約 2,308,097 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/297.html
Battle Anima “俺”と武装神姫のアルトが繰り広げる、愛のあるユニークで豊かなバトルの日々…そんな感じで、ひとつ。 * * * Who s Who - ひるいなき とうじょうじんぶつたち -? * * * Show No Mercy - なさけ むよう - 前編? Show No Mercy - なさけ むよう - 後編? * * *
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/960.html
八幕。再度上幕。 新しくなった琥珀色に染まるコーヒーから立ち上る薄く白い湯気。そのカップに視線を向けることも無く、未だ信じられぬといった感じでアキは相槌を打った。 「そっか。だから『姉妹』て事・・・」 よもや・・・それこそ在り得ない確立と言えるかもしれない。 あの『ゼリスさん』のボディを受け継いだ他の神姫に会えるとは思っていなかった。 会う可能性さえ想定していなかったアキは、高校一年生であるという・・・彼女にしてみれば4つほど年下になるのか。その年齢不相応に落ち着いた感のある先の少年、マコトの説明を受けてようやく理解した。 当のルクスと、先ほどまで見事な舞を見せていたアーンヴァル「フェスタ」は何やら親しげに話している。 (あ、いいなぁ) 姉妹かぁ。と、心中続けて、アキは正に運命的に巡り合った自身のパートナーの『姉』にもう一度目を向けた。 いわゆるアーンヴァルタイプのノーマルスーツカラーであるが、確かに腿のスペーサージョイントから先の色が違う。鮮やかな翠色のリングラインが一本だけ入り、その先・・・爪先までのパール部分にはうっすらと草色が混ざっている。 「あ。そういやぁ。ルクスは、いつ気付いたん?」 ふと疑問に思い訊ねた声にルクスは顔を上げる。 「初見で、違和感のような物がありました。どこかで聞いた事がある『音』だと」 「音? で気付いたの?」 「はい、足音です」 フェスタの問いに小さく頷きながら。 「私は、母様は勿論。姉様の足音も、今まで一度も聞いた事がありませんが。しかし」 目を閉じ、思い出すように続ける。 「確かに解りました。この足音を知っている。いえ、正確には音ではなく、何と言えばいいのか解りませんが」 困ったようなルクスの声を聞き、今まで話を聞いていたマコトがカップティーを下ろしながら小さく言った。 「きっと、オレ達には解らなくても。解るものなんだと思います」 確信を持った、しっかりとした言葉。 「・・・。うん? そうやね」 その一言に納得したらしいアキをルクスは嬉しげに見上げていた。 「ルクスが、お母さんから貰ったのは。『瞳』なんだよね」 「はい?」 声に振り返れば、フェスタがぐっと身を乗り出して来ていた。 驚いたルクスが身を引く暇も無く、すっと両の頬に手、そして細い指を回されて。そのままフェスタは顔を寄せてくる。 じっと真正面から眼を覗き込まれ、目が近いことにはっと気付けば鼻が触れ合う程の距離にある・・・端整な姉の顔と瞳。 「あ・・・」 抵抗する事も出来ず、そのまま美しい姉と見詰め合う。 ・・・しばらくの沈黙の後。フェスタが口を開いた。 「綺麗な銀色」 「あ、はい。ありがとうございます」 「うん。お母さんの色・・・」 心なしか、どことなく。うっとりと言うフェスタ。アーンヴァルタイプ特有の、深みのある青い・・・僅かに潤んだ瞳。山吹色の美麗な髪が揺れ、神姫用のコンディショナーの淡い香りが鼻をつく。 屈託無い柔らかな笑みを口元に浮かべてはいるが、そこには天使というモチーフがそうさせるのか、不思議と艶やかな印象さえ見え隠れしていた。 「あ・・・のっ、姉様」 困ったようにそう言って顔を逸らそうとする。が、その瞳はそれを許してくれない。 「うん? 解ってるよ。今は・・・『ルクスの眼』、だよね?」 体躯は同じであり、既に半分押し倒される形になりながら。しかし、そう言って相も変わらず嬉しげに微笑む姉。 (いえ。それは解ってないのです。ですから。そうではなくて) そう言えば良いのだろうか。他の神姫との関わりが少ないルクスはどうすれば良いのか迷っていた。 もっと良く見たいのか、更に近づけられる顔。 整った目鼻が、ルクスの視界を覆う。 「・・・ぁっ」 思わず声が漏れてしまった。普通のアーンヴァルよりも僅かに血色が良い肌、仄かに薄桃色が差した唇は、今や触れるか否かの所にある。そのまま届くほどの吐息。 「・・・っ」 流石に息が詰まる。無論、ここまで他の神姫と近く接した事は無い。 フェスタ自身は恐らく無意識なのだろうか? 恐らくは他の神姫ともスキンシップ的にこういう行為は取っているのかもしれないが、しかし・・・。 何かを言いたげに、しかし下手に口を開く事も出来ない距離の顔と唇。 それでも視線だけでも何とか逸らしつつ、顔を赤くしているルクスを見かねたのか。マコトが頭を抱えてフェスタを指で引き離した。 「そこまで」 「・・・あれ? なんで?」 少し離された場所に置かれて、今尚解っていない様子のまま。きょとんとしてフェスタはマコトを見上げる。 長く。失礼かもしれないが安堵に近い息を吐くと。ルクスはゆっくりと体勢を直した。 「抵抗しても良いからね? 困っているようだったし」 苦笑して言うマコトに、力なく笑い返す。 「いえ・・・」 そういう行為、こういう関係は。彼女は知らない世界なのだ。仕方ない。 ・・・。 『知らない』。 その単語が胸に突き刺さった。 「ん、そのままにしといても面白いのに」 笑っている主に思わず非難の目を向けながら。 マスター二人が飲み物と、軽食を取りに行くのを見送ると、フェスタはくるっとルクスに向き直った。先のこともあって、思わず身を引く妹に、彼女は気にせず問いかける。 「ねぇねぇ。ルクスは、バトルが好きなの?」 「・・・え」 突如として、意を介せぬ質問をぶつけられ。 姿勢を直しながら、しかし彼女は、ふっと宙に視線を漂わせた。 「あの」 心が、きゅっと締め付けられるような。感覚。 「うん?」 「・・・そう、です」 「?」 その。多少煮えきらぬ声調と、どちらとも取れぬ回答に首を傾げるフェスタ。 「いえ。あの、姉様のように。そのような・・・その」 神姫バトル。それは、確かに・・・嫌いではない。だが。 ルクスは自分の膝を抱き寄せた。そこに顔を埋めるようにして、姉から顔を背けた。 「・・・すいません」 いきなり身の置き場所が無いような想いに捉われ、小さく呟く。 「え、どうして?」 ルクス以上に、困ったような顔でフェスタはルクスを覗き込んだ。 「・・・」 姉は。周囲に笑顔を咲かせていた。 神姫バトル。 自分を磨き、アキの愛に答える為に戦う・・・手段ではない。戦う事が、不器用な自分が出来る・・・たった一つの行為。 自分が自分である事の確かな表現の場。アキのへの愛を形にする行為のステージ。 ・・・それに、迷いは無い・・・はずだった。 黙りこんだ妹に、フェスタもまた少しの間、口を噤んでいたが。その沈黙に耐えかねたのか。 「えっと、確か・・・強いんだよね? ルクスって。以前神姫ジャーナルで見たよ?」 「はい・・・あの。一応は」 高みに行きたい。しかし、その名誉を欲してはいない。 「・・・ルクス? どうしたの? さっきから変だよ」 はっと気付けば。四つん這いの形を取るようにして、姉が身体を近づけて来ていた。髪が柔らかく孕んだ山吹色の光が目の中に舞う。 「あ・・・いえ。バトルが強くても・・・余り自慢にはなりませんし」 しどろもどろに言うルクスに。フェスタは首を傾げた。 「そんな事、ないよ?」 そう言ってくれる姉の声が辛い。 彼女は思わず姉の姿を見ないように目を閉じた。 「ですが・・・私の瞳は、母様の瞳は。ターゲットスコープを覗く為に使われています」 姉は母より受け継いだ脚で、笑顔の花を満開に咲かせているのに。 自分は。 「姉様と違って、私は『母様の瞳』で・・・何をしているのでしょう」 自分は、そんな事しか出来ない。それしか出来ないんだ。 それしか知らない・・・何て不器用なんだろう。 膝に顔を埋めて下を向くルクスを、しばし疑問符を浮かべながら見つめていたフェスタは。 やがて妹の思う所を介したのか。はっとした表情を浮かべて。そして、思わず吹き出した。 「っ・・・あははっ」 きょとんとして、顔を上げる妹に。肩を竦めて笑いかける。 「ねぇ、ルクス?」 ぴっ、と。人差し指でおでこを押さえられ、くっと下を向いていた顔を僅かに上げられた。そのままフェスタは先と同じく、瞳の奥を覗くように顔を近づけてくる。今度もまた、逃げる事もかなわないまま、しかしフェスタも少し先よりは離れた場所で止まった。 「『ルクスの瞳』・・・でしょ?」 「?」 指を外し、そのまま彼女はルクスの真前に身体を起こすようにして、座り直した。 「バトルだからいけないの? ダンスだったらいいの?」 「え、いえ。しかし」 「何でダメなの? バトルの一番を目指す事。それの何が悪いのか、私は解らないよ」 自分が行っている行為は。他の誰の為にもならない。 自分の為だけ。自分とマスターの勝利以外、何も、誰の為にも・・・紡がないじゃないか。 そんな事を考えていると。フェスタは小さく笑った。 「ルクスは強くて。そんなルクスにようになりたい、って思う『武装神姫』が、きっといると思う。