約 596,292 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9033.html
前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 蝉達の合唱が聞こえている。鼓膜を少しだけ揺らす程に鳴いている。 お前が再び目を開けた直後に聞いた音は何かと問われれば、間違いなくそう答えているかもしれない。 霊夢はそんな事を一人思いつつも未だに重い瞼をゆっくりと上げ、博麗神社の社務所の中から夏の空を見上げた。 まる巨人がそのまま雲に包まれたかのような入道雲が、清流の様に真っ青な空と同居している。 そして空と雲より近くに見える緑の木々と真っ赤な鳥居が、青と白のモノクロカラーに鮮やかさを足していた。 気温が上がり、幽霊を瓶詰にして昼寝をする季節には必ず見るであろう景色であった。 霊夢本人としては見慣れてしまった光景だが、何処かのスキマ妖怪曰く「失われた日本の原風景」の一つらしい。 ――そんなに珍しいのなら、見物代くらい取れそうね。まぁ、誰も払わないだろうけど… ずっと前に呟いた冗談を思い出した彼女は、瞼を半分ほど開けた状態で苦笑いを浮かべた。 声は出ないが自分の口元がにやけていると知った後、彼女はふと視界の端に映る振り子時計を目にする。 小さな壁掛けタイプのそれの長針と短針が、丁度゛ⅩⅡ゛の時刻を示していた。 ―――あぁ、もうそんな時間かぁ…時間って意外と早く進むものなのね 霊夢は一人そんな事を考えながらも、随分前から自分に付きまとうようになった小さな百鬼夜行の事を思い出す。 こんなにも外が暑そうなのだ、きっと涼みにくるついでに自分の所で昼飯を頂くことは容易に想像できる。 以前に起った異変を解決してから、自分に関わってくるようになった鬼の笑顔を思い出しつつ、ふと「あと一人くらいは来るかも…」と呟く。 春夏秋冬、四六時中。神社に押しかけてはお茶やお菓子、挙句の果てに酒と食事も強請ってくる自称゛普通の魔法使い゛だという、黒白の少女。 夏真っ盛りだというのに、何処の誰よりも暑そうな服装でこの時期を過ごす彼女の姿を思い浮かべる。 ―――今日は機嫌が良いし、折角だから三人分作ってやろうかしら? 一眠りして機嫌が良いせいか、いつもの自分らしく無い提案が脳内に浮かび上がってくる。 別にやましい理由があるワケではない。ただ単に誰かと食べたいという気分に陥っただけである。 特に今日の様な、どこまでも続くような夏の青空の下ならば、そういう提案が出てきてもおかしくはない。 そう結論付けて一人納得した彼女は、今日の昼食は何を作ろうかと考えつつ上半身に力を入れて体を上げようとする。 味噌が余分にあるから冷汁でも良いし、そこにご飯ではなく妖怪退治の報酬で貰った大量の素麺をぶち込んでも良い。 ―――でも素麺だと冷汁じゃなくて、ただの味噌素麺になっちゃうわね… いい加減食べ飽きた白い麺の束を一網打尽にするか、定番のご飯を入れるべきか…という二つに一つの選択。 ある意味くだらないとも言えなくない選択に霊夢が悩もうとした。そんな時であった。 「あら、もう起きたのね。…相も変わらず飯時には早い事で」 ふと背後から、自分のモノではない女性の声が聞こえてきたのは。 その事に気づいた霊夢が「…え?」と呟いた直後、再び背後から謎の声が聞こえてくる。 「いっつも思うんだけどさぁ…アンタのソレも、所謂゛酷いくらいに冴えた勘゛ってヤツなのかしら?」 まるで最初から自分を観察していたかのように、声の主は落ち着いた様子で話しかけてきた。 多少呆れているかの様な喋り方が癪に障るのだが、生憎それに反論できる程今の霊夢は落ち着いていなかった。 突然自分の死角から聞こえてきた声のせいで、起き上がろうとした彼女の体はピタリと止まり、その目がカッと見開いてしまう。 次いで一センチほど浮いていた上半身が再び畳に着地し、すとん…という静かな音が彼女の耳に入り込んでくる。 その時に少しだけ後頭部を畳にぶつけてしまったが、今の霊夢にはそれを気にする程暇ではなかった。 今の彼女が優先的に気にするべき事―――それは自分の背後から聞こえてくる゛声の主゛が、誰なのかという事だ。 霊夢が知っている限り人の神社、それも社務所にズカズカと上がり込む輩には、身に覚えがある。 それも一人だけではない。文字通り゛掃いて捨てる゛程の人妖が、挨拶も遠慮も無くいきなり声をかけてくる事があるのだ。 しかし…それ程までにいる「無礼な連中」の中に、後ろから聞こえてくる声を持つ者はいない。 ではいったい誰なのか?体を動かすことを忘れた霊夢が、そこまで考えた時であった。 ふと視界の端に、見たことは無いが自分と同じ゛紅白の巫女服゛を着た゛長い黒髪の女゛がいるのに気が付いた。 霊夢よりも一回り体が大きく、腰まで伸ばした黒い髪は夏の日差しに照らされて艶めかしく輝いている。 紅白の巫女服は霊夢が身に着けている服と比べシンプルさが強く、何処か大人びた雰囲気を漂わせていた。 それでいて服と別離した白い袖だけは同じであり、それを横目で見た霊夢は親近感というモノをつい抱いてしまう。 生憎ながら顔の方は前髪に隠れており、どれ程の美貌を持っているのかだけは確認できない。 その一方で、声を出さずに観察していた霊夢の事など露知らず、目の前の女性が再びその口を開く。 「でもそれだけで巫女が務まるワケないし…ホント、あいつの強情さには困ったものね」 ――は?何ですって? 何処の誰かも知らぬ女にそんな事を言われた霊夢は、ついつい顔を顰めてしまう。 「巫女が務まる…」という部分に反応した彼女であったが、他人が思うほど怒ってはいない。 何せ幻想郷を作った妖怪曰く、今までいた博麗の巫女の中でも断トツで「グータラなうえに怠け者」らしいのだから。 その妖怪以外にも、知り合いの魔法使いや妖怪たちからもソレをネタに色々とからかわれている始末だ。 故に霊夢自身それに軽く怒った事はあれど、そこまで本気になるような事は滅多に無い。 精々相手に文句を言ったり突っ込み気分で叩いたりと、俗にいう「スキンシップ」程度の事で済ませてきた。 ―――どこの誰かは存じぬけども…赤の他人にしてはちょっと言いすぎよね だから今回の事も、姿を見せぬ不届き者の頭を引っ叩いてやろうと考えていた。 叩いた後に何か言ってくれば言い返せば良いし、逆上して襲い掛かってこようものなら返り討ちにすれば良い。 もはや言われた方が加害者となってしまうような物騒な事を考えている霊夢であったが、ふとその思考が止まってしまう。 別に畳のトゲが背中か臀部に刺さったという事ではなく、ましてや足を攣ってしまったという緊急事態に陥ったわけでもない。 ただ目の前で佇み、前髪越しにこちらを見下ろしていた女の体が、動いたのである。 「どんなに力や才能があっても、ある程度心が図太くないと博麗の巫女なんて…まともに出来っこないのよ」 事実、私には少し荷が重いし…。まるで自嘲するかのような言葉を吐き出した女が、その場に腰を下ろす。 一つとして乱れの無い動きで座った彼女と、その足元にいた霊夢との距離がより一層近くなる。 それに驚き思考が停止してしまった霊夢であったが、それで終わりではなかった。 一歩間違えれば口づけをしてしまうかもしれない距離で見つめ合う最中、再び女が口を開く。 「でも心が強いって事考えると…やっぱりアイツの言う通り、アンタには適性があるのかも…」 先程の言葉を聞いたせいか、その声に悲しそうな雰囲気が纏わりついていると錯覚してしまう。 それと同時に、突如現れた巫女服姿の女が、どうして自分に語り掛けてくるのか考えようとする。 何を言っているのかイマイチ分からないが、言い方から察して自分を哀れんでいるのだろうか? それとも妖怪か何かが変化の術でも行使して、自分を誑かそうとしているのか? 未だ落ち着きを取り戻せぬ霊夢がそんな事を考えていた直後。一陣の風が社務所の中へと入り込んできた。 混乱し始めた彼女の頭を冷やすかのように、真夏の風が彼女の顔をやや乱暴に撫でていく。 それと同時に艶やかな黒髪や、その身にまとう衣服とリボンが風にあおられパタパタ…ヒラヒラ…と波打っている。 彼女の前に腰を下ろした女も例外ではなく白い袖に紅い服が波打ち、ついで顔を隠していた前髪もサッとかきあげていった。 そして、それだけが目的であったかのように風はあっという間に社務所を抜け、何処へと去っていく。 風が通り過ぎた後…仰向けに寝転がっていた霊夢は、ここで初めて女の顔を目にした。 その時…彼女がどんな事を想い抱き、どんな感想を心の中で出したのかは誰も知らないし、彼女自身それをすぐに喋れない。 ただその目を見開き、予想だにしていなかったモノを見た時の様な表情を霊夢が浮かべようなど、誰も想像しないであろう。 それ程までに前髪に隠れていた女の素顔は、霊夢は驚かせるのに十分な価値が秘められていたのだ。 「でも大丈夫よ、霊夢。貴女は巫女をやる必要なんてない…すぐに何とかしてみせるわ」 黒みがかった赤い瞳に悲しみを湛えた女は、霊夢の顔をジッと覗き込みながら一人呟く。 そんな事を言われ、驚愕したまま落ち着きを取り戻せぬ彼女が考えていたことはただ一つ。 目の前にいる女性は、きっと未来の自分なのだろうか。 薄れていく意識の中でそう思える程に目の前の女性の顔は、霊夢と瓜二つであった。 馬の嘶きと通りを行き交う人々の雑踏が、苛立つくらいに鬱陶しい。 安っぽいベッドの上で目を覚ました霊夢が最初に思った感想は、どちらかといえば批判に近かった。 ここは?と思いつつシーツの中で体を軽く動かすと、彼女を乗せたベッドがギシギシと悲鳴を上げてしまう。 安い材木で作られたそれはもう寿命が近いのか、軋む音自体に何か不吉なものが感じられる。 良くこんな所で安眠できたものだ。自分の運の良さを多少は喜びつつ、霊夢は上半身を起こそうとした。 「――…ッ!?」 体を持ち上げようとした所まではうまくいったが、頭の方から強烈な痛みが襲いかかってくる。 まるで金槌で叩かれたような激痛に、彼女は顔を顰めて勢いよく倒れてしまう。 より一層鋭い悲鳴を上げるベッドをよそに、霊夢は自分の頭に何かが巻かれている事に気が付く。 ザラザラとした粗い触感のソレが何なのかと思った時、ふと横のテーブル置いてある手鏡が目に入る。 所々汚れているソレを右手で手にした彼女はサッと鏡を自分の顔に向け、次いで何が巻かれているのかが分かった。 自分が横になっているベッドや手にしている手鏡より安いであろうソレの正体は、白い包帯であった。 恐らく巻いた相手が素人だったのか、まるで頭だけが死後数十年物のミイラになったかのような状態である。 それでもちゃんと出来ている方なのか、不格好だが形そのものは崩れていなかった。 「まぁ、形が崩れてても別におかしくもない巻き方だけど…」 一人呟きながら頭の包帯を撫でていた霊夢であったが、ふと何かを思い出したかのような表情を浮かべる。 次いで辺りを見回し、左の方に窓がある事に気が付くとそこから外の景色を見やる。 窓から見える景色は、幻想郷では到底お目に掛かれぬ中世ヨーロッパ風の街並み。 亀の歩みよりずっと遅い速度で空を上っていく初夏の太陽に照らされている光景は、平和そのものである。 ずっと以前…魔理沙が見せてくれた本の中に、似たような景色を描いた絵画が掲載されていた事を思い出す。 レンガ造りの建物に三角屋根の家、狭い通りを行き交う人々と栗毛や黒毛の馬たち。 煙突から絶えず煙を吐き出すパン屋や血生臭い肉屋には、大勢の人々が訪れている。 当時、憧れはしなかったがいつかは見てみたいと思った「欧州の昔」が、霊夢の上半身程度しかない大きさの窓から見えていた。 そして彼女は知っていた。ここから見える風景――否、街の名前を。 「そっか…今の私は、トリスタニアにいるんだっけか」 思い出したかのように呟いた時、霊夢は昨日起った出来事を全て思い出した。 そう…買い物だけだと思っていた外出が、予想だにせぬ相手との戦いにまで発展したという事を… 彼女の記憶には、自分の偽者に致命傷を与えた事は覚えていた。無論、自身も盛大な「お返し」を貰った事も。 頭に強烈な一発を貰った後にルイズたちと何か話したような気がするものの、詳しい事までは覚えていない。 あの時は頭がグワングワンと揺れていて、ジンジンと脳内を回っているかのような強烈な痛みで、まともに話すことは出来なかった。 ただ耳に入ってくる三人の言葉に、思いつける限りの返事だけを口から出していたのだけは記憶に残っていた。 「思い出そうとしてみたけど…何も記憶に残ってないわね………あっ、そうだ」 無意識に首を傾げた彼女はそう言って、ふと自分の頭にいつも付けていた筈のリボンが無い事に気が付く。 思い出したかのように辺りを見回すのだが、目に入るのは安っぽくて質素な造りの部屋だけだ。 きっとこの部屋の中では自分の次に目立つであろうリボンはテーブルや椅子の上、出入り口横のコートラックにも掛けられていない。 部屋を一通り見回したところで目に入らなかったというところで諦めた霊夢は、軽いため息をついた。 まぁ今の状態ではリボンなんて付けられないだろう。包帯も外すことは出来ないし… 一人納得するかのような思いを心の中で吐露しながら、霊夢はまた何かを思い出すかのような表情を浮かべる。 「部屋に無いとするとルイズたちが持ってそうだけど……そういえば、あいつ等は何処に行ったのかしら?」 先程まで見ていた夢の事もあって今更なのだが、自分が今どんな状況にいるのか霊夢は知りもしなかった。 今いる部屋も初めて見るような場所だし、近くにいるはずであろうルイズや魔理沙…そしてあのキュルケの姿が見当たらない。 まぁ部屋自体が狭いしどこか別の所にいるのだろうが、それ以前にここがどういう場所なのかもわからなかった。 「せめて誰か傍にいてくれたって良かったのに」 特にすることもできずにいる彼女は背中をベッドに預けたまま、何となく呟く。 それから二分程度が過ぎた頃だろうか。 見慣れぬ天井を見つめ続けている内に、今度は先程まで見ていた夢が何なのかとという疑問を感じた。 あんな夢を見るのは初めてであったし、それにあの女性の顔が自分とよく似ていたというのも気にはしている。 今思い出すと多少大人びていた雰囲気があったものの、数年後の自分だと言われれば納得するかもしれない。 髪も今より長かったし、リボンだってその時には付けているかどうか分からないのだから。 夢の内容を暇つぶし程度に思い出していた霊夢であったが、突如その顔にハッとした表情が浮かぶ。 それは今考えている事よりも、ある程度優先して気にしなければいけない事であった。 「そういえば、私の偽者はどうなったのかしら?」 夢に出てきたもう一人の自分(?)を思い出した彼女は、少し慌てた様子で呟く。 最後の一撃を入れた時に確かな手ごたえを感じ、直後に強力な一撃をお見舞いされたのは覚えている。 しかしその後すぐに意識がなくなったせいか、今日まで続いているであろう厄介事の元凶がどうなったのかを確認していなかった。 あれで死んでいればそれで良いし、もしくはルイズや魔理沙たちが片付けてくれていればそれもまぁ結果オーライというものだ。 しかしあの一撃で死なず何処かへ逃げていれば厄介だ。最悪、また戦う羽目になるのは確実だろう。 (まぁ次出てこようものならば、三度目を許さず二度目で完膚なきまでに退治するまでよ) とりあえず悪い方のケースを想定し、決意した彼女は、ふと左手の甲に刻まれたガンダールヴのルーンを見やる。 手の甲を上げたその先に目にしたのは、目を瞑らせる程の激しい光を放つ…ルーンではなかった。 この世界ではある程度特殊な―――少なくとも複製ぐらい出来そうな――使い魔の印が、刻まれているだけであった。 別段光っていることも無く、それと連動して頭の中に性別不明な声が流れ込んでくることは無い。 「ガンダールヴのルーン…いつの間に光らなくなったのかしら?」 昨日まで何とかしようと考えていた霊夢が不思議そうに呟いた。その直後だった。 彼女の目から見て右にある部屋の出入り口越しに、人の気配を感じたのは。 「おい、目を覚ましたのか?」 それに気づいた霊夢が顔を向けようとする前に、ドアの向こうから女の声が聞こえてくる。 力強く、しっかりとした雰囲気を感じられるその呼びかけに、霊夢は「まぁね」と短く返す。 するとドアの中央より少し上の部分が耳に触る嫌な音を立てつつ左にずれたかとおもうと、そこから何者かが覗き込んできた。 どうやらそこの部分だけ覗き窓になっているらしい。今になって霊夢は気づく。 それと同時に、部屋を開ける前にそんな事をしている相手を見て思わず目を細めてしまう。 (薄々感じてはいたけど…やっぱり昨日の面倒事は全部終わって無さそうね) ルイズや魔理沙が近くにおらず、見覚えのない部屋にいる。二つの疑問を結びつけ、そんな結論を出した時だ。 再び耳をイラつかせるような音がひびいて覗き窓のスライド版が右にずれ、こちらを覗く女の視線が消える。 その後、ドア越しにカチャカチャと弄るような音が響いたたかと思うと、あっという間にドアの方から鍵が開く音が聞こえてきた。 (外から鍵を掛けるなんて驚きね。…というか、昨日よりもずっと厄介そうじゃないの) 何処か心をスッキリさせてくれるような音はしかし、ベッドに横たわる霊夢の心を更なる不安に陥れる。 少なくとも、ドアの向こうにいる相手がこのまま学院に返してくれる事は無いだろうと覚悟していた。 覗き窓付きというプライバシー皆無のドアが開くと同時に、一人の女性が遠慮なく部屋へと入ってきた。 薄い茶色の鎧を身に着けた彼女は、鎧と同じ色のロングブーツを履いた足で霊夢の方へと近づいていく。 一方の霊夢は頭だけを女の方へ動かし、それと同時に相手がそこら辺にいるような人間ではないという感想を抱いた。 女性らしい細身の体は魅力的ではあるが、女とは思えた程に目が男らしい輝きと、その体から近寄り難い雰囲気を放っていた。 