約 4,593,543 件
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2764.html
503 名前:高嶺の花と放課後 第7話[sage] 投稿日:2018/05/29(火) 20 00 27 ID UMKn57Ho [2/12] 高校2年 9月 「…えー、ーーーでるからしてーーーであり、高校生というのはーーー」 「なぁ遍ー。校長センセの話ってなーんでこんなに退屈で眠くなるんだろうな。ふぁぁ」 「怒られるよ太一、真面目に聞いてないと」 「だいじょーぶ、誰も真面目に聞いてないってば」 「そんなこともないと思うんだけれどもなぁ」 我が羽紅高校の夏休みも終わりそれと伴い当然学校の方も再開し夏休み明け初日の今日、大勢の生徒とともに僕らもまた始業式に出席していた。 空調の整っていないこの体育館はうだるような暑さで、校長先生の話なんて一向に耳に入ってこなかった。 それは僕以外の生徒も同じで、いかに退屈しているのかが顔に表れていた。 「…ねぇ、太一。校長先生の話を文集した本ってあったら面白そうじゃあないか?」 僕自身もそんなくだらないことを考えているくらい退屈していたのは事実であった。 「なんだ遍だって真面目に聞いてないじゃん。まーでもそうだなぁ。それなら読んでみたい気もすっかも」 「不思議なものだよね。僕らはもしかしたら本の中身が見たいんじゃなくて本に書いてある活字を見たいだけかもしれないね」 「それは変な話じゃねーか?それだったら本の内容が良かった悪かったなんて感想が分かれることはありえねーぜ?」 「確かにそれは一理あるね。ならこう結論づけることができるかもね。僕らは黙読は好きだけれど朗読は苦手だとね」 「あぁこの朗読は正直しんどいぜ」 「同意だ」 それにしても注文の多い料理店さながら蒸し焼きに調理されているような錯覚陥るほど暑い。 塩を塗りたくるとなお美味しいってね。 「ははは…、何考えているだ僕は」 体から吹き出す汗が止まらず、制服である白いワイシャツを濡らしていく。 なんだ全身汗だらけなら塩加減もちょうど良いじゃあないか。 あとは誰が僕を食べるんだ? 地ならす巨人か、空飛ぶ龍か、はたまたカニバリズムか。 僕は主菜か?前菜か?デザートかもしれない。 「おい遍大丈夫か?顔色悪いぞ」 「ああ大丈夫大丈夫」 少しぼーっとしてきた。 これで僕が茹で上がったら調理完了だ。 あとは食べ残すなり完食するなり好きにしてくれ。 「大丈夫大丈夫って、明らかにやばくなってきてんぞ。センセにいって保健室行ってこいって」 太一の声がガラス越しのようにこもって聞こえてくる。 「へ?太一今なんて言っーーーー」 その瞬間、視界がぐるっと回転して暗転する。 あれ?僕はとうとう何かに食べられてしまったのかな。 やっぱり食べ残しはできればしてほしくないかな…。 504 名前:高嶺の花と放課後 第7話[sage] 投稿日:2018/05/29(火) 20 02 06 ID UMKn57Ho [3/12] …。 ………。 目を覚ますと慣れない白い天井まず一番最初に目に飛び込んできた。 次に気がつくのは自分が白い布に包まれていること。 そして最後に気がついたのは頭に感じたひんやりとした感覚だった。 「あっ、目覚ました不知火くん?具合どう?」 その感覚の正体は人の手であり、その人は高嶺さんということ。 「えっ?高嶺さんどうして…というよりここは…」 「不知火くん始業式に熱中症で倒れちゃったんだよ。それで保健室に運ばれて…」 「そうか、ここは保健室なんだね。それで高嶺さんはどうしてここに?」 「ほら私保健係だからね。先生に様子見てこいって言われて来たの。そしたらじきに不知火くんが目を覚ましたんだよ」 「高嶺さんが保健係なんて初めて知ったなぁ…」 「不知火くんの係はなんだっけ?」 「僕は施錠係だよ」 「あー!そういえばそんな係あったね!なるほどねぇ、だから不知火くん放課後いつも居残れるのかぁ」 「帰りが遅くなるから誰もやりたがらないし僕には都合が良かったからありがたい役職だけれどもね。ところで今何時だい?」 「えーっと、もうすぐ12時だよ。今はみんなで文化祭の出し物の会議してるけどもうすぐ帰りのホームルームになるから先生に様子見てこいって言われたんだ。どう?ホームルームにはでれそう?」 「うーん今すぐ戻るのは厳しいけれども少し時間をおけば戻れそうだよ」 「分かった。じゃあ戻って先生にそう伝えておくね」 「ありがとう高嶺さん」 「あの…不知火くんっ」 「どうしたんだい?」 「えっと…その…あの。ぐ、具合!具合のほうはどうかな?」 「少し目眩がしてるけど、なんとか大丈夫だよ」 「あ…そう。よ、よかった!………今はタイミングじゃないでしょう私…」 「なんの話だい?」 「ううん気にしないでっ。こっちの話だから。それじゃあお大事にね不知火くん」 そう言って彼女は静かに保健室を後にしていった。 「高嶺さん、保健係だったのか…」 思い掛けないところで役得をして、熱中症で倒れる前よりもむしろ気分が良くなっている。 それはそれで置いておいて、始業式を終えてこうもすぐに文化祭の出し物の会議が行われるとは夏休み明け初日だというのにもう忙しい。 まぁ今日一日で決めるわけではないがどうやらこの学校は夏休み明けの生徒に肩慣らしの時間も与えるのが惜しいらしい。 「そういえば保健室の先生はいないのかな…」 それらしき人物は見当たらない。 上体を起こしてみると立ち眩みしたように一瞬視界がぶれたが数瞬おいて平衡感覚が元に戻る。 この調子であるならば今すぐ立ち上がるのは少々危険な感じがする、といったところであろう。 ここは一旦深呼吸を入れて体調を整える。 おそるおそるといった調子で両脚をベッドから降ろし僕の体重に耐えうるか少しずつ確認する。 「大丈夫そうだな」 力を入れて立ち上がると僅かに立ち眩みしたがそれもすぐ治った。 立ち上がり保健室を見回ってもそれらしき担当教員が見当たらないので、無断で出ていっても問題ないと勝手に解釈し僕も保健室を後にする。 505 名前:高嶺の花と放課後 第7話[sage] 投稿日:2018/05/29(火) 20 02 54 ID UMKn57Ho [4/12] 廊下を歩き、階段を上り、廊下を歩き、いつもの教室へとたどり着く。 引き戸を開けそのいつもの教室へ入っていくと全員ではないが半分くらいのクラスメイト達が一斉に僕の方に視線を移し慣れない緊張に襲われる。 途中入室の生徒が本好きの地味な生徒、不知火 遍とわかるや否や再び視線を黒板へと移していった。 僕も体の強張りが解けるとともに合わせて黒板へと視線を移す。 黒板には喫茶店だの、たこ焼きだの、チョコバナナだの模擬店の案らしきものがたくさん書かれていた。 教壇に立っていた担任の太田先生も僕に気がつき声をかける。 「おう、不知火目覚ましたか。大丈夫か?」 「はい、おかげさまで」 「それなら良かった。とりあえず一回目の文化祭の出し物の会議はこんな感じで案が出たからそれだけ把握しといてくれ。ちょうどこの後ホームルームだから席に着きなさい」 「はい」 言われた通り、僕は自分の席に座ると前の席である太一がこちらのほうに体を向けてきた。 「心配したぞ遍。大丈夫大丈夫とかいったそばから倒れやがって」 「心配かけてごめんね。少しやせ我慢が過ぎたと思ってる」 「今度から無茶すんなよな~」 「肝に命じておくよ」 「で、どうだった?」 「なにがだい?」 「惚けんじゃねーぞ。我が学園のマドンナ高嶺さんのモーニングコールの感想を聞いてるんだよ」 「え?」 「え?じゃねーぞ。全く全男子生徒の憧れの的に優しく起こされてなんにも感想がないわけないだろ」 「あ、あぁ。起こされたっていっても目を覚ましたらそこにいて言伝を預かっただけだから特に何もないよ」 「かー!何にも感じなかった風に言いやがって。このクラスのどれだけの男子がお前のこと羨ましがってたのかわからないのか?」 何も感じなかったわけないじゃあないか。 「本来こんなことなけりゃ高嶺さんと二人きりになれることなんてないんだからなぁ?せっかくのラッキー熱中症をふいにしやがって」 そう、本来彼女と僕は住む世界の違う人間なんだ。 「熱中症はアンラッキーだと思うよ…」 「はい!そろそろホームルーム始めるから私語をやめなさい」 ざわついていたクラスも担任の一声ぴしゃりと鳴り止む。 「夏休み明けて、まだ気分も切り替えられていない生徒もいるかもしれないが夏休みは終わったんだ。しっかり気持ちを入れるように。明日からは本格的に授業も再開するからな」 「「「えーーーー!」」」 「えーーー、じゃない。言ったはずだぞ、気持ちを切り替えなさい。じゃあ今日はここまで。号令」 「起立ー、礼」 「「「ありがとうございました」」」 「気をつけて帰れよー」 クラスメイト達は再びざわめきを取り戻し帰宅の準備に勤しみだした。 目の前の席の太一も鞄を拾い上げ立ち上がる。 「今日は図書委員ないし、一緒に帰るか遍?」 「せっかくの誘いで嬉しいけどさすがに今すぐ炎天下の中歩いて帰れるほど体力回復してないから遠慮するよ」 「ちぇ、生高嶺さんの感想で聞きながら帰ろうと思ったんだけどな。まぁでも本当に体には気をつけろよ?」 「ありがとう。じゃあね太一」 「おう、また明日な~」 ぞろぞろと出て行くクラスメイトの波に太一も混じっていった。 そうして太一や高嶺さんを含めるクラスメイトの三分の二ほどが出ていったあとのことだった。 僕の教室の引き戸がとてつもない勢いで開かれ騒音が響いたのは。 「お兄ちゃん!大丈夫!!?」 来訪者の正体の我が義妹である綾音は勢いよく僕の席まで走ってきた。 「お兄ちゃん倒れたって聞いてあたし気が気じゃなくて!本当は保健室にお見舞い行きたかったんだけどね!?どうしても行きたいんです!って先生に言ったのに無理矢理止められてて!本当だよ!?それでね!もうあたしとしては一刻も早くお兄ちゃんの容体が知りたくて!知りたくて!やっとホームルーム終わったからこうやってお兄ちゃんのとこにこれたんだけど!それでお兄ちゃん平気?大丈夫?あたしお兄ちゃんが死んじゃったら生きていけないっからぁっ!」 大声で、早口でまくしたてる綾音。 「お、落ち着いて綾音。ただの熱中症だしそんなに騒ぐことじゃあないからね。ほら、クラスの人達も驚いているからさ」 教室に僅かに残っていたクラスメイト達はただただ綾音の勢いに圧倒されているような様子だった。 「他の人なんて知らない!お兄ちゃん死んじゃイヤ!!!」 「だ、だから死なないってば」 大袈裟に泣き?桐る綾音が僕の肩に顔を押し付ける様子をクラスメイト達は興味津々に覗き込む。 参ったな、少しばかり恥ずかしい。 しばらくの間、僕は羞恥の中に取り残されながら綾音を落ち着かせることとなった。 506 名前:高嶺の花と放課後 第7話[sage] 投稿日:2018/05/29(火) 20 04 01 ID UMKn57Ho [5/12] ーーーーーーーーー ーーーーーーー ーーーーー ーーー ー 夏休みが明けてから数日が経った。 来たる文化祭の話し合いがあること以外は至って夏休み明け前と同じような日々が戻りつつあった。 僕も相変わらず駄文を書き続けていた。 とはいえここ最近はあまり筆が進まないのだが、その原因がなんなのかはわからなかった。 「気分転換しようかな…」 ピタリと筆を動かす手を止めて、書き込んでいたノートを閉じる。 夏休み中は原稿用紙で書いていたがここ最近のスランプを感じ、長らくの間ノートに書くことに慣れていた僕は結局ノートに書くことに落ち着いていた。 夕日が差し込む窓からは幾つかの運動部の掛け声が聞こえる。 屋上でも行って風を浴びてこよう。 そう考えた僕は教室を出て屋上へと向かう。 ここ数ヶ月は自分の中でも異常なくらい筆が進んでいて、それがたった一人の女の子の影響だということも自覚していた。 ならば今回筆が進まないのも彼女の影響なのだろうか。 「いやいや、それはただの八つ当たりだ」 ただの実力不足だと己を戒める。 階段を登りきり屋上への扉を開こうとするが、扉は僕から逃げるように開かれる。 「し、不知火くん!?」 「た、高嶺さん!?」 この女の子は本当にいつも心臓に悪い現れ方をする。 「あ、あはは。こんなところで会うなんて偶然だね…。じゃあ私今日はこれで帰るね」 僕を避けるように彼女は横へ抜けていく時、僕はあることに気がつく。 「待ってよ高嶺さん」 「…」 僕の一言で階段を下る彼女の足が止まる。 「なんで…なんで泣いていたんだい?」 彼女の頬にあった二筋の跡。 それがどうしても気になってこんな質問をぶつけないわけにはいかなかった。 「あはは…泣いてた?そんなことないよ不知火くん」 「…頬に跡がついていたよ」 「!」 僕に指摘された彼女は慌てて制服の袖で頬を強く擦る。 「…いやごめん。人は他人に話したくないことの一つや二つはあるよね。別に無理して話さなくていいんだよ」 「ごめんね不知火くん…」 彼女はたった一言そういって踵を返す。 僕じゃ彼女の力になれないのか、悔しさや悲しさが僕の胸を支配する。 気分転換をしに来たのに台無しな気分になってしまった。 屋上に行けば何か救われるような気がしてドアノブに手をかける。 「不知火くん!」 振り返ると高嶺さんは階段の踊り場から僕を見上げていた。 「…やっぱり少しお話しできないかな?」 「僕で良ければ、よろこんで」 「ありがとう不知火くん」 彼女は再び踵を返し、今度は僕の方へ登ってきた。 彼女が近づいたところで僕も今度こそと屋上の扉を開ける。 扉を開けたその先に踏み入れると、夕日と風が僕を貫いた。 「ごめんね不知火くん、付き合わせちゃって」 「別に平気さ。僕も小説の方が行き詰まっててね、気分転換したかったところなんだ」 「そっかぁ」 寂しい笑顔を浮かべながら高嶺さんは屋上のフェンスまで歩いていく。 507 名前:高嶺の花と放課後 第7話[sage] 投稿日:2018/05/29(火) 20 07 38 ID UMKn57Ho [6/12] 「…あのね不知火くん。今日…さ、そのまたラブレターをもらったんだけどね。…実はそれは偽物で他クラスの女子達のいたずらだったの」 「…それは、ひどいね」 「手紙に書いてあった通りここに来たらその女子グループがいてね。私を見てなんて言ったと思う?」 今にも泣き出しそうな顔でこちらに問いかける。 そんな顔で聞かれたら何も答えられるわけがないじゃあないか。 「…『本当に来やがった。ちょっとモテるからって調子乗るな』って嘲笑いながら言ってきたの」 「…」 気の利いた言葉をきかせたいのにそいつは一向に僕の口から出てくる様子がない。 「でも別にそれがつらくて泣いてたんじゃないの。…不知火くん。私さ、たまに人から『優しいね』って言われるけどそれは違うの。今日みたいな悪意を向けられたくなくて仕方なく優しい『フリ』をしてるの!私は本当はそういう自分勝手な子なの!今までこういうことのないようにいい顔無理矢理作ってきたのに結局こうなって…」 無理矢理押し込めた感情が爆発し止め処なく僕へと流れ込んでくる。 僕の知らないところで彼女はこんなにも苦しんでいたのか。 