーナー」と書かれたエリアへ。 専門店でなくても神姫は取り扱っている、サービスの質こそ落ちるが。 フルセットが陳列された棚を見る、陳列といっても殆どが売り切れている。 残っているのはムルメルティア・飛鳥・イーダ・マオチャオ、イーアネイラにティグリース。 実は奥にアーンヴァルがあったのだが気付かなかった。 「……マオチャオ…かな?」 いったん手に取り 「でもなぁ…イーダもいいし…」 すぐに戻す。 こんなことを始めてすでに一時間、決断力が低いのが彼女の欠点であった。 「決まんない、…でも機会なんて今回しかないし…」 ふと手に取るはムルメルティア。 パッケージのトビラを開け中を見ると 「…あれ?」 違和感を覚えた。 パッケージ絵の精悍さとは違った何かが…。 次の瞬間、彼女はそのムルメルティアを持ってレジへと向かっていた。 サイズに合わない大きな電子音が、新しい命の目覚めを告げる。 「…ん」 丸い顔に小さくついた口がゆがむ。 「ふ…ふぇっ!? 今起きますっ」 大きな目をぱちっと開き、驚き飛び起きようとして…起きれずに頭を打った。 「がっ!? …ふあぁぁぁぁ~っ」 痛む頭を抱えて涙目になる少女。 「だいじょうぶ?」 「みゅ~っ…、うう。はい、大丈夫です…」 かわいらしい声がそう告げる。 ふと思った、マーモットとはいえ小動物的だよなぁと。 パッケージでの精悍さなどかけらない。 「え~っと。私のぉ、オーナーさんですよ…ね?」 「うん、わたしは古代すすみ。よろしくね、スィーマァ」 「はい! これからもよろしくお願いします、ますたー!」 二人の出会い、物語の歯車が動きだした。 あれから一週間くらいなのかな? 新年になって、おじいちゃんの店(模型店なのだ)にいっぱいお客が入っている頃の話。 「ますたー」 どうしたなの? 「私も一回闘ってみたいです」 …言いだすと思ったの。 大みそかの昼間、某地区の神姫センターで行われた大会の中継があったんだけど、その時鶴畑っていうふとましい子の神姫を破った神姫がいた。 マオチャオ…だっけ?、その子があり得ないほどの火器を持った騎士型の神姫に勝利したの。 分身とかリアブースターで空飛んだりとか、きわめつけは必殺技…。 うん、あれ見たら自分でもやってみたくなるのねやっぱ。 「ますたぁ、標準装備でいいですからぁ……おねがいします」 ああ、そんなかわいらしい表情と真剣な目で見ないで。萌え死んでしまうの。 「それじゃ、明日のお昼に神姫センターにいきましょうか」 「はぁい」 今思うとずいぶん平凡な会話だったんだなぁ~と思う。 いろいろあったからなぁ、今まで。 特攻神姫隊Yチーム?に戻る トップページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1199.html
水辺に泳ぐ女神達──あるいは入水(前半) 2037年の夏もピークを過ぎ、秋の気配が密かに忍び寄っている。 私・槇野晶も稼ぎ時に働き、また“妹”たる神姫達と共に様々な所へ 物見遊山に出かけたが……思えば“夏らしい事”は余りしていない。 そこで、私は彼女らにこんな提案をしてみる事としたのだな。有無。 「なぁ、皆……八月最後の定休日、ここは一つ泳ぎにでも行かぬか?」 「え?!い、いいんですかマイスター?でも、水着なんてあります?」 「案ずるな、ちゃんと作っておいた。だからこそ、今日しかないのだ」 「……塾の宿題も終わったし、それならボクらも安心して行けるかな」 「でも……マイスター、本当に……ほんっとうに“大丈夫”ですの?」 ロッテが、何度も念を押す様に私を見上げて問い掛ける……そう言えば あの事を知っているのは彼女だけだったか。心配するのも無理はない。 だがそれ故に連れていってやらないというのは、“妹”達が可哀想だ。 