約 3,982,560 件
https://w.atwiki.jp/kt108stars/pages/2436.html
110 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 15 40 38 ID ??? サンプルのオリジナル種族で遊んだんですよ。 種族のイメージが分からなかったんでGMさんに「どんな外見でどんな種族なんですか」って聞いたら 「一目でその種族と分かる外見です」 よく分かんなかったんで「つまりはどんな外見なんですか」ってもっかい聞いたんだけど 「種族的特色のある容貌です」 結局よく分かんなかった。 112 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 16 16 17 ID ??? 110 外見設定決まってないのは能力値データを先に作ったからじゃないかな。 むしろ提案してやれw 113 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 16 26 10 ID ??? 決まってなかったのかなぁ・・・もう発売決定してた新ワールドだったんだけど・・・ 何か知らんけど言葉足らずなGMさんによく当たる。 このGMさんじゃ無いけど 「この街はどんな感じの町なんですか」 「普通の街です」 「・・・ええと、それじゃ規模は?」 「中位の規模です」 ・・・J○Cのペイなのにいいいい。 114 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 16 27 55 ID ??? 110 GMもわかってないんじゃないかそれ?w 115 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 16 37 52 ID ??? その種族のことを聞かれたんじゃなく、サンプルキャラ個人のことを聞かれたと思ったとか? 116 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 16 42 45 ID ??? 113 まさかSW2.○? 117 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 16 43 45 ID ??? >114 ワールドデザイナーさんの1人だったっぽいです。分かって無かったらそれはそれでアレな気が。 >115 サンプルキャラは能力値だけ決定してあって自分で細かい設定付ける形だったからそれはないと思うのです。 ・・・耳が尖ってるとか足に毛が生えてるとかそんな説明が欲しかっただけなのに・・・ 120 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 16 53 18 ID ??? SWじゃないです。具体的なことは何もいえませんがガープスの魔法で会社なアレでした。 123 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2007/12/31(月) 22 15 02 ID ??? 「この街はどんな感じの町なんですか」 「普通の街です」 「・・・ええと、それじゃ規模は?」 「中位の規模です」 これは何となく仕方ない気はするな… スレ145
https://w.atwiki.jp/yukibase/pages/14.html
リスト リスト リスト リスト リスト リスト リスト リスト リスト リスト リスト リスト リスト リスト リスト
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1671.html
61 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 20 22 ID Gejk2pPM 放課後、私は斎藤ヨシヱの元を訪れることにした。 まだ人の減らない本校舎を抜けて、一階の隅にある長い渡り廊下を目指す。 本校舎と部活棟を繋ぐ通路は、この一本しかない。そのことが、部活棟の存在を更に希薄にしている気がした。 そもそも、この高校は部活動があまり盛んでない。 体育系文化系を問わず、どの部活も平等に弱小で、県大会出場はおろか地区大会一勝すらしたことがなかった。 その上、まがりなりにも進学校で通っているため、大半の生徒が部活ではなく勉学に走ってしまう。かくいう私も、その内の一人だった。 本当は、仲間達と共に汗をかき、切磋琢磨し合いながら部活動に打ち込んでいく、そんな学生らしいことに憧れていたりするのだが、自分じゃそういうことが出来ないのはわかっていた。私は、少し違う。 渡り廊下に着いた。 寒風から守ってくれていた本校舎を出て、寒空の下へと身を投げこんでいく。 前々から言っていることだが、私は寒いの苦手だ。 冬の寒さに首を縮こませながら、一刻も早く目的地に着いてしまおうと、足早に渡り廊下を進んで行く。 そして、しばらく歩いていると、老朽化の目立つ、黒ずんだクリーム色の壁が視界に入ってきた。 部活棟の壁だ。 私は、目の前の建造物を見上げてみる。 62 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 21 30 ID Gejk2pPM この部活棟は主に文化系部活のためのものだった。 体育系部活に関しては、利便性を考慮してグラウンド前に設置されているプレハブ小屋が使われている。 一般の生徒でこの部活棟を訪れる者は、まずいない。 学内で仲間外れにされたように位置する此処は、校門とは真逆の方向にあるし、寄り道するにも少し遠すぎる。 私自身、斎藤ヨシヱのことがなかったら一生訪れなかったかもしれない。 