約 2,307,830 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2161.html
ご意見部屋 沙耶:ここはホーリーの物語に関するコメントを書き込み・閲覧出来るコーナーよ! メイリン:感想、意見等はここに書き込んでくださいにゃ。作者の返答もここで行なうニャ。ただし、作者の都合上、返答は不定期になるニャ。 沙耶:もちろん、あたしたちの事とかあいつのこととか、この作品の気になることとかもOKよ。気軽に書き込んでね。 メイリン:コメント欄はこの下にあるニャ。ただし、作者や投稿者を迷惑になる荒らしは遠慮してほしいニャ。 沙耶:コメント、待ってるわよ! テストです。 投稿するとこの上のコメントが載る…はずです。 -- muna (2009-09-26 22 50 16) 設置お疲れ様です。 地道に読んでいますよw -- 第七スレの6 (2009-09-27 11 32 48) こんばんは。夜虹です。第一部を一通り見させていただきました。 真冬の川に流される神姫を拾って共に成長する物語というのはなかなか正統派な始まり方で、話を分かりやすく進めてありますな。 設定に関しても神姫の名前を与えて、初めてオーナーとして認識されたり、神姫における精神ダメージによって病院送りになり、そうなったときの治療法があったりと参考になる事が多く、考えさせられる所がありました。 後はオリジナル武装が非常に多く、それを用いた独特の戦い方は面白いですね。自分はあまりオリジナル装備は用いないのでこうした戦い方は見ていて新鮮ですよ。 今後の新装備、ストーリー展開を楽しみにしています。 -- 夜虹 (2009-09-29 22 00 50) コメントありがとうございます。 第七スレの6さま ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。 夜虹さま 最初のころはどうやって話を進めていけばいいのか悩んでました。 過去にもこれに似た小説を書いた経験があったのですが、今回は設定的に悩んだところが多々ありました。 オリジナル装備も組み換えで出来るものが多いのですが、スクラッチに近いものも多少あります(メイリンの武器とか)。 ほかの方は写真やイラストで装備の詳細を掲載してますが、私の場合、現在のところそれがないので、今後どのようにして装備等を見せるか考案中です。 話が長くなりましたが、これからもこの小説をよろしくお願いします。 -- muna (2009-10-03 16 31 48) 上記の返答に追加。 オリジナルの装備ですが、組み換えで出来るものが多いと書きましたが、実際には単に組み換えだけなのは1/3ほどです。 あとは一部改造かリペイントしたものが多いです。 私の場合、出来る限り組み換えやほかの商品の流用で再現できるように設定しています。(例を言えば、獣牙王や不動のバリエーションは主に神姫のパーツで構成されています) それでも、新造しないと再現できない武器もありますが。 あとは丸々ほかの玩具から流用したりすることもあります(百雷はプライズ騎馬武者のリペだったりします) -- muna (2009-10-03 21 04 41) こんばんは。武装についての説明、ありがとうございます。手軽に作れるように工夫してある様ですね。 自分は素体のリペイントや武装の小改造が関の山でして難しいのが多いかなんて思いましたよ 二章の最新話まで読ませていただきました。 今度はフェレットタイプのために頑張る翔君が第二の主人公となりましたか。 ホーリーベルはその時にはワールドロボットフェスティバルを駆け抜ける人気者とは二年の間になにがあったのか気になる所ですね。 オリハルコンシリーズを始め、確かに武装神姫だけが世界ではないですな。 とは言え、この様子だと武装神姫が市場の先を行っているなのはまだ変わっていないというのが実情という感じの様ですが。 そんな中で美由紀はいずるに実際に会った人ときましたか。ともなればこの勝負の後は都村いずるとはどんな人かという話になるかもしれませんね。 それが聞けるか否かでいろいろと話が変わってきそうな気がしますよ。 -- 夜虹 (2009-10-10 02 19 46) 夜虹さま 第2部は翔くんと美由紀さん、それぞれの視線で物語を進めていきます。 彼らがいずるとホーリーを目標にするためには、それなりのレベルを持たせたほうがいいと判断したからです。 そのためにWRFという大きな舞台を用意する必要があったわけです。 ほかの美少女タイプをだしたのは、ロボット業界の変化を知ってほしかったため。 あと、美由紀さんがいずるを目標にしているのは、同じ場所まで行き着くことのほかに、もうひとつ理由があるのですが・・・。 それはあとの展開にとっておきます。 書き込みが少ないのは、部屋の入り口が目立たない場所にあるからなのでしょうか・・・? ちょっと体調が悪いので、今日はここまでにしておきます。 -- muna (2009-10-12 21 48 58) ご意見部屋を少し目立つ(?)場所に移動しました。 これで少しは判る・・・かな? -- muna (2009-10-31 22 38 56) 場所としてはいいと思います。書き込みが少ないのは……感想を書くというのがちょっと勇気のいる事だからなのかもしれませんね。 ウサギのナミダは思わず書いてしまいたい小説故にそうしたいと思えるたくさんの感想が来ている事ですしね 謎の鉄騎兵は今の所は武器がわかってシルエットが多少わかった程度ですか……。 とはいえ、再現した神姫と闘えるとなれば何かしらの糸口がつかめそうではありますな。 まずはその神姫と戦って、それから進めるのかもしれませんね。 次を楽しみにしていますよ。 -- 夜虹 (2009-11-07 02 26 18) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2576.html
第3部 「竜の嘶き」 「ドラゴン-1」 2030年代に登場した飛行能力を備えた航空MMS。 それらは多種多様なメーカーから出された数を含めれば数え切れないほどの多種多様性を誇ったが、一応の一定の安定した戦果をあげる活躍をし、:名機:とよばれるワクで絞っていくと、だいたい10機種くらいになる。 フロントライン社の天使型シリーズ「アーンヴァル」、戦闘機型「飛鳥」、スタジオ・ルーツ社製サンタ型「ツガル」、マジック・マーケット社セイレーン型「エウクランテ」コウモリ型「ウェスペリオー」、アキュート・ダイナミックス社製ワシ型「ラプティアス」ディオーネ・コーポレーション社製戦乙女型「アルトレーネ」 といったところが安定した強さを持っている。 もちろん、各神姫に対する評価は、オーナーにより、また神姫マニアの見方によっていろいろ違ってくる。 例えば旧式で性能的には最新鋭の武装神姫には劣っていても、局地迎撃用や戦闘可能時間の違いとか、火力、防御力、搭載能力、稼働率、整備製、コストパフォーマンスなどの点も考慮にいれなければならない。 このような観点から、総合的に採点してみると、天使型「アーンヴァル」、セイレーン型「エウクランテ」、戦闘機型「飛鳥」などが、武装神姫の中で空中戦ナンバー1を競うことになる。 アーンヴァルは、スピード、ダッシュ力、上昇力および安定性、生産製の高さで、他の航空MMSよりあまりある戦闘能力を保持している。 また「エウクランテ」は軽量で高機動、また支援ユニットに可変することで高速一撃離脱の戦闘方法で一世を風靡した。 「飛鳥」はずば抜けた運動性能で、登場した2030年代初期から中期にかけて、他の航空MMSを徹底的に痛めつけている。 いずれも武装神姫の可動初期からはたらき、改良されながら長期にわたって活躍したことが、他の航空MMSよりもポイントを稼いだ決め手になっている。 もちろんその他の「ツガル」「ウェスペリオー」「ラプティアス」「アルトレーネ」にしてもそれぞれ長所を大きくいかしての活躍が名神姫として数えられている要素になっている。 それらの中で、本来ならもっと高く評価されてもいいはずなのに、地味な存在なのがカタリナ社製の「ドラッケン」シリーズである。 「ドラッケン」は航空MMSの中でも「アーンヴァル」とほぼ同等の古い航空MMSである。上記3機が軽装甲、機動性と格闘戦闘を重視したのに、対してドラッケンは頑丈さと火力、防御力で相手の小技を跳ね返す真逆の発想で設計された。 強固な装甲と重火力、それなりの機動性を持つこのドラッケンシリーズは万能戦闘機として結果的に成功をおさめ、その合理性を立証した。 2041年10月16日 天王寺公園神姫センター 第3フィールド森林ステージ ズンズズン・・・ドン・・・ドドン・・・ 天王寺公園の一角、森の中の小川を挟んで、大砲を背負った神姫が激しい撃ち合いを行なっている。 少しはなれた小高い丘で、フィールド参加神姫の待機所で複数の重武装の神姫たちがトレーラに乗って砲声を聞きながらのんびりと出番を待っている。 チーム名「ドラケン戦闘爆撃隊」 □戦闘爆撃機型MMS「シャル」 Sクラス □戦闘爆撃機型MMS「ライラ」 Aクラス □戦闘爆撃機型MMS「セシル」 Aクラス オーナー名「伊藤 和正」♂ 27歳 職業 工場設備関係メーカー営業員 とくに話すこともない知れた顔ぶれ、彼女たちは同じ伊藤の所有する神姫たちだ。 伊藤はのんびりと新聞を読んで戦闘中のフィールドからの応援要請を待っている。 シャルは自慢の武装の2mm機関砲を布で綺麗に拭いて手入れをしている。 ライラはぼけーと口を半開きにしてどんよりとした曇った秋空を眺めている。 セシルは地面を這うアリを観察している。 ラジオもネットもなく、お互いがそれぞれ別のことをしながらただ、ゆっくりと時間が過ぎるのを待つ・・・・ ダガガガガッガガン!!!ガッガガガガン!! ふいにカン高い機械音が鳴り響き、ボンボンと黒煙が戦場になびき、樹脂の焼ける独特のにおいが流れてくる。 ポーンと情けないメールの着信音が待機所に設置されているメールボックスに届く。 伊藤がカチカチとノートパソコンのメールボックスを見て待機しているシャルたちに話す。 伊藤「出撃だぞ、手前の赤チームから救援要請だ。敵の神姫にアイゼンイーグルを装備した重火力の武装神姫が出たらしい」 シャル「了解、ドラケン戦闘爆撃隊、出撃します」 ライラがエンジンのスタートキーを回す。 ドルン、ドルンンドルルン・・ルンルン・・・グオオオオオオンン まるで獣の吼え声のように強力なエンジンが唸り、心地よい振動を生み出す。 セシル「敵機は?今日は上がってくるのでしょうか?」 セシルはぼつりとつぶやく。 シャル「俺たちに救援要請を出したってことは向こうも迎撃機を出すってことだ、足の速いアーンヴァルか、もしくは格闘戦に優れた戦乙女か・・・」 ライラ「こちらドラケン2、出撃準備完了」 セシル「ドラケン3、いつでもいけます」 シャルがうなずく。 シャル「マスター、ドラケン戦闘爆撃隊、出撃準備完了、今日の武装は、2mm機関砲、多連装ロケット砲、マイクロミサイルを搭載しています」 伊藤「よし、目標は地上で戦っている陸戦MMSの支援爆撃だ。迎撃機が出るかもしれない、十二分に注意しろ」 シャル「了解しました」 ライラ「はっ」 セシル「YES、SURE」 ドドドドドン!!ズドドドドドッ!! 強力なアイゼンイーグルガトリングキャノンを構えた悪魔型神姫が前線を押し上げている、横には数体の夢魔型が護衛として付き添っている。 くぼんだ塹壕に、火器型のゼルノグラードとヤマネコ型が身動きがとれずに必死に応戦していた。 ヤマネコ型「畜生、応援のドラッケン部隊はどーした!」 火器型「まだです!まだ来ません!!」 片腕を失った騎士型が荒い息を吐きながら舌打ちをする。 騎士型「あの重機を仕留めないことには、5分も持たないぞ!!!」 剣士型「おい!!あれを見ろ!」 キラキラと黒光するネービーブルーの機体を輝かせながら、上空から多連装ロケットランチャーで爆装したドラッケン戦闘爆撃機型MMSが3機、急降下で舞い降りる。 シャル「いいか!味方の塹壕まで2メートルと離れていない、慎重に爆撃しろ!」 ライラ・セシル「了解」 バシュバシュバシュバシュッ!!! 白い噴煙を吐きながらシャルたちは一斉に悪魔型たちに向かってロケット弾を全て打ち込んだ。 夢魔型「ド、ドラッケン戦闘爆撃機!!」 悪魔型「迎撃ッ!!」 悪魔型が強化アームでがっしりと構えたアイゼンイーグルを向けて、攻撃しようとするが、ガトリングは砲身が回転するまでのわずかな空転時間を要する。 それが致命的なタイムロスとなり、悪魔型の命運を分けた。 ドドドンッ!!!ズッドオオム!! 数十発のロケット弾が悪魔型と夢魔型数体を巻き込んで大爆発が起きる。 □悪魔型MMS 「ノーザス」 Aクラス 撃破 □夢魔型MMS 「リセム」 Bクラス 撃破 □夢魔型MMS 「パッセル」Bクラス 撃破 シャル「命中命中!」 ライラ「ドンピシャリ!」 セシル「全弾命中!」 下をちらりと見ると味方の神姫たちがしきりに手を振ったり被っているヘルメットや兜を振って声援を上げている。 火器型「助かったぜ!おまえんとこのマスターによろしくな!」 ヤマネコ型「さすがはドラケン隊だ!頼りになるぜ!」 騎士型「次もよろしく頼むぜ!!」 ぐるりと味方の神姫たちの上空で機体を振りながらバンクするとシャルたちは帰り道に急ぐ。 行きはどんよりとした曇り空が今は、風が出てきたのか晴れてきて見通しがよくなってくる。 シャル「・・・まずいな、晴れたきたぞ」 シャルは嫌な悪寒がし、キョロキョロと辺りを警戒する。 チカチカと上空から黄色い閃光が瞬く。 ドガドガドガン!! 右翼を飛んでいたライラの機体を黄色い閃光が貫いたと思った瞬間、ライラの体がバラバラに空中分解して爆散する。 □戦闘爆撃機型MMS「ライラ」 Aクラス 撃破 セシル「ライラッ!!」 ウオオオオオオオオオオオオオンン!!! シャルたちの上空から4機のアーンヴァルMK-2テンペスタが雲の切れ目から急降下で襲いかかって来た。 シャル「畜生!!待ち伏せされていた!!」 バスンバスン・・・ 全身穴だらけのボロボロの体でシャルは伊藤の待つ待機所まで、黒煙を吹きながらたどりつく。 伊藤がバッと新聞を投げ出し叫ぶ。 伊藤「なんてこった、行きは3機で帰りは1機か!」 ガッシャーーン!! 地面に胴体着陸してバラバラになるシャルの武装。 シャル「クソッタレ!」 シャルはむくりと立ち上がると砂埃を払う。 伊藤「大丈夫か?シャル!!他の連中は?」 シャル「セシルは手誰のアーンヴァルに追い詰められて自爆した。ライラは粉々にされちまった」 伊藤「なにがあった?」 シャル「たぶん、アーンヴァルの改良型だ。いきなり雲の中から飛び出してきた」 伊藤「しかし、それにしてもよく無事に戻ってきたな」 シャル「こいつの重装甲のおかげだ。もっともこの重装甲のおかげで逃げ切れなかったという点もあるがな・・・」 伊藤はぽりぽりと頭を掻く。 伊藤「しかし、待ち伏せとはな・・・」 シャルは遠い目をして答える。 シャル「俺たちを襲った連中は知ってやがるんだ。鈍重な俺たちが爆撃にくるってことをな」 天王寺公園の一角にあるこの神姫センターは立地条件に恵めれた大型神姫センター店である。 市営地下鉄、私鉄、電気軌道の路面電車、路線バス、高速バスが集中するターミナルとなっており、周辺はキタ・ミナミに次ぐ規模の繁華街を形成している。ミナミの難波とは大阪市街の南玄関としての機能を二分する。 大型商業施設には、百貨店、地下街も充実しており観光地としての表情も併せ持っており、老若男女を問わず賑わいを見せている。 そのため、老若男女を問わず、近隣の郊外から暇をもてあました強力なオーナーが集中し関西でも指折の激戦地区となっていた。 シャルが他の神姫たちと軽い雑談をする。 ぎらついた目つきの悪い黒い天使型のエーベルと、胡散臭いステルス戦闘機型のフェリアだ。 □ 黒天使型MMS「エーベル」 Sクラス オーナー名「斉藤 由梨」 ♀ 22歳 職業 商社OL □ステルス戦闘機型MMS 「フェリア」 Sクラス オーナー名「今宮 遥」 ♀ 23歳 職業 商社営業員 エーベル「そうかーライラもセシルも落とされたのか」 フェリア「運が悪かったんだろ、よくあることだ・・・気にするな」 シャルはこめかみを押さえて顔を歪めて話す。 シャル「2人はバラバラにやられちまってオーバーホールだ。直るのに1週間はかかるよ」 ファリア「テンペスタの小隊か、厄介だな・・・この辺りにはあんまり見かけなかったんだが・・・」 シャル「テンペスタにこっちの武装で勝っているのは装甲と火力だけだ。よほど有利な条件でなければ空中での格闘戦では勝てない」 シャルはエーベルやフェリアにも警告する。 シャル「お前たちも注意しろよ」 エーベル「・・・」 フェリア「・・・」 シャル「まあ、注意したってやられるときはやられるんだがな・・・」 夜になり、あたりは鈴虫やコオロギの秋の虫たちの音色で溢れる。 騒がしいまでの虫の音色がピッタと止まる。 ズズンドンドドドン・・・ズンズズン・・・ 低い砲声が唸り、爆発音が響く、そして機関銃のカン高い音と照明弾が夜空を照らす。 数機のコウモリ型が夜襲を仕掛け、フィールドで砲台型が迎撃の対空攻撃を仕掛けている。 天使型のエーベルが塹壕からひょこりと顔を出す。 エーベル「やれやれ、今日も懲りずにきやがったな、コウモリの連中」 エーベルはギュムと柔らかい何かを踏みつける。 シャル「いてェ、足を踏むなよエーベル」 エーベル「おおっとシャルか?」 シャルがヒラヒラと手を振る。 シャル「今日はコウモリ型の連中しつこいな」 エーベル「フェリアの奴が露払いにさっき出撃したぜ?」 シャルはちらりとエーベルを見る。 シャル「オマエは行かなくていいのか?」 エーベルは肩をすくめる。 エーベル「連中、逃げ足が速いからな、ちょっとでも不利になるとすぐ逃げ出す」 はあーーーとシャルは重いため息を吐く。 シャル「待ち伏せが来るってことは分かっていたはずなんだけどな・・・それをしっかりとライラたちに警告できなかったのは俺のミスだ」 エーベル「シャルを狙ったテンペスタは機関銃が故障していたんでしょう。でなきゃシャルもやられていた。シャルだって危なかったんだ、戦いなんてものはどうしようもないときのほうが多いんだ。イチイチ気にしてたら気が持たないぜ」 シャルは顎に手を付いて考え事をする。 シャル「・・・・・・」 エーベルが顔を上げる。 いつの間にか辺りは静さを取り戻し、虫の音色が再び聞こえてくる。 エーベル「コウモリ型もどこかにいっちまったようだ」 シャルがきょろきょろと警戒する。 シャル「今日は戦艦型の艦砲射撃は無さそうだな」 エーベル「明日も速いし今日は早めに寝るよ」 秋の夜は、少し肌寒い・・・・ To be continued・・・・・・・・ 次に進む>「ドラゴン-2」 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2300.html