「む……正直、カナヅチが治ったとは言い難い。苦手は克服したがな」 「ふぇ?ま、マイスターって泳げないんですか?そんな印象は~……」 「……泳ぎが下手なだけであって、入水即溺死等という事はないぞ?」 「それでも意外なんだよ。インドア派でも結構動くもん、マイスター」 「歩くのはいい、走るのも蹴るのもな。だが……イマイチ泳ぎはなぁ」 準備をしつつも私は鼻を掻く。何故か水が苦手でな、理由は分からん。 ロッテと暮らし始めたばかりの頃は本当に酷くて、文字通り溺れたな。 今はマシだが、まだまだ自在に泳げるとは言い難い。浮き輪は必須だ。 と言う訳で愛用の浮き輪を、空気を抜いた状態でバッグへと押し込む。 ……待てそこ、笑うな!?猫柄の浮き輪位、別に構わぬだろうがッ!! 「なら、アルマお姉ちゃんは……クララちゃん、お願いしますの♪」 「わかったんだよ。これもマイスターの為だもんね……大丈夫かな」 「いざとなったら、あたしが動きますから……って、マイスター?」 「……いや、さっきから何を相談している?皆、準備は出来たのか」 貴様らを咎める間、ロッテ達は何事か密談をしていた様だ。気になるな。 まあ、深く追求してもしょうがない。皆が水着と足ヒレ等を用意したのを 見届け、私も替えの服やアンダー等をバッグに詰め込んで、ビルを出る。 照り付ける様な“クレイジーな”暑さを堪えつつも、ノースリーブの私は 両肩と胸ポケットに神姫を搭載するお決まりのスタイルで、電車に入る。 「ふぅ……ミストでワンクッション置いても、この寒暖差は堪えるな」 「相変わらず、車両の冷房は殺人的に効いてるんだよ……電気の無駄」 「MMSのあたし達は何ともないですけど、マイスター大丈夫です?」 「む?少々冷えるな。ビルの居住区も結構エアコンは効かせてあるが」 「でも個人的な好みに配慮がない分、ここの方が数段寒いですの……」 ぼやいてもしょうがないとは理解しているが、流石にこれは肌に悪い。 極力風の当たらない席に座り、急ぎ海浜区域のレジャー施設を目指す。 夏休みの盛を過ぎた今ならば、都心と言えども混雑は若干緩和される。 案の定、たどり着いたプールの人混みはテレビで見る程多くなかった。 「さて、着いたぞ皆。まず入場券を買ってと……大人一人頼めるか」 「え、え?あのお嬢ちゃん?……お父さんかお母さん、いないの?」 「馬鹿者ッ!この通り、私は子供料金ではないぞ!……それからだ」 「す、すみませんすみませんっ!……え、これは武装神姫、です?」 最初から子供扱いする不埒な受付嬢を喝破し、“妹”達を台へ降ろす。 彼女らの扱いがどうなっているのか、今回はリサーチしなかったのだ。 という訳で、彼女ら自身の口から自分達の処遇について聞いてもらう。 「はいですの♪わたし達は料金とか必要ですの、受付のお姉さん?」 「え?え、えーと……持ち込みはいいですけど、水は大丈夫です?」 「はいッ。水中で胸を開いたりしなければ、なんともありません!」 「そう言う物なんですね……わ、分かりました。でも壊れても……」 「弁償はしない、だね?それ位はボクらも分かってるもん、大丈夫」 受付の若い娘は、神姫を知っている様だった。説明の手間が省けたな。 そう言う訳できちんと私の入場料を払い、四人で女子更衣室へと赴く。 ……こら、此処からは見るなッ!!女子の着替えを覗くな貴様ぁッ!? 「マイスターの水着はセパレートタイプなんですの?ってこれは~……」 「有無、お前達と同じデザイン……というより、この水着を元にだな?」 「あたし達の水着を作ったんですね?柄や色は違ってますけど……ふふ」 「皆、お揃いなんだよ……パレオまであるもん、マイスターに感謝だよ」 ──────ちょっと遅い夏、精一杯堪能するよっ。 次に進む/メインメニューへ戻る