約 2,308,409 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1675.html
――私がダメージチェックをしながら瓦礫から身を起こすと、GA4“チーグル”アームパーツを振りぬいた姿勢のロゼさんの瞳も、さすがに驚愕に見開かれました。 「こいつ、まだ……!」 驚かれているようですね。それはそうでしょう。さっきからアレだけ攻撃を食らいまくっていた上に、今またストラーフの象徴ともいうべきチーグルの渾身の一撃を食らって吹き飛んでも、それでもまだ沈まないのですから。 ここはバトルエリア:ゴーストタウン、条件は高重力。より重装備な方がより動きを制限されるこのエリアをあえて選んだのは、佐藤さんとしては自信なのでしょうか、それともハンデなのでしょうか。 「アンタ……なんなのよ、なんだってのよ! 何で今ので決まらないのよ!」 ロゼさんは、サバーカを盛んに踏み鳴らし、地団太を踏んでいらっしゃいます。 そしてチーグルのいかつい指とご自身の指をシンクロさせてこちらをびしっと指差しまして。 「駆け出しのクセにナマイキ!」 いえそう仰られても困るのですが。 と言いますかね、正直自分でもビックリです。 そうですね、強いて思い当たる点といえば……。 「……ご存知でしょうか?」 これもまた心理戦、せいぜいもったいぶって、低い声で言ってみます。 「な、なによ」 「武装神姫の成長には、バトルにおける戦い方も反映されると言うことを……」 「何言ってのよ、当たり前じゃない」 「そうですね、ごく当たり前のことです。 敵に攻撃を当てるほどに命中率が、 敵にダメージを与えるほどに攻撃力が、 スキルを使うほどにスキルポイントが伸びていく、というのは。 そして……」 「…………!」 ここまで言えば、ロゼさんもお察しいただいたようですね。 「そして、敵の攻撃を食らうほどに、ライフポイントが伸びていくのです!」 しかももともとハウリンタイプは武装神姫の中でもLPが多く、伸びやすいと言う特長もあります。 私もお返しのようにびっとロゼさんを指差して力強く断言しました。 「即ち! 今までの対戦を全て全損敗北している私は、そんじょそこらの駆け出しとは一線を画したLPを誇っちゃっていたりするのですよ!」 「胸張って言うことかーっ?!」 いやごもっとも。 それにしても、あのオーナーにしてこの武装神姫あり。ロゼさんもまた、見事なツッコミスキルをお持ちのようです。 まぁそれはともかくと致しまして。 『まだ行けそうですね、犬子さん』 「はい」 マスターさんのお声に、私ははっきりと答えます。 『ロゼさん、驚かれてるようですね。今の攻撃で勝負が決まらなかったのが意外のようです』 「そのようです」 『つまり、今の攻撃はロゼさんにとってかなり自信のあった攻撃と言うことになります』 「……と、いうことは?」 『風輪渦斬と忠実なる守り手は、そこにぶつけましょう』 風輪渦斬と忠実なる守り手、それぞれ棘輪と胸甲・心守のスキルですが、共通するのは「相手の攻撃を無効化できる」点です。 「なるほど、さすがはマスターさん」 私は両手の手甲・拳狼を打ち当てて、構えを取ります。 相手の大技を防ぐ手立てがあるなら、通常攻撃さえ凌げばいいと言う事。 つまり―― 「私はまだまだ、沈みませんよ!」 両の拳を構え、私はロゼさん目指してまっすぐに駆け出しました。 「お疲れ様でした」 バーチャルモードから目を覚まし、コンソールのスキャニングエリアから身を起こす私に、マスターさんがすかさずご挨拶いただきました。 「いえいえ、マスターさんもサポートありがとうございました」 マスターさんがこちらにかざされた掌に、私はいえーい♪と同じく掌を打ち合わせ、ハイタッチをします。 「おかげさまで、今回はいろんな経験値をがっぽりゲットです!」 「それはよかったですねぇ」 和やかに会話しながら、私はマスターさんの手に乗り、対戦PODを後にします。 視界の隅に、なにやら俯いて拳を震わす佐藤さんの姿をお見かけしましたが、まぁ今はマスターさんにご報告するのが先です。 「ロゼさんは、回避よりも防御を優先する方だったのも幸運でしたね。私のにわか格闘でも、それなりに当てることができました!」 私はにっこりと満面の微笑を浮かべます。マスターさんは、そんな私の話をにこにことご機嫌よさそうにお聞きくださっています。 「お陰様で、貴重な格闘経験値を稼げました! 幸先いいですよマスターさん! しかもその上ですね……」 ドッグテイルもぱたぱたと快調のなか、私はびっと、Vサインをマスターさんに示しました。 「いつも通りの全損敗北で、LP経験値もまるっと最大値ゲットです!」 「ふざけんなコラ!」 私たちが喜びを分かち合い労いあっていると、いつの間にやらお近づきになっていた佐藤さんからそんなお言葉をいただきました。 その肩に腰を下ろしているロゼさんも、なにやら憮然とした表情です。 「お前ら思わせぶりな事言っといて、ちょっと打たれ強いだけのまるきりド素人じゃねーか!」 ……一体何を怒っていらっしゃるのでしょう佐藤さんは。せっかくの勝利なのですから、もうちょっとお喜びになればよいかと思います。 そんなに大声出して、肩のロゼさんも顔をしかめておりますよ? 「あ、佐藤君お疲れ様です。いやー、噂どおりお強いですねぇ」 そんな佐藤さんに、マスターさんはいたってにこやかにご挨拶されました。 と、ふと訝しげなお顔になり。 「ところで、思わせぶりって何のことでしょう?」 「お前、どんな条件だって勝てるみたいなこと言ってたろうが」 「……言いましたっけ?」 「言っていませんかと」 マスターさんは小首をかしげて私に確認をお求めになられたのですが、私にも記憶にないため、そうお答えします。 「言った! 確かに言ってたっつの!」 うーん? どういうことでしょうか? 念のためログをさかのぼって見ましょう。 ……やはり、その発言はどこにも……。 あ。 「マスターさん、『どんな条件にしろ、結果は変わりません』というお言葉ならありました」 「そう、それだ!」 「あー、はいはいはい、言いました、それなら確かに言いましたよ」 「ほら見ろ、やっぱり言ったじゃねーか」 「ですが、『どんな条件でも勝てる』なんてつもりで言ってたりはしませんよ?」 「……は? どういうことだよ?」 「いやですねぇ、始めたばかりでしかも恥ずかしながら未勝利な僕たちが、ちょっとやそっとのハンデを頂いたくらいで歴戦の佐藤君たちにバトルで勝てるわけないじゃないですか、はっはっはっは」 「そういう意味かよっ?!」 「当たり前ですよねぇ、今の私じゃ100回戦ったって、どんな条件でもロゼさんには勝ってこないですよ」 「ふふん♪ わかってんじゃない、アンタ」 「ええ、本当にお見事なお手前でしたねぇ」 「胸をお借りさせていただきました」 「そうねぇ、アンタも素人丸出しだったけど、格闘のセンスはそんなには悪くなかったんじゃない? さすがハウリンよね」 「おお、これは嬉しいお言葉を頂いてしまいました」 「よかったですねぇ、犬子さん」 「はい、ロゼさんのお墨付きをいただけるとは、励みになります」 そんな風に和やかに会話する私たちをよそに、佐藤さんはなにやらコメカミの辺りをピクピクと震わせていらっしゃいます。 「……そうかナメてんだな、お前ら俺をおちょくってんだな?」 「? いえ滅相もない」 「~~~~~!」 素できょとんとされるマスターさんに、さすがの佐藤さんも言葉がないご様子です。 俯いて肩と拳を震わせて、そのままの姿勢で5秒。 何か叫び声が上がるのでしょうか?と思っていましたら、不意に肩を落としては~~~~~っと息を長く吐き出しまして。 「……もういい、とっとと次いくぞ。こんな茶番、さっさと終わらすに限る」 くるりと踵を返し、一人お先にターミナルへと歩いてかれました。 「二本目は、そっちが条件決めな」 肩越しにそんな風に言い捨てる佐藤さん。 その背中に、にこやかにマスターさんがお声をかけました。 「はい、では二本目は暗算勝負で」 「アンザン? そんなステージあったか?」 佐藤さんの足が止まり、こちらを振り返ります。 「いえバトルのステージではなく、道具を使わずに計算する方の暗算で」 「…………は?」 あ、佐藤さんのこんな無防備なお顔は、初めて見たような気がします。 「え、いやその、ほら……バトルで、じゃないのか?」 「いやですねぇ、バトルでの勝負でしたら、今しがたついたばかりじゃないですか」 なにやら自信なさげに問いかけてきた佐藤さんに、マスターさんはにこやかに笑いながら、ですがばっさりと一刀両断にされました。 「言ったじゃないですか。僕は『犬子さんが何も出来ない』と仰られたことを否定するために『どちらの武装神姫が優秀か』を証明するために競っていると」 そこでにっこりと会心の笑みを浮かべるマスターさん。……いつもは仏が宿って見えるかのようなマスターさんの笑顔ですが、今日は何だか悪魔が宿って見えます。 「『どちらの武装神姫が強いか』に関しては文句なしにそちらに軍配が上がりましたが、まぁそれは武装神姫の優秀さを示すうちの、一側面に過ぎませんよね」 「てめぇ、最初から……!」 佐藤さんも、さすがに気がついたようです。 そう、これこそがマスターさんの勝算。 これぞ『バトルで勝てないなら、バトル以外で勝負をかければいいじゃない』作戦です! あ、ちなみに作戦名は、僭越ながら私めがつけさせていただきました。 「ちょ、どーすんのよアキ?! アタシ暗算勝負なんてやったことないわよ?!」 肩のロゼさん、佐藤さんの髪の毛を引っ張りながら慌てておられます。 「バ、バカ! オタオタしてんじゃねぇ! どんなにバカでもお前だって武装神姫なら、アタマにコンピューター乗ってるんだろうが!」 「誰がバカよ誰が! バカアキのクセに!」 「論点違ぇ! とにかく条件は同じなんだ、お前だって計算くらいやれる!」 「わ、分かったわよ……とにかくやってみるわよ」 「おう、お前ならできる!」 ……僭越ながら。 その会話を聞いて私は、自身の勝利を確信したのでした。 「ところでマスターさん」 「なんでしょう犬子さん」 「なにやらすごい事になっているのですが」 「すごい事になっていますねぇ」 と言うわけで、佐藤さんとの勝負との二本目に突入するわけですが。 『はーい、皆さんお待たせしましたー!! これより"神姫三本勝負"の二本目! 暗算対決を開始しまーす! 審判兼司会は私、スタッフ浜野でお送りしまーす!!』 ノリノリの浜野さんのマイクパフォーマンスに、歓声で応えるギャラリーの皆さん。ノリのよい方々です。 ここは4階バトルスペースの一角、イベントなどで使われる事を想定しているのであろう簡易ステージ上です。 簡易と言うだけあって床から一段高くなっているだけの、10人も並べばいっぱいになりそうな手狭なステージですが、その上には堂々と"神姫三本勝負!"の題字が飾られています。 今回の勝負の審判役は、公平公正を期すためにと心苦しいながらもお仕事中の浜野さんにお願いしてみました。 そのところ快くお引き受けいただいた上で『準備があるからちょっと待って』と言われたので、てっきりお仕事をしばらく離れるとご同僚の皆様に引継ぎをお願いしているものと思ったのですが……こんなものを用意していたようです。 そして私たちはステージに設置された卓球台くらいの机の上の両端に、オーナーの方々は椅子に、神姫は机の上で、向かい合うように腰掛けております。 向いに座る佐藤さんたちも、困惑を隠しきれないご様子です。 そして私たちの前には、突発イベント見守るギャラリーの皆様が、ざっと30人ほど。 どこから見てもゲリライベントです。 もはや単なるオーナー同士の揉め事の範疇を越えています。 浜野さん、ノリがよすぎです。お仕事の方は平気なのでしょうか? というか神姫三本勝負ってなんですか。 「マスターさん、どうしたものでしょうか」 「うーん、ある程度は耳目を集めるのも狙いのうちではありましたし、その意味では願ったりな情況ではありますが……さすがに予想を超えてますねぇ」 困惑する私たちをよそに、浜野さんのMCは続きます。 『対戦者はこちら! 当店未曾有の30連勝にリーチまでこぎつけた期待のホープ、ロゼことローザリッター! 惜しくも30連勝は逃してしまいましたがその実力は折り紙付き! この勝負に先立って行なわれた一本目のバトル勝負では、まったく危なげなく勝利を収めています!』 浜野さんがステージ左手に控える佐藤さんたちへ手を差し伸べ、佐藤さんたちが戸惑いながらもギャラリーに手を振ると、途端にギャラリーの皆さんが沸きまくります。 「いよ! 待ってました!」「ロゼちゃーん!」「ストラーフたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「佐藤はカエレ」「オーナーはむかつくが、ロゼちゃんは応援するぞ!」「ロゼさま俺を罵って!」「30連勝、惜しかったなー」「また頑張れよー!」 そんな歓声の収まりきらぬうちに、今度はステージ右手の私たちに手を差し伸べ。 『対するは新進気鋭! まだデビュー間もないというのにこの勝負を挑んだ命知らず! 犬子さんだー! 先だっての勝負では残念ながら勝利は逃してしまいましたが、そんな事ではめげない注目の前向きっ子! 