それは、決して嫌な事じゃないよ」 「・・・?」 思わぬ言葉に、ふっと。顔を上げる。フェスタは妹の、その美しい銀色の瞳を真っ直ぐに見つめてきた。 「前ね、『武装神姫である前に。神姫である事を自覚しなさい』って私、言われた事があるの」 「・・・神姫である事、ですか」 そうだ。 私達は神姫。武装をまとう以前にヒトのパートナーであるべき存在。 「だけどね? ルクス」 黙りこんだままの彼女に対し、姉は首を左右に振る。 「神姫であると同時に。武装神姫である事を忘れちゃ駄目だよ?」 目を見開いて、ルクスは姉を見つめた。 「私もバトルが好きだよ? それは嘘じゃない。強くないけど、きっとマコトのお陰で勝ててる」 「・・・」 バトルが好き。 「これが武装神姫だから、だとか。そうじゃないの。マコトと一緒に戦ってる。それが好きなの、きっと」 「『好き』、ですか」 その言葉に嬉しげに頷く。 「『マスターの気持ちに答えたい』。『マスターと一緒に戦って、勝ちたい』」 両手を広げて、胸の前に静かに重ね、フェスタは自分にも言い聞かすように言った。 「だから、戦う技術を高めたい。強くなりたい・・・あの人の笑顔の為に。『武装神姫』なら、きっと一度は考えると思う」 『武装神姫』。 オーナーの意志に従い。武装し、戦場に赴く神姫達。 主の誇りを背に背負い。自分の想いを旗として掲げ。 負けたくないと思う瞬間。武装神姫が武装神姫である証。 誰もが求める、その先の世界。 「そう考える神姫達が「あんな風になりたいな」って。ふっと想う時・・・」 想いが生まれ出るその時に。ふと、顔を上げる場所。 その上の高み。 「その視線の先にルクスが立っていたら、それはとても『ステキな事』だと思うな」 「・・・」 それは嘘じゃない。 バトルが好きだから。 そこが。ずっと、マスターと駆け抜けてきた場所。どんな時も。あの人の愛が燦々と。降り注いでいた場所。 その場所で。誰かが続く場所で、想いを受け止める。 未来に繋げる、次の誰かの視線の先で。 あの人の愛を。 ・・・笑顔に換える事が出来る場所だから。 「姉様・・・」 ぽつっと呼ぶ。 「うん?」 美しい髪を揺らせて首を傾げる姉の顔を見て、ふと気恥ずかしくなり、ルクスは顔を赤くして下を向いた。 「あ、すいません。その」 「ふふ」 (・・・そうか) そうだ、うん。好きだったんだ。 武装神姫として、マスターと共に戦ってきた。その事が、何よりも好きだった。 だからこそ。誰よりも。高みに行こうとしていた。それしか出来ないのではなく。 それが自分自身を、一番輝かせる場所だった。 フェスタは優しく笑いかけた。 「頑張ろうよ。一緒に」 「・・・姉様と?」 彼女は強い意志を秘めた視線で、強く頷いた。 「私も、好きなダンスで一番を取るつもりだから。・・・好き、誰にも負けたくない。その想いを叶えたい」 きっと姉もまた自分と同じ。 ただ、自分とは歩む道が違うだけで。その、誰もを幸せにする舞踏で。 「きっと、きっとマコト様と、姉様なら。一番になれます」 嬉しくなり、笑顔でそう言うルクス。フェスタも笑い返す。 「ルクスもね」 「姉様・・・」 もう、一度。今度は言えるはずだ。 「うん」 「・・・ありがとうございます」 ・・・。 すっくと立ち上がると、フェスタはマコトが置いて行ったケータイを開けて、何やら操作しはじめた。 そのまま何事かと見ているルクスに背越しに声をかける。 「ねぇねぇ? 踊ろうよ、ルクス」 「は・・・?」 微笑みを浮かべて振り返る姉。手を後に回し、山吹色の髪を整えながら。 「いいよね?」 「いえ、しかし。私は・・・そんな、その。あの」 脈絡も無く言われて、彼女は慌てて手をぱたぱたと振る。 ダンスなど、全くやった事も無く。余り見たことさえ無い。 「大丈夫だって。リードしてあげるからっ」 そんな事を気にする様子も無く、フェスタはとっとっ、と脚で拍子を整えながら真っ直ぐに近づいてくる。 「いえ、ですから・・・」 引き攣った表情を浮かべていると、ケータイのミュージックプレイヤーから伴奏が流れ出した。 あぁっ。あんなに大きな音量で。 「うん? 気にしないで? 次の機会にルクスからバトルを教えてもらうから、それでお相子。遠慮しないで」 そう、こちらの意を全く介さぬ事を言って。フェスタはこちらに手を伸ばす。思わずルクスが手を出してしまうと。 すっと指を絡めて、ほとんど力がこもっていないのに、そのまま指だけで、立ち上げられた。 (!?) 唖然とするヒマさえ与えてくれない。 任せて? と小さく呟きながら。フェスタは妹を軽く引き寄せて、その腕を自分の腰に回させるようにして抱かせた。 已む無く、そのしなやかな胴に手を回し、姉を抱く形になってしまうルクス。普段、銃を持ち慣れている彼女にしていれば、そこは余りにも華奢で、おっかなびっくり触ってしまう。 それがくすぐったかったのか。フェスタは少し身を捩った。 「あの・・・姉様。私はダンスなど、出来は・・・」 一応の姿勢は取らされたが。そのまま困ったような顔を浮かべる彼女に。 姉は妹の腕の中でくすくすと肩で笑い、その臙脂色に近い髪に優しく指を通す。 「大丈夫。きっとルクスなら『見える』はずだよ?」 そう言って一度、眼を瞑り。 こつん、と、おでこ同士を付けて。 「私も。姉さんの『声』を、この『脚』が知っていたから・・・」 何気なく口にしたその言葉に。ルクスは瞳を丸くした。 (・・・え?) 音楽の主旋律が始まった。フェスタがくるっと回りながら腕から抜け出て、そのままルクスの手を取ると。ドレスの裾を持ち上げる仕草をしながら一礼をする。 ことん。 姉が爪先でテーブルを叩く音と共に、視界に音が舞った。 (・・・) 自分は足運びも知らない、手の動作も知らないはずだ。 しかし・・・明確なリズムが体に伝わり。そのまま音が引き込む流麗な流れに身を任せる。自然と、手が姉を導くように、そして脚が姉を追う様に動いていく。 テンポの良い音楽が耳を通り抜け・・・そして、何よりもその『眼』に届く。 身体がフェスタに誘われるように、風の流れるままに運ばれていく。姉は嬉しそうに、ルクスの腕で遊ぶかのように身を舞わせた。 と、たん。た・・・たたん 二人がテーブルというステージの上・・・刻んでいく二つのステップの音。 その水無き水面に描かれた小さな波紋がやがて一つになるように。フェスタが自分の中に重なっていき、意識が広がっていく。 (・・・姉様が刻むリズムが、見える) 銀色の瞳がはっきりと。自分の腕の中で舞うフェスタを捉えている。 妖精か、いや。天使か・・・軽やかに、優雅に反らされた腕、そして『脚』。そう。その脚は、元々はこの眼と同じ持ち主の元で・・・。 (・・・母様・・・) しなやかに、ゆったりとした音の流れに身を抱かれて楽しげに踊るフェスタ。その美麗なる肢体を舞わせる可憐なる姉の脚から・・・溢れるほどのリズムが流れ出し、瞳を通してルクスに届く。 それに従い、身を波にただ託して。 彼女達は、互いに互いが誘われるように舞った。 やがて、音楽が静かにフェードアウトし。妹をリードしながら踊っていたためか、随分と疲れたような・・・だが、優しい表情を浮かべたフェスタは上体を、とさりとルクスの胸に任せた。 「・・・大丈夫ですか? 姉様」 いつしか。肩の力が知らず抜けていた。 「うん・・・」 その、明るい暖かな銀色を湛える、透き通る瞳を下から覗き込むようにしながら、フェスタは嬉しげに微笑む。 ・・・と、何かに気付き。ルクスの背中に回した手の指で、つんつんと叩いた。 「ルクス。笑顔笑顔っ」 「?」 ふっと顔を上げれば、気付かぬうちに出来ていた人だかりから、拍手の雨が彼女達に降り注いだ。フェスタは慣れた様に、妹に抱かれながらにこやかに手を振っているが。 当のルクスはどうして良い物かと困惑するだけであった。 「いやぁ、ビックリした。可愛かったよ?」 「・・・」 無言で、顔を首まで真っ赤にして。 「うん、ダンスの達人ってのは、ダンスの相手も達人にしてまうってのは聞いてたんやけど」 「・・・物の見事に、男性用のダンスじゃないか」 アキの賞賛を受けながら、縮こまるルクスを見ながらも。 苦笑しながらマコトはそう言って、フェスタのおでこを突付く。 「あは、ごめんごめん」 頭を掻きながら、しかし悪びれる様子は無くフェスタは笑った。 「・・・アキさん、今から予定は?」 ふっと、マコトがアキに顔を向けた。 「ん? いや別に。ホテル泊まって、明日アキバ寄って・・・帰るつもり。何? ナンパ?」 「いや。そうじゃなくて」 苦笑を一度浮かべたが、すっと真顔に戻って腕時計に目を落とす。 「今から行けば。閉店までに間に合うかな、って」 「間に合う?」 「あのね・・・」 フェスタが言おうとした言葉を。ルクスが引き継いだ。 「もう一人・・・姉様がいるのですね?」 あれ? 言ったっけ。と言いたげに、不思議そうな顔を向ける姉。 「それって・・・そういうこと?」 「はい。少し遠いのですが。よかったら」 「行きます」 はっきりと。 「・・・会いたいんです。マスター」 アキは常では無い程に。自身の意志を明確にするパートナーに少し驚いたような顔を浮かべていたが。やがて笑って答えた。 「ん、ウチもえぇよ。案内してくれる?」 ・・・。 『神姫』として、そして『武装神姫』として。其処を目指そうとする神姫がいる。 その道を真っ直ぐに、瞳は見つめ、脚で歩き続けて。 ・・・いつしか其処に達しようと迷い無く。 