約 2,304,357 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4585.html
涼宮ハルヒ挙国一致内閣 国務大臣(敬称略) 内閣総理大臣 涼宮ハルヒ 内閣官房長官 古泉一樹 総務大臣 国木田 法務大臣 新川(内閣法制局長官兼務) 外務大臣兼沖縄及び北方対策担当大臣 喜緑江美里 財務大臣兼金融担当大臣 佐々木(内閣総理大臣臨時代理予定者第一位) 文部科学大臣 周防九曜 厚生労働大臣 朝比奈みくる 農林水産大臣 会長 経済産業大臣 鶴屋 国土交通大臣 藤原 環境大臣 谷口 防衛大臣 長門有希 国家公安委員会委員長 森園生 国務大臣以外の主な役職(敬称略) 内閣官房副長官(政務) 橘京子 内閣情報官兼内閣危機管理監兼内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当) 朝倉涼子 内閣広報官 妹 内閣広報室企画官 吉村美代子 内閣総理大臣秘書官(政務担当) 俺 ああ、なんというか、呉越同舟という言葉がぴったりな状況に陥ってしまった経緯については省略しよう。 まあ、要するに未曾有の国難ということで、対立していたSOS党と佐々木党が連立して挙国一致内閣を作ったということだ。 じゃあ、とりあえず、上から順番に説明しようか。 ハルヒが総理大臣なのは、当然だわな。何でも一番が好きなハルヒが二番以下の地位に甘んじるわけもない。SOS党は衆参両議院で第一党だから、その党首が総理大臣に選ばれるのは、普通に考えても当然だしな。 古泉は、どこまでいっても、ハルヒのフォロー役というわけだ。実質、この内閣を取り仕切っているのは、こいつということになる。ご苦労なことだ。 国木田は、総務大臣の役目を飄々とこなしている。昔からできるやつだったし、任せておいて問題はなかろう。 新川さんは、年齢構成が若すぎるこの内閣においては、御意見番的な存在だ。 喜緑さんは、あの薄い微笑で対外交渉をこなし、諸外国からはタフなネゴシエーターとして認識されている。 佐々木のところの括弧書きは、俗にいう「副総理」というやつだ。この国難の中で、財政金融をつかさどるのはかなりの激務だが、よくやってくれている。 九曜に文部科学大臣を任せるのは、日本の将来を担う子供たちのためを思うとおおいに不安なのだが……。教育行政が滞りなく遂行されることを祈るばかりだ。 朝比奈さんは、まさに適役だと思うね。ただ存在しているだけで、国民の福利厚生に絶大なる効果がありそうだ。 会長さん(俺はいまだに彼の本名を知らん。みんな会長って呼ぶしな)は、生徒会長時代に培った実務能力で、農林水産大臣の職務を難なくこなしている。 財界の重鎮である鶴屋さんは、まさに適材適所といったところ。あの明るい振る舞いで、日本の景気も明るくしてくれそうだ。 藤原とは個人的にはそりが合わんが、この国難の中ではそんなこともいってられん。嫌味なやつだが、仕事は真面目にこなす。ただ、協調性が足りないのが問題だわな。国土交通省は防災担当機関でもあるから、いざというときは他省庁との連携が重要なんだがなぁ。 なんで谷口が大臣なんぞになれたのか。まあ、ハルヒの気まぐれなんだろうが。環境行政が停滞しないことを祈る。 長門が防衛大臣を担う限り、日本の国防は安泰だ。ひたすらに頼もしい。ただ、仕事をさっさとすませて、国会図書館によく出没するという噂が絶えない。 森さんは、警察組織のトップ。彼女がにらみをきかせれば、日本の治安は安泰だぜ。一方で、「機関」を通じて裏社会も仕切っているという黒い噂が聞こえてきたりも……。 橘京子は、古泉と一緒に内閣を取り仕切っている。SOS党と佐々木党の呉越同舟状態をうまく切り盛りしていくためには、この二人の連携は非常に重要だ。だから、佐々木を異常なまでに持ち上げて、ハルヒの機嫌を損ねるのはやめてほしいのだが。 朝倉涼子は、内閣官房の中では、古泉、橘に次ぐ相当な実力者である。情報・危機管理・安全保障を一手に握ってるからな。本人は防衛大臣をやりたがってたんだが、暴走して他国に戦争でも吹っかけられたら困るので、裏方に収まった経緯がある。 最近朝比奈さんにそっくりになってきた俺の妹は、内閣広報官。これが意外に天職だったらしく、毎日楽しそうに仕事をしている。 ミヨキチは、妹の補佐役といったところだ。妹と仲良くやっているようで、大変結構なことである。 で、俺はハルヒの秘書官というわけだ。ハルヒに振り回される雑用係というポジションは、どこにいっても変わらないものらしい。まったく、やれやれだ。 首相官邸。 「佐々木さんが、涼宮さんに使われる立場なんてありえないのです。佐々木さんこそが首相にふさわしいのです」 「また蒸し返すんですか、あなたは」 橘京子と古泉一樹が、また口論している。 ここ最近、すっかりお馴染みになってしまった光景で、もはや口をはさもうとする者はいなかった。 「第二党が何をいったって、しょせんは負け惜しみですよ」 「今度の選挙では、必ず勝って見せるのです」 橘京子は、ほおを膨らませて不満顔だ。 「せいぜい、頑張ってください。それよりも、例の件、佐々木党内の取りまとめはしてくれたんでしょうね?」 「もちろんです」 国家公安委員会・警察庁。 森園生は、極秘とスタンプが押された報告書を読んでいた。日本国内を跳梁跋扈する国外の諜報員を「非合法に処理」した記録である。昔はスパイ天国などといわれた日本国であるが、森園生が陣頭指揮をとって対策を進めた結果、状況はだいぶ改善されつつあった。 もう一枚の紙を取り上げる。こちらは何もスタンプは押されてないが、極秘文書には違いなかった。なぜなら、それは「機関」の文書だから。 TFEIの動向。天蓋領域の端末には変化は見られないが、情報統合思念体の端末は増員され、政府組織の中に潜入していた。いつでも政府を乗っ取れる体制でありながら、彼女たちは何もしようとしない。観測任務を第一とする態度は不変である。 現在、政府を乗っ取っている立場である「機関」と橘京子の組織としては、TFEIたちのそのような態度は不気味ですらあった。 政府の国防・外交・危機管理を押さえているTFEIトップスリー、長門有希、喜緑江美里、朝倉涼子ですら、人間レベルでなしうる以上のことをしようとはしていない。そして、そのレベルですら完璧人間に近いのだから、文句のつけようもないのだ。 森園生は、二つの文書を丸めて灰皿に置くとライターで火をつけた。情報流出を防ぐ最も手っ取り早い方法だ。 「宇宙人たちは不干渉ということね。なら、未来人たちはどうかしら……?」 そのつぶやきを耳にした者は、誰もいなかった。 厚生労働省。 真面目に書類仕事をこなしている朝比奈みくるのもとに、藤原がやってきた。 彼は、入ってきた途端に盗聴防止装置を稼動させると、口を開いた。 「あんたは、このまま状況を座視してるつもりか?」 「当然でしょ。介入は許可されてないわ。藤原くんだって同じじゃないかしら?」 「何百万人もの人間が犠牲になるんだぞ。それを黙って見てるつもりか?」 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターを取り出し稼動させた。 無数の曲線と数式と記号で構成された光の三次元樹形図が空中に展開される。 「実際、それを阻止しようと思えば、介入しなければならない時点は1249箇所。二人だけじゃ、手に負えないわよ。あからさまな規定事項破壊行為だし、介入が全部終わる前に私たちが始末されちゃうわ」 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターをポケットにしまった。 光の樹形図が消え去る。 「あるべき未来を守るためには仕方ないわよ」 「そんな未来なんぞ糞食らえだ」 「藤原くんだって分かってるはずでしょ。私たちはこの悪しき世界を守るために存在する悪党だってことは」 「……」 藤原の顔が渋面を形作る。 「それが嫌なら、未来に帰って組織を抜けることね」 国立国会図書館。 読書にいそしんでいた長門有希のもとに、喜緑江美里と朝倉涼子がやってきた。二人とも半ステルスモード。図書館という空間に同化している長門有希はともかく、二人はこのような場所では目立ちすぎるからだ。 長門有希も、半ステルスモードに移行した。 「大規模な情報操作をしない限り、戦争は不可避。その旨は、既に報告済みである」 「私も同じです」 「私も同じよ。三人とも意見が一致するなんて、つまんないわね」 「情報統合思念体からの指令は、観測の継続。積極的な干渉の禁止、つまりは、不干渉原則の維持である」 「穏健派はしぶしぶ同意したみたいですけどね。戦況が悪化した場合に、涼宮ハルヒの力が暴走して危険を招くことを懸念しているようです」 「その方が情報爆発を観測できていいじゃないの」 朝倉涼子はあっけらかんとそう発言した。 「主流派は、今のところ急進派と同意見。ただし、情報統合思念体に危険が及ぶことになれば、穏健派とともに阻止することになるだろう。むしろ、気になるのは天蓋領域の動向」 「周防九曜は、相変わらずのようです。あちらも、不干渉という点ではこちらと変わらないのではありませんか。むしろ、未来人の方が干渉してくる可能性は高いと思いますけど」 「戦争の発生自体は、彼女たちにとっても規定事項であると思われる。そうでなければ、そろそろ動きがないとおかしい」 経済産業省。 鶴屋大臣は、いろんな方面に電話をかけまくっていた。 「……戦争ともなれば鉄鋼の増産は不可欠だからねっ。……生産ライン増強の補助金? いやぁ、お国の財政が厳しくてねぇ。……あっ、そんなこと言っちゃっていいのかなぁ? あのことをバラしちゃうよっ。……うん、理解してくれて助かるにょろ。じゃあ」 電話を置き、次の話し相手の電話番号を確認する。 「ええっと、次は、○○商事だったかな?」 鶴屋大臣の脅迫電話は、その日一日中続いていたという。 首相官邸。 「ああもう! 今日もくだらない仕事ばっかりだったわね!」 「仕方ないだろ。一国の首相ともなれば避けられない仕事はいくらでもあるさ」 俺は、文句たれるハルヒをなだめる役目だ。この役目は昔から俺のもので、いまだに免れることができてなく、おそらく将来もずっと続くだろうと思われた。 なんたって、俺は、栄えあるSOS党党首殿の夫だからな。今さら免れることは不可能だろうし、その気もない。 「ねぇ、キョン」 ハルヒは俺の背中に手を回して抱きついてきた。 「なんだ?」 「あたし、そろそろ子供ほしい」 「いきなり何言い出すんだ、おまえは」 「いや?」 ハルヒの表情は真剣そのものだった。 「あのなぁ、ハル……」 俺が言いかけた瞬間に、背後から声が降ってきた。 「涼宮内閣腐敗の現場、そんなところだね」 振り向くと、そこには佐々木がいた。 「腐敗といってもこの程度でね。申し訳ない。でも、部屋に入ってくるときはノックぐらいはしてくれよ」 「したよ。ただし、お二人とも自分たちの世界に没頭するあまり、ノックの音を認識することを脳が拒否していたようだけどね」 俺たちは二人して顔を赤くするしかなかった。 「何の用だ?」 「酷い言い方だね。僕は、ここ一週間ほとんど寝ないで、この『戦時財政計画』をまとめていたというのに。ねぎらいの言葉ぐらいほしいところだ」 佐々木は、右手に握っていた分厚い書類を、近くのテーブルの上に無造作に置いた。 「すまん。それはご苦労だったな」 「ありがとう。君にそう言ってもらえると、僕の苦労も報われるというものだ」 何を大げさなと思っていると、背後に寒気を感じて振り向いた。 ハルヒが、剣呑な視線で佐々木をにらんでいる。 「涼宮さん。そんな目でにらまないでよ。別にあなたの夫をとろうなんて思っちゃいないわ。私だって、その辺はわきまえているつもり。キョンは誰にだって優しい人、涼宮さんだって分かってるでしょ?」 「分かってるわよ!」 ハルヒは不機嫌な顔のままだ。 「涼宮さん。お互い、この内閣が続く間だけでも仲良くやりましょう」 ハルヒはしぶしぶ頷いた。 「なあ、佐々木」 「なんだい?」 「この内閣が終わったら、おまえたちはまた野党に戻るのか?」 「当然だよ。キョンだって分かってるはずだ。涼宮さんには、常に張り合える敵役が必要なんだ。今は外敵がいるからいいけど、それがなくなったら、張り合いがなくなる。ならば、その役目は僕が果たそう」 「でも……」 「僕自身も、そういう役回りを結構楽しんでるのでね。おかげで、涼宮さんと出会えてからの人生はとても充実している。では、馬に蹴られないうちに退散するとしよう」 佐々木は去りかけて、再びこちらを向いた。 「キョン。君が愛妻家なのは結構なことだが、自重してくれたまえよ。この未曾有の国難の時期に、首相閣下が産休では、国民に示しがつかない」 俺たちが何かをいう暇すら与えず、佐々木は足早に去っていった。 終わり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5129.html
This page was created at 2009.02.03 by ◆9yT4z0C2E6 ※※※※※※※※ 涼宮ハルヒの消失前日 落ちる! 無限にも感じた落下の感覚は覚醒する意識と共に消え失せ、冷たく固い床の感覚が取って代わった。 部屋の中まで容赦なく侵入してくる12月の冷気が、急速に布団のぬくもりを奪い取りにかかる。 まったく、暑い夏ならともかくなんでこのクソ寒い時に布団からこぼれ落ちたりするんだ、俺は? 再びぬくもりを享受すべく布団に潜り込もうとした俺は、そこに先客の存在を認めて凍り付いた。 妹のヤツが潜り込んだ? いやいや、いくら暗くてもそれならわかる。 もちろんシャミセンでもない。 ハルヒ? 可能性としてはありそうだが、説明したくない理由でそれも違うと断言しよう。 誰だ、こいつは!? 慌てて明かりを付けた俺の目に映ったのは、俺と同じように吃驚の貌をしている、俺と同じ顔だった。 ※※※※※※※※ お前は誰だ! 叫びかけて、慌てて口を抑えた。 下手に騒いで誰かが起きてきたりしたら面倒なことになる。 見ると、アイツも同じように口を抑えている。 思考せよ! 思考するんだ俺の灰色の脳細胞! アリシア人のように! こいつは誰だ? 顔は一緒だ。 行動パターンも一緒だ。 おそらく今考えてることも一緒だ。 俺と同じならばそれは俺だ。 なら俺は誰だ? いいやそんなことは後回しだ。 原因は何だ? 超能力的な何かか? そんなはずはない、あいつらの能力はおかしな赤い玉になることくらいだ。 超能力方面は除外だ。 では未来的な何かか? あるかもしれんが、それなら俺かあいつのどっちかはこの現象を経験済みのはずだ。 だがどうみてもそうじゃない。 未来的何かも除外だ。 なら宇宙的な何かか? 銀色に光るコンバットナイフの影が頭をよぎった時、ケータイが鳴った。 着信音は『雪、無音、窓辺にて』、長門だ。 ケータイは机の上で光りながら鳴っている。 俺の方が近い。 「長門か?」 『今からそちらへ行く』 電話が切られるとほとんど同時に、少女の姿が音もなく浮かび上がった。 「「長門」」 重なる声にかまわず、少女は抑揚のない声で 「遮蔽シールドを展開」 相変わらず言葉が足らないが、話しても声が漏れないってことなんだろう。 そう解釈した俺は、もう一人の俺――ベッドの上であぐらを組み、いつのまにかエアコンの暖房まで入れている――に向かって 「訊かなくてもわかるような気もするが一応訊くぞ、お前は誰だ」 「人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗ったらどうだ」 なんてひねくれた野郎だ。 いや、こいつは俺なのか? だとしたら俺がひねくれ者でひねくれ者がひねくれ者をひねくれ者だと言ったらそいつはひねくれ者なのか? あぁめんどくせえ! 「異次元同位体」 なんだって? 「あなた方の概念で言うところの、『異世界人』が最も近い」 ついに出たか、異世界人。 しかも俺かよ! やれやれだ、と首を振ってハタと思った。 どっちが異世界人なんだ? 見ると、もう一人の俺も俺を見ていた。 俺たちは同時に、長門へ振り向いた。 長門は俺たちを見つめている。 いや、あるいは何も見ていないのかもしれない。 いつもにもまして表情が読めなかった。 長門? まったく動かない長門に、俺たちは二人して心配し始めていた。 長門? 大丈夫か、長門? 肩をつかんで揺すってみるべきかと考え始めた時、まばたきをしてマイクロ単位に頷き、 「問題ない」 そうか? 目で問いかけると、再びミリ単位で頷いて見せた。 俺は長門に向けてイスを出して、机にもたれかかった。 もう一人の俺はベッドに腰を下ろした。 俺も、もう一人の俺も口を開かなかった。 長門に尋ねるべきことはわかりきっていたが、もし自分の方が異世界人だったら、俺はこれからどうすればいいんだ? 「なぁ、長門」 俺は意を決して長門に尋ねた。 どっちが異世界人なんだ? と。 長門の答えは意外だった。 「答えられない」 どうしてだ? 「命令だから。 わたしはあなた達の意志行動を支援すること、および情報秘匿を命じられた」 ――そうか―― 「つまり、俺たちも観察対象になった。 これでいいんだな?」 「いい」 はぁ…… 要するにまたハルヒのトンデモパワーのせいなのか。 こんどは俺が二人だと? 何考えてやがんだ? 雑用がもう一人欲しいのか? 俺たちは互いに貌を見合わせ、同時にため息をつき、腹をくくって互いの情報交換を始めたが、違いらしい違いは見あたらない。 余計にわからない。 同じ俺なら二人いる必要はないはずだ。 俺とこいつは何が違う? そこに事態打開の鍵があるはずだった。 ※※※※※※※※ 遠目にもよく目立つ黄色いカチューシャ。 あそこにいるのは…… 学校への坂道を上っていく生徒の流れの中に、ハルヒの姿があった。 「よう」 少し歩を速めて、横に並ぶ。 二人で額をつきあわせた結果、一致しなかったのはハルヒとの関係だ。 ある意味では一致したのだが、全く意味がなかった。 つまり、お互いに『俺にとってハルヒはなんなのか』という問いに答えを出せなかったのだ。 「珍しいわね、こんなところで会うなんて。 明日は雨かしら」 「別に。 たまには早起きすることくらいあるさ」 妹に起こされるわけにはいかない理由が出来ちまったからな。 『キョンくんが2人いる~!』なんて注進されてみろ、これ以上事態をややこしくするようなマゾっ気は俺にはないのさ。 俺たちの出した対策は、とにかくハルヒを観察することだった。 こうなった原因はハルヒだ。 ハルヒを観察していれば、何か掴めるかもしれない。 ちなみにあいつは長門にもらったナントカで透明人間と化している。 『意志行動の支援』ってやつだ。 一日交替で入れ替わることになっているので、明日は透明人間初体験ってわけだ。 「いつまでもだらだら布団にしがみついてるよりはマシね。 そうだ、明日もこの時間にきなさい。 坂の下の公園で待ち合わせ、あたしより遅かったら罰金だから」 「マテマテマテ、なんだいきなり」 「あんたに早起きのクセをつけてあげようという、団長としての配慮よ。 ありがたく受け取りなさい」 ありがたくねぇよ。 「ついでに体力ね。 はい、これ持ちなさい」 そう言って、さっさと鞄を押しつけやがった。 「おまえな、自分の鞄くらい自分で持て」 憮然としてそう返すと、 「鍛えようと思わないと鍛えられないわよ。 いつか好きな子が出来たとき後悔したくないでしょ」 意外なことを言う。 「お前の口からそんな言葉が出るとは意外だな。 恋愛感情は精神病の一種じゃなかったのか?」 「あんたまで同じに考えなきゃいけないって決まりはないのよ、もっと主体性ってものを持ちなさい。 それで?」 「それでって、何がだ?」 「鈍いわね、それでも健康な若い男なの? 気になる子とか好きな子はいないのかって訊いてるのよ」 こいつは本当に昨日までの、俺の知っている涼宮ハルヒなのか? 愕然として見つめる俺には目もくれず、恋愛談義を続けるハルヒ。 「みくるちゃんと有希はダメよ。 SOS団内での恋愛禁止、もちろんあたしもダメ。 わかって… ってあんたどうしたのよっ」 どうしたって、何が? 嗚呼、俺か。 俺がどうかしたのか? 「どうかしたのかって、あんた自分でわかってないの? 真っ青よっ」 「そんな貌してるか? 気のせいだろ。 さっ、行こうぜ」 確かに俺はショックを受けている。 だが、何にだ? ここが俺の世界じゃない可能性は何度も考えて、覚悟してたはずじゃないか。 「気のせいって、そんなわけないでしょ! そんな貌色で――帰るわよ、鞄よこしなさい」 ハルヒは鞄を二つとももぎ取ると、たまたま通りかかったクラスメートを掴まえて担任への連絡を命じ、俺の腕をつかんで坂を下り始めた。 こういう、こうと決めたら有無を言わせないところは俺の知っているハルヒだ。 抵抗も虚しくタクシーに押し込まれた俺は、部屋のベッドに寝かされている。 無理に起きようとしたら、技を掛けられて押し倒された。 ハルヒが俺を病人と思ってるのかどうか疑問だ。 ふぅ…… 肺の中の空気をはき出すと、全身が弛緩していくのがわかる。 ぬくもった布団が心地いい。 