自身で提案した暗算勝負で、巻き返しを図れるかー?!』 とりあえずご紹介を受けましたので、マスターさんともども深々と頭を下げてご挨拶します。 「がんばれよ!」「応援してるぞー!」「ハウリンたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「その度胸気に入った! ウチに来て妹をファックしていいぞ!」「あのオーナーをギャフンと言わせてやれー!」「骨は拾ってやるからなー」「気合入れろー」 こちらでも、負けないくらいにギャラリーの皆さんは沸いてます。 「というか、盛り上がる名目さえあるなら何でもいいのではないでしょうか」 「何でもいいんでしょうねぇ」 『さて、それではルールを説明いたします!』 そういって浜野さんは、なにやら手の平に乗る程度の小ぶりなカゴを取り出し、机の上に置かれました。 中には、なにやら小さな紙片が大量に入っているようです。アレは……レシート? 『取り出だしましたるこのカゴは、3階某レジより借りてきた、不要レシート入れです! ――皆様、平素よりのご愛顧、誠にありがとうございます』 浜野さんがMCを中断して深々と頭を下げますと、ギャラリーの皆さんから笑い声が漏れ出しました。 そして浜野さん、今度はコルクボードを取り出しまして。 『こちらから無作為に取り出したレシートを10枚、こちらのボードに上下5枚ずつ貼り付けまして! その合計金額を計算していただきます! 勝敗のポイントは、計算の正確さと早さ! 金額を間違えたら、一円ごとに一秒のペナルティになるとします!』 おおー、とギャラリーの皆様から低い歓声が上がります。 ……いや今の、感心するところなのでしょうか? 「まぁギャラリーのお約束と言う奴ではないですかねぇ」 「……なるほど、つくづくノリがよいギャラリーの皆様です」 「と言いますか、浜野さんの手馴れっぷりとあわせて考えると、このお店ではわりとこの手のゲリライベントが頻発しているのではないかと」 「頻発していましたか」 つまり、よく訓練されたギャラリーの皆様であったようです。 と申しますか、先ほどよりも広い意味で、浜野さんお仕事の方は大丈夫なのでしょうか? 『では、少々お待ちを』 そして私たちに、メモ用紙とボールペンが手渡されました。ボールペンは人間サイズのため、肩に担ぐようにして書かねばならないでしょう。私はメモ用紙の端に走り書きをし、その感触を試します。 うん、インクの出に問題はなさそうです。その他諸々の下準備も、抜かりナシです。 「いけそうですか?」 「お任せください」 マスターさんのお声に、私は僅かにそちらを見上げて笑顔で答えます。その時窺ったマスターさんのご表情も、落ち着いたものです。信頼されていると見るべきでしょう。これは負けられませんね。 ……そんな大切な勝負なのですから、勝手に動くのは止めなさいこの不良品ドッグテイル。 そうこうするうちに、浜野さんは無造作につかみ出されたレシート束から、10枚を選び出されたようです。 『ところでロゼさんに犬子さん』 浜野さんはレシートをコルクボードに貼り付けながら、不意に私たちに話しかけられました。 「はい?」 「なによ?」 『1から10までで、好きな数字はなんです?』 「……そんなの、ナンバーワンに決まってるじゃない!」 「でしたら私は、ラッキーセブンを」 『なるほどなるほど、1と7ね……はいお待たせしました!』 言いながら浜野さん、なにやらボードに手を走らせ、そのまま手前側にボードを伏せ、その上に 手を置いて押さえました。 「これはもしや……」 マスターさんの呟きを耳にし、私は振り返ってそちらを見上げます。 「マスターさん、なにか気になることが?」 「ええ、念のためですが……ボードの向きには、気をつけてくださいね」 よくは分かりませんが、マスターさんの仰ることです。警戒しておきましょう。 『では、いよいよ勝負開始です! お二人は、そのメモ用紙に10枚のレシートの示す合計金額を記入してください。 記入が終わったらメモ用紙を裏返し、その上にペンを置くところまで行なって、計算終了とみなします』 「はい」 「りょーかい」 『では、行きますよ……スタート!』 ば、と浜野さんが、私たちに見えるようにボードを起こされました。 ……すなわち、私たちには上下逆に示されるように。 なるほど、マスターさんが警戒されていたのはこれですか。 「ちょ、何よそれ?!」 「落ち着けロゼ!」 ロゼさん達の悲鳴をよそに、私はざしゃあ!と全力でボールペンを走らせます。そして記入を終えたメモ用紙を素早く裏返し、その上にペンを置きます。そして正座しつつ。 「終わりました」 「早っ!」 ロゼさんは、まだボールペンを必死に動かされていました。どうやら、人間サイズのペンにお慣れでないご様子。このあたりは、「ロゼさんはバトルに専念している武装神姫で、生活サポートの方はあまり行なっていないのではないでしょうか?」というマスターさんの読みどおりでしょう。 また、ボードが上下逆に示されたのも、ロゼさんの混乱に拍車をかけたと思われます。 浜野さんから見て手前側に伏せたボードを、私たちに開示するように逆から起こせば上下逆になる……言ってしまえばごく当たり前のことですが、それをあらかじめ警戒していなければ混乱も致し方ないでしょう。 私とて、マスターさんからご警告を受けていなかったら、戸惑っていたやも知れません。 「ところで犬子さん」 「何でしょうマスターさん」 囁かれるようなマスターさんの問いかけに、私はマスターさんにだけ聞こえるような声で振り返らずに返事いたします。 「あの、印のついたレシートにはお気づきですか?」 「はい、あの赤丸ですね?」 マスターさんの仰るとおり、上下二段に5枚ずつ貼り付けられたレシートのうち、上段の左から4枚目と一番右下の2枚には赤丸で印がつけられていて、気に留めておりました。 「アレには念のためご注意を。……2ラウンド目があるかもしれません。気を緩めずにお願いします」 「了解です」 それは私もうすうす感じていたことですので、異論などありません。 そうこうしているうちに、ロゼさんも計算終了されました。 慣れない作業に、ロゼさんはややお疲れ気味……と申しますか、「何でアタシがこんなことしなくちゃいけないの?!」とでも言いたげな憮然としたお顔です。 「こんなの、武装神姫のやることじゃないわよ!」 訂正、実際に仰られました。 双方が計算終了したのを確認して、浜野さんは再びボードを伏せられます。 『はい、お二人ともお疲れ様です』 そう言って浜野さんは、私たちそれぞれに笑いかけられました。 私はマスターさんを笑顔で見上げます。計算の結果には自信あり。そして明らかにこちらの方が早く終わりました。マスターさんのご信頼に、応えることが出来たものと自負しております。 そんな私の心を汲んで下さったかのように、マスターさんは優しく笑って頷いて下さいました。 ……こら、落ち着くのです、ドッグテイル。 ですがマスターさんが、ふとその表情を僅かにお引き締めになられたので、私も正面に向き直り、浜野さんを見上げます。 果たして、浜野さんはびしっ、と何やらフシギなポーズを決めて。 『それでは第二問に参ります! さあ、お二人とも準備して! メモ用紙もまた表に戻してねー』 「んだと?」 「き、聞いてないわよ?!」 やはり来ましたか。私はマスターさんを振り返って頷きあうと、落ち着いてペンを再び担ぎメモ用紙を裏返します。 ロゼさんはと言いますと、慌てておられてペンを取り落としたりなどいています。そのほど予想外だったのでしょうか? 「れ、冷静になれロゼ! 逆に考えれば、今の遅れを取り戻すチャンスだ!」 「そ、そうね、そうよね!」 『はーい、お二人とも準備できたねー? 計算終わったら裏返してペンを置くのも一緒だからねー。 じゃあ、今度はボードは見せないでいくよー』 「え、ちょ?!」 さらりと付け足された新条件に、ロゼさんが抗議の声を上げましたが、浜野さんの進行は止まりません。 『今度は、赤丸のついたレシートは除いた合計金額をどうぞ』 新たな条件設定を聞いた瞬間、私のペンが再びざしゃあ!とメモ用紙の上を踊ります。 「慌てんなロゼ! 過去ログを検索するんだ!」 「そ、そんなこと言っても急には見つか」 「終わりました」 「「早っ!」」 今度の叫びは、佐藤さんともどもでした。 それにしても、マスターさんのご指示通りに警戒していて正解だったようです。 赤丸のついた上段の左から4枚目と一番右下のレシート……上下を戻せば、上段の左端と下段の左から2枚目、即ち左上から数えて1枚目と7枚目。 まさに私たちが先ほど答えた数字です。これは何かあると考えるのが自然ですよね。 ですのであらかじめ別枠で赤丸印だけの合計を算出し、それを総計から加減乗除したパターンをいくつか計算をしておいたのです。結局一番簡単なパターンでしたが。 そうこうしているうちに、ロゼさんも該当のログデータを見つけたのか、ペンを走らせ始めます。 そして程なく、ロゼさんもメモ用紙を裏返しペンを置いて計算終了の姿勢になりましたが、そのお顔は憮然としたままです。 ……すねた表情もわりと似合っていて愛らしいストラーフタイプのフェイスがちょっと羨ましく感じたりもしましたがそれはさておき。 『はい二人とも終わったね? 今度こそお疲れ様ー、もう問題はないから安心してね?』 ギャラリーの皆様から笑い声が上がり、ロゼさんはますます拗ねた様にそっぽを向かれます。 ……このあたり、佐藤さんと通じるものがあります。やはり武装神姫は、オーナーに似るものなのでしょうか? 「計算対決とは聞いてたけど、こんなにイジワルされるとは思わなかったわよ」 そんなロゼさんに対し、メモを回収しながら浜野さんが宥めにかかります。 『ごめんねー、普通に神姫のスピードで計算されても、人間にはどっちが早かったか区別つかない事があるから、その辺の差がはっきり出るようにしたんだ』 たしかにそれもごもっとも。ロゼさんには悪いことをしてしまったようですが。 『では、結果発表ー! ロゼさんが……第一問、95,970円! 第二問、8万飛んで230円! 対する犬子さんは……第一問、95,970円! 第二問、8万飛んで230円! 同じ回答です!』 おおー、と低い歓声の上がるギャラリーの皆様。 と、浜野さんが茶目っ気たっぷりに小首をかしげ。 『でもこれ、正解なんですかね?』 結局、ギャラリーの皆様のお連れしてる武装神姫の方の何人かに手伝って頂き、検算をしていただくこととなりました。 ……いやまぁ確かに、アトランダムに選出されたレシートの金額の合計を浜野さんがあらかじめご存知のはずないですし、人間の浜野さんに武装神姫並の計算スピードを要求するのも無茶だとは思いますが……失礼ながら、ちょっと締まらなかったですね。 「ん、間違いない、金額はあってるよ」 「はい、こちらの計算でも、間違いありません」 「うむ、二人とも正解であるな」 『はーい、ご協力感謝ですー、これよろしかったらどうぞー』 ご協力いただいた武装神姫の方々になにやらチケットらしきものをお渡しする浜野さん。それを受け取った武装神姫の皆さんは、ギャラリーの皆さんから拍手を受けつつ、オーナーの下へお戻りになられました。 『ご有志のみなさん、ご協力ありがとうございましたー。お渡ししたのは当店で使える300円割引チケットです、次回のお買い物の際にご利用くださいー。 ……というわけで! 結果は両者共に正解! イジワルな条件の中、見事に正解したのはさすが武装神姫! はい皆さん拍手ー』 わー、と拍手と歓声を上がるギャラリーの皆さん。 が、すぐに浜野さん両手を広げてそれを制し。 『ですが、勝負は無情! 共に健闘を讃えたいところでありますが、勝敗はきっちりつけましょう。 どちらも正解であったならば、勝者は当然! 二問とも圧倒的なスピードで回答した、犬子さんだー!』 「よっしゃ!」「よくやった犬子さん!」「お利口ハウリンたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「ナイスガッツ!」「よくぞ佐藤をギャフンと言わせてくれた!」「ロゼちゃんも頑張ったぞー!」「おめでとう!」 先ほど以上の、盛大な拍手と歓声が上がります。 再び私とマスターさんは、深々と頭を下げました。 ですが。 「何やってんだよロゼ!」 そんな激白と、それと共に机に振り下ろされた拳の音に、会場が静まり返ります。 「なによ、あんな風にイジワルされたらしょうがないじゃない!」 心外だ、と言う風に反論するロゼさん。 ですが佐藤さんの言葉は、激しさを増すばかり。 「あんな子供だましにご丁寧に引っかかってんじゃねーよって話だよ!」 「そんな事言ったって……!」 「あっちの素人ハウリンに出来て、何でお前にできねーんだよ! お前の頭に詰まってるコンピューターは 飾りか、ええ?!」 「そ、そんな言い方しなくたって……!」 と言うかロゼさん、泣きそうな表情です。 「なんだよあれ」「ひでーなー……」「泣き顔ストラーフたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「あんな言い方しなくっても」「俺もあんな風に言われたことあるぜ……」「これだから佐藤は」「武装紳士の風上にも置けねーな」「ロゼちゃんが可哀想だ」「ああ、できるなら俺が代わってあげたい……むしろ代わって」 周囲からも、そんなヒソヒソ声が聞こえて参ります。