約 3,000,663 件
https://w.atwiki.jp/lanove/pages/103.html
タイトル 百合の間に挟まれたわたしが、勢いで二股してしまった話 その4 シリーズ 百合の間に挟まれたわたしが、勢いで二股してしまった話 レーベル オーバーラップ文庫 著者 としぞう イラスト 椎名くろ 発売日 2024/07/25 書籍情報 https //over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=9784824008275 キミラノ https //kimirano.jp/detail/36789 購入ページ Amazon 楽天
https://w.atwiki.jp/dokusen/pages/43.html
ベン・トー 790 :名無しさん :2012/07/05(木) 17 58 03 ID JH7lpyp. ベン・トー9 特に無いが、著莪が海外滞在中によくナンパされるみたいな会話あり
https://w.atwiki.jp/lanove/pages/59.html
タイトル 自分をSSS級だと思い込んでいるC級魔術学生 1 シリーズ 自分をSSS級だと思い込んでいるC級魔術学生 レーベル オーバーラップ文庫 著者 nkmr イラスト 嵐月 発売日 2024/07/25 書籍情報 https //over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=9784824008817 キミラノ https //kimirano.jp/detail/36797 購入ページ Amazon 楽天
https://w.atwiki.jp/lanove/pages/524.html
タイトル 無能と言われ続けた魔導師、実は世界最強なのに幽閉されていたので自覚なし 6 シリーズ 無能と言われ続けた魔導師、実は世界最強なのに幽閉されていたので自覚なし レーベル オーバーラップ文庫 著者 奉 イラスト mmu 発売日 2024/08/25 書籍情報 https //over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=9784824009180 キミラノ https //kimirano.jp/detail/37031 購入ページ Amazon 楽天
https://w.atwiki.jp/ranobeita/pages/5.html
まとめサイト作成支援ツールについて @wikiにはまとめサイト作成を支援するツールがあります。 また、 #matome_list と入力することで、注目の掲示板が一覧表示されます。 利用例)#matome_listと入力すると下記のように表示されます #matome_list
https://w.atwiki.jp/lanove/pages/356.html
刊行一覧 北欧美少女のクラスメイトが、婚約者になったらデレデレの甘々になってしまった件について 2
https://w.atwiki.jp/litenovel/pages/57.html
日本人の苗字 日本人の苗字は中々難しい。 下手に読者の友達や有名人と同じ苗字をつけてしまうと、どうにもイメージを引きずられがちです。 そこはマイナーな苗字をつけるのですが、どんな苗字があるかわからないことも多いかと。 そこでお勧めなのは下記のサイトです。 沢山の苗字が載っていますので参考になるかと。 日本人の苗字7000傑
https://w.atwiki.jp/lanove/pages/68.html
シリーズ一覧 ひとつ屋根の下、亡兄の婚約者と恋をした。 ラブコメの悪役に転生した俺は、推しのヒロインと青春を楽しむ レアモンスター?それ、ただの害虫ですよ 一週間後、あなたを殺します 夜が明けたら朝が来る 家事代行のアルバイトを始めたら学園一の美少女の家族に気に入られちゃいました。 恋する少女にささやく愛は、みそひともじだけあればいい 杖と剣のウィストリア グリモアクタ ―始まりの涙― 極彩の夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。 無慈悲な悪役貴族に転生した僕は掌握魔法を駆使して魔法世界の頂点に立つ 無能の悪童王子は生き残りたい 願ってもない追放後からのスローライフ?
https://w.atwiki.jp/litenovel/pages/28.html
