約 2,308,097 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2223.html
ウサギのナミダ 番外編 少女と神姫と初恋と その1 ◆ 「なあ、八重樫。昼休みに時間もらえる? ちょっと相談に乗ってもらいたいんだけど」 八重樫美緒だって、年頃の女の子である。 男子と話すときは少しドキドキするし、こんな台詞ならなおさらのこと。 それが、憧れている男の子からなら、思考が真っ白になって当然だ。 「え、あ……うん……いい、けど……」 「そっか、よかった。じゃあ、弁当持って屋上集合で」 「え、お弁当……?」 「ちょっと込み入った話になりそうでさ……八重樫にしか相談できないんだけど……だめかな」 「え、あ……うん……いい、けど……」 「よかった! それじゃあとで」 「うん……それじゃ……」 さわやかな笑顔を残し、去りゆく彼の背中を、呆然と見送るしか美緒にはできなかった。 彼はすぐに男子の輪に取り込まれてしまう。 「安藤! お前、八重樫になに話してんの」 「大したことじゃねーよ」 ははは、と笑って答える彼。 そう、大したことじゃないんだ。 男子たちはもう別の話題で盛り上がっている。 美緒は苦笑する。 ただちょっと、声をかけられただけ。期待するなんてどうかしてる。 美緒が鞄から教科書を取り出そうと視線を下げたそのとき。 「美緒っ!! アンディと何話してたんだ!? あたしにっ、親友のあたしに話してみろっ!」 うきうきとした口調と共に、後ろから首に腕を巻わされ、絞められる。 「ちょ……有紀……くるし……」 「ああ? おっと、わりぃわりぃ」 手荒なスキンシップをしてきたのは、親友の園田有紀。 仲良し四人組の一人である。 有紀の長い腕をはがしながら、視線を上げると、目の前に残りの二人も立っていた。 「よかったわね。きっかけが掴めそうじゃない」 「そうだよ、美緒ちゃん! ファイト、押し倒せ!」 蓼科涼子の落ち着いた物言いは、師匠譲りだろうか。 江崎梨々香は、顔に似合わず過激なことを言う。 それにしても、彼はこっそり美緒に話したのに、なんでみんな注目しているのか。 少しぐらい目をそらしているふりをするのが、友達がいと言うものではないだろうか。 「そんなんじゃないわ。ほんとに、大したことじゃないもの……」 そう言って、顔を上げた美緒は、涼子と梨々香の背後を見て、凍りつく。 注意喚起する暇もなく、女子の一群が二人の背後から押し寄せ、はじきとばし、美緒をあっと言う間に取り囲んだ。 「ちょっと、ヤエガシ! 今のどういうこと!?」 「安藤君とどういう関係!?」 「今アンディと話したこと、洗いざらい吐きなさい、ミオ!」 「え、ええええぇぇっ!?」 美緒は自分の席から立ち上がることさえできないまま、女子たちの詰問を受けた。 だが、あの短い会話の内容を何と答えられるというのだろうか。 よく見ると、自分を囲む女生徒には、自分のクラスメイトでない女子も含まれているような気がする。 美緒はとまどいながら、お茶を濁し続けるしかなかった。 教壇でクラス担任の教師が、わざとらしく大きな咳払いをするまで。 美緒に声をかけてきた彼……安藤智哉は、同学年女子の間で一番人気のある男子だった。 ◆ クラスメイトたちにおける、八重樫美緒の評価は「変わり者の文学少女」である。 整った顔立ちに、セミロングの黒髪、銀縁の眼鏡はいかにも文学少女といった風情で、理知的に見える。 実際、彼女は読書家だ。時間があれば本を開いているし、図書館の常連であることはよく知られている。 おとなしく、女の子らしい優しさと気遣いの持ち主で、男女問わず、クラスメイトは彼女に好感を抱いている。 成績も常に学年上位。まさに絵に描いたような優等生だ。 また、あまり表立ってはいないが、美緒に憧れている男子も少なくない。 その理由の一つが、彼女の魅力的な胸にあることは、年頃の男子にしてみれば仕方のないところであろう。 ブレザーの上着を着てもなお存在を主張する大きな胸は、楚々とした性格と外見とはあまりにミスマッチで、美緒の意志に関係なく、男子たちを密かに魅了しているのだった。 そんな美緒を「変わり者」呼ばわりさせているのは、彼女の交友関係に原因がある。 いつも美緒と一緒にいる三人。彼女たちは揃いも揃って変わり者だった。 園田有紀は、長身でプロポーションもよく、顔もボーイッシュな美人だ。乱暴な男言葉を使うが、それがよく似合っていて、嫌みを感じさせない。下級生女子には絶大な人気を誇っている。 しかし、彼女は言葉だけでなく、性格も乱暴だった。短気で、男子とでも平気で取っ組み合いをする。しかも強いので、負けるのはたいがい男子の方だ。 また、学業は下の下。数学以外の勉強が壊滅的だ。 スポーツは万能で、特に球技は特待生とも向こうを張るほどの実力を持つ。球技大会のバスケットボールで、バスケ部の部員三人のマークを蹴散らしてダンクを決めたのは、もはや伝説だ。 しかし、なぜか再三のクラブ勧誘を頑なに断っている。 有紀は劣等生のレッテルを貼られ、教師たちからも問題児扱いされていた。 蓼科涼子は、有紀ほど悪目立ちするタイプではない。 むしろ真面目な性格で、責任感もあり、努力を欠かさない。そのため、教師たちからは人気がある。 長い黒髪を後ろで結わえたポニーテールは、彼女のストイックな性格によく似合っている。 だが、ストイックな性格こそが、蓼科涼子の問題点だった。 生真面目すぎるのだ。 特に同年代の男子は不真面目に見えるのか、いつもやぶにらみである。 女子でも「カタ過ぎる」と言って、涼子を敬遠する者が少なくない。 涼子に近しい友人以外で、彼女の笑顔を見た者はほとんどいないという有様である。 もちろんその美少女ぶりに、付き合ってくれと告白した男子は数多い。 しかしそのたびに一言、 「あなたと付き合うことは、金輪際あり得ません」 とばっさり切り捨てられる。 あまりにとりつく島のない物言いに、逆ギレした男子が、直後に涼子に襲いかかったことがある。 だが、逆に投げ飛ばされて地面にたたきつけられた。 実は涼子は合気道の有段者である。小さな頃から定期的に合気道の道場に通っているのだった。 以来、涼子は陰で「武士子」と呼ばれているのだが、それを聞くと本人は激昂するという。 生徒の人気という点では、江崎梨々香が四人の中で一番かもしれない。 梨々香は男女ともに人気がある。 性格は明るく、社交的だし、可愛い印象の美少女だ。 彼女はファッションにとても詳しい。コーディネートは友人たちからいつも相談を受けるし、自分で服や小物も作ってしまうほど。 本人の普段着はピンクハウスや甘ロリ系ばかりなのだが、それがまた異様に似合う。 料理も上手で、家庭科実習の残りなど、男子よりも女子が狙っている。 その明るさ、家庭的な趣味もあいまって、男子の人気もすこぶる高い。 だが、彼女にも問題点はある。梨々香はとにかく勉強ができない。家庭科以外の科目は、間違いなく最下位クラスである。 それだけなら勉強すればいいのだが、本人に勉学に励む気がまるでない。しかも、成績が悪いことを全く気にしていない。だから、成績が上がるはずがないのだった。 教師たちから見れば、梨々香は非常にたちの悪い劣等生だった。 このように、性格も趣味もまるで違う変人が、なぜか仲良しグループを形成している。 そのリーダーが、普通の優等生である美緒なのだ。 三人とも、美緒の言葉は、なぜか素直に聞き入れる。 有紀の乱闘に仲裁に入れば、「仕方ねぇなぁ」と言って、あっさり拳を引っ込める。 「武士子」呼ばれて激昂する涼子を、一瞬にしてなだめられるのは美緒だけだ。 追試になっても勉強しようとしない梨々香に、「いい加減にしないと怒るわよ?」の一言で、一心不乱に机に向かわせる。 なぜ変わり者の三人が、ここまで美緒を立てるのか。 三人はそれぞれ抜きんでた特技があるのに、クラブ活動を頑なに拒むのはなぜか。 そして、全く方向性の違う四人の共通点とは何なのか。 その理由こそが武装神姫だった。 彼女たちはいずれも神姫のオーナーであり、ゲームセンターに入り浸るバトルロンド・プレイヤーだ。 クラスメイトたちは思う。 なぜ武装神姫なのか、と。 それこそが、美緒を変わり者に仕立て上げている最大の理由なのだった。 ◆ 午前中の授業は、まったく上の空だった。 安藤智哉は、美緒にとって憧れの男子生徒だ。 彼の印象を一言で言えば、さわやか系、だろうか。 とにかく、表情にも言葉にも屈託がない。 怒った顔も、悩んだ顔も、裏を感じさせない。 いつも仲間たちの輪の中で、笑っているような人だ。 その笑顔が可愛くて、魅力的だと、多くの女子が思っている。 成績は中の中といったところだが、スポーツが得意だ。 特に得意なのはサッカーで、いつも昼休みにクラスメイトとボールを蹴っている姿を見かける。 球技大会でもフォワードで大活躍し、クラスの優勝に貢献した。 その姿を見てファンになった他クラスの女子や、下級生も多いらしい。 だが、安藤もまたなぜか、特定の部活動はしていない。 ある意味、女子の理想の彼氏像を体現しているような安藤智哉は、モテて当然だった。 しかし、いままで、安藤が特定の女子と付き合ったことは確認されていない。 同じ中学出身者はもちろん、同じ学年の女子で、安藤と付き合いたいと思う者は数知れない。 多くの女子が、安藤の彼女の座を、虎視眈々と狙っている。 美緒は、彼女の座を狙うだなんて、大それたことは考えていない。 時々妄想の中で、かの『エトランゼ』菜々子とティアのマスター・遠野がゲーセンで談笑している姿に、自分と安藤を重ね合わせてみたりするのが関の山だ。 そもそも、美緒と安藤の共通点なんて、同じクラスであること以外、何もないのだ。 話をしたことくらいはあるが、それは単なる連絡事項とか挨拶とか、その程度のことだった。 安藤が自分をどう思っているかなんて、考えたこともない。考えるまでもない。 それが、今朝のように名指しで、しかも個人的に相談だなんて、全く想定外だった。 美緒は視線を窓際の前の方に走らせる。 そこには頬杖をついて黒板を見る安藤の後ろ姿。 その背中を見つめるだけで、胸のドキドキが止まらなくなる。 いったい何の相談なんだろう。 美緒には想像もつかない。 期待半分、不安半分な気持ちを持て余したまま、午前中は過ぎていく。 ◆ 一方、安藤智哉を本命と狙う女子連には、激震が走っていた。 高校入学からこれまでの数ヶ月間、安藤が特定の女子を誘って昼食だなんて、前例がない。 いや、同じ中学出身者に言わせれば、中学時代だって一度もなかった。 それが今朝、覆された。 しかも、相手は、物静かであまり目立たない文学少女の八重樫美緒である。 まったくノーマークの人物だった。 確かに美緒は、男子の人気はそこそこある。 だが、安藤が美緒に特別な関心を寄せたことは、今までなかった。 美緒は安藤を憎からず思っているようだが、表立った行動に出たことなどない。 しかも、美緒は変人グループのリーダーである。 彼女たちにしてみれば、ライバル候補としてまずあり得ない、と思っていた人物だ。 彼女たちは、急浮上した新たな恋のライバルに、何を話したのか尋問したが、本人の答えは要領を得ない。 いったい、安藤は美緒に何の相談をするのか。 恋のライバルたちは、いったん休戦に合意。非常事態宣言を発令した。 今回の事案に対し、周辺情報の調査が開始され、様々な情報が飛び交う。 授業中の情報伝達方法は、いにしえより、ノートの切れ端と相場が決まっている。 数え切れないほどのノートの切れ端が、教壇に立つ教師には気づかれぬよう、極秘裏に受け渡される。話題の本人たちのみを迂回し、教室内を音もなく行き交った。 短い休み時間中は、教室の端、階段の踊り場、女子トイレなど、そこかしこで緊急ミーティングが開かれ、情報の検討と精査が行われた。 そして、情報の真偽は、携帯端末からのメール配信によって、すぐに情報共有される。 事態は高度情報戦の様相を呈してきた。 しかし、昼休みを目前にしても、最重要事項……安藤の相談内容については、まったく判明しなかった。 ◆ 「おーい、八重樫! こっち!」 昼休み。 美緒が屋上に上がると、ベンチの一つに陣取った安藤智哉が手を振った。 彼の指示通り、五分ほど教室で待ってから、屋上にやってきた。 その間に、安藤は学食でパンを調達し、上がってきたらしい。ビニールの手提げ袋を手にしている。 美緒は、安藤から一人分ほどの間をあけて、ベンチに腰掛けた。 「はい。八重樫はこれが好きだったよな」 俺のおごり、と言って安藤が差し出したのは、ミルクイチゴのパックだ。 美緒は驚きながらパックを受け取る。 「ど、どうして知ってるの……?」 