浜野さんも、声をかけあぐねているご様子。 ですが……これは見ていられませんね。 私はマスターさんを見上げます。マスターさんは、私が何も言わないうちに頷いて下さいました。 「僕も同じ気持ちです。行ってきて下さい」 「はい!」 マスターさんの信任を得たなら、怖いものなどありません。 私は机を渡り、佐藤さんたちの前に立ちます。 「佐藤さん、つかぬ事をお伺いしますが」 「あん?」 唐突に話しかけた私を、胡乱な目で見る佐藤さん。 「もし私が、『ロゼさんと同じ素体・同じ装備でバトルしたら、条件は同じだから互角に戦える』と言い出したら、どう思われますか?」 「……は?」 とりあえず、こちらに興味を引くことには成功した模様です。 ですので、そのまま有無を言わさず押し切ることにします。 「おそらく佐藤さんは、鼻で笑われることと思います」 「……………………」 佐藤さんは、ロゼさんともども無言です。こんなことを言い出す私の意図を探っているご様子。 「同じハードで戦ったとしても、私とロゼさんでは、ソフト――戦闘経験が決定的に違います。 例え私がロゼさんとハード的に同じ条件を揃えたとしても、互角に戦えることなど有り得ません」 「……………………」 佐藤さんは無言ながら、その目が鋭いものへと変わっていかれます。わたしの言わんとすることを、お察しいただけたのでしょうか。 「それは即ち、計算能力においても同じことが言えます」 『とにかく条件は同じなんだ、お前だって計算くらいやれる』とは、勝負の前に佐藤さんがロゼさんに対して飛ばした檄であり、私が勝利を確信した言葉でもあります。 確かに単純な計算能力であるなら、基本的に同等の能力を持つ思考回路を搭載した武装神姫同士なら、さほど差はないでしょう。 ですが、その計算を効率よく行なうための最適化に関しては、その武装神姫の経験がものを言います。 ましてや今回の勝負に関して言うなら、純粋な計算能力以外の要素、いわば機転を要求される要素が多く含まれておりました。 私はこの勝負に際して、あらかじめログデータの中から過去に受け取ったレシートデザインの検索および今回の勝負に必要な合計金額の算出欄の確認を行い、ピンポイントで合計金額のチェックを可能にしました。 さらに、ボールペンの試し書きを行なってそのペンを活用しての筆記動作の調整・最適化を図り、加えてマスターさんのご助言を受けて問題の提示がトリッキーである場合への警戒を済ませておきました。 それから実は、解答を筆記し始めた時には実は計算を完全には終了しておらず、確定した部分から筆記しつつ、残りの計算は並行処理で続けていたり、なんて事も行なっていました。 もちろん、計算機能そのものの最適化も、この騒ぎになるずっと以前、日常生活でのサポート業務の時点でとっくに済ませております。 すべて、マスターさんの生活サポートを主として活用されてきた私の経験から導き出された、計算の効率化のための工夫です。 たかが計算ですが、私はそのたかが計算のための研鑽を怠らずにいた、その結果なのです。 「ロゼさんを、あまり責めないであげて下さいませ。バトルの経験についてはロゼさんが勝り、計算の経験については私が勝った――それだけのことでございます」 「……………………」 言うべきことを全て言い終えた私は、一礼してマスターさんの元へと戻ります。 「よく言った犬子さん!」「グッジョブ!」「お叱りハウリンたん(;´Д`) `ァ `ァ 」「いいぞー!」「ざまーみろ佐藤」「ロゼちゃんを苛めた罰だー」「俺も叱ってください」 なにやら喝采を浴びているようですが、面映いので意識的に気にしないようにしまして。 『はーい、それじゃあここで、5分間の休憩を挟みまーす』 タイミングよく、浜野さんがステージにカーテンを引いてくださいました。 ふと振り向いた私に、先ほどまでとは打って変わった雰囲気のお二人が目に止まります。 佐藤さんは俯き加減でなにやらぼそぼそとお話しをし、ロゼさんはそっぽを向いて何かを口走っているところです。 ……少し気になりますね。 ログデータ、巻き戻し。佐藤さんの口元をアップにて再生。口唇の動きをスキャニング。 発音された母音は、順に「a,u,a(促音?),a,a,(一秒ほどの間があき)i(長音?),u,i,a」と思われます。 そこから類推される発言内容候補から、意味が通るものを選び出すと……はて? 「ところでマスターさん」 「なんでしょう犬子さん」 「『カルカッタは、いい国だ』とは、どういった意図に基づく発言なのでしょうか?」 「僕の方がどういう意図の質問かとお聞きしたいのですが」 「は、これは失礼しました。佐藤さんの口唇の動きを解析したところ、そのような発言をされていたと類推されましたので」 「犬子さんは、読唇術の心得がおありでしたか」 「はい、まだまだ試験運用中の拙い芸ではございますが」 マスターさんは一つ頷き、それから何度か『カルカッタは、いい国だ』という言葉をお口の中で転がしまして。 「……もしかしてそれは、『悪かったな、言いすぎた』と言っていたのではないでしょうか?」 「おお」 ぽん、と手のひらに拳を打ち降ろします。 「さすがはマスターさん、そちらのほうが状況に即しておりますね」 「お二人の表情を見ても、おそらくそうは間違っていないでしょう」 「なるほど、そういったアプローチもあるのですね」 そういう要素も加味するべきでしたか。道理で『カルカッタは、いい国だ』や『丸まったら、いいスイカ』では、意味が通らないはずです。 状況からの類推も考慮する、という要素を加えて、今度はロゼさんの発言も解析してみます。 佐藤さん「悪かったな、言いすぎた」 ロゼさん「べ、別に気にしてなんかないわよ! アキの口が悪いのなんて、いつものことだし」 おお、今度は会話が自然です。その後もお二人はぼそぼそと会話を続けておられるようですが、これならば安心でしょう。 「お二人は無事、仲直りができたようです」 「それはよかったですねぇ」 「うんうん、犬子さんお手柄」 浜野さんからも、そんなお声をかけていただきました。 浜野さん、少し照れくさそうに頭をかいておられます。 「うーん、ヘタに他人が口出すと余計こじれるかな、とか思って声かけにくかったけど……案ずるより生むが易し、だったね」 む? そういうものなのでしょうか。 いえ案ずるより生むが易しの方でなく、余計にこじれかねなかった、と言う部分が。 恥ずかしながら私は、そこまでは考えが及びませんでした。 私はただ、同じ武装神姫としてロゼさんを見ていられなかっただけなのですが、それでこじらせて余計にロゼさんを窮地に追い込むかもしれなかった、となれば……。 「……私の行動は、浅はかさだったのでしょうか」 「いえ、そんなことはありませんよ犬子さん」 自省する私に、すかさずマスターさんがお声をかけて下さりました。 「犬子さんのお言葉で、佐藤君が落ち着く目算はついてましたよ。……第一、浜野さんご本人から言い出したことじゃないですか」 「ん? 何のこと?」 ややいたずらっぽい口調のマスターさんのお言葉に、浜野さんが首をかしげます。 マスターさんは、そんな浜野さんを笑顔で見上げまして。 「佐藤君は、それほど悪い方じゃない、ということですよ」 「ああ、なるほどね」 浜野さん、マスターさんの言葉にからからと笑って頷いていますが……私にはなんの事やら。 「……申し訳ありませんが、お話の飛躍についていけていません」 「これは失礼しました。つまりですね、佐藤君は本当にあんな風に思って本気で怒っていたわけではなく、ちょっと熱くなって心にもないことを言っていただけで、我に返ったらすぐさま謝罪するあの姿勢こそがあの方の本質ではないかと、そういうことです」 そういえば浜野さんも、佐藤さんを『ちょっと熱くなりやすくて口が悪くて、思ったことをそのまま口にしちゃうだけ』と評されておりましたね。 なるほど、ここまでご説明いただければ、私にも理解が及びます。 「つまり、佐藤さんが私の言を受け入れてくださったというよりは、横槍が入ったことで佐藤さんが我に立ち返るきっかけになったと、そういうことですね」 極論すれば、話しかける内容も何でもよく、私でなくとも良かったと言うことでしょう。 強いて言えば、こじれるかも?と言う危惧をしなかった私の空気の読めなさが功を奏したといったところでしょうか。 ううむ、まだまだ未熟ですね、私は。 「半分正解、といったところですね。"犬子さんが行なった"ということにも、意義はありましたよ」 は? そうなのでしょうか? 「なに、簡単なことさ」 言葉を継いだのは、茶目っ気たっぷりのウィンクを披露する浜野さんでした。 「神姫の言うことに耳を傾けないような人が、この店にくるわけないじゃない」 ……つい今しがたの佐藤さんとロゼさんのやり取りを目の当たりにしておいてそう断言できる浜野さんの、懐の広さを垣間見た気がします。 「まぁ、僕たちが口を挟むよりはうまく行く公算が高かったのは確かですね」 決め台詞を取られてしまったであろう、軽い苦笑いのマスターさんがそう補足いたしました。 ちらりと、佐藤さんたちのご様子を伺います。 佐藤さんが悪態をつき、ロゼさんが拗ねて、ロゼさんが反撃して、佐藤さんがやり込められる。 お二人の仕草や表情から察するに、そんなご様子です。 でも、そんな二人のやり取りには陰や険はまったくなくて、むしろ軽妙とすら言えるテンポで。 つまりは、私たちと初めて顔を合わせた時のままのお二人のご様子。 あれがきっと、あの方々の在り方なのでしょう。 ……うん。 「ところでマスターさん」 「何でしょう犬子さん」 「先ほどの、『佐藤さんは、実は悪い方ではない』と言うお話ですが」 「はい」 私は、にっこりと笑ってマスターさんを見上げます。 「私も同意いたします」 「ご同意頂き感謝です」 マスターさんに、笑って頷いていただきました。 ……ええ、私はその程度の一言でドッグテイルが起動するお手軽武装神姫ですとも。 「それでマスターさん、それを踏まえた上で、これからはいかがいたしましょう?」 「ええ、殲滅プランは必要なくなったわけですから」 「和解プランですか」 「和解プランです」 「ん? どーするのかな?」 「ああ、浜野さんにも話を合わせていただけたら、助かるのですが……」 「浜野さんにとっても、悪い話ではないかと」 「ほほう? 聞きましょう」 和やかな雰囲気の佐藤さんたちを尻目に、そんな打ち合わせをする三悪人。 さて、最終局面です。 『はいでは、休憩も済んだところで、次の勝負へ移りたいと思いまーす! さあ、皆さん拍手ー!』 浜野さんのMCは相変わらず絶好調、ギャラリーの皆様のテンションも衰えを知りません。 対面の佐藤さんたちはすっかり復調されたようで、主従共に自信に溢れた不敵な笑顔です。 『勝負はとうとう最終局面です! 一本目のバトル勝負ではロゼさんの勝利! 続く二本目では犬子さんが暗算勝負を提案し、見事これを勝利! 決着は三本目に持ち込まれることとなりましたー! さあ、この接戦を制するのは果たしてどちらか?!』 おおおおおおおお! と怒号のような沸きを見せるギャラリーの皆様。 『さてそれで肝心の三本目の勝負なのですが、どんな勝負にしましょうか?』 そこで、すっとマスターさんが挙手します。 「それについて、僕から提案があるのですが、よろしいでしょうか?」 『とのことですが、いかがでしょう佐藤君?』 「……とりあえず、言ってみな」 佐藤さんは、鷹揚に頷きました。そのお顔には、どんな勝負になっても自分たちは負けないという自信に溢れています。結構なことでございます。 が、その自信が命取りです、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。 「ありがとうございます。今までは武装神姫同士を競わせていたわけですが、三本目は趣向を変えて、どちらがより良いオーナーかを比較してみてはいかがでしょうか?」 意表をつかれたらしく、へえ、と佐藤さんが興味深そうなお顔になりました。 「どうするんだ? 装備のチューンナップの腕でも競うのか?」 「それでも構いませんが、もっと手っ取り早く済む方法がありますよ」 さすがはマスターさん。実際に行われたら確実に敗北する提案を、ごく自然にさりげなくスルーされました。 「へえ、どんな?」 「はい、それはですね」 マスターさんが笑顔で頷きます。 ……仏ではなく、悪魔の方で。 「当事者の方に、お聞きしてみるのですよ」 <その14> <その16> <目次>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/11.html