「角子さん? ニックネーム?」 「はい。そう呼ばれてます」 向かい合う座席に座り、マコトとアキが話をしているのを聞きながら。窓の縁に立ち電車の中から後方に飛んでいく風景を見やる。 「その神姫の名前は、何て言うの?」 アキの問いに。マコトはしばらく腕を組んで何かを考えていたが。 「いえ。それは・・・。本人から、本人の声で聞いてください」 「?」 ルクスは冬故に早くも夕暮れ迫る地平を眺め、ふっと気付き目をやると、隣にいつしかフェスタが立っていた。 彼女らが進む道に吹く『風』は。時に厳しく打ちつけようとも、想いを紡ぐ力に変える。 強い意志を持って高みへと。誓いを運び決意と共に。 銀色の瞳に宿る強い意志。彼女はそのまま暮れゆく空を見上げた。 (母様の眼を受け継いだ、私である事) 私自身が『武装神姫』である事を恥じたりはしない。臆したりもしない。 この道を歩み続けて、まだ見ぬ神姫達が上を見上げたとき。そこに自分の姿がある時。それを誰かが追いかけるとき。 そして・・・。誰かの『瞳』に私が映るとき。 それは、きっと。紡がれていく強い想いとなるだろう。 姉が小さく声を上げた。つられて見やれば、鯨を思わせる大型飛空船が遠く・・・雲かかる夕焼け空にその身を煌かせ、のんびりと上天を泳いでいく。 「・・・」 水晶を思わせる銀眼が、金色の光を包み込んだ赤い空を照り返していた。 フェスタが、ふっと思い出したように顔を前にすると、ルクスに近寄り一言だけ『ある言葉』を耳打ちした。 その言葉に驚いたような表情を浮かべ、やがて小さく、しかし強く頷く。それを見て、フェスタも嬉しげに頷いた。 姉妹はまだ見ぬ場所へと、その風に乗せ、己の姿と想いを馳せていく。 確かに背を押す、その小さな胸に抱える風がある。 吹き渡る空の名は未来・・・その風の名は。 夢。 第八幕。下幕。 第八間幕
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2251.html
≪ねここの飼い方・劇場版≫ ねここの飼い方・劇場版 ~序章&一章~ ねここの飼い方・劇場版 ~二章~ ねここの飼い方・劇場版 ~三章~ ねここの飼い方・劇場版 ~四章~ ねここの飼い方・劇場版 ~五章~ ねここの飼い方・劇場版 ~六章~ ねここの飼い方・劇場版 ~七章~ ねここの飼い方・劇場版 ~八章~ ねここの飼い方・劇場版 ~九章~ ねここの飼い方・劇場版 ~十章~ ねここの飼い方・劇場版 ~十一章・終焉~ ○劇場版は以下の作家さんとリンクしております 岡島士郎と愉快な神姫達 神姫狩人 HOBBY LIFE,HOBBY SHOP 武装神姫のリン 凪さん家の十兵衛さん 魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン 師匠と弟子 トップページへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2832.html
ぶそしき! これから!? 第0話 『トモダチ』 0-3 「……あ」 神姫センターの店員神姫に武装神姫について色々説明してもらった帰り道に、ふと思い出す。 ネットで武装神姫の取扱店を検索した際に、先ほどの神姫センター以外にももう一件あったことを。 今の所からそれほど遠くはない。 少し寄り道する程度の所だ。 わずかに逡巡し、今回はちょっと覗くだけと、その場所に向かう。 「あった」 携帯のナビで特に苦労することなく、もう1つの神姫取扱店に到着する。 ――『おもちゃ屋スターフィールド』 中古品も取り扱い、売買する旨が看板に書かれていた。 薄暗い感じはない。 戸惑わず子どもでも入れる、そんな感じの店だ。 「いらっしゃいませ」「い、いらっしゃい……」 入るとカウンターから声がかけられる。 店内は清掃が行き届いていて清潔で明るい。 近くの棚を見ると、ロボットもののプラモに武器セットが並べられている。 少し奥の方を見ると武装神姫のUSEDコーナーが見える。 行こうとして、ふと気づく。 カウンターに人の姿がない。 「あの、今店長が留守にしているから、あたし達が店番をしています」 「な、なにか御用でしょうか」 よく見ると、カウンターには店の名前が書かれたエプロンらしきものを着た緑髪と黒髪の2体の神姫の姿がある。 黒髪の神姫は何故かメイドさんの衣装を着て、恥ずかしげにしている。 「ええと、ちょっと中古の神姫が見たくて……」 黒髪の神姫があまりにも恥ずかしそうにしているので、何か見てはいけないものを見てしまった気分になる。 少年も少し恥ずかしくなりながら要件を話す。 「……」 緑髪の神姫が黒髪の神姫を少し見やり、一息ため息をつく。 あの様子では接客は無理だろうと判断する。 「あたしが案内します。ハーティア、レジお願い」 「ま、マリーベル。分かったよ」 相方に頼み、マリーベルと呼ばれた緑髪の神姫が少年に向かう。 「お客様、手に乗らせてもらってもいいですか」 「あ、うん、いいよ」 提案に素直に頷き、少年がその手を差し出す。 「失礼します」 一言断りを入れてから、カウンターから一飛びして軽やかに少年の手に乗る。 ■ ■ ■ 「そこを右に曲がった棚が、武装神姫の中古素体の場所です」 誘導に従い、少年は歩を進める。 手の上の神姫を見て、ふと浮かんだ疑問を問いかける。 「……ねえ」 「はい、何ですか?」 手の上の神姫が静かな口調で答える。 「君ってマオチャオ?」 「……そうです。あたしは猫型MMSマオチャオのマリーベル」 答えが簡潔に返ってくる。 「ええと……」 「あたしは他のマオチャオの性格と大きく違うから、お客様が疑問に思うのも当然です」 少年がさらに聞く前に、マリーベルは静かな口調で話す。 その様子は実際に見た、話に聞いたマオチャオという神姫のハイテンションのものとは大きく異なる。 「神姫にも色々います。あたし達みたいな変わり者だって当然いる。……あたし位で驚いていたら、これからもっとびっくりすることになるよー」 最後に基本的なマオチャオの真似をして、冗談っぽくマリーベルが言う。 しかし、表情は少年の知っているマオチャオの元気いっぱい天真爛漫の笑顔ではなく、どちらかといえば少し固く、儚い感じの笑みだ。 その笑みの違いが、少年にも神姫も色々であることを実感させる。 「あ、うん。……よく分かった」 「あ、お客様」 ちょっと考え事をしていると、マリーベルから呼びかけられる。 「通り過ぎてます。USED素体の場所」 「――え?」 そそくさと戻り、少年は武装神姫の中古素体の陳列棚に目を見やる。 「……あ、神姫センターで見た新品のよりすごく安い」 少年の懐具合で考えれば、それでもまだまだお高い値段だ。 しかし、手が届かないほどではない、そんな具合だ。 「神姫センターは基本定価だから。それにこのお値段は武装なしのUSEDですから」 「そうなんだ。えと、買ったら動かないとか、何か問題が起きたりとか、しないよね」 ふと思った疑問をマリーベルに尋ねる。 「ええと、そこは――」 「ソフトもハードもチェック済み。起動しないということはないよ。 保証期間も付いてるから、起動後に何かトラブルがあっても安心。 今なら素体のリペイントサービスもしていて、買ってくれた神姫をお好みの色に染めあげれるよ。 ボス……店長がいれば、起動やユーザー登録などの作業も手伝ってくれるよ。お買い得だね」 「そうなんだ、ありがと……って誰?」 少年の疑問にマリーベルではなく、別の声が答える。 「あ、セラ姉さん」 マリーベルが声かけた方を見ると、そこにロングの青髪の神姫がいた。 その神姫は長袖長裾のゆったりした服を着て、その上に店名が書かれたエプロンを着ていた。 メガネをかけているせいなのか別の理由なのか、少し理知的でどことなく落ち着いたような雰囲気がある。 「悪魔型MMSストラーフのセラフィルフィスだよ。よろしくお客様」 「あ、よろしく」 挨拶されて、少年は思わず挨拶し返す。 「マリーベル朝から店番ありがと。今バッテリー残量少ないでしょ。 お客様、よければあたしがマリーベルの代わりに案内と説明をさせてもらうけど、良いかな」 「あ、うん。いいよ」 少年に了解を求めるセラフィルフィス。 バッテリー残量少ないなら仕方ないよねと了承する。 「でも、あたしまだ――」 「いいから。お客様も了解してくれたし、しっかり一休みしなさい。無理をするのはマリーベルの悪い癖だよ。それに戻って店長に店番したこと褒めてもらいなよ」 優しく諭すようにセラフィルフィスはマリーベルに声をかける。 「分かった。失礼します、お客様」 マリーベルはぺこりと少年にお辞儀をして、手から降りてトテトテと走って去っていく。 そんな様子を少しかわいいな、と思いながら見送る。 「さて、お客様、マリーベルに代わりましてセラフィルフィスがご案内させていただきます。何かお探しのもの、またはお聞きしたいことなどありますでしょうか」 マリーベルを見送ると、セラフィルフィス茶目っ気を入れながら挨拶し、最後にウインクする。 「ああ、うん。そうだねー……」 棚を見やる。 そこには悪魔、天使、犬、猫、侍、騎士、種、花、鳥、人魚、兎、砲、銃火器、イルカ、戦車、飛行機、カブト、クワガタ、蝶などなど様々なものをモチーフにした神姫の素体が並ぶ。 ふと、棚から目を離して通路の奥を見ると、カーテンで仕切られた空間が見える。 