約 596,291 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/919.html
back / next 七話 『間違えたんだからスルー進行で』 新たに実がなった。実っているのは五つの“バクバクの実” シエスタにそれらを採取させながら、ルイズは小屋へ戻る。机の上には分解されたショットシェル。 「バクバクの実ですか~どういうものなんですか?」 「錬金よ。ただし金属どころか生物無生物に関わらず、食べて作り変える能力」 「……土のメイジの方々が昏倒しそうな能力ですね」 「ギーシュ当たりが欲しがりそうな能力ではあるわね」 「何よりおなかがすかなくなるのがいいですねぇ」 土でも石でも何でも食べてその腹を満たすことができる、それは確かに飢えから逃れるには最良の能力といえた。 「でもダイアルを見ても条件はわからないですねぇ」 「まあ五つも手に入ったしいいんだけどね」 ルイズはじっとその実を見つめた。 じっと見つめる。 錬金の魔法を力技で実行するこの身の能力は、魔法を常に失敗するルイズには魅力的に映った。 だがしかしここに不文律がある。 『悪魔の実は二つは食べられない。食べれば体が破裂する』 実に手をかざしそのうちを覗き見る。 流れるのはかつて二つ以上を喰らったものの末路。 血しぶきを撒き散らしながら体の前面が裂け、胃が、腸が、肺が、心臓が、肝臓が、裂け目から外に飛び出している。 悪魔の実という名の寄生生物が同種に感じる免疫拒絶反応。 実から手を離し、ルイズはナイフを手に取った。 昼食の場、ルイズはそれを己の食事に放り込む。 ミョズニトニルンの能力を徹底活用して作り上げた希釈した悪魔の実のペースト。 己の未来を覚悟しつつも、ルイズはそれを混ぜ込んだスープをあおった。 いつもどおりうまい。 「ああああああがああああああ!」 直後、ルイズは大量の血を吐き出す。 ふくらみ血管の浮き出る腹部。 「ガボッ」 腹が裂け、臓腑が飛び出した。 結果から言えばルイズは助かった。一から十まで計画通りに。 食堂はまさに大惨事だった。 倒れる死に体の少女と腹から飛び出た臓物。 実のかけらを悪魔の木の樹液から作った溶液で希釈し効果を軽減し持続時間を延長。 あえて食堂で行うことで治療の水の魔法を得意とするメイジたちの前で爆散、治療への近道を用意する。 加えて魔法の拘束具を使って胴体を固定、飛び散りを軽減する。 初めからゼロだった少女にとって、すべてを失うことへの恐怖はなかった。 誤算は唯一つ、信じがたい痛みにショック死しかけたこと。 予想をはるかに上回る痛みは彼女にトラウマを刻み込む。“痛いのは怖い” この日からしばらくの間、恐怖で眠れなくなりシエスタかキュルケに添い寝を頼むようになるのだが、それはまた別の話。 某CMのチワワっぽくてたまらないと二人がとろけた笑顔を浮かべていたが、怖いから視界から外そう。 「それで原因はわかるかね?」 「魔法の失敗だと思います」 オールド・オスマンに取り調べられるも知らぬぞんぜぬを貫き通す。自分の爆発魔法が暴走したのだろう、と。 魔法により修復された腹部を撫でながら、ルイズは結果に満足していた。 実同士が起こす拒絶反応、免疫機能が起こすショックが水の魔法により整合させられている。 魔法という現象が起こす“こじ付けのつじつま合わせ” それが彼女を救うだろうという、ミョズニトニルンの知識から組み立てた“絶対当たる未来予想図” ベッドの中で付き添いのキュルケの胸に顔をうずめながら、ルイズは一人笑みを浮かべた。 ああ、やはりコレはいいものだ。なんて弾力があってやわらかいのか。 研究観察用の小屋の中、ルイズはシエスタにもたれながら古びたさび釘をかじっている。 鉄でできたそれがまるでクッキーのようにコリコリ音を立てる。 うまい、体に毒でしかないはずの酸化鉄まみれのさび釘が無性にうまい。 コレがバクバクの実の恩恵か、と驚きながらルイズはギーシュから決闘後に巻き上げた青銅製のバラの造花をかじりだした。 「本当に何でもだべれるんですねぇ」 「しかもおいしいのよこれが。とんでもないわ」 バラの造花をムシャムシャ平らげた後、傍らに積み上げられた鉄くずと残骸の山に目をやる。 その中から衛士のものだろうか、ポッキリへし折れた剣をかじりだす。 鞘ごとごりごり食べながら、ルイズは紅茶に手を伸ばした。 デルフリンガーは御満悦だった。 さびだらけの己をいきなり飲み込みだしたルイズに慌てふためきはしたが、なにやら暗いところでごちゃごちゃした後出て着てみれば自分は新品のようにピカピカになっていた。 研いでも落ちなかったさびや汚れは完全にきれいに落とされ、布を巻かれた古い柄はヴァリエール家の紋章が入った金銀の装飾つきのものに作り変えられている。 鞘にいたっては花をイメージしたらしい華美さにあふれるデザイン、中央のヴァリエール家の紋章がアクセントだ。 デルフリンガーは武器として使われなかった己のこれまでをきれいさっぱり忘れることにした。 主の新しい能力の何とすばらしいことか! デルフの目の前でルイズは剣を一本かじり終わった。 しばらくもごもごと口を動かした後、流し込むように紅茶を空ける。 近くの薬ビンのふたを開けてそこに何かを吐き出した。それはどろどろに溶けた赤錆。 赤錆をすべて吐き出した後、右手を口の中に突っ込んだ。 シエスタとデルフが驚く中、ルイズは口から一本の剣を鞘ごと抜き出していく。 明らかに鋼を後付された、青銅のバラをあしらった青い鞘のレイピア。 ギーシュのバラを使ったためか、デルフには魔法の力を感じ取れた。 「これギーシュは何と交換って言うかしらね?」 「杖にもなるんですよね? だとしたらかなりじゃないですか」 「……おでれーた。娘っこは世を席巻する彫金師になれるぜ」 錬金の授業の前、いつの間にか召喚した木の実から出てきた変なブタ、ということになっていたカツ丼をフレイムの上に乗せ、ルイズは着席する。場所はギーシュの隣。 「ギーシュ、いいものがあるんだけど」 「ルイズ、藪から棒になんだい?」 「いいからみなさいって」 布に包まれていたそれは、少なくともギーシュの人生において一二を争う美しさのレイピアであった。 その青銅のバラをあしらったレイピアに回りは一斉に息を呑む。 ギーシュは恐る恐るといった様子でそれを手に取った。 ―精神力が通る!― それはつまりコレの材料が数日前に巻き上げられた自分の杖であるということ。 そして何より杖の代わりになるということ。 「ルルルルルルルイズ! こここここれは一体!?」 「森の前に私の観察小屋があるでしょ? そこであんたのバラを使って作ってみたの。どう?」 「すすすすすばらしいよ! こんなに美しい剣を僕は見たことがない!」 「それは良かった。で、ギーシュ」 ずいっと前に出てレイピアを取り返す。 「これの代わりに何をくれる?」 「僕のヴェルダンデに宝石や鉱石を探させよう! 好きなだけもっていってくれるといい!」 「成立ね。じゃあ上げる」 ギーシュはレイピアをもらって、ルイズはさまざまな原石を大量にもらって御満悦だった。 その光景に目が行き過ぎたのか、ルイズが錬金の魔法はできないのだということは忘れ去られていた。 カツ丼はシエスタに餌をもらっていた。 学園内でイノシシになったりブタに戻ったりしていたせいか、いつの間にかカツ丼は『ルイズの召喚した実から生まれた』だの『ルイズの召喚した実を食った』だの言われるようになり、気がつけばルイズの使い魔扱いになっていた。 まあ一部当たっていないでもない。 木の実よりは体面も良かろうということで木の実の変わりに使い魔登録されたカツ丼は、ブタブタと餌をほおばっていた。 キュルケは自分の感情をもてあましていた。 妙に可愛らしい様子を見せたかと思えばいきなり黒くなるルイズ、その寝姿は顔の形が崩れるほど愛らしい。 そんな感想を同性に抱く自分に驚きつつ、キュルケはルイズを探す。 この感情をどうすればいいのか、考えながらたどり着き、ひとまず思考を変更する。 目の前でルイズが材木をかじるのを止めるべきかどうか。 変則的な錬金魔法、そんな明らかに間違った説明をしながら、ルイズはギーシュから受け取った宝石の原石をかじる。 少しの間もぐもぐ咀嚼したあと脇に吐き出すのは不純物のみ、直後卵形の純鉱石を吐き出す。 「ルイズ、これももしかしてサファイア?」 「サファイアの単結晶。土のメイジには金やプラチナにも勝る価値があるでしょうね」 「……反則じゃない?」 授業の合間にもルイズは何かをかじっている。 今かじっているのは貝殻。 壊れたダイアルを食べ、修復して吐き出す。 それを延々と繰り返していた。 「うあ、これ排撃(リジェクト)ダイアルのかけら? かけらだけ? ちえ~」 周りの生徒たちには偏食にしか見えなかったという。 悪魔の木の裏手、暗い森の中、手書きの的を設置したそれにルイズは相対している。 手の中には単発式拳銃。バクバクの実の能力で作り上げたオーバーテクノロジーの塊。 横のテーブルにシエスタが荷物を置いていく。内容は鉛、真鍮のインゴット、硫黄などの火薬の原料。 それらをすべて口の中に放り込み、しばし後に吐き出す。 吐き出されたそれは最も初期の金属薬莢弾。 各種鋳型や機材を用いなければならないそれらの製造過程を無理やりスキップして結果だけを導き出す、悪魔の実の能力。 「黒色火薬は弱いからいやなんだけどね~」 「無煙火薬、でしたっけ? そっちは駄目なんですか?」 「材料がわからないのよ」 「材料ですか?」 「あの獣の大筒のおまけで弾丸の情報も拾えたけど、“りゅうさん”とか“しょうさん”とか名前しかわからないの」 作り出した弾丸を銃に込め的に向かって構える。シエスタが後ろについて固定。 パァン、と軽いほおを張るような音、的の少し上側が粉々に吹き飛ぶ。 「思ったより反動がないわね」 「火薬が弱いって本当なんですね」 ふうむと銃を見薬莢を口に放り込む。ゴリゴリと咀嚼し再度銃弾を生成、装てんする。 もう一度構えて発射、今度は的の下方が破裂した。 「微妙な出来ね。やっぱりあれをやってみるか。実は十二番のやつね」 「用意しときます」 かさかさと小屋へ向かうシエスタを見やり、ルイズは銃をくわえて噛み砕いていく。 小屋の中でシエスタが実と鋼を用意していた。 机にはルイズの手記、『無機物への悪魔の実の適応方法』 「ところでルイズ、使い魔の品評会はどうするの?」 「カツ丼を出すわ」 「……あれはペットでしょ?」 「黙ってればわからないもの」 back / next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5693.html
前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第九話 フーケが破滅の箱を盗み去った、その翌日。 学院長室にて、目撃者であるルイズたち三人と教師一同、そして学院長のオスマンらによる臨時会議が行われた。 ルイズたちによる証言の後、フーケの居場所を突き止めたと途中から部屋に入ってきたロングビルの情報を元に、オスマンがフーケ討伐隊の結成を提言。 本来なら、教師たちが率先して名乗りを挙げるべきであった討伐隊。 しかし、相手が強力なメイジであることや事後処理などの責任問題で、誰も杖を上げようとしなかった。 その代わり、今度こそ周りを見返してやろうと燃えるルイズが真っ先に杖を上げた。 ルイズには負けられないとキュルケ、皆が心配とタバサの二人も杖を上げ、結局三人でフーケの討伐に向かうことになったのである。 「あー、ミス・ヴァリエール。君の使い魔を呼んできてはくれんかね。……少々話があるのでな」 会議も終わり、一人また一人と学院長室を出ていく中で、ルイズはオスマンに声をかけられた。 「オールド・オスマン。使い魔をお連れしました」 「……俺に何か用か?」 話がある、と聞かされた浅倉は、ルイズに連れられて学院長室にやってきた。 浅倉の無礼な態度を、ルイズが慌ててたしなめようとする。 「よいのじゃ、ミス・ヴァリエール。……ところで使い魔殿。突然で悪いが、破滅の箱について話があるのじゃ」 オスマンが学院長席で手を組み合わせながら、浅倉に尋ねた。 扉の横の壁に寄りかかり、腕と足を組んだ浅倉がそれに応える。 「破滅の箱……ああ、あのカードデッキのことか。それについては俺も聞きたいことがあったな」 ふむ、とオスマンが考える。 「それなら、わしの質問が終わった後で答えることにしよう。まずはあの箱について知ってることを教えてくれんか?」 「それならこいつに聞け。知ってることは全部こいつに話した」 浅倉がルイズの方を向き、再びオスマンに目線を戻す。 「えっ、私!?」 いきなり話をするようにと言われ反論しようとしたルイズであったが、逆らえそうにもないと分かると渋々と口を開いた。 ルイズが一通り話し終えると、オスマンは椅子にゆっくりともたれ掛かった。 「なるほどのう……。にわかには信じがたいが、信じる他なさそうじゃ」 ギーシュと浅倉の決闘の様子を思い出しながら、オスマンが言った。 「今度はこっちの質問に答えてもらおうか。……お前、どこであれを手に入れた?」 浅倉の質問に、オスマンは白髭を撫でながら答える。 「そうじゃのう。あれは数年前のことじゃ……」 オスマンが言うには、数年前、とある村に見慣れない格好をした男が倒れていたという。 男は既に死亡しており、村人らによって葬られた後、彼の持ち物は村人たちの手に渡ったらしい。 その内の一つが破滅の箱である。 見た目はただの奇妙な箱だが、この箱を手にした者は、どのような呪いなのかはわからないが、幾日かの間に忽然と姿を消してしまうというのである。 当初、男の持ち物を所持していた村人も消えてしまったという。 そのため、気味悪がった村人たちによって売り払われ、破滅の箱という名で取り引きされるようになったのである。 それ以来、秘宝という価値に惹かれた者、呪いの正体を暴こうとする者、興味半分に手を出す者などが後を絶たず、犠牲者は増えるばかりであった。 オスマンもまた、呪いの原因を突き止めようとした者の一人であった。 最近になって闇市場に出回っているのを見つけたオスマンは、ようやくこの呪われた秘宝を手にすることができたというわけである。 「なるほどな。……そうだ、一ついいか?」 浅倉がオスマンに向かって尋ねた。 「なにかの?」 「あのデッキを俺によこせ。呪いでないことがわかったなら、もう必要ないだろう?」 そう言って、浅倉が口元に笑みを浮かべた。 「そうじゃのう……。フーケを捕らえられたなら、箱は好きにするがよかろう。扱いを知っている者なら、これ以上犠牲者を出さずに済むじゃろうて」 オスマンが軽く頷いた。 「話が分かる。で、用事というのはこれだけか?」 言いながら扉に向けて歩き出す浅倉を見て、オスマンが思い出したように言った。 「そうじゃ、もう一つ。君が毎日やっている決闘の相手に、もう少し休みを与えてやってはくれんか。このままだと死んでしまうからのう」 「……気が向いたらな」 オスマンに背中を向けると、浅倉は扉を開けて部屋を出ていった。 ルイズはオスマンに向かって一礼すると、慌ててその後を追うのであった。 会議から一時間ほど後に学院を発った、ルイズたちと浅倉。 彼らはロングビルの案内のもと、フーケが逃げてきたという森へとやってきた。 「情報によると、あの小屋に『土くれ』のフーケが潜伏しているとのことです」 ロングビルが、少し離れたところにある古びた小屋を指さしながら言った。 草木に身を隠しながら、ルイズたちは作戦を練り始める。 