小さな冷たい鉄の塊を、ドアノブに差し込む。 がちゃり、と軋んだ音がする。 家の中は、暗い。 広さが重く押しかかる。 誰もいない家。わたし以外、誰もいない。 お父さんもお母さんも仕事でいない。帰ってくるのは夜遅く。 だから、私はひとりぼっち。 小学校でも、家でも、どこでも。世界でひとりぼっち。 テレビをつける。 テレビの光が、部屋を照らす。 流れてくる番組は、小さなロボットが戦うおはなし。武装神姫、といっただろうか。 クラスの子が自慢していたのを覚えている。 私には到底買えそうにない、高価なおもちゃだった。 テレビの中で、女の子とロボットが笑顔で話をしている。 ――――無性に、腹が立って。 わたしは、テーブルの上においてあった花瓶をテレビに投げつけた。 くだらない。 つまらない。 なにが、ともだちだ。ロボットのともだち? ふざけてる。 そんなもの――――どうやったって、わたしにはこないのに。てにいれられないのに。 「そんなことないさ」 「!?」 わたしは驚いて振り向く。誰もいないはずなのに。 そこには、黒い服をきた男の人がいた。 泥棒? いそいで警察に―――― 「おっと、怪しいものじゃない――といっても説得力がないかな。 でも、君に危害を加えるつもりはないよ。 君にお友達をプレゼントしにきただけのお兄さんさ。 そう、僕が何者かなんてそれこそ無価値だ。大切なのは――――」 その人は、手に持った箱をテーブルに置く。 武装神姫のバッケージ。 「君のために、ここに君の友達を連れてきたということだけ」 箱が開く。 その中にいた小さな天使が目を開ける。 かわいらしく、美しく、可憐な、天使。 「おはよう。あなたが、私のマスター?」 天使が私を見る。 違う。 マスターなんかじゃない。 わたしは―――― 「いいえ…ともだち。わたしの、ともだちになって」 わたしは。 この天使に魅入られたかのように近づく。 そう、そうなんだ。天使が来てくれた。 わたしはもう――――ひとりじゃない。 少女と天使の出会いを、男は祝福する。 おめでとう、と。もうきみはひとりじゃない、と。 亀裂のような笑みをその顔に軋ませ、男はふたりを祝福する。 その天使は、口元に笑みを浮かべていた。 酷薄な、悪魔のような微笑を。 神姫狩人 第二話 悪魔のような天使の笑顔 武装神姫バトルサービス、小学生の部。 子供たちの「友達」である武装神姫を傷つけて悲しませないために、小学生の部はその大半が電脳仮想空間によるオンラインバトルで行われることが多い。 明日香が今回見物に来ているバトルステージも、その例に漏れずにオンラインバトルであった。 「つまんない」 明日香がデパートの特設巨大モニターを見ながら、頬づえをついてつぶやく。 「そうか? それなりに面白いとは思うが」 「でもねー。いくらリアルに迫っていても所詮は仮想データですよ。 なんというかこう、ぶつかり軋む鉄やプラスチックの音とか、そういう臨場感がっ」 「子供たちの戦いにそんなモノを求めるな頼むから」 「求めてませんよーだ。だからつまらないって言ってるんじゃないですか。 仕事じゃなきゃ、とっとと帰ってます」 「仕事…ね。この子供たちの戦いに、ボクらの仕事があるっていうのか?」 「ええ。次のカード、よく見ててください」 そう明日香が視線でモニターを指す。 天使型MMS『サマエル』 VS 犬型MMS『フェンリルβ』 「ボクと同じアーンヴァルタイプと…ハウリンタイプか。どちらを見ればいい?」 「見てればわかります」 そういっている間に、戦いが開始される。 子供の神姫だけあって、どちらも武装はほぼデフォルトである。基本セットの範囲内、そしてなんとか子供のお年玉や貯金で買える範囲の追加武装。 明日香たちが参加する一般の部の公式戦は、密かに行われる裏の非公式バトルでは間違いなく勝ち進むことは出来ないだろう。 そのはずである。だが―――― 「……明日香、これは」 「ええ、やはりマルコにはわかりますね」 マルコは目を見張る。 確かに武装やスペックは特筆すべきものはない。 あくまで、その単体のみでは。 「あのアーンヴァル…サマエル、といったか……あのチューンナップは」 「ええ。可能範囲内で、機体のシステムを最大限に行かせるチューンですね。 長く神姫にかかわり、よく識らないとあの絶妙な動きはできません。 ほら、あまりの出来のよさに、CGで追いきれてません。まあこれは主催側のミスでしょうが」 そう、確かにフェンリルβよりもその動きは明らかに格上だった。 ヒットアンドウェイの高機動で確実に相手の戦力を削いでいく戦い。 だが―――― 「それがどうしたんだ? 確かに強いが、ボクらが動く理由があるのか」 「ええ。経歴にそぐわぬ強さ。まあこれは、父親が金持ちでカネにあかして、なんていう場合もあるんでしょうけど、彼女の場合は両親共働きのごく一般の家庭。 加えて、家族親戚や交友関係にも、表だった神姫関連企業の影はありません」 「あきらかに不自然すぎる、と…?」 「ええ。そして……彼女と対戦した神姫たちに共通して、不審な行動が後に見られるようになってるんです」 「不審な行動?」 「簡単に言うと、言うことを聞かなくなる。動作不良が激しくなっている傾向が見られているようです」 「ふむ……それは確かに怪しいな。 つまり、その調査、そして調査結果いかんによっては非公式戦による撃破・回収が今回の仕事、か」 「ええ。子供相手ですから、気が進まないんですけどねー」 「確かにな。で、明日香。その彼女の名前は……」 明日香が答えるまでもなく、オペレーターがその名前を読み上げた。 『勝者、サマエルと…「氷雪恋(ひゆき・れん)」!』 「ここが、その子の家か」 夜。明日香の肩でマルコがいう。しかし…… 「さすがに不法侵入は拙いんじゃないのか、その法的とか色々と。正当性というものが」 「仕事という大義名分がありますから」 「だからといって、忍び込んでというのはちょっと」 「ああもう、だったらどうするっていうんですか」 「しっ」 マルコが明日香の口を押さえる。 そして恋の家の扉を指す。すると、ガチャガチャとノブが回り、恋がその姿を現す。肩には、サマエルの姿も見て取れた。 「これは…スシがネタしょってやってきた、ってやつですね」 「かなり違う」 「似たよーなもんです。何はともあれ好都合だとは思いませんかマルコ」 「油断しないように、明日香」 二人は、恋の後を尾ける。もし仮に、この行動がサマエルの秘密に関係あるのなら、何としてでも尻尾を掴まねばならない。 ……まあ、つかめなくてもやることは同じなのかもしれないが。 「デパート…?」 「昼間の、ですね。うーん…このパターンだと、ここの協会支部が丸ごと関わっている…ベタですけどね」 「結論を出すには早いだろう。ともあれ追おう」 「わかってますよ」 二人は恋とサマエルの後を追った。 「しかし……」 夜の無人のデパートというのは、とにかく、 「不気味ですね…なにか出そうです」 「とくに玩具売り場は、昼間と顔が違うな」 人形やぬいぐるみたちが、うつろな瞳で自分たちを見ているような感覚。 「……こんなところ早く出ましょうマルコ。私こういうの苦手なんですよ」 「キミにも苦手なものがあったなんてね。」 「失敬なことを言いますね、まったく。 さて……彼女はどこへ」 「武装神姫ブースの方、か……」 足を進める二人。 棚に並んでいる数々の武装神姫がそこにはある。 まだ起動していない彼女たちは、今はただの人形にすぎず、いや、彼女たちが「生きて」いることを知っている明日香たちから見たら、それはまるで死体が陳列されているかのような不気味さがあった。 「本当に…不気味ですね。早いところあの二人を探して…」 「誰を探してどうするって?」 明日香のつぶやきに、答える声があった。 「誰ですか!?」 「私? 私はサマエル。ずっと私たちを尾けていたのは、あなたたちね?」 その声は、特設モニターの上に腰掛けた神姫から。 くすくすと、鈴のような笑い声を響かせるその天使の姿に、明日香は言いようのない吐き気を覚えた。 「――見破られていましたか。 ええ、でもある意味手っ取り早いですね。 あなた達には不審な点が数多く見られます。おとなしく全てを吐いてくれれば悪いようにはしませんが」 「へぇ。じゃあ、吐かないって言ったら?」 「力づくで」 明日香の言葉に、マルコが翼を展開して宙に舞う。 「へぇ、やる気なんだ。 ねぇ、ならやっちゃってもいいよね、恋!?」 サマエルが笑う。その声に、モニターの下に立つ少女が、虚ろな笑顔で答える。 「うん。好きにしていいよ、サマエル…」 「ふふ、ありがとう、マイマスター」 サマエルもプロペラントタンクに火をつけ、飛翔する。 ――――おかしい。 違和感。明日香は恋の表情になにか、言いようのないものを感じる。 違和感はそれだけではない。 先ほどの吐き気。厭な空気。軋む空気。このデパート、玩具売り場に足を踏み入れてからの言いようのない視線。 何かが――おかしい。 「はあああっ!!」 その違和感をよそに、マルコはビームソードを抜き、斬りかかる。 サマエルもまた、ビームソードでその剣戟を受ける。 同型の天使同士の戦い。 確かに、サマエルは強い。しかしその強さは、あくまでもデフォルト装備に毛の生えた程度の武装、その機能を最大限に活かすチューンナップによって得られたものだ。 マルコのように、レギュレーションの範囲内とはいえ改造に改造を加えた武装神姫とは違う。 現に、サマエルはマルコの高速の剣を受け流すのが精一杯だ。 では、何だ。 何なのだ、この違和感、焦燥感、危機感は。 「マルコ! 早く決着を!」 長引かせては拙い。明日香の勘がそう告げる。 「何を焦っているの、お姉さん?」 恋が明日香に声をかける。 「せっかくなんだもん、もっと楽しみましょう。時間をかけて、ゆっくり、たっぷり、みんなで、楽しく」 歌うような語りかけ。 いけない。何かが――――拙い。 「あなた、自分が何をしているか、わかってるの…!?」 「うん。お友達が出来たから。サマエルが、つれてきてくれるの、お友達を。 私はもう一人じゃない。一人なんかじゃないの」 「? 何、を……」 つれてくる? 何の話だ。 明日香はふいに思い当たる。 サマエルの対戦相手のMMSの動作不良。 オーナーの言うことを聞かなくなる。命令無視。命令無視? 違う。まさか。 聞かなくなるのじゃない、もし、仮に。 『他の誰かの命令を聞く』のだとしたら―――――― 「だから。私はもう、ひとりじゃない。こんなに、友達がいるの」 瞬間、明日香は理解した。 先ほどからの違和感。視線、気配の正体を。 恋とサマエルを見守り、明日香とマルコを監視していた―――― 無数の武装神姫。 「マルコ! 逃げなさいっ!!」 明日香が叫ぶ。だが、間に合わない。 マルコの背をハウリンタイプの砲撃が襲う。フェンリルβ。昼間、サマエルと戦った神姫だ。 「ぐあっ!」 続いて、何体ものアーンヴァルが襲い掛かる。砲撃で体勢を崩したマルコは避けることができず、手足をアーンヴァルたちに捕らえられる。 くすくす。 くすくす。 くすくす。 くすくす。 笑い声が木霊する。 「な、なんだ、これは……っ!?」 マルコが叫ぶ。何体もの同型MMSに羽交い絞めにされ、動けない。 「マルコっ!」 明日香が走る。もうこんなのはバトルではない。非公式バトルとはいえど、これは明らかに武装神姫の戦いより逸脱している。 なんとかマルコを助けようとし―――― 「うあっ!?」 足に激痛。明日香はそのまま勢いを殺せずに倒れる。 そこには、ストラーフタイプが明日香の足に剣を突き立てていた。 「痛っ…! こ、このぉっ!」 力任せに振り払う。だが、MMSはその数を増やすばかり。 「どう? 私の友達。サマエルがつれてきてくれた、わたしのおともだち」 「あなた……!」 「そして、お姉さん、あなたも、お友達になろう?」 恋が笑う。明日香は気づいた、そう、とっくにこの少女は正気を失っている。 おそらくは、操られているこの武装神姫たちと、同じように。 「くすくすくすくす。そうよ、ご名答。でもね勘違いしないで。恋が自分で望んだの」 サマエルが、明日香を見下ろして笑う。 「……あなたはっ! この子たちに、何をしたっ!!」 「ねぇ、知ってる? AIの共鳴現象って」 聞いたことはある。 先日、とある神姫が感情を暴走させた。そしてそのバグは、周囲の神姫の感情回路にも影響を及ぼしたという。 ――――まさか。 「そう、そのまさか。 私はね、大して強くもないわ。だけど、AIの電気信号を増幅して共鳴させて、ほかの子たちを操ることが出来るの。 共鳴現象を自動的に引き起こして操作する。 そしてね、人間にも応用できるの。だってそうでしょう? 人間の思考や感情も、つきつめていけば脳内で複雑にあまれた電気信号なんですから。 だから、私の声で、私の歌で、干渉できる」 「さっきからの吐き気や違和感の正体は――っ」 「ええ、私からの電波干渉。 あなたみたいに鈍くて意地汚い人間には効き目なんてあまりないけど、それでも恋みたいな素直な子には、よく効くの」 「サマエル…っ! あなた、自分が何をしてるかっ!」 「ええ、わかっているわ。だから何? 私はね、そのために生まれた武装神姫。 だから、やらなきゃいけない事を自分の意思でやるだけよ。 そしてね、もうすぐあなたの神姫も、私の友達になるわ」 「…! マルコっ!」 明日香がマルコへと叫ぶ。 マルコは、たくさんの神姫に囲まれ、押さえつけながら、必死に耐えていた。 洗脳。干渉。侵食されるAI。共鳴するココロ。増幅される憧憬。消されていく想い。 サマエルの声が。マルコに浸透していく。 「私の名前は、サマエル。神の毒と呼ばれる天使の名前。 