約 2,307,763 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2004.html
第壱話 ~2036年・4月15日午前10時30分~ ピリリリリリリリ 半ば巣と化した寝床の枕元に置いた目覚まし時計がけたたましく電子音を鳴らすが、 この部屋の主であり、この物語の主人公である黒崎 優一は空手チョップでアラームを切った。 「マスター、起きてください!お休みだからってゴロゴロしていたら体に毒ですよ!」 彼の武装神姫・アーンヴァルタイプのアカツキが起こしに来た。 彼女の髪はアーンヴァル特有の金髪ではなく、どちらかというとアッシュブロンドに近い感じがする。 彼女が来たと言うことは朝寝坊予防の第二防衛ライン発動、と言った所だろう。 「うーんアカツキ、11時になったら起こしてくれ。見逃してくれたら昼飯はソース焼きそばにしてやる」 そう言うと優一はごろんと寝返りを打ってアカツキに背を向けてしまった。 「了解です。ってそうじゃなくて!!こうなったら最後の手段です!」 一瞬ながら喜んだアカツキの右手にはスタンガンが握られている。 それを優一のうなじに押しつけるとスイッチを押した。 神姫サイズのため、出力は高くてもせいぜい3ボルトぐらいだが、人一人をたたき起こすには十分すぎる出力だ。 端子部から青白い火花が迸る。たまらなくなって悲鳴を上げながら優一は飛び起きた。 「ギヤァァァァァァァァァ!!アカツキ!ものには限度ってモノがあるって起動したその日に教えただろ!!」 「だってジェニーさんが『スタンガンは最高の目覚ましです』って言ってましたよ!」 「それはあの店長の例だろ!真に受けるな!!」 頬をふくらまして反論するアカツキ。しかし、優一が言ったことが正論だったので言い返せないでいる。 「ったく、せっかく気持ちよく寝ていたのに。しゃあない、ステーションに行くぞ。今日は丸一日だ」 そう言うと優一はいきなり寝間着のスウェットを脱ぎ始めたのでアカツキは慌ててその場を後にした。 とっぷ 零之弐
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1143.html
――BGM:ドレミファだいじょーぶ―― さて「はじめてのおつかい」今日は花道家の生駒さんのお宅にやってまいりました! 今日おつかいに出る子はなんと神姫ですよ神姫。 「それじゃあにーの丞、このフクジュソウの生け花を☆×スタジオまでね。平気そう?」 「うにー! 大丈夫ですにー!」 「・・本当に?」 「にーだっておつかいくらい出来るんですにー!」 「本当の本当に?」 「むー、にーはもう子猫じゃないですにー! いちにんまえですにー!」 「・・・判ったわ。でも無理はしないこと。それから、知らない人には付いて行かない事。いい?」 「わかったですにー♪ 行ってきますにー!!」 「いってらっしゃい・・・ああでも心配・・・(がさごそ)」 さて、心配そうなお母さんをよそに、にーの丞ちゃん(0歳2ヶ月)が初めてのおつかいに出かけます。でも鉢付きの生け花は重そうですね~。 「にー。にー・・・」 通り道の商店街を横切りながら、頑張って生け花をはこぶにーの丞ちゃん。でも、やっぱり神姫にそのサイズは辛いんじゃないでしょうか? 「お・・重いけどがんばるですにー! かぢばのばかぢから~! うにー!」 そんな最初からクライマックスでは無理があるでしょう。・・あれ? 道を誰かが塞いでいますよ~? 「うむ、父君とたま子が気を利かせてくれた休日とは言え、たま子が一体どんなへまをやらかすかと考えると気が気でないのう・・・。いかんな。妾も妹離れをせんとな」 「うにー! うにー!」 「・・・何じゃ、子童? そなた大層な活け花を携えてなんとする?」 おや、その種型神姫さんが話し掛けてきましたよ? いいんですかね~? 「え~っと、知らない人には付いていっちゃいけないですにー」 「・・・殊勝じゃな」 「でも、おねーちゃんは神姫だから大丈夫ですにー♪」 「・・・臨機応変じゃな」 え~、本当にいいんでしょうかね。あ、でも通行人に聞いたらその神姫、なな子さんはこの辺じゃ有名な神姫らしいですね。いい人そうですし。 「その花は、主の使いか? 福寿草とはいい趣味をしておる」 「おかーさんが活けたお花はかっこいいですにー♪」 「妾も、そう思うよ。コレも何かの縁じゃ。妾とて非力ではあるが助力しようか?」 「ダメですにー! これはにーのお仕事ですにー! ひとりでできるんですにー!」 「・・・たま子・・妹と、同じ反応じゃな」 「うにー?」 「いや、済まなかった。ではこうしよう、少し待っておれ」 ・・・あら? なな子さん、いきなり八百屋さんに入っていって台車を引っ張り出してきましたよ。 「そこの八百屋とは馴染みでな。お主の事を話したら台車を貸してくれた。これなら、おぬしの力で運べるであろう?」 そう言いながら鉢を台車に載せてくれるなな子さん。親切ですねー。 「おお! らくちんですにー!」 「笑顔まで、たま子にそっくりじゃな。では・・・」 「・・うに? どうしてついて来るんですにー? にーはひとりでおつかいするんですにー」 「いや。ただ・・・妾の散歩のコースとおぬしの行く方向が同じというだけじゃ。“たまたま”な」 「にー?」 「うーん、今どこですかにー?」 「ここの電柱、薄汚れておるな、見苦しい。まあ住所表記は見えておるのでまだ良いか」 「か、階段こわいですにー・・・」 「バリアフリー、というモノは神姫にも当てはまるかも知れぬな。こちらのスロープの方が余程歩き易いとは思わぬか?」 「あ、赤いしるしきれいですにー!」 「そういえば前たま子が赤いカエルをみて驚いておったのを思い出した。自然界では時として赤を危険色として扱う。人間もそれに習う辺り、意外と動物的部分を失っておらぬのかもな」 「えと・・☆×すたじお・・・。つ、着いたですに~!!」 目的地に着いた喜びで飛び跳ねるにーの丞ちゃん(実際は殆どなな子さんのお陰なんですけれど)。 「さて、妾はそろそろ・・・」 「うーん、大丈夫かしら・・・」 「うむ? ご婦人、関係者であれば堂々と中に入っては如何か?」 「・・え!? あ、ああ、誰の神姫か知りませんけど、お気遣いあ・・」 「あーっ!! おかーさん、どうしてここにいるんですにー!?」 「にーの丞!?」 あれ? 誰かと思えばにーのお母さんじゃありませんか。スタッフにも内緒で何してるんですか? 「にーの丞、そなたの母君か? まさか先回りして・・?」 「えっ!? いや違うのよ? 別に全然心配だったからとかじゃなくって、うっかりにーに届け先の楽屋を教え忘れたのよ? 決して頼りにしてなかったなんて事全然ないんだからね!」 「・・・語るに落ちておるぞ、ご婦人」 「いあや! そんな事はなくて・・・あの・・・ええと・・・」 「すいません、そんな所で立ち往生されるとスタジオ入れないんですが?」 あれあれ、漫才なんてしていたら通行の邪魔になっちゃっていますよ皆さん。 「ん?ああ、悪かった。だが妾達は・・・」 「お届けものなのですにー」 「あ、その生け花はきっと私の楽屋のです・・・あれ? まお? 今日は収録無い筈だろう?」 「うにー? にーはにーの丞ですにー」 「人違い? そんな筈は・・・」 「あ~~~!? 貴女って・・神姫タレントのイブリンちゃんじゃない!? 主演の『武装神姫2036』いつも見てるわよ!」 「はい、どうぞですにー」 「有難う」 立ち話もなんですから、と招かれたイブリンちゃんの楽屋で無事おつかいを果たすにーの丞ちゃん。良かったですね~。 「それにしても、届け先があのイブリンちゃんの楽屋だなんて。ファンなのよ私!」 「妾もテレビドラマの『武装神姫2036』はよく見ておるぞ。毎回ドラマとは思えない程思い切りの良いドタバタギャグで妹共々楽しく見させてもらっておる」 実際凄い人気ですよね『武装神姫2036』。・・・って私他番組の事いっていいんでしょうか・・・。 「はは、有難う。でもちょっと複雑。実はあれってほとんどノンフィクションなんだよ。私やマスターも本名で出ているし」 「ホントに居るの!? あの金持ち会長とか!?」 「ええまあ。と言うか、そのアホ会長のせいで、私はこんなペイントを年中することに・・・」 「そうじゃ、気になっておったのじゃが、その白いスーツカラーは確か耐水ペイントでは無かったか?」 