「誰かが囮になって中のフーケを誘きだし、出てきたところを皆の魔法で叩く! これでいけるはずよ」 「でも、ルイズ。肝心の囮役はどうするのよ。もちろん言い出しっぺのあんたが……」 「わたしが行く」 挑発しようとするキュルケを遮り、タバサが名乗り出た。 「ケンカはだめ。作戦は調和が大事」 作戦会議が一段落したところで、ロングビルが「辺りの様子を見てきます」と言い残し、森の奥へと消えていった。 ルイズたちは作戦の準備に取りかかる。 「ところで、アサクラを見ないんだけど……どこにいったの?」 キュルケがルイズに尋ねた。 「そういえば姿が見えないわね。どこにいって……あっ! アサクラ!!」 いつの間にか小屋の前に立っている浅倉に向けて、ルイズが叫ぶ。 と同時に、小屋の扉が勢いよく蹴破られた。 「無人か……」 デルフリンガーを背負った浅倉が呟いた。 誰かがいたような後が見られるものの、最近使われていなかったのか、部屋の至るところが埃をかぶっている。 テーブルに目を向けると、盗まれたはずのカードデッキが置いてあった。 浅倉がデッキを手にとると、デルフリンガーがカチャカチャと喋りだした。 「相棒、どうやらこの状況は……」 「そのようだな」 浅倉が小屋を飛び出したのと、小屋の天井が吹き飛んだのはほぼ同時であった。 突如目の前に現れたゴーレムは、フーケがいるはずの小屋を破壊すると、ルイズたちがいる方向に向けて歩き出した。 キュルケとタバサが魔法で応戦するも全く歯がたたず、動きを止めることができないでいた。 浅倉は懐からルイズに借りている手鏡を取り出すと、デルフリンガー、盗まれたデッキとともに地面へ放り投げた。 そして自らの持つ蛇のデッキを鏡に向けると、右手を胸の前で前後させ、叫んだ。 「変身!」 ベルトにデッキを差し込み、ガラスの割れるような音とともに王蛇への変身が完了する。 王蛇はデルフリンガーを拾いあげると、鞘から刀身を抜き、巨大なゴーレムに向かって駆け出した。 「ウオオオオッ!!」 ゴーレムが反応するよりも早くその足元に近づくと、浅倉は土でできた右足をがむしゃらに斬りつけた。 二度、三度と斬りつけるうちに足が切断され、ゴーレムが態勢を崩す。 しかし、すぐにまわりの地面から土を吸収し、元の無傷な状態へと戻ってしまう。 左足や胴体でも結果は同じであった。 ゴーレムの攻撃は単調で避けることは容易いが、これでは一向に勝負がつかない。 「チィッ……イラつかせるっ……!!」 ルイズは焦っていた。 せっかく自分が提案した作戦も決行前にご破算。 魔法は危ないから使うなとキュルケに釘を刺され、現れたゴーレムに逃げ惑うことしかできないでいる。 これでは役立たずのままではないか。 (何か……何かできることはないの!?) そう考えながら、ルイズは辺りを見回す。 ふと、浅倉に貸しっぱなしだった手鏡が目に入った。 そして、その傍らにあるのは…… (破滅の箱……?) フーケに盗まれたはずの秘宝。 手にした者を破滅させるという呪われた品。 しかし、浅倉の言う通りならばこれを使って変身できるはず……。 (これなら私だって……私だって戦える!!) 思い立つやいなや、すぐにデッキを拾い上げると、鏡に向かってその白虎の紋章をかざし、叫んだ。 「変身!!」 「あれは……破滅の箱!?」 タバサが呼び寄せたシルフィードに乗り、上空に避難していたキュルケがルイズの方を見て、叫んだ。 タバサも珍しく驚いた顔つきでルイズの方を見つめている。 ルイズが腰に巻かれたベルトに破滅の箱を差し込むと、ルイズの姿が一瞬にして青と銀の鎧に包まれた。 「近くへ寄って」 タバサはシルフィードに指示を出し、ルイズの元へと急ぐ。 「これが……破滅の箱の力……」 自身の姿が映った手鏡を覗き込むようにして見ながら、ルイズが呟いた。 その姿は、胸に青と銀の、肩に鋭い爪を模した装甲を纏い、顔は虎をイメージさせるような形の面を被っている。 両手を動かすと、チャキチャキと装甲が擦れる音がした。 「ルイズー!」 ルイズが鏡に見入っていると、上からキュルケの声が聞こえてきた。 振り返ると、シルフィードから降りたキュルケとタバサがこちらに向かって走ってきていた。 「ルイズ、この格好は……」 驚きの表情で尋ねるキュルケに、ルイズ―仮面ライダータイガ―は答えた。 「これはアサクラと同じ、『仮面ライダー』よ」 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1628.html
本日何度目かの失敗、ゼロのルイズは春の召喚の儀式で周りから笑われながらも再度爆発を引き起こす。 他の生徒たちが飽きてあくびをし始めたころ、ルイズはとうとう召喚に成功した。 煙の中から現れたのは、人間ほどもある巨大な蜂だった。 「ルイズが成功したぞ!」 「ありえねえ!」 「ていうか何あの蜂! でかっ!」 感動に打ち震え名がら、ルイズはすばやく契約の口付けを行う。 三つの節になっているからだの真ん中、胸の部分にルーンが浮かび上がった。 蜂は怪我をしていた。 何かと戦っていたのか足が二本しかなく、羽根が痛んでいるのかその飛行もおぼつかない。 だがそれでもルイズはこの蜂をかわいがった。 自分の始めての成功。自分の始めての魔法。 その柔らかな体毛に顔を摺り寄せ、ルイズはうれしそうに笑った。 まあ流石にその凶悪な顔には引いていたようだが。 そんな状態ではあったが、そのルイズにより“ヴェノム”と名づけられた巨大蜂は非常に有能だった。 使い魔の役目は三つ。 1.視界と感覚の共有 2.秘薬の材料になる薬草や鉱物などの収集 3.主の護衛 一つ目の視界の共有については行うことはできたが、虫の複眼を脳が処理し切れなかったのか酔った。 二つ目の秘薬の材料は餌のキノコなどを集めては来るのだが、そもそも水の魔法で爆発を起こすルイズに魔法薬は作れない。 だがこの使い魔は三つ目の、主の護衛において真価を発揮した。 唐突だが魔法学園の周りには森がある。 当然結界や壁に囲まれており安全だが、当然そのその外には自然の脅威が依然残っている。 だからごくまれにそれを乗り越えてしまうものがいるのだ。 普段なら教師たちが対応するのだが、この日は運悪く会議中であり、その場所は結界の解除された門扉の近くであり、さらにはそこにいたのがメイジとはいえ一年の新入生ばかりであったのだ。 一匹のトロール鬼と数匹のオーク鬼が、人間で遊びにふらりと現れた。 外でヴェノムに餌を与えていたルイズが、それに真っ先に気づいたのだ。 慌てて杖を抜くも、己の魔法の特性に詠唱が止まる。 どこに着火してしまうかわからないのだ、敵にならともかく生徒に当たった場合、その生徒は間違いなく鬼に襲われる。 どうしようか迷っていたルイズより先に動いたのは、主の意思を汲んだヴェノムだった。 キュウン、と耳の奥を揺らすような音を上げて、ヴェノムが視界から掻き消える。 直後、先頭にいたオーク鬼が体の真ん中に風穴を開けて吹き飛んだ。 驚きに固まる生徒たちとオーク鬼たちの前に、ヴェノムは静かに浮かんでいた。 そこからは一方的といっていい展開だった。 その空気の壁を打ち抜く高速飛行で、オーク鬼たちはまるで豆腐か何かのように吹き飛ばされ崩れ落ちる。 その猛攻を唯一トロール鬼だけは片腕を犠牲に防御したが、腹部の針がかすった時点でもう終わりだった。 人間よりもはるかに巨大ではるかに頑丈ではるかに頑強ではるかに抵抗力が高いはずのトロール鬼が、腕の傷口から紫色のミミズばれに侵食されていく。 全身をかきむしってしばし苦しんだ後、トロール鬼はばたりと倒れた。 時間にしてほんの二、三秒、心臓は完璧に停止していた。 この日からルイズの生活はガラリと変わった。 使い魔を中心に回る生活、まるでギーシュのように親馬鹿ならぬ使い魔馬鹿になってしまったのだ。 傷の治療を丹念に行い、羽根を丁寧に拭いてやる日々。 肉食なので高い肉を与えてみたり。 少なくともルイズにとっては幸福な毎日だった。 フーケは盗みに入ることはできなかった。 予定ではゴーレムで宝物庫の外壁を叩き壊すつもりだったが、塔の下に来てそれをあきらめた。 その理由は塔の天辺からぶら下がった大きすぎる蜂の巣。 教師の側からトロール鬼たちを検分して、その毒のあまりの凶悪さを知ってしまったからだ。 「ま、命には代えられないしね」 大きな蜂の巣の中にはたくさんの幼虫と、それより少し少ないサナギがいた。 初めは少し気味悪がっていたルイズも、その人懐っこさに自分から抱きつくようになった。 何でも幼虫は程よくやわらかくて抱き心地がいいらしい。 何より彼女を喜ばせたのは、その虫たちすべてにルーンが刻まれていたことだった。 視界の端で、世話をしてくれたメイドに譲った小さめの一匹が、可愛らしく揺れていた。 アルビオンへのお使いは裏切りに終わった。 ウェールズを貫いたその杖で、ワルドはルイズに魔法を唱え始める。 悔しかった。裏切られた想いが全身を駆け巡り、ルイズは頭に血を上らせた。 そして使い魔は、任務のために連れてきた小さな一体は主に答えた。 高速で飛来したそれは、すべての遍在を穿ちぬき、本体の杖を持つ右腕を引きちぎる。 慌ててグリフォンで逃げるワルドを、ルイズは怒りに燃えた瞳でにらみつけていた。 戦争というのは唐突に始まる。 戦争というのは大体言いがかりで始まるものだ。 その戦争ももちろん、壮大な言いがかりから始まった。 トリステインに侵攻するレコン・キスタ擁する神聖アルビオン共和国。 実質魔法で支配しているのに何が共和国か、と思わないでもないが、ともかく戦争は始まった。 拠点を手に入れるためタルブの村を襲った彼らに気づいたのは、王国のものでも学園のものでもなくルイズだった。 里帰り中のシエスタに譲った一匹の成虫を通じて送られてくる映像。 焼き尽くされる草原、打ち壊される家々、ルイズの頭の中で何かが音を立てて切れた。 「よろしいですか皆さん、皆さんはこのまま待機して」 話の途中で立ち上がりマントをまとうルイズ。 そのままの勢いで、ルイズは戸を蹴破るように退室する。 「ミス・ヴァリエール、どこへ行くのですミス・ヴァリエール!」 教師のとがめる声も、もう聞こえない。 サナギたちの抜け殻から作ったかごを引きずり出し、ルイズは門扉の前で大声を上げた。 「ヴェノーーーーム!」 森が、揺れた。 黄色と黒の雲が、否、雲と見まがうばかりの量の蜂たちが、声にこたえてうごめき始める。 森中の鬼を餌に繁殖を続けていた蜂たちが、主の命で動き出す。 ルイズの載ったかごを拾い上げ、その真っ黒な雲はタルブへ飛んだ。 タルブはひどい有様だった。 家は焼かれ、壊され、略奪が行われている。 村人たちの立てこもっている教会の扉も、つい先ほどから何かを叩きつける音が響いている。 家族で抱き合って震える子供たちの耳にも響く轟音と怒声。 それが突如悲鳴に変わった。 何かから逃げる声と悲鳴、分厚いものを引きちぎる音と硬いものを咀嚼する音。 何事かと視線が集まるその分厚い扉に、大量の槍状のものが生えた それが次々と突き刺さりつっかえ棒を壊す。 開かれた扉の向こうには、桃色の髪の少女が大量の巨大な蜂を従えて立っていた。 「ルイズ様!」 傷ついた小さめの蜂を抱きしめていた少女、シエスタが立ち上がる。 ルイズは無言で近寄ると、その傷ついた蜂を後ろの大きな蜂に渡し、ただ黙ってシエスタの頭を抱きしめた。 シエスタは少し驚いた後、声を殺して泣いた。 グズグズとルイズの渡したハンカチで涙を拭くシエスタの頭を少し撫でた後、ルイズは振り返り教会の外へ。 「ル、ルイズ様! ダメです! 相手は「七万よ。知ってるわ」ルイズ様……」 「シエスタ」 蜂たちに囲まれてその姿が見えなくなる直前、ルイズはシエスタに話しかける。 「クックベリーパイをたくさん焼いて待っていなさい」 レコン・キスタはその妙な存在を前に恐慌状態に陥っていた。 七万の軍に対抗しうる国軍はいまだ現れず、ただ侵攻するだけというときに戦場のど真ん中に一人の少女。 少女はおびえることもなく、ただ胸を張り言い放つ。 「今すぐに軍を引きなさい。でなければ私は容赦しない」 先頭の騎竜兵は笑いながら少女に杖を向けた。 「そう、残念ね、とても残念」 それが男が人生の最後に聞いた言葉になった。 それは恐怖の顕現、それは力の顕現。 人が、竜が、亜人が、ゴーレムが、あらゆるすべてが貫かれ、砕かれ、滅びてゆく。 その真っ黒な暴力にさらされたものは一瞬で巻き込まれ姿を消す。 恐怖に駆られた傭兵たちは散り散りになって逃げ惑う。 絶対なる“死”のイメージがそこにはあった。 クロムウェルは焦っていた。 あまりに予定とは違う状況に慌てふためいている 寄せ集めも含むとはいえ七万という大軍、負けるはずなど無かったのだ。 だが現実はどうか。一部の指揮官がやられるだけでその下の兵たちは散り散りになる。 大軍ゆえの統制の無さが現れていた。 なお、指輪をくれた美女は既に姿をくらませている。 突如として響く重低音。 音の方向に目を向けた瞬間、外壁をぶち抜いて蜂たちがブリッジに入り込む。 「久しぶりね、ワルド」 「あ、ああ、久しぶりだねルイズ」 「そっちが指揮官?」 「そ、そうなる、かな」 その様はまるで女王のように、ルイズはクロムウェルに向き直る。 「あなたが指揮官ね? 最後通達よ、今すぐ退却しなさい」 「こここ断る! 我ら神聖アルビオン共和国は聖地奪っか「もういいわ」!」 蜂が、蜂たちが、ルイズを包み込んでいく。 「船ごと餌になりなさい」 直後、レキシントン号を黒雲が包み込み、アルビオンの誇る軍艦は、文字通りガラクタになった。 後に虚無の魔法を身につけたルイズは、その歩みを止めることなく己の道を突き進む。 船ごと蜂の巣になったレキシントン号のブリッジで、ルイズは生まれたばかりの幼虫を愛でながら今日もローヤルゼリーを飲む。 何でも毎日飲んでいたおかげで胸が大きくなったらしい。 世界中の女性に夢と蜂蜜を売りながら、『女王蜂のルイズ』は今日も空を飛んでいる。 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。 神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。 そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。 滅ぶことなく増え続け、やがては空を、支配する。
https://w.atwiki.jp/gndm0069/pages/71.html