「ねえ、あのカーテンで仕切られたところって――」 「あそこは年齢が上の方々のコーナーです。お客様にはまだ早い場所ですから。 それよりも、何かお気になる神姫はありませんか? 今なら、この騎士型や戦車型、セイレーン型なんてお求めやすい価格ですよ」 にこりとやたら丁寧な口調で返され、さらに今のオススメの神姫を紹介される。 「あ、ホントだ。これなら、今まで貯めたお年玉とおこづかいで……。う~ん……」 「気になる娘がいたら、なんでも聞いてね」 値札を見ながら少年は悩む。 棚に戻し、値札を見て、を繰り返す。 時おり、質問をする。 セラフィルフィスはその姿を微笑みながら眺め、対応する。 ■ ■ ■ 「――あ」 気がつくと、窓の外はすっかり赤く染まってしまっている。 思ったより長い間、悩んでいたらしい。 「ごめん、帰らなくちゃ」 急いで帰らないと暗くなってしまうと店を出ようとする。 「あ、色々教えてくれてありがとう」 去り際に少年はセラフィルフィスにお礼を言う。 「どういたしまして。これ保護者同意書。また来てねー」 いつの間にか用意されていた保護者同意書を渡され、少年は見送られる。 出入り口に向かう際にカウンターが見える。 そこには店長と思しき大人の男性と、いつの間にかメイド服からツナギのような服に着替えた黒髪の神姫――教えてもらった通りなら、おそらく犬型MMSのハウリン――の姿があった。 「ありがとうございましたー」「ま、また来いよー」 声をかけられ、店を出る。 (家に戻って、お父さんが帰ってきたら、保護者同意書を書いてもらって、明日――) うきうきと軽い足取りで少年は帰宅する。 ――少年が神姫のマスターになるまであと22時間 前へ / 次へ トップページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1810.html
オヤッさんに打ち明ける。 あの事件にも関わりがあるからな。 今更隠す事必要もないか。 ある意味素直にゲロッちまった方が話が早いかもしれない。 俺はオヤッさんに向き独特のニヤリ顔を見せた。 「ちょっとVIS社に喧嘩を売ってくる」 そう言うとオヤッさんは『ヤレヤレ』てな感じで溜息ついていた。 やっぱりオヤッさんは俺がこれから何ヤらかすか解っていたみたいだ。 事細かく言う必要ないなぁ。 オヤッさんは察しが良くて助かるぜ。 カウンターに片肘を付きながら苦笑いしながら。 「閃鎖、お前がそんなやる気に満ち溢れた顔を見たことないぞ」 「そうか?」 「あぁ。アンジェラス達と出合って変わったよ。確実にな」 「…かもな。そろそろ…行くぜ」 俺は相変わらずのニヤリ顔のままドアノブに手を掛ける。 これ以上ここに居ると色々喋っちゃいそうだし、一分一秒でも惜しいのからな。 それにオヤッさんから買ったこのブツを色々と準備しないといけないしぃ。 おっと、忘れるとこだった。 「ホラッ」 俺は金を上着の内ポケットから一つの札束をカウンターに投げつけ、ブツを持って店を出て行こうとする。 「つり銭はいらんよ。今の俺はリッチだからさぁ」 「豪快だな。あぁ~そうだ」 オヤッさんに呼び止められ、後ろ姿を見せながら俺は立ち止まる。 いったいなんのために引き止めたのか。 「次に会うときは飲み明かそうぜ!勿論武装神姫達も交えてな!!最高の酒をご馳走してやらー!!!」 「サンキューな、オヤッさん」 俺は再び足を動かしドアを開けた。 その時、カランカランと鳴るベルが鳴る。 いつも聞き慣れてる音が異様に寂しさがヒシヒシと俺の心に伝わってきた。 が、オヤッさんは俺に激励してくれた。 アンダーグラウンドの夜中の生暖かい風が頬にあたる。 徐に煙草の箱を取り出し、煙草を口に咥え火をつける。 紫煙が舞い、煙草独特の匂いが鼻につく。 待ってろよ、俺の武装神姫達! フラグ+2
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2854.html
ぶそしき! これから!? 登場神姫紹介 <第0話> ○ヒイロ セイレーン型 呼称:「マスター」 持主:佐伯友大 瞳: 赤 髪: 深紅 近所のおもちゃ屋スターフィールドにて佐伯友大に購入される。 クレイドル付き、ただし武装なしの特価品である。 前のマスターの改造か、非常にパワーの値が高い。 性格は熱血よりと言うよりはバトル脳で少年っぽい。 マスターより、せめてものおしゃれと赤色のマフラーを与えられる。 戦い方はバーサーカーという言葉が相応しい攻撃偏重の猪突猛進ぶりである。 店員神姫 ○アリシア 天使型 神姫センターで働く店員神姫。 天使型らしくまじめで誰にでも丁寧に接し、人当たりが良い。 実はさり気に黒い。 ・・・ ○クラハ セイレーン型BK 呼称:「マスタァ」 持主:羽々辺誠志郎 瞳 :赤 髪 :金 鳥というよりは小鳥のような印象のセイレーン型? 普段、袖が広がった白と青のワンピースと帽子を着用し、鳥を思わせるレッグユニットを装備している。 実は袖に隠れた腕にも武装パーツをつけている。 ちなみに、元々はペットロボットのつもりで購入されたらしい。 素体とコアの組み合わせは純正のものではなく、通常の神姫より小柄である。 ・・・ 店員神姫 ○マリーベル 猫型 おもちゃ屋スターフィールドで働く世にも珍しい? 内気で控えめな猫型。 「……マオ、チャオ?」と彼女を初めて見て反応する客は珍しくない。 案内やプチマスィーンGとの店内清掃などを行っている。 ・・・ ○ハーティア 犬型 マリーベルと同時期におもちゃ屋スターフィールドで働くようになった神姫。 口が悪く一見ぶっきらぼうだが、仕事ぶりは生真面目であり、結構献身的である。 機材整備のプチマシーンGを率いて筐体などの施設管理や修理などを行っている。 時々出かけて―― ・・・ ○セラフィルフィス 悪魔型 おもちゃ屋スターフィールドで働く神姫。 武装神姫が出た初期の頃から稼働している古参であり、店員神姫たちのまとめ役であり、星原店長のパートナーである。 ・・・ <第2話> ○チャオ 猫型 呼称:「マスター」 持主:成行春澄 瞳 :黄緑 髪 :黄緑 性格は、いわゆるマオチャオらしく前向き。 ヒイロとは遊び仲間で友だちである。 実はストリートバトルをふっかけられた挙句、修理に出されるくらいに痛めつけられたことがあり、トラウマになっていた。 またその時に武装が幾つか壊れてしまっている。 代わりにマスターからお手製のクロースアーマーを渡されたが……あまり気に入っていないようである。 トップページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2195.html
闇の中。 静寂に包まれた心地好い暗闇の中。 深く深く、意識がその闇の中へと溶けてゆく。 何物にも代えがたい至福の時。 そんなささやかな幸せを、突然鳴り響いた甲高いメロディーが容赦なく奪い去った。 「うあー……」 再び闇の中に戻ろうとする抵抗も虚しく、俺の意識は一気に呼び起こされる。誰だ、俺の安眠を妨げる奴は。 やかましく鳴り響く携帯を手探りでたぐり寄せ、この諸悪の根源との通話を繋げる。 「もしも……」 『はーやーとー! いつまで寝てんのー!?』 寝惚けた頭に飛び込んでくる怒鳴り声に、思わず俺は電話を遠ざける。こちらの返事も待たずに、あいつはあからさまな不機嫌さをぶつけてきた。 「なんだよ、朝っぱらからうるっせえな」 横目に時計を見るとまだ午前10時。とてもじゃないが健全な高校生が休日に起きる時間ではない。 『なっ、あんたが神姫見たいから付き合えって言ったんでしょー!? それなのにうるさい? そーゆーこと言うの?』 まだ頭がハッキリしないと言うのに、一息にまくしたてられる。えーと、神姫……? あ、そうか。 西暦2036年。 第三次世界大戦も、宇宙人の侵略もなかったこの平和な時代において開発された、全長15センチの自律型AI搭載ロボット、MMS(Multi Movable System)。 その中でも、最も一般的なのが『彼女』達。 オーナーに従い、様々な装備に身を包み戦場へと赴く彼女達。 そんな彼女達を、人はこう呼んでいる。 『武装神姫』と。 『武装神姫ーPRINCESS BRAVEー』 「うわぁー……」 想像以上の光景に、俺は思わず声をあげた。 都内某所にそびえるこの巨大なビル、通称神姫センター。このビルは部品や関連書籍の販売、更にはサポートセンターにバトルスペースまで、全てが武装神姫を取り扱う施設となっている。 そして俺はその中の販売コーナー、神姫本体の売り場に来ているのだが。 「これ全部そうなの?」 フロア全体に渡って所せましと陳列された神姫。カブトムシ型やコウモリ型、騎士型にセイレーン型、更には戦車型にシスター型とかなりの種類が並んでいて、あまり知識のない俺にはなにがなにやらまったくわからなかった。 「うん、すごいでしょー? もう随分シリーズも続いてるし、タイプ別に色々出てるからね」 舞はどこか嬉しそうに――おっと、そういえば自己紹介がまだだったな。 俺は新藤隼人。健全な男子高校生だ。以前からバトルに興味があり、ちょうど身近に神姫オーナーがいた為、俺も同じ武装神姫のオーナーになる事にした。 そして、その身近なオーナーというのが彼女、比々野舞(ヒビノ マイ)。家が近所だった事もあり、小さい頃からの腐れ縁を現在進行形で続けている。 後ろに結い上げたセミロングの黒髪と、丸い大きな瞳。 