「…誰だって自分が一番可愛いと思うのが普通なんじゃあないかな。情けは人の為ならずって言うだろう?だからさ、高嶺さんは間違ってないと思うよ」 「…間違ってない、かぁ。そう言ってもらえるだけでも大分心が楽になるなぁ」 「時々僕らに降りかかる理不尽は黙って飲み込むしかないよ。飲み込みきれなかったらその時は吐き出せばいいさ」 「吐き出す…ね」 彼女はそう呟くとフェンスの方へ向き直し、大きく息を吸った。 「私は!モテたくてモテてるんじゃなーい!!!」 彼女の本心が咆哮される。 508 名前:高嶺の花と放課後 第7話[sage] 投稿日:2018/05/29(火) 20 08 31 ID UMKn57Ho [7/12] 「はぁ…すっきりしたっ」 「聞く人が聞くと嫌味を覚えそうな台詞だね」 「不知火くんは嫌味を覚えた?」 「いや僕は別に…」 「ふふ…ならいいやっ。好意を寄せられること自体は私も嬉しいし。でもやっぱり初めてお付き合いする人は自分から告白したいなぁ」 「え?高嶺さんまだ誰とも付き合ったことないのかい?」 「そうだよー。なかなか良い人がいなくてねぇ 」 今まで何人もの男たちがこの高嶺の花に手を伸ばしてきたというのに、この花は未だ一人咲き誇っているというのか。 いやしかし、夏休み前の告白の時には好きな人がいるって発言してたけどそれはどうなんだ? 分からない。 「意外だった?」 「ああそうだね」 クスリと一つ彼女は笑みを浮かべる。 「そうだ、不知火くんも何か叫びたいことないの?」 「ははは、それは無いかな」 嘘だ。秘めている叫びたい想いはあるが臆病者の僕は今この時に吐き出すなんてことは到底できるはずがあるまい。 「えー?嘘だぁ」 すっかりばれている。 「本当にないよ」 余裕のない余裕なフリ。 一体どこまで見抜かれているのか分かったものではない。 「まぁ不知火くんがそう言うならそういうことにしてあげる」 悩みを話す側の方がよっぽど余裕がある、なんとも情けない話だ。 まだまだ残暑が続く日々とはいえ、黄昏時にもなれば涼しさを覚えてくる頃になってきた。 風の強いこの屋上では肌寒さも覚えた。 「少し冷えてきたね。そろそろ校舎の中に戻ろうか」 「あっ…」 「どうしたんだい?」 「し、不知火くん。も、もう戻るの?」 「ん?あぁ、僕も風を浴びたら気分転換できたからね」 「あ、あのさ不知火くん。話があるんだけど…」 「話?他にも何か悩み事でもあるのかい?」 「悩みっていうか、ううん。やっぱりなんでもない!忘れてっ」 歯に肉が詰まったような気になるような感じが僕の感情を支配する。 「…なんでもないのならそれでいいんだけれども」 しかし臆病者の僕は彼女に対して自分から掘り下げていく勇気なんてこれっぽっちもなかった。 「私はもう少しここで落ち着いてから帰るね」 「そっか。風邪ひかないようにね」 「ありがとう不知火くん。またね」 屋上の扉を開け校舎の中へ戻る。 扉の閉まる音が校舎の中に響き渡った時、僕は一度振り返る。 そんなことをしても意味はなく、なぜそんなことをしたのかもわからなかった。 体を向き直し階段を下っていき踊り場に足を踏み入れた時、僕はもう一度振り返る。 一度目と変わらない景色がただそこにあっただけだった。 509 名前:高嶺の花と放課後 第7話[sage] 投稿日:2018/05/29(火) 20 10 43 ID UMKn57Ho [8/12] ーーーーーーーーー ーーーーーーー ーーーーー ーーー ー 高校2年 10月 窓からは茜色の光が差し込み、校庭からは何やら掛け声を出している陸上部やサッカー部、校内からは各々の練習に励む吹奏楽部の演奏が聞こえてくる放課後。 帰路につく者、部活動に励む者、委員会に勤しむ者にそれぞれ別れたその教室には僕一人において誰一人いなかった。 様々なところから聞こえて来る音のなかで微かにノートに鉛筆を滑らせる音を教室内に響かせる。 一息つけ鉛筆を置く。 ふと斜め前方の先の席を見ると鞄が一つ机に乗ってるのが見える。 「今日も…か」 それを見てこの後起きるであろう出来事が容易に想像できて、思わず呟く。 いや、集中しよう。そう思い再び筆を走らせる。 そうしてどれほど時間が経ったであろうか。5分、10分あるいは1分も経ってないかもしれない。不意に肩をトントン、と叩かれた。来るとわかってても心の臓は悲鳴をあげ、叩かれた肩を跳ね上げてしまった。 振り返る。 そこには教室に差し込む夕陽と相まって美しく映る少女が笑顔でヒラヒラと手を振っていた。 「ごめんね不知火くん。驚かせちゃった?」 「そりゃあもう、高嶺さん。わざとかい?」 「半分、ね」 クスリと笑い悪戯な表情を浮かべる。 「今日も小説書いてたの?」 「答えるまでもないよ。ところでそういう高嶺さんこそ今日も告白かな?」 「答えるまでもないよ」 やや変な口調で彼女は先の自分の台詞と同じ言葉を述べた。 「もしかして真似してる?僕のこと」 「うん、似てた?」 「全然。もう少し練習しないとダメだよ」 「そっか。じゃあもっと不知火くんとお喋りして研究する必要があるねっ」 こういったことを平気な顔して言ってくるところが苦手なんだよなぁ。 そんなことはおくびにもださない。 ただこのままだと気まずくなるので話題を無理矢理変える。 「ところで今日の告白は受けた?」 「ううん。断ったよ」 「そんなにいないもの?いいなぁって想う人」 「そうだねー。でも前にも話したけど私初めて付き合う人は好きになった人に自分から告白するって決めてるからさ」 「高嶺さんてロマンチストだよね。いまだに誰とも付き合ってないというのが信じられないよ」 「なにそれ。私が尻軽女に見えるとでもいいたいのっ?」 わざとらしく頬を膨らませ怒りの感情をこちらに向けてくる。 「いやいや、そこまでは言ってないけどさ。でも高嶺さんほどモテるなら優しい人やかっこいい人なんて選り取り見取りじゃあないか」 「優しい人やかっこいい人ねぇ…。不知火くん私ね。運命の赤い糸って信じてるの。世の中には優しい人、かっこいい人なんていくらでもいるでしょ?でもその中でたった1人自分の相手を選ぶってことはかっこいいだとか優しいとかの測れるものだけじゃなくてなにか自分にしっくりくる人がいると思うの。それが運命の人。そして私はその人と添い遂げたいの」 「やっぱりロマンチストだ」 「茶化さないでよ。案外恥ずかしいんだよ?」 それに、と彼女は付け足す。 「この貞操観念話したの不知火くんがはじめてなんだからね」 「わかったよ。言いふらさないから安心して」 ーーーー運命。 運命か。 運命というと僕こと不知火 遍(しらぬい あまね)がこうやって高嶺 華(たかみね はな)と今この時会話しているのも運命なんだろうか。 方や見る人を魅了してやまない美少女、方や存在感のない冴えない文学少年。 今まで歩んできた道もこれから歩む道も全く違うであろうこの2人の道が今この瞬間交わってるのは運命なんだろうか。 「そういえばーーーーー」 この関係が始まったのいつだったろうか。僕は過去の記憶にさかのぼることにした。 510 名前:高嶺の花と放課後 第7話[sage] 投稿日:2018/05/29(火) 20 12 27 ID UMKn57Ho [9/12] ーーーーーーーーー ーーーーーーー ーーーーー ーーー ー 「ーーーくん、不知火くん!」 「うわっ」 「うわっ、じゃないよ。急に黙り込んだと思ったら物思いにふけてさ。私まだ話の途中だったんだけどー」 可愛らしく頬を膨らませ、僕に対しての怒りを露わにしている。 「あ、ああごめん。高嶺さんが運命だって言うからさ、僕と高嶺さんの縁も運命なのかなって思い返してみていたんだよ」 「やっぱり不知火くん、私の考えを茶化してるでしょう」 「茶化してなんかないってば」 「で…さぁ、お話の続きなんだけど…。いいかな?」 先ほどの表情とはうって変わり非常に真剣な表情になり僕も少し緊張が走る。 「もちろん構わないさ」 えっと、と彼女は口にし一度ため息をしてから深呼吸をした。 「私ね、その…今日本当は…告白なんて受けてないんだぁ…」 「えっ?」 「あっ、いや違うの!告白の呼び出し自体が無かったってことで告白を無視したとかそういうことじゃないからっ」 まさか告白の呼び出しを無碍にしたのかと思案したがそんなことは無かったようで安心する。 「あぁなんだ、そういうことかい。それで話ってなんだい?」 今度は俯く高嶺さん。恐る恐るといった様子で口を開いた。 「あー、その…さ。私今欲しくてたまらないものがあるの。ずっと前から欲しかったらしいんだけど覚し始めたのは割と最近のことなんだぁ。…自覚してからは欲しいって気持ちがどんどん強くなってもう私我慢できなくなってきて、でも失うのが怖くて…」 肝心な話が少し比喩的な話し方で核が見えてこない。 「えっ…と、もう少しわかりやすく話してくれると助かるんだけども」 「あはは…、告白ってする側はこんなに勇気のいるものなんだね…」 彼女は今一度背筋を直し僕へ改めて向き合う。 「単刀直入に言うと私が欲しいのはね君だよ、不知火くん。だからぁ、…その、私とさぁ…、付き合ってくれない…かなぁ」 普段の姿からは想像もつかない全く余裕のない高嶺さん。 というか、彼女は今なんて言ったんだ? 「今日告白しよう…って決めていたんだけど…なかなか勇気が、その出なくて。ラブレターも10通くらい書いたんだけどどれもなんだか微妙で。あーだこーだしてるうちに放課後だし…」 付き合って欲しい? 「その…付き合って欲しいってのは男女のお付き合いひいては結婚を前提としたお付き合いなんだけど…」 誰と? 「黙ってないでなにか…言って、欲しいんだけど…なぁ」 僕が? 「ねぇなんで…黙っているの?………、!そんな、まさか!?」 まさか 頭が真っ白になり返答に詰まっていると彼女は両手で僕のそれぞれの手首を掴み押し倒してきた。 机や椅子に身体中をぶつけ鈍痛が全身を走る。 511 名前:高嶺の花と放課後 第7話[sage] 投稿日:2018/05/29(火) 20 14 38 ID UMKn57Ho [10/12] 「わ、わわ、私こうみえて家庭的なんだ!料理とかすごく得意というか未来の旦那さんを想像しながら練習いっぱいしたんだよ?ほら旦那さんの心を掴むならまず胃袋からって言うでしょ!?付き合ってくれたらいっぱいいーっぱい美味しいもの食べさせてあげるし!そうだ!!今度不知火くんにお弁当作ってきてあげる!好きなものと嫌いなもの教えてくれると助かるな!結構料理の腕には自信があるからただ美味しいものだけじゃなくて栄養バランスを考えた不知火くんの体にも気を遣えた料理作れるよ!それに私不知火くんの好みになれるようにどんな努力も惜しまないつもりだよ?この顔が気に入らないなら気に入るまで整形する!目?鼻?口?それとも全部?遠慮なく言ってねなんでもなおすから。癖や性格も不知火くんの好みに絶対になる!それに献身的でもあるの私!結婚したら毎日掃除洗濯炊事してそばで支えてあげる!私運命の旦那さんのお嫁さんになるのが夢なの!だから安心して!あ、でももし不知火くんが主夫をやりたいってことなら私身を粉にして働くよ!たくさん尽くしてあげるしなぁんでもゆーこときぃてあげる。だから!!!付き合ってくださいお願いしますから!!!」 「い、いたいよ高嶺さん」 僕の手首は狂っているとも言える高嶺さんの異常な握力でへし折れそうになっていた。 「そんなこときぃてない!!!付き合ってくれますか?はい?イエス?どっち!!!!????」 「分かった、分かったから!付き合うよ!だから手を緩めて!」 付き合う、僕のその言葉を聞くと彼女はかっと目を見開き僕にすごい勢いで唇を押し付けてきた。 「んっ!??」 「ンハァ、好き、チュ、好き、ンチュ、愛してる。ハァハァ、ずっとこうしたかった。チュ、ひどいよひらぬいくん、ハァ、ンチュ、わらひに、ハァ、ここまでが、まんはへる、ハァ、なんて」 僕の後頭部を両手でしっかり捉えこれ以上ないくらい固く固定されている。 どのくらいの時間僕の唇を貪っていたであろうか、両の手を緩め僕の唇からようやく離れ、僕に馬乗りの形になるように上体を起こす。 二人の唇の間から銀の糸を引かれ、それが夕陽で艶めかしく光る。 「はぁぁぁ、幸せぇ」 頬に手を添え恍惚な表情を浮かべている高嶺さん。 「分からない…なぜ高嶺さんがいつから僕なんかを…」 僕がそう言うと高嶺さんは上体を倒し今度は覆い被さる形となりそのしなやかな両腕、いや両腕だけでなく両脚も僕の体に蔓のように絡みついた。 そしてそっと耳元に口を近づけ囁いた。 512 名前:高嶺の花と放課後 第7話[sage] 投稿日:2018/05/29(火) 20 15 52 ID UMKn57Ho [11/12] 「『なんか』なんて言わないでぇ…。不知火くんはぁ、良いところいっぱいあるんだから。いつからっていうのは私もわかんない。でも初めて話した時から私は不知火くんには他の人とは違う何かを感じていたよ」 直接伝わってくる女性特有の柔らかさに血流が加速するのを感じざるを得ない。 「でもこの気持ちをはっきり自覚し始めたのはあの夏祭りの日だよ。不知火くんに妹の…綾音ちゃんだっけ?あんなカップル同然みたいな腕の組み方を見せられて勘違いしちゃったよ。正直あの時綾音ちゃんを殺したいほど憎くて仕方がなかったわ。もし彼女だったら殺してたかもね…ふふ。あの場面を見て、不知火くんは私のモノだ!って体が、心が、魂がそう叫んでたんだぁ。まぁでもその時は不知火くんは私はモノじゃなかったけどね。でもこれからは私のモノ。やっぱり不知火くんと私には運命の赤い糸が繋がってるんだよ」 徐々に彼女の四肢が僕の体を締め付けて行く。 「ほんとのほんとのほんとの本当に私の彼氏になってくれるんだよね?あぁぁはぁ嬉しいなぁ。あっそうだ、せっかくカップルになったんだから下の名前で呼び合おうよ。ね、遍?私の名前、言ってみてよ」 「えっと…は、華さん…、…!」 僕が彼女の望むままの台詞を口にしたら途端にその両腕で首を絞められた。 「違うでしょ?『華』でしょ?遍は他人の事敬称つけて呼ぶ癖あるよね。私と遍はもうカップルなんだよ?私はあなたの彼女なんだよ?他人じゃないんだよ?運命の伴侶なんだよ?だったら正しい呼び方があるんじゃないの?ねぇ?はやく。はやく!」 苦しい、息ができない、まるで彼女の想いに溺れているようだ。 「は、華」 「はーい、華だよぉ」 首を絞めていた同じ人物とは思えないような甘えた態度で頬で胸を擽る。 いつまで経っても頭と心の整理がつかない。 そんな僕の頬に彼女はそっと口づけふたたび起き上がる。 「そうとなれば早速明日にでもみんなに私の彼氏って遍を紹介しなきゃ」 紹介?誰に?いやまてよ 「た、高嶺さん。ちょっとまって!」 「高嶺さんって誰かなぁ??その呼び方ほんとに嫌だからやめてくれないかな?」 再び僕の喉元へ手を伸ばす。 「ご、ごめん華!それよりみんなに紹介ってのはできればやめて欲しいのだけれども…」 「は?なんで?」 仮に僕と彼女が付き合ってるなんて噂が出回ればどんなことになるかは想像に難くない。 「華はその…ほら可愛いからさ、その彼氏ってなると目立つから僕としては困るというか…」 高嶺の花を射止めたとなればたくさんの男子生徒からやっかみを受けてしまうのは明瞭であろう。 しかし僕のそんな理由も聞きやしないうちに『可愛い』という言葉を聞き入れた途端、彼女は自分の頬に両手を当て顔を赤くする 「え、可愛い?えへへ、ありがとっ。遍もかっこいーよっ。大好き!」 「あ、うん。それでみんなに内緒にしてほしい件なんだけれども…」 「へ?うん、いーよいーよ!内緒にしたげるっ!でも…放課後は我慢できないよ?」 「う、うん。放課後その、いつも通りでいいから」 「いつも通りぃ?違うでしょ?これからはいつも以上だよ。だって…」 この子は一体誰なのだろうか。 「私達は運命の恋人なんだから」 自分が今どんな気持ちを抱いているのかすら全く分からなくなっていたがただ一つ言えるのは、僕が彼女に惚れていたという感情なんてこの時すっかり忘れていたということだった。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2311.html