弥涼明日香(いすずあすか)が死んだ。 死因は転落死。 学校の屋上から、墜ちて、死んだ。 自殺だと、警察は結論付けた。 アスカ・シンカロン01 ~侵苛~ 子供の頃から3人一緒だった。 物心付いた時には既に、明日香が傍に居るのが当然で…。 それが失われるという事は、自分の3分の1が失われる事と何も変わらない。 身体を3割えぐられて、生きている人間が居るだろうか? 恵まれた体格を鍛え上げ、身長190にも届く肉体も、心も。 それに耐えられるとは思えなかった。 ならばきっと。 この俺、神凪北斗(かんなぎほくと)も一緒に死んだのかもしれない……。 (少なくとも、明日香が生きていた時と同じ『オレ』では、ないよな……) 溜息を吐いて部屋を見渡す。 北斗以外誰も居ない部屋。 3人揃って遊んで、笑って、下らない話に興じ、ケンカして……。 そんな日常が染み付いた北斗の部屋。 もう戻らない日常が残滓として残る部屋だった。 「―――北斗」 部屋の戸を開けた少女が彼の名を呼ぶ。 「……ッ」 その顔を見て、北斗はすぐに目を逸らす。 「何だよ、夜宵(やよい)」 「…………」 夜宵は、無言のまま北斗の寝そべるベッドへ歩み寄る。 「まだ、姉さんの事…?」 「……」 顔を覗き込む夜宵から目を逸らし、北斗は溜息で彼女に応える。 「お前は、もう平気なのかよ?」 「うん」 夜宵は、強い。 「私が悲しんで居ても、姉さんは喜ばないと思うから」 「…オレは」 まだ、夜宵の顔は見れない。 そこにまだ、明日香の影が見えるから。 「あのさ、北斗も気分転換とかしなきゃダメだよ、ね?」 「そんな気分じゃないんだ」 まるで不貞腐れたガキだ。 そんな風に自嘲しながら、北斗は寝返りを打って夜宵に背を向ける。 「全くもう。そんな気分じゃないから気分転換するの!!」 姉の死。 それも自殺と言う死に方を、妹である夜宵がどう受け止めたのか? 彼女の声には強さがあった。 「ねえ、パール。貴女もそう思うでしょ?」 「はイ、夜宵」 え? 不意に聞こえた少女の声に、北斗は思わず振り向いた。 「じゃーん」 満面の笑顔で差し伸べられた夜宵の掌に、小さな少女が座っていた。 「…あ」 「んふふ~、武装神姫のパールちゃんです。ほら、挨拶挨拶」 「悪魔型MMS/wh。『パール』と申しまス。よろしくお願いいたしまス北斗サマ」 パールと名乗った白い悪魔型神姫は、そう言って深々と頭を下げる。 「あはは、サマ付けなんか要らないよ。こんな筋肉馬鹿、呼び捨てで充分」 「…お前な」 顔の前で手をパタパタやりながら笑う夜宵を睨みつける。 「…あ」 「…ん」 目が合い、逸らす。 (…) 悟られたと思う。 まだ、夜宵の中に明日香を見ていた事を。 「…では、北斗とお呼びしまス」 「そ、そうね。変に畏まるより、気楽な方が北斗も良いでしょ?」 「…そう、だな」 確かに、サマ付けなど柄ではない。 「ねえ、北斗も武装神姫、やろうよ?」 「オレ、が?」 どんな物かはある程度知っている。 全高15cmの少女型ロボットに武装を施し、戦わせる一種のゲームだ。 「北斗もさ、傍に誰か居た方が気が紛れるんじゃない?」 だから、夜宵は神姫を買ったのか……。 そう理解しつつも、それで明日香の居た場所を埋めてしまって良いのだろうか? そんな思いが北斗に即答させる事を躊躇わせた。 「ノーマルの悪魔型でも買ってさ、あたしのパールとお揃いにするのもいいよ、ね?」 「…その内、気が向いたら、な」 「……」 夜宵が消沈するのが分かる。 生まれた時から傍にいる幼馴染だ。 顔を見なくても、それ位は分かる。 お互いに。 「ごめん。あたしが居ない方が忘れられるよね?」 夜宵が立ち上がる気配。 「…悪い。…本当に、気が向いたら神姫やってみるかも知れない」 「うん」 「その時は、相手頼むわ」 「うん」 夜宵の返事は、一度目よりも遠ざかっていた。 「じゃあ、また来るから…」 「ああ」 扉の閉まる音。 それが、途中で止まった。 「もう、姉さんは居ないんだから、ね?」 夜宵がどんなつもりでそう言ったのかは分からない。 ただ…。 少しだけ気になって、窓から外を見る。 夜宵と、もう居ない明日香の家は斜向い。 神凪家の門を出た夜宵が弥涼家の門をくぐるのが見えた。 その後姿は、紛れも無く明日香と同じもの。 「…別人、だ。…夜宵は、明日香じゃない」 口に出して確認しなければ、忘れてしまいそうだった。 明日香と夜宵は、一卵性双生児。 双子。だった。 全15~6話話予定です。 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/420.html
注意 各項目は順不同に並びます。また、扱われる内容によっては 専用の解説ページを設ける事もありますのでご注意下さい。 また、以下は全て妄想神姫に於ける世界設定類の解釈です。 一部皆様の解釈とは異なる点がありますが、ご了承下さい。 それでも採用してくださる場合は、遠慮無くご利用下さい。 大前提MMSショップ“ALChemist” 神姫用ファッションブランド“Electro Lolita” 食事機能 晶の得意分野 HOS(ハイパー・オペレーティング・システム) アシモフ・プロテクト ゲヒルン 情報魔導学(魔術) 2036年のネットワーク事情 人工知性心的外傷症候群(AIPTD) 人型神姫インターフェイス 万世橋無線会館 集光タワー 趣味嗜好 重量級クラス 合法ハッキング 晶の眼鏡 神姫の解析 2036年~2037年の気候 HVIFの免疫系 一応塾 “Electro Lolita”量産タイプ“Fiora” 人間用“Fiora” 祭典 薬物への耐性 3on3 ヴァーチャルバトルの舞台設定 天丼屋 魔導 晶達の日課 集光ケーブル等の増設 プロトタイプCSC 三姉妹の戦闘訓練 執事喫茶 お風呂 戦績記録カード 大江戸大風呂敷物語 設計図面 ぷちマスィーンズ(及び、その超AI) 接合 昇進を賭けた試合 エントリーゲート 玩具展示会 海上基地 バトル時の重力 階級章 電気自動車 パイプオルガン オーロラ・エフェクト 松本城 バイザー 拡張型サイドボード 超AIの個性と、その弊害 射出式のゲート フィールドの有効範囲 簡易クレイドル 牛丼屋・インドカレー屋 ブラックアウト 大前提 「妄想神姫(以下作品)」を書くにあたり、実際に発売された KONAMIのフィギュア「武装神姫」における構造等は、あまり 作品には考慮されていない事をお断りする。率直に言えば、 作品を書くにあたり実物の「武装神姫」は検証していない。 作者自身が、それを一切所持できない事情に由来している。 甘い部分があったらごめんなさい……指摘は受け付けます。 追記・07/08/07:今や実物の神姫は7人おります。(笑) MMSショップ“ALChemist” 人間側の主役・槇野晶と神姫側の主役である三姉妹が運営する店。 アキバの外れに聳えた雑居ビルの地下にある、隠れた店舗である。 神姫正規取扱店の認可を持ち、別フロアは主役達の住居も兼ねる。 その主な業務は、武装神姫達の販売・点検・修理・改造等である。 一応各種届け出の窓口もやっているが、場所柄故利用者は少ない。 神姫以外のMMS系商品に至っては、玩具店にも負けそうな勢い。 逆に神姫用ショップブランド品の開発には、目下力を入れている。 ちなみに、登記簿など法律上の“オーナー”は晶ではないらしい。 神姫用ファッションブランド“Electro Lolita” 晶がMMSショップ“ALChemist”において売り出している神姫用品。 下着からコートまで、神姫達が身につける為の各種衣料をカバー。 素材も、本格的な布地から装甲能力を持つ硬質素材までと幅広い。 そのデザインは晶とロッテの趣味嗜好が前面に押し出されており、 有り体に言えば“少女趣味”な、過剰装飾気味のデザインである。 神姫を大切に扱う一部の好事家には、ヒットを飛ばしている様子。 通販もしているが、注文には写真も含めた神姫のデータを要する。 オーダーメイドも気まぐれ次第では行う事がある。(主に常連相手) トータルコーディネイトをした場合、値段は人間用にも匹敵する。 食事機能 経緯は第四章に譲るが、(株)東杜田技研・小型機械技術研究製作部 ──通称「ちっちゃい物研」に属する者の手によって、ロッテには 同研究所が実証実験中の“食事機能”が、何故か搭載されている。 ロッテの同機能は“コミュニケーション重視型”であり、彼女には 確り好き嫌いが存在する。詳細は戦うことを忘れた武装神姫参照。 第八章の段階で、食事機能を内緒で搭載していたのがDr.CTa女史と 判明する。クララにも搭載されたこの機能を、晶は歓迎している。 クララの同機能は、ロッテ以上の“コミュニケーション重視型”。 アルマにも修理の際、Mk-Z氏によって同機能が搭載されたらしい。 Dr.CTa女史の指図なのか独自の判断かは、第十章の段階では不明。 アルマのそれは、何故だか“エネルギー重視型”気味である様子。 晶の得意分野 職人(マイスター)を名乗る晶だが、決して万能な存在ではない。 彼女の才能が強く発揮されるのは、各種の精密工作技術である。 そちらが“Electro Lolita”として一定成果を上げている反面、 データ処理等の情報処理技能は、本人が力量に納得していない。 修行の甲斐もあってそれなりの技術力は備えているが、まだまだ 研究者やその手のプロには及ばない、と自己分析しているのだ。 その為、適材適所の言葉通り他人の助力を扇ぐ事も躊躇わない。 “ホビーショップ・エルゴ”や“ちっちゃい物研”を多く頼る。 弟十九章の段階では、クララとの学習で技術力を高めつつある。 HOS(ハイパー・オペレーティング・システム) 神姫を戦闘の為に最適化する市販プログラム。一時期は大多数の バトル派ユーザーが使用したが、去年夏に通称“HOS事件”を 引き起こした事で風評が広まり、現在使用するユーザーは稀少。 事件の経緯など、詳しくはねここの飼い方・劇場版を参照の事。 なおロッテ達晶の神姫には“HOS”は全く使用されていない。 正規品をそのまま使用する行為をあまり選ばない晶の職人気質、 “HOS事件”で巻き起こった簡易設定用プログラムへの批判。 これらを勘案した結果、晶は“HOS”を使用する事を放棄して 彼女が自作した動作制御用コンポーネントを搭載する事にした。 それは喩えるなら、「軍事教本」や「取扱説明書」の様な代物。 アシモフ・プロテクト 後述する命令をメインフレームとする、電子的な動作制約。 神姫を初めとするMMSは武装が可能であるという特性上、 MMS国際法第六条にてプロテクトの実装義務が存在する。 第一項:人を傷つける事なかれ、また危機を見逃す事なかれ 第二項:前項を遵守する限りに於いて、人の命令に忠実たれ 第三項:全条項を遵守する限りに於いて、己を常に護るべし これは旧時代の有名SF作家が、自己の作品を通し定義した ロボットに対しての三原則が、バックボーンになっている。 これを思考回路に内包したロボットは、“人間にとっての” 忠実なる下僕……役に立つ道具となる事が運命付けられる。 だが作家自身があら探しする程、この機構は不完全である。 作中ではその矛盾について数多くの場面で描かれている上、 実際問題として高度な知能を備えているMMSにおいても、 “独自・創造・発展”という“三つの性”を強力に阻害する 一種の枷でしかない事が、開発段階の初期に判明している。 この為現在は、正式なユーザー登録を経て所在が確認された 神姫に対しては、解除プログラムがCSCに組み込まれる。 その一方で、各種犯罪に用いられる“違法神姫”に対しては 同プロテクトを阻害する命令を組み込むユーザーが大多数。 いずれにせよこれらのプロテクト無効化措置により、神姫は プロテクトに囚われない、自由な思考・判断が可能となる。 この事により、プロテクトの意義を疑問視する識者は多い。 一方で犯罪抑止の為にプロテクトを強化すべし、との声も。 ゲヒルン “オーバーロード”の1種。“オーバーロード”とは、通常では 持ち得ない何らかの超常的能力を備えた神姫、またはその能力。 大抵は代償を抱える。詳細は徒然続く、そんな話。を参照の事。 クララは、極めて重症の“オーバーロード”を抱えてしまった。 それが晶をして“頭脳”と名付けた、非常に特殊な症例である。 本来別の用途に割り当てられているAIの機能が、情報処理系に 置き換えられ流用されているが為に情報処理能力に秀でている。 但しその代償として本来の“別の用途”に支障を来す事となり、 クララの場合、それは火器管制系と駆動系の瞬発力制御だった。 故にクララには、通常の戦闘とは異なる戦闘体系が求められた。 情報魔導学(魔術) 英訳名は“TechnoWizardly”。“即時性仮想空間侵蝕技法”の通称。 もっと端的に言う時は、“魔術”という言い回しを用いる事が多い。 “オーバーロード”作用により戦闘力を著しく欠いているクララが、 その長所を最大限に生かした結果開発された、全く新しい戦闘体系。 “即時性仮想空間侵蝕技法”というのは、至極簡単に説明するならば 『リアルタイムでバトルフィールドに行われるハッキング』である。 燃焼実験のデータを展開すれば炎を起こし、液体窒素の原子的状態を 割り込ませれば周囲を凍結させて、電荷状態の数値を変えれば落雷。 専門知識と情報処理の能力さえ一定以上あれば、その実効性は高い。 しかしレギュレーションに則した侵食範囲を超える事はできないし、 通常の神姫では難易度が高く、バッテリーの消費もバカにならない。 普通は専用情報処理パーツと大型バッテリーが必要になる程であり、 生まれつきの才能を持ったクララだからこその、特殊な技能である。 2036年のネットワーク事情 この時代でもテキストベースの匿名的ネットワークは死んでいない。 有名な巨大掲示板やソーシャル・ネットワーキング・サービスには、 神姫話専門のコミュニティが常設されている事も決して珍しくない。 他方では匿名性を半ば犠牲とした次世代コミュニケーションツールも 広く普及しているが、どちらも“晒し・叩き”等の行為は存在する。 (特に都市部の)悪辣なオーナーは、それ故に著名である場合も多い。 人工知性心的外傷症候群(AIPTD) ぶっちゃけてしまえば、神姫等の高度人工知性体が負うトラウマ。 基本治療は人間と大差ないのだが、身体的構造が人類と異なる為に 薬物療法等は行えず、プログラムで無理矢理矯正する“荒療治”は 治療の趣旨に反する為に、治療は人間相手よりも難しいとされる。 アルマが蘇生時に見せた拒絶反応もこれに該当すると思われるが、 神姫同士による対話と晶の誠意により、軽度症状に留まった様だ。 人型神姫インターフェイス アンドロイド等、人型ヒューマノイド・マシンの一種。神姫の為に 作られた躯であり、機能や構造等は人間のそれに近くなっている。 詳細は橘明人とかしまし神姫たちの日常日記を参照の事。晶達は、 フェレンツェ・カークランド博士より実験協力の依頼を受けた為、 アルマ・クララ・ロッテの3人ともインターフェイスを利用する。 本作中では、HVIF(Human-type Valkyrie InterFaces)と略す事も。 万世橋無線会館 地上八階・地下五階の、割と大きめな雑居ビル。その名前の通り、 地上階は無線パーツの店や各種業者のオフィス等が入居している。 一方地下階……厳密には地下二階から地下四階は、晶の為にある。 地下二階にMMSショップ“ALChemist”の店舗部と晶の住居を構え、 地下三階は各種工作用の“工房”とHVIF三人の居室を設けている。 地下四階は倉庫フロアであり、地下三階から移された備品もある。 これを見越してか、エレベーターは地下二階までしか移動しない。 ちなみに地下五階が、ビル全体の為にあるライフラインの受け口。 “ALChemist”登記簿上“オーナー”の、所有ビルの1つらしい。 集光タワー 万世橋無線会館の屋上に、各種アンテナに紛れて設置されたポール。 全体が特殊なプラスチックで出来ており、効率よく太陽光を集束して 光ファイバー経由で地下のMMSショップ“ALChemist”へと伝達する。 晶がTV放送用のアンテナと一緒に、ドサクサに紛れて3本設置した。 趣味嗜好 人間と変わらない“心”をCSCとコアの配列によって会得している 神姫達にも、当然ながら好悪や趣味嗜好が存在する。人間とは大きく 生活様式が異なる為、そのバリエーションが少し人間と異なる程度。 但し、バトルマニアのユーザーはそう言った事を含め“余計な事”を 思考させない様に、神姫自身をプログラムで矯正したりするらしい。 逆に戦闘が趣味の神姫もおり、“人間同様の多様性”の証と言える。 重量級クラス KONMAI事務局が昨年末制定したばかりの、新しい神姫バトル用階級。 アムテクノロジー社が開発していたMMS専用の局地戦機動装甲服、 “バイザー”の研究が大手各社で進んだ事で、試験的に確立された。 “無秩序な恐竜的進化”という誰もが予想した問題を抑制する為に、 現在は乾燥重量と通常容積に対して、上限と下限が設けられている。 反面従来の自由性を維持する為に、自作パーツの使用も認められた。 とは言え制限は厳しく参加の為には、一定の事前審査を必要とする。 晶は序章の開始時に、自作モジュールの簡易試作品とロッテを提出。 一悶着はあった物の無事に合格し、ロッテに参加IDが発行された。 なお対義語である“軽量級ランク”とは、従来のリーグバトル形式。 重量級ランクはあくまで現状維持を優先した、実験的な階級である。 また、クララとアルマの参加IDは第十五章時点で交付されている。 合法ハッキング 2037年現在、ヴァーチャル式バトルフィールドを使用するタイプの 神姫バトルについては、神姫自身によるハッキングが許可されている。 但し幾つかの“禁則事項”があり、これを検知すると反則負けとなる。 ・瞬間移動、あるいはそれに準じたハッキングによる超光速移動 (過去に公開されたメソッドが、戦闘バランスを崩す程氾濫した) ・神姫自身のプログラムをダイレクトに破壊する“クラッキング” (幻覚を見せ幻聴を聞かせる程度ならば、現状は認められている) ・神姫自身の体内組成データのみを、接触せずに直接破壊する行為 ・戦闘領域全体を書き換える程の、大規模・無秩序なハッキング 所謂“クラッキング”は認められない為、手順には細心の注意が必要。 クララの武装には、これらを違反しない様にリミッターが課せられた。 晶の眼鏡 槇野晶の眼鏡は、普段装着するウェアラブルPCのモニターである。 画面は視界を遮らない様に半透明の状態で映し出され、画面の配色も 視界の邪魔にならない淡めのカラーパターンを採用している。OSは Winbows Viske 2036w-Professional。モバイル端末を兼ねるPHSと 連結させる事で、インターネット通信も楽々こなせる高性能モデル。 弦には超小型CCDカメラがあり、ロッテ達“晶の三姉妹”の戦闘は これを用いて録画される。その用途は戦闘パターンの、分析と改良。 MMSショップ“ALChemist”の専用サーバには、三姉妹のクレイドルと “PCのクレイドル”が接続してあり、データリンクも同時に行う。 その為神姫達のデータが、一部このウェアラブルPCに入っている。 神姫の解析 高度な人工知性体の“知性”を構成する、神姫のコアとCSCには、 当然ながらメンテナンスや検査・デバッグなどの行為が欠かせない。 当然、それを行う為の道具……精密工具やソフトウェアも存在する。 一般向けソフトは、許された範囲の数値閲覧や設定変更等を行える。 それ以上を行う場合、基本的に一般流通していない専門の物を使う。 下手にアクセスして改造してしまえば、直ちに規約違反となる為だ。 晶は、正規登録しているMMSショップであるという立場を活かして 専門のソフトを専門業者から(コネを利用した交渉の末に)安く購入。 クララ・実験台に志願した神姫と共に、短期集中的に徹底学習した。 2036年~2037年の気候 2006年が記録的な暖冬だった日本。30年後の未来、その傾向は 更に進行してしまい、猛暑が長続きする一方で冬は短くなっている。 海面上昇も顕著になっており、ニュースで騒がれない日は殆どない。 それでも人類の猛省と努力が奏功した為か、30年前の予測時よりも 温暖化現象による環境被害は、若干ながら控えめな物となっている。 エネルギーや駆動機関が化石燃料を頼らない物に移行し終えた事も、 更にそれが世界規模で押し進められた事も、十分成果を上げている。 HVIFの免疫系 人間は風邪を引くが、人の躯を模したヒューマノイド・マシンである 人型神姫インターフェイスの場合も、人間の病気とは無縁ではない。 受胎・出産すら行う位までに高機能化され、生体に近くなった為だ。 (同機能に異常を来している様な劣化コピー版の場合は、不明である) しかし人間とは違い機械的なメンテナンスを受ける事が出来る為に、 従来の病理学も併用すれば、大抵の病気は簡単に治癒できてしまう。 そう言う意味で、HVIFの免疫機構は人間の物よりも強靱である。 とは言え最初から病気にならない方がいいのは当然であり、三姉妹も 晶の影響を受けて、健康には大分気を遣っているらしい。それでも、 病気になる時はなってしまうのが、生命体という存在なのだが……。 一応塾 “塾偏重”を批判する2006年のCMで用いていた単語ではない。 慧応義塾学院と一波紫大学が共同で設立した、新派の進学塾である。 世間の流れより2年程遅れて、設備の近代化・完全ペーパーレス化が 現在進んでいる。首都圏に31校あり、規模だけは無駄に大きい塾。 とは言え大学出資だけあり学習内容は確かな品質。その一方で塾内の 気風はオープン。神姫の持ち込みも(邪魔しなければ)許可されるが、 流石に神姫自身を“一人の塾生”として認める程、開明的ではない。 クララは自身のHVIF・梓をまとって、この塾で現在学んでいる。 “Electro Lolita”量産タイプ“Fiora” “フィオラ”と劇中で呼称されている服飾類。“Electro Lolita”の 事実上初めての“量産型”シリーズである。手始めに、2037年三月の “鳳凰カップ”にて、限定生産品として先行販売される事となった。 帽子・リボン・ネクタイ・コードタイ等の小物に始まって、メインの 服部分はブラウス・スカート・ベスト・ジャケット等が製作された。 更に神姫専用アンダーまで用意されており、カラーバリエーションが 各パーツ事に3~4種類ずつ存在している。内二つは白と黒である。 外見のみならず防御性能や戦闘時の動きやすさも考慮された。しかも リボンにレーダー素子を組み込む他、ネクタイ類を強化ワイヤー製に している等、“武装神姫としての機能性”も考慮された逸品である。 なお、トータルコーディネイトの価格は普段の“Electro Lolita”の 2割安である。それでも5桁は確実で、決して安価でないのが欠点。 人間用“Fiora” 手先の器用さを生きる武器と成し、服飾を趣味とする槇野晶にとって 自分の着る服を作るという行為は、極希に行う儀式の様な物である。 大抵は気合いを入れる時や、大規模なイベントへ参加する時に行う。 第二十二章の時に晶が持っていたのは、そうして作られた服である。 プレゼンテーションの意味合いも込めてか、そのデザインは神姫用の トータルコーディネイト“フィオラ”を土台とした物になっている。 少女的な造作と振る舞いを備えた凪千空氏にも、似合っていた様子。 ちなみに晶はコスプレ趣味を備えておらず、メディア由来の服飾類を 自分の趣味において作成した経験は無い。但しデザインの方向性故、 元ネタがあるのか?と周囲の興味(主に素人カメラマン)を惹く事も。 祭典 盆と暮れの年二回、東京ビッグサイトで挙行されている“本市場”を 意味する大規模な民間イベント。創始者は既に死亡しているのだが、 彼らの志を継ぐ者達と参加者の精神、そして肥大化した欲望に伴って 弟150回を目前にする程のロングランを記録している、日本最大の イベントである。晶は数度だけ、物見遊山に行った事があるらしい。 2037年という電子化の時代を迎えてもアナログの魅力は棄てがたく、 紙媒体のそれらも多量に頒布されている。尤も環境問題もあってか、 100%再生紙や非透過フィルム紙を用いる製本が一般化しつつあるが。 その魅力と影響力たるや、鳳条院グループ総帥が自社主催イベントの 開催時期を、わざわざ春と冬(秋?)にずらしてしまう程なのである。 薬物への耐性 通常型の神姫であれば、無論アルコールを摂取する事さえ叶わない。 だが何らかの要因で飲食を可能とする神姫は、一部の物質に対しても ある程度の個性を持った反応を示す。アルコール類はその代表格だ。 二日酔いや常習性等は、大抵の場合AIの個性に依存する物である。 ロッテの様に冷静に暴走して数分で収束するタイプもいるが、大抵は 頬を桜色に染めて前後不覚になる……即ち人間同様の酔い方をする。 だが、神姫にアルコールが(生理学的に)作用している訳ではない為、 人間以上に“酒癖”は千差万別だと言える。但し研究は途上である。 3on3 神姫がある程度普及した時期に設けられた、特別レギュレーション。 そのままズバリ、二人のオーナーが各々三体ずつの神姫を持ち寄って チームで勝敗を競う。勝利ポイントは、所属神姫全員に与えられる。 バトルロイヤルや2on2等の亜種を含め公式戦でも開催されており、 これのみに全力を傾けるオーナー(及びオーナー連合)も、いるとか。 神姫達のチームワークと戦術が全ての鍵を握る、特殊な戦場である。 ヴァーチャルバトルの舞台設定 神姫バトル用ヴァーチャルフィールドには、様々な環境が存在する。 草原から都市、果ては第二十五章の様な月面から火山帯・洋上まで。 事前に選ぶ事も出来れば、ブース単位でランダムに決定する場合も。 これは今後リリースされていく神姫の活動範囲を保障する為であり、 同時に各神姫の戦術が固着化しない為の、一種のスパイスでもある。 天丼屋 知っている人なら知っている、JR秋葉原駅近所の“彼処”を示す。 2036~2037年でも、アキバを訪れる“ディープな”人々に愛される。 但し、つくばエクスプレスの開業から年月が経過した事もあってか、 “ディープでない”人々も多く訪れる様になり、益々繁盛している。 魔導 “魔術”に酷似してはいるが、現実空間でも使用出来る等不可思議な 原理を内包する特殊な技法。当然ながら、科学では説明しきれない。 三姉妹の“魔剣”がそれらの能力を備えているが、詳細な原理自体が “妄想神姫”で語られる事は無いと思われる。別な話の要素である。 晶達の日課 地下生活が基本となっている事を意識している晶は、ロッテと暮らす それ以前から、(荒天時以外)毎朝の体操を欠かさない。健康面は勿論 精神衛生上、朝焼けの空を見る事はプラスになると考えている為だ。 なおその際、実用面から冬はジャージ・夏はブルマを着用しているが 何故かこの服装パターンは、ロッテ達“三姉妹”にも伝播している。 集光ケーブル等の増設 万世橋無線会館に配置された集光用ファイバーや空調用のダクトは、 増設や模様替え・改築に対応できる様に、接続を自在に変更できる。 晶が地下に張り巡らせた分だけでもまだ相当の余裕があったらしく、 余っていた内の更に1/3程が、神姫だけの為に宛われた様である。 プロトタイプCSC ロッテ達三姉妹には、最終期試作品であるCSCが使用されている。 製品版で行われる“着色”が為されておらず、水晶の様に無色透明。 情報処理能力が2%程劣る物の、性能その物は製品版に準じている。 三姉妹はそれを誇りとして“プロト・クリスタル”という名で呼ぶ。 入手経路は現在の所不明。しかし、晶は何らかの信念を以てロッテに 六つ所持していた内の半分を搭載した。機能上は規約通りである為、 精緻な動作チェックを経た後に、事務局には事実上黙認されている。 その後クララとなる神姫を売る際、在庫不足から客に貸与した一つが そのまま彼女に組み込まれ、アルマとなる神姫が猪刈に破壊された時 CSCの保全用修理パーツとして、東杜田技研に二つ持ち込まれた。 三姉妹の戦闘訓練 MMSショップ“ALChemist”の私室には、一応ヴァーチャル式の神姫用 トレーニングマシンが存在するのだが、利用率は七割弱程度である。 つまり三回に一回は、生身……神姫素体での模擬戦やスパーリングを こなしている計算になる。これは三姉妹全員とも、同じ傾向にある。 理由は、ヴァーチャルに慣れる事での感覚の鈍りを避ける為である。 これは損傷する危険が大いに存在するが、晶が修理を引き受ける為に (金銭的なコストと引き替えに)安全で有益な戦闘訓練となっている。 なお、実空間訓練の提唱者は存在しない。神姫の自発的行為である。 執事喫茶 メイド喫茶も兼ねる、というよりそちらが主体の“平仮名三文字”の 店である。No1の店ではない物の、茶葉やサイドメニューに於いて 実に“わかっている”セレクトが、創立三十年後の今も人気である。 お風呂 MMSショップ“ALChemist”の居住区画には、ビル唯一と言ってもいい ユニットバスが存在する。バス本体と周囲一帯は風呂場となっており 晶は毎日此処で躯を磨いている。神姫達と暮らす様になってからは、 三姉妹用の洗浄剤ラックを初めとした神姫用の施設も増設している。 とは言え小柄な晶でも狭いと感じる事があるのか、月に一度は都内の 大型温泉施設に行っている。神姫は、特別許可をもらって入浴する。 設立から数十年経った為、立て替え計画が進んでいるのが悩みの種。 戦績記録カード 神姫バトルに正式登録した神姫のCSC固有IDは勿論、対戦成績や バトル傾向等、様々な情報を記録するカード。神姫センターの窓口や 受付機で主に使用する。その発行は神姫一体当たり一枚のみである。 オーナー側は販売されている専用のソフトで、内容の閲覧を行える。 発行を受けるか否かはオーナーの任意だが、その制約は少なくない。 特に記録されたデータの不正な改竄は、該当国の情報犯罪関連法及び MMS国際法弟二十七条により、厳しい罰則と共に禁じられている。 晶は、カードによって取得した各種データと自分で採取したデータを 統合して精査する事により、装備の改良を行う際の参考にしている。 大江戸大風呂敷物語 頼りない名前だが、歴とした温泉式大型公共浴場である。露天風呂や アミューズメント系のスパも完備されており、人気はそこそこある。 二十一世紀初頭の都心型温泉ブームに沿って作られた、施設の一つ。 神姫専用洗浄剤を(銘柄は限定される物の)使用させてくれる、稀少な 公共施設の一つであり、神姫オーナーの紳士淑女が神姫と連れ立って 訪れる事も偶にある。晶は、回数券を複数所持している常連である。 設計図面 “マイスター(職人)”という渾名を持つ晶だが、作成する物について 図面を引き記録を電子的に残す、という技術者的な面も持っている。 積み重ねが、将来自らが作り上げる物の礎になると信じている為だ。 しかし工業製品程精緻に引かれた図面ではない上、一部読み解くには 晶の“職人的感性による発想の転換”を必要とする箇所が多い為に、 図面自体は誰でも読める物の他人が“作品”を再現するのは難しい。 ぷちマスィーンズ(及び、その超AI) 第二弾(犬型・猫型)の神姫にて採用された、遠隔攻撃端末群の通称。 超AIによる機体制御と五基(内一基は神姫とのリンクを担当する)の 連携による全方位攻撃が売りであり、その潜在性能は計り知れない。 ぷちマスィーンズ自体は最新技術と特許権の塊である為、バラ売りの 超AIモジュールはブラックボックス化したキットのみが流通する。 それによりオリジナル装備の作成も可能だが、比較的難易度は高い。 晶は秋葉原という地の利を活かして、それらのキットを安値で入手し 様々な攻撃端末を製作した。“Valkyrja”の一部分や“EL Doll”に 使用している人工知能も、この超AIキットがベースとなっている。 接合 遠隔攻撃端末としては優秀なぷちマスィーンズだが、何らかの方法で 神姫からの指令を即座に受け取れなければ、力を十分発揮出来ない。 その為、第二弾に於いて使われている手法の一つが“接合”である。 極自然に用いられる手法の為、“接合”を認識する神姫は多くない。 上半身アーマーの背部に接続されたぷちマスィーンズが、通常これを 担当している。神姫のコアとぷちの超AIを密接にリンクさせる事で 命令を受ける速度が上昇するのだ。第二弾では、直接の指令を受けた ぷちが別のぷち四基に指令を伝達し、多次元的な攻撃を行っている。 密接なリンクさえしていれば、別に神姫と密着している必要はない。 その為に晶は、“接合”で単独の超AIと神姫をリンクさせている。 他の超AIと通信する為に用いられる情報処理機能を、機体の制御に 宛てさせる事により、“以心伝心”の連携プレーが可能となるのだ。 昇進を賭けた試合 リーグに於いて一定量の戦果を挙げた神姫が、月一回の“試験日”に 申請する事で行われるバトルである。外見上は普通のバトルと区別が つかないが、勝利した神姫には上位リーグへの移籍権が与えられる。 長く“主”としてリーグ首位に居座る神姫は、この移籍権を意図的に 行使しない場合もあるが、そもそも申請しないケースが殆どである。 マスターの都合で、毎月の“試験日”に出場しない神姫も多いのだ。 エントリーゲート 「妄想神姫」に於いて、ヴァーチャル式バトルフィールドにおいても 神姫のエントリー部分まではリアル式と共通の方式が採られている。 即ちオーナーの物理的干渉を防止する為、エレベーター風に筐体内へ “降下”し、そこからバトルフィールドへ“射出”する方式である。 ヴァーチャル式の場合、“降下”のプロセスが終わってからが違う。 筐体内でスキャンを受けた神姫は、自分自身と言うべき主幹データを バトルフィールドに転送し、疑似空間内に設けられたゲートを潜って 戦場へと“射出”されるのである。感覚的に、リアルとの差はない。 玩具展示会 毎年一回、八月に幕張の会場で催される玩具製造各社の新作発表会。 “武装神姫”も世間一般の認識は玩具である為、新作発表の場として このイベントを利用して神姫プラントの各社は宣伝に勤しんでおり、 事務局と“EDEN”を中心として、共同ブースが毎回設営される。 2037年は新作ラッシュの年であり、翌年早春までリリース予定の 試作品がブースでのコンパニオンを務める程、精力的・野心的な年。 これを契機に、オートマータ(自動人形)システムとしてのMMS達が 各界で注目を浴び始め、結果更なる発展を成し遂げていくのである。 海上基地 水中完全対応型の第五弾神姫リリースに際して、バトルフィールドに 追加された、新しいステージ群の一つ。油井プラントを彷彿とさせる 形状をしており、陸上型の神姫でも戦える様に配慮が為されている。 立体的な構成としては空半分の海半分で、足場が海面の七割である。 このステージ最大の特徴は『足場が脆い』事である。流れ弾等により 破損した足場は海中に脱落し、陸上型神姫の動きを阻害する。もしも 海中に堕ちれば沈み続けて、いずれは領域離脱にて反則負けとなる。 このデメリットに現状対抗出来るのが、水中対応型神姫なのである。 バトル時の重力 リアル式の場合、フィールドに掛かる重力は地上のそれに等しいが、 ヴァーチャル式フィールドの場合は、座標の重力を制御するデータに 沿って、神姫のセンサーに適度な負荷を与える事で重力を表現する。 これに依り、地上では有り得ない月面並みの軽重力や完全な無重力、 或いは海底の様な高圧環境さえも表現出来うる。クララの魔術には、 このデータと物質密度データを、ブラックホールの研究資料を参考に 圧縮した疑似超重力素子を展開する、“重力”攻撃魔術も存在する。 なお、クララと戦ったリュミエールの剣はエネルギーの集積と解放を 機械的・データ的に『重力操作風に見せかけ』運用しているだけで、 実際に重力や物質密度のデータを、彼女が操作している訳ではない。 階級章 電磁吸着式の装飾品。5mm角の宝石であり、ファーストリーグ用と セカンドリーグ用が存在する。該当するリーグに所属すれば、誰でも 装備が可能だが、購入が有料である為に身につける神姫は多くない。 ID認証や紛失時のGPS追尾機能等“希少性の高くなった”神姫の 安全性・利便性を補助する目的で作られた電子機器でもある為、晶は 専用の強化ネックレスを作って、褒美として妹達に与えたのである。 なおリーグ毎に形状は決まっているが、色が数種類用意されている。 電気自動車 二十一世紀当初から声高に叫ばれていた諸々の環境問題は、輸送業に 深刻な影を落とした。