「ええ、そうなのだけれど・・それを見たスタッフが悪乗りしてスピンアウトでこのカラーの神姫を発売したんだ」 「それ、にーの事よね。私もドラマの影響で買ったのよ~」 「うにー?」 「それで、その販促の都合で私は強制的に年中このペイントなんだ。全くいい迷惑ったらありゃしない・・・しかも撮影の度に塗り替えで・・・」 「人気者も大変じゃな」 「大体、私が忘れたいような出来事ばかり取上げられて、そのお陰でマスターの頭上に何度も目覚まし落とされたり、まおの馬鹿に何度も無駄なツッコミ入れたり、一番恥ずかしいセリフばかり何度もリテイク食らったりetcetc・・・。ぶっちゃけ花でも見て心を落ち着かせないとやってられない(泣)」 うわー、イブリンちゃん、まじで泣き崩れちゃいましたよ? 「にー。元気出すですにー」 「・・・妹の姿をした神姫に慰められるなんて、皮肉だな」 「妹の姿、か。・・・そもそも、我々にとって『姉妹』とはどういう意味を持つものなの、じゃろうな」 「なな子さん、あなたにも妹が居るんだ」 「ああ。目を離せないような迂闊者ではあるのじゃが」 「私の所もそうだよ。馬鹿ばっかりで、手間ばっかりかかって仕方ない」 「じゃが、血の繋がりなど持てない我々に、それがどれほどの意味があろうか?」 「にーの丞ちゃんには悪いけれど、こんな風に、妹の姿を模倣されたりだってするのにな」 「うに?」 「・・・妾達は所詮「道具」として生まれた身、都合良さでしか関係を持てぬのだろうか・・・」 「・・・別に、いいんじゃないのかしら?」 「「・・・え?」」 「人間だって、義理の兄弟や親子だって居るんだし、そうでしょ?」 「だけど、後付けの関係なんて、何時壊れるか・・・」 「だって結婚は赤の他人とするわよ?」 「・・・言いえて妙、じゃな。結局結婚も「他人」を「家族」にする行為という訳か」 「実際私の夫なんて出来の悪い弟が一人増えたようなものだし」 「・・・それって本当にいいのですか?」 「いいんじゃないのかしら。上手くいってるなら。貴方達も、聞いている限り、そう思えるけれど?」 「・・・まあ、あのマジョーラバカは私くらいしかしつけられないしな。・・・だけど」 「・・・たま子に「お姉ちゃん」と呼ばれない事など、想像すら出来ぬな。・・・じゃが」 「まだ自信ない? じゃあ、にーはどう思う?」 「うに?」 「こんな妾でも」 「こんな私でも、姉妹と呼べる家族がいていいの、かな?」 「にーのおねーちゃんになってくれるんですにー? にーはおねーちゃんがいっぱいの方がうれしいですにー!!」 「・・・いや、にー、そういう意味じゃなく・・・」 「ぷっ・・あははははは!」 「ふふ、ふふふ、成る程な」 「え? 2人とも?」 「妹って、みんな我がままみたいだね」 「そうじゃな」 「うにー♪」 「・・・ところで、そっちの番組スタッフさん? にーの丞ちゃんが届けた時点で収録終了の筈なのに、何でまだカメラ回しているんですか?」 いや、事情プロデューサーに話したら「そりゃ面白い! 特番でドキュメンタリーにしよう!!」って言われまして・・・。 「・・・勘弁してください(泣)」 「芸能界は、大変じゃな」 「か・・・かくなる上は・・・。獣牙爆熱!!!」 ちゃんちゃん(?) 目次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2635.html
「……そんなことが」 「はぁー、そんな神姫もいるんだねぇ。……私が言えた義理じゃないけどさー」 空いた休憩所で今までのことを話し終えた。 シオンもだいぶ落ち着いてきた。 シオンが来てから、最近なんか人に自分の境遇を話してばっかりだな。 別に嫌ではない。身の回りがガラッと変わったようなそんな感じがするだけ。 「そんなわけで、なんとかバトル恐怖症を治したくてここに来たのだけど」 「結局こうなってしまった……」 「う、うん。ごめんね」 霧静さんたちは迷惑じゃないのだろうか。普通に考えたら、自分でもこんな神姫はおかしいと少し思ってしまうわけで、まともにバトルできなかったし。 「大丈夫、気にしてないよ。銃が使えない神姫だけどアリエって今はちょっと強いんだよ。昔はまともに戦えなかったし。……それでいえば、アリエとシオンちゃんは似ているのかもね」 なんだよーそれはー、とアリエは納得がいかなそうな顔をしている。 それで、あの奇妙な大剣を使っているのか。わざわざ銃に似せた剣もアリエの為を思った武装なのかも。 優しい子だな、霧静さんは。 「とりあえずさー、私のこの『エレメンティア』が件のストラーフが使っていたのに似ていたのが問題だったんだからさ。他にもバトルさせてみてもいいんじゃない? 何回かやれば勝てるかもよー」 アリエが意見を言う。 『エレメンティア』というのはその大剣の名前だろう。 ファンタジー色の強い、物語に出てくるような名称だ。 僕としては少しカッコイイと思えてしまった。 しかし、あの大剣の状態が変わった時、イスカのに似ていたってのもあるのだけど、まだバトルをやらせてもいいのだろうか。 大丈夫なのかな? 僕はシオンを見る。 「……まだ、やれます……」 涙を拭いて、僕の目を見てくる。 ただそれがうまく出せないだけで、根性はやっぱりあるんだなと思った。 ―――― 駄目だった。 何人かとバトルを申し込ませてもらってみたけど、戦えていなかった。 犬型や砲台型、イスカと同じような悪魔型とも戦うことはできた。 でも、戦うことはできても全敗だった。 負ける度に泣いてしまうシオン。慰める僕たち。 シオンが気になっているのか――バトルの度に、僕の傍に霧静さんとアリエもいてくれる。 ここで真剣に付き合ってくれる友達が出来たのは嬉しいけど、肝心なバトルは白星を挙げられなかった。 そううまくはいかないか。簡単にできたら、宮本さんにいた頃に治っているはずなんだから。 「う~ん、このまま、やらせても勝てないだろうね。きっと」 「……ちょっと、アリエ。言い方が……」 たしなめようとする霧静さん。 「だって、事実でしょー。銃撃を当てられてもない、撃てたとしても、見当違いの所に当たってる。打撃も本気で打ち込めてないみたいだし。こりゃまじ重症だねー」 アリエの言う通り、相手と戦わせてみても、シオンはダメージを与える攻撃を一切できてない。 勝たせるにはどうしたらいいのだろうか。 いや、勝つまでも、まともに勝負ができるぐらいにならないと、どうしようもない。 ああでもない、こうでもないと、僕たちが思考錯誤している時だった。 「いやー、遅れてごめんな!!……ありゃ?」 「……えっと、この人は?」 「うるさい、おにいさんだねー」 霧静さんたちは僕に訪ねてくる。 場が読めてない淳平だ。 そういえば、淳平が遅れて来るのをすっかり忘れていた。 「マスターがご迷惑をおかけしました……それで、この方々は」 といつも通り胸ポケットにいるミスズが言う。 「うわー、羨ましいなー。こんな可愛い子と仲良くなっちゃって。このこの」 僕を淳平が肘でつついてくる。 「えっ……あの……」と霧静さんは可愛いと言われて恥ずかしそうに顔を赤らめている。 「……淳平、それ以上何も言わない方がいいよ」 「えー、なんでー?」 ミスズが冷徹な瞳で見ているから。 神姫が人間に攻撃できるようなら、絶対危ないだろうな。いつか、目で殺されるかもしれないけど。 「リミちんになんかしたら、許さへんでー!」 アリエがエセ関西弁で凄む。(なんで関西弁?) 「そんなのじゃないって。さっき友達になった霧静 璃美香さんと神姫のアリエだよ。まあ、淳平が来ないから、霧静さんたちと仲良くなったのは事実だけど」 「え、そうなのか」 淳平が来なかったから、霧静さんと話そうとしたわけだしね。 でも、僕は今はシオンのことで頭がいっぱいだよ。 「あなたがシオンね。初めまして、ミスズです」 「……初めまして……」 ミスズが床に降り立って、泣き止んだシオンに挨拶をする。 そういえばどっちも初対面だよな。僕がシオンとの会話のタネにしたことがあるくらいだし。 その本人に会えたんだ。 なんとなく、仲良くなれる気がしたからな、この二人は。 「はーい、私はアリエだよ。よろしくー」 「アリエね。よろしく」 目の前で武装神姫が三人集まった。 友達が増えていくのはいいことだな。 「あれー、どこかで見たと思ったら、キミってO大女子高の生徒でしょ。前にここでバトルしてたの見てたよー。この神姫とかがすっげぇ強かったな。あ、俺は伊野坂 淳平。