魔理沙や紫と比べやや薄い金髪を短めに切りそろえており、それが女らしさを打ち消す原因の一つとなっている。 歩き方自体も男らしさが出ているせいか、ドレス姿を見せられても「番犬の頭にピンク色のリボン」という、変な感想しか口に出せない。 そして何より霊夢の目を惹かせるのが、腰に差した一本の鉄剣であった。 この世界では「貴族に抵抗する平民の牙」と揶揄されるソレからは、女性と同じ重苦しい気配が漂っている。 恐らく黒い鞘に収まったソレは文字通り゛血を吸った゛のだろう。そうでなければあんなにも近寄り難い゛何か゛を感じる理由が無い。 (妖夢だともっと詳しく分かりそうだけど…まぁその前に縮こまっちゃうかも) 幻想郷にいる知り合いの内一人である半霊半人の事を思い出した直後、すぐ傍までやってきた女が口を開く。 「…一目見た感じでは大丈夫そう…には見えないが、立てるか?」 少々の鋭さを見せる声は、腰に携えた獲物と同じ様な…聞いた者を怯ませる何かを漂わせている。 しかしそれにたじろ博麗の巫女ではなく、少し気難しそうな表情を浮かべた霊夢はとりあえずの返事を口に出す。 「さっき起き上がろうとしたけど…頭がズキッとしたわね」 そう言った後、もう少し何か口に出せば良かったのでは、という浅い後悔の念を抱く。 咄嗟に出た言葉の所為か、相手に聞こうとした質問をしゃべる事が出来なかった。 ここは何処のなのか、今の私はどういった状況にいるのか、私の近くにいたルイズたちはどうなったのか… そして、自分はこれからどうなるのか…そう言った質問が頭に浮かんでくるが、口に出すことが叶わないもどかしさ。 目の前の少女がそんな気持ちを抱いているとも知らずに、衛士姿の女はベッドに横たわる彼女を頭の先から足の爪先まで観察する。 最も下半分は白いシーツで隠れているの為実質目にしたのは頭の包帯部分だけであろうが。 「そうか、じゃあこれを飲んでみろ。一流品じゃないが鎮痛作用ぐらいはある」 懐を漁りながら喋る女が取り出したのは、掌サイズの瓶に詰められた無色透明の液体であった。 水と比べほんの気持ち程度粘り気がありそうな液体入りのソレを見て、霊夢は首を傾げる。 「何よコレ?タダの水って感じじゃあ無さそうだけど」 「安いポーションだ。さっき言ったように痛み止めの効果があるが…どうやら信じてないようだな」 丁度自分の掌と同じサイズの瓶を見た霊夢は、信じられないと言わんばかりに目を細めている。 女の言葉に霊夢は当たり前よと返しつつ、そのまま喋り続けた。 「いきなり見ず知らずのアンタに薬だ飲め、って言われて飲めるわけ無いじゃない。 第一、ここが何処なのかも私には皆目見当がついてないのよ。教えてくれない?今の私がどういう目にあってるのか」 とりあえず今言いたいことをついでにぶちまけた後、霊夢は軽く一呼吸する。 肺に残っていた僅かな空気を喉を通して口から出していくと、突っつくような痛みが頭を無駄に刺激する。 それに顔を顰めて耐えている彼女であったが、そんな彼女を見下ろしていた女が、ポツリと呟く。 「何だ、口数少ないヤツと思っていたが…案外喋れるんだな」 どこか感心したような言葉を述べた後、突如右手に持っていた瓶の蓋を抜いた。 ワインのコルクを抜いたときの様な音が部屋に響いたかと思うと、次いでその瓶をゆっくりと傾ける。 丁度飲み口から液体こぼれ落ちるところに空いている左の掌を添えて、慎重に右手を動かす。 やがてほんの少し粘性があるともないとも言える液体が飲み口から二、三滴こぼれ、女の左掌の上に落ちた。 それを確認してから傾けていた瓶をスッと上げたかと思うと、女は液体の付いた掌を自分の口元へと運ぶ。 そして霊夢がアッと言う前に、女は何の躊躇いもなく掌の上の液体を自分の下で舐めてしまった。 ソフトクリームの表面部分だけを軽く舐めるように舌を動かし、それを吟味するかのように口をもごもごと動かしている。 ほんの数秒程度の動作に何も言う事ができなかった彼女は、女の口から言葉が出るのを待っていた。 それから五秒ほどが過ぎた後、口の動きを止めた女が喋り出す。 「毒薬だと思ってたろ?ホラ、私の体にどこもおかしな所は無いぞ」 疑い深い巫女に教えるかのように、女はそう言って両手を横に広げた。 単なる勘ぐり過ぎだ。そんな事を言われたような気がした霊夢は少しだけムッとした表情を浮かべるも、右手を女の前に差し出す。 その意図を察してか、女もまた何言わずに飲み口が開いたままの瓶を彼女へと手渡した。 受け取った霊夢はほんの数秒間を瓶の中身を見つめた後に、ゆっくりと口の方へ近づける。 そして覚悟を決めたのか、軽い深呼吸をしてから一気に無色透明の液体を景気よく飲み始めた。 喉を鳴らして飲んでいく彼女が最初に思ったことは、瓶の中身は思った以上に冷たかったということであった。 まるで半分液状化したソフトクリームのように、喉越しの良い冷気が口の中を包み始めている。 味の方は良くわからないが、少なくとも自分の体に致命的な害を成す物ではないという事が今になって分かった。 小さな瓶の中身は飲み始めてすぐに無くなり、あっという間に霊夢の体内へと入り込んだ。 飲み干した事に気が付き、すぐに瓶を口元から離した彼女は、ホッと一息つく。 そして空になった瓶を右手に握る瓶を弄りながら、思っていた以上に良い物を飲めたことに多少の喜びを感じた。 (ふぅ…思った以上に飲みやすくて……ん?―――――…ひゃっ!!?) だがしかし、その喜びを女の前でアピールする暇もなく、彼女の口を唐突で過剰的な゛清涼感゛が襲った。 まるでペパーミントの葉を数十枚口の中に入れて噛みしめたかの様な清涼感は、もはや痛みに近い。 以前魔理沙と一緒に飲んだハシバミ草のお茶ほどひどくは無いが、それとは別にこの薬も人体に対し強烈だ。 「……うっ……!?うぅ…!」 程よいと思っていた冷たさがブリザードを思わせる過酷な冷気となり、口内を縦横無尽に暴れまわっている。 そんな風に例えるしかない予想外の事態に顔を歪ませている霊夢を見て、女はため息をついた。 「安物のポーションだからな。メープルでも入ってると思ってたか?」 明らかに子ども扱いしている言葉に対し、ハッキリとした怒りの表情を浮かべる。 確かに自分と同じ薬を口にして顔色一つ変えないのはスゴイと思うが、子ども扱いされるのだけは不服であった。 そんな思いを目から飛ばしているが、そんな事知らんと言わんばかりに自分を見つめ続ける女に、更なる怒りが溜まっていく。 今は無理だしまだ名も知らないが、いつかこの借りは耳を揃えてキッチリ返させて貰おう。 口の中に充満する殺人的清涼感に悶えつつも、霊夢は決意した。 それから五分くらい経過しただろうか。 先程までベッドに横たわっていた霊夢は、自分がいた部屋の前で女衛士と佇んでいた。 味はとんでもなかったが鎮痛効果はしっかりしていたのか、包帯を巻いた頭は殆ど痛まなくなっている。 完治したというワケでもないが、ひとまず立って歩くことぐらいはできるようになった。 「とりあえず、薬を飲ませてくれた事はお礼を言っておくわね。え~と…名前は?」 さっきと比べ回復した体に満足している巫女がお礼ついでに女の名を尋ねてみる。 衛士の女はそれに対し嫌悪や不快といったモノを感じないのか、そっけない表情を浮かべて名乗った。 「アニエスだ」 「そう…アニエスね?覚えておくついでにお礼も言っとくわね」 靴の中で足の指を動かしながら礼を述べると、霊夢は「で、色々聞きたいことがあるんだけどさぁ」と質問してみる。 それに対しアニエスは右手を腰に当てて、相手が何を聞いてくるのか待ち構えていた。 我に返答の意思あり。彼女の様子を見てそう解釈した霊夢は、一呼吸おいてから喋り出す。 「私が今いる場所は何処なのかしら?少なくとも街の中ってのは理解してるけど…」 「そうだな。ここはトリスタニアのブルドンネ街の中にある衛士の詰所本部、と言っておこうか」 お前とその仲間がいた場所から歩いて一時間だ。聞いてもいない事をついでに喋ってから、アニエスは口を閉じる。 意外にもハッキリとした答えをくれたアニエスに感心しつつも、霊夢は首を傾げた。 「衛士?ということは…ここって街の治安を守ってる連中の寝床かしらん」 この世界に来て初めて聞く名前を耳にして、ふと頭を上げて廊下を見回してみた。 それほど目新しくないやや濁った乳白色の壁は何回も塗装し直しているのか、壁全体がペットリとしている。 木造の廊下はちゃんと整備されており、その場で足踏みしてもあの部屋のベッドみたいに軋む音を上げたりはしない。 日差しを入れる窓も廊下と同じく念入りに磨かれていて、不快感を催す汚れやシミなどは見当たらない。 しかし…室内灯が魔法で動くカンテラではなく普通の燭台であり、彼女たちより少し上に設置されたソレに明りは灯っていない。 その所為か日差しが入っているのに関わらず、廊下全体が少し薄暗く物々しい雰囲気を放っている。 一通り廊下の風景を目に収めた巫女は再び女衛士に視線を戻してから、一言呟いた。 「なるほど…そんなに物騒な所なら、街の雑踏から隔離されていても不思議じゃないわね」 「そんな物騒な所で働いている私から見れば、外の方が随分とおっかないけどな」 相手の言葉にアニエスはそう返すと窓の外を一瞬だけ見やり、それから踵を返して霊夢に背を向けた。 どうしたのかと一瞬だけ思った霊夢であったが、すぐにアニエスが「ホラ、ついて来い」という言葉を口にした。 「ついて来いって…そりゃ歩ける様にはなったけど、いきなり過ぎない?」 それを聞いた彼女が苦々しい表情を浮かべてそう返すと、アニエスは背中を見せたまま淡々と言葉を続ける。 「お前が目を覚ましたら、すぐにここから出せという命令が出ているんだ」 「命令?…何か只事じゃなくなってきてるわね……というか、それって誰が出したのよ」 彼女の口から出た予想外の言葉に目を丸くした時、霊夢の頭にルイズの顔が浮かび上がる。 もしかすると彼女が色々としてくれたおかげで、今の自分がいるのではないのだろうか? そんな疑問を過らせた霊夢は聞いてみようと考え、女の背中に声を掛けた。 「ねぇ、その命令したヤツってさ…もしかすると、ルイズっていう名前の女の子かしら?」 巫女の言葉に対しアニエスは「嫌、違うぞ」と首を横に振りつつ短い言葉で返した。 しかしそれを聞いた霊夢が何かを―――言葉を出すか、表情を変えるか――をする前に、彼女はこんな事を口にした。 「…確かに怪我をしたお前の傍にいた魔法学院の生徒二人、それと三人ほどの少女をひとまずここへ連れてきた。 しかし、今から一時間程前に来たんだよ。お前を含めた少女たちをここから出せと命令した、とんでもない御方からの使いが…」 「御方…?」 戦いのみを職業とし、生きてきたような女衛士の口から出てきた言葉に霊夢は怪訝な表情を浮かべる それに、ルイズと魔理沙やキュルケ以外にも二人程誰かが一緒に連れてきたという事も気になってしまう。 意識があった段階でいたのは三人だけであったし、周囲には自分たち以外誰も見なかったのは記憶に残っている。 じゃあその二人とは一体誰の事なんだろうか?ますます深まっていく謎に霊夢が首を傾げようとする…その直前であった。 「―――――レイム!もう大丈夫なの!?」 突如前の方から、悲鳴にも近い叫び声を上げて何者かが早歩きで近づいてきた。 木造の廊下をしっかりと磨かれたローファーで蹴飛ばしつつやってくるのは、ピンクのブロンドが眩しい小柄な少女だ。 背中に付けた黒のマントをたなびかせて走ってくる彼女の顔には、精一杯゛何か゛を我慢しているような苦しげな表情が浮かんでいる。 貴族やメイジ達が命に次に大事と豪語する杖は腰に差しており、その両手には何も握られてはいない。 ただギュッと握り拳を作っているその手には顔に浮かべた表情と同じく、堪え切れぬ゛何か゛を必死に抑えているようにも見える。 「…イム、レイム!……アンタ、アンタ…!」 音を鳴らして歩いてる少女は衛士の後ろにいる巫女の名を呟きながら、二人の方へ近づいている。 流石に何かおかしいと感じたのか、アニエスも怪訝な表情を浮かべて近づいてくる少女に警戒し始めた。 五メイル、四メイル…そして後三メイルというところで、名を呼ばれている霊夢は本能的に後ろへ下がった。 彼女は感じ取ったのだ。自身の身に迫りつつある更なる危機を。 それは正に、怪我を負った狼が怒り心頭のマンティコアと対面した時のような予期せぬ絶望。 ただでさえ叶わないうえに傷ついた体でどうしようもない時に降りかかる、更なる恐怖。 百戦錬磨の霊夢はそういう風に例えられる気配を感じ取ったのだ。自信よりも背丈の低い少女から。 「レイム!アンタ…どんだけ人に心配させれば気が済むのよっ!?」 いつもから刺々しく、そして一度怒らせればどうしようもない少女―――ルイズがそう叫びながら、飛びかかってきた。 一メイルという近い場所まで来た彼女はローファーを履いた足で今までよりも力強く床を蹴り上げる。 そして握り締めていた両手をひらいて霊夢達へ向かってくる姿は、正に獲物を見つけて襲い掛かる肉食幻獣そのものであった。 小柄な体つきながらも食欲旺盛で凶暴なマンティコア――――そう例えられるぐらいに今のルイズは怒っていた。 「わっ…ちょっ…!」 突如物凄い勢いで迫ってくる相手に怪我を負った霊夢が避けられる筈もなく、このままでは酷い目に遭うであろう。 しかし、始祖ブリミルの微笑みはこの場にいる三人の内、異世界の巫女に向けられていたのかもしれない。 「おい、おい!こんな所で暴れるなよ、暴れるな!」 霊夢の前にいたアニエスがすぐに慌てて様子で突進してきたルイズを、その右腕で受け止めたのである。 柔らかい物同士がぶつかったような曇った音が聞こえてきたと同時に、霊夢の眼前をルイズの左手が通り過ぎていく。 思っていた事ができなくてせめてもの抵抗か、まるで猫じゃらしを弄る猫の手の様に彼女の左手が何もない空間を掻き毟る。 鳶色の瞳に怒りの色を滲ませたルイズを見て、寸での所で助けてくれた衛士に、霊夢は感謝の意を送った。 「何から何まで…本当今日はアンタに助けられてるわね」 「お世辞なんかよりもまずは仲直りした方が良いんじゃないか?傍から見るとかなり嫌悪な仲だぞ」 アニエスの助言じみた苦言にすかさずルイズが「余計なお世話よ!」と怒鳴り返し、今度は右手も振り回し始める。 もはや手がつけられない彼女に霊夢は肩を竦めつつ、これからどうしようかと悩む。 ルイズがここにいるなら何か知っているだろうが、今の状態で近づくと痛い目を見るだろう。 ただでさえ負傷しているのにこれ以上傷が増える事は遠慮願いたいので、知りたい事を聞けない。 さてどうしようかと悩もうとした直前、アニエスが先程呟いていた事を思い出した。 「そういえば、ちょっと聞きたいことが一つあるんだけど良いかしら」 彼女の口から出ていた言葉の内に気になるモノが一つだけあった霊夢は、彼女に話しかけてみる。 「お前、今の私が人の話を真面目に聞ける状態だと思っているのか?」 「別に良いじゃないの。もうルイズだって私に殴り掛かる気もなさそうだし」 「…アンタって相も変わらず、そんな性格だから私が頻繁に怒るのを分かってないみたいね」 二人のやりとりを耳にしていたルイズは、さっきまで宙を掻いていた両手をぷらぷらと揺らしつつ毒づいた。 本気で襲うつもりは無かったのだろう。ジト目で巫女を睨みつける今の彼女は、まるで人見知りの激しい飼い猫のようだ。 相手に襲う気が無いとわかったのか、ため息をつきながらもアニエスは「で、聞きたい事って何だ?」と霊夢に話しかける。 「そういえばアンタ、私たちを連れてきた云々の話で゛とんでもない御方゛って言ってた人間がいるけど…それって誰なのよ?」 「御方…?御方――あぁッ!」 彼女が質問を口に出した直後、アニエスの腕に抑えられていたルイズが突然大声を上げる。 いきなりの事に多少驚きつつも二人がそちらの方へ目を向けると、ハッとした表情を浮かべる彼女がいた。 まるで朝一番にすべき事を忘れ、さぁ昼食を食べようという時間に思い出したかのような、取り返しのつかない焦燥感に包まれた顔。 一体何なのかと思っていた時、先程飛びかかった時の様な俊敏な動きでもって、ルイズはアニエスの近くから離れた。 突拍子もない動きにアニエスが軽く驚くのを無視しつつ、ルイズは少し慌てた様子で少し乱れた服を直してから霊夢にこんな事を聞いた。 「あんた、もう歩けるのよね?昨日は見た目よりも結構な重傷で焦っちゃったけど…」 「えっ?ん、んぅ…まぁね。完治って言えるほどでも無いけど」 唐突な質問に霊夢は言葉を詰まらせかけながらも、包帯を巻いた頭を左の人差指でさしながらそう答える。 多少不格好さが目立つ白いソレを鳶色の瞳で見つめつつも、ルイズはまぁ大丈夫だろうと判断した。 調子が悪そうなのはすぐにわかるが、それ以外はいつもの厚かましい博麗霊夢だ。 一つ間違えればケンカに発展していたであろうやり取りでそれが分かった彼女は、その場で踵を返した。 「じゃあすぐにここを出ましょう。入り口の方で、馬車とマリサ達を待たせてるから早く行かないと」 やや早口で捲し立てる彼女に多少戸惑いながらも、霊夢は首を傾げて言葉を返す。 「馬車?という事は何よ、これから学院に帰るっていう事?」 突然出てきた知り合いの名を聞いてそんな事を言った巫女に対し、ルイズは「違うわよ」と首を横に振る。 「王宮よ。昨日私達が街で大騒ぎした事を知って、姫さまの使いが迎えに来てくれてるの」 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4127.html
