約 2,307,722 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/587.html
叡智を刃に、想いを力に(前編) “かまきりん”と称されていたフォートブラッグは、本人の意思によって 外道・猪刈久夫の手を離れ、今は私のスーツケースで眠りに付いている。 前回の事もあった為か、それを咎める者は誰もいなかった。まあ恐らくは 彼奴めの事だ。懲りもせずに再び神姫を虐げるのだろうが……今はいい。 偽善だろうが見栄だろうが、私達に出来る事をしただけだ。悔いはない。 「さて……騒がしかったが、これでクララのバトルも出来るか?」 「そうですの。今日はアルマお姉ちゃんだけじゃないですのッ!」 「頑張ってくださいね、クララちゃん?あたし達、応援しますッ」 クララにも専用の“Heiliges Kleid”と変身道具の“W.I.N.G.S.”を 装備させてやる。その腰はやはり、他の“姉達”と比べ些か寂しい。 彼女に欠けている物……普段から全形態で使う為の、彼女の武器だ。 銘だけは既に“ヘル”と決めているものの、試行錯誤が続いていた。 白兵でも射撃でもない非消耗品の武器。これは意外と難しいのだぞ? 「……うん。ボクも“戦乙女”の名に恥じない戦いをしてくるもん」 「その意気だ。お前には“魔術”がある、さあ蹴散らしてこいッ!」 『槇野晶さん、バトル開始時刻です。オーナー席に付いてください』 館内アナウンスが響く。私はエントリーゲートにクララをセットし、 見届け人のロッテと戦い終えて着替えたアルマを肩に、座席に着く。 今回の対戦相手は……見た事がない、切れ長の目を持つ男性だった。 「“アラクネー”。相手は初陣の様だが、手加減するな?」 「嗚呼、分かっているよ……今日も某の仕事をするだけだ」 男の神姫は、市場へ滅多に出回らず“ヴァーチャル神姫アイドル”とさえ 言われる幻の武装神姫、フブキタイプだった。見るのは初めてでないが、 彼女が“忍者刀・風花”も“大手裏剣・白詰草”も持たんのは初めてだ。 その姿も、どちらかと言えば“忍”というよりは現代の“スパイ”だな。 もっと装備の確認をしたかったが、ウェアラブルPCでの分析よりも早く “アラクネー”と呼ばれる神姫は、エントリーゲートに入ってしまった。 『クララvsアラクネー、本日のサードリーグ第36戦闘、開始します!』 そして、幻影の戦場が姿を見せた。舞台は……高層ビルとその周辺か。 ビルの外に出て戦う事も、ビルの狭い部屋を利用して戦う事も出来る。 今回のクララには都合の良い舞台と言えた……む、会話が聞こえるな。 「某は躊躇せず、そなたを木っ端微塵に“解体”する。覚悟は良いか?」 「……戦いに望む時から、ボク達は何時でも戻れない覚悟をしているよ」 「大した度胸だ、あるいは怖い者知らずか……どちらでも構わないかな」 「戦いってそういう物だもん……さあ、“態度”でお互い見せようよ?」 愉快そうに一息笑うアラクネー。移動型のカメラが二人の対峙を映す。 そこは、少し広めの会議室。その両端で、お互い睨み合っている様だ。 先に動いたのはスーツ姿の“アラクネー”であった。その指には……! 「某の名は“女郎蜘蛛”アラクネー!名の力、とくと知れ!」 「!?……高速で、部屋の壁面を蹴って移動している!!」 「まずは此方から往くぞ……丸腰のハウリンッ!!」 「ッ!?……糸?」 トリッキーな動きで飛びかかるアラクネーを、間一髪で避けるクララ。 だが彼女の髪が数本、はらりと床に落ちる。その軌道には……鋼の糸。 それが“蜘蛛の糸”の如く壁から、クララを切断しようと伸びたのだ。 厳密にはワイヤーのリールは、アラクネーの手中に幾つもあったがな。 「どうした、止まっていると死ぬぞ!?……ふっ!!」 「させない……ッ!?パイプ椅子が、こんな簡単に……!」 「チタン粉をコーティングした“斬鋼糸”だ、その程度」 「“斬鋼糸”……それが貴女の武器であり、名の由来」 素早く背後を取るアラクネーに向けて、私服であるコート姿のクララは パイプ椅子を盾代わりに利用した。御陰で首が飛ぶのは免れたものの、 スチール製のパイプ椅子は火花を散らして細切れに!……恐ろしいな。 「丸腰で戦場に叩き込むとは、そなたの主も鬼畜だな」 「……この姿ならまだ、でもボクには“力”がある」 「何?……ッ!こ、これは……先程のアレか!?」 言い放ち瞑目するクララ。その胸が、耳が、背中が……鮮やかに輝き、 幾重ものラインが、アルマの時と同じ様に“聖なるドレス”を形取る! どうやら先程のアルマを見ていたらしく、アラクネーも行動を起こす! 『“W.I.N.G.S.”……Execution!』 「……ふん、ただ丸腰という訳でもなかったか」 “姉”のドレスとほぼ同形状の、鋼鉄の衣をまとったクララ。 カラーパターンとその“腕”以外は、同じ性能・同じ素材だ。 そしてクララの腕には、16本の“柄”が下部に生えていた。 「貴女がトリッキーな手を使うなら、遠慮はしないよ」 「そうか、だが見てみろ。そなたは“蜘蛛の巣”の直中だ」 対するアラクネーは、数秒の“変身”の隙を突き“罠”を……って そうか、これかッ!!と、感心している場合でもないな。クララは 精緻な技術を以て編まれた“蜘蛛の巣”に、周囲を囲まれていた。 だがクララは冷静に部屋中を見渡し、アラクネーと対峙したのだ。 「動けばその鎧ごと斬り裂く。動かずとも、急所を穿つがな」 「……固定箇所、64。固定方法、チタン製のアンカーボルト」 「ッ!?……出来るだけ読まれぬ様に編んだのだが、やるな」 だがどうする?とワイヤーを向けるアラクネー。後で知った事だが、 このアラクネー……所詮サードリーグとは言え上位に属するらしい。 それ程の手練れ相手、普通の神姫ならば今頃はバラバラだったろう。 だがそんな強敵を前にしても、クララは冷静沈着に“柄”を抜いた! 「苦無?いや、ダガーか……だがそんな物で何になるか」 「……“蜘蛛の糸”を断ち切る、菩薩の手になるんだよ?」 ──────解けない数式だって、この娘は解いてみせるよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1735.html
「くっ……!!」 「ほらほら!どったのランちん?」 「ラン、焦るな!ミコちゃんのペースだぞ」 「わ、わかっています…し、しかしこれでは…」 ランは手にした愛刀コルヌの刀身でミコの撃ち出すアルヴォ PDW9の弾丸を防いでいた 「みゃはは、そうは問屋がおろさないってね~。ランちんに近づかれたらしんどいし、私のスタイルじゃこの距離が一番なんだってさ。ご主人さまが言うにはね」 「くっ……」 ランはその身を右横に回転させた 「おっと」 すかさずミコの狙いも移動する 「はぁああ!!」 低い姿勢のまま真上へと飛びあがり両手でコルヌを頭上へ高々と構えたラン 「うわっち!!」 すかざずミコは振り下ろされる剣劇をバックステップでかわした 「やるねぇランちんw」 「ミコ姉様の弾幕を抜けるには多少の無茶も必要ですので…!」 言うないなやミコとの距離を縮めるラン 『三段突き!!』 頭部・胸部・腹部に向かって素早い突きがミコを襲う そのミコはというと大きな二つの眼を怪しく光らせて… 「うにゃにゃーーー!!」 と叫びながら両の手に持ったモノですべて撃ち落としていた 「なっっ!?」 「にゅふふのふ~www」 「そ、それはノア姉様の『干将・莫邪』ですか!?」 「そだよ~~かりてきちったww」 「あの子…いつの間に…」 俺の横にいるインターフェイス姿のノアがあきれた目でバトル画面を見ている 「ミコ、あなた何勝手に持ってきてるんですか」 「いいじゃん。ちょっとだけかしてよ~」 「ずりーぞアネキ!姉さんの武装なんて使いやがって!」 「にゅふふ~うらやましいでしょユーナ。でもさ、ユーナだってノアねぇから赤丸クン借りてるじゃない」 「あ、赤丸?…いや。まぁ確かにそうだけどさ…」 「いいじゃない赤丸クン。ノアねぇと一緒に戦ってきてる経験は頼りになるし、かっわいいしねぇー」 「や、まぁ頼りにはなるしイイ奴だけどさ…」 「しかも最近二人で熱心にバトルの研究とかしてるみたいじゃないの~」 「…アネキ、何が言いたいんだ?」 「にゅふふふ。何がってそりゃ…」 「ミコ、かがめ」 「うに?」 俺の指示通りかがんだ瞬間水平にミコの上をコルヌが空を切る 「バトル中にのんきな奴だなお前らは…」 「にはは…失敗失敗…w」 「くは~~、どうにもこうにもならねぇな。射撃も接近戦もこなすミコちゃん相手ってのはどう戦っていいもんか…」 「つかず離れずの距離感覚を保ち、たとえ割って入れたとしてもすぐさまその対処方を明人さんが指示しています。それに忠実に正確に動けるミコ姉様…ノア姉様の強さが目立ち過ぎているというのもありますが…ミコ姉様も強い!」 「ミコちゃんは『強い』ことに含め…『上手い』んだ。戦い方が、その駆け引きがな…」 「にゅふ~~伊達に『銃剣士(ガンブレイダー)』なんて呼ばれてないよん♪」 そういえばそんな二つ名もあったなぁ… 俺自身すっかり忘れてたけど… 「うに!?ご主人さまヒドイー!!」 「いいから前向けお前」 「さて、どうしたもんかなランスロット?」 「そこで私に聞いちゃうんですか!?」 「実際に戦うのはお前だしな。指揮官としては現場の意見も聞き入れねばならんのだよ」 「……はいはい」 「マスターの意見をそんなあつかい!?」 「ではお答えさせていただきますが…今の私のスキルではミコ姉様に太刀打ち出来るのは接近戦だけかと思います」 「ふむ、へたに小細工するよりかは徹底的に一本筋を通すべきだと?」 「はい。『銃剣士』であるミコ姉様の『剣士』の部分とも手合わせ願えるなら…」 「ん~……ならやってみっか…」 「ん、作戦タイムは終了か?」 「おうよ、作戦名は…」 昴が話す中ランは『牙突』のような構えをとる 「『ガンガン行くぜ!』だ」 ダッシュとともに鋭い突きを繰り出すラン 「にゃあ!」 右手に持った干将でいなすミコ 「はああぁぁ!!」 ランはそのまま止まることなく体を一回転させて逆胴を打ちにいく 「にゃんのぉぉ!!」 二人の白熱した剣はバトルアリーナを踊るように舞っていた… 「で、結局はアネキの勝ち…か」 ここは近くの神姫センター 今日はエルゴは休みだったので久しぶりに来てみたんだが 今はひとバトル終えてティールームで休憩中 「やはりまだミコ姉様にはかないませんね」 「でもランちんなっかなかのもんだったよ?」 「そ、そうですか?有難う御座います!」 「ふむ、確かにいいレベルなんだけどな…」 俺から見てランに足りないもの… 「そうだな、ランも何か自分専用の武器を持ってみたらどうだ?」 「私専用…ですか?」 「ああ、ノアの《クロノスベル》やミュリエルの《アポカリプス》、レイアの《マステマ》みたいな…な」 実際武装の良し悪しで勝負が決する……とまでは言わないがその割合が大きいのは確かだ 武装を使いこなせるだけの実力があればそれに見合うだけの名刀、名機が必要となってくる 「俺が思うにランは今の『コルヌ』で戦うのはつらいだろ?」 特に接近戦型の神姫となると獲物の重要性は高い 「確かにそうですが…」 「なら私のお下がりになりますがあれを使ってみてはどうですか?」 紅茶の入った缶をテーブルの上に置いたノアはそう言った 「あれって…『紅蓮』のことか?」 「『紅蓮』?」 「ちょっと待ってろ。確か『紅蓮』の入ったボックスは……あ、あったあった」 俺は武装関係の入ったアタッシュケースの中から桐の箱を取り出す 「なんだそりゃ?」 「ノアが《クロノスベル》を使うまで愛刀としていた龍刀【紅蓮】だ」 桐箱を開けると中には『紅蓮』の名の通りの紅色の刀が入っていた 「しかしこりゃ……刀と言う割には神姫サイズならちとでかくないか?」 「そうだ。正確に言うと大太刀と言ったほうがいいだろうか」 「刀だからな…ランは騎士だから扱いには馴れないだろうが…使ってみるか?」 「は、はい!!」 「では向こうのトレーニング用媒体で私が扱い方を教えましょう」 「はい、ノア姉様。お願いします」 「うにゃ!私も行く~」 「アタシも!」 三人はノアに連れられて席を立ちトレーニング用媒体のほうへと向かった 「すまねぇな明人」 「なに、気にすんな。あれはなかなかの名刀だからな。桐箱の中に入れとくよりもランに使ってもらった方がいいのさ」 あいつもそれを望むだろうしな… 「んじゃ有り難く使わせてもらうな。いやぁ丁度よかったぜ、最近香憐ねぇと孫一だけじゃなくて葉月とレイアまで実力付けてきてるからなぁ…うちらの周りの女性達は強くてならんねぇ」 「ははっ、まったくだ」 実際のところ俺達元八相のメンバーのうち半数が女性であるというこの事実 うん、全くもって女性は逞しくなったと思う 「いやはや葉月も我が妹ながら逞しくなっちまってなぁ…兄としては喜んでいいものなのかどうか…」 「あ、そういや葉月のことでお前に伝えとかなきゃならんことがあった」 「ん?」 「あいつ、大学にファンクラブが出来てるらしいぞ?しかもかなり大規模の」 …………はい? 「ちょっとまて、ファンクラブ?」 「いや、前からそれなりに人気はあったみたいだがな。なんてったって鳳条院っつうめちゃめちゃ良家の御嬢様なのに誰にでも分け隔てないあの性格だろ?顔だってそこらのアイドルグループなんかよりは上のレベルだ。ありゃ世の健全なる男どもがほったらかしにしとくわけねぇわ」 「いや、まぁ、そりゃ……」 確かに兄の俺からしてみても葉月がモテるという話は納得のいくものではあるんだが… 「それがこの前の鳳凰杯でかなり目立ったろ?いや、勇ましいのなんのって男どもだけならず後輩の女の子にも慕われちゃって大変なんだとさ」 「……はぁ、そりゃお気の毒様だわな…」 後輩の女の子って…あれか、「御姉様ステキ!」的なスイッチでも入っちゃったってことか… 「んで問題が…だな」 …なんかやな予感 「来週葉月の大学であるイベントが行われるらしい…」 「あるイベント?」 「ああ、なんでもそのファンクラブのやつらを中心にかなりの数の学生が武装神姫を始めたらしくてな?まぁ元からやってるやつもいたんだそうだが…それを好機と武装神姫サークルのやつらが主催で大学全体の神姫バトルロイヤル大会を行うんだと」 「ふーん。でもそれがどうしたよ?発端はどうであれいたって普通だと思うぜ?」 「話は最後まで聞けって、こっからなんだよ問題は」 いやに焦らすなこいつは… 「この武装神姫サークルの連中、葉月がレイアを神姫にし始めてから何度か勧誘してきたらしいんだがな、その度に断られてるんだ。それでもこいつらは未だ諦めてないらしくてな。それに今回の騒ぎだ。葉月をサークルに入れればそれにつられて大量に入ってくるであろうやつらを狙ってんだと」 なんじゃそりゃ… 「大量に会員集めて入会費をふんだくろうって狡いマネしようとしてるんだわなぁ」 「んなやつらほっとけばいいじゃねぇか…現に葉月はそのサークルには入らねぇんだろ?