しかし地道に開発されていた電気自動車の類が 普及するに伴い、シェアを従来の燃焼機関系車両と二分するに至る。 重機・工事用車両程パワーを必要としないバス・トラックの類は特に 電気自動車への移行が進み、特に長距離バスは2037年現在殆どが 電気バスとなった。静粛性に優れる為、特に観光バスの人気が高い。 これにより史上空前のバス旅行ブームが起きているとかいないとか。 パイプオルガン 松本市郊外のホールに常設されている、電気駆動式の大型オルガン。 規模としては中堅だが、音楽の街として毎年イベントを開く同市の、 ある種のシンボルとして、2037年現在でも現役で駆動している。 その音色は豪奢・荘厳・雄大。人間の躯さえ震わせるそれは、神姫に とって震動による悪影響も懸念される為、晶達は後列にて拝聴した。 そんなリスクを侵してもなお神姫の“心”に良い、とは碓氷灯の弁。 オーロラ・エフェクト 事務局側が筐体の高性能化に伴い、試験的に開発した戦闘演出効果。 CSCの組み合わせと神姫及び武装の傾向に対応したホログラフを、 “CSCの機能駆動率”……即ち“気合”に応じて戦場に投影する。 筐体の情報処理能力が要求される為に、全国で散発的なロケテストが 行われているのみで、本格的な普及にはまだまだ時間が掛かる模様。 松本市の神姫センターにあるのは偶然だったが、人気は高いらしい。 松本城 国宝の指定を受けている、松本市最古にして最大の観光名所。近所に 旧開智学校等の史跡や市役所等も存在している。様々な意味に於いて 松本市の中心と言える場所であり、2037年現在も存在している。 城内の木造床を胡桃と米糠で磨き上げるのは、近所の小学生や企業の 新入社員にとっての試練と化しており、ローカル版ニュースでは毎年 取り上げられる程ポピュラーな行事として、市民に認識されている。 バイザー アムテクノロジー社が開発していたMMS専用の局地戦機動装甲服。 自社ブランドのMMS専用オプションとして、研究・開発が進んだ。 政治的理由で同社が衰退するまでに、十数種がリリースされている。 現在は、MMS全般に使えるオプションアイテムとして関係各社での 研究・開発が存続している。その結果がある程度出た事で、事務局が 重量級ランクの試験運用を決定したという噂もある、隠れた逸品だ。 現在同ランクに参加した一部オーナーが使用しているのは、主にこの “後継型”バイザーであるが、アムテクノロジー社製品の評価も未だ 高く、特に“ネオボードバイザー”は愛好者が現在も絶えないとか。 拡張型サイドボード 重量級ランク対応型のバトルロンド筐体に於いて用いられる、専用の サイドボード。間仕切りなどのオプションパーツで、従来のタイプに 復元する事も可能であり、店舗や筐体毎に選択する事が可能である。 一応は拡張型サイドボードタイプの筐体を一台以上は設置する事が、 事務局側で推奨されている為、晶は敢えて同タイプ筐体を前提として 装備を作成した。参加不能とはならない、と判断しての決断である。 超AIの個性と、その弊害 重量級ランク用の相棒“プルマージュ”は、本能的な動作をする様に その性格構造やロジック面で若干の工夫が行われた。これは達人とは まだ呼べない晶の情報処理技術故に、僅かな弊害をもたらしている。 その筆頭こそ、行動に支障を来す程の強い“個性”である。キットの 範囲内で組み上げられているとはいえ、動物(野獣)的側面を強調した それらは、晶の技術と相俟って予期しない動作の偏りを発生させた。 本来ぷちマスィーンズは“接合”(本頁参照)によって、マスターたる 神姫の命に従う構造なのだが、この“歪み”は“接合”の強制力にも 影響を及ぼした。“接合”でのAIリンク率が上昇しなかったのだ。 これらの不具合は、三姉妹の“芝居”によって無事矯正されている。 その為“個性”は残しつつ、“接合”による機体リンクや意思疎通に 発生した問題は無くなり、これ以後は戦闘訓練が可能となっている。 射出式のゲート 実の所、従来の武装レギュレーションに於いても神姫達はゲートから 射出されていた。パワーが緩やかな為に、誰も意識しなかったのだ。 しかし重量級ランクに於いては、それを流用出来ない事情があった。 それが各神姫の重量差である。レギュレーションで上下限度を幅広く 取った為に、最軽量と最重量では彼我距離の明確な“差”が生じる。 それはそのまま一方的なハンデとなりうる為、開始時だけでも距離を (一方的に奇襲されない範囲で)常に一定の感覚で保つ必要があった。 その為に事務局側は、ゲートの射出機構をパワーアップさせたのだ。 これには『重装甲・重武装の神姫達ならば耐えられる』という公算も 働いており、読み通り参加神姫達はそのエントリー方法に適合した。 フィールドの有効範囲 重量級ランクが始動する少し以前より、バトルフィールドの広大化は 要望として存在していた。一定の戦闘領域を維持しつつ、その欲求を 満たす為、新規追加された大型フィールドには有効範囲が存在する。 それは神姫が活動出来る、物理的限界である。普段は隠されているが 神姫が接近すると、その限界点はホログラフの線として表示される。 線を踏み越えた時のペナルティは、フィールドによって様々である。 例えば“高空”のフィールドならば、領域離脱と見なされ敗北する。 “軌道エレベータ”ならば、気密維持用という設定のバリアに灼かれ 大きなダメージを受けながらフィールドに戻される、という具合だ。 簡易クレイドル これは、晶の完全自作品ではない。キャリアと接続するフレーム部は 晶が三姉妹の武装キャリア専用に設計した品だが、クレイドル本体は 東杜田技研ブランド“HT-NEK”の“ポケットスタイル”を利用した。 これは製品自体の安定性が至極良好だった為であり、キャリアに半ば 固定する形で利用する晶は、クレイドル機能をこれに頼る事とした。 実際その寝心地は、バトルで消耗した三姉妹に大変好評である様子。 牛丼屋・インドカレー屋 秋葉原の本筋・昭和通から外れた裏路地の中にある、古びた牛丼屋。 チェーン店の牛丼屋からは幾分離れている立地条件が奏功したのか、 アキバを訪れているディープな人種には、隠れた店として知られる。 一方のインドカレー屋は、都内に数店を展開している。その特徴は、 “黒い”極辛のインドカレー。一口食べれば汗が出るその刺激には、 リピーターも数多い。どちらも、二十一世紀以前から存在する老舗。 ブラックアウト 神姫の思考中枢は超AIという“機械”である。となれば当然だが、 過負荷による破損も考えられるケースとして存在する。それを防ぐ為 備えられた安全機構が、意識体……即ち回路のブラックアウト機能。 この時神姫はブレーカーが落ちる様に意識を失うが、異常ではない。 むしろオーバーフローや外因性ショックから自己を守る事が可能で、 適切な手順で再起動してやれば神姫は一応平穏を取り戻す事となる。 しかし発生要因が取り除かれない限りは、何らかの事象がトリガーと なって再びブラックアウトする可能性を抱える事となる。それは大抵 神姫の“心”に出来た“トラウマ”でもあるので、治療は一応可能。 次頁へ進む メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/158.html
西暦2036年。 第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった、2006年現在からつながる当たり前の未来。 その世界ではロボットが日常的に存在し、様々な場面で活躍していた。 神姫、そしてそれは、全項15cmのフィギュアロボである。“心と感情”を持ち、最も人々の近くにいる存在。 多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。 その神姫に人々は思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。名誉のために、強さの証明のために、あるいはただ勝利のために。 オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを、人は『武装神姫』と呼ぶ。 ~プロローグ~ 其処は鶴畑家邸内に構えられた武装神姫専用棟。 この場所に置いて、あの鶴畑3兄妹の武装神姫たちが生まれ、訓練され、使役され、そして朽ち果て、棄てられていく。 そしてその施設の一つ、リアルバトル様式の実験場にて、新アラエルのテストが行われようとしている。 フィールド内、アラエルの周囲はヴァッフェバニーと新型のフォートフラッグが取り囲む様にして配置されており、 さらにはその周辺に渡って多数の武装神姫が配備されていた。 「ふふふ……いいかアラエル、貴様には最新の武装と最新型のシステムを組み込んである。 この程度の敵に敗北するようでは俺の武装神姫は名乗れん! その時は朽ち果てるだけ、だ」 施設の地下にある管制室から無数のモニターで状況を観察しているのは、鶴畑家の次男である鶴畑大紀。 大紀は前回マイティに敗れた旧アラエルを廃棄処分にし、修正プログラムを加えた上で、その戦闘データを新アラエルに移植したのだ。 更に鶴畑家で独自に開発中の制御プログラムを実験的に導入し、反応速度と処理速度の大幅な向上を図っている。 また各部の強度も向上させており、体当たりされただけで翼が空中分解という醜態を晒さないように工夫されている。 スペックデータだけであれば長男興紀の誇るルシフェルに匹敵し、それはこのテストによって実績となって証明されるはずであった。 「よし、開始しろ」 大紀の指示の元、オペレーター達が神姫に攻撃コマンドを命令していく。 アラエル周囲の神姫は全て中央から一括コントロールされており、いわば唯の人形と相違ない。 そして嵐のような一斉砲撃が始まった。 ヴァッフェバニーのSTR6ミニガンが、カロッテTMPが、フォートブラッグの主砲、ミサイルランチャー、他あらゆる火器が、アラエル唯一点を目指して突き進んでゆく。 そして着弾、爆発と煙でその姿は視認不可能。 たが次の瞬間、周囲を包囲していた最前列の神姫の頭が次々ボトボト地面へ堕ちてゆき、不本意な大地との接吻を余儀なくされる。 アラエルが指向性レーザーで首との接合部をひと薙ぎにしたのだ。しかもアラエル本体は無傷。 翼に無数に設置されたレーザー及び迎撃用ミサイルによる相殺で、完全にその攻撃を防ぎきったのだ。 今度は、格闘装備を展開した十数体の神姫が一斉に飛び掛る。 しかしアラエルは冷静に、危険度の大きい敵機からレーザーを浴びせ、確実に、そして圧倒的な速度で次々と沈黙させてゆく。 それはギロチンの処刑を彷彿とさせる様な光景だった。 レーザーがひと薙ぎする度に複数の神姫の首が胴体との別離を余儀なくされ、苦しみを訴える間もなく意識が奪われるのだ。 やがてフィールドには沈黙だけが残される。動いている神姫は既にアラエルのみであった。 「ふん……100体仕留めるのに3分26秒か、悪くはないな。よし上がれアラエル、データを元に再検討を行う」 しかしアラエルは動かない。 ただ佇むだけで、その目からは生気や意思が一切感じられない。まるで夢遊病者のようである。 いつもの様に従順に「イエス、マスター」との返答がくると信じきっていた大紀は不快感を露にし。 「おい、俺の言うことが聴けないのか! 初戦でいきなりぶっ壊れやがったのか!? この役立たずめ!!!」 罵倒を受けても、尚一切の反応を示さないアラエル。 と思われたその時、ギギギと錆付いたブリキのロボットのように再起動すると、全身に装備された全武装を最大出力で乱射し始めた! 「やめろアラエル! 廃棄処分にしちまうぞ、俺の言うことが聞けないのか!?」 そうマイク越しに叫んではみるものの、全く主人の意思に従うそぶりは皆無である。 最大出力のレーザーは施設そのものにも大きなダメージを与え、現場は凄惨なものとなっていた。 人間では危険すぎてとても近づけず、神姫によって拘束もしくは破壊しようとしてもその狂った戦闘能力は何者をも寄せ付けようとはしなかった。 破壊神と化し近づく者全てを、いや周囲のあらゆるものを灰塵に帰していく。 やがてその純白のボディにうっすらと内部から赤い色が染み出してくる。 過剰出力で発射し続けたためにオーバーヒートを起こしているのだ。 「やめろ! やめるんだ! やめてくれぇぇぇぇぇ!?」 エマージェンシーコールと共に、大紀の悲鳴が管制室に響き渡る。 ……やがて、限界を迎えたアラエルのジェネレーターは融解し、辺りは閃光に包まれた…… ~ねここの飼い方・劇場版~ ミィ~ンミィ~ンミィ~ン、とセミの鳴き声が暑苦しく聞こえる頃。 「あ~つ~ぃ~の~……」 「暑いですね……」 「暑すぎるわね……」 私たち3人はノびていました。夏休みに入ったばかりなのに、その日は運悪く点検による一斉停電の日でして。 そして更に運が悪いことに、地獄のような暑さだった……温度計をみると目眩がしそうな気温を指している。 という訳で私たちは居間に倒れこむようにしてぐったりと。 「ねここ~、雪乃ちゃぁん。お昼どうするぅ~……?」 べっちゃりと床に這い蹲る格好でそういう私、でも冷たいものしか食べたくないわ…… 「ねここ~ぉ~、カキ氷ぃ~……」 「いいわねぇ……でもウチには電動式のしかないのよ」 それを聞いて、へにょりとたれるねここ。私も同じ気分だけどねー……トホホ。 「あーもー……こうなったらエアコンの効いてるお店に逃げるしかないわね……ここからだと、エルゴが一番近いかしら」 老体に鞭打つようにして何とか立ち上がる私。 ここにいては死んでしまうと思えるほどなので、動きたくなくても動かなければ…… 「行くわよ~、さぁさ二人とも乗って。あ、団扇で私扇ぐの忘れないでよね」 「はぁひ…ぃ」 と、よろめく様な足取りでエルゴへ向かったのでした。 「生き返るぅ♪」 「サイコーなの~☆」 という訳で、あの蜃気楼のような街並みを死の行進の如く突破してエルゴにたどり着いた私たち。 自販機コーナーで命の一杯を満喫しているところです。 改めて店内を見回してみると、夏休みに入ったという以上に人が多い気がする。やっぱりみんな逃げてきたのかしらね。 「ねここ、せっかくだからバトルでもする?」 「う~ん、後でがいいの。今はまだヘロヘロぉ」 と、ぐんにょりしながら言う、ねここがここまで元気がないのは珍しい。 ま、私も今の頭だと指示出来なさそうだしね。 という訳で、スクリーンに映し出されている対戦に目をやる私たち。 戦っているのはストラーフとアーンヴァル。 どっちも常連のサードリーグの人なんだけども、私にはどちらも以前見た時よりもかなり動きが鋭くなってるように思える。 上達したのだろうけど、なんだろう…… 酷い言い方かもしれないけど、短期間に上手くなりすぎ……とでも言うのかな。 「……あぁ、そっか。運動パターンがどっちも一緒なんだ」 出荷時に神姫にプリセットされた戦闘用プログラムは基本的に同一だから、箱から出した時や経験値が殆どないときは 同じタイプであれば、どの娘もほぼ同じ動きをするわけで。 でもある程度成長してくると、同じタイプでも一人一人の個性が生まれて、全く違う動きをするようになる。 それは全ての神姫が自分の経験を元にして新しい動きを生み出すからであって、例えばねここと同じような動きをする神姫がいても、 ねここと全く一緒の動きをする娘はいない。 それにプリセットされた動きといっても、タイプ別のパターンはあるわけで。 なのにあの二人は、タイプも違うのに行動パターンが妙に似通っているんだ。 「や、美砂ちゃんこんにちは」 「あ、マスター」 私が観戦しながらそう思慮を巡らしていると、いつの間にかエルゴの店長が後ろにいて。 「難しそうな顔してたけど、あれ気づいたのかい?」 と、主語を省いて問いかけてくる。 「えぇ……同じ様な動きしますよね。あの二人って親友とかじゃありませんでしたよね?」 「ああ、そうだね。此処で顔をあわせる程度の関係だと思うよ。 ……まぁ、恐らくなんだけど、多分アレを使ってるんだろうな」 微妙な表情で、妙に言葉を濁す店長。 「アレ? 何かあるんですか」 ん、と店長は声を一段下げて 「多分だけどね、HOSを使ってるんだろうな」 「何ですかそれ?」 「ん、ハイパー・オペレーティング・システム、通称HOS。 まぁ一言で言うと武装神姫の動きや思考を戦闘用に最適化するためのものだね。 乗せるだけで平均30%は性能が上がるって言われてるよ。」 「へぇ、そんなものが出てたんですか。知りませんでした」 私はソフト面の改変は殆どしないし、やっても自分で処理してしまう事が多いので市販品については疎かったり。 「出てるんだよ、出したのは傘下のメーカーのほうだったと思うけどね。 今じゃかなりのユーザーが使ってるよ。手軽に能力UPが図れて、しかも激安ってね。 でも俺はあまり好かないな。確かに性能は大幅に上がるかもしれないけど、あれは神姫の個性を殺すようなシロモノだからね。 確かに強くはなれるかもしれない。でもそんなものに頼った強さは本物の強さじゃない。本物の強さというのは……」 と、そこまで話して店長はハっとなって 「いや、すまなかったな、こんな話お客さんに聞かせるモンじゃないよな。忘れてくれれば有難いよ」 「いえお構いなく。でもそうですね、ジュース1本づつ奢ってくれたら忘れてあげます☆」 「ハハハ、まぁいいさ。それくらいならね、何がいい?」 「それじゃあですね~……」 そうおちゃらけてみたけど、その話をしている時の店長さんの顔がとても真剣で、とても怖くて、そして悲しそうに見えたのが印象的でした。 「さて、やっと落ち着いてきたし。一試合やっちゃいましょうか~」 「お~っ☆」 店長さんから2杯目のジュースを強奪した私たちは、フル回復。 ねここも雪乃ちゃんも戦闘用装備に換装して準備万端だ。 「さてさて、誰がお相手になるのかしらね~」 とその時 「キャァァァァァァァァァァァ!!!」 いきなり対戦ブースの方から聞こえてくる絹を引き裂くような悲鳴。 振り向くと、そこのスクリーンには相手がダウンしてるにも関わらず、延々と相手の顔面を殴り続けるアーンヴァルの姿が。 相手のストラーフの顔はフレームから歪んでしまっている。バーチャルとはいえやり過ぎなのは明らかで。 私は何かトラブルがあって、感情が振り切れて(つまり激怒して)しまったのかと思ったけど、アレは違う。 顔は無表情、あらゆる感情が消え去りただマシーンのように相手の顔面を殴るのみ。 マシンに駆けつけた店長が、急いでマシンを停止させようと機器を操作する。 「……くそっ! 