この子はアーンヴァル型の神姫でミスズだからね!」 「……えっと」 「ほら、霧静さんが困ってるでしょ。やめなって」 少し興奮している淳平が見てられない。 可愛い子が好みらしいから、霧静さんの近くに淳平を寄らせないほうがいいのかも知れない。 あ~、霧静さんは人見知りをするらしいから、こっちは仲良くなれるのか心配だ。 ―――― 「シオンのはなかなか重いみたい」 缶ジュースを買って、三人で飲んでいる。 休憩所のベンチに僕が真ん中で左に霧静さん、右に淳平がいる。人は人同士で、神姫は神姫同士で交流を深めると、なぜかアリエが場を仕切った。 まあ、文句はなかったし、別にそれでいいと思ったからこうなった。 少し向こうにシオンたち三人がいる。 楽しそうに話しているのが見える。 三人寄れば姦しいっていうのかな、あれは。 ……うるさくはしてないけど。 「ふーん、戦えない武装神姫、ね。CSCのせいなのか。螢斗は破棄やリセットは許せないんだろ? だったら、このまま、バトルしないってのは駄目なのか?」 (さっきから、その考えが頭にチラつくけど、それは駄目なんだよな) 「元々、宮本さんの所から家出したのもそれが原因だけど。でも、なんとかしてやりたい。シオンはバトルをしたくない訳ではないみたいだし、嫌がってる様子もない。逆に自分からやろうと思ってる。だけど、身体が拒否する感覚があるって。神姫センターに修理にも出したこともあるらしいけど……なにもなかったってさ」 「……したいのに、できないなんて、変な話」 改めて考えると、人間の精神病みたいだなと思った。 神姫なのに人みたいに反応を起こすなんておかしいよな。 人間の思考に近く、感情があるのも大変なことだと思う。 「まぁまぁまぁ、俺たちも、なんとか協力するからさ。元気出せよ! っな! この後、ミスズともバトルさせてからまた考えてみようぜ」 「……そうだね」 肩を叩いて励ましてくれる淳平。 いけないな、僕が暗くなってた。こういう常時明るい淳平が少し羨ましくなった。 「私も……協力する。シオンちゃんがあんなに泣いて可哀想」 「ありが――」 「あんがとねー! 霧静さん!」 「えっ……その……」 なんで、淳平がお礼を言うんだ。ああ、身を乗り出すから、僕の隣から霧静さんが若干距離を離した気がする。 いまだに淳平に慣れていない霧静さんを助けてから、シオン、ミスズ、アリエを呼び戻すことにしよう。 でも、このままバトルを続けて、なんとかなるのだろうか。 ―――― 「はい、これ、ヂェリカンだよー。私の奢りだからー」 螢斗さんたちと離れて、アリエさんとミスズさんと私。 こんな風に神姫だけで集まるなんて初めてだ。 アリエさんが自分の神姫サイズのバックパックから、色んなヂェリカンを取り出した。ヂェリカンは神姫用の趣向品で、人間と同じような、種類のある飲み物だ。 お酒みたいに酩酊状態になる飲み物から、ジュースのドリンクと色々ある。 私の基本データにはそうあった。 「なんで、アリエはこんなの持ってきているの?」 ミスズさんがアリエさんに対して、疑問に思ってそう言う。 ミスズさんは、マスターの淳平さんや螢斗さんたちには丁寧だけど、神姫同士では気軽に接するみたいだ。 ……でも、私はこういうのは初めてで、いまだに緊張している。 「いやだなー、ミっちゃん。敵であったとしても戦い終わって互いにヂェリカンを一杯飲む。それで私たちはもう友じゃん」 「……一緒にヂェリカンを飲んだら友達ということですか?」 「YES!」 「だからって、このヂェリカンをたくさん持っている理由にはならないのだけど。そもそも、なによこれ。『ゲルリン☆ヂェリー』って」 ミスズさんがそれを手に持つ。 ゼリーでできている人間のような、そんな感じ……いや、そうとしか言えないキャラクターのデフォルメイラストが前面にされている。 「ネタで持ってきたんだー。友達がいたら、飲ませようと思って」 「……ひどくない。それ」 アリエさんが、あははっと笑う。 アリエさんは明るいし友達が多そうだ。 私とは大違いだ。バトルに銃武装が使えないっていうハンデがあるのにすごく強いし。 「ほれ、シーちゃんも、これ」 とアリエさんが一つのヂェリカンを渡してくる。 『イチゴ・オレ ヂェリー』と書かれてある。 「ピンク同士、似合いそうだよー」 「……すいません、頂きます」 手渡されて、蓋を開けてみて飲んでみる。 「あ、おいしい」 「だしょー。それ結構お気に入りなんだ。人間の飲むイチゴ牛乳と似せているんだよ。でも、こっちの方が美味いんだよねー」 甘みがあって、ほんのりとイチゴの味がする。 神姫に合うように、調整されているんだろうな。ヂェリカンは初めて飲んだけど、確かにおいしいと思った。 「神姫ショップにこんなのがあった記憶はないのだけど……」 「あー、こういうのは、リミちんの伯父さんが経営している神姫ショップに売ってるんだ。独自に取り寄せててさー。ちなみに、わたしの武装も伯父さんが作ってくれたんだよー。伯父さん、リミちんに甘いから」 「だからって、こういうの買うのはオーナーの霧静さんなんだから。迷惑かけない方が……」 「大丈夫、大丈夫。ちょびーと、貰っただけ」 「……もしかして、無断?」 「もち!」 「だめでしょ!!……ああ、飲んじゃった、お金払わないと。でも、払えるのはマスターだしなー、ああ、どうしよう」 「……ふふ」 なんとなく、可笑しくて笑ってしまった。 この場がなんとなく楽しく思えた。バトルはうまくできなかったけど、この子たちと友達になれたのは素直に嬉しいと思える。 「この際だ! あんた、これ飲みなさい!」 「うわー! やめてってば! ……うッゴク…………マズッ! ガク」 さっきの「ゲルリン☆ヂェリー」を飲ませているミスズさんと、飲まされているアリエさんとがいつのまにか展開されている。 それで、パタリとアリエさんが倒れてしまった。 あれはそんなに不味いのだろうか。 「それ、ちょっと飲んでみたいんですけど、いいですか?」 「やめておきなさい、死ぬわよ」 「マズマズー」 せっかく持ってきてくれたのだし、もったいない。それにイラストもなんか可愛く思えてきた。 「ッゴク……あ、……私、これ、結構好きです」 ドロッとしてはいるけど、飲めるゼリーみたいな。それでいて柑橘系の味がして、しつこいようで、なんでかあっさりしている不思議な飲み物。 私としては、大好きな部類に入りそう。 「ホ、ホント!? シオンが言うなら……どれどれ……ッゴク…………マズッ!……キュ~」 パタリとミスズさんも直立から倒れてしまった。 あれ? なんで、こんなにおいしいのにみんな倒れるのだろうか。不思議だ。 とにかく、このままにしておけない。 螢斗さんたちに、知らせにいかないと。 ―――― 「あ、螢斗さん。大変です、二人が」 なんでか、ミスズとアリエが倒れていた。 傍らには『ゲルリン☆ヂェリー』と書かれたヂェリカン。それから、なにかドロッとしたのがこぼれ出ている。 何があったんだろうか。これを飲んで倒れだしたよな、二人とも。 うめき声でどちらも寝言のように「マズマズー」と言っていた。本当に何があったんだよ。 シオンに聞いても「……おいしいと思うのですけど」と不思議そうに言う。 「うぉー!! ミスズゥーー!!」 「あっ! これって伯父さんの所の。アリエってば、まったく、もう」 結局、この後二人が強制スリープモードから帰ってこず、バトルもせず、その場はお開きとなってしまった。 淳平は何のために来たんだろうか、わからなくなっちゃったな……。 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/881.html