起伏の乏しい体を黒いボーダーラインのロングTシャツと袖のないパステルブルーのパーカーで覆い、青いキュロットから伸びる細身の足元には水色のスニーカー。 好きな青い色を基調としたその服装は若干の幼さを感じるが、露出した肢体は健康的に締まっていて、活発そうな印象を受けるだろう。 悪くない。うん、決して悪くない。 「……イヤラシイ目で見ないでよ、えっち」 「イヤラシクないですー。ちょっと客観的に観察してやっただけだよー」 舞はわざとらしく体を隠すと、冷ややかな目で俺を睨む。長い付き合いだが、そんな恥じらいがあったとは知らなかった。 「ふーん、変なの。ま、別にいいけどさ。隼人なんかに見られたって」 その発言は誤解を招くぞ。見てもいいのか?いいんですか?それとも異性としての意識が無いという事だろうか。うん、まったく興味が沸かない。 とにかく、舞はずいぶん前から神姫を所有しているので、初心者の俺としては色々意見を聞けるのは助かる。 ついでにこいつの神姫、天使型アーンヴァルのヒカリも紹介しておこう。片側だけ編みこんだ髪を耳の後ろに垂らしているのがトレードマーク。生真面目で大人びたアーンヴァルタイプには珍しくちょっと子供っぽいが、元気で可愛らしい娘だ。 このヒカリが俺も神姫を買おうってきっかけを作ったんだが、その辺りはいずれまた。二人は姉妹のように仲がよく、今日もヒカリは舞の肩に座って足をブラブラさせている。 「んで、どれ買ったらいいんだ?」 「自分で選ばなきゃしょーがないでしょー?どんな性格がいいかーとか、どんな戦い方したいーとかないの?」 舞は立てた指を左右に振りながらいくつかの選択肢を示していく。しかし、その動きに釣られてふらふらと頭を揺らすヒカリが気になって、話の内容はほとんど聞こえてこなかった。 「だいたいこんな感じかな?どう?」 「え?ああ、格闘戦がいい」 話は聞いていなかったが、戦い方ならそれしかないだろう。男だったら拳で語ってこそ。戦うの俺じゃないし、神姫は女の子だけど。 「アーンヴァル!天使型アーンヴァルがいいと思うの!」 舞の肩で話を聞いていたヒカリが、未だにふらふらしながら棚の白い箱を指差した。酔うぞ、お前。 さて、アーンヴァルか…… 確か高機動射撃タイプ、だったハズだ。初心者でも安定した勝率を狙えるとネットでの評判もなかなかだが、どうも俺の性には合わない。 「あすみん先生自重。そもそもアーンヴァルは格闘向きじゃないだろ?舞ともかぶるし、ややこしくなるって」 「むー、妹が欲しかったのに……」 「なんだ、そーゆー事か。ま、そうガッカリすんなって。後輩には違いないし、それなら妹みたいなもんだよ」 「んー、そっか。ならいいや!へへー、楽しみだなー♪」 頬をふくらませてすねていたかと思えば、もう屈託のない笑顔を見せている。幼さすら感じさせる彼女だが、俺も舞もそんなヒカリの笑顔が大好きだ。俺の神姫になる娘も、こんな笑顔を見せてくれるだろうか。 「あっ、ねぇこの子なんかどうかな?あんたにぴったりだと思うんだけど」 辺りを物色していた舞は一体の神姫を手に取ると、俺に差し出した。パッケージには獣の耳を模したヘッドギアと大きな手甲、そして焼ける様な橙色の瞳が印象的な少女が描かれている。 「犬型、ハウリン?」 「そ。いわゆる万能型なんだけどメインは近接格闘戦だし、防御力も高めだからあんたの要望にもぴったりでしょ?そーれーに……」 舞はぴっと指を立て俺に向き直ると、からかうように微笑みながら言葉を続けた。 「この子の性格。誰かさんみたいな、熱っ苦しい熱血感」 「誰が熱苦しいんだよ?失礼なヤツだな。でもまあ、たしかに悪くはないかもな」 僅かに胸が高鳴る。舞の手からハウリンの箱を受取ると、自然と俺も微笑んでいた。 「決まりだな。俺の相棒」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/25.html
武装神姫のリン 第2話「初めてのプレゼント」 今日はリンがウチにやってきてからちょうど3週間だ。 起動直後はプリセットの礼儀正しい口調、素直な性格であったが、武装神姫の学習機能はかなり優秀らしくこの頃は素直な性格はそのままに、だが時には俺に甘えたり、文句を言ったりもする。こういった変化もほほえましかった。 「マスター、おかえりなさい。」 「ただいま。」 俺は靴箱に上って俺を迎えてくれたリンの頭を指でなでてやる。 リンはうれしそうだ。 「そうだ、お土産だぞ。」 「えっ、何かあったんですか?」 今日は同僚の気まぐれで以前共同購入したロトくじが当選。とは言ってもせいぜい10万なのだが。 4人で1組購入したので1/4の配当だ。 仕事が終わってからは件の同僚3人と飲んでいたがリンのことが気になり早めに抜けることにした。 そうして予想外の収入を手にした俺が帰りに向かったのはリンを手に入れた家電量販店だ。 とりあえずは自分の仕事で必要なセキュリティ機能つきのフラッシュメディアのお得なパックと今まで使ってきたモノとはランクの違うちょっと高めのインナーイヤホンを購入。それでも分け前の半分以上が残っていたの何かリンに買ってやろうと思った。 最初に向かったので玩具コーナー、とは言っても武装神姫が置いてあるコーナーではなく8歳~のこども向けの製品のあるフロアだ。 そこで俺が吟味するのは今でも絶大な人気を誇り、続編も次々開発されているポ○モンのフィギュアだ。 その中でもリンが好むピ○チューは初期の作品のキャラクターの中でも特に人気がある。 海外でもその名を知っている子供はとても多い。 ゆえに人気商品なのではあるが、幸いブラインドボックスの製品ではないので余計な買い物をする心配が無い。 次は本命、武装神姫のコーナーに行く。 最近は需要に供給が追いついたようで以前のような混雑は感じられない。 リンを購入した時は人が多くてじっくり見ることが出来なかったほかのモデルも一応目を通してみる。 確かにほかのモデルも魅力的で購買意欲をそそられるが、いまは我慢する。 まだリンでさえウチに来てから1ヶ月たっていない。そんな状況で2体目を買うのは少し早い気がした。 ということで武器セットの「ヴェッフェバニー」と他社製品なのでもちろんメーカー側は組み換えを推奨してはいないが、サイズ的に互換性のある武器や雑貨のパックを買ってみた。 それでもまだまだお金は余るので俺は思い切って路線は少し違うが、各種フィギュア、アニメ・ゲームグッズを扱う店の揃う電気街に行ってみた。 で俺が足を運んだのは本物のドールや可動フィギュアのパーツ、衣装などを販売する専門店だ。 以前友人がここなら武装神姫に会うサイズの服が簡単に手に入ると言っていたのだ。 で店内にはいるが俺は少し身震いしてしまった。 美少女フィギュアぐらいなら量販店でも多少は目にするがここはそういったコーナーよりももっと重い、というか濃い空気が漂っている。 閉店時間が近いためか客の数はまばらだが、俺とは違った雰囲気をかもし出している。 そんな中を俺は急いで衣装コーナーへ。 そこにはありとあらゆる衣装が10~20cmサイズで並んでいる。セーターやブラウスといった制服系からマニアックなモノまで網羅されていた。 さすがにリンに過激な衣装を着せるわけにはいかないのでおれはブラウスと黒いスカート、そしてソックス。 ここまで着たらトコトンまでといった感じでリボンと靴をカゴに入れる。 まあ武装神姫を着飾るのも流行っているそうなので、この程度ならだいじょうぶだろう。 そうして選んだ製品をレジに持っていくとキャンペーンを行っていたらしく、同スケールのクローゼットとハンガーのセットを半額で提供していると聞いて思わず買ってしまった。少し高価ではあったが新品の服を適当に置いておくことは忍びなかった。 残金はというと、4000円。まあこんなものかと納得して家路についたがその店を出てからというもの電気街のストリートを歩いているとなんとなく視線を感じた。 やはりスーツ姿でああいう見せから出てきたからであろうか、目立つ店名の入った紙袋をもっているからだったのかもしれない。 こんな感じで無事、リンへのプレゼントを持って帰ってきたわけだ。 自分より二周りも大きい袋にリンは目を丸くする。 「こんなに大きなモノを・・・どうかされたんですか?」 オレはリンに事情を説明する。 「そんなことが…それは良いのですが、いつもの時間に帰ってこないので少し心配しました。」 「ごめんな、次からはメールとかするから。PCでメールの見方は分かってるよな?」 「はい、次からはちゃんと連絡してくださいね。」 「ああ、分かったよ。」 こんな会話をしているとなんだかへんな気分になってくる。 そう、たとえるなら新婚の夫婦なのだ。夫が気を利かせてプレゼントを買って帰ったが、連絡がないままいつもの時間に帰ってこないので心配する嫁。想像したらとても恥ずかしくなった。 恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じた俺は話題をそらす。 「なっ、プレゼント見てみろよ。びっくりするぞ~」 「マスターがそんなに言うなら、見ちゃいますね。」 そうして自分の目の前に置かれた、人間にたとえれば6・7人向けのテントぐらいのスケールであろう紙袋の中の中を覗き込むレン。 次の瞬間にリンの顔が沸騰したかのように赤くなった。 「なっ、マスター!! これは何ですか??! 