眠い…… 夕べ寝てないしな…… 「台所借りたわよ。 ――キョン? 寝ちゃったのかな」 小さな土鍋をのせたお盆を手に、ハルヒが俺を呼んでいる。 ベッド脇に座り、俺の貌をのぞき込んで―― ――今まで一度も見たことのない貌だった。 安堵? 慈愛? 満足? 誇り? なんなんだ? とても綺麗な、けれどどこか怖い――肉食獣を連想させる――、貌。 「もう大丈夫そうね。 よく寝てるみたいだし」 その声も、今まで聞いたことのない柔らかさを持っていた。 ハルヒの貌、ハルヒの声、その向かう先にいるのは――あれも俺だが、この俺じゃあない―― そもそも、あのハルヒが俺のハルヒかどうかは…… って俺のハルヒって何だっ! ハルヒは眠ってしまった俺をつついたりして遊んでいる。 その貌にはまるで、『愛してる』と書いてあるようじゃないか。 ……イライラするな。 なぜだ? ハルヒが普通の恋愛をしてる? いいことじゃないか。 普通、ウェルカムだ。 望むところだ。 相手が俺ってのはどうなんだ? 嫌なのか? そんなわけあるか! 嗚呼、そんなことあるわけがねえよ! なのになぜ、あいつが他の男にあんな貌を向けるのを黙って見てなきゃいけないんだ!? あれも俺だ、俺だが、この俺じゃない。 なんだってあそこにいるのはこの俺じゃないんだ! 唐突に、本当に唐突にわかった。 これは嫉妬だ。 俺が俺に嫉妬している? なんてばかばかしい図だ。 『俺にとってハルヒはなんなのか』? 嗚呼、今や答えは明白だ。 それから、俺で遊んでいるハルヒを見ながらボーっと考えていた。 ここがあいつの世界ならいい。 そうだったら、俺は俺のハルヒが俺を好きかどうかなんてまだ知らないですむ。 逆に、もしここが俺の世界だったら、俺はハルヒの心の内を覗いてしまったことになる。 そいつはフェアじゃない。 いつのまにか、ハルヒはベッドにもたれかかって眠っていた。 俺はステルスモードを解除して押し入れの毛布を取り出し、その背中にかけてやった。 よく眠っているようで、規則的な寝息が聞こえてくる。 その横にしゃがんで寝顔を見つめ、今やはっきりと自覚できる気持ちを言葉にした。 ※※※※※※※※ 落ちる! 次の瞬間、世界は反転し暗転し俺は果てしない落下の感覚に襲われた。 意識を失う直前、ハルヒの柔らかい微笑みを聞いたような気がした。 ――無限にも感じた落下の感覚は覚醒する意識と共に消え失せ、冷たく固い床の感覚が取って代わった。 部屋の中まで容赦なく侵入してくる12月の冷気が、急速に布団のぬくもりを奪い取りにかかる。 「帰って…… 来たのか? それとも、リアルな夢……?」 いや、どちらでもいい。 俺は気づいちまった。 そしてここには俺のハルヒが居る。 それで十分だ。 もしかしたら、俺は呼ばれたんじゃなく送り込まれたのかもしれないな。 気持ちを自覚するために。 それにしても、俺が見たハルヒをあの世界の俺は知らないわけだな、寝てたんだから。 「なるべく早く気づいてやれよ、別世界の俺。 自分の気持ちにも、あいつの気持ちにも」 窓の外、星を見上げながらつぶやいて、ふと思いついて付け加えた。 「そして頼むからこっちには来ないでくれ」 異世界人騒動はもう勘弁してくれ。 ※※※※※※※※ 目を覚ますと、ハルヒはベッドに寄りかかり、毛布をかぶって眠っていた。 押し入れ開けたのか? 仕方のないやつだ。 あそこには健康な男子の必需品もあったんだが、どうやらばれてないな。 時間は…… 昼をとっくに回ってるじゃないか。 時刻がわかると、とたんに腹が減った気になるのはなぜなんだろうね。 のども渇いたし、台所で何か探すとするか。 ごそごそと起き上がろうとすると、ハルヒが目を覚ました。 うにゃうにゃと寝ぼけてる貌は――うむ、可愛いと言わざるを得ないな。 だんだんと目の焦点が合っていき…… 俺の存在に気づいたな。 うれしそうな笑みがこぼれて――うむ、さっきの100倍可愛いと言わざるを得ないな。 だがまだ寝ぼけているようだ。 俺がじっと見ていることに――今、気づいた。 「こぉらキョン! 女の子の寝顔を勝手に見るなんてサイテーよ!」 さようなら、100倍可愛いハルヒ。 短い生涯だったな。 「ハルヒ」 「なによ」 「可愛かったぞ」 「ばか」 こいつのこんな貌を見るのはあの、ポニーテールをほめた時以来だな。 いつまでも見ていたい気もするが、悲しいかな、人間とは腹の減る生き物なのだよ。 「腹減ってるだろ? なんか喰おうぜ」 なぜにアヒル口になる? 「あ…… 毛布かけてくれたんだ。 ありがと」 かぶっていた毛布をたたみながら、そんなことを言った。 ハルヒが自分で出したんじゃないのか? 嗚呼、あいつか。 俺は曖昧に答えて台所へ降りていった。 ハルヒのこしらえた軽い物を二人で食べながら、 「それにしても朝は吃驚したわよ。 あんたホントにまるで血の気のない顔してたわよ? 今は大丈夫みたいだけど」 ふむ。 「嗚呼、あの時はちょっとショックなことがあってな……」 「へぇ?」 「恋愛談義なんて絶対しそうにない女が突然、俺に向かって好きな子はいないのかなんて訊いてきたんだ。 異世界にたった一人紛れ込んだんじゃないかと思うくらいショックを受けても当然だろ?」 実際、そうかもしれないからな。 「へぇ……」 「あっ! こらっ!」 「喰うなっ! 自分で作れっ!」 ハルヒのやつ、俺の皿を取り上げやがった。 「はぁ、なんだかいい夢見てたと思ったんだけどなぁ」 皿を取り返して、 「いい夢? どんな夢だ? 宇宙人か未来人か超能力者か異世界人でも出たか?」 「な~いしょっ。 はぁ……」 なぜそこで俺を見ながらため息をつく。 なんだそのかわいそうな生き物を見るような目は? 「ま、いいわ。 食べ終わったら支度しなさい」 支度? 何のだ。 「学校行くのよ。 今からならSOS団の活動に間に合うわ」 ※※※※※※※※ 「みんな居るっっ!?」 文芸部室の扉を開けて涼宮ハルヒが入ってきた。 『鍵』……彼を伴って。 私は本を読み続ける。 彼はいつもの席に座り、お茶を飲み、古泉一樹とゲームをする。 涼宮ハルヒはいつもの席に座り、お茶を飲み、ネットサーフィンをする。 何も変わらない、いつもの風景。 私の、エラー発生頻度が異常を示していること以外は。 『彼』は元からこの次元に存在していた『彼』 もう一つの『鍵』は消滅した。 元の次元に帰ったのかは不明。 私には次元を超える観測能力はない。 異次元同位体は存在した。 これは事実。 しかし出現した経緯は不明。 不明。 不明。 私は、なぜ、涼宮ハルヒが喚んだに違いないという判断に固執している? 判断は保留されるべき。 あるいは、統合思念体に情報提供を申請するべき。 私はするべきことをしていない。 否、できないでいる。 必ずノイズが発生し、実行に至らない。 自己診断。 診断結果は異常なし。 このような結果はありえない。 診断結果が異常。 私は私の異常を報告するべき。 ノイズ発生。 失敗。 ……いつもの時間。 私は本を閉じた。 彼がこちらを見ている。 彼は情報を欲している。 だけ。 ……エラー頻度の非線形変化を検出。 一人になってマンションで待つ。 彼は来る。 来た。 「俺だ」 「入って」 彼が座卓に座る。 私はお茶を淹れて彼の前に置いた。 朝比奈みくるの淹れるお茶と温度、成分とも同じになるように淹れた。 「早速で済まないんだが、あいつはどこにいるんだ?」 期待した言葉ではなかった。 期待? それはナニ? 期待。 期待値。 確率。 数学。 ……unmuch failure 原因不明のエラー増大を検知。 「消滅した」 「消滅っ!?」 「状況から、元の次元に帰還した可能性が最も高い」 「あ、あぁ…… 帰ったのか。 脅かすなよ」 「……」 「それじゃあ、俺がこの世界の『俺』で間違いないんだな?」 「そう」 彼が安堵している。 「そうか、一度くらいは透明人間を体験してみるのも悪くないと思ってたが、そのチャンスはなくなったってことか。 少し、残念だな」 「あなたが望むなら」 「なんだ? 透明人間体験、させてくれるのか?」 私は頷いた。 「そうだなぁ……」 私の提案を彼が思案する。 何故思案するのだろう? 彼は透明人間を体験してみたいと言ったはず。 私の認識は間違っている? 彼の表情が微妙に変化した。 心拍、血流の増大を検出。 貌が赤い。 原因不明のエラー増大を検知。 「やっぱりやめておく」 彼は小さく「卑怯だからな」とつぶやいた。 もちろん、私には聞こえている。 誰に対して卑怯なのか。 彼がどんな想像をしたのか。 判断する材料は不足している。 不足しているにもかかわらず、私の判断は『彼は涼宮ハルヒのことを考えていた』と断定した。 原因不明のエラー増大を検知。 「そう……」 「それより」 彼が話を変えた。 「あいつはどうして帰ることができたんだ? 長門はずっと観察してたのか?」 そう。 私はずっと観察していた。 彼が消滅する直前、涼宮ハルヒにしたことも。 そのことは統合思念体にも報告していない。 私は答えない。 答えられない。 それを口止めされていると解釈したのか、彼はまぁいいかと言って立ち上がった。 彼が行ってしまう。 「それにしても、人騒がせなやつだ。 俺はもう少し、常識的で普通の生活がいいんだがな」 「じゃあ長門、今日は世話になった。 こんど何かおごるよ。 また明日、学校でな」 靴を履き、彼は出て行った。 異次元同位体が消滅の直前に、涼宮ハルヒに投げかけた言葉。 『好きだぞ、ハルヒ』 涼宮ハルヒは彼でない彼からの言葉で彼を解放した ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ 涼宮ハルヒは彼でない彼からの愛の言葉に反応した ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ 涼宮ハルヒは、彼 で な い 彼 で も い い の だ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ 否、これはエラーではない。 ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ これは私が新しい概念を獲得した証。 ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ これは『恋』という概念。 ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫≪エラー≫ ≪エラー≫≪エラー≫ 全てのエラーがマスクされていく。 『恋』は全てに優先する概念。 これで正しい。 私は、正常。 そう、わたしはせいぢょう。 ※※※※※※※※ 少女が歩いている。 セーラー服を着た、小柄な、ショートヘアの少女は真冬の夜を歩くにはあまりにも薄着だったが、まるで寒さなど感じていないかのように歩いている。 ひとつの街灯の下で少女は立ち止まった。 街灯の明かりがまるで、スポットライトのように少女の姿を映し出す。 アッシュの髪。 感情のない無表情な貌には、何も見ていないような、あるいはすべてを見透しているような黒曜の瞳。 少女は夜空へ向けて手をかざす。 伸ばした手の先には、輝く冬銀河。 「 」 少女が何かをつぶやいた。 やがてかざした手を下ろした少女は、自分が今まで何をしていたのかわからないとでも言うように不安そうにあたりをきょろきょろと見回し、寒そうに早足で夜の闇に消えていった。 ※※※※※※※※ もし聞く者が居たら、少女のつぶやきはこう聞こえただろう。 『常識的で、普通の世界……』 少女が恋する、普通の少年が何気なく口にした一言。 少女は、自身の恋に忠実に行動した。 fin.
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1068.html
前線基地に向かうトラックを激しい爆発音が揺さぶる。突入前の準備として、学校の砲撃隊が北山公園の植物園に 120mm迫撃砲による徹底した砲撃を行っているのだ。空気を切り裂くような音が頭上をかすめるたびに 身震いを覚える。あれに当たれば、身体が傷つくどころか粉々に吹っ飛ぶんだろうな。 そんな中、前線基地に到着し、古泉小隊と鶴屋さん小隊の入れ替えが始まる。 「やあっ! キョンくん! また、会えてうれしいよっ! これから一緒にめがっさがんばろうね!」 鶴屋さんのテンションの高さは相変わらずだ。そんな彼女にハルヒも満足げのようである。 てきぱきとしたハルヒの指示により、2分とかからずに入れ替えが完了し、 「さて! いよいよ突入よ! 気を引き締めなさい!」 ハルヒの声が合図となり、またトラックが動き始める。 植物園が近くなるにつれて、爆発音が激しくなってきた。激しい土煙が植物園を覆っている。 その中、俺たちはついに北山公園内の植物園に突入した。同時に砲撃も停止する。 先行するトラックに乗っていたハルヒは一目散にトラックから降りると、 「行け行け行け!」 そう他の連中に降りるように指示を出し、自身はM16を抱えてそこら中めがけて乱射を始める。 ハルヒの配下の生徒たちもそれに習うように、トラックから降り乱射を始めた。辺りに広がる森、建物に向かって。 俺も遅れまいと、次々にトラックから自分の小隊を降ろし始める。鶴屋さんも同様だ。 2~3分だろうか。そのまま、乱射が続いたが、やがてハルヒが右手を挙げた。どうやら、撃ち方やめという意味のようだ。 俺も周りに乱射をやめさせる。ほどなくして、乱射が収まり、辺りに静寂が戻った。しかし、銃声音が頭の中に残って うっとうしいことこの上ない。 「何にもねえな……」 俺は思わず声に出してしまったが、これは予想外だった。当然、激しい抵抗があるものと思っていたが、 すんなりと突入に成功し、さらに敵の一人すらいない。どういうことだ? みんな地面に伏せて銃を構えている中、ハルヒだけは仁王立ちのように突っ立っていた。あのバカ、狙撃されたらどうするんだ。 「国木田。俺はハルヒのところに行ってくる。ここを頼む」 「了解」 俺は国木田の肩を叩くと、前屈みでハルヒの元に走った。同じタイミングで鶴屋さんもやってくる。 「どういうことなの? まるっきり抵抗がないなんて張り合いなさ過ぎ」 「何でも良いから少しは身を低くしろ、おまえは」 そう俺は脳天気なことを言っているハルヒの迷彩服をつかみ、無理矢理屈みさせた。 「さ~て、ハルにゃん、これからどうするにょろ?」 鶴屋さんの問いかけにハルヒは真剣に悩み始める。確かに、これはおかしい。やはり古泉の言うとおり罠だったのか? だが、敵は俺たちに考える余地を与えるつもりはないようだ。数発の爆発音が北高の方から飛んできた。 すぐ近くにいた通信機を持った生徒をハルヒは呼び、 「有希!? 何かあったの!?」 『前回と同じ攻撃を受けた。数発だけで、損害は軽微』 的確な長門の返事にハルヒは安堵した表情を見せる。だが、またすぐに苦渋に満ちた表情に戻り、 「罠だろうが何だろうが、あれの攻撃方法をつぶさない限り、あたしたちに勝ち目はないわ。予定通りに行きましょう。 鶴屋さんはロケット弾発射地点と思われる北山公園南部をお願い。キョンは北側ね。とっとと制圧したら鶴屋さんの援護に 向かうこと! いいわね!」 話し合いはここまでだ。俺は自分の小隊まで戻る。 「よっし、俺の小隊はこれから公園北部に行くぞ。前進しろ」 俺の指示の元、小隊は北部へ移動を開始した。鶴屋さんも南部に移動を始める。とにかく、とっとと北部をつぶして、 鶴屋さんの援護に向かわねばならん。 ◇◇◇◇ 「なあ、キョン」 林の中をじりじりと北部へ移動する最中に谷口が気の弱そうな声で聞いてきた。 「なんで散策用の道をつかわねえんだよ。歩きにくくてたまんねえ」 「おまえは待ち伏せされて、皆殺しにされたいのか?」 そう谷口の意見を一蹴する。北山公園は公園だけあって何本かの道があるが、当然敵がいるなら、 やすやすと通してくれることはないだろう。それに見通しが良すぎて狙い撃ちにされてはたまらん。 そばにいた国木田もあきれたように、 「谷口は結構貧弱なんだね」 「うるせえ。戦争するための訓練なんてやっているわけがねえだろうが。はっきり言ってこれは無駄な浪費だぜ。 あー、この体力をナンパにまわしてぇな」 「おまえが黙れ」 黙々と俺についてくる小隊の中で、ただ一人ピーピー文句を言う谷口を黙らせる。 ただ、薄暗い森の中、おまけにどこに敵が潜んでいるかわからない状況では、谷口の普通っぷりが かえって俺に安堵感を与えているのは事実だ。 と、国木田が突然真剣な目つきで銃を構えた。さらに一斉に周りの生徒たちも構え始める。 呆然としていたのは俺と谷口だけだったが、目の前の木々の隙間に何かがいることに気がつくと、 あわてて構えた。 隠れていたのは、鶴屋さんの行ったとおり真っ黒なシェルエットのような人間?だった。 腰にAKらしき銃を抱えているが、こちらには向けていない。 「おい、キョン……! とっとと撃とうぜ……」 今にも泣き出しそうな声で谷口が言う。どうする? 撃ってしまって良いのか? それとも捕まえるべきか? だが、俺が迷っている間にそいつはとっとと逃げ出しやがった。全力で地面の悪さも気にせず、 一目散に北に向かって失踪する。 「くそ! 逃がすな!」 ミスをしてしまった。偵察兵かもしれないのに、ここで見逃せば俺たちの位置が敵の主力に伝わり、 攻撃されるかもしれない。そうなる前に……! 「キョン、待って!」 国木田の制止も聞かずに、俺は一目散に逃げるシェルエット人間を追いかけ始めた。 小隊全員も俺について走り出す。 逃げる奴は姿が真っ黒というだけで、全く人間と同じような走り方をしていた。 草を手ではねのけ、溝を跳び越え、ばたばたと足音を発しながら逃げていく。 「もう少し……!」 もうちょっと追いついたら、奴を背中から撃ってやる。それで仕留められるはずだ。 だが、先に発砲したのは俺じゃなかった。タンタンと乾いた破裂音の次に、バスっと二度と忘れないんじゃないかという いやな音が背後から飛んできた。俺は立ち止まって振り返ると、そこには通信機を背負っていた阪中が倒れていた。 頭部から出血までしている。撃たれたのは確実だった。 「キョン! まずいよ!」 国木田がそばにいて切迫した声を上げた。前からは逃げていた敵と入れ替わるように、 銃を手にした数人の敵がこっちに向かって来ていた。さらに左右からも銃撃が始まる。 「阪中から無線機を!」 俺は身近にいた生徒に無線機を取るように伝える。阪中がやられた以上、別の誰かに持たせないと―― だが、すぐにその生徒も胸を撃ち抜かれた。血しぶきと肉片が飛び散った光景は当分忘れないだろう。 「おいキョン! どうするんだよ!」 谷口はひたすらおろおろして持っているM60を撃ちもしない。代わりに周りの生徒たちがおのおの敵に向けて反撃を始めた。 俺もそれに続くように迫るシェルエット人間に向けて発砲を始める。だが―― 「だめだ……!」 敵がどんどん増えて、数人どころか数十人にふくれあがったのを見れば、つい絶望もしたくなる。 やはり古泉の言うとおり、鶴屋さん小隊を襲撃した連中はただのおとりで、本隊が北部に陣取ってやがったんだ。 そして、俺たちはまんまと誘い込まれてしまっている。そう考えたとたん、自然と身体が引き返せと悲鳴を上げ始めた。 「後退しよう! 負傷者を連れて行け!」 撃たれて倒れている阪中たちを別の生徒たちが引きずり始めた。俺はそれをカバーするように 迫る敵に向けて撃ちまくる。そのうち一発が敵に命中し、まるで液体が始めるように飛び散って消滅した。 確かに鶴屋さんの言うとおり、まるでゲームの敵を撃ったぐらいの感覚にしかならない。 俺たちはそのまま数十メートル後退する。その間にまた一人の生徒が肩を撃たれた。これで3人目だ。 「下がれ下がれ!」 俺はわめくように指示を出す。だが、今度は二人の生徒が背後から撃たれた。そう背後からだ。間違いない。 なんで俺たちが通ってきた方から銃弾が飛んでくる!? 「後ろにも敵がいるよ!」 「どーするんだよ、囲まれちまっているぞ!」 未だに健在な国木田と谷口が大声を上げた。まずい。やばい。どうすりゃいいんだ!? 「伏せるんだ! みんな、伏せろ!」 思ってもいない声が俺の口から飛び出した。一斉に全生徒が茂みに隠れるように地面に伏せた。 すぐ頭上に弾がヒュンヒュンとかすめていく。もう一歩遅かったら蜂の巣立ったかもしれん。 背面の敵はこっちを狙撃するように動かずに撃ってきているが、前面――北側の敵は遠慮なくつっこんできていた。 このままでは皆殺しにされる。 「谷口! M60をこっちに置け!」 俺の指示に谷口は俺のすぐ横にM60を置いて撃ちまくり始めた。 「このやろ! 死ね! くるんじゃねえ!」 情けない声を上げつつも、突撃してくる敵に次々と命中し、黒い影が飛び散りまくる。 一方、俺の背後では国木田が小隊の背後にいる敵に対処していた。 「手榴弾を投げるよ!」 ピンの抜かれた手榴弾が宙を舞い、背後の敵を吹き飛ばした。同時に銃撃が収まったのをみると、 背後にいた奴は仕留められたらしい。さらに、前面から突撃してきた敵はM60の乱射を恐れたのか、 じりじりとこちらの視界外に引き始めた。何とか急場をしのげたようだな。 