約 3,137,152 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5741.html
目が覚めた。 「…」 起き上がる。 どうやらベッドに寝転びながらウダウダしているうちに寝てしまったらしい。 窓の外を見ると、空が赤くなっていた。もう夕方だ。 あ~……、せっかくの日曜日を無駄に過ごしてしまった気がする。 「寝るという行為は幸福の象徴」と言う人がいる。俺も賛成だ。 だが、眠くもなかったのに寝てしまった場合の睡眠は幸福のうちに入らない。 起きたときの「よく寝たァ~」という清涼感は皆目無く、無闇に口の中がネトネトして身体全体が怠いだけだ。 寝て疲れることほど生産性の低い行為は無い。温泉行って疲れて帰ってくるようなもんだからな。 自分でも解るほどの仏頂面で、頭を掻き、涎を拭う。 腹減ったなァ………。 ブブブブッ 「お?」 ケータイが鳴った。 誰だ? ブブブブッ めんどくせえな、と思いながらも重たい腰を上げケータイをとる。 発信者を確認せずに電話に出た。 「あい?」 寝起きのせいで発声がバグった。 改めて言い直す。 「はい?」 「………」 無言。 だが、俺はその無言に覚えがあった。 おそらく受話器の向こう側にいる人物は…。 「長門か?」 「…話がある」 長門の声だ。 話? 「家に来て」 長門………。 「わかった。すぐ行く」 言って思い出した。自転車。 「悪い、ちょっと遅れる。いや…だいぶ…、とにかく待ってろ」 俺は電話を切り。部屋を出ようとして、ストップ。 隅に置かれた紙袋に目が行く。 …勢いで買ってしまったが……。持っていこう。そのために買ったんだからな。 紙袋を引っ掴んで階段を駆け下りた。 クソ、長門のマンションまで自転車を飛ばして20分かかるかどうかだってのに…! また俺の足が死ぬ羽目になる。 リビングにいる母親と妹に「ちょっと出かけてくる。夕飯はいらないから」とだけ言い残し、俺は家を飛び出した。 長門のマンション。 しんどかった。今日一日でどんだけ歩いたんだ俺は。 息を整えながら、セキュリティーシステムの前に来る。 …708号室…だったな。 『…』 出たのは無言の長門。 「俺だ」 言った瞬間にドアが開かれる。 意外とすんなり開いた。まるで、待ち構えていたかのように。 長門の部屋に向かう途中、俺は長門の『話』とやらのことを考えていた。 『話』の内容。見当はついている。 何故だか胸が落ち着かない。ドキドキしてるのか?俺。 落ち着かない気持ちのまま、部屋の前に着いてしまった。 「…フゥ」 息をつき、インターホンを押す。 ガチャ 「よう」 長門は、相変わらずの無表情で俺を迎えた。 「入って」 中に入り、リビングに通される。 すると、そこには先客がいた。 「こんばんわ」 朝倉だ。 「お前も来てたのか」 もしかしたら居るかなと思ってはいたが、少し驚く。 「そう。長門さんの『話したい事』っていうのは、私にも関係があることだから」 首を傾け、手のひらを合わせながら言う。 「お前にも?」 「ええ。…とりあえず座ったら?」 リビングの入り口で突っ立っていた俺に笑いながら言った。 俺が座ると、長門がお茶を持ってきた。 「サンキュー」 俺がお茶を受け取ると、向かい合って座る。 「…」 無表情で俺を見つめる。 朝倉も、微笑みながら俺と長門を見つめるのみで、何も言ってこない。 とりあえずお茶を一口飲み、切り出した。 「話…って、なんだ?」 「私の正体」 「…」 やっぱり…な。 「以前、あなたに話した事と一部重複する部分がある」 長門は続けた。 「情報の伝達に一部齟齬が生じるかもしれない、でも聞いて」 まっすぐな目で俺を見つめてくる。 何故、今になって話すのか。解らないが、長門が話してくれるのならば、それでいい。 「わかった」 俺も長門の目を見る。 「話してくれ」 「…」 しばらく黙っていた長門だが、やがて静かに語り出した。
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/95.html
ハルヒ「今日は楽しかったわね~!これで冬の定番を一つクリアしたわ!」 長門「…」 ハルヒ「みくるちゃんのサンタ姿も似合ってたし言うことないわ! 思わず抱きしめてしまったわよ!お正月はやっぱり振り袖かしらね…着付けが楽しみだわ…v」 長門「………ヒ…」 ハルヒ「あれも重要なイベントだもんね!重要な萌えシチュエーションの一つよ! 他人に服を着せられながら恥じらう姿はまさに萌え!みくるちゃんならこの大役をこ」 長門「……ルヒ…」 ハルヒ「なせると信じているわ!何たってこのあたしが見込んだんだからね! お正月の次はどうしようかしら…節分でラm」 長門「ハルヒ」 ハルヒ「な、なに?いきなりどうしたの?」 長門「『クリスマスとは恋愛関係のさらなる進展が大いに期待できる日であり、 それは接触を平時よりも増やすなど当人等の努力によって得ることができる。 特に、既に恋人を有する者はこの日を大いに活用すべきであり、その遂行を怠る事は 実に愚かな反動的行為としか言いようがない』・・・と、この本には書いてある。」 長門「あなたは私という個体を恋人に持ちながら接触を増やさず、朝比奈みくるばかりに気を廻していた。 これはクリスマスの定番と、その暗黙の内に存在する約束事を無視し反故にする行為。」 ハルヒ「ゆ、有希…?」 長門「・・・だから・・・」 ハルヒ「えっ、ちょ、まっt」 長門「ペナルティ」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5237.html
一 章 Illustration どこここ 我が社の社員旅行、じゃなくてSOS団夏の強化合宿から帰ってきてからやっと仕事のペースが戻った八月。ゲームと業務支援ソフトの開発とメンテで寝る間もない開発部の連中に気を使ってのことか、俺たち取締役も夏休み返上で出社していた。お盆はどこも営業してないんだからせめて三日くらいは休みをくれと上訴してみたのだが、「社員旅行楽しかったわよねぇ」ニヤリ笑いをしながらのたまう社長にむなしく却下された。俺は合宿でCEOの権利を得たはずなのだが、ハルヒの言う次期ってのが四半期のことを言っているのか営業年度を言っているのか分からず、結局はまだまだ先の話だ。 そういやこの会社に入ってまともな休みはなかった気がするが、それはハルヒが土日にやる突発的イベントのためで、そのほとんどは市内不思議探索パトロールなのだが、疲れ果てた体に鞭打ってまで駅前広場に集合させられるのは確実に俺の寿命を縮めてる気がする。なんでそんなに必死になって不思議を探しているのか、俺たちもう若くはないんだしスタッフの福祉も考えてくれよ。いや、まだ二十四歳の盛りだが。 俺は定時になると長門と退社し、途中でスーパーに寄って買い物などをしつつ長門の部屋でメシを食って帰るという習慣めいたものが定着していた。長門のレパートリーはかなり増えたが、たまに俺の手料理もお粗末ながら披露したりもしている。 食器を片付けて長門は本を開き、俺は静かにお茶をすすっているともう十一時を過ぎていて、いつものように時計を見ながら腰を上げた。 「そろそろ帰るわ。ごちそうさん、うまかった」 「……そう」 暖かく電球が灯る玄関で靴を履いていると長門が俺の携帯を持ってきてくれていた。分かってはいても、いつも忘れる。 俺は少しだけ長門の肩を抱いて髪の匂いをかいだ。サラサラした感触が鼻の先をかすめた。 「……泊まって。……」 長門がぼそりと言った。もっとなにか言いたげな、でも躊躇しているような、そんな表情だった。今日は泊まってと言った。いつもは泊まる?とか、ここで休む?なのだが、今日だけはなぜか違う。今日はなにか特別なことがあったろうか。 「いや、今日は帰るよ。また今度な」 「……」 そのときの長門の表情は、はるか昔のなにかを思い出させた。朝比奈さんと七夕の日にここへ押しかけてきたその帰り、高校一年の五月にここへ呼ばれてハルヒと情報統合思念体のことを教えられたその帰り、それから文芸部の入部届を白紙で突き返したとき。 実に、寂しそうだった。 「な、なあ。よかったらそこまで送ってくれないか」 「……分かった」 俺は確かに長門の部屋に泊まったことがない。夜中の十二時をまわっても、長門の部屋で二人きりで一夜を明かしたことはない。付き合ってそろそろ六年になるが、それくらい共有した時間のあるカップルなら互いの家に泊まったりはふつうよくあることだろう。エレベータの中でそれがなぜか考えたのだが言葉にならない。前にも似たようなシチュエーションはあった気がするのだが、いつだったか思い出せないでいる。 公園が見えてきたので俺は街灯の下の、いつものベンチに向かった。 「ちょっと、座らないか」 「……」 「あのさ長門。泊まりたいのはやまやまなんだが、」 本当は泊まりたいと言いたいのではなく泊まれない言い訳をしようとしていたのだが、長門はそれを遮った。 「……あなたがわたしの部屋に泊まらない理由は、知っている」 「そうなのか。そういう話をしたことあったかな」 「……あなたは覚えていない」 ああ、俺の記憶にはない俺たちの歴史があるんだな。 「そのとき俺はなんて言ってたんだ?」 「……母親にもらった装飾品の話をしていた」 「装飾品?ネックレスとか?」 「……例え話」 よく分からんが、以前にも同じ話題があったらしい。 「なあ、最近エラーはよくあるのか」 「……ここ数年安定している。でも許容範囲を超えてピークに達することもある」 「ピークってどんなときにだ?」 「……あなたの背中を見ているとき」 帰ろうとする俺を玄関で見送るとき、光陽園駅で別れるときのことだ。俺が帰った後の長門はどんなことを考えてなにをしているんだろう。独りぽつねんと食器を洗い、部屋をかたづけているのだろうか。青白い蛍光灯の下で茶をすすり、ごそごそと冷たい寝室に入る。眠るときはいつも猫を呼んで抱いて寝ているのを俺は知っている。 こいつは寂しいという言葉を使ったことがない。そのエラーはたぶん、そういう感情から生まれているんだと思う。俺は長門の肩を抱き寄せて手を握った。 「なあ、せっかく携帯があるんだからもっと会話に使おうぜ。同じ電話会社だからタダなんだし」 「……」 「別に用事がなくてもいい、声を聞きたいだけでもいいんだ」 「……分かった」 長門はポケットから携帯を取り出した。