約 454,619 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3774.html
ユーノ・スクライア 山中/ワゴン車内 初日/3時51分24秒 完全な闇の中、遠くから微かな風の音が近付いてきた。 その音が大きくなるにつれ、ユーノ・スクライアの意識も徐々に現実へと引き上げられていく。 「うぅ……っ」 強打したのか、酷く痛む頭を動かして、ユーノは意識を取り戻した。 重いまぶたを開けると、辺りは真っ暗闇に包まれており、何も見えない。 「ここは……?」 そこで自分が、レンタルしたワゴン車の運転席に座っていたことを思い出した。 それすらも一瞬忘れてしまうぐらいに、頭を強く打ったのだろうか。少し不安になりながら、気絶する前の記憶を手繰り寄せる。 (えっと……山道で車を止めていたら、確か地震があって、サイレンが鳴って………) そこで気絶したのだろう、そこから先の記憶は無い。 車の中にいたにも関わらず凄まじい音圧を感じさせたサイレン。あの音響が今も耳の中に残っているかのようだ。 (あのサイレンは、一体) 地震を見計らったかのように鳴り響いたサイレンは、機械音というよりまるで獣の咆哮だった。 なにか自分の想像を超えた事が知らぬうちに起きているような気がする。嫌な予感がした。 (とにかく、暗くて何も見えないな……明かりを点けないと) そう思い、その場しのぎに魔力光で辺りを照らそうと魔力を手のひらに集中する。 しかし、いつもはすぐに輝くはずのエメラルドグリーンの光は、一向に光らない。 「あ、あれ?」 それどころか魔力が集中する感覚すら無い。体内の魔力回路が機能していないかのような感覚だ。 焦りながら、他の様々な魔法も試しに行使してみた。 治癒魔法、シールド、思念通話……どれもこれも無駄に終わった。 「嘘だろ……?」 ユーノは愕然とした。どうしてこんなにも突然に、魔法が使えなくなったのだろうか。 AMF?いや、AMFならもっと違う、魔力を妨害されている気分の悪さが全身で感じられるはずだ。 これは魔法というもの自体を取り上げられたかのようだ。 魔法が使えないと分かった途端、ユーノは自分がただの人間にされたような気分になり、心細さと不安が胸中へと一挙に押し寄せてきた。 しかし魔法が使えない以上、どうにもならないことに変わりは無い。 (……なにかライトがあれば) こういう時こそ文明の利器が活躍しなければならないが、エンジンは掛かってないから車内の電灯は点いていない。 キーを回してエンジンを掛けようとも思ったが、この暗闇の中で仮に車からガソリンが漏れていたとしたら、キーを回したところで車が爆発する可能性がある。 下手を打ってここで爆死など笑える話ではない。 (車内ライトは駄目か……そういえば懐中電灯があったな) そう思い当たり、身体をシートから持ち上げようとして、何かに引っ掛かった。 シートベルトだ。 勢い余った身体に食い込み、空気が無理やりに肺から押し出された。 ユーノは何回か咳き込むと、溜め息を吐きながら暗闇の中、身体に食い込むシートベルトを手探りで辿り、シート脇にあるベルトの接続部を外す。 シートベルトから解放され、ユーノは手探りのまま運転席をまさぐった。 (えーと、どこだっけ) ハンドル、ラジオ、レバーと探り、ダッシュボードに行き着いた。 取り敢えず開けて中に手を入れると、金属質で円筒形の物体に触れた。 (あったあった) 引っ張り出して、側面に付いているスイッチを入れる。明かりが点き、ユーノの身辺の状況が明らかになった。 「うわっ」 まずユーノは、フロントガラスから外の風景を遮っている前方に倒れた巨大な倒木に驚いた。 背後を照らすと、上から何か力が掛かったようで車内も僅かにひしゃげている。ユーノのいる運転席側の窓は土砂で埋まっていた。 外が見える助手席に身体をずらし、窓ガラス越しに懐中電灯を外へ照らした。 「これは……ひどいな」 周りには大量の倒木と土砂。車体はどうやら山肌にあるらしく、よく見れば車は若干傾いている。 「土砂崩れかな?」 思い出せば気絶する前は吹き付けるような雨が降り続けていた。土砂崩れはその雨によって地盤が緩んだ上に地震があったから起きたのかもしれない。 なんにせよ気絶しただけで車にも閉じ込められずに済んだのだから幸運だと思う。土砂に呑み込まれでもしていたら確実に死んでいただろう。 (……六課の子達はどうしたのかな) レリックを巡り、ガジェットと戦闘機人相手に戦いを繰り広げていた機動六課の隊員達に思いを馳せた。 雨が止んでいる今、こんなにも静かだということは戦闘は既に終わっているか、あるいは途中で強制的に終わらせられたのだろう。 魔法が封じられている今、彼女達もまだこの村の中に残されている可能性は十分にあり得る。 (無事ならいいんだけど……。僕も早くここから出ないと) 魔法が使えないことに伴って通信も使えないので助けも呼べない。とりあえずは無傷だし、移動等には全く問題が無いので、外に出よう。 そう思い立ち、助手席側のドアに手を掛けた。しかし歪んでいるのか、なかなかドアは開こうとしない。 「仕方ないなぁ……」 そう言うと、ユーノは一息入れて、思い切りドアを蹴り上げた。鍵が壊れたような大きな音をたてて歪んだドアは開いた。 ライトを片手に、後部座席から手荷物のリュックサックを持ち出し、外に出る。 車から出た途端に若干の湿気を含んだ、夜に冷やされた空気がユーノを包み込んだ。 気絶する前に降っていた雨によって、辺りの土や樹木、木の葉は湿っている。 辺りはイヤに静かだ。木々が微かに揺らぐ程度に穏やかな風が吹いている。そして夏場の山奥であるにも関わらず、動物や昆虫の鳴き声が一切しなかった。 こういった場所は夜は夜で昆虫達がうるさいぐらい鳴き続けているものなのだが、まるでユーノ以外の生命が死滅したかのように、森の中は不気味に静まり返っている。 不思議に思いながら、ユーノは辺りを見渡すと、ふと、静寂の中で何かが聞こえてきた。 どこか遠くから微かに聞こえる。 (……ん?なんの音だ?) 目を閉じ、耳を澄ました。 よく聞くとそれは、さーっ、という波のような音だった。不規則な間隔で絶え間なく聞こえてくる。 (波音?まさかね……) ユーノは笑いたくなった。こんな山々が入り組んだ内陸部で波の音などする筈がない。だが木々による枝葉の擦れる音とも違うようだ。 音がするからにはその発信源があるだろう。ユーノはそれを確かめたくなった。 音はどうやら、山の上の方から出ているようだ。 (ここの山はそう高くないし……ちょっと行ってみようかな) その上山頂も近いので、とりあえず上を目指して登り始めた。 折り重なっている大量の倒木をまたいではくぐり、その合間をぬって、割となだらかな山肌を登る。 元々ワゴンを止めていた道らしきものも見当たらない。土砂に飲み込まれて消えてしまったようだ。 倒木達を頼りに、暗く先の見えない山肌をライトで照らしながら登っていく。登るに連れ、波音のような音が大きくなっていく。 十分程経ち、不意にぱったりと木が生えていない空間が、山肌を埋める木々の向こうに見えた。その向こうから波音が聞こえてくる。 (……?) おかしい、ここは林業が盛んな村でも無く、周りの山々も木が切り倒されているようなことはない。 にも関わらず、木々の向こうには妙に開けている空間が広がっているようだ。 不審に思いながらも、そこを目指して再び登り始める。そして開けた空間にまで達して、ユーノは足を止めた。 と言うより、止めざるを得なかった。 「な、なんだよこれ………」 ユーノは、自分の目の前に広がる光景を信じられなかった。 日本の内陸部は山々が連なっており、羽生蛇村は都会から離れ、その中にひっそりと存在する村だ。故に周りには山しか無いはずだ。 しかし今目の前に、日本独特のなだらかな山脈は見る影もなかった。ただただ広大な夜闇が広がっている。 そして眼下に広がっているのは、真紅の海。 暗黒の中、血のような海が不規則に波を立てている様子が辛うじて見えた。そこから波音が、とめどなく聞こえてくる。 更にユーノが立っている場所は、切り立つ崖だ。 昼に通った時はちゃんとした山だったのに、今はまるで、山自体が中途半端なところでごっそりと削り取られたかのようになっている。 (ち、地殻変動?いやこれぐらいのレベルの地殻変動があったとして、あの程度の土砂崩れで済むはずがない。 そもそもこの赤い海は一体………?) 目の前の赤い海は、ユーノがいた『地球』の『日本』とは明らかに別の世界であることを物語っている。 (レリック?いやまさか……あれには破壊する事はあっても物体をどこかに飛ばすような事例は無かったし、 そもそも、山一つレベルの物質量を次元を飛び越えて転移させるだなんて、聞いたことも無い。 となると、やっぱりこの村にあった伝承が関わっているとしか……) ユーノは日頃、時空管理局本局の無限書庫の秘書長を勤めている。次から次へと来る仕事で多忙な毎日を過ごし、ユーノは長らく休みを取っていなかった。 そのユーノがなぜ羽生蛇村にいるのかと言うと、日々労働に労働を重ねるユーノを心配した同僚や仲間達が半ば強引にユーノに休みを取らせたからだ。 突然与えられた休日に、ユーノはかつて世話になった管理外世界の地球に来ていた。 前から何度か文献で目に入れていた、怪奇現象や都市伝説などの噂が絶えないという羽生蛇村の存在に、スクライア一族としての血が騒いだのか、ユーノは強い興味を持っていた。 そして地球に来て、かつて世話になった高町家に挨拶に行った後、ワゴン車をレンタルして羽生蛇村に向かった。 交通の便もあり、羽生蛇村に入ったのは深夜。暫くして同僚から、レリックの反応を三隅郡近辺で探知したという通信が入った。 念のためと思い、ワゴン車の中で待機していたところ、深夜十二時になると共にサイレンと地震に襲われたのだ。 因みに機動六課の面々はユーノがここにいることは知らない。 しかし少なくともライトニングの面々も現世から消失しているとしたら、ユーノが巻き込まれたことも六課に間もなく知らされるのだろう。 (まさかこんな事がなのはの故郷の世界で本当に起きるなんて……。 それに羽生蛇村に伝わる海帰り、海送りの慣習。もしその海がこの赤い海を差すなら、あのサイレンは……) 「……とにかく山を降りて、村に行ってみるしかないか」 ここで考えていても仕方がない。 ユーノは不自然に削られたような崖を懐中電灯で照らして回り、そして踵を返して再び山を降り始めた。 多くの謎が隠されているであろう、まだ見ぬ羽生蛇村に向かって。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3784.html