里美と一緒に居られる時間も残り一ヶ月となったとき、俺は里美の願いを叶えてあげようと思った。どんな願いも叶えてあげるつもりでいたが、最後になるであろう願いは「一緒に毎日過ごすこと」だった。全身をシャネルで飾りたいとか、フランスを旅行したいとか、大変な想像をしていた俺は少し拍子抜けしたが、そんな些細な願いを全力で叶えたいと思っていた。 思っていたのだ。思っていたのだが。 「やっぱり、ジEジE全巻読破とか、ニち亀全巻読破とか、そういうのって違うと思うんだ」 部屋のベッドの上で並んで座りながら、ただひたすら漫画を読む毎日。流石は黄金期のジャンブ。漫画が面白くて読むだけで一ヶ月経ってしまった。会話も少ししたが本当に少しだけだ。それなのに今日はもう最後の日になっている。 当の里美はキョトンとしているじゃないか。俺の嘆きの意味がわからなかったらしい。何も考えていない里美はベッドの上にタンクトップにショートパンツという姿で足を投げ出して座っていた。張りのある白い肌が顕になっているが、こうやって見ると身長が低いこともあって高校生には見えない。今、読んでる漫画もトラえもんだし。 「俺、考えたんだ。今日で最後だし、ふたりで海を見に行こう!」 海。 山生まれの山育ちの俺と里美には海は特別な意味を持っていた。海が特別になるには訳がある。第一に距離が遠い。第二に海まで行く交通手段がない。だから海に行くって言うことは冒険と同じ意味を持っているのだ! 最後の思い出にはふさわしいと思った。 「え~、めんどー。どうせ自転車で行くんでしょ? 私は拒絶する!」 プリーチか!と怒っても仕方ない。どうしても一緒に海に行きたかった俺は交換条件を出すことにした。 「二人乗りで行こう。俺が全部漕ぐから、お前は後ろに乗っているだけでいい」 これなら断る理由もないだろう。里美は漕がなくたって荷台に乗っているだけでいいのだから。 里美は少し考える。尖った顎に小さな手が添えられた。タンクトップの隙間から無いはずの胸が見えるような気がする。 「途中でアイス食べていい? お腹すいたら黒いおでん、食べてもいい?」 予想外の質問に俺はお尻のポケットに入った薄い財布を撫でると、「う、うん」と頷いた。いや、勢いに押されて頷かされた。 「じゃ、行く。さぁ、出発~」 漫画をベッドへ投げ捨てて里美は俺の部屋を出ていった。海まで六〇キロ。 「ふぁいとー、いっぱーつ!」 里美は自転車の荷台に座り、俺の背中にぴったりとくっ付いていた。夏だからとても暑い。とても熱いのだが、気持ちいいのでそのままにしておく。 海へ続く道をひたすら南へ南へと下っていく。下り坂は俺たちを応援してくれているようで、風を切って走る自転車はスピードを上げていく。田舎道で車も通らないから、道の真ん中を堂々と突っ走る。 「気持ちいいー」 風を肌で感じて里美は叫んだ。俺も叫びたい気分ではあったが、やめといた。なんか変な方向に誤解されてもいやだし。 坂道は国道まで続いている。国道まで出れば海まで一本道だ。この調子で行けば四時間ぐらいで海に着くかもしれない。海に着くとお昼をちょっと過ぎたぐらいになるだろうか。あ、水着もってくれば良かった。 「海に着いたら焼きイカ食べてもいい?」 まわりに誰もいないことをいいことに、大声で聞く里美。食い意地がはっているわけではない。もう食べることも出来なくなるだろうから食べ収めしたいのだろう。俺の財布にはなけなしの全財産が入っている。焼きイカぐらいであれば二十匹はいけるだろう。俺の分もあるはずだ。 「ああ、好きなだけ食べていいぞ」 「ホント!?」 素っ頓狂な声を上げる。あぁ、里美の表情を見たい。すごく驚いているんだろうなぁ。見たら転ぶから見れないけど。 「もう、大好き!」 里美は俺にぎゅっと抱きつく。柔らかな感触が俺を動揺させた。 「ちょっ!」 俺は思わず里美の方を振り向いてしまった。つられてハンドルが曲がり、猛スピードで坂を下っていた自転車はすごいスピードで路肩の草むらに突っ込む。自転車は草むらでひっかかり、俺と里美は空中に放り出された。 突然のことだったが、俺は身をよじって里美の方を見ると、両手を伸ばして里美を抱え込んだ。 草むらを越えたところにある畑に背中から落ちる。その上に里美の体重も上乗せされると俺の肺から空気が押し出された。 幸いにもよく耕された土だったらしく、衝撃は覚悟したよりも少なかった。里美が小さくて痩せていたということも衝撃が小さかったことの理由の一つだろう。 だが、肺の中の空気が一気になくなった俺はしばらく呼吸ができずに喘いでいた。こんな風に窒息したのは、滑り台から転げ落ちて背中を強打した幼稚園の時以来だった。 「どうしたの!?」 空気が足りず音にならない音が俺の喉から漏れている。真空になった肺は空気をちっとも吸ってくれなかった。里美の顔が段々曇ってくる。少し涙目だ。 そんな里美を愛おしく思うものの、苦しい。やばい。頭が朦朧としてきた。酸素不足だ。早く呼吸が元に戻らないと本当に窒息死するかもしれない。 でも、そんなことはどうでもいい。里美を心配させたくない。そうでなくても大きな不安を抱えているのに。 俺は無理矢理笑った。きっとぎこちなかったけど、笑えたはずだった。 里美はますます涙の粒を大きくして、俺に抱きつく。次の瞬間、両手で俺の頭を抱えると、息を大きく吸い込んだ。俺は何が起こるか予想できなかった。里美は俺の頭を引き寄せるとくちびるを合わせる。突然のことに俺は目を瞑った。いや、瞑る必要なんてどこにもないんだろうけど、なんとなくだ。そして、里美の口から熱い空気が流れ込んできた。予想していなかった俺は最初少し拒んだが、吐き続けられる里美の息をすぐに受け入れた。 