こいつとのメールのやりとりも待ち合わせやら仕事上の連絡事項がほとんどだ。もっとバカ話をしてもいいし、意味不明な宇宙論を話してくれてもいい。喧嘩はしたくないが、そういうのもあって悪いもんじゃない。離れていても会話を重ねていけば近くにいるような気になれるというか、物理的な距離をそうやって精神的な距離で縮めていく、というか。 「……もしもし、長門有希」 「もしもし。俺だ」 「……」 目の前にいる相手になにを話せばいいの、と、首をかしげて俺を見ている。 「じゃあ、俺そろそろ行くわ。また明日お前の顔を見たい」 「……分かった。おやすみ」 「待て待て、まだ切るな。こうやって話しながら少しずつ離れていけば、」 俺は街灯の光で柔らかく影を作っている長門の顔を見ながらあとずさった。 「まだそこにいるような気分になるだろ」 「……」 長門には分からないか、この名残という感覚。 『……体温が残っているのは分かる』 「ま、まあそれに近いもんだ」 俺は夜道を歩きながら、どうでもいいような話を続けた。バカップルがよく「今コンビニの前歩いてる~」とか「階段あがる~」などとやっているのを見かけるが、まさか自分が同じまねをするとは思いもしなかった。 「俺が帰った後はなにしてんだ?」 『……食器を片付けている』 「ほかには?」 『……ミミのエサを補充』 「それから?」 『……布団を敷いて寝る』 やっぱりそれだけか。 「じゃあ寝る前に電話をくれ。少し話をしてから二人で眠ろう」 『……分かった』 俺が飽きたり忘れたりしなければ続けられるはず。 『……着信が入った』 「電話か、じゃあ終わったらかけなおしてくれるか」 こんな夜中に電話なんて誰だろう。大学院の知り合いか、いやいやハルヒ以外には考えられない。 五分くらいして長門からかかってきた。 「おう、済んだか」 『……終わった』 「当ててやろうか、今のハルヒだろ」 『……そう』 「こんな夜中に何だって?」 『……とりとめもない、女同士の与太話』 長門が女同士の与太話って言ったか今。 「それ、ハルヒにそう言えって言われたのか」 『……そう』 「で、なんの話だったんだ?」 『……それは、内緒』 なんだか陰謀くさいものを感じるのは気のせいか。 「じゃあ、ハルヒには内緒でその内緒話を教えてくれ」 『……それは、契約に違反する』 哀しいことに最近の長門は簡単には騙されてくれない。 「すごく気になるんだよなあ。眠れなくなる」 『……あなたのこと』 「俺の噂してたのか」まあ女同士ってのはそういうもんだろう。 『……あなたをわたしの部屋に引き止められたかどうか』 な、なに。今日のあのなんともいえない寂しそうな表情はもしかしてハルヒの仕込みだったのか。 『……涼宮ハルヒとはたまにそういう話をする。あなたには言えないような、話』 「で、なんて答えたんだ」 『……玉砕した、と』 こりゃハルヒに一度、俺と長門の恋愛について釘をさしておく必要があるな。俺たちはふつうの男と女がやるような付き合い方はしないんだと言って聞かせないといかん。また長門にヘンなことを吹き込まれてはかなわんからな。 しかし俺のことがハルヒに筒抜けだったとは、弱みを握られてるも同然じゃないか。まあ長門もほかに相談する相手もいないだろうし、しょうがないといえばしょうがないことなんだが。 「いいか、あんまりハルヒの言うことを真に受けるなよ。あいつは俺たちをラブロマンス映画のキャストかなんかだと思ってんだからな」 『……それはそれで、楽しい』 いかん、完全に毒されてるな。 「それで、ほかにはなんて?」 『……涼宮ハルヒと古泉一樹の状況について』 キター!!ハルヒと古泉の生々しいスキャンダル。あいつらあれからどうなってるのか俺も知りたかったのだが、古泉が貝のように口を閉ざしてひと言も言わないんで気になっていたところだ。 「それは面白そうだ。俺にもぜひ聞かせてくれ」 『……だめ』 「教えてくれよ。きっと赤裸々な話が展開されているに違いない。あいつらいきなりやっ、ゲフンゲブンしちまうくらいだからな」 『……泊まったら、話す』 むぅ、巧妙な根回しに出やがったな。俺がうーむと唸っていると、 『……今のは、冗談』 長門、お前の冗談はいつもきわどいんだから、せめて予告くらいしてくれよ。 それからなんとかハルヒと古泉の私生活を聞き出そうとしたのだが、頑として教えてくれなかった。ということは俺たちのこともそれなりに秘密は守られているってことだよな。秘密ってのがあるのかどうか分からんが。 「家に着いた」 『……おつかれ』 「シャミが足にまとわりついてる。運動不足で丸々太った」 『……そう。耳の後ろをなでて』 俺は歳をとってそろそろ毛並みのツヤがなくなってきたシャミセンの、耳の後ろをかいてやった。 「おいシャミ、この電話の向こうにいるのは長門だ、分かるか」 猫相手になにやってんだろうね俺、と恥じ入っているとスピーカーから猫の鳴き声がしてきた。それって江戸屋猫八バリの声帯模写ですか。しかもサカってる猫の声だし。 「風呂に入るから、一旦切るわ」 『……分かった』 にしてもハルヒのやつ、味なまねをする。俺がこういう恋愛に慣れていなくて、たぶん長門も戸惑うことが多くて、誰に相談するともいかないようなボタンの掛け違いを、見かねたハルヒが間に入って俺たちを和ませているのだ。 俺と長門の付き合い方についてあいつが正面から意見することはない。俺が反発するのが分かっているからな。長門を焚きつけて妙な行動をとらせることはたまにあるが、あれがハルヒ流の恋愛なのだ。ジョンスミスをみすみす逃してしまい(シャレじゃないぞ)、十年も探した挙句がすぐそばにいたという灯台下暗し的運命の出会いが、ハルヒをそうさせているのかもしれない。あいつの奇矯ぶりは恋愛観にまで達してしまっている。中学生の頃は男をとっかえひっかえだったらしいしな。まあその要因を作ったのは俺なのだが。 俺が中学生のハルヒの恋愛観を作り、ひたすらジョンスミスだけを待ちつづける人生を過ごさせてしまったのだが、当の本人である俺が長門と付き合うきっかけを作ったのは、何の因果であろうハルヒ自身なのだ。 ぬるい湯船に浸かってまったりとそんなことを考えていると深夜零時を過ぎていた。俺は慌てて長門に電話をかけた。 『……ジュル。もしもし、こちら情報統合思念体主流派』 長門、寝ぼけてるんだよな。 みんなが寝静まった頃、足音を忍ばせてキッチンに入ると冷蔵庫に俺宛の手紙が貼り付けてあった。往復ハガキだった。高校のときのクラス会をやるので出席と欠席のどっちかに丸をつけて返信を出せということだった。 「同窓会って、今頃やんのか?」 まあ世間的には夏休みで、みんな働いていて忙しい身の上なら時間を作って会うには今時分が適当か。中央やらよその地方やらに出ていったやつも帰ってくることだし。 差出人を見ると阪中になっていた。あいつももういい歳だよなあ。って俺もだろ、などと独り突っ込み的感慨にふけっているとおかしなことに気がついた。阪中が俺にハガキをよこすはずがない。俺が改変した歴史だと五組にいたのは古泉で、俺は隣の六組にいたはずなのだ。もしかして学年合同でやるのかと裏書を読み返してみたが、ちゃんとクラス会と書いてあり頭の周りでクエスチョンマークが渦巻いた。 不思議に思って古泉の携帯にかけた。 「古泉、遅くにスマン。今いいか」 『少々お待ちを』 数秒して『どうぞ』と返ってきたのだが、後ろでハルヒの甘えた声らしきものが聞こえていたのは気のせいってことにしとこう。 「阪中から俺宛に同窓会の案内状が来てたんだが、」 『ええ、高校のときのクラス会ですね。僕のところにも来てますよ』 「改変した歴史の俺って一年六組の生徒だったよな。なんで俺に来てるんだろう」 『はて、なぜでしょう。あの後、朝比奈さんの組織がフォローにまわったと言ってましたよね』 ちょっと困ったことになった。つまり俺の改変した歴史と、改変前の俺自身の記憶と、それから朝比奈さん達がフォローした歴史が存在することになる。いったいどれが正しい歴史なのか、ちょっとどころか俺とクラスメイトの記憶が一致しなくて会話が成立しない事態になりかねん。 『僕も自分の歴史がどうなっているか気になるので、機関のデータベースを調べてから折り返しお電話します』 「すまんが頼む」 つまり当事者の俺も三パターンの歴史を覚えてないといけないってことだな。ややこしくて頭痛に襲われそうだ。あのとき朝比奈さんが怒髪天を突く勢いで怒った理由が今さらながらに身に染みて分かった。 五分後、携帯が鳴った。 『どうも古泉です。お待たせしました』 「どうだった」 『あなたの周辺はかなりカオスな状態になっていますね』 「カオスって具体的にどうなってるんだ」 『改変前は涼宮さんの周辺で起こった出来事のうち、大部分はあなた自身がトリガになっていまして、それを修復するために朝比奈さんたちが無理やりあなたを動かしているようです』 「お前が肩代わりできなかったのか」 『もちろん僕自身も駆り出されているようです。ですが、フォローするにもやはり限界があったのでしょう。たとえば涼宮さんと口論するイベントなどは、僕というキャラクタには無理ですからね』 ハルヒを怒らせる役回りは俺にしかできないってことか、なんだかこの問題はこの先もずっとついてまわりそうな悪い予感がするぞ。 『日誌には修復の痕跡が見え隠れしていまして、かなり苦労したようです。ある部分はどうしようもなくてツギハギ状態のようなありさまで』 「つまり俺の周りだけ歴史が茹ですぎたスパゲティ状態なのか」 『簡単に言えばそういうことです』 電話の向こうで古泉のニヤニヤが見えるようだ。 「それは今後朝比奈さんと相談しつつなんとかしよう。話は戻るが、俺は長門と同じ六組のはずだよな」 『記録によると、四人とも二年になってから五組になっていますね。涼宮さんとあなたが別のクラスだと発生しないイベントがあったのでしょうか』 イベントイベントってギャルゲのフラグっぽいんだが、全員が同じ部屋に押し込められたのか。なんだかもう、未来人もデタラメだなあ。 「俺に関する当時の資料をもらえないか。自分の記憶と一致させねばならん」 『あいにくとすべて機密扱いなので簡単には持ち出せないのですが』 「お前の力でなんとかならないか。歴史改変の事情は幹部も知ってるだろう」 『なんとか取り計らってみましょう。