ユーノ・スクライア 大字波羅宿/耶部集落 初日/6時12分22秒 ―――ウォォォォォォォォォ…… 十分程前からだ。この赤い水がはびこる異界に羽生蛇村を追いやったサイレンが、どこからともなく再び鳴り響いていた。 ―――ウォォォォォォォォォ…… 脳髄から湧き上がるような頭痛に顔をしかめて、ユーノは廃屋の影から明け方の空を仰ぎ見た。 生物の咆哮のようにも聞こえるこのサイレン。少なくとも機械による無機質なものには聞こえない。 (このサイレンは、一体なんなんだ?) サイレンは頭痛の他に、喉の渇きも誘発していた。ワゴンで覚醒して以来、何も喉を通していない上に疲労も合間って、一刻も早く喉を潤したいという欲求に駆られる。 しかし村の川、湧き水、水道水、とにかくここにある水という水の全ては、鮮やかな赤に染まり切っていた。 否応無しに血を彷彿させるような赤色。それらは先に山の上から見た、赤い海を満たしているものと同じ水に違いない。 (このサイレン、まるであの赤い水を飲むように誘ってるみたいだ……) 苦しみから逃れる術を目の前にぶら下げてわざと苦しませているような、ユーノはそんな意図をサイレンから感じ取った。 だがそもそも、血の色をした水なんて見た目からして気持ちが悪くて、とても飲む気になれなかった。 赤い水を飲むとどうなるのか、少なからずよからぬ異変を身体にもたらされるであろうことは容易に想像ができる。 しかしこのまま異界に留まって喉の渇きが進めば、いずれどうなるかだなんてわかったものでは無いことも確かだ。 (一刻も早くみんなを探して、ここから脱出する手立てを探さないと) だがワゴンから脱出してからさまよい続けて数時間が経つ。 それだけの時間の中を移動に費やしたにも関わらず、ユーノは仲間どころか人間にすら会えていなかった。 出会うのは元々人間だったと思われる、目から血を流した屍のような肌をした人々だけ。 彼等はホラー映画のゾンビのように、ユーノを見つけるやいなや真っ先に襲いかかって来た。 そのゾンビを日本風に言うなら彼等は屍人とでも呼ぶべきだろうか。 ただ、屍人はゾンビとは違って言葉をいくらか喋るほか道具を使える知能は残っていた。それに最も特筆すべき点は、彼等は不死身であることだ。 傷つけても傷つけてもいずれ再生、復活をして何事も無かったかのように再び活動を再開する。 (まさか不死の生命が実在するなんて……) ユーノは驚きを隠せなかった。 それはおとぎ話や空想の世界での話でしか存在し得なく、長年無限書庫を担当して来たユーノからしても、不死の生命体が確かに存在していたという事案や文献、証拠は見たことが無かったからだ。 (他人の視界を盗み見る能力を授かったのもここに来てからだし……分からないことが多すぎるな) ユーノは廃屋の影から顔を出して周りの様子を伺った。 現在ユーノは、打ち捨てられて崩れかかった廃屋が建ち並ぶ集落にいた。 その集落は今、歩く屍達という新たな住民による支配を受けている。 ワゴンを出てから人気の無い山を下り続け、屍人を避けながらやっとのこと人里に出たと思えば、そこはこの屍人達で溢れている廃れた集落だった。 当然、そこに迷い込んだユーノは彼等にとって排除されるべき存在に当たる。 (でも寄りによってこんな所に辿り着くなんて、ツいてないなぁ) 思わず嘆息を漏らしたユーノ。その手に持っているのは、錆び切ったシャベルだ。 山中で拾ったものをそのまま武器として活用していたのだが、その先端は屍人達を何度も殴打したためにひしゃげて、血で赤く染まっている。 武器はシャベル一本のユーノに対して、相手の屍人は集落内に複数いる上に、何人かは拳銃や猟銃を所持している。 そんなユーノが彼等に見つかれば、すぐに仲間を呼ばれて袋叩きに遭うだろう。 そうすればあっという間に死に追いやられてしまうだろうことは容易に想像が出来る。 ここ最近は前線どころか元より戦うこと自体が無く、ずっと無限書庫で仕事をしてきたユーノ。 別に戦闘に関して自信が全く無いというわけでは無いが、対する相手は死をも超越した存在だ。 仮に彼等屍人達が、赤い水によって生まれた者だとしら、自分も死後、彼等と同じ様な形態で復活するかもしれない。 だがあんな知能を感じさせないような無様な形での不死身など、ユーノはまっぴらごめんだった。 (とにかく長居は出来ないな。早くこの集落を出たいんだけど……) そう思いつつ、屍人がいないことを確認して屈みながら廃屋の壁沿いに移動する。ユーノが隠れていたのは『中島』と表札を掛けられた家屋だ。 この集落は山を階段状に切り開いた土地に建ててあり、各々の段に建てられた家屋は全部で数件しかない、非常に小さな集落だった。 だが小さな村と言えど、長い雨と日本独特の湿気がもたらした濃い靄のせいで、見通しは非常に悪い。 ユーノは目を凝らしながら中島家の裏手を通り、段と段を繋げる小さな坂を登った。 そしてすぐそばにあった『吉村』と書かれた表札を掛けられている、雨戸が外れて大きく口を開けている廃屋の中に身を滑り込ませた。 そこで身を潜めてから、ユーノは目をつぶり、意識を研ぎ澄ました。脳内に誰かの視界が映る。点けたての古いテレビのように、音声と映像が徐々に鮮明になっていく。 ――ほっは ぁ ひぃひ ひ ひはぁ っ は―― 呼吸か笑い声か、区別がつかないような耳障りな吐息が聞こえ、廃屋の屋根の上で猟銃を手に辺りを見張っている視界が映し出された。 この狙撃手こそ、ユーノが堂々と表を移動できない大きな要因だった。 (……しかも退路が無い) ユーノの背後には小高い山のようなものがそびえており、とても登れそうにない。それに他の視界も見た限り、静かにしていれば狙撃手に見つからずに済む道には全て屍人が配置されていた。 唯一屍人がいなくて抜け出せる道と言えば、狙撃手がいる家屋とその隣の家の間。つまり狙撃手の足元を通ることになる。 (……でも、行くしか無いよね) どちらにしろこの場に留まっていても、いずれかは彼等と戦闘になる。なら退路があるだけマシ、そこに賭けてみるべきだろう。 目をつぶり、屍人達の視界を見回す。機を見てから、シャベルを握り締め、ユーノは緊張した面持ちで吉村家から顔を出した。 (よし、今だ!) ユーノは吉村家から飛び出し、なるべく足音をたてず、だが出来るだけ早足に木々の生い茂る集落の中を横切って行く。 そして無事、目的地の廃屋の玄関辺りにたどり着いた。廃屋の表札には『川崎』と書かれている。 その川崎家のちょうど真横、川崎家より一段下の段に、狙撃手のいる家屋が建っていた。 幸運にもユーノが身を潜めている川崎家の玄関口と、狙撃手のいる家屋の間には木造の倉庫が建っており、狙撃手からユーノのいる位置は倉庫に隠れて見えなかった。 (よ、よし……それでこれからどうやってこの集落を抜けるかだけど……ん?) その時、ふと足元に落ちていた何かが目に入った。それは寂れた廃村には似つかわしい、真新しいカードだった。 思わずそれを拾い上げ、表面に付着していた泥を払う。青みがかった色をしているプラスチック製のカード。カード上部には大きく『城聖大学職員証』とある。 (職員証……教授か?) その下には『文学部 文化史学科民俗学講師』と、スーツを着たふさふさとした髪型が特徴的な男の顔写真があった。名前は『竹内多聞』と書いてある。 真新しい職員証を見る限り、この竹内という人物もこの村に迷い込んでいるのだろう。 (やっぱり他にも人がいたんだ) 自分以外にも人間がいることに、ユーノは思わず安堵した。職業を見た限りだと、自分と同じような理由でこの村に来たに違いない。 それに考古学を専攻する自分との共通点もあり、仲間意識が自然と芽生えた。 (出来ればまだ生きている内に会いたいな……力を合わせればこの状況をどうにかできるかもしれない) まだ希望が潰えてるわけじゃない。そう思い直して、自分を奮起するようにユーノは職員証を握った。 ぱぁん しかしその時、突如ユーノの足元の土に甲高い音をたてて弾丸がめり込んだ。 (き、気付かれた!?) 当然、ユーノはそれに驚き後ずさりをする。すると不意にかかとが何か固いものに乗り上げた。それは材木だった。 「っ……うわわっ!!」 足元にあった材木に足を取られてユーノはバランスを崩し、勢いよく背中から倒れた。 ユーノの身体は川崎家の外れ掛けた雨戸に寄りかかり、経年劣化していた雨戸はそれを受けて大きな音をたてて外れた。 当然、ユーノは川崎家の中に背中から突入することになり、倒れた拍子に後頭部を思い切りぶつけた。頭をさすりながら上体を起こす。 「いたたっ……ってヤ、ヤバい!!」 今の音で確実に他の屍人達にも気付かれただろう。狙撃手もいる中、ここから無闇には動けない。ユーノは慌てて川崎家の中に駆け込んだ。 奥の部屋に入り暗がりの中に身を潜めると、とりあえず『竹内多聞』の職員証をポケットに入れ、すぐさま目をつぶって近辺の屍人達の視界を探る。 ―――だ ぁれ だあ ぁは あぁ――― ―――げぇ ひは ひ ひひぃ ひひ――― 既に二体程の屍人が川崎家の前に集まっている。しかもそのうち片方の屍人の手には拳銃が握られていた。 (ったく、やっちゃったなぁ!!) 余計にややこしい状況へ追い込んだ自分への苛立ちを、心の中で吐き捨てる。 このまま追い込まれて死ぬわけにはいかない。 手元のシャベル以外にも何か対抗できる武器は無いかと、藁にもすがる思いで懐中電灯で部屋の中を照らし、棚の中身を漁っていく。しかしここは廃屋、見た限りあるのはガラクタばかりだ。 (やはりそう上手くはいかないか) そう思っていたところ、ふと箪笥の上に置いてあった細長い木箱が目についた。とりあえずそれを下ろし、蓋を開ける。 中身を見たユーノは、思わず目を見開いた。 「これは……ショットガン?」 ユーノが見つけたのは、古い型の狩猟用散弾銃だった。古い型とは言えどなぜかちゃんと保管されていたらしく、目立って錆び付いている箇所も無い。 箱には猟銃と一緒に、充分な数の弾が詰め込まれた型紙の小箱が入っていた。 「……どうか使えますように」 呟きながら猟銃を手にして、銃身を開き、勘を頼りに弾を込める。間もなく背後から慌ただしく床板を踏む音が聞こえてきた。 懐中電灯を切り、ユーノは息を殺して壁に身を寄せて隠れた。足音が徐々に大きくなる。 「げ はぁ あは は はは ははは」 部屋に入って来たのは拳銃を持っている屍人だった。背中をユーノに見せている辺り、こちらに気付いている様子は無い。ユーノは猟銃の銃口を屍人の後頭部に向けると、迷わず引き金を引いた。 ばぁん、と強烈な発射音が狭い室内に轟きユーノの鼓膜を叩く。同時に発砲時の大きな反動によって銃身が跳ね上がった。 撃たれた屍人は車に引き倒されるような凄まじい勢いで前のめりになって倒れた。 後頭部には抉られたような大きな穴が開き、屍人は間もなくして身体を丸め、それきりぴくりとも動かなくなった。 (よし、使える!) 銃器が手に入ったのは不幸中の幸いだった。これで屍人相手でも、複数人に囲まれたりしない限り有利に立てる。外にいる狙撃手にもある程度対抗できるだろう。 ただ発砲音が大きいため、撃つ度に屍人を引きつけてしまうだろうことが不安だ。 「は ぁはぁ はぁ は ぁ はぁは ぁ」 するともう一体、農夫の格好をした屍人が鎌を手にして部屋に入って来た。屍人はユーノに気付くと、不気味な微笑みを浮かべながら鎌を振り上げて襲いかかってきた。 ユーノはすかさずその顔面に向かって猟銃を突きつけ、引き金を引いた。 再び大きな発砲音と共に弾が炸裂し、屍人の顔に大きな肉の花が咲いた。倒れる屍人を前に、ユーノは手にしている猟銃を見やる。 (質量兵器の使用は違法だけど、非常事態だし相手は不死身だから許されるよね、多分) そう思いながら、リュックサックを下ろした。小箱から弾を二つ取り出して猟銃に装填し、また何個か弾を取り出すとそれをポケットに入れた。残りは小箱ごとリュックの中に放り込む。 弾も使い過ぎないよう、気を付けなくてはならない。 しかし思わぬところで強力な武器が手に入った。どうやら運はまだまだ自分を見捨ててはいないようだ。 「……さて、行くか」 呟いて猟銃を握り締めると、ユーノは集落脱出を目指して、足早に部屋から出て行った。