さっきまでの息苦しさはなくなり、肺に空気がいきわたる。里美の行動に驚いていたはずなのに俺は安堵感を覚えた。人間が吐く息には二酸化炭素がたくさん含まれているような気がするが実際には少しで酸素の方が何倍も多い。流石は生物部兼吹奏楽部だと思った。 「さ、里美。もう大丈夫……」 俺は里美を引き剥がすと、涙か鼻水にまみれた顔を手でぬぐってやった。 呼吸ができるようになって落ち着いた俺は里美を路肩に座らせると、草むらに突っ込んだままの自転車を引き上げた。突っ込んだのが草むらだったからか、幸いどこにも異常がないようだ。 「ごめんなさい!」 俺も一緒に路肩に座って休もうとすると、突然里美が謝ってきた。 「私のせいだね。二人乗りで暴れたら危ないのに。もっと気をつけるべきだった」 さっきまでのテンションはどこへ行ってしまったのか、自嘲気味に笑う里美は痛々しかった。別に悪いことをしたわけじゃないのに、転んでしまったことで冷や水を浴びせられた気分なのだろう。 転んでしまった原因をどこかに求めるとしたら俺の精神が弱かっただけの話だ。もしくは経験か。あれしきのことで動揺してしまう純な心が恨めしい。 「気にするな。怪我なんてなかったんだから」 里美も俺も不思議なことに無傷だった。確かに呼吸はできなくなったが、肋骨が折れた様子もない。少し休めば海を目指せると思っていた。 「海、行かない」 里美はポツリと言う。俺は「そうか」とだけ答えた。海に行こうと言い出したのは俺だし、自転車漕いでいるのも俺だし、里美が決めるのもどうかと思うが、自転車で転ぶような俺では力不足なのだろう。 自分で導き出した事実に俺は僅かながらショックを受けていた。分かりきっていたことだが、俺と里美では釣り合いが取れない。家柄でも勉強でもスポーツでも里美は常に上位だ。友達の数もずば抜けて多く、おじいちゃんやおばあちゃんまで友達になるほど人気者だった。 俺は里美に好意を寄せる男のひとりに過ぎない。そんな思いが俺を支配していく。忘れていた暗い気持ちが鎌首をもたげて俺を見ていた。 「海、行きたかったな」 なんか涙が出てきた。頑張ったけど、俺では海にすら連れて行くこともできない。惨めだと思った。たった六〇キロが移動できないなんて。 俺は里美に涙を見せたくなかったから膝に顔をうずめた。でも、肩が震える。抑えていたけど、外から見たら分かってしまうだろう。本当に情けない。 「やっぱり、行こう! まだおでん食べてないし、焼きイカも食べてない。さぁ、立て! 立つんだ、ジョー」 誰だよ!と突っ込みを入れようとして立ち上がると里美の目にも涙が光っていた。俺は激しく動揺する。どうして里美まで無く必要があるのか。もうよく分からない。 「祐介が泣いてると私も悲しいよ。私のわがままに文句も言わず付き合ってくれているのに、それだけで感謝の気持ちでいっぱいなのに、泣かせてしまうなんて……」 なんか暗くなってきた。空は雲一つ無いのに、ふたりの心へは日が差し込んでこない。きっとふたりが少しずれれば日の差し込む場所に行けるのに、立ち止まっているから日が当たらないんだと思う。 俺は何を考えていたんだ。海行くのは手段だ。目的じゃない。目的は里美を喜ばせることじゃないか。悲しませてどうする。 里美を楽しませるにはどうすればいいんだ? おでんを奢る、焼きイカを奢る、アイスを奢る。簡単なことだ。たった数時間、自転車を漕げば達成できるじゃないか。それに俺だって大好物だ。 やるっきゃないだろ。俺は男だ。祐介だ。世界で一番里美を愛するものだ。 よし! 気合十分。 「泣いてなんかない!」 俺は腕で涙を拭った。汗が目に染みて余計に涙が出てくる。しょうがないからTシャツの裾を持ち上げて拭う。 「汗が目に入っただけだ。休憩終わり!」 強がりでもなんでもない。強固な意志が俺の中に沸いてくるのを感じた。今なら電車にも勝てるぜ。 「まずはおでんだ。里美、俺についてこい!」 そう言って自転車に飛び乗り、荷台を叩いた。 「早く乗れ。おでんが待ってるぞ」 里美はひまわりのように笑って自転車に乗った。 これからおでんを食べに行くぞ。と気合を入れたが、夏に「おでん」ってどうよ? 海まで残り四〇キロ。 「おっでん! お・で・ん!」 妙な掛け声で応援してくれるのはいいのだが、里美は荷台から降りようとしない。 俺は上り坂を一生懸命漕いでいた。急な上り坂で踏み込むペダルは相当重い。里美の分が加わっているため、立ち漕ぎでもきつい。しかも太陽は容赦なく俺たちを照りつけるから暑いなんてもんじゃない。灼熱地獄だ。 いつも親に連れられて海に行くときは高速道路でトンネルを通っていたから気がつかなかったが、自転車で行く場合は峠を上って下らなければならない。全部下り坂だと思っていた俺には大きな誤算だった。 「ほら、もう少しだよ~」 確かに峠の天辺は見える。しかし、今までそれを何回繰り返しただろうか。天辺だと思っていたら少し平坦になっただけだとか、道が曲がっていただけとか。もう俺は騙されない。騙されないぞ。 「少し休ませてくれぇ」 俺は前に倒れこむようにして道端に寝転んだ。里美が荷台から降りて俺の顔を覗き込む。自転車は俺と反対側に音を立てて倒れた。 