前ページ次ページ雇われた使い魔 大きな爆音と共に現れた奇妙な生物。 その生物を召喚したルイズといわれている少女は目をぱちくりさせていた。 後ろでルイズを煽っていたギャラリー達もルイズと同じような反応をしている。 『サモン・サーヴァント』という召喚の儀式でルイズが呼び出した生物は、 狐と人間が合体したような、なんとも奇妙な動物であった。 「……何これ」 ルイズは、自分が召喚した奇妙な動物におそるおそる近寄る。 爆風によって舞い上がった砂埃が晴れ、今はその謎の動物の容姿が手に取るように分かる。 顔は狐。よく見ると尻尾も生えている。しかし体は人間のような骨格をしている。 おまけに服も着ており、彼の顔にはよくわからないアクセサリーのようなものがついていた。 「おいおい、なんだよアレ? 狐じゃあ……ねえよな?」 「ルイズが召喚したから骨格がおかしくなっちまったんじゃねーの?」 「でも服を着ているしな……」 ギャラリーが騒然となる中、ルイズは自分の使い魔となるその動物をじっと見つめていた。 気絶しているのか、はたまた眠っているのか、その動物は目を閉じたまま動かない。 まさか死んでいるのではないだろうかと、ルイズの頭に嫌な予感が過ぎる。 何回、何十回と失敗をし、やっと召喚できた動物なのだ、死んでしまっていたらたまったものではない。 ルイズは生死の確認をするため、恐る恐る手を伸ばし触れてみた。……暖かい。 どうやら死んでいるということはなさそうだった。 ルイズがほっと胸をなでおろし、ため息をついた瞬間、その動物がムクリと起き上がった。 「うう……」 ルイズはビクッと体を反応させ、思わず後ずさりする。 起き上がった動物は、自分の身に何が起こったのか理解出来てない様子で、辺りをキョロキョロと見回している。 「や、やったわ…… 成功よ! ついに成功した! ついにやりました、ミスタ・コルベール!」 ルイズはあまりの嬉しさにカエルのようにピョンピョンと飛び跳ねた。 召喚したのは、人間のような謎の狐だが、自分の使い魔であることには変わりない。 いや、"人間のような謎の狐"なんてそうそう出会えるものではない。 もしかしたら自分は物凄い才能の持ち主なんじゃないかと思えるほどだ。 「なあ……あれって成功なのか?」 「絶対変だよな……あれ」 あれと言われた動物は、辺りをキョロキョロと見回したり、 自分の頬を抓ったり、自分の顔についてる奇妙なアクセサリをいじったりしていた。 そんな奇妙な動物の様子を興味深そうに見ながら、ミスタ・コルベールと呼ばれた男が呟いた。 「ふむ……これは珍しい。人間のような格好をした狐とは実に興味深い……」 「は、はい! きっと凄い使い魔となるに違いありません!」 すっかり興奮しきった様子でルイズが答える。 そんなルイズに、多少気圧されながらも、コルベールは話を続けた。 「ミス・ヴァリエール、興奮するのは後にして、早く契約をしたまえ。次の授業まで時間がないんだ」 「あ……。す、すみません……」 ルイズは狐人間に近づき、スッと顔を近づける。 「悪いけど、ちょっとの間だけじっとしててね」 「……!?」 狐人間はルイズに顔を掴まれ驚いたような表情をしている。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 すっと杖を狐人間の額に置き、そのまま唇を重ねた。 「終わりました」 ルイズにキスをされた狐人間はしばらく放心しているらしく、ピクリとも動かなくなった。 自分の体が妙に熱くなっているのを感じていたが、そんなものが気にならないくらい意識が飛んでいた。 なぜなら、この狐人間は宇宙空間に漂い、強大な敵に向かって戦闘機を走らせているからだ。無論妄想であるが。 「ふむ……珍しいルーンだな」 コルベールは魂が抜けている狐人間の左手の甲を見ながら呟いた。 「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」 コルベールはきびすを返すと、中に浮いた。 他の生徒達も中に浮き、それぞれ教室に向かって飛んでいく。 「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」 「『レビテーション』がまともに使えないんだからな!」 「使い魔もまともじゃねえしな!はーっはっは!」 いつもなら罵倒を浴びせてくる生徒達を睨み付けるルイズだが、今回は違った。 なぜなら、自分の目の前に最高の使い魔が現れたからだ。 それに比べたら、幼稚な罵倒や、見る目が無いバカの戯言などまったく気にならなかった。 「ねえ、いつまで硬直してるのよ? あんたは私の使い魔なんだから早く私について来なさい」 そういって狐人間が着ていた服を掴もうとした瞬間だった。 「い、い、い、い、いきなり何をするだあーっ!!」 狐人間が思いっきり叫んだ。 思わず台詞をかんでしまったことを恥じる。 しかし、この狐人間にとってもっと恥じるべきことが先ほど発生した。 台詞をかんだことよりも、そっちの方が遥かに重大であった。 「……へ?」 「"へ?"じゃない! キミには恥じらいというものが無いのか!」 「あんた、喋れるの……?」 「……? 何を言ってるんだ、当たり前じゃないか」 狐人間がしゃべった。いや、狐"人間"なのだからしゃべって当たり前なのかもしれない。 しかし、この狐人間が喋るなんて毛ほども想像していなかったルイズは、驚きと同時に深い喜びを感じた。 「す、すごい! すごいわ! ねぇねぇあんた一体何者なの? 人間じゃないんでしょ? でも、狐でもないんでしょ? 一体何なの? どんな生物なの? 名前は何? どこから来たの? 歳はいくつ? 性別は雄……じゃなくて男……どっちでもいいわ!」 凄い勢いで質問攻めしてくるルイズに、狐人間は後頭部に大きな汗を流す。 そして、とりあえずルイズを落ち着かせることにする。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。 オレだって質問したいことは山ほどあるんだ。 とりあえず順番にお互いのことを話していくってことでどうだい?」 狐人間の提案に、ルイズはなるほどといった表情で頷いた。 「そうね、それがいいわ。じゃあまず名前から聞くわ。ていうかあんた名前とかあるの?」 狐人間はむっとした表情で答える。 「あるに決まってるじゃないか、失礼な子だな……。オレの名前はフォックス・マクラウドだ。 雇われ遊撃隊、スターフォックスのリーダーを務めている。よろしくな」 フォックスと名乗った男は握手を求め手を差し出す。 「雇われ遊撃隊……? ナニそれ? ……ま、いいわ。フォックスって呼べばいい?」 「ああ、そう呼んでくれると助かるよ。オレの仲間も皆そう呼んでいるからね」 「そう。私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 ルイズが言い終えると、フォックスは頭に?マークを浮かべ、しばし考え込む。 「……それ、キミの名前かい?」 「当たり前でしょ」 「……な、なんだかずいぶんと長い名前だな……えーとルイズ・フランスソース……?」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!!」 「……? ……そうか、よくわかった! よろしく頼む、ルイズ」 「あんた絶対分かってないでしょ……」 ルイズはあきれ返ったような表情でフォックスを見た。 さっきの最高の使い魔を手に入れたという表情はどこへやら。 ひょっとして自分はとんでもないボンクラを呼び出してしまったのではないかとさえ感じている。 「ところで、先に一つ言っておくことがあるわ」 「……なんだ?」 ルイズはフォックスが差し出している手をはたく。 「な、何をするんだ!」 「あのね、今日から私はあんたのご主人様なの。わかる? 握手するつもりなんだろうけど、ご主人様に軽々しく握手するなんて使い魔としてどうなのって感じでしょ?」 フォックスは自分が何を言われているか理解できてない表情で首を傾げる。 「あー、もう! つまり、あんたは私の部下ってこと! だから私と立場が同じと思っちゃだめなの! わかったら、"ハイッ!"って大きな声で返事をしなさい! これは私の最初の命令よ!」 フォックスは今となっては誰にも通じない通信機に向かって呟いた。 「コイツ何言ってんだ?」 その声はルイズにも聞こえ、ルイズは顔を振るわせながら両手を挙げる。 「あんた私に喧嘩売ってるの!? とにかくあんたは今日から私の使い魔なの! 分かったわね!」 「……言っている意味がさっぱりわからない。スリッピー、この子が言っていることを分析してくれ……」 今やそばにいない仲間に助けを求め、フォックスは頭を抱えた。 しかし、フォックスの苦悩はまだ始まったばかりなのであった。 前ページ次ページ雇われた使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1164.html
「すまぬが、許可できぬ」 昨晩の雛水の話を聞き、早速長期外出の許可を得るために、朝食も取らずに学院長室を訪問した。 事前にコルベールに聞いたようで、ルイズの使い魔が天使である事はオスマンに知られていた為、ならば話は早いと天使の帰還について説明、アルビオンへの渡航許可を申請したが、返ってきたのは最初の言葉だった。 「神の使いである天使に協力したいのは山々じゃが、時期が悪すぎる。 一応王宮に申請してはみるが、今は諦めた方がよいな」 と、不本意さを表に出してオスマンはやんわりと拒絶した。 更に踏んだり蹴ったりで、朝早く起きたせいで授業中陽気に誘われて眠ってしまったり、レディが鳴らすべきではない空腹の音が響きすぎて笑われたりと、悪い物事が重なった。 致命的ではないものばかりだったのが救いだろうか。 「はぁ……」 「ふぅ……」 「へぇ……」 そしてルイズ達三人は、ため息をつきながら食堂の一角で陰鬱な空気を撒き散らしていた。その様子に、誰も見て見ぬ振りをして近づかない。 いや、二人いた。足音を立てず、近づく大きな影が一つ、小さな影が一つ。 「はぁぁ……」 「ふぅぅ……」 「へぇぇ……、そういえば何でため息ついてるんだっけ?」 ガツン、とルイズと雛水はコントのようにテーブルに頭をぶつける。周りに観客がいたら思わず拍手してしまうぐらい、見事な反射だった。 「遊羽、説明したでしょう。帰る話と、上手くは行きそうにない話を」 黒い羽と命の危険は隠しているが。 「あっ、そうね。あはは……」 「私も付き合いたいけど、今のアルビオンは政情不安定らしくて、おまけに無許可で国外に出たら、後が色々怖いのよね……」 何かトラウマを思い出したのか、ガタガタと震えだすルイズ。気の抜けた声でこわくなーいこわくなーいと頭を撫でる遊羽。 ルイズはともかく、この友人はいつまで経っても脳天気は治らないらしい。そこが遊羽らしいといえばらしいのだが。 「ルイズっちには悪いけど、見送り無しでいいんじゃない?」 「ダメ! 私はあんたの対象者で主なんだから、ちゃんと試験が終わるまで付き合うのが決まりってものなのよ!」 「そんな決まりはありませんが……何でもありません」 雛水はやんわりと否定するが、ルイズの睨みに負けて引き下がった。 「それによく言うでしょ? 家に帰るまでが試験だって」 「それは遠足よ」 「―――げ」 ガチガチガチ、と壊れた歯車のようにルイズが振り向くと、キュルケとタバサがいつの間にか立っていた。話に夢中になりすぎて、もしくは落ち込みすぎて気づかなかった。 「試験って何よ? 最近の授業であったかしら」 「追試」 「違うわよ! 大体私の話じゃないんだから!」 「じゃ、誰のかしら?」 「うっ」 墓穴を掘ったことを感じた。だがあの時点でうまい誤魔化しや切り返しが出来るほど、ルイズはその方面で賢くは無い。 アイコンタクトで雛水や遊羽と言っていいか確認し、出歯亀二人に白状した。 「天使ねえ……はぁ」 「どうせ信じないんでしょ」 「信じるわよ。 あんたはずっとゼロのルイズだったり背も小さかったり胸も無かったりするけど、しょうも無い嘘をつくほどつまらない女じゃないって事は、入学以来ずっとからかい続けてるあたしが一番知ってるから」 「それは、喜んでいいのかしら?」 「勿論」 やれやれ、と怒る気にもなれないルイズは、天使と聞いてもあまり驚きを見せないタバサに視点を変える。 「あんたは、特にどうとか思わないの?」 「シルフィードが見抜いた」 「そ、そう」 確かタバサの使い魔は風竜。簡単に納得してしまった。 実際は、タバサは使い魔が人間では無いとだけしか知らなかったと言う意味で言ったのに対し、ルイズ達は天使である事を見抜かれたと誤解していたのだが、今教えているので結局誤解の問題は無かった。 「明日、一緒にオールド・オスマンのとこ行ってあげるわ。タバサもいいでしょ?」 「興味ある」 あまり付き合いの無いタバサはともかく、いつものキュルケからはかけ離れたその優しさに、ルイズは疑いの表情を隠し切れない。 「……悪いものでも食べた?」 「失礼ね」 「まあ、感謝してあげるわよ」 「初めから素直にそう言っておきなさい」 「ありがとうございます、キュルケ」「ありがとね、キュルキュル」 「ほら、使い魔のほうが素直じゃない」 「私はどうせ、素直じゃないわよ!」 *************** そして次の日。オールド・オスマンは悩んでいた。 ヴァリエールだけならともかく、かのツェルプストーやタバサまでもが三人一緒になって目の前に外出申請に来た。 理由は間違いなく、ヴァリエールの付き合いだろう。これで危険だとか言う言い訳は通じにくくなった―――実力が高すぎる。正直、ただアルビオンに行って帰って来るだけならこのトライアングルメイジ二人も連れて行けばお釣が帰って来る。 だが、まだ公表していないものの、明日は我が国のアンリエッタ姫がゲルマニア訪問からの帰りに、この学院に来られる。訪問理由は婚姻と、アルビオンを睨んだ同盟。 そんな時に、貴族の中でも名が高い家系の三人(タバサは若くしてシュヴァリエの称号持ちとの意味で)を、しかも今のアルビオンに行かせるのは何かと不安がよぎる。下手をすれば痛くもない腹を探られかねない。 それ以前の問題で、王宮に申請をまだしていない。 「ふぅ、仕方あるまい」 若いのは羨ましいと、年老いた髪を撫でつつ、理由を言う事にした。秘密を言う事になるだろうとは思っていたので、全て人払いはしてあり、彼女達とオスマン以外に人はいない。 「実は明日、アンリエッタ姫がこの学院にいらっしゃる」 姫殿下が!? と色めき立つ生徒。ふむ、これは効き目がありそうだ。 「ゲルマニアの帰りに来られる予定じゃ。この国の貴族たるもの、お迎えしない訳にはいくまい?」 全員に対する効果は期待していない。最低、首謀者であるヴァリエールを止められればいいのだ。 「じゃから、姫がお帰りなさるまで、数日待ってはいかがかの?」 そして、嘘も混ぜる。数日とは言ったが、その後に許可を出すとは言っていない。 案の定ツェルプストーとタバサは幾分不満気な顔をしていたものの、ヴァリエールが引き下がった為に一緒におとなしく出て行った。 「やれやれ……」 気持ちは分からんでも無いが、親から生徒を預かる身である学院の立場も考えて欲しいものだ。 危険な場所に飛び込むにも限度がある。 「しかし、ミス・ロングビルはどこへ行ったんじゃ」 最近、美人の秘書が突然失踪したせいで事務仕事が増え、面倒になったわいと思いながら、机の上の山の様な書類に手をつけた。 *************** 勿論それで諦めるルイズではない……が、アイデアが浮かばない。 学院長の手前、姫殿下を優先する発言を取ったが、正直姫殿下はタイミング悪いなとか愚痴みたいなことを思っていた。 確かに姫殿下が来られるのはとても嬉しいのだが、幾ら昔に遊び相手を務めていたとあってもそんな事覚えていないだろうし、何せ今の自分はただの学生の一人で、ゼロのルイズだ。とても姫殿下に気にかけて貰える存在とは思えない。 まあ仕方あるまい。学院長にああ言った手前、いないとまずい。明日だけ姫を見てから明後日こっそり出よう。 「母上が怖いわね……」 規則を守らないとオーガのように怖い存在が頭をよぎる。でも、時間の無さには代えられない。 私は、遊羽を助けたいから。 そんな思いが天に通じたからか、突然の幸運がルイズに舞い降りた。 アンリエッタ姫が学院に来て、歓迎式典が行われた初日の夜。遊羽とともに無断外出の準備―――そればかり気にして肝心の式典はあまり覚えていない―――をしていると、突然一人の少女が部屋に訪れた。 頭巾で顔を見えないようにし、部屋に入ってからもわざわざ探知魔法を使う念の入れように、二人は訝しむ。 「ディテクトマジック?」 「どこに耳が光っているか、分かりませんからね」 そう頷き、更に覗き穴や魔法盗聴が無いか確認してから、頭巾を取った。 出て来たのは、ルイズに勝るとも劣らない美少女で、今日の式典の主役だった。 「姫殿下!」 久々の思わぬ再会を果たし、ルイズとアンリエッタは語り合う。幼き頃の思い出、宮廷の愚痴、結婚話。 一人聴衆となっていた遊羽は、 (何だか、会話がわざとらしくない?) 特にこの姫殿下って呼ばれてる人、とか思いながらも、顔に出さず蚊帳の外にいると、自分の話に変わっていた。 「ところで……そこにいる方は?」 「あ、私の使い魔です」 「……人間、ですが」 胡散臭いとは言わないが、流石に困惑と疑いの目を向けてくる。まさか天使と言っても信じて貰えまい。 (空気読みなさいよ) (オーケイ) 慣れたアイコンタクトを一瞬交わし、 「は、はい。珍しいモノを召喚してしまって」 「私も、人間が使い魔というのは初めて見ました。貴方の名前は?」 「遊羽よ。よろしくね」 相変わらずのしゃべり方に頭を痛くした。そういえば先生達と話す数少ない場合でも、しゃべり方は変わって無かった気がする。 しかし幸いアンリエッタは気を悪くした様子は無く、それに一安心で胸をなで下ろす。 「びっくりしました。まさかルイズが、その、人に言えない愛の趣味を持ったのかと」 「そ、そんな事はありえません!」 