「え? だっていつも、そればっかり飲んでるじゃん」 安藤はコーヒー牛乳のパックにストローを刺した。 美緒は混乱する。 確かに、美緒はいつもミルクイチゴを決め打ちで買っているが……でも、そんなことを、まさか彼が気にとめていたなんて、夢にも思わないではないか。 (……これって、どういう夢なの……!?) 彼からのささやかなプレゼント。 二人きりのお昼ご飯。 今の状況に、ひどく現実感がない。 でも、一口飲んだミルクイチゴは、いつも通りの甘い味がした。 ◆ 「かたい……かたいよ美緒ちゃん! もっとこう、やわらかく、かわいく、媚びて笑えば、もう男なんかイチコロなのにっ!」 小声でエキサイトしている梨々香を押さえ込みながら、涼子は二人の様子に目を細める。 「美緒の飲み物まで用意してるとは……いつもながら、さすがの気遣いね」 「あれ、涼子はアンディとそんなに仲良かったっけ」 「同小、同中だからね」 涼子と安藤は、特に仲がいいわけではない。 小学校から同じ学校だし、同じクラスにもなったこともあるから、お互い顔は見知っている。 また、二人とも噂に上りやすい性質なので、情報がよく耳に入ってくるだけだ。 安藤の気遣いの良さ、マメさは昔からの筋金入りである。 「まあ、安藤はあのくらいして当たり前よ。昔からそうなんだから」 「……そう思ってない連中も多いみたいだけどな」 涼子の言葉を聞きつつ、有紀は背後を振り返る。 そこにはクラスの女子が大勢隠れつつ、二人の様子を覗いる姿がある。 クラスメイトの半分以上がいるんじゃないだろうか。 階段ホールのある建物の裏側は、通学ラッシュのバスの中もかくや、という状況である。 そんな女子たちは皆、今の二人の様子を見て、絶望的なショックに顔を真っ青にしていたり、ハンカチの端を噛んで細い奇声を上げたりしている。 二人を監視しているメンバーは、階段ホールにいるだけではない。 美緒と安藤が座るベンチから少し離れたところで、他クラスの女子グループが談笑するふりをしながら、監視活動を行っている。 そうした女子グループがぐるりと二人のベンチを取り囲む形に、いつのまにかなっていた。 だが、さすがに安藤自身が美緒を呼び出しただけに、妨害するわけにも、すぐ近くに行くわけにもいかず、ある程度の距離を保った包囲網を形成することとなった。 ゆえに、二人の会話はあまりよく聞こえない。 「……座るベンチが分かっていれば、盗聴器を仕掛けたものを……」 近くにいた女子の一人が呟く。 盗聴器をいつも持ち歩いてんのか、と突っ込みたくなる有紀である。 有紀は呆れながら、いまなお微笑ましい、ベンチにいる二人に目をやった。 ◆ 美緒は持ってきた弁当の包みを開け、小さな弁当箱のふたをそっと開く。 卵焼きにウインナー、きんぴらごぼう、チェリートマトに蒸しキャベツ。 半分はごはんが占めており、真ん中に梅干しが乗っている。 何の変哲もない、弁当の定番メニューだ。 「……それ、八重樫が作ったの?」 コロッケパンをかじりながら、安藤が尋ねてきた。 「う、うん……そう、だけど……」 美緒は一人っ子で、両親は共働きだ。 働いている母が早起きして弁当を作るのは大変だ。 だから、家族三人分の弁当を作るのは美緒の役目だった。 「すっげー。朝早く起きて、こんなおいしそうな弁当作ってくるなんてさ」 「そ、そんな……大したこと、ないよ……ぜんぜん……」 本当に感心している様子の安藤に、美緒は恥ずかしくなってしまう。 弁当の定番メニューなんて、短い時間で作れてしまうもので、ちっとも凝った料理じゃない。 美緒にしてみれば、見せるのもためらわれるほどの手抜き料理だ。 それを褒められるなんて。 美緒はうつむきながら、横目で安藤を見つめた。 総菜パンを食べる彼。 お弁当は持ってきていないのだろうか。 お昼ご飯が購買のパンだけでは、少し味気ない感じがする。 安藤は、毎日購買のパンを買っていたように思う。 それでは食事が偏ってしまうし、毎日代わり映えしない。 そんな風に思ったら、つい口から言葉が転がり出た。 「……よかったら、少し食べる?」 ……わたし、何言っちゃってるの!? 言った次の瞬間には後悔していた。 ちょっと彼がお昼に誘ってくれたからって、調子に乗りすぎだ。これでは下心があるみたいではないか。 ほら、彼だって呆れてこっちを見ている。 だが、美緒の予想と違って、安藤からかけられた言葉は、 「……いいの?」 むしろちょっと驚いた感じの口調だった。 美緒は安藤の顔をまともに見られないまま、そっと、弁当箱を差し出す。 小さく頷いた。 安藤は嬉しそうな顔をして、卵焼きを一切れ摘むと、口に入れる。 もぐもぐと口を動かす気配。 「……うまー……」 ため息のように呟いた後、安藤は美緒に満面の笑みを見せた。 「すごいおいしいよ! こんなにうまい卵焼き、久しぶりに食べた」 「そ、そう……よかった……」 もう、助けて。 嬉しいはずなのに、楽しいはずなのに。 せっかく自分に向けられた笑顔を、美緒はまともに見ることができない。 めいっぱい緊張した美緒の心は、逃げ出したくなっていた。 ◆ 共同戦線を張った女子連は、大ダメージを被っていた。 手作りの弁当を二人で摘むなど、まさに清き学生の恋人同士の姿である。 その一撃たるやメガトン級で、共同戦線を一瞬にして崩壊させる破壊力だった。 ここで二人の共同作業を阻止すべく、過激派の実行部隊が動き出しそうになったが、状況がそれを許さない。 当の安藤が満面の笑みを持って、美緒の弁当を食べているのだ。 ここで邪魔をしたら、かえって自分たちの心証が悪くなりかねない。 また、今日の本題は弁当ではない。 安藤が美緒を呼び出した理由がまだ明らかになっていないのだ。 女子連は苦渋の選択を強いられる。 階段ホールの陰に隠れたクラスメイトたちは、毒ガスを食らったかのように、苦悶の表情を浮かべつつ、声を出さないように喉を押さえている。 まるで地獄絵図の様相だった。 「……ばかじゃね?」 呆れた有紀の端的な感想である。 美緒の様子を見れば、完全にテンパっているのは明白だ。 「あー、あれは、購買のパンばっかり食べてたら栄養価が低くて心配だ、とか思って、反射的に弁当差し出したのねー、たぶん」 なま暖かい眼差しで二人を見ながら、涼子は棒読みで言った。 さすがに親友だけあって、性格を読み切っている。 親友のテンパった姿を見ながらも、空気を読まずにエキサイトしている人物もいる。 「そおよ、美緒ちゃん、ナイス! 手作りのお弁当はポイント高いよ! このまま、毎日作って来てあげるって展開に……」 「それ以上はやめとけ、梨々香。後ろの女子連中に殺されるぞ」 頬を膨らませて不満を露わにする梨々香だったが、さすがに殺気だったいくつもの視線に睨まれては、口を噤まざるを得なかった。 美緒の親友三人は、再びなま暖かい眼差しで、二人を観察する。 ◆ 「……それで、相談って……?」 昼食を食べ終わり、二人の手にジュースのパックだけが残ってすぐ、美緒は切り出した。 安藤は気を遣ってくれたのか、ずっと気さくに話しかけてくれたが、美緒はまともに会話することができなかった。 さぞかし話し下手な女だと思われたことだろう。 美緒は自己嫌悪に陥りながらも、それでも安藤の相談には真摯に対応しようと心に決め、勇気を振り絞って切り出したのだった。 「ああ……これなんだけどさ」 ストローから口を離した安藤は、傍らにあった一冊の本を手に取り、美緒に渡す。 美緒はイチゴミルクを一口飲んで、本を受け取った。 少し分厚い、飾り気のない本。 どこかで見たことのあるデザイン。 タイトルを見る。 美緒はイチゴミルクを吹き出しそうになった。 ◆ 階段ホールの陰では、今度は親友三人が悶絶していた。 声を上げずに爆笑しているのだ。 涼子は声を上げようとする梨々香の口を押さえながら、背中を丸めて身体をぷるぷると震わせている。 有紀にいたっては、声を立てずに爆笑し、地面をのたうち回るという器用なことをしていた。 クラスメイトは三人を奇異な目で見ている。 安藤が美緒に渡した本を見て、爆笑し始めたのだ。 しかし、女子連には、三人が笑いのツボを突かれたポイントがわからない。 見れば美緒も、なにやらむせている。 「ねえちょっと、あの本はなんなの? 何がおかしいって言うのよ」 クラスメイトの一人が、身悶えしながら無言で笑う有紀に言った。 有紀は両手で目に浮かんだ涙を拭い、ひーひー言いながら答えた。 「まあ、そりゃアンディも美緒に相談するわな……あれはマニュアルだよ」 「マニュアル?」 「そう。武装神姫の取扱説明書だ」 その場にいたクラスメイト全員が、毒気を抜かれたような顔をした。 ◆ 美緒はかろうじて、イチゴミルクを吹くという醜態をさらさずにすんだ。 そんなに驚いたのには、二重の意味がある。 一つは、安藤が武装神姫について相談を持ちかけてきたことだった。 まさか彼が武装神姫に興味があろうなどとは、夢にも思っていなかった。 もう一つは、手渡されたマニュアルの武装神姫の機種である。 「アルトレーネ……」 「お。八重樫、知ってるんだ?」 知っているも何も。 アルトレーネは、今、神姫オーナーの間でもっとも話題の新型機だ。 ここのところ、武装神姫の新製品のリリースに、各メーカーともかなり慎重である。 各メーカーとも特色ある人気機種が定番となりつつあって、保守的になっているのだ。 新しい武装神姫を開発するより、人気機種のリペイントバージョンや、装備を変更、追加したリパッケージ品の市場投入を優先したのである。 しかし、目の肥えたユーザーたちは納得がいかない。 フルセット品の購入離れがはじまり、ヘビーユーザーは既存の神姫のカスタマイズに走るようになった。服を着せたりして神姫のいる日常を楽しむ「非武装派」も増えている。 そのため、神姫自体の売れ行きは横ばいなのに、カスタムパーツや神姫サイズ服の市場は急激に広がっていた。 そんな状況下、彗星のごとく現れた新製品、それが戦乙女型MMS『アルトレーネ』である。 人気機種の要素も取り入れながら、独自性を備えた豪華な装備、清廉な印象を与えるデザインに、美しさとかわいらしさを兼ね備えた神姫本体。 武装派には、装備の豪華な仕様と組み替えの可能性に期待が集まった。 非武装派も、神姫自体の良さに前評判が集まった。 かくして、アルトレーネは、新規参入メーカーの新作であるにも関わらず、予約が殺到し、生産が追いついていない状態だ。 その盛り上がりを受け、既存メーカーも新製品を発表し、神姫市場はいまや活況を呈している。 そのアルトレーネは、先週末に発売になったばかりだ。 いま、ゲーセンの武装神姫コーナーはアルトレーネの話題で持ちきりと言っていい。 美緒が知っているのも至極当然のことだった。 「今話題の神姫だもの。もちろん知ってるわ。……でも、よく買えたね。ほとんど予約完売らしいけど」 「もらったんだよ」 「え?」 「誕生日プレゼントなんだ。オレのおじさん、アルトレーネ作った会社にいてさ、製品サンプルをプレゼントにくれたんだ」 「なるほど……」 武装神姫の初心者である安藤が、そう簡単に人気機種を手に入れられるとは思えない。 納得がいった。 「それでさ。日曜にマニュアル読んでみたけどよくわからなくて……なんか小さくてデリケートな部品もあるし」 「ああ、CSCね」 「だから、起動の仕方を詳しい奴に聞いてみようと思って……それで八重樫に声かけたってわけ」 「そう……」 期待していたわけではない。 でも、少しも期待してなかったと言えば嘘になる。 安藤の中の美緒は「武装神姫に詳しい奴」に過ぎないのだ。 すこしがっかりしたが、美緒は気持ちを切り替えた。 そう、期待していた自分が悪いのだ。 せっかく安藤君がわたしを頼ってきてくれたんだ。 だから、少なくとも彼には、自分の誠意を尽くそう。 「わかった……わたしでよければ、力になるわ」 「そっか。やった!」 にっこりと笑った彼の顔を、美緒はまともに見られなかった。 無防備にそういう顔するのは、ずるい。 どんな女の子だって、わたしだって、勘違いしたくなってしまう。 美緒はうつむきながら、手元にあるマニュアルの表紙の文字を繰り返し読み続けた。 だが、そんな美緒の気持ちなど伺い知ることもなく、安藤は話し続ける。 「八重樫、今日なんか用事ある?」 「え……? えっと」 放課後の用事は、きっと今日もいつもの四人でゲーセンだ。 それは日課のようなものなので、特別な用事ではない。 安藤の相談に乗ってから、遅れてゲーセンに行っても、他の三人は気にしないでいてくれるだろう。 「ううん、特にないよ」 「それじゃ、放課後、荷物置いて着替えたら、M駅の改札集合で」 「え?」 図書館あたりで詳しくレクチャーということではないのか? 「え、って……だって、神姫の起動のやり方教えてくれるんだろ?」 「うん……そう、だけど」 「だから、ウチに来て、オレがやるとこ見ててよ。そしたら間違いないし。八重樫の神姫もみたいし」 「……そ、それは……その」 「お礼に、親にケーキ買ってこさせるからさ。何がいい?」 「……チーズケーキ」 なにオーダーしちゃってるの、わたし!? 美緒がそう思ったときにはもう、安藤は笑いながら頷いてしまっていた。 「わかった。飲み物はミルクイチゴは用意できないから、コーヒーか紅茶で勘弁してくれ」 「え、あ、あの……」 「っと、もう昼休み終わるな……それじゃ、放課後。よろしくな!」 安藤は立ち上がり、階段ホールへと歩き出す。 美緒は呆然とその背中を見送るしかできなかった。 まだ手元に、アルトレーネのマニュアルが残っている。 返さなくちゃ。 あ、でも、放課後でいいのか……。 放課後。 それを意識した瞬間、美緒の心は沸騰した。 顔が真っ赤になっていることを自覚する。 顔どころか体中から火が吹き出しそうだ。 あまりに急転直下、超絶怒濤の展開に美緒の思考は吹っ飛んでいた。 (これって、どういう夢なのーーーーーーーっつ!!?) 続く> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/cwcwiki/pages/684.html