「勇者よ。死んでしまうとは情けない」 なんと言われても立つ気力は無かった。里美の言葉を無視して目を瞑る。「むー」と聞こえたような気がするが、きっと気のせいだと思って休むことにした。 しばらくすると里美がどこかへ歩いていく足音がした。随分遠くに行ってしまうようだ。もしかしたら呆れて置いていかれるのかと思った。薄目を開けて里美の行動を見守ると、坂道の上の方へ歩いていっているようだ。景色でも眺めに行ったのだろうか。 もういいやと思って再び目を閉じると戻ってくる足跡が聞こえてきた。風景を眺め終わったのかもしれない。 近くに来ると足跡が止まる。 「うひゃー!」 首筋が痛い。いや、冷たい。缶ジュースか!? 俺はその衝撃に飛び起きた。里美の手に持たれたジュースを眺めながら首筋をなでる。条件反射の行動だが、本当に痛かった。急激な温度変化は体に悪い。 「ざまみろだー。私を無視するからだ。さー、勇者よ。飲むがいい」 二つあった缶ジュースを一つ俺に投げると、里美は自分の分のジュースを開けた。プルタブに隙間が出来て中に充填された窒素が飛び出る。その音を聞いて俺は思わず咽を鳴らした。 里美はおいしそうに飲んでいる。俺も蓋を開けるとジュースを飲んだ。一気に飲むと体中に刺激が走る。その刺激が怒涛のように頭に押し寄せると、こめかみが締め付けられたように痛くなった。 「うまい!」 普通のジュースだが、久々の感触がとてもおいしく感じられた。里美を見るとジュースを持って笑っていた。俺の行動がおかしかったらしく、口に手を当てている。やっぱり里美は笑ったほうがかわいい。それだけで俺の疲れは吹き飛んだ。 峠をなんとか突破した俺たちはふもとにあるちょっとした町に差し掛かった。ここはすでに隣県だ。あちこちで見える看板は見たことの無いものばかりだった。里美は自転車の荷台でキョロキョロと何かを探している。 「トイレか? トイレだったらあそこにコンビニあるぞ」 と俺が気を利かせて聞いてあげると、里美は平手で俺の頭をポンポンと叩いた。 「違う違う。ワトソンくん。我々の目的を忘れたのかね? 我々の目的は『ブラックオデン』をゲットすることだ。まずはノボリを見つけなくてどうするね?」 里美の目は真剣そのものだ。もしかしたら今なら鷹といい勝負をするかもしれない。 俺が何気なく道路の反対側を見ると、そこには黒いノボリに黄土色の文字で「黒いおでん」と書いてあった。 「あったぞ。里美」 冷静に教えてあげると、里美はそっちのほうを見た。黒いノボリを見つけた瞬間に表情が明るくなる。よほど食べたかったらしい。 「昼食の時間だよね? チェシャ猫。キミも大好物だったじゃないか」 もう登場人物の選択が間違っていると思うのだが、細かいことを気に出来ないぐらいうれしいらしい。 「お昼はおでんにするか」 「やった。大好き。もう全部あげちゃいたいぐらい」 聞き捨てなら無い台詞を残し、里美は信号が青になった歩道を走っていった。海まで残り三〇キロ。 夏におでんは流石にやばい。おでん自体はおいしかった。店はクーラーが効いていておでんを食べやすくしてくれていたのは確かだ。でも、おでんは熱々だった。それを食べて体内に熱いものを取り込むのと、店から出たときの外の暑さと合わせて二重の熱さが汗を滝の様に噴出させていた。 それは里美も同じようで胸の辺りが汗で濡れてタンクトップが肌に張り付いている。素材の関係上、透けてはいないようだが、体の線がはっきりと出ていた。曲線にはなっていないから、特別な心配はいらないようだが。 「おでん、おいしかったー。暑いけど食べてよかった」 なぜか幸福に浸っている里美。汗が引くまで自転車を降りて歩くことにした。おでんを食べた店のある町は小さく、歩いているとすぐに通り抜けてしまった。 ちょうどいいことに森の中に入った。緑を濃くした木々が太陽をさえぎってくれる。道の脇を流れる川の音が心地よかった。 少し行くと道の脇にベンチが置いてあった。俺はベンチを指差すと「少し休もう」と提案した。里美も頷いた。 自転車を横に置き、石で出来たベンチに腰掛けるとひんやりとした感触が伝わってきた。火照った体を少し冷やしてくれる。里美もそう感じたようで、ベンチに仰向けに寝そべっていた。 「いやー、落ち着くね」 俺も同感だった。山で育った俺たちは森の中が一番落ち着く。先のほうを見てみるとしばらく森の道が続くようだ。 「もう少しここで休んでいこうか」 この気持ち良さに抗えないのか里美は目を閉じながら頷いた。俺もゆっくりと瞼を閉じる。すぅっと吹いたそよ風が優しく熱を奪っていった。ほどよく体温が下がり、眠りに着く前のふわふわとした感触が訪れる。 俺は寝ちゃだめだと思いながら、里美の横に倒れこんでいった。 再び目を覚ますと俺は里美の膝で寝かされていた。見上げる俺の目に里美の顔が映る。何かに気を取られているようで、里美の視線はどこかを向いていた。俺はそっちを見ようと身をよじろうとすると、里美の手が俺を抑えた。 「静かにね」 葉の擦れる音よりも静かに漏れた囁き。俺は忠告通りにゆっくりと起き上がった。 視線の先にはリスがいた。非常に珍しい。