改変のおかげで機関内での僕の地位も上がってますし』 「昇進したのか」 『戻ってきたらシニアチーフになっていました』 チーフにシニアがついたのがどれくらいの待遇向上なのかは分からんが、きっとボーナスがいいんだろうね。 『それはいいとして、あの頃に収集された情報は相当な量になりますが』 「できれば概要だけ頼みたいんだが」 つまり俺が改変した歴史がどうなったかかいつまんで教えろ、と俺は言っているのだ。自分で言っててなんて勝手なやつだとは思うのだが。 『かしこまりました。明日の朝一までにそろえておきます』 いつもながら、古泉のこういう手配力には頭が下がる。また借りができたな。 「すまんな」 『いえいえ、これくらいお安い御用です』 次の日、職場で受け取った書類の量はまじにハンパではなかった。古泉は三百ページはありそうなA4用紙の束をドンと机の上に置いた。 「十一年前の七月七日から、あなたに関する情報を抜粋したものです。これでも全体の十パーセント程度に減らしてあります」 古泉はこれ見よがしに前髪をさらりと跳ね上げ、オレっちはこれが仕事じゃけんのうと鼻を鳴らしそうな勢いだった。まあ俺が頼んだことなんで、突っ込むわけにもいかん。腹立たしいことだ。 全ページにCONFIDENCIALと赤くスタンプが押してある。ページをめくると、まずこの資料をまとめた人間の俺に対する所感が書かれていた。モラトリアム、自主性に欠ける、行き当たりばったりで人生の目的が不明瞭などとかなり辛口だったが、俺が古泉に電話したのが昨日の零時くらいだから、きっと徹夜仕事でイライラだったんだろうなあと同情しそうなくらいに気持ちが文面に漏れていた。それから目次、続いて十一年前からの月次レポートと年次レポートで俺の行動が事細かに書かれていた。といっても概要だけらしいのだが、自叙伝でもここまで詳しくは書けないぞ。 「いかがですか、自分の観察記録を読んだご感想は」 「まだ読んでる途中だ。なんというか、俺が一冊の本になってるな」 機関の設立はあの七夕の日から数週間後らしい。まあハルヒに超能力を与えられて即日組織化されるってのも急すぎて人間技じゃないからな。七夕事件のことは機関の運営が軌道に乗ってから遡って調査したことらしい。つまり人づてに聞いたことをまとめたのか。 あんなこともあったこんなこともあったと、第三者視点の我が人生の記録をしみじみと読んでいる俺だった。他人の目にはこんなふうに映ってたんだななどと相槌を打ったり、かたや、あのときは違うんだよ俺のせいじゃないんだってばというようないい訳じみた独り言をブツブツと吐いていた。 俺の記憶とは部分的に違う二年五組の様子を読んでいるところで携帯がブルブルと震えた。知らない番号からだった。 「はい、もしもし」 『阪中だけど、キョンくん?』 かなりドキリとした。同級生に会うのにこれから丁寧にアリバイを用意しようと考えていた矢先に突然電話がかかってきちまったんだもんな。 「お、おう。阪中か。久しぶりだな」 『ほんとにお久しぶりなのね。ハガキ届いたかしら?』 「来た来た。たぶん出席できそうだ」 『そう、よかった。折り入ってお願いがあるのね』 「いいけど、なんだ?」まさか俺に司会をやれとか言うんじゃあるまいな。 『涼宮さんと同じ職場にいるって聞いたんだけど』 「そうだが。同じというかあいつが社長でな」 『そうそう、聞いてるわ。涼宮さんを同窓会に連れてきて欲しいのね』 「自分で頼めばいいだろう」 『それがね、毎年誘ってるんだけどいつも断られるのよ。同窓会が嫌いみたいなのね』 まあ、前進あるのみで過去にはこだわりたくないっていうハルヒの考え方は分からんでもないが。 「阪中が頼んでだめなら、俺が頼んでも無理だと思うが」 『そこをなんとかお願い。あなたなら涼宮さんを動かせるんじゃないかって』 またそれか。ハルヒのお守り役は古泉に譲ったはずなんだが、そのへんは修復で元に戻っちまったんだろうか。 「そういう話は古泉のほうがいいと思うぞ。なんせカレシだしな」 『頼んではみたんだけど、自分じゃ無理みたいだからキョンくんに頼んでくれって』 なんだあいつ、自分が説得できないからって俺に鉢をよこしたのかよ。 「しかしなあ、ハルヒが嫌がってるんだったらテコでもクレーンでも動かんと思うが」 『みんな涼宮さんの話を聞きたいのよ。あたし達の間で社長にまでなったのは涼宮さんだけなのね。出世頭っていうのかしら』 出世頭か、その言葉は俺にもグッと来た。高校大学と奇矯なまねばかりしていたハルヒだが、見るやつが見ればなにかでかいことをやるやつだという予感めいたものがあったに違いない。そこで二十四歳にしてこの社長椅子に座ってるとなりゃ、堅物の岡部でさえグッジョブを出すに決まってるさ。 「分かった。俺がなんとかする」 『ほんとう?ありがとう。じゃあ四人とも参加にしとくわね』 四人って?と問い返そうとしたのだが、じゃあよろしくね!と勢いよく切られてしまった。俺達全員が同じクラスってことは古泉と長門のことも頼んだってことなのか。やれやれ。 「なんであたしが高校のクラス会なんかに出なくちゃいけないのよ」 「無理に行けとは言わんが、お前の代わりに出席の返事をしちまったからなあ。お前が行かないと古泉も行かないだろうから、俺が会費を払わされることになる」 「あんたが勝手に返事をするのが悪いんでしょ。あたしの知ったこっちゃないわよ」 「毎年やってんだからたまには顔を出せよ。お前がいないとメンツが締まらない」 「あたしは同窓会と名のつく集まりは嫌いなの」 「なんでだ?昔遊んだよしみじゃないか」 「イヤよ。年取って小じわが現れたのをお互いに数えあうなんて。昔の顔と比べて使用前使用後みたいな集まりは」 同窓会は別に化粧品の実演販売じゃないんだが、うまいこと言うな。 「メンツの中で社長やってるのはお前だけなんだよな。なんつーか、みんな聞きたいわけだよ。お前のサクセスストーリーを」 「社長なんてその気になりゃ誰でもなれるわよ。とにかくあたしをネタにして酒を飲もうなんてお断りよ」 やっぱりというか思ったとおりの反応というか、幹事をやっている阪中に拝み倒されて事後承諾みたいにしてOKを出した俺がバカだった。今は反省している。 「まあそこまでイヤだっていうんならしょうがない。俺が自腹でお前達二人分の会費を払うしかないな。せっかく古泉をお披露目できるチャンスだったんだが……」 最後のはボソボソともったいつけて言った。 「お披露目ってなによ」 「知らないのか、八年も付き合いのある同級生を彼氏に持ってるってのは希少なんだよ。あいつらはそういう話をうらやましがるのさ。幼馴染みの彼氏に近いかもな」 「そ、そうかしら」 ハルヒがポッと顔を染めた。ふっ、釣れたな。だがまだ引き上げないぞ。 「いやいいんだ、気にするな。俺もあんまり同窓会って集まりは行きたくないしな。気持ちは分かる」 「あんたが払えないんだったら行ってあげてもいいわ」 「忙しいんだろ、無理すんな。会費くらいなんとか払える」 「いいの、あんたの寒い懐具合を凍らせたら有希がかわいそうだから」 「今月は余裕あるから大丈夫だ」 「あたしも行くつってんでしょうが!」 くっくっく。とうとう切れやがった。 とは言うものの、古泉はあまり乗り気ではないようで、仕事にかこつけて後から顔を出しますとごまかしていた。この古泉の記憶にはないクラスメイトの、しかも彼氏を見せびらかすだけの同窓会になんて喜んでついていくわけがない。 飽きもせず毎年やっているだけあって集まるメンバーにそんなに違いはないんだが、来るやつは毎年来るし来ないやつは招待のはがきを出そうが電話をかけようが絶対に来ない。よっぽど学生時代にいやな思い出でもあったんだろうか。かつての担任岡部は呼ばれればまめに顔を出しているようだが、今年は来ていないようだった。 「やあキョン、来てたんだね」 「キョンよお、お前あいかわらず涼宮とつるんでるんだって?」 国木田と谷口がコップを握ってにじり寄ってきた。なんで知ってるんだこいつ。こいつらの記憶と俺の記憶がどこまで一致しているか果たして疑問だが、適当に話を合わせておこう。 「あの頃のクラスメイトが集まって昔話に花が咲くといや、必ず一度は涼宮の話になるもんさ」 「あいつとは腐れ縁だしな。俺もそういう星の下に生まれたんだとそろそろ諦めの境地だ。俺だけじゃない、四人ともだ」 「キョン、涼宮さんと会社作ったんだって?」 「ああ。なにがしたいのかよく分からん会社だがな」 「いいよなあお前ら。俺も雇ってくんねえかな」 お前が宇宙人未来人超能力者のどれかに属するなら考えてやらんこともないが、それよりお前にハルヒのお守りが勤まるとは思えんので却下だ。 「長門有希とはまだ付き合ってるのか?」 谷口は、別れたならぜひ自分がカレシ候補にとでもいいたげな目をして、ヒシと俺に問いかける。 「ああ。ハルヒと一緒にいるはずだが」 俺は遠目に、いい歳になった女どもに囲まれているハルヒのほうを指差した。歳をとってハルヒも多少なり角が取れ、あの頃話もしなかったクラスメイトともちゃんと会話しているようだ。 谷口は目を細めて長門を探していた。 「おーおー、長門だ。ほかの女どもがすでに下り坂ってえのに、あいつはぜんぜん変わらんな」 なんだその黄色い道路標識みたいな下り坂ってのは。女子連に聞かれたら締め上げられるぞ。 「長門さん、きれいになったねえ」 「ほう、国木田には分かるのか」 「そりゃ分かるよ。女の人は恋をするときれいになるんだ」 意外に見る目あるんだなこいつは。国木田の左手薬指にはもう指輪がはまっていた。こいつは結婚が早かったと聞く。 「お前らあんまりジロジロ見るな。女は長門だけじゃないだろ」 「見たって減るもんじゃねえだろ。男なら誰だって六年経ったアレがどんな姿になってるか、気になるだろうがよ」 気持ちは分からんでもないがアレ呼ばわりはないだろ。 「にしても、まさかお前がトリプルAの長門有希と」 「Aマイナーじゃなかったのかよ」 「俺のランキングは市場連動型なんだよ」 「なんだそりゃ」 「朝倉みたいな清純派はあの時代にはハイクラスだったが、今は萌えだ、萌えの時代なんだ」 こいつもまたハルヒみたいなことを言い始めたぞ。 「なるほどな。お前あの頃は朝倉が好きだったもんな」 谷口がポッと顔を赤らめた。 ── 俺の記憶によればだが、高校三年のとき俺と長門が付き合いはじめたことが谷口の耳に入るのは朝のラッシュアワーをすっ飛ばして行く原付よりも早かった。