私の毒は甘美でしょう? 一度味わえば、抗いたくなくなるほどに。 そうしてあなたも私たちの友達になるの。恋が、新しいマスターがあなたをかわいがってくれるわ。 そう、だから考えることはやめましょう? そして何もかもを投げ出して、楽になるの」 ――――――――――――――い。 ――――――――――――さ、い。 「さあ、私の声を聞いて、そして――」 うるさい。 黙れ。 これ以上、ボクを汚すな。ボクを踏み躙るな。 痛い。苦しい。消えてしまう。ボクの今までがなくなっていく。 掴むから苦しい。なら手放せば楽になれる――? それこそ、ふざけるな! 「黙れぇぇぇっ!」 マルコが絶叫する。 「何もかも忘れて楽になる? ふざけるな。 明日香のことを忘れて、楽になるぐらいなら――――!!」 手に力が入る。ビームソードに再び光が灯る。 「煉獄の苦痛の方が、億倍もマシだっ!!」 光の氷柱。シャイニングアイシクル。神姫ハンター用の装備として用意された、回収対象のAIを強制シャットダウさせるための電磁兵器。 それを、マルコは、自らに突き立てた。 「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」 放電。紫電が疾しる。 「マルコーっ!!」 その電撃に、周囲を囲っていた神姫が弾き飛ばされる。 「馬鹿な、自殺を選んだっていうの!?」 サマエルが空中で体勢を立て直す。 だが、マルコは――肩で息をしながら、全身をバチバチと放電させながら、それでも立っていた。 「何――!?」 そう。 サマエルが電気信号によってAIを狂わせ、支配下に置くのなら。 それ以上の電気によって、その電気の毒を洗い流せばいい。簡単なことだ。 「マルコ、あなた…!」 明日香が叫ぶ。そう、言葉では簡単なことだ。だがそれを実行に移すとなると―――― 「…まったく、本当に痛いな…ああ、すごく痛い。ボクとしたことが、今にも泣き出したくなるぐらいに…… でも。 とても、いい気分だ」 シャイニングアイシクルの出力を調整。 AIをシャットダウンさせるかさせないかのギリギリのパワーの、超圧電流。 それを自分に叩き込み、気付けにする。言うは簡単だ。だが、その苦痛はいかほどのものか。 「――――狂ってる。あなた、正気!?」 「…お前には言われたくないな。 ああ、確かに狂ってるかもしれないさ。何故ならばね、教えてやるよ」 わき腹に突き立ったビームソードを引き抜く。オイルの血が流れ出る。それをものともせずにマルコは剣を構えた。 「神の毒、と言ったな、お前は。天使の名からとったのか。 ああ、ボクの名前も天使から由来している。 だからね、狂っているのは当然かもしれないさ。何故なら、ボクの名の由来は――――」 飛ぶ。剣を振るう。サマエルは反応できない。サマエルの右腕が薙がれ、落ちる。 「第七座天使(ソロウンズ)にして、堕天使、マルコシアス。それがボクの名の由来さ。 堕天使、つまり悪魔といっても同じだ。ほら、ならば確かに狂っていると言われても仕方がない!」 返す刃で、サマエルの片翼を切り落とす。 「きゃああっ!!」 「――だがな。それでもなお、捨てられぬ正義がある。 天より堕とされ狂気に沈もうとも、決して穢れないものがある。 ――――お前は、それに踏み入った。 ああ、初めてだよ、サマエル。 初めてボクは、明確な殺意を抱いている」 そう、許せない。 自分たちだけではない。 子供たちとの、オーナーと神姫の心の繋がりを、この敵は踏み躙ってきた。 毒で心を殺し、操り人形にしてきた。 怒りだ。 その怒りが、激痛に耐えさせた。最後のところで自らを保たせた。 「武装神姫は、人と共に在る。そのためにボクらは生まれた――」 「ひ、ひいっ…!?」 地に落ち這い蹲りながら、サマエルは怯える。 なんだこれは。 今まで感じたことのない感情があふれてくる。 これは――――恐怖。そして絶望。 「お前は。けっして汚してはいけない聖域を。土足で踏み躙った――――!!!!!」 「れ、恋っ! 助けなさい、私の盾にっ!!」 サマエルが絶叫する。 その叫びに恋は、自らの体を盾にする。 だが。 「っ、くそぉっ――――!!」 痛む足に鞭を打ち、明日香が跳んだ。恋の体を突き飛ばすように抱きかかえ、そのまま転がる。 万策尽きた。 サマエルは絶望する。何故だ。何故こうなった。 こんなはずじゃなかったのに。 こんなはずじゃ―――――― 「サァマエェェエエエエル!!!!」 マルコが叫ぶ。 最後の全身全霊のエネルギー。 リミッターをカットし、最大最強出力のシャイニングアイシクルを展開する。 「貴様の罪! 地獄で――――神姫たちに詫び続けろぉっ!!!!!」 飛翔。 流星のようなその輝く一撃。サマエルによけるすべはなく、ましてや、よける意思ももはやない。 何故ならば、ここにきてサマエルはようやく悟ったから。 自分は――――決して、侵してはならない領域に触れてしまったのだと。 そして。 悔恨と恐怖の中、サマエルは砕け散った。 「あれで、よかったのか?」 デパートを後に、マルコは言う。すでに自分で飛ぶ力も何も残っていないので、明日香の肩に腰掛けて体を預けている。 「いいんですよ、これで」 明日香は言う。 サマエルが破壊された後、恋の取り乱しようはなかった。 砕けた破片に泣きすがる恋。 「なんで…どうしてっ、ともだちだったのに…私には、もう、この子しか…っ!」 それを、明日香は平然と、 「自業自得です。言っておくけど、謝ったりはしませんから。悪いのはそっちですからねー」 と言い放った。 「明日香…っ!」 「なんですかマルコ。事実でしょうがー。さて、いいことを教えてあげましょうか、恋ちゃん。 私たちは、公式のバトルにも参加してます。 悔しかったら、お金を稼いで、神姫を新しく買って、自分の実力で私たちを倒してみせなさい。 ま、できたらの話ですけどねー」 ほほほ、と笑う明日香。そして振り返らずにその場を去る。 「…せない…」 その背中に、恋が怒りの言葉を投げかける。 「絶対に、許せない! 私は、必ず…っ! 必ずっ!!」 「ま、こんな商売してたら嫌われるのは日常茶飯事。どってことないですよー、ほほほ」 「……下手な慰めの言葉は、相手を傷つけ貶める」 マルコのつぶやきに、明日香は笑いを止める。 「怒りであれ憎しみであれ、前向きに歩くための活力は必要、か」 「…何か、言いたそーですね、マルコ」 「別に。ボクのマスターはとことんまで捻くれているへそ曲がりだな、と思っただけさ」 そう、自分が憎まれることで、あの少女が立ち上がれるのならそれでいい。 すでにあのMSSによる洗脳と思考操作は解けている、ならば……あとは、自分の足で立ち上がり、進めるだろう。 その原動力が、自分への怒りだとしても、それでも、何もせずに後悔と絶望に沈んだままよりはよほどいい。 しかし、それでも…… 「癪ですね」 「何が」 「そーいう、見透かしたツラがです。いかにもお見通しですよー、みたいな」 「明日香、キミは判りやすいからね。ポーカーだって弱いし」 「関係ないでしょう!」 「さてね、どうだか。まあいいよ、今日はボクは疲れた。そろそろエネルギーが本気でカラになるから、寝る」 「…寝ている間に油性ペンで落書きしてやりましょうかね、こいつは……」 拳を振るわせる明日香。しかしマルコからの返答はない。 見ると。 「くー…すー…」 マルコは、明日香の肩で安らかな寝息を立てていた。 「――まったく。寝顔だけは、かわいい女の子なんですけどね」 指で、マルコの頬をなでる。 「……お疲れ様でした、マルコ」 「そう、本当にお疲れ様。いいデータがとれたよ」 デパートの監視カメラを眺めていた男が笑う。 亀裂のような笑みを顔に軋ませながら。 少女にサマエルを与えた男。彼は歌うように、慈しむように、賛辞の言葉を投げかける。 「だけど、まだまだ始まったばかりさ。いや、まだ始まってすらいないのかもしれないね。 なにはともあれ、今はただ一時の幕間を休むがいいさ。 神姫たちのワルツは、これから開幕するのだから――――」 男は笑う。男は哂う。男は哄う。 これから繰り広げられる姫たちの戦いに思いを馳せ、ただ滑稽に、道化は笑う。 その悪意もまた、彼女たちの輝きの前では「無価値」なればこそ。 男は演出する。 戦いの舞台を。 全ては――――未だ鳴らぬ、開幕のベルを待つばかり。 続く
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2103.html
ウサギのナミダ ACT 0-1 □ あいつと初めて会った日のことは、いまでも覚えている。 あれは師走の寒い晩のこと。 冷たい雨がしとしとと降り続ける夜だった。 全く俺らしくない考えだが、信じている。 あれは運命の出会いだった、と。 大学の仲間と飲んだあと、アパートに戻る帰り道。 俺は一人、雨の中を歩いていた。 あまりたくさん飲んだわけでもないので、少しほろ酔いだった。 気心知れた連中との飲み会だったので、無理な酒を飲まされないのはありがたい。 いつもよりも遅い帰り、近道をすべく、繁華街の裏道を歩く。 いかがわしい店もならぶところだが、そこはそれなりに田舎だから、それほど危険を感じない。 まして冷たい雨が落ちている夜はなおさらである。 冬の雨の冷たさに、酔いに火照った身体は徐々に冷え始めている。 息が白い。 寒さで頭が冴え始めているのを感じながら、俺は少し足を早めた。 そのときだ。 左奥の路地から、息を切らした太った男が飛び出してきた。 この雨にも関わらず、傘をさしていない。 男は、一度左右を見渡すと、 「ちぃっ!」 舌打ちをして、手に持っていたモノを、電柱に叩きつけた。電柱に激突したそれは、下に置かれていたゴミの山に落ちた。 「お、おまえのせいで……何でボクがこんな目に……」 とかなんとか呟いていたようだが、よく聞こえなかった。 男は俺に注意を払うこともなく、俺が進む道の奥へと駈けだしていった。 いつもの俺なら、そんなアブナイ行動をしている男など無視していたし、その男が捨てたモノに注意も払わなかったろう。 だが、そのときは知らず酒が回っていたのだろうか。 俺はそのゴミ置き場をながめつつ、通り過ぎようとした。 パタパタと雨をはじくポリ袋の上から、小さなうめき声が聞こえてきた。 女の声だ。 俺の頭に、奇妙な確信が浮かぶ。 さっきの、太った男が捨てたモノ。 それはきっと……アレにちがいない。 俺が今、一番興味を持っているもの。 俺は見るともなしに、ゴミ置き場をのぞき込む。 はたしてそこには、一人の少女が、目を閉じてうめいていた。 少女と言っても、人間じゃない。 神姫だ。15cmのフィギュアロボ。 彼女は、力無く四肢を投げ出し、弱々しくうめいている。 いったい何のタイプだろうか? 裏道の街灯は薄暗くてよくわからない。 ただ、少し苦しげな表情のその顔は、マスモデルにはないタイプで……可憐だった。 俺はそっと彼女をすくい上げると、ポケットからハンカチを取り出してくるんだ。 神姫はなんの反応もなく、ただ時々小さくうめくばかりだ。 俺はそっとカバンに入れようと思ったが、先ほどの路地から激しい靴音が聞こえてきて、思わずハンカチにくるんだ神姫をジャンパーの内ポケットにつっこんだ。 路地から飛び出してきたのは、数人の男だった。 やっぱり傘はさしていない。 男たちは派手なスーツを着ており、一目でそれっぽい職業だとわかる。 彼らはきょろきょろと辺りを見回す。一人が俺に近づいてきた。 「なあ、ちょっと尋ねるが……」 「な、なんですか?」 あえてうわずった口調で答える俺。 「ここに、太った黒縁メガネの男が走ってこなかったか?」 「……それならいまさっき、あっちに……」 俺はさっきの男が走り去った方の道を指さした。 「そうか、ありがとよ。……おい!」 俺に話しかけた男は、仲間たちに指示をとばす。 俺が指さした方の道に複数のグループを行かせ、俺の来た方向と、右手の路地に一人ずつ行かせた。 なかなかに組織だった動きだ。 男たちはもう、俺には目もくれなかった。 俺は念のため、太った男が走っていった道は使わず、右手の路地に入って、いったん大通りに出る。 アパートまでは少し遠回りになるが、人混みに紛れ込める。連中と関わらなくてすむだろう。 太った男とスーツ姿の男たちのもめ事の原因は、明らかに俺のジャンパーの内ポケットに入っている。 何があったかは知らないが、余計な揉め事には巻き込まれたくない。 たとえその原因を俺が持っているのだとしても。 もう、先ほどの神姫を手放す気にはなれなかった。 こういうのも、運命の出会いというのだろうか? いままで、たくさんの武装神姫の製品を見てきたけれど、いまほど胸が高鳴ることはなかった。 ずっと探していた。そして今夜見つけたのだ。 ただ一人、俺が夢中になれる神姫を。 冬の雨の寒さを忘れてしまうほど、俺は胸を高鳴らせ、アパートへの帰り道を急いだ。 俺の名前は遠野貴樹。 理工系の大学に通う学生だ。 武装神姫には前から興味があった。 高校時代からの友人の一人が、神姫にどっぷりとハマっている。 そいつと神姫の仲の良さを見るにつけ、他の仲間たちはからかいながらも少しうらやましく、興味深く見ていた。 俺も例外ではなかった。 仲間の数人は、もう武装神姫を始めている。 