ここの唯一の入口であるガラス戸を開け、中に足を踏み入れる。 その瞬間、世界から全ての音が消えた。 本校舎から聞こえていた居残っている生徒の声も、グラウンドや体育館からの部活動の喧騒も全て。 どうして、放課後の部活棟はこんなにも静かなのだろうか。 私はここを訪れる度にそう思った。 廊下に連なる部室の扉の中にも、部活動に勤しんでいる生徒達が沢山居るはずなのに。辺りはまるで防音対策がされているかのように静まり返っていた。耳鳴りがしてしまうほどだ。 やけに足音の響くリノリウムの床の上を歩きながら、茶道室を目指す。 茶道室は、この部活棟の最上階である二階の一番奥に位置していた。 階段を昇り、夕日が差し込むオレンジ色の廊下を歩いた。 茶道室には直ぐに辿り着けた。 私はサムターン式の鍵がついた扉の前に立ち止まり、ドアノブに手をかける。鍵はかかっていないようだ。 なるべく音をたてないように、ゆっくりとドアノブを手前側へと引いていく。 キィ、と金属が軋む音をたてながら、扉は開いていった。 徐々にひらけていく視界。 その中に、斎藤ヨシヱは居た。 彼女は窓枠に肘をつき、湯呑みを片手に持ちながら、気怠そうに虚空を見上げていた。 63 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 22 37 ID Gejk2pPM いつもの彼女だ。最後に会った時から何ひとつ変わっていない。 なのに、私は彼女に声をかけることが出来ずにいた。 この室内を支配する静寂を破ってしまうことで、目の前に映るこの優美な光景も壊れてしまう気がしたのだ。 斎藤ヨシヱは美しい人だった。 鋭い光を宿した切れ長の瞳。 しみひとつ無い、白雪のように真っさらな肌。 背中にまで垂れる長い髪は、その素肌とは対照的に墨を零したように真っ黒で、何を塗ったらそうなるのか白い光輪がとりまいている。 およそ高校生らしい幼さの残る可愛さなどは微塵も無く、完成された美術品のような、気品を感じさせる美しさが彼女にはあった。 呼吸をするのを忘れていたことに気付く。それほどまでに、目の前の光景に目を奪われていたらしい。 しばしの間、斎藤ヨシヱの整い過ぎた横顔を見つめる。 どのくらいの時間が経っただろうか。 彼女は漸く私に気付いたようで、その切れ長の瞳をゆっくりと私の方へと移動させた。 そして私を視認すると、薄く口角を吊り上げて、いつもの人を小馬鹿にしたようなシニカルな笑みを浮かべる。 「こんにちは。久しぶりね、タロウ君」 氷を連想させるような、冷え切った声。 「こんにちは、斎藤先輩。本当にお久しぶりですね」 私は軽く会釈をすると、靴を脱いで畳に上がった。 そして部屋の隅に積まれている紫座布団を一枚持って、彼女の前でそれを敷き、その上に座った。 それきりだった。 二人の間に、特に会話は無い。 斎藤ヨシヱは気が向いた時にしか私と話さないし、私自身も無理に彼女と話をしようとは思わなかった。 一日中会話をしないまま、そのままお開きになるなんてことも、決して少なくはない。 私は、彼女の側に置かれている急須等のお茶セットを見た。 今日は、お茶を出してくれないみたいだな、と思った。 茶道室を尋ねた時は、必ず最初に彼女がお茶を出してくれるかどうかを確認するのが常だった。 斎藤ヨシヱは、機嫌が良い時は私にお茶を振る舞ってくれるのだ。 今日は出してくれないみたいだけど、別段不機嫌という風にも見えないので、可もなく不可もなくといったところなのだろう。 64 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 24 05 ID Gejk2pPM 私は彼女の機嫌確認を終えてしまうと、何となく手持ち無沙汰になり、いたずらに視線をさ迷わせていた。 ふと、斎藤ヨシヱの脚が目に入る。 スカートから伸びる彼女の長い脚には、ソックスが着けられていない。 そのせいか、陶磁器のように白い肌が、畳の緑色に反してよく映えていた。 斎藤ヨシヱは畳に上がる時、必ずソックスを脱ぐ。 理由は知らない。 何故ソックスを脱ぐのかを聞いてみたかったりするのだが、彼女の脚に多大なる感心を寄せていることを悟られてしまうのは非常に不本意なことなので、未だに聞けずにいる。 私が彼女の脚をまじまじと見つめていると 「二週間振りくらいかしら」 と、斎藤ヨシヱが不意にそんなことを言った。 一瞬、独白かと思って黙っていたのだが、彼女がちらりと私に視線を寄越したことで、どうやら話し掛けていたらしいことに気付く。 「ええ、そのくらいになると思いますよ」 慌てて相槌を打ってみたけれど、彼女は何の反応も示さずに、黙ってお茶を啜った。 会話を広げる気は無かったみたいだ。 しかし、せっかく見つけた会話の糸口。このまま終わらせるのも少し惜しい。 私は自分から話し掛けてみることにする。 「そういえば、斎藤先輩って茶道部なのにちゃんとしたお茶をたてたりしませんよね」 私は、彼女の側に置かれている電気ポットを見ながら言った。 「もしかして、本当はたてれなかったりします?」 「別にたてれないわけじゃないわよ」 私の問いに、斎藤ヨシヱはあっさりと否定する。 「ただ、お茶をたてるのには色々と準備が必要で凄く面倒なの。その上、大して美味しくもないからたててないだけ。最初に興味本意で一度やったきりで、それからは触ってもないわ」 「随分とまあ、茶道部員らしかぬ言い草ですね」 「そうね」 そこで再び、彼女との会話が途切れた。 毎度思うが、斎藤ヨシヱとの会話はいつも絶望的なまでに広がらない。 彼女は基本的にお喋りじゃないし、加えて気まぐれだからなあ。それとも、まだ私との好感度が高くないのかしら。 