山育ちと言えど臆病なリスに出会える確率は少ない。小さなころに一度見ただけだった。 蝉の鳴き声が聞こえてくる中、リスだけが音もなく動き回っている。置きぬけの何か別の世界にいるように感じた。 しばらくちょこまかと動き回っていたと思ったら、不意にリスが止まる。小さな鼻と耳を動かし何かを感じ取っていた。きっと天敵が狙っている気配を感じたのだろう。次の瞬間には森の中に消えていってしまった。 「あー、行っちゃった」 里美は残念そうにリスが消えた先を見ていたが、もう戻ってこないと知ると俺のほうに向き直る。木漏れ日が里美の肌を赤く染める。あたりはすっかり夕焼けだった。 「ごめん。眠っちゃった」 俺は起き上がり、状況を理解すると素直に謝った。すでに夕方の六時を回っているのだろう。少し肌寒い。里美も自分を抱くように腕を組んでいた。 「気にするなって。リスとか……とか見てたから退屈しなかったし」 里美の顔が少し赤くなった気がした。聞き取れなかったところは何と言ったのだろう。そう言えば膝枕までしてもらっていたんだっけ。 思い出すと俺も赤くなる。寝ぼけていてよく覚えていないが里美の腿は非常に滑やかだった。あんなに汗をかいていたのに不思議だと思った。 「膝枕、ありがとう。恥ずかしかっただろ?」 「だから、気にするなー。そんなこと言われたら余計に恥ずかしいだろ」 苦笑いで返す里美。俺はどこか寂しそうな様子を感じていた。やはり海が駄目になってしまったからだろうか。それとも寒いからだろうか。いや、たぶん今日で最後だからだ。俺は最後なのに里美にこんな顔をさせて終わってしまったら駄目だと思った。 「なぁ、ここまで遅くなったら家に帰らなきゃいけないと思うけど、まだ海を目指していいか? もちろん、里美さえ良ければだけど」 「着くの何時ぐらいになるかな?」 あと二〇キロぐらいだから順調に行けば二時間ぐらいだろうか。今から行っても海に着く頃には真っ暗になっているだろう。夜の海なんて花火をするイメージしかないけど、行く意味あるんだろうか。 あ、もしかしたら里美の質問は暗に夜の海に行っても意味がないと言っているのだろうか。怒っているのかもしれないなと思った俺は里美の表情を観察する。しかし、怒っているような雰囲気はなく、本当に何時に着くのか知りたいようだった。 「夜の八時ぐらいになっちゃうな。海に着いたら真っ暗だ」 俺は正直に答えた。海に行きたいのは山々だったが、里美を喜ばせようとして行くのだから、夜の海に意味がないと里美が思えばもう帰るつもりでいた。 「夜の海ってなんかドキドキしちゃうね」 俺の予想とは違った答えが返ってくる。逆に俺の方がドキドキしてきた。夜の海にいったい何があると言うのだろうか。イケナイ方向に想像が向きそうになって顔に出てしまっていないかと少し焦る。 「じゃあ、海を目指すか」 俺がゆっくりと立ち上がると、里美もベンチから立ち上がった。しかし、うまく体に力が入らないようで、再びベンチにお尻が落ちてしまった。俺はあわてて里美の肩を支える。冷え切った肌の感触が掌に伝わってくる。具合でも悪いのだろうか。 「大丈夫か?」 斜めになった里美の体を直すと、肩を支えたままで聞く。熱でも出たのだろうか。昼間は暑く、夕方は肌寒いような気がする。 俺は里美のおでこに掌を当てようとすると、里美はその手を払いのけた。 「熱はないよ。大丈夫。立ちくらみがしただけだから」 それまでの里美の雰囲気と違い、有無を言わせない言葉だった。 「本当に大丈夫なんだな? 具合が悪いなら正直に言えよ」 念を押した俺の質問に里美は「大丈夫」と答えた。目を覗き込むが嘘を言っているようには見えない。嘘をつくときには瞬きが多くなるはずだった。 「じゃあ、少し休んだら行こう」 俺が里美の隣に座りなおすと、里美は俺の肩におでこを押し付けてきた。 「熱ないよ。本当だから、ちゃんと海に行こうね」 里美の呟きを聞くと、なぜだか俺は悲しくなった。 海の匂いが感じられる。深呼吸をすると海草サラダを食べている気分になった。自転車の後ろでは里美が俺の背中にぴったりとくっ付いていた。夏とは言え、夜の空気は体の熱を奪う。ぴったりくっついていることで俺たちは体温を逃がさないようにしていた。 「もうすぐだ。海まで一キロって書いてある」 道路の上に見える看板には海岸まで一キロメートルであることが表示されていた。 「おー、じゃあ、ラストスパートだね」 「了解!」 俺は自転車のギアを少しだけ上げる。タイヤは少しだけ回転数を増して、景色はスピードを増した。 海へつながる国道を走りぬけると、堤防が見えてきた。堤防の先には砂浜があるはずだ。 すでに辺りは暗くなっている。数少ない街頭だけと時折走る車のヘッドライトだけが俺たちを照らしていた。もう少しで海に着くと思った瞬間、破裂音がした。次に自転車のタイヤから空気が抜ける音がする。 ここまでの無理が祟ったのか、タイヤがパンクしてしまったらしい。俺はブレーキをかけた。 「きゃ!」 短い悲鳴が背中であがる。里美の体重が俺に掛かってきたが、ハンドルに腕を突っ張ってふんばった。 二人分の体重を乗せた自転車は中々止まらなかったが、幸いにも直線だったのでパンクの影響で転倒するようなことはなかった。