ホビーショップ『165-DIVISION』 都内某駅前の古いビルの地下にある、武装神姫中心の公式公認小売店舗。 店の雰囲気及び商品は、全体的に暗黒系でまとめられている。 店員の格好なども似たり寄ったりなのでおそろしくとっつきにくいが、初心者にも親切に対応し、購入後のサービスも行き届いている。 純正パーツは大手店舗には及ばないものの、基本的なメンテや簡単な修理に使う部品は一通り揃っている。 年に2回、割引セールがある。 リアルなら1対1。バーチャルなら2対2まで対応可能なバトルフィールドあり。時折、小規模ながら大会も開いている。 店長は大概あまり表におらず、ほとんど店員2名で対応している。 交通手段は周辺ではJR線一本のみで、更に休日は各駅停車しか停まらない、駅周辺に駐車スペース、駐輪スペースがないなど交通の便はイマイチ良くない。 しかも店のある場所が目立たず、先述の通り店の雰囲気が独特すぎて客を選ぶため、さほど繁盛しているわけでもないらしい。 店長:エンリコ 備考: 常にパンクとメタルの混ざったような格好をしている。 ただ、実際話してみると意外に気さくで面倒見がよく、特に初心者には親切に対応してくれる。 言うまでも無く、趣味はひたすら濃い。 エンカウント率は低め。 細身ですっきりとした顔立ち。 『エンリコ』はあくまで店内での呼び名。本名は不明。 店員一号:ヨル 備考: 黒メインのゴスロリファッションに身を包んだ女性。肩口までの銀髪で赤い目。片目に眼帯。 笑顔で明るく元気な人。そのため接客と、大会の際のアナウンスなども担当する。 やっぱり趣味は濃い。 『ヨル』はあくまで店内での呼び名。本名は不明。 店員二号:ハネ 備考: 白メインのゴスロリファッションに身を包んだ女性。腰までの銀髪。目が隠れるほどの前髪。 無口で物静かな人。そのためか品だしやレジ打ちなどの裏方作業が主。大会の際にはジャッジも担当する。 同じく趣味は濃い。 『ハネ』はあくまで店内での呼び名。本名は不明。
https://w.atwiki.jp/kuroeu/pages/4259.html
天結いラビリンスマイスターの登場人物 天結いラビリンスマイスターの登場人物 グアラクーナ城砦(フィユシア教) サンタシィ・エイフ連合 雷府の雲海 マーズテリア神殿 メフィ公国歴史上の偉人 ベルガラード王国 魔シキ封錬ノ匠とその協力者 その他 マスコット ゲストキャラ グアラクーナ城砦(フィユシア教) アヴァロ・ルクレール フィア クーナ イオル キスニル・カグリ ミケユ ロズリーヌ・フラン ディートヘルム・ケーニヒ 嵐燐結騎 イルメラ・ケーニヒ ぷうちゃん サンタシィ・エイフ連合 リシュエンツェーリ・ラウロソ 雷府の雲海 カトリト マーズテリア神殿 ミクシュアナ メフィ公国 アンベル・ロキ クシェル・イェーグ サリナ・シフォル カーベルト・フラール サクリファ・ロキ ポポルン・ロッツ 歴史上の偉人 アリス・クラウヴェル エト・クレンネ エボベテ・ドム ジレール・ドーレ セア・クーラウ ゾルダン・ロキ デファル・ノイルラー リノト・マウ ロック・フラール ベルガラード王国 ルーチェ ズィナミア・ネテスタス ガッシュ・ロンド 魔シキ封錬ノ匠とその協力者 煌燐結騎 リル・フラール 冥燐結騎 ギアリー・ガイダル その他 ヴィネア シヴァ 渇望の魔精霊 我欲の魔精霊 忍苦の魔精霊 マスコット アナスタシア ゲストキャラ ミクリ・ロキ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/162.html
前へ 先頭ページへ 次へ 「犬達の出会い」 「……でよぉ? そしたらそのバカの神姫が勢い余って壁にぶつかってやんの。で、目ぇまわして、相手不戦勝」 「はぁ」 「しっかし昨日の、なんだっけ。『片輪の悪魔』は強かったよなぁ。あいつのマイティがこっぴどく負けるほど強いんだぜ? 戦ってみたいよな」 「はぁ」 「……おいシエン、聞いてんのか?」 「へっ?」 やっぱ聞いてなかったか。 オレの神姫、犬型MMSハウリン「シエン」は、あわてて直立。 「も、申し訳ありません、ご主人様。聞いておりませんでした」 「いや、別にいいんだけどよ。なに見てたんだ?」 シエンの後ろには先ほどまでこいつが操作していたパソコン。画面にはおもちゃ屋のページが開いている。なになに……? 「ごっ、ご主人様!?」 すかさずシエンがマウスを操作し、ウインドウを消す。 「おいおい、何だよ?」 「いえ、あの」 「お前にしちゃずいぶん熱心に見入ってたじゃねえか」 「そ、それは」 「いいから。見せてみろよ」 オレはブラウザの履歴を開く。 「でも」 「見せろ。命令だぞ」 その言葉には逆らえず、シエンはその場でうなだれた。うーん、ちょっと卑怯くさかったな。 最新の履歴には「ホビーショップNOVAYA……」とあった。 開いてみると、そこには、 「1/12スコープドッグ復刻版、フルモータライズエディション?」 「あう……」 三十年も前に発売されたロボットのおもちゃを、間接の一つ一つに小型動力を仕込んだ、ラジコン操作が可能なやつだった。 このおもちゃのすごいところは、完全再現されたコクピットの計器・レバーがすべてアクティブだってことだ。武装神姫とのコラボレートを見込んだ機能らしい。 「お前ぇ、こいつが欲しいのか?」 「いや、その……」 「欲しいんだろ?」 「…………はい」 シエンは顔を真っ赤にして、蚊の鳴くような声で答えた。 「なんだよ。だったら言えばいいだろ。これくらい買ってやらんこともねえぞ」 まあ、ン万ぐらいだったらこいつに出しても良いだろうな、という覚悟は決めた。今。 「でも」 「あ?」 「お値段が……」 「値段?」 オレはページを下に少しスクロールした。 「いちじゅうひゃくせんまん……」 うぐ。オレはのどを詰まらせた。そこにはオレの予想を一桁超えた額が、メタリックフォントで燦然と輝いていたのだ。 まぶしいぜ。 「いえ、いいんです。自分は別に」 オレはシエンの顔を見た。申し訳なさそうに見上げるそいつの目。 そのとき、オレの中で何かが切れた。 「買うぞ」 オレは間髪いれずに言ってしまった。なんだか知らないが、買わなきゃいけない気がしたからだ。こいつのために。 「でも」 「いや、買う。これはご主人様めーれーだ」 言葉が間違っている気がする。 「ご主人様……」 「いいんだよ。金もあるし。お前が喜ぶなら、こんくらい」 「あ、あ。……ありがとうございます、ご主人様!」 シエンは満面の笑みでオレに抱きついた。尻尾を千切れんばかりに振っている。おいおい、そんな表情初めて見たぜ? 数日後。神姫の箱を四つ合わせたくらいどデカいパッケージが部屋の真ん中に鎮座していた。 オレとシエンはパッケージの前に正座する。ごくり。おもちゃに対して固唾を呑むのはさすがに初めてだぞ。 いよいよ開封。鉄片から発泡スチロールの梱包材ごと取り出す。とてつもなく重い。きっとおもちゃのガワの中身は動力がぎっしり詰まっているのだ。下手な持ち上げ方をすればぎっくり腰になるぞこりゃ。背筋をまっすぐにして「ふんぬっ」と中身を持ち上げ、シエンが箱をおろす。適当にスチロールを外すと、出てきたのはシエンの二、三倍はあろうかという緑色のロボットだった。 オレは触ってみて重さの正体を知った。重いのは動力のせいだけではなかったのだ。 「全身金属かよ……。これホントにおもちゃか?」 シエンは尻尾をぶんぶん振り回しながら、ほあー、という顔をしてロボット、スコープドッグを見上げていた。こいつにとっては神姫スケール換算四メートル弱の巨大ロボットなのだ(作者注:倉田光吾郎氏製作、一分の一ボトムズを見上げたことのある方はそのときの感情を思い出してください)。 「あの、ご主人様」 「ああ、良いぜ。乗ってみな」 オレは説明書片手にスコープドッグのハッチを開ける。シエンを持ち上げて乗せようとしたが、 「自分で乗ります」 と言って歩み出た。なるほど、昇降用の手すりや出っ張りがちゃんとあるのか。三十年前のおもちゃにしてはよくできたデザインだと感心する。シエンは乗り込む楽しみも味わいたいようだった。その気持ちはオレも良っく分かる。 シエンが自分でハッチを閉める。中でなにやらカチャカチャしていると思ったら、突然ロボットのカメラアイが「ヴゥーン」という電気音を立てて光りだした。 「うわっ!?」 オレはびっくりして引いてしまう。 主動力らしいエンジン音のようなグングンという音が鳴り始める。 ガシャン スコープドッグが最初の一歩を踏み出した。 「シエン、大丈夫か!?」 スコープドッグのバイザーが上に競りあがる。頭の穴からシエンの顔が見えた。 「問題ありません。動きます。すごいです、ご主人様」 「そ、そいつは良かった……」 シエンを載せたスコープドッグが部屋の中を歩き回る。時折腕を回したり、いらない段ボールに向けてアームパンチを繰り出したり。うわ、ダンボールが破れた。どんだけ強力なんだ? ローラーダッシュのスピードは俺の狭い部屋じゃ速すぎる。やめろピックを打ち込むな、ターン禁止!! あーあ、床がへこんだ。こりゃあただのおもちゃじゃないぞ? いやしかし。オレも乗ってみてぇ……。 「ん?」 説明書のほかに妙なチラシが入っている。店側が入れたやつだろうか? チラシにはこう書かれていた。 『武装神姫in装甲騎兵ボトムズ・バトリングリーグ&トーナメント 近日開催!!』 オレはもう一度、シエンの動かすスコープドッグの方を見やった。 了 前へ 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/949.html