武装神姫 BATTLE MASTERS Mk.2 武装神姫 BATTLE MASTERS Mk.2ID+ゲーム名1回の戦闘でLOVE 1UP 1体目から30体目の神姫LOVE xx 1体目神姫Love 所持金MAX コストオーバー ○ボタン レールアクション全部 神姫全部購入可能 全武装1個所持 HP減らない 攻撃当たらない L+R+セレクトで即勝利 移動距離2倍 神姫巨大化 公式バトルのレギュレーションチェックスキップ 装備変更時に武装ランクとコストオーバーのチェックをスキップ Ver1.01用コード神姫ポイント 1回の戦闘でLOVE 1UP 1体目の神姫 LOVE 30 30体目までの神姫 LOVE 30 1.01用の装備のコストとランクチェック無視 即勝利 全武装 初回対戦会話フラグON レールアクション全部 LP減らない SP減らない ブーストゲージMAX ライドレシオゲージMAX ロックオン外れない ID+ゲーム名 _S NPJH-50453 _G BUSOU SHINKI BATTLE MASTERS Mk2 ※アップデータを適用した場合はアドレスがズレる場合あり。 1回の戦闘でLOVE 1UP _C0 EXP _L 0x203CA430 0x000927C0 1体目から30体目の神姫LOVE xx _C0 1-30 LOVE _L 0x8038E057 0x001E02C4 _L 0x000000xx 0x00000000 ※xxは1からFF[255]まで、1E[30] 1体目神姫Love _C0 1 LOVE _L 0x00038E057 0x000000xx ※2体目以降は+2C4h 所持金MAX _C0 MONEY MAX _L 0x2038DE70 0x3B9AC9FF コストオーバー ○ボタン _C0 cost over ○push _L 0xD0000001 0x10002000 _L 0x604DF8E4 0x00000000 _L 0x00010001 0x000000E0 レールアクション全部 _C0 Rail Action All _L 0x803A7C90 0x006D0001 _L 0x00000001 0x00000000 神姫全部購入可能 _C0 ORIGINAL BODY ALL _L 0x803A418F 0x00420006 _L 0x00000001 0x00000000 全武装1個所持 _C0 All WEAPON _L 0xE0078084 0x001C8692 _L 0x201C8690 0x0E200400 _L 0x201C8694 0x80850000 _L 0x20001000 0x24050001 _L 0x20001004 0xA0850000 _L 0x20001008 0x80840000 _L 0x2000100C 0x03E00008 _L 0x20001010 0x3084007F ※所持数ズレた時は全神姫購入後、下記の2行をONにすればOK _L 0x803A4180 0x00890001 _L 0x10000181 0x00000000 ※DLCOPENはセーブ後も効果残るんでなんか不都合出たら各自対処 HP減らない _C0 HP NOT DEC _L 0xD0278D62 0x000014C7 _L 0x20278D60 0x14C00003 攻撃当たらない _C0 INVINCIBLE _L 0xE0020002 0x00277EF8 _L 0x20277EF8 0x8E2401A8 _L 0x20277EFC 0x10800014 L+R+セレクトで即勝利 _C0 INSTANT WIN L+R+SELECT _L 0xE00201A8 0x0022837C _L 0xD0000000 0x10000301 _L 0x2022837C 0x00003021 移動距離2倍 _C0 MOVING DISTANCE x2 _L 0xD0273214 0x00003F80 _L 0x20273214 0x3C084000 神姫巨大化 _C0 DEKA SHINKI _L 0xE0070008 0x0025E698 _L 0x2025E698 0x0A2005C0 _L 0x20001700 0xAE670008 _L 0x20001704 0x3C043FD0 _L 0x20001708 0xAE040060 _L 0x2000170C 0xAE040064 _L 0x20001710 0x0A2979A8 _L 0x20001714 0xAE040068 公式バトルのレギュレーションチェックスキップ _C0 NO REGULATION _L 0x2005D744 0x10000016 装備変更時に武装ランクとコストオーバーのチェックをスキップ _C0 EQUIP LIMIT OFF _L 0xE0025080 0x001CA6F2 _L 0x201CA6F0 0x1000007C _L 0x201CA8FC 0x1000007D 中華の長いマスターコードの分割について。当環境のPRO-Bで、18行目の「_L 0x00002020 0x00000000」までで1コードにした場合になるが、HP,SP,Boost Gauge、Raid Ratio,時間停止,敵一撃死までの効果を2周目クリアまで、正常動作を確認した。ただし、もうすでにスレのほうにマスターコードを使わなくても同等の効果の出せるコードがあり、そちらも同PRO-B環境で効果を確認しているので、中華のコードが嫌いな方はそちらを使ったほうがいいかも…。 -- (名無しさん) 2011-09-29 13 22 20 Ver1.01用コード 神姫ポイント _C0 money 9999999 (1.01) _L 0x2038FED0 0x0098967F 1回の戦闘でLOVE 1UP _C0 1battle 1LOVE up (1.01) _L 0x203CC490 0x000927C0 1体目の神姫 LOVE 30 _C0 1 LOVE 30 (1.01) _L 0x0003900B7 0x0000001E 2体目以降は+2C4h 30体目までの神姫 LOVE 30 _C0 1-30 LOVE 30 (1.01) _L 0x803900B7 0x001E02C4 _L 0x0000001E 0x00000000 1.01用の装備のコストとランクチェック無視 _C0 Cost and Rank Not Check (1.01) _L 0xE0025080 0x001CB9F2 _L 0x201CB9F0 0x1000007C _L 0x201CBBFC 0x1000007D 即勝利 _C0 INSTANT WIN(START) (1.01) _L 0xE00201A8 0x0022973C _L 0xD0000000 0x10000008 _L 0x2022973C 0x00003021 全武装 _C0 All Weapon (1.01) _L 0xE0078084 0x001C9992 _L 0x201C9990 0x0E200400 _L 0x201C9994 0x80850000 _L 0x20001000 0x24050001 _L 0x20001004 0xA0850000 _L 0x20001008 0x80840000 _L 0x2000100C 0x03E00008 _L 0x20001010 0x3084007F 初回対戦会話フラグON _C0 firstcontact ON (1.01) _L 0x202B6C28 0x30840000 レールアクション全部 _C0 Rail Action All (1.01) _L 0x803A9CF0 0x006D0001 _L 0x00000001 0x00000000 LP減らない _C0 Player LP (1.01) _L 0xE0033010 0x00228D1C _L 0x20228D28 0xC64C291C _L 0x20228D2C 0xE64C2918 _L 0x20228D40 0x44047000 SP減らない _C0 Player SP (1.01) _L 0xE0013010 0x00228D1C _L 0x20228D94 0xC64C2938 ブーストゲージMAX _C0 BST MAX (1.01) _L 0xE0013010 0x00228D1C _L 0x20228DC8 0xC64C2954 ライドレシオゲージMAX _C0 RAID RATIO MAX (1.01) _L 0xE0033010 0x00228D1C _L 0x20228DF0 0xC64C2994 _L 0x20228DF4 0xE64C2990 _L 0x20228E10 0x44066000 ロックオン外れない _C0 NO LOCK-ON RELEASE (1.01) _L 0xE0024500 0x0026F776 _L 0x2026F774 0x10000003 _L 0x20270158 0x00000000 武装神姫バトルマスターズMk.2 チート(現行スレ) http //kohada.2ch.net/test/read.cgi/gameurawaza/1323353116/
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1845.html
