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love-setuna ベランダから部屋を覗くと、せつながベッドに倒れ込んでいた。 倒れた、と言うか、ベッドに腰掛けたまま上半身を横にしていた。 また、具合悪いんじゃないよね? 「……せつな、どうしたの?…って!?ちょっ!」 せつなの顔を覗き込もうとした瞬間、グイッと手を引かれて ベッドに引き倒された。 せつなが覆い被さってくる。 (………?) あたしに体重を掛けたまま、じっと動かない。 荒い息を抑えるように少し体を震わせている。 あたしの胸の上で押し付けられたせつなの鼓動が早鐘を打っているのに 気が付いた。 背中に腕を回し、寝返りを打って体を入れ換える。 心臓の動きに合わせて、微かに左乳房が揺れてる。 宥めるようにさすると、せつなが手の平を重ねてきた。 「………会ってきた。」 誰に、とは聞くまでもない。 余程緊張したのだろう。重ねられた手は冷たく湿っている。 体を起こして顔を見ると、泣き出す寸前の子供のような表情をしていた。 「……そっか…。」 前髪の生え際を撫で、おでこをくっつける。 せつなはギュッと目を閉じ、あたしの首に腕を絡める。 「………抱っこ、して…。」 涙の混じった声でそんな事を言う。 せつなの頭を抱えるようにして、今度はお互い向かい合って横になる。 腰を引き寄せ、ぴったりと体を密着させる。 せつなの動悸が治まるまで。 「……精一杯、頑張ってきたんだね…?」 髪を指で梳き、よしよしと背中をさする。 「せつな、いい子。」 「…いい子なんかじゃ、ないわ。」 泣かせてきたんだもの。 「……せつなはいい子。あたしの大事なお姫さま。」 ラブは唄うように囁く。 「せつなが何を言って、どんな事をしてもね。」 あやすように体を揺すり、額に、瞼に、頬に、口付ける。 「だーい好き、だよ?」 あたしとせつなの鼓動が緩やかに重なっていく。 まるで一つの心臓みたいに。 「……私も。」 ラブの中に溶けてゆきたい。 「それはダメ。」 「……どして?」 こんな風に抱き締められなくなるから。 「……せつなはね、幸せになるんだよ。今より、もっと、もっと。」 だからブッキー、戻ってきてね。 あたしもせつなも、あなたの笑顔を待ってるから。 miki-inori 祈里が訪ねて来た。 唇を引き結び、硬い 表情で。 泣きそうなのを我慢してる。それくらい分かる。 何年付き合ってると思ってるの? 「らしくない事、するもんじゃないわよ。」 しんどかったでしょ? 「……美希ちゃん……。」 ポンポン、と頭を叩くと祈里はアタシの膝に顔を埋めて泣きじゃくった。 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい………… ただ、それだけを繰り返す。 アタシにしか、言えないんだよね? ラブにも、せつなにも言葉での謝罪なんて意味がないから。 でも、言いたいのよね。ごめんなさいって。 だって、あなたが悪いんだもの。謝らなきゃ、苦しいわよね。 だから、アタシが聞いてあげる。 ラブの分まで。せつなの分まで。 「これで、お仕舞いにするから……。もう、泣かないから。」 本当は、もう泣かないでいられるって思ってたの。 だって散々泣いた後だったから。ダムが出来るんじゃないかってくらい。 でもね、また溜まっちゃったみたいなの。 美希ちゃんの顔みたら、我慢出来なくなっちゃったの。 祈里は、そう言ってまたアタシのスカートを涙で濡らす。 アタシは黙って祈里の柔らかい髪を撫で続けた。 「…美希ちゃん。次のダンスレッスンね、一緒に行ってくれる?」 「いいわよ。前の日に泊まりに来れば?」 一緒に寝て、朝一緒に出よう。 「美希ちゃん、美希ちゃん、美希ちゃん……」 ごめんなさい、の次はアタシの名前? 壊れたスピーカーみたいね。 でもね、泣くのはこれでお仕舞い、なんて言わなくていいわよ。 膝くらいいつでも貸してあげるしね。 その代わり、なんでも話さなきゃダメよ? あなたは思い詰めたら録な事にならないって、分かったんだから。 せつなが祈里にどんな魔法をかけたのか、それは聞かない。 でも、祈里は泣けるようになった。 それなら、次はきっと笑ってくれる。 震える小さな背中には、目に見えない大きな十字架。 あなたは背負って行く事に決めたのよね? アタシは代わってあげる事も、手を貸す事も出来ない。しちゃいけない。 だから、隣にいるからね。 いつでも、アタシの手を握っていいから。 clover 朝靄が立ち込める。吐く息が白くなり、冴えた空気が肺を充たす。 「行こっか!」 ラブはせつなに手を差し出す。 「うん。」 対するせつなはちょっと硬い顔。 ラブはせつなを抱き寄せ、グリグリと頬擦りする。 「ちょっ、ちょっと、ラブ!」 「タッハー!今日のせつなも可愛すぎ!」 せつなは顔赤くしてラブを押し退ける。 「もう!」 「にゃはは!さぁ、レッツゴー!だよ!」 二人は手を繋いで玄関を出る。 ……… …………… 「ブッキー、そろそろ行こ。」 「……うん……。」 祈里は顔を強張らせ、口の端をひくひくさせている。 ……ひょっとして、笑ってるつもりなんだろうか? 「きゃっ!何?美希ちゃん!」 美希はうりゃうりゃ!と祈里の頬を両手で押し潰す。 「表情筋のマッサージよ。何なら体も解そうか?」 「やっ!やはっ!やめてぇ!」 美希は祈里の脇腹をくすぐる。 ひーひーと身を捩り美希の指から祈里が逃げようとする。 「もぉう、涙出たよぉ!」 美希は笑顔で手を差し出す。祈里は美希の柔らかな手を、キュッと握った。 天使像の前に着く 。 ラブとせつながやって来るのが見えた。 「せつなちゃん、ラブちゃん、おはよう!」 祈里が手を振る。 ラブが白い歯を見せて、大きく手を振り返してくる せつなは微笑んで、胸の前で小さく手を上げる。 「今日はミユキさんも来てくれるんだよね?くっはー!楽しみ!」 「随分体なまっちゃったわ。ちゃんと踊れるかしら。」 「せつなは慣らす程度にしときなさいよ?病み上がりなんだから。」 「せつなちゃんなら、ちょっとやればすぐに追い付けると思う。」 四人で歩く。笑い合い、ふざけ合い、光の中を。 並んで、少し乱れたり、誰かが遅れたりしながら。 以前と変わらぬ風景。 でもそれぞれの中に、それぞれの傷。 深いもの、浅いもの、消える傷、残る傷。 胸に抱きながら歩いて行く。 いつか大人になって、それぞれの道に別れてしまう事になっても。 今、この一時を一緒に。 fin み-90は後日談となります。
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SOU氏が制作したオリキュアです。 プリキュア設定 チーム変身台詞 全員「プリキュア! ジュエルシャイニングアップ!」 変身アイテム キュアジュエルコンパクト キュアジュエル 戦闘スタイルや能力は、変身用とは別にあるスキル系ジュエルをキュアジュエルコンパクトにセットして装備することで能力が追加されたり、新たな武器を使用できるようになったりする。スキル系のジュエルは最大2つまで装備可能。また、変身用は使用者固定だが、スキル系は使用者の制約が無いため全てがどのメンバーでも使用可能。キュアジュエルコンパクトにはジュエルをセットするスロットが3つあり、1つは変身用、残り2つはスキル系ジュエルをセットするスロット 作品のあらすじ 異世界に存在する宝石の国・ジュエルピア。 今から約1000年前、ここでは大量に産出される宝石資源を奪い合う大規模な戦争があり、それを終結させるため、当時の錬金術師達団結してはキュアジュエルを作った。その力で人々は戦意を喪失し、戦争は終結、戦争によって発生した負のエネルギーはとある場所(=現在では流刑地になっている場所)に封印された。 そして、錬金術師達の女リーダーが初代女王となり、ジュエルピア王国が誕生。 それから時は流れ、現代、ジュエルピアの流刑地にある監獄から囚人達が脱獄。 彼らは1000年前の戦争で発生したマイナスエネルギーの封印された場所に偶然たどり着き、封印を解き、悪の軍団・マイナスを結成し、ジュエルピア本土を襲撃。ジュエリア女王の指揮の元、ジュエルピア兵団が戦い、勝利するが、兵団は相当な痛手を負い弱体化、マイナスメンバーは異世界に逃亡。 それから2年後、逃亡したどり着いた地球でマイナスはジュエルピアを滅ぼすため人々を苦しめてマイナスエネルギーを集める活動を開始。 弱体化した兵団では太刀打ちしきれない、そこで、ジュエリア女王は、初代ジュエルピア女王が死に際に残した「2つの世界に危機が迫りし時、12の誕生石の乙女の戦士・プリキュア現る」という予言に出てくるプリキュアを探すことに…。 登場人物 プリキュア 紅城みな/キュアルビー イメージCV 平野綾(涼宮ハルヒ) おてんばで少し気が強く、身勝手な奴を許しておけない正義感の強い性格の主人公。 宝石が大好きで、趣味はビーズアクセサリーを作ること(宝石の部分を天然石ビーズ、それ以外の部分をを普通のビーズで作る)。 