65 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 25 25 ID Gejk2pPM そうやって次の会話のタネを考えていると、ふと、頭の隅にひっかかるものがあった。 そういえば、彼女に聞きたいことがあった気がする。 なんだったっけ。 しかし、意外とすぐにそれは思い出せた。 「斎藤先輩。ひとつ聞きたいことがあるんですけど、よろしいでしょうか?」 斎藤ヨシヱは何も言わず、目だけで先を促した。 それでは、と私は居住まいを直し、しっかりと彼女の瞳を見据えた。 なるべく真摯な態度で聞かなければ、ふざけていると思われるかもしれないからだ。 私は真面目っぽく、重々しい口調で言った。 「斎藤先輩は、私が誰かから好かれるような人間に見えますか?」 ゆらゆらと湯呑みを揺らしていた彼女の手が、接着剤みたいにピタリと止まった。 それから長い間をおいて、探るように聞く。 「それは、どういう意味の好きなのかしら?一概に好きと言っても、様々な意味の好きがあるけれど」 「うーん、そうですね……」 私は、ふむと顎を撫でた。 「しいて言えば、ライクではなくラブのほうの好きです」 「Love」 彼女は流暢な発音で言い直した。 「つまりは恋愛の好きということね」 「そうなりますね」 「そう」 彼女は持っていた湯呑みをコトリと盆の上に乗せた。 「……そう」 そして悲しげに目を伏せて、そっと口元を手で覆う。 私に背を向けるようにくるりと半回転すると、小さく肩を落とした。よく見るとその肩は小刻みに震えている。 「……先輩?」 斎藤ヨシヱの突然の異変に、私は大いに戸惑った。 いきなり、どうしてしまったのだろうか。 お腹でも痛くなってしまったのだろうか、と最初に思った。 いや、そうじゃない。 私は思い直す。 どうせ私のことだ。無意識の内に彼女を傷付けることでも言ってしまったのかもしれない。昔から、そういうことは多々あった。 「すいません、先輩。気を悪くさせてしまったみたいで」 私は思わず、彼女の肩に手を伸ばした 「……んっ?」 のだが、異変に気付き、伸ばした手を途中で止める。 何か、聞こえた。 「……ふっ、ふふふ……」 それは、押し殺すような小さな笑い声。 斎藤ヨシヱの口元から、くつくつと笑い声が漏れ出ていた。 66 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 26 45 ID Gejk2pPM 「……やだぁ、おかしい……くくく……お腹、お腹痛い……たっ、タロウ君……ちょっと待って……」 …………。 待てと言われたので、おとなしく待つことにする。 それから、十分後。 そこには、いつも通りの皮肉な笑みを浮かべた斎藤ヨシヱがいた。 しかし、その笑顔はどこか不自然に歪んでいる。というか、全然シニカルじゃない。頬の辺りがぴくぴくと引き攣っている。 「ちょっとタロウ君。いきなり笑わせないでくれるかしら。あたし、こう見えても結構キャラって重視するほうなのよ」 そうだったのか、と私は思った。 それなら随分と申し訳ないことをしてしまったみたいだ。 すいません、と私は素直に頭を下げる。 「本当よ、全く。もうあんなこと言うのは金輪際止めてよね。あんな……あんっ……くっ……ふふっ……あはは」 ……さらに十分後。 「ああー、笑った笑った。こんなに笑ったのは久しぶりね。ありがとう、タロウ君。おもしろかったわよ」 「……どうも」 斎藤ヨシヱは急須を手に取ると、湯呑みにお茶を注ぎ、私に手渡してくれた。 私は、ありがとうございますと礼をして、湯呑みを受け取った。 どうやら機嫌が良くなったらしい。 確かに、彼女は過去に例が無いくらい上機嫌に見えた。 別にニコニコと微笑んだりしているわけじゃないが、何と無く楽し気なオーラが発せられているのを感じる。 「それで、質問だったわね」 そんな和やか雰囲気とは打って変わって、斎藤ヨシヱの顔が急に真剣なものに変わる。 切替の早い人だな。 私も幾らか緊張しながらも、聞く姿勢を整えた。 「質問は、あなたが異性から好かれるかどうか、で合ってるわよね?」 「はい」 「そう」 彼女はそこで、思い出し笑いのように一度笑ってから、ゆっくりと口を開いた。 答が告げられる。 「そんなの、無理に決まってるじゃない。あなたみたいな人間が誰かに好かれるなんて、不可能よ」 量刑を宣告する裁判官のような口調で、斎藤ヨシヱはそう断言した。 彼女の宣布に、私の心がずんと沈むのを感じる。 不可能、か……。 薄々、そんなことを言われるのではないかと予想はついていたけど、実際に言われるとやはり傷付く。 そんな、不可能とまで言わなくても……。もうちょっと、希望を残す言い方をしてくれてもいいじゃないか。 67 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 28 10 ID Gejk2pPM しかし斎藤ヨシヱは、そんな傷心中の私にも構わず続けた。 「いい、タロウ君?人間関係に置いて最も重要なのは相互理解よ。相手のことを理解し、相手にも自分のことを理解してもらう。そういう感情的な対応を含む、個人と個人との関係において人間関係は成立しているの 「あなたにはわからないと思うけど、他者を理解するのはとても難しいことなのよ。自分ならともかく、相手を完全に理解するなんてそれこそ無理なのだから当然ね。 「けど、人間というのはそれでも相手を理解していこうとしていく。そういう性を持つ生き物なの。けれど、あなたは――」 斎藤ヨシヱは、不敵に微笑む。 「他人どころか、自分のことすら理解していないじゃない。そんな人間が誰かに好かれるかだなんて、ちゃんちゃらおかしい話ね。本当、戯言も甚だしい」 斎藤ヨシヱは、まるでそのことが不変の真理であるような言い方をした。 一片の毀れも感じない、揺るぎのない自信を感じる。 彼女はきっと、私が人に好かれるのと明日地球が滅びるのとじゃ、間違いなく後者を選ぶことだろう。 