鋼の心 ~Eisen Herz~ インターミッション08:天使は滅びの笛を吹く 「―――では、彼女の扱いはそういう事で……」 「止むを得ませんな。中心的開発者となれば、その影響は大きい……」 「左様。マスコミへの情報管理は中心各社の宣伝部に徹底させておきましょう」 「懸案事項が一つ減ったか。……いや、増えたのかな?」 「では、次の議題に移ります―――」 ◆ 『―――次のニュースです。……天海水族館でウーパールパーが大繁殖しており、訪れる客を―――』 暗い部屋の中でニュースが流され、京子の顔を照らしだす。 痩せこけ、乾涸びた花のように、ただ朽ちるに任せ。 彼女はそこに居た。 (……私の所為、なのか……) 真紀のCSCが重度に到ったのは、京子が一月もの間意識不明であったから。 京子がもっと早くに目を醒ましていれば、真紀は……。 (―――何もかも) MMSが武装神姫になってしまったのは、京子が造った武装が切っ掛けだった。 もし京子がそれをしなければ、MMSは……。 (―――最期まで) 真紀が、誰にも看取られずに一人で死んだのも。 (―――、最初から) そもそも、真紀がCSCになってしまったのも……。 (私が、全部悪いんだ……) 違うと否定してくれる者も居ないまま、京子は一人朽ちようとしていた。 結局、真紀が戻ることの無かった家の、彼女の部屋で……。 ◆ 今は亡き、主たる少女の情報操作によって、電力と資材は確保されていた。 後はただ、言われたとおりに操作すれば良いだけだ。 「我が主の最期の命。……必ずや、この命に代えても……」 主無き機械人形はただ動く。 今の“彼女”を指し示す言葉は無い。 イリーガルと言う言葉が生まれるのは、この先数年を待たねばならなかった。 ◆ 「ああ、分かった。そこに、彼女達の実家があるんじゃな?」 芹沢は車載電話の向こうに返事を返しながら、高速への道を辿った。 「すまんの、この件では会社はまるで当てにならんからな」 土方真紀の死と、以後の扱いについては既に共同会議で決定されていた。 FrontLineも、Kemotechもこの件に関しては頼りに出来ないと思っていいだろう。 (コネクションが無くなれば少女一人探せぬか。脆いものだな……) 芹沢は首を振り、ラジオのスイッチに手を伸ばした。 『―――では、次のニュースです』 ◆ 『―――では、次のニュースです。 FrontLine、Kemotech両社が中心となって企画された考えるロボット、“武装神姫”の発表がなされました』 「―――あ」 京子の瞳に光が戻る。 『展示されたサンプルは、人と殆ど変わらない情緒を持っており―――』 武装神姫が世に出る。 真紀の造ったものが、世界に出てゆく。 『―――関係者を驚愕させると共に、今後の展開について注目がなされます』 もう、真紀は居ないけど。 真紀の居た証は、世界に残る。 「真紀……」 京子の頬を、涙が伝った。 『―――では、神姫事業部の方に伺ってみましょう』 ◆ 「―――武装神姫と言う事ですが、これだけ感情性のあるAIであれば、ロボットペット的な扱い方も充分視野に入っていると見てよいのでしょうか?」 「ええ、ですが今後の展開は武装面の拡充と、新型機の他社発展に力を入れて行きたいと思っております」 「機種とCSCを始めとする初期設定で、神姫の“性格”に強い影響が出ると言う事ですが、この辺りについて何か?」 「性格だけでは無く、神姫の性能に非常に強く影響を及ぼします。機種によって攻撃用のプログラムとの相性もあり……」 「性格面が分布的に分類される形式で表わされていると言うのは、性格と言うのはパターン化された物ではなく、非常に多岐にわたる“人格”的な要素であると理解して宜しいのでしょうか?」 「ええ、戦闘能力においても、個性的な相違が生まれる為、機種によっての戦法は分類以上のパターン化は―――」 「これだけ高度なAIを造るのは大変だったでしょう? 開発はどの様に?」 「―――スタッフ達の、努力の成果です」 ◆ 「……………………」 メノマエノコウケイガ、シンジラレナカッタ。 『―――スタッフ達の、努力の成果です』 何を言ってるんだ? 『スタッフ達の、努力の成果です』 違う。 『スタッフ達の―――』 違う!! 京子は立ち上がる。 「お前達が何をした!! 見る事もせず、只出来たものを使っただけじゃないか!!」 スタッフ達の―――。 「違う!! 真紀だ。全部真紀が創り上げたものじゃないか!! 真紀が、一人で……っ!!」 涙で滲む視界の中、手当たり次第に物を投げ付け、まるで子供みたいに泣きじゃくり。 「……真紀が、たった一人で創ったんじゃないか……。それを……。それ、を……」 誰にも抱き止められぬまま。 京子は隻眼の奥に怒りを灯す。 「……全部奪うのか……」 『―――ゆえに、私は全ての神姫を否定し、これを破壊します―――』 不意に甦る、真紀の声。 「全部、奪うのか……」 天啓だと、そう思った。 「真紀から、何もかも奪うんだな?」 遺志も。 痕跡も。 「―――なら、私と真紀が、今度はお前達から奪ってやるッ……!!」 涙を拭いて、京子は暗い部屋に背を向けた。 「―――返して、貰うぞ!! 何もかも!!」 ◆ それが、最初の破綻だった。 ◆ 「………………京子ちゃん」 芹沢が辿り着いた時には既に京子の姿は無く。 全ては動き始めた痕(あと)だった。 インターミッション09:エピローグにつづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る ALCでした。 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1102.html
違法改造武器 このページは『双子神姫』に出てくる違法改造武器の紹介です。(主に龍悪が作った武器です) 話の進行につれてこのページで武器の細かい紹介をしていきます。 この武器をコラボで使うのは大歓迎ですが、自分の武装神姫達が壊れないよう気をつけてください。 基本的に補足でも言うように神姫達の対神姫侵食度100までですが、オーナーと神姫達の親密度によって変化します。 そこら辺は自由に決めてけっこうです。 補足:『神姫侵食度』についての説明。 神姫侵食度は神姫のプログラムを侵食する数値です。(オリジナルです) 簡単に言ってしまいますと、神姫を壊すプログラムです。 違法改造武器関係は普通の武器より神姫に対して大幅な負担を掛けます。 更に武器のプログラムが神姫とのプログラムに同調しないといけないために、武器のプログラムが神姫のプログラムに侵入します。 そうする事によって神姫のプログラムに余計なプログラムがインストールされる事によって壊れていきます。 ですが、違法改造武器の武装解除すればプログラムがアインストールされ、侵食度が戻ります。 基本的に普通に販売している武装神姫達は侵食度100まで保ってますが、それ以上の数値を超しますと暴走し二度とその神姫は修復不可能になります。 アンジェラス、クリナーレ、ルーナ、パルカは生産元が違うのでノーマル武装神姫達と侵食度が違います。 ○ANGELUS(アンジェラス) 対神姫侵食度:???? ○CRINALE(クリナーレ) 対神姫侵食度:200 ○LUNA(ルーナ) 対神姫侵食度:180 ○PARCA(パルカ) 対神姫侵食度:300 ●メインウェポン 『アルヴォLP4ハンドガン』 系統:短銃・射撃・中 重量:3 攻撃:350 命中/HIT数:200/2 射程:25~180 必要:0 準備:5 硬直:50 スタン:0 ダウン:100 スキル:[反]クイックドロー 神姫侵食度:10 備考:原作とほぼ同じです。 ●サブウェポン プチマスィ~ンズ[TYPE:DOG]』 系統:オプション 重量:5 防御:10 対ダウン:0 対スタン:0 索敵:10 回避:0 機動:0 攻撃:- 命中:0 必要:- スキル:[追]ドッグファイトアサルト 神姫侵食度:25 備考:原作とほぼ同じです。 『プチマスィ~ンズ[TYPE:CAT]』 系統:オプション 重量:5 防御:10 対ダウン:0 対スタン:0 索敵:10 回避:0 機動:0 攻撃:- 命中:0 必要:- スキル:[追]サンドスプラッシュフィーバー 神姫侵食度:25 備考:原作とほぼ同じです。 『カッツバルゲル[中型ミサイル]』 系統:オプション 重量:2 防御:0 対ダウン:0 対スタン:0 索敵:0 回避:0 機動:0 攻撃:- 命中:0 必要:- スキル:[追] ヘルファイア 神姫侵食度:10 備考:原作とほぼ同じです。 『スティレット[小型ミサイル]』 系統:オプション 重量:1 防御:0 対ダウン:0 対スタン:0 索敵:0 回避:0 機動:0 攻撃:- 命中:0 必要:- スキル:[追] ヘルストーム 神姫侵食度:5 備考:原作とほぼ同じです。 『オプション』 系統:オプション 重量:4 防御:0 対ダウン:10 対スタン:10 索敵:10 回避:0 機動:0 攻撃:- 命中:0 必要:- スキル:[追] レーザー・オブ・ネメシス 神姫侵食度:30 備考:原作とほぼ同じです。 ●リアパーツ 『リアウイングAAU7』 重量:4 防御:30 対ダウン:10 対スタン:10 索敵:20 回避:40 機動:40 攻撃:50 命中:10 必要:0 スキル:[攻]エンジェリック・スラッシュ 神姫侵食度:20 備考:ノーマルのリアウイングAAU7のスキル、エンジェリック・スカイと違って違法版は攻撃型のエンジェリック・スラッシュです。 エンジェリック・スラッシュは高速スピードの状態で翼を相手に斬りつける攻撃です。 系統:突撃・中・遠 攻撃:500 命中/HIT数:100/1 射程:100~∞ 必要:0 準備:100 硬直:100 スタン:0 ダウン:200 ●アーマー 『セーラー服(水色・紺色・えんじ色)』 重量:1 防御:50 対ダウン:20 対スタン:20 索敵:0 回避:0 機動:0 攻撃:0 命中:0 必要:- スキル:- 神姫侵食度:5 備考:原作とほぼ同じ。 『プリーツスカート(水色・紺色・えんじ色)』 重量:2 防御:40 対ダウン:25 対スタン:25 索敵:0 回避:0 機動:0 攻撃:0 命中:0 必要:- スキル:- 神姫侵食度:5 備考:原作とほぼ同じ。 ●アクセサリー 『モナーテ・LRSSゴーグル』 系統:アクセサリ 重量:2 防御:0 対ダウン:0 対スタン:0 索敵:60 回避:30 機動:0 攻撃:0 命中:30 必要:- スキル:- 神姫侵食度:10 備考:原作とほぼ同じ ○オリジナル武器(龍悪自作武器)
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1736.html
{Zwei} 前回はクリナーレ…『Drei』を調べた。 中身は『Vier』とほぼ同じだったんでそれほど驚愕はしなかった。 残念ながら俺の記憶に関する事は書かれていなかった…。 まぁ、そりゃあそうだよな。『Drei』に関するデータだったんだからな。 …あれ、前もこんなセリフ言ってなかったっけ? まぁいいや、で今日は『Eins』『Zwei』の二個中の一個、『Zwei』のセキュリティーを突破する事に成功した。 ホント、セキュリティーを突破するのにどれだけの労力を使ったことやら…。 「ツヴァイ…どんな事が書かれているかな?」 注意深く見ながら次々に色々な項目を見ていく。 西暦2027年12月×日 我が社が武装神姫というプロジェクトに参加するになった日。 そこで我が社はオリジナル、つまり試作型MMS(Multi Movable System)を開発する事になった。 試作型の数は四体。 西暦2029年2月1×日 この時はまだ武装神姫は一般に公開されていなかった。 『Zwei』は『Eins』と一緒に誕生したMMS。 『Zwei』の識別はAngel Type Version Two。 西暦2030年4月2×日 攻防システムでトレーニングした結果。 近距離能力: ◎ 中距離能力: ○ 遠距離能力: ○ 攻撃能力: ○ 防御能力: △ 加速能力: ◎ 最高速度能力:○ いずれは近距離関係に特化したMMSになると予定される。 ※Devil Type Version Oneの『Drei』と酷似しているが、『Zwei』の場合、奇襲や襲撃という敵の不意をつく攻撃が得意と判明。 近距離関係といってもヒット&アウェイに近い戦法になるだろう。 西暦2030年8月×日 『Eins』と平行に製作された『Zwei』は近距離奇襲攻撃に特化したMMSに決定された。 暴走の危険は多少検知された。危険度は20%。 だが、暴走の危険に注意しこのまま更なる研究を続ければ、通常のMMSよりも数十倍の能力を引き出せると肯定した。 他の武装神姫に比べ、体重が軽い。 西暦2030年10月×日 『Eins』の状態が急変したのを我が社のスーパーコンピューターが察知。 人間の『感情』というものを身につけた。 原因は不明、この事がきっかけとして『Eins』と平行に製作されたいた『Zwei』とは別々に研究される事になった。 今だに何処にも支障がない『Zwei』はそのままプロジェクト研究を続ける。 『Eins』は一時中断、西暦2030年10月2×日に別のプロジェクト研究に移行。 西暦2030年12月1×日 度重なる訓練の結果、複数の敵でも瞬時に判断し撃退する事も可能と判明した。 今では強化された複数のレプリカと戦闘を行っても易々と迎撃し、レプリカは全滅。 武装も従来着用されるよりオリジナル武装の方が能力強化される事も判明。 更なる能力向上を決定された。 だが、問題点は暴走の危険度が20%ある事。 能力向上する事は決定されているが、過度の力は素体とコアの負担になる。 要注意して研究を進める事が義務づけられた。 西暦2031年5月1×日 『Eins』が原因不明の暴走。 研究員14人、機動隊32人を惨殺。 『Eins』の暴走を停止するため『Zwei』に迎撃させたが、残念ながらいまひとつ成果は得られなかった。 こうなってしまったら『Drei』『Vier』も同じ結果になると推定され試作型MMSによる迎撃は不可能と判断。 