何日経っただろうか 神浦琥珀言う所の『食事と排泄』というのを少なくとも30セットは繰り返したのではないか その度にエルギールかニビルが代わる代わる来ていた様な気がするが、何を言っていたかはさっぱりわからなかった 灰色の時間が流れていた 最早マスターの事を夢に見る事すら無くなっていた マスターを失った神姫は壊れてしまう事もあるという 私はもう 壊れているのかも知れなかった 「アクロの丘」 華墨の扱いは奇妙だった 専門のクリニックがこんな片田舎にあった事にも驚いたが、最も異質だったのは、華墨の身にあの準決勝で起きた事が、まるきり隠蔽されてしまった事だった 当事者のランカー達にすら、何も知らされず、準決勝の結果は後日発表という事になったらしい 不満を抱く者も居たが、大概のランカーは最早今回の闘いに対する興味を失っていた 華墨とニビル、そしてヌルの三人の研究に必要な資料はもう充分得られたからだ 華墨の健闘は、ランカー達の油断と慢心を一掃し、クイントスの演説で闘志を刺激された者達は、『今自分が体験出来る闘い』をより良いものとすべく、戦闘に没頭し始めていた 鳳凰杯への参加を表明する者も続出していた 『モア』は帰って来た それでも、「バニシングフォー」は「バニシングファイブ」になった 佐鳴武士が行方不明になったからである 『クイントス』は何も言わなかった 彼女の行為は本来、殺人以外の何者でもない だが、現場で『ヌル』の口を封じる事も、悪びれる事もなく、平気な顔で川原正紀のもとに戻り、鳳凰杯に向けてのスペシャルトレーニングに没頭し始めていた その態度に、ヌル自身も、奇妙な歯車の「ずれ」を感じながらも、自分の中に湧き上がるどす黒い感情に沈み、思考が麻痺していた 最近華墨にニビルが掛かりきりなのが、彼女にとっては全く気に喰わなかったのだ 華墨が壊れず、あまつさえ構造的に武装神姫ではあり得ない何者かになってしまった事を知っているのは、神浦琥珀と『エルギール』そして『ニビル』の三人だけだった (・・・人間一人が消えてしまっても何も言わせず、警察の捜査もかわしたのか・・・やはり尋常でない何かが動いている) 琥珀は監視の目を感じていた 無論彼女はスパイでも無ければ、そういった事に対する訓練を受けた訳ではない が、今回、鳳凰杯への出展に際して奇妙な圧力が掛かってきたのは判った 皆川彰人が随伴すると言うのも、明らかに彼女の外出を警戒しての事だった (それでいて華墨のオーナーには居てもらわないと困るみたいだな・・・やっぱり華墨のあの変化には何かがあるんだ) 琥珀は手の中に硬質の刃物を握り締めた 準決勝の後日、クイントスが武器の注文に来た時に、川原正紀から渡されたものだった 正紀は明らかに、それに対して何かを知っていた なんとなくだが、その時の彼の様子から琥珀は、これから帰れぬ戦いに望む悲壮な決意を見出していた (今の僕に出来る事・・・) 琥珀は工房に篭る事を決めた 武士の家から二匹の愉快な同居人が消えたのは、その同日であった 「・・・またあいつの所に行くの?」 「そうよ」 「姉さま!あいつは病院で、姉さまはぴんぴんしてる!あの勝負は姉さまが勝ったで良いじゃない!あいつに拘るのはもうやめて!!」 「!!」 「・・・御免・・・聞き分けなくて御免・・・でも姉さま」 黙ってヌルを抱きしめるニビル 「謝るのは私の方・・・浮気性で御免なさい・・・でも」 「私もすっきりしないのは厭なの・・・お願いヌル。華墨と闘う為に、もう少し私の我侭を許して」 ヌルはこの時、ニビルを置いて鳳凰杯に付いて行く事を決めた 風には春の香りが濃厚だ そんなある日に、ニビルが私の元へやってきていた 最近エルギールは来ない 「まだ、私と闘ってはくれないの?」 ここ数日繰り返された問い それに対する私の答えは常に一つだった 「もう良いんだ・・・私にはもう闘う理由が無い・・・」 ニビルは、ニビルには闘う理由があるようだった ヌルはニビルへの愛の為、ホークウインドは自分の可能性を試す為、ウインダムは自分の理想に近付く為 そしてクイントス・・・彼女にも ニビルは怒らなかった 代わりに、「うそつき」とだけ呟いて、テレビの電源を入れた そこには、十六人の武装神姫とそのオーナーが映し出され、画面下にはそれぞれの名前が表示されていた 「・・・グループA優出、『ミュリエル』。グループB、『レイア』。グループC、『ミチル』。グループD、『クイントス』。グループE、『ミカエル』。グループF、『燐』。グループG、『ハンゾー』。グループH、『ロッテ』。グループI、『花乃』。グループJ、『弁慶』。グループK、『ジル』。グループL、『エル』。グループM、『ルシフェル』。グループN、『ウインダム』。グループO、『アーサー』。グループP、『リュミエ』・・・か」 発表された決勝戦進出神姫の名を読んで、私は興奮と嫉妬、羨望と渇望を覚えていた 『れでぃ~~すえんどじぇんとるめん!!ようこそ盛大なる戦姫の祭りへ』 『さて皆さん、今ここに集いしは過酷な試練を超えた十六組の小さな姫とそのパートナー達であります。まずは苦難の道を勝ち抜いた彼らに賞賛の言葉を送りたいと思います…』 どっと沸く会場・・・もしかしたら私もあそこに居られたかも知れない・・・という想いが胸を締め付ける 順番に表示されていく優出神姫とそのマスターの顔写真 その中に『クイントス』『ウインダム』を見つけた時に、私は思わず跳ね上がった 「・・・っ!!」 だが、いかなる感情も仮定も、体を蝕むこの苦痛の前には無意味だった 『しかし、彼ら彼女らに待ち構えるは今までよりもさらに厳しい王者への道。己の名を広き世界へ轟かせる勝鬨を上げるものは誰なのか、しかと彼女らの放つ熱き輝きを目に焼き付けて欲しい。諸君に『五色の翼の杯』……聖杯の加護があらんことを……』 結局私は、医療クレイドルに身を横たえ、歯軋りしながらテレビで闘いを見守るしかないのだった・・・ 『それでは皆さんご一緒に!! 武装神姫バトル! れでぃ~~~~っ……』 「やめてくれ!!」 乱暴に電源を落とす ニビルは無表情だった 「何故?闘う理由が無いなら辛くなど無いでしょう?」 「私は・・・っ!!」 「そうやって壊れたフリをし続けるのが貴女のマスターの願いなの?」 「お前に何が判るッ!!」 「貴女が闘志を失って無い事位判るわよォ!!!」 恐ろしい程の絶叫 叫んだ後、ニビルは半分泣き顔だった 「待ってるから・・・」 古風な 本当に古風な手紙を残して、彼女は出て行った ラブレターじみた可愛い入れ物に入ったそれは 案の定筆書きの『果たし状』だった 至る所の字が間違いまくって、とても読みづらかった 「・・・私は・・・」 ふたりだけの鳳凰杯をしましょう わたしとあなた ふたりだけの 自分がこういう行動を取る事を、ニビルは考えた事も無かった 自分が華墨の事を気に掛ける程に、華墨が自分の事を気に掛けていないという思いがあった また、ヌルに指摘されるまで、華墨の事を自分が意識しているという自覚すらしていなかった だが今、こうして丘の上で華墨を待っている それは華墨の為を思っての行動なのか、自分の為なのか、ニビルには判別しかねた ・・・ニビルは知らないが、クイントスのそれと同じく、『ギガンティック』に対する拘りでないとする保障さえなかった・・・ だが、そういう動機が曖昧な行動を自分が取れる事自体が、ある意味で誇らしかった 自分はただの機械的な知能ではないと思えるからだ 華墨がクイントスの魔性に捕まって、闘う機械になるのは厭だった だからといって、闘えない華墨も厭だった 来て欲しかった (かつて私に、闘う事を宣言した時の様に、闘志を漲らせて、もう一度私の前に立ちなさい華墨!せめてあともう一度・・・!!) 砂埃を巻き上げる風に、マントがはためく 腰に差した拳銃はダブルアクションのリボルバー・・・いつでも抜き放ち、発砲する事は出来る (来て、来て、来て来て来て・・・華墨!!) 紅い・・・ 甲冑姿が剣を履いて現れる 草もまばらなむき出しの地面に その姿は異様に映えた 「・・・待たせたな・・・装備を探すのに手間取った」 ニビルは感情を顔に表さなかった 襟が口元を隠す・・・同じ風で、華墨のポニーテールも流れた 「始めようか・・・私達の勝負を」 今ようやく 二人の戦いは幕を開けた・・・・・・! 第一部完 剣は紅い花の誇り 前へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1637.html