両親は宝石店を経営していて、同店では天然石ビーズも扱っている。 将来の夢は宝石職人などと言った宝石関連の仕事に就くこと。 毛虫が大の苦手。 宝石に関する知識も豊富で、会話の中でも宝石用語や石言葉を多用するほか、「キラキラに~」「キラキラな~」なども口癖。 身長155cm 名乗りは『勇気と情熱の赤き宝石! キュアルビー!』 武器は「ルビースティック」 必殺技は「ルビーレーザー」(出力調節可能なレーザー光線) 勉強:D 運動:B 精神:S 器用:S スキル:ビーズアクセサリー作成・宝石に詳しい パワー:C ディフェンス:D スピード:C テクニック:A 戦闘タイプ:火力重視型 蒼沼なみ/キュアサファイア イメージCV 竹達彩奈 もう一人の主人公。みなの赤ん坊の頃からの幼なじみで、家も隣同士。 おっとりした性格。 宝石に限らず、キラキラしたものなら何でも好きで、自室では熱帯魚とニジイロクワガタを飼っていて、好物も寿司の光り物。そして自身の部屋のタンスにも玉虫の標本を入れている。 自身の母とみなの母は中学時代の同級生。宝石用語は多用しないが、みな同様、「キラキラに~」「キラキラな~」が口癖。 身長155cm 名乗りは『慈愛と誠実の青き宝石! キュアサファイア!』 武器は「サファイアスティック」 必殺技は「サファイアウォール」(防御だけでなく飛ばして相手にぶつけたり、空中に水平に張り、落として相手を押しつぶしたりすることで攻撃にも使用でき、同様に空中に水平に張って足場として使用可能。一度に出せるのは6枚まで。 勉強:C 運動:D 精神:S 器用:C スキル:生き物の飼育 パワー:C ディフェンス:S スピード:C テクニック:C 戦闘タイプ:防御重視型 翠が丘らん/キュアエメラルド イメージCV白石涼子 陽気で天然かつほぼ常にテンションの高い性格。 新体操をやっているため体は柔軟。 メンバーの中で一番小柄。 自身の身長が低いのを気にしていて、「チビ」とか「小さい」とか言われるのを嫌がっている。 兄が二人(20歳と高校2年生)いる。 身長143cm 名乗りは『希望と幸福の緑の宝石! キュアエメラルド!』 武器は「エメラルドリボン」 必殺技は「エメラルドスプラッシュ」(宝石状のエネルギー弾を打ち出す。「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」に登場する同名の技をモチーフとした。効果はほぼ同じ) 勉強:D 運動:S 精神:E 器用:S スキル:体が柔軟 パワー:E ディフェンス:D スピード:A テクニック:S 戦闘タイプ:トリッキー・アクロバティック型 黄原ねね/キュアトパーズ イメージCV豊崎愛生 みな達のクラスの委員長。 大人びており、真面目でしっかり者で慎重な性格。みな同様、正義感も強い。 弟と妹がいる(小学4年生の双子)。 メンバーの中で一番背が高い。 身長163㎝ 名乗りは『友情と潔白の黄色き宝石! キュアトパーズ!』 武器は「トパーズヨーヨー」 攻撃はトパーズヨーヨーを巨大化させて敵にぶつける。その威力は出力最大だと大地に15m級のクレーターを作るほど。 勉強:A 運動:A 精神:C 器用:A スキル:文武両道 パワー:S ディフェンス:A スピード:D テクニック:C 戦闘タイプ:パワー重視型 金沢せいら/キュアディアー イメージCV宍戸留美 穏やかでおとなしく、お淑やかな性格で無益な争いや暴力を好まないが、戦う勇気は十分にあるため、戦うことは問題ない。 家は喫茶店。 身長155㎝ 名乗りは『純潔と不屈の無色の宝石! キュアディアー!』 武器は「ダイヤレイピア」 必殺技は「ダイヤコーリングカッター」(エネルギーで作った刃のついたソーサーを投げる技。自分の意志で飛ぶ方向をコントロールできる) 勉強:B 運動:D 精神:A 器用:C スキル:コーヒー・ティーマスター パワー:E ディフェンス:A スピード:A テクニック:A 戦闘タイプ:斬撃・刺撃型 評価 S:誰にも負けない A:得意 B:やや得意 C:普通・平均レベル D:やや劣る E:劣る F:誰にも負けない(悪い意味で) 妖精 妖精は16世紀にスペイン人が南米で目撃したという額に赤い宝石状の器官を持つUMA・カーバンクルで、宝石の妖精です。 3匹がプリキュアのメインサポート役で3匹は兄妹。 語尾は全員「〜キラ」。名前は宝石用語に由来。 モースとカラットは双子ということでお互いを名前で呼びあっている設定。 モース イメージCV斉賀みつき 長男。カラットの双子の兄で、シャトーの年上の兄。 正義感と責任感が強い性格で、シャトーによく懐かれているカラットをうらやましがっている。 年齢は人間換算で14歳程度。 一人称は「僕」。 名前は宝石の硬さを示す「モース硬度」から。 ストーリー本編
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レス番号 作品名 作者 補足 み-658 【クローバーと恵方巻】 み-658 それぞれの恵方巻。語れない事が今、そこにはある…。わたし?黙秘しますw み-660 【美鬼誕生】 み-660 手作りの文章と絵があなたをお待ちしてます。鬼になった彼女はとてもキュート。 み-726 【ごめんなさいの向こう側】 み-726 酒-557 【えっちな美希たん】 酒-557 沈黙の完璧少女。脳内はあの子のアレでいっぱい、夢いっぱい。 新-339 【牛とあたし】 新-339 それってコトワザでしょー?え?あなどっちゃダメ?そんなこと言われたらその気になっちゃうじゃない。ヤだなぁ、もー…。 新-396 【ラブとパンクとサイクリング】 新-396 お嬢ちゃん、またパンク?しょうがないか。そのハートに、はちきれんばかりの愛が詰まっているんだもんねぇ…グハッ! 新-444 二人でしりとり 一六◆6/pMjwqUTk しりとり。初めての言葉遊び。自然と口をついて出る、互いの一番大切な言葉。人参のように赤く染まる二人が可愛いね。 新-867 『夢の中まで』 新-867 自分だけが知っているはずの彼女の甘い香り。それは、絶対に誰とも分かち合えない大切なもの。その相手が、たとえ夢の中の自分であっても。 新-993 鍵 新-993 18禁。身体と心を開く鍵は、互いに相手の手の中にある。信じよう。重ね合わせた二人の手に、全てを分かち合う幸せの鍵を、いつか掴むことを。 新2-044 「ゆうだち」 新2-044 ラブと喧嘩した。早く仲直りしたいのに、今日は登校も下校も別々で・・・。素直になれない二人に、あれ?これってもしかして・・・天からの使者? 新2-054 「不安定」 新2-054 ラブの帰宅が待ち遠しくて、でも帰ったら帰ったで・・・。具合が悪いと尚更に、乙女の心は浮き沈み。最後に保管庫限定のオマケが付いてます♪ 新2-059 「反転する心」 らさ◆hoKJ5iiyw6 「私の幸せ?」ベッドの上で一人巡らす想いは、いつしか「ラブの幸せ」へと。ラブのために私が出来ることって何?猪突猛進せっちゃん、登場! 新2-135 「夢で逢えたら」 新2-135 精一杯頑張って、ラブの部屋まで行ったのに。違うの、ラブ!そんなことじゃないんだってば。仕方ないわね。じゃあ今夜は一緒に、夢の中で・・・。 新2-173 『タルトは見た!?』 新2-173 女の子って、鏡の前にいる時間が長いんよなぁ。みんな何してるんやろ。どれどれ・・・わっ!アズキーナはん。そ、そないに怒らんでもええやん・・・ 新2-199 Trick or Treat! 一六◆6/pMjwqUTk ねえ、せつな。最高の料理ってなんだと思う? あたしね、味や好みも大事だけど、何より、「美味しい」って笑いあえる家族や友達がいることだと思うの。 新2-213 【感染〜あなたを感じて、あなたに染まる〜】 恵千果◆EeRc0idolE 普段はまともに見られない、眩しいあなたの笑顔。眠ってる今がチャンスと、わたしの中の悪魔が囁きかける。ラブちゃん・・・わたしが貰ってあげるからね。 新2-223 「現(うつつ)は夢よりも甘し」 ◆lg0Ts41PPY かつて悪夢は囁いた。現実とは、乾いた砂漠を独り進むようなものだと。でも今の甘やかな現実の前では、悪夢だって只の夢。そう、あなたが傍に居てくれるから。 新2-231 【ゲームの勝敗】 恵千果◆EeRc0idolE ねえ、せつな。こんなゲーム知ってる?近付きたいのに近付けない、触れ合いたいのに素直になれない、そんな二人の願いを叶える、素敵なゲームなんだよ。 新2-235 ポッキーゲーム 一六◆6/pMjwqUTk 新2-231を読んだスレ住人様の呟きに、職人が答えた一本。違うカップリングで、違うテイストのストーリーを。 新2-278 『カラオケ』 ねぎぼう みんなで歌うのって、楽しい。でも音楽に合わせるのって、難しい。普段は言えないようなことを歌詞で口にするのって、何だか…。せつな、ドキドキのカラオケ初体験!