こいつには一度長門と抱き合っているところを見られた経緯もあって、二人の仲はずっと疑われていたらしい。あのとき谷口は俺のネクタイをハルヒ張りにひっつかんで締め上げた。 「キョン、お前長門と付き合い始めたってほんとか!」 「く、苦しい離せ。ハルヒに告げ口したのはお前だろ。おかげでとんでもない目にあったぞ」 「キョンが人気のない教室で抱き合ったりするから噂が立つんじゃねえか」 「いやあれは抱き合ってたんじゃなくて長門が具合悪そうだったから支えてやってたわけでだな」 「この期に及んでそんな言い訳が通用するか、よっ」 ふざけているのかまじめなのか分からん谷口に腕卍固めを決められてマイッタを何度も叩いている俺だった。 「で、長門有希のどこに惚れたんだ?」 どこと申されましても、俺と長門の関係が曖昧すぎてハルヒが付き合うのか付き合わないのかはっきりしろと怒ってそれで強制的に団公認みたいな流れになっちまったんだが、なんてことを言ったら谷口は切れるだろうな。俺はただひと言、 「萌えた」 このセリフが予想以上に谷口にショックを与えたようで、やおら涙目になって、 「末永くお幸せにっ」 ごゆっくり、のときと同じシチュエーションでダダダッと駆け出して教室のドアをガラガラピシャっと閉めて出て行った。いったい何があったんだとシーンと静まり返った教室内に谷口の賭けていく足音だけが遠く遠く国境を越えてカナダにまで行ってしまいそうな勢いで聞こえていた。 今じゃなつかしい、恥ずかしい話だ。こいつの歴史と一致するのかどうかは知らんが。 「谷口は長門にも惚れてたのか」 「おうよ、キョンが長門と付き合いだしたって聞いてそりゃもう逆上もんだったしな」 どうやら一致してるらしい。 「お前らは知らないだろうけどな、俺あのときマジ泣きしたんだぜ」 いや、知ってたから。みんなの前で十分涙流してたから。ついでに言うと翌日から下級生を手当たり次第ナンパしてたのも知ってる。欲をかいて新卒の研修生にまで声をかけてひっぱたかれたのも知ってる。さらに近所の中学生に、 「分かった、分かったからもういいって」 「あははは、あのとき谷口が生徒指導室に呼ばれたのはそれでだったんだね」 「頼むから思い出させないでくれ。酔いが覚めちまう」 「お前は女のことになると見境がないからな」 「あれは俺なりの治療薬なんだよ。女で受けた傷は女で癒せ、って昔からいうだろ」 それは寝取られたときとかに使うセリフだ。お前が勝手に空回りして傷ついてるだけじゃないのか。 谷口がぼそりと言った。 「あーあ、朝倉に会いてえぜ。今ごろどうしてんだろな」 今からでもカナダに行っちまえよ、などというと本当に行ってしまいかねんやつなので言わなかったが。 二次会が終って三次会のカラオケに付き合い、ほろ酔いの頭でそろそろハルヒと長門を連れて帰らなきゃなと見回してみたがすでに姿はなかった。そういえば一次会の終わりごろ古泉がちょこっとだけ顔を出して一緒に帰っちまったな。やっぱりあの三人がクラスにふつうに溶け込むにはキャラが立ちすぎてたか。 その後の記憶は曖昧なのだが、ただ谷口が俺に向かって言ったことだけはかすかに覚えていた。 「キョン、ちゃんと呼べよ?」 谷口がなんのことを言っているのか、酔った頭で数秒考え、 「おい、何のことだ?」 もう一度谷口を見たがタクシーはすでに走り去っていた。 それからどうやって家に帰ったのか、一切記憶がない。 目が覚めたのはたぶん夜中だったと思う。俺のベットで隣に誰かが寝ていた。部屋は暗く、物音はなく静かだ。顔を横に向けてみると、見慣れた顔がそこにあった。長門がうつ伏せで眠っていた。肘を曲げ、口元に軽く握った手を置いていた。耳を澄ますとスゥスゥという寝息が小さく聞こえる。 ああ、俺は夢を見ているんだなと思った。昨日は飲みすぎたからな。こういう夢なら大歓迎だ。ハルヒと夜の校庭を走り回ったりするんでなければな。 俺は長門の顔をじっと見ていた。すやすやと、吐息に合わせて髪が揺れる。いい夢だ。 …………。おかしい。この夢、いっこうに覚める気配がない。不思議に思って右のほっぺたをつねってみたが現実に近い痛さだ。左のほっぺたをつねってやっと理解した。ベットだと思っていたのは実は敷き布団で、自分の部屋にしちゃ三十センチくらい天井が高いなと感じていたのは、実は長門の部屋の天井だったのだ。俺はガバと飛び起きた。 「な、なんで俺がここにいるんだ!?」 声は出さなかったが、心の中で叫んだ。 ええっと、昨日なにがあったんだっけ。確か同窓会でだいぶ飲みすぎて、あ、誰かに抱えられて歩いたな。記憶の中で、ふらふらと歩いている自分の映像のあちこちに長門の顔があった。自宅に戻るつもりがここに押しかけちまったのか。しかも酔っ払ったまま。しまった、長門に嫌なところを見せちまったな。まさか長門を襲ったりしてないだろうな俺。……記憶がぜんぜんない、冷や汗もんだ。 俺は布団から抜け出た。そこは和室だった。朝になって長門になんて説明しよう。音を立てないようにそっとトイレに行ってシンクで顔を洗った。顔がやたらベタついていた。ザブザブと洗ってふと顔を上げると、鏡の中の俺はひどい顔をしていた。髪はぼさぼさ、顔色は悪く目の下にクマができていた。 あれ、俺、長門のパジャマを着てる。と思ったがボタン穴が左で男用だった。そういや長門は同じのを着てたな、ということはおそろいのパジャマか。俺は想像した。酔ってヘロヘロになった俺が長門の部屋のドアをガンガンと叩いて起こす。長門はしょうがなく俺を中に引き入れて水を飲ませる。俺はそのまま倒れこんで眠ってしまい、長門がパジャマに着替えさせる。頭を抱えたくなるようなシーンだった。 それにしても……前にも見た気がするがいつ買ったんだこのパジャマ。俺はハッとした。長門がこれと同じ緑色のパジャマを着ているのを最初に見たのはいつだっただろうか。昔、あいつが熱かなんかで寝込んだときだったような気がする。ありゃまだ俺たちが高校二年くらいのときだ。あのときすでにこのパジャマがここにあったんだとすれば、長門は俺が泊まることを予測していたわけだ。 俺は鏡の前に立ててあった新品の歯ブラシを取った。硬めのブラシしか使わない俺用だった。コップとその横に二日酔いの薬が置いてある。 「長門……」 はみがき粉も俺が自宅で使っているのと同じやつだった。 歯ブラシをくわえ、口を泡だらけにしてこっちを見ている男が鏡に映っていた。そいつが言った。 ── ここが、お前の帰る場所なんだよ。 その意味はなんだ?俺はがしがしと歯を磨きながら複雑な表情をした。男がまた言った。 ── もう、自分の居場所を決めてもいい頃だろ? 「黙ってろ」俺はタオルで鏡をはたいた。電気を消すと鏡の中の男がニヤリと笑った、ような気がした。 暗いリビングに戻ると、俺のスーツとシャツがきちんとハンガーにかけてあった。テーブルの上に乗っていた携帯を開くと午前二時半だった。メールも着信もない。ふと、発信履歴を見てみると夜中の一時ごろに長門にかけている。うわ、まったく覚えてないぞ。なに話したんだ俺。長門を怒らせるようなことを言ったんじゃあるまいな。情報連結解除されたらどうしよう、このまま逃げ出して自宅に帰ろうかなどと古泉と同じ穴の二の舞をやっているような気分になった。 和室をのぞくと俺が抜け出したままの布団に長門が眠っていた。俺は足音を立てないようにそろそろと布団に近づいた。 カーテンのない窓から、月の光が差し込んで長門の顔を柔らかく照らしていた。シンと静まり返った部屋の中で、長門の吐息だけが小さく波を打っていた。 俺は長門の隣で横になってその寝顔を見ていた。布団の上に青白く冷たい光が長門の顔の形に影を作っている。寝顔を間近で見るのはあまりなかったと思うが、覚えている限りではたぶん二度目くらいだろう。じっと見つめていると、スヤスヤと寝息を立てる長門の半開きになった柔らかそうな唇に引き寄せられそうになったが、起こしてはまずいと思い自分を抑えた。 こいつに会ってそろそろ八年だな。もっとも、長門からすると十一年くらいか。いや、終わらない夏休みとかタイムトラベルとか歴史のループを合わせるといったいどれくらいになるのか見当もつかん。なんて感慨にふけっている俺だが、この数年間は実にあっという間だった気がする。会ってからずっと、俺も長門もハルヒという台風の目に振り回されっぱなしだった。困ったときはいつでもこいつを頼った俺だった。こいつのために俺がなにかしてやったことがあったっけ。思い出せない。せめてそばにいてやることくらいはしてやりたい。そう、ここ、長門の隣。ここがたぶん俺の……。鏡のあいつ、なんて言ったっけ。 そんなことを考えているうちにまた眠りに落ちた。長門のかわいい寝顔がいつまでも目蓋の裏に焼きついていた。今度はいい夢を見れそうだった。 二章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1219.html