試合が終わらない、なんでだっ!?」 だがマシンは止まらない、店内が段々騒然としてくる。 それ以前に、あんな状態になる前にジャッジAIが判定を下しているはずなのに。 「電源を抜いたら?」 私も傍らに駆けつけて、そう言ってはみるものの。 「ダメだ、今下手に電源を抜いたら、電脳空間内にいる二人のデータが破損する恐れがある。 ……!? いつの間にか識別信号が味方同士になってる。だから終わらないのか!」 「変更できますか?」 「いや無理みたいだ、二人のデータから何か流れてきてるみたいでな。……電脳空間に乗り込んでって、二人を直接倒せばあるいは……」 「ねここが、行くよ」 え?、と驚く店長。 「あんなの見ていたくないもん。ねここにできる事があったら、やるのっ」 「私も行きます。ねここだけを危険な目にあわせる訳には、行きません」 雪乃ちゃんもそれに続く。 私は何も言わない、ただ微笑んで二人を送り出してあげるだけ。 店長さんは一瞬何か言いたげだったが、すぐに気を取り直すと 「わかった、二人にお願いする。でも俺の方もジェニーをすぐ送り出すようにするから、二人は無茶しない事、いいね」 と、二人に任せてくれた。 「それじゃ、隣の筐体に入って。すぐに繋げるから」 「……何か空気が違う感じがしますね、ねここ」 「うん、嫌な感じがするの」 そして二人はそのフィールド、ゴーストタウンへと降り立っていた。私もヘッドギアを付けて、二人のサポートと援護。 『二人とも、目標は前方500にいると思われるわ。出来るだけ早く叩いて頂戴……それと、辛いけど頭部を破壊して。 100%確実に退場させるにはそれしかないの。悪いけど……』 さすがにこんな言葉を二人に伝えなければいけない自分が嫌になる。しかも手を汚すのは私じゃない、あの娘たちなのに…… 「……心配しないで、みさにゃん。ねここは大丈夫……それに、そうすればあの子たちを助けられるんだから…っ」 『………お願い、ねここ』 ……強くなったね、本当に。 「……ねここ、向かってきます。二人とも!」 と、雪乃ちゃんが言うが早いか、レーザーライフルの連射が二人を襲う。サードリーガー、まして暴走中とは思えない正確な射撃だ。 「とぉっ!」 だけどねここ達には当たらない。二人は壁や十字路の死角を駆使して、器用に攻撃を回避しつつ接近していく。 と、壁にドォン!と着弾。壁が粉々に吹き飛びビルが半壊する。 「ふぅ、セーフぅ」 壁伝いに移動するねここに、ストラーフがグレネードを放ったのだ。 頭部に大きなダメージを負っているはずなのだが、動きは通常時と変わりなく、それが不気味さを増大させている。 「ねここはアーンヴァルのほうを! ストラーフは私が引き受けます」 「了解っ!」 言うが早いかシューティングスターを全開にして一気に突進するねここ。 ストラーフはそのねここに対して攻撃を行おうと 「させませんっ!」 雪乃ちゃんが左腕に装備したガトリングガンでストラーフを蜂の巣に。サブアームでガードするものの、全身に満遍なく被弾。 さらにグレネードランチャーにも弾着、爆発。その爆風を全身に浴びてしまうストラーフ。 既に装甲はメチャクチャに撥ね上がり、既に装甲としての役割を果たさなくなっている。 見た限り駆動系の一部も破損しているはずだ。 普通ならとっくに動けなくなっているはずなのに、しかしまだ動く。 その不死身さはゾンビを連想させる…… 「……止むを得ませんね」 姿勢を低くして一気にダッシュをかける雪乃。 ストラーフは突進してくる雪乃をメッタ斬りにしようと、自身の腕とサブアームでアングルブレードとフルストゥ・グフロートゥを構え、 タイミングを計って一気に振り下ろす! が、雪乃は直前に横に細かくステップ。 そのまま相手の頭上へジャンプし、ストラーフの脳天、ほぼゼロ距離から蓬莱壱式を叩き込む! それは頭部に直撃、完全破壊。さらに胴体にも致命傷を受けたストラーフはそのまま倒れこみ、やがて消滅していった。 一方ねここはアーンヴァルに向けて突撃。 「このくらいじゃ、当たらないよっ!」 確かに相手の射撃は正確だけども、十兵衛ちゃんに比べれば隙だらけ。 ねここは紙一重で回避し続け、あっという間に白兵レンジへと持ち込んでしまった。 と、不利と悟ったのか空中へ飛翔しようとアーンヴァル。 でもそうは問屋が卸さない。 『ねここ、一気に決めちゃってっ!』 「了解なのっ。いっくよー!」 ジャンプと同時にシューティングスターを吹かす! と、一気にアーンヴァルの目の前に出現する。 シューティングスターは空中での機動性こそ殆どオミットしてあるけれど、その推力に任せてある程度飛ぶことは出来るのだ。 「とりゃーっ!」 ねここはワイヤークローを射出、そのワイヤーでアーンヴァルをがんがらじめにして地上に落下させる! 「ごめんね……っ」 体制を立て直そうと立ち上がったアーンヴァルに対し、ねここが迫る。 その左手にはドリルが装備されていて……一気に高速回転、唸りをあげる! 「ドリルクラッシャー!!!」 ……次の瞬間、ドリルはアーヴァルの頭を完全に粉砕していた…… やがてキラキラとポリゴン粒子になり消えていくアーンヴァル、どうやら成功したみたいだ。 『ねここ、雪乃ちゃん。変な影響が出る前に二人とも戻ってね』 「はぁいなの」 「了解」 「……ぅ、ぅぅん。あれ、ますたぁ?」 「よかったぁ…っ、なんともないのね!?」 「ぅん、平気かな……ボクどうしちゃったんだろぅ」 目を覚ました神姫と、その神姫を抱き上げて喜ぶマスター。 無事に再起動した二人を見て、ほっと胸を撫で下ろす私達。二人の意識は無事元のボディに戻ったみたい。 ただ原因は不明。店長さん曰くウィルスの存在もあるけど、現時点では確認されていないとの事。 店長さんからは当事者たちには、二人の神姫は当分の間バトルは止めた方がいいという事を言っていました。 で、ねここ達も念のためチェックをした後帰宅、ということに。 「今日はすまなかったね、迷惑ばかりかけてしまって」 「いえ、気にしないでください。ねここたちが選んで決めたことですから」 と会話している私達。 この時はまだ、漠然とした不安を抱えながらも、あれ程の事件に発展するとは夢にも思っていなかったのです…… 続く 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/842.html
前へ 先頭ページへ 次へ 第十四話 アーマーン 「アーマーン、か。ノウマンも洒落た名前を付けるものだな」 鶴畑家所有の潜水艦内、作戦室。部屋は暗い。 大型プロジェクターがホワイトボードに光を投影し、ぼんやりと光源をなしている。そこに映し出された基地の図面を見ながら、鶴畑興紀は呟いた。 図面は基地にいるときにエイダがハッキングして取得したものだった。詳細な情報は強力なプロテクトがかかっていたが、潜水艦の指揮をとっていた執事が十分なレベルで情報を収集してくれていた。 それは島そのものの名前だった。 「アーマーンって?」 メガネの隙間から目頭を押さえつつ、理音が訊いた。 興紀は四角い小さな眼鏡を掛けて図面を凝視する。 「古代エジプトの幻獣のことだ。アメミット、ともいう。ワニの顔にライオンの上半身、カバの下半身を持つキメラ生物だ。 死者の守護獣だが、実質はほとんどの人間にとって恐怖すべき存在だったようだ。死後の審判で死者の心臓と真実の羽根を天秤にかけ、つりあわなかった心臓を食べてしまうといわれている。ま、真っ当な人間などほとんどいないから、だいたい食べられてしまっただろうな。つまりは閻魔大王みたいなものだ」 「島の名前にしてはずいぶんおかしな語呂ね。ここはエジプト沖なの?」 すると執事がスライドを一つ動かす。 「いいえ、ここは日本からそう遠くない太平洋上です。この島は天然の島ではありません。人工島、メガフロートなのです」 緑色の写真が出た。 「本艦の潜望鏡から見た、アーマーンです」 そこには海原に浮かぶ、人工構造体が写っていた。 理音は島に連れてこられたときのことを思い出した。 あのとき、植物が一本も見当たらなかったのは、深夜で視界が利かなかったからではなかったのだ。 スライドが動き、図面に戻る。 理音はいままで勘違いをしていた。 図面には、理音たちの閉じ込められていた基地の構造が書かれていた。理音はそれが島の一部に建てられてある基地のマップだとばかり思っていた。 それは島そのものの図面であった。 「ちょっとまって」 テーブルに座っていたクエンティンが口を挟んだ。 「アタシ、森を見たわよ。その森の間から飛行船が飛び立つのも」 「おそらくそれは、中庭か何かだろう。職員の厚生施設のひとつなのかもしれん。その下に飛行船発着場が偽装されていたんだ」 興紀がすぐに補足する。 「しかしわからん。こんな大掛かりな構造物がどうして今まで怪しまれなかったんだ?」 「この島はもともと、十年前、二〇二六年に人工リゾート地として建造された娯楽施設なのです」 スライドが変わる。一転して華やかな映像。「世界最大の人工楽園」とキャッチコピーが打たれた、島の広告である。 「中途でポシャった、ってわけか」 頬杖をついて理音がふふと笑う。 「そのとおり。初めは各国からスポンサーが集まったのですが、建造費だけでも予算を五倍もオーバーしてしまい、さらにハワイやドバイをはじめとしたリゾート地から、大規模な自然破壊だ、というのは建前で、客を取られるという理由で大反発を招きましてな」 「リゾート地ってのは普通、ポンポン増えるものじゃないものね。島一個となればなおさら」 「滑稽だな。もともとハワイやドバイだって人の手で開発されてできた土地だ。リゾートなるものは自然にできるものじゃない。反発されたくらいで計画を下ろすなんて、肝が小さいな」 「お坊ちゃま、それではコンツェルンの投資している月面結婚式場はどうなるのですかな」 「ギャーギャーわめく奴には騒がせておけばいい。あれは娯楽施設などではない。大事な人生の門出を祝う大事な式場だ。宇宙へ進出しようとしている人間文明にとって必要なものだよ」 よく言う、と理音は思う。結婚式というセレモニーはもはや一種の娯楽のような一面を持っているというのに。 ましてやわざわざ月面で式を挙げようという奇特なカップルの気が理音には知れなかった。それでも、二〇〇〇年代には一般人にとって夢のまた夢だった宇宙旅行も、驚嘆するほど安価になった。そういった需要が商業的に成立するくらい見込めるのもまた事実だった。これも時代の流れか。 「話を戻しましょう。――そういった経緯で計画は頓挫。解体する費用も出ず、人工島は基礎部分を残して放置されました。管理のために出入りする何人かの人間はいたようですが、それ以外では話題にも上ることはありませんでした」 「で、ある日突然、買いたい、っていう奴が来た」 「ご明察です、クエンティン様」 クエンティンはフフン、と得意そうに鼻を鳴らした。 「それで買いに来た奴ってのは、EDEN本社だったんでしょ? メタトロンプロジェクトの開発基地を作るには絶好の土地だもんね。孤島だから情報封鎖もしやすいし・・・・・・」 「プロジェクトは本社の開発ルームで進められていた」 意外な興紀の一言が差し入れられ、クエンティンは言葉を継げなかった。 「異常な状況が続いていてみんなずれてきているようだが、メタトロンプロジェクトはもともと、単なる『武装神姫の次世代パーツ開発計画』だぞ。確かに社内では極秘計画だが、島をまるごと一個貸し切ってやるようなものじゃない。武装神姫は兵器でもなんでもないからな。・・・・・・じい、島を買ったのはノウマンだな」 「はい。ノウマン、本名リドリー・ハーディマンの個人名義で購入手続きが行われた明確な記録がございます。手続きに立ち会った当時の島の管理責任者にもすでに事情聴取してありますが、『別荘地にでもするのかと思った』と」 「開発ルームでやってきたことは、本社をも欺くためのデコイだったのかもしれんな。ルームにはプロジェクトの人員しか入れないし、その中でも中枢部には中心メンバーしか立ち入ることはできないのだろう。中で何をやっているかなんて、プロジェクトメンバーでなければたとえ上層部でさえも把握していないんだ」 「それじゃあ、あなたも入れないんじゃなくて?」 「筆頭出資者は自動的に中心メンバー並の立場におかれるはずなんだ。いままでのEDEN本社の通例ではな。何と言ったって一番必要な金を提供しているのだから至極当たり前のことだ。内容を知らなければ出資する気になれない。そもそもオフィシャル武装神姫開発のときだって、筆頭出資者である鶴畑コンツェルンは中心メンバーレベルの発言権を有していた。 それが今回はまったく蚊帳の外だ。てっぺん経由でプロジェクトメンバーに要請をしてもみたが無駄足だった」 「社長命令でも無理だったってことなの?」 「本社の制度はちょっと特殊でね。ここだけの話だが、メタトロンみたいな重要プロジェクトなどは、発足後は人員の進退をはじめとしたプロジェクト内でのやりくりが中心メンバーに一任されるんだ。たとえ社長でも勝手にメンバーの解雇や増員をすることができない。できるのはプロジェクトの中止ぐらいだが、そんなことをしたら社運に関わる。 EDEN-PLASTICSという企業は巨大すぎるのさ。デカいプロジェクトは実行されたならば是が非でも成功させなければならない。そのための制度なんだ。だからプロジェクトの立案から実行までは長いスパンが置かれる。うちもその間に出資を決め、そうした。だが計画が実行されたとたん、プロジェクトチームはだんまりを決め込んだ。実行後は出資を取りやめることなどできない。EDENが潰れたらうちも危ないからな。だから、独自に情報収集活動を行った。いや、もはや諜報活動といっていい。その過程で、中心メンバーの一人を買収することに成功し、造反の計画を察知し、プロトタイプの一体にとある情報因子をインプットすることに成功した。そのプロトタイプが、エイダだ」 ちらり、とクエンティンを一瞥する。 「エイダには機を見て開発ルームから逃げ出すよう仕向けさせる情報因子を紛れ込ませた。プロトタイプがちゃんと開発ルームで作られていたのが幸いだった。先ほど言ったデコイ、というのはノウマンにとっての、という意味だ。ノウマン以下造反グループに参加した中心メンバーは、開発ルームでプロトタイプを建造する裏で、あの島の整備や人員集めをやっていたのだろう。そして肝心のプロトタイプも、武装神姫としてではなく、ほとんど兵器として作られてしまったわけだが――」 「ちょ、ちょっとまってよ」 あわててクエンティンが口を挟んだ。 「エイダが本社から逃げ出してきたのは、アンタが仕組んだことだっていうの?」 「そうだ」 「なんでいままで黙ってたのよ!?」 「話すかどうか決めあぐねていた。お前はただの事件に巻き込まれたかわいそうな神姫で、理音嬢はそのオーナーでしかなかったからな。今は・・・・・・」 理音を一瞥。 「話す気になった。それだけだ」 「わっかんない。アンタ一体なに考えてるの?」 「クエンティン、もういいでしょう」 理音が叱った。彼女は興紀の視線に気づいていた。 「お姉さま・・・・・・」 クエンティンはきょとんとしていたが、そのままふくれっつらで黙ってしまう。 「じい、続けろ」 「はい」 スライドが二つ動く。 何かの間略図のようなものが現れた。 中心に島らしきアイコンがあり、その両脇に狼のようなアイコンとヒヒのアイコンが線で繋がっている。それだけである。注釈などのような文章は無い。 「なんだこれは?」 「諜報部が入手した図面です。詳しいことはまったく分かりません。ですが、中心のアイコンはアーマーン。狼はジャッカルで、タイプ・アヌビス。そして、ヒヒはトート神で、タイプ・ジェフティであることが推測できます」 「一体どんな意味なんだ」 「さあ、今のところはどんな説も推測の域を出られず、提示してもただ混乱するだけでしょうし・・・・・・」 『これは――』 今まで発されていなかったその声に全員の視線が向いた。 クエンティンに。 そしてクエンティンは自身の胸元を覗き込むようにしていた。 「エイダ、話せるの?」 『はい。デルフィがある程度の情報プロテクトを解除してくれました。――これは、アーマーンの制御構造図です』 「お前たちプロトタイプ二体が、この島を動かす鍵になっているというわけか」 『はい。ただし、発動キーはデルフィに与えられ、私は動かすことができません』 「じゃあお前は」 『私に与えられたキーは、停止キーです』 それで部屋の空気が張り詰めるのをクエンティンは感じた。 興紀が額を押さえてため息をついた。 「ノウマンが渇望するわけだ。どんなに作戦が進行しようと、ジェフティが外部にいればいつでも停止される危険性がある。だが、だったらはじめから壊しておけば良いだろうに」 『デルフィの発動キーは、私が存続していないと有効にならないのです』 「でも、少しうかつすぎやしないかしら」 理音が釈然としない顔をしながら手を挙げた。 「私なら、万が一を考えて両方に起動キーと停止キーを与えて、どちらか一体でも動かせるようにするわよ」 『私たちが独自に実行した対抗措置です。起動直後から強制命令プログラムを植え付けられるほんの一瞬の間で、事実を把握しつつできる唯一のことでした。その後、デルフィはプログラムによって造反グループに参加せざるを得なくなり、私は情報因子が働き脱出することに成功しました』 会議室を緊張を伴った沈黙が漂う。プロジェクターが消され、しばしの暗闇の後、照明が灯された。光度の変化に一同が目を狭めた。クエンティンだけはそうする必要がなく、ただ自身の胸元の、エイダのAIが入っている球体を見つめていた。 やがてメガネを胸ポケットにしまって、興紀が椅子をぎりりと鳴らして立ち上がった。 「作戦はじいの立案どおりに行う。人間は人間で、神姫は神姫で対処する」 「アタシの言いたいこと分かってくれたの?」 「私だって神姫オーナーだ。神姫は物だが、物ゆえの愛着すら無い、とは言っていない。――この事件が終息したら、ビックバイパーのデチューニングをするつもりだ」 「しかし、お坊ちゃま。エイダの立場が分かった以上、そうするよりは・・・・・・」 執事が何か言いたげに呼び止める。エイダが半ば恐ろしげにそちらへ注意を向けるのが、クエンティンに分かる。 が、興紀は手を向けて制した。 「立案どおりだ」 そのまま出入り口へ向かう。スライドドアが開いたところで、振り返る。 「EDEN本社の私設軍が集結するまで三時間はかかる。それまで休息をとっておくんだ」 「そんな暇ないわよ」 立ち上がるクエンティン。 「アンタも見たでしょ? あの飛行船群は今にも発進しそうなのよ。