「さぁ、何してるの?ぼんやりして。」 「あの…」 「男と女がベッドルールで二人きりならすることは決まっているでしょ。」 「でも…」 「脱ぎなさい。それとも脱がして欲しいの?」 有無を言わせない口調でルイスの母は言う 「じ、自分で脱げます」 沙慈は状況に流されるまま、ブレザー、スラックス、シャツと脱いでいき、ブリーフだけの姿になった。 ルイスの母もニットの上着、ブラウス、スラックスを脱ぎ下着だけの姿になっていった。 赤色のブラジャー、赤色のショーツ、ガーターベルトで吊った黒のストッキングという姿に沙慈は思わず生唾を飲み込んだ。 年頃になって下着姿の女性を間近で見たのは、着替え中を偶然見てしまった姉だけであった。 「さあ、いらっしゃい」 ベッドに腰掛け手招きする。 ―僕のベッドなんだけど そう思いながらも、招かれるままそばに寄っていき、彼女の前に立つ。 「ブラジャーを外してちょうだい。」 「は、はい」 沙慈はルイスの母の背後手を回し、ブラジャーのホックを外そうとする。 何度か試したが手が震えているせいもあってなかなか外せずいたずらに焦ってしまう。 「ブラジャーの外し方もわからないの? お姉さんがいらっしゃるんだからブラジャーぐらい見たことあるでしょ?」 「そうですけど…それとこれとは…」 沙慈もこの年頃の少年らしく、姉のブラジャーやショーツをクローゼットから出して観察したことがある。 しかし、自分で身につけてて見ることは思いとどまったので、ブラジャーの外し方までは知るらなかった。 「ほら、こうよ」 ルイスの母は自分の背中に手を回し、ブラジャーのホックを外してしまった。 「もう一回、つけて外してみなさい。」 沙慈は言われるままに、見よう見まねでブラジャーのホックを留めて、外した。 「こんなことでまごつくようじゃ、いざというとき大変ね。」 「がんばります」 「ほら、沙慈君」 ブラジャーの肩ひもはほどけ、カップが落ちるのを腕組みをして防いでいた。 腕からはみ出る乳房があまりにも扇情的で、沙慈は思わず我を忘れてしまった。 いきなりルイスの母を押し倒し、二つの乳房にむさぼりついていった。 「お母さん、お母さん!!」 「ダ、ダメよ沙慈君、落ち着きなさい!情熱的なのは結構ですが乱暴なのはいけませんよ。」 そういわれて沙慈は我に返った。 「ご、ごめんなさい…」 「いいのよ、でも焦らないで。ほら、見てみて。」 ルイスの母が手をどけると、二つの乳房があらわになった。 透き通るように白い肌。手に収まりきらない大きさの乳房。ピンとつきだした淡い褐色の乳首。 年頃になってこんな間近に乳房を見るのは初めてだった。 「いいのよ、沙慈君」 ルイスの母は自らの乳房をつかみ、乳首を沙慈の口の方に向ける。 沙慈は何も考えず本能のまま乳首に吸い付いていった。 「もっと強くしてもいいのよ。やさしく噛んでみて。」 沙慈は言われるままに乳首を甘噛みする。 「あっ!」 ひときわなまめかしい声をルイスの母は上げた。 「左手がお留守よ。」 そういわれて沙慈はもう片方の乳房を左手でまさぐり始めた。 乳房は柔らかくそれでいて弾力がありいくらもんでも飽きない感触だった。 ルイスの母の体からは高級そうな香水のにおいの他に、何か懐かしい甘い香りがした。 「左の乳首も舐めてちょうだい」 沙慈は左の乳首に口を移し、右手で右の乳房をもんだ。 「あぁっ、いいわ!いいわよ!上手よ!」 沙慈の背中に回したルイスの母の手に力が入る。 「次のレッスンよ、沙慈君」 ルイスの母は上半身を起こすと、ゆっくりとじらすようにショーツを脱いでいく。 そして、ガーターベルトにストッキングだけの姿になった。 金色の草むらに覆われた秘部に沙慈の目は吸い寄せられていった。 「見てちょうだい。」 草むらはじっとりと湿っていた。 その間に開く淫らな唇もじっとりと湿っていた。 その奥にぬめぬめと光る肉襞が見えた。 沙慈は植物園で見た食虫植物を思い出した。 「さわってちょうだい。」 食虫植物に吸い寄せられる虫のように、沙慈はルイスの母の肉体に吸い寄せられていった。 初めて間近で見る大人の女性の性器は複雑な形をしていた。 沙慈はぬめぬめとした肉の襞を指でなぞった。 「あっ!」 ルイスの母が声を上げる。 「そうよ、ゆっくりね。」 沙慈は指を襞に沿って先ほどよりも大胆に動かしていく。 「あぁっ、いいわよ!いいわよ!」 ルイスの母は沙慈の指の動きに合わせ身をくねらす。 「沙慈君、まんなかの上の方にかたい部分があるのがわかる?」 「ここですか?」 「あぁっ、そうよ、そこよ。そこがクリトリスよ。」 クリトリスを中心に愛撫をすると、さらにルイスの母の声は高くなる。 「そうよ、上手よ。もう我慢できない、沙慈君、いらっしゃい。」 沙慈にもルイスの母が求めていることがすぐにわかった。 男と女として結ばれること、それが二人の一致した望みだった。 ルイスの母は体を少し起こすと、沙慈の肉棒をやさしく握った。 「初めてなんでしょ。ちゃんと入り口まで案内してあげるわ。 両手を私の肩のところにおいて。 そう、その通り。 次はゆっくり腰を下ろしていって。」 沙慈はルイスの母に覆い被さるような体勢になる。 ルイスの母の手にひかれ、沙慈の亀頭が彼女のぬめった部分に触れる。 「ここよ。ここに入れるの。このままゆっくり腰を進めて。」 沙慈はゆっくりとルイスの母の手に導かれて彼女の中に入っていった。 亀頭が入り口で柔らかい抵抗を受けたが、亀頭が潜り込むと、あとはするりと奥まで入って行った。 「ああっ!お母さん!」 熱くぬめったルイスの母の内部はとろけてしまいそうな甘美な快楽をもたらした。 もう、それだけで射精してしまいそうだった。 「焦らないで。焦らないでいいのよ。」 ルイスの母は沙慈の背中をなでて落ち着かせる。 危うくこのまま暴発してしまうところだった。 「ゆっくり腰を動かしてみて」 言われるまま、本能のまま沙慈は腰を動かしていった。 腰を動かすたびに、二人のつながった部分から湿った淫らな音が鳴る。 「いいわよ、その調子。」 沙慈はぎこちないながらもピストン運動を始めていった。 ルイスの母はストッキングに包まれた足を彼の背中にからめ、 沙慈のピストン運動にあわせ自分からも腰を動かし始めた。 「とっても気持ちいいです…」 「そう、うれしいわ。」 沙慈のピストン運動の速度が上がる。ルイスの母も腰を動かす。 「も、もうでちゃいそうです。」 「いいのよ出しで。私の中にたくさんちょうだい!」 「あっ、出るっ、ああっ…!」 沙慈の肉棒は激しく脈動を始め、ガールフレンドの母の子宮めがけ激しい勢いで精子を吐き出していった。 「ああっ、来てる、来てるわ…ああっ…」 ルイスの母は娘のボーイフレンドの吐き出した精子を胎内奥深くで受け止めていた。 何度も何度も脈動するたびに大量の精液を吐き出していった。 すべてを出し切ると、沙慈はルイスの母の体から離れて仰向けに横たわった。 二人とも息を切らし、快感の余韻にひたっていた。 「良かった?」 「とっても良かったです。」 ルイスの母が体を起こし、沙慈の唇に音を立ててキスをする。 そのとき、ドアの方でどさっと、何かが落ちる音がした。 あわてて振り返った沙慈が見たものは、呆然と立ちつくす ガールフレンド、ルイス・ハレヴィの姿だった。 持っていた鞄を落とし、両手を口に当て、目は驚きに見開かれていた。 「ル、ルイス?!ど、どうして!」 沙慈は叫んだ。 ~~~ つづく ~~~
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1350.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ その日の午後の授業は使い魔とのコミュニケーションのために休講となっている。 学園の庭では二年生達は使い魔と思い思いに過ごしている。 その中でギーシュは自分の使い魔のジャイアントモールのヴェルダンデがいかに素晴らしいかをテーブルの向かいに座っているモンモランシーに熱く、そして暑苦しく語っていた。 知的な瞳だとか、官能的なさわり心地といったギーシュにしか解らないようなモグラの魅力を聞かされたモンモランシーはうんざりしていたが、 「君の使い魔もキュートなところが君にそっくりだよ」 などと言われると悪い気は全くしなかった。 「相変わらずお上手ね」 と、全部わかっているように言うのもギーシュの次のお世辞を引き出すためだ。 「僕は君の瞳には嘘はつけないよ」 定番の麗句を聞いたモンモランシーは気になることを思い出す。 本当だろうか、と思って問いただすことにした。 「でも、最近一年生ともつきあってるって噂を聞いたんだけど」 ぎく。 あからさまにギーシュの体と声が硬くなる。 「バカなことを、君への思いに裏表なんて……」 モンモランシーの脳細胞がその言葉の裏にあるものを察知し目がつり上がる直前、ギーシュとモンモランシーの間にある机が轟音を立て、破片と土煙を周囲にぶちまけた。 ついでにモンモランシーの頭からは自分がなにを察知したかが吹っ飛んでしまった。 ギーシュとモンモランシーの間にあった机だったものは周囲の生徒と使い魔の注目を集めることとなった。 土煙が立ちこめる中、皆が無責任にそこでなにが起こったか想像を始める。 隕石が落ちたのか? いや、地下から怪物出現か? いやいや、ギーシュに怒ったモンモランシーが香水で破壊したのか? どんな香水かは不明だが。 だが煙が晴れるとその場にいた全員が納得することとなった。 「いったーい」 そこにはルイズがいたからだ。 ルイズと言えば爆発。爆発と言えばルイズ。 なので、ここで爆発が起こったのは何ら不思議ではないと言うわけだ。 ユーノを肩に乗せながらテーブルの残骸を杖に腰をさすって立ち上がったルイズは、近くの見知ったメイドであるところのシエスタを見つけた。 「そこのあなた」 「は、はい」 「湿布持ってきて。腰、打っちゃたのよ。いたた」 あわてて走っていくシエスタを見送ったルイズはやっとテーブルだった残骸を手放し、自分の足で立ち上がった。 そこでやっとその場にいる全員がルイズを注目しているのに気づく。 周りを見回したルイズは手を組んで少し考え、一言言った。 「ちょっと失敗しちゃった」 周りの生徒達は一斉に叫んだ。 「どういう失敗だ!!」 ほとんどのものはそれですませたが、ギーシュはそれでは収まらない。 驚いてそばに来ているモンモランシーの肩を抱いて、かっこいいと思っている角度でルイズに顔を向ける。 「だいたい、そこで君はなにをしていたんだね」 「ちょっと魔法の練習をしていたのよ」 モンモランシーが不安げに自分の方を見ている……と思い込んだギーシュはルイズに次の言葉をぶつける。 「君が魔法の練習を?よしたまえ。爆発を起こすだけじゃないか。見たまえ。モンモランシーもおびえている」 今のセリフはかっこいい……と思ったギーシュが後を続けようとしたができなかった。 ルイズをはさんだ向かい側にバスケットを持ったケティがいたからだ。 「ギーシュ様……その方……一体……せっかく」 「こ、これは……いや、その」 あわてるギーシュにモンモランシーが追い打ちをかける。 「ギーシュ……さっきの噂、やっぱり」 モンモランシーは頭から吹っ飛んだはずのことを思い出していた。 「ギーシュ様酷い……そんな方がおられたなんて……私だけって言ったのに」 それを聞いたモンモランシーはギーシュを睨みつけた。逃げたくなるような目つきで。 「あなた、さっき、私に同じようなこと言ってたわね」 「そんな、この方にも?嘘ですよね?ギーシュ様」 ルイズのことなど、すでにもうどうでもよくなった二人がギーシュをさらに追い詰める。 「落ち着いてくれたまえ。二人とも。これにはわけが……」 あるはずがない。 「うそつきっ」「うそつきっ」 二人は同時にギーシュの頬に手のひらを見舞った。 モンモランシーは右に。 ケティは左に。 ギーシュの両頬に微妙に形の違う赤い手形が2つできた。 「ふんっ」「ふんっ」 呆然とするギーシュを置いて、二人は近づきたくない雰囲気を纏いどこかに行ってしまう。 「ま、待ってくれたまえっ」 ようやく気づいたギーシュは青い石を中心に置いた薔薇を着けた杖を振り回しながら二人を追いかけていった。 状況において行かれたルイズは走っていくギーシュを見ていた。 次第に視線が一点に集まっていく。 ギーシュの振り回している杖の先についた薔薇。 その中心にある青い石に。 「あーーーーーっ」「あーーーーーっ」 ユーノは思わず声を出す。 あわててルイズがユーノの口を押さえて周りの生徒を見る。 どうやら誰も気づいていないようだ。 (ルイズ、今の) 気づかれないように今度は念話を使う。 (わかってるわ。あれって、ジュエルシードよね) (うん、間違いない) ルイズは走り出す。 「ちょっと、ギーシュ!待ちなさいよ!!」 ルイズもいなくなってしまった。 そこにいる生徒達は状況が読めていなかった。 そして、その中にはキュルケもいた。 「なによ、あの四人」 とりあえず状況を整理するが何が何だかよくわからない。 悩むキュルケに話しかける者がいた。 「あの、ミス・ヴァリエールがどこに行かれたか、ご存じありませんか?」 キュルケは名前は知らないがシエスタだ。 「あー、あの娘ならさっきあっちに走っていったわよ」 「ありがとうございます」 シエスタは一礼してルイズを追っていった。 「ふーん」 キュルケは考える。 恋のもつれでどこかに行ったモンモランシーとケティ。 それを追って行ったギーシュ。 さらに、そのギーシュを追って行ったルイズ。 さらにさらに、ルイズを追いかけていったメイド。 なにが起こっているのかさっぱり解らなかったが1つ解ることがあった。 「なにか面白そうじゃない」 キュルケは一言つぶやいて口の両端をあげると、メイドを追っていった。 他の生徒達も考える。 そしてキュルケと同じように笑うと、キュルケを追って走って行った。 「ギーシュ!ちょっと待ちなさい!」 ギーシュは自分を呼び止めるルイズの声を無視した。 「待ちなさいよ!」 待っていられるはずがない。 角をいくつか曲がっているうちにケティを見失ってしまった。 今、ギーシュが追いかけているのはモンモランシーだ。 走って追いかけてヴェストリの広場まで来てしまった。 「待ってって言ってるでしょ!聞こえないの?」 ヴェストリの広場は昼間でも人が少なく、今は誰もない。 おかげでルイズの声がよく響く。 「いいかげん止まりなさいよ!ギーシュ・ド・グラモン !!!」 あまりにうるさいのでとうとう振り向くことにした。 「ええい、いったい何のようなんだね。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」 立ち止まったギーシュにルイズが走って追いつく。 「貴族たるもの、マントを振り乱して大声を出すものじゃない。それに僕は今忙しいんだ。後にしてくれたまえ」 だがルイズはそんなことは聞かない。 「あなたの杖の先についているそれ!」 呼吸を落ち着かせてすかさず話し始める。 「この薔薇かい?」 「ちがうわ。その薔薇の中に入れている青い石。それ返して!」 「この石を?」 「そうよ!早く返して」 「ふむ」 公爵家の娘の持ち物にしてはみすぼらしい気もするが、そんなものをここまで追いかけてくると言うことはルイズの持ち物なのかも知れない。 それに、どうせ拾ったものだ。 気に入ってはいるが無理に自分のものにするほどの物でもない。 「いいだろう。ただし……」 授業では爆発に見舞われた。 さっきはルイズにモンモランシーとの会話をぶちこわされた。 少しくらい意地の悪いことをしてもいいだろう。 そう考えたギーシュは杖を振る。 「僕のワルキューレと話し合ってからにするといい」 一枚の花びらと青い石が宙を舞った。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/737.html