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「あれ?タルト。どうしてそんなところにいるの?」 庭の隅で少年にもらったパンを食べていたタルトは、その聞き慣れた声に、ぱっと顔を上げた。生垣の向こうに、こちらを覗き込んでいる少女の姿が見える。 日はもうとっぷりと暮れている。だから服装まではよくわからないが、彼女の髪は、門灯の光で銀色に輝いている。そのことに少し胸を痛めながらも、その声の様子が朝と同じく穏やかなのに気付いて、タルトは密かに安堵のため息を付いた。 「パッションはん!無事で良かったなぁ。サウラーと戦ってる間、気になって物陰から見とったんや。」 「そうだったの。心配かけてごめんなさい。あのあと偶然、桃園家にお世話になることになって・・・この時代でも。」 タルトは門の隙間からちょろりと外に出ると、少し伏し目がちなせつなの顔を覗き込み、目を細くしてニコリと笑った。 「知っとるで。実は家まで付いて行ったんや。あ、でも、さすがにあゆみはんに見られたらあかんやろか、と思って、中には入らんかったけどな。なんや、中学生のあゆみはんって、エラいキュートやなぁ!わっ、別に、普段がキュートやないって言うとるわけやないで。」 タルトのいつも通りの語り口に、せつなも少し、頬を緩める。 源吉の畳が自分たちのせいで被害を受けたと知り、手伝いを申し出たせつなだったが、今日はもう遅いから、という理由で、作業場に入るのは明日ということになった。そこでせつなは、夕食の後、急いでタルトの様子を見にやって来たのだった。 「ところで、どうして庭なんかにいるの?あの子は?」 そう言って小首をかしげるせつなに、タルトは少し心配そうな顔で、屋敷の方を振り返った。 「それなんやけどな。あの子のお父さんっちゅう人が、さっき戻って来たんや。こーんなでっかい車に送られてなぁ。それでわいも遠慮して出て来たんやけど・・・なんやあの子の方は、微妙な雰囲気やったで。お父さんがやっと帰って来たっちゅうのに、嬉しそうな顔ひとつせぇへんのや。」 せつなは、父の話をしたときの、何だか妙に寂しげだった少年の様子を思い出し、眉根を寄せた。 桃源まで、東へ五分 ( 第3章:一生懸命ということ ) 「そうかぁ。マシンの部品が、何かなくなっとるんか・・・。」 頼りなげな街灯のともる公園のベンチで、タルトがぼそりとつぶやく。 「まぁ、まだマシンがこの時代にあるっちゅうのは、ありがたいことやけどなあ。ナケワメーケを倒したときに、どこか壊れたんやろか。」 「それはないわ。現にこの時代までちゃんと来てるんだし。壊れたとしたら、この時代へ来てからね。おそらく、トラックの上に落っこちたとき。」 「やっぱりあんときかい・・・だとしたら、あの現場の近くにあると考えるんが普通やな。探しに行こか、パッションはん。」 タルトの言葉が、勢いを取り戻す。が、せつなはうつむいて、膝の上に重ねた自分の手をじっと見つめた。 「私・・・明日は源吉おじいさまのお手伝いをしたいの。私たちがこの時代に現れて、トラックの積み荷を滅茶苦茶にしちゃったでしょ?あれは、源吉おじいさまの畳だったのよ。」 「何やて?」 驚くタルトに、せつなは今日あゆみに聞いた一部始終を説明する。 「そうかぁ。そういうことなら、パッションはんはそっちを手伝ってや。探し物は、わい一人で何とかやってみるわ。」 「大丈夫?タルト。」 「任せときい!わいも、あんさんは源吉はんの手伝いをした方が、ええと思うわ。ひょっとしたら・・・」 「ひょっとしたら・・・なに?」 せつなが不思議そうに尋ねると、タルトはハッとしたように口をつぐんで、慌ててかぶりを振った。 「な、何でもないんや。とにかく、明日はそれぞれのやるべきことを、精一杯がんばるで!」 「タルトったら。どうしてそこで、私の台詞を取っちゃうわけ?」 クスリと笑ったせつなに、自分もにんまりと笑みを返しながら、タルトは心の中で呟く。 (ひょっとしたら、わいらがこの時代の歴史と関わってしまったことって、そのことなのかもしれへん。パッションはん、頼んだで。あんさんのその“精一杯”で、歴史の歪みを、元に戻してや。) 「よぉし、明日は張り切って、宝探しやぁ!」 タルトが思い切り拳を振り上げた時。暗がりから何かが近づいてくる気配を感じて、せつなが身構える。と、そこへ・・・。 「タルト、こんなところに居たのかぁ。宝探しって、何?」 ひょっこりと現れた少年の思わぬ言葉に、せつなは目を白黒させた。 (えーっと・・・これは、どういう未来の技術ってことにすればいいのかしら。) 必死で言い訳を考えるせつなに、 「おねえちゃん、お帰り。何かヒントになるもの、見つかった?マシンを暴走させた危ないヤツ、まだこの時代に居たの?」 少年が相変わらず、無邪気に質問を浴びせる。 「ちょ、ちょっとごめん!」 せつなは少年の言葉を遮ると、タルトの襟首を掴んで、脱兎のごとく少年のそばから離れた。 「タルト!一体どういうことよ。」 「す、すんまへん。わい、あの子の前でうっかりしゃべってしもたんや。家の中で、しばらく二人きりでテレビ見とったら、急に当たり前みたいな顔で話しかけてこられて・・・つい油断してな~。」 「全くもう・・・」 深いため息をつくせつなに、タルトも肩をすぼめる。 「せやけど、あの子あんまり驚かへんかったで。へぇ、やっぱりしゃべれるんだ、って喜んどったわ。」 「今朝、声が聞こえたとか言っていたから、ひょっとしたらと思っていたのかもね。まさか、正体まで明かしてないでしょうね。」 「そんなことしてへん!まぁ・・・イタチやないとは言うたけどな。この時代では、フェレットっちゅう動物は、あんまりメジャーやないんやな。」 「そこはどうでもいいんだけど・・・あの子にちゃんと口止めはしたの?」 「もちろんや。」 うなだれるタルトを前に、せつなはもう一度ため息をつくと、厳しい目でタルトの顔を覗き込んだ。 「いい?しゃべってしまったものは仕方ないけど、くれぐれも、あの子に余計なこと言わないで。私たちの時代のことを教えるなんて、論外よ。」 「わかっとるがな。」 「それから、私たちのこともむやみにしゃべらないで。私たちは、いずれは未来へ帰っていく通りすがり。それだけの存在でいなくちゃ。」 「う・・・自分の名前だけは、言ってもうたわ。」 「そう言えばさっき、呼ばれてたわね。全く・・・」 「えろうすんまへん。」 ひたすら小さく身を縮めるタルトの様子に、せつなはやれやれ、といった調子で、やっと少し表情を緩めた。 元居たベンチのところへ戻ってみると、少年はベンチに座って、長く伸びる街灯の影を、じっと見つめていた。そして二人がやって来たのに気付くと、ぽんとベンチから立ち上がり、せつなに向かってニヤッと笑って見せた。 「ごめんなさいね。タルトがあなたにしゃべったって聞いたから、びっくりしちゃって。」 「ああ、心配しないで。俺、タルトのこと誰かにしゃべったりしないからさ。それより、宝探しって何?」 せつなは少し考えてから、タイムマシンの部品が何か無くなっているらしいこと、この時代に最初に現れた橋の上を探してみようかと考えていたことを、かいつまんで話した。 「その部品って、どんな部品なの?」 「わからないわ。私はマシンの構造には詳しくないから。とにかく探してみるしかないと思う。」 「もしも見つかったら、どうするの?今マシンを持っているのは、その危ないヤツなんだろ?」 「まずは見つけることができたらの話だから、それから作戦を練るしかないわね。」 サウラーとの交渉――確かに一筋縄ではいかないだろうが、まずは一歩一歩足場を固めるしかないだろうと、せつなは思っていた。 それに、ただ元の時代に戻るだけでは駄目なのだ。もうひとつ、未来を元に戻すという、大きな仕事を成し遂げなければ。それこそ何の手掛かりもない、雲を掴むような話だが、こちらもとにかく、今出来ることをやるしかない。 「ふぅん・・・。」 そう言ったまま、なんとなく押し黙ってしまった少年の様子に、せつなは少し違和感を覚える。が、さっきのタルトの言葉を思い出して、ああ、と密かに頷いた。 「そう言えば、タルトに聞いたけど、お父さん帰って来たんだって?早く家に戻らなくていいの?」 せつなが優しい口調でそう問いかけると、 「別に・・・。俺が居ても居なくても、父さんは気にしやしないよ。」 少年のそっけない答えが返って来た。 「そんなこと無い。子供を気にしない親なんて、この世界には居ないと思うわ。」 思わず身を乗り出したせつなに、少年は今朝初めて会ったときの、ちょっと背伸びしたような表情を見せた。 「大丈夫だよ。俺だって小さなガキじゃないんだ。父さんには心配かけないように、うまくやってるからさ。」 さてこの話はもうおしまい、と言いたげな少年の様子に、せつなは密かに唇を噛む。 (そういうことじゃないんだけど・・・。) 何だろう。伝えたいことは確かにあるのに、うまく伝えられない。少年の心が、自分の心のすぐ近くにある気がするのに、すんなりと寄り添えない・・・。 せつなは、再びタルトを預かって家に帰っていく少年の後ろ姿を、もどかしい気持ちで見つめることしか出来なかった。 表に傷の付いた畳を作業台の上に据え付け、縁を留め付けた糸を手早く切っていく。縁を外し、畳表を丁寧に剥がすと、傷の無い床の部分を源吉の作業台のそばに立てかける。 迷いの無いその手元を、源吉はさっきから鋭い目で見つめていた。 (不思議な子だ・・・。) 最初は、畳を見るのすら初めてなのかと思えるほど、おっかなびっくり畳に触っていた彼女。だが、ひとたび作業の手順を教えると、その手つきは見る見るうちに確かなものへと変わっていった。 源吉は、これまで弟子を取ったことはない。仕事の仕方を人に教えたこともないし、自分だって、懇切丁寧に説明されて仕事を覚えたわけではない。 習うより慣れろ。技は見て盗め――徒弟制度の昔ながらの厳しい修行のやり方。それを知っているかのように、少女は真剣な面持ちで源吉の言葉足らずな説明を聞き、その指先を見つめて、いとも簡単にコツを掴んでしまう。 (記憶がねえと聞いているが・・・。) 一体今まで、どんな人生を歩んで来た子なのだろうと、源吉は内心舌を巻いていた。 せつなは、ただ無心で畳と向き合っていた。 まっすぐ丁寧に縫い込まれた糸にスッと刃を当て、縁と畳表を取り外す。職人の手で心を込めて作られた畳が、傷付けられた箇所を取り払われ、再び命が吹き込まれるのを待つ。 源吉は、せつなに言葉少なく指示を与えるだけで、ほとんど口をきかず、ただ黙々と手を動かしている。 夏だというのに、ひんやりと涼しい板の間。鼻をくすぐる爽やかないぐさの匂い。作業の物音しか聞こえない、しんと静まり返った空間――。 無駄口を叩かず、無駄な動きをせず、作業を効率的に進めていく様は、ラビリンスで何度も見たことがある。いや、ラビリンスの職場という職場が、そのような様相を呈していると言っても、過言ではない。 