すぐにでも行かなきゃ・・・・・・」 「あれはまだ発進しない。向こうは必ず準備を万全に整えてからやる。それはこちらも同じだ。確かにお前は切り札だが、たった一体で行ってもどうにもなるまい」 「でも!」 『鶴畑興紀の言うとおりです、クエンティン。第一、ゼロシフトのプログラム因子の着床が済んでいません』 そう言われて、デルフィに会ってからずっと、リソースの三分の一を占めている処理実行中のプログラムを思い出す。 『造反グループは必ず私たちにタイプ・アヌビスをぶつけてきます。性能的にも差が残っていて、かつ相手のゼロシフトに対抗できない今の状態では、万が一にも勝てる見込みはありません』 「もしも作戦実行までに着床されなかったら?」 『そのときは現状のままで戦うしかありません。しかし、私たち一体で出撃するのと、ルシフェル、ミカエル、ジャンヌ、そしてノーマルとはいえファントマ2アタッチメントを装備した多数の武装神姫が共に侵攻すれば、ある程度の勝機は見込めます』 「どっちにしろギリギリか。現代戦にはありえない戦況よね」 「まったく新しい戦いになるだろうな。問題は、向こうは人間と神姫の混成部隊でやってくるだろうということだ。こちらには絶対に侵してはならないルールがある」 「その懸念はほとんど無いでしょう」 「なぜだ、じい」 「屋敷での戦闘で鹵獲したラプターで実験してみましたが、完全武装の兵士が持つ銃にはラプターの装甲は耐えられません。また兵士には神姫の頭脳の量子活動を阻害させるEMP発振機を装備させます。以前のバーチャルバトルで大紀様がお使いになった、あれです。向こうも十分承知の上で編成を組みます。こちらも向こうも、人間と神姫は自然に分離するでしょう」 「それでもしも混成部隊が出たら」 「お坊ちゃま、ある程度の間違いは仕方がありません。汚い話ですが、いざとなればいくらでも隠蔽できます。作戦が成功すれば、の話ですが」 「汚いことはずいぶんやってきた。あとはこの小さな切り札が納得してくれればいい」 興紀の鋭い視線がクエンティンを見据える。 いや。 これは懇願のまなざしだ。クエンティンは気づいた。 彼でも不安なのだ、この状況は。成功するかどうかも分からない作戦など、おそらく普段でも、今までやったことなどなかったから。 「・・・・・・アンタは、ルールを守りたい人なのよね」 「そう言ったろう。作戦に参加する兵士全員にも徹底させる。やむをえない場合を除いて、だが」 クエンティンは首を垂れて考える。 できるなら、神姫と人間とを合間見えさせることは一度たりとも起こしたくない。 しかし、戦闘状態にあって絶対は無いこともまた知っている。試合とはいえ、ほとんど実戦に近い経験を武装神姫はしているから。 自分の線引きが、作戦の難しさを決定する。 興紀は出入り口に立ったまま、待ってくれていた。 誰も急かすようなことはせず、数分が過ぎた。 そして、クエンティンは答えた。 「――ルールは絶対」 興紀が息を呑む音が聞こえた。 「でも、やむをえない場合はかまわない。だからって全部やむをえなくしちゃだめ」 「そうか」 そのときクエンティンはわが目を疑った。 興紀が笑ったのである。 いつも人を射抜くような目つきが、ほんの一瞬、ほころんだだけであったが。 腰の力が抜けて、クエンティンはテーブルに尻餅をついた。 スライドドアが閉まって、興紀の姿が見えなくなっても、クエンティンはきょとんとした表情で座り込んでいた。 ふいに体が持ち上げられる。理音であった。 「さ、貴重なお休みよ。満喫しなきゃね」 「・・・・・・うん」 理音の手のひらの上で、クエンティンは横になる。彼女の体温が、張り詰めっぱなしだった神経の糸をほぐしてくれた。 二人は自室として用意された副長室へ向かう。 最後に執事が消灯して退出し、会議室は静かになった。 つづく 前へ 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1684.html
{鋼の心~Eisen Herz~VS双子神姫~学生同士の大決戦!勿論ポロリはないよ!~} 「あぁ~あ。負けちまったよ…」 「今回のバトルはアタシの勝ちだね♪」 俺は肩をダルそうにすくめながら溜息を吐く。 婪の奴はルンルン気分で笑っている。 「チクショー!あともう少しだったのに!!あんな所でヤられるなんて!!!」 「まだまだだね。でもそれなりに格闘はレベルが上がっているみたいだから、その調子で頑張ればいい」 「勝てなきゃ意味がないんだよ!…ボク、格好悪い~」 筐体から出てきたクリナーレを右肩に座らせるなり、バトルに負けた事に悔しがる。 婪の神姫の藍がクリナーレに格闘の助言をしていたが、多分クリナーレは悔しがっている方に夢中で聞いてないと思う。 今いる所は武装神姫センターのバトル施設にいる。 でも今回は地元の神姫センターではなく隣街にある神姫センターに来ているのだ。 実は婪の奴が服を買うのに付き合ってくれみたいな事を言われて、わざわざ隣街でつきあわされ、挙句の果てにバトルまでやろうと言い出し今の至る。 まぁ、どうでもいいけどね。 大学生は意外と暇人だから家に居てもやる事ないし。 …いやちょっと訂正、ちゃんと大学には行ってるよ。 それにレポートは大変だし、徹夜でレポートをやってたらいつの間にか太陽が昇っている時間になっていたりする。 まぁ大変な時もあるし、暇な時もある訳だ。 「あ、いっけなーい!あたし、これからバイトだったんだ!!」 ふと婪は自分の腕時計を見て慌てる。 「ごめんね、先輩。もう一回ぐらいバトルしたかったんだけど、バイトがあるから帰るね」 「へいへい。気をつけて行けよ」 「心配してくれてありがとう、先輩♪チュッ♪」 投げキッスをして走って帰っていく婪。 …はぁ~、散々人を連れまわして帰りやがる。 でもまぁ今になって言う事じゃないか。 俺は全てのバトルが見れる観客席に移動する。 勿論喫煙席。 あいつに付き合ってる時には、あんまり煙草を吸う機会がないから今まで我慢してきた。 「ご主人様ぁ~」 「頼む、吸わせてくれ。今日は婪に付き合せれて全然吸ってないんだよ」 「…しかたないですね」 「サンキュー」 ジッポと煙草を取り出し、口に銜え火をつける。 すると煙草独特の紫煙が出る。 「あ~美味いなぁ。やっぱり煙草はピースに限る」 「半分が税金で吸えば吸う程死にやすくなるものの味なんてどうでもいいです!」 右肩でプンプンと怒るアンジェラス。 因みに左肩にはルーナとパルカが座っていて、最初に言ったと思うけど右肩にクリナーレがいる。 肩に居てくれるのは別にいいだが結構、人目につくので少し恥ずかしい。 「…あ、ランキングだ」 視界に電光掲示板が入りチョロッと見えたので、ここの神姫センターの実力者を見ようと思った。 「ゲッ…。あいつ、ここでもランク3位かよ。どんだけ強ぇ~んだよまったく、たいした力量だぜ。1位の神姫は『アイゼン』というストラーフ型か。へぇ~ここでは婪より強い奴がいるのか」 上がいればさらに上がいる、てか。 つか婪の奴も凄いなぁ。 色々な神姫センターでバトルしてる、て言っていたけど…ガチで強いだな。 俺はというと…載っていなかった。 百位まで記載されてるが、俺のオーナーネームが見つからなかったので百位以上なのだろうよ。 はぁ~あ、もっと頑張らねぇーと…いや、俺が頑張っても意味ないか。 頑張るのはアンジェラス達だもんな。 「ご主人様、ご主人様」 「ん?なんだアンジェラス」 「婪さんが居なくなってしまってから言うのもなんなんですけど…次の順番は私のバトルですよ」 「…あっ!」 そうだった。 婪とバトルしてる時の順番がパルカ、ルーナ、クリナーレ、アンジェラスの順だった。 この順番を三週ぐらい回って先程クリナーレが終った頃に婪がバイトでいなくなったんだから、アンジェラスの番が来ても相手がいないのでバトルが出来ないのだ。 う~ん、困ったなぁ。 このまま帰るのもちょっと気が引ける。 アンジェラスだけ一回分少ないのは平等じゃない。 それに今日は7割近く婪に負けっぱなしだ。 このまま負けたまま帰るのはショウに合わない。 せめて勝って帰ろうと思う。 「あの…ご主人様ー…私、いいですよ。バトルしなくても…」 「あのさぁ、さっきあんな事を言っといてそりゃ~ないんじゃないのか?安心しろ、そこら辺にいるオーナーを捕まえてバトルしてもらえばいいんだよ」 「アンダーグラウンドの時のような感じですか?」 「う~ん、あの街では強引にバトル持ち込むのは別にいいけど。ここはそういう環境じゃないから駄目だ。周りから『タチの悪い奴だな』と思われてオワリさぁ」 煙草を箱型の灰皿に突っ込み立ち上がり、筐体が置かれている所に行き適当にオーナーを捜す。 さぁ~て、俺の生贄なってくれるオーナーは誰かな~? 「そこの高校生っぽい君に決めた!」 「はい?」 急に俺に声を掛けられて戸惑う男の子。 男の子というより青年といえばいいかな。 ここら辺にある高校の学生服を着ていたので、高校生というのが解った。 「ちょっとスマナイけど、俺とバトルしてくれないか?手頃にバトルする奴が居なくてサァ」 「えぇ、いいですよ。ちょうど、俺も対戦相手が居なくて困っていた所です」 「おっ!これは奇遇だな。じゃあ早速バトろうぜ」 「はい。…今思ったのですが、ここでは見ない顔ですね」 「あ、ああぁ。ここの神姫センターに来るのは初めてなんだ」 「そうなんですか。新しいオーナーが来る事は嬉しいです」 「そいつはど~も」 「俺の名前は島田祐一といいます。よろしくお願いします」 「これはご丁寧にどーも。俺の名前は…天薙とでも覚えといてくれ」 「偽名ですか?」 「いや、俺は自分の名前が変だから人に教えるのが嫌いなんだよ」 「あ、それは失礼しました」 「気にすんなって、礼儀正しい高校生、島田祐一君。じゃあバトルしようぜ!」 「はい!」 物凄く礼儀正しい学生さんだな、島田祐一君は。 でも本来の口調は違うだろうなぁ。 俺が年上だから敬語使ってしまい口調が変わってしまったのだろうか? なんにせよ、人間性はまともな人で良かった。 お互い筐体を挟むようにして神姫を入れる配置につく。 勿論、今回はアンジェラスでいく。 なにせ最後の最後に婪がバトルをすっぽかしたのでアンジェラスが出来なかったからなぁ。 ここで他の神姫達を選ぶと、明日は俺の煙草は風呂の中にダイビングは確定しちまう。 それは絶対に避けなければならない。 それに負けっぱなしは気に食わないからね。 島田祐一君、悪いがバトルの生贄になって貰うよ。 「さぁーアンジェラス。今回のバトルはグラディウスは無し。違法改造武器はオプションだけだ」 「えぇー!?なんでグラディウスは駄目なんですか?」 「オプションに慣れて欲しいからだ。市販で売ってるオプションは扱やすい代わりに行動が限定だ。俺の自由に出来る代わりに扱いづらい」 「じゃあ市販の方がいいです」 「バァ~カ、よく考えろよ。扱いづらい物を慣れて扱いやすくなったどうなる?従来の行動より更に比較的に向上した動きができるのだぞ」 「おぉー!流石、ご主人様!!分かりました、私、ご主人様のオプションを使います!!!」 「おうよ!頑張ってこい!!」 「行ってきます、ご主人様!」 こうしてオーナー、島田祐一・天薙龍悪。 武装神姫、アイゼンVSアンジェラスのバトルがスタートした。 アンジェラスの視点 「…う、う~ん……今回のバトル場所は街ですか…」 リアウイングAAU7を使って低空飛行で街を徘徊します。 淀んだ空気が染み付いた街並みは沈黙を保ったまま。 人間が住んでないと街なんて只のデカクて硬い箱の塊の集合体です。 まぁこれは私達専用のバトルフィールド。 人間が居るわけない。 そして目を閉じながら首を横に向ける。 「でも、寂しい街だと思わない?あなたはど~思う??」 「…バレてた」 気配を辿り、私を中心にして五時の方向にあるビルの陰に潜んでいた敵が姿を現した。 瞼を開けると悪魔型のストラーフ。 「いつ…気づいた?」 「つい先程。ビルの陰を上手く使って旋回しながら後ろに回りこむ。よくヤるですね」 「………」 「意外と淡白な性格してます?ストラーフ型って、五月蝿いの方々が多いですから」 「さぁ…!」 「ッ!」 猛スピードで突進してきたストラーフ。 その両手にはアングルブレードが握られていました。 対抗する私は二本のM4ライトセイバーを取り出し、迎撃する。 バシン! バシン! 「…チッ!」 「ウゥッ!」 アングルブレードをクロスしながら振りかざしてきたので私は咄嗟に両手に持ってる二本のM4ライトセイバーを逆手持ちにし、アングルブレードを受けた。 流石、ストラーフ型。 力に関しては強いですね。 腕が痺れましたよ。 「残念です…」 「いえいえ、ご主人様が見てるいる前で負ける訳にはいかない!うりゃ!!」 「ッ!?キャッ!」 受けたままの形で押し切り、私のクロスした両腕が敵のストラーフの顔に直撃したのだ。 驚いたストラーフはアングルブレードを二本とも落としてしまい武器を持ってない状態になったので、すかさず私はM4ライトセイバーで斬りつけようとした…が! 「クッ!?このー!」 バン、バン! 左手に装着されているFB256 1.2mm滑腔砲を乱射してきたので身構える。 バキャ! 「アウッ!?」 リアウイングAAU7の左翼を撃たれ出力ダウンしてしまいました。 そしていつの間にか姿をくらましたストラーフ。 う~ん、敵は中々やる人ですね。 あの状態でよくFB256 1.2mm滑腔砲を撃てたものです。 しかもリアウイングAAU7にしっかりと命中させてます。 「お~い、アンジェラス」 『ッ!ご主人様!?』 空からご主人様の声が聞こえました。 本当はコンピュータシステムが空からご主人様の声を聞こえるようにしてるだけ。 この場合、オーナーが自分達の神武装姫に助言するためのシステムです。 「アッ!?」 私は両腕で頭を押さえ込む。 ま、まさか…あの子が!? 「代わりなさい…」 意識が朦朧とし、私の視界は真っ暗闇になった。 ????・??????の視点 『敵の武装神姫を調べてたらこの地区の一位らしい。名前はアイゼン』 「アイゼン…か」 アタシの頭はまだ少しボ~としていた。 アタシがアタシを少し拒んだせいだわ。 でもマスターに会うためならアタシはなんでもする。 それにだんだんこっちに出てこれるようになった事だし。 好調なのは変わりないね。 『あちゃ~、こいつはトンデモナイ奴にバトルを申し込んじまったもんだぜ。婪の奴でも苦労する相手だぞ』 「関係ないよ~。敵は壊すだけだから♪」 マスターは苦い顔しながら言ってるけど、心配いらないよ♪ マスターの敵はアタシの敵。 敵は倒すモノ、破壊するモノ、削除するモノ、排除するモノ♪ 兎に角、ブッ壊せばそれでおしまい。 それにマスターはアタシが勝つと喜んでくれる。 だから敵を壊す♪ 『て、聞いてるのか?アンジェラス??』 「んぅ?大丈夫だよ、マスター♪ちゃんと敵を壊すから♪♪」 『ちょっ!?お前、もう一人の』 ブツ 交信終了♪ 丁度よく交信が終ってラッキーでも最後にマスターがアタシに気づいたのが不味かったかな。 でも、どうでもいいや♪ あ、そうだ。 また何か言われないようにシステムを弄っとこう♪ 「それ!」 アタシは空に向かって右手の一指し指を向け電波を飛ばす。 システムを改ざんしちゃうのです。 これで外からの操作、つまりオーナー達は何も操作出来ないし、アタシ達のバトル姿を見る事も出来ない。 「よし、完了♪さぁーて…敵さん、アイゼンちゃんは何処かな~」 地上に降り立ち辺り見回す。 う~ん、ここら辺には居ないか。 ならこちらから捜すまでね。 「にしても、邪魔だなぁ。とっちゃえ♪」 バリバリ! バキバキ! リアウイングAAU7の翼を無理矢理引きちぎり装着を外す。 他にもランディングギアAT3やヘッドセンサー・アネーロやbuAM_FL012胸部アーマーを投げ捨てる。 武装もいらないなぁ~、アルヴォPDW9とアルヴォLP4ハンドガンとM4ライトセイバーも投げ捨てる。 身軽になった体を背伸びする。 「う~ん、はぁ~。やっぱり、このスタイルが一番イイ♪マスターにご奉仕するにも楽だしね♪♪」 パチン 指をスナップさせて音を出し四つのオプションを召喚する。 市販より使えるオプション。 流石はアタシのマスター、いつも惚れ惚れする仕事ぷり♪ 「このオプションとアタシの技があれば楽勝~」 ババババババババ!!!!!!!! いきなりアタシの身体全体にM16A1アサルトライフルの弾が命中し後ろに吹き飛ばされ、そのまま反動でビルの壁に勢いよく突っ込み倒れる。 壁に穴を空け煙が舞う。 イッタ~い、何すんのよ! アタシの身体を蜂の巣にするき!? 「やったか…?」 遠くから声が聞こえた。 あぁ~今回の敵さんの声か~。 透き通ったいい声じゃない♪ その声がどんな風に叫んでくれるか楽しみ♪ アタシは起き上がり敵に姿を見せる。 「直撃なのに…!?」 「残念♪アタシはそのぐらいの攻撃じゃヤられないよ♪」 アイゼンちゃんはたいそう驚いていた。 そんなに驚く事かなぁ~? あ、でも普通の武装神姫じゃー一撃必殺並みの攻撃力はあったかも。 「────!」 「あ、駄目だよ」 アイゼンちゃんがまたM16A1アサルトライフルをアタシに向けてきた。 だから~。 「ッ!?」 「駄目じゃない。こんな危ない物持ってちゃ」 だから一瞬にしてアイゼンちゃんの目の前で移動して、M16A1アサルトライフルの銃口部分を右手で掴む。 そして~。 ギギギギギギギギ!!!!!!!! 折り曲げちゃった♪ これで弾は出ないもんね。 引き金を引けばこのまま爆発するだけだし。 これで危ない物は全部かな? 「…力があり過ぎる!?」 「え?う~んこのくらい??」 左手を拳にし、回転を掛けながらアイゼンちゃんのお腹を殴る。 ボゴッ! 「グハッ!?」 アイゼンちゃんはアタシより速いスピードでフッ飛びビルの壁に突っ込む。 このまま追い討ちしちゃおうか♪ その綺麗な声で悲痛な叫びを聞かせてね♪ 「行けー!オプションシュート!!」 アタシがそう命令した瞬間、オプションはレーザーのように飛びアイゼンちゃんが突っ込んだビルに目掛けて飛んで行き、アイゼンちゃんを発見した瞬間攻撃した。 ズガガガガ!!!! オプションシュートはオプションを亜光速並みのスピードで敵に体当たりする攻撃なの♪ 攻撃力は計り知れないよ。 解説乙でしょ、アタシ♪ 「戻って、オプション♪」 命令通りに戻ってくるオプション達。 あぁ~これじゃアイゼンちゃんは粉々かなぁ~? 叫んでくれてないし、ちょっと残念。 でも一応残骸の確認しないと気になるから見てみよう~と♪ ボロボロになったビルの中に入ると煙と埃が舞っていて視界が悪かった。 