ここは畑とは違う。周りはアスファルトだ。転倒したときのことを考えると冷や汗が出た。 「どうしたの? パンク?」 里美は自転車の荷台から降りてタイヤを覗き込んでいる。破裂音は後輪からしていた。 「あー、これだ」 里美が指し示す先には外側のゴムが擦れて焼けた後があった。パンクの影響でゴムチューブまで露出している。かなり長い間使っていた自転車だから、もう限界だったのかもしれない。 「壊れちゃったねー」 海が見える前に二人が乗っていた自転車は壊れてしまった。 「壊れちゃったな」 俺が呟くと里美は自転車のサドルを撫でた。 「お疲れさん」 今日一日で普段の何十倍も働いた自転車を労う様にかけた言葉は自転車だけじゃなくて、俺にも言ってくれているような気がした。 「最後は私たちで歩こうか」 里美は俺に向かって言うと、海の方へ向かって歩き出した。歩いても十分程度で着くだろう。 俺は自転車を放置するわけにも行かずベコベコとタイヤがなる自転車を引いていく。 しばらく沈黙を保ってあるいていた。時間にしたら一分にも満たなかったかもしれない。でも、ずっと密着していたから離れて歩くのは寂しく、自然と里美の方を向いてしまう。 里美は俺の視線に気がつくと首をかしげた。何をしているのか不思議なのだろう。俺は目線を外すと立ち止まった。 里美が数歩進んで立ち止まる。 「今日は無計画な旅でごめんな。約束していた焼きイカも食べさせることができないし、自転車も壊れちゃうし、最後の思い出がこんなんでごめんな。本当はもっと……」 言いかけて俺は続きをしゃべれなくなった。気づけば里美が俺に口付けをしていた。やわらかい唇が触れているだけだが、俺は頭の中が真っ白になっていた。状況は理解しているつもりだが、何がどうなってこうなっているのか分からない。 しかし、振り払う気にもなれなかった。自然と目を瞑り里美のくちづけを受け入れる。それからほんの一瞬くちびるが離れ、すぐにチュッと音を立てて再びキスした。 「本当は海についてからあげるご褒美だったんだけど……」 里美は恥ずかしそうにうつむく。辺りはすでに薄暗くなって赤くなっているかどうかわからなかったけど、俺の顔は火が出そうなほど火照っていたから、里美も赤くなっているのだと思う。 何か言うべきなんだろうけど、何を言えばいいのかわからない。ありがとうとか、頑張るぞとか。ありきたりな言葉しか浮かんでこなかった。 俺が考えているうちに沈黙が長引いて、さらに言葉を発しにくい雰囲気になる。 やわらかなくちづけの心地よさが覚めていき、次第に焦りが俺を支配していく。何か言わなくちゃ、何かやらなくちゃ、座布団二枚ぐらいのうまいこと言わなきゃ。 「あ、ありがと。夢だったんだ」 俺は言った瞬間に発した言葉をしまいたかった。ふと里美を見ると下を向いたままお腹を抱えていた。やっぱり具合が悪かったんだと思った。肩が小刻みに震えているし。少しずつ震えが大きくなっている。 「大丈夫か?」 俺が里美の側によると、里美は「ぶふっ」と噴出した。次の瞬間には大きな笑い声を上げる。静かだった道路に響き渡る。 「大丈夫。ぶふっ。ゆ、夢って……」 「そんなに笑うことはないだろう」 あまりの受けっぷりに俺は落ち込む。何と言うか最後まで俺は格好つけられないというか。スタイリッシュになれないんだよな。どこかで失敗をするから自信なくなるんだ。今分かったよ。遅かったけど。 「ご、ごめん。でも、嬉しかった。私も夢だったんだ。あ!」 いい台詞を言った後に里美は手を叩いた。何かを思い出したらしい。 「人工呼吸はノーカンね」 ペロッと舌を出した。暗いはずの道路端で里見だけが輝いて見えた。海まであと一キロ。 砂浜に立つ。里美も横で海を見ている。 色々あったがやっと海に着いた。感動だ。 「真っ暗だね」 「あぁ」 堤防の上を走っている道路には街灯が点いていた。しかし、海のほうは向いていない。街灯の弱々しい光が灰色の堤防に反射して、僅かに降り注ぐのみだった。当然、海にまで届くはずがない。 海は本当に真っ暗で、普段なら白く崩れるはずの波ですら見えなかった。海の家はすでに閉まっており、焼きイカも買えそうにない。本当に何のために来たのか分からなくなってしまった。 申し訳ない気持ちで里見を見ると、真っ暗な海をじっと見つめていた。視線の先を追って同じ方向を見るが何も見えない。 「このまま海に入ったら死ねるのかな?」 真剣な声。しかし、俺は冗談だと思った。里美は水泳も得意だ。インターハイで優勝経験もある。そんな里美が入水自殺を図ろうなんてばかばかしい。 でも、里美の目は夜空だか、海だか分からない闇の一点を見つめて動かない。 「死んでどうする」 俺は里美が本気で言っていることに気がつくと問い詰めるような口調になる。世界が明日終わるわけじゃない。 「死んだら天国に行けるよ。そうしたら一緒に居られるかもしれない」 女の子だと思った。非常にロマンティックな考えだから。でも、俺は首を横に振る。 「死んだらおじさんやおばさんが悲しむだろ? それに里美がそんなことしたら俺は許さない」 きつい言葉に里美の瞳に涙が浮かぶ。