だが、国木田はほっとする様子もなく、俺の元に駆け寄って、 「キョン! のんびりしている場合じゃないよ! 第2波が来る前に砲撃の支援要請をしないと!」 くそ、国木田の方が指揮官みたいじゃないか。今からでも変わってくれないか? いや、そんなことはどうでもいい。 俺は引きずられてきてぴくりともしない阪中から無線機を取ると、ハルヒに――いや、そんな暇はない。 長門に直接指示しないと! 「長門! 聞こえるか!」 『聞こえている』 通信機は無事のようだ。俺は胸ポケットから地図を取り出すと、 「今から言う座標に向けて砲撃を頼む!」 俺は俺たち周辺の座標を伝えると、 『わかった。砲撃を開始する』 「ああ、頼む! こっちは包囲されて孤立状態だ!」 通信を終えたときに、ちらりと阪中の目が俺の視界に入った。 地面に突っ伏したまま、けっして瞬きしない。もう死んでいる…… ――あのね、お願いがあるんだけど。 ――涼宮さん、誘ってほしいんだけどね。 ――球技大会。だって、涼宮さん、すごいスポーツ万能じゃない。 前日、あった阪中との会話が脳裏にフラッシュバックしたとたん、俺は胃のものをすべてリバースしてしまいそうになった。 何とかぎりぎりのところで押さえ込んだが、全身に走る悪寒と鳥肌はやみそうになかった。 何を悩んでいる? 俺があのときとっとと逃げる敵を撃っておけばこんなことにはならなかっただろ? でも、これはゲームだ。仕掛けたものの言うとおりに勝てばいいじゃないか。そうすれば元通りさ。 大体、この阪中が俺の知っている阪中とは別人かもしれない。だから、罪悪感なんて持つことはない。 持つことなんてないって言っているだろうが! 「――キョン! 大丈夫!? しっかりして!」 いつの間にやら国木田が俺の肩をさすっていた。全身汗だらけになっていることにも気がつく。気色わりい。 「あ、ああ、大丈夫だ――大丈夫……」 のどからひねり出される俺の言葉を聞けば、誰も大丈夫じゃないとわかるだろう。しっかりしろ、俺! 今までだって、朝倉にナイフで刺されたり、朝倉にナイフでぐりぐりされただろうが! 「ああああっ! キョン、また敵がこっちに近づいてきたぞ!」 谷口の悲鳴とともにまたM60が火を吹き始める。見れば、また懲りもせず前方からシェルエット軍団が 突撃を敢行し始めていた。当然、銃を乱射しながらだ。 しかし、ここで長門のきわめて正確な砲撃が始まった。シャァァァという空気を切り裂くような音とともに、 俺たちの周囲が次々と吹き飛び始める。轟音で耳の鼓膜がはじけそうになった。 「撃ち方やめ! 撃ち方やめ! おい谷口! やめろっていってんだろ! 弾を無駄にするな!」 こっち大火力で突撃して来る敵はほとんど吹き飛び、俺たちのところに到達できる奴は一人もいなかった。 ならば、こっちはしばらく見物していた方が良い。 「今の内に負傷者の手当をするんだ! 残りは残弾の数を数えておけ!」 その間、徹底的な砲撃を受けた敵はさすがに堪えたらしい。次々と北側に引いていくのが確認できた。 頼むからもう来ないでくれよ。 俺はまた長門に――すまん、阪中。また借りるぞ――連絡して砲撃を停止させる。 続いてハルヒに連絡だ。 「おい、ハルヒ聞こえるか?」 『何よ、こんなときに! こっちは大騒ぎよ!』 返ってきたハルヒの声は、植物園がどんな状況かすぐにわかるようなものだった。無線機越しに、 銃声音やら爆発音がひっきりなしに飛び込んでくる。 『敵よ敵! 辺り一面囲まれているわ! 鶴屋さんも同じみたい! 完全にしてやられたわ!』 ああ、また撃たれた! 衛生兵! そっちで怪我した人を見てやって! 古泉くんの部隊はまだ来ないの!?と 俺に向けてではない声も入ってくる。やばい。ハルヒの方も襲撃されているのか。さらに鶴屋さんもだと? 学校まで攻撃されている訳じゃないだろうな? 『それは大丈夫だって有希が言っていたわ! 今のところ、戦闘が起こっているのは北山公園内だけみたい!』 そうか、それなら当面は俺たちだけの問題だ。 「こっちも囲まれて数人がやられたが、長門の砲撃で何とか撃退できたようだ。 あと、鶴屋さんが言っていた20人ぐらいはとっくに倒しているが、まだまだ敵がいそうだ。 これじゃ、いくらやってもきりがないぞ。これからどうすりゃいい?」 『とにかく、古泉くんの言ったとおり罠だったんだから、引き上げるのよ! だから、早く戻ってきなさい!』 明確でわかりやすい。短絡的とも言えるが、今はありがたかった。 俺は国木田と谷口を呼びつけ――なんだかんだでこいつらが一番話しやすい――、 「おい、植物園まで戻るぞ。今すぐにだ。無線機を誰かに持たせないとな」 「負傷者は?」 国木田の言葉に俺は即答する。 「決まっているだろ。引きずってでも連れて行く」 「なら、死んじゃった人は? すでに4人死んでいるよ」 続いて飛んできた質問に俺は息をのんだ。辺りを見回すとけが人5名、死者4名の状態だった。 なら、無事な生徒は残り21人。けが人だけなら運べないこともないだろうが、死者を含めると、 ほとんど運ぶだけで部隊全体がいっぱいいっぱいになる。 俺はもう冷たくなりつつある阪中を見る。そして、 「死んだ奴はおいていく。落ち着いたらあとで戻って回収する。場所はきちんと地図に記してな。 戻ってこれるのかなんていうな。絶対にだ」 俺の声に反論する奴はいなかった。なんて薄情な奴だなんて言わないでくれ。 今は生きている奴を助けるだけで精一杯なんだ。 俺は無線機に向かって、 「ハルヒ。これから俺たちはそっちに戻る。時間はかかるだろうが、努力はするぞ」 『キョン! 戻ってこれそうなの!?』 「わからんが、やれることはやるつもりだ」 できるとは言えなかった。情けない。俺がこんなにだめな奴だったとは、正直ショックだ。 『……キョン。これだけは言っておくわ』 ハルヒの決意じみた声。そして、続く。 『こっちもひどいけど、絶対にあんたたちを見捨てない。どんな手を使ってもここを死守するわ。 逃げない。約束する。だから――』 俺にはハルヒが次に何を言うか、予測できた。だから、無線機を小隊の生徒たちに向けた。 『全員帰って来いっ! 絶対に!』 ◇◇◇◇ 俺たちはじりじりと慎重に植物園に向けて移動を始めていた。途中、何度も襲撃を受けたが、 その度に長門からの支援砲撃を要請し、ある時は谷口や他の生徒たちの活躍で撃退することができていた。 しかし、来た道とは違い、帰りはとんでもなく時間を食ってしまっていた。もうすでに12時を越えようとしている。 さらに、移動の間に負傷者が死者に変わり、また新たな負傷者が発生していた。すでに半数以上が負傷、あるいは死亡している。 「またさっきの負傷者が……」 国木田が沈痛な表情で報告に来た。これで死者は13名になった。置き去りにした生徒と言ってもいい。 大丈夫。これはゲームだ。勝てば元通り元通り…… そう俺は自分に暗示をかける。俺には生徒の死を受け入れるような頑強で器の広い心なんて持っていない。 だから、死者が増えるたびに自分に暗示をかけるようにこの言葉をつぶやき続けた。 でなけりゃ、無能な自分が許せなくなるからだ。 「あと、100メートルぐらいだろ。とっとと走っていこうぜ!」 目前まで迫った植物園に俄然焦り始めたのは、唯一の普通人、谷口だ。弱気な言動が多いのに、 なんだかんだでこいつのM60には助けられっぱなしだが。 「まあ、焦ることはないと思うよ。もうちょっとでつくんだからさ」 「そうだな。今まで通りのペースで行くぞ」 俺たちは移動を開始する。確かにもうゴールは目の前だから、はやる気持ちが沸々と俺の頭にも沸いてきた。 だが、敵もそれを阻止しようと必死だ。シェルエット野郎が数名襲ってきた。 「俺がしんがりをつとめる! 先に行け!」 もともと銃の扱いは頭の中にたたき込まれていたが、ここに来ていい加減慣れてきたのだろうか。 俺の射撃の命中率もかなり上がっていた。もっとも敵が物陰にも隠れようとせず、 ひたすら銃を乱射しながら突撃というワンパターンなため、簡単に命中させられているだけなんだが。 また、数名をシェルエットを飛散させると、先行して移動した小隊に戻る。見れば、植物園の建物が 木々の隙間から見えるほどまでに近づいていた。 「ここで、きちんとどこから戻るか伝えておいた方が良いよ。間違って攻撃されるかもしれないしね」 相変わらず冷静な国木田のアドバイスが飛ぶ。こいつとは腐れ縁みたいなものだが、こんなことが得意だった覚えはない。 俺たちと同じように相当頭の中をいじられているようだな。 俺は無線を持たせた生徒から無線機を受け取ると、 「ハルヒ。もうすぐそばまで戻ってきたぞ。北側から植物園に入る。間違って銃撃しないでくれよ」 『わかったわ。そこを守っているのは古泉くんだから、伝えておく』 なんだ。結局古泉もこっちに来ているのか。結局総動員だな。 「よし移動するぞ。もう少しだからな」 「ひゃっほう! これでうっとうしい森の中からおさらばだぜ!」 俄然やる気を取り戻した谷口に笑顔が戻る。まあ、それで終わりって訳じゃないが、 こんなところにいるよりかは幾分かマシだろうな。 木々を分けて移動を開始する。数メートル進むと、森との境に陣取っている古泉の小隊が見えた。 向こうもこっちに気がついたらしい。右手を挙げて、来てくださいと合図している。 その刹那、俺は右手に一人だけのシェルエット野郎がいることに気がついた。 向こうは目がないので、視線があることはないだろうが、俺ははっきりと悟った。今にもその構えたAKから弾丸が撃たれ、 俺に命中すると。 だが、ここで偶然なことが起こった。そうこれは偶然だ。突然、うきうき足で走る谷口が俺と敵の間に割り込んで来たんだから。 「谷口っ――!」 越えも間に合わず、俺の縦になるように谷口の上半身に2発の弾が命中した。貫通した弾はぎりぎりのところで 俺には当たらず背後に去っていった。まるで一連の事がスローモーションのようにはっきりと見えた。 そう、谷口が撃たれたのだ。 谷口を撃ったバカ野郎はすぐに国木田が始末した。俺はそんなことにかまわず谷口を引きずり、 古泉の部隊の場所に連れ込む。とにかく、古泉との再会は後回しだ! 「おい谷口! 大丈夫か! しっかりしろよおい!」 痛みのためか、谷口はうなるだけだった。ちくしょう! やっとここまで戻って来れたってのに! 「キョン、また敵が攻撃をしてきた。ここじゃまずい。ここは僕らが食い止めるから、谷口を涼宮さんのところへ」 俺の隣に飛び込んできた国木田がそううなずく。少し離れたところにいた古泉も任せてくださいと いつものスマイル声で言ってきた。すまねえ! 俺は谷口を背負うと、全力でハルヒの元に向かった。とにかく、トラックに乗せて学校に戻してやりたい。 そうすれば、きっと助かる。助かるに決まっているさ! 「へへっ、思ったより痛くないもんだな……」 背中から谷口の声が俺の耳に届く。 「痛いだろ。もうちょっとの辛抱だ! だからがんばれ!」 「痛くねえよ……ただ、あつくてたまらないけどな」 俺の背中にだらだらと血がしみこんでくるのがはっきりとわかった。もう痛みすら認識できないのか。 こんな中で、今まで俺がごまかし続けてきた言葉が浮かぶ。これはゲームなんだ。勝てばいい。勝てば元通り。 この世界で誰かが死んでも大したことはない―― 「そんなわけねえだろうが!」 俺は言うまいと思っていた言葉を口にしてしまった。ゲームだろうが何だろうが、谷口は今まさに死のうとしている。 これが現実だ。いまはっきりと起こっていることなんだよ! 何をどういっても否定のしようがないんだよ! 「キョン、俺がんばったよな。何度もお前を助けたし……」 「ああっ! おまえはすげえよ。何度もみんなを助けたんだ。誇りに思っていい!」 「これであの子も俺を見直すだろうな。振ったことを後悔させてやるぜ……」 「そうだな! だから、もう少しだ!」 もう俺は泣き出しそうだった。むしろ、どうして泣き出さないのか不思議なくらいだった。 「頼むぜキョン、ここでの俺は勇敢だったってみんなに伝えてくれよ……」 「自分で広めればいいだろ! そんな弱気なのこと言うな! 死ぬな死ぬな死ぬな!」 俺の必死の呼びかけにも関わらず、谷口がそれ以降言葉を発することはなかった。 ◇◇◇◇ 「キョン、谷口の遺体は学校に向けて搬送したわ……」 「……そうか。ありがとな、ハルヒ」 俺は声をかけてくれたハルヒに振り返りもせず、呆然と植物園の入り口付近に座り込んでいた。 谷口は結局死んでしまった。同時に俺の肩に14人分の死の乗りかかってきてしまった。 もはや、罪悪感を越えて、どうでもいいほどの放心状態だ。 しかし、一方で今後ろにいる人間に対する黒い感情が少しずつ広がっていることにも気がつく。 作戦を立てたのもハルヒだし、何よりもこれを仕組んだ者の目的は明らかにハルヒだ。 谷口や学校の生徒たちが死ぬ必要なんてない。大体、古泉が罠だって指摘していたじゃないか。 罠だとわかったからと言ってそんな簡単に引き返せるわけもないんだ。 「谷口は友達だったんだ。悪友だったけどな。普段はいてもいなくても、なんて考えたりしていたけど、 いざこうなると初めてどういった存在だったのか、よくわかったよ」 「ゴメン……なんて言っていいのかわからない」 ハルヒのしょぼくれた声に、一瞬で俺は正気を取り戻した。何を考えているんだ、バカバカしい。 仕組んだ者の目的がハルヒであっても、これはハルヒが望んだわけじゃない。ハルヒだって被害者だ。 それに作戦を立てて賛同した中には俺もいたじゃないか。ハルヒ一人を責めるのは明らかに間違っている。 俺だって同罪だ。 「なあ、ハルヒ」 「……なに?」 「俺、絶対に負けないからな」 やるしかない。やけにもならずに冷静にやるしかない。それでいい。 「うん……絶対に負けない、あたしも」 ハルヒの声もすっかり元気がなくなっていた。ちくしょう、これを仕組んだ奴はハルヒのこんな姿が見たいってのか? 「そんな声を出すなよ、中佐殿。不安になるだろうが」 「わ、わかっているわよ……! 当たり前じゃない! 絶対に負けない!」 少しムキになるところを見てほっと一安心。まだハルヒらしさが残っているようだ。 俺はようやくハルヒの方に振り返って――このときに見たハルヒの歯を食いしばるような表情は早々忘れないだろう。 と、ハルヒの迷彩服の肩の辺りの色が変わっていることに気がつく。大量の血が付着しているようだった。 「それ、大丈夫か? どこかやられたんじゃないだろうな?」 「え、ああ、うん、大丈夫。自分の血じゃないから。さっき負傷者を背負ったときについたんだと思う」 ほっと胸をなで下ろす俺。たのむぜ、団長殿。お前がやられたら終わりなんだからな。 俺はヘルメットをかぶり直し、 「また、戻る。鶴屋さんを助けに行かないとな」 そう言って俺は戦場に戻った。とびきりの作り笑顔をハルヒに見せてから。 ~~その3へ~~
https://w.atwiki.jp/anime_impression/pages/54.html
涼宮ハルヒの憂鬱レビュー (ジャンル:どたばたラブコメ) 全14話 監督:石原立也 アニメーション制作:京都アニメーション 評価 ストーリー キャラクター 声優 映像・作画 2点 5点 14点 16点 合計37/100点 感想 全体的に単調な展開で、(奴隷キャラがハルヒに従うのみ。) ハルヒに不快にさせられて、終わる方も多いと思います。 ストーリーを主として見る人にも厳しいと言えるかも。 この作品は敢えて、ナレーションをいれてます。 しかし、ただナレーションするだけでは退屈なだけです。 ここら辺の工夫はせずに、別の所ばかり力を入れている。 しかもその力の入れ方が雑で、内容とは関係無い事ばかり。 「珍しさ」だけで この作品を見てました。一部の人間にしか受けないアニメです。 「涼宮ハルヒの憂鬱」アニメ公式サイト SOS団公式サイト
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2507.html
涼宮ハルヒのデリート 誤解なんてちょっとした出来事である。 まさかそんなことで自分が消えるなんて夢にも思わなかっただろう。 キョン「あと三日か・・・。」 キョンつまり俺は今、ベッドの上で身を伏せながらつぶやいた。今を生きることで精一杯である。 なぜ今俺がこんなことをしているのかというと、四日前に遡ることになる。 ハルヒ「キョンのやつ何時まで、団長様を待たせる気なのかしら?」 いつもの集合場所にいつもと変わらない様子で待っているメンバーたち。 団長の話を聞いた古泉が携帯のサブディスプレイをみる。 古泉「まだ時間まで五分あります。」 と、団長に伝える。 ハルヒ「おごりの別に、罰でも考えておこうかしら。」 っと言ってSOS団のメンバーは黙り込んだ。誰一人として口を開こうとしない。その沈黙を破ったのは、ベタな携帯の着信音だった。 ハルヒ「あとどれぐらいで着くの?団長を待たせたんだから・・・」 っと言われ「一方的に電話をきった。ベタな展開だったら俺が切るのだが、なにしろ相手があのハルヒだから仕方がない。 かわりに古泉に電話をかけた。 古泉「僕に電話とは、あなたも罪な人ですね。涼宮さんが嫉妬しますよ。」 ウザイ、何勘違いしてんだこのホモ男。 古泉「冗談です。僕に電話をかけたぐらいですから、何か理由があるのでしょう?」 やっぱりコイツと話すのは少し気が引けるな。 キョン「今日は、急用があるから探索にはいけないとハルヒに伝えてくれ。」 古泉「その用とは?何の事ですか?」 キョン「どうしても言わなくてはいけないのか?」 古泉「・・・。まあ別にいいでしょう。あなたの休日まで追及はしません。」 キョン「じゃ、頼むぜ。」 電話のやり取りを終えた古泉はハルヒに用を伝えた。 ハルヒ「仕方がないわね。じゃあ、今日は二人のペアで北と、南に分かれて不思議を探しましょう。」 ~ハルヒ視点~ ハルヒとペアになった、いやなってしまった朝比奈さんは午前中ずっとハルヒの不機嫌オーラを感じ、おびえながらハルヒの後についていったそうだ。 午前中の散策が終わりいつもの場所へ向かう途中朝比奈さんがあるものを発見してしまった。 みくる「あれって、キョンくんじゃないですか~~?」 ハルヒは朝比奈さんの指す方向に素早く振り向いた。 ハルヒ「散策をサボっておいて、何をやってんのかしら?」 しばらくハルヒが何かを考えていると思うと、頭の上の電球が光った。 ハルヒ「キョンを尾行するわよ、みくるちゃん。キョンの休んだ理由がわかるし、不思議なところへいけるかも知れないし。」 みくる「で、でも~~、長門さんと、古泉くんのことはどうするんですか~~?」 ハルヒ「そんなの後で電話しておけばいいじゃない。」 っと言って、彼の尾行を始めた。何度かみくるちゃんから「やめましょうよ~~。」っと言われたがすべて無視した。 彼の行き先はいつもの駅から一駅離れたところだった。 ハルヒ「なんでわざわざこんなところにくるのかしら・・・。」 みくる「やっぱり、やめませんか~?キョンくんには彼なりの事情があると・・・。」 言いかけていた彼女の口をふさいだのは、ハルヒの手だった。 みくる「何するんですか~?」 ハルヒ「誰かに手を振っているわ。ここからじゃよく見えないから別の場所へ移動しましょう。」 っといってハルヒは朝比奈みくるの手をとり移動した。 みくる「あれって、女の人じゃないですか~?」 ハルヒの目に移ったのは、キョンが親しげにその女性と話しているところだった。 そして、気づいたらそこから走って逃げ出しているところだった。 走るのをやめて歩いていると、後からみくるちゃんが追いついてきた。 みくる「きっと彼女じゃないと、思いますよ・・・。」 ハルヒ「あったりまえじゃない、あのキョンに彼女ができるわけないじゃない。ただ少し暗くなってきたから早く帰りたいなと思って・・・。」 わかりやすい嘘をついてしまったと思い、すこし悔しがった。駅あたりで二人が別れた。 ハルヒの後姿はどこか悲しげな表情にみえたそうだ。 ~キョン視点~ 妹のダイブによって起こされた俺は、いつもの強制ハイキングコースを心行くまで楽しんでいた。 学校にいく間、谷口のナンパ話を聞かされた。まったく飽きないやつだ。 谷口「でだな、やっぱりゲーセンのやつらを狙うのはよくなくてでなあ・・・。」 キョン「お前のそのナンパ話はこうで96回目だ。」 っと口を挟む。まったく朝から暑苦しいやつだ。熱心に語ってきやがる。 谷口「そういや、お前なんで土曜日の探索に行かなかったんだ?」 キョン「・・・。なんで、お前が知ってる?」 谷口「ギクッ!!!忘れてくれ・・・。」 そんな話をしているとすぐに学校に着いた。靴を履き替え教室に向かうと、何から話そうか考えた。誰にって、そりゃハルヒにきまってんだろ? 絶対追求してくるに違いない。 しかし、予想に反してハルヒは何を言ってこなかった。それどころか、教室に入ってきた俺をまるで何もいないかのような反応を見せた。 キョン「ど、土曜はすまなかったな。急に休んだりなんかして・・・。」 しかし、ハルヒは何の反応もしない。気まずい、ククラス全体が注目してる。 キョン「休んだ事を怒ってんのか?」 ハルヒ「・・・・・・。」 無反応のハルヒに気まずさを感じていたら、チャイムがなりホームルームが始まった。 