結局、ルイズとその使い魔である双識が、地獄絵図の後始末をさせられることになった。 吹き飛んだゴミを片付け、吹き飛んだ窓を付け、吹き飛んだ机を並べる。 元は椅子だった木屑を片付けている双識の目の前で、ルイズはかろうじて生き残った机を拭いている。 「使い魔なんだから――」という例の言葉が出てくると思っていた双識は面食らっていた。 さしものルイズも自分が引き起こした惨状を双識一人に片付けさせるのは気が引けたのだろうか。 「最悪だわ……」 暗澹たる気分でルイズは呟いた。 使い魔に知られたくなかった事実――魔法が使えないということがばれてしまったのだ。 これで、ルイズの今までの努力は全て水泡に帰したことになる。 ルイズは手際よく掃除をこなしている双識を見る。 まだ正面切って馬鹿にされるなら良い。だが陰で笑われるのは耐えられなかった。 この従順に見える使い魔も、心の中では自分を笑っているのかもしれないと思うと、悔しくなった。 ルイズが俯くと、窓を拭いている双識が唐突に口を開いた。 「――まだ話してなかったかもしれないけれど、私の嫌いな言葉のベスト3は不誠実、無責任、非人情でね」 「……え?」 ルイズの方を向くことはなく、双識は独り言のように続ける。 「初めてこの世界に私が召喚されてきたとき、ルイズちゃんはベスト3を全て満たしていた。 勝手に呼び出して文句を言って、まともな食事もくれず、おまけに人間扱いすらしてくれない。 本来なら『不合格』間違いなしなんだが――私にはどうもきみを『不合格』にする気が起こらなかった。 それが私にはどうにも不思議だったんだが、」 一旦言葉を切って、双識は振り返り、ルイズに真正面から向き合う。 「けど、さっきの爆発を見てわかったよ。ルイズちゃん、きみは――魔法が使えないんだね?」 「……そうよ。もうわかったでしょ、確かに私は『不合格』だわ。魔法が使えないメイジなんて、聞いたことないもの」 痛いところを突かれたルイズは、自嘲ぎみに言う。俯いた顔から諦めと、それ以上の悔しさが伺えた。 「いや、そういうことが言いたいんじゃない。問題は精神だ。魔法が使えるか、使えないか、そんなくだらないこと――」 「くだらないことなんかじゃない!私は貴族なのよ!魔法が使えなくていいなんて、そんな、そんなこと!」 顔を上げて、双識に食って掛かるルイズ。 自分の今までの苦労を、生き様を踏みにじるような双識の発言が、ルイズには許せなかった。 「――きみは魔法を使えるように、貴族として『普通』になれるように、努力を重ねているんだろう?」 憤るルイズに構わず、双識はさっきの混乱で床に落ちたルイズの教科書を拾い、パラパラと捲る。 要所に貼られた付箋、丁寧な字で入れられた注釈、何度も開いたためによれたページ。 それらは紛れも無く、ルイズの努力を表す証拠だった。 「私にとっては『普通』を求めようとするその精神こそ、賞賛に値すべきものなのだよ。 無意識のうちにその精神を感じ取ったから、私はきみを『不合格』にしなかった――今ならそう思える。 それに、今魔法が使えないからってそう悲観することもないさ。 ――きみが前に向かって進む限り、目標は近づきこそすれど、遠ざかることは無いのだからね」 どうやら双識はルイズのことを励ましているらしかった。 双識の柔らかく諭すような口調を聞いていると、不思議とルイズの心は安らいだ。 「……ありがと。あんたに慰められるとは思わなかったわ」 「それじゃ、続きをさっさと終わらせてしまおうか」 元の飄々とした態度に戻った双識と、ルイズは掃除を再開する。 机を拭くルイズの胸中からは、さっきまでの鬱屈とした気分が綺麗に消えていた。 掃除が終わるとルイズと双識は、食堂で遅い昼食を食べた。 教室での出来事のせいか、ルイズの機嫌はそれなりに良かった。 出すぎた説教だったかもしれないと後悔した双識だったが、存外に効果があったようだ。 もっとも、相変わらず机の上での食事は叶わなかったのだが。 ルイズの食事が半分も進まないうちに、双識の食事は終わった。 マナーに従って上品に食べているルイズとは食べる速度も、量も違うので、どうしても時間差が出てきてしまう。 暇になった双識が昨日のように食堂の中をのんびりと眺めていると、食堂の一角で大きな声が上がった。 続いて乾いた高い音が響く。どうやら、何か揉め事が起こっているらしい。 双識は食後の退屈しのぎに覗きに行ってみることにした。 「す、すみません!」 双識の目にまず飛び込んできたのは、メイド服の少女が、同じ年齢ぐらいの少年に平謝りしている光景だった。 謝られている方の少年は薔薇の花をワイングラスでも持つかのように指に挟み、足を組んで悠然と少女を見下ろしている。 本人は格好をつけているつもりなのだろうが、頬に咲いた紅葉のせいで、なんとも間抜けである。 さっきの乾いた音の正体はこれらしい。 いずれにせよ、年若い少女が苛められている光景というものは、双識にとってはあまり気分の良いものではなかった。 「何にせよ、二人の女性の名誉を傷つけたのは事実だ。謝罪したまえ」 「そんな、私は香水を拾っただけなのに……」 「違うね。君の気が利かないから、だ。そもそも平民ごときが――」 「その辺りで勘弁してあげる、というのはどうかね?」 突然会話に割り込んできた部外者に、その金髪の少年は不機嫌そうに少女をなじる口を閉じた。 少女も、意外なところから差し伸べられた救いの手に、驚いたように双識を見ている。 「何だね、君は……ああ、ゼロのルイズが呼び出した平民か。 ふん。礼儀を知らない平民を少々叱っていたところだ。わかったらさっさと行きたまえ」 「ギーシュ!お前が二股かけてたのが悪いんだろ!」と取り巻きから茶々が入る。 どうやらこのギーシュという少年は、二股の責任を少女に転嫁しようとしているらしい。 双識は少女の頭を上げさせると、ギーシュに向き直った。 「大体の事情はわかった。結論から言えば、きみは二股をかけた女性たちに謝ってくるべきだね。 文句を言われ、場合によっては叩かれるかもしれないが――なあに、かえって免疫がつく」 「いきなり出てきて何を言うかと思えば……君は誰に向かって物を言っているのか、わかっているのかね?」 『反論をしたら許さない』と言外に含ませ、ギーシュは双識をねめつける。 ギーシュの見下したような視線を意にも介さず、双識は笑う。笑って、言う。 「勿論だとも。『三人』の女性の名誉を傷つけた少年に対して、私は言っているのだよ」 「ッ!……いいだろう。平民が貴族に逆らうとどうなるか教えてやろう。ヴェストリの広場で待っている」 どうにか感情を表に出すことを抑えたらしいギーシュは、ゆっくりとした足どりで去っていった。 「食事が終わっていなくなったと思えば……あんた、自分が何したかわかってんの!?」 振り向けば、いつの間にか双識の横にルイズが立っていた。顔色が悪い。 そういえばさっきの少女はどこにいったのだろう、と双識が辺りを見るが、既に少女の姿はない。どうやら怯えて逃げてしまったようだ。 「『苛められるメイド少女』は十分に私のストライクゾーンだったんだが――ギーシュくんの不誠実さに我慢ができなくてね」 双識のふざけた動機に、ルイズの顔が更に蒼白になる。 「そんな理由で……?あなた、殺されるわよ!」 「――私を殺せるなら、是非とも殺していただきたいものだね」 ルイズは不思議な気持ちだった。 この使い魔の妙な余裕の裏には、何の根拠もなく、何の打算もないのだろう。 貴族を相手にして勝てる平民なんか、一握りもいないのだ。 ましてや、こんな平民には到底無理な芸当のはず――なのに。 その姿は余りにも悠然としていて―― その姿は余りにも颯爽としていて―― 歩き出した双識の背中に、ルイズは思わず声をかけずにはいられなかった。 「……ヴェストリの広場はそっちじゃないわよ」 (青銅のギーシュ――試験開始) (第五話――了)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7373.html
ルイズが変わったのは、春の使い魔召喚の儀式からである。 と言っても、当時のわたしはルイズにさしたる興味を持っていなかったので、これは後になって友人に聞き知ったことだ。 ゼロのルイズが平民の女の子を使い魔にしたという話は、少しの間、話題になった。 リリイという名の、その使い魔は、コウモリのような羽根があったり、犬のような耳を生やしていたりと、どう見ても亜人であったのだが、 その女の子が大した能力がなさそうな人畜無害な見た目をしていたり、羽根があるくせに飛べなかったりということで、ゼロのルイズに亜人が召喚できるはずがないという偏見から、そう噂されたのだ。 魔法の成功率ゼロのルイズが使い魔の召喚に失敗して、その辺りを歩いていた平民の女の子を捕まえてきて仮装させて使い魔扱いしている。 そんな根も葉もない噂を流されて、しかしルイズは何の反応もしなかった。 友人に言わせると、ここからしてありえないということだが、わたしは、それをおかしいと思えるほどルイズの事を知らない。 そして使い魔召喚の儀式の翌日、ルイズの使い魔が決闘をすることになる。 相手は、ドットの土メイジ、青銅のギーシュ。 決闘に至った原因は、リリイのせいでギーシュが二人の女の子と付き合っていたのがバレて、フラれたとのことだが、そこはどうでもいい。 見た目はどうあれ、リリイは亜人である。ならば、その戦い方を見ておいて損はないだろうと、わたしは考えた。 もしも未知の魔法でも使いこなせるようなら、その知識を得ておくことは決して損にはならないのだから。 だけど、期待は裏切られる。 リリイは、普通の平民よりは強かった。 だけど、それだけの話。ギーシュの作り出した一体目の青銅ゴーレムを破壊したまでは良かったが、彼が六体を同時に生み出した後は、数の暴力に負けて敗れさった。 そこで、わたしのルイズとその使い魔に対する興味は消えた。 たから、わたしの使い魔である韻竜のシルフィードに、二人が夜になるとこっそりどこかに出かけていると聞かされても、何も思わなかった。 ルイズも、その使い魔も自分が興味を向けるだけの価値のある存在ではない。 その認識を改めたのは、かなり後になってからなのだけれど、きっかけになったのは、学院に土くれのフーケを名乗る盗賊が現れたときだったのかもしれない。 学院の宝物庫を襲ったフーケの討伐に名乗りを上げた三人の一人がルイズであった。 もっとも、実際に名乗りを上げたのはルイズだけで、残りの二人、キュルケはルイズに対抗してみただけであるし、わたしはそんなキュルケが心配で付き合っただけである。 そして、わたしたち三人とルイズの使い魔のリリイとフーケの情報を持ってきた学院長秘書のミス・ロングビルの五人はフーケのアジトと思われる廃屋に向かい、そこで奪われた宝物を見つけた後、フーケの巨大な土ゴーレムに襲われた。 この時、不可解なことがいくつか起こった。 わたしやキュルケでは、どうにも対抗できなかった土ゴーレムに、自分の身長よりも長大な剣を持ったリリイが立ち向かったのだ。 ギーシュのゴーレムにすら敵わなかったはずのリリイは、フーケの巨大ゴーレムと五分に渡り合っていた。 もちろん、巨体であり、いくらでも再生するゴーレムを剣一本で倒せる道理はない。 だけどゴーレムも、素早く動き剣で容易くゴーレムを切り裂くリリイを倒せず、しばらくの膠着状態の後。土ゴーレムは自然に崩れ落ちた。 その後である。 フーケは逃げ出したらしい、自分とミス・ロングビルは、あと少し辺りを調べてから帰るから、先に宝物を持って帰って欲しい。 そう、ルイズから連絡があったとリリイが言い出したのは。 思い返せば、ルイズとロングビルは、わたしたちが廃屋に入ったときに、周囲を見てくると言って姿をくらませたままである。 その時のわたしは、冷静な判断力を失っていたのだと思う。 メイジとその使い魔は、精神で繋がっている。だから、離れていても連絡をしてくることが出来るのだから、これは不思議なことではない。 その程度にしか思わなかったのだが、思い返してみれば、何故ルイズにフーケが逃げたと判断できたのかを疑問に思うべきだったのだ。 そう、これも後になって分かったのだが、フーケは逃げてなどいなかった。捕まり、拘束されていたのだ。ルイズの手によって。 ルイズの目的が、フーケを捕まえて官憲に引き渡すことではなく、自身の手駒とすることだと知ったのは、ずっと後になってからの話。 わたしたちに遅れて二人が帰ってきたとき、ロングビルは着ていた服が引き裂かれ、肌も露わな姿で憔悴した顔をしていて、その理由が分かったのは、これもかなり後になってからのこと。 ルイズは、フーケに襲われた結果だと言っていたが、それは嘘だろう。ミス・ロングビルの正体がフーケなのだから。 キュルケは何かを察していたが、その時点では教えてくれなかった。 ともあれ、そこでルイズとの縁は切れるのだと思ったのだけれど、そうはならなかった。 それから、何日もの日々が過ぎたある日のことである。 ルイズが、トリステイン魔法衛士隊の隊長と出かけるのを見かけたキュルケが、後を追うと言い出したのだ。 そして、その後わたしたちが魔法学院に帰ることはなくなる。 ルイズたちの目的はアルビオンに向かうことであり、とりあえず港町ラ・ロシェールの前で賊に襲われていた彼女たちに加勢したわたしたちは、不可解なものを見ることになった。 そこにいたのは、ルイズとギーシュと魔法衛視隊隊長でありルイズの婚約者であるワルド子爵。ルイズに個人的に雇われたのだと言って一緒にいた、目が死んでるミス・ロングビル。 そして、わたしたちと同年代の亜人の少女。 ルイズの使い魔と同じ種族に見えるその少女が、リリイ本人であると聞かされたときは、目を疑った。 何をどうすれば、あの小さな女の子が急に成長するというのか。 とはいえ、驚いてばかりもいられない。 夜も遅かったので、ラ・ロシェールに宿泊することにしたわたしたちは、ルイズたちが乗るアルビオン行きの船が出るまでの間、そこに留まることにした。 そして、二つの事件が起こる。 一つは、早朝のリリイとワルドの決闘。 かつてギーシュにすら敗れたリリイは、スクウェアメイジであるワルド子爵とすら互角以上の実力を見せた。 そして、もう一つの事件は夜に起こった。 アルビオンは今、王党派と貴族派に分かれて戦っていると聞く。 その一方。貴族派に雇われた傭兵が宿を襲ったのだ。 その時、ワルド子爵は二手に分かれて、片側が傭兵の足止めを、もう一方はアルビオンに向かう船に乗り込むべきだと主張し、わたしも同意した。 それは正しい判断であったはずである。真相を知っている今では、そうではないとわかるが、あの時点で知りうる情報からでは、それ以上に正しい判断ができるはずがない。 そのはずなのに、ルイズはその主張を退けた。 それが、仲間を置いて自分だけが逃げるのは嫌だなどという感傷であれば、わたしもワルド子爵も黙殺したのだろうが、そうではなかった。 どのみち船が出るのは、翌日である。ならば、それまでに傭兵たちを倒してしまえばいい。 そう言った彼女には、それができる自信があったのだ。 そして、現実に傭兵たちは、わたしたちの前に倒れた。 それは、ほとんどがリリイの仕業であった。 ルイズの防衛をわたしたちに任せて一人で突撃したリリイは、強かった。 それだけではない。いかにスクウェアメイジと五分に戦える実力を持っていても多勢に無勢、無傷で戦えるはずもないのだが、たとえ傷を負っても ルイズの唱える聞いた事もない呪文ですぐに癒されていたのだ。それは、敵対している傭兵たちからすれば不死身の怪物と戦っているような錯覚を覚えさせただろう。 そうして全ての傭兵を打ち倒したわたしたちは、なし崩しに全員でアルビオンに向かうことになった。 何故、わたしとキュルケまで? と気づいたのは、勢いでマリー・ガラント号という船に乗った後。 その後、空賊に扮したアルビオン皇太子の乗った空賊船に襲われたり、それらと戦い皇太子の正体に気づかずに捕らえ拘束してしまったりという珍事はあったが、わたしたちは、無事にアルビオン王城ニューカッスルに到達した。 そこで初めて、わたしとキュルケは、ルイズたちの目的がトリステイン王女がアルビオン皇太子ウェールズに送った手紙の回収なのだと知ったのだが、それもどうでもいいことである。 より重要なのは、実はワルド子爵がアルビオンの貴族派レコン・キスタと通じており、手紙とウェールズの命を奪わんとしていたことであろう。 結論から言ってしまえば、彼は上手くやった。 