じゃあこの話もチャラになるんじゃねぇか」 「それがな…そうもいかねぇんだ」 「?」 「やつら、葉月がしつこい勧誘を迷惑がってるけれど強く断れない性格に付け込んで賭けを持ち出してきたらしいんだよ」 「…賭け?」 「ああ、なんでも葉月に対する勧誘を今後一切行わない代わりとしてバトルロイヤルの優勝者特典として『葉月に一つだけお願いを叶えてもらえる権利』を付ける事を交換条件にしてきたんだと」 「…おいおいおい、ちょっと待てよ」 そんなもん激しく向こうに有利じゃねぇか… サークルメンバーが勝てばもちろんその特典を使い葉月にサークル入りをさせて目標達成を狙うだろう 腐ってもサークルメンバーだ、葉月の追っかけで始めた初心者程度には負けないだけの自信があるのだろう 加えて特典につられてその追っかけ初心者どもも大勢参加する バトルロイヤルの性質上、いくら葉月とレイアが鳳凰杯決勝リーグまで進んだ実力者でも優勝するには圧倒的に不利だ 「んで、やっぱり葉月はその条件…」 「ああ、受けちまった」 「………やっぱりそうなるか」 今日も俺の予感は冴えていた 「と、いうわけで来週の金曜日、そのバトルロイヤルに参加することになった」 「……いや、まぁそりゃいいんだが」 「うにゃ、大体はわかったんだけど…」 「……相も変わらず妹さん想いですね、ご主人さま」 「うっ……しょうがねぇだろ、認知しちまったんだ。兄貴としてはほっとけるかよ・・・」 ここで見捨てたら男がすたるってなもんだ 「しょうがないですね…で、その大会の参加者は何人ぐらいの規模なんですか?」 ……一番いい辛い所を聞いてくるノア 「んと…それがな…」 「…ご主人さま?」 「?どうしたんだアニキ」 「バトルロイヤルなんでしょ?こっちは味方が私、ノアねぇ、ユーナ、ランちんに孫いっちゃん、レイアっちにミュリエルんだから計7人だね。あ、冥夜んも手伝ってくれれば八人になるよ」 「んじゃぁこれだけいれば50人位相手でもなんとかなるよな。なんたって『緑色のケルベロス』に『黒き狼』、『ガンブレイダー』まで揃ってるんだ。もしかしたら70人ぐらいでも大丈夫なんじゃねぇ…」 「……………150人」 「………へ?」 「………あ、アニキ?い、今何て?」 「………だから…150人同時プレイのバトルロイヤル」 「「は、はあああああぁぁぁぁぁぁっっ!!??」 「………ご主人さま…」 うん、えっと、いや、なんかもう…ゴメンナサイ… 続く メインページへ このページの訪問者 -
https://w.atwiki.jp/gcmatome/pages/2879.html
ラブルートゼロ Kisskiss☆ラビリンス 【らぶるーとぜろ きすきすらびりんす】 ジャンル 乙女向け恋愛アドベンチャー 対応機種 プレイステーション2 発売元 アスガルド 開発元 ディンプル 発売日 2010年4月28日 定価 通常版 6,800円限定版 7,980円※共に税別 判定 クソゲー ポイント 2010年クソゲーオブザイヤー据え置き機及び乙女ゲー部門次点 見えている地雷キャラクターに魅力なしあまりに薄いボリューム数世代以上に拙い戦闘シーン&システムこの出来のために約一年の発売延期連発原作者がゲーム購入者に陳謝 クソゲーオブザイヤー関連作品一覧 概要 シナリオ 問題点 評価点 総評 余談 概要 原作は無料の携帯コミック(書籍版もある)。5度も延期を繰り返し、当初の発売予定から1年以上経過しての発売となった。 いわゆる「乙女ゲー」であるが、発売前からクオリティの低さが話題に上り、見えている地雷とされていた。 乙女ゲーとは恋愛系ギャルゲーの逆の女の主人公による男キャラクターの攻略恋愛物であり、普通のギャルゲーと同様にクソゲー判定の基準は比較的緩い。 にもかかわらず、全てにおいて低レベルな出来で話題となった。 通称「ラブ√」「√」。 シナリオ 「校庭にあるモミノキの影がちょうど十字架にかかるとき告白すると、必ず上手くいくんだって…」 恋が叶うはずのその時、クラスメイトの和哉をふった八重子。 その瞬間、二人は異世界(ラビリンス)へ飛ばされた。 ふったばかりの和哉といきなりラビリンスで二人きり。 恋人・光一がいるのに、和哉を意識してしまう八重子…。 ラビリンスに飛ばされた主人公・八重子は、クラスメイトの和哉、恋人の光一と共にラビリンスを救う為、元の世界へ帰る為にゼロと呼ばれる謎の生物と戦うことに! ラビリンスには不思議なアイテムがいっぱい。不思議な魔法で、時にはアブナイ恋愛イベントだって発生しちゃうことも…! 問題点 基本的に1日を3つに分け、朝と昼のパートで探索、夜のパートで相手となる男キャラとの会話するシステムだが… 探索は完全に運任せ。ヒントなどもない。 何が起こるか完全にランダムで、次の周への引継ぎ要素などもない。 また、探索できる場所が少ない。 アイテム探索については、実はゲームの進行に影響がない。 まるで一夜漬けの突貫工事で作ったような、崩壊しきった戦闘システム。 探索で闘うことになることがある「ゼロ」(敵モンスター)は1種類しか存在しない。 グラフィックは黒蛇。一応パラメーターの違いはあるようだが、それが実感できないレベルで差が無い。 描写そのものも一枚絵がひとつあるだけで変化なしという驚きの手抜き仕様。そのためすぐに飽きてしまう。 ゲームバランス面も、本作は戦闘をメインにしたRPGではないという点を考慮してもひどい。 序盤でもフル装備にすることが難しくなく、その状態になればダメージをカンスト状態で与えられる。 装備がなくても終盤の敵ですら2ターンで倒せる有様。まともなバランス調整やデバッグすら行われていないのは明白。 麻痺の状態異常があるはずなのだが、その存在が全く確認されていない。よって、「まもる」や「ひっさつわざ」のコマンドを使う必要がない。 「ひっさつわざ」はダメージを受けてゲージを溜めないと使用できないが、故意に戦闘を長引かせでもしない限り使う機会はない。しかも、そこまでしても専用グラフィック1枚のみ。 こんな有様にしてまで実装するくらいなら、いっそ完全に排除しアドベンチャー一筋で制作した方が遥かにマシなレベル。 アドベンチャー部分のインターフェースも最悪の一言。 遅いスキップ機能や選択飛ばし&クイックセーブ&タイトル戻り機能無し。とどめにメッセージ速度変更不可。…アドベンチャーゲームとしての基礎すら崩壊している。 余計なタイミングでボイスが入るため、いちいち面倒。 情報画面がほとんどのタイミングで見られない。 グラフィックやシナリオのレベルも高いとは言えない。 絵のレベルは、アマチュアの同人ゲームの類でなら悪くはないが、プロが手がける企業の商品としては厳しい水準。 原作の作画担当者も、自身のサイトで「塗り忘れがある」「立ち絵の画面比率が狂っており、縦長になってしまっている」と指摘している。ゲーム版の作画は半分しかチェックできなかったらしい。とはいえ全ての責任は自分にあると謝罪しているが。 キャラクターもシナリオもぶっちゃけありきたりで、これといった斬新さや作品特有の面白みに欠ける。台詞周りも陳腐なため、魅力や本作ならではの個性がほとんど感じられない。 それだけならまだしも、整合性のおかしい部分が多すぎるためなおさら白ける。 そもそも原作では複数のキャラクターの物語が同時進行するのである程度臨場感がある中読めるのだが、このゲームではルート攻略を狙ったキャラクターの物語しか確認出来ないので、ゲームが省かれたキャラクター分濃度の薄まった歯抜けになる、という点も問題。 異世界に飛ばされた上に犠牲者なしでは怪物を根絶できないという絶望的な状況は、攻略対象キャラの1人である物理教師の「西岡輝政」が強引に解決させてしまう。 異世界からの脱出方法は謎の数式で、怪物「ゼロ」を根絶する方法は謎の薬品であっさり解決。 原作でも西岡が薬品で事態を解決するという展開だが、それだけであっさり解決した訳ではなく、他のキャラクター達の活躍あってこそ…という濃厚な展開になっている。このゲームのように彼一人の独壇場となり、「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」という有様になったりはしていない。 好感度は攻略したい人物と一緒に行動するだけであっさりMAXになる。 夜の会話パターンが乏しいため、あっさりと話題がなくなる。 評価点 声優が豪華で女性人気の高い(当時の)若手声優が揃っており、演技面も相応にしっかりしている。 ゲーム自体が悲惨なだけに、これぐらいしか評価しようがないという事実があるわけだが。 総評 ゲームとしてのほぼ全ての面で致命的な問題や悪質な手抜きが散見される、典型的なクソキャラゲーの1つ。 その中でも発売より遥か以前からクソさ加減を露にしまくっているという、悪い意味で新鮮な要素をも兼ね揃えている。 ゲームとしてのシステムが酷くても原作らしささえあれば…と逃げ込んでみても、人物的に薄っぺらい割にやたら超人的な活躍ばかり押し出すばかりなキャラクター、捻りの無い陳腐なシナリオ展開など、無惨に改悪されたストーリーやキャラクターへの肩透かしが待ち受けるという二重苦である。 筋金入りの原作ファンだったとしても、数少ない評価点である声優達の熱演や最低限のシナリオ大筋の為なら多くの問題点を受け流せる…という豪胆さがない限りオススメ出来ない。 余談 やたらと延期を繰り返した。 当初は2009年3月26日に発売日が決まったものの、その後5度も延期し、結局発売されたのは1年以上も後であった。 前記のようにこのゲームは同名の携帯コミックが元となっているのだが、このゲーム発売後に原作者がゲーム購入者に陳謝するという珍事が発生している。謝罪文は以下の通り。 いろいろ、どうしてこうなった/(^o^)\ という感じではありますがとにかく プレイをした方には申し訳ないです、本当に申し訳ありません…! 原作者は家庭用ゲーム自体は色々遊んでおり後にモンハンシリーズなどの公式漫画の仕事を請け負うほどだが、本作についてはゲーム内容には関わることはなかったとのこと。 クソゲーオブザイヤー(KOTY)において、据置と乙女ゲーの二部門で最終候補入りを果たした。 ちなみに据置版KOTYでは乙女ゲーが最終候補になったのはおろか、話題となったこと自体が初めてである。 初週売り上げは1,000本程度。その後も然程上乗せはないはずで、総計でも2,000本以下の売り上げと思われる。 被害者が少ないという意味では、評価すべきポイントかもしれない。 今となっては入手が困難であるが、それでプレミアがつくはずもなくただのクソゲーとして安価で売り出されるだけの存在である。 なお、開発元のディンプルはこのゲームが発売された直後の2010年7月30日に突如廃業(その後破産)している。 度重なる延期、ゲームの出来から「ゲーム開発している状況ではなかったのでは」との憶測もある。 このゲームの売れ行きのせいで廃業したのかどうかは不明。 2019年には発売元のアスガルドも解散した。(参考リンク)
https://w.atwiki.jp/jinrowiki/pages/960.html
前ページ次ページ村企画 村名 路地裏のラビリンス [#mccc0eba] 概要 [#mb517a4e] あらすじ [#m6ad50f5] 村の目的 [#ld63c9f5] ローカルルール/世界観 [#tde32330] 舞台設定 [#z6da9cc2] 役職設定 [#xd131278] 処刑襲撃設定および指針 [#d7f22ca2] 発言ルール [#jb9426ba] 禁止・推奨事項 [#j57dad75] 進行 [#ya6dbe91] プロローグ [#r5d5a515] 一日目 [#h539a66c] 二日目以降 [#tb2fae3d] 墓下 [#med93535] エピローグ [#t8d3f065] 参加募集 [#h3b980f9] コメント [#w36b1220] 村名 路地裏のラビリンス 概要 村立てました。http //perjury.rulez.jp/sow.cgi?vid=137 飛び入り募集のため、プロローグはギリギリまで取ります。6月27日26時に開始予定です。 ※飛び入りがあった場合の為に、全員人犬から多少配分変更しています。 ※キャラクタ予約欄作りました。プロローグが長いので、先に予約だけしておいてゆっくり入って頂いて構いません。 村名 路地裏のラビリンス 村建て人 tsubaki 開催国 人狼議事RP鯖 種別 ストーリー重視RP 更新間隔 48時間 投票方法 記名投票 発言制限 1200前後 キャラセット 人狼議事、和の国(ダミー未定) 募集人数 11人 編成 首無騎士、人犬、狂人、狂信者、王子様 更新時刻 26時00分 開催時期 6月22日村立て、6月27日開始予定 役職希望 有効 あらすじ 扉がひらけば、そこは誰もいないさびれた路地裏。 驚く貴方の目の前に現れたのは、黒衣に身を包んだ銀髪の『死神』。 死神は言います。『帰してほしいなら、殺し合え』 彼に七つの魂を捧げなければ、永遠に路地裏の迷路に迷い込んだまま。 さあ、貴方は生きてもとの街に帰る事ができるのでしょうか。 村の目的 この村の目的は『キリングを楽しむ』ことです。 いわゆる殺し愛をどうぞお楽しみください。 また、RP村初心者も歓迎します。テーマがキリングに特化されておりますので、 殺し殺されの練習にもどうぞ。 また、【この村はバトル必須ではありません】。←重要 殺し方に規定はありませんので、自由に殺し合ってください。 ローカルルール/世界観 舞台設定 死神は退屈しのぎに人間を殺し合わせるのが趣味のようです。 貴方が迷い込んだのは、見渡す限り路地裏が広がるだけの世界。 廃墟の街ではなく、つい今しがたまで人が生活していたような明るさを持った世界です。 村の時間は昼下がりから進む事はありません。 時計は動いているのに、止まったまま。 初夏の午後、柔らかな日差しの中でおどろおどろしい殺しあいが行われます。 死亡すると魂の結晶が現れます(死体は消えません)。 それを七つ集めて死神に捧げれば、元の街に帰してくれる、らしいのですが・・・? (結末はEPで生きているひとにおまかせ) 役職設定 役職については、基本的に差は有りません。 騎士は積極的に殺す相手を選べる(襲撃)という程度です。 皆同様に、死神の暇つぶしに巻き込まれた一般人です。 傷を負いながらも生き延びる人(人犬・王子様)もいます。 もしかしたら、中には殺人犯のような、積極的に殺しに向かう人もいるかもしれません。 (基本的に設定は各自におまかせです) 処刑襲撃設定および指針 襲撃:殺す予定の相手にどうぞ。 処刑:殺す予定の相手にどうぞ。 ・処刑での殺害は首無騎士以外の方が優先です。 ・誰も殺せない、もしくは殺すつもりがない場合は自投票をお願い致します。