「凄い否定ねえ……」 ちなみに後でしゃべり方について聞いてみると、 「あたしだって、敬語は使えるわよ」 「じゃあ何で使わないのよ!」 「うーん……何とかなると思ったのよね」 これも『少しだけ都合がよくなる』力か。まあ、遊羽が敬語を使うのはそれはそれで想像できなかったが。 使い魔話は呆気なく終わり、本題―――アンリエッタの頼み事に移る。 大まかに言えば、アンリエッタはゲルマニアとの同盟の為に結婚する。しかし、以前アルビオンの皇太子に出した手紙の存在がある。 現在、貴族派と王党派で内乱中のアルビオンは皇太子がいる王党派が風前の灯。貴族派は二国の同盟破棄を望んでいて、婚姻妨害の材料としてその手紙が見つけられれば、同盟破棄は確実。 哀れトリスティンは1国で、内乱後も強国であろうアルビオンの侵略に立ち向かわなければならない。 だからアルビオンの皇太子に手紙を渡し、また、危ない手紙を受け取って欲しいと言う。 途中出歯亀のギーシュを加えたものの、ルイズは二つ返事で承諾し、手紙と旅費代わりに水のルビーを受け取った。 アンリエッタが去って再び準備に取り掛かってから、遊羽は思う。 頼み自体は別にいい。だが、何故ルイズなのか? 「正直、あたしとかルイズっちって大した事ないじゃない? ヒナは凄いけど、他人が知ってるはず無いし」 雛水は対外的には、ルイズのちょっと変わった付き人としている。只でさえ使い魔がややこしいのに、それ以上ややこしくしてはかなわない、との判断だ。 幸い今まで知り合いとの訓練以外に戦う姿を見せていないので、そのまま付き人で通っている。隠す場所も無い服でどこから長剣を出すのか、がルイズの疑問だが。 「分かってるわよそんな事。多分、私がアルビオンへの渡航許可を出したのが知れたんでしょ?」 「それでも、よ。大体、さっきの話し方だってやけに大袈裟過ぎたり、わざとらしく溜め息付いて、それで何でもありません、だなんて、聞いてくれって言ってるのと同じじゃない」 「―――ええ、分かってる」 ルイズは忠告を切って捨てる。うっとおしいからではない、気付いていたからだ―――話が終わってからだが。 何の実力も実績も無い自分に、そんな重要任務を任される筈は無い。精々捨て駒で本隊は別にいるか、もしくは姫殿下が信頼する誰かを連れて行くのか。 まさか、本当に私しか頼める相手がいなかったのか―――それは光栄過ぎる話だが。 話の中身も遊羽が挙げた他に、最初にはしゃいで懐かしの思い出を、昔からの友人である事を確認するように次から次に挙げたり、 失敗したら国が滅ぶとか破滅とか言いながらその後で自分は混乱しているとか危険だから行くのは頼めないとか言うのは行ってくれと言うのと同じじゃないのかと思ったり、 友情とかおともだちって言葉に過剰に反応するのは何でだろうとか考えたり。 けど、それでも別に構わなかった。友達であり敬うべき姫殿下の役に立てるのは素晴らしい事だと思うし、そう思える事に間違いは無い筈だ。 「大丈夫、これで私達の目的の1つは達成されるわ。大義名分を持って、私達は外出出来る! 私達に重要なのは『あんた達を天界に帰す事』ッ! トリステインと姫殿下に重要なのは手紙をやり取りする事ッ! 両方の行き先がアルビオンなら、同時に任務を成功させれば、問題は無いわよ」 「ルイズっちって……結構醒めてるのね」 醒めてる? どういう意味だろう? 「ちょっと前のルイズっちだったら、さっきみたいなお姫様? に頼まれたら、他を放り出してお姫様の目的を最優先にしそうだったけど、今は随分欲張りね」 ハッとする。そういえば……そうだ。 あの姫殿下に極秘の頼み事をされたって言うのに、本当なら天秤にかける事すら許されないと思ってただろうに、今の私は何を考えてた? 同じ土台に、置いてしまっていた? 私は、いつの間にか変わってしまったのか……? いや、違う。姫殿下を、国をないがしろにしているのとは、違う。 多分、これは。 「あんた達がいるからよ」 「あたし達が?」 「あんた達を帰す。その重さを背負っているから、問題が同列になっただけ。けどそれが何? どこかの逸話でもあるでしょ?」 それはとある国の軍人の話。部下に願いは何かと聞いたとき、「一国を統一する事」と言った。 その軍人は聞いて怒り、「人間、全国統一と願ってやっと一国を統一できる程度だ。人間、もっと望みは高く持て!」と言ったという。 「だから、望みは高く持った方がいいのよ」 それって別のところの話なんじゃないかなあ、とか無闇やたらな考えは計画倒れにならないかしら、とは思っていても遊羽は口に出さない。 本人が出来ると思ってるなら別に止める理由は無いし、何より嬉しいのだ。何だかんだ言って、こんなに必死になってくれる自分の対象者が。 遊羽でも、それが追い出したいからか別れを惜しんでくれているかぐらいは区別がつく。ルイズは、後者だった。 だから、その想いを一つの言葉に込めて言う。 「ありがとね、ルイズっち」 「あ、うん……ああもう! 明日は早いんだから、さっさと寝なさい!」 「はぁい」 どう見ても照れ隠しです、に真っ赤になったルイズにニヤニヤしながら、一足先に遊羽はベッドに入った。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2924.html
前ページ / 豆粒ほどの小さな使い魔 / 次ページ 扉の隙間から、細く明かりが漏れている。 夜も遅いのに、耳を澄ませば、かさりと紙を捲る音がする。 覗き込むと、部屋の奥のベッドで、上体を起こしたカトレアさんが、静かに本を読んでいた。 そういえば、笑顔以外を見たのは初めてかもしれない。引き締まった口元は、ルイズと似ていながら少し冷たさを感じる。 もしかしたら、カトレアさんも、自分でそのことを知っているから、いつも微笑んでいるのかもしれない。 くるる、と、奥の薄闇から獣の寝息が聞こえる。 さて、どうやって声を掛けよう。いきなり目の前に飛び出すのは礼儀知らずだし、驚かせたくない。 思い立って、帯から草笛を抜いて、今日演奏した曲の一節を小さく吹いてみた。 聞き取ってくれたカトレアさんが、こちらを向いて、すぐにあの笑顔を浮かべてくれた。 「来てくれたの? ハヤテちゃん」 ひざ掛けの上、栞を挟まれた本の上に飛び乗る。音は立てない。 「コンバンハ、かとれあサン」 「いらっしゃい。こんなに遅くに呼び出して、ごめんなさいね」 ちらと見た本の表紙には、まだあまり文字を覚えていない私には読めない難しい綴り。 そこに、私の腰くらいまである天鵞絨張りの、多分宝石箱が、カトレアさんの手でことりと置かれた。 「お客様を立たせておくなんてできないもの、どうぞお掛けになって」 ますます敵わない気がする。私の方が余裕がない。 「本当はね、貴女に逢えたら、一番最初にありがとうって言おうと思ってたのよ」 「ル……ソンナコト」 「去年の夏辺りから、ルイズからの手紙が少しずつ減ってたの」 少し、遠くを見る目で、 「頑張ってる。元気です……いつも手紙にはそう書いてあって、でも、家族にもそう言い続けるのが辛くなってるんじゃないかって」 カトレアさんの、ルイズには言えないこと。 「私ハ、今ハマダイイ、ダケドイツカハ、国ニ帰リタイ」 そしてこれが、私の、ルイズには言えないでいること。 ルイズは好き。だけど、あの小山も忘れられない。靴に穴が開いちゃったとき、心にも穴が開いた気がした。 ほう、と、カトレアさんが、やさしく吐息をついた。 「それでも、ハヤテちゃんがルイズの使い魔になってくれて、本当によかった。ね? 私は、小さなルイズさえよければそれでいいの」 だから怒るならルイズじゃなくて私にしてね、と、小さな私に向かって本気で頭を下げてくれる人。 ルイズは、きっとカトレアさんへのお手紙に、私のこと色々と書いたんだと思う。 頭のいいカトレアさんだから、気がついたんだろう。 「ずっと昔、子供の頃だから、ルイズは覚えてないと思うけど、私もよく癇癪を起こしてたの。その度に発作を起こして、寝込んでは癇癪を起こして」 くすっ、と 「あの子ったら、私に八つ当たりされるのに、いつも私の側にいてくれた。泣きながら。それで、馬鹿な私が血を吐いて倒れたときに、『わたしがおねえちゃんの代わりに怒るから、だからおねえちゃんは笑ってて』って」 「本当は、ルイズの方が大人しくて優しい子だったの。もう死んでしまったけど、最初に私の部屋に動物を連れてきてくれたのもルイズなのよ。一生懸命『騒がしくして私の邪魔しちゃだめよ』って躾けて、連れてきてくれたの」 両手で、小さな空間を作る。このくらいの、白いネコだったわ、と。 今とは全然違う二人の姿が、カトレアさんの口から語られるのを、私は黙って聞いていた。 「ルイズはもう覚えていないのかもしれない。忘れようとして、本当に忘れちゃったのかも。あの子の中では、私は最初から優しいちい姉さまみたい」 「お母様にも、お父様にもどうしようもなかった私を変えてくれたのは、小さなルイズだった。だから私は、ルイズを、ルイズが魔法を使えるようになることを、世界の誰よりも幸せになってくれることを信じられるの」 ルイズを信じて支え続けてくれてたカトレアさん、その優しい強さは、カトレアさんの心の中にいるルイズ自身だったんだ。 「るいずハ、本当ニ覚エテナイミタイダヨ。イツモ、チイ姉サマハ優シクテ最高ノ私ノ憧レダッテ言ッテル」 「まぁ」 「デモ、ナンデ私ニ話シタノ?」 これは、カトレアさんのナイショの宝物だと思う。きっとご両親にだって話してないはず。 それなのに、逢ったばかりの私に。 「だって、ハヤテちゃん、私のこと警戒してたでしょ?」 あ、あれは、違うの、ルイズがちい姉さまのこと好きだって何度も言うから、ちょっと変な気持ちになってただけ、なのに。 「ううん、それだけじゃなくて、私が笑うのに、不自然さを感じてたみたいだし」 あんまり鋭いから、びっくりしちゃった、って。 この人は、身体が弱い。走ったり馬に乗ったり、魔法を使うのもきっと大変なんだと思う。 だけど、すごく深い人だ。世話役とか、相談役の長老たちと同じ匂いがする。 「今日は私、お昼寝したから、結構元気なの。だからハヤテちゃんとお話できるわ」 なんで、だろう。 そう言われたら、ほろりと、涙が零れた。 全然、哀しくなんてないのに。 カトレアさんがちっとも慌てないから、私も不思議と落ち着いた。 それから、沢山話した。小山のこと。隊長のこと。組んでいるマメイヌのこと、今頃はきっとつがいができてること。大好きな桃のお酒のこと。 ルイズとあれだけお話してたのに、まだ話し足りなかった自分がちょっと恥ずかしい。 空も薄く白み始めて、 「アリガトウ、かとれあサン」 沢山話して、沢山泣いて。頭も身体も、すごく軽くなった気がする。 妹の前では泣けないものね、そうカトレアさんが言ってくれた。 そういうことだったんだろうか? 私みたいな新米お姉ちゃんには、まだまだ覚えないといけないことがありそう。 手を振ってくれるカトレアさんに見送られて、ルイズの部屋に駆け戻る。 よかった、まだぐっすりと寝てた。 畳まれたハンカチの布団に潜り込んで、だけど目は閉じずにルイズの寝顔を眺める。 つい、頬が緩む。 妹の寝顔を眺めるのは、妹に懐かれてる姉の特権なんだからって、本当にカトレアさんの言うとおりだと思った。 * * くぅ、と伸びをして、あれ? と思ったけど、何が変なのか分からなかった。 ぐるりと見回して。ここは学院の寮じゃない、久しぶりのヴァリエール家だけど。 ああ、そうか。 枕元、ハンカチが盛り上がって、ゆっくりと上下してる。 ハヤテが私より遅くまで寝てるって、もの凄く珍しいから。 そうっと、振動を伝えないように、ハンカチの端を指で摘んで、そうしたら、解かれた豊かな黒髪に縁取られた整った寝顔。本当にお人形さんみたい。 起きてるときの凛とした様子からは信じられないくらいあどけない。 (だーれが、お姉ちゃんよ。まるっきり妹じゃない) いつもの立場にはとりあえず目を瞑って、メイドが朝食の支度が整ったことを伝えに来るまで、つかの間のお姉ちゃん気分を味わった。 前ページ / 豆粒ほどの小さな使い魔 / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8919.html
前ページ次ページるろうに使い魔 その日、トリステイン魔法学院は快晴だった。 シエスタは、貴族達の服の洗濯をする傍ら、この晴れやかな日差しを心地よく浴びていた。 「今日もいい天気ねぇ」 そんな事を言いながら、シエスタは小鳥たちと戯れつつ、どこかウキウキした様子で洗濯物を干していた。すると…。 「あれ、ケンシンさん?」 シエスタの遠くで、例の気になる男性、あの緋村剣心が、どこか森の中へと入っていくのをその目で見た。 何だろう? シエスタは持ち前の好奇心で、剣心の後を追った。 しばらくして、剣心はおもむろに草木が生い茂る林の中心に立つと、どこか神妙な顔つきで目を閉じていた。 ひっそりと隠れながらも、シエスタはこの気になる行動に疑問符を浮かべていた。 しばらくして…彼の周りから、ただならぬ雰囲気が立ち込めるのを感じた。 そして次の瞬間――――。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」 剣心は、それを一気に開放するかのように、急に唸り声を上げた。 それに伴い、パン!! パン!! と周囲に舞う木の葉が弾け飛び、木々は悲鳴を上げる。 シエスタは、この出来事に大層驚き、腰を抜かしてしまった。 「きゃああ!!」 シエスタの悲鳴が聞こえると同時に、剣心はハッとしてそちらの方をむいた。 「シエスタ殿?」 「あ、御免なさい…えと、あの」 シエスタは、しどろもどろになりながらも、これまでの経緯を剣心に話した。 「そうか、それは済まない事をしたでござるな」 「あ、別に大丈夫です。でも…」 聞こうか聞くまいか、悩む仕草をしたシエスタだったが、やっぱり知りたい好奇心が勝ったのか、剣心に質問した。 「さっきのは、一体何だったんです?」 「まあ、気を引き締めてただけでござる」 シエスタは、さらに疑問が増えた。気を締めてた? あれはそんなレベルじゃないような気が…。 シエスタは、吐き出すように気迫を飛ばしていた剣心を思い出し、首をかしげた。 「拙者は、ああして時々気を締めないと、心の具合が黒くなる。だからさっきのようにやって、それを発散させているのでござるよ」 思うところがあるのだろうか、時々左手を見つめながら剣心はそう言った。 「へえ、そうなんですか」 正直、言っている意味はさっぱり分からないが、剣心が言うことなら、余程重要なことなのだろう。シエスタはそう思った。 (ってあれ? これって今、ケンシンさんと二人きり…?) そして、丁度二人っきりだということにシエスタは気付き、顔を赤らめた。 対する剣心は、ルイズの事を思っているのか、どこか考え込むような表情をしていた。 今のルイズに必要なのは、リラックス出来る環境だろう。 何かないものか…そんな事を思案しているうちに、シエスタから声が掛かった。 「そ、そう言えば、ミス・ヴァリエール達と、どこかへ行っていたようですが、一体どこへ…」 単なる話題を作るために、シエスタは質問したが、剣心は困ったような表情をした。 「う~ん、まあ、お忍びでござるな」 頬を指でかきながら、剣心はそう返す。 「へぇ~…そうなんですか…」 少し何とも言えなさそうな顔をして、シエスタはそう相槌を打った。 その後、しばらくの間沈黙が流れたが……やがて意を決したのか、勇気を振り絞ってシエスタは顔を上げた。 「あ、あの、実はですね、今度お姫様の結婚式のときに、特別にお休みがいただけたんですけど…それで…ケンシンさんも、私の故郷をどうかなって…。 とっても綺麗な草原もありますし、気も休まると思いますよ」 シエスタはシエスタなりに、彼の顔を見て思うところがあったのだろう。気を遣うような風で聞いてみた。 剣心は、少しポカンとした感じで、それを聞いて、そして叫んだ。 「それだ!!」 「へっ?」 第二十五幕 『宝探しと冒険』 「う~~~~~ん…」 同時刻、ルイズは学院の中庭のベンチに座り、一人考え事をしていた。 膝の上には、ボロボロの本『始祖の祈祷書』が乗っけられている。 あれから、ルイズは悶々として詔を考えていたのだが、いかんせん良い詩が思いつかない。まだ時間はあるとはいえ、そろそろ何か思い浮かんでもいい頃なのであるが…。 「…どうしよう…」 どれだけ声を唸らせて考えてみても、やっぱり何も出てこない。 ちなみにこの事は、剣心には言ってなかった。何というか、これ以上、彼に頼りっぱなしも良くないと思うし、何よりこれは自分自身の問題だ。 剣心も、その空気を察してくれているのか、必要以上には介入してこない。勿論困ったことがあれば、何時でも駆けつけてきてくれるだろうが。 「はーい、ルイズ」 気付けば、いつの間にか隣にはキュルケがいた。 面倒なのに見つかった。そんな雰囲気を隠そうともせずにルイズは目を細めた。 「…何しに来たわけ?」 「やあね、折角面白いものを見つけてきてあげたのに」 剣呑な雰囲気を受け流しながら、キュルケは胸の、その大きい谷間から何やら取り出し始めた。 それは、幾つかに分けられた羊皮紙の束だった。 「…で、これ何?」 「宝の地図よ」 怪訝な顔つきで見るルイズに、キュルケはしれっと答えた。成程確かに、それらしいことがその紙には書かれている。 しかし、ルイズは怪訝な顔つきを崩そうともしなかった。 「それを私に見せてどうする気よ?」 「連れないわねえ、誘ってるんじゃないの。宝探しに行こうって」 キュルケの言葉に、ルイズはハァ? って顔をした。いきなり何を言い出すのだろうかこの変態巨乳は。 しかし、キュルケの表情は、至って真剣そのものだった。 「あんた、この頃張り詰めてるでしょ」 「えっ…?」 「隠したって無駄よ。昨日の事件を見れば、誰だってそう思うわよ」 ルイズは、昨日の出来事を思い出した。 