手紙をルイズから預かり、ルイズと結婚式を挙げたいと訴え、ウェールズを王党派の軍人から引き離し、見事その胸を貫いた。 だが、そこには一つの計算違いがあった。 ワルド子爵は、ルイズには力があると信じていた。そして、その力を自身の欲望のために利用しようと考えていた。 実際、ルイズには力があった。だけど、それはワルド子爵に制御できる程度のものではなかったのだ。 結婚式の時、ルイズは遅れて礼拝堂にやってきた。 リリイとロングビルに持たせた大きな風呂敷包みが、なんだか不安を誘ったが、そこはみんなでスルーした。 そして、いざ始祖ブリミルへの誓いをというときになって、ルイズはワルド子爵に言ったのだ。 「何をそんなに焦っているのだ?」 その言葉で、わたしたちは気づいた。 幼いときからの知り合いで、婚約者であるはずのワルド子爵は、この旅の間、発情期の孔雀のようにルイズに自分をアピールし続けていた。 まるで、この機会を逃せば、もうルイズを手に入れることが出来なくなるのだというように。 ルイズを自身の手駒として手に入れようと考えていたワルド子爵の考えは、当のルイズ本人に看破されており、自身の望みが果たせないことを理解した彼は、正体を明かすと同時にウェールズの命を奪った。 そして、手に入らないのならばとルイズの命を奪わんとしたとき、ルイズが隠していた能力を見せる。 ルイズには、ワルド子爵と互角の戦闘力を持つ使い魔のリリイがいる。普通に考えれば、ワルドに勝ち目はない。 だが、風のスクウェアメイジには、偏在という魔法がある。 それは、自身とまったく同じ能力を持った分身を生み出す魔法。いかにリリイが強くとも本体を含めて五人ものワルド子爵に勝てる道理はない。 そして、リリイ以外の人間。わたし、キュルケ、ギーシュ、ルイズ、ロングビルの五人には、残念ながらワルド子爵に勝てるほどの能力はない。 ゆえに、ルイズの生存は絶望的なはずであった。 この時ルイズが使った魔法は、原理としてはサモンサーヴァントに似たものだったのだと思う。 離れた場所にいる者を召喚する魔法。違うのは、それらは複数であり、すでにルイズと契約を済ませ命令を聞く存在であったこと。 現れたのは、オーク鬼や翼人や吸血鬼といった亜人たち。 毎夜どこかに出かけていたルイズは、それらを倒し配下としていたのだ。ちなみに、前の事件でフーケを捕らえたのも、彼らだったのだという。 平民とは比較にならない強靭な肉体を誇るオーク鬼や、先住の魔法を使う翼人と吸血鬼。 それらは、ただでさえメイジにとってすら脅威となりうる戦闘力を持つのに、ルイズの下で働かされ戦いを繰り返すことで、それぞれがリリイと互角の実力を持っていた。 数で、こちらを蹂躙しようとしたワルド子爵は、より多くの数で敗れ去ったのだ。 だけど、ルイズは裏切り者であるワルド子爵を殺しはしなかった。 それが、婚約者への未練であるのではないかと思ったのは、一瞬のこと。 ルイズは、倒れたワルドの服を剥ぎ、同時にリリイにも脱ぐようにと命じた。 その後、何かを察したキュルケに一時放り出されたわたしは、しばしの時間の後、やけにグッタリした顔の皆と再会する。 全員。ルイズもリリイもキュルケもロングビルもギーシュも、妙に上気した顔をしていて服も乱れていたのだから、さすがにわたしにも何をしていたのか理解できるのだが、なんの目的でそんなことをしていたのかは分からなかった。 キュルケも、ルイズの目的は分かっていなかったはずなのに、躊躇いなく参加するのは如何なものか。 まあ、目的の方も尋ねてみればすぐに答えが返ってきたのだけど。 ルイズには、性魔術という魔法が使えて、それを使うと魔法を使うための精神力を簡単に回復できるのだそうだ。 それで、亜人たちを召喚するのに使った精神力を回復させた理由は、レコン・キスタを倒すことであるとルイズは言った。 無茶だ。と、わたしは思ったが、彼女には勝算があった。 礼拝堂に遅れてやってきたルイズたちが持ってきた荷物。それは、この城中から集めてきた宝物。 呆れたことに、火事場泥棒をしてきたルイズが運んできた物の中に古いオルゴールがあった。 それが、勝利をもたらすのだと言われても、納得できようはずもない。 とはいえ、思ったより早く攻めてきたレコン・キスタを相手に逃げる暇のなかったわたしたちには、ルイズの賭ける以外に他に手立てがなかった。 ルイズがオルゴールから得たものは、虚無の魔法。 その魔法が、どれほどの威力を持つものなのか、わたしたちは知らなかった。多分、ルイズも正確には予想できてなかったに違いない。 だって、一個人の使う魔法が、一撃で万単位の兵士を吹き飛ばすだなんて、誰に予想できるというのだ。 大爆発の魔法の後に敵兵士の襲いかかった亜人の群。それが、レコン・キスタを完膚なきまでに叩きのめし、敵軍の首魁クロムウェルすら虜囚にする。 それで、全てはおしまい。 それが、思い違いであったと、わたしたちはすぐに思い知らされる。 ルイズは、別にアルビオンの王党派を救おうなどとは考えてはいなかった。 ただ単に、自分の集めた戦力とここで手に入れた魔法を試してみたかっただけなのだ。 そして彼女は、もう充分だと判断した。のみならず、クロムウェルから人の心を操るアンドバリの指輪というマジックアイテムすら奪い取った。 その結果、ルイズは彼女が欲するものの足がかりを手に入れたのだ。 この世界全てを蹂躙する力と軍隊を。 そうして初めて、彼女は自身の正体と目的をわたしたちに話す。 ここではない、ある世界での物語。 そこには、魔王と呼ばれる邪悪がいて、そいつは勇者たちによって倒された。 だけど、魔王は自身の魂だけを切り離し、使い魔に持たせ逃れさせた。 それをルイズが召喚してしまった。 魔王の魂を持つ使い魔を。 そして事故が起こる。 使い魔、リリイの持つ魔王の魂がルイズに入り込んでしまったのだ。 これは、お互いにとって不本意な事態であったろう。 ルイズとしては、そんな得体の知れないものに肉体を乗っ取られるなど、望んでいたはずがないし、魔王としても、少女の肉体に憑依するなど納得できようはずがない。 なにしろ、性魔術を使うに当たっては、男性を相手にしなくてはならなくなったのだ。リリイという、代わりを務めてくれるものがいなければ発狂していたかもしれないとは本人の弁である。 なんにしろ、魔王は自身の望みを叶えるために活動を開始する。 リリイを育て、戦力を集め、元の世界に帰る方法を探す。 封印された肉体を取り戻すために。かつて、自身を打ち倒した者たちを責め滅ぼすために。 今、レコン・キスタとアルビオン王党派を、アンドバリの指輪の力で手に入れたルイズは、ハルケギニアの全てを支配するつもりである。 元の世界を攻める戦力を手に入れるという理由ために。 そして、今わたしやキュルケはルイズの下でハルケギニアを征服する軍体の指揮を取っている。 わたしたちとは、わたしとキュルケとギーシュとワルドと、ついでに更に成長したリリイのこと。 ルイズがわたしたちに秘密を話したのは、ようするに仲間になれという宣言であり、それ以外の選択を許さないという通告である。 わたしたちに選択肢は与えられていなかったのだ。 ただし、わたしは条件を出した。 わたしタバサ、いや、シャルロット・エレーヌ・オルレアンの命は、母を守ること。復讐を果たすこと。そのためにある。その二つを叶えてくれるなら、従おうと答えた。 ルイズは、それを了承した。それどころか事情を聞いて、毒を飲まされ正気を手放した母を癒してくれるとまで言った。 その勇気があるならばと、前置きしてだったが。 母は、優しい人だったと記憶している。 その母が、魔王の配下となった自分を見てどう思うのか? そんなことを今の今まで、考えていなかった、むしろ考えないようにしていたわたしは、自分に勇気などないことに気づかされた。 だからといって、ルイズの仲間になるのをやめるという選択肢はない。ルイズはそんなことを許さないし、あのままガリアで働いていても救いなどないと分かりきっていたのだから。 だから、ルイズの力を借りて連れ出した母は、今も気がふれたままであり、執事のペルスランに任せきりになっている。 わたしにとって意外だったのは、キュルケが素直にルイズの仲間になったことである。ギーシュのことはどうでもいい。 元々ルイズと仲がよかったわけでもはなく、ルイズの世界征服にも興味を持たないであろうキュルケが何故と思ったわたしに、彼女は苦笑と共に答えた。 「だってねえ。本当にルイズが魔王に完全に乗っ取られていたら、わたしたちは今生きてないわよ」 キュルケが魔王の過去の話を聞いて最初に感じたのは違和感であったという。 魔王が、自身の話した通りの存在なら、それは人の命を虫ケラの如く扱い、自分たちのことなど、さっさと口封じに始末しているか、どこかで使い捨てにしているだろう。 なのに、それをしなかった理由はどこにあるというのか? それは、魔王に乗っ取られた身の裡に、ルイズ本人の心が残っているからに違いないとキュルケは考えた。 ならば、魔王からルイズに守ってもらっている自分としては、その借りを返さないわけにはいかないではないか。 そんなことを言う親友に、わたしは今更ながらに彼女がルイズを嫌ってなどいなかったのだと、それどころか好きだったのだと気づかされた。 そうでなくて、借りがあるからと、家族のいる祖国にまで戦争を仕掛けようという魔王に手を貸そうなどと誰が考えるものか。 わたしは、わたしと母を取り巻く過酷な運命から救ってくれたルイズに感謝している。 わたしは、キュルケまで、こんな運命に巻き込んだルイズを憎んでいる。 わたしは多分間違っているのだろう。だけど、今更道を違えることは出来ない。 この先、わたしたちにどのような結末が待っているのかは分からない。分からなくても進むしかないのだから。 小ネタで姫狩りダンジョンマイスターからリリイ召喚
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6830.html
前ページ次ページルイズとヤンの人情紙吹雪 「ヒューーーッ なんだここ? スゲー広(ひれ)ーー 宮殿かよ? バカみてーだな まさにブルジョワジィってか?」 ヤンはルイズに連れられて女子寮に来ていた。 ヤンは感心を通り越して呆れていた。 「バカってどういゆことよ! あんたの方がよっぽどバカっぽいわよ! さっきからちょっとは静かにできないの!? 恥ずかしいじゃない田舎モン!」 ヤンは先程からこの調子で、ちんたら歩きながら感嘆の声をあげていた。 しかもその声がやたらデカくてオーバーリアクションなのだ。 ヤンの服装も手伝って、悪い意味で目立ちまくっていた。 すれ違う生徒達がくすくす笑っている様な気がした。 「もーっ なんなのよ、さっきから! 全然人の言うこと聞かないし! 私まで恥かくのにぃーーッ! ほら、はやくきなさいよ 馬鹿犬!」 ルイズはヤンの左手を掴むと、顔を赤くしながら引っ張った。 ヤンは「へいへい」と呟きながらルイズに引っ張られるままになっていた。 「ここがオマエの部屋ァッ!? オメェ一人でこの部屋!? マージーでッ!? 許しがてぇぇぇ!」 こんなガキのうちから贅沢したらろくな人間にならネェ! ヤンは憤慨した。 人が空を飛ぶほうがまだ許せる気がした。 もっとも、ヤンみたいな人間(吸血鬼だが)もいるので贅沢は関係無いかもしれない。 「ふふん そうよ。 驚いた? 私がどれだけ高貴な人間か理解できたみたいね?」 ぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりーーー。ヤンの歯軋りが聞こえる。理不尽だー理不尽だーと小声で呪詛の言葉を吐いている。 「ちょっと落ち着きなさいよ あんた私の使い魔なんだからね! さっきみたいなのもヤメテ! 使い魔の恥は私の恥なのよ!!」 その言葉にヤンは、あーそーだったと冷静になる。 「………その『使い魔』ってのは何なんだ? さっきも契約とか儀式とか言ってたよなー?」 ルイズはまるでカワイそうなモノを見るような目をしてヤンを見やった。 「あんたそんなことも知らないの? ……うぅ~~~~まさかこんなド田舎の平民を呼んじゃうなんて……はぁ。 まぁいいわ! 説明してあげるから、キタナイ耳の穴キレイにしてよーく聞きなさい!!」 サラっとさっき言われたことを言い返してやった。ふんッ。 「あんたは私に召喚されて契約したの。 晴れて使い魔になれたのよ。 ヴァリエール公爵家三女たるこの私の使い魔になれるなんてとっっっっっても名誉なことなのよ!」 ありがたく思いなさい!というのが言外にありありだった。 「契約ってのはイツしたんだよ。 俺した覚えねーぞーーー?」 そう言われてルイズは廊下の時よりも顔を赤くしてしどろもどろになった。 「そ、それは…………その…えと…………………キ、キスよ……。」 ルイズは小声で(特にキスの部分)答える。 「エッ? なになに? よく聞こえねーーーもー1回言って。」 「…ッ! だ、だから………うぅ~……………キ、キキキキキキキキキスしたでしょって言ってるのよ!!」 『キス』というと、召喚した時のことが思い出される。脳ミソが沸騰しそうだった。 「へぇーー キスで契約ゥーーーー? メルヘンだなァー まぁそんなことでゴダゴダ言わねーよ俺ァ別に。 次行こう、次! ココはどこだァ? 召喚ってどーゆーこった?」 ルイズはキスなんてありました?って顔をしているヤンに無性に腹が立った。 「う~~~~~~ッなによ! ちょっとはアンタも恥ずかしがったりしなさいよ! 悪いとは思わないの!? あ、ああああんなししししし舌まで入れておいてナンでそんな冷静なのよッ!!」 「あーーにぎやかな女だなー んなことよりサッサと説明しろって。 ほれ次次次 話進めろ。」 ヤンは既に完全にその話題への興味を失っているようだ。 「く~~~~~~~~~~ッ ぬ、ぬ、ぬ、ぬぅ~~! ………ま、まぁいいわ! アンタなんて所詮使い魔だし、犬に噛まれたのと同じなんだからッ!」 捨て台詞じみた言葉しかルイズからは出てこなかった。 ルイズの説明を一通り聞いたヤンだったが、天を見上げて嘆息した。 「マジかよ… まじでファンタジーなのかよ… 信じられねェーー三文小説みてーな話だな 笑えるぜェ~~~ヒャハハハハハッ」 ヤンの笑いを見てルイズはムッとする。 「人が丁寧に説明してやったのに何よ! ちっとも笑える話じゃないでしょ!?」 「いやいや笑えるぜ? コレはよォーー だってココ俺の世界と違うもン。」 「へ?」 ルイズはヤンの突然の発言に目を丸くする。 「僕様チャンの世界には魔法なんてありはしまチェェェン。 まぁ似たようなモンを使えるヤツは少しいるみてぇだが、一般的じゃねーから。 ……しかも『あれ』だ。」 ヤンはそういって窓の向こう、薄暗くなった空を指す。 指が示した先には『月』が『二つ』浮かんでいた。 「月がどーしたのよ?」 双月。ルイズにとっては当たり前の風景だった。 「僕チンのワールドではお月様は一つなのですよ これマジホント。 つまりここは異世界ってわけだ オーマイガッ。 じゃなきゃよっぽどラッピーなドラッグキメてタリラリホーってとこだな。」 ヤンの発言にルイズはポカーンとしている。 冗談にしても質が悪い。全然おもしろくもない。 「……あんたねぇ もうちょっとマシな嘘言いなさいよ。 田舎者って思われるのがそんなに嫌なの? 本当にそう思ってるなら最初から言いなさい 二度と言わないわ。」 誰だって言われたくないコトはある。ルイズはそれを誰よりも知っているからヤンに対しても少しは気を使ってやろうか、という気持ちになる。 「チゲーよ マジだ、マジ。 ハルケギニアもトリステインも聞ーたことねーよ。 