「ホワイトカレーよ!カレーなのに白いのよ!不思議だわ! SOS団として、この不思議を見逃すわけにはいきません。 今日はみんなでホワイトカレーを食べましょう!」 今日も無駄にテンションが高い我らがSOS団団長が高らかに言い放った。 要するにお前が食ってみたいだけだろうが。 CMを見た妹が騒いだ我が家では発売から早々に食卓に並んだが、味は結局ただのカレーだぞ。 「はあ……ホワイトカレー、ですかあ……?」 朝比奈さんはしきりに首を傾げている。この愛らしいお方はCMを見たことがないのかもしれない。 「いいですね」 こんなとき決まってハルヒに賛同するのはイエスマン古泉だ。もちろんニヤケ面スマイルつきで。 「ちょうど僕の知り合いがハ○スに勤めていまして、つい最近家に結構な量のルーが送られてきたんです」 お前の話はどこまで本当なのかわからんから俺はもう一々考えたりしないからな。 「じゃあ決まりね。あたしが作るから、古泉君は有希の家にルー持ってきてちょうだい」 「了解しました」 待て待て、長門の家でやることは決定済みなのか? 長門が反対するとも思えないが、それでも一応家主の許可を得てからにしろ。 「問題ない」 ……随分きっぱりと言い切ったもんだな。お前カレーに反応しただろう。 「それじゃあ7時に有希の家に集合ね!遅れたら死刑だから!」 お約束の台詞と共に一時解散となった。やれやれ。 * * * 「……味は普通のカレーと大差ないわね、ちょっと辛さは物足りないけど。 特に不思議な味はしないわ。ま、こんなもんかしら」 自分の作ったホワイトカレーを食べたハルヒは一瞬眉を顰めたが 結局はいつもの満足そうな笑顔を浮かべていた。 「ふわあ~、涼宮さん、このカレーすっごくおいしいです~!」 「ええ、さすがは涼宮さんですね。これほどおいしいカレーは初めて食べますよ」 カレーなんて誰が作ったってそこそこの味はするもんだがな。 それにしてもハルヒの作ったカレーはまったく腹が立つことに半端じゃなくうまかった。 上品にスプーンを口に運ぶ言葉丁寧組二人を尻目に、 ハルヒと俺はすでに二杯目を平らげて三杯目に突入しようとしていた。……ん? 「長門、どうした?具合でも悪いのか?」 長門は大好物のカレーを目の前にしてスプーンすら握っていない。 「有希っ、おかわりならたくさんあるんだから!じゃんじゃん食べちゃいなさい!」 「――こと」 何?よく聞こえなかった。すまんがもう一度頼む。 長門の無感情な目が俺を捉えた。 きっ、という効果音が聞こえたような気がするのは俺の気のせいだ。 何故だろう……長門がとても怖い。 「これは一体どういうこと。今日はホワイトカレーつまりカレーを食べるという話だったはず。 カレーとは日本語で茶色と定義される色もしくはそれに準じる色をしている。 しかしこれは白ホワイトクリーム色もしくはそれに近似する色をしている。 私が知るカレーの色とこの色は決して結びつくことがない。なぜ。 カレーという名がつくのになぜカレーの色をしていないの」 ここで長門は宇宙人カミングアウト時並みのマシンガントークを一旦切りあげ、 俺の答えを待つそぶりを見せた。 え、答えなきゃいけないのか俺? 「それは……ホワイトカレーだから、だろう。」 ホワイトなのに赤や青だったら詐欺だ。 そんなことより長門、ハルヒがぱかーんと口を開けた間抜け面でお前を見てるぞ。 古泉も朝比奈さんも似たような顔になっているし、多分俺もなんだろう。 しかし長門の暴走は止まらなかった。 「それでは理由にならない。カレーの色という概念はカレーという個体を構成する重要な要素のはず。 よってカレーの色をしていないカレーには成り得ない。つまりこれはカレーではないということになる。 ではなぜ。なぜこれはカレーの名を冠しているの。それにあなたたち」 ここで長門はぐるりと俺以外の団員の顔を見回した。 ぎぎぎ、という効果音が聞こえたような気がするのは本当に俺の気のせいだろうか。 「あなたたちはなぜ、これをカレーと呼ぶの。これはカレーではないのにも関わらず」 俺たちは全員震え上がった。あまりの恐怖に声が出ない。 朝比奈さんはともかく、震え上がるハルヒと古泉なんて滅多に見られない。 今日は珍しいことだらけだ、ぜひ別の場面で見たかったね。 今はそんなものを楽しんでる場合じゃないんだ。残念ながら俺も当事者だからな。 「あなたたちの存在、そしてこのホワイトカレーの存在はカレーの概念を狂わせる」 そして長門は決定的な一言を呟いた。 「この世界を私は認めない」 * * * こうして世界は長門によって二度目の改変が行われた。 改変に立ち会った俺たち以外は決してその事実に気がつくことはないが、 この世界はホワイトカレーの存在が綺麗さっぱり抹消された世界である。 ハルヒはというと、ホワイトカレーのことはすぐに忘れて新しいものに飛びついたから問題ない。 ……お前は本当に幸せなやつだよな。 朝比奈さんが言うには、このことによる未来への重大な影響はないそうだ。 古泉によると、カレーが絡んだ時の長門を恐れた各陣営は今回の事態を黙殺することで同意したらしい。 ホワイトカレーをカレーと呼んでしまった俺たちはというと、 古泉が知り合いだか機関だかを通して手に入れた 大量のカレーレトルトパックを差し出すことで許してもらった。 そう、未来への影響はない。 ただひとつ、ハ○スの食品開発者の方々の努力が水泡に帰したことを除いては。 俺と朝比奈さんと古泉はそっと手を合わせた。 ハウ○のみなさん、本当にごめんなさい、と。 終わり。
https://w.atwiki.jp/sengoku_muramasa/pages/1703.html
藤林長門守 4MAX 7764/7622/7073 --
https://w.atwiki.jp/kancolle_ero/pages/70.html
その眼光、その威圧、その佇まい、まさに圧倒的存在。彼女は堂々と歩いていた。彼女を待っている一人の男とその後ろにいる女たちに向かって。 「私が戦艦長門だ、よろしく頼むぞ」 凛とした声だ。誰の耳にも届き、鼓膜を歓喜に――――――または敵側だったら恐怖に――――――震わせる声だ。 「敵戦艦との殴り合いなら任せておけ」 彼女、長門は目の前にいる者達の仲間となったのだ。男は右手を差し出した。 「君を待っていたよ。君の力が必要なんだ。長門」 長門は不敵に笑った。それこそ長門が求めていた言葉だったからだ。 長門も右手を伸ばし、男の手を強く握り締めた。 戦艦長門の、戦争が今始まる。 世界中の海域に突如謎の組織が現れた。組織という言葉も適切ではないかもしれないが、とにかく何かが現れたのだ。漁に出た船は沈められ、海が荒れ、おどろおどろしい雲が立ち込め、恐ろしい怪物が人々を脅かしていた。人間たちはその何かを深海棲艦と名付けた。人間たちには深海棲艦と太刀打ちできる力を持っていなかった。普通の人間の場合に限るが。 普通の人間に限らない場合がある。その深海棲艦に対抗できる唯一の組織は、特別な人間たちのグループだった。それは戦時中に活躍した誇り高き日本の艦船の意思を受け継ぐ女性・艦娘と、その艦娘の力を引き出せる能力を持つ提督だ。世界を繋ぐ海に蔓延る深海棲艦に世界各国の艦娘と提督は力を合わせて拮抗し、被害を抑えている。これは昔に起きた人間と人間の戦争ではない。人間と怪物の、お互いの生存をかけた戦争なのだ! そして戦艦長門の歴史を己自身のものとして受け入れている女性は、この戦乱の中で興奮と期待に心が震えていた。思う存分に戦えるという喜びと、前世の自分の悔いをこの戦いを通して昇華できると思ったからだ。長門は目の前にいる男の目を見据える。顔立ちは穏やかであったが、目には力強さを感じた。数々の戦況を乗り越えてきた目だ。この男の下なら自分は充分に、いやそれ以上に戦える。長門はそう確信した。 「さて、君を正式に我々の仲間として歓迎する前にやってもらいたいことが一つある」 手を離した時に提督が厳かに言った。 「何だ?入隊試験のようなものか?何でも構わないが…… もちろん全力でいかせてもらうぞ」 長門は自分の拳と拳を合わせた。鉄の篭手がぶつかり合って高い音が鳴った。 「いや、試験とかそういったものではない。なぁに簡単なものだ。そう気負わなくてもいい」 「盃でも交わすのか?それも悪くはないな」 提督は頭を横に振った。 「お酒を飲む訳でもない。ただ、パンツを私に渡せばいい」 「あぁ、なんだそういうこと……… ……… ……… ………」 長門の顔が強張った。 「……すまない、よく聞こえなかったのだが今何と言った?」 「長門のパンツを私に渡して欲しい」 「……… ……… て、手ぶらで申し訳ないが私はパンは持っていないんだ……作り方も分からない…」 「パンじゃないよ、パンツだよ、パンツ。下着だ。股間に穿くものだ」 長門はまじまじと提督の顔を凝視した。男の顔は至極普通であり、そこに下品な嫌いは感じない。後ろにいる艦娘たちを見渡しても、戸惑った様子のものは誰一人としていなかった。すると提督の隣にいた金髪碧眼の青い隊服の者がクスクス笑った。 「提督~ダメですよ、長門が困ってるじゃない~」 あぁよかったと、提督を咎める声を聞いて長門は安心した。 「他の子がいる前だとさすがに恥ずかしいわよ~慣れてないんだから」 「あぁ、そうだな!長門がようやく来たから興奮して配慮が足りなかったな…愛宕ありがとう」 「いえいえ~」 「ちょおおおおおおおおおおおおおおおっと待った!!!!!!!!!」 穏やかに会話をする愛宕と提督を大きな声が邪魔をした。 「いや!!!なにが!!そういう問題ではないだろう!!どういう!!ことだ!!いやおかしいだろ!!下着を渡せなど何を考えているんだこの破廉恥が!!」 怒気により顔を真っ赤にさせ長門は怒鳴った。愛宕はまぁまぁとのほほんとした笑顔で長門の肩を叩く。 「通過儀礼だから大丈夫よ~」 「何が!大丈夫!!!なんだ!!!」 「あとここでは私たち艦娘のパンツは提督が手洗いすることになってるの。よろしくね~」 「はああああああああああああああ?!?!そんなこと許せるか!!」 パンツを脱ぐだけでも許しがたいのにパンツを洗濯するだと!?しかも手洗いで?!提督が?!何故!どうして!冗談にも程があるぞ! 「落ち着いてよ姉さん」 艦娘の集まりの中から見覚えのある姿が出てきた。妹の陸奥だ。 「陸奥!!どういうことなんだこれは!冗談なんだろ?!私をからかうための遊びか?!」 「もぉ~遊びは火遊びだけでお腹一杯よ~ からかってなんかいないわ。提督が私たちのパンツを洗ってるのよ」 陸奥は当たり前のように言いのけた。 「私も最初はビックリしたけど、慣れたらどうってことはないわ」 「…!乙女が!それでいいのか!いいか男が女の下着を洗うなど……そんな不純な行為を許してもいいのか?!その下着でこの男が……」 「し、司令官さんを悪く言うのはやめるのです!」 陸奥の後ろから小さな少女が出てきた。 「司令官さんはそんな人じゃないのです…司令官さんはとても優しくて…電たちのことをちゃんと考えてくれて…大事にしてくれるのです。そんなことは言わないでください」 自身を電と名乗る少女は、体と声を震わせながら長門に抗議をした。恐らく長門が怖いのだろう。それでも提督を擁護する為に長門の前に勇気を持って立っていることが伝わった。その健気な姿が良心にチクリと刺さる。長門は改めて艦娘たちを見渡した。みんな提督を心配しているように見え、そこには提督への反発や怒り、侮蔑などは一切感じなかった。そして提督は長門の批難にも関わらず凛とした佇まいだったが、その表情にはどこか寂しさと傷心を滲ませていた。 完全に長門の立場が悪かった。 「わ……悪かった。そ、その…初対面でそういうことを言われるとは思っておらず…つ、つい興奮してしまった。