929 名前:狂宴高校の怪 第11話(強襲編)[sage] 投稿日:2011/07/01(金) 22 16 25 ID 7pZXR1rY [7/10] ―――――――――― あれれ?何で?私は処女だよ?普通なら挿入したら血が出ちゃうはずだよ?痛いって皆から聞いたよ?最初はきつくて中々入っていかないらしいけど、するすると入っていくよ? どうして?私の体なのに分からない。私の体じゃないみたい。 何で? 「何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?」 声に出しても分からないよ。私の体は私のもの?なのに分からない?じゃあ誰のもの? いくら動いても痛くないよ?はじめてなのに、はじめて・・・なの・・・に? あれ? 「こ・・・ま・・・ちゃお・・・ぜ。」 「てき・・・まわし・・・ぜ。」 「おい・・・こい・・・」 「処女だぜ?」 「マジで!ウヒョー!はじめていただきー!」 「アアアアアァァァァァ!!!!!」 挿入されたことで強制的に呼び戻される過去の記憶。 やめて!せっかく忘れていたのに!呼び戻さないで!私を狂わせないで!これ以上狂わせないで! ―――――――――― キーンコーンカーンコーン。 チャイムが響き渡る。一人の少女が狂気の過去をめぐる。 930 名前:狂宴高校の怪 第11話(強襲編)[sage] 投稿日:2011/07/01(金) 22 17 30 ID 7pZXR1rY [8/10] ―――――――――― 「じゃあまた明日ね。」 四年前、私は引っ越したばかりの新天地に慣れないでいた。新しくできた友達と別れた後は、手探りで家を探す。家が近くにあるのはわかるんだけど、中々帰れないでいた。 「えっと・・・。この辺りだったかな・・・?」 全然分からない。どうしようかな、とりあえず家に連絡してみようかな。 ん?私の後ろに人がいる?この辺りは人が少ないから、人の足音が普通より聞こえてくる。 あれ?足音が速くな・・・。 「ん・・・。」 頭が痛い・・・。道を歩いていたら、急に目の前が真っ暗になった。 とりあえず起き上がろうかな。力を加える。しかし・・・。 「お嬢ちゃん、こんな時間に一人で歩いてたら危険だよ?」 誰?このおじさんは・・・。ふと周りを見渡すと、このおじさん以外にも二人ぐらいいる。向こうからまた三人やって来た?合計で六人? 「おじちゃん達が夜の怖さってやつを女の快感と一緒に教えてあげるよ。ヒヒヒヒヒ!」 どういうこと?何を言ってるの?何でおじさん達は私の前でズボンを脱ぐの?何で私の手を掴んで・・・私のスカートを脱がすの? 「いやぁ!誰か助け」 「おいお前!口に突っ込んで叫べなくしろ!」 ぐぼぁ!見ず知らずのおじさんのが私の口に無理矢理!吐き出したいけど吐き出せない!誰か助けて! 「いけね!ローション忘れちまった!仕方ねぇ、いきなりいくか!」 え?嘘!?はじめてなのに!はじめてなのにぃぃぃ!!! ズボッ! 「ん”ん”ん”ん”ん”ーーーーー!!!!!」 痛い!すごい痛い!誰か助けて!助けて! 「おぉ、すげぇきつい・・・。」 「おい!速くしろよ!」 いやぁ!やだ!はじめてがこんなのなんて嫌だ!!! 私ははじめてを捧げたい人がいたのに! 助けて!助けて!―――! あれ?何で?心に決めた私の好きな人、一生隣にいようと決めた私の大好きな人! 何で?何で名前が出てこないの? 「―――!―――!―――!」 いくら叫ぼうが、声は意味を持たない。彼の顔が、名前が出てこない! 「だいじょうぶ!くどになにかあったら!ぼくがまもるから!」 幼少期に一緒に遊んでいた幼馴染み。ずっと好きだった彼。彼に想いを伝えられないまま、私は転校してしまった。 その彼の名が言えない!守ってほしい!私を助けて!お願い!助けに来て!―――!―――!―――! 「うは!もう出そう!なかに出しちゃおっと!」 いやぁ!―――!助けて! 気づけば私は、近くの公園に倒れていた。私の下半身は、ぐしゃぐしゃになっていた。 ・・・私は泣いた。泣くしか出来なかった。私は彼に励まして欲しかった。あの時みたいに私を抱いて、励まして欲しかった。 今となっては名前も、声も、顔も、言葉も思い出せない。 私は激しく泣いた。記憶に残るか残らないかのみの存在となった彼にすがるように。 931 名前:狂宴高校の怪 第11話(強襲編)[sage] 投稿日:2011/07/01(金) 22 18 37 ID 7pZXR1rY [9/10] ―――――――――― 「そっか、私、処女じゃなかったんだ・・・。」 記憶がよみがえった。忘れていた四年前の記憶、失われし狂気の記憶。 「あは、あはは、あはははははははは!!!」 笑いが込み上げてきた!もう私は彼を愛せない!絶望が波、いや、津波となって襲いかかる! 「クドさん・・・。」 ナオさん?何で泣いてるの? ―――――――――― 「クドさんの辛い気持ち・・・すごくわかります・・・。でもクドさん、あなたがやっていること、それも変わらないのではないのでしょうか?あなたは無理矢理コイル君を拘束した。」 「うるさい!あんたなんかに私の気持ちがわかるか!」 私はクドさんの思いは分からない。でも、私は彼女の気持ちは分かる。 クドさんの今の気持ちが分かる。クドさんは心のよりどころが欲しかったのだろう。それがコイル君だ。 「あなたがやっていることは、あなたに狂気を植え込んだ人達と変わりありません!」 いつのまにか、私の目からは涙が流れていた。自分でも止められないほどに流れる涙。 「クド・・・。」 コイル君? ―――――――――― コイル君の目が涙目に?私のために泣いてくれてるの? 「クドなりに辛い思いをしたんだろう。でも、それを俺達で共有すればお前も苦しまずに済む。クドが苦しむ時、俺達も一緒に苦しむよ。 大丈夫。クドに何かあったら、俺が守るから。」 言葉の一つ一つが心を洗い流すかのようだ。 私は今、コイル君に抱かれている。暖かい、この暖かさ、私の心を優しく包み込む。 「先の未来は誰にも分からないだろ?クド、お前が想い続ければきっと想いは届く。それが俺でも・・・な。」 「うん・・・うん!」 私は彼に抱かれて泣いた。彼の胸の中が一番落ち着く。 「さ、学校行くぞ。夕方から発表部門の練習だ。」 「うん!」 私は彼におんぶしてもらった。背中で私はまた泣いた。でも、あの時の涙とは違う。優しく、暖かい涙。 彼は私の涙をずっと背中で受けてくれた。 私は、そんな彼に懐かしさを覚えた。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1908.html
225 :現物支給 ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/10(日) 05 15 21 ID Og/MI9J0 日本国高校生、朝霧陣氏(あさぎり じんし)は夏休みを利用し、ヨーロッパのとある王国に1人旅行に出かけた。 そして、そこで軍事クーデターに巻き込まれた。 「うひー」 道端に伏せて飛び交う銃弾をかわしながら、匍匐(ほふく)前進でアメリカ大使館を目指す。 こういうとき、日本の大使館は、透明なビニールでできた日傘ぐらい、役に立たない。 移動の途中、不意に、どちらの陣営か不明だが、兵士に遭遇した。 「ぎゃお!」 慌てて立ち上がって格闘に持ち込み、殴り倒してバズーカ砲を奪った。 ――素手よりはマシか。それとも、返って狙われやすくなるかな? そんな風に考えたとき、突如、目の前に戦車が現れた。砲口がこちらを向いている。 「キャイン!」 驚愕した陣氏がバズーカ砲を発砲したのと、戦車砲が火を吹いたのは同時だった。 爆風を受け、陣氏は気を失った。 気が付くと、病院のベッドの上だった。 体の節々が痛い。 ――これがいわゆる、やっちまった系って奴かな…… しばらくすると、病室にスーツを来た男が現れた。流暢な日本語で陣氏に話し始める。 「私、新政権外務省の者です。このたびは観光客のあなたに怪我を負わせてしまい、お詫びのしようもありません」 新政権ということは、クーデターを起こした側が勝ったということか。 それはさておき、陣氏はその外交官に返事をした。 「どうということは、ないです」 「新政権は、日本との関係を重視しておりまして……そのことからも、あなたには十分な補償をさせていただきます」 「は……それはそれは」 随分良心的な政権だな、と陣氏は思った。普通こういうとき、補償なんか出ないだろう。 「しかしながら……新政権はかなりの財政難でして。現物支給という形にさせていただきたいのですが」 「現物……ですか?」 一体何でくれるのだろうか。鉄砲とかだったら困るなと陣氏は思った。 「こちらになります。おい、入れ」 外交官が言うと、1人の少女が部屋に入ってきた。 背はかなり高く、色白で、髪は金色のツインテール。 高級そうなドレスを着ている。ウエストはくびれ、胸は爆発しそうなほど、大きく張り出していた。 「誰……?」 状況を理解できない陣氏が固まっていると、外交官が説明を始めた。 「この女は、以前に国を支配していた国王の娘です。父親の国王はあまりに悪政を働くので、我々がクーデターを起こして政権を奪ったのですが……」 「ほー。この国じゃ、ろくでもない政治家は排除されるのか。羨ましい限りだな」 「……王族のほとんどが逃亡し、この女だけが我々の捕縛するところとなったわけです」 「なるほどね」 226 :現物支給 ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/10(日) 05 15 59 ID Og/MI9J0 縛られた王女は、じっと陣氏の方を見ていた。話を聞く限り、相当悲惨な状況のはずだが、特別悲哀を感じさせる表情でもなく、むしろ尊大に見えると陣氏は感じた。 「で、この王女様と自分と、どういう関係が?」 「はい。この女を、あなたに奴隷として現物支給します」 「え!?」 陣氏は、我が耳を疑った。そんな馬鹿な話があるか。 「ご冗談を……」 「冗談ではありません」 答えたのは、王女の方だった。これまた見事な日本語だ。 「お初にお目にかかります。フェルデリアと申します」 「ど、どうも。朝霧陣氏です。しかし……」 「あなたへの補償をどうするか、この者共が困っていたので、わたくしを奴隷として提供するよう、命じました。王族として大変に不本意ではありますが、父の悪政に対する、せめてもの償いです」 そう言って、フェルデリアは外交官を見た。依然として自分が王女だという認識を持っているらしい。 「そういう訳で、陣氏様。わたくしを奴隷にしていただきます。よろしいですね?」 「いや……」 さすがに陣氏はためらった。このご時世に奴隷など、あまりに常識から外れている。 「日本では、奴隷制度は認められていませんので……」 「我が国でも、認めていません。それが何か?」 フェルデリアは、傲然と陣氏を見下ろして言った。あくまで拒否を許さない、威厳を感じさせる態度である。 「……分かりました」 この場で説得するのは無理だ。陣氏はとうとう降参した。 ひとまず受け入れておいて、日本に帰ったら、速攻で解放してしまえばよい。 「貴国からの補償として、受け入れましょう」 「恐れ入ります。ではこれにて」 外交官は、疾風のように退出していった。 後には、陣氏とフェルデリアが残される。 「では、陣氏様。これからは屈辱に耐えて、あなたをご主人様とお呼びします」 「その必要はない」 「と、言いますと?」 「日本に着いたら、すぐに解放してやる。どこへでも、好きなところに行けばいいさ」 「何ですって?」 「だから、日本に着いたら……」 「わたくしなど、奴隷にするにも値しないとおっしゃるのですか?」 「え、いや、そういうことでは……」 「王族のわたくしを、侮辱するのですね」 奴隷にする方が、よっぽど侮辱なんじゃないのか。 陣氏がそう言おうとしたとき、フェルデリアは床にうずくまって泣き始めた。 「悔しい……反逆者共の虜囚になったかと思えば、異国の男に奴隷の価値もないと言われ……」 227 :現物支給 ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/10(日) 05 16 35 ID Og/MI9J0 女性を泣かせたままにしておくのはよくない。陣氏は慰めにかかるしかなかった。 「価値はあるよ。だから泣かないで」 「本当、ですか……」 フェルデリアはゆらりと立ち上がり、陣氏の顔を覗き込んだ。 「本当だよ」 「では、陣氏様は嫌がるわたくしを無理やりに服従させ、奴隷としての辱めを与えるとおっしゃるのですね?」 「…………」 陣氏は否定したかったが、そうした場合、またフェルデリアがゴネ出す予感がした。 「ま、まあ、それに近い感じがしなくもないという方向も視野に入れることを検討……」 「ああ、何という運命でしょう。王女たるわたくしが、異国の庶民の奴隷に……」 もう好きにしてくれ。陣氏は毛布をかぶって寝込んだ。 そんなこんなで数日後。 陣氏とフェルデリアは、飛行機に乗って日本に到着した。 陣氏としては、途中でフェルデリアが逃亡することを期待していたのだが、結局彼女は逃げ出さなかった。 フェルデリアに多額の現金を入れた鞄を持たせ、「ちょっと行ってくる。ああ、今逃げられたら捕まえるのは無理だなあ」とか言って彼女を1人にしたりしたのだが、何時間陣氏が陰から見ていても、フェルデリアは一歩も動かなかった。 仕方なく陣氏が戻ると、 「ご主人様。おトイレに行かせてください」 と、いきなり言いだす。 「そんなの俺に断らないで、自由に行けばいいだろ」 「奴隷の排泄の管理は、ご主人様の義務ですよ。そんなこともご存じないのですか?」 一事が万事、この調子だった。 道中、飛行機に乗ってからも降りた後も、2人は周囲の注目を浴びっぱなしだった。 豪奢なドレスに身を包んだ絶世の美少女が、一般の少年観光客と一緒にいるのだから、無理もない。 そういう訳で、自分の家に到着したとき、陣氏はようやくほっとした。