里美にはどうしようもないことだ。解決してくれる人もない。もう決められたことだった。 「死んじゃいやだよ」 里美が俺の胸に飛び込んでくる。俺は優しく受け止めた。 「どうして高校生なのに死ぬの? なんで祐介じゃないといけないの?」 声が震えている。顔を俺の胸に埋めている為、表情は見えない。だけど泣いているのだと思った。 里美を喜ばせたくて海まで来たのに結局目的を達成できずに終わってしまった。目的を達成できずに、俺は死ぬ。すぐに死ぬわけじゃないが、明日からは病院に戻らなければならない。病院で最後を迎えるのだ。 余命など無いに等しかった俺がここまで生きることが出来たのはきっと里美のお陰だと思う。ずっと俺の傍に居てくれた。今日だって里美が食べたいと言ったものは俺が食べたかったものだった。気を使ってくれていたのがよく分かる。 本当ならそこまでする義理はなかったはずだ。単なる幼馴染なのだから。 「ありがとう、里美」 里美の問いには答えることができなかった。ただ感謝の念だけが浮いてきた。この場にそぐわない台詞だということは分かっている。空気を読むなら「幸せに生きろよ」とか、「俺のことは忘れてくれ」とか言わなければならないのだろうけど、これしか言えなかった。これ以上口を開くと俺まで泣いてしまいそうだったからだ。 俺がそれ以上何も言わないと知ると、里美は何も言わずにただ小さな肩を震わせていた。 ――海に到着。
https://w.atwiki.jp/litenovel/pages/47.html
残り三百五十グラムの小麦粉。この小麦粉を何に使おうか。 そんなことを話しながら、各務んと一緒に下校中だ。あの「腹痛うどん事件」に懲りず、「残りの小麦粉で私の手料理を堪能する」と言って勝手についてきた。 「お好み焼きがいいなー」 さっきから各務んの要求はただ一つ。しかし私は首を横に振る。 「やだ」 「えー、お好み焼き、おいしいよ? 食べたいよ?」 大きな胸してるくせに幼児のように甘えてくる。あぁ、くそー。絵になるなぁ。美人は何をしても許されるって言うのは本当だ。同姓である私でも許したくなる。 「……じゃあ、ネギ三本買ってきて」 「ネギだけでいいの?」 「うん、大丈夫」 「……あれ? ということは、お好み焼きの作り方は知ってるんだ。小麦粉料理は知らないって言ってたのに」 「思い出したの」 あんまり思い出したくなかったけど。私はこみ上げて来るものを我慢できず顔を反らした。 「準備しとくから、早くね」 それだけ言うと私は走ってその場を去る。いつになったら壊れた涙腺は治るのだろう。まったく。もう二年も経つというのに。 家に着くと早速準備を始める。何かしていないと落ち着かなくなるからだ。 小さめの鍋に水をはり、そこへ昆布を入れて火にかける。お好み焼きの生地に使うダシに関して好みはあるが、私は昆布ダシのお好み焼きしか知らない。沸騰する直前で火を止めて冷ましておく。 次は大きめのボールの中へ残りの小麦粉を入れる。 そこに卵を四つ、割り落とす。 卵を次々に割るが、一つも失敗しなかった。たったそれだけのことなのに私は成長しているんだって実感した。 物心つく前から父親のいなかった私の家は、一般的な母子家庭の例に漏れず貧乏だった。それでも食べ物で苦労をさせたくないと思ったのか、母はよく安い小麦粉を沢山買ってきては色々作って私に食べさせてくれた。 ある日、母はいつもより早く仕事を終えてネギを沢山買ってきた。 『今日はお父さんと会えるからね。美味しいものを一緒に作って、お父さんに食べさせてあげようか』 私はひと言も父親に会いたいなんて言った事はなかったが、そこは五歳の子供のことだ。きっと気がつかないうちに友達の父親をもの欲しそうな目で見ていたのだろう。だから、一度だけ父親に会える機会を作ってくれたのだと思う。 喜んでお手伝いをした私の戦績は、卵の殻を沢山混ぜ込み、お塩を「これでもか」というぐらい入れて、母の味付けを散々にしていた。それでも、「ネギ焼き」は父と母、二人の思い出の味らしく、『おいしい』と言って全部平らげてくれた。 それから父に会う事もなかったし、名前も知らないままだ。二年前に母が死んでからは父が学費と生活費を振り込んでくれているらしい。保護者が必要なものは父の知り合いだというおばさんが面倒を見てくれていた。 昔は会いたいと思ったこともあったけど、父にも家庭があるはずで、それを壊したくなかった。母が頑張っていたのだから、寂しくても頑張ろうと思うようになっていた。 回想しているうちに昆布ダシが冷めてきた。 小麦粉に卵とお塩、しょうが、醤油を混ぜて、昆布ダシでやわらかさを調整する。それが終わると冷蔵庫に入れて各務んを待つ。 何も考えずにぼーっとしていると、時間が経つのが長く感じる。 いや、ちょっと近所のスーパーにお買い物を頼んだにしては長すぎる。事故にでも合ったのか。それとも私のバカさ加減に付き合いきれないと思ったのか。 各務んは、あんな風にしていてもお嬢様で家柄もいい。私とつるんでくれているけど、友達も多い。私のようにひねくれた子なんかと遊ぶ必要なんてまったくないのだ。 言いようのない不安が私の中で渦巻いてくる。