お前たちがそこまでこの提督を慕っているのなら、そう悪いやつではないんだろう……陸奥もあぁ言っているし…… うん、うん……」 電の顔が明るくなった。 「ほ、本当にそう思ってくれます?」 「あぁ………うん、多分」 「ならパンツを脱いでくれますか?」 「断る」 はわわっと電はまた泣きそうな顔になった。長門は居た堪れなくなって陸奥に助けを求める。 「大丈夫よ姉さん。恥ずかしいのは最初だけ」 ダメだった。長門は絶望した。 「と…とにかく私は脱がない!脱がぬぞ!」 「それなら解体か改修の素材コース、どちらがいいかしら~?」 「そんなの……! はぁ?!解体?!素材?!」 愛宕の発言に長門は面食らった。愛宕はニコニコしながら死刑宣告をする。 「ごめんなさいね~それが入隊の決まりなの。出来ない子は解体か素材にしてさよならしちゃうわ~」 「!?正気か?!私は長門だぞ?!レアリティが高くボスドロ限定かつ建造成功例も低確率な私を?!使いもせずに解体か素材?!!?」 「うーん、でも今じゃあ姉さんより鶴姉妹の方がレア度が高いんじゃないかしら」 「三隈さんや鈴谷さん、熊野さんもなのです」 「えぇいうるさい!!」 長門の怒号に愛宕は我関せずというようにただ笑っていた。 「で、どうします~?解体と素材?」 「それは……」 「あ、私あとちょっとで対空がMAXになるの。解体よりも私の素材になって欲しいわ」 「む、陸奥…!お前…!自分の姉に向かってそんな…!!」 唯一の味方だと思っていた妹の陸奥の言葉に長門の鋼鉄の心は溶けそうだった。 「で、どうするのよ姉さん」 周りの視線が長門に突き刺さる。長門はここから消えてしまいたい気分だった。先ほどまで高揚していたあの気持ちは何処へ行ってしまったのだろう。やっと戦えると思ったのに、まさかの展開に心が挫けそうであった。戦艦長門としてのプライドを取るか、捨てるか。二つに一つ。しかし、長門にはまだ小さな希望が残っていた。 「………一つ言っておくが、私はパンツではない。フンドシだ」 そう、長門はフンドシだった。しかも白フンだ。現代社会の女性が好んで着けるような下着をつけてはいない。このことを公言することは避けたかったが、それが長門の最後の希望だった。これで提督が諦めてくれれば自分はその通過儀礼をせずとも―――――― 「なんだ、そんなことか。問題ないぞ長門。フンドシでも」 ダメだったー!長門はガックリと頭を垂らした。 「私なんて穿いてなかったのに、提督がドン引きするくらい何度も土下座してきたから穿くようになったの~うふふ」 愛宕がのほほんと言った。 「姉さん、提督はただ下着を洗うのが趣味なだけでそれ以外は……そういうことは欲求して来ないわ。パンツも丁寧に洗ってくれるし、新品みたいな状態で返してくれるの。確かに最初は恥ずかしいけど、慣れたらどうってことないわ。みんなやってるし」 陸奥は長門の手を掴んで上目遣いで見つめる。 「私だって姉さんと一緒に戦いたいわ…でもどうしてもダメだっていうなら、せめて私の素材になって欲しい。でも素材になるよりもまた一緒に戦ったり、ご飯食べたり、お話したりしたいわ……ダメ?」 陸奥のおねだりする目に長門はたじろいだ。長門も勿論、陸奥とまた共に戦うことを望んでいる。今まで会えなかった間の話も聞きたい。陸奥の後ろから電も長門を見上げていた。 「…………… 分かった。脱ぐ、脱げばいいんだろ……」 長門はすべてを諦めた。ヤッター!と周りから歓声が聞こえた。 「じゃあ姉さんの部屋に案内するわ。ここじゃあ脱ぎ難いでしょ?」 「……いらん」 えっと陸奥がキョトンとした声を漏らした時には既に長門の両手はフンドシにかかっており、――――――そして一瞬で解かれた。 きゃぁ!と可愛らしい悲鳴が一部で沸き起こったが、長門は堂々と、少し頬を赤らめながら白いフンドシを提督に差し出した。 「私にここまでさせたんだ。貴様の手腕に賭けよう……私の期待を裏切るなよ」 提督は力強い目で頷いた。 「あぁ…任せてくれ。改めて歓迎する、長門」 そして提督は白フンを握り締めた。 ~~~ 「……渡したのはいいが予備がない……」 「姉さん、とりあえず私のパンツを穿いておく?普通のだけど」 「…借りても大丈夫か…」 「姉さんだからいいわよ。それじゃあ下着を買いにいきましょ?お金も頂いたし」 「…あの男は本当に全員の下着を洗っているのか?」 「えぇ、ちゃんと手洗いでやってるわ」 「……ここに何人の艦娘がいるんだ?」 「うーん、確か120人くらいかしら?」 「……それを手洗いで……」 「しかもどれが誰のか分かるのよ」 「全部!?」 「一部は名前を書いている子もいるけど、私は書いてないからね~ 特徴的な下着の子もいるけど大体は似たり寄ったりでしょ?それでも間違えないのよ」 「……ある意味すごいな…」 「あと直接提督に下着を渡してね。誰かに預かってもらって一緒に渡しても受け取ってくれないから」 「………」 「戦闘の指揮も優秀だから安心してね」 「……あぁ、うん……うん……」 ---------------------------- 数日後。 (おや、あれは確か…) 「司令はん、これお願い」 「ありがとう黒潮」 (……ん!?あれは…スパッツじゃないか…!?) 「おい、えっと……黒潮?」 「あ、長門はんどないしたん?」 「今提督にスパッツを渡していなかったか…?」 「せやで~あ、スパッツ着用しとる子はみーんなパンツじゃなくてスパッツ提出なんや」 「…ほ、ほぅ………そういえば潜水艦たちはどうしているんだ?水着なのか?」 「あぁ~あの子らはパンツやで~」 「え?!み、水着を着ているのにか…?!」 「中にパンツ穿いてるんやって」 「………」 「あ、でも長良はんはブルマやった気ぃする~」 (……ここに残ることを選んで良かったのだろうか……)
https://w.atwiki.jp/yuriharuhi/pages/42.html
昼休み、ハルヒは昨日置き忘れた財布を取りにいくため、部室に向かっていた。 「もう!財布がなきゃ学食が買えないじゃない!」 蝶番が可哀相なくらい勢いよく部室のドアを開けるとそこには先客がいた。 「有希じゃない」 窓際でぽつんとパイプ椅子に座っていた長門は、今まで食べていた コンビニ弁当に向けていた無感動な目を、たった今入ってきた少女に向けた。 「いつもここでお昼食べてるの?」 「そう」 ハルヒは柔らかな光を受ける長門の顔をじろじろ見た後、 彼女の手のコンビニ弁当を見て表情を変えた。 「っ有希!あなたもしかして毎日コンビニ弁当だったりする!?」 静止していた頭がかすかに動く。 「ダメよ!育ち盛りの高校生が毎日そんなんじゃ!だからそんな細いままなのよ!!」 長門が何か反応を返す前に、ハルヒは長門の手を右手で、 長机の上に放置されていた財布を左手でわしづかみにした。 「学食行くわよ学食!今日は私がおごったげるからじゃんじゃん食べなさい!!」 長門は左手にコンビニ弁当を、箸を持った右手をハルヒにつかまれたまま、 自分の手を強引に引いて走り出す少女に抵抗することもなく、足を動かし始めた。 学食の机に向かい合わせで座る二人の間には、カレーと定食Aとサラダとデザートが 美味しそうな匂いと湯気を立ち上らせながらずらりと並んでいた。 ちなみにカレーは長門が指定したもの、定食Aはハルヒの昼食用のもの、 サラダとデザートはハルヒが長門に食べさせるために独断で注文した。 長門が代金を払おうとするのをハルヒは強引に止めて、全ての代金を自分で支払った。 「さ!食べて!遠慮はいらないわよ」 長門は目の前に置かれたスプーンを手にとると、そのスプーンをカレーライスに ゆっくり差し込み、カレーのからむライスをすくいあげて、自らの口に運んだ。 「美味しい?」 ハルヒが長門に問いかける。 長門はスプーンを口から出し、咀嚼し飲み込むと、よく見ていないとわからない程度に頷いた。 「そう、よかった。今日は好きなだけ食べなさいよ」 ハルヒは満足そうに微笑みながら言った。 長門は、先ほどとほとんど同じ動きでカレーライスをすくいあげると、 それをハルヒの顔の前にもっていった。 「?くれるの?」 ハルヒは少し驚いた様子でスプーンを差し出す少女を見る。 首がかすかに上下するのを見てハルヒは少し不思議に思いながらも 「じゃあいただこうかしら」 と言うと、横髪を手でおさえながらスプーンを口に入れた。 長門はスプーンがハルヒの口に入っていく光景を、人形のように静止したまま見つめた。 ハルヒはスプーンから口を離すと 「ちょっと甘いわねえ…私はもっと辛いほうが好きだわ」 と口をもぐもぐさせながら言った。 「よくわからないけどありがとね有希。でも残りはあなたが食べなさいよ!」 ハルヒはそう言いながら割り箸を小気味のいい音を立てて割ると、 自分の昼食である定食を食べ始めた。 長門はハルヒが定食に集中しているのを確認するように見つめた後、 ハルヒの口にカレーライスをからめとられて、今は何ものっていないスプーンの先端を軽くなめた。 そしてすぐにカレーライスをすくうと、ハルヒと同じようにもくもくと食べ始めた。 おわり
https://w.atwiki.jp/hiroki2008/pages/16.html