白いヒラヒラの服・スカート、リボン、、、、、ソックスまでぇ~~」 なにやら想像したものとかなり違った物体が入っていたため相当混乱しているようだ。 「……大丈夫か? ただな・・・リンもオシャレとかしてみたら良いんじゃないかな??と思ったから。」 「はぁ、確かに先週テレビでやってたコンテストはすごく綺麗な娘がいましたけど……」 「心配ない、お前は十二分に可愛いよ。絶対に似合う。そうじゃないと万札をはたいてまで買ってこないぞ」 と素直な気持ちを言葉にしてみたが、言った俺の方が恥ずかしくなってくる。 リンもそんなことを唐突に言われたため、普通に戻りかけてた顔がまた真っ赤になる。そうして2人して顔を赤らめたまま数分が過ぎた。 「リン、とにかく一回着てみてくれるか?」 こんなことをしていても仕方がないので俺の方から話を切り出す。 「は、はひ。 分かりました。」 リンはまだ恥ずかしいらしく呂律が回っていなかった。 買ってきた服のパッケージを開けて、サイズを確認する。 「武○神姫にも完全対応」と歌われている製品だけにサイズはぴったりだった 「これの着方は分かるか?いちおう説明書に書いてるんだけど。」 「えっと、大丈夫です。分かります」 「じゃあ自分で着てくれ。俺がやったら着せ替え人形みたいになっちまうから。」 「わかりました。少し待っててくださいね」 てきぱきとプレゼントの服を身にまとうリン。 ブラウスに腕を通し、スカートを身に着け、ニーソックスに足を通す。そこでレンは違和感に気が付いた。 「マスター、あの……下着は??」 !!!!!!!!!!!!!!! 俺は飲みかけていたお茶を一気に噴出しそうになり、それを我慢したのはよいが飲み込んだお茶が気管に少し入ったらしく激しくむせる。 「大丈夫ですか! マスター!!」 なんとか生き地獄から脱出した俺だったが、リンは何もできなかたのが悔しいみたいだ。 「マスター。ご無事でなによりです。」 顔のすぐ横にリンが座って俺を心配してくれる。 「ああ、もう大丈夫。 ごめんな、店の雰囲気に圧されて下着まで頭が回らなかった。」 「いえ、気にしてません、元はといえば私は最初からスーツをきているんですよね。私もうっかりしてました」 俺が起き上がるとリンは最後にお願いをしてきた。 「あの、リボンなんですが自分では結べないので、お願いします。」 快く俺は引き受ける。 モデル「ストラーフ」はツインテールがデフォ状態だが、オーナーの好みでショートカットにすることが可能だがリンは俺の好みでツインテールのままにしている。 その薄い蒼の髪を留めている黒いリボン(とはいえコレは樹脂パーツで髪を通すだけで固定されるようになっている他、ショートカットの状態で使えば武装をマウントするためのサポートパーツにもなる)をはずして、純白の綿100%のリボンを結んでやる。とても小さなサイズなので少し苦労したが以前からプラモデルを弄ることで細かい作業に慣れていたのでちゃんと結んでやれた。 「よし、コレで良いぞ。 鏡見てみろ。」 俺はいつも使っている手鏡(コンタクトレンズの洗浄剤についてきたオマケだがレンのサイズにはぴったりだ)をリンの前に置く。 リンは鏡に映る自分のいつもとは違う姿をまじまじと見つめ、急に振り返ったかと思うと俺に聞いてきた。 「あの……似合いますか?」 控えめな表情で、上目遣いでたずねてくる。 白いブラウスに黒いミニスカート、そしてまた白のニーソックスとリボン、そしてアクセントとしての赤い靴。 極力シンプルにと選んだのが、予想した以上に似合っていたので俺は声が出ない。 「あの?マスター?」 「ああ、似合ってうぞ、想像以上だ。」 「ありがとうございます。なんだか私じゃないみたいですよ、コレなら街に着ていきたい位です。」 「気に入ったんだな~ 最初は着てくれないかと思ってヒヤヒヤしたぞ。」 「そんな、マスターに貰ったものを着ないなんて考えられません。でも変なのは嫌ですからね。」 「わかってる、って言うかそんな服を買うような冒険はしたくない。」 「でも…可愛い服があったらまた買ってくださいね。」 「ああ、もちろんだ。」 その晩、リンはずっと俺が買った服を着ていた。 そして寝る前にクローゼットを寝床の横に置いてやった。リンはせっせと服をハンガーにかけて収納していく。 俺の机の上はリンの『お部屋』になっいるようだ。 そうしてお片づけがわってすぐに就寝。 夜は更けていった。 翌日、寝坊したので朝食を抜き、急いでスーツに身を通してかばんを持って家を出る(リンへの挨拶は忘れていない)。 そうして何とか会社に定刻より10分遅れ(遅刻ギリギリ)で着いたのだが…… かばんに入っていたのは必要な書類、これはだいじょうぶだ、だが肝心のフラッシュメモリーが見当たらない。 寝る前にデータを古いモノから全て転送し、スーツのポケットに入れておいたのだが…… 改めて己の姿を見ると昨夜と違うスーツを着ている。 やってしまった!!と気づいても時すでに遅し。 そうして大切なデータを忘れたため部長に叱られたが、たまにはこんなのもいいと思う俺であった。 ~燐の3 「イベントへ」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2614.html
番外その二 「食人姫 (しょくじんき)」 それは、ある日の朝方のことでございました。 まだ朝日の差し込みきらない、ビルディングの薄暗い谷間を、小さな人影がひらり、ひらりと飛んでゆくのが見えます。やや、あれは恐らく、ちまたを賑わせている『武装神姫』というものに相違ありません。 この武装神姫とは、見た目には女の子の姿をした人形と変わりがありませんが、自由自在に動き、人と同じ千差万別の個性、心をもつことから、人々に親しまれているのです。ちなみに彼女が好むのは、人目につかない暗がりから、人間というものを気の向くままに観察することでした。ですから今朝もこうして、道行く人が空き缶を蹴飛ばす姿や、時計を覗き足早で立ち去る姿を、ベランダの手すりから足をぶらぶらさせて、じっと見物していたのでございます。 と、彼女の目が、階下にあります公園のベンチに座る男をとらえました。男はなにやら所在ない様子ですが、どうしたというのでしょう。 彼女はしばらく、マンションのベランダの手すりに座ってそれを見つめていましたが、やがて背を向けると、いつの間にやらどこかへ飛び去ってゆきました。 ※※※ さて、所変わって夕方の公園でございます。 男は朝と同じように、ベンチに座ってうなだれておりました。垂れ下がった手に握られた茶封筒には、いくらかの千円札が入っています。ははあなるほど、彼は身銭を稼いでいたんでございますね。 ええ、この男はまだこの町に出てきたばかりで、日々の暮らしになんとか困らぬよう、アルバイトで生計を立てておりました。ただ、こと金を稼ぐとなると世の中なかなか上手く行かないものですから、一度にそれほどの稼ぎは得られません。今日はコンビニ、明日は居酒屋と、あちらこちらを渡り歩いていたのです。 そんな男には、一つ目標がありました。例の、武装神姫のオーナーとなり、そしていずれは『バトルロンド』にて全国に名を連ねるほどの実力者になることです。オーナーとは、文字通り武装神姫の持ち主のことでして、しかしこの武装神姫、しっかりしたものを揃えるのには意外と費用がかかるのでございます。中古となれば手は届きもしましょうが、しかしゆくゆくは全国ですから妥協をするつもりは、当初男にはありませんでした。そんなわけで、彼はただただその夢を大事に守りながら、日々の仕事を乗り越えていたのです。 しかし夢が叶わないというのは、なかなかどうして心に良くない風を吹かすものです。男はいくらも良くならない、また武装神姫が買えるようにもならない今の生活にほとほと疲れ果てておりました。 夕日が、だんだんと山の端に消えてゆきます。 男は短く息を吐いて、己の手に握られた茶封筒を見つめておりました。ああ、いつになれば俺の暮らしは良くなるのだと、男は考えました。まだ、彼を産み育てた母親への仕送りも残っているのです。 その、丁度夕日がマンションの影に隠れた時でございます。 何気なく地面を見つめていた男は、前方からコトリと、音がしたのに気がつきました。目を上げてみれば、それ、男が座っているベンチの正面、手の触れそうな距離に、銀の箱が置かれているではありませんか。 男は目を疑いました。何故って、どこからどう見ても重たそうです。風に吹かれてきたとも到底思えません。男はそこで初めて、ブランコの後ろの木陰から、二つの目玉が自分を見つめておるのに気付いたのです。 男はうろたえました。そうでしょう、訳の分からぬ怪しげなものに見つめられているとなれば、ごく自然な反応です。蛙や鼠の類いだって同じでしょう。 目玉、――いや実際には目玉と形容してもよいものか、なぜならそれは薄暗い木陰に守られて、男には電球が二つ暗がりの中で輝いているようにしか見えず、ついに正体をつかむことはかなわなかったのです――は、男に向かって言いました。 曰く、武装神姫は欲しくないか、と。 男は今度は己の耳を疑いました。男は、自分が武装神姫を欲しいと思っていることを、ごく親しい人間にしか知らせていなかったからです。突然現れたこの得体の知れないものが、何故それを知っているというのでしょう。 目玉は、男の心中を察したのか、こう続けました。 心配しなくていい。これは君への贈り物で、私は君の手助けをしたいと思ってやって来た。