鍵を開ける。 「ここが俺の家だ。とりあえず入ってくれ」 「とりあえず、とは何ですか? わたくしは一生、ご主人様にここで飼われるのではないのですか?」 「……入ってくれ」 「それと、いつになったら命令口調になるのですか? ご主人様の自覚を持ってください」 「……入れ」 「はい。ご主人様。ここがわたくしの、終生の牢獄となるのですね」 「…………」 陣氏の家族は、単身赴任やら何やらで、全員家を空けている。今住んでいるのは、陣氏1人だ。 そのため、フェルデリアを連れて入っても問題にはならない。その点は陣氏にとって幸運だった。 しかし、中に入ってドアを閉めると、フェルデリアは奥に入ろうとしなかった。 「どうした? 入れよ。あ、あっちとは家の構造が違うから戸惑ってるのか? こっちでは、靴を脱いで上がるんだよ」 「そんなこと、とうに存じています。ご命令はまだですか?」 「だから、入れって……」 「違います。少なくとも屋内では、奴隷は全裸か、もしくはそれに準ずる格好にするのが常識です。それに、首輪はどうしたのですか?」 「……服は脱げ。首輪は……後で用意します」 陣氏の台詞の最後の方は、消え入りそうな声だった。 228 :現物支給 ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/10(日) 05 17 06 ID Og/MI9J0 「かしこまりました。ご主人様」 フェルデリアは、ドレスと下着を脱ぎ捨てた。巨大なスイカのような乳房は、両手で隠している。 「よし」 ようやく奥へ入れる。そう陣氏が思ったとき、またフェルデリアから駄目出しが入った。 「ご主人様、奴隷が身の程知らずにも胸を隠していますよ。何か言うことがあるのではありませんか?」 「……手をどけろ」 「申し訳ありませんでした。ご主人様」 フェルデリアは乳房を露出した。 「ふへー」 居間のソファーに座りこんだ陣氏は、これからどうしたものかと考えた。 1人だったら、風呂にでも入って旅の疲れを癒したいところだが、この状況ではそうも行かない。 目の前には、全裸のフェルデリアが立っている。 「その辺に……」 適当に座れ、と陣氏は言おうとした。ところがその前に、フェルデリアは陣氏に背を向け、壁に手をつく。 「ついに、このときが来たのですね」 「……何が?」 「わたくしの秘所にその醜怪な肉棒をねじ込み、純潔を散らし、生涯の忠誠を誓わせようと言うのでしょう。分かっています」 「いや、特にそういった予定は……」 「服を1枚残らず剥ぎ取られ、あられもない姿勢を強要され、肉棒に犯されながら人としての尊厳を全て破棄する宣言をさせられるのですね。覚悟はできています」 「聞けよ」 「ですが、これだけは言っておきます。極限まで肉体を蹂躙され、いかなる屈辱的な言葉を口にさせられても……」 「させられても?」 「わたくしの心は、あなたの思うままにはなりません」 「今実感してるよ!」 陣氏はとうとう、叫び出してしまった。 229 :現物支給 ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/10(日) 05 17 45 ID Og/MI9J0 「わたくしの肉体はご主人様に凌辱されても、心までは譲りません。それが王族としての誇りです」 「……さいですか」 「その証拠に、ご主人様がどんなにわたくしを犯しても、わたくしは一切の快感を感じないでしょう」 「そ、そうなの?」 「当然です。真にわたくしの主にふさわしい方ならともかく、そうでない者と性交して、快楽を覚えるはずがありません」 「じゃ、じゃあ」 陣氏はにわかに希望を感じ、フェルデリアに問いかけてみた。 「俺が君とセックスして、君が全然気持ちよくならなかったら、俺は君の主人にふさわしくないってことだよね?」 「はい。全くその通りです」 「じゃあ試してみよう。もし俺が君を感じさせることができなかったら、君を解放するということで」 「いいでしょう」 よかった。陣氏は胸を撫で下ろした。 フェルデリアの処女を奪うのは気が引けるが、これで彼女を自由にできる。 万事解決、とまでは言えないかも知れないが、いい方向に事態は向かうだろう。 「やるぞ。いいか?」 「駄目です。きちんとご命令ください。犯してやるからマンコを差し出せと」 「…………」 まあいい。どうせこれで最後だ。陣氏は言った。 「これからお前を犯してやる。尻を突き出してマンコを出せ」 「はい。ご主人様」 フェルデリアはむっちりした両足を大きく広げ、豊満なヒップを突き出した。のみならず、片手の指で自らの秘裂を大きく広げる。 「ご主人様、どうぞ……」 「よし」 陣氏はペニスを出した。情けない話だが、フェルデリアの裸を見て勃起していたので、すでに準備OKだ。 「行くぞ……」 陣氏は、右手をフェルデリアの腰に当てると、左手でペニスを支え、フェルデリアの溝に少しずつ差し込んでいった。 途端に、フェルデリアの絶叫が響き渡った。 「ああんっ! 気持ちいいっ! レイプ最高っ!」 全然駄目じゃん。陣氏は全身から力が抜ける心持ちがした。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/836.html
734 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 01 59 20 ID NHfY/dVV きょうわなおくんといっしょにおままごとおしました なおくんがおとおさんでわたしがおかあさんでした おだんごおたべたなおくんわおいしいおいしいといってくれました でもとちゅうでなおくんわほかのおんなのこたちとすべりだいえいってしまいました わたしわひとりでおうちにかえりました なんだかとてもさみしいとおもいました 二年生になったら、なおくんは、そんなにわたしと、あそんでくれなくなりました。 なおくんは、いつもグランドで、みんなとサッカーをしています。 わたしは、はしるのがおそいから、一しょにすると、めいわくだから、とおくでみんなを見ています。 ちかくで、なおくんを、見れないのが、すこしさみしいけど、とてもたのしそうななおくんを見て、わたしも楽しくなりました。 なおくんは、たくさんゴールをいれたので、わたしはうれしくなりました。 今日はなおくんと一緒に夏休みの宿題をしました。わたしの宿題はもう終わっていたので、なおくんにみせてあげました。 なおくんにありがとうと言われると、わたしはとてもとてもうれしくなります。おなかの奥があったかくなります。 ドリルをやった後、一緒にアイスを食べました。あたりが出たのでなおくんにあげたら、またありがとうといってくれました。 明日はなおくんと一緒に宿題の自由研究をします。明日のことを考えるとわたしのおなかがぽかぽかして、なかなか眠れなくなってしまいました。 最近のなおくんは、女子のわたしとはあまり遊んでくれなくなりました。 なおくんはいつも男子たちと一緒にいて、わたしがいくとはずかしいといって仲間はずれにしてしまいます。 でも、ときどきなおくんはわたしを家に呼んでくれるのでさみしくありません。 わたしたちは一緒にゲームをしたり、まんがを読んだりします。なおくんが一人用のゲームをしている姿を見るだけでも、とても楽しいです。 だけど、この前、ベッドの下にあったぼろぼろのまんがを見てたら真っ赤な顔をしたなおくんに怒られてしまいました。 あのまんがはいったいなんだったのでしょうか。 裸の人たちが絡み合ってて、よくわからないせりふがいっぱいあるから、多分なおくんの本棚にあった『バキ』というまんがと同じやつなんだと思います。 735 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 01 00 ID NHfY/dVV 最近、なおくんたちの間ではカードゲームがはやっています。男子たちと公園に集まって、勝負や交換をしているみたいです。 勉強もスポーツも得意ななおくんですが、このゲームはあまり強くないようです。 なおくんが言うには、『レアカード』というのを持っていないからだそうです。 『レアカード』を手に入れるには沢山のカードを買わなきゃいけなくて、なおくんのお小遣いでは足りないらしいです。 だからわたしはなおくんのために今月のお小遣いをはたいてカードを沢山買って、全部なおくんにプレゼントしました。 どうやら、わたしが買ったカードの中になおくんの欲しがっていた『レアカード』があったみたいです。 なおくんはとても嬉しそうな顔をして、わたしにお礼だと言って『ハイパーヨーヨー』というのをくれました。 遊び方がよくわからないけど、なおくんからのプレゼントだと思うとしあわせな気持ちになります。 この『ハイパーヨーヨー』は、わたしの宝物になりました。 わたしとなおくんは中学生になり、一緒に遊ぶとことがほとんど無くなってしまいました。だけれど、初詣での願い事が叶ったのかわたしたちは同じクラスで、さらに席も隣同士になれたので寂しくありません。 授業中なおくんに問題を教えてあげたり、筆談したりして充実した毎日を過ごしています。 でも一つだけ心配事が出来ました。 勉強が出来てスポーツも上手くて歌って踊れるクラスの人気者のなおくんを、恋に憧れる思春期の女の子たちが放っておくはずありません。 先週、三組の和田さんがなおくんに告白したらしいのです。なおくんは断ったと聞きましたが、それでも不安になります。 もしなおくんに彼女ができたら、わたしはいったいどうなるのかと考えると胸がむかむかします。 最近はわたしのまわりの女子どもでさえ、なおくんの趣味は何だとか、好きな食べ物は何だとか探りを入れてくるのです。 もちろんわたしはなおくんに迷惑がかからないよう、プライバシー保護のためデタラメなことを教えますが。 736 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 02 47 ID NHfY/dVV ある日、茶髪の三年生がわたしをトイレに呼び出しました。 大きな音を立てて教室の机を蹴り上げ、ちょっと顔を貸しなさいと怒鳴りつけてきたのです。 わたしはもともと明るい性格では無く、クラスでも目立たない存在です。 なので、まさか上級生に目をつけられるとは思っていませんでした。 この類の呼び出しは明るくて目立つ人間を『チョーシ乗ってるヤツ』だと言いがかりを付けて行うものだと考えていました。 どうしてわたしなんかがと思いましたが、その疑問は彼女の言葉で氷解します。 どうやらこの茶髪の三年生は無謀にもなおくんに告白して玉砕した有象無象の一人らしいです。 そして、自分が断られたのはわたしがなおくんと付き合っているからだと思い込んでこの凶行に走ったみたいです。 もちろんというか残念なことに彼女の言いがかりは全くの事実無根で、わたしはなおくんと付き合っていません。 でも、わたしとなおくんの関係はそう誤解されてもおかしくないのだと考えたら場違いにも頬が緩んでしまいました。 恐ろしいやら嬉しいやらで混乱しているわたしにしびれを切らしたのか、三年生はモップを振りかぶり、二度と見られない面にしてやると叫びます。 わたしはぎゅっと身を縮め、衝撃に備えました。 ですが、襲ってくるであろう痛みは感じません。なんと、なおくんがわたしを庇って立っていたのです。 『間違えて女子便入ったら殴られちまった』と、頬の腫れの理由を笑いながらクラスの皆に話すなおくんをみて、胸がいっぱいになり、わたしのおへその下のあたりがあったかくなりました。 737 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 04 31 ID NHfY/dVV 今日からわたしも高校生です。 もちろんなおくんと一緒の高校ですが、中学生のときとは異なり、違うクラスになってしまいました。 これからは、自然となおくんとの関係が疎遠になっていくでしょう。 わたしの中学校でのなおくんの接点は、たまたま同じクラスにいる幼な馴染みで、他の人間よりか気安いため話す機会が多いといった程度なのですから。 結局のところ、わたしはなおくんの幼馴染でしかないのです。中学校生活を通して友達以上恋人未満という、あやふやな関係のままで何ら進展もなく過ごしてしまったのです。 けれど、わたしはなおくんが好きです。大好きです。愛してます。 同年代の連中の『好き』だというメディアで乱造され叩き売られている薄っぺらな感情ではなく、文字通り『愛して』いるのです。 わたしのこの気持ちは決して憧れや惰性などではありません。 シェイクスピアのジュリエットのように一目惚れなんていう運命論者的な結晶作用でもありません。 わたしはなおくんのためならなんだって出来ます。 なおくんに身体を求められるなら喜んで差し出しますし、死ねと言うのならすぐにでも首を吊って差し上げます。 なおくんの幸福のためなら、なんだってしてあげたいのです。 たとえなおくんが他の女性を愛そうと、それがなおくんにとっての幸せならば、自らの浅ましい恋心をねじ伏せてでも彼に尽くさねばなりません。 それこそがわたしのしあわせなのです。 なおくんにカノジョが出来ました。わたしは祝福してあげなければいけません。それがなおくんを愛するわたしの義務なのです。 なおくんが告白し、了承の返事を返しやがった女は彼と同じクラスの浅井順子さん。 わたし以上の成績、わたし以上の美しさ、わたし以上の社交性をもっている彼女は、なおくんと結ばれるべくして結ばれた女性と言っても過言ではないでしょう。 そうです。なおくんはわたしなんかより、浅井さんと一緒になったほうが幸せなのです。 だから、わたしは彼女に嫉妬してはいけないのです。 どんなに苦しくてもどんなに悲しくても、なおくんの幸福だけを願っていなくてはいけないのです。 なおくんを祝福しなくちゃいけないんです。 おめでとう、なおくん。 738 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 05 54 ID NHfY/dVV くるしいです。かなしいです。だけどわたしは耐えなきゃいけません。 なおくんがしあわせになるためには、わたしはなんでも我慢すると誓ったのですから。 嫉妬なんかしちゃ、なおくんが不快になってしまいます。 わたしは、なおくんが笑っていてくれれば、しあわせなのです。 もう嫌です。もう無理です。 なおくんが嬉しそうにあの女のことを話すたびに、怒りと妬みは胸の内から氾濫してしまいそうになります。 なおくんは残酷です。なおくんはいけない人です。なおくんは優しいです。なおくんが大好きです。 どうしてわたしと一緒にいるときに、浅井の話なんかするんですか。 どうしてわたしの気持ちに気付いてくれないんですか。 あなたの恋人という席には既にあの女が居座っているのに、どうしてわたしに希望を持たせる言葉を言うのですか。 あなたの『好き』という言葉と、わたしの『好き』という言葉の意味は違うのですよ。 なおくん、あなたはそれほどわたしを苦しめたいのですか。 なおくんは、ひどい人です。 