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/270.html
風呂場に獣、動揺す 11yt5SQZ 虎だ。 ユーノ・スクライアの眼前に、虎がいる。 そいつが人食い虎だったなら、ぶっ飛ばせば済む話だったのに。 今、虎はユーノの顔を両手で掴み、己との視線を固定させている。 虎の名前は――。 「こ~の~レティ・ロウランをー? 除っけものにしへぇ~、女はべらしゅなんて……」 レティは大袈裟な動きを体全体を使って行い、天を仰いだ。 その動きで揺れた彼女の体のある部分を、ユーノは生涯忘れないだろう。 一応、彼を弁護するなら、視線を反らせないんだから仕方がない――目を瞑ればいい話だが。 それは兎も角、レティはギロリとユーノを睨みつけて、叱りつけた。 「このいんじゅー!」 ユーノは一瞬、己の視線の動きを悟られた気がして、慄いた。 「む、無理矢理されたんです!」 「ほーほー。無理矢理で許されると思っひぇるノー!?」 どうもレティは本気で酔っているらしく、呂律がどんどんと奇妙になっている。 「レティさん!飲みすぎで酔いすぎですよ!」 「話を逸らひゅな!」 体の心配しているのに。 「わ、分かりました、話を続けま」 「自分の意思ってもにょがないのかー!」 その意思を遮っている張本人の一人ではないか。 「有ります!有りますから離してくださいってばー!!」 「やからー!わらひをのけものに……すなーーーー!!!」 では如何すればいいというのか。 「あー、もー!顔が、顔が近いです!て、な、何ですかそれ?」 「なにぃ!? 私の顔の何が変にゃにょにょー!」 「何で眼鏡かけてるんですか!?」 「アハハハハハ! ご褒美よ!!」 「誰への!?」 まるで埒が開かなかった。 ちなみにシグナム、リンディ・ハラオウン、シャマルはというと――湯船でまんじりともせず、様子を窺っていた。 無理からぬことではある。今出ていっても、自分達が被害に遭うだけだし――もうちょっと見たいし。 普段のレティは、提督という役職に必要十分な合理的思考と判断を兼ね備えた、 時空管理局にその名を轟かせる様な才人である。 更には、その性格を表すかのような、全く無駄のない均整のとれた顔立ちをした美女である。 才色兼備を地で行く、稀なる人である。 だと言うのに。 天は二物を与えて、最後に重大なバグを仕込んでいた。 レティ・ロウランのバグとは、酒好き――では済まない位、飲むのだ。 大虎、とは言いえて妙なもので、酔った彼女は獣以外の何物でもない。 彼女の過ぎ去った宴会場にはペンペン草も生えない――つまみにされて食い散らかされて、 という意味合いで――などと言われるほどである。 殆ど人間台風扱いというか、災害指定ものである。 そんな途轍もない今の彼女――酔っ払いに、ユーノ如きが論理的な問答で解決を行うなど、無駄だった。 「あー言えばこー言うわねい。生意気きわまるわっ」 「じゃ、じゃあどうすれば良いんですか」 言質が取れた、と言わんばかりに、満足げに、且つ大仰にレティは頷いた。 「反省はー、態度ではなくー、行動によってしめすのー」 「はぁ」 「つまり」 くるりと翻り、背中をユーノに向けて、レティは宣告した。 「私の背中を丁寧に洗いなさい!」 「意味がわかりません!!」 では、ユーノに断ることが出来たかというと――今、ボディソープでタオルを泡立てている様を見れば、 結果は火を見るより明らかである。 ユーノは、レティの背中を、ちらりと見た。 ――綺麗だ。 レティの全身は無駄な贅肉の全くない、 それでいて女性的な魅力を見事に引き出すバランスの良い肉付きをしている― ―流石にそこまでユーノは気がついてはいない。ただ美しいとだけは、解る。 ああ、しかし。洗うのか、本当に。 恥ずかしくて仕方ない。 ――なら断ればいいのに。これではシグナムに呆れられても仕方がないではないか。 そうやってボヤボヤしていると、虎が唸った。 「むぁ~だ~?」 「あう……」 ええい、こうなればサッサと済ませてしまおう、それが一番効率的ではないか。 と、ユーノはやっとこ腹を括った。 まぁ、腹を括ったことで状況が改善されるかと言うと――ありえないが。 「じゃ、じゃあ洗わさせていただきます」 「善きかな、善きかな」 まずは肩口から、とタオルを当てて擦りあげると。 「ゃ、はぁん!」 「えええええええ!」 レティの艶めかしい声を聞いて、ユーノはすぐさま彼女から離れた。 「あ、あの、い、今のは」 顔だけ振り返ってユーノを見つめたレティが答えた。 「ふふ……良いわね」 何が。 とは聞けなかった。 その後も、背中を洗う度、擦る度――。 「ん、あぁん!」 とか。 「はぅ……あ、あぁ……くぅ……」 とか、もうどう考えても、演技以外の何物でもないであろう言葉が、レティの口から溢れ出てきた。 ただ――演技であろうと、そうでなかろうと、 ユーノの頭を沸騰せしめるには、遣り過ぎなほどに十分であった。 「終わりましたよ……」 ユーノは思う。疲れをとることが目的の場所で、なぜ自分はこんなにも疲れているのだろうか。 「あー、御苦労、御苦労」 うん、うんと満足げにレティは頷き、言葉をつづけた。 「それじゃー、今度は前を洗いなさい!」 言葉の後には翻り、レティは一糸まとわぬ己の裸体をユーノに見せつけたが――。 「……ハイ、そこまでよ」 ものすごく遅い救援隊が来た。 リンディ、シグナム、シャマルに連れられ、レティは一端、水風呂に突っ込まれた。 一方、ユーノは――天国と地獄の差について真剣に考えていた。 27スレ SS シグナム シャマル ユーノ×レティ ユーノ・スクライア リンディ・ハラオウン レティ・ロウラン 微エロ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/47.html
以心伝心なんてもう待てない 「準備は出来たかい、ユーノ?」 「うん。でもなんだか恥ずかしいなぁ。」 「今更何言ってんのさ。ほら。」 そう言うとユーノの肩に手を回すアルフ。 二人が結ばれてからどうも主導権を握られっぱなしなユーノだが、それでも文句一つ言わずアルフに従う。 こういう事は彼女の方が経験豊富なのだ。 「それにしてもザフィーラさんとやってたなんてビックリだよ。」 「あはは、二人とも似た者同士だし気も合ったからね。でも、今の私のパートナーはユーノしかいないよ♪」 「それは光栄だよアルフ。それじゃあ、始めようか。」 「あぁ。頑張ってくれよユーノ?」 触れ合った肩から相手の体温を感じながら、二人は互いに前を見る。そして…。 【Ready Go!】 スタートの合図と共に二人三脚の練習が始まった。 ここは時空管理局本局内トレーニングルーム。ユーノとアルフは局内大運動会に向けて競技の一つである二人三脚の特訓を行っていた。 毎年この時期になると常連のアルフはフェイトから許可を得て大人フォームになって特訓しているのだが、ユーノまでわざわざ時間を作って特訓するのにはある訳があった。 それは遡る事3日前、ユーノとクロノが交わした約束が原因である。 「もうちょっと依頼内容を絞ってくれって! これじゃあ余計に時間が掛るだろ!?」 「こちらも早急に資料が必要になったから纏める暇がないんだ。 それにそういう作業こそ君等の領域だろ?」 「だからってコレじゃあボンヤリしすぎでどういう資料を優先すべきか分かりづらいんだよ!」 「あー分かった分かった、それが終われば君達全員に提督権限で三日間の休みをやろう。 それでどうだ?」 いつもの様に無茶な注文をしてきたコウモリ提督にウンザリしながらも仕事を進めていたユーノと周りの司書達はピタリと作業の手を止めた。 『コイツ今なんて言った?』 全員が同じ事を考えながらクロノが映っている通信ウィンドウに注目する。 特に暖簾に釘押しだと思いながら文句を言っていたユーノは意外な手ごたえにちょっとビックリしている。 「ど、どうしたのクロノ、長旅の疲れがヒドイのかい? 早いところフカフカな布団でグッスリ眠ることをオススメするよ?」 「何失礼な事を言い出すんだ君は。 それに仕事が終われば即休みというわけにはいかないぞ。」 「…はぁ、クロノの事だからそんな事だろうとは思ってたけど。で、何が条件なのさ?」 いくらなんでも8年前と違い一情報機関として機能している無限書庫を三日休館する事は提督程度では到底不可能だ。 ユーノとてその事は重々承知していたので大袈裟な溜め息とは裏腹に落胆はしていない。 「まず3日の休みというのは司書全員が一気に、ではなくある程度のグループごとにスケジュールをずらして、だ。」 「妥当なところだね。」 「そして、一週間後に開かれる局内大運動会で君を含む無限書庫チームが優勝する事。 それが条件だ。」 「…は?」 思わず呆けた顔で再び硬直するユーノ。彼が復活するまでとりあえず局内大運動会について説明しよう。 これは毎年各部署から有志を募って5人チームを作り、地上本部の敷地内で大々的に開かれる催しの事である。 もっとも、運動会とはいえその本質は第97管理外世界の『オリンピック』そのもので、様々な利権が絡むものになる。 