しかし、同じ静かな職場でも、この場の持つ雰囲気は、そんな無味乾燥なものとは正反対と言っていい。 作業場の至るところに、材料や道具の全てに、そして扱われている畳の全てに、源吉のあたたかな目配りが感じられる。源吉が作業場の全てのものを慈しみ、大切にしている様子が伝わってくる。 ここは単なる作業場ではなく、源吉にとっては聖域。自分のありったけの技と心を、畳に送り込む場所なのだ。それを肌で感じながら、そんな場所でお手伝いをさせてもらっていることを、せつなは心からありがたく、恐れ多いとさえ思った。 朝から懸命に作業を進めて来た甲斐があってか、あんなに山積みにされていた畳の解体作業も、夕方には全て完了した。あと残っているのは畳表や縁を縫いつける作業なので、さすがにそれは、せつなには手伝えない。 「いやぁ、お前さんに手伝ってもらって、本当に助かった。先方の希望には到底間に合わねえと諦めていたんだけどよ。お陰で何とかなりそうだ。ありがとうな。もうここはいいから、ゆっくりしてくれ。」 源吉は畳を縫う手を休めずにそう言うと、せつなに穏やかに笑いかけた。 「・・・もう少しだけ、ここに居てはいけませんか?」 せつなが遠慮がちに問いかける。 「そりゃ構わねえが・・・もう手伝ってもらうことは、特にねえぞ。」 「もし良かったら、ここでおじい・・・おじさまのお仕事を、少し見ていたいんですけど。」 「ああ、そりゃあもちろん構わねえよ。」 せつなは源吉の作業台の向こう側に、膝を抱えて座り込む。そして、源吉が畳を縫い上げていく力強い手さばきを、一心に見つめ始めた。 実はそれから十年と少し先。源吉の孫娘に生まれた幼いラブが、今のせつなと同じ場所に同じ格好で座り込み、目をキラキラさせながら源吉の仕事ぶりを眺めることになるのだが・・・せつなも源吉も、今はもちろん、そんなことは知らない。 「なんだかねぇ・・・。」 あゆみはテーブルに頬杖をついて、ぼんやりと宙を眺めていた。 目の前には数学の問題集。夏休みの宿題だ。しかし、開かれたページは真っ白で、さっきからちっともはかどっていない。 「あゆみ。今度は何?」 向かいの席に座って問題を解いていた尚子が、そのつぶやきを聞いて、顔を上げた。 「おじさんの畳は、何とか目処がつきそうなんでしょ?昨日のあの子がおじさんのお手伝いをしてくれてるって・・・」 「うん。とっても器用みたいで、お父さんも助かってるって。」 そう言ってまた、はぁっとため息。 あゆみの隣りで、問題集ならず爪を整えるのに夢中になっていたレミは、ひょいと首をすくめて、尚子と目を合わせた。 ここはレミの家のダイニング。このところ、三人は毎日のようにレミの家に集まっては、一緒に宿題をしたり、連れ立って遊びに出かけたりしていた。 これだけいつも一緒にいるのだ。ただでさえわかりやすいあゆみの気持ちは、レミと尚子の二人には、なんとなくわかる。 (ひょっとして今度は・・・あの「Kちゃん」のこと?) 「Kちゃん」とは、昨日あゆみたち三人を助けてくれた少女のことを指す、三人の間だけの呼び名だった。彼女が落としていった野球帽の内側に、マジックで「K.T」とイニシャルが書いてあるのをレミが見つけて、誰ともなしにそう呼び始めたのだ。帽子の方はあゆみが預かっていて、後で本人に渡そうと思っていた。 「もしかして、Kちゃんのことが気になるの?」 尚子の問いに、あゆみは素直に頷いた。 「うん。やっぱり彼女、なんだか寂しそうなのよね。」 「まあ、記憶が無いって言うんじゃあ、色々と不安に思うのも無理ないわよぉ。」 レミはそう言ってから、心なしか声のトーンを落としてこう続ける。 「ねえ、Kちゃんの髪・・・あれってやっぱり、何か相当苦労したとか、恐い目に遭ってああなったのかしら。ほら、よく聞くじゃない?とっても恐ろしい思いをした人が、一晩で白髪になっちゃうことがあるって話。」 「でも、あの髪はどう見たって白髪じゃなくて、銀色よ。レミちゃんの蒼い髪と一緒で、生まれつきなんじゃないの?」 あゆみが口を尖らせる。 「生まれつきって・・・あんな髪の色、見たことある?」 「確かに珍しいけど、居ないわけじゃないんじゃないの?現に、Kちゃんがそうなんだから。」 尚子が問題を解く手を休めもせずに、あっさりと言い放つ。 「尚子、それって理論的なようで、理論的で無いような・・・」 「レミに言われたくないわよ。」 何がそんなに問題なの?と言いたげな尚子の口調に、レミもしぶしぶといった調子で押し黙った。 「それより、あゆみ。寂しそうだと思うんなら、話をするなり、遊びに連れ出すなりすればいいじゃない。」 一段落ついたのか、尚子がカタンとシャーペンを置いて、うーん、と伸びをしてから言った。 「そうなんだけど・・・。なんか、深入りして欲しくないっていうか、出来れば放っておいて欲しいっていうか、そんな雰囲気を感じるのよね。」 「クスッ。フフッ、ハハハ・・・。」 「・・・尚ちゃん?何がおかしいの?」 突然笑い出した尚子に、あゆみが怪訝そうな、少し不機嫌そうな声で問いかける。尚子は微笑を浮かべたまま、いたずらっぽい目つきで、そんなあゆみを見返した。 「だって、あんまりあゆみらしくないこと言うんだもの。あの頃私に、あんなに親身におせっかいを焼いてくれた、あなたとはとても思えない。」 言われてあゆみは思い出す。あれは、中学一年生の三学期。四つ葉中学校に転校してきた尚子が、一月も経たないうちに、クラスから少々浮いた存在になってしまった頃のことを。 見た目の女の子らしい可愛らしさとは裏腹に、理路整然とした理屈を、ストレートに口にする論客。そのギャップがいけなかったのか、まだ親しい友人も出来ないうちに、級友たちの大半が、彼女を遠巻きにするようになっていった。 尚子自身、そういった状況を、あまり悲観的には受け止めていなかった。元々彼女の家は転勤家族で、尚子も小学校を四回替わっている。だから、学校ではやりたいことをやり、言いたいことを言い、またすぐ別れてしまう級友たちには何の期待もしない・・・そんな処世術を、彼女はいつの間にか身につけてしまったのだ。 別にいじめられるわけではない。誰も話しかけてこなくても、休み時間には教室で本を読んでいればいい――そう思っていた尚子だったが、あゆみだけは、他の級友たちとは違った。 いくらつっけんどんな言葉を浴びせても、そっけない態度を取っても、休み時間の度に、ニコニコと話しかけてくる。一緒にお昼を食べようと誘いに来る。彼女につられて、幼なじみだというレミまでも、尚子の元に頻繁にやってくるようになった。 そして決定的だったのが、ある雨の日の放課後。学校帰りの空き地で怪我をしている子猫を見つけ、どうしたらいいかとうろたえていた尚子と一緒に、あゆみは寒空の下、動物病院を探して駆け回ってくれた。結局、商店街から少し奥まったところにある山吹動物病院を見つけて、子猫は一命をとりとめた。 その日から、あゆみと尚子は、本当の意味での友達になった。今ではレミも含めた三人がいつも一緒にいるのは、級友たちにとっても、ごく当たり前の光景だ。 「私ね、あゆみ。」 真面目な表情に戻った尚子は、じっとあゆみの目を見つめて言った。 「あの頃、あゆみやレミが話しかけてくれても、無愛想な返事しかできなかったけど、本当は凄く嬉しかったのよ。放っておいてなんて口では言っても、独りっていうのは、やっぱり寂しいから・・・。何か事情があるのかもしれないけど、あの子も本当は、独りでいたくはないんじゃないかな。」 尚子の目を見つめ返すあゆみの顔に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。 「あ~あ、珍しく尚子が素直だから、喉渇いちゃったぁ。二人とも、麦茶飲むわよね?」 レミがガタンと乱暴に椅子を引いて立ち上がり、二人から顔をそむけて、冷蔵庫へ向かう。きっと、その目にうっすらと光る涙を隠しているんだろうなと、あゆみは尚子と顔を見合わせて、クスクスと笑った。 「よぉし、今日の分はこれで終いだ。」 源吉が、出来たばかりの畳の縁を、そっと手でしごく。源吉の手元をずっと見つめ続けていたせつなは、その声にほぉっと息を吐き出して、肩の力を抜いた。 「ずいぶん熱心に見ていたな。畳作りは、面白いかい?」 「ええ。本当に一針一針、大事に作られているんですね。」 せつなに素直に頷かれて、源吉はとても嬉しそうに相好を崩した。 「そうとも。一針一針、ちゃあんと愛情を込めて一生懸命作りゃあ、使ってくれる人にも、想いが伝わるってもんだ。それに、お天道様にもな。」 「お天道様?」 不思議そうな顔をするせつなに、源吉は静かに頷く。 「何事もな。目立たなくったって、上手くいかなくったって、諦めずに頑張ってさえいりゃあ、お天道様は必ず見ていて下さる。今度のことだって、俺はもう駄目かと諦めかけたけどよ。そんなときに、お前さんという強力な助っ人が現れた。やっぱり、俺が毎日真心込めて畳を作っているのを、お天道様はちゃあんと見ていて下さったんだなぁと、そう思った。」 「い、いや、私は別に、お天道様とは何の関係も・・・」 「はぁっはっはっ!」 源吉は豪快な笑い声を上げると、うろたえて赤くなったせつなの顔を、優しく覗き込んだ。 「人と人との巡り合わせってことを言ってるのさ。俺にとっちゃあ、お前さんとの出会いは、まさに天の助けだったんだ。今までコツコツ頑張って来たご褒美に、お天道様が助けて下さったんだって、俺は思ってる。」 「私が・・・おじさまにとって?でも、私は・・・」 眉を曇らせてうつむいたせつなは、しばらく逡巡した後、意を決したように口を開いた。 「私はきっと、そんな褒められるような人間じゃないんです。お天道様に罰を当てられても仕方の無いような・・・。だから、私との出会いなんて・・・」 「本当に悪い人間はな。そんな風に、悩んだり苦しんだりしねえよ。」 低く深みのある声が、頭の上からやわらかく降ってきて、せつなは思わず顔を上げた。源吉の、あゆみに似た優しい鳶色の瞳が、目の前にあった。 「悩んで、苦しんで、それでも前へ進もうとあがくのが、真っ当に生きてくってことだ。そんな人間に、お天道様は罰なんか当てたりしねえ。むしろ、みんなが顔を上げて歩けるように、あったけえ光で照らして下さる。そのお陰で、俺たちは気が付きゃほんの少し、前へ進めてるんだ。だから、そんな風に思わなくていい。俺にとっちゃお前さんは、紛れもねえ、天の助けさ。」 「・・・・・・。」 嬉しさなのか、哀しさなのか、恥ずかしさなのか・・・自分でもよくわからない熱い塊が胸にこみ上げて、せつなは耳まで真っ赤になってうつむいた。源吉は、そんなせつなの様子を愛おしそうに見つめると、ぽんぽんと二回その頭を軽く叩いて、よっこらしょ、と立ち上がった。 「夕飯まで、まだ間があるだろう。後は片付けだけだから、家に戻ってな。」 「片付けなら、私も一緒に・・・」 そう言いかけたとき。