まったく、休んだぐらいでそんなに怒るかよ・・・。 結局午前中はハルヒと何も話さず、不機嫌オーラを受け続けていた。 昼休みは教室を抜け出しどこかへいってしまった。 谷口「お前、涼宮になんかしたか?」 キョン「いや、何もしていない。何で怒っているか知りたいぐらいだ。」 本当に何を怒っているんだろうな、ハルヒのやつ。 そして授業の終わりに二人のムードに耐え切れなくなった谷口が、あろうことかハルヒに話しかけてしまった。 ハルヒ「何よ谷口。あんた宇宙人でも見たの?」 じとっとした目で、谷口を睨む。 谷口「キョンと喧嘩するのはいいが、クラスのムードまで暗くするな!」 っと強気で言った。ああ、谷口、お前死んだな。相手を考えろ、相手を。 しかし返ってきた返答は、最悪なものだった。 ハルヒ「キョンって、誰?」 教室が完全に凍りついた。その中を凍らせた原因のハルヒが通りすぎていった。 マジかよ? なにかあったかも知れんと思い、逸早く部室へ向かった。 キョン「長門!これは一体どういうことなんだ?」 俺は部室の隅で静かに本を読むインターフェイスに問いだした。しかしまた返って来た返答は最悪だった。 長門「あなたが悪い。」 ・・・・。俺は言葉を失った。一体何をしたんだというのか。あの長門からこの言葉を言われると正直つらい。 すると後ろから古泉が入ってきた。 キョン「お前ならわかるか?俺がハルヒから無視されている理由。」 よく考えてみれば、長門がああ言っているのだから古泉に聞いても仕方がなかった。 ふわりと自分の体が倒れるのを感じ、殴られたとわかった。我ながら格好悪い。 古泉「あなたがそんな人だったとは、失望しました。涼宮さんが無視するのもよくわかります。」 一体どういうことだ。何が起こっている?これもまた異世界なのか? とりあえずこの日は家に帰った。あんなことを言われてあの場にいれるほど、俺も狂っちゃいない。 一体何が悪いのか考えているうちに眠りに入った。 朝だ・・・。妹のプレスを食らう前に起きた。とりあえず再びハルヒに誤っておこうと思い学校へ向かった。 向かう途中ずっと考えていた。そもそも俺をいないものだと言うほど嫌っているのに、どうやって誤ればいいのか。 それに理由もわかっていない。・・・そうだ、朝比奈さんに聞こう。 昼放課に朝比奈さんを呼び出した。 キョン「あの、俺って何かハルヒに悪い事いしましたか?」 真剣な口調で話す。彼女なら何か知っているのだろうか? その言葉に驚いたような様子をみせ、真剣な顔つきで話始めた。 みくる「あの、始めに言っておきます・・・。」 キョン「はい?」 みくる「ごめんなさい。」 パ~ンという音が響いた。そう、ビンタされた。そして朝比奈さんはどこかへいってしまった。 あの、朝比奈さんに殴られたのは相当ショックだった。 結局午後の授業にはでずに欠席した。この日は何もかもにやる気がでず。ベットで眠ることにした。 朝、自分の体の異変に気づいた。 -あと3日で自分は消える 何でわかるかって?分かってしまうからしょうがない。これしかないな。 今の状況に絶望した自分は学校を休んだ。だってあと三日で死ぬとわかっていて何をすればいいかなんかわからん。 夕方、古泉が家を訪ねてきた。しぶしぶ話を聞くことにする。 古泉「いい加減にしてください。とにかく明日、涼宮さんに謝る事です。何度閉鎖空間を潰したことか・・・」 キョン「・・・。俺が何をしたっていうんだ?」 古泉「とぼける気ですね。まあ、いいでしょう、言ってさしあげますよ。先週の散策あなたは休んだ。そしてわざわざ僕たちから離れるようにして彼女に会った。それに対して涼宮さんは失望しているのですよ。」 キョン「待て!それは・・・。」 古泉「ともかく、明日は学校に来て謝ってください。それで済むことですから。」 俺は終始まともな話ができず、家に戻った。 「あと三日か。なんとしてでも・・・」 彼女に会っただと。とんだ誤解だ! 次の日は一日中ハルヒにかけた。全て無視されて、だんだん自分が消えていくのを感じ、孤独感に襲われた。 手紙をつかってみたりもしたが、やはり無視された。 ・・・。一体全体どうなっているんだ? 帰り際、しかたなく古泉と少し話をすることにした。 キョン「全て無視されている。もう俺が消えたみたいに。」 古泉「どういうことです?もう、とは?」 キョン「古泉、俺はあと二日、いや明日いっぱいまでしか生きられない。」 古泉「・・・。なんで分かるのですか?」 キョン「分かってしまうのだからしょうがない。っということだ。」 古泉「・・・なるほど、どうですか。僕の憶測ですが・・・、土曜にあなたが彼女にあったことが原因でしょう。」 キョン「そのことなんだがな・・。実はそれお袋なんだ。俺の。」 古泉「!?・・・それが本当ならものすごい間違いですね・・。」 キョン「まあ、俺の親は若いときに俺を生んだからな。」 古泉「で、その誤解により、あなたに失望し悲しんだ。あなたがいなければ悲しまなかったのに、とでも考えたのでしょう。」 キョン「だったら、すでに消えているべきじゃないのか?」 古泉「そうですね、あなたに謝ってほしかったのではないんですか?」 キョン「・・・(違うだろ)。まあそんなことよりこれからどうするかだな。」 古泉「そうですね。今のままでは、この世界にも失望して改変されかねませんからね。」 キョン「しかし、俺の書いたものまで目にはいらないとなると、どうすればいいんだ?」 古泉「分かりません。でも、あなたのやる事を信じたいと思います。」 いつまでも本当にクサいやつだな。しかも顔が近い、キモイ。どけろ 古泉「僕にできることがあれば、何でも協力しますよ、親友として。」 キョン「わかった。」 っといって別れたのはいいがさっぱりどうしたらいいのかわからん。 このままでは、本当に消えてしまう。何かいい方法はないのか? 長門に頼るか?いや、今回は自分で考えるべきか? 人間はこういう大事な日に限ってすぐに寝てしまうものだ。 次の日結局何も浮かばず、半日をすごしてしまう。 今いるのは部室だ。ここでなんとかしなければ、消えてしまう。 ふいに長門が何か語ってきた。 長門「あなたはもう答えを知っているはず。答えは過去にあり、現在に関係する。」 そのことを信じていいんだな、長門。・・・。 最後になるかもしれない部活は、ハルヒに俺が認識されないまま終わった。 帰り際、あるひとつの答えにいきついた。唯一の接触できるチャンス、そして最後の切り札。 キョン「古泉、親友としてのお前にひとつ頼みがある。」 古泉「なんでしょう?できる限りのことをいたしますよ。」 キョン「それはだなぁ、夜に東中にきてくれと手紙にかき、渡しといてくれ。」 古泉「なんのことだか、分かりませんが、それが望みならやっときます。」 そう答えは今日という日つまり七夕。答えは三年前。 東中に着くとハルヒをベンチで待つ。懐かしいな、この場所。丁度暗く顔をしっかりと見えない。 しばらくするとフェンスを乗り越え、ハルヒがやってきた。 ハルヒ「やっぱり、ジョン・スミスだったのね。」 そう、最後の切り札はこれだ。そして予想どうり接触することができた。 ジョン「どうだ、高校は?」 するとハルヒ今までの活動を話始めた。 ハルヒ「やっぱり、宇宙人はみあたらないわね。でも、SOS団っていうね・・・。」 俺も、(俺は話から消えていたが)今までの活動を思い出していた。 ハルヒ「ジョン泣いているの?」 俺の顔には涙が流れていたらしい。あと十五分の命だ。 ハルヒ「私何か大事なことを忘れている気がする。」 ふいにハルヒが言ってきた。思い出してもらうチャンスかもしれない。 ジョン「今からいうことを真剣に聞いてくれ。」 ハルヒはキョトンとした顔だったが、気にせず話をつづける。 キョン「昔、キョンと呼ばれていた男がいた。彼は普通の人生に飽きていた。そこに自分と同じ考えの女の子が現れた。 彼女は不思議を追い求めて彼を振り回した。しかし彼はそれを迷惑と思わず、むしろ自分の人生が楽しくなるのを感じた。・・・」 もう涙が止まることはない。 ジョン「しかし、ちょっとした誤解で二人はもう二度と会わなくなってしまった。」 ハルヒ「それがジョンあなたなの?」 ジョン「ああ、SOS団か・・・楽しかったな。」 嘘と真実がまざりメチャクチャになってきた。 ハルヒ「わたしが忘れていることって、まさか?」 ばらばらだったピースが合わさった。しかしもう時間がない。 ハルヒ「女の子はわたしなのね。」 キョン「ああ、誤解が解けないのが残念だったな。」 ハルヒ「・・・。」 キョン「ハルヒ、約束してくれ。俺がいなくてもこの世界に失望しないことを。」 ハルヒ「・・・、わかった。って、何その死ぬ前みたいな言葉。それに体が・・・」 体が消えてきた。くそ!時間がない。 キョン「じゃあな、ハルヒ。消える前にお前のポニーテールが見たかった・・・。」 こうして俺、キョンはこの世界から消えていった。 思えば、普通の高校生として生きていくよりはよかったんじゃないのかと、思えた。 その後ハルヒは古泉から誤解について説明された。 俺が消えた世界では、俺の体は残っていないので失踪っということになっている。 妹よ、兄が消えた事に悲しんでいるか? 世界が改変されることが起こらず、いやそれどころか閉鎖空間すら発生しなかったそうだ。 SOS団は今も健在しており、ポニーテールの団長様はなんとかやっているようだ。 ハルヒ「・・・。あれから一ヶ月ね。本当にどこへいったのかしら・・・。」 ハルヒが俺の席をみてつぶやく。 みくる「・・・・。きっと帰ってきますよ。」 ハルヒ「でも、目の前で消えていくのを見たのよ!わたしだって信じたい、帰ってくると。」 古泉「いい加減にしてください!] 急に叫んだ古泉に、二人は意表をつかれた。 古泉「そんなこといっていたら、彼が帰りづらいじゃないですか。」 部室が静まりかえった。・・・・。どういうことだ? 古泉「実はですね。先日警察に身柄を確保されましてね・・・。」 っといって、ハルヒに新聞を渡す。確かに新聞には俺の写真がうつっている。 古泉「いると信じなくては、いるものもいあくなってしまいますよ。」 するとハルヒの顔にいつもの120ワットの笑顔が戻った。 次の日、俺はベットの上で横になっていた。 なぜ俺がこの世界に戻ったのかというと簡単なハルヒの思い込みだ。 まったく便利な能力だな。まあそれのせいで、消えていたわけだが・・・。 さてまずは最初に一ヶ月の幽霊生活。これでもハルヒ話してやろうかな。
https://w.atwiki.jp/haruhi_dictionary/pages/42.html
基本情報表紙 タイトル色 その他 目次 裏表紙のあらすじ 出版社からのあらすじ 内容 あらすじ 挿絵口絵 挿絵 登場人物 刊行順 基本情報 涼宮ハルヒシリーズ第2巻。2003年10月1日初版発行。 表紙 通常カバー…朝比奈みくる 期間限定パノラマカバー…朝比奈みくる、古泉一樹 タイトル色 通常カバー…橙色 期間限定パノラマカバー…橙色 その他 本編…270ページ 形式…長編 目次 プロローグ…P.5 第一章…P.14 第二章…P.48 第三章…P.100 第四章…P.154 第五章…P.210 エピローグ…P.270 あとがき…P.276 裏表紙のあらすじ 宇宙人未来人超能力者と一緒に遊ぶのが目的という、正体不明な謎の団体SOS団を率いる涼宮ハルヒの目下の関心後とは 文化祭が楽しくないことらしい。行事を楽しくしたい心意気は大いに結構だが、なにも俺たちが映画をとらなくてもいいんじゃないか? ハルヒが何かを言い出すたびに、周りの宇宙人未来人超能力者が苦労するんだけどな―― スニーカー大賞<大賞>を受賞したビミョーに非日常系学園ストーリー、圧倒的人気で第2弾登場! 出版社からのあらすじ スニーカー大賞〈大賞〉受賞作、早くも第2弾登場!! 季節は文化祭のシーズン。ありきたりな"お祭り"では飽き足りない涼宮ハルヒはSOS団の面々を使いまくり、自主映画の制作を開始する。 当然のごとく、ハルヒの暴走はとどまることをしらず……。超話題作の第2弾!! 爆進中!NO.1 第ベストセラー第2弾!! 内容 あらすじ 挿絵 口絵 涼宮ハルヒ、朝比奈みくる 長門有希、朝比奈みくる、鶴屋さん、谷口、国木田 涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹 挿絵 「プロローグ」 挿絵なし 「第一章」 P.25…涼宮ハルヒ、朝比奈みくる 「第二章」 P.53…涼宮ハルヒ、キョン、朝比奈みくる P.83…涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる 「第三章」 P.129…朝比奈みくる 「第四章」 P.157…古泉一樹、鶴屋さん P.197…涼宮ハルヒ、キョン 「第五章」 P.227…長門有希、シャミセン P.257…古泉一樹 「エピローグ」 挿絵なし 登場人物 涼宮ハルヒ キョン 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん シャミセン 谷口 国木田 キョンの妹 刊行順 <第1巻『涼宮ハルヒの憂鬱』|第3巻『涼宮ハルヒの退屈』>
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4993.html
特別前日に何かをしたというわけではないのに朝が辛いというのは冬場ではデフォであり、 高校生になった息子もそれは例外ではないようだ。 「あんた達、さっさとご飯食べないと遅刻するわよ!」 …前言撤回だ。 我が妻、ハルヒにとっては今が冬場の辛い朝だろが何だろうが関係ないようだ。 「なんで母さんは朝からそんなに元気なんだよ…」 息子よ、それは俺も同棲を始めた頃から思っていたが、今そうやってハルヒに絡むと… 「何言ってんの! あんた達が弱すぎるのよ。それにそんなこと言ってる暇があるなら とっととご飯を胃袋に詰め込みなさい」 ご愁傷様だな。 後、あんた達って俺も入ってるんだな。 「ちょっとキョン、あんたもボーっとしてないでさっさとしなさい! 親が息子に負けてどうすんの」 へいへい分かりましたよ。 「じゃあ、言ってきま~す」 「あ、コラ待ちなさい!」 残念だな息子よ。 本日の脱出ミッションも失敗したようだな。 「や、止めてくれ。何時も言ってるだろ母さん。俺はもう高校生だ。だから、それはもう駄目だって」 「何言ってんのよ。高校生になろうが大学生になろうとあんたはあたしの子供なの。 だからこれはあんたの義務でもあるのよ!」 世界の何処にそんな義務があるのかね? 「やれやれ、とっととしてくれ…」 おい、それは俺の口癖だ。 俺のアイデンティティーだ。 勝手に使うのはゆるさんぞ。 「誰かさんと違って素直でよろしい… チュッ。はいっ、じゃあしっかり勉強してくるのよ!」 一言多かったですよハルヒさん。 「へいへい」 お、そろそろ俺も行かんとな。 リアルに遅刻しそうだ。 「じゃあハルヒ、俺も行ってくるよ」 「…………」 勘違いしないでいただきたい。 この三点リーダは万能宇宙人のものではない。 傍若無人ハイスペック奥様涼宮ハルヒのものである。 もとい、涼宮ではなかったな。 では何故そのハルヒがこんなに大量の三点リーダを発してるのかと言うと、 毎朝俺に課せられた義務が施行されるのを待っているからだ。 いや、義務でもあるが世界中で唯一俺に与えられた権利と言ったほうがいいな。 …しかし、何時ものことながら、こうして黙って俺を待っている時のハルヒは可愛いな。 もう、そこそこいい歳になるはずなんだがな… って早くしないと遅刻するっての! 「ハルヒ… チュッ。…そんじゃ行ってくるよ」 「…素直でよろしい。じゃあ、しっかり働いてらっしゃい!」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1601.html
おいおい、何なんだこれは…………… やれやれ、非常識な事に慣れたとは言えこれはパニックになるぞ。 俺は額に手をやり、ため息をついた。 朝、今日は妹のうるさい攻撃が無いなと思い。 やっとあいつも大人しくなったかと思って体を起こすと、毎朝見慣れている俺の部屋ではなかった。 かといって閉鎖空間っぽい雰囲気の学校に飛ばされたわけでもなく、 時間を越えたわけでもないし、別世界に行ったわけでもなさそうだった。 上の3つはまぁ、俺の希望的観測であるだけな訳だが。 目の前には見る限り生活感のない殺風景な部屋、俺が知る限りでは長門の部屋以外には考えられなかった。 なんで俺がこう皮肉臭く言っているのかというのであれば、体がどうもその部屋の主の姿になっているようだったからだ。 そう、俺は長門になってしまったらしい。 俺が長門になっているなら、俺はどうなっている。 そう思った俺は、学校に登校することにした。 どうやら長門は制服のまま寝ていたようで、着替える手間がかからなくてありがたかった。 学校に着いた俺はすぐさま、俺がいるはずの自分のクラスへ足を向けた。 教室をのぞくと、その席は空席のままだった。 教室で話しているやつを捕まえて、聞いてみたが 「まだ来ていない」との事だ。 ついでにハルヒも来ていないかと聞いたが、同様の返事が返ってきた。 とりあえず、この状況を打破したい俺は教室から背を向け。 その足をいけ好かない笑顔の超能力者のいるクラスへ向けた。 1年9組に足を運んだ俺は、古泉がいるかと教室の入り口側に立っていたやつに聞いた。 「あー、古泉君?いるよ、ちょっと待っててね」 そういうとそいつは、古泉くーん女の子が呼んでるよーと叫びながら 古泉の場所へ向かっていった。 目の前に来た人物は、いつものへつら笑いをせず無表情のままであった。 それをみて俺はこの非常識な現象をあと3回見るのであろうなと盛大にため息をついた。 「お前は長門か」 「……………」 しばし沈黙の後、ある意味もう見ることのできないであろう 無表情の古泉はこくんと頷きこう言った。 「…………そう」 「とりあえず、昼に部室に行こう ほかのやつらもどうなっているかわからないしな」 「……………」 古泉の姿をした長門は、もう一度頷きおそらく古泉の席であろう場所へ戻っていった。 それを見届けた俺も長門の教室へ行き、教えてもらった席へ座り一通り授業を受けた。 幸か不幸か、普段から無口な長門の振りをしたまま授業を受けるのはそう難しくなかった。 授業の合間の休憩時間にもクラスメートから話しかけられる事は皆無だ。 休憩時間中に自分のクラスに行きたい衝動に駆られたが。 時間が短いこの時間ではやれる事も少ないので、昼休みまで俺はじっと我慢をした。 4時間目のチャイムが鳴り終わったあと、席を立ってすぐさま部室へと足を向けた。 長門ととりあえず話をするためだ。 まぁ他のメンツにも異常が起こっているなら、部室へ来るだろうと思ったのもあるわけだが。 部室を開けようとドアノブに手を触れようとした時こちらに向かって走ってくる人物がいた。 朝比奈さんだが、何かが違う。 「有希~~~~~!大変よ大変!!」 大変と言いつつもその目はキラキラと輝いている、この顔をする人物を知っている。 「あたし、みくるちゃんになっちゃったみたい!! もしかして、有希も違う誰かになったりしているの!?」 息を弾ませながら、こちらを見る。 たしかに、朝比奈さんはこんなハイテンションにならないからな。 こんな朝比奈さんを見るのも、おもしろいがそれではダメだ。 俺の朝比奈さんはおっとりしてて、ちょっとドジで、ほんわかとした笑顔を振りまいてくれる朝比奈さんじゃないといかん。 ハルヒ……………、お前は朝比奈さんになったんだな。 「って、キョン~~~~~!?」 朝比奈さんの姿で絶叫した声は、外で歩いている人物がビックリするほどの大きなものだった。 「なんでこうなっちゃったのかしらね!!」 「キョンと私と有希が入れ替わったって事は、古泉君とみくるちゃんも変わったかもしれないわね!」 「そうだ!みくるちゃんの格好だし、コスプレしてみようかしら!」 etc、etc……… 弾丸のように朝比奈さんの声で、俺の耳に入ってくる。 長門は姿が変わっても、部屋の隅で本を読んでいる。 古泉の姿でやられるのは、不気味とも思えた。 やれやれとため息をついていると、ガチャと扉が開いた。 入ってきたのは妙におどおどしてなみだ目のハルヒと、いけ好かない笑顔をしている俺だった。 「ふぇぇ………、一体どうなっているんでしょう」 泣きそうなハルヒ、いや朝比奈さんか。 一生で見られるか見られないか判らないような珍しい光景を今日一日で一生分見たような気がしてきた。 「いやはや、これは5人が入れ替わってしまったみたいですね」 俺の姿をした、古泉は笑顔を崩さずにそう言った。 どうでもいいが、俺の顔でそんな顔をすると気持ち悪いからやめてくれ。 「おやおや、と言われてましても困りましたね」 「そんな事どうでもいいじゃない!! いまはどうやって元に戻るのかが大事よ! みくるちゃんの体もいいけど、やっぱ自分の体が一番だしね!」 と会話しているところに、ハルヒが大きな声でみんなを制す。 「おい、これは一体どういうことなんだ」 俺は小声で古泉に話しかける。 「さぁ、僕にはわかりかねますが。 おそらく何か外因的な要素の所為で入れ替わってしまったんだと思います」 俺はその外因的な何かが何なのかと聞いているんだが。 「詳しい事はわかりません、涼宮さんが願ってしまってこうなったのかもしれませんし。 精神を入れかえてしまって、涼宮さんの能力を無効化してしまおうと情報思念体の急進派が行ったことかもしれません」 俺は本を読んでいる、長門の方に体を向けた。 「お前はこの現象はどうなのか説明できるか?」 「……原因不明。 情報思念体とコンタクトも取れない」 じゃあ俺が取れるってか? 「おそらくそれも不可能………。 長門有希としての個体能力は、一般人並になっている。 そのため情報思念体としての能力は使えない」 「なるほど、長門さんの精神を別の固体に入れることで能力を封印させているわけですね」 古泉がそれに返答をする。 長門なら何とかしてくれると思っていたんだが、この分だと古泉の超能力にも朝比奈さんの力も使えないんだろう。 その事実に俺は愕然とした。 「何こそこそ話してんの!! とりあえず、ここでグダグダやっていても仕方ないし放課後にもう一回集合しましょ!! じゃあ授業終わったら、みんなここに集合ね!」 わくわくした様子のハルヒがそう言って、みんな部室を後にした。 とりあえず午後の授業を受けて、今後のことを相談するんだそうだ。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4826.html