今までに各務んにしてきたことを思い出して、嫌われても仕方がないと思った。 考えがもっと悪い方向へ転がり始めようとした時、「買ってきたよー」と玄関から声がした。 「遅いよー」 私はちょっと涙ぐみながら玄関に行く。 が! 玄関には想像を超えたものが立っていた。 「……誰?」 「初音ミク」 「いや、ミクはそんなに胸大きくない」 「あ。じゃあ、巡音ルカが良かったかな。でもそれじゃ、たこ焼きになちゃうし」 「なんでコスプレする必要が?」 「ネギプレイするんだったら雰囲気出さないと」 「ネギをどう使えと?」 「ギターの代わり」 「あぁ、そっち」 「いや、挿したり舐めたり叩いたりするのもあり」 私は無言でネギを奪い取る。 「食べ物をそういうことに使っちゃいけません」 「えぇ、存じております。お邪魔しまーす」 各務んは私の反応に満足すると私の家にあがりこんだ。 「もう!」 と、不満の声を漏らしつつも、心の中から暗い靄が消えたことに気がついた。 各務んのバカっぽい姿を見て意味のない会話をした。それだけのことなのに。 ネギは全部小口切りにした。ボールいっぱいにネギの山。 「うわっ。そんなに食べたら朝までだって平気ね」 「何が?」 「何がってナニが」 「そこの鰹節とって」 私はエロフラグを華麗にスルーすると、フライパンの上に先ほど作っていた生地を薄く広げる。そこに各務んから受け取った鰹節を多めに振りかけると、その上からネギを山盛りに載せた。フライ返しでネギを押しつぶし、しばらく焼く。 仕上げに醤油をかけて半分に折ったら出来上がりだ。半生ぐらいが食べごろだと、あの時、父に教わった気がする。 各務んの分まで焼きあがると、上におたふくソースを掛けて鰹節を振りかけた。 「おいしそうねー」 「うん」 久しぶりに作ったけど、結構いい出来だった。 「ネギ焼きだったんだね。私んちもネギ焼きするよ。お父さんも大好きなんだ」 「じゃあ、沢山食べてね」 まだボールには生地もネギも沢山余っていた。あと三人前はあるだろうか。 「いただきまーす」 各務んは小さくないネギ焼きを大きく開けた口で丸かじりする。 「おいしー。もうミックミクにされてるね」 ひと口目を食べ終わると各務んは感想を口にした。ふた口目を頬張るとネギ焼きの半分ぐらいがなくなっている。 「はれ? 食ふぇないの?」 各務んが口の中にネギを入れたまま私を促す。 目の前のネギ焼きには並々ならぬ思いがあり、中々口に運べない。かといってこのまま食べないわけにはいかない。 私は意を決すると、ネギ焼きを小さく取り分けて口に運んだ。 懐かしい味がした。 お父さんの味だった。 あのときの味付けは私と母だったけど、焼いて仕上げたのはお父さんだった。 「……さがちん?」 私の目に映る各務んがゆがむ。いやだ。泣きたくない。ここで泣いたら変な人だ。 「お父さんの味なの……」 もう我ながら訳が分からなかった。泣いてしまったから変な人と思われないように理由を言ったのだけど、結局のところ変な人のままだ。『お前の親父はどんだけネギなんだよ!』ってノリ突っ込みでも入れたいぐらいだ。 私の涙を見たまま各務んは何かを考え込んでいた。 「……ひとつ聞いてもいいかな?」 「なに?」 「お母さんの名前って聡美さん?」 「うん」 志村聡美。それが私のお母さんの名前だった。 「確か二年前に亡くなったって言ってたよね?」 「うん」 いつも軽い調子の各務んの様子がおかしかった。妙に真剣な表情で私に質問をしてくる。 「さがちんのお父さんは左親指の付け根に切り傷がない?」 「え、どうして分かるの? お父さんのこと知ってるの!?」 お父さんのことは各務んにひと言も話したことはなかった。でも、お父さんの傷を知っている。 「それって私のお父さんだ」 何か思うところがあるのか、私の隣に立った。 「前に一度だけ妹がいるって聞いたことがある」 そう言って私の手を握る。 「まさか同い年だなんて思わなかったけど、きっとお父さんの隠し子だ。間違いないよ」 衝撃的な話だった。これってなんて小説? 「嘘だ。私、各務んに似てないよ? そんなに胸大きくないし、目もクリクリしていない」 「でも、同じ場所に傷があるなんて滅多にないよ」 「そうだけど……」 「行こう。確かめに!」 各務んは私の手と食べかけのネギ焼きを持つと、少しだけ強引にひっぱった。 その後、私とネギ焼きは各務家に連れて行かれた。 そして、十年ぶりぐらいにお父さんに再会すると、私は冷めた食べかけのネギ焼きを差し出した。 お父さんは十年前と変わらない笑顔で「おいしい」と言ってネギ焼きを平らげてくれた。 各務家のお母さんは五年前に病気で亡くなっており、お父さんはお母さんに再婚を申し込んだそうだ。 しかし、お母さんがお父さんの世間体を気にしたようで実現には至らなかった。せめてもの償いにと思い、学費と生活費は援助してくれていたようだ。 そんな状況だから私は難なく各務家の娘になった。 そして、私に同い年の姉が出来た。 毎晩、お風呂とベッドに忍び込む困った姉だけど、私の作った小麦粉料理を平らげてくれる大切な家族だ。 これからも小麦粉料理、頑張るぞ!