自投票を外してしまった場合は、投票先への接触を試みてください。 ・委任は使用禁止です。 発言ルール 白ログ:中身発言禁止です。 赤ログ:中身発言禁止です。ちなみにテレパシーのようなものは使えません。 青ログ:中身発言禁止です。使い方は自由です。幽霊でもifでも可。 灰・メモ:自由に使って頂いて構いません。 ※背景消して読む方のために、中身発言には全て記号/*つけてください。 ※エピローグに入ったら独り言にて中身発言解禁です。(天声ありません) 禁止・推奨事項 ・16歳未満の年齢設定は行わないで下さい。 【人狼議事ゾーイ・ジョージ・トニーは使用禁止です】 ・パワーバランスには出来るだけご配慮お願い致します。 進行 プロローグ それぞれの日常をどうぞ。時代設定は現代です。 特にどこの国、地域といった想定はありません。 また、異なる国の生まれでも、迷宮内では不思議と言葉が通じるようです。 一日目 扉が開くと…そこは見知らぬ路地裏でした(何の扉かはお任せ)。 四つ辻に並んだ扉。その中央で待っていたのは、黒い服を纏い大鎌を持った髑髏でした。 二日目以降 サイモンが誰かに殺されてしまいます。死神のゲームは動き出しました。 魂の結晶を七つ集めないと、貴方はこの路地裏の迷路を永遠に彷徨うことになってしまうのです。 墓下 死亡した人々の魂は消滅したり、路地裏に浮遊したまま取り残されてしまうでしょう。 エピローグ エピローグに入ったら独り言にて中身発言解禁です(天声ありません)。 各自自由に感想・雑談・エピロールをどうぞ。 参加募集 NO ID ひとこと 備考 01 - サイモン ダミー 02 plantsdool どきどき なし 03 匿名L ラスト枠にずさーっ 04 とびいり 頑張る 05 匿名C こそっと飛び入り 06 匿名a 再びCOです 07 匿名B ひっそりこっそり 08 tsubaki 村立てに御座居ます。 09 匿名J ものすごく見切り 10 匿名S 見切り! 11 匿名M 集まれ〜! 12 匿名N こそこそ 【キャラクタ予約】 村立ての時点で予約されていなかったキャラクタからダミーを選びます。 希望があれば和の国も可です。【ゾーイ・ジョージ・トニーは使用禁止です】 NO キャラクタ 備考 0 サイモン ダミー 1 ヨーランダ 見物人(死神役) A グレッグ B ユリシーズ C ラディスラヴァ D エリアス E ビリー F シメオン G クラリッサ H ヴェラ I ズリエル J 沙耶 K ベッキー まちがえてダミーサイモンで立てたよ…orz コメント すみません、諸事情によりCO取り消させて頂きます。申し訳ありません -- 匿名a 諸事情打開の見込みができましたので、再びCOしました -- 匿名a わあ。お帰りなさいませ。村立ってますのでお好きなタイミングでお越しくださいませ。 -- 企画人 空気を読まずに和の国チップを希望してしまいましたが、大丈夫でしょうか…? -- 沙耶希望匿名 大丈夫ですよう。どこかで和国の時間とりますね。 -- 企画人 ありがとうございます。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。夜ならば、大体いつでも入村できると思います。 -- 沙耶希望匿名 明日の昼頃から和の国にしておきます。深夜に議事に戻す予定。 -- 企画人 キャラセット議事に戻してあります。26日26時には開始します。ベッキーとビリーの入村お待ちしております。 -- 企画人 本日25時50分時点での人数で55分に開始します。未入村の方はお早めにお願い致します。 -- 企画人 名前 コメント 前ページ次ページ村企画
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/466.html
ただでさえ憂鬱な期末試験は、予想通り散々な結果で終わった。僕――星野慎一は、今すぐにでも抹殺したい成績表を持って、家路についていた。 いつからだろう、こんな風になったのは。 昔――といっても数年前だけど――は、決して勉強は苦手ではなかった。学校でも、それなりに友達付き合いがあって、楽しかった。 父が、罪を犯すまでは。 ほんの些細な行き違いから口論になって、相手は父を殴りつけてきた。危険を感じた父は、そこにあった大きな灰皿で、相手の頭を殴打して・・・・・・、殺してしまったらしい。 目撃者が居なかったのが、父にとっての不幸だった。正当防衛ということだったが、近辺では、あることないこと、大小さまざまな噂が飛び交った。・・・・・・その火の粉は、僕達家族にも及んだ。 逃げるように、住み慣れた地を後にした。僕は現在、祖父母の所で暮らしている。 なるべく人の通らないような裏道を歩く。とにかく、人付き合いが恐かった。殺人者の息子だとばれるのが恐かった。 「た・・・・・・す、け・・・・・・」 「えっ?」 なんだ? どこかから、声が聞こえた。慌てて周りを見渡すが、誰も居ない。 「助、け、て・・・・・・」 まただ。怪奇現象かとも思ったが、違った。 僕の足元に、15センチほどの青い髪の少女がいた。・・・・・・我ながら、変な形容だと思う。 そうだ、思い出した。最近色々と話題になっている、武装神姫。でも、そんなのがどうしてここに? 「助けて、くだ、さい・・・・・・」 その時僕は、なぜかこの娘を助ける気になっていた。今にして思えば、彼女が人じゃないから・・・・・・。そんな考えも働いていたのかも知れない。 「ありがとうございました・・・・・・」 彼女は僕の机の上でそう言った。よく見ると、身体には無数の傷がある。 「うん・・・・・・、あ、僕は星野慎一。えっと・・・・・・、とりあえず、よろしく」 「慎一・・・・・・様。私は悪魔型MMSタイプ『ストラーフ』、個体名ネロ、と申します」 ・・・・・・なんて呼べばいいんだろう? 聞いてみたところ、 「ネロ、で結構です、慎一様」 とのことだった。それにしても、 「様付けってのはなんかちょっと照れくさいなあ・・・・・・。僕のことも慎一でいいよ」 これが、僕の運命を大きく変える出会いだった。 幻の物語トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2721.html
『マッドサイエンキャット』-1/3 ※ 念のための注意書き ※ 第二章でも同じ注意書きをしましたが、インダストリアル・エデン社製神姫をご存知ない方はおりますまい。 ◆――――◆ バトルをするわけでも、他に用事があるわけでもなく、私はオンラインの茶室を借りることがあった。 月に一度か二度、お金はかからない。 静穏な雰囲気を壊さない程度の和風にしつらえられた四畳半で、ただ時間の過ぎるままにまかせる。 ちゃぶ台を部屋の隅によせて、部屋の中心に仰向けに寝転がって、小窓から、あるいは壁を伝って聞こえてくる自然の音に耳を澄ませる。 竹林を撫でるように流れる風に揺れる音。 絶え間なく水が溢れる池では時々、魚が跳ねた。 私の知る限りここは、最も贅沢に時間を使うことのできる場所だった。 勿論、ここはディジタル信号によって作られた場所であり、本物の自然とは真逆の存在であると言ってもいい。 小窓からは確かにあるがままの自然を見つけることができるが、簡素な戸を開いた先に通じているのは、銃弾飛び交うバトルステージか、もしくはクレイドルに横になっている自分の体だ。 それでも、私を含めたすべてを電子データで作られたこの場所を、私は独占したくなるくらいには気に入っていた。 だから、 「失礼する。我は『清水研究室 室長兼第一デスク長』ゴクラクだ。ふむ? セイブドマイスター殿は休養中であったか。邪魔をしてしまい申し訳ない」 招待した覚えのない奴が戸を開けて踏み込んできて、ましてそいつが顔見知りでなく、さらに清水研究室の関係者とあっては、安らかだったところから堪忍袋の緒が切れるところまで一瞬で到達するのも仕方のないことだった。 機関砲を具現化し(茶室を予約する際のアカウントがバトル用だから、武装も一緒に登録される)マズルの火花が直接当たる至近距離で一発ぶっ放した。 しかしこの侵入者は部屋に入ってきた姿勢のまま右に『ずれた』。 ずれた、という言葉が適切かどうなのか分からないが、少なくとも私には信号機の黄信号が赤信号に変わるように、一瞬の間にこいつの立ち位置が変わったように見えた。 腰まで届くほど長く、羊毛のような癖がある灰色の髪は戸から入ってきた時のまま、少しも揺れ動いていない。 髪は早く動けば動くほど頭に置いていかれるようになびくはずなのに。 弾丸とマズルから出た火花のどちらも侵入者の横を通り過ぎ、戸の向こうへと消えていった。 「そう邪険にされるな。今日は戦いに来たのではない」 しかも全然動揺してない。 見たこともない型式の神姫は戸を閉め、隅にあったちゃぶ台を部屋の真中に置いて、どっかりと胡座をかいた。 「これはつまらぬものだが」とちゃぶ台の上に出された草色の包を私は無視して、ふてぶてしい神姫を観察した。 切れ長の目の奥で、金色の瞳が私をサーチするように怪しく光っている。 無言のうちに試されているような不快感が肌にまとわりついた。 私にはその金色が、濁って濁って濁り切った果てにできた色のように思えてならなかった。 まだ出会って間もないにもかかわらず、こいつは私程度では手に負えないことを直感で理解してしまった。 油断すれば腰が抜けそうになるのを、相手には見えないように必死にこらえなければならなかった。 もし畳の上にへたり込んでしまったら、私は恐らく、この型式すら分からない神姫に屈服してしまう。 戦闘力は疑う余地もなく普通の神姫の枠で測れないレベルにあるだろう。 しかしこの神姫は強さ以上に危険な何かを隠している。 ゴクラク(極楽)なんてものが本当あるとしたら、恐らくこいつが歩く道とは逆方向にあることだろう。 少しでも目をそらそうと、シルエットを全体的に眺め回した。 まず目に入ったのは額からそそり立つ、太くて硬そうな黒い角。 神姫が頭にとんがったものを立てるのは珍しいことではない。 カブトムシやらクワガタなどの神姫は当然のこと、私にだってうさぎのような耳がある。 でもこいつの角は私達の飾りやセンサー、アンテナとは違う、正しい意味での角だと感じた。 威嚇するため、あるいは貫くため。 ポケモンじゃあるまいし、まさか本当に主武装ではないのだろうけど、それだけの威圧感があった。 角の次に目に入ったのは、顎の先端から真っ直ぐ下に降りた先にある肌の谷間だった。 谷間に何かを差し込めば力を入れることなく挟めてしまいそうだった。 盛ってやがる。 ムカつく。 腕や足、首元、カーディガンはすべて緑の濃淡で描かれた迷彩柄で統一されている。 密林に飛び込む気満々であるようだが、ボリューム過剰の髪と誇張されまくっている胸元を見れば、どんな場所であっても小賢しく隠れることを良しとしない性分であることが分かる。 関わる気になれず、できることならゴクラクを無視して茶室から出ていきたかった。 しかしゴクラクには、有無を言わせない雰囲気があった。 「一躍有名になられたセイブドマイスター殿と話がしたかったのだ。唐突な訪問であったことはご容赦願いたい」 「私がこの場所にいることは誰も知らないはずよ。どうやって潜り込んだのかしら」 これには答えず、ゴクラクは話を続けた。 「先日の一戦はさすがだった。強者を相手取っても冷静に策を巡らせ勝利してしまうとは、凡百の神姫にできることではない。我が研究室の者共にも見習わせたいものだ」 「ふん、いくら褒めたって私が清水研究室に出すものなんて何もないわよ。あんた室長だって?」 「そうだ」 「なら部下のしつけくらいちゃんとしなさいよ。ギンが節操無く勧誘し回ってるのは研究室の方針?」 「失敗を表に晒してしまったのは研究室として手痛いことだ。ギンの武装がジョーカーのようなものであることはご存知であろう。『大魔法少女』を引き入れることができれば儲けもの、程度に考えていたのだがな」 芽のない欲を出してしまった、と言うゴクラク。 しかしこいつの表情から後悔する気持ちは欠片も読み取れなかった。 すべての感情が瞳の金色の中に混ぜられ、押し殺されているようだった。 「我が清水研究室は強い神姫を求めている。今は第七デスクまで【それなり】の神姫を揃えたつもりだが、まだ不足している。我に匹敵するレベルとまではいかずとも、そうだな、少なくともギン程度の神姫をあと数体は揃えたい」 ギン程度。 その言葉を聞いた私は心を揺らさずにはいられなかった。 「何と戦ってんのよアンタは。世界大会の賞金でも狙ってんの?」 ゴクラクは答えなかった。 まあ、こいつらの目的なんて興味無い。 本当に賞金目当てなら、私の知らないところでどうぞご自由に荒稼ぎしてくださいって感じだ(目の前の神姫がお金なんて俗なものに興味を持つとは思えないけど)。 気になったのは、清水研究室が第七デスクまであるということと、ゴクラクがギンをずいぶん格下に見ているってことだ。 ちゃぶ台を挟んでゴクラクと向かい合うように、私も座った。 セイブドマイスターは具現化したまま傍に置いた。 ゴクラクが持ってきた包の中身が少しだけ気になった。 「第七デスクまであるってことは、他のデスク長もギンみたいに勧誘して回ってんの?」 「そうだ。しかし我は『強い神姫を集めよ』としか命令していない。収集対象と手段は各々に任せてある」 七という数字にいや~な予感がする。 私が目下挑戦中の人間になるための勝利ノルマが七人。 清水研究室のデスク長も七人。 アリベは清水研とは無関係だし、次の対戦相手はマオチャオのリーダーともう決まっているらしいけど、残り四人の中に清水研の連中が含まれないとは限らない。 いや、あのひねくれた神様のことだし、絶対にあと一人くらいは入ってくる。 そのあと一人の最有力候補は今、目の前に座っている。 改めてゴクラクの姿を見た。 刺さると痛そうな額の角、肩幅よりも大きく膨らんだ灰色の髪、無駄にミリタリー仕様の服、そして金色の両眼。 この神姫を相手にして、私に勝つ可能性はあるのだろうか。 「もう一つ質問。あんたの型式は?」 「インダストリアル・エデン社製犀型MMSディアドラ。飛鳥型とは比較にもならないマイナー神姫だ。しかしその性能、特に我の強さはそこそこだと自負している。今日はセイブドマイスター殿に我の能力を伝えるために来た」 「なっ、何よいきなり。教えてって頼んだ覚えはないわよ」 「ディアドラは元来、重火器による制圧を得意としている」 ゴクラクは勝手に話しはじめた。 「しかし我は室長であるが故に雑務が多く、ペンより重い物を持たぬものでな、セイブドマイスター殿が愛用されるような重火器は勿論のこと、ハンドガンのような小型武器であっても携帯するのは億劫だ。武装は最小限まで減らしたい。ところでセイブドマイスター殿は【共振】という現象をご存知か?」 「共振? 共鳴みたいなもの?」 「そうだ。あるシステムにそのシステムの固有振動数で力を加えると、その振動は増幅される。