文字サイズ小でうまく表示されると思います 世界の真ん中に立つ塔は 楽園に通じているという 遥かな楽園を夢見て 多くの者達が この塔の秘密に挑んで行った だが、彼らの運命を 知る者はない そして今、また一人…… 優しい太陽の日差しと、どこまでも続く水平線。 バニーガールに似ていて決定的に何かが違う衣装を着せられたままの朝比奈さんが、吹き付ける 風になびく髪を気にしながら海を眺めて微笑んでいる。 長門はと言えば木の陰に座りいつものように本を読んでいて、古泉とハルヒは何やら地面に地図の ような物を書きながら目的地を探しているようだ。 ハルヒ率いるSOS団のメンバーは海に遊びに来ている……んだったらよかったんだけどな。 今、俺達5人は海に浮かぶ小さな島の上にいる。 何も知らない人が見れば救助を待つ遭難者に見えるだろうし、実際そうだと言えなくも無い。 しかし俺達は見渡す限りの大海原に浮かぶこの島に取り残されてしまったのではなく、この島に乗って ここまで来たのだ……とまあ、我ながら理解不能としか言えないこの説明で現状が把握できるような人は、 今すぐハルヒの前に行きなさい、以上! ……それはたった、10分程前の事だった。 「船のように走る……島?」 その情報を聞いたときのハルヒの顔は、今まで見たことの無い程に生き生きとしていた。 俺達がゲームの世界に閉じ込められてしまった……という事は前回の話を読んでもらっていればわかるん だろうが、この話を先に読んでいる人に説明するならば、だ。 ゲームセンターに遊びに来た俺達5人は、ごくごく普通の高校生にも、謎の宇宙人にも、可愛い未来人にも、 怪しい超能力者にも理解できない不思議な何かによって、俺達はゲームの世界に閉じ込められてしまった……。 つまり何故こうなってしまったのか、当事者である俺達の誰一人わからないでいるわけだ。 現在の状況は、塔の上にあるという楽園を目指すというこのゲームをクリアする為に、俺達が街で情報収集を した中で古泉が聞いてきた話にハルヒが文字通り食いついたところだ。 「ええ。この世界では海賊が多くて船は出せないそうなんですが、そんな島を見たと言ってる人が居たんです」 俺達は持ち寄った情報を交換していたのだが、ハルヒの興味は古泉が聞いてきた船のような島に釘付けになっている。 「詳しい場所は!」 「残念ながらそこまでは……ですが、船が出せない状況という事ですから見たというのはこの島の近くでしょうね。 北東の島にも街があるそうなので、そこまで行くことができれば詳しい事もわかるかもしれません」 話についていけないみたいで、朝比奈さんはおろおろしている。 「キョン君、つまりここって大海賊時代であってますか?」 いや、それは色んな意味で無いと思います。 ……それはそれで面白そうですが。 さて、そこからのハルヒの行動は早かった。 さっそく町を飛び出し、俺達が追いかけて町を出た時にはすでに近くにあったヤシの木によじ登っているのを見た時は、 正直このまま何も見なかった事にして帰りたくなったぜ。帰れないんだがな。 なんでこいつは高いところが好きなんだ? 俺達の見上げる視線を受けながら船のような島とやらを捜索する事数秒、 「見つけた!あれに間違いないわ!」 発見。ここまで古泉の話が終って1分くらいだったろうか。 お前はいったいどんな視力をしてるんだ。 ヤシの木から飛び降りたハルヒは、さっそく船のような島が見えた場所への道を探し始めた。 塔の扉の先にあったこの島は500メートル四方程度の大きさしかない。 長門が聞いてきた情報によれば、近くに見える島へ行くには洞窟を抜ける必要があるそうだ。 それらしい洞窟は確かにあるが、果たしてその洞窟はどこにつながっているのか? 目的地へと通じているのか? 何てことはまあ些細な問題なんだろうな。 迷いなく洞窟に向かって走り出したハルヒの後姿を、のんびりと追いかける事にした。 「足元に気をつけてくださいね」 先頭を歩く古泉がそう言い終える前に、俺の後ろを歩いていた朝比奈さんがつまづいて俺に寄りかかってくる。 「あっ、ごめんなさい」 いえいえ、お気になさらず。 暗い場所は苦手らしい朝比奈さんは、俺の腕を掴んで歩く事になった。 洞窟は海の下を通っているせいか空気が冷たく、ひんやりとしている。 「ここでもし、海水が漏れてきたりしたら誰も生き残れないでしょうね」 古泉が面白そうに笑えない事を言い出した。 お前、そんな事言うとだな。 「そ、そんな怖い事言わないでください」 ほらみろ、朝比奈さんが脅えてるじゃないか。怖がる朝比奈さんが、さらに力をこめてしがみついてくる事で、 腕に感じられる柔らかな感触については古泉に感謝の念を禁じえないね。 しかし実際には洞窟は海底の堅い地層を掘った物らしく、今にも崩れそうといった感じには見えない。 だからといってのんびりする理由もない。 早く通り抜けましょう……できればハルヒが迷子になる前に。 洞窟に入った時は聞こえていたハルヒの走る音は、どうやらすでに洞窟を抜けてしまったらしくもう聞こえてこない。 ……それにしてもこの世界に来てからのハルヒは楽しそうだ。 今までどんなに望んでも手に入らなかった非日常が、ここではバーゲンセールの用に続いているんだから無理も無いが。 あいつ、この世界から出たくないとか言い出したりして。 俺はそんな不安を感じ出していた。 洞窟を抜けると 「遅い!」 勝手に一人で先に行ったハルヒの第一声がそれだった。 ハルヒの声は怒ってたが、器用な事に顔は顔は笑っている。 噂の島ってのはあったのか? ハルヒはこれ以上ない程に胸を張ってから、自分の後ろに見える小さな島を指差して高らかに叫んだ。 「あれよ!我等がSOS団初の船舶、その名も「みくるちゃん号」!」 「ふえ?」 間の抜けた声で驚く朝比奈さんの名前が付けられたその船舶とやらは、海にぷかぷかと浮かぶ直径7メートル程の島だった。 島の中央には立派なヤシの木があり、それ以外は草地しか無い。 質問は2つだ。 「何よ」 なんで島に朝比奈さんの名前が付けられたのか、もう一つは確かにこの島は浮いてる島らしいがどう見ても船舶には見えな いんだが。 俺の質問を鼻で笑ってから、ハルヒは一人島に飛び乗った。 「いい?見てなさいよ~」 ハルヒが島の中央にあるヤシの木に力を入れると、 おおおお!? なんと、ヤシの木が僅かに傾いた方向へと島が動き始めたではないか! 「涼宮さん凄いです~!」 「これは驚きですね」 速さでいえば自転車くらいの速さだろうか、意外に早いスピードでみくるちゃん号は波を掻き分けて進んでいく。 その後、ハルヒは思い通りに島を操縦してみせてから得意げな顔で戻ってきた。 「どう?みくるちゃん号の性能は」 「素晴らしいです」 頼む古泉、ただでさえ制御不能なハルヒをこれ以上調子にのらせないでくれ――まあ制御できた事など一度としてないんだがな。 原理は不明だけど確かに凄いな……で、なんでみくるちゃん号なんだ? あたりまえでしょ?とでも言いそうな顔で溜息をついてからハルヒが答える。 「い~い、船の名前は古来より女性の名前を付ける事が多いのよ」 それなら、お前や長門でもいいじゃないか。 むしろ、お前の性格なら自分の名前をつけそうなもんだ。 「私の名前じゃ、船が沈んだ時にSOS団の士気が落ちるじゃない」 俺達に士気なんてものがあったのか。 っていうか勝手に人の名前を付けておいて、船が沈むとか不吉な事を言うほうが士気に関わるんじゃないのか? 当然の事ながら俺の発言は聞き入れられる訳もなく、島の名前はみくるちゃん号に決まったようだ。 ――その後、俺達を乗せたみくるちゃん号がハルヒの舵により快適なスピードで大海原を走り出し。ごくごく自然な流れで、地図も 持たずに海に出た無謀な俺達は迷子になったというわけさ。 船旅における航海士と海図の必要性を実体験によって認識できたのは稀有な人生経験と言えなくもないかもしれないが、 その経験を生かす事無くこのまま干からびるなんて事がないように祈ろう。 どうやら朝比奈さんはこれもイベントの一つだと思っているらしく、慌てた様子もなくのんびりと海を眺めている。 真実を伝えて混乱する姿を見てみたい気もしないではないが、今はそんな余裕はないよなぁ。 古泉とハルヒは現在地から見える島と、今までの航路を地面に書いているようだが、地形を覚えようと意識していたわけでは ないのでうろ覚えみたいだ。 最大の問題は、肝心の目的地が最初の街で聞いていた「北東の島」というなんともアバウトな情報だけだという事。 せめて現在位置と北がわかればなんとかなりそうな気もするが、残念ながら空に太陽は高く星は見えない。 かといって北極星が見えるような時間では視界が取れないから、目的地が定まらない現状と変わらずみくるちゃん号を動かす のは無謀だ。 っていうか、その前にこの世界に北極星があるのかすらも疑わしいぜ。 禁じていた溜息を無理に抑え込む元気もない。 長門。 木陰で本を読んでいる長門の横に座って、ハルヒ達に気づかれないように視線を向けないまま小さな声で話しかけてみた。 長門は読んでいた本は広げたまま、俺のほうへわずかに顔を向けてくる。数値にして2センチ程。 長門にしてはオーバーリアクションなのかもしれない長さだな。 GPSとは言わないが、何か地図みたいなものはないか?あと、できれば方位がわかる何かもあるとうれしいんだが。 我ながら他力本願だとは思うが朝比奈さんや古泉は一般人ではないとはいえ、そこまでドラえもん的な能力は持っていない。 というか朝比奈さんにいたっては地図があっても迷子になりかねない。 これは決して個人、もしくは女性差別的な思考ではなくそれこそが朝比奈さんの個性であり魅力なのである。 などと考えている余裕もない。 もう宇宙人に頼み込むしか手はないというのが、手持ちの飲み物をハルヒに全て強奪された上に太陽に照らされ続けた結果、 すでに体内の何%かの貴重な水分を失いつつある俺の結論だ。 「……」 長門はどこからかシャーペンを取り出すと、本の最後の白紙ページに迷い無く地図を書き始めた。 機械的にページの左上から絵を描くというよりもプリントアウトするかのような不自然な動きで――実際、プリントアウトなのかも しれないが――地図はあっさりと完成した。 しかもご丁寧に方位だけでなく街や塔の場所に現在位置まで記入してあるではないか。 ……もしかして、データを解析したらMAPがあったとかか? 長門は小さくうなずき、首元から小さなネックレスを取り出した――ってさっきまでそこにネックレスなんてなかったぞ? 「磁石」 長門に渡されたネックレスの先には小さな細長い金属がついている。磁力を使った健康関係の商品らしく、裏側にはご丁寧に SとNの記入までしてある。 これって今「創った」のか? よく見てみれば、長門の着ていた服の襟の部分が無くなっている。 長門は質量保存の法則をあっさり無視した事を肯定しつつ、長門は何事も無かったかのように読書へと戻った。 最初の街で長門がどこからともなく見つけてきたその本には、俺には読めない単語が並んでいる。 もしかしたらそれは世界中の誰にも読めない文字なのかもしれないが、俺にとって読めない文字である以上それが何語なのか なんてことは俺にとってはどうでもいい事だ。 などという哲学的なようでどうでも言い事を考えている間も、長門は最小動作で読書をするという世界記録を狙っているような 動作で読書を続けている。 それにしても熱心だよな。長門ならバーコードを見ただけで内容も値段も把握しそうなもんなのに。 面白いか? 以前、俺が長門に部室でしたのと同じ質問をしてみる。 あの頃の長門はまだ眼鏡をかけていて、今よりもほんの少しだけ無表情だった。 無表情ランキングなんてものがあるなら1位はぶっちぎりであの頃の長門だろう。 当然2位は今の長門だ。 もしもあの時と同じ返答がくるとしたら、 「ユ」 ユニークか? 長門が答えるのに合わせて、先に言ってみた。 俺はこの対ヒューマノイドインターフェイス?とやらがいったいどんな反応が返ってくるかと期待したのだが、長門は小さくうなずく だけだった。 まあ長門らしいといえばそうかもしれない。 ――その後、俺はMAPと磁石をハルヒに渡し(さっさと出しなさいよ!と理不尽に怒られた)みくるちゃん号は一路、北東の町 へと進み始めた。 「海底の城に空気の実……あの!キョン君やっぱりここって大海賊時代なんじゃ」 俺の服の袖をひっぱりながら、わくわくした顔で聞いてくる朝比奈さんには申し訳ないが、 それは無いです、きっと。 著作権的な意味でも無いはずです。 「あう……そっか、大海賊時代だったらエアエアの実とかですよね」 叱られた子犬のような顔も素敵ですよ。 そういえばこの人は未来人だったな、あの漫画の結末もやはり禁則事項なんだろうか?もしくはまだ連載中なんだろうか。 いつものように情報収集を終えた俺達は、一度みくるちゃん号に戻りこれから先の目的地を決めている最中だ。 青龍ってのは多分ボスだよな、最初のボスが玄武だったし。 「おそらくそうでしょう、つまり他にも朱雀と白虎がいる。という事になりますね」 俺と古泉はゲームでのパターンからこの先の展開を予想していた、ここまでの展開から想像する限りは鬱展開には進みそうに ないのはありがたい。 塔を昇っていき、途中の世界をクリアする事で先に進めるようになり最上階にラスボスが居るってところだろうか。 「あんた達、さっきからなんでそんな事がわかるの?」 俺達の会話を聞いて不思議そうな顔でハルヒが聞いてくる。 パソコンの時といい、ハルヒはインドア関係には疎いようだな。 玄武、青龍、白虎、朱雀ってのはゲームではありがちな名前なんだよ。四字熟語みたいなもんでセットで使われる名前さ。 「へ~たまには役に立つじゃない」 たまに、は事実だが余計だ。 「今の情報から言えるのは、南の小屋に住む老人から情報を集めて空気の実を手に入れる。その後、海底の城で青龍と戦って クリスタルを手に入れる……といったところでしょうか」 古泉もなんだかんだで楽しそうだな。 竜王ってのもどこかにいるんだろうな、多分それは途中でわかるんだろう。 最初の世界もそうだったが、基本的なRPGで助かった。 「決まりね、じゃあさっそく南の老人に会いに行きましょう!」 操船は古泉に代わり、ハルヒはみくるちゃん号の先に立って地図を見ている。 当然、浮き島に手すりなどという物があるはずもないのにだ。 そんなとこに立ってると海に落ちるぞ? と言ってやるべきなのかも知れないが、ハルヒが海に落ちたところであっさり這い上がってくる姿が容易に想像できるので、俺は 何も言わない事にした。 これが朝比奈さんなら別だし、長門ならそれ以前にハルヒとは別の意味で心配する事も無い。 「あんた、なんか失礼な事考えてない?」 突然振り向いたハルヒが俺に向かって問い詰めるように聞いてくる。 別に何も。 超能力者かお前は? もう間に合ってるぞ。 半眼で睨んでくるハルヒは、そうする事で相手の心が読めるかのように俺をじっと見ている。 なんだか本当に思考を読まれているんじゃないのか?と思い始めた所で、 「キョン君キョン君、古泉君が呼んでますよ」 古泉に呼ばれたというオフィシャルな理由により、俺はハルヒの追求から逃げる事に成功した。 「これは異常事態かもしれませんよ」 俺の顔を見て古泉はいきなりそんな事を言い出した。 ゲームに閉じ込められてから一度でも異常事態じゃない時があったのか、初耳だな。 「いえ、そうではなく今の涼宮さんについてです」 ハルヒが? ハルヒは相変わらずみくるちゃん号の先頭で地図と海とを見比べている。 別に普通だと思うが。 俺には普通にいつもの暴君にしか見えないぞ。 「そうなんです」 古泉は正解です、とでもいいたげにウインクしてみせる。 やめろ気持ち悪い、朝比奈さんならともかくお前にそんな事されたくはない。 「普通なんですよ、あの涼宮さんがいるのに」 何を言ってるんだ……それはいい事なんじゃないのか? 俺が不思議そうな顔をしているのを見て、古泉は楽しそうに微笑んでいる。ええい気色悪い。 わかるように説明しろ。 「涼宮さんは最初の世界で、自分にも僕や長門さんのような超常的な力が欲しいと願っていました……が、それは叶わないでいる。 海で遭難した時も助かったのは貴方のおかげです、戦闘でも物理法則が乱れてしまう様な事も今のところありません」 まあ俺の盾はどう考えてもチートだけどな。 俺としては終わりかと思ったゲームが続いていたり、この浮き島の存在その物がハルヒの想像だと思ってるんだがな。 終わらない夏休みみたいな事になってなければいいんだが。 「ゲームが続いていたのについては長門さんに聞いたところ仕様だそうです、全部で5つの世界があるようですよ。それにこの浮島 については僕が話すまでハルヒの知識には無かったはずです」 確かに浮き島の話を聞いた時のハルヒは、聞いたことがあるって感じじゃなかったな。 ……そうだとしてそれが何故、異常事態なんだ?今までだって何もかもがあいつの望んだ通りになってた訳じゃないし、たまたま 不調なだけかもしれないだろ? 「その可能性も否定できません。ですが前にもお話したようにこの世界には神人の気配が無い、そしてこの世界は一つの物語と して成り立っているのに涼宮さんの知識にはない出来事ばかりが起きている」 わざと難しく説明しているとしか思えないな。 結論から言え。 「まだそこまでは」 いつもの営業スマイルで古泉はごまかす。 「ですが、何かわかった時には貴方へ最初にお伝えします。必ず」 できれば伝える前に解決して、事後報告って事にしてもらいたいもんだ。面倒な内容なら秘密裏に処理してもらえたらなおいい。 俺みたいな一般人にできる事なんて限られているって事をそろそろ理解してくれ。 「見えたわ!あれが老人の住む島じゃない?」 ハルヒが指差す方を見ると、米粒ほどの大きさの島が見えた。 目を細めて見ていると、近づくにつれて島に建つ小さな小屋が見えてくる。 本当にどんな視力をしてるんだよ、お前。 「凄い……凄い綺麗です……」 「本当、これは凄いわね」 島の外周は風を避ける為らしくヤシの木が綺麗に並んでいたが、その向こう側には一面の向日葵の花が広がっていた。 「まさに壮観ですね」 爽やかな向日葵畑を歩く羽つきバニーガール姿の朝比奈さんは、どう考えても違和感があるはずの取り合わせの はずなのにとても絵になっていた。 製作者さんよ、画面保存機能のショートカットは何キーなんだ? 向日葵は全て太陽に向かって顔を向けている……と思ったらそうでもないんだな。 全て同じ方向を向いていたが、それは太陽とは違う方向だった。何かのヒントとかかもしれないな。 綺麗に区画分けされた向日葵の先は少し高くなっていて、小さな小屋が見える。 朝比奈さんが景色に感激しながらゆっくりと歩くペースにあわせて、俺達はその小屋へと向かった。 「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」 ハルヒが家の扉を叩いてしばらく待ってみると、中から小さな老人が出てきた。 真っ白い髪の毛と髭が繋がってしまっていて、お揃いのような白い着物のような服を着ている。 老人は俺達をぐるりと見回した後、 「空気の実は真ん中のヤシの木になっている」 退屈そうにそれだけ言って小屋に戻っていってしまった。 初対面で自分の目的にとって有意義な他人には極端に愛想のいいハルヒも、これでは愛想を振りまく出番すら無い。 「なんなの?」 怒るタイミングを逃してしまったのかハルヒは怪訝な顔をしている。 「人嫌い……なんですかね」 流石の古泉もこの対応には困ったようだ。 まあ情報は手に入ったんだし、いいとするかな? 