長門有希の暴走 朝倉編: わたしは自分の部屋にいた。わたしがなぜここにいるのか、理解するのにしばらく時間が必要だった。 わたしは任務を終えて情報統合思念体に戻ったはず。 確かわたしがキョン君を襲って、それを守ったのが長門さん。 そしてわたしの物理的な体は消滅した。あの時間から記憶が途絶えている。 さらに不可解なことに気が付いた。情報統合思念体とコンタクトできない。つまり、存在しない。 わたしのメモリエラーか通信機能の障害か、あるいは情報統合思念体に何かが起こったのか。 わたしは自分の機能をチェックした。エラーはひとつもない。 部屋を見回すと、ちゃんとその風景を覚えている。本棚にミニカーコレクションもある。 喜緑さんによってスクラップにされたミニカーの鉄の塊もそこにあった。 だが何かが違う。わたしは説明し難い違和感を感じて部屋のドアを出た。 長門さんの部屋は覚えている。ドアをノックした。 こちらの様子をうかがうように、ゆっくりとドアが開いた。 そこにはわたしの知らない長門さんがいた。今にも泣き出しそうな彼女がそこにいた。 「朝倉さん・・・」 長門さんはいきなりわたしの首に抱きついた。 「ちょっと・・・どうしたの」突然のことでわたしは戸惑った。 「なぜだか分からないの・・・ずっと会ってなかった気がする」 言葉遣いも違う。わたしの知っている長門さんは言いたいことを一文で短くまとめるクセがある。 感情に任せた曖昧な表現はしない。 「そう・・・わたしも妙な感じがするのよね」 わたしは長門さんの髪をなでた。前にも何度かそうしていた気がする。 わたしは長門さんと情報生命体プロトコルで話そうとした。 ところが彼女はヒューマノイドインターフェイスではない。アミノ酸のタンパク質から構成される、純粋な人間だった。 いったい何が起こったの? わたしは人間にするように、彼女の記憶を読んだ。 そこにあった彼女の人生は、本だけが友達の内気な女子高生だった。 でもなにかひっかかる。まずSOS団が出てこない。涼宮ハルヒを知らない。それからキョン君に関する記憶がおかしい。 彼のことを好きなのは分かっていたけど、彼と話したことすらないという。 人間にしては周辺の繋がりがない。 わたしは気が付いた。この人生は作り物だわ。 彼女の深層心理の奥深く、本人が気が付いてない領域に、隠された手紙を見つけた。 ── 朝倉涼子へ: ── この手紙を読んだ時点で、あなたの知る長門有希はもう存在していない。 ここにいるのは、わたしが作った人間のわたし。 わたしの知る長門さんからの手紙だった。 それからコンピ研部長氏と別れたこと、膨大なエラーの蓄積がはじまったこと、 世界を改変する願望が生まれたこと、そして、わたしに会いたいという願いが切々と綴られていた。 ── こんな大規模な宇宙改変を起こして、何の責めも負わずに済むとは思っていない。 改変による結果を10年先まで計算し、わたしは良心が咎めた。 ひとつだけ、元の世界に戻る道を作っておいた。彼の記憶は消していない。 それが暴走する自分への最後の抵抗だった。 もし彼が鍵を集め、トリガを引いたなら、この世界は元に戻る。 そしてわたしは情報統合思念体から厳罰を受けるだろう。 それでもかまわない。わたしは彼の未来まで奪いたくはなかった。 12月18日未明 長門有希記す ここまで読んで、わたしの目は潤んでいた。 そうなのね。あなたのそばにいてあげたかったわ。 つまり、ここにいるわたしは長門さんに作られた。 自分が完全な人間として生きていけるかどうか分からない不安から、長門さんは保険をかけた。 その保険がわたし。 「いいわ。気が済むまであなたのそばにいてあげる。わたしがあなたを守るわ」 「・・・」 それを知ってか知らずか、人間になった長門さんはコクリとうなずいた。 翌朝。 「長門さん!おはよう!起きてる!?」わたしは長門さんの部屋のドアをドンドンと叩いた。 「・・・おはよう」 「学校行くわよ」 「うん・・・」 まだ眠そうな顔が出てきた。この長門さんはどうも低血圧らしい。 駅前まで来て、わたしは長門さんを見てニヤリと笑った。 「長門さん、今日、学校休みなさい」 「ええっ・・・どうして」 「これからカラオケ行くわよ!着いてきなさい!」 「そんな・・・困る」 「あなたはまじめすぎるのよ。たまにははっちゃけなさい」 「・・・でも先生に怒られる」 「しょうがないわね・・・」 わたしは携帯で学校にかけた。咳をひとつしてかすれ声を作った。 「あの・・・岡部先生いますか。ええ朝倉です・・・ケホ」 「岡部先生・・・すいませんゲホッ。風邪、うつっちゃったみたいなんです。ええ・・・病院寄ってそれから行きます」 「はい・・・あ、それから隣のクラスの長門さんも風邪具合ひどいみたいで。はいお願いしま・・・ゲホゲホ・・・オエ」 「せ、先生っ、ありがとうございます・・・グスッ」 電話を切るなり、わたしたちは噴き出して笑った。 「キャハハハハ、岡部ったらマジで心配してんのアハハハハ」 「・・・クスッ」 長門さん、あなたは笑っていたほうがずっといいわ。 「さあっ今日は遊ぶわよ!」 「あの・・・朝倉さん、制服着てちゃまずいんじゃ」 「じゃあ服も買いに行きましょう」 「ええ・・・そんな」 「お金だったら心配しないの。今日はすべてわたしのおごりよ」 「そういうことじゃなくて・・・」 「四の五の言わず今を楽しみなさい」 まだ戸惑っている長門さんの手を引いて、わたしは改札をくぐった。とりあえずは朝飯よね。 それから北口駅前のデパートで派手な服でも見繕って、それからカラオケかな。 わたしが言うのもなんだけど、長門さん、あたなは人間になったんだからもっと楽しむべきよ。 っとその前に、情報操作して風邪を流行らせておかないとね。 クラスの半分くらいには風邪をひいてもらわないと。 長門さんが、この制服ままじゃ補導されるかもしれない、というので洋服を買うことにした。 二人でハイティーンの洋服売り場に行った。 あれこれ見て回ったが、いまいち子供っぽい気がしたのでワンランク上のコーナーに移る。 長門さんは地味な緑のワンピースを手にしていた。 「あなたには、もっと派手な色のほうがいいわ」だいいち、若いんだからね。 長門さんは似たような色のブラウスを手に試着室に入った。 わたしは椅子に腰掛けて長門さんが選ぶ服をあれこれ指摘した。 「青はやめなさいって。不健康そうに見えるから」ただでさえ色白なのに。 「もうちょっと胸元が開いたほうがいいわね」胸がないのは知ってるわ・・・胸パッドしてみたら?。 「なんとなく腰のあたりが頼りないわ。細いベルト締めてウエスト見せてみたら?」 何度かとっかえひっかえした挙句、まあ見れるスタイルになってきた。 「どう・・・?」 「GOOD JOB!」わたしは親指を突き立てた。 「じゃ、次は化粧品よ。メイクにいくわ」 「ええっ」あなた、少なくとも女なんだから化粧くらい知ってなさい。 わたしは長門さんに服を着せたままレジを済ませ、化粧品売り場に連れて行った。 お姉さんに耳打ちして、この子はじめてなんだけど、5歳くらい年上に見えるようにしてくれと頼んだ。 「がってん、任せなさい!」このお姉さん、好きだわ。 長門さんははにかみながらメガネを外した。 ガラス越しには分からなかったけど、この子、いい目をしてるのね。 化粧水で肌を整え、ベースを軽く塗る。薄めにファンデーション。 眉毛をやや強く出して・・・長門さんの顔がみるみる変わっていく。 「こんな感じでどうかしら。肌がきめ細かいからノリがいいわ」 そうして出来上がった長門さんはとても元の長門さんとは思えなかった。 「長門さん・・・あなた、輝いてるわ」女のわたしでもホレボレした。 「そ・・そう。ありがとう」頬にさらに赤みがさしてなかなかいい。口紅が映えている。 わたしも軽くメイクしてもらった。まあ、わたしは下地がいいから2歳くらい上でいいわ。 「眉毛どうします?」眉毛がなんですってええ?わたしはお姉さんを睨んだ。彼女は黙った。 「・・・朝倉さん、きれい」 「み、見つめないで・・・はずかしいわ」わたしは口元をおさえてシナを作ってみせた。似合わない。 長門さんと並んで鏡の前に立った。二人とも、とても高校生とは思えない仕上がりだ。 長門さんのために口紅とマニキュアを買って、それから店を出た。 「気分変わっていいでしょう?」 「・・・うん」 外見からでもいいの、もっと自分を変えるのよ。そう言いたかった。 「じゃあ、次はカラオケよ。腹に溜まってるモヤモヤをありったけの声で出すの」 「わたし・・・行ったことない」 「じゃ、今日が記念すべき日ね!」 「長門さん!もっとおなかから声を出しなさい。ほら、こう!」わたしは長門さんのおなかを押さえた。 「は、はいっ」 ナゾナゾ~みたいに~地球儀を解き明かしたら~♪ 実はいい声をしているのね。 細く通る声で歌う長門さんを見て、わたしはこの世界に来てよかったと思った。 今、わたしは本当に自由よ。情報生命体はわたしひとり。誰にも支配されない。誰にも干渉されない。 あなたがせっかく作ってくれたんだもの、この世界を楽しみましょう。 二人でデパートの上階で昼ご飯を食べているとき、長門さんがぼそりと言った。 「・・・ちょっと疲れた」 「そうね。ふだんし慣れないことをいきなりやっちゃったからね」 「でも、楽しい」 あなたの口から楽しいなんて言葉が出てくるなんて。 「じゃあ、今日はこの辺で学校に出ようかしら?。重役出勤だけど」 「・・・そうする」 「その前に化粧を落とさないとね」 こんな顔で教室に入ったら頭にウィルスが回ったのかと岡部がひっくり返るわ。 わたしたちは化粧室で顔を洗った。 化粧水も洗顔石鹸もなかったけど、なに、情報操作でお安い御用よ。一瞬で口紅まできれいに落とせるわ。 メガネをかけ、セーラー服に身を包んだ長門さんは、今朝会った元の長門さんだった。 この変わりようときたら。 「そのうちメイク教えてあげるわね」 「・・・うん」嬉しそうな長門さんを見て、わたしは作戦成功を確信した。 わたしたちはそのまま学校へ行った。わたしの操作どおり、風邪を引いてる生徒が多かった。 「長門さん、風邪引きが多いみたいだから気をつけてね」 「・・・うん」 「じゃ、またね。部活が終わったら落ち合いましょう」 わたしは教室の前で手を振った。 「あの・・・朝倉さん」 「なにかしら?」 「・・・今日はありがとう。楽しかった」 「またいつか行こうね」 この子がもう少し笑えるようになったら、また連れて行こう。 わたしは1年5組の教室に入った。 皆が歓声で迎えてくれた。わたし、こんなに人気者だったかしら。ああ、ここは向こうとは違うのね。 この世界ではわたしはクラスメイトに頼られる存在。 「朝倉さん、具合どう?」 「うん、もう大丈夫よ。午前中に病院で点滴打ってもらったらすぐによくなったわ」 実は心配してもらえるのはすごく嬉しいこと。 「朝倉、なんかお前香水臭いな」男子生徒が言った。ギクリとした。 わたしは制服の匂いをかいだ。かすかに残っている。風邪ひいてるわりには鼻が利くのねこいつ。 「きっと病院に行ったせいだわ。患者に化粧の濃いおばちゃんが多かったから」 わたしは自分の席につこうとした。国木田君が弁当を広げている。 「あ、どかないと」 国木田クン、前から思ってたけど、あなたかわいいわよ。素直だし、その気なら付き合ってあげたのに。 わたしの机の前の席にいる男子生徒、そこには笑っていない顔があった。 「待て、どうしてお前がここにいる」この人も風邪かしら。声が枯れてるわ。 「どういうこと?