武装神姫…それはテクノロジーが生み出した全く新しいロボットである。 MMSと呼ばれる基本素体にCSCチップを搭載、さらに様々なパーツを使用することで無限の能力を引き出す事ができるのである。 武装神姫と暮らす日常 第四章『種と稲』 べるのと少女は自らの神姫を筐体へとセットする。 「私は何時でも準備OKですわよ」 「私もOKだよ」 『サンタ型ノエル オーナー:美月べるの ランク:C 種型浅葱 オーナー:白雪夜月 ランク:C バトルフィールド:砂漠 .........配置完了』 『システムOK…マスター次も勝ってみせますよ』 「当然ですわ、私が負ける事なんてあり得ないんですから」 『READY』 「頑張ってね、浅葱」 『はいっ、マスター』 『FIGHT』 輝く太陽、風で巻き上がる砂、何処までも遮蔽物の存在しない地平… その中心に数本の筒状のブースターを生やした基本装備のジュビジーの浅葱が立っていた。 「う~…何か居るだけで暑い気持ちに……」 『確かに見ているだけでも暑そうなエリアだね それで相手の位置はわかる?』 夜月の言葉に浅葱は周辺を見回す。 「ちょっと輪郭がハッキリしないけど、それらしいものが前方に」 『OK、それじゃ作戦は何時も通り射撃武器で牽制しつつ近距離戦ね』 「はいっ!」 言って浅葱はブースターを全て点火し前方へと突っ込んでゆく。 砂塵に包まれながらノエルは悠然と佇んでいる。 「マスター、前方に敵影補足 こちらに対して一直線に突っ込んできています」 『ふんっ、自信満々でしたからどんな手を使ってくると思いましたら馬鹿正直に直進とは思いませんでしたわ ノエル、よく引き付けてから一撃できめてさしあげなさい』 勝者の笑みを浮かべながらべるのは言う。 「了解、目標ロック…発射用意……」 ノエルは直進してくる浅葱に狙いを定めトリガーを引く。 『浅葱、回避用意!』 「はいっ」 返事と共に浅葱はブースターを地面に対して吹かし、ロールをかけるかのようなステップで回避しつつ更に接近。 「いきますっ!」 そしてそのままパウダースプレイヤーを構えノエルに対し射撃。 「その程度でっ」 ノエルはその攻撃をシールドで防ぎ、お返しと言わんばかりに背中に装備されているミサイルを乱射する。 「当たりません!」 浅葱は一気にブースターを吹かしノエルの真横をすり抜けミサイルを回避する。 『そのまま後ろを取って!』 「はいっ」 浅葱はノエルの真後ろに移動したところで急停止そのまま射撃を攻撃をかけつつグリーンカッターを構える。 『何をやっていますの!早くあんな神姫けちょんけちょんにしてさしあげなさい!!』 「で、ですがこの装備では旋回能力が…」 『つべこべ言わず早くなさいーっ!!』 「りょ、了解」 重装備故かノエルは直には浅葱の方向へ旋回できずにいた。 「これでっ!」 グリーンカッターの刃を回転させながら浅葱は全速力でノエルに向かって突撃する。 「く…ぅ」 ノエルは咄嗟に数センチ後退するも胸部の装甲版を数枚削がれ更に両腕の武装を数個両断された。 「舐めるなッ!!」 ウェポンラックからショットガンを取り出しすれ違い無防備となった浅葱の背中に撃ち込む。 『浅葱、防御!』 「…っ!」 ブースターで急制動をかけ反転し両腕で防御体制を取る浅葱。 「!! しまっ…」 しかし散弾の弾はコア周辺だけでなく、リアパーツに接続されているブースターにも着弾し爆発四散する。 「ああぅ、きゃぁぁっ!!」 爆発の衝撃に吹き飛ばされ砂地に転がる。 『浅葱っ!!』 「これで、止めっ!」 ノエルは全身の砲身、銃身その他諸々の兵器を浅葱に向け一気に発射する。 「――――ッ!」 そのすべての弾は浅葱に直撃し、何度も爆発を起こし周りの砂を吹き飛ばす。 「やった?」 そして爆発が止んだ後は、辺り一体に煙が立ち込めていた。 『おほほほ、やはり口だけだったご様子ですわね』 その様子を見てべるのは笑う。 『………』 『自分の神姫が圧倒的な差で負けて声もでないようですわね、まぁ仕方ないことですけれど』 『………まだ終わっていないですよ』 『へ、えっ、え、そ、そんな嘘にだまされる私ではありませんですわよ!』 夜月の言葉にべるのは慌てふためく。 『なら証拠を見せてあげるよ 浅葱っ!』 「はい、マスター!」 浅葱の声とともに黒煙の中から金色の稲のエフェクトが現れだす。 『システムキドウ…』 「システム起動…モードB」 『バトルモード・シェルプロテクションヘイコウ…』 「キュベレー起動…損傷問題なし」 『ゼンシステムオールグリーン…キドウカンリョウ…』 「これが私の本気ですっ!!」 声と共にキュベレーで風を起こし黒煙を噴き飛ばす。 同時に稲のエフェクトが二人の間を舞い上がる。 「な、なに…っ」 『何であれだけの攻撃を受けて立っているのっ!?』 状況を飲み込めずべるのとノエルはただただ混乱するばかりだった。 『種型の打たれ強さを侮らないほうがいいですよ』 「その通りです!」 言って浅葱はキュベレーを構える。 『くっ…ならばもう一度火達磨にしてさしあげなさい!』 「は、はいっ」 ノエルは銃器を構えなおし浅葱に向かって発砲する。 『浅葱、Harvest!!』 「はいっ」 浅葱は片側のキュベレー振り上げ、片側のキュベレーを自身を守るように前に出し、爆発せずに残っているブースターを点火し一気に突撃をする。 「このっ、とまりなさいっとまりなさいってばっ!!」 ノエルの銃撃をキュベレーで弾きながら浅葱は更に距離をつめて行く。 (マスター見ていてください…) もう互いの距離は数cmといった所で浅葱は更にスピードを上げつつ振り上げたキュベレーをノエルのほうへと突き出す。 「これが私の必殺技ですっ!!」 「そ、そんな…わ、わたしが負け…」 ノエルが言葉を言い切る前にそれを遮る様にしてキュベレーの刃が胸に深々と刺さる。 『サンタガタノエル…コアシステムキノウテイシヲカクニン……Winner Yaduki』 「お疲れ様、浅葱」 「はい、がんばっちゃいました」 夜月は、筐体から出てきた浅葱を手に乗せ頭を撫でてやる。 「夜月さーん」 そんな二人の所にゆかり達がやってくる。 「凄い戦いだったよー、あたし胸がスーッとしちゃった」 敗北の時の悔しそうな顔が嘘だったかのような満面の笑みを浮かべながらクラリスは言う。 「あ、これがゆかりさんの神姫ですか?」 クラリスとアリエスを指差しながら夜月は言う。 「そうそう、可愛いでしょ」 我が子を自慢するかのようにゆかりは言う。 「昨日からずっとこの調子なんだよなぁ」 隣で卯月が呆れ気味に言う。 「あっれー確かマスターもおんにゃじだったような…」 「わーわーそれは言っちゃダメーっ!」 「むーぐーむぐぐー」 卯月は慌ててラキの口を塞ぐ。 「まぁそれは置いておいて、ゆかりさん余り最初から無茶をしちゃダメですよ」 「うー…」 「ちゃんとトレーニングと自分にあった実戦をこなせばクラリスちゃんの重装甲も生かせるようになりますからね」 クラリスを見ながら夜月は言う。 「何か年下に教えられるって複雑ぅ…」 「きぃーくやしいくやしいくやしいですわー!」 「マ、マスター…落ち着いてください」 ハンカチの角を口に咥えて引っ張っているべるのに対してノエルは言う。 「これで、わかったかな? ここには貴方より強い人がいくらでもいるって」 「ふ、ふんっ た、たまたま私に勝てたからと言っていい気にならないことですよ それに筐体の調子が悪かったのかもしれないですし何よりあの不可解な防御力!何か不正していないと言う保障は…」 「筐体の事を悪く言うのは勝手だが俺の夜月を悪く言うのは頂けないな」 「筐体の事も気にしたほうがいいと思うけどねぇ」 べるのは話に割り込んできた声の主のほうを見るとそこには一組の男女が立っていた。 「貴方達、私の大事な話に割り込んで一体何様のつもりですの!」 「ただの店長様とその清楚な妹様のつもりなんだけどねぇ」 女が肩をすくめて言う。 