作業場の引き戸の隙間から、そっと手招きしている小さな動物のような手が、せつなの目に飛び込んできた。 「パッションはん。大変やぁ!」 せつなが作業場から出てくるのを待ち構えて、タルトが慌てふためいた様子で駆け寄って来た。 「落ち着いて、タルト。ここじゃまずいわ。こっちに来て。」 人目につかない家の裏手にまわって、何があったのか、せつなは改めてタルトに説明を求める。 「今日は一日、あの橋の上やら周りやらで、マシンの部品を探しとったんや。そしたらさっき、サウラーが現れてな。」 「サウラーが!?タルト、見つかったの?」 「いや。わいはそのとき河原におったんで、向こうは気付かへんかったはずや。そのまま隠れてやり過ごそうって思ってたら、あの男の子がやって来たんや。 あの子はサウラーにすたすた近付いていって、何やら二人で話しとった。そのとき・・・あの子がなんか、小さな光るものを手に持っとったんや。」 「それって・・・まさか!」 驚きに目を見開くせつなに、タルトは力強く頷いて、はっきりとした口調で言った。 「タイムマシンの・・・部品やと思うわ。」 昨夜の公園で、少年に感じた違和感を、せつなは鮮明に思い出していた。あのとき、彼はもうマシンの部品を手に入れていたのかもしれない。もしかしたら、昨日の朝初めて会ったときには、そうとは知らず、あの河原で部品を拾った後だったのかもしれない。 (それを・・・私たちに黙っていたということは・・・) 「タルト!二人はその後、どうしたの!?」 「・・・街外れの、森の方へ歩いて行ったわ。」 聞くが早いか、せつなは全速力で走り出した。 「あら?あれ、Kちゃんじゃないのぉ?」 レミの家の前で帰宅の途につこうとしていたあゆみは、レミにそう言われて、慌てて後ろを振り返った。 道路の向こう側を、飛ぶように駆けていく少女が見える。 軽やかな足の運び。力強い意志を感じさせる、煌めくような瞳。夕陽を浴びて、銀色というよりはむしろ、金色に輝く髪・・・。 しなやかな獣のような美しいその姿にしばし見とれていたあゆみは、ハッとしたように、その後を追って走り出した。 「ちょっと、あゆみ!どこに行くのよ。」 尚子が慌ててその後を追う。 「えーっ!?ちょっとあなたたち。追いつこうなんて無理だってばぁ!」 レミの悲鳴を聞きながら、あゆみは次第に遠ざかっていく少女の背中を、懸命に追いかけていた。 せつなは、焦る気持ちを必死に押さえながら、日の暮れかかった商店街をひた走っていた。足元には、タルトがしっかり、彼女のペースに付いてきている。 何かとてつもなく、嫌な予感がする。少年の大人びて見える寂しげな瞳と、サウラーの氷のような瞳が、頭の中でぐるぐると回っている。 (間に合って・・・。今度こそ、あなたに伝えたいことを、精一杯伝えてみせるから!) 目指すは街外れに広がる森――この時代から二十五年後に、占い館と呼ばれる古い洋館が出現する、昼なお暗い、森の中だった。 ~第3章・終~ 新-859へ
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140文字SS:トロピカル~ジュ!プリキュア【1】(10話保管) 140文字SS:トロピカル~ジュ!プリキュア【2】(10話保管) 140文字SS:トロピカル~ジュ!プリキュア【3】(10話保管) 140文字SS:トロピカル~ジュ!プリキュア【4】
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レス番号 作品名 作者 補足 新-625 『クリスマスに愛を込めて(前編)』 夏希◆JIBDaXNP.g せつなにとって初めてのクリスマスパーティに、新たな一人と一匹が加わることに。張り切って準備が進む中、なかなか現れない彼らに、せつなたちは…。 新-634 ホワイト・クリスマス ~ Five years after ~ 一六◆6/pMjwqUTk あれから5年。クリスマスイブの夜に、ベランダで空を見上げる二人。大切な思い出が、雪とともに舞い降りる。聖なる夜に未来を誓う。あなたと一緒に、ここで生きていこうと。 新-637 頑張るせつな ◆w7CHx16PAo 一歩一歩、進み始めるラビリンス。未来を考え始めた人々。それぞれの持ち味を発揮する同僚たち。クリスマスが近づく中、時を旅するせつなの物想いは、いつしか幸せの予感に満ちて・・・。 新-640 【長い夜】 恵千果◆EeRc0idolE あなたに照れてみせるのは、喜びを隠せないから。あなたを抱きしめるのは、永遠に傍に居たいから。しずけき聖夜に、とも綱を解かれた小舟は、今、星降る海原へと漕ぎ出して・・・。 新-644 『クリスマスに愛を込めて(後編)』 夏希◆JIBDaXNP.g 信じること、祈ることの確かな力。強くやさしいサンタクロースたちとの出会いに、少女は自分もまた、その仲間であることを知る。そのとき、聖夜の空に奇跡が舞い降りる! 新-652 【SantaClaus is comin to town】 れいん もうすぐ楽しいクリスマス!でも受験生のラブにはおあずけで。仲間たちは「お利口にしてたらサンタが来るよ」と励ますのだが・・・。クローバーらしい日常譚、ご堪能あれ! 新-660 巡る季節と少女達~ピーチとパッションのサンタクロース大作戦~ 一路◆51rtpjrRzY 寝ぼけ眼の子供たちへ。どんより疲れた大人たちへ。そして二人の世界の恋人たちの間にまで、彼女たちは現れる!幸せゲットの名のもとに、ピーチ&パッションサンタ、ここに見参! 新-670 星に願いを ~ Small Christmas trees ~ 一六◆6/pMjwqUTk さびしい思い出も、あたたかな思い出も、全てを呑み込んでトップスターは輝きを放つ。今はアンバランスでも、いつかこの星に見合う自分になれると信じて。 新-679 サンタさんの世界 嶋 クリスマスはアカルンを使って楽しい場所で過ごしたい。ラブの願いでやってきたのは、サンタクロースの住む世界。たった一人でプレゼントを配るサンタに、四人は手伝いを申し出て…。 新-683 Merry Merry Christmas 一六◆6/pMjwqUTk それぞれの人、それぞれのクリスマス。一人一人の幸せが違うように、クリスマスの意味は色々だった。あゆみのアドバイスのもと、せつなが聖夜にかけた祈りは? 新-686 『かれんだーぼいす番外編~クリスマススペシャル~』 夏希◆JIBDaXNP.g 回覧板から始まる、幸せな日々のコネタのスペシャルバージョン!ツリーの飾り付けにクリスマスパーティ。ゲームにディナーにプレゼント!そしてクリスマスの素敵なフィナーレは? 新-689 【少女たちのシュガーな夜(前編)】 猫塚 鶉 彼女の笑顔に癒されて・・・そしてその「まろみ」が気になって。イブの夜、真逆の悩みを抱えた幼馴染とのじゃれ合いは、やがてためらいがちに、愛撫する者とされる者へと・・・。 新-698 「Peep」 ◆BVjx9JFTno 18禁。覗くつもりはなかった。でも目にしたら動けなくなった。親友二人の、体と体の熱を帯びた語らい。その熱はアタシの体をも溶かし、そして・・・。 新-711 「あなたのために 前編」 ◆lg0Ts41PPY せつなが帰ってくる。会いたくて会いたくて堪らなかった日々がやっと報われる。でもクリスマスは家族で過ごすと決めたから・・・。二人の切な過ぎる、ラブストーリー。 新-721 幸運の子犬 ~ Family Christmas ~ 一六◆6/pMjwqUTk 動物の可愛さも優しさも、弱さや悲しささえも知り尽くしている少女。彼女の口数が少ないのは、動物の声を聴き取るためかもしれませんね。 新-727 「あなたのために 後編」 ◆lg0Ts41PPY 家族四人の時を過ごした翌日は、クローバー四人の時間。美希と祈里に導かれて、ラブとせつなが辿り着いた場所とは・・・。愛と友情のフィナーレは、新たな幕開けへと。 新-745 【少女たちのシュガーな夜(後編)】 猫塚 鶉 美希の愛撫で知る初めての甘い疼き。羞恥に身を震わす祈里に、ある覚悟を決めた美希は。ほどける寸前の角砂糖のような、真っ白で甘い甘い少女たちの聖夜の物語。 新-757 イルミネーション 新-757 クリスマスイルミネーション。街中に溢れる幸せの色。この場所でそれを眺めるあなたと私の間にも、幸せは満ちていて・・・。二人の夜に、メリー・クリスマス! メ-001 「特別なクリスマスプレゼント」 SABI 18禁。「山のあなた(競-153)」のラブ視点。震えるあなたの姿はひどく儚げで。どこかに消えてしまいそうで。どうしても繋ぎ止めたくて、あたしは・・・。 新-770 「あなただけに我が儘を 前編」 ◆lg0Ts41PPY 18禁。「あなたのために(新-727)」続編。火花のようないつもの逢瀬とは違う二人の時間。埋み火に焙られ続けた情欲は、野性となってラブの瞳に宿り・・・。 新-801 「あなただけに我が儘を 後編」 ◆lg0Ts41PPY 18禁。せつなの全てを、味わい尽くしたい。ラブの全てを、この体に刻みたい。激しい求め合いの後、せつなが遠慮がちに切り出した、可愛くも切ない、ラブへのお願いとは。
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暗い 怖い 誰か助けて……! 「っ……」 悲痛な嘆きに応える者はない。 だってそれは夢だから。 美希はのろのろと冷たいコンクリートの床から起き上がった。 薄暗い中正確に手を伸ばしてペットボトルを掴む。何の気まぐれか、イースが昨日置いていったものだ。 喉を潤すと、少しだけ気分も晴れるようだった。 (夢まで犯されるとか……) 夢の中に光はなかった。 ズキズキと痛む下腹部をさすりながら、壁にもたれかかる。今日はいつもより長く寝ていたかもしれない。 ここに時計はない。地下で外の様子を窺うこともできない。だからここにいるとき美希にとって時間というものはないに等しい。 唯一時間がわかるのはイースに連れられ上に行ったとき。 そのとき初めて、美希は一日を感じることができる。 太陽にさらされない肌は日増しに白く透明度を増す。 美希が見ることのできたのは、殆どが月だった。 コツ コツ……コツ…… 酷くゆっくりで、不規則な音だった。 コツ …………コツ 「おはよう。目覚めはいかが?」 朱い瞳を見た瞬間、美希は顔をしかめ俯く。それに怒るわけでもなく、イースは牢屋に一歩近づき彼女を見下ろした。 「何?自分の血の色でも思い出した?」 「うるさい……」 消え入りそうな声で美希が応える。 暫く美希を見下ろしていたイースは、かちゃりと鍵を開けた。 行くわよ と、ただ一言声をかける。 無言で美希は立ち上がった。 大きなベッドと少ない家具。 全く生活感のない部屋で唯一色を持っているのは、イースだけだった。 美希が床に座りベッドにもたれ掛かる。