振り子を想像するといい。一定の間隔で押してやれば振れ幅は増幅するだろう。その時の間隔が固有振動数であり、この現象を共振という」 さすが研究室にいるだけのことあって、小難しい理屈を出してきた。 たとえ話で分かりやすく説明しようとしてんのは分かるけど、私のような一般人は専門的な単語を出されるだけで思考回路をフリーズさせてしまうことをゴクラクは知るべきだ。 振り子とか言われても、それを思い浮かべるのに数秒かかってしまうわけで。 「乱暴な言い方をすれば共振とは力の乗法だ。物の思わぬ破損を招く厄介なものだが、我はそれを武器として扱う術を持っている」 「ふ、ふうん」 私はたぶん、すごく重要な情報を聞かされている。 自ら戦術の情報を公開するなんて「バトルでカモにしてください」って言ってるようなもので、そうでなければジャンケンで「私はチョキを出す」と宣言するくらい程度の低い揺さぶりだ。 でも私にはゴクラクの言っていることに嘘はないという確信があった。 にもかかわらず、ゴクラクの短い説明を半分以上聞き流してしまった。 だって難しいんだもん。 【共鳴】を武器にする(あれ? 共振だったけ?)ということは分かった。 でも共鳴を具体的にどうするのかサッパリ分からない。 他には……そう、振り子がどうとか言ってた。 じゃあゴクラクの武装は振り子なのか。 振り子でできることなんて、「あなたはだんだん眠くな~る」の催眠術しか思いつかない。 つまりゴクラクの技は催眠術――いやいや共鳴はどこ行った。 どうしよう、もう一度説明を頼んでみようか。 聞かぬは一生の恥って言うし、清水研の神姫を相手に恥かいたって別になんとも思わないし。 よし、聞こう。 見下されるかもしれないけど、それならそれで早々にお帰り願えばいいじゃない。 さあ聞けセイブドマイスターホノカ。 素直な心でお願いするんだ。 「……で、どうして私にあんたの情報を?」 だめだった。 飛鳥型ホノカさんはちっぽけなプライドと引き換えに重要な情報を逃した。 「ほう、ご理解頂けなかったようだがご質問は無しか。さすがはセイブドマイスター殿、潔くて助かる」 しかも理解してないことがバレてた。 自分の顔がみるみる赤くなっていくのを感じた。 魔法少女になった時くらいの恥ずかしさと自殺願望を抱えきれず、機関砲を再度手に取り弾の限りぶっ放した。 部屋中に何度も炸裂音が反響し、備え付けの調度品が被弾した箇所からひしゃげていく。 ちゃぶ台の上にあった包の中身は一口サイズのヂェリ缶詰合せだったらしく、弾が当たってヂェリ缶が弾け飛んだ。 破片が部屋中に舞って、トリガーを引いても弾が出なくなった頃にはあらかたの物を壊し尽くしていた。 全弾避けきったゴクラクを除いて。 「錯乱されるな。涙が出ているぞセイブドマイスター殿」 「じゃかあしいっ! さっさと答えなさいよ、なんで私に能力ばらしたっ! ええ!? 私を嘲笑うためか! 小難しいこと言いやがってインテリぶりやがってえっ!」 「違う。我が戦闘スタイルを開示したのは、セイブドマイスター殿の信頼を得るためだ。我はセイブドマイスター殿を我が研究室の第一デスク長に――」 「出てけ! 二度と来んな! 次そのツラ見せたら額の角と尻の穴を連結しちゃるかんね!」 「やれやれ、曲がりなりにも『大魔法少女』と肩を並べる御身であろうに。まあよい、一度の謁見で心が掴めるとは思っていない。今日のところは挨拶にとどめておこう」 そう言うとゴクラクは穴が空いて歪んだ戸を強引に、しかし力を込めた感じもなく開けて外に出た。 「そうだ、もう一つ」 いかにも【今思い出したという演技をした風に】ゴクラクは足を止めてこちらを向いた。 「我が研究室の第六、第七デスクの者らが近いうちにセイブドマイスター殿を訪ねると言っていた。その時はよろしくご相手願いたい」 返事の代わりに機関砲を投げつけた。 ゴクラクはここに来た時のように瞬きの間にその場から姿を消し、今度はどこにも現れることはなかった。 ◆――――◆ 「『清水研究室 第六デスク長』クロカゲ」「並びに『第七デスク長』シロカゲ参上!」 今ほど不愉快な気分で茶室から帰ってきたのは初めてだった。 癒しを求めたはずの茶室で、なぜこんなにも嫌な思いをせにゃならんのか。 難しい説明を一方的に聞かされた混乱、悶絶したくなるほどの羞恥、戦力差を忘れさせるほどの殺意、それらの感覚が、ネットワークから帰って目を覚ますことで頭痛に変換されたようだった。 頭痛薬、そうでなければニトロヂェリーが欲しい。 今更になってゴクラクの手土産が惜しくなった。 確か冷蔵庫にはヂェリーがまだ残ってた。 でもクレイドルから動く気になれず、目覚めた時の体勢のまま窓のほうを見た。 「今日は貴様の命」「を頂戴しに参った!」 開け放たれた窓の縁に黒と白の小人が立っていた。 腕を組んで背中合わせに立ち、景観が荘厳なわけでも雷鳴が轟いているわけでもない外をバックに、謎めいた登場を演出している。 黒と紫の忍装束、青いオカッパが少々幼く見えるフブキ。 白と赤の忍装束、赤い長髪を後ろで一本にまとめたフブキ。 二人とも首元にスカーフを巻いていて、外から室内に入り込んでくる湿っぽい風に僅かに揺れている。 忍者のくせに忍ぶ努力すら見られない。 ところで忍者型といえば、最近は『和』の心を捨ててしまった弐式とかいう神姫がいるけど、そういった意味であの二人は古き良きを守る正統派と言えた。 初代フブキとミズキの純正装備を身につけている。 私は和風神姫には、型式を超えた切り離し難いつながりがあると考えている。 紅緒に始まり、飛鳥、フブキ&ミズキ、こひる、蓮華、他少数。 『和』というコンセプトが武装の幅を狭めてしまうきらいがあるものの、単純な性能では語れないひとつの信念と少数精鋭であるというシンパシーは、私たち和風神姫にとって捨てがたいものとなっている。と思う。 それに、忍者型には個人的な思い入れもある。 なにせ忍者型は――唐突に告白するが――私のご先祖様なのだ。 詳しく知っているわけではないが、忍者だった私はホノカゲという爆弾魔で、尋常ならざる理由あって、かの有名な『ドールマスター』に弱者を装い近づいたそうな。 戦闘スタイルは爆弾魔の名に違わぬ卑怯卑劣なもので、バトル開始前からステージ全域に遠隔操作型の爆弾を仕掛けておくというものだ。 バトルの混戦の最中に誰も気付かないうちに仕掛けておいた風を装って、これで何人もの神姫を屠った。 同様の手口で『ドールマスター』を破壊しようとした、が、あっけなく撃退される恥さらしだったという。 せめてもの救いは、そんなご先祖様の噛ませ犬的な姿がWikiに晒される前に、歴史がデータの海に溶けて消えた(ボツになったとも言う)ことだった。 こんな情けないご先祖様でも、私のベースになっていることは間違いない。 そういったわけで私は、忍者には一目置くようにしている。 困っている忍者がいたら積極的に助けようとも思う。 私にできることであれば、漫画を読むことと天秤にかけたうえでお願いをされたっていい。 しかし今日ばかりはタイミングが悪かった。 寝そべったまま手を伸ばしてセイブドマイスターを掴み、セイフティを解除、ハンドルを引いてチャンバーに弾を送り込み、床と肘で大きな図体を固定してファイア。 「「あびゃあっ!?」」 命中したような悲鳴をあげる忍者二人。 しかしちゃんと狙わなかったため、弾は二人の頭上を通り過ぎて窓の外へ消えていった。 舌打ちして、もう一度構えた。 次は当てる。 「お、おい待て! いき」「なり何をするんだ貴様!」 忍者は二人で一つの文をしゃべるという、とても面倒なことをしていた。 黒い方が半分まで喋り、白い方が残り半分の文を引き継いている。 私に向けて手を付き出した「待て」のポーズは二人一緒だ。 焦った表情も一緒。 その芸風は私を馬鹿にしているように思えてならなかった。 いや、絶対馬鹿にしてる。 さっきのゴクラクといい、あいつらといい、どこまでもふざけた連中だこと。 清水研究室、死すべし。 「「ひえええっ!!」」 今度はしっかり狙ったのだが、忍者二人はそれぞれ両側へ跳んで回避した。 ゴクラクのような余裕綽々の避け方ではない、それはどちらかというと逃げる動作だった。 清水研のデスク長だからって、全員がゴクラクやギンのようにずば抜けて強い神姫とは限らないらしい。 まあ、そんなことは私にとっちゃ関係のない話なわけで、まずは黒いほうを屠る。 「ま、待てセイブドマイスター! 分かった、我ら」「が悪かった! だからまず話をしようではないか!」 「あんたらと話すことなんてないわ」 砕けろCSC。 「うっひょお!? だから待てというに! このままリアル戦闘行」「為を続ければ警察沙汰になるぞ! それは本意ではあるまい!」 「む」 それもそうだ。 こんなところで死なれちゃったらこの家が家宅捜索されてしまう。 それはちょっとマズい。 でもあいつらは私の命を取りに来たとか言ってたし、正当防衛じゃなかろうか。 ならば何も問題ない。 「爆ぜろCSC」 黒い方に銃口を向け直すと、とうとう両手を上げた。 黒い方だけでなく遠く離れた白い方まで同じく両手を上げた。 「分かった降参だ! 降参、マジで参りまし」「た! だからその銃を下ろしてください!」 ◆――――◆ 「自分らだって本当はこんな悪役」「みたいなことやりたくないんスよ」 とっちらかったマスターの机の上に忍者二人を呼んで正座させた。 私は二人の前に仁王立ちして、自分はいったい何をやっているんだろうと疑問に思った。 忍者達は、聞いてもいないのに勝手に身の上話を始めた。 「それなのに室長のヤツ、勝手に自分らを第六、第七」「デスク長にしといてこき使うんスよ。酷くないスか」 「知らないわよ」 私のご先祖様もそうだけど、忍者型ってこんなに情けない神姫だったっけ。 忍者のみんながみんな、こうじゃないはずだけど。 きっとフブッホとミズキッチョムの呪いとかそんな理由なんだろう。 「それに自分ら仲良しじゃないスか。だからせめて一緒のデスクに」「してくれって頼んだのに聞く耳持たないんスもん、あの迷彩巨乳」 「プッ、迷彩巨乳ね」 「あれ、姉さん知って」「るんスか、自分らの室長」 ついさっき会ったばかり、とは言わないでおいたほうがいいような気がした。 この二人は迷彩巨乳(的確な呼び名だ)の動きを知らないみたいだし、変に話を持ち出してややこしくなるのは避けたい。 「まあ、ちょっとね」 「マジっスか、すげぇな姉さん。室長って神姫センターと」「か普通の場所じゃ絶対にお目にかかれないレア神姫スよ」 「なんで?」 「そりゃあ強す」「ぎるんスもん!」 二人の眼の輝きが増して、表情に自慢の色が濃く表れた。 なんだかんだ言って自慢の室長なんだろう。 「ここらの地域って実は結」「構スゴいんスよ。知ってます?」 「さあ」 「日本代表レベルの神姫が五人も集まってるんスよ。五人とも公式戦みたいな表には出」「ないだけでガチっスもん。海外の筋肉ムキムキMMSとか一捻りスよ。スゴくないスか」 私のような平凡神姫が日本の頂点と聞くと、まず頭に思い浮かぶのは現日本一のアルテミスだ。 アルテミスは動画でしか見たことないけど、そのバトルは私の理解を超えた異次元にあった。 もし勝負したら十秒以内に撃墜される自信がある。 あんなのが身近に五人もいるんだ、恐ろしい。 海外の、特にアメリカのMMSも動画で見たことがあった。 ごくまれに神姫センターでも外国人マスターがバトルさせている。 一応同じMMSということで同じ筐体を使えるのだけれど、当然ながら彼らは武装神姫ではない何かで、普通の神姫バトルのようにはいかない。 アメコミヒーローみたいな筋肉塊が腕力にものを言わせて、比較的小さな建造物くらいなら軽々と放り投げたかと思うと、他のところではSWATみたいな装備のイカついMMSがプロの市街戦を見せつけていたり、文化の違いを感じさせた。 戦場は女子供が立ち入っていい場所ではない、それが彼らの言い分だった。 「あのイカついMMSとは関わりたくないわね。私達と同じ規格で作られてるってことが信じられないわ」 「あんなモンスターは室長みたいな」「バケモノに任せとけばいいんスよ」 「尊敬してるわりに薄情ねあんたら。――ちょっと待って。日本代表レベルってもしかして迷彩巨乳のことを言ってる?」 「そう」「っス」 あっさり頷く忍者。 私は急に気が遠くなり立っていられなくなって、クレイドルに座り込んだ。 「ど、どうした」「んスか姉さん」 「なんでもない。ちょっとめまいがしただけ」 忍者二人が来る前の出来事が、まるで映画のテープをめちゃくちゃに繋ぎ変えて再生したように次々と思い返されていく。 武装神姫の頂点に立つレベルの神姫と茶室で二人っきりになった。 武装神姫の頂点に立つレベルの神姫から土産を出されたのに無視した。 武装神姫の頂点に立つレベルの神姫に向けて機関砲を撃ちまくった。 武装神姫の頂点に立つレベルの神姫の強さの秘密を聞かされた。 【次そのツラ見せたら額の角と尻の穴を連結しちゃるかんね!】 人間で言うならば、おでん屋台で隣に居合わせた方が天皇陛下とは知らずに馴れ馴れしく愚痴ったり肩を組んだりしてしまうような感じだと思う。 手が震えてきた。 CSCが勝手にオーバークロックを始めて、思考が暴走しかかっている。 頭の中を迷彩巨乳の存在感あふれる姿が、最近お会いしていない【あの人】の姿と交互に走馬灯の影絵のように駆け巡った。 どうでもいいけど「死の直前に走馬灯が見えた」って言い方をすると、人生の最後に見たものが風流な灯籠だった、って意味になっちゃうから注意してねフフフ……。 「姉さん落ち着いて。走馬灯」「のたとえは大袈裟すぎっスよ」 「な、なななんで私の考えてること、分か、わか」 「姉さんの顔に書いてあるんスもん。室長と会った時に何やらかしたか知ら」「んスけど、気にしすぎっスよ。いくら強くても所詮は迷彩巨乳なんスから」 「そ、そうよね。あんな胸を見せびらかすようなヤツにわ、私、なに動揺してんのかしら」 慎ましい自分の胸に手を当てて、ゆっくりと落ち着きを取り戻していった。 そう、バトルの強さに関係なく迷彩巨乳は迷惑な清水研のリーダーで、それ以上でもそれ以下でもない。 クールになれ『セイブドマイスター』。 強さのインフレが止まってよかったと考えればいいじゃないか。 世界にはもう迷彩巨乳を超える神姫は出てこないんだ。 15cm程度の死闘の天井が見えたことは喜ぶべきことよね。 「ふう。もう大丈夫。そうよ、みんな同じ規格で作られた神姫なのよ。強い神姫、弱い神姫、そんなのマスターの勝手。大切なのは自分が武装神姫であることに誇りを持つことよ」 「うっは。さすが姉さん」「言うことがハンパないス」 「まぁね。それで? この地域にいる残り四人の強い神姫って誰なの?」 「一人は姉さんがよく知って」「るっスよ。『大魔法少女』ス」 「あばばばば……」 「うわあ姉さん」「が泡ふいたー!」 『マッドサイエンキャット』-2/3 トップへ戻る?