俺も始めようと思い立ったのは仲間内でも早い方だったが、いまや神姫のマスターでない仲間の方が少なくなった。 なぜ俺が武装神姫を始めなかったのか。 いなかったのだ。気に入った神姫が。 あちこちの神姫ショップも回ったし、新製品が発表になるショーにも足を運んだし、定期的にネットオークションもチェックしている。 それでも、俺がパートナーにしたいと思う神姫はいなかったのだった。 アパートに帰った俺は、カバンをおろすと、上着に付いた雨粒を落とすのももどかしく、ジャンパーの上着からハンカチに包まれた神姫を取り出した。 テーブルの上にそっと横たえ、ハンカチを開いてみる。 そこには、ほっそりとした少女の裸身があった。 あわてて目をそらしたが、すぐに目は神姫に釘付けになった。 俺がいままで見た神姫とは、明らかに違う。間接部が皮膚に覆われていて、やたらと人間らしく見える。 顔はやはり既製品の物ではない。カスタムだろうか? 少し幼い感じの顔立ちが、いまは疲れきったような表情で、静かに目を閉じている。 頭にはウサギの耳らしき意匠……つまりこの神姫はバニーガールなのだろうか。 そして、なにより俺の目を離さないのは、ねじくれたように折れている手足だった。 まともなのは右腕だけで、左腕と両脚は間接ではないところで不自然に曲がっていた。 いま、この神姫は死んだように動かない。 本当に死んでしまったのではないだろうか? もう二度と動かないのではないだろうか? 冗談じゃない。 やっと自分がほしいと思った神姫に出会えたというのに! そのときのあわてふためきぶりは、他人に見られなくてよかったと思う。 いつも冷静沈着でうっている俺のキャラとあきらかに違っていた。 俺は乱暴に携帯電話を取り出すと、アドレス帳を呼び出すキー入力すらもどかしく、一人の友人の電話番号を呼び出した。 電話をかける。えらく長く感じたコール三回で相手が出た。 『はい、海藤で』 「海藤か!? 聞きたいことがある!」 海藤曰く、このときの電話は俺だとは一瞬信じられなかったそうだ。 だが、人のいい海藤は、一方的に用件をまくし立てる俺に対して、丁寧に受け答えしてくれた。 海藤仁は、仲間内で一番武装神姫に詳しい奴だ。 さきほど神姫を拾った旨と現在の状況をかいつまんで説明し、どうすればいいのかと俺は聞いた。 『ああ、それは単なるバッテリー切れじゃないかな、たぶん』 「バッテリー? そうか、なら、充電するにはどうすればいい?」 『神姫用のクレイドルを使うんだ』 こんな基本的な質問をしているあたり、俺がいかにあわてていたかの証明である。 「どこかで売ってるか? ……バラで」 『各社からいろんなのが出てるよ。神姫扱ってるところなら、たいがい売ってるね』 時計を見る。午後8時半。 自転車をとばせば、最寄りの家電量販店の閉店前に間に合うはずだ。 「わかった。これからクレイドル買ってくる。また連絡する」 それだけ言い放って、俺は電話を切った。 そのまま玄関へ向かう。 まだ俺は帰ってきたときのまま、ジャンパーすら脱いでいなかった。 外は雨。 それでも俺は自転車の鍵を手にすると、アパートを出た。 傘をさしながらの自転車の夜間運転。 正直、自殺行為だ。 だが、そのときの俺は何かすごい衝動につき動かされ、とにかく、あの神姫を動かすことが一番大事なことだと思っていた。 俺は降りしきる雨の中、ペダルをこぎだした。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/comic8/pages/1307.html
素敵探偵☆ラビリンスをお気に入りに追加 情報1課 <素敵探偵☆ラビリンス> #bf 外部リンク課 <素敵探偵☆ラビリンス> ウィキペディア(Wikipedia) - 素敵探偵☆ラビリンス Amazon.co.jp ウィジェット 保存課 <素敵探偵☆ラビリンス> 使い方 サイト名 URL 情報2課 <素敵探偵☆ラビリンス> #blogsearch2 成分解析課 <素敵探偵☆ラビリンス> 素敵探偵☆ラビリンスの88%はカテキンで出来ています。素敵探偵☆ラビリンスの9%は野望で出来ています。素敵探偵☆ラビリンスの2%は世の無常さで出来ています。素敵探偵☆ラビリンスの1%は柳の樹皮で出来ています。 報道課 <素敵探偵☆ラビリンス> 「素敵探偵ラビリンス」キャラクターソングベスト盤、堂々発売! - エキサイト ニュース 情報3課 <素敵探偵☆ラビリンス> #technorati マンガとは マンガの33%は厳しさで出来ています。マンガの30%はカルシウムで出来ています。マンガの25%は元気玉で出来ています。マンガの9%は毒物で出来ています。マンガの1%は月の光で出来ています。マンガの1%は毒電波で出来ています。マンガの1%は魂の炎で出来ています。 28589.jpg?_ex=300x300 s=2 r=1 ヨスガノソラ 春日野 穹 -すくみず 楽天売れ筋ランキング レディースファッション・靴 メンズファッション・靴 バッグ・小物・ブランド雑貨 インナー・下着・ナイトウエア ジュエリー・腕時計 食品 スイーツ 水・ソフトドリンク ビール・洋酒 日本酒・焼酎 パソコン・周辺機器 家電・AV・カメラ インテリア・寝具・収納 キッチン・日用品雑貨・文具 ダイエット・健康 医薬品・コンタクト・介護 美容・コスメ・香水 スポーツ・アウトドア 花・ガーデン・DIY おもちゃ・ホビー・ゲーム CD・DVD・楽器 車用品・バイク用品 ペット・ペットグッズ キッズ・ベビー・マタニティ 本・雑誌・コミック ゴルフ総合 ページ先頭へ 素敵探偵☆ラビリンス このサイトについて 当サイトは漫画のタイトル毎にインターネット上の情報を時系列に網羅したリンク集のようなものです。ページをブックマークしておけば、ほぼ毎日その漫画のタイトルに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/48.html
「昼下がりの情事ヤマモト」の巻 ある休日の朝、俺は部屋で好きな音楽を聴きながら 新聞を読んでいた。すると、こんな記事が目に飛び込んだ。 「武装神姫違法改造グループ逮捕」 ○月○日、警視庁は東京都ネオ歌舞伎町の雑居ビル内で、 武装神姫の素体を違法改造していたグループを検挙し、グループの リーダーである○○××(35)他6名を逮捕した。 ○○らは、武装神姫のボディ、AIなどに不正な改造を施し、 通常では育成不可能な『愛玩用素体』としてネット上で販売、 数千万円の利益を得ていた疑い。 警視庁では、こういった不正改造に対し、徹底的に取り締まる方針を 発表した。 俺「ふーん…"愛玩用"…ね。」 ふと目をやると、俺と一緒に住んでいる3人のMMS、イヌ型のヴェル、 ネコ型のジャロ、悪魔型のノワルが、先日買ったMMSハウスで遊んでいる。 無邪気なものだ。 (愛玩用………………どんななんだろう……………) ――――――――――――――――――――――――――――――――― ぺちゃ… ぺちゃ… ??「はぁ…はぁ…」 総ピンク色の部屋の中、何故か俺は全裸でベッドに座っている。 ノワル「ん…んむ…くちゅ…」 ヴェル「はぁ…んくっ…ま…マスター…気持ちいいですか…?」 ジャロ「んぅ…マスターの…すっごく熱いのだ…はぅ…」 3人は俺の一物にすがりながら、愛おしそうに舐め続ける。 俺「どうした…そんなじゃ俺は満足させられないぞ…?」 ヴェル「はぃ…では…これでいかかでしょう…みんな…?」 ヴェルがそう言うと、各々裏スジ、亀頭、竿を同時に舐め始める。 普通では体験できない「3点責め」である。 時々その小さな口で甘噛みまでしてくるのだからたまらない。 俺「よし…イイぞ…お前等のアソコはどうなってる…」 ヴェル「ひゃぁぅっ!!だ…ダメです…そこは…感じちゃ…やぁっ…!!」 ジャロ「はうぅ…熱いよ…アソコが熱いよぉ…!!」 俺「よし…4人同時にイクぞ…ぐぅぅぅっ!!!」 俺は己の剛直から、ありったけの精を吐き出す。 3人「「「はぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ…………ぁ」」」 火山の様に吹き出る白濁液にまみれ、恍惚の表情で倒れる3人。 俺「はぁ…はぁ…よく出来たぞ3人とも…。次は本番だ…!!!」 3人「「「はぃ……マスタぁ………」」」 ―――――――――――――――――――――――――――――――― って!!! 俺「うっがぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!」 3人「「「!!!???」」」 その場で頭を抱えながらのたうち転がる俺。 ヴェル「ど…どーしたんですかマスター!?」 そう言って駆け寄るヴェル。 俺「来るな!来ないでくれぇぇぇぇぇ!!」 脳内を縦横無尽に駆けめぐる妄想と戦いながら精子…いや制止する俺。 ジャロ「どうしたのだ?マスターヘンなのだ!!」 ノワル「ねぇマスター、本当に大丈ぶ…」 俺「だいじょ――――――――――ぶだから!! ぁ全然だいじょ――――ぶだから!!今は近づかないでくれ!頼む!!」 いかん…非常にいかん…彼女たちの心配する声だけでもおかしくなって しまいそうだ…!!ならば!! 俺「じゃ…ジャロぉぉぉぉぉ!!!」 ジャロ「…は、はいなのだ!!」 俺「両手に『ファンピー』を装備!!…それで俺を…思いっきりぶん殴れ!!」 ジャロ「そ…そんなことできないの…」 俺「い い か ら な ぐ れ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ !!」 ジャロ「わ…わかったのだ―――――――――――――!!!」 ご が わ し っ ! 俺「のごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉを!!」 壁まで吹っ飛ぶ俺。 ヴェル「ま…マスター!!」 ノワル「ちょ…大丈夫マスター!!生きてる?生きてる!?」 ジャロ「びぇ~ん!!マスターなぐっちゃったよぉ~!!」 心配する2人、大泣きするジャロ。 俺「ジャロ…GJ…。」 薄れゆく意識の中、親指を立て、爽やかな笑顔で、俺はしばしの眠りについた…。 めでたしめでたし。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1056.html
第2話 「開始」 チビ悪魔と暮らす事を決めた次の日。 まずはブソーシンキ…「武装神姫」について無知極まる俺に対するお勉強から始まった。 チビ悪魔の長ったらしい説明をかいつまんで話すと、武装神姫ってのは「EDEN-PLASTICS」っていうバカデカい多国籍企業が去年……つまり2036年に発売してから爆発的な大ブームになったオモチャのこと。 しかしたかがオモチャと侮るなかれ、そのシェアはいまやとんでもない規模らしい。 このチビ悪魔を作った「島田重工」は元々航空機用だの工業用ロボットだのの製造で有名な大会社だし、他にも国内有数の製鉄会社「篠房製鉄」や世界的トップデザイナーが起業した「GOLIフューチャーデザイン」、トドメにゃヨーロッパ系軍事産業の勇「カサハラ・インダストリアル」までもが参入して、今現在も続々と関連企業は増えているという。 ……正直言ってビックリしたってぇか呆れたね。 世界は平和だ。 で、そういうオフィシャルメーカーから色々発売されている専用パーツはもとより、アンオフィシャルのオモチャさえ流用可能という拡張性の高いカスタマイズ性(チビ悪魔によると『公式アナウンスは出来ないけれど世間では暗黙の了解』だとか)が人気を呼び、さらにはネット上での登録によるイメージカスタマイズやドレスアップコンテスト、神姫同士を戦わせるバトルサービス……なんてのもあるそうだ。 ハイテクな話にはあまり興味もなく、アレコレと関係ない話で混ぜっ返しながら聞く俺に、根気よく話してくれたチビ悪魔の根性はたいしたモンだった。 話が一段落したあたりで、オレンジジュースを一口。 俺は百均で買った紙コップ(後で洗うのがめんどくさいから)だが、コイツには手ごろなサイズのコップなんか無いんで、ペットボトルのキャップだ。 んくんく、と器用にジュースを飲んでいる悪魔を見て、ふと思いついた事を口にしてみる。 「それにしても、お前って悪魔タイプなのに礼儀正しい喋り方だよな。 神姫ってみんなそうなの?」 「いえ、出荷時にランダム設定されますので、性格は個体ごとに違います。 無邪気な子や大人しい子、元気な子、悪戯が好きな子、オシャレが好きな子、バトルが好きな子、嫌いな子……様々です」 「ふーん。 で、お前はどんな性格なワケ?」 えっ、と一瞬口篭もったあと、おずおずとこっちを見上げてきた。 「……あの、笑いませんか?」 「んにゃ、別に」 「……その……バトルに興味が……」 「へー意外」 「笑わないって約束したじゃないですかぁ!」 「いや笑ってない笑ってない。 なんか掃除とか洗濯とかのお世話関係が好きそうかなーって思ってただけで」 「そういうのも嫌いじゃないです……というか好きですけど、『特訓』とか『パワーアップ』という言葉には憧れがあります」 …つくづく意外だ。 いや、「実は好戦的」ってのは悪魔らしいというべきなのかね?