そのケースの中にいい神姫が入っているから、開けて持って行くといい。平気だ、新品と変わらない。 男は、ただもうこの怪異に恐ろしいのと驚いたのとで、この場から逃げだそうかと思いましたが、しかし同時に男は、何故かは分かりませんがこの箱を開けて見たい衝動にもかられました。恐い物見たさとでも言いましょうか。箱はふたがずれていて、軽く手が触れれば開いてしまいそうです。あと少しで中身が見えるか、見えないかです。 何より、これがもう少しでも離れた場所に置かれていたならばあきらめもついたでしょうが、男には己の手の届く場所にある箱を調べもせずにこの場を立ち去ることが、ついに出来なかったのでございます。 男は、恐る恐る箱に手を触れました。 始め、覗いたのは黒い布でした。続いて黒い手足と、夕日を受け白く光る髪が現れ、男は目を見張りました。確かに、彼の求めていた武装神姫に違いありません。目玉は、男が安堵したのを見て、低い笑い声を漏らして揺れました。 何度も男が武装神姫を、角度を変えて眺める度に、それは日光を照り返して美しく輝くのです。手に取ったものが、あまりにも素晴らしかったために、男は恐ろしいのも忘れて目玉に礼を言いました。茶封筒の中身を差しだそうとさえしましたが、目玉はまた低い声を漏らしながら、それは結構だと言いました。そうして、一つだけ言っておくが、君はそれをいつまでも大事にしてくれるかなと問いました。男は、もちろんだと頷いて、再び礼を言いました。 目玉はまたくつくつと揺れると、木陰の闇の中へ溶けてゆきました。 男は、自分は夢でも見ているのかと思い、何度も目をこすりましたが、彼の手の中にまだ神姫はあったのです。 ※※※ さて、男は自分の家に帰ってから、すぐにもう一度箱を調べました。 全く、見れば見るほど素晴らしい神姫です。黒い体はうるしを塗ったように輝いており、そこから少女らしい白い太ももや胸元が覗く様は艶めかしくもあります。コンピュータによって調べたところによると、この神姫は戦闘機をモチーフにしているようで、なるほど付属の鎧と思わしきものにもプロペラや機銃が付いております。 男は早速この神姫を起こそうとしました。クレイドルなるものを使って充電をすることはとうに調べてありましたから、箱に同封されたクレイドルをコンピュータにつなぎ、この神姫を寝かせました。 夜もふけた頃になってから、男が再び確認すると、神姫は充電が済んだようで起き上がっていました。話しかけてみましたが、反応は返ってきません。おかしい、俺をオーナーだと認めているはずだがと男は考えましたが、次の日は早朝からアルバイトが控えていたために、これ以上は詮索せず、男はさっさと床につきました。 ※※※ 翌々日には、男は近所のゲームセンターへと出かけました。 ゲームセンターには、『バトルロンド』の試合を行うための設備があり、男は自分の神姫の実力を試そうと思ったのです。登録のためのカードを、少し時間がかかりましたが作り、まずは練習として、人間ではなくコンピュータの命令する神姫と戦わせました。 相変わらず神姫は表だった反応を返しませんでしたが、試合を行うとなると話は別でした。能面のような表情の裏に確かな意思を宿し、男が命じるまでもなく、試合に向かってゆくのです。そうして、圧倒的な実力で、相手をなぎ倒しました。 黒い翼をきらめかせ、桃色の剣が一閃する度に、のっぺらぼうの人型人形がばったばったと切り伏せられてゆく様子は、男にこれまでにない爽快感をもたらしたのです。 コンピュータとの戦いを数試合、そして人の命令する神姫との試合をさらに数試合して、男は帰りました。その日の成績は全勝でした。 男は顔中に笑みをたたえて帰って行きました。ましたが、彼から少し離れたところで、他の客があつまってひそひそと話をしているのには気がつきませんでした。 一週間の後に、男はそのゲームセンターの番付に載るようになりました。もとより小さなゲームセンターであったことも一つの理由でしょうが、しかし男の神姫の実力は際だっていました。いったい、なぜこんないいものをただでくれてやったのだと、男は内心目玉に向かって言いました。 その二日後には、男は大会に出ようと考えました。 近所のゲームセンターではなく、駅前の大きな場所です。もういつものような試合では男は満足出来なくなっていましたから、少し遠出をして力試しをしようと企んだのです。もう男はすっかりバトルロンドと、自分の神姫の強さの虜になっていました。相も変わらず、神姫が自分の言葉に人間らしく答えを返してくれないのが、もどかしくもありましたが。 ※※※ さて肝心のその大会でございますが、駅前の大会といっても、男が期待していたような規模ではありませんでした。人数も実力も、男が頂上を争うにはあまりにぬるすぎるように感じられたのです。男は、口には一切出しませんでしたが、この分では午後は暇になりそうだと考え、他の参加者が神姫に指示を出す様をあくびをかみ殺して見ていたのでございます。 そういうわけでしたから、男は難なく準決勝まで進出しました。 さて、今度の男の相手は見目麗しい女の子でした。二十か二十一に上がったか上がらないかくらいの年齢に見え、付き添いらしい女友達と二人連れで参加しているようです。試合の準備をしている間、彼女らの話し声は男の方まで聞こえてきました。 「……ねえシューちゃん。うち、ほんまに参加しても良かったんかなぁ」 「なにゆーてんねん。アンタただでさえバトルせーへんのやし、こういう時くらいパーっと結果出して見せつけてやらなあかんて」 男は内心彼女らを憎たらしく思いました。はん、見るからにいいとこのお嬢さんだ。馬鹿にしていやがる。お前らのような奴らだったら、わざわざこんな場所に出てこなくてもいいだろうに、さっさと俺に勝ちを譲らないか。 こんな調子でしたから、それが顔にも表れてしまったのでございましょう。相手の女の子は、男がいつのまにか自分を見ているのにうろたえましたが、それでも小さな声で挨拶をいたしました。 「あの、どうぞよろしゅう」 と、両手を着物の裾で揃えておじぎをしたその仕草は、傍目には非常に可愛らしく映りましたが、男にはそれがまた小憎らしく思えてなりませんでした。しかし、相手の神姫が今にも斬りかかりそうな剣幕でこちらを睨んでおりましたので、面倒が起こってはいかんと男は視線を逸らしました。 さあ両者互いに神姫を戦いの場に送り出し、さてさて一体どうなることか。 相手方の神姫は、男の神姫と対面して、いくらか驚いたようすで目をしばたたかせました。が、審判の合図と共に、半歩下がって距離を取りました。 男はこの試合、今までと同じようにあっけなく決着がつくものと思っていました。しかし、それはものの見事に外れてしまったのでございます。 まず始めに仕掛けたのは男の神姫ですが、相手はひらりひらりと身をかわし、まるで触れさせてくれる気配がありません。こちらが剣を突き出したかと思えば、体を右へ左へひねり、およそ敵を打ちのめせるとは思えない横笛で、男の神姫の足を軽く払うのです。おまけに背負った三味線は、つま弾く度に弦を伸ばし、男の神姫を絡め取ろうとするではありませんか。試合は膠着し、男はだんだん焦りを覚え始めました。 相手の神姫は、男の神姫と同じ、能面のような表情でしたが、時折なにを思ったのか、首をかしげたり眉をひそめたりといった動作を端々に挟むのでした。しかし男はただもうこの試合に勝つことだけを頭に置いておりましたから、そんなものは目に入りやしません。ええ、それで男は、対戦相手や観客までもが男の神姫を見て、不審そうに首をかしげているのに気がつかなかったのでございます。 対戦相手の女の子は始め、口をもごもごと動かすだけでしたが、男の神姫が剣を閃かせ、彼女の神姫がそれを三味線の弦で絡め取った瞬間、とうとう意を決したように言ったのです。 「……コウメちゃんやろ?」 男は思わず目を上げて彼女を見ました。 「ねえ、あなた、サオトメくんのコウメちゃんやろ?」 男は始め、ただぽかんと大口をあけて見ていましたが、彼女が自分の神姫に向かって話しかけていると、しばらくしてから分かったのです。 「え? ……ああっ、ホンマや! コウメちゃんやんか! ……ちょっとお兄さん、その子どこで手に入れたん? ドロボーかアンタ!」 泥棒。付き添いの女の子の言葉に、男はもう驚くばかりです。一体こいつは俺に向かってなにを言っているのだと思いましたが、なんとその場にいた観客までもが、彼女の言葉にああっと納得した様子でいるではございませんか。 「そうや、どっかで見たことあるなぁと思うたらコウメちゃんや。……その子な、ウチらの知り合いの神姫やねん。一年ぐらい前から行方不明になっとったんやけど、はは~ん。アンタが持っとったんかこのヘンタイドロボーが!」 「ちょっとシューちゃん、言い過ぎやわ」 「でも見てみい! コウメちゃん前はホンマに気立てが良くてようしゃべる子やったで。こいつがなんやいじっておかしくしたんとちゃうか!?」 「シューちゃんたら。……あの、だいじおへんかったら、お話聞かせてもらえませんやろか?この試合、無効にしてもろうてもええですから」 相手の女の子は優しくしずしずとそう言いましたが、どうやら観客の誰かがこの店の店員を呼んだようです。男の腕が掴まれました。 男は気が動転してしまいました。あの目玉にしてやられたとも思いました。どうやら彼女らの話を総合すると、この神姫は盗まれたものだったらしいのです。