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2661.html
8ページ目『剣の墓場』 ◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆ 前回までのあらすじ 世界中の神姫が、ただのフィギュアになっちゃったみたいです。 なんで? とは聞かないでください。 私だって、キャッツアイを名乗る3バカ神姫に出会うまで、イルミのことをすっかり忘れてしまっていたんです。 かと思いきや、ただのフィギュアから目を覚ましたイルミはすぐにいなくなって、代わりに現れたのは射美と名乗る、私と瓜二つの小さな女の子。 しかも射美ちゃんは、自分は私と弧域くんの子供だと言い張り、押し切られるように私達は一緒に住むことになってしまいました。 何が何やらサッパリなまま、私のことをママと呼ぶ射美ちゃんと一緒に、一晩を過ごすのでした。 ◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆ 「天才子役っているじゃない、小さいのにテレビに出てる子。すっごくチヤホヤされて持ち上げられるけど、あたしは子供をドラマに起用するのは無理があると思うの。嫉妬してるんじゃないよ、別に役者さんになりたいとか、思ったことないわけじゃないけど、どうでもいいし。そういう子の演技見てると、すぐ泣けたりするのはすごいけど、台詞は全部棒読みじゃない。しかもヘタに演技しようとして声が不協和音っぽくなってる子までいるし」 「その点、小説なら役者がいらないから大丈夫かなって思ったんだけどね、やっぱり難しいみたい。作家さんが文字を並べるだけだから、特攻服着たヤンキーがしんみりして哲学的なこと言ってたりするんだもん。って、あたしも人のこと言えないかな? 小説家目指してるママなら分かると思うけど、難しいよね」 「『一ノ傘』って苗字も好きなんだけどね、あたし、『雲呑(くものみ)』って苗字に憧れててたんだ。なんか響きがカワイイでしょ、ママもそう思わない? 将来は雲呑って苗字の男の人と結婚しようって考えてたくらいなの」 「でもね、にゃふー知恵袋で聞くと、雲呑って『ワンタン』って読むんだって分かって、すごくショックだったの。あたしのあだ名は絶対『ワンタン麺』に決まっちゃうじゃない。でもワンタン麺って食べたことないんだけど、おいしいのかな? ママは食べたことある?」 「武装神姫で日本一強い人って知ってる? 竹姫葉月っていうお姉さんなんだよ。神姫はアルテミスっていうアーンヴァルなんだけどね、悪い改造した神姫でも簡単にやっつけちゃうんだって。『もう死んでもいいから勝ちたい』って覚悟して違法な改造した神姫でも、全然勝負にならなくてあっさり負けちゃうんだってよ。神姫の世界も世知辛いよね」 「そんなに強い神姫でも、インターネットの対戦でなかなか勝てないところがあるらしいよ。そこに集まる神姫は悪い改造はしてないんだけどね、へんてこな神姫ばっかりなんだって。レーザーで魔法陣を描くシュメッターリングとか、ワープできるバイクに乗ったエストリルとか、12人の神姫を糸で操るクーフランとか、自分は硬い箱にこもったまま毒ガス攻撃するズルいマリーセレスなんてのもいるんだって。聞いてるだけでもすごそうだけど、たぶんその神姫達のバトルって、極端すぎて見ててもあんまり面白くないよね。でも今は世界中の神姫がただのフィギュアになってるから、関係無いか」 慌ただしかった昼間が嘘のように、夜の色に落ち着いた姫乃の部屋。母と娘二人の、布団の中から聞こえてくるおしゃべりは、明け方になるまで続いた。といっても話のほとんどは射美が一方的にしゃべるばかりで、姫乃は専ら相槌をうつだけだったが、射美にとってはかけがえのない時間だった。 ママと同じ布団に入っていれば、悪夢に怯える心配なんてしなくていい。どんな話でも聞いてくれるママがいてくれれば、明日もきっといい一日になる。 射美が信頼を寄せる姫乃と弧域は、最初こそ少し難色を示しても警察に突き出すような心ないことをせず、たとえ様子見であっても、射美のための居場所を作った。愛情を求める子が心安らかにいられる、大切な場所を。 弧域と姫乃の部屋は別れているから「今日はね、う~ん……ママと寝る!」と射美は選んだ。隠し切れないほどのショックを受けた弧域は、射美と明日一緒にお風呂に入ると約束をした。当然姫乃が却下したが。 夕食を弧域の部屋でとり、姫乃の部屋に戻った母子二人、女の子同士の夜は、いつまでもいつまでも、幸福に満ちていた。 結果、姫乃は体調を崩した。 弧域との喧嘩。 心を取り戻した神姫。 そして射美の登場。 それらをたったの数時間の中で経験し、さらに機嫌を持ち直した射美は姫乃と二人でベッドに潜った後も睡魔を尽く退け、姫乃は夜通し娘(仮)の話に付き合う運びとなったのである。 途中で(あ、これ明日はダメかも)と軽い絶望を感じつつも、ついに射美の笑顔を崩すことなく明け方まで耐え切った姫乃は、早くも一人の母としての偉業を成し遂げたと言っても過言ではない。翌朝、体温が38.2度を記録したことからも、いかに姫乃が頑張ったかが伺える。 「ダメだよ、弧域くんはちゃんと学校行かないと。それより、今日の代返お願、ケホッ、ご、ごめん…………う、うん、なんとか大丈夫、かな」 「射美ちゃん? まだ私の横で寝てるよ。寝顔は天使みたい。私達の子供だからね……にはは、冗談よ」 「世話を任せたいのは山々なんだけど、たぶん昼過ぎまで起きないわよ。昨日からず~っとおしゃべりしてたもん。だから3限目の最後の講義が終わったらすぐに帰ってきてくれると嬉しい、かな。射美ちゃんが起きると思うから、二人で下着とか買ってきてくれると……無理? でも私のお下がりってわけにもいかないし……そうそう、頑張ってカワイイのを見繕ってあげてね、パパ」 「じゃあ帰りに風邪薬、お願いね。……うん、弧域くんも風邪をもらってこないように、ね」 通話を切ると、携帯が姫乃の手から枕元に滑り落ちた。拾い直す気も力もない姫乃は射美と自分の布団をかけ直し、目を閉じた。 看病のために学校を休むと弧域が頑なに主張するのは、姫乃が体調を崩す度のことだった。そして姫乃の部屋に入ろうとする弧域と、意地でも禁断の部屋に入らせまいとする姫乃の電話での応酬も、これまたいつも通りである。 普段ならば妥協案として、姫乃が弧域の部屋のベッドを使うことにしている。やつれた顔を見られることにかなりの抵抗があっても、体調を崩した時はどうしても気が弱くなり、独りきりでいることが心細くなってしまうからだ。 隣に射美がいるから寂しくはない、と言えるには言えたが、姫乃にとって射美はあくまで面倒を見るべき子供であり、ましてや自分の看病をさせるなどもっての外である。 すやすやと安らかに眠る少女は、普通ならばこの時間は学校に行く支度を済ませていなければならない。しかし射美にその記憶がない以上、弧域と姫乃は射美を送り出すことすらできないでいる。 (警察に行くのが正しいかどうか分かんないけど、どこかに相談しなくちゃ……身元が分かるまでここにいてもいい、って言えば、射美ちゃんも分かってくれる、よね) やむを得ないとはいえ、子供の大切な時間を自分の部屋に閉じ込めてしまうことに負い目を感じている姫乃は、風邪のせいで射美と始めた家族生活が早くもつまづいたことと相まって、かなり気を滅入らせてしまっていた。 カーテンの外は、昼も雲ひとつ無い青空を約束してくれそうな快晴。ボロアパート前の狭い道を、数分間隔で車が通っていく。そんな外の天気など知ったことではなく、静かに意識をまどろみの中に落としたい姫乃だったが、残念ながら、そうは問屋が卸さない。 何の前触れもなく、カラカラと窓が勝手に開いた。鍵は確かに閉まっていたはずだが、どうやって開錠されたのかは定かではない。カーテンが揺れて、眩しい光と新鮮かつ極寒の冷気が室内に容赦無く入り込む。 自分の空間から外部との繋がりを断ちたい時ほど、狙いすましたように宅配が届いたりセールスマンの襲撃にあいやすくなるものである。姫乃が体調を崩した原因のひとつである迷惑極まりない3匹の来訪はきっと、そういうことだった。 「おんやぁ? ホシはどうやらまだおネムのご様子。ここは一発、ワガハイの寝起きバズーカで目覚めさせてやるってのはどうにゃ」 寝起きバズーカやりたいんだったら静かに入ったらどうなのよ、と少々的外れなことを考える姫乃だった。 2日連続、しかも最悪のタイミングで無断侵入してきたキャッツアイの3匹、カグラ、ホムラ、アマティに対して、姫乃には怒る気力すら持てなかった。しかし、さすがに部屋の中で、小型とはいえ本気でバズーカなど構えられては無視するわけにもいかず、姫乃は渋々話しかけざるを得なかった。 「ゴホッ……お願い、今日はちょっと、静かにしてくれない、かな」 「なんにゃ、起きてたのにゃ。オマエが寝てる間に箪笥の中を物色するイベントとどっちをやろうか迷ったんにゃが、両方無駄になったにゃ。ヒロインを張るにゃら、朝はちょいエロイベントのひとつもこなしてほしいもんにゃ。ところで、そっちのロリはオマエの隠し子かにゃ?」 「そんなこと言ってる場合ですか。姫乃さん死ぬほど体調悪そうですよ」 アマティだけは姫乃の容態にいち早く気付き、気遣おうとする。できるならば部屋に侵入する前に気遣いをしてほしいと思う姫乃だった。 「あの、本当にごめんなさい。また出直します」 「今日の用事は隣室だろう、さっさと済ませて引き上げるぞ」 姫乃の懇願を聞いてか聞かずか、3人はあっさりと引き下がっていった。パタン、と窓が閉まり、部屋に再び平和が戻った。 ほんの短いやりとりではあったが、昨日のことを思えばあの3人が何をやらかしてくれるか分かったものではなく、姫乃の精神がさらにすり減ってしまった。 (あの3人もいなくなったし、弧域くんに……だめね。あの3人、弧域くんのエルを目覚めさせるんだっけ) 昨日、弧域は一度動く武装神姫――キャッツアイの3人を見ても信じようとせず、現実逃避してしまった。そのことを気にかけていた姫乃は、弧域に余計な心配をさせまいとして、今朝の弧域の看病を泣く泣く断ったのだ。弧域にしてみれば射美との顔合わせにより耐性がついていたのだが、事情を知らない弧域と朦朧とした姫乃には知る由もない。 「んん……なぁに? なにか言った?」 姫乃の隣で幸せそうに寝息を立てていた射美が目をこすり、開いた薄目が母親の顔を見つけた。 「あ、ごめん。起こしちゃった、かな」 「にはは。ママ、おはようのチュー」と姫乃のおでこに唇をつけた射美は「あっちぃ!」とすぐに離れた。 「ママ熱々! うわ、顔は真っ赤なのに唇は真っ青だよ!?」 「ごめんね、情けないママで、ケホッ、あんまり近づくと風邪うつっちゃ――」 「大丈夫!? どこも痛くない!? バイキンが悪いの? ママを体内からいじめるバイキンが悪いの? あたしが吸い取ってあげれば治る? じゃあもう一回チュー」 「んむっ!?」 姫乃に待てとすら言わせない電光石火の技だった。瞬きの間に合わされた唇、そこから全身でしがみつくように射美は手足を姫乃の体に回った。 誰もが羨む美少女、瓜二つの母娘がベッドの中でもつれ合う。乱れた髪が朱い頬を流れ、互いのすべてを奪い合うような口づけは、傍目に見れば燃え上がる恋人のそれに近い。 姫乃にとっては勿論、そこに情熱などあったものではない。 弧域にすらされたことがないほど強烈に吸い付かれ、バイキンどころか僅かに残っていた気力を奪い尽くされた姫乃は、もうされるがまま、時折ビクッと全身が硬直する以外は小指の一本すら動かせなかった。 「んむ……んふふ♪」 口づけ、いやもはや吸血に近いそれを続けていくほど、射美の表情は艶を増し、姫乃の表情からは生気が抜けていった。 (もう好きにして……あ、あれ? この感覚……) 無闇矢鱈な射美の愛情表現に快感すら見出し始めた時だった。薄れ行く意識の中で姫乃が覚えた感覚は、つい最近味わったものに似ていた。 ベッドのシーツが湖になったかのような、底へ底へと沈んでいく感覚。確かなものは射美と繋がる唇だけ。 いっそ心中とでも錯覚しようか、二人は暗い場所へと落ちていった。 「うっひゃあ、いきなり目の毒です! ――じゃなくて姫乃さん!? あなたは何が楽しくてまた自ら異空間に飛び込んできたんですか!」 「隣室だったからな。恐らく異空間の発生時、その神姫のマスターであるなしに関わらず、物理的に近い人間も巻き込まれるのだろう」 「ワガハイ、オマエのことを誤解してたにゃ。こんな時まで青少年育成条例に背を向けておんにゃの子に手を出すにゃんて……その意気やヨシ! オマエのただれた趣味はワガハイがメモリー(HDD)に永久保存してやるにゃ!」 パシャパシャと神姫サイズのカメラ(カグラが盗撮のために開発したもの)のシャッターが切られる音に気付いた射美は、あわてて姫乃を解放して立ち上がった。