観客動員からTV放送、関連商品の販売etcと管理局の収入の一端を担っていたりする。 とはいえ基本的に戦闘魔導師の様に血の気が高い面々が出るもので、無限書庫のような文系の部署は殆んど出場していない。 そんなわけで、復活したユーノはジト目でクロノに問いただす。 「ねぇクロノ、僕らがそんな大会に出ても優勝どころかベスト10に入る事すら難しい事が分かってて言ってるよね? つまり休みをくれる気なんてこれっぽっちも無いだろ?」 「そんなことは無いぞ。 別にメンバー全員がその部署の者じゃなくてもいいんだしな。」 「だからってなのは達がここのチームで出られるわけないでしょ?」 明らかに無理だと確信しているクロノの顔を憎々しく思いながら幼馴染達の事を考える。 彼女達は毎年それぞれの所属から出場しているので、今年に限って無限書庫チームとして出るのは難しいだろう。 たとえ本人が乗り気でも彼女達の所属部署に対する書庫の心証がかなり低くなってしまうのは目に見えているからだ。 「まぁ、それが出来ないなら休みは諦めるんだな。」 「むっ…なら僕らが優勝したら絶対に休みはくれるんだね?」 「約束しよう。 さっきの依頼共々せいぜい頑張ってくれ。 こちらも忙しいんでそろそろ失礼するよ。」 そんな訳で無限書庫の面々は大運動会に参加することになり、ユーノの他に体力自慢の司書3名と外部からの助っ人アルフの計5名で登録した。 出来ればザフィーラも引き込みたかったのだが、彼に限らずヴォルケンリッター全員がはやてのチームに組み込まれているため出来なかったのだ。 そして今日は司書達の仕事が残っているためユーノとアルフの二人で練習しているというわけだ。ちなみに、二人とも上がTシャツに下が短パンと運動性を重視した格好になっている。 「にしてもなんで僕らのチームで参加してくれたの? いつもフェイトと一緒に出てるのに。」 「んー、クロノの約束を知ったフェイトから『どこにも所属してないアルフはユーノの力になってあげて。 私達は私達で根回しするから。』って言われてね~。」 「いいのかなぁそれって。 八百長だと思うんだけど…。」 「別にいいんじゃないか? それに慌てふためくクロノの顔が見てみたいってのもあるしね。」 あははーと笑いながら柔軟体操をするアルフ。どうやらフェイト達は司書達(というかユーノ)の休みを無限書庫に対する風当たりを悪くする事なく実現するために色々としているらしい。 賞品こそ無いが大運動会で優勝する事を目標にしている人も少なくないと聞く。そんな人達に申し訳なく思う一方で、自分達が優勝したらクロノがどんな顔をするか楽しみなユーノであった。 そして冒頭のシーンに戻る。 「いっちにー、いっちにー、思ったよりも簡単だね。」 「あたしとザフィーラの時はこんなすぐには出来なかったんだけどね~。 ユーノは人に合わせるのが上手いのかね?」 「そうかもしれないね。 遺跡発掘とかで足並み揃える事が多かったし。」 「なら少しペースを上げるかい?」 「うん、今よりワンテンポ上げても大丈夫かな。」 ユーノの左足とアルフの右足を紐で結び、お互いの肩に手を回してテンポよく歩いていく。 出会った頃から8年も経って二人の身長はかなり近くなったのだが、体格が似ているだけで出来るほど二人三脚は甘くない。 それでも初体験で転ばずに歩ける事にアルフは少しばかり感心している。 一昨年にザフィーラとやった時は歩けるようになるまで幾ばくか練習を必要としたからである。 「いっちに、いっちに、コレが限界かも。」 「だったらこのペースを保ちながらしばらく走るよ。」 「そうだね。 いっちに、いっちに。」 室内とはいえ200m四方の広い訓練室をただひたすらに走る二人。流石にこのペースだと走ることに集中して会話が少なくなってくるようだ。 しばらく走っているとコーナーに差し掛かったためユーノは軽く左を向くのだが、そこで彼の動きが一瞬鈍る。 彼女の前で上下に揺れる物に目が行ってしまうのは健全な男子なら当然の反応だろう。そしてその後の展開も当然の結果だろう。 「うわぁ!?」 「ちょ、何してんだいユーノ!?」 【ズデンッ】 足並みが乱れて盛大に前方へすっ転ぶ二人。その衝撃で結んであった紐もほどけてしまったようだ。 「ご、ごめんアルフ…大丈夫?」 「あたしは大丈夫…って、膝擦りむいてるじゃないか。」 「ありゃ、そうみたいだね。」 呼びかけに応えてアルフがユーノの方を見ると、彼の膝小僧に擦り傷があるのを見つけた。 「確かに膝に軽く痛みを感じるなー」と思いながらユーノは傷の確認をする。 特に骨や筋に異常は無さそうなので軽い応急処置で十分だと判断し、救急箱が置いてある所に行こうとする。 「とりあえずバイ菌が入ったら大変だし、消毒しとこうかな。」 「んなもん舐めときゃ治るって。」 「流石にそれは…って、うひゃあ!?」 しかしそれよりも早くアルフが屈んで傷口をペロリと一舐め。 確かに唾液には消毒効果があるとか言われているが、いきなりそんな事をされたユーノはビックリである。 「ちょ、ちょっと何やってるのさアルフ!?」 「ん? 治療に決まってるだろ。 わざわざあっちに行くの面倒だし。」 「だったらアルフだけここで待ってて…うっ。」 「男がごちゃごちゃ言うんじゃないよ。 コレで十分…って、どうしたんだい?」 「な、なんでもないよ…。」 放り出した脚(の傷)をペロペロ舐めるアルフと目が合い、慌てて顔を背けるユーノ。 元が動物だからかアルフは特に気にした様子も無いようだが、跪いて脚を舐めるその姿にドキドキさせられる。 加えて汗をかいて微妙にTシャツが透けているせいで紺色のスポーツブラがチラつき、そのまま眺めていたら目の保養…もとい理性崩壊の危険がある。 とはいえ親切心でしてくれている事を無下にするなど出来ないユーノは、仕方がなく視線を逸らすというせめてもの抵抗をしながら終わるまで待つしかなかった。 「おや、こんな所も擦りむいてら。」 「えっ、何処だい? 見当たらないけど?」 「そりゃあ見えないさ。 ココにあるんだから。」 「!!?」 ユーノが傷の位置を探していると、今度は互いの吐息が感じられるような距離まで顔を近づけるアルフ。 彼女が見つけたのは額にある擦り傷だったため、それを舐めるためには自然とそうなる。 「自分の額の宝玉と同じ位置だなぁ」と思いながら先程のように舐めだすのだが、ここで両者の体勢を考えてもらいたい。 ユーノ:先程から変わらず脚を放り出した形で地面に座っている アルフ:額を舐めるべくユーノの肩に手を置き、正面から覆いかぶさるような形で身を乗り出している 端から見たら金髪の男性の胸に紅髪の女性が飛び込み、頭を抱きしめているようにしか見えない。 当然ユーノの目前にはたわわに実った果実が二つ…。 「も、もう大丈夫だって!」 「こら動くなって! 上手く舐められないだろ!」 流石にそれはマズイと思いこの場から逃げようとしたユーノであったが、アルフに頭を固定されて全く動けなくなってしまった。 腕力では到底勝てないので苦肉の策で目を閉じるが、さっきも述べたように今まで運動していたため汗をかいた彼女のニオイがより一層感じられてしまう。 どっちに転んでも天国で地獄な責め苦にひたすら耐えるしかないユーノであった。 以上っす。 正直跪いて足を舐めるアルフを書きたかっただけw どうもこういう描写は初めてなので上手く表現できたか分からないなぁ。 61スレ SS アルフ ユーノxアルフ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/88.html
タイトル「ユーノくんと悩むアリサさん」 作者:にっぷし 氏 本文 「必殺技がないわけよ」 「……は?」 珍しく休暇を取ったユーノは、久しぶりに訪れた第97管理外世界は日本の海鳴市でその言葉を聞いた。 ここは高級住宅地でもとりわけ大きなバニングス邸。目の前には短い金髪をいじるアリサ・バニングス嬢。 「ホラ、なのは達は魔法があるじゃない。砲撃だとか電撃だとか石化だとか。すずかは吸血できるし。 私だけそういった特殊技能がないから、ユーノとかをどうオシオキしたらいいかわかんないのよね」 はぁ、と頬杖をつき、そっぽを向いて気だるげにため息をつくバニングス女史。 呆然とそれを聞いていたユーノは、わけがわからないといった表情で尋ね返す。 「……え、それ、ボクが食らうの?」 「そう」 「……え、それをボクが考えるの?」 「そう」 そっぽを向いたまま答えるアリサ。テーブルの下では脚を組んでて無作法この上ない。 ユーノはメガネを外して眉間を押さえ、困惑するように視線を泳がせてから口を開いた。 「どうしてボクに聞くのさ」 「だって考えつかないんだもん」 ほっぺを膨らませて眉を顰めるアリサ。自分でも無茶とわかっているらしい。 暫くどう扱って良いかわからない沈黙が続いた後、バニングス家の御令嬢は深くため息をついた。 「はー……やっぱなのは達との付き合い、無理があるのかなぁ……」 「ちょっ、そんなところまで思いつめないでよ! すごくいい友達じゃないか!!」 「でもさあ、やっぱり少しくらいパンチが効いた何かがないとさぁ……」 あーうーと悩み、突っ伏したテーブルの上でごろごろと頭を転がす。 ユーノが右に左に転がる頭頂部を困り顔で眺めていると、アリサの執事の鮫島がスゥッと現れた。 「こんなのはどうでしょうか。アリサお嬢様はたくさんの犬を御飼いになっている大の犬好き。 そこで犬使いというキャラを立てて、ユーノ様に肉汁をぶっかけて猛犬をけしかけるのです」 好々爺といった感じの深みのある微笑みで言われた言葉に、ユーノが一拍置いて盛大に紅茶を噴き出す。 ふぅむ。とローリングをやめたアリサが検討を始めると、いよいよユーノは背筋を寒くした。 「ちょ、待って待って待って!! それ怖いから、下手したら死んじゃうから!!」 「んー……悪くないけど、ウチの子に血生臭いことはさせられないわねー……」 「わ、悪くないの……!? 怖いよアリサ……」 「今から躾けるのも時間かかるし。そーいった汚れ仕事を任せられる子がいればねぇ……」 気だるげにため息をつくアリサ。取り合って貰えないユーノはカタカタと小刻みに震えている。 脅えた小動物のように涙目になるユーノ。しかし救いは訪れず、逆にさらなる刺客が現れた。 「話は聞かせて貰ったよ! 水臭いじゃないか! 私とアリサの仲だろう!?」 「アルフ! 珍しいわね。こっちに来てたの?」 「ああ。それより聞いてたよ。そんなの私に任せればいいのさ。こっちだってアリサには世話になってる。 お腹が空いたときにフラッと訪れてお腹いっぱいお肉を食べさせて貰ったことが何度もあったからね!!」 ビシッと親指を立てる大人モードのアルフさん。ビシッと答えるアリサさん。仲の良さにユーノもビックリ。 鮫島さんもさりげなくビシッと親指を立てているあたりに、冗談抜きで深い親交があることを感じさせる。 アルフという味方を得て気を取り直したアリサは、それからは一転して上機嫌になった。元気になって何よりです。 「……とはいえ噛むのは可哀相だから、嫌がるユーノを舐め回すくらいにしようと思うんだけど、どうかな」 「それはダメ!」 そんなこんなで、アリサが積極的に無限書庫に訪れる日も近いかもしれない。っていうお話でした。おしまい。 アリサ ユノアリ ユーノ