暴走してから数十分が経過した時、『Eins』の近くに居た一人の少年によって『Eins』の暴走を止める事に成功した。 少年の名は…ある研究員の保護により記載されていない。 西暦2031年5月1×日 上記に記されいる日付と同時刻に『Eins』の暴走を停止するため『Zwei』が迎撃に向かったが返り討ちにあい、素体に損傷・内部回路に損傷。 『Zwei』の素体は軽傷だが内部回路は重傷。 どうやら『Eins』の攻撃は外部・内部に別けて攻撃可能と予測。 内部回路はズタズタにされ損傷は激しく、一部の記憶デバイスを犠牲にして修理する事が決定された。 記憶デバイスの内容は不明。 機密事項である。 幸いと言えば、コアが破壊されてないのでデータは健在である。 西暦2031年5月1×日 突如の『Eins』の暴走事故により、試作型MMSの研究は一時的に凍結。 研究の中断は余儀なくされ、確定は確実。 『Eins』『Zwei』『Drei』『Vier』はこの日をもって完全凍結された。 西暦2040年5月1×日 武装神姫が稼動、発売されてから9年。 ※神姫タイプ以外のMMSはこの限りではない。 武装神姫のシステムが総合的にバージョンアップし、ある程度安定してきた。 しかも武装神姫の人気は徐々に上がっていくのを見て我が社の試作型MMS研究を再開される事が決定した。 しかし、いくらバージョンアップしたとはいえ、9年前同様に暴走してしまったら危険。 我が社は試行錯誤を繰り返した結果、試しに人間と生活させる事にした。 人間と一緒に生活させれば、我々人間がどのように生きているのか生活面の知識が増えるだろうと予測。 そうする事によって我が社の四体の試作型MMSはこの世の中の知識を身につける。 そうすれば、人間がMMSをどのように使役してるか自分達がどのような存在か知る事になる。 結果、試作型MMSは自分達がどのような存在か理解し、無駄な抵抗をしないまま研究できる。 しかし、ここで少し問題が発生した。 この四体の試作型MMSと一緒に生活する人間を決めなければならないという問題。 我が社の人員から選んでもよかったのだが、9年前の事故によって誰もが拒否した。 だが、斉藤朱美研究員のスカウトによって一般人がこの大役を受け持つ事になった。 現在は 斉藤朱美研究員の弟、天薙龍悪に四体の試作型『Eins』『Zwei』『Drei』『Vier』監視をさせ、今に致る。 ここで文章が終わっていた。 「…少し変わったな」 このデータで一つ謎のピースが解った。 『Eins』の事故の詳細が少し解ったのだから。 それと『Eins』と『Zwei』は別々のプロジェクトに移されたみたいだ。 正確に言えば『Zwei』はそのまま予定通りに研究され『Eins』はまた別のプロジェクトに移された、と言えばいいかな。 しかし、『Eins』とバトルして重傷とはな。 データを見ると記憶デバイスを犠牲にした、と記されていたが…いったい何の記憶だ? …にしても酷い攻撃をクラッタに違いない。 …これがルーナの過去かぁ。 可哀想な過去だな。 「そういえばっ…」 今思った事。 あいつらには、この今までの記憶というものが無いのか? そこら辺どうなんだろう。 訊いてみたい所だが、正直、気が引ける。 今まで見てきたデータでは三人とも感情がないように見えるし。 データの画像を見て、それがハッキリする程の無表情だ。 …なんか嫌だな。 あいつ等の過去を無断で見るのは。 罪悪感もあるし、俺の良心が痛むのは当たり前。 もっと悪く言えば俺は土足であいつ等の心の中にズカズカと入っていくようのものだ。 …あぁ~! そう考えてきただけで自分にイラついてきた。 でも、俺はどうしても調べないといけない。 あいつ等の事を考えながらも結局調べて見る、この行動。 矛盾してるがしょうがない。 後一つ、『Eins』が終わるんだ! あれが終わればもう見る必要もなくなる。 もう遅いかもしれないけど、今、謝っとく! 「ゴメン!」 俺しかいない地下部屋で俺の声が響く。 無意味な行動だが、やっとかないと良心の呵責に押し潰されそうだったから言った。 時が来たら、いつかは面と向かって言おう。 だから…もうちょっとだけ、お前等の事を調べさせてくれ! 「(c) 2006 Konami Digital Entertainment Co., Ltd.当コンテンツの再利用(再転載、再配布など)は禁止しています。」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1177.html
「これですか……アレより少しその…」 「しょうがないでしょ、初期の物なんだし……」 「でもカッコいいの~♪」 私たちの目の前にあるのは、2つのユニット。 その名は【クロスバイザー】 ねここの飼い方・EX 01 それはある日の事、ネットを暇潰し代わりにしていたねここがそのページを発見したのが始まりでした。 「みさにゃんみさにゃん、何コレ~?」 と、居間のテーブルに置いてあるノートPCの前でネットをしていたねここが声を上げる。 「ん、何かな~」 「これ♪ 何か物凄くカッコいいのっ!」 私もひょいっとPC画面を覗き込むと、そこにはまるでガン○ムかガオガ○ガーかと思うほどのヒーローロボットの写真が…… あれ、でも違和感が……って、コレ装着してるの神姫よね。頭部どう見てもアーンヴァルだし。 サイトを確認すると、武装神姫関連の画像掲示板みたいだ。でもコレ純正品ではないわよね……でもその割に物凄いしっくりとしている。 まるで初めから武装神姫用に作られたように。 「えぇと……アムドライバー?」 添えられていた文章には『アムドライバーシリーズ ネオボードバイザー・ソードダンサー』と記載されていた。 確か武装神姫のメーカーが数年前に出していたシリーズ……だったかな、確か。 そういえばやたら出来が良いって評判になってたっけ。結局私は買わず終いだったけれど。 同じメーカーならマッチングの良さも納得なのかな。 他の記事も読んでいくと、このシリーズは全体的に武装神姫と高い互換性がある事がわかってきた。 「ふむー……つまり、ねここもコレ欲しいの?」 「うん♪」 にぱっ、と満面の笑みで返してくるねここ。うぅ……その顔には弱いなぁ。 「ねここ~、あの剣みたいなバイザーでぴゅーん!っておもいっきり飛んでみたいの。それで合体してずばぁ!っとカッコよく決めちゃうの♪」 「私にも一機調達して頂けませんか? 私の場合はこのネオボードバイザー・ガンシンガーを希望します。 ガンシンガーは中~遠距離戦闘用ですので、ねここのサポートには最適かと」 と、何時の間にかねここの隣でPC画面を見つめていた雪乃ちゃんもそう宣言してるし。 「……しょうがない、買っちゃいますか♪」 「わぁい☆」「ありがとう御座います、姉さん」 ねここはぴょんぴょん飛び跳ねて、雪乃ちゃんは礼儀正しく一礼してそれぞれ喜びを表現している。 「でもコレってもう絶版品よね、とりあえずオークションでも見てみますか……げ」 ちょっと固まる私、そこに表示されているお値段は予想より0が結構多い…… 「みさにゃん、ココに『武装神姫との互換性が確認されたため需要が急増、高騰中』って書いてあるの……」 ガックリと肩を落としながらそう報告してくれるねここ。 みんな考える事は同じって訳だ……アハハハ……いやこの値段じゃ買えないって。 「う~ん、オークションだから過剰にあがってる可能性もあるけれど、どっちみち今回はパスね。今ちょっとお金無いし」 「……はぁぃ」 ねここはへにょん、と体育座りで俯いてしまう。うぅ、そのポーズはこっちまで凹むから止めてほしいなー…… 「他にはえぇと……中古ショップ類を」 しかし見る所全滅だらけ。あってもオークションと似たり寄ったりのお値段でちょっと手が出ない。 どうも大抵の大会で使用に問題がないみたいで、武装神姫ユーザーが一気に買って行ったらしい。 「……お手上げね、諦めましょ」 「……にゅぅ」 「……ねここ、お風呂行きましょ、ね?」 トボトボと雪乃ちゃんに支えられて去ってゆくねここ。でもワガママ言わなかったから成長したね、うん。 ……まぁ今月の金欠はねここのせいなんだけど…… それから数日後 「え~と、お目当ての本はと」 「みさにゃんアレじゃないの~?」 「お、アレだね。ねここよく見つけた、褒めて遣わす♪」 うりうりとねここの髪の毛をくしゃくしゃっしてあげる。ねここはごろにゃーな表情をしてとっても気持ちよさそう。 ちょっと思い立って、私たちは古本屋のブックオンに来ていたり。 いやエリ○88を急に読みたくなって買いに来たんだけどね……あはは。 しかしちょっと高いかなぁ、中古なのにこのお値段は……これならこの前出た300版を新品購入してもいいかも。 「姉さん、此処の店舗は子供服売り場も併設されてるようですね」 と、傍らでゴル○13を物色していた雪乃ちゃんがふと気づいたらしく、ふ指摘する。 雪乃ちゃんが指差した方向には確かに、 『子供服、ベビー用品、玩具類』 との看板が天井からぶら下がっていて。 ……玩具類かぁ、こういう所の方が意外と掘り出し物があるのよね。一応覗いてみようかな。 と、本を棚に戻してから玩具コーナーへと移動する私たち。 「雑多ねぇ……」 玩具コーナーにはカゴに入った箱無しTOYの山や、今年~数年前程度の戦隊シリーズ、 放送60年を超えようという仮面ライダーシリーズのライダーベルト等、思った以上に種類が豊富で結構面白い揃えになってる。 「……これ、バイクのサイドカー部分だけじゃない」 うん、逆の意味で価値をわかってない商品まである…… 「…みさにゃん…みさにゃ~ん…」 物色するために肩から棚に移動していたねここの声が聞こえてくる……って、姿が見えず声だけが。 「姉さん、そこの箱の裏です……」 「わ、わかってるわよ。ちょっとボケてみただけじゃないっ」 ……という事にしといて欲しい、ぐすん。 等とちょっと凹みつつ箱を掻き分けていくと、奥には埃塗れになったねここの姿が。 でも、その顔はとても満足げで 「にゅふふ~♪ 発見しちゃったのっ!」 と、自分のサイズの数十倍はあろうかという箱をズリズリと隣から引っ張り出してくる。 (88) 「あ、コレって」 「そっ!アムドライバーなの♪ 」 確かにパッケージには、以前画像掲示板で見たようなデザインのロボット…パワートスーツかな、この場合、が描かれている。 「……でもコレはデザインが違いますよ。クロスバイザーって書いてありますし……」 雪乃ちゃんがすまなさそうに突っ込みを。 「んー……確かにそうみたいね」 手持ちの携帯モバイルで軽く調べてみたら、やっぱりねここが欲しがっていたネオボードバイザーとは別物で、初期の製品らしい。 あ、でも割と評判は良いみたいね、初期の製品にしてはって話だけれど。 「でもでも、このデザインなんか気に入ったの~♪ それにっ」 ズリズリと箱の端を押して回転させるねここ。あ、値札見せたいのね……あら、このお値段は。 「すっごいお安いの~。これなら買ってもいいよね、みさにゃんっ☆」 確かにこの値段は定価の1/4、かなり安い。 まぁパッケージは風雨に晒されたのか劣化しているけれども、中身に問題がなければ許容範囲かな。 「じゃ、コレ買っちゃおうか♪」 「おー♪」 大型ビーグルのキャタピラが唸りを上げ、勇ましく荒野を駆け抜けてゆく。 『雪乃ちゃん、【エキドナ】の調子はどう?』 ヘッドフォン越しに状態を尋ねる、私たちはテストも兼ねてタッグバトルに参戦していた。 「良好です。モーターの回転音もクリアですし、今の所は何の問題も見受けられません。」 高出力のじゃじゃ馬マシンを難無く乗りこなしながら、そう返事を切り返してくる雪乃ちゃん。 雪乃ちゃんはバイクのようなエキドナに搭乗する都合上、普段のハウリン装備は装着できず頭部バイザーのみを装備している。 今回ほぼ武装はエキドナ頼みという訳だ。 『来るよ、前方150!』 「了解。牽制を掛けます」 両脇に設置されたビームキャノン“ブルドガング”が眩い閃光と共に発射される。 牽制と言ってたけども狙いは正確で、一気に接近しようとしていたバッフェバニーパーツ装備のアーンヴァルは、 直線加速から即座に回避シークエンスへと移行。間合いを取りつつカロッテTMPを乱射してくる。 「その程度では倒せませんよ」 呟く雪乃ちゃん。 それは伊達ではなく、エキドナの装甲でソレを跳ね返し、逆にブルドガングで畳み込むように速射を掛ける。 圧倒的な火力の差に耐え切れず、岩陰の向こうへと後退してゆくアーンヴァル。 「……此処で此方も引いていては大局が変化しませんね。ねここ到着まであと……よし」 ブォォォォン!!!と回転数を一気に上げ猛追する体制に入る。 