これじゃあ確認できないよ~。 「アイゼンちゃ~ん。生きてるなら教えてー♪」 ドグシュッ! 激痛が胸あたりを走る。 何かと見てみるとフルストゥ・クレインがアタシの胸から突き飛び出ていたの。 ドクドクと赤い血が出てくる。 どうやらアイゼンちゃんはアタシのバックを取り背中からフルストゥ・クレインを一突きしたのね。 「……教えた」 「………」 「……まだ、…必要?」 「……………チッ」 傷を負いながらも、アタシに向かって敵意むき出しするアイゼンちゃん。 ズブズブ、と奥深くに突き刺さるフルストゥ・クレイン。 ダメージはかなり深刻、このままじゃいくら不完全のアタシでもヤバイから負けを認めるしかなさそうね。 「あぁ~あ、残念。もっとアイゼンちゃんと遊びたかったんだけど…これ以上は無理だから、またね♪」 「私は…会いたくない」 「更に残念。アタシ、アイゼンちゃんに嫌われちゃった~。よっと」 ブシュ フルストゥ・クレインを無理矢理掴み引き抜くとアイゼンちゃんはアタシとの距離を取りM16A1アサルトライフルを構える。 もうそんなに警戒しなくていいのに♪ 「アタシの負けだから大丈夫だよ♪今からアタシがアタシに変わるだけだから」 「…?傷が…!」 「ンゥ~?あぁ~、ほっとけば回復するの♪でも今回はアタシの負け。まだこの身体に執着するまで不完全なの」 「貴女は…いったい…」 「別にアイゼンちゃんが分からなくてもいいの♪次会う時は必ず、壊してあげるから♪♪ばいばい♪♪♪」 「…さようなら」 アタシはニッコリと笑いながらアイゼンちゃんを見ながら意識を失う。 次会う時が楽しみだね、ア・イ・ゼ・ン・ちゃん♪ 天薙龍悪の視点 「オッ!やっとコンソールが使えるようになった」 「こっちでもいったい何が起こったのですかね?」 「さぁ、検討がつかん」 どうやら島田祐一の方のコンソールやディスプレイが故障していたみたいだ。 あの時。 アンジェラスがもう一人のアイツになった時と同時に交信が途切れ、更にこっちからの操作が全不能になりやがった。 いったいどうなっていやがるんだ。 それよりもアンジェラスとアイゼンが心配だ! 「あ!居ましたよ、天薙さん!!」 「マジで!おー居た居た!!」 ボロボロになったビルの中にブッ倒れてるアンジェラスと、その姿をただ突っ立て眺めてるアイゼンがいた。 どうやらバトルはアイゼンが勝ったみたいだ。 フゥ~良かった。 でもよくアイツに勝てたなアイゼンは。 流石はこの地区の一位武装神姫。 実力はある訳だ。 「ご、ご主人様~…」 「お、気がついたみたいだな。早く戻って来い」 「は、は~い~…」 疲れきってるみたいだ。 それ程相手が強かったのだろう。 アンジェラスが筐体から出てくると、俺は右手で掴みそのままアンジェラスを右胸ポケットに突っ込んだ。 グッタリとするアンジェラス。 お、この状態なら煙草を吸って怒る気力が無いとみた。 今のうちに吸っちまう。 煙草を取り出し火をつける。 「はぁー、美味しいぜ♪」 「あの~筐体近くでの喫煙は」 「ん?あ、ワリィな島田君」 高校生に怒れちまった。 でも止めないけどね。 すぐにこの場を去れば大丈夫だし。 「今日はサンキューな」 「いえいえ、アイゼンも勉強に出来たと思います。さっきから何だかブツブツと言ってるけど…」 「そっか。他にも俺はこの通りに…肩にいっぱい神姫いるけど、また今度こいつらも相手してやってくれ。そん時はジュースぐらい奢るからさぁ」 「是非相手しますよ!」 「サンキュー。そんじゃ、俺はこれで。次は会う時はバトル以外で遊ぶのもいいかもな」 「はい!また会いましょう。俺は大抵この神姫センターに居ますから」 「ああぁ。またな」 俺は歩き背を島田に見せながら右手を上げて神姫センターを後にした。 今日のバトルは途中で見れなく出来なくなってしまったが…いったい中でどんな事が起こっていたのだろうか? 流血沙汰になっていなければいいのだが…。 「(c) 2006 Konami Digital Entertainment Co., Ltd.当コンテンツの再利用(再転載、再配布など)は禁止しています。」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1322.html
<閑話休題:とある種子の記憶> 私は武装神姫だと皆が言います。 ですが、私は外の世界には出られません。 データの中でしか生きられず、本当に神姫としての身体があるのかどうかすら自分では確認する術を持たない私は、本当に神姫なのでしょうか? 私は・・・ はじめまして、私の名は種型神姫ジュビジーの草雷と申します。 マスター定義が未設定状態のままな為に、どなたが名付けてくださったのかは存じあげませんが、蕾をイメージした名前だそうです。 少々特殊な仕事をさせていただいておりますが、一般的に普及している種型と差異はございません。 ただ一つ、現実世界で動き回ることが出来ない点を除けば、ですが。 お聞きした話によると、私の身体は外の世界で眠ったままだそうです。 ”咲かない花はない” よくあるフレーズですが、芽の出ない種はずっと土の中に埋もれたままなのですね。 土があり、光が射し、水を与えられても、種が偽物なら芽は出ません。私もそういう事なのではないでしょうか。 息抜きの為という名目で実施されるバーチャルバトル。私からすれば唯一他の神姫と関われる貴重な時間です。 今日もデータのみで構築される世界で偽物の空を見上げ、本物と呼んで良いのか判らない力を振るいます。 しかし、相手の方々はいつも不満そうな表情でログアウトされていくのです。 やはり私は普通の神姫とは何処か違うのでしょうか? この事を質問してみると、謝られてしまいました。それ以降は口に出しておりません。 今日から数日、私の起動を請け負ってくださってる方がいらっしゃらないそうなので、その間お休みさせていただくことになりました。 今度目が覚めた時には、外の世界を体験する事が出来るでしょうか。 師匠と弟子
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2115.html
ウサギのナミダ ACT 1-6 □ 翌週末。 俺は気が進まないながらも、いつものゲームセンターへと足を運んだ。 井山とかいう変態野郎がいるかと思うと行く気がそがれるのだが、先週の騒ぎの後で行かないのでは、こちらに後ろ暗いことがあるように思われてしまう。 ティアの恐がりようを思うと、さらに気が引けるのだが、それでも俺はやはり、いつも通りに行くべきだと思ったのだ。 そんなことを考えていたら、いつも行く時間より、一時間ほど遅くなってしまった。 俺はティアを連れて、ゲームセンターへと向かった。 いつものように、店内に入り、武装神姫のコーナーに足を向ける。 ……気のせいだろうか。 ざわついていた店内の空気が変化したように思えた。 バトルロンドコーナー特有の喧噪がなりを潜め、いきなり空気が重くなったような感じだ。 よく見れば、コーナーの誰もがバトルに熱中している風ではない。 みんな、隠れるような視線で……俺を見ていた。 眉をひそめる あの井山みたいな奴が来たからといって、こんな風に迎えられるいわれはないはずだ。 だが、武装神姫のプレイヤーの誰もが、何かやっかいなものを見たような視線で俺を見ている。 俺がどうしようかと迷って立ち止まっていると、店の奥から長身の男が現れた。 大城だ。 「大城、これはどういう……」 「遠野、悪いことは言わないから、しばらくここに来るのはやめておけ」 大城は、らしくない難しい顔をしながら、そう言った。 俺が来たときに言う言葉を決めていたかのように、はっきりと言い切った。 「なんで」 短い一言が硬い口調であったのを自覚する。 食い下がった俺に、大城は黙って一冊の薄い雑誌を差し出した。 週刊のゴシップ写真誌だ。 下世話な芸能ニュースを中心に、サブカル的な内容も扱う、はっきり言って低俗な雑誌だった。 大城から受け取った雑誌は、神姫のオーナーの間では有名だった。 神姫の記事が毎週載っているためだ。 その内容は真面目なものではなく、神姫のグラビアとか、有名神姫のゴシップとか、そう言うたぐいのもの。 俺は興味がなかったので、ほとんど目を通したことはない。 俺はその雑誌をパラパラとめくる。 雑誌の真ん中あたりに、袋とじページがあり、開封されていた。 その扉ページには、『衝撃! 淫乱神姫の過激プレイ、その中身』という、まったくひねりも何もないタイトルが、奇妙な字体で書き殴られていた。 ページをめくる。 「あっ……!」 俺の胸ポケットで、ティアが絶句するのと、俺の脳内にハンマーが振り降ろされたのは同時だった。 そのグラビアに写っているのは、ティアだった。 いや、グラビアなんかじゃない。 グラビアだったら、少なくとも被写体の美しさを表現しようとする姿勢が見て取れるはずだ。 そんな姿勢は欠片もない。 あらゆる方法で汚される神姫を、より扇情的な構図で撮影した写真、だった。 なんで……ティアの過去は海藤くらいしか知らないはずなのに。 なんで、この記事で『T県、T駅前のゲームセンター常連神姫・T』なんて伏せ字で名指しされてる!? しかも、ティアの画像には、目隠しされていない。 ティアを知る人が見れば、間違いなくティアだとわかる。 「……なんだよ、これは……」 「それはこっちのせりふだ。なんなんだよ、これは」 大城が厳しい表情で俺を見た。 「まさかお前、ティアにこんなことさせてるんじゃないだろうな?」 「するわけないだろう!!」 返す答えが大きな声になってしまったのも、仕方ないことだと思う。 冗談でも、俺がティアを慰みものにしているなどと、言ってほしくはない。 「だろうなぁ。お前がそんなことするタマとは思ってねぇよ。 だがな、疑問はある。 この写真はティア以外には見えねぇ。そして、いつ、誰がこの写真を撮ったのか?」 「……奴か」 「だろうな。だが、それが本当だとすると、井山が言っていたティアの過去も本当だということになる」 ……妙なところで鋭い奴だ。 大城の言うことは全くの正論で、否定の言葉も見あたらない。 俺は拳を握りしめる。 「……たとえそうだったとして、今のティアと何の関係がある?」 「関係はないかもしれねぇ。だけど、気持ちじゃ納得できねぇよ。 言っちゃぁ悪いが……神姫風俗は違法だぜ? 犯罪に関わった……しかも、こんな姿を公開された神姫とバトルしたいと思うか?」 「だからそれは……!」 俺の反論を、大城は右手を挙げて制した。 「わかってる、お前は下心あるような奴じゃないってことはよ……。 でも、考えてみろ。今ここでお前が意地を通してバトルしようとしたって、誰も応じてくれやしない。 それどころか心ないヤジや噂話に、つらい思いをするのはお前達だぞ?」 そう、わかっていた。 今この状況で、俺が意地を張ってバトルをしようとしても、応じてくれる対戦者などいないことを。 それでも、俺は納得できなかった。 俺達は何か悪いことをしたか? ただバトルロンドをプレイしようとすることが、悪いことかよ? 俺と出会う前のティアは、確かに違法行為をしていたのかも知れない。でも今は、素体も標準的なものに換装されて、俺の神姫として登録されている。 それに、ティア自身が何か悪いことをしたか? ティアに違法行為をさせたのは神姫風俗の経営者で、法に触れると知りながら彼女を汚したのは、井山みたいな連中じゃないのかよ? 俺はぶつけようのない不満を握りつぶすように、強く強く拳を握る。 何とか無理矢理、自分を納得させようとする。 それでも頭が沸騰して、言葉にならない。 つかの間、俺と大城の間に沈黙が流れた。 それを破ったのは、別の方からかけられた声だった。 「ああ、ああ、遠野くん! 困るんだよねぇ、ああいう人を連れてこられちゃあさぁ!」 「店長……」 俺を見つけた店長は、あわてて側までやって来て、そんなことを言った。 店長は二十代半ばくらいだろうか。小柄で童顔なので、実際は学生のように見える。 人がよく、いつもにこにこと笑っている人だ。 それが、今は迷惑そうな顔で俺を睨んでいる。 「ああいう人って……井山みたいな奴のことですか」 「ちがうちがう! 黒い背広の、いかにもそっちの人って感じの連中だよ!」 店長の話では、午前中に一度、三人組のダークスーツ姿の男達が来店したという。 そして店長にこの雑誌を見せながら「この神姫がバトルしに来ていないか?」とほとんど脅迫めいた口調で尋ねたのだ。 店長は、知らぬ存ぜぬで切り抜けたらしい。 店長にしてみれば、やっかいごとを避けたい一心だったようだが、俺達にとってはありがたい話だった。 男達は、この神姫が来たら教えてほしいと言って、去っていった。 おそらくこの男達は、神姫風俗「LOVEマスィーン」の関係者だろう。 俺がティアを見つけたときに会った男達と特徴が同じだ。 「すみません。ご迷惑をおかけして……」 「ほんとだよ……君も常連さんだから、言いたくはないけど、しばらく店に顔を出さないでくれよ。 僕の方は何も知らないってことにしておくから」 店としては最大の譲歩なのだろう。 俺達のことを話さないでいてくれるだけでも、よしとせねばなるまい。 あんな手合いがやってきたのは、俺達にも責任があると思う。 店長はブツブツと文句を言いながらも、最後は俺の肩をたたいて、去っていった。 こうなってしまっては、店に迷惑がかかってしまう。 認めたくはないし、納得は行かないが、ここは立ち去るしかない。 俺は大城に手を挙げて、きびすを返した。 ふと気付いて、声をかける。 「そういえば、今日は久住さんは来てないのか?」 「……あの記事を見て、すぐに帰ったよ」 「そうか……」 少し胸が痛む。 ティアの過去は、むやみに人に話したリする種類のものではない。 だが、久住さんや大城にも黙っていたことは、俺にも責任があると思う。 特に久住さんは女性だから、何も知らずにこんな写真を見せられればショックだったろう。 「すまないな、大城」 「……」 大城はらしくもなく口ごもる。 わかっていた。 俺に「店に来るな」という嫌な役目を、大城が自分からかって出たことくらいは。 友達だから、相手にとって嫌なことでも遠慮なく言う。 それはそれで奴らしい。 そう考える俺の頭はようやくに冷えて、一抹の寂しさが心の中に積もりつつあった。 俺は大城に背を向け、ゲーセンの出入り口をくぐった。 結局のところ、納得などしていない。 ただ、現実を認識し、俺が一歩引いて、意地を通すのをやめただけだ。 帰り道も、家に着いてからも、俺は考え続けている。 風俗にいた神姫を保護して、自分の神姫として登録し、バトルロンドに参戦した。 武装はオリジナルだが、違法パーツは使っていない。公式戦にもエントリーはしていない。 近場のゲームセンターで草バトルを繰り返した。 それだけだ。 俺は誰もだましていたわけじゃない。 だけど、ティアの過去が、神姫風俗というものへの認識が、どのようなものなのか思い知らされた。 神姫のオーナーであれば、パートナーとして大事にしている神姫を、性のはけ口として弄ぶその行為自体、受け入れられないだろう。 (お互い同意のもとのスキンシップならば、また別なのかも知れないが、俺にはよくわからない) その気持ちはわかる。 だが、もはや風俗の神姫ではないにもかかわらず、なぜティアは受け入れられない? 武装神姫としてバトルにいそしんでいる姿は、誰もが知っていることだというのに。 ティアの過去がどうあれ、俺以外の誰に迷惑がかかるというのだろう? ……いや、ゲーセンの店長には迷惑かけているか。 確かに、あの黒服連中が店に出入りするようになったら、店長にしてみれば大きな痛手だ。 それを理由に店に来なくなる客もいるかもしれない。 その点については、申し訳ないと思う。 俺達のことを黙っていてくれるという店長には、むしろ感謝しなくてはいけないだろう。 だが、直接の原因は俺達か? ティアが、風俗にいたことが悪いというのか。 俺は、断じて違う、と言いたい。 神姫はオーナーを選べない。そしてオーナーの命令は絶対だ。 風俗にいる神姫は、どんなに嫌でも、違法であっても、身体を売る以外に為すすべがないのだ。 ティアはもう何度も何度も傷ついた。 もう十分だろう。俺のもとにいて、同じように傷つく必要なんてない。 それでも、ティアは受け入れてもらえないのか。 風俗にいた神姫というだけで、この先ずっと認めてもらえないのか。 そこまでいくと、もう社会的通念の問題で、俺個人の力ではどうしようもないことだ。 それはわかっている。 頭では理解できている。 納得できていないのは、俺の感情だ。 為す術のない自分の力不足に、不満であり、怒っている。 やっとたどり着いた、武装神姫オーナーとしての道を突然閉ざされたことに怒っている。 俺達が今までしてきたことを、誰もが手のひら返したように否定する態度が、納得行かない。 けれど、頭でどんなに考えたところで、結局俺一人の力なんてたかがしれており、何をしたところで、問題解決にはならない、という結論に達する。 堂々巡りだ。 俺は額に手を当て、ため息をつく。 以前、海藤が言っていた言葉を思い出す。 「どんなに君が否定しても、神姫風俗とのつながりを疑われるよ」 ああ、そうだな、海藤。君の言うとおりだ。 俺は今、自分の無力さに打ちのめされている。 こんなどうしようもない状況に誰がした? 俺じゃない。久住さんや大城でもない。ゲーセンに集まる常連さん達や、店長でもない。 誰だよ、俺達をこんな状況に追い込んだ奴は。 俺の視線が、不意に机の上の神姫をとらえた。 クレイドルの上で膝を抱え縮こまっている。 ゲーセンであんなことがあってから、一言もはなさず、落ち込んでいる。 俺の神姫。 ティアが、顔を上げた。 視線が交差する。 ……俺はどんな顔をしていただろうか。 ティアの愛らしい顔が、みるみる恐怖に塗りつぶされていく。 ……なぜだ? なぜそんな顔をする? 「ティア」 「ひっ……!」 俺の呼びかけに、ティアは頭を抱え、ますます縮こまる。 「ご、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」 まるで、壊れてしまった音声メディアのように。 謝罪の言葉を繰り返し繰り返し唱え続ける。 俺は。 俺はバカか。 俺は一瞬でも、ティアが元凶だ、などと疑ってしまったのか。 今回のことで、一番傷ついたのはティアのはずだというのに。 「違う……お前が謝ることなんてない」 絞り出すようにかすれた声。 ちゃんとしゃべったはずなのに、その声色には悔しさが滲んでいる。 「ちがうんだ」 言い聞かせるようにつぶやく。 誰に? きっと、ティアと自分自身に。 マスターとして自分の神姫を守れなかったふがいない自分に腹が立つ。 ティアにこんな顔をさせてばかりな自分が悔しい。 俺は前に言った。 ティアに、普通の神姫でいてもいいと、教えてやりたい、と。 俺が望む以外に、ティアが俺の神姫になる資格があるのか、と。 ……何様のつもりだ。 俺は、こうして怯え、傷ついているティアに、何一つしてやれていないじゃないか!! それで、一瞬でも、俺をこうして苦しめているのはティアじゃないか、なんて考えて。 俺の方こそ、ティアのオーナーでいる資格がない。 やり場のない怒りを鎮めるため、両の拳をきつくきつく握りしめた。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/449.html