イースはベッドの上に寝転がり美希の髪を梳いたり、引っ張ったりといつもと違いぼーっとしているようだった。 「いたっ」 「ねぇ……」 ぐっと強めにイースが髪を引っ張った。美希は髪が絡まないようゆっくりと後ろを向く。 「純潔を女に奪われるってどんな気分?」 かぁっと美希の頬が朱くなる。昨日の事がフラッシュバックのように頭に過ぎった。 血に濡れたイースの細い指。 暗く微笑む彼女の瞳はきっと忘れることはない。 「大事なことなんでしょう?」 「……だから?」 上がって 甘えるような声に美希はとまどった。機嫌がいいのか何か企んでいるのか、イースは美希を自分の上に跨がらせる。 「占いは好き?」 「?……普通」 「へぇ、まぁそれぐらいが調度いいのかもね」 一つ美希のシャツのボタンを外す。 「最近毎日のように同じ女がお客で来ててね」 プチッ 二つ目を外す。 「この先の恋愛を占って欲しいって。分厚い眼鏡をかけてる暗そうな人。今付き合っている人と結婚してもいいのかって。相手がセックスを求めてくるけど結婚する人に純潔を捧げたいって」 プチッ 三つ目を外す。 「私は結婚すべき人じゃないって言ったの。でもね、結局彼女聞き入れなくて、やり逃げされたって泣いてきたわ。みっともなく鼻水たらして。ねぇ、私の占い信じる?」 「……半分」 「半分?」 探るような目つきでイースは笑う。イースにあまり体重をかけないように注意し、居心地の悪い思いをしながら美希は続ける。 「科学の発展してるラビリンスにいるあなたが占いを信じてるとは思えないし。水晶からオーラとか、何かが見えるような力もないと思う。でも、人を見る才能は優れてる気がする。見るっていうより観察する……かな」 「ふふっ」 ブチブチッ イースは残りのシャツのボタンを全て引きちぎった。 「それで?」 「あなたはその人が占いには来ているけど他人の言葉に耳を貸さないことに気づいた。だから自分に有益な情報を与えた。もし外れても彼女が結婚して幸せになれば、占いなんて信じないで終わるだけ。でも結婚できると言って外れたら、占いのせいにされるかもしれないから。商売がしにくくなるし」 「名推理だこと。でも少し違うわ」 シャツを脱がせ、自分も半身を起こし美希に顔を近づける。 「彼女には、女の魅力がないって言ったの。だから結婚できない、すべきじゃないって。相手はあなたを一生かけて抱かないって」 クスクスと美希の耳元で笑う。 「一人ぐらい壊しても問題ないもの。もっともプライドの高い彼女が人に言わないのもわかったけど」 「…………」 「案の定慌ててセックスして、やり逃げされた。哀れよねぇ。純潔を奪われて酷く落ち込んでた。初めての人だからその人のことを忘れることはないって」 イースは美希の細い腰に手を回す。 そして、彼女の顔を見て小さく安堵の表情を見せた。 それを悟られないようすぐさま不敵に笑う。 「泣いてるの?共感した?不本意に純潔を奪われたことに。でもあなたと彼女じゃ大きく違うわ」 「……やめて」 「あなたは望まぬ相手から奪われたのだから」 美希の瞳に涙が溢れる。 どれだけポーカーフェイスを装おうとしても涙は止まらない。 美希の中にイースが刻まれた。 その事実を受け入れなければいけないことが酷く悔しくて……悲しかった。 「あんたの泣き顔は飽きないわ」 イースは美希に口づける。舌を入れ美希のものを絡めとる。 右手を秘所にもっていくと、そこはまだ渇いていた。 ゆっくりと刺激を与えれば、だんだんと湿り気をおびる。 イースが唇を離したときには下からはくちゅくちゅと音がした。 「反応してるわよ。入れて欲しいの?」 「んっ……っ」 望まぬ快楽に反応する身体。 まだ中学生という幼さの残っていた美希を、イースは無理矢理開花させていく。 ひどく優しく表面だけを撫でるイースの指。シーツを握る美希の指がさらに強くなる。 美希 イースの声が耳に甘く入り込んでくる。 背中をなぞっていた指が軽く爪をたてる。 「………離し……て」 「何?」 「お願いだから……」 掠れた声で美希が囁いた。 。ズズッ……とイースの爪が美希の背中に朱い線をつける。痛みに呻く美希を、イースが楽しそうに眺める。 「私なしではいられなくしてあげる」 ぐちゅり 軽い抵抗を受けながらイースの指が美希の中に押し入る。 「私の指を締め上げようとしてるわ。気持ちいい?」 「あ、んっ、―――っ」 必死に声を押し殺す。反応する自分の声が忌ま忌ましい。 声を出さなければ聞こえてくるのは粘液の音。 ピストン運動を繰り返すイースの指が中から愛液を掻き出そうとする。 ぐちゅぐちゅと頭に響く卑猥な音。イースの指が速くなり、彼女の声にも熱がこもる。 「あっ――――」 ぎゅううう とイースの指を締め上げる美希。 本来なら相手を果てさせ、終わりを導く機能。 しかし相手が果てぬなら、それは終わりなき行為。 自らの体力、精神を徐々に貪っていく。 イースが美希の胸に顔を埋める。僅かに開いた口で軽く甘噛みを繰り返す。 「イー、ス、っもう……あたし」 イースは指を再び動かす。 イッたばかりのけだるい身体にさらなる快楽が注ぎ込まれる。 身体に朱い痕が散らばる。モデルだからと痕がつかないよう気をつけていたあの頃が懐かしい。 時折歯をたてられる。それだけで身体が更なる刺激を求めだす。 「あーあ、モデルの身体がだいなし」 「あっ……お願……もう、やめて」 「もっともその身体と顔なら幾人もの男を虜にできるわよ」 美希の哀願にもイースの手は止まらない。 連日の疲れでとっくにキャパオーバーな美希の身体。抵抗の意思すら取ることができなくなる。 薄れゆく意識の中、美希の瞳にはイースが映される。 いい?あなたは私のものなの 逃げることも拒むことも許さない あなたは私のためだけに生きるの――――― 意識を手放し、崩れ落ちるようにベッドへ倒れ込んだ美希をイースは覗き込んだ。その顔には少しばかりの汗が浮かんでいる。 イースは美希から引き抜いた濡れた指を嘗め蜜を味わった。 「どんな状況なら、あなたは終わりを望むのかしら?」 聞こえないことがわかっていて、微かに色づく頬を優しく撫でて語りかける。 「監禁されたら?こんな風に凌辱されたら?」 焦れるように自身の服を脱ぎ捨てる。 そして美希の脚を少し持ち上げ自分の片脚と交差させた。 「でもね、終わりは望むものじゃなくて……訪れるものよ」 脚が乗っているだけとはいえ、いつもなら軽く感じる美希の身体が重い。 意識がないだけでこうも違うのかとイースは不思議に思った。 身体を前に移動し、彼女の秘所と自分のモノを触れ合わせる。ひくり、とイースの身体が震えた。 「忘れることはない……か」 それは誰に語りかけたものだったのか。 イースは自虐的に笑った。 少し腰を動かしただけで、くちゅくちゅと音がする。それは美希だけではなくイースも濡れている証。 「はっ……あ、んん、はぁ」 腰の動きが早くなり、擦れ合う音と抑えるつもりのない声が静かな部屋に響く。 ん……と小さく美希が唸った。起きる気配はない。 一気にラストスパートをかける。汗で顔についた髪も気にせず振り乱す。銀髪から美希のお腹に滴が落ちた。 駆け巡る快感に抗わず、イースは美希を欲望で濡らした。 彼女は愛玩具でしょ? いつかサウラーに言われた言葉。意識のない美希を見つめながら、イースは思い出して苦笑する。 「不確かなものほど、怖いものはないわ」 終わりも 始まりも 彼女の想いも。 ばさっと美希にシーツを被せると、イースは美希の着ていたシャツを羽織りベッドを離れた。 簡易キッチンでお湯を沸かし、紅茶の準備をする。 お湯の温度もミルクを入れるタイミングも、飲み方も。 「染みついてる……」 バシャ 飲みかけの紅茶を捨て、珈琲の準備を始める。乱暴にインスタント珈琲を作り、砂糖もミルクも入れず飲み始めた。 「まずい……」 それでも最後まで飲み干した。 閉め忘れたカーテン。窓の外から月明かりが入り込む。 「イー、ス……?」 足音に美希が気づき、ゆっくりと目を開ける。 今日は満月だった イースが窓に近づいてカーテンに手をかける。 朱い瞳が蒼の少女をとらえた。暗闇でイースがふっと笑う。 「朱い月は不吉だって」 「……知ってるわ」 終わりなき宴など存在しない。 終わりがあるから儚い。 「刹那……」 「どうしたの?」 美希が訝しがる。 彼女が偽りの姿の時の名前、『せつな』と口にしたから。イースは美希の頬に指をはわせる。 「あなたは一生逃げられないわ」 寒いのだろう、と美希は思った。 イースの手が少しだけ、震えていたから。 END
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なあシフォン、聞いてくれるか。 今日の話やねんけどな。 兄弟から連絡があってな、またドーナツ食べ放題にしたるから 芸やって客集めてくれと。 ワイも男や。兄弟の頼みは二つ返事や。 そんで意気揚々と公園に向うたら、なぜかピーチはん、 パッションはん、ベリーはん、パインはんも居ててん。 何や、あたしらも手伝うからドーナツ食べ放題にさしてくれ言うて、 兄弟もノリノリで、じゃあ100人にさばいたら食べ放題にしたるわって。 そしたらまあ、やることがえげつないわ彼女ら。 ベリーはんがブルン呼んで、みんなに制服着せたってん。 ピーチはんはピンク、パッションはんは赤、ベリーはんは水色、 パインはんは黄色、それぞれの色と白のストライプで、 同じ色の帽子もかぶって、白のエプロンやねん。 めっちゃかわいいねん。 で、とどめが超ミニスカやねん! 四つ葉中の制服なんか比べものにならへんねん! それで客呼び込むもんやから、客がわらわら来ますねん。 パッションはんなんか礼儀正しいもんやから、 ドーナツ渡すときに深々と頭下げはんねん。 パンツ見えてるっちゅーねん。 男衆みんな背後に回ってるっちゅーねん。 そのうち、調子にのったピーチはんがはしゃいで みんなのスカートめくり始めましてん。 そこからはもう、みんなでスカートのめくりあいや。 え?シフォン何?パンツの色? あんさんも結構お好きでんなぁ。 ピーチはんはピンクで、パッションはんは白やってん。 ベリーはんは水色やってんけど、問題はパインはんや。 これがもう、ほんまに...ワイの口からは よう言えんくらい...その...ごっついやつで。 ピーチはんは鼻血出すし、パッションはんは精一杯 参考にするわなんて言うてはるし、ベリーはんは ブッキーこの後ウチにおいでなんて誘ってはるし、 えらいことになりましてん。 まぁこうして、100人どころやないくらいの客さばいて、 めでたくドーナツ食べ放題になってんけど、 彼女らは着替えもせんと、みんなでベリーはんの家に 行きましてん。何や女同士の大事な話があるっちゅうて、 ワイだけ先に家に返されましてん。 ...そうやなシフォン。 ピーチはんもパッションはんも遅いなあ。 今頃、違うもん食べ放題してるんちゃうか?