まぁ俺にとっちゃぁ異世界だろーがナンだろーがどうでもいいことでよォ。 どうやらオメェのおかげで生き返ったみたいだからさァ 使い魔ってヤツ? ヤってやってもいいぜ なにすりゃいいんだ?」 ヤンは深く考えない性格。そして今、ヤンは気分が良かった。 死んだと思ったが召喚とやらのお陰で自分は間違いなく生きている。 異世界にいるという衝撃など二の次だった。 学校などというヌルま湯に浸かった世界は、ヤンにとっては刺激が足りないように見える。 しかしこの学院の女共は大分レベルが高い(召喚時と廊下で騒いだ時、チェック済み)。ルイズも胸と性格以外はかなりイケてる。 行く当ても無いしここで女をクッて過ごすのも悪くは無い。 その為にも『ルイズの使い魔』というポジションは有効だ。そのついでにチョットだけ借りを返してやるか。 ヤンはそう考えていた。 「や、やってやってもいいって違うでしょ!? やらないといけないの! 義務なのよ、ギ・ム!」 やっぱりこの男に気を使う必要は無い! 「はーいはいはいはい……わかったわかった… ヤラセていただきます、ヤラセていただきますヨ『ル・イ・ズ・さ・ま』。 コレでよーございマスかァ?」 絶対バカにしている。ルイズは思ったがグッとこらえた。 いちいちヤンにつっかかったら話がまったく進まぬうちに一日が終わってしまう。ルイズは少し大人になった。 「……使い魔の仕事は主に3つよ。 1つ目は主と感覚を共有しその手足となること。」 「感覚のキョウユウぅ? なんだそりゃ つまり俺がナニすりゃオメェも感じチャうノぉ~んってこと? ヒャハハハハハ!」 よくは分からないが、ヨロシクないことを言っているのであろうことはルイズにも想像できた。華麗にスルー。 「……アンタが見たものや聞こえたものが私にも見えたりするってことよ。 でも何も見えないし聞こえない……。」 「まぁ俺みたいのって初なんダロ? だからかは知んねーけどさー デキねェもんはしょーがねーなー アキらめろ。」 そう、そうだ。コイツだから駄目なんだ。メイジを見るには使い魔から、とか言うけど忘れることにした。全部ヤンのせい。うん、私ダメじゃない。 「2つ目は秘薬とか鉱石とか…主人が望むものを探すことよ。」 「無理 パス。」 ソッコーで断られた。 「はやッ! な、なんでよ!?」 「できるわけねぇだろー 召喚されたてだぜ俺 ここの知識ゼロkgだかンな。」 ルイズは『ゼロ』のところで一瞬ピクッとなり不満そうな顔をする。 「………3つ目…これが一番重要なんだけど…主の身を一生守り続けること。 ……まさかコレも無理なんて言わないわよね?」 なかなか鋭い目でヤンを睨みつけている。 「オーイエーー! それそれ そーゆーの待ってたんすよォ ようは敵を全員ぶっ殺してやりャあイイわけだ 楽勝楽勝♪ んで敵はどこにいんだぁ? 数は?」 ヤンはオモチャを見つけた子どものように目を輝かす。 すぐに部屋を飛び出したい、そう思っているんだなと一目でわかるぐらいソワソワし始める。 「ちょ、ちょっと物騒なこと言わないでよ! 敵なんていないわよ!! もしも敵とか危険なことがあったら、その時私を守ればいいの!」 「えーーーーーーーなんだそりゃーーつまんねーーー やっぱバトルは攻めだぜ? わかってねーーなーーー。」 肩をガックシ落としてあからさまに悲しむ。 「……とにかく、それだけ戦いたがるってことはヤンは強いってことでいいのよね?」 「まーかせとけって そこらの雑魚には負けねーよ? 俺様無敵だからネ。」 訝しげな目をヤンに向ける。……うそ臭い……と、ルイズは思った。 「はぁ…もういい… 今日は疲れたから寝る…」 本当に疲れた顔をしながら深いため息をつく。 「そーか じゃあ俺はちょっとぶらついて来るからよ じゃーーーな。」 ヤンはそう言いながら扉に向かって行く。 それを見たルイズは慌てて止める。 「だ、だめよ! アンタも今日は寝なさい! もう外も暗いんだし夜出歩くとアンタなんて完全に不審者なんだから! ここは貴族の子弟の学校だから警備も厳しいのよ!!」 出会ったばかりだがヤンの言動を見ていると、目を離すとトンデモナイことになりそうな気がした。 「オメェーの使い魔だから平気だろ? 俺は。」 「ダメッたらダメ! アンタが問題起こしたら私の恥になるって言ってるでしょ!」 またソレか。ため息をついて呆れるヤン。 「チッ わーったよ 寝ますよ寝ますー。 で? 俺はどこに寝んだ? ベッドは一つみてーだけどソコで寝ていいわけ?」 「ここは私のベッドなの! アンタが寝ていいわけないでしょ! アンタはそこ!!」 ズビシッ!と指をさす。 「? どーみても床だぜ?」 「藁もあるじゃない。」 「………」 やった!動揺してるわ!今こそ使い魔の立場を理解させるチャンスよ! 「そうね…それだけじゃかわいそうだからコレ、使ってもいいわよ。」 勝ち誇った顔をしながらルイズは薄っぺらい毛布を差し出す。 藁も毛布も、人間ではない普通の使い魔のために用意しておいたものだ。 人間に対してはちょっと気の毒かもしれないが、コイツにはこれでお灸を据えることができるかもしれない。 「あ あと明日から洗濯とか水汲みとか、私の身の回りのこと全部やらすから。 それじゃオヤスミ。」 言うやいなや暖かそうな毛布に顔をうずめる。 「………」 ヤンは黙っている。 「……マジかよ……兄ちゃ~ん、どうにかしてくれよ……」 ヤンはボソリと、今は亡き兄に助けを求めた。 ワンちゃん……。 犬を抱きしめ呟く兄が見えた気がしたが、気のせいだと思うことにした。 しばらくは大人しくしてやる。 そう思っていたヤンであったが、早くも挫けそうだった。 つづく…と、思う 前ページ次ページルイズとヤンの人情紙吹雪
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8484.html
前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― その夜……。 ルイズが部屋に戻ったのは日もとっぷりと暮れた夜だった。 オスマン氏との話を終えたルイズは、学院長室を出た後、そのままエツィオのいるであろう部屋に戻ることができなかった。 話をしてみろ、とオスマン氏に言われていたものの、エツィオの正体を知ってしまった今、どう話かけていいかわからなかったのだ。 中庭のベンチに腰掛け、どうエツィオに話を切り出すべきかと、あれこれ考えているうちにすっかり夜になってしまっていた。 結局、なんの考えも浮かばずに、仕方なくルイズは部屋に戻ることにしたのだった。 「おかえりルイズ、随分と遅かったじゃないか、もう寝る時間だぞ」 ルイズが部屋の扉を開けると、使い魔であるエツィオがにこやかに迎え入れてくれた。 違いといえば、いつも身につけている白のローブではなくシャツを着ているという所だけであろうか。 こうしてみると、どこにでもいる品のいい青年、と言った感じである。 今まで片づけていたのだろう、下着や食器が散乱していたはずの部屋は綺麗に片付いている。 それどころか、ベッドの上にはルイズの着替えまで置いてあった。帰ってきて早々この仕事っぷり、相変わらず気の利く男である。 久しぶりに見る、いつも通りの陽気なエツィオ。そんな彼を見ていると、本当にこいつはアサシンなのだろうか? と首を傾げたくなってくる。 「どうしたんだ? 悩み事か? なんなら相談に乗ってやるぞ」 「な、なんでもないわよ!」 そんな風にルイズが考えていると、エツィオが顔を覗きこんでくる。 相変わらずの、人をからかうような仕草にルイズは頬を僅かに赤くしながら怒鳴りつける。 ルイズはベッドに行くと、そこに置かれた着替えを手に取った。 エツィオの言うとおり、そろそろ寝る時間だ。随分長い間悩んでいたものだと考えながら、着替えを始める。 だが、何を思ったか、着替えようとしていたルイズの手がはたと止まった。それから、はっとエツィオの方へ振り向いた。 エツィオはというと、机の上に置かれた装具類を点検している。こちらを見てはいないようだ。 それをみたルイズは、いそいそと外していたブラウスのボタンを留め、ベッドのシーツを掴むと、それを天井に吊り下げ始めた。 「ん? 何をしてるんだ?」 ルイズのその行動に、流石に気が付いたのか、エツィオが尋ねる。 しかしルイズは頬を赤く染めたきり答えずに、シーツでカーテンを作り、ベッドの上を遮った。 それからルイズは、シーツのカーテンの中に入り込む。ごそごそとベッドの中から音がする。ルイズは着替えているようだ。 エツィオは小さく首を傾げた、いつもだったら、堂々と着替えていたはずなのに……。とそこまで考えが至った瞬間、ニヤっと、口元に小さな笑みを浮かべた。 ああ、そういうことか。ようやく俺のことを男として見始めたな。 とにかく鋭いエツィオは、ルイズの行動の原因として、即座にその答えをはじき出した。 さて、これからどう接してやろうか。と考えていると、カーテンが外された。 ネグリジェ姿のルイズが月明かりに浮かんだ。髪の毛をブラシですいている。 煌々と光る月明かりのなか、髪をすくルイズは神々しいほど清楚に美しく、可愛らしかった。 「へえ、これは驚いたな、カーテンの中からウェヌスが出てきたぞ」 「ウェヌス?」 聞きなれぬ名に、ルイズは首を傾げる。 そう言えばそうだった、ここは異世界だ、彼女がローマの神を知る筈はない。 「俺のとこの、美の女神さ」 エツィオがそう教えると、ルイズの頬に、さっと朱が差した。 「なな、何冗談言ってるのよ! あんたは!」 「冗談じゃないさ、きみは美しい」 「ば、バカ言ってないで、さ、さっさと寝るわよ!」 まっすぐにそう言われ、ルイズの顔が益々赤くなった。見るとエツィオはにやにやとほほ笑んでいる、こちらの反応を楽しんでいるようだ。 ルイズはベッドの上に置いてあったクッションをエツィオに投げつけた。コイツと話をしていると、ホントに調子が狂ってしまう。 ぐったりとした様子で、ルイズはベッドに横になり、机の上に置かれたランプに杖を振って消した。 灯りが消え、窓から差し込む月の光だけが、部屋を照らしだした。 装具の点検を終えたエツィオも、睡眠をとるべく、部屋の隅に置かれたクッションの山に体を預けた。 クッションが敷かれているとはいえ、寝心地は最悪である、これならアルビオンに滞在中に眠った安宿のベッドのほうが幾分かマシである。 「あいたたた……」 久しぶりの寝床の寝心地の悪さに、思わずエツィオは爺くさい声をだす。 そんな風にして学院に戻ってきたという事実をしみじみと感じていると、ルイズがもぞもぞとベッドから身を起こし、エツィオに声をかけた。 「ねえエツィオ」 「ん?」 返事をすると、しばしの間があった。 それから、言いにくそうにルイズは言った。 「いつまでも、床っていうのもあんまりよね。だから、その、ベッドで寝てもいいわ」 思わぬルイズの提案に、エツィオは顔を輝かせた。 「おい、いいのか? きみのこと襲っちゃうかもしれないぞ?」 「勘違いしないで、へ、変なことしたら、殴るんだから」 エツィオは手をわきわきと動かしながら、冗談めかして笑った。 「殴るだけか? ……なら試す価値はあるかな」 そう嘯くと、エツィオは即座にベッドの中に潜り込み、ルイズに寄り添う様に隣に寝転んだ。 ルイズが許可を出してからこの間、わずか数秒。 一切の迷いもためらいもない、あまりのその自然な行動にルイズは何も反応できずに、固まってしまった。 「さて、どうしてやろうか」 「ちょ、ちょっとやめてよね! 変なことしたら殴る……っていうか殺すわよ!」 顔を赤くしながら、震える声で叫ぶルイズに、エツィオはからかうように笑って見せた。 「冗談さ、嫌がる子を無理やりってのは好きじゃないんだ。だから……」 「だ、だからなに……?」 「きみが俺を求めるまで、俺は手を出さないことを誓ってやるよ」 ニィっと、口元に笑みを浮かべてエツィオが笑う。 その言葉が意味するところを知ったのだろう、ルイズは羞恥と怒りを爆発させる。 「こ、この……! 馬鹿にするのもいいかげんにっ……!」 「はいはい、悪かったよ。きみには刺激が強すぎたかな」 「ぐっ……、やっぱり呼ぶんじゃなかった……!」 悔しそうに歯ぎしりするルイズを見ながら、どれだけ耐えられるか、見ものだな……と、エツィオは内心ほくそ笑んだ。 プライドの高いルイズのことだ、そうやすやすと落ちはしないだろう。だからこそ、落とし甲斐があるというものだ。 ……しかし、しかしである。もしもルイズに手を出した場合……、なんだかすごく面倒なことになりそうな気がしてならないのも事実だ。 それこそイヴの誘惑に負け、エデンの果実を口にしたアダムのようになりかねない、そんな予感がする。世に言うめんどくさいタイプだ。 そう言う意味では、彼女は創世記にある禁断の果実そのものなのだろう。俺はもっと楽しみたい、だから最高の楽しみは、最後に取っておく。 自分の魅力に落ちない女性はいない、そんな絶対の自信を持っているエツィオだからこそ出来る、邪な考えであった。 しばしの間、そんな二人の間を沈黙が支配する。 そして、しばらくたった後、エツィオはぽつりと呟くように口を開いた。 「アルビオンでは……すまなかったな」 ルイズは答えない。 もう寝てしまったかな? と思ったが、寝息は聞こえてこない。エツィオは続けた。 「きみに辛い思いをさせた上に、危険な目にも合わせてしまった、……使い魔失格だな」 「そ、そんなことっ……!」 その言葉に、ルイズは思わず身を起こし、エツィオを見つめた。 エツィオは口元に笑みを浮かべ、言葉の続きを促す様に首を傾げて見せる。 「そんなこと?」 「な……ない……」 ルイズはエツィオから顔をそむけ、僅かに頬を赤くしながら小さな声で答えた。 ほんとなら、ちょっとは文句くらい言おうと思っていた、しかし、エツィオに先手を打たれ、思わず本音が出てしまったのである。 再びベッドに横になり、エツィオに背を向ける。そんなルイズを横目で見つめながら、エツィオは小さく笑い、言った。 「二度ときみを傷つけさせない、約束するよ」 「あたりまえじゃないの」 それからルイズは決心したように口を開いた。 「でも、わたしも、あんたに謝らなきゃ。ごめんね、勝手に召喚したりして」 「本当だよ、まったく」 「んなっ!?」 エツィオがあっさりそんな事を言う物だから、ルイズは再び体を起こし、今度はエツィオを睨みつける。 「ど、どういうことよ!」 「イタリアに帰りたくなくなるってことさ」 エツィオは、うー、と睨みつけてくるルイズにニヤリと笑みを浮かべてみせると、ルイズの頬に手を伸ばし、愛おしそうに撫でた。 「俺は今、毎日が充実してる、きみのおかげだ」 「か、からかわないでっ!」 かぁっ、とルイズは顔を赤くすると、その手を取り払った。 ぼふっとベッドに横になると、再びエツィオに背を向けてしまった。 「もう! 謝らなきゃよかった!」 「ははっ、でも本当さ、出来るならずっときみの傍にいたい、そう思ってる」 「っ……!」 耳元で囁かれ、どくん、とルイズの胸が高鳴った。 並みの女性なら、それだけでノックアウトされてしまいそうになる程、憂いを含んだ甘い囁き。 ひどい、エツィオひどい。そんな事言われて、平常心なんて保っていられるわけないじゃない。 今、自分がどんな顔をしているのかまるで想像が出来ない、きっと酷い顔になっている。 エツィオに背を向けていてよかった、こんな顔見られたら、ますますからかわれてしまう。 そんなルイズの様子を知ってか知らずか、エツィオは続けた。 「でも……それはできない。