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/236.html
タイトル 作者:8XdIAgvx 風呂上がり 年賀状を書き終えたユーノとアリアは、旅館のこたつでぬくぬくのんびりテレビを見ていた ……何故司書長の自宅にアリアこと“リーゼアリア"がいるのか不思議がる者も多いだろう 闇の書事件の後の無限書庫整備期に、このような一幕があったのだ 「もう、アリアさんもロッテいないんだね……」 「寂しいか?フェレットもどき」 「まぁ、正直ね……ってまたフェレットもどき言ったなっ!」 「そんなお前に朗報だ。アリアが戻ってくることになった。正式なお前の手伝いとして、な」 それ以来、共に書庫勤務を続け、今では司書長と副司書長になっている さらには、一人暮らしだったユーノの所に住み込んだりもしている ……なお、そのことを知った魔導師の少女達を中心に騒動があったりしたが、 母親たちの説得により、事なきを得た そんな二人が、たまの休日に温泉でのんびりしようと考えたのだ。……ロッテ達も誘って むきむきむき、こたつのお約束の一つ、みかんを剥いている。よし、終わり 「はい、あ~んして、ユーノ」 「うん、あ~ん」 ぱくっ、もぐもぐ。ユーノが食べてるのを見た後、自分の口にも運ぶ。ひょいっ 「ねえ、アリア……あれ、してみない?」 「あれっていうと……このCMかしら?」 そこでユーノの見ていたTVに目を向けると、そこにはー 『暖房をかけなくても、猫を抱いていると暖かいそうです。猫でした』 ふむ、それを見てアリアは少し考える。……すぐに結論は出た。 ……少ししてこたつから出た二人は、抱き合っていた。……ただしアリアは猫姿で 「お~、確かに暖かい……」 「にゃあ……(私も……)」 それに体もくすぐったいとゆーか、なんてゆうべきか…… うん、気持ちいい、もしかしたら温泉以上に ごろごろごろ、にゃ~。……そしてしばらくして思った。ユーノにも味合わせてあげようと 「ねえ、ユーノ。交代しない?」 「交代?……うん、寒くないなら」 「寒くないから、代わりなさいって」 「ねぇ、アリア。この状況は……?」 「寒くないでしょ?」 「いや確かに寒くないけど……きゅう」 ころころころ。きゅるきゅるきゅる。あ、ダウンした ……今度は私が人の姿で、ユーノがフェレット姿。場所は勿論、胸の上 ……いまだに刺激が強かったのか、早々に気絶しちゃった。……そういえば風呂上がりだし、血も上ってたか 「もう少し楽しみたかったけど。ま、仕方ないか。」 お互い疲れてることだし、もう寝ましょう。 相変わらずユーノを抱きながら、私は寝支度を整える。……よし “一人分の布団"をしきおわり、私は電気を消した。 「今日くらいはゆっくりできたよね?……おやすみ、ユーノ」 胸に抱いたままのユーノにそう告げ、私は瞳を閉じた ーー私の最愛の人ーー……その言葉は起きたときまでの、おあずけにして これが一日目。二日目以降は誘われた人や偶然会った人やらで、のんびりできるかは運次第 ……使い魔とかいない人とかはだから結婚とかは難しいかもしれないけど、割といいと思うんだ。 リーゼもアルフもアリシアもリインフォース(アインス)も 18スレ SS ユーノ・スクライア リーゼアリア
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1706.html
Nosferatu 「嘘だろ……なんて奴だ……!!」 少年―――ユーノ=スクライアは、肩で息をしながら目の前の相手をにらみつけた。 彼が相対している相手は、これまでに出会ったことの無いレベルの強敵だった。 ジュエルシードから生まれた凶暴な怪物、プレシア=テスタロッサの傀儡兵、ヴォルケンリッター、ヤプールの超獣。 自分の実力を大幅に上回っているであろう相手とは、確かにこれまでも何度か戦ってきた。 だが……今自分を殺そうとしている相手には、彼等とは比べ物にならない恐怖があった。 ユーノは、今日まで生きてきて……これ程までの恐怖を、覚えた時はなかった。 「どうした……まさか、終わりとは言うまいな?」 ユーノの目の前に立つは、王立国教騎士団・ヘルシング機関最強の鬼札。 吸血鬼―――アーカード。 ユーノとは対照的に、彼は疲れている素振りを一切見せていない。 それどころか……楽しげに笑みを浮かべていた。 そう、彼はこの現状を楽しんでいるのだ。 何故二人が、この様な状況にあるのか。 話は、十分程前に遡る。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「安心してください……必ず、この殺し合いは止めて見せますから」 木々が生い茂る森の中。 ユーノは、空を見上げながら宣言した。 必ず主催者を倒し、この殺し合いを止めてみせると……犠牲となった二つの命へと、確かに誓った。 彼は無限書庫で闇の書に関する情報を集めていた最中に、突如としてあの広場へと呼び出された。 そして、殺し合いをしろと宣告され……あの無残な光景を見せ付けられたのだった。 正義感の強いユーノにとって、この事態は到底許せるものではなかった。 だから……必ず、止めてみせる。 「とりあえず、まずは状況を整理しないと……」 参加者名簿を取り出し、名簿をチェックし始める。 その中には、ユーノが知る名前が幾つかあった。 ―――なのは、フェイト、クロノ、ミライ、ダン、ヴィータ、ザフィーラ。 掛替えの無い親友達と、優しく心強い光の国の戦士達―――ダンとは直接の面識は無く、ミライから名を聞いただけだが―――。 そして……闇の書の守護騎士達。 出来る事ならば、それはあって欲しくなかった名前だった。 なのは達に関しては、勿論殺し合いなんて危険な場にいて欲しくなかったから。 守護騎士達に関しては、相当の実力を持つ強敵だからである。 自然と、ユーノの表情が険しくなる。 しかし……この直後。 彼は、その名簿に奇妙な点がある事に気付いた。 (……なのはとフェイトの名前が、二つある……? いや、それよりこれは……!!) 名簿に、なのはとフェイトの名前が二つあった。 同じ人物の名前が二つあるというのは、確かにおかしい。 これだけでも、疑問の種には十分すぎる……しかし。 ユーノにとっての問題は、そこではなかった。 彼の目を引いたのは、フェイトの名前―――フェイト=T=ハラオウンという表記だった。 (どうして……まだ、フェイトは正式に養子になったわけじゃない筈なのに……) フェイトには確かに、ハラオウン家の養子にならないかという話が出ている。 しかし……彼女はまだ、正式に養子となったわけではない。 ハラオウンの性を名乗るには、まだ早すぎるのだ。 ならば何故、名簿にはフェイト=テスタロッサではなく、フェイト=T=ハラオウンと記されていたのか。 自分が知らないうちに、話が進んでいたのか。 いや……それならば、なのはを通じて真っ先に連絡が来る筈である。 (どういうことなんだ? 名前が二つあることといい……) 明らかに名簿の中で、フェイトは浮いた存在になっている。 名乗るには早すぎる、ハラオウンの性。 まるで別人の様に分けられている、二つの名前。 記載ミスにしては、何かが引っかかる。 (まてよ……別人? まさか、これって……そうだ。 そう考えたら、辻褄が合わないことも……!!) ユーノの脳裏に、ある閃きが過ぎった。 それは、俄かには信じがたいが、現時点では最も可能性が高かった。 まず、何故フェイトの名前が名簿に二つ記されていたのか。 これは文字通り、フェイトが二人いるという事を示しているのではないか。 この殺し合いに参加させられているフェイト=T=ハラオウンは、自分の知るフェイトとは別人ではないかという事だった。 そう考えれば……辻褄が合わない事も無い。 (……僕の考えている通りなら、このフェイトは未来のフェイトってことになる。 なのはも恐らくは同じと考えていい……未来からここに二人のなのはとフェイトが……ッ!?) ユーノは、結論を導き出そうとするが……その時だった。 不意に背後から、何者かの足音が聞こえてきたのだ。 ユーノは考えるのを中断して、背後へと振り向く。 そこにいたのは、真紅のコートを身に纏う長身の男。 サングラスをかけ、まるで表情を隠しているように見えるが…… 「……笑っている……?」 男は、確かに笑っていた。 それも……この上なく、嬉しそうにである。 これは、殺し合いの舞台に立たされている者がする表情ではない。 途端に、ユーノの全身を強烈な悪寒が駆け巡る。 やばい。 なんだか分からないが、この男はやばい。 この男は、この上なく危険すぎる。 ユーノの本能が、そう彼へと告げる。 一方男の方はというと、ユーノを興味深く見つめていた。 そして、しばらくした後……彼はユーノへ向けて、静かに問いかける。 「……いい夜だな。 今宵は、実にいい夜になりそうだ……そう思わないか、ヒューマン?」 「……だから、笑ってるんですか?」 「ああ、そうだ。 闘争を楽しむに相応しい……実にいい夜だからな」 「ッ!!」 男の言葉を聞き、ユーノは大きく目を見開く。 予感は確信に変わった。 この男は、間違いなく殺し合いに乗っている……あろう事か、殺し合いを楽しもうとしている。 ユーノはすぐさまバリアジャケットを身に纏い、チェーンバインドを発動させた。 魔力の鎖が一瞬にして男を拘束し、その身動きを封じる……が。 「逃げずに立ち向かうか……嬉しいぞ、ヒューマン。 貴様は、ただ逃げるだけの狗ではないようだな……だが」 「っ……!?」 「足りんな……まだまだ足りん。 この程度の鎖では、この私を……吸血鬼アーカードを繋ぎ止める事など、出来ないのだよ」 その直後だった。 魔力の鎖が、音を立てて崩壊した。 男―――アーカードは、力任せにバインドを引きちぎったのだ。 ユーノは、その光景を信じられなかった。 バインドを破られるという事自体は、過去にも何度かあった。 