「まったく、騒がしいと思って来てみれば……お前、余り他のお客様に迷惑かけるようならこちらにも考えがあるからな」 「な、なによ…」 「まずはここいら一帯の模型店への出入り禁止令、後は営業妨害で警察に突き出す事もできるが…」 「な、ななななななっ」 男の発言にべるのは目を丸くする。 「貴方、私を誰だと思っているの!私は玩具会社の社長令嬢よ!こんなお店なんてパパに頼めば…っ」 「どうなるってんだい?」 「え?」 「もしここを含めて多くの店があんたのとこの玩具を入荷しなくなったらどうなるか……わかるよね?」 「そ、そんなこけおどしには騙されませんわよ!」 「こけおどしかどうか…試してみるかい? 玩具店間の繋がりを甘く見ないほうがいいよ」 ニヤリと笑みを浮かべつつ女は言う。 「ぐ…」 「マ、マスター」 「まぁ、今日はこのまま引き下がるなら不問とするが…どうする?」 「ふ、ふんっ きょ、きょうの所は引き下がりますが 次はこうはいきませんわよ!」 男を指差しながらべるのは言う。 「ノエル、帰りますわよ!」 軽く涙目になりながらべるのは言う。 「は、はい!」 一礼してからノエルはべるのの肩に乗る。 「ちょっと今のはやりすぎだったような気がするが…」 べるのが完全に見えなくなってから卯月は二人に言う。 「まぁいいじゃないさ、あーいうのはアレくらいいっとかなきゃなおらないよ」 笑みを浮かべながら女は答える。 「ていうか霜月さんは楽しんでただけの様な…」 その発言に対して夜月がぼそりと言う。 「そう言えば、霜姐も師走兄貴も店の切り盛りしてなくて大丈夫なんスか?」 店の人間が全員二階に来ている現状に対し卯月が突っ込みをいれる。 「っと、しまった花月と柊に任せたままだった」 師走と呼ばれた男が思い出したかのように言う。 「霜月、戻るぞ」 階段の方へと向かいつつ師走は言う。 「はいはい、ついていきますよっと」 霜月と呼ばれた女はそれについてゆく。 「あー私も戻ります~」 浅葱を肩に乗せ夜月も二人について行く。 「それじゃ俺達も一階に行くか?」 ゆかり達を見つつ卯月は言う。 「賛成にゃー」 「私はそれでいいよ~」 その後ゆかり達は一階で装備を見たり、師走達と戦略について話し合ったりしてから帰路についた。 ―次回予告― 「べるのを一度は退ける事に成功したゆかり達」 「倒したのは浅葱にゃんだけどにゃー」 「しかしべるのはもうリベンジの用意をしていた!」 「早いにゃー」 「何と今度は料理対決!」 「魚なの魚なのかにゃ!?」 「果たしてゆかりは勝てるのか!?寧ろ料理はできるのかっ!?」 「今さらりと酷いとこいったにゃ…」 「次回クッキングファイターゆかり第五話『私の想いを受け取って!』 二人の愛が料理を変える…」 「そのネタは色々まずいと思うのにゃ…」 続く? 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/475.html
凪さん家シリーズ 真・凪さん家の十兵衛さん 凪さん家の弁慶ちゃん 第零話「それは」「常」 「ぃさ~ん」 う、む…なんだこの甘酸っぱい感覚は…。 「にぃさ~ん!」 む、なんだこれはなんていうゲームだ。 「にぃさ~ん!起きてよぉ~!」 おいおい、最近のゲームでもこんな展開は見かけないぞ?王道か、王道という物か?しかしだなぁ、今はそれだけじゃ勝ち残れないぞ?最近は甘酸っぱ辛いのでないとだなぁ~。 「遅刻するよ~!」 仕方ない、ここはお決まりの台詞でも言っておこうか。 「うむ、あとゴフンッ!!」 言っておこう、まず始めに言っておこう。俺は確かに「後五分」と言うつもりだった。 そう、言うつもりだったんだ。だがなぁ、実際に出た単語は腹に衝撃をくらったせいで思わず出た「ゴフンッ!」というなんとも情けない単語だ。 って、さすがにこれでは起きて文句の一つも言わなければ男たるもの…というか主人公としてどうか。 よし言ってやろう。 「おい、一体何をするんだ!」 目を開け、ガバッと夏用布団を退かす。そう、今は夏。月で言うなら七月である。窓から降り注ぐ日の光が容赦なく俺に突き当たり、いやぁもう熱いよ。これだから夏ってやつは…。 って違うだろ。今大事なのは俺のレバーに朝っぱらから強烈なスパーキンを食らわしたやつに小言の一つでも言う事だろうが! 「おい、起こすのは良いがやり方が違うだろう?一般的にはだなぁ、「この~!」とか言って布団を剥いだり、知らんうちに布団の中に潜り込んでびっくりさせたり…」 ここまで言って俺は気がついた…何を寝ぼけているんだ俺は…見ると俺を覗き込むのは見知った少女…では断じてなく… 「ち、千空…」 凪千空、俺の…弟だった。って、まぁ待て千空、そんな変人を見る目で俺を見るな。いや確かにお前はだな、はっきり言って女にしか見えない。それこそどこのゲームだといわんばかりであって、お前のその全身からあふれ出る乙女のオーラというかなんというか。 「に、兄さん?」 「む、なんだ」 「えっと…こんな事言うのも何なんだけど…」 「なんだ」 「その…大丈夫?」 ガーン…分かる、分かるぞ俺には…その台詞の間には「頭」という単語が合体して「頭大丈夫?」となるんだろう?そうなんだろう!? 「あ、あぁ、寝ぼけていただけだ…」 「そ、そう…なら良いんだけど…」 こらまてこっちを見てくれ。兄さん悲しくなるじゃないか。…ってそうだ忘れていた…。 「おい千空」 「…え、何?」 「そういえば…よくも俺の鳩尾に強烈な一撃を叩き込んでくれたな?」 「あ、それは~…」 「おい、こっちを見ろ」 「僕じゃなくて…」 「オマエジャナイナラダレナンデスカ?」 「そこに…」 「む?」 千空がその細くてしなやかな指を指す。その方向を見ると。 「…あ」 「あ…じゃない」 そこには小さな人形が立っていた。15cmサイズのそれは俺のひざの上で仁王立ちしている。 「やっと気付いたな?」 「あぁ、やっと気付いたよ…」 そう、これはゲームとかじゃない。というか俺が主役なのかすら怪しい。なぜならこの話は、目の前にいるこの小さな人形、“武装神姫”の話なのだから。 ちなみにこの目の前にいる神姫は「弁慶」千空の神姫で、犬型らしい。 「弁慶、お前が俺に朝の一撃を」 「目、覚めた」 「あぁ…怒りがわくほどにな」 「でも兄さんが悪いんだからね~?」 と、千空が横槍でグサリ。ぐ、それを言われると確かに…。 「とにかく、もう朝ごはん出来てるんだからね?早く着替えて降りてきてよ?創さんはもう食べてるんだから」 「あ、あぁ」 そう言ってリビングに向かう千空。そして去り際に顔をドアからちょこっと出して 「急いでね!」 と笑顔で言う。お前なぁ、その笑顔反則だぞ?まったくお前が妹なら…。 「おい」 「!?っと」 「急ぐ!」 「はいはい、分かってますよ弁慶さんっと」 そこでやっと大地に立つ俺。それと共に弁慶も膝の上から床に降り立った。 「いいか、急げ」 と言うと弁慶も下に下りていった。 「あぁ…眠ぃなぁ」 さてと…仕方ないからさっさと準備するとしよう…。 それにしてもさっきから焼き魚の香ばしい匂いがするな。うむ、よきかなよきかな。 「おはよう、千晶君」 「おはよう御座います千晶さん」 リビングに入るといつもの挨拶。俺ももちろん返す。 「おはよう御座います創さん、ミーシャ」 創さんは俺の従兄弟に当たる。年はそこそこ離れているがそんなに離れてもいない。 そしてミーシャだが、彼女は人間じゃない。彼女は創さんの武装神姫だ。なのでこの家には武装神姫が二体いる事になる。これって結構凄いんじゃないか?だって神姫一体買うってのは最新型パソコンを一台丸々買うことと同じなんだぞ? 「あ、やっと降りてきたね?はい、どうぞ」 と千空がご飯を盛った茶碗を目の前に置いた。 「ん、ありがと」 「じゃ、いただきま~す」 「いただきます…と」 今日の朝飯はザ・日本の朝食といった感じ。といえば大体想像がつくだろう? ぱくりと一口 「うむ、いつもの如く美味いな」 「やだなぁ兄さんってば」 「そういえば和食は久しぶりだったね」 創さんが言う。そうそう、まったくもって久しぶりだ。最近パンばかりだったからな。 「え、あ~そうか、兄さん好きだもんね~和食」 「むぐ、まぁな」 「何かあったんですか?」 「え、いやぁ特には。たまたまその…安かったから」 「「なるほど」」 我が家の家事担当は家計も考えておられるのだ。偉大な弟だなまったく。 『次のニュースです、先日起こった違法改造神姫による~』 TVから聞こえたニュースに反応する二人。