なおくんが、結婚することになりました。 お相手、その羨ましく妬ましい女の名は浅井順子。 一週間後には佐伯順子という名になるでしょう。 わたしにもなおくんから式の招待状が届きました。それ以前に直接なおくんから話は聞いていたので、さして驚くことでもありません。 式の際に笑顔でいられるように、今から練習しておきましょう。 涙が止まりません。悲しみを抑えられません。声は上ずったままです。 なおくんがわたしに微笑みます。わたしがうれし泣きしていると誤解して感動しています。 この時だけ、わたしはなおくんを憎んでしまいました。 順子が投げたブーケが、わたしの手の平に落ちます。幸福そうに微笑む順子の口元は、『いい加減あきらめろ』と嘲笑っているように見えました。 なおくんがしあわせなら、わたしはしあわせなんです。 なおくんの相手がわたしじゃなくても、なおくんがしあわせでいてくれれば、わたしは世界一しあわせな女でいられる。 なおくんがほほえんでくれるなら、わたしはなにもいりません。 739 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 07 14 ID NHfY/dVV なおくんの子供が生まれました。とってもかわいい女の子です。 忌々しいことに、目元は順子に似てしまいました。でも、口元はわたしそっくりなので、すこしだけ嬉しくなりました。 おっぱいをあげる順子はとてもしあわせそうだから、わたしもおっぱいが出せるようになりたいなとおもいました。 もちろん、お相手はなおくんですけれどね。 なおくんの娘さんに、妹が出来ました。順子にはあまり似ていない、わたし似の女の子です。 残念ながらわたしはおっぱいが出ないので、順子がおっぱいをあげてます。 かわいいかわいい赤ちゃん。なおくんもとても嬉しそうで、退院したばかりの順子と子供達をつれて、実家に帰ってしましました。 なおくんは家政婦のわたしを置いてきぼりにしちゃいましたが、わたしの愛は揺らぎません。 今日は、今まで生きてきた中で一番しあわせな日でした。 なんと、なおくんがわたしを抱いてくれたのです。 三十四年間護り続けた純潔をなおくんにささげ、とうとうわたしは女になったのです。 下腹部の痛みと異物感は、今まで思い描いていたような夢想では決してありえません。 紛れも無い実体を伴って乱れたシーツに横たわるわたしにその名残を実感させてくれました。 その経緯とは、お酒で酔いつぶれたなおくんわたしにのしかかり、そのまま事に至ったという次第です。 まあ、なおくんが最中に順子の名を叫んでいたのが少々ムカつきましたが。 この既成事実は、ヨーヨーと中学の時の事件に続く、三番目のなおくんからの贈り物です。 このしあわせは、わたしの思い出の中だけに留めておきましょう。 なおくんに純潔を奪われたという事実のおかげで、あと百年は戦えるくらいのエネルギーを補給できましたからね。 なおくんのお情けをいただけたわたしは、とてもしあわせものです。 740 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 09 30 ID NHfY/dVV 愛してます、なおくん。 なおくんの娘さんで、長女の理沙子さまがご結婚されることになりました。 お相手は彼女の幼馴染の男性です。 わたしの望みだったことを娘さんが達成した事実を嬉しいと思う反面、妬ましくも思えます。 本来なら、わたしは彼女と同じように幼馴染のなおくんと結ばれていたはずなのですから。 おっと、いけませんね。わたしと理沙子さまの境遇を重ね合わせるなんて。 今だけは、素直に彼女を祝福してあげましょう。 ただ、妹の恵美子さまのことが気がかりです。 恵美子さまは、理沙子さまの結婚について随分思いつめていらっしゃいます。 もしかしたら、わたしとおなじで……いけません、このような世迷いごとは、愛する人に想いを告げる勇気も無かった女に言う資格は無いでしょうから。 子供の頃、なおくんに頂いたヨーヨーを握り締めます。 なんだかんだいっても、わたしになおくんとの絆はこれしか残らなかったのだと実感します。 とてもやるせない気持ちになりました。 なおくんも、順子さんももうこの世界にはいません。 結局、二人にとって邪魔者であるわたしだけが無駄に長生きしてしまったのは運命の皮肉としか言い様がありませんね。 病室のわたしのベッドの周りには、ついこの間お婆さんになったばかりの恵美子さまと、先日に息子さんが結婚した理沙子さまがおられます。 わたしは彼女たちの乳母のようなものなのでしょうが、身内の居ないわたしに良くしてくれたことは感謝してもし切れません。 二人は涙を流し、わたしの死を嘆き悲しんでくれています。 死を目前にした老嬢のわがままとして、わたしは二人に理不尽とも言える要求をしました。 わたしの遺骨を、なおくんと同じお墓にいれてください、と。 二人は何も言わずに頷きました。どうやら、以前からわたしの想いに気が付いておられたようです。 もしかして、本当はなおくんもこの想いを知っていたのかしらん想像します。 だったら、なおくんはとても残酷な人です。 わたしの想いを知っていながら無視するなんて、よっぽどのサディストじゃなきゃできませんから。 というか、昔からなおくんはいじわるでしたね。 わたしに虫をけしかけていぢめたり、宿題の手伝いをさせたり、えっちしたときなんか、無理矢理だったじゃないですか。 741 :少女の一生 [sage] :2007/09/12(水) 02 10 45 ID NHfY/dVV ――ほんと、なおくんはひどい人です。 せっかく嫌いになろうとがんばってるのに、こうやって、いっつも直前にわたしのまえに現れるんですから。 さ、なおくん。ちゃんと手を握ってくださいよ。今度こそ、離さないでくださいね。 わたしたちは幼馴染なんですから、しっかりと結ばれなきゃいけないんですよ。 どこへ行ったって、ずぅっと一緒に居なきゃ駄目なんですからね。 だいすきです、なおくん――
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2260.html
522 名前:忍と幸人 第六話[] 投稿日:2011/05/19(木) 21 34 29 ID j9.VA8uo [12/17] 6 私と顔を合わせた途端、「また貴女ですか」と言いたげな顔を見せた。案の定ではあるが、この間の件は相当彼には耳障りであったみたいだ。 「偶然だな、針巣さん」 気軽に声を掛けるが、針巣の顔色は晴れない。挨拶を返そうともしないばかりか、さっさと私の眼前から立ち去ろうとするので、それを体で遮る。細くて小さな体躯でこちらを見上げる彼は依然として小心者のそれだった。おどおどとして、唇をぼそぼそと動かすだけで、こちらにはっきりと物を言おうとしない。 「ちょうど良かった、この間の事でまた話をしたいと思っていたんだ。一緒にそこらの喫茶店にでもどうだ?」 あからさまに嫌そうな顔をする針巣は「この後用事があるので、御遠慮します」と身を屈めて脇を通り抜ける。逃がすつもりはないのでその手を強く捕まえ、「そんなに時間は取らせない」と強引に引く。彼としても黙って成すがままにされるのには我慢ならなかったのか、「ちょっと……」と私を突き離そうとしたが、少し彼に顔を向けたらすぐにおとなしくなった。 通りに面した、少し洒落た喫茶店に入り、窓際の席に着く。とりあえずコーヒーを注文して一息吐いてから話を切り出した。 「まだサユキとは関係があるのか?」 彼は顔をしかめて視線をテーブルに落とし、お手拭きを弄りながら「それが何か?」と返事した。 「サユキの事について少し調べてたら色々と分かった事があってな、それを知らせようと思ったんだ」 彼は俯きながらも目だけチラッとこちらを見上げた。 サユキは客の性格を見抜くのが得意な女だ。そいつがこの先有効な寄生先だと見抜くや、その被寄生体の弱みを握って、骨の髄までしゃぶろうとする。搾り取るだけ搾ったら、後はゴミとして捨て、また新しい寄生先を探す。 サユキは金が何よりも大好きな女だ。その大好きな金を一手に巻き上げる事も、あの容姿を以てすれば十分可能な上、体を売っている内に何人かは心も欲する様になってくる事もあの女は知っている。そういった、多くの客の内の一部を食い物にする事であの女は私腹を肥やしてきた。 523 名前:忍と幸人 第六話[] 投稿日:2011/05/19(木) 21 36 53 ID j9.VA8uo [13/17] 勿論、針巣もそういった「食い物」の一人で、日頃の貢物の事を考えればここ最近においては一番のカモだろう。おまけにプレゼントの大部分は売り払ってしまっているというのだから、本当に良い様にされている。 それらを話した上で訊いてみた。 「サユキに何かプレゼントをして……その後彼女と会った時、それを身に着けていたか?」 針巣はこちらに向けていた目を下げ、黙り込んだ。返す言葉が無いところを見ると、彼自身にも少しは心当たりがあったという事か。それにも関わらずサユキとの接触を絶たないとは、この男はどこまで愚鈍なのだろう。 これだけ鈍いと、口でいくら言ったとしても頑なに拒み続けるだけで、時間の無駄にしかならなそうだ。 「……ですか」 次に進もうとした時、彼が何かを口にした。 「何?」 彼が恨めしそうにこちらを睨み、言い直した。 「あなたに何が分かるというんですか」 子供の姿が針巣と重なって見えた。その目は大人に抵抗する反抗期の子供が見せるものとよく似ていた。 「さっきから知った様にベラベラ喋っていますが、貴女は僕達をどうしたいんですか。この前もそうやって口出ししてきましたが、一体何様のつもりで……。僕と彼女の事で貴女は何を知っているんですか。そんな訳を知った様な顔でさっきから……」 下水道の隅を這うネズミが途端に活発になった。空気と入り混じった言葉は発音もしっかり正されて、賑やかな店内でも良く通る。 針巣のその抵抗は胸中の燻りを煽るものだった。沸々と募る苛立ちが途端に燃え盛った。それが顔に出たのか、針巣も気押されている。 「あの女が自分の子供にも売春させる奴だという事を知った上で付き合っているのか?」 グラスの中を干す。それに映った自分の顔は酷いものだった。眉間に皺を寄せ、元々吊り上っている目がさらに鋭くなって、小さな瞳が蛇と見紛う光を放っていた。 「え、ええ……。彼女が息子の幸人君にも……その、体を売る商売をさせているというのは知っています。彼女もその事については心を痛めている様で……その話題が出なかった日はありませんでした。何時も何時も幸人君には辛い目に遭わせてしまっていると……」 脳が蒸発しそうだった。この男はそんな戯言を真に受けているというのか。 524 名前:忍と幸人 第六話[] 投稿日:2011/05/19(木) 21 40 52 ID j9.VA8uo [14/17] いや、素面だったらそんな三文芝居に化かされる筈がない。この男がそれを鵜呑みにしているのは酔っているからだ。売春に身を落とした母子を自分がいずれ助けようという甘ったれた幻想に酔っ払い、現実から目を逸らしている。 腕の中を巡る血が熱かった。許されるのなら、このドブネズミの四肢が千切れるまで踏み潰してやりたかった。内臓が、骨が、筋肉が、互いの境界線を無くして混ざり合うまで……。 「彼女は時々、涙ながらに僕に話してくれます……。いつかは家族みんなで、穏やかに暮らしていきたいと……」 テーブルが大きく音を立てた。この男の口から出てくる不快な吐息がピタッと止まると同時に、店内も一気に静まり返った。テーブルを叩き割る勢いで振り下ろした右手が観衆の視線を浴び、それまで和やかだった空気は痛々しさを伴うくらい冷たくなっていた。 「……失礼、少し興奮した。どうか気にしないでいただきたい」 客と店員に詫びる。何とも言えない、複雑そうな顔が並んでいるのは気まずかった。 周囲が少しずつ元の雰囲気に直そうとし始めるのを見てから針巣と向き合う。彼は顔面蒼白になってこちらの様子を窺っていた。耳に障る戯言も、今では一言と発せそうにない事が分かると、胸の苛立ちが少し落ち着いてきた気がする。 気を取り直して、迷彩服のポケットに忍ばせていたレコーダーを出し、彼の眼前に見せる。怯えながらも怪訝そうに関心を持ったのを確認すると、それを静かにテーブルに置いた。 「これはレコーダーだ。中には何が入っていると思う?」 物言いたげな彼の心中を察し、話を次々に進めていく。 「この中には、私が幸人に頼んで(盗聴なので頼んだも何もないが)録音してもらった、サユキの本音が吹き込まれている」 針巣の両目が見開いた。この男でも気が付いただろうか。私が今まで話していた内容は、この中身によるものだという事が。 「お前があの女を心から信じているというのならこれを聞くが良い。そうすれば、今まで抱いていた甘い幻想が全て虚構だったという事が分かる。如何に自分が己を見失い、あの女に踊らされていたか、それを骨の髄から感じられるだろう」 針巣は恐る恐る、レコーダーに手を伸ばした。再生ボタンに触れるのは大分躊躇していたが、その震える指は長く宙を漂うのに疲れたか、ゆるゆると下りていった。力無くボタンが押され、レコーダーは音声の再生を始めた。 525 名前:忍と幸人 第六話[] 投稿日:2011/05/19(木) 21 44 35 ID j9.VA8uo [15/17] 喫茶店内はすっかり賑わいを取り戻していた。こちらに向けられていた視線も今は無く、楽しげな一時からこの区画だけが完全に隔絶されている。同じ空間におりながら、この席だけは流れる空気が異質で、体中の繊維一本一本にテンションが掛かってくる。自分のすぐ後ろの席からは温かく、楽しげな談笑がするというのに。 流れる音声が針巣の顔を見る見る内に変貌させていく。レコーダーから流れるサユキの音声は幸人からの質問に答える形で進行しているのだが、そのどれもが針巣への好意を微塵にも感じさせず、むしろ、針巣が盲目的に己を慕うその姿を揶揄する始末だった。無情な現実だった。 針巣は顔を覆い、テーブルに突っ伏し、何も言わなかった。 レコーダーの再生が終わると、彼は丸めた体をガタガタと震わせた。それが悲しみによるものなのか、怒りによるものなのかは私に判断する術は無い。そんな些細な事、知ろうとも思わない。 「これが、お前が愛していた女の本性だという事だ」 役割を果たしたレコーダーを仕舞い、コーヒーをゆっくり傾ける。コーヒーは少し温くなっていた。 「これに懲りたら、少しは女を見る目を養う事だな」 私の声が針巣の耳に入っているとは思えないが、選別の一言を残し、席を立った。彼はやはり顔を上げようとしなかった。 「ここは私の奢りにしておこう」と伝え、会計をさっさと済ませる。店を後にする際に横目で針巣の後ろ姿を盗み見ると、まるで何かに憑かれている様で、印象的だった。 蘇鉄の並ぶ歩道を歩く中、彼の困惑に歪んでいく顔を思い浮かべる。一瞬とは言えども私に啖呵を切ってまで見せた男があそこまで砕け散っていくのは酷く愉快だった。 痴情のもつれとは、往々にして創作物のネタになりやすい。心のコンディションのアップダウン――葛藤――があるからだ。 その心の揺さ振りがドラマを一つ一つと生み出していき、レールを組んでいく。そして、情念はジェットコースターの様にその上を落ち続けたり、駆け昇ったりと、忙しなく飛び回る。今の針巣は、グングンと上昇していたコースターが突然絶壁に差し掛かり、急下降をしている……といったところだろう。レールを踏み外して地表に激突……大事故となるか、再び上昇するか、それは本人次第だ。 526 名前:忍と幸人 第六話[] 投稿日:2011/05/19(木) 21 47 29 ID j9.VA8uo [16/17] もし事故に繋がるとしたら、加速度を増した勢いそのままにぶつかるのだから、無事では済まない。上へと続くレールへ乗る事ができれば、下降時の加速を活かして一気に駆け上る事も不可能ではないが……。 針巣の鎮痛な様を思う。直後に「まぁ不可能だろう」と結論した。あの男が逆境に堪えられるとは到底考えられなかった。 それで良い。後は針巣がどう動くか。がっかりさせないでほしいのだが。 夕焼け空の下、烏の声を耳にしながら家に帰り着く。 部屋をざっと見渡す。ここは居間と自室を兼ねた一室、私一人だけの空間。ここに幸人を招いた時は手狭に感じたものだった。 この狭い一室で、私と幸人は濃厚な一時を過ごした。 その時の情事を思い出す。物に囲まれた中で睦み合い、幸福の絶頂へと達したあの時の記憶は私の体を火照らした。 妄想が湧きあがってくる。いくらでも幸人の一つになれる、愛と肉欲の日常。自分より二回り近くも下の少年を抱く日々。倫理の一切が排されたインモラルの生活……思い浮かべただけで疼いてくる。これでもかと言うくらい、たくさん幸人を愛してあげよう。 が、狭い部屋だ、住居も変える必要が出てくるかもしれない。その時は幸人の希望も取り入れてあげたいと思う。勿論、すぐに実行に移せるわけではない。どれ程の時間を要するかは分からないが、何時かは叶えてみせる。 気持ちが逸る。鼓動も勢いを増している。家事も思う様にはかどらず、足取りも怪しい。完全に、妄想に神経を犯されていた。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1904.html