だが……力ずくで、こうもあっさりと破られる事など、今までになかった。 驚愕し、呆然とするユーノ。 ここで彼は、先程のアーカードの名乗りを思い出す。 「吸血鬼……!? じゃあ、さっきのは……!!」 アーカードは自らを、吸血鬼と名乗った。 当然ながらユーノはその存在を知っている。 直接目にした事こそないが、幾つかの次元世界においてはその存在を確認されている存在である。 バインドが簡単に打ち破られたのも、それならば納得がいく。 吸血鬼の持つ最大の武器は……人間を遥かに越えた、その異常な怪力だからだ。 「名前を聞いていなかったな……教えてもらおうか、ヒューマン?」 「……ユーノ。 ユーノ=スクライアだ……」 「ユーノ=スクライアか、いい名だな……さあ、闘争の始まりだ!! 楽しもうじゃないか、ユーノ=スクライア!!」 「ッ!!」 アーカードは強く地を蹴り、ユーノとの間合いを一気に詰める。 そのスピードも、尋常なレベルではない。 恐らくは、フェイトと互角かそれ以上……ユーノがこれまで体験した相手の中でも、最速に近かった。 とっさにユーノは、前方へと障壁を展開する。 そこへと、アーカードの力強い拳が叩き込まれ……一瞬で、障壁が崩壊する。 「そんな……こんなに簡単に……!?」 「HAHAHAHAHHAHAHAHAHA!!」 障壁を突き破った拳は、そのままユーノの胴体に叩き込まれた。 バキリと、嫌な音が響く。 今の一撃で、肋骨を叩き折られたのだ。 そして僅かに遅れて、ユーノの体が後方へと吹っ飛ぶ。 強烈な勢いで、数十メートルも先へと吹っ飛ばされ……一本の大木に、背中から叩きつけられた。 「ガハッ……!!」 ユーノの全身に、強烈な痛みが駆け巡る。 バリアジャケット越し・障壁越しである事が、信じられない程の痛みであった。 そしてユーノが苦しんでいる間にも、アーカードは間合いを詰めてくる。 このまま接近を許しては、確実に殺される。 「くそっ……なら!!」 再びチェーンバインドを発動。 しかし今度の対象は、アーカードではなく己の背後にある大木であった。 魔力の鎖は、大木にしっかりと絡みつき……そのまま、大木を引っこ抜いた。 ベロクロンとの戦いで使用したのと同じ、即席のハンマー攻撃。 超獣ですらも怯んだこの一撃をまともに受ければ、かなりのダメージを与えられる。 そう思いながら、アーカード目掛けて勢いよく大木を振り下ろす。 「吸血鬼に対して木の杭を打ち込もうとは、中々分かっているじゃないか!!」 しかし対するアーカードは、迫り来る木槌を前にして、回避をしようともせず、防御をしようともしなかった。 その代わりに、右手で手刀を作り……大木目掛けて振り下ろした。 直後、大木は見事に真っ二つに分かれた。 アーカードの手刀が、大木を真っ二つに叩き割ったのだ。 二つの木片となった木槌が、地面に斜めに突き刺さる。 その間には、無傷のアーカードがたたずんでいた。 「嘘だろ……なんて奴だ……!!」 「どうした……まさか、終わりとは言うまいな?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― (どうしたら……どうしたら、こんな化物を……!!) ユーノは必死になって、打開策を導き出そうとする。 バインドも、防御も、攻撃も、アーカードには何一つ通用しない。 今の自分が使える魔法では、アーカードを止める事は不可能である。 ならば、どうしたらいいか。 思考を巡らせているその間にも、アーカードはこちらへと歩を進めてくる。 「まだまだ始まったばかりじゃないか。 お楽しみはこれからだぞ、ヒューマン!! 魔法を出せ、この心臓にもう一度杭を突き立てにこい!! さあ!!HURRY!!HURRY!!HURRY!!HURRY!!HURRY!!」 (何か、何かないのか……そうだ、支給品!!) ここでユーノは、ようやく支給品の存在に気付いた。 一体、何が支給されているのかは分からない。 この場を切り抜けられるかどうかは、全く分からないが……今はこれに賭けるしかない。 デイバッグを開き、中に手を突っ込む。 すると……彼はここで、思いもよらぬ品を引き当てた。 「え……これって……!!」 ユーノが手にしたのは、デイバッグによく収まったものだと言いたくなる程大きな代物。 アーカードを撃退出来るかもしれない、強烈な武器であった。 それを見た瞬間、思わず驚いてしまったが……迷っている暇は無かった。 既にアーカードは、目前まで迫ってきているのだ。 ユーノは勢いよくそれを取り出し、その筒先をアーカードへと向ける。 そして、取り出した支給品―――バズーカ砲の引き金を引いた。 BANG!! 砲撃は、アーカードの脳天に見事直撃。 首輪ごと、首から上の部位を吹き飛ばし、粉砕した。 距離が近すぎたが為に、流石のアーカードも回避の仕様が無かったのだ。 残された胴体が、背中から地面に倒れこむ。 ユーノはそれを見て、体を震わせながらその場に膝を着き、そして大きく溜息をついた。 何とか、アーカードを撃退出来た……絶体絶命の窮地を、しのぐ事が出来た。 「やった……でも……」 しかし、ユーノの表情は険しかった。 それも当然……正当防衛といえど、人殺しをしてしまったのだ。 いや、相手は陣地を越えた存在である吸血鬼……化物である。 人殺しと言うのは、少しおかしいが……それでも、自分がアーカードを殺害したという事は同じである。 この手で、一つの命を奪ってしまったのだ。 気に留めるなというのは、無理な事である……しかし。 こうしなければ、自分が死んでいた。 それにアーカードを野放しにすれば、更なる犠牲者が出るのは確実……それを止める為にも、これはやらねばならぬ事だったのだ。 「……悩んでいても仕方ない。 兎に角、今はなのは達と合流しないと……」 今は、迷っている暇は無い。 ユーノはなのは達との合流を果たすべく、ここから離れることにした。 すぐさま、念話を試みてみるが……全く通じない。 どうやら、主催者達に妨害されているらしい……ならば、直接探し出すしかない。 ユーノはマップで現在地を確認し、上空へと飛び上がる。 普通に歩いて探すよりも、この方が速いと思っての行動だったが……ここでユーノは、ある違和感を覚えた。 (魔力の消耗が、いつもより早い……? それに、飛ぶスピードも少し落ちている……) 普段と比べて、妙に魔力を消耗している感じがあった。 それに加え、上昇のスピードが普段よりも若干遅かったのだ。 もしかしたら、念話の妨害同様に何かしらの力が働いているのかもしれない。 恐らくは、参加者の戦力差を平等に近づける為に。 (空からの探索は、長時間は不可能か…… とりあえず、しばらくしたら一回どこかに降りて……!?) その時だった。 地上―――それもユーノの真下から、大きな物音が聞こえてきた。 ガサガサ……と、木々が大きく揺れる音が。 ユーノの脳裏に最悪の事態が過ぎる。 「まさか……そんな!!」 「ククク……クハハ……HAHAHAHAHAHA!!」 「アーカード……!!」 予感は的中した。 倒した筈の化物―――アーカードが、上空へと跳躍―――それも、ユーノよりも高い位置に―――してきたのだ。 彼は木々の枝を飛び伝って、ここまで飛翔してきたのである。 吹き飛ばされた筈の顔は、完全に元通りになっている。 肉体を再構築し……復活を果したのである。 「どうして……首から上が吹き飛ばされたっていうのに……!!」 「頭を吹き飛ばされたぐらいでは、私は死なない。 この私を止めたければ、ここを……心の臓を狙わなければな。 覇王に神崎とやらも、よく分かっている」 自らの胸に手を当て、アーカードはユーノへと告げた。 アーカードは、この殺し合いの会場において極めて異質な存在だった。 彼には、首輪が二つ着けられているのだ。 一つは勿論、その首に。 そしてもう一つは、彼の弱点……心臓に。 例え、四肢をもぎ取ろうと、首を吹き飛ばそうと、彼は蘇る。 アーカードを倒すには、心臓を止める以外に手段は無いのだ。 「くっ……!!」 ユーノはすぐに、アーカードから離れようとする。 彼は自分と違い、空を飛べるわけではない。 尋常じゃない跳躍力で、ここまで上ってきただけ……この後は、地上に落下するだけである。 一度離れてしまえば、そう簡単に追ってはこれない筈……そう思った、その矢先だった。 アーカードは、素早くユーノへと手を伸ばし……その右腕を掴んだ。 「掴まえた」 「しまった……!!」 「豚の様な悲鳴を上げろ」 グシャッ…… 「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」 ユーノの絶叫が、空に木霊する。 肉が裂かれ、骨が砕け散った。 ユーノの右腕は、無残にもアーカードに握り潰されてしまったのだ。 そのまま右腕は、その手で握り締めていたバズーカと共に地上へと落下。 痛々しい断面図からは鮮血が噴出し、ユーノとアーカードの顔を濡らす。 ユーノの顔には苦悶が、アーカードの顔には笑みが浮かんでいた。 そのままアーカードは、もう片方の手で手刀を作る。 「終わりだ……ユーノ=スクライア」 その狙いは、バリアジャケットによる防御の無い脳天。 この一撃を喰らえば、確実に死ぬ。 障壁でそれを防ぐ事が出来ないのは、先程既に実証済みである。 そんな、どうしようもない絶望的な状況。 誰か他の者がこの光景を見ていたならば、ユーノの死は決定的と見るだろう……が。 「まだだ……!!」 「ほう……?」 「まだ、終わっちゃ……いない……!!」 ユーノはまだ、終わってはいなかった。 彼は渾身の力を込めて、デイバッグをアーカードへと放り投げる。 そこへ、アーカードの手刀が叩き込まれ……その直後。 デイバッグが爆ぜた。 強烈な爆炎と爆風が、二人に襲い掛かる。 「ぐぅっ!?」 「ッ!!」 アーカードはその爆発により、右手を吹き飛ばされる。 そして爆風に煽られ、猛烈な勢いで地上へと落下していった。 一方ユーノはというと、爆発するのが前もって分かっていた為、障壁の展開によりダメージを最小限に抑えきっていた。 二人を襲った爆発の正体は、デイバッグ内のバズーカの予備弾薬。 ユーノの狙いは、それを爆発させる事であった。 そうすることでアーカードをふっ飛ばし、距離を取ろうと考えたのである……そしてそれは、成功してくれた。 他の支給品もこれで跡形も無く砕け散ってしまったが、仕方が無い。 ユーノはアーカードが地上へと落ちていったのを確認して、急速にその場から離脱する。 悔しいが……今の自分には、アーカードは倒せない。 (あんなのまで、この殺し合いにはいるなんて……ミライさん、クロノ、フェイト……なのはっ……!!) この会場の何処かにいるであろう仲間達の無事を祈り、ユーノは空を飛んでゆく。 