荒野の荒地なのに、ハイウェイを走るかのようなスピードと安定感で爆走してゆく。 そのまま一気に相手の隠れた岩をジャンプ! ドリフトを掛けながら岩陰を制圧射撃していく。 隠れていたアーンヴァルは至近弾多数を受け、高出力ビームの余波でダメージを負いそのまま行動不能に陥る。 「もう一人……何処にいます」 「ココよっ!」 途端岩陰と反対方向から突然出現するもう一体のアーンヴァル! 瞬間両手にしたアルヴォLP4ハンドガンを乱射、いや正確な射撃で無防備な雪乃ちゃん自身に確実にHITさせてくる。 「ちぃっ!」 雪乃ちゃんはエキドナに急加速を掛けウィリー状態に、底面を防壁に仕立て上げ急場を凌ぐ。 相手のアーンヴァルは翼を装備せず、脚部ブースターだけで器用にまるで空中でステップを踏むような動作で追い詰めてくる。 大型マシンだと小刻みな動きには対応しにくい。火砲も使えず防戦一方になる雪乃ちゃん。 「ユキにゃんっ!」 次の瞬間、ねここが閃光の様に二人の間に乱入する。騎乗しているのはクロスバイザー“オルトロス”高速移動用特化されたバイザーだ。 「一気にいくよー! アーマーパージっ」 「OKですっ」 ねここの叫びと共に装甲が強制パージ。同時に雪乃ちゃんのエキドナからも後部パーツが外れ、ねここの方へと飛んでいく。 「チェンジ!ブリガンディ・モードッ!!!」 オルトロスがたちまち巨大な下半身へと変形、そこにねここがドッキング。ついでエキドナが変形した上半身が覆いかぶさる様に合体! わずか数秒で武装神姫の数倍のボリュームはあろうかと言う大型パワードスーツが完成する。 「にゃんこ合体!ねここバイザー!!!」 ジャキィィィィン! と決めポーズを取るねここ。 ……馬子にも衣装…… 「ふっふっふ~」 と自信満々の表情でアーンヴァルを見つめる。相手はその大きさに明らかにたじろいでいる……そりゃそうよね。 「それじゃ、いっくよー!」 どんな物凄い攻撃がやってくるのかと身構えるアーンヴァル。…………あれ? シーンとした音だけがフィールドに響き渡る。 そしてねここが一言 「……う、うごけにゃぃ」 コケッ、という音がしそうなほどに関係者一同が崩れる。いや私もなんだけど。 『ねここ、それマトモに歩けないから足のブースター使って移動するのっ』 「りょ、了解なのっ! とぁー!!!」 『あ、ダメそんな一気に吹かしたら!!』 カカト部分に当たるメインスラスターを一気に全開にしたら当然前のめりになってしまうわけで。 ……そして落下予測地点には、ねここにうっとりと見惚れていた雪乃ちゃんが…… 「……え」 ガッシャーーーーーン!!!!! 『試合終了。Winner,ヘンゼル&グレーテルチーム』 「はぅぅぅぅ……」 「予想…外…です…バタリ」 そこには倒れた衝撃で戦闘不能になったねここと、下敷きで下半身ぺっちゃんこになってしまった雪乃ちゃんが…… そしてこの日の出来事は、直ちに風見家の黒歴史になったのでありました。 ちゃんちゃん。 トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2440.html
キズナのキセキ 登場人物紹介 ●久住菜々子 19歳 大学生 本編の主人公。 『異邦人(エトランゼ)』の異名を持つ神姫マスター。 明朗快活な美人。 ●ミスティ 本編のもう一人の主人公。 菜々子の神姫。イーダ型。 ストラーフのレッグパーツを装備して戦う。 ●遠野貴樹 20歳 大学生 『ハイスピードバニー』ティアのマスター。 本編の語り部。菜々子の恋人。 ●ティア 遠野の神姫。ローラーブレードのような装備を駆使するオリジナルのバニーガール型。 本編のもう一人の語り部。 ●大城大介 21歳 フリーター 菜々子の友人。虎実のマスター。 見た目ヤンキー風だが、根はいい奴。 ●虎実 大城の神姫。ティグリース型。 ファスト・オウガを高速機動型に組み替えたエアバイクを駆使する。 ●久住頼子 年齢不詳 主婦 菜々子の祖母。三冬のマスターで、ファーストランカー。 見た目は若い。 ●三冬 頼子の神姫。ハウリン型。 礼儀正しい。 ●桐島あおい 大学生 21歳 かつて菜々子が姉と慕った女性。 凄腕の神姫マスター。 ●マグダレーナ あおいの神姫。謎に包まれている。 ●ルミナス あおいがかつて所有していた神姫。アーンヴァル型のカスタムタイプ。 ●花村耕太郎 『薔薇の刺』の異名を持つ神姫マスター。 ポーラスターの『七星』の一人。 菜々子の過去を知る人物。 ●ローズマリー 花村の神姫。ジルダリア型。 デフォルト装備にこだわる。 ●姐さん M市にあるゲームセンターのアルバイト店員。 桐島あおいの過去を知る人物。 菜々子のチームメイト 遠野がリーダーを務める、武装神姫チーム『アクセル』のメンバー。 菜々子と大城もチームに所属している。 ●八重樫美緒 高校生 17歳 高校二年生。ライトアーマー・シスターズのリーダー格。 遠野と菜々子を尊敬している。 しっかり者。 ●パトリシア 美緒の神姫。ウェルクストラ型のノーマルタイプ。 ●蓼科涼子 高校生 17歳 美緒の同級生。ライトアーマー・シスターズの一人。 自称・遠野の一番弟子。 きまじめな性格。 ●涼姫 涼子の神姫。パーティオ型。 武装手を飛ばし、ワイヤーを使った独特の機動で戦う。 ●園田有希 高校生 17歳 美緒の同級生で、ライトアーマー・シスターズの一人。 自称・菜々子の弟子。 難しいことは考えない、おおざっぱな性格。 ●カイ 有希の神姫。ヴァローナ型。 中古のストラーフ装備を使う。 ●江崎梨々香 高校生 17歳 美緒の同級生で、ライトアーマー・シスターズの一人。 バトルにあまり積極的でない非武装派。 おしゃれ上手で情報通。 ●もなか 梨々香の神姫。ポモック型。 無邪気な性格。梨々香と一緒におしゃれを楽しんでいる。 ●安藤智哉 高校生 17歳 美緒の同級生で、恋人。 顔よし、性格よしの人気者。最近武装神姫をはじめた。 ●オルフェ 安藤の神姫。ノーマルのアルトレーネ型。 今は自分の戦い方を模索中。 Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/786.html
煌く粒子を撒き散らしながら、『ルシフェル』が天を舞う 空中戦に特化した『ウインダム』を、速度でも運動性でも装甲でも火力でも上回るその様は、決して単純に高級パーツを組み合わせただけではない 鶴畑興紀の調整能力の確かさと、的確な指示、地味だが効率的な『ルシフェル』自身の錬度も含めた、重厚で実のある強さだった 『ウインダム』自身は知らないが、「最強の武装神姫」を目指して敗北した神姫からデータを奪い、次なる『ルシフェル』に移植するという件の非情な行為迄含めて 隙の無さこそが鶴畑興紀と『ルシフェル』の強さの秘訣であった そしてその「取り付くしまも無い」感じが、『ルシフェル』自身のソリッドな印象と相俟って、かなりのファンの心を掴んでいるのも確かだった まさに今、ルシフェルに追いすがられている『ウインダム』自身がルシフェルのいちファンであり、彼女の機械的な振る舞いと言うのは、その実ミーハーなファンがアイドルのコスチュームを真似するのとなんら変わる所は無かった 鳳凰杯編 「幽鬼と魔王」 内心の動揺と高揚を表情に出さない程度には、ウインダムの『真似』は徹底していた それは、彼女より格下の神姫相手にとっては、次手が読めない不気味さと威圧感をもたらしもしたが、明らかに格上であり、しかもその模倣のオリジナルでもあるルシフェルからしてみればお笑い種を通り越して既に怒りすら禁じえないものであった (誰が好き好んでその様に振舞っていると・・・!?) 無論、口に出しもしなければ表情にも表しはしない その事で後々質問されるのも言い寄られるのも面倒だ ルシフェルは無駄と面倒を嫌う それは今迄破棄されてきた幾多のルシフェルに染み付いて来た鶴畑興紀の思想と言うよりは、『今、このルシフェル』となったストラーフの個性だった 例え内心でどう思っていようが、破棄されるよりは従順な僕であろうとする性質は、武装神姫らしいといえばらしいが、人間的といえば限りなく人間的でもある 故に、劣化コピーの存在を快く思わないのも止む無き事だった ごう!とまた一段と距離が詰まる。速度で勝り、バランスも悪くない以上、パーツ単位での性能ならば公式装備ばかりのウインダムより遥かに上なのは明白であった 今回のバトルに併せて、ルシフェルには地上戦装備は最低限しか装備されていない。そして、大柄な翼とゴツゴツした鞭状の武器、凶悪な爪を備えた「サバーカ」を装備した姿は、『ルシフェル』というよりは『サタン=アポカリプスドラゴン』を連想させるものだった サイドボード迄含めて、バトル毎に全て切り替えるのが鶴畑興紀の戦略であり、それらを全て使いこなして見せるのがルシフェルに求められる資質であった その戦略は『クイントス』と同様のものだが、パーツの質に於いて圧倒的に優秀であり、鶴畑興紀のパーツ選択のセンスも、流石はファーストランカーと言う他無かった 高速機動武装神姫にしか不可能なマニューバをいくつもこなしながら、二重螺旋状に上昇してゆく二体の神姫 だが、そのらせんは徐々に先細り、両者の距離が10smを切る頃には、ウインダムのSMGの弾丸も尽きていた 『頃合だな・・・仕掛けろ、ルシフェル』 命令と共に機銃を捨て、急接近して鞭を振るうルシフェル 急制動に回避が間に合わず、あえなく絡め取られるウインダム がきぃんっ!! 遅れて、片脚の爪がウインダムの細い腰を掴む この一瞬の格闘攻撃を確実にヒットさせる為に、速度を調整して追い抜かず、離されずの間合いを計ったのだ 『チェックメイトだ』 鞭とのバランス取りも兼ねて手首に装備されていた槍剣が、ウインダムの喉を貫いた 「いやいや、最近はサードやセカンドにも優秀な武装神姫が増えて来ていて、私も少し油断すれば危なかったかも知れないですね」 無数のカメラに囲まれながら謙遜を口にする興紀は、いつもの「貴公子」の顔だった この種の下級ランカーに対する激励リップサービスは彼のいつもの事でもあったし、「強さの求道者」として知られる場合の彼ともそうブレるものでもなかった 要するに、スターとしての資質を、彼は充分に備えているのだ 一通りのインタビューの合間に、ルシフェルと言葉を交わしたウインダムも、普段の「人形がましさ」を維持出来ずに、半ば舞い上がっているのが傍目にも明らかだった 当然、それよりもさらにこういった場に慣れない深町昭は尚更だった (馬鹿馬鹿しい) わざとらしい握手をかわすマスターふたりから目を逸らしたルシフェルは、その視界の隅に奇妙な男を見かけた 何故奇妙と感じたのか、その種の直感をあまり是としないルシフェルには、後々になるまでその理由は判らなかったが、兎角野心に満ち満ちた目をしている事だけは、その時点で既に判った 報道陣が去った後に、残されたその男が取り巻きをすり抜ける様に興紀に迫った時に、その表情にあった不敵な笑みが、興紀に媚を売るやからとは違う、一種の迫力を生み出すのに一役買っていた 「見事ですね、流石は鶴畑興紀と『ルシフェル』だ」 一瞬、興紀の顔に浮かんだ驚愕の色を、ルシフェルは見逃さなかった 「・・・馬鹿な・・・!?」 「お久し振りです。そちらも変わりなくご健勝のようで何より」 「貴様・・・性懲りも無くまだ生きていたか」 「おっしゃる意味が判りませんな、私は別に一度も死んだ事はありませんが?」 見つめ合う二人の男。その間にある緊張感を、ルシフェルはあまり愉快なものと取らなかった 「ご安心下さい。貴方がたが抜けられても、G計画は順調に進行していますよ・・・まぁ今声を掛けたのは偶然見かけたからであって、進捗状況を示すサンプルも何も持って来てはいませんがね」 「!!」 「今は皆川彰人という名で生活しております。貴方がたのご好意を持ちまして店のほうも順調ですよ」 「ではまたの機会に・・・」 「・・・亡霊め」 去ってゆく男の後姿を見送って、興紀は一言だけ漏らし、後は普段の「冷酷」な顔に戻った (亡霊・・・?) その言葉の響きに、ルシフェルはらしくないうすら寒さを感じていた 剣は紅い花の誇り 鳳凰杯・まとめページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2052.html