ブカブカの姫乃のパジャマの袖を振り回しての猛抗議である。 「ちょっとー! あたしとママのキスはあたしたちだけの宝物なんだからね! 勝手に撮っちゃダメ!」 「い、今ママって……姫乃さん、イチ神姫として勉強させてもらいました、ごちそうさまです」 「オイ、その姫乃が三途の川で溺死する寸前の顔をしているぞ。大丈夫か」 ホムラに言われ、アマティ、カグラ、それに射美は未だ倒れたままの姫乃の顔を覗き込み、息を呑んだ。 射美が着ているものとは色違いのパジャマのまま、姫乃はフローリングの床に倒れていた。 熱があるのだろう、顔が部分的に赤い。 しかし体力は底をついているのだろう、生気がない。 何か悲しいことがあったのだろう、目は充血して涙が漏れている。 寒いのだろう、鼻水が出放題である。 射美と愛を確かめ合いすぎたのだろう、口元がヨダレまみれである。 キスの最中で舌を噛まれたのだろう、だらしなく覗く舌に歯形がついている。 大学構内ですれ違えば誰もが振り向く、弧域一人のモノとしておくにはあまりに惜しい美貌。「にはは」と見せてくれる笑顔は太陽よりも眩しく光り輝く向日葵のよう。 大学1年の時、学園祭で開かれた美少女コンテストにわけもわからず出場させられ、観客の視線を独占してしまい、横に並んだ諸先輩方に睨まれたことがあった。 それほどである。それほどの面影は、もはやどこにもなかった。 「ママ、涙はいいけど、ハナミズとヨダレはヒロイン的にアウトだよ」 「そういう問題か?」 「しっかりしてください!どこか隅っこに運びましょう、ここは本当に危ないです!」 「せっかくにゃから、このベッドに寝かせたらどうにゃ。ちょっとデカいにゃが」 カグラ達はサッカーコートほどの広さの天井の下にいた。その天井こそベッドの裏面なのだが、たとえ姫乃の体調が良好であったとしても、それが弧域のベッドであると理解するには少し迷ったかもしれない。 ベッドを縦方向に二分して、片側は薄暗く、もう片側は明るい。 薄暗い方に見えるのは、姫乃の部屋にあるものと同じ机や本が散らかった本棚など、弧域の部屋そのものだった。 明るい方はといえば、まず床がフローリングではなく光を反射する色とりどりのタイル敷きだ。そして棚が整然と並んでおり、武装神姫の箱やパーツが陳列されている。姫乃達のいるベッドは、弧域の部屋と、どこかの神姫ショップ店内の中間にあった。 それだけでも異様といえる空間だが、さらにこの空間には特徴といえるモノに溢れている。 「やだ、なにこれ……全部お墓?」 「フン、言われてみれば墓にも見えるな。だがこれらはすべて剣だ」 硬いはずの床から本棚の本、ショップの商品にまで、ベッドの下以外の見える範囲すべてに、乱雑に大小形状様々の剣がびっしり突き立っている。その数は見える範囲だけでも千本を優に超えている。 剣の多くに鍔があり十字に見えるので、射美は西洋風の墓と勘違いしたのだ。あるいはここは、剣そのものの墓場なのかもしれない。 「ここがあの、エルさんの創る世界……なんだかエルさんの印象と違って、不気味ですね」 「にゃんてったってアルトレーネだからにゃ。性根が歪んでるのは想定の範囲内にゃ」 「殴りますよ」 「貴様ら、巫山戯るのはここでお終いだ」 身長以上に柄の長いハンマーを水平に構え、ホムラはフローリングとタイルの境目を跨ぐように立った。その境目の先、ベッドの天井から出たところにいつの間にか現れていたのは、金色の長髪、鉛色のロングコート、そして白く武骨な機械仕掛けの脚が特徴的な、戦乙女型アルトレーネ、エル。 俯いているため前髪が影になり、その表情をうかがい知ることはできない。 彼女も武装神姫ではあるが、ロングコートと脚の機械以外には何も持っていない。空いた両手が、側に突き刺さっている二本の剣を掴む。片方は装飾過多と見える大剣、もう片方は逆にシンプルなロングソード。その二本を構えるでもなく、これからジャグリングでも始めるかのように、真上より少し前方に放り投げた。そしてサッカーのボレーシュートよろしく、落下してきた剣を二本まとめて蹴り放った。 滅茶苦茶な軌道だが、その速さはライフル弾にも匹敵する。 「ぬっ!? うおおおおおおっ!」 飛ぶ剣にホムラはハンマーを合わせた。が、叩き落せたのはロングソードだけで、もう一本はホムラの背後へと飛んでいく。 「にゃほぁあ!? け、剣がいまワガハイの首元を通ったにゃ! 九匹に一鰹節にゃ!」 「まさか九死に一生って言いたかったんですか?」 「アマティの背面だ! 次が来るぞ!」 射美と姫乃を挟んでホムラの反対側にいるアマティは、ホムラの言うことを信じるどころか考えもしなかった。たった今、剣はアマティの正面から飛んできたばかりである。だからアマティは、ホムラが「俺の背面」と言い間違えたものとして、自らの剣を抜いて正面へ躍り出ようとした。 その瞬間、アマティの視界に火花が飛んだ。前のめりに体が倒れそうになり、床に手をついて姫乃を押し潰すことだけは回避できたものの、背中に走る激痛が堪えさせてはくれず、姫乃の隣に崩れ落ちた。 「きゃあっ!? だ、大丈夫……?」 慌てて近寄ろうとする射美を手で制したアマティは、未だ視界が安定しない中、背後を確認する。そこには【やはり、既に誰もいなかった】。 「わけわからんにゃ、アイツはアルトレーネじゃなかったのにゃ!? サイキッカー型が東京の立川以外の町にいるなんて聞いて無いにゃ!」 「アレはテレポートしているわけではない。一度見た神姫の技くらい覚えておけ、剣を周囲に叩きつけて得られる推進力を脚力に加える奴がいただろう」 解説しつつホムラは、再び別の方向から飛来した剣を弾いた。目の焦点を剣に合わせる間に、エルは姿を消してしまう。 「このベッドの上を移動しているのだろう。信じ難いスピードでな」 「アイツ一人に囲まれてるようなもんにゃ、ここにいたら格好の的じゃにゃいか! 早いとこベッドから出るにゃ!」 「だがな、このベッドの下だけ剣がない分、安全だぞ。奴が剣を使い捨てられるのは剣が突き立っている場所だけだからな。それに――」 側面から回転しながら飛んで来た二本の剣を、ホムラ、カグラがそれぞれ弾いた。ホムラは難なく防いだが、カグラは尻餅をついてしまう。 「奴は、この小娘二人を巻き込むことに対して、まったく躊躇を持ち合わせていないらしい」 言いつつホムラはチラリと射美と姫乃を伺った。 姫乃の状態は最悪だった。見て取れるほど体を震えさせ、縮こまってしまい移動どころか立ち上がることすら困難になっている。神姫云々よりも、一刻も早く適切な処置が必要だった。 「射美のパジャマも着てよママ……まだ寒い? ママ、ママ……うわああああああんママ死んじゃやだあああああ……」 上着はキャミソール一枚だけになり、泣きながら姫乃の体を懸命にこすってやっている射美も、動ける状態にはない。 「あ、今ネコ的な勘がビビビッときたにゃ。ほむほむ、ワガハイ達が置かれてる状況は【絶体絶命】じゃにゃいか」 「ホムラと呼べ。貴様はそのネコ的な勘とやらでようやく真っ当な状況判断ができるんだな。しかし今更愚痴も言ってられまい。アマティ、そろそろ起きろ」 「ランキングがなんぼのもんじゃーい!!」と叫びながら、うずくまっていたアマティが飛び上がった。 モード・オブ・アマテラスが発動し、スカート状のアーマーが左右に大きく展開された。先端の鋏のように開閉可能な部分は左右どちらもガッチリと、迫っていた剣を掴んでいる。 「ちょっと私より戦績がいいからってあの戦乙女、図に乗ってんじゃないわよ! つーかロングコートなんか着ちゃった戦乙女が世界のどこにいんのよ! ミ○キーもキングダムハーツでコート着てたって? 知らないわよクソがっ! アルトレーネは、こ、の、装備一式揃えてはじめて戦乙女だっつーの!」 「アマティ、児童ポルノが怯えてるにゃ」 「ああ? 何よ、児童ポルノって」 ほれ、とカグラに指差された射美は、あんまりなあだ名を付けられたことにも構わず、姫乃を覆い隠すように体を広げて抱きつき、まるでチェーンソーを持ったジェイソンに追い詰められたような目でアマティのことを見ている。 コホン、と咳をして気を落ち着けたアマティは、児童ポルノもとい射美に向かってとびっきりの笑顔を作った。 「にぱー☆」 「ひぃっ!?」 頭を抱えてうずくまってしまった射美と笑顔を引きつらせたアマティの間に、修復不能に近い溝ができてしまった。射美にとって長い人生(そんなものが射美にあったかどうかはともかく)の中でもっとも多感な時期である今、【突然豹変する金髪のお姉さん】というトラウマを植えつけたアマティの罪は重い。 「子供に嫌われるのって、結構ヘコむわね……」 「アマティはアマテラスを維持したまま姫乃と射美を守れ。アイツは俺とカグラで狩る」 「倒すならさっさと倒しちゃってよね。これ以上時間をかけて姫乃さんが危なくなったら、私はもっと射美ちゃんに嫌われそうだし」 「ほむほむと一緒にバトるのは久しぶりだにゃあ。二人でこの町のネコ大将を倒した時のことを思い出さにゃいか?」 「二人で? ……ああ、そういえば貴様が漫画を真似て作ったビッグプチマスィーンが自爆したせいで、その場にいた全員が死にかけたんだったな。思い出したら腹が立ってきたぞ、貴様後で――」 「な、なんのことかサッパリ分からないにゃあ。ワガハイとほむほむって実はまだ一緒にバトったことがないんじゃにゃいか、きっとそうにゃ! よーし今こそコンビネーションのお披露目の時にゃ! あのネコミミのないギュウドンを血祭りにあげてやるにゃー!」 カグラがホムラから逃げるように走りだしたことで、状況が動いた。これまでエルは大雑把にカグラ達の集団を狙って剣を蹴っていたが、今度はベッドの下から外に出ようとするカグラに的を絞った。 「誰もベッドの下から出さないつもりか? フン、確かにこちらに火器持ちはいないからな、一方的な今の状況を崩したくないのか」 ホムラの推理は実はまったく的を射ておらず、エルは単純に集団から外れて目についたものをターゲットとしただけだった。頻繁に位置を変えて遠くから剣を放つのも、エルが考えた戦術ではない。 剣を蹴り飛ばす技を持っていて、いくら使っても使い切れないほどの剣があり、ターゲットが一箇所に固まっていて狙いやすく、遠距離攻撃を想定した神姫の本能として頻繁に回避行動を取る。この4点だけがエルの行動基準になっていた。 アマティ達が最初に姫乃に説明した通り、心を持たないフィギュアの状態から目覚めて異空間に閉じこもる神姫は、それほどまでに正気を失っていた。 なぜ正気を失い、異空間を作り出し、誰彼構わず襲いかかるのかは分からない。しかし、不明確なことが多かろうが推理が外れようが、ホムラにとってそんなことは関係無かった。 「フィギュアになっていたせいか、丁度体がなまっていたところだ。リハビリがてら狩らせてもらうぞ、戦乙女」 カグラは毎度の如く囮の役目を十分に果たしている。ベッドから出ることも忘れ、連続して放たれる剣の弾丸からひたすら逃げ惑っている。 カグラを執拗に狙うあまり、エルはあまりに隙だらけだった。エルに向かって、ホムラは音を立てずに走り出した。 「誰がデコイをやるって言ったにゃ! ワガハイの強靭かつフカフカな肉球は刃物とは相性が悪ぃにゃほぁっ!? い、今モミアゲを持ってかれたにゃ! コレ死ヌマジ死ヌ助ケテほむほむぅ!」 「俺の名はホムラだと言ってるだろォ!」 助走をつけたハンマーのフルスイング、『グレーゾーンメガリス』がエルを真横から撃ち抜いた。 カグラしか見ていなかったエルは、まったく無防備にホムラが持つ最大威力の技を受けてしまった。鈍い打撃音と共に水平に吹っ飛び、床に突き立った剣を数本なぎ倒す。 『グレーゾーンメガリス』はあまりに大振りで隙だらけの技なので、普通のバトルで使用されることはほとんどない。ホムラが覚えている限り、公式ルールのバトルで使用したのは対戦相手が障害物に隠れて出てこなかった時に、その障害物ごと打ち砕いた一度きりだった。 稀に見るクリーンヒットの感触がホムラの両手に伝わる。ピッチャーが投げたストレートをフルスイングで返すような爽快感に、ホムラは顔に出すことなく酔い痴れた。 「ひぇ~ほむほむ超こえぇ~。今のはやりすぎにゃろ、正気に戻る前にジャンク屋行きになっちゃうにゃ。ほむほむは手加減ってものを知らにゃいのか」 「不要な心配だな」 ホムラは剣がなぎ倒されてできた道を走り出した。その先でエルは、カグラの予想に反して、剣を支えにして立ち上がった。 ハンマーが振り下ろされる瞬間、エルは髪を掠るギリギリのタイミングで床を転がることで逃れた。立て続けにホムラが踏みつけようとするのを再び転がって回避し、落ちていた剣を拾ってホムラから距離を取った。 剣を構えたエルは明らかに満身創痍だが、理性を失っているせいか、その戦意は衰えを見せない。 「神姫はあの程度で壊れるほどヤワじゃない。軽装の神姫とはいえ、一撃で沈めるのは不可能だな。