確かに、あの時自分の感情も爆発して、泣いてしまったことは覚えている。でも…。 「分かるわよ、王子様の事よね。普段強がりばっか言ってるあんたが、人目を気にせずに泣くんだもの。相当辛かったんでしょ?」 「そんな…私…」 「こういう時はね、何か気を紛らわすものが、必要なものなのよ」 キュルケの押しに、ルイズはグイグイ押される。こうなると、彼女は本当に強かった。 「でも、今私は…」 「でももさっちもない! 私が行くと決めたんだから、あんたも行くの!!」 ほぼジャイアニズムのような言動だったが、ルイズは妙に心打たれた。そう言えば、ワルドの結婚を吹っ切らせてくれたのも、彼女の言葉のおかげだった。 家系が家系故に、憎らしさが前面に出てるため、表立って言うことはないが…こういうところは素直に感心するなぁ、とルイズは思った。 確かに、環境を変えれば、まだ何か思いつくかもしれないし、それに、行くのを断れば、またキュルケが剣心をたぶらかそうとするかもしれなかった。それはやだ。 という訳で、ルイズは覚悟を決めた。 「……分かった、付き合うわよ。それで、いつ行くの?」 「勿論今からよ。後タバサと、ついでにギーシュの奴も誘ってあるから」 「ちょっと待って、授業中よ!?」 「いいじゃん、サボれば」 そんな風なやり取りをしていたところへ、上手い具合に剣心とシエスタが通り掛かった。 「おお、ルイズ殿。ちょうど良かったでござる」 「あら、ダーリン。いいとこに来たわね」 ナイスタイミング、と言わんばかりに、二人は同時に口を開いた。 「一緒に宝探しに行かない?」 「少し休養をとってはどうでござるか?」 「…え?」 「おろ?」 しばしの間、同時に放られた言葉の意味を、片側が理解するのに数秒かかった。 そして、剣心はキュルケの持っている地図の方を見て聞いた。 「宝探し?」 「そ、たまにはパァーッとさ。いいでしょ?」 「ってか、休養って何よ?」 ルイズは、隣にいるシエスタを怪訝な表情で見つめながら、剣心に聞いた。 そう言えばこのメイド、最近やたら剣心と一緒にいる気がする。 自分のことで精一杯だったから、そこまで回す気は無かったけど……なんだろう。何か嫌な予感がしたのだ。 女の勘で、何となくシエスタの心情を察したルイズは、無意識に彼女を睨んでいた。 ここで普通なら、貴族に睨まれただけで、シエスタは怯えただろう。しかし、表立っては出さないが、そこだけは譲れないという強い意志を宿して、シエスタも睨み返していた。 二人の間にバチバチと花火を散らす中、剣心がおもむろに言った。 「ルイズ殿、最近思い詰めてたでござろう? あんなことがあったんだし、ここは少し休みでもとったほうが良いと思うでござるよ」 この言葉に、ルイズは内心勝った! と叫んでいた。 いいでしょ? 心配されてるのよ、ワタクシ。アンタなんかにワタクシの相手が務まると思って? しかし、シエスタの方も、あくまでも営業スマイルを崩さずに、ルイズに対抗した。 「いいのですか? 行き先は私の村ですよ? 私の村には何にもない、つまらない所ですよ? 貴族の皆様が満足していただけるかは、保証しかねるのですが」 「へえ、いいじゃない。どんなつまらないところなのか、逆に興味が湧いてきたわ」 笑顔で睨み合う二人を見て、ようやくらしくなってきたなあ、と思ったキュルケは、ルイズたちの間に入って折衷案を出した。 「それじゃ、まず最初の何日かは宝探しで、その後にそこのメイドの故郷に行くって事で、いいかしら?」 「ちょっと待ってください。宝探しなら私も行きます!!」 さも当然だと主張するかのように、シエスタは手を挙げてそう言った。 無論ルイズは即座に反対する。 「はぁ? 魔法もないアンタに何ができるっていうのよ?」 「料理ができます!!」 「それが何の役に立つのよ!?」 「美味しい食事を提供できますわ!!」 相手は貴族だというのに、シエスタはルイズに対し、一歩も引かなかった。 それにより、ルイズは何か内側から燃えるようなものを感じていった。 しかし、これには思うこともあったのか、今度はキュルケが口を挟んだ。 「まあでも、そういう意味合いじゃ、確かにうってつけかもね。マズイ料理なんて私やだし、いいじゃないルイズ。連れてってあげましょ」 「あ、あんたは横からしゃしゃり出て来ないでよ!!」 「ねえ、ダーリンはどう思う?」 ここぞとばかりに、キュルケは決定権を剣心に渡した。 ルイズはグッとした目で剣心を見る。シエスタも、ルイズと同じような目で剣心を見つめた。 そんな二人の雰囲気に若干気圧されながらも、剣心は確認するかのようにシエスタに聞いた。 「休暇の方は、大丈夫なのでござるか?」 「はい、早くに取るつもりですから!!」 「危険もあるかも、でござるよ」 「平気です!! だってケンシンさんが守ってくれますから!!」 即答するシエスタを、剣心は改めてまじまじと見た。意地でも従いていく。目がそう語っていた。 まあ、それなら…と、ついに剣心も折れた。 「シエスタ殿が良いなら、拙者は構わないでござるよ」 「やったあああ!! ありがとうございます!!!」 「ちょ…ケンシンまで何言ってんのよ!!」 一人わぁわぁ喚くルイズとは裏腹に、シエスタはここぞとばかりにガッツポーズをした。 「という訳で、宜しくお願いしますね。ミス・ヴァリエール」 深々と頭を下げながらも、若干皮肉がこもった言い分に、ルイズは思いっきり髪をかきむしって、空に向かって叫んだ。 「もう、何なのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 そんなルイズの様子を見て、剣心も、やっと少し調子を取り戻したか。と思った。 あの魔法の失敗以来、どこか俯いた感じで、人を寄せ付けないオーラを放っていたが、今のルイズを見ると大丈夫なようだ。 「そんじゃ、今日はもう遅いし、出発は明日から。皆ちゃんと準備してきなさいよ」 キュルケの言葉を最後に、剣心達は一度解散した。 前ページ次ページるろうに使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3600.html
前ページ次ページ魔法騎士ゼロアース 「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ! 強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」 「サモン・サーヴァント」の呪文を唱えては爆発の繰り返し。 20回目くらいから「フフ、フフフフフ」と時折怪しい笑い声を発しだしたルイズがとうとうやった。 爆発の光とは違う輝きが生まれた。それまでルイズを馬鹿にしていた生徒も息を呑む。 (やった! ついに私の使い魔を召喚できたのね!) 間違いなく成功だとルイズの目は輝きを取り戻した。 しかも、なんだか凄い当たりを引き当てたに違いない。 グリフォン? ドラゴン? どこかの国の聖女? いや最後のはマズイか。 (ああ、早くその姿を私に――) 「ぷぅ」 「ぷぅ?」 光が収まり、ルイズの目の前に姿を現したそれは――― 「ぷっぷぅ!」 あまりにも、もこもこふわふわしていそうな謎の生き物だった。 「プッ……アハハハハ!! あ、あんまり笑わせてくれるなよ!」 「そうかそうか! 何の奇跡が起きたと思ったが『ゼロのルイズ』が召喚に成功したことか!」 「そうだよな、それだけで奇跡だよな! 良かったじゃないか、進級を奇跡で乗り切ったな!」 周りの生徒達は、その使い魔の姿を見て爆笑する。 「これこれ、みんな静かに! ともあれミス・ヴァリエール、召喚成功おめでとう」 「あ、ありがとうございます、ミスタ・コルベール」 「さあ、早くコントラクト・サーヴァントを」 自らの使い魔に近づくルイズを、もこもこした生き物はじっと見ている。 「ぷぷ~?」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 両手でもこもこを抑える。 (わっ、見た目通りふわふわだ) そのまま契約の口付けを交わす。 「ぷ、ぷぷー!?」 契約完了の証が、もこもこの体の中心……人間でいう胸の部分に浮かぶ。 (あれ? 今頭の飾りが……) もこもこの頭についた赤い飾り……それが、一瞬黄色くなったように見えた。 (赤に戻ってる……気のせいだったのかしら?) 「ほう、珍しいルーンだな。それに見たことのない生き物だ」 ささっとルーンをスケッチするコルベール。 「さあ、みんな教室に戻りますぞ」 生徒はみんな空を飛んでいく。 「ルイズは歩いて来いよ!」 「ルイズの奴、フライどころかレビテ……あれ?」 ルイズへの悪口を言っていた一人……風上のマリコルヌが空を飛びながら辺りを見回す。 「どうしたんだい、マリコルヌ?」 「いないんだ、僕の使い魔が……クヴァーシル、どこだい!?」 クヴァーシルとはマリコルヌのフクロウの使い魔だ。空を飛んだ彼についてくるはずだが姿が無い。 「ロビン、ロビンー?」 香水のモンモランシーもまた、自分の使い魔であるカエルを探していた。 「どうしたっていうのかしら。ね、もこもこ……?」 ルイズがもこもこのいた場所に視線をやると、何もいなかった。 せっかく召喚した自分の使い魔まで何処かに行ってしまったのかとあわてて辺りを見回す。 「あ、いたいた」 後姿だが、白いふわふわしたアレは間違いない。 「ちょっと、勝手に……」 モコナが振り返り、ルイズは固まった。 「……ね、もこもこなの。あなた、そんな形が歪だったかしら?」 なんだか、もこもこは口の辺りが変形している。何かを口の中に入れているようだ。 「なんだが、口の中で暴れてるわね。その輪郭、すごく鳥みたいなんだけど」 もこもこは体を横に振る。口から鳥っぽい足が見えた。 「あらそう、なら鳴いてみなさい。さっきみたいにぷぅぷぅって」 一瞬の間。そして。 「ケロッケロッ」 「モンモランシーの使い魔もかああああ!!!」 頭を引っぱたくと、口から二匹とも元気に飛び出てきた。 「このもこもこな……ああもう、言いにくいわね。この際名づけてあげるわ。 あんたは、もこもこな生き物だから……モコナよ!」 ビシーッと指差して名づけるルイズ。 こくこくと頷くモコナ。 適当につけた割に素直ね、と思うルイズだったが本名なんだからしょうがない。 その夜。 モンモランシーとマリコルヌに散々怒られ、ルイズは自分の使い魔を椅子に縛り上げた。 「今日一日、椅子の上で反省してなさい!」 そう言って授業に出て、この時間まで戻らなかったのだ。 「ちょっと、悪いことしたかしら」 あの行為も、お腹が空いていたとかそういう理由だったのかもしれない。 だったら今、お腹を減らして泣いているかもしれない。 「ただいま。ごめんね、モコ……」 部屋の中、椅子の上にはロープのみ。 見事脱出されていた。ついでに部屋がメチャクチャに荒らされてた。 現在進行形で。 「ぷっぷぷー!」 「こ、こんの珍獣――!!」 ガーッと飛びかかるルイズをひょいとかわし、モコナは窓を開けて飛び降りた。 「ちょ、馬鹿! ここは塔の……」 耳をパタパタと羽ばたいて降りているモコナ。 「ど、どこまで不思議生物なのよあいつは……」 かなりすごい生き物なのではないか、と思いつつもコケにされている今は喜ぶ気にもならない。 「ご主人様と使い魔の差ってやつを理解させてやるわ! 主に肉体言語で!」 荒れた部屋を飛び出すルイズ。 「うるさいわねえ、何の騒ぎよ……って何これ、また魔法の失敗?」 騒ぎが気になったキュルケは、荒れたルイズの部屋を見て唖然とする。 「あれは……」 外に、小さな白いふわふわを追いかけるルイズの姿があった。 「あれって、ルイズの使い魔よね。遊ぶんだったら、違う時間にしなさいよね……」 遠目から見ると、追いかけっこしているようにしか見えない。 ルイズが騒ぎを起こすなんていつものことだと、キュルケは部屋に戻っていった。 「ぜえ、ぜえ、ぜえ……ど、どんだけ逃げ足速いのよ、あいつ……」 「捕まりませんでしたね、ミス・ヴァリエール」 「まったく、どこに逃げたのか……あれ?」 いつの間にか、モコナを捕まえるのに加わっていたメイドを見る。 「あんた、何でモコナのこと追いかけてるの?」 「ええ!? ミス・ヴァリエールが「その白いの捕まえてー!」って仰ったんじゃないですか!」 記憶を思い返すと、そんなことがあったような気がする。 「あー、そうだったかも。悪いわね、手伝ってもらって」 「いえ、お手伝いするのはメイドの仕事ですから」 そういうメイドもバテバテだ。ルイズも疲れが一気に出てきたので、モコナを捕まえるのは諦めることにした。 「もう帰るわ、どこ言ったのかもわからないし……手伝ってくれて本当にありがとう、ええと……」 「シエスタと申します。それでは、お休みなさいませ」 そのままお互い帰路に着いた。 「う、嘘でしょ……?」 ベッドの上で、モコナが眠っていた。 「ここここ、この使い魔。 クックベリーパイと一緒に食べてやろうかしら」 叩き起こしてやろうかとも思ったルイズだったが、走り回った疲れから睡魔が襲ってきた。 「好き勝手絶頂に暴れまわって、た、ただで済むと……思わないことね」 フラフラとベッドに歩み寄り、倒れこむ。 「ん……罰として……ご飯抜き、なんだから……」 そのまま、散らかった部屋もそのままにルイズは夢の中へと意識を沈めていった。 ちなみに、ルイズは知る由も無いことだが、モコナがロビン等を口に含んでいたのはふざけていただけ。 モコナは食事を必要としない生き物なのだった。 その頃、図書館ではコルベールがルイズの使い魔のルーンを調べていた。 「中々見つかりませんな……」 図書館の奥、教師のみが閲覧を許される「フェニアのライブラリー」から始祖ブリミルの使い魔たち、と書かれた本を手に取る。 「これは……ガンダールヴのルーン、ヴィンダールヴのルーン、ミョズニトニルンのルーン。 それぞれ記述に似た特徴があるが、しかしどれとも違う……いや、まさか」 ならばと、コルベールの脳裏に一つの詩のような唄が思い浮かぶ。 神の左手ガンダールヴ。 勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右につかんだ長槍で、導きし我を守りきる。 神の右手がヴィンダールヴ。 心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。 神の頭脳はミョズニトニルン。 知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を詰め込みて、導きし我に助言を呈す。 そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。 四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。 「まさか、最後の一人……それが?」 コルベールは伝説の使い魔に狙いを絞り調べることにした。 この図書館の全てを調べても、記されていない使い魔のことなど載っていない。 それでも、どこかにヒントがあるのではとコルベールは自身の探求欲が抑えられなかった。 だが、コルベールとて辿り着くことはないだろう。 その有名な唄に誤りがあることに。 最後の一人は、けして始祖ブリミルの「僕」などではないことを。 前ページ次ページ魔法騎士ゼロアース
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5905.html