俺達がみくるちゃん号へと戻ろうとすると、 「あ、あの!私、おじいさんと少しお話してきてもいいですか?」 何故か朝比奈さんが立ち止まりそんな事を言い出した。 普段は自分から何かしようとしない人だけに、ハルヒも驚いた顔をしている。 「え、う~ん。そうね、時間をかければ何か聞きだせるかもしれないし……みくるちゃんの色気に期待するわ。 みくるちゃん一人じゃ不安だし古泉君、一緒に残ってあげて。私とキョンと有希で空気の実を捜してくるから」 長門と古泉はお前の指示通り行動するだろうが、俺の意見は聞くまでも無いのかよ。残すなら俺にしてください。 「わかりました、それではここで待ってますね」 あっさり承諾して古泉は朝比奈さんの隣に立つ。 古泉、朝比奈さんに変な事するなよ? とハルヒのように釘を刺したい所だが、朝比奈さんの恋人でもない俺が言うのは どうかと思うので古泉を睨むだけにしておく。 「大丈夫ですよ、お早いお帰りを」 俺の視線の意味がわかっているのかわかってないのか、古泉はいつもの笑顔で手を振っていた。 みくるちゃん号に戻った俺達はさっそく地図を広げた。 「真ん中のヤシの木ってのには心当たりがあるの、ほらここ」 ハルヒが指差す場所には小さな島があり、その中央にはヤシの木が描かれていた。 「ここだけなのよ、こんな印があるのは」 確かにそれっぽいな、というかわざとわかるように長門が書いておいたのかもしれんが。 妙に可愛いデザインのヤシの木の絵を見た後に、それを描いた長門へ視線を送ってみる。 しかし、すでに定位置で読書に戻っていた長門の表情からは、何一つ考えを読み取る事はできなかった。 いつもの事だけどな。 「じゃああたしが指示するから、キョンあんたは船を動かして。有希は敵が来ないか警戒。いい?」 僅かにうなずいて長門は開いたばかりの本を閉じて立ち上がると、さっそく周りをきょろきょろと見回し始めた。 「有希もやる気ね!じゃあしゅっぱーつ!」 さっそく規則的に辺りを見回す長門が、俺にはイージス艦のレーダーに見える。 実際、索敵範囲はイージス艦級かもしれんが。 言われるままにヤシの木に力を入れて、みくるちゃん号は再び大海原へと進み始めた 「まずは北北西に進んで、指示があるまでずっとよ」 へいへい。 長門のペンダントを木の板に乗せ、地面に掘った穴に海水を満たした上にそれを浮かべただけのお手製簡易方位磁石を 見ながら、俺はなんとなく北北西であろう方向へヤシの木を押す方向を変えた。 快適なスピードでみくるちゃん号は進んでいき、振り返って見ると朝比奈さんと古泉を残した島はどんどん小さくなっていく。 そういえば、朝比奈さんは何故残ると言い出したんだろう? 向日葵の種を分けてください~などという、朝比奈さんらしいファンシーな理由だろうか? それならその場で言えばいいんだろうし、わざわざ残る必要なんてない。 そもそもゲームの登場人物にそんな質問に答える知識はないだろうし、何を聞いても「空気の実は真ん中のヤシの木に なっている」と答える気がするな。 視線を前に戻すと周囲を見回している宇宙人の姿が目に入る。 長門。 こいつはこいつであれからずっと、健気にレーダーとしての任務を忠実に繰り返している。 疲れたら休んでもいいぞ。 俺がそう話しかけても左右を規則的に見回し続け。 「大丈夫」 そう答える一瞬止まっただけで、また索敵に戻ったようだ。 そっか。 朝比奈さん一人居ないだけで、みくるちゃん号は一気に味気なく感じるから不思議だな。 ヤシの木までどことなく寂しそうにすら見える。 まったく、彼女の存在がいかに大きい物かを再認識させられてしまうね。 「あれね」 地図を畳みながらハルヒがそう言った時、俺にも一本だけ長いヤシの木が立つ小さな島が見えてきた。 この辺りには小さな島がやたらと多いので普通に探したら大変だっただろう、どうやらハルヒのナビは優秀だったようだ。 そろそろ島に接岸するところになって、 「私一人でよさそうね……船を止めて待ってて。取ってくるから」 そう言い残しハルヒはまるで新大陸を発見したコロンブスのように一人で島に乗り込んでいった。 まあ、コロンブスなんて名前しか覚えてないがなんとなく、だ。勢いよく走り出したって事が伝わればそれでいい。 等とどうでもいい事を考えているうちに、ハルヒは木の根元に辿り着いた。 そのままさっきみたいに木登りを始めるかと思ったが、一旦立ち止まる。 遠くから見た時にはわからなかったが、木の太さはハルヒの体よりも一回り近く太いようだ。 上の方は細くはなっているが、いくらハルヒでもこれは道具無しじゃ無理だろう。 長門、船を見ててくれ。 うなずく長門を残して、俺も島にあがった。 「あ、キョン。ちょ~どいいところに」 俺の気配に気づいたハルヒが嫌に微笑んでいる。……肩車で届く距離とも思えないがどうするつもりだ? これは道具がいるな。 俺も真下に立って見上げてみたが、木の高さは低く見積もっても軽く10メートル以上はあるように見える。 「そうね」 意外にもハルヒはあっさりうなずくではないか? 表情にこそ出さなかったが俺は驚いていた。 こいつなら「そんな回り道してる時間はないわ!キョン、気合で取ってきなさい!」とでも言いそうな気がしていたんだが。 もしかして古泉が言っていた異常事態っていうのは、ハルヒが一般人化しているということなのか? 大歓迎だぞ? 「キョン、ちょっと木の真下で木の方を向いて立ってて」 ハルヒはそれだけ言って木から離れていく、俺の身長で高さを計るのか? 俺の身長は知ってるか? まあ、多少の誤差はどうでもいいんだろうけど。 「大丈夫よ、じゃあ行くわね」 はいはい、別に計るのに合図はいらないと思うんだが。 嫌な予感を感じる時間すらない。 俺の腰に突然かかった衝撃と荷重に崩れる間もなく、続いて俺の肩を踏みつけてハルヒは一気にヤシの木の上部に 飛び上がった。 頭上で、ガスッ! という音を聞いて肩をさすりつつ見上げると 「見るな!」 上空から降ってきたハルヒの靴が俺の視界を塞いだ。 顔を塞ぐ前に見えた物については不可抗力だ! 決して意図して見上げたわけではない! っていうか事前に説明しろよ! それとお前がスカートで木に登ったりするからいけないんだ! 朝比奈さんがここに居ない事に俺は少しだけ感謝した。 ……結果的に偶然視界に入っただけとはいえ、多少の罪悪感もある。 俺は間違ってもハルヒが視界に入らないように注意しつつ、念の為ヤシの木から靴を投げても届かないくらいに離れてから 振り向いた。 ヤシの木に突きたてたレイピアにハルヒはぶら下がって足だけで靴を脱いでいた、そのまま靴下も脱ぎ終えると器用に レイピアから幹に移動してするすると登っていく。 この島の原住民でもそこまで器用じゃないと思うぞ? ここは無人島っぽいが。 「キョン! これ!」 一番上まで登りきったハルヒが、何か果実のような物を投げてきた。 足元に落ちたそれは不思議な形の木の実で、皮はとても堅くこのままではとても食用にはできそうもない。 「空気の実ってそれかな?ちょっと試してみてー」 わかった! 確か空気の実なら海水に浸せば酸素を出すんだよな?とりあえず俺はみくるちゃん号に戻ることにした。 戻ってみるとあいかわらず長門はみくるちゃん号の上で一人ぽつんと立って、左右を見回しながら索敵中だった。 俺が視界に入っても何の反応もない。もしかしたら近づく前に索敵されていたのかもしれない。 疲れないか? なんとなく返答は予想できるんだが聞いてみると、 「大丈夫」 こいつは言われたら断わる事を知らないからな。 本を読んでいてもいいんだぞ? 提案してみたらどうなるんだろうか? そう思って言ってみたのだが……。 長門は一旦止まると木の根元に置いていた本を拾い、今度は本を読みながら左右に体を振り始めた。 よけい疲れないか? 「大丈夫」 本を見ていたら警戒にならない気がするが、まあいい。 ハルヒを木の上に残してきた事を思い出した俺は、さっそく例の実を海水に浸してみた。 それはもう泡が出るとかそんなレベルではない、海面を押し下げる程の勢いで実から空気が噴出しているようだった。 まるで抵抗はないくせに風船を水中に無理やり入れているみたいに海面が凹んでいる、何せ実を持つ手が濡れていない。 あきらかに物理法則を無視している気がしなくもないが、長門に聞いても俺が理解できるようには説明してもらえないだろうから 聞くまでもないだろう。 俺にわかるのはこれが空気の実に間違いないって事と、早く戻らないとハルヒが怒り出すって事だけだ。 ――念の為、ありったけの空気の実を収穫した俺達はさっそく老人の島に戻った。 船を操縦していると老人の島の上で手を振る朝比奈さんの姿が見えてきた。 隣に立つにやけ顔の古泉も見えてきたがそれはどうでもいい。 「おかえりなさい!どうでした?」 「ふふ~ん、これよ!」 ハルヒは自慢げに空気の実の小山を見せびらかす。 「これで海底の城に行く準備はできましたね」 古泉とハルヒはさっそく地図の上で海底の城がありそうな場所を探しはじめた。 それなら長門に聞けばいい……とは流石に言えない。が、もし見つかりそうになかったらこっそり聞くことにしよう。 そんな事よりもだ。 朝比奈さん。 「はい、なんですか?」 空気の実を手にとって、まじまじと見ている朝比奈さんにこっそり聞いてみる事にした。 あの老人に用って、いったい何だったんですか? 軽く聞いたつもりだったのだが、意外にも朝比奈さんは表情を曇らせてしまった。 突然の事にフォローする言葉を考えてみたが思いつかないでいると、 「キョン君には伝えておいた方がいいのかも……。あの、涼宮さんには内緒にしてくださいね?」 手で口元を隠しながら朝比奈さんが寄ってくる。 背伸びしても俺の耳までは届かないようなので少ししゃがむと、朝比奈さんは小さな声で 「あの……この世界ってゲームじゃなくて、本当に存在する別の世界みたいなんです」 ……驚くべきなんだろうな、ここは。 「その、急にこんなこと言われても困っちゃうでしょうけど……本当なんです」 深刻そうな顔でそう続ける朝比奈さん。 うわ~そうだったんですか! 驚きですね! とでも言うべきなのかもしれないが、嘘はいつかばれるものだろう。 朝比奈さんなら騙しとおせる気もしなくはないが、つかなくていい嘘はつくべきではない。多分。 先に言いますね、ごめんなさい。 「え?」 最初の白い場所に来た時に気づいてました。 鳩が豆鉄砲をくらった顔ってのは多分こんな感じなんだろう。 朝比奈さん、ぽかーんと口を開けたまま固まっているその顔も可愛いですよ? 作戦会議の結果、地図の配置からすると現在地の北西には重要な物がないので怪しいという結論に至ったらしい。 長門にこれは正解のルートなのか? と、そっと視線を送ってみたが特に反応は無かった。 「それじゃあ海底城目指して出発!」 ハルヒのいつもの号令でみくるちゃん号は大海原を進み出した。 目的の海域まではさっきの真ん中のヤシの木に移動した距離の2倍程、時間で言えば10分程で到着するはずだ。 それにしても本当にどうやって動いてるんだろうな、この島。長門なら普通に知っていそうだな、後で聞いてみよう。 ハルヒの指示で古泉が操船、長門がまた警戒に指名されたので 警戒は俺が変わるよ、ずっとじゃ大変だろうし。 と、立候補した。イージス艦から一般人まで警戒レベルは落ちるが、こんな小さな島を狙って何か来るとは思えないしな。 「じゃあキョンでいいわ。さぼらないで見張ってなさい」 へいへい。 船の先頭はハルヒの定位置になっているから俺は後方を見ていればいいだろう、俺は島の最後尾に座ってのんびり と海を眺める事にした。 忙しい毎日を過ごしているとのんびり海でも眺めていたくなるって言うが、あれは日常に戻れる保障がある時にしか 当てはまらないもんだな。 現実世界に戻れるかどうかわからない今の俺には、海を見て癒されるだけの精神的余裕は無いらしい。 「キョン君」 みくるちゃん号の動く音で気がつかなかったが、俺の隣に朝比奈さんが来ていた。 朝比奈さんはいつもの笑顔でそっと俺の隣に座る。 こっそりとこの世界の秘密を教えてくれた後、すでに俺がその事を知っていたのを聞いてしばらくの間怒った顔をして いたのだが、どうやらご機嫌は治ったらしい。 いつも優しい朝比奈さんの怒った顔というのは中々見られるものではなく、こっそりと脳内に焼き付けておいたのは秘密だ。 すみませんでした、ずっと黙っていて。 「いえ、いいんです。もしも最初に聞いてたら私パニックになっちゃっただろうから」 確かに。 そのままハルヒにもバレてしまったらどうなっていたかと思うと……。 実際どうなったんだろうな? 思い出したくも無いが、あの時と同じならば異世界に放り込まれたハルヒはやはり大人しくなるのだろうか? まあ、リスクが大きすぎて試してみる気にはなれないが。 ハルヒだけはまだ気づいてないみたいです。あいつに気づかれるとどうなってしまうか誰にもわからないですから、秘密に しておきましょう。 「わかりました」 あ、そういえば。どうして気づいたんですか?これがゲームじゃないって事に。 「あのお爺さんの時間軸が……えっと禁則事項に関わるので詳しくは言えないですけど、あのお爺さんは私達と同じだったんです」 爺さんが俺達と同じ? 朝比奈さんは真剣な表情でうなずく。 「お爺さんも違う世界、それが私達の居た世界とは違うかもしれませんが、少なくともこのゲームの世界の存在ではなかったんです。 他の町の人やモンスターは時間の流れが無いデータ上の存在でした。でもお爺さんにはちゃんと時間の流れが存在していたんです」 なんというか未来人らしい判断理由だな。 えっと、つまりあの爺さんは俺達みたいにこの世界に迷い込んでしまっている……って事ですか? 「はい。TPDDの反応が……っとその」 朝比奈さんが不自然に話を止めるってことは、 禁則事項なんですね? 「はい、すみません」 大体わかりましたから大丈夫ですよ。 っていうかそもそも、大体わかってしまう事自体は問題じゃないんだろうか? もしかしたら、他にもこの世界に迷い込んでいる人が居るのかもしれませんね。 それが事実だったら大変だな。 俺達はハルヒの暴走で不思議体験に巻き込まれる事に慣れてしまっているからいいが、普通の人がこんな世界に取り残され たら発狂するんじゃないか? 「あ、いけない……あんまり一緒に居ちゃダメなんでした!」 朝比奈さんは慌てて立ち上がりハルヒの様子を伺っている。 どうやら目的地探しに一生懸命でこちらには気づいていないみたいだ。 あの、何があるんですか? 「え?」 何度か朝比奈さんに言われてますけど、俺と朝比奈さんが一緒に居ると何か起こるんですか? 貴女にはまだ言ってませんが、大きい朝比奈さんにも何度か同じ事を言われてるんです。 俺とハルヒをしばらく見比べてから朝比奈さんはにっこり笑って、 「隠し事してた人には内緒です」 と言いながら離れて行ってしまった。 ……大きい朝比奈さんも秘密にしてるって事は、もしかして永久に秘密ってことなのか? ん、なんか速度が上がったような気がする。 一定の速さで進んでいたみくるちゃん号だが、少しずつだが速度が上がっているような気がする。 そんな急がなくてももうすぐ目的地に着く頃だと思うんだが。 古泉、スピードを落とせ。 あいつが海に落ちる事はないだろうが、これ以上あいつのテンションがあがるのは困る。 「……そうしているつもりなんですが……すみません、手を貸してください」 珍しく真剣な声で話す古泉に驚いて振り向いてみると、古泉は進行方向とは反対にヤシの木を倒していた。 それなのにみくるちゃん号は意図せぬ方向にますます加速して進んでいく。 急いで立ち上がり俺もヤシの木に力を加えたが、島は減速するどころかどんどん加速していく。 何だ? 舵が壊れてしまったのか? 「みなさん、この木に捕まってください!」 古泉が叫んだ時、俺達がどこに向かっているのかがようやくわかった。 進行方向に見える大きな渦に向かってみくるちゃん号はどんどん引き寄せられていっている。どうする?長門に頼んでみるか? そう考えてみたが長門もヤシの木を掴んでいた、片手は本を開いたままだったが。 こいつが冷静って事は危険はない……そうだよな? な? 恐怖のあまり震えている朝比奈さんを抱きしめるハルヒ、ヤシの木を倒し最後の抵抗を試みる俺と古泉。 ヤシの木に片手を触れただけの長門を乗せたみくるちゃん号は大きな渦の中を回りながら加速していく。 渦の外周を勢いよく回りだした中で何故かのんびりと本のページをめくる長門の姿が見えた気がした。 いよいよ渦の中心に飲み込まれようとした時、俺達に降りかかろうとする海水の壁は……。 ――いつまで経っても一定の距離から近寄る事無く、みくるちゃん号は巨大な泡に包まれたまま海底に沈んでいった。 「……わ……わー! 凄い! 凄い! 凄いです!」 その光景に最初に歓声をあげたのは、一番怖がっていた朝比奈さんだった。 ハルヒと古泉は幻想的な海中の風景に言葉をなくしたまま立っている。長門は相変わらず読書中だ。 俺? 俺はあれだ。ヤシの木にもたれて休憩中だ。決して腰が抜けて立てないわけじゃないぞ? 巨大な空気の泡に包まれたみくるちゃん号は、ゆっくりと海底目指して沈み続けている。 遥か上空、いや海上には太陽に照らされた海面が薄っすらと見えていて、さっきまでの渦の恐怖がまるで夢だったかのようだ。 ハルヒも今は島の中央に立っている、ここで落ちたりしたら戻る事はできそうにないのは自覚しているらしい。 俺もようやく立ち上がり、今更だが海中観察に参加する事にした。 海面からの光は徐々に弱くなり、遠くの方は暗く見えずらくなっている。 その間もゆっくりと沈み続けていたみくるちゃん号だが、そのスピードはどんどん遅くなっていきついには殆ど止まってしまった。 「あ、あれ?どうしたんでしょう?」 「変ね、さっきまではちゃんと沈んでたのに」 僅かな間だが、一瞬完全にみくるちゃん号が止まってしまった。 何かをめくる音がして、その後何事もなかったのように再び沈み始める。 一斉に俺達が振り向いてみると、長門がさっきまでと同じようにヤシの木の根元に座って本を読んでいる。 いつもと違ったのは、長門の片手は常にヤシの木に添えられていて、本をめくるときだけヤシの木から離していた。 長門の手が木から離れるたび、みくるちゃん号は僅かに揺れて沈む速度を落としている。 木に触れている間だけ沈むって事なのか? 試しに俺も木に触ってみたが、特に速度に変化はなかった。 「違うようですね、何か特別な条件があるんでしょうか」 「有希じゃないとダメなのかな?」 長門は別に特別な事をしているようには見えないんだけどな。 もしも長門が船を潜行させてくれているのなら、ここで停止する意味がわからない。もしかして何かイベントが起こるとかなのか? 直接聞くわけにもいかないのでじっと長門の様子を伺ってみたが、片手で不自由そうに読書を続けているようにしか 見えなかった。 誰かが服をひっぱる感覚に振り向くと、朝比奈さんが白い顔で俺の服を掴んでいた。 「どうしました?」 ぱくぱくと口を動かしながら震える指で朝比奈さんが指差す先には、 ……うそだろ? そこには信じられないほどに巨大な魚がこちらに向かって泳いでくるのが見えていた。 遠近法ってやつで大きく見えるだけだと思いたいが、残念ながら俺の頭脳はそこまで楽観的にはできていないらしい。 例えるとしたら、滑走路に立っていたら1k程先から飛行機がこちらに向かって加速してくるのが見えた、そんな感じだ。 たまたま進行方向がこっちに向いている、と考えてしまいたいがそうではないだろう。 まだかなりの距離があるにもかかわらず魚の姿は異様な程大きく見える。 実際のサイズをどんなに過小評価しても、みくるちゃん号など俺達ごと一口で飲み込まれてしまうに違いない。 鯨かな……鯨にしては縦に細長いよなって魚の種類はどうでもいいっ! とにかく逃げないと俺達は餌として食べられるの だけは確かだ。 急いで海上と同じようにヤシの木を倒してみると、海の中をふわふわと進み始めた。 「古泉君、迎撃してみて!」 ハルヒは古泉と代わってヤシの木を押しながら指示を出す、朝比奈さんと長門――本を読みながら――も一緒になって 押しているが魚が迫る速度には到底及ばない。 ぎりぎりで避けようにも速度が全然足りないぞ? 「……だめみたいですね」 古泉の赤い玉は魚に向かって正確に飛んで行ったが、特に変化は無くダメージを与えられたようには見えない。 俺達の中で古泉以外に遠距離で戦えるのは朝比奈さんくらいだが、古泉の赤い玉程の威力はないし海中で弓は殆ど意味が ないだろう。 だからといって接近戦ができる相手じゃないぞ? どうみても。 「どど、どうしましょう?」 やはり朝比奈さんには期待してはいけないようだな。 すがりついて聞かれると男らしく答えたい所なんですが、どうしたらいいかはむしろ俺が聞きたいです。 みくるちゃん号の移動速度は海中ではそれ程出ないようだ、まさか巨大な魚に食べられるのもストーリーの内なのか? ピノキオみたいな展開なのか? 間違ったら確実にゲームオーバーだぞ? 断言しよう、今ほどゲームの攻略サイトを見たいと願った事はない。 「なんとか目くらましをしてみます!」 古泉が両手を上に伸ばして赤い玉を作り出す。 