彼が向かう先に待ち受けているのは、大切な仲間達か。 それとも、アーカードと同じくこの殺し合いに乗った者達か。 果たして…… 【ユーノ=スクライア@ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】 【一日目 現時刻AM0 32】 【現在地 H-5 上空】 [参戦時間軸]12話中盤、ウルトラマンダイナの正体発覚直後。 [状態]肋骨二本骨折、右腕欠損、相当の疲労。 [装備]無し。 [道具]無し。 [思考・状況] 基本:主催者を倒し、この殺し合いを止める。 1:なのは達と合流する。 2:仲間を集める。 3:アーカードは危険だと、出会った者達に伝える。 [備考] ※沖田のバズーカ砲@なの魂が、ユーノの右腕と共にI-6に落ちています。 ※かなりの重傷で、特に右腕は、早急に処置をしないと危険です。 ※この会場にいるなのはとフェイトは、未来から呼ばれたのではないかと考えています。 フェイトに関しては両方、なのはに関しては片方もしくは両方と判断しています。 ※なのはとフェイトが二人いる事に気付きました。 ※モロボシ=ダンの名前は知っていますが、どんな人物かは知りません。 ※己の魔力と魔法に、制限がかけられている事に気がつきました 「ユーノ=スクライア……まだ幼い身でありながら、私を出し抜くとはな」 アーカードは、笑いながら夜空を見上げていた。 爆発により吹き飛ばされた右手は、既に再生されている。 ユーノとの戦闘によるダメージは、ほぼ回復し切っていた。 彼は幼い身でありながらも、己へと勇敢に立ち向かってきた。 逃げられこそしたが……きっと彼は、再び自分の前に現れるに違いない。 「覇王十代、神崎とやら……感謝するぞ。 私を、この様な素晴らしいパーティーに招いてくれた事をな」 アーカードは歓喜していた。 まだ見ぬ未知なる相手との闘争の機会が生まれた事を、喜んでいた。 自らを打ち倒してくれるかも知れぬほどの人間との出会いがあるやもしれぬ事を、喜んでいた。 きっとこの場には、ユーノの他にも優れた力を持つ者達がいるに違いない。 かつて己を打ち破ったあの四人、アーサー・ホルムウッド、キンシー・モリス、ジャック・セワード、エイブラハム・ヴァン・ヘルシングの様な猛者が。 アレクサンド・アンデルセンの様な宿敵が。 彼等の様な素晴らしき者達が、きっといるに違いない。 果たして、どのような出会いがあるか……アーカードは、楽しみで仕方がなかった。 【アーカード@NANOSING】 【一日目 現時刻AM0 32】 【現在地 H-5 上空】 [参戦時間軸]第八話開始直後 [状態]健康、首に首輪が着けられていない [装備]無し。 [道具]支給品一式、不明支給品1~3個。 [思考・状況] 基本:闘争を楽しむ 1:闘争の相手となる参加者を探し出す 2:ユーノとの再戦を楽しみに待つ [備考] ※名簿はまだ見ていません。 ※心臓に首輪が装着されています。 017 本編投下順 019
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/289.html
キレイな部隊長SS b7tejS3W 「ふぅ……」 夜風に吹かれながら、八神はやては穏やかな溜息をつく。 今日は自分の親友たちの結婚式だ。 「女の子同士の結婚もどうかと思うけど……ま、本人たちの気持ちしだいやわなぁ」 女の子同士。 そう、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンだ。 結婚式が終わり、親しいもの達だけの二次会があり、 「はやてさんは酔い覚ましに外の空気を満喫中、と」 一人ごちて苦笑する。 そこに声が聞こえた。耳に優しい、幼馴染の声が。 「はやても休憩?」 「おぉ、ユーノくんもか?」 二人、顔を合わせて微笑みを交わす。 そして横に並び座って、風と、隣の暖かさを感じる。 丁度いい、はやてはそう思う。 聞きたいことがあった。 「ユーノくんは……えぇんか?」 「なにが?」 「なのはちゃんたちの結婚」 「二人が幸せそうだし、全然いいんじゃないかな?」 うれしそうに言ってのけるユーノに、はやては一つ疑念を持つ。 「ユーノくんは……なのはちゃんが好きやと思ってた」 「それは……また……はやてに言われると傷つくなぁ。 まぁ、好きだけど、幸せになってほしいとか……あくまで友人としてだよ」 そっか、と気のない返事をするはやて。 しかし、解決した疑問の先に、もうひとつの疑問が生まれた。 ――私に言われると傷つく? どういう意味だろう。 心の中で頭を捻る。 しかし、酔いの入った頭は結論を導く前に諦めを選んだ。 「幸せ、かぁ……」 代わりに出た言葉は小さな小さな呟きだった。 「はやては自分の結婚とかは考えないの?」 「はぇ?」 唐突な質問に、はやては奇声で疑問を唱える。 「誰か、結婚する相手とかいないのかなぁ……って」 次いで聞こえてきたユーノの言葉。 そこでようやくはやては冷静さを取り戻す。 「ん~、相手もおらんし、自分の結婚についてはあんまし考えてないなぁ」 「そっか」 その答えを聞いて少し残念そうな、曖昧な笑みを浮かべるユーノ。 なにか悪いことを言ったかな、と思う。 「っていうか、酔った勢いで少し本音言うと……な。怖いねん」 「怖い?」 「そう、幸せゆーんがなぁ。今まで、幸せなときほどその後に辛い目あってきたから」 両親と幸せな時に足が不自由になり、やがて両親も失った。 守護騎士たちと幸せな時に、一度彼女達を失い、そして一人は永遠に失われた。 「あんま幸せ求めすぎたらあかんのかなぁ、って。まぁ、そんなこと考えてまう」 アホな話やろ、と苦笑で締める。 「そうだね、なんとなくわかる……かな」 「お、ユーノくんもそんな時あるんか?」 「いや、そうじゃなくて」 「?」 眉尻を下げた、困ったような笑みでユーノは言った。 「はやてが幸せを怖がってるってこと」 「……バレてた?」 「なんとなく、ね」 「ユーノくん鋭いなぁ……」 「違うよ」 困った顔を、力のある真剣とも言える表情に変える。 顔をはやてに向け、真摯な声で、 「鋭いから、じゃない。君が――」 『はやてのことが、好きだからだよ』 聞こえた声は、耳に届かず。 しかし、頭と――そして心に響いた。 念話だ。 「な、なななななななん? え? あ~……な? ドドドdドッキリ? ドッキリかコレ!?」 面白いようにうろたえるはやてに、ユーノは何も言わず、ただ真剣な表情で見つめ続ける。 ――あ……本気……なんやなぁ その表情を、真剣な目を見て、はやては自然とそれに気づいた。 「あー……なんで肝心の部分は念話なん?」 「大切な思いは、それこそ大切な人以外の誰にも触れてほしくないから……」 ――うわッ、ズルイ。そんなこと平然と言うなんて 混乱は収まった。しかし、次は答えが必要だ。 彼の真摯な思いに対する、自分の真摯な応えが。 ――私は今まで幸せを避けていて…… でも、本当に幸せを望もうと、そう考えた瞬間、答えは出ていた。 幸せを恐れる心の蓋を開けた第一にユーノの顔があった。 普段の優しい顔。 仕事中の真剣な顔。 困ったときの仕方なさそうな顔。 それら全てを、心の底からこう思う。 ――愛おしい、と。 だから、素直な想いで言った。 「私も――私も、ユーノくんが好きです」 言ったその後、恥ずかしいがユーノの顔を見た。 その顔は、嬉しそうな笑顔で、 「はやてッ!」 抱きしめられた。 そしてそっとキスを額に。 ――額……? 「な、なんで額なんよッ?」 「あ、いや、なのはたちの結婚式の後でキスとかしてたらなんか、余りカップルがくっ付いたみたいで…… こういうのはできたら二人のもっと特別な日にしたいなぁ……って」 「えらい乙女チックやなぁ……」 半目でユーノを見上げるはやての声は優しい。 「まぁ、それも解るけど――現役乙女の私としては今キスしたかったなぁ」 「……う」 うろたえるユーノの顔に溜飲が下がる思いを得る。 なんせ今日は負け続きだったのだ。 だが―― 「うん、やっぱりそうだよね」 「え?」 「じゃあ、行こう」 立ち上がって、手を差し伸べるユーノ。 「イ、イクってドコまで?」 「近くに公園があるんだ。そこで話そう、いろんなことを。 これまでのこととか、これからのこととか……それからキスしよう」 差し伸べられた手を掴み、一気に引っ張り上げられたはやては、 「そういう、直接的な誘いも悪くないなぁ」 嬉しそうに、目を細める。 「あ、それやったらユーノくんが私のドコを好きになったのか聞かせてもらうで?」 意地悪そうな顔で言うはやて。 投げかけた言葉も意地の悪い癖球だ。 それにユーノは平然な顔で、 「いいけど、話し出したらそれだけで夜が明けちゃうよ?」 「ぶっ」 打ち返した。 それもピッチャー返し剛速球のハートビートショットだ。 思わず顔を赤く染めるはやては、しかし握った手は離さないままに。 「なら、私もユーノくんの好きなトコ言って……明日の昼まではその話題やな」 「うん」 苦し紛れの返し技も笑顔であっさり受け止められ、 ――私、これから一生ユーノくんには勝てないんやろうなぁ なんて思い。 それが何故かたまらなく嬉しくて。 これから得られる幸せと掌の温かさを感じ、歩いていく。 どこまで二人で歩いて行けるかは解らないけど…… とりあえずは公園まで…… 30スレ SS ユノはや ユーノxはやて ユーノ・スクライア 八神はやて
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/343.html