「……はぁ」 私はそこで一度、大きく溜め息をついてみせた。 勿論、わざとだ。 自分の不機嫌さをこれっぽっちも隠そうともしない。 こういう態度をとるのは我ながら珍しいことなのだが、しかし彼女の言い方はとても癪に障った。 さすがに、今のはカチンときた。 「あら?どうしたのタロウ君。なんだか怒っているみたいだけど」 「怒っているんです」 誰だって、二日連続で化け物扱いされたら不機嫌にもなるだろう。 私は苛立ちを含んだ口調で言った。 「先輩は時たま、私のことを何の心も無いロボットみたいに言う時がありますけど、はっきり言ってそれは間違いですよ。全然違います。 「確かに、私には人がわからない時がありますよ。それは認めますけど、だからと言って、そのことが私に感情が無いということに繋がるわけではないでしょう?現に今だって、先輩の言葉に怒っているじゃありませんか」 「それも演技かもしれない」 「演技って――」 腹の底から込み上げて来た言葉を、なんとか飲み込む。 少し、熱くなりすぎていた。私らしくもない。冷静になれ。 心を落ち着かせるために、長く、深い息を吐いた。 68 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 30 07 ID Gejk2pPM 斎藤ヨシヱは、そんな私の様子を冷めた目で見ながら、愚者を説き明かすように続けた。 「だっておかしいじゃない。感情はあるのに人がわからないなんて。はっきり言って矛盾してるわよ」 「矛盾?」 私は繰り返した。 「そうね……」 何やら思案顔で彼女は言う。 「タロウ君、あなた痛覚はある?」 「あるに決まってるじゃないですか」 「あら、そうなの?それは驚きね。けど、それなら話が早いわ」 斎藤ヨシヱはそう言うと、いきなり自らの腕に爪をたて、思い切り皮膚を引き裂いた。 荒々しい切傷が一つ出来、赤黒い血が一筋、白い肌を伝っていく。 「タロウ君。あなたはこの傷を見て、これがどの程度の痛みかがわかる?」 「えっ?ああ、はい」 忽然の出来事に、呆気にとられていた。 「まあ、漠然とですが一応」 「そうよね。では何故、あたしが負っている傷を、当事者でないタロウ君が憶測することが出来るのか。それは、まず大前提としての“痛覚”それと“経験”があなたにはあるからよ」 「“痛覚”と“経験”、ですか……」 何やらまた小難しい話が始まったな。 「あなたは今、過去に経験したことのある同程度の切傷を想像し、それをあたしに投影することによって一時的に痛覚を共感しているの。だから、この切傷の痛みがわかる」 「この言い方だと“経験”が絶対必要みたいに聞こえるけれど、実際はそうじゃない。実を言えば、この“経験”の方は大して重要じゃないの。 「なぜなら、相手と同じ経験をしたことがなくたって、過去に自分が経験したことのある“他の類似した経験”を相手に投影すればいいだけの話なのだから。十二分に用は足りるわ。 「つまり、マザーボードである“痛覚”さえあれば、後はいくらでも勝手がきく。そのことはわかった?」 私は頷いた。 多少こんがらがりはしているが、なんとか理解出来た。 これは、生理痛を使って例証してみればわかりやすい話だ。 女性固有の苦しみである生理痛を、男性である私が経験するのは身体の構造上不可能なことであるが、彼女の言うマザーボードである“痛覚”さえあれば、相手の眉をしかめた顔、お腹をさする動作などを見て 今までに自分の経験したことのある、例えば腹痛などの痛みを想像し、それを相手に投影することによって、想像上ではあるが、一時的に生理痛の苦しみを共感することが出来る。 69 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 31 41 ID Gejk2pPM 他者との痛覚共感。 彼女が言っているのは、おそらくそういうことだろう。 けど―― 「それがなんだって言うんですか?」 話はわかるが、言いたいことがわからない。 寓話のつもりで話しているのなら、何かしらの教訓や諷刺があるはずだ。 「相手を理解するというのも、それと同じことなの」 斎藤ヨシヱの論説は続く。 「つまり、今言ったことを高度に応用させたものが他者を理解するということなのよ。自分の持っている“感情”を相手に投影し、共感する。簡素に言ってしまえば、そういうことになるわね。 「だから、そのセオリーでいけばおかしいのよ。“感情”があるのに、人がわからないというタロウ君が。 「さっきも言ったけど、大元の“感情”さえあれば、個人差はあるけれど、それなりに他者を理解することは出来るわ。普通、あなたほどの異常者は生まれない。 「“感情”があるのに人がわからない。タロウ君はそう言うけど、あなたはこれを矛盾と言わずに何と言うのかしら」 斎藤ヨシヱはそう言って、貶るように私を見た。 その瞳には絶対の自信を感じる。 彼女は本当に自分に自信がある人なんだな、と思った。 しかし、彼女のそれは、少し盲目的過ぎる気がした。 斎藤ヨシヱは間違っている。私はそう確信する。 確かに、彼女の言うことはそれらしく聞こえた。私自身、ふむふむと頷き返してしまった程だ。 けど、それは只それらしく聞こえただけに過ぎない。 なぜなら、彼女は私に心が無いということを前提に話を進めていたからだ。 私には心がある。 その反例が存在する時点で、まず話の前提自体が成立していないのだ。前提が崩壊しているなら、論理も崩壊している。斎藤ヨシヱの見解も、一笑に付すべきものであるのに違いはない。 独断と偏見に満ちた教条主義的な考え。 はっきり言って、先輩は間違っています。 私が一言、そう言ってしまえばいいのだ。 70 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 33 28 ID Gejk2pPM そう思っているのに、なのに―― 私は何も言えなかった。 