138 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/04(月) 00 31 38 ID BR/Y4UC5 僕は晃に抱きかかえられたまま、彼女の家の奥深くまで引き摺られていった。 そして、プロレス用の練習場までたどり着いたところで、床に押し倒される。 「あの……」 「まずは、あのメイド豚のことから話してもらおうかなあ」 「そ、総日のみんなのところに行かなくていいの?」 「相変わらず、詩宝は鈍いね」 晃は完全に僕にのしかかり、馬乗りになって顔を近寄せてくる。 息がかかりそうな距離で見つめられ、僕は蛇に睨まれた蛙のようになった。 「ひ……」 「あんなの口実に決まってるじゃん。詩宝を成金豚から助け出すためのさ」 そのために長木さんを巻き込んだのか。僕は身震いした。 「さあ、早く白状して!」 「わ、分かったよ……」 僕は怖さのあまり、紅麗亜と出会ったときのことから話し始めた。 紅麗亜が道で行き倒れていたこと。 その後、紅麗亜が僕のメイドになったこと。 紅麗亜が中一条先輩を警戒して、僕を家から出さなかったこと。 「……という訳なんだ」 「ふーん。それって、明らかに詩宝、はめられてるよね? 屋敷もカードも持ってる女が行き倒れるわけないじゃん」 「そ、それはそうだけど……」 その疑問は、僕も抱かなかったわけではない。しかし、紅麗亜が怖すぎて言いだせなかったのだ。 「まあいいや。じゃあ次に、なんであの成金豚と婚約なんかしたの? あたしいつも言ったよね? あいつは詩宝をからかってるんだって」 「そ、それは……」 僕は、偽の婚約披露宴で先輩の家に行ったこと、そこで先輩をレイプし、婚約することになったことを話した。 例の“カリキュラム”については、さすがに言いだせなかったけど。 「薬だね」 僕の話を最後まで聞いた晃は、即座にそう言った。 「薬?」 「そう。媚薬みたいなのを盛られたんだよ。そうでもなきゃ、詩宝があのデブスに欲情なんかするわけないじゃん」 先輩は太っていないし、絶世の、と言ってもいい位の美人だけど、そう言われてみれば、思い当たる節がないでもなかった。 先輩にお茶を勧められて飲んでから、何かおかしくなったような気がする。 「でも、どうして先輩はそんなことを……?」 「あの性悪豚のことだからね。詩宝を困らせて喜んでたんだよ」 そんなことのために、先輩はわざわざ自分の貞操を犠牲にするだろうか。 僕は腑に落ちなかったが、晃があまりにも断定的に言うので、口に出せなかった。 「成金豚を襲う前に、何か食べさせられたり飲まされたりしなかった?」 「お、お茶を何杯か……」 そう晃に言うと、彼女は我が意を得たりとばかりに頷いた。 「やっぱりそうだ。よし、病院に行って検査してもらおう」 「検査?」 「そう。薬を盛られたって証明するの。そうすれば、あの成金豚と手を切れるでしょう?」 晃は僕の上からどくと、僕を引き起こし、無理やり外に連れ出した。 139 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/04(月) 00 32 37 ID BR/Y4UC5 タクシーに乗り、移動することしばし。 僕達は、かなり大きな病院に到着していた。 「ここって……」 「ドーピング検査では、かなり定評のある病院だよ。ここで検査すれば、一発で分かるって」 「ははあ……」 僕は晃に引き摺られるように、病院に入っていく。 正直、先輩が僕に薬を盛ったとは、信じたくなかった。 いつも僕に親切で、優しくしてくれた先輩。 その先輩が、僕を陥れるようなことをするなんて…… 晃は受付で、何やら話をしていた。やがて看護師さんがやって来る。 「こちらです」 案内されて医務室に入ると、初老の医師が僕達を待っていた。 「では、検尿をお願いします」 晃が、あらかたの話を付けていたらしく、検査はごくスムーズに進んだ。 検尿のサンプルを医師に渡し、晃と待合室で待つ。 『紬屋詩宝様、お入りください』 名前をアナウンスされて医務室に入ると、早速結果が伝えられた。 「いや、これはひどいですな」 「と言いますと……?」 「興奮剤に精力剤、勃起促進剤に性欲増進剤が大量に検出されました。これでは、どんな紳士でも一発で無差別強姦魔になってしまうでしょう」 「そんな……」 やっぱり先輩は僕を陥れていたのか。暗澹とした気分になった。 「それじゃ先生、診断書ください」 僕と対称的に、満面の笑みを浮かべた晃は両手を差し出し、診断書を受け取った。 タクシーに乗って、再び晃の家に向かう。 その途中で、晃の携帯電話が鳴った。 「はい。もしもし……何? あいつが……ふーん。分かった」 晃は携帯電話を切った。 「どうかしたの?」 僕の問いには答えず、晃は運転手さんに言う。 「行き先、変えてください」 着いた先は、ビジネスホテルだった。 「家に帰らないの?」 「んー。しばらくはね。めんどいことになりそうだから」 「そ、そう……」 何か事情がありそうだったが、教えてくれそうな雰囲気ではなかったので、あえて聞かなかった。 チェックインして2人で部屋に入ると、間髪をいれずに晃が言った。 「それじゃ早速、電話しよっか」 「で、電話ってどこに……?」 「成金豚んところだよ。婚約解消しなきゃ」 「え……」 140 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/04(月) 00 34 13 ID BR/Y4UC5 「え、じゃないだろ」 晃は僕をベッドの上に投げ飛ばすと、僕に覆いかぶさって耳元で言った。 「詩宝が成金豚を襲ったのは薬のせいなんだから、婚約は無効じゃん。あたし、間違ってるかなあ?」 「そ、それは……」 「どうなの?」 カプッと耳たぶを噛まれた。僕は返答に詰まる。 確かに、晃の言うことは筋が通っている。 しかし、あの先輩が、電話一本で婚約解消を告げられて、はいそうですかと納得するだろうか。 そんなわけがない。 むしろ、天地開闢以来の修羅場が巻き起こる可能性大だ。 それに、ただでさえ酷い目に遭っていた道善さんがどうなることか。 命があるかどうかすら怪しい気がする。 「だ、大事な問題だから一晩考えさせてもらって……」 「だーめ」 晃の、僕を抱く腕の力が強くなった。息が苦しい。 「ううっ」 「せっかく成金豚の陰謀を暴いてあげた、あたしの厚意を無にする気? 今すぐ電話するの!」 「で、でも、そういうことは電話じゃなくて直接会って言った方が……」 「それも駄目。あの成金豚が、逆ギレして詩宝に暴力振るうかも知れないでしょ。電話でさよならするのが一番なの」 「わ、分かったよ……」 息も絶え絶えに言うと、ようやく晃は僕を放した。 「ほら、早く早く」 晃は顎をしゃくり、部屋に備え付けの電話機を示した。 こうなったら、なるべく先輩を刺激しないように、婚約の解消を持ちかけるしかない。 僕は電話機のところに行き、受話機を取ると、震える手で先輩の携帯電話の番号をプッシュした。 何回か、呼び出し音が鳴る。 いっそ出ないでくれれば、ありがたい。 しかしその期待も虚しく、先輩の声が聞こえた。 『誰よ!?』 物凄く不機嫌そうだ。僕は思わず悲鳴を漏らしてしまった。 「ひっ! あ、あの……」 『え……詩宝さん? ご、ごめんなさい。非通知だから詩宝さんだって分からなくて……』 先輩の声が、急に柔らかくなった。もっとも数十秒後には、どうなるか分からないが。 『ずっと探しているんです! 今どこにいるんですか!?』 「あ、あの。それがですね……ちょっと病院に行ってまして……」 『病院!? どこか悪いんですか? だったらすぐうちの系列の病院に……』 「いえ、そうじゃないんです」 呼吸が苦しい。スーハーと、僕は深呼吸した。 『詩宝さん?』 「そこで、検査してもらったら、いろいろお薬を飲まされてたみたいで……」 受話器の向こうで、先輩が息を呑むのが分かった。 『あの、詩宝さん。それは……』 「それで、婚約のことなんですけど、一度白紙に戻してもらっていいですか? いや、別に、縁を切るとかじゃなくて、ゼロベースでもう一度考え直すと言うか……」 ガチャ 突然、通話が切れた。 見ると晃が、受話機を置くところを指で押していた。 「もう十分だよ。これ以上、話す必要ないって」 141 :触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/10/04(月) 00 36 51 ID BR/Y4UC5 「さあて。こっちこっち」 晃はベッドに座り、僕にも隣に座るように促した。 並んで座ると、晃は僕の肩に腕をかけてくる。 「で、どうなの?」 唐突に晃が質問してきた。でも、何を聞かれているのか分からない。 「どうなのって、何が……?」 「とぼけるんじゃないよ」 晃は両腕で僕の頭を抱えるようにした。軽いヘッドロックだ。 「いたた……」 「詩宝はね、あの成金豚のせいで、一生を台無しにするところだったんだよ?」 「た、確かにそうだけど……」 「で、それをあたしが救ってあげたわけだ」 「……そうだね」 「だったら、そのあたしに、それなりの誠意を見せるのが人として正しいあり方じゃないの?」 「せ、誠意?」 「そう。早く誠意見せなよ」 まるでヤクザの脅迫だった。 ただ違うのは、ヤクザが『誠意を見せろ』と言えば金銭の要求を意味しているわけだが、晃が僕にお金を要求しているとは思えないところだった。 中一条グループには遠く及ばないが、晃の家は僕の家よりずっと金持ちだ。 わざわざ金をせびる必要はない。 「せ、誠意と言われても、具体的に言ってくれないと……」 「何? 女に言わせるの?」 ヘッドロックが強くなった。意識を失いそうだ。 そのとき、僕の脳裏に幼い日の記憶が蘇った。 確か、僕は晃にプロレス技を極められ、プロポーズをさせられた。 こうなったら仕方がない。僕は駄目元で言ってみた。 「あ、晃……僕と付き合って……」 「ふうん」 ヘッドロックの締めが、大分緩んだ。どうやら正解だったようだ。 「それって遊び? それとも結婚前提?」 「……結婚前提で」 「よろしい」 ウヘヘヘと笑いながら、晃は僕の頭を解放した。 「……自分で言っておいて何だけど、男の振りしてるのに、僕と付き合って大丈夫なの?」 「隠れて付き合えば大丈夫。女ってばれたらばれたで、別にいいし」 あまりにもあっけらかんとした回答で、僕は拍子抜けした。 でも、これから、どうなるんだろうか。先輩の家には当然帰れないし、僕の元の家も、先輩の所有だから入れない。そんな僕の心配を見透かしたように、晃は言った。 「しばらくは、あたしの家にいればいいよ。もっとも、今すぐには帰れないけどね……」 「そ、そう……」 「そんなことよりさ」 「?」 「エッチしよ。恋人なんだから」 「え?」 次の瞬間、僕の体は晃に軽々と抱え上げられ、ベッドに倒された。そのまま、力ずくでシャツやズボン、下着を脱がされてしまう。 腕力で圧倒的に劣る僕は、これに全く抵抗できなかった。 「ちょ、ちょっと待って……」 「嫌」 僕を全裸に剥いた晃は、自分の服も脱ぎ捨てた。そして僕に馬乗りになる。 「ううっ……」 「ふふっ。どう? あたしの裸」 僕は晃の体を見上げた。少し筋肉が浮き出ているが、基本的にはウエストのくびれた、モデル体形だ。 胸は、異常なほど大きい。 小さくするためと言われて、毎日のように僕がマッサージさせられていたのだが、全く効果がなかったようだ。 「どうって……」 「言葉も出ないんだ。それじゃ、いただきまーす」 晃が体を、僕の方に倒してくる。唇と唇が重なり、晃の舌が僕の口の中に侵入してきた。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2185.html