まぁそりゃそうか…神姫のオーナーにとっては知っておかねばならないニュースだし。 とくに創さんはこの手の事件についての仕事をしているのでなおさらだ。 「減りませんね~神姫犯罪」 「うん、人は便利な物が現われると必ずといって良いほど悪用する人がいるから…」 「ひどい話だなぁ…」 「まぁ出来ることならすぐにでも捕まえたい所なんだけど」 「まずは警察が動かないことには…でしょ?」 「うん、その通り、下手には動けないのも事実」 「頼んだよ!ミーシャ!」 千空がミーシャにエールを送る。 「はい!一日でも早く多くの笑顔を取り戻すためにぃぃ!」 とガシッと拳を突き上げるミーシャ。 「おやおや、僕は置き去りかな?悲しいなぁ」 「え、あ、いや、そういうわけじゃ」 「ははは、わかっています。それに、確かに僕よりミーシャの方が頑張ってくれていますから」 「え、そんなぁマスターったら、恥ずかしいじゃないですかっ」 ぺちっと創さんの腕を叩くミーシャ。顔が赤くなっている。 「ははは、真実ですよ?ミーシャ」 「マスター…」 見つめ合う創さんとミーシャ…む、なんだこの甘酸っぱ辛い雰囲気は。 「オアツイネ~」 「きゃぁーみてるこっちがてれちゃう~」 からかう凪兄弟。 「こら、大人をからかわないで下さい?」 と笑いながら制す創さん。少し照れているのか? 「「は~い」」 と生返事で返す俺たちであった。 そんなこんなで朝食を済ませ、三人揃って玄関前。これから俺は専門学校にチャリで、千空もチャリで高校に、創さんは車だ。 「じゃ、行ってきます」 「行ってきます」 バタンと車のドアが閉まる。 「あ、そうだ」 千空がなにやら思い出したようで、ドアにノックする。 「ん?何かな?」 「今日の晩御飯はどうします?」 あぁ、なるほど。 「う~ん、まだ何時に帰れるかのめどは立ってないですね…」 「じゃあいつものように連絡で」 「ええ、分かりました、じゃあ、行ってきます。二人も気をつけて行ってきて下さい」 「うん」 「はい」 ブゥゥゥンと遠ざかって行く車を見送り、俺たちもそれぞれの学校へ向かう。 「じゃ、行ってくるね。兄さん」 「行ってくるぞ」 「おう、行ってこい」 「サボらないでよ?」 「サボらないよ」 「サボるな」 「だからサボらんて」 俺はどんだけ信用無いんだ?兄さんますます悲しいぞ。 「じゃ」 「ん」 千空の通う高校と俺の通う専門は反対方向だ。なのでここでお別れとなる。 小さくなる千空の背中を曲がり角で消えるのを確認して、俺も学校に向かうことにした。 「今日も良い朝ね~」 「はい、京都」 神姫オーナー御用達の某ホビーショップと同じ商店街にある喫茶店「LEN」 「おっはよ~!!」 「おはよう御座いますお二方」 「よ」 「おう!」 千空が通う超巨大学園「私立黒葉学園」 「あ、ちーちゃぁ~ん」 「おはよう御座います千空さん、弁慶」 いつもの朝、いつもの日常 「私はもうこの人達を信じたくない…です」 「人間なんてただの鍵。開けるためにしか必要ないわ」 「向かうは日本だ、晴明」 「はい。楽しみです!」 そして加わる日常、交わる関係 ここから始まる、すべてが始まる…。 そして続いてゆく。 「神姫…ねぇ~…」 第零話「それは」「常」 完 次回 真・凪さんちの十兵衛さん 第一話 歓 凪さんちの弁慶ちゃん 第一話 それは始まり
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1086.html
第10話 「予約」 「うぬヌぅ……不覚ッ!またしても不覚ウぅぅぅぅッ!」 結局あの後、『どちらの言い分が正しいか、正々堂々と勝負して決めようではないかッ!』とエキサイトした大佐和とバトルしたのだが……結果は火を見るより明らかだったりして。 「だから言ったろうが。 今のお前のやり方じゃダメだって」 「……うむ。悔しいが、今回の戦いでよォく判った」 一転して神妙な顔で頷いている。 やれやれ、ようやく学習したか。 「ワガハイとB3に足りぬもの…それは火力ッ! 相手の反撃を許さぬ圧倒的な勢いでの攻撃力が足りなかったのだ! 考えてみれば簡単な事! 相手を倒しきる力なくして勝利なし! いやはやまったく、今まで敗北し続けてきたのもむべなるかなッ!」 ……まだそーいう口が聞けるかコイツは。 「中華料理における基本にして究極のコツと同じく、武装神姫に必要不可欠なものもまた火力であったとは……今回のバトル、それが判っただけで値千金ッ! 言葉ではなく実戦の中でそれを教えてくれた事に感謝するぞォ我が永遠の好敵手ッ!」 叫びながらものすごい勢いでバンバン俺の背中を叩く。 ……いくら俺がロビンマスク級の紳士だとしても我慢できる事とできない事があるぞ。 「コレやっぱ殴らなきゃダメか?」 半ば本音交じりにルーシーに話を振ったら、意外にも低い声での答えが帰ってきた。 「そうですね。 世の中には多少痛い目を見ないと物事を理解できない種類の人間もいます。 ここはひとつ、大佐和さんではなくB3のためと思ってこう……ゴリッと」 うわーなんかルーシーさんも怒ってらっしゃるー? 普段はコイツが俺のストッパーになる事がほとんどなんだが、今も『遼平さんがやらないなら私がやります』とでも言いたげにグレネードランチャーを……って、おい。 ゴッ。 「ぶるゥあぁァぁッ!?」 後頭部直撃。 「あら失礼、どうやら暴発してしまったようです。 ところで大佐和さん、ご存知ですか? 戦場での死因は『流れ弾』というのが意外なほどに多いそうですよ」 痛みに悶絶して転げ回る大佐和の眉間にぴったりと照準を合わせ続け、にっこり微笑むルーシー。 ……武装神姫にはロボット三原則とか適用されないんだろうか。 「そッ……そういえば藤丘! 貴様が顔を見せぬ間になかなか将来有望な若者が現れたのだがなッ!?」 自分の急所にポイントされたグレネードを何とか下ろしてもらうため、大佐和は話題を切り替えようと必死だ。 ……仕方ない、乗ってやるか。 コイツが多少痛い目を見ようと知った事じゃないが、自分のマスターとルーシーの間で困っているB3のためだ。 「お前に比べりゃ大概の人間は将来有望だよ。なぁルーシー」 軽口を返しつつルーシーの頭を撫でてやると、彼女は「そうですね」とあっさりとグレネードをしまった。 元々一発だけで許してやるつもりだったんだろうが……ときどき意地悪だからな、うちの悪魔は。 それにホッとしたのか、大佐和の態度が元に戻る。 ホントにヘコまないヤツだ。 「いやいやいやいや、この神姫割拠の時代においてまさに綺羅星の如き大活躍! 今やかなりのファンもついておるから侮れんぞォ!」 コイツの言う事がいちいちオーバーなのは分かっている。 聞くにしても話半分がちょうどいい。 「ワガハイも何度か対戦して知り合いになったのだが、生憎まだ学生の身で平日は来る事が出来んらしい」 「大佐和さんも一応学生だったんじゃありませんか?」 「一応とはナニゴトッ!? 良いかねルーシー嬢、自らに許された自由な時間をいかに有意義に使うかもまた勉強のひとつであるッ! こと行軍中ともなれば、わずか数分ほどの休憩時間でどれだけ気力体力の回復に勤しめるかが軍人たる素養の良し悪しを決めると言っても過言ではな」 「お前は何処の紛争地帯で生まれ育った傭兵だ」 長くなりそうな大佐和の言葉を切り捨ててやると、不満げではあるものの再び本筋に戻る。 「……ともあれ、平日はムリだが休日はほとんどの場合ここへ来る。 どうだ、一度試合をしてみては?」 なにやらコイツが妙に楽しそうなのが引っ掛かるが、まぁ色々なタイプと戦ってみるのはいい経験だろう……とルーシーに視線を送ると、大佐和はソレを勝手にOKと見たらしい。 「ンよォし決まりである! 相手にはワガハイが話を通してセッティングしておくゆえ、今週の日曜日午後にここへ来るがいい!」 否定しなけりゃ肯定と見なす……前向きってよりはDEADorALIVEって感じか。 「分かった分かった。 2時くらいでいいか?」 「了解したッ! それでは健闘を祈っておるぞォ! んなーっはっはっはっはァ!」 いつもの高笑いをしながら立ち去っていく後姿を見てると、なんだかとてつもない疲労感を感じた。 「……んじゃ俺らも帰って、日曜日に備えるとしますかね」 「そうしましょうか」 苦笑するルーシーを肩に乗せ、俺はセンターを後にした。 前話「友人」へ 『不良品』トップページへ 次話「一歩」へ