いつかは帰らなきゃ……」 「し、心配しなくても、きちんと帰る方法を探すわよ……」 「おい、本当か? ……まあ、期待せずに待つとするさ」 エツィオは笑いながらそう言うと、それきり黙ってしまった。 しばしの沈黙の後、ルイズはもぞもぞと動き、エツィオの方を向いた。 寝てしまったのかな? と思っていたが、エツィオはまだ起きているようだ。 話をしなきゃ……と、ルイズは意を決してエツィオに話しかけた。 「ねえ、あんたのいたイタリアって、魔法使いがいないのよね」 「いない、概念はあるけどな」 「月は一つしかないのよね」 「生憎、二つ浮いているのは見たことがないな」 「へんなの」 「ははっ、そうだな、月はともかく、魔法が無いなんて、不便なものさ。お陰で空も飛べやしない」 「あんたは向こうでは……」 ルイズはそこで言葉を切った。 それからエツィオの横顔を見つめながら、ためらう様に尋ねた。 「あんたは……『アサシン』なのよね」 「……」 「オールド・オスマンから聞いたの、あんたが『アサシン』だってこと」 ルイズがそう言うと、エツィオは天井を見上げたまま、厳かに口を開いた。 「……アウディトーレ家は銀行家だった、っていうのは話したよな」 「うん」 「それは本当だ、事実、俺は父上の後を継ぐべく勉強してたよ、あまり真面目じゃなかったけどな」 エツィオは小さく笑う。しかし、すぐに真面目な顔になった。 「銀行家、俺もそう思っていた。だけど、それはあくまで表の顔だった。アウディトーレ家には、もう一つ、隠された裏の顔があったんだ」 「それって……」 「そう、フィレンツェにとって脅威となる存在を排除する、――『アサシン』。要はフィレンツェの暗部さ。 祖先がそうであったように、父上もまた、アサシンだった」 『アサシン』の家系……、あらかじめオスマン氏から聞いていたとはいえ、 本人の口から言われると、やはり重みが違う。改めて真実を突きつけられた気分になり、ルイズは思わず息をのんだ。 「俺がそのことを知ったのは二年前、フィレンツェを追放され、伯父上のところに匿われた時だった」 「追放……?」 「そう言えば前にも聞かれたな、何故貴族の地位を剥奪されたか……」 「あ……、い、言いたくないなら別に言わなくてもっ!」 「いや、聞いてくれ、いつかは言わなきゃならないことだ」 ルイズは慌ててエツィオを止めようとする。 だがエツィオはゆっくりと首を横に振り、口を開いた。 「……罪状は国家反逆罪、もちろん濡れ衣だ。父上は、アウディトーレ家はハメられたんだ、奴らに」 「奴ら?」 「テンプル騎士団。世界の支配を目論み、陰謀を企てている連中だ。 俺達アサシンと数百年にもわたって戦い続けている、それこそ因縁の相手ってやつだよ」 きみとキュルケの因縁には負けるかもしれないけどな。とエツィオは笑って付け足す。 だがそれは、我ながらあまりに笑えない冗談であることにすぐに気づいた。 すまない……。と小さく呟き、話を続けた。 「……二年前、父上はとある事件を調査していた。ミラノ公国、そこを治める大公が暗殺された事件があった。 その事件が起こるより前、暗殺計画を事前に察知していた父上は、それを阻止すべく動いていた。しかしそれは叶わず、大公は暗殺されてしまったんだ。 表は反乱分子による暴発、そう言うことになっている。しかし、その裏ではフィレンツェの支配を巡るテンプル騎士の陰謀が隠されている事に気が付いた父上は、 騎士団からフィレンツェを守る為に調査に乗り出した」 ルイズは固唾を呑んで、エツィオを見つめた。 天井を見つめるエツィオの横顔からは、先ほどまでの陽気な青年の面影は掻き消えていた。 ぞっとするほど冷たい表情、おそらくは、これこそが『アサシン』、エツィオ・アウディトーレの素顔なのかもしれない、とルイズは思った。 「父上は事件に関わった者たちを狩り出し、始末した。だけど、悔しいが奴らの方が一枚上手だった、 父上はその事件の真相に至る前に、その事件の濡れ衣そのものを着せられ警備隊に兄弟共々捕らえられてしまったんだ。 運よくそれを免れていた俺は、父上が掴んだ陰謀の証拠を手に、父上の親友でもある判事の家へと走った、それが皆を救うものと信じてね」 「……」 「判事は言った、この証拠を翌日の裁判で提出すれば父上への嫌疑は晴れ、必ず助かると、それを聞いて俺は心から安堵した、これで元の生活に戻れるってね」 「それで、どうなったの……?」 ルイズは恐る恐る尋ねる。 エツィオは目を細め、苦しそうな表情を作った。 「……次の日、俺は裁判が開かれているシニョーリアの広場まで走った、今頃父上の無罪が証明され釈放されるところなのだろうと。だが……違った……。 そこで見たものは……絞首台にかけられる父上と兄上、そして……弟の姿だった」 「そんなっ! 証拠も提出したのにどうして!」 「簡単なことさ、判事が裏切ったんだ、判事もあいつらの仲間だった……そして俺が見ている目の前で……父上達はっ……!」 「エツィオ……」 唇を噛みしめ、怒りに満ちた声で吐き捨てる。 普段の彼からは想像もできないほど声を荒げ、感情を露わにするエツィオに、ルイズは言葉を失ってしまう。 いつもの冗談と思いたかった、しかし、それにしてはタチが悪すぎる。 「俺はシニョーリアの刑場から必死で逃げた、吊るされた家族を見捨てて。あの姿は今でも忘れられない……忘れてはならない……」 掌で顔を覆い、エツィオが呻くように呟く。怒りと悲しみ、そして悔恨がないまぜになった、苦悶の表情。 そんな自分を呆然と見つめるルイズに気が付いたのか、エツィオは小さく息を吐き、目を閉じる。 ルイズは思わず言葉を失ってしまった。 いつも陽気で不敵なエツィオとは思えないほど、弱弱しい表情。 この男が、こんな表情をするとは夢にも思わなかったのだ。 唖然としたままのルイズをよそに、エツィオは淡々とした口調で、言葉を続けた。 「全てを失った俺は、残された妹と心を壊した母上を連れ、伯父上の下に逃げ込んだ。そこで俺はアウディトーレ家の歴史とテンプル騎士団との宿縁を知った。 俺は父上の後を継ぎ、奴らに復讐を誓った。父上の死に関わった者共を全員狩り出し、一人残らず地獄に送ると」 復讐、その言葉にルイズははっとする。 いつか、アルビオンへ向かう船の上で聞いた、エツィオがイタリアに戻らねばならない理由。 エツィオの戦いは、まだ終わってはいないのだ。 「その、裏切り者の判事は……?」 「……殺したよ、この手でね。奴を前にした時、怒りで目の前が真っ赤に染まった……、 気が付いた時には、俺は判事の腹を貫き、切り裂いていた……、何度も……何度も……」 エツィオは顔を覆っていた左手を掲げ、じっと見つめる。 「俺の手は、もう奴らの血で真っ赤だ……。俺はただ、平和に暮らしていたかっただけなのに。 兄上と一緒に馬鹿やったり、恋人と愛し合ったり……、ただ自由に、普通に暮らしていたかっただけなのに……」 不意に、エツィオが首を傾げ、ルイズを見つめる。 そのエツィオの顔をみたルイズはぎょっとした。 エツィオの双眸から、一筋の涙が流れている。泣いているのだ。 唖然とするルイズの前で、エツィオは表情を歪ませながら震える声で呟いた。 「もう……もう何も戻らない。父上も、兄上も、弟も……。……どうして、どうしてこうなったんだ?」 それは、家族を失ってから、誰にも明かすことのなかった、胸の内の苦しみ、悲しみ、悔恨。 それら全ての感情を全部、ルイズに打ち明けるように、エツィオは心情を告白する。 使い魔の語る、想像を絶するほどの、悲惨な過去。陽気さの裏に隠された、悲壮な覚悟。 ルイズは思わず、涙を流すエツィオを掻き抱いていた。 いつか、ニューカッスルの廊下で、エツィオが泣きじゃくる自分にそうしてくれたように、今度は自分がエツィオを支える番だと思ったのだ。 「父上……、兄さん……、ペトルチオ……、ごめん……。ごめん……俺は……!」 エツィオの双眸から、堰を切ったように涙があふれ出す。 気が付けば、ルイズも涙を流していた。彼の境遇に同情したわけではない。同情など、軽々しく出来るはずもない。だが、不思議と涙があふれてきたのだ。 しばらくの間、ルイズの胸に顔を埋め、静かに涙を流していたエツィオだったが、やがて離れると、涙を拭いた。 「……カッコ悪いところを見せたな……でもお陰で楽になった」 「エツィオ……」 「俺の弱い心は、ここに置いて行く。もう泣き言は無しだ」 そう言ったエツィオの表情は、いつもの笑顔が戻っていた。 強い意思を感じさせる瞳に、余裕と自信に満ちた不敵な笑顔。 ルイズの目じりに溜まった涙を指先で拭ってやりながら、エツィオは微笑む。 「……酷い顔だ、きみに涙は似合わないな」 「あっ、あんたのせいよ! あんたがあんな話を――」 「ありがとう、最後まで聞いてくれて」 「っ……!」 エツィオにそう言われ、ルイズは何も返せなくなってしまう。 もにょもにょと口を動かすルイズにエツィオはにやっと笑って見せた。 「それに、貴重な体験もできたしな。ああルイズ、出来ればもう一回……んがっ!」 そう言いながら顔を近付けてきたエツィオの鼻っ柱にルイズの拳が叩きこまれた。 「ちょっ、調子に乗るなっ! このエロ犬!」 「わ、悪かった! 悪かったよ!」 ルイズは羞恥に顔を真っ赤にしながら、枕でぼこぼことエツィオを叩いた。 エツィオは笑いながらルイズにされるがままになっている。その様子は、はたから見るとまるでじゃれあっているようだ。 一しきりそうやってエツィオを叩いていたルイズは、荒い息を吐きながら、ごそごそと布団の中に潜り込んだ。 「次やろうとしたら、もう一回殴るわよ」 「はいはい……でも殴られるで済むならもう一回くらい……あ、いや! なんでもない!」 再び握りこぶしを作ったルイズに、エツィオは慌てて口を噤む。 調子いいんだから……。と、恨めしそうに見つめてくるルイズに、エツィオは小さく微笑み、ぽつりと呟いた。 「……もしかしたら俺は、ただ怖かっただけなのかもしれないな……、いや、やっぱり怖かったんだろうな」 「なんのこと?」 神妙な面持ちで呟くエツィオに、ルイズは首を傾げる。 「身分を明かせなかった事さ。きみに拒絶されるのが怖かった、だから明かせなかった」 「そ、そんなこと……するわけないじゃない」 ルイズがぽつりと呟く。 僅かに顔を赤くし、上目遣いにエツィオを見つめながら、言いにくそうに言った。 「だ、だって、あんたはわたしの使い魔だし……、それに……」 「それに?」 「な、なんでもないわよ!」 ぷい、と顔をそむけてしまったルイズを見て、素直じゃないな……。エツィオは苦笑する。 まぁそこがかわいいんだが……。と内心ほくそ笑んでいると、どうやらその笑みは表に出てしまっていたらしい。 ルイズは再びエツィオに恨めしげな視線を向けていた。 「なに笑ってんのよ……」 「あ、いや、安心したらつい……な」 また殴られてはたまらないと、エツィオは誤魔化す様に笑って見せた。 そんなエツィオを見つめていたルイズであったが、ややあって、ちょっと真面目な表情で呟いた。 「……どうして」 「ん?」 「どうしてあんたは、わたしにそこまでしてくれるの?」 「さて、なんでだと思う?」 「からかわないで。……わたしが魔法を使えないの、知っているでしょ? いつもいつも失敗ばかりで……、こんなダメなわたしに、どうしてあんたはそこまでしてくれるの?」 ルイズは口をへの字に曲げながらエツィオに尋ねた。 エツィオは、凄腕のアサシンであることを差っ引いても、とにかく有能な男だということを、ルイズは嫌というほど実感していた。 何をやらせてもそつなくこなし、マナーも礼節も完璧。魔法が使えないという点を除くと、およそ貴族に求められる物全てを兼ね備えていると言っても過言ではなかった。 アルビオンで、ウェールズ殿下がいたく気に入っていたところを見るに、是非とも彼を配下に欲しいと思う貴族は数多くいるだろう。 そんな彼が、何故ゼロと呼ばれ続ける自分の傍にいてくれるのか、疑問に思ったのだ。 「あのワルドが言ってたわ、あんたは伝説の使い魔だって。あんたの手の甲に現れたのは『ガンダールヴ』の印だって」 「……らしいな、デルフもそう言ってる。あいつは昔、その『ガンダールヴ』に握られていたそうだ」 「それってほんと?」 「さてね、なにしろデルフの言うことだからな」 エツィオはちらと部屋の隅に置かれたデルフリンガーを見つめる。 聞こえているぞ、とでも言いたいのか、ぷるぷると震えていた。 「でもまぁ、本当なんだろうな、実際このルーンにも、デルフにも助けられた」 「だったら、どうしてわたしは魔法ができないの? あんたが伝説の使い魔なのに、どうしてわたしはゼロのルイズなのかしら。いやだわ」 「きみは伝説と呼ばれるような、そんな偉大な存在になりたいのか?」 エツィオが問うと、ルイズは首を横に振って見せた。 「違うわ、わたしは立派なメイジになりたいだけ。別に、そんな強力なメイジになりたいとかそういうのじゃないの。 ただ、呪文を使いこなせるようになりたいだけなの。得意な系統もわからない、どんな呪文を唱えても失敗なんてイヤ」 心情を吐露するルイズに、エツィオはただ黙って聞いた。 「小さいころから、ずっとダメだって言われ続けてた。お父さまも、お母さまも、わたしには何も期待していない。 クラスメイトにもバカにされて、ゼロゼロって言われて……。わたし、本当に才能ないんだわ。 得意な系統なんて、存在しないんだわ、魔法を唱えてもなんだかぎこちないの。自分でわかってるの。 先生やお母さまやお姉さまが言ってた。得意な系統の呪文を唱えると、体の中に何かが生まれて、それが体の中を循環する感じがするんだって。 それはリズムになって、そのリズムが最高潮に達した時、呪文は完成するんだって、そんな事、一度もないもの」 ルイズの声が小さくなった。 「そんなダメなわたしなのに……どうして?」 落ち込んだ様子でルイズが尋ねると、エツィオは澄ました表情であっさりと答えた。 「きみの事が好きだからさ」 「は、はあ!?」 あまりに唐突に、しかも真顔でそう答えられ、ルイズの顔がずどん、と火を噴いたように赤くなった。 暗闇の中でもわかるくらいに顔を真っ赤にし、滑稽なほどルイズは慌てふためいている。 「すすす、好き、好きって! どど、どういう……!」 「言葉の通りさ、俺はきみを気に入ってるんだ」 「こ、こんな時に冗談はやめてよ! ばっ、ばっかじゃないの!」 そんなルイズの反応を愉しむかのように、エツィオは意地悪な笑みを浮かべる。 ルイズが反応に困っていると、すっと、エツィオの手が伸びる、そしてルイズの顎を持つと、優しく自分の方へと向けた。 「ルイズ」 「なっ! なに……よ……」 「俺はいつだって、きみの味方だ」 その言葉に、ルイズはビクンっと身体を震わせ、エツィオを見つめた。 「きみが信念を捨てない限り、俺は喜んできみの力になる」 「えっ……あ……」 「俺は決してきみを見捨てないし、裏切らない。苦難あれば共に乗り越え、道誤ればそれを正そう」 ルイズの頬を優しく撫でながら、エツィオは誓いを立てるように、呟いた。 「きみに二度と、辛い思いをさせるものか……」 いつにないエツィオの真剣な眼差し、憂いを含んだ情熱的な囁きに、ルイズの心臓が、狂ったように警鐘を鳴らす。 いつかの、ラ・ロシェールで掛けられたワルドの言葉とは、まるで比べ物にならないほどの熱量を秘めた情熱的な甘い言葉。 それはまるで麻酔の様に、ルイズの頭の芯を、じんわりと痺れさせた。気が付けば、ルイズはエツィオから目が離せなくなっていた。 本当は気恥ずかしくて、エツィオの顔なんてまともに見れたものじゃない、だけど一時も目を離したくない。そんな気持ちがルイズの中でせめぎ合っていた。 