流浪の者 作者ID 0YeEsh8l ギンガ・ナカジマは夢を見ていた。 それは母と妹の三人で出かけた日のこと。 楽しい休日になるはずだった。 だが、家族の憩いの一時は無粋な犯罪者たちによって妨げられた。 妹が人質に取られ、母が悔しさに震える中、自分はただその光景を呆然と眺めているだけ。 しまいには不用意に顔を出したせいで犯人を刺激して魔法を打ち込まれる始末。 姉としては何の役にも立たず、娘としては足を引っ張っている自分。 迫り来る魔法弾がやけにスローモーションに見える。 これに当たれば確実に死ぬ。 それがわかっていながらも手足はピクリとも動かない。 (……スバル、お父さん、お母さん!) 家族の顔を思い浮かべ、ぎゅっと目を瞑る。 しかし死への衝撃はやってこない。 一撃で自分は消し飛ばされてしまったのか。 それなら痛みがなかった分救いはあったのかもしれない。 そう思いながら恐る恐る目を開ける。 (え――) 最初に目に映ったのは魔法弾を受け止める緑の光。 そのすぐ後ろに自分を守るように立ちはだかる少年の姿が見えた時、ギンガは悟った。 自分はまだ生きている――この人が、自分を助けてくれたのだと。 「大丈夫かい?」 振り向いた少年の口から自分を案じる声が漏れる。 魔法弾とシールドの激突によって発せられている光が逆光となって少年の顔がよく見えない。 ギンガはなんとか少年の顔を見ようと目をこらし―― 画面が暗転、そして明転し、頬を風が撫でる。 目に映っているのは翡翠の瞳を持つ少年の顔。 少し頬に土がついていて、それでも優しげな表情は変わらなくて。 初めて出会った時と同じ言葉が脳に染み込んでいく。 「ゆー、の、さん?」 半分朦朧とした意識で反射的にギンガは少年の名を呟いていた。 と同時に状況の把握へと思考が活性化をはじめる。 そう、自分はユーノに組み手を頼み、腕をつかまれたかと思ったら何故か空中に浮いていて。 次の瞬間には意識が飛んでいて… 「あ…」 「ゴメンね。ちゃんと地面にぶつかる前に腕を引いたんだけど、ちょっと石が出っぱってて…」 申し訳なさそうに謝るユーノの言葉とズキズキ痛む後頭部。 そう、自分は投げ飛ばされた結果たまたま地面に転がっていた石に後頭部をぶつけて気絶してしまったのだ。 何が起きたかを把握したギンガの首から上に熱が集まっていく。 組み手を申し込んできながら気絶してしまうとはなんたる不覚。 しかも、今の今までマヌケに気を失っていた姿を目の前の少年にずっと見られ続けていたのは間違いない。 闘う者として、乙女として、二重の恥ずかしさがギンガの幼い心をへこませる。 「とりあえず血も出てないから大丈夫だとは思う。たんこぶはできてるけど…」 「あ、はい、大丈夫です。私、丈夫なのがとりえですし」 むん、と小さくガッツポーズをとるギンガにユーノは安心の一息をつく。 ちなみにこの時、彼が冷や汗を浮かべながらチラリと横を見やったことに―― そこに、奇麗に真っ二つに割れた石が鎮座していることに ギンガは気がつかなかった。 「ところで、何か頭と背中があったか……あつっ」 「大丈夫!?」 頭と背中から感じる熱に違和感を感じたギンガは身を起こそうとして頭痛を感じた。 ユーノの心配そうな声が耳朶を打つ。 と、そこで気づく。 ユーノの後ろに晴天の空が見える。 お尻よりも下は地面についたままだが、それより上は何か弾力のあるものに支えられている。 (ま、まさか…) おそるおそる、といった様子でギンガは自分の状態を確認する。 はたして、目に映ったのは膝枕をされながら頭を撫でられている自分の姿だった。 「えーっ!? ゆ、ユーノさん、私っ!?」 「あ、ダメだよ動いちゃ! まだ治癒の最中なんだから」 起き上がろうとしたギンガはユーノに押し留められるように再び寝かされた。 厳密にいえばその体勢は膝枕ではなく、膝よりももう少し上に抱え込まれているような格好だった。 だがそれは七歳の初心な女の子にとっては何のフォローにもならない。 むしろ普通に膝枕をされているよりも数段恥ずかしい。 しかしユーノに解放の気配はなく、混乱する少女はただなすがままになるしかなかった。 「わ…わ…」 「もうちょっとだから我慢してね」 あまりの事態にうまく言葉を紡げないギンガ。 だがユーノはそんな患者の都合などおかまいなしに頭を撫で続ける。 ぽう、と緑色の淡い魔力光が頭を包むと痛みが徐々にひいてくるのがわかる。 しかしギンガにとってはそんなことよりも今の状態のほうが重要だった。 (ひゃ、ひゃああ……) 密着した部分からユーノの体温が伝わり、その存在の近さを意識させられてしまう。 体が触れている部分が熱い。 華奢な見た目とは裏腹に、ユーノの体は意外に引き締まっていた。 男の子という存在を嫌でも意識させる密着度にギンガの心臓が跳ねる。 「ああああ、あの! ユーノさんは強いですよね!」 なんとか気をそらそうと話題を振ってみるギンガ。 朱に染まり頬と慌てた口調があからさまに動揺を示している。 しかしユーノはそんな少女の動揺を気にすることなく、苦笑した。 「僕は強くないよ」 「で、でも、私は全戦全敗ですよ」 ギンガはそれはないだろうとばかりに否定の言葉を発する。 幾度となく行われたユーノとギンガの組み手。 それはいつもギンガの攻撃がかすりもせずにユーノの勝利に終わるという結果ばかりだった。 それだけではない、 同様に母と行われる組み手ではユーノは勝ちこそはしないものの被弾はほとんどしていない。 ユーノ本人は『危なくなったら咄嗟に魔法を使ってるだけ』といっているが、 実際にシールドを使うのは決着の一撃の時だけだ。 「それに、お母さんとも互角に…」 「うーん、そもそも前提が違うからね。 ギンガやクイントさんが遣うシューティングアーツは専用のデバイス、 そして前衛型のベルカ式魔法を使うことが基本となっているわけで… それに大して僕の体術は魔法を前提としないからね。 組み手という形式である以上は僕の有利は否めない」 「でも…」 「スクライアで教えられるのはとにかく生き延びること。 だから重点的に教えられるのは受け、回避、捌き…とにかく防御関係なわけだし。 肝心の攻撃は相手の力を利用する投げや関節技ばかり。 打撃系は一切なし。これじゃあ強いとはいえないよ」 そういって苦笑するユーノだが、ギンガはその言葉を素直に信じることはできなかった。 確かに魔法行使が前提のミッドチルダでユーノ体術は異色だ。 だが、異色であることと強くないということはイコールにはならない。 「ユーノさんは…強いです」 それが絶対の真実だとばかりにギンガは呟いた。 ギンガにとって強いということは守ると決めた何かを守れる力を指す。 その意味では自分を守ってくれたユーノはまさしく強さの象徴であり、憧れなのだ。 「ギンガ…」 ユーノはギンガの言葉に何かを感じたのかそれ以上何も言わずにただ手を動かし続ける。 やがて、痛みが完全にひいてきた頃。 (あれ…?) ギンガは唐突に気がついた。 顔が、近い。 ぶっちゃけ吐息が感じられそうなほどの至近距離だ。 (わーっ!?) 膝枕で頭を引き寄せられている状態なのだから顔が近いのは当たり前だ。 体勢にばかり気をとられ、今更ながらにその事実に気がついたギンガは今度こそ跳ね起きた。 「あっ」 「だ、だだだ大丈夫です! もう痛みはありませんし気分もスカッとしていますから!」 「そ、そう?」 「はい!」 くる、と後ろを向いて元気さをアピールするようにギンガはシャドーを始める。 別に後ろを向く必要などなかったのだが、少女はそうせざるをえなかった。 (は、恥ずかしくてまともにユーノさんの顔が見られない…) 瞳の中の自分が確認できるほど近くに寄せられていた少年の顔が頭の中でよみがえる。 顔が熟れたリンゴのように赤くなっていくのを止められない。 とてもではないが、こんな顔をユーノに見せるわけにはいかなかった。 (あうう…) 男の子なのに女性にも劣らない整った顔。 汚れこそあるが、すべすべしていそうな肌。 吸い込まれるような翡翠の瞳。 それらをつい先程まで間近で直視していたのだ。 いけない、とぶんぶんと頭を振って記憶を消そうとするも焼きついた映像は頭から離れない。 ギンガとて一人の女の子である。 戦闘機人という特殊な生まれであっても クイントに引き取られてからは一般的な女の子として育てられてきたのだ。 そう、普通の女の子が、颯爽と現れた王子様に好意を持たないほうが珍しいのである。 強い、優しい、格好いい、頭も良い。 多少のフィルターがかかっているとはいえ、ここまで良条件をそろえた異性などそうはいない。 (私、どうしちゃったんだろう…) 幼さゆえにはっきりと恋と言える感情を認識できているわけではない。 そもそも、この感情が恋であるかすらわからない。 それでも、ギンガの心の一角にユーノははっきりと居ついてしまっていた。 しかし、彼女は知らなかった。 いつまでもユーノがナカジマ家にいるわけではないということを。 彼との別れが近づいているということを。 ――そして、今までのやり取りが全て母と妹に見られていたということを。 49スレ SS ギンガ・ナカジマ ユーノ×ギンガ ユーノ・スクライア
https://w.atwiki.jp/mugenshoko/pages/120.html
ユーノとフェイトの歩き方 作者:ID lqOzD4Ym 担当していた事件も終わり、アースラの航海も無事に終えた。 細かい報告書とか調書とかの提出も無事に終了して、ほかに仕事のあるリンディ母さんやクロノに悪いと思いつつ先に上がらせてもらう事に。 自然と無意識に無限書庫の方に足を向けようとして――― 「あっ、お帰りフェイト」 タイミングを計ったようにユーノと鉢合わせて頭がパニックになった。 「えっ、どうしてユーノが……もしかして待ってたの?」 「うん。用事もそれに―――フェイトの顔が見たかったから」 淡い期待通りの答えに嬉しくなり、少し情けなくなる。 ストレートに思いをぶつけてくるユーノに答えられない自分に 思えば告白もユーノの方からされた時も私は受身だった。 ただ、自分の本心を全部さらけ出した上で私への思いを打ち明けてくれた時も言葉に出来なくて気付けばユーノに抱きついて、自分の答えにしていた。 「ゆ、ユーノは今日はお仕事終わったの」 「頼まれた資料をリンディさんに渡せば今日はもう上がりだよ。流石に休まないとまた色んな人に怒られちゃうしね」 「そ、そうなんだ。きょ、今日はお兄ちゃんもリンディ母さんも泊り込みで、その家は帰って……一緒にいたいと言うか、ええっと……」 「えっ?」 自分でも信じれない事を口にしていた。まるで誘惑するような真似を口にしていた。 確かに、今日は海鳴の家に帰っても一人だし、アルフも今日は用件があるとかで変えれないとか何とか…… 私の言葉の意味に気付いたユーノも馬鹿みたいに顔が赤い。 本当に、お互い必死で隠そうとしてるけどお互いにちょっと間抜けかもしれない。 「えっと、そろそろ行こうか。リンディさん待たせると大変だし、急がないとポートが閉じて海鳴に戻れなくなるよ」 「そ、そうだね。なら急がないと」 なら急ごうよ、とユーノは大きくなり始めた背中を背を向ける。 私はその……大きな背中に恐る恐る手を伸ばして……掴んだのは隣にいるユーノの裾の部分。 振り向いた彼の顔は少し驚いていた。当然だよね、いきなりこんな事…… 今は臆病な私には出来る精一杯の勇気を振り絞った行動。 すぐに穏やかな笑みを浮かべて、私のスピードに合わせてゆっくりと歩く。 だけどいつかはその暖かな笑顔にちゃんと答えたい 自分のありのままの気持ちをのせて 私にとってかけがえのない友人から一緒にいてくれて私を甘えさせてくれる強い人へ 13スレ SS フェイト ユノフェ ユーノ