わたしがいたらおかしいかしら」 こいつには、わたしの正体を絶対に知られてはいけない。 キョン君は涼宮ハルヒのことを聞いて回っている。バカね、こんなところにいるわけないじゃないの。 プッ、国木田君にほっぺたをつねってもらってるわ。そうよ、あなたはずっと夢を見ていたの。 ここが現実なのよ。 わたしはこいつの記憶を読んだ。 そう・・・向こうの世界ではそんなことがあったんだ。 ついでにあなたの記憶も消して二度と向こうに戻れなくしてあげたいんだけど、 それは長門さんの頼みだからやめとくわね。 「朝倉涼子は転校したはずだ」 こいつはまだ訳のわからないことを言っている。だいぶ混乱してるみたいね。 「保健室に行ったほうがいいみたい。具合のよくないときって、そういうこともあるわ」 わたしの手を振り払って、とうとう教室から出て行った。 でもね、おあいにくさま。この学校には涼宮ハルヒはいないし、SOS団も存在しないの。 古泉一樹を探しに行ったのかしら。今ごろ1年8組の教室の前で唖然としてるでしょうね。 これは長門さんのジョークなのかしら。クラスを丸ごと消してしまうなんて、いいセンスしてるわ。 わたしはしばらく彼の監視を続けた。 まかり間違って元の世界を再構築などされてはたまらない。 翌朝、キョン君が話し掛けてきた。 「朝倉。本当に覚えがないのか、お前は俺を殺そうと思ったことはないか?」 「・・・まだ目が覚めてないみたいね」 あるわよ、何度もね。それというのも、あなたが涼宮ハルヒしか見ていないから。 言っておくけど、あなたがここにいるのは長門さんの希望だからね。 ヘンな真似したら容赦しないんだから。 夕方、わたしは晩御飯を作って長門さんの部屋に持っていった。 部屋に長門さん以外にも誰かがいる。いつもならドアをどんどん叩くところだけど、インターホンを押す。 「長門さん、いる?」 「・・・朝倉さん?」 「夕飯持ってきたんだけど、一緒に食べない?」 「でも・・・」 「鍋が熱いの。開けてもらえないかしら」 「今は来客中で・・・」 「その人も一緒に食べればいいじゃない」 「・・・そう、待ってて」 部屋に入ると、案の定、キョン君がいた。 「なぜ、あなたがここにいるの?不思議ね」 分かってはいたけれど、まさか部屋にまで押しかけてくるとはね。 「朝倉が作ったのか?」 「そうよ。こうして時々長門さんにも差し入れるの」 だって長門さん、コンビニの弁当しか食べないんだものね。体壊すわ。 「それで?あなたがここにいる理由を教えてくれない?気になるものね」 「あー、ええとだ。そう、俺はいま文芸部に入ろうかどうか悩んでいる」 またまた出任せを。あなたはひとりぼっちで長門さんしか頼れない。だからここにいる。 どう?ひとりになった気分は。少しはわたしたちの孤独感が分かったかしら。 「あなたが文芸部?悪いけど、全然ガラじゃないわね」つい、鼻で笑ってしまった。 キョン君はカバンを持って帰ろうとした。ちょっといじめすぎちゃったかしら。 「あら、食べていかないの?」 「帰るよ。やっぱ邪魔だろうしな」 長門さん、ごめん、ちょっと言い方きつかったみたい。彼を引き止めて。 玄関でボソボソと話し声が聞こえ、キョン君は再び戻ってきた。 ごめんね、ついいじめたくなっちゃうの。わたし、嫉妬してるのね。 キョン君とご飯を食べるのは、はじめてだった。 この人、谷口と違って女の子の前ではあまりしゃべらないのね。 教室では愛想悪い男子生徒ナンバーワンだし。 「ねえねえキョン君、今度3人でどこか行かない?」 「どこかって・・・どこにだ」 「どこでもいいわ。賑やかなところ」 「そうだな・・・考えとく」 まったく愛想悪いわね。ネタ振りしてるのに全然乗ってこない。 それもそうよね。わたしに一度殺されかけたものね。あなたほんとに長門さんに感謝してるのかしら。 二人とも黙々とおでんを食べた。キョン君って存外人見知りするのね。 素朴で純粋で、これといった自己主張もない。 あんたたち、付き合えばお似合いなのに。 素直に気持ちを表現できない二人を見て、わたしはちょっと寂しくなった。 「あ・・・グスッ」 「ど、どうしたの長門さん」 「・・・カラシが鼻に効いたの」 「大丈夫か長門」 部屋に小さく笑い声が起こった。 「じゃあ、そろそろ帰るわね。鍋は明日取りに来るから」 キョン君も安心したのか、ほっとした表情をした。 「明日も部室に行っていいか?」玄関でコソコソ話しているようだけど、わたしには聞こえている。 長門さんが小さく微笑んだ。キョン君も驚いていた。 そりゃそうよ。この長門さんはあなたの知ってる長門さんじゃないもの。 「あなた、長門さんが好きなの?」 エレベータで彼と二人きりになったとき、わたしはカマをかけてみた。 彼の反応を見ていると、まんざらでもないらしい。 そうよね、この世界にたったひとりで放り込まれたあなたなら、長門さんを慕うわ。 わたしが誰かは気が付いてないみたいだけど。 「また明日ね」 わたしは5階でエレベータを降りた。 お望みなら、長門さんと一緒にしてあげるわよ。あなたの中の、涼宮ハルヒの記憶を抹消してね。 懸念していたことが起こったようだわ。谷口の口から涼宮ハルヒの名前が漏れた。 あいつ、言わなくてもいいことをペラペラと。今度会ったらおしおきだから。 キョン君が駅前の高校に通う涼宮ハルヒと接触したらしい。そこには古泉一樹もいるはず。 これだけ物理的に近いんだもの、そりゃ簡単に遭遇するわよ長門さん。 彼と一緒になりたいのか、涼宮ハルヒに取られてもいいのか、あなたの本望が分からないわ。 朝比奈みくるも含めた元SOS団のメンバーが文芸部部室に集まっている。 わたしは気が付いた。これが長門さんの言っていた鍵ね。 彼はこの世界を消そうとしている。 そうなれば長門さんの希望で作られたこの世界が潰えてしまう。 長門さんがまたつらい日々に戻ってしまう。そんなことはさせない。 わたしは2日前の自分に同期した。彼をいますぐ殺せ、と。 午前4時19分。わたしは突然そこにいた。今は12月18日、か。 わたしは自分の部屋にいた。わたしがなぜここにいるのかしばらく考えた。 わたしは情報統合思念体に戻ったはずだった。 長門さんと一芝居打って、キョン君を襲い、それを守ったのが長門さんだった。 そしてヒューマノイドインターフェイスとしてのわたしは消滅した。あの時間から記憶がない。 情報統合思念体を検知できない。わたしは自分の機能をチェックしたが、エラーではなかった。 いったい何が起こったの。 未来のわたしから同期要請があった。答えはたぶんそこにある。 「何があったの?」 ── わたしはあなたから数えて2日後のわたし。時間がないの。今すぐ彼を殺して。 わたしはすべてを理解した。長門さんがこの世界を作った。それを今、壊そうとしているやつがいる。 じゃあどこに行けば? 彼が長門さんを襲うとしたら、世界を改変した直後のはず。 それより前でも、後でもない。そうでなくては鍵が存在する時空が発生しない。 そしてそれは、今この時間。 わたしはアーミーナイフを持って立ち上がった。北高正門前に走る。 正門前には長門さん、キョン君、朝比奈みくるがいた。 躊躇はしなかった。わたしは腰にナイフを溜めて彼に体当たりした。 「長門さんを傷つけることは許さない」わたしは冷静だった。 わたしは彼のわき腹に刺さったナイフをグリグリと回転させて引き抜いた。 ごめんね。あなたは嫌いじゃないの。でも、心から頼ってくれる長門さんのほうが大事なの。 街灯の下で長門さんが小さく浮かび上がっていた。恐怖におびえている。あなた、人間なのね。 「朝倉・・・さん」 「そうよ長門さん。あなたを脅かす物はわたしが排除する」 彼は地面に倒れこみ、すでに動けなかった。有機物ベースの生命体なんて、もろいものね。 「トドメをさすわ。あんたは長門さんを苦しめる」わたしは思いきりドスを効かせて喋った。 彼は震え上がったようだ。 次の瞬間、背後に別の気配を感じた。 「な、長門さん」 わたしのナイフの刃を握り締める、そこにはもうひとりの長門さんがいた。 まさかそんな・・・これはまるであのときと同じじゃない。 ナイフの情報結合が解除されていく。わたしは逃げようとした。でも足が張り付いて動けない。 「そんな、なぜ?あなたが望んだんじゃないの・・・今も・・・どうして・・・」 予想はしていなかった。長門さん自身が望んだことなのに。なぜ邪魔をするの。 二度もあなたに消滅させられようとは。これもなにかの因果かもしれないわね。 長門さんが詠唱をはじめた。わたしの体が足元から少しずつ消えてゆく。 そのときわたしは見た。長門さんの目にうっすらと光る透明な、冷たい水の淀みを。 コンマ2秒、わたしと長門さんは見つめあった。一瞬よりは長い永遠。 ── 朝倉涼子・・・ごめんね。ほんとにごめんね。 「いいのよ。あなたのエラー因子はわたしだったのね」 ── つらいとき、あなたにそばにいて欲しかった。それが止まらなかった・・・ 「今度はキョン君を手放しちゃだめよ」 その言葉が彼女に届いたかどうかは分からない。 これから起こる時空震のあと、今のわたしは向こうの世界には戻らない。 つまり、わたしは今ここで死ぬ。 さようなら、長門さん。楽しかった。ずっと、妹みたいに思っていたわ。 向こうのわたしによろしくね。 最後に見たのは、長門さんの頬にきらりと光るなにか。
https://w.atwiki.jp/rowacross/pages/173.html
01 パロロワキャラチーム対決 かがみvs長門 第1話 02 パロロワキャラチーム対決 かがみvs長門 第2話 03 パロロワキャラチーム対決 かがみvs長門 第3話 04 パロロワキャラチーム対決 かがみvs長門 第4話
https://w.atwiki.jp/terachaosrowa/pages/996.html
長門有希のファンクラブ。 朝倉については本人の項を見てほしい 現在のメンバーは朝倉涼子、キーボードクラッシャー、クルーゼ、流石兄弟兄者、ディアボロモン。 メンバー共通の目的はただひとつ。長門と結婚することである。 カオスロワ中では朝倉以外出番がなく空気化。 二日目にディアボロモンによってディアボロモンと朝倉以外のメンバーが殺される。 しかもそのディアボロモンは暗黒長門とともにらき☆すたはウザイ同盟に入ったので 実質この団体は崩壊したも同然である。