https://w.atwiki.jp/nekokonomasuta/pages/10.html
【武装神姫 MMS,Type KNIGHT】 【XIPHOS】 「騎士の誇りにかけて!」 陽が照り注ぐ戦場を、蒼き風が駆け抜ける。後に続くは黒き影、それに重なる死屍累々。 長大な槍は地さえも抉り、その斬撃は何物も、介せぬ如きに叩き割る。 臆する物などあるものか! 煌く鎧に込められし、主の思いと共に在る。 我はサイフォス。騎士なれば。 『騎士型MMS サイフォス』 サイフォスは第三弾として紅緒、ツガルと共に発表された武装神姫だ。 第二弾以上の装甲で全身を覆い、重装甲で敵の猛攻に耐えて接近、白兵戦に持ち込み、破壊力のあるランスやブロードソードで一撃の下に叩き斬る戦術を得意とする。一瞬の瞬発力には欠けるものの、特に足回りの性能は高く、派手な剣撃を繰り出しても尚、高い安定性を誇る。 運動性寄りの紅緒に比べ、パワーを重視しているのが特徴。 また軽装鎧と重装鎧の二種類がデフォルトで用意されており、戦況や相性により装備を変更することである程度の柔軟性を得ている。 反面射撃武器はクロスボウのみと貧弱であり、また瞬発力にも欠けるため、正面からの打ち合いを好まない機体に対しての相性は悪い。 【基本能力】 サイフォスは白兵戦闘のプロフェッショナルである。 そのため戦闘基本値に以下の修正を得る。 【射撃基本値】(+1) 【格闘基本値】(+5) 【回避基本値】(+1) 【特殊】白兵戦の【威力】(+1) 射程11~に対する敵射撃【威力】(-1) 【技能】 サイフォスはキャラクター製作時に、以下のリストから技能を3つ習得できる。 また経験を積んでキャラクターレベルが上昇した場合、3で割り切れるレベル(3,6,9,12……)に到達する度、新しい特殊技能をひとつ、修得できる。 サイフォス 技能リスト 《追加HP》 《一斉発射》 《ウェポン習熟》 《緊急回避》 《逃走》 《シールドブロック》 《追加SP》 《反射神経》 《連携攻撃》 《タフネス》 《突撃》 《不死身》 《SP回復》 《捨て身》 《鉄壁》 《パワーアタック》 《回避フォーメーション》 《高速移動フォーメーション》 《集中砲火フォーメーション》 《防御フォーメーション》 【基本性能】 【射撃修正】(±0) 【センサー性能】(±0) 【速度】(5) 【格闘修正】(+1) 【装甲値】 ( 7 ) 【旋回】(3) 【回避修正】(-4) 【HP】 ( 28 ) 【パワー】 ( 7 ) ○サイフォス(重装) 【基本性能】 【射撃修正】(±0) 【センサー性能】(±0) 【速度】(4) 【格闘修正】(±0) 【装甲値】 ( 9 ) 【旋回】(3) 【回避修正】(-8) 【HP】 ( 28 ) 【パワー】 ( 7 ) 【シールド値】 ( 2 ) 【格闘武器】 名称 /威力/格闘補正/使用回数 格闘 / 7(8)/ ±0 / ∞ クリニエール / 8 / +2 / ∞ コルヌ / 10 / -2 / ∞ デファンス(1~2) / 12/ -7 / ∞ 【射撃武器】 名称 /威力/~5/~10/~15/~20/使用回数/間接/連射 ヘック / 9 / -8/ -4/-11/ - / 1M / × / × 【カスタムデータ】 ○サイフォス(軽装) 【部位】 /【CP】/ 【名称】 /【効果】 頭部 / (0)/ / 胸部 / (3)/ ソルダットアルミュール /《HP+6》 《装甲+2》 《格闘+1》 《回避-2》 《パワー+1》 《追加ラック×2》 脚部 / (2)/ チェヴァルボッテ /《HP+2》 《装甲+2》 《回避-2》 背部U / / 武装 / (0)/ コルヌ&デフォンス 計 /( 5 ) ○サイフォス(重装) 【部位】 /【CP】/ 【名称】 /【効果】 頭部 / (0)/ キャヴァリエアルミュール / 胸部 / (3)/ キャヴァリエアルミュール /《HP+6》 《装甲+4》 《回避-6》 《速度-1》 《パワー+1》 《追加ラック×2》 脚部 / (2)/ チェヴァルボッテ /《HP+2》 《装甲+2》 《回避-2》 背部U / 腕部 / (0)/ キャバリエ 武装 / (0)/ コルヌ&デフォンス 計 /( 5 )
https://w.atwiki.jp/busou_bm2/pages/120.html
3Dバトルアクションゲーム『武装神姫 BATTLE MASTERS』及び 続編『武装神姫 BATTLE MASTERS Mk.2』について語るスレです(質問・対戦募集OK) 基本sage進行 荒らしはスルー厳守(触れた時点であなたも荒らし) 次スレは 950が立てる(無理なら代理指名/重複防止のため宣言してから立てる) 《公式》 武装神姫 公式サイト https //www.konami.com/games/busou-shinki/ 武装神姫 公式Twitter https //twitter.com/Busou_Shinki/ 武装神姫 BATTLE MASTERS https //www.konami.com/games/jp/ja/products/site/bs_psp/ 武装神姫 BATTLE MASTERS Mk.2 https //www.konami.com/games/jp/ja/products/site/bs_psp_mk2/ 《攻略Wiki》 武装神姫 BATTLE MASTERS wiki https //w.atwiki.jp/busou_bm/ 武装神姫 BATTLE MASTERS Mk.2 wiki https //w.atwiki.jp/busou_bm2/ 《姉妹スレ》 ■武装神姫 PART741(本スレ) https //mevius.5ch.net/test/read.cgi/toy/1606307495/ 武装神姫 AP BC 2(バトコン専門スレ) https //mevius.5ch.net/test/read.cgi/arc/1604801110/ ■武装神姫_BATTLE_RONDO>>PART_389(バトロン専門スレ) https //medaka.5ch.net/test/read.cgi/mmominor/1383209379/ 《前スレ》 【PSP】武装神姫 BATTLE MASTERS 総合 PART 189 https //krsw.5ch.net/test/read.cgi/handygame/1513344248/ 《アップデート》 Mk.2には修正パッチが配布されているので必ずアップデートしてください 手順はMk.2公式サイトの「アップデートについて」ページを参照 アップデートで新たに発生するバグもあるので攻略Wikiで確認推奨 《よくある質問》 攻略Wikiに掲載してあるのでスレ内での質問の前に覗いてみましょう
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2252.html
≪ねここの飼い方OVA・光と影≫ ねここの飼い方・光と影 ~序章~ ねここの飼い方・光と影 ~一章~ ねここの飼い方・光と影 ~ニ章~ ねここの飼い方・光と影 ~三章~(18禁 ねここの飼い方・光と影 ~四章~ ねここの飼い方・光と影 ~五章~ ねここの飼い方・光と影 ~六章~ 改訂版 ねここの飼い方・光と影 ~七章~ ねここの飼い方・光と影 ~八章~ ねここの飼い方・光と影 ~九章~ ねここの飼い方・光と影 ~十章~ ねここの飼い方・光と影 ~エピローグ~ ねここの飼い方・光と影 ~おまけ~ ○『光と影』は以下の作家さんとリンクしております 凪さん家シリーズ 魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン 僕とティキ? HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 武装神姫のリン トップページへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2643.html
「何を考えているんですか!? 神姫持ってないなんて嘘もついて」 「まあ落ち着きたまえ」 「落ち着けないですよ!……あっちは負けてもここを出ればいいのに、こっちは負けたらヤバい仕事を手伝えって言うんですよ。ハイリスク・ノーリターンじゃないですか……悪条件すぎます」 胸ポケットにいるシオンを垣間見る。不安そうな、心配そうな瞳が映る。 ……そうだ。 シオンはまだ一回も勝てていない。 悲しい現実だけどシオンはバトルで勝てない。 これじゃあ、高い確率でこっちの負けじゃないか。 今から僕があの人に誠心誠意謝って許してもらおうか。それか、説得して君島さん自身にやってもらうしか……。 「長倉君は逃げるのかね」 「それ以前に君島さんが原因でしょ!……僕に非難されるいわれは……」 「長倉君はシオンを治す為になんでもやるのだろ? だったら、キミたちが私の代わりに彼とバトルをするのだ。これは私の……『授業』だ」 「ッ!?……わざとこうなるようにしたんですか。ガラの悪い人に喧嘩を売ったのも、この為ですか」 「ふふ、どうだろうな……」 ああ、絶対この人の思惑通りなんだろうな。だからって、これでどうやってシオンのバトル恐怖症を治すんだよ。 僕がすごく危ない立場になっているだけだ。 「シオン君、ちょっと出てきてくれるかな」 「……えっと、なんですか?」 君島さんがポケットから顔を出したシオンに話しかける。 目と目を合わせあう君島さんとシオン。 「シオン君はオーナーの長倉 螢斗君を……好き……いや、愛してるかね?」 「へ、ちょっと、何を……」 「長倉君は黙ってるのだ」 「……はい」 眼光が鋭くなり何も言えなくなった。 君島さんは、シオンに一体何を聞いているんだよ。 訳が分からなくなってきた。 「私は……この感情が人間の持つ好きや愛かどうかはわかりません。私は神姫ですので。……ですけど、螢斗さんは何よりも誰よりも大切なマスターです」 「……ふむ。まあ、よしとしよう」 でも、君島さんはシオンが答えた言葉にまんざらでもなさそうにしている。 シオンの答えに僕が恥ずかしくなっただけでもあるけど。 「次、長倉 螢斗君」 「え! は、はい」 今度は僕か。 何を聞かれるんだろうか。シオンの事かな。 「それでは……長倉 螢斗君は――」 ほら、それでやっぱり「シオンを愛してるかね?」とか聞くんだ。 僕はシオンを家族として愛してる。 ……それが僕の答えだ。 さあ、どこからでも来い! 「健やかなときも、病めるときも、喜びの時も、悲しみの時も、富めるときも、貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、そのいのちのかぎり、堅く節操を守ることを誓うかね?」 「――誓いま――って!……なんでですか!? いつからここは結婚式になったんですか!? おかしいでしょ!」 「おっと、言い間違えた」 「間違いようがないですよね! セリフ長かったですよね!」 頭が痛くなってきた。この人は物事を真面目にちゃんと進められないのか。 「ゴホン、改めまして。……長倉 螢斗君、シオンは大事かね?」 あれ? なんだ、そんなことか。 そんなことは決まってる。 「大事です」 君島さんの目を真っ直ぐ見詰めて言い返す。 シオンが一番大事に決まっている。 「ふむ。だったら、あのチンピラと神姫バトルでぶつかってくるのだ。そして……勝ってくるのだよ」 「いやいや! 話が繋がっていませんよ。そもそも現実問題、シオンはバトルで一回も勝てたことないんです。不可能なんですよ」 言うと、シオンは悲しそうな顔になる。 うぅ、正論の筈なのに僕の心がすごく痛くなる。 「これまでは軽い試合だった。だから、キミもシオンも本気になりきれないのだよ。背水の陣で挑めば、おのずと勝ちが見えてくるさ」 「……う……はぁーー、わかりました、わかりましたよ。死ぬ気でやれば勝てるかも、と言いたいことはわかりました。……やろう、シオン」 身体をひるがえして、僕はみんなのいる筐体前へと戻ることにする。 もういい、君島さんなんて知らない。 「……でも、大丈夫ですか、危ないお仕事するんですよね?」 「シオンが負けなければいいさ」 「私が……ですけど……」 シオンが不安そうに言う。