前ページ次ページゼロの黒魔道士 「はぁ…全く、どうしてくれようかしら、こんな役立たず…」 「あ、う、うん、ゴメンなさい、ルイズおねえちゃん…」 …出会ってから、ちょっと時間が立ったんだ。 …ここは、お城みたいな魔法学院。 …目の前のきれいだけどちょっと怖い女の子はルイズおねえちゃん。 …で、ボクはビビ、死んじゃって、動かなくなったはずが… 「なんっであんたが使い魔なのよぉ~!!!!!」 …使い魔、になっちゃったみたい…ホントに、なんでなのかなぁ…? ―ゼロの黒魔道士― ~第一幕~魔法の学び場 トリステイン魔法学院 …窓の外の空には2つのお月さま、 ここもお月さまは2つなんだなぁと変な感心をしてしまう。 「ちょっと!またあんた、聞いてるのっ!?」 「わぁっ!?ご、ゴゴメン…なさい…ルイズおねえちゃん…」 さっきからずっとこの調子なんだ… …ちょっと、今日までにあったことを思い出してみた… …たしか、黒魔道士の村にいたんだ… もう、だんだん体が動かなくなるのが分かったし、 寿命(リミット)が近いんだなって分かってた… 黒魔村のみんなは優しくしてくれたし、 ジェノムのみんなともなかよくなっていってるみたいだった… …それを見守るのはうれしかったけど…動かなくなってきている体で、見てるだけなのはちょっと悲しかったなぁ… ときどき、みんなお見舞いに来てくれた… …フライヤおねえちゃんやダガーおねえちゃんは国を立て直すのにいそがしいはずなのに… …サラマンダーは黙ったままだったけど…なんか優しくなってたなぁ… …スタイナーおじちゃんはちょっとうるさかった。「手伝うのである!!!」ってジェノムのみんなを手伝ったりしたんだけど… …「ぬぉぉぉ!?」ドンガラガッシャーン… …みんな、得意と不得意があるんだなぁ… …クイナが来たときは、食事が豪華になるんだ。いつもの同じ材料なのに… …「…クェー」「チョコボのコドモ…珍味ネ…」ジュルリ… …い、いつもと、同じ、だよね?… …エーコは、シドおとうさんといっしょに「し、新飛空艇の試験飛行で来ただけよ!あんたが心配じゃないんだから!」って言って来てた… …試験飛行でなんであんなに、お菓子持ってくるのかなぁ?…食べきれないからって言ってボクにおしつけるし… …そして、昨日、最後の日の前の日、いよいよ体が動かしにくくなったとき… 「よっ、意外と元気そうじゃん!」 …ボクに、生きる意味を、ボクに勇気をくれた最大の恩人が、来てくれたんだ… 「いやぁ~、ちょっと危なかったんだけどさ…やっぱヒーローは遅くなるもんだから、なっ!」 …そう言ってウィンクする…ボクは、少し体を起こして、「無事…だったんだ…」って聞いたら… 「ん、まぁ色々あってな…あ、ダガーにはまだ内緒な?ちょっとしたサプライズ用意してるんだ…」 …そういって照れくさそうに笑ってた…きっと、そのまま会いに行くのが、ちょっとはずかしいんだなって思った… 「お、うまそうなリンゴがある…クイナの見舞いかな?1個もらうぜっと…」 …エーコからもらったリンゴの山から、器用に尻尾で1個をお手玉のように抜き出して、ダガーで皮をむいて… 「ほれ、ウサギの完成~!」 …一緒にウサギリンゴを食べて、いっぱい、いっぱい、話したんだ… …しばらくして、「劇の練習の時間だからな…見に来てくれよ?アレクサンドリアで一芝居うつからさ!」って言って出て行った… …ジタンは、やっぱり、優しかった。強かった… …そして、今日… …体がいよいよ動かなくなって… …気づいたら光に包まれて… 「ふぅ~ん、ビビ、ね…で、あんた結局何なのよ?平民にしては…色々変だし…」 …「トリステイン魔法学院」ってところにいたんだ… 「え、へ、変…かなぁ…?」 …たしかに、「人間」では無いから、ちょっと「変」なのかもしれないけれど… 「あんた、顔あるの?頭よりおっきなトンガリ帽子かぶって…まだ寒いとはいえそんな厚着だし…」 …顔かぁ…そういえば考えたことなかった…なんとなく恥ずかしくなって帽子をキュッキュッてかぶりなおした… 「…ミスタ・コルベール!やりなおしさせてください!こんなのが私の使い魔なんて!」 …使い魔?さっきも聞いたなぁ…こんなのって…まさか、ボクのこと…? 「それはできません、ミス・ヴァリエール、春の使い魔召喚は神聖な儀式だ。 そう簡単にやり直しは認められない、いずれにせよ彼を使い魔にするしかない」 …頭のまぶしいおじちゃんがそう言った…カレを使い魔…?この場合、彼って… 「え、あ、あの、す、すいません…使い魔って…」 「あーもう、なんでこんなのが…あんた感謝しなさいよ、普通平民が貴族にこんなことされるなんて一生無いんだからねっ!」 「え、あ、え?え?」 …こっちは慌てるしかなかった。ゆっくりときれいだけどキツそうな顔が目の前に近づいてきて… 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 チュッ …女の子の唇って、やわらかかったんだなぁ… 「ほんとに!!!!もう!!聞いてるのっ!!!!」 「わわわわっ!?ゴ、ゴメンなさい…」 …さっきから、ルイズおねえちゃんの部屋で謝り続けている気がするなぁ… …時間はもう日が暮れて空ではお月さまが2つしっかり出ている… 「まったく、マントは燃やされるし、使い魔はこんなだし…今日は厄日ね、厄日っ!!!」 …ドキッ…ゴメンなさい…ルイズおねえちゃんにはまだ内緒にしていることがあるんだ… 「え、い、今のって、キ、キス…あつつつつつつつつつつ!?!?!?」ボッ 「我慢しなさい、使い魔のルーンが刻まれてるだけよ…ってあつっ!?」 …キスされた後、左手がすっごく熱くなって …「はんしゃてき」ってことなんだと思う …モンスターに襲われたりしたのと勘違いしたのかもしれない …思わず…「ファイア」ってちっちゃく唱えちゃったんだ 「あつつつつつ…うぅぅぅ…?…何、コレ…」 …しばらくして、左手の痛みがおさまって…変な模様が左手(の手袋の上)に描かれているのに気づいたんだ… 「はぁ、はぁ…あぁっ!?私のマントっ!?」 …このときまで、咄嗟に「ファイア」を唱えてたのに気づかなかったんだ。 …そして、このピンクの髪のおねえちゃんのマントをちょっと燃やしちゃったことも… 「…あ、ん、た、がやったのねぇ~!!! ツェルプストーっ!!!!」 「ゴ、ゴゴゴゴゴゴゴごめんなさ~い!!!! え?」 …気づいたら、おっきなトカゲ…かな?尻尾に火がついてるけど…がボクの足元にいたんだ… 「あら、ダメよ、フレイム~!いくらヴァリエールのでもマントを燃やしたりしちゃ…」 …まっ赤な髪の、おっきなおねえちゃんがケラケラと笑ってた …足元のトカゲはボクの左手を心配そうにペロッとなめてくれた …ぶっきらぽうだけど優しそうで…ちょっとサラマンダーを思い出した 「あんた、自分の使い魔の制御もできないの!?人のマント燃やしてくれて!!」 「あら、フレイムはそこのお人形さんが痛そうにしてるから心配になっただけよ?優しいでしょ? でも、尻尾の先にまさかあなたのマントがあるとはねぇ…まぁよかったじゃない、黒こげにならなくて!」 「キィィィィィィィ!」 …あ、マントを燃やしたのはトカゲくん…フレイムって言うのかな?のせいになってる…ゴメンなさい… 「はいっ、そこまでっ!!ミス・ツェルプストー、使い魔同士の友情は結構なことですが、 周囲に被害が及ばぬよう気をつけるように!ミス・ヴァリエールもマントの件はそのぐらいで!」 …頭のまぶしいおじちゃんが近づいてきて、ボクの左手をしげしげと眺めた 「ふむ、コントラクト・サーヴァントは無事成功のようだね。おや、珍しいルーンだな…しかも衣服の上に、か…」 …そう言ってボクの左手のスケッチをする…間近に太陽があるみたいで目がショボショボした… 「さてと、じゃあ皆教室戻るぞ」 「ルイズお前は歩いて来いよ」 「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』もまともにできないんだぜ」 「チビの人形みたいな平民、あんたの使い魔にはお似合いよ」 「あ、でもちょっと可愛くない?」 「そうかぁ?僕には不気味だけどなぁ…」 …みんながふわりと浮きあがる…レビテトでも使ったのかなぁ…? …まっかな髪のおねえちゃんもフレイムといっしょに空に浮かんで行ってしまった …青い髪のメガネの女の子が最後にボクをじっと見てからおっきなドラゴンと一緒に飛び去って …ピンクの髪のプリプリ怒ってる女の子とボクだけが原っぱに取り残された… 「あ、あの…えーと…ヴぁ、ヴァリエールおねえちゃん…?で、いいのかなぁ…?」 …さっき呼ばれていたのがきっと名前だろうと思ってそう声をかけた 「私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!!! 呼ぶんなら『ご主人さま』と呼びなさいっ!!あぁ、もうっ、何なのよっ!!!」 …おねえちゃんはすっごく長い名前だった。ダガーおねえちゃんの本名ぐらい… …『ご主人さま?』 「え、あ、あの、『ご主人さま』って、どういうこと…?ルイズおねえちゃん…?」 …呼びにくかったので、「ルイズおねえちゃん」って呼ばせてもらうことにした 「あんたは私の使い魔!!だから、私はあんたの『ご主人さま』よっ! …ま、まぁ『ルイズおねえちゃん』でもいいけど…」 …あ、良かった。この呼び方で良かったみたいだ…それにしても、使い魔って…?あれ?それよりも… …さっきからなんでボクは動けるようになっているんだろう…? 「もぅっ!!!ボーっとしてばっかりで!!そんなに貴族の部屋が珍しい!?」 「わ、え、あ、ゴメンなさい…広くて豪華だなぁ、って…」 …で、ルイズおねえちゃんの部屋に来てから今まで、ハルケギニアの話、貴族の話、そして使い魔の話を聞いたんだ …もしかして、ここはガイアやテラじゃないかもしれないって気づいたのはこのときなんだ …これだけ大きなお城みたいな学校、飛空挺で世界中まわったけれども見なかったもんね… …ルイズおねえちゃんによると、ここはハルギゲニアのトリステインって国の、トリステイン学院、魔法の学校なんだって …魔法の学校かぁ…ちょっと、ワクワクするなぁ…でも、貴族しか通えないんだって…ちょっと残念だなぁ …で、使い魔って、召喚獣とは違って、メイジ(魔道士に近いのかな?でも貴族らしいから違うかもしれない)とずっと一緒にいるんだって …で、えーと…か、感覚のきょーゆー?とかいうのと、魔法のための素材探し、それから、護衛なんていうのもやるらしい… …ボク、よくわからないけど、使い魔になっちゃったみたいだ…なんか色々大変そうだなぁ… 「はぁ…感覚の共有もできないし、田舎者すぎて薬草の知識も無い、護衛だって…そんなナリじゃね…」 「う…ゴメンなさい…」 …さっきから謝ってばっかりだなぁ… 「まぁ、いいわ、あんたには雑用とか、明日から色々やってもらうから!いいわねっ!!」 「あ、う、うん…」 「もうこんな時間だし、今日はもう寝るわ…あんたは床よ!」 「う、うん…」 …旅の途中で何回か野宿もしたし、床で寝るのは久しぶりだけど全然平気だ… …ともかく、死んじゃったって思ったら、まだボクには色々やれることがあるらしい…雑用だけど… …だれかのために何かできるんだったら、いいことじゃないかなぁと思うんだ…雑用だけど… …そんな色々なことを考えながら、寝ようとしたら、帽子の上に薄い布が飛んできたんだ 「それ、明日洗っときなさいよ!!」 「え?あ、うn」「返事は『はい』!」は、はいっ…」 …それは、下着だった… …ともかく、ルイズおねえちゃんの使い魔になっちゃったみたいだし、色々やってあげよう、と思ったんだ …それに、ルイズおねえちゃん、ちょっと怖いけど…うまく言えないけど…何か、ほっとけない気がするんだ… …だから、ジタン、みんな…ボク…がんばるよ… …おやすみ… ピコン ~おまけ~ ATE ―ルイズの1日― …もう、寝たのかしら? 「グゥ、グゥ」 …わ、わかりやすい寝方ね… ほんっと、今日は散々な1日だったわ… 召喚は何度も何度も失敗するし、 出てきたのはとんがり帽子の人形みたいな平民だし、 お気に入りのマントは燃やされるし…しかもあのツェルプストーの使い魔に! 何よ、サラマンダーが何よっ!た、ただの火を吐くトカゲじゃない! …うー、私ももっとすごい使い魔が欲しかったのに… …とんがり帽子をキュッキュッって直す仕草にちょっと「あ、カワイイ」とかときめいちゃったけど… …「ルイズおねえちゃん」って言われてうれしくなっちゃったりしたけど… いや違う違う違う!!!あれはほら、そう、母性本能!? いやいやいやいや違うわ、貴族!そう貴族として、平民を庇護しなければならないという責任感からくる感情よ、うん、そうなのよ!! …貴族として、よね。サモン・サーヴァントもコントラクト・サーヴァントも成功したんだし、もうゼロじゃないのよね、私… そうとなれば、この平民に貴族として明日から、みっちり良いところをみせなくてはね!! おねえちゃんとsってちっがーーーうっ!!貴族!き・ぞ・くとして!! …弟がいればこんなのだったのかなぁ… ちがうちがうちがうー、弟とかそんなんじゃなくてコイツは平民でーっ!あーもうっ!寝なくちゃ明日から通常授業なのにーっ! 眠れないのもみんなこの使い魔のせいよーっ!もーっ! ピコン ~おまけ2~ ATE ―どっかの作者の失敗― ディシ○ィアが出るうれしさで思わず初SS書いちまったなぁ… まぁ、ジタン召喚するのと迷った挙句(最強のFFは9かT、異論は認める) ビビ選んで良かった…初SSにしてはみんな期待してくれてるみたいだし… でも、だ… 失敗しちまったぁぁぁぁ!! 最初は「ビビ召喚でデルフ持ったらスタイナーなしで一人魔法剣使えるんじゃね?KH2で見せた剣術と組み合わせて…うはwww夢がひろがりんぐww」 って考えてたのにっ!!! デルフ魔法吸収しちゃうじゃんっ!!!魔法剣使えないじゃんっ!! ビビの最強奥儀「リフレク2倍返し」+「いつでもリフレク」しようとしてもデルフ吸収しちゃうじゃんっ!! 俺のばかぁぁぁぁぁぁ 前ページ次ページゼロの黒魔道士
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7493.html
前ページルイズと彼女と運命の糸 ※ウルの月 エオローの週 ラーグの曜日 ―― 午前 今日は特別な日だ。 なんと、姫殿下が学院に視察に訪れるというのだ。 気合を入れて盛大にお迎えしなくては。 そうそう、彼女はというと、天の柱を探すため学院の馬を借りて遠出をしている。今夜あたり帰ってくるはずだ。 戻ってこないかもしれないとも思ったが、一度結んだ約束を反故にしたりはしないだろう。 この数週間で大体の人柄は掴んでいる。 どうせ、私の使い魔にするのだから、今の内に自由を満喫しているといいわ。 姫殿下を歓迎しているのに、最初に馬車から降りてきたのは鳥の骨だった。空気を読んでほしい。 ユニコーンに牽かれた純白の馬車から姫殿下が姿を現すと、割れんばかりの歓声が巻き起こった。 勿論、私も声の限り姫殿下を讃え歓迎した。 だが、キュルケとタバサはあまり関心がないようだ。外国からの留学生だから仕方がないか。 キュルケは不遜にも自らの容姿を姫殿下と比べていたので、鼻で笑ってやった。 キュルケと口喧嘩をしていると、視界の端に見覚えのある人物が映った気がした。 ―― 夜 昼間の出来事をボーっと思い出していると、部屋にノックの音が響いた。 聞き覚えのあるノックの音だ。長く間を置いて2回と短く3回、もしかして…… 覗き窓から誰かも確認せずに私は弾かれる様にして扉を開けた。 来訪者は、思った通りの人だった。姫殿下だ。 姫殿下は、昔を懐かしみ私に会いに来たのだという。こんなにも嬉しい事はない。 昔話に花を咲かせていると、不意に姫殿下の顔が陰った。 理由を聞き出してみると、結婚が決まったのだという。相手はゲルマニアの皇帝、アルブレヒト三世だそうだ。 結婚が決まり憂鬱になっているのだと思ったが、そうではないようだ。 詳しくは書けないが、婚姻を妨げるモノがあるらしい。 そして、それを見つけようと血眼になっている奴らがいるそうだ。 名を『レコン・キスタ』、アルビオンの貴族が中心になって出来た組織で、王党派を相手取って主権争いを繰り広げている。 しかも、その婚姻を妨げる物証を持っているのがよりにもよってウェールズ皇太子殿下ときたものだ。 すわ、王家の危機! 今こそ王家への忠義を示す時。 お任せ下さい姫殿下。見事わたくしめが、その生涯を取り払ってみせましょう。 「ただいま、ルイズ。 あれ、お客さん?」 いいタイミングで彼女が帰ってきた。 さあ、使い魔として最初の仕事をしてもらうわよ! ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 イングの曜日 ―― 早朝 私たちは学院の裏門にいた。 人目を避けて出発するためだ。 旅の道連れは私と彼女、そしてギーシュだ。 なんでギーシュがいるのかというと、盗み聞きしていたのだコイツは。 それにより、昨晩私の部屋に乱入してきたのである。姫殿下もグラモン元帥の息子だと聞き、同行することを許された。 まあ、盾ぐらいにはなるか。 ギーシュの使い魔はジャイアントモールなのだが、これは最悪だ。 何故最悪かというと、私を押し倒したからだ。 しかも、姫殿下より賜った『水のルビー』にその汚らしい鼻を擦りつけやがった。 本当に最低だ。姫殿下の信頼の証ともいえる『水のルビー』に鼻を擦りつけるなど、許されるはずもない。 なのに、だ。 ギーシュは馬鹿みたいに笑って、一向に止めさせようとはしない。自分の使い魔の躾ぐらいしろ! その不逞モグラに制裁を加えたのは、突如現れたワルドだった。 そして、尻餅をついていた私に、ワルドは優しく手を差し伸べてくれた。凄くドキドキした。 10年近く会っていなかったのに、私の事を未だに婚約者と呼んでくれたのは素直に嬉しかった。 今も昔も、ワルドは私の憧れだったのだから。 ワルドとグリフォンに乗って空を往く。 彼女とギーシュは遥か下だ。栗毛の馬に跨り駆けている。 だが、グリフォンと馬では速度が違いすぎる。グリフォンはまだ余力がありそうだが、彼女たちとは距離が開いてきている。 ワルドは二人を置き去りにしてでも急ぎたいようだったが、ラ・ロシェールまでは馬では二日もかかるのだ。 私の説得で速度を緩めてもらう。 そりゃあ、手紙の回収なんてワルド一人でも余裕だとは思うが、姫殿下から命を受けたのは私たちだ。 出来る限り、置き去りになんてしたくない。 ―― 夕方 街道に沿って半日ほど進むと、渓谷に入った。彼女たちは何度も馬を変え、辛うじてついてきている。 しかし、空を飛ぶグリフォンと山道を進む馬とでは、平坦な街道を進むよりも差が出てしまう。 もうすぐアルビオンとの玄関口である『ラ・ロシェール』だ。 遅れても、上手くすればそこで合流できるかもしれないが、フネが出航するまでに間に合うだろうか? 何か不測の事態が起これば、彼女を置いていってしまう。 そう不安に思った時、事件は起きた。 彼女たち目掛けて崖の上から松明が投げ込まれた。ついで、幾本もの矢が射かけられる。 危ない! と、思った瞬間、矢は小さな竜巻に飲まれて弾かれた。 ワルドだ。ワルドが魔法で助けてくれたのだ。 そして、襲撃者の姿を見ようと崖に視線をやる。 私の目が捉えたのは、赤々と燃え上がる炎と小型の竜巻だった。 ワルドの魔法じゃない。だとすれば誰が……? 襲撃者を蹴散らしたのは、キュルケとタバサだった。 どうやら、出発するところを見られていたらしい。タバサの風竜に乗って追いかけてきたようだ。 お忍びなんだからと告げると、そうならそうと言えと文句を言われた。お忍びなんだから、部外者に言うはずがないでしょ。 あと、タバサはパジャマのまんまだった。きっと、寝ているところを叩き起されたのだろう。 「アンタも大変ね」 「平気。もう慣れた」 どうしてこの二人は友人をやっているのか不思議だ。静と動で正反対なのに。 あと、襲ってきた連中は簀巻きにしておいた。運が良ければ夜を越せる筈だ。 物取りだったらしいが、馬鹿な奴らだ。数を揃えた所で、メイジに敵う筈がないのに。 ―― 夜 「フネは明後日にならないと出航しないらしい」 『女神の杵亭』で寛いでいると、船着き場から戻ってきたワルドにそう告げられた。 何故かと理由を尋ねると、明日の夜は双月が重なる『スヴェルの夜』で、その翌朝にアルビオンが最接近するらしく、船乗りたちは風石の消費を抑えるため、今日明日は絶対に船を出さないのだそうだ。 ワルドはかなり食い下がったようだが、船は出せないと断られたらしい。 その気になれば、魔法衛士隊隊長の権限で無理に出航させることも可能だが、お忍びなので目立つ事は避けたいそうだ。 そういうわけで、予定が狂ってしまった。 本当ならば、明日の朝には出発する筈だったのだが、一日ここで足止めとあいなった。 二人部屋を三つ取り、私と彼女、ワルドとギーシュ、キュルケとタバサという部屋割だ。 ワルドは婚約者だからといって、私と相部屋を望んだが、ギーシュを他の女性陣と一緒にさせるわけにはいかないと言うと 大人しく引き下がってくれた。婚約者とはいえ、まだ学生だしそういう事は早いと思うの。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 オセルの曜日 ―― 朝 翌朝、何故か彼女とワルドが模擬戦をする事になった。 止めるようワルドに言ったのだけれど、「彼女の実力を知りたい」の一点張りで聞く耳を持ってくれなかった。 婚約者を蒸発させられてはたまらないので、手加減するよう彼女にお願いする。 「分かったわ。能力は使わず剣で勝負するよ」 「よっしゃ! とうとう俺っちの出ば……」 「このレイピアでね」 そういや居たわね、喋るしか能のない駄剣が。 でも、アンタ凄く重いんだから、彼女が振りまわせるわけないでしょ。 結果は、当然ワルドの勝ち。 ウィンドブレイクで吹っ飛ばした彼女に実力不足だとか言っていたが、女の子相手にやり過ぎだと思う。少し幻滅だ。 非難の眼差しを向けると、ワルドはサッと目を逸らす。少し動揺したのか、説教もそこそこに去っていってしまった。 しょうがないので、倒れたままの彼女に手を差し伸ばして立ちあがらせた。 彼女は擦り傷と軽い打撲を負っていたが、やおら淡い光に包まれると、傷一つなくなっていた。 軽い怪我だったとはいえ、あんな一瞬で治るなんて驚きだ。 断然、彼女を使い魔にしたくなった。 ―― 夜 あの後は特に何事もなく、素直に時間は流れ、夜になった。 宿の酒場で夕食を摂りながら歓談に興じる。 そして、彼女がワインを飲んだ事がないという事を知った。 彼女の世界ではどうか知らないが、ワインなんて普通の飲み物だ。 むしろ、綺麗な水の方が下手なワインよりも高級品の場合がある。 試しに一口飲ませてみると、意外といける口だったようで、あっという間にグラスを空けてしまった。 食後も酒場に残って騒いでいる彼女らを残して、私は部屋に戻り夜風に当たっていた。 窓から重なった双月を見上げていると、部屋にワルドが入ってきた。 そして、結婚しようと言われた。 いきなりの言葉に、頭が真っ白になる。他にも色々と言っていたが、憶えていない。 それだけ、その言葉の威力が高かったのだろう。 返事をせずにいると、ワルドは「諦める気はない」と言い残して部屋から出ていった。 婚約者なのだから、いずれはそういう事になるだろうと思っていたが、これは不意打ちだ。 任務の事で精いっぱいだというのに、人生の岐路に立たされてしまった。一体何を考えているのだろう? 熱で上手く働かない頭をフル回転させていると、宿に衝撃が奔った。一体何事!? ● ● ● 一階の酒場に駆け込むと、何故か彼女が仁王立ちをしていた。 酒場を見渡すと、テーブルがひっくり返り酷い有様だ。床には投げ出された料理が散乱している。 入口の扉に至っては、吹き飛ばされて無くなっていた。周囲の壁は黒く焦げている。 そんな惨状なのに、酒場は酷く静まり返っていた。外からは、傭兵みたいなやつらがおっかなびっくり遠巻きにこちらを見ている。 視線を戻すと、彼女の顔は真っ赤だった。目は座っている。 「きしゃまら! いきなりなにをしゅるのよ! このわたしがせいばいしてくれりゅう!」 見事に酔っぱらった声で彼女が叫ぶ。同時に、指からビームを乱射した。 ロクに狙いを定めていないビームだが、それだけで驚異であった。 なにしろ、石壁を簡単に蒸発させるのだから、襲撃者たちは逃げ惑うしかない。 中には果敢に突撃してくるものもあったが、そいつらは炎で焼き払われた。 襲撃者の中にはメイジも混じっていたらしく、三十メイルはあるゴーレムが出現したが、 彼女によってあっという間に穴あきチーズみたいになってしまった。 それにより、襲撃者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていき、辺りには再び静寂が戻る。 「あはははは! せいぎはかつ!」 彼女は上機嫌に腕を振り上げて勝鬨を上げた。 酔っ払いは勘弁してほしい。今度からは飲みすぎないよう監視していないとね。 それにしても、こんな大掛かりな襲撃があるなんて、私たちを狙う存在がいるという証拠だ。レコン・キスタか? とりあえず一難は払えたが、急いでココから離れないといけない。 私たちはワルドの誘導に従い、船着き場を目指した。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 ダエグの曜日 ―― 明け方 私たちはフネに乗り込みアルビオンを目指していた。 昨晩の襲撃の後、ワルドの権限を使い商船を徴発しラ・ロシェールを発ったのだった。 船着き場へ向かう途中、仮面を被った白尽くめの男が襲ってきたが、一瞬にして彼女によって蒸発させられた。 アレだけの力を見せられてまだ襲ってくるのは、無謀というかなんというか…… 冥福を祈っておこう。 フネには風石が足りないとのことなので、ワルドがその代わりを務めている。 そして、アルビオンまであと少しというところで空賊船に出くわしてしまった。 アルビオンは今、内乱の所為で治安が乱れに乱れている。なので、こういう無法な連中が野放しになっているのだ。 私は断固抗戦を主張したが、あえなく却下された。 理由としては、こちらの船には武装がなく、非戦闘員を多く抱えているからだそうだ。 それに…… 「う~ん…… 頭がガンガンする……」 彼女は二日酔いだった。万全の状態なら、どんな遠距離からでも蒸発させれたはずなのに。 今は大人しく従う他ないようだ。ワルドはヘロヘロで役に立たないし。 ―― 昼 ありのまま起こったことを話すと、空賊が皇太子殿下で王党派だった。 何を言っているのか分からないと思うけど、私も何が起こったのかすぐには分からなかった。 それこそ、頭がどうにかなりそうだった。 カモフラージュだとかゲリラ戦法だとか、そんなチャチなもんじゃない。もっと恐ろしいご都合主義の展開を味わったわ。 テンパるのはこれくらいにして、状況を整理しようと思う。 私たちは姫殿下の使いで、アルビオンに赴いた。目的はある手紙を回収するため。 道中、襲撃をかわしあと少しでアルビオンというところで空賊船に拿捕された。 私は空賊の頭の前に通され、尋問をされた。あまりにも失礼な輩なので、大いに啖呵を切ると空賊の態度が一変。 空賊の正体は、アルビオンの王党派。まさしく、任務の目標だった。 そして今、秘密の航路を使い王党派の居城『ニューカッスル城』にたどり着き、ウェールズ殿下より手紙を回収したところだ。 手紙の内容は見ていないが、殿下の態度を見てある程度の予想はついた。 /ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/ (ここから先のページは破り取られている) ―― 夜 ニューカッスル城のダンスホールにて、最後の晩餐会が行われていた。 既に覚悟が出来ているのか、王党派の人々は底抜けに明るく騒いでいる。 その光景が悲しくて痛々しくて、私は会場から逃げるようにして抜け出した。 暗い廊下の隅でさめざめと泣く。 私には分からない。明日死んでしまうのに、ああやって明るく振舞えるのが。 どうして、自分から死を選ぶのが分からない。逃げれば、愛する人とも一緒にいられるというのに…… そうやって泣いていると、廊下の奥から燭台を持った彼女が現れた。 泣き腫らした目を擦り涙を拭う。どうやら、いなくなった私を心配して探しに来てくれたらしい。 感情を抑えきれずに、彼女に疑問をぶつける。 どうして、あの人たちが死を選ぶのかと。 その質問に彼女は口ごもり、建前通りに誇りとか守るためとかと口にしたが、私が聞きたいのはそんなことじゃない。 でも、誰にも分からないわよね。分かるはずがない。 だけど、残された人は一体どうすればいいの? 早く帰りたい。トリステインに帰りたい。 ● ● ● 彼女が去ると、入れ違いでワルドがやってきた。ワルドなら私の疑問に答えてくれるだろうか? そう期待を込めて見上げる。 「ルイズ、結婚しよう。ウェールズ殿下も祝福してくれている」 どうしてそんな事を言うのだろうか? 私は拒否したが、ワルドは結婚式を挙げると言ってきかない。 いろんな事が起こりすぎてワケが分からない。大声をあげて泣きたい。 バカ。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 虚無の曜日 ―― 朝 礼拝堂に連れていかれ、半ば強引にウェディングドレスに着替えさせられた。 結局状況に流されてしまった。 どうしてこうなってしまったのだろう? 何度も溜息をつく。 部屋で待機していると、彼女たちがやってきた。 「こんな状況で結婚式なんて、アンタたちは何を考えているのよ?」 「なあルイズ、急すぎやしないかい。いきなり結婚だなんて。 大体まだ学生じゃないか」 「……非常識」 口々にこの結婚式に対して否定的な意見を言う。 だけど、私だってどうしてこうなったのか分からないのだから、答えられるはずもない。 「ねえルイズ、アナタはこれでいいの? この結婚式に納得してるの?」 「それは……」 「だったら言わなきゃ。 じゃないと、どこまでも流されるだけよ。 自分の事なんだから、自分の意見を言ってやらないと」 そうよね。分かったわ、自分の意思をはっきりと伝える。 ワルドには悪いが、結婚なんて私にはまだ考えられない。 そう決心すると同時に、準備が整ったとの連絡が来た。 ● ● ● 一瞬、何が起こったのか分からなかった。 目の前には、胸から大量の血を流して倒れているウェールズ殿下がいる。 ワルドが顔を醜悪に歪めさせて何かを言っている。 情けない話だが、私は腰を抜かしてしまっていた。 誰かが茫然とつぶやいた。 「レコン・キスタ……」 「そうだ、僕はレコン・キスタのスパイだ」 誰かの怒声が聞こえた。 ワルドが立っていた場所に炎と氷刃が奔り、私の周りに七体のブロンズゴーレムが現れる。 キュルケにタバサにギーシュ、そして私の横に立っているのは彼女だ。 「ふん、手紙は貴様らを皆殺しにしてから回収するとしよう」 「スクウェアとはいえ、五対一で勝てるつもり?」 「貴様ら程度を相手取れぬのでは、魔法衛士隊隊長は務まらぬよ。 まあ、その使い魔君の相手は骨が折れそうだが……」 そう言うと、ワルドの姿がぼやけた。虚像が幾重にも重なり、陽炎のように揺れている。 「ユビキタス・デル・ウィンデ。 さあ、これで五対五だ。君らの勝ちはなくなったな」 「風の遍在……」 風の遍在。それは、術者と等しい力を持つ分身を作り出す風のスクウェアスペルだ。 五人のワルドと彼女たちが戦っている。 それなのに、私は見ているだけでいいのか? 泣いているだけでいいのか? いい筈がない。 だから、私は杖を振り上げ呪文を唱える。 成功するなんて思っていない。でも、爆発は起こる。今、私が出来る精一杯だ。 当たるなんて思っていない。でも、意思は示せる。 彼女が言ったのだ。自分の意見を言ってやれと。 だから、私は力の限りぶつけてやる。ワルドに限りない拒絶を。 死んでもお前のモノなんかにはならないのだと。 確かな意思を込めて杖を振る。 「なんだとっ!? ルイズ!」 「え、なに? 当たったの? うそ?」 遍在の一体を一撃で消されワルドは、一瞬動揺する。私だって驚きだ。 その隙を見逃すはずがない。 礼拝堂に氷嵐が吹雪いた。視界を真っ白に埋め尽くす。 しかしそれも一瞬の事、吹雪はすぐにおさまった。だが、その一瞬で十分だった。 動きの止まったワルドに、ギーシュのブロンズゴーレムが肉薄する。 ワルドは巧みな体捌きと杖を剣のように操り、ブロンズゴーレムをいなすが、反撃は小さな火球で邪魔をされた。 打ち合わせたわけでもないのに、澱みなく流れる連携にワルドは思わず飛び退く。 気がつくと、四人のワルドは一ヶ所に集まっていた。 そして、全員の視線が彼女に集中する。ワルドの表情が凍るのが見えた。 散開しようとするが、遅い。 「くっ……」 「スターライトブラスト!」 その瞬間、光が視界を塗りつぶした。 ● ● ● ―― 午後 私たちは学院へと帰ってきていた。 アレからどうなったのかというと、絶体絶命のピンチに陥っていた。 ワルドは塵も残さず消滅したとはいえ、危機が去ったわけではないのだ。 王党派とレコン・キスタの戦闘が始まり、城は砲撃で激しく揺れている。 ここから逃げるのは至難の業だ。 秘密の航路を使おうにも、ワルドによってリークされている可能性が高く危険である。 どうすれば逃げ出せるか算段を立てていると、彼女がこう言ってきた。 「大丈夫私に任せて」 彼女の提案を聞くと、その内容に笑う事しか出来なかった。 ズルイというか、非常識というか、ご都合すぎる。裏技だ。 その方法とは、テレポートという能力を新しく覚えたのでそれで帰ろうというのだ。 テレポートとは、瞬間移動の事らしい。一度行った事のある場所なら、一瞬で移動できるのだそうだ。 そんなわけで、そのテレポートを使い学院に帰ってきたわけだ。 勿論、タバサとギーシュの使い魔も回収して。 これから姫殿下に報告に行かなくてはいけない。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 ユルの曜日 「ごめんルイズ、話があるんだけどいい?」 彼女がそう切り出してきた。 彼女が言うには、テレポートを覚えたので天の柱を探す必要はなくなったらしい。 やっぱりそうか。 何となく、そうなのではないかと思っていた。 「三ヶ月っていう約束だったけど、出来るなら早く帰りたいの」 「いいわよ」 頭を下げる彼女を制止して、ぶっきらぼうに告げる。 「いいの?」 「いいのよ。 だって、アンタを使い魔にする気なんてもうないもの」 だってそうでしょう? 友達を使い魔なんかに出来る筈がないもの。 「だから、どこにでも行けばいいわよ。さよなら」 「ありがとう、ルイズ。私の旅が終わったら、また会いにくるから」 「……ふん」 そう言って、彼女は私に糸の束を渡してきた。 不思議な糸だった。オレンジ色の、見ているだけで心が温かくなるような糸。 これが、彼女と交わした最後の会話だった。 ◆ ◇ ◆ 「う~ん…… この彼女ってのはどんな奴だったんだろ? これだけじゃ、よくわかんないな。 なあデルフ、お前は知ってんの?」 「なあ相棒、人の日記を勝手に読むのはどうかと思うね」 「そうは言ってもよ、ルイズにきいても教えてくれねぇんだもん。 だったら、自分で調べるしかないだろ?」 「だからって、この行動はないと思うね俺は」 何処に居るのかと探しにきてみれば、何をしているのだコイツは。 よりにもよって、私の日記を読むなんて。 おしおきね。久しぶりの。 「こっの、バカ犬!」 「キャイン!」 手にした馬上鞭で打ちすえると、サイトは叫び声をあげてのた打ち回った。 久しぶりだけど、相変わらずいい声で鳴く。ゾクゾクきちゃうわ。 両手を腰に当て、倒れこんだサイトを上から睨みつける。 「アンタね、人の日記を勝手に読むなんて何考えてるのよ!」 「相棒はね、アイツの事が知りたいんだってよ」 「アイツ? ああ、彼女の事ね」 彼女が去ってから、一年以上が経つ。 アレから色んな事があった。使い魔としてコイツを呼んだ時はガックリときたが、今では大切なパートナーだ。 暫くは日常を過ごしていたが、程なくして戦争が起きた。 レコン・キスタとの戦争、それが終わった後にはガリア。 でも今は、このハルケギニアで戦争をしている国はない。なぜなら、そんな余裕がないからだ。 ハルケギニア全土を揺るがす大地震によって、各国はことごとく力を減退させ、戦争をしている余裕はなくなった。 瓦礫に埋もれる町を復興させなければならず、エルフとの聖戦に息を巻いていたロマリアも休戦する他なかった。 学院もかなりの部分が破損し、まだ完全には復興仕切っていない。 駄犬と駄剣に説教をしていると、私の後ろの扉が開いた。 何の断りもなしにキュルケが入ってくる。 「ちょっとちょっと、こんな日にも喧嘩なわけ? 仲が良いのも分かるけど、少しは落ち着いたらどう?」 「ふん、アンタとも今日でお別れね。清々するわ」 「あら? 実家に帰っても隣同士なんだから、いつでも会えるわよ。 ふふふ、さびしい?」 「誰が」 世界がどうなっても、私たちの関係は変わらない。 多分十年後も同じことを言っている気がする。なんせ、先祖代々の宿敵なのだから。 さて、そろそろ時間だ。 「ほら、行くわよ犬」 「わ、わぅ~ん……」 まだ寝ころんでいるサイトの頭をふみつけると、犬語で返事をしてきた。 鳩尾を思いっきり踏みつけてから、部屋を出る。 今日は卒業式だ。 この間、竣工したばかりの本塔にて行われる。 本塔は宝物庫の床が抜け落ちていたので、再建が大変だったらしい。 廊下を進む。この寮塔も今日でお別れだ。 「う゛っ、ごほっ…… 待ってくれよ、置いてかないでくれ」 後ろからサイトが咳き込みながら追いついてくる。 軟弱な使い魔だ。しょうがないから、落ち着くまで待ってやろう。 そうしていると、不意に後ろから声をかけられた。 「久しぶり、ルイズ。今日卒業式なんだって? 丁度いい日に来たものね」 ああこの声は、忘れる筈がない。私の友達の声だ。 ゆっくりと振り返ると、変わらぬ彼女の姿があった。 「ええ、本当に久しぶり」 今日は良い日になりそうだ。 = ルイズと彼女と運命の糸 ・ 終わり = 前ページルイズと彼女と運命の糸