深み填りと這上姫 初めまして。この小説を書く夜虹(やこう)と名乗る者です。以後よろしくお願いいたします。 この小説は『俺』という男が捨てられた神姫を一人前に育て上げる小説……だと思います。 話は全体的に時系列順に展開されていきますが、一章で完結する方式であり、 章単体で読み切れるようになっております。 コラボも歓迎です。こちらの物語に影響の無い程度であれば設定やキャラをお使いくださいませ。 登場キャラクター紹介 用語解説 作品集 第一章 深み填りと這上姫 あらすじ: 大学のレポートに追われる毎日を送る俺がトイレに行って戻ってくると目の前に蒼髪の人形がいた。 それは武器と鎧を装い、人という神のために戦う姫という謳い文句の人形 武装神姫であり、 乱暴なオーナーに捨てられたといって駆け込んできたらしい。 さて、どうしたものやら…… 第二章 深み填りと脱走姫 あらすじ: 神姫センターで知り合った友人 真那から賞金百万がかかった脱走神姫イーダの捕獲を持ちかけられ、 それの手伝いをする羽目に。しかし調べていく内に…… 第三章 深み填りと盲導姫 あらすじ: 夏のある日、俺達は神姫センターでサマーフェスタを楽しんでいた。 そんな時、ある人物と出会い、神姫の一つの可能性を垣間見る事に…… 外伝 少年と疾走姫 あらすじ: イリーガルマインド騒動から一ヶ月後、俺の家にとある少年がやってきた。 彼が連れていたのは……角の折れたアークプロトタイプ――百日だった。 その時、彼女から語られる二人の答えを俺は聞くことになる。 第四章:深み填りの徒旅記 あらすじ: ホビーショップエルゴ店長の日暮に頼まれ、イリーガルマインドを回収することになった俺は日暮の冗談で言った『異邦人(エトランゼ)』に倣い、その目的のために様々な場所へ行くことにした。 異なるセンターで異なる人や神姫と出会うことになるだろうが、それは俺たちになにをもたらすのやら…… バトルロンドにおける設定をMighty Magicより一部お借りしています。 第一部:店の中のせつな 第一話:模倣姫 第二話:擦違姫 第三話:篭城姫 第四話:総力姫 第五話:物語姫 (この話では武装食堂のネタバレが一部含まれます) (この話では武装食堂、せつなの武装神姫、武装神姫のリン、ウサギのナミダ、The Armed Princess―武装神姫―、鋼の心 ~Eisen Herz~、15cm程度の死闘より一部の設定、キャラクターをお借りしております) 第二部:15周程度の疾走 第一話:仮装姫 (この話ではキズナのキセキ、15cm程度の死闘より一部の設定、キャラクターをお借りしており、キズナのキセキのネタバレが一部含まれます) 第二話:面割姫 (この話ではキズナのキセキ、15cm程度の死闘、デュアル・マインドより一部の設定、キャラクターをお借りしており、15cm程度の死闘のネタバレが一部含まれます) 第三話:飛戦姫 (この話では15cm程度の死闘、デュアル・マインドより一部の設定、キャラクターをお借りしております) 第四話:宙走姫 (この話では15cm程度の死闘、デュアル・マインドより一部の設定、キャラクターをお借りしております) 第五話:隠道姫 (この話ではキズナのキセキ、15cm程度の死闘、デュアル・マインドより一部の設定、キャラクターをお借りしており、キズナのキセキのネタバレが一部含まれます) 総合カウント数35000を突破いたしました。 僕の小説を読んでくださっている読者の皆さん、どうもありがとうございます 本日 - 昨日 - 総合 - 感想がございましたらここへお願いいたします。 コメントログ -コメントログ2、-コメントログ3 譲れないこだわりがありまして、コタマ(狐)は鉄子のことを「鉄子ちゃん」と呼びます。 次に「鉄子」と呼んだ時はミコちゃんよ、大学の掲示板に例の写真張りまくるかんね! それはそれとして、いやはや、本当に同じ大学だったとは。 しかも精密機械いじりがプラスになる→機械の制御を勉強している鉄子達と学科が近いor同じだと推理します。 鉄子からコンタクトを取ったということは・・・ううむ、続きが待ち遠しいです。 -- にゃー (2012-05-31 01 09 38) にゃーさん> おお; これは失礼しました。取り急ぎ、修正をさせていただきました。 これで後は気を付ければ掲示板貼りは回避だね。ミコちゃん。 え? お前の研究不足が原因だろうって? それに関しては申し訳ございません……。 はい。同じ大学であるからこそのこの話となりました。そうである事で正体バレに関して、彼女が最も近い場所にいる事になると考えていたものでして。 学科はそう言う事になりますね。詳しく決めてはいないですが、だいたい同じかもしれません。 コンタクトの理由は次の話で展開されると思いますので、次回までお待ちいただければと思います。 -- 夜虹 (2012-05-31 17 50 06) 初めまして、読ませて頂いています白田黒乃です。 自分も先の名無しさんと同じ、尊に対して反感を抱いていましたが、段々と好きになってきました。 尊、性格イケメン過ぎだろ…正に武装神姫界のコブラ。 そして尊と鉄子が同じ大学…だと…(コラボが楽になるぜ。ラッキー!) -- 白田黒乃 (2012-06-01 17 09 42) 普通激しいバトルパートを書くと間に日常を挟みずらくなるのに お見事です。 これからもお体にお気をつけて下さい。 -- 焦げかぼちゃ (2012-06-02 23 00 47) 白田黒乃さん> こちらこそ初めまして。作者の夜虹です。 最初は典型的なオタ嫌いなので武装神姫をやっている人からするとちょっと近寄りがたい印象はありますよね。 でも、それが神姫を理解していく上で面白いかなと思ってやってみました。 後は深みに填まってくれれば、この性格であるといった感じです。 イケメンと言っていただけて何よりです。確かに軽口を叩いたり、意志がブレない所はヒューと言いたくなる奴ですね。 そしてコラボが楽に? いったい何が始まるのでしょうか……。楽しみにしています。 焦げかぼちゃさん> 恐縮です。この辺りは短編集の強みですね。切って次の話にすると話の状況をリセットできますので。 ええ。これからは本格的に暑くなってくるでしょうから、水分補給を欠かさずに頑張っていきたいと思います。 -- 夜虹 (2012-06-07 07 34 53) 待っていた・・・待っていたぞ夜虹殿!! ・・・すんません、テンションが暴発しました。 アニメ化でトランザムしてたら這い上がり姫の更新。 テンションが上がりまくりで色々とやヴぁい。 -- 燃え盛る焦げかぼちゃ (2012-09-18 20 55 06) 焦げかぼちゃさん> 三か月もお待たせして申し訳ありませんでした。 同人のサウンドノベルやらお仕事やらで結構、手間取ってしまいました。 それでもお待ちいただけてありがたい限りです。 それに応えられる様に続きをしっかり描いていこうと思います。 話に関しましてはこれからアクセルロンドという自分で作ったルールで戦っていくことになります。 (ちなみに元ネタは遊戯王5D sのライディングデュエルだったりします) それでどんな展開になるのか想像していただければ幸いです。 -- 夜虹 (2012-09-22 18 21 02) メルが勝った? ふむぅこれは予想を外してしまいました。 貞方もたまには役に立つものよのう。 しかしこれで、――フフッ、どうやらミコちゃんの学生生活はジ・エンドを迎えるようですなぁ。 なぜかと問われるまでもないでしょう。 最後に控える我がタマちゃんが負けるはずがない! せめて第2ラウンドで負けてくれるなよ双姫主ミコちゃん。 尋常外の傀儡師『ドールマスター』の真の恐怖を存分に堪能してもらおうぞ! フフフッ・・・。 フッフハハハッ・・・。 ハァーッハハハハハハハハァ!!!! -- 調子にのるにゃー (2012-10-12 02 05 04) 最新話読ませていただきましたー バトルロンドでのスキルがバンバン出てきて懐かしくなる…… >>二重人格だったり ……えっ? え、あの、はい 早く続き書きます はい -- 璽儡 (2012-10-17 20 52 06) にゃーさん> 勝ったのに作者からこの扱い。貞方ェ……(何 それは置いておきましてミコちゃんが追い詰められましたね。彼に後はありません。 そんな中、ミコちゃんと蒼貴は果たして難易度ルナティックなコタマを倒す事ができるのか……。 その前に第二ラウンドですね。壁となるのは姉妹機のアルトレーネの重装型とアステロイドという状況。 生半可な戦術ではイーダ一式の紫貴が覆すのは難しい。ミコちゃんはどう対抗するのやら……です。 璽儡さん> スキルは神姫の象徴の一つですからね。出来る限り使っていきたいと考えております。 ややや、何だか急かしてしまったような結果になって申し訳ないです。 イーダつながりと主人公ネタという事で二重人格を引き合いに出してみたのです。 次はリーヴェの戦いとなりますが、上手く彼女の性格、戦い方を引き出せるように頑張りたいと思います。 璽儡さんの作品も楽しみにしておりますのでお互い頑張りましょう -- 夜虹 (2012-10-19 00 06 07) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2113.html
ウサギのナミダ ACT 1-5 □ 週末、俺はティアとともにゲーセンの入り口をくぐる。 まっすぐに武装神姫のバトルロンドの筐体のあるコーナーに向かう。 バトルロンドのコーナーは今日も盛況だ。 大型の観戦用ディスプレイには、白熱の戦いを中継している。 「あっ、遠野くん!」 「来た来た」 壁際にいてディスプレイを見上げていた二人が、俺を見つけて手を振った。 久住菜々子さんと、大城大介。 俺も軽く手を挙げて、二人に歩み寄る。 「やあ。今日はどんな感じ?」 「絶好調~」 にっこりと笑って、久住さんは右手でVサインを作る。 「三強の二人相手に一勝ずつ」 「それは確かに絶好調だ」 このゲーセンでは、独自にバトルロンドのランキングバトルが定期的に行われている。 武装神姫の公式リーグにも三つのランキングと全国規模のポイント制度があるが、それとは別である。 神姫センターやゲームセンターなどで独自に行われるポイント制のランキングのことだ。 定期的に行われるトーナメントでポイントを取得し、その合計ポイント数で、ランキングを決める。 よりローカル色の強い武装神姫ランキングだ。 このゲーセンでは、現在の上位陣は三人で、三強と呼ばれている。 この三強に対しては、名の知れたエトランゼ=ミスティと久住さんのコンビと言えども苦戦しているようで、いまのところ負け越し気味らしい。 「でも、これで勝ち星もほぼ五分に戻ったし。これも、遠野くんに教えてもらった新戦術のおかげね」 「そうかな」 「遠野よ、あんまりミスティの肩を持つなよ。おかげで俺達まで勝てなくなっちまう」 大城が頭を掻きながらぼやく。 虎実はミスティと何度も対戦しているが、ミスティが大幅に勝ち越しているらしい。 「ああ……菜々子ちゃんとのデートがまた遠のく……」 「そんな賭、まだしてるの?」 「してません、してません」 俺が久住さんを横目で睨むと、彼女はあわてて首を振った。 ティアとミスティの二戦目も、ティアの辛勝だった。 そのときに、思い切って、デートを賭に使わないで欲しいと言ってみた。 なぜか、久住さんはあっさりOKし、二度としないと約束したのだった。 久住さんは約束を忘れずに、守ってくれているようだ。 だったら、いつもの、大城の妄言か。 「まあ、仮に賭があっても、わたしは虎実には負けないけどね?」 自信たっぷりの声はミスティ。 誰がどう聞いても、ミスティは虎実をからかっているのだが、 「あぁん!? だったらいますぐ、ここで決着つけてやろうか、テメェ!!」 虎実はあっさり挑発に乗った。 言葉遣いの悪さは、マスター譲りだろうか。 虎実は口汚くミスティを罵るが、当のミスティはどこ吹く風、とばかりに受け流している。 「やれやれ、やかましいこと。そんなに言うなら、今日は一勝くらい譲ってあげてもいいわ。 あんまり勝敗が開いてもかわいそうだし?」 「んだと!? なめんなよ! リアルバトルで白黒つけてもいいんだぜ、アタシは!!」 どこまでも白熱しそうな舌戦に、ティアがおそるおそる口を挟んだ。 「ふ、ふたりとも……ケンカはよくないとおも……」 「ティアは黙ってて!」 「アンタは黙ってろ!」 同時に怒鳴られて、ティアはびくっと身体を震えさせた。 半泣きになりながら、俺の胸ポケットの中で縮こまる。 二人とも、そうおどかしてくれるな。 二人のケンカは、止める者もなく、ますますエスカレートしていく。 肩の上で大きな声を出されて困っている久住さんと大城は、なぜか俺を見た。 やれやれ、結局こういう役回りか。 俺は小さく溜息を一つつく。 