「それに……」 そんなルイズを知ってか知らずか、エツィオはぽんと、ルイズの肩を叩いた。 「今は魔法が出来なくても、人は決して負けるように出来てはいない。今の境遇に、死ぬまで甘んじなければならないという法はないさ」 力強いエツィオの言葉に、ルイズは胸が熱くなるのを感じる。ちょっと涙まで出てきた。 それを隠すためにルイズは、エツィオの手を慌てたように振り払うと、毛布をひっかぶり、エツィオに背を向けた。 「す、すす、好きとか、な、なな、何言ってるのよ! も、もう!」 「おや? これじゃ不服かな? 困ったな、他に理由が見当たらない」 「ば、ばかなこと言わないで! この話はもうおしまい!」 ルイズは気恥ずかしさを隠すかのように、無理やり話を中断させる。 それから仰向けになると、毛布から顔を出し、ちらとエツィオを横目で見つめた。 「で、でも、お礼はいわなきゃね。……あ、ありがとう……」 消え入りそうなほど、小さな声でそう言うと、ルイズは目を瞑ってしまった。 礼を言われるとは思っていなかったのか、エツィオは少し驚いたようにルイズを見つめた。 「なに、気にすることはないさ、俺が好きでやってること……っと」 ニィっと笑みを浮かべ、ルイズの顔を覗き込む。 そこでエツィオは言葉を切った。どうやらルイズはそのまま寝入ってしまったらしい。なんともまぁ、寝付きのいいことだ。 僅かに首を傾げ、あどけない寝顔を見せている。 手は軽く握られ、桃色がかったブロンドの髪が月明かりに溶け、キラキラと輝いている。 うっすらと、開いた小さな桃色の唇の隙間から、寝息が漏れていた。 「くー……」 エツィオはルイズの寝顔を見つめ、優しい笑みを浮かべると、ルイズの唇に自分の唇を重ね合わせた。 「……おやすみ、ルイズ」 唇を離し、エツィオは小さく囁きながら、ルイズの頭を撫でる。 それからエツィオも仰向けになると、目を瞑り、眠りの世界へと落ちて行った。 寝たふりをしていたルイズは、エツィオの寝息が聞こえてきた瞬間、がばっと跳ね起きた。 キス、された。 思わず唇を指でなぞる、心臓が狂ったように早鐘を打っている、顔はもう真っ赤っかだ。 おそるおそる、隣で眠るエツィオに視線を送る。もしかしたら、こいつは自分と同じように寝たフリをしていて、 あのからかうような笑みを浮かべるのではないかと、気が気ではなかったが……。どうやら本当に眠っているらしい。 「寝てる……」と、ルイズは少し安心したかのように呟いた。 ルイズは枕をぎゅっと抱きしめて、唇を噛んだ。 意味分かんない、何を考えているのか、さっぱりわからない。 ルイズは胸に手を置いた、やっぱり、そばにいると胸が高鳴る。 となると、この前、確かめたいと思った気持ちは本物なのだろうか? 同じベッドで眠ることを許したのは、今まで離れ離れになっていたのが寂しかったから……、というわけではない。 そう、アルビオンに残ってまで、自分に対する脅威を人知れず排除していた使い魔の献身へのご褒美のつもり……。でも、それだけじゃない。 異性に対するこんな気持ちは初めてで、ルイズはどうしていいかわからなかったのだ。 着替えそのものをエツィオに見せなくなったのはそのせいだ。意識したら、急に肌を見せるのが恥ずかしくなった。 ほんとだったら、寝起きの顔すら見せたくない。 いつごろから、エツィオにこんな気持ちを抱くようになったのだろう? エツィオは本当に自分に好意を寄せてくれているのだろうか? キスしてきたのだから、やっぱりそうよね。……正直に言うと、エツィオに『好き』とはっきり言われ、嬉しかった。 しかし、同時にみんなに言ってるんじゃないの? いや、絶対言ってるだろ。という確信にも似た疑念を生んだ。 なにせギーシュがかわいく思えるくらいの女たらしである。それに先ほどのキス、初心なルイズにでもわかる、あれはもう慣れてるキスだ。 やっぱり、他の女の子にもしていることなのだろうか? 怒りと喜び、二つの感情がルイズの胸の中でごちゃ混ぜになる。 あの言葉は、先ほどのキスは、本心からでたものなのだろうか? それが知りたい。 ルイズは、自分でもなんだかよくわからなくなって、う~~っと唸って、エツィオを枕で叩いた。起きない。 その時だった。その様子を黙って見ていたデルフリンガーが不意に口を開いた。 「寝かせてやれ、相棒はこれまでロクに寝てないんだ」 「っ! あ、あんた、見てたの!」 思わぬところから声をかけられ、ルイズは思わず叫んだ。それから慌てて口を閉じる、今のでエツィオが起きたらどうしようと思ったのだ。 だが幸いなことに、エツィオは起きる様子もなく、安らかに寝息を立てている。 そんな二人を見て、デルフリンガーは呆れたような口調で言った。 「俺はお前らが何しようと知ったこっちゃないね、何せ剣だからな」 「じゃ、じゃあ口出ししないでよ、それに、この事はエツィオにはぜーったい言わないでよ!」 「言わねぇよ……。それに娘っ子、お前さんはしらないだろうが、相棒はいつも、娘っ子が寝付くまで眠らないんだ。それがこれだ、よほど疲れてたんだろうな」 そのデルフリンガーの言葉を聞いて、ルイズはぐっと顔をしかめ、エツィオを見つめた。 ああもう、エツィオのこういうとこ、ホントムカツク。なによなによ、カッコつけちゃって……これじゃ、文句のつけどころがないじゃない。 ルイズは口の中で小さく呟くと、デルフリンガーをきっと見つめ、「誰にも言わないでよ……」と釘を差した。 それからルイズは、思い切ってエツィオの顔に自分の顔を近付けた。 鼓動のリズムが、さらに速度を増してゆく。そっと、エツィオの唇に、自分のそれを重ね合わせる。 ほんの二秒、触れるか触れないかのキス。エツィオは寝がえりをうった。 ルイズは慌てて顔を離し、ばっと毛布の中に飛び込んで枕を抱きしめた。 なにやってるのかしら、わたし。使い魔相手に。 バカじゃないかしら、どうかしてるわ。 寝ているエツィオの顔を見た。 控えめに見ても、エツィオは世に言う美形と呼ばれる部類の人間だ。その上、誰より知的で紳士的、どんなことでもさらりとこなし、常に余裕の笑顔を絶やさない。 フィレンツェという所から来た、普段はおちゃらけた陽気な青年。だがその実体は、アルビオン全土を震えあがらせる超凄腕のアサシン。そしてルイズの使い魔、伝説の使い魔……。 どうなんだろう、やっぱり、好きなのかな。これって好きなのかしら? 心の中でそう呟きながら、ルイズはそっと唇をなぞった。そこだけ、熱した鉄に押し当てたように熱い。 どうすれば、この答えは得られるのだろう。 結局分からなくなって……、いやだわ、もう……と呟いて、ルイズは目を瞑る。 今夜は……なかなか寝付けそうになかった。 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4127.html
前ページ次ページ雇われた使い魔 大きな爆音と共に現れた奇妙な生物。 その生物を召喚したルイズといわれている少女は目をぱちくりさせていた。 後ろでルイズを煽っていたギャラリー達もルイズと同じような反応をしている。 『サモン・サーヴァント』という召喚の儀式でルイズが呼び出した生物は、 狐と人間が合体したような、なんとも奇妙な動物であった。 「……何これ」 ルイズは、自分が召喚した奇妙な動物におそるおそる近寄る。 爆風によって舞い上がった砂埃が晴れ、今はその謎の動物の容姿が手に取るように分かる。 顔は狐。よく見ると尻尾も生えている。しかし体は人間のような骨格をしている。 おまけに服も着ており、彼の顔にはよくわからないアクセサリーのようなものがついていた。 「おいおい、なんだよアレ? 狐じゃあ……ねえよな?」 「ルイズが召喚したから骨格がおかしくなっちまったんじゃねーの?」 「でも服を着ているしな……」 ギャラリーが騒然となる中、ルイズは自分の使い魔となるその動物をじっと見つめていた。 気絶しているのか、はたまた眠っているのか、その動物は目を閉じたまま動かない。 まさか死んでいるのではないだろうかと、ルイズの頭に嫌な予感が過ぎる。 何回、何十回と失敗をし、やっと召喚できた動物なのだ、死んでしまっていたらたまったものではない。 ルイズは生死の確認をするため、恐る恐る手を伸ばし触れてみた。……暖かい。 どうやら死んでいるということはなさそうだった。 ルイズがほっと胸をなでおろし、ため息をついた瞬間、その動物がムクリと起き上がった。 「うう……」 ルイズはビクッと体を反応させ、思わず後ずさりする。 起き上がった動物は、自分の身に何が起こったのか理解出来てない様子で、辺りをキョロキョロと見回している。 「や、やったわ…… 成功よ! ついに成功した! ついにやりました、ミスタ・コルベール!」 ルイズはあまりの嬉しさにカエルのようにピョンピョンと飛び跳ねた。 召喚したのは、人間のような謎の狐だが、自分の使い魔であることには変わりない。 いや、"人間のような謎の狐"なんてそうそう出会えるものではない。 もしかしたら自分は物凄い才能の持ち主なんじゃないかと思えるほどだ。 「なあ……あれって成功なのか?」 「絶対変だよな……あれ」 あれと言われた動物は、辺りをキョロキョロと見回したり、 自分の頬を抓ったり、自分の顔についてる奇妙なアクセサリをいじったりしていた。 そんな奇妙な動物の様子を興味深そうに見ながら、ミスタ・コルベールと呼ばれた男が呟いた。 「ふむ……これは珍しい。人間のような格好をした狐とは実に興味深い……」 「は、はい! きっと凄い使い魔となるに違いありません!」 すっかり興奮しきった様子でルイズが答える。 そんなルイズに、多少気圧されながらも、コルベールは話を続けた。 「ミス・ヴァリエール、興奮するのは後にして、早く契約をしたまえ。次の授業まで時間がないんだ」 「あ……。す、すみません……」 ルイズは狐人間に近づき、スッと顔を近づける。 「悪いけど、ちょっとの間だけじっとしててね」 「……!?」 狐人間はルイズに顔を掴まれ驚いたような表情をしている。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 すっと杖を狐人間の額に置き、そのまま唇を重ねた。 「終わりました」 ルイズにキスをされた狐人間はしばらく放心しているらしく、ピクリとも動かなくなった。 自分の体が妙に熱くなっているのを感じていたが、そんなものが気にならないくらい意識が飛んでいた。 なぜなら、この狐人間は宇宙空間に漂い、強大な敵に向かって戦闘機を走らせているからだ。無論妄想であるが。 「ふむ……珍しいルーンだな」 コルベールは魂が抜けている狐人間の左手の甲を見ながら呟いた。 「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」 コルベールはきびすを返すと、中に浮いた。 他の生徒達も中に浮き、それぞれ教室に向かって飛んでいく。 「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」 「『レビテーション』がまともに使えないんだからな!」 「使い魔もまともじゃねえしな!はーっはっは!」 いつもなら罵倒を浴びせてくる生徒達を睨み付けるルイズだが、今回は違った。 なぜなら、自分の目の前に最高の使い魔が現れたからだ。 それに比べたら、幼稚な罵倒や、見る目が無いバカの戯言などまったく気にならなかった。 「ねえ、いつまで硬直してるのよ? あんたは私の使い魔なんだから早く私について来なさい」 そういって狐人間が着ていた服を掴もうとした瞬間だった。 「い、い、い、い、いきなり何をするだあーっ!!」 狐人間が思いっきり叫んだ。 思わず台詞をかんでしまったことを恥じる。 しかし、この狐人間にとってもっと恥じるべきことが先ほど発生した。 台詞をかんだことよりも、そっちの方が遥かに重大であった。 「……へ?」 「"へ?"じゃない! キミには恥じらいというものが無いのか!」 「あんた、喋れるの……?」 「……? 何を言ってるんだ、当たり前じゃないか」 狐人間がしゃべった。いや、狐"人間"なのだからしゃべって当たり前なのかもしれない。 しかし、この狐人間が喋るなんて毛ほども想像していなかったルイズは、驚きと同時に深い喜びを感じた。 「す、すごい! すごいわ! ねぇねぇあんた一体何者なの? 人間じゃないんでしょ? でも、狐でもないんでしょ? 一体何なの? どんな生物なの? 名前は何? どこから来たの? 歳はいくつ? 性別は雄……じゃなくて男……どっちでもいいわ!」 凄い勢いで質問攻めしてくるルイズに、狐人間は後頭部に大きな汗を流す。 そして、とりあえずルイズを落ち着かせることにする。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。 オレだって質問したいことは山ほどあるんだ。 とりあえず順番にお互いのことを話していくってことでどうだい?」 狐人間の提案に、ルイズはなるほどといった表情で頷いた。 「そうね、それがいいわ。じゃあまず名前から聞くわ。ていうかあんた名前とかあるの?」 狐人間はむっとした表情で答える。 「あるに決まってるじゃないか、失礼な子だな……。オレの名前はフォックス・マクラウドだ。 雇われ遊撃隊、スターフォックスのリーダーを務めている。よろしくな」 フォックスと名乗った男は握手を求め手を差し出す。 「雇われ遊撃隊……? ナニそれ? ……ま、いいわ。フォックスって呼べばいい?」 「ああ、そう呼んでくれると助かるよ。オレの仲間も皆そう呼んでいるからね」 「そう。私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 ルイズが言い終えると、フォックスは頭に?マークを浮かべ、しばし考え込む。 「……それ、キミの名前かい?」 「当たり前でしょ」 「……な、なんだかずいぶんと長い名前だな……えーとルイズ・フランスソース……?」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!!」 「……? ……そうか、よくわかった! よろしく頼む、ルイズ」 「あんた絶対分かってないでしょ……」 ルイズはあきれ返ったような表情でフォックスを見た。 さっきの最高の使い魔を手に入れたという表情はどこへやら。 ひょっとして自分はとんでもないボンクラを呼び出してしまったのではないかとさえ感じている。 「ところで、先に一つ言っておくことがあるわ」 「……なんだ?」 ルイズはフォックスが差し出している手をはたく。 「な、何をするんだ!」 「あのね、今日から私はあんたのご主人様なの。わかる? 握手するつもりなんだろうけど、ご主人様に軽々しく握手するなんて使い魔としてどうなのって感じでしょ?」 フォックスは自分が何を言われているか理解できてない表情で首を傾げる。 「あー、もう! つまり、あんたは私の部下ってこと! だから私と立場が同じと思っちゃだめなの! わかったら、"ハイッ!"って大きな声で返事をしなさい! これは私の最初の命令よ!」 フォックスは今となっては誰にも通じない通信機に向かって呟いた。 「コイツ何言ってんだ?」 その声はルイズにも聞こえ、ルイズは顔を振るわせながら両手を挙げる。 「あんた私に喧嘩売ってるの!? とにかくあんたは今日から私の使い魔なの! 分かったわね!」 「……言っている意味がさっぱりわからない。スリッピー、この子が言っていることを分析してくれ……」 今やそばにいない仲間に助けを求め、フォックスは頭を抱えた。 しかし、フォックスの苦悩はまだ始まったばかりなのであった。 前ページ次ページ雇われた使い魔