95 名前:天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 09 27 56 ID oGzxMSGI [2/8] 入院生活といえば、誰もが一度は甘いイベントに遭遇する事を考えるのではないだろうか。 隣のベッドに美少女が入院していたとか、看護婦さんとドキドキ体験とか、そういったものに、少なくとも俺は淡い期待をしていた。 だが、何をどう間違えたら、こんな風になるのだろうか。 今俺は、自分の病室と同階の、娯楽待合スペースのソファに座っている。 向かいには、ぱっと見で30代前半に思える、ざっくばらんな印象の男が、片膝にあぐらをかき、頬杖をついて座っている。 俺達の間には小さな机があり、その上には正方形の板が一枚、さらにその上には、白と黒の両面のチップがいくつも乗っている。 正方形の板には、さらに細かく64個の正方形を作るように線が描かれており、4つのスミのうち、3つは白面のチップが乗っている。 向かいにいる男(俺は"おっさん"と呼んでいる)は、指先にチップを挟むように持ち、黒い面を上向きにして、板面に置いた。 そう、俺達は俗に言う、オセロというゲームをしているのだ。 「これで積みだな、坊主。」 「…くあぁ~! なんで角3つ押さえたのに負けるんだ!? おっさん強すぎだぞ!?」 オセロは一般的に、角さえ押さえれば大きく有利をとれるゲームだ。 序盤から中盤にかけては、俺の方が有利に動いていた。それなのに、いつの間にか黒面の数が白のそれを上回っていた。 「まぁまぁそうしょげるなって。おっさん戦ってて楽しかったぜ?」 おっさんはどこまでも軽妙な口ぶりで、そう言った。 ちなみに今までの戦績は、24戦24敗。一度たりとも勝った事がないのだ。 「さて、今日はこの辺で切り上げとくかい。んじゃな、坊主。」 おっさんは勝負がつくと、オセロを手早く片付け、娯楽スペースにもとあった場所に戻し、去って行った。 「ちくしょう…今日も勝ち逃げされた。」 おっさんと俺が勝負するようになったのは、ほんの数日前だ。 傷もだいぶ治ってきた辺りで、暇潰しに病院内をぶらぶらするようになった頃、たまたま俺は娯楽スペース付近を通りかかった。 その時、一人でオセロをしている変なおっさんがいたのだ。 詰め将棋ならぬ詰めオセロかよ、と思い俺はその場を離れようとした。すると、 「おい待て、坊主。」 といきなり呼び止められたのだ。 何だ、喧嘩売ってんのか。と思った俺はおっさんの側へ行き、「何だよ」と返した。 だがおっさんは次に、こう言った。 「お前、強そうだな。どうだ、おっさんと勝負しないか?」 「は? 勝負?」 「そ。こいつでよ。」 96 名前:天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 09 29 02 ID oGzxMSGI [3/8] それ以来、俺達は一日2~3回は勝負する仲になったのだ。 しかしおっさんは、本当に強かった。おっさん曰く、俺は今までの対戦相手の中で1番強いらしいが、それもどこまで本当なんだか。 だが俺は、負けっぱなしではいられない性分だ。 俺は今日の対戦を思い返しながら、自分の病室に戻った。 「あら、やっと帰って来たわね。」 病室には姉ちゃんが来ていた。俺の頼んだ品を持ってきてくれたようだ。 「入院生活が暇だからってオセロって…」 「ちょっと腕を鍛えたかったんだ。助かったぜ、姉ちゃん。んじゃ早速…」 姉ちゃんは俺の意思を先取りしたかのように、オセロの板面を開いた。 それを受けて俺も、ベッドに腰掛けた。 「鍛えるって言ったって…飛鳥に勝てる人なんかいないでしょう。 私だって、小学生の時のあんたに勝てなかったんだから。」 「それは昔の話だろ? とりあえずクリアマインドを会得するまで協力してくれよ。」 「何よ、そのクリアなんとかって…」 姉ちゃんはぶつくさ言いながらもチップを手にとり、対戦する意欲を見せた。 「先攻は私ね……」 「ほい。……」 「………」 「………」 「………やっぱりあんた強いじゃない…。」 「そうか?」 板面は、あっという間に白で埋め尽くされてしまった。 「姉ちゃん…ぶっちゃけ弱い?」 「あんたが強いのよ! 全く、変なとこばっかり器用なんだから… やるなら結意さんとか隼とかとしなさいよ。数年経ってもボロ負けなんて、正直へこむわ。」 姉ちゃんは板面があるのも無視して、ベッドへ突っ伏す。 はたから見たら幼女のふて寝にしか見えないが、それを言ったら余計機嫌を損ねるので、心の内に留めておく。 「ああでも、やっぱあんたの声聞くと、安心するわ。」 「何で?」 「さあ…何でかしらね?」 「!」 姉ちゃんは一瞬だけ、不思議な表情を見せた。 それは、今まで姉ちゃんからは見たことのないものだった。 だけど俺は、その感情をよく知っている。 「ねぇ、飛鳥。私の中には、明日香の記憶が受け継がれてるの。…もし、明日香の感情も…」 「やめてくれ、姉ちゃん。」 俺は姉ちゃんが言い切る前に、言葉を遮った。 97 名前:天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 09 30 05 ID oGzxMSGI [4/8] 「俺は、姉ちゃんとずっと一緒にいたいんだ。…それを言ったら、そうもいかないだろ?」 「飛鳥…うん、そうね。ありがとう。」 姉ちゃんはベッドから顔を上げ、散らばったオセロをまとめだした。 俺もそれを見て、一緒に手伝う。 チップを集めているうちに、何度か手が触れ合う。姉ちゃんの手は、少し冷たかった。 オセロを綺麗に箱にしまうと、姉ちゃんはベッドの横にある椅子の上に置いた。 「じゃあ…私、そろそろ行くわね。また明日ね。」 「ああ。知らないおじちゃんに声かけられてもついてくなよ?」 「何よそれ? 私だってもう21なんだからね? もう…」 ぱたん、と病室のドアは静かに閉められた。 客人がいなくなり、病室には静寂が漂う。 ベッドはいくつかあるが、この病室には俺しか患者がいないのだ。 見舞いにきてくれる連中以外と、会話することなんざ殆どない。 そういう意味では、あのおっさんとのオセロも、寂しさを紛らわせる事にはなっているのかもしれない。 あるいは、あのおっさん自身も…? * * * * * 病室から逃げるように出た私は、少し距離をおいてから、そこで胸を抱えて座り込んでしまった。 押し潰されるような、締め付けられるような苦しさが、ずっと消えないのだ。 それはもう何日も続いている。 「ん…? あんた、神坂の姉さんじゃないか。」 頭上から、声がした。やや低めで、少し気だるそうに話す口調には覚えがあった。 「佐橋君…? お見舞いかしら?」 「ああ、暇潰しにな。」 感情のぶれがばれないように、笑顔を作って顔を上げた。 「あの子、オセロの対戦相手を探してるのよ。」 「オセロ? それはまた唐突だな。」 「よかったら、対戦してあげてちょうだい?」 「ああ、そうさせてもらうよ。ところであんた…何で今にも泣きそうな顔してるんだ?」 「えっ…!?」 作り笑いが、できてなかったのだろうか。それに、今にも泣きそうって… 私が、そういう風に見えたというの? 「あんた自身、わかってないはずがないよな? どうしてあんな真似をした? 神坂の妹の記憶を引き継ぐなんて、危険だとわかってただろう? 現にあんたの心は、明らかに不安定じゃないか。」 「…私が、あれと同じ事を繰り返すと、思っているの?」 「可能性はある。人の心ってのは、時にはそれだけ強くもなるし、弱くもなる。」 「知った風な口を訊くわね。でも、貴方には理解できないでしょう!?」 図星を指されたためか、語気が少し荒くなった。 それに気づき、私はため息をひとつつき、呼吸を整えようとする。 「理解はできない。だが、かつてそうやって苦しんだ奴が、身近にいたもんでな。」 「身近に…?」 「光がそうだった。あいつは、二つの心を持っていたんだ。 今でこそ落ち着いているがな。」 佐橋君はそう言うと、視線を反らして飛鳥の病室の方へと歩いていった。 もう言うことはない、という事だろう。 98 名前:天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 09 30 58 ID oGzxMSGI [5/8] …私だって、こんな状態になるとは思っていなかった。 あの日、明日香の遺体を弔いに行った時。明日香の痕跡をこの世から消したくない。私はそう願った。 その瞬間、明日香の見て、聞いてきた全ての事が頭の中に流れ込んできたのだ。 知らなかった、では済まされない。 でもあの娘の背負いつづけていた心の闇が、こんなにも重く、胸を締め付けてくるなんて。 そういう意味では、私は何もわかっていなかったに等しい。 ---飛鳥を自分だけのものにしたい。 その感情を、私は必死に抑えつづけている。 それは、絶対に知られてはならない秘め事。 色んな事があって、ようやく訪れようとしている、みんなが望んでいた平和な日常。 私自身がそれを壊す存在になど、なりたくない。 力の抜けた足腰に鞭打ち、私は病院の外へと向かった。 自宅から病院へは、私は明日香の使っていた自転車で来ている。 今の季節は大分肌寒いが、少しは気が紛らわせられる。今の私にはちょうどいいくらいだ。 疲れを知らない私の体は、いくらペダルを漕いでも暖まらない。 自転車でも20分以上はかかる距離を飛ばして家に着く頃には、体は冷えきっていた。 自転車を所定の場所にしまい、家の中に入る。 中は、私一人で過ごすには広く、静かすぎる空間だ。 …飛鳥も、私がいない間は同じ思いをしていたのだろうか。 自分一人だけが取り残され、誰にも必要とされない、という思いを。 飛鳥はまだいい。あの子には結意さんがいるから。 だけど、私を愛してくれる人は何処にもいないのだ。 そう考えたと同時に、自嘲の笑みが浮かんだ。 そんな人がいたからって、何になるのだろう。私と同じ時間を生きられる人などいやしない。 第一、私は子孫を残せない体なのだ。だから、そんなもの必要ない。 次第に、思考がネガティブに堕ちていく。その時、私はさっきの飛鳥の言葉を、不意に思い出した。 『俺は、姉ちゃんとずっと一緒にいたいんだ。』 ぞくり、と体中に電流が走った。 飛鳥は、私を必要としてくれている。ずっと一緒にいたい、と言ってくれたじゃないか! そう思い始めると、もはや理性で抑えることはできなかった。 これは明日香の記憶の影響だ。私自身が望んでいる事じゃない。そう頭でわかっていても、微熱を帯び始めた体を、抑えられない。 何でもいい。あの子の痕跡があるものが欲しい。私はふらふらとした足取りながらも、飛鳥の部屋へ真っすぐに向かった。 部屋の扉を開け、中に入ると、そこには私が望んでやまないものがあった。 「あは………飛鳥の匂いがするぅ…」 違う。こんなのは私じゃない。なのにどうして、体は止まらない? 床に膝をつき、飛鳥のベッドに顔を埋ずめる。 だらしなく体を弛緩させながらも、右手は乳房をまさぐり、左手は下着の中へ向かっていた。 すでに下着の中は粘液が滴り、指先に執拗に絡みついてくる。 「はぁ、はぁ…あすかの…においぃ…」 99 名前:天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 09 31 41 ID oGzxMSGI [6/8] ベッドシーツを噛み締め、唾液を含ませ、それを思い切りしゃぶる。 鼻孔から感じられる飛鳥の残り香、ベッドから伝わってくる(ような気がする)、飛鳥の温もりがより一層、体の感度を高め、私の理性を壊す。 指先を秘裂に埋め、ナカを静かに、徐々に大きく掻き乱す。 幾度となく背筋を貫く快感の前に、私はもう何も考えられなくなっていた。 ---欲しい。 何が? あの子のすべてが--- ただそれだけの思いで、私は自分を慰めていた。 「ひゃ、あんっ…あすかぁ…あすか、あすかぁぁぁ!」 誰もいない、静かな部屋に私の声が響く。 絶頂を迎え、体中の力が抜ける。そうすると私の関心は、他のものへと移っていった。 瀕死に追い込まれた私を飛鳥が迎えに来てくれたあの日、この家には結意さんがいた。 あの子と彼女は、愛し合っている。つまり、このベッドを… 「…っ、うわあぁぁぁぁぁぁ!」 赦さない。なんであんな奴が飛鳥を! 飛鳥の隣にいていいのは私だけだ! ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ----- そこで、はっ、と私は我に帰った。 ゆっくりと周りを見渡すと、ベッドシーツはぐしゃぐしゃになり、引きちぎられた痕跡も見受けられた。 …私は、なんて事をしてしまったのだろう。 飛鳥を思って、自身を慰めた事は度々あった。だけど、こんなにも特定の対象に憎悪を抱いたのは、初めてだ。 それも…結意さんに対して、だなんて。 100 名前:天使のような悪魔たち 第20話 ◆UDPETPayJA[sage] 投稿日:2011/04/12(火) 09 32 35 ID oGzxMSGI [7/8] 私は、あの事件の後、この力を自身の手で消去した。 こんな悪魔の力をもう使う必要はない、あの時はそう思っていたから。 だけど今は、その判断は正しかったんだと、より深く思い知らされた。 仮に、再び今のように錯乱したとしよう。その時、あの力があった場合、私は何をする? …考えただけで恐ろしい。それこそ、私は悪魔と化すだろう。 皮肉なことに、力を失って初めて、あの力の恐ろしさを知ることができたのだ。 「もう………頭がおかしくなりそうよ………」 あの娘の想いが、記憶だけになっても今なお、消えずにいるなんて。 私は、間違っていたの? このままではいつか私は…飛鳥を傷つけてしまう。 明日香が、飛鳥を手に入れるために手段を選ばなかったように。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2497.html