それは見ている間に古泉の頭上でどんどん巨大化していき、みくるちゃん号を包む泡よりも大きく膨らんだ所で止まった。 古泉がそっと手を前に降ろすと、玉はそれに従い魚の進路を塞ぐ位置で静止する。 そいつをぶつけるのか? 「それで倒せるのでしたらそうしたいところですが……残念ながら巨大化させても威力は変わりませんし、こうすると殆ど操作 できないんです。ですから僕には魚の視界を塞ぐ事しかできません。ですがそうしたところでこのままでは」 玉ごと俺達も一緒に食べられたらそれまで。 「その通りです。僕は玉を維持しなくてはいけません、皆さんでなんとか逃げる方法を考えてください」 古泉の表情は一見いつもの営業スマイルなのだが、そこにいつもの余裕がないのが感じられてしまった自分が嫌だ。 「わかったわ、任せておいて!」 ハルヒが満面の笑顔で自分の胸を叩く。 魚がここまで来るのにそんなに時間は無いぞ? 無駄に自信いっぱいで請け負っているが何か考えがあるのか? どうするつもりだ? ハルヒはヤシの木の根元、長門の隣に積まれた空気の実を一つ手に取った。 「この空気の実が多過ぎるから沈む速度が遅いと思うの、だからあの魚が迫ってきた所でこの実を捨てちゃえば みくるちゃん号は一気に沈んで逃げられると思わない?」 なるほど、確かに効果はありそうだな。でもな? それで助かったとして、今より浮力を減らしてどうやって海上に戻るんだ? 「それはそれよ、いざとなれば泳げばいいじゃない。いい? 緊急事態では現状を生き残るのが最優先なの! 緊急避難なら 自分の命を守るって名目だけあればどんな罪でも許されるの! 後悔は後で悔やむから後悔なの! 助かった後の事は 助かった後に考えればいいのよ!」 わかったようでわからない説明だ。ハルヒはといえば早く自分のアイデアを試したいのか、うずうずしている。 しかし他に何かいいアイデアがあるわけでもないな。 わかった、タイミングが勝負だぞ? 「それは任せて、このあたしが最高のタイミングを指示してあげるわ!」 俺と朝比奈さん、今回ばかりは読書をやめて手伝う長門の3人は両手いっぱいに空気の実を抱えてハルヒの合図を待った。 念の為に残した空気の実は5つ。最悪の場合には一つずつ持って海に逃げる為だ。 「だ、大丈夫ですよね?うまくいきますよね?」 不安で脅える朝比奈さんの手は震えている。 大丈夫ですよ、なんとかなりますよ。 何の力も無い一般高校生の俺には、不祥事が発覚した政治家の参考人招致の如く適当な事しか言えない。 が、それで朝比奈さんの不安が僅かでも解消されるのであればいくらでも適当な事を言い続けよう。 長門はいつものように無表情だった。 何か緊張をほぐすような事を言おうかと思ったが、思いつかないしそれ以前に緊張していないだろうから必要も無い だろうな。 「みんな構えて!」 いよいよ時間もないらしい、空気の実を持つ手が汗ばむのがわかる。 迫ってきた巨大な魚は、すでに古泉の巨大な赤い玉よりも大きくなっていた。 空気の実を投げてすぐに効果が出るかはわからない、ここはハルヒの悪運にかけるしかないな。 俺達の視線を一身に受け続けているハルヒが、 「今よ!」 自分も空気の実を投げながら叫んだ。ハルヒの声にあわせて俺達も空気の実を海中へと投げる。 海水に穴を開けるように空気の実が進んでいくと、みくるちゃん号を包む泡が目に見えて小さくなった。 「嘘」 ……嘘だろ? 「そんな」 「……」 最後の沈黙は長門。 変化はただそれだけだった。 島を包む泡が小さくなっただけで、浮島は下降することなく海中で静止している。 流石の古泉も青い表情でこちらを振り向いて固まっていた。時間が無いのを思い出したのか、古泉が再び両手を 赤い玉へと向ける。 「ふんもっふ!」 気合を込めて両手を突き出す古泉に押されるように、巨大な赤い玉は魚に向かって進んでいく……が、その速度は あまりに遅くてとても巨大な魚を退治する様な効果があるとは思えない。 このまま玉ごと俺達は飲み込まれておしまい……そんなバットエンドが頭をよぎる。 神様! もう二度とバットエンドのCG回収なんてしません! などという悠長な事をしている場合じゃない、神様よりも長門様だ! 長門はどうしてる? SOS団の秘密兵器は空気の実を投げた体勢のまま、無表情で立っていた。 嘘だろ? こいつにも予想外の事態だとでもいうのか? 魚がいよいよ目前に迫り、その巨大な口を開いた時 「きゃー!」 みくるちゃん号はまるで生きているかのように急速に下降を始めた! 間一髪ってのはこの事だろう。 ぎりぎりの所で回避は間に合い、みくるちゃん号は魚の通り過ぎる勢いで多少島は揺れたもののそのまま急速に 沈み続けていく。 獲物を食べ損ねた魚はすぐに旋回してこちらに向かってこようとしたが、 「どうやら……助かったようですね」 みたいだな。 魚は潜行できずにどんどん海上へと浮き上がっていっている。 よく見ると俺達が投げた空気の実をいくつか飲み込んでしまったのか、腹部が異常に膨れあがっていた。 全部偶然か? それともイベントだったのか? 「よかった……私たち助かったんですね」 半泣き、というか本気で泣いている朝比奈さんがしがみついていたヤシの木からよろよろと立ち上がった。 その途端にみくるちゃん号の下降が止まる。 「え? え?」 あまりのタイミングのよさにみんなの視線が朝比奈さんに集まる。 「わ、私何もしてないです。怖くてヤシの木にしがみついてただけで……」 「みくるちゃんそれよ!」 ハルヒがいつもの元気を取り戻して朝比奈さんを指差した、というかつきつけた。 思わず悲鳴をあげて、朝比奈さんの視線がつきつけられた指に集まり寄り目になる。 「ヤシの木を掴んで下にひっぱればよかったのよ!」 ハルヒは俺達をかきわけてヤシの木に近づくと、木の幹を掴んで下に引っ張るようにしゃがみこんだ。 その動きに合わせるようにみくるちゃん号は下降を始める。 「なるほど!長門さんが手を添えて読書をしていた時も腕の重さで僅かですか加重がかかっていたから、島は沈み続けて いたという事ですね」 俺が試した時は木に触っただけだからダメだったって事か。 「ナイスよ、みくるちゃん! 船に貴女の名前を付けて大正解だったわ!」 「え……あ、そんな」 ハルヒと古泉の説明を聞いてもいまいちわからなかったようで、朝比奈さんは表情に疑問符を混ぜたまま微笑んでいる。 「ただいまをもってみくるちゃんをSOS団、団員から団長補佐に大抜擢するわ! 2階級特進よ! これは栄誉な事よ? 町内や親戚中だけでなく末代まで語り継がれるに違いないんだからね?」 お前の補佐が昇進って新手のいじめかよ、2階級って事は団長補佐は副団長より上もしくはそれ以外の階級がある事に なるのか? ……まあ突っ込むのはやめておこう、なんだか面倒ごとが増える気がする。 あ、朝比奈さんの末代となるといったい何十年先の話になるんだろうな。 一人で盛り上がるハルヒと困った顔の朝比奈さん、適当に相槌を打つ古泉……。 そんないつもの光景の中で、やはりいつものように問題点に気づくのは俺の役目だったらしい。 それは長門の事だ。 さっきの渦といい今回の魚といい、本当に危険だったのにも関わらず長門は何もしないでいた。 ハルヒの観察が目的だとは聞いているが、こいつは本当の意味での危機にはいつも人外の活躍をあっさりやってのけて くれてきた。 そのおかげで俺の心臓は土に還る事無く今も体内に血液を送り続けてくれている。 でも今の長門はいつものような読書好きの最終兵器って感じじゃない気がするんだが……。 なあ長門。 いつの間にか定位置で読書に戻っていた長門が、俺に僅かだが顔を向ける。そんな仕草はいつも通りなのだが違和感は 消えない。 もしかして、今のお前はいつもみたいに何もかも全部わかっている……ってわけじゃないのか? 「……」 質問の意味がわからないのか、長門は何も答えない。 その、いつもの長門にはどんな異常事態が起きても対処できるって感じの自信があるような気がしてたんだが。 あまりにも無責任な押し付け的発言にしか聞こえないだろう、俺もそう思う。 捨て猫を拾ってしまったとか、テスト前に筆記具を忘れたのに気づいたとか、同じクラスの誰それが好きになってしまった~とか そんな感じの普通の相談であれば俺を頼りにしてもらっても構わない。 しかし、だ。 野良猫が流暢に日本語を喋ったとか、テスト週間に彼氏が閉鎖空間に閉じ込められたとか、同じクラスの委員長に放課後 呼び出され突然命を狙われた~とかそんな感じの相談をされても俺には何も出来ないんだ、すまん。 って俺が謝る事かどうかはわからんが。 しばらく黙ったままだった長門が、読書に戻る間際に呟いた。 「情報統合思念体と限定的にしかコンタクトできない今の私に、貴方の言う危険排除的行為は限定的にしか出来ない」 本に目を戻した長門の表情が悲しそうに見えるのは俺の罪悪感からなのか、本当に長門が悲しいのかは判断できそうにない。 っていうか俺が無茶を言ってるだけで長門が悪いんじゃないしな。 最初の街で不調な事を聞いてはいたけど、まさかそんな深刻な状態だったとは思ってなかったぜ。 命の危険から助かったはずの俺が、この先の事を考えて再び青い顔でしゃがみこんだのは仕方が無い事だ。うん。 「……どうやら見えてきたようですね」 しばらく潜行を続けたみくるちゃん号から、ついに海底が見えてきた。 岩地や珊瑚といった自然の景色の中に、一際目立つ人工物が見える。 海水越しで歪んで見えてはいるが間違えようも無い日本建築、巨大な城が海底にあった。 またあの魚やまだ見ぬ巨大海洋生物が出て来ないとも限らない、俺達は急いで城へと 「待って、あっちに町が見えるわ」 ハルヒが指差す方には僅かな明かりが見えた、海底に明かりを放つような物……くらげとかだったら嫌だな。 「建物も見えるしちゃんとした町みたい、先に武器を揃えましょう」 そうだな、城の情報が聞けるかもしれない。 少しでも情報はあったほうがいいに違いないな、実はさっきの魚がボスなんて事じゃなければいいんだが。 「さっきの魚でも相手に出来るような武器が欲しいわね」 そんな武器がもしもあってもお前にだけは渡さん、俺はそう心に誓いながらみくるちゃん号の進路を町の方へと変更させた。 ――みくるちゃん号を海底の町の入口に止めると、最初に降りたのは予想通りハルヒ、空気の実を掴んだまま島から 飛び降りていった。 空気の実の効果は絶大で、空気の層は大きくハルヒを包みこんでいてどうやら海水に濡れる事はないようだ。 それにしても普通は躊躇うだろ? 恐怖ってもんを幼稚園辺りに置き忘れてきたんじゃないのか? 「みんな早くきなさい!ゲームなんだから大丈夫だって」 ……そうか、こいつはまだここがゲームなんだと思ってたんだったな。 「涼宮さんに不審に思われる前に僕達も続きましょう」 続いて古泉、 「……」 長門、俺と順番に降りて 「あのキョン君、手を貸してもらえますか?」 朝比奈さんが最後に降りて俺達は海底の町へと入っていった。 「有希、またどんな武器がいいか見てくれない?」 ちいさくうなずく長門。 頼むぞ長門、なるべく殺傷能力が低そうな武器を選んでやってくれ。ああでも、敵を倒せないのも困るな。 火力と安全を天秤にかける俺を無視して、 「決まりね、じゃあみんなは情報収集! 私達ですんごい武器を大量に仕入れてきてあげるから期待してなさい! 10分後に ここで集合! 時間厳守だからね?」 別れて行動する事になった、らしい。 ってまさか買うのは武器だけかよ?防具も買えよ! 長門を引っ張って武器屋を探して走っていくハルヒ、あいかわらず俺達の意見は聞く気はないようだ。 っていうか俺はいつまで盾だけ装備してればいいんだろうな。 「では僕は向こうに行ってみます。朝比奈さんは一人じゃ危ないですし、キョン君と一緒に向こうをお願いしますね」 お前がキョン君と呼ぶな!と普段ならそう思うところだが、むしろよく言った古泉! 以心伝心ってやつをちょっと信じそうになったじゃないか。 もしもお前が本気で望んでいるのなら、今度いっちゃんと呼んでやってもいいぞ。 古泉が近くの店に入っていくのを見届けてから じゃあ俺達も行きましょうか。 「はい」 俺達は2人並んで海底の町を歩き始めた。 今までは落ち着いて見る時間も余裕も無かったが、この海底の街では上を見上げれば小魚が群れをなして泳いでいたり、 回りの岩陰には色彩豊かな珊瑚があったりと生涯見ることもないような凄い景色が広がっている。 これがゲームだってわかってても、綺麗な物を綺麗だと思って問題なんてないよな。 「凄く綺麗なところですね~」 そうですね。 まさか朝比奈さんと海底散歩が出来るなんて思ってもみなかったよ、本当。 数時間前までは俺達はごくごく普通に電車に乗って隣町まで移動して、ゲームセンターを楽しみにしてたんだとは 到底思えない展開だ。どっちがよかったかと聞かれたら迷うところだな、これで危険はなく平和に元の世界に戻れるという 確証があるのなら正直悪くない面白さなんだが。 なんとなく会話が途切れて、俺達は無言で歩いていた。 途中、朝比奈さんが立ち止まった事に気づいた俺は、数歩進んでも朝比奈さんが歩き出そうとしないのを見て立ち止まった。 「キョン君、あの「へへへ、線が交わった所だぜ兄ちゃんよ。交わったへへへへー線だぜ。へへ」 朝比奈さんが何か言おうとした瞬間、俺と朝比奈さんの前にふらふらと割り込んできた男はでかい独り言を言って、また ふらふらと立ち去って行ってしまった。 なんだ?今の……。 「なんだったんでしょうか……」 何かのヒントでしょうね、きっと。 それが何の事なのかはまだわからないですけどね。 「え、本当ですか?」 朝比奈さんが嬉しそうに微笑むその顔を見たら、このゲームの製作者は間違いなく泣いて喜びます。 今の内容を覚えておくと、後で役に立つと思いますよ。 「ま、待ってください。えっと、メモを持ってきてたと思うんだけど」 小さな可愛らしいバックからメモとペンを取り出して 「えっと……へへへ……なんでしたっけ?」 そこは覚えてなくていいと思いますよ? でもそこが貴女らしいと思います。 あえて訂正しない事にしよう、後で朝比奈さんがメモを朗読する時が楽しみでもある。 確か、線が交わったところだぜ~だったと思います。 「線の……線の交わった……」 俺が言ううろ覚えなセリフを真剣な顔でメモを取る朝比奈さん。 その様子をなんとなく見ていると、メモのページに色々書かれている文字が見えてしまった。 偶然ですよ、偶然。日付とお弁当の内容なのだろうか?色んな料理の名前が書かれている。 あれ? 俺の名前が書いてあるような……。 何が書いてあるのか確認しようと少し顔を寄せると 「あ」 俺の視線に気づいた朝比奈さんが急いでメモをしまってしまう、その表情は怒るというより驚いているといった感じだ。 「見、みミ」 う、これは隠しても仕方ないよな。 少しだけ。 指で小さいというジェスチャーをしながら俺は素直に謝る事にした。 さらにショックを受けた朝比奈さんは後ろを向いて、そのページに何が書いてあったのか確認している。 そのまま10秒ほど固まっていたが 「な、何行目まで見ちゃいました?」 後ろを向いたまま泣きそうな声で聞いてきた。よく見ると肩が小刻みに震えている。 えっと、そこまで詳しくは覚えてないんですが……ここは少なめに伝えた方がよさそうだな。 すみません、ベーコンとポテトのオムレツってとこだけです。 確かページの一番上にはそう書いてあったはずだ。 「よ……よかったぁ……」 まるで携帯電話を洗濯してしまったと思ったら洗濯機の裏に落ちていた、くらいの安堵感を感じさせる声を出しながら 朝比奈さんは振り向いた。 すみませんでした。 何故そこまでショックを受けているのかわからないが、きっと未来人独特の理由があるんだろうな、多分。 「あ、いえ私が悪いんです。もっと注意深く行動しないとダメって何度も言われてるんですけど」 困った顔で笑っているが、朝比奈さんにそんなダメ出しをしているというのはいったい誰なんだろう? そのメモ内容って禁則事項だらけなんですか? 「あ、そうでもないんですけどそうなんです」 すみません、長門や古泉の説明くらい意味がわかりません。 「えっと、これは本当にただのメモです。でも私は過去の情報を全てじゃないですけど知っているので、万一の事を考えて 過去の歴史を変えてしまわないようにメモとか私的な文章はその時代の人に見せちゃいけないって事になってるんです」 なるほど、意識して書いた文章ではなくても歴史を変えてしまう事があるかもしれないからか……。 でも待てよ? 以前、夏休みの宿題の時に見せてもらった朝比奈さんのノートって、色んなメモがそこら中に書いてあったと思うん です……って朝比奈さん? 突然、顔面蒼白になりついには声を上げて泣き始めた朝比奈さんをあやしていると 「キョン……あんたまさか……」 純度150%、明確な殺意がこもったハルヒの声が俺の背後から聞こえてきた。 100%よりも50%多いのはまず半殺し、その後殺害するという意志の表れだとかなんとか。 恐る恐る振り向いて見ると、長門を連れたハルヒが大きな袋から何かを取り出そうとしているのが見える。 それにしても最初から見張っていたかのようなタイミングだな。 これが偶然だと言いはるのであれば、さっきの魚を回避できた時よりも偶然なのかを疑うね。 「涼宮さん違うんです! 全部私が悪いんです!」 真っ赤に目を腫らして涙声で朝比奈さんが謝っても効果があるはずもなく、むしろ逆効果だった。 ハルヒは仕入れたての武器を構えて俺を再び睨んでいる。 右手に持ってるそれは青竜刀ってやつか? 叩き切るのを目的としたような無骨なデザインだな。それだけでも十分に 危険なのだが、反対の手に持ってるのは凶悪さではさらに上を行っている。 黒く光る金属の塊、アメリカさんの娯楽映画でよくみかけるそれは…… ま、待て落ち着け! ハルヒ、まずはその物騒なマシンガンを降ろせ! 銃は剣より強し、って誰の名言だったっけな? その中に盾を混ぜても銃より上になるとは思えない。 「サブマシンガンよ!」 名前なんてどうでもいい! その後、圧倒的な火力の前に無実にも関わらず無条件降伏させられた俺は、やっと泣き止んだ朝比奈さんのたどたどしい 嘘によって無事開放された。 その間には情報収集を終えた古泉も戻ってきていたのだが、当然援護に入るわけでもなくのんびり微笑んでいやがる。 お前、まさかこうなる事を最初から予測していたのか? 長門はと言えば、ハルヒから「調整する」と言ってサブマシンガンを受け取り、まるで長年愛用してきた私物であるかのように 手早く分解して整備している。 もしかしてこれは万一にでも俺が射殺されてしまわないようという長門なりのフォローだったのかもしれないな。ありがとう長門。 ――かくして刑は宣告される。 「理由がなんだろうと女の子を泣かせたんだから罪は罪よ! ゲームが終わるまで荷物持ち、いいわね!」 武装を充実させたハルヒはその実力を試したくて仕方が無いらしく、 「さあ! 青龍をやっつけに行くわよ!」 ある意味、目的に相応しい名前である青竜刀をぶんぶんと振り回しながら先頭を歩いている。 黒光りする金属の塊、サブマシンガンはどう考えても似合わない朝比奈さんに渡された。 「みくるちゃん、今度キョンが変な事したら撃っちゃっていいからね。あたしが許可するわ!」 などと言ってハルヒが押し付けたのだ。 古泉と長門は相変わらず装備無し。 俺には新装備が支給された――予想通りまた盾だったよ。 ああ、それと俺には大量の荷物が追加された。それは大きな袋に入っているのだが、長門のおかげらしく殆ど重量を感じない。 中身はジュースやお菓子、後はサブマシンガンの弾なんかが入っているらしい。 ハルヒ。一応言っておくが、目的は青龍が大事にしている赤い宝玉を手に入れる事だからな? それもイベント的に見て重要そうだから、だというだけの盗賊まがいの理由で探しているんだが。 「そんなのついでよ、宝探しもいいけどボスを倒すほうが楽しいに決まってるじゃない。ドラゴン殺しよ? ドラゴン殺し!」 どうやらこいつに戦闘を回避するという発想は無いようだ、青龍ってのが戦うのを躊躇うような友好的な奴じゃないといいが。 町で聞いた内容をまとめると、青龍は赤い宝玉を大事に守っている。 竜王ってのは地上で隠居していて青い宝玉を持っていたらしい。 どうやらその二つがイベントアイテムらしく、例の「線の交わった所」というヒントは今のところ何の事かわからない。 と、こんな所だ。 空気の実のおかげで海底を歩く事ができる俺達は、何事もなく海底の城に辿り着いた。 ――城の門は開いたままで門番の姿はなく、門の上には 「竜宮城……ですか」 乙姫様でも居るのか? 年代を感じさせる木の看板に、達筆な文字で竜宮城と書かれていた。 城の名前を見て色々考えている俺と古泉を無視して、ハルヒはさっそく城の中へと入っていく。 「鯛やヒラメはみんなまとめて活造りにしてあげるわ!」 せめて踊らせてやれ。 城の中は外見とは違って質素な造りだった。考えてみれば海中にあるんだから調度品があっても流れていってしまうもんな。 迷路らしい迷路もなく、単純な通路を進んでいくと 「……卵?」 