https://w.atwiki.jp/gundamfamily/pages/7762.html
82 名前:通常の名無しさんの3倍 :2014/12/17(水) 03 19 34.65 ID gVHuJx8s0 セイ「緩くなったポリキャップはこうして瞬間接着剤を流し込んだ後、動かすとまたキツくなるんだよ」 シンタ「わーい!ありがとうセイ兄ちゃん」 セイ「どういたしまして」 騎馬王丸「東方不敗、将棋の決着はガンプラバトルでつけようではないか」 東方不敗「面白い!このマントの表面にヤスリをつけたワシのマスターガンダムに勝てるかな!?」 ザコ「ザコー!大変ザコー!!」 パーラ「おーお帰り。お使い終わったか?釣りは駄賃でいいぞ」 ザコ「それどころじゃないザコ!セイ君はいるザコか!?」 セイ「どうしたの?」 ザコ「ザコは…ザコは見てしまったザコよ!!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ザコ「後はカロッゾベーカリーで食パン買うだけザコね」テクテク シャア「………」 ザコ(あ、シャア社長ザコ。珍しいザコ、こんな商店街にいるなんて。 しかもサングラスでアタッシュケースを持ってるザコ。人目を気にしてるザコか?) カランコロン ザコ(あれは……コウサカさん家のお店に入っていったザコ。でも変ザコね? お店のプレートはclosedになってるザコよ。……こっそり外から店内を伺ってみるザコ) シャア「―――」ミブリテブリ チナパパ「………」ムムム… チナ「――…」オロオロ シャア「――!」ニヤリ ザコ(シャア社長がアタッシュケースを開けたザコ!中は金塊ザコ!!) チナパパ「―――!!」ブンブン シャア「………」スッ… チナ「!?」 ザコ(コウサカさんが眉間に皺を寄せて首を振ったと思ったら、シャア社長がチナちゃんの肩を掴んで自分の方に引き寄せたザコ!?) シャア「―――」ニヤッ チナ「!!」サッ シャア「………」フッ チナパパ「―――!!」 シャア「―――」 チナパパ「……」コクン シャア「―――」ニヤリ ザコ(シャア社長が強引にチナちゃんに視線を合わせると、チナちゃんは慌てて視線を逸らしたザコ! それでもシャア社長の余裕のある表情は崩れないザコ!コウサカさんが社長に対して何かいってるけど シャア社長は言い聞かせるように滔々と喋ると、チナパパも最後は納得したザコ!?! そしてシャア社長は勝ち誇ったようにコウサカさんと握手をしたザコ!!!) シャア「―――」サッ チナパパ「………」 シャア「………」フッ チナ「………」 シャア「―――」ササヤキ チナ「――!!」プルプル ザコ(コウサカさんがアタッシュケースを受け取ったザコ。そしてシャア社長は呆然とするチナちゃんの髪をかき上げると 耳に唇を近づけて何事か囁いたザコ!!するとチナちゃんは震えて泣き出したザコ!) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 83 名前:通常の名無しさんの3倍 :2014/12/17(水) 03 23 48.20 ID gVHuJx8s0 ザコ「その後シャア社長は満足げにチナちゃんをみると、颯爽とお店を出たザコ……」 パーラ「おい、それって……」 東方不敗「シンタ、クム、向こうでワシと一緒に遊んでこようか。風雲再起もおるぞ」 シンタ「風ちゃんもいるの!?」 クム「わーい!!」 パーラ「………」 騎馬王丸「つまりこういうことだな。男が営む店は経営難で金に困っていた。 そして男の娘に目を付けた金持ちの男が現れ、娘を売れと言ってきた。 男は最初は反対したが、金持ちに説き伏せられ娘を売った。哀れな娘は涙を濡らすばかり……」 パーラ「き、騎馬王丸!!」 騎馬王丸「そうとしか考えらえまい。よくある話よ」 ザコ「ザコ!?シャ、シャア社長はロリコンだけどそこまで人として落ちぶれてないザコ!多分!きっと!ザコ!!!」 パーラ「ど、ど、どうすりゃいいんだ……!?と、とりあえず男湯にいってグラハム呼んでくればいいのか!?」 ザコ「コマンダー様ザコ!コマンダー様ならきっと事情を知っている筈ザコ!!」 騎馬王丸「ところでガンプラに長けたぷにぷにがなにやら血相を変えて走っていったが、あやつニッパーを忘れていったぞ?」 ザコ「ああーー!?セイがいないザコ!!」 パーラ「もぉぉ!!こんなときに限ってシンがいないんだから!!!バイト代カットすんぞ!!」 タッタッタ! カランカラン!! セイ「委員長!!」 チナパパ「おや、ガンダムさん家の……」 セイ「委員長のお父さん、委員長は!?」 チナパパ「チナなら家にはいないよ」 セイ「そんな……どうして!!どうして僕に相談してくれなかったんですか!?」 チナパパ「ええ!?いや、そんな……家のことだし、君に相談するようなことじゃ……」 セイ「……これ、使ってください」 チナパパ「え?通帳?」 セイ「900万ギラ入っています」 チナパパ「ぶーーーーーー!?!!?!!?」 セイ「僕がガンプラバトルやビルド教室で稼いだお金です」 チナパパ「す、すごいね……い、いや、でも受け取る理由がないよ」 セイ「シャアさんのお金は受け取ったのに!!」 チナパパ「どこでそれを……」 セイ「今はそんなことどうでもいいじゃないですか!!」 チナパパ「でもね、あれはチナが稼いだお金だよ」 セイ「そんな言い方って……お父さんはそれでいいんですか!!」 チナパパ「……悩んだよ。でもチナのためでもある」 セイ「そんな……そんな大人の言い方……歯食いしばれ!修正してやるーー!!」 チナパパ「な、なにをするんだセイk…あべし!?」 カランカラン チナ「ただいm…イオリ君!?パパ!?」 セイ「委員長!シャアのところになんていっちゃダメだ!!」 チナ「ど、どうしてそれを……。でもイオリ君、私もう社長と約束しちゃったの」 セイ「そんな約束、無理やりじゃないか!!」 チナ「確かに強引だったけど……でも社長はフランスに私を連れて行ってくれるって……」 セイ「そんな……そんなものに惹かれたの!?」 チナ「そんなものって……私にとっては夢なの!」 セイ「フランスぐらい僕が連れて行ってあげたのに……ううぅ……」 チナ「イオリ君にそこまでして貰えないし……」 セイ「シャアならいいって言うの!?委員長のわからずや!!」 ダッ!! チナ「イオリ君?!え、えぇっと……パパ、おつかいの人参ここにおいておくから!」 84 名前:通常の名無しさんの3倍 :2014/12/17(水) 03 26 23.94 ID gVHuJx8s0 カテジナ「遅いぞクロノクル!」 クロノクル「すまない、ザンスカールのタイヤ戦艦の冬タイヤ交換があってな……」 カテジナ「ふん!言い訳をする男は嫌いだ!」 クロノクル「寒い思いをさせたな」 カテジナ「別に…」 クロノクル「その赤い手を見ればわかる。本当に待たせてすまない」 カテジナ「………」 クロノクル「まだ映画には時間がある。そこの喫茶店でカテジナの好きなダージリンで温まろう。もちろんアップルパイもつけてな?」 カテジナ「……ふん」 ダン!ダン!ダンッ!! カテノクル「「!?!」」ビクッ!? ゼハート「シングルベール…シングルベール……」 マオ「商店街のイルミネーションを見ると、無償に壁を殴りたくなりまへん?」 クロノクル「な、なんだお前達は!?」 ゼハート「お前達……私達が見えるのか?」 マオ「あんさんらみたいなリア充にはワイらみたいな地べたを這いずり回る喪男なんて見えへんのかと思いましたわ……」 カテジナ「ク、クロノクル、はやく行こう!コイツら危ないよ!!」 クロノクル(カテジナが危険を感じる連中だと……!?) ゼハート「ははははははは……」 マオ「ひひひひひひひ……」 < 委員長のわからずや!! マオ「あれ?どこかで聞いたような声が……」 ゼハート「私のXラウンダー能力がいまNTRを食らった惨めな男を感知した……追いかけるぞ」 マオ「まさか……聞き間違えや!セイはんに限って……アンタは…アンタはリア充やなかったんか!!」 セイ「………」ブツブツ マオ「ああ、セイはんが公園の隅でガンダム兄弟伝統の体育座りを!?」 ゼハート「握り締めたドムの頭を齧っているのか……一体何が……」 ルナ「辛い……話になるわよ」 マオ「ルナマリアはん!?」 ルナ「私、聞いちゃったのよ」 ゼハート「何をだ?」 ルナ「サテリコンでシンが来るのを張り込んでいたらね、ザコが慌ててお使いから帰ってきて……かくかくしかじか」 ゼハート「なんだと!?」 ルナ「それでアホ毛をセイ君に貼り付けて行く末を盗ちょ…見守っていたんだけど、どうやら……もぐもぐうまうま」 マオ「まさか……あの二人に限って……」 ゼハート「ガンダム兄弟のリア充っぷりは私だって知っている。しかしそういう事情ならばな」 ルナ「ゼハート、どこへいくの?まさかセイ君を慰めるつもり!?」 マオ「ゼハートはん!今のセイはんに半端な慰めは危険なんです!」 ゼハート「………」 テクテク 85 名前:通常の名無しさんの3倍 :2014/12/17(水) 03 28 59.31 ID gVHuJx8s0 ゼハート「この時期に独り身であることの辛さは私だって知っている」 セイ「………」 ゼハート「クリスマスというものが、もはやすでに恋人達がイチャイチャする行事になっていることも…… だがそれを認めてしまったら、今までのクリスマスで死んで逝った者達はどうなる? 彼らが独りですごしたクリスマスはどうなる?それを無為にすることはできない…… 48時間もの間、紡がれ、積み重なっている恋人達への思いを、私は拳に込めなければならない。 ……彼らの歴史の中の、消えていくだけの孤独のベルを、ただ僅かばかりの嫉妬を、私は刻み、叶えたかったのだ」 ルナ「それはっ、人の負いきれる重さじゃないわ!」 ゼハート「それが私の望んだ壁叩き……」 マオ「恋人が作れなかった者たちのためにさらに壁を叩いてっ!それでなんの未来が得られるんやっ!!」 ゼハート「私は……壁を代償にしてでしか、慰めを与えられない……」 セイ「それは違う……」 ゼハート「なに?」 セイ「確かに僕たちは道をたがえたかも知れない……けど僕たちの過ごしてきた時間が色褪せて消え去ったりはしない…… 傷つけあったことも、わかりあえずすれ違ったことも、一緒に泣いて……そして笑いあったことも……」 ゼハート「あぁっ……あぁぁっ……」ガクガク ゼハート(これが、一度でも彼女が居た者と、生まれてからずっと独りの者の違いっ……!!)ガクッ マオ「ゼハァァァトォォォォはぁぁぁぁぁんっ!!」 ルナ「ゼハート……貴方はあの日見た遠い星の光よ……」 ザコ「ああ、いたいたザコ!!」 パーラ「おーい、セイ!」 ザコ「チナちゃんにも連絡するザコ」 パーラ「あのさ、なんか勘違いだったみたいだぜ」 セイ「勘違い?」 パーラ「コマンダーサザビーから聞いたところによると、ネオジオン社がクリスマスに向けて新しいアッガイ出すんだって。トナッガイっていう。 んでチナの作ったベアッガイⅢのことを聞いたシャアのおっさんが、チナをぜひアドバイザーにって商談にきたらしいぜ?」 セイ「商談?」 パーラ「さすがに大金すぎるってチナの親父さんも受け取れないってビビッたんだって。チナもチナで男に免疫ないから頭真っ白になってたってさ。 それでもシャアのおっさんはあれでも敏腕だからな。うまく言いくるめて、話纏めて、お金は保護者である親父さんが預かることにして アドバイザー料ってだけじゃなく、チナの絵の才能に投資するって名目でさ、将来留学先と資金にしてってコトでお金渡したんだってさ」 ザコ「チナちゃん、フランスで絵の勉強するのが夢ザコね。シャア社長はセレブザコから、そっち方面にもコネがあるし 社長本人もいくつものコンクールの審査員やってるぐらいザコ。その社長直々に留学を薦められて……つまり才能が認められて、チナちゃん思わず泣いちゃったザコ」 セイ「そ…そうだったの!?はぁ~……」ヘナヘナ パーラ「まったく、ザコがそそっかしいせいで!」 ザコ「ザコだけのせいにするなんて酷いザコ!」 セイ「はは……いいよ、もう誰かのせいとか。あ!どうしよう……委員長のお父さん殴っちゃった……」 チナ「イオリ君!!」ハァハァ セイ「委員長!!」 チナ「あ、あのね……イオリ君……」 セイ「な、なに?」 チナ「フランスに連れて行ってくれるって……」 セイ「あ、いや、あれは……」 チナ「私の夢のためにイオリ君に負担かけたくないから……イオリ君はイオリ君の夢を頑張ってほしいから!」 セイ「委員長……そうだね。それにフランスでもガンプラは人気だから、きっと僕もいつかフランスに行くときがあると思うんだ」 チナ「そ、そうよね。も、もしそうなったら……私に会いに来てくれる?」 セイ「もちろんだよ!一番最初に会いに行くよ!」 チナ「い、一番……えへへ……」ニヘラ セイ「あ……いや、その……あはは……」ポリポリ ザコ「めでたしめでたしザコ」 パーラ「ったく、ノロケてくれるよな。まだクリスマス前だってのに」 ゼハート「……マオ」 マオ「……はい」 ダン! ダン! ダンッ!!
https://w.atwiki.jp/rooibos928/pages/24.html
名前 (桜田)こまち Xアカウント @comachi_skrd ファンマ 🌸🍵 ファンネーム こまふぁみ 推し 🍌、🧸🍫、🍊 たぶんアイドル、こまちです🫶 プロフィール 2000/12/15生まれ、AB型 岡山県出身、在住 身長は151cm MBTIは「ISFJ(擁護者)」 サブ垢の名前は「こま茶」 自称JK。 ファンマ、サブ垢の名前は大好きな歌い手さんをリスペクトしてつけたもの。 ルイボスペ界隈の推しは秘密。(アイドルなので) 好きなものはチョコレート、ラーメン、オムライス。 嫌いなものはバナナとトマト。山芋とキウイがアレルギーで食べられない。 パチカス兼VTuber。 ルイボスペ界隈のギャップ担当。アイドル枠。 お掃除スペ界隈鯖の管理人の1人、管理者3名はぶたこまみんち。 麻雀が得意、一部の人から師匠と呼ばれている。 人見知りで大人数で話すのが苦手。 大食いでお酒も強い、胃袋3つくらいある? 飽き性で色んなゲームを始めては3日くらいで熱が冷める。 ちいかわはうさぎとモモンガ推し💕グッズ集めに勤しんでいる。 VC初心者人狼に参加している。(月1、2)#白崎村 エピソード 麻雀(雀魂)を始めたのは2023/9/25。ルイボスペ界隈が始まった日付とほぼ変わらない。 2024/1/2 お正月デートと称してみんみんと会った。ルイボスペ界隈の人と会うのはこれが初。 2024/1/6、1/7 第1回ルイボスペ界隈麻雀大会の主催&GM&PLを務めた。 実写をたまにあげており、その見た目と声から高校生と間違われていた。 定期的にスイカゲームスペースを開いていたが、なかなかスイカを作れずみんなからいじられていた。 ルイボス、Sea_Lavenderから推されている。 ユーザー名の「skrd」はさくらだであり、スケルドではない。(何故かよく間違われる) 2024/1/18 スペース後にディスコで数人にすっぴんを晒したのでもうこわいものはない。 「桜田」で呼ばれることがあまりないため「こまち」のみの名前になった。 2024/3/16 みつは主催ルイボスペ界隈クイズ大会でルイボスと並んで1位になった。#ルイボスペ界隈クイズ王 2024/3/23 同い年であるルイボス、Sea_Lavenderと共に「こまちとオタクたち」のスペを行なった。#こまオタスペ そのスペの中で「花鳥風月(桜田こまち、ルイボス、核、SeaLavender)」を結成する。 2024/6/1 ハムスターと同居スタート🐹名前は桜田小雨(こさめ)。 2024/6/22 第1回ルイボスぺ界隈マリカ杯にて初戦12位(最下位)、タッグ戦は初戦1位ののきとペアを組み優勝。#さくらだチーム 偏見など書きたいこと何でもどうぞ よくポコチャで配信をしている(してないですよ、、) コスプレ好きそう(バレてる、、) 何が喜ばれる・楽しくさせるかわかっているから人の心が読める能力を隠し持ってそう。(ほぇ、、アーニャ、、!?) 三色団子がとても似合う、色合い的に🍡🍡🍡(わかる、、!ファンマ🍡に変えてみるか、、?笑) 好きだーー!こまちーーー!愛してるぞーーー!!!!ウオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎(私もだよー💓にひ) こまたそは天使ですか?大好きです。(😇🪽だって、やったあ) こまふぁみばんざーーーい!!!!(いぇぇぇい!!!!!) また一緒にオシャンなバーに行こうね🥰(わぁい、行こう行こう!) タグとか考えたい ファンアート #こま茶絵 ファンネーム #こまふぁみ イベント・オフ会歴 【大阪オフ会】 2024/2/23 核、なみゅ、ルイボス、パインで飲み会。 2024/2/24 核、なみゅ、パイン、こなつ、ミルクチョコで道頓堀食べ歩き。 【岡山オフ会】 2024/7/20 ちろタロ、nao、SeaLavender、パインで鷲羽山ハイランド、飲み会。 2024/7/21 ちろタロ、nao、SeaLavender、パイン、ルイボスで美観地区観光。 【アルジャンファンミ(夜の部)】 2024/8/18 SeaLavenderと連番参戦。ミルクチョコ、ののぷぅ、ゆき、みつは、汐莉、なみゅ、ちろタロ、のき、顔ファン、みんみんに会えた。