437 名前:フェイクファー 一 ◆4Id2d7jq2k [sage] 投稿日:2012/04/30(月) 22 46 51.94 ID 3LTwNORQ [2/6] 放課後の教室。 教室の壁、机、カーテン、床、そして、俺の正面に立つ少女を、夕日の赤い灯りが濡らす。 「この間から言ってるよね? 私、何て言ったか、覚えてる?ちゃんと聴いてたの」 少女は、そう、声を尖らせ、彼女の少し短めの黒髪を不機嫌そうに触る。 控えめの胸が普段より大きく上下する。 彼女なりに平静を装っているつもり、だがひどく興奮しているらしい――、ことは今までの付き合いの長さから、容易に分かった。 「……楓以外と話さない」 辟易としていることを悟られないように、なるべく無感情に答える。 「そう。そうだったよね!」 そう言って、目の前の少女、木幡 楓(こわた かえで)は彼女の胸の前で手を合わせ、にっこりと笑った。 可愛らしい笑顔だが、今の俺には畏怖の対象でしかない。 「でも、ちょっと違うなー……」 楓は、一歩、俺との距離をつめ、そして、俺の左頬を引っ叩いた。 「私以外の女の子と、が抜けてるよ? やっぱり、秋くん、私の話覚えてなかったね」 左頬が、じりじりと痛む。火傷のように。 熱い。 「……ごめん」 俺がうなだれ、謝ると、楓は途端に眼からぼろぼろと涙をこぼした。 「……うぅっ……ぐすっ……秋くん……、 約束破ったぁ……私……私……うぇぇ……」 今日は、『泣く』か。 怒っていて、それでひどく興奮しているのだ、と思った。 また外が暗くなるまで平手打ちをされるのかと、少し気を張っていた。 興奮しているように見えたのは、泣きそう、だったかららしい。 438 名前:フェイクファー 一 ◆4Id2d7jq2k [sage] 投稿日:2012/04/30(月) 22 50 11.47 ID 3LTwNORQ [3/6] 「ごめん……ごめん……なるべく話さないようにするから」 泣きじゃくる彼女を、抱きしめる。 子どもをあやすように。 頭を撫でる。 少しすると落ち着いてきたのか、嗚咽はやがて、甘い吐息に変わる。 楓は高校二年生であるものの、背が低く、外見は女子高生というより中学生のそれに近い。 高校に入ってすぐ、長かった髪を短く切ったので、近ごろは小学生にも間違えられることもあるらしい。 顔の造作は整っていて、可愛らしい。 形の良い、細く長い眉は彼女のうちに潜む、一途で頑なな意志を表しているようにも見える。 「もう、大丈夫か? 落ち着いた?」 楓の頭を撫でながら、耳元で囁く。 彼女がこうされるのを好きだと、俺は知っている。 「んぅ……、うん。 ……ごめんね、私……秋くんを……」 また、泣きそうな顔になるので、すかさずフォローする。 「良いって。もとより、俺が悪いんだ」 そう言っても、何が良い事か、悪い事か、俺には判断がつかない。 ただ、楓が喜べば、俺は嬉しい。 楓が悲しむと、俺も悲しくなる。 だから、判断がつかなくても、こう言って楓を喜ばせる。 「……じゃあ、もう、他の女の子と話さない?」 頬を俺の胸にすりつけて、楓が言う。 彼女から香る、甘い体臭に頭がくらくらする。 「なるべく」 「それじゃだめ」 楓は頑固だ。 「そうは言っても、絶対は無理だ」 「んぅ……じゃあ、私が仲介する。 ほら、秋くんと他の女の子が話す必要なくなるよ?」 「あのねぇ……」 439 名前:フェイクファー 一 ◆4Id2d7jq2k [sage] 投稿日:2012/04/30(月) 22 52 57.31 ID 3LTwNORQ [4/6] 楓は嫉妬深い。 今まで、他の女子と交際をしたことがないから、 基準はどの程度なのか分からない。だけど、楓は嫉妬深いと思う。 高校一年生の付き合い始めの時は、他の女の子としゃべったくらいじゃどうこう言われることもなかった。 「私、秋くんを信じてるから」なんて、今じゃ到底聞けない台詞を言っていた覚えがある。 きっかけは、まぁ、俺が悪かった。 一度、委員会活動の帰りに、たまたま、女の先輩と帰っているところを、たまたま見られた。 別にやましいことはなかった。浮気なんて大それたことじゃない。 先輩とは仲が良かったから、その時、たまたま一緒に帰っただけだ。 いつも、一緒に帰っているわけじゃない。 俺が弁解しても、楓は受け入れなかった。 それを境に、楓は俺を束縛するようになった。 俺は悪くない。と、憤慨したこともあった。 けど、『ごめんね……秋くん……ごめんね』なんて、楓に泣かれると、昂った気持ちが急激に冷え、 『やっぱり、俺が悪かったかな』という気持ちに変わってしまう。 楓は、ルールを決めよう。と提案してきた。俺はそれを了承した。 最初に、『必ず二人で一緒に帰ること』というルールができた。 そして徐々に、ルールが増えていく。 『寝る前に電話』。『他の女の子との電話禁止』。 『二人でいるときは手をつなぐ』。他にも、色々とあった気がする。 ルールが増えていくのは、楓の嫉妬が深まっていくようで、怖かった。 で、ついにこの間、『楓以外との女の子と会話禁止』とのおふれが出た。 さすがに無茶だ、と思って、俺は半ば本気にしていなかったが、彼女は本気だった。 今までのルールを集約すれば、『楓以外の女の子と関わりを持たないこと』、とできる気がする。 楓に提案したら、本当に採用されそうな……。 俺は、赤星 秋(あかぼし あき)は、 胸に抱いた可愛らしい少女の頭を撫で、 これからのことを想い、小さく溜息をついた。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1795.html
476 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02 47 32 ID ozWSUQaD 「私は昔、神様だったの」 少女は語る。 静寂に包まれた闇の中で少女は俺に一言、そう告げた。 「へぇ」 俺はさして興味無さげに呟いてみた。 だって考えてもみろ。 神? なんだそりゃいるわけねえさ。非現実的すぎる。 「白い大きな羽をはばたかせてさー、空を飛んでたんだ」 ―――瞬間、暗闇は頭上から裂け、大きな青空が広がった。 透き通るような青空に、俺は目を奪われた。 「それって、神様じゃなくて天使じゃね?」 どうも俺の中で白い羽と言ったら天使が一番に思いつく。 俺は、この環境の変化に戸惑いながらも、目の前にいる可憐な少女に話しかけた。 もちろん少女の背中に羽はない。そしてどこからどう見ても人間だ。 「かもね、私はやっぱり神様じゃなかったのかも」 少しうつむき加減になった少女。ちらりと見えたその瞳には悲哀が受け取れた。 「はっきりしないな。自分の正体なんて、自分にしか分からないだろ?」 「そうかな? そうかもね。ううん、そうだろうね」 「?」 何だ? 何か言いたげだが。 「うーん、とね……そうだ! 君に一つ頼みたいことがあるんだけど良いかな?」 身長差十センチといったところであろうか。 少女は嬉々とした顔で、百七十センチの俺を見上げてきた。 「なんだ? 俺は可愛い女の子の頼みなら何でも聞いてやるぜ!」 歯をキラリッと輝かせた俺は、今の自分の仕草がとてつもなく格好いいものだと信じきっていた。可愛い女の子の頼みを聞けるなんてフラグを立てるチャンスだからな! ―――そう、俺は軽い気持ちだったんだ。何も考えず、過去をごまかすように目の前にあることにぶつかっていくだけ。そんな毎日を過ごしてきた俺だったから。 だから、次にくる少女の言葉と行動は、予想外だった。 「じゃあねー……死んで」 グサリ……プシャアアアアと、想像したくもない気味の悪い音が脳内に響く。 「ガ―――ァァアアアアアアアアアアア!」 後(のち)、己の叫び声。 満面の笑みを浮かべていてくれた少女からは表情が消えうせ、気付いた時には俺の心臓は黒い剣によって突きぬかれていた。 「そしてずっと一緒にここにいようよ、ね。ジュン君」 薄れゆく意識の中で、俺はそんな言葉を聞いたような―――気がした。 478 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02 49 24 ID ozWSUQaD 〈あたかも必然たる朝〉 「……きて……兄さ……」 まどろみの中、裂けぬ闇。 そう、俺は囚われていた。あたかも囚人のごとく。 聞きなれた声が耳をすり抜ける。その声にこたえるべく、俺は闇に抗う。 しかしこの闇に俺は自ら逆らうことはできない。 なぜなら…… 「いい加減起きろって言ってるでしょ! いつまで寝てれば気が済むの!」 俺は今日の朝5時まで起きていたからだ。 夜更かしなどするものではない。 「はひっ!」 しかし、闇というのはどうしても妹には勝てぬものだ。 俺こと〈神坂 純〉は妹の怒声に驚き、飛び起きてしまった。 「朝御飯できてるから、早く食べちゃってよ!」 きつく眉をしめ、俺の鼻先へと指先を伸ばした妹。 怒りながらセリフを吐き捨てた後に、扉を大きな音を立てて閉めてから出て行った。 「う、うい」 一人きりになった部屋で、俺は静かにそう答えた。 そして、同時に俺は支度を始める。 ほぼ毎日のように通っている美杉(みすぎ)学園の制服を身にまとい、寝癖をくしでなおした。 時計を見て時間チェックなどしない。 今は朝の八時を少し過ぎたあたりだろうから。 だっていつも妹が俺を起こすのは、どうしてか遅刻ギリギリの八時なんだから。 479 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02 51 38 ID ozWSUQaD 「おはよう、美咲」 リビングへとたどり着いた俺が見たのは、いつも通り美杉学園の制服を身にまとった我が最愛の妹〈神坂 美咲〉だ。 髪は黒のセミロング。 百五十あるかないかくらいの小動物みたいな身長。 ちなみに胸はごにょごにょ……まぁ、本人が隠れて牛乳を飲みまくっている感じだ。察してくれ。 顔は家族の贔屓目バリバリでめちゃめちゃ可愛い美咲(贔屓目なしでも美少女確定です)は、 一年生の象徴たるピンクのリボン (女子の制服のリボンは学年ごとに色が違い、一年はピンク、二年は青、三年は黄色となっている)をきらびやかになびかせて、 男子生徒には猛烈にうれしい短めのスカートをひるがえしながら、こちらに振り返った。 「いつも通りおそよう!お兄ちゃん」 しかし格好と形相とは全くの別物だな。 ギロリッ、と、まるで効果音が聞こえてきそうな感じの鋭い視線が俺の全身を射刺した。 そんな視線を体に受けた俺。 もうすることは決まっている。いつも通りだ。 「いつもいつもごめんなさいぃぃ!」 俺はすぐさま土下座をした。頭を床にこすりつける。 だってさ、よく考えてみ? 妹に睨まれたら、それはもうお兄ちゃんだったら土下座で謝るしかないさ。 え、何? プライド? 何それ? 美味しいの? 「ふんだ」 妹がそっぽを向く。 「ごめんって」 俺がその後を追って謝る。 この問答が数分続いた後に、俺は大急ぎで飯を腹に流し込み、 妹と二人で急いで家を飛び出す。遅刻しないように。 そう、そしてこれもまた ―――いつも通りだ そう、いつも通り。いつも通り。いつも通り。 今日もまたいつも通りで塗りつくされた俺の必然たる一日が始まるんだ。 俺はふと、隣で走る美咲に目をやる。 ……そういや、美咲のやつどうして俺のことを八時前に起こしてくれないんだろうか? 一度聞いてみよう。 美咲を視界に入れた時、ふとそう思ってしまった。 480 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02 51 59 ID ozWSUQaD 〈あたかも必然たる朝〉 裏Ⅰ 「だれにも渡さないわぁ……そうよね。兄さんも私と一緒の方がうれしいもの、嬉しいに決まっているもの」 小鳥のさえずりと共に眠りだした兄さん。 その寝てしまったベッドの上の兄さんを、私は眺めるのが大好きだ。 ―――そう、初めは眺めているだけで幸せだった。 「ふふぁ」 私はそのまま体を倒し、兄さんの胸元へ顔を寄せる。 瞬間、私は幸せな気分に陥る。 「良い匂い」 兄さんの、私の大切な兄さんの、大好きで大好きで大好きでこの世の言葉では表せないほどに私が愛している兄さんの匂い。好き、好き、好き、好き。 この匂いはまったく媚薬のような効能を発する。 私の脳髄が焼き焦がれるほどに、そして下半身や胸が、キュンってする。 こんな素晴らしく、そして甘く切ない気持ちにさせる私の兄さん。 ―――でも、あの雌がでてきてから私は変わった。 ああ、大丈夫だからね、兄さん。 あんな薄汚い雌には兄さんの髪の毛一本ですら渡さないから。 だから安心して、私と一緒に。 ―――兄さんは……私のものだ。私だけのッ! 「兄さん」 そして今日もまた、遅刻ギリギリの時間の八時まで、こうしていられるんだろうな。 そういったいつも通りの幸せを私は噛みしめながら……。 「大好き」 そう言って、唇を、舌を、深く、深く絡ませた。 481 :白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02 52 49 ID ozWSUQaD 〈あたかも必然たる朝〉 裏Ⅱ 「あんの雌があああああああああああ!」 ガンッ! ガンッ! ガンッ! 私は頭を壁に打ち付ける。 「私の純君に……こんなことをっ!」 私はパソコンのディスプレイに映し出された映像(寝ている純に美咲がキスをしている) ―――そう、神坂純の家に仕込んだNo.12のカメラの映像を見て、発狂しそうな勢いだった。 「なんで、なんで、なんで、なんで! 彼の唇は私が奪うはずだったのに、私だけのもののはずなのに! それをあの雌ゥ!」 昨日、彼らが家開けているすきに使用人に取りつけさせた二十八のカメラ。 今日からずっと彼の行動を見ていられる! そう思っていたのに……こんなの! 「―――殺す!」 私に明確な殺意が宿る。今までは妹だってことで、多少のボディタッチ程度は見逃してきた。だが、これはもう我慢の限界だ。 「死んだって許すもんですか、この雌は私が!」 そう叫びながら、私は部屋の壁、天井、床。 もう見渡す限り写真が貼ってある部屋の中、そう、すべて純の写真が貼ってある部屋の中で、彼女〈萩原 空〉は狂う。 「ねぇ、純君。あなたは私だけのものだからね」 いつも通り、壁一面まで引き延ばした純の写真に空はキスをする。 「今は仮のキス、でも明日にでも、本当の唇と唇でしてあげるから……あの雌の匂いを消すためにもね。それまで待っててよ――― ―――すぐだから」
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/832.html
512 :リッサ ◆v0Z8Q0837k [sage ] :2007/08/30(木) 20 56 05 ID kuWYdk1n キ道戦士ヤンダム~洋を疾る(うみをかける) 「うあああああああ!!!」「きゃああああああああ!!!」 すさまじい衝撃が慶介と沙紀を襲った、ヤンダムの装甲です ら破壊するミサイル攻撃は、一気にその装甲を引っぺがした。 「くそお…どうすれば…」 「大丈夫、貴方は私が守るから、邪魔なのはその女だけ」 スピーカーと、沙紀の声が同時に響く…俺が…俺が悪いんだ… 慶介は心の中で自分を責めた、こんな悲劇が起きたのはそも そも全部自分がふがいないからだ、と…。 「だから待っていてね…慶介…」「すぐに終わるからね…お兄ちゃん」 ヤンダムのコクピットのふたを開くと、沙紀はサブマシンガンを片手に 外に出た。その先には同じくマシンガンを抱えてロボットから飛び降りた 七海の姿があった。 「やめろおおおおおおおおおお!!!!」 バババババババババ!!!波音にまぎれて銃声が響き渡った。 …数ヵ月後、海中戦争は圧倒的な極東アジア軍の勝利で幕を閉じた …しかし人々の心には大きな傷が残ったままだった。 「う…あうう…」 足を負傷した慶介は病院の庭で涎をたらしながら呻いていた…慶介は 戦争での成果を称えられ、勲章も山ほど貰えたが、終戦と同時に彼の心 は壊れてしまっていた…無理もない、愛してやまなかった恋人と妹が殺 しあった上に相打ちするまでを、自分は見ていることしか出来なかった のだ…心だって壊れもする。 そんな慶介の車椅子を弾く女性がいた、落ち着いた雰囲気の温厚そう な女性だ、彼女は慶介の涎を拭くと、慶介に耳打ちした。 「ねえ慶介、いいことを教えてあげようか…実はね、七海にヤンダム を進めたのは…お母さんなんだよ」 慶介の顔がびくリと動く…彼女の名前は南蒔絵…慶介の実の母親にし て…敵軍の科学技術者だ。 「あの子…おにいちゃんが悪い女に捕まってるなんて言ったらすぐに 飛んでいってね…うふふ、おかしいでしょ」 「う…ああああああ!」 「でももう安心して、あの戦争で私の作ったヤンダムのデータは取れた わ…有益に使わせてもらったからね、沙紀ちゃんのデータも、七海のデータも…」 そういうと蒔絵は手に持ったアンプルを慶介の前でちらつかせた。 「これを打てば、慶介はもう私の事しか考えられなくなるわ…筋力増強とかの 要らない副作用も消し去れたし…うふふふ…怪我が直ったらたっぷり楽しみましょうね…」 「うあああああああ…ああああ」 慶介はいつまでも叫んでいた、蒔絵はそれを見ながら、笑顔で彼の車椅子を 押して…病院へ向かった。 FIN