理由はわかっている。 心の奥底で、彼女の言葉に納得してしまっている自分が居るからだ。 きっと、その時点でもう駄目なんだろうな。 認めたくはないが、私も異常者なのかもしれない。 「それでも、私にはちゃんと心があります」 そう言う私の声も、どこか力弱く感じた。 それから、気まずい沈黙が流れた。 いや、それは思い違いだろう。 気まずいと感じているのはきっと私だけだ。斎藤ヨシヱは、そういうことを気にするような人ではないし。 そんな彼女が口を開いたのは、唐突だった。 「さっきはああ言ったけど、あなただって、もしかしたら誰かと付き合えるかもしれないわよ」 そう言う斎藤ヨシヱの声には、幾らかの親しみが感じられた。どうやら、彼女なりにフォローしてくれているらしい。人を慰めるなんて、斎藤ヨシヱにしてはかなり珍しいことだった。 「そもそも人間というのは社会に適応するための表明的な人格、所謂ペルソナを着けて生きている。そのくらいは知っているわね? 「それを踏まえて言えば、恋愛なんてのは所詮、互いのペルソナを好き合っているのに過ぎないのよ。見ているのは相手の仮面だけ、中身なんて誰も見ちゃいないわ。 「だから、タロウ君も仮面を着けてしまえばいいのよ。視界を確保する穴さえ塞いでいるような分厚い仮面をね。いえ、あなたの場合は仮面どころか、甲冑でも着けなきゃ駄目でしょうけど 「でもタロウ君、忘れないで。嘘っていうのはつくのは簡単だけど、つき続けるのは至難の業よ。あなたは嘘に綻びが生まれぬよう、常に最大限の注意を払わなくてはいけない。 「幸い、タロウ君は決して容姿が良い方じゃないけど、壊滅的ってほどでもないし、あなただって頑張れば――」 と、斎藤ヨシヱは、何故かそこで一度言葉をつぐんだ。 それから独り言のように、ぶつぶつと呟き始める。 「いや……でも、タロウ君だしな……しかし……うまく騙せば……けど……やっぱり……厳しいか?………………」 そして、遂に何も言わなくなった。 フォロー失敗。 なんだかなあ。人を慰めるなんて、慣れないことをするからだよ。 71 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 35 01 ID Gejk2pPM しかし、斎藤ヨシヱはやはり泰然自若としていた。 「まあ、いいじゃない彼女なんか出来なくたって。タロウ君は今の所はまだ、クラスでうまくやれているのでしょう?だったらまずは、その奇跡に感謝しなくちゃ。そもそも、あなたが恋人だなんて高望みしすぎなのよ」 「そうかもしれませんね」 と言いながら、私は出された湯呑みに手を出していないことに気づき、ぐいっとそれを飲み干した。 お茶は既にぬるくなっていた。 「話は変わるけど」 斎藤ヨシヱが聞く。 「どうして、突然こんなことを聞く気になったの?自分が誰かに好かれるかなんて、随分とあなたらしかぬ質問だったけど」 「ああ、それはですね。実を言うと、昨日私に人生初の恋人が出来まして」 「へー、よかったじゃない。さすが、たろうくんね」 「……信じてませんね」 「やあねぇ、信じてるわよ」 そう言って、斎藤ヨシヱはけらけらと笑った。 私は驚いた。 嘲笑以外の彼女の笑顔を見るなんて、果たして何時以来だろうか。 色々と辛辣な言葉を浴びせはしたが、やはり根っこの部分では相当に機嫌が良かったらしい。 何がそんなに嬉しかったのだろうか。 「さてと」 斎藤ヨシヱは近くで転がっていたソックスに手を伸ばし、それを身につけ始めた。 どうやら、今日はもうお開きらしい。 いや、今はそんなことはどうでもいいか。それよりも―― 私は彼女の下半身を凝視した。 ソックスを履く時、斎藤ヨシヱがいい感じに膝を曲げているので、でスカートの中が見えそうになっている。 見えそうになっているのだが、何故か見えない。 これは、おかしい。 私は首を傾げた。 さりげなく首を動かしたりして角度を変えてみたりするが、やはりどの位置から見ても、うまい具合に彼女の足先が邪魔になってどうしても見えない。 まるで全年齢対象のギャルゲーみたいだ。 私がそうやって下着を見ようと四苦八苦している内に、斎藤ヨシヱはソックスを履き終えてしまった。非常に残念だ。 72 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 36 49 ID Gejk2pPM 「それじゃ、片付けお願いね」 彼女はそう言って立ち上がる。 私のお茶を飲む飲まぬに関わらず、片付けに関しては私の仕事だった。 「わかりました」 私も立ち上がり、紫座布団を元の場所に戻してから、片付けを始める。 斎藤ヨシヱは、そんな私の横を通り抜けて、茶道室を出て行った。 私がせっせと湯呑みや急須を盆の上に乗せて、片付けに勤しんでいる時。 それは風に乗って、私の耳に届いた。 「それでもあたしは、タロウ君のことが大好きよ」 後ろを振りむく。 しかし、斎藤ヨシヱの姿は既に無く、パタリとしまる扉が見えるだけだった。 私はしばらく扉を見つめた後、ぽつりと呟いた。 「大好き、か……」 下手な嘘だな、と思った。 彼女が私に好意を抱くなど、万が一にも有り得ないことだった。 斎藤ヨシヱがこうやって私と会っているのは、彼女が私に興味があるからに過ぎない。 飽きてしまえば、何の未練や惜別の念も無く、さっさと棄てられてしまうだろう。 「それは嫌だな……」 私としても、たった一人の友人を失うことは非常に惜しいことだった。 彼女とはまだ、友達でいたい。そう思った。 けど、今はそれよりも考えることがあるか。 斎藤ヨシヱは私の疑問をひとつ解消してくれたが、そのおかげで再び、新たな疑問がまたひとつ生まれてしまった。 ――あなたみたいな人間が誰かに好かれるなんて、不可能よ。 彼女は、そう断言した。 別に斎藤ヨシヱの言っていることを全面的に肯定した訳ではないが、私が人に好かれ難いと言う点については同意出来る。自分のことは、自分が一番よくわかっていた。 しかし私は、現在進行形で私のことを好いてくれている少女を、一人知っている。 田中キリエ。 彼女はどうして、私のことを好きになったのだろうか。 畳に伸びる自身の影を眺めながら、しばらく考えてみたが、私にはやっぱりわからなかった。