しかもこの場の反応から察するに、相当に名の知れた神姫だったに違いありません。これは大変でございます。他人の神姫を勝手に自分のものにしたあげく、それを使ってしまったのですから。 神姫同士は互いに一歩も譲りません。男は大慌てです。ただあの時公園のベンチにたまたま座っていたばっかりに、男は泥棒の罪を着せられなければならないのです。そんなことになってはたまりません。ですから、男は声を限りに叫びました。 「ち、違う! こいつはもらったんだ、あいつ、に――――」 その時でした。 これまでなんの反応も示してこなかったはずの男の神姫の表情が、まるで氷が溶けるように変わったではありませんか。 対峙していた女の子の神姫は、はっと目を広げ、男の神姫を見ました。男の神姫は、はじめここがどこだかといったふうに呆けた表情をしておりましたが、やがてその顔にありありと恐怖の色が浮かんだのです。 「ぼ、ぼたっ、た、たすけっ――――!!」 神姫は、男の声もかすむほどに、声高く叫びました。途端に、がくがくと前後に体を震わせ始めたではありませんか。 女の子の神姫は、突然なにかを察知したように三味線の弦を千切り、背後にいる自分の主人を振り返り、キッと鋭く言いました。 「主ッ! お下がり下さい!」 その瞬間でございました。 男の神姫が入った装置の中から、だいだい色の炎が、息をつく間もなくごうっと吹き上がったではありませんか。ですから、手前にいた男はたまりませんでした。顔中に焼け付くような痛みと、人々の悲鳴、機械の破片をあっと言う間もなく受け、炎の舌に飲まれたようにそのまま意識を手放してしまったのでございます。 ※※※ 太陽が、さんさんと町を照らしております。 丁度お昼の休憩にするには良い時間でありましょうが、ここから見えます病院の敷地に、一台の救急車が、息せき切って入ってくるのがみえます。 あ、今救急隊員が担架を降ろしたようでございますが、乗っているのはあの男です。目にも指にも、ミイラのように痛々しく包帯が巻いてあります。あの様子では、今後使い物になるかどうかも分かったものではありません。 一体どうしてあのような奇怪な事件が起こったのか、全く不思議でなりません。男があの箱を開けさえしなければ、いや、ベンチに座ってさえいなければ、このようなことにはならなかったのかもしれませんが、それももはや機械が破裂してしまった今となっては、調べようもないことでございます。 ……さて、男の様子を、敷地の隣に生えた木の上から観察しているものがありました。例の、ベランダにいた神姫でございます。 彼女は、男が運ばれてゆく一部始終をじっと見物しておりましたが、やがて男が病院のガラス戸の後ろに消えてしまうのを確認すると、くつくつと低い声を上げて笑いました。どうしたのでしょう。これはあくまでもただの推論でございますが、いつまでも大事にすると言ったはずの男が、我が身かわいさにあっけなく神姫を手放そうとしたことが、おかしく感ぜられたのかもしれません。しかし、それも詳しくは調べるべくもないことでございます。 そうして、いつの間にやら彼女の姿は、洛中を千年もの間吹き渡るこの風に乗って、全くかき消えるように、どこへともなくいなくなってしまったのでございます。 武装食堂へ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/220.html
1.0話 「別のなにか」 1 やたらと消防車のサイレンがうるさい日の翌日だった。 なんでも国立の研究施設だか何だかが火災になったとかで、 隣の地区どころかその向こうの地区からも消防車が来ていたらしい。 幸いにも俺の済むアパートからは離れているので危険は無かったのだが、 かなりの規模の火災だったらしく、朝方まで五月蝿くて眠れなかった。 おかげで寝不足です母さん。 仕事中も問い合わせの電話が山程山程。 地区違うっちゅーねん、部署違うっちゅーねん。 しかしどんなに忙しくても定時上がりなのが公務員のいい所。 ちゃっちゃと寝ちまうぜー…と目論んでいたが、 そうも行かない理由が俺に申し訳なさそーな視線を送っていた。 2 「すると何? キミの面倒を見ろ、という訳ですか親父殿は」 正座したそいつの前には親父からの手紙。 内容は『マオを頼む』。 こんだけ。 あ―――――――も―――――――。 思えば母さんの葬式にも来なかった親父が、だ。 あげく、仕事に専念する余り家に帰ってこなくなった親父が。 今になって『マオを頼む』ですと? いやいやいや。 親父のことは軽蔑しているし、やっとこさ縁がきれたかなーとか思っていましたよ? それでも『マオを頼む』と言われりゃあ何某(なにがし)かの切迫した事情があるのかもしれないと思うじゃあないですか。 でもねぇ…多分このコがマオなんだろうけどさ。 俺、このコの事見下ろしてるんだよね。 それはもう物凄く。 「あうぅ、スミマセン; ですが私、他に行く当ても無くて…」 泣くな。 泣かれると多分、すっげぇ困る。 こんなんでも女の子の涙は強力ですね、母さん。 親父からの手紙を持ってきた彼女は… 神姫でした。 orz 3 俺は柏木浩之、20歳のしがない公務員でございます。 親父は失踪して音信不通だわ母に先立たれるはと、程々に波乱万丈な学生時代を歩んでまいりましたが、めでたく就職浪人にもならず安アパートながら質素ながら、それなりに平穏に暮らしてまいりました。 1時間ほど前までは。 労働を終え、愛しの我が家のノブを回したところで呼び止められた。 「ヒロユキ様ですね?」 透き通った、それでいて少し甘さのある少女の声。 おいおい、これって『貴方の事ずっと前から見てましたv』か? いやさ、気が早いぞ俺。 キャッチセールスな可能性もあるし、ここは当たり障り無く… 「どなたですか…って、あれ?」 いない。 だーれもいない。 前も後ろも、見渡す限り360度。 空耳だったのかも。 がちゃり 扉を開け、部屋に入ろうとする俺のズボンの裾を何かが引っ張った。 「ああ~、待ってくださいぃ~」 んな?! さっきの声! 足元から聞こえるし、ズボンの裾わ引っ張られてるし、いったい何が…… 「あ」 見ればそこには、緑色の髪と瞳の人形が泣き出しそうな顔で俺を見上げていた。 4 柏木家 居間兼寝室兼色々 「泣くな。 泣かないでお願いだからっ。 君をウチに置くのは構わないんだけど…」 そう。 犬猫人間に妖怪の類であれば、安月給の身ではとてもじゃないが支えられる筈も無い。 だがこの子は武装神姫とかいう玩具だ。 たぶん。 かかったとしても精々充電の電気代程度で経済面での問題はないし、 ちっこいので狭い我が家でも面積を圧迫する事も無いだろう。 問題はそんな事じゃないんだ。 構わないと言われてぱぁ…っと花が咲いたような笑顔に。 可愛いなー。 なるほど、これでは子供ばかりでなく、いい年した大人が熱を上げてもしかたない。 「もう一度確認させてくれ。 君が親父が俺に面倒を見るように頼んでいるマオなんだね?」 ここだ。 身勝手にも程がある。 自分の妻の葬式にすら顔も出さないで、今になって頼みごとを…しかも人形の世話ですよ?! 「はい、私は開発コード ”Maxwell-X01”通称マオ。 貴方のお父様によって作られた武装神姫です。」 くぁ、確定かよ… 俺ら家族をほっぽいといてまでしてた仕事がコレ? なまじ目の前のこのコ…マオが可愛いだけに、余計にムカツク。 …あれ? でもこの外見はたしか… 俺はPCをスリープモードから復帰させるとブラウザを起動し、 ホームページに設定してある検索サイトに[武装神姫 猫]と入力した。 …武装神姫 猫 の検索結果 約 58,000,000 件中 1 - 10 件目 とりあえず公式らしき所をクリックする… あった、これだ。 「なぁ。」 「は、はい?」 画面には猫型MMS[マオチャオ]のデモンストレーションムービーが映されている。 そっくりだ。 なのにコイツは確かに…言ったよな? 「君を作ったのは俺の親父で、しかもコードナンバーにX?」 「え、ええ。」 ちょっとうろたえてる。 あきらかに「余計な事言っちゃたよ~」な顔だ。 感情は豊かな様です。 置くのはいいだろう。 作り物であろうとも、ヒトの形をしてヒトの様に振舞う存在を寒空に放り出すのも気が引ける。 けどな、ひとつ納得できねぇんだよな。 「君はコレとは別の”何か”なんだな?」 「う、あ、ぅ~、はぃ…」 「置いてやる。 だがその代わり、親父が俺達をほっといてまで作った君が何なのか、 なんで俺に所に来なきゃならなかったのか、話せ。」 5 朝。 とりあえず。 マオの事は「父親が同じなんだから俺達は兄妹じゃね?」で落ち着きました。 落ち着いたという事にしておいて下さい、いやマジで。 マオから聞いた話はヘビーすぎてなんと言うか。 「兄妹じゃん!」とマオを暖かく受け入れた俺ですが、内心はぐっちゃぐっちゃな訳で… しかし個人の事情で仕事を休んでいては(除、冠婚葬祭) お給料の元を収めていただいてる国民の皆様に顔向けできないというものです。 真面目だな、俺。 でもなー、コイツを一人にするのはなー… うん、連れて行こう。 内ポケットに入ってりゃなんとかなるだろう。 「マオ、仕事いくけど…一緒にくるか? 見つかるとまずいから ポケットの中で大人しくしてもらわなきゃならないだろうけど…」 彼女は振り向くと、苦笑いしながら「隠れてるのは得意ですから」と答えた。