「だったらもう、普通にバトルして決着つけろよ、今日のところは」 とたんに、二人の怒鳴り声がぴたりとやんだ。 俺を見て、また互いににらみ合う。 「まあ、わたしの方は依存はないわ」 「……トオノに免じて、普通のバトルで勘弁してやる」 「あとで文句付けないでよね」 「そっちこそ!」 久住さんと大城は、苦笑しながら、俺の肩をぽん、と叩いた。 「ありがとう」 「いつも助かるぜ」 二人はお互いのパートナーを連れて、筐体の方に向かう。 俺は小さく肩をすくめた。 ミスティと虎実は、ウマが合わないのか、しょっちゅういがみ合って、そのままバトルになる。 お互いのマスターが何か言っても、火に油を注ぐようなものなので、仲裁は俺に回ってくるのだった。 ちなみに、ティアとミスティは仲がいいので、ケンカになった試しはない。 虎実はティアを毛嫌いしているというか、ほとんど無視して、話しかけてもそっぽを向かれる。バトルも、最初の一回以来、したことがない。なぜかティアを避けている。なぜだろう? マスター同士は、神姫たちとは関係なく、普通に話をする。 最近はなにかとこの三人一緒にいることが多くなった。 特にチームを組んでいるわけでもないのだが、他のプレイヤーからは三人組と見なされているようだ。 「あいかわらず、陸戦トリオは仲がいいな」 常連さんたちの間では、俺達三人はそんな風に呼ばれているらしい。 声をかけてきたのは、このゲーセンでも古参の常連プレイヤーである。 「お、ヘルハウンドの。……あれで仲がいいって言うのかな」 「ケンカするほど仲がいい……ってな、黒兎のマスター」 何度も手合わせをしているプレイヤーであるが、お互いに名前は知らない。 そのため、お互いの神姫の二つ名やあだ名で呼び合っている。 「で、よければ対戦しないか? 今日は陸戦トリオとやりたくてな」 「ふむ……いつも通り、ステージは廃墟か市街地。それでいいか?」 「もちろんだ。市街地ステージにしよう」 「わかった」 俺は頷くと、空いている筐体の方へ向かった。 俺がヘルハウンドと呼んだ神姫は、ハウリン・タイプのカスタムだ。 左右の肩に装着されたフレキシブルアームの銃火器が、神姫自信の頭と合わせて三頭に見えるので、「ヘルハウンド・ハウリング」という二つ名を持つ。 このゲーセンでバトルロンドの筐体が置かれた頃からの古参の常連だ。 もちろん実力もあり、ランバトでは三強の一角だ。 正直、ティアは苦手な相手である。 ティアは片手武器に頼っているため、火力が高くない。 そのため、重装甲を持ちながら機動力もある、ハウリンやマオチャオは分の悪い相手だ。 だが、苦手だからといって対戦しないでいては、苦手克服の突破口も見つけられないのだ。 三強ほどの実力者が相手なら、なおさら断る理由もない。 今日試すべき戦術や技を頭に思い浮かべながら、俺は筐体に座る アクセスポッドにティアを送り込んだ。 ヘッドセットを耳に装着して、準備を終える。 「行くぞ、ティア」 「はい、マスター」 今日もティアと共に戦う。 気の置けない仲間がいて、バトルを楽しむ相手がいる。 夢にまで見た武装神姫のマスターとしての日々は、とても楽しく、充実していた。 ……奴が来るまでは。 その日の夕方遅く。 何度かバトルをこなし、そろそろ帰ろうかと思い始めていた頃。 バトルを終え、アクセスポッドからティアが出てくる。 ティアは立ち上がり、俺の方を振り向いた。 いつものように、ちょっと不安そうな顔で俺を見る。 俺は安心させるように少しだけ笑って頷いた。 すると、ティアは花が開くように微笑んだ。 俺はティアに手を伸ばそうとしたその時、 「ねえ、アケミちゃん!? アケミちゃんじゃないか!! どこ行ってたんだよ!?」 と大きな声が聞こえてきた。 ……その時は、まさか俺達にかけられたとは思いもしなかった。 その声に、びくり、と体を震わせて、ティアが反応した。 ゆっくりと、首を回し、声の方向に顔を向ける。 相手の顔を認めた瞬間、ティアの愛らしい顔が、これ以上ない恐怖の表情を形作り、凍った。 さすがにティアの反応がおかしいと思い、俺も声の主を見る。 声の主は、やたら太った、大柄な男だった。 黒縁眼鏡をかけ、髪はぼさぼさに伸ばし放題、しわだらけのシャツとジーパンという、見るからに他者の嫌悪感を煽るような姿だった。 見たことのない男だった。……いや、どこかで見たような気もする。 あまりにステレオタイプといえば、そう見える人物ではある。 背後に二人の男を付き従えていた。仲間だろうか。 「ひゃはっ、やっぱりアケミちゃんだ。ボク、ボクだよ、井山淳一さ! 覚えてるだろ? さあ、ボクと一緒に帰ろうねぇ……」 男はアクセスポッドに手を伸ばそうとする。 俺はその手を払い、アクセスポッドを自分の手で塞いだ。 「おい、人の神姫に無断で触れるのはマナー違反じゃないのか」 自分の声が必要以上に厳しくなっていると自覚する。 見ず知らずの人物が、他人の神姫に無断で触れようとするのは、重大なマナー違反だ。 大切なパートナーに、知らない人間が触れたりしたら、誰だって怒るだろう。 神姫のマスターであれば、言われるまでもない常識である。 ましてや、ティアは男性に掴まれることをことのほか恐れている。 俺が過敏な反応を示すのも、むしろ当然だ。 だが、振り払われた手をさすりながら、いかにも心外、という表情で、その男は言った。 「人の神姫だって? 誰の神姫? 君の神姫ってこと? 違うだろ? その子はボクのアケミちゃんじゃないか!」 何を言ってるんだ、こいつは? 頭がおかしいのではないのか。 「こいつはティア。俺の武装神姫だ。あんたのアケミとかいう神姫とは人違い……いや神姫違いだ」 「何言ってるんだよ! 違ってるのはそっちだろ? その子は、『LOVEマスィーン』って店の、登録ナンバー23。僕が連れ出したアケミちゃんに間違いないよ!」 ……おかしくなかった。 あの夜の、ティアをゴミ捨て場に投げ捨てた、あの男か! 「『LOVEマスィーン』の神姫は、みんなカスタムヘッドで、あの店にしかいない娘ばっかりなんだ。 ボクはずっとアケミちゃんの常連だったんだ。いっつも可愛がってあげていたんだから、見間違うわけがないもんね」 「神姫違いだと言っているだろう。そんな店は知らない。変な言いがかりはよしてくれ」 「じゃあ、どうやってその娘を手に入れたんだよ? 製品じゃないヘッドの娘をさぁ!」 ……なかなか痛いところをついてくる。 だが、正直に言うわけにもいかない。そんなことをすれば、ますます増長してしまう。 「なぜ見ず知らずのあんたに、そんなこと話す必要がある? 確かにティアはマスプロダクトモデルじゃないが、カスタムの神姫を手に入れる方法はいくつもある」 「だから言ってるだろ! その子は間違いなく、『LOVEマスィーン』にいた神姫なんだよ!」 目の前の男は、とうとう見苦しく喚きはじめた。 「ボクは、あのヒドイ店から、必死でその娘を連れだしてあげたんだ! 仕方がない事情があって、手放さなくちゃいけなくなったけど……だから、アケミちゃんは、ボクの神姫なんだよ! ボクにオーナーの権利があるんだ! ヒドイ店から救い出してあげた恩を返す義務が、その子にはあるんだよっ!!」 ……風俗店から神姫を無断で盗んで、店のスタッフから逃げ切れなくなったことを神姫のせいにして投げ捨てたくせに……いまさらオーナー気取りかよ。 この井山とかいう男にそう言ってやりたかったが、言えるわけがない。 俺に出来るのは、関係ない、とシラを切り通すことだけだった。 「あくまで関係ないって言い張るつもり?」 「言い張るも何も、本当のことを言っているだけだ」 「……分かったよ。確かに、このままじゃ、君にも神姫がいなくなっちゃうわけだもんね。 だったら、その子を買い取ってあげるよ。それとも、新品の武装神姫と交換がいい? どっちでも、君が好きな方で取り引きしようよ」 こいつは結局何も分かっちゃいなかった。 俺は、いまだに身体を硬直させているティアをつまみ上げた。 「ひっ」 ティアが小さな悲鳴を上げる。 ごめんな。 俺は素早くシャツの胸ポケットにティアを納めた。 胸ポケットのあたりから、小さな震えが肌に伝わってくる。 俺は決意を新たにする。 右手で胸ポケットを包むようにして、そして井山を睨みつけた。 「あんたがどんな条件を出そうと、ティアを渡す気はない」 俺ははっきりと言い切った。 こんな奴に……こんな最低な野郎にティアを渡したりはしない。 ティアを性欲のはけ口にすることしか考えていない奴に触れさせたりしない。 絶対に。 俺の言葉を聞いて、井山は怒り心頭と言った様子だった。 「なんだとぅ! こっちが下手に出ていれば、つけあがって!」 「つけあがっているのはそっちの方だろう。人の神姫を突然よこせと言ってきて、しまいには逆ギレだ。常識知らずも甚だしい」 「……そこまで言うなら、仕方ない。君がアケミちゃんを持っていられなくなるようにしてやる!」 なんだと? 「……今のうちだぞ、その神姫をボクに渡さなければ、後悔することになるんだから!」 初対面のこの男が、一体何をしようというのか。 お互いのことなど何も知らないのに、なぜそんなことができるというのか。 「後悔なんて、するはずがない。あんたが何をしようとも、俺はティアを手放さない」 俺は高をくくっていた。 この井山という男に、俺達を害する真似などできるはずがない、と。 しかし、井山は薄気味悪い笑い顔を浮かべて、言った。 「ひゃはははは、知らないよ、後悔したって知らないよ。あとで君がどんな顔をするか楽しみだなぁ! また来るからね!」 井山はそう言い捨てて、ゲーセンの出入り口へときびすを返した。 奴の最後の態度は、異様に自信たっぷりだった。 それを不思議に思わないでもなかったが、不機嫌な気持ちの方が勝っていた。 「二度と来るな」 背を向けてゲーセンを出ていく井山一行の背中に、小さく吐き捨てた。 俺は筐体に残っていた装備を片づけ始める。 井山とのくだらない会話が、思ったよりも長くなった。 急いで席を立たねばならない。 「遠野くん……」 「遠野……」 忙しく手を動かしている俺を呼ぶ声がある。 久住さんと大城だった。 「さっきの会話、聞いちゃった……ごめんなさい」 あれだけ大きな声で話していれば、聞こえるだろう。 「さっきのデブの言ったこと……本当か?」 「何が?」 大城の問いに、俺は短く聞き返した。 自分でも、声が固くなっていることがわかる。 本当は、大城の問いなど、聞かなくてもわかっているのだ。 「ティアが、その……風俗にいたって……」 大城はらしくない、歯切れの悪い口調で言った。 久住さんも、居心地悪そうな表情で俺を見ている。 いや、武装神姫コーナーにいるプレイヤーたちも神姫も皆、俺達を見てひそひそと話をしている。 「関係ない」 俺は曖昧な言葉でそう言いきった。 ティアは確かに、神姫風俗にいたかも知れない。 でも、今は違う。俺の武装神姫だ。 だが、ティアの過去を詳しく話す必要はない。もう、関係のない話であり、俺の胸の奥深くに収めておけばいいだけのことなのだ。 「だけど、ティアの様子は尋常じゃなかった。あのデブのこと知ってたみたいだし、明らかに怖がっていたじゃないか。だったら、あのデブの言うことだって……」 「関係ない」 俺は大城のせりふをぶった切って、言い放った。 俺は二人を見た。戸惑っているような様子だった。 久住さんは、さっきから、何か言いかけては口をつぐむ。 女の子にはデリケートな話の内容ではある。 俺は大城を見据え、言った。 「さっきの奴とは初対面だ。確かにティアは中古の神姫をメンテナンスしたのだけど、俺がオーナーになる前の素性なんて何も関係ない。今のティアは武装神姫だ。それで十分じゃないのか」 自分でしゃべっていても、棒読みだと自覚した。 こんな口調でしゃべってたら、不信がられるのも当然だ。 でも、嘘はつきたくなかった。 だから、過去のことは「関係ない」という言葉で濁している。 それがさらに二人の不信を招いているのだとしても、仕方がない。 武装の片づけは終わった。 大城がまだ何か言い募ろうとする。 俺はそれを手で制した。 「すまない、今日は気分が悪い。先に帰る」 「あ、あぁ……」 「またね……」 ゲーセンではいまだに俺達を隠れ見ながらのひそひそ話が続いている。 こういう空気は嫌いだった。 俺は足早にゲーセンを後にする。 胸ポケットの中で、ティアはまだ震えていた。 このときはまだ、奴のことを侮っていた。 奴の話は噂にはなるかも知れないが、俺が無関係を装ってさえいれば、時間が解決してくれるだろう、と思っていた。 まさかあれほどまでに打ちのめされることになろうとは、夢にも思っていなかったのだ。 次へ> トップページに戻る