https://w.atwiki.jp/chaos-tcg/pages/348.html
魔道エンジンの権威「宮藤 一郎」 読み:まどうえんじんのけんい「みやふじ いちろう」 カテゴリー:Chara/男性 作品:ストライクウィッチーズ 属性:地 ATK:1(+1) DEF:1(+1) [永続]自分の"A6M3a"すべての攻撃力と耐久力が1上昇する。 Main 『このキャラを控え室に置く〕自分の控え室の"A6M3a"か《ストライカーユニット》を1枚手札に加える。 その力でみんなを守るような立派な人になりなさい illust:第501統合戦闘航空団 SW-049 C 収録:ブースターパック 「OS:ストライクウィッチーズ1.00」 "A6M3a"を強化する能力と、特定カードのサルベージ能力を持つ。 前半の効果は自身の場持ちも悪く、パンプ幅も小さいためあくまでオマケ程度と割り切ろう。 後半の回収効果は数え役満☆しすたぁず「天和」&「地和」&「人和」と 行商妖精「エポナ」を足して3で割ったような性能。 使用する場合は「坂本 美緒」 on A6M3a 等を回収、エクストラ化やレベルアップに使えれば理想的だろう。 ストライカーユニットのほうはセットコストが重いため、回収効果は状況を見極めて使いたい。 参考 "A6M3a"を持つキャラ「宮藤 芳佳」 on A6M3a 「坂本 美緒」 on A6M3a
https://w.atwiki.jp/toshidensetu/pages/15.html
PCエンジンのマルチタップが5つある理由 PCエンジンとは、1987年にNECから発売された家庭用ゲーム機である。 グラディウスⅡやイースなどの名作があるが、多人数プレイ用の拡張マルチタップに対するこんな噂が流れている。 ガキの頃、PCエンジンのマルチタップがなんで5人用なんだろうと話題になった 人間の指と同じ数だからだと誰かが言い出した その後、どうでもいい話がどんどんくっついていって、終いには 「マルチタップの穴に右手の指五本を同時にそれぞれ突っ込むと感電死する」 とかいう噂になって流れた ガキの噂話ってのは、なんとも馬鹿馬鹿しい展開になっていくもんだと 今更ながら思うが、 後日、PCエンジンを持っている奴が車に轢かれて入院した時 「アイツ、試したんだろうな…」 という噂が流れた辺りを考えると、 子供の噂話ってのは怖いもんだなと、今更ながらに実感する 事実はゲームよりホラーなり PCエンジン-Wikipedia
https://w.atwiki.jp/regina51/pages/276.html
Cadillac Cien XV12 0-96km/h 90(2.9秒) 最高速度 80(400km/h) 馬力 850bhp Cadillac Sixteenと共にコンセプトカーとして2002年に発表された。V12エンジンを搭載し、負担がかからないときは4気筒のみを停止させ、燃費を向上させるシステムを搭載している。
https://w.atwiki.jp/kunseiya/pages/19.html
用語集(行ってみないとわからない!/No challenge No elucidation!) 週末探検隊の活動理念の中枢ともいえる言葉。 「その先に何があるのか」「もっと色々な物があるのでは」の気持ちを 抑えられなった上での行動を指すのだが、当然のことそこは非常に危険な場所である事も 多い。 しかし、無闇無計画に突入する事は滅多に無い。(時々は・・ある。) どうすれば先に進めるか、どうすればその障害を越えられるかという事を 綿密にシミュレーションした上で、必要な機材を揃えた上で再度リベンジを行っている。 ちなみに行った先に何も無かったとしても残念がる人間は隊の中には居ない。 「先にあるもの」の答えを知らないままに悶々と過ごすのは好奇心の塊で出来ている 隊員達にとっては生殺しといっても過言ではない。 ただそれだけの事である。 関連項目 ウエットスーツ
https://w.atwiki.jp/digimon-battle-terminal/pages/197.html
error page
https://w.atwiki.jp/aomorilinku/pages/16.html
imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 ニコニコ動画です。 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 YAHOO!です。 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 Googleです。 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/13768.html