巨大な人間ほどの大きさの卵が並んでいる部屋に出た、大きな広間を横切るように一列に並んで卵が置かれている。 「奥にも部屋があるようですよ」 同じような部屋が奥にもあり、そこにも卵が一列に並んでいた。さっきの部屋と違うのは卵の並びが縦に並んでいる事 だけのようだ。 その奥にも部屋があったのだが 「うわぁ……」 その先の部屋は床一面に卵が並べられていた。 全部で100個以上はあるだろう、まさかこの中から宝玉を捜すって事なのか? 「ねえキョン、これって割っていいの?」 ぺしぺしと卵を叩きながらハルヒが怖い事を言い出す。 それはまずいだろ。 ゲームの中とはいえ無用な殺生はしないほうがいいに違いない。 なんとか割らずに済む方法はないだろうか? と考えていると――ピシッ――ハルヒが触っていた卵が突然音を立てて 亀裂が入った! 驚いて距離を取った俺達が見たのは、卵の中から這い出してくるヤドカリもどきだった。 何がモドキかと言えば 「この辺りの海は生態系そのものが巨大化しているのかもしれませんね」 何をのんきな事を? でかかったのだ、単純にサイズが。流石にあの魚程ではなく大型犬サイズなのだがそれでも十分に怖い。 しかしハルヒはそう思わなかったらしく、躊躇う事無く青竜刀を叩きつけやがった。 あっさりと貝は真っ二つに割れて宿を失ったヤドカリは逃走していく。 「雑魚の相手をしてる時間はないわ。これからどうすればいいのかしら」 あれが雑魚なのかよ。 あまりに一瞬の出来事だったが、正直俺ではあのヤドカリにも勝てないのは間違いない。 「全部の卵を確かめていたら大変ですね、今までの情報の中で何かヒントがあるはずです。聞き逃してしまっているのなら、 一度町まで戻らないといけませんが」 「あ、ヒントなら!えっと……」 朝比奈さんがメモを取り出して、さっきの事を思い出したのか慌ててメモ隠しながらこそこそとページをめくる。 そんな怪しい動作をするとですね? 「みくるちゃ~ん、何か見せられないような事を書いてるのかな~?」 声色は優しいが、絶対に中身を見てやるという意思を感じさせる声をかけながらハルヒが朝比奈さんに近寄っていく。 俺の予想通り、最悪の人物に興味をもたれてしまったようだ。 「あ、ありました! ヒントは、へへへ、線が交わった所だぜ兄ちゃんよ。交わったへへへへー線だぜ。へへ……です!」 「そんな事はどうでもいいの」 いいのか。 あっさりとヒントを無視されて驚く朝比奈さんは、自分が獲物に選ばれている事に今更ながら気がついたようだ。 「団長補佐たる者、団長に対して隠し事を持ってはいけないわね」 ああ、あれはもう謎解きの事は記憶の片隅にも残っていない目だ。 絶望的な表情を浮かべて逃げ場を探す小動物のような朝比奈さんを、大型肉食獣さながらの威圧感でじわじわと追い つめるハルヒを見ながら、 「こう見えて謎解きには少し自信があるんですよ」 任せた。 俺達は先にゲームを進める事にした。 線……っていうとなんだろうな。ただの石造りの大部屋には卵があるだけで、床に線が書いてあるわけでもないようだ。 「もしかして卵の下に線が書いてあるのかもしれませんよ?」 なるほど、ありそうだな。 俺はハルヒが結果的に割ってしまった卵のかけらを避けてみた、が。 何もないな。 殻の下には他の床と特に変わりはなかった。 長門は謎解きって得意なのか? 長門ならナンプレやピクロスなんてノータイムで埋めそうな気がするんだが。 しかし意外にも長門は首を横に振った。それこそノータイムで。 そのまま長門は何も喋らなかったので仕方なく そ、そうか。 と俺が言う事になったようだ。 「人の心はかくも複雑である、という事なんでしょう」 古泉は無責任にわかったような事を言っているが、案外それが正解なのかもしれない。 と、なるとだ……もしかしてこの卵そのものが線って事か? 「素晴らしいです、きっとそれが正解ですね!」 古泉がわざとらしい拍手をしながら歓声をあげる。 お前、実は全部わかってて言わなかったんじゃないよな? 今更だが、これが全部お前達の機関の仕業だというなら俺は喜ぶぞ?もう十分に楽しんだ、今からでも現実世界に帰してくれ。 「卵の大きさからすると……横の軸をA、縦の列を1とするならば……縦は2いや3ですかね……」 残念ながら古泉からネタばらしの告白はなく、俺達は目的の卵探しを淡々と続けた。 ああ、朝比奈さんはハルヒにあっさりと捕まって、今は床を転がりながらメモの争奪戦が行われている。 すみません朝比奈さん、あいつの興味をメモからゲームに戻すには俺達が頑張るしかないんです。 しばらく耐えていてください。 ――数分後。 「これが目的の卵のようですね」 古泉がそう言って選んだ卵は、他の卵と見た目では何も変わらなかった。 「じゃあ俺が触るから、お前はヤドカリだった時の為に攻撃準備。長門は少し離れててくれ」 「了解です」 俺は2人がそれぞれ離れたり、手のひらに赤い玉を浮かび上がらせたのを確認してからそっと卵に手を触れた。 硬い質感の殻に触れると、それはあっさりとひび割れて砕け散り、 「ビンゴ、本物ですね!」 砕けた卵の中には、赤い玉が真珠のように殻の中央に置かれていた。 そっと玉を手に取ると、 「誰だ。俺の玉を盗んだ奴は?」 部屋の奥の壁から大きな声が響いてきた。 「何? 見つかったの?」 今更だがハルヒがやってきた。戦利品らしいメモは、すでにボロボロで解読不能になってしまっているがどうでもいいらしい。 一緒に涙目の朝比奈さんも居るのだが、ただでさえ肌の露出が多い衣装がはだけてしまって最早、直視するだけで こっちが逮捕されそうな感じになっている。 「ええ、ボスの登場のようですよ」 古泉は何故か楽しそうに答えるが、俺としてはそんな楽観的にはなれそうもない。 逃げたほうがいいんじゃないのか?どう考えても悪いのはこっちなんだ、あの声は謝れば許してくれるって感じじゃないぞ? 極めて常識的な提案をしてみた。無駄だとは思うが今ではそれが俺の義務のようにも感じている。 「だったら後腐れなく、ここで退治するまでね」 窃盗犯が強盗犯になる理論をそんな力強く言われてもなぁ。 「でもでも、空気の実がいつまで効果があるのかわかりませんから、キョン君が言うように逃げたほうがいいんじゃ」 確かに、信用材料が「ゲームだから」という理由だけでは命を賭ける気にはなれないぞ。 ハルヒも酸素がなくなるのは多少困るらしく、一瞬考えた後 「そうね。じゃあ海上までおびき出して、そこでやっつけましょう」 何故そこまでやっつけるのにこだわるんだろうね、こいつは。などとのんびり話している時間はなかったようだ。 壁の一部が開いて、巨大な蛇に腕と髭と鬣が生えた様な姿、いわゆる骨董品に描かれている龍が生き生きとした 動きで現れた。 あまりにも非現実すぎる光景にこれってCGじゃないのか? と思ってしまうのは、俺がゲームのやりすぎなんだろうな。 一旦退却と決まった以上、ここに留まる理由はない。 逃げるぞ! 俺達は一斉に走り出した。それを見た青龍も巨体をくねらせて結果的に卵を次々と壊しながら追いかけてくる。 部屋を抜けるのは俺達のほうが早そうだが、卵という障害物がなくなったらすぐに追いつかれてしまうだろう。 どうしても走るのが遅い朝比奈さんをフォローする為、 古泉! 「了解です」 俺は上着を脱いで朝比奈さんを包み抱えて走り出し、古泉は赤い玉で青龍を牽制しだした。 「キョ、キョン君?」 すみません! 驚いた声をあげる朝比奈さんは今回ばかりは無視だ。 詳しい説明をしている時間はないし、それ以前に今の朝比奈さんの服装を長く見ていたら俺の理性のほうが青龍なんか よりよほど危ないんですよ。 「貴様っ! 俺の宝玉を投げるな!」 青龍は感性の法則を無視して飛び回る古泉の赤い玉を追いかけていく、これはもしかしていけるんじゃないのか? 「どうやら、宝玉と僕の赤い玉を間違えているようですね」 古泉は青龍の手が、ぎりぎりで届かないように赤い玉を操作して時間を稼いでいる。 ハルヒと長門はそろそろ城の外に出た頃だろう、俺達もそろそろ逃げたほうがいい。 最後の曲がり角まで来た古泉は、時間稼ぎの為に赤い玉を今走ってきた通路の奥に向かってまっすぐ飛ばして 自分も逃げ出した。 「早く乗って!」 城のすぐ外ではみくるちゃん号が待機していた、長門とハルヒがヤシの木を掴んで待っている。 俺は朝比奈さんを先に島に乗せて、自分も急いで島に登った。 古泉急げ! 島は少しずつ浮上を始めている。 「お待たせしました」 最後に出てきた古泉の腕を掴んで、 いいぞ! ハルヒ達3人が一気にヤシの木を引っ張り上げるのと同時に、重力を感じるほどに急加速で浮上していくみくるちゃん号。 直後に城から怒り狂った青龍が飛び出してきたが、すぐに小さくなりついには見えなくなっていく。 楽しそうにヤシの木を引っ張っているハルヒにその事を伝えたら、本気で減速しかねないので俺は黙っておく事にした。 ――だが、その事を直後に後悔する事になる。 3人の手でひっぱられたみくるちゃん号はどんどんと上昇速度を加速させていき、遥か上に僅かに見えていた太陽の煌きは あっという間に広がっていって おいハルヒ、ちょっと減速し 俺が喋り終える前に 「いけーー!」 海面を突き抜けてみくるちゃん号は空を飛んだ。 あーもう、どうにでもしてくれ。 勢いだけで海中から飛び出したみくるちゃん号はその後勢いを失い、当然の如く引力に引かれて落下をはじめた。 幸いなのか垂直に飛び出していたらしく、下には海面が見えている。 ああ、こんな状態で冷静でいる自分が嫌だ。 これはハルヒと一緒にいる時間が長い為にみられる症状だと断言できるが、労務災害として認定されるのかね? されるんだとしても誰に請求すればいいのかわからないがな。 「ひぃえええ~~」 可愛い声でヤシの木にしがみつく朝比奈さんみたいに正気を失ってしまえたら、今より少しは楽になるのだろうか。 だが、俺が悲鳴をあげたところで可愛くもなんともないので、やはりこれは朝比奈さんの役目なのだろう。 他の奴らはといえば、何故かここでも余裕で本を読む長門、それ以上に余裕で何にも掴まらないまま仁王立ちで 笑っているハルヒ。 気づいてないだろうがな、スカートは落下中は慣性に逆らう事無く浮き上がって……突っ込むのはやめておこう、 言っても無駄だしそんな時間も余裕もない。 俺と古泉は一般人らしく地面に伏せて海面との衝突に備えた。古泉は一般人ではないが。 みくるちゃん号ほどの質量を持つ島が数メートルの高さから海面に叩きつけられた時の衝撃を想像して、そうする事に 意味は無いが思わず目を閉じる。 不意に重力に引っ張られて落下していく感覚が消え……そのまま待っても続いて来るはずの衝撃はいつまでたっても 来なかった。 「……あれ?」 みくるちゃん号は何事も無かったかのように海面を漂っている。 何故か不満げなハルヒ。 「拍子抜けね。水飛沫がこう、ど~んってあがるのを期待してたんだけど……まあ現実はこんなもんよね」 いや、現実なら俺達は落下の衝撃で海面に放り出されて波間を漂ってると思うぞ。 「怖かったです~」 さっきから泣きっぱなしの朝比奈さんだ、ここまで可哀想だと彼女にそろそろ何かいい事が起こらないかと願ってしまう。 「はいはい泣かないの、有希を見てみなさい。この余裕。団長補佐ならこれくらいの余裕を持ってなきゃだめよ?」 長門は海中からの脱出中もずっと読書を続けていたよう……ん? よく見ると長門の左手が、ハルヒから死角になる位置で地面を触っている。 長門にしては1ページを読むのに時間がかかっているなと思っていたがそうではないようだ。 何をしてくれていたのかはわからないが後で聞いてみよう。 「無事脱出できた事を喜びたいところですが……僕の赤い玉がたった今、破壊されました。あれが宝玉では無い事に 気づかれてしまったようですね」 ってことは俺達を追いかけてくるって事か。 「なになに? さっきのドラゴンと戦えばいいの?」 だから何で戦いたがるんだお前は、その闘争心を別の事に活かせよ。 「そうなるのも時間の問題でしょうね。ですがここでは足場も狭いですから、どこか陸地に向かうべきだと思います」 「そうね……じゃあ、あの島なんてどう?」 ハルヒが指差す先には小さな島が見えていた、確かにみくるちゃん号の上で戦うよりはよほどましだろう。 でもあれでは逃げようが無い。 古泉にはこれ以上提案する様子がないようだ、暗に俺に言えと言われている気がして気に入らないが仕方ない。 海底の町で朝比奈さんと2人っきりにしてもらった借りもあるからな。 ハルヒ、ここから最初の島に戻れないか? 「え? なんでよ?」 う、ここで退路を確保するなんて理由ではこいつは動かないだろうな……。 「時間短縮にもその方がいいかと思います、このゲームはまだ先がありそうですが、効率的に進めれば今日中に クリアできるでしょうし」 ナイス古泉、今日はずいぶん協力的じゃないか。 「もちろんクリアして帰るわよ、中途半端なんて絶対嫌だからね!え~っと……あの島が地図のここなら……えっと」 ハルヒの闘争心をボスからクリアにうまく誘導する事に成功した俺達が、視線を合わせ心の中で小さくガッツポーズを したのは言うまでも無い。 塔に着いても青龍が現れなければ、そのまま塔に逃げてしまえばいいもんな。 あ、しまった。クリスタルを手に入れないと塔の上には進めないんだったっけ? 腕を水平に伸ばし、親指と小指を広げたりしながら島と島を見比べていくハルヒはなんというか素人には見えない。 それってなんか意味があるのか? 「後方公開方よ、常識でしょ?」 さらりと言いやがる。 どこの国の常識だ。独裁国家、ハルヒハルヒ帝国とかか? 「そうよ」 自分が独裁者だという事を認識していたのか、そうかそうか。 「まあ冗談はいいとして、前に大きな図形を書きたくて勉強したの。便利よ?これ」 ああ、今更だがお前があんなに巨大な文字を書けた理由がわかったよ。正しくは書いたのは俺で、指示したのはハルヒだが。 自作宇宙人語で「私はここにいる」だっけか?俺は文字の意味をハルヒからではなく、長門に教えてもらったんだが一つ 疑問が残っている。あの文字はハルヒが適当に書いたのが宇宙人語の文字とたまたま一緒だったのか、それともハルヒが そうであると望んで書いた適当な文字が宇宙人語になってしまったのか……。 まあ、どっちでもいいさ。たまごが先か鶏が先かみたいな答えが出ない話になりそうだ。 どうせ本人には聞けない質問だしな。 地図と海とを何度か見比べて、 「わかったわ、ここからほぼ真南に進めば塔のある島に辿り着くはずよ。時間で言うと3分半ってところね」 「了解です」 古泉は待ちかねたようにヤシの木を倒し、みくるちゃん号は海上を再び進みだした。 「どうやら役者が揃ったみたいね」 ハルヒの予測で言えば、塔のあった島まで残り1分という所で不吉な呟きが聞こえてしまった。 こいつが何か言い出す時は予想の斜め上の出来事が待ってるんだ。だが、なんの対策を取る事もできないとわかっては いるがせめて心の準備はさせて欲しい。 なんのことだ? ハルヒの邪悪な笑顔を見た途端、最悪の想像通りだった事に気づいた俺は聞き返した事をに後悔した。 「ドラゴンがお待ちかねよ!」 そう言いながらハルヒが指差す先には、塔の姿とその前に居座る青龍の姿が見えていた。 ……やれやれ、戦闘回避は失敗に終わったか……。 「待ちわびたぞ人間、さあ俺の玉を返せ!」 青龍はご丁寧に俺達が全員上陸するのを待ってから話しかけてきた。 意外にいい奴じゃないか、今更だが悪いのは完全に俺たちなんだし戦うのは気がひけてくる。 「いやよ。それよりあんたクリスタルって持ってないの?この世界でクリスタルの話題がでないから困ってるのよ」 お前、人の宝物を盗んでおいてその態度はないだろう。 「何をふざけた事を……その宝玉こそがクリスタルの片割れだ。貴様などが持っていていい物ではない、さっさと返さねば 海の藻屑となってもらうぞ!」 「あ、これがクリスタルなんだ。じゃあますます返せないわね! 残りの片割れってのを渡しなさい! でなきゃ剥製にして 部室の入口に……いいわねそれ! 決定、あんた剥製にしてお持ち帰りにしてあげるわ!」 ……最早どっちが悪党なのかわからないとすら言えない、間違いなくこっちが悪党だ。 こいつに機械の体を手に入れる為に宇宙を旅した少年の動機を教えてやりたい。 いつもの笑顔でいる古泉といい、この会話に僅かも参加の意思を見せない長門もたまには反論しろよ。 俺達は悪党なんじゃなくて、そこの履歴書には「触らなくても危険」と書いてあるに違いないハルヒだけだと言ってやれ。 聞く耳は持ってないだろうがな。 ああ、朝比奈さんは下がっていてくださいね?危ないですから。俺が朝比奈さんをかばう位置に移動していると、 「やれるものならやってみるがいい!」 我慢の限界がきたらしく、大きく吼えて青龍はこちらにむかって突き進んできた。 すまんな青龍、俺達もこのゲームを終わらせなきゃいけないんだ。 何故かすまない気持ちでいっぱいになった俺は、しぶしぶと盾を構えた。 長門印の盾には慣性の法則を無視するかのような力があるのは前の世界で実証済みだ。 俺は青龍の突進をなんなく防ぐ事に成功する。 しかし、止めたはいいのだがこの盾はその後はただの壁でしかない。 何故突進が止まったのか不審に思った青龍が再び力を篭めると、あっさりと俺は突き飛ばされてしまった。 「頭部は傷つけちゃだめだからね!」 無茶な事を言いながらハルヒの青竜刀が青龍の腕をあっさりと切り離した。 グロテスクな光景が広がるかと思ったがそこはゲームらしい。 切り取られた腕は地面に落ちた後、霧のように消えてしまい傷口もそのままで出血する事はなかった。 古泉の赤い弾は青龍の肌に弾かれてしまい、殆どダメージが与えられないようだ。 仕方なく後退して、止めの指示を待つ長門の護衛に専念している。 「わ、わ、ごめんなさい~」 目をつぶったまま銃を乱射するというとんでもなく危険な行為を続ける朝比奈さんだが、弾は味方に当たる事無くまるで ビデオを逆に再生しているかのように青龍の体に浴びせられていった。 何気に一番ダメージを与えているのはこの人だったのではなかろうか。 「いいわよみくるちゃん! どんどんやっちゃって!」 ハルヒと朝比奈さんの猛攻に青龍は一方的に痛めつけられていく、なんというか……すまん。 結局、いいところ一切無しで青龍は動かなくなった。 長門によって青龍の遺体は消去してもらおうとすると、ハルヒはやはり抗議してきやがった。 どうしても青龍の頭部を持ち帰りたいらしい。 聞こうじゃないか、持ち帰るとして誰が運ぶんだ? ……いや、聞くまでもないから聞かないでおこう。 「生物ですから諦めましょう」 という古泉の説得にしぶしぶ諦めたようだ。ハルヒの中でゲームと現実が混ざり始めているような気がして怖いんだがな……。 「まあいいわ……後はなんだっけ、クリスタルの片割れを探すの?」 どうやらゲームを進める事に意識が向いてくれたらしい。 「地上に隠居している竜王が持っているという玉が怪しいですね」 また強盗か、できれば犯罪行為はハルヒ一人でお願いしたい所だ。 「あ、あの。探してるのってもしかしてこれでしょうか?」 そう言っておずおずと朝比奈さんが差し出したのは、青龍から強奪した赤い玉の色違いのような青い玉だった。 「みくるちゃんこれ、どこで見つけたの?」 ハルヒが青い玉を太陽に透かしたり、傾けたりして調べている。 「あのお爺さんがくれたんです」 ああ、例の向日葵の島の老人か。 「という事はあの老人が引退した竜王だった、という事ですね」 説明役が楽しくて仕方ないのか、古泉はご機嫌だ。 「へ~これとさっきの玉が揃えば……」 ハルヒがどう見てもただの球体にしか見えない二つの玉を合わせると、急に玉は溶けるように一つになって、そこには 前の世界と色違いのクリスタルが残っていた。 まるで海の様な青色のクリスタルが、ハルヒの手の上で太陽の光を受け輝いている。 「よ~しこの世界もクリア! 次行きましょ、次!」 高々とクリスタルを掲げて真夏を体言しているかのような笑顔のハルヒ。 それを見守るように微笑む古泉。 こっそりと俺に「しばらく上着を借りていてもいいですか?」と聞いてくる可愛い朝比奈さん。もちろんいいですよ。 読む本が無くなったのか何もしていない長門。お疲れさん、全部終わったら今度また図書館に連れて行ってやるからな。 全部ってのが何の全部なのかは俺にもわからんが。 こうして二つ目の世界をクリアした俺達は意気揚々と再び塔へと戻って行った。 やれやれ、残る世界は確か3つだったはずだったよな? 涼宮ハルヒの欲望 Ⅱ ~終わり~ 涼宮ハルヒの要望 Ⅲへ その他の作品
https://w.atwiki.jp/retrogamewiki/pages/8545.html
今日 - 合計 - アンジェリークスペシャルプレミアムBOXの攻略ページ 目次 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 名前 コメント 選択肢 投票 役に立った (0) 2012年10月09日 (火) 16時58分12秒 [部分編集] ページごとのメニューの編集はこちらの部分編集から行ってください [部分編集] 編集に関して