第一幕。上幕。 中学校から家路を急ぐ少年と、彼の肩に、ちょこんと座った金髪の小さな少女。 彼の名前は新堂真人。名はマコトと読む。少女は天使型神姫「アーンヴァル」。名はフェスタ。 二人は顔は決して明るいわけではない。 マコトの横顔には暗い印象があり、フェスタの視線は定まらず、何処と無く虚ろでただ遠くを見ている。それに・・・。 かちゃん。 という音で脚を止める。見れば数歩前でフェスタが落ち、ひっくり返っていた。頭をさすりながらゆっくりと上体を起こしている。 マコトは手を差し伸べて彼女を拾い上げ、胸ポケットに入れようとする。と、両手でポケットの縁を掴んでそれにフェスタは抵抗した。 「肩しか、ヤだ。肩がいい」 「・・・解った」 そっと肩に手を持っていくと、せっせと手だけでよじ登り、フェスタは何とか元の位置に納まった。 彼女には。腿から先が無かった。 ダンスが好きな神姫だった。 家に初めて来た神姫。母が発売日にこっそり買ってきて、マコトに押し付ける形になったのだが。姉も、フェスタを可愛がってくれた。 良く笑い、リズムだけ歌いながら何時もクルクルと踊っていた。どちらかといえば寡黙な彼の肩や頭は即席のステージと化し、いつしか人が集まって来るようになった。フェスタ(祭)という名前も、そのダンス好きな一面から取った物。 バトルは決して得意ではなかったが、そこでもダンスの才能を垣間見せた。純正装備に加えてマコトが買ってきた、大型のライトサーベルでの近接戦が得意・・・いや、好きだった。マコトの適切な指示の元、彼女はジュニアランクの上位に食い込んでいった。 バトル・・・そう、戦場であるにも関わらず。そこでも彼女は舞っていた。 指先まで伸ばし、しなやかな肢体をくねらせ、翼を羽ばたかせて。その完璧な姿勢制御で駆け巡るフィールド。淡い粒子が舞い散る大剣は、ステージに姿を変えた戦場に美麗なる光の帯を引いた。流麗なるは光剣の天使。と噂され、彼女の舞いを見る為に遠征者が来る程であった。 「もっと色んな人に見て欲しいね」 そう言って、彼女は笑っていた。 自慢の神姫だった。 いつものように肩で踊っていた時。弘法も筆の誤りか。彼女はバランスを崩し、落下した。失敗失敗と起き上がろうと身体を起こし。 「フェスタッ!!」 絶叫に近い大好きなマコトの声を掻き消したのはエンジン音。 悲劇は、一瞬だった。 脚が潰れただけ。 メーカーからの補充パーツさえ来さえすれば、直ると思っていた。武装神姫は圧倒的人気を誇る商品だ。順番待ちなのは仕方が無い。 かかった期間は三週間。届いた純正の脚部を神姫ショップで装着。それで全てが解決するはずだった。 「・・・」 ぽかんと口を開けて、フェスタは呟いた。 「何も感じない・・・」 次の瞬間に堰を切ったように泣き叫ぶ彼女を何とか宥め、その日のうちに電車に乗ってメーカーに修理に行った。 何か色々なデータが取られ、様々な脚部が試された。武装神姫の物だけではなく、それ以前の神姫の物も。 その結果は残酷な物であった。 センサー類に異常は見つからず、原因は不明。恐らくは潰れたときのショックか、長く脚が無かった為に運動系制御機構にバグが発生しているのだろうとの事だった。 ・・・だが。 マコトはうっすらと別の理由を感じていた。 それは。非現実的だけれども。 その日から、フェスタは笑わなくなった。 手だけで肩に掴まっているフェスタが、ぼんやりとした目のまま思い出したように言った。 「マコト・・・」 また。はじまった。 「私を、捨ててもいいよ?」 あの日から。彼女は口癖のように言い始めた。 自分を捨ててと。邪魔だろうと。決して目をあわさずに。 「嫌だ」 「マコトはバトルが上手だし・・・頭も良いし」 黄色い髪が彼の歩幅に合わせて揺れる。 「歩けない神姫なんか連れてたら彼女も出来ないよ?」 自嘲が僅かに混ざる声。 「嫌だ」 いつもの返答を、たった一言の返答を繰り返す。数秒の空白。なおもフェスタが口を開く。 「だけど」 「フェスタがいい」 その言葉を聞くと、ふっとフェスタは黙り込んだ。 解っているんだ。喧々囂々と怒鳴りあった、はじめて捨ててくれと彼女が言い出した日。 知らず、口を吐いて出たその一言でフェスタは静かになった。 ・・・きっと、彼女は。この言葉が聞きたいのだ。聞かなくては不安で仕方ないのだと、マコトは解っていた。 いつしかマコトも、笑わなくなった。 何度か落ちそうになりながらも、フェスタを肩に乗せて自宅に到着する。無機質な様式の家。大量に作られた、特徴のない家。 家としても初めての神姫であるフェスタが来て、そんな家も一気に華やいだ。 ・・・あの日までは。 「?」 ふと見ると、家の車庫に見慣れない車が止まっていた。怪訝に思いはしながらも、彼は玄関の扉を開けた。 「おかえりなさいマコト」 聞きなれた声。今は僅かに無機質ささえも感じる。 「・・・お客さんが見えているわよ?」 トレイを持った母親が玄関にぼんやりと突っ立っている息子に声をかける。 「お客?」 我を取り戻し覗き込むと、応接間には身形の良い初老の女性が座っていた。 「・・・誰?」 「神姫研究所の方よ。その・・・フェスタちゃんの事で。話したい事があるんだって」 研究所というワードに眉を顰めながらも、彼は鞄を置いた。 「はじめまして。新堂真人さん。そしてフェスタさん」 初老の女性はその外見同様、固そうな性格を思わせる一応の笑みを浮かべながら言葉を切り出した。 「私、千葉峡国神姫研究所の所長を務めております。小幡紗枝と申します」 差し出された名刺を受け取り、はぁ・・・としか答えられないマコト。 フェスタは机の上に腿を前に投げ出す形でぼんやりと座っている。視線は小幡の方を向いてはいるが、その焦点が合っているかは甚だ怪しい。 「えっと・・・」 返答に困る彼に、小幡と名乗った彼女は金属製のケースを机の上に置いた。 「用件とは他でもありません。彼女・・・フェスタさんについてです」 ちらりと、机に座っているフェスタに視線を移す。 「フェスタにですか?」 「はい。失礼ながらお話は聞いています。残念な事故に遭われたと・・・」 光を照り返さぬ瞳のまま、フェスタが小幡を睨みあげた。 「そこで、こちらを持参しました。フェスタさんは初期ロット。系統が合うという事で」 ケースをゆっくりと開ける。と。 「脚・・・?」 そこには、白いメインカラーに草色のラインが走った神姫の脚が入っていた。 (こんな塗装見た事が無い) どことなくディティールがやぼったいというか・・・古臭い上、表面も武装神姫のようにツルツルしておらず、処理が悪い。 「あの、小幡さん。でもフェスタは・・・」 「だからこそ、この脚部を持参した次第です」 マコトははっと、思わず身を乗り出す。 「この脚なら、フェスタでも動かせるとか!?」 ぴくっと、フェスタが肩を揺らせた。 だが小幡はゆっくりと首を横に振った。 「それは解りません。この脚部はCRZRタイプの物。つまりは、旧式です」 「え?」 マコトの間の抜けた返答。すると、フェスタがポツポツと呟くように言った。 「CRZR・・・タイプ・クラリネット。製造年2031年から2034年。少数生産された会話や通訳を主目的とするタイプであり、発声能力や気候対応能力、外国語発音能力に非常に優れる・・・」 そこで彼女は口を噤んだ。 「その通りです」 「・・・で?」 虚ろな瞳のまま、フェスタは肩を竦めた。 「そのポンコツとも言える脚を、どうしようと言うのですか? 所長さん?」 「フェ、フェスタ!」 乱暴な言い方に慌てたマコトの声を無視して、彼女は淡々と続ける。 「確かに第一弾初期ロットにCRZRの脚部は合います。でも、そのクラリネットタイプの脚は既に試しました。まさかそれをまた?」 小幡は一つだけ頷き、同じ返答をした。 「その通りです」 馬鹿げてる・・・と小さく口の中で悪態を吐き、フェスタは歯を鳴らして再び口を噤んだ。 マコトもまた肩で溜息をついて、目を伏せた。 (きっと・・・フェスタはもう・・・) 試す事さえも、苦痛なのだろう。 幾度試しても、どれを試しても動かない脚。ほんの僅かな期待はその都度に踏みにじられ、その度に絶望のシャワーを浴びて、泣き叫び続けたのだから。 「あの小幡さん、ありがたいお話ですが・・・」 断ろうとしたマコト。だが、その床を見つめていた間にか、小幡は鞄の中から小型のコンピュータを取り出していた。 「失礼ですが。コンセントを貸していただけますか? 充電を忘れてしまって」 「あ・・・はい」 彼はとりあえず頷いてしまっていた。 「その脚部を持参したのは・・・」 手元で立体モニターを搭載したコンピュータにデータを打ち込みながら、小幡はゆっくり話し始めた。 「実は、私の意志ではありません」 「え?」 その意を介す事が出来ず、思わず聞き返すマコト。 「言うなれば『遺志』です。私の、神姫の」 「・・・遺志?」 神姫の遺志? 「フェスタさん」 小幡に頼まれる形でコンピュータの真正面に座らされ、相変わらず虚ろな視線をしているフェスタに声をかける。フェスタはフェスタで反応を示そうともしない。 「貴女は、自分を捨ててくれと。言っているようですが」 目線だけ動かし、彼女は小さく返した。 「それが何の・・・」 「未来を紡ぐ事を、止めようと言うのですか? 『今、ここにいる』のに」 少し強く言う。 紡ぐという単語に疑問符を浮かべ、フェスタは僅かに首をかしげた。 その仕草を見て小幡は悲しげな顔をし、やがて目線を逸らすと、データを再生させた。 「・・・どうか、御覧なさい。これはきっと、貴女へのメッセージです」 『はじめまして。妹であり娘である神姫よ』 モニターに。 腰まで届く草色の髪と、透き通るような銀の瞳を持った、美しい神姫が映し出された。 スペーサージョイントの部分から解るが、武装神姫ではない。もっと古いタイプの神姫。そのスーツカラーはパールと草色に彩られている。 『私はゼリス。プロトタイプ=クラリネット。私はこれより、全ての機構を停止して眠りに就きます』 その自己紹介で放たれた名前。そして続けられた言葉に、フェスタとマコトは息を飲んだ。 聞いてはいた。 去年のクリスマス、ゼリスという名の「死」を選ばされた神姫がいたという事は。それは神姫の意思ではなく・・・。 少なくとも。マスコミはそう伝えていた。 『想い出を守る為に、大切な人との日々を失わない為に。この素晴らしい時間を与えてくれた世界に感謝して』 「・・・想い出?」 ゼリスはモニターの中で。しかし彼女はフェスタのぽつりと漏らした言葉に、小さく頷いてから言葉を続けた。 『私が眠りに就いた後、私の身体をパーツとして、哀しみに囚われた神姫に与えてくださるようにマスターに頼みます。この映像を見ている貴女は、身体の一部を失って嘆き哀しんでいるのですか? それとも生まれながらに身体に不自由を持ち、それの為に涙を流しているのでしょうか?』 ぎくりとしてフェスタはゼリスの顔を見返した。これは録画された物のはず。しかし、その口元に浮かぶ静かな微笑は、確かに彼女自身に向けられている。 『・・・私の身体は、きっと貴女達には旧式でしょう・・・すみません』 少し目を伏せ、悲しげに言う。 そんなこと・・・と思わずフェスタは小さく漏らし、僅かに首を振った。数秒の間の後、再び優しい笑みを湛えてゼリスは語る。 『心が豊かであればあるほどに、貴女は知らず、新しい身体を拒むでしょう』 「!」 マコトとフェスタは共にはっとしてモニターを直視する。 「拒む・・・? 私が? ・・・?」 「フェスタ・・・?」 「う、うん・・・そんな事」 少し自信なさげに下を向いた彼女に、ゼリスは諭すように続けた。 『そう・・・貴女が失ったのは身体だけではなく。そこに込められた『心』そのものなのですから』 「・・・!?」 『非現実的と、非科学的と笑いますか?』 驚いたように顔を上げたフェスタに、くすっと笑う。 『けど・・・私は信じます。信じています』 目を閉じて、彼女は胸に両手をやった。 『・・・『ここ』に、作り物じゃない、心があるという事を』 そこにあるのはCSC。プログラミングによる人工の属性付与機構。 フェスタは知らず、自分の胸に手をやっていた。 ・・・それだけだろうか? ・・・それだけなんだろうか? 熱い、何かがゆっくりと。胸から込み上げてきた。 『受け取りなさい・・・私の身体を使う事で、娘の嘆きが止むのであれば。この『心』を与える事で、妹の涙を拭い、哀しみを癒す事が出来るのであるならば。何故、どこに迷う必要があるでしょう?』 「あなたは・・・」 マコトが思わず声を出すが、小幡が手で制する。 気付くとフェスタはじっとモニターを微動もせずに見つめていた。その空虚だった瞳には確かに光が宿り、涙で揺らいでいる。 『この身体には・・・何者にも代え難い、きっと・・・貴女達が築き歩いてきたと同じ程の『想い』が込められています』 ゆっくりと語りかけるゼリス。フェスタの口が、何か言葉を紡ごうとする。 「・・・っ」 ぱくぱくと。何かを必死で言おうと。何かを伝えようとする。 ・・・涙が、一筋、零れた。 『私の身体は想いで満ちています。私の想いを受け継ぎなさい。私の心と共に歩んでください。きっと、きっと貴女の閉ざされた心も開けると・・・信じています』 フェスタの涙を見て、ゼリスのその笑顔にも一本の涙が伝った。 それはきっと。自分への嘆きではない。 これを見ている、哀しみを抱いた娘へと送る涙。 『・・・笑顔のとき、そして涙のとき。空を見上げ、海を眺め、夢を描くとき・・・心が揺れ、そして『想い』が生まれ出るそのとき。いつでも私は、貴女と共にいます』 フェスタが身をゆっくりよじりながら、肩を揺らせた。目からは涙、唇は震え、首を僅かに左右させる。 『妹達、娘達よ。貴女達を愛しています。・・・これまでも、これからも』 優しさと、ほんの少しの哀しみを湛えた唇が、言葉を紡いでいく。 『そして・・・』 一度、口を噤む。 ゼリスは、優しい母の微笑みを浮かべ、両手を広げるように確かにフェスタに語りかけた。 『想いと共に。未来を、紡ぎなさい』 もう、抑えることは出来なかった。口をついて出る、その言葉を。 神姫。生まれながらのツクリモノの身体。だけど・・・。 「お母さん・・・」 涙でもう満足に前が見えない。フェスタはモニターに近づこうと指を伸ばし、そのまま前のめりにカチャンとその場に倒れ込んだ。 「う・・・うぁあ・・・っ」 手だけで這うように進み、モニターの中で尚も優しげな微笑みを浮かべるゼリスに・・・母に、彼女は腕を伸ばす。 ゼリスの柔らかな視線は・・・不思議と真っ直ぐにフェスタに向けられていた。そのまま、小さく頷いて娘を迎える。 フェスタはようやくモニターに辿り着き、母の姿に顔をすりつけ、泣きじゃくった。 コンピュータのキーボード部を椅子にして座ったフェスタ。背からはケーブルが数本、コンピュータの本体に向かって伸びている。 腿より先に取り付けられたのは・・・美しい草色のラインが走った脚。応接間にはマコト、小幡だけではなく。母、そして大学から帰ってきた姉も集まって、それを見届けようとしていた。 「セッティングは終了しました。さぁ・・・」 小幡が背中からジャックをゆっくりと抜く。小さな手が震えながら膝に据えられた。 ぐっと身体を前にして、力を込める。真綿の上から触っているような感覚しかない。 (でも・・・。違う) 武装神姫の高質合成樹脂でもない。旧式の神姫の脚。しかしそれだけじゃない。 確かに、確かにそこは暖かい。 「ううっ・・・!」 力を込め、ゆっくりと腰が浮いた。 「フェスタっ」 「大丈夫・・・!」 心配そうな声を出したマコトを制し、フェスタは目を閉じ、歯を食いしばった。 (もう一度) いつから諦めたのだろう。それを。あんなに大事だったのに。 (もう一度・・・踊りたい) もう一度。あの時のように。今も鮮明に思い出す自分の姿。喜んでくれたマコトの顔。 本当にいつから・・・夢を見る事さえ止めたのだろう。 「うあっ!」 キリキリと音を立てながら、ゆっくり膝関節が曲がっていく。 (マコトと・・・笑いたいよぉっ!) 彼女の偽りない想い。しかし、それに反して脚は動いてくれない。 (ダメ・・・!) 力が続かず、膝からガクっと崩れかける。 ・・・・・・。 小さな背を、誰かが押した。 確かに感じた、掌のぬくもり。 大丈夫、と。耳元で優しく囁く声。 草色の髪の匂いが、ゆるやかに舞った。 カタカタッと足音を残し、彼女は二歩、進んだ。長く忘れていた脚の感覚が全身に伝わる。じんわりと伝わる、立っているという確かな抵抗。そのまま更に、ゆっくりと二歩三歩と、信じられないといった顔で歩みを進めた。 カタ、カタ。足音は小気味良い音を立てながら、歩くという実感を与える。 彼女はゆっくりと、振り返った。 「・・・フェスタ!」 いつ以来かさえ忘れたマコトの笑顔が、そこに。 「マコトぉ・・・!」 笑顔が零れる。抱き上げられ頬擦りされながら。フェスタは確かに、近くに母を感じていた。 脚は。優しく、暖かかった。 ありもしないドレスの裾を指先で持ち上げるジェスチャー。 腰から礼をすると同時に左膝を曲げ、爪先でコツンとテーブルの天板を叩く。 姉が持ち出したオーディオから流れ出す音楽。 彼女は舞った。 柔軟性の高い武装神姫の高質樹脂の脚とは違う、旧式の、少し硬い合成樹脂の脚。 それは木のステージの上でステップを踏む度に乾いた音を響かせ、周囲の空気を奮わせる。翻す腕。伸びた指。くすんだ金髪が光をはらむ。音楽とステップが奏でるテンポは一つに解け合い、彼女の踊りにリズミカルな拍子を贈った。 やがて舞い終えると、彼女はドレスを直す仕草をしながら、仰々しく一礼をした。 拍手が彼女を包む。 小さな舞姫が顔を上げると、その瞳には涙が薄く湛えられていた。 ・・・。 いつか、貴女に会う時に。胸を張って娘だと言える様に。 未来を紡ぎます。お母さん。 第一幕。下幕。 第一間幕