しかし、コイツはあと弱パンチ一発といったところだが」 「パンチならワガハイの出番にゃ。見るにゃこの鍛え抜かれた肉球を。プニプニした感触から繰り出される百裂肉球はどんな神姫であろうと癒されるのにゃ」 「癒してどうする」 カグラがシャドーボクシングしながらエルの背後に回り、ホムラと挟み込んだ。 「行くにゃよネコ拳法――『にゃんぷしーろーる Ver.B!』」 「さっさと正気に戻れ――『パワフルメガマン!』」 ホムラは反対側から向かってくるカグラを巻き込むことにいささかの躊躇いもなかった。ウネウネとあまりにキモい動きで迫ってくるカグラが腹立たしかったのもあるが、カグラを気遣ったせいでエルまで仕留め損なっては挟み撃ちの意味が無い。 (神姫は頑丈だが……カグラなら少々壊れたくらいが丁度いいだろう) 柄を短く持つ手に力を込め、渾身の力で打ち出した。ハンマーの重量によりそれは破城槌となり、エルを目覚めさせる気付けの一撃となる。 「うおおおおおおおおおっ!」 「にゃにゃにゃにゃにゃっ!」 なる、はずだった。 「にゃぷぎゅっ!?」 カグラの豚を捻ったような声が聞こえるのと同時、ホムラの頬にプニッとした感触があった。カグラの肉球に殴られたのだ。 ハンマーを顔の中心にめり込ませているのは金髪の戦乙女ではなく、見慣れたケモテック製の猫だった。 エルは二人の間から姿を消していた。 「ワガハイ……こんな役ばっかり……にゃ(がくり)」 ホムラとカグラは長年一緒にいただけあって、息の合ったクロスカウンターは狂いなく互いに決まった。ホムラのハンマーはカグラを完璧に捉えて沈め、カグラの肉球はホムラを少しだけ癒したのだった。 ■キャラ紹介(8) コタマ 【ドールマスター爆誕】 「オイ、誰が3.5頭身の殺虫人形買って来いっつったよ」 十二体もの神姫を操るマシロを参考にして、コタマは自分では武装を身につけず、人形を操ることにしたのだ。 ただし、マシロのようにケンタウロスの胴体でデータ処理の容量を稼ぐことができないため、一度に操れる人形はコタマの両手でそれぞれ一体ずつが限度らしい。 その点については、「少数精鋭のほうがイイに決まってんだろ」とコタマに不満はないらしかった。 兄貴の武装神姫ストックに余りがなかっため、ベースとなる人形を近くのヨドマルカメラまで買いに走り、帰ってきたのがつい先程のこと。 ヨドマルに神姫を連れ込んではならないため、私が二体を適当に見繕ってきた。 でもコタマは私に感謝するどころか、箱に入ったホイホイさんを見るなり喧嘩腰で不満を垂れた。 「大学生にもなって読み書きもできねぇのか? どう見ても『武装神姫』じゃなくて『一撃殺虫!!ホイホイさん』って箱に書いてあるだろうが」 「だって、こっちのほうが可愛いやん」 「可愛いやん、じゃねぇよ! アタシの武装に可愛さとかいらねぇよ!」 「レラカムイからハーモニーグレイスに乗り換えて可愛げを無くしたんやから、せめて武器くらいは可愛くないといかんやろ」 「なんだその意味不明な理屈は! じゃあオマエはアレか、リクルートスーツがゴスロリドレスになっても文句言わねぇんだな?」 「やれやれ……コタマ、遊びとそうじゃないものの区別くらいつけんといかんよ」 「博多湾に沈めてやらぁ!!」 射場の順番待ちをしている間、コタマのことを背比に相談してみた。 背比は武装神姫を持っていないから、相談する相手を間違っているような気もするけど……相談ほど、話しかける口実に適したものはない。 背比は弓掛けをはめた手をニギニギしながら、たいして考えるでもなく答えた。 「そりゃあ、竹さんが悪い」 「なんでよ。だって武装神姫っていっても女の子なんよ。背比は知らんかもしらんけど、フリフリのドレスとか着た神姫もおるんやから。私のコタマだって傘姫が作った修道服着とるし。それやったら武器も可愛いほうがいいやん?」 「そうじゃないから、そのコタマと喧嘩したんだろ?」 そうだった。 またひとつ、背比に頭の悪いところを見せてしまった。 「ホイホイさん返品して、新しいの買い直したほうがいいんじゃないか? 竹さんだってその弓――」 背比が指さしたのは、私が高校の時から使っている『直心Ⅱ』だ。 手入れをあまりしなかったため、大きく歪んでしまっているが、今更ほかの弓を使う気にはなれない。 愛着以上に、この『直心Ⅱ』は弓の道を一緒に歩く相棒なのだ。 ……ああ、そういうことか。 「――を使うのを禁止されて、聞いたこともない弓を渡されたら、相手が範士の爺さんでもキレるだろ」 「うん、キレる。暴れる」 「俺だってキレる。武具ってのはそれくらい愛着がわきやすいものだぜ。だからさ、竹さんに考えがあったとしても、武装くらいはコタマの好きにさせてやろうぜ。ホイホイさん返品して、新しいの買ってやんなきゃな」 「あー……でも、買ってきたホイホイさん、もう兄貴が改造してしまったんよ。どうしよう、お金も無い」 「じゃあせめて、ホイホイさんの見た目とか性能くらいは好きにさせてやらないと」 背比からありがたく頂戴した提案は、今晩さっそく実行することにした。 クレイドルで不貞寝するシスターに、ホイホイさんの写真が載ったチラシとペンを渡した。 「んだよ、アタシは殺虫人形なんざ使わないからな」 「じゃあ、どうしたら使ってくれる?」 「ああ?」と私のことを睨みながらコタマは体を起こした。 その不満タラタラな顔にチラシとペンを突きつけた。 人形の買い直しがダメなら、せめてホイホイさんのデザインを、コタマの思い通りにさせる。 改造は兄貴にやってもらうとして、パーツが必要になれば、ホイホイさんを買ったお金の余りで補うし、それでもダメなら兄貴の持ってるパーツを貰うか、お父さんお母さんにお小遣いを前借りしてもらう。 この竹櫛鉄子、明日から日中の食事をチーズ蒸しパン一個で済ませる覚悟だ。 「いきなり素直になりやがったな。オイ、何を企んでやがる」 「なんも企んでないっての。ちょっと背比にアドバイス貰っただけ」 「またその背比かよ。オマエ、さっさと股開かねぇと他のアマに盗られるぜ」 「バカッ、そ、そんな下品なこと……でも、まだ傘姫とも付き合っとらんはずやし……もう少し仲良くなってからでも……」 葛藤する私を無視したコタマはチラシとペンを奪い取り、写真の中でポーズを取るホイホイさんにサラサラとペンを走らせ、デコレーションしていった。 「隆仁も言ってたけどよ、武装の有効距離を遠近どっちかに特化させちまったらつまんねぇだろ? バトルをジャンケンと勘違いしちゃいけねえ。遠くのカカシはブチ抜く、近くのネズミはブン殴る、ただそれだけだ。人間様と違ってアタシら神姫にはそれができる。唯一、人間様と同じデメリットの【身体は一人一つしかない】をアタシはクリアしちまったんだ。だったら話は簡単だぜ鉄子、コイツらの役割はもう決まったも同然だろ?」 好き勝手に書きすぎて、小学生の教科書の落書きのようになってしまったホイホイさんを、コタマはペンでコンコンと突いた。 一転して上機嫌になったコタマの笑みは、しばらく見ていないものだった。 「仮に名前でもつけとくか。近距離用の人形はファースト、遠距離用はセカンドな。ここからはオマエと隆仁の仕事だぜ。気合入れて、この設計図通りに仕上げてみせろよ」 次ページ『凶刃』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/388.html
「な、何なのですかぁぁぁ!?」 背中に装着された、ビームによる光の翼=M・D推進器をフル稼働させ、最大加速を行う1体の神姫。 「マオチャオ……殺…す…!」 そしてそれを地獄の業火に叩き落さんと猛追する、漆黒の翼。 その眼に宿るは憎悪、純粋に想うが故の儚く悲しい怒りの炎。 「ティキは怨まれる覚えはないのですよぉ!」 ねここの飼い方・光と影 ~ニ章~ 『くっ、何でこんな事になっちゃうんだ!?』 思わず彼の口からは、怨みにも似た言葉が飛び出す。 高校生なのだが、まだ若干あどけなさの残る顔つき、メガネをかけておりその奥には優しげな瞳が宿っている。 その彼=藤原雪那にして今回は相手に怨み節を言う事になっていた。 『ティキ、相手も早いけどあの大型のユニットじゃティキみたいな細かい機動は無理なはず。もっと動いてかく乱して!』 「わかってるのですけどぉ……思ったより動くのです……よぉ!?」 2人が今後の展開についてやり取りする間にも、果断なく攻撃を仕掛けてくる相手の黒い神姫。 レーザーライフルの先端からレーザーブレードを展開、直線的に体当たりを仕掛けてくる。 ティキはその驚異的な運動性でブレードを回避、だがそのまま突進してきた相手の翼と接触。ぐらりと一瞬大きく体制を崩す。 一方相手も翼を損傷し多少の挙動の乱れを見せるものの、元々の重量が違いすぎるためあまり深刻なダメージは負っていない。 そして2人が困惑しているのは、何より相手の攻撃方法だった。 自己の損傷も厭わない無謀な特攻戦法。それはまるで旧日本軍の神風特攻を連想させる。 いくら仮想空間とはいえ、此処まで過激な戦法を取る神姫は滅多にいない。 それに……と、ティキに指示を出しつつ雪那は慌しく回想する。 (さっきまでの戦闘だとこんな事してなかったのに、何で僕とティキの時だけこんな事するんだ!?) 流石に声に出すには躊躇されたが、そう思う他に無い。 その日、雪那とティキはすっかり恒例になった月2回のエルゴへの遠征を行っていた。 「よーし、エルゴの皆さんにティキの新しい力を見せてあげようね!」 「ティキと~っても頑張っちゃうのですよぉ☆」 まるで楽しい遠足に行くようなハイテンション気分の2人。足取りも軽くエルゴの店内へと吸い込まれていく。 「こんにちは店長さん、ジェニーさん」 「こんにちわですぅ」 軽やかにハモりながら挨拶を掛ける2人。此処数ヶ月通いつめており、すっかり常連となっている。 「やぁ藤原くん、いらっしゃい。ティキちゃんもこんにちは」 店長さんがにこやかな笑顔と共に挨拶を返してくれる。 「今日はまずバトルかい? 例のユニットをお披露目にきたんだろ?」 ニカっと爽やかに、2人の来た目的を見抜く店長。すっかり顔なじみである。 「はい! その節は色々とありがとうございました。それじゃ早速行ってきます!」 その常連ならではの対応の嬉しさを噛み締めつつ、2人は2Fのバトルスペースへと上がってゆく。 「何時も盛況だねぇ、しかもレベル高いし」 「ですぅ。見てるだけでも勉強になるのですよぉ☆」 マルチスクリーンに次々と映し出されていく試合映像に一心不乱に見入っている2人。 彼らの地元地域でも武装神姫は盛んではあるが、平均レベルで言えばエルゴには今ひとつ及ばない。 尤も其れは、エルゴに出入りする人々の平均レベルが抜きん出ているのではあるが。 卵が先か鶏が先かのようなもので、入り浸りになっている内に自然と鍛えられ実力を身に付けた者、噂を聞きつけた他地域の腕自慢、取り扱いの少ない希少パーツを求めて辿り着いた者、初期から武装神姫関連を扱っていたため極初期から通い続けているテスター上がりの古強者ete…… 強いて言うならば50年以上昔にベーマガ紙上のスコアランキングで上位を独占した人々が集っていた、伝説の巣鴨キャロットのような状態だろうか…… 兎も角、2人はすっかりその場の雰囲気に呑まれ、かつ満喫していたが、やがて1つの試合がその目に止まる。 それは、黒いアーンヴァルと白い通常のアーンヴァルが激しい空中戦を繰り広げている映像だった。 黒いアーンヴァルが背部に装着しているユニットが通常のものではなく、アーンヴァル用パーツで組み上げられた、まるで重戦闘機のようなシルエットになっているのだが、それが喉の奥に挟まった魚の小骨のように記憶に引っかかる。 「ねぇティキ。あの黒いアーンヴァルの武装なんだけれど、どっかで見た記憶ないかな? なんとなく見覚えがあるんだけれど思い出せなくて……」 う~ん、と軽く腕組みをして考え込む雪那。 ティキも真似するようにう~んと腕組みをした後、頭に電球がピカーンと光ったかのように明るい表情になって 「あ、ねここちゃんのシューティングスターにソックリなのですよぉ♪」 「なるほどー、言われてみると同じだね。ティキよく覚えていたね」 「えっへん、なのです♪」 ちょいん、と胸を反るティキ。威張っているようだが、その実とっても愛らしいポーズを取っている。 「……っと、勝負が着きそうだ」 スクリーンには黒いアーンヴァルが、相手のウィングをレーザーライフルで撃ち抜いた瞬間が映し出されていた。 飛翔する為の羽をもがれ、無残に地上への接吻を強要される白いアーンヴァル。 こうなっては彼女に勝ち目は殆どなくなる、空戦用の機体が肝心の飛行能力を失ってしまっては意味がない。 程無く相手のマスターのギブアップ宣言で試合は終了。 相手に対して丁寧に一礼をしてから、フィールドを去ってゆく黒いアーンヴァル。 束ねられた長髪が風になびき、それだけが静止した場面の中での唯一の動きといえた。 