登録日:2010/07/13(火) 15 28 33 更新日:2024/01/11 Thu 14 52 59 所要時間:約 8 分で読めます ▽タグ一覧 JAXA μ10 はやぶさ イオンエンジン ・μ10←かわいい 世界最強変態技術者集団の『藝術品』 化学 國中均 変態 宇宙研 宇宙開発 工学 技術 技術立国日本 日本ハジマッテタ 物理学 物理学項目 独自開発 通称『μ10』 はやぶさの帰還で一際知名度を得たいわゆる『イオンエンジン』システム。 各所で話題になっているが、正確にその仕様や、従来の化学エンジンに比べどこがどう優れているのかを知る機会は、残念ながら非常に少ない。 なので、ここでは深宇宙でのサンプルリターン計画に当たって必要不可欠であったイオンエンジンについて、 可能な限り詳細な情報を、可能な限り平易な言葉で解説したい。 そもそも、何故イオンエンジンの開発が必要であったのか? まず、単純に従来の化学ロケットである『ヒドラジン・スラスタ』では重量がかさばりすぎ、 とんでもない低予算で設計・打ち上げられるロケットには乗せられないと言う問題があった。 また、ヒドラジン・スラスタなどには運用に当たって電極などの磨耗が避けられない部分があり、 超長期間の稼働に耐えるのは難しかったと言う原理的な問題もある。 そして何より、日本における宇宙開発事業は慢性的な予算不足があり、 『極めて独創的であり、かつ実用的・現実的である計画』にしか予算審議を受け付けない、と言うお達しが政府から出されていた。 つまり、他国産の既存技術の猿真似では、下手をすると予算すら付けて貰えなかったのである。 しかし、実はこの『他国の猿真似を嫌う』と言うのは、 はやぶさの目標となった惑星イトカワの名の由来となった日本ロケット開発の始祖、航空工学の第一人者でもあり、 零戦に並ぶ日本最高の戦闘機『隼』の設計者でもある糸川英夫教授の最も基本的な研究姿勢である。 本筋から逸れるので折り畳み 終戦直後の日本は、ポツダム宣言受諾に従いGHQによってあらゆる航空工学の技術・成果を破棄され(*1)、またその研究自体を長らく禁止されていた。 数年後、ようやくその禁止が解かれた時、 アメリカの宇宙開発を目の当たりにして『やつらは本気で人間を宇宙に送る気だ。今更ジェットエンジンを開発してもアメリカには勝てない』と直感した糸川教授は、 全くの白紙の状態から、強烈な独創性を発揮しつつ、当時の先進国とは全く違ったアプローチでロケットの開発を開始したのである ――――勿論、超低予算で。 結果、日本初のロケットは『タイニーランス』こと『ペンシル・ロケット』、 つまり鉛筆を連想させる全長230mmのロケット(当然世界最小かつ世界最安価)であり、それは『水平方向』に打ち出された。 激烈な宇宙開発競争に日本が一刻も早く参戦するには、もはや『発射・成功・バンザイ』などと呑気に低次元な実験をして喜んでいる暇など一瞬たりともなかったのである。 ロケットの水平発射は、その進路や機体の回収が容易であり、間違い無く実用化を真っ直ぐに最短距離で目指した実験だったのだ。 この『ロケットは空に向かって打ち上げる』と言う常識をあっさり破った鉛筆ロケット水平発射の実験を通して、 日本の今後の宇宙開発の基礎や、日本が世界で唯一持つ『固体燃料の大型ロケット』の下地が確かに築かれたのである。 時代は下り、糸川教授は僅か15年ほどの宇宙開発研究から引退した。 しかし、その『あらゆる技術と知識を各人が横断し、常に独自性と逆転の発想を持って研究開発にあたる』と言う姿勢は、 宇宙研が他の組織と統合されJAXAとなった後も、今日まで生き続けている。 そうした背景から工学・理学・化学他あらゆる分野を集積した集大成こそが、この マイクロ波放電式ECR型イオンエンジン・μ10 なのである。 構造 さて、では、その具体的な構造はどのようになっているのだろうか。 我々の身の回りの原子は、電気的に陽性な原子核が、電気的に陰性な電子をまとっており、ぴったり中性である。 この原子から電子を取り除けば、原子は陽性となる。この状態の原子を『陽イオン』と呼ぶ。 原子は高温下では、電子が原子核から遊離する。 これが気体だった場合、そこは陽イオンと電子がばらばらに飛び交う『プラズマ状態』となる。 例えば蛍光灯内部は、この状態にある。 電子・陽イオンなど、電気的に中性でない粒子を『荷電粒子』と呼ぶが、 この荷電粒子は磁力によって経路を曲げられ、磁力線に沿って模様を作る砂鉄のように規則正しく旋回運動をする。 これが『サイクロトロン運動』と言う運動で、 この時、旋回の周波数(これがマイクロ波の波長領域になる)に一致させた交流電場を加えると、この電場の持つ全てのエネルギーが無駄なく粒子を加速させるのだ。 これを『電子サイクロトロン共鳴(ECR)』と呼ぶ。 こうしてマイクロ波によって指向性を持たせた高速のプラズマの流れを、 制御フィルターを通してキセノンガス粒子にぶつけることで推進力を得られるのが、マイクロ波放電式ECR型イオンエンジンである。 これを開発したのが、宇宙研・宇宙輸送工学研究系スタッフと、リーダーシップを執った國中均教授である。 24時間体制の耐久試験と思考錯誤を15年に渡って繰り返した末の、世界に冠たる輝かしい研究成果だと言えよう。 利点 では、これには従来型と比べてどのような利点があるのだろうか? まず、その噴射速度(≒推進力)に従来型との大きな違いがある。 先述のヒドラジン・スラスタの噴射速度が秒速3kmなのに対し、『μ10』は噴射速度が秒速30kmを記録している。 そして、イオン生成(プラズマ状態を作り出すこと)にECRを用いることは、運用により磨耗してゆく放電電極の不要化を意味する。 つまり、基本的な運用による磨耗が大幅に無くなり、総合的な耐久性が飛躍的に向上したのである。 また、失われた陽イオンの補給の為に外部に『中和機』を設け、ここから電子を噴射して差し引き電気的中性になるように工夫されている。 ここにもECRが活用されているので、エンジン全体の信頼性が著しく高められたのだ。 ちなみに片道30億kmを走破するに要するキセノンガスは、余裕を持たせてもたった66kgである。 