わかってるさ。だけど、もうどうしようもない。 主に君島さんのせいで決まってしまったけど、謝ってもバトルすることは覆らない。 そんな気がする。 「もし、負けた時は……負けた時に考えるさ」 ―――― 「お、来やがったか。待ちくたびれたぜ」 筐体に寄りかかって、その男は自販機で買ってきたであろう缶コーヒーを飲んでいた。 淳平たちは無事だ。喧嘩っ早い人ではないらしい。 その淳平が僕の傍まで駆け寄ってきた。 「螢斗だいじょうぶかよ、まじで姉御のかわりにやるのか、勝てんのかよー。俺、螢斗いなくても一生懸命生きていくからなー」 「負ける前提になってる!? ……大丈夫。死ぬ気で戦ってみせれば勝てるって君島さんが言ってたから」 「……でもよ~」 「マスター情けない声出さないでください。螢斗さんとシオンはバトルする決意してるんだから、やらせましょうよ。負けたら……マスターもお仕事付き合いましょう」 「えっ!? それはちょっと……」 「マスター」 「はい、そのつもりです!!」 ミスズがオーナーの淳平をいつもの絶対零度のような眼で睨みつけて、言いなりにさせてしまった。 ……人としてそれはどうなの。 「ミスズ、その気持ちだけ受け取っておくよ。負けたら、僕がすべて請け負うさ」 「そんな!? 螢斗さんは優しすぎます」 シオンに聞こえないように、小声で淳平に伝える。 「もしも、負けたらシオンを頼むよ」 「螢斗~……約束はしねーぞ……それでいいなら」 「うん、それでいいよ。ありがとう」 まあ、本当に負けたくはないんだけどさ、一応最悪のケースの為にそういうのは残しとかないとね。 「んじゃ、とっとと、おっぱじめようぜ。準備は済ませといたから、チビはそっちでやれや」 「はい、よろしくお願いします」 「……けっ……ほら、来い」 「…………」 舌打ちのように口から音を出すと、チンピラさんは自分の神姫を手の平に乗せて、缶コーヒーをごみ箱に捨てた後、筐体の向こう側についた。 「勝てる……戦える……勝てる……戦える……」 極度の緊張でシオンが自己暗示のようにブツブツと何か呟いている。 「僕の心配はしないで」 「勝てる……戦える……でも」 「おもいっきり、バトルしてみるんだ。今までの戦績なんて関係ない。バトル恐怖症も関係ない。夢中になって……バトルを楽しむんだ」 「……はい」 まだ緊張はしてるだろうけど、これでなんとかバトルはできるだろう。 僕は自分たちのブースについて、シオンを送り出す。 僕の命運を決める戦いに。 ―――― 周りは一面の砂。砂。砂。 砂漠のステージになっている。遠くの方に崩れて建っている、原形を留めていないビルがあるだけの簡素なステージ。 私はそこに降り立つ。 左手にフェリス・ファング「フェリスガン」と右手に「ぺネトレートクロー・烈」を持ち、構えながら、相手の方を探してみる。 「私が負けたら、螢斗さんが……」 螢斗さんに聞こえないぐらいの小声で独り言を呟く。 私なんかが、螢斗さんの人生を左右するようなバトルをすることになった。 勝てるのだろうか? でも、勝たないと螢斗さんが……。 チゥン! と、私のヘッドパーツ「フロンタルラウンダ―」に何かが掠った。 『マズイ! シオン、前から来てる!』 私の耳に、螢斗さんの声が聞こえ出した。瞬時に私はその場から駆け出す。 足を止めてたら撃たれる! チゥンッ、チゥン、チゥンッ。 相手の人が猛スピードでこちらに向かいながら、手に持った二丁の拳銃を乱射してきている。 移動している私の足元に――追尾するように弾丸が当たってきている。 負け続けてきた私はバトルですっかり逃げ足だけは速くなったみたいだ。 全力で脚部スラスター、背部ブースターを作動させて、右方向に低空でブーストしていく。 相手の方はこちらに、後、数十メートルという所で私よりも、さらに加速し出した。 でも、相手の方は撃つわけでなく、左手の拳銃、厚い銃身で殴りかかってきた。 まったく無駄のない動きだったので、右手に持っていたぺネトレートクロー・烈でガードをするしか手がなかった。 「クゥッ!」 神姫素材で出来た歯を食い縛る。 ガンッ! と重たい音が響き渡る。 相手の方の顔を見る。 左目に眼帯をしているのに、なぜか妙に尖がったサングラスもしているムルメルティア型の方だ。 サングラス越しでもわかるぐらいに、記憶にあるイスカお姉ちゃんよりも顔の表情が動かない。 今もこうして私が力を込めているのに、ムルメルティアの方は、力をまったく入れていないが如く顔のパーツが変わらない。 でも、その堅い表情の口が突然開いた。 「……貴君はどうして戦う?」 「どうしたんですか。武装神姫がバトルすること、戦うことは当然です!」 答えながら、フェリスガンもぶつけ合わせ、相手の方の持つ銃身をはじき返した。 どちらも双方間合いを空ける。 ムルメルティアの方の、無表情の口から透き通るような声が聞こえ始めてきた。 「そうだな。……では、貴君はどうだろうか? バトルが辛そうだ」 「そんなこと……そんなことはわかっています! でも私が勝たないと螢斗さんが……」 「その名が貴君の上官か? よっぽど大切なんだな。武装神姫が自分の上官を大切に思うのは当然。だが……それでも貴君はどうしてバトルができないのかな?」 双銃を擦り合わせ、弄りながら問いかけてくるムルメルティアの方。 「これは私自身の欠陥です……検査しても見つからないようなバグを持っているだけ……です」 『シオン、そう言うなよ』 通信から螢斗さんの物悲しそうな声が聞こえてくる。 こればっかりは私もわからない。武装神姫は普通、バトル拒否なんて起こさない。だったら私自身に問題があるとしか……。 「本当にそうなのだろうか?」 「? ……何を言っているんですか、私にあるとしか。あなたは何か知っているんですか? この拒否反応を」 この方は私が考え付かなかった答えを持っているんだろうか。 「そうだな、バグの問題を考えるとしたらー……貴君の上官が問題かなー? フフフ」 「は……今……なんて……言いました」 突然間延びし出した声を出した相手の方から、私の耳に信じられないような答えが聞こえ始めた。 「だって、それしか考えられない。神姫の自分が言うのもなんだが、武装神姫は世界でも有名になりつつある機械人形だ。そんな簡単にバグは残しちゃあいけない。……だったら考えられるのは……持ち主が雑に扱っているからだ。知らず知らず、貴君はその螢斗という上官によって故障させられているんだ」 ピクッと私の肩のジョイント部分が動いた。 「持ち主の人間が雑に扱おうが、神姫のCSC性格決定によっては従順であることもある。貴君が想っていても、相手の人間はどうだろうか? 嘘を並べて、キミを無理矢理強いらせているのではないだろうか――」 「それ以上、喋らないでください」 『あれ?……ねぇ、シオンどうしたの。聞こえ――プツッ――』 私は普通は切らないオーナーとの通信装置の電源を切った。 相手の方の言うことを鮮明に聞くために。 「――人間は……嘘を平気な顔して喋るからな。武装神姫は少女のような姿をした可愛い人形だ。日本中のどこかを探せば特殊な性癖を持つ上官だっているだろう? そんな神姫たちを老若男女問わず、欲の捌け口にしていることもある。それで後天的にバグが出来てしまった。そんな所だろう。……だいたい、貴君の上官だって――」 「喋るなっ!!!」 ドゴォッ! と相手の頬を武器で思いきり殴った音だ。 私は起動してから初めて“言葉”を荒げた。 間合いなんて関係ない。その場から消えるような速度で、ぺネトレートクロー・烈を相手の顔目掛けて渾身の力で殴りつけた。 CSCが熱い。 怒りという感情が込み上げてきて私はそれに身を任せていく。 ムルメルティアは当たる寸前に身体を後ろに倒し衝撃を和らげていた。 それでも、完全に衝撃を殺しきれず片目を見開きながら数メートルは吹き飛んでいった。軍帽と掛けていたサングラスは左右に飛んでいき砂に埋もれる。 吹き飛びながらも、地面からすぐに仰向け状態から態勢を立て直した。 「い痛ッ……おや、怒ったのかな?」 「言って良いことと悪いことがあります。あなたは私のマスターを侮辱するという最大に悪いことを言いました。だから、私はあなたを――“壊します”」 「……ふ、神姫が神姫を破壊するか。バーチャルだから自分は物理的に壊れはしないのだが。まあいい……来い!」 私は高速で近づきながら連続にフェリスガンを発砲。相手は走りながら距離を空けつつ双銃を撃ってくる。 私は右に左と、ジグザグ飛行、フェイントをも織り交ぜながら弾を避けていく。 さっきまで相手側のスピードの方が速かった気がしたのに、今はこちらの方が圧倒的に――速い。 「うっ……やるな!」 相手も素早い動きを続けていっているが、こちらの銃撃をかわしきれず脚部、肩部と着々と当たっていく。 身体が軽い。相手がよく見える。弾を当てていける。不安、恐怖なんて一切ない。あるのは螢斗さんを侮蔑されたことへの怒りだけ。 ――私はこの神姫を倒す。 私はフェリスガンの基部分を取り外し、リアパーツ「バリスティックブレイズ」の背面キャノンに付くバレルをも外す。 「プレシジョン・バレル、セット」 これがフェリスガン本来の姿。 ライトガンである「フェリスファング」の銃口に「プレシジョン・バレル」を装着することにより、この武装はライフルとなる。 それと予備知識、この「プレシジョン・バレル」元来出回っているものではなく、劣化版だ。なぜなら、バレルにパーツとしてある「カタマランブレード」の刃が付いていないから。 撃つだけなら支障がないからと、前マスター凛奈さんが中古で買ったものということ。こういうのはしっかりしてほしいものだ。 私はぺネトレート・烈を仕舞い込み、両手でプレシジョンライフルを構え相手に狙いを付ける。 「いけぇッ!」 右手はグリップ、左手を細い銃身に添えて、“二回”引き金を引く。 プレシジョンライフルから放たれる銃声が同時かとも錯覚する二発の弾丸。 それは相手の持つ二丁拳銃を狙ったもの。 それが持っている厚い銃身に当たる。二発ともだ。 「チィッ!!」 二つの銃は相手の後方まで、交差しながら弾け飛んでいった。 だが、主武装を失っても諦めていない眼つき。腰元に備え付けていたと思われる二振りのナイフを取りだして来た。 それを構えて文字通り特攻を仕掛けてくる。 私は怒りを感じながらも冷静に見極め双刃の斬撃をプレジションライフルで盾にして防いでいく。 「サレンダーしてください。もうあなたに勝ち目はないです」 「く、……まったく甘ちゃんだな。戦いは最後までやるものだ!」 「そうですよね。では……」 プレシジョンライフルを乱暴に扱いながらも、私は足を軸にして身体全体を捻り、それで回転させる。 腕に遠心力を乗せて、相手を横から力いっぱい持っているライフルで殴りつけた。 「グァッ!」 今度は、相手は同じ轍を踏まず、衝撃によって武器を失わなかった。が、離しはしなかったが腹部を押さえて後ろに吹き飛ぶ。 「これで、終わらします! エクストリーマ・バレル、セット!」 私はリアパーツ「バリスティックブレイズ」にあるあと一つ、最後のバレルを取り外した。 プレシジョンライフルの銃口、のさらに先にバレルを装着。バレルを繋ぎ合わせ、装着することのできるフェリスガン最終形態。 「プレシジョンエクストリーマ・シューター」 エクストリーマ・バレルは本来“機関銃”だ。それを曲げて形態変化。 プレシジョン・バレルと組み合わせることで、その力を最大限発揮することのできる武装。 私は今出せる最速で相手を追いかけていき、吹き飛んでいる相手に同じ速度で縋り付く。 CSCのある近く、その胸部に銃口を押し当てた。 「一点集中! 貫けぇっ!!」 ステージ全体に響き渡るような気合いの一声の後、引き金を引く。 銃身がバレルで細長く伸びた銃から放たれる光線。それに加えてのゼロ距離の発射は、相手のアーマーをも無意味にし胸を貫いた。 相手の背中から見える橙の残光は、遥か遠くまで伸びていき消えていく。 「…………ふ」 相手の方はなぜか不敵な笑みを残して、姿は掻き消えていった。 後に残るは砂漠に吹く風と砂塵だけだった。 「ふぅ、終わりました。……あれ?」 我を少し忘れていたけど、もしかして私は初めて勝てた? そんな、実感が持てないまま、私も足先から消えていく。 消える寸前、砂漠のステージ全体へ機械音声が聞こえ出していた。 『WINNER シオン』 前へ 次へ