「マスタ、ティキはあの人と戦ってみたいのですよぉ☆」 「え、ティキから戦ってみたいだなんて珍しいね」 ティキは、んー……と唇に指先を軽く当て、考えるしぐさをしてから 「あの人の戦い方とか、ねここちゃんに似てる感じがするのですよぉ。なのでティキにとっても参考になるかなと思ったのですぅ♪」 「なるほどね。なら胸を貸して貰うつもりでどーんと行っちゃおうかっ!」 「はいですぅ!」 おー! とガッツポーズを取って気合を入れる2人。近くにいた人たちは一瞬何事かと振り向くが、それもすぐに沈静化。 『それじゃ、宜しくお願いしますね』 『宜しく』 相手はエルゴ内の人ではなく、同一エリア内のセンターからアクセスしている人らしかった。 簡単なバトル手続きをした後、通信でマスター同士が軽い挨拶を交わし、戦闘準備に入る。 「……お手柔らかに」 「はじめまして♪ お手合わせお願いしますですぅ」 ……その時2人は気づくべきだったろう。 ティキの姿を確認した瞬間、先程まで氷の様な冷徹な表情を浮かべていた神姫=ネメシスの瞳に、溶鉱炉の炎にも似た光が宿ったのを…… 「ひゃっ!? あ、あぶなすぎるのですよぉ…!」 またしても特攻を仕掛けてきたネメシスを辛うじて回避するティキ。 今度は翼ではなく、本体ごと体当たりする勢いで突っ込んできたのだ。いくら質量に大きな差があるとは言えその戦法は自殺的行為。 今の攻撃もティキの驚異的な運動性能でなければ回避できないほどの鋭く深い=それはつまり危険の大きい自殺的な攻撃。 2人がつい先程まで観戦していたバトルでネメシスは、冷静沈着かつ確実に戦闘を進め、云わば『華麗な』高速戦闘を行っていた。 それが今回の特攻戦法である。2人が混乱するのも無理ないと言えた。 『ティキ、低空に逃げるんだ!』 「了解なのですぅ!」 MD推進器をフル稼働させ、まるで地表に落下する隕石のように急降下! 特徴的な光の翼が更に大きく強く羽ばたく。 それに追従し、執念深く追撃をかける漆黒の翼。 (低空であんな事をしたら地面に激突しちゃうはず。さっきまでみたいには動けないだろうから、その分ティキが有利なはずだ) 「マスタ! 何か距離が開いてきてるのですよぉ!?」 『え……』 ティキのその悲鳴のような報告にはっとなってスクリーンを凝視する雪那。 そこにはレーザーブレードの展開を解き、ティキの少し後方にピタリと付けたネメシスの姿。 「消し飛べ……私の前から、消えろ!」 ネメシスの呟きと共に、いや呟きが掻き消えるほどのレーザーライフルの発射に伴う甲高い駆動音と共に、2本の死神の槍がティキを破壊せんと一直線に猛進する。 2人とも最大速度での急降下中だったため、ティキは迅速な回避行動が殆ど行えない。 『ティキ、光の翼だ!』 「光の翼なのですぅぅぅぅ!」 次の瞬間、ティキの周囲は膨大な熱量の嵐に支配される。 やがて熱量は拡散し、焼き尽くされた空間に現れる影。 「……大丈夫なのですよぉ♪」 そこには自らをビームの鎧で包み込み、ダメージを打ち消し今だ健在なティキがいた。 背中より突き出た2門の攻撃ユニットは跡形もないものの、本体へのダメージは軽微。 ティキの両肘に装備されていたビームシールド発生装置と背中のMD発生装置を共振させ、4つのビーム発生装置で1つの巨大なビームのカーテンを演出し作り出したのだ。 だがそれは…… 「獲物……掛かった……!」 ティキの眼前には既にゼロ距離にまで接近してきたネメシスの姿。 射撃直後にレーザーブレードを展開させ、砲撃の陰に隠れる形でスピードを殺すことなくそのまま接近していたのだ。 ネメシスのブレードとティキの光の翼が、華麗で危険な火花を散らしながら激しくぶつかり合う。 そして2人は、その形状を構築しているフィールド同士が激しく干渉しあい、結果2人の刃はそれ以上押すことも引くことも出来なくなる。 「え?、きゃぁぁぁぁぁ!」 突如フィールドに響き渡る百舌のような小鳥の悲鳴。 ティキの愛くるしい顔に、ネメシスの手が覆い被さり、メキョメキョと気味の悪い軋みを立てさせている。 それは、ネメシスが己のアイアンクローでティキの頭部を粉砕しようとしている悪夢の如き光景。 ネメシスは干渉現象でお互い身動きが取れなくなった瞬間エトワールファントムから分離し、光の翼のもっとも薄いポイントをその腕のみで強行突破してティキの顔へと到達したのだ。 「その顔……醜く潰れろぉ!」 戦闘前の憂鬱な表情は過去の物となり、禍々しい狂気の笑みを浮かべながら、尚ティキの顔を粉砕せんと締め上げるネメシス。 だがメキメキと内部機構が異音を立てているのはティキの顔だけではなかった。 通常の武装神姫の手は然程パワー、耐久力の高い物ではない。 しかもビームを強行突破した時点で外装にもかなりの傷を負っている。そんな状態で耐久性の高い頭部を握りつぶそうというのだ。 ティキの顔がミシミシと歪む都度、ネメシスの指先からも異常パルスの閃光が走り、人口筋肉が付加に耐え切れず裂け千切れ、断絶の悲鳴を上げる。 「や……やめるのですよ……ぉ……っ……」 必死にもがくティキだが、光の翼は既に制御不能に陥っており辛うじて動く手で抗うしか方法がなかった。 だが、その圧力にゆっくりと力を失ってゆくティキ。その抵抗も空しく、限界を超えた頭部が粉砕されんとした、その時 「試合終了、フィールドアウト、WINNER ティキ」 フィールドに響き渡るジャッジAIのアナウンス。 同時に強制リングアウトされ、ポリゴン粒子となって消えゆくネメシス。 「……た、助かったのですぅ……?」 『そうみたい……かな……?』 後に残されたのは、急激な事態の変化がいまいち飲み込みきれず呆然とするティキと雪那の2人だった。 「……どうして、あんな事をしたの?」 少女の透き通った声が部屋に響く。だがそれは可憐と言うには余りにも負の感情が大きすぎて。 「………」 「ダンマリなのね。……まぁいいわ。もう二度としないと……誓いなさい」 「………」 「返事は?」 「……イェス、マスター」 短いその会話。 少女は果たして、気づいたのだろうか。 その神姫……ネメシスが、初めて彼女を、名前以外の敬称で呼んだという、その事実に…… 続く(18禁注意 トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/battle_communication/
武装神姫 BATTLE COMMUNICATION@wikiへようこそ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/656.html
そのさん「良く晴れた日」 とある日曜日。 その日は見事な秋晴れだった。僕は昨日約束した通り、ティキに外に散歩に行こうと告げた。 当然散歩だけではなく、来るデビュー戦に向けてパーツのテストを行うという目的も兼ねている。 ティキはマオチャオで、なのに僕はこの娘に鉄耳装とキャットテイル以外のマオチャオ用の武装を装備させてない。 しかも無理やり自作の情報集積装置とそれに伴い改装した鉄耳装を有線で繋いでしまったものだから、うまく機能するか不安だったんだ。 もちろんそんなのはただの杞憂で、さっさとテストを終えた僕らはダラダラと散歩&日向ぼっこに興じている。 「お外に出たのは初めてなのですよぉ♪」 楽しそうに浮かびながらティキは言った。アーンヴァル用のリアウイングを背中につけているので宙を飛んでいても不思議じゃない。 「あれ? そうなんだ」 「そうですよぉ♪ 旦那さんはマスタたちにティキのことナイショにしてたので、ずっとあの部屋から出た事無いのですよぉ☆」 ……判りにくいので説明すると、彼女の言う『旦那さん』とは元オーナーの僕の亡父で、『マスタ』と言うのが現オーナーの僕の事。 「うにーー……お日様の光って、すごく気持ちイイですぅ……」 うっとりとしてそう言うティキ。 周りを見回せば、多くないとは言え神姫と一緒にこの公園に来ている人間も少なくはない。つまりは当たり前にオーナーと外で日を浴びる神姫がいるって事。 ティキはそんな当たり前を今まで経験してこなかったんだ。 そう考えると少し悲しくなった。 「マスタ、どうしたですかぁ?」 気が付くとティキが目の前で心配そうに僕の事を見ている。 「……いや、なんでもない。それじゃ、せっかく初めての外出なんだからめーいっぱい遊ばないとねっ」 「ハイですぅ♪」 今でこそなんの躊躇もなくティキと外に出たりできるけど、僕がとりあえず便宜上、ティキのオーナーになった時は、それでも僕はティキを所有する事に戸惑いを覚えていた。 何度も言うけど、僕は自分のオタク体質を認めたくなかったんだから仕方が無い。 格好つけもあったと思う。40年以上の昔から今に至るまで、オタクと呼ばれる人たちが世間一般に『カッコいい』と言われた時はわずかで、しかもその時さえも『見ようによっては』という注釈がついたほどだ。 つまり、どこまで言ってもオタク=変人である事には変わりはなかった。 しかしティキに出会ってからというもの、『武装神姫』に対する興味はますます膨らむばかりで。 「いやいやいや……でも、なあ?」 「なにが『なあ?』なんですかぁ?」 「おうわっ!」 我ながらどうかと思う奇妙な声を出して驚く。 その僕の目の前には、ニコニコと笑顔を浮かべたティキの顔。 僕だけに向けられているそんな笑顔を見て、僕は顔が赤くなる。 彼女に振られたばかりで、女の子のそういう表情を見るのがご無沙汰だった僕は、それだけで照れてしまった。 あぁ、今ならわかるよ。武装神姫にのめり込んで溺愛する人の気持ちがっっっ! …………………… って、あ……れ? 何かが天啓のように僕の頭に引っかかった。悪魔の誘惑とも取れるのだけども。 一体今の僕は、何に対して格好をつけなければならないのか? 格好つけて見せるべき対象であった彼女には先日見事に振られ、その彼女と釣り合いが取れるように張っていた見栄やプライドにも、今では何の意味も無いのに、好きだと感じれる事や、興味をそそられる事に遠慮して、一体僕のなにが守られるのか? 今僕が格好つける相手は、目の前の彼女じゃないのか!? 一回でもそんな考えが頭を過ぎると、後は坂道を転がる石の様。 「……そうだね。自分から逃げていてもダメだよね」 多分、世間で言う所の『一般常識人』は、この時の心情から出てくるその言葉に矛盾を感じるんだろうなぁ。 多数意見に寄りかかり、他を排除し、否定してしまう人たちには、『安寧のために現実に逃げるのを止め、夢中になれる自分の本当に目を向ける』という幸せは判らないんだ。……今までの僕がそうだった様に。 「決め、た」 「なにをですかぁ?」 僕はティキを見つめ、宣言するように言葉を紡ぐ。 「ティキ。僕はこれから君と一緒の時間を過ごす事に決めた。……親父の代わりは勤まらないかもしれないけど。それでも!」 「……………………」 「ティキ?」 なんだかプルプル震えるティキ。心配になる僕。 「違うのですよぉ! 誰も誰の代わりにはなれないのですよぉ! 雪那さんは雪那さんなのです! 誰かの代わりじゃないのですよぉ!!」 そして彼女は怒った。 驚いた。そして不覚にも感動してしまった。それこそそれは、たった今自分が決意した事を肯定する言葉なのだから。 そんな僕の心中にティキは気付かず、にっこりと目を糸の様にして笑い右手を差し出す。 「というわけで、これからよろしくなのですよぉ♪」 その言葉を受け、僕はその手に右手の人差し指で応じた。 初めて見る外界。データとして、知識として知っているだけなのと違い、リアルなそれら刺激に対し、ティキは戸惑いながらも楽しんでいるみたいだ。 だからこそ、今日一日は二人で目一杯遊び倒した。初めての外出を、それこそいい思い出にしてあげたいから。 犬にじゃれ付かれそうになって笑いながら逃げ回るティキ。 じっと見ていた昆虫の、突然の行動に驚くティキ。 幼い子供が彼女に手を振るのに、照れ笑いを浮かべながらも手を振り返すティキ。 そんな一つ一つが僕にとっても嬉しい。 ひとしきり遊んで、へとへとになる頃には日がずいぶんと傾いていた。 「それじゃぁ帰ろっか」 僕は頭の上で休んでいるはずのティキに言う。が、ティキから返事は無い。代わりに聞こえてくるのは、 「すぅー…… すぅー……」 と言う寝息だけだった。 僕は頭の上でうつ伏せに寝ているティキを起こさないよう、ゆっくりと立ち上がると、慎重に家路に着く。 途中、少し目が覚めたティキは、小さく何かを僕に言うと再び眠りについてしまった。よくは聞き取れなかったが、まぁ、起こしてまで聞き返す事も無いし。 そのままの格好で帰宅した僕らを見て、母は一言こういった。 「なんだか昔のMMOの頭部アクセサリみたいね」 ……結局母も侮れない。 「マスタと一緒に遊べて、ティキはとっても幸せなのですぅ……」 思わずうれしくなっちゃうその寝言は、僕だけの秘密にしておこう。 終える / もどる / つづく!