しかも、供給エネルギー自体は殆ど全て太陽光から得られる(太陽光自体にも輻射圧と呼ばれる圧力があるが、それは後に問題になったり逆に利用されたりする)。 この結果、60億km/キセノンガス66kgと言う『恐るべき燃費の良さ』を実現したわけである。 はやぶさにはこのμ10が四機据え付けられていたが、この長時間に渡る三機同時運用が、まずはやぶさが打ち立てた世界初の記録である。 しかしこのμ10の運用には、極めて精密な軌道誘導が必須である。 太陽光が命綱である以上、太陽電池パネルは可能な限り太陽を睨んでいなくてはならないし、 予算や大きさの都合から、司令部と情報をやり取りするはやぶさのメインアンテナは『可動しない』ので、 アンテナの向きも常に自転する地球に合わせなくてはならない。 加えて日本は海外に宇宙基地を持っていないので、はやぶさに直接本部から司令が出せるのは日に8時間だけだ。 おまけに、地球の引力を用いた『スイングバイ』と呼ばれる加速ミッションや、 各惑星の引力を常に計算し、臨機応変かつ正確無比に軌道を決定してゆくと言う『曲芸』を年中無休で演じねばならない。 はやぶさはこれらの膨大で複雑な計算を自分で処理する頭脳を持った自律ロボットでもあるのだが、 最終的なGOサインはやはり司令部から出されるので、そのタイミングや判断を延々と続けた責任者と、 臨機応変にはやぶさの判断プログラムを次々その場で組み上げていった現場の人々の技術は、間違い無く世界最高のものである。 例えれば、自転車でユーラシア大陸を横断するようなものだ。 人が乗っていても非常に大変なことだが、はやぶさがやったのは、最初に『いってこい』と無人の自転車を押して、 遠隔操作と無人自転車そのもののみの力で故障や事故を乗り越えて、横断どころか往復して来てしまうようなものである。 また、イオンエンジンが次々と故障・停止した時も、生存した部分だけで推進機能を代替出来るように離れ業的な処置が可能であったのも、 『無いものは自分で作れ。機械に足りないものは人間がカバーしろ』を地で行っていた糸川教授の精神が生きていたからであろう。 このように、総括してとんでもない技術の塊であるサンプルリターン計画だが、エンジン一つ取っても、日本の狂気にも似た技術向上への執着が感じられる。 繰り返すが、これらは全て『破格の低予算』で生み出された成果である。 資金難に喘ぐNASAでさえ「そんな予算で探索機の開発が出来るのか?」と心配そうにこちらに尋ねてくるそうだ。 「違う。これは開発予算じゃなくて、打ち上げや運用全て合わせた予算だ」と答えると、もはや苦笑いしか返って来ない。 (尤も、これは本来必要なはずの予算が十分に支給されていない、特に運用について無報酬の時間外労働などの負担を現場のスタッフに極端なまでに強いていることを示すエピソードでもあるので、日本の宇宙開発は制度面からの改革を望まれている。) 『マリリン・モンローがボロ着をまとっているようだ』 日本最初のロケット発射実験場の司令部が山と海岸の狭間の掘っ建て小屋だったことや、 雨漏りすら珍しくないはやぶさ司令部のある宇宙開発基地を見た外国人研究者の言葉であるが、これこそが海外から見た日本の宇宙開発の総合的な評価でもある。 また、はやぶさに関する論文を複数掲載した科学誌『ネイチャー』の編集長は、 『我が誌面が世紀の研究成果発表の場になれたことを光栄に思い、はやぶさ運用スタッフに心から感謝する』と誌面に端書いている。 「大事なのは、決して諦めないこと」 はやぶさとその開発スタッフたちはそう示してくれたのだ。 以上。 追記・修正を求める。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] つまり足りぬ足りぬは工夫が足りぬと -- 名無しさん (2016-11-23 13 14 36) ↑十分な予算を付けてから言えという話 -- 名無しさん (2017-03-30 18 32 29) 最後の増税のとこの一行はいらない。十分な対価なしに結果を追い求める思想は日本をブラック企業天国にした原因だぞ。 -- 名無しさん (2017-05-14 02 11 04) ↑該当の一文は修正した。あとなんか項目全体はμ10エンジンそのものの解説から逸れてるとこが多いな。冗長と感じた部分は折り畳みにしたが、全体的に主旨があやふやな感じだな。 -- 名無しさん (2017-05-14 11 38 32) 「はやぶさは低予算でできてすごい!」的な発想は国を亡ぼす 金はしかるべきところには潤沢に与えられるべき -- 名無しさん (2017-05-14 11 44 22) 予算とかに制限がある方が良いものを作っていることが多いっていう意見はわかるが、それはそれ、これはこれだもんな -- 名無しさん (2017-05-14 11 57 50) はやぶさは「成功させてはならないものを成功させてしまった」という感がある。これによって「予算をいくら削っても成功できる=予算不足による失敗であっても現場のせいにできる」と金を出す側に学習させてしまった。 -- 名無しさん (2017-05-14 22 05 15) 低コスト化に大きく寄与したのは多くの部品において、日本の大量生産された民生部品が宇宙探査機の規格をパスしてしまうほどの精密さを有していたことと(超極端なたとえをすると組み立ての部品を町の電気屋で発注できるようなもの)、運用スタッフのサービス残業で人件費を極限まで削ったことが大きい。前者はともかく後者は、これでは長続きせんよ。 -- 名無しさん (2020-10-24 22 01 54) ↑それで疑問に思ったのだが、「その後プロジェクトにかかわったスタッフたちがこの実績を売りにして海外の宇宙機関に移籍した」という話にならないのはなぜなのだろう。 -- 名無しさん (2020-10-25 01 24 25) 名前 コメント