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「サンタさんが来れなくなった?」 先生の言葉に、美希は眉を顰める。その隣で、せつなはキョトンとした顔をしていて。 「ええ、そうなのよ。ちょっと体を悪くしてしまったらしくてね、家から出られないんですって……もう結構なお年だから、 仕方ないんでしょうけれど」 「そう、ですか……」 俯く美希の顔に浮かぶ、憂いの色。 「サンタって?」 「サンタクロースのことよ。クリスマスイブに、子供達にプレゼントを運んでくれるおじいさんなの」 せつなの問いかけに、彼女は何とか微笑を作って答える。が、すぐにこぼれるため息、一つ。 「どうしたの? 何だか、すごく落ち込んでるみたいだけど」 「ん――――ちょっと、ね」 誤魔化そうとして、しかし、彼女がじっと視線を向けてきていることに気付いて、苦笑する。 「たいしたことじゃないのよ。ただ、ね。ここの子供達のことを考えたら――――きっと、悲しむだろうなって思って」 「サンタさんが、来ないから?」 「うん――――実は、あたしもね、一回、あったの。サンタさんが来れなかった年が」 その時のことを、正直に言えば、あまり美希は思い出したくなかった。 あれは、父親が家を出て行った年。預けられたこの保育園に、サンタは来なかった。多分その時も、今日と同じよう な理由だったのだろう。 美希は、ずっと待っていたのだ。サンタに直接、欲しいものをお願いしようと思って。 それは――――母と父が仲直りして、弟とまた一緒に暮らせること。 けれど、会うことが出来ず、悲しくて家でもずっと泣いて、母を困らせてしまった。 翌朝、目が覚めたら枕元にプレゼントがあった。けれど、そのプレゼントは、美希が欲しかったものではなかった。 サンタさんに会えなかったから、直接お願いが出来なかったから。サンタさんは、あたしの欲しいものを間違っちゃ ったんだ。そう考えて、また、悲しくて泣いた。 結局その後、父と母が一緒に暮らすことは無かったけれど、弟とはよく遊んだ。ラブや祈里が、彼のことを泣き虫カ ズちゃんと呼んでいたのも、この頃のこと。 そうして、半分は満たされたことで、美希の傷は癒されていった。翌年のクリスマスには、自分と弟の分の玩具を お願いするようになっていた。 やがて、幼さを捨て去り、大人に近付くにつれて、少しずつ色んなことを理解するようになってきた。サンタが本当は いないことから、父と母が別れなければいけなかった理由まで。 それでも、時折、思い出すのだ。あの時の悲しさを。 サンタに出会えなかった、あの日のことを。ぽっかりと空いた、心の隙間を。 後悔と呼ぶには、あまりに自分に出来ることは少なかった。ただ、せつない――――それだけ。 だから、ここにサンタが来ないことが、子供達を悲しませることになると、美希は知っていた。もちろん、自分と同じ 境遇の子がいるとは思わなかったけれど、でも、サンタに会えないことは、あの年頃の子供にはショックだろう。 「サンタさんはね、プレゼントを持ってきてくれるの。それを楽しみにしてる子もいるから」 「美希も、そうだったの?」 「そうね。うん、楽しみだった。だから、会えなかったのが残念だったな」 全てを、美希は語らない。言っても、もう、仕方のないことだから。 「どうにかならないかしら――――」 思わず、呟く。あるいは、自分がサンタの格好をしてもいい――――一瞬、そう思ったが、それは違う気がした。やっ ぱり、サンタは男の人でないと。 「どうにかすればいいのね」 「うん――――へ?」 かけられた声に、無意識に答えてから、美希は思わず顔を上げる。その視線の先には、真剣な表情を浮かべている せつなの姿があって。 「待ってて、美希。私がなんとかしてみるから」 「へ? あ、ちょ、ちょっと、せつな!?」 止める暇もなく、駆け出していくせつなに、美希は呆然として。 やがて、苦笑する。 まったく、意外にせっかちなのよね、せつな。 けど――――あたしの為に必死になってくれて、ありがとう。 それでも美希は、この時、本当にせつながなんとかしてくれるとは思ってなかった。 だから、彼女がサンタの格好をした老人を連れて帰ってきた時は、心底、驚いたのだった。 「それじゃ皆。今年も一年、良い子にしてたかな?」 『はーい』 子供達の元気な声が唱和する。その姿に、こっそりと覗いて見ていた美希の顔が、自然とほころんで。 「じゃあ、良い子にしてた皆の為に、今日はサンタさんが来てくれましたー」 「ホント!?」 「すげーっ!!」 「会いたいー」 彼ら彼女らの瞳は、キラキラと期待に輝いている。見ている方が嬉しくなるほどに、純真な姿。 「それじゃあ、皆で呼んでみましょうねー。せーの、サンタさーん」 『サンタさーん!!』 その声に合わせて、美希はラジカセのスイッチを押す。流れ出るクリスマスソングに合わせて、サンタ役の老人が 扉を開ける。 「ハーイ、ミンナー。サンタサンガ、ヤッテキマシタヨー」 片言の日本語で陽気に挨拶をする彼に、子供達から歓声が上がる。 そう、せつなが連れてきたその老人は、本物に見まごうばかりのサンタだった。丸々と太った体、長く白い髭、真っ赤 な服。 どこで見つけてきたのか、彼は外国人だった。最初にそれを知って、ひどく慌てたものの、日本語が通じると知って、 ホッとしたものだった。が、考えてみればせつなが連れてきたのだから、当然なのかもしれない。彼女も、日本語以外 に堪能な言葉があるとは聞いていないから。 それは、ともかくとして。 「ミンナー、コトシモイチネン、ゲンキニ、ヨイコニシテタカナ?」 『はーい!!』 その老人は、にこやかに子供達に話しかけ、返ってきた大きい声に満足そうに頷く。 「オーケー、オーケー。ソレジャア、ミンナニ、サンタサンカラノプレゼントガ、アルカラネ」 「やったー!!」 「早く欲しい!!」 「ちょうだーい!!」 「こら、皆、いっぺんには無理よ。ちゃんと並んで。いいわね?」 教室の中には、保育園の先生と、せつなもいた。ここで借りた黄色いエプロンを付けて、子供達の相手をしている様 は、想像以上に似合っていると美希は思う。ポイントは、胸についているひよこのアップリケ。 「メリークリスマス。ハイ、プレゼント」 「わーい、ありがとう、サンタさん!!」 「メリークリスマス。ライネンモ、イイコデイルンダヨ?」 「うん。わたし、いいこでいるー」 サンタが配るのは、この保育園で用意したプレゼントだ。そのほとんどは安価なおもちゃやお菓子。袋の中から出て くるそれを受け取った子供達は、しかしとても嬉しそうで、中にはさっそく遊び始めている子もいた。 「皆。サンタさんからプレゼント、もらったかなー?」 『はーい!!』 「それじゃあ、サンタさんにお礼を言いましょうねー。せーの」 『サンタさん、ありがとうございましたー』 「オーウ、ホントニミンナ、イイコネー。サンタサン、ベリベリハッピーヨ。ソレジャ、ミンナ。ライネン、マタアイマショウ」 子供達の歓声に送られながら、サンタは扉を開けて部屋の外に出る。 「ありがとうございました」 そこで待っていた美希は、深々と頭を下げて、彼にお礼を言った。 「ごめんなさい。あの子、強引に連れてきたんじゃないですか?」 彼女の視線は、まだ教室の中にいて、子供達の相手をしているせつなに向けられる。連れてきた自分より夢中に なって、子供の相手をしている様は微笑ましいが、 「もう、自分が連れてきたんだから、ちゃんと挨拶ぐらいしなさいよ」 「オーウ、ダイジョウブデース」 教室から彼女を連れだそうと扉に手をかけた美希を、サンタは肩に手を置いて止め、ゆっくりと首を横に振る。 「アノコ、トテモヒッシナカオデ、ワタシノトコロニキマシタ。コドモタチノ、カナシムカオガミタクナイ、ト。アノコ、トッテモ イイコデス」 髭で口元が隠れていても、美希にはわかった。彼がとても嬉しそうに、微笑んでいることを。 「ええ、そうですね」 答えながら、せつなに目を向ける。子供達にせがまれて遊びの相手をしている彼女は、穏やかで優しい笑みを浮か べている。かつて敵だった頃には想像も出来ないその顔に、美希はそっと微笑んで。 子供達の為に、必死になるせつな。そんな彼女の友達でいられることを、誇らしく感じる。 「ハイ、コレハ、アナタヘノプレゼントデス」 そんな彼女の前に、すっと差し出されたプレゼントの包み、二つ。 「え? いや、あたしは――――」 「ウケトッテクダサイ。ヒトツハ、アナタガムカシ、モラエナカッタブン」 軽く、美希は息を飲む。包みのうちの一つは、子供達に渡されたのと同じもの。 いつか、来れなかったサンタから、もらえなかったもの。 「ソシテ、モウヒトツハ――――アナタノ、トテモヤサシイフレンドカラノ、プレゼントデス。ワタシテクレト、タノマレマシタ」 フレンド――――友達。 彼にプレゼントを託せるのは、一人しかいない。 改めて、美希は教室の中に目を向ける。 偶然、だろうか。 彼女も、こちらを見た。目が合って、そして、彼女は笑顔で軽く手を振る。 あ、やばい。 思うと同時に、眦に涙が生まれた。 「メッセージデス――――トテモヤサシクテ、イイコナミキニ、ワタシカラノプレゼント」 いっぱい、いっぱい幸せになってね。 彼の口から伝えられたせつなの言葉に、耐えきれず、美希は目元を指でなぞる。 嬉しい。こんなに嬉しいと思ったのは、久しぶりかもしれない。 こんな素敵なプレゼントなんて――――しかも、せつなから貰えるなんて思ってもいなかったから、余計に。 「ステキナオトモダチデスネ」 「ええ――――最高の、親友です」 言いながら、美希は笑う。 涙に濡れてはいたけれど、それは、彼女にとって最高の笑顔だった。 「ジャア、ワタシハコレデ」 そう言って、去ろうとする彼を、美希は見送ろうと付いていく。せつなは相変わらず、子供達の相手で忙しそうにして いて抜けられそうにないようだ。それに美希自身、今、彼女に会うのは照れくさくて。 「タクシー、呼びましょうか?」 「ノープロブレム、アリガトデス」 言いながら外に出ると、そこには、 「雪……」 日の落ちた街、薄い暗闇の中に、白い雪が舞い落ちていて。 驚きにほぅ、と出した息も、また、白く。 子供達に――――せつなに見せてあげたいな。 そんなことを思う美希。その耳に、響くクリスマスソングのメロディが飛び込んできて。 「アア、ムカエガキタヨウデスネ」 彼の言葉に、何気なく道路の方を見た彼女は、そこに光る赤い光に気付いて絶句する。 「――――え?」 混乱する美希とサンタの前に、輝く真っ赤なお鼻のトナカイを先頭にした多頭引きのソリがゆっくりと近付いてきて、 止まる。 首筋にベルを付けたトナカイ達の頭を一つ一つ撫でながら、サンタはソリに乗り込んで。 「ソレジャ、マタ――――メリークリスマス!!」 微笑んでそう言うと同時に、ソリが動き出す。トナカイのベルでクリスマスソングを奏でながら走り始めたソリは、 やがて道路から宙に浮いて、空を滑り始める。 「メリークリスマス!! メリークリスマス!!」 楽しそうな声を響かせながら、サンタクロースの乗るソリは、宙でグルグルと二回、三回と保育園の周りを回った後、 ゆっくりと夜の空の向こうに消えて行った。 「――――――――」 嘘――――でしょ? 今見たばかりの光景が信じられず、美希は空を見上げながら固まる。その目の前を、白の結晶が舞っていて。 「どうしたの、美希?」 かけられた声に振り向くと、不思議そうな顔をしたせつながそこにいた。 「せつな――――さっきの、人って?」 「え? サンタさんでしょ」 さらり、と言われ、改めて美希は言葉に詰まる。そんな彼女をよそに、キョロキョロと辺りを見回しながらせつなは、 「もう、帰っちゃったのかしら。せっかく、アカルンで送ってあげようと思ったのに」 「アカルンで連れてきたの!?」 「ええ。とても素敵なお家に住んでたわよ。暖炉があって、動物がいっぱいいて、窓の外には雪がたくさん積もってて ――――あったかい、幸せな家だったわ」 もしかしたら、日本じゃなかったかも。 思い出して、だろうか。暖かな笑みを浮かべるせつなに、美希は問いかける。 「あの、せつな? 聞いていい? アカルンに、なんてお願いしたの?」 「え? サンタクロースさんのところに連れて行って、ってだけだけど」 「キー!!」 不意に現れたアカルンが、せつなの顔の周りをクルクルと飛び回る。その顔には、とっても誇らしげな笑顔があって。 「――――ああ、そう」 美希は呟く。そう呟くしかない。 まさか。 まさか、さっきまでここにいたのは、本物の―――― 「ね、美希」 呆然とする彼女の顔を、せつなは覗き込んできて。 「な、何?」 「サンタさんに会えて、幸せになれた?」 「あたし? ――――そうね。幸せになれたわ」 「そう。良かった」 満足そうな笑みを浮かべながら、せつなは頷く。 それを見て、美希も微笑む。 そうだ。あの彼が何者かなんて、たいしたことじゃない。 大切なのは、彼女の気持ち。 子供達の幸せと、美希の幸せを願う、その心。 昔、感じた寂しさ。 どこかでそれを引きずっていたあたし。 二つを、彼女は同時に癒してくれた。 きっとせつなは、そこまで考えていたわけじゃないだろうけれど。 その優しさに、確かにあたしは癒されたのだ。 それが何よりものプレゼントだと、美希は思う。 だって、ほら。 あたしの心は今、こんなにもあったかい。 もう、あの頃のことを思い出しても、胸は痛くはならない。 何故なら、思い出すたびにきっと、今日のことを連想するから。 とっても不思議で、幸せな一日のことを。 そうしたら、最後には。 笑っていられる。あたしは。 「それにしても――――貴方もやるわね、アカルン」 「キー」 「ほら、美希。早く戻りましょう。子供達が待ってるわ!!」 手を掴み、引っ張ってくる彼女に、美希はそっと心の中で呟く。 メリークリスマス、せつな。 そして、ありがとう。
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「ラブ、今度の日曜日買い物に行かない?」 「ごめんせつな、その日は大輔とデートなんだ。 ...なーんて、エイプリールフールでしたー。」 ちょっとせつな、何してるの? 何書いてるの?お世話になりましたって何? ちょっと、エイプリールフールだってば。 何で荷物まとめてるの? ねぇ、もしかしてエイプリルフール知らなかったっけ? えっとね、うそついてもいい日なの。 え?言っていい嘘とそうでない嘘がある? たはー私バカだからさ、その辺のさじ加減っていうの?全然解らなくて... って、ホホエミーナ来ちゃったじゃん! 冗談だってば!機嫌直してよせつな! あー、せつなが帰るって言うのは嘘だったんだ。 逆に騙されちゃったよ。失敗失敗。 あ、美希たん。よーし、今度は……。 「みーきたん」 「あら、ラブ。どうしたの?……さてはエイプリルフールだから嘘でもつきに…… 言っておくけど、あたしはラブに騙されたりなんかしないわよ?」 わ。さすが美希たん鋭い。手強そう……。 でも一応……。 「違う違う。あのね、ブッキーに相談されたんだけど、もう美希たんと別れたいんだって ……なーん……てウ……」 あれ?美希たんどうしたの? 肩がブルブル震えてるけど。唇ぎゅって噛み締めてるし……。 あ、なんか目がどんどん潤んでいくような……。 「う……く……ヒック……」 あーついに顔を覆って泣き出しちゃった……。 どうしよう……。 「あ、あはー。え、エイプリルフールでしたー」 あ……な、何?み、美希たんの周囲が歪んで見える。 も、もしかして相当怒ってらっしゃる?怒りのオーラ? 顔つきも美鬼たんモードに変わってるし……。 それになんでバッグを振りかぶって―――――……。 スパーン!!! あいたたた。 美希たんったら、バッグの角で殴るんだもの。 懲りずにいくよ! 「あらラブちゃん、いらっしゃい。どうしたの?」 「うん、実はね...せつなが美希たんと キスしてるとこ、見ちゃったんだ...」 「ええっ!そんな...」 「しかも、ぎゅーっと抱き合いながら」 「そうなの...」 「...なーんて、エイプリルフールでしたー!」 って、ブッキー何で上目遣いなの? そんなに下から寄られると、服のすき間から、その、 おぉぉ谷間くっきり、いやそうじゃなくて、えっ?何? これで私も気持ちを解放できる? 何の気持ち?どうしてあたしに寄ってくるの? 顔近い、顔近いよ!エイプリールフールだって! 知ってるでしょ!うそついてもいい日! 私の気持ちは嘘じゃないって何? はわわわわ、唇近いよ!くちびr...んんっ!んっ! んっ... ふあ……ブッキーの唇やーらかい……。 押し付けてくる身体もふわふわで……。 もう……抱きしめたくなっちゃうよ。 ぎゅ……。 あ、あれ?なんか背後から殺気が……。 「ラ~ブゥ……!!」 「何やってるのよ……!!」 ふぇ?こ、この声は!? 「せ、せつな!?美希たん!?」 「随分と熱いラブシーンね……覚悟は出来てるの?ラブ……」 「ブッキーの唇はあたしだけの物なんだから……」 い、いや違うんだって!二人とも!! こ、これはあたしが誘ったんじゃなくて、ブッキーが―――。 「ふぇ~ん!!ヒドイわ!ラブちゃん!!」 「え!?ぶ、ブッキー?」 「嫌がるわたしの唇を無理矢理奪うなんて……あんまりだわ……」 は、はあ? な、何言ってるのよブッキー。 キスはそっちの方から――――――。 「ラァ……!!」 「ブゥ……!!」 ちょ、ちょっと二人ともあたしの話を――――――!! ポカッ!バキッ!ボスッ!ドカッ! た、助け……て……。 「うふふ」